(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-16
(54)【発明の名称】熱処理された冷間圧延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230209BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20230209BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230209BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535558
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(85)【翻訳文提出日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 IB2019060741
(87)【国際公開番号】W WO2021116740
(87)【国際公開日】2021-06-17
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シエベントリット,マチュー
(72)【発明者】
【氏名】デ・クニフ,ドリアン
(72)【発明者】
【氏名】ラムーシュ,ジュリアン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA09
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4K037FK03
4K037FK08
4K037FM04
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
熱処理された冷間圧延鋼板であって、重量パーセントで、以下の元素0.09%≦炭素≦0.15%、1.8%≦マンガン≦2.5%、0.2%≦ケイ素≦0.7%、0.01%≦アルミニウム≦0.1%、0%≦リン≦0.09%、0%≦硫黄≦0.09%、0%≦窒素≦0.09%、を含む組成を有し、0%≦ニオブ≦0.1%、0%≦チタン≦0.1%、0%≦クロム≦1%、0%≦モリブデン≦1%、0%≦バナジウム≦0.1%、0%≦カルシウム≦0.005%、0%≦ホウ素≦0.01%、0%≦セリウム≦0.1%、0%≦マグネシウム≦0.05%、0%≦ジルコニウム≦0.05%を含むことができ、残りの組成は、鉄及び加工によって生じる不可避の不純物から構成され、前記鋼板の微細構造は、面積分率で、65~85%の焼戻しマルテンサイト、0%~5%の残留オーステナイト、並びに15~35%の間のフェライト及びベイナイトの累積存在を含む、熱処理された冷間圧延鋼板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱処理された冷間圧延鋼板であって、重量パーセントで、以下の元素
0.09%≦炭素≦0.15%
1.8%≦マンガン≦2.5%
0.2%≦ケイ素≦0.7%
0.01%≦アルミニウム≦0.1%
0%≦リン≦0.09%
0%≦硫黄≦0.09%
0%≦窒素≦0.09%
を含む組成を有し、
以下の任意選択の元素のうちの1つ以上、
0%≦ニオブ≦0.1%
0%≦チタン≦0.1%
0%≦クロム≦1%
0%≦モリブデン≦1%
0%≦バナジウム≦0.1%
0%≦カルシウム≦0.005%
0%≦ホウ素≦0.01%
0%≦セリウム≦0.1%
0%≦マグネシウム≦0.05%
0%≦ジルコニウム≦0.05%
を含むことができ、残りの組成は、鉄及び加工によって生じる不可避の不純物から構成され、前記鋼板の微細構造は、面積分率で、65~85%の焼戻しマルテンサイト、0%~5%の残留オーステナイト、並びに15~35%の間のフェライト及びベイナイトの累積存在を含む、熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項2】
組成が0.3%~0.7%のケイ素を含む、請求項1に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項3】
組成が0.01%~0.08%のアルミニウムを含む、請求項1又は2に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項4】
