(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】造血幹細胞を増幅するための小分子化合物、及びそれらの組み合わせ
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0789 20100101AFI20230215BHJP
C07K 14/475 20060101ALN20230215BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
C12N5/0789
C07K14/475
C07K14/54
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537871
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 CN2020136790
(87)【国際公開番号】W WO2021121266
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/125687
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522242362
【氏名又は名称】▲広▼州▲輯▼因医▲療▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】EDIGENE (GUANGZHOU) INC.
【住所又は居所原語表記】Building 10, No.6, Nanjiang Second Road, Zhujiang Street, Nansha District, Guangzhou City, Guangdong 510000, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】方 日国
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼ 卉慧
(72)【発明者】
【氏名】史 忠玉
(72)【発明者】
【氏名】袁 ▲鵬▼▲飛▼
(72)【発明者】
【氏名】于 玲玲
【テーマコード(参考)】
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC14
4B065BB34
4B065CA44
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA02
(57)【要約】
造血幹細胞(HSCs)を増幅するための小分子阻害剤及びそれらの組み合わせが提供される。小分子阻害剤及びそれらの組み合わせは、造血幹細胞(HSCs)のインビトロ増幅を促進しながら、造血幹細胞の幹細胞性を維持することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HSCsを、STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤または他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤を含有する培養液とインビトロで接触させることを含む、HSCsの増殖を促進し、HSCsの幹細胞性を維持する方法。
【請求項2】
前記STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤がSrc標的の小分子阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ(Dasatinib)、ケルセチン(Quercetin)、UM-164、KX2-391及びKX1-004から選択される1つまたは複数である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記Src標的の小分子阻害剤を、他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤と組み合わせて使用する、請求項2~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、及びJNKを標的とする小分子阻害剤から選択1つまたは複数の小分子阻害剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記Src標的の小分子阻害剤を、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、またはJNKを標的とする小分子阻害剤と組み合わせて使用する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記Src標的の小分子阻害剤を、HDACを標的とする小分子阻害剤VPA、HDACを標的とする小分子阻害剤SAHA、PKCを標的とする小分子阻害剤エンザスタウリン(Enzastaurin)、またはJNKを標的とする小分子阻害剤JNK-IN-8と組み合わせて使用する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記Src標的の小分子阻害剤がダサチニブである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ダサチニブをVPAまたはSAHAと組み合わせて使用する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記Src標的の小分子阻害剤を単独でまたは他の阻害剤と組み合わせて使用することは、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持する、請求項2~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記Src標的の小分子阻害剤を単独でまたは他の阻害剤と組み合わせて使用することは、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する、請求項2~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤を含む、HSCsの幹細胞性を維持するための組成物。
【請求項13】
前記STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤がSrc標的の小分子阻害剤である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ、ケルセチン、UM-164、KX2-391及びKX1-004から選択される1つまたは複数である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤をさらに含む、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、及びJNKを標的とする小分子阻害剤を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤VPA、HDACを標的とする小分子阻害剤SAHA、PKCを標的とする小分子阻害剤エンザスタウリン、及びJNKを標的とする小分子阻害剤JNK-IN-8を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む、請求項12~17のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物は、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持する、請求項12~18のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物は、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する、請求項12~19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項21】
SAHA+EPZ004777、SAHA+DZNeP、SAHA+ダサチニブ、VPA+ダサチニブ、SAHA+JNK-IN-8またはSAHA+VPAから選択されるいずれか1つの組み合わせを含む、HSCsの乾細胞性を維持するための組成物。
【請求項22】
前記組成物は、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持する、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
前記組成物は、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する、請求項21または22に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物が、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む、請求項21~23のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項25】
SAHA+EPZ004777+DZNePまたはSAHA+VPA+ダサチニブから選択されるいずれか1つの組み合わせを含む、HSCsの乾細胞性を維持するための組成物。
【請求項26】
前記組成物は、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持する、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物は、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する、請求項25または26に記載の組成物。
【請求項28】
前記組成物が、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む、請求項25~27のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項29】
培地における各阻害剤の濃度として、
ダサチニブ:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
SAHA:10nM~20μM、好ましくは20nM~15μM、より好ましくは30nM~10μM、最も好ましくは0.1μM~10μMであり、
VPA:10μM~2000μM、好ましくは10μM~1500μM、より好ましくは10μM~1000μM、最も好ましくは100μM~1000μMであり、
JNK-IN-8:0.1μM~20μM、好ましくは0.5μM~15μM、より好ましくは0.5μM~10μM、最も好ましくは1μM~10μMであり、
EPZ004777:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
DZNeP:1nM~500nM、好ましくは5nM~400nM、より好ましくは10nM~300nM、最も好ましくは10nM~250nMであり、
UM-164:0.1μM~1000μM、好ましくは0.5μM~500μM、より好ましくは1μM~100μM、最も好ましくは1μM~10μMであり、
KX2-391:0.1nM~1000nM、好ましくは1nM~1000nM、より好ましくは10nM~500nM、最も好ましくは10nM~100nMであり、
KX1-004:0.1μM~1000μM、好ましくは1μM~1000μM、より好ましくは10μM~500μM、最も好ましくは10μM~100μMである、請求項17~19のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項30】
培地における各阻害剤の濃度として、
ダサチニブ:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
SAHA:10nM~20μM、好ましくは20nM~15μM、より好ましくは30nM~10μM、最も好ましくは0.1μM~10μMであり、
VPA:10μM~2000μM、好ましくは10μM~1500μM、より好ましくは10μM~1000μM、最も好ましくは100μM~1000μMであり、
JNK-IN-8:0.1μM~20μM、好ましくは0.5μM~15μM、より好ましくは0.5μM~10μM、最も好ましくは1μM~10μMであり、
EPZ004777:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
DZNeP:1nM~500nM、好ましくは5nM~400nM、より好ましくは10nM~300nM、最も好ましくは10nM~250nMである、請求項21~24のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項31】
培地における各阻害剤の濃度として、
ダサチニブ:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
SAHA:10nM~20μM、好ましくは20nM~15μM、より好ましくは30nM~10μM、最も好ましくは0.1μM~10μMであり、
