(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-16
(54)【発明の名称】亜鉛ベースの金属保護層と、金属保護層の表面上に生成されたリン酸塩処理層とを有する平鋼製品の製造方法、およびこのタイプの平鋼製品
(51)【国際特許分類】
C23C 22/78 20060101AFI20230209BHJP
C23C 22/80 20060101ALI20230209BHJP
C23C 22/12 20060101ALI20230209BHJP
C23C 22/18 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C23C22/78
C23C22/80
C23C22/12
C23C22/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535216
(86)(22)【出願日】2020-12-10
(85)【翻訳文提出日】2022-07-27
(86)【国際出願番号】 EP2020085591
(87)【国際公開番号】W WO2021116318
(87)【国際公開日】2021-06-17
(31)【優先権主張番号】102019134298.8
(32)【優先日】2019-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510041496
【氏名又は名称】ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser-Wilhelm-Strasse 100,47166 Duisburg Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100219265
【氏名又は名称】鈴木 崇大
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】ユンゲ,ファビアン
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA07
4K026AA13
4K026AA22
4K026BA04
4K026BA05
4K026BB08
4K026CA13
4K026CA18
4K026CA23
4K026CA26
4K026DA03
4K026EA07
4K026EA10
4K026EA11
4K026EA12
4K026EA14
(57)【要約】
本発明は、Zn系保護層を備えた平鋼製品の製造において、平鋼製品のリン酸塩処理を短時間で行うことを可能にする。この目的のために、本発明に従って少なくとも以下の方法工程が連続プロセスで行われる:a)Zn、Zn-Al合金、Zn-Mg合金またはZn-Mg-Al合金から形成された金属保護層が溶融めっきコーティングによって少なくとも片面に塗布された平鋼製品を提供する工程;b)金属保護層の表面上の自然酸化物層を、前記表面をpH値が1~3.5である酸性溶液で1~60秒の濡らし期間にわたって濡らすことによって、少なくとも部分的に除去する工程であって、群「硫酸、亜硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、硝酸、ギ酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、亜硝酸、フッ化水素酸」からの酸が酸性溶液に使用される工程;c)場合により、酸性溶液で濡れた金属保護層の表面をすすぎ水溶液ですすぐ工程;d)活性化水溶液を金属保護層の表面に塗布することによって、金属保護層の表面を活性化する工程;e)金属保護層の活性化表面にリン酸塩処理水溶液を塗布することによって、金属保護層の活性化表面をリン酸塩処理する工程。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護亜鉛系金属層と、前記保護金属層の表面上に生成されたリン酸塩処理層とを有する平鋼製品を製造するための方法であって、連続プロセスで行われる以下の方法工程:
a)Zn、Zn-Al合金、Zn-Mg合金またはZn-Mg-Al合金から形成された保護金属層が溶融めっきコーティングによって少なくとも片面に塗布される平鋼製品を提供する工程;
b)前記保護金属層の前記表面上に存在する自然酸化物層を、この表面を1~3.5のpHを有する酸性溶液で1~60秒の濡らし期間にわたって濡らすことによって、少なくとも部分的に除去する工程であって、前記酸性溶液について、群「硫酸、亜硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、硝酸、ギ酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、亜硝酸またはフッ化水素酸」からの酸が使用される、工程;
c)場合により、前記酸性溶液で濡れた前記保護金属層の前記表面をすすぎ水溶液ですすぐ工程;
d)活性化水溶液を前記保護金属層の前記表面に塗布することによって、前記保護金属層の前記表面を活性化する工程;
e)前記保護金属層の前記活性化表面にリン酸塩処理水溶液を塗布することによって、前記保護金属層の前記活性化表面をリン酸塩処理する工程を少なくとも含む、方法。
【請求項2】
作業工程b)において、前記保護金属層の前記表面を、噴霧、コーティングまたは浸漬法で前記酸性溶液で濡らすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濡らし期間が最大15秒であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記保護金属層の前記表面が濡らされる前に、前記酸性溶液が20~95℃の濡らし温度に加熱されることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
任意選択の作業工程c)において、完全脱塩水が前記すすぎ水溶液として使用されることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程d)において使用される前記活性化水溶液が、群「二酸化チタン、二酸化チタン水和物、六フッ化チタン酸二カリウム、六フッ化チタン酸、硫酸チタン、二硫酸チタン、硫酸チタニル、硫酸酸化チタン、塩化チタニル、フッ化チタンカリウム、二酸化チタン、二酸化チタン水和物、六フッ化チタン酸二カリウム、六フッ化チタン酸、硫酸チタン、二硫酸チタン、硫酸チタニル、硫酸酸化チタン、塩化チタニル、フッ化チタンカリウム、四塩化チタン、四フッ化チタン、三塩化チタン、水酸化チタン、亜硝酸チタン、硝酸チタン、シュウ酸酸化チタンカリウムまたは炭化チタン」からの少なくとも1つの塩を0.8~25g/l含有することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程e)で使用される前記リン酸塩処理水溶液が、
