(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】不動態化組成物および亜鉛または亜鉛-ニッケル被覆基材上にクロム含有不動態化層を堆積させる方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/30 20060101AFI20230215BHJP
【FI】
C23C22/30
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537530
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2020086981
(87)【国際公開番号】W WO2021123134
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテック ドイチュラント ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D-10553 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ルーカス ベドルニク
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ハーン
(72)【発明者】
【氏名】カトリン クリューガー
【テーマコード(参考)】
4K026
【Fターム(参考)】
4K026AA07
4K026AA12
4K026AA22
4K026BA06
4K026BB08
4K026CA13
4K026CA19
4K026CA37
4K026CA38
4K026DA03
4K026DA13
(57)【要約】
本発明は、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させるための不動態化組成物に関し、この組成物は、(i)三価クロムイオン、(ii)少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤、ならびに(iii)少なくとも1種の腐食防止剤であって、(A)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて10mg/L未満の合計濃度の、1種以上の置換アゾール化合物および/もしくはその塩、ならびに/または(B)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて0.001mg/L~100mg/Lの範囲の合計濃度の、少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸および/もしくはその塩、である少なくとも1種の腐食防止剤、を含有する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させるための不動態化組成物であって、
(i)三価クロムイオン、
(ii)少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤、ならびに
(iii)少なくとも1種の腐食防止剤であって、
(A)前記不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて10mg/L未満の合計濃度の、1種以上の置換アゾール化合物および/もしくはその塩、
ならびに/または
(B)前記不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて0.001mg/L~100mg/Lの範囲の合計濃度の、少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸および/もしくはその塩、
である少なくとも1種の腐食防止剤、
を含有する、不動態化組成物。
【請求項2】
1種以上の置換アゾール化合物および/もしくはその塩が、アミノ、ニトロ、カルボキシ、ヒドロキシ、スルホネート、およびチオールからなる群から選択される1つ以上の置換基を含み、好ましくは前記置換基がチオール基である、請求項1記載の不動態化組成物。
【請求項3】
1種以上の無置換または置換アゾール化合物および/もしくはその塩が、モノアゾール、ジアゾール、トリアゾール、およびテトラゾールからなる群から選択され、好ましくはジアゾールおよびトリアゾールであり、最も好ましくはトリアゾールである、請求項1または2記載の不動態化組成物。
【請求項4】
1種以上の無置換または置換アゾール化合物および/もしくはその塩が、1,2,4-トリアゾールからなる群から選択される、請求項1から3までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項5】
1種以上の置換アゾール化合物および/もしくはその塩が、少なくともメルカプトトリアゾール、好ましくは少なくとも3-メルカプト-1,2,4-トリアゾールを含む、請求項1から4までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項6】
少なくとも1種の腐食防止剤(A)が、前記不動態化組成物の総体積を基準として、0.0001mg/L~9.9999mg/L、好ましくは0.01mg/L~9.9mg/L、より好ましくは0.1mg/L~9.8mg/L、さらに好ましくは0.5mg/L~9.7mg/L、さらに好ましくは1.0mg/L~9.6mg/L、最も好ましくは2.0mg/L~9.5mg/L、さらに最も好ましくは3.0mg/L~9.4mg/Lの範囲の総濃度を有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項7】
前記少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸および/もしくはその塩が、3-メルカプトプロピオン酸および/またはその塩を含む、請求項1から6までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項8】
少なくとも1種の腐食防止剤(B)が、前記不動態化組成物の総体積を基準として、0.01mg/L~90mg/L、好ましくは0.1mg/L~80mg/L、より好ましくは1mg/L~50mg/L、さらに好ましくは2mg/L~35mg/L、最も好ましくは3mg/L~20mg/Lの範囲の総濃度を有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項9】
前記三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、モノカルボン酸、ジカルボン酸、それらの塩、ハロゲンイオン、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは少なくとも1種のジカルボン酸を含む、請求項1から8までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項10】
