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特表2023-507243シナプス形成を決定するための方法およびシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】シナプス形成を決定するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20230215BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230215BHJP
   G01N 33/574 20060101ALI20230215BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20230215BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20230215BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230215BHJP
   C07K 14/82 20060101ALI20230215BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/53 D
G01N33/574 A
C07K16/46
C07K14/725
C12N5/10
C07K14/82
C12Q1/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021519543
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(85)【翻訳文提出日】2021-06-04
(86)【国際出願番号】 US2019055949
(87)【国際公開番号】W WO2020077271
(87)【国際公開日】2020-04-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】カメン, リン
(72)【発明者】
【氏名】ベンダー, ブレンダン
(72)【発明者】
【氏名】チェン, シャン-チョン
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2G045AA24
2G045AA40
2G045CB01
2G045DA36
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QR48
4B063QS32
4B063QS33
4B063QX02
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045CA41
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA50
(57)【要約】
本開示の主題は、シナプス形成、例えば、T細胞依存性二重特異性抗体などの多重特異性抗体の活性に関連するシナプス形成を決定するための方法および組成物に関する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞シナプス形成を検出する方法であって、
(a)第1の抗原および第2の抗原に結合可能な多重特異性抗体を、前記第1の抗原を発現する第1の細胞および前記第2の抗原を発現する第2の細胞に接触させることであって、前記多重特異性抗体が前記第1の抗原および前記第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、前記第1の細胞と前記第2の細胞との間に形成される、ことと、
(b)前記第1の細胞の活性化を測定することであって、前記第1の細胞の活性化が、細胞シナプス形成を示す、ことと、を含む、方法。
【請求項2】
細胞シナプス形成を誘導可能な多重特異性抗体の活性を決定する方法であって、
(a)第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体を、前記第1の抗原を発現する第1の細胞および前記第2の抗原を発現する第2の細胞に接触させることであって、前記多重特異性抗体が前記第1の抗原および前記第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、前記第1の細胞と前記第2の細胞との間に形成される、ことと、
(b)前記細胞シナプスによる前記第1の細胞の活性化を測定することであって、前記第1の細胞の検出可能な活性化が、前記多重特異性抗体が細胞シナプス形成を誘導可能であることを示す、ことと、を含む、方法。
【請求項3】
前記第1の細胞の活性化を測定することが、活性化を示す少なくとも1つのバイオマーカーを測定することを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、細胞表面分子である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、CD62L、CD69、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、CD62Lの発現である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の抗原が、CD3である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の細胞が、T細胞またはT細胞に由来する細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の細胞が、活性化時に細胞溶解的に不全である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の細胞が、Jurkat細胞である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記第2の抗原が、腫瘍抗原である、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記腫瘍抗原が、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第2の細胞が、B細胞である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記腫瘍抗原が、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の細胞の活性化を測定することが、前記第1の細胞の前記活性化時に誘導されるレポーターを検出することを含む、請求項1、2、および7~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記レポーターが、蛍光分子または発光分子である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記第1の細胞の前記第2の細胞に対する比が、約1:10~約50:1である、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の細胞の前記第2の細胞に対する前記比が、約1:10~約10:1である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記第2の細胞上での前記第2の抗原の平均発現が、細胞1個当たり少なくとも約1,000分子である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第2の細胞上での前記第2の抗原の前記平均発現が、細胞1個当たり少なくとも約10,000分子である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の細胞と前記第2の細胞との間の平均距離が、約0.3mm以下である、請求項1~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記第1の細胞と前記第2の細胞との間の前記平均距離が、約0.1mm以下である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記多重特異性抗体が、二重特異性抗体である、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体の細胞シナプス形成を決定するためのキットであって、
(a)前記第1の抗原を発現する第1の細胞と、
(b)前記第2の抗原を発現する第2の細胞と、
(c)前記第1の細胞の活性化を測定するための手段と、を含む、キット。
【請求項25】
二重特異性抗体が前記第1の抗原および前記第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、前記第1の細胞と前記第2の細胞との間に形成される、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
前記細胞シナプス形成が、前記第1の細胞を活性化する、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記第1の細胞の活性化を測定するための前記手段が、活性化を示す少なくとも1つのバイオマーカーを測定することを含む、請求項24~26のいずれか一項に記載のキット。
【請求項28】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、細胞表面分子である、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、CD62L、CD69、およびそれらの組み合わせの発現からなる群から選択される、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、CD62Lの発現を含む、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
前記第1の抗原が、CD3である、請求項24~29のいずれか一項に記載のキット。
【請求項32】
前記第1の細胞が、T細胞またはT細胞に由来する細胞である、請求項24~29のいずれか一項に記載のキット。
【請求項33】
前記第1の細胞が、活性化時に細胞溶解的に不全である、請求項32に記載のキット。
【請求項34】
前記第1の細胞が、Jurkat細胞である、請求項33に記載のキット。
【請求項35】
前記第2の抗原が、腫瘍抗原である、請求項23~33のいずれか一項に記載のキット。
【請求項36】
前記腫瘍抗原が、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、請求項35に記載のキット。
【請求項37】
前記第2の細胞が、B細胞である、請求項24~36のいずれか一項に記載のキット。
【請求項38】
前記腫瘍抗原が、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、請求項37に記載のキット。
【請求項39】
前記第1の細胞の活性化を測定するための前記手段が、前記第1の細胞内のレポーター遺伝子を含み、前記レポーター遺伝子の発現が、前記第1の細胞の前記活性化時に誘導される、請求項24~26および31~38のいずれか一項に記載のキット。
【請求項40】
前記レポーター遺伝子が、蛍光分子または発光分子を発現する、請求項39に記載のキット。
【請求項41】
前記第1の細胞の前記第2の細胞に対する比が、約1:10~約50:1である、請求項24~40のいずれか一項に記載のキット。
【請求項42】
前記第1の細胞の前記第2の細胞に対する前記比が、約1:10~約10:1である、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
前記第2の細胞上での前記第2の抗原の平均発現が、細胞1個当たり少なくとも約1,000分子である、請求項24~42のいずれか一項に記載のキット。
【請求項44】
前記第2の細胞上での前記第2の抗原の前記平均発現が、細胞1個当たり少なくとも約10,000分子である、請求項43に記載のキット。
【請求項45】
前記第1の細胞と前記第2の細胞との間の平均距離が、約0.3mm以下である、請求項24~44のいずれか一項に記載のキット。
【請求項46】
前記第1の細胞と前記第2の細胞との間の前記平均距離が、約0.1mm以下である、請求項45に記載のキット。
【請求項47】
前記多重特異性抗体が、二重特異性抗体である、請求項24~46のいずれか一項に記載のキット。
【請求項48】
第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体の細胞シナプス形成を決定するためのシステムであって、
(a)前記第1の抗原を発現する第1の細胞と、
(b)前記第2の抗原を発現する第2の細胞と、
(c)前記第1の細胞の活性化を測定するための手段と、を含む、システム。
【請求項49】
前記多重特異性抗体が前記第1の抗原および前記第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、前記第1の細胞と前記第2の細胞との間に形成される、請求項48に記載のシステム。
【請求項50】
前記細胞シナプス形成が、前記第1の細胞を活性化する、請求項49に記載のシステム。
【請求項51】
前記第1の細胞の活性化を測定するための前記手段が、活性化を示す少なくとも1つのバイオマーカーを含む、請求項48~50のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項52】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、細胞表面分子である、請求項51に記載のシステム。
【請求項53】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、CD62L、CD69、およびそれらの組み合わせの発現からなる群から選択される、請求項52に記載のシステム。
【請求項54】
前記少なくとも1つのバイオマーカーが、CD62Lの発現を含む、請求項53に記載のシステム。
【請求項55】
前記第1の抗原が、CD3である、請求項48~54のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項56】
