IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヘルムホルツ−ツェントルム ゲーストハハト ツェントルム フュアー マテリアル ウント キュステンフォルシュンク ゲーエムベーハーの特許一覧 ▶ フオルクスワーゲン・アクチエンゲゼルシヤフトの特許一覧 ▶ パンコ ゲーエムベーハーの特許一覧 ▶ シュターフ ゲーエムベーハーの特許一覧

特表2023-506633着霜始動能力を有する金属水素化物水素タンクシステム
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-17
(54)【発明の名称】着霜始動能力を有する金属水素化物水素タンクシステム
(51)【国際特許分類】
   F17C 11/00 20060101AFI20230210BHJP
   H01M 8/065 20160101ALI20230210BHJP
   H01M 8/04701 20160101ALI20230210BHJP
   H01M 8/04746 20160101ALI20230210BHJP
   C01B 3/00 20060101ALI20230210BHJP
【FI】
F17C11/00 C
H01M8/065
H01M8/04701
H01M8/04746
C01B3/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535880
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-06-13
(86)【国際出願番号】 EP2020087051
(87)【国際公開番号】W WO2021130116
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】19219243.3
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599036761
【氏名又は名称】ヘルムホルツ-ツェントルム ヘレオン ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】591037096
【氏名又は名称】フオルクスワーゲン・アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】VOLKSWAGEN AKTIENGESELLSCHAFT
(71)【出願人】
【識別番号】513064586
【氏名又は名称】パンコ ゲーエムベーハー
(71)【出願人】
【識別番号】521019598
【氏名又は名称】シュターフ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100196117
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 利恵
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン イェプセン
(72)【発明者】
【氏名】ヨゼ エム ベロースタ フォン コルベ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス クラッセン
(72)【発明者】
【氏名】マルティン ドルナイム
(72)【発明者】
【氏名】クラウス タウベ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン パスキール
(72)【発明者】
【氏名】アナ カリアス
(72)【発明者】
【氏名】ホルジャー シュターフ
(72)【発明者】
【氏名】ディーター プラツェック
(72)【発明者】
【氏名】イグナシ カベサス マルセ
【テーマコード(参考)】
3E172
4G140
5H127
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB06
3E172BB13
3E172BB17
3E172BC06
3E172BC07
3E172BD03
3E172DA90
3E172EA02
3E172EA12
3E172EA13
3E172EA22
3E172EA23
3E172EB02
3E172EB18
3E172FA01
3E172FA23
3E172FA26
3E172KA19
3E172KA22
3E172KA23
4G140AA16
4G140AA23
4G140AA36
4G140AA43
4G140AA44
5H127AB04
