(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ用ディスクのブレーキバンド
(51)【国際特許分類】
F16D 65/12 20060101AFI20230213BHJP
C23C 4/06 20160101ALI20230213BHJP
C23C 24/04 20060101ALI20230213BHJP
C23C 28/00 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
F16D65/12 S
C23C4/06
C23C24/04
C23C28/00 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537551
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(85)【翻訳文提出日】2022-08-16
(86)【国際出願番号】 IB2020061963
(87)【国際公開番号】W WO2021124100
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】102019000025090
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521259127
【氏名又は名称】ブレンボ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ
【氏名又は名称原語表記】BREMBO S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(72)【発明者】
【氏名】ジャンマリナーロ,サルヴァトーレ
(72)【発明者】
【氏名】メディチ,ステファノ
(72)【発明者】
【氏名】ビオンド,シモーネ
(72)【発明者】
【氏名】カルミナーティ,ファビアーノ
【テーマコード(参考)】
3J058
4K031
4K044
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058BA41
3J058BA61
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3J058EA35
4K031AA02
4K031AB03
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4K031DA01
4K031DA08
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4K044BA06
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4K044BB04
4K044BB05
4K044BB06
4K044BB11
4K044BC06
4K044CA11
4K044CA12
(57)【要約】
本発明の対象は、ディスクブレーキ(1)用のディスクのブレーキバンド(2)であって、前記ブレーキバンド(2)は、ブレーキディスク回転軸または回転軸(X-X)の周りに配置された環状のバンド本体(6)を含んでいるものである。バンド本体(6)は、ねずみ鋳鉄または鋼またはアルミニウムまたはそれらの合金からなる。ブレーキバンド(2)は、少なくとも1つのブレーキ面(2aまたは2b)からなり、少なくとも1つのブレーキ面(2aまたは2b)の少なくとも一部分が、活性化バンド本体部分(7)の表面に配置された少なくとも1つの保護表面コーティング(3)の接着能力を増大させるための活性化バンド本体部分(7)を含み、保護表面コーティング(3)が、摩耗に対する抵抗力が高められた少なくとも1つの材料からなる活性化バンド本体部分(7)を有する。活性化されたバンド本体部分(7)は、バンド本体(6)の表面上に配置されて、少なくとも1つの保護表面コーティング(3)によりブレーキバンド(2)の最外層を形成している。活性化されたバンド本体部分(7)は、粗いプロファイル(8)を含み、粗いプロファイル(8)は、少なくとも1対の突起(10および/または11および/または12)によって区画された少なくとも1つの溝またはチャネル(9)を有し、少なくとも1つのチャネル(9)は、回転軸(X-X)を少なくとも部分的に取り囲む経路に沿って延在する。少なくとも1つのチャネル(9)は、その長手方向の延長線上の断面において、チャネル底部(13)および2つの対向するチャネル側面(14、15)を有する。第1のチャネル側面(14)は、チャネル底部(13)と鋭角(a1)、すなわち90度より小さい角度(a1)を形成する。第2のチャネル側面(15)は、前記チャネル側面(13)と鈍角(a2)を形成し、すなわち90度より大きい角度(a2)を形成する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキ(1)用のディスクのブレーキバンド(2)であって、
前記ブレーキバンド(2)は、ブレーキディスク回転軸(X-X)または回転軸の周りに配置された環状のバンド本体(6)を含み、
前記バンド本体(6)は、ねずみ鋳鉄または鋼またはアルミニウムまたはそれらの合金からなり、
前記ブレーキバンド(2)は、少なくとも1つのブレーキ面(2aまたは2b)を有し、
前記少なくとも1つのブレーキ面(2aまたは2b)の少なくとも一部分が、前記活性化バンド本体部分(7)の表面に配置された少なくとも1つの保護表面コーティング(3)の接着能力を増大させるための活性化バンド本体部分(7)を含み、
前記保護表面コーティング(3)が、摩耗に対する抵抗力が高められた少なくとも1つの材料を含み、
前記活性化されたバンド本体部分(7)が、前記少なくとも1つの保護表面コーティング(3)で前記ブレーキバンド(2)の最外層を形成するように前記バンド本体(6)の表面上に配置され、
前記活性化されたバンド本体部分(7)が、粗いプロファイル(8)を含み、
前記粗いプロファイル(8)は、少なくとも1対の突起(10および/または11および/または12)によって区画された少なくとも1つの溝またはチャネル(9)を含み、
前記少なくとも1つのチャネル(9)は、前記回転軸(X-X)を少なくとも部分的に取り囲む経路に沿って延在し、
前記少なくとも1つのチャネル(9)が、その長手方向の延長部における断面において、チャネル底部(13)および2つの対向するチャネル側面(14、15)を有し、
第1のチャネル側面(14)は、前記チャネル底部(13)と鋭角(a1)、すなわち90度より小さい角度(a1)を形成し、
第2のチャネル側面(15)は、前記チャネル側面(13)と鈍角(a2)を形成し、すなわち90度より大きい角度(a2)を形成する、ブレーキバンド(2)。
【請求項2】
前記第1および第2のチャネル側面(14、15)は、互いに平行な側面である、請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項3】
前記第1チャンネル側面(14)は、前記チャンネル底面(13)と80度の鋭角(a1)を形成し、および/または
前記第2チャンネル側面(15)は、前記チャンネル底面(13)と100度の鈍角(a2)を形成している、請求項1記載のブレーキバンド(2)。
【請求項4】
前記突起は、その両突起側にアンダーカット(17)を形成する第1突起(10)である、または
前記突起は、チャネル側面(15)を区画し、前記チャネル側面がそれぞれのチャネル底面(13)との間に鈍角(a2)を形成する第2の突起(11)である、
もしくは
前記突起は、前記チャンネル底部(15)と鋭角(a1)をなす第1のチャンネル側面(14)と、前記チャンネル底部(13)と鈍角(a2)をなす第2の対向チャンネル側面(13)とを区画する第3の突起(12)である、請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項5】
前記少なくとも1組の突起(10及び/又は11及び/又は12)は、複数の突起(20)であり、特に、第1の突起(10)と第2の突起(11)とが交互に配置されている、
または
前記少なくとも1つの突起の組(12)は、すべてが等しい複数の突起(20)であり、特に、第3の突起の複数(12)である、
もしくは
前記少なくとも1組の突起(11および/または12)は複数の突起(20)であり、
前記複数の突起(20)は、
- 第1の第3の複数突起(12)と、
- 第2の第3の複数突起(12)であって、この第2の複数突起は、前記第1の複数突起のプロファイルとは反対のプロファイル、すなわち前記第2の複数突起の各突起のその長手方向の延長部における断面を有し;および
- 前記第1および第2の複数突起の間に介在する、第2の突起(11)を含む、請求項4に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項6】
前記少なくとも1つのチャネル(9)は、互いに並んで設置され、前記一対のチャネル(9)の間に配置された第1の突起(10)によって区切られた第1の対のチャネル(9)であり、前記突起は、その両方の反対側の縁で、チャネル側面(14)を区切り、両方とも前記チャネル底面(13)と鋭角(a1)を形成する、
または
前記少なくとも1つのチャネル(9)は、互いに並んで設置され、前記一対のチャネル(9)の間に配置された第1の突起(10)によって区切られた第1の一対のチャネル(9)であり、前記突起は、その両方の反対側の縁で、アンダーカットチャネル部分(17)、すなわち、チャネルボトム(13)の構成平面と鋭角(a1)を形成する深い空洞を有するチャネル側面(14)を区切っている、請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項7】
前記少なくとも1つのチャネル(9)は、互いに並んで配置され、前記チャネル(9)の間に配置された第2の突起(11)によって区切られた第2のチャネルの組であり、
前記突起は、その両対向縁で、チャネル側面(15)を区切り、両者は前記チャネル底部(13)と鈍角(a2)を形成している、請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項8】
前記少なくとも1つのチャネル(9)は、互いに並んで配置され、並んで配置された前記チャネルの間に配置された第3の突起(11)によって区切られた第3のチャネルの組であり、
前記第3の突起(11)は、その両方の反対側の縁で、第1の側面(14)が前記チャネルボトム(13)と鋭い角度(a1)、第2の側面(15)が前記チャネルボトム(13)と鈍角(a2)となるチャネル側面(14、15)を区画している、
および/または、
前記第3の突起(11)は、その両側で、並んで設置された前記チャネル(9)に面して、互いに平行なチャネル側面(14、15)を形成する、請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項9】
前記チャンネル底部(13)に対して鋭角(a1)をなす第1の側面(14)を形成する前記第3の突起(11)は、前記第1の側面(14)が傾斜して、前記回転軸(X-X)に面するかまたはそれを指すアンダーカット(17)を形成している、
