(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】薄膜液体セルの作製
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20230215BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20230215BHJP
G01N 23/02 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
G01N1/28 F
G01N1/28 W
G01N21/64 F
G01N23/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537295
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(85)【翻訳文提出日】2022-08-08
(86)【国際出願番号】 EP2020087551
(87)【国際公開番号】W WO2021123458
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517449774
【氏名又は名称】ウニフェルシタイト・ライデン
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ファン・デールセン,パウリーネ マルテ ジェラルディナ
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー,グレゴリー ファブリス
(72)【発明者】
【氏名】クロス,アレクサンデル
(72)【発明者】
【氏名】チュードル,ヴィオリカ
【テーマコード(参考)】
2G001
2G043
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001CA03
2G001HA09
2G001HA13
2G001QA02
2G043AA03
2G043CA03
2G043EA01
2G043FA01
2G043FA02
2G043LA03
2G052AA33
2G052AA36
2G052AD52
2G052DA33
2G052FD06
2G052GA34
(57)【要約】
室温での透過電子顕微鏡法に適する薄膜液体セルを以下のように作製する。液体上を浮動する薄膜を準備する。薄膜がその上を浮動する液滴が、ループにより支持部に転写される。ループは、液滴を保持し、液滴は、この転写中に薄膜を保持する。支持部上の液滴から、薄膜液体セルを形成するのに十分な液体を除去する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
室温での透過電子顕微鏡法に適する薄膜液体セルを作製する方法であって、当該方法は、
液体上を浮動している薄膜を準備するステップと、
前記液体の液滴をその上を浮動する前記薄膜とともに支持部にループにより転写するステップであって、前記ループは、前記液滴を保持し、前記液滴は、前記転写ステップ中に前記薄膜を保持する転写ステップと、
前記支持部上の液滴から、前記薄膜液体セルを形成するのに十分な液体を除去するステップと、を含む方法。
【請求項2】
前記薄膜液体セルは、前記液滴から液体を封じ込めている間に前記薄膜の一部分が折れ曲がり前記膜の別の部分と接触することにより形成される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記支持部は、さらなる薄膜が設けられ、これにより、前記薄膜液体セルは、前記液滴からの液体が、前記液滴上を浮動している前記薄膜と、前記支持部上に設けられたさらなる薄膜との間に閉じ込められるようになることによって形成される請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記さらなる薄膜は、前記支持部上に配置された多孔膜の上に存在する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔膜は、ポリスチレンを含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記多孔膜は100nm未満の厚さである請求項4及び5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記液滴を保持するループは、平均直径が5mm未満である請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記支持部は、透過電子顕微鏡法用のグリッドを含む請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記液体上を浮動している前記薄膜を準備するステップは、
基板上に前記薄膜を形成するステップと、
前記薄膜をその上に有する前記基板をエッチング液の表面に配置するステップであって、これにより、前記基板が、前記エッチング液と接触するステップと、
前記基板を前記エッチング液により除去するステップと、
前記エッチング液を、前記薄膜がその上を浮動すべき前記液体と入れ替えるステップと、を含む請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記薄膜は、以下、原子及び分子の少なくとも1つの2次元構造体である少なくとも1つの層からなる請求項1~9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記薄膜は、グラフェン液体セルを形成するようにグラフェンを含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記薄膜液体セルは、発光性物質を含むように作製される請求項1~11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
請求項1~12のいずれかに記載の方法により得られた薄膜液体セルを含む試料をイメージングする方法であって、当該試料を透過電子顕微鏡によりイメージングする方法。
【請求項14】
前記薄膜液体セルが請求項12に記載の方法により得られる請求項13に記載の試料をイメージングする方法であって、当該方法は、
前記試料内の前記薄膜液体セルの位置を特定するように前記試料を光学イメージングするステップと、
前記薄膜液体セルの位置が特定された場所を標的として前記試料を電子イメージングするステップとを含む方法。
【請求項15】
室温での透過電子顕微鏡法に適する薄膜液体セルであって、前記薄膜液体セルは、単一の薄膜の一部分が折れ曲がって前記単一の薄膜の別の部分と接触することにより形成され、それにより液体を封じ込める、薄膜液体セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、1つ以上の実質的に2次元の膜状液体セル、特に、グラフェン液体セルを生成する方法及びシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラフェン液体セル(GLC)は、グラフェンの2つの膜の間に水が閉じ込められるフェムトリットルサイズのポケットである。この極薄のグラフェンと水の構造体によって、水ベースのプロセス用のナノスケールの環境を得られるので、室温でのリアルタイムの透過電子顕微鏡法(TEM)が可能となる。液体セルの開発によって、金属のナノ粒子の成長の原子分解能イメージングがもたらされるが、有機物の可視化プロセスは、依然、大きな課題である。原子番号が小さい元素からなる有機分子は、例えば、金属原子よりも弱い電子散乱体であるので、電子画像のコントラストが弱くなる。さらに、電子ビームと、生体分子、有機分子及びすべての液体との相互作用によって、試料の化学結合が放射線分解してしまう。したがって、有機材料のイメージングのために使用される電子ビーム量は、制限されて、その結果、一般的に、信号対雑音比が小さくなってしまう。
【0003】
従来、シリコンベースの液体セルは、2つのSiNナノ-膜の間に水を閉じ込める。SiNと水との両方への電子の通り道は、著しい電子の散乱を引き起こす。
【0004】
他方で、グラフェンは、バックグラウンド電子散乱を最小限にする単一の原子膜である。さらに、グラフェンは、急速なエネルギー損失を容易にすることによりビームが損傷を引き起こすことを防止する熱伝導体及び導電体である。軟質物質の電子イメージングにおけるグラフェンの利点として、グラフェンが被覆されたTEM試料の方が、急速凍結により固定されたグラフェンがない試料と比較して、空間分解能の桁が大きくなることが、実証されてきた。