VPA:10μM~2000μM、好ましくは10μM~1500μM、より好ましくは10μM~1000μM、最も好ましくは100μM~1000μMであり、
EPZ004777:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
DZNeP:1nM~500nM、好ましくは5nM~400nM、より好ましくは10nM~300nM、最も好ましくは10nM~250nMである、請求項25~28のいずれか1項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、生物医学の分野に関し、特に造血幹細胞(HSCs)を増幅するための小分子化合物、具体的には細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤、その組成物、ならびに造血幹細胞の増幅における小分子阻害剤及びその組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(hematopoietic stem cells,HSCs)は、血液系の不均一な原始造血細胞のグループであり、自己複製と多系統分化の2つの重要な特徴を備えている。体が健康な状態にあるとき、体内のHSCsは長い間静止状態にある。体が病変や重度の失血の状態にあるとき、HSCsは活性化され、自己複製及び多系統分化の状態になり、血液系の安定性と体の恒常性を維持する。HSCsの自己複製特性は、後代HSCsの幹細胞性の維持に有益であり、HSCsの多系統分化特性により、骨髄細胞(顆粒球、単球、赤血球、及び血小板)、リンパ球(T細胞及びB細胞)などのさまざまな成熟血液細胞に分化することができる。HSCsの特性は、体が必要とするときにHSCsの分化を促進する。
【0003】
HSCsのこれらの特性により、造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation,HSCT)による血液系疾患の治療が可能になる。HSCは、長期造血幹細胞(long term HSCs、LT-HSCs)及び短期造血幹細胞(short term HSCs、ST-HSCs)を含む。前者は自己複製能力が高く、体のライフサイクル全体で造血再建を行うことができるが、後者は限られた時間だけ造血再建の機能を維持することができる。1959年、Thomasらは骨髄造血幹細胞を使用して人類史上で初の造血幹細胞移植を行い、臨床で白血病を治療して患者体内の正常な造血機能を回復させた。その後の数十年間、科学研究者の継続的な努力により、造血幹細胞移植は、さまざまな血液系疾患の治療に使用されるだけではなく、免疫不全疾患や神経系変性疾患などの治療にも使用されてきた。
【0004】
現在、HSCsの主な供給源は、骨髄(bone marrow,BM)、動員末梢血(mobilized peripheral blood,mPB)、臍帯血(umbilical cord blood,CB)の3つである。骨髄造血幹細胞の採取は、外傷が大きく、採取が不十分であるため、この方法は基本的には放棄された。ヒト末梢血中のHSCsの割合は非常に低く(0.1%未満)、移植前に造血幹細胞を骨髄から末梢血に移動させるために顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を使用する必要があり、臨床応用では、動員効果が悪かったり、含まれるHSCsの数が不十分であったりすることが多いため、繰り返し動員または移植の失敗をもたらす。さらに、これら2つの方法で収集されたHSCはすべて、ドナーと患者との間でヒト白血球抗原(human leukocyte antigen,HLA)のマッチングを実行する必要がある。HLAマッチングは困難であり、ミスマッチが発生すると、移植片対宿主反応(graft versus host reaction,GVHD)が発生してしまう。GVHDを発症した患者は、免疫系障害で亡くなる。
【0005】
HSCsの新しい供給源として、臍帯血には多くの利点がある。まず、臍帯血HSCsは、HLAマッチングの要件が低く、部分的なHLAミスマッチが可能であり、移植後のGVHDの発生率が低いため、従来のHSCTマッチングの難しさを軽減できる。そして、臍帯採血は便利であり、ドナーに無害であり、倫理的な問題はなく、HSCsの造血能力が強い。これらの利点により、臍帯血は、疾患を治療するための将来のHSCの優先的供給源になる。
【0006】
しかしながら、一つ分の臍帯血中の細胞量が少ないため、HSCsの総数は少なく、移植対象は子供や体重の低い成人に限定されており、体重の高い成人の移植ニーズを満たすことはできない。移植されたHSCsの数が不十分な場合、患者の好中球の回復が遅れ、GVHDのリスクが高まる。これらは、臍帯血の臨床応用を制限するボトルネックになっている。
【0007】
要するに、造血幹細胞移植の安全性と有効性は、移植されたHSCsの含有量に依存する。HSCsの数をインビトロで増やすことができれば、造血幹細胞移植の成功率を向上させることができる。
【0008】
研究者たちは引き続き努力し、造血幹細胞のインビトロ増幅を達成するためのさまざまな方法を模索している。HSCsのインビトロ増幅のための策略の1つは、HSCsを標的とする小分子化合物(small-molecule compounds,SMCs)を使用することである。SMCsは、供給元から容易に入手でき、大量生産が容易であり、性質が安定しており、構造が明確であり、濃度の制御が容易であり、医学研究で広く使用されている。現在のHSCsのインビトロ増幅技術では、SMCsはHSCsの増幅倍率を大幅に増加させることができる。例えば、AhRアリール炭化水素受容体阻害剤であるStemRegenin 1(SR1)は、スクリーニングされたインビトロでHSCsを増幅できる初めてのSMCである。ピリミジンインドール誘導体UM171もインビトロでHSCsを増幅することができるが、AhR細胞シグナル伝達経路を介して作用するのではない。トランスクリプトーム解析の結果は、UM171がAhR細胞シグナル伝達経路をダウンレギュレートしなかったが、赤血球及び巨核球の分化関連遺伝子を阻害したことを示した。両者の組み合わせは、HSCsの増幅倍率を高めることができる。
【0009】
ヒストンデアセチラーゼ(histone deacetylases,HDAC)は、既知の細胞シグナル伝達経路である。ヒストンは、アセチル化または脱アセチル化の調節を通じて、特定の遺伝子の転写プロセス、細胞の増殖及び分化を調節することができる。既存の研究結果は、ヒストンのアセチル化がHSCsの自己複製と増殖に役割を果たすことを明らかにしている。HDAC阻害剤であるTSA、トラポキシン(trapoxin)、クラミドシン(chlamydocin)は、インビトロでヒストンアセチル化を調節して、HSCsの自己複製と増殖を促進することができる。
【0010】
SrcはSrcプロトオンコジーンによってコードされており、チロシンプロテインキナーゼ活性を持つ非受容体型プロテインキナーゼである。それは細胞質に存在し、さまざまな細胞表面受容体によって活性化されて複数の細胞シグナル伝達経路の媒介に関与し、それによって細胞増殖や分化などのプロセスを調節することができ、複数の細胞シグナル伝達経路の重要な分子である。例えば、Srcは活性化された後、p52Shcと協力してマイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)細胞シグナル伝達経路を活性化し、MAPKの細胞増殖及び分化プロセスの下流調節に関与する。SrcはSTAT細胞シグナル伝達経路を活性化して関連遺伝子の転写を促進することもできる。今までのところ、Src阻害剤がインビトロ増殖中にHSCsの幹細胞性を維持するのに役立つことを報告した研究はないが、本発明の研究では、Src阻害剤がHSCsの増殖を促進し、HSCsの幹細胞性を維持できることを発見した。
【0011】
一部の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤はHSCsの増殖を促進できることがわかっているが、本分野では、臨床的ニーズを満たすために、HSCsの増殖をより効果的に促進し、増殖したHSCの幹細胞性を維持できる小分子化合物、及びこの目的を達成する総合的な戦略を探し続ける必要がある。
【発明の概要】
【0012】
本願が解決する課題は、細胞シグナル伝達経路を調節する肝心な要因を研究することにより、HSCsのインビトロ増幅を促進するとともにHSCsの幹細胞性の高い割合を維持する最適な小分子化合物及びその組成物を選別し、これによって従来技術の、HSCsのインビトロ増幅数がまだ不十分であるという課題を解決することである。
【0013】
まず、出願人の研究により、STAT細胞シグナル伝達経路のSrc標的に作用する複数の小分子阻害剤がインビトロ培養時のHSCsの幹細胞性を十分に維持でき、Src標的がSTAT細胞シグナル伝達経路において、造血幹細胞の増幅、及びそれと同時に造血幹細胞の幹細胞性の維持に重要な役割を果たしていることが分かった。これは以前の研究では報告されたことはない。
【0014】
さらに、本願は、HSCsのインビトロ培養中に、SAHA、バルプロ酸(Valproic acid、VPA)などのHDAC阻害剤と、Src標的の小分子阻害剤との組み合わせがHSCsの幹細胞性を十分に維持でき、その効果が従来技術で見出されたSR1及びUM171よりもはるかに優れていることを発見した。
【0015】
したがって、本願の一態様は、Src標的を標的とする小分子阻害剤などの、シグナル伝達及び転写活性化因子(STAT)細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HSCsの増殖を促進し、HSCsの幹細胞性特性を維持できることを見出す。一部の実施形態では、本願は、HSCsを、STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤または他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤を含有する培養液とインビトロで接触させることを含む、HSCsの増殖を促進し、HSCsの幹細胞性を維持する方法を提供する。一部の実施形態では、前記STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤がSrc標的の小分子阻害剤である。一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ(Dasatinib)、ケルセチン(Quercetin)、UM-164、KX2-391及びKX1-004から選択される1つまたは複数である。一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ、UM-164、及びKX1-004から選択される1つまたは複数である。
【0016】
一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤は、他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤と併用する。一部の実施形態では、前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、及びJNKを標的とする小分子阻害剤から選択1つまたは2つ以上である。一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤は、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、またはJNKを標的とする小分子阻害剤と併用する。一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤は、HDACを標的とする小分子阻害剤VPA、HDACを標的とする小分子阻害剤SAHA、PKCを標的とする小分子阻害剤エンザスタウリン(Enzastaurin)、またはJNKを標的とする小分子阻害剤JNK-IN-8と併用する。一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤ダサチニブはVPAまたはSAHAと併用する。一部の実施形態では、Src標的の小分子阻害剤などの前記シグナル伝達及び転写活性化因子(STAT)細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤、例えば、ダサチニブ、UM-164またはKX1-004は、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持し、例えば、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が5%~35%、10%~35%、15%~35%、20%~35%、25%~35%、5%~30%、10%~30%、20%~30%、5%~25%、10%~25%、15%~25%、20%~25%、5%~20%、10%~20%、15%~20%であることを維持し、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する。
