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特表2023-506336トマトの葉の光合成を負に調節する遺伝子の用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-16
(54)【発明の名称】トマトの葉の光合成を負に調節する遺伝子の用途
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20230209BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20230209BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20230209BHJP
   A01H 6/82 20180101ALN20230209BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12N15/09 110
A01H1/00 A
C12N15/113 Z
A01H6/82
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021555846
(86)(22)【出願日】2020-12-30
(85)【翻訳文提出日】2022-09-08
(86)【国際出願番号】 CN2020141385
(87)【国際公開番号】W WO2022062255
(87)【国際公開日】2022-03-31
(31)【優先権主張番号】202011030669.7
(32)【優先日】2020-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520465253
【氏名又は名称】浙江師範大学
【氏名又は名称原語表記】ZHEJIANG NORMAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.688 Yingbin Road, Wucheng District Jinhua, Zejiang 321004 China
(74)【代理人】
【識別番号】100205936
【弁理士】
【氏名又は名称】崔 海龍
(74)【代理人】
【識別番号】100132805
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 貴之
(72)【発明者】
【氏名】馬 伯軍
(72)【発明者】
【氏名】陳 析豊
(72)【発明者】
【氏名】許 以霊
(72)【発明者】
【氏名】沈 淑容
(72)【発明者】
【氏名】陳 順麗
(72)【発明者】
【氏名】戴 可欣
(72)【発明者】
【氏名】馬 紫程
【テーマコード(参考)】
2B030
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AD20
2B030CA17
2B030CB01
(57)【要約】
本発明は、トマトの葉の光合成を負に調節する遺伝子の使用を開示する。トマト中でSolyc05g005230遺伝子をノックアウトすることでトマトの葉の光合成効率を向上でき、遺伝子Solyc05g005230のヌクレオチド配列は配列番号1に示される。Solyc05g005230遺伝子ノックアウト株5230-KOの葉におけるクロロフィルa、クロロフィルbおよびカロテノイドなどの光合成色素の含有量はいずれも増加し、Solyc05g005230遺伝子ノックアウト株5230-KOの葉の純光合成速度、気孔コンダクタンスおよび蒸散作用などの光合成の主な指標はいずれも向上する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トマトの葉の光合成を負に調節する遺伝子の使用であって、
トマト中でSolyc05g005230遺伝子をノックアウトすることでトマトの葉の光合成効率を向上させることができ、
前記遺伝子Solyc05g005230のヌクレオチド配列は配列番号1に示されることを特徴とする、使用。
【請求項2】
Solyc05g005230遺伝子に、CRISPR/Cas9で編集されるsgRNA配列:5’-GATGATCGAGAGGTGCTTAG-3’を設計し、
このsgRNA配列に基づいて、プライマーを人工合成してCRISPR/Cas9担体中に構築することを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記合成されたプライマーは、
