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  • 特表-作用電極の熱強化処理 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】作用電極の熱強化処理
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/15 20190101AFI20230215BHJP
【FI】
G02F1/15 502
G02F1/15 507
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535173
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 EP2020087167
(87)【国際公開番号】W WO2021123267
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】1915268
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】500374146
【氏名又は名称】サン-ゴバン グラス フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 智史
(72)【発明者】
【氏名】テオ シェバリエ
(72)【発明者】
【氏名】クロエ ブアール
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ シュマン
【テーマコード(参考)】
2K101
【Fターム(参考)】
2K101AA22
2K101DA01
2K101DB07
2K101DC14
2K101DC54
2K101DC62
2K101DC66
2K101EG52
2K101EH25
2K101EJ01
2K101EK05
(57)【要約】
本発明は、ガラス機能を有する基材(1)の上に堆積するのに適し、また少なくとも第1透明導電層(2A)と、前記第1透明導電層(2A)の上に配置された作用電極(3)とを備える、エレクトロクロミックシステム(8)のためのカソードサブアセンブリ(6)に関する。前記カソードサブアセンブリ(6)は、前記作用電極(3)が、その化学組成により、熱強化処理後に機能するのに適していることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロクロミックシステム(8)のためのカソードサブアセンブリ(6)であって、前記カソードサブアセンブリ(6)は、ガラス機能を有する基材(1)の上に堆積するのに適しており、かつ少なくとも下記を備えており:
・第1透明導電層(2A)、及び
・前記第1透明導電層(2A)の上に配置されている作用電極(3)、
前記カソードサブアセンブリ(6)は、前記作用電極(3)が、その化学組成により、熱強化処理後に機能するのに適していること、及び前記作用電極(3)は、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、バナジウム(Va)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)及びジルコニウム(Zr)を含む群から選択される少なくとも1つの遷移金属元素Yでドープされている酸化タングステン(WOx)で少なくとも構成されていることを特徴とする、
カソードサブアセンブリ(6)。
【請求項2】
前記少なくとも1つの遷移金属元素Yが、前記タングステン元素(W)に対して、2原子%以上かつ/又は30原子%以下の、比Y/(Y+W)に従って存在することを特徴とする、請求項1に記載のカソードサブアセンブリ(6)。
【請求項3】
ガラス機能を有する基材(1)上に請求項1及び2のいずれか一項に記載のカソードサブアセンブリ(6)を製造するための方法であって、好ましくは、前記第1透明導電層(2A)の上に前記作用電極(3)へのマグネトロン堆積に適した1つ又は複数のターゲットが備えられた少なくとも1つの堆積ステーションを使用する、製造方法。
【請求項4】
前記作用電極(3)が、180℃未満、好ましくは160℃未満、好ましくは140℃未満の温度でのマグネトロン堆積によって堆積されることを特徴とする、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記基材(1)の前記縁部が、前記作用電極(3)の前記堆積の前及び/又は後に研磨されることを特徴とする、請求項3及び4のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