【0017】
一部の実施形態では、本願は、STAT細胞シグナル伝達経路を含有する小分子阻害剤を含む、HSCsの幹細胞性を維持するための組成物を提供する。一部の実施形態では、前記STAT細胞シグナル伝達経路を含有する小分子阻害剤がSrc標的の小分子阻害剤である。一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ、ケルセチン、UM-164、KX2-391及びKX1-004から選択される1つまたは複数である。一部の実施形態では、前記組成物が他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤をさらに含む。一部の実施形態では、前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、及びJNKを標的とする小分子阻害剤を含む。一部の実施形態では、前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤VPA、HDACを標的とする小分子阻害剤SAHA、PKCを標的とする小分子阻害剤エンザスタウリン、及びJNKを標的とする小分子阻害剤JNK-IN-8を含む。一部の実施形態では、前記組成物が、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む。一部の実施形態では、前記組成物は、STAT細胞シグナル伝達経路を含有する小分子阻害剤及び/またはその他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6からなる。一部の実施形態では、前記組成物は、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持し、例えば、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が5%~35%、10%~35%、15%~35%、20%~35%、25%~35%、5%~30%、10%~30%、20%~30%、5%~25%、10%~25%、15%~25%、20%~25%、5%~20%、10%~20%、15%~20%であることを維持する。一部の実施形態では、前記組成物は、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する。
【0018】
一部の実施形態では、Src標的の小分子阻害剤などの前記シグナル伝達及び転写活性化因子(STAT)細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤、例えば、ダサチニブ、UM-164またはKX1-004と、VPAまたはSAHAなどのその他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤との併用は、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持し、例えば、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が5%~35%、10%~35%、15%~35%、20%~35%、25%~35%、5%~30%、10%~30%、20%~30%、5%~25%、10%~25%、15%~25%、20%~25%、5%~20%、10%~20%、15%~20%であることを維持し、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する。一部の実施形態では、培地における各阻害剤の濃度として、
ダサチニブ:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
SAHA:10nM~20μM、好ましくは20nM~15μM、より好ましくは30nM~10μM、最も好ましくは0.1μM~10μMであり、
VPA:10μM~2000μM、好ましくは10μM~1500μM、より好ましくは10μM~1000μM、最も好ましくは100μM~1000μMであり、
JNK-IN-8:0.1μM~20μM、好ましくは0.5μM~15μM、より好ましくは0.5μM~10μM、最も好ましくは1μM~10μMであり、
EPZ004777:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
DZNeP:1nM~500nM、好ましくは5nM~400nM、より好ましくは10nM~300nM、最も好ましくは10nM~250nMであり、
UM-164:0.1μM~1000μM、好ましくは0.5μM~500μM、より好ましくは1μM~100μM、最も好ましくは1μM~10μMであり、
KX2-391:0.1nM~1000nM、好ましくは1nM~1000nM、より好ましくは10nM~500nM、最も好ましくは10nM~100nMであり、
KX1-004:0.1μM~1000μM、好ましくは1μM~1000μM、より好ましくは10μM~500μM、最も好ましくは10μM~100μMである。
【0019】
一態様では、本願は、HSCsを、1)HDACを標的とする小分子阻害剤VPA、2)HDACを標的とする小分子阻害剤SAHA、3)PKCを標的とする小分子阻害剤エンザスタウリン、及び4)JNKを標的とする小分子阻害剤JNK-IN-8から選択される1つまたは複数の小分子阻害剤を含有する培養液とインビトロで接触させることを含む、HSCsの増殖を促進し、HSCsの幹細胞性を維持する方法を提供する。
【0020】
一態様では、本願は、SAHA+EPZ004777、SAHA+DZNeP、SAHA+ダサチニブ、VPA+ダサチニブ、SAHA+JNK-IN-8またはSAHA+VPAから選択されるいずれか1つの組み合わせを含む、HSCsの乾細胞性を維持するための組成物を提供する。一部の実施形態では、前記組成物は、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む。一部の実施形態では、前記組成物は、SAHA+EPZ004777、SAHA+DZNeP、SAHA+ダサチニブ、VPA+ダサチニブ、SAHA+JNK-IN-8またはSAHA+VPAから選択されるいずれか1つの組み合わせ、及びSFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6からなる。一部の実施形態では、前記HSCsの幹細胞性を維持する組成物はさらに、CD34+細胞の割合の維持に寄与する。一部の実施形態では、前記組成物は、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持し、例えば、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が5%~35%、10%~35%、15%~35%、20%~35%、25%~35%、5%~30%、10%~30%、20%~30%、5%~25%、10%~25%、15%~25%、20%~25%、5%~20%、10%~20%、15%~20%であることを維持し、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する。一部の実施形態では、培地における各阻害剤の濃度として、
ダサチニブ:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
SAHA:10nM~20μM、好ましくは20nM~15μM、より好ましくは30nM~10μM、最も好ましくは0.1μM~10μMであり、
VPA:10μM~2000μM、好ましくは10μM~1500μM、より好ましくは10μM~1000μM、最も好ましくは100μM~1000μMであり、
JNK-IN-8:0.1μM~20μM、好ましくは0.5μM~15μM、より好ましくは0.5μM~10μM、最も好ましくは1μM~10μMであり、
EPZ004777:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
DZNeP:1nM~500nM、好ましくは5nM~400nM、より好ましくは10nM~300nM、最も好ましくは10nM~250nMである。
【0021】
一態様では、本願は、SAHA+EPZ004777+DZNePまたはSAHA+VPA+ダサチニブから選択されるいずれか1つの組み合わせを含む、HSCsの乾細胞性を維持するための組成物を提供する。一部の実施形態では、前記組成物は、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む。一部の実施形態では、前記組成物は、SAHA+EPZ004777+DZNePまたはSAHA+VPA+ダサチニブ、及びSFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6からなる。一部の実施形態では、前記組成物は、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSCs細胞の割合が8%を超える、10%を超える、15%を超える、20%を超える、25%を超える、または30%を超えることを維持し、例えば、細胞全体におけるCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有するHSC細胞の割合が5%~35%、10%~35%、15%~35%、20%~35%、25%~35%、5%~30%、10%~30%、20%~30%、5%~25%、10%~25%、15%~25%、20%~25%、5%~20%、10%~20%、15%~20%であることを維持し、細胞全体におけるCD34+細胞の割合が65%を超える、70%を超える、75%を超える、80%を超える、または85%を超えることを維持する。一部の実施形態では、培地における各阻害剤の濃度として、
ダサチニブ:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
SAHA:10nM~20μM、好ましくは20nM~15μM、より好ましくは30nM~10μM、最も好ましくは0.1μM~10μMであり、
VPA:10μM~2000μM、好ましくは10μM~1500μM、より好ましくは10μM~1000μM、最も好ましくは100μM~1000μMであり、
EPZ004777:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
DZNeP:1nM~500nM、好ましくは5nM~400nM、より好ましくは10nM~300nM、最も好ましくは10nM~250nMである。
【0022】
一部の実施形態では、前記STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤がSrc標的の小分子阻害剤である。一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ(Dasatinib)、ケルセチン(Quercetin)、UM-164、KX2-391及びKX1-004から選択される1つまたは複数である。一部の実施形態では、前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ、UM-164、及びKX1-004から選択される1つまたは複数である。出願人の研究結果では、上記の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤はいずれも、インビトロ増殖時のHSCsの幹細胞性及びCD34+細胞の割合を十分に維持することができ、これらの小分子阻害剤の組み合わせは、HSCsの自己複製、乾細胞性維持などにおいて、従来技術で報告されている小分子と組み合わせる効果よりも優れている。
【0023】
本願において、出願人の研究結果は、Src阻害剤が、HSCのインビトロ増殖及び培養では、HSCsの幹細胞性を十分に維持できることを発見し、そして、Src阻害剤と組み合わせたHDAC阻害剤は、HSCのインビトロ増殖及び培養では、報告されている小分子阻害剤及びこれらの小分子阻害剤の単独使用の効果よりも優れていることを発見した。出願人の研究結果は、HSCsのインビトロ増殖を実現するとともにHSCsの幹細胞性の高い割合を維持することができ、HSCsの臨床応用の基礎を築くことができる。
【0024】
上記の造血幹細胞の「幹細胞性」は、造血幹細胞の特徴の略称である。造血幹細胞(HSCs)は、自己複製能(self-renewal capacity)と多分化能(pluripotency)という2つの主要な細胞生物学的特性を示す。造血幹細胞のこれらの特性は「幹細胞性」(stemness)と略称する。造血幹細胞の細胞表面に発現する分子表現型は、ある程度「幹細胞性」を維持しているかどうかを反映することができる。例えば、造血幹細胞の表現型がCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-である場合、それがLT-HSCsであり、「幹細胞性」を維持していることを意味する。本願では、CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有する造血幹細胞はLT-HSCsとして定義され、造血幹細胞がCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-表現型を有することは、造血幹細胞が造血幹細胞特性、すなわち、「幹細胞性」を維持または保持していると定義される。
