(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-20
(54)【発明の名称】ガラスセラミック物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20230213BHJP
C03B 32/02 20060101ALI20230213BHJP
【FI】
C03C15/00 Z
C03B32/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537698
(86)(22)【出願日】2020-11-19
(85)【翻訳文提出日】2022-08-16
(86)【国際出願番号】 EP2020082649
(87)【国際公開番号】W WO2021121846
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504374919
【氏名又は名称】ユーロケラ ソシエテ オン ノーム コレクティフ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】ティボー ゲドン
(72)【発明者】
【氏名】ミシュリーヌ プリシャール
【テーマコード(参考)】
4G015
4G059
【Fターム(参考)】
4G015EA02
4G059AA01
4G059AA15
4G059AB11
4G059AC02
4G059BB04
4G059BB14
(57)【要約】
本発明は、引掻き傷、油跡、汚れ付着、及び光散乱に対する抵抗特性を呈するガラスセラミック物品の製造方法に関する。ガラスセラミック物品は表面を含み、表面の表面算術粗さは2μm~7μm、好ましくは2μm超かつ6μm未満、好ましくは3μm~6μm、具体的には3μm~5μmであり、前記粗さは化学表面処理を用いて得られる。ガラスセラミック物品は、調理面として、かつ/又は食材の調製のための表面として使用するのに特に適している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスセラミック物品の製造方法であって、
前記方法が下記を含み:
- ガラスセラミックを形成することができるガラスのセラミック化熱処理、及び
- 前記セラミック化熱処理の前及び/又は後の前記ガラスの化学表面処理、
前記化学表面処理が、前記熱処理の後に、前記表面の算術的粗さが2μm~7μm、好ましくは2μm超かつ6μm未満、さらには3μm~6μm、具体的には3μm~5μmであるように実施される、ガラスセラミック物品の製造方法。
【請求項2】
更に、セラミック化熱処理後に、前記表面の合計山-谷粗さが10μm~60μm、好ましくは20μm~50μmであるようにして、前記化学表面処理を実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガラスがアルミノケイ酸塩、好ましくはアルミノケイ酸リチウムを基材としている、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記化学表面処理が、酸溶液、好ましくはフッ化水素酸を基材とする酸溶液を使用した化学攻撃である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
更に、前記セラミック化熱処理工程の前及び/又は後に、前記表面の少なくとも1つの領域上でのスクリーン印刷工程を含む、請求項1~4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~5までのいずれか1項に記載の方法によって得ることができるガラスセラミック物品。
【請求項7】
30未満、好ましくは25未満、さらに20未満の明度L
*を呈する、請求項6に記載のガラスセラミック物品。
【請求項8】
0~0.4のパラメータa
*値、-1~0.5のパラメータb
*値を呈する、請求項6又は7に記載のガラスセラミック物品。
【請求項9】
60°で、1.5GU~10GU、好ましくは2GU~10GUの光沢を呈する、請求項6又は7に記載のガラスセラミック物品。
【請求項10】
更に、スクリーンを形成する作業面上での投射又は透過による光ディスプレイのための少なくとも1つの光源を含む、請求項6~9のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項11】