ガラス機能を有する基材(1)の上に堆積するのに適したエレクトロクロミックシステム(8)であって、下記を備える、エレクトロクロミックシステム(8):
請求項1及び2のいずれか一項に記載のカソードサブアセンブリ(6)、
前記カソードサブアセンブリ(6)の上に配置された対電極(5)、
前記対電極(5)の上に配置された第2透明導電層(2B)、
前記エレクトロクロミックシステム(8)に導入されたリチウム(Li)イオン、及び
好ましくは、前記電極と前記対電極の間に挿入されたイオン伝導体の別個の層。
【請求項7】
ガラス機能を有する基材(1)の上に堆積するのに適したエレクトロクロミックシステム(8)であって、下記を備える、エレクトロクロミックシステム(8):
前記基材(1)の上に配置された第2透明導電層(2B)、
前記第2透明導電層(2B)の上に配置された対電極(5)、
前記対電極(5)の上に配置された、請求項1及び2のいずれか一項に記載のカソードサブアセンブリ(6)、
前記エレクトロクロミックシステム(8)に導入されたリチウム(Li)イオン、及び
好ましくは、前記電極と前記対電極の間に挿入されたイオン伝導体の別個の層。
【請求項8】
前記対電極が、ニッケル-タングステン酸化物(NiWxOz)、好ましくは少なくとも1つの遷移金属元素でドープされたニッケル-タングステン酸化物(NiWxOz)から少なくとも構成されることを特徴とする、請求項6及び7のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックシステム(8)。
【請求項9】
作用電極(3)の前記厚さは100nm~1500nmであること、及び/又は
前記対電極(5)の前記厚さは100nm~1500nmであること
を特徴とする、請求項6~8のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックシステム(8)
【請求項10】
ガラス機能を有する基材(1)上に、請求項6~9のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックシステム(8)を製造するための方法。
【請求項11】
ガラス機能を有する基材(1)の上に配置されており、かつ好ましくは請求項6~9のいずれか一項に記載のエレクトロクロミックシステムに組み込まれている、請求項1及び2のいずれか一項に記載のカソードサブアセンブリ(6)の熱強化処理。
【請求項12】
熱強化処理が、カソードサブアセンブリ(6)及び事前にアニール処理されていない基材(1)上で実行されることを特徴とする、請求項11に記載の熱強化処理。
【請求項13】
請求項11及び12のいずれか一項に記載の熱強化処理後に得られる強化処理されたエレクトロクロミックシステム(8)。
【請求項14】
請求項13に記載の強化処理されたエレクトロクロミックシステム(8)を組み込んでいるグレージングであって、建物のグレージングとしての使用、特に内部仕切り又はグレージングドアの外部グレージングとしての使用、又は輸送手段のグレージングを有する内部仕切り又は窓としての使用、例えば列車、飛行機、自動車及びボートのグレージングを有する内部仕切り又は窓としての使用に適する、グレージング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気的に制御可能な光学的及び/又はエネルギー特性を有する電気化学デバイスの分野に関するものであり、これらのデバイスは、一般に「エレクトロクロミックデバイス」と呼ばれる。より具体的には、本発明は、そのような電気化学デバイスを組み込んだ光学システム、また関連する製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気化学デバイスは、適切な電源の影響下で、透明状態と着色状態の間で変更できる特定の特性、最も具体的には、特定の波長、特に可視光線及び/又は赤外線範囲での電磁放射の透過、吸収、反射、又は光の散乱さえも有する。透過率の変動は、概して、光学(赤外線、可視光線、紫外線)範囲及び/又は電磁スペクトルの他の範囲で発生し、したがって、そのようなデバイスは、可変の光学特性及び/又はエネルギー特性を有すると言われ、光学範囲は必ずしも関係する唯一の範囲ではない。
【0003】
熱の観点から、太陽スペクトルの少なくとも一部で吸収を変更することができるグレージングは、上記のグレージングが、自動車、列車、飛行機などの輸送手段の建物又は窓の外部グレージングとして使用され、明るい日差しの場合にそれらの過度の加熱を回避するとき、部屋又は客室/コックピットの内部への日射量を制御することを可能にする。
【0004】