前記第1の細胞が、T細胞またはT細胞に由来する細胞である、請求項48~55のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項57】
前記第1の細胞が、活性化時に細胞溶解的に不全である、請求項56に記載のシステム。
【請求項58】
前記第1の細胞が、Jurkat細胞である、請求項57に記載のシステム。
【請求項59】
前記第2の抗原が、腫瘍抗原である、請求項48~58のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項60】
前記腫瘍抗原が、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、請求項59に記載のシステム。
【請求項61】
前記第2の細胞が、B細胞である、請求項48~60のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項62】
前記腫瘍抗原が、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、請求項61に記載のシステム。
【請求項63】
前記第1の細胞の活性化を測定するための前記手段が、前記第1の細胞内のレポーター遺伝子を含み、前記レポーター遺伝子の発現が、前記第1の細胞の前記活性化時に誘導される、請求項48~50および61~62のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項64】
前記レポーター遺伝子が、蛍光分子または発光分子を発現する、請求項63に記載のシステム。
【請求項65】
前記第1の細胞の前記第2の細胞に対する比が、約1:10~約50:1である、請求項48~64のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項66】
前記第1の細胞の前記第2の細胞に対する前記比が、約1:10~約10:1である、請求項65に記載のシステム。
【請求項67】
前記第2の細胞上での前記第2の抗原の平均発現が、細胞1個当たり少なくとも約1,000分子である、請求項48~66のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項68】
前記第2の細胞上での前記第2の抗原の前記平均発現が、細胞1個当たり少なくとも約10,000分子である、請求項67に記載のシステム。
【請求項69】
前記第1の細胞と前記第2の細胞との間の平均距離が、約0.3mm以下である、請求項48~68のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項70】
前記第1の細胞と前記第2の細胞との間の前記平均距離が、約0.1mm以下である、請求項69に記載のシステム。
【請求項71】
前記多重特異性抗体が、二重特異性抗体である、請求項48~70のいずれか一項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月9日に出願された米国特許仮出願第62/743,153号に対する優先権を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれている。
【0002】
本開示の主題は、シナプス形成、例えば、T細胞依存性二重特異性抗体などの多重特異性抗体の活性に関連するシナプス形成を決定するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
二重特異性抗体などの多重特異性抗体は、研究ツール、診断ツール、および治療法として重要である。これは、主に、そのような抗体が2つ以上の抗原または抗原上に存在する2つ以上のエピトープに高い特異性および親和性で結合するために選択することができるという事実に起因する。例えば、がん療法の場合、多重特異性抗体は、例えば、がん細胞上に存在する抗原に結合することによってがん細胞を標的化し、免疫細胞に免疫応答を引き起こすために使用することができる。加えて、多重特異性抗体は、ヘテロ二量体受容体用のリガンドとして使用することができ、ヘテロ二量体受容体は、多重特異性抗体が受容体に結合し、受容体の構成要素間の相互作用を促進するとき、通常、受容体の類似したリガンドによって活性化される。
【0004】
治療用モノクローナル抗体(mAb)または抗体-薬物複合体(ADC)を用いて腫瘍関連細胞表面抗原を標的化することは、悪性の血液腫瘍および固形腫瘍の治療に非常に効果的であることが示されてきた。これらの分子は、多くの場合、腫瘍細胞を殺傷するために以下の作用機序(MOA)、すなわち、抗体依存性細胞介在細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、受容体遮断、もしくは複合化細胞傷害薬の内部移行および細胞内放出のうちの1つまたはそれらの組み合わせに依拠する。MOAにおける違いにもかかわらず、治療用分子の薬物動態特性の考慮と共に標的関与を最大化/最適化することは、用量/レジメン決定のための重要な要因であった。したがって、がんを治療するためにmAbおよびADCを最大化/最適化するための方法およびシステムが必要とされている。
【0005】
T細胞依存性二重特異性分子(例えば、二重特異性T細胞誘導(BiTE)およびT細胞依存性二重特異性抗体(TBD))は、多重特異性抗体のサブセットとして、がんの治療のための新たに出現した有望な治療用分子の種類を代表する。ブリナツモマブ、CD3×CD19 BiTEは、珍しい型の急性リンパ芽球性白血病の治療に有効であることが証明され、最近、FDAによる迅速承認を受けている(Bargou,R.,E.Leo,et al.(2008)“Tumor regression in cancer patients by very low doses of a T cell-engaging antibody.”Science,321:974-977)。複数の新規T細胞依存性二重特異性物(bispecifics)はまた、臨床開発中であり、有望な前臨床結果を示している。したがって、治療使用のための新規多重特異性分子を開発かつスクリーニングするための方法およびシステムが必要とされている。複数の新規T細胞依存性二重特異性物はまた、臨床開発中であり、有望な前臨床結果を示している。(Budde,L E,et al.(2018)“Mosunetuzumab,a Full-Length Bispecific CD20/CD3 Antibody,Displays Clinical Activity in Relapsed/Refractory B-Cell Non-Hodgkin Lymphoma(NHL):Interim Safety and Efficacy Results from a Phase 1 Study“,Blood 132:399)。
【発明の概要】
【0006】
本開示の主題は、シナプス形成を、例えば、多重特異性抗体(T細胞依存性二重特異性(TDB)抗体など)をスクリーニングすることによって決定するための方法およびシステムを提供する。ある特定の実施形態では、方法は、細胞シナプス形成を誘導可能である多重特異性抗体、例えば、T細胞依存性二重特異性抗体のスクリーニングに関する。ある特定の実施形態では、方法は、(a)第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体を、第1の抗原を発現する第1の細胞および第2の抗原を発現する第2の細胞に接触させることであって、多重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される、ことと、(b)細胞シナプスによる第1の細胞の活性化を測定することと、を含み、第1の細胞の検出可能な活性化は、多重特異性抗体が細胞シナプス形成を誘導可能であることを示す。
【0007】
本開示の主題は、細胞シナプス形成を検出する方法をさらに提供する。ある特定の実施形態では、方法は、(a)第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体を、第1の抗原を発現する第1の細胞および第2の抗原を発現する第2の細胞に接触させることであって、多重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される、ことと、(b)細胞シナプスによる第1の細胞の活性化を測定することであって、第1の細胞の検出可能な活性化は、細胞シナプス形成を示す、ことと、を含む。
【0008】
ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、二重特異性抗体である。ある特定の実施形態では、第1の細胞の活性化を測定することは、活性化を示すバイオマーカーにおいて測定することを含む。ある特定の実施形態では、バイオマーカーは、細胞表面分子である。ある特定の実施形態では、バイオマーカーは、CD62L、CD69、CD154、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、バイオマーカーは、CD62Lの発現である。ある特定の実施形態では、第1の細胞は、T細胞またはT細胞に由来する細胞である。ある特定の実施形態では、第1の細胞は、活性化時に細胞溶解的に不全である。ある特定の実施形態では、第1の細胞は、Jurkat細胞である。ある特定の実施形態では、第1の抗原は、CD3である。
【0009】
ある特定の実施形態では、第2の抗原は、腫瘍抗原である。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、第2の細胞は、B細胞である。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される。
【0010】
ある特定の実施形態では、第1の細胞の活性化を測定することは、第1の細胞の活性化時に誘導されるレポーターを検出することを含む。ある特定の実施形態では、レポーターは、蛍光分子または発光分子である。
【0011】
ある特定の実施形態では、第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約50:1である。ある特定の実施形態では、第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約10:1である。ある特定の実施形態では、第2の細胞上での第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約1,000分子である。ある特定の実施形態では、第2の細胞上での第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約100,000分子である。ある特定の実施形態では、第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.3mm以下である。ある特定の実施形態では、第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.1mm以下である。
【0012】
本開示の主題はまた、細胞シナプス形成、例えば、第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体によって誘導される細胞シナプス形成を決定するためのキットであって、第1の抗原は、第1の細胞によって発現され、第2の抗原は、第2の細胞によって発現される、キット、に関する。ある特定の実施形態では、本開示のキットは、(a)第1の抗原を発現する第1の細胞と、(b)第2の抗原を発現する第2の細胞と、(c)第1の細胞の活性化を測定するための手段と、を含む。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、細胞シナプスは、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される。ある特定の実施形態では、細胞シナプス形成は、第1の細胞を活性化する。
【0013】
本開示の主題は、細胞シナプス形成を決定するためのシステムをさらに提供し、システムは、(a)第1の抗原を発現する第1の細胞と、(b)第2の抗原を発現する第2の細胞と、(c)第1の細胞の活性化を測定するための手段と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】T細胞依存性二重特異性抗体(TDB)のBリンパ腫細胞およびT細胞に対する結合、ならびに細胞シナプスの形成を説明する、細胞シナプスモデルの構造を示す図である。
図2A】T細胞活性化のバイオマーカーとしてのCD69およびCD62Lの使用を示す図である。
図2B】T細胞活性化のバイオマーカーとしてのCD69およびCD62Lの使用を示す図である。図2Aは、BJAB B細胞およびCD20/CD3 TDBと共にインキュベートした、CD69およびCD62Lの発現について染色したJurkat T細胞を示す。図2Bは、増加したCD69または減少したCD62Lを有するT細胞の割合を使用してTDB濃度に対するT細胞活性化%を計算した図である。エラーバーは、SEMを示す。
図3A】T細胞活性化の検出を示す図である。
図3B】T細胞活性化の検出を示す図である。図3Aは、24時間の経時変化にわたる、BJAB B細胞およびCD20/CD3 TDBと共にインキュベートしたJurkat T細胞を示す。CD69増加またはC62L減少で表示したように活性化の割合を計算し、プロットした。図3Bは、4時間の経時変化にわたる、BJAB B細胞およびCD20/CD3 TDBと共にインキュベートしたJurkat T細胞の濃度滴定を示す。CD62L発現の減少を使用してT細胞活性化の割合を計算した。T細胞活性化をTDB濃度に対してプロットした。エラーバーは、SEMを示す。
図4】CD4 T細胞およびCD8 T細胞の活性化の検出を示す図である。ヒトPMBCは、CD20/CD3 TDBと共に4時間インキュベートした。C62L減少によって測定されたCD4 T細胞およびCD8 T細胞の活性化の割合を計算し、プロットした。エラーバーは、SEMを示す。
図5】細胞シナプスの予測値および観測値を示す図である。黒円は、様々なエフェクター:標的(E:T)細胞比およびCD20/CD3 TDB濃度における観測された細胞シナプスの割合(T細胞の総数に対して正規化されたCD62L T細胞活性化マーカーを有するT細胞の数)を表す。灰色円は、モデルで予測された細胞シナプスの割合を表す。
