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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-21
(54)【発明の名称】改良型創傷ケアデバイス
(51)【国際特許分類】
   A61L 26/00 20060101AFI20230214BHJP
   A61L 33/06 20060101ALI20230214BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20230214BHJP
   A61L 29/08 20060101ALI20230214BHJP
   A61L 15/22 20060101ALI20230214BHJP
   A61K 47/56 20170101ALI20230214BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20230214BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230214BHJP
【FI】
A61L26/00
A61L33/06 300
A61L31/14 300
A61L29/08 100
A61L15/22 100
A61K47/56
A61P17/02
A61K9/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022534387
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(85)【翻訳文提出日】2022-07-13
(86)【国際出願番号】 SE2020051223
(87)【国際公開番号】W WO2021126063
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】1951495-9
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522224748
【氏名又は名称】アムフェリア エービー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クマー ラジェスカラン,アナンド
(72)【発明者】
【氏名】アテフィクタ,サバ
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】ブロムストランド,エドヴィン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076BB31
4C076CC32
4C076EE23A
4C076EE59
4C076FF70
4C081AA07
4C081AA12
4C081AC08
4C081BA11
4C081CA181
4C081CA182
4C081CB041
4C081CB042
4C081CC04
4C081CD112
4C081DA12
4C081DC03
4C081EA05
4C081EA06
(57)【要約】
創傷の止血に使用するための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物であって、以下:第1の架橋性両親媒性成分であって、第1の両親媒性成分が、その化学的に架橋された状態において、リオトロピック液晶であり、かつ疎水性ドメイン及び親水性ドメインの秩序ナノ構造を有し、ヒドロゲルが、親水性ドメイン及び/又は疎水性ドメインに共有結合した抗菌剤を含む、第1の架橋性両親媒性成分を含む、抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷の止血に使用するための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物であって:
第1の架橋性両親媒性成分を含み、前記第1の両親媒性成分が、その化学的に架橋された状態において、リオトロピック液晶であり、かつ疎水性ドメイン及び親水性ドメインの秩序ナノ構造を有し、前記ヒドロゲルが、前記親水性ドメイン及び/又は前記疎水性ドメインに共有結合した抗菌剤を含む、
抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物。
【請求項2】
前記抗菌剤が、37個未満のアミノ酸長を有するproline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)由来抗菌ペプチドである、請求項1に記載の使用のための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物。
【請求項3】
前記抗菌ペプチドが、20個未満のアミノ酸を含む抗菌ペプチドであり、アミノ酸配列RRPRPRPRPに対して、少なくとも90%、例えば95%の同一性を有する、請求項2に記載の使用のための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物。
【請求項4】
前記抗菌ペプチドが、RRP9W4Nである、請求項2又は3のいずれか1項に記載の使用のための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物。
【請求項5】
前記組成物が、溶液中の両親媒性ヒドロゲル粒子の懸濁液である、請求項1から4のいずれか1項に記載の使用のための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物。
【請求項6】
凝固障害に罹患している患者における創傷の止血に使用するための、請求項1から5のいずれか1項に記載の使用のための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物。
【請求項7】
抗菌ヒドロゲル分散液であって:
第1の架橋性両親媒性成分を含み、前記第1の両親媒性成分が、その化学的に架橋された状態において、リオトロピック液晶であり、かつ疎水性ドメイン及び親水性ドメインの秩序ナノ構造を有し、前記ヒドロゲルが、前記親水性ドメイン及び/又は前記疎水性ドメインに共有結合した抗菌剤を含み、
前記第1の成分が、分散液中において粒子の形態で組成物中に存在する、
抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項8】
前記組成物が、溶液中の前記両親媒性ヒドロゲル粒子の懸濁液である、請求項7に記載の抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項9】
前記抗菌剤が、前記第1の両親媒性成分の親水性ドメイン及び任意選択的に疎水性ドメインに共有結合により固定された実質的に両親媒性の抗菌剤である、請求項7又は8に記載の抗菌ヒドロゲル。
【請求項10】
前記抗菌剤が、抗菌ペプチドである、請求項9に記載の抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項11】
前記抗菌剤が、37個未満のアミノ酸長を有するproline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)由来抗菌ペプチドである、請求項10に記載の抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項12】
前記抗菌剤が、前記ヒドロゲルの疎水性領域と相互作用するための前記疎水性領域を形成する、少なくとも1つ、例えば少なくとも3つの疎水性アミノ酸のストレッチを含む抗菌ペプチドである、請求項10又は11に記載の抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項13】
前記抗菌ペプチドが、20個未満のアミノ酸を含む抗菌ペプチドであり、アミノ酸配列RRPRPRPRPに対して少なくとも90%、例えば95%の同一性を有する、請求項10から12のいずれか1項に記載の抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項14】
前記抗菌ペプチドが、RRP9W4Nである、請求項10から13のいずれか1項に記載の抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項15】
創傷の止血に使用するための、請求項7から14のいずれか1項に記載の抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項16】
前記ヒドロゲルが、生理学的条件において実質的に非分解性である、請求項7から14のいずれか1項に記載の、又は請求項15に記載の使用のための、抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項17】
凝固障害に罹患している患者における創傷の止血に使用するための、請求項15に記載の使用のための抗菌ヒドロゲル分散液。
【請求項18】
請求項7から14のいずれか1項に記載の抗菌両親媒性ヒドロゲル分散液の製造方法であって:
第1の架橋性両親媒性成分を提供することと;
前記架橋性両親媒性成分からリオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal:LLC)両親媒性ヒドロゲルを形成することと;
前記両親媒性ヒドロゲルを処理して、粒状ヒドロゲル粒子を形成することと;
