(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】5-ヒドロキシメチルフルフラールのエーテルから2,5-フランジカルボン酸を製造するプロセス
(51)【国際特許分類】
C07D 307/24 20060101AFI20230215BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230215BHJP
【FI】
C07D307/24
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538254
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 EP2020087052
(87)【国際公開番号】W WO2021123189
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515337626
【氏名又は名称】フラニックス・テクノロジーズ・ベーフェー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヘンドリクス・ヤーコプ・バールス
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ヘンドリック・ブランク
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・ジョン・コルスタッド
(72)【発明者】
【氏名】アナ・ソフィア・ヴァゲイロ・デ・ソウサ・ディアス
【テーマコード(参考)】
4H039
【Fターム(参考)】
4H039CA65
4H039CC30
4H039CC90
(57)【要約】
2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物を製造する方法であって、a)酸化反応器において、2から6個の炭素原子を有する飽和有機酸溶媒、並びにコバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒系の存在下、160から210℃の範囲の温度で、酸化性ガスを使用して、5-アルコキシメチルフルフラールを含む被酸化性化合物を酸化させて、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル及び固体2,5-フランジカルボン酸を含む粗カルボン酸組成物を得る工程と、b)固液分離ゾーンにおいて、固体2,5-フランジカルボン酸の少なくとも一部を粗カルボン酸組成物から単離して、固体ケーキ及び母液を生成する工程と、c)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの量を求める工程と、d)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの求めた量が所定の閾値を超えている場合、酸化反応器中の1種又は複数の制御酸の量を増加させる工程とを含み、1種又は複数の制御酸が、臭化水素酸、及び2から5個の炭素原子を有し、pKaが3.2未満であるモノ-又はジカルボン酸からなる群から選択され、母液が、母液の質量に対して、0.5から7質量%の範囲の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを含む、方法。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物を製造する方法であって、
a)酸化反応器において、2から6個の炭素原子を有する飽和有機酸溶媒、並びにコバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒系の存在下、160から210℃の範囲の温度で、酸化性ガスを使用して、5-アルコキシメチルフルフラールを含む被酸化性化合物を酸化させて、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル及び固体2,5-フランジカルボン酸を含む粗カルボン酸組成物を得る工程と、
b)固液分離ゾーンにおいて、固体2,5-フランジカルボン酸の少なくとも一部を粗カルボン酸組成物から単離して、固体ケーキ及び母液を生成する工程と、
c)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの量を求める工程と、
d)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの求めた量が所定の閾値を超えている場合、酸化反応器中の1種又は複数の制御酸の量を増加させる工程と
を含み、
1種又は複数の制御酸が、臭化水素酸、及び2から5個の炭素原子を有し、pKaが3.2未満であるモノ-又はジカルボン酸からなる群から選択され、
母液が、母液の質量に対して、0.5から7質量%の範囲の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを含む、
方法。
【請求項2】
1種又は複数の制御酸が、臭化水素酸、ブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、5-ブロモ-2-フロ酸、フマル酸、アセトキシ酢酸、マレイン酸、及びフロ酸からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
母液の少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%を、固液分離ゾーンから酸化反応器へと、リサイクル母液流として向かわせる連続方法である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
被酸化性化合物が、5-メトキシメチルフルフラールを含み、粗カルボン酸組成物が、2,5-フランジカルボン酸のモノメチルエステルを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
母液が、母液の質量に対して、1.0から4質量%の範囲の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル、好ましくは2,5-フランジカルボン酸のモノメチルエステルを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
母液が、母液の質量に対して、好ましくは0.5質量%以上の量のブロモ酢酸、及び/又は母液の質量に対して、好ましくは0.1質量%以上の量のジブロモ酢酸、及び/又は母液の質量に対して、好ましくは0.02質量%以上の量の5-ブロモ-2-フロ酸を含む、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ケーキ中のコバルトに関する所定の閾値が、2,5-フランジカルボン酸の質量に対して、200質量ppm、好ましくは50質量ppm、最も好ましくは30質量ppmであり、且つ/又はケーキ中のマンガンに関する所定の閾値が、2,5-フランジカルボン酸の質量に対して、100質量ppm、好ましくは25質量ppm、最も好ましくは15質量ppmである、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
酸化反応器中の1種又は複数の制御酸の量が、リサイクル母液流として酸化反応器へと向かわされる母液の部分を増加させることで、酸化反応器に1種又は複数の制御酸を添加することによって、増加される、請求項3から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
触媒系におけるコバルトのマンガンに対する質量比が、10以上、好ましくは15以上であり、且つ/又は触媒系における臭素のコバルト及びマンガンの総合質量に対する質量比が、1以上、好ましくは1.5以上、最も好ましくは2以上である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
固液分離ゾーンにおいて、固体2,5-フランジカルボン酸の少なくとも一部を単離する工程が、2から6個の炭素原子を有する飽和有機酸溶媒、好ましくは酢酸と、15質量%未満、好ましくは10質量%未満の水とを含む洗浄溶液で、固体2,5-フランジカルボン酸を洗浄することを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
工程b)において単離された固体2,5-フランジカルボン酸が、洗浄溶液の質量に対して95質量%超、好ましくは99質量%超の量の水を含む第2の洗浄溶液で、更に洗浄される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程a)における温度が、170から190℃の範囲にある、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程a)における圧力が、700から2000kPaの範囲にあり、且つ/又は酸化反応器が、1つ若しくは複数の連続撹拌槽反応器、好ましくは直列に接続された2つ以上の連続撹拌槽反応器を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ケーキ中のマンガンのコバルトに対する質量比の、触媒系におけるマンガンのコバルトに対する質量比に対する比が、2.5未満、好ましくは2未満、より好ましくは1.5未満である、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ケーキが、乾燥ケーキの質量に対して、95質量%超、好ましくは98質量%超の量の2,5-フランジカルボン酸と、好ましくは乾燥ケーキの質量に対して、0.1から3質量%、好ましくは0.15から2.3質量%の範囲の量の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルとを含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物を製造するプロセスに関し、詳細には、5-アルコキシメチルフルフラールを出発原料として使用して、2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物を製造するプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