図6】B細胞が抗原CD20のより高い発現レベルを有した場合にT細胞がより活性化されやすいことを示す図である。B細胞Rは、CD20であり、発現レベルは、試験サンプルにおいて細胞1個当たり1,200、細胞1個当たり1,400、または細胞1個当たり122,000である。
図7】1μL中の500個のT細胞および500個のB細胞のシミュレーションの図である。
図8】T細胞とB細胞との間の細胞内距離のシミュレーションの図である。
図9-1】異なるB細胞抗原発現(細胞1個当たり1,200、細胞1個当たり1,400、または細胞1個当たり122,000)およびT細胞とB細胞との間の細胞内距離(距離(Dx)0.04mm~0.30mm)の条件におけるT細胞活性化を示す図である。
図9-2】異なるB細胞抗原発現(細胞1個当たり1,200、細胞1個当たり1,400、または細胞1個当たり122,000)およびT細胞とB細胞との間の細胞内距離(距離(Dx)0.04mm~0.30mm)の条件におけるT細胞活性化を示す図である。
図9-3】異なるB細胞抗原発現(細胞1個当たり1,200、細胞1個当たり1,400、または細胞1個当たり122,000)およびT細胞とB細胞との間の細胞内距離(距離(Dx)0.04mm~0.30mm)の条件におけるT細胞活性化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.定義
【0016】
本明細書での用語「抗体」とは、最も広い意味で使用され、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体およびTDB抗体)、および抗体断片を含めた、これらに限定されない、様々な抗体構造を包含する。
【0017】
「抗体断片」は、インタクトな抗体が結合する抗原を結合するインタクトな抗体の一部を含むインタクトな抗体以外の分子を指す。抗体断片の例として、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’);ダイアボディ;線状抗体;一本鎖抗体分子(例えば、scFv);および抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、抗体断片は、Fab分子である。ある特定の実施形態では、抗体断片は、F(ab’)分子である。
【0018】
用語「全長抗体」、「インタクトな抗体」、および「全抗体」とは、本明細書では相互に交換可能に使用され、天然抗体構造と実質的に類似の構造を有するか、または本明細書に定義されるFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指す。
【0019】
「天然抗体」とは、様々な構造を有する天然に存在する免疫グロブリン分子を指す。例えば、天然IgG抗体は、ジスルフィド結合されている2つの同一の軽鎖および2つの同一の重鎖からなる約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。N末端からC末端まで、それぞれの重鎖は、可変重ドメインまたは重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)を有し、これに3つの定常ドメイン(C1、C2、およびC3)が続く。同様に、N末端からC末端まで、それぞれの軽鎖は、可変軽ドメインまたは軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)を有し、続いて定常軽(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づき、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つの種類のうちの1つに割り当てることができる。
【0020】
抗体の「クラス」とは、その重鎖によって保有される定常ドメインまたは定常領域の型を指す。抗体の5種類の主要なクラス、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、およびIgAに更に分けることができる。免疫グロブリンの異なるクラスに対応する重鎖定常ドメインは、それぞれα、δ、ε、γ、またはμと呼ばれる。
【0021】
「単離された」抗体または抗体断片は、その自然環境の構成成分から分離された抗体である。抗体または抗体断片は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリ電気泳動)、またはクロマトグラフ(例えば、イオン交換または逆相HPLC)によって決定される、95%超または99%超の純度まで精製することができる。抗体純度の評価のための方法の総説については、例えばFlatman et al.,J.Chromatogr.B 848:79-87(2007)を参照されたい。
【0022】
用語「エピトープ」とは、本明細書で使用される場合、抗体に特異的に結合可能なタンパク質決定因子を指す。エピトープは、通常、アミノ酸または糖側鎖などの分子の化学的に活性な表面集団からなり、通常、特定の三次元構造特性および特定の電荷特性を有する。立体構造エピトープおよび非立体構造エピトープは、変性溶媒の存在下で、立体構造エピトープに対する結合が失われるが、非立体構造エピトープに対する結合は失われないことから区別される。
【0023】
「単離された」核酸とは、その自然環境の構成成分から分離された核酸分子を指す。単離された核酸は、通常その核酸分子を含む細胞に含まれているが、その核酸分子が、染色体外に存在するか、またはその天然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する核酸分子を含む。
【0024】
用語「ベクター」とは、本明細書で使用される場合、連結している別の核酸を増殖することができる核酸分子を指す。本用語は、自己複製する核酸構造としてのベクター、およびベクターが導入された宿主細胞のゲノム内へと組み込まれたベクターを含む。特定のベクターは、それらが機能的に連結されている核酸の発現を指示することができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現ベクター」と称される。
【0025】
「宿主細胞」、「宿主細胞株」、および「宿主細胞培養物」という用語は、同義で使用され、外因性核酸が導入された細胞を指し、かかる細胞の子孫を含む。宿主細胞としては、初代形質転換細胞、および継代の数にかかわらずそれに由来する子孫を含む、「形質転換体」および「形質転換細胞」が含まれる。子孫は、親細胞と核酸含量が完全に同一である可能性がある、または変異を含んでいる可能性がある。元々の形質転換された細胞についてスクリーニングされるかまたは選択されるのと同じ機能または生物活性を有する突然変異体の後代は、本発明に含まれる。
【0026】
「個体」または「対象」は、哺乳動物である。哺乳動物には、家畜(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例えば、ヒト、およびサルなどの非ヒト霊長類)、ウサギ、ならびにげっ歯類(例えば、マウスおよびラット)が含まれるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、個体または対象は、ヒトである。
【0027】
本明細書で使用される場合、用語「約」または「およそ」とは、当業者によって決定される特定の値の許容できる誤差範囲を意味し、これは、その値がどのように測定または決定されるか、すなわち、測定システムの限界に部分的に依存する。例えば、「約」とは、当該技術分野での1実施当たり3つまたは3つよりも多くの標準偏差以内を意味し得る。あるいは、「約」は、所与の値の20%まで、好ましくは10%まで、より好ましくは5%まで、更により好ましくは1%までの範囲を意味し得る。あるいは、特に生物学的システムまたはプロセスに関して、この用語は、値の1桁以内、好ましくは5倍以内、より好ましくは2倍以内を意味することができる。
【0028】
本明細書で使用される場合、任意の濃度範囲、割合範囲、比率範囲、または整数範囲は、特に記載がない限り、列挙された範囲内のあらゆる整数、および適切な場合、それらの分数(整数の10分の1および100分の1など)の値を含むと理解すべきである。
【0029】
2.抗体
【0030】
本開示の主題は、本明細書に記載のスクリーニング方法によって評価することができる多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体およびTDB抗体を提供する。本開示の多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる結合特異性を有する。例えば、米国特許第5,922,845号および同5,837,243号;Zeilder(1999)J.Immunol.163:1246-1252;Somasundaram(1999)Hum.Antibodies 9:47-54;Keler(1997)Cancer Res.57:4008-4014を参照されたい。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、単一の抗原上の少なくとも2つの異なるエピトープに結合することができる、または抗原上で重複する少なくとも2つのエピトープに結合することができる、例えば、二重エピトープ性抗体を本開示により包含する。あるいは、ある特定の実施形態では、本開示の多重特異性抗体は、少なくとも2つの異なる抗原に結合することができる。本開示の多重特異性抗体は、アゴニスト抗体またはアンタゴニスト抗体であり得る。
【0031】
ある特定の実施形態では、本明細書に開示された多重特異性抗体の少なくとも1つの抗原結合ドメインは、1つ以上の腫瘍抗原に結合する。任意の腫瘍抗原を本発明に開示された腫瘍関連実施形態において使用することができる。抗原は、例えば、ペプチドとしてまたはインタクトなタンパク質もしくはその部分として発現され得る。インタクトなタンパク質またはその部分は、天然または変異誘発されてもよい。腫瘍抗原の非限定的な例には、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bが挙げられる。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、B細胞性リンパ腫内に含まれる。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bである。
【0032】
ある特定の実施形態では、多重特異性抗体の少なくとも1つの抗原結合ドメインは、細胞上に発現された1つ以上のタンパク質に結合し、その結合は、細胞を活性化する。ある特定の実施形態では、細胞は、T細胞またはT細胞に由来する細胞である。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、T細胞またはT細胞に由来する細胞の受容体に結合し、その結合は細胞を活性化することができる。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、CD3に結合する。
【0033】
ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、第1の抗原および第2の抗原に結合し、第1の抗原および第2の抗原に対する多重特異性抗体の結合は、細胞を活性化する。ある特定の実施形態では、第1の抗原は、腫瘍抗原である。ある特定の実施形態では、第1の抗原は、CD3であり、第2の抗原は、CD20である。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれている国際公開第2015/095392号に開示された二重特異性抗体である。
【0034】
ある特定の実施形態では、本開示の多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体および/またはTDB抗体は、1つ以上の抗原結合ポリペプチドを含む。例えば、限定するものではないが、本開示の多重特異性抗体は、第1の抗原結合ポリペプチドおよび第2の抗原結合ポリペプチドを含むことができる。ある特定の実施形態では、第1の抗原結合ポリペプチドおよび第2の抗原結合ポリペプチドは、異なる結合特異性を有する。ある特定の実施形態では、第1の抗原結合ポリペプチドは、第1の抗原に結合することができ、第2の抗原結合ポリペプチドは、第2の抗原に結合することができる。
【0035】
ある特定の実施形態では、例えば、本開示の多重特異性抗体が第1の抗原結合ポリペプチドおよび第2の抗原結合ポリペプチドを含む場合、第1の抗原結合ポリペプチドおよび第2の抗原結合ポリペプチドは、1つ以上のジスルフィド架橋により相互作用することができる。例えば、限定するものではないが、ある特定の実施形態では、第1および第2の抗原結合ポリペプチドのヒンジ領域は、1つ以上のジスルフィド架橋、例えば、2つのジスルフィド架橋により相互作用することができる。
【0036】
ある特定の実施形態では、多重特異性、例えば、二重特異性の抗体は、本明細書に開示されるように、抗体の抗原結合ポリペプチドのそれぞれの内部にヘテロ二量化ドメインを含む。ある特定の実施形態では、開示された多重特異性抗体の第1および第2の抗原結合ポリペプチドのCH3ドメインを変更して、第1および第2の抗原結合ポリペプチドのヘテロ二量化を促進することができる。例えば、限定するものではないが、第1の抗原結合ポリペプチドおよび/または第2の抗原結合ポリペプチドは、ノブインホール技術を使用する1つ以上のヘテロ二量化ドメイン(例えば、それらの全内容が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第5,731,168号および同8,216,805号を参照されたい)を含み、第1の抗原結合ポリペプチドと第2の抗原結合ポリペプチドとの間の会合および/または相互作用を促進することができる。
【0037】
ある特定の実施形態では、本開示の多重特異性抗体は、軽鎖定常ドメイン(CL)を含まない。あるいは、本明細書に開示された多重特異性抗体は、1つ以上のCLドメインを含むことができる。本開示の主題は、アンタゴニスト抗体およびアゴニスト抗体をさらに提供する。
