(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】広範な治療限界を有する効率的な遺伝子送達ツール
(51)【国際特許分類】
C07J 63/00 20060101AFI20230215BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230215BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20230215BHJP
A61K 36/36 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
C07J63/00 CSP
A61K47/26
C12N15/87 Z
A61K36/36
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537736
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(85)【翻訳文提出日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2020086781
(87)【国際公開番号】W WO2021122998
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518294476
【氏名又は名称】フライエ ウニヴェルジテート ベルリン
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【氏名又は名称】中田 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【氏名又は名称】笹沼 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100187469
【氏名又は名称】藤原 由子
(74)【代理人】
【識別番号】100225026
【氏名又は名称】古後 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】ザマ・ジムコ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンク・アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】ミットダンク・ハルディー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C088
4C091
【Fターム(参考)】
4C076AA95
4C076CC29
4C076CC47
4C076DD69
4C076FF31
4C076FF36
4C088AB12
4C088AC04
4C088BA10
4C088BA32
4C088CA06
4C088CA11
4C088CA14
4C091AA06
4C091EE06
4C091QQ05
4C091QQ15
4C091RR13
(57)【要約】
【課題】ペプチドや核酸などの低分子化合物を細胞に送達することができ、かつサポニンGE1741よりもさらに細胞毒性において優れた特性を有する化合物を提供する。
【解決手段】本発明は、その糖残基のうちの2つにアセチル残基を有する、新規なサポニンに関するものである。これらのサポニンは、トランスフェクション効率を高くすることができ、既に知られているサポニンと比べて細胞毒性副作用が非常に小さいという特徴を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表されるサポニン:
【化1】
(式中、R
1は、同一分子内の他のR
1残基から独立しており、Hまたはアセチル残基であり、ただし、少なくとも2つのR
1残基はアセチル残基であり;R
2は、同一分子内の他のR
2残基から独立しており、Hまたはアセチル残基であり、ただし、少なくとも2つのR
2残基はアセチル残基である)。
【請求項2】
請求項1に記載のサポニンであって、4つのアセチル残基を有することを特徴とする、サポニン。
【請求項3】
請求項2に記載のサポニンであって、それぞれの場合において、1つのアセチル残基が、対応するキノボース残基のC3およびC4位置の酸素原子に結合しており、並びに、対応するグルコース残基のC4およびC6位置の酸素原子に結合していることを特徴とする、サポニン。
【請求項4】
核酸、脂質、ペプチドおよび/またはタンパク質の細胞へのインビトロ送達における、請求項1~3のいずれかに一項に記載のサポニンの使用。
【請求項5】
請求項4に記載の使用であって、細胞が真核生物細胞であることを特徴とする、使用。
【請求項6】
核酸、脂質、ペプチドおよび/またはタンパク質をヒトまたは動物にインビボ送達することによる治療または診断に用いるための、請求項1~3のいずれか一項に記載のサポニン。
【請求項7】
請求項4若しくは5の使用、または請求項6に用いられるサポニンであって、サポニンが、リポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群の中から選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬と組み合わせて適用されることを特徴とする、使用またはサポニン。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載のサポニンを含む、トランスフェクション組成物。
【請求項9】
請求項8に記載のトランスフェクション組成物であって、リポソームベースのトランスフェクション試薬及びポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群の中から選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬を更に含むことを特徴とする、トランスフェクション組成物。
【請求項10】
インビトロトランスフェクションのための方法であって、請求項1~3のいずれか一項に記載のサポニンの存在下で細胞を核酸と一緒にインキュベートする工程を含む、方法。
【請求項11】
請求項10に記載の方法であって、前記細胞が真核細胞であることを特徴とする、方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の方法であって、核酸がナノ粒子の一部を形成することを特徴とする、方法。
【請求項13】
請求項10~12のいずれか一項に記載の方法であって、サポニンが1μg/mL~50μg/mLの範囲内の濃度で使用されることを特徴とする、方法。
【請求項14】
請求項10~13のいずれか一項に記載の方法であって、サポニンが、リポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群の中から選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬と組み合わせて使用されることを特徴とする、方法。
【請求項15】
請求項1から3のいずれか一項に記載のサポニンをAgrostemma githago L.から単離する方法であって、以下の工程:
Agrostemma githago L.の種子を粉砕し、粉砕した種子を有機溶媒により脱脂して、脱脂粉砕種子を得る工程;
前記脱脂粉砕種子を凍結乾燥して種子粉末を得る工程;
前記種子粉末をアルコール溶媒で抽出し、種子抽出物を得る工程;
