(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-17
(54)【発明の名称】シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/132 20060101AFI20230210BHJP
C07C 35/08 20060101ALI20230210BHJP
C07C 45/53 20060101ALI20230210BHJP
C07C 49/403 20060101ALI20230210BHJP
C07C 51/245 20060101ALI20230210BHJP
C07C 55/14 20060101ALI20230210BHJP
C07C 51/00 20060101ALI20230210BHJP
C07C 59/105 20060101ALI20230210BHJP
C07D 223/10 20060101ALI20230210BHJP
B01J 25/02 20060101ALI20230210BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230210BHJP
B01J 23/86 20060101ALN20230210BHJP
【FI】
C07C29/132
C07C35/08
C07C45/53
C07C49/403 A
C07C51/245
C07C55/14
C07C51/00
C07C59/105
C07D223/10
B01J25/02 Z
C07B61/00 300
B01J23/86 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537793
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2020086718
(87)【国際公開番号】W WO2021122955
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521037411
【氏名又は名称】ベーアーエスエフ・エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100133086
【氏名又は名称】堀江 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163522
【氏名又は名称】黒田 晋平
(72)【発明者】
【氏名】マキシム・ユシェド
(72)【発明者】
【氏名】ティ・トゥー・フォン・ファン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169BB03A
4G169BB03B
4G169BC58B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CB02
4G169CB07
4G169CB70
4G169CB72
4G169CB74
4G169DA02
4G169DA05
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC44
4H006AC46
4H006BA21
4H006BE20
4H006BN10
4H006BS10
4H006FC22
4H006FE12
4H039CA60
4H039CA62
4H039CA65
4H039CB40
(57)【要約】
シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む混合物を調製する方法であって、ラネーニッケル触媒の存在下、シクロヘキサン中でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加してシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程を含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラネーニッケル触媒の存在下、シクロヘキサン中でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程を含む、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む混合物を調製する方法であって、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b) ラネーニッケル触媒の存在下でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程と、
を含み、
工程b)に先立って、工程a)で得られた反応混合物を水で抽出して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及び未変換シクロヘキサンを含む有機相と、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を含む水性相とを得ることにより、工程b)が前記有機相中で行われる、方法。
【請求項2】
6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸が、ラネーニッケル触媒の存在下で水素添加されて、6-ヒドロキシカプロン酸が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸が、ラネーニッケル触媒の存在下、水性相中で水素添加されて、6-ヒドロキシカプロン酸が得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
アジピン酸を調製する方法であって、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b) ラネーニッケル触媒の存在下でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程と、
c) シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを硝酸で酸化してアジピン酸を得る工程と、
を含み、
