(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-16
(54)【発明の名称】電池パック用粒子分離器および粒子分離器を備える電池パック
(51)【国際特許分類】
H01M 50/383 20210101AFI20230209BHJP
H01M 50/358 20210101ALI20230209BHJP
【FI】
H01M50/383
H01M50/358
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534161
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(85)【翻訳文提出日】2022-06-06
(86)【国際出願番号】 EP2020084549
(87)【国際公開番号】W WO2021115936
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】102019008657.0
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】598051819
【氏名又は名称】メルセデス・ベンツ グループ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Mercedes-Benz Group AG
【住所又は居所原語表記】Mercedesstrasse 120,70372 Stuttgart,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【氏名又は名称】田中 清
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【氏名又は名称】村山 みどり
(72)【発明者】
【氏名】トビーアス・ガイスラー
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・ブラオヴィッツ
(72)【発明者】
【氏名】サシャ・コック
【テーマコード(参考)】
5H012
【Fターム(参考)】
5H012BB08
5H012CC04
5H012CC06
5H012CC08
5H012DD07
5H012DD14
(57)【要約】
本発明は、入口(8)で超過圧力を伴って導入される粒子-電池ガス混合気から固体粒子を分離するために、および出口(111)で電池ガスの圧力を緩和するために設けられる粒子分離器(100)に関する。粒子分離器(100)は、入口(8)を出口(111)と流体接続する、軸方向zに沿って螺旋状に巻かれたガスチャネルを備える。ガスチャネルは、出口側の端部に粒子放出部(112)を有し、粒子放出部(112)は、半径方向yに開かれており、粒子の通過のために設けられる。更に、本発明は、このような粒子分離器(100)を備える電池筐体(2)、電池筐体(2)内にカプセル化された少なくとも1つの電池モジュール(3)を備える電池パック(1)、および少なくとも部分的に電池パック(1)によって給電される自動車に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口(8)で超過圧力を伴って導入される粒子-電池ガス混合気から固体粒子を分離するために、および出口(111)で前記電池ガスの圧力を緩和するために設けられる粒子分離器(100)であって、
前記粒子分離器(100)は、前記入口(8)を前記出口(111)と流体接続する、軸方向(z)に沿って螺旋状に巻かれたガスチャネルを備え、前記ガスチャネルは、出口側の端部に粒子放出部(112)を有し、前記粒子放出部(112)は、半径方向(y)に開かれており、粒子の通過のために設けられることを特徴とする、粒子分離器(100)。
【請求項2】
前記ガスチャネルは、直立管(110)内に配置された、軸方向の螺旋体軸(124)の周囲で巻かれた螺旋体螺旋(123)を有する螺旋体(120)によって形成されており、前記直立管(110)は、半径方向に内側に突出する、前記螺旋体螺旋(123)に対応して巻かれた施条(114)を有し、前記直立管(110)は、入口側が篩い板(121)によりガスが通過する仕方で閉鎖され、かつ出口ラッパ(111)の出口側でラッパ形状に拡大されており、前記粒子放出部(112)は、前記直立管(110)の側面で前記出口ラッパ(111)の領域に半径方向のスロットとして配置されることを特徴とする、請求項1に記載の粒子分離器(100)。