前記三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、無置換モノカルボン酸、ヒドロキシル置換モノカルボン酸、アミノ置換モノカルボン酸、無置換ジカルボン酸、ヒドロキシル置換ジカルボン酸、アミノ置換ジカルボン酸、それらの塩、ハロゲンイオン、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは少なくとも1種のジカルボン酸を含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項11】
前記三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、前記不動態化組成物の総重量を基準として1.0重量%~15.0重量%、好ましくは2.0重量%~14.0重量%、より好ましくは3.0重量%~13.0重量%、さらに好ましくは4.0重量%~12.0重量%、最も好ましくは5.0重量%~11.0重量%の範囲の総濃度を有する、請求項1から10までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項12】
(v)前記不動態化組成物の総体積を基準として、0mg/L~500mg/L、好ましくは0mg/L~400mg/L、より好ましくは0mg/L~300mg/L、最も好ましくは0mg/L~250mg/L、さらに最も好ましくは0mg/L~200mg/Lの総濃度の鉄イオン、
をさらに含有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の不動態化組成物。
【請求項13】
亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させる方法であって、
(a)亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材を準備する工程、
(b)前記亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させるための不動態化組成物を準備する工程であって、前記組成物が、
(i)三価クロムイオン、
(ii)少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤、ならびに
(iii)少なくとも1種の腐食防止剤であって、
(A)前記不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて10mg/L未満の合計濃度の、1種以上の置換アゾール化合物および/もしくはその塩、
ならびに/または
(B)前記不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて0.1mg/L~100mg/Lの範囲の合計濃度の、少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸および/もしくはその塩、
である少なくとも1種の腐食防止剤、
を含有する工程、ならびに
(c)前記クロム含有不動態化層が前記亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上に堆積されるように、前記亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材を前記不動態化組成物と接触させる工程、
を含む方法。
【請求項14】
工程(c)が20℃~50℃の範囲の温度で行われる、および/または工程(c)が10秒~180秒の時間行われる、請求項13記載の方法。
【請求項15】
請求項13または14記載の堆積方法によって得られる、クロム含有不動態化層を上部に有する亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
第1の態様による本発明は、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させるための不動態化組成物に関する。第2の態様によれば、本発明は、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させる方法に関する。第3の態様によれば、本発明は、第2の態様による堆積方法によって得られる、クロム含有不動態化層を上部に有する亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材に関する。
【0002】
発明の背景
金属基材を腐食性の環境の影響から保護するために、従来技術に従って様々な方法が利用可能である。金属基材上に金属または金属合金の保護皮膜を施すことは、広く使用されており、確立された方法である。周知の原理は、化成皮膜処理とも称される、鉄金属基材などの金属基材への亜鉛または亜鉛-ニッケル皮膜の堆積である。このような化成皮膜は、典型的には、金属基材とそれぞれの化成処理液との反応生成物(広いpH範囲にわたって水性媒体中に不溶性である)を含む。耐食性をさらに高めるために、このような化成処理層は、それぞれの基材を不動態化組成物と接触させることによって、不動態化層でさらに不動態化される。このような不動態化組成物およびそれぞれの方法は、当該技術分野で公知である。
【0003】
多くの場合、不動態化組成物は、酸性溶液中の三価クロムイオンを含む(例えば独国特許出願公開第19638176号明細書を参照)。例えば、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材がこのような組成物と接触する場合、典型的には亜鉛および/またはニッケルの一部が溶解する。電流を流さずに、被覆された基材の表面に、クロム(III)水酸化物不動態化層またはμ-オキソもしくはμ-ヒドロキソ架橋クロム(III)不動態化層が堆積される。その結果、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上に、緊密な不動態化層が得られる。
【0004】
クロム含有不動態化層を堆積させるための組成物は、先行技術に記載されている。
【0005】
欧州特許出願公開第0479289号明細書には、クロム(VI)およびクロム(III)イオンに加えて、フッ化水素酸と、リン酸と、シランカップリング剤とを含有する処理液中に基材を浸漬するクロメート処理プロセスが記載されている。
【0006】
