(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(54)【発明の名称】シュタルガルト病の処置におけるヌクレオチド脱アミノ化のためのアンチセンスオリゴヌクレオチド
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20230215BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230215BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20230215BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230215BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20230215BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20230215BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
C12N5/10 ZNA
C12Q1/68 100Z
C12Q1/6869 Z
A61P27/02
A61K31/7105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538359
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(85)【翻訳文提出日】2022-08-19
(86)【国際出願番号】 EP2020087767
(87)【国際公開番号】W WO2021130313
(87)【国際公開日】2021-07-01
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517299054
【氏名又は名称】プロキューアール セラピューティクス ツー ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(72)【発明者】
【氏名】スウィルデンス,ジム
(72)【発明者】
【氏名】ファン シント フィート,レンカ
(72)【発明者】
【氏名】ホーゲブーム,テス
(72)【発明者】
【氏名】ハースト,サスキア ヤコバ ペトロネラ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C086
【Fターム(参考)】
4B063QA13
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QQ52
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4C086AA01
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4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA58
4C086NA14
4C086ZA33
(57)【要約】
本発明は、真核生物細胞における標的RNA分子中の標的ヌクレオチド(アデノシン)の特異的編集をもたらすことができるRNA編集オリゴヌクレオチド(EON)に関し、ここで、前記オリゴヌクレオチドは、シュタルガルト病の処置に使用するため、より好ましくは、ABCA4のpre-mRNAまたはABCA4 mRNA中に存在する標的アデノシンの脱アミノ化のためのものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的RNA分子と二本鎖複合体を形成することができるRNA編集オリゴヌクレオチド(EON)であって、前記EONは、前記標的RNA分子と複合体を形成すると、「RNA作用性アデノシンデアミナーゼ」(ADAR)酵素をリクルートし、前記ADARと複合体を形成することができ、それにより、前記ADAR酵素による前記標的RNA分子中の標的アデノシンの脱アミノ化を可能とし、ここで、前記EONは分子内ループ構造を形成せず、前記標的RNA分子はヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはそれらの一部である、EON。
【請求項2】
前記EONが3つの連続するヌクレオチドのセントラルトリプレットを含み、前記標的アデノシンの真向かいのヌクレオチドがセントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、シチジンである、請求項1に記載のEON。
【請求項3】
前記ADAR酵素がADAR2である、請求項1または2に記載のEON。
【請求項4】
前記セントラルトリプレット中の1、2または3個のヌクレオチドが修飾を含むものであり、但し、前記中央のヌクレオチドは2’-O-メチル(2’-OMe)修飾または2’-メトキシエトキシ(2’-MOE)修飾を糖部分に有さないことを条件とする、請求項1~3のいずれか一項に記載のEON。
【請求項5】
前記修飾が、デオキシリボース(DNA)、アンロックド核酸(UNA)および2’-フルオロリボースからなる群から選択される、請求項4に記載のEON。
【請求項6】
前記EONが、ホスホロチオエート、キラルに純粋なホスホロチオエート、Rpホスホロチオエート、Spホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホノアセテート、トホスホノアセテート、ホスホナセタミド、チオホスホナセタミド、ホスホロチオエートプロドラッグ、S-アルキル化ホスホロチオエート、H-ホスホネート、メチルホスホネート、メチルホスホノチオエート、メチルホスフェート、メチルホスホロチオエート、エチルホスフェート、エチルホスホロチオエート、ボラノホスフェート、ボラノホスホロチオエート、メチルボラノホスフェート、メチルボラノホスホロチオエート、メチルボラノホスホネート、メチルボラノホスホノチオエート、ホスホリルグアニジン、メチルスルホニルホスホロアミデート、ホスホロアミダイト、ホスホナミダイト、N3’→P5’ホスホルアミデート、N3’→P5’チオホスホルアミデート、ホスホロジアミデート、ホスホロチオジアミデート、スルファメート、ジメチレンスルホキシド、スルホネート、トリアゾール、オキサリル、カルバメート、メチレンイミノ、チオアセトアミド、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの天然に存在しないヌクレオシド間連結修飾を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のEON。
【請求項7】
前記EONの5’および3’末端の2、3、4、5または6個の末端ヌクレオチドがホスホロチオエート連結で連結されており、好ましくは5’および3’末端の5個の末端ヌクレオチドがホスホロチオエート連結で連結されている、請求項6に記載のEON。
【請求項8】
前記セントラルトリプレットの外側のEON中の1つまたは複数のヌクレオチドが、-OH;-F;1個または複数のヘテロ原子が介在している場合がある、置換または非置換、直鎖または分枝の低級(C1~C10)アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、アリル、またはアラルキル;O-、S-、もしくはN-アルキル;O-、S-、もしくはN-アルケニル;O-、S-、もしくはN-アルキニル;O-、S-、もしくはN-アリル;O-アルキル-O-アルキル;-メトキシ;-アミノプロポキシ;-メトキシエトキシ;-ジメチルアミノオキシエトキシ;および-ジメチルアミノエトキシエトキシからなる群から選択される一置換または二置換を、糖の2’、3’および/または5’位に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載のEON。
【請求項9】
前記標的アデノシンが、ヒトABCA4のpre-mRNAまたはmRNA中の未成熟停止コドンの一部である、請求項1~8のいずれか一項に記載のEON。
【請求項10】
前記標的アデノシンが、表1に提供されるG>A突然変異のいずれか1つであり、好ましくはヒトABCA4遺伝子のエクソン42におけるc.5882G>A突然変異である、請求項1~8のいずれか一項に記載のEON。
【請求項11】
前記EONが、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、および11、好ましくは配列番号8および9からなる群から選択される配列、より好ましくは配列番号9の配列を含むか、または前記配列からなる、請求項1~10のいずれか一項に記載のEON。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載のEON、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項13】
ヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはそれらの一部における標的アデノシンの脱アミノ化に使用するための、2つの一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)のセットを含む組成物であって、一方のAONは、請求項1から11のいずれか一項に記載のEONであり、他方のAONは「ヘルパーAON」であり、前記ヘルパーAONは、前記EONに相補的なヌクレオチドのストレッチとは別のヒトABCA4のpre-mRNAまたはmRNAにおけるヌクレオチドのストレッチに相補的であり、前記ヘルパーAONは16~22ヌクレオチドの長さを有し、前記EONは16~22ヌクレオチドの長さを有する、組成物。