【請求項3】
前記螺旋体螺旋(123)および前記施条(114)は、それぞれ3つの螺旋を有することを特徴とする、請求項2に記載の粒子分離器(100)。
【請求項4】
前記粒子放出部(112)は、前記螺旋体螺旋(123)の螺旋高さ全体にわたって延在して形成され、半径方向に開かれていることを特徴とする、請求項2または3に記載の粒子分離器(100)。
【請求項5】
前記篩い板(121)は、少なくとも1.5ミリメートルの断面を有する粒子を堰き止めるために設けられることを特徴とする、請求項2から4のいずれか一項に記載の粒子分離器(100)。
【請求項6】
前記篩い板(121)は、凸状に湾曲して形成されていることを特徴とする、請求項2から5のいずれか一項に記載の粒子分離器(100)。
【請求項7】
少なくとも1つの電池モジュール(3)を気密にカプセル化するために設けられる電池筐体(2)であって、少なくとも1つの開口部(5)を内部に配置して有する絶縁挿入体(4)を備え、前記絶縁挿入体(4)が、前記電池筐体(2)の内部空間の事前設定された超過圧力限界値より上で前記内部空間を前記電池筐体の周囲と流体接続するために設けられるものにおいて、請求項1から6のいずれか一項に記載の粒子分離器(100)が、前記少なくとも1つの開口部(5)に配置されており、少なくとも1つの分離チャンバ(10)が、前記絶縁挿入体(4)内で奥所に設けられ、少なくとも1つの前記粒子分離器(100)の前記粒子放出部(112)と流体接続されることを特徴とする、電池筐体(2)。
【請求項8】
前記電池筐体(2)内にカプセル化された少なくとも1つの電池モジュール(3)を備える、請求項7に記載の電池筐体(2)を含む電池パック(1)。
【請求項9】
前記少なくとも1つの電池モジュール(3)は、少なくとも1つのリチウムイオン電池セルを含むことを特徴とする、請求項8に記載の電池パック(1)。
【請求項10】
請求項8または9に記載の電池パック(1)を備える自動車であって、前記電池パック(1)は、前記自動車を給電および/または駆動するために設けられる、自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載の電池パック用粒子分離器に関する。更に、本発明は、このような粒子分離器を備える請求項6のプリアンブルに記載の電池筐体、内部にカプセル化された電池モジュールを備えるこのような電池筐体を含む請求項7に記載の電池パック、及びこのような電池パックを含む請求項9に記載の自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、例えば、電気自動車またはハイブリッド自動車で使用するための電池パックを提案している。例えば、過充電または熱負荷により超過圧力機構を介して、単一の電池セルがその内部からガスを放出する脱ガスの場合に対して、電池パック筐体内に専用の空隙が設けられており、その空隙では内部にあるままで、放出されたガスの圧力は、緩和することができ、その際、温度および圧力は、低下することができる。続いて、ガスは、超過圧力逃がし装置によって、電池パック筐体の内部から外部へ放出される。その際、ガスは、超過圧力逃がし装置内に設けられた、例えば、サイクロン分離器、または繊維複合材もしくは多孔質体スポンジ構造を有する表面フィルタの形態での粒子分離器を通過して流れる。その際、ガスに含まれる粒子、例えば、グラファイトダストを、粒子分離器を通過して流れる時にろ過することができ、例えば、流出するガス内の赤熱している粒子による爆発の危険を低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】DE 10 2013 204 585 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、電池パック用の改良された粒子分離器を提供することを課題とする。更に、本発明は、電池パック用の改良された電池筐体、改良された電池パック、および改良された自動車を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
粒子分離器に関して、本課題は、請求項1の特徴を備える粒子分離器によって本発明により解決される。電池筐体、電池パック、および自動車に関して、本課題は、それぞれ請求項6、請求項7、および請求項9の特徴によって解決される。