欧州特許第0922785号明細書には、金属上に保護層を生成するための処理液および方法が記載されており、この中では、クロム(III)イオンに加えて酸化剤とリンの酸素酸または酸素酸塩または適切な無水物とを含有する処理液に、保護される表面が接触する。この処理液は、モノマー状シランカップリング剤をさらに含み得る。
【0007】
欧州特許第1051539号明細書には、クロム(VI)およびクロム(III)イオンに加えて、リン酸と、フッ化水素酸と、コロイド状二酸化ケイ素と、モノマー状エポキシ官能化シランとを含む、基材の防食性を高めるための処理液が記載されている。
【0008】
国際公開第2008/14166号パンフレットには、保護皮膜を製造するための処理液が記載されている。この処理液は、亜鉛イオンに加えて、リン酸または酸性リン酸塩と、ホウ素、ケイ素、チタン、またはジルコニウムの元素のうちの1つを含む有機または無機アニオンと、三価クロムイオンと、酸化剤としての無機または有機過酸化物化合物とを含む。
【0009】
特開2007-239002号公報には、亜鉛めっきおよびこれに続くクロメート処理を適用することによって基材の鉄溶解を抑制することが開示されている。
【0010】
米国特許出願公開第2006/237098号明細書は、組成物、および様々な金属基材上に保護皮膜を設けるための前記組成物の使用方法に関する。
【0011】
中国特許出願公開第108914106号明細書は、金属表面処理液の分野、特に、毒性がなく自己充填性の長期保護を実現することができる、亜鉛めっきシート表面不動態化自己充填処理液に関する。
【0012】
欧州特許出願公開第3045564号明細書は、黒色の三価クロム化成皮膜の処理液に関する。処理液は、三価クロム化合物と、2種以上の有機酸もしくは有機酸性塩または1種以上の有機硫黄化合物と、硝酸イオンとを含み、コバルト化合物を含まない。
【0013】
欧州特許出願公開第2189551号明細書は、六価クロムが実質的に放出されない三価クロム化成皮膜に関する。
【0014】
従来技術に記載されている不動態化組成物は、優れた耐食性および/または機能特性、装飾特性、および/または対応するクロム含有不動態化層の望まれる色を有するクロム含有不動態化層を提供できないことが多い。
【0015】
さらに、このような不動態化が行われるものの、不動態化組成物中の鉄イオンの濃度の上昇がしばしば観察される。これは、典型的には、特に亜鉛または亜鉛-ニッケルの保護皮膜が損傷を受けた場合の基材の部分的な溶解が原因で生じ得る。鉄イオン濃度が比較的高いと、基材が好ましくない色になることが多く、さらには基材の耐食性が損なわれることがある。加えて、それぞれの不動態化組成物はより頻繁に交換しなければならず、これは廃棄前に費用のかかる廃水処理を要する。したがって、既存の不動態化組成物を改善すること、特に防食性の品質を損なうことなしにこのような不動態化組成物の寿命を延ばすことが継続して求められている。
【0016】
発明の目的
したがって、本発明の目的は、ニッケルまたは亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積するための不動態化組成物およびそれぞれの方法、ならびに対応する不動態化された基材を提供することであった。これにより、一方では優れた防食性、他方では不動態化組成物の向上した寿命が提供され、したがって、鉄イオンなどの汚染金属イオンが存在する場合であっても、より持続可能な不動態化方法が提供される。さらに、得られるクロム含有不動態化層は、均一な色、理想的には青色または少なくとも青みがかった色を提供するはずである。
【0017】
発明の概要
上記目的は、第1の態様によれば、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させるための不動態化組成物によって解決され、この組成物は、
(i)三価クロムイオン、
(ii)少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤、ならびに
(iii)少なくとも1種の腐食防止剤であって、
(A)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて10mg/L未満の合計濃度の、1種以上の無置換もしくは置換(好ましくは置換、最も好ましくは置換のみで無置換なし)のアゾール化合物および/もしくはその塩、
ならびに/または(好ましくはまたは)
(B)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて0.001mg/L~100mg/Lの範囲の合計濃度の、少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸および/もしくはその塩、
である少なくとも1種の腐食防止剤、
を含有する。
【0018】
指定された濃度範囲の1種以上の無置換もしくは置換(好ましくは置換、最も好ましくは置換のみで無置換なし)のアゾール化合物(その塩を含む)を腐食防止剤(A)として利用することにより、および/または(好ましくはまたは)指定された濃度範囲の少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸(その塩を含む)を腐食防止剤(B)として利用することにより、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材の優れた防食性が得られる。典型的には、青色または青みがかった色のクロム含有不動態化層が得られる。
【0019】
さらに、腐食防止剤(A)および/または(B)(好ましくはまたは)を利用することにより、基材から不動態化組成物への鉄イオンの放出が大幅に抑制される。結果として、それぞれの不動態化組成物は、好ましくは、それぞれの不動態化方法において、好ましくは本発明の方法において、腐食防止剤(A)および/または(B)を含まない以外は同一である不動態化組成物と比較してはるかに長く使用される。
【0020】
上記目的は、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させる方法による第2の態様に従ってさらに解決され、この方法は、
(a)亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材を準備する工程、
(b)亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層を堆積させるための不動態化組成物を準備する工程であって、前記組成物が、
(i)三価クロムイオン、
(ii)少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤、ならびに
(iii)少なくとも1種の腐食防止剤であって、
(A)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて10mg/L未満の合計濃度の、1種以上の無置換もしくは置換(好ましくは置換)のアゾール化合物および/もしくはその塩、