2,5-フランジカルボン酸(FDCA)は、高性能ポリマーの製造における、石油系モノマーに代わる非常に有望な構築ブロックとして、当該技術分野において知られている。近年、FDCAや、現在広く使用されている石油系プラスチックと比較して優れた特性を有する、完全にリサイクル可能なプラスチックである、新規な植物系ポリエステル、ポリエチレンフラノエート(PEF)が、大きな関心を集めている。これらの材料は、石油系ポリマーやプラスチックへの依存度を下げることに大きく貢献すると同時に、地球資源のより持続可能な管理を可能にするものである。これを受けて、当該分野では、FDCAやPEFの市場への投入を成功させようと、これらの有望な材料を商業的に実行可能な形で製造する技術を確立するための総合的な研究が行われてきた。
【0003】
FDCAは、典型的には植物系糖類から例えば糖の脱水によって得られる、フラン部分を有する分子、例えば5-ヒドロキシメチルフルフラール(5-HMF)、並びに対応する5-HMFエステル又は5-HMFエーテル、例えば5-アルコキシメチルフルフラール、及び同様の出発原料の酸化によって、典型的には粗カルボン酸組成物として得られる。先行技術では、例えば酵素的プロセスや金属触媒を用いたプロセスを含む、多岐にわたる酸化プロセスが知られている。
【0004】
当該分野において最も確立された技術の一つは、コバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒系を使用して、フラン部分を有する化合物を、酸素又は空気を酸化剤として使用してFDCAへと酸化させるものである。多種多様な出発原料に適用可能である対応するプロセスは、例えば、WO 2014/014981 A1又はWO 2011/043660 A1に開示されている。
【0005】
上述したプロセスにおいて得られる粗カルボン酸組成物の純度は、FDCAからPEFや他の高性能ポリマーへの重合にとって必要とされる必須の純度を達成するには十分ではない場合が多いため、精製されたカルボン酸組成物を製造するために粗カルボン酸組成物を更に精製するための精製プロセスが開発されてきた。これらのプロセスは、例えば、水素化工程、後酸化工程、蒸留工程、再結晶工程、又は同様の方法を含み、多くの場合、得られたカルボン酸組成物を洗浄し単離するいくつかの工程を伴う包括的精製スキームと組み合わされる。例示的な精製プロセスは、例えば、WO 2014/014981 A1又はWO 2016/195499 A1に開示されている。
【0006】
近年、経済的に実行可能な様式でFDCAを得るための最も有望なアプローチの一つとして、5-HMFのエーテル、例えば5-アルコキシメチルフルフラールを酸化のための出発原料として大量に用いることが発見された。その結果、そのようなプロセスで得られる粗カルボン酸組成物は、遊離二酸、すなわちFDCAを含むだけでなく、かなりの量のFDCAのモノアルキルエステルを含み、現在、酸化のための出発原料として5-メトキシメチルフルフラールを用い、かなりの量のFDCAのモノメチルエステル(FDCA-Me)をもたらすプロセスが、最も確立されたものとされている。
【0007】
一部の先行技術文献は、それらが主張する酸化プロセスに関して、高い収率と良好な純度については熱心に報告しているが、基礎となる反応が、ほとんどの場合、実際に実行するのが非常に困難であるという事実、及び/又は外部からの影響にかなり敏感であるという事実にはあまり注意が払われていない場合が多い。これは特に、滞留時間の長いバッチ実験や、長期間にわたって(好ましくは定常状態で)運転する必要のある(半)連続プロセスに当てはまる。とりわけ、所望の生成物を得るために後続のプロセス工程をいくつか連鎖させる必要がある場合、一つのプロセス工程でのわずかな狂いが、下流の反応に何倍もの悪影響を及ぼす可能性があるため、これらの問題は非常に深刻である。
【0008】
更に、ほとんどの先行技術文献では、研究室規模の実験しか開示されていない。しかしながら、商業的に実行可能なやり方で新しい化合物を製造するには大規模な反応器が必要であり、反応を継続させることは更に困難である。実際の工業規模のプラントでは、例えば温度や濃度といったプロセスパラメーターにおける勾配、化合物の質量流量の変動、又はその他の影響によって、プロセスが完全に停止したり、望ましくない生成物が製造されたりする可能性がある。例えば、プロセスの効率性や経済性を高めるためにリサイクル流を使用した場合、望ましいものであれ望ましくないものであれ、材料の蓄積につながる可能性がある。
【0009】
残念ながら、5-アルコキシメチルフルフラールを出発原料とする酸化プロセスは、FDCAのモノアルキルエステルを産出しない同等の先行技術プロセスと比較して、例えば効率的な糖の脱水、生成物の回収による5-アルコキシメチルフルフラールの製造、高い収率、及び生成物の良好な純度といったいくつかの利点を持っているが、このようなプロセスは、時として制御が特に難しいことが証明されている。この技術を確立する際、プロセスを長期間稼働させ続ける(当業者はしばしば、そのようなプロセスを「生きた(alive)」又は「生きている(living)」と呼ぶ)ことが困難な可能性があることが分かった。研究室規模の実験に基づき、先行技術において好ましいと報告されている場合もある、いくつかのプロセスパラメーターのセットでは、プロセスは、ある時間が経過すると停止する傾向があり(当業者はしばしば、そのようなプロセスを「死んだ(dead)」又は「死にかけている(dying)」と呼ぶ)、場合によっては、そもそもプロセスを開始することさえ不可能なことがある。FDCAを製造するための酸化プロセスは、死にかけている場合いくつかの形でその兆候を現し得るが、不要な副生成物がより多く生成するにつれ、FDCA収率が著しく低下し、多くの場合固体ケーキとして得られる成果物の色が、白から黄色、更に褐色へと変化することがしばしば観察される。結果として、ケーキの色における白から褐色までの尺度は、プロセスが望ましい状態から外れて望ましくない状態で稼働しているか、又は完全に「死にかけている」最中ですらあるのかについての、良好な定性的指標となる。更に、反応の停止は通常、反応器の出口ガス流の酸素含有量が急激に増加し、CO2やCOの生成が低減することによって裏付けられる。
【0010】
5-アルコキシメチルフルフラールから出発する酸化プロセスの上記の問題に加えて、残念ながら、これらのプロセスは、他の先行技術のプロセスよりも、触媒金属の生成物ケーキへの混入に悩まされる可能性が高いことも観察されている。これは、生成物を汚染するだけでなく、本来であれば再利用やリサイクルができたはずの貴重な触媒を、系から取り出してしまうことになる。
【0011】
触媒金属の生成物ケーキへの混入は、フラン含有部分の酸化による2,5-フランジカルボン酸の形成に関して、特に問題があるように思われる。この問題についてはこれまで報告されていないが、本発明者らの知る限り、マンガンのケーキへの混入に関して、この問題は特に強く現れる。このような場合、生成物ケーキでは、触媒フィードと比較して、ケーキ中にコバルトに比してマンガンが特に濃縮される。本発明者らは、この効果は、酸化を介した有機酸製造のためのCo/Mn/Br文献において時折報告されている、マンガン(II)からマンガン(IV)への時折観察されている過酸化(マンガンが酸化されてMn(IV)O2を形成し、その後黒斑として溶液から生成物ケーキに沈殿する)とは異なり、区別されるものだと考えている。今回観察され、報告するのは、ケーキにピンク色が現れる現象で、これはケーキ中の過剰なマンガンと関連している。
【0012】
いかなる理論にも束縛されることを意図するものではないが、2,5-フランジカルボン酸とマンガンとの間で、おそらくは二重イオン化形態の2,5-FDCA及びMn(II)が関与する、比較的不溶性の錯体が形成されたものと考えられる。
【0013】
上記の2つの効果、すなわち、プロセスを生かし続けるという課題、及び触媒系からケーキに金属が混入してしまうという好ましくない傾向は、5-アルコキシメチルフルフラールから出発する酸化プロセスについて観察される、二つの別々の効果であると思われる。例えば、触媒系からの金属の混入は、「生きている」プロセスにおいても観察され、ケーキがピンク色になることで定性的に現れる。しかしながら、これらの二つの効果は、類似した、又は少なくとも関連した起源を有する可能性がある。いずれにせよ、プロセスを実行するには金属触媒が必要なため、触媒がプロセスからケーキ、すなわち沈殿物中に取り出されてしまうことは、少なくともプロセスを生かし続けることを困難にする一因になり得ると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO 2014/014981 A1
【特許文献2】WO 2011/043660 A1
【特許文献3】WO 2016/195499 A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の問題に鑑み、主目的は、5-アルコキシメチルフルフラールを出発原料として使用する先行技術の酸化プロセスの欠点を克服する一方で、基本プロセスの全体的な利点も維持することであった。とりわけ、5-アルコキシメチルフルフラールから2,5-フランジカルボン酸を製造するプロセスであって、工業規模で実施した場合でも、許容領域を離れることなく、又は少なくともそうなる可能性が減少した、確実に開始され長時間運転できる、プロセスに対するニーズが存在した。更に、5-アルコキシメチルフルフラールから2,5-フランジカルボン酸を製造するプロセスであって、金属の生成物ケーキへの混入の問題を低減する、プロセスに対するニーズが存在した。とりわけ、1つの目的は、2,5-フランジカルボン酸を製造するプロセスであって、金属のケーキ中への混入量の上昇が観察された場合に実行中のプロセスに影響を及ぼすことができ、わずかな調整しか必要とされない、好ましくは正確に制御でき、迅速に調整できるパラメーターに対してわずかな調整しか必要とされないことが望ましい、プロセスを提供することであった。2,5-フランジカルボン酸を製造するプロセスが、高度なプロセス制御の手段によって、追加的な物質やデバイスを必要とせずにそれぞれの利点を達成することができれば、特に望ましいものと考えられる。
【0016】