前記(LLC)両親媒性ヒドロゲル又は前記粒状ヒドロゲル粒子のいずれかを架橋することと;
前記両親媒性ヒドロゲル粒子の前記親水性領域及び/又は前記疎水性領域において、抗菌剤を前記ヒドロゲルに共有結合させることと;
連続媒体中における粒子の前記分散液を提供することと;
を含む、方法。
【請求項19】
前記抗菌剤が、抗菌ペプチドである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記抗菌剤が、37個未満のアミノ酸長を有するproline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)由来抗菌ペプチドである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記抗菌ペプチドが、20個未満のアミノ酸を含む抗菌ペプチドであり、アミノ酸配列RRPRPRPRPに対して少なくとも90%、例えば95%の同一性を有する、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記抗菌ペプチドが、RRP9W4Nである、請求項19から21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
手術器具、ステント、カテーテル、皮膚移植片、コンタクトレンズ、個人用衛生用品、おむつ、創傷被覆材、オストミー被覆材(ostomy dressing)、オストミーベースプレート(ostomy baseplate)、切開フィルム(incision film)、手術用ドレープ、パッチ、包帯、バンドエイド、ギプス、接着剤、粘着テープ、絆創膏(adhesive plaster)、絆創膏(sticking-plaster)、及び絆創膏(court-plaster)、又はこれらの任意の組合せのコーティングとして使用するための、請求項7から14のいずれか1項に記載の抗菌両親媒性ヒドロゲル分散液。
【請求項24】
人体及び/又は体液と接触する少なくとも1つの表面を含むデバイスであって、前記表面の少なくとも一部が、請求項7から14のいずれか1項に記載の抗菌両親媒性ヒドロゲル分散液のコーティングを含む、デバイス。
【請求項25】
創傷を治療する方法であって:
前記創傷に抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物を提供することを含み、前記組成物が:
第1の架橋性両親媒性成分を含み、前記第1の両親媒性成分が、その化学的に架橋された状態において、リオトロピック液晶であり、かつ疎水性ドメイン及び親水性ドメインの秩序ナノ構造を有し、前記ヒドロゲルが、前記親水性ドメイン及び/又は前記疎水性ドメインに共有結合した抗菌剤を含み、
前記組成物が、前記創傷において血液の凝固を引き起こす、方法。
【請求項26】
前記抗菌剤が、37個未満のアミノ酸長を有するproline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)由来抗菌ペプチドである、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記抗菌ペプチドが、20個未満のアミノ酸を含む抗菌ペプチドであり、アミノ酸配列RRPRPRPRPに対して少なくとも90%、例えば95%の同一性を有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記抗菌ペプチドが、RRP9W4Nである、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
創傷を治療する方法であって:
前記創傷に請求項7から14のいずれか1項に記載の抗菌ヒドロゲル分散液を提供することを含み、前記分散液が、前記創傷において血液の凝固を引き起こす、方法。
【請求項30】
創傷の止血に使用するための、37個未満のアミノ酸長を有するproline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)由来抗菌ペプチド。
【請求項31】
前記抗菌ペプチドが、20個未満のアミノ酸を含む抗菌ペプチドであり、アミノ酸配列RRPRPRPRPに対して少なくとも90%、例えば95%の同一性を有する、請求項30に記載の使用のための抗菌ペプチド。
【請求項32】
前記抗菌ペプチドが、RRP9W4Nである、請求項30又は31に記載の使用のための抗菌ペプチド。
【請求項33】
前記ペプチドが、創傷被覆材、オストミー被覆材(ostomy dressing)、オストミーベースプレート(ostomy baseplate)、切開フィルム(incision film)、手術用ドレープ、パッチ、包帯、バンドエイド、ギプス、接着剤、粘着テープ、絆創膏(adhesive plaster)、絆創膏(sticking-plaster)、及び絆創膏(court-plaster)、又はこれらの任意の組合せなどの基材に、コーティング、塗装、噴霧、又は他の方法で塗布される、請求項30から32のいずれか1項に記載の使用のための抗菌ペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、抗菌ヒドロゲルに関する。具体的には、本開示は、創傷の止血に使用するための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物に関する。抗菌ヒドロゲルは、分散液として提供されてもよい。
【背景技術】
【0002】
創傷付近の皮膚又は組織を巻き込む創傷感染症は、治癒過程を妨げ、全身性疾患を引き起こし得る。今日、抗生物質療法は、創傷感染症を治療するための最も一般的な治療法である。長年にわたり、そのような抗生物質療法ルーチンは、患者に全身性の副作用を引き起こすことが示されているだけでなく、抗生物質耐性菌によって引き起こされる重度の感染症を急速に増加させている。
【0003】
止血又は血流遮断とは、出血を防止及び停止するための身体プロセスである。止血は、血液凝固及び出血を止めるための血餅の形成を伴う。創傷ケアにおいて、ミクロフィブリル性コラーゲン止血剤を使用して血餅の形成を促進することが知られている。ミクロフィブリル性コラーゲンは、シート、粉末、及びスポンジとして入手可能である。
【0004】
Mepilex(登録商標)又はMepilex-Ag(登録商標)(Molnlycke Health Careにより販売)などの市販の創傷被覆材は、抗菌剤として銀を含む軟質超吸収性被覆層を組み込んでいる。銀は創傷に放出され、細胞壁を損傷するか、又は微生物の繁殖を阻害することによって微生物を死滅させる。クロルヘキシジンなどの抗菌分子又はペニシリンなどの従来の抗生物質薬を組み込んだ多数の他の創傷被覆材が、創傷部位における細菌の付着又は感染を防ぐために使用されている。しかしながら、上記の化合物は、その限られた活性のスペクトル、ヒト細胞に対する細胞毒性、及び短期間で抗菌剤耐性を発達させる可能性のために、使用が制限されている。更に、水道システムへの銀の放出は、有害な環境的影響を有する。非特許文献1による。
【0005】
一般に、抗菌特性を有していてもよく、血液を単に収集又は吸い上げてもよい、上記のような創傷ケアデバイスである。
【0006】
特許文献1(AMFERIA AB)2019年4月18日は、抗菌両親媒性ヒドロゲルについて記載している。特許文献1のヒドロゲルは、特に抗生物質耐性感染症における、抗菌創傷ケアデバイスとしての使用に好適な固体の単一材料として開示されている。この文献は止血又は出血創傷に関するものではない。改善された組成物及び材料の新規使用は、医療関係者及び患者のための創傷ケア代替物を改善し得る。
【0007】
抗菌効果と止血効果とを組み合わせたデバイスが有利であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2019/074422A1
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「Alternative drinking-water disinfectants:bromine,iodine and silver.」World Health Organization;2018、「Based on the lowest median L(E)C50 value of the key environmental organisms both silver salt and silver nanoparticles would be classified as´´very toxic to aquatic organisms´´under EU Directive 93/67/EEC(CEC,1996)」
【発明の概要】
【0010】
したがって、本発明は、好ましくは、単独で又は任意の組合せで当該技術分野において上で特定された欠点の1つ以上の軽減、緩和、又は排除を模索し、以下に示す創傷の止血に使用するための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物を提供することによって、少なくとも上記の問題を解決する。創傷の止血に使用するための抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物であって:第1の架橋性両親媒性成分を含み、第1の両親媒性成分が、その化学的に架橋された状態において、リオトロピック液晶であり、かつ疎水性ドメイン及び親水性ドメインの秩序ナノ構造を有し、ヒドロゲルが、親水性ドメイン及び/又は疎水性ドメインに共有結合した抗菌剤を含む、抗菌両親媒性ヒドロゲル組成物。驚くべきことに、本組成物は止血効果を有することが示されている。