または
前記チャネル底部(13)に対して鋭角(a1)を有する第1の側面(14)を形成する前記第3の突起(11)は、前記第1の側面(14)が傾斜し、前記回転軸(X-X)とは反対側に向く、または前記回転軸とは反対側を指すアンダーカット(17)を形成している、請求項8に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項10】
前記活性化バンド本体部分(7)は、同一のブレーキバンド(2)に構成された2つのブレーキバンド部分であり、
互いに平行な側面(14、15)を有する第3の突起(11)のみが、第1の部分に構成され、前記チャネル底部(13)に対して鋭角(a1)を有する第1の側面(14)を形成し、前記回転軸(X-X)を向くかまたは指すアンダーカット(17)を形成する、前記第1の側面(14)を傾斜させ、
互いに平行な側面(14、15)を有する第3の突起(11)は、第2の部分に構成され、
前記チャネル底部(13)に対して鋭角(a1)を有する第1の側面(14)は、前記第1の側面(14)が傾斜し、前記回転軸(X-X)とは反対の側に向く、または前記回転軸とは反対の側に向くアンダーカット(17)を形成していることを特徴とする、請求項8に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項11】
両側にアンダーカット(17)を形成する第1の突起(10)と、チャネル側面(15)を区画する第2の突起(11)とが、共にそれぞれのチャネル底部(13)と鈍角(a2)を形成し、前記粗プロファイル(8)に複数のチャネル(9)を形成するように交互に配置されている、請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項12】
前記チャネル(9)は、0.05mm~0.1mm、好ましくは0.075mmの深さと、0.5mm~0.7mmの幅を有し、
および/または、
前記突起(10または11または12)は、前記チャネル(9)の幅と実質的に同一である幅を有し
および/または、
前記チャンネル底部(13)は、実質的に平坦な表面である、請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項13】
前記突起(10または11または12)は突起リッジ(18)によって外部に区切られ、前記突起リッジ(18)は実質的に平坦な表面である、
および/または、
前記突起(10または11または12)は突起リッジ(18)によって外部に区切られ、前記チャネル側面(14、15)は前記突起リッジに0.1mmから0.4mmの接続半径で接合されている、
および/または、
前記チャネル側面(14、15)は、前記チャネル底部(13)に接続部で結合され、前記接続部は、0.01mmから0.02mmの接続半径を有する、請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項14】
前記バンド本体(6)は、ねずみ鋳鉄または鋼から選択されるベース金属によって形成されており、
- 前記少なくとも1つの活性化されたバンド本体部分(7)を覆う保護ベースコーティング(30)であって、
炭化クロム(Cr
3C
2)およびニッケルクロム(NiCr)、または、
ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)によって形成され、
溶射成膜技術、好ましくはHVOF技術(High Velocity Oxygen Fuel)、またはHVAF技術(High Velocity Air Fuel)またはKM技術(Kinetic Metallization)を用いた成膜によって得られる保護ベースコーティング(30)と、
- 前記少なくとも1つの活性化バンド本体部分(7)を覆う保護表面コーティング(3)であって、
タングステンカーバイド(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)によって形成され、
前記保護ベースコーティング(30)上に、炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)を、粒子形態で、溶射堆積技術、好ましくはHVOF技術(High Velocity Oxygen Fuel)、HVAF技術(High Velocity Air Fuel)またはKM技術(Kinetic Metallization)を使用して、成膜することにより得られる、表面保護コーティング(3)を有し、
前記保護ベースコーティング(3)で被覆された前記少なくとも1つの活性化バンド本体部分(7)の表面は、前記ベース金属のニトロ浸炭層(300)によって規定され、前記ブレーキバンドの中心に対して半径方向または円周方向の断面で粗いプロファイルを有している、
請求項1に記載のブレーキバンド(2)。
【請求項15】
請求項1から14までのいずれか1項によって定義されるブレーキバンド(2)と、前記ブレーキバンド(2)に関連し、車両のホイールのハブに接続するように構成されたベル(5)とを含むディスクブレーキ(1)のディスク。
【請求項16】
請求項15に記載のディスクブレーキ(1)用のディスクを含む、車両。
【請求項17】
- 少なくとも1つのブレーキ面(2aまたは2b)を含むブレーキバンド(2)を提供し、該ブレーキバンド(2)は、ねずみ鋳鉄または鋼またはアルミニウムまたはそれらの合金のバンド本体(6)を用いて作られるステップと、
- 前記少なくとも1つのブレーキ面(2aまたは2b)の少なくとも一部分を、切り粉の除去による処理、レーザー彫刻による処理、または塑性変形による処理によってその表面粗さを増大させるように構成された処理に付し、活性化バンド本体部分(7)を形成するステップと、
- 前記バンド本体(6)の表面に前記活性化されたバンド本体部分(7)を生成し、粗いプロファイル(8)を作成するステップと、
- 前記粗いプロファイル(8)に、少なくとも1対の突起(10および/または11および/または12)によって区画された少なくとも1つの溝またはチャネル(9)を形成するステップと、
- 前記少なくとも1つのチャネル(6)を、前記回転軸(X-X)を少なくとも部分的に取り囲む経路に沿って延在させるステップと、
- 前記少なくとも1つのチャネル(6)を、その長手方向の延長部における断面がチャネル本体(13)および2つの対向するチャネル側面(14、15)からなるようにするステップを含み、
- 第1のチャネル側面(14)は、前記チャネル底部(13)と鋭角(a1)、すなわち90度より小さい角度(a1)を形成するように作られ、
- 第2のチャネル側面(15)は、それが前記チャネル側面(13)と鈍角(a2)を形成するように、すなわち90度より大きい角度(a2)を形成するように作られ、
- 前記活性化バンド本体部分(7)上に、摩耗に対して高い耐性を有する少なくとも1つの材料からなる少なくとも1つの保護コーティング(3および/または30および/または300および/または330)を堆積させるステップを更に含む、ブレーキバンド(2)の製造方法。
【請求項18】
前記活性化バンド本体部分(7)をニトロ浸炭し、前記部分の表面上にニトロ浸炭表面層(300)を得るステップと、
前記ニトロ浸炭表面層(300)上に、
溶射成膜技術、好ましくはHVOF(High Velocity Oxygen Fuel)、またはHVAF技術(High Velocity Air Fuel)またはKM技術(Kinetic Metallization)を用いて、粒子状の、
- 炭化クロム(Cr
3C
2)およびニッケルクロム(NiCr)、
または
- ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)
を堆積して、前記活性バンド本体部(7)の表面を前記ニトロ浸炭層(300)を介在させて覆う保護ベースコーティング(30)を形成するステップと、
炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)からなる粒子状の材料を、溶射堆積法、好ましくはHVOF(High Velocity Oxygen Fuel)またはHVAF法(High Velocity Air Fuel)またはKM法(Kinetic Metallization)を用いて、前記保護ベースコーティング(30)上に堆積して、タングステンカーバイド(WC)と鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)からなり、前記活性バンド本体部(7)の表面を覆う保護表面コーティング(3)を形成するステップ、とを含む請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記活性化バンド本体部分(7)を製造するための工具(21)であって、
少なくとも1つの切れ刃(22)を含み、
前記切れ刃は、少なくとも1つの切刃リッジ(24)、第1の切刃側(25)および第2の切刃側(26)を有する少なくとも1つの切刃突起(23)を定義する粗いプロファイルを有し、
前記切刃は、最大チャネル幅(16)よりも小さい最大切刃突起幅(27)を有する、工具(21)。
【請求項20】
並んで設置された複数の切刃突起(28)を含む、請求項19に記載の工具(21)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に自動車分野での用途に限定されないディスクブレーキ用のブレーキバンドおよびディスク、ならびに前記ベンチレーテッドディスクを有する車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキにおいて、ブレーキキャリパは、一般に、軸方向(X-X)を規定する回転軸(A-A)を中心に回転するように構成されたブレーキディスクの外周縁を跨いで配置されている。ブレーキディスクにおいて、前記軸方向(X-X)に実質的に直交する半径方向(R-R)と、前記軸方向(X-X)と前記半径方向(R-R)に直交する円周方向(C-C)と、局所的な接線方向(T-T)、すなわち、正確にいえば、前記軸方向と前記半径方向の交点にあって、前記軸方向(X-X)と前記半径方向(R-R)の両方に直交する接線方向が定義される。
【0003】
周知のように、ディスクブレーキ用のディスクは、ディスクを車両のハブと関連付けるように構成されたベルからなり、そこから、キャリパのブレーキパッドと協働することを意図した、ブレーキバンドと名付けられた環状の部分が延びている。ベンチレーテッドタイプのディスクの場合、ブレーキバンドは、向かい合った2枚のプレートによって作られ、それぞれ、例えばピンまたはフィンの形をした連結要素によって互いに連結されている。2枚のプレートの外側表面は、対向するブレーキ面を規定し、内側表面は、ピン又はフィンと共に、ディスクを冷却するための通気路を画定し、この通気路は、ディスク自体の回転運動中に遠心方向の空気流により横切られる。
【0004】