工程b)に先立って、工程a)で得られた反応混合物を水で抽出して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及び未変換シクロヘキサンを含む有機相と、6-ヒドロキシ-ペルオキシカプロン酸を含む水性相とを得ることにより、工程b)が前記有機相中で行われる、方法。
【請求項5】
6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸が、ラネーニッケル触媒の存在下で水素添加されて、6-ヒドロキシカプロン酸が得られる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸が、ラネーニッケル触媒の存在下、水性相中で水素添加されて、6-ヒドロキシカプロン酸が得られる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
6-ヒドロキシカプロン酸を調製する方法であって、ラネーニッケル触媒の存在下で6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を水素添加する工程を含む、方法。
【請求項8】
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b1) ラネーニッケル触媒の存在下で6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を水素添加して、6-ヒドロキシカプロン酸を得る工程と、
を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程b1)が、工程a)で得られた反応混合物中で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程b1)に先立って、工程a)で得られた反応混合物を水で抽出して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサン、シクロヘキサノン及び未変換シクロヘキサンを含む有機相と、6-ヒドロキシペルオキシ-カプロン酸を含む水性相とを得ることにより、工程b)が水性相中で行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
イプシロン-カプロラクタムを調製する方法であって、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b) ラネーニッケル触媒の存在下でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程と、
c) 場合によりシクロヘキサノール及びシクロヘキサンを蒸留により精製する工程と、
d) 場合によりシクロヘキサノールからシクロヘキサノンを分離する工程と、
e) シクロヘキサノールをシクロヘキサノンに脱水素する工程と、
f) シクロヘキサノンをイプシロン-カプロラクタムに変換する工程と、
を含み、
工程b)に先立って、工程a)で得られた反応混合物を水で抽出して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及び未変換シクロヘキサンを含む有機相と、6-ヒドロキシ-ペルオキシカプロン酸を含む水性相とを得ることにより、工程b)が有機相中で行われる、方法。
【請求項12】
イプシロン-カプロラクタムを調製するための請求項11に記載の方法であって、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b) ラネーニッケル触媒の存在下でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程と、
c) 場合によりシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを蒸留により精製する工程と、
d) 場合によりシクロヘキサノールからシクロヘキサノンを分離する工程と、
e) シクロヘキサノールをシクロヘキサノンに脱水素する工程と、
f1) シクロヘキサノンをヒドロキシルアミン又はその塩と反応させてシクロヘキサノンオキシムを得る工程と、
f2) シクロヘキサノンオキシムを反応させてイプシロン-カプロラクタムを得る工程と、を含み、
工程b)に先立って、工程a)で得られた反応混合物を水で抽出して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及び未変換シクロヘキサンを含む有機相と、6-ヒドロキシ-ペルオキシカプロン酸を含む水性相とを得ることにより、工程b)が有機相中で行われる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む混合物を調製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロヘキサンを酸化してシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む生成物混合物にするために、いくつかの異なる方法が使用されてきた。このような生成物混合物は、KAオイル(ケトン/アルコールオイル)混合物と一般に呼ばれる。KAオイルの大多数は、ナイロン6,6及びナイロン6の前駆体の製造で消費される。KAオイル混合物は、容易に酸化されてアジピン酸を生成することができ、これは、特定の縮合ポリマー、特にポリアミド、特にナイロン6,6を調製する方法における重要な反応物質である。これら及び他の方法で大量のアジピン酸が消費されることを考えると、アジピン酸及びその前駆体を製造するための費用効果の高い方法が必要である。更に、KAオイルからのシクロヘキサノールを脱水素してシクロヘキサノンを得ることができ、KAオイルからのシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールの脱水素物を、好ましくはヒドロキシルアミンと反応させて、シクロヘキサノンオキシムを介して、イプシロン-カプロラクタムを得ることができる。
【0003】
シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む混合物を生成する古典的な方法は、シクロヘキサンの酸化によってKAオイルを得るための2つの工程で行われる。まず、シクロヘキサンの熱自動酸化により、シクロヘキシルヒドロペルオキシド(CyOOH)を形成させ、これを単離(isolate)する。第2の工程は、KAオイルを、クロムイオン又はコバルトイオンを均一系触媒として使用することによって触媒される、CyOOHの分解によって得る。