前記物品がガラスセラミックプレートである、請求項6~10のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品。
【請求項12】
請求項6~11のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品によって形成されたガラスセラミックプレートを含む、調理器。
【請求項13】
食物の調製のための調理台の全て又は部分としての、請求項6~12のいずれか1項に記載のガラスセラミック物品の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引掻き傷、油跡、汚れ付着、及び光散乱に対する抵抗特性を呈する表面を含むガラスセラミック物品の製造方法に関する。ガラスセラミック物品は、調理面として、かつ/又は食材の調製のための表面として使用するのに特に適している。
【背景技術】
【0002】
ガラスセラミックは、結晶相又は結晶が分散された非晶相を含む複合材料である。ガラスセラミックは大まかに言えば、「マザーガラス」と呼ばれる、ガラスセラミックを形成し得るガラスに熱処理を施し、これによりその体積内の結晶を制御された形で結晶化することによって得られる。ガラスを部分的に結晶化するこのような処理は「セラミック化処理」又は単に「セラミック化」と呼ばれる。ガラスセラミックの最終的な物理化学特性は、マザーガラスの組成及びセラミック化処理に依存する。
【0003】
ガラスセラミックはその美的品質及び物理化学的特性、具体的には低い熱膨張率、及び耐熱衝撃性に関して、数多くの分野で高く評価されている。これらは具体的にはキッチン設備内で、具体的にはプレートの形態を成して、例えば調理器における調理面、ガラスオーブン壁、及び調理台の作業面、食材の調製のための作業テーブル又は作業ユニットとして使用される。これらの用途において、ガラスセラミックは概ねアルミノケイ酸リチウムを基材とする。
【0004】
これらの用途に応じて、ガラスセラミック物品は数多くの付属品、例えば制御装置、センサ、及びディスプレイを備えることができる。これらは、使用者と、これらの物品が組み込まれた器具との間の相互作用を可能にする。
【0005】
例えば、これらは種々の電気的及び/又は電子的なデバイス、例えば加熱手段及び/又は照明手段を作動させ制御するための制御装置、例えばタッチ操作式又は光学式のキーを備えることができる。これらはまた、具体的には認知光パターン(例えばアイコン又は数字)の投射、具体的には透過のための光ディスプレイを含むこともできる。この認知光パターンはこれらのデバイスのある特定の値(例えば加熱デバイスの加熱出力)を表すか、又は物品の物理化学的状態にも関連する(例えば高温領域の信号化)。
【0006】
これらは、光センサ及び/又は熱センサを備えることもできる。これらのセンサは例えば、表面上の要素、例えば溢れた液体を検出すること、又は物品の表面温度を測定すること、そして音響信号又はディスプレイ領域を介した視覚信号によって、使用者に警告を発することを可能にする。
【0007】
ガラスセラミック物品の表面と使用者との相互作用、具体的には触覚相互作用、並びに液体又は固形食品成分及び機械的調理用具(例えば包丁の刃)の取り扱いは、表面との接触個所に種々の見場の悪い跡、具体的には指紋を出現させる。これらはまたその上に汚れ、例えば物品表面上の乾いた又は焦げた食材の残り、又は引掻き傷をもたらすおそれもある。
【0008】
これらの跡及び汚れは、研磨製品を使用して使用者によって繰り返し清掃しなければならない。この行為自体が別の引掻き傷を招く。これらの種々の問題点は、艶消しされた又は光沢のある暗色作業面を含むガラスセラミック物品上で特に顕著である。
【0009】
指紋及び汚れを回避するために、そして引掻き傷の出現又は可視性を制限するために、疎水特性又は疎油特性を有する、種々の有機又は無機の、そしてテクスチャ化型又は非テクスチャ化型の被膜を使用することが知られている。
【0010】
国際公開第2019158881号パンフレット及び国際公開第2019158882号パンフレットには、指紋の可視性を制限する小さな粗さのエナメルが記載されている。
【0011】