別の目的は、5-アルコキシメチルフルフラールから2,5-フランジカルボン酸を製造するプロセスであって、それぞれのプロセスのロバストネスを高める最適化された触媒系を用い、金属のケーキへの混入傾向を低減する一方で、そのようなプロセスについて報告されている有益な特性も維持する、プロセスを提供することであった。
【0017】
更に別の目的は、2,5-フランジカルボン酸を製造するプロセスであって、粗ケーキの一次洗浄液として酢酸又は微量の水を加えた酢酸を用いる、プロセスを提供することであった。
【0018】
いかなる理論にも束縛されることを意図するものではないが、酸化反応器における2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの存在が、先行技術における当該技術と典型的には関連している有益な効果のいくつかに関与しているものと思われる。そのため、最小限の量の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルが酸化反応器中に存在することが望ましいことが分かった。とりわけ、酸化反応器へのフィード中に一定量の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルが存在すると、生成物ケーキ中にマンガンが現れる傾向が低減されるようである。
【0019】
しかしながら、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルが、当該プロセスと関連する上記問題のうちいくつかの理由であると思われることも分かった。とりわけ、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの濃度が最大限の値を超えた場合、プロセスのロバストネスと、ケーキから金属を洗い落とすことができるかどうかの両方に対して悪影響があるようである。酢酸リッチ系における、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル、例えばモノメチル-2,5-フランジカルボキシレートの溶解度は、2,5-フランジカルボン酸よりはるかに高い。FDCAがかなりの程度まで結晶化し、溶液中にはわずかしか残留しないのに対して、FDCA-Meは溶液中に留まり、生成物ケーキ中には一部しか共結晶化しない傾向にある。その結果、FDCA-Meは「母液」中に保持されることになり、系内に蓄積される傾向にある。十分にレベルが上がると、生成物の単離に使用される温度での溶解限度を超え、主にFDCA-Meからなる第2の相が、溶液から晶出することになる。ふわふわしたワックス状の粒子からなるこの沈殿物は、濾過するのが特に困難であり、濾過時間が長くなり、ケーキ洗浄も困難となり、金属保持量の増加(触媒金属フィードと同様の比率)につながることが分かった。
【0020】
いかなる理論にも束縛されることを意図するものではないが、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの量は、特定の範囲内に保つ必要があると考えられ、その濃度にとって最も好都合な基準系は、母液、すなわちFDCAを固液分離ゾーンで分離した後の反応混合物及び粗カルボン酸組成物から得られる液体であることが分かった。これは、母液によって、酸化反応器中の反応媒体について情報を収集することが可能となるためである。
【0021】
これを受けて、本プロセスの、2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物を製造するプロセスにおいては、母液は、母液の質量に対して、0.5から7質量%の範囲の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを含む。
【0022】
しかしながら、この限定だけでは、触媒からケーキへの金属混入の問題を完全に解消することはできないことが分かった。幸いなことに、本発明者らは、金属のケーキへの混入に対して、実行中のプロセスを停止させる必要なく、早期に対処できるやり方でプロセスを制御するための解決策を見出した。
【0023】
本プロセスにおいては、ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの量を求め、求めた量が所定の閾値を超えている場合にのみ、プロセスを調整するための追加的なプロセス工程が実施される。マンガンはコバルトよりも大きい割合でケーキに混入する傾向が、特に顕著である。この傾向を示す指標としては、ケーキ中のマンガンのコバルトに対する比率を、触媒フィード中のマンガンのコバルトに対する比率で割ったものが有用である。この比率が約1.0の値である場合、乾燥ケーキ中の金属は、触媒系における金属を正確に反映したものとなる。この比率が1より著しく高い場合、例えば2以上である場合、マンガンが優先的にケーキ中に捕捉されていることになり、本明細書に記載されているような改善的制御措置を講じるべきである。
【0024】
驚くべきことに、酸化反応器中の1種又は複数の制御酸の量を増加させた場合、金属のケーキへの混入に対処できることが分かった。包括的な実験により、1種又は複数の制御酸は、プロセスが適切に動作するためには、臭化水素酸、及び2から5個の炭素原子を有し、pKaが3.2未満であるモノ-又はジカルボン酸からなる群から選択する必要があることが明らかとなった。
【0025】
更に、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを産出することになる酸化プロセスでは、妥当な運転を可能にするためには特定の温度が必要であることが発見され、特にロバストであることが証明され、より多い量の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルが存在しても、金属のケーキへの混入傾向をそれ自体が低減する、特定の触媒系が確認された。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明は、2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物を製造するプロセスであって、
a)酸化反応器において、2から6個の炭素原子を有する飽和有機酸溶媒、並びにコバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒系の存在下、160から210℃の範囲の温度で、酸化性ガスを使用して、5-アルコキシメチルフルフラールを含む被酸化性化合物を酸化させて、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル及び固体2,5-フランジカルボン酸を含む粗カルボン酸組成物を得る工程と、
b)固液分離ゾーンにおいて、固体2,5-フランジカルボン酸の少なくとも一部を粗カルボン酸組成物から単離して、固体ケーキ及び母液を生成する工程と、
c)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの量を求める工程と、
d)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの求めた量が所定の閾値を超えている場合、酸化反応器中の1種又は複数の制御酸の量を増加させる工程と
を含み、
1種又は複数の制御酸が、臭化水素酸、及び2から5個の炭素原子を有し、pKaが3.2未満であるモノ-又はジカルボン酸からなる群から選択され、
母液が、母液の質量に対して、0.5から7質量%の範囲の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを含む、
プロセスに関する。
【0027】
本プロセスにより、先行技術の酸化プロセスの欠点を克服する一方で、出発原料として5-HMFのエーテルを使用し、この技術と関連する全体的な利点、例えば高い収率、生成物の良好な純度、及び安価な出発原料の利用可能性を維持することも可能である。本発明のプロセスは、工業規模で実施した場合でも、生成物の品質の許容領域を離れることなく、確実に開始され長時間運転できる。本発明のプロセスにより、生成物ケーキへの金属混入の問題に対処することができる。ケーキ中の金属の量が所定の閾値を超えるとすぐに、ケーキ中の金属の量が低減された生成物ケーキを産出するようにプロセスを調整することを直接的に可能にする、好適な対応措置が定義されている。本発明に係るプロセスにおいては、プロセス制御のために必要とされる介入は比較的わずかであり、制御酸の添加は正確に制御することができ、介入の強度は必要に応じて迅速に調整することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本プロセスの工程a)は、FDCAを得るための典型的な酸化反応に相当し、ここでの温度は、出発原料からFDCAを製造するのに特に有益であり、制御酸を用いるプロセス制御を可能にするために特に好適であることが分かっている範囲にあることが定義されている。同様に、この温度は、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの十分な形成を確実にすることが分かっている。更に、工程a)において出発原料として酸化される被酸化性化合物は、5-アルコキシメチルフルフラール、すなわち5-ヒドロキシメチルフルフラールのエーテルであると定義されている。
【0029】
また、先行技術では、より低い酸化温度が用いられている場合が多い。しかしながら、現行のプロセスは、より高い温度が酸化反応器を高圧下で運転することを可能にする一方で、酸化反応によって発生する大きな熱の、気化による除去も可能にするため、好ましいとされている。これは、当業者には「断熱」運転として知られており、反応熱の除去が、冷却器、壁面を通じた損失等、外部原因によって為されていないことを意味するものである。一般に、「断熱」運転では、温度が高いほど高い圧力での運転が必要となる。圧力が高いほど、反応器中の酸素分圧を高くすることができ(禁止されている酸素体積%)、酸素欠乏のリスクを低減することができる。オフガス中の酸素体積パーセントは、一般的には安全上の理由から、爆発限界の下限未満、例えば10体積%、より好ましくは、安全上の余裕を持たせるため、約6体積%未満のレベルに制限されている。これにより、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル及び2,5-フランジカルボン酸を含む粗カルボン酸組成物が形成される。本発明に係るプロセスにおいては、酸化のための触媒系は、コバルト、マンガン、及び臭素を含み、これらの化合物は、酢酸コバルト、酢酸マンガン、及び臭化水素酸として提供されることが好ましく、臭化水素酸の使用が特に好ましい。
