(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するための方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
C25D 21/20 20060101AFI20230215BHJP
C25D 3/56 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
C25D21/20
C25D3/56
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537819
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-07-08
(86)【国際出願番号】 EP2020086976
(87)【国際公開番号】W WO2021123129
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテック ドイチュラント ゲー・エム・ベー・ハー ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Erasmusstrasse 20, D-10553 Berlin, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】シュテフェン レオンハート
(72)【発明者】
【氏名】トーマス フレーゼ
【テーマコード(参考)】
4K023
【Fターム(参考)】
4K023AB14
4K023AB28
4K023CB11
4K023DA04
4K023DA06
4K023DA08
4K023EA01
(57)【要約】
本発明は、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積する方法であって、以下の段階:
(a) 基材を準備する段階、
(b) カソード液としての亜鉛ニッケル水性堆積浴を堆積区画に準備する段階であって、ここで、
・ 前記堆積区画は少なくとも1つのアノードをアノード液と共に含み、且つ
・ 前記アノード液はカソード液から少なくとも1つの膜によって分離されており、且つ、
前記カソード液は、
(i) ニッケルイオン、
(ii) ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、および
(iii) 亜鉛イオン
を含む、前記段階、
(c) 前記堆積区画において前記基材を前記カソード液と接触させて、亜鉛ニッケル合金が前記基材上に電解堆積されることにより、亜鉛ニッケル被覆された基材を得る段階であって、ここで、段階(c)の後に前記カソード液中のニッケルイオンは段階(c)の前よりも低い濃度を有する、前記段階、
(d) 前記亜鉛ニッケル被覆された基材を、水を含むリンス区画においてリンスして、リンスされた亜鉛ニッケル被覆された基材およびリンス水を得る段階であって、ここで、前記リンス水は前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤の一部と、前記ニッケルイオンの一部とを含む、前記段階
を含み、
(i) 前記リンス水の少なくとも一部および/または前記カソード液の少なくとも一部を第1の処理区画で処理して、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤およびニッケルイオンから水を分離し、
(ii) 水から分離された前記少なくとも1つの錯化剤の少なくとも一部をカソード液に返送し、且つ
(iii) ニッケルイオン源を前記カソード液に追加するが、ただし前記ニッケルイオン源は前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤またはニッケルイオンのための他の錯化剤を含まないこと
を特徴とする、前記方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積する方法であって、以下の段階:
(a) 基材を準備する段階、
(b) カソード液としての亜鉛ニッケル水性堆積浴を堆積区画に準備する段階であって、ここで、
・ 前記堆積区画は少なくとも1つのアノードをアノード液と共に含み、且つ
・ 前記アノード液はカソード液から少なくとも1つの膜によって分離されており、且つ、
前記カソード液は、
(i) ニッケルイオン、
(ii) ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、および
(iii) 亜鉛イオン
を含む、前記段階、
(c) 前記堆積区画において前記基材を前記カソード液と接触させて、亜鉛ニッケル合金が前記基材上に電解堆積されることにより、亜鉛ニッケル被覆された基材を得る段階であって、ここで、段階(c)の後に前記カソード液中のニッケルイオンは段階(c)の前よりも低い濃度を有する前記段階、
(d) 前記亜鉛ニッケル被覆された基材を、水を含むリンス区画においてリンスして、リンスされた亜鉛ニッケル被覆された基材およびリンス水を得る段階であって、ここで、前記リンス水は前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤の一部と、前記ニッケルイオンの一部とを含む、前記段階
を含み、
(i) 前記リンス水の少なくとも一部および/または前記カソード液の少なくとも一部を第1の処理区画で処理して、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤およびニッケルイオンから水を分離し、
(ii) 水から分離された前記少なくとも1つの錯化剤の少なくとも一部をカソード液に返送し、且つ
(iii) ニッケルイオン源を前記カソード液に、好ましくは直接的または間接的に追加するが、ただし前記ニッケルイオン源は前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤またはニッケルイオンのための他の錯化剤を含まないこと
を特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤が、前記少なくとも1つのアノードと接触していない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ニッケルイオン源が、水と、そこに溶解されたニッケル塩とを含む水溶液である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ニッケルイオン源が、テトラエチレンペンタミンを本質的に含まないか、または含まない、好ましくはジアミンを本質的に含まないか、または含まない、最も好ましくはアミンを本質的に含まないか、または含まない、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記カソード液中で、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤が、アミン、好ましくはジアミン、最も好ましくはテトラエチレンペンタミンを含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
段階(c)に先立ち、段階(a)が、
(a-1) 水を含む予備リンス区画において基材を予備リンスして、予備リンスされた基材および予備リンス水を得る段階
を含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つのアノードが、0.5mm~5.0mm、好ましくは0.75mm~4mm、より好ましくは1.0mm~3.0mmの範囲の、前記少なくとも1つの膜までの距離を有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の処理区画が、蒸発器、好ましくは真空蒸発器を含む、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の処理区画において得られる分離された水の少なくとも一部を、予備リンス区画および/またはリンス区画に返送する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
(e) 第2の処理区画においてカソード液の少なくとも一部を処理して、溶解されたアニオンを、好ましくは析出および/またはイオン交換によって、最も好ましくは析出によって前記カソード液から分離する段階