【請求項14】
前記EONが配列番号9の配列を含むかまたはそれからなり、前記ヘルパーAONが配列番号10に記載の配列を含むかまたはそれからなる、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
シュタルガルト病の処置に使用するための、請求項1~11のいずれか一項に記載のオリゴヌクレオチド、または請求項12~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
細胞中の標的RNA分子に存在する少なくとも1個の特定の標的アデノシンの、脱アミノ化方法であって、
前記標的RNA分子はヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはその一部であり、前記方法は、
(i) 請求項1~11のいずれか一項に記載のEONを前記細胞に付与するステップ;
(ii) 前記EONを前記細胞に取り込ませるステップ;
(iii)前記EONを前記標的RNA分子にアニーリングさせるステップ;
(iv) 野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む哺乳動物のADAR酵素に、前記標的RNA分子中の前記標的アデノシンをイノシンに脱アミノ化させるステップ;および
(v) 任意選択で前記標的RNA分子中の前記イノシンの存在を確認するステップ
を含む、方法。
【請求項17】
ステップ(v)は、
a)前記標的RNA分子の配列を決定するステップ;
b)機能的な、伸長した、全長のおよび/または野生型のABCA4タンパク質の存在を評価するステップ;
c)前記pre-mRNAのスプライシングが前記脱アミノ化によって調節されたかどうかを評価するステップ;または
d)機能的読出しを使用するステップであって、前記脱アミノ化後の前記標的RNAは、機能的な、全長の、伸長したおよび/または野生型のABCA4タンパク質をコードする、ステップ
を含む、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学およびバイオテクノロジーの分野に関する。本発明は、シュタルガルト病に罹患している患者のABCA4(pre-)mRNAにおける変更(G>A突然変異など)を部位特異的に標的化することによる、(内在性)ADAR酵素を使用したRNA編集プロセスを通じたヌクレオチドの脱アミノ化に適用できるアンチセンスオリゴヌクレオチドに関する。
【背景技術】
【0002】
シュタルガルト病(STGDまたはSTGD1)は、中心視力の進行性障害を引き起こす最も一般的な遺伝性黄斑ジストロフィーであり、典型的には小児期または若年成人期に発症し、後期成人期における発症の頻度が最も低く、より後期の発症がより良好な予後と一般に関連している。本疾患の有病率は8,000~10,000人に1人であり、光受容細胞特異的ATP結合カセット、サブファミリーA、メンバー4タンパク質(ABCA4、ABCRと呼ばれることもある)をコードする遺伝子における疾患原因突然変異に関連した常染色体劣性遺伝形式を有している。このタンパク質は2273アミノ酸を含み、主に網膜(光受容体細胞および網膜色素上皮(RPE))において発現し、周縁部および錐体外節ディスクに局在している。それは、N-レチニリデン-ホスファチジルエタノールアミンを光受容体ディスクの内腔側から細胞質ゾル側に反転させると考えられている。シュタルガルト病は、RPEにおけるリポフスチン含有物の大量の沈着、有害物質の除去の失敗、および光受容細胞の有意な喪失と密接に関連している。リポフスチンの主成分であるジ-レチノイド-ピリジニウム-エタノールアミンは、ABCA4が欠損しているか機能不全である場合に形成される。実際、ABCA4がシュタルガルト病の根底にある遺伝子であることを確認した複数の報告が発表されており、多数(約1000)の疾患原因バリアントが示されているが、その半分以上が一度しか記載されていない。ABCA4の二対立遺伝子バリアントは、約75%のシュタルガルト病の症例、および常染色体劣性のカムロッドジストロフィー(CRD)の患者の約30%において同定されている。ほとんどの突然変異はミスセンスであり、それにナンセンス突然変異、小さな挿入/欠失、およびRNAスプライシングに影響を与える突然変異が続く。北欧および米国からのシュタルガルト病の症例の異常に高い割合(約30%)が、単一のABCA4バリアントの結果である。イントロン38に存在する3番目に頻度の高いABCA4バリアントc.5461-10T>Cは、ABCA4のmRNAにおけるエクソン39のスキッピング、またはエクソン39+エクソン40のスキッピングにより、重度の形態のシュタルガルト病を引き起こすことが知られている。エクソン39のスキッピングは、124ヌクレオチドのフレームシフト欠失をもたらすのに対し、エクソン39と40のダブルスキッピングは、254ヌクレオチドのフレームシフト欠失をもたらす。西欧諸国では、約7000人のシュタルガルト病患者が、この突然変異に罹患していると推定されている。
【0003】
シュタルガルト病を処置するための3つの主要な介入経路は現在、幹細胞療法、遺伝子置換療法、および様々な薬物アプローチである。遺伝性眼疾患を処置するための比較的新しい治療法の進展は、突然変異遺伝子から転写された前駆体mRNA(pre-mRNA)を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)の使用である。AONは一般に小さなポリヌクレオチド分子(16~25mer)であり、それらの配列が標的pre-mRNA分子の配列と相補的であるために、スプライシングを妨害することができる。想定されるメカニズムは、AONがそれと相補的である標的配列に結合すると、pre-mRNA内の標的化領域がスプライシング因子に干渉し、これが次いで、変更されたスプライシングをもたらすといったものである。治療的には、このような方法論は、2つの方法で使用することができる:a)突然変異が、隠れたスプライシング部位を活性化している遺伝子の正常なスプライシングを再指示する、およびb)mRNAのリーディングフレームが依然としてインタクトのままであり、(部分的または完全に)機能的なタンパク質が生成されるような形で(タンパク質切断性の)突然変異を保有するエクソンをスキップする。どちらの方法も、すでに患者にうまく適用されている。眼疾患に関して、AONはレーバー先天性黒内障またはLCAの治療に有望であることが示されている(国際公開第2012/168435号パンフレット;国際公開第2013/036105号パンフレット;国際公開第2016/034680号パンフレット;国際公開第2016/135334号パンフレット)。さらに、国際公開第2016/005514号パンフレットは、アッシャー症候群II型の治療、予防、または遅延のために、エクソン13、エクソン50およびPE40のスキッピングならびに/またはエクソン12の保持に向けた、USH2Aのpre-mRNAを標的化するためのエクソンスキッピングAONを開示している。国際公開第2015/004133号パンフレットは、シュタルガルト病の治療のためにABCA4のpre-mRNAからのエクソン10のスキッピングを刺激する際のAONの使用を開示している。国際公開第2018/189376号パンフレットは、c.5461-10T>C突然変異によって引き起こされるエクソン39およびエクソン40のスキッピングを阻害するアンチセンスオリゴヌクレオチドを開示している。国際公開第2018/109011号パンフレットは、いくつかのイントロン突然変異のために誤ってmRNAに導入される偽エクソンの包含を防ぐためのAONを開示している。
【0004】
示されているように、スプライス調節、エクソンスキッピングの防止、または偽エクソンの包含の防止による処置を検討する場合、生成するmRNAは、翻訳されたタンパク質が機能するか、または少なくとも部分的に機能し、未成熟に停止されないようにインフレームであるべきである。しかし、スプライス調節では解決できない多くの突然変異がヒトABCA4遺伝子中に存在する。例をあげると、結果として得られる転写産物がフレームから外れる場合、または生成するタンパク質がその機能を実行するために必要な必須部分を欠く場合である。したがって、スプライシングを調節するアンチセンスオリゴヌクレオチドを導入することによってシュタルガルト病を治療することに多大な努力が払われているが、多くのシュタルガルト患者は、ABCA4遺伝子に異なる種類の突然変異を保有しているため、これらの努力の恩恵を受けないことになる。エクソン42におけるc.5882G>A突然変異は、想起される1つであり、これは西欧諸国においてより一般的なABCA4の変異の1つであり、推定有病率は10,000~15,000人である(Lewis et al. Am J Hum Genet 64:422-434, 1999)。この突然変異は、ABCA4タンパク質の1961位のアミノ酸グリシン(G;コドン:GGA)のグルタミン酸(E、コドン:GAA)への置換を導く。このアミノ酸は、輸送のための基質の結合のためのエネルギーを提供するために不可欠なヌクレオチド結合ドメイン2(NBD2)中に位置している。エクソン42は、スキップされた場合にインフレームとなるものであるが、適切に機能するABCA4タンパク質のためには破壊できないNBD2の一部をコードしている。生化学的な評価は、この置換を保有するABCA4タンパク質が低下したATPase活性を有することを示しており(Sun et al. Nature Genetics 26:242-246, 2000)、これはまた、NBD2のわずかな変化でもタンパク質の機能不全を引き起こし得ることのしるしでもある。