国際公開第2013190230号パンフレットには、テクスチャ化型層、具体的にはゾルゲル層を備えた表面を含むガラスセラミック物品が記載されている。テクスチャは規則的なパターン、具体的には幾何学的パターンによって形成されている。このパターンの高さは2~100μmである。
【0012】
米国特許第6299940号明細書には、指紋及び引掻き傷の可視性を制限するのを可能にするテクスチャ化型セラミック塗料が記載されている。
【0013】
特開第2007170754号公報には、光散乱特性と乳白色外観とをその上に与えるために、0.1μm~20μmの粗さを呈する作業面を含むガラスセラミック物品が記載されている。この物品は、機械的及び化学的表面処理の組み合わせを用いて得られる。
【0014】
国際公開第2014070869号パンフレットには、粗さ(RMS)が0.01μm~1μmの作業面を得ることにより光沢を低減するのを可能にする、ガラスセラミック物品の化学攻撃による製造方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
任意にテクスチャ化された被膜の使用に基づく技術的解決手段は、いくつかの不都合な点を呈する。被膜はあまり耐久性がないことがある。具体的には、被膜は、ガラスセラミック物品の使用中、繰り返しの熱的機械的応力の作用下で劣化し得る。また、特にエナメル系被膜の場合、ガラスセラミック物品の作業面全体を処理することも不可能である。
【0016】
従来技術において記載されたような、被膜の補助を伴う又は伴わないテクスチャ化型表面の粗さは、指紋及び引掻き傷の可視性を低減し得ることも観察されてはいるものの、そのようにすると、作業面の清掃しやすさ、光ディスプレイによって透過される光パターンの可視性、及び/又は美的に鮮鋭な装飾パターン又は機能パターンでスクリーン印刷することによってエナメルを続いて堆積することの可能性が損なわれる結果となる。
【0017】
艶消し作業面を呈するガラスセラミック物品の場合、これらのテクスチャ化型表面の粗さは光沢の偶発的かつ時期尚早の変化をもたらすこともある。これらの変化は、ガラスセラミック物品の美的レンダリング(esthetic rendering)に不都合である。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明はこれらの問題点を解決する。本発明は、請求項1に記載されたガラスセラミック物品の製造方法、及びこのような方法によって得られたガラスセラミック物品に関する。従属請求項は有利な実施態様である。
【0019】
予期せぬ光沢変化によって艶消し面の美的レンダリングに不都合な影響を及ぼすことなしに、特定の粗さが引掻き傷、油跡、汚れ付着、及び光散乱に対する抵抗特性を、ガラスセラミック物品表面上に同時に与えるのを可能にすることが驚くべきことに判った。
【0020】
ガラスセラミック物品の表面の粗さが、表面被膜を加えることなしに得られ、換言すれば、粗面はガラスセラミック物品に対して固有であることに注目することが重要である。
【0021】
粗さが化学的な表面処理を用いて得られることに注目することも重要である。その理由は、同等の粗さ値に関して、他の表面処理法、具体的には機械的な方法、例えばサンドブラストによって得られた粗さは、上記効果及び利点を得るのを可能にはしないことが全く驚くべきことに判ったからである。単なる仮説にすぎないが、1つの考えられ得る説明は、化学的表面処理によって得られる粗さを形成するレリーフは、機械的表面処理によって得られる粗さを形成するレリーフよりも突起が小さいということである。一般に、化学的表面処理によって得られた粗さは不規則であり、換言すればこれは規則的及び/又は幾何学的パターンから形成されない。
【発明の効果】
【0022】
本発明はこのように、有機又は無機の、そしてテクスチャ化型又は非テクスチャ化型の被膜の使用に基づく従来技術の解決手段と比較していくつかの利点を提供する。
【0023】
具体的には高温領域における劣化/層間剥離のリスクがなくなる。それというのも被膜が使用されないからである。エナメルスクリーン印刷とは異なり、ガラスセラミック物品上にその作業面全体にわたって粗さを与えることができるので、実現がさらに容易になる。
【0024】
さらに、被膜の使用又は不使用に基づく従来技術の解決手段と比較して、ガラスセラミック物品の表面に固有の又は表面内に内在するこのような特定の粗さは、前記表面の熱特性及び機械特性に不都合な影響を及ぼさない。
【0025】
