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特表2023-507440酸除去ホルムアルデヒドで調製した緩衝化ホルマリンの組織固定による核酸配列の保存
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  • 特表-酸除去ホルムアルデヒドで調製した緩衝化ホルマリンの組織固定による核酸配列の保存 図1
  • 特表-酸除去ホルムアルデヒドで調製した緩衝化ホルマリンの組織固定による核酸配列の保存 図2A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】酸除去ホルムアルデヒドで調製した緩衝化ホルマリンの組織固定による核酸配列の保存
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/36 20060101AFI20230215BHJP
   C12N 15/10 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
G01N1/36
C12N15/10 100Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537616
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(85)【翻訳文提出日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2020086247
(87)【国際公開番号】W WO2021122613
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】102019000024448
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522241332
【氏名又は名称】アダックス ビオサイエンシズ エス.アール.エル.
【氏名又は名称原語表記】ADDAX BIOSCIENCES S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ブッソラーティ,ジョヴァンニ
(72)【発明者】
【氏名】ブッソラーティ,ベネデッタ
(72)【発明者】
【氏名】ブッソラーティ,ニコロ
【テーマコード(参考)】
2G052
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052AB20
2G052FA02
2G052FD01
2G052FD02
2G052GA11
2G052GA29
2G052JA10
(57)【要約】
本発明は、濃縮ホルムアルデヒド水溶液を塩基性イオン交換樹脂で処理し;得られた酸除去ホルムアルデヒド溶液をpH7.2~7.4のリン酸緩衝液で2~4%の濃度まで希釈し;得られた酸除去ホルムアルデヒド溶液を組織サンプルと接触させ;必要に応じてパラフィンに固定した試料を埋め込むことを含む、組織学的組織における核酸配列の保存方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)濃縮ホルムアルデヒド水溶液を塩基性イオン交換樹脂で処理し;
b)工程a)で得られた酸除去ホルムアルデヒド溶液をpH7.2~7.4のリン酸緩衝液で2~4%の濃度まで希釈し;
c)工程b)で得られた酸除去ホルムアルデヒド溶液を組織サンプルと接触させ;
d)必要に応じて、工程c)で固定した試料をパラフィンに包埋する
ことを含む、組織学的組織における核酸シーケンスの保存方法。
【請求項2】
前記濃縮ホルムアルデヒド溶液が重量比で40%の濃度を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸除去ホルムアルデヒド溶液の濃度が重量比で4%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記イオン交換樹脂がAmberlystA21樹脂である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記試料を酸除去ホルムアルデヒド溶液で3時間~72時間の範囲の時間処理する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
組織学的及び細胞学的試料を固定するための、pH7.2のリン酸緩衝液中で重量比4%の酸除去ホルムアルデヒド溶液の使用。