光学的観点から、グレージングは、見通し性の程度を制御することを可能にし、それにより、明るい日光の場合に外部グレージングとして使用されるときにグレージングがグレアを回避することを可能にする。また、グレージングが外部グレージングとして使用される場合、及びグレージングが内部グレージングに使用される場合、例えば、部屋(建物のオフィス)の間に内部仕切りを装備する場合、又は、例えば、列車又は飛行機の仕切り客室を隔離する場合の双方で、グレージングは、特に有利なシャッター効果を有する可能性がある。
【0005】
構造的観点から、また既知の方法で、エレクトロクロミックスタックは、2つの透明な導電層の間に挿入された2つの電極を含む。これらの電極の少なくとも1つは、定義により、イオン及び電子を可逆的かつ同時に挿入するのに適したエレクトロクロミック材料からなる。酸化状態は、異なる色を有する挿入及び放出状態に対応し、一方の状態は、他方の状態よりも光の透過率が高い。挿入又は放出反応は、2つの透明導電層によって制御され、その電源供給は、電流発生器又は電圧発生器によって提供される。
【0006】
作用電極と呼ばれる第1の電極は、電圧がエレクトロクロミックシステムの端子に加えられたときにイオンを捕捉するのに適したカソードエレクトロクロミック材料からなる。作用電極の着色状態は、その最も還元された状態に対応する。
【0007】
この作用電極に関連するのは、対電極と呼ばれる第2の電極であり、これ自体も、作用電極に対して対称的に陽イオンを可逆的に挿入することができる。したがって、言い換えれば、この対電極は、エレクトロクロミックシステムの端子に電圧が加えられたときにイオンを放出するのに適している。この対電極は、作用電極が透明状態にあるとき、着色に関して中性であるか、又は少なくともほとんど着色されない層からなる。また、好ましくは、対電極はその着色状態とその透明状態の間で、エレクトロクロミックスタックの全体的なコントラストを高めるように酸化状態で着色する。
【0008】
作用電極及び対電極は、イオン伝導体及び電気絶縁体の二重の機能を有する「電解質」(イオン伝導体(IC))として一般に知られる界面領域によって分離される。したがって、イオン伝導体層は、作用電極と対電極の間で任意の短絡を防ぐ。さらに、イオン伝導体層は2つの電極が電荷を保持することを可能にし、したがって、それらの透明状態及び着色状態を維持することを可能にする。
【0009】
1つの特定の実施形態によれば、そのような電解質は、作用電極と別個の中間層の対電極の間の堆積によって形成される。これらの3つの層の間の境界は、構成及び/又は微細構造の急激な変化によって決定される。したがって、そのようなエレクトロクロミックスタックは、2つの別個の急激な界面によって分離された少なくとも3つの別個の層を有する。
【0010】
あるいは、作用電極及び対電極は、順に重ねて、概して互いに接触して堆積される。また、電解質の機能を有する遷移領域は、その後、製造方法の間、特にスタック加熱段階中に、電極内の成分が移動することによってのみ形成される。
【0011】
本文全体を通して、別の層の上又は下に層を堆積させることは、必ずしもこれらの2つの層が互いに直接接触していることを意味するものではないことに留意するべきである。「の上に」及び「の下に」という用語は、ここでは、ガラス機能を有する基材に関して任意に選択された、これらの異なる要素の配置の順序を指す。あるいは、このような配置の順序は、それ故にこの同じ基材に関しては逆にすることができる。さらに、一方を他方の上に堆積させた2つの層は、例えば、1つ又は複数の中間層によって物理的に分離することができる。同じ線に沿って、「の間に」という用語は、必ずしも3つの指定された要素が互いに直接接触していることを意味するものではない。
【0012】
ガラス機能を有する基材の機械的強度を改善するために、前記基材を強化処理することが既知の慣行である。熱強化処理の間、ガラスは軟化点に達するまで高熱に、通常は600℃を超える温度、例えば、650℃に5分間晒され、その後、ガラスは、例えば、空気及び/又は不活性ガスの噴流によって急激に冷却される。これによって、圧縮領域に囲まれたガラス内部の張力領域が作成される。この張力領域は、強化処理ガラス内に高い応力の発生に寄与し、したがって、その硬度を高めることを可能にする。
【0013】
それにもかかわらず、そのような熱強化処理方法は、強化処理工程の前にガラスを所望の形状に切断することにガラス製造者を制限するという大きな欠点を有する。これは、一度、強化処理されると、強化処理中に発生する内部応力により、ガラスを切断できなくなったり、ガラスが壊滅的に細かく砕けたりするためである。熱強化処理には、既知のエレクトロクロミックスタックの機能を破壊し、したがって、関連するデバイスを無効にするという更なる欠点がある。
【0014】