組成が1.9%~2.4%のマンガンを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項5】
組成が0.1%~0.13%の炭素を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項6】
ケイ素及びアルミニウムの累積量が0.3%~0.8%である、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項7】
フェライト及びベイナイトの累積量が22%~35%であり、フェライトの割合が鋼の総面積分率の少なくとも15%である、請求項1から6のいずれか一項に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項8】
残留オーステナイトの炭素含有量が0.7%~0.9%である、請求項1から7のいずれか一項に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項9】
焼戻しマルテンサイトが65%~80%である、請求項1から8のいずれか一項に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項10】
ベイナイトが0%~10%である、請求項1から9のいずれか一項に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項11】
前記鋼板が、950MPa以上の極限引張強度及び8%以上の全伸びを有する、請求項1から10のいずれか一項に記載の熱処理された冷間圧延鋼板。
【請求項12】
前記鋼板が、1000MPa以上の極限引張強度及び少なくとも55%を超える穴広げ率を有する、請求項11に記載の冷間圧延されたコーティング付き鋼板。
【請求項13】
熱処理された冷間圧延鋼板の製造方法であって、以下の連続するステップ:
請求項1から6のいずれか一項に記載の鋼組成物を準備するステップ、
前記半仕上げ製品を1000℃~1250℃の温度に再加熱するステップ、
Ac3~Ac3+100℃の温度範囲で前記半仕上げ製品を圧延するステップであって、熱間圧延仕上げ温度がAc3を超えて熱間圧延鋼を得るようにする、圧延するステップ、
熱間圧延鋼を少なくとも30℃/秒の冷却速度で600℃未満の巻取り温度まで冷却し、及び当該熱間圧延鋼を巻き取るステップ、
前記熱間圧延鋼を室温に冷却するステップ、
任意選択的に、前記熱間圧延鋼板に対してスケール除去工程を実施するステップ、
任意選択的に、400℃~750℃の間で熱間圧延鋼板に対して焼鈍を実施するステップ、
任意選択的に、前記熱間圧延鋼板に対してスケール除去工程を実施するステップ、
前記熱間圧延鋼板を35~90%の圧下率で冷間圧延して、冷間圧延鋼板を得るステップ、
前記冷間圧延鋼板を2段階の加熱で焼鈍するステップであって、
・第1のステップは、少なくとも10℃/秒の加熱速度HR1で、鋼板を600℃~650℃の温度HT1まで加熱することから開始し、
・第2のステップは、HT1からAc3とAc3+200℃間の焼鈍温度範囲まで鋼板をさらに加熱することから開始し、加熱速度HR2は1℃/秒以上であり、HR2はHR1よりも低い、焼鈍するステップ、
次いで、5~1000秒の間、焼鈍温度で焼鈍を行うステップ、
次いで、冷間圧延鋼板を3段階で冷却するステップであって、
・第1のステップは、鋼板を焼鈍温度から675℃~725℃の温度CT1まで、10℃/秒以下の冷却速度CR1で冷却することから開始し、
・第2のステップは、CT1から450℃~550℃のCT2まで、30℃/秒以上の冷却速度CR2で鋼板をさらに冷却することから開始し、
・第3のステップは、200℃/秒以上の冷却速度CR2で、CT2からMs-50℃~20℃のCT3まで鋼板をさらに冷却することから開始するステップ、
次いで、前記冷間圧延鋼板を少なくとも10℃/秒の加熱速度で300℃~380℃の焼戻し温度まで加熱し、100秒~1000秒間焼戻しする、ステップ
及び、次いで、室温範囲まで冷却して、熱処理された冷間圧延鋼板を得るステップ
を含む、方法。
【請求項14】
巻取り温度が350℃~600℃である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
温度HT1が600℃~630℃であり、加熱速度HR1が少なくとも15℃/秒である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