【0006】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項の主題である。
【0007】
粒子分離器は、粒子-電池ガス混合気から固体粒子を分離するために設けられており、超過圧力を有する粒子-電池ガス混合気の導入のために設けられる入口を有する。粒子分離器は、電池ガスの圧力緩和のために設けられる出口を有する。
【0008】
本発明によれば、粒子分離器は、ガスチャネルを有し、ガスチャネルは、軸方向に沿って螺旋状に巻かれており、入口を出口と流体接続する。出口側の端部で、粒子分離器は、粒子放出部を有し、粒子放出部は、半径方向に、すなわち、軸方向に対して直角の方向に開かれており、粒子を通過させるために設けられる。
【0009】
有利には、電池ガスから粒子を分離することにより、電池ガスの着火確率を下げることができる。特にこれは、電池セルの熱過負荷時に放出される赤熱している粒子、例えばグラファイト粒子または金属粒子が、周囲に流出した電池ガスを発火させることを防止する。
【0010】
従来型の粒子-電池ガス分離器は、粒子-電池ガス混合気を加速によって分離し、粒子の慣性が大きいことに基づいて、より重い粒子は、より軽い電池ガスに比べて遅く排出される。その際、粒子は、ある箇所で加速経路に沿って底面へ下降する。
【0011】
それに対して、提案されている粒子分離器は、粒子が電池ガスと一緒に螺旋状のガスチャネルを通って導かれ、かつ軸方向の、螺旋状のガスチャネルの長手方向に向かう直線の速度成分に加えて、角速度成分が螺旋形のガスチャネルの接線方向へ向けられ、移動中の粒子-電池ガス混合気への遠心力に作用するという利点を有する。遠心力の影響下において、より重い粒子が半径方向外側に動かされる、すなわち、直線の速度成分に対して直角に、かつ角速度成分に対して直角に動かされ、その際、より軽い電池ガスを半径方向内側に押しのける。
【0012】
粒子放出部の半径方向の開口部を通って、粒子は、この箇所から流出し、中央に集められ、収容することができる一方、電池ガスは、実質的に減速されずに軸方向に流出し、圧力を緩和することができる。好ましくは、提案されている粒子分離器のフロー抵抗は、従来技術の解決策に比べて低下している。これにより、超過圧力下で粒子分離器を通して放出された粒子-電池ガス混合気の、特に効果的な圧力低下が可能になる。
【0013】
本発明の実施形態では、ガスチャネルは、直立管内に配置された螺旋体によって形成されている。螺旋体は、螺旋体螺旋を有し、螺旋体螺旋は、軸方向、すなわち直立管の長手方向に延在する螺旋体軸の周囲に巻かれている。
【0014】
直立管は、半径方向内側に螺旋体軸に向かって突出し、軸方向の長手方向に巻かれた施条を有する。施条は、螺旋体螺旋に対応して巻かれている。
【0015】
直立管は、入口側が篩い板によりガスが通過する仕方で閉鎖されており、出口ラッパの出口側でラッパ形状に拡大されている。粒子放出部は、直立管の側面で前記出口ラッパ(111)の領域に半径方向のスロットとして配置されている。
【0016】
螺旋体螺旋、およびそれに対応する巻かれた施条を使用して、非常に簡単な様式で、螺旋状のガスチャネルを形成することができる。螺旋体および直立管は、相互に取り外し可能に形成することができる。これにより、簡単かつ安価な製造および組立が可能である。更に、螺旋状のガスチャネルの構成は、螺旋体を使用して、特に大きな内径の直立管が粒子-電池ガス混合気の貫通のために使用可能であり、その結果、粒子分離器を介して特に良好な圧力低下が可能であるという利点を提供する。
【0017】
一実施形態では、螺旋体螺旋および施条は、直立管胴体内側にそれぞれ約3回巻きの螺旋数を有する。螺旋体螺旋の螺旋巻き数の増加は、半径方向加速度の増加、ひいては電池ガスからの粒子の分離の改良もまたもたらすが、改良の度合が、螺旋体螺旋が長くなるのに伴う螺旋数の追加によって次第に減じられる。約3回巻きの螺旋数は、粒子分離器の良好な分離と、主にその軸方向長さによって制限される、設置スペースに対する要求との最適な妥協案である。
【0018】
一実施形態では、粒子放出部は、螺旋体螺旋の螺旋高さ全体にわたって延在し、半径方向に開かれている。これにより、半径方向外側に押し出される粒子の可能な限り完全な分離と、ひいては粒子分離器の特に良好な分離作用とが実現される。