【0005】
したがって、GLCは、生物学的プロセス、例えば、タンパク質機能及び脂質膜の融合を高分解能で動的イメージングする可能性を提供する。室温での生物有機系の第1のGLC研究は、SKBR3乳癌細胞、H3N2インフルエンザウイルス、微小管及び個別の分子レベルで水に溶解したポリスチレン鎖を含む。
【0006】
この第1の成功以上に、再現可能なデータの取得の実証が、ライフサイエンスにおける特定の事例研究へ応用に向けた次のステップとして要請されている。現在のところ、GLC作製方法の再現性が低いことが分かっており、この開発が遅れている。作製手順への要請は、転写ポリマーがTEMイメージング中に視認可能な微量の汚染を残してしまうことを避けられないことから、ポリマー支持膜を使用せずにグラフェンを転写することである。最近のレビューでは、TEM用グリッド上にGLCを組織化するための最新の方法を挙げているが、GLC作製に向けたそれぞれの方法の効率性については明確になっていない(M. Texto及びN. De Jonge, Nano Lett. 2018 (18): 3313)。
【0007】
GLCの組織化方法がいくつか知られている。例えば、ある方法は、多孔支持層上においてグラフェンをそれぞれが保持する2つのTEM用グリッドの間に、水を挟み込むことを含む。グラフェンが、試料の組織化手順を通じて支持されているので、この方法には、グラフェンの可撓性が失われる代償を払ったとしても、グラフェンの完全性を保つ最大の機会がある。別の欠点が、ともに挟み込まれてイメージング領域の大部分を支持材料により不明瞭にする二重の支持層にある。
【0008】
他の方法は、初めに、水(又は水性試料溶液/分散系)の上を浮動する上部グラフェン膜を水の表面から、グラフェンが被覆されるTEM用グリッド上に配置することになる。このような組織化は2つのやり方で行うことができる。第一に、上部グラフェン膜を、液体表面からグリッド上へ下からすくい上げる(scoop)、すなわち、水の中からTEM用グリッドをすくい上げることができる。したがって、本方法は、スクープ法と呼ばれる。このスクープ法は、自由に浮動するグラフェン膜に機械的応力を誘発するもので、これまで多層グラフェンを用いてのみ証明されてきた。第二に、TEM用グリッドを、浮動するグラフェン膜の上部に配置可能である。したがって、本手法は、「タッチダウン」法と呼ばれる。タッチダウン法では、試料の液体を液滴としてグリッドに添加するか、又は微小液滴としていずれかのグラフェン膜に噴霧することができる。後者の手法は、元のままの完全な形の広面積のグラフェンを提供するために示したものである。
【0009】
もっとも頻繁に、多層グラフェンがこの方法において使用されるが、安定性が優れているからであることに留意する。多層グラフェン又はグラフェンの欠陥のない単結晶の両方を、成功率を高めるために示してきたが、この材料を利用できる範囲は限定されている。さらに、多層グラフェンは剛性が高くポリマー転写を用いて積層される準備手順により汚染が起こりやすいことから、単一膜のグラフェンの方が多層グラフェンよりも好ましい場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】M. Texto及びN. De Jonge, Nano Lett. 2018 (18): 3313
【発明の概要】
【0011】
前述のことを考慮して、本明細書に、2次元の膜液体セル、特に、GLCの作製方法を提示する。
【0012】
請求項1は、本発明に係る薄膜液体セルの作製方法を定義している。
【0013】
請求項12は、薄膜液体セルを作製するこのような方法により得た薄膜液体セルを含む試料をイメージングする方法を定義している。
【0014】
請求項15は、室温での透過電子顕微鏡法に適する薄膜液体セルを定義している。
【0015】
薄膜が、単一の分子/原子-膜の膜、例えば、グラフェン膜、特に、グラフェン液体セルなどの実質的に2次元の膜であってよく、さらに、特に、本明細書の他の場所に記載及び/又は特定した方法を含み得る。一実施形態では、薄膜液体セルの作製方法は、
支持部を設けるステップと、
実質的に2次元の薄膜、特に、グラフェン膜を準備するステップと、
薄膜を、液体を有する支持部上に配置するステップと、
ある量の液体を収容する、1つ以上の薄膜液体セルを形成するステップと、
を含み得、本方法は、さらに、液体に、好ましくは薄膜液体セルの形成前に、発光物質、特に、蛍光色素などの発光染料を供給することを含む。
【0016】
ルミネセンスは、場合によっては、蛍光法、りん光及び/又は多光子ルミネセンスの1つ以上であってよく、好ましくは、5,000~200nmの範囲、特に、1,100~300nmの範囲、さらには、特に、800~350nmの範囲、例えば、550~400nmの範囲の波長の光の下でそうしてよい。波長が短い程、ルミネセンスの強度が増し、かつ/又はルミネセンスの波長が短い程、ルミネセンスの検出が容易になり得るような強度となり得る。
【0017】
適切な2次元の膜は、単一の分子/原子の厚さの膜及び/又は単層の膜もしくは数層の膜、例えば、六方晶窒化ホウ素(h-BN)の膜、ダイカルコゲナイド(dichalcogenides)の膜及び単一の分子/原子層の膜、例えば、グラフェン膜であってよい。支持部は、電子顕微鏡の支持部、例えば、(一般的には、金であってよい)TEM用グリッド、SiNチップなど任意の適切な支持構造体であってよく又はそのような支持構造体を含んでよい。以下において、グラフェン膜ベースの水を収容する液体セルは、本コンセプトを説明するためだが、例示の材料としてのみ使用しており、本開示は、薄膜材料をグラフェンに限定しておらず、液体セルに収容される液体を水に限定しておらず、支持部をTEM用グリッドに限定していない。
【0018】
本方法は、さらに、支持部にターゲット薄膜、特に、単一の分子/原子膜の膜など、実質的に2次元の膜、例えば、グラフェン膜を設けることと、液体を有するターゲット薄膜に薄膜を配置することとを含み得る。
【0019】
よって、薄膜は、好ましくは、薄膜とそれとともに生成されたGLCとの構造的な統一性を改善し得ると考えられる薄膜と同一の材料のターゲット薄膜上に支持され得る。このように、薄膜とターゲット薄膜との間にGLCを生成することができ、多数のGLCの作製が容易になる。
【0020】
本方法は、さらに、薄膜の層及び/又は薄膜前駆物質が提供される基板を含む試料を供給するステップと、試料を容器内の液体の液体表面に支持するステップと、液体中において及び/又は液体により基板を除去する、例えば、基板を溶解するステップと、液体表面で支持される前記薄膜を形成するステップとを含み得る。薄膜の層及び薄膜は、好ましくは、基板があること又は銅の上のグラフェンがエッチングされた場合など基板がないこと以外は同一でありかつ実質的に変化のないものであってよい。しかしながら、任意の適切な種類の物理的変換及び/又は化学的変換、例えば、薄膜の層から物質を蒸発させる、2つ以上の構成成分の反応及び/又は薄膜の層の硬化によって、薄膜の層を薄膜に変換することが可能となるか又はそれが起こり得る。このような手法が、実質的に2次元の薄膜を形成する信頼できる手法だと実証された。
【0021】
液体中でかつ/又は液体により基板を除去するステップの少なくとも一部分の間に、浮動するフレームを、グラフェンを安定化させるように設けてよい。
【0022】
本方法は、さらに、液体の液滴を支持し次に薄膜を支持するループを使用して、薄膜の少なくとも一部分を支持部に転写するステップを含み得る。このようなループアシスト式転写(「LAT」)は、薄膜を、1つの配置から別の配置へ転写するための信頼できる手法であることを実証している。
【0023】
本方法において、液体に発光物質を供給するステップは、試料をその液体表面で支持する液体に発光物質を供給するステップを含み得る。しかも又はその上、LATを用いて薄膜を転写する場合、本方法は、液滴の液体に発光物質を供給することを含み得、かつ/又は発光物質が供給された液体から液滴を供給することを含み得る。
【0024】
これらの選択肢のうち任意の選択肢において、発光物質は、液体セルを形成する際に液体セルに収容された液体の量を効果的に含ませてよい。
【0025】
これとともに、本明細書に記載の任意の他の方法と適切に組み合わせ可能な方法も提供し、当該方法は、