上流:5’-TGATTGATGATCGAGAGGTGCTTAG-3’
下流:5’-AAACCTAAGCACCTCTCGATCATCA-3’
であることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
Solyc05g005230遺伝子ノックアウト植物体5230-KOを取得することを特徴とする、請求項2または3に記載の使用。
【請求項5】
前記Solyc05g005230遺伝子ノックアウト植物体5230-KOの葉におけるクロロフィルa、クロロフィルbおよびカロテノイドの含有量はいずれも増加し、Solyc05g005230遺伝子ノックアウト植物体5230-KOの葉の純光合成速度、気孔コンダクタンスおよび蒸散作用はいずれも向上することを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
5230-KO植物体におけるSolyc05g005230遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号2に示されることを特徴とする、請求項4または5に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物分子遺伝学の分野に属し、トマトの葉の光合成効率を向上させる遺伝子およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
光合成は、緑色植物が光エネルギを利用して二酸化炭素と水を有機物に合成して酸素を放出する過程で、植物の乾燥物質の90%以上が光合成によるもので、作物の収穫量形成の基礎である。地球上で光合成を通じて合成される有機物は年間約2200億トンであり、地球上で最も重要な化学反応である(張立新ら、2016年)。植物による光エネルギの利用がないと、人類社会の生存と持続的な発展は不可能となる。現代分子生物学技術の発展に伴い、光合成の効率を制御するいくつかの新しい遺伝子が迅速に発掘されてきた。例えば、植物PGR5とPGRL1の2つの遺伝子がコードするタンパク質は瞬間に他の色素タンパク質複合体とスーパータンパク質複合体を形成し、スーパー複合体の内部でエネルギを直接伝達して光エネルギの有効利用を大幅に高めた(Munekage et al.2004;DalCorso et al.2008)。中国科学院の李振声の研究チームは、強力な光酸化耐性遺伝子を利用して、「小偃81」などの光合成効率の高い小麦の新品種を選別育成した。Liら(2011)は、稲において葉緑体ロケータタンパク質をコードする新しい遺伝子PHD1をクローニングした。この遺伝子は光合成能力を向上させるだけでなく、稲の分けつや千粒重を促進できる。Yuanら(2018)は、SlARF10がクロロフィルにおいて重要な作用を奏し、この遺伝子を過剰発現することによりトマトの葉と果実の光合成を向上できるとともに、果実における澱粉、果糖、ショ糖の蓄積を増加できることを発見した。Zhangら(2019)は、ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼとコリンオキシダーゼをコードする遺伝子をトマトに転換することにより、遺伝子組み換えトマトの光合成および果実の大きさを顕著に向上できることを発見した。以上より、植物の光合成効率の高い新しい遺伝子を十分に発掘し、作物の光エネルギの効率的な利用を促進することは、作物の生産量を増加させる効果的な手段であることが分かる。
【0003】
トマトは栄養が豊富な多果の穂の多いベリーで、適応性が強く、生産量が多く、食感もよく、世界第2位の野菜作物で、消費者に愛されている。葉はトマトの光合成の主要な器官であり、トマトの葉の光合成効率を高めることによって、より良い植物の成長を促進し、果実の収量と品質を高めるため、より高い経済的および社会的利益をもたらすことができる。従って、新しい機能遺伝子を発掘し、遺伝子編集技術を利用して光合成効率の高いトマトの新品種を選んで育成することは比較的速い方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、トマトの葉の光合成効率を効果的に向上させ、有機物の合成を促進することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記問題を解決するために、本発明は、トマトの葉の光合成を負に調節する遺伝子の使用を提供する。トマト中でSolyc05g005230遺伝子をノックアウトすることでトマトの葉の光合成効率を向上(効果的に向上)させることができる。