RNA編集によって標的化され得る他の突然変異は、当業者には理解されるであろうが、エクソンがその周囲のエクソンのフレームから外れているために、スキップすることができないエクソン中に現れる突然変異である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、標的RNA分子と二本鎖複合体を形成することができるRNA編集オリゴヌクレオチド(EON)であって、EONは、標的RNA分子と複合体を形成すると、「RNA作用性アデノシンデアミナーゼ」(ADAR)酵素をリクルートし、ADARと複合体を形成することができ、それにより、ADAR酵素による標的RNA分子中の標的アデノシンの脱アミノ化を可能とし、ここで、EONは分子内ループ構造を形成せず、標的RNA分子はヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはそれらの一部であるEONに関する。一実施形態では、EONは連続する3個のヌクレオチドのセントラルトリプレットを含み、標的アデノシンの真向かいのヌクレオチドがセントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、シチジンである。好ましくは、リクルートされてdsRNA複合体と複合体を形成するADAR酵素はADAR2である。特に好ましい実施形態では、セントラルトリプレット中の1、2または3個のヌクレオチドが修飾を含むが、但し、中央のヌクレオチドは2’-O-メチル(2’-OMe)修飾も2’-メトキシエトキシ(2’-MOE)修飾も糖部分に有さないことを条件とする。さらに、EONは、本明細書で概説されるように、少なくとも1つの天然に存在しないヌクレオシド間連結修飾を含むことが好ましい。好ましい実施形態では、標的アデノシンは、ヒトABCA4のpre-mRNAまたはmRNAにおける未成熟停止コドンの一部;表1に提供されるようなG>A変異のいずれか1つ;または、より好ましくはヒトABCA4遺伝子のエクソン42におけるc.5882G>A変異である。本発明は、好ましい態様において、本発明によるEONであって、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、および11からなる群から選択される配列を含むか、またはそれからなるEONに関する。好ましい実施形態では、EONは配列番号8または9の配列を含むか、またはそれからなる。さらにより好ましい実施形態では、EONは配列番号9の配列を含むか、またはそれからなる。
【0006】
本発明はさらに、本発明によるEON、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物に関する。本発明はまた、ヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはそれらの一部における標的アデノシンの脱アミノ化に使用するための2つの一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)のセットを含む組成物であって、一方のAONは、本発明によるEONであり、他方のAONは「ヘルパーAON」であり、ヘルパーAONは、EONに相補的なヌクレオチドのストレッチとは別の、ヒトABCA4のpre-mRNAまたはmRNAにおけるヌクレオチドのストレッチに相補的であり、ヘルパーAONは16~22ヌクレオチドの長さを有し、EONは16~22ヌクレオチドの長さを有する、組成物に関する。好ましい態様では、本発明による組成物は、ヘルパーAONとして、配列番号10の配列を含むかまたはそれからなるオリゴヌクレオチドを含み、ここで、EONは配列番号9の配列を含むかまたはそれからなるオリゴヌクレオチドである。
【0007】
本発明はまた、シュタルガルト病の処置に使用するための本発明によるEONまたは組成物に関する。本発明はまた、細胞中の標的RNA分子中に存在する少なくとも1個の特定の標的アデノシンの、脱アミノ化方法に関し、ここで、標的RNA分子は、ヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはその一部であり、脱アミノ化される必要がある標的アデノシンは、好ましくは本明細書で概説される標的アデノシンの1つであり、脱アミノ化方法は、以下のステップを含む:本発明によるEONまたは組成物を細胞に付与するステップ;オリゴヌクレオチドを細胞に取り込ませるステップ;オリゴヌクレオチドを標的RNA分子にアニーリングさせるステップ;野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む哺乳動物ADAR酵素に、標的RNA分子中の標的アデノシンをイノシンに脱アミノ化させるステップ;および、任意選択で標的RNA分子内のイノシンの存在を確認するステップ。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1-1】
図1(A)は、本開示の実施例において使用されている「ABCA4-1~ABCA4-20」と呼ばれるEONの相補性を示している(ABCA4-1、2、3、4、および5はそれぞれ配列番号1、2、3、4、および5であり;ABCA4-6~12は配列番号6であり;ABCA4-13~16は配列番号7であり;ABCA4-17~20は配列番号8であり;ここではすべて3’から5’である)。ヒトABCA4標的(pre-)mRNAが上に示されている(5’から3’へ;配列番号12)。標的配列中(エクソン42中)の標的アデノシンAは太字で示されており、下流のイントロン42の5’末端には下線が引かれており、その前にエクソン42の3’末端がある。ABCA4-13~16はエクソン42/イントロン42の境界まで相補的である。
【
図1-2】
図1(B)は、ABCA4-21~29と呼ばれるEONの相補性のセットを示している(ここでは3’から5’へ)。ABCA4-21~27(配列番号9)はそれぞれABCA4-28(配列番号10)と一緒に、分割されたEONのセットを形成するが、ABCA4-29(配列番号11)は複数のミスマッチを持つEONである。標的配列中の標的アデノシンAは太字で示されており、ここでも下流のイントロン42の5’末端に下線が引かれており、その前にエクソン42の3’末端がある。2’-O-Me RNAは小文字で示されている。ホスホロチオエート連結によって互いに接続されている2’-O-Meヌクレオチドはイタリック体で、小文字である。ホスホロチオエート連結によって互いに接続されているDNAヌクレオチドには下線が引かれており、大文字のイタリック体となっている。2’-MOE修飾ヌクレオチドはイタリック体で、大文字である。ホスホロチオエート連結によって互いに接続されている2’-MOE修飾ヌクレオチドは太字で、イタリック体で、大文字である。メチルホスホン酸(MeP)修飾アデノシンは灰色の枠で囲まれており、これはセントラルトリプレットの中央のヌクレオチドから-1の連結位置にある(連結の番号付けについては、国際公開第2020/201406号パンフレットの
図5を参照されたい)。セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドは、標的アデノシンの反対側にある。2’-F修飾アデノシンは太字であり、灰色の枠で囲まれている。ミスマッチは、黒枠で囲まれている。ABCA4-5は、ヘアピン配列を含んでいる(小文字)。
【
図2-1】
図2は、添付の実施例において概説されているように、精製したhADAR2を適用したRNA編集反応において、
図1のABCA4-1~29を使用した生化学的アッセイの結果を示している(ABCA4-5およびABCA4-28を除く)。(A)~(G)は、わかりやすくするために、それぞれ4つの異なるEONの結果を示している。
【
図2-2】
図2は、添付の実施例において概説されているように、精製したhADAR2を適用したRNA編集反応において、
図1のABCA4-1~29を使用した生化学的アッセイの結果を示している(ABCA4-5およびABCA4-28を除く)。(A)~(G)は、わかりやすくするために、それぞれ4つの異なるEONの結果を示している。
【
図3】
図3は、ミディジーン(midigene)とADAR2を過剰発現するプラスミドとを使用したセルベースアッセイにおいて、EON ABCA4-5、6、8、20、21+28、22+28、23+28、24+28、ならびにABCA4-21、22、23、24、および26を別々に使用した、ABCA4標的配列に対するRNA編集のパイロマークシーケンシング結果を示している。WTは、野生型の標的配列を保有するミディジーンによるトランスフェクションを意味するが、「突然変異型」はEONを一切含まない突然変異型ミディジーン単独によるトランスフェクションを意味する。RTは逆転写酵素の陰性対照である。EONのすべてのトランスフェクションは、突然変異型ミディジーンによるトランスフェクションを伴うものであった。
【
図4】
図4は、ミディジーンとADAR2の過剰発現とを用いたセルベースアッセイのddPCRの結果を示している。ddPCRを使用して、エクソン42とイントロン42との境界に近いEONでは非常に低いRNA編集効率が観察されたが、エクソン/イントロンの境界から遠く離れた配列に相補的な短いEONは、有意なレベルのRNA編集を示した。
【
図5】