ならびに/または(好ましくはまたは)
(B)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて0.1mg/L~100mg/Lの範囲の合計濃度の、少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸および/もしくはその塩、
である少なくとも1種の腐食防止剤、
を含有する工程、ならびに
(c)クロム含有不動態化層が亜鉛または亜鉛-ニッケル被覆基材上に堆積されるように、亜鉛または亜鉛-ニッケル被覆基材を前記不動態化組成物と接触させる工程、
を含む。
【0021】
本発明の不動態化組成物に関する前述した事項は、本発明の方法にも同様に当てはまる。
【0022】
前述したように、三価のクロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤は、少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる。言い換えると、少なくとも1種の腐食防止剤は、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤とは異なる。したがって、(ii)と(iii)は同じ化合物ではなく、異なる化合物であり、互いに異なる。
【0023】
表の簡単な説明
表1に、様々な濃度の3-メルカプトトリアゾール(3-MTA)と、光学的外観および耐食性(NSS試験)との概略的な相関関係を示す。
【0024】
表2に、様々な濃度の3-メルカプトトリアゾール(3-MTA)と鉄イオン放出の抑制との概略的な相関関係を示す。
【0025】
表3に、様々な濃度の3-メルカプトプロピオン酸(3-MPA)と鉄イオン放出の抑制との概略的な相関関係を示す。
【0026】
詳細な事項については、以下の本明細書の「実施例」の項に示されている。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明との関係において、「少なくとも1つ」または「1つ以上」という用語は、「1つ、2つ、3つ、または3つより多い」を意味する(さらにこれらと言い換え可能である)。さらに、「三価クロム」は、酸化数が+3のクロムを指す。「三価クロムイオン」という用語は、遊離のまたは錯体化された形態のCr3+イオンを指す。
【0028】
本発明との関係において、「クロム含有不動態化層」という用語は、好ましくは三価のクロム化合物を含む層(皮膜とも称される場合のある)を表す。このようなクロム含有不動態化層は、好ましくは三価のクロム水酸化物を含む。場合によっては、不動態化層は、追加の金属、好ましくはコバルトを含むことが好ましい。
【0029】
本発明との関係において、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材は鉄を含む。これは、基材が、好ましくは亜鉛または亜鉛-ニッケル皮膜が上部に堆積されたベース材料、好ましくは鉄ベースの材料、より好ましくは鋼を含むことを意味する。したがって、好ましくは、鉄イオンは、基材およびベース材料からそれぞれ放出され、これは特に、亜鉛または亜鉛-ニッケル皮膜が損傷を受けた場合に生じる。
【0030】
不動態化組成物が水性組成物であり、好ましくは水の濃度が水性組成物の総体積を基準として50体積%超、より好ましくは75体積%超、最も好ましくは90体積%超である、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0031】
亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上に青色(または青みがかった色)のクロム含有不動態化層を堆積させるための本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0032】
1種以上の置換アゾール化合物および/またはその塩が、アミノ、ニトロ、カルボキシ、ヒドロキシ、スルホネート、およびチオールからなる群から選択される1つ以上の置換基を含み、好ましくは置換基がチオール基である、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0033】
1種以上の無置換または置換(好ましくは置換)アゾール化合物および/またはその塩が、モノアゾール、ジアゾール、トリアゾール、およびテトラゾールからなる群から選択され、好ましくはジアゾールおよびトリアゾールであり、最も好ましくはトリアゾールである、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0034】
1種以上の無置換または置換(好ましくは置換)アゾール化合物および/またはその塩が、1,2,4-トリアゾールからなる群から選択される、本発明の不動態化組成物が好ましい。これは、最も好ましくは、1,2,4-H-トリアゾールを意味する。
【0035】
1種以上の置換アゾール化合物および/またはその塩が、少なくともメルカプトトリアゾール、好ましくは少なくとも3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール(最も好ましくは3-メルカプト-1,2,4-H-トリアゾールを表す)を含む、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0036】
「合わせて10mg/L未満の合計濃度」という用語は、(A)が存在するが、最大でも10mg/L未満しか存在しないことを表す。10mg/Lは明示的に除外される。この表現は、0mg/Lが除外されることも表す。少なくとも1種の腐食防止剤(A)が、不動態化組成物の総体積を基準として、0.0001mg/L~9.9999mg/L、好ましくは、0.01mg/L~9.9mg/L、より好ましくは0.1mg/L~9.8mg/L、さらに好ましくは0.5mg/L~9.7mg/L、さらに好ましくは1.0mg/L~9.6mg/L、最も好ましくは2.0mg/L~9.5mg/L、さらに最も好ましくは3.0mg/L~9.4mg/Lの範囲の総濃度を有する、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0037】
独自の実験では、腐食防止剤(A)、好ましくは、好ましいとして上で規定した腐食防止剤(A)が、より好ましくは上で規定した濃度範囲で、一方では基材からの鉄イオンの放出をよく抑制し、他方で優れた防食性を得ることができる。腐食防止剤(A)の濃度が9.9999mg/Lを大幅に超えると、多くの場合に不十分な防食性が観察される(以下の実施例を参照)。
【0038】