前記ブレーキバンドは、前記パッドによって、ブレーキ面と名付けられた2つのプレートの反対側の表面に摩擦を加えることによって、車両にブレーキ作用を加えるように構成されたディスクブレーキキャリパと協働することを意図している。
【0005】
対向するブレーキパッドとブレーキバンドの対向するブレーキ面との間の制御された相互作用は、摩擦によるブレーキ作用を決定し、これにより、車両の減速又は停止を可能にする。
【0006】
一般に、ブレーキディスクは、ねずみ鋳鉄または鋼鉄で作られている。実際、この材料は、比較的低コストで良好なブレーキ性能(特に摩耗抑制の点)を得ることが可能である。カーボンまたはカーボセラミック材料で作られたディスクは、はるかに優れた性能を提供するが、コストははるかに高くなる。
【0007】
鋳鉄又は鋼で作られた従来のディスクの限界は、過度の摩耗に関連している。ねずみ鋳鉄製のディスクに関して、別の非常に否定的な側面は、過度の表面酸化と、それに伴う錆の形成とに関連するものである。この錆は、ブレーキディスクの性能に影響を与えるだけでなく、ブレーキディスクの錆はユーザーにとって美観上受け入れがたいものであるため、外観にも影響を与える。このような問題に対して、ねずみ鋳鉄や鋼鉄製のディスクに保護膜を施すことが試みられている。保護コーティングは、一方ではディスクの摩耗を減少させ、他方では灰色鋳鉄のベースを表面酸化から保護し、それによって錆の層の形成を防止している。
【0008】
現在入手可能であり、ねずみ鋳鉄又は鋼製ディスクに適用される保護コーティングは、耐摩耗性を提供する一方で、しかしながら、ディスク自体からの剥離を決定する剥離の対象となる。
【0009】
この種の保護コーティングは、例えば、低摩耗ディスクブレーキに関する特許US4715486に記載されている。特に鋳鉄で作られたディスクは、高運動エネルギー衝撃技術によってディスク上に堆積された粒子材料で作られたコーティングを有する。第一の実施形態によれば、コーティングは、20%から30%の炭化タングステン、5%のニッケル、および残りの部分は炭化クロムとタングステンの混合物を含む。第2の実施形態によれば、コーティングは、80%から90%の炭化タングステン、最大10%のコバルト、最大5%のクロム、および最大5%のカーボンを含む。
【0010】
溶射技術によってコーティングを適用する場合、ねずみ鋳鉄又は鋼からなるディスクから従来の保護コーティングが剥離する原因の1つは、保護コーティング中の遊離炭素の存在である。実際、この炭素は、保護膜に含まれる酸素と結合して燃焼する性質がある。これにより、コーティング内部に微小気泡が形成され、ディスクへのコーティングの十分な接着が妨げられ、それにより、コーティングが除去されやすくなることがある。
【0011】
以上から、保護コーティングを備えたねずみ鋳鉄又は鋼からなるディスクは、現在、ブレーキシステムの分野で使用することができないことが明らかである。
【0012】
しかしながら、保護コーティングによって保証される耐摩耗性の面での利点を考慮すると、先行技術を参照して上述した欠点を解決する必要性が、当該分野において強く感じられる。特に、ディスクの耐摩耗性を高めることができ、かつ経時的に強い保護コーティングを備えたねずみ鋳鉄又は鋼製ディスクを有する必要性が感じられる。
【0013】
前述の問題に対する解決策は、ねずみ鋳鉄または鋼からなるディスクに関する国際出願WO2014/097187において、本件出願人によって提案されている。
【0014】
ねずみ鋳鉄または鋼からなるディスクの場合、70から95重量%の炭化タングステン、5から15重量%のコバルトおよび1から10重量%のクロムからなる粒子状の材料を堆積させることによって得られるディスクブレーキのブレーキ面上に保護コーティングを作ることにある。粒子状の材料の堆積は、HVOF(High-Velocity Oxygen Fuel)またはHVAF(High-Velocity Air Fuel)またはKM(Kinetic Metallization)技術によって得られる。
【0015】
より詳細には、WO2014/097187で提供された解決策によれば、HVOF、HVAF、またはKM成膜技術と、コーティングの形成に使用される化学成分との組み合わせにより、ねずみ鋳鉄または鋼上の高度な固定を保証する高い結合強度を有する保護コーティングを得ることが可能である。使用されている粒子材料は、遊離炭素(C)を微量にさえも含んでいない。このため、保護コーティングの剥がれ現象を著しく低減することができる。
【0016】
ねずみ鋳鉄又は鋼製のディスクについてWO2014/097187で、又はアルミニウム又はアルミニウム合金製のディスクについてWO2014/097186で提供された解決策を採用することにより、公知の先行技術に見られる保護膜の剥がれ現象を大幅に低減することが可能となるが、完全に除去することはできない。実際、WO2014/097186又はWO2014/097187に従って製造された保護コーティングを備えるアルミニウム又はアルミニウム合金又はねずみ鋳鉄又は鋼からなるディスクにおいてさえ、保護コーティングの剥がれ及び沈下は、既知の先行技術よりも少ない頻度ではあるが、引き続き発生する。
【0017】
保護コーティングの剥がれ及び沈下の問題に対する部分的な解決策が、国際出願WO2017046681A1において本出願人によって提供されている。特に、そのような解決策は、保護コーティングとブレーキ表面との間に、65%から95%の炭化クロム(Cr3C2)と残りのためのニッケル-クロム(NiCr)とからなるベース保護コーティングを作ることを含む。表面保護膜は、下地保護膜の上に作られ、80~90重量%が炭化タングステン(WC)、残りがコバルト(Co)で構成されている。どちらの保護膜も、粒子状の材料の堆積は、HVOF(高速酸素燃料)またはHVAF(高速空気燃料)またはKM(動メタライゼーション)技術によって行われる。このような解決策は、特にねずみ鋳鉄又は鋼で作られたディスクに適用される。
【0018】
先行技術と比較して、WO2017046681A1によって提供される技術的解決策は、保護コーティングの故障および剥がれの低減という点で大きな改善を提供する。しかしながら、得られる結果は、完全に満足できるものではない。
【0019】
そこで、経時的な耐摩耗性を確保するために、既知の解決策よりも剥がれの影響を受けないか又ははるかに少ない程度で影響を受ける保護コーティングを備えたねずみ鋳鉄、鋼アルミニウム又はアルミニウム合金製のディスクの必要性が、関連分野で存在し続けている。
【0020】
文献DE102008022225は、保護層を受けることを意図した表面の「活性化」の最初の例の1つである。活性化とは、保護層との幾何学的結合のために適合した形状を作り出すことができる表面の加工を意味する。
【0021】
この解決手段は、機械加工によって本体に空洞を作る方法を開示し、空洞の基部は、本体表面に横たわる接平面に対して5~60[度]及び115~175[度]の角度で傾斜したレーザーを放射することによって空洞に隣接する本体材料の一部を除去して得られる側面によって本体表面に接続され、アンダーカットを形成する側面を有する半開放空洞が形成される。キャビティは、コーティング又は保護層を適用することによって覆われる。
【0022】
空洞は溝として形成され、関心領域全体を覆うように好ましい方向に延びる。被処理面は、円筒形状を有し、長手軸に関して回転対称である往復動ピストンエンジンのシリンダ(シリンダライナ)の内周面である。キャビティは、シリンダボアまたはシリンダライナの内周に沿って走り、シリンダライナの長手方向軸に対して螺旋状または垂直方向に延在している。アンダーカットは、シリンダライナの長手方向軸に対して0~45[度]及び/又は180~135[度]の開口角度を形成している。
【0023】
この解決策は、キャビティ自体の形状のため、実施するのが非常に複雑である。
【0024】
ブレーキディスクに適用される同様の解決策は、US2255024、US2016178019及びUS2005221057A1から知られている。
【0025】
文献DE102010052735は、溶射コーティングでコーティングされた環状摩擦面を有するブレーキバンドを含むブレーキディスクを示し、複数の溝または空洞が、環状摩擦面の上に延びて、各溝の両方の垂直または側壁にアンダーカットを形成し、溶射コーティングのための係合結合を提供する。溝又はスロットは、表面に沿って螺旋状に延びて、摩擦面の全範囲を覆う。
【0026】
この解決策は、剥がれをさらに減少させることによって、保護コーティングとブレーキバンドの本体との間のグリップをさらに改善する。
【0027】
しかしながら、アンダーカットの存在は、必然的にスロットの高さ全体にわたって直ちに表面に進入しなければならない複数の切れ刃工具による複雑な旋削加工の使用を義務付け、したがって、単一の工具パスでの機械加工を義務付け、必然的にブレーキバンドの外縁から開始し、実際、ベル又はベルへの接続手段の存在により、通常内縁にはアクセスし難い。
【0028】
同じ理由、すなわち溝またはスロットの側面にアンダーカットが存在するため、工具は螺旋状の経路をたどることを余儀なくされ、ブレーキバンドの内縁から出ることができなければ、切断の経路全体をたどり、ブレーキバンドの外縁から出るために逆経路を走行することを余儀なくされている。これは、螺旋状の切断経路の一方向と、工具を引き出すための反対方向の両方で働くように構成された複数の切れ刃を備える工具の使用を課し、これがなければ、工具が溝又は溝の壁のわずかな不完全性、過度の粗さでも見つけると、ブレーキバンドの材料が裂けたり裂けたりして、ブレーキバンドが生産で受け入れられず、コストと労力が増加して通常の生産が中断される可能性がある。
【0029】
したがって、前述の欠点を解決する溝またはスロットの形状に対する強い必要性が残っている。
【発明の概要】
【0030】
本発明の目的は、経時的な耐摩耗性を確保するために、保護コーティングが剥がれ落ちないか、現在知られている解決策よりも少ない程度で剥がれ落ちるブレーキバンドを提供することである。
【0031】
この目的および他の目的および利点は、請求項1によるブレーキバンド、請求項15によるディスクブレーキディスク、請求項16による車両、請求項17による前記バンドの製造方法および請求項19による前記製造方法用ツールによって達成される。
【0032】
いくつかの有利な実施形態は、従属請求項の対象である。
【0033】
この解決策の分析から、提案された解決策が、保護コーティングとブレーキバンドの本体との間の改善されたグリップまたは係合を得ることを可能にし、フレーキングをいかに減少させることができるかが浮かび上がってきている。
【0034】
さらに、提案された解決策は、必ずしも螺旋状ではなく、環状でもあり、それ自体で閉じており、特にそれ自体で閉じていないがブレーキバンドのエッジで終わっていない経路で、チップ除去による機械加工またはレーザー彫刻によって、または塑性変形によって作ることができる複数の突起と溝またはスロットによって定義される粗いプロファイルを機械加工するのに好適である。
【0035】