図5は、エクソンスキップ確認実験の結果を示しており、EONであるABCA4-5~16とABCA-29のトランスフェクションは、エクソン42の一定のレベルのスキッピングをもたらすことを明らかにしており、これは、パイロマークおよびddPCR配列の結果において、(エクソン42/イントロン42境界により近い)これらのEONで観察された低いRNA編集効率を説明するものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の発明者らは、ABCA4内の(pre-)mRNAの欠陥を修正するためのスプライス調節以外の手段を求めてきた。本発明者らは、多くの場合「RNA編集」と呼ばれる別のタイプのRNA修復を使用することを企図した。RNA編集とは、真核細胞が、多くの場合部位特異的かつ正確な方法で、それらのRNA分子の配列を変更させ、それによってゲノムにコードされたRNAのレパートリーを数桁増大させる、天然の方法である。RNA編集酵素は、動物界および植物界全体にわたって真核生物種について記載されており、これらの方法は、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)などの最も単純な生命体からヒトまでの後生動物における細胞ホメオスタシスの管理においてある重要な役割を果たす。RNA編集の例は、それぞれ、アデノシンデアミナーゼおよびシチジンデアミナーゼと呼ばれる酵素によるアデノシン(A)からイノシン(I)への変換、およびシチジン(C)からウリジンへ(U)の変換である。最も広く研究されたRNA編集システムは、認識ドメインおよび触媒ドメインを含む多ドメインタンパク質であるアデノシンデアミナーゼ酵素である。認識ドメインは、特異的な二重鎖RNA(dsRNA)の配列および/または立体構造を認識する一方、触媒ドメインは、核酸塩基の脱アミノ化により、標的RNAにおいて近傍の予め規定されている位置でアデノシンをイノシンに変換する。イノシンは、細胞の翻訳機構によりグアノシンとして読み取られ、このことは、編集されたアデノシンが、mRNAまたはpre-mRNAのコード領域にある場合、タンパク質配列を再コード化することができることを意味する。したがって、アデノシン脱アミノ化によるRNA編集は、G>A突然変異だけでなく、AからGへの変換が機能的なタンパク質の生成を可能とする他の突然変異も修復する完璧な方法である。アデノシンデアミナーゼは、ヒトデアミナーゼhADAR1、hADAR2、およびhADAR3を含めて、RNA上で作用するアデノシンデアミナーゼ(Adenosine Deaminases acting on RNA)(ADAR)と呼ばれる酵素のファミリーの一部である。
【0010】
アデノシンデアミナーゼを適用して標的RNAを編集するためのオリゴヌクレオチドの使用は、当技術分野において知られている。Montiel-Gonzalez et al. (Proc Natl Acad Sci USA 2013, 110(45):18285-18290)によって、boxB RNAヘアピン配列を認識するバクテリオファージラムダNタンパク質に融合された、hADAR2タンパク質のアデノシンデアミナーゼドメインを含む遺伝子操作された融合タンパク質を使用した標的RNAの編集が記載された。治療設定におけるこの方法の欠点は、融合タンパク質の必要性である。これには、主たるハードルであるが、細胞が融合タンパク質を形質導入されていること、または、標的細胞に、発現向けに操作されたアデノシンデアミナーゼ融合タンパク質をコードする核酸構築物をトランスフェクトすることが必要である。Vogel et al. (2014. Angewandte Chemie Int Ed 53:267-271)によって、ベンジルグアノシン置換ガイドRNA、および、SNAP-タグドメインに遺伝子的に融合された(dsRNA結合ドメインを欠く)ADAR1または2のアデノシンデアミナーゼドメインを含む、遺伝子操作された融合タンパク質(操作されたO6-アルキルグアノシン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ)を使用した、eCFPならびに第V因子ライデンをコードするRNAの編集が、開示された。このシステムには、Montiel-Gonzalez et al.(2013)によって記載された操作されたADARと同様の難点がある。Woolf et al. (1995. Proc Natl Acad Sci USA 92:8298-8302)により、比較的長い一本鎖アンチセンスRNAオリゴヌクレオチド(長さ25~52ヌクレオチド)を使用したより単純なアプローチが開示されており、この場合、標的RNAとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドとの二本鎖の特質のために、より長いオリゴヌクレオチド(34-merおよび52mer)が内在性ADARによる標的RNAの編集を促進することができたが、このオリゴヌクレオチドは、細胞抽出物においてまたはマイクロインジェクションによる両生類(アフリカツメガエル(Xenopus))卵母細胞においてのみ機能するように見え、特異性に関する深刻な欠落が問題となった:アンチセンスオリゴヌクレオチドに相補的であった標的RNA鎖中のほぼすべてのアデノシンが編集されたのである。Woolf et al. (1995)は、標的RNA配列中の特定の標的アデノシンの脱アミノ化を達成しなかった。アンチセンスオリゴヌクレオチドの未修飾ヌクレオチドの反対側のほぼすべてのアデノシンが、「無作為編集」とも呼ばれるプロセスを通して編集されていたからである。国際公開第2016/097212号パンフレットでは、RNA編集オリゴヌクレオチドが開示され、これは、標的RNA配列に相補的な配列(「標的化部分(targeting portion)」)によって、およびステム-ループ構造(「リクルートメント部分)の存在によって、特徴付けられる。国際公開第2017/220751号パンフレットでは、単一アデノシンの特異的編集のために、リクルートメント部分がないが、標的領域に相補的であるヌクレオチドの鎖を有するRNA編集オリゴヌクレオチドが開示されており、この場合、オリゴヌクレオチドが特定の化学修飾との組合せで1つまたは複数のミスマッチ、ゆらぎおよび/またはバルジを含む。かかるRNA編集オリゴヌクレオチドにおける特定の化学修飾に関する極めて特定の位置が、国際公開第2018/041973号パンフレット、国際公開第2019/158475号パンフレット、および国際公開第2019/219581号パンフレットにおいてさらに開示された。国際公開第2019/005884号パンフレットは、標的化システムが、アデノシンデアミナーゼ、またはその触媒ドメインに連結された標的化ドメイン(CRISPRエフェクタータンパク質(Cas13など)、および一般に標的配列に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドであるガイド分子を含むCRISPRシステム)を含む、標的アデノシンの脱アミノ化のシステムを開示している。本発明は、「ネイキッド(naked)」(そのまま)のオリゴヌクレオチド、または(ウイルス)ベクター)から発現されるオリゴヌクレオチドに関するが、いずれの様式でも、CRISPRシステムのもののようなエフェクタータンパク質と複合体を形成するためのループ構造を生成する標的化ドメインは含まない。エフェクタータンパク質をリクルートまたは連結する分子内ループ構造を有する国際公開第2016/097212号パンフレットおよび国際公開第2019/005884号パンフレットに開示されるRNA編集オリゴヌクレオチドが第1世代RNA編集オリゴヌクレオチドとみなされ得る場合、本発明は、そのような分子内ループ構造を含まないRNA編集オリゴヌクレオチドに関し、したがって、第2世代のRNA編集オリゴヌクレオチドとみなされ得る。国際公開第2019/005884号パンフレットは、網膜および内耳の変性疾患であるアッシャー症候群II型を引き起こすUSH2A遺伝子中のG>A突然変異の標的化に使用するためのRNA編集オリゴヌクレオチドを開示している。国際公開第2019/005884号パンフレットは、ループ構造を形成し、(突然変異型)ADAR酵素とも複合体を形成するRNA編集オリゴヌクレオチドを開示している。本発明は、ループ構造を形成する配列を含まず、ADAR酵素または突然変異型ADAR酵素と(共有結合または非共有結合で)複合体を形成せず、むしろ標的細胞中にすでに存在するADARなどの内在性デアミナーゼ酵素を利用するRNA編集オリゴヌクレオチドに関する。本発明のRNA編集オリゴヌクレオチドは、細胞または組織への投与後に、細胞内でそのような酵素をリクルートするが、添付の実施例に示されているように、生化学的アッセイにおいてもADAR酵素をリクルートすることができる。好ましい実施形態では、デアミナーゼはADAR酵素、より好ましくはADAR2であり、これは、標的細胞内に内在性レベルですでに存在し、発現ベクターまたはその他を介するなどして同時投与される必要がない。
【0011】
RNA編集の先行技術のほとんどは、あらゆるタイプの疾患または遺伝的障害に対するそういった現象の一般的な適用性に関するものであり、この場合、特定の標的アデノシンをイノシンに編集して、翻訳を回復すること(アデノシンが停止コドンの一部であった場合)、および/またはアデノシンが、タンパク質を変化させるとともに遺伝的疾患を引き起こすコドンの一部であった場合に、RNAを修復することが必要である。先行技術の文書では、遺伝子変異が障害の原因であるシュタルガルト病などの眼疾患におけるRNA編集オリゴヌクレオチドの適用について、またはこれを具体的にいかに行うべきかについて、具体的に明らかにされていなかった。対照的に、タンパク質発現のダウンレギュレーションにおけるアンチセンスオリゴヌクレオチドの有用性を明らかにする、または、スプライシングに影響を与える、多くの先行技術が蓄積されてきた(例えば、国際公開第2012/168435号パンフレット、国際公開第2013/036105号パンフレット、国際公開第2016/005514号パンフレット、国際公開第2016/034680号パンフレット、国際公開第2016/138353号パンフレット、国際公開第2016/135334号パンフレット、国際公開第2017/060317号パンフレット、国際公開第2017/186739号パンフレット、国際公開第2018/055134号パンフレット、国際公開第2015/004133号パンフレット、国際公開第2018/189376号パンフレット、国際公開第2018/109011号パンフレット、および米国特許第9,353,371号明細書、を参照されたい)。本発明の発明者らの知る限りでは、眼の欠陥を引き起こす遺伝子中の特定のアデノシンを脱アミノ化する目的でのRNA編集オリゴヌクレオチドの使用、およびそのようなRNA編集オリゴヌクレオチドを眼障害、特にシュタルガルト病の処置に適用することは、公表されていない。
