(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】グアニジノ酢酸の発酵生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20230215BHJP
C12P 13/00 20060101ALI20230215BHJP
C12N 15/54 20060101ALN20230215BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20230215BHJP
C12N 15/53 20060101ALN20230215BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P13/00
C12N15/54
C12N15/60
C12N15/53
C12N9/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537864
(86)(22)【出願日】2020-12-14
(85)【翻訳文提出日】2022-06-17
(86)【国際出願番号】 EP2020085882
(87)【国際公開番号】W WO2021122400
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フランク シュナイダー
(72)【発明者】
【氏名】フランク ヤンコヴィッチュ
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD01
4B050DD02
4B050DD11
4B050LL05
4B064AE01
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE16
4B064CE20
4B064DA11
4B064DA20
4B065AA24X
4B065AA26X
4B065AA44X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA10
4B065CA16
4B065CA43
(57)【要約】
本発明は、L-アルギニン:グリシンアミドトランスフェラーゼ、カルバモイルリン酸シンターゼ、ならびにアルギニンオペロンのargF、argGおよびargHの発現の増加によってグアニジノ酢酸(GAA)を生産することができるように形質転換された微生物、ならびにかかる微生物を用いたGAAの発酵生産方法に関する。本発明は、クレアチンの発酵生産方法にも関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルバモイルリン酸シンターゼの機能を有する酵素の活性が、野生型微生物におけるそれぞれの酵素活性と比較して増加しており、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの活性を有するタンパク質をコードする少なくとも1つの異種遺伝子を含む微生物。
【請求項2】
前記カルバモイルリン酸シンターゼの機能を有する酵素の活性の増加が、前記カルバモイルリン酸シンターゼの機能を有する酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または過剰発現によって達成される、請求項1記載の微生物。
【請求項3】
前記L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの活性が、前記L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の突然変異および/または過剰発現によって増加する、請求項1または2記載の微生物。
【請求項4】
L-アルギニンを生産する能力が前記野生型微生物の能力と比較して改善されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項5】
アルギニノコハク酸リアーゼの機能を有する酵素の活性が、前記野生型微生物におけるそれぞれの酵素活性と比較して増加している、請求項4記載の微生物。
【請求項6】
オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼの機能を有する酵素の活性が、前記野生型微生物におけるそれぞれの酵素活性と比較して増加している、請求項4または5記載の微生物。
【請求項7】
アルギニノコハク酸シンテターゼの機能を有する酵素の活性が、前記野生型微生物におけるそれぞれの酵素活性と比較して増加している、請求項4から6までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項8】
前記酵素の活性の増加が、それぞれの酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または過剰発現によって達成される、請求項4から7までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項9】
アルギニンオペロン(argCJBDFR)が過剰発現している、請求項4から8までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項10】
アルギニン応答性リプレッサータンパク質ArgRをコードするargR遺伝子が、減衰または欠失している、請求項4から8までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項11】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ、アセチルグルタミン酸キナーゼ、アセチルグルタミルリン酸レダクターゼおよびアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼをそれぞれコードするgdh、argJ、argB、argCおよび/またはargDを含む、L-オルニチンおよびL-アルギニンの生合成経路の酵素をコードする遺伝子の少なくとも1つ以上が過剰発現している、請求項4から8までまたは10のいずれか1項記載の微生物。
【請求項12】
前記L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質が、配列番号2によるアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項13】
前記L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質が、配列番号16によるアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項14】
前記L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質が、配列番号24によるアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項15】
前記L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質が、配列番号20によるアミノ酸配列と少なくとも70%同一のアミノ酸配列を含む、請求項1から11までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項16】
前記微生物がコリネバクテリウム属、腸内細菌科属またはシュードモナス属に属する、請求項1から15までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項17】
前記微生物がコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項16記載の微生物。
【請求項18】
前記微生物がエシェリキア・コリ(Escherichia coli)である、請求項16記載の微生物。
【請求項19】
前記微生物がシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)である、請求項16記載の微生物。
【請求項20】
a)請求項1から19までのいずれか1項記載の微生物を発酵培地中で培養する工程と、b)前記培地中にGAAを蓄積させてGAA含有発酵ブロスを形成する工程とを含む、グアニジノ酢酸(GAA)の発酵生産方法。
【請求項21】
前記GAA含有発酵ブロスからGAAを単離することをさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記GAA含有発酵ブロスを乾燥および/または顆粒化することをさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項23】
グアニジノ酢酸N-メチルトランスフェラーゼの活性を有する酵素をコードする遺伝子をさらに含む、請求項1から19までのいずれか1項記載の微生物。
【請求項24】
前記グアニジノ酢酸N-メチルトランスフェラーゼの活性を有する酵素をコードする遺伝子が過剰発現している、請求項23記載の微生物。
【請求項25】
a)請求項23または24記載の微生物を発酵培地中で培養する工程と、b)前記培地中にクレアチンを蓄積させてクレアチン含有発酵ブロスを形成する工程とを含む、クレアチンの発酵生産方法。
【請求項26】
前記クレアチン含有発酵ブロスからクレアチンを単離することをさらに含む、請求項25記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グアニジノ酢酸(GAA)を生産することができるように形質転換された微生物、ならびにかかる微生物を用いたGAAの発酵生産方法に関する。本発明は、クレアチンの発酵生産方法にも関する。
【0002】
GAAは、動物用飼料添加物として使用されている有機化合物である(国際公開第2005120246号/米国特許出願公開第2011257075号明細書)。GAAは、クレアチンの天然前駆体である(例えば、Humm et al., Biochem. J. (1997) 322, 771-776)。したがって、GAAの補給により生物へのクレアチンの最適な供給が可能となる。
【0003】
本発明は、産業用供給原料(例えばアンモニア、アンモニウム塩、およびグルコースまたは糖を含有する基質)を出発物質として用いた発酵プロセスによってGAAを生産する方法に関する。生体系では、GAAおよびオルニチンは、出発物質としてのアルギニンおよびグリシンからL-アルギニン:グリシン-アミジノトランスフェラーゼ(AGAT;EC 2.1.4.1)の触媒作用によって形成され、これがクレアチン生合成の第1段階である(米国特許出願公開第20060200870号明細書):
【化1】
【0004】
Guthmiller et al.(J Biol Chem. 1994 Jul 1;269(26):17556-60)は、酵素をE.コリ(E. coli)にクローニングし、異種発現させることによってラット腎臓AGATを特性評価した。Muenchhoff et al.(FEBS Journal 277 (2010) 3844-3860)は、同様に酵素をE.コリ(E. coli)にクローニングし、異種発現させることによる、原核生物に由来するAGATの最初の特性評価を報告している。Sosio et al.(Cell Chemical Biology 25, 540-549, May 17, 2018)は、ストレプトマイセス属種におけるシュードウリジマイシン(pseudouridimycin)の生合成経路を解明した。Sosio et al.は、L-アルギニン:グリシン-アミジノトランスフェラーゼ(AGAT)であるPumNによって触媒されるL-アルギニンとグリシンとの反応によるGAAおよびL-オルニチンの形成を中間反応として記載している。Humm et al.は、ヒトAGATをコードする組換え遺伝子をエシェリキア・コリ(Escherichia coli)で発現させ、AGATの活性部位残基としてシステイン-407を同定した(Biochem. J. (1997) 322, 771-776)。
【0005】
Mijts et al.(国際公開第2018079687号)は、微生物における目的物質、例えばバニリンおよびバニリン酸の生産との関連で、クレアチンがL-アルギニンおよびグリシンから生産され得ることを開示している。Mijts et al.は、これがL-アルギニン生合成酵素、グリシン生合成酵素、ならびにL-アルギニンおよびグリシンのクレアチンへの変換を触媒する酵素を用いることで達成され得ることをさらに提唱している。L-アルギニンおよびグリシンを組み合わせることで、AGAT(EC 2.1.4.1)の作用によってグアニジノ酢酸(GAA)およびオルニチンを生成することができ、S-アデノシルメチオニン(SAM)をメチル供与体として用いて、このGAAをグアニジノ酢酸N-メチルトランスフェラーゼ(GAMT、EC 2.1.1.2)の作用によってメチル化し、クレアチンを生成することができる。Mijts et al.は、ポリアミンの生産との関連で、L-アルギニン生合成酵素の例には、既知のL-オルニチン生合成酵素だけでなく、いわゆるL-オルニチンサイクルで知られる酵素、すなわちカルバモイルリン酸シンターゼ(carAB)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(argF、argI)、アルギニノコハク酸シンテターゼ(argG)、アルギニノコハク酸リアーゼ(argH)も含まれ得ると述べている(Marc et al., Eur. J. Biochem. 267, 5217-5226, 200を参照)。
【0006】
また、微生物、特に細菌においてGAA合成の出発物質の1つ、すなわちL-アルギニンの生産を増加させる幾つかのより具体的なアプローチも文献から知られている。L-アルギニン生産のためのコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)(C.グルタミカム(C. glutamicum))の代謝工学の概要が、Park et al.によって与えられる(NATURE COMMUNICATIONS | DOI: 10.1038/ncomms5618)。Park et al.は、既にL-アルギニンを生産するC.グルタミカム(C. glutamicum)株、例えばATCC 21831(Nakayama and Yoshida 1974、米国特許第3849250号明細書)のL-アルギニン生産株のランダム突然変異誘発およびスクリーニング、ならびに系全体の代謝分析に基づく段階的な合理的代謝工学が、菌株操作工程を通したL-アルギニン生産の漸増をもたらすことを提唱している。Yim et al.(J Ind Microbiol Biotechnol (2011) 38:1911-1920)は、L-アルギニン生合成経路を制御する主要リプレッサータンパク質ArgRをコードする遺伝子であるargRを、C.グルタミカム(C. glutamicum)において染色体argR遺伝子の破壊によって不活性化することで、改良されたアルギニン生産株が得られると示すことができた。Ginesy et al.(Microbial Cell Factories (2015) 14:29)は、アルギニン生産の向上のためのE.コリ(E. coli)の操作の成功を報告している。特に、Ginesy et al.は、argRリプレッサー遺伝子の欠失を提唱した。