世界中で制限規制がされているため、クロムやコバルト触媒等の環境に優しくない触媒の置き換えの要求がますます緊急になっている。現行の均一系触媒を無毒の不均一系触媒に置き換えることができれば、この方法の環境フットプリント及び経済性を著しく改善することができる。
【0004】
様々なタイプの均一系触媒が、ヒドロペルオキシドによりシクロヘキサンを酸化してKAオイルを製造する触媒として使用されてきた。不均一系触媒プロセスは、分離が容易であるという利点があり、ヒドロペルオキシドによるシクロヘキサンの酸化を触媒することが報告されている。多くの不均一系触媒は、ゼオライト様の担体に遷移金属や貴金属を組み込み、若しくは取付けたもの、又は酸化物担体に遷移金属を堆積させたものである。
【0005】
GB964,869は、遊離酸素による液体シクロヘキサンのシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンへの酸化のための方法を開示し、この方法では、酸化の過程で、反応混合物は還元を受け、それによってシクロヘキサノン及びシクロヘキシルヒドロペルオキシドがシクロヘキサノールに変換される。その還元は、触媒的水素添加又は化学的(非触媒的)還元剤によって実施することができる。水素添加触媒としては、ニッケル、銅、白金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムをベースにした触媒が挙げられている。触媒は、好ましくは、固定床に配置された固体担体上に堆積されており、その上に、水素添加されることとなる材料が、水素に対して向流で滴り落ちる。化学還元剤としては、形成された酸と接触すると、発生期水素を放出する金属、又は水素化ホウ素アルカリ若しくは水素化アルミニウムリチウム等の水素化物を使用することができる。
【0006】
米国特許第3,479,394号は、シクロヘキサンを空気酸化し、比較的低い割合のヒドロペルオキシドが形成されたときに酸化を停止し、その後、ヒドロペルオキシドをシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンに変換することによる、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの調製方法を開示している。この変換は、触媒、例えば白金又はラネーニッケルの存在下での水素による化学的還元、或いは金属がその最も低い価数の状態、例えば硫酸第一鉄、にある金属の塩による化学的還元のいずれによって達成され得る。
【0007】
Gerd Dahlhoffらの、「ε-Caprolactam: new by-product free synthesis routes」、Catalysis Reviews: Science and Engineering、43巻、4号、381~441頁には、シクロヘキサノンオキシムを経由して、シクロヘキサノンからε-カプロラクタムを製造することができることを開示している。
【0008】
米国特許第3,772,375A号は、液相中の分子状酸素によるシクロヘキサンの酸化生成物の水性洗浄物から単離された6-ヒドロキシペルオキシヘキサン酸の水素添加を開示している。6-ヒドロキシペルオキシヘキサン酸は、それ自体で、あるいは水性相に含まれる塩として、本質的に金属パラジウム、ロジウム又は白金からなる触媒の存在下で水素添加を受ける。
【0009】
米国特許第3,937,735号は、シクロヘキサノンの調製方法であって、液相中のシクロヘキサンを酸素又は酸素含有ガスで酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシドを含む酸化反応生成物を生成する工程と、パラジウム、白金、ニッケル又はロジウムを含む触媒の存在下、水素添加域で、この酸化生成物を水素ガス含有流れで触媒的に水素添加し、これにより、シクロヘキシルヒドロペルオキシドを実質的にシクロヘキサノールに変換する工程と、蒸留によってシクロヘキサノール画分を回収し、シクロヘキサノールを触媒的に脱水素してシクロヘキサノン及び水素にする工程と、前記シクロヘキサノンを分離する工程と、結果として生じる水素ガス含有流れを、前記水素添加域を通過させて酸化生成物の前記水素添加を達成する工程と、を含む方法を開示する。触媒は、担体、例えば、酸化アルミニウム、炭素、又はシリカ上に好ましくは堆積されている。実施例では、酸化アルミニウム上に0.1質量%のパラジウムを含む、固定床に担持されたパラジウム触媒が使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】GB964,869
【特許文献2】米国特許第3,479,394号
【特許文献3】米国特許第3,772,375A号
【特許文献4】米国特許第3,937,735号
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Gerd Dahlhoff等、「ε-Caprolactam: new by-product free synthesis routes」、Catalysis Reviews: Science and Engineering、43巻、4号、381~441頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
シクロヘキサンを酸化してシクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを含む生成物混合物にする方法であって、シクロヘキサンの高い変換率及びKAオイルへの高い選択性を備え、触媒の調製が低コストである方法が、依然として必要とされている。本発明の目的は、そのような方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む混合物を調製する方法であって、ラネーニッケル触媒の存在下、シクロヘキサン中で、シクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加してシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程を含む、方法によって解決される。