を含む、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記析出が-5℃~11.0℃の範囲、好ましくは0.5℃~10.0℃の範囲、より好ましくは1.0℃~8.0℃の範囲、さらにより好ましくは1.5℃~6℃の範囲、最も好ましくは2.0℃~4.0℃の範囲の温度で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶解されたアニオンが少なくとも硫酸アニオンを含み、且つ好ましくは、硫酸アニオンが析出された硫酸ナトリウムによって分離される、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記カソード液中で、亜鉛イオンがヒドロキソ錯体として存在する、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の処理区画において得られた分離された水の少なくとも一部が処分され、その処分された水は、処分された水の全体積に対して0mg/L~1.0mg/L、好ましくは0mg/L~0.5mg/L、さらにより好ましくは0.01mg/L~0.11mg/L、および最も好ましくは0.01mg/L~0.1mg/Lの濃度範囲でニッケルイオンを含む、請求項1から13までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するためのシステム(1)であって、
(I) 任意に、前記基材を予備リンスするための予備リンス区画(2)、
(II) カソード液(3-1)中で亜鉛ニッケル合金を前記基材上に電解堆積して亜鉛ニッケル被覆された基材を得るための堆積区画(3)であって、少なくとも1つの膜を備えた少なくとも1つのアノード(3-2)を含む、前記堆積区画(3)、
(III) 前記亜鉛ニッケル被覆された基材をリンスし、リンスされた亜鉛ニッケル被覆された基材とリンス水とを得るリンス区画(4)、
(IV) 前記リンス水および前記カソード液(3-1)の一部を処理して、ニッケルイオン、およびニッケルイオンのための錯化剤から水を分離するための第1の処理区画(5)、および
(V) 任意に、前記カソード液を処理して、溶解されたアニオンを前記カソード液から分離するための第2の処理区画(8)
を含み、
前記第1の処理区画(5)は、
・ 分離された水が前記予備リンス区画(2)および/または前記リンス区画(4)に返送され、且つ
・ 分離されたニッケルイオン、および分離されたニッケルイオンのための錯化剤が前記堆積区画(3)に、好ましくは混合区画(6)を介して返送される
ように適合されている、前記システム(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1の態様によれば、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するための方法、特に亜鉛ニッケル合金を基材上に電解堆積するための方法に関する。
【0002】
第2の態様によれば、本発明はさらに、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するためのシステム、特に亜鉛ニッケル合金を基材上に電解堆積するためのシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
典型的には基材と称される他の金属または金属被覆プラスチック上での、コーティングと称されることもある金属合金の電解堆積は、そのような基材の耐食性を高めるための充分に確立した技術である。前記堆積は通常、アノード、およびカソードである基材を使用し、それぞれの電解質において電流を印加して行われる。
【0004】
場合によっては、半透膜によって電解質を、カソード空間における電解質であるカソード液を含むカソード液区画と、アノード空間における電解質であるアノード液を含むアノード液区画とに分けることが有益である。アノード液はカソード液とは異なることが多い。電位の印加によって、電流がアノード液を介して前記の膜を通ってカソード液へと流れて、基材上の電解堆積を開始する。
【0005】
米国特許出願公開第2011/031127号明細書(US 2011/031127 A1)、Hillebrandは、アノードおよびカソードを有する、亜鉛ニッケルコーティングをめっきするためのそのようなアルカリ電気めっき浴において、前記アノードがアルカリ性電解質からイオン交換膜によって分離されることを開示している。
【0006】
米国特許出願公開第2013/0264215号明細書(US 2013/0264215 A1)、Umicoreは、カソード液中への単純な浸漬の結果として電解質コーティングを堆積するための電気めっきセルにおける使用のために適するように構成されるアノードシステムにおいて、カソード液中への浸漬後にそのカソード液が、カチオンまたはアニオンに対して透過性である膨潤ポリマー膜によってアノードから分離され、且つ前記ポリマー膜はアノードと直接接触しており且つカソードとは直接接触しておらず、その際、前記膜は、電解質透過性のホルダおよび圧締器具によって、多層構造によってアノード上に固定されており、それにより前記膜と前記アノードとの良好な接触が確実になることを開示している。
【0007】
独国実用新案公開第202015002289号明細書(DE 20 2015 002 289 U1)は、ガルバニックシステムにおける電解堆積のためのアルカリ性の亜鉛および亜鉛合金電解質中でアノードとして使用するためのアニオンおよびカチオン交換膜を有する電解透析セルを開示している。
【0008】
欧州特許出願公開第1533399号明細書(EP 1 533 399 A2)は、廃水が低減されたアルカリ性亜鉛ニッケルめっきのための方法に関する。
【0009】
典型的には、亜鉛ニッケル堆積浴は、複数の異なる基材上に亜鉛ニッケル合金を効率的に堆積させるために、長期、例えば数週間またはさらには数ヶ月の間、連続的に使用されることが多い。そのような長期の間、亜鉛ニッケル堆積浴を使用する場合、典型的には望ましくない化合物(特に有機化合物、例えばシアン化物を含む錯化剤の分解生成物)が経時的に亜鉛ニッケル堆積浴中に蓄積し始める。これは特定の時間後に堆積プロセスを著しく損なうことが多く、且つ最終的には亜鉛ニッケル電解堆積浴を少なくとも部分的に交換する必要性をみちびきかねない。多くの場合、これは堆積浴の少なくとも一部を廃水として(例えば引き抜くことによって)定常的に除去することによって防がれる。
【0010】
しかしながら、ニッケルイオンおよび多くの場合はシアン化物が含まれるので、廃水を処分する前に徹底的な廃水処理が必要とされる。従って、特に環境の観点から、既存の堆積方法をさらに改善することが求められ続けている。特にニッケルイオンの観点から、法定の制限が世界的に厳重になっており、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するためのより持続可能な方法であって、より少ない廃水しかもたらさない、または廃水をもたらさない、または少なくとも危険な金属イオンでの汚染がより少ない方法が緊急に必要とされている。他方で、そのような方法が経済的に稼働されることができ、且つ今までに知られている腐食の保護を損なわないことは、依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/031127号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0264215号明細書
【特許文献3】独国実用新案公開第202015002289号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第1533399号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の課題は、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するための非常に環境に優しい方法およびシステムであって、廃水を生成しないか、または少なくとも危険な金属イオン、例えばニッケルイオンおよびシアン化物イオンでの汚染を最小化すると共に、長期にわたって経済的に稼働され得る前記方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の概要
上述の課題は、第1の態様によれば、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積する方法であって、以下の段階:
(a) 基材を準備する段階、
(b) カソード液としての亜鉛ニッケル水性堆積浴を堆積区画に準備する段階であって、ここで、
・ 前記堆積区画は少なくとも1つのアノードをアノード液と共に含み、且つ
・ 前記アノード液はカソード液から少なくとも1つの膜によって分離されており、且つ、
前記カソード液は、
(i) ニッケルイオン、