【0025】
細胞全体とは、最初のCD34+細胞が培養された後のすべての後代細胞を指す。
【0026】
本発明において、造血幹細胞は、Src標的の小分子阻害剤などのSTAT細胞シグナル伝達経路を含む小分子阻害剤、またはHDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、及びJNKを標的とする小分子阻害剤などのその他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤とインビトロで接触することで、インビトロ増殖時のHSCsの幹細胞性及びHSCs全体におけるCD34+細胞の割合を十分に維持することができ、これらの小分子阻害剤の組み合わせは、HSCsの自己複製、乾細胞性維持などにおいて、従来技術で報告されている小分子と組み合わせる効果よりも優れている。さらに、上記の小分子阻害剤で処理した後の細胞移植効率は、従来技術で報告されている小分子阻害剤で処理した後の細胞移植効率よりも有意に高い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】
図1は、標的細胞集団CD34+CD45+CD45RA-CD90+CD38-細胞集団のロジックゲートとゲート位置の決定を示す図である。
【
図2】
図2は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の最適濃度と、HSCsの幹細胞性を維持できることに関する1回目のスクリーニングを行い、表4の小分子阻害剤(各小分子について4つの濃度をテストした)による誘導の6~7日後、フローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
【
図3】
図3は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の最適濃度と、HSCsの幹細胞性を維持できることに関する2回目のスクリーニングを行い、表5の小分子阻害剤による誘導の6~7日後、フローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
【
図4】
図4は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の最適濃度と、HSCsの幹細胞性を維持できることに関する3回目のスクリーニングを行い、表6の小分子阻害剤(SAHA-1μMを除いて、各阻害剤について3つの濃度をテストした)による誘導の6~7日後、フローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
【
図5】
図5は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の最適濃度と、HSCsの幹細胞性を維持できることに関する4回目のスクリーニングを行い、表7の小分子阻害剤(SAHA-1μMを除いて、各阻害剤について3つの濃度をテストした)による誘導の6~7日後、フローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
【
図6】
図6は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の最適濃度と、HSCsの幹細胞性を維持できることに関する5回目のスクリーニングを行い、表8の小分子阻害剤(SAHA-1μMを除いて、各阻害剤について3つの濃度をテストした)による誘導の6~7日後、フローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
【
図7】
図7は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の、HSCsの幹細胞性を維持するための最適な二分子の組み合わせの1回目のスクリーニングを行い、小分子の組み合わせSAHA+SR1、SAHA+VE821、SAHA+PFI3、SAHA+S-4-Aによる誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
【
図8】
図8は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の、HSCの幹細胞性を維持するための最適な二分子の組み合わせの2回目のスクリーニングを行い、小分子の組み合わせSAHA+SR1、SAHA+UM171、SAHA+PGE2、SAHA+GW9662、SAHA+FLUによる誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
【
図9】
図9は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の、HSCsの幹細胞性を維持するための最適な二分子の組み合わせの3回目のスクリーニングを行い、小分子の組み合わせSAHA+Butyrate、SAHA+EPZ004777、SAHA+DZNeP、SAHA+Vitamin C(SAHAを除いて、各阻害剤について3つの濃度をテストした)による誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。SはSAHA(1μM)を表す。
【
図10】
図10は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の、HSCsの幹細胞性を維持するための最適な二分子の組み合わせの4回目のスクリーニングを行い、小分子の組み合わせSAHA+Dasatinib、SAHA+SGC0496、SAHA+JNK-IN-8、SAHA+Enzastaurin(LY317615)(SAHAを除いて、各阻害剤について3つの濃度をテストした)による誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。SはSAHA(1μM)を表す。
【
図11】
図11は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の、HSCsの幹細胞性を維持するための最適な二分子の組み合わせの5回目のスクリーニングを行い、小分子の組み合わせSAHA+VPA、SAHA+Go6983、SAHA+DCA、SAHA+GSK2606414(SAHAを除いて、各阻害剤について2~3つの濃度をテストした)による誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。SはSAHA(1μM)を表す。
【
図12】
図12は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の、HSCsの幹細胞性を維持するための最適な三分子の組み合わせの1回目のスクリーニングを行い、小分子の組み合わせSAHA+EPZ004777+DZNePによる誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。各群で3回繰り返し、*は有意差があることを表す。
【
図13】
図13は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の、HSCsの幹細胞性を維持するための最適な三分子の組み合わせの2回目のスクリーニングを行い、小分子の組み合わせSAHA+Dasatinib+EPZ004777、SAHA+JNK-IN-8+EPZ004777、SAHA+JNK-IN-8+DZNeP、SAHA+JNK-IN-8+Dasatinib、SAHA+JNK-IN-8+EPZ004777+DZNePによる誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の組み合わせの名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCの純度を表す。各群で3回繰り返し、*は有意差があることを表す。
【
図14】
図14は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の、HSCsの幹細胞性を維持するための最適な三分子の組み合わせの3回目のスクリーニングを行い、小分子の組み合わせSAHA+VPA+Dasatinibによる誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の組み合わせの名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。各群で3回繰り返し、*は有意差があることを表す。
【
図15】
図15は、臍帯血由来のCD34+細胞上で行われるスクリーニングされた小分子阻害剤と文献で報告されている小分子阻害剤SR1、UM171との比較を示す図であり、小分子阻害剤による誘導の6~7日後のフローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図である。図中、横軸は阻害剤の組み合わせの名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。各群で3回繰り返し、*は有意差があることを表す。
【
図16】
図16は、臍帯血由来のCD34+細胞上のスクリーニングされた小分子阻害剤と文献で報告されている小分子阻害剤SR1、UM171のインビトロクローン形成能の分析図を示す。BFU-E、CFU-E、CFU-GM、CFU-GEMMは、赤血球、骨髄、リンパ球などのさまざまな血液系のクローンを表す。その中で、横軸は阻害剤の組み合わせの名前及び使用濃度を表し、縦軸のコロニー数(colonies number)はクローンの総数を表し、GEMMのコロニー数(colonies number оf GEMM)はCFU-GEMMクローンの数を表す。各群で3回繰り返し、*は有意差があることを表す。SはSAHA(1μM)を表す。
【
図17】
図17は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子阻害剤の最適濃度と、HSCの幹細胞性を維持できることに関するスクリーニングを行い、表9の小分子阻害剤(SAHA-1μMを除いて、各阻害剤について3つの濃度をテストした)による誘導の6~7日後、フローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+/CD45+/CD90+/CD45RA-/CD38-)の発現解析図を示す。なお、横軸は阻害剤の名称及び使用濃度を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
【
図18】
図18A及び18Cは、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子Mock(DMSO)、SR1(5μM)、UM171(350nM)、Dasatinib(50nM)による処理の8日後、フローサイトメトリーで検出されたLT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現解析図を示す。図中、横軸は阻害剤の名称を表し、縦軸のCD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-(%)は、細胞全体におけるLT-HSCsの割合を表し、CD34+CD45+(%)はHSCsの純度を表す。
図18B及び18Dは、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子Mock(DMSO)、SR1(5μM)、UM171(350nM)、Dasatinib(50nM)による処理の8日後の、LT-HSCs及びCD34+細胞増殖の絶対数を示す図である。図中、横軸は阻害剤の名称を表し、縦軸は細胞の数を表す。
【
図19】
図19は、hCD45+及びmCD45+細胞集団のロジックゲート及びゲート位置の決定を示す図である。図中、NCは抗体を添加しなかった対照を表し、33は抗体を添加した33番のサンプルを表し、hCD45はヒトCD45+細胞を表し、mCD45はマウスCD45+細胞を表す。
【
図20】
図20は、hCD45+、hCD3+、hCD33+、hCD56+、hCD19+及びmCD45+細胞集団のロジックゲート及びゲート位置の決定を示す図である。図中、hCD3+はヒトCD3+細胞を表し、Tリンパ球の表面マーカーである。hCD33+は、ヒトCD33+細胞を表し、骨髄系細胞の表面マーカーである。hCD56+は、ヒトCD56+細胞を表し、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の表面マーカーである。hCD19+はヒトCD19+細胞を表し、Bリンパ球の表面マーカーである。mCD45は、マウスCD45+細胞を表す。