5~20g/lのリン酸、
1~20g/lのオルトリン酸塩および/またはリン酸二水素塩、
0.5~6g/lの亜鉛塩、
0.5~2g/lのマンガン塩、
0.5~2g/lのニッケル塩、
ならびに微量の水および不可避の不純物を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
作業工程a)の終了と作業工程d)の開始との間に最大で300秒が経過することを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護亜鉛系金属層と、保護金属層の表面に生成されたリン酸塩処理層とを有する平鋼製品の製造方法に関する。
【0002】
本発明はさらに、保護亜鉛系金属層と、保護金属層の表面に生成されたリン酸塩処理層とを有する平鋼製品に関する。
【背景技術】
【0003】
平鋼製品は、ここでは、長さおよび幅がそれぞれそれらの厚さよりも著しく大きい圧延製品として理解される。したがって、平鋼製品または「板金製品」が以下で言及される場合、これは例えば、車体コンポーネントの製造用にブランクまたは板金ブランクが分離される、鋼帯または鋼板などの圧延製品を意味する。
【0004】
「成形板金部品」または「板金コンポーネント」は、このような平鋼または板金製品から作製され、「成形板金部品」および「板金コンポーネント」という用語は本明細書では同義的に使用される。
【0005】
用語「リン酸塩処理層」、「リン酸塩層」、「リン酸塩結晶層」および「リン酸塩コーティング」も、以下において同義的に理解されるべきである。
【0006】
本明細書で使用される場合、用語「リン結晶」は、リンを含有する化合物から形成されるすべての結晶を指す。これらには、特に、Znコーティングのリン酸塩処理中に形成されるリン酸亜鉛結晶が含まれる。
【0007】
「保護亜鉛系金属層、」、「Znコーティング」または「Zn保護層」は、本明細書では、技術的意味で純粋な亜鉛、またはZn合金、特にZn-Al合金、Zn-Mg合金もしくはZn-Mg-Al合金で作られたすべての保護層を指すために使用される。
【0008】
保護亜鉛系金属層は、腐食に対する保護として各平鋼製品の鋼基材に塗布される。
【0009】
いわゆる「ZMコーティング」を備えた平鋼製品上のリン酸塩層の生成は、本明細書で説明される本発明による方法の適用にとって特に重要である。
【0010】
Steel Institute VDEh,Dusseldorfによって発行され、URL https://www.stahl-online.de/wp-content/uploads/2013/08/ZM-Coatings-for-Automotive-Industry.pdfでダウンロード可能なパンフレット「ZINC-MAGNESIUM-ALUMINIUM COATINGS FOR AUTOMOTIVE INDUSTRY」 First Edition 2013で詳細に説明されているように、ここで問題となっているタイプの平鋼製品を被覆する金属Zn-Mg-Alコーティングは、通常、MgおよびAlを合計で最大8重量%含む。保護コーティングの保護効果にそれぞれ寄与するZn、MgZn2、AlリッチZnなどの異なる相がこのような保護層に存在し、これは技術専門用語および本文では「ZM保護コーティング」または「ZMコーティング」とも呼ばれる。Al含有量は、典型的には0.3~5重量%で変動するが、Mg含有量は、典型的には0.3~3重量%である。
【0011】
保護層中にZn、MgおよびAlを含有する相を特別に分布させることによって達成される最適化された保護効果で、層厚を最小限に抑えながら同時に腐食に対する保護を最大化することができる。これは、成形挙動の改善だけでなく、腐食保護をもたらすために必要な資源の節約にも寄与する。これは、例えば、車両車体の製造分野における、ZM被覆が施された平鋼製品のための多数の用途、および出発製品として使用されるZMコーティングされた金属板が高い成形度で適切なコンポーネントに成形される同等の用途を開く。
【0012】
Zn被覆平鋼製品上に生成されたリン酸塩処理層は、腐食に対する保護に寄与し、リン酸塩処理層を備える平鋼製品またはそのような平鋼製品から形成されたコンポーネントに塗布される塗料の被膜の接着性を改善する。
【0013】
さらに、電解析出によって生成されたZnコーティングを備えた平鋼製品の場合、Znコーティングに塗布されたリン酸塩処理層は、平鋼製品を成形板金部品、例えば自動車車体の製造に要するものなどに形成する際の形成助剤としても使用される。ここで、リン酸塩処理が改善された成形性を保証するのは、保護金属層上にリン酸塩処理を有する平鋼製品が成形ツールに残す摩耗が減り、改善された滑り挙動を示すからである。
【0014】
合金層で被覆された鋼製品をリン酸塩処理するための一般的な手順は、例えば、欧州特許0454211B1号、Judith Pietschmannによる専門書籍「Industrial Powder Coating-Basics-Methods-Practical Use」、4th Ed.、Wiesbaden、Springer Vieweg、2013、およびドイツ特許第3734596A1号に記載されている。そこで説明されている方法は、一連の作業工程「アルカリ性または酸性洗浄剤を使用して、鋼製品の表面から生成残留物および酸化物などを取り除く工程」、「洗浄された鋼製品の表面をすすぐ工程」、および「すすいだ鋼製品の表面を活性化させる工程」を提供する。
【0015】
リン酸塩処理中、保護金属層からの亜鉛は、水素ガスの形成を伴う酸化還元反応でリン酸亜鉛に変換され、リン酸亜鉛は、平鋼製品のコーティングの表面上に直接形成され、したがって、特に安定した方法で前記表面に接合される。
【0016】
従来、リン酸塩処理層は2段階プロセスで生成されている。このプロセスの第1の工程では、適切な分散液との接触によって、いわゆる活性化粒子を平鋼製品に塗布することによって表面を活性化する。活性化粒子は、次の作業工程で生成されるリン酸亜鉛結晶の結晶核として使用され、より小さく高密度の結晶をもたらすことを目的とする。
【0017】
リン酸亜鉛結晶が分離して成長できるように、従来のリン酸塩処理の第2の工程では、溶液平衡に近いリン酸塩処理溶液(とりわけ、リン酸、水および亜鉛からなる)を関連する平鋼製品の保護コーティングの表面と接触させる。リン酸溶液が亜鉛表面に接触すると、亜鉛はZn被覆平鋼製品の表面から溶解する。その結果、リン酸塩処理溶液中のリン酸亜鉛の溶解度は、保護Znコーティングの表面の直上で限界を超え、リン酸亜鉛結晶が形成される。得られたリン酸亜鉛結晶は、保護亜鉛コーティングの表面上に均一に分布し、平鋼製品の鋼基材の粗さに従う。
【0018】