【0007】
Kurahashi et al.(欧州特許出願公開第1057893号明細書)は、組換えDNA技術を用いて、例えば、エシェリキア属に属する微生物に由来するアセチルオルニチンデアセチラーゼ、N-アセチルグルタミン酸-γ-セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、N-アセチルグルタモキナーゼおよびアルギニノスクシナーゼの遺伝子を有するベクターDNAおよびDNAフラグメントを含む組換えDNAを保有するようにしたコリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属する微生物を用いることで、L-アルギニン生合成酵素を増強することによって微生物のL-アルギニン生産能を高める方法について報告している。Kurahashi et al.は、L-アルギニン生産の改善のために、細胞内グルタミン酸デヒドロゲナーゼ(GDH)の活性が高められ、L-アルギニン生産能を有する微生物をさらに提唱している。
【0008】
アルギニン生合成オペロンの発現を阻害する遺伝子であるargRを不活性化した遺伝子組換え株を使用する方法が、Suga et al.(米国特許第7160705号明細書)によって報告されている。特に、アルギニンオペロンを制御するargRの欠失は、アルギニン生産において重要な因子であると考えられてきた。
【0009】
コリネバクテリウムの微生物では、アルギニン生合成に関与するargCJBDFR遺伝子は、オペロンの形態で構成され、細胞内アルギニンによるフィードバック阻害を受けるため(Sakanyan et al., Microbiology, 142:9-108, 1996)、その高収率のL-アルギニン生産は制限される。
【0010】
しかしながら、Bae et al.(欧州特許出願公開第3153573号明細書)は、C.グルタミカム(C. glutamicum)におけるL-アルギニンの生産収率を増加させる試みの中で、アルギニンオペロンおよびオルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ArgF、ArgF2)の活性を高めることで、アルギニンリプレッサー(argR)を欠失させることなく、親L-アルギニン生産株と比較して高い収率でL-アルギニンを生産し得ることを発見した。
【0011】
アルギニンオペロンは、L-アルギニン生合成機構に関与する酵素をコードする遺伝子からなるオペロンであり、特に、アルギニンオペロンは、L-アルギニン生合成の周期的段階を構成する酵素をコードする遺伝子からなる。具体的には、アルギニンオペロンは、N-アセチルグルタミルリン酸レダクターゼ(ArgC)、グルタミン酸N-アセチルトランスフェラーゼ(ArgJ)、N-アセチルグルタミン酸キナーゼ(ArgB)、アセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼ(ArgD)、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ArgF)およびアルギニンリプレッサー(ArgR)からなる。これらの酵素は、L-アルギニン生合成の連続酵素反応に関与し、argRにコードされるアルギニンリプレッサーによって制御される(国際公開第2006/057450号)。
【0012】
Fan Wenchaoは、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)等の非病原性微生物の発酵によってクレアチンを生産する方法を開示している(中国特許出願公開第106065411号明細書)。この微生物は、以下の生体内変換機能を有する:L-グルタミン酸へのグルコースの変換;N-アセチル-L-グルタミン酸へのL-グルタミン酸の変換;N-アセチル-L-グルタミン酸セミアルデヒドへのN-アセチル-L-グルタミン酸の変換;N-アセチル-L-オルニチンへのN-アセチル-L-グルタミン酸セミアルデヒドの変換;L-オルニチンへのN-アセチル-L-オルニチンの変換;L-シトルリンへのL-オルニチンの変換;アルギニノコハク酸へのL-シトルリンの変換;L-アルギニンへのアルギニノコハク酸の変換;グアニジノ酢酸へのL-アルギニンの変換;最終的にクレアチンへのグアニジノ酢酸の変換。Fan Wenchaoは、微生物がN-アセチルグルタミン酸シンターゼ、N-アセチルオルニチン-δ-アミノトランスフェラーゼ、N-アセチルオルニチナーゼ、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ、アルギニノコハク酸シンテターゼ、グリシンアミジノトランスフェラーゼ(EC:2.1.4.1)およびグアニジノ酢酸N-メチルトランスフェラーゼ(EC:2.1.1.2)からなる群から選択される1つ以上の酵素を過剰発現すると提唱している。微生物は、好ましくはグリシンアミノトランスフェラーゼ(L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ)およびグアニジノ酢酸N-メチルトランスフェラーゼを過剰発現する。
【0013】
これまで、野生型形態と比較してGAAの生産を増加させるのに適した微生物、およびかかる微生物を用いたGAAのそれぞれの生産方法は報告されていない。
【0014】
したがって、本発明の根底にある課題は、グアニジノ酢酸(GAA)を生産することができるように形質転換された微生物、およびかかる微生物を用いたGAAの発酵生産方法を提供することである。
【0015】
この課題は、カルバモイルリン酸シンターゼ(EC 6.3.4.16)の機能を有する酵素の活性が、野生型微生物におけるそれぞれの酵素活性と比較して増加しており、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)の機能を有するタンパク質をコードする少なくとも1つの異種遺伝子を含む微生物によって解決される。
【0016】
異種遺伝子とは、遺伝子が本来この遺伝子を有しない宿主生物に挿入されていることを意味する。宿主への異種遺伝子の挿入は、組換えDNA技術によって行われる。組換えDNA技術を受けた微生物は、トランスジェニック、遺伝子操作または組換え体と称される。このため、本発明による微生物は組換え体である。
【0017】
カルバモイルリン酸シンターゼの機能を有する酵素の活性の増加は、カルバモイルリン酸シンターゼの機能を有する酵素をコードする遺伝子の突然変異および/または過剰発現によって達成することができる。
【0018】
L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの活性は、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の突然変異および/または過剰発現によっても増加させることができる。
【0019】
L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)の機能を有するタンパク質は、アミジノトランスフェラーゼファミリーに属する。アミジノトランスフェラーゼファミリーは、それぞれクレアチンおよびストレプトマイシンの生合成に関与する酵素である、グリシン(EC:2.1.4.1)およびイノサミン(EC:2.1.4.2)アミジノトランスフェラーゼを含む。このファミリーは、アルギニンデイミナーゼ、EC:3.5.3.6も含む。これらの酵素は、反応:アルギニン+H2O⇔シトルリン+NH3を触媒する。このファミリーには、ストレプトコッカス抗腫瘍糖タンパク質も含まれる。L-アルギニン:グリシン-アミジノトランスフェラーゼ(AGAT)活性を有する酵素またはタンパク質が、PFAMファミリー:Amidinotransf(PF02274)に属する保存ドメインを有することも記載されており(:Marchler-Bauer A et al. (2017), “CDD/SPARCLE: functional classification of proteins via subfamily domain architectures.”, Nucleic Acids Res. 45(D1):D200-D203.)、これは以下の刊行物にも記載されている:Pissowotzki K et al. , Mol Gen Genet 1991;231:113-123 (PUBMED:1661369 EPMC:1661369);D’Hooghe I et al., J Bacteriol 1997;179:7403-7409 (PUBMED:9393705 EPMC:9393705);Kanaoka M et al. , Jpn J Cancer Res 1987;78:1409-1414 (PUBMED:3123442 EPMC:3123442)。AGATの特定の例は、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)、ホモ・サピエンス(Homo sapiens)、ラットゥス・ノルウェギクス(Rattus norvegicus)、ガレオプテラス・バリエガタス(Galeopterus variegatus)およびシリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii)のものである。
【0020】
本発明による微生物は、理想的には、L-アルギニンを生産する能力が野生型微生物の能力と比較して改善されている。この特性は、天然のL-アルギニン生産株であるか、または突然変異によってL-アルギニンを生産する能力を獲得したものであってもよい微生物の選択によって達成することができる。
【0021】
L-アルギニンを生産する能力が野生型微生物の能力と比較して改善された、本発明による微生物は、アルギニノコハク酸リアーゼ(E.C. 4.3.2.1)の機能を有する酵素の活性が、野生型微生物におけるそれぞれの酵素活性と比較して増加していてもよい。
【0022】
さらに、本発明による微生物では、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(EC 2.1.3.3)の機能を有する酵素の活性が、野生型微生物におけるそれぞれの酵素活性と比較して増加していてもよい。
【0023】
本発明による微生物では、アルギニノコハク酸シンテターゼ(E.C. 6.3.4.5)の機能を有する酵素の活性も、野生型微生物におけるそれぞれの酵素活性と比較して増加していてもよい。
【0024】
微生物における酵素活性の増加は、例えば対応する内在性遺伝子の突然変異によって達成することができる。酵素活性を増加させる更なる手段は、酵素をコードするmRNAを安定化させることであり得る。
【0025】
上述の酵素の活性の増加は、それぞれの酵素をコードする遺伝子を過剰発現させることによっても達成することができる。言い換えると、この課題は、好ましくは、L-アルギニンを生産する能力が野生型生物の能力と比較して改善されており、かつ/またはカルバモイルリン酸シンターゼ(EC 6.3.4.16)の機能を有するタンパク質をコードする、少なくとも1つ以上の過剰発現された遺伝子(例えばcarA、carB)を有し、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT、例えばEC 2.1.4.1)の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子をさらに含む微生物によって解決される。
【0026】
本発明による微生物は、好ましくは、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(EC 2.1.3.3)の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子(例えばargF/argF2/argI)、アルギニノコハク酸シンテターゼ(E.C. 6.3.4.5)の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子(例えばargG)、およびアルギニノコハク酸リアーゼ(E.C. 4.3.2.1)の機能を有するタンパク質をコードする遺伝子(例えばargH)からなる群から選択される少なくとも1つ以上の過剰発現された遺伝子も含む。
【0027】
遺伝子の過剰発現は概して、遺伝子のコピー数を増加させること、および/または遺伝子を強力なプロモーターと機能的に連結すること、および/またはリボソーム結合部位を増強すること、および/または開始コドンもしくは遺伝子全体のコドン使用頻度を最適化すること、または上述の全ての方法の選択を含む組合せによって達成される。
【0028】
本発明との関連で、L-アルギニンを生産する能力が改善された微生物とは、自身の必要量を上回るL-アルギニンを生産する微生物を指す。かかるL-アルギニン生産微生物の例は、例えばC.グルタミカム(C. glutamicum)ATCC 21831、またはPark et al.(NATURE COMMUNICATIONS | DOI: 10.1038/ncomms5618)もしくはGinesy et al.(Microbial Cell Factories (2015) 14:29)によって開示されているものである。
【0029】
本発明による微生物の一実施形態では、アルギニンオペロン(argCJBDFR)が過剰発現していてもよい。
【0030】
代替的には、本発明による微生物においては、アルギニン応答性リプレッサータンパク質ArgRをコードするargR遺伝子が減衰または欠失していてもよい。
【0031】
本発明の更なる実施形態では、また任意に、上述の修飾に加えて、それぞれグルタミン酸デヒドロゲナーゼ、オルニチンアセチルトランスフェラーゼ、アセチルグルタミン酸キナーゼ、アセチルグルタミルリン酸レダクターゼおよびアセチルオルニチンアミノトランスフェラーゼをコードするgdh、argJ、argB、argCおよび/またはargDからなる、L-アルギニンの生合成経路の酵素をコードする遺伝子の少なくとも1つ以上が、本発明による微生物において過剰発現されている。