(ii) ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、および
(iii) 亜鉛イオン
を含む、前記段階、
(c) 前記堆積区画において前記基材を前記カソード液と接触させて、亜鉛ニッケル合金が前記基材上に電解堆積されることにより、亜鉛ニッケル被覆された基材を得る段階であって、ここで、段階(c)の後に前記カソード液中のニッケルイオンは段階(c)の前よりも低い濃度を有する、前記段階、
(d) 前記亜鉛ニッケル被覆された基材を、水を含むリンス区画においてリンスし、リンスされた亜鉛ニッケル被覆された基材およびリンス水を得る段階であって、ここで、前記リンス水は前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤の一部と、前記ニッケルイオンの一部とを含む、前記段階
を含み、
(i) 前記リンス水の少なくとも一部(好ましくは全て)および/または前記カソード液の少なくとも一部を第1の処理区画で処理して、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤およびニッケルイオンから水を分離し、
(ii) 水から分離された前記少なくとも1つの錯化剤の少なくとも一部(好ましくは全て)をカソード液に返送し、且つ
(iii) ニッケルイオン源を前記カソード液に追加するが、ただし前記ニッケルイオン源は前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤またはニッケルイオンのための他の錯化剤を含まないこと
を特徴とする、前記方法によって解決される。
【0014】
本発明の方法は上記で定義された課題を非常に良く解決し、なぜなら、それは理論的には無限の期間にわたって、しかし少なくとも数週間にわたって、および特に1ヶ月にわたって閉ループでの稼働を可能にするからである。その期間の間、水は実質的にニッケルおよびシアン化物イオン不含で処分される(従って、廃水と称されない)。
【0015】
閉ループでの稼働の間、好ましくは、堆積の間に基材上に堆積されるニッケルイオンおよび亜鉛イオンのみが補充されなければならない。堆積浴中、好ましくはカソード液中に含まれる他の全ての化合物はリサイクルされる。
【0016】
第1の処理区画において水から分離された少なくとも1つの錯化剤の少なくとも一部(好ましくは全て)をカソード液に(直接的または間接的に)返送することによって、カソード液中の前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤の濃度は一定の濃度で維持される。本発明の方法において定義されるとおり、錯化剤は補充しなくてよいか、ほぼ補充しなくてよい。これは、少なくとも1つの膜を備えた少なくとも1つのアノードを利用することによって達成される。そのような膜は有機化合物の、例えば錯化剤のアノード分解を防ぐ。リンス区画に引き出された錯化剤は、第1の処理区画によってリサイクルされる。これはニッケルイオンが錯化剤不含で補充されることを可能にする。
【0017】
特に、亜鉛ニッケル水性堆積浴、好ましくはカソード液を設定する際に初期濃度の前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤を準備することで充分であり、堆積方法の間に追加的な錯化剤を追加する必要はない。
【0018】
さらには、第1の処理区画においてリンス水を処理して水を分離する際、典型的には非常に純粋な水が得られ、それを再度使用することができる。
【0019】
上述の課題はさらに、第2の態様によれば、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するためのシステムであって、
(I) 任意に、前記基材を予備リンスするための予備リンス区画、
(II) カソード液中で亜鉛ニッケル合金を基材上に電解堆積して亜鉛ニッケル被覆された基材を得るための堆積区画であって、少なくとも1つの膜を備えた少なくとも1つのアノードを含む、前記堆積区画、
(III) 前記亜鉛ニッケル被覆された基材をリンスし、リンスされた亜鉛ニッケル被覆基材とリンス水とを得るリンス区画、
(IV) 前記リンス水および前記カソード液の少なくとも一部を処理して、ニッケルイオン、およびニッケルイオンのための錯化剤から水を分離するための第1の処理区画、および
(V) 任意に、前記カソード液を処理して、溶解されたアニオンを前記カソード液から分離するための第2の処理区画
を含み、
前記第1の処理区画は、
・ 分離された水が前記予備リンス区画および/または前記リンス区画に返送され、且つ
・ 分離されたニッケルイオン、および分離されたニッケルイオンのための錯化剤が前記堆積区画に、好ましくは混合区画を介して返送される
ように適合されている、前記システムによって解決される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するための、好ましくは本発明の方法を行うための、システムの模式図を示す。前記システムは様々な区画を含む。その大半は互いに流体接続されている。さらなる詳細は本文中の下記「実施例」の節に記載される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
本発明に関し、「少なくとも1つ」、「1つ以上」、および/または「1つまたは複数の」との用語は、「1つ、2つ、3つ、または3つより多く」を示す(且つそれと交換できる)。
【0022】
本発明に関し、アノード液は典型的には少なくとも1つのアノードと直接接触している電解質であり、その際、カソード液は電解質、または少なくともそのカソード液が堆積区画に位置している時間の間、カソード、つまり基材と直接接触している電解質の少なくとも一部である。
【0023】
既に上述したとおり、本発明の方法で達成される主な利点は、少なくとも1つの膜を備えたアノードに起因して、分解生成物が形成されないことである。これは好ましくは少なくとも1つのアノードおよび少なくとも1つの膜が、カソード液から分離されるアノード液を形成するために適合されており、且つカソード液とアノード液との間のイオンの選択的な透過が前記少なくとも1つの膜を通じてのみ可能であることを意味する。前記少なくとも1つの膜は、少なくとも1つの錯化剤が前記膜を(カソード液からアノード液へと)通過することを可能にしないように適合されている。これは、初期濃度の前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤を定常的に再循環させる前記の閉ループでの稼働を可能にする。最も好ましくは、前記少なくとも1つの膜は、(アノード液中で形成された)水素イオンのカソード液への透過のみを可能にする。
【0024】
従って、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤が前記少なくとも1つのアノードと接触しておらず、最も好ましくは前記少なくとも1つのアノードのいずれとも接触していない本発明の方法が好ましい。
【0025】
さらには、カソード液が、ニッケルイオンの少なくとも1ターンオーバーの間、より好ましくはニッケルイオンの少なくとも2ターンオーバーの間、さらにより好ましくはニッケルイオンの少なくとも3ターンオーバーの間、最も好ましくはカソード液の全寿命の間、初期濃度の前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤のみを含む本発明の方法が好ましい。
【0026】
前記の少なくとも1つの膜は、好ましくは、アノード液とカソード液との間のプロトンの拡散のみ可能にし、それはアノード液とカソード液との間の電荷の効率的な分布を確実にする。
【0027】
本発明の方法の間、水は典型的にはカソード液に、例えばニッケルイオンを補充するためのニッケルイオン源によって導入される。しかしながら、前記第1の処理区画において、過剰な水が分離され、引き続き、基本的に一定の体積のカソード液が経時的に維持されるように本発明の方法から除去される。そのような過剰な水が本発明の方法において使用され得ない場合、それは好ましくは容易に処分され、なぜなら、それは本質的にニッケルイオン不含であり、且つ好ましくは亜鉛イオンも不含であり、本質的に錯化剤が存在しないからである。
【0028】
要約すると、本発明の方法は経済的で持続可能な、長期にわたる、例えば数週間またはさらには数ヶ月間の連続稼働を可能にする。長期の間、ニッケル汚染された廃水は生成されず、且つ価値のある金属イオン並びに錯化剤は引き出しによって失われない。基本的に、堆積されたニッケルおよび亜鉛イオンの量だけが、それぞれのニッケルおよび亜鉛イオン源によって補充されなければならない。