焼鈍均熱温度がAc3+10℃~Ac3+150℃である、請求項13から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
焼戻し温度範囲が320℃~360℃である、請求項13から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
車両の構造部品又は安全部品の製造のための、請求項1から12のいずれか一項に記載の鋼板又は請求項13から17の方法に従って製造された鋼板の使用。
【請求項19】
請求項18により得られた部品を含む車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度が950MPa以上であり、穴広げ率が56%を超える高強度高成形性の冷間圧延鋼板であって、車両用の鋼板としての使用に適した冷間圧延鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の部品は、2つの矛盾する要求、すなわち、成形の容易さと強度を満たす必要があるが、近年、地球環境問題の観点から、自動車に対して燃費向上という第3の要求も課されてきている。したがって、現在、自動車部品は、複雑な自動車アセンブリへの適合の容易さの基準に適合するために高い成形性を有する材料で作られなければならず、同時に、車両の重量を低減して燃費を向上させながら、車両の耐衝撃性及び耐久性のための強度を向上させなければならない。
【0003】
そこで、材料の強度を高めることにより、自動車で利用される材料の量を減らすために精力的な研究開発が行われている。逆に、鋼板の強度が高くなると成形性が低下するため、高強度と高成形性を兼ね備えた材料の開発が求められている。
【0004】
高強度及び高成形性鋼板の分野における以前の研究及び開発は、高強度及び高成形性鋼板を製造するためのいくつかの方法をもたらしており、そのうちのいくつかは本発明の明確な理解のために本明細書に列挙されている。
【0005】
JP2012111978は、組成物を有する特許出願であり、Cが0.05~0.3%、Siが0.01~3.0%、Mnが0.5~3%、Alが0.01~0.1%、残部Fe及び不可避の不純物の組成を有し、高強度の冷間圧延鋼板の主成分としてフェライト及び焼戻しマルテンサイトからなる成分組成を有するが、このような鋼は、50%を超える穴広げ率に達することができない。
【0006】
EP2971209は、Cが0.13~0.19%、Mnが1.70~2.50%、Siが0~0.15%、Alが0.40~1.00%、Crが0.05~0.25%、Nbが0.01~0.05%、Pが0~0.10%、Caが0~0.004%、Sが0~0.05%、Nが0~0.007%であり、残部がFe及び不可避の不純物である必須元素組成を有する自動車産業において使用されるように改善された成形性を有する高強度溶融亜鉛めっき複合相鋼帯に関する特許であり、0.40%<Al+Si<1.05%及びMn+Cr>1.90%であり、体積パーセントで、8~12%の残留オーステナイト、20~50%のベイナイト、10%未満のマルテンサイトを含む複合相微細構造を有し、残部がフェライトであるが、付与された特許は900MPaを超える引張強度に達することができない。
【0007】
高強度及び高成形性鋼板の製造に関する既知の従来技術は、一方又は他方のラクナによってもたらされ、したがって、高強度及び高成形性を有する冷間圧延鋼板及びその製造方法が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開第2012-111978号公報
【特許文献2】欧州特許第2971209号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、以下を同時に有する冷間圧延鋼板を利用可能にすることによって、これらの問題を解決することである。
【0010】
-950MPa以上、好ましくは980MPa超、又はさらには1000MPa超の極限引張強度、
-8%以上の全伸び
-56%以上、好ましくは57%以上の穴広げ率。
【0011】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、750MPa以上の降伏強度値を有し得る。
【0012】
好ましくは、このような鋼はまた、良好な溶接性及びコーティング性で、成形、特に圧延に対して、良好な適合性を有することができる。