薄膜を含む構造体の少なくとも一部分の光の光学的アスペクトと関連付けられる光の光学的画像データ、特に、透過率、リフレクタンス(refractance)、反射率、及びルミネセンスの少なくとも1つを取得するステップと、
薄膜を含む構造体の少なくとも一部分の電子ビームの光学的アスペクトと関連付けられる光の光学的画像データを取得し、前記取得した光の光学的画像データと電子の光学的画像データとの少なくとも一部分を比較するステップとを含む。
【0026】
典型的には、光の光学的画像データは、光学顕微鏡法に基づいて取得可能であり、透過光、反射光及び蛍光などのルミネセンスを含み得る。典型的には、電子の光学的画像データは、透過電子顕微鏡法に基づいて取得可能であり、透過及び/又は吸収データを含み得る。
【0027】
本方法、特に、各画像データを比較するステップは、各画像データを相関させるステップと、それぞれの画像データを相互に対してかつ/又は構造体の少なくとも一部分に対してマッピングするステップであって、各画像データにおいて1つ以上の対応する構造体を特定することを含み得るマッピングステップと、画像データの少なくとも一部分を倍率変更するステップと、前記光の光学画像データ及び前記電子光学画像データの両方を含むか又は表す画像を提供するステップと、時間の関数として画像データを比較するステップと、1つ以上の薄膜液体セルを特定する及び/又は位置を特定するステップと、1つ以上の薄膜液体セルの1つ以上の特性を特定するステップのうち1つ以上を含み得る。
【0028】
本方法は、さらに、前記取得した光の光学画像データ及び電子の光学画像データの少なくとも一部分を比較することと、薄膜液体セルを操作しかつ/又は分析するため比較データを使用することと関連付けられる比較データを提供するステップを含み得る。
【0029】
これとともに、一態様において、1つ以上の実質的に2次元の膜の液体セル、特に、グラフェン液体セルを作製する方法を含む本明細書に記載の任意の他の方法と適切に組合せ可能な方法も提供し、当該方法は、
支持部を設けるステップと、
実質的に2次元の薄膜、特に、グラフェン膜を準備するステップと、
薄膜を液体を有する支持部上に配置するステップと、を含み、
当該方法は、さらに、薄膜の第1の部分を薄膜の第2の部分に対して、ある量の液体を収容する容積が薄膜の第1の部分と第2の部分との間に形成されてその量の液体を収容する容積を閉鎖して、密閉された薄膜液体セルを形成するように曲げるか又は折り曲げるステップを含む。
【0030】
本方法は、2次元の薄膜液体セル、特に、グラフェン液体セルの準備を容易にする。液体を収容する容積を曲げる又は折り曲げることにより形成することによって、液体の量を容易にかつ確実に取得することができる。さらに、薄膜を平坦に維持する手間を不要にすることができる。本方法は、比較的多数の液体セルを提供することができ、また、このような方法で製造された液体セルは、驚くほど頑丈であり多くの実験に適する大きさであることを実証している。曲げる又は折り曲げることは、薄膜の第1の部分及び第2の部分を提供するように、薄膜の少なくとも一部分にたたむこと、ひだを寄せること、折り曲げることの1つ以上を含み得る。
【0031】
本方法は、さらに、液体の容積及び/又は量の周りにおいて薄膜の第1の部分と第2の部分との相互接触を引き起こすかつ/又は確立することを含み得る。
【0032】
このように、ある量の液体を収容する容積が画定され、その量の液体が保たれる。薄膜の第1の部分及び第2の部分は、各種膜の部分であってよい。しかしながら、薄膜の第1の部分及び第2の部分が薄膜上の部分である場合、分析用の試料を準備するには単一の薄膜の処理で十分であり得る。
【0033】
上記のことに関連して、別の態様において、これとともに、基板、特に、TEM用グリッドを含む薄膜液体セルの試料であって、薄膜は、特に、単一の分子/原子膜の膜など、実質的に2次元の膜、例えば、グラフェン膜であり得、かつ/又は薄膜液体セルは、特に、薄膜の第1の部分と第2の部分との間にある量の液体を収容するグラフェン液体セルであり得、薄膜液体セルのその量の液体に発光物質を含み得る、薄膜液体セルの試料が提供される。これによって、液体セルの検出及び分析が容易になる。
【0034】
試料は、薄膜液体セルを支持するための支持部を含んでよく、支持部は、発光性でありかつ/又は発光物質を含み得る。これによって、試料の構造を特定しかつ/又は識別することが容易になり得る。支持部及び液体セルのルミネセンスは、区別しやすくするため明度、波長(色)、及び発光性(蛍光対りん光)の1つ以上に関して各種特性を有することが望ましい場合がある。
【0035】
試料は、発光物質の有無に拘わらず、薄膜の第1の部分を薄膜の第2の部分に対して曲げるか折り曲げて容積を提供するように密閉して形成された薄膜液体セルを含み得る。このような試料は、特に、1つ以上の比較的大きくかつ/又は堅牢な液体セルを提供することができる。
【0036】
上記と関連して、別の態様では、これとともに、薄膜液体セル、特に、本明細書に明記した薄膜液体セルの試料の薄膜液体セル及び/又は本明細書に明記した任意の方法により作製された薄膜液体セルを分析するためのシステムが提供され、本システムは、
1つ以上の薄膜液体セル、特に、本明細書の他の場所に開示の薄膜液体セルの試料を提供するように1つ以上の薄膜が設けられた支持部と、
光の光学画像形成装置、例えば、カメラ及び/又は顕微鏡と、
電子の光学画像形成装置、例えば、透過電子顕微鏡と、
1つ以上の薄膜が設けられた支持部の少なくとも一部分のルミネセンスの1つ以上の発生源と、を備える。
【0037】
本システムによって、薄膜液体セルの検出及び分析が容易になる。
【0038】
検出及び分析をさらに容易にするため、本システムは、光の光学画像形成装置を使用して取得されて薄膜を含む構造体の少なくとも一部分の光の光学的アスペクトと関連付けられる光の光学画像データと、電子の光学画像形成装置を使用して取得されて薄膜を含む構造体の少なくとも一部分の電子ビームの光学的アスペクトと関連付けられる電子の光学画像データとを比較するための制御器を備え得る。
【0039】
薄膜液体セルの試料及び/又はシステムにおいて、薄膜の少なくとも一部分及び/又は支持部は、光の光学画像データを電子の光学画像データと比較することを容易にするための基準を提供するマーカーを含みかつ/又はマーカーを備え得る。
【0040】
さらに、グラフェンのループアシスト式転写法(LAT)によりGLCを作製するための効率的かつ再現可能な手法を提供する。以下において、LATの手法を、2つの既知のGLC作製方法、タッチダウン法及びグリッドサンドイッチ法と比較する。この3つの方法(LAT、タッチダウン及びグリッドサンドイッチ)には、リソグラフィによる基板の準備も、液体処理設備も不要である。しかしながら、少なくともLATの手法では、これが提供される可能性がある。さらに、本方法では、試料の液体を巨視的な液滴として添加することができ、大量又は微量の噴霧は不要である。しかしながら、少なくともLATの手法では、これが提供される可能性がある。マイクロファブリケーション及びナノファブリケーションが一般的ではない生体適合物質及び微生物学の研究にGLCを幅広く適合させるため、GLC製造技術を利用できることが強く望まれている。その上、それぞれのグリッド上にGLCを典型的な数得るため、光-電子相関顕微鏡法が提供される。
【0041】
本明細書に、作製方法の系統的な比較とGLCの形成メカニズムの詳細な説明とを提供して、例えば、室温の試料を高解像TEMイメージングする際のGLCの実施を、促進することができるGLC作製の改良を示す。
【0042】
透過電子顕微鏡法(TEM)用のグラフェン液体セル(GLC)によって、水中の動的プロセスを高解像でリアルタイムのイメージングを行うことができる。しかしながら、大規模な実施は、GLCの作製を再現する際の大きな困難によって妨げられる。本明細書では、GLCを作製する高収率の方法を一例として提示する。GLCは、グラフェンの領域、場合によっては連続した、ミリメートルの大きさである可能性がある領域のグラフェンの下に形成することができるので、例示的な支持部としてのTEM用グリッド上への効率的なGLCの形成が容易になる。他の支持部を同様に使用してよい。その上、光-電子相関顕微鏡法(CLEM)を用いてグリッド又は支持部上のGLCの位置を特定することを提供し、これによって、電子曝露時間が制限されるので、ビームによる損傷が減少し得る。CLEMによって、GLCの最も一般的な形状の信頼できる統計及び調査を入手することができた。特に、単一のグラフェン膜のみから形成されて作製プロセスを大変簡略化した新規なタイプの液体セルを発見した。本研究において提示した本方法、特に、作製の再現性及び簡略性によって、生体分子系の高解像の動的イメージングのため今後GLCを応用していくことができる。