【0011】
他の抗菌性止血デバイスとは対照的に、両親媒性ヒドロゲルは非生分解性であり、抗菌剤はヒドロゲルに共有結合しており、これは、ヒドロゲル及び/又は抗菌剤を創傷へと浸出させず、長期に安定していることを意味する。驚くべきことに、微線維性コラーゲンデバイスを改変するのではなく、本発明者らは、抗菌効果と止血効果とを組み合わせたような新規材料を使用した。更に、抗菌両親媒性材料を用いることによって、本材料は、死にかけている細菌から放出される細菌毒素などの疎水性物質及び親水性物質の両方を吸収することが可能となる。小さな繰り返しドメインは、更に、より高密度な抗菌剤がヒドロゲルの表面に存在することを可能にする。従来の抗菌性止血デバイスと比較して、本両親媒性ヒドロゲルは湿潤状態から有意に膨潤することができ、したがって血液滲出物及び血液がヒドロゲルに吸収され得る。
【0012】
更に、抗菌剤が、RRPRPRPRPと90~95%の同一性を有する抗菌ペプチドなどの、proline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(プロリンアルギニンリッチ末端ロイシンリッチリピートタンパク質;PRELP)由来抗菌ペプチドである、創傷の止血に使用するための抗菌ヒドロゲル組成物が提供される。そのようなタンパク質は、正味電荷及び抗菌効力などのいくつかの態様に関して、ヒトカテリシジン由来LL-37に類似することが示されている(Malmsten,M et al.,「Highly Selective End-Tagged Antimicrobial Peptides Derived from PRELP」,PLoS ONE,2011,6(1):e16400.doi:10.1371/journal.pone.0016400)。しかしながら、LL-37は血漿凝固に影響を及ぼさないことが以前に示されている(Harm,S et al.,「Blood Compatibility-An Important but Often Forgotten Aspect of the Characterization of Antimicrobial Peptides for Clinical Application」,Int.J.Mol.Sci.,2019、20,5426;doi:10.3390/ijms20215426)。
【0013】
抗菌ヒドロゲル分散液もまた提供される。抗菌ヒドロゲル分散液は第1の架橋性両親媒性成分を含み、第1の両親媒性成分は、その化学的に架橋された状態において、リオトロピック液晶であり、かつ疎水性ドメイン及び親水性ドメインの秩序ナノ構造を有し、ヒドロゲルは、親水性ドメイン及び/又は疎水性ドメインに共有結合した抗菌剤を含む。第1の成分は、分散液中の粒子の形態で組成物中に存在する。
【0014】
粒子の分散液は、不規則な形状をした創傷の創傷被覆率の改善、抗菌剤の結合に利用可能なより大きい表面積、従来の固体ヒドロゲルと比較してより容易かつ迅速な適用などの利点を有する。粒子は、粒子形態でそれらの抗菌機能を維持することが更に示されている。粒子は水溶液及び非水溶液の両方を吸収する。
【0015】
抗菌両親媒性ヒドロゲル粒子を含む分散液を調製する方法が提供される。
【0016】
抗菌両親媒性ヒドロゲル粒子の分散液のコーティングを有するデバイスもまた提供される。粒子分散液の噴霧可能な性質に起因して、人体又は体液に使用するためのコーティングデバイスが簡略化される。
【0017】
分散液の使用もまた提供される。
【0018】
更に、創傷を治療する方法が提供される。
【0019】
創傷の止血のための、RRP9W4といった、RRPRPRPRPと90~95%の同一性を有する抗菌ペプチドなどの、proline arginine-rich end leucine-rich repeat protein由来抗菌ペプチドの使用が提供される。
【0020】
更なる有利な実施形態は、添付の特許請求の範囲及び従属する特許請求の範囲にて開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明が可能であるこれら及び他の態様、特徴、及び利点は、添付の図面を参照して、本発明の実施形態の以下の説明から明らかになり、説明されるであろう。
図1】ジアクリレート修飾されたPluronic(登録商標)トリブロックコポリマーの合成スキームであり、ここで、X及びYは、PEO及びPPO基の数を指す。
図2】EDC/NHS活性化によるジアクリレート修飾PluronicトリブロックコポリマーF-127への抗菌ペプチドの共有結合の反応スキームを示す。
図3】抗菌ヒドロゲル対対照試料のゾーン阻害試験を示している。図3aは、AMPを含む陰性対照両親媒性ヒドロゲルを示す図である;図3bは、物理的に吸収されたAMPのみを含む両親媒性ヒドロゲルを示す図である;図3cは、AMPが両親媒性ヒドロゲルに共有結合している態様にかかる両親媒性抗菌ヒドロゲルを示す。阻害ゾーンはより暗色の領域であり、ヒドロゲルの領域(中央の円形部分)を越えて広がっているのが見て取れるが、一方で、図3Cでは阻害ゾーンがヒドロゲルの真下にあり、AMPがヒドロゲルから浸出していないことを示している。
図4】繰り返し3D印刷され整列された通常の六角形の秩序ナノ構造を有する、化学的に架橋された両親媒性ヒドロゲルに共有結合したAMPの概略図を示す。
図5】リン酸緩衝食塩水(phosphate buffered saline:PBS)中での保存安定性試験の結果を示す。図5aは、対照両親媒性ヒドロゲル及び抗菌両親媒性ヒドロゲルについて、死細胞(黄色ブドウ球菌(S.aureus))の割合を見ることができる。図5bは、ヒドロゲル上に見られる総表面被覆率を示す。アスタリスク(*)は、95%信頼水準で対照試料と比較した有意差を示す。
図6】ヒドロゲルを20%ヒト血清に曝露させた、血清安定性試験の結果を示す。ヒドロゲルはx軸に示される時間で血清から取り出した。ヒドロゲルの表面上の死細胞(黄色ブドウ球菌(S.aureus))の割合は、live/dead染色によって決定され、これはy軸上で見られる。5日目を除いた各時点で、対照と比較して、活性化表面間には95%の信頼水準で有意差があった。各バーは4つの試料で撮影された画像をまとめたものである。
図7】血液凝固実験(実験1)の結果を示す。この図は、2人のドナーについて、初期血液、ヒドロゲルと接触せずにインキュベートした血液、両親媒性ヒドロゲルと接触させた血液、抗菌両親媒性ヒドロゲルとインキュベートした血液に対して、37°で60分間の全血インキュベーション後の血小板の数を示す。データはn=4についての平均±平均値の標準誤差を表す。
図8】黄色ブドウ球菌(S.aureus)で画線した寒天プレート上に配置し、一晩(およそ15時間)培養した、対照粒子及びAMP活性化粒子を示す。領域Aは対照領域(AMPを含まないヒドロゲル)であり、領域BはAMP活性化ヒドロゲル粒子である。
図9】一態様にかかる噴霧デバイスの模式図を示す。
図10】AMPを含む及びAMPを含まない両親媒性ヒドロゲル上における、ヒト血液を用いた血液凝固試験(実験1)の画像を示す。左から右へ向かって:AMPを含まないヒドロゲル上のドナー1の血液、AMPを含むヒドロゲル上のドナー1の血液、AMPを含まないヒドロゲル上のドナー2の血液、AMPを含むヒドロゲル上のドナー2の血液。凝固した血液はAMP試料を含む2つのヒドロゲルで明確に見ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の以下の説明は、抗菌両親媒性ヒドロゲル、創傷ケアにおける抗菌両親媒性ヒドロゲルの使用、及びそのような抗菌両親媒性ヒドロゲルを含む組成物を記載する。抗菌ヒドロゲルは第1の架橋性両親媒性成分を含む。その架橋状態において、両親媒性成分は、親水性ドメイン及び疎水性ドメインの秩序構造を含むヒドロゲルをもたらす。抗菌ヒドロゲルは、架橋ヒドロゲルの繰り返し親水性及び/又は疎水性ドメインに共有結合した抗菌剤を更に含む。両親媒性ヒドロゲルの製造方法及びその利点に関する詳細は、WO2019/074422A1に詳述されている。
【0023】
両親媒性ヒドロゲルの繰り返し秩序ナノ構造は、繰り返し及び交互疎水性-親水性ドメインを含む。疎水性-親水性ドメインの形態及び特異的構造を以下に考察する。ヒドロゲルは、ヒドロゲル全体にわたって、すなわちヒドロゲルの表面だけでない、秩序繰り返しナノ構造を含む。架橋ヒドロゲルは固体である。分子間架橋は、秩序構造を不可逆的にロックし、高い完全性を有し、かつ機械的に弾性であるヒドロゲルをもたらす。
【0024】
抗菌ヒドロゲルは、皮膚又は創傷表面上に抗菌剤を規則正しく繰り返し提供する秩序繰り返しナノ構造に起因して、創傷ケア用途に特に好適である。更に、抗菌剤はより良好に固定されることで、より良好な長期性能が得られる。
【0025】