【0013】
本発明の別の目的はまた、製造パラメータの変更に対して堅牢である一方で、従来の産業用途と互換性のある、これらのシートの製造方法を利用可能にすることである。
【0014】
本発明の他の特徴及び利点は、本発明の以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0015】
炭素は、鋼中に0.09%~0.15%存在する。炭素は、マルテンサイトなどの低温変態相を生成して鋼板の強度を高めるために必要な元素である。含有量が0.09%未満では、十分な量のマルテンサイトを確保できず、それにより強度及び延性が低下する。一方、炭素含有量が0.15%を超えると、溶接部や熱影響部が著しく硬化し、そのため溶接部の機械的特性が低下する。炭素の好ましい限界は、0.1%~0.14%、より好ましくは0.1%~0.13%である。
【0016】
本発明の鋼のマンガン含有量は1.8%~2.5%である。マンガンは、固溶体強化により強度を付与する元素である。鋼板の強度及び焼入れ性を付与するために、少なくとも約1.8%(重量基準)の量のマンガンが見出されている。したがって、1.9%~2.4%などのより高い割合のマンガンが好ましく、より好ましい限界は2.0%~2.3%である。しかし、マンガンが2.5%を超えると、焼鈍後の冷却中にオーステナイトのマルテンサイトへの変態が遅くなり、強度が低下するなどの悪影響が生じる。さらに、2.5%を超えるマンガン含有量はまた、本鋼の溶接性を低下させる。
【0017】
ケイ素は本発明の鋼にとって必須の元素であり、ケイ素は0.2%~0.7%で存在する。本発明の鋼には、固溶強化により強度を付与するためにケイ素が添加される。ケイ素は、炭化物の析出を防止し、マルテンサイトの形成を促進することによって、微細構造の形成に関与する。しかし、ケイ素含有量が0.7%を超えると、鋼の表面特性及び溶接性が低下するため、ケイ素含有量は0.3%~0.7%が好ましく、0.4%~0.6%がより好ましい。
【0018】
本発明のアルミニウム含有量は0.01%~0.1%である。アルミニウムは、本発明の鋼を脱酸素するために添加される。アルミニウムはアルファ生成元素であり、また炭化物の形成を遅らせる。これにより、鋼の成形性及び延性を高めることができる。このような効果を得るためには、アルミニウム含有量が0.01%以上必要である。しかしながら、アルミニウム含有量が0.1%を超えると、Ac3点が上昇して許容範囲を超えるため、工業的にオーステナイト単相を得ることが非常に困難となり、そのため完全なオーステナイト領域での熱間圧延ができなくなる。したがって、アルミニウム含有量は0.1%を超えてはならない。アルミニウムの存在の好ましい限界は、0.01%~0.08%、より好ましくは0.01%~0.05%である。
【0019】
本発明の鋼のリン含有量は0.09%に制限される。リンは、固溶体中で硬化し、また炭化物の形成を妨げる元素である。したがって、少なくとも0.002%の少量のリンが有利であり得るが、リンは、特に粒界で偏析する傾向又はマンガンとの共偏析に起因して、スポット溶接性や熱間延性の低下などの悪影響も伴う。これらの理由から、その含有量は、好ましくは最大0.02%に制限される。
【0020】
硫黄は必須元素ではないが、不純物として鋼に含まれていてもよい。硫黄の含有量は、低いほど好ましいが、製造コストの観点から、0.09%以下であることが好ましく、0.01%以下であることが最も好ましい。さらに、より多量の硫黄が鋼に存在する場合、それは結合して、特にMn及びTiと硫化物を形成し、本発明に対するそれらの有益な影響を低減する。
【0021】
窒素は、材料の経年劣化を回避するために0.09%に制限され、窒素は、バナジウム及びニオブによる析出強化によって本発明の鋼に強度を付与する窒化物を形成するが、窒素の存在が0.09%を超えるときはいつでも、本発明に有害な大量のアルミニウム窒化物を形成することが可能であり、したがって窒素の好ましい上限は0.01%である。
【0022】
ニオブは、鋼に0.1%まで、好ましくは0.001%~0.1%で添加することができる任意選択の元素である。本発明による鋼に析出硬化によって強度を付与するために、炭窒化物を形成するのに適している。ニオブは加熱中に再結晶を遅延させるので、保持温度の終わりに形成され、結果として完全焼鈍後に形成される微細構造はより微細であり、これは製品の硬化をもたらす。しかし、ニオブ含有量が0.1%を超える場合、大量の炭窒化物が鋼の延性を低下させる傾向があるため、この炭窒化物の量は本発明にとって好ましくない。