【0043】
現在提示した態様を、以後、一例としていくつかの実施形態を示す図面を参照してさらなる詳細と利点とをさらに説明していく。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1:グラフェン液体セルのループアシスト式準備の比較。a)TEM用グリッド上において多孔ポリスチレン膜により支持される底部膜グラフェンの準備。左上の略画像は、膜の堆積を表す。中央上の略画像は、銅エッチングと、その後に続くグリッド上へのすくい上げとを表す。右上の略画像は、乾燥している様子を表す。(b-d)液体セル形成のためのグラフェン-水-グラフェン積層体を作製する方法。b)液体セルを形成するように2つのグラフェン膜の間に水を挟みこむ、グラフェンが被覆されるTEM用グリッドへのグラフェンのループアシスト式転写法(LAT)。c)グラフェンが被覆されるTEM用グリッドを、水の上を浮動する非支持型グラフェン膜上に配置するタッチダウン法による液体セルの作製。d)グラフェンが被覆される2つのTEM用グリッドを、相互の表面で水の液滴を挟み込んで配置するサンドイッチ法による液体セルの作製。(f-h)(b-d)に記載の方法によるグラフェンの転写の質。f)(b)に図示したLAT法による転写後紙を背景にしてグラフェンの被覆性を示す光学顕微鏡の画像。引かれた線は、グラフェン膜の縁を記している。スケールバー:1mm。g)タッチダウン法(c)による転写後のグラフェンの被覆性を示す光学顕微鏡の画像。赤線は、グラフェン膜の縁を記している。スケールバー:1mm。h)サンドイッチ法(d)により準備した試料に起こる多孔カーボン支持膜の重複部分。暗い領域は、図のほとんどを不明瞭にしている支持膜を表しており、これに対して、明るい孔は、グラフェン膜が2つのみビーム路にありグラフェン液体セルが形成される可能性のある領域を表している。スケールバー:10マイクロメートル。
【
図2】
図2:相関蛍光電子顕微鏡法。a)MAPSソフトウェアにおいて相関する蛍光顕微鏡画像と低倍率のTEM画像とのオーバーレイ。図には、ループアシスト式転写法により作製されたグラフェン液体セルを特徴づけるTEM用グリッドがある。白い矢印は、bからdに示した透過電子顕微鏡法によりさらに高倍率で液体セルを表わすことが確認された蛍光色の点を示している。スケールバー:10マイクロメートル。b)単一のグラフェン液体セルを示す、(a)の白い四角形における蛍光画像と高倍率の電子画像とのオーバーレイ。スケールバー:1マイクロメートル。c)液体セルのさらに暗いコントラストを示す、b)の白い四角形により示した領域の電子画像。スケールバー:500nm。d)集束した電子ビームに曝露された後の(c)の液体セル。特徴の中身が液体だったことを裏付けるコントラストは、消失している。スケールバー:500nm。
【
図3】
図3:3つのタイプのグラフェン液体セル。a)その大きさを関数としてタイプにより並べ替えた液体セルの発生総数同等のセルの大きさは、セル面積の二乗と定義され、グラフの横軸に表している。セルの数をグラフの縦軸に表している。セルのタイプ:右上の画像に表しグラフにグレー色で示した「ポケット」。右中央の画像に表しグラフに白色で示した「ひだ」。右下の画像に表しグラフに濃いグレー色で示した「折り曲げ」。右の一番下の画像の白い矢印は、折り返されたグラフェン膜の縁を示している。b)「ポケット」及び「ひだ」タイプのいくつかの液体セルを封じ込めるグラフェンの二重膜のTEM画像。スケールバー:500nm。c)単一のグラフェン膜に封じ込めた「折り曲げ」タイプのグラフェン液体セル。スケールバー:500nm。
【
図4】
図4:TEMによりイメージングした3つのセルタイプにおける金のナノ粒子の形成。a)ビーム曝露開始時点のHAuCl
4水溶液を封じ込める折り曲げタイプのセル。スケールバー:500nm。b)拡大された(a)の赤色の四角形の領域数個のナノ粒子が、初回のビームへの曝露中にすでに形成されている。スケールバー:200nm。c)100e
-Å
-2s
-1までのビームに10秒間曝露して、その間にAuのナノ粒子が液相に生じた同領域。スケールバー:200nm。d)AuCl
3溶液を封じ込めるひだ及びポケットタイプのセル。スケールバー:500nm。e)(d)の赤色の四角形を拡大した領域。スケールバー:200nm。e)ビームへ4秒間曝露した後の(e)と同一の領域。スケールバー:200nm。
【
図5】
図5:TEMによりイメージングした折り曲げ及びポケットタイプのセルにおける気泡の形成。(a-c)ポケットタイプのセルにおける気泡の形成と膨張。第1、第2の照射の範囲内で、気泡が、現れ、ビームへ長く曝露すると成長する。スケールバー:500nm。(d-f)折り曲げタイプのセルにおける気泡の形成と動き、それに続くセルの崩壊。スケールバー:100nm。g)ポケットタイプのセルの割合のグラフであって、当該グラフでは、気泡の形成の開始が、観察され、横軸に表されたセルの周縁のコーナーの数に相関して縦軸に表されている。コーナーの数とは、グラフェンの上部の膜の湾曲の程度である。セルの厚さ及び/又は容量は、コーナーの周縁の形状及び/又は数と膜の可撓性とからもしくはそれ自体の厚さの測定値から導き出すことができるか、又は二者択一的にそうすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
[詳細な説明 結果と論考]
[低応力のグラフェン転写]-
図1は、グラフェン液体セル作製の手順を要約したものである。基板上への薄膜形成の一例として、化学蒸着法により単一膜のグラフェンを銅の基板上に成長させた。LAT法及びタッチダウン法の場合、GLCは、底部グラフェン膜に支持を与える多孔ポリスチレン膜で被覆されたTEM用グリッド上において組織化する(
図1a、ステップI~IV)。しかしながら、TEM用グリッド以外の支持部及び/又は多孔ポリスチレン膜以外の他の追加の支持膜を使用してよいものの、多孔及び/又はグリッドもしくはグリッド状の支持部が、例えばイメージングを妨げることを減少させるか又は防止するため、好ましい。ポリスチレン膜の作製についての例示的な説明は、本開示の他の場所の方法の節において行う。孔対支持部の比は、作製パラメータを変化させることにより変更可能であり、場合によって、50:50の孔対支持部の比が、安定的な支持膜をもたらしながら、開口空間の最大面積に相当し得る。グリッドをポリスチレンで支持して準備する方が、TEM用グリッドへ取り付けられた支持膜へ直接的に転写するよりも信頼性が高いことが実証された。ポリスチレンで支持したグラフェンでTEM用グリッドが被覆される成功率は、98%を超え得る。このような高い収率は、可撓性のある膜として支持膜をグラフェン-銅積層体へ追加したことによるものであり、その結果、グラフェンの膜への接合の信頼性が非常に高くなる。他のタイプの支持膜を設けてもよい。
【0046】
図1bは、左のパネルが、第2のグラフェン膜の転写の好ましい方法:ループアシストタイプの転写又はLATを示す。LAT法は、グラフェンとは異なる薄膜のために使用される場合がある。本方法では、ありのままのグラフェン膜を、転写前に液体表面、例えば水と空気の界面に自由に浮動させて供給する。本コンセプトによれば、グラフェンは、液体、ここでは水の液滴を保持するループを用いて、浮動しているグラフェン膜とともにグリッド上へ転写される(
図1b)。ループは、任意の適切な大きさであってよく、任意の適切な材料から作製してよい。ループの平均直径を5mm未満としてよい。標準的な大きさの、直径約3mmのTEM用グリッドとともに使用するため、直径2mmのループが適切であり得る。ループは、金属製であってよい。原理上、ループは、特に、LAT用に、液体の液滴を保持するように適合させた孔を有する任意の物体により形成してよい。
【0047】
液滴をろ紙又は他の方法で吸い取り余分な液体を除去し、任意でグリッドを乾燥させると、上部のグラフェン膜と底部のグラフェン膜とが接触して、両者の間に液膜セルが形成される。この手法は、グラフェン膜への応力が少なく、転写後の無傷のグラフェンの面積が広くなると考えられている(