【0038】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される抗体は、抗体断片である。抗体断片には、F(ab’)、ダイアボディ、および以下に説明する他の断片が挙げられるが、これらに限定されない。特定の抗体断片の総説としては、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003))を参照されたい。scFv断片の総説には、例えば、Pluckthun,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,(Springer-Verlag,New York),pp.269-315(1994)を参照されたい。また、国際公開第93/16185号、ならびに米国特許第5,571,894号および同第5,587,458号も参照されたい。
【0039】
ダイアボディとは、二価または二重特異性であってもよい、2つの抗原結合部位を有する抗体断片である。例えば、欧州特許第404,097号、国際公開第1993/01161号、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003);およびHollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA90:6444-6448(1993)を参照されたい。トリアボディおよびテトラボディはまた、Hudson et al.,Nat.Med.9:129-134(2003)においても説明されている。
【0040】
抗体断片の追加の非限定的な例には、Fab断片、Fab’断片、Fab’-SH断片、Fv断片、およびscFv断片が挙げられる。シングルドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全てもしくは一部、または軽鎖可変ドメインの全てもしくは一部を含む、抗体断片である。ある特定の実施形態では、シングルドメイン抗体は、ヒトシングルドメイン抗体(Domantis,Inc.,Waltham,MA;例えば、米国特許第6,248,516(B1)号を参照されたい)である。
【0041】
サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、インビボ半減期が増加したFab断片およびF(ab’)断片の議論には、米国特許第5,869,046号を参照されたい。
【0042】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される多重特異性抗体および二重特異性抗体は、キメラ抗体である。ある種のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号;およびMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))に記載されている。一例では、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、またはサルなどの非ヒト霊長類に由来の可変領域)、およびヒト定常領域を含む。ある特定の実施形態では、キメラ抗体は、クラスまたはサブクラスが親抗体のクラスまたはサブクラスから変化した「クラススイッチ」抗体であり得る。キメラ抗体は、その抗原結合断片を含む。
【0043】
ある特定の実施形態では、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。非ヒト抗体は、親の非ヒト抗体の特異性および親和性を保持しながら、ヒトに対する免疫原性を低下させるためにヒト化することができる。ヒト化抗体は、超可変領域(HVR)、例えば、CDRまたはその一部が非ヒト抗体に由来し、FRまたはその一部がヒト抗体配列に由来する、1つ以上の可変ドメインを含むことができる。任意選択で、ヒト化抗体はまた、ヒト定常領域の少なくとも一部を含むことができる。ある特定の実施形態では、ヒト化抗体におけるいくつかのFR残基は、例えば、抗体特異性または親和性を復元または改善するように、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が由来する抗体)由来の対応する残基で置換される。
【0044】
ヒト化抗体およびヒト化抗体を製造する方法は、例えば、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)に概説され、例えばRiechmann et al.,Nature332:323-329(1988);Queen et al.,Proc.Nat‘l Acad.Sci.USA86:10029-10033(1989);米国特許第5,821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321号、および同第7,087,409号;Kashmiri et al.,Methods36:25-34(2005)(特異性決定領域(SDR)のグラフト接合を記載する);Padlan,Mol.Immunol.28:489-498(1991)(「リサーフェシング」を記載する);Dall’Acqua et al.,Methods36:43-60(2005)(「FRシャッフリング」を記載する);ならびに、Osbourn et al.,Methods36:61-68(2005)、およびKlimka et al.,Br.J.Cancer,83:252-260(2000)(FRシャッフリングに対する「ガイド付き選択」手法を記載する)にさらに記載されている。
【0045】
ヒト化に使用されてもよいヒトフレームワーク領域には、以下のものが含まれるが、これらに限定されない。「ベストフィット」法を用いて選択されたフレームワーク領域(例えば、Sims et al.J.Immunol.151:2296(1993)を参照されたい);軽鎖可変領域または重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列に由来するフレームワーク領域(例えば、Carter et al.Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:4285(1992);およびPresta et al.J.Immunol.,151:2623(1993)を参照されたい);ヒト成熟(体細胞変異)フレームワーク領域またはヒト生殖細胞フレームワーク領域(例えば、Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)を参照されたい);およびFRライブラリーのスクリーニングに由来するフレームワーク領域(例えば、Baca et al.,J.Biol.Chem.272:10678-10684(1997)およびRosok et al.,J.Biol.Chem.271:22611-22618(1996)を参照されたい)。
【0046】
ある特定の実施形態では、本明細書に提供される多重特異性抗体は、ヒト抗体である。ヒト抗体は、当該技術分野で既知の様々な技法を使用して産生され得る。ヒト抗体は、一般的に、van Dijk and van de Winkel,Curr.Opin.Pharmacol.5:368-74(2001)およびLonberg,Curr.Opin.Immunol.20:450-459(2008)で記載されている。
【0047】
抗原投与に対して応答するヒト可変領域を有するインタクトなヒト抗体またはインタクトな抗体を産生するために修飾してあるトランスジェニック動物に免疫原を投与することにより、ヒト抗体を調製することができる。かかる動物は、典型的には、内因性免疫グロブリン遺伝子座を置き換えるか、または染色体外に存在するか、もしくは動物の染色体にランダムに組み込まれるヒト免疫グロブリン遺伝子座の全てまたは一部を含有する。このようなトランスジェニックマウスにおいて、内因性免疫グロブリン遺伝子座は、一般的に不活性化されている。トランスジェニック動物からヒト抗体を得る方法の総説として、Lonberg,Nat.Biotech.23:1117-1125(2005)を参照されたい。また、例えば、XENOMOUSE(商標)技術を記載する米国特許第6,075,181号および同第6,150,584号、HuMab(登録商標)技術を記載する米国特許第5,770,429号、K-M MOUSE(登録商標)技術を記載する米国特許第7,041,870号、VelociMouse(登録商標)技術)を記載する米国特許出願公開第2007/0061900号も参照されたい。かかる動物によって生成されたインタクトな抗体由来のヒト可変領域は、例えば、異なるヒト定常領域と組み合わせることによってさらに修飾することができる。
【0048】
ある特定の実施形態では、ヒト抗体はまた、ハイブリドーマに基づく方法によっても製造することができる。ヒトモノクローナル抗体を産生するためのヒト骨髄腫およびマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株が記載されている。(例えば、Kozbor J.Immunol.,133:3001(1984);Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987);およびBoerner et al.,J.Immunol.,147:86(1991)を参照されたい。)ヒトB細胞ハイブリドーマ技術を介して生成されるヒト抗体はまた、Li et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,103:3557-3562(2006)にも記載されている。更なる方法は、例えば、米国特許第7,189,826号(ハイブリドーマ細胞株由来のモノクローナルヒトIgM抗体の産生を記載する)、およびNi,Xiandai Mianyixue,26(4):265-268(2006)(ヒト-ヒトハイブリドーマを記載する)を含む。ヒトハイブリドーマ技術(トリオーマ技術)はまた、Vollmers and Brandlein,Histology and Histopathology,20(3):927-937(2005)およびVollmers and Brandlein,Methods and Findings in Experimental and Clinical Pharmacology,27(3):185-91(2005)にも記載されている。
【0049】
ある特定の実施形態では、ヒト抗体はまた、ヒト由来のファージディスプレイライブラリーから選択されたFvクローン可変ドメイン配列を単離することによって生成することができる。その後、かかる可変ドメイン配列は、所望のヒト定常ドメインと組み合わせられ得る。抗体ライブラリーからヒト抗体を選択するための技法が以下に記載されている。
【0050】
本開示の主題はまた、化学療法剤もしくは薬物、増殖阻害剤、タンパク質、ペプチド、毒素(例えば、タンパク質毒素、細菌、真菌、植物、もしくは動物起源の酵素活性毒素、またはそれらの断片)、または放射性同位体などの1つ以上の細胞毒性薬にコンジュゲートされた、本明細書に記載された、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体を含む免疫複合体を提供する。例えば、開示された主題の抗体または抗原結合部分は、別の抗体、抗体断片、ペプチド、または結合模倣物などの1つ以上の他の結合分子に機能的に結合され得る(例えば、化学的カップリング、遺伝的融合、非共有結合、または他の方法による)。
【0051】
3.抗体をスクリーニングするための方法およびシステム
【0052】
本開示の主題の多重特異性抗体は、本明細書に提供される方法およびシステムによって同定することができる、スクリーニングすることができる、またはそれらの物理的性質/化学的性質および/もしくは生物活性を特定することができる。
【0053】
T細胞依存性多重特異性抗体は、例えば、エフェクターT細胞を活性化することができ、その細胞溶解活性を標的腫瘍細胞に対して標的化する。T細胞依存性多重特異性抗体、例えば、TDB抗体の作用機序は、細胞シナプスの形成に依存する。したがって、ある特定の実施形態では、そのような多重特異性抗体の選択は、細胞シナプス形成を誘導する抗体の能力を検出するシステムおよび/または方法に基づくことができる。
【0054】
ある特定の実施形態では、スクリーニング方法は、(a)第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体を、第1の抗原を発現する第1の細胞(例えば、エフェクター細胞)および第2の抗原を発現する第2の細胞(例えば、標的細胞)に接触させることであって、多重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される、ことと、(b)細胞シナプスによる第1の細胞の活性化を測定することと、を含み、第1の細胞の検出可能な活性化は、多重特異性抗体が細胞シナプス形成を誘導可能であることを示す。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、二重特異性抗体である。
【0055】
ある特定の実施形態では、第1の細胞(例えば、エフェクター細胞)は、T細胞またはT細胞に由来する細胞である。T細胞の非限定的な例には、ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、メモリーT細胞(セントラルメモリーT細胞、幹細胞様メモリーT細胞(または幹様メモリーT細胞)、ならびに2種類のエフェクターメモリーT細胞、例えば、TEM細胞およびTEMRA細胞、制御T細胞(サプレッサーT細胞としても既知)、ナチュラルキラーT細胞、粘膜関連インバリアントT細胞、およびγδT細胞が挙げられる。細胞傷害性T細胞(CTLまたはキラーT細胞)は、感染体細胞または腫瘍細胞の死滅を誘導可能であるTリンパ球のサブセットである。
【0056】
ある特定の実施形態では、第1の細胞は、活性化時に細胞溶解的に不全であるように遺伝子操作されている。そのような遺伝子操作の非限定的な例には、細胞溶解活性、例えば、パーフォリンおよびグランザイム、任意の抗腫瘍サイトカイン(例えば、IL-2、IFNγおよびTNFα)に関与する1つ以上の遺伝子および/またはこれらの遺伝子の発現に必要な1つ以上の遺伝子の欠失および破壊が挙げられるが、これらに限定されない。ある特定の実施形態では、第1の細胞は、不死化細胞である。ある特定の実施形態では、第1の細胞は、Jurkat細胞である。