これらの技術的制約及びエレクトロクロミックグレージングに特有の産業的状況に関して、ガラス製造者には2つの代替の技術的解決策が利用できる。
【0015】
第1の代替案は、最初にガラスを所望の寸法に切断し、次いでガラスを強化処理、そしてエレクトロクロミックスタックでコートすることである。したがって、エレクトロクロミックデバイスの製造は、エレクトロクロミックスタックを堆積するまさに最初の工程から開始して「測定」する必要がある。このコートされた基材の寸法標準化がないため、エレクトロクロミックグレージングを製造する一般的な方法が大幅により複雑になり、特にその生産性が低下する。
【0016】
第2の代替案は、強化処理されていない基材上にエレクトロクロミックスタックを堆積し、次いで後者をカウンター基材と接着することであり、基材とカウンター基材は、例えば、ポリビニルブチラール(PVB)からなる中間層によって互いに分離されている。したがって、この第2の代替案は、必然的にラミネーション工程を含み、このことは、グレージングを製造するための方法をより複雑にし、前記グレージングの総重量、及びさらにその原価を増加させる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらの欠点を克服するために、提案された技術は、少なくとも1つの特定の実施形態において、エレクトロクロミックシステムのためのカソードサブアセンブリに関する。前記カソードサブアセンブリは、ガラス機能を有する基材上に堆積するのに適しており、少なくとも、下記を含む:
第1透明導電層、及び
前記第1透明導電層の上に配置された作用電極。
前記カソードサブアセンブリは、前記作用電極が、その化学組成に基づいて、熱強化処理後に機能するのに適していることを特徴とする。
【0018】
本文全体を通して、「その化学組成に基づく」という表現は、最初にかつ本質的に電極の各々を構成する純粋な物質の割合のみに関係する。したがって、この概念は、スタックの端子に加えられる電圧の関数としてその着色/脱色を引き起こすために、その後スタックに導入してもよい可動イオンを除外する。
【0019】
さらに、電極は、その厚さに関係なく、5mC/cm以上の容量を有する場合、「機能的」と呼ばれる。好ましくは、そのような電極は、その容量が15mC/cmよりも大きく、好ましくは20、25、30、40、50、60、70mC/cmよりも大きいときに「最適な」動作をする。そのような電極の容量の測定は、任意の既知の方法によって、特に、本文の残りの部分で説明されているような3電極試験によって実行することができる。
【0020】
エレクトロクロミックシステムは、明状態と暗状態の間で2より大きいコントラストを示す場合に「機能的」であると言われる。好ましくは、そのようなエレクトロクロミックシステムは、コントラストが5より大きい場合、好ましくは、20より大きい場合、好ましくは、100、200、300、400、500、650、800、1000より大きい場合、「最適な」動作を示す。コントラストは、任意の既知の方法によって、特に本文の残りの部分で説明されているように、光透過率(LT)を測定するためのデバイスと結合された2つの電極によって測定することができる。
【0021】
本発明によるカソードサブアセンブリは、強化処理に耐性がある、言い換えれば、そのような熱強化処理工程の後に機能的である、又は好ましくは最適な動作を有するという利点を有し、このことはその化学組成に起因する。したがって、そのようなカソードサブアセンブリは、特定の想定される用途の観点から、その後、切断及び強化処理されるように、標準寸法の基材上に作製することができる。
【0022】
1つの好ましい実施形態によれば、作用電極は、マグネトロン堆積によって堆積される。あるいは、堆積は、液相成長を介して実行される。
【0023】
1つの特定の実施形態によれば、前記作用電極は、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、バナジウム(Va)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、及びジルコニウム(Zr)を含む群から選択される少なくとも1つの遷移金属元素Yがドープされた酸化タングステン(WOx)から少なくとも構成される。
【0024】
このようなカソードサブアセンブリは、熱強化処理に対する耐性をさらに改善している。したがって、一般に、金属元素Yによる酸化タングステン(WOx)のドーピングは、強化処理の間の酸化タングステンの結晶化を制限することを可能にすることが観察されてきた。それ故に、この電極は、特にドーピング元素のモル比が上記の好ましい範囲に近いので、機能するのに充分な容量を保持する。