ヒドロゲルは、抗菌剤を固定することができる基材を形成すると考えられ得る。ヒドロゲルは、その架橋状態において、自己支持(自立)性であり、かつ三次元的である。概して、ヒドロゲルは、生理学的条件において実質的に非分解性である。すなわち、ヒドロゲルは非生分解性であり、関連するインビトロ及びインビボ条件において見られる化学的又は酵素的条件によっては実質的に分解されない。例えば、ヒドロゲルは、血液、汗、尿、又は他の生物流体の存在下においては分解されない。更に、ヒドロゲルは、比較的低い又は高いpH環境において、実質的に非分解性であり、すなわち、安定して固体のままである。
【0026】
ヒドロゲルは、抗菌剤が共有結合している第1の実質的に均一な層を形成し得る。抗菌剤は、層全体にわたってヒドロゲルの少なくとも繰り返し親水性ドメインに共有結合し得る。これらはヒドロゲルの表面だけでなく、層内に設けられ得る。これは、抗菌剤の表面固定のみをもたらすヒドロゲル又は他の基材の表面修飾の技術と比較して、有意な改善である。小さな繰り返しドメインは、更に、より高密度な抗菌剤がヒドロゲルの表面に存在することを可能にする。
【0027】
親水性ドメイン及び疎水性ドメインの繰り返し秩序構造は、少なくともナノスケールで秩序化され、以下で更に論じるように、生産技術に応じて、より大きな、ミクロ又はマクロスケールで秩序化され得る。秩序化された繰り返しという用語は、規定された周期性を有するヒドロゲルに関する。炭水化物、多糖類、又は他の非両親媒性分子に基づくヒドロゲルとは対照的に、本明細書に記載のヒドロゲルのナノ構造は、秩序繰り返しナノ構造を有し、ランダムには架橋されていない。ヒドロゲルは両親媒性である。架橋後、両親媒性ヒドロゲルは、化学的に架橋された両親媒性ヒドロゲルである。
【0028】
秩序繰り返しナノ構造は、規定の配向を有するヒドロゲルに共有結合した抗菌剤をもたらす。抗菌剤自体が両親媒性である場合、抗菌剤は、ヒドロゲルの表面上及びヒドロゲル内に、更により効果的に固定される。ヒドロゲルの両親媒性はまた、水溶液及び非水溶液の両方の吸収を可能にする。
【0029】
上述のように、表面化学を規定するための表面処理を有するヒドロゲルとは対照的に、本開示のヒドロゲルは、ヒドロゲルのバルクの表面及びバルク内の両方に繰り返し秩序ナノ構造を有する。これにより、ヒドロゲルの表面及び内部の両方における抗菌剤の固定が改善される。
【0030】
抗菌ヒドロゲルは、架橋性コポリマー、架橋性界面活性剤、架橋性タンパク質、架橋性ペプチド、及び架橋性脂質などの、有機両親媒性材料の化学的架橋によって形成され得る。本明細書で使用される架橋性とは、分子上に存在する反応性化学基を用いた分子同士の共有結合を指す。化学的架橋プロセスには、紫外線などの光、熱、又は酵素などの他の化学触媒を用いて、触媒作用が及ぼされ得る。ヒドロゲルの共有結合性架橋は非可逆的である。共有結合性架橋は高温において分解又は崩壊しない。共有結合性架橋はまた、pH変動に対して安定でもある。
【0031】
ヒドロゲルの第1の両親媒性成分は、架橋性両親媒性ポリマーであり得る。典型的かつ好適な両親媒性材料は、以下の実験の項に記載されるようなジアクリレート修飾ポロキサマー、例えば、ポリエチレンオキシド-ポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシド(DA-PEO-PPO-PEO-DA(式中、x及びyはそれぞれ、存在するPEO基及びPPO基の数を指す))である。具体的には、両親媒性材料は、両親媒性トリブロックコポリマー、ポリエチレンオキシド(100)-ポリプロピレンオキシド(70)-ポリエチレンオキシド(100)(Pluronic(登録商標)F127-BASF Corporation)、ポリエチレンオキシド(30)-ポリプロピレンオキシド(70)-ポリエチレンオキシド(30)(Pluronic(登録商標)P123-BASF Corporation)であり得る。
【0032】
上記のように、両親媒性成分は、トリブロックコポリマーのジアクリレート誘導体であってもよく、したがってコポリマーを化学的に架橋することができる。ジアクリレート修飾のためのプロセスは以下の実験の項にて提供される。修飾は、トリブロック両親媒性コポリマーと塩化アクリロイルとの反応によってジアクリレート誘導体を形成することにより行うことができる。架橋性両親媒性ポリマーを形成する他の方法は、メタクリレート誘導体の形成又はカルボキシル-アミン架橋なども可能であり得る。
【0033】
架橋性両親媒性ポリマーは、水の存在下において、自己組織化して、リオトロピック液晶(lyotropic liquid crystal:LLC)と呼ばれる秩序ナノ構造を形成し得る。その架橋形態では、すなわち架橋後には、ヒドロゲルは、化学的に架橋されたリオトロピック液晶(LLC)とみなされ得る。両親媒性ポリマーの架橋は、well-definedな構造を有する重合リオトロピック液晶(polymerized lyotropic liquid crystal:PLLC)を形成すると考えられ得る。
【0034】
非固体架橋ヒドロゲルは、通常のミセル系と呼ばれるヒドロゲル全体にわたってランダムに配置された2~100nmのサイズ範囲にある球状ミセル凝集体の構造を有し得、略してLと示される。そのような通常のミセルヒドロゲルは、約1%~約19%(重量%)の両親媒性ポリマー、及び約99%~約81%(重量%)の水を含み得る。一般に、この系は架橋固体ゲルを形成しないが、15~19%(重量%)の両親媒性ポリマー濃度の範囲など特定の場合において、この系は非常に軟質でしなやかな機械的特徴を有する架橋固体として存在し得る。
【0035】
ヒドロゲルは、通常のミセル立方晶(キュービック)系として知られ、Iと略記され、立方格子中にミセル構造の単純配列(P...)又は体心(B...)配列又は面心(F...)配列を有する、立方形をした秩序配列であるリオトロピック液晶中に配置された、2~100nmのサイズ範囲にある球状ミセル凝集体の構造を有し得る。Im3m結晶対称性を有する通常のミセル立方構造の例は、約20%~約65%(重量%)の両親媒性ポリマー、及び約80%~約35%(重量%)の水を含み得る。立方格子中にミセル構造の単純配列を有する通常のミセル立方晶系を得るための別の例示的な組成は、65%(重量%)の水、10%(重量%)のブタノール、及び25%(重量%)の両親媒性ポリマーである。
【0036】
ヒドロゲルは、Pn3m結晶構造を有するミセル立方晶系として知られる双連続キュービック形をした秩序配列である、リオトロピック液晶に配置された2~100nmのサイズ範囲の球状ミセル凝集体の構造を有し得る。Pn3m結晶構造を有するこのような双連続ミセルキュービック系は、約25%~約65%(重量%)の両親媒性ポリマー、及び約75%~約35%(重量%)の水を含み得る。そのようなLLC構造を得るための別の例示的な組成物は、33~38%(重量%)の水、及び残りは両親媒性種又は両親媒性ポリマーから構成される。
【0037】
ヒドロゲルは、Ia3d結晶構造を有するミセル立方晶系として知られる双連続キュービック形をした秩序配列である、リオトロピック液晶に配置された2~100nmのサイズ範囲の球状ミセル凝集体の構造を有し得る。そのようなLLC構造を得るための例示的な組成物は、13~32%(重量%)の水、及び残りは両親媒性種又は両親媒性ポリマーから構成される。
【0038】
ヒドロゲルは、通常六方晶系と呼ばれる六角形の幾何形状である、秩序リオトロピック液晶中に配置された、2~100nmのサイズ範囲にある円柱の直径を有する円柱状ミセル凝集体の構造を有し得る。そのような通常の六方晶系では、両親媒性ポリマーは、少量の有機溶媒の有無にかかわらず、約30%~約80%(重量%)で存在し得、水は約60%~約20%(重量%)で存在し得る。そのような通常のミセル六方晶系は、約35%~約40%(重量%)の両親媒性ポリマー、約50%(重量%)の水、及び約10%~約15%(重量%)の有機溶媒を含み得る。
【0039】
抗菌ヒドロゲルはまた、中間の幾何学及びゼロ曲率を有する以下の構造の化学的に架橋された秩序ナノ構造を有し得る;リオトロピック液晶として配列され、ラメラ系と呼ばれるラメラ形状である、隣接するシート間の距離が2~100nmの範囲にあるシート状ミセル凝集体。そのようなラメラ系は、20~80%(重量%)の両親媒性分子、15~60%(重量%)の水溶液、及び0~25%(重量%)のブタノールなどの有機溶媒の範囲内のいずれかの組成を含んでもよい。ラメラLLCを得るための例示的な組成物は、20%の両親媒性ポリマー、55%(重量%)の水、及び25%(重量%)のブタノールなどの有機溶媒である。
【0040】
抗菌ヒドロゲルのミセル及びリオトロピック液晶ナノ構造は、連続ドメインとしての水などの水性液体、及びミセル凝集体内に閉じ込められた疎水性部分を含んでもよい。ミセル及びリオトロピック液晶ナノ構造は、ミセル凝集体内に閉じ込められた水などの水性液体、及び疎水性連続ドメインを含んでもよい。水性液体としては、水、塩類溶液、血液、汗、及び他の可能な生物流体が挙げられるが、これらに限定されない。膨潤状態としても知られる完全な湿潤状態では、抗菌ヒドロゲルは、それ自体の重量の最大3~4倍の水性液体を吸収することができる。完全な湿潤状態/膨潤状態とは、ヒドロゲルが保有する架橋LLC構造の種類に応じて、20~90%の水溶液及び10~80%の両親媒性有機分子のヒドロゲルの元の濃度(重量基準)を指す。完全な乾燥状態では、ヒドロゲルは、10重量%未満の水溶液、より通常は5重量%未満の水溶液を均一に含有し、この場合、ヒドロゲルは、自身の重量の最大8~10倍の水溶液を吸収し得る。液体吸収後、抗菌ヒドロゲルは膨潤し、サイズが変化する。しかしながら、ヒドロゲルの形状及び幾何学は実質的に保持されている。