【0029】
本発明の方法に関し、最も好ましくはリンス水の少なくとも一部(好ましくは全て)およびカソード液の少なくとも一部を前記第1の処理区画で処理して、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤およびニッケルイオンから水を分離する。カソード液の一部も(前記リンス水に加えて、好ましくはリンス水の全てに加えて)処理することで、カソード液の基本的に一定の体積を維持することが可能になる。
【0030】
ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤およびニッケルイオンを水から分離することによって、そのようにリサイクルされた錯化剤およびニッケルイオンは、それらがカソード液へと返送される前に所望の濃度を有する。
【0031】
水から分離された前記錯化剤が、濃縮された水溶液としてカソード液に返送される本発明の方法が好ましい。より好ましくは、水から分離された前記錯化剤が、濃縮された水溶液としてカソード液に直接的または間接的に返送され、最も好ましくは水から分離された前記錯化剤が、濃縮された水溶液としてカソード液に混合ユニットを介して間接的に返送される。
【0032】
前記混合ユニットは、好ましくは、分離された錯化剤と、例えばニッケルイオン源および/または亜鉛イオン源とを混合するために使用され、最も好ましくは前記混合ユニットは、カソード液を補充するために、前記堆積区画へ移送する準備ができている新たに混合された亜鉛ニッケル水性堆積浴をもたらす。
【0033】
錯化剤を返送し、それによって錯化剤の基本的に一定の濃度を維持することによって、カソード液中でニッケルイオンの定常的に一定の安定化が達成され、それはカソード液の良好な安定性をもたらす。前記錯化剤をカソード液に混合ユニットを介して間接的に返送する際、前記錯化剤は好ましくは、ニッケルイオン源から混合ユニットへと新たに導入されたニッケルイオンを錯化するために使用される(
図1参照)。
【0034】
従って、ニッケルイオン源が直接的または間接的に、好ましくは混合ユニットを介して間接的に(好ましくは上述のように)、カソード液に追加される本発明の方法が好ましい。
【0035】
亜鉛イオン源が直接的または間接的に、好ましくは混合ユニットを介して間接的に(好ましくは上述のように)、カソード液に追加される本発明の方法が好ましい。より好ましくは、亜鉛イオンは金属亜鉛を水酸化ナトリウム中で溶解して、亜鉛ヒドロキソ錯体を得ることによって得られ、それはカソード液中での亜鉛イオンの効率的な安定化を可能にする。
【0036】
ニッケルおよび亜鉛イオン源をカソード液に追加することによって、ニッケルおよび亜鉛イオンが補充される。好ましくは、ニッケルおよび亜鉛イオン源は混合ユニットを介して間接的に追加され、前記堆積区画へ移送する前に徹底的に混合された組成物が準備される。
【0037】
アノード液が水、好ましくは硫酸を含む水、最も好ましくは5体積%~40体積%の硫酸を含む水である本発明の方法が好ましい。
【0038】
カソード液が、そのカソード液の全体積に対して50体積%を上回る水を含む、より好ましくは75体積%以上の水を含む、さらにより好ましくは85体積%以上の水を含む、もっと好ましくは92体積%以上の水を含む本発明の方法が好ましい。好ましくは、水はカソード液中の唯一の溶剤である。
【0039】
ニッケルイオン源が、水と、そこに溶解されたニッケル塩とを含む水溶液である本発明の方法が好ましい。前記ニッケル塩が無機塩である本発明の方法が好ましい。これは好ましくは、前記ニッケル塩がカルボン酸アニオンを含まず、より好ましくは有機酸アニオンを含まず、最も好ましくは有機アニオンを含まないことを意味する。
【0040】
有機アニオン、特にカルボン酸アニオンを除外することによって、経時的にカソード液中で不利になり得る有機アニオンの蓄積を防ぐことができる。さらには、それにより、ニッケルイオンのための潜在的な錯化剤は基本的に除外される。
【0041】
前記ニッケル塩が硫酸ニッケル、好ましくは硫酸ニッケル六水和物を含む本発明の方法が好ましい。
【0042】
前記ニッケル塩が塩化ニッケルを含まない本発明の方法が好ましい。塩化ニッケルを除外することによって、カソード液中での塩化物イオンの濃度を最小化できるか、または最も好ましくはなくすことすらでき、それにより、本発明の方法の間に過剰量の塩化物イオンをカソード液から除去する必要性(それは典型的には塩化物塩の高い可溶性に起因して困難である)がなくなる。
【0043】
前記ニッケル塩が硝酸ニッケルを含まない本発明の方法が好ましい。硝酸ニッケルを除外することにより、カソード液中での硝酸イオンの濃縮が防がれる。多くの場合、硝酸塩は電解質の堆積全体を妨害し、非常に望ましくない。
【0044】
前記ニッケルイオン源は、最も好ましくは水と、そこに溶解された硫酸ニッケル、好ましくは硫酸ニッケル六水和物とを含む水溶液である。そのような好ましいニッケルイオン源は、ニッケルイオンを補充するために非常に良く適している。硫酸アニオンの蓄積に関しては、以下の本文を参照のこと。
【0045】
前記ニッケルイオン源において、ニッケルイオンが、前記ニッケルイオン源の全体積に対して70g/L~140g/L、好ましくは80g/L~120g/L、より好ましくは90g/L~110g/L、さらにより好ましくは95g/L~105g/Lの範囲の濃度を有する本発明の方法が好ましい。
【0046】
上述のとおり、前記ニッケルイオン源は前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、またはニッケルイオンのための任意の他の錯化剤を含まない。これは、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤がニッケルイオン源によって補充されないことを意味する。最も好ましくは、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤は全く補充されない。さらには、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤とは異なる錯化剤、例えば最初に亜鉛ニッケル水性堆積浴を設定するために使用される錯化剤もカソード液に追加されない。従って、前記カソード液がニッケルイオンのための錯化剤を1つだけ含む(従って2つ以上の錯化剤の混合物ではない)本発明の方法が好ましい。これは、長期にわたってカソード液中での錯化剤の総量を監視するための助けになる。
【0047】
前記ニッケルイオン源がテトラエチレンペンタミンを本質的に含まないか、または含まない、好ましくはジアミンを本質的に含まないか、または含まない、最も好ましくはアミンを本質的に含まないか、または含まない本発明の方法が好ましい。これが最も好ましく、なぜなら、そのような化合物は典型的には、亜鉛ニッケル水性堆積浴中でニッケルイオンのための錯化剤として使用されるからである(錯化剤についてのさらなる詳細は以下の本文を参照のこと)。従って、特にそのような化合物はニッケルイオン源において、それらの蓄積を防ぐために望ましくない。
【0048】
前記ニッケルイオン源が1つ以上、好ましくは2つの第一級アミン基、および1つ以上の第二級アミン基を有するアミンを本質的に含まないか、または含まない本発明の方法が好ましい。
【0049】
本発明の方法において、カソード液はニッケルイオンのための少なくとも1つの(好ましくは1つの)錯化剤を含む。
【0050】
カソード液中で、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤がキレート錯化剤を含み、好ましくはキレート錯化剤が前記カソード液中でニッケルイオンのための唯一の錯化剤である本発明の方法が好ましい。キレート錯化剤を使用することによって、カソード液中でのニッケルイオンの効率的な安定化が確実になる。特に、前記少なくとも1つの錯化剤は、亜鉛ニッケル水性堆積浴を最初に設定する際に1度だけもたらされなければならない一方で、後から追加的な錯化剤を追加する必要はない。
【0051】
カソード液中で、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤がアミン、好ましくはジアミン、最も好ましくはテトラエチレンペンタミンを含む、本発明の方法が好ましい。それぞれニッケルイオンのための錯化剤としてのアミン、ジアミンおよびテトラエチレンペンタミンは、特にアルカリ性のpHで、前記カソード液中でのニッケルイオンの優れた安定化を可能にする。
【0052】
アミン、好ましくはジアミン、最も好ましくはテトラエチレンペンタミンがカソード液中でニッケルイオンのための唯一の錯化剤である本発明の方法が好ましい。