【0032】
様々な種、すなわちE.コリ(E. coli)、C.グルタミカム(C. glutamicum)およびシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(P.プチダ(P. putida))におけるアルギニン生合成に関与または寄与する酵素の様々な名称を表1に示す。
【0033】
本発明の微生物においては、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質をコードする遺伝子がさらに過剰発現されていてもよい。遺伝子の過剰発現は概して、遺伝子のコピー数を増加させること、および/または遺伝子を強力なプロモーターと機能的に連結すること、および/またはリボソーム結合部位を増強すること、および/または開始コドンもしくは遺伝子全体のコドン使用頻度を最適化すること、または上述の全ての方法の選択を含む組合せによって達成される。
【0034】
【0035】
本発明の微生物中のL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT)の機能を有するタンパク質は、配列番号2または配列番号4(モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)の「AGAT_Mp」)によるアミノ酸配列と少なくとも70%相同、好ましくは少なくとも80%または少なくとも90%相同なアミノ酸配列を含み得る。本発明の更なる実施形態では、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼのアミノ酸配列は、配列番号2または配列番号4によるアミノ酸配列と同一である(データベースUniProt、2017年2月15日、「グリシンアミジノトランスフェラーゼ」、XP055706853、EBIアクセッション番号UNIPROT:A0A1D8TKD3を参照)。モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)AGATをコードする野生型DNAの配列は、配列番号1であり、C.グルタミカム(C. glutamicum)に対してコドン最適化された対応するDNA配列は、配列番号3である。P.プチダ(P. putida)に対してコドン最適化されたモオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)AGAT遺伝子の対応するDNA配列は、配列番号33である。
【0036】
本発明の微生物中のL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質は、配列番号16または配列番号26(シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii)ATW205の「AGAT_cyrA」)によるアミノ酸配列と少なくとも70%相同、好ましくは少なくとも80%または少なくとも90%相同なアミノ酸配列を含み得る。本発明の更なる実施形態では、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼのアミノ酸配列は、配列番号16または配列番号26によるアミノ酸配列と同一である。シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii)AGATをコードする野生型DNAの配列は、配列番号15であり、C.グルタミカム(C. glutamicum)に対してコドン最適化された対応するDNA配列は、配列番号25である。
【0037】
本発明の微生物中のL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質は、配列番号23(ガレオプテラス・バリエガタス(Galeopterus variegatus)の「AGAT_Gv」)、好ましくは配列番号24または配列番号32によるアミノ酸配列と少なくとも70%相同、好ましくは少なくとも80%または少なくとも90%相同なアミノ酸配列を含み得る。本発明の更なる実施形態では、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼのアミノ酸配列は、配列番号24または配列番号32によるアミノ酸配列と同一である。C.グルタミカム(C. glutamicum)に対してコドン最適化された対応するガレオプテラス・バリエガタス(Galeopterus variegatus)AGAT DNAの配列は、配列番号31である。
【0038】
本発明の微生物中のL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼの機能を有するタンパク質は、配列番号18(ホモ・サピエンス(homo sapiens)の「AGAT_Hs」)、好ましくは配列番号20または配列番号28によるアミノ酸配列、例えば配列番号21または配列番号22または配列番号30(それぞれラットゥス・ノルウェギクス(Rattus norvegicus)の「AGAT Rn」;C.グルタミカム(C. glutamicum)に対してコドン最適化された対応するDNAは、配列番号29である)によるアミノ酸配列と少なくとも70%相同、好ましくは少なくとも80%または少なくとも90%相同なアミノ酸配列を含み得る。本発明の更なる実施形態では、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼのアミノ酸配列は、配列番号18によるアミノ酸配列と同一である。ホモ・サピエンス(Homo sapiens)AGATをコードする野生型DNAの配列は、配列番号17であり、C.グルタミカム(C. glutamicum)に対してコドン最適化された対応するDNA配列は、配列番号27である。
【0039】
本発明の微生物は、コリネバクテリウム属、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)(C.グルタミカム(C. glutamicum))、または腸内細菌科、好ましくはエシェリキア・コリ(Escherichia coli)(E.コリ(E. coli))、またはシュードモナス属、好ましくはシュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)(P.プチダ(P. putida))に属していてもよい。
【0040】
概して、微生物における酵素活性の増加は、例えば対応する内在性遺伝子の突然変異によって達成することができる。酵素活性は、対応する遺伝子の過剰発現によっても高めることができる。
【0041】
概して、本発明による遺伝子の過剰発現は、遺伝子のコピー数を増加させること、および/または調節因子を増強すること、例えば遺伝子を強力なプロモーターと機能的に連結すること、および/またはリボソーム結合部位を増強すること、および/または開始コドンもしくは遺伝子全体のコドン使用頻度を最適化することによって達成される。遺伝子発現に正の影響を与える、かかる調節因子の増強は、例えば、プロモーターの有効性を高めるために構造遺伝子の上流のプロモーター配列を修飾するか、または上記のプロモーターをより有効な、もしくはいわゆる強力なプロモーターに完全に置き換えることによって達成することができる。プロモーターは、遺伝子の上流に位置する。プロモーターは、約40~50塩基対からなるDNA配列であり、RNAポリメラーゼホロ酵素の結合部位および転写開始点を構成し、制御されるポリヌクレオチドまたは遺伝子の発現の強さに影響を与えることができる。概して、強力なプロモーターを選択すること、例えば元のプロモーターを強力なネイティブ(本来他の遺伝子に割り当てられる)プロモーターに置き換えること、または例えばM. Patek et al.(Microbial Biotechnology 6 (2013), 103-117)によってC.グルタミカム(C. glutamicum)について教示されるように、所与のネイティブプロモーターの或る特定の領域(例えば、そのいわゆる-10および-35領域)をコンセンサス配列に向けて修飾することによって、細菌における遺伝子の過剰発現または発現の増加を達成することが可能である。「機能的な連結」とは、プロモーターが遺伝子と連続して配置され、遺伝子の転写がもたらされることを意味すると理解される。
【0042】
遺伝コードが縮重し、すなわち、或る特定のアミノ酸が複数の異なるトリプレットでコードされていてもよい。コドン使用頻度という用語は、或る特定の生物が、通常は或る特定のアミノ酸について可能な全てのコドンを同じ頻度では使用しないという観察結果を指す。代わりに、生物は通常、特定のコドンに対して或る特定の選好性を示し、すなわち、これらのコドンが生物の転写遺伝子のコード配列により頻繁に見られる。将来の宿主にとって異質の、すなわち異なる種に由来する或る特定の遺伝子が、将来の宿主生物において発現されることが望ましい場合、上記遺伝子のコード配列を上記将来の宿主生物のコドン使用頻度に応じて調整する必要がある(すなわち、コドン使用頻度の最適化)。
【0043】
上述の課題は、a)上に定義した本発明による微生物を好適な培地において好適な条件下で培養する工程と、b)培地中にGAAを蓄積させてGAA含有発酵ブロスを形成する工程とを含む、グアニジノ酢酸(GAA)の発酵生産方法によってさらに解決される。
【0044】
本発明による方法は、培地にグリシンを添加し、かつ/またはL-アルギニンを添加し、かつ/またはL-オルニチンを添加することをさらに含み得る。好ましくは、培地に培地1l当たり0.1~300gのグリシン、好ましくは培地1l当たり0.82gのグリシンの範囲の濃度でグリシンを添加し、かつ/または培地1l当たり0.1~200gのL-アルギニン、好ましくは培地1l当たり1.9gのL-アルギニンの範囲の濃度が得られるようにL-アルギニンを添加する。
【0045】
本発明の方法は、GAAを発酵ブロスから単離する工程をさらに含み得る。
【0046】
本発明による方法は、GAA含有発酵ブロスを乾燥および/または顆粒化する工程をさらに含み得る。
【0047】
本発明は、グアニジノ酢酸N-メチルトランスフェラーゼ(EC:2.1.1.2)の活性を有する酵素をコードする遺伝子をさらに含む、上に定義した微生物にさらに関する。好ましくは、グアニジノ酢酸N-メチルトランスフェラーゼの活性を有する酵素をコードする遺伝子が過剰発現している。
【0048】
本発明は、a)グアニジノ酢酸N-メチルトランスフェラーゼの活性を有する酵素をコードする遺伝子を含む本発明による微生物を好適な培地において好適な条件下で培養する工程と、b)培地中にクレアチンを蓄積させてクレアチン含有発酵ブロスを形成する工程とを含む、クレアチンの発酵生産方法にも関する。
【0049】
好ましくは、方法は、クレアチンをクレアチン含有発酵ブロスから単離することをさらに含む。クレアチンは、等電点法および/またはイオン交換法によって発酵ブロスから抽出することができる。代替的には、水中で再結晶化する方法によってクレアチンをさらに精製することができる。
【0050】
実験の項
A)材料および方法
化学物質
ストレプトマイセス・カナマイセティカス(Streptomyces kanamyceticus)に由来するカナマイシン溶液は、Sigma Aldrich(St. Louis,USA、カタログ番号K0254)から購入した。IPTG(イソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド)は、Carl-Roth(Karlsruhe,Germany、カタログ番号2316.4.)から購入した。特に指定のない限り、他の全ての化学物質は、Merck(Darmstadt,Germany)、Sigma Aldrich(St. Louis,USA)またはCarl-Roth(Karlsruhe,Germany)から分析的に純粋なものを購入した。
【0051】
細胞増殖のための培養
特に指定のない限り、培養/インキュベーション手順は、以下のように行った:
a.Merck(Darmstadt,Germany;カタログ番号110285)のLBブロス(MILLER)を使用して、E.コリ(E. coli)株を液体培地中で培養した。液体培養物(3バッフル付き100mlエルレンマイヤーフラスコ1本当たり10mlの液体培地)をInfors GmbH(Bottmingen,Switzerland)のInfors HT Multitron standardインキュベーターシェーカーにおいて30℃および200rpmでインキュベートした。
b.Merck(Darmstadt,Germany、カタログ番号110283)のLB寒天(MILLER)を寒天プレート上でのE.コリ(E. coli)株の培養に使用した。寒天プレートをVWR(Radnor,USA)のINCU-Line(登録商標)小型インキュベーターにおいて30℃でインキュベートした。
c.Merck(Darmstadt,Germany、カタログ番号110493)のブレインハートインフュージョンブロス(BHI)を使用して、C.グルタミカム(C. glutamicum)株を液体培地中で培養した。液体培養物(3バッフル付き100mlエルレンマイヤーフラスコ1本当たり10mlの液体培地)をInfors GmbH(Bottmingen,Switzerland)のInfors HT Multitron standardインキュベーターシェーカーにおいて30℃および200rpmでインキュベートした。
d.Merck(Darmstadt,Germany、カタログ番号113825)のブレインハート寒天(BHI寒天)を寒天プレート上でのC.グルタミカム(C. glutamicum)株の培養に使用した。Kelvitron(登録商標)温度調節器を備えるHeraeus Instruments(Hanau,Germany)のインキュベーターにおいて寒天プレートを30℃でインキュベートした。
e.エレクトロポレーション後のC.グルタミカム(C. glutamicum)の培養のために、BHI寒天(Merck,Darmstadt,Germany、カタログ番号113825)に134g/lソルビトール(Carl Roth GmbH + Co. KG,Karlsruhe,Germany)、2.5g/l酵母エキス(Oxoid/ThermoFisher Scientific,Waltham,USA、カタログ番号LP0021)および25mg/lカナマイシンを添加した。Kelvitron(登録商標)温度調節器を備えるHeraeus Instruments(Hanau,Germany)のインキュベーターにおいて寒天プレートを30℃でインキュベートした。