これまでのところ、実際には、Znコーティングを備えた表面を連続プロセスで電解的にリン酸塩処理することしかできなかった。しかしながら、溶融めっきコーティング(「溶融亜鉛めっき」)によるZnコーティングを備えた平鋼製品の表面は、以前は、それらが板金コンポーネントに形成された後でしかリン酸塩処理することができなかった。例えば、自動車車体を製造する場合、従来、溶融亜鉛めっき金属板は、平鋼製品の製造者から、平鋼製品をコンポーネントに形成し、次いで、得られたコンポーネントに浸漬プロセスでリン酸塩処理層を提供する自動車車体の製造者に、リン酸塩処理しない状態で送達されることが通例であった。これは、帯材料の連続的なリン酸塩処理中に可能であるものよりも著しく長いプロセス時間を必要とする。さらに、この手順では、リン酸塩処理層は、関連する板金コンポーネントを形成する際の形成助剤として利用できない。
【0019】
溶融亜鉛めっきによって塗布されるZMコーティングの場合、今日、電解Zn被覆された平鋼製品のみが帯材料として連続プロセスでリン酸塩処理される理由は、アルミニウムおよび/または酸化マグネシウム層が、電解亜鉛めっきによって生成されたZnコーティングよりもリン酸塩処理溶液による腐食に対して著しく耐性があるためである。電解亜鉛めっきによって生成された保護Zn層の表面に形成される酸化亜鉛は、リン酸塩処理溶液によって非常に迅速に溶解される。その結果、金属亜鉛が表面から溶解し、リン酸塩処理溶液からのリン酸塩と共にリン酸亜鉛として沈殿し、亜鉛表面で成長し始める変換プロセスは、非常に迅速に開始することができる。
【0020】
対照的に、溶融めっきコーティングによって塗布され、Mgおよび/またはAlを含有する保護Zn層の場合、保護層の表面に存在する酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムを溶解するために、フッ化物含有成分の添加が必要である。しかしながら、AlまたはMg酸化物を溶解するプロセスは数秒かかるため、リン酸塩処理層の形成に重要な変換プロセスは比較的遅くしか開始できない。したがって、Alおよび/またはMg酸化物層を溶解するために、典型的には、関連する平鋼製品を10秒を超える濡らし期間にわたってリン酸塩処理溶液に曝露することが必要である。このような長い濡らし時間は、連続的に実施される従来のリン酸塩処理プロセスでは達成することができない。したがって、溶融亜鉛めっき平鋼製品を加工する場合、非リン酸塩処理平鋼製品から板金コンポーネントを形成し、次いで、浸漬法を使用して得られたコンポーネントを1つずつリン酸塩処理することは、従来、工業的実施において経済的に可能であるに過ぎなかった。
【0021】
欧州特許第2824213A1号は、保護Zn-Mg-Al系コーティングを備えた鋼板の接着性を改善する方法を開示しており、この方法では、保護Zn-Mg-Al系コーティングが連続プロセスで塗布され、次いで、Al2O3およびMgOを含む酸化物層が、酸洗することなく改質される。この目的のために、保護被覆された鋼板は、最初にスキンパスされ、次いで水性フッ化物含有組成物で処理されてMgO含有量を減少させる。
【0022】
国際公開第99/14397A1には、鋼帯、または片面もしくは両面を亜鉛めっきされるかまたは合金亜鉛めっきされた鋼帯を、50~70℃の温度で酸性の亜鉛、マグネシウムおよびマンガン含有リン酸塩処理溶液を2~20秒間噴霧または浸漬することによってリン酸塩処理する方法が記載されており、リン酸塩処理溶液は、その特定の組成によって特徴付けられる。しかしながら、国際公開第99/14397A1号に記載されている帯のリン酸塩処理法は、保護Zn-Mg-Al系層を有する平鋼製品を対象としていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
上記で説明した従来技術の背景に対して、保護金属層が溶融めっきコーティング(「溶融亜鉛めっき」)によって関連する平鋼製品に塗布され、保護金属層が、特にAlおよび/またはMgを含有するZn合金から形成される、平鋼製品の連続的なリン酸塩処理に適した方法を提供するという問題が生じた。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、保護亜鉛系金属層と、保護金属層の表面上に生成されたリン酸塩処理層とを有する平鋼製品の製造において、少なくとも請求項1に記載の作業工程を実施することによってこの問題を解決した。
【0025】
当然のことながら、ここでは言及されておらず、ここで議論されているタイプの平鋼製品のリン酸塩処理において当業者によって通常完了される方法工程は、これが必要な場合、本発明による方法においてさらに実行される。
【0026】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に明記されており、一般的な発明概念であるように、以下で詳細に説明される。
【0027】
保護亜鉛系金属層と、保護金属層の表面上に生成されたリン酸塩処理層とを有する平鋼製品を製造するための本発明による方法は、本発明に従って、連続プロセスで行われる少なくとも以下の方法工程を含む:
a)Zn、Zn-Al合金、Zn-Mg合金またはZn-Mg-Al合金から形成された保護金属層が溶融めっきコーティングによって少なくとも片面に塗布される平鋼製品を提供する工程;
b)保護金属層の表面上に存在する自然酸化物層を、この表面を1~3.5のpHを有する酸性溶液で1~60秒の濡らし期間にわたって濡らすことによって、少なくとも部分的に除去する工程であって、酸性溶液について、群「硫酸、亜硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、硝酸、ギ酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、亜硝酸またはフッ化水素酸」からの酸が使用される工程;
c)場合により、酸性溶液で濡れた保護金属層の表面をすすぎ水溶液ですすぐ工程;
d)活性化水溶液を保護金属層の表面に塗布することによって、保護金属層の表面を活性化する工程、;
e)保護金属層の活性化表面にリン酸塩処理水溶液を塗布することによって、保護金属層の活性化表面をリン酸塩処理する工程。
【0028】
したがって、本発明は、従来の方法で製造され、「溶融亜鉛めっき」としても知られる溶融めっきコーティングによって同様に従来の方法で保護Zn層を提供された平鋼製品に基づく。
【0029】
ここで、本発明は、従来技術では電解亜鉛めっきによるZn保護コーティングを備えた平鋼製品でのみ達成することができたような、微細結晶リン酸塩層を本発明に従って処理された平鋼製品上に生成することを可能にする。
【0030】
平鋼製品の保護Zn層上にリン酸塩処理層を生成するための本発明による手順の利点は、この手順が、技術的意味で純粋な亜鉛から生成された保護Zn層、すなわち、リン酸塩処理前に保護金属層の表面上に実質的にZn酸化物のみが存在する保護Zn層でも使用できることを意味する。