【0057】
ある特定の実施形態では、第1の細胞は、第1の抗原を発現する。ある特定の実施形態では、第1の抗原に対する多重特異性抗体の結合は、第1の細胞を活性化可能である。ある特定の実施形態では、抗原は、受容体である。ある特定の実施形態では、抗原は、生体複合体である。例えば、限定するものではないが、受容体は、生体複合体内部、例えば、1つ以上の共受容体および/またはタンパク質との複合体内に存在する。ある特定の実施形態では、第1の抗原は、CD3受容体の構成要素である。
【0058】
ある特定の実施形態では、第1の細胞の活性化を測定することは、活性化を示すバイオマーカーを測定することを含む。ある特定の実施形態では、バイオマーカーは、細胞表面分子であり、その量は、第1の細胞の活性化時に変化する。細胞表面分子の変化は、当該技術分野で既知の、または本明細書に開示された任意のアッセイによって決定することができる。例えば、限定するものではないが、細胞表面分子は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって、またはフローサイトメトリー、例えば、細胞表面分子を標的とする抗体を用いる蛍光活性化細胞分取(FACS)によって測定することができる。ある特定の実施形態では、バイオマーカーは、CD62L、CD69、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、バイオマーカーは、CD62Lの発現である。
【0059】
ある特定の実施形態では、第2の細胞(例えば、標的細胞)は、腫瘍細胞または腫瘍抗原を発現する細胞である。ある特定の実施形態では、第2の抗原は、腫瘍抗原である。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される。ある特定の実施形態では、第2の抗原は、第2の細胞に対して内在性である。ある特定の実施形態では、第2の細胞は、B細胞である。ある特定の実施形態では、腫瘍抗原は、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される。
【0060】
細胞の遺伝子改変(例えば、第1の細胞および/または第2の細胞の改変)は、実質的に均一な細胞組成に組換えDNA構築物を形質導入することによって達成することができる。ある特定の実施形態では、レトロウイルスベクター(ガンマレトロウイルスまたはレンチウイルスのいずれか)は、細胞内へのDNA構築物の導入のために用いられる。例えば、抗原認識受容体をコードするポリヌクレオチドは、レトロウイルスベクターにクローン化することができ、発現は、レトロウイルスベクターの内因性プロモーターにより、レトロウイルス末端反復配列により、または対象の標的細胞型に特異的なプロモーターにより促進することができる。非ウイルス性ベクターも同様に使用することができる。
【0061】
ある特定の実施形態では、第1の細胞の活性化は、シグナル伝達経路が第1の細胞の活性化に関連するかどうかを分析することによって決定することができる。ある特定の実施形態では、第1の細胞の活性化を測定することは、第1の細胞の活性化時に誘導されるレポーターを検出することを含む。例えば、限定するものではないが、活性化は、インビトロレポーターベースのアッセイ、例えば、ルシフェラーゼアッセイを使用することによって決定することができ、第1の抗原、例えば、受容体の活性化は、レポーター、例えば、ルシフェラーゼ、または蛍光タンパク質、例えば、GFPもしくはRFPの発現をもたらす。ある特定の実施形態では、レポーターは、第1の細胞の活性化時に活性化されるプロモーターを含む構築物から発現される。プロモーターの非限定的な例には、CD69プロモーターおよびIL-2プロモーターが挙げられる。
【0062】
ある特定の実施形態では、細胞シナプスの形成および/または第1の細胞の活性化は、第1の細胞と第2の細胞との間の比によって影響を受ける。ある特定の実施形態では、第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:1000~約1000:1、約1:500~約500:1、約1:200~約200:1、約1:100~約100:1、約1:50~約50:1、約1:40~約40:1、約1:30~約30:1、約1:20~約20:1、約1:10~約10:1、約1:5~約5:1、約1:4~約4:1、約1:3~約3:1、または約1:2~約2:1である。ある特定の実施形態では、第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約50:1である。ある特定の実施形態では、第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約10:1である。ある特定の実施形態では、第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:1000、約1:500、約1:400、約1:300、約1:200、約1:100、約1:50、約1:40、約1:30、約1:20、約1:10、約1:9、約1:8、約1:7、約1:6、約1:5、約1:3、約1:2、約1:1、約2:1、約3:1、約4:1、約5:1、約6:1、約7:1、約8:1、約9:1、約10:1、約20:1、約30:1、約40:1、約50:1、約100:1、約200:1、約300:1、約400:1、約500:1、または約1000:1である。
【0063】
ある特定の実施形態では、細胞シナプスの形成および/または第1の細胞の活性化は、第2の細胞上の第2の抗原の発現によって影響を受ける。ある特定の実施形態では、第2の細胞上の第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約10分子、細胞1個当たり少なくとも約100分子、細胞1個当たり少なくとも約1,000分子、細胞1個当たり少なくとも約2,000分子、細胞1個当たり少なくとも約3,000分子、細胞1個当たり少なくとも約4,000分子、細胞1個当たり少なくとも約5,000分子、細胞1個当たり少なくとも約6,000分子、細胞1個当たり少なくとも約7,000分子、細胞1個当たり少なくとも約8,000分子、細胞1個当たり少なくとも約9,000分子、細胞1個当たり少なくとも約10,000分子、細胞1個当たり少なくとも約15,000分子、細胞1個当たり少なくとも約20,000分子、細胞1個当たり少なくとも約30,000分子、細胞1個当たり少なくとも約40,000分子、細胞1個当たり少なくとも約50,000分子、細胞1個当たり少なくとも約60,000分子、細胞1個当たり少なくとも約70,000分子、細胞1個当たり少なくとも約80,000分子、細胞1個当たり少なくとも約90,000分子、細胞1個当たり少なくとも約100,000分子、細胞1個当たり少なくとも約110,000分子、細胞1個当たり少なくとも約120,000分子、細胞1個当たり少なくとも約130,000分子、細胞1個当たり少なくとも約140,000分子、細胞1個当たり少なくとも約150,000分子、細胞1個当たり少なくとも約160,000分子、細胞1個当たり少なくとも約170,000分子、細胞1個当たり少なくとも約180,000分子、細胞1個当たり少なくとも約190,000分子、細胞1個当たり少なくとも約200,000分子、細胞1個当たり少なくとも約300,000分子、細胞1個当たり少なくとも約400,000分子、細胞1個当たり少なくとも約30,000分子、細胞1個当たり少なくとも約500,000分子、または細胞1個当たり少なくとも約1000,000分子である。ある特定の実施形態では、第2の細胞上の第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり約10~約100分子、細胞1個当たり約100~約1,000分子、細胞1個当たり約100~約10,000分子、細胞1個当たり約1,000~約100,000分子、細胞1個当たり約1,000~約200,000分子、細胞1個当たり約1000~約300,00分子、細胞1個当たり約10,000~約100,000分子、細胞1個当たり約10,000~約200,000分子、または細胞1個当たり約10,000~約500,000分子である。
【0064】
ある特定の実施形態では、細胞シナプスの形成および/または第1の細胞の活性化は、第1の細胞と第2の細胞の密度または第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離によって影響を受ける。
【0065】
細胞内距離は、当該技術分野で既知の任意の方法により決定することができる。例えば、第1の細胞と第2の細胞との間の距離を計算するための方法は、例えば、1μL(1mm)のサイズを有する立方体内部のランダムx,y,z座標を有する実験的細胞数をシミュレートするためにソフトウェアを使用することと、それぞれの細胞と近接する6個の細胞との間の平均距離を決定することと、最終平均距離値に到達するように全平均距離を決定することと、を含むことができる。ある特定の実施形態では、第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約10mm以下、約1mm以下、約0.9mm以下、約0.8mm以下、約0.7mm以下、約0.6mm以下、約0.5mm以下、約0.4mm以下、約0.3mm以下、約0.2mm以下、約0.1mm以下、約0.09mm以下、約0.08mm以下、約0.07mm以下、約0.06mm以下、約0.05mm以下、約0.04mm以下、約0.03mm以下、約0.02mm以下、約0.01mm以下、約0.005mm以下、約0.001mm以下、約0.0005mm以下、約0.0001mm以下である。ある特定の実施形態では、第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.0001mm~約100mm、約0.001mm~約10mm、約0.005mm~約5mm、約0.01mm~約1mm、約0.02mm~約1mm、約0.03mm~約1mm、約0.04mm~約1mm、約0.05mm~約1mm、または約0.01mm~約0.5mmである。
【0066】
4.システムおよびキット。
【0067】
本開示の主題は、システムおよびキットにさらに関する。ある特定の実施形態では、本明細書に開示されたシステム/キットは、第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体の細胞シナプス形成を決定するために使用することができる。ある特定の実施形態では、システム/キットは、(a)第1の抗原を発現する第1の細胞と、(b)第2の抗原を発現する第2の細胞と、(c)第1の細胞の活性化を測定するための手段と、を含む。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、細胞シナプスは、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される。ある特定の実施形態では、細胞シナプス形成は、第1の細胞を活性化する。
【0068】
ある特定の実施形態では、システム/キットは、容器、および容器についてのまたは容器に関連するラベルまたは添付文書を含んでもよい。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器は、組成物を単独で、または他の組成物との組み合わせで保持することができる。
【0069】
必要に応じて、システム/キットは、本明細書に開示された任意の方法のための指示書と共に提供することができる。指示書は、一般に、本方法を実施するための組成物の使用に関する情報を含むことができる。指示書は、(存在している場合)容器上に直接印刷されてもよい、または容器に貼付されたラベルであってもよい、または、容器内もしくは容器と共に供給される別個のシート、パンフレット、カード、もしくはフォルダであってもよい。
【0070】
以下の実施例は、本開示の主題の単なる例示であり、いかなる意味においても制限とみなすべきではない。
【0071】
5.例示的な非限定的実施形態。
【0072】
A。細胞シナプス形成を検出する方法であって、第1の抗原および第2の抗原に結合可能な多重特異性抗体を、第1の抗原を発現する第1の細胞および第2の抗原を発現する第2の細胞に接触させることであって、多重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される、ことと、第1の細胞の活性化を測定することであって、第1の細胞の活性化は、細胞シナプス形成を示す、ことと、を含む、方法。
【0073】
A1。 細胞シナプス形成を誘導可能である多重特異性抗体の活性を決定する方法であって、第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体を、第1の抗原を発現する第1の細胞および第2の抗原を発現する第2の細胞に接触させることであって、多重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、細胞シナプスが、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される、ことと、細胞シナプスによる第1の細胞の活性化を測定することであって、第1の細胞の検出可能な活性化は、多重特異性抗体が細胞シナプス形成を誘導可能であることを示す、ことと、を含む、方法。
【0074】
A2。第1の細胞の活性化を測定することは、活性化を示す少なくとも1つのバイオマーカーを測定することを含む、AまたはA1に記載の方法。
【0075】
A3。少なくとも1つのバイオマーカーは、細胞表面分子である、A2に記載の方法。
【0076】
A4。少なくとも1つのバイオマーカーは、CD62L、CD69、およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、A3に記載の方法。
【0077】
A5。少なくとも1つのバイオマーカーは、CD62Lの発現である、A4に記載の方法。
【0078】
A6。第1の抗原は、CD3である、A~A5のいずれか1つに記載の方法。
【0079】
A7。第1の細胞は、T細胞またはT細胞に由来する細胞である、A~A6のいずれか1つに記載の方法。
【0080】
A8。第1の細胞は、活性化時に細胞溶解的に不全である、A7に記載の方法。