【0052】
細菌懸濁液の光学密度の決定
a.振盪フラスコ培養における細菌懸濁液の光学密度を、Eppendorf AG(Hamburg,Germany)のBioPhotometerを用いて600nm(OD600)で決定した。
b.Wouter Duetz(WDS)のマイクロ発酵システム(24ウェルプレート)において生成した細菌懸濁液の光学密度を、Tecan Group AG(Maennedorf,Switzerland)のGENios(商標)プレートリーダーを用いて660nm(OD660)で決定した。
【0053】
遠心分離
a.Eppendorf 5417 R卓上遠心分離機(13000rpmで5分間)を用いて、最大容量2mlの細菌懸濁液を1.5mlまたは2mlの反応管(例えばEppendorf Tubes(登録商標) 3810X)で遠心分離した。
b.Eppendorf 5810 R卓上遠心分離機を用いて4000rpmで10分間、最大容量50mlの細菌懸濁液を15mlまたは50mlの遠心管(例えば、Falcon(商標)50mlコニカル遠心管)で遠心分離した。
【0054】
DNA単離
Qiagen(Hilden,Germany、カタログ番号27106)のQIAprep Spin Miniprep Kitを用い、製造業者の指示に従って、プラスミドDNAをE.コリ(E. coli)細胞から単離した。
【0055】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
プルーフリーディング(高忠実度)ポリメラーゼによるPCRを用いて、サンガーシークエンシングまたはDNAアセンブリのためにDNAの所望のセグメントを増幅した。非プルーフリーディングポリメラーゼキットを用いて、E.コリ(E. coli)またはC.グルタミカム(C. glutamicum)のコロニーから直接、所望のDNAフラグメントの有無を決定した。
【0056】
a.New England BioLabs Inc.(Ipswich,USA、カタログ番号M0530)のPhusion(登録商標) High-Fidelity DNA Polymerase Kit(Phusion Kit)を、製造業者の指示に従い、選択DNA領域の鋳型補正(template-correct)増幅に使用した(表2を参照されたい)。
【0057】
【0058】
b.Qiagen(Hilden,Germany、カタログ番号201203)のTaq PCR Core Kit(Taq Kit)を用いてDNAの所望のセグメントを増幅し、その存在を確認した。キットは、製造業者の指示に従って使用した(表3を参照されたい)。
【0059】
【0060】
c.タカラバイオ株式会社(Takara Bio Europe S.A.S.,Saint-Germain-en-Laye,France、カタログ番号RR350A/B)のSapphireAmp(登録商標) Fast PCR Master Mix(Sapphire Mix)を、製造業者の指示に従い、代替として使用して、E.コリ(E. coli)またはC.グルタミカム(C. glutamicum)のコロニーから採取した細胞中のDNAの所望のセグメントの存在を確認した(表4を参照されたい)。
【0061】
【0062】
d.全てのオリゴヌクレオチドプライマーが、Eurofins Genomics GmbH(Ebersberg,Germany)により、McBride and Caruthers (1983)に記載のホスホロアミダイト法を用いて合成された。
e.PCR鋳型として単離プラスミドDNA、または液体培養物から単離した全DNA、または細菌コロニーに含まれる全DNA(コロニーPCR)のいずれかの適切に希釈した溶液を使用した。上記コロニーPCRについては、寒天プレート上のコロニーから爪楊枝で細胞物質を採取し、細胞物質を直接PCR反応管に入れることによって鋳型を準備した。細胞物質をSEVERIN Elektrogeraete GmbH(Sundern,Germany)のMikrowave & Grillタイプの電子レンジにおいて800Wで10秒間加熱した後、PCR試薬をPCR反応管内の鋳型に添加した。
f.全てのPCR反応をEppendorf AG(Hamburg,Germany)のMastercyclerまたはMastercycler nexus gradientタイプのPCRサイクラーにおいて行った。
【0063】
DNAの制限酵素消化
制限酵素消化には、「FastDigest制限エンドヌクレアーゼ(FD)」(ThermoFisher Scientific,Waltham,USA)またはNew England BioLabs Inc.(Ipswich,USA)の制限エンドヌクレアーゼのいずれかを使用した。反応は、製造業者のマニュアルの指示に従って行った。
【0064】
DNAフラグメントのサイズの決定
a.小さなDNAフラグメント(<1000bp)のサイズは、通常はQiagen(Hilden,Germany)のQIAxcelを用いた自動キャピラリー電気泳動によって決定した。
b.DNAフラグメントを単離する必要があるか、またはDNAフラグメントが>1000bpである場合、DNAをTAEアガロースゲル電気泳動によって分離し、GelRed(登録商標)核酸ゲル染色液(Biotium, Inc.、Fremont、Canada)で染色した。染色したDNAを302nmで可視化した。
【0065】
PCR増幅産物および制限フラグメントの精製
PCR増幅産物および制限フラグメントを、Qiagen(Hilden,Germany;カタログ番号28106)のQIAquick PCR Purification Kitを用い、製造業者の指示に従ってクリーンアップした。DNAを30μlの10mM Tris-HCl(pH8.5)で溶出させた。
【0066】
DNA濃度の決定
2015年よりVWRブランドのPEQLAB Biotechnologie GmbH(Erlangen,Germany)のNanoDrop Spectrophotometer ND-1000を用いてDNA濃度を測定した。
【0067】
アセンブリクローニング
New England BioLabs Inc.(Ipswich,USA、カタログ番号E5520)から購入した「NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit」を用いてプラスミドベクターをアセンブルした。線状ベクターと少なくとも1つのDNA挿入断片とを含有する反応ミックスを50℃で60分間インキュベートした。0.5μlのアセンブリ混合物を各形質転換実験に使用した。
【0068】
E.コリ(E. coli)の化学的形質転換
プラスミドクローニングのために、ケミカルコンピテント「NEB(登録商標) Stable Competent E. coli(High Efficiency)」(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号C3040)を製造業者のプロトコルに従って形質転換した。首尾よく形質転換された細胞を、25mg/lカナマイシンを添加したLB寒天上で選択した。
【0069】
C.グルタミカム(C. glutamicum)の形質転換
プラスミドDNAによるC.グルタミカム(C. glutamicum)の形質転換は、Ruan et al. (2015)に記載されているように「Gene Pulser Xcell」(Bio-Rad Laboratories GmbH,Feldkirchen,Germany)を用いたエレクトロポレーションによって行った。エレクトロポレーションは、1mmエレクトロポレーションキュベット(Bio-Rad Laboratories GmbH,Feldkirchen,Germany)において1.8kVおよび5msに設定した固定時定数で行った。形質転換された細胞を134g/lソルビトール、2.5g/l酵母エキスおよび25mg/lカナマイシンを含有するBHI寒天上で選択した。
【0070】
ヌクレオチド配列の決定
DNA分子のヌクレオチド配列は、Eurofins Genomics GmbH(Ebersberg,Germany)により、Sanger et al.(Proceedings of the National Academy of Sciences USA 74, 5463 - 5467, 1977)のジデオキシチェーンターミネーション法を用い、Applied Biosystems(登録商標)(Carlsbad,CA,USA)の3730xl DNA Analyzerでのサイクルシークエンシングによって決定された。Scientific & Educational Software(Denver,USA)のClonemanager Professional 9ソフトウェアを用いて配列を可視化し、評価した。
【0071】
E.コリ(E. coli)およびC.グルタミカム(C. glutamicum)株のグリセロールストック
E.コリ(E. coli)株およびC.グルタミカム(C. glutamicum)株の長期保存のためにグリセロールストックを調製した。選択E.コリ(E. coli)クローンは、2g/lグルコースを添加した10mlのLB培地中で培養した。選択C.グルタミカム(C. glutamicum)クローンは、2g/lグルコースを添加した10mlの2倍濃縮BHI培地中で培養した。プラスミドを含有するE.コリ(E. coli)株およびC.グルタミカム(C. glutamicum)株の培養物に25mg/lカナマイシンを添加した。培地を3バッフル付き100mlエルレンマイヤーフラスコに入れた。これにコロニーから採取した細胞のループを接種した。次いで、培養物を30℃および200rpmで18時間インキュベートした。上記のインキュベーション期間後に、1.2mlの85%(v/v)滅菌グリセロールを培養物に添加した。次いで、得られたグリセロール含有細胞懸濁液を2mlずつ分割し、-80℃で保管した。
【0072】
ミリリットルスケール培養におけるGAA生産
Duetz (2007)によるミリリットルスケール培養系を用いて株のGAA生産を評価した。この目的で、1ウェル当たり2.5mlの培地を充填したEnzyScreen BV(Heemstede、Netherlands、カタログ番号CR1424)の24ディープウェルマイクロプレート(24ウェルWDSプレート)を使用した。
【0073】
株の前培養を10mlのシード培地(SM)中で行った。培地を3バッフル付き100mlエルレンマイヤーフラスコに入れた。これに100μlのグリセロールストック培養物を接種し、培養物を30℃および200rpmで24時間インキュベートした。シード培地(SM)の組成を表5に示す。
【0074】
【0075】
上記のインキュベーション期間後に、前培養物の光学密度OD600を決定した。2.5mlの生産培地(PM)にOD600が0.1となるまで接種するのに必要とされる容量を前培養物からサンプリングし、遠心分離し(8000gで1分間)、上清を捨てた。次いで、細胞を100μlの生産培地に再懸濁した。
【0076】
24ウェルWDSプレートの2.4mlの生産培地(PM)を含むウェルに前培養物からの再懸濁細胞を各100μl接種することによって本培養を開始した。生産培地(PM)の組成を表6に示す。
【0077】
【0078】
本培養物をInfors GmbH(Bottmingen,Switzerland)のInfors HT Multitron standardインキュベーターシェーカーにおいて30℃および300rpmで72時間、グルコースが完全に消費されるまでインキュベートした。LifeScan(Johnson & Johnson Medical GmbH,Neuss,Germany)の血糖測定器OneTouch Vita(登録商標)を用いて懸濁液中のグルコース濃度を分析した。
【0079】
培養後に培養懸濁液をディープウェルマイクロプレートに移した。OD600を測定するために培養懸濁液の一部を適切に希釈した。培養物の別の部分を遠心分離し、上清中のGAAの濃度を下記のように分析した。
【0080】
酵母ペプトンFM902中のL-アルギニンおよびグリシンの含有量の決定
酵母エキスFM902(Angel Yeast Co.,LTD,Hubei,P.R.China)は、様々なペプチドおよびアミノ酸を含有するため、そのL-アルギニンおよびグリシンの含有量を以下のように測定した。
【0081】
遊離アミノ酸を測定するために、1gの酵母エキスを20mlの水に溶解することによってサンプルを調製した。総容量が25mlとなるまで溶液に水を加え、十分に混合し、0.2μMナイロンシリンジフィルターを用いて濾過した。
【0082】
全アミノ酸(遊離アミノ酸+ペプチドに結合したアミノ酸)を測定するために、1gの酵母エキスを10mlの6M HClに溶解し、これを110℃で24時間インキュベートすることによってサンプルを調製した。次いで、総容量が25mlとなるまで水を添加した。溶液を十分に混合し、0.2μMナイロンシリンジフィルターを用いて濾過した。
【0083】
サンプル中のL-アルギニンおよびグリシンの濃度を、SYKAM Vertriebs GmbH(Fuerstenfeldbruck,Germany)のSYKAM S433アミノ酸分析装置を用いたイオン交換クロマトグラフィーによって決定した。固相として、SYKAMの球状ポリスチレン系陽イオン交換体の入ったカラム(Peek LCA N04/Na、寸法150×4.6mm)を使用した。L-アミノ酸に応じて、バッファーAおよびBの混合物を溶出に用いた定組成溶出(isocratic run)、または上記バッファーを用いた勾配溶出で分離を行った。バッファーAとしては、20l中に263gのクエン酸三ナトリウム、120gのクエン酸、1100mlのメタノール、100mlの37%HClおよび2mlのオクタン酸を含有する水溶液(最終pH3.5)を使用した。バッファーBとしては、20l中に392gのクエン酸三ナトリウム、100gのホウ酸および2mlのオクタン酸(最終pH10.2)を含有する水溶液を使用した。遊離アミノ酸をポストカラム誘導体化によってニンヒドリンで着色し、570nmで測光的に検出した。
【0084】
表7に、酵母エキスFM902(Angel Yeast Co.,LTD,Hubei,P.R.China)中で決定された遊離および全体のL-アルギニンおよびグリシンの含有量、ならびに生産培地(PM)中の結果としての量を示す。
【0085】
【0086】
GAAの定量