【0031】
しかしながら、本発明による方法は、保護Zn層の特性を最適化するために、保護Zn層が、亜鉛に加えてマグネシウム(Mg)および/またはアルミニウム(Al)が有効量で存在するZn合金から形成される平鋼製品の製造に特に適している。そのようなZn-Al、Zn-MgまたはZn-Mg-Alコーティングは、関連する平鋼製品の鋼基材上に溶融めっきコーティングによって特に経済的に生成され得、その表面にAlおよび/またはMg酸化物を有することができ、そのため、上記で説明した理由により、保護金属層としてそのようなZn合金層で被覆された平鋼製品は、従来の方法を使用して経済的にリン酸塩処理することができない。
【0032】
本発明による方法の作業工程a)で提供され、Znコーティングを備えた平鋼製品が、実際のリン酸塩処理工程(工程e))の前に酸性溶液で処理される作業工程b)は、平鋼製品をリン酸塩処理する場合、本発明による手順にとって重要である。これにより、提供された平鋼製品の保護Zn層の自由表面上に存在する自然酸化物層が確実に除去される。目的は、技術的な意味での酸化物層の完全な除去である。
【0033】
本発明に従って提供される酸性溶液による前処理は、Znコーティングの表面上の酸化亜鉛成分を溶解させる。酸性溶液による前記前処理によって、保護金属層の表面上の酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウム成分を効果的に除去することもできる。本発明による方法の作業工程b)の後、平鋼製品のZnコーティングの表面上の金属酸化物成分の量は、多くても、リン酸塩処理層を形成するのに必要な変換プロセスを次のリン酸塩処理(工程e))中に直ちに開始できるほど少ない。リン酸塩処理工程e)で塗布されたリン酸塩処理溶液は、保護金属層の表面上の非酸化亜鉛と直接接触するので、リン酸塩処理層を形成するリン酸塩結晶を形成するための化学変換プロセスをすぐに開始することができる。
【0034】
したがって、本発明に従って提供される酸性溶液による前処理は、本発明によるリン酸塩処理層で覆われる平鋼製品の状態をもたらし、これは、別の方法では、電解析出によって平鋼製品の鋼基材上にZnコーティングが堆積された平鋼製品が加工される場合にのみ得られる。
【0035】
このようにして、本発明による方法は、本発明による方法のリン酸塩処理工程(工程e)において、連続的に実行されるリン酸塩処理プロセスの典型的な期間内に緻密なリン酸塩層を生成することを可能にする。
【0036】
したがって、本発明による手順は、Znコーティング、特にZn-Al、Zn-MgまたはZn-Mg-Alコーティングが施された平鋼製品を、それらが板金部品に変形される前に、経済的にかつ連続プロセスで溶融亜鉛めっきすることによってリン酸塩処理することさえ可能にする。
【0037】
本発明による方法のリン酸塩処理工程(作業工程e)において、本発明によって可能にされた短い処理時間によって、保護Zn系金属層およびその上のリン酸塩処理層を備え、リン酸塩処理層のリン酸塩結晶が特に小さく高密度に分布している平鋼製品を製造することができる。
【0038】
保護亜鉛系金属層と、保護金属層の表面上に生成されたリン酸塩処理層とを有する本発明による平鋼製品は、そのリン酸塩処理層が、0.5~5μmの平均結晶径を有するリン酸塩結晶からなることを特徴とする。この場合、本発明による平鋼製品は、特に本発明による方法を使用して製造することができる。
【0039】
それらの小さいサイズによって、リン酸塩結晶は、保護Zn層へのそれらの結合に関して機械的により安定する。さらに、本発明に従って作製または生成されたリン酸塩処理層のリン酸塩結晶は、コンポーネントの従来のバッチリン酸塩処理から生じるより粗い結晶構造よりも大きな総表面積を有する。結果として、本発明によるリン酸塩処理層を備えた平鋼製品は、従来通りリン酸塩処理されたコンポーネントよりも、本発明による平鋼製品から形成されたコンポーネントを塗装または接着するために良好な接着性を有する。同時に、本発明によって平鋼製品上に生成されたリン酸塩処理層の小さなリン酸塩結晶は、平鋼製品の表面の均質化をもたらし、それに関連して、成形ツールにおける冷間成形中の挙動を改善する。
【0040】
Znコーティングの表面に堆積した金属酸化物は、本発明に従って酸性溶液による前処理(本発明による方法の作業工程b))によって除去されるので、環境的に有害なフッ化物および他の添加剤をリン酸塩処理溶液に添加する必要はない。加えて、より小さなリン酸亜鉛結晶が形成されるため、リン酸塩処理溶液中のニッケルおよびマンガンなどの重金属の含有量を低減することができる。したがって、本発明による手順はまた、環境適合性の改善およびより単純なハンドリングを特徴とする。
【0041】
本発明によるリン酸塩処理層で被覆された平鋼製品を形成することによって製造されたコンポーネントが、形成された後に従来の製造プロセスを使用してリン酸塩処理に供される場合、このコンポーネントのリン酸塩処理は、コンポーネントへと形成される前の平鋼製品上に本発明に従って成形されたリン酸塩処理層の損傷または欠陥を補償し、それによって後続の処理、特に塗装または接着のために最適な表面状態を達成することを目的とすることができる。この目的のために、コンポーネントのリン酸塩処理は、リン酸塩処理層が保護金属層の表面の、被覆されていない可能性があるか、またはそれ以上最適にコーティングされない部分でのみ閉じられるように、資源を節約する方法で設計することができる。
【0042】
十分に水溶性であり、同時にZnコーティングの表面上の自然酸化物層を溶解することができるすべての酸は、本発明による方法の作業工程b)で使用される酸性溶液の酸として適している。
【0043】
群「硫酸、亜硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、硝酸、亜硝酸およびフッ化水素酸」からの酸は、この目的に特に適している。自然酸化物層の特に良好な除去は、特に低価格で入手可能である希釈硫酸を酸性溶液として用いて達成することができる。
【0044】
しかしながら、有機酸もまた、十分に強いプロトン供与体である限り、酸性溶液に使用することができる。群「ギ酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸および酒石酸」からの有機酸も本発明による方法に適している。
【0045】
リン酸塩処理層が提供されるZn被覆平鋼製品の表面は、作業工程a)において任意の適切な方法で酸性溶液で濡らすことができる。リン酸塩処理層が提供される表面に酸性溶液を塗布するための特に適切な方法は、噴霧法、コーティング法または浸漬法であり、従来のコーティングまたは噴霧法を使用すると、方法は特に効率的かつ経済的になる。