【0012】
本発明は、RNA編集オリゴヌクレオチド(本明細書では全体として「EON」と略される)および眼疾患、特にシュタルガルト病の処置における、それらの使用に関する。本発明のEONは、ABCA4のpre-mRNAまたはmRNA中の特定のアデノシンを標的とし、これらをイノシンに脱アミノ化し、翻訳においてグアノシンとして読み取る。アデノシン(A)自体が必ずしもシュタルガルト病を引き起こす突然変異である必要はないが、例をあげると、疾患の原因である未成熟終止コドンの一部であり得ること(例をあげると、より短いABCA4タンパク質産物が生成されるので)、また、例をあげると、グアノシン(G)またはチミジン(T)が真の突然変異であること、に留意されたい。アデノシンをイノシンに脱アミノ化することによって、野生型タンパク質、または停止コドンの代わりにアミノ酸が変更された(および野生型mRNAの元のコドンに関して変更された)タンパク質がもたらされる場合があるが、継続的な翻訳が可能になるはずである。
【0013】
本発明は、標的RNA分子と二本鎖複合体を形成することができるEONであって、EONは、標的RNA分子と複合体を形成すると、「RNA作用性アデノシンデアミナーゼ」(ADAR)酵素をリクルートし、ADARと複合体を形成することができ、それにより、ADAR酵素による標的RNA分子中の標的アデノシンの脱アミノ化を可能とし、ここで、EONは分子内ループ構造を形成せず、標的RNA分子はヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはそれらの一部であるEONに関する。EONが細胞、組織または(ヒト)対象に投与されるときには、ADAR、好ましくは、ADAR2はEONと複合体を形成していないことに留意されたい。EONは、そのまま(ネイキッド)、またはウイルスベクターもしくは他の発現ベクターからの発現を介して細胞に送達されることに留意されたい。細胞に入ると、EONはABCA4標的pre-mRNAまたはmRNAを標的化し、その標的とハイブリダイズする。この二本鎖複合体は、そのミスマッチとEONの選択的な修飾および含量とにより、内在性のADAR酵素を引き付ける(またはリクルートする)ことができ、これはその後、セントラルトリプレットの中央のヌクレオチド、好ましくはシチジンの反対側にある標的アデノシンを脱アミ化する。これは、ヒトABCA4のpre-mRNAまたはmRNAのアデノシンの特異的なRNA編集を可能とする。本発明のEONは、「ネイキッド」形態で投与された場合、それが細胞に入る前には、いかなるタンパク質にも結合または(非)共有結合していない。また、それはADAR、またはCRISPR/Casシステムについて当技術分野で見られるような、他のエフェクタータンパク質に結合するための分子内ループ構造も形成しない。本発明のEONは、連続する3個のヌクレオチドのセントラルトリプレットを含み、標的アデノシンの真向かいのヌクレオチドはセントラルトリプレットの中央のヌクレオチドであり、好ましくはシチジンである。好ましくは、dsRNA複合体によって引き寄せられるADAR酵素は、ADAR2である。添付の実施例に示されているように、当業者は、アッセイ内でEONをその標的配列と接触させ、ADAR酵素をリクルートし、ABCA4標的分子中の特定の標的アデノシンのRNA編集をもたらすという意味で、インビボの状況を代表する生化学的アッセイを設定することができる。好ましい実施形態では、セントラルトリプレット中の1、2または3個のヌクレオチドは修飾を含むが、但し、中央のヌクレオチドは2’-O-メチル(2’-OMe)修飾も2’-メトキシエトキシ(2’-MOE)修飾も糖部分に有さないことを条件とする。別の好ましい実施形態では、セントラルトリプレット中のヌクレオチドの修飾は、デオキシリボース(DNA)、アンロック核酸(UNA)および2’-フルオロリボースからなる群から選択される。本明細書でさらに概説されるように、DNAはつまり、RNAの化学的誘導体であるとみなされる。本発明のEON内のほとんどの(しかし、いくつかの実施形態では確かにすべてではない)ヌクレオチドはRNAであり、これは、本明細書でさらに詳述されるように、天然に存在しない置換基で修飾されていてもよい。本発明のEONは好ましくは、ホスホロチオエート、キラルに純粋なホスホロチオエート、Rpホスホロチオエート、Spホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホノアセテート、トホスホノアセテート、ホスホナセタミド、チオホスホナセタミド、ホスホロチオエートプロドラッグ、S-アルキル化ホスホロチオエート、H-ホスホネート、メチルホスホネート、メチルホスホノチオエート、メチルホスフェート、メチルホスホロチオエート、エチルホスフェート、エチルホスホロチオエート、ボラノホスフェート、ボラノホスホロチオエート、メチルボラノホスフェート、メチルボラノホスホロチオエート、メチルボラノホスホネート、メチルボラノホスホノチオエート、ホスホリルグアニジン、メチルスルホニルホスホロアミデート、ホスホロアミダイト、ホスホナミダイト、N3’→P5’ホスホルアミデート、N3’→P5’チオホスホルアミデート、ホスホロジアミデート、ホスホロチオジアミデート、スルファメート、ジメチレンスルホキシド、スルホネート、トリアゾール、オキサリル、カルバメート、メチレンイミノ、チオアセトアミド、およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つの天然に存在しないヌクレオシド間連結修飾を含む。最も好ましいのは、ホスホロチオエート連結の使用であるが、EONが完全にホスホロチオエート化されている必要はない。例をあげると、特定の実施形態では、EONの5’および3’末端の少なくとも2、3、4、5または6個の末端ヌクレオチドがホスホロチオエート連結で連結されており、好ましくは5’および3’末端の5個の末端ヌクレオチドがホスホロチオエート連結で連結されている。セントラルトリプレットにより近いさらなるヌクレオチドもまた、ホスホロチオエートなどの天然に存在しない連結によって接続されていてもよい。好ましい実施形態では、EONは、細胞内のRNaseおよびインビボでの他の環境の状況による分解に対してEONを安定化するように化学的に修飾される。このために、セントラルトリプレットの外側のEON中の1つまたは複数のヌクレオチドは、糖の2’、3’および/または5’位の一置換または二置換を含むものであって、置換が、-OH;-F;1個または複数のヘテロ原子が介在している場合がある、置換または非置換、直鎖または分枝の低級(C1~C10)アルキル、アルケニル、アルキニル、アルカリル、アリル、またはアラルキル;O-、S-、もしくはN-アルキル;O-、S-、もしくはN-アルケニル;O-、S-、もしくはN-アルキニル;O-、S-、もしくはN-アリル;O-アルキル-O-アルキル;-メトキシ;-アミノプロポキシ;-メトキシエトキシ;-ジメチルアミノオキシエトキシ;および-ジメチルアミノエトキシエトキシからなる群から選択されることが好ましい。本発明のEONに導入され得る他の可能な化学修飾、特に糖、塩基およびリンカーの化学修飾については、本明細書でさらに議論される。
【0014】
本発明によって概説されるようなシステムによるRNA編集は、好ましくは、標的分子(ヒトABCA4遺伝子の転写されたpre-mRNAまたはmRNA)中の単一のアデノシンを標的とする。好ましくは、標的アデノシンは、ヒトABCA4のpre-mRNAまたはmRNAの未成熟終止コドンの一部である。別の好ましい実施形態では、標的アデノシンは、表1に提供されるようなG>A突然変異のいずれか1つである。より好ましくは、標的アデノシンは、ヒトABCA4遺伝子のエクソン42におけるc.5882G>A突然変異である。ヒトABCA4遺伝子では、このG>A突然変異の3’側のヌクレオチドもアデノシンである。GGA(野生型;グリシン)からのGAA(突然変異型;グルタミン酸)はGGAまたはGGGへと修復されると、この両方がそのコドンにおいてグリシンをもたらすため、その第2のアデノシンは標的アデノシンと同時に編集されてもよい。
【0015】
本発明は、配列番号12の(pre-)mRNA配列、またはG>A突然変異を含むその一部を標的とするEONにさらに関する。好ましくは、本発明は、配列番号1、2、3、4、5、6、7、8、9、および11からなる群から選択される配列を含むか、またはそれからなるEONに関する。好ましい実施形態では、EONは配列番号8または9の配列を含むか、またはそれからなる。さらにより好ましい実施形態では、EONは配列番号9の配列からなる。別の好ましい実施形態では、本発明によるEONは、国際公開第2020/201406号パンフレットの
図5に開示されるようなヌクレオチドおよび連結番号付けに従って、好ましくは連結位置-1に、少なくとも1つのメチルホスホネート(MePまたはMP)連結を含む。
【0016】