【0030】
酸化反応器は、当該技術分野において知られている任意の典型的な酸化反応器とすることができる。反応において用いられる飽和有機酸溶媒は、2から6個の炭素原子を有し、酢酸が特に好ましい。
【0031】
工程b)においては、固体2,5-フランジカルボン酸の少なくとも一部が単離され、これは粗カルボン酸組成物から分離されることを意味し、ここで単離は、固液分離ゾーンにおいて実施される。
【0032】
本発明の枠内において、少なくとも一部という用語は、好ましくは、粗カルボン酸組成物の質量に対して、少なくとも10質量%、より好ましくは少なくとも50質量%、最も好ましくは少なくとも80質量%を意味する。
【0033】
固液分離ゾーンにおいては、固体ケーキ及び母液が生成される。
【0034】
本発明のプロセスの工程c)においては、ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの量を求める。好ましくは、マンガンの量を求める。当業者であれば、固体FDCAを含むケーキが、残留する母液の存在に起因して濡れている可能性があることを理解するであろう。しかしながら、ケーキ中の化合物の量を求めようとする当業者は、測定結果について確信を持つために、当該ケーキを十分に乾燥させるか、又は母液の残留量に関して、測定及びその結果をそれぞれ調整若しくは補正することになる。
【0035】
好ましくは、工程c)におけるケーキは、ケーキの質量に対して、90質量%超の固形分、より好ましくは95質量%超の固形分、最も好ましくは99質量%超の固形分を含み、後者は「乾燥ケーキ」とも呼ばれる。ケーキの「水分」含有量は、当該技術分野において知られているいくつかの技術のうちいずれかを使用して、例えば、制御された加熱条件下での質量減少によって求めることができ、金属の判定結果は、「水分を含まない」基準で報告される。
【0036】
ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの量は、任意の好適な測定技術を使用して求めることができ、ここで、それぞれの技術、例えば適切に較正された蛍光x線(XRF)又は誘導結合プラズマ(ICP)は、当業者に周知である。化学分析の他にも、分光学的測定方法及び光学的測定方法が特に好ましい。最も基本的な場合においては、ケーキ中のマンガンの量は、プロセスのオペレーターによるケーキの光学的検査によって求められ、ここで、得られたケーキの色は、フルフラール関連化合物を酸化させてFDCAを形成する際のケーキ中のマンガンと典型的には関連することが現在知られている、ピンク色の強度に関して評価される。
【0037】
マンガン及び/又はコバルト、好ましくはマンガンの求めた量が、例えばケーキがピンク色過ぎることが判明したことから、所定の閾値を超えている場合、酸化反応器中の1種又は複数の制御酸の量が増加される傾向にある。
【0038】
制御酸という用語は、本プロセスにおいて好適であることが分かった特定の酸の群を明確に示すため、恣意的に選択されたものである。
【0039】
好適な閾値は、個々のプロセス特性と、その後の処理工程及び/又は更なる用途のためにケーキ中で許容されると考えられる金属の量とに基づいて、当業者によって定義される。
【0040】
ケーキ中の触媒金属の合計濃度は、触媒リッチな母液の保持によっても影響を受ける可能性があるが、それ以外に、コバルトよりも、フィード触媒に対するケーキ中のマンガンの濃縮度が好適な指標となることが分かった。この比率は、コバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒系を用いてフルフラール関連化合物を酸化させてFDCAを形成する際に、問題の最も敏感な指標であり、ケーキ中に異常に高いレベルで見られるのはマンガンであることを出願人が見出したため、特に有用である。マンガンの濃縮係数が策定されており、以下の式に従って定義される。
(Mn/Co)ケーキ/(Mn/Co)触媒
【0041】
この式には、触媒の絶対レベルや、例えば洗浄液の存在による影響を受けない一方で、ケーキ中のマンガンの不要な濃縮を反映しているという利点がある。値が1以下であれば、ケーキ中のマンガンの優先的な濃縮は起こっていないことが示される。実用上の理由から、マンガンの絶対含有量が少ない場合、例えばケーキ中約10ppm未満である場合、この値は約1.5程度の高さまで変動する可能性がある。値がこのレベルを上回る場合、又は例えば2.5を上回る場合は、マンガンのケーキへの不要な混入が示され、是正措置が必要となる。これを受けて、好ましいのは、ケーキ中のマンガンのコバルトに対する質量比の、触媒系におけるマンガンのコバルトに対する質量比に対する比が、2.5未満、好ましくは2未満、より好ましくは1.5未満である、プロセスである。
【0042】
上に定義したように、1種又は複数の制御酸は、臭化水素酸、及び2から5個の炭素原子を有し、pKaが3.2未満であるモノ-又はジカルボン酸からなる群から選択される。工程a)において典型的に用いられる触媒系の一部として、プラントでしばしば利用可能であるため、臭化水素酸が具体的には好ましく、本発明者らによって確認された第1の制御酸のうちの一つである。しかしながら、更なる有機酸について試験したところ、一定の酸性度を持つ酸のみが制御酸として機能することが、本発明者らによって見出された。好適な制御酸のpKaは、3.2未満であるべきことが見出された。ここで、pKaは水中での指標である。
【0043】
更に、スクリーニング実験によって、制御酸として機能することができるのは、明らかにモノ-又はジカルボン酸のみであることが確認された。より高次のポリカルボン酸は、おそらくは錯体形成に起因して、活性消失を引き起こす可能性があるためである。例えば、トリメリット酸及びピロメリット酸は、一次pKaの値がそれぞれ2.52及び1.92と、比較的強い芳香族ポリカルボン酸である。しかしながら、これらの酸は、特定の酸化において活性消失を引き起こす可能性があり、制御酸として好適ではない。比較的強い芳香族ジカルボン酸であるFDCAも、活性消失や、系の開始失敗を引き起こす可能性があることが今回の研究で判明した。この効果は、本発明者らの知る限り、p-キシレンを酸化させてテレフタル酸を生成する際には観察されない。理論に束縛されることを意図するものではないが、出願人は、FDCAの高い溶解度とその高い酸性度が、少なくとも部分的にこの効果の原因であると推測している。より高温での酸化は、溶解度がより高温で著しく上昇することと、結果として二酸が触媒成分と錯体を形成しやすくなる事に起因して、この問題を拡大させる。
【0044】
必要とされるpKaは有するものの、炭素原子の数は7個のモノカルボン酸である、FDCAのモノメチルエステルは、制御酸として添加された場合、所望の効果を発揮できる。しかしながら、このFDCAのモノエステルは、リサイクル運転において蓄積される傾向にあり、高レベルでは酸化に有害な影響を与え、反応速度の低下や中間体の増加、褐色化や、反応の死すらもたらすことが分かっている。更に、FDCAのモノエステルにより、濾過が困難になり、ケーキから母液が除去しにくくなり、全体的な金属レベルが高くなる可能性がある。しかしながら、驚くべきことに、モノカルボン酸FCA、すなわち2-フランカルボン酸が、本発明のプロセスにとって非常に好適な制御酸であることが分かった。しかしながら、FCAを使用する場合、FDCAを重合に使用することが所望されるのであれば、酸化後に使用される精製系は、FDCA組成物からFCAを除去できなければならない。これを受けて、本発明者らは、制御酸は、臭化水素酸、及び2から5個の炭素原子を有し、pKaが3.2未満であるモノ-又はジカルボン酸であると定義することができると推論している。本発明の枠内において、FDCAのモノエステルも制御酸のように機能するが、その蓄積と関連する特別な問題に起因して別様に考慮されるため、使用範囲は限定されることになる。
【0045】
工程d)においては、1種又は複数の制御酸の量を、酸化反応器中に1種又は複数の制御酸を計画的且つ意図的に添加することによって増加させる。酸化反応器において起こる可能性のある制御酸のいかなるインサイチュ形成も、1種又は複数の制御酸の計画的且つ意図的な添加とはみなされず、酸化反応器における1種又は複数の制御酸の量を増加させることには相当しない。臭化水素酸は、酸化反応の触媒に臭素イオンを供給するためにしばしば使用されるため、本発明の枠内において臭化水素酸の増加とみなされるものを議論することは好都合である。ほとんどの(半)連続プロセスでは、例えばオーバーヘッド又は母液において失われた、反応中の臭素の消失を埋め合わせるために、追加的な触媒を追加して、所望の触媒濃度を維持するようにしているが、これには追加的な臭化水素酸が含まれることが多い。酸化反応器における所望の臭化水素酸濃度を維持するために臭化水素酸を酸化反応器に添加することは、本発明の意味において臭化水素酸の量を増加させることには該当しない。換言すれば、工程d)では、臭素対金属比を高めることによって、反応器内の触媒組成を変化させることが必要となる。これを受けて、本発明のプロセスの工程d)は、以下であってもよい。
d)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの求めた量が所定の閾値を超えている場合、酸化反応器中の1種若しくは複数の制御酸の量を増加させる又は触媒系における臭素対金属比を、好ましくは2より大きい質量比まで、更により好ましくは2.5より大きい質量比まで高める工程であって、前記1種若しくは複数の制御酸が、2から5個の炭素原子を有し、pKaが3.2未満であるモノ-又はジカルボン酸からなる群から選択される、工程。
【0046】
換言すれば、既存の触媒系を使用したケーキが、金属、特にマンガンを多く含むことが判明し、その後、HBrの添加を介して臭素レベルを高めるように触媒組成を変更した場合、そのような変更は、本発明の意味において、制御酸の量を増加させることになる。これとは明確に対照的に、例えばNaBrやNH4Brを介して臭素を増加させても、これらは本発明の意味における制御酸ではないので、制御酸の量を増加させることにはならない。