【0041】
抗菌ヒドロゲルの両親媒性に起因して、疎水性の液体をもまた吸収し得る。疎水性溶媒クロロホルムの存在下においては、完全乾燥ヒドロゲルは、それ自体の重量の最大20~30倍のクロロホルムなどの疎水性液体を吸収することができる。上記のように、完全な乾燥状態とは、重量で5%未満の水溶液及び95%を超える両親媒性有機分子のヒドロゲルの濃度を指す。完全な乾燥状態とは、ヒドロゲルと考えることができない凍結乾燥ポリマーネットワークは指さない。
【0042】
ヒドロゲルの液体吸収特性は、多かれ少なかれ水又は疎水性液体を吸収するように調整することができる。これは、親水性基と疎水性基の鎖長の比が異なる両親媒性分子を用いてヒドロゲルを形成することによって、達成することができる。例えば、両親媒性ブロックコポリマーDA-PEO-PPO-PEO-DA(式中、x及びyは、PEO及びPPOの数を指す)基は、多かれ少なかれPEO又はPPO基を保有することができる。PPO基よりもPEO基の量が多いと、ヒドロゲル自体の初期重量の最大3~8倍の高い吸水能力を有するヒドロゲルとなり得る。反対に、PEO基よりも多くのPPO基を有するヒドロゲルは、その初期重量のおよそ0.5~1.5倍少なく水を吸収する。
【0043】
抗菌剤は、繰り返し親水性及び/又は疎水性ドメインに共有結合する。抗菌ヒドロゲル中では、複数の抗菌分子が存在し、抗菌分子の各々は、繰り返しの周期的な親水性及び/又は疎水性ドメインの少なくとも一部に共有結合している。
【0044】
ヒドロゲル中に存在する抗菌剤の10%超、例えば50%超、又は90%超が、ヒドロゲルに共有結合していてもよい。これにより、より大きな安定性、及び抗菌剤のヒドロゲルからの浸出の減少が得られる。
【0045】
抗菌剤は両親媒性抗菌剤であってもよい。すなわち、抗菌分子は、親水性領域及び疎水性領域を有し得る。抗菌剤は、静電気力によって細菌細胞壁を破裂させるように選択され得る。抗菌剤は、ポリマー殺生物剤又は抗菌ペプチド(antimicrobial peptide:AMP)などの抗菌ポリマー分子であってもよい。AMPは、概して、微生物の細胞膜を損傷することによって微生物の成長及び増殖を破壊又は阻害する。AMPは一般に両親媒性である。AMPは、一般に、短鎖ペプチド、すなわち1~50アミノ酸からなり、1~50kDaの分子量である。AMPは、直鎖状AMP、分岐状AMP、及び/又は環状AMPであり得る。これらは一般に正味の正電荷を有し、親水性領域及び疎水性領域の両方を保有する。AMPの正に帯電した両親媒性構造は、ペプチドが負に帯電した細菌膜を透過することを可能にすることが知られている。損なわれた細胞壁は細胞死をもたらす。ヒドロゲルの秩序繰り返しナノ構造と組み合わさったAMPの両親媒性質は、AMPの配向及びより高い固定をもたらす。すなわち、AMPは、下にあるヒドロゲルから分離又は放出されない。これにより、抗菌ヒドロゲルは、抗菌剤に対して浸出不能な基材となる。AMPは、両親媒性ヒドロゲルの親水性ドメイン及び疎水性ドメインの両方に共有結合していてもよい。AMPは、隣接する親水性ドメイン及び疎水性ドメインに共有結合していてもよい。AMPのN末端は、ヒドロゲルの疎水性ドメインに共有結合していてもよい。AMPのC末端は、ヒドロゲルの親水性ドメインに共有結合していてもよい。
【0046】
AMPは、両親媒性ヒドロゲルに共有結合してもよく、ヒドロゲルへと物理的に吸収されてもよい。WO2019/074422A1の図3Bの右端の画像によって示されるように、50%エタノール中で3週間洗浄した後でさえ、両親媒性ヒドロゲルは、物理的に吸収された蛍光タグ付きAMPの全てを放出するわけではない。これは、ヒドロゲルの両親媒性、並びにAMPとヒドロゲルの親水性ドメイン及び疎水性ドメインとの相互作用に起因する。これは、抗菌性能の向上、及び使用中の長期安定性をもたらす。
【0047】
抗菌剤は銀(Ag)であってもよい。例えば、抗菌剤は、ヒドロゲルの繰り返し秩序化親水性ドメイン及び/又は疎水性ドメインの内部又はその上に固定された、銀ナノ粒子であってもよい。銀は、哺乳動物細胞に対する毒性が高いという欠点を有し、例えば水道システムに放出された場合に有害な環境影響を有するが、しかしながら、一般にAMPと比較して低コストの抗菌剤であることもまた知られている。
【0048】
カルボキシル基が両親媒性ヒドロゲル中に存在するであろうことは、当業者には明らかでない。したがって、ヒドロゲルを更に修飾することなく、両親媒性ヒドロゲルにAMPを共有結合させようと試みる理由はない。
【0049】
固定化は、概して、ヒドロゲルの親水性ドメイン上の複数のカルボキシル基間の共有結合を介して達成される。抗菌剤が抗菌ペプチドである場合、AMPとヒドロゲルの繰り返し親水性ドメインとの間に、強いアミド結合が形成される。AMPは、ヒドロゲルの親水性ドメインに存在するカルボキシル基の1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)-N-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)活性化を介して、ヒドロゲルに共有結合され得る。EDC/NHS活性化を介したAMPのこのような共有結合のための反応スキームは、図2中で見ることができる。AMP又は他の抗菌剤はヒドロゲル中へと更に物理的に吸収されてもよいが、しかしながら、そのような場合、ヒドロゲルの親水性領域又は疎水性領域への抗菌剤の共有結合はない。しかしながら、非共有結合抗菌剤は、ヒドロゲルからの比較的速い分解及び浸出/放出を受けやすい。図3に示すゾーン阻害試験では、物理的に吸収されたAMPはヒドロゲルから浸出/放出する傾向にあるが、一方で共有結合(covalently bonded)又は共有結合(covalently attached)したAMPは浸出しないことが見て取れる。
【0050】
AMP又は他の両親媒性抗菌剤は、ヒドロゲルの秩序繰り返し疎水性領域と相互作用する疎水性領域を有する。これは、抗菌剤の配向の改善及び固定化の改善をもたらす。したがって、秩序繰り返し親水性ドメイン及び疎水性ドメインを有するヒドロゲルに起因して、周囲環境へのAMPの放出を減少又は排除しながら、AMPの安定性及び分解に対する耐性が増加する。そのようなアーキテクチャは、AMPの安定性及び活性を改善すると強く主張される。
【0051】
以下の実験の項で示すように、抗菌ヒドロゲルは最大99.99%の細菌を死滅させることができる。理論に束縛されるものではないが、更なる利点は、抗菌ヒドロゲルの親水性ドメインが負に帯電した細菌を引きつけ、その中で細菌を効果的に死滅させることができる点である。創傷ケア用途では、これはまた、抗菌ヒドロゲルを含む創傷被覆材の除去を介して、死滅した細菌及び/又は付着した細菌の除去をもたらし得る。グラム陽性菌及びグラム陰性菌の実験結果は、抗菌ヒドロゲルがまた、MRSA及び多剤耐性(multi-drug resistant:MDR)の大腸菌(E.coli)などの細菌の薬剤耐性株をも死滅させることができることを示唆している。
【0052】
実験の項で示されるように、抗菌ペプチドは、次のうちの1つ以上であり得る;RRPRPRPRPWWWW-NH2(RRP9W4N、Red Glead Discovery AB、Lund、スウェーデン)、RRPRPRPRP-NH2(RRP9N、Red Glead Discovery AB、Lund、スウェーデン)、RRPRPRPWWWWRP-NH2(RRP7W4RPN、Red Glead Discovery AB、Lund、スウェーデン)、RRPRPWWRPWWRP-NH2(RRP5W2RPW2RPN、Red Glead Discovery AB、Lund、スウェーデン)。RRP9W4N、RRP9Nの配列は、WO2012/033450A1で提供されている。RRP7W4RPN及びRRP5W2RPW2RPNの配列は、WO2019/074422A1で提供されている。抗菌ペプチドは、アミノ酸配列RRPRPRPRP(WO2012/033450A1に提供されている配列)と少なくとも90%、例えば95%の同一性を有するアミノ酸配列、及び任意選択的に、C末端若しくはN末端のいずれか、又はそれらの間のいずれかに付加された少なくとも3つの連続するトリプトファン残基又はフェニルアラリン残基のストレッチを含む、20個未満のアミノ酸を含む抗菌ペプチドであってもよい。抗菌ペプチドはN末端アミド化を含み得る。抗菌ペプチドは、疎水性領域を形成する、少なくとも1つ、例えば少なくとも3つの疎水性アミノ酸、例えばフェニルアラニン又はトリプトファン残基のストレッチを含む、抗菌ペプチドであってもよい。疎水性領域によりヒドロゲルの疎水性領域との相互作用が可能となる。しかしながら、他の抗菌ペプチドが、抗菌剤としての使用に好適であってもよい。
【0053】