【0019】
一実施形態では、断面が少なくとも1.5ミリメートルの粒子を堰き止めるための篩い板が設けられる。より大径の粒子、ひいては重く慣性の大きな粒子もまた堰き止めることによって、より短い構成の粒子分離器と、粒子-電池ガス混合気の改良された通過とが可能になる。同時に、十分に大きな篩い開口部によって、フロー抵抗の低下と、それにより粒子分離器による効率的な超過圧力低下と、が可能になる。断面約1.5ミリメートルの篩い開口部は、良好な分離作用と、わずかなフロー抵抗との良好な妥協案として製造された。
【0020】
電池筐体は、少なくとも1つの電池モジュールを気密にカプセル化するために設けられるものであって、少なくとも1つの開口部を内部に配置して有する絶縁挿入体を備え、絶縁挿入体は、電池筐体(2)の内部空間の事前設定された超過圧力限界値より上でその内部空間を電池筐体の周囲と流体接続するために設けられる。
【0021】
本発明による粒子分離器は、少なくとも1つの開口部に配置されている。少なくとも1つの分離チャンバが、絶縁挿入体内で奥所に設けられ、少なくとも1つの粒子分離器の粒子放出部と流体接続される。
【0022】
少なくとも1つの電池モジュールの電池セルの熱的過負荷後、形成された粒子-電池ガス混合気は、事前設定された超過圧力限界値を超えると、粒子分離器によって排出される。その際、場合によってはまだ赤熱している、周囲に流出する電池ガスに引火する恐れのある粒子は、粒子放出部によって流れの穏やかな分離チャンバに導かれる。これにより、流出する電池ガスの引火確率は、著しく低下する。
【0023】
電池パックは、本発明による粒子分離器を有する本発明による電池筐体を備え、少なくとも1つの電池モジュールが電池筐体内にカプセル化されている。熱的過負荷の場合に流出する電池ガスの引火防止によって、このような電池パックの作動安全性を改良することができる。
【0024】
一実施形態では、少なくとも1つの電池モジュールは、少なくとも1つのリチウムイオン電池セルを含む。リチウムイオン電池セルは、高エネルギー密度および長い寿命を有し、熱的過負荷の場合に粒子-電池ガス混合気を放出するが、その混合気の引火確率は、本発明による粒子分離器によって効果的に低減することができる。
【0025】
更に、このような電池パックを少なくとも部分的に用いて駆動および/または給電される自動車、好適には電気自動車、が提案される。このような自動車は、特に高い動作安全性を有する。特に、このように構成された電気自動車には、熱的過負荷の確立から電池火災の発生までの時間に関する法律上、規制上および/または規格上の安全規定が適用される。
【0026】
以下に図面を参照して、本発明の実施例をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図5】取り外した状態の軸方向分離器の直立管および螺旋体の概略斜視図である。
【
図8】軸方向分離器が「上下逆」である、800個の粒子のコンピュータシミュレーション結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
互いに対応する部分には、図面全体で同じ参照符号が付されている。
【0029】
図1は、電池筐体2を備える電池パック1の概略断面図を示している。電池筐体2は、気密に形成されている。電池筐体2の内部には、電池モジュール3が配置されている。
【0030】
電池パック1または電池モジュール3の損傷時、電池ガスが形成される可能性があり、その電池ガスは、電池パック1の爆発を防止するために、管理されて周囲に排出される必要がある。電池筐体2からの電池ガスの排出は、絶縁挿入体4に沿って行われる。
【0031】
絶縁挿入体4は、電池筐体2の内部と電池筐体2の周囲との間に、後で詳細に説明する、電池ガス排出のために設けられる開口部5を備えており、それぞれバーストディスク6および/またはバーストバルブ7によって、気密に覆われている。電池筐体2の内部で超過圧力が事前設定された限界値に達すると、バーストディスク6が開く、および/またはバーストバルブ7が開く。それにより、超過圧力がかかっている電池ガスの圧力緩和は、絶縁挿入体4を通して可能になる。
【0032】