腐食防止剤(B)に関しては、少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換または置換の脂肪族有機酸および/またはその塩がカルボン酸である、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0039】
少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換または置換の脂肪族有機酸および/またはその塩がモノカルボン酸を含む、本発明の不動態化組成物がより好ましい。
【0040】
少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換または置換の脂肪族有機酸および/またはその塩が、1~12個の炭素原子、好ましくは2~10個の炭素原子、より好ましくは3~8個の炭素原子、最も好ましくは3~6個の炭素原子を含む、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0041】
少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換または置換の脂肪族有機酸および/またはその塩が、3-メルカプトプロピオン酸および/またはその塩を含み、最も好ましくは3-メルカプトプロピオン酸である、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0042】
少なくとも1種の腐食防止剤(B)が、不動態化組成物の総体積を基準として、0.01mg/L~90mg/L、好ましくは0.1mg/L~80mg/L、より好ましくは1mg/L~50mg/L、さらに好ましくは2mg/L~35mg/L、最も好ましくは3mg/L~20mg/Lの範囲の総濃度を有する、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0043】
これも同様に、独自の実験では、腐食防止剤(B)、好ましくは、好ましいとして上で規定した腐食防止剤(B)が、より好ましくは上で規定した濃度範囲で、一方では基材からの鉄イオンの放出をよく抑制し、他方で優れた防食性を得ることができる。腐食防止剤(B)の濃度が100mg/Lを大幅に超えると、通常は不十分な防食性が観察される(以下の実施例を参照)。
【0044】
腐食防止剤(A)と腐食防止剤(B)が一緒に利用される場合もあるものの、通常は本発明の不動態化組成物において腐食防止剤(A)または腐食防止剤(B)のいずれかが使用されることが好ましい。典型的には、(A)および(B)のうちの1つが本発明の不動態化組成物に利用されるだけで優れた結果が得られる。
【0045】
不動態化組成物が、不動態化組成物の総体積を基準として0.1g/L~25g/L、好ましくは0.2g/L~20g/L、より好ましくは0.35g/L~15g/L、さらに好ましくは0.5g/L~10g/L、最も好ましくは1.0g/L~8g/Lの総濃度で三価クロムイオンを含む、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0046】
場合によっては、不動態化組成物が0.5g/L~2.5g/Lの総濃度の三価クロムイオンを含む、本発明の不動態化組成物が非常に好ましい。
【0047】
総濃度が0.1g/Lを大幅に下回る場合には、典型的には不十分な不動態化になる。
【0048】
三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、有機錯化剤および無機錯化剤からなる群から選択される、本発明の不動態化組成物が好ましい。ただし、有機錯化剤は、本明細書全体で定義されている少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる。
【0049】
三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、モノカルボン酸、ジカルボン酸、それらの塩(モノカルボン酸とジカルボン酸の両方の)、ハロゲンイオン、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは少なくとも1種のジカルボン酸を含む、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0050】
三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、無置換モノカルボン酸、ヒドロキシル置換モノカルボン酸、アミノ置換モノカルボン酸、無置換ジカルボン酸、ヒドロキシル置換ジカルボン酸、アミノ置換ジカルボン酸、それらの塩(前述した全ての酸の)、ハロゲンイオン、およびそれらの混合物からなる群から選択され、好ましくは少なくとも1種のジカルボン酸である、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0051】
三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、シュウ酸塩/シュウ酸、酢酸塩/酢酸、酒石酸塩/酒石酸、リンゴ酸塩/リンゴ酸、コハク酸塩/コハク酸、グルコン酸塩/グルコン酸、グルタミン酸塩/グルタミン酸、グリコール酸塩/グリコール酸、ジグリコール酸塩/ジグリコール酸、アスコルビン酸塩/アスコルビン酸、および酪酸塩/酪酸からなる群から選択される、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0052】
ハロゲンイオンがフッ化物を含む、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0053】
三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤がメルカプト基を含まない、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0054】
場合によっては、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、不動態化組成物中の1モル/Lの三価クロムイオンを基準として、0.3モル/L~2.0モル/L、好ましくは0.4モル/L~1.9モル/L、より好ましくは0.5モル/L~1.8モル/L、さらに好ましくは0.6モル/L~1.7モル/Lの範囲の総濃度を有する、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0055】