【0014】
好ましくは、本方法は、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b) ラネーニッケル触媒の存在下でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程と、
を含む。
本発明の一実施形態では、工程b)を、工程a)で得られた反応混合物中で行う。
【0015】
本発明の別の実施形態では、工程b)に先立って、工程a)で得られた反応混合物を水で抽出して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及び未変換シクロヘキサンを含む有機相、並びに6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を含む水性相を得て、工程b)をこの有機相中で行う。
【0016】
本発明の更なる実施形態において、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を、ラネーニッケル触媒の存在下で水素添加して、6-ヒドロキシカプロン酸を得る。
【0017】
好ましい実施形態では、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を、ラネーニッケル触媒の存在下、水性相中で水素添加して、6-ヒドロキシカプロン酸を得る。
【0018】
本発明はまた、アジピン酸を調製する方法であって、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b) ラネーニッケル触媒の存在下でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程と、
c) シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを、場合により蒸留による精製後に、硝酸で酸化してアジピン酸を得る工程と、を含む、方法に関する。
【0019】
本発明は更に、6-ヒドロキシカプロン酸の調製方法であって、ラネーニッケル触媒の存在下で6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を水素添加する工程を含む、方法に関する。
【0020】
好ましくは、本方法は、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b1) ラネーニッケル触媒の存在下で6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を水素添加して6-ヒドロキシカプロン酸を得る工程と、を含む。
一実施形態では、工程b1)を、工程a)で得られた反応混合物中で行う。
【0021】
更なる実施形態では、工程b1)に先立って、工程a)で得られた反応混合物を水で抽出して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン及び未変換シクロヘキサンを含む有機相、並びに6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸を含む水性相を得て、工程b1)をこの水性相中で行う。
【発明を実施するための形態】
【0022】
一般に、第1の工程a)で、シクロヘキサンは、分子状酸素で酸化されて、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸、未変換シクロヘキサン、及び場合によっては更なる副生成物を含む反応混合物を与える。
【0023】
工程a)は、圧力(例えば、15~25バール)下、高温、例えば、160~190℃で、分子状酸素を、好ましくは不活性ガスと混合して使用して、シクロヘキサンを熱自動酸化することによって行うことができる。
【0024】
工程b)では、シクロヘキシルヒドロペルオキシドは、ラネーニッケル触媒の存在下で水素添加されて、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを与える。
【0025】
工程b1)では、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸は、ラネーニッケル触媒の存在下で水素添加されて、6-ヒドロキシカプロン酸を与えることができる。6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸は、同じ反応混合物中でシクロヘキシルヒドロペルオキシドと同時に水素添加されることが可能であり、或いは、ヒドロキシペルオキシカプロン酸は、水素添加の前にシクロヘキシルヒドロペルオキシドから分離され、別の工程b1)で水素添加されることが可能である。
【0026】
適切なラネー触媒は、例えば、80~120m2/gのBET表面を有することができ、亜鉛又はクロム等の促進剤元素を含むことができる。
【0027】
本発明に従って使用されるラネー触媒は、通常の方法で調製することができる。Ni-Al合金は、ニッケルを溶融アルミニウムに溶解した後、冷却(cooling)(「焼入れ」(quenching))することによって調製することができる。少量の、亜鉛又はクロム又は他のもの等の第3の金属を、促進剤として添加して、得られる触媒の活性を高めることができる。この促進剤は、混合物を二元合金から三元合金に変更し、これにより、活性化の際に様々な焼入れ及び浸出特性がもたらされ得る。
【0028】
活性化プロセスでは、通常は微粉末としての合金を、水酸化ナトリウムの濃厚溶液で処理する。アルミン酸ナトリウム(Na[Al(OH)4])の形成には、高濃度の水酸化ナトリウムの溶液が必要である。最高で5M濃度までの水酸化ナトリウム溶液が一般的に使用される。一般に、浸出は70~110℃の間で行われる。
【0029】
本発明の実施において、触媒は、当技術分野で公知の技術を使用して反応混合物と共にスラリー化することができる。本発明の方法は、バッチ、半連続、又は連続のシクロヘキシルヒドロペルオキシド水素添加のいずれかに適している。これらの方法は、当業者には明らかなように、様々な条件下で行うことができる。
【0030】