図1f)。試料にある量の液体が残っている場合がある。液体として水を使用する一例において、最後に残っている水の乾燥を光学顕微鏡で記録した。その結果、薄い水の膜が支持膜の孔にかかり、液体セルが形成される最後の瞬間まで、2つのグラフェン膜を隔てている場合があることが分かった。ここで、任意のポリスチレン支持膜は、もしそうでなければ、実験で観察された液体セルの形成、サイズ又は分布の1つ以上にはほとんど影響を与えない可能性があり、本明細書ではこれらの特徴すべてにほとんど影響がないことに留意する。
【0048】
底部のグラフェン膜は、好ましくは、目立つしわのない平坦なグラフェン膜とすることができる。上部のグラフェン膜は、少なくとも底部の膜と接触する瞬間又はその瞬間近くでは可撓性があり得、湾曲やしわによって液体セルが形成される可能性がある(
図3b)。
【0049】
したがって、薄膜液体セルの作製方法は、液体と組み合わせて薄膜をターゲット基板に接触させること、薄膜に湾曲、しわ及び/又は折り曲げを設けること、及び湾曲、しわ又は折り曲げにある量の液体を捕捉することを含むことができる。ターゲット基板には、ターゲット薄膜を設けることができ、液体の少なくとも一部分の量が、薄膜とターゲット薄膜との間に捕捉され得る。さらに又はその代わりに、液体の少なくとも一部分の量が、湾曲、しわ及び/又は折り曲げと関連付けられた薄膜の対向する部分の間に捕捉され得る。
【0050】
以下の表1は、GLCの形成効率を比較する代表的な実施例と、一般に報告される2つのグラフェン液体セル作製方法を用いた比較例とにおいて、各種方法により作製されたGLCの数を示す。
【0051】
【0052】
表1: 3つの作製手順のGLC形成効率。液体セル総数(カラム1)は、高倍率TEMイメージングにより確認された。1グリッドあたりのGLC数(カラム3)は、平均値であって、準備したそれぞれのグリッドで調査したグリッド面積を考慮して外挿したものである。
【0053】
表に記載のGLC数は、方法の節に記載した通り得たものであり、
図1cは、タッチダウン法の結果を示している。この方法では、裂けたグラフェンがパッチ状となって、TEM用グリッドの被覆がうまくいかないことが分かった。この方法では、第2のグラフェン膜が、堆積中に機械的応力を受ける。さらに、2つの水相(グリッド上の液滴と第2のグラフェン膜の下の水と)の間の表面張力の相互作用によって、局所的な水の乱流が生じてしまう。このような理由から、本手法では、多層又は単結晶グラフェンを使用した場合でも、第2のグラフェン膜が極めて裂かれ砕かれやすくなる。
【0054】
図1f及び
図1gは、LAT、タッチダウン法によりそれぞれ白色の紙の基材上に堆積したグラフェンの顕微鏡画像である。比較すると、両方の方法の間で表面被覆率に差があることが分かる。グラフェン膜は、光をほとんど吸収しないため、TEM用グリッド上のポリスチレン膜に対して可視化できないので、光学顕微鏡でグラフェンの被覆を可視化するために背景基材として白色の紙が選択された。LAT、タッチダウン式のそれぞれの転写後のグラフェンの被覆及び完全性も、シリコン酸化ウェハ上で調査した。
【0055】
図1dは、比較例のために用いたさらなる方法を示す。この方法では、グラフェンが被覆された2つのTEM用グリッドがその間に水の液滴を挟みこんでいるので、グラフェン膜の転写全体を省略している。この「グリッド-サンドイッチ法」は、両方のグラフェン膜への機械的支持を保証するが、結果はうまくいっていない。GLCの形成は、多孔支持膜が両方のグラフェン膜を強固に浮遊させることにより生じる可撓性の欠如により妨げられることが分かっている。実験でうまく挟みこんだ全部で6つのグリッドでは、全部で3つの液体セルが確認された。GLCの数が少ないことに加えて、2つの多孔支持層が、ランダムな向きに重なり合って、グリッド面積の殆どが、少なくとも1つの支持層により不明瞭なものとなることが分かった(
図1h)。形成されるGLCは、ビーム路の支持層によってコントラストが低下してしまう。
【0056】
このため、グラフェン膜のループアシスト式の転写は、グラフェンを元のままの完全な形に保ちやすくなることが分かった。
【0057】
[低用量の試料をスクリーニングするための蛍光標識]
GLCは、TEM用グリッドの大きさに比べて非常に小さい傾向がある。したがって、GLCとその内容物は、一般に、GLCの位置を特定するためにグリッドをスクリーニングしている間TEMの電子ビームに曝露される。これは、GLCとその水性内容物が一般的に電子ビームに敏感であるので、望ましいことではない。さらに、液体セルはグリッド上に低密度に分布され得るので、高倍率で液体セルの位置を特定することは、GLC作製方法に拘わらず、すべてのGLC実験において直面する時間のかかる仕事である。同じことが、TEM顕微鏡法における他の小型の対象物及び試料、特に、液体セルにも言える。
【0058】
したがって、光学顕微鏡法を用いて液体セルの位置を特定するための方法をここに提供する。本方法は、低濃度の蛍光色素、例えば、本実験の水に添加される高量子収率の蛍光色素(約5~20マイクロモル程度の、例えば10μMの濃度で使用可能なAtto488など)を液体に添加することを含む。一方で液体セルの位置の特定及び/又は識別と、他方でその液体セル内の又はそうでなければその液体セルに関連する1つ以上の物質及び/又はプロセスとを分離するために、色素又は他の発光物質が、その液体セル内又はそうでなければその液体セルに関連する1つ以上の物質及び/又はプロセスに反応せずかつ/又はそうでなくても他の影響を及ぼさないことが好ましい場合があり、それには、薄膜の一部分及び/又はその液体セルに関連する支持部に反応せずかつ/又はそうでなくても他の影響を与えないことが含まれ得る。
図2aは、蛍光タグ付きのGLCを特徴とするTEM用グリッドの光学顕微鏡画像を示す。
図2aでは、ポリスチレン支持膜の外形を表す背景蛍光が、ポリスチレンが緑色のスペクトル領域の弱い蛍光を発することから、ある程度認められる。他の支持膜及び/又は支持構造体は、各種タイプの蛍光及び/又は他の波長を示し得る。一部の例では、ルミネセンス効果は、各種波長の照度に依存しかつ/又は時間スケールで起こり得る(燐光が顕著な例)。
【0059】
図2bは、蛍光画像と同一のグリッドの低倍率の電子画像とのオーバーレイを示す。白い矢印は、液体セルを示し、そのうち一例を
図2cに示している。封じ込められた液体の水は、高電子用量に曝露されるとその特徴と蛍光画像上の小さい点としての外観とを失うことを実証することができる。染料を使用する場合、染料溶液は、薄膜液体セルを提供する薄膜封じ込め部の外側のTEM用グリッド上において乾燥可能であることに留意する。これによって、薄膜液体セルと比較して大きな場合がある、蛍光画像の明るい点となり得る。TEM画像では、そのような場所に染料が乾燥沈着していることが分かる。よって、このようなタイプの乾燥した染料の沈着は、GLCに封じ込められ溶解した染料とは明らかに区別可能である。本方法は、カメラによる光の光学画像データを捕捉することと、TEMによる電子光学画像データを捕捉することとに依存することを効果的に含むが、薄膜を含む構造体の少なくとも一部の光の光学的側面に関連する光の光学画像データを捕捉すること及び薄膜を含む構造体の少なくとも一部分の電子ビームの光学的側面に関連する電子光学画像データを捕捉することと、当該捕捉した光の光学画像データと電子光学画像データとを比較することとは、例えば透過光学顕微鏡、位相差顕微鏡及び同様のもの及び/又は反射光学顕微鏡を使用して、適切に用いることが可能である。そのタイプの画像データを比較することは、各種タイプの画像データを重ね合わせることかつ/又は倍率変更することかつ/又は他の相関をさせることを含み得る。前記のことに従う一例として、蛍光電子相関顕微鏡法を用いて、全体が標準的な大きさの直径約3mmの円形のTEM用グリッドを、迅速に、個別のグリッドの正方形のレベルでスクリーニングすることができ、個別のグリッドの正方形は、(100×100μm
2)としてよく、これによって、グリッド上のGLCを直接識別することが可能となる。
【0060】
[グラフェン液体セルの特徴]
ループアシスト式作製法により生成されたGLCは、高密度のGLC領域を示す(
図3b)。上述のタイプの一連の実施例では、グラフェンを用いた薄膜液体セルは、TEM用グリッド上に準備した。それぞれのグリッド上で、100×100μm
2の8つのウィンドウの領域を、グリッド上のGLCを示す数を得るようにイメージングした。このように準備され調査された21のグリッドについて、グリッドの総面積に対して外挿したGLCの平均密度は、1グリッドあたり300の液体GLCであり、2つのグリッドの四角あたりGLCが1つに相当する。特定されたGLCの大きさの分布を、