【0023】
チタンは、本発明の鋼に0.1%まで、好ましくは0.001%~0.1%で添加され得る任意選択の元素である。ニオブは、炭窒化物に関与するため、硬化に役割を果たす。しかし、鋳造品の凝固中に現れるTiNの形成にも関与する。Tiの量は、穴の拡張に有害な、粗いTiNを回避するために、0.1%に制限される。チタン含有量が0.001%未満である場合、本発明の鋼にいかなる影響も与えない。
【0024】
本発明の鋼のクロム含有量は0%~1%である。クロムは、鋼に強度及び硬化を与える任意選択の元素であるが、1%を超えて使用すると、鋼の表面仕上げを損なう。
【0025】
モリブデンは、本発明の鋼の0%~1%を構成する任意選択の元素であり、モリブデンは、本発明の鋼の焼入れ性を高め、焼鈍後の冷却中のオーステナイトのフェライト及びベイナイトへの変態に影響を及ぼす。しかしながら、モリブデンの添加は合金元素の添加コストを過度に増加させるので、経済的理由からその含有量は1%に制限される。
【0026】
バナジウムは、本発明の鋼に0.1%まで、好ましくは0.001%~0.01%で添加され得る任意選択の元素である。ニオブは、炭窒化物に関与するため、硬化に役割を果たす。しかし、鋳造品の凝固中に現れるVNの形成にも関与する。Vの量は、穴の拡張に有害な粗いVNを回避するために、0.1%に制限される。バナジウム含有量が0.001%未満である場合、本発明の鋼にいかなる影響も与えない。
【0027】
カルシウムは、本発明の鋼に0.005%まで、好ましくは0.001%~0.005%で添加され得る任意選択の元素である。本発明の鋼には、特に介在物処理中に、任意要素としてカルシウムが添加される。カルシウムは、球状化する際に有害な硫黄含有量を阻止することによって、鋼の精製に寄与する。
【0028】
セリウム、ホウ素、マグネシウム又はジルコニウムなどの他の元素は、以下の、Ce≦0.1%、B≦0.01%、Mg≦0.05%及びZr≦0.05%という割合で、個別に又は組み合わせて添加することができる。示された最大含有量レベルまで、これらの元素は、凝固中に結晶粒を微細化することを可能にする。本発明は、銅及びニッケルを添加することを意図していないが、これらの元素は、個別に又は累積的に0.1%までの残留物として存在してもよい。
【0029】
鋼の組成の残りは、鉄及び加工から生じる不可避の不純物からなる。
【0030】
本発明による鋼板の微細構造は、面積分率で65%~85%の焼戻しマルテンサイト、0%及び5%の残留オーステナイト、並びに15%~35%のベイナイト及びフェライトの累積量を含む。焼戻しマルテンサイトは、本発明の鋼のマトリックス相を構成する
焼戻しマルテンサイトは、面積分率で微細構造の65%~85%を構成する。焼戻しマルテンサイトは、焼なまし後の第2の冷却ステップ中に形成されるマルテンサイトから形成され、特にMs温度未満、より詳細にはMs-50℃~20℃の間で形成される。次いで、そのようなマルテンサイトは、150℃~400℃の焼戻し温度Temperで保持している間に焼戻しされる。本発明のマルテンサイトは、このような鋼に延性及び強度を付与する。好ましくは、マルテンサイトの含有量は65%~80%、より好ましくは68%~78%である。
【0031】
ベイナイト及びフェライトは、15%~35%で鋼に累積的に存在する。好ましい実施形態では、フェライト及びベイナイトの累積量の範囲は、20%~35%、より好ましくは22%~32%である。
【0032】
フェライト成分は、特にフェライトが柔らかく本質的に延性のある成分であるため、本発明の鋼の特性、伸び及び穴広げ率に関する特性を改善する。このフェライトは、主に焼鈍後の冷却の第1のステップで形成される。好ましい実施形態では、フェライトは、少なくとも15%の量で存在することができる。
【0033】
ベイナイトは、鋼に強度を与えることができるが、多量に存在する場合、鋼の穴広げ率及び伸びに悪影響を及ぼす可能性がある。焼戻し前の再加熱中にベイナイトが形成される。好ましい実施形態では、ベイナイト含有量は、0%~10%、より好ましくは8%未満、さらにより好ましくは5%未満に維持される。
【0034】
残留オーステナイトは、鋼に0%~5%存在し得る任意選択の相であるが、好ましくは存在しない。
【0035】