質量分析計「Triple Quad 6420」と連結したHPLC「Infinity 1260」からなるAgilentの分析システム(Agilent Technologies Inc.,Santa Clara,USA)を用いてサンプルを分析した。クロマトグラフィー分離をAtlantis HILICシリカカラム、4.6×250mm、5μm(Waters Corporation,Milford,USA)にて35℃で行った。移動相Aは、10mMギ酸アンモニウムおよび0.2%ギ酸を含む水とした。移動相Bは、90%アセトニトリルと10%水との混合物とし、10mMギ酸アンモニウムを混合物に添加した。HPLCシステムは、100%のBで開始し、22分間および0.6mL/分の一定流量で66%のBまでの線形勾配を続けた。質量分析計は、ESIポジティブイオン化モードで操作した。GAAの検出のために、MRMフラグメンテーション[M+H]+118~76を用いてm/z値をモニタリングした。GAAの定量限界(LOQ)は、7ppmに固定した。
【0087】
B)実験結果
実施例1:様々な生物に由来するL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT、EC 2.1.4.1)をコードする遺伝子の合成
モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)は、糸状性シアノバクテリアである。モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)株PAL-8-15-08-1のゲノムは、Leao et al.(Leao T, Castelao G, Korobeynikov A, Monroe EA, Podell S, Glukhov E, Allen EE, Gerwick WH, Gerwick L, Proc Natl Acad Sci U S A. 2017 Mar 21;114(12):3198-3203. doi: 10.1073/pnas.1618556114;アクセッション番号CP017599.1)に公開されている。これは、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT、EC 2.1.4.1、アクセッション番号BJP34_00300、配列番号1)を推定的にコードするオープンリーディングフレームを含む。配列番号2および配列番号4に、AGAT_Mpと指定した派生アミノ酸配列(アクセッション番号WP_070390602)を示す。
【0088】
シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii)AWT205(アクセッション番号EU140798.1)に由来する遺伝子cyrAは、L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(Mihali TK, Kellmann R, Muenchhoff J, Barrow KD, Neilan BA (2008) “Characterization of the gene cluster responsible for cylindrospermopsin biosynthesis.”, Appl Environ Microbiol., 74(3):716-22, doi: 10.1128/AEM.01988-07;配列番号15)をコードする。配列番号16および配列番号26に、AGAT_cyrAと指定した派生アミノ酸配列(アクセッション番号ABX60160)を示す。
【0089】
ヒトL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼのcDNA配列は、Humm et al., 1994(Humm A, Huber R, Mann K (1994) “The amino acid sequences of human and pig l-arginine:glycine amidinotransferase.”, FEBS Letters, Vol. 339 (1-2), 101-107, DOI: 10.1016/0014-5793(94)80394-3;アクセッション番号NM_001482.3、配列番号17)に記載された。派生アミノ酸配列(アクセッション番号NP_001473.1、配列番号18)は、成熟酵素には存在しないミトコンドリア輸送ペプチド(アミノ酸1~37)から始まる。アミノ酸56から始まる切断型酵素は、E.コリ(E. coli)において発現させた場合に活性を有することが見出された(Humm A, Fritsche E, Mann K, Goehl M, Huber R (1997) “Recombinant expression and isolation of human L-arginine : glycine amidinotransferase and identification of its active-site cysteine residue.” Biochem. J. 322, 771-776, DOI: 10.1042/bj3220771)。7アミノ酸タグ(配列番号19)のN末端融合は、E.コリ(E. coli)におけるタンパク質発現を改善することが示された(Hansted JG, Pietikaeinen L, Hoeg F, Sperling-Petersen HU, Mortensen KK (2011) “Expressivity tag: A novel tool for increased expression in Escherichia coli.” Journal of Biotechnology 155 (2011) 275-283, DOI:10.1016/j.jbiotec.2011.07.013)。したがって、タグと切断型AGATとからなる融合タンパク質を設計し、これをAGAT_Hsと指定した(配列番号20および配列番号28)。
【0090】
ラットゥス・ノルウェギクス(Rattus norvegicus)に由来するL-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼのアミノ酸配列(アクセッション番号NP_112293.1、配列番号21)は、ヒト酵素と極めて類似している。ヒト酵素について記載したように、配列を用いてN末端発現タグと酵素の切断型配列とからなる融合タンパク質を設計した。得られた融合タンパク質をAGAT_Rnと指定した(配列番号22および配列番号30)。
【0091】
マレーヒヨケザルであるガレオプテラス・バリエガタス(Galeopterus variegatus)は、予測L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(アクセッション番号NP_112293.1、配列番号23)を有する。ヒト酵素について記載したように、そのアミノ酸配列を用いてN末端発現タグと酵素の切断型配列とからなる融合タンパク質を設計した。得られた融合タンパク質をAGAT_Gv(配列番号24および配列番号32)と指定した。
【0092】
ソフトウェアツール「GeneOptimizer」(Geneart/ThermoFisher Scientific,Waltham,USA)を用いてAGAT_Mp、AGAT_cyrA、AGAT_Hs、AGAT_RnおよびAGAT_Gvのアミノ酸配列をDNA配列に逆翻訳し、C.グルタミカム(C. glutamicum)のコドン使用頻度について最適化した。それらの末端をアセンブリクローニングのための配列で拡張し、シャイン-ダルガノ配列をオープンリーディングフレームの上流に付加した。得られるDNA配列は、配列番号3(AGAT_Mpをコードする)、配列番号25(AGAT_cyrAをコードする)、配列番号27(AGAT_Hsをコードする)、配列番号29(AGAT_Rnをコードする)および配列番号31(AGAT_Gvをコードする)である。これらの遺伝子合成をInvitrogen/Geneart(Thermo Fisher Scientific,Waltham,USA)に発注した。合成遺伝子は、pMA-T_AGAT_Mp、pMA-T_AGAT_cyrA、pMA-T_AGAT_Hs、pMA-T_AGAT_RnおよびpMA-T_AGAT_Gvと指定したクローニングプラスミドの一部として送達した。
【0093】
実施例2:発現プラスミドpEC-XK99EへのAGAT_Mpのクローニング
E.コリ(E. coli)-C.グルタミカム(C. glutamicum)シャトルプラスミドpEC-XK99Eを、制限エンドヌクレアーゼSmaIを用いて消化した。「FastAP Thermosensitive Alkaline Phosphatase」(Thermo Fisher Scientific,Waltham,USA)を用いて末端リン酸塩を除去した。次いで、DNAを「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)で精製した。
【0094】
クローニングプラスミドpMA-T_AGAT_MpをMluI+AatIIで消化し、得られたフラグメントを「Fast DNA End Repair Kit」(Thermo Fisher Scientific,Waltham,USA)を用いて平滑末端化した。これらをアガロースゲル電気泳動(TAEバッファー中の0.8%アガロース)によって分離し、「AGAT_Mp」(1174bp)に対応するバンドを切り出した。そのDNAを「QIAquick Gel Extraction Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)を用いて精製した。
【0095】
AGAT_Mpフラグメントおよび線形化pEC-XK99Eを「Ready-To-Go T4 DNA ligase」(GE Healthcare Europe GmbH,Freiburg,Germany)を用いてライゲートした。ライゲーション産物を「NEB Stable Competent E. coli (High Efficiency)」(New England Biolabs,Ipswich,USA)に形質転換し、25mg/lカナマイシンを含有するLB寒天上で細胞を成長させた。適切なクローンを制限酵素消化およびDNAシークエンシングによって同定した。得られたプラスミドをpEC-XK99E_AGAT_Mpと命名した。
【0096】
実施例2.1:発現プラスミドpEKEx2へのAGAT_MpおよびAGAT_cyrAのクローニング
E.コリ(E. coli)-C.グルタミカム(C. glutamicum)シャトルプラスミドpEKEx2(Eikmanns, 1991)を、制限エンドヌクレアーゼPstIを用いて消化した。得られたフラグメントを「Fast DNA End Repair Kit」(Thermo Fisher Scientific)を用いて平滑末端化し、末端リン酸塩を「FastAP Thermosensitive Alkaline Phosphatase」(Thermo Fisher Scientific,Waltham,USA)で除去した。次いで、DNAを「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)で精製した。
【0097】
クローニングプラスミドpMA-T_AGAT_MpおよびpMA-T_AGAT_cyrAをMluI+AatIIで消化し、得られたフラグメントを「Fast DNA End Repair Kit」(Thermo Fisher Scientific,Waltham,USA)を用いて平滑末端化した。これらをアガロースゲル電気泳動(TAEバッファー中の0.8%アガロース)によって分離し、AGAT_Mp(1174bp)およびAGAT_cyrA(1204bp)に対応するバンドを切り出した。DNAを「QIAquick Gel Extraction Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)を用いて精製した。
【0098】
「Ready-To-Go T4 DNA ligase」(GE Healthcare Europe GmbH,Freiburg,Germany)を用いて各AGATフラグメントを線形化pEKEx2とライゲートした。ライゲーション産物を「NEB Stable Competent E. coli (High Efficiency)」(New England Biolabs,Ipswich,USA)に形質転換し、25mg/lカナマイシンを含有するLB寒天上で細胞を成長させた。適切なクローンを制限酵素消化およびDNAシークエンシングによって同定した。得られたプラスミドをpEKEx2_AGAT_MpおよびpEKEx2_AGAT_cyrAと命名した。
【0099】
実施例2.2:発現プラスミドpEKEx2へのAGAT_Hs、AGAT_RnおよびAGAT_Gvのクローニング
クローニングプラスミドpMA-T_AGAT_Hs、pMA-T_AGAT_RnおよびpMA-T_AGAT_GvをEco31Iで消化し、「QIAquick Gel Extraction Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)を用いて産物を精製した。
【0100】
E.コリ(E. coli)-C.グルタミカム(C. glutamicum)シャトルプラスミドpEKEx2(Eikmanns BJ, Kleinertz E, Liebl W, Sahm H (1991) “A family of Corynebacterium glutamicum/Escherichia coli shuttle vectors for cloning, controlled gene expression, and promoter probing.”, Gene. 1991 Jun 15;102(1):93-8)を、制限エンドヌクレアーゼSbfIおよびBamHIを用いて消化した。DNAを「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)で精製した。
【0101】
AGATフラグメントのそれぞれを「NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit」(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号E5520)を用いて消化pEKEx2とアセンブルした。アセンブリ産物を「NEB Stable Competent E. coli (High Efficiency)」(New England Biolabs,Ipswich,USA)に形質転換し、25mg/lカナマイシンを含有するLB寒天上で細胞を成長させた。適切なクローンを制限酵素消化およびDNAシークエンシングによって同定した。得られたプラスミドをそれぞれpEKEx2_AGAT_Hs、pEKEx2_AGAT_RnおよびpEKEx2_AGAT_Gvと指定した。