本発明は、本発明によるEON、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物にさらに関する。本発明はまた、ヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはそれらの一部における標的アデノシンの脱アミノ化に使用するための2つの一本鎖アンチセンスオリゴヌクレオチド(AON)のセットを含む組成物であって、一方のAONは、本発明によるEONであり、他方のAONは「ヘルパーAON」であり 、ヘルパーAONは、前記EONに相補的なヌクレオチドのストレッチとは別の、ヒトABCA4のpre-mRNAまたはmRNAにおけるヌクレオチドのストレッチに相補的であり、前記ヘルパーAONは16~22ヌクレオチドの長さを有し、EONは16~22ヌクレオチドの長さを有する、組成物に関する。好ましくは、EONは配列番号9の配列を含むかまたはそれからなり、ヘルパーAONは配列番号10に記載の配列を含むかまたはそれからなる。
【0017】
本発明は、シュタルガルト病の処置に使用するための本発明によるEONにさらに関する。
【0018】
本発明は、シュタルガルト病の処置、改善、予防または進行を遅らせるために使用するための医薬の製造のための本発明によるEONの使用にさらに関する。
【0019】
本発明は、細胞中の標的RNA分子中に存在する少なくとも1個の特定の標的アデノシンの、脱アミノ化方法にさらに関し、ここで、標的RNA分子は、ヒトABCA4のpre-mRNAもしくはmRNA、またはその一部であり、脱アミノ化方法は以下のステップを含む:本発明によるEONを細胞に付与するステップ;EONを細胞に取り込ませるステップ;EONを標的RNA分子にアニーリングさせるステップ;野生型酵素に見られるような天然のdsRNA結合ドメインを含む哺乳動物ADAR酵素に、標的RNA分子中の標的アデノシンをイノシンに脱アミド化させるステップ;および、任意選択で標的RNA分子内のイノシンの存在を確認するステップ。任意選択のステップは、好ましくは(i)標的RNA分子の配列を決定するステップ;(ii)機能的な、伸長した、全長のおよび/もしくは野生型ABCA4タンパク質の存在を評価するステップ;(iii)pre-mRNAのスプライシングが脱アミノ化によって調節されたかどうかを評価するステップ;または(iv)機能的読出しを使用するステップであって、脱アミノ化後の標的RNAは、機能的な、全長の、伸長したおよび/もしくは野生型ABCA4タンパク質をコードするステップ、を含む。
【0020】
本発明は、シュタルガルト病に罹患しているか、または罹患するリスクがある、それを必要とするヒト対象において、シュタルガルト病を処置、改善、予防および/またはその進行を遅らせる方法であって、本発明によるEON、または本発明による医薬組成物をヒト対象に投与するステップを含む方法にさらに関する。好ましい実施形態では、EONは、硝子体内投与によって、好ましくはネイキッドの(および化学的に改変された)EONの直接注射によって、および網膜細胞、好ましくは光受容細胞またはRPEの細胞における突然変異型ABCA4のpre-mRNAまたは突然変異型ABCA4 mRNAの標的化を可能にすることによって、それを必要とするヒト対象に投与されて、編集された(つまり、好ましくはほとんどが野生型の)ABCA4 mRNAの翻訳を可能にすることにより、突然変異型ABCA4タンパク質の疾患を引き起こす作用を軽減する。
【0021】
本発明のEONは、国際公開第2016/097212号パンフレットに記載のリクルートメント部分を含まない。本発明のEONは、分子内ステムループ構造を形成することができる部分を含まない。本発明のEONは、(ADARをリクルートする)ループ構造を形成するものよりも短く、このことによって、本発明のEONが、生産するのにより安価となり、より使いやすくなるとともにより製造しやすくなる。さらに、それらはより長いオリゴヌクレオチドよりも効率的に細胞に侵入する可能性が高く、かつ分解しにくい。国際公開第2017/220751号パンフレットおよび国際公開第2018/041973号パンフレットでは、EONであって、このEONが相補的である標的RNA配列に存在する標的アデノシンを脱アミノ化するために標的RNAに相補的であるが、またリクルートメント部分を欠く一方で細胞中に存在するADAR酵素を利用して標的アデノシンを編集することがなおもできるEONが開示されている。本発明は、そのような知識を利用し、エクソンスキッピングが好ましい治療選択肢ではない、または代替のアプローチが捜し求められていると思われる、シュタルガルト病の突然変異を標的とするという課題を解決することを目的とする。
【0022】
本発明のEONは、1つまたは複数の天然に存在しない糖修飾を有する1個または複数のヌクレオチドを含む。それにより、EONの単一のヌクレオチドは、1つまたは複数のそのような糖修飾を有することができる。EON内では、1個または複数のヌクレオチドがかかる糖修飾を有することができる。編集することが必要なヌクレオチドの反対側の本発明のEON内のヌクレオチドが、2’-O-メチル(2’-OMe)修飾も2’-メトキシエトキシ(2’-MOE)修飾も含有しないことは、本発明の一態様でもある。多くの場合、EON中のこのヌクレオチドの3’および5’に直接隣接するヌクレオチド(「隣接ヌクレオチド」)もまた、かかる化学修飾を欠いているが、隣接ヌクレオチドの両方ともが2’-O-アルキル基(例えば2’-OMe)を含有すべきものではない、ということが必須ではない。「セントラルトリプレット」の一方の隣接ヌクレオチド、両方の隣接ヌクレオチドまたは3個すべてのヌクレオチドは、2’-OHを保有することができる。
【0023】
当業者であれば、RNAオリゴヌクレオチドなどのオリゴヌクレオチドが反復性のモノマーから一般にはなることを知っている。そのようなモノマーは、ほとんどの場合、ヌクレオチドまたはヌクレオチドアナログである。RNA中の天然に存在する最も一般的なヌクレオチドは、アデノシン一リン酸(A)、シチジン一リン酸(C)、グアノシン一リン酸(G)、およびウリジン一リン酸(U)である。これらは、ペントース糖、リボース、リン酸エステルを介して連結している5’連結リン酸基、および1’連結塩基からなる。糖は、塩基とリン酸を接続し、したがってしばしばヌクレオチドの「足場」と呼ばれる。したがって、ペントース糖の修飾は、しばしば「足場修飾」と呼ばれる。重度修飾の場合、元のペントース糖は、その全体が塩基とリン酸塩を同様に接続する別の部分で置き換えられている可能性がある。したがって、ペントース糖が足場であることが多いが、足場は必ずしもペントース糖であるとは限らないことが理解される。
【0024】
核酸塩基と呼ばれることもある塩基は一般に、アデニン、シトシン、グアニン、チミンもしくはウラシル、またはそれらの誘導体である。シトシン、チミン、およびウラシルはピリミジン塩基であり、一般にはそれらの1-窒素を通して足場に連結している。アデニンとグアニンはプリン塩基であり、一般にはそれらの9-窒素を通して足場に連結している。
【0025】
ヌクレオチドは一般に、その5’-リン酸部分が隣接するヌクレオチドモノマーの3’-ヒドロキシル部分と縮合することを通して、隣接するヌクレオチドに接続している。同様に、その3’-ヒドロキシル部分は一般に、隣接するヌクレオチドモノマーの5’-リン酸に接続している。これにより、ホスホジエステル連結を形成する。ホスホジエステルと足場は交互共重合体を形成する。塩基は、この共重合体上に、すなわち足場部分にグラフトされる。この特性のために、オリゴヌクレオチドの連結されたモノマーによって形成される交互共重合体は、しばしばオリゴヌクレオチドの「骨格」と呼ばれる。ホスホジエステル連結は隣接するモノマーをともに接続するので、しばしば「骨格連結」と呼ばれる。リン酸基が修飾され、その結果、代わりにホスホロチオエートなどの類似の部分になっている場合、そのような部分はなおもモノマーの骨格連結と呼ばれることが理解される。これは「骨格連結の修飾」と呼ばれる。一般用語では、オリゴヌクレオチドの骨格は、交互の足場および骨格連結を含む。
【0026】
一実施形態では、本発明のEONの核酸塩基は、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、またはウラシルである。別の実施形態では、核酸塩基は、アデニン、シトシン、グアニン、またはウラシルの修飾形態である。別の実施形態では、修飾された核酸塩基とは、ヒポキサンチン(イノシン中の核酸塩基)、シュードウラシル、シュードシトシン、1-メチルシュードウラシル、オロチン酸、アグマチジン、リシジン、2-チオウラシル、2-チオチミン、5-ハロウラシル、5-ハロメチルウラシル、5-トリフルオロメチルウラシル、5-プロピニルウラシル、5-プロピニルシトシン、5-アミノメチルウラシル、5-ヒドロキシメチルウラシル、5-ホルミルウラシル、5-アミノメチルシトシン、5-ホルミルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、7-デアザグアニン、7-デアザアデニン、7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、8-アザ-7-デアザグアニン、8-アザ-7-デアザアデニン、8-アザ-7-デアザ-2,6-ジアミノプリン、シュードイソシトシン、N4-エチルシトシン、N2-シクロペンチルグアニン、N2-シクロペンチル-2-アミノプリン、N2-プロピル-2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、2-アミノプリン、Gクランプ、スーパーA、スーパーT、スーパーG、アミノ修飾核酸塩基またはそれらの誘導体;ならびに2,6-ジフルオロトルエンのような縮重もしくはユニバーサル塩基または非塩基部位のような非存在(例えば、1-デオキシリボース、1,2-ジデオキシリボース、1-デオキシ-2-O-メチルリボース、アザリボース)である。