好ましい実施形態では、本発明による鋼板は、任意の適切な方法によって得ることができる。しかしながら、以下の連続するステップを含む本発明の好ましい実施形態による方法を使用することが好ましい。
【0036】
そのような方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半仕上げ製品をもたらすことを含む。半仕上げ製品は、インゴットに鋳造するか、又は薄いスラブ若しくは薄いストリップの形態で連続的に鋳造することができ、すなわち、例えばスラブの場合は約220mmから薄いストリップの場合は数十ミリメートルの範囲の厚さを有する。
【0037】
本発明の簡略化のため、スラブは半仕上げ製品と考える。上述の化学組成を有するスラブは、連続鋳造によって製造され、スラブは、好ましくは鋳造中に中心偏析の排除及び気孔率の低下を確実にするために直接軟質の還元を受けた。連続鋳造法によって得られるスラブは、連続鋳造後に高温で直接使用することができ、又は最初に室温まで冷却し、次いで熱間圧延のために再加熱することができる。
【0038】
熱間圧延に供されるスラブの温度は、少なくとも1000℃、好ましくは1100℃超であり、1250℃未満でなければならない。スラブの温度が1000℃未満の場合、圧延機に過剰な負荷がかかり、さらに仕上げの圧延中に鋼の温度がフェライト変態温度まで低下することがあり、それにより組織中にフェライトの変態が含まれた状態で、鋼が圧延される。さらに、粗大なフェライト粒子が形成されて粗大なフェライト粒子が生じ、これにより、熱間圧延中にこれらの粒子が再結晶する能力が低下する恐れがあるため温度は1250℃を超えてはならない。初期フェライト粒径が大きいほど、再結晶が起こりにくい。このことは、工業的に高価であり、フェライトの再結晶化の点で好ましくないため、1250℃を超える再熱温度は避けなければならないことを意味する。
【0039】
スラブの温度は、好ましくは、熱間圧延が完全にオーステナイト範囲で完了することができるように十分に高く、仕上げの熱間圧延温度はAc3を超え、好ましくはAc3+50℃より高いままである。この温度未満では鋼板は圧延性の著しい低下を示すので、最終圧延はAc3を超えて行う必要がある。再結晶及び圧延に有利な構造を有するために、最終圧延温度はAc3+50℃を超えることが好ましい。
【0040】
次いで、このようにして得られたシートを、少なくとも30℃/秒の冷却速度で600℃未満の巻取り温度まで冷却する。好ましくは、冷却速度は、65℃/秒以下及び35℃/秒を超えるものである。オーステナイトのフェライト及びパーライトへの変態を回避し、均質なベイナイト及びマルテンサイト微細構造の形成に寄与するために、巻取り温度は少なくとも350℃であることが好ましい。
【0041】
コイル状熱間圧延鋼板は、任意選択の熱間帯鋼焼鈍に供する前に室温まで冷却されてもよく、又は任意選択の熱間帯鋼焼鈍に直接送られてもよい。
【0042】
熱間圧延鋼板は、必要に応じて、熱間圧延中に形成されたスケールを除去するために任意選択の酸洗に供されてもよい。次いで、熱間圧延板は、400℃~750℃の間の温度で、好ましくは1~96時間の間、任意選択のホットバンド焼鈍に供される。
【0043】
その後、必要に応じてこの熱間圧延鋼板を酸洗してスケールを除去してもよい。
【0044】
次いで、熱間圧延鋼板は、35から90%の厚さの減少で、冷間圧延される。次いで、冷間圧延鋼板に焼鈍を施して、目標とする微細構造及び機械的特性を本発明の鋼に付与する。
【0045】
冷間圧延鋼板を焼鈍するために、冷間圧延鋼板は、二段階の加熱工程で加熱され、ステップ1において、冷間圧延鋼板は、少なくとも10℃/秒の加熱速度HR1で600℃~650℃の温度HT1に加熱される。次いで、ステップ2において、冷間圧延板は、HT1からAc3とAc3+200℃との間の焼鈍温度まで、少なくとも1℃/秒の加熱速度HR2で加熱され、好ましくは少なくとも2.0℃/秒のHR1は常にHR2より高い。
【0046】
好ましいHR1は少なくとも15℃/秒であり、好ましい温度HT1の範囲は600℃~630℃である。焼鈍温度の好ましい範囲は、Ac3+10℃~Ac3+150℃、より好ましくはAc3+20℃~Ac3+100℃である。
【0047】
次いで、冷間圧延鋼板は、少なくとも5秒~1000秒の間、焼鈍温度に保持される。温度及び時間は、100%の再結晶を確実にするように、すなわち焼鈍の終わりに100%のオーステナイトのパーセンテージを得るように選択される。