5H127AB05
5H127BA02
5H127BA16
5H127BB02
5H127DC81
(57)【要約】
本発明は、燃料電池などの発熱性水素消費装置のための冷間始動装置、ならびに金属水素化物貯蔵システムを有する発熱性水素消費装置を動作させるための方法に関する。本発明の目的は、直ちに動作可能であって圧力タンクを必要としない効率的な冷間始動装置を有する、燃料電池などの発熱性水素消費装置を提供することである。さらに、冷間始動装置は、無制限の数の始動手順に利用可能である。この目的は、発熱性水素消費装置と、-40℃の温度で少なくとも100kPaの脱離のための平衡圧を有する金属水素化物で満たされたさらに少なくとも1つのスタータタンクと、<0℃の温度で<100kPaの平衡圧を有する少なくとも1つの金属水素化物で満たされた少なくとも1つの動作タンクとを有し、スタータタンクは動作タンクに組み込まれる、燃料電池などの発熱性水素消費装置の動作のための装置によって達成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池などの発熱性水素消費装置を動作させるための装置であって、前記装置は、前記発熱性水素消費装置、少なくとも1つのスタータタンク、および少なくとも1つの動作タンクを備え、前記少なくとも1つのスタータタンクは、前記動作タンクに組み込まれた第1の金属水素化物で充填された水素に対して圧力を保持する程度に気密性がある容器からなり、前記第1の金属水素化物は、-40℃の温度で少なくとも100kPaの水素の脱離のための平衡圧を有し、前記少なくとも1つの動作タンクは、第2の金属水素化物で充填された水素に対して圧力を保持する程度に気密性がある容器からなり、前記第2の金属水素化物は、65kJ/mol未満のHの水素吸収反応の反応エンタルピーの絶対値(|ΔHabs|)を有し、-40℃の温度で100kPa未満の水素の脱離のための平衡圧を有する、装置。
【請求項2】
前記発熱性水素消費装置は、燃料電池、好ましくはPEM燃料電池である、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記スタータタンクは、前記動作タンクによって完全に収容される、請求項1または請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記スタータタンクは、-40℃の温度で少なくとも300kPaの脱離のための平衡圧を有する金属水素化物を備えることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
前記スタータタンクは、-40℃の温度で少なくとも1000kPaの脱離のための平衡圧を有する金属水素化物を備えることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記スタータタンクは、-40℃の温度で少なくとも1300kPaの脱離のための平衡圧を有する金属水素化物を備えることを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
前記スタータタンクの前記金属水素化物は、チタン-クロム-マンガン系合金である、請求項1から6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記動作タンクの前記第2の金属水素化物は、20kJ/molのHと65kJ/mol未満のHとの間の前記水素吸収反応の前記反応エンタルピーの絶対値(|ΔHabs|)を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記スタータタンクの冷却は、ペルチェ素子によって、または圧縮機ベースの冷却によって実行される、請求項1から7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
燃料電池などの発熱性水素消費装置を動作させるための方法であって、前記発熱性水素消費装置は、最初に少なくとも1つのスタータタンクからの水素が供給され、-40℃の温度で少なくとも100kPaの脱離のための平衡圧を有する第1の金属水素化物を備え、動作温度に到達した後、前記燃料電池は、65kJ/mol未満のHの水素吸収反応の反応エンタルピーの絶対値(|ΔHabs|)を有し、-40℃の温度で100kPa未満の水素の脱離のための平衡圧を有する少なくとも1つの第2の金属水素化物を備える少なくとも1つの動作タンクからの水素が供給され、前記スタータタンクは、第2の動作タンクから前記発熱性水素消費装置への供給が開始したときに冷却され、前記スタータタンクは、前記動作タンクからの水素で再充填され、前記スタータタンクは、前記動作タンクに組み込まれ、水素に対して圧力を保持する程度に気密性がある壁によってそこから分離され、その結果、前記第1の金属水素化物は、前記スタータタンクが前記動作タンクからの水素で充填されるとすぐに環境熱から絶縁される、方法。