あらゆる汚れも容易に掃除できるようになる。装飾被膜又は機能被膜、例えばエナメル又はラスターを粗面上にスクリーン印刷することによって続いて鮮鋭で正確な堆積が可能になる。光沢の変化を最小限に抑えることによって、艶消し面の美的レンダリングが維持される。
【0026】
最後に、光ディスプレイによって粗面上に透過された光パターンは、使用者にとって視覚的により快適であるように先鋭であり続ける。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】ガラスセラミック物品の粗面上の引掻き傷の可視度の平均値の変化が、前記表面の算術的粗さ値の関数として
図1に示されている。
【
図2】ガラスセラミック物品の粗面上の少なくとも5つの指紋の可視度の平均値の変化が、前記表面の算術的粗さ値の関数として
図2に示されている。
【
図3】ガラスセラミック物品の粗面上のエナメル装飾線の解像度の変化が、前記表面の算術的粗さ値の関数として
図3に示されている。
【
図4】ガラスセラミック物品の粗面の60°で測定された光沢の変化が、前記表面の算術的粗さ値の関数として
図4に示されている。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の記述の文脈において、以下の定義及び慣例が参照される。
【0029】
符号Raで示された算術的粗さは、規格ISO 4287において定義されているように、表面プロフィールの算術偏差平均を意味するものと理解される。
【0030】
符号Rtで示される合計山-谷粗さは、規格ISO 4287において定義されているように、高さの最大値と表面プロフィールの深さの最大値との差を意味するものと理解される。
【0031】
ガラスセラミック物品の表面の固有又は内在粗さは、表面被膜のない、物品のガラスセラミック材料自体の粗さを意味するものと理解される。
【0032】
ガラスセラミック物品は、好ましくは結晶相又は結晶が分散された非晶相を含む、好ましくはアルミノケイ酸塩を基材とする、具体的にはケイ酸リチウムを基材とする複合材料を意味するものと理解される。ガラスセラミックは「マザーガラス」と呼ばれる、ガラスセラミックを形成し得るガラスに熱処理を施し、これによりその体積内の結晶を制御された形で結晶化することによって得られる。
【0033】
光沢は、規格ISO 2813で定義されたように、60°で測定された光沢を意味するものと理解される。光沢は一般に、GUで示される光沢単位で表される。
【0034】
本発明による製造法は下記工程、すなわち
- ガラスセラミックを形成することができるガラスのセラミック化熱処理と、
- 前記セラミック化熱処理の前及び/又は後の前記ガラスの表面の化学処理と
を含み、前記化学表面処理が、前記熱処理の後に、前記表面の算術的粗さが2μm~7μm、好ましくは2μm超かつ6μm未満、さらには3μm~6μm、具体的には3μm~5μmであるように実施される。
【0035】
化学表面処理はセラミック化熱処理の前及び/又は後に行うことができる。
【0036】
第1実施態様では、前記方法が、
- ガラスセラミックを形成することができるガラスのセラミック化熱処理と、
- 前記セラミック化熱処理前の前記ガラスの表面の化学処理と
を含み、
前記化学表面処理が、前記熱処理の後に、前記表面の算術的粗さが2μm~7μm、好ましくは2μm超かつ6μm未満、さらには3μm~6μm、具体的には3μm~5μmであるように実施される。
【0037】
第2実施態様では、前記方法が、
- ガラスセラミックを形成することができるガラスのセラミック化熱処理と、
- 前記セラミック化熱処理後の前記ガラスの表面の化学処理と
を含み、
前記化学表面処理が、前記熱処理の後に、前記表面の算術的粗さが2μm~7μm、好ましくは2μm超かつ6μm未満、さらには3μm~6μm、具体的には3μm~5μmであるように実施される。
【0038】
第3実施態様では、前記方法が、
- ガラスセラミックを形成することができるガラスのセラミック化熱処理と、
- 前記セラミック化熱処理の前及び後の前記ガラスの表面の化学処理と
を含み、
前記化学表面処理が、前記熱処理の後に、前記表面の算術的粗さが2μm~7μm、好ましくは2μm超かつ6μm未満、さらには3μm~6μm、具体的には3μm~5μmであるように実施される。
【0039】