【
図21】
図21は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子Mock(DMSO)、SR1(5μM)、Dasatinib(50nM)による処理の7日後、すべての細胞を収集してマウスの体内に移植し、移植後4週目、8週目、12週目及び16週目にフローサイトメトリーで検出されたマウスの末梢血中のヒトCD45細胞の割合、移植後16週目にフローサイトメトリーで検出されたマウス骨髄及び脾臓におけるヒトCD45細胞の割合を示す図である。
図21Aの横軸は、阻害剤の名称及び移植時間を表し、縦軸のhCD45-PB(%)は、マウスの末梢血で検出されたヒトCD45+細胞の割合を表す。PBは末梢血(Peripheral Blood)を表し、hCD45はヒトCD45+細胞を表す。
図21Bの横軸は阻害剤の名称を表し、縦軸のhCD45-BM(%)は、マウスの骨髄で検出されたヒトCD45+細胞の割合を表す。BMは骨髄(Bone Marrow)を表し、hCD45はヒトCD45+細胞を表す。
図21Cの横軸は阻害剤の名称を表し、縦軸のhCD45-SP(%)は、マウスの脾臓で検出されたヒトCD45+細胞の割合を表す。SPは脾臓(Spleen)を表し、hCD45はヒトCD45+細胞を表す。
【
図22】
図22は、臍帯血由来のCD34+細胞上の小分子Mock(DMSO)、SR1(5μM)、Dasatinib(50nM)による処理の7日後、すべての細胞を収集してマウスの体内に移植し、移植後16週目にフローサイトメトリーで検出されたマウスの末梢血、骨髄、脾臓中のヒトhCD3+、hCD33+、hCD56+、hCD19+細胞(それぞれヒトTリンパ球(T)、骨髄系細胞(My)、ナチュラルキラー細胞(NK)、Bリンパ球(B)を表す)の割合を示す図である。図中、横軸は阻害剤の名称を表し、
図22Aの縦軸は、末梢血中の異なる系譜細胞のhCD45+細胞に占める割合を表す。
図22Bの縦座標は、骨髄内の異なる系譜細胞のhCD45+細胞に占める割合を表す。
図22Cの縦座標は、脾臓内の異なる系譜細胞のhCD45+細胞に占める割合を表す。
【実施例】
【0028】
実施例1:後続の小分子スクリーニングのための臍帯血からのCD34+HSCs選別
試薬H-lyse Buffer(1x)溶液及びWash Buffer(1x)溶液を準備した。5mlのH-lyse Buffer 10xストック溶液(R&D、カタログ番号:WL1000)を取り、45mlの脱イオン水(Edigene、0.22μmフィルターメンブレンでろ過)を加え、均一に混合してH-lyse Buffer(1x)溶液を調製した。5mlのWash Buffer 10xストック溶液(R&D、カタログ番号:WL1000)を取り、45mlの脱イオン水を加えて均一に混合し、Wash Buffer(1x)溶液を調製した。
【0029】
10mlの臍帯血(Edigene)に、最終容量が30mlになるまで生理食塩水を注入した。この希釈した血液にヒトリンパ球分離液(Dakewe、カタログ番号:DKW-KLSH-0100)を加え、400gで30分間遠心分離(スピードアップ3、スピードダウン0に設定)し、バフィーコートを吸引し、500gで10分間遠心分離した。細胞ペレットを50mlの遠心チューブに集め、10mlのH-lyse Buffer(1x)を加え、室温で10分間赤血球を溶解した。次に、10mlのWash Buffer(1x)を加えて溶解反応を停止し、生理食塩水を加えて最終容量を50mlにした。上記の50ml遠心分離チューブを高速遠心分離機に移し、500gで10分間遠心分離し、上清を捨て、細胞を50mlの生理食塩水(1%HSA)で再懸濁し、均一に混合し、20μLの細胞懸濁液を取り、セルカウンター(Nexcelom、モデル:Cellometer K2)でカウントし、遠心分離チューブを高速遠心分離機に移し、500gで10分間遠心分離した。上清を捨て、カウント結果に応じて、対応する体積の磁気ビーズ(100ul FcR/1*10^8細胞及び100ul CD34MicroBeads/1*10^8細胞)を加えた。操作は次のとおりであった。まず、FcRブロッキング試薬(Miltenyi Biotec、カタログ番号:130-100-453、試薬の量は細胞数の結果に応じて決定した)を加えて細胞を再懸濁し、事前に均一に混合したCD34 MicroBeads(CD34 MicroBead Kit UltraPure、human:MiltenyiBiotec、カタログ番号:130-100-453)を加えて均一に混合し、4℃冷蔵庫で30分間インキュベートした。生理食塩水(1%HSA)を遠心分離チューブに加えて最終容量を50mlにし、高速遠心分離機に移し、500gで10分間遠心分離した。磁気分離器(MiltenyiBiotec、モデル:130-042-102)及び磁気スタンド(MiltenyiBiotec、モデル:130-042-303)を準備し、磁気分離器を適切な高さに調整して、MSカラム(MiltenyiBiotec、カタログ番号:130-042-201)またはLSカラム(MiltenyiBiotec、カタログ番号:130-042-401)を入れ(選択するカラムのタイプは、細胞の量に応じて決定された。詳細については関連する製品の説明を参照されたい)、15mlの遠心チューブ(Corning、カタログ番号:430791)を下に置いて非標的細胞懸濁液を収集し、MSカラムまたはLSカラムを1ml(MSカラム)または3ml(LSカラム)生理食塩水(1%HSA)ですすいだ。上記高速遠心分離機(Thermo、モデル:ST40)の遠心分離チューブで遠心分離した後、上清を捨て、細胞を1ml(MSカラム)または3ml(LSカラム)の生理食塩水(1%HSA)で再懸濁し、細胞懸濁液を各選別カラムに加えた(選別カラムの量は、臍帯血の数と細胞の量に応じて決定された)。さらに、遠心分離チューブを1ml(MSカラム)または3ml(LSカラム)の生理食塩水(1%HSA)で洗浄し、洗浄液をカラムに加えた。
【0030】
MSカラムまたはLSカラムを1ml(MSカラム)または3ml(LSカラム)の生理食塩水(1%HSA)で洗浄した。3回繰り返した。選別カラムを新しい15ml遠心チューブの上部に移し、2ml(MSカラム)または3ml(LSカラム)の生理食塩水(1%HSA)を加えて標的細胞を溶出し、1ml(MSカラム)または2ml(LSカラム)生理食塩水(1%HSA)で標的細胞を1回繰り返し溶出した。20μLの細胞懸濁液を取ってセルカウンター(Nexcelom、モデル:Cellometer K2)でカウントし、残りの細胞懸濁液を400gで5分間遠心分離した。上清を不完全に廃棄し、1mlの上清を残して細胞を再懸濁した。新しいMSカラムを取り、1mlの生理食塩水(1%HSA)を加えてすすぎ、再懸濁した細胞の細胞懸濁液をMSカラムに移し、上記の洗浄及び溶出の手順を繰り返し、3mlの標的細胞懸濁液を取得した。20μLの細胞懸濁液を取り、セルカウンター(Nexcelom、モデル:Cellometer K2)でカウントし、細胞密度及び細胞懸濁液の容量に応じて細胞の総数を計算し、残りの細胞懸濁液を400gで5分間遠心分離し、後で使用するために上清を廃棄した。
【0031】
実施例2:小分子阻害剤の濃度テスト及びスクリーニング
小分子阻害剤の説明書に示された溶解度及び必要な溶媒(小分子阻害剤のカタログ番号については表1を参照)に従って、小分子阻害剤ストック溶液の調製を行った。次に、基礎培地:SFEMII培地(幹細胞、カタログ番号:09655)+50ng/ml成長因子Flt-3L(PeProtech、カタログ番号:300-100UG)+50ng/ml成長因子SCF(PeProtech、カタログ番号:300-07-100UG)+50ng/ml成長因子TPO(PeProtech、カタログ番号:300-18-100UG)+10ng/ml成長因子IL-6(PeProtech、カタログ番号:200-06-20UG)+1%二重抗体(HyClone、カタログ番号:sv30010)を調製した。小分子阻害剤の設定濃度勾配に従って、ストック溶液及び基礎培地を使用して、異なる濃度の小分子阻害剤を含む培地を調製した。
【0032】
まず、調製した培地を24ウェルプレート(Corning、カタログ番号:3473)にウェルあたり950μl加え、二酸化炭素インキュベーター(Thermo、モデル:3111)に入れて予熱した。実施例1で調製したHSCsをSFEMII+50ng/ml Flt-3L+50ng/ml SCF+50ng/ml TPO+10ng/ml IL-6+1%二重抗体で再懸濁し、ウェルあたり50μlの細胞懸濁液、ウェルあたりの細胞密度が2*10^5/mlで、加えた培地の容量を計算した。例えば、ウェルあたりの細胞培養液の最終容量は1mlであると、ウェルあたりの細胞密度によって計算した結果、各ウェルの細胞の総数は2*10^5細胞であり、各ウェルに添加される50μl細胞懸濁液の密度は4*10^6/mlであり、実施例1で調製したHSCsの密度を、計算した細胞懸濁液の密度に調整し、添加を行った。インキュベーターから予熱した培地を取り出し、50μl細胞懸濁液を各ウェルに加え、均一に混合した後、顕微鏡(OLYMPUS、モデル:CKX53)で細胞の状態を観察してから、培養のためにインンキュベーターに入れた。
【0033】
【0034】
実施例3:フローサイトメトリーによるHSCの幹細胞性及びCD34+の維持の検出
本実施例で使用されている抗体及びその由来については、表2を参照されたい。
【0035】
【0036】
上記の実施例2で6~7日間(D6~D7)培養した細胞20μlをサンプリングしてカウントし、カウント結果に応じて2*10^5細胞の懸濁液を取り出して1.5mlの遠心分離チューブに入れた。400gで5分間遠心分離し、上清を捨てた。1%HSA(ヒト血清アルブミン、広東省双林、カタログ番号:S10970069)を含む100μlのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、HyClone、カタログ番号:SH30256.01)を取り、細胞を再懸濁し、ボルテックスして均一に混合し、後の使用のために置いた。次に、対照細胞サンプルを収集した。細胞数及び収集方法は、テストするサンプル細胞と同じ操作であった。対照はそれぞれNC群とISO群として設定され、細胞は、細胞の数に応じて、このバッチの実験でテストするサンプルのいずれか1つまたは混合細胞として選択された。同じバッチの実験では、各対照群は繰り返し検出されなかった。群の設定については、表3を参照されたい。
【0037】
【0038】
上記の表3によれば、テストされる上記の細胞サンプル及び対照細胞サンプルの細胞懸濁液に、群に対応して抗体を添加した。ボルテックスして均一に混合し、室温で光を避けて15分間インキュベートした。15分間のインキュベーション後、1%HSAを含む1mlのPBSを各実験サンプルに添加し、均一に混合し、400gで5分間室温で遠心分離した。遠心分離後、上清を廃棄し、各実験サンプルについて1%HSAを含む100μlのPBSで細胞を再懸濁した。テストの前に、サンプルを光を避けて室温で保存した。フローサイトメトリーを使用して検出した。
【0039】
検出結果は次の方法に従って分析した。1)標的細胞集団はCD34+CD45+CD45RA-CD90+CD38-細胞集団であった。2)ロジックゲート及びゲート位置の決定は
図1に示されている。まず細胞集団を囲み、P1ゲートとした。P1ゲートに由来の細胞集団は、付着細胞を除去しP2ゲートとした。P2ゲートに由来の細胞集団は、NCまたはISOによってCD34、CD45、CD45RA陰性細胞集団を囲み、Q3-LLゲート(CD34-/CD45-)、Q5-UL+Q5-LLゲート(CD45RA-)とした。FMO90はCD90陰性細胞集団を囲み、Q5-LL+Q5-LRゲートとした。FMO38はD38陰性細胞集団を囲み、Q6-LRゲートとした。NC、ISO、及びFMOによって囲まれたゲートを使用して、Q3-UR-Q5-UL-Q6-LRゲートによって囲まれた細胞が、CD34+CD45+CD45RA-CD90+CD38-標的細胞であると決定した。
【0040】
実施例4:単一分子スクリーニング
実施例1で選別された臍帯血由来のCD34+細胞に対して、小分子阻害剤の最適濃度及びHSCsの幹細胞性を維持できることに関するスクリーニングを、実施例2と同じ方法で行い、小分子による誘導の6~7日後、長期造血幹細胞(long-term hematopoietic stem cells,LT-HSC)の細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現は、実施例3と同じ方法でフローサイトメトリーによって検出した。
【0041】
本実施例では、合計5回のスクリーニングを実施し、毎回のスクリーニングの阻害剤及び試験濃度を表4、表5、表6、表7、及び表8に示し、結果をそれぞれ
図2から6に示す。
【0042】