【0047】
当業者であれば、酸化反応器中の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの濃度及び対応する母液中のその濃度を、上に定義したレベルまで調整するためのいくつかの好適な方法を知っている。当該技術分野において知られている選択肢の中から、当業者であれば、一般的な知識に基づいて適切な選択肢を選ぶことができる。例えば、当業者であれば、酸化反応器中の溶液を希釈するために、溶媒又は他の出発原料の量を増加させることができ、又は、母液のリサイクルが用いられる場合、当業者であれば、酸化反応器中及び新鮮な母液中のエステルの濃度を変えるために、母液流から2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを計画的に除去することができる。また、モノエステル及び/又は制御酸の濃度を低減するために、母液の一部を系から除去又はパージすることも可能である。母液の一部がパージされる場合でも、例えば蒸留によって酢酸を回収することもでき、残渣は廃棄してもよいし、触媒を回収して再利用するために回収処理に供してもよい。
【0048】
しかしながら、特定の条件下では蓄積してしまう傾向にある、母液中の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの量を減少させる簡便な選択肢が、他にも存在することが分かった。当該物質の量を減少させる簡便なやり方は、工程a)の酸化反応器中の温度を上昇させることによって、及び/又は工程a)の酸化反応器中の粗カルボン酸の滞留時間を長くすることによって、及び/又は工程a)の後に後酸化工程a1)を適用することによって、及び/又は固液分離ゾーンにおける温度を低下させることによって利用可能となることが見出された。後酸化工程は、高温で用いられた場合に特に効果的であることが分かっている。
【0049】
この観察に鑑みて、本プロセスの好ましい実施形態は、工程a)の酸化反応器中の温度を上昇させることによって、及び/又は固液分離ゾーンにおける温度を低下させることによって、及び/又は工程a)の酸化反応器中の粗カルボン酸の滞留時間を長くすることによって、及び/又は工程a)の後に後酸化工程a1)を適用することによって、母液中の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの量を制御、好ましくは減少させることを含み、ここで、後酸化は、工程a)に関して記載したような条件下で後酸化反応器において実施される。
【0050】
最も好ましいのは、工程a)における温度が170℃以上であり、工程a)の後に後酸化工程a1)が適用され、後酸化が工程a)に関して記載したような条件下で後酸化反応器において実施されるプロセスである。このプロセスは、この場合のFDCAのモノアルキルエステルの量がプラトー傾向にある、すなわち、ある一定のレベルまでしか上昇しないことが判明し、このレベルが、上に定義した所望の範囲内によく収まっていることが判明したため、特に好ましいものである。
【0051】
実際、この観察は、5-HMFのエーテルから出発するいくつかのプロセスを、金属混入の問題とは無関係に運転するのに非常に有用であることが証明されている。これを受けて、本明細書において開示されるのは、
a)酸化反応器において、2から6個の炭素原子を有する飽和有機酸溶媒、並びにコバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒系の存在下、170から210℃の範囲の温度で、酸化性ガスを使用して、5-アルコキシメチルフルフラールを含む被酸化性化合物を酸化させて、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル及び固体2,5-フランジカルボン酸を含む粗カルボン酸組成物を得る工程と、
a1)後酸化反応器において、2から6個の炭素原子を有する飽和有機酸溶媒、並びにコバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒系の存在下、170から210℃の範囲の温度で、酸化性ガスを使用して、工程a)の粗カルボン酸組成物を酸化させて、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル及び固体2,5-フランジカルボン酸を含む生カルボン酸組成物を得る工程と、
b)固液分離ゾーンにおいて、固体2,5-フランジカルボン酸の少なくとも一部を生カルボン酸組成物から単離して、固体ケーキ及び母液を生成する工程と、
c)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの量を求める工程と、
d)ケーキ中のマンガン及び/又はコバルトの求めた量が所定の閾値を超えている場合、酸化反応器中の1種又は複数の制御酸の量を増加させる工程と
を含む、2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物を製造するプロセスであって、
母液が、母液の質量に対して、0.5から7質量%の範囲の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを含む、
プロセスである。
【0052】
好ましいのは、1種又は複数の制御酸が、臭化水素酸、ブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、5-ブロモ-2-フロ酸、フマル酸、アセトキシ酢酸、マレイン酸、及びフロ酸からなる群から選択される、プロセスである。より好ましくは、制御酸は、臭化水素酸、ブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、アセトキシ酢酸、及び5-ブロモ-2-フロ酸からなる群から選択される。より好ましくは、制御酸は、ブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、アセトキシ酢酸、及び5-ブロモ-2-フロ酸からなる群から選択される。
【0053】
上記のプロセスは、それぞれの制御酸が、特に良好且つ顕著な効果をもたらすと同時に、比較的に安価で取り扱いが良好であるか、又は工程a)によるプロセスの廃棄物及び/若しくは副生成物として利用可能であり、工程b)の母液において得られることが判明したため、好ましい。最も好ましくは、ブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、アセトキシ酢酸、及び5-ブロモ-2-フロ酸を含む制御酸の混合物が、酸化反応器に添加される。制御酸はまた、頻繁な補充を必要としないように、比較的安定である、すなわち、化学分解に対する耐性を有することが好ましい。
【0054】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、カルボン酸組成物を製造するプロセスが、連続又は半連続プロセス、好ましくは連続プロセスであり、母液の少なくとも一部、好ましくは少なくとも60質量%、より好ましくは少なくとも80質量%を、固液分離ゾーンから酸化反応器へと、リサイクル母液流として向かわせ、好ましくは、リサイクル母液流として酸化反応器へと向かわせられていない母液の部分が、有機酸溶媒を凝縮蒸気流として回収するために、蒸発工程において処理され、且つ/又は、好ましくは、蒸発において処理される母液に、1種若しくは複数の塩基が、好ましくは、モル換算で、母液中の遊離臭化物イオンの量以上の量で添加される、プロセスである。
【0055】
本発明のプロセスは、例えば、固体沈殿物を含む粗カルボン酸組成物のサンプルをバッチ反応器から採取し、工程b)に従って、固液分離ゾーンにおいて処理するバッチプロセスについて、許容される結果をもたらす。必要に応じて、稼働中のバッチプロセスの酸化反応器に、制御酸を添加することができる。同様に、第1のバッチプロセスを完了して、得られる生成物ケーキを分析し、第1のランのケーキ中の金属量が所定の閾値を超えている場合、第2のバッチランに追加の制御酸を提供することも可能である。
【0056】
しかしながら、本発明のプロセスは、連続又は半連続プロセスにおいてその完全なポテンシャルを発揮し、これらのプロセスには、ケーキへの金属混入の問題に対処するのに好適な、実行中の系の侵襲的調整を最小限にすることを可能にする好適な制御機構が必要であるため、上に定義したプロセスが明らかに好ましい。そのようなプロセスは、一般的に、被酸化性化合物の連続的又は断続的な添加、及び2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物の取り出しを伴う。有益なことに、酸化反応器中の制御酸の量を増加させるために、工程b)で得られた母液を、その後のバッチ実験のランにおいて再利用することが可能である。しかしながら、本発明のプロセスを連続又は半連続プロセスとして設計することにより、母液を固液分離ゾーンから酸化反応器へとリサイクル母液流として戻すことが可能となる。これにより、当業者は、母液流が制御酸を含む場合、酸化反応器における制御酸の量を増加させることができる。
【0057】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、被酸化性化合物が、5-メトキシメチルフルフラールを含み、粗カルボン酸組成物が、2,5-フランジカルボン酸のモノメチルエステルを含む、プロセスである。
【0058】
本プロセスは、アルコキシ鎖の長さに関わらず、5-アルコキシメチルフルフラールについて、特にアルコキシ基が1から6個の炭素原子を含む5-アルコキシメチルフルフラールについて用いることができると考えられる。被酸化性化合物として5-メトキシメチルフルフラールが用いられた場合、最良の結果が得られることが分かった。5-メトキシメチルフルフラールは、FDCAの製造にとって、最も経済的に実行可能な出発原料の一つであることが証明されているため、これは特に有益である。
【0059】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、母液が、母液の質量に対して、1.0から4質量%の範囲の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル、好ましくは2,5-フランジカルボン酸のモノメチルエステルを含む、プロセスである。