これら3つの実施態様のそれぞれにおいて、前記化学表面処理が、前記熱処理の後に、前記表面の算術的粗さが2μm~7μm、好ましくは2μm超かつ6μm未満、さらには3μm~6μm、具体的には3μm~5μmであるように実施される。換言すれば、化学処理が熱処理の前に行われるか、後に行われるか、又は前及び後に行われるかとは無関係に、算術的粗さは、ガラスセラミックの表面の算術的粗さに相当するものであり、ガラスの算術的粗さには相当しない。
【0040】
第2の好ましい実施態様では、化学表面処理は結晶化熱処理の前に行われる。引掻き傷、油跡、汚れ付着、及び光散乱に対する抵抗特性がこのようにするとさらに改善されることが判っている。
【0041】
この実施態様では、粗さはこのように、ガラスセラミック物品のマザーガラスに化学表面処理を施すことによって、すなわちガラスセラミック物品を形成するのを可能にするマザーガラスにセラミック化熱処理を施す前に得られる。粗さ値は、セラミック化処理後のガラスセラミック物品の粗面の値である。
【0042】
1つの実施態様では、前記化学処理が、セラミック化熱処理後に、前記表面の合計山-谷粗さが10μm~60μm、好ましくは10μm~50μm、さらには20μm~50μm、具体的には20μm~40μmであるように実施される。粗面の清掃可能性はさらに改善され、美的に鮮鋭な装飾パターン又は機能パターンでスクリーン印刷することによってエナメルを続いて堆積することがさらに容易になる。
【0043】
ガラスセラミックを形成し得るガラスは、好ましくはアルミノケイ酸塩を基材とする、具体的にはケイ酸リチウムを基材とする。このようなガラスは、算術的表面粗さが2μm超かつ7μm未満、好ましくは3μm~6μm、具体的には3μm~5μmである表面を呈するガラスセラミック物品を形成するのに特に適しており、そして前記粗さは、マザーガラスの表面の化学処理によって得られることが判っている。
【0044】
処理のために使用される化学溶液の性質、処理温度、及び処理時間は、ガラスセラミック物品のマザーガラスを形成する材料の性質に依存する。
【0045】
上述のように、本発明の1つの利点は、エナメルスクリーン印刷とは異なり、ガラスセラミック物品上にその作業面全体にわたって粗さを与えることができるので、実現がさらに容易になることである。ガラスセラミック物品の作業面の一部にだけ粗さを与えることもできる。この特徴は、例えば化学表面処理中にマザーガラスの表面に保護マスクを貼付することにより、前記表面の所定の領域上にレジストを形成することによって得ることができる。
【0046】
1実施態様では、前記化学表面処理が、好ましくはフッ化水素酸を基材とする酸溶液を使用した化学攻撃である。この実施態様は、アルミノケイ酸塩を基材とする、具体的にはアルミノケイ酸リチウムを基材とするガラスセラミック物品のために特に有利である。
【0047】
前記酸溶液のフッ化水素酸の重量含有率は有利には1重量%~20重量%であってよい。一般に、重量含有率が1%未満である場合、化学表面処理の時間は極めて長く、工業用途ではあまり有利ではない。重量含有率が20%超である場合、化学表面処理はあまりにも急速であり、制御が困難なことがある。溶液の温度は好ましくは40℃未満、さらには30℃未満であることにより、化学表面処理がやはりあまりにも急速で制御が難しくなることを防止する。
【0048】
本発明の別の利点は、装飾被膜又は機能被膜、例えばエナメル又はラスターをガラスセラミック物品の粗面上にスクリーン印刷することによって続いて鮮鋭で正確な堆積が可能になることである。この意味において、この方法は更に、セラミック化熱処理工程の前及び/又は後に、化学表面処理が実施されるマザーガラス表面の少なくとも1領域上でスクリーン印刷工程が実施される。このスクリーン印刷領域は例えば、鉱物エナメル、有機及び/又は無機塗料又はラスターを含むことができる。
【0049】
スクリーン印刷はスクリーン印刷法によって堆積された、任意の機能的及び/又は装飾的な、そして有機及び/又は鉱物被膜を意味するものと理解され、この方法は、作業面上に被膜を堆積するために具体的には適宜なスクリーン、特に布スクリーンを使用することを伴う。また、非接触デジタル印刷法、例えば鉱物インクジェット印刷を用いて被膜を堆積することも可能である。この方法は、ガラスセラミック支持体上に複雑な装飾をエナメル処理するのに特に適している。
【0050】