特に、提案された解決策は、複数パスでの加工にも適しており、複数の切れ刃を有する工具の場合、切断の経路を辿ること又は実行された加工を終了することを義務付けず、加工の仕上げの悪化又は工具の切れ刃の破損を回避し、生産の一部の廃棄及び通常の生産の中断を回避又は限定し、コスト及び労力の悪化を回避する。
【0036】
本装置、ブレーキディスク、および車両のさらなる特徴および利点は、添付の図を参照しながら、非限定的な例によって、その好ましい実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、ディスクブレーキの平面図または上面図である。
【
図2】
図2は、その上に示された断面線II-IIに沿ってとられた
図1のディスクの断面図であり、この図において、ブレーキバンドは、コーティング層および粗さプロファイルの実際の割合を尊重せずに、それらの特徴をグラフィック的に鑑賞できるように、図式的に示されている。
【
図3】
図3は、
図1のディスクのブレーキ面の詳細の軸方向断面図であり、この図では、粗いプロファイルの幾何学的形状をよりよく理解するために保護層が示されていない。
【
図4】
図4は、
図3に示される粗いプロファイルを有する層のプロファイルを有する詳細の断面図である。
【
図5】
図5は、粗いプロファイルを有する層と保護コーティングとが示されている、ブレーキバンドの細部の断面図である。
【
図6】
図6は、
図2における詳細の拡大断面図であり、その上のボックスで示されたブレーキバンドの一部に関するものである。
【
図7】
図7は、さらなる実施形態による、粗いプロファイルを有する層を有するブレーキバンドの詳細の断面図である。
【
図8】
図8は、さらに別の実施形態による粗いプロファイルを有する層を有するブレーキバンドの詳細の断面図である。
【
図9】
図9は、加工面に面する工具の詳細が示されている、チップ除去による機械加工のステップの間のブレーキバンドの詳細の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
説明した実施形態に共通する要素又は部品は、以下、同じ参照数字を用いて示す。
【0039】
前述の図を参照すると、参照数字1は、本発明による全体としてのブレーキディスクを示す。
【0040】
添付の図に示す本発明の一般的な実施形態によれば、ディスクブレーキ1は、2つの対向するブレーキ面2aおよび2bを備えるブレーキバンド2からなり、その各々は、ディスクの2つの主面のうちの1つを少なくとも部分的に形成している。
【0041】
ブレーキバンド2は、ねずみ鋳鉄または鋼から選ばれる母材からなる。好ましくは、ブレーキバンドはねずみ鋳鉄製である。特に、ディスク全体はねずみ鋳鉄製である。したがって、以下の説明では、灰色鋳鉄製のディスクについて言及するが、それが鋼製である可能性を排除するものではない。
【0042】
ディスク1は、以下を備える。
【0043】
- ブレーキバンドの2つのブレーキ面のうちの少なくとも1つを覆うベース保護コーティング30;及び
【0044】
- ブレーキバンドの2つのブレーキ面の少なくとも1つを覆い、前記ベース保護コーティング30を覆うようにされた表面保護コーティング3。
【0045】
ベース保護コーティング30は、炭化クロム(Cr3C2)及びニッケルクロム(NiCr)、又はニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)で構成され、ディスク1への溶射成膜技術、好ましくは粒子状コーティング成分のHVOF(High-Velocity Oxygen Fuel)技術、またはHVAF(High-Velocity Air Fuel)技術またはKM(Kinetic Metallization)技術によって得られる。
【0046】
表面保護コーティング3は、炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)からなり、好ましくはHVOF(高速酸素燃料)法により、またはHVAF(高速空気燃料)法、KM(Kinetic Metallization)法等の容赦技術によって、ベース保護コーティング30上に、粒子状の炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)を堆積させて得られる。
【0047】
本発明によれば、
図2及び
図3に図式的に示すように、前記ベース保護コーティング3によって被覆されたブレーキ面は、ベース金属(ねずみ鋳鉄又は鋼)の軟窒化層300によって形成され、ブレーキバンドの中心に対する半径方向又は周方向の断面において粗いプロファイルを有している。
【0048】
したがって、保護ベース層30は、ブレーキバンドを形成する母材上に直接固定されるのではなく、前述した軟窒化母材層300上に固定される。
【0049】
特に、前述の粗いプロファイルは、30~200μmの間の高さで表面に直交して延び、300~2000μmの間のピッチで相互に-ブレーキバンドの中心に対して半径方向または周方向に-離間している複数の突起20によって画定される。好ましくは、前述の突起は、ディスク1のブレーキ面上に規則的なパターンで分布している。しかし、不規則な分布パターンを設けてもよい。
【0050】
有利には、
図6に図式的に示すように、前述の突起20は、以下でより詳細に説明するプロファイルを有している。
【0051】
代替的な実施形態によれば、前述の粗いプロファイルは、旋削によって得られた場合は0.8~2の間の粗さRaを有し、サンドブラストによって得られた場合は10~80の間の粗さRzを有してもよい。
【0052】
好ましくは、前記軟窒化層300は、母材をフェライト系軟窒化処理することにより得られたものである。
【0053】
好ましい実施形態によれば、前記軟窒化層300は、2~30μmの深さと、微小硬度で300HVより大きな硬度値とを有する。
【0054】
特に好ましい実施形態によれば、前記軟窒化層300は、前記保護ベース層30との界面として作用するマグネタイトFe3O4からなる酸化トップ層330を含んでいる。
【0055】
好ましくは、マグネタイトFe3O4からなる前記酸化トップ層330は、2~10μmの間の厚さを有する。
【0056】
好ましくは、ベース保護膜30は、以下によって構成される。
【0057】
- 65%~95%が炭化クロム(Cr3C2)、残りがニッケルクロム(NiCr);または
【0058】
- ニッケル(Ni)の含有量が40重量%~75重量%、クロム(Cr)の含有量が14重量%~30重量%、残部が鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)であるニッケル-クロム(NiCr)。
【0059】
特に、ベース保護コーティング30は、以下の組成を有していてもよい。
【0060】
- 93重量%の炭化クロム(Cr3C2)及び7重量%のニッケルクロム(NiCr)。
【0061】
- 炭化クロム(Cr3C2)90重量%およびニッケルクロム(NiCr)10重量%。
【0062】
- 75重量%の炭化クロム(Cr3C2)と25%のニッケル-クロム(NiCr);または
【0063】
- 炭化クロム(Cr3C2)65重量%およびニッケル-クロム(NiCr)35重量%。
【0064】
好ましくは、ベース保護コーティング30は、75重量%の炭化クロム(Cr3C2)と25重量%のニッケル-クロム(NiCr)とからなる。特に、ニッケル-クロム(NiCr)は、80%以上のニッケルと20%以上のクロムからなる。
【0065】
好ましくは、表面保護膜3は、75重量%から87重量%の炭化タングステン(WC)、残りが鉄(Fe)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)である。さらに好ましくは、表面保護膜3は、85重量%の炭化タングステン(WC)と、15重量%の鉄(Fe)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)とから構成されている。
【0066】
有利には、ベース保護コーティング30の厚さは、20μmと80μmの間、好ましくは50μmに等しく構成され、一方、表面保護コーティング3の厚さは、30μmと90μmの間、好ましくは60μmに等しく構成されている。二つの保護コーティング3および30の厚さは、粗い状態より上の部分に対して計算される。したがって、これらは、粗さのディップ/ピットを埋めるために使用され得るコーティングの厚さを考慮しない最小厚さ値である。
【0067】
全体として、
図6に図式的に示すように、2つの保護コーティング3及び30は、ブレーキ面の粗さを完全に満たし、好ましくは上記で規定した間隔内の厚さの層で粗いプロファイルの上に展開する。
【0068】
未処理の母材と保護ベースコーティング30との間の界面に前述の軟窒化層300が存在することにより、完全には取り消されないまでも、同様の保護コーティングを有するが軟窒化層のないブレーキディスクと比較して、コーティング剥離現象の発生を大幅に低減できることが意外にも判明している。
【0069】
考えられる技術的な説明は、すべての場合において非限定的であるが、従来の保護コーティングとは異なり、軟窒化層は、しかしながら、母材自体に適用される材料の層で構成されることなく、母材を腐食から保護するという事実に基づくものである。言い換えれば、未処理の母材と軟窒化層300との間には正味の分離領域が存在しないのである。軟窒化層は、まさに、軟窒化処理によって母材が形態的および化学的に改質された層である。したがって、未処理の母材から軟窒化金属への移行は、進行性であってもよい。
【0070】
この観点から、軟窒化層300が作られるブレーキ面の粗さプロファイルは、軟窒化母材から未処理母材への移行の不規則性をさらに強調し、それによってプラスの効果を押し上げることができる。
【0071】
軟窒化層300がなされるブレーキ面の粗さプロファイルは、ベース保護層30と軟窒化層との機械的な接着をさらに促進する。
【0072】
また、窒化浸炭層300の存在は、通常の環境条件下での耐摩耗性とトライボロジー挙動(摩擦、退色、なじみ)の両方において、保護表面コーティング3の性能に影響を与えないことが実験的に確認されている。
【0073】
最後に、軟窒化層300の存在は、環境ストレス(熱衝撃および塩害)の存在下での耐性を向上させることが実験的に確認されている。
【0074】
軟窒化層によって提供される抗腐食作用は、軟窒化層300がマグネタイトFe3O4からなる酸化トップ層330からなる好ましい場合において、強調される。
【0075】
このような防錆作用は、いずれの場合にも、ベースコーティング層30の存在によって、さらに強化される。このような保護ベースコーティング30の組成(Cr3C2とNiCr、またはNiCrとFeとMoとCoとMnとAl)と成膜方法によって、このようなベースコーティング30はディスクのブレーキ面に対する防食効果も有している。
【0076】
抗腐食作用は、表面保護コーティング3の完全性及びディスクへの付着の利益になる。
【0077】