図2は、電池筐体2の筐体内部から見た絶縁挿入体4の概略斜視図を示している。バーストディスク6が破断した場合またはバーストバルブ7が開かれた場合、電池ガスは、軸方向分離器100によって入口8から軸方向zに沿って、電池筐体2の外側周囲に排出される。軸方向分離器100は、絶縁挿入体4によって円筒形開口部5内に配置されている。軸方向分離器100は、入口側で篩い板121によって覆われている。篩い板121の配置および動作原理は、以下で更に詳細に説明する。
【0033】
図3は、反対側から見た、すなわち、電池筐体2の周囲から見た絶縁挿入体4の概略斜視図を示している。軸方向分離器100は、出口側でラッパ状に拡大された出口ラッパ111を有し、流出する電池ガスは、出口ラッパ111を介して周囲に放出される。
【0034】
半径方向のスロット形状の粒子放出部112が、奥所の出口ラッパ111内に配置されている。粒子放出部112は、固体粒子の放出のために設けられており、固体粒子は、流出する電池ガスと一緒に導かれ、入口側の篩い板121を通過するほど十分に小さい。
【0035】
粒子は、以下で更に詳細に説明するように、半径方向yに粒子放出部112によって導かれる一方、電池ガスは、軸方向zに流出する。放出された粒子は、粒子放出部112と分離チャンバ10との間の流体接続として形成されている粒子チャネル9を介して、絶縁挿入体4内で奥所に設けられている分離チャンバ10に導かれる。
【0036】
図4は、軸方向分離器100の外側斜視図を示している。軸方向分離器100では、軸方向zに沿って電池ガスが流れ、電池ガスは、篩い板121で覆われた電池筐体2の入口側の端部に流入し、出口ラッパ111に属する出口側の端部に流出する。
【0037】
篩い板121と出口ラッパ111との間には、円筒形の中空直立管110が配置されており、直立管110は、内部に、
図4では見えない螺旋体120を収容する。粒子放出部112は、軸方向分離器100の側面の奥所で、直立管110上の出口ラッパ111の基部に配置されている。粒子放出部112は、長手方向スロットとして、軸方向分離器100の周囲に沿って周囲全体の約1/3~1/6の長さにわたって延在する。
【0038】
粒子放出部112の長さにわたって、出口ラッパ111の外周が後ろに下がり、出口ラッパ111の残りの部分よりも湾曲が大きくなっている。
【0039】
軸方向分離器100は、好適には、軽量、耐熱かつ耐圧の材料から製造されている。これには、特に、Bakelite(登録商標)PF1110などのフェノールホルムアルデヒド樹脂を使用することができる。
【0040】
図5は、分解した状態の、すなわち螺旋体120を取り外した軸方向分離器100を示している。直立管110の入口側の端部には、軸方向にロック溝113が凹所として設けられ、ロック溝113は、篩い板121の半径方向yに突出するロックノーズ122に対応して形成されている。
【0041】
取り外された螺旋体120は、螺旋体120の長手方向、すなわち軸方向zに延在する螺旋体軸124を備える螺旋体螺旋123を含む。本明細書では、螺旋体螺旋123は、全体で約2.5回巻きの螺旋を有する。しかしまた、螺旋体螺旋123は、別の螺旋数を有することも可能である。好適には、螺旋体螺旋123は、軸方向伸長が約100~120mmの場合、約3回巻きの螺旋数を有する。
【0042】
入口側の端部には、螺旋体軸124は、その上に直角に配置された篩い板121と固く接続されている。組み立てられた状態で、篩い板121のロックノーズ122は、直立管110のロック溝113にかみ合っている。これにより、螺旋体120と、粒子放出部112を備える直立管110とは、組み立てられた状態で、相対回転不能に互いに固定されている。
【0043】
出口側の端部では、螺旋体軸124は、螺旋体120を超えて軸方向に突出する。
【0044】
図6は、入口側から見た、すなわち出口ラッパ111の対向側の端部から見た直立管110を示している。直立管110の内壁上には、螺旋状の施条114が配置されている。螺旋状の施条114は、半径方向に内側に向けて直立管110の内壁から突出する。施条114の螺旋は、方向および傾斜が螺旋体120の螺旋体螺旋123の螺旋と同一に形成されている。ロックされた取付位置で、すなわち篩い板121のロックノーズ122がロック溝113にかみ合った状態で、螺旋体螺旋123および施条114は、半径方向yで直接向かい合っている。
【0045】