【0046】
リン酸塩処理されるZnコーティングの表面が、酸化物を除去するために酸性溶液に曝露されなければならない時間の長さは、酸性溶液の酸濃度および酸性溶液の温度の変動によって、同様に塗布方法によって影響され得る。
【0047】
これは、本発明によるZnコーティングの自然酸化物層の除去が、典型的には1~60秒、特に1~30秒または1~15秒の濡らし時間内に達成され得、少なくとも5秒の濡らし時間が実用上特に有利であることが分かっている。十分にアグレッシブあり、十分な濃度で存在する酸を使用することによって、適切なシステム工学を使用することによって、または酸性溶液を適切に温度制御することによって、最大10秒の濡らし時間を達成することができる。いずれの場合も、作業工程b)に必要な濡らし時間は非常に短いので、作業工程b)は、連続的に完了される作業系列内の本発明による方法の他の作業工程と一体化することができる。
【0048】
本発明に従って使用される酸性溶液中の酸の濃度の適切な範囲は、酸性溶液のpHによって説明することができる。Znコーティングの金属表面を同時に浸食することなく自然酸化物層の効率的な除去を達成するために、1~3.5のpHを有する酸性溶液が使用される。酸性溶液が3.5を超えるpHを有する場合、酸性溶液は、自然酸化物層を溶解するためにより長期間作用させておく必要がある。そのため、十分に短時間で酸化膜を除去できるように、pHを2以下に制限することが好ましい。1~1.5の範囲の酸性溶液のpH値が最適であることが証明されている。
【0049】
平鋼製品を濡らす際に酸性溶液を温度制御することにより、平鋼製品のZnコーティング上の自然酸化物層の溶解を促進することができる。20~95℃の温度の酸性溶液で濡らすことがこれに適している。適切な濡らし温度は、酸性溶液の濃度、および平鋼製品が溶液によって濡らされるセクションを通過する速度に応じて決定することができ、それにより、濡らし経路の長さおよび輸送速度から生じる可能な濡らし時間内に自然酸化物層を除去することができる。実際には、特に20~80℃の温度で濡らすことが、この目的に特に適していることが証明されている。
【0050】
本発明による平鋼製品のZnコーティングの表面から酸化物を除去した後、すすぎ工程c)が続いてもよく、そこでは、酸性溶液で濡れた保護金属層の表面を、酸性溶液のあらゆる残留物を除去するためにすすぎ水溶液ですすぐ。ここでは、水道水、プロセス水または脱イオン水が従来の方法ですすぎ剤として適している。
【0051】
酸性溶液での濡らし(作業工程b))および任意選択のすすぎ(任意選択の工程c))によって前処理された平鋼製品は、リン酸塩処理(作業工程e))前に、リン酸塩処理層が提供される平鋼製品の表面の活性化を経る。この目的のために、リン酸塩処理層が提供される保護金属層の表面に活性化水溶液が塗布される(作業工程d))。先行技術においてこの目的のために既に使用されているすべての活性化溶液は、活性化のための薬剤として適している。これらには、例えば、リン酸チタニルナトリウム(リン酸チタニル)に基づく粉末活性化またはリン酸亜鉛/リン酸チタン/酸化鉄に基づく液体活性化が含まれる。
【0052】
特に、活性化に使用される活性化水溶液が0.8~25g/l、特に最大16g/lまたは最大12g/lの群「二酸化チタン、二酸化チタン水和物、六フッ化チタン酸二カリウム、六フッ化チタン酸、硫酸チタン、二硫酸チタン、硫酸チタニル、硫酸酸化チタン、塩化チタニル、フッ化チタンカリウム、四塩化チタン、四フッ化チタン、三塩化チタン、水酸化チタン、亜硝酸チタン、硝酸チタン、シュウ酸酸化チタンカリウムおよび炭化チタン」から選択されるチタン塩を含有する場合、特に微細な結晶リン酸塩処理層が形成され、これが特に良好な表面特性を有するZn被覆平鋼製品をもたらす。チタン塩は、リン酸亜鉛などの金属リン酸塩の結晶化にとって特に良好な結晶核である。代替的または追加的に、活性化水溶液は、群「シュウ酸、Zn3(PO4)2、Zn2Fe(PO4)2、Zn2Ni(PO4)2、Zn2Mn(PO4)2、Zn2Ca(PO4)2、リン酸ニッケル、リン酸マンガン、リン酸カルシウム、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸コバルト(I)、リン酸コバルト(III)、銅、硫酸銅、硝酸銅、塩化銅、炭酸銅、酸化銅、銀、コバルト、ニッケル、Jernsted塩、酢酸鉛、塩化スズ、四塩化スズ、酸化ヒ素、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、ジルコニウム、鉄、リチウム、リン酸亜鉛、リン酸鉄、酸化亜鉛および酸化鉄」からの少なくとも1つの化合物を含有することができる。0.1~10g/lの各塩または各化合物の含有量は、特に実用的であることが判明している。
【0053】
活性化水溶液が少なくとも0.1~10g/lの開始濃度を有する場合、後続のリン酸塩処理工程で形成されるリン酸塩結晶の結晶核は、数秒以内に保護Zn層の表面に形成される。本発明による活性化は、バッチ濃度が10g/l未満の場合に特に効果的に実施することができる。
【0054】
本発明による目的に十分な、リン酸化される表面の活性化は、活性化される表面が1~60秒の適用時間にわたって活性化水溶液に曝されれば、確実に成功する。
【0055】
本発明による方法の最終リン酸塩処理工程(作業工程e))は、任意の既知の方法で実行することができる。したがって、当業者に公知のリン酸塩処理溶液は、リン酸塩処理工程に適している。例えば、従来技術からこの目的のために既に知られているように、トリケーション(trication)リン酸塩処理溶液は、高い塗料接着性または耐食性を保証するリン酸塩層の形成に関して特に好ましいことが判明している。
【0056】
本発明に従って提供され、前処理される平鋼製品のリン酸塩処理は、
5~20g/lのリン酸、
1~20g/lのオルトリン酸塩および/またはリン酸二水素塩、
0.5~6g/lの亜鉛塩、
0.5~2g/lのマンガン塩、
0.5~2g/lのニッケル塩、
ならびに微量の水および不可避の不純物を含むリン酸塩処理水溶液を使用して、確実に実施することができる。
【0057】
ここで、リン酸塩処理溶液の遊離酸含有量が4~8ポイントの範囲内に維持され、遊離酸に対する全酸の比が2.5~5ポイントの範囲内に維持されると有利であることが証明されている。微細結晶リン酸塩結晶は、5~7ポイントの範囲の遊離酸含有量で特に確実に形成される。遊離酸に対する全酸の比が2.8~4.5ポイントの範囲内に維持されれば、同じ目的にかなう。
【0058】
活性化(作業工程c))およびリン酸塩処理(作業工程d))は互いに独立して、通常のウェットオンウェットまたはドライオンウェット塗布工程において実行することができる。中間乾燥工程を省略できるため、ウェットオンウェット法によってプロセス効率をより高めることができる。一方、ドライオンウェット法は、特に柔軟に使用することができる。