【0025】
1つの特定の実施形態によれば、前記少なくとも1つの遷移金属元素Yは、2原子%以上、好ましくは5原子%以上、好ましくは7原子%以上、好ましくは8原子%以上、好ましくは9原子%以上、及び/又は30原子%以下、好ましくは20原子%以下、好ましくは15原子%以下、好ましくは13原子%以下、好ましくは11原子%以下、の比Y/(Y+W)に従って存在する。
【0026】
作用電極の過剰なドーピングは、例えば、30原子%の値を超えると、強化処理に対するその抵抗を低下させる傾向があることが観察されている。
【0027】
また、本発明は、ガラス機能を有する基材上にそのようなカソードサブアセンブリを製造するための方法に関する。前記方法は、第1透明導電層(2A)の上に前記作用電極(3)のマグネトロン堆積に適した1つ又は複数のターゲットを備えた少なくとも1つの堆積ステーションを使用することが好ましい。
【0028】
1つの特定の実施形態によれば、作用電極は、180℃未満、好ましくは160℃未満、好ましくは140℃未満の温度でマグネトロン堆積によって堆積される。
【0029】
低温堆積と呼ばれる、180℃未満の温度でのマグネトロン堆積は、堆積ゾーンでの補助加熱デバイスの使用を必要としないという利点を有する。
【0030】
1つの特定の実施形態によれば、前記基材の縁部は、前記作用電極の堆積の前及び/又は後に研磨される。
【0031】
そのような研削工程がない場合、基材の縁部に存在する欠陥は、熱強化処理時に、関連する機械的応力の影響下で、亀裂の形で基材内に伝播する可能性があり、したがって、その破壊を引き起こす。したがって、そのような粉砕操作は、後続の熱強化処理工程のためにカソードサブアセンブリを作製することを可能にする。
【0032】
また、本発明は、ガラス機能を有する基材の上に堆積させるのに適し、かつ下記を含むエレクトロクロミックシステムに関する:
上記のカソードサブアセンブリ、
前記カソードサブアセンブリの上に配置された対電極、
前記対電極の上に配置された第2透明導電層、
前記エレクトロクロミックシステムに導入されたリチウム(Li)イオン、及び
好ましくは、電極と対電極の間に挿入されたイオン伝導体の別個の層。
【0033】
また、本発明は、ガラス機能を有する基材の上に堆積させるのに適し、かつ下記を含むエレクトロクロミックシステムに関する:
前記基材の上に配置された第2透明導電層、
前記第2透明導電層の上に配置された対電極、
前記対電極の上に配置された、上記のようなカソードサブアセンブリ、
前記エレクトロクロミックシステムに導入されたリチウム(Li)イオン、及び
好ましくは、電極と対電極の間に挿入されたイオン伝導体の別個の層。
【0034】
したがって、エレクトロクロミックシステムの製造の間に、基材上へのスタックの堆積の順序を逆にすることは可能であり、したがって、作用電極の上に対電極を、又は対電極の上に作用電極を交互に堆積させることは可能である。
【0035】
本文全体を通して、リチウム(Li)イオンを前記エレクトロクロミックシステムに導入する工程は、様々な方法で実行することができる。好ましくは、リチウムの1つ又は複数の別個の層がエレクトロクロミックシステムに挿入される。続いて、リチウムイオンは、自発的に及び/又は温度上昇の影響下で、エレクトロクロミックスタック内に拡散するように導かれる。
【0036】
1つの特定の実施形態によれば、前記対電極は、好ましくは少なくとも1つの遷移金属元素がドープされたニッケル-タングステン酸化物(NiWxOz)から少なくとも構成される。
【0037】
1つの特定の実施形態によれば、
作用電極(3)の厚さは、100nm~1500nm、好ましくは150nm~1000nm、好ましくは200nm~700nm、好ましくは300nm~500nm、好ましくは350nm~450nmであり、かつ/又は
対電極(5)の厚さは、100nm~1500nm、好ましくは150nm~500nm、好ましくは200nm~350nm、好ましくは225nm~300nm、好ましくは260nm~280nmである。
【0038】
また、本発明は、ガラス機能を有する基材上にそのようなエレクトロクロミックシステムを製造するための方法に関する。
【0039】
また、本発明は、ガラス機能を有する基材の上に配置され、好ましくはそのようなエレクトロクロミックシステムに組み込まれる、そのようなカソードサブアセンブリの熱強化処理に関する。
【0040】
明らかに、カソードサブアセンブリがエレクトロクロミックスタックに組み込まれる場合、熱強化処理工程は、エレクトロクロミックスタック全体に対して実行され、それ故に、それが形成されるエレクトロクロミックサブアセンブリに対しても実行される。