三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤が、不動態化組成物の総重量を基準として1.0重量%~15.0重量%、好ましくは2.0重量%~14.0重量%、より好ましくは3.0重量%~13.0重量%、さらに好ましくは4.0重量%~12.0重量%、最も好ましくは5.0重量%~11.0重量%の範囲の総濃度を有する、本発明の不動態化組成物も好ましい。
【0056】
典型的には、上で規定した好ましい濃度範囲において、三価クロムイオンは、錯化剤(好ましくは、好ましいとして規定した錯化剤)によって不動態化組成物中で効率的に安定化される。
【0057】
場合によっては、
(iv)好ましくは不動態化組成物の総重量を基準として1.0重量%~5.0重量%、好ましくは2.5重量%~3.0重量%の総濃度の二価コバルトイオン、
をさらに含有する、本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0058】
多くの場合、コバルトイオンは任意選択的な熱処理によい影響を与える(熱処理については本明細書の以降を参照)。
【0059】
本明細書による特定の代替の不動態化組成物では、不動態化組成物は、
(i)三価クロムイオン、
(ii)少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤、ならびに
(iii)少なくとも1種の腐食防止剤であって、
(A)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて0.001mg/L~100mg/Lの合計濃度の、1種以上の無置換もしくは置換(好ましくは置換)のアゾール化合物および/もしくはその塩、
ならびに/または
(B)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて0.001mg/L~100mg/Lの範囲の合計濃度の、少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸および/もしくはその塩、
である少なくとも1種の腐食防止剤、
(iv)好ましくは不動態化組成物の総重量を基準として1.0重量%~5.0重量%、好ましくは2.5重量%~3.0重量%の総濃度の二価コバルトイオン、
を含む。
【0060】
本明細書によるこの特定の不動態化組成物において、(A)については、(B)に関する好ましい総濃度が好ましくは適用される。好ましくは、本発明の不動態化組成物の特徴は、代替の不動態化組成物にも同様に適用される。
【0061】
しかしながら、場合によっては、不動態化組成物が、二価コバルトイオンを本質的に含まないかまたは含まない、好ましくはコバルトイオンを本質的に含まないかまたは含まない、最も好ましくはコバルトを本質的に含まないかまたは含まない、本発明の不動態化組成物が好ましい。代わりに不動態化組成物からコバルトまたはコバルトイオンを排除することにより、高価なコバルト化合物の使用が回避されるため典型的にはコスト削減が達成され、また防食性の品質を損なうことなしに廃水処理が簡素化される。
【0062】
0.5~5.0、好ましくは1.0~4.0、より好ましくは1.4~3.0、さらに好ましくは1.6~2.5、最も好ましくは1.8~2.3の範囲のpHを有する、本発明の不動態化組成物が好ましい。pHが5.0を大幅に超えると、場合によっては望ましくない析出が観察される。pHが0.5を大幅に下回ると、場合によっては被覆された基材の望ましくない強い溶解が観察される。上で規定した好ましいpH範囲は、クロム含有不動態化層を効果的に堆積させ、不動態化組成物の比較的長い寿命を維持するために特に有益である。
【0063】
(v)不動態化組成物の総体積を基準として、0mg/L~500mg/L、好ましくは0mg/L~400mg/L、より好ましくは0mg/L~300mg/L、最も好ましくは0mg/L~250mg/L、さらに最も好ましくは0mg/L~200mg/Lの総濃度の鉄イオン、
をさらに含有する本発明の不動態化組成物が好ましい。
【0064】
腐食防止剤(A)および/または(B)の存在のため、防食性の品質を損なうことなしに、比較的高濃度の鉄イオンが許容され、これによってそれぞれの不動態化組成物の寿命が延ばされる。
【0065】
場合によっては、鉄イオンは非常に低い濃度で恒久的に存在し、最も好ましくは、上で規定した濃度の上限にさえ到達しない。本発明を考慮すると、これは重要ではない。鉄イオンのこのような典型的な非常に低い濃度は、不動態化組成物の総体積を基準として好ましくは0.001mg/L以上、より好ましくは0.01mg/L、さらに好ましくは0.1mg/L、最も好ましくは1mg/Lである。好ましくは、このような低い濃度は、上で規定した濃度の上限と組み合わされる。
【0066】
第2の態様による本発明は、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上にクロム含有不動態化層(好ましくは青色または青みがかった色のクロム含有不動態化層)を堆積させる方法を提供し、この方法は、
(a)亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材を準備する工程、
(b)亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材上に(好ましくは上で規定した通りに、より好ましくは、好ましいとして上で規定した通りに)クロム含有不動態化層を堆積させるための不動態化組成物を準備する工程であって、前記組成物が、
(i)三価クロムイオン、
(ii)少なくとも1種の腐食防止剤とは異なる、三価クロムイオンのための少なくとも1種の錯化剤、ならびに
(iii)少なくとも1種の腐食防止剤であって、
(A)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて10mg/L未満の合計濃度の、1種以上の無置換もしくは置換(好ましくは置換)のアゾール化合物および/もしくはその塩、
ならびに/または(好ましくはまたは)
(B)不動態化組成物の総体積を基準として、合わせて0.1mg/L~100mg/Lの範囲の合計濃度の、少なくとも1つのメルカプト基を有する1種以上の無置換もしくは置換の脂肪族有機酸および/もしくはその塩、
である少なくとも1種の腐食防止剤、
を含有する工程、ならびに
(c)クロム含有不動態化層が亜鉛または亜鉛-ニッケル被覆基材上に堆積されるように、亜鉛または亜鉛-ニッケル被覆基材を前記不動態化組成物と接触させる工程、
を含む。
【0067】
好ましくは、本発明の不動態化組成物(特に好ましいと規定されているもの)に関する前述したものは、本発明の方法にも同様に適用される。
【0068】
電流を流さずに工程(c)が行われる本発明の方法が最も好ましい。
【0069】
工程(a)において、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材が、金属ねじ、金属ナット、金属クランプ、および/または金属ばねである、本発明の方法が好ましい。