本発明の1つの利点は、艶消し面の美的レンダリングを維持することである。具体的には、本発明の方法を用いて得られたガラスセラミック物品の表面の60°で測定された光沢は、1.5GU~10GU、具体的には2GU~10GUである。この範囲外の光沢値が、艶消し面の美観を損なうことが判っている。10GUを超えると、表面は光沢が強すぎ、これを下回ると使用者の視覚快適性にとって艶消し効果が強くなりすぎる。
【0051】
本発明はまた、上記ガラスセラミック物品の製造方法を用いて得ることができるガラスセラミック物品に関する。
【0052】
本発明の効果及び利点は、ガラスセラミック物品が弱透過性であり、散乱性がさほど高くなく、暗色(明度L*によって定義される)であり、具体的には黒色又は暗褐色である場合に特に際立つ。にもかかわらずガラスセラミック物品は、下側に位置するエレメントを隠しながら、認知光パターン、すなわち連携する電気及び/又は電子デバイスの所定の操作パラメータ値を表すか又は物品の物理化学的状態にも関連する認知光パターンを含む光ゾーンの透過におけるディスプレイになおも適している。
【0053】
この意味において、本発明の特定の実施態様では、ガラスセラミック物品は、30未満、好ましくは25未満、さらに20未満の明度L*を呈する。
【0054】
暗色ガラスセラミック物品は好ましくは100未満、有利には93超の不透明度係数を呈することにより、具体的には、本発明の1実施態様では下側に位置する源による透過における前記ディスプレイを可能にし、又は投射によるディスプレイを可能にする。不透明度係数は式f = 100 - ΔE*によって割り出され、色変化ΔE*を測定することによって評価される(Byk-Gardner Color Guide 45/0比色計を使用して実施される反射比色分析)。色変化ΔE*は、不透明黒色背景上に配置された基材において、基材の上面上の反射時に測定された色と、不透明白色背景上に配置された基材の色との間の差に相当する(CIEによって1976年に確立された比色分析システムにおけるΔE* = ((LB
*-LW
*)2 + (aB
*-aW
*)2 + (bB
*-bW
*)2)1/2, (LW
*、aW
*、及びbW
*は、白色背景上の第1測定の比色分析座標であり、そしてLB
*、aB
*、及びbB
*は、黒色背景上の第2測定のものである))。
【0055】
黒色ガラスセラミック物品は概ね10未満の明度L*、30%未満のぼけ(blurring)、及び10%未満の光透過率TL(D65)を呈する。TL(D65)は、規格ISO 9050:2003及び発光体D65にしたがって光透過スペクトルから計算される。
【0056】
好ましくは、暗色ガラスセラミック物品は、0~0.4のパラメータa*値と、-1~0.5のパラメータb*値とを呈する。
【0057】
本発明はまた、光ディスプレイによって粗面上に透過された光パターンが、使用者にとって視覚的により快適であるように先鋭であり続けるのを可能にするので有利である。その結果として、本発明によるガラスセラミック物品は更に、スクリーンを形成する表面上の投射又は透過による光ディスプレイのための少なくとも1つの光源を含むことができる。ディスプレイは例えば、LEDタイプの光ディスプレイ、具体的にはアルファベット及び数字を表示するための7セグメントディスプレイであってよい。
【0058】
本発明によるガラスセラミック物品の作業面は、引掻き傷、油跡、汚れ付着、及び光散乱に対する抵抗特性を有する。本発明は、ガラスセラミックプレートの形態を成すガラスセラミック物品に特に適している。その結果、本発明はまた、前記実施態様のいずれか1つに基づくガラスセラミック物品によって形成されたガラスセラミックプレートを含む調理器に関する。加熱素子として、器具は例えば放射熱、又はハロゲン熱源、又は誘導加熱素子を含むことができる。
【0059】
本発明はまた、前記実施態様のいずれか1つに基づくガラスセラミック物品を、食物の調製のための調理台の全て又は一部として使用することに関する。作業台は例えば、キッチン用家具の要素の一部、又は調理器の表面要素を形成することができる。前記表面要素は食物の調製を可能にする機能を有する。
【0060】
本発明の特徴及び利点を下記実施例によって以下に説明する。
【0061】
ガラスセラミック物品のいくつかの実施例を本発明に基づいて製造し、これに対して他の例は本発明に基づいては製造せず、これにより本発明の効果及び利点を説明するために対抗例として役立った。