図3aに提示し、その分布から、出現率がセルの大きさとともに低くなることが分かる。セルの大きさは、横方向の大きさが700nmまでの範囲であり、横方向の大きさが小さいと総数は相対的に多くなる。
【0061】
薄膜液体セルを形成するために、薄膜、ここではグラフェンに封じ込められる液体、ここでは水の量について、薄膜又は膜は、液体セルの周縁周りに途切れないシールを設けるべきである。シールに漏れが生じる可能性は、セルの周縁が大きくなるにつれて高くなり、このことは、大きくなるにつれてGLCの出現率が低くなる一般的な傾向があることを説明し得るものである。よって、本コンセプトは、各種大きさの液体セルの形成を容易にする。
【0062】
一般に平坦に延伸される底部膜を備える、ここに示した実施例では、液体セルの容量は、主に上部薄膜の形状により決定される。薄膜は、液体セルの形成が起こる、堆積の最後の段階の間にもっとも高い可撓性を持たせるべきである。これは、特に、グラフェンの場合であり、他の原子及び分子の単層の場合である。
【0063】
本実施例では、小型の液体セルの大きさは、液体セルが上部グラフェン膜の凸凹ともはや正確に区別できなくなる段階まで小さくなることが実証された(いくつかの実施例を
図3bに見て取れる)。簡略化と、液体セルがさらなる使用及び/又は調査のためになるように特定の容量が必要な場合とを考慮して、横方向の大きさが200nm
2未満のGLCは、以下の説明では無視する。
【0064】
総計で、200nm
2を超える90のセルが、観察され、平均して2つのグリッドの四角につきGLCが1つ得られた。各種タイプの薄膜液体セルが作製された。特に、3つのタイプのグラフェン液体セルが、
図3aと、
図3b及び
図3cとのパネルに提示されている。3つのタイプのグラフェン液体セルは、I.液体量が、底部基板又は底部薄膜上の上部膜部分にほぼ等辺に包まれた「ポケット」タイプのセルと、II.液体量が、液体量を封じ込める薄膜部分の少なくとも1つにある場合によっては長いひだに捕捉された「ひだ」タイプのセルと、III.単一の膜が、それ自体に、ここではグラフェン薄膜に折り返された「折り曲げ」タイプのセルと、を含む。ひだタイプ及び/又は折り曲げタイプのセルは、薄膜の一部分を裂いて容易に作製することができる。
【0065】
実施例では、ポケットタイプのセルが、GLCの大多数(例えば、約70~80%)を構成し得る。しかしながら、製造方法、特に、薄膜の品質及び/又は可撓性によって、セルの相対的な数は相違する場合があると考えられる。上部薄膜(又は上部膜部分)の可撓性は、ポケットタイプのセルの形成において、液体容量又は量を収容することに重要な役割を果たすことができ、可撓性のある上部膜は、その容量の周りで湾曲するか又は湾曲するように形成することができる。これは、典型的には、液体セルの縁で又はその近傍で折り曲げられて個別の数のコーナーが形成されることを含み得る。このような形成及び/又は折り曲げは、薄膜の間の液体を蒸着又は他のやり方で除去している間に、起こり得、その除去に吸い取りを含む場合があることに留意する。
図3aの上中央のパネルは、5つのコーナーがあるポケットタイプのセルを示す。TEM画像では、液体セルの相対的な厚さは、単一のTEM画像上の液体セルのコントラストを比較することからほぼ予測可能である。このような比較は、相対的なものに過ぎず、ビーム設定が等しい場合有効であり、各種測定方法及び/又は画像処理方法及び/又は関連する装置を代わりに又は追加して適切に使用可能であることに、留意する。本実施例では、同一の画像において特定された各種液体セルを比較した。ポケットタイプのセルの周りのコーナーの数が多い程、一般的には、さらに厚いポケットを提供するか、又は一般に液体の容量及び/又は量がさらに多く封じ込められることに関連し得る(関連するように作製され得る)上部膜部分と底部膜部分とのさらになる分離を提供する。一般に、グラフェン又は他の薄膜などのファンデルワールス表面により封じ込められた液体のポケットは、ポケットの大きさと高さとの間に相関があることを示す。本実施例では、3つ又は4つのコーナーがあるセルは、一般的に、横方向の大きさが同一の5つ又はそれ以上のコーナーがあるセルより厚いと思われる。ポケットタイプのセルの容量は、よって、TEM画像上に投影された大きさに厳密には相関していない。あるいは、コーナーの数は、上部膜の湾曲、よって、ポケットタイプのGLCの容量を決定することが分かっている。したがって、液体セルの容量を決定する方法は、液体セルを特定すること、液体セルの周縁及びコーナーの数を決定すること、及びその周縁及びコーナーの数に基づいて、液体セルの容量及び/又はセルの液体の量を決定することを含み得る。
【0066】
ひだタイプの液体セルは、対向する2つの薄膜、場合によっては上部グラフェン膜の少なくとも1つに、長い曲げ又は長い折り曲げをなして形成することができる。一部の実験では、ひだタイプの液体セルは、少数の液体セル、例えば、液体セルの約10~15%、特に、200nm
2を超える範囲の大きさに作製することができる。ひだタイプのセルとポケットタイプのセルとの間の構造の違いを、
図3b及び
図3cにおいて強調している。
図3aの分布から分かるように、ひだタイプのセルは、ポケットタイプのセルよりも平均して大きく、任意のひだの性質、大きさ及び分布によって、比較的長くまっすぐな壁がひだタイプの薄膜に設けられる場合がある。そのため、ポケットタイプのセルに比べて、ひだタイプの薄膜の方が、それ以外が同じ状態であれば、さらに容易に、より長く液密シールを形成することができる。薄膜の転写をいかに行うかによってかつ/又は薄膜が堆積される支持部の構造によって、薄膜、例えば、上部グラフェン膜のひだの数は、多数又はかなり少数になり得る。後者の場合、ひだタイプのセルは、液体セルの少ない割合のみを占め得る。
【0067】
折り曲げタイプのセルは、ここでは、再度、GLCタイプとして示している第3のタイプの薄膜液体セルとして、設けられている。実施例の一部では、折り曲げタイプのセルは、少数派の中でも数が多い液体セル、特に、1つ以上の大きさの範囲で、例えば、対象となる大きさの範囲のセルの25~40%の液体セルを構成し得る。折り曲げタイプのセルは、薄膜の一部分を折り重ねて第1の薄膜部分と第2の薄膜部分とし、薄膜の第1の部分と第2の部分との間にある量の液体を収容する容量が作り出されるように、形成することができる。例えば、折り曲げタイプのセルは、グラフェンの底部膜が、裂けて、それ自体の上に折り返される場所に形成可能である(
図3c)。折り曲げタイプのセルの形成は、第2の薄膜の追加を不要にすることができる。例えば、一部の実験では、折り曲げタイプのセルは、TEM用グリッド上の第1のグラフェン膜の堆積中に作製された。他の実験では、折り曲げタイプのセルは、唯一のグラフェン膜を支えるグリッド上に形成された(すなわち、
図1aのステップIIIの後)。
【0068】
折り曲げタイプのセルは、他のセルタイプと比較して大量の液体を容易に封じ込めることができ、折り曲げタイプのGLCは、250~400nmの範囲の大きさでは最も多数を占め得る(
図3a)。さらに、折り曲げタイプのセルは、本実施例では、単一の薄膜、ここでは、グラフェン膜が(部分的に)破れたときに備えて形成することができ、支持構造体、例えばポリマー支持層に対して上向きもしく下向きに折り曲げるか又は巻く(ように作製する)ことができる。折り曲げタイプのセルの一方の側は、薄膜の連続した単一の部分からなるようにできるので、第1の薄膜部分と第2の薄膜部分とは、セルの周縁の一部分に沿って密閉されるかもしくは密閉されるように作製できるか、又は折り曲げ側と相対するセルの残りの側において密閉されるかもしくは密閉されるように作製できる。よって、折り曲げタイプのセルには、円筒形の断面形状を与えてもよく、ポケットタイプのセル又はひだタイプのセルよりも平均して厚くなり得、場合によっては総容量も大きくなり得る。
【0069】
現在提示した方法及び考察により提供される液体セルは、各種目標、特に、ナノ粒子及び/又はミクロン以下の大きさの生物試料(の研究)のため適切に使用することができる。現在提示した技術(の使用)の一例として、動的プロセスのイメージングに向けてそれぞれの液体セルのタイプの有効性を検討した。特に、ナノ粒子の形成(ここでは、電子照射下の金のナノ粒子)をそれぞれの液体セルのタイプについて検討した。一部の実験について、1つ以上の前駆物質、ここでは、HAuCl4水溶液が、GLCに封じ込められ、電子ビームに曝露されて、金(IV)イオンが金属の金ナノ粒子に還元される。実験では、GLCは、ポリマー支持層及びグラフェンターゲット薄膜が設けられたTEM用グリッド上に、第2の薄膜を転写するため、すべて上述のように、ポケットセル及びひだセルのタイプのGLCを主に作製するLATを用いて、作製された。