【0041】
1つの特定の実施形態によれば、前記熱強化処理は、カソードサブアセンブリ及び事前にアニール処理されていない基材上で実行される。
【0042】
本文全体を通して、アニール処理工程は、温度の漸進的な上昇を含む材料を600℃未満の温度に加熱し、続いて漸進的かつ制御された冷却を行うサイクルに関連する。この作用は、材料の中心に蓄積する可能性のある応力の緩和を促進するために特に使用される。それ故に、そのようなアニール処理工程は、使用される温度範囲が熱強化処理の温度範囲よりも低いという理由で、特にその後の冷却の段階的な性質という理由で、強化処理とは異なる。したがって、アニール処理は強化処理の効果とは反対の効果を対象とし、後者は材料内に内部応力を生成することを目的としているのに対して、逆に、アニール処理は材料を緩和してこれらの内部応力を解放することを目的とする。
【0043】
アニール処理は電極の結晶化を開始する傾向があり、その後、強化処理の悪影響を悪化させることが観察されている。同一の組成で、事前にアニール処理されていないカソードサブアセンブリの熱強化処理により、容量及びコントラストの点でより優れた性能結果を得ることができる。
【0044】
さらに、本発明は、そのような熱強化処理後に得られる強化処理されたエレクトロクロミックシステムに関する。
【0045】
そのようなサブアセンブリの作用電極は、熱強化処理後に機能するという利点を有する。
【0046】
化学組成に関して、作用電極が機能するそのような能力は、可動イオンを捕捉して放棄する能力を促進する、又は逆に害する傾向のある化合物のその中の存在及び/又は不在をもたらす。
【0047】
非限定的な例として、それぞれニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)又はバナジウム(V)でドープされた酸化タングステン作用電極の文脈において、強化処理後の機能電極は、前記電極の動作に重大な害を及ぼす結晶性Li及び/又は結晶性LiWOの不在又は事実上の不在により、並びにLi16の存在により、強化処理後は機能しない、既知の電極とは異なる。
【0048】
カソードサブアセンブリを製造するための、アノードサブアセンブリを製造するための、又は強化処理のための様々な工程は、本発明を再現するために必ずしも単一の部位で再現される必要はないことに留意されるべきである。非限定的な例として、熱強化処理は、局所的に製造された、又は遠隔の製造現場から持ち込まれたカソードサブアセンブリ上で再現することができる。
【0049】
また、本発明は、一方では強化処理されたカソードサブアセンブリの、他方ではアノードサブアセンブリのアセンブリによるエレクトロクロミックデバイスの取得をカバーする。そのようなアノードサブアセンブリは、その上に第2透明導電層及び対電極が堆積された少なくとも1つの対基材を含む。好ましくは、前記アノードサブアセンブリは熱的に強化処理されている。
【0050】
さらに、本発明は、そのような強化処理されたエレクトロクロミックシステムを組み込んだグレージングに関するものであり、前記グレージングは、建物のグレージングとしての使用、特に内部仕切り又はグレージングドアの外部グレージングとしての使用、又は列車、飛行機、自動車及びボートなどの輸送手段のグレージングを有する内部仕切り又は窓としての使用に適している。
【0051】
本発明の他の特徴及び利点は、単純な例証的かつ非限定的な例として与えられた特定の実施形態及び添付の図の以下の説明を読むことで明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1図1は、本発明の1つの特定の実施形態によるエレクトロクロミックシステムの概略図である。
図2図2は、本発明による熱強化処理方法の連続する工程を示す流れ図である。
【0053】
様々な図において、他に示されない限り、同一である参照番号は、類似又は同一の要素を表す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図に示されている様々な要素は、必ずしも真のスケールで表されているわけではなく、本発明の一般的な動作の表現に重点が置かれている。
【0055】
続いて、本発明のいくつかの特定の実施形態が提示される。本発明は、これらの特定の実施形態によって決して制限されず、他の実施形態が完全に十分に実施することができることが理解される。
【0056】
1つの特定の実施形態によれば、図1に示されるように、本発明は、ガラス機能を有する基材(1)上に堆積され、堆積の順序でインジウムスズ酸化物(ITO)の第1透明導電層(2A)、ドープされた酸化タングステン(WOx)の作用電極(3)、シリカ(SiO)の電解質(4)、ニッケル-タングステン酸化物(NiWO)の対電極(5)、及びインジウムスズ酸化物(ITO)の第2透明導電層(2B)を含むエレクトロクロミックシステム(8)に関する。