【0081】
A9。第1の細胞は、Jurkat細胞である、A8に記載の方法。
【0082】
A10。第2の抗原は、腫瘍抗原である、A~A9のいずれか1つに記載の方法。
【0083】
A11。腫瘍抗原は、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、A10に記載の方法。
【0084】
A12。第2の細胞は、B細胞である、A~A11のいずれか1つに記載の方法。
【0085】
A13。腫瘍抗原は、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、A12に記載の方法。
【0086】
A14。第1の細胞の活性化を測定することは、第1の細胞の活性化時に誘導されるレポーターを検出することを含む、A、A1、 、およびA6~A13のいずれか1つに記載の方法。
【0087】
A15。レポーターは、蛍光分子または発光分子である、A14に記載の方法。
【0088】
A16。第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約50:1である、A~A15のいずれかに記載の方法。
【0089】
A17。第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約10:1である、A16に記載の方法。
【0090】
A18。第2の細胞上での第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約1,000分子である、A~A17のいずれか1つに記載の方法。
【0091】
A19。第2の細胞上での第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約10,000分子である、A18に記載の方法。
【0092】
A20。第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.3mm以下である、A~A19のいずれか1つに記載の方法。
【0093】
A21。第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.1mm以下である、A20に記載の方法。
【0094】
A22。多重特異性抗体は、二重特異性抗体である、A~A21のいずれか1つに記載の方法。
【0095】
B。第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体の細胞シナプス形成を決定するためのキットであって、第1の抗原を発現する第1の細胞と、第2の抗原を発現する第2の細胞と、第1の細胞の活性化を測定するための手段と、を含む、キット。
【0096】
B1。細胞シナプスは、二重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される、Bに記載のキット。
【0097】
B2。細胞シナプス形成は、第1の細胞を活性化する、B1に記載のキット。
【0098】
B3。第1の細胞の活性化を測定するための手段は、活性化を示す少なくとも1つのバイオマーカーを測定することを含む、B~B2のいずれか1つに記載のキット。
【0099】
B4。少なくとも1つのバイオマーカーは、細胞表面分子である、B3に記載のキット。
【0100】
B5。少なくとも1つのバイオマーカーは、CD62L、CD69、およびそれらの組み合わせの発現からなる群から選択される、B4に記載のキット。
【0101】
B6。少なくとも1つのバイオマーカーは、CD62Lの発現を含む、B5に記載のキット。
【0102】
B7。第1の抗原は、CD3である、B~B5のいずれか1つに記載のキット。
【0103】
B8。第1の細胞は、T細胞またはT細胞に由来する細胞である、B~B5のいずれか1つに記載のキット。
【0104】
B9。第1の細胞は、活性化時に細胞溶解的に不全である、B8に記載のキット。
【0105】
B10。第1の細胞は、Jurkat細胞である、B9に記載のキット。
【0106】
B11。第2の抗原は、腫瘍抗原である、B~B9のいずれか1つに記載のキット。
【0107】
B12。腫瘍抗原は、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、B11に記載のキット。
【0108】
B13。第2の細胞は、B細胞である、B~B12のいずれか1つに記載のキット。
【0109】
B14。腫瘍抗原は、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、B13に記載のキット。
【0110】
B15。第1の細胞の活性化を測定するための手段は、第1の細胞内のレポーター遺伝子を含み、レポーター遺伝子の発現は、第1の細胞の活性化時に誘導される、B~B2およびB7~B14のいずれか1つに記載のキット。
【0111】
B16。レポーター遺伝子は、蛍光分子または発光分子を発現する、B15に記載のキット。
【0112】
B17。第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約50:1である、請求項B~B16のいずれか1つに記載のキット。
【0113】
B18。第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約10:1である、B17に記載のキット。
【0114】
B19。第2の細胞上での第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約1,000分子である、B~B18のいずれか1つに記載のキット。
【0115】
B20。第2の細胞上での第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約10,000分子である、B19に記載のキット。
【0116】
B21。第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.3mm以下である、B~B20のいずれか1つに記載のキット。
【0117】
B22。第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.1mm以下である、B21に記載のキット。
【0118】
B23。多重特異性抗体は、二重特異性抗体である、B~B22のいずれか1つに記載のキット。
【0119】
C。第1の抗原および第2の抗原に結合する多重特異性抗体の細胞シナプス形成を決定するためのシステムであって、第1の抗原を発現する第1の細胞と、第2の抗原を発現する第2の細胞と、第1の細胞の活性化を測定するための手段と、を含む、システム。
【0120】
C1。細胞シナプスは、多重特異性抗体が第1の抗原および第2の抗原に結合すると、第1の細胞と第2の細胞との間に形成される、Cに記載のシステム。
【0121】
C2。細胞シナプス形成は、第1の細胞を活性化する、C1に記載のシステム。
【0122】
C3。第1の細胞の活性化を測定するための手段は、活性化を示す少なくとも1つのバイオマーカーを含む、C~C2のいずれか1つに記載のシステム。
【0123】
C4。少なくとも1つのバイオマーカーは、細胞表面分子である、C3に記載のシステム。
【0124】
C5。少なくとも1つのバイオマーカーは、CD62L、CD69、およびそれらの組み合わせの発現からなる群から選択される、C4に記載のシステム。
【0125】
C6。少なくとも1つのバイオマーカーは、CD62Lの発現を含む、C5に記載のシステム。
【0126】
C7。第1の抗原は、CD3である、C~C6のいずれか1つに記載のシステム。
【0127】
C8。第1の細胞は、T細胞またはT細胞に由来する細胞である、C~C7のいずれか1つに記載のシステム。
【0128】
C9。第1の細胞は、活性化時に細胞溶解的に不全である、C8に記載のシステム。
【0129】
C10。第1の細胞は、Jurkat細胞である、C9に記載のシステム。
【0130】
C11。第2の抗原は、腫瘍抗原である、C~C10のいずれか1つに記載のシステム。
【0131】
C12。腫瘍抗原は、HER2、LYPD1、LY6G6D、PMEL17、LY6E、EDAR、GFRA1、MRP4、RET、Steap1、TenB2、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、C11に記載のシステム。
【0132】
C13。第2の細胞は、B細胞である、C~C12のいずれか1つに記載のシステム。
【0133】
C14。腫瘍抗原は、CD20、FcRH5、CD19、CD33、CD22、CD79A、およびCD79Bからなる群から選択される、C13に記載のシステム。
【0134】
C15。第1の細胞の活性化を測定するための手段は、第1の細胞内のレポーター遺伝子を含み、レポーター遺伝子の発現は、第1の細胞の活性化時に誘導される、C~C2およびC13~C14のいずれか1つに記載のシステム。
【0135】
C16。レポーター遺伝子は、蛍光分子または発光分子を発現する、C15に記載のシステム。
【0136】
C17。第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約50:1である、C~C16のいずれか1つに記載のシステム。
【0137】
C18。第1の細胞の第2の細胞に対する比は、約1:10~約10:1である、C17に記載のシステム。
【0138】
C19。第2の細胞上での第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約1,000分子である、C~C18のいずれか1つに記載のシステム。
【0139】
C20。第2の細胞上での第2の抗原の平均発現は、細胞1個当たり少なくとも約10,000分子である、C19に記載のシステム。
【0140】
C21。第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.3mm以下である、C~C20のいずれか1つに記載のシステム。
【0141】
C22。第1の細胞と第2の細胞との間の平均距離は、約0.1mm以下である、C21に記載のシステム。
【0142】
C23。多重特異性抗体は、二重特異性抗体である、C~C22のいずれか1つに記載のシステム。
【実施例
【0143】
以下は、本開示の方法および組成物の実施例である。先に与えた一般的な説明を考慮すると、種々の他の実施形態を実施することができることが理解される。
【0144】
実施例1-T細胞依存性二重特異性分子による細胞シナプス形成のためのモデルおよびインビトロアッセイシステムの開発
【0145】
典型的な治療用mAbまたはADCのMOAとは異なり、T細胞依存性二重特異性分子は、エフェクターT細胞を活性化し、それらの細胞溶解活性を標的腫瘍細胞に標的化することによって作用する(Staerz,U.D.,O.Kanagawa,and M.J.Bevan.(1985)“Hybrid antibodies can target sites for attach by T cells.”Nature 314:628-631)。二重特異性分子のMOAは、腫瘍細胞およびCD3発現T細胞の両方の同時会合に依存する(Baeuerle,P.A.,C.Reihardt,and KuferP.(2008)“BiTE:a new class of antibodies that recruit T-cells.”Drugs of the Future33(2):137-147)。両方の細胞の共会合は、細胞シナプスの形成をもたらし、次いで、細胞シナプスは、T細胞受容体(TCR)を通じたT細胞のポリクローナル活性化と、標的腫瘍細胞の溶解のためのパーフォリンおよびグランザイムの放出を誘導する(Bauerle,2008,Chen,2016)。いくつかの要因が細胞シナプスの形成に潜在的に影響を及ぼす場合があり、T細胞依存性二重特異性分子の濃度、標的腫瘍細胞の細胞密度、CD3発現T細胞の細胞密度、標的およびCD3に対する結合親和性、ならびに標的およびCD3の発現レベルが挙げられる。細胞シナプス形成における特有のMOAおよび多重決定因子は、多様な要因の個別の効果を系統的に評価するために、統合的分析および機構モデルを使用して評価することができる。
【0146】
本実施例では、インビトロアッセイは、細胞シナプス形成用のサロゲートとしてT細胞活性化の初期マーカーを使用して確立された。インビトロアッセイに由来するデータは、細胞シナプス形成における多様な要因の効果を同時に評価するように、機序に基づくモデルを開発するために使用された。モデル化フレームワークは、T細胞依存性二重特異性分子、およびより一般的には他の多重特異性抗体の合理的設計および開発を導くことができる。
【0147】
材料および方法
【0148】
試薬:細胞および試験抗体
【0149】
BJAB、Pfeiffer、およびSUDHL-8を含むBリンパ腫細胞株、ならびに急性リンパ性白血病に由来するヒトリンパ芽球細胞株であるJurkatは、American Type Culture Collection(Manassas,VA)から入手した。これらの細胞株は、ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地1640(Corning,Tewksbury,MA)中、10%ウシ胎仔血清(FBS:Hyclone,Logan,UT)、25mM HEPES(Corning,Tewksbury,MA)、1% Glutamax(Gibco,Carlsbad,CA)、および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco,Carlsbad,CA)を補充して維持された。
【0150】
抗CD20/CD3 TDBは、ヒト化全長IgG1ノブインホール二重特異性抗体(Speiss,2013)である。全ての抗体は、遺伝子操作チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株からGenenthec,Inc.において作製された。
【0151】
Jurkatエフェクター細胞を用いた細胞シナプスアッセイ
【0152】