図2の結果は、SAHAがLT-HSCの割合を高める点で、表4の他の阻害剤よりも有意に優れており、その効果が他の阻害剤の2~20倍であることを示している。SAHAが5μMの場合、顕微鏡下で観察した細胞状態が悪く、細胞計数と比較して増殖が悪かったため、その後のスクリーニングのために1μMの濃度を選択した。SAHA(1μM)は、CD34+細胞の割合を維持する点で、対照群(Mock、0.01%DMSO)よりもわずかに優れている。
【0043】
図3の結果は、表5の既知の文献(Fares I,et al.Science.2014;Evans T. Cell Stem Cell.2009;Boitano A E,et al.Science.2010;Guo B,et al.Nature Medicine.2018;Guo B,et al.Nature Medicine.2017)によって報告された小分子阻害剤UM171、PGE2、SR1、GW9662及びFLUと比較して、HSCsの幹細胞性の維持の点で、SAHAの効果は、報告された小分子の10~20倍であり、CD34+細胞の割合を維持する点では、SAHAとSR1との間に有意差はないが、UM171、PGE2、GW9662、及びFLUよりも有意に優れていることを示している。
【0044】
図4の結果は、SAHAがHSCsの幹細胞性を維持する点で、表6の他の阻害剤よりも約2~15倍高いことを示している。一方、SAHAは、CD34+細胞の割合を維持する点で他の阻害剤よりも優れていることをも示している。
【0045】
図5の結果は、SAHAがHSCsの幹細胞性を維持する点で、表7の他の阻害剤よりも有意に優れており、他の阻害剤の1~12倍であり、そして、低濃度のエンザスタウリンを使用する場合、LT-HSCsの割合が他の阻害剤(SAHAを除く)の3~10倍高いことを示している。CD34+細胞の割合を維持する点では、JNK-IN-8はCD34+細胞の割合を約90%に維持することができる。JNK-IN-8を除き、SAHAとダサチニブは、他の阻害剤よりもわずかに優れている。
【0046】
図6の結果は、LT-HSCsの幹細胞性を維持する点で、表8のバルプロ酸(VPA)が他の小分子よりも有意に高く、約30倍高く、SAHAよりも約1倍高いことを示している。SAHAは他の小分子(VPAを除く)の15倍である。SAHAとVPAは、CD34+細胞の割合を維持する点で他の小分子よりも優れている。
【0047】
以上によって、本実施例では、LT-HSCsの幹細胞性及びCD34+細胞の高い割合を維持できる小分子合計5つをスクリーニングして得た。これらは、HDACを標的とするVPA及びSAHA、Srcを標的とするDasatinib、PKCを標的とするエンザスタウリン、JNKを標的とするJNK-IN-8である。
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
実施例5:二分子組み合わせのスクリーニング
実施例1で選別された臍帯血由来のCD34+細胞に対して、小分子阻害剤の、HSCsの幹細胞性を維持するための最適な二分子の組み合わせのスクリーニングを実施例2と同じ方法で行い、小分子組み合わせによる誘導の6~7日後、LT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現を、実施例3と同じ方法でフローサイトメトリーによって検出した。
【0054】
上記の実施例4に従ってスクリーニングしたHSCsの幹細胞性を有意に維持できる小分子SAHAを他の阻害剤と組み合わせた。具体的な組み合わせ及びその濃度を関連図に示す。結果をそれぞれ
図7~11に示す。
【0055】
図7の結果から明らかに、HSCsの幹細胞性の維持及びCD34+細胞の割合の点で、SAHAと、表4の4つの造血幹細胞の増幅に関連する細胞シグナル伝達経路に作用する阻害剤との組み合わせ、すなわちSAHA+SR1、SAHA+VE821、SAHA+PFI-3、及びSAHA+S-4-Aは、SAHAの単独使用よりも有意に優れていない。
【0056】
図8の結果から明らかに、前述の文献で報告された阻害剤、すなわち表5の阻害剤SR1、UM171、PGE2、GW9662、及びFLUの単独使用は、HSCsの幹細胞性の維持の点で、SAHAの単独使用よりもはるかに効果が低く、SAHAとの組み合わせもSAHAの単独使用よりも効果が低い。また、CD34+細胞の割合を維持する点で、SAHAの単独使用は、これらの阻害剤とSAHAとの組み合わせの使用と比較して有意差はない。
【0057】
図9の結果から明らかに、HSCsの幹細胞性を維持する点で、SAHAと表6のButyrateとの組み合わせでは、低濃度のButyrateの使用効果はSAHAの単独使用の効果には及ばず、高濃度のButyrateの使用効果はSAHAの単独使用の効果よりも優れているが、高濃度の条件下では、Butyrateは細胞に対する毒性が大きい。さらに、実施例4で得られた結果は、Butyrateの単独使用の効果がSAHAの単独使用の効果には及ばず、それがSAHAと同じ標的阻害剤であるため、その後、Butyrateについてはさらなる研究を行わなかった。SAHAは表6のEPZ004777及びDZNePとそれぞれ組み合わされており、SAHA+EPZ004777及びSAHA+DZNePの組み合わせはSAHAの単独使用よりも優れている。これらの二分子の組み合わせは、CD34+細胞の割合を維持する点でSAHAの単独使用と有意差はなかった。したがって、SAHA+EPZ004777及びSAHA+DZNePの組み合わせは、HSCsの幹細胞性及びCD34+細胞の割合を十分に維持できるからスクリーニングされた。
【0058】
図10の結果から明らかに、HSCsの幹細胞性を維持する点で、SAHAと表7の4つの小分子阻害剤とそれぞれ組み合わせて、SAHA+Dasatinibの組み合わせ及びSAHA+JNK-IN-8の組み合わせの効果は、SAHAの単独使用の効果の3倍であり、Mock群の30倍であった。CD34+細胞の割合を維持する点で、SAHA+Dasatinibの組み合わせ及びSAHA+JNK-IN-8の組み合わせは、SAHAの単独使用と有意差はなく、Mock群よりも5%~10%高かった。単一分子スクリーニングでは、LT-HSCsの幹細胞性をよく維持できる小分子EnzastaurinとSAHAの組み合わせは、SAHAの単独使用よりも効果がはるかに低く、その後、EnzastaurinとSAHAの組み合わせについてはさらなる研究を行わなかった。したがって、SAHA+Dasatinib及びSAHA+JNK-IN-8の組み合わせは、HSCsの幹細胞性を維持する点、及びCD34+細胞の割合を維持する点では効果がよいため、スクリーニングされた。
【0059】
図11の結果から明らかに、SAHAと表8のVPAとの組み合わせは、乾細胞性を維持する点で、SAHA+VPAの組み合わせはSAHAの単独使用よりも効果が約2~4倍高く、Mock群よりも20倍高かった。CD34+細胞の割合を維持する点では、SAHA+VPAの組み合わせは、SAHAの単独使用とは有意差がなく、Mock群よりも10%~20%高かった。
【0060】
以上によって、二分子スクリーニングでは、LT-HSCsの幹細胞性及びCD34+細胞の割合を維持できる組み合わせとしては、SAHA+Dasatinib、SAHA+DZNeP、SAHA+EPZ004777、SAHA+JNK-IN-8、SAHA+VPAがスクリーニングされた。
【0061】
実施例6:三分子組み合わせのスクリーニング
実施例1で選別された臍帯血由来のCD34+細胞上に対して、小分子阻害剤のHSCsの幹細胞性を維持するための最適な三分子の組み合わせのスクリーニングを実施例2と同じ方法で行い、小分子組み合わせによる誘導の6~7日後、LT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現を、実施例3と同じ方法でフローサイトメトリーによって検出した。
【0062】
(1)実施例5でスクリーニングしたHSCsの幹細胞性を維持できる組み合わせのSAHA+EPZ004777及びSAHA+DZNePを、三分子の組み合わせし、その結果を
図12に示す。
【0063】
図12の結果から明らかに、SAHA+EPZ004777+DZNePの三分子の組み合わせは、HSCsの幹細胞性を維持する点でMock群よりも効果が約20倍高く、SAHAの単独使用及びSAHA+EPZ004777の二分子の組み合わせよりも約2倍高く、SAHA+DZNePの二分子の組み合わせよりやや高かった。CD34+細胞の割合を維持する点では、三分子の組み合わせ及び二分子の組み合わせは、Mock群と有意差があり、CD34+細胞の割合はいずれも約80%であった。
【0064】
(2)実施例5でスクリーニングしたHSCsの幹細胞性を維持できる組み合わせのSAHA+EPZ004777、SAHA+DZNeP、SAHA+JNK-IN-8、SAHA+Dasatinibを三分子の組み合わせし、結果をそれぞれ
図13及び
図14に示す。
【0065】
図13の結果から明らかに、SAHA+JNK-IN8の組み合わせは、HSCsの幹細胞性を維持する点で、効果がSAHA+Dasatinibに及ばず、その後はSAHA+JNK-IN8についてはさらなる研究は行わなかった。SAHA+Dasatinib+EPZ004777は、SAHA+Dasatinibとは有意差がなく、他の三分子の組み合わせは、LT-HSCsの幹細胞性を維持する点でSAHA+Dasatinibには効果が及ばなかった。CD34+細胞の割合を維持する点で、SAHA+DasatinibはCD34+細胞の割合を約80%維持した。
【0066】
図14の結果から明らかに、実施例5でスクリーニングしたHSCsの幹細胞性を維持できる二分子の組み合わせであるSAHA+Dasatinib及びSAHA+VPAを組み合わせ直した。HSCsの幹細胞性を維持する点で、SAHA+VPA+Dasatinibの三分子の組み合わせの効果は、Mock群の50倍であり、二分子の組み合わせの1.5~2倍であった。CD34+細胞の割合を維持する点では、SAHA+VPA+Dasatinibの三分子の組み合わせは、Mock群よりも20%高かった。
【0067】
以上によって、三分子の組み合わせのほとんどは、LT-HSCsの幹細胞性を維持する点で二分子の組み合わせSAHA+Dasatinibには効果が及ばず、三分子の組み合わせの中で効果が最も良いのは、SAHA+EPZ004777+DZNeP、SAHA+Dasatinib+VPAである。
【0068】
実施例7:スクリーニングされた阻害剤SAHA、VPA、Dasatinibと、文献で報告された阻害剤UM171、SR1の単独使用及び組み合わせの使用の比較
実施例1で選別された臍帯血由来のCD34+細胞上で、スクリーニングされた阻害剤のSAHA、VPA、Dasatinibと、文献(Fares I,et al.Science.2014;Boitano A E,et al.Science.2010;)で報告された阻害剤のUM171、SR1の単独使用及び組み合わせの使用の比較を実施例2と同じ方法で行った。小分子阻害剤による誘導の6~7日後、LT-HSC細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現を、実施例3と同じ方法でフローサイトメトリーによって検出し、その結果を
図15に示す。
【0069】
図15の結果から明らかに、小分子を単独で使用した場合、HSCsの幹細胞性を維持する点で、SAHA及びVPAは、SR1及びUM171よりも2~5倍高かった。二分子の組み合わせでは、SAHA+Dasatinib及びVPA+Dasatinibは、SAHA+SR1及びSAHA+UM171より1.5~2倍高かった。三分子の組み合わせのSAHA+DZNeP+EPZ004777は、SAHA+Dasatinib及びVPA+Dasatinibよりもわずかに低かった。CD34+細胞の割合を維持する点では、単一分子のSAHA、VPAは、二分子の組み合わせのSAHA+Dasatinib、VPA+Dasatinibとの間に有意差がなく、CD34+細胞の割合はいずれも約80%維持された。
【0070】
以上によって、LT-HSCsの幹細胞性及びCD34+細胞の割合を維持する点では、SAHA+Dasatinib及びVPA+Dasatinibの二分子の組み合わせは、小分子の単独使用、二分子の組み合わせのSAHA+SR1及びSAHA+UM171、ならびに三分子の組み合わせのSAHA+DZNeP+EPZ004777よりも効果が優れた。
【0071】
実施例8:CD34+造血幹細胞コロニーの形成培養
本実施例では、コロニー形成単位(Colony-Forming Unit,CFU)を使用して、小分子阻害剤によって誘導された臍帯血由来の造血幹細胞のインビトロ機能について、定性的及び定量的検出を行い、それらのインビトロ分化能を検証した。
【0072】
まず、100mLのMethoCult(商標)H4034 Optimum(幹細胞、カタログ番号:04034)を分注し、次に2~8℃で一晩解凍した。1~2分間激しく振ってから、気泡が液面に上がるまで10分間静置した。50mLシリンジニードルを5mLディスポーザブルシリンジにしっかりと取り付けた後、培地を1mLに吸引し、シリンジから完全に押し出してシリンジ内のガスを排出し、3mLの培地を新たに吸引して各15mL遠心チューブ(Corning、カタログ番号:430791)に分注した。繰り返して凍結・解凍することなく、2~8℃で1ヶ月間保存し、-20℃で長期保存した。