前記種子抽出物からアルコール溶媒を除去し、乾燥抽出物を得る工程;
前記乾燥抽出物を低濃度有機溶媒に溶解し、抽出物溶液を得る工程;
前記抽出物溶液を少なくとも1つのクロマトグラフィー分離工程に供して、精製されたサポニン溶液を得る工程;及び
前記精製されたサポニン溶液から溶媒を除去し、精製サポニン粉末を得る工程;
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1のプリアンブルに記載のサポニン、請求項4及び6のプリアンブルの記載に係るサポニンの用途、請求項8のプリアンブルに記載のトランスフェクション組成物、請求項10のプリアンブルに記載のインビトロトランスフェクションのための方法、及び請求項15のプリアンブルの記載に係るサポニンを分離する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この数十年、遺伝子治療の重要性がますます高まっている。遺伝子治療は、治療が困難な重篤な疾患を治癒させるために用いられる。血友病A、嚢胞性線維症、あるいは種々の癌などの遺伝性疾患が、新しく開発された遺伝子治療の治療対象になっている。現在、哺乳類の細胞内に遺伝子を送達する技術は数多く存在する。しかし、遺伝子治療を臨床に応用するためには、複数の所定の条件を満たさなければならない。最も重要な条件の1つは、効率的な遺伝子送達であり、可能であれば毒性副作用がないことが好ましい。これまでに確立された多くの遺伝子治療法は、この点で失敗している。
【0003】
多くのサポニンについては過去に何らかの記載がされている。例えば、非特許文献1(Weng, Alexander, et al. "A simple method for isolation of Gypsophila saponins for the combined application of targeted toxins and saponins in tumor therapy." Planta medica 75 (13) (2009):1421-1422);非特許文献2(Weng, Alexander, et al. "A convenient method for saponin isolation in tumour therapy." Journal of Chromatography B 878 (7) (2010):713-718);非特許文献3(Weng, Alexander, et al. "The toxin component of targeted anti-tumor toxins determines their efficacy increase by saponins." Molecular oncology 6 (3) (2012):323-332);及び、非特許文献4(Weng, Alexander, et al. "Saponins modulate the intracellular trafficking of protein toxins." Journal of controlled release 164 (1) (2012):74-86)に言及されている。また、特定のサポニン(SO1861)が、ペプチドおよび脂質ナノ粒子の改善された細胞内送達を媒介できることが記載されている(非特許文献5(Weng, Alexander, et al. "Improved intracellular delivery of peptide- and lipid-nanoplexes by natural glycosides." Journal of Controlled Release 206 (2015): 75-90))。
【0004】
特定のトリテルペノイドサポニンは、特に遺伝子含有ナノプレックスに共添加した場合に、患者に送達される遺伝物質の量を非常に効率的に増加させることができるので、植物由来のトランスフェクションエンハンサーと表記することも可能である。サポニンベースのトランスフェクション増強は、サポフェクションと名付けられた。特に効率的なサポニンは、Saponaria(サポナリア) officinalis(オフィシナリス) L.由来のSO1861(サポフェクドシド)(非特許文献6(Sama, Simko et al. "Sapofectosid - Ensuring non-toxic and effective DNA and RNA delivery", International Journal of Pharmaceutics 534 (2017): 195-205))、及びGypsophila(ジプソフィラ) elegans(エレガンス) M. Bieb由来のGE1741(ジプソフィロシドA)(非特許文献7(Sama, Simko et al. "Plant derived triterpenes from Gypsophila elegans M.Bieb. enable non-toxic delivery of gene loaded nanoplexes", Journal of Biotechnology 284 (2018): 131-139))である。
【0005】
GE1741およびその使用は、特許文献1(国際公開第2019/011914号)にも記載されている。
【0006】
サポニン介在性のトランスフェクションについてのインビトロおよびインビボ研究では、毒性効果を伴うことなく、送達される核酸の大量増加を示した。実施されたマウスを用いての研究では、送達された、毒性リボソーム不活性化タンパク質であるサポリンをコードするDNAが、標的ナノプレックスに複合化され、腫瘍の量の大幅な減少が観察された(非特許文献8(Sama, Simko et al. "Targeted suicide gene transfections reveal promising results in nu/nu mice with aggressive neuroblastoma", Journal of Controlled Release, 275 (2018): 208-216))。
【0007】
その他のサポニンについては、以下の文献に記載されている。
・非特許文献9(Thakur, Mayank, et al. "High-speed countercurrent chromatographic recovery and off-line electrospray ionization mass spectrometry profiling of bisdesmodic saponins from Saponaria officinalis possessing synergistic toxicity enhancing properties on targeted antitumor toxins." Journal of Chromatography B 955 (2014):1-9)
・非特許文献10(Jia, Zhonghua, Kazuo Koike, and Tamotsu Nikaido."Major triterpenoid saponins from Saponaria officinalis." Journal of natural products 61 (11) (1998):1368-1373)
・非特許文献11(Haddad, Mohamed, et al. "New triterpene saponins from Acanthophyllum pachystegium".Helvetica chimica acta 87 (1) (2004):73-81)