上記遺伝子Solyc05g005230のヌクレオチド配列は、配列番号1に示される。
本発明のトマトの葉の光合成を負に調節する遺伝子の使用の改良において、
Solyc05g005230遺伝子にCRISPR/Cas9で編集される標的sgRNA配列:5’-GATGATCGAGAGGTGCTTAG-3’を設計し、このsgRNA配列に基づいてプライマーを人工合成してCRISPR/Cas9担体中に構築する。
本発明のトマトの葉の光合成を負に調節する遺伝子の使用のさらなる改良において、
上記合成されたプライマーは、
上流:5’-TGATTGATGATCGAGAGGTGCTTAG-3’
下流:5’-AAACCTAAGCACCTCTCGATCATCA-3’
である。
本発明のトマトの葉の光合成を負に調節する遺伝子の使用のさらなる改良において、
遺伝子Solyc05g005230がノックアウトされた植物体5230-KOを取得する。
上記Solyc05g005230遺伝子ノックアウト株5230-KOの葉におけるクロロフィルa、クロロフィルbおよびカロテノイドなどの光合成色素の含有量はいずれも増加(顕著に増加)し、Solyc05g005230遺伝子ノックアウト株5230-KOの葉の純光合成速度、気孔コンダクタンスおよび蒸散作用などの光合成の主な指標はいずれも向上(顕著に向上)する。
この5230-KO植物体におけるSolyc05g005230遺伝子のヌクレオチド配列は配列番号2に示される。
本発明において、トマトの葉光合成を負に調節する遺伝子Solyc05g005230は、そのタンパク質をコードするヌクレオチド配列が配列番号1に示される。
【0006】
本発明は、トマト中でSolyc05g005230遺伝子をノックアウトする方法をさらに提供する。この方法は、以下のステップを含む。
ステップ1):CRISPR/Cas9技術により遺伝子編集の標的sgRNA配列:5’-GATGATCGAGAGGTGCTTAG-3’を設計する。
ステップ2):ステップ1)で得られた配列に基づいて2本のプライマーを合成し、人工アニーリングした後、CRISPR/Cas9担体に構築する。
ステップ3):ステップ2)で得られた担体を野生型トマト品種MicroTomに形質転換することで、対応する遺伝子組み換え植物体を得る。上記遺伝子組み換えトマト植物体からSolyc05g005230遺伝子がノックアウトされた植物体を同定する。
【0007】
本発明の具体的な技術的手段は以下の通りである。
CRISPR/Cas9遺伝子編集技術により、Solyc05g005230遺伝子におけるタンパク質をコードするヌクレオチド配列(配列番号1)に基づいてSolyc05g005230遺伝子を特異的に標的とするsgRNA配列を合成し、対応するCRISPR/Cas9担体に構築し、野生型トマト品種MicroTomに形質転換することで、ゲノムにおけるSolyc05g005230遺伝子を特異的に編集し、遺伝子組み換え植物体を得る。遺伝子組み換え植物体におけるSolyc05g005230遺伝子をPCR増幅およびシーケンシングし、Solyc05g005230遺伝子ノックアウト植物体5230-KOを得る(図1)。5230-KO植物体におけるSolyc05g005230遺伝子の変異配列は配列番号2である。Solyc05g005230遺伝子ノックアウト植物体は、対照品種MicroTomに比べて緑色がより濃く(図3)、その葉における光合成色素の含有量は対照品種よりも顕著に高く(図4)、葉の光合成効率も対照品種よりも高い(図5)。また、Solyc05g005230遺伝子が光合成の調節に関与することを検証するために、本発明者は、この遺伝子の過剰発現担体を構築し、遺伝子組み換え植物体を取得し、同定して過剰発現Solyc05g005230遺伝子株5230-OE(図2)を取得し、対照品種MicroTomに比べ、その植物体が黄変し、葉における光合成色素の含有量が減少し、葉の光合成効率が低下する(図3-5)。これらの結果により、Solyc05g005230遺伝子がトマトの葉の光合成を負に調節することが十分に証明されている。
【発明の効果】
【0008】
光合成を負に調節する新しい機能遺伝子を発見した。遺伝子編集技術により、Solyc05g005230遺伝子のみがノックアウトされた植物体が得られるとともに、トマト植物体の光合成が顕著に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