【0059】
自然酸化物層の除去(作業工程a))とZnコーティングの活性化およびリン酸塩処理(作業工程c)およびd))との間に酸化物層がZnコーティングの表面上に再び形成されないことを確実にするために、作業工程a)の終了と作業工程d)の開始との間に最大300秒まで経過しなければならない。
【0060】
原則として、従来技術の方法を使用することによって保護Zn系金属層で被覆され得るすべての鋼は、本発明に従って処理される平鋼製品の鋼基材を含む鋼として使用することができる。一般的な規則によれば、本発明に従って好ましく使用される鋼は、0.08重量%のC、0.45重量%のMn、最大0.030重量%のP、最大0.030重量%のS、最大0.15重量%のCr、最大0.20重量%のCu、最大0.06重量%のMo、最大0.008重量%のNb、最大0.20重量%のNi、および微量のFeおよび不可避の不純物からなり、Cu、Ni、CrおよびMoの合計は、0.50重量%を超えてはならず、CrおよびMoの合計は、0.16重量%を超えてはならない。問題の鋼には、例えば、VDA材料シートVDA 239-100に従って指定された鋼「CR3」、「CR4」または「CR5」および「DX51」、高強度IF鋼(例えば、DIN EN 10152、10268、10346に従って「HC180Y」と指定された鋼)、焼付硬化鋼(例えば、VDA材料データシートVDA 239-100に従って「CR180B」および「CR210B」と指定された鋼)、高強度鋼(例えば、DIN EN 10268、10346に従って「HC 340」および「HC 420」と命名された鋼)および特にTRIP特性を有する高強度二相または多相鋼が含まれる。これらおよび他の可能な鋼は、パンフレット「Product overview:Steels for the automotive industry-product information」2018年8月、バージョン0、および「Steel DP-W and DP-K-product information for dual-phase steels」2018年2月、バージョン0に記載され、いずれもthyssenkrupp Steel Europe AG、Duisburg、Germanyによって発行された。
【0061】
関連する鋼基材上に提供され、本発明による方法で処理された亜鉛系コーティング層は、それらの主成分が亜鉛である限り、それ自体公知の組成を有することができる。この例は、亜鉛および場合により0.1~0.5重量%のAl、およびコーティングの特性に影響を及ぼさない、鉄などの技術的に不可避な通常の不純物からなる、いわゆる「Zコーティング」である。他の例は、いわゆる「ZFコーティング」であり、これもまた亜鉛および不可避の不純物、および場合により最大0.5重量%のAlからなるが、最大10重量%のFeも鋼基材から保護コーティング中に拡散する。第3の例は、いわゆる「ガルファン保護コーティング」であり、これは1~5重量%のAlおよび微量の亜鉛および不可避の不純物、例えば鉄、ランタンおよびセリウムからなる。問題の保護コーティングは、通常、溶融めっきコーティングによって塗布される。
【0062】
本発明による方法は、溶融亜鉛めっきによって平鋼製品の関連する鋼基材に塗布された保護Zn-Mg-Al金属層(「ZMコーティング」)を備え、その表面に本発明による方法でリン酸塩処理層が生成される平鋼製品の製造に特に適している。典型的には、ZMコーティングを備えたそのような平鋼製品は、鋼基材上に亜鉛およびマグネシウム系コーティングを有し、このコーティングは、Znおよび不可避の不純物に加えて、0.1~3.0重量%のMg、好ましくは0.6~2.0重量%のMg、0.1~5.0重量%のAl、好ましくは0.0~2.5重量%のAl、特に好ましくは1.0~2.0重量%のAl、および場合によりさらなる合金元素、例えば既知量のFeを含有する。
【0063】
本発明は、実施形態を参照して以下により詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【
図1】本発明による方法を使用する、平鋼製品の自動車用の典型的加工における方法順序を表す図である。
【
図2a】本発明に従って処理されたZMコーティングの表面の、電界放出走査型電子顕微鏡(「FE-SEM」)で撮影された画像を示す。
【
図2b】本発明に従って処理されたZコーティングの表面の、電界放出走査型電子顕微鏡(「FE-SEM」)で撮影された画像を示す。
【
図2c】サンプル上に電解析出された亜鉛系コーティングの表面の、電界放出走査型電子顕微鏡(「FE-SEM」)で撮影された画像を示す。
【
図3】3つのサンプルについて決定されたコーティング重量を再現する図を示す。
【
図4】3つのサンプルで決定された、サンプル上に生成されたリン光体コーティング中のP、NiおよびMnの含有量を示す図である。
【
図5】5つのサンプルの接着挙動の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
適切な鋼からなり、保護Zn系コーティングが提供された平鋼製品が、車体用コンポーネントの製造のために
図1に示す製造順序に提供される。
【0066】
図1の最初の「酸すすぎ」工程の前に、必要に応じて、関連する平鋼製品に付着する残留物、および平鋼製品の製造における前の工程に由来する残留物を除去するために、従来の脱脂工程を行うことができる。
【0067】
「酸すすぎ」工程では、この平鋼製品を、平鋼製品の保護金属層の表面に存在する自然酸化物層を除去するために酸性溶液ですすぐ。
【0068】
次いで、平鋼製品は、前記製品を脱イオン水ですすいで、先に使用した酸性すすぎ溶液の残留物を除去する「脱イオン水すすぎ」工程を経る。
【0069】
続く「活性化」作業工程では、活性化水溶液を保護金属層の表面に塗布することにより、保護コーティングの表面を活性化させる。
【0070】
次いで、「リン酸塩処理」工程では、活性化表面にリン酸塩処理水溶液を塗布することによって、予め活性化された保護層の表面をリン酸塩処理する。
【0071】
環境の影響から保護するために、リン酸塩処理後に平鋼製品に従来の保護油を塗布し(「塗油」作業工程)、このようにして塗油された平鋼製品を顧客に輸送する(「顧客への輸送」作業工程)。
【0072】
顧客、すなわち平鋼製品の加工業者によって完了される作業工程「形成/脱油/接合など」、「洗浄」、「活性化」、「リン酸塩処理」、「CDC」(CDC=「カチオン電着塗装」)、「フィラー塗料/トップコート」は、
図1において破線の長方形によって強調表示され、それらのタイプおよび順序において従来の手順に対応し、したがってここでは詳細に説明しない。
【0073】