【0053】
前記ジアミンが、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、およびテトラエチレンペンタミンからなる群から選択される本発明の方法が好ましい。
【0054】
一般に、カソード液中で、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤が1つ以上、好ましくは2つの第一級アミン基、および1つ以上の第二級アミン基を有するアミンを含む本発明の方法が好ましい。
【0055】
1つ以上、好ましくは2つの第一級アミン基、および1つ以上の第二級アミン基を有するアミンが、カソード液中でニッケルイオンのための唯一の錯化剤である本発明の方法が好ましい。
【0056】
カソード液に追加されるニッケルイオン源のニッケルイオンが、アルカリ性環境、好ましくは10.0~14.0、より好ましくは11.0~13.3、さらにより好ましくは11.5~13.0、なおもさらにより好ましくは12.0~12.9、最も好ましくは12.3~12.8の範囲のpHを有する環境と接触する前には錯化されない本発明による方法が好ましい。換言すれば、カソード液に追加されるニッケルイオン源のニッケルイオンは好ましくは、アルカリ性環境、好ましくは上記で定義されたpHを有する環境、最も好ましくはカソード液である環境と接触する際に初めて錯化される。
【0057】
さらには、本文は、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積する代替的な方法であって、以下の段階:
(a) 基材を準備する段階、
(b) カソード液としてのアルカリ性の亜鉛ニッケル水性堆積浴を堆積区画に準備する段階であって、ここで、
・ 前記堆積区画は少なくとも1つのアノードをアノード液と共に含み、且つ
・ 前記アノード液はカソード液から少なくとも1つの膜によって分離されており、且つ、
前記カソード液は、
(i) ニッケルイオン、
(ii) ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、および
(iii) 亜鉛イオン
を含む、前記段階、
(c) 前記堆積区画において前記基材を前記カソード液と接触させて、亜鉛ニッケル合金が前記基材上に電解堆積されることにより、亜鉛ニッケル被覆された基材を得る段階であって、ここで、段階(c)の後に前記カソード液中のニッケルイオンは段階(c)の前よりも低い濃度を有する、前記段階、
(d) 前記亜鉛ニッケル被覆された基材を、水を含むリンス区画においてリンスして、リンスされた亜鉛ニッケル被覆された基材およびリンス水を得る段階であって、ここで、前記リンス水は前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤の一部と、前記ニッケルイオンの一部とを含む、前記段階
を含み、
(i) 前記リンス水の少なくとも一部および/または前記カソード液の少なくとも一部を第1の処理区画で処理して、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤およびニッケルイオンから水を分離し、
(ii) 水から分離された前記少なくとも1つの錯化剤の少なくとも一部をカソード液に返送し、且つ
(iii) ニッケルイオン源からニッケルイオンを前記カソード液に追加してニッケルイオンを補充し、ここで、前記カソード液に追加される前記ニッケルイオン源のニッケルイオンは、アルカリ性環境、好ましくは10.0~14.0、より好ましくは11.0~13.3、さらにより好ましくは11.5~13.0、なおもさらにより好ましくは12.0~12.9、最も好ましくは12.3~12.8の範囲のpHを有する環境と接触する前には錯化剤で錯化されないこと
を特徴とする、前記方法に関する。
【0058】
本文の全体にわたって定義される本発明の方法の特徴は(好ましい特徴なども含めて)、前記の代替的な方法にも(技術的に適用可能であれば)好ましく適用可能である。
【0059】
段階(c)に先立ち、段階(a)が、
(a-1) 水を含む予備リンス区画において基材を予備リンスして、予備リンスされた基材および予備リンス水を得る段階
を含む本発明の方法が好ましい。
【0060】
前記予備リンス区画で基材を予備リンスすることにより、基材上で可能性のある汚染が、前記基材が堆積区画に移送される前に除去される。好ましくは、前記予備リンス区画は、予備リンス溶液としての水酸化ナトリウムの水溶液を含む。
【0061】
本発明の方法において、段階(d)において、前記亜鉛ニッケル被覆された基材をリンス区画においてリンスする。
【0062】
前記リンス区画が、リンスのカスケードを形成する2~5の流体接続されたリンス副区画を含む本発明の方法が好ましい。
【0063】
そのようなリンスのカスケードは、リンスにおいて特に効率的であり、なぜなら、亜鉛ニッケル被覆された基材から濯ぎ落とされたイオンの濃度が段階的に効果的に減少するので、最も下流のリンス副区画は、リンスのカスケードの最も上流のリンス副区画に比して著しく低い濃度のイオンを含むからである。
【0064】
前記堆積区画において、少なくとも1つのアノードおよび少なくとも1つの膜が存在し、ここで、前記少なくとも1つの膜はアノード液をカソード液から分離している。最も好ましくは、前記少なくとも1つの膜は半透膜である。これは、前記少なくとも1つの膜が選択的に透過性であることを意味する。
【0065】
前記少なくとも1つの膜がカチオン交換膜である本発明の方法が好ましい。カチオン交換膜を使用することによって、カソード液からアノード液への前記少なくとも1つの錯化剤の不利な透過が効果的に防がれる。
【0066】
前記堆積区画において、前記少なくとも1つのアノードが不溶性アノード、好ましくは混合金属酸化物の不溶性アノード、最も好ましくはチタン上のインジウム/タンタル酸化物の不溶性アノードである本発明の方法が好ましい。
【0067】
前記少なくとも1つのアノードが、0.5mm~5.0mm、好ましくは0.75mm~4mm、より好ましくは1.0mm~3.0mmの範囲の前記少なくとも1つの膜までの距離を有する本発明の方法が好ましい。これは有利なことに、アノード液の体積を低く保つことを可能にし、それはアノード液からの少ない量の廃水をもたらす。
【0068】
本発明の方法において、リンス水の少なくとも一部および/またはカソード液の少なくとも一部を第1の処理区画で処理して、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤およびニッケルイオンから水を分離する。
【0069】
前記第1の処理区画が蒸発器、好ましくは真空蒸発器を含む本発明の方法が好ましい。
【0070】
前記蒸発器において、1mbar~100mbar、好ましくは5mbar~70mbar、より好ましくは10mbar~50mbar、最も好ましくは15mbar~35mbarの範囲の真空が適用される本発明の方法が好ましい。
【0071】
前記第1の処理区画において、好ましくは蒸発器において、最も好ましくは真空蒸発器において、水が18℃~50℃、好ましくは23℃~46℃、より好ましくは28℃~42℃、最も好ましくは31℃~40℃の範囲の温度で分離される本発明の方法が好ましい。
【0072】
蒸発器、好ましくは真空蒸発器を使用することによって、水の効率的な蒸発を、特に気圧を低下させることによって達成でき、それにより、水をニッケルイオンから、および前記少なくとも1つの錯化剤から効率的に分離することが可能になる。水の沸点は前記少なくとも1つの錯化剤、ニッケルおよび/または亜鉛イオンの沸点よりも著しく低いので、水の効率的な分離が達成される。
【0073】
真空蒸発器を18℃~50℃の温度で稼働させることにより、前記少なくとも1つの錯化剤の望ましくない加熱またはさらには熱分解が防がれる。
【0074】
真空蒸発器が濃縮された水溶液の密度測定に基づいて稼働および制御され、好ましくは濃縮された水溶液の密度は、その濃縮された水溶液の全体積に対して1.08kg/L~1.30kg/L、より好ましくは1.10kg/L~1.26kg/L、より好ましくは1.15kg/L~1.24kg/L、最も好ましくは1.20kg/L~1.23kg/Lの範囲である本発明の方法が好ましい。密度測定に基づく制御は、第1の処理区画、好ましくは蒸発器、最も好ましくは真空蒸発器を自動的に稼働させるために非常に良く適している。上述の密度範囲が最も好ましい。しかしながら、場合によっては、濃縮された水溶液が相分離を形成しない限り、より高い最大密度が許容される。これは例えば1.28kg/L、1.30kg/L、場合によってはさらに1.32kg/Lの最大密度を含む可能性がある。相分離は典型的には例えば硫酸塩、炭酸塩および水酸化物(例えばナトリウムおよび/またはカリウム)の総量にも依存し、それは経時的に変動する。