【0062】
これらの実施例及び対抗例において、物品は国際公開第2012156444号パンフレットに記載され、KeraBlack(登録商標)ブランドで販売されているガラスセラミックプレートのマザーガラスプレートである。プレートの厚さは6mmである。
【0063】
粗さは、セラミック化熱処理前に、この事例ではフッ化水素酸を基材とする溶液を使用して、プレートのマザーガラスの表面に化学表面処理を施すことにより得られた。
【0064】
種々異なる粗さ値を得るために、プレートの作業面(すなわち、調理器内の調理面として使用されるように意図された表面)を、異なる温度及び異なる継続時間で異なるpH値のフッ化水素酸及びフッ化アンモニウムの溶液に晒した。使用した酸溶液中のフッ化水素酸の重量含有率は1重量%~20重量%である。これらの温度は40℃未満である。
【0065】
粗さ値は、規格ISO 4287にしたがって4mmの評価長にわたってMitutoyo SJ401機械トレーサを使用して測定した。
【0066】
それぞれの実施例及び対抗例に、引掻き傷、油跡、汚れ付着、及び光散乱に対する抵抗特性の種々異なる評価試験を施した。
【0067】
引掻き傷に対する抵抗特性は以下のプロトコルを用いて評価した。物品の粗面をほぼ5N/cm2の圧力で、炭化ケイ素から成るP240研磨ディスクの下に置く。続いてほぼ4~5cmの距離にわたって、ディスクをこの状態で一度移動させる。ガラスセラミック物品の粗面を次いで300~400ルクスの出力の白色照明下に置き、次いでほぼ60°の観察角度のもとで観察する。引掻き傷の可視性を下記度数スケールにもとづいて評価する。
1:高度に可視である引掻き傷
2:可視である引掻き傷
3:かろうじて可視である引掻き傷
4:可視でない引掻き傷
【0068】
実施例及び対抗例に関して得られた結果を
図1のグラフに表す。このグラフは、引掻き傷の可視度dの平均値の変化を、前記物品の粗面の算術的粗さの値の関数として表している。
【0069】
図1が明示しているように、表面算術的粗さRaが1以下であると、ガラスセラミック物品の大部分は3を遥かに下回る平均を呈する。すなわち、引掻き傷は可視又は高度に可視である。他方において、算術的粗さRaが2μm超の場合には、全てのガラスセラミック物品は、3~4の可視度平均を呈する。すなわち、引掻き傷はかろうじて可視であるか又は可視でない。
【0070】
油跡に対する抵抗特性は下記プロトコルを用いて評価した。ガラスセラミック物品の粗面を裸の指で触れることにより、指紋を生成する。続いて表面を300~400ルクスの出力の白色照明下に置き、次いでほぼ60°の観察角度のもとで観察する。油跡、具体的には指の跡の可視性を下記度数スケールにもとづいて評価する。
0 可視でない指紋
1 執拗に観察することによって可視である指紋
2 数秒間観察すれば可視である指紋
3 すぐに可視である指紋
4 参照マークと同様に可視である指紋
5 参照マークよりも高度に可視である指紋
【0071】
少なくとも5つの指跡の可視性を評価し、次いで平均値を計算する。ガラスセラミック物品の作業面が、この平均値が1未満であると、油跡に対する美的に申し分のない抵抗特性を呈すると考えられる。
【0072】
実施例及び対抗例に対して得られた結果を
図2のグラフに表す。このグラフは、少なくとも5つの指紋の可視度dの平均値の変化を、前記物品の粗面の算術的粗さの値の関数として表している。
【0073】
図2が明示しているように、表面算術的粗さRaが2以下であると、これらの可視度平均は高度に可視であり、ガラスセラミック物品の大部分は1.5を大きく上回る平均を呈する。他方において、算術的粗さRaが2超の場合には、全てのガラスセラミック物品は、2.5未満、さらには1.5未満又は1未満の可視度平均を呈する。
【0074】
汚れ付着に対する抵抗特性は以下のプロトコルを用いて評価した。ガラスセラミック物品をまず最初に調理器上に挿入した。調理器内ではその作業面は調理面として役立つ。穀物又は肉を含む片手鍋を物品の作業面上に置き、次いで最大出力まで加熱し、次いでこの状態で3~4分にわたって保持する。この操作を、穀物又は肉を含む片手鍋を使用して、ほぼ5~10回連続して繰り返す。スクレーパを用いて手で、そして特に調理台を掃除するために設計され、商業的に入手可能な洗剤、例えばVitroClen(登録商標)ブランドのもとで販売されている洗剤を使用して表面が掃除される可能性によって、汚れ度を評価する。算術的粗さ値が6μm超である粗面を呈するガラスセラミック物品は掃除できないことが判った。他方において、2μm~6μm、そして具体的には3μm~5μmの算術的粗さを呈する作業面は容易に掃除することができた。