【0060】
上記プロセスは、母液中の2,5-フランジカルボン酸のアルキルエステルの量を上記範囲とすることにより、化合物の有益な効果を十分に発揮させることが確実になるのと同時に、確認されたFDCAのモノアルキルエステルの上限に対する十分な緩衝性が確立されるため、2,5-フランジカルボン酸のアルキルエステルの濃度における変動やピークに関してプロセスが高い柔軟性を有することが分かったため、好ましい。
【0061】
好ましいのは、母液が、母液の質量に対して、好ましくは0.5質量%以上の量のブロモ酢酸、及び/又は母液の質量に対して、好ましくは0.1質量%以上の量のジブロモ酢酸、及び/又は母液の質量に対して、好ましくは0.02質量%以上の量の5-ブロモ-2-フロ酸を含む、プロセスである。
【0062】
選択したパラメーターに応じて、母液は、ブロモ酢酸、及び/又はジブロモ酢酸、及び/又は5-ブロモ-2-フロ酸を含むことが分かった。これらの化合物は、有益なことに制御酸として作用することができるが、それらの形成は、以前の他のFDCAを製造するプロセス、例えば5-HMFから出発するプロセスでは報告されておらず、少なくとも工程a)において上に定義したような特定の反応条件が確立された場合、被酸化性化合物として5-アルコキシメチルフルフラールを用いるプロセスの特徴的な特色である可能性もある。
【0063】
好ましいのは、ケーキ中のコバルトに関する所定の閾値が、2,5-フランジカルボン酸の質量に対して、200質量ppm、好ましくは50質量ppm、最も好ましくは30質量ppmであり、且つ/又はケーキ中のマンガンに関する所定の閾値が、2,5-フランジカルボン酸の質量に対して、100質量ppm、好ましくは25質量ppm、最も好ましくは15質量ppmである、プロセスである。このプロセスは、それぞれの閾値によって、金属の含有量が十分に少なく、効率的に更なる処理を行うことができる固体ケーキが得られることを確実にするため、好ましい。更に、好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、所定の閾値が、ケーキ中のマンガンのコバルトに対する質量比の、触媒系におけるマンガンのコバルトに対する質量比に対する比も含む、プロセスである。
【0064】
好ましいのは、酸化反応器中の1種又は複数の制御酸の量が、リサイクル母液流として酸化反応器へと向かわされる母液の部分を増加させることで、酸化反応器に1種又は複数の制御酸を添加することによって、増加される、プロセスである。
【0065】
このプロセスは、製造側で追加の制御酸の取り扱い及び/又は保存が不要となり、それによりコストが削減され、追加の機器が不要となるため、好ましい。酸化反応器における制御酸の量は、特に連続又は半連続プロセスの場合、母液を酸化反応器へとリサイクル母液流として向かわせることによって増加させることが可能である。母液流が1種又は複数の制御酸を含み、酸化反応器内の新鮮な溶媒を置き換える場合、母液中に含まれる1種又は複数の制御酸の濃度が、酸化反応器において増加することになる。この設定により、高度なプロセス制御が可能となり、リサイクル母液流として酸化反応器へと向かわされる母液の部分を増加させることで、酸化反応器における制御酸の量を増加させることが可能となる。
【0066】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、触媒系におけるコバルトのマンガンに対する質量比が、10以上、好ましくは15以上であり、且つ/又は触媒系における臭素のコバルト及びマンガンの総合質量に対する質量比が、1以上、好ましくは1.5以上、最も好ましくは2以上であり、この値が好ましくは4.0未満、より好ましくは3.5未満である、プロセスである。触媒系が、コバルト及びマンガン以外の他の金属を5質量%以上の量で含む場合、触媒系における臭素の全金属の総合質量に対する質量比について、上記の比率が達成されることが好ましい。このプロセスは、上記触媒系が、工程a)について上に定義した条件下で、他の触媒系を著しく凌駕することが分かったため、特に好ましい。とりわけ、本発明者らは、驚くべきことに、当該触媒系は、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの量が増加したとしても、触媒系のマンガン及びコバルトが生成物ケーキに混入する傾向を低減し、ケーキ中でコバルトと比較してマンガンが濃縮されるのを低減することを見出した。同様に、上記触媒系の使用により、例えば圧力や滞留時間等のプロセスパラメーターの範囲が大幅に広がるため、本発明に係るプロセスを非常に信頼性の高いやり方で実行することができ、プロセスの望ましくない停止の可能性を大幅に低減し、且つ/又は不要な副生成物の形成を低減することができる。
【0067】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、固液分離ゾーンにおいて、固体2,5-フランジカルボン酸の少なくとも一部を単離する工程が、2から6個の炭素原子を有する飽和有機酸溶媒、好ましくは酢酸と、15質量%未満、好ましくは10質量%未満の水とを含む洗浄溶液で、固体2,5-フランジカルボン酸を洗浄することを含む、プロセスである。上記プロセスは、固液分離ゾーンにおいて洗浄工程が用いられた場合、ケーキ中の金属の量を更に低減することができるため、好ましい。ここで、飽和有機酸溶媒、好ましくは酢酸を主として含む洗浄溶液が、ケーキからの金属除去に関して妥当な成功を収めることは、まったくもって驚くべきことであった。先行技術においては、ケーキからの十分な金属除去を確実に行うためには、より多量の水を用いる必要があると考えられることが多かった。しかしながら、本発明のプロセスによって、有機酸による洗浄で、金属の含有量が十分に少ないケーキを得られることが十分であると分かった。このことは、特に有益であると考えられる。なぜなら、酸化反応が高濃度の水に対して敏感であることがしばしば見出されるため、洗浄溶液とともに系内に導入される可能性のある多量の水は、酸化反応器への母液リサイクルを使用するあらゆる系にとって望ましくないためである。
【0068】
好ましいのは、ケーキ中のマンガンのコバルトに対する質量比を、触媒系におけるマンガンのコバルトに対する質量比で割ったものが、1.5未満、好ましくは1.3未満である、プロセスである。このプロセスは、プロセスのオペレーターにとって、自らのプロセスが望ましい状態で稼働しているかどうかを判断するための明確な基準を導入し、それによって、非常に簡単且つ確実なやり方で系におけるエラーを確認することができるため、好ましい。
【0069】
本発明のプロセスでは、多量の制御酸を添加する必要がある可能性があり、これらの制御酸のうちいくつかは、イオン性臭素又は臭素系有機化合物を含む。これらの強酸は腐食性であり、酸化性の強いガス状化合物を形成する可能性がある。これを受けて、母液流は、高度に酢酸性及び/若しくは腐食性の化合物、並びに/又は反応機器に由来する追加の金属イオン、例えば鉄、ニッケル、又はクロムを含む。更に、酸化性のガス状物質は、酸化反応器のオーバーヘッド機器を損傷する可能性がある。そのため、本発明の更なる目的は、機器、とりわけ母液流と接触するオーバーヘッド機器及びチューブを保護するための対応措置の提供、及び/又は母液から不要な金属を除去することであった。本発明者らは、これらの課題に対処できる、以下のプロセスが好ましいことを見出した。
【0070】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、
h)母液の少なくとも一部を、Na2CO3及びNaOHからなる群から選択される塩基を含む組成物と接触させて、pHを7超に上昇させる工程であって、母液から1種又は複数の金属水酸化物又は炭酸塩が沈殿し、金属がコバルト、マンガン、鉄、ニッケル、又はクロムからなる群から選択される、工程
を更に含むプロセスである。
【0071】
好ましいのは、母液が、母液の質量に対して、2000質量ppm超の量のコバルト、及び130質量ppm超の量のマンガンを含む、プロセスである。このプロセスは、効率的な母液のリサイクルを可能とし、リサイクル母液流が供給される酸化反応器に、コバルト及びマンガンに基づいて、十分に多い量の触媒金属を保存することができるため、好ましい。
【0072】
好ましいのは、工程b)において単離された固体2,5-フランジカルボン酸が、洗浄溶液の質量に対して95質量%超、好ましくは99質量%超の量の水を含む第2の洗浄溶液で、更に洗浄される、プロセスである。このプロセスは、含まれるマンガン及びコバルトの量が最小限であるFDCAケーキを提供することができるため、有益である。しかしながら、上に示したように、当該プロセスは、多くの場合、母液のリサイクルが用いられないバッチプロセスにとってより好適であることが分かっている。第2の洗浄溶液が固液分離ゾーンにおいて母液と混合される場合、工程a)において定義したような酸化反応において、多量の水が存在することは望ましくないことが多いため、母液流を再利用することがより難しくなる。
【0073】
好ましいのは、有機酸溶媒が酢酸であるプロセスである。そのようなプロセスは、酢酸が、先行技術のプロセスの大部分において用いられている、最も好適な溶媒であることが幾度も証明されているため、好ましい。酢酸は安価で入手しやすく、環境的側面を考慮した場合、比較的許容しやすいものである。
【0074】
好ましいのは、酸化性ガスが分子状酸素を含み、好ましくは空気であるプロセスである。このプロセスは、ほとんどの場合、空気を使用することが、5-アルコキシメチルフルフラールをFDCAへと酸化させる経済的に最も実行可能なやり方であるため、好ましい。
【0075】
好ましいのは、工程a)における温度が170から190℃の範囲にあるプロセスである。このプロセスは、この特定の温度範囲において、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルの量が、上に定義した所望の範囲内によく収まっているプラトー値に向かって邁進する傾向があることを本発明者らが見出したため、好ましい。更に、当該温度は、それぞれの温度を用いた実験のうちいくつかにおいて見られた白色のケーキによって定性的に示されるように、高い収率且つ良好な純度でFDCAを産出すること分かった。