【0075】
上記で定義されたとおり、前記濃縮された水溶液は水性である。従って、前記濃縮された水溶液が均質である本発明の方法が好ましい。これは好ましくは、前記濃縮された水溶液が単相のみを形成し、換言すれば、前記濃縮された水溶液は好ましくは相分離を形成しないことを意味する。最も好ましくは、前記濃縮された水溶液は水相から分離した有機相を含まない。
【0076】
従って、前記濃縮された水溶液が完全に水性である本発明の方法がさらにより好ましい。
【0077】
最も好ましくは1.26kg/Lの(または上述のとおりさらに高い)上述の最大密度を超過しないことによって、好ましくは相分離が防がれる。
【0078】
前記第1の処理区画における処理の結果、非常に純粋な水および濃縮された水溶液が得られる。
【0079】
前記第1の処理区画において得られた分離された水の少なくとも一部を予備リンス区画および/またはリンス区画に返送する本発明の方法が好ましい。好ましくは、前記第1の処理区画において得られた分離された水の少なくとも一部をリンス区画に、より好ましくはリンスカスケードのリンス副区画に返送する。
【0080】
非常に純粋である分離された水を返送することによって、水がリサイクルされ且つ廃水が回避され、なぜなら、その分離された水は本質的に錯化剤、ニッケルおよび亜鉛イオン不含であるからである。従って、それは予備リンスおよびリンス区画において再使用するために非常に良く適している。そのようなループによって、比較的長期にわたって、リンスのために新たな水は好ましくは必要とされない。
【0081】
堆積区画においてカソード液が実質的に一定の体積を有する、好ましくは一定の体積を有するように、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤およびニッケルイオンから水が分離される本発明の方法が好ましい。これは特に、前記第1の処理区画においてリンス水の他にさらにカソード液の少なくとも一部が処理される場合に達成される。典型的には、リンス水から分離されたものよりも多くの水が(例えばニッケルイオン源を追加し、アノードにより形成された水素イオンによってカソード液中で形成されることによって)カソード液に導入される。
【0082】
水から分離された前記少なくとも1つの錯化剤の少なくとも一部(好ましくは全て)、および水から分離されたニッケルイオンの少なくとも一部(好ましくは全て)が、カソード液に返送され、好ましくは濃縮された水溶液としてカソード液に(好ましくは本文全体に記載されるとおり)返送される本発明の方法が好ましい。好ましくは、前記濃縮された水溶液は、直接的または間接的に、好ましくは混合ユニットを介して間接的に返送される。
【0083】
典型的には、リンス水は亜鉛イオンも含む。従って、前記リンス水が亜鉛イオンの一部を含む本発明の方法が好ましい。
【0084】
前記第1の処理区画において、ニッケルイオン、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤および亜鉛イオンから水が分離される本発明の方法が好ましい。
【0085】
ニッケルイオンと、亜鉛イオンと、前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤とが一緒にカソード液に、好ましくは濃縮された水溶液として(好ましくは本文全体に記載されるとおり)返送される本発明の方法が好ましい。
【0086】
上述のとおり、好ましいニッケルイオン源は硫酸ニッケルを含む。これは、硫酸アニオンがカソード液中に導入されることを意味し、それは典型的には経時的に蓄積する。さらには、カソード液は典型的には炭酸アニオンを形成して蓄積する傾向を有する。両方のアニオンがカソード液中で通常は良好に溶解する。特定の濃度が許容され得るが、そのようなアニオンの過剰な蓄積は防がれるべきである。従って、
(e) 第2の処理区画においてカソード液の少なくとも一部を処理して、溶解されたアニオンを、好ましくは析出および/またはイオン交換によって、最も好ましくは析出によって前記カソード液から分離する段階
を含む本発明の方法が好ましい。
【0087】
前記溶解されたアニオンが、硫酸塩、炭酸塩および/または塩化物、好ましくは少なくとも硫酸塩および炭酸塩を含む本発明の方法が好ましい。
【0088】
段階(a)~(d)に追加して段階(e)を適用することにより、カソード液中で溶解されたアニオンの濃度が著しく低減されて、過剰な蓄積が回避される。その結果、本発明の方法を極めて長期にわたって稼働することができる。好ましくは、溶解されたアニオンが、個別にまたは合計で、望ましくない濃度に達した際に段階(e)を適用する。好ましくは、段階(e)はそのようなアニオンの1つ以上をカソード液から、最も好ましくは第2の処理区画においてカソード液の少なくとも一部の温度を低下させ、それにより相応の塩の可溶性を低下させることによって、除去するための析出を含む。
【0089】
従って、好ましくは、硫酸および炭酸アニオンは、析出された硫酸アニオンおよび炭酸アニオンを含む塩によってカソード液から分離される。
【0090】
最も好ましくは、段階(e)における処理は固体の析出物を形成する。固体の析出物がさらにカソード成分を共沈させる場合は、その補充が推奨される(例えばニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤)。場合によっては、そのような共沈は不可避であるように思われる。
【0091】
前記第2の処理区画において、溶解されたアニオンがイオン交換によって分離される本発明の方法はあまり好ましくない。典型的には、イオン交換は前記の溶解されたアニオンに対する特異性が不十分である。
【0092】
前記析出が-5℃~11.0℃の範囲、好ましくは0.5℃~10.0℃の範囲、より好ましくは1.0℃~8.0℃の範囲、さらにより好ましくは1.5℃~6℃の範囲、最も好ましくは2.0℃~4.0℃の範囲の温度で行われる本発明の方法が好ましい。上述のとおり、前記第2の処理区画における温度を著しく低下させることによって、難溶性のアニオン含塩が典型的には形成され、それにより前記のアニオンをカソード液から少なくとも部分的に除去する。最も好ましくは、前記難溶性のアニオン含有塩はナトリウム塩である。代替的に好ましい温度は、-3℃~5℃、好ましくは-2.5℃~4℃、最も好ましくは-2℃~3℃の範囲である。
【0093】
従って、前記溶解されたアニオンが少なくとも硫酸アニオンを含み、且つ硫酸アニオンが好ましくは、析出された硫酸ナトリウムによって分離される本発明の方法が好ましい。
【0094】
さらには、前記溶解されたアニオンが少なくとも硫酸アニオンおよび炭酸アニオンを含み、且つ硫酸アニオンおよび炭酸アニオンが好ましくは、析出された硫酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムによってそれぞれ分離される本発明の方法が好ましい。
【0095】
ナトリウム塩が特に好ましく、なぜなら水酸化ナトリウムはカソード液のpHを維持するために好ましく使用されるからである。水素イオンがアノードにより定常的に形成される(化学的に形成された水をもたらす)ので、水酸化物が定常的に補充されるべきであり、それは著しい量のナトリウムも導入する。従って、ナトリウムは前記第2の処理区画における処理によって除去される。
【0096】
カソード液がアルカリ性であり、好ましくは10.0~14.0、より好ましくは11.0~13.3、さらにより好ましくは11.5~13.0、なおもさらにより好ましくは12.0~12.9、最も好ましくは12.3~12.8の範囲のpHを有する本発明による方法が好ましい。
【0097】
上述のとおり、カソード液中での分解生成物の形成は、少なくとも1つのアノードと、アノード液をカソード液から分離する少なくとも1つの膜に起因して基本的に回避される。これは、望ましくないシアン化物がカソード液中で基本的に形成されないことを含む。従って、カソード液がシアン化物イオンを、前記カソード液の全体積に対して0mg/L~2.5mg/L、好ましくは0mg/L~1.5mg/L、より好ましくは0mg/L~1mg/L、最も好ましくは0mg/L~0.5mg/Lの範囲で含む本発明の方法が好ましい。最も好ましくは、前記カソード液は本質的にシアン化物イオン不含、つまり0.001mg/L~0.05mg/L、さらに最も好ましくはシアン化物イオンを含まない。
【0098】