抗菌剤は、前段落のものと同様に合成的に誘導されたAMP、又は生物学的に誘導されたAMPであってもよい。生物由来AMPは、キニノーゲンタンパク質、proline and arginine rich end leucine rich repeat protein(PRELP)、成長因子タンパク質、凝固系タンパク質、補体因子C3a、フォン・ヴィルブランド因子、ビトロネクチン、スーパーオキシドジスムターゼ、プリオンタンパク質、プロテインCインヒビタ、フィブロネクチン、ラミニン、ケモカイン、及びヒスチジンリッチ糖タンパク質に由来し得る。生物由来AMPのいくつかの例は、ヒトカテリシジン由来LL-37ペプチド及びオミガナン五塩酸塩である。これらのペプチドは全て、共有結合された又は物理的に吸収されたヒドロゲルに潜在的に組み込まれ得る。単独又は他のペプチドと一緒に。抗菌剤は、37個未満のアミノ酸、すなわち野生型LL-37より短い長さを有する、LL-37誘導体であってもよい。抗菌剤は、好ましくは、proline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)由来ペプチドである。好ましくは、抗菌剤は、LL-37と同等の電荷及び抗菌効力を有する。実験の項で記載されるように、抗菌剤は、好ましくは、抗菌効力及び正味電荷に関してLL-37に匹敵するPRELP由来ペプチドである、RRP9W4である。
【0054】
抗菌剤は様々なプロセスを介してヒドロゲルに結合させることができる。実験の項で示されるように、抗菌剤は、抗菌剤を含む溶液にヒドロゲルを浸漬することによって結合させることができる。抗菌剤は、浸漬とは対照的に、表面適用プロセスを介してヒドロゲルの表面へと実質的に適用してもよい。抗菌剤を含む溶液をヒドロゲルの表面に滴下してもよい。抗菌剤を含む溶液をヒドロゲル上に噴霧してもよい。実験の項で示されているように、表面の抗菌活性化に必要な抗菌剤の量は、一般に、浸漬と比較して、滴下及び噴霧によって有意に減少する。これは、ヒドロゲルの大部分が抗菌剤によって活性化されないためである。
【0055】
抗菌剤に加えて、ヒドロゲルは少なくとも1種の治療剤を含み得る。ヒドロゲルの秩序繰り返し親水性ドメイン及び疎水性ドメインに起因して、治療剤は、疎水性、親水性、又は両親媒性、極性若しくは非極性であり得る。抗菌ヒドロゲルは疎水性ドメイン中に疎水性治療剤をホスト(受け入れる)することができる一方で、親水性ドメインは親水性治療剤をホストする。治療剤は、抗炎症特性、抗生物質特性、又は抗がん特性を有するペプチド又はタンパク質などの薬物分子又は小生体分子であり得るが、これらに限定されない。抗菌ヒドロゲルからの治療剤の選択的放出のこの特性は、その抗菌特性に加えて、創傷ケア及び創傷治癒、又は他の抗菌剤/薬物放出用途などの医療機器で使用することができる。少なくとも1種の治療剤は、抗菌ヒドロゲルの疎水性ドメイン及び/又は親水性ドメインに共有結合され得るか、又は物理的に吸収され得る。複数の治療剤がヒドロゲルに提供されてもよい。そのような場合、第1の治療剤はヒドロゲルに共有結合してもよく、第2、第3などの治療剤は物理的に吸収されてもよい。抗菌剤とは対照的に、少なくとも1種の治療剤は、ヒドロゲル上又はヒドロゲル内に固定される必要はなく、表面から実質的に自由に浸出してもよい。
【0056】
抗菌ヒドロゲルは、皮膚又は創傷床のような生体表面に付着又は固着しない。これにより、様々な用途において性能が改善される。創傷被覆材などの創傷ケア物品は、感染を封じ込め、かつ創傷環境が微生物の隠れ場所となることを防ぐために、柔軟で、過剰な創傷滲出物を吸収することができなければならない。抗菌ヒドロゲルは、傷ついた皮膚から放出される制御不能な滲出物を吸収するための創傷被覆材として使用することができる。創傷滲出物は、膿、血液、水、及び汗を含み得る。抗菌ヒドロゲルの高く汎用性のある吸収特性に起因して、抗菌特性と組み合わせて、創傷ケア物品として特に好適となる。抗菌ヒドロゲルは、両親媒性成分を含むが両親媒性成分に共有結合した抗菌剤を含まないヒドロゲルと比較して、実質的に同じ量の水を吸収する。したがって、抗菌ヒドロゲルは、抗菌剤を含む場合でさえも、充分な創傷滲出物吸収性能を有する。抗菌ヒドロゲルの両親媒性によって、死にかけている細菌から放出された細菌毒素などの疎水性物質及び親水性物質の両方を材料が吸収することが、更に可能となる。
【0057】
抗菌両親媒性ヒドロゲルは、連続媒体中の粒子の分散液として調製されてもよく、この粒子は、溶液中の粒子の懸濁液として存在してもよい。固体の架橋両親媒性ヒドロゲルを、粉砕などによって加工して、両親媒性ヒドロゲル粒子の集合体を得ることができる。粒子は約0.01mm~約0.5mmの直径を有し得る。粒子は例えば粉砕プロセスによって形成され得るので、この粒子は、規則的な球状粒子である必要はなく、不規則であってもよい。上で特定された範囲よりも小さい粒子は、他の製造方法によってもまた得ることができる。例えば、直径10nm~1μmのサイズ範囲である粒子は、超音波処理などの分散方法によって得ることが可能であり得る。
【0058】
粒子を得るための別のプロセスとは、架橋の前に、非架橋ポリマーを溶液中にまず分散させることである。例えば、非架橋両親媒性ポリマーは、溶液、例えばLLCを形成する水に提供されてもよい。次いで、水中で形成されたLLCヒドロゲルは、例えばブレード混合及びその後のUV架橋によって、溶液中に迅速に分散させることができる。要約すると、粒子は、粒子を形成するために使用されるプロセスに応じて、10nm~0.5mmのサイズの範囲であり得る。
【0059】
粒子は乾燥形態で存在してもよく、又は、例えば水溶液で膨潤されてもよい。両親媒性ヒドロゲルの粒子は、その後、AMPなどの抗菌剤で官能化されてもよい。上述のように、抗菌剤は、ヒドロゲルの少なくとも親水性領域に共有結合してもよい。抗菌剤は、ヒドロゲルの親水性領域及び疎水性領域の両方に結合した両親媒性抗菌剤であってもよい。抗菌剤で官能化された両親媒性ヒドロゲル粒子は、より大きな表面積を有し、平らな固体ヒドロゲルよりも抗菌剤のより大きな部分に細菌膜をさらすことができるので、そのような粒子は、より効果的な例えば抗菌剤であると主張されている。
【0060】
両親媒性ヒドロゲルの粒子は、水溶液などの溶液中に分散されてもよい。例えば、両親媒性ヒドロゲルの粒子を生理食塩水中に分散させてもよい。図5で見られるように、抗菌ヒドロゲルの性能は、PBS中で10週間後も依然として抗菌効果を有するものであった。両親媒性ヒドロゲルの粒子は、生体適合性緩衝液、すなわち、細胞に対して非毒性である緩衝液中に分散され得る。多くのヒドロゲルとは対照的に、ヒドロゲルの両親媒性に起因して、ヒドロゲル粒子は、エッセンシャルオイルベース系といった非極性溶媒などの非水溶液中にアルコールと組み合わせて分散させることができる。
【0061】
分散液中の粒子は膨潤しており、すなわち、溶液を吸収している。しかしながら、他のヒドロゲル分散液とは対照的に、これらは真に溶液中の個別のヒドロゲル粒子の懸濁液であり、単なるヒドロゲルではない。いくつかのヒドロゲルが、膨潤し、かつその中でヒドロゲルを形成する別個の粒子を含むので、ヒドロゲルは、ヒドロゲル自体を分散液又は懸濁液として記載する場合がある。この場合、組成物は、互いに分離し、かつ連続媒体、例えば水溶液から分離した複数の架橋ヒドロゲル粒子を含む。
【0062】
溶液及び溶液中に分散した粒子は噴霧可能である。噴霧デバイスは、例えば、手動噴霧ポンプなどの噴霧機構と、上記のような複数の両親媒性ヒドロゲル粒子を含む溶液と、を含んでもよく、ここで、抗菌ペプチドなどの抗菌剤は、粒子の親水性領域及び/又は疎水性領域に共有結合している。
【0063】
噴霧デバイスを図9で概略的に示す。デバイスは、溶液100、例えば生理食塩水などの水溶液を含む。デバイスは、複数の抗菌ヒドロゲル粒子300から溶液を分離する膜200を更に含む。初回使用の前に、デバイスを振盪するなどの撹拌プロセス500により、膜200を崩壊させ、ヒドロゲル粒子が溶液100内に広がって、ヒドロゲル粒子300の懸濁液を形成する。このようなデバイスは、ヒドロゲル粒子300が懸濁液中に保存されず、デバイスが使用できる状態になるまで分離されて維持されるため、保存安定性が向上する。
【0064】
両親媒性ヒドロゲルの噴霧は、ヒドロゲルの固体片を創傷上に配置するよりも有利である。噴霧粒子は固体材料よりも良好に不規則な表面を覆うことができるので、被覆率が改善される。更に、噴霧は、追加の包帯などによって適所に保持されることなく、創傷領域を迅速に覆うために使用することができる。したがって、噴霧は、急性創傷治療としての使用に理想的であり得る。
【0065】
抗菌両親媒性ヒドロゲル粒子の噴霧可能な組成物は更に、ステント、カテーテル、皮膚移植片、コンタクトレンズ、個人用衛生用品、おむつ、創傷被覆材、オストミー被覆材(ostomy dressing)、オストミーベースプレート(ostomy baseplate)、切開フィルム(incision film)、手術用ドレープ、パッチ、包帯、バンドエイド、ギプス、接着剤、粘着テープ、絆創膏(adhesive plaster)、絆創膏(sticking-plaster)、及び絆創膏(court-plaster)、又はこれらの任意の組合せなどの、手術器具又は医療機器のための理想的なコーティング媒体である。上に列挙したデバイスのいずれかの製造又は処理プロセスは、抗菌両親媒性ヒドロゲル粒子をデバイスの表面に噴霧する工程を含んでもよく、乾燥又はこすり洗い若しくは拭き取りなどの後処理を含んでもよい。粒子が噴霧される表面は、人体又は体液と接触することが意図された表面であってもよい。
【0066】
驚くべきことに、本発明者らは、抗菌両親媒性ヒドロゲルが創傷の止血を誘発及び/又は向上するために使用され得ることを見出した。したがって、抗菌ヒドロゲルは、創傷における血液凝固及び/又は血餅形成を増加及び/又は促進するために使用されてもよい。実験の項に記載され、図10で示されるように、抗菌ヒドロゲルは、対照試料と比較して、明確に視認可能な血餅を形成した。止血の促進は哺乳動物におけるものであってもよく、例えば、実験1で示すようなヒト血液の止血が促進され得る。