・非特許文献12(Fu, Hongzheng et al. "Silenorubicosides A-D, Triterpenoid Saponins from Silene rubicunda." Journal of Natural Products 68 (5) (2005):754-758)
・非特許文献13(Moniuszko-Szajwaj, Barbara, et al. "Highly Polar Triterpenoid Saponins from the Roots of Saponaria officinalis L." Helvetica Chimica Acta 99 (5) (2016):347-354)
・非特許文献14(Fuchs, Hendrik, et al. "Glycosylated Triterpenoids as Endosomal Escape Enhancers in Targeted Tumor Therapies.".Biomedicines 5 (2) (2017):14)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Weng, Alexander, et al. "A simple method for isolation of Gypsophila saponins for the combined application of targeted toxins and saponins in tumor therapy." Planta medica 75 (13) (2009):1421-1422
【非特許文献2】Weng, Alexander, et al. "A convenient method for saponin isolation in tumour therapy." Journal of Chromatography B 878 (7) (2010):713-718
【非特許文献3】Weng, Alexander, et al. "The toxin component of targeted anti-tumor toxins determines their efficacy increase by saponins." Molecular oncology 6 (3) (2012):323-332
【非特許文献4】Weng, Alexander, et al. "Saponins modulate the intracellular trafficking of protein toxins." Journal of controlled release 164 (1) (2012):74-86
【非特許文献5】Weng, Alexander, et al. "Improved intracellular delivery of peptide- and lipid-nanoplexes by natural glycosides." Journal of Controlled Release 206 (2015): 75-90
【非特許文献6】Sama, Simko et al. "Sapofectosid - Ensuring non-toxic and effective DNA and RNA delivery", International Journal of Pharmaceutics 534 (2017): 195-205
【非特許文献7】Sama, Simko et al. "Plant derived triterpenes from Gypsophila elegans M.Bieb. enable non-toxic delivery of gene loaded nanoplexes", Journal of Biotechnology 284 (2018): 131-139
【非特許文献8】Sama, Simko et al. "Targeted suicide gene transfections reveal promising results in nu/nu mice with aggressive neuroblastoma", Journal of Controlled Release, 275 (2018): 208-216
【非特許文献9】Thakur, Mayank, et al. "High-speed countercurrent chromatographic recovery and off-line electrospray ionization mass spectrometry profiling of bisdesmodic saponins from Saponaria officinalis possessing synergistic toxicity enhancing properties on targeted antitumor toxins." Journal of Chromatography B 955 (2014):1-9
【非特許文献10】Jia, Zhonghua, Kazuo Koike, and Tamotsu Nikaido."Major triterpenoid saponins from Saponaria officinalis." Journal of natural products 61 (11) (1998):1368-1373
【非特許文献11】Haddad, Mohamed, et al. "New triterpene saponins from Acanthophyllum pachystegium".Helvetica chimica acta 87 (1) (2004):73-81
【非特許文献12】Fu, Hongzheng et al. "Silenorubicosides A-D, Triterpenoid Saponins from Silene rubicunda." Journal of Natural Products 68 (5) (2005):754-758
【非特許文献13】Moniuszko-Szajwaj, Barbara, et al. "Highly Polar Triterpenoid Saponins from the Roots of Saponaria officinalis L." Helvetica Chimica Acta 99 (5) (2016):347-354
【非特許文献14】Fuchs, Hendrik, et al. "Glycosylated Triterpenoids as Endosomal Escape Enhancers in Targeted Tumor Therapies.".Biomedicines 5 (2) (2017):14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、ペプチドや核酸などの低分子化合物を細胞に送達することができ、かつサポニンGE1741よりもさらに細胞毒性において優れた特性を有する化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的は、式(I)に対応するサポニンを提供することで達成される。
【化1】
【0012】