カソード液がシュウ酸イオンを、前記カソード液の全体積に対して0mg/L~2.5mg/L、好ましくは0mg/L~1.5mg/L、より好ましくは0mg/L~1mg/L、最も好ましくは0mg/L~0.5mg/Lの範囲で含む本発明の方法が好ましい。最も好ましくは、カソード液は本質的にシュウ酸イオン不含、つまり0.001mg/L~0.05mg/Lであり、さらに最も好ましくはシュウ酸イオンを含まない。シュウ酸イオンも典型的な分解生成物であり、それは本発明の方法において基本的には回避される。
【0099】
カソード液中でシアン化物イオンもシュウ酸イオンも形成されないので、それらのイオンに対処するための特定の廃水処理は不要である。
【0100】
上述のとおり、カソード液中の亜鉛イオンは亜鉛イオン源によって補充される。カソード液中で、亜鉛イオンがヒドロキソ錯体として存在する本発明の方法が好ましい。好ましくは、亜鉛イオン源は水、水酸化物イオン(好ましくは水酸化ナトリウム)および金属亜鉛を含む。前記ヒドロキソ錯体は好ましくは金属亜鉛がアルカリ条件下で溶解される場合に得られる。
【0101】
カソード液中で亜鉛イオンが前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤と錯体を形成せず、好ましくはジアミンと錯体を形成せず、より好ましくは有機錯化剤と錯体を形成しない本発明の方法が好ましい。最も好ましくは、カソード液中の亜鉛イオンはヒドロキソ錯体として非常に安定であり、亜鉛イオンと前記ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤との錯体の形成はアルカリ性条件下では観察されない。
【0102】
カソード液中で、亜鉛イオンが10g/L未満、好ましくは5.0g/L~9.0g/L、より好ましくは5.2g/L~8.5g/L、さらにより好ましくは5.4g/L~8.0g/L、なおもさらにより好ましくは5.7g/L~7.5g/L、最も好ましくは5.9g/L~7.3g/Lの範囲の濃度を有する本発明の方法が好ましい。
【0103】
カソード液中で、ニッケルイオンが2.0g/L未満、好ましくは0.5g/L~1.9g/L、より好ましくは0.6g/L~1.7g/L、さらにより好ましくは0.7g/L~1.6g/L、なおもさらにより好ましくは0.8g/L~1.5g/L、最も好ましくは0.9g/L~1.4g/Lの範囲の濃度を有する本発明の方法が好ましい。
【0104】
有利なことに、本発明の方法において、ニッケルおよび亜鉛イオンについて上記で定義された濃度は、典型的には当該技術分野において公知の方法で一般的な濃度よりも低い。ニッケルイオンおよび好ましくは亜鉛イオンは本発明の方法においてリサイクルされるので、それぞれ著しい量のニッケルおよび亜鉛イオンが無駄になることはない。
【0105】
既に上述したとおり、(非常に純粋である)過剰な水が分離され、本発明の方法から除去される。
【0106】
前記第1の処理区画において得られた分離された水の少なくとも一部が処分され、その処分された水は、処分された水の全体積に対して0mg/L~1.0mg/L、好ましくは0mg/L~0.5mg/L、さらにより好ましくは0.01mg/L~0.11mg/L、および最も好ましくは0.01mg/L~0.1mg/Lの濃度範囲でニッケルイオンを含む本発明の方法が好ましい。
【0107】
前記第1の処理区画において得られた分離された水の少なくとも一部が処分され、その処分された水は、処分された水の全体積に対して0mg/L~1.0mg/L、好ましくは0mg/L~0.5mg/L、より好ましくは0.01mg/L~0.11mg/L、および最も好ましくは0.01mg/L~0.1mg/Lの濃度範囲で亜鉛イオンを含む本発明の方法が好ましい。
【0108】
好ましくは、過剰な水が処分される前にpHの適合のみが必要とされる。
【0109】
他の場合、廃棄された水(好ましくは過剰な水)を予備リンス、つまり、段階(b)および(c)に先立ち行われるリンス段階において使用することが非常に好ましい。これは好ましくはこの水を予備リンス区画中に廃棄(または処分)することを意味する。これが最も好ましい。この場合、水は無駄にならずに、可能な限り使用される。
【0110】
廃棄された水(好ましくは過剰な水)が、段階(b)および(c)に先立つさらなる前処理段階において、より好ましくは洗浄段階において、最も好ましくは1つ以上の脱脂段階(例えば浸漬洗浄段階、電解洗浄段階など)において使用される本発明の方法も好ましい。
【0111】
廃棄された水(好ましくは過剰な水)が、1つ以上のさらなる後処理段階において、好ましくは亜鉛ニッケル被覆された基材を不動態化するための不動態化段階において使用される本発明の方法も好ましい。
【0112】
上述の用途の1つ以上において過剰な水を利用することによって、水が最適に使用され、廃水が可能な限り低減される。
【0113】
本発明は、第2の態様によれば、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するためのシステムであって、
(I) 任意に、前記基材を予備リンスするための予備リンス区画、
(II) カソード液中で亜鉛ニッケル合金を基材上に電解堆積して亜鉛ニッケル被覆された基材を得るための堆積区画であって、少なくとも1つの膜を備えた少なくとも1つのアノードを含む、前記堆積区画、
(III) 前記亜鉛ニッケル被覆された基材をリンスし、リンスされた亜鉛ニッケル被覆基材とリンス水とを得るリンス区画、
(IV) 前記リンス水および前記カソード液の一部を処理して、ニッケルイオン、およびニッケルイオンのための錯化剤から水を分離するための第1の処理区画、および
(V) 任意に、前記カソード液を処理して、溶解されたアニオンを前記カソード液から分離するための第2の処理区画
を含み、
前記第1の処理区画は、
・ 分離された水が前記予備リンス区画および/または前記リンス区画に返送され、且つ
・ 分離されたニッケルイオン、および分離されたニッケルイオンのための錯化剤が前記堆積区画に、好ましくは混合区画を介して返送される
ように適合されている、前記システムを提供する。
【0114】
本発明のシステムの(I)、(II)、(III)、(IV)および(V)に関し、本発明の方法に関して上述されたことが好ましくは同様に該当する。従って、好ましくは、本発明の方法に関して上述されたこと、好ましくは、好ましいとして記載されたことが本発明のシステムにも該当する。
【0115】
以下の限定されない例によって本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0116】
試験めっきの設定(本発明による)
本発明による試験めっきの設定において、亜鉛ニッケル合金を小さな金属部材上に堆積するために(例えばねじ、1バレルあたり約40kgの装填)、亜鉛ニッケル堆積浴を堆積区画におけるカソード液として設定する(約20.000L)。
【0117】
前記カソード液は最初に0.9g/L~1.4g/Lのニッケル(II)イオン、5.9g/L~7.3g/Lの亜鉛(II)イオン、およびニッケルイオンのためのキレート錯化剤としての追加的に少なくとも1つの第二級アミン基を有するジアミンを含む。pHは約12.5の強アルカリ性であり、水酸化ナトリウムで調整される。
【0118】
カチオン交換膜を有する、チタン上のイリジウム/タンタル酸化物の複数の不溶性アノードを利用する。各々のアノードについて、アノードとそれぞれの膜との間の距離は5mm未満である。錯化剤がアノードとは決して接触しないように、水と硫酸とを含む各々のアノード液を前記膜によってカソード液から分離する。
【0119】
前記金属部材を、堆積区画において前記カソード液と(約25℃で)接触させ、電解堆積のために1A/dm2未満の電流密度を130分~170分の間で時間を変化させて印加した。
【0120】
前記の試験めっきの設定を4ヶ月間利用し、水の消費、化合物、並びに水の処分を綿密に監視した。
【0121】
4ヶ月のプロセス期間の間、ニッケルイオンはニッケルイオン源によって補充され、該ニッケルイオン源は溶解された硫酸ニッケルを含み、ニッケルイオンのための錯化剤は有さない水溶液であり且つ約100g/Lのニッケルイオン濃度を有する。亜鉛はアルカリ性のpH条件下で溶解された金属亜鉛から補充される。アルカリ性条件での水酸化亜鉛の形成に起因して、亜鉛イオンのためのさらなる錯化剤は使用されない。
【0122】