以下の図2図4および図5における「**」は、野生型対照MicroTomと比較してt検定に非常に有意な差(P<0.01)が存在することを示す。
【0010】
図1】トマトSolyc05g005230遺伝子ノックアウト変異体のCRISPR/Cas9標的のシーケンシング分析を示す。ここで、WTは野生型対照品種MicroTom、5230-KOはMicroTomのSolyc05g005230遺伝子ノックアウト株であり、以下同じである。
図2】トマトSolyc05g005230遺伝子の発現量の分析を示す。ここで、WTは野生型対照品種MicroTom、5230-OEはMicroTomのSolyc05g005230遺伝子過剰発現株である。
図3】トマトSolyc05g005230遺伝子ノックアウト株、過剰発現株およびその野生型対照の植物体の葉の色の比較を示す。
図4】トマトSolyc05g005230遺伝子ノックアウト株、過剰発現株およびその野生型対照の葉の光合成色素の含有量の比較を示す。ここで、Aはクロロフィルaの含有量、Bはクロロフィルbの含有量、Cはカロテノイドの含有量である。
図5】トマトSolyc05g005230遺伝子ノックアウト株、過剰発現株およびその野生型対照の葉の光合成の比較を示す。ここで、Aは純光合成速度、Bは細胞間隙CO濃度、Cは気孔コンダクタンス、Dは蒸散速度である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の具体的な実施形態をさらに詳しく説明する。
【0012】
<ステップ1 Solyc05g005230遺伝子ノックアウト変異体の構築>
Solyc05g005230遺伝子のコーディング配列(配列番号1)に基づいて、CRISPR/Cas9ターゲット解析ソフトウェア(http://crispr.mit.edu/)により改良し、Solyc05g005230遺伝子にCRISPR/Cas9で編集されるsgRNA配列:5’-GATGATCGAGAGGTGCTTAG-3’(1番目の塩基はもともとTであったが、遺伝子ノックアウトの効率を向上させるためにGに置換した)を設計し、この配列に応じて対応する以下のプライマーを合成した。
上流:5’-TGATTGATGATCGAGAGGTGCTTAG-3’
下流:5’-AAACCTAAGCACCTCTCGATCATCA-3’
CRISPR/Cas9キット(Biogle,China)により対応するCRISPR/Cas9担体を構築した。構築は製品マニュアルに従って操作した。
【0013】
<ステップ2 トマトへのSolyc05g005230遺伝子ノックアウト担体の移転的形質転換>
ステップ1で構築されたCRISPR/Cas9担体をトマト品種MicroTomへ形質転換し、ゲノムにおけるSolyc05g005230遺伝子を特異的に編集した。遺伝子組み換え方法は、Kimuraらによって提出された方法(Kimura S et al,CHS Protoc,2008)により、対応する遺伝子組み換えトマト植物体を得た。
【0014】
<ステップ3 遺伝子組み換えトマトの葉のゲノムDNAの抽出>
トマトの葉を0.1g取り、液体窒素で研磨した後、600μl抽出液(15.76gのTris-cl,29.22gのNacl,15.0gのSDS粉末に1Lになるまで超純水を加え、pH=8.0に調節した)を加え、65℃で60minインキュベートし、200μlのKAC(5mol/L)を加え、均一に混合した後、氷浴で10分間冷却した後、500μlクロロホルムを加え、均一に混合し、10000rpmで5min遠心分離し、上清を取り、500μlイソプロパノールを加え、均一に混合し、12000rpmで3分間遠心分離し、上清を捨て、75%エタノールで沈殿を洗浄し、12000rpmで3分間遠心分離し、上清を捨て、逆さまにしてDNAを15分間乾燥させた後、30μl純水を加えてDNAを溶解した。
【0015】
<ステップ4 Solyc05g005230遺伝子のノックアウト標的のPCR増幅およびシーケンシング>
Solyc05g005230遺伝子をPCR増幅したプライマー(上流:5’-GAAAGCAGAATCGAACCC-3’、下流:5’-CATAATCCAACCATAAACAA-3’)を合成し、遺伝子組み換えトマト植物体およびその対照品種MicroTomのゲノムDNAをテンプレートとし、ハイフィデリティTaq酵素PrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase(TaKaRa、日本)を用いてSolyc05g005230遺伝子をPCR増幅した。