出口ラッパ111の出口側の端部には、円弧状の連結プレート115が配置されており、連結プレート115は、半径方向で内側に直立管110の中央まで突出し、先端が尖っている。連結プレート115の先端が尖っている内側端部には、螺旋体軸受116が配置されており、螺旋体軸受116は、螺旋体軸124の出口側に突出する端部を収容するための穴を有する。
【0046】
円弧状の連結プレート115の外側の円弧は、出口ラッパ111の側面の出口側端部と接続されており、出口ラッパ111の側面に、粒子放出部112とほぼ同一の角度範囲(または周辺部)にわたって延在する。言い換えれば、粒子放出部112および連結プレート115は、軸方向zで重なるように配置されている。したがって、出口ラッパ111は、連結プレート115の領域において被覆されている、すなわち粒子放出部112の出口側が被覆されている。
【0047】
連結プレート115に配置された螺旋体軸受116は、ロック溝113と一緒に、直立管110内の螺旋体120の両側の相対回転不能な収容をもたらす。更に、連結プレート115は、軸方向フローに対して抵抗するため、連結プレート115は、連結プレート115と粒子放出部112との間の領域で局所的に高くなる、流出する電池ガスのフロー圧をもたらす。
【0048】
図7は、出口ラッパ111が装着され、螺旋体120が取り付けられた直立管110の、出口側の平面図を示している。
【0049】
以下で、軸方向分離器100の動作原理が説明される。熱的過負荷時、電池モジュール3が破裂し、その際、電池ガスと、例えば、グラファイト粒子または金属粒子と呼ばれる粒子と、を放出することがあり、電池ガスおよび粒子は、着火性のある混合気を形成する恐れがある。提案された軸方向分離器100は、流出する電池ガスから粒子を分離し、それにより混合気の引火確率を下げる。
【0050】
篩い板121によって、粒子-電池ガス混合気のより大径の粒子は、軸方向分離器100への流入が妨げられ、したがって、電池筐体2の内部に留まる。篩い板121の孔径は、好適には、直径1.5ミリメートル以上の粒子が阻止されるように選択される。
【0051】
電池ガスと、直径が篩い板121の孔径を下回っている粒子とは、軸方向分離器100に流入し、螺旋体螺旋123と、直立管110の縁部に対向して対応するように形成された施条114とによって、軸方向zに螺旋状の経路で軸方向分離器100を通って導かれる。
【0052】
粒子-電池ガス混合気の螺旋状の誘導は、篩い板121の入口側にも渦流をもたらす。これにより、分離された大径の粒子は、篩い板121から遠くに引き離されるか、または吹き飛ばされ、篩い板121の詰まりが防止される。これに加えて、篩い板121は、凸状に湾曲して形成されてもよく、これにより、篩い板121の上で分離される大径の粒子の引き離しまたは吹き飛ばしが支援される。
【0053】
更に、粒子-電池ガス混合気の強制された螺旋状のフローは、その脱混合をもたらし、遠心力の影響下で、重い粒子は、半径方向外側に、すなわち、直立管110の内壁に向かって移動し、その際、より軽い電池ガスを、半径方向に、すなわち、螺旋体軸124に向かって押しのける。この半径方向の脱混合は、軸方向zにおいて増大し、出口ラッパ111内で、出口ラッパ111の内壁に流れる粒子と、出口ラッパ111の内側に押しのけられる電池ガスとの間の最大の分離を実現する。
【0054】
半径方向yに作用する遠心力は、同時に、
図7の概略図が示すとおり、スロット形状の粒子放出部112を通る粒子の半径方向の流出をもたらす。粒子の流出は、連結プレート115を使用して高められるフロー圧によって粒子放出部112で支援される。
【0055】
流出した粒子は、粒子チャネル9を通って、分離チャンバ10のフローが穏やかな領域で下降し、その領域に集められる。このように説明される、典型的には10マイクロメートル~100マイクロメートルの直径を有する極めて小さく軽い粒子を含有する電池ガス混合気は、出口ラッパ111を介して圧力が緩和され、下流側に配置されたバーストディスク6および/または下流側に配置されたバーストバルブ7を通過し、電池筐体2の周囲に放出される。粒子の赤熱時間は、そのサイズの増大に伴って短くなるため、まだ含有されている極小の軽い粒子は、周囲に流出する際に燃え尽き、電池ガスに引火する恐れはもはやない。
【0056】