【0075】
光散乱に対する抵抗特性は以下のプロトコルを用いて評価した。光出力1600Cd/m2の7セグメントを有するLEDタイプの光ディスプレイを、ガラスセラミック物品の下に置くことにより、これらの光が物品を透過し、ディスプレイが作業面上に生成されるようになる。ぼけ効果を視覚的に評価する。
【0076】
この評価中、作業面の算術的粗さが6μm超であるガラスセラミック物品全てが、挿入された光ディスプレイによって光パターンを透過させる際にディスプレイにとって許容し得ないぼけレベルを呈した。
【0077】
ガラスセラミック物品の粗い表面上に美的に鮮鋭な装飾パターン又は機能パターンでスクリーン印刷することによってエナメルを続いて堆積することの可能性を、エナメル装飾線の解像度を測定することにより評価した。これを目的として、まずスクリーン印刷によって太さ6μmのエナメル線を堆積し、次いでエナメルの乾燥及び焼成の後(焼成後の線の太さは3μmである)、エナメル領域/非エナメル領域の境界を光学顕微鏡を使用して測定する。続いて、この測定された長さと、完全な直線である場合に同じ境界の理論上の長さとの比を計算する。符号rで示されるこの比は、エナメル装飾線の解像度に相当する。解像度はこの値が1.6未満、好ましくは1.5未満のときに美的に許容し得るものとみなされる。
【0078】
実施例及び対抗例に関して得られた結果を
図3のグラフに表す。作業面上のエナメル装飾線の解像度rの変化を、前記表面の算術的粗さの値の関数としてこのグラフに表している。
【0079】
図3のグラフが明示しているように、表面算術的粗さRaが7μm以下、さらには6μm未満であると、美的に極めて申し分のない解像度が得られる。
【0080】
Byk Gardner社からSpectro-Guide分光計を使用して規格ISO 2813にしたがって60°で光沢を測定した。実施例及び対抗例の作業面に関して得られた結果を
図4のグラフに表す。作業面の、GUで表される光沢の変化を、前記表面の算術的粗さの値の関数としてこのグラフに表している。
【0081】
図4のグラフが明示しているように、粗さが2μm~7μmであるときに光沢は1.5GU~10GU、主として2GU~10GUである。
【0082】
数多くの実施例及び対抗例の結果を下記表1にまとめる。規格において定義された粗さパラメータRz,Rq,Rt,Rp及びRvの値もこの表に示している。
【0083】
【0084】
ガラスセラミック物品の別の実施例を本発明にしたがって製造した。この実施例のために、ガラスセラミックプレートの表面に直接に被着された、フッ化水素酸を基材とする酸溶液を使用して、すなわち、セラミック化熱処理をすでに施されているプレート、例えば国際公開第2012156444号パンフレットに記載されてKeraBlack+(登録商標)ブランドのもとで販売されているプレートを使用して、化学表面処理を行った。プレートの厚さは6mmである。
【0085】
プレートの粗さは、規格ISO 4287にしたがって4mmの評価長にわたってMitutoyo SJ401機械トレーサを使用して特徴付けた。その算術的粗さRaは2.02μmであり、そしてその合計山-谷粗さRtは16μmである。
【0086】
続いてこのプレートには、引掻き傷、油跡、汚れ付着、及び光散乱に対する抵抗特性の、上述のものと同じ評価試験を施した。
【0087】
引掻き傷の可視度dの平均値は3超である。少なくとも5つの指紋の可視度dの平均は1未満である。エナメル装飾線の解像度は1.5未満である。プレートはやはり容易に清掃することができ、そしてこのプレートを、光出力1600Cd/m2の7セグメントを有するLEDタイプの光ディスプレイと、これが下に置かれた状態で一緒に使用すると、ぼけをほとんど呈しない。
【0088】
これらの実施例及び対抗例が明示しているように、本発明によるガラスセラミック物品は、引掻き傷、油跡、汚れ付着、及び光散乱に対する抵抗特性を同時に有する粗面を呈し、艶消し面の美的レンダリングを維持するのを可能にする。
【国際調査報告】