ここで、R1は、同一分子内の他のR1残基から独立しており、Hまたはアセチル残基であり、ただし、少なくとも2つのR1残基はアセチル残基である。R2は、同一分子内の他のR2残基から独立しており、Hまたはアセチル残基であり、ただし、少なくとも2つのR2残基はアセチル残基である。
【0013】
このサポニンは、一般的なサポニンのコア構造を有し、特殊な結合は有さない。むしろ、他のサポニンと異なるのは、その糖残基および/またはそのアセチル残基についてのみである。式(I)中の個々の糖残基をよりよく識別するために、式(I)中の記載において対応する略語を用いている。それぞれの略語は、以下の意味を有する。
【0014】
【0015】
式(I)に示される化合物は、GE1741のトランスフェクション効率と同程度のトランスフェクション効率を示した。しかしながら、式(I)で示される化合物の細胞毒性は、GE1741の細胞毒性よりも顕著に低かった。より詳細には、式(I)で示される化合物は、24μg/mLという高濃度においても、著しい細胞毒性作用は示さなかった。GE1741は、このような濃度下では既に細胞毒性作用を発揮していた。サポニンの細胞毒性がこのように著しく低くなることは期待できないので、これは全く予想外の驚くべき結果である。既存のサポニン類は多数存在しているため、本発明者らは、本特許請求の範囲における化合物がこのように低い細胞毒性を示すことは予想することは不可能であった。ここで、サポニン類は合成することができず、一般に、化学物質の供給業者から単純に購入することはできないことに留意すべきである。むしろ、サポニンを得るためには、植物または植物の一部から単離する必要がある。そのため、サポニンの特性を調べることは非常に難しい。
【0016】
本発明者らは、驚くべきことに、一般式(I)で示されるサポニンがAgrostemma(アグロステンマ) githago(ギサゴ) L.(コガネバナ)から単離可能であること、これが他のサポニンと同等のトランスフェクション効率を示しつつ、予想外に低い細胞毒性を示すことを見いだした。このようなサポニンがAgrostemma githago L.から抽出されることは、これまでどこにも記載されていない。
【0017】
一実施形態では、全ての糖は、そのD立体異性体の形態で存在する。
【0018】
一実施形態において、サポニンは、一般式(II)に示される立体異性体の形態で存在する。
【化2】
【0019】
一実施形態において、サポニンは、4つのアセチル基を担持し、すなわち、それぞれの場合において、R1残基の2つはアセチル残基であり、残りのR1残基は水素であり、R2残基の2つはアセチル残基で、残りのR2残基は水素である。
【0020】
一実施形態では、それぞれの場合において、1つのアセチル残基が、対応するキノボース残基のC3およびC4位の酸素原子と、対応するグルコース残基のC4およびC6位の酸素原子とに結合し、式(III)のサポニンを形成している。このサポニンは、AG1856と表記することもできる。AG1856はXyl-GlcA-Galの糖鎖を持ち、GlcAを介してキラ酸/ジプソジェニンのC-3原子と結合している。AG1856は、GE1741のような先行技術のサポニンから知られている構造モチーフ、すなわち、キラ酸/ジプソジェニンのC-28鎖に、フコース残基に接続された二重アセチル化キノボース残基が、順に直接(エステル架橋を介して)結合されている。GE1741ではフコース残基に直鎖状の糖鎖が結合しているが、AG1856ではキシロース残基とアセチル化グルコース残基を持つ分岐ラムノース残基を有している。
【化3】
【0021】
一実施形態において、上述の実施形態のサポニンは、一般式(IV)で表される立体異性体の形態で存在する。
【化4】
【0022】
一実施形態においで、3つのR
1残基はすべてアセチル残基であり、式(V)のサポニンを形成する。
【化5】
【0023】
一実施形態において、4つのR
2残基はすべてアセチル残基であり、式(VI)のサポニンを形成する。
【化6】
【0024】
一実施形態において、全てのR1残基及び全てのR2残基は、アセチル残基である。
【0025】
一態様において、本発明はまた、核酸、脂質、ペプチドおよび/またはタンパク質の細胞へのインビトロ送達における、先の説明に従ったサポニンの使用に関する。それによって、核酸のインビトロ送達は、サポニンの特に適切な使用の例である。送達される(delivered)べき適切な核酸は、プラスミドDNAまたはミニサークルDNAなどのDNA、および低分子干渉RNA(siRNA)などのRNAである。送達されるべき核酸または他の分子は、ナノプレックス(nanoplex)の形態で存在することができる。ナノプレックスは、典型的には、送達されるべき低分子を結合することが可能なペプチドまたは脂質によって生成される。したがって、核酸送達性ナノプレックスは、核酸がそれに結合される脂質または非脂質担体を備える。ナノプレックスは、ナノ粒子とも呼ばれ得る。一実施形態において、送達されるべき核酸は、ミニサークルDNAである。一実施形態において、送達されるべき分子は、ペプチドミニサークルDNA粒子である。
【0026】
一実施形態において、核酸、脂質、ペプチド及び/又はタンパク質が送達されるべき細胞は、真核細胞である。細胞として使用されるのは、ヒト細胞、動物細胞(げっ歯類細胞など)、または植物細胞が特に適切である。また、酵母細胞も使用することができる。
【0027】
一態様において、本発明は、治療または診断における先に説明したサポニンの使用に関するものである。それによって、サポニンは、ヒトまたは動物への核酸、脂質、ペプチドおよび/またはタンパク質のインビボ送達のために使用される。
【0028】
一実施形態では、動物は哺乳類、特にげっ歯類である。
【0029】
本発明者らは、一般式(I)~(VI)で示されるサポニンが、単独で使用した場合にトランスフェクション効率を向上させるだけでなく、従来からあるトランスフェクション試薬のトランスフェクション効率を向上させるのにも特に適していることを見出した。従って、このようなトランスフェクション試薬のブースターとしてサポニンを使用することができる。上述の使用には、従来からあるトランスフェクション試薬のためのブースターとしてのそのようなサポニンの使用が包含される。一実施形態では、サポニンは、リポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群の中から選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬と組み合わせて、インビボまたはインビトロで使用される。このようなトランスフェクション試薬の例を以下に列挙する。
【0030】
一態様において、本発明は、先に説明したサポニンを用いて、核酸、脂質、ペプチド及び/又はタンパク質を、それを必要とするヒト又は動物に送達する方法に関するものである。
【0031】
一態様において、本発明は、先に説明したサポニンを含むトランスフェクション組成物に関する。それにより、サポニンは、トランスフェクション増強剤として特に好適に使用することができる。
【0032】
一態様において、本発明は、従来からあるトランスフェクション試薬と、式(I)~(VI)のいずれかで示される少なくとも1つのサポニンとを含む、トランスフェクション組成物に関し、ここで残基R1およびR2は、上述した意味を有する。従来からあるトランスフェクション試薬は、2つのサブグループ、すなわちリポソームベースのトランスフェクション試薬およびポリマーベースのトランスフェクション試薬に分類することができる。リポソームベースのトランスフェクション試薬は、トリメチルアンモニウムプロパンのような極性頭部基に結合した疎水性脂肪酸鎖を有する、主にカチオン性に荷電した脂質から構成されている。ポリマーベースのトランスフェクション試薬は、ポリエチレンイミン(PEI)のような荷電した頭部基を有する有機ポリマーからなる。