本発明の方法に適した反応温度は、典型的には約20~約80℃以上、有利には約25~約60℃の範囲である。
【0031】
本発明による方法は、0.1MPa(1バール)~10MPa(100バール)、好ましくは0.1MPa(1バール)~5MPa(50バール)、例えば、2MPa(20バール)の水素圧で有利に行うことができる。
【0032】
水素添加反応の終わりに、目的の化合物を、蒸留等の技術分野の周知の方法によって最終的に精製することができる。
【0033】
更なる工程c)で、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを、硝酸で酸化してアジピン酸を得ることができる。
【0034】
工程c)は、大気圧又は高圧下での濃硝酸中のKAオイルの硝酸酸化によって行うことができる。反応温度は、70~100℃の間である。均一系遷移金属がこの反応を触媒し得る。アジピン酸及び副生成物は、結晶化を連続して行うことによって精製することができる。
【0035】
更なる工程において、シクロヘキサノールは脱水素されて更にシクロヘキサノンを与え、シクロヘキサノンはイプシロン-カプロラクタムに変換されうる。
【0036】
したがって、本発明はまた、イプシロン-カプロラクタムを調製する方法であって、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b) ラネーニッケル触媒の存在下でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程と、
c) 場合によりシクロヘキサノール及びシクロヘキサンを蒸留により精製する工程と、
d) 場合によりシクロヘキサノールからシクロヘキサノンを分離する工程と、
e) シクロヘキサノールをシクロヘキサノンに脱水素する工程と、
f) シクロヘキサノンをイプシロン-カプロラクタムに変換する工程と、
を含む、方法に関する。
【0037】
好ましくは、更なる工程において、シクロヘキサノールを脱水素して更なるシクロヘキサノンを得て、シクロヘキサノンをヒドロキシルアミンと反応させて、シクロヘキサノンオキシムを介して、イプシロン-カプロラクタムを得ることができる。したがって、本発明はまた、イプシロン-カプロラクタムを調製する方法であって、
a) シクロヘキサンを分子状酸素で酸化して、シクロヘキシルヒドロペルオキシド、シクロヘキサノール、シクロヘキサノン、6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸及び未変換シクロヘキサンを含む反応混合物を得る工程と、
b) ラネーニッケル触媒の存在下でシクロヘキシルヒドロペルオキシドを水素添加して、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを得る工程と、
c) 場合によりシクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを蒸留により精製する工程と、
d) 場合によりシクロヘキサノールからシクロヘキサノンを分離する工程と、
e) シクロヘキサノールをシクロヘキサノンに脱水素する工程と、
f1) シクロヘキサノンをヒドロキシルアミン又はその塩と反応させてシクロヘキサノンオキシムを得る工程と、
f2) シクロヘキサノンオキシムを反応させてイプシロン-カプロラクタムを得る工程と、を含む、方法に関する。
工程d)は任意選択である。シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンを含む精製されたKAオイルは、シクロヘキサノン及びシクロヘキサノールを分離せずに脱水素を受けることが可能である。
工程e)は、例えば、200~450℃、好ましくは約270℃で、亜鉛又は銅を含む脱水素触媒の存在下で行うことができる。
工程f)は、通常、硫酸ヒドロキシルアミン水溶液を使用して、あるいはヒドロキシルアミン及びリン酸含有緩衝液を使用して行われる。
工程g)(ベックマン転位)は、通常、濃硫酸又は発煙硫酸の存在下で、好ましくは90~120℃の温度で行われる。形成されたラクタム硫酸塩溶液を、通常、アンモニアで中和して遊離ラクタムを得る。
【0038】
シクロヘキサノンをイプシロン-カプロラクタムに変換するための更なる方法は、文献に記載されている。
【0039】
本発明を、以下の実施例によって更に説明する。以下の実施例は、例示のみを目的としており、本発明をそれに限定するために使用されないことを理解されたい。
【実施例】
【0040】
分析
収率と選択率は、内部標準を用いてガスクロマトグラフィーを使用して決定した。シクロヘキサン中のCyOOHを、ヨードメトリーによって定量した。
【0041】
変換率=CyOOHの変換率。CyOOH分解の場合、変換率は、消費されたCyOOHのモル数をCyOOHの初期モル数で割ったもの:
変換率=100×nCyOOH(消費)/nCyOOH(初期)
として定義される。
【0042】
CyOOH分解の場合、選択率は、生成したシクロヘキサノール(CyOH)及びシクロヘキサノン(CyO)のモル数を、消費されたCyOOHのモル数で割ったもの:
100×(nCyOH(生成)+nCyO(生成)/nCyOOH(消費)
収率=変換率×選択率
として定義される。
【0043】
原料
実施例で使用した工業用反応混合物
1. 反応混合物A、シクロヘキシルヒドロペルオキシド(CyOOH)及び6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸(HPOCap)の混合物:シクロヘキサンを分子状酸素又は分子状酸素及び不活性な他のガスの混合物で酸化して、主成分として、CyOOH、シクロヘキサノール(CyOH)、シクロヘキサノン(CyO)、未変換シクロヘキサン、HPOCap、及び1~6個の炭素を有する他のカルボン酸及びジカルボン酸を含む反応混合物を得る。
この反応混合物Aを、洗浄カラムに水を加えた後、有機相(反応混合物B)及び水性相(反応混合物C)に分離する。
2. 反応混合物B、CyOOH:反応混合物Aを水で洗った後、有機相は、主としてシクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、CyOOH及び1~6個の炭素を有する他のカルボン酸及びジカルボン酸からなる。
3.