【請求項11】
前記発熱性水素消費装置は、燃料電池、好ましくはPEM燃料電池である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記スタータタンクは、-40℃の温度で少なくとも300kPaの脱離のための平衡圧を有する金属水素化物を備えることを特徴とする、請求項10または請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記スタータタンクの前記金属水素化物は、チタン-クロム-マンガン系合金である、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
第1の金属水素化物貯蔵システムの冷却は、ペルチェ素子によって、または圧縮機ベースの冷却によって実行される、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記動作タンクによって前記燃料電池に供給するとき、前記発熱性水素消費装置からの排熱は、前記動作タンクを脱離温度に維持するために使用される、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着霜始動(frost-start)能力を有する金属水素化物水素タンクシステム、たとえば燃料電池などの発熱性水素消費装置用の水素タンクシステム、ならびにこのタイプの発熱性水素消費装置を動作させるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水の電気分解では、水分子は、電流によって水素(H)と酸素(O)に分離する。燃料電池では、このプロセスが逆方向に行われる。水を形成するための水素(H)と酸素(O)との電気化学的結合により、放出されたエネルギーは、高効率で電流に変換される。
【0003】
燃料電池の原理の技術的実施は、実際には様々な電解質および10℃から1000℃の間の動作温度を有する様々な解決策をもたらした。燃料電池は、その動作温度に応じて低温、中温、および高温燃料電池に分けられる(たとえば、特許文献1参照)。低温燃料電池は、60℃から120℃の比較的中程度の動作温度で動作し、中程度の温度のため、これらは自動車の動作などのモバイル用途に特に適している。自動車では、低温PEMタイプの燃料電池が好ましく使用され、60℃から90℃の温度で動作する。
【0004】
燃料として必要とされる水素は、動作温度範囲全体にわたって水素を提供するために使用することができるので、通常は圧力タンクから供給される。しかしながら、これらの圧力タンクは比較的かさばるため、自動車を運転する場合などのモバイル用途の範囲は、利用可能な貯蔵空間が限られているために制限される。同じ容量ではるかに少ない空間を必要とする、金属水素化物に基づく水素貯蔵部、いわゆる金属水素化物貯蔵システムが知られている。しかしながら、原則として、水素を脱離させるためには、金属水素化物貯蔵部に熱を供給しなければならず、水素を吸収するためには、熱を放散しなければならない。金属水素化物に応じて、水素脱離には-30℃から400℃の温度が必要とされる。しかしながら、一般に、10MPa未満の水素圧力が必要とされ、これは燃料電池の動作に十分であり、水素圧力タンクと比較して、これらのタンクの構造を実質的に簡略化する。
【0005】
水素貯蔵に使用される金属水素化物はまた、脱離温度に応じて異なるカテゴリに分類される。昨今の金属水素化物およびその特性の概要は、非特許文献1に見出すことができ、これは参照により本明細書に組み込まれる。水素は、以下の式にしたがって、金属格子中に貯蔵(吸収)されるか、または水素化物から放出(脱離)される。
金属+水素⇔金属水素化物+熱
金属中の水素の圧力、温度、および濃度の関係は、濃度-圧力等温線(CPI)としてプロットされる。特定の温度では、水素は金属格子中に溶解し、これによって圧力を上昇させる。このプロセスは、飽和濃度に到達するまで(α相)、シーベルトの法則に従う。この後、濃度は圧力を増加させることなく金属中で増加し、水素化物相(β相)が形成される。このプラトー領域は、ファントホッフの法則ならびにギブズの相律の両方に従う。プラトーの終わりに、圧力は、再び二次的に増加し、水素はシーベルトの法則にしたがって水素化物相中に溶解する。異なる水素化物を比較するために、プラトーの中央の平衡値からファントホッフ図を構築することが標準的な慣行となっている。線の勾配は、温度とは無関係の水素吸収反応の反応エンタルピー(ΔHabs)を与える。