【請求項7】
DNA及びRNA分析のための酸除去ホルムアルデヒド固定組織の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホルマリンで固定した有機組織試料の遺伝の完全性を改善するために設計されたアプローチを示唆することを目的とする。
先行技術
【0002】
組織学的組織の保存及び固定は、現在、ホルマリンとして知られている、ギ酸アルデヒドを含有する水溶液、具体的には4%ギ酸アルデヒドを含有する水溶液に浸漬することによって行われている。ホルマリンは革や皮膚の固定のみならず、医療分野では組織輸送、保存(例えば博物館)、パラフィン包埋に必然的に先行する固定、組織標本の切開や染色、診断前の顕微鏡検査などに広く使用されている(Foxetal.,1985)。近年、ホルマリン固定パラフィン包埋生検材料(ホルマリン固定パラフィン包埋=FFPE)は、ヘマトキシリン‐エオジンで染色し、免疫組織化学的分析に使用する切片で、形態学的に研究されるだけでなく、分子生物学的分析及び遺伝子シーケンシングでも研究されている。遺伝的腫瘍変化は、治療選択及び予後を促進するために決定される。それゆえ、日常の臨床診療では、ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPE)を用いて標的シーケンシングが行われる。しかしながら、FFPE生検のDNAは試料調製過程で断片化する傾向があるため、好結果が得られる遺伝子解析は依然として困難である。
【0003】
ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織が定期的に調製され、様々な疾患の病理診断に使用されており、大量の保存FFPE組織が病理部門(イタリアの法律によると、患者に有用なさらなる分析が潜在的に必要とされる可能性があるため、組織は少なくとも10~20年間保存されなければならない)に保存、保管されている。FFPE組織は長期間室温で容易に保存でき、遡及的に分析できる。ホルマリンは広く使用されている固定試薬であるが、DNAの完全性に悪影響を及ぼし、DNA-DNA及び/又はDNA-タンパク質架橋、ヌクレオチド転移及びDNA断片化を生じる。前記効果は、次世代シーケンシング(NGS)技術のようなサンプルのその後の分析に干渉する可能性がある。シーケンシングはDNA断片を分析するためにも使用することができ、その前記断片上の突然変異の存在を決定するための技術が考案されているが、不完全に断片化されたDNAをNGSライブラリーを調節するために使用することはできない(Amemiaetal.,2019)。最近、NGS解析は多く場合FFPE組織から抽出したDNAに対して行われている。これらの遺伝学的アプローチは、腫瘍を含む複数の疾患における新しい分子サブタイプを明らかにし、精密技術を確立することによって臨床診療を変えた。
【0004】
大量のFFPE組織が世界中の診療所、病院及び学術機関の記録保管所に保管されている。しかしながら、FFPE組織から抽出されたDNAは多くの場合断片化され、シトシンからチミジンへの転移及び架橋修飾を示す。前記の変化は主に固定時間、ホルマリン試薬の濃度、保存条件に依存する。低品質(断片化)FFPE由来のDNAは遺伝子解析には適さず、人工産物を生じる可能性がある。多くの研究が、DNAの質とNGS分析の結果生じる成功率が使用される固定試薬のタイプと固定時間によってどのように影響されるかを調べてきた。FFPE組織のDNAとRNAの品質(すなわち断片化の程度)は、主にホルマリンでの固定により決定され、標的分析シーケンシングで高い成功率を得るため、パラフィン包埋試料の固定には、中性緩衝ホルマリン(PBF)が酸性ホルマリンより好ましい。例えば、保存時間に関連したpHの変動は、ホルマリンのギ酸への酸化を引き起こし、窒素塩基の変化及び配列破壊(Groelzetal.,2013)を引き起こすことが知られている。同じFFPEブロックから抽出したDNAの有意な分解も、4~6年の保存後に観察された。したがって、FFPEの生検試料を保存するためのより優れた保存手法を考慮すべきである(Guyardetal.,2017)。
【0005】