4. 反応混合物C、HPOCap:反応混合物Aを水で洗った後、水性相は、主としてHPOCap及び1~6個の炭素を有する他のカルボン酸及びジカルボン酸からなる。
【0044】
(実施例1)
現行の工業用クロム系触媒を使用する反応混合物Bの変換
参照実験は、現行の工業用クロム系触媒を使用して、バッチ式で、反応混合物BをKAオイルに変換した。シクロヘキサン中に約6%のシクロヘキシルヒドロペルオキシドを含む42.7gの反応混合物Bを、シクロヘキサンで満たされた、ディーンスタークを備えたガラス反応器に注いだ。温度を80℃に上昇させ、0.5%のクロム触媒を含む0.1gの溶液を反応混合物Bに加えた。得られた結果を、以下の表に示す。
【0045】
【0046】
粗反応混合物中の主な副生成物のモルパーセントを以下に示す。
【0047】
【0048】
(実施例2)
ラネーニッケル触媒上での反応混合物Bのバッチ式水素添加の一般的手順
N2の乾燥雰囲気中で、0.3gのラネーニッケル触媒を、シクロヘキサン中に約6%のシクロヘキシルヒドロペルオキシドを含有する68gの反応混合物Bと共に、水素添加オートクレーブ内で撹拌した。20バールの水素全圧で、温度を60℃に上昇させた。2時間後、生成した粗反応混合物を、ガスクロマトグラフィーによって分析した。得られた結果を、以下の表に示す。
【0049】
【0050】
開始反応混合物Bにはすでに不純物が含まれているため、反応混合物Bの水素添加により、反応媒体中のこれらの不純物が減少する。したがって、水素添加後の不純物の量は水素添加前より少ない。
【0051】
粗反応混合物中の主な副生成物のモルパーセントを以下に示す。
【0052】
【0053】
反応混合物BのKAオイルへの全体的な成績は、クロム触媒で得られたものと比較して、ラネーニッケル触媒上でのバッチ式水素添加によって改善された。シクロヘキシルヒドロペルオキシドの転化率(又は変換率)及びKAオイルの収率は、クロム触媒で得られたものよりも高く、副生成物の形成は少ない。初期反応混合物Bは、水素添加反応の前にすでに副生成物を含んでいたので、副生成物の収率は負である。シクロヘキサノールは、CyOOH水素添加の主な生成物である。
【0054】
(実施例3)
半連続的なラネーニッケル触媒上の反応混合物Bの水素添加の一般的手順
N2の乾燥雰囲気中で、0.1gのラネーニッケル触媒を、5.6gのシクロヘキサンと共に水素添加オートクレーブ内で撹拌した。20バールの水素全圧で、温度を60℃に上昇させた。19gの反応混合物Bを、15g/hのマスフローで滴加し、水素添加した。1.5時間後、生成した粗反応混合物を、ガスクロマトグラフィーによって分析した。得られた結果を、以下の表に示す。
【0055】
【0056】
粗反応混合物中の主な副生成物のモルパーセントを以下に示す。
【0057】
【0058】
副生成物の収率は、バッチ式水素添加で得られた収率よりも半連続水素添加の収率の方が低い。
【0059】
(実施例4)
温度の影響
N2の乾燥雰囲気中で、0.054gのラネーニッケル触媒を、5.6gのシクロヘキサンと共にオートクレーブ内で撹拌した。20バールの水素全圧で、温度を設定点値に上昇させた。12.32gの反応混合物Bを、一度に加え、水素添加した。生成した粗反応混合物を、ガスクロマトグラフィーによって分析した。得られた結果を、以下の表に示す。
【0060】
【0061】
粗反応混合物中の主な副生成物のモルパーセントを以下に示す。
【0062】
【0063】
触媒活性を、各反応温度で測定した。
【0064】
【0065】
より多くのシクロヘキサノンがより低い温度で得られたことは、シクロヘキサノンのシクロヘキサノールへの水素添加が主な副反応であることを意味する。
【0066】
(実施例5)
触媒の再使用
実施例2の手順に従った。次に、回収したラネーニッケル触媒をこのシステムに再度添加し、水素添加を60℃で周期的に行った。得られた結果を、以下の表に示す。
【0067】
【0068】
(実施例6)
反応混合物Cの水素添加
反応混合物Cを水素添加したという点を除いて、実施例2の手順に従った。N2の乾燥雰囲気中で、0.43gのラネーニッケル触媒を、約10%の6-ヒドロキシペルオキシカプロン酸(HPOCap)を含有する26gの反応混合物Cと共に撹拌した。20バールの水素全圧で、温度を60℃に上昇させた。1時間の後、HPOCapの変換率は100%であった。
【0069】
(実施例7)
反応混合物Aの水素添加
反応混合物Aを水素添加したという点を除いて、実施例4の手順に従った。N2の乾燥雰囲気中で、0.061gのラネーニッケル触媒を、5.7gのシクロヘキサンと共に撹拌した。20バールの水素全圧で、温度を60℃に上昇させた。約6.5%のヒドロペルオキシド類(CyOOH+HPOCap)を含有する12.7gの反応混合物Aを、オートクレーブに一度に加え、水素添加した。生成した粗反応混合物を、ガスクロマトグラフィーによって分析した。得られた結果を、以下の表に示す。
【0070】
【国際調査報告】