本発明の効果を試験するために、サンプルE1、E2およびRを従来の方法で製造された平鋼製品から分離した。平鋼製品の鋼基材は、それぞれの場合において、M3A33の呼称で市販されている鋼からなり、その組成を表1に示す。
【表1】
【0074】
サンプルE1を取り出した平鋼製品には、1.6重量%のAl、1.2重量%のMgおよび微量のZnおよび不可避の不純物から形成されるZn-Al-Mgコーティング(「ZMコーティング」)を、溶融めっきコーティングによる従来の方法で提供した。
【0075】
サンプルE2を取り出した平鋼製品には、0.6重量%のAlおよび微量のZnおよび不可避の不純物から形成されるZnコーティング(「Zコーティング」)を、溶融めっきコーティングによる従来の方法で提供した。
【0076】
一方、サンプルRを取り出した平鋼製品には、技術的な意味で完全に亜鉛からなる保護Zn系コーティングで従来の方法で電解被覆した。サンプルRは、本発明による方法で、以下に説明するように、サンプルE1およびE2上に生成されたリン酸塩層の品質を試験するための基準として機能した。
【0077】
第1の試験では、平鋼製品サンプルE1、E2を、弱アルカリ性洗浄剤を使用する同様の従来の方法で従来の脱脂システムで脱脂した。
【0078】
次いで、平鋼製品サンプルE1、E2を、「BONDERITE(登録商標)C-IC 124N」または「Ridoline(登録商標)124N」の名称で市販されている酸性洗浄剤(URL http://www.ktl-wob.de/fileadmin/ user_upload/Randspalte/Performanceen/ Strahlen/Ridoline_124_N-GA.pdf(2006年1月9日にダウンロード可能となり、2019年10月30日に見られた使用説明書)においてHenkel KGaAから入手可能なものを参照されたい)を用いて、それらのZMコーティングの表面に前記洗浄剤を浸漬または噴霧することによって濡らして、既存の自然酸化物層を除去した。
【0079】
この処理後、平鋼製品サンプルE1、E2を、それらの上に存在する酸性洗浄剤の残留物を除去するために脱イオン水で従来の方法ですすいだ。
【0080】
活性化のために、このようにして洗浄したサンプルE1のZMコーティングおよびサンプルE2のZコーティングの表面に、2.1g/lの従来の既知の「Fixodine(登録商標)50CF」または「Bonderite(登録商標)M-AC 50CF」活性化剤を含有する溶液を室温で5秒の処理時間噴霧した。
【0081】
次いで、平鋼製品サンプルE1のZMコーティングおよびサンプルE2のZコーティングの活性化表面に、温度が60℃であり、2.2g/lのニッケル、2g/lのマンガン、8.6g/lのリン、2.6g/lの亜鉛および13.1g/lの硝酸塩を水に溶解したリン酸塩処理溶液を5秒間噴霧した。リン酸塩処理溶液のpHは2.55であった。
【0082】
このようにしてリン酸塩処理された平鋼製品サンプルE1およびE2に、リン酸塩処理剤の残留物を除去するために脱イオン水を20秒間噴霧した。
【0083】
最後に、サンプルE1、E2を70℃の乾燥キャビネット内で乾燥させた。
【0084】
本発明に従って実施された酸洗いおよびすすぎを除いて、基準サンプルRを他のサンプルと同じ方法で処理した。
【0085】
図2aは、上述の方法で処理された平鋼製品サンプルE1のZMコーティングの表面の切片のFE-SEM画像を示す。
【0086】
図2bは、上述の方法で処理された平鋼製品サンプルE2のZコーティングの表面の切片のFE-SEM画像を示す。
【0087】
図2cは、上述の方法で処理された平鋼製品サンプルR(基準)の電解析出Zn系コーティングの表面の切片のFE-SEM画像を示す。
【0088】
図2a~
図2cを比較すると、本発明による処理を使用して、溶融めっきコーティングによって製造された平鋼製品の保護Zn系コーティング上に微細結晶の被覆リン酸塩層を確実に生成することが可能であり(
図2aおよび
図2bを参照)、これは、他の方法では電解析出Znコーティング(
図2c参照)でのみ達成され得ることが明らかになる。
【0089】
この結果は、グロー放電分光法(グロー放電発光分光分析、GDOS/GDOES)を用いて、サンプルE1、E2およびR上に生成されたリン酸塩層のコーティング重量を測定することによって確認された。サンプルE1、E2およびRについて決定された全コーティングのコーティング重量は、
図3に示す図に提示されている。本発明に従って調製され実施された、溶融めっきコーティングによって製造された平鋼製品サンプルE1およびE2のコーティングのリン酸塩処理は、電解被覆された基準サンプルRに従来通り生成されたリン酸塩層のコーティング重量とわずかにのみ異なるコーティング重量をもたらすことが分かる。
【0090】
サンプルE1、E2およびR上に生成されたリン酸塩層について、P、MnおよびNiの含有量の割合も決定した。測定は、グロー放電分光計「Spectruma GDA 750」(焦点距離750mm、Grimm型放電源を備え、DCモードおよびRFモードでの測定が可能な同時真空分光計)を用いて行った。測定はRFモードで行った。装置を、4mmアノードおよびアルゴン5.0(99.999%)ガスで動作させた。4mmアノードでの動作のための各装置の典型的なパラメータは、800Vの電圧、20mAの電流、16Wの電力および3~10hPaのランプ圧力であった。さらに、測定の一部として、プレプラズマを25秒間上流に接続した。この調査の結果を
図4として添付の図に要約した。このことから、溶融Znコーティングでそれぞれ被覆されたサンプルE1およびE2上に本発明に従って生成されたリン酸塩層は、電解コーティングによって保護Zn系コーティングを提供された基準サンプルRと技術的意味で同じ組成を有することが分かる。
【0091】
本発明に従って生成されたリン光体層によって達成されるトライボロジー挙動の改善を評価するために、サンプルE1、E2および基準サンプルR、ならびに2つの比較サンプルC1、C2を、「ピンオンディスク」試験として知られるものに供した。比較サンプルC1は、ZMコーティングを備えた平鋼製品のサンプルであり、そこから、本発明による方法でリン光体層でさらにコーティングされて、サンプルE1も生じた。したがって、比較サンプルC2は、Zコーティングを備えた平鋼製品のサンプルであり、そこから、本発明による方法でリン光体層でさらにコーティングされて、サンプルE2も生じた。サンプルE1、C1、E2、C2、Rの上側および下側の両面を調べた。
【0092】
ピンオンディスク試験の前に、すべてのサンプルE1、C1、E2、C2、Rを市販の油で塗油した。この油は、この目的のために試用され、試験された、Fuchs Schmierstoff GmbHから「ANTICORIT PL 3802-39/S」という名称で提供された油であり、試験されるサンプルE1、C1、E2、C2、Rの表面あたり1.2g/m2のコーティングで塗布された。