保存組織から高品質のmRNAを得ることができれば、現在可能な範囲を超えて遺伝子発現プロファイルの幅広い解析に道を開き(Scicchitanoetal.,2006;Abramovitzetal,2008)、個々の悪性腫瘍の臨床挙動や治療反応を予測することを可能にし、オーダーメイド治療が可能になる。現在、この方法は、凍結した試料の採取を必要とし、これは常に可能ではない扱いにくい方法である。遺伝子発現プロファイリングのためのFFPE組織の使用は、パラフィン中での長期保存に供された保存組織を用いても、この分子的手法の広範な使用を可能且つ容易にするであろう。
【0006】
0.1Mリン酸緩衝液pH7.2(ホルマリン)を含む4%ホルムアルデヒド水溶液中での組織(病理組織学的診断のための生検試料及び外科試料)の処理は公知である。世界中で数百万の検体がこの方法で処理されている。このような固定は、一般に、組織試料をホルマリン中に数時間から24時間の範囲で浸漬することによって行われる。これは通常室温で行われる。DNA及びRNAのより良好な保存となる低温ホルマリン処理の使用が報告されている(Bussolatiet.al,2011)。近年、ホルマリン固定パラフィン包埋組織(FFPE)からの核酸シーケンシングに対する需要が大きく増加しているが、これは、巨大な組織アーカイブの開発が、特にがんについて、新しく信頼できる診断及び予後パラメータを作製する目的で、遺伝子発現プロファイルの評価を含むためである(Madeirosetal.,2007;Lewisetal.,2001)。FFPE組織における核酸の保存状態について多くの研究が行われてきたが、RNAは強く分解され、断片化されていることが明らかにされているので、かなり短い配列(約100~200ヌクレオチド)のみ認識・増幅される(Chunget.Al.,2006;Dotti,2010;vanMaldeghem,2008;Paska,2004;Masuda)ことが判明している点で、実質的な一般的合意が得られている。この効果の理由は現在のところ不明である。特に乳がん、肺がん、大腸がんでは非常に有望であるため、個々の患者の病理学病変における予後及び治療の見通しを立てるための遺伝子発現プロファイリングの要望が強まっている。現在、可能な唯一の手法は、遺伝子発現解析のために処理することが出来るように、凍結試料(組織バンク内の)を採取し、前記物質を保存することである。通常推奨され実施されているように(Goldsteinetal.,2003:Goldsteinetal.,2007)、室温で24時間、または少なくとも数時間ホルマリンに浸漬すると、最適な形態学的及び抗原保存に繋がることが観察されている。したがって、FFPE組織を遺伝子シーケンシングにも利用すれば、大きな展望が開け、世界中に存在する膨大なアーカイブの利用が可能になる(seeChenetal,2007;Scicchitanoetal.,2006;Abramovitzetal.,2008)。組織から得られたDNAマイクロアレイや二次元ゲル電気泳動のような遺伝子シーケンシング技術は、特定の病理学的状態と相関する遺伝子、蛋白質、代謝産物及び他の分子特性に関する情報を提供することに成功している。保存組織試料、すなわちFFPV組織をスクリーニングすることにより、ヒト腫瘍においていくつかの新規遺伝子及びその産物が同定されている。診断のための分子検査は、早期皮膚リンパ腫におけるT細胞またはB細胞のクローン性試験のような特定の臨床条件下で最も頻繁に必要とされ、決定的な臨床診断に達するための分子病理学的検査の必要性は、将来増加することが予想される(Srinivasanetal.,2002)。
【0007】
核酸の保存はそれらの分子検査の妥当性を保証するために必要であるので、生検試料の固定と保存条件は重要な要素である。したがって、アルデヒド固定剤の特性は非常に重要である。ギ酸が含まれるような酸固定化剤は、DNAやRNA鎖を断片化する原因となる(Koshibaetal,1993;Srinivasanetal.,2002)。したがって、現在、市販の40%飽和ホルムアルデヒドをリン酸緩衝液pH 7.2~7.4中に希釈(1:10)して得た4%ホルムアルデヒド溶液(リン酸緩衝ホルマリン=PBF)中で組織を固定することが推奨されている。市販の40%ホルムアルデヒド溶液は、核酸の断片化の原因となるギ酸(Srinivasan et al., 2002)の存在のために強酸性(pH 2~3)である。
【0008】
市販製剤では、炭酸カルシウムが40%ホルムアルデヒド溶液に添加されるものもある。ギ酸はPBF溶液中に存在するが、ギ酸ナトリウムの形で中和される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、現在使用されているPFBによる固定は、上述のように期待外れの結果を与えるので、ホルマリンで固定した有機組織試料の遺伝的完全性を改善するために設計されたアプローチを提案することである。