【0048】
次いで、3段階の冷却工程で板を冷却する。ステップ1では、冷間圧延板を、焼鈍温度から675℃~725℃の温度CT1まで、10℃/秒以下の冷却速度CR1で冷却する。次いで、ステップ2において、冷間圧延鋼板は、少なくとも30℃/秒の冷却速度CR2でCT1から450℃~550℃のCT2まで冷却される。次いで、ステップ3において、冷間圧延鋼板は、少なくとも200℃/秒である冷却速度CR3でCT2からMs-50℃~20℃のCT3に冷却される。
【0049】
好ましい実施形態では、冷却速度CR1は、5℃/秒以下であり、CT1は、好ましくは685℃~720℃、より好ましくは685℃~700℃である。CR2の好ましい範囲は少なくとも40℃/秒であり、CT2の好ましい範囲は450℃~525℃、より好ましくは460℃~510℃である。CR3の好ましい範囲は、少なくとも300℃/秒、より好ましくは少なくとも400℃/秒である。CT3の好ましい限界は、Ms-80℃~20℃、より好ましくはMs-100℃~20℃である。
【0050】
次いで、冷間圧延鋼板は、少なくとも10℃/秒、又はより良好には少なくとも20℃/秒の加熱速度で、300℃~380℃の焼戻し温度に保ち、焼戻し温度で少なくとも100秒間保持するが、1000秒以下であり、本発明の鋼に良好な機械的特性を付与する焼戻しマルテンサイトを得るようにする。好ましい焼戻し温度範囲は、320℃~360℃であり、より好ましくは330℃~350℃である。
【0051】
次いで、冷間圧延鋼板を室温まで、好ましくは200℃/秒以下の冷却速度で冷却する。
【0052】
その段階で、1%未満の減少率で任意選択のスキン通過操作を行ってもよいし、任意選択の張力平準化操作を行ってもよい。
【0053】
次いで、熱処理された冷間圧延板は、電着又は真空コーティング又は任意選択の他の適切な工程によって任意選択的にコーティングされてもよい。
【0054】
相間の硬度勾配を低減し、コーティングされた製品の脱気を確実にするために、任意選択的に、コーティングされていない製品の焼鈍後又はコーティングされた製品のコーティング後に、好ましくは170から210℃で12時間から30時間行われる任意選択のバッチ後焼鈍を行うことができる。
【実施例】
【0055】
本明細書に提示される以下の試験及び例は、本質的に非限定的であり、例示のみを目的として考慮されなければならず、本発明の有利な特徴を示し、広範な実験の後に本発明者らによって選択されたパラメータの重要性を説明し、本発明による鋼によって達成され得る特性をさらに確立する。
【0056】
本発明による鋼板及びいくつかの比較グレードの試料を、表1にまとめた組成及び表2にまとめた処理パラメータで調製した。これらの鋼板の対応する微細構造を表3にまとめ、特性を表4にまとめた。
【0057】
表1は、組成を重量パーセントで表した鋼を示す。
【0058】
【0059】
表2は、表1の鋼に対して実施された焼鈍工程パラメータをまとめたものである。
【0060】
表2はまた、試料の鋼のAc3及びマルテンサイト変態Ms温度を示す。Ac3及びMsの計算は、以下の式を使用して行われる。
【0061】
【0062】
【0063】
さらに、サンプルを1000℃~1250℃の温度に加熱し、次いで、仕上げの温度890℃で熱間圧延し、その後、600℃未満の温度で巻き取った。次いで、熱間圧延コイルを特許請求の範囲に記載のように加工し、35~90%の厚さの減少で冷間圧延した。
【0064】
【0065】
【0066】
表3は、本発明の鋼及び参照試験の両方の微細構造組成を判定するための、走査型電子顕微鏡などの異なる顕微鏡で規格に従って行われた試験の結果をまとめたものである。
【0067】
【0068】
表4は、本発明の鋼と参照の鋼の両方の機械的特性をまとめたものである。引張強度、降伏強度及び全伸び試験は、ISO6892規格に従って行われるが、穴広げ性を推定するために、穴広げ性と呼ばれる試験がISO16630:2009の規格に従って適用されている。この試験では、試料に10mm(=Di)の穴を開けて変形させる。変形後、穴径Dfを測定し、下式を用いて穴広げ率(HER)を計算する。
【0069】
HER%=100*(Df-Di)/Di
【0070】
【0071】
実施例は、本発明による鋼板が、それらの特定の組成及び微細構造のおかげですべての目標特性を示す唯一のものであることを示している。
【国際調査報告】