【0093】
ピンオンディスク試験では、試験片の円錐形先端部を関連するサンプルの円形ディスク形状切片の表面に垂直力Nで押し付け、試験片に露出した表面に対して垂直かつ法線方向に配向された回転軸を中心に回転させた。試験片とサンプルブランクの表面との間の摩擦力を測定し、摩擦係数を決定された摩擦力および垂直力Nから計算する。ピンオンディスク試験では、円錐直径5mmの試験片を使用した。試験片は、100 Cr6(W3)として知られる鋼材からなり、試験のために60℃に加熱された。試験片の先端を垂直力Nを用いて被検面に対して向け、それは30Nであった。
【0094】
ピンオンディスク試験の結果を表2に要約する。リン酸塩処理層で本発明に従って被覆されたサンプルE1、E2は、比較サンプルC1、C2との比較だけでなく、比較サンプルRとの比較でもより好ましい摩擦係数μを有することが明らかである。
【表2】
【0095】
最後に、本発明に従ってリン酸塩処理されたサンプルE1、E2の適合性を、非リン酸塩処理サンプルC1、C2および基準サンプルRと比較して調べた。
【0096】
接着前に、1.2g/m2のコーティング重量を有するサンプルE1、C1、E2、C2、Rを、Fuchs Schmierstoff GmbHから「ANTICORIT PL 3802-39/S」の名称で入手可能な、この目的のための公知の油で塗油した。
【0097】
試験に使用した接着剤は、「Betamate 120 EU」として知られる市販の構造用接着剤であり、それは自動車車体の製造において広く使用されている。引張剪断試験は、DIN EN 1465に基づいている。調査結果の代表的な関連性を確実にするために、サンプルE1、C1、E2、C2、Rの同様に処理された5つのコピーを調査した。
【0098】
破断挙動は、DIN EN ISO 10365に従って評価する。3つのタイプの破断に分別される。
【0099】
-接着剤に破断が生じる凝集破壊(略して「CF」)、
-酸化物層と接着剤との間の界面で破断が生じる接着破壊(略して「AF」)、
および
-酸化物層と接着剤との間の界面付近で接着剤に破断が生じる基材付近凝集破壊(「SCF」)。
【0100】
凝集破壊「CF」の割合が高いほど、関連するコンポーネントの表面と接着剤との間の界面ではなく、接着剤自体の領域で接着結合が失われなければならないという実用的な要件を満たす接着結合の割合が高くなる。
【0101】
接着挙動の検査の結果を
図5に要約した。初期状態のサンプルについて決定された結果は、語「AFW」で識別されるが、DIN EN ISO 11997-Bに従って10サイクルの気候変化試験を経たサンプルについて決定された結果は、「10VDA」でマークされる。
【0102】
凝集破壊パターンの割合によって測定すると、本発明に従ってリン酸塩処理されたサンプルE1、E2の接着適合性は、リン酸塩処理されていないサンプルC1、C2および基準サンプルと比較して有意に改善されることが分かる。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護亜鉛系金属層と、
保護金属層の表面上に生成されたリン酸塩処理層とを有する平鋼製品を製造するための方法であって、連続プロセスで行われる以下の方法工程:
a)Zn、Zn-Al合金、Zn-Mg合金またはZn-Mg-Al合金から形成された保護金属層が溶融めっきコーティングによって少なくとも片面に塗布される平鋼製品を提供する工程;
b)前記保護金属層の前記表面上に存在する自然酸化物層を、この表面を1~3.5のpHを有する酸性溶液で1~60秒の濡らし期間にわたって濡らすことによって、少なくとも部分的に除去する工程であって、前記酸性溶液について、群「硫酸、亜硫酸、塩酸、リン酸、ホスホン酸、硝酸、ギ酸、シュウ酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、亜硝酸またはフッ化水素酸」からの酸が使用される、工程;
c)場合により、前記酸性溶液で濡れた前記保護金属層の前記表面をすすぎ水溶液ですすぐ工程;
d)活性化水溶液を前記保護金属層の前記表面に塗布することによって、前記保護金属層の前記表面を活性化する工程;
e)前記保護金属層の
活性化表面にリン酸塩処理水溶液を塗布することによって、前記保護金属層の前記活性化表面をリン酸塩処理する工程を少なくとも含む、方法。
【請求項2】
作業工程b)において、前記保護金属層の前記表面を、噴霧、コーティングまたは浸漬法で前記酸性溶液で濡らすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記濡らし期間が最大15秒であることを特徴とする、請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記保護金属層の前記表面が濡らされる前に、前記酸性溶液が20~95℃の濡らし温度に加熱されることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
任意選択の作業工程c)において、完全脱塩水が前記すすぎ水溶液として使用されることを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
工程d)において使用される前記活性化水溶液が、群「二酸化チタン、二酸化チタン水和物、六フッ化チタン酸二カリウム、六フッ化チタン酸、硫酸チタン、二硫酸チタン、硫酸チタニル、硫酸酸化チタン、塩化チタニル、フッ化チタンカリウム、二酸化チタン、二酸化チタン水和物、六フッ化チタン酸二カリウム、六フッ化チタン酸、硫酸チタン、二硫酸チタン、硫酸チタニル、硫酸酸化チタン、塩化チタニル、フッ化チタンカリウム、四塩化チタン、四フッ化チタン、三塩化チタン、水酸化チタン、亜硝酸チタン、硝酸チタン、シュウ酸酸化チタンカリウムまたは炭化チタン」からの少なくとも1つの塩を0.8~25g/l含有することを特徴とする、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
工程e)で使用される前記リン酸塩処理水溶液が、
5~20g/lのリン酸、
1~20g/lのオルトリン酸塩および/またはリン酸二水素塩、
0.5~6g/lの亜鉛塩、
0.5~2g/lのマンガン塩、
0.5~2g/lのニッケル塩、
ならびに微量の水および不可避の不純物を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
作業工程a)の終了と作業工程d)の開始との間に最大で300秒が経過することを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【国際調査報告】