【0102】
実施例3:プラスミドpCR-Blunt II-TOPOへの遺伝子argFのクローニング
C.グルタミカム(C. glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAとオリゴヌクレオチドプライマーargF_1.p(配列番号5)およびargF_2.p(配列番号6)とを用いて、argF遺伝子をPhusion High-Fidelity DNA Polymerase Kit(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA)でPCR増幅した。得られたPCR産物をプラスミドpCR-Blunt II-TOPO(Thermo Fisher Scientific/Invitrogen,Waltham,USA)にクローニングし、適当なプラスミドクローンを制限酵素消化およびDNAシークエンシングによって同定した。このプラスミドをpCRII-argFと命名した。
【0103】
実施例4:プラスミドpCR-Blunt II-TOPOへの遺伝子argGおよびargHのクローニング
C.グルタミカム(C. glutamicum)ATCC13032のゲノムDNAとオリゴヌクレオチドプライマーargG_1.p(配列番号7)およびargH_2.p(配列番号8)とを用いて、遺伝子argGおよびargHをPhusion High-Fidelity DNA Polymerase Kit(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA)でPCR増幅した。得られたPCR産物をプラスミドpCR-Blunt II-TOPO(Thermo Fisher Scientific/Invitrogen,Waltham,USA)にクローニングし、適当なプラスミドクローンを制限酵素消化およびDNAシークエンシングによって同定した。このプラスミドをpCRII-argGHと命名した。
【0104】
実施例5:プラスミドpCRII-argFへの遺伝子argGおよびargHのクローニング
HpaI+AvrIIを用いてpCRII-argGHを切断し、2773bpの制限フラグメントをアガロースゲルから単離した。SspI+AvrIIを用いてpCRII-argFを切断し、4526bpの制限フラグメントをアガロースゲルから単離した。両フラグメントをライゲートした後、E.コリ(E. coli)に形質転換した。適当なプラスミドクローンを制限酵素消化およびDNAシークエンシングによって同定した。得られたプラスミドをpCRII-argFGHと命名した。
【0105】
実施例6:発現プラスミドpEC-XK99Eへの遺伝子argF、argGおよびargHのクローニング
HpaI+AvrIIを用いてpCRII-argFGHを切断し、2773bpの制限フラグメントをアガロースゲルから単離した。Ecl136II+XbaIを用いてプラスミドpEC-XK99Eを切断した。6999bpの制限フラグメントをアガロースゲルから単離した。両フラグメントをライゲートした後、E.コリ(E. coli)に形質転換した。適当なプラスミドクローンを制限消化およびDNAシークエンシングによって同定した。得られたプラスミドpEC-XK99E_argFGHは、C.グルタミカム(C. glutamicum)に由来する遺伝子argF、argGおよびargHを含む。
【0106】
実施例7:発現プラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mpへの遺伝子argF、argGおよびargHのクローニング
XbaI+SpeIを用いてpCRII-argFGHを切断し、3868bpの制限フラグメントをアガロースゲルから単離した。XbaIを用いてプラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mpを切断した。8188bpの制限フラグメントをアガロースゲルから単離した。両フラグメントをライゲートした後、E.コリ(E. coli)に形質転換した。適当なプラスミドクローンを制限消化およびDNAシークエンシングによって同定した。得られたプラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mp_argFGHは、AGAT_Mpと組み合わせてC.グルタミカム(C. glutamicum)に由来する遺伝子argF、argGおよびargHを含む。
【0107】
実施例8:発現プラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mpへの遺伝子argFのクローニング
KpnI+XbaI+AseIを用いてpCRII-argFを切断し、DNAを「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)で精製した。KpnI+XbaIを用いてプラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mpを切断し、DNAを「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)で精製した。両溶出液を混合し、DNAフラグメントをライゲートし、産物を用いてE.コリ(E. coli)を形質転換した。適当なプラスミドクローンを制限消化およびDNAシークエンシングによって同定した。得られたプラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mp_argFは、AGAT_Mpと組み合わせてC.グルタミカム(C. glutamicum)に由来する遺伝子argFを含む。
【0108】
実施例9:発現プラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mpへの遺伝子argGのクローニング
XbaI+SalIを用いてpCRII-argGHを切断し、1798bpの制限フラグメントをアガロースゲルから単離した。XbaI+SalIを用いてプラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mpを切断し、DNAを「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)で精製した。DNAフラグメントをライゲートし、産物を用いてE.コリ(E. coli)を形質転換した。適当なプラスミドクローンを制限消化およびDNAシークエンシングによって同定した。得られたプラスミドpEC-XK99E_AGAT_Mp_argGは、AGAT_Mpと組み合わせてC.グルタミカム(C. glutamicum)に由来する遺伝子argGを含む。
【0109】
実施例10:ATCC13032のcarABオペロンの上流へのsodプロモーターの染色体挿入
ATCC13032のcarABオペロンの上流への強力なsodプロモーターのゲノム挿入によってカルバモイルリン酸シンテターゼの酵素活性を高めた。したがって、プラスミドpK18mobsacB_Psod-carABを以下のように構築した。EcoRI+HindIIIを用いてプラスミドpK18mobsacBを切断し、線形化クターDNA(5670bp)をアガロースゲルから切り出した。「QIAquick Gel Extraction Kit」(QIAGEN GmbH,Hilden,Germany)を用いてDNAを抽出した。
【0110】
挿入断片を構築するために、以下のプライマー対を用いたPCRによって3つのDNAフラグメントを作製した(鋳型としてATCC13032のゲノムDNA):
PsodcarAB-LA-F(配列番号9)+PsodcarAB-LA-R(配列番号10)
=左ホモロジーアーム(1025bp)
PsodcarAB-F(配列番号11)+PsodcarAB-R(配列番号12)
=sodプロモーター(250bp)
PsodcarAB-RA-F配列番号13)+PsodcarAB-RA-R(配列番号14)
=右ホモロジーアーム(944bp)
【0111】
「QIAquick PCR Purification Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)を用いて産物DNAを精製した。次いで、「NEBuilder HiFi DNA Assembly Cloning Kit」(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号E5520)を用いて線形化プラスミドとPCR産物とをアセンブルした。適当なプラスミドクローンを制限消化およびDNAシークエンシングによって同定した。
【0112】
pK18mobsacB_Psod-carABを用いて、carAB遺伝子の上流の強力なsodプロモーターをC.グルタミカム(C. glutamicum)ATCC13032のゲノムに組み込んだ。プラスミドをエレクトロポレーションによってATCC13032に形質転換した。134g/lソルビトール、2.5g/l酵母エキスおよび25mg/lカナマイシンを添加したBHI寒天上にプレーティングすることによって染色体組込み(最初の組換え事象によって生じる)を選択した。寒天プレートを33℃で48時間インキュベートした。
【0113】
個々のコロニーを新たな寒天プレート(25mg/lカナマイシンを含む)上に移し、33℃で24時間インキュベートした。これらのクローンの液体培養物を、3バッフル付き100mlエルレンマイヤーフラスコに入れた10mlのBHI培地にて33℃で24時間培養した。2回目の組換え事象を受けたクローンを単離するために、各液体培養物からアリコートを取り、適切に希釈し、10%サッカロースを添加したBHI寒天上にプレーティングした(通例、100~200μl)。これらの寒天プレートを33℃で48時間インキュベートした。次いで、サッカロース含有寒天プレート上で成長するコロニーをカナマイシン感受性について試験した。そのために、爪楊枝を用いて細胞物質をコロニーから取り出し、25mg/lカナマイシンを含有するBHI寒天および10%サッカロースを含有するBHI寒天上に移した。寒天プレートを33℃で60時間インキュベートした。カナマイシンに感受性であり、サッカロースに耐性を示すことが判明したクローンをsodプロモーターの適切な組込みについてPCRおよびDNAシークエンシングによって試験した。得られた株をATCC13032_Psod-carABと命名した。
【0114】
【0115】
【0116】
実施例11:様々な発現プラスミドを用いたC.グルタミカム(C. glutamicum)株の形質転換
以下のC.グルタミカム(C. glutamicum)の株を様々なプラスミドで形質転換した:
・C.グルタミカム(C. glutamicum)ATCC13032(Kinoshita et al., J. Gen. Appl. Microbiol. 1957; 3(3): 193-205))は、一般に使用される野生型株である。
・C.グルタミカム(C. glutamicum)株ATCC21831(Park et al., Nat Commun. 2014 Aug 5; 5:4618)は、アンモニアおよびグルコースのような一次基質からL-アルギニンを合成する。
・ATCC13032__Psod-carABは、carAB遺伝子の上流に強力なsodプロモーターを有するATCC13032の変異株である。
【0117】
株をエレクトロポレーションによって様々なプラスミドで形質転換した(表10に示す)。プラスミドを含む細胞を25mg/lカナマイシンで選択した。
【0118】
【0119】
実施例12:GAA生産に対するAGATおよび基質利用性の影響
株ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_Mp(モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)に由来するAGAT酵素の遺伝子を有する)およびATCC13032/pEC-XK99E(対照のための空ベクター)を、Wouter Duetzのシステム(上記)を用いたバッチ培養においてGAAを生産する能力について分析した。生産培地(PM)は、主な炭素源として40g/l D-グルコースを含有するものであった。一部のバッチには、指定のようにL-アルギニンおよび/またはグリシンを添加した。
【0120】
【0121】
表11に示すように、対照株ATCC13032/pEC-XK99Eは、前駆体であるL-アルギニンおよびグリシンを供給した場合であってもGAAを生産することができなかった。この株は内因性AGAT活性を有しないと結論付けられる。株ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_Mpは、モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)に由来する推定AGATをコードするポリヌクレオチドを含む。この株は、無添加PM中で25mg/lのGAAを生産した。グリシンの添加により、31mg/lのGAAまで僅かに増加した。グリシンおよびL-アルギニンの添加により、GAA生産が124mg/lまで大幅に増加した。
【0122】
実施例13:一次基質からのGAAの生産
産業的GAA生産プロセスにおいては、L-アルギニンの添加は、アンモニア、尿素およびグルコースのような一次基質と比較してかなり高コストである。したがって、かかる一次基質からGAAを直接生成することが望ましい。
【0123】
この目的で、L-アルギニン生産株であるC.グルタミカム(C. glutamicum)ATCC21831を、
・pEKEx2(対照のための空ベクター)、
・pEKEx2_AGAT_Mp(モオレア・プロドゥケンス(Morea producens)に由来するAGAT_Mp遺伝子を有する)、
・pEKEx2_AGAT_Hs(ホモ・サピエンス(Homo sapiens)に由来するAGAT_Hs遺伝子を有する)、
・pEKEx2_AGAT_Rn(ラットゥス・ノルウェギクス(Rattus norvegicus)に由来するAGAT_Rn遺伝子を有する)、
・pEKEx2_AGAT_Gv(ガレオプテラス・バリエガタス(Galeopterus variegatus)に由来するAGAT_Gv遺伝子を有する)、および
・pEKEx2_AGAT_cyrA(シリンドロスペルモプシス・ラシボルスキイ(Cylindrospermopsis raciborskii)に由来するAGAT_cyrA遺伝子を有する)
で形質転換した。