亜鉛ニッケル合金の堆積後、金属部材を、5段階のリンスカスケードを形成する5つの流体接続されたリンス副区画を含むリンス区画において水でリンスする。リンス水の一部とカソード液の一部とを繰り返し組み合わせて、真空蒸発器(40℃、約50mbar、容量:約150L/h)に移送して、それぞれ錯化剤、ニッケルイオンおよび亜鉛イオンから水を分離する。分離された水の一部をリンスカスケードに返送する。過剰な水(ニッケルおよび亜鉛濃度0.1mg/L未満)は、処分または他の工業目的のいずれかのため、特にこの例においては予備リンス段階のために使用される。各々の場合、分離された水は200μS/cm未満の導電率を有する。ニッケルイオン、亜鉛イオンおよび錯化剤は、濃縮された水溶液として富化され(密度1.20kg/L~1.23kg/L、相分離のない完全な水性)、且つカソード液に返送される。約4ヶ月の稼働時間の間、約500L/週未満の過剰な水(<200μS/cm)が処分され、好ましくは予備リンス用になる。
【0123】
4ヶ月の稼働時間後でさえも、カソード液は分解生成物、例えばシアン化物およびシュウ酸イオンを含まない。これは、前記錯化剤が堆積区画においても真空蒸発器においても分解されていないことを確認する。これが、水を繰り返し使用することについての根拠である。
【0124】
約4ヶ月の稼働時間後、カソード液の一部を第2の処理区画(冷凍ユニット)において温度2℃~4℃または-2℃~2℃で処理して、硫酸アニオンおよび炭酸アニオンの少なくとも一部を析出させる。しかしながら、4ヶ月後であっても、カソード液中で炭酸塩および硫酸塩の臨界濃度にはまだ達していなかった。
【0125】
4ヶ月の稼働時間の間、錯化剤はカソード液に追加されなかった。それよりはむしろ、カソード液中での錯化剤の濃度は一定のままであり、測定誤差およびカソード液の堆積変動に起因して±2.5%の変動を有した。ニッケルおよび亜鉛イオンを、それらの濃度が初期の設定の範囲のままであるように補充する。さらに、処分されるニッケル汚染水は生成されなかった。
【0126】
さらに、カソード電流効率(CCE)は、比較試験めっきの設定(下記参照)におけるよりも約15%~30%高かった。
【0127】
比較試験めっきの設定(本発明によらない)
比較試験めっきの設定(本発明によらない)においては、本発明による試験めっきの設定において使用されるカソード液と基本的に同一である(体積の点でも同様の)堆積浴を設定する。しかしながら、アノードが膜によって分離されていない。従って、錯化剤がアノードで少なくとも部分的に分解されるので、ニッケルイオンと共に補充されなければならない。廃水の処分前に、リンス水(つまり廃水)を真空蒸発器に供して体積を減らすにもかかわらず、その廃水はシアン化物を含む著しい量の分解生成物を含む。これは費用がかかり且つ専門的な処分を必要とする。その(濃縮された)廃水の体積は、約1000L/週の量になり、ニッケル濃度少なくとも1g/L、亜鉛濃度少なくとも8g/l、シアン化物濃度少なくとも0.1g/L、および著しい量の錯化剤を有する。従って著しい量のニッケルおよび亜鉛が失われ、それが堆積浴に補充されなければならない。さらには、錯化剤を定期的に堆積浴に追加しなければならない。
【0128】
対照的に、本発明の方法は(本発明による例を参照)、処分されるべき水の量を減らすだけではない。処分された水はさらに、実質的にニッケルイオンおよび亜鉛イオン不含である。リンスを通じて移送されたそれらのイオンは再循環してカソード液に錯化剤と共に返送される。その結果、本発明の方法は非常に環境に優しく且つ費用効率の良い方法であり、且つ既存の方法に対して非常に改善されている。
【0129】
亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するためのシステム(本発明による)
図1において、亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するためのシステム1の模式図を示し、ここで、堆積区画3において亜鉛ニッケル水性堆積浴がカソード液3-1として備えられている。
【0130】
システム1は、任意に基材を予備リンスするための予備リンス区画2を含む。被覆されるべき基材は望ましくない汚染物で汚染されていることが多いので、予備リンス区画2において基材を例えばアルカリ性の予備リンス溶液で予備リンスすることが一般に推奨される。しかしながら、基材が既に清浄であれば、予備リンスは好ましくは省略される。
【0131】
前記システム1は、カソード液3-1中でニッケル亜鉛合金を基材上に電解堆積するための堆積区画3をさらに含む。前記堆積区画に備えられるカソード液はニッケルイオン、ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、および亜鉛イオンを含む。前記堆積区画3においては、カソード液をアノード液から分離する少なくとも1つの膜を備えた少なくとも1つのアノード3-2が備えられている。アノード液の体積は、少なくとも1つの膜を備えた少なくとも1つのアノードによって形成される空間によって定義される。
【0132】
基材、好ましくは予備リンスされた基材が堆積区画3におけるカソード液3-1中に移送されて電流が印加されると、亜鉛ニッケル合金が基材上に電解堆積されて、亜鉛ニッケル被覆された基材が得られる。
【0133】
前記システム1は、亜鉛ニッケル被覆された基材をリンスして、リンスされた亜鉛ニッケル被覆された基材およびリンス水を得るためのリンス区画4をさらに含む。亜鉛ニッケル被覆された基材をリンスすることによって、カソード液の残りを除去し、得られたリンス水はカソード液の一部を含み、それはニッケルイオン、ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、および亜鉛イオンを含む。
【0134】
リンス水をリンス区画4からリンス水ライン4-1によって、リンス水を処理するためのシステム1の第1の処理区画5へと(好ましくはポンプで)移送する。さらに、カソード液の一部を堆積区画3から第1の処理区画5へとカソード液除去ライン3-3によって(好ましくはポンプで)移送する。後者は一定の体積のカソード液を維持する必要がある。
【0135】
処理区画5は好ましくは蒸発器、より好ましくは真空蒸発器であり、それは蒸発によって水の効率的な分離を可能にする。
【0136】
分離され、好ましくは蒸発された水の少なくとも一部は、第1の処理区画5からリンス区画4へと、水返送ライン4-2によって返送される。さらには、且つ任意に、他の部分の水を予備リンス区画(図示されない)に返送する。過剰な水は水処分ライン5-2によって処分され、好ましくは他の工業目的のために使用され、なぜならこの水は非常に純粋であるからである。
【0137】
第1の処理区画5においてニッケルイオンから、ニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、および亜鉛イオンから水を分離した後、分離されたニッケルイオン、分離されたニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤、および分離された亜鉛イオンを堆積区画3に濃縮された水溶液として、直接的に、または
図1に示されるようにそれらを第1の処理区画5から任意の混合ユニット6へと分離ライン5-1によって移送することによって好ましくは間接的に返送する。
【0138】
任意の混合ユニット6は、好ましくは水とそこに溶解された硫酸ニッケルとを含む水溶液であるニッケルイオン源7-1に、および亜鉛イオン源7-2に、好ましくは本発明の方法について本文中で上述されたように流体接続されている。混合ユニット6において、補充されたニッケルイオンおよび亜鉛イオンを濃縮された水溶液と徹底的に混合した後、それらを返送ライン6-1によって堆積区画3に返送し、それによってループを閉じる。従って、ニッケルイオン、亜鉛イオン、およびニッケルイオンのための少なくとも1つの錯化剤はカソード液中で基本的に一定の濃度で維持される。
【0139】
前記システム1は、カソード液3-1を処理して、溶解されたアニオン、例えば硫酸アニオンおよび炭酸アニオンをカソード液3-1から分離するための任意の第2の処理区画8をさらに含む。システムを長期、例えば数ヶ月にわたって稼働する際、溶解されたアニオンの濃度が望ましくない限界に達するので、そのようなアニオンは少なくとも部分的に第2の処理区画において、好ましくは析出によって除去される。そのような析出されたアニオンをアニオン処分ライン8-1によって除去する。
【符号の説明】
【0140】
1 亜鉛ニッケル合金を基材上に堆積するためのシステム
2 予備リンス区画
3 堆積区画
3-1 カソード液のための空間
3-2 少なくとも1つの膜を備えた少なくとも1つのアノード
3-3 カソード液除去ライン
4 リンス区画
4-1 リンス水ライン
4-2 水返送ライン
5 第1の処理区画
5-1 分離ライン
5-2 水処分ライン
6 混合ユニット
6-1 返送ライン
7-1 ニッケルイオン源
7-2 亜鉛イオン源
8 第2の処理区画
8-1 アニオン処分ライン
【国際調査報告】