【0067】
背景技術の項で記載されているように、抗菌両親媒性ヒドロゲルは、WO2019/074422A1から公知である。しかしながら、この文献には、創傷の抗菌処置を超えた両親媒性ヒドロゲルの更なる使用に関しては記載されていない。止血のプロセスを促進するために抗菌ヒドロゲルが使用され得ることは示唆されていない。更に、全ての創傷が、止血が起こるように出血するわけではない。熱傷及び褥瘡などの創傷は出血しないが、細菌及び他の微生物感染の影響を受けやすい。この相違は出血創傷に関連しないので、参照文献では考慮されていないようである。したがって、WO2019/074422A1からの既知の治療用途、すなわち感染の予防又は治療は、止血の向上又は促進と異なるだけでなく、出血するような創傷の特定の標的集団よりも、創傷を伴う患者の一般的な集団に関連する。
【0068】
抗菌両親媒性ヒドロゲルは、血液凝固障害、すなわち血液が凝固する能力が損なわれている出血障害を有する患者において、止血を誘発又は促進するのに特に有用であり得る。
【0069】
図7で示すように、抗菌ヒドロゲルの止血作用は、実際には身体との生化学的な相互作用である。ヒドロゲル単独では、測定した試料中の血小板数において、有意でも実質的でもない減少は引き起こされなかった。
【0070】
抗菌両親媒性ヒドロゲルは、止血を同時に誘発し、創傷での及び/又は創傷中における細菌の成長を阻害するために使用されてもよい。実験的に確認された血清安定性の特性と止血効果の向上との組合せによって、抗菌両親媒性ヒドロゲルは、創傷における止血を誘発するために使用するための理想的な創傷被覆材となる。
【0071】
出血している創傷を治療するための方法は、以下を含み得る:出血している創傷上に本明細書に係る抗菌両親媒性ヒドロゲルを配置すること;それにより、抗菌両親媒性ヒドロゲルと血液との間の界面に血餅を形成すること;それにより、創傷における細菌の成長を実質的に制限するか、又は阻害すること。
【0072】
抗菌両親媒性ヒドロゲル粒子の噴霧可能な分散液は、理想的には、抗菌性と止血性を組み合わせた治療に使用され得る。すなわち、噴霧可能な分散液は、抗菌性及び止血性の創傷ケア組成物の組み合わせとしての使用に対して理想的である。ヒドロゲル粒子は、創傷に一般的である不規則な形状の表面被覆率を向上させることができるので、両親媒性ヒドロゲルの実質的に平坦なシートと比較して、改善された抗菌効果及び止血効果を有すると予想される。更に、ヒドロゲルは非生分解性であり、抗菌剤は、図6に示すように、数日間これらの効果を維持することができる。これは、出血している創傷の止血に使用するためのデバイスと特に関連し、ここで、このデバイスは、非出血創傷の治療よりも多くの量の体液との接触に、本質的に供される。
【0073】
本明細書で提供される結果は、proline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)由来抗菌ペプチドが、創傷の止血に驚くほど有用であることを示唆している。例えば、結果の項で示すように、RRP9W4は止血効果を有することが示されている。PRELP由来抗菌ペプチドは基材に適用されてもよい。
【0074】
特定の実施形態を参照して以上で本発明を説明したが、本発明は、本明細書に記載の特定の形態に限定されるものではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0075】
特許請求の範囲において、「含む/含むこと(comprises/comprising)」という用語は、他の要素又は工程の存在を排除しない。更に、個々の特徴が異なる請求項に含まれてもよいが、これらはおそらく有利に組み合わされてもよく、異なる請求項に含まれることは、特徴の組合せが実現可能及び/又は有利ではないことを意味しない。加えて、単数の言及は複数を除外しない。「1つの(a)」、「1つの(an)」、「第1の(first)」、「第2の(second)」などの用語は、複数を排除するものではない。特許請求の範囲における符号は、単に明確な例として提供されており、決して特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例
【0076】
実験項
以下の実施例は単なる例であり、決して本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。むしろ、本発明は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0077】
実験1
両親媒性ヒドロゲルの製造
架橋両親媒性ヒドロゲルは、Pluronic(登録商標)F127についてWO2019/074422A1の実験1の方法に従って調製した。反応スキームを図1に示す。簡潔には、Pluronic F-127(30重量%)と水(70重量%)との混合物を作製して、ミセル立方晶液晶相を形成した。Irgacure2959を光開始剤としてPluronic F-127(2重量%)の混合物に加えた。厚く均質なゲルが形成されるまで、スパチュラを用いて手動で20mLのガラスバイアル中で混合を行った。ゲルをスライドガラス上に広げ、密封容器中で一晩保持して、相関フェーズにセットした。次いで、ゲルを10分間UV重合(90W、λ=252nm)させて、厚さ4~5mmの屈曲性ポリマーヒドロゲルを形成した。ゲルを所望の形状に切断し、Mili-Q水中で48時間洗浄して不要な副生成物を除去し、更なる分析及びAMP結合の前に、それらの完全に膨潤した形状にした。
【0078】
Pluronic F127(EO100PO70EO100)を、WO2019/074422A1の実験1で示されているように重合性ジアクリレートヘッド基で化学的に官能化し、修飾ポリマーを、AMP修飾のための架橋F127ヒドロゲルの製造に使用した。
【0079】
両親媒性ヒドロゲルへのAMP固定
AMPは、WO2019/074422A1の実験1に記載されている浸漬法に従って、ヒドロゲルに共有結合で固定した。対照両親媒性ヒドロゲルはAMPなしで調製した。反応スキームを図2に示す。簡潔には、抗菌ペプチド(AMP)RRPRPRPRPWWWW-NH2(RRP9W4N、Red Glead Discovery AB、Lund、スウェーデン)の溶液を、滅菌水中において200μMの濃度に調製した。ヒドロゲルへのAMPの共有結合のために、AMP修飾の前に、きれいなヒドロゲルを、MES緩衝液(pH6)中で混合した1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)の溶液に最終濃度2mg/mlで浸漬し、室温でゆっくり振盪しながら30分間反応させた。次いで、ヒドロゲルをPBS(pH7.4)中で3回洗浄し、滅菌水中の200μMのAMP溶液1ml中で、室温にて2時間懸濁した。表面を滅菌水で3回洗浄して未反応のペプチドを除去し、この研究で行われた全ての試験に使用した。
【0080】
血液凝固試験
血液を採取するための採血エッペンチューブ、ピペットチップ、及びループチューブをヘパリン処置して、不必要な血液活性化を回避した。ヘパリン処置は、二重コートヘパリン層を得るためにポリマーアミン及びヘパリンコンジュゲートと交互にインキュベートする交互積層法(layer-by-layer assembly method)によって行われる、Corline法(Corline Biomedical AB、Uppsala,スウェーデン)に従って行った。2人の健常志願者からの新鮮な血液を、1IU/mlのヘパリン溶液(Leo Pharma A/S、Ballerup,デンマーク)を含有するヘパリン処置チューブに採取した。採血後、新鮮な血液を使用した。4mMのEDTAを有するエッペンチューブ中に1mlの血液を採取して、基準点(初期と命名)として使用した。
【0081】
試料は、1mlのPBSを添加することによって調整し、実験前に600rpmで30分間振盪した。ヒドロゲル(対照及びAMP修飾)をエッペン試験管に入れた。試料を浸漬するために、100μLのPBSを添加した。その後、1mlの新鮮な血液を各チューブに添加した。次いで、チューブを37℃のインキュベータ内で60分間垂直に回転させた。ブランク対照として、1mlの血液をいかなるヒドロゲルも有しないエッペンチューブに添加し、同じ条件で処置した。実験後、血液をチューブから慎重に採取し、EDTAと混合して、4nMの最終濃度を得た。血小板数は、実験直後にシスメックスXP-300血液分析装置(神戸,日本)を用いて決定した。試料は各ドナーからの血液を用いて2連で実行した。
【0082】
結果及び考察
適切な創傷管理の最も注目すべき特徴の1つは、出血を制御することである。血液凝固は、血小板を捕捉し、炎症性ケモカインを放出することができる創傷の存在下において、フィブリン塊の形成を伴う。その段階では、炎症応答及びその後の創傷治癒を活性化するための横方向応答が引き起こされる。したがって、本発明者らは、ヒドロゲル中のAMPの存在が血液凝固にどのように影響し得るかを調査した。本発明者らは、2人の異なるドナーからの新鮮な血液を用いて全血試験を行い、血液への1時間の曝露の前後の血小板の数を定量した。AMPを含まないヒドロゲルと比較して、AMP-ヒドロゲル上において大いに視認可能である血餅形成が観察された。観察から予想されるように、血小板計数による結果(図7に示す)は、AMPの存在下における有意に少ない血小板数を示した。驚くべき結果は、AMP-ヒドロゲルを創傷パッチとして用いると、出血している創傷上の血液凝固及び血餅形成を促進することができると示唆している。これは、優れた抗菌効果とは別に、AMP-ヒドロゲルによって導入される、所望の追加の特性であると考えることができる。