【0033】
市販されている従来からあるリポソームベースのトランスフェクション試薬の例としては、METAFECTENE、TransFast、Stemfect、およびTransFectinが挙げられる。
【0034】
市販されている従来からあるポリマーベースのトランスフェクション試薬の例としては、GeneCellinや、X-tremeGene 9 DNAトランスフェクション試薬、X-tremeGene HP DNAトランスフェクション薬、X-tremeGene siRNAトランスフェクション試薬などのX-tremeGeneトランスフェクション試薬や、TransIT-X2ダイナミック・デリバリー・システム、TransIT-LT1試薬、TransIT-2020試薬、TransIT-PRO試薬、TransIT-VirusGEN試薬、TransIT-Lenti試薬、TransIT-Insect試薬、TransIT-293試薬、TransIT-BrCa試薬、TransIT-CHOトランスフェクション試薬、TransIT-HeLaMONSTERトランスフェクション試薬、TransIT-Jurkat試薬、TransIT-Keratinocyte試薬、TransIT-mRNAトランスフェクション試薬、TransIT-TKO試薬、TransIT-siQUEST試薬、TransIT-Oligo試薬などのTransITトランスフェクション試薬や、Viafectや、FuGENEや、Xfectや、TurboFectや、GenJetなどがある。
【0035】
一実施形態において、トランスフェクション試薬は、リポソームベースのトランスフェクション試薬である。
【0036】
一実施形態において、トランスフェクション試薬は、ポリマーベースのトランスフェクション試薬である。
【0037】
一実施形態において、トランスフェクション試薬は、TransITトランスフェクション試薬、X-tremeGeneトランスフェクション試薬、及びGeneCellinからなる群の中から選択される。
【0038】
一実施形態において、トランスフェクション試薬は、GeneCellinである。
【0039】
一態様において、本発明は、細胞のインビトロトランスフェクションのための方法に関するものである。この方法は、先に説明したサポニンの存在下で、核酸と共に細胞をインキュベートする工程を含む。トランスフェクションは、一過性のトランスフェクションであっても、安定トランスフェクションであってもよい。DNA及びRNAは適切な核酸であり、DNAは特に適切である。一実施形態において、送達される核酸は、ミニサークルDNAである。
【0040】
一実施形態において、細胞は、真核細胞である。細胞としては、ヒト細胞、動物細胞(げっ歯類細胞等)又は植物細胞を用いることが特に適切である。また、酵母細胞も使用することができる。
【0041】
一実施形態では、核酸は、ナノ粒子の一部を形成する。一例を挙げると、DNAナノ粒子が使用されてもよい。ペプチドミニサークルDNA粒子またはDNAに結合したペプチドを含む粒子は、さらに適切な例である。同様に、RNAナノ粒子は、トランスフェクションを実施するための適切な実体である。
【0042】
一実施形態において、サポニンは、1μg/mL~50μg/mL、特に1.5g/mL~45μg/mL、特に2μg/mL~40μg/mL、特に2.5μg/mL~35μg/mL、特に3μg/mL~30μg/mL、特に4μg/mL~25μg/mL、特に4.5μg/mL~24μg/mL、特に5μg/mL~23μg/mL、特に5.5μg/mL~20μg/mL、特に6μg/mL~15μg/mL、特に7μg/mL~10μg/mL、特に8μg/mL~9μg/mLの範囲内の濃度で使用される。
【0043】
一実施形態において、サポニンは、リポソームベースのトランスフェクション試薬及びポリマーベースのトランスフェクション試薬からなる群の中から選択される少なくとも1つのトランスフェクション試薬と組み合わせて使用される。トランスフェクション試薬の適切な例は、上に列挙している。
【0044】
一態様において、本発明は、Agrostemma githago L.から先に説明したサポニンを単離するための方法に関する。この方法は、以下に説明する工程を含んでいる。それによって、各工程は、必ずしも示された順序で実行される必要はない。むしろ、方法ステップの任意の他の実用的(sensible)な順序もまた適用され得る。
【0045】
最初の工程において、Agrostemma githago L.の種子が粉砕される。次に、粉砕された種子は、有機溶媒、例えば、石油エーテルで脱脂される。その後、粉砕され脱脂された種子を凍結乾燥させる。そうすることで、種子粉末が得られる。
【0046】
種子粉末をアルコール溶媒で抽出し、種子抽出物を得る。アルコール溶媒としては、メタノールまたは他の短鎖有機アルコール(エタノール、イソプロパノールなど)が好適である。一例を挙げると、70~100%(v/v)、特に75~95%、特に80~90%の溶媒濃度は、適切な高濃度である。アルコール溶媒としては、90%メタノールが特に適切である。アルコール溶媒を水と混和可能である場合、水を共溶媒として使用することができる。
【0047】
その後、種子抽出物からアルコール溶媒を除去し、乾燥抽出物を得る。この除去は、例えば、減圧蒸留によって行うことができる。
【0048】
この乾燥抽出物を低濃度有機溶媒に溶解し、抽出溶液を得る。「低濃度有機溶媒」という用語は、濃度が50%(v/v)未満の有機溶媒をいう。一例を挙げると、10%~50%、特に15%~45%、特に20%~40%、特に25%~30%の濃度は、低濃度有機溶媒の適切な濃度範囲である。繰り返しになるが、メタノールまたは他の短鎖有機アルコールは好適な有機溶媒である。同様に、低濃度有機溶媒を水と混和可能である場合は、水を共溶媒として使用することもできる。
【0049】
この抽出溶液は、次に少なくとも1回のクロマトグラフィー分離工程に供される。それにより、精製されたサポニン溶液が得られる。クロマトグラフィー分離は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により実施することができる。通常、精製サポニン溶液の純度を高めるために、クロマトグラフィー分離工程を2回以上行うことが望ましい。したがって、第1のクロマトグラフィー分離工程の後に得られた精製サポニン溶液を、少なくとも1回の後続のクロマトグラフィー分離工程に供することが可能である。この場合、個々のクロマトグラフィー分離工程において、互いに異なるカラムを使用することができる。
【0050】
個々のクロマトグラフィー分離工程(2つ以上のクロマトグラフィー分離工程を実施する場合)を異なる固定相および/または移動相で実施することが可能である。したがって、個々のクロマトグラフィー分離工程で使用する溶媒を、これらの工程間で変更することが可能である。
【0051】
最後に、少なくとも1つのクロマトグラフィー分離工程の後、精製されたサポニン溶液から溶媒を除去する。これは、例えば、減圧蒸留または凍結乾燥によって行うことができる。その結果、精製されたサポニン粉末が得られる。
【0052】