【0010】
現在、市販のホルムアルデヒド溶液をイオン交換樹脂を用いて酸を除去し、それによってギ酸ナトリウムの形成を除去すると、得られた酸を含まない試薬(酸除去リン酸緩衝ホルマリン=AD-PBF)中での固定は、市販のリン酸緩衝ホルマリン固定組織(PBF)を用いる場合よりも、核酸、特にDNAのより良好な保存及びより低い断片化をもたらすことが発見されている。この改善は長期間貯蔵したAD‐PBF固定パラフィン包埋組織において顕著に有意であった。
【0011】
したがって、本発明の対象は、
a)濃縮したホルムアルデヒドの水溶液を塩基性イオン交換樹脂で処理するステップ;
b)ステップa)で得た酸除去したホルムアルデヒド溶液を、pH7.2~7.4のリン酸緩衝液で2~4%の範囲の濃度、好ましくは4%の濃度に希釈するステップ;
c)ステップb)で得た酸除去したホルムアルデヒド溶液を組織試料に接触させるように配置するステップ;
d)場合により、ステップc)で得た固定された試料をパラフィンに包埋するステップ
を含む、組織学的組織及び細胞学的試料における核酸シーケンスの保存方法である。
工程a)で使用される濃縮したホルムアルデヒド溶液は市販されており、30~40重量%の範囲の濃度を有する。
【0012】
ホルムアルデヒド溶液中に存在する酸を中和し、それらの生成を防止することができる任意の塩基性樹脂をイオン交換樹脂として用いることができる。この目的に適した樹脂の例は、AmberlystA21(登録商標)樹脂である。
【0013】
組織学的及び細胞学的試料は、典型的には、3時間から72時間の範囲の時間、酸除去ホルムアルデヒド溶液で処理される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1の結果を示す。
図2A】実施例2の結果を示す。
図2B】実施例2の結果を示す。
図3】実施例3の結果を示す。
図4】実施例3の結果を示す。
図5】実施例3の結果を示す。
【0015】
以下の実施例は、本発明をより詳細に説明する。
【0016】
実施例1
40%ホルムアルデヒド溶液は市販のものを入手した(Sigma-Aldrich,Milan;CarloErba,Milan)。この溶液のpHは2.6と2.9の間であった。塩基性イオン交換樹脂であるAmberlyst樹脂A21(DowChemicals,Milan)をHOで洗浄した後、前記樹脂10gを40%ホルムアルデヒド100mLに添加した。前記混合物を室温で60分間攪拌した後、濾過した。濾液のpHは6.8と7.3の間であった。濾液をpH7.2のリン酸塩緩衝液中で1:10の比で混合し、リン酸塩緩衝液(AD‐PBF)中の酸除去4%ホルムアルデヒド溶液を得た。
【0017】
診断上不要なため廃棄予定の新鮮なヒト組織(腎臓、肝臓、結腸、結腸がん、乳がん)は、固定に用いられた。組織断片の隣接切片をAD-PBF(上記参照)及び市販の緩衝ホルマリン(DiaPath,Bergamo)中で固定した。組織は室温で20時間、それぞれの固定液中に留まり、次いでパラフィンに包埋(ライカ包理装置:LeicaASP300S)するために処理した。
【0018】
前記パラフィン包埋組織ブロックを切断し、ヘマトキシリン-エオジンで染色した切片を得た。DNA及びRNA品質の抽出、定量及び評価のために、AD‐PBF及びPBFに同時に固定した10組織(上記参照)のパラフィン包埋組織ブロックから9切片(厚さ5μm)を得た。切片をキシレン1mlで脱パラフィン化した。プロテイナーゼKとともに56°Cで一晩インキュベートした後、製造者のプロトコルに従って、MagCore自動抽出装置(RBC Bioscience,Taiwan)上のMagCore Genomic DNA FFPEキットを用いて、DNAを五つの切片から単離した。RNAは、製造業者のプロトコルに従って、RecoverAlltotalnucleicacidisolationkitforFFPE(ThermoFisherScientific,USA)の残り4セクションを用いて得られた。DNA及びRNA抽出物の両方を、Qubit蛍光計(Invitrogen,Carlsbad,CA,USA)及びナノドロップ分光光度計(ThermoFisher Scientific)でのQubit BRアッセイにより定量した。DNA及びRNAの完全性はAgilent 2100Bio analyzer(Agilent Technologies,USA)を用いて評価した。