【0083】
RRP9W4Nは、proline arginine-rich end leucine-rich repeat protein(PRELP)由来抗菌ペプチドであり、多くの点でLL-37に類似しているので、血液凝固効果は特に驚くべきであるが、一方でLL-37は、血漿凝固に影響を及ぼさないことが示されている(Harm,S et al.,Blood Compatibility-An Important but Often Forgotten Aspect of the Characterization of Antimicrobial Peptides for Clinical Application,Int.J.Mol.Sci.,2019,20,5426; doi:10.3390/ijms20215426)。
【0084】
実験2
両親媒性ヒドロゲルの噴霧可能な分散液
粒状ヒドロゲルの噴霧可能な製剤を以下の手順に従って調製した。
【0085】
DA-F127は、Pluronic(登録商標)F127についてWO2019/074422A1の実験1に従って合成し、DA-F127は、30重量%のPluronic(登録商標)及び70重量%の水の組成を有する水と混合した。混合後、開始剤Irgacure(登録商標)2959(1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン)を、形成されたゲルに、ゲル中のPluronic(登録商標)の0.5重量%に相当する量で添加した。ゲルを冷蔵庫に少なくとも2日間入れた。冷蔵の後、ゲルを365nmで6分間架橋した。ここで、架橋したヒドロゲルを水中で少なくとも2日間洗浄した。
【0086】
洗浄後、ヒドロゲルを乳棒及び乳鉢で粗いペーストまで粉砕した。次いで、ペーストを水に入れ、Ultra-Turrax(登録商標)分散機を使用して、より微細な粒径及び分布を得た。その後、得られた溶液は、便宜上行われる実験に対して安定であった。
【0087】
既知の重量の粒子(膨潤形態)は、吸引濾過し、次いで顆粒を15mlのファルコンチューブに入れることによって得た。これは通常約2グラムであった。粒子を活性化するために、MES緩衝液中の新たに調製したEDC/NHS(2mg/ml)10mlをファルコンチューブに添加した。チューブを数分間超音波処理し、次いで、振盪プレート上に30分間置いた。その後、溶液を吸引濾過し、水で洗浄して粒子を分離して、過剰なEDC/NHSを洗い流した。次いで顆粒を秤量して任意の損失を記録し、続いて400μMのAMP(PBS中に溶解)10mlを顆粒に添加した。これもまた迅速に超音波処理し、その後約2時間振盪プレート上に置いた。
【0088】
溶液を再び吸引濾過し、30mlの水で洗浄したが、今回は活性化後にまだ残っているペプチドの量を測定するために洗浄液を回収した。ここで顆粒を活性化し、顆粒は更なる実験のために既知の濃度を得るため秤量して溶液中に入れられ得る。
【0089】
寒天プレート上の黄色ブドウ球菌(S.aureus)に対する抗菌効果
対照顆粒(非活性化)及びAMP活性化顆粒の各々200mgを、別個のエッペンチューブ(1回当たり各4つ)に入れ、180μlのPBS溶液を各チューブに添加した。次いで、チューブを短時間遠心分離して全ての粒子を溶液中に入れ、続いて水浴中で超音波処理して、粒子を再分散した。
【0090】
寒天プレートに、10CFU(コロニー形成単位)/mlの濃度である黄色ブドウ球菌(S.aureus)の培養物で画線し、数分間乾燥させた。次いで、エッペンチューブの溶液を、各寒天プレート上の1つの対照及び1つのAMP活性化バージョンと共に、寒天プレート上に置いた。溶液を寒天プレートの上へ穏やかに広げて、毎回、溶液の比較的均一な広がり及び厚さを得た。寒天プレートは、顆粒の周りに液体が観察されなくなるまで数分間風乾させるため、開放したまま放置することで、反転後に溶液が寒天の頂部の適所に留まるようにした。その後、寒天プレートを上下逆さにして、一晩(約15時間)インキュベートした。
【0091】
翌日、1mlのPBSを含有するエッペンチューブに入れた各「スプレッド」の中央で生検パンチを採取することによって、CFU実験を行った。チューブをボルテックスし、少なくとも10分間振盪させた。次いで、10段階の段階希釈を行い、10μL滴の好適な希釈液を寒天プレート上に落とし、約15時間(コロニーが計数しやすくなるまで)インキュベートした。
【0092】
結果及び考察
図8は、一晩インキュベーションした後のプレートの様子の一例を示す。色/テクスチャの違いは、AMP活性化顆粒の中/下に存在する細菌がはるかに少ないためである可能性が最も高い。色差は変換前アーカイブで見える。公開された白黒の図面は異なるテクスチャを示す。また、AMP活性化粒子の被覆率が悪かった箇所、すなわち噴霧可能粒子がプレート上に広がらなかった箇所では、細菌が増殖していることが容易に確認できる。
【0093】
【0094】
CFUの結果を表1に示す。ここで、CFUは、生検を洗浄した1mlのPBS中の細菌数に対応する。結果は、AMP活性化顆粒を適用した場合、対照顆粒と比較して、約99.993%の有意な低減を明確に示している。
【0095】
顆粒を洗浄した後のAMP残部のUV-vis測定は、1.7グラムの粒子が約5.7mgのペプチドを吸収することを示した。これは、両親媒性ヒドロゲルによって形成された0.07gの固体シートに対する0.07mgのペプチドと比較される。粒子は、非粒子/顆粒形態である固体ヒドロゲルと比較して、約3.35倍のペプチドを吸収した。
【0096】
概念の証明を示すため、PBS中に溶解した粒子を単純な機械式噴霧ボトルに入れ、表面に噴霧した。粒子は噴霧可能であり、およそ25cmの表面積を迅速かつ比較的均一に覆った。厚みの均一性を目視で検査した。
【0097】
実験3
異なるペプチドを有するヒドロゲル試料での血液凝固
ヒドロゲルを4つの異なる種類の抗菌ペプチド(AMP)で官能化した。使用したAMPは、PGLa、LL-37、テンポリンB、及びRRP9W4であった。対照として、いかなるAMPも結合していないヒドロゲルを使用した。
【0098】
新鮮なクエン酸塩添加ウマ血液をスウェーデンのHatunalab ABから購入し、AMPの存在が凝固を誘導できるかどうかを示すために使用した。エッペンチューブ内に、1mlの血液を0.1mlの250Mm塩化カルシウムと共に添加し(クエン酸抗凝固剤を戻すため)、混合した。
【0099】
試料を24ウェルプレートに入れ、1mlのPBSをヒドロゲルに添加することによって調整した。15分後、試料を、血液を含有するエッペンチューブに移した。次いで、チューブを振盪機上に置き、37℃で60分間インキュベートした。
【0100】
ブランク対照として、1mlの血液をいかなるヒドロゲルも有しないエッペンチューブに添加し、同じ条件で処置した。実験後、血液をチューブから慎重に採取し、ピンセットを用いてヒドロゲルを慎重にチューブから取り出し(この時点で、いくらかの凝固が試験チューブ壁の側で観察された)、ヒドロゲルを、PBSのフラッシングで3回洗浄して、画像化前に未付着の血餅及び他の血球を除去した。試料は2連で実行した。
【0101】
結果及び考察
この試験は、ヒドロゲル上のAMPの存在が血液凝固にどのように影響するかを調べるために行われた。ここでは、任意の観察可能な血餅が、異なるペプチドが共有結合したヒドロゲル上で形成され得るかどうかを確認するために、ウマ全血試験を実施した。RRP9W4を有するヒドロゲルでは大きく視認可能な血餅が観察されたが、一方で他のAMP(PGLa、LL-37、及びテンポリンB)を有するヒドロゲル及びいかなるAMPをも有しない対照ヒドロゲルでは、血餅形成は観察されなかった。
【0102】
この試験では、ヒドロゲル表面にしっかりと付着した血餅のみを、ヒドロゲル-血液接触によって誘発された血餅とみなした。この試験中に形成された他の血餅は、主に試験管壁に付着していたか、又は表面から容易に剥離した。以下の表を参照されたく、ここで、aとはヒドロゲルに固定された血餅の形成を示す。
【0103】
【0104】
実験3の単純かつ定性的な性質のために、上記の結果は決定的であるとは考えられない。しかしながら、PGLa、LL-37、及びテンポリンBは、これらの全てが、直鎖構造、正味電荷、及び疎水性の点でRRP9W4と類似しているが、ヒドロゲルの表面に強い血餅を形成しなかったので、これはRRP9W4の結果の驚くべき性質を裏付けている。特に、テンポリンB及びRRP9W4は、同じ長さ(アミノ酸13個)及び類似の疎水性(それぞれ、4.22kcal/mol及び9.15kcal/mol)を有するが、ヒドロゲル上で異なる凝固結果を示したということに留意されたい。更に、RRP9W4及びLL-37の正味電荷(それぞれ、+6及び+6)は同様であるが、以前の結果によれば、LL-37は凝固効果を示さなかったが、RRP9W4は驚くべき凝固効果を示し続けた。
図1
図2
図3A-3C】
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023507086000001.app
【国際調査報告】