本明細書で使用される「アデニン」、「グアニン」、「シトシン」、「チミン」、「ウラシル」および「ヒポキサンチン」という用語は、このように核酸塩基を指す。「アデノシン」、「グアノシン」、「シチジン」、「チミジン」、「ウリジン」および「イノシン」という用語は、(デオキシ)リボシル糖に連結した核酸塩基を指す。「ヌクレオシド」という用語は、(デオキシ)リボシル糖に連結した核酸塩基を指す。「ヌクレオチド」という用語は、それぞれの核酸塩基-(デオキシ)リボシル-ホスホリンカー、ならびにそのリボース部分またはそのホスホ基の任意の化学修飾物を指す。したがって、この用語には、ロックドリボシル部分(当技術分野でよく知られている、メチレン基または任意の他の基を含む2’-4’架橋を含む)を含むヌクレオチド、ホスホジエステル、ホスホトリエステル、ホスホロ(ジ)チオエート、メチルホスホネート、ホスホルアミデート等の各リンカーを含むリンカーを含むヌクレオチドが含まれる。アデノシンとアデニン、グアノシンとグアニン、シトシンとシチジン、ウラシルとウリジン、チミンとチミジン、イノシンとヒポキサンチンという用語は、対応する核酸塩基、ヌクレオシドまたはヌクレオチドを指すために互換的に使用されることもある。文脈上他の意味であることが明白な場合を除き、核酸塩基、ヌクレオシドおよびヌクレオチドという用語は互換的に使用されることもある。
【0027】
一実施形態では、本発明のEONは、2’-置換ホスホロチオエートモノマー、好ましくは2’-置換ホスホロチオエートRNAモノマー、2’-置換ホスフェートRNAモノマーを含む、または2’-置換混合ホスフェート/ホスホロチオエートモノマーを含む。DNAは2’置換の点ではRNA誘導体とされることに留意されたい。本発明のEONは、ホスホロチオエートまたはホスフェート骨格連結、またはそれらの混合物を通して接続された、またはそれらによって連結された、少なくとも1つの2’-置換RNAモノマーを含む。2’-置換RNAは、好ましくは、2’-F、2’-H(DNA)、2’-O-メチルまたは2’-O-(2-メトキシエチル)である。2’-O-メチルは多くの場合で「2’-OMe」と略され、2’-O-(2-メトキシエチル)部分は多くの場合で「2’-MOE」と略される。より好ましくは、本発明のEONにおける2’-置換RNAモノマーは2’-OMeモノマーであるが、本明細書でさらに概説されるように、2’-OMe置換を保有しないはずである標的アデノシンの反対側のモノマーを除いく。本態様の好ましい実施形態では、本発明によるEONが提供され、ここで、2’-置換モノマーは、2’-Fモノマー、2’-NH2モノマー、2’-Hモノマー(DNA)、2’-O-置換モノマー、2’-OMeモノマーもしくは2’-MOEモノマーまたはそれらの混合物などの、2’-置換RNAモノマーとすることができる。好ましくは、標的アデノシンの反対側のモノマーは2’-Hモノマー(DNA)であるが、2’-OMeモノマー以外の、標的アデノシンの脱アミノ化を可能にするモノマーとすることもできる。好ましくは、EON内の他の任意の2’-置換モノマーは、2’-OMe RNAモノマーまたは2’-MOE RNAモノマーなどの、2’-置換RNAモノマーであり、これらはまた、組合せでEON内に現れる場合もある。
【0028】
本出願全体を通して、本発明のEON内の2’-OMeモノマーは、2’-OMeホスホロチオエートRNA、2’-OMeホスフェートRNAまたは2’-OMeホスフェート/ホスホロチオエートRNAで置き換えることができる。本出願全体を通して、2’-MOEモノマーは、2’-MOEホスホロチオエートRNA、2’-MOEホスフェートRNA、または2’-MOEホスフェート/ホスホロチオエートRNAで置き換えることができる。本出願全体を通して、ホスホロチオエート、ホスフェートまたは混合ホスフェート/ホスホロチオエートの骨格連結によって連結またはそれを通して接続された2’-OMe RNAモノマーからなるオリゴヌクレオチドは、2’-OMeホスホロチオエートRNA、2’-OMeホスフェートRNAまたは2’-OMeホスフェート/ホスホロチオエートRNAからなるオリゴヌクレオチドで置き換えることができる。本出願全体を通して、ホスホロチオエート、ホスフェートまたは混合ホスフェート/ホスホロチオエートの骨格連結によって連結またはそれを通して接続された2’-MOE RNAモノマーからなるオリゴヌクレオチドは、2’-MOEホスホロチオエートRNA、2’-MOEホスフェートRNAまたは2’-MOEホスフェート/ホスホロチオエートRNAからなるオリゴヌクレオチドで置き換えることができる。
【0029】
本発明の化合物のある特定の位置での特定の好ましい化学修飾に加えて、本発明の化合物は、核酸塩基、足場および/または骨格連結に対する1つまたは複数の(さらなる)修飾を含んでもよくまたはそれらからなってもよいが、それらは、同一モノマー中、例をあげると3’および/または5’の位置に存在しても、存在しなくてもよい。足場修飾は、二環式糖、テトラヒドロピラン、ヘキソース、モルホリノ、2’-修飾糖、4’-修飾糖、5’-修飾糖および4’-置換糖などの、RNAに天然に存在するリボシル部分(すなわちペントース部分)の修飾バージョンの存在を示す。適切な修飾の例には、それらに限定されないが、以下が含まれる:2’-O-アルキルまたは2’-O-(置換)アルキル、例えば、2’-O-メチル、2’-O-(2-シアノエチル)、2’-MOE、2’-O-(2-チオメチル)エチル、2’-O-ブチリル、2’-O-プロパルギル、2’-O-アリル、2’-O-(2-アミノプロピル)、2’-O-(2-(ジメチルアミノ)プロピル)、2’-O-(2-アミノ)エチル、2’-O-(2-(ジメチルアミノ)エチル)などの、2’-O-修飾RNAモノマー;2’-デオキシ(DNA);2’-O-(2-クロロエトキシ)メチル(MCEM)、2’-O-(2,2-ジクロロエトキシ)メチル(DCEM)などの2’-O-(ハロアルキル)メチル;2’-O-[2-(メトキシカルボニル)エチル](MOCE)、2’-O-[2-N-メチルカルバモイル)エチル](MCE)、2’-O-[2-(N、N-ジメチルカルバモイル)エチル](DCME)などの2’-O-アルコキシカルボニル;2’-ハロ、例えば、2’-F、FANA;2’-O-[2-(メチルアミノ)-2-オキソエチル](NMA);二環式もしくは架橋核酸(BNA)足場修飾、例えば、立体構造的に制限されたヌクレオチド(CRN)モノマー、ロックド核酸(LNA)モノマー、キシロ-LNAモノマー、α-LNAモノマー、α-L-LNAモノマー、β-D-LNAモノマー、2’-アミノ-LNAモノマー、2’-(アルキルアミノ)-LNAモノマー、2’-(アシルアミノ)-LNAモノマー、2’-N-置換-2’-アミノ-LNAモノマー、2’-チオ-LNAモノマー、(2’-O,4’-C)制約されたエチル(cEt)BNAモノマー、(2’-O,4’-C)制約されたメトキシエチル(cMOE)BNAモノマー、2’,4’-BNANC(NH)モノマー、2’,4’-BNANC(NMe)モノマー、2’,4’-BNANC(NBn)モノマー、エチレン架橋核酸(ENA)モノマー、カルバ-LNA(cLNA)モノマー、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン核酸(DpNA)モノマー、2’-C-架橋二環式ヌクレオチド(CBBN)モノマー、oxo-CBBNモノマー、複素環式架橋BNAモノマー(例えば、トリアゾリルまたはテトラゾリル連結された)、アミド架橋BNAモノマー(例えばAmNA)、尿素架橋BNAモノマー、スルホンアミド架橋BNAモノマー、二環式炭素環式ヌクレオチドモノマー、TriNAモノマー、α-L-TriNAモノマー、ビシクロDNA(bcDNA)モノマー、F-bcDNAモノマー、トリシクロDNA(tcDNA)モノマー、F-tcDNAモノマー、アルファアノメリックビシクロDNA(abcDNA)モノマー、オキセタンヌクレオチドモノマー、2’-アミノ-LNA由来のロックドPMOモノマー、グアニジン架橋核酸(GuNA)モノマー、スピロシクロプロピレン架橋核酸(scpBNA)モノマーおよびそれらの誘導体;シクロヘキセニル核酸(CeNA)モノマー、アルトリトール核酸(ANA)モノマー、ヘキシトール核酸(HNA)モノマー、フッ素化HNA(F-HNA)モノマー、ピラノシル-RNA(p-RNA)モノマー、3’-デオキシピラノシルDNA(p-DNA)、アンロックド核酸(UNA);上記のモノマーのいずれかの反転バージョン。こういった修飾のすべてが、当業者に知られている。
【0030】
「骨格修飾」とは、上記のようにリボシル部分の修飾バージョンの存在(「足場修飾」)、および/またはRNAに天然に存在するホスホジエステルの修飾バージョンの存在(「骨格連結修飾」)を示す。ヌクレオシド間連結修飾の例は、ホスホロチオエート(PS)、キラルに純粋なホスホロチオエート、Rpホスホロチオエート、Spホスホロチオエート、ホスホロジチオエート(PS2)、ホスホノアセテート(PACE)、トホスホノアセテート、ホスホナセタミド(PACA)、チオホスホナセタミド、ホスホロチオエートプロドラッグ、S-アルキル化ホスホロチオエート、H-ホスホネート、メチルホスホネート、メチルホスホノチオエート、メチルホスフェート、メチルホスホロチオエート、エチルホスフェート、エチルホスホロチオエート、ボラノホスフェート、ボラノホスホロチオエート、メチルボラノホスフェート、メチルボラノホスホロチオエート、メチルボラノホスホネート、メチルボラノホスホノチオエート、ホスホリルグアニジン(PGO)、メチルスルホニルホスホロアミデート、ホスホロアミダイト、ホスホナミダイト、N3’→P5’ホスホルアミデート、N3’→P5’チオホスホルアミデート、ホスホロジアミデート、ホスホロチオジアミデート、スルファメート、ジメチレンスルホキシド、スルホネート、トリアゾール、オキサリル、カルバメート、メチレンイミノ(MMI)、およびチオアセトアミド(TANA);ならびにそれらの誘導体である。