【0070】
ポケットタイプ及びひだタイプのGLCを搭載するために、HAuCl
4水溶液10mMの液滴を、グラフェンの上部膜の転写前に、LAT法によりTEM用グリッドを保持するグラフェン薄膜に配置し、次に過剰な水を吸い取り残りの水を蒸発させた。Auナノ粒子をHAuCl
4水溶液から形成することは、文献に広範囲に特徴が記載されており十分に立証された処置であることから、テスト反応として選択された。ある程度の時間、10秒間ビームへ曝露した後、様々な大きさのナノ粒子が、すべての液体セルにおいて形成されており、高コントラストの領域が、実際に液体を封じ込めたポケットであった(
図4a~
図4c)。上に示したように、同様の実験では、折り曲げタイプのセルが、グラフェンの上部膜を転写させずに作製された。その代わりに、
図1aのステップIIの後、上記のHAuCl
4の水溶液を、グラフェン膜を支持していたポリマー層の下に流した。それから、ポリマー-グラフェン積層体を、液体表面からTEM用グリッド上へすくい上げて(
図1aのステップIIIを参照)、折り曲げタイプのセルを形成し、折り曲げタイプのセルにHAuCl
4水溶液を封じ込めた。後者は、金ナノ粒子の形成から明らかである(
図4d~
図4f)。グラフェン液体セルを単一の薄膜、特に、グラフェンの単一の膜から形成し搭載することによって、薄膜液体セルの製造及び使用は、グラフェン液体セルが常に2つのグラフェン膜の組織化に必要であった、今日までに知られている技術と比較して著しく容易になる。折り曲げタイプのセルの大きさ及び数は、ポリマー-グラフェン積層体をすくい上げる際TEM用グリッドの速度及び/又は横方向の動きを変化させることによりある程度まで調節可能である。同様に、ポリマー層の代わりにかつ/又はそれに加えて、1つ以上の他の支持部を使用してもよく、ただし好ましくは同様に多孔のかつ/又はグリッド状のTEM用グリッドよりも多孔のかつ/又は別のベース支持部を使用してもよい。
【0071】
[電子ビーム下のGLC]
本明細書において提供される薄膜液体セルは、セル自体とその中に収容される液体との両方に関連して、各種研究のために使用可能である。TEMのような電子顕微鏡などの電子ビームにより照射されると、薄膜液体セルの中の液体に、気泡が形成され得る。GLCを示す
図3bでは、一部のGLCは、その中央に低コントラスト領域を有し、そこでは、気泡のために液体の水が転置している。水を収容する薄膜液体セルでは、気泡の出現は、水が放射線分解により分割されることが原因である場合がある。例えば、液体中の水素濃度が臨界値に達すると、気泡が形成されるが、これは、実質的に瞬間的なものである可能性がある。液体セル(の中の液体)内に気泡が形成されることによって、セルの中にかつセルに封じ込められた物質の容量が、セルの壁への圧力を増加させるので、GLC内の気泡の発生は、グラフェンによる本実施例では、薄膜により形成されるシールの安定性に関連する。これによって、各種セルタイプの安定性を、比較的強いビームへの曝露下で観察される気泡の形成の観点から検討することができる。
【0072】
図5a~
図5cは、120keVに加速された144e
-Å
-2s
-1の電子ビームの曝露下の折り曲げタイプのセルの一連の画像の選択されたフレームを示す。(典型的には、単一粒子の高分解能イメージングには、1~2秒の曝露時間で~10e
-Å
-2s
-1が用いられ)、より多いビーム曝露又は少ないビーム曝露(線量及び/又は加速エネルギー)を、例えば、電子ビームのパラメータに関連してセル内の液体及び/又は薄膜の材料の性質に依存して用いてよいことに留意する。フレームのシリーズにおいて、すでに第1のフレーム上に、気泡を表す淡いコントラストの領域が、発現している。多くの液体セルのライブ観察中に、液体セルが、第1のビーム曝露の瞬間には概ね気泡を収容しないが、強力なビーム条件下では、気泡の形成が急速に進行することが観察でき、急速過ぎて気泡のないGLCを捕捉不可能な場合がある。第1のフレームから、1つ以上の気泡が、それ/それらが形成している液体セルの利用可能な空間を、セルの内容物が実質的に完全に消失するまで動き回ることが分かる。このことは、液体が、場合によっては電子ビームによりグラフェン膜に与えた損傷によって電子ビーム顕微鏡内の真空に排出されたものと理解できる。このような挙動は、他の薄膜を有する折り曲げタイプのセルの種類の薄膜液体セルに起こるものとも考えられる。
【0073】
同様に、
図5d~
図5fは、ポケットタイプのセルのGLCの選択されたフレームを示す。繰り返すが、さらに多くの気泡が場合によっては形成され得るが、気泡は、第1の電子ビーム曝露の瞬間に形成されている。しかしながら、折り曲げタイプのセルとは異なり、濃いコントラストは、比較的強力な電子ビームに長時間曝露した後でもポケットタイプのセルに存在したままである。気泡が凝集し残った液体の水と平衡状態になるように、ポケットタイプのセルの周りで2つのグラフェン膜を密閉して、漏れ抵抗が非常に高い封じ込めとなっていることは明らかである。
図3bでは、種々のポケットタイプのセルが、気泡の形成を受け、その一方で、他のセルは、ビーム曝露が長くなっても、気泡の形成がないことを示す均一な濃いコントラストを保っていることを示している。これは、すべてのポケットタイプのセルにおいて観察される一般的な傾向であった。
図5gは、ビーム曝露下で崩壊したことを示すポケットタイプのセルの割合をグラフ化したもので、コーナーの数、よってセルの湾曲に強い相関があることが分かる。考えられる理由としては、コーナーの数が少ないセルでは、グラフェン膜が平坦に近いので、気泡の形成に必要な容量が増加する余地がないことから、GLCが極めて安定するということである。
【0074】
全体として、ポケットタイプのセルに安定性及び漏れ抵抗があることによって、ポケットタイプのセルがさらなる応用に有利な候補となる。折り曲げタイプのセルは、ポケットタイプのセルよりも密閉されにくいことは明らかである。それでも、容量が大きく、間違いなく動的な液体量であることは、さらに多くの高分子試料を封じ込めることに非常によく役立つ。さらに、2つの薄膜を必要とすることに比べて、折り曲げタイプのセルを形成するのに必要とされる単一のグラフェン膜を作製しやすいことは、明らかな利点である。
【0075】
[方法]
以下に、各種方法のステップを例としてさらに詳細に説明しかつ/又は上の例の説明にさらに情報を提供する。いかなる例においても、明示的に示されていない場合にも、多数の選択肢及び/又は変更を、適切に選択し、ここに提示したコンセプトの範囲内及び/又は特許請求の範囲に記載の主題の範囲内で有利に用いてよい。
【0076】
[GLC作製のためのグラフェンの準備及び処理]
他の方法を、グラフェン液体セルのここに示した例のため用いかつ/又は提供することもでき、グラフェンは、管状炉内で化学気相堆積法により銅の薄片上に成長するが、他の基板を使用することもできる。銅箔の一方の面のみにグラフェンを特徴として有するように、ここでは銅箔のエッチ液の周りにスライドガラスをテープで留めることにより、銅箔の一方の面を保護した。一選択肢として、次に、銅の他方の面のグラフェンを除去した。適切なやり方が、銅箔に単一のグラフェン膜を与える酸素プラズマへの曝露(例えば、160ワットで2分間)であることが実証された。
【0077】
任意の支持膜は、多孔で、任意の適切な材料から作製してよい。ここに示し上に説明した実施例のため、一例の多孔ポリマーの支持膜を作製した。これらの膜は、エチルアセテートとの0.3~1%、例えば、約0.5%のポリスチレン溶液(平均Mw~192.000)から作製され、各種濃度を用いることができる。グリセロールを10体積パーセント(≧99.0%)、二相混合物を形成するように添加した。混合物を1分間十分に振り混ぜてポリスチレン溶液にグリセロールを分散させた。中でも、振り混ぜる期間及び/又は力は、1つ以上の分散特性を決定することができ、よって、ポリマー膜の孔の大きさ及び/又は密度に影響を与え得る。分散は、基板に適用され、例えば、スライドガラスを、分散系に含浸させ引き出して、ガラス表面に多孔ポリスチレン膜を形成する。一選択肢として、膜をスライドガラスの一方の面からふき取った。膜の少なくとも一部分、例えば、ガラス基板の他方の面に残る膜を、スライドガラスを緩やかに超純水に含浸させることにより、スライドガラスからはく離し、ポリスチレン膜を水に浮かべた。よって、準備されるポリスチレン多孔膜は、厚さを、例えば、1マイクロメートルをはるかに下回る、例えば、20~50nm、特に、30±5nmなど、100nm未満の厚さに薄く作製することができ、この厚さは、そのように望まれる場合シリコンウェハに堆積された膜の上に原子間力顕微鏡法により確認することができる。