【0006】
中温水素化物の場合、脱離は、10kPaの常圧で100℃から200℃の間で開始する。中温水素化物は、30kJ/molのHと65kJ/molのHとの間の水素吸収反応の反応エンタルピー(|ΔHabs|)の絶対値によって定義される。概して、これらは、下地金属に基づいておよそ2.5重量%から5重量%の水素の貯蔵密度を有する。中温水素化物は、特に、NaAlHなどのアラネートおよび最大4.5重量%のH取り込み容量を有するLiNHなどのアミドを含む。ナトリウムアラネートの最適な水素取り込み温度は、たとえばおよそ125℃であり、水素送達温度は160℃から185℃である。比較的高い水素貯蔵容量および比較的低い動作温度のため、中温水素化物は、モバイル用途の興味深い候補である。90℃から110℃の水素吸収温度を有する中温水素化物は、特許文献2に記載されている。
【0007】
高温水素化物の場合、脱離は、200℃超で10kPaの常圧で開始する。これらは、65kJ/molを超えるHの水素吸収反応の反応エンタルピーの絶対値|ΔHabs|によって定義される。概して、これらは、下地金属に基づいておよそ7重量%から15重量%の水素に対してさらに高い貯蔵密度を有する。これらは軽金属(マグネシウム、アルミニウム)および/または非金属(窒素、ホウ素)から製造されることが多いので、これらは、その高い容量のために燃料電池およびH内燃機関での使用に適している可能性があるが、高温は、燃料電池での貯蔵として使用するには障害となる。したがって、高温水素化物は、燃料電池およびH内燃機関では現在使用されていない。
【0008】
2重量%未満の水素の重量に対する比較的低い貯蔵容量のため、-40℃から100℃未満の10kPaの常圧での脱離温度を有する低温水素化物は、モバイル用途の特殊なケース、具体的にはプロトタイプフォークリフトトラックおよび自転車に使用されるのみであり、このために低貯蔵容量に対応できる。これらは、30kJ/mol未満のHの水素吸収反応の反応エンタルピーの絶対値|ΔHabs|によって定義される。
【0009】
金属水素化物貯蔵システムの一般的な使用には、その排出のために金属水素化物貯蔵システムを加熱する外部加熱システムが必要である。概して、金属水素化物貯蔵システムを加熱するために必要とされるエネルギーは、今日まで燃料電池または別の熱源によって供給されてきた。しかしながら、金属水素化物貯蔵システムの排出に必要なエネルギーの除去は、燃料電池の始動中、ならびに金属水素化物貯蔵システムを暖めるのに十分な熱をまだ提供できないその動作の最初の数分間には不可能である。さらに、当該技術分野で知られている燃料電池は、特定の始動温度を超える外部使用のための電流しか生成できない。冷間始動または急速始動の場合には、燃料電池は最初に、始動温度よりも高い温度まで加熱されなければならない。燃料電池の熱質量が大きいため、特に従来の燃焼機関の場合に、冷間始動が同様に短い期間で実行されなければならないとき、これにはかなりの量の熱が必要とされる。
【0010】
特許文献3は、体積貯蔵密度およびこれによる水素の全体的な貯蔵容積を増加させるために、市販の水素貯蔵合金ならびに高水素密度および低水素送達温度を有する水素貯蔵材料の両方が使用される、燃料電池車両用の水素貯蔵システムを開示している。水素貯蔵材料は、金属フィルタによって分離された外側および内側チャンバ内に存在する。金属フィルタを使用する理由は、水素が外側および内側チャンバを通過することを可能にするため、および金属粉末が通過するのを防止するためである。金属水素化物貯蔵システムのこの使用にも、排出するまで金属水素化物貯蔵システムを加熱する外部加熱システムが使用される。
【0011】
特許文献4は、水素貯蔵システムとしての水素圧力タンクおよび金属水素化物加熱装置を備える冷間始動装置を有するモバイル使用向けの燃料電池を開示している。加圧ガスタンクからの水素は、脱離金属水素化物貯蔵システムの上を通過する。これは、対応する金属水素化物を形成しながら加熱され、このようにして燃料電池の容量が改善される。しかしながら、特許文献4から知られる冷間始動装置の場合、圧力貯蔵システムは、冷間および急速始動のたびに徐々に排出され、自動的に再充填されないので、冷間始動手順および急速始動手順の数は、圧力貯蔵システムのサイズによって制限される。この点で、このシステムは、この装置がなくても冷間および急速始動が可能な圧力タンクベースの貯蔵システムの改善された機能のみを提供する。