【0016】
PCR増幅システムは、PrimeSTAR HS(Premix)25μl;上、下流プライマー(10μM):各1μl;テンプレートDNA:2μl(<200ng);無菌水:21μlであった。PCR増幅プログラムは、予備変性:95℃、5min;変性:98℃、10sec;アニーリング:55℃、15秒;伸長:72℃、60秒;30×サイクル;伸長:72℃、5分間であった。
PCR生成物をシーケンシング分析した結果、Solyc05g005230遺伝子のノックアウト株5230-KOが成功に得られた。つまり、Solyc05g005230遺伝子のコーディング領域に14個の塩基が欠失することで、この遺伝子にフレームシフト変異が発生した。5230-KO植物体におけるSolyc05g005230遺伝子のヌクレオチド配列は、配列番号2に示される。
【0017】
<ステップ5 トマトの葉の総RNA抽出およびcDNA逆転写>
RNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN,ドイツ)により、製品マニュアルに従ってトマト野生型品種MicroTomの葉の総RNAを抽出し、PrimeScriptTM 1st Strand cDNA Synthesis Kit(TaKaRa,日本)によりcDNAに逆転写した。
【0018】
<ステップ6 Solyc05g005230遺伝子のPCRクローニング>
PrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase(TaKaRa,日本)によりSolyc05g005230遺伝子をPCR増幅した。反応系の配合は製品マニュアルに従って操作する。ステップ5で得られたcDNA,PCR増幅のプログラムは、予備変性:95℃、5min;変性:98℃、10sec;アニーリング:55℃、15秒;伸長:72℃、30秒;30×サイクル;伸長:72℃、5分間であった。
PCRプライマー:
上流プライマー:5’-cggggtaccATGTATCAACAAAACCAGGAGTAC-3’
下流プライマー:5’-aactgcagTTACTGCCAATAATATAGTTTCCT-3’
注:下線が引かれた文字は制限酵素の認識配列である。
【0019】
<ステップ7 Solyc05g005230遺伝子の過剰発現担体の構築>
制限酵素Kpn IおよびPst I(TaKaRa,日本)によりpCAMBIA1300-2×35S担体を二重消化した。反応系には、Kpn IおよびPst I:各1μl;4μlのBuffer(製品付属品);15μlのpCAMBIA1300-2×35S担体プラスミドが含まれ、ddHOで40μlまで補充し、37℃で酵素で4h処理した。AxyPrep PCRクリーニングキット(Axygen,米国)を用いて製品マニュアルに従って酵素切断産物を精製した。同じ方法によりSolyc05g005230遺伝子の増幅生成物を精製した。Promega社(米国)製のT4リガーゼキットにより、酵素で切断され、精製された担体とPCR生成物とを接続した。接続系には、酵素で切断された担体プラスミド1μl、遺伝子酵素切断断片2μl、T4リガーゼ0.5μl、Buffer1μlが含まれ、ddHOで10μlまで補充し、4℃で一晩(12時間)静置した。反応生成物を熱励起によりJM109コンピテントセルを変換し、陽性クローンを得た後、担体に挿入された断片の配列(配列番号1)を確認するためにバイオテクノロジー企業にシーケンシング分析してもらい、Solyc05g005230遺伝子の発現担体を得た。
【0020】
<ステップ8 Solyc05g005230遺伝子過剰発現担体のトマトへの形質転換>
ステップ7で得られたSolyc05g005230遺伝子の発現担体をトマト野生型品種MicroTomに形質転換した。遺伝子組み換え方法は、Kimuraらの方法(Kimura S et al,CHS Protoc,2008)を採用した。対応するこの遺伝子組み換えトマト植物体、すなわち、Solyc05g005230遺伝子過剰発現植物体5230-OEを得た。
【0021】
<ステップ9 Solyc05g005230遺伝子過剰発現植物体のRT-PCR同定>
ステップ5に記載の方法によりステップ8で得られた遺伝子組み換えトマト(5230-OE)葉の組織の総RNAを抽出し、cDNAであるTB cDNAに逆転写した。