【0057】
リチウム(Li)イオンは、この段階で、リチウムの2つの別個の層、1番目は作用電極と電解質の間、2番目は対電極と第2透明導電層の間の堆積によってすでにエレクトロクロミックシステムに導入され、エレクトロクロミックスタック内のリチウムイオンの拡散をもたらすために、各堆積の後に加熱工程が続くことに留意されるべきである。
【0058】
1つの特定の実施形態によれば、エレクトロクロミックスタックを形成する層の少なくとも一部及び好ましくはすべてが、マグネトロン堆積によって堆積される。代替実施形態によれば、これらの層の少なくとも一部は、代替方法に従って、例えば、液相成長を介して堆積される。
【0059】
図示されていない代替実施形態によれば、基材上へのエレクトロクロミックスタックの堆積の順序は逆となり、その結果、エレクトロクロミックスタックは、以下の堆積の順序で、インジウムスズ酸化物(ITO)の第1透明導電層(2A)、ニッケル-タングステン酸化物(NiWO)の対電極(5)、シリカ(SiO)の電解質(4)、ドープされた酸化タングステン(WOx)の作用電極(3)、及びインジウムスズ酸化物(ITO)でできている第2透明導電層(2B)を有する。次いで、作用電極は対電極の上に堆積される。
【0060】
これらの代替実施形態によれば、第1透明導電層及び作用電極は、カソードサブアセンブリ(6)を形成し、一方、対電極及び第2透明導電層は、アノードサブアセンブリ(7)を形成する。
【0061】
エレクトロクロミックシステム8が基材1上に堆積されると、アセンブリは、図2に示されるように、ガラスの軟化点まで高熱で、通常は600℃を超える温度で5分間加熱し、次いで、例えば、空気及び/又は不活性ガスの噴流によってアセンブリを急激に冷却することによって熱的に強化処理される。次いで、得られた強化処理エレクトロクロミックシステム8は、硬度が高くなる。
【実施例
【0062】
以下に記載される実験プロトコルは、しかしながら、特許請求の範囲を制限することなく、本発明によるカソードサブアセンブリ(6)によって与えられる技術的利点のいくつかを前面に出すことを可能にする。
【0063】
試験の目的は、それらの化学組成の関数として、様々なカソードサブアセンブリの熱強化処理抵抗性能結果を評価することである。
【0064】
これを行うために、従来技術から知られている組成を有し、比較参照として役立つ第1のサンプルと、それぞれ10%の原子量のニオブ(Nb)(サンプルNo.2)、モリブデン(Mo)(サンプルNo.3)、及びバナジウム(V)(サンプルNo.4)でドープされた酸化タングステン(WOx)の作用電極を使用する本発明の3つの特定の実施形態に関連する3つのサンプルとを含む4つのサンプルが作製される。4つのサンプルの各々は、同じプロトコルに従って作製される。基材は2mm厚のガラスである。エレクトロクロミックスタックの正しい動作を損なう可能性のある任意のほこりを基材から取り除くために、最初にクリーニングされる。次いで、基材は、堆積ラインを通過するキャリア上に配置される。すべての材料はマグネトロンスパッタリングによって堆積される。堆積ライン内で、400nmのITO2A、続いて380nmの酸化タングステン(ドープ又は非ドープ)3が、240℃の温度で加熱された基材2上に堆積される。ドープされた作用電極は、ドープされたターゲットから堆積される。ドーピング量は供給者によって与えられ、その後、サンプルの微量分析によって検証される。次いで、リチウムは、ライン内に組み込まれた分光計を使用して測定された800nmでのサンプルの光透過率が5%から50%の間になるまで、このように形成されたカソードサブアセンブリ6上にその金属形態で堆積される。そして、サンプルは、周囲の空気で冷却する前に、~650℃で5分間加熱することにより、従来どおりに強化処理される。
【0065】
可逆性範囲の測定
【0066】
容量又はコントラストの測定を開始する前に、試験されるサンプルに適した測定範囲を決定することが必要である。これを行うために、2つの一連のサイクリックボルタンメトリーを、サンプルがもはや可逆的でなくなる電圧範囲を決定するために、実行する。サイクリックボルタンメトリー(CV)は、2つの電圧値の間に定義された速度(この場合は、2mV/s)で電圧勾配を適用し、このようにして生成された電流を測定することで構成される。
【0067】
第1シリーズは、サンプルが接続され、回路が開いている(静止電位)ときの時間0で記録された電圧V0と、V0よりも大きい第1の電圧V1の間で10サイクルを実行し、次いで、0.1Vの増分工程に続いて、電圧V1の値を増やしながら操作を繰り返すことからなる。