【0012】
非特許文献2は、タンク内の錯体水素化物(CxH)および室温水素化物(MeH)の組み合わせを開示しており、冷間始動特性を改善するために、錯体水素化物の高充填容量および室温水素化物の高反応速度を利用する。冷間始動の場合、室温水素化物は水素で充填され、熱反応によって加熱される。これにより、錯体水素化物も加熱され、これはその後、ゆっくりと動作温度に戻り、水素を送達し、したがって燃料電池に水素を供給する。室温水素化物と錯体水素化物とのこの反応カスケードおよび錯体水素化物のゆっくりとした加熱のため、システムは比較的緩慢である。さらに、この刊行物は、室温水素化物がどのように充填されるかを記載していない。
【0013】
非特許文献3は、発熱金属水素化物としてのLaNi4.85Al0.15および0℃未満の水素化物送達金属水素化物としてのHYDRALLOY C5(登録商標)(Ti0.95Zr0.05Mn1.460.45Fe0.09)から生成された閉鎖システムを充填および排出することを考察している。
【0014】
前述のシステムの全ては、燃料電池が、動作し始める前に別の供給源によって加熱される金属水素化物によって供給されるという事実に基づいている。燃料電池は、金属水素化物を加熱した後にのみ動作することができる。本発明の目的は、直ちに動作可能であって、たとえば旅客車両などで利用可能な限られた空間のために不利な圧力タンクまたは外部水素源を必要としない、燃料電池などの発熱性水素消費装置のための効率的な冷間始動装置を提供することである。さらに、冷間始動装置は、無制限の数の始動手順に利用可能でなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】独国特許出願公開第19836352号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/135961号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102008002624号明細書
【特許文献4】独国特許発明第10317123号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】B.Sakintuna等、「Metal hydride materials for solid hydrogen storage:A review」,International Journal of Hydrogen Energy,Vol.32(2007),1121-1140
【非特許文献2】I.Burger等、「Advanced reactor concept for complex hydrides:Hydrogen absorption from room temperature」,International Journal of Hydrogen Energy,Vol.39(2014),7030-7041ページ
【非特許文献3】M.Kolbig等、「Characterization of metal hydrides for thermal applications in vehicles below 0℃」,International Journal of Hydrogen Energy,Vol.44(2019),4878-4888ページ
【発明の概要】
【0017】
本発明によれば、この目的は、請求項1において定義された特徴を有する燃料電池などの発熱性水素消費装置を動作させる方法によって達成される。本発明の好適な実施形態は、従属請求項において定義される。
【発明を実施するための形態】
【0018】
第1の実施形態において、本発明は、燃料電池などの発熱性水素消費装置を動作させるための装置であって、装置は、発熱性水素消費装置、少なくとも1つのスタータタンク、および少なくとも1つの動作タンクを備え、少なくとも1つのスタータタンクは、動作タンクに組み込まれた第1の金属水素化物で充填された水素に対して圧力を保持する程度に気密性がある容器からなり、第1の金属水素化物は、-40℃の温度で少なくとも100kPaの水素の脱離のための平衡圧を有し、少なくとも1つの動作タンクは、第2の金属水素化物で充填された水素に対して圧力を保持する程度に気密性がある容器からなり、第2の金属水素化物は、65kJ/mol未満のH、好ましくは20kJ/molのHと65kJ/mol未満のHとの間の水素吸収反応の反応エンタルピーの絶対値(|ΔHabs|)を有し、-40℃の温度で100kPa未満の水素の脱離のための平衡圧を有する、装置に関する。この点に関して金属水素化物の既知の一般的に低い熱伝導率は、高温または低温水素化物を含む圧力容器を別々の温度レベルに保つことができるように、容器間の伝熱を最小限に抑えるために、本発明において利用される。加えて、スタータタンクは動作タンクに組み込まれるので、モバイル用途に利用可能な空間は、最大限に使用される。