本明細書に開示された全ての実施形態は、任意の所望の方法で組み合わせることができる。さらに、特許請求の範囲に記載されたサポニンに関して説明された実施形態は、特許請求の範囲に記載された使用及び方法に関する説明にも適用することができ、その逆もまた可能である。同様に、説明された使用及び方法の実施形態は、任意の所望の方法で、説明された他の方法及び用途にも適用することができる。記載されたトランスフェクション組成物はまた、記載された実施形態のいずれかを利用することができる。
【0053】
本発明の態様の更なる詳細は、例示的な実施形態および添付の図面に基づいて説明される。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1A】
図1Aは、サポニンGE1741を用い、サポニン濃度を変えて細胞生存率試験を行った結果である。
【
図1B】
図1Bは、サポニンSO1861を用い、サポニン濃度を変えて細胞生存率試験を行った結果である。
【
図1C】
図1Cは、サポニンAG1856を用い、サポニン濃度を変えて細胞生存率試験を行った結果である。
【
図1D】
図1Dは、サポニン濃度24μg/mLのそれぞれ異なるサポニンを用いた場合の細胞生存率試験の結果である。
【
図2】
図2は、サポニンAG1856の濃度を変えて、インピーダンス測定による細胞生存率試験を行った結果である。
【
図3】
図3は、サポニンの濃度を変えて細胞生存率試験を行った結果を示している。
【
図4】
図4は、ペプチドに結合したDNAを含むナノプレックスへのトランスフェクションにおける、AG1856のトランスフェクション効率を示したものである。
【
図5】ペプチドに結合したDNAを含むナノプレックスへのトランスフェクションにおける、種々のサポニンのトランスフェクション効率を示している。
【
図6A】
図6Aは、AG1856を介したナノプレックス送達時の細胞生存率試験の結果を示した第1のプロットである。
【
図6B】
図6Bは、AG1856を介したナノプレックス送達時の細胞生存率試験の結果を示した第2のプロットである。
【0055】
[例示的な実施形態:Agrostemma githago L.からのサポニンAG1856の単離]
Agrostemma githago L.の種子を抽出に用いた(Agrostemmae semen、 AGRO 26/80、Gaterslebenの連邦栽培植物育種研究センター(BAZ)より入手)。粉砕後、190gの種子を、石油エーテルを用いたソックスレー抽出により一晩脱脂した。脱脂した種子粉末(177.1g)を90%メタノールを用いて3回(各回におけるメタノールの量:1L)抽出した。メタノールを減圧蒸留で蒸発させ、水相を凍結乾燥した(Christ alpha 2-4, Osterode, ドイツ)。乾燥抽出物の収量は11.5g(6%)であった。
【0056】
[サイズ排除クロマトグラフィー]
乾燥抽出物(200mg)を1mLのDMSOと1mLの50%メタノールに溶かした。この溶液を、Sephadex(登録商標)LH-20カラム(10×2000mm)を備えた中圧クロマトグラフィー(MPLC,Azura-system,Knauer,ドイツ)によるサイズ排除クロマトグラフィーに供した。溶出はメタノール/水(1:1)を用いて行った。流速は1mL/minで、検出は210nmで行った。フラクションを回収し、真空遠心分離と凍結乾燥によって乾燥させた。
【0057】
[高速液体クロマトグラフィー(HPLC)]
MPLCから選択されたフラクションを、C18カラム(Kinetex(登録商標) 5μm C18 100A, LCカラム250 × 10.0 mm)を用いたHPLC(LC-8A Shimadzu)に供した。溶媒系は,(A)アセトニトリルおよび(B)水(0.01%トリフルオロ酢酸)であった。移動相は、10分の間80~70%(B)、10~15分の間70~60%(B)、15~20分の間60~50%(B)、20~25分の間50~30%(B)、25~30分の間30~10%(B)、30~40分の間で10~80%(B)、さらに5分の間80%(B)で維持する勾配を適用(45分)した。流速は2mL/minとし、分析値は210nmと254nmで記録された。
【0058】
このサポニンの構造は、式(IV)に相当する。AG1856は4つのアセチル残基(キノボース残基のC3位とC4位に1つずつ、C4位に1つとC6位のメチル残基に1つずつの結合)を含んでいるが、予備データからアセチル残基の量と位置を表示範囲内で変えてもそれぞれのサポニンの特性を大きく変えることはないことが示唆される。
【0059】
[他のサポニンと比較したときのAG1856の特性についての試験]
マウス神経芽細胞腫細胞(Neuro2a細胞、ATTC CCL-131(商標))を、1g/LのD-グルコース、10%FBS、および安定化グルタミンを含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いて、37℃、5%CO2の条件下で培養を行った。これらの細胞を、異なるサポニンとともにインキュベートし、サポニンの細胞毒性効果を試験した。
【0060】
試験したサポニンはGE1741、SO1861、AG1856である。3つのサポニンは全て共通の構造モチーフを持つが、わずかに異なる糖残基を持つ。このことは、次の一般式(VII)とそれに続く表1で解明されている。
【化7】
【0061】
【0062】
細胞生存率の指標である細胞コンフルエントは、細胞数計算アルゴリズム(Cytosmart)を介して光学的に決定した。その結果を
図1Aから
図1Dに示す。
【0063】
図1Aは、播種後24時間のNeuro2a細胞に異なる濃度のGE1741を作用させた場合の実験結果である。GE1741の濃度が24μg/mLのときに明確な毒性作用が観察された。最初のピークは、アポトーシス細胞の膨張によるものであった。
【0064】
図1Bは、播種後24時間のNeuro2a細胞に異なる濃度のSO1861を作用させたときの実験結果を示している。SO1861の濃度が24μg/mLになると、明確な毒性作用が観察された。最初のピークは、アポトーシス細胞の膨張によるものであった。
【0065】
図1Cは、播種後24時間が経過したNeuro2a細胞に異なる濃度のAG1856を作用させたときの実験結果である。AG1856の濃度が24μg/mLでは、明確な毒性は観察されなかった。
【0066】
図1Dは、異なるサポニンであるGE1741、SO1861、AG1856をそれぞれ24μg/mLの濃度でNeuro2a細胞に作用させた場合の比較である。AG1856のみ、24μg/mLの濃度で毒性作用を示さなかった。
【0067】
ネガティブコントロールとして、それぞれのケースで緩衝液が使用された。
【0068】
[細胞インピーダンス測定]
図2は、AG1856の濃度を様々に変えて、インピーダンス測定による細胞生存率試験を行った結果を示す。iCELLigence(登録商標)装置により、付着細胞のリアルタイム細胞生存率測定として、ウェル底部のインピーダンス(交流抵抗)を測定した。8ウェルEプレートL8を2枚用いて、1ウェルあたり8000個のNeuro2a細胞を播種し、800μLの容量で24時間インキュベートした。トランスフェクションの毒性試験には、各容量の培養液を除去した後、50μLの試薬を添加した。10分ごとにインピーダンス/生存率を測定した。結果はRTCAデータ解析ソフトウェアを用いて解析・表示された。
【0069】
【0070】
【0071】