【0068】
第2シリーズは、V2はV0よりも小さくV2は低電圧の増加に向かって変動する、V0とV2の間で同じ操作を実行することからなる。10サイクルのシリーズごとに、5番目のサイクルと10番目のサイクルの間で交換される総電荷の差が15%未満である限り、反応は可逆的であると見なされる。V1の値を増加し続ける(それぞれV2の値を減少させる)ことにより、サンプルがもはや可逆的でなくなる電圧しきい値V1m(それぞれV2m)が最終的に検出される。そのときの[V2m:V1m]は、このサンプルの測定範囲である。
【0069】
容量測定
【0070】
試験されたカソードサブアセンブリの容量を測定するために、3電極アセンブリにおける電気化学的測定が実行される。電極は、無水プロピレンカーボネートで希釈された1モルの過塩素酸リチウムを含む溶液からなる液体電解質に浸される。研究されたカソードサブアセンブリは、電解質に浸される前に、溶接によって超音波に電気的に接続される。次いで、このサンプルのカソードサブアセンブリは、3電極測定システムの作用電極として機能し、一方、リチウム金属のきれいな部分は作用電極と対電極として機能する。測定された電圧は、テストされたサンプルと参照電極(この場合はLi金属)の間の電位差であり、一方、電圧又は電流は、テストされたサンプルと対電極(この場合は、別のLi金属片)の間に実験中に加えられる。
【0071】
サンプルの電気化学的容量を測定するために、クロノポテンシオメトリー操作が実行される。クロノポテンシオメトリー(CP)は、定電流(この場合は、13.4mA/cm)を加え、サンプルと対電極の端子の電圧を測定することからなる。V1m又はV2mに達すると、反対の符号の電流で動作が繰り返される。このようなサイクルは20回再現される。次いで、充電容量は、半サイクルの時間に対して加えられた電流を積分することにより、20番目のサイクルから取得される。
【0072】
コントラスト測定
【0073】
コントラストは、完全なスタックで測定される。この場合、測定は2電極アセンブリで実行される。作用電極と直接接触するITO層はカソードサブアセンブリを構成し、一方、対電極と直接接触するITO層はアノードサブアセンブリを構成する。アノードサブアセンブリは、参照電極と研究された電気化学システムの対電極双方として機能する。システムの安定ゾーンを決定できるようにするプロトコルは、上記と同じ方法で適用することができる。
【0074】
完全なスタックのコントラストを測定するために、20回のクロノアンペロメトリー操作が、全光透過率の同時測定とともに実行される。後者は、電気化学的測定を分光計に結合することによって行うことができる。クロノアンペロメトリー(CA)は、定電圧を加え、このようにして生成された電流を測定することからなる。この場合、V1mとV2mの間で20回のCA操作が実行される。電圧印加時間は、各工程の最後に測定される電流が0.2μA/cm/min未満だけ変化するように選択される。20番目のサイクルの間に、最小光透過率LTminと最大光透過率LTmaxが記録される。次いで、コントラストは、LTmax/LTminの比率として定義される。
【0075】
得られた結果を以下の表1に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
表1に得られ、かつ提示された結果は、サンプル1について測定された値と比較して、サンプル2から4について強化処理後に測定された容量値の改善を最初に実証することを可能にする。
【0078】
強化処理されたサンプルの最大容量は、10%の原子量のニオブ(Nb)でドープされたサンプルNo.2から得られたものである。したがって、サンプルNo.2は、熱強化処理に抵抗するための最も有利な組成を有する。
【0079】
X線分光法によって実行される追加の分析は、特に、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)又はバナジウム(V)でそれぞれドープされた酸化タングステン作用電極の状況内で、強化処理後に機能する電極は、一方では、その動作に重大な悪影響を及ぼす結晶性Li及び/又は結晶性LiWOの不在又は実質的な不在により、また他方では、Li16の存在により、強化処理後に機能しない既知の電極と異なることを明らかにする。
【0080】
本発明の特定の実施形態が例証及び説明されてきたが、本発明の精神及び範囲内で様々な他の変更及び修正を行うことができることは明らかである。したがって、本文は、添付の特許請求の範囲において、本発明の文脈内にあるすべての修正を網羅することを意図している。
図1
図2
【国際調査報告】