【0124】
ATCC21831は、カナバニン耐性突然変異株として単離され、L-アルギニンを生産することが見出された。そのゲノムは、Park et al.によってシークエンシングされ(Nat Commun. 2014 Aug 5;5:4618. doi: 10.1038/ncomms5618;アクセッション番号CP007722)、この株はLGC Standards(LGC Standards GmbH,Wesel,Germany)から一般に入手可能である。
【0125】
全ての形質転換ATCC21831株を、Wouter Duetzのシステム(上記)を用いたバッチ培養においてGAAを生産する能力について分析した。生産培地(PM)は、主な炭素源として40g/l D-グルコースを含有するものであった。一部のバッチにはL-アルギニンおよび/またはグリシンを添加した。
【0126】
【0127】
表12に示すように、ATCC21831/pEKEx2は、前駆体であるL-アルギニンおよびグリシンが存在する場合であってもGAAを生産しなかった。ATCC21831/pEKEx2は、内因性AGAT活性を有しないと結論付けられる。形質転換株ATCC21831/pEKEx2_AGAT_Mp、ATCC21831/pEKEx2_AGAT_Hs、ATCC21831/pEKEx2_AGAT_Rn、ATCC21831/pEKEx2_AGAT_GvおよびATCC21831/pEKEx2_AGAT_cyrAは、無添加PM中で約1~最大26mg/lのGAAを生産した。一次基質であるD-グルコース、アンモニウムおよび尿素から前駆体であるL-アルギニンおよびグリシンが合成されたと結論付けられる。
【0128】
グリシンを添加した場合、ATCC21831/pEKEx2_AGAT_Mp、ATCC21831/pEKEx2_AGAT_Hs、ATCC21831/pEKEx2_AGAT_Rn、ATCC21831/pEKEx2_AGAT_GvおよびATCC21831/PEKEX2_AGAT_cyrAのGAA生産は、非添加実験と比較して顕著に増加した。株ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_Mp(表10を参照されたい)と比較すると、AGAT遺伝子を有するL-アルギニン生産株ATCC21831は、グリシンが制限されていない場合に、はるかに多くのGAAを蓄積する。L-アルギニンを内部供給する能力がGAA生産を改善すると結論付けられる。
【0129】
実施例14:GAA生産に対するL-アルギニン再生の影響
L-アルギニン生産株(例えばATCC21831)では、中間体L-オルニチンがde novo合成され、さらにL-アルギニンに変換される。かかる株にAGATを供給すると、酵素は等モル量のGAAおよびL-オルニチンを生産する。しかしながら、L-オルニチンの形成は、相当量の一次C源およびN源を消費するため、GAAの収率が低下する。
【0130】
L-オルニチンからL-アルギニンまでの生合成経路の強化が、おそらくはL-オルニチンからL-アルギニンへのリサイクルを改善することによって、GAA生産を改善することが見出された。
【0131】
ATCC13032に由来する様々な株を、Wouter Duetzのシステムを用いて培養した後、GAAを生産する能力について分析した(表13、14および15)。
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
表13~15に示すように、AGAT遺伝子が欠損した株は、検出可能な量のGAAを生産しなかった。
【0136】
ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_MpにおけるAGAT_Mpの発現により、124mg/lのGAAが得られた。argG(株ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_Mp_argG)、argF(株ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_Mp_argF)またはargG+argH(株ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_Mp_argGH)の付加的な増幅により、GAAの生産が改善した(表14を参照)。
【0137】
株ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_Mp_argFGHでは、遺伝子argF(オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼをコードする)、argG(アルギニノコハク酸シンテターゼをコードする)およびargH(アルギニノコハク酸リアーゼをコードする)の発現が増強される。これにより、GAAの生産が154mg/lにまでさらに改善した(表14を参照)。
【0138】
オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼによって触媒されるL-オルニチンからL-シトルリンへの変換は、補助基質であるカルバモイルリン酸の利用性に依存する。カルバモイルリン酸は、遺伝子carAおよびcarBによってコードされるカルバモイルリン酸シンターゼによって生成する。株ATCC13032_Psod-carAB/pEC-XK99E_AGAT_Mpでは、強力なsodプロモーターのゲノム挿入により、carAおよびcarBの発現が増強される。ATCC13032/pEC-XK99E_AGAT_Mpと比較すると、これによりGAA生産が改善した(156mg/l対124mg/l)。
【0139】
株ATCC13032_Psod-carAB/pEC-XK99E_AGAT_Mp_argFGHでは、L-オルニチン変換の改善(argF、argGおよびargHの過剰発現)をカルバモイルリン酸生合成の改善(carAおよびcarBの過剰発現)と組み合わせた。この組合せにより、GAA生産が171mg/lにまでさらに改善した。
【0140】
実施例15:モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)遺伝子AGAT_Mp用のP.プチダ(P. putida)発現ベクターの構築
P.プチダ(P. putida)KT2440におけるモオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)に由来するAGAT(EC 2.1.4.1、配列番号2および配列番号4)の異種発現のために、プラスミドpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]を構築した。コドン最適化したAGAT_Mp遺伝子をラムノース誘導性プロモーターPrhaの制御下でベクターpACYATh-5にクローニングすることにした。AGAT_Mp遺伝子の下流にターミネーター配列が位置する。AGAT_Mp遺伝子の遺伝子合成をEurofins Genomics Germany GmbH(Ebersberg,Germany)に発注し、遺伝子フラグメントのDNA配列をP.プチダ(P. putida)KT2440(配列番号33)での発現に対してコドン最適化した。オープンリーディングフレームの上流にシャイン-ダルガノ配列を付加した。PRhaプロモーターカセット(配列番号34)およびターミネーター配列(配列番号35)をE.コリ(E. coli)K12ゲノムDNAから増幅した。ベクターは、pACYC184(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA)をベースとし、E.コリ(E. coli)のp15A複製起点と、P.プチダ(P. putida)KT2440での複製のためのpVS1複製起点とを有する。pVS1起点は、シュードモナスプラスミドpVS1に由来する(Itoh Y, Watson JM, Haas D, Leisinger T, Plasmid 1984, 11(3), 206-20)。次の工程では、プライマーMW_20_01_fw(配列番号36)およびMW_20_02_rv(配列番号37)を用いたPCRによってAGAT_Mp遺伝子フラグメントを増幅し、制限部位ApaI/XhoIおよびNEBuilder(登録商標) HiFi DNA Assembly Cloning Kit(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号E5520)を用いてベクターpACYCATh-5にクローニングした。アセンブルした産物を10-beta electrocompetent E. coli細胞(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号C3020K)に形質転換した。PCR精製、クローニングおよび形質転換の手順は、製造業者のマニュアルに従って行った。標的遺伝子の正確な挿入を制限分析によって確認し、導入されたDNAフラグメントの真正性をDNAシークエンシングによって検証した。得られた発現ベクターをpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]と命名した(配列番号38、表17を参照されたい)。
【0141】
P.プチダ(P. putida)株KT2440をエレクトロポレーションによってプラスミドpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]で形質転換し、テトラサイクリン(10mg/l)を添加したLB寒天プレート上にプレーティングした。形質転換体を、プラスミド調製および分析的制限分析によって正確なプラスミドの存在について確認した。得られた株をP.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]と命名した(表18を参照されたい)。
【0142】
実施例16:モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)遺伝子AGAT_Mp、ならびにP.プチダ(P. putida)遺伝子argF、argGおよびargH用のP.プチダ(P. putida)発現ベクターの構築
モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)に由来するAGAT_MpおよびP.プチダ(P. putida)KT2440に由来するargF(配列番号39)、argG(配列番号41)、argH(配列番号43)の異種発現のために、プラスミドpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]を構築した。L-アルギニン:グリシンアミジノトランスフェラーゼ(AGAT、EC 2.1.4.1、配列番号2および配列番号4)をコードするAGAT_Mp、オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼ(ArgF、EC 2.1.3.3、配列番号40)をコードするargF、アルギニノコハク酸シンターゼ(ArgG、E.C. 6.3.4.5、配列番号42)をコードするargG、およびアルギニノコハク酸リアーゼ(ArgH、E.C. 4.3.2.1、配列番号44)をコードするargHのそれぞれからなる合成オペロンを、ラムノース誘導性プロモーターPrhaの制御下でベクターpACYCATh-5にクローニングした。合成オペロンの下流にターミネーター配列が位置する。AGAT_Mp遺伝子の遺伝子合成をEurofins Genomics Germany GmbH(Ebersberg,Germany)に発注し、遺伝子フラグメントのDNA配列をP.プチダ(P. putida)KT2440での発現に対してコドン最適化した。遺伝子argFGHも遺伝子フラグメントargFGH(配列番号45)として合成した。PRhaプロモーターカセット(配列番号34)およびターミネーター配列(配列番号35)をE.コリ(E. coli)K12ゲノムDNAから増幅した。ベクターは、pACYC184(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA)をベースとし、E.コリ(E. coli)のp15A複製起点と、P.プチダ(P. putida)KT2440での複製のためのpVS1複製起点とを有する。pVS1起点は、シュードモナスプラスミドpVS1に由来する(Itoh Y, Watson JM, Haas D, Leisinger T, Plasmid 1984, 11(3), 206-20)。クローニングのために、AGAT_MpおよびargFGHをPCRによって増幅した。クローニングに用いたプライマーを表16に挙げる。制限部位ApaI/XhoIおよびNEBuilder(登録商標) HiFi DNA Assembly Cloning Kit(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号E5520)を用いてPCR産物をベクターpACYCATh-5bにクローニングし、最適化オペロンを生成した。増幅には、New England Biolabs(Ipswich,USA)のPhusion(商標) High-Fidelity Master Mixを製造業者のマニュアルに従って使用した。アセンブルした産物を10-beta electrocompetent E. coli細胞(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号C3020K)に形質転換した。PCR精製、クローニングおよび形質転換の手順は、製造業者のマニュアルに従って行った。標的遺伝子の正確な挿入を制限分析によって確認し、導入されたDNAフラグメントの真正性をDNAシークエンシングによって検証した。得られた発現ベクターをpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]と命名した(配列番号49、表17を参照されたい)。
【0143】
P.プチダ(P. putida)株KT2440をエレクトロポレーションによってプラスミドpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]で形質転換し、テトラサイクリン(10mg/l)を添加したLB寒天プレート上にプレーティングした。形質転換体を、プラスミド調製および分析的制限分析によって正確なプラスミドの存在について確認した。得られた株をP.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]と命名した(表18を参照されたい)。
【0144】