【0019】
アプローチを簡略化するために、水素吸収反応の反応エンタルピーは、反応エンタルピーのその絶対値(|ΔHabs|)に対するものである。水素吸収反応の反応エンタルピー(ΔHabs)は、通常は負であり、このため絶対値には符号が付されない。したがって、65kJ/mol未満のHの水素吸収反応の反応エンタルピーの量(|ΔHabs|)は、0から65までの有理数によって表される全ての反応エンタルピーを含む。
【0020】
好ましくは、発熱性水素消費装置は、電解質が間に設けられた少なくとも1つのカソードおよび少なくとも1つのアノードを備える燃料電池である。最も好ましくは、発熱性水素消費装置はPEM燃料電池、たとえば低温PEM燃料電池である。
【0021】
好ましくは、スタータタンクは、球形または円筒形の構成である。本発明の一実施形態では、スタータタンクの金属水素化物は、チタン-クロム-マンガン系合金である。さらに、動作タンクは、好ましくはより多くのモジュールのうちの2つに分割される。冷間始動特性を有する第1の金属水素化物で満たされたスタータタンクの1つ以上のモジュールは、これらのモジュールのうちの1つ以上に組み込まれる。50バール(5MPa)未満のその好適な最大動作圧力で、動作タンクは、利用可能な空間の事実上完全な利用に必要とされるほとんどいずれの形状も有することができるので、空間がたとえば矩形であったとしても、ほとんど空き空間がない。したがって、このようにして体積効率を最大化することができる。
【0022】
本発明の第2の実施形態は、燃料電池などの発熱性水素消費装置を動作させるための方法であって、発熱性水素消費装置は、最初に少なくとも1つのスタータタンクからの水素が供給され、-40℃の温度で少なくとも100kPaの脱離のための平衡圧を有する第1の金属水素化物を備え、動作温度に到達した後、燃料電池は、65kJ/mol未満のHの水素吸収反応の反応エンタルピーの絶対値(|ΔHabs|)を有し、-40℃の温度で100kPa未満の水素の脱離のための平衡圧を有する少なくとも1つの第2の金属水素化物を備える少なくとも1つの動作タンクからの水素が供給され、スタータタンクは、第2の動作タンクから発熱性水素消費装置への供給が開始したときに冷却され、スタータタンクは、動作タンクからの水素で再充填され、スタータタンクは、動作タンクに組み込まれ、水素に対して圧力を保持する程度に気密性がある壁によってそこから分離され、その結果、第1の金属水素化物は、スタータタンクが動作タンクからの水素で充填されるとすぐに環境熱から絶縁される、方法に関する。スタータタンクが完全に再充填されるとすぐに、その冷却を停止することができる。
【0023】
水素に対して圧力を保持する程度に気密性があるスタータタンクと動作タンクとの間の壁は、冷間始動条件下で、第1の金属水素化物が、水素圧力を第2の金属水素化物に送達することなく冷間始動のために発熱性水素消費装置に供給され得る少なくとも100kPaの水素圧力を蓄積できるように、提供される。明らかに、動作タンクの外壁は、水素が環境中に逃げるのを防ぐために圧力を保持する程度に気密性がある。典型的に、スタータタンクおよび/または動作タンクの容器は鋼から製造される。スタータタンクおよび/または動作タンクとして使用され得る、水素に対して圧力を保持する程度に気密性があり、典型的に鋼から製造されるこのタイプの容器は、参照により本明細書に組み込まれる独国特許出願公開第3502311号明細書に記載されている。
【0024】
前述のように、発熱性水素消費装置、たとえばPEM燃料電池、たとえば低温PEM燃料電池などの燃料電池は、最初にスタータタンクから水素が供給され、スタータタンクは好ましくは、-40℃の温度で少なくとも300kPa、より好ましくは少なくとも1000kPa、特に少なくとも1300kPaの脱離のための平衡圧を有する少なくとも1つの金属水素化物を備え、これは再循環モードで動作する燃料電池にとって特に有利である。
【0025】