【0073】
3mLの培地MethoCult(商標)H4034 Optimumを準備し、室温(15~25°C)または2~8°Cで一晩解凍した。
【0074】
細胞播種を行った。小分子阻害剤の誘導後に7日間培養した細胞(小分子阻害剤による誘導後の臍帯血由来のCD34+造血幹細胞)の懸濁液を取って細胞をカウントし、カウント結果によって100倍の播種密度の細胞懸濁液を吸引し(例えば、播種密度は100細胞/ウェル/3mlの場合、10,000細胞を収集する必要がある)、1mlの2%FBS(Gibco、カタログ番号:16000-044)-IMDM(Gibco、カタログ番号:12440-053)培地に加え、均一に混合しておいた。上記の細胞を均一に混合した後、50μlの細胞懸濁液を吸引して0.5mLのIMDM(2%FBS)に加えて細胞を再懸濁し(細胞懸濁液の10倍希釈に相当)、均一に混合した後、100μlの細胞懸濁液(100細胞)を3mLのMethoCult(商標)H4034 Optimumに添加した。少なくとも4秒間ボルテックスしてから、泡が液面に上がるまで10分間静置した。3ccシリンジ(幹細胞、カタログ番号:28240)を平滑末端針16ゲージ(幹細胞、カタログ番号:28110)と組み合わせて使用し、得られた細胞懸濁液を1mLまで吸引し、シリンジからすべて押し出してシリンジ内のガスを排出し、得られたすべての細胞懸濁液を再吸引し、3mLをSmsrtDishTM-6(幹細胞、カタログ番号:27370、6ウェルプレート)の1つのウェルに注入し、細胞懸濁液がウェルの底を均一に覆うように6ウェルプレートをゆっくりと傾けた。上記のようにすべての細胞を播種した後、培地が乾燥するのを防ぐために、3mlの滅菌PBSを6ウェルプレートの各ウェルの隙間に加えた。6ウェルプレートに蓋をしてから、二酸化炭素インキュベーター(Thermo、モデル:3111)に入れて、37°C、5%CO2、95%相対湿度で、14日間培養した。
【0075】
培養7日目と14日目にコロニーを観察し、培養14日後にSTEMgridTM-6カウントグリッド(幹細胞、カタログ番号:27000)でコロニーをカウントした。コロニーの判定基準は次のとおりである(異なる分類のコロニーは、HSCsのコロニー形成能、及び幹細胞性の維持能力を反映することができる)。
CFU-GEMM(CFU-G、CFU-E、CFU-MM):顆粒球-赤血球-マクロファージ-巨核球コロニー形成単位。各コロニーには赤血球と20個以上の非赤血球(顆粒球、マクロファージ及び/または巨核球)が含まれ、通常はコロニーの中央に赤血球があり、非赤血球に囲まれ、非赤血球は赤血球の片側に集中することもある。CFU-GEMMのコロニーは、一般的にCFU-GMまたはBFU-Eのコロニーよりも大きい。ほとんどの細胞サンプルでは比較的にまれである(通常、全コロニーの10%を占める)。
CFU-GM:20を超える顆粒球(CFU-G)及び/またはマクロファージ(CFU-M)を含むコロニー。赤や茶色に見えずに、コロニー内の個々の細胞は、特にコロニーの周縁で区別できることが多く、大きなコロニーには1つ以上の密集した暗い核がある場合がある。エリスロポエチン(EPO)は、コロニーの成長と分化には必要ない。
BFU-E:バースト赤血球コロニー形成単位。単一または複数の細胞クラスターのコロニーを形成し、各コロニーには200を超える成熟赤血球が含まれる。細胞がヘモグロビン化されると、赤または茶色に見え、各クラスター内の個々の細胞を区別することが困難である。BFU-Eは、より未成熟な前駆細胞であり、その成長には、エリスロポエチン(EPO)及びその他のサイトカイン、特にインターロイキン3(IL-3)及び幹細胞因子(SCF)は、コロニーの最適な成長を促進するために必要である。
CFU-E:赤血球コロニー形成単位。8~200個の赤血球を含む1~2個の細胞クラスターを形成できる。細胞がヘモグロビン化されると、赤または茶色に見え、コロニー内の個々の細胞を区別することは困難である。CFU-Eは成熟した赤血球系の前駆細胞であり、それらの分化を促進するためにエリスロポエチン(EPO)が必要である。
【0076】
実施例9:スクリーニングされた阻害剤SAHA、VPA、Dasatinibと、文献で報告された阻害剤UM171、SR1の単独使用及び組み合わせの使用のインビトロクローン形成能の比較
実施例1で選別された臍帯血由来のCD34+細胞上で、スクリーニングされた阻害剤のSAHA、VPA、Dasatinibと、文献で報告された阻害剤のUM171、SR1の単独使用及び組み合わせの使用のインビトロクローン形成能の比較を行った。小分子阻害剤により細胞を処理し、7日後、インビトロクローン(CFU)の形成を実施例8と同じ方法で検出し、細胞播種の14日後にクローン数をカウントし、CFU-GEMMを分析した。その結果を
図16に示す。その中で、BFU-E、CFU-E、CFU-GM、CFU-GEMMは、赤血球系、骨髄系、リンパ球系などの血液系の異なるクローンを表す。
【0077】
図16の結果から明らかに、総クローン数の点では、VPA+Dasatinibの組み合わせの効果は、他の組み合わせよりも有意に優れていた。LT-HSCsの分化によって形成されたGEMMクローンの数では、VPA+Dasatinibの組み合わせは、既知の文献(Fares I,et al.Science.2014;Boitano A E,et al.Science.2010;)で報告された小分子阻害剤の単独使用及び報告された小分子阻害剤とSAHAとの組み合わせの使用よりも有意に優れていた(SR1、UM171、SAHA+SR1、SAHA+UM171よりも優れている)。SAHA+Dasatinibと比較して、VPA+Dasatinibの効果がよりよかった。SAHA+DZNeP+EPZ004777は、総クローン数及びGEMMクローン数において、VPA+Dasatinib及びSAHA+Dasatinibと比べてはるかに劣った。
【0078】
以上によって、VPA+Dasatinib及びSAHA+Dasatinibの組み合わせは、インビトロクローン形成能の点で、既知の文献で報告された小分子SR1、UM171の単独使用及びSR1、UM171とSAHAとの組み合わせの使用よりも優れている。
【0079】
実施例10:Src経路阻害剤の効果の検証
実施例1で選別された臍帯血由来のCD34+細胞上で、Src標的の他の小分子阻害剤を実施例2と同じ方法でスクリーニングし、小分子の組み合わせによる誘導の6~7日後、LT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現を実施例3と同じ方法でフローサイトメトリーによって検出した。その結果を
図17に示す。その中で、このラウンドでスクリーニングした小分子阻害剤及びその濃度を表9に示す。
【0080】
【0081】
図17の結果から明らかに、LT-HSCsの幹細胞性を維持する点で、Src標的阻害剤UM-164の効果はSAHAの5倍であり、他のSrc標的阻害剤KX1-004の効果はSAHAとは有意差がなかった。CD34+細胞の割合を維持する点では、UM164とSAHAの間に有意差はなく、CD34+細胞の割合は約80%に維持された。上記の結果は、Srcが新しい標的として、HSCsの幹細胞性を維持する点で重要な役割を果たしていることを示している。HDAC標的阻害剤と組み合わせると、HSCsの幹細胞性を維持し、HSCsの増幅を促進する点で、Src標的阻害剤の効果がさらに高まった。
【0082】
実施例11:スクリーニングされた阻害剤Dasatinibと、文献で報告された阻害剤UM171、SR1との造血幹細胞のインビトロ増殖及び幹細胞性維持能力の比較
実施例1で選別された臍帯血由来のCD34+細胞上で、スクリーニングされた阻害剤Dasatinibを、文献で報告された阻害剤UM171及びSR1と、インビトロでの増殖及び幹細胞性維持能力についての比較を行った。小分子阻害剤による誘導の6~8日後、LT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現を、実施例3と同じ方法でフローサイトメトリーによって検出した。培養の2日目、4日目、6日目、8日目に20μLの細胞懸濁液を取り、セルカウンター(Nexcelom、モデル:Cellometer K2)でカウントし、8日目のCD34+細胞及びLT細胞の最終的な絶対数を算出し(細胞の絶対数=細胞の割合*細胞の総数)、その結果を
図18に示す。
【0083】
図18の結果から明らかに、Dasatinibは、幹細胞性を維持する点で、SR1及びUM171よりも有意に優れており、その効果はSR1の約1.2倍、UM171の約2.8倍であった。LT細胞の絶対数では、Dasatinib群はSR1群より有意に良いではなく、UM171群とほぼ同じであった。CD34+細胞の割合を維持する点では、Dasatinibは細胞処理の8日後にCD34+細胞を約40%維持し、SR1は約65%維持し、UM171は約40%維持した。Dasatinib群のCD34+細胞の絶対数は、SR1及びUM171より有意に優れていなかった。
【0084】
実施例12:スクリーニングされた阻害剤Dasatinibと、文献で報告された阻害剤SR1との造血幹細胞のインビボ移植効果の検証
実施例1で選別された臍帯血由来のCD34+細胞上で、スクリーニングされた小分子阻害剤Dasatinibと、文献で報告された阻害剤SR1の単独使用とを、インビボ造血系再構成能力について比較した。本実施例で使用した小分子阻害剤の濃度及び群分けを表10に示す。
【0085】
【0086】
細胞培地:SFEMII培地+50ng/ml成長因子Flt-3L+50ng/ml成長因子SCF+50ng/ml成長因子TPO+10ng/ml成長因子IL-6+1%二重抗体を調製した。使用した培地、成長因子、二重抗体などのカタログ番号は、実施例2に記載されたものと同じである。表10に設定された群に従って、異なる小分子阻害剤を加えた。
【0087】
調製した細胞培地を24ウェルプレートに1ウェルあたり950μl加え、二酸化炭素インキュベーターに入れて予熱した。実施例1で調製しておいたHSCsをSFEMII+50ng/ml Flt-3L+50ng/ml SCF+50ng/ml TPO+10ng/ml IL-6+1%二重抗体で再懸濁し、ウェルあたり50ulの細胞懸濁液、ウェルあたりの細胞密度が1*10^5/mlで、加えた培地の容量を計算した。予熱した培地をインキュベーターから取り出し、各ウェルに50μlの細胞懸濁液を添加し、均一に混合した後、顕微鏡で細胞の状態を観察してから、培養用のインキュベーターに入れた。各マウスに移植した初期培養細胞の量は1*10^5/匹であるため、24ウェルプレートの各ウェルで増殖した細胞を1匹のマウスに移植することができる。細胞培養プロセス中は、1日おきにカウントし、技術的な方法及びセルカウンターは実施例1のものと同じであり、細胞密度が8*10^5/mlを超えないようにした。細胞密度が高すぎる場合は、ウェルをタイムリーに分割し、新鮮な培地を追加した。
【0088】
小分子阻害剤で細胞を処理した7日後、LT-HSCs細胞表面マーカー(CD34+CD45+CD90+CD45RA-CD38-)の発現を、実施例3と同じ方法でフローサイトメトリーによって検出した。
【0089】
群あたり8匹のマウスでマウスを準備した。マウスはBeijing Vitalstar Biotechnology Co., Ltd.から購入し、系統はNPG(NOD-Prkdcscidll2rgnull/Vst)、6週齢の雌マウスであり、マウス間の体重差を3g以内に制御した。マウスは細胞移植前に半致死量で照射され、照射線量は1.6Gyであった。
【0090】
培養した細胞懸濁液を収集し(初期培養細胞量は1*10^5/ml)、400gで5分間遠心分離し、上清を捨て、100μlの生理食塩水(1%HSA)で再懸濁し、照射したNPGマウスを尾静脈に注射し、異なる群のマウスにラベルを付けた。
【0091】
細胞をマウスに移植した後、マウスの末梢血をそれぞれ4週目、8週目、12週目に採取し、フローサイトメトリーでヒトCD45の割合を検出した。16週目に、マウスを殺処分し、マウスの末梢血、骨髄細胞、脾臓を採取し、フローサイトメトリーによりヒトCD45、ヒトCD19、ヒトCD3、ヒトCD33、及びヒトCD56の割合を検出した。本実施例で使用した抗体、7-AAD色素、及びソースを表11に示す。
【0092】
【0093】
マウスの末梢血のヒトCD45の割合をフローサイトメトリーによって検出した。設定した細胞の検出群を表12に示す。
【0094】
【0095】
1X赤血球溶解液の準備:5mlのRBC Lysis/Fixation Solution 10Xストック溶液(Biolegend、カタログ番号:422401)を取り、45mlの脱イオン水(Edigene、0.22μmフィルターメンブレンでろ過)を加え、均一に混合して、1X赤血球溶解液を調製した。
【0096】