【0145】
実施例17:発現ベクターpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]へのP.プチダ(P. putida)KT2440に由来する遺伝子carABのクローニング
モオレア・プロドゥケンス(Moorea producens)に由来するAGAT_Mp、argF(配列番号39)、P.プチダ(P. putida)KT2440に由来するargG(配列番号41)、argH(配列番号43)、carA(配列番号50)およびcarB(配列番号52)の異種発現のために、プラスミドpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]{carAB_Pp}[carAB_Pp][ter]を構築した。カルバモイルリン酸シンターゼ(CarAB、EC 6.3.5.5、配列番号51および配列番号53)をコードするcarA(配列番号50)およびcarB遺伝子(配列番号52)を、プライマーMW_20_35_fw(配列番号54)およびMW_20_36_rv(配列番号55)を用いたPCRによって、carABオペロンのネイティブプロモーターを含むP.プチダ(P. putida)KT2440のゲノムDNAから増幅した。増幅には、New England Biolabs(Ipswich,USA)のPhusion(商標) High-Fidelity Master Mixを製造業者のマニュアルに従って使用した。PCR産物(配列番号56)を、Bsu36Iで切断したpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]に、NEBuilder(登録商標) HiFi DNA Assembly Cloning Kit(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号E5520)を用いてクローニングした。アセンブルした産物を10-beta electrocompetent E. coli細胞(New England BioLabs Inc.,Ipswich,USA、カタログ番号C3020K)に形質転換した。PCR精製、クローニングおよび形質転換の手順は、製造業者のマニュアルに従って行った。標的遺伝子の正確な挿入を制限分析によって確認し、導入されたDNAフラグメントの真正性をDNAシークエンシングによって検証した。得られた発現ベクターをpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]{carAB_Pp}[carAB_Pp][ter]と命名した(配列番号57、表17を参照されたい)。
【0146】
P.プチダ(P. putida)株KT2440をエレクトロポレーションによってプラスミドpACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]{carAB_Pp}[carAB_Pp][ter]で形質転換し、テトラサイクリン(10mg/l)を添加したLB寒天プレート上にプレーティングした。形質転換体を、プラスミド調製および分析的制限分析によって正確なプラスミドの存在について確認した。得られた株をP.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]{carAB_Pp}[carAB_Pp][ter]と命名した(表18を参照されたい)。
【0147】
【0148】
【0149】
実施例18:P.プチダ(P. putida)KT2440におけるGAA生産に対するAGATの影響
M.プロドゥケンス(M. producens)に由来するAGAT酵素の遺伝子を有する株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]およびP.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5(空ベクター対照)を、振盪フラスコを用いたバッチ培養においてGAAを生産する能力について分析した。10mg/lテトラサイクリンを含有するLB寒天プレート上に、対応する株のグリセロール凍結培養物(cryoculture)の接種ループで画線した。寒天プレートを30℃で24時間インキュベートした。10mg/lテトラサイクリンを含む15mlのシード培地(オートクレーブ処理:4.4g/L Na2HPO4・2H2O、1.5g/L KH2PO4、1g/L NH4Cl、10g/L酵母エキス、個別滅菌:20g/Lグルコース、0.2g/L MgSO4・7H2O、0.006g/L FeCl3、0.015g/L CaCl2、1ml/L微量元素溶液SL6(滅菌濾過:0.3g/L H3BO3、0.2g/L CoCl2・6H2O、0.1g/L ZnSO4・7H2O、0.03g/L MnCl2・4H2O、0.01g/L CuCl2・2H2O、0.03g/L Na2MoO4・2H2O、0.02g/L NiCl2・6H2O)、pH7)を入れたバッフル付き100mlフラスコに寒天プレートの単一コロニーを接種し、振盪インキュベーターにて30℃および200rpmで18時間インキュベートして、前培養物を生成した。前培養物を用いて、10mg/lテトラサイクリン、3.48g/lアルギニンおよび1.5g/lグリシンを含む40mlのM12培地(組成:2.2g/L (NH4)2SO4、0.02g/L NaCl、0.4g/L MgSO4・7H2O、0.04g/L CaCl2・2H2O、個別滅菌:2g/L KH2PO4、8.51g/L Na2HPO4、20g/Lグルコース、10ml/l微量元素溶液M12(滅菌濾過:0.2g/L ZnSO4・7H2O、0.1g/L MnCl2・4H2O、1.5g/Lクエン酸Na3・2H2O、0.1g/L CuSO4・5H2O、0.002g/L NiCl2・6H2O、0.003g/L Na2MoO4・2H2O、0.03g/L H3BO3、1g/L FeSO4・7H2O)、pH7.4)に開始OD600が0.1となるまで接種した。株を48時間培養した。約0.5~0.8のOD600で0.2%(w/v)ラムノースの添加によって遺伝子発現を誘導した。誘導の9時間後および24時間後に、1.74g/lアルギニンおよび0.75g/lグリシンをスパイクした。培養の終了時にサンプルを採取し、生産されたGAAの濃度を決定した。
【0150】
結果を表19に示す。
【0151】
【0152】
表19から明らかなように、M.プロドゥケンス(M. producens)に由来するAGAT_Mp遺伝子を備える株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]は、約81.5mg/lのGAAを生産することができた。対照株であるP.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5は、GAAを全く生産することができなかった。
【0153】
実施例19:P.プチダ(P. putida)KT2440におけるGAA生産に対するAGATおよびL-アルギニン供給の増加の影響
M.プロドゥケンス(M. producens)に由来するAGAT酵素の遺伝子を有する株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]およびアルギニン生合成遺伝子argFGHを付加的に有する株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]を、振盪フラスコを用いたバッチ培養においてGAAを生産する能力について分析した。10mg/lテトラサイクリンを含有するLB寒天プレート上に、対応する株のグリセロール凍結培養物の接種ループで画線した。寒天プレートを30℃で24時間インキュベートした。10mg/lテトラサイクリンを含む15mlのシード培地(オートクレーブ処理:4.4g/L Na2HPO4・2H2O、1.5g/L KH2PO4、1g/L NH4Cl、10g/L酵母エキス、個別滅菌:20g/Lグルコース、0.2g/L MgSO4・7H2O、0.006g/L FeCl3、0.015g/L CaCl2、1ml/L微量元素溶液SL6(滅菌濾過:0.3g/L H3BO3、0.2g/L CoCl2・6H2O、0.1g/L ZnSO4・7H2O、0.03g/L MnCl2・4H2O、0.01g/L CuCl2・2H2O、0.03g/L Na2MoO4・2H2O、0.02g/L NiCl2・6H2O)、pH7)を入れたバッフル付き100mlフラスコに寒天プレートの単一コロニーを接種し、振盪インキュベーターにて30℃および200rpmで18時間インキュベートして、前培養物を生成した。前培養物を用いて、10mg/lテトラサイクリン、3.48g/lアルギニンおよび1.5g/lグリシンを含む40mlのM12培地(組成:2.2g/L (NH4)2SO4、0.02g/L NaCl、0.4g/L MgSO4・7H2O、0.04g/L CaCl2・2H2O、個別滅菌:2g/L KH2PO4、8.51g/L Na2HPO4、20g/Lグルコース、10ml/l微量元素溶液M12(滅菌濾過:0.2g/L ZnSO4・7H2O、0.1g/L MnCl2・4H2O、1.5g/Lクエン酸Na3・2H2O、0.1g/L CuSO4・5H2O、0.002g/L NiCl2・6H2O、0.003g/L Na2MoO4・2H2O、0.03g/L H3BO3、1g/L FeSO4・7H2O)、pH7.4)に開始OD600が0.1となるまで接種した。株を48時間培養した。約0.5~0.8のOD600で、0.2%(w/v)ラムノースの添加によって遺伝子発現を誘導した。誘導の9時間後および24時間後に、1.74g/lアルギニンおよび0.75g/lグリシンをスパイクした。培養の終了時にサンプルを採取し、生産されたGAAの濃度を決定した。
【0154】
結果を表20に示す。
【0155】
【0156】
表20から明らかなように、M.プロドゥケンス(M. producens)に由来するAGAT_Mp遺伝子を備える株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]は、約81.5mg/lのGAAを生産することができた。株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]におけるargF、argGおよびargHの付加的な導入は、GAA生産を169.5mg/lにまで改善した。
【0157】
実施例20:P.プチダ(P. putida)KT2440におけるGAA生産に対するAGATおよびL-アルギニン再生の影響
M.プロドゥケンス(M. producens)に由来するAGAT酵素の遺伝子を有する株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp)]、アルギニン生合成遺伝子argFGHを付加的に有する株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp argFGH_Pp]、およびカルバモイルリン酸シンターゼ遺伝子carABを付加的に有する株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]{carAB_Pp}[carAB_Pp][ter]を、振盪フラスコを用いたバッチ培養においてGAAを生産する能力について分析した。オルニチンカルバモイルトランスフェラーゼによって触媒されるL-オルニチンからL-シトルリンへの変換は、補助基質であるカルバモイルリン酸の利用性に依存する。カルバモイルリン酸は、遺伝子carAおよびcarBにコードされるカルバモイルリン酸シンターゼによって生成する。10mg/lテトラサイクリンを含有するLB寒天プレート上に、対応する株のグリセロール凍結培養物の接種ループで画線した。寒天プレートを30℃で24時間インキュベートした。10mg/lテトラサイクリンを含む15mlのシード培地(オートクレーブ処理:4.4g/L Na2HPO4・2H2O、1.5g/L KH2PO4、1g/L NH4Cl、10g/L酵母エキス、個別滅菌:20g/Lグルコース、0.2g/L MgSO4・7H2O、0.006g/L FeCl3、0.015g/L CaCl2、1ml/L微量元素溶液SL6(滅菌濾過:0.3g/L H3BO3、0.2g/L CoCl2・6H2O、0.1g/L ZnSO4・7H2O、0.03g/L MnCl2・4H2O、0.01g/L CuCl2・2H2O、0.03g/L Na2MoO4・2H2O、0.02g/L NiCl2・6H2O)、pH7)を入れたバッフル付き100mlフラスコに寒天プレートの単一コロニーを接種し、振盪インキュベーターにて30℃および200rpmで18時間インキュベートして、前培養物を生成した。前培養物を用いて、10mg/lテトラサイクリン、3.48g/lアルギニンおよび1.5g/lグリシンを含む40mlのM12培地(組成:2.2g/L (NH4)2SO4、0.02g/L NaCl、0.4g/L MgSO4・7H2O、0.04g/L CaCl2・2H2O、個別滅菌:2g/L KH2PO4、8.51g/L Na2HPO4、20g/Lグルコース、10ml/l微量元素溶液M12(滅菌濾過:0.2g/L ZnSO4・7H2O、0.1g/L MnCl2・4H2O、1.5g/Lクエン酸Na3・2H2O、0.1g/L CuSO4・5H2O、0.002g/L NiCl2・6H2O、0.003g/L Na2MoO4・2H2O、0.03g/L H3BO3、1g/L FeSO4・7H2O)、pH7.4)に開始OD600が0.1となるまで接種した。株を48時間培養した。約0.5~0.8のOD600で、0.2%(w/v)ラムノースの添加によって遺伝子発現を誘導した。誘導の4時間/18時間/23時間後に、6.97g/l Arg/1.5g/l Gly、2.34g/L Arg/0.75g/L Glyおよび6.97g/l Arg/1.5g/l Glyをスパイクした。培養の終了時にサンプルを採取し、生産されたGAAの濃度を決定した。
【0158】
結果を表21に示す。
【0159】
【0160】
表21から明らかなように、M.プロドゥケンス(M. producens)に由来するAGAT_Mp遺伝子およびP.プチダ(P. putida)に由来するargFGH遺伝子を備える株は、589mg/lのGAAを生産することができた。株P.プチダ(P. putida)KT2440/pACYCATh-5{PRha}[agat_Mp(coPp) argFGH_Pp]{carAB_Pp}[carAB_Pp][ter]におけるcarABの付加的な導入は、GAA生産を693mg/lにまで改善した。
【配列表】
【国際調査報告】