エフェクターT細胞(Jurkat)をCD20発現標的細胞(BJAB/Pfeiffer/SUDHL8)と共に50:1、10:1、1:1、または1:10のエフェクター対標的比でインキュベートした。エフェクター細胞および標的細胞をアッセイ培地(RPMI-1640、10%FBS、25mM HEPES、1% Glutamax、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)で希釈した。試験濃度のそれぞれの細胞種50μLを96ウェルU字底プレート(Falcon,Corning,NY)に播種した。TDB試験抗体をアッセイ培地で希釈し、1mg/mLから開始して、続いて10回、7.5倍連続希釈し、細胞に加えた。反応を0~24時間、37℃、5%CO2でインキュベートした。インキュベーション後、プレートを氷に移して反応を停止した。細胞を200μLのFACs緩衝液(PBS、2%FBS、0.02%アジド)を用いて1200RPMで5分間、4℃での遠心分離により3回洗浄して、未結合の抗体を除去した。
【0153】
細胞をB細胞上でのCD19発現(APC抗ヒトCD19,BioLegend,San Diego,CA)およびT細胞活性化マーカーCD62LおよびCD69(PE抗ヒトCD62L,FITC抗ヒトCD69,BD Biosciences,San Jose,CA)について氷上で30分間染色した。染色後、細胞を200μLのFAC緩衝液で3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中、4℃で10分間固定した。細胞をフローサイトメーター(BD Biosciences FACSCanto IVD10,San Jose,CA)で分析した。CD19陽性細胞は、標的細胞としてゲートされ、CD19陰性細胞は、エフェクター細胞としてゲートされた。
【0154】
蛍光CD62LまたはCD69エフェクター細胞の平均数は、Flow Joソフトウェア(Treestar,Ashland,OR)を用いて分析した。ベースライン比率は、対照(TDB抗体なし)条件を使用して決定した。CD62L陽性またはCD69陽性T細胞の比率の変化をTDB試験抗体濃度に対してプロットした(GrapPad Prism,La Jolla,CA)。
【0155】
末梢血単核細胞(PBMC)を用いた細胞シナプスアッセイ
【0156】
PBMCを製造者の指示書に従ってUni-Sep血液分離チューブ(Accurate Chemical&Scientific,Westbury,NY)を使用する密度勾配遠心分離によって健康なドナーの新鮮な血液から単離した。界面からの単核細胞を回収し、アッセイ培地(RPMI-1640、10%FBS、25mM HEPES、1% Glutamax、1%ペニシリン/ストレプトマイシン)で2回洗浄した。細胞の生理的計数を維持するために、PBMCをアッセイ培地で、PBMCが単離された血液と同じ体積に希釈した。100μLのPBMCを96ウェルU字底プレート(Falcon,Corning,NY)の各ウェルに播種した。TDB試験抗体をアッセイ培地で希釈し、1mg/mLから開始して、続いて10回、5倍連続希釈し、細胞に加えた。PBMCを抗体と共に4時間、37℃、5%CO2でインキュベートした。インキュベーション後、プレートを氷に移して反応を停止した。細胞を200μLのFACS緩衝液(PBS、2%FBS、0.02%アジド)を用いて1200RPMで5分間、4℃での遠心分離により3回洗浄して、未結合の抗体を除去した。細胞を、B細胞表面抗原(CD19、CD40)、T細胞表面抗原(CD4、CD8)、およびT細胞活性化マーカー(CD62L)について以下の抗体、PECy7抗ヒトCD19(BioLegend)、Brilliant Violet 510抗ヒトCD4(BioLegend)、APC/Cy7抗ヒトCD8(BioLegend)、およびPE抗ヒトCD62L抗体(BD Biosciences)を用いて氷上で30分間染色した。染色後、細胞を200μLのFACS緩衝液(PBS、2%FBS、0.02%アジド)で3回洗浄し、4%パラホルムアルデヒド中、4℃で10分間固定した。
【0157】
細胞をフローサイトメーター(BD Biosciences FACSCanto IVD10,San Jose,CA)で分析した。CD19陽性細胞は、B細胞としてゲートされ、CD4陽性細胞およびCD8陽性細胞は、T細胞としてゲートされた。T細胞の活性化は、L-セレクチン(CD62L)のシェディングを引き起こす。T細胞上のCD62L蛍光は、Flow Joを使用して計算された。ベースライン蛍光は、対照(抗体なし)集団においてゲートすることにより決定し、複数回実験にわたって正規化した。用量反応曲線をGraphPad Prism(La Jolla,CA)でプロットした。
【0158】
モデル開発
【0159】
TDBシナプスの形成を説明するために、一連の常微分方程式に基づいた数学的モデルを開発し(図1)、これはT細胞におけるCD20/CD3 TDBと、腫瘍抗原CD20と、CD3受容体との間の逐次結合を説明する。CD20/CD3 TDBの結合親和性(KD)値は、CD20に対しては68nM、CD3に対しては40nMであった。現在のモデリング作業において、CD20/CD3 TDBのCD20またはCD3に対するKoff値は、式koff=KD*konを用いて、結合平衡が実験条件下で達成されるであろうことを確かにするために、kon値が0.001 1/(nM×秒)であったという仮定の下で誘導された。
【0160】
シナプス形成は、以下の仮定および段階的近似を用いて提案された。1)細胞結合したCD20およびCD3の総数は、十分に撹拌された系内で均一に分散されている。2)TDBは、最初にCD20またはCD3に1:1の比で結合し、その結合は、独立した事象である(式1~5)。3)次いで、TDB結合CD20が未結合のCD3と結合し、TDB結合CD3が未結合のCD20と結合し、三分子シナプスを形成する(式6~10)。4)三分子シナプスと細胞シナプスとの間の関係性は、Emaxモデルにより記述される(式11)。5)最も近い6個の標的細胞(すなわち、Bリンパ腫細胞)のそれぞれのT細胞に対する平均距離は、T細胞に対する標的細胞の間の細胞密度および相対細胞密度の細胞シナプス形成への影響を考慮して誘導される(次のセクションを参照されたい)。
【0161】
d(Drug_free)/dt=-konCD20*CD20_free*Drug_free-konCD3*CD3_free*
Drug_free+koffCD20*DrugCD20+koffCD3*DrugCD3 (1)
【0162】
d(CD20_free)/dt=-konCD20*CD20_free*Drug_free+koffCD20*DrugCD20 (2)
【0163】
d(CD3_free)/dt=-konCD3*CD3_free*Drug_free+koffCD3*DrugCD3 (3)
【0164】
d(DrugCD20)/dt=konCD20*CD20_free*Drug_free-koffCD20*DrugCD20 (4)
【0165】
d(DrugCD3)/dt=konCD3*CD3_free*Drug_free-koffCD3*DrugCD3 (5)
【0166】
Drug_free、CD20_free、およびCD3_freeは、それぞれ未結合の(または遊離の)CD20/CD3 TDB、CD20、およびCD3を表す。DrugCD20は、TDB結合CD20を表し、DrugCD3は、TDB結合CD3を表す。
【0167】
CD20_FPC=(CD20_free/CD20B0)*CD20_KCell (6)
【0168】
CD20_BPC=(DCD20/CD20B0)*CD20_KCell (7)
【0169】
CD3_FPC=(CD3F/CD3T0)*CD3_KCell (8)
【0170】
CD3_BPC=(DCD3/CD3T0)*CD3_KCell (9)
【0171】
Synapse=CD20_FPC*CD3_BPC/(α1*KDCD20)+CD20_BPC*CD3_FPC/(α2*KDCD3) (10)
【0172】
CD20_FPCは、遊離CD20受容体/B細胞を表し、CD20_BPCは、TDB結合CD20受容体/B細胞を表す。CD3_FPCは、遊離CD3受容体/T細胞を表し、CD3_BPCは、TDB結合CD3受容体/T細胞を表す。SynapseMは、三分子シナプスを表す。αは、KDの倍率を表す。
【0173】
Synapse=Emax*Synapse/(EC50+Synapse) (11)
【0174】
Synapseは、細胞シナプスを表す。
【0175】
T細胞とBリンパ腫細胞との間の細胞間距離の計算
【0176】
サイズが1mm(または1μL)の立方体内部のT細胞およびBリンパ腫細胞の位置を、実験条件(表1)に従ってランダムX座標、Y座標、およびZ座標を用いてシミュレートした(Rバージョン3.5.1ソフトウェア)。立方体内のそれぞれのT細胞(n=500~2000)について、最も近い6個の標的細胞(すなわち、Bリンパ腫細胞)の平均距離を計算してから、立方体内のすべてのT細胞について距離を平均した(表2)。
【0177】
【0178】
【0179】
次いで、この全平均距離(DX、mm)を式11に導入し、細胞濃度および標的細胞のT細胞に対する比率の細胞シナプス形成への影響を考慮した(式12~15)。最終モデルのパラメータ推定値を表3に示した。
【0180】
Synapse=Emax*Synapse/(EC50+Synapse) (11) Emax=EmaxDX-EmaxDX*DX^GAMEmaxDX/(EC50EmaxDX^GAMEmaxDX+DX^GAMEmaxDX) (12)
【0181】
EmaxDX=EmaxEmaxDX,CD20*CD20_Kcell/(EC50EmaxDX,CD20+CD20_Kcell) (13)
【0182】
EC50=EmaxEC50DX*DX/(EC50EC50DX+DX) (14)
【0183】
EmaxEC50DX=EmaxEC50DX,CD20*CD20_Kcell^GAMEC50DX,CD20/(EC50EC50DX,CD20^GAMEC50DX,CD20+CD20_Kcell^GAMEC50DX,CD20) (15)
【0184】
CD20_Kcellは、細胞1個当たりのCD20発現レベル(細胞1個当たりの受容体)を表す。
【0185】
【0186】
結果
【0187】
T細胞依存性二重特異性分子の作用機序は、十分に定義されてきた(Sun,2015)。標的抗原に特異的なアームは、がん細胞に会合し、他のアームは、同時にT細胞に会合し、ポリクローナルT細胞活性化を誘導する。T細胞の活性化は、がん細胞を溶解させるパーフォリンおよびグランザイムの放出をもたらす。したがって、TDBの作用機序(MOA)における駆動ステップは、標的およびエフェクターT細胞の両方へのTDB分子の結合であり、細胞シナプスを形成する(Staerz,1985)。T細胞活性化は、細胞シナプス形成に続く最も近接した事象であり、したがって、T細胞活性化マーカーを使用してシナプス形成を見積もることができる。
【0188】
TDB依存性シナプス形成を検出するようにインビトロアッセイを開発するために、標的細胞とエフェクター細胞との平衡を一定に保つことが有用であり得る。したがって、標的細胞を活性化するが溶解しないエフェクター細胞を使用した。Jurkat細胞を使用して代替T細胞源としてのインビトロシステムを開発した。Jurkat T細胞は、一次T細胞と同様に活性化するが、パーフォリンおよびグランザイムを放出しない。CD20発現BJAB Bリンパ腫細胞を標的細胞として使用した。初期アッセイ開発のために、細胞を1:1のエフェクター対標的比で混ぜ合わせ、CD20/CD3 TDBの存在下で一緒に4時間、37℃でインキュベートした。
【0189】
インキュベーション後、細胞をCD19、CD69、およびCD62Lの発現について染色した。CD19発現を使用して、標的細胞およびCD3 T細胞を区別した。T細胞の表面からのCD62LシェディングおよびCD69アップレギュレーションは、既知のT細胞活性化マーカーである(Chao,C.,R.Jensen,et al.(1997)“Mechanisms of L-Selectin Regulation by Activated T cells.”J Immunol159:1686-1694;およびShipkova,M.,E.Wieland.(2012)“Surface markers of lymphocyte activation and markers of cell proliferation.”Clinic Chimica Acta413:1338-1349)。したがって、活性化T細胞は、CD69陽性またはCD62L陰性として測定された(図2A)。活性化T細胞の比率を計算し、TDB濃度に対してプロットした(図2B)。CD62LおよびCD69の両方は、類似のパターンの活性化を示した(図2B)。TDB依存性CD69活性化は、1.22ng/mLのEC50であったが、TDB依存性CD62L減少は、4.95ng/mLのEC50であった。
【0190】
初期シナプス形成を正確にモデル化するために、T細胞活性化の最も早いマーカーを見出すことが有用であり得る。T細胞活性化の最も早い読み取りについて確認するために、Jurkat T細胞をBJAB標的細胞およびCD20/CD3 TDBと共に24時間にわたりインキュベートした。CD69およびCD62Lの発現によって検出されるような細胞活性化を様々な時点で測定した(図3A)。CD69発現によって示されるようなT細胞活性化は、1時間で検出可能であり、CD3/CD20 TDBの添加後24時間まで連続して増加した。対照的に、CD62Lシェディングは、TDBおよび標的細胞との1時間インキュベーション後、最大のレベル低下に達した(図3A)。CD62Lは、TDBの添加後早ければ5分で発現におけるシフトを示した(図3B)。したがって、CD62Lシェディングは、T細胞シナプス形成をモデル化するために使用される早期T細胞活性化マーカーとして選択された。
【0191】
細胞株を利用するインビトロシステムがT細胞と標的細胞との間の生理的細胞シナプス形成の正確な測定手段であることを確認するために、PBMCをヒトドナーから単離し、シナプスアッセイで試験した。CD20/CD3 TDBをPBMCに添加して4時間インキュベートした。CD4 T細胞およびCD8 T細胞の両方をT細胞活性化についてCD62L発現をマーカーとして使用して分析した。
【0192】