ベース保護コーティング30はまた、表面保護(耐摩耗)コーティング3のための機械的な「ダンパー」機能を実行する。実際、Cr3C2およびNiCrによって、またはNiCr、Fe、Mo、Co、MnおよびAlによって形成されたベース保護膜30は、炭化タングステン、鉄、クロムおよびアルミニウムによって形成された表面保護膜3よりも高い延性を有している。これにより、ベース層30に弾性挙動が付与され、使用時にディスクに付与される応力を-少なくとも部分的に-緩和することができる。したがって、ベース保護コーティング30は、ディスクと表面保護コーティング3との間の一種のダンパー又はクッションとして作用する。これにより、2つの部分間の応力の直接的な伝達が防止され、それによって、表面保護コーティング3の亀裂を誘発するリスクが低減される。
【0078】
耐摩耗機能に関して、表面保護コーティング3は、ベース保護コーティング30の存在によっても、窒化浸炭層300(場合によっては酸化トップ層330を有する)によっても偏らない。
【0079】
簡略化のために、次に、ブレーキディスク1を本発明による方法と共に説明する。
【0080】
ブレーキディスク1は、好ましくは、以下に説明する本発明による方法を用いて製造されるが、必ずしもそうである必要はない。
【0081】
本発明による方法の一般的な実施態様によれば、この方法は、以下の操作ステップからなる。
【0082】
2つの対向するブレーキ面2a、2bを備えるブレーキバンド2を含み、その各々がディスクの2つの主面の少なくとも一部を規定し、ブレーキバンドはねずみ鋳鉄または鋼で作られる、ブレーキディスクを準備するステップ(a)。
【0083】
前記ブレーキ面(2a又は2b)の少なくとも1つに、その表面粗さを増大させるように設計された加工処理に施すステップ(b)。
【0084】
増加した表面粗さを有する制動表面を軟窒化し、そのような表面上に軟窒化表面層300を得るステップ(c)。
【0085】
窒化浸炭表面層300上に、以下からなる粒子形態の材料を以下の技術で堆積させるステップ(d)。
【0086】
- 炭化クロム(Cr3C2)およびニッケル-クロム(NiCr)、または
【0087】
- ニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)。
【0088】
. 溶射成膜技術、好ましくはHVOF(High-Velocity Oxygen Fuel)技術またはHVAF(High-Velocity Air Fuel)技術またはKM(Kinetic Metallization)技術で、前記軟窒化層300を介在させてブレーキバンドの二つのブレーキ面の少なくとも一方を覆うベース保護膜30を形成する。
【0089】
ベース保護コーティング(30)の上に、炭化タングステン(WC)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、およびアルミニウム(Al)からなる粒子状の材料を、スプレー堆積技術、好ましくはHVOF(High-Velocity Oxygen Fuel)技術、またはHVAF(High-Velocity Air Fuel)法、またはKM(Kinetic Metallization)法で堆積させ、炭化タングステン(WC)と鉄(Fe)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)からなり、ブレーキバンドの2つのブレーキ面のうち少なくとも1つを覆う表面保護膜3を形成するステップ(e)。
【0090】
特に、ステップ(b)で行われる処理は、30~200μmの間の高さhで表面に直交して延び、300~2000μmの間のピッチPで相互に-ブレーキバンドの中心に対して半径方向又は円周方向に-離間する複数の突起20によって規定される粗プロファイルを前記表面上に生成するように行われてもよい。
【0091】
有利には、このような突起20は、以下でより詳細に説明されるプロファイルを有する。このプロファイルの存在により、軟窒化層300上の基本保護コーティング30の機械的接着能力が向上する。
【0092】
特に、前記ステップ(b)は、チップ除去による、またはレーザー切開による、または塑性変形による加工工程で実施される。
【0093】
有利には、前述のステップ(b)は、代替的に、粗さRaが0.8~2の間の微細な旋削による加工プロセスで実施されてもよい。
【0094】
さらなる代替案によれば、前述のステップb)は、粗さRzが10~80の間のサンドブラストによる作業工程で実施される。
【0095】
好ましくは、軟窒化するステップ(c)は、フェライト軟窒化処理によって得られる。
【0096】
有利には、軟窒化ステップc)は、軟窒化表面層300が2~30μmの間の深さと、微小硬度で300HVより大きな硬度値を有するように実施される。
【0097】
本発明による方法の好ましい実施形態によれば、窒化浸炭のステップc)の後に、堆積のステップd)の前に行われる、窒化浸炭層300の後酸化のステップf)が続き、マグネタイトFe3O4からなる酸化トップ層330を得る。
【0098】
好ましくは、マグネタイト(Fe3O4)からなる酸化トップ層330は、2~10μmの間で構成される厚さを有する。
【0099】
マグネタイト(Fe3O4)からなる酸化トップ層330の存在により、未変態母材に対する軟窒化層の防錆作用が向上する。
【0100】
軟窒化処理は、当業者にはそれ自体よく知られている処理であり、したがって、詳細な説明は行わない。ここでは、明確化のためにいくつかの一般的な情報を提供することに限定する。
【0101】
軟窒化処理は、フェライト相において、比較的低い温度(550℃~580℃)で、ピースの表面領域における窒素および炭素の拡散を得るような条件下で行われる熱化学的表面硬化処理である。特に、窒素と炭素の拡散のプロセスを実施する際に採用される手段は、塩浴;ガス;プラズマである。
【0102】
気体媒体による軟窒化処理は、高度な均一性と清浄性を求める場合(ブラインドキャビティ、溝、ねじ山など)、塩浴での軟窒化処理よりも好ましい。
【0103】
軟窒化処理に採用される温度は、変形の抑制を保証する。
【0104】
フェライト軟窒化処理の代替として、イオン軟窒化処理を実施することができる。後者は、570℃の温度とアンモニアとメタンからなる雰囲気がフェライト系と本質的に異なっている。
【0105】
イオン軟窒化処理では、表面成分の種類や深さを任意に変化させることが可能である。そして、疲労や摩耗に耐えなければならない部品(ブレーキディスクなど)の場合、(Fe4N)層や(Fe2-3CxNy)層の形成を決定することができる。
【0106】
好ましくは、ベース保護コーティング30を作るための堆積のステップ(d)において堆積された粒子状の材料は、65%から95%の炭化クロム(Cr3C2)と残りのニッケル-クロム(NiCr)とから構成される。
【0107】
特に、ベース保護コーティング30を作るための堆積のステップ(b)において堆積された粒子状の材料は、以下の組成を有することができる。
【0108】
- 93重量%の炭化クロム(Cr3C2)及び7重量%のニッケルクロム(NiCr)。
【0109】
- 90重量%の炭化クロム(Cr3C2)と10重量%のニッケルクロム(NiCr)。
【0110】
- 75重量%の炭化クロム(Cr3C2)と25重量%のニッケル-クロム(NiCr);または
【0111】
- 炭化クロム(Cr3C2)65重量%およびニッケルクロム(NiCr)35重量%。
【0112】
好ましい実施形態によれば、ベース保護コーティング30を製造するための堆積のステップd)において堆積された粒子状の材料は、75重量%の炭化クロム(Cr3C2)と25重量%のニッケルクロム(NiCr)からなる。特に、ニッケル-クロム(NiCr)は、80%からニッケルと20%のクロムからなる。
【0113】
あるいは、ベース保護コーティング30を作るために堆積ステップ(d)において堆積された粒子状の材料は、ニッケル(Ni)の重量による含有量が40%から75%で、クロム(Cr)の重量による含有量が14%から30%のニッケルクロム(NiCr)に基づき、残りについて鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)及びアルミニウム(Al)である。
【0114】
好ましくは、表面保護膜3を作るために堆積させるステップe)において堆積させた粒子状の材料は、75重量%から87重量%の炭化タングステン(WC)と残りの鉄(Fe)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)から構成される。
【0115】
特に、表面保護コーティング3を作るために堆積するステップ(e)において堆積された粒子状の材料は、10重量%から17重量%の鉄(Fe)、2重量%から5.8重量%のクロム(Cr)、0.6重量%から2.2重量%のアルミニウム(Al)、残りが炭化タングステン(WC)である。
【0116】
好ましい実施形態によれば、得られる表面保護膜3は、85重量%の炭化タングステン(WC)と、15重量%の鉄(Fe)、クロム(Cr)およびアルミニウム(Al)とから構成される。
【0117】
有利には、ブレーキディスクは、ディスク1に対して中心的に配置され、ブレーキバンド2と同心の環状部分または固定部分4によって構成される、ディスクを車両に固定するために構成された部分を備えている。固定部分4は、ホイールハブ(すなわちベル)への接続要素5を支持する。ベルは、(添付の図に示すように)環状の固定部分と一体に形成されてもよいし、別々に形成された後、適切な接続要素によって固定部分に固定されてもよい。
【0118】
環状固定部4は、ブレーキバンドと同じ材料、すなわちねずみ鋳鉄、または鋼鉄で作ることができる。また、ベル5は、アルミニウムまたはねずみ鋳鉄または他の適切な材料で作ることができる。特に、ディスク全体(すなわち、ブレーキバンド、固定部分、およびベル)は、ねずみ鋳鉄で作ることができる。
【0119】
好ましくは、ブレーキバンド2は、鋳造によって作られる。同様に、それらがねずみ鋳鉄で作られている場合、固定部分及び/又はベルは、鋳造によって製造することができる。
【0120】
環状の固定部分は、(添付の図に示すように)ブレーキバンドと一体に作ることができ、あるいは、ブレーキバンドに機械的に接続された別体として作ることができる。
【0121】
有利には、ベース保護コーティング30を形成するためのステップd)において堆積される粒子状の材料は、5~40μmの間で構成される粒子径を有する。このような範囲の値を選択することにより、堆積面密度および付着能力という高い特性を軟窒化層300に付与することが可能となる。
【0122】
好ましくは、ベース保護膜30の厚さは、20μm~80μm、好ましくは50μmに等しい値で構成される。このような範囲の値を選択することにより、酸化防止保護作用の効果とコーティング自体の熱膨張の制限との間の最適なバランスを達成することが可能となる。すなわち、ベース保護膜30の厚みが20μm未満であると、十分な酸化防止保護作用が得られない。一方、厚さが80μmより大きいと、ディスクブレーキのライフサイクルで発生する熱膨張のために、時間的に接着が不完全になる可能性がある。
【0123】