電池ガスが本発明による軸方向分離器100を介して電池筐体2から排出されるとき、例えば、電池パック1に金属製の釘を打ち込むことによる、電池モジュール3の熱的過負荷と、電池火災との間の時間が長くなり得ることがわかる。こうして例えば、本発明による粒子分離器を用いない予備試験では、粒子による電池ガスの着火が5分未満以内に確認された。これに対して、本発明による粒子分離器を用いた試験では、粒子による電池ガスの着火はまったく確認されなかった。その代わりに、電池ガスの着火は、5分を超える時間が経過すると、例えば、高電圧フラッシュオーバーなどの他の着火源により必ず確認された。それにより、使用者、例えば、このような電池パック1によって給電される電気自動車の車両乗員に警告するために、法的規定および規格に準拠した時間を長くすることができる。したがって、本発明の利点は、提案されている軸方向分離器100を備える電池パック1の適用安全性の改良および使用範囲の拡張にある。
【0057】
従来型の粒子-電池ガス分離器は、粒子-電池ガス混合気を加速によって分離し、粒子の慣性が大きいことに基づいて、より重い粒子は、より軽い電池ガスに比べて遅く排出される。その際、粒子は、ある箇所で加速経路に沿って底面へ下降する。これに対して、本発明の利点は、粒子が、火災の発生または拡大から容易に保護され得る分離チャンバ10というカプセル化された領域に収集され、最終保管されることにある。
【0058】
軸方向分離器100の有効性を試験するために、コンピュータシミュレーションを実施した。そのために、ソフトウェアStarCCM+を使用して、3次元オイラー・ラグランジュ気体粒子シミュレーションを実施した。
【0059】
コンピュータシミュレーション時、以下の一般的な条件を仮定した。定常シミュレーション、ガス質量流量25g/s、ガス流入温度300℃(最悪ケースシナリオ)、壁面温度は断熱、粒子初期温度1000℃、粒子材質はグラファィトおよびNMC(リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト酸化物)および銅、粒子形状は球状。
【0060】
コンピュータシミュレーションでは、以下の結果が得られた。軸方向分離器100の圧力低下340mbar、最大マッハ数0.54、直径50~1,000μmの粒子の分離率100%。
【0061】
図8は、800個の粒子を使用したこのようなコンピュータシミュレーションの図示である。この図には、軸方向分離器100が部分的に示されている。その際、軸方向分離器100は、「上下逆」である、すなわち、出口ラッパ111が上部に配置され、その下に直立管110があり、その下に入口8がある。その左側には分離チャンバ10がある。粒子の経路は複数の線(軌跡800)の形式で示されており、オイラー・ラグランジュ気体粒子シミュレーションでシミュレートされた合計800個の軌跡を概略的に明示している。図から分かるように、粒子は、3,000m/s未満の比較的低い速度で軸方向分離器100に「下から」流入し、その後、螺旋状に巻かれたガスチャネルを通ってz方向に「上へ」流れるとき、12,000m/s超に加速され、最終的に、軸方向分離器100からy方向に流出し、分離チャンバ10へ流入し、分離チャンバ10で粒子は急激に減速され、最後に停止状態になる、すなわち、堆積する。既に上述のとおり、直径50~1000μmの粒子の分離率は、100%である。
【0062】
自動車内での軸方向分離器100の取付位置に関しては、この取付位置が任意であり得ること、すなわち、軸方向分離器は、基本的に自動車においてあらゆる空間的配置で受け入れられることに留意されたい。ただし、その際、取付位置に関しては、分離チャンバ10内に堆積した粒子がスロット形状の粒子放出部112を通って軸方向分離器に逆流しないことを保証する必要があるという制限が適用される。これによりほとんど任意の取付位置によって、自動車内の限られた設置スペースを柔軟に活用することができることで、設計の自由度が増すことになる。
【符号の説明】
【0063】
1 電池パック
2 電池筐体
3 電池モジュール
4 絶縁挿入体
5 開口部
6 バーストディスク
7 バーストバルブ
8 入口
9 粒子チャネル
10 分離チャンバ
100 軸方向分離器、粒子分離器
110 直立管
111 出口ラッパ、出口
112 粒子放出部
113 ロック溝
114 施条
115 連結プレート
116 螺旋体軸受
120 螺旋体
121 篩い板
122 ロックノーズ
123 螺旋体螺旋
124 螺旋体軸
z 軸方向
y 半径方向
【国際調査報告】