Jurkat T細胞による活性化と同様に、CD8 T細胞、および比較的程度は低いがCD4 T細胞は、TDB依存性活性化を示したが、これはJurkat T細胞を用いるインビトロアッセイシステムが一次ヒトCD4 T細胞およびCD8 T細胞によるインビボ設定を反映していることを示唆する。
【0193】
CD62L発現を細胞シナプス形成のサロゲートマーカーとして使用するビトロアッセイシステムの確立後、細胞シナプスに潜在的に影響を及ぼす要因を評価した。様々な量のCD20を発現する3種類のBリンパ腫細胞株を、最高レベルのCD20を発現する(細胞1個当たり122Kコピー)BJAB細胞、中間量のCD20を発現する(細胞1個当たり14Kコピー)Pfeiffer細胞、および最低量のCD20を発現する(細胞1個当たり1.2Kコピー)SUDHL-8と共に使用した。加えて、広範囲のエフェクター対標的細胞比(E:T比)を(1:10~50:1)の範囲で評価した。図5に示すように、細胞シナプスは、標的発現依存性の様式で形成された。最高レベルのCD20を発現するBJAB細胞は、最も多い量の細胞シナプスを示したが、CD20の発現がほぼ10倍少ないPfeiffer細胞およびほぼ100倍少ないSUDHL8細胞では、細胞シナプス形成が低減された。標的発現レベル依存性細胞シナプス形成は、E:T比に関係なく示された。
【0194】
細胞シナプスの形成はまた、エフェクター細胞および標的細胞の相対細胞密度(E:T比)に依存した。エフェクター細胞の細胞密度が標的細胞よりも50倍高い場合、最小の細胞シナプス形成が観察された。標的細胞の細胞密度が増加するにつれて、細胞シナプスの量が上昇した(図5)。
【0195】
細胞シナプス形成モデルの開発
【0196】
提案された細胞シナプス形成モデルの概略図を図1に示す。細胞シナプスモデルは、TDBに関する既知の結合反応速度論に基づいて開発された。すなわち、標的およびT細胞の表面上での三分子シナプス複合体(すなわち、CD20/CD3 TDB-CD20-CD3)の形成は、T細胞活性化マーカーにより見積もられた細胞シナプスの形成を必要とした。標的(すなわち、CD20)およびCD3は、独立した事象としてTDBに対する結合を有する遊離抗原および可溶抗原として処理され、結合親和性(すなわち、KD)によって決定された。mAbの結合親和性は、結合アームのうちの1つが結合されたときに影響を受ける可能性があることが示されており、したがって、予備的用語のαが結合親和性の変化を考慮して導入された。次いで、細胞シナプスの形成は、三分子シナプス複合体の量、標的とT細胞との間の距離、および細胞1個当たりの標的発現レベルによって影響される。
【0197】
細胞シナプスの形成を特徴づけかつ予測するためのモデルの能力は、Jurkat T細胞によるインビトロT細胞活性化データを使用して評価された。Jurkat T細胞の細胞殺傷機能が活性化後であっても損なわれていたため、細胞株は、細胞シナプス形成の評価に理想的であった。したがって、標的細胞の量は、細胞シナプスの定量を可能にするように一定である。多様なTDB濃度、エフェクター対標的細胞(E:T)比、および細胞1個当たりの標的発現レベルは、モデルパラメータの推定を可能にするようにこのデータセットに含まれた。
【0198】
図5に示すように、モデルは、形成される細胞シナプスの量を定量的に把握することができる。TDBに対する作用機序に基づいて、細胞シナプスの形成のみが所望の下流活性(例えば、細胞殺傷)を引き起こすことができるが、TDBの標的細胞またはエフェクター細胞のいずれかのみに対する結合ではできない。したがって、モデルを使用して、細胞シナプスの形成に影響を及ぼしてもよい主要な要因の統合的分析を提供することによってTDBの設計を支援することができる。
【0199】
考察
【0200】
T細胞依存性二重特異性分子は、がん治療のための新規かつ有望な種類の分子である。その分子は、CD3介在T細胞リクルートを用いる腫瘍標的認識を組み合わせた、特有のMOAを有する。抗腫瘍活性における分子特性および標的発現の効果を探索するために多大な努力が払われてきた(例えば、2:1標的:CD3結合二重特異性分子、同一の標的に対する医薬および前治療に使用される医薬との標的結合競合)。しかしながら、合理的分子設計、標的選択、および用量/レジメン選択は、下流の薬理作用の駆動力である細胞シナプス形成の定量的理解が不足しているため困難であった。
【0201】
最初の難関は、細胞シナプスの形成自体を測定することであった。シナプス形成をモデル化する1つのアプローチは、T細胞/腫瘍細胞複合体を画像化することであろう。しかしながら、アッセイが細胞培養皿内で行われるため、T細胞および腫瘍細胞は、それらの近接性に起因してのみ互いに複合しているように見える場合がある。代替的アプローチは、複合体の増加を測定するためのFSC測定およびSSC測定を使用するフローサイトメーターで細胞複合体を測定することであろう。しかしながら、細胞撮像装置を用いた場合と同様に、T細胞/腫瘍細胞複合体は、TDB濃度とは無関係に検出された(データは示さない)。
【0202】
T細胞/腫瘍細胞複合体を直接測定するのではなく、TDBのT細胞および腫瘍細胞標的に対する結合に続く近接事象を測定することによって細胞シナプス形成を測定することが可能である。従来のインビトロアッセイでは、CD69、CD25、および他の細胞表面活性化マーカーにより測定した場合のT細胞活性化を測定していた(Sun,L.L.,D.Ellerman,et al.(2015)“Anti-CD20/CD3 T cell-dependent bispecific antibody for the treatment of B cell malignancies.”Science Translation Medicine7(287):287ra70;Junttila,T.T.,J.Li,et al.(2014)“Antitumor efficacy of a bispecific antibody that targets HER2 and activates T cells.”Cancer Research74(19):5561-71;およびBrischwein,K.,B.Schlereth,et al.(2006)“MT110:A novel bispecific single-chain antibody construct with high efficacy in eradicating established tumors.“Molecular Immunology43:1129-1143)。CD69およびCD62Lの両方は、用量依存性様式でTDBに曝露させた後にT細胞上での発現が変化する(図2)。しかしながら、CD62Lは、TDBの添加から5分以内にT細胞の表面から失われ、シェディングが2時間以内に最大の度合いで生じる。これは、CD69では対照的に、TDB添加後24時間まで発現が連続して増加する。両方のマーカーがTDBに対して同様の感度を示すが(図2)、CD62L発現の変化は、TDB添加にはるかに近接し、したがって、細胞シナプス形成のより直接的な読み出しである。
【0203】
シナプスの形成および下流薬理作用への連結は、以前の研究において調査されてきた(Brischwein,K.,B.Schlereth,et al.(2006)“MT110:A novel bispecific single-chain antibody construct with high efficacy in eradicating established tumors.“Molecular Immunology43:1129-1143;Speiss,C.,M.Merchant,et al.(2013)“Bispecific antibodies with natural architecture produced by co-culture of bacteria expressing two distinct half-antibodies.”Nature Biotechnology31:753-758;およびChen,X.,et al.(2016)Mechanistic Projection of First-in-Human Dose for Bispecific Immunomodulatory P-Cadherin LP-DART:An Integrated PK/PD Modeling Approach.Clin Pharmacol Ther.100(3):232-41)。これらの研究では、シナプスの形成は、定量化することができず、いくつかの仮定、すなわち、1)固定された標的発現レベル、2)固定されたCD3発現レベル、3)細胞結合した標的およびCD3の計算総量は、遊離可溶分子として十分に撹拌された系内で均一に分布していること、を用いて分子レベルでモデル化された。次いで、モデル予測された分子シナプスを使用して、下流薬理作用(例えば、細胞殺傷およびT細胞ダイナミクス)を行わせた。このモデル化戦略は、MABEL用量選択の支援、ならびにインビトロおよびインビボでのPK-PD関係の説明において価値を示したが、いくつかの限界が指摘されている。
【0204】
第一に、モデル予測された分子シナプスと薬理効果との間の関係は、細胞1個当たりの標的またはCD3の発現レベルに応じて異なるかもしれない。例えば、標的の総量は、i)標的発現が高い細胞の低細胞密度対ii)標的発現が低い細胞の高細胞密度の条件下で同じ可能性がある。二重特異性分子のある特定の濃度で、モデル予測された分子シナプスの量は同一となるが、観察される薬理効果は、異なる細胞密度に起因して異なる可能性がある。第二に、分子シナプス形成を予測するために使用されたモデルは、標的およびCD3を遊離可溶分子として推測した。しかしながら、二重特異性分子が遊離可溶分子と比較して細胞結合分子に対して異なる近接性を有するであろうことが見込まれて、したがって、細胞密度を考慮に入れる必要がある。さらに、T細胞依存性二重特異性分子の薬理効果がT細胞活性化によって引き起こされる場合、標的細胞とエフェクター細胞との間の相対細胞密度もまた考慮に入れる必要がある。第三に、分子シナプスの代わりに、細胞シナプス構造(すなわち、二重特異性分子-標的細胞-T細胞)の形成が下流薬理作用を引き起こす。細胞表面上での分子シナプス(すなわち、二重特異性分子-細胞結合標的分子-細胞結合CD3分子)の形成が必須であるが、細胞シナプス構造に必要な分子シナプスの最小量は不確かなままである。
【0205】
最新のモデル化作業の目的は、上述のようにインビトロアッセイによって見積もられた細胞シナプス形成を説明するための包括的モデルを開発することである。生成されたデータセットは、細胞シナプス形成に潜在的に影響を及ぼす広範な要因を網羅し、1)標的発現レベル(細胞1個当たり1,200コピー~細胞1個当たり122,000コピー)、2)エフェクター対標的細胞比(1:10~1:0.01)、3)総細胞密度(1~11×10/mL)を含む。図5に示すように、本明細書で開発された機序に基づくモデルは、単一の均一モデル構造を使用して、複数の相関する要因および細胞シナプス形成へのそれらの影響を説明した。統合的分析を通して、本モデルは、分子設計および候補選択などの、T細胞依存性二重特異性分子の発見および開発を支援するためのフレームワークを提供することができる。腫瘍標的発現レベルおよび腫瘍細胞と正常細胞との間で異なる発現のダイナミックレンジの情報もまた組み込まれて、腫瘍標的の適合性評価および対応するT細胞依存性二重特異性分子の合理的分子設計を導くことができる。実行することを通して、治療濃度域は、作用部位における腫瘍細胞殺傷を最大化し、正常細胞に対する所望しない免疫反応および細胞傷害性を最小化することによって、期待通りならば拡張することができる。
【0206】
実施例2-機序に基づくモデルによる二重特異性抗体のMOAの解明
【0207】
本実施例は、インビトロでのT細胞活性化を測定し、予測するための方法論を開示する。インビトロでのT細胞活性化は、B細胞密度およびT細胞密度(すなわち、細胞内距離)、細胞1個当たりのB細胞標的受容体(CD20)発現レベル、および標的抗原に対する二重特異性抗体親和性(KD)の関数であると仮定した。
【0208】
図6は、B細胞が抗原CD20のより高い発現レベルを有した場合にT細胞がより活性化されやすいことを示す。
【0209】
B細胞により近いT細胞が二重特異性Abの存在下でより「活性化され」やすいため、細胞内距離は、モデル化に有用である。細胞内距離をシミュレーションにより計算した。B細胞とT細胞との間の距離を計算するための方法は、1μL(1mm)のサイズを有する立方体内部でランダムx,y,z座標を有する実験的細胞数をシミュレートするためにRソフトウェアを使用することと、細胞がB細胞またはT細胞であったかをランダムに割り当てることと、を含んだ。図7は、1μL中の500個のT細胞および500個のB細胞のシミュレーションを示す。それぞれのT細胞(n=500)について、最も近い6個のB細胞の平均距離(dx)を決定した。さらに、前工程からの全平均距離(Dx、mm単位)は、最終平均距離値に到達するように決定された。図8は、T細胞とB細胞との間の細胞内距離のシミュレーションの図である。図9は、B細胞により近いT細胞がより活性化されやすいことを示す。
【0210】
要約すると、より高いB細胞標的発現レベルおよびT細胞とB細胞との間のより短い細胞内距離は両方とも、T細胞活性化の増加をもたらす。
【0211】
描写され、特許請求される様々な実施形態に加えて、本開示の主題は、本明細書に開示され、特許請求される特徴の他の組合せを有する他の実施形態も対象とする。したがって、本明細書に提示される特定の特徴は、本開示の主題が本明細書に開示される特徴の任意の好適な組合せを含むように、本開示の主題の範囲内において他の様式で互いに組み合わせられても良い。本開示の主題の特定の実施形態の前述の説明は、例証および説明目的のために提示されている。包括的であるようにも本開示の主題を開示される実施形態に限定するようにも意図されていない。
【0212】
本開示の主題の趣旨または範囲から逸脱することなく、本開示の主題の組成物および方法に様々な修正および変形を加えることができることは、当業者には明らかである。したがって、本開示の主題が添付の特許請求の範囲およびそれらの等価物の範囲内の修正および変形を含むよう意図されている。様々な刊行物、特許、および特許出願が本明細書に引用されており、それらの内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9-1】
図9-2】
図9-3】
【国際調査報告】