前述の厚さの範囲内で、ベース保護コーティング30は、表面保護コーティング3の完全性を維持するのを助ける前述の「ダンパー」効果を実行することができる。
【0124】
有利には、表面保護コーティング3を形成するためのステップ(e)において堆積される粒子形態の材料は、5~45μmの間で構成される粒径を有する。このような範囲の値を選択することにより、密度、硬度及び限定された多孔性という高い特性をコーティングに付与することが可能となる。
【0125】
好ましくは、表面保護コーティング3の厚さは、30μmと90μmとの間、好ましくは60μmに等しく構成される。このような範囲の値を選択することにより、保護層の消費量とコーティング自体の熱膨張の制限との間の最適なバランスを達成することが可能となる。すなわち、保護膜の厚さが20μm未満であると、摩耗した場合、過度に短時間で完全に除去されることになる。一方、厚さが90μmより大きいと、ディスクブレーキのライフサイクルの間に生じる熱膨張のために、時間的に不完全な接着をもたらす可能性がある。
【0126】
上述したように、2つの保護膜3、30の厚さは、粗い状態以上の部分との関係で計算される。したがって、これらは、粗さのディップ/ピットを埋めるために使用され得るコーティングの厚さを考慮しない最小厚さ値である。
【0127】
全体として、
図6に図式的に示すように、2つの保護コーティング3及び30は、ブレーキ面の粗さを完全に満たし、好ましくは上記で規定した間隔内の厚さの層で粗いプロファイルの上に展開する。
【0128】
既に述べたように、ベース保護コーティング30を形成する材料[炭化クロム(Cr3C2)およびニッケルクロム(NiCr)、またはニッケルクロム(NiCr)、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)およびアルミニウム(Al)]および表面保護膜3を形成する材料(炭化タングステン、鉄、クロム、アルミニウム)は、好ましくはHVOF法またはHVAF法またはKM法により、それぞれ粒子状で軟窒化層300上およびベース保護膜30上に堆積される。
【0129】
これら3つの堆積技術は、当業者によく知られており、したがって、詳細な説明は省略する。
【0130】
HVOF(High-Velocity Oxygen Fuel)は、混合燃焼室と噴霧ノズルを備えた噴霧装置を用いる粉末溶射成膜技術である。酸素と燃料がチャンバーに供給される。1MPAに近い圧力で形成された高温の燃焼ガスが収束-発散ノズルを通過し、粉体材料を極超音速(MACH5以上)まで輸送する。この高温のガス流の中に粉体材料を投入すると、材料は急速に溶融し、1000m/sオーダーの速度まで加速される。蒸着面に衝突すると、溶融した材料は急速に冷却され、高い運動エネルギーの衝撃によって、非常に緻密でコンパクトな構造が形成される。
【0131】
HVAF(High-Velocity Air Fuel)蒸着技術は、HVOF技術に類似している。違いは、HVAF技術では、酸素の代わりに空気が燃焼室内に供給されることである。そのため、手元の温度はHVOF技術よりも低くなる。これにより、コーティングの熱変質をよりよく制御することができる。
【0132】
KM(Kinetic Metallization)蒸着法は、不活性ガス流中で金属粒子を加速および摩擦帯電させる2つのステップで、金属粉末を音波蒸着ノズルから噴霧する固体蒸着プロセスである。キャリア流には熱エネルギーが供給される。圧縮された不活性ガス流の位置エネルギーと熱エネルギーは、プロセス内で粉末の運動エネルギーに変換される。高速で加速され帯電した粒子は、成膜表面に向けられる。金属粒子がこの表面に高速で衝突することで、粒子は大きく変形する(衝突に垂直な方向で約80%)。この変形により、粒子の表面積が非常に大きくなる。衝撃の効果として、粒子と蒸着面との間に親密な接触が形成され、これにより金属結合が形成され、非常に緻密でコンパクトな構造を有するコーティングが形成される。
【0133】
有利なことに、高運動エネルギー衝撃蒸着法であることを共有する上記の3つの蒸着法の代替として、異なる蒸着法を利用する他の技術が存在するが、非常に密でコンパクトな構造を有するコーティングを生成することが可能である。
【0134】
HVOF、HVAF、またはKM蒸着技術と、2つの保護コーティング-ベース30および表面3-の形成に用いられる化学成分との組み合わせにより、それらが蒸着される下部材料上に高い結合強度を有する保護コーティングを得ることが可能となる。
【0135】
特に、前述の組み合わせにより、窒化浸炭層300(場合によっては酸化上層330を有する)上のベースコーティング30と、保護ベースコーティング30上の表面コーティング3の両方の高いアンカリング度を得ることができる。
【0136】
遊離炭素(C)がないこと、好ましくは2つの保護コーティングを構成する最終材料中に微量にさえ存在しないことは、剥離の危険性を低減するのに役立つ。実際、溶射技術による塗布の場合、アルミニウム若しくはアルミニウム合金又はねずみ鋳鉄若しくは鋼からなるディスクからの従来の保護コーティングの剥離の原因は、保護コーティング中の遊離炭素の存在であることが判明している。この炭素は、保護膜に含まれる酸素と結合して燃焼する性質がある。これにより、コーティング内部に微小気泡が形成され、ディスクへのコーティングの十分な付着が妨げられ、その結果、コーティングの除去が容易になる。
【0137】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、ベース保護コーティング3を作るための堆積のステップd)において堆積された粒子形態の材料と、表面保護コーティング30を作るための堆積のステップe)において堆積された粒子形態の材料は共に、HVOF(High-Velocity Oxygen Fuel)技術によって堆積される。実際、この技術は-特に、ブレーキバンドまたはねずみ鋳鉄製のディスク全体と関連する場合-耐摩耗性および摩擦性能の点で最良の妥協を提供する複合保護コーティング(ベース+表面)を達成することが可能であることが見出されている。
【0138】
より詳細には、(好ましい)HVOF(高速酸素燃料)技術に関連して行われた実験試験によれば、HVAF(高速空気燃料)技術によって、公称値に近い規則的な厚さを有するコンパクトで均一なコーティングを得ることが可能となる。HVOFで作られたコーティングは、コンパクトでなく、「スポンジ状」の外観を有し、厚さが可変である。
【0139】
HVOF と HVAF によって作られたコーティングを持つ試料に行われた熱衝撃試験は、すべての試料に見られる WC + Fe, Cr, Al 表面保護コーティングにのみ影響を与える損傷を示し、それはコーティングのマイクロクラックからなるものであることが分かった。しかし,このようなマイクロクラックは,HVAF 法で作製されたコーティングを持つ試験片でより顕著であるように思われる。このため、HVOF技法がより好ましい。
【0140】
全ての場合において、Cr3C2+Ni又はNiCr+Fe+Mo+Co+Mn+Alからなるベース保護コーティングは、熱衝撃試験後も影響を受けることがなく、常に緻密で、鋳鉄に完全に付着し、亀裂がない。
【0141】
上述したように、ベース保護コーティング30及び表面保護コーティング3は、ブレーキバンドの2つのブレーキ面のうちの少なくとも1つを覆っている。
【0142】
以下、ベース保護コーティング30と表面保護コーティング3の全体を「複合保護コーティング」3,30としてグローバルに同定することにする。
【0143】
好ましくは、
図2に示すように、ディスク1は、ブレーキバンド2の両方のブレーキ面2a、2bを覆う「複合保護コーティング」3、30を備えている。
【0144】
特に、複合保護コーティング3、30は、ブレーキバンドのみ、単一のブレーキ面上、またはその両方を覆ってもよい。
【0145】
添付の図に示されていない実施形態の解決策によれば、複合保護コーティング3、30は、環状固定部4およびベル5としてディスク1の他の部分にも延びて、ディスク1の全表面を覆ってよい。特に、複合保護膜3、30は、ブレーキバンドに加えて、固定部のみ、またはベルのみを覆ってもよい。その選択は、ディスク全体またはその一部の間で均一な着色および/または仕上げをするために、外観の理由によって実質的に決定される。
【0146】
有利には、複合保護コーティング3、30の形成のための粒子材料堆積は、少なくともコーティング厚さの点で、ディスクの表面上で差別化された態様で実施されてもよい。
【0147】
ブレーキバンドにおいて、複合保護コーティング3,30は、2つの対向するブレーキ面において同じ厚さで作られることができる。代替的な解決策としては、ブレーキバンドの2つのブレーキ面において異なる厚さを区別することによって、複合保護コーティング3、30を作ることができる。
【0148】
特に好ましい実施形態によれば、ベース保護コーティング30を形成するための堆積のステップ(d)は、保護コーティングを形成するための表面自体への粒子炭化クロムの2つ以上の異なる堆積段階から構成される。
【0149】
より詳細には、堆積の前記ステップ(d)は、以下の段階を含む。
【0150】
- ディスク上に直接ベース保護コーティング30の第1層を形成するための、粒子形態の材料の第1堆積段階。
【0151】
- 第1の層上にベース保護コーティングの第2の層を作成するための、粒子形態の材料の第2の堆積段階。
【0152】
以下で明らかにされるように、第2の仕上げ層は、ベース保護コーティング3の表面仕上げを調整することを可能にする。
【0153】
堆積させるステップ(d)を2つの段階に分割することにより、特に、様々な段階で使用される粒子状の材料の少なくとも粒径を区別することが可能になる。これにより、堆積させるステップ(d)はより柔軟になる。
【0154】
有利には、第1の堆積段階において粒子形態で堆積された粒子材料は、第2の堆積段階において堆積された粒子材料よりも大きい粒径を有する。特に、第1の堆積段階において粒子状に堆積された粒子材料は、30~40μmの間で構成される粒子サイズを有し、第2の堆積段階において粒子状に堆積された粒子材料は、5~20μmの間で構成される粒子サイズを有している。
【0155】
ベース保護コーティング30を2つの異なる堆積段階で作り、第1層の形成のためにより粗い粒子サイズを用い、第2層(仕上げ機能を有する)の形成のためにより細かい粒子サイズを用いることにより、その後の表面保護コーティング3の堆積の機能として、堆積の終わりに既に、要求される表面仕上げ特徴を有するコーティングを得ることが可能になる。このような所望の表面仕上げ特性は、コーティングのために研磨および/または他の表面仕上げ操作を行う必要なく得ることができる。第2段階で堆積された粒子は、ベース層の表面上の粗い粗さを埋める。有利には、コーティングの表面仕上げレベルは、第2段階で堆積される粒子の粒子径を調整することによって調整することができる。
【0156】
好ましくは、保護ベースコーティング30の第1層の厚さは、コーティングの総厚さの2/4~3/4の間で構成され、保護ベースコーティング4の第2層の厚さは、コーティングの総厚さの1/4~2/4の間で構成される。