【0076】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、工程a)における圧力が、700から2000kPaの範囲にあり、且つ/又は酸化反応器が、1つ若しくは複数の連続撹拌槽反応器、好ましくは直列に接続された2つ以上の連続撹拌槽反応器を含む、プロセスである。本発明者らが試験した、可能性のあるパラメーターのセット及び機器の中で、上記のパラメーターは、高純度のFDCAを良好な収率で得ると同時に、反応器の加圧に必要なエネルギーコストを最小限に抑えるのに理想的であることが分かった。
【0077】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、固液分離ゾーンがフィルター又は遠心分離機、好ましくはフィルター、より好ましくは回転式圧力フィルターを含む、プロセスである。上記プロセスは、フィルター及び遠心分離機が、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを含む母液から固体FDCAを単離するのに、これらの化合物を固体FDCAから分離するのは困難である場合が多いにもかかわらず、特に好適な手段であることが判明したため、有益である。
【0078】
好ましいのは、本発明に係るプロセスであって、ケーキが、乾燥ケーキの質量に対して、95質量%超、好ましくは98質量%超の量の2,5-フランジカルボン酸と、好ましくは乾燥ケーキの質量に対して、0.1から3質量%、好ましくは0.15から2.3質量%の範囲の量の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルとを含み、且つ/又はケーキが、ケーキ中の2,5-フランジカルボン酸の質量に対して、300質量ppm未満、好ましくは75質量ppm未満の総合量のコバルト及びマンガンを含む、プロセスである。
【0079】
FDCAのモノアルキルエステルの量は、その後の精製方法においてこの化合物の効果が損なわれることを防ぐために、乾燥ケーキの質量に対して、3質量%を下回るべきであると考えられる。
【0080】
本発明の上記開示に鑑みて、当業者であれば、本発明の発明者らによって得られた結果によって、FDCAを製造するための最適化された酸化プロセスを定義することも可能となることを理解する。そのようなプロセスでは、確実に運転することができ、ケーキへの初期の金属混入が少ないため、プロセス制御に要する手間が少ないプロセスを提供するための、上で考察したすべての情報が利用される。これを受けて、本プロセスの関連する態様は、以下とすることができる。
2,5-フランジカルボン酸を含むカルボン酸組成物を製造するプロセスであって、
a1)酸化反応器において、2から6個の炭素原子を有する飽和有機酸溶媒、並びにコバルト、マンガン、及び臭素を含む触媒系の存在下、160から210℃の範囲の温度で、酸化性ガスを使用して、5-アルコキシメチルフルフラールを含む被酸化性化合物を酸化させて、2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステル及び固体2,5-フランジカルボン酸を含む粗カルボン酸組成物を得る工程であって、反応器中の液相が、液相の質量に対して、0.5から7質量%の範囲の2,5-フランジカルボン酸のモノアルキルエステルを含み、臭素が、臭化水素酸として提供され、触媒系におけるコバルトのマンガンに対する質量比が、10以上、好ましくは15以上であり、触媒系における臭素のコバルト及びマンガンの総合質量に対する質量比が、1以上、好ましくは1.5以上、最も好ましくは2以上である、工程
を含む、プロセス。
【0081】
このプロセスの好ましい実施形態が、例えば溶媒、出発原料、触媒、温度、及び2,5-フランジカルボン酸のアルキルエステルの範囲に関して上に開示した、プロセスの好ましい実施形態に相当することは、当業者には明らかである。
【0082】
以下、実験を使用して、本発明をより詳細に説明する。
【実施例】
【0083】
別途記載が無い限り、酸化反応器は、2つのインペラーを備えた、600mlの撹拌式圧力容器である。反応器には、95/5の質量比で酢酸及び水を含む溶媒と、コバルト、マンガン、及び臭素を含む特定組成の触媒系となる触媒成分とを予備充填しておく。触媒成分は、酢酸コバルト(II)四水和物、酢酸マンガン(II)四水和物、及びHBrの48質量%水溶液として提供される。「予備充填」の典型的な量は、310グラムである。
【0084】
酸化反応器をパージし、加圧し、2000rpmで撹拌しながら所望の運転温度まで加熱する。フィードとして提供される被酸化性化合物は、5-メトキシメチルフルフラール(MMF)、又はMMFと、5-ヒドロキシ-メチルフルフラール及び少量のレブリン酸との混合物のいずれかである。プロセスは、典型的なフィード速度8.3mmol/分で始められ、これが60分間続けられる(総フィード500mmol)。リーン空気(8%酸素)の流量は、10ノルマルL/分の典型的な流量で始められる。反応は、典型的には3分以内に始まり、出口における酸素の急激な減少、並びにCO及びCO2の増加によって認識される。反応中は熱が発生し、蒸気流がオーバーヘッドで取り込まれ、凝縮される。この蒸気流は、主に酢酸及び水を含む。オーバーヘッドで捕捉された溶媒の量は継続的に監視され、酸化反応器において、反応器への新鮮な溶媒流によって埋め合わせられる。
【0085】
典型的な運転圧力は、160℃で12から14barg、175℃で17.5bargである。
【0086】
所望のフィード期間の終了後、被酸化性化合物のフィードを停止し、酸化反応の内容物を室温まで(又は所望の濾過温度まで)「急冷」するか、又は上に示したのと同じ反応温度及び酸素流量で、期間を延長して後酸化に供する。
【0087】
(実施例A)
Co/Mn比
実施例Aの実験ではMMFのフィードを使用し、フィードは160℃で1時間続け、15分間の後酸化を行った。ケーキを濾過によって単離し、推定される乾燥ケーキ質量1部当たり1部の溶媒(95部の酢酸対5部の水、質量比)で洗浄した。結果をtable 1(表1)に示す。
【0088】
【0089】
Table 1(表1)により、本プロセスでは、異なる触媒系を使用できることが示される。マンガンに対するコバルトの比率が高いと、ケーキに金属が混入するという系の全体的傾向が低減されるようである。
【0090】
(実施例B)
触媒に対するケーキ中の金属比率
実施例Bの実験ではMMFのフィードを使用し、160℃で1時間続け、15分間の後酸化を行った。すべての実験において、触媒は、3300ppmの Co、185ppmのMn、及びHBr水溶液由来の7000ppmのBrであった。各ランの後、反応スラリーを80℃まで冷却し、濾過した。酢酸/水(質量比95/5)による最小限の洗浄で、ケーキから残留する母液を取り除いた。合わさった母液と洗浄液を分析し、コバルト、マンガン、イオン性臭素、及び水(5%)について補正した。この材料はその後、リサイクル運転をシミュレーションするために、次のランのための予備充填として使用した。結果として、その後の実験は、酸化反応器中の制御酸の量が増加した状態で行われた。いずれの場合も、コバルトの回収率は90~95%で、高いリサイクル率が実現できた。いずれの場合も、リサイクルには、触媒を所望のレベルにするための調整を行った後、前回のランからの母液を予備充填として使用した。
【0091】
合計で8回のランを行い、合計で7回のリサイクルを行った。Table 2(表2)には、ケーキの品質及び母液の組成が示されている。収率は、ケーキ中に回収されたFDCA及びFDCAのモノエステルの総合収率である。結果が、table 2(表2)に要約されている。
【0092】
【0093】
この結果から、ランB1、すなわち新鮮なフィードによるラン(リサイクル無し)の場合、ケーキのMn/Co比を触媒における同じ比率で割った値が非常に高く、ケーキへのMnの沈殿が過剰であったこと(ピンク色のケーキと関連することが多い)が示される。更に、比較的多量のCo及びMnが、ケーキにおいて検出された。残りのランはすべて、リサイクルによって、FDCA-Me及び制御酸(ブロモ酢酸、ジブロモ酢酸、アセトキシ酢酸、5-ブロモ-2-フロ酸、及びフマル酸)をいくらか含んでいるが、収率は一定で、コバルトよりも過剰なマンガンの沈殿は見られなかった。
【0094】
FDCA-Meは、リサイクルのたびに一貫して蓄積されることが分かった。各場合において母液のみが使用され、ある時点での酸の蓄積は、新たな生成と除去との間で達成される定常状態によって支配されるため、この実験の設定では、制御酸の更なる大幅な増加はできなかった。実験B2からB4では、FDCA-Meと制御酸の両方の濃度が最初に上昇するにつれて、ケーキ中の金属量が、非常に望ましい値にまで減少することが見てとれる。更に、ケーキにおけるMn/Coの、触媒フィードにおけるMn/Coに対する比は、一貫して1付近であり、過剰な金属(Mn)がケーキに混入していないことを示している。しかしながら、制御酸の量がプラトー状態になる一方で、FDCA-Meの蓄積は続き、金属混入に対するその有害な影響が、明らかに系を支配し始める。FDCA-Meのレベルが非常に高くなった場合、濾過の困難さが増すことが確認された。この場合、金属は触媒フィードと同じ比率に留まるが、比較的高い値になっており、良好な洗浄及び対応する母液の除去の達成に問題があることが示される。
【0095】
(実施例C)
異なるフィード
実施例Cの実験は、実施例Bと同様に行ったが、5-HMF(6.4質量%)、MMF(86.4質量%)、及び少量のレブリネート(2.3質量%)の混合物と、微量の他の化合物を含むフィードを使用している。リサイクル率は、C2からC4の各ランにおいて、90+%であった。結果が、table 3(表3)に要約されている。
【0096】
【0097】
実施例Bと同様に、1回目のラン、すなわち強酸性成分を添加せずに行ったランでは、ケーキ中のマンガンレベルは高くなった。酸化反応器中の制御酸を含めたランC2からC4では、収率は良好であり、ケーキ中の金属の総量も少なかった。これらの実験は、異なるフィード組成物について、本発明のプロセスを例示するものである。とりわけ、5-HMF及びMMFの混合物が、良好な結果をもたらした。
【0098】
(実施例D)
温度