AG1856の濃度を段階的に増加させても、毒性は顕著には増加しなかった。一方、毒性の強いGE1741(濃度24μg/mL)では、毒性の強いポジティブコントロールであるピューロマイシン(濃度4μg/mL)の場合と同様に細胞増殖が阻害された。
【0072】
図3は、AG1856の濃度を様々に変えてMTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロマイド)アッセイで行った細胞生存率試験の結果である。
【0073】
MTTのホルマザン生成によるミトコンドリア活性の測定は、細胞生存率を測定する生化学的方法として機能した。AG1856(曲線9)では毒性による生存率の低下は認められなかったが、GE1741(曲線10)およびSO1861(曲線11)では同濃度において生存率の低下が観察された。
【0074】
図4は、ペプチドに結合したDNAからなるナノ粒子(PDナノプレックス)の送達におけるAG1856の特性を示している。PDナノプレックスは、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするDNAを含んでいた。これにより、対応するDNAナノ粒子とインキュベートされた細胞の蛍光を検出することで、トランスフェクション効率を非常に容易にモニターすることができた。本ケースでは、対応するインキュベーション期間が48時間となるように選択された。
【0075】
PDナノプレックスの製剤化
インテグリン受容体標的アミノ配列を持たない正電荷ポリリジンペプチド20mgをGenecust社から購入した。緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするp-EGFP-N3のベクターを入手し、DH5α-E.Coli細胞で増殖させた(1.645mg/mL)。さらなる核酸として、StemMACS(商標)eGFPmRNA(20μg)およびGFPをコードするミニサークルDNA(Gene Bank Accession: U55761)を使用した。トランスフェクションを行うために、ナノプレックスを以下のように調合した。ポリリジンペプチド(P)およびp-EGFP-N3ベクター(D)を水で希釈し(各50μL)、4:1の割合で高速ピペッティングにより十分に混合した。30分のインキュベーション工程でナノプレックスを形成させた。その後、ナノプレックス懸濁液をOptiMEMで希釈し、総量を1mLとした。市販のトランスフェクション試薬リポフェクタミン(登録商標)3000は、製造業者の記載に従って調合した。
【0076】
[サポフェクション(トリテルペン系サポニンを用いたトランスフェクション)]
Neuro2a細胞(15,000個/ウェル)を、培地400μLのウェル体積をもつ24ウェルプレートに播種し24時間インキュベートした。トランスフェクション試薬は上記のように調合し、必要ならばサポニン溶液と共に混和して使用した。培地を最終量500ngのDNA/RNAを含むトランスフェクション培地に置換した。48時間のインキュベーション期間後、トランスフェクション培地を除去し、細胞をトリプシン処理し、フローサイトメトリー(Cytoflex)のポリスチレンチューブに移した。各測定では、10,000個の細胞を取得した。トランスフェクション効率は、解析ソフトウェアCyflogicによって決定した(サンプルプロットとネガティブコントロールの蛍光の比較による)。
【0077】
AG1856においては、2μg/mLの濃度で既にゴールドスタンダードであるリポフェクタミンに匹敵する非常に優れたトランスフェクション効率が確認された。4μg/mL以上の濃度では、AG1856のトランスフェクション効率はリポフェクタミンのそれよりもさらに高くなった。
図4のデータは,平均値±標準偏差(SD)で表されている。リポフェクタミン3000はポジティブコントロールであった(N=4;p値<0.01(**),p値<0.0001(****),ns:一元配置分散分析で比較してPDと有意差がない)。
【0078】
図5は、高濃度サポニン介在性のトランスフェクションにおける、トランスフェクションの効率を示す。Neuro2a細胞は、サポニンを共添加した場合と、添加しなかった場合のそれぞれについて、上記で説明したようにGFPプラスミドを有するナノプレックスでトランスフェクトされた。サポニンGE1741、SO1861およびAG1856は、その作業濃度または24μg/mLの濃度で使用された。GE1741とSO1861の作業濃度は、無毒性である範囲の最も高い濃度を示している。AG1856では、最も低い有効濃度を示し、濃度を上げてもトランスフェクション効率の顕著な上昇は見られなかった(
図4参照)。濃度を24μg/mLに増加した場合、GE1741とSO1861ではその毒性により、効率が著しく低下したが、AG1856の場合は、むしろ効率が向上していることが確認された。リポフェクタミン3000はポジティブコントロールとして使用した。(N=3;p<0.01(**),p値<0.0001(****),ns:一元配置分散分析で比較してPDと有意差がない)。
【0079】
図6Aおよび6Bは、AG1856を介してGFP-ミニサークル-DNAまたはRIP-ミニサークル-DNAを含むナノプレックスを送達した際の細胞生存率試験である。この実験の目的は、無毒かつ高効率な遺伝子送達が可能であることを明らかにし、レポーター遺伝子だけでなく、腫瘍治療のための治療遺伝子の送達が可能であることを示すことであった。
【0080】
図6Aは、GFPミニサークルDNA、サポリンニサークルDNA、ジアンチンミニサークルDNAをトランスフェクションした際の生存率を示している。サポリンとジアンチンは細胞毒性を持つタンパク質である。トランスフェクションが成功した場合、トランスフェクションされた細胞は死滅する。
【0081】
図6Aに描かれた曲線は、以下の測定結果を表している。
【0082】
【0083】
AG1856を併用しない場合と併用した場合におけるGFPミニサークルDNAの毒性について、明確な差は観察されなかった。リボソーム不活性化タンパク質であるジアンチンおよびサポリンのナノプレックス(ジアンチンミニサークルDNAまたはサポリンミニサークルDNA)のトランスフェクションでは、AG1856を共存させた場合にのみ重篤な毒性を示した。AG1856単独では、毒性は確認できなかった。
【0084】
図6Bは、GFP-DNAをコードするミニサークルDNA(DNAプラスミドよりも小さく、分解しにくく、効率が良い)を用いたトランスフェクションをAG1856で行った場合、非常に効率的に遺伝子を送達できることを示す。フローサイトメトリー解析により、5個中4個の細胞が蛍光を発していた(n≧3)。
【0085】
さらなる実験により、AG1856はインビボおよびインビトロにおいて低毒性であることが確認された。これらの実験について、以下に説明する。
【実施例】
【0086】
[AG1856と標的抗腫瘍ナノプラスミドとの併用によるインビボでの慢性毒性試験]
(目的)
本試験は、Naval Medical Research Institute(NMRI)のnu/nuマウスを用い、ナノプラスミド(NP)とAG1856との併用投与による忍容性(tolerability)を評価するために実施された。
【0087】
(説明)
試験には、雌のNMRInu/nuマウスを使用した。動物にNP+AG1856をそれぞれ50および90μg/マウスの用量で投与し、動物の回復後に同じ用量で第2ラウンドを行った。
【0088】
(結果のまとめと考察)