【0157】
本方法の特に好ましい実施形態によれば、表面保護コーティング3を形成する粒子材料(WC+Fe+Cr+Al)の堆積のステップe)は、保護コーティングを形成するために同じ表面への粒子材料の2つ以上の異なる堆積段階から構成される。
【0158】
より詳細には、前記堆積の段階(e)は、以下の段階を含む。
【0159】
- ベース保護コーティング30上に直接コーティングの第1層を形成するための、粒子形態の材料の第1堆積段階;及び
【0160】
- 表面保護コーティング3の第1の層上に第2の層を作成するための、粒子形態の材料の第2の蒸着段階。
【0161】
好ましくは、表面保護層3は、所望の最終的な粗さの程度を達成するために、表面仕上げの段階を受ける。
【0162】
あるいは、保護層3の表面仕上げは、コーティング自体3の堆積方法に直接作業することによって得られてもよい。
【0163】
より詳細には、ベースコーティングの堆積のステップd)において想定されるものと同様に、表面保護コーティング3を形成する粒子材料の堆積のステップ(e)を2つ以上の段階に分割することもまた、特に、種々のステップにおいて使用される粒子材料の少なくとも粒子径を区別することが可能となる。これにより、堆積のステップ(e)は、より柔軟なものとなる。
【0164】
有利には、第1の堆積段階において堆積された粒子材料は、第2の堆積段階において堆積された粒子材料よりも大きな粒子サイズを有する。特に、第1の堆積段階で堆積された粒子材料は、30~40μmの間で構成される粒径を有し、第2の堆積段階で堆積された粒子材料は、5~20μmの間で構成される粒径を有している。
【0165】
ベース層を形成するためのより粗い粒径と仕上げ層を形成するためのより細かい粒径とを使用する、2つの異なる堆積段階を有する保護コーティング又は表面3の実施形態は、コーティングのために研磨及び/又は他の表面仕上げ操作を行う必要なしに、堆積の終わりに既に必要な表面仕上げ特徴を有する表面保護コーティング3を得ることが可能である。第2段階で堆積された粒子は、ベース層の表面の粗い粗さを埋める。有利には、表面保護3の表面仕上げレベルは、第2段階で堆積される粒子の粒子径を調整することによって調整することができる。
【0166】
特に、第1段階で粒径30~40μmの粒子を用い、第2段階で粒径5~20μmの粒子を用いることによって、表面保護コーティング3は、仕上げ層において、2.0~3.0μmの範囲の表面粗さRaを有する。
【0167】
好ましくは、表面保護コーティング3の第1層の厚さは、コーティングの総厚さの2/4~3/4の間で構成され、表面保護コーティング3の第2層の厚さは、コーティングの総厚さの1/4~2/4の間で構成される。
【0168】
全体として、粒子材料のHVOF、HVAF、またはKM堆積技術、使用される化学成分の組み合わせ、および多段階での堆積方法により、特にブレーキディスク1の使用目的に適合した、表面粗さのレベルが制限されたコーティングを得ることが可能である。
【0169】
以下のディスク間の比較試験が行われた。
【0170】
A)HVOF技術によって作られた、50μm厚のベース保護コーティング(Cr3C2+NiCr)及び60μm厚の表面保護コーティング(WC+Fe+Cr+Al)を有する、本発明による「複合」保護コーティングを有するねずみ鋳鉄製のディスクブレーキ。ベース保護コーティングは、15μmの深さとミクロ硬度で300HVより高い硬度値を有する軟窒化層上にディスク上に配置された。窒化浸炭層は、5μmの厚さのマグネタイトFe3O4からなる酸化トップ層を構成し、窒化浸炭層は、その粗さを増加させるように設計された処理を以前に受けた制動表面に適用された。
【0171】
B) 本発明と同様の「複合」保護コーティングを施した灰色鋳鉄製ブレーキディスクで、軟窒化層を設けずにディスク上に直接作製したもの。
【0172】
この2つのディスクは、通常の動的ベンチ試験(慣らし運転、AKマスター及び摩耗)に供された。
【0173】
かかる試験は、試験条件が等しい場合、本発明による耐久性ディスクAは、ディスクBのものと摩耗の点で同等であることを示した。
【0174】
また、トライボロジー的挙動(摩擦、フェーディング、ランイン)の観点からも、試験条件が同じであれば、本発明によるディスクの性能は、従来のディスクBの性能と実質的に同等であることが分かった。
【0175】
また、2つのディスクは、複合的かつ環境的な熱機械的応力の存在下で、一連の抵抗試験に供された。
【0176】
前述のように、このような試験により、本発明によるディスクの性能は、環境ストレス(熱機械的衝撃及び腐食剤)の存在下での強度の点でディスクBよりも優れていることが示された。
【0177】
より詳細には、2つのディスクは、複合動的ベンチ試験(ディスクは、それぞれ複数の連続した制動操作で、異なる制動サイクルにさらされた)及び腐食環境での試験(塩水噴霧及び結露水試験:ディスク及びブレーキパッドは、塩水噴霧及び高温エクスカーションを伴う高湿度環境下に置かれた)の繰り返しを想定している試験プログラムにかけられた。
【0178】
所定の繰り返しの終わりに、Bは保護コーティングの全体的な剥離を示したが、ディスクAは保護コーティングの最小の局所的な剥離を有するだけであった。
【0179】
以上の説明から理解できるように、本発明によるディスクブレーキ及びその製造方法は、従来技術の欠点を克服することが可能である。
【0180】
実際、本発明に従って製造されたブレーキディスクは、フレーキングにさらされないか、公知の解決策よりもはるかに少ない程度でさらされ(時間的に耐摩耗性を確保するため)、同時に、コバルトを含まない。
【0181】
本発明による軟窒化層で被覆されたブレーキディスクは、軟窒化層を有しない同様の被覆ディスクと比較して、通常の環境条件下で同様の耐摩耗性およびトライボロジー挙動を示した。
【0182】
また、本発明に従ってコーティングされたブレーキディスクは、環境応力(熱衝撃及び塩害)の存在下での強度の点で最良の性能を有することが判明した。
【0183】
また、ブレーキディスク1は、一般に、製造コストが低い。
【0184】
当業者は、偶発的な特定のニーズを満たすために、以下の請求項によって定義される保護範囲内に含まれる、上記のディスクおよびブレーキディスクに対して多数の変更および変形を行うことができる。
【0185】
一般的な実施形態によれば、ディスクブレーキ1用のディスクのブレーキバンド2が提供される。
【0186】
前記ブレーキバンド2は、ブレーキバンド2の回転軸X-Xに近い内径D1と、前記回転軸X-Xから遠い外径D2との間で延びている。前記回転軸は、軸方向X-Xを規定する。
【0187】
前記ブレーキバンド2は、前記軸方向X-Xに実質的に直交する径方向R-Rと、前記軸方向X-X及び前記径方向R-Rの両方に直交する円周方向C-Cとを画定している。
【0188】
一般的な実施形態によれば、ディスクブレーキディスク1のブレーキバンド2は、ブレーキディスク回転軸、すなわちブレーキディスク回転軸X-Xを中心として配置された環状のバンド本体6から構成される。
【0189】
前記バンド本体6は、ねずみ鋳鉄または鋼鉄またはアルミニウムまたはそれらの合金で作られている。
【0190】
前記ブレーキバンド2は、少なくとも1つのブレーキ面2aまたは2bからなる。
【0191】
前記少なくとも1つのブレーキ面2aまたは2bの少なくとも一部分は、前記活性化バンド本体部分7の表面に配置された少なくとも1つの保護表面コーティング3の接着能力を増大させるための活性化バンド本体部分7から構成される。
【0192】
前記保護表面コーティング3は、摩耗に対して上昇した耐性を有する少なくとも1つの材料からなる。
【0193】
前記活性化バンド本体部分7は、前記バンド本体6の表面上に配置され、前記少なくとも1つの保護表面コーティング3と共にブレーキバンド2の最外層を形成する。
【0194】
前記活性化バンド本体部分7は、粗いプロファイル8を構成する。
【0195】
前記粗いプロファイル8は、少なくとも1対の突起10及び/又は11及び/又は12によって区画された少なくとも1つの溝又はチャネル9を含んでいる。
【0196】
前記少なくとも1つのチャネル9は、前記回転軸X-Xを少なくとも部分的に取り囲む経路に沿って延びる。
【0197】
前記少なくとも1つのチャネル9は、その長手方向延長部における断面において、チャネル底部13及び2つの対向するチャネル側面14、15を有する。
【0198】
有利には、第1のチャネル側面14は、前記チャネル底部13と鋭角a1、すなわち90度より小さい角度a1を形成している。第2のチャネル側面15は、前記チャネル側面13と鈍角a2、すなわち90度より大きい角度a2を形成する。
【0199】
実施形態によれば、前記第1及び第2のチャネル側面14、15は、相互に平行な側面である。
【0200】
実施形態によれば、前記第1チャネル側面14は、前記チャネル底部13と80度の鋭角a1を形成する。
【0201】
実施形態によれば、前記第2チャネル側面15は、前記チャネル底部13と100度の鈍角(a2)を形成する。
【0202】
実施形態によれば、前記突起は、その両突起側にアンダーカット17を形成する第1突起10である。
【0203】
実施形態によれば、前記突起は、それぞれのチャネル底部13と鈍角a2を形成するチャネル側面15を区画する第2の突起11である。
【0204】
実施形態によれば、前記突起は、チャネル底部15と鋭角a1を形成する第1のチャネル側面14と、チャネル底部13と鈍角a2を形成する第2の反対チャネル側面13とを区画する、第3の突起12である。
【0205】
実施形態によれば、前記少なくとも一対の突起10及び/又は11及び/又は12は、特に、第1突起10と第2突起11とを交互に配置する複数の突起20である。
【0206】
実施形態によれば、前記少なくとも1組の突起12は、全て等しい複数の突起20であり、特に、第3の突起複数12である。
【0207】
実施形態によれば、前記少なくとも1組の突起11及び/又は12は、複数の突起20で、
【0208】
- 第1の複数の第3の突起12、
【0209】
- 第2の複数の第3の突起12であって、この第2の複数の突起は、プロファイル、すなわち、前記第2の複数の各突起のその長手方向延長部における断面が、前記第1の複数のプロファイルと反対である、第2の複数の第3の突起12;及び
【0210】
- 前記第1及び第2の複数の間に介在される、第2の突起11、を有する。
【0211】
実施形態によれば、前記少なくとも1つのチャネル9は、互いに並んで設置され、前記一対のチャネル9の間に配置された第1突起10によって区切られた第1対のチャネル9であり、前記突起は、その両対向縁で、チャネル側面14を区切り、両方とも前記チャネル底13と鋭角a1が形成されている。
【0212】
実施形態によれば、前記少なくとも1つのチャネル9は、互いに並んで設置され、前記一対のチャネル9の間に配置された第1の突起10によって区画された第1の一対のチャネル9であり;