マウスの末梢血(約100μl)を採取し、表12に設定された群に従って抗体を添加した。ボルテックスして均一に混合し、室温で光を避けて15分間インキュベートした。インキュベーション後、NC及び各サンプルに1.2mlの1X赤血球溶解液を加え、ボルテックスして均一に混合し、室温で光を避けて15分間溶解した。その間、サンプル遠心チューブを3分ごとに一回逆さにした。溶解後、400gで5分間室温で遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、1%HSAを含む1mlのPBSを各実験サンプルに加え、均一に混合し、400gで5分間室温で遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、1%HSAを含む100μlのPBS及び5μlの7-AAD色素を各実験サンプルに加え、ボルテックスして均一に混合し、室温で光を避けて5分間インキュベートした。インキュベーション後、1%HSAを含む1mlのPBSをNC及び各サンプルに加え、均一に混合し、400gで5分間室温で遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、1%HSAを含む100ulのPBSを各実験サンプルに加えて細胞を再懸濁し、検出前にサンプルを光を避けて室温で保存した。フローサイトメトリーを使用して検出した。
【0097】
検出結果は次の方法に従って分析した。1)標的細胞集団はヒトCD45+細胞集団であった。2)ロジックゲート及びゲート位置の決定は
図19に示されている。まず細胞集団を囲み、P1ゲートとした。P1ゲートに由来の細胞集団は、付着細胞を除去しP2ゲートとした。P2ゲートに由来の細胞集団は、7-AADによって生細胞集団を囲み、P3ゲートとした。P3ゲートに由来の細胞集団は、NCによってマウスCD45-及びヒトCD45-細胞集団(Q2-LLゲート)を囲んだ。NCによって囲んだゲートを使用して、Q2-ULゲートによって囲んだ細胞がヒトCD45+標的細胞であると決定した。ヒト造血幹細胞の移植効率はヒトCD45細胞の割合で表し、計算方法はヒトCD45%/(ヒトCD45%+マウスCD45%)である。
【0098】
マウスの末梢血、骨髄細胞及び脾臓細胞におけるヒトCD45、ヒトCD19、ヒトCD3、ヒトCD33及びヒトCD56の割合は、フローサイトメトリーによって検出した。設定した細胞検出群については、表13を参照されたい。
【0099】
【0100】
マウスの末梢血(約100μl)を採取し、表13に示す群に従って抗体を添加した。その後の血液サンプル処理は、マウスの末梢血中のヒトCD45の割合を検出するための上記の操作と同じであった。操作後、フローサイトメーターを使用して検出した。
【0101】
マウスを頸椎脱臼により殺処分し、マウスの後肢の片方の脛骨及び大腿骨を取った。眼科用ハサミ及び眼科用鉗子を使用して、脛骨及び大腿骨の両端をそれぞれ切断し、骨髄腔を露出させた。1mlのシリンジを使用して、1%HSAを含む予冷したPBSを吸引し、骨髄腔の一方の端に針を刺し、PBSを強力的に注入し、骨髄腔のもう一方の端から骨髄細胞を押し出した。脛骨及び大腿骨の骨髄腔をそれぞれ2mlのPBSですすいだ。骨髄細胞懸濁液を繰り返しピペットで採取し、40umの細胞メッシュ(BD、カタログ番号:352340)でろ過し、400gで5分間室温で遠心分離した。遠心分離後、上清を廃棄し、骨髄細胞を後で使用するために用意した。
【0102】
マウスを頸椎脱臼により殺処分し、マウスの脾臓を取り出し、1%HSAを含む予冷したPBSに入れた。脾臓を眼科用ハサミで切断し、脾臓組織懸濁液をピペットで繰り返し吸引し、40μmの細胞メッシュでろ過し、400gで5分間室温で遠心分離した。遠心分離後、上清を廃棄し、脾臓細胞を後で使用するために用意した。
【0103】
用意した骨髄細胞及び脾臓細胞に1mlの1X赤血球溶解液を加え、ボルテックスして均一に混合し、室温で15分間溶解した。その間、サンプル遠心チューブを3分ごとに一回逆さにした。溶解後、1%HSAを含む4mlのPBSを各サンプルに添加し、400gで5分間室温で遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、1%HSAを含むPBS 1mlを各サンプルに加え、ボルテックスで均一に混合した。各サンプルから100μlの細胞懸濁液を採取し、表13の群に従って抗体を添加し、ボルテックスして均一に混合し、室温で光を避けて15分間インキュベートした。インキュベーション後、5μlの7-AAD色素を各実験サンプルに添加し、ボルテックスして均一に混合し、室温で光を避けて5分間インキュベートした。インキュベーション後、1%HSAを含む1mlのPBSをNC及び各サンプルに加え、均一に混合し、400gで5分間室温で遠心分離した。遠心分離後、上清を捨て、各実験サンプルに1%HSAを含む100μlのPBSを加えて細胞を再懸濁し、検出前に室温で光を避けて保存し、フローサイトメトリーで検出した。
【0104】
検出結果は次の方法に従って分析した。1)標的細胞集団はヒトCD45+細胞集団、ヒトCD19+細胞集団、ヒトCD3+細胞集団、ヒトCD33+細胞集団、及びヒトCD56+細胞集団であった。2)ロジックゲート及びゲート位置の決定は
図20に示されている。まず細胞集団を囲み、P1ゲートとした。P1ゲートに由来の細胞集団は、付着細胞を除去しP2ゲートとした。P2ゲートに由来の細胞集団は、7-AADによって生細胞集団を囲み、P3ゲートとした。P3ゲートに由来の細胞集団は、NCによってマウスCD45+(P4ゲート)及びヒトCD45+細胞集団(P5ゲート)を囲んだ。P5ゲートに由来の細胞集団は、NCによってヒトCD33+(P6ゲート)及びヒトCD56+細胞集団(P7ゲート)を囲んだ。P5ゲートに由来の細胞集団は、NCによってヒトCD19+(P8ゲート)及びヒトCD3+細胞集団(P9ゲート)を囲んだ。ヒト造血幹細胞の移植効率はヒトCD45細胞の割合で表し、計算方法はヒトCD45%/(ヒトCD45%+マウスCD45%)である。マウスにおけるヒト造血幹細胞のさまざまな系統の血液細胞への分化効率は、ヒトCD19%(B細胞を表す)、ヒトCD3%(T細胞を表す)、ヒトCD33%(骨髄系細胞を表す)、及びヒトCD56%(NK細胞を表す)を使用して表した。
【0105】
図21の結果から明らかに、Dasatinibによって処理された細胞の移植効率は、マウス移植の初期培養細胞量が同じである場合に、8週目、12週目、及び16週目の末梢血検出において、Mock群及びSR1群よりも有意に高かった。16週目の骨髄及び脾臓の検出では、Dasatinibによって処理された細胞群の移植効率はSR1群の移植効率よりも有意に高かった。これは、Dasatinibが造血幹細胞の移植能力を改善でき、その効果が文献で報告された小分子SR1よりも優れていることを証明した。
【0106】
図22の結果から明らかに、移植後16週目に、マウスの末梢血、骨髄、脾臓からヒトT細胞、B細胞、骨髄系細胞、及びNK細胞を検出でき、各群の各系譜の細胞の割合に有意差はなかった。これは、ヒト由来の造血幹細胞が移植に成功しただけでなく、正常な分化機能を持つさまざまな系統の細胞に分化できることを証明した。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HSCsを、STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤または他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤を含有する培養液とインビトロで接触させることを含む、HSCsの増殖を促進し、HSCsの幹細胞性を維持する方法。
【請求項2】
前記STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤がSrc標的の小分子阻害剤であ
り、好ましくは、前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ(Dasatinib)、ケルセチン(Quercetin)、UM-164、KX2-391及びKX1-004から選択される1つまたは複数であり、さらに好ましくは、前記Src標的の小分子阻害剤を、他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤と組み合わせて使用する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、及びJNKを標的とする小分子阻害剤から選択1つまたは複数の小分子阻害剤であ
り、好ましくは、前記Src標的の小分子阻害剤を、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、またはJNKを標的とする小分子阻害剤と組み合わせて使用し、更に好ましくは、前記Src標的の小分子阻害剤を、HDACを標的とする小分子阻害剤VPA、HDACを標的とする小分子阻害剤SAHA、PKCを標的とする小分子阻害剤エンザスタウリン(Enzastaurin)、またはJNKを標的とする小分子阻害剤JNK-IN-8と組み合わせて使用する、請求項
2に記載の方法。
【請求項4】
前記Src標的の小分子阻害剤がダサチニブであ
り、好ましくは、ダサチニブをVPAまたはSAHAと組み合わせて使用する、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤を含む、HSCsの幹細胞性を維持するための組成物。
【請求項6】
前記STAT細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤がSrc標的の小分子阻害剤であ
り、好ましくは、前記Src標的の小分子阻害剤が、ダサチニブ、ケルセチン、UM-164、KX2-391及びKX1-004から選択される1つまたは複数である、請求項
5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤をさらに含む、請求項
5または
6に記載の組成物。
【請求項8】
前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤、PKCを標的とする小分子阻害剤、及びJNKを標的とする小分子阻害剤を含む、請求項
7に記載の組成物。
【請求項9】
前記他の細胞シグナル伝達経路の小分子阻害剤が、HDACを標的とする小分子阻害剤VPA、HDACを標的とする小分子阻害剤SAHA、PKCを標的とする小分子阻害剤エンザスタウリン、及びJNKを標的とする小分子阻害剤JNK-IN-8を含む、請求項
8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む、請求項
5~
9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
SAHA+EPZ004777、SAHA+DZNeP、SAHA+ダサチニブ、VPA+ダサチニブ、SAHA+JNK-IN-8またはSAHA+VPAから選択されるいずれか1つの組み合わせを含む、HSCsの乾細胞性を維持するための組成物。
【請求項12】
前記組成物が、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む、請求項
11に記載の組成物。
【請求項13】
SAHA+EPZ004777+DZNePまたはSAHA+VPA+ダサチニブから選択されるいずれか1つの組み合わせを含む、HSCsの乾細胞性を維持するための組成物。
【請求項14】
前記組成物が、SFEMII培地、成長因子Flt-3L、成長因子SCF、成長因子TPO及び成長因子IL-6をさらに含む、請求項
13に記載の組成物。
【請求項15】
培地における各阻害剤の濃度として、
ダサチニブ:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
SAHA:10nM~20μM、好ましくは20nM~15μM、より好ましくは30nM~10μM、最も好ましくは0.1μM~10μMであり、
VPA:10μM~2000μM、好ましくは10μM~1500μM、より好ましくは10μM~1000μM、最も好ましくは100μM~1000μMであり、
JNK-IN-8:0.1μM~20μM、好ましくは0.5μM~15μM、より好ましくは0.5μM~10μM、最も好ましくは1μM~10μMであり、
EPZ004777:0.1μM~50μM、好ましくは0.5μM~40μM、より好ましくは0.5μM~30μM、最も好ましくは0.5μM~10μMであり、
DZNeP:1nM~500nM、好ましくは5nM~400nM、より好ましくは10nM~300nM、最も好ましくは10nM~250nMであり、
UM-164:0.1μM~1000μM、好ましくは0.5μM~500μM、より好ましくは1μM~100μM、最も好ましくは1μM~10μMであり、
KX2-391:0.1nM~1000nM、好ましくは1nM~1000nM、より好ましくは10nM~500nM、最も好ましくは10nM~100nMであり、
KX1-004:0.1μM~1000μM、好ましくは1μM~1000μM、より好ましくは10μM~500μM、最も好ましくは10μM~100μMである、請求項
5~
14のいずれか1項に記載の組成物。
【国際調査報告】