本試験では、NP+AG1856の併用投与を受けたマウスに副作用が出ないことが確認された。したがって、繰り返された全ての処置は、十分に許容された。
図7に描かれた結果を参照して、体重の変化は見られなかった。
【0089】
(結論)
結論として、本治療法は、所定用量を所定スケジュールで適用することにより、今後の治療実験に十分適用可能である。マウス一匹当たり90μgを適用した場合、他のサポニンをより高用量用いた場合と比較しても、AG1856が優れた忍容性を有していることが認められる。
【0090】
[AG1856とそれとは異なる標的抗腫瘍ナノプラスミドとの併用によるインビトロでの毒性試験]
(材料および方法)
AG1856によるトランスフェクション効率の向上を評価するために、リボソーム不活性化タンパク質(RIP)を用いたトランスフェクション後の光学ベースの細胞毒性アセスメントを選択した。
【0091】
(プラスミド)
トランス遺伝子として、6-His-アグロスチン(Agrostin) RNA3 (Weise et al. 2020)および6-His-サポリン3 (Fabbrini et al. 1997)をBamHIおよびXbaI(アグロスチン)により、SalIおよびNheI切断を介してpMC.CMV-MCS- SV40polyA (BioCat GmbH, Heidelberg,ドイツ) にクローニングしてZYCY10P3S2T (Kay et al. 2010)とのミニサイクルを作製した。これに加えて、サポリン 3およびジプソフィリン(Gypsophillin) S (Kokorin et al. 2019)をNTC9385R-BGHpA-ナノプラスミドにクローニングし、上述したようにNature Technology Corporation (Lincoln, NB, USA)により合成した (Luke et al. 2011)。
【0092】
(ナノプレックス形成)
3つのウェル(96ウェルプレート)において、300ngのプラスミドDNAを25μLの水で希釈し、2,100ngのペプチドY(K16 GACYGLPHKFCG) (GeneCust, Dudelage, Luxembourg)を含む溶液25μLに混合した。30分のインキュベーション期間の後、ナノプレックスは自動的に形成された。
【0093】
(細胞培養)
マウス神経芽細胞腫細胞Neuro2A (ATCC(登録商標) CCL-131) を、10%FBSおよび1%非必須アミノ酸を添加した BioWhittaker(登録商標)Dulbecco´s Modified Eagle´s Medium (DMEM) (Lonza Group, Basel, Switzerland) で、5%CO2大気で37℃の条件で培養した。
【0094】
(トランスフェクション)
1ウェルあたり4,000細胞が、96ウェルプレートの清浄なウェルに播種され、24時間培養された。この後、新たに配合されたナノプレックス(上述)、培地(上述)、およびAG1856(5μg/mL)の混合液、またはコントロール用の水により培地交換を行った。これは、500ng/mLDNAを含むウェルあたり200μLの培地となる。ネガティブコントロールとして水を、ポジティブコントロールとして5μg/mLピューロマイシン(Carl Roth, Karlsruhe,ドイツ)を使用した。トランスフェクション後、48時間細胞を観察した。
【0095】
(生細胞撮像)
細胞の各処理の細胞毒性は、1時間ごとに各ウェルの底面の写真を撮像するカメラベースのシステムであるCytoSMART(登録商標)Omniによって測定された。CytoSMART(登録商標)Omniのソフトウェアは、底面に付着している生細胞によって形成される細胞密集度(confluence)を計算した。これにより、72時間の間、細胞の成長をモニタリングすることができた。
【0096】
(結果と考察)
細胞密集度値は、グループ間の比較可能性を高めるため、介入のある時点で正規化した(Normalized Cell Index、NCI)。介入後、AG1856ではなくナノプレックスで処理した全てのウェルは、増殖の阻害の徴候を示さなかった。これらはネガティブコントロール群と同様の挙動を示し、部分的にはより良好な増殖さえも示した。AG1856のみで処理した細胞は、ネガティブコントロール群よりも12%増殖が劣っていたが、ナノプレックスとAG1856を併用した群の細胞毒性は、より大きかった。細胞は、36時間を経過した後は、それ以上の増殖を示さなかった。これは、36時間を経過した後にRIPが形成されてタンパク質の生合成が阻害され、それにより細胞障害性効果が得られたと考えられるため、トランスフェクションに成功したことが示唆される。ポジティブコントロールもほぼ同様の挙動を示したが、細胞賦活効果が観察されるまでのラグ期間は見られなかった。その理由は、ピューロマイシンを形成するまでもなく、瞬時に細胞の成長を阻害することができたからである。
【0097】
図8は、詳細な結果、すなわち、介入時点(t=24h)で正規化した細胞密集度を示している。曲線は、以下のコンストラクトで処理した後の細胞密集度を表す。
【0098】
【0099】
RIP-ナノプレックスとAG1856で処理したすべてのグループは、細胞増殖が強く停滞したが、ナノプレックスのみで処理しAG1856を用いなかったグループへの介入は、細胞増殖に影響を与えなかった。
【0100】
(結論)
AG1856は、RIPをコードするナノプレックスの細胞毒性効果において極めて重要であった。このトランスフェクション増強剤がなければ、細胞毒性効果は観察されなかった。
【0101】
(毒性試験に関する参照文献)
M.S. Fabbrini, E. Rappocciolo, D. Carpani, et al., Characterization of a Saporin isoform with lower ribosome-inhibiting activity, The Biochemical journal, 322 (Pt 3) (1997) 719-727
M.A. Kay, C.-Y.He und Z.-Y.Chen, A robust system for production of minicircle DNA vectors, Nature Biotechnology, 28 (2010) 1287-1289
A.Kokorin, C. Weise, S. Sama, et al., A new type 1 ribosome-inactivating protein from seeds of Gypsophila elegans M.Bieb, Phytochemistry, 157 (2019) 121-127
J.M. Luke, J. M. Vincent, S. X. Du, et al., Improved antibiotic-free plasmid vector design by incorporation of transient expression enhancers, Gene Therapy, 18 (2011) 334-343
C.Weise, A. Schrot, L. T. D. Wuerger, et al., An unusual type I ribosome-inactivating protein from Agrostemma githago L, Scientific Reports, 10 (2020) 15377
【国際調査報告】