【0070】
工程(c)が20℃~50℃の範囲の温度で行われる、および/または工程(c)が10秒~180秒の時間行われる、本発明の方法が好ましい。
【0071】
温度が50℃を大幅に超えている場合、場合によっては、望ましくないエネルギの消費とともに、望ましくない水の蒸発が観察される。温度が20℃を大幅に下回ると、多くの場合、クロム含有不動態化層の堆積が不十分になり、これによって防食性の品質が損なわれる。
【0072】
時間が10秒を大幅に下回ると、多くの場合、クロム含有不動態化層の堆積が不十分になり、これによって防食性の品質が損なわれる。
【0073】
工程(c)が20秒~170秒、好ましくは30秒~150秒、より好ましくは40秒~110秒、さらに好ましくは50秒~90秒の時間行われる、本発明の方法が好ましい。
【0074】
工程(c)が21℃~45℃、好ましくは22℃~40℃、より好ましくは23℃~35℃の範囲の温度で行われる、本発明の方法が好ましい。このような適度な温度により、本発明の方法の持続可能な実施が可能になる。
【0075】
好ましい温度範囲および好ましい時間で工程(c)を行うことにより、特に有利な堆積速度が得られる。
【0076】
工程(c)後の不動態化組成物中の鉄イオンの濃度が、各工程(c)の後に不動態化組成物の総体積を基準として200mg/L以下、好ましくは100mg/L以下、最も好ましくは200mg/L以下、さらに最も好ましくは各工程(c)の後に100mg/L以下である、本発明の方法が好ましい。
【0077】
工程(c)の後、不動態化組成物中の鉄イオンの濃度が、不動態化組成物の総体積を基準として500mg/L以下、好ましくは400mg/L以下、より好ましくは300mg/L以下、最も好ましくは250mg/L以下、さらに最も好ましくは200mg/L以下であるが、それぞれ不動態化組成物が15g/L以下の濃度の亜鉛イオンを含むことを条件とする、本発明の方法がより好ましい。
【0078】
工程(c)の後、不動態化組成物中の鉄イオンの濃度が、不動態化組成物の総体積を基準として500mg/L以下、好ましくは400mg/L以下、より好ましくは300mg/L以下、最も好ましくは250mg/L以下、さらに最も好ましくは200mg/L以下であるが、それぞれ不動態化組成物が10g/L以下の濃度の亜鉛イオンを含むことを条件とする、本発明の方法がさらに好ましい。
【0079】
工程(c)の後に、
(d)亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材を熱処理する追加の工程、
を含む本発明の方法が好ましい。
【0080】
多くの場合、水素脆化を最小限に抑えるために熱処理によって改良される。
【0081】
工程(d)において、熱処理が、150℃~230℃、好ましくは180℃~210℃の範囲の温度で行われる、本発明の方法が好ましい。
【0082】
工程(d)において、1時間~10時間、好ましくは2時間~8時間、最も好ましくは2.5時間~5時間熱処理が行われる、本発明の方法が好ましい。
【0083】
工程(c)および/または(d)の後に、クロム含有不動態化層を有する亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材での、DIN 9227による白錆形成が1%以下である、本発明の方法が好ましい。DIN 9227による白錆形成が1%以下であることは、本発明の方法で得られる優れた防食性を証明するための特によい基準として役立つ。
【0084】
基材が鉄、より好ましくは鋼を含む、本発明の方法が好ましい。
【0085】
場合によっては、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材が亜鉛-ニッケルで被覆された基材である、本発明の方法が好ましい。別の場合には、亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材が亜鉛で被覆された基材である、本発明の方法が好ましい。
【0086】
場合によっては、工程(c)または(d)の後に、
(e)亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材を、工程(c)または(d)の後にそれぞれ得られるクロム含有不動態化層でシールして、シール層を有する不動態化された亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材を得る追加の工程、
を含む本発明の方法が好ましい。
【0087】
シール層が、無機ケイ酸塩(好ましくは粒子として)、シラン、有機ポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択される1種以上の化合物を含む、本発明の方法が好ましい。
【0088】
前述した無機ケイ酸塩(好ましくは粒子として)に関し、代わりにまたは加えて、このような粒子は、防食性を高めるために、好ましくは本発明の不動態化組成物中に含まれる。
【0089】
工程(c)の後に、クロム含有不動態化層が、1nm~1200nm、好ましくは10nm~1000nm、より好ましくは15nm~800nm、最も好ましくは20nm~500nmの範囲の層厚さを有する、本発明の方法が好ましい。
【0090】
工程(c)の後に、クロム含有不動態化層が青色(または少なくとも青みがかった色)であり、30nm~150nm、好ましくは40nm~140nm、より好ましくは45nm~130nm、最も好ましくは50nm~120nm、さらに最も好ましくは55nm~90nmの範囲の層厚さを有する、本発明の方法がさらに好ましい。
【0091】
いくつかの場合には、工程(c)の後、クロム含有不動態化層が玉虫色であり、155nm~1200nm、好ましくは170nm~1000nm、より好ましくは190nm~800nm、最も好ましくは200nm~600nmの範囲の層厚さを有する、本発明の方法が好ましい。
【0092】
いくつかの場合には、工程(c)の後、クロム含有不動態化層が透明であるか黄色であり、1nm~25nm、好ましくは3nm~22nm、より好ましくは5nm~20nm、最も好ましくは8nm~18nmの範囲の層厚さを有する、本発明の方法が好ましい。
【0093】
第3の態様による本発明は、第2の態様による堆積方法によって得られる、クロム含有不動態化層を上部に有する亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材を提供する。
【0094】
好ましくは、本発明の不動態化組成物(特に好ましいと規定した不動態化組成物)に関して、最も好ましくは本発明の方法(特に好ましいと規定した方法)に関して前述した事項は、本発明によるクロム含有不動態化層を上部に有する亜鉛または亜鉛-ニッケルで被覆された基材に同様に適用される。