【0078】
試料について、例えば、上述のように作製された銅の上のグラフェンを、3mmの円形の断片を形成するように切り出したが、他の形状及び/又は大きさを用いることもできる。(多孔)支持層を含む試料について、このように形成された断片を、水の上の上述のポリマー膜上に配置して、好ましくは、グラフェン側がポリマー膜と接触するようにする。それから、その断片を、ポリスチレン膜をグラフェン-銅の薄片に付着させたまま水の表面から取り上げる。任意で空気乾燥させた後、断片を、銅の面を下にして、エッチング溶液、例えば、0.1Mの過硫酸アンモニウム水溶液(APS、≧98%)の上に置き、銅をエッチングした。銅を除去すると、APS溶液は、グラフェン膜に損傷を与える場合がある表面の振動を防止するように、緩やかに汲み出すことにより、超純水と置き換わる。それから、グラフェン-ポリスチレン積層体を金のTEM用グリッド上にすくい上げて(任意で、例えば、2分間の酸素プラズマ曝露により親水性にして)、多孔のポリスチレンが支持したグラフェンTEM基板を得られる。
【0079】
特に、ポケットセル及び/又はひだセルのタイプの液体セルを形成するために、第2のグラフェン膜をグラフェン-ポリスチレンで被覆したTEM基板に転写した。転写に備えて自由浮動するグラフェンを得るために、上述の追加の支持層なしに、グラフェン-銅の直径3mmの断片を、上述のように、例えば、0.1MのAPSエッチング溶液の表面に配置した。丸い又は別の形状の孔が任意で設けられた任意の浮動するプラスチックフレームを、銅エッチング中にグラフェンを安定化させるために使用した。それから、例えば、4℃で一晩のエッチングにより銅をエッチングした。次に、エッチング溶液は、緩やかに汲み出すことにより、超純水と置き換わり、その後、グラフェンを、上述の転写法の1つを用いてTEM用グリッド基板上に転写させた。
【0080】
[グラフェン液体セルの数]
3つの転写法(グリッドサンドイッチ法、タッチダウン法及びLAT)により作製された、典型的な数のGLCをグリッド上で得るために、例示のグリッドを透過電子顕微鏡法を用いて検査した。GLCが高密度(100×100μm2のグリッドの四角あたり>1 GLC)のグリッドでは、少なくとも8つのグリッドの四角を、それぞれのGLC密度の推定値を得るために調査した。液体セルが低密度(100×100μm2のグリッドの四角あたり<1 GLC)のグリッドでは、グリッドのさらに広い面積を、GLC密度の信頼できる推定値を得るために調査した。
【0081】
グリッドサンドイッチ法について、支持膜上のグラフェンは、上述のように製造する代わりに民間の販売業者から入手した。平坦な表面が、このグリッド-サンドイッチ法によりうまくGLCを形成するのに必要だと考えられる。20回の試行から、6つのグリッド-サンドイッチがうまく組織化された(30%)。失敗した試行は、典型的には、2つのグリッドが接触した瞬間の2つのグリッドの位置合わせ不良によるものだった。位置合わせ不良となった積層体は、電子顕微鏡の試料ホルダーに収まらないので使用できない。6つのうまくいった積層体のうち、液体セルが、1つだけに見られた(~15%)。この6つのグリッド上の液体セルの総数は、3つであったものの、これらのセルは、部分的に又は完全に、自立するグラフェン上ではなく、カーボン支持膜の上に位置していた。
【0082】
タッチダウン法について、上部膜のグラフェンの堆積は、12回の試行のうち8回がうまくいった(66%)。失敗の原因は、典型的には、グリッドにタッチダウンした瞬間にグラフェンがグリッドから押し流されることであり、グラフェン膜が、砕ける又は粉々に崩れて、堆積時の試行を繰り返すことになりかねない。8つのグリッドを調査中に、GLCが、2つのグリッドに見受けられ(25%)、この2つのグリッドに、全部で18の液体セルが観察された。
【0083】
LAT法について、24回試行したグラフェンの堆積のうち21が、うまくいった(88%)。失敗の原因は、典型的には、ループ内の水の液滴がつぶれたことであった。21のグリッドのうち19のグリッドに、GLCが観察された(90%)。GLCの総数は、この21のグリッド上で184であった。
【0084】
[蛍光顕微鏡](Fluorescent light microscopy)
GLCを蛍光標識することは、グラフェン及び多孔支持ポリマーで被覆されたTEM用グリッドに、発光性物質を収容する液体、例えば、「Atto488」蛍光染料(≧98%)の水溶液10mMなど、染料を収容する液体の小さい(例えば、約10μlなど約5~15マイクロリットルの)液滴を滴下させることにより行われるが、多数の染料を使用してよい。それから、上部グラフェン膜を堆積させ、ループアシスト式転写法による堆積の場合、染料溶液を、ループ内にグラフェンを保持する液滴、例えば、2μlまでの超純水の液滴と混合させることができた。蛍光顕微鏡法を光学顕微鏡を用いて行って光学画像データを得た。その後、このように準備した試料を、電子顕微鏡でイメージングして、電子画像を取得した(以下参照)。カメラ画像を含んだ取得画像とデータとは、画像処理ソフトウェアを用いて相関させた。
【0085】
[電子顕微鏡]
実施例において、各種電子顕微鏡を、セルの大きさの統計を得るため及び単一の液体セルをイメージングするために選択した。それぞれの場合、GLC TEM用グリッドは、準備し、準備の後48時間後に、各電子顕微鏡にセットした。セルの大きさの統計データの収集は、100kVで行った。単一の液体セルを低用量、高解像度でイメージングすることは、ビームと試料との相互反応を最小限するように200kVの加速電圧で作動させた顕微鏡において行った。電子画像は、カメラで記録した画像として取得した。
【0086】
前記を概括すると、グラフェン液体セルの準備には、支持層なしで転写される比較的多くの無傷の単一膜グラフェンを必要とする場合が多い。本明細書において、大きな、ミリメートルの大きさの単層グラフェン膜を支持部上へもたらす再現可能な手法を提示し、支持部は、これまでのグラフェンが被覆されるTEM用グリッドであってよい。液体セルの形成はグリッド上でランダムに起こる傾向があることから、相互に関連する蛍光電子顕微鏡技術が、電子ビームへの曝露前にグリッド上のGLCの位置を特定するために提供され、これは、GLCに蛍光色素で標識をつけることにより支援され得る。3つのタイプのGLCが、記載の技術により形成され得、それぞれのタイプは、典型的な大きさの分布及び安定性を有することが見込まれる。2つの対向する薄膜の間の継ぎ目の形態は、封じ込めの安定性における決定要因となり得る。特に、折り曲げタイプのセルは、薄膜、特に、裂けたグラフェン膜が、折り畳まれかつ/又は巻き上げられる場所に形成され、水を取り込み得る。このような形成プロセスであるので、グラフェンの膜は、2つの層ではなく1つのみでよく、このような折り曲げタイプのセルは、他のタイプの液体セルと比較して、比較的大量の、典型的には250~400nmの大きさの範囲を占める液体を封じ込める可能性が相対的に高く、これにより、液相の生体系をリアルタイムでイメージングするためのGLCの探求又は開発に際し、高分子集合体を封じ込めるのに適切なものとなる。光-電子相関顕微鏡法「CLEM」の実施によって、特に、電子画像記録のため蛍光法により特定されたグリッド上の位置を標的にする自動データ収集用のプロトコルの開発が可能となる。これによって、イメージング前のビームによる損傷を防止できるだけでなく、液相の試料についてデータ収集を自動的に行い、低温貯蔵の試料の3次元再構成を生成することに現在幅広く使用されている断層画像を記録する可能性を押し上げることもできる。
【0087】
本開示は、上述の実施形態に限定されず、特許請求の範囲内においていくつかのやり方で変更可能である。さらに、特定の実施形態について又は関連して述べてきた要素及び態様は、他の実施形態の要素及び態様と、そうでないと明示的に述べていない限り、適宜、組合せてよい。
【国際調査報告】