本発明に係る方法では、冷間始動条件下で、燃料電池などの発熱性水素消費装置は、水素消費装置、たとえば燃料電池が始動して動作温度まで加熱できるように、スタータタンクから十分な水素が供給される。次いで発熱性水素消費装置からの排熱は、主水素貯蔵システムとしての動作タンクをその動作温度まで加熱することもでき、水素消費装置の供給を引き継ぐことができる。動作タンクによって水素消費装置に供給するとき、スタータタンクはその後、動作タンクからの水素で再充填される。この点に関して、スタータタンクを動作タンクから熱的に切り離す必要がある。この点で、本発明は、金属水素化物が低い熱伝導率を有し、絶縁体として機能することができるという事実を利用する。
【0026】
発熱性水素消費装置の動作中にスタータタンクを再充填するために、以前から知られている解決策とは対照的に、記載される方法は、たとえば燃料電池を動作させるための装置の簡略化された構造に加えて、スタータタンクの容積によって制限されず、したがって本発明の利点である、実質的により多くの冷間始動手順を実行することを可能にする。加えて、本発明に係る解決策は、それ自体の冷間始動特性を有する必要なしに、主水素貯蔵システムのための非常に安価な貯蔵解決策を提供する。したがって、動作タンクでは、より高い効率の金属水素化物および/またはより安価な金属水素化物を使用することができる。本発明に係る装置および本発明に係る方法では、たとえば、特に低温での、たとえば自動車用途向けの、燃料電池の動作のための水素の迅速な供給が保証される。これは圧力タンクの場合も同様であるが、ただし動作圧力が低いため、より高い体積密度および動作タンクのほぼ任意の形状を選択する能力を有する。
【0027】
本発明のさらなる実施形態によれば、スタータタンクは、動作タンクの充填温度および動作温度で水素化物の最大平衡圧までの水素圧力に耐えることができる、その中に含まれる金属水素化物のためのシェルを有する。スタータタンクのシェルには、二相ステンレス鋼が好ましい。動作タンクの動作温度での平衡圧、および結果的にシステム内の最大可能な温度が低いほど、スタータタンクのシェルを薄く軽くすることができる。
【0028】
本発明のさらに別の実施形態によれば、燃料電池を動作させるための装置は、動作タンクが水素消費装置への供給を引き継ぐとすぐに充填されているときにスタータタンクを冷却する冷却システムを備える。ペルチェ素子は、非常にコンパクトであり、熱伝導性によって、または内部冷却チャネルを介してタンクシステムを冷却するために熱交換器と結合することによってシェルの直接冷却を可能にするので、ここでは有利である。逆モードでは、これらは加熱素子として機能することもできる。代替として、従来の圧縮機ベースの冷却が採用されてもよい。
【0029】
好ましくは、スタータタンクの金属水素化物は、-40℃または同様に低い温度などの着霜始動条件下で水素が脱離されるように選択される。より高い脱離温度を有する金属水素化物が選択された場合には、必要であれば、たとえば極端な低温で、水素脱離が依然として可能なように、たとえば加熱素子として機能するペルチェ素子によって、従来の別個の加熱システムによって、または発熱性水素消費装置のための冷却媒体によって、環境からの熱伝達が提供されてもよい。
【0030】
システムが既にこの熱を送達できるときに追加の熱が必要とされないように、発熱性水素消費装置のための低供給圧力および動作中の高充填圧力によって伝熱が引き出されることは、有利である。
【0031】
スタータタンクによって可能にされた発熱性水素消費装置の動作の後にその通常動作温度に到達すると(低温PEM燃料電池の場合、およそ60℃から80℃)、動作タンク、ならびに車両内暖房などの車両内に存在する任意の他の消費装置は、燃料電池からの排熱から熱エネルギーを供給されることが可能である。通常の電力場合、発熱性水素消費装置からの電力のさらなる部分(たとえば5%未満)は、その冷却システムによってスタータタンクを冷却するために、動作状態に到達した後に使用される。
【0032】
動作タンクの構造は、好ましくは、必ずしも発熱性水素消費装置のものと同じではない、それ自体の動作温度で、冷間スタータタンクの平衡圧よりも高い水素圧力を生成するようになっている。このようにして、スタータタンクは動作タンクから再充填されることが可能である。
【0033】
スタータタンクを再充填すると生成される熱は、好ましくは、その平衡圧を動作タンクのものよりも低く保ち、スタータタンクの再充填を可能にするために、放散される。スタータタンクが完全に充填されるとすぐに、冷却を停止することができる。
【国際調査報告】