【0095】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってより詳しく説明される。
【0096】
実施例
1.1組目の実験
1組目の実験では、通常約2g/Lの三価クロムイオンと、コバルトイオンと、錯化剤としてのジカルボン酸と、腐食防止剤としての3-メルカプトトリアゾール(3-MTA)とを含み、pH2.2である、表1に記載の通りに番号付けされた水性試験用不動態化組成物を調製した。
【0097】
本発明の方法は、以下の通りに行った:基材として、亜鉛被覆鉄ねじ(M8×60)を前処理し、続いて、室温(約20℃)でそれぞれの水性試験不動態化組成物(各体積:2L)中で30秒間不動態化した。その後、不動態化されたねじを光学的に検査し、NSS試験(24時間)を行った。
【0098】
不動態化組成物および不動態化後に得られた結果に関する詳細事項は表1にまとめられている。
【0099】
【0100】
表1において、略語の意味は次の通りである:
「ht」は不動態化された基材の熱処理を意味し、「-」は熱処理なしを表し、「+」は210℃で4時間の熱処理を表し;
「NSST」は、24時間の保持時間または1%以下の白錆形成での、DIN 9227に準拠した中性塩噴霧試験を表し、「+」は、試験が錆の形成なしで非常に優れて満たしたことを表し、「0」はまだ許容できる白錆の形成を表し、「-」は1%を大幅に超える白錆を表し;
「色」は、不動態化後の基材の光学的外観を指し、「+」は青色を表し、「-」は透明であるかまたは青色ではない他の色を表す。
【0101】
実験1および2は本発明による実施例であり、実験C1~C12は比較例である。50秒の浸漬時間かつpH2.5で、非常に類似した結果が得られた(データ不掲載)。
【0102】
この1組目の実験では、水性試験不動態化組成物中に鉄イオンは存在しなかった(すなわち、積極的に添加されず、短い時間の利用のため組成物中で見込まれなかった)。典型的には、このような鉄イオンは、それぞれの被覆された基材の耐食性に、例えばNSS試験において悪影響を及ぼす。実験1および2ならびにC1~C12は、様々な濃度の3-MTAの存在下で耐食性がどのように影響を受けるかを明確に示しており、実験1と2では、基材の最適な耐食性と不動態化層の青色が観察された。
【0103】
鉄イオンが存在しないため、比較例C11とC12は、3-MTAが存在しなくても優れた結果を示した。比較例C11およびC12は、鉄イオン汚染が存在しないか、または見込まれないため、腐食防止剤を使用する必要がない理想的な状況を表している。しかしながら、このような理想的な状況は、一般的には、鉄イオン汚染の増大が存在するか、少なくとも見込まれる日常の状況を表すものではない。
【0104】
下の2組目の実験で示されるように、3-MTAは、鉄イオンが存在する場合によく機能する腐食防止剤である。ただし、表1によれば、実施例1および2は、基材の優れた耐食性と不動態化層の青色を維持するためには比較的低濃度の3-MTAしか許容できないことを示している。この結果は、腐食防止剤を含まない比較例C11およびC12に匹敵する。比較例C1~C10から明確に示されているように、25mg/L~500mg/Lの範囲の3-MTAの濃度は、それぞれの基材の耐食性に悪影響を及ぼし(「0」、さらには「-」である「NSST」の列を参照)、また透明な不動態化層または青色ではない不動態化層にもなる。
【0105】
2.2組目の実験
2組目の実験では、水性試験不動態化組成物は、1組目の実験の試験不動態化組成物と同じ基本組成を有していた。ただし、2組目の実験では、鉄イオンを次の通りに添加した:
第1の工程で、100mlの各水性試験不動態化組成物を、それぞれのビーカー内で鉄イオンなしで調製した。pHを2.5に調整した。
【0106】
第2の工程では、鉄基材(3.5cm×5.0cmの鉄板)を各ビーカーに2時間入れ、鉄イオンをそれぞれの水性試験不動態化組成物に溶解させた。鉄の溶解は、不動態化組成物中の3-MTAの存在によって影響を受けた。その後、遊離鉄イオンの濃度を重量分析により決定した。詳細および結果は表2にまとめられている。
【0107】
【0108】
表2に示されているように、3-MTAは適切に機能する腐食防止剤であり、鉄を含む基材からの鉄イオンの放出を能動的に防止する。3-MTAがないと(比較例C15)、0.13g/Lの鉄イオンが測定された。しかしながら、わずか7mg/Lの存在下(実施例3)で、鉄イオンの放出は大幅に減少し、3-MTAの量を増やしてもそれ以上改善されない(比較例C13およびC14)。さらに、鉄基材の溶解および鉄イオンのそれぞれの放出は、pHに大きく影響する(比較例C15)。
【0109】
それぞれ25および100mg/Lの濃度の3-MTAは、鉄イオンの放出を十分に防止するものの(比較例C13およびC14)、表1は、このような濃度がそれぞれの不動態化された基材の耐食性に悪影響を及ぼすことを明確に示している(1組目の実験の比較例C1、C2、C5、およびC6)。
【0110】
非常に類似した結果および結論が5-メルカプト-1-メチルテトラゾールで得られた(データ不掲載)。
【0111】
3.3組目の実験
3組目の実験では、水性試験不動態化組成物は、3-MTAの代わりに3-メルカプトプロピオン酸(3-MPA)を使用したことだけ変えて、1組目の実験の試験不動態化組成物と同様に調製した。一連のそれぞれのNSS試験では、3-MPAの濃度が約60mg/Lに到達するまでは耐食性は損なわれず(つまり「+」の「NSST」)、3-MPAの濃度が約100mg/Lに到達するまではわずかしか損なわれなかった(つまり「0」の「NSST」)。100mg/Lを大幅に超えると、許容できる耐食性は得られなかった(つまり「-」の「NSST」)。したがって、3-MPAは、3-MTAと比較して、耐食性を大幅に低下させずに使用できる濃度に関して、より広い作用範囲を提供する。
【0112】
さらに、2組目の実験で3-MTAを試験した方法と同じ方法で3-MPAを追加的に試験した。詳細および結果は表3にまとめられている。
【0113】
【0114】
実施例4、5、および比較例C16は、3-MPAの濃度を上げても鉄イオンの放出を非常によく防止するが、独自の実験では、3-MPAの濃度が100mg/Lを大幅に超えると許容できる耐食性が得られないことが示されている。しかしながら、100mg/L以下、好ましくは50mg/L以下の3-MPAの作用範囲内で、それぞれ優れた許容できる結果が得られる。
【0115】
いずれの場合も、一連の実験は、腐食防止剤が存在する場合、それぞれの不動態化組成物で約250mg/Lの鉄イオンの濃度に耐えることができることを示している。
【国際調査報告】