前記突起は、その両方の反対側の縁で、チャネル側面14を区画し、アンダーカットチャネル部分17、すなわち深い空洞を形成し、チャネルボトム13の構成平面と鋭角a1を形成している。
【0213】
実施形態によれば、前記少なくとも1つのチャネル9は、互いに並んで設置され、前記チャネル9の間に配置された第2の突起11によって区切られた第2の対であり、前記突起は、その両対向縁で、チャネル側面15を区切り、両方とも前記チャネル底部13と鈍角a2を形成している。
【0214】
実施形態によれば、前記少なくとも1つのチャネル9は、互いに並んで設置され、並んで設置された前記チャネルの間に配置された第3の突起11によって区画された第3の組のチャネルであり;
前記第3の突起11は、その両方の反対側の縁で、チャネル側面14、15であって、第1の側面14は前記チャネル底面13と鋭角a1を形成し、第2の側面15は前記チャネル底面13と鈍角a2を形成しているものを区画している。
【0215】
実施形態によれば、前記第3の突起11は、その両側で、並んで設置された前記チャネル9に面して、互いに平行なチャネル側面14、15を形成する。
【0216】
実施形態によれば、前記チャンネル底部13に対して鋭角a1を有する第1の側面14を形成する前記第3の突起11は、前記第1の側面14が傾斜しており、前記回転軸X-Xに面するか又は向けるアンダーカット17を形成している。
【0217】
実施形態によれば、前記チャネル底部13に対して鋭角a1を有する第1の側面14を形成する前記第3の突起11は、前記第1の側面14が傾斜し、前記回転軸X-Xとは反対側に向く、又は、前記回転軸X-Xを向くアンダーカット17を形成している。
【0218】
実施形態によれば、前記活性化バンド本体部7は、同一のブレーキバンド2に構成された2つのブレーキバンド部であり;ここで
【0219】
互いに平行な側面14、15を有する第3の突起11のみが第1の部分に構成され、前記チャネル底部13に対して鋭角a1を有する第1の側面14が傾斜し、前記回転軸X-Xに面する又は向けるアンダーカット17を形成している。
【0220】
互いに平行な側面14、15を有する第3の突起11は、第2の部分に構成され、前記チャネル底部13に対して鋭角a1を有する第1の側面14を形成することは、前記第1の側面14が傾斜し、前記回転軸X-Xとは反対の側に向くか、またはそれを指しているアンダーカット17を形成することを特徴とする。
【0221】
実施形態によれば、その両側にアンダーカット17を形成する第1の突起10と、チャネル側面15を区画する第2の突起11とは、共にそれぞれのチャネル底部13と鈍角a2を形成し、前記粗プロファイル8に複数のチャネル9を形成するように交互に配置されている。
【0222】
実施形態によれば、前記チャネル9は、0.05mm~0.1mm、好ましくは0.075mmの深さと、0.5mm~0.7mmからなる幅を有する。
【0223】
実施形態によれば、前記突起10又は11又は12は、前記チャネル9の幅と実質的に同一である幅を有する。
【0224】
実施形態によれば、前記チャネル底部13は、実質的に平坦な表面である。
【0225】
実施形態によれば、前記突起10又は11又は12は、突起リッジ18によって外部に区切られ、前記突起リッジ18は、実質的に平坦な表面である。
【0226】
実施形態によれば、前記突起10又は11又は12は、突起リッジ18によって外部に区切られ、前記チャネル側面14、15は、前記突起リッジに、接続半径が0.1mm~0.4mmで接合されている。
【0227】
実施形態によれば、前記チャネル側面14、15は、前記チャネル底部13に接続部で接合され、前記接続部は、0.01mmから0.02mmまでの接続半径を有する。
【0228】
実施形態によれば、前記バンド本体6は、ねずみ鋳鉄または鋼から選択される母材によって形成され、ここで、
【0229】
- 前記少なくとも1つの活性化されたバンド本体部分7を覆う保護ベースコーティング30であって、前記保護ベースコーティング30は、炭化クロムCr3C2およびニッケルクロムNiCr、またはニッケルクロムNiCr、鉄Fe、モリブデンMo、コバルトCo、マンガンMnおよびアルミニウムAlによって形成され、溶射堆積技術、好ましくはHVOF技術High-Velocity Oxygen Fuel、またはHVAF技術 High-Velocity Air FuelもしくはKM技術 Kinetic Metallizationを用いて堆積することによって得られたもの、であって
【0230】
- 前記少なくとも1つの活性化バンド本体部分7を覆う保護表面コーティング3であって、前記保護表面コーティング3は、炭化タングステンWC、鉄Fe、クロムCr、およびアルミニウムAlによって形成され、保護ベースコーティング30上に、粒子形態の炭化タングステンWC、鉄Fe、クロムCr、およびアルミニウムAlを、噴霧堆積法を用いて、好ましくはHVOF法の高速酸素燃料、もしくはHVAF法の高速空気燃料、またはKM法のKinetic Metallizationを用いて堆積させて得られたものである。
【0231】
そして、前記保護ベースコーティング3で被覆された前記少なくとも1つの活性化バンド本体部分7の表面は、前記ベース金属の軟窒化層300によって規定され、ブレーキバンドの中心に対して半径方向または円周方向の断面で粗いプロファイルを有していることを特徴とする。
【0232】
本発明はさらに、先に説明した実施形態のいずれか1つによって規定されるブレーキバンド2と、前記ブレーキバンド2に関連し、車両のホイールハブに接続するように構成されたベル5とを備えるディスクブレーキディスク1に関する。
【0233】
本発明は、さらに、上記のようなディスクブレーキディスク1を備える車両に関する。
【0234】
本発明によるブレーキバンドを得るための方法について以下に説明する。
【0235】
ブレーキバンドの製造方法2は、以下の操作ステップを含む。
【0236】
- 少なくとも1つのブレーキ面2aまたは2bを含むブレーキバンド2を提供すること、ブレーキバンド2はねずみ鋳鉄または鋼またはアルミニウムまたはそれらの合金のバンド本体6で作られるステップ。
【0237】
- 前記少なくとも1つのブレーキ面2aまたは2bの少なくとも一部分を、切り粉の除去による加工またはレーザー彫刻による加工または塑性変形による加工によってその表面粗さを増大させるように構成された加工に付し、活性化されたバンド本体部分7を形成するステップ。
【0238】
- 前記バンド本体6の表面に前記活性化されたバンド本体部分7を生成し、粗いプロファイル8を作るステップ。
【0239】
- 少なくとも一対の突起10及び/又は11及び/又は12によって区画された少なくとも1つの溝又はチャネル9を有する前記粗いプロファイル8を作るステップ。
【0240】
- 前記少なくとも1つのチャネル6を、前記回転軸X-Xを少なくとも部分的に取り囲む経路に沿って延在させるステップ。
【0241】
- 前記少なくとも1つのチャネル6を、その長手方向延長部におけるその断面がチャネル本体13と2つの対向するチャネル側面14、15とからなるようにするステップ。
【0242】
- 前記チャネル底部13と鋭角a1、すなわち90度より小さい角度a1を形成するように、第1のチャネル側面14を作るステップ。
【0243】
- 第2のチャネル側面15を、それが前記チャネル底部13と鈍角a2を形成するように、すなわち90度より大きい角度a2を形成するように作るステップ。
【0244】
- 前記活性化されたバンド本体部分7上に、摩耗に対して上昇した耐性を有する少なくとも1つの材料からなる少なくとも1つの保護コーティング3及び/又は30及び/又は300及び/又は330を堆積させるステップ。
【0245】
本方法のさらなる実施形態によれば、前記活性化されたバンド本体部分7の表面上に表面層300を軟窒化するさらなる以下のステップが構成されている。
【0246】
前記軟窒化表面層300上に、粒子状で、炭化クロムCr3C2およびニッケルクロムNiCr、またはニッケルクロムNiCr、鉄Fe、モリブデンMo、コバルトCo、マンガンMn、アルミニウムAl、で構成される材料を堆積させるステップ。
【0247】
溶射堆積技術、好ましくはHVOF High-Velocity Oxygen Fuel、またはHVAF technique High-Velocity Air Fuel、またはKM technique Kinetic Metallizationを用いて、前記軟窒化層300を介在させて前記活性バンド本体部分7の表面を覆う保護ベースコーティング30を形成するステップ。
【0248】
前記保護ベースコーティング30上に、炭化タングステンWCと鉄FeとクロムCrとアルミニウムAlとからなる粒子状の材料を、溶射堆積法、好ましくはHVOF High-Velocity Oxygen Fuel、またはHVAF technique High-Velocity Air FuelまたはKM technique Kinetic Metallizationを用いて堆積し、炭化タングステンWCと鉄FeとクロムCrとアルミニウムAlとからなり、前記活性バンド体部7の表面を覆う保護表面コーティング3 を形成するステップ。
【0249】
本発明は、前記活性化されたバンド本体部分7を製造するための工具21であって、少なくとも1つの切刃22を備え、この切刃22は、少なくとも1つの切刃リッジ24、第1の切刃側面25及び第2の切刃側面26を有する少なくとも1つの切刃プロジェクション23を規定する粗いプロファイルからなる工具に関するものである。
【0250】
前記カッティングエッジリッジ24に平行に評価され、前記カッティングエッジは、最大チャネル幅16より小さい最大カッティングエッジプロジェクション幅27を有する。
【0251】
実施形態によれば、前記工具21は、複数の切刃突起28を並べて構成される。
【符号の説明】
【0252】
1 ブレーキディスク
2 ブレーキバンド
2a対向するブレーキ面
2b対向するブレーキ面
3 表面保護膜
300 窒素浸炭層
330 酸化処理された表層
4環状部又は固定部
5 接続要素又はベル
6 バンド本体
7 活性化バンド本体部
8 粗面形状
9 溝
10 両面にアンダーカットを形成する第一の突起部
11 第2の突起:溝の底面と鈍角をなす溝の側面を区切る。
12 第3の突起:チャンネル底面と鋭角をなす第1のチャンネル側面と、チャンネル底面と鈍角をなす第2の反対側チャンネル側面を区画する。
13 チャンネル底面
14 前記チャンネル底面と鋭角をなす第一のチャンネル側面
15 前記チャンネル底面と鈍角をなす第二のチャンネル側面
16 最大チャンネル幅
17 アンダーカット
18 プロジェクションリッジ
20 複数個の突起
21 工具
22 切れ刃
23 刃先突起
24 切刃稜線
25 切刃の第1面
26 切刃第2面
27 カッティングエッジ プロジェクション 最大幅
30 保護膜
A-A ブレーキバンド又はブレーキディスクの回転軸
X-X 回転軸又は軸方向
R-R ラジアル方向
C-C接線方向
D1 内輪の直径
D2 バンド外径
【国際調査報告】