PCRプライマーの合成
上流プライマー:5’-GTGCTTAGTGGTTGGGATGG-3’
下流プライマー:5’-CCTTCTCCCAAATCTTGGTTC-3’
【0022】
Real time PCR増幅: TB GreenTMPremix Ex TaqTMキット(TaKaRa)を用いて以下のように操作した。混合系にTB cDNA 2μL、Green Premix Ex Taq 10μL、上下流プライマー(濃度がいずれも10μM)それぞれ1μL、ddHO 5.6μL、ROX Reference Dye 0.4μLを加えた。StepOne PlusTMReal-Time PCR System(Applied Biosystems)により、PCRを実行した。実行プログラムは、予備変性:95℃、30s;95℃、5s;60℃、30s;40×サイクルであった。得られたデータに対してt検定により有意差の分析を行った。
結果を図2に示す。野生型品種MicroTomに比べ、過剰発現系5230-OE植物体におけるSolyc05g005230遺伝子の発現量は顕著に増加した(アップレギュレーション)。
【0023】
<ステップ10 トマトの葉の光合成色素の測定>
以上得られたSolyc05g005230遺伝子ノックアウト株5230-KO、過剰発現株5230-OEおよびその野生型対照品種MicroTomを25℃、16時間照明、8時間暗黒の条件で温室で栽培した。約45日成長した後、各品種からランダムに6株選択し、各株から3つの葉を選択し、主脈を取り除き、小さく切り、0.1g秤量し、3mLの80%(v/w)アセトンに浸漬し、28℃、暗所で48時間抽出した。抽出溶液を取り、UV分光光度計(NanoDrop 2000C)により波長664nm、647nm、470nmでの数値をそれぞれ測定した。そして、Amon(1949)の方法によりクロロフィルa、クロロフィルbおよびカロテノイドの含有量を計算した。算式は以下の通りである。
クロロフィルa=(13.71×OD664-2.85×OD647)×V/W
クロロフィルb=(22.39×OD647-5.42×OD664)×V/W
カロテノイド=(1000×OD470-3.27×クロロフィルa-104×クロロフィルb)/229
式中、Vは抽出液の体積(3mL)であり、Wは葉の質量0.1gであり、OD664、OD647およびOD470はそれぞれUV分光光度計により波長664nm、647nm、470nmで測定した数値(単位:mg/g)である。測定結果に対してt検定により変異体と野生型対照との有意差を分析した。
結果を図4に示す。対照品種MicroTomに比べ、Solyc05g005230遺伝子ノックアウト株5230-KOの葉のクロロフィルa、クロロフィルbおよびカロテノイドはいずれも顕著に増加し、過剰発現株5230-OEの葉のクロロフィルa、クロロフィルbおよびカロテノイドはいずれも顕著に減少した。
【0024】
<ステップ11 トマトの葉の光合成測定>
ステップ10と同様に栽培し、約45日成長した後、各品種から6株ランダムに選択し、Li-6400(Li-COR,米国)光合成測定器により、その葉の純光合成速度、細胞間隙CO濃度、気孔コンダクタンスおよび蒸散作用を測定した。光合成測定器が15min自動予熱した後、順に環境オプション、HOおよびCOパラメータ、混合ファン、温度、外部光源オプションを設定し、記録ファイルを新規作成し、葉の面積Sおよび気孔率Kを設定し、トマトの葉を挟み、データが安定した後、純光合成速度、細胞間隙CO濃度、気孔コンダクタンスおよび蒸散速度の数値を読みだした。測定結果に対してt検定により変異体と野生型対照との有意差を分析した。
結果を図5に示す。対照品種MicroTomに比べ、Solyc05g005230遺伝子ノックアウト株5230-KOの葉の純光合成速度、気孔コンダクタンスおよび蒸散作用はいずれも顕著に向上し、過剰発現株5230-OEの葉の純光合成速度、気孔コンダクタンスおよび蒸散作用はいずれも低下した。
【0025】
以上の説明は、本発明のいくつかの具体的な実施例に過ぎない。本発明は以上の実施例に限定されず、種々の変形を含む。当業者は、本発明に開示の内容からすべての変形を直接導出または推測することができ、いずれも本発明の保護範囲に含まれるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2023506336000001.app
【国際調査報告】