【0019】
DNA完全性は、DNA HSチップ上の高感度DNA分析キット(AgilentTechnologies,SantaClara,CA)を用いて評価した。サンプルを2ng/μLに希釈し、製造業者の指示に従ってDNA長分析を行った。AD‐PBF及びPBF試料のDNA断片の平均サイズは、最長DNA断片(>5,000nt)に対する閾値として5,000ntを用いて評価した。前記閾値に対するそれらの分布を、カイ二乗検定を用いて統計的に比較した。
【0020】
AgilentRNA6000ナノキットを用いてRNA完全性を評価した。DNA断片のサイズ分布は、閾値200ntのスミア分析を用いて、Agilent 2100 Bioanalyzerの読み取り値から計算した;>200nt(DV200メートル)の大きさのDNA断片のパーセンテージを記録した。
【0021】
図1は、PBFまたはAD-PBFに固定した組織から抽出したDNAを比較している。同じ結腸(左)と乳房(右)がん試料から並行して得た生検をPBFまたはAD‐PBFに固定し、抽出したDNAをAgilent Bioanalyzerで分析した。この図は、得られるDNA断片の大きさを小さい順に示している(サイドバーに示すような色の強度スケール)。AD-PBFで固定した生検では、DNAサイズが大きく、断片化が少ないことが明らかである。
【0022】
図1に示すように、PBFで固定した組織では、得られるDNA断片の大部分の大きさは(文献に記載されている知見との類推により)1000~5000bpの範囲であり、強い断片化を示している。逆に、AD-PBF中での固定、したがって固定剤からの酸ラジカルの除去は、20000bpまでの、より良好に保存された断片をもたらす。
【0023】
実施例2
AD-PBFに固定された組織と、並行してPBFに固定されパラフィンに包埋された組織を12ヶ月間室温で保存した後、実施例1の分析手順を繰り返した。
【0024】
組織から抽出したDNAをAgilent Bioanalyzer装置で分析した。
【0025】
図2は、PBFまたはAD-PBFに固定し、パラフィンに包埋され、1年間保存された同じ結腸がん試料から抽出されたDNAを示す。抽出したDNAをAgilent Bioanalyzerで分析した。この曲線は、サイズが大きくなるにつれて得られるDNA断片のサイズを示す。AD‐PBF(B)で固定した生検材料では、PBF(A)で固定した生検材料よりも長いDNA断片が存在することが明らかになった。
【0026】
実施例3
リン酸緩衝ホルマリン中とADホルマリン中で交互に固定した組織における核酸、特にDNAの保存性を調べるために、ヒトがん(大腸、乳がん、及び肺がん)の27例で研究を行った。試験片(おおよそのサイズ:1×2×0.3cm)を組織から生のままで採取し、pH 7.2でリン酸緩衝液0.1Mを用いて緩衝した、酸除去した(A‐D)ホルマリン中、及び市販のリン酸緩衝ホルマリン(PBF)(Roti-Histofix 4.5 % acid free (pH 7) リン酸緩衝ホルムアルデヒド溶液;Prodotti Gianni, Milan, Italy)中で、同時に固定した。検体は室温で24時間、別の固定剤に浸漬し、その後パラフィン包埋のために日常的な方法で処理した。
【0027】
パラフィンブロックからの切片(10個の切片、5ミクロン厚み)をDNA抽出のために処理し、次いで断片のサイズを評価するために分析し、各ケースにおいて塩基対の断片のサイズと一致させた。直接比較は、直線(サイズ対頻度)で表し、コルモゴロフ-スミルノフ検定を用いて直線傾向を評価するか、あるいは塩基対断片の3種類の異なるファミリー(0~5000、5000~20000、>20000)を特徴とする箱ひげ図(図3-5参照)で表された。データは対応検定で統計学的に分析した。
【0028】
この結果は、ADホルマリン中で固定した組織では、より多くの5000bpより長いフラグメントが存在することから、PBF中での組織固定の方がより多くのDNAの断片化を生じることを明らかに示している。このデータは、ADホルマリン中で固定した組織が、腫瘍組織のDNA分析成功させるのにより適しており、予後の特徴をより適切に定義することができることを示している。
【0029】
参考文献
【表1】

図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
【国際調査報告】