実施例Dの実験は、実験Cと同じフィードを使用して行ったが、温度は175℃であった(ただし、最初の2回のランは160℃であった)。リサイクル率は、基準としたコバルトに基づき、母液の80%に設定した。1時間の後酸化を、同じく175℃で行った。より高い温度と溶媒蒸気圧に適応するため、圧力を17.5bargまで上昇させた。最初の2回のランは、高温実験用の「母液」組成を構築するために、160℃で行った。結果が、Table 4(表4)に要約されている。
【0099】
【0100】
実施例B及びCと同様に、制御酸を添加しない最初のランでは、ケーキ中のマンガンが非常に高いレベルとなった。またここでも、酸化反応器内の制御酸の量を増やした最初のラン(依然として160℃)では、制御酸の量が比較的少なくても、ケーキ中の金属含有量は優れたものとなっている。175℃での最初のランである3回目のランでは、ケーキ中のマンガンのレベルがやや上昇しているが、これは、上昇した温度において確立される母液組成に関する、プロセスの新しい定常状態に起因する可能性がある。換言すれば、D3は、制御酸を伴わずに実施した場合、ケーキ中の金属がより一層多く現れるであろうことが推測される。実際、制御酸を添加せずに直接170℃でのランを試みた場合、プロセスは死ぬと予想される。最初の2回のランは、生きた系を構築するために、160℃で行った。後続のランではすべて、所望の低いレベルの金属がケーキにおいて示され、最後のランですら、優れた収率及びケーキにおいて驚くべき少量の金属がもたらされる。後酸化を行わず、160℃でフルリサイクルした場合と比較して、後酸化を行い、80%のリサイクル率で175℃で運転した場合、モノエステルの含有量がより低いレベルで平準化されることが見てとれる。他の実験と合わせると、このことは、モノエステルの含有量を管理すれば、数回のランにわたって優れた結果が得られることを示している。更に、制御酸の有益な効果が、実施例Dによって再び確認された。
【0101】
(実施例E)
臭素含有量の影響
実施例Eの実験は、上記と同じ設定を使用して実行した。使用したフィードは、精製された5-メトキシメチルフルフラール(MMF)であり、合計500mmolのMMFを使用し、合計1時間かけて定常速度でフィードした。反応温度は160℃であり、圧力は12bargであった。後酸化は行われなかった。反応器の「予備充填」は310グラムであり、下に記すような、触媒及び添加したFDCAのアルキルモノエステル(FDCA-Me)を用いた。報告された合計収率は、MMFフィードに対するモル基準で、最初のFDCA-Meを差し引いた後のFDCAとFDCA-Meとの合計である。正確な測定の他に、ケーキの色を、ケーキ中のマンガンの濃度の定性的指標(白からピンクまでの尺度)、及び望ましくない副生成物及び色体の濃度(白から黄色、茶色までの尺度)の定性的指標として使用した。これらの定性分析は迅速であり、微量の不純物でもケーキが顕著に着色するため、ケーキの品質についてかなり信頼性の高い印象を提供する。結果が、table 5(表5)に要約されている。
【0102】
【0103】
E1とE2、又はE6とE7~E9を比較すると、FDCA-Meは、ケーキ中でマンガンが濃縮する問題を低減しているようである。これは、絶対値の低下と、Mn/Coケーキ/触媒比が、FDCA-Me無添加では1を大幅に超える数であるが、FDCA-Meが添加されると1付近かそれを下回る数に低下することとの両方によって裏付けられる。しかしながら、E1~E4は、過剰なFDCA-Meがプロセスに悪影響を及ぼすことを示しており、褐色の生成物がもたらされるE4のプロセスは、失敗とみなすことができる。この例はまた、Mn/Coケーキ/触媒比が1付近であるにもかかわらず、両金属のレベルが上昇していることによって示されるように、FDCA-Meが過剰に存在すると、ケーキの良好な洗浄がより困難になることも示唆している。E5とE6を比較すると、臭化水素酸として追加のBrを添加することで、ケーキ中のマンガンの量が大幅に低減されることが証明される。更に、反応が突然死んでしまい、(予定されていた500mmolのうち)わずか362mmolのフィードでE5は早々に死んでしまったが、E6は問題なく実行された。これらの結果から、HBrが、本発明の意味において、制御酸として機能できると推論される。実際、E6からE9において用いた触媒系は、5-アルコキシメチルフルフラールの酸化にとって最適化された触媒系であることが見てとれる。E3では、6質量%のFDCA-Meで黄褐色のケーキがもたらされるが、E7からE9のケーキの色は、褐色レベルに達していない。それどころか、E9では「白い」ケーキすら得ることができる。最後に、E1と比較したE6における収率、又はE3と比較したE7~E9における収率も、大幅に増加している。
【0104】
(実施例F)
制御酸
実施例Fの実験は、上記と同じ設定を使用して実行した。使用したフィードは、精製された5-メトキシメチルフルフラール(MMF)であり、合計500mmolのMMFを使用し、合計1時間かけて定常速度でフィードした。反応温度は160℃であり、圧力は12bargであった。後酸化は行われなかった。反応器の「予備充填」は310グラムであり、下に記すような、触媒及び添加した成分を用いた。報告された合計収率は、MMFフィードに対するモル基準で、あらゆる最初のFDCA-MEを差し引いた後のFDCAとFDCA-MEとの合計である。すべての場合において、触媒は、3300ppmのコバルト、185ppmのマンガン、及び7000ppmの臭素であった。結果が、table 6(表6)に要約されており、ピンク色のケーキが、実験F4及びF7において観察された。
【0105】
【0106】
実験において添加されたすべての酸が、Mn/Coケーキ/触媒比によって裏付けられるように、沈殿金属が少なく、マンガンの濃縮も伴わない、所望される白色のケーキをもたらしたわけではなかった。基準事例(制御酸無添加)は、先に確認したロバストな触媒系を使用しており、比較的白いケーキが得られたものの、依然としてケーキ中に不要なマンガンの濃縮が見られた。ギ酸及び2-カルボキシ-5-(ホルミル)フラン(FFCA)を添加しても、所望される白色のケーキや、所望されるMn/Coケーキ/触媒の低い値は得られなかった。この触媒設定で、制御酸が添加されなくても一部の場合には白色のケーキが得られていることを考慮すると、それぞれの酸は有害な影響を与える可能性すらあると結論付けられた。表中の他の酸はそれぞれ、Mn/Coケーキ/触媒比の低減に好影響を与えており、ケーキ中のマンガンが過剰となる問題を低減するのに好適であることが裏付けられた。ほとんどの場合、全体的な金属含有量も良好であり、ケーキの洗浄性も良好であることが示された。すべての実験的証拠を考慮すると、好適な制御酸は、臭化水素酸、及び2から5個の炭素原子を有し、pKaが3.2未満であるモノ-又はジカルボン酸からなる群から選択されると推論された。
【0107】
(実施例G)
ブロモ酢酸のHBrの添加
実施例Gの実験は、上記と同じ設定を使用して実行した。フィードは、5-HMF(6.4質量%)、MMF(86.4質量%)、及び少量のレブリネート(2.3質量%)の混合物と、微量の他の化合物であった。いずれの場合も、反応器は、310グラムの、質量比95/5の酢酸/水と、記載したような触媒組成物とで「予備充填」した。反応温度は170℃であった。すべての場合において、触媒は3300/185/7000質量ppmのCo/Mn/Brであり、臭素はHBrの水溶液を使用して供給した。160℃では順調に流れ、合計500mmolのフィードを1時間通して可能にした触媒組成物が、170℃の温度及び17~18bargの圧力では1時間を通して流れなくなることが観察された。ラン途中のある時点で、反応が突然停止したことが観察された。これは、出口ガス流の酸素含有量が急激に増加し、CO2やCOの生成が低減することによって裏付けられる。
【0108】
【0109】
実験G1(酸無添加)では、収率とケーキの色について意味のある分析をすることができないまま、プロセスは死んだ。実験G4(FDCA無添加)では、プロセスを開始することができなかった。G2では、前回のランからの母液が添加され、これによって酸化反応器中のFDCA-Me及び制御酸の量が増加した(比較的少量)。G2は、ケーキへのマンガンの混入は顕著であったが、許容できる収率を伴う、生きているプロセスが実現された。実験G3(ブロモ酢酸の添加)及び実験G5(HBrの添加)においては、生きているプロセスにより、望ましい白色のケーキがもたらされ、マンガン量が少ないことが示された。
【0110】
(実施例H)
HBrの添加
この例は、単一の連続撹拌槽酸化反応器(CSTR)を使用して実行した。コバルト及びマンガンのレベルは終始一定に保ち、添加したHBrの系に対する影響を観察するために、HBrのレベルが異なるフィードを処理した。
【0111】
反応器には、溶媒の蒸発による熱の除去を可能にしながら、還流を反応器に送り返すために、還流凝縮器及びポンプが取り付けられている。反応器は、およそ100グラムの、酢酸中の特定の触媒パッケージで予備充填した。反応器は、窒素の圧力下で160℃に加熱した。温度到達後、ガスを、8%の酸素を含む、空気及び窒素の混合物に切り替え、流量を3.3Nl/分とした。酢酸中20質量%の「RMF」(前回使用したような、5-HMF、MMF、及びレブン酸の混合物)のフィードと、所望のコバルト及びマンガン(それぞれ、3000ppm及び300ppm)。フィードには合計でおよそ1質量%の水が含まれており、これにより、反応器内の定常濃度は、酸化中に形成される水に起因して約6%に確立される。反応器の底部にあるバルブを約30秒毎に開き、少量の材料を取り除いてレベルを一定に保ち、「CSTR」条件を確立する。温度は160℃に維持し、圧力は13barg、滞留時間は60分とした。少なくとも3時間のオンストリーム時間後、反応器は定常状態にあるとみなされ、サンプリングを始めた。各ランの終了後、フィードを遮断し、後酸化を実施した。後酸化の後、反応器を冷却し、内容物を濾過し、酢酸/水で洗浄し、分析前に乾燥した。ケーキの金属含有量を下表に示す。
【0112】
【0113】
ランH1及びH2は両方とも、ケーキ中の金属のレベルが全体的に高く、またMn/Coケーキ/触媒の比率も高い値を示している。残りのランはすべて、全体的に金属の混入が少なく、HBrの増加とともに少なくなり、Mn/Coケーキ/触媒の比率はすべて1付近であり、非常に良好であることを示している。
【国際調査報告】