【0031】
本発明の好ましいEONは、5’-端O6-ベンジルグアノシンまたは5’-端アミノ修飾を含まず、SNAPタグドメイン(操作されたO6-アルキルグアノシン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ)に共有結合で連結していない。一実施形態では、本発明のEONは、標的配列との0、1、2もしくは3対のゆらぎ塩基対、および/または標的RNA配列との0、1、2もしくは3個のミスマッチを含み、ここで、単一のミスマッチは、連続する複数のヌクレオチドを含むことができる。同様に、本発明の好ましいEONは、boxB RNAヘアピン配列を含まない。本発明によるEONは、内在性細胞経路および天然に利用可能なADAR酵素を利用して、標的RNA配列中の標的アデノシンを特異的に編集することができる。本発明のEONは、ADARをリクルートし、これと複合体を形成し、次いで、標的RNA配列中の(単一の)特定の標的アデノシンヌクレオチドの脱アミノ化を行うことができる。理想的には、1個のアデノシンだけが脱アミノ化される。あるいは、例をあげると、標的アデノシンが互いに近接している場合、1、2、または3個のアデノシンヌクレオチドが脱アミノ化される。例えば、突然変異が、野生型GGA(グリシン)コドンから突然変異型GAA(グルタミン酸)コドンへの変更である場合、両方のアデノシンを脱アミノ化するとGGGがもたらされることになるが、これもグリシンをコードする。本発明のEONは、ADARに複合体化する場合、好ましくは、単一の標的アデノシンを脱アミノ化する。
【0032】
ADAR酵素の天然標的の解析により示されたところは、天然標的が概して、ADAR1またはADAR2によって編集されたRNAヘリックスを形成する2本の鎖間にミスマッチを含むことである。こういったミスマッチによって編集反応の特異性が高まることが示唆されている(Stefl et al. 2006. Structure 14(2):345-355; Tian et al. 2011. Nucleic Acids Res 39(13):5669-5681)。EONと標的RNAとの間の対合/ミスマッチヌクレオチドの最適パターンの特徴付けもまた、効率的なADARベースのEON療法の開発にとって極めて重要であると思われる。
【0033】
本発明のEONは、予め規定されたスポットでの特定のヌクレオチド修飾を使用して、安定性ならびに適切なADAR結合および活性を確保する。これらの変化は様々であり、上で詳細に詳説したように、ヌクレオチドの糖部分において、ならびに核酸塩基またはホスホジエステル連結において、EONの骨格の修飾を含むことができる。そういった変化はまた、EONの配列全体にわたって様々に分布し得る。ADAR酵素のRNA結合ドメイン内の様々なアミノ酸残基の相互作用、ならびにデアミナーゼドメイン中の様々なアミノ酸残基の相互作用を支援するために、特定の修飾を必要とする場合がある。例えば、ヌクレオチド間のホスホロチオエート連結、または2’-OMe修飾もしくは2’-MOE修飾は、EONの一部の部分では許容され得るが、一方、他の部分では、ホスフェートおよび2’-OH基と酵素との極めて重要な相互作用を乱さないように回避する必要がある。標的配列がADAR編集に最適ではない場合には、基質RNAに対する編集活性を高めるために、特定のヌクレオチド修飾が必要となる場合もある。ある特定の配列構成が編集により適合することが先の研究により確認された。例えば、標的配列5’-UAG-3’(中央に標的Aを有する)はADAR2にとって最も好ましい最近傍ヌクレオチドを含有するが、一方、5’-CAA-3’標的配列は優先されない(Schneider et al. 2014. Nucleic Acids Res 42(10):e87)。ADAR2デアミナーゼドメインの構造解析によって、標的トリヌクレオチドの反対側のヌクレオチドを慎重に選択することで編集が高まる可能性が、示唆された。例えば、(中央に形成されたA-Cミスマッチを有する)対向している鎖上の3’-GCU-5’配列と対になっている5’-CAA-3’標的配列は、グアノシン塩基がADAR2のアミノ酸側鎖と立体的に衝突するので、優先されない。
【0034】
本明細書で使用される「セントラルトリプレット」とは、標的RNA中の標的アデノシンの反対側の3個のヌクレオチドであり、ここで、セントラルトリプレットの中央のヌクレオチドは標的アデノシンの直接反対側である。どちらがある特定の標的にとって好ましくとも、セントラルトリプレットは、EONのより3’末端に位置するだけでなく、より5’末端に位置することもできるので、セントラルトリプレットはEONの中心にある必要はない。したがって、この態様での「セントラル」という用語は、化学修飾および標的アデノシンを標的とすることに関していえば、触媒活性の中心にあるトリプレットの意味をいっそう有する。また、特に標的配列が5’から3’へと示されている場合は、EONが3’から5’へと表示されることもあることに留意されたい(例をあげると、
図1を参照されたい)。しかし、本明細書においてEON内のヌクレオチドの順序について論議する場合は常に、その順序はEONの5’から3’である。その位置は、5’から3’への方向性になおも従いながら、EON内の特定のヌクレオチドに関して表現することもでき、その場合、前記ヌクレオチドの5’での他のヌクレオチドは負の位置としてマークされ、前記ヌクレオチドの3’での他のヌクレオチドは正の位置としてマークされる。
【0035】
本明細書で概説されるように、セントラルトリプレットの外側のヌクレオチドは多くの場合、2’-OMe修飾または2’-MOE修飾である。しかし、これは本発明のEONの厳密な要件ではない。こういった2’置換を使用すると、EONのこれらの部分の適切な安定性が保証されるが、他の修飾を適用してもよい。
【0036】
本発明によるEONは、当技術分野で知られている適切な手段を使用して間接的に投与することができる。例えば、EONは、個体または前記個体の細胞、組織もしくは器官に発現ベクターの形態で提供することができるが、この場合、当該発現ベクターは、前記オリゴヌクレオチドを含む転写物をコードする。発現ベクターは、好ましくは、遺伝子送達ビヒクルを介して細胞、組織、器官または個体に導入される。好ましい実施形態では、本明細書で特定したEONの発現または転写を駆動する発現カセットまたは転写カセットを含むウイルスベースの発現ベクターが提供される。したがって、本発明は、EONの発現を促す条件下に置かれた場合に、本発明によるEONを発現することができるウイルスベクターを提供する(したがって、非天然の化学修飾を有さない)。細胞には、プラスミド駆動型のEON発現、またはアデノウイルスもしくはアデノ随伴ウイルスベースのベクターによって提供されるウイルス性発現することによって、EONを付与することができる。発現は、U7プロモーターなどのポリメラーゼIIプロモーター(Pol II)、またはU6RNAプロモーターなどのポリメラーゼIII(Pol III)プロモーターによって駆動することができる。好ましい送達ビヒクルは、AAV、またはレンチウイルスベクター等などのレトロウイルスベクターである。また、プラスミド、人工染色体、細胞のヒトゲノムにおける標的化相同組換えおよび組込みに使用可能なプラスミドが、本明細書で定義するEONの送達に適切に適用することができる。本発明にとって好ましいのは、転写がPol IIIプロモーターによって駆動され、および/または転写物がU1もしくはU7の転写物との融合物形態である、そういったベクターであり、これによって、小転写物の送達に関して良好な結果がもたらされる。適切な転写物を設計することは、当業者の技能の範囲内である。好ましいのは、Pol III駆動型転写物であり、好ましくは、U1またはU7の転写物との融合転写物の形態であり、これは、当業者に知られている。
【0037】
典型的には、EONは、ウイルスベクターによって送達される場合、転写物の一部中に本発明によるオリゴヌクレオチドの配列を含む、RNA転写物の形態となっている。細胞中で活性である生成するEONは、したがって、自然に発現されるため化学修飾されていないが、「ネイキッド」の形態で製造されるEON(=EONを発現するプラスミドまたはウイルスベクターの使用を伴わない)は、単一または複数の天然に存在しない修飾を含み得る。本発明によるAAVベクターとは、組換えAAVベクターであり、AAV血清型由来のカプシドタンパク質のタンパク質シェルに包まれた本発明によるコード化EONを含むAAVゲノムの一部を含むAAVベクターを指す。AAVゲノムの一部は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9等などのアデノ随伴ウイルス血清型由来の末端逆位配列(ITR)を含有することができる。カプシドタンパク質で構成されるタンパク質シェルは、AAV1、2、3、4、5、6、7、8、9等などのAAV血清型由来のものとすることができる。タンパク質シェルは、カプシドタンパク質シェルと称される場合もある。AAVベクターは、1つまたは好ましくはすべての野生型AAV遺伝子が欠失されていてもよいが、なおも機能的なITR核酸配列を含むことができる。機能的なITR配列は、AAVビリオンの複製、レスキュー、およびパッケージングに必要である。ITR配列は、野生型配列であってもよく、野生型配列と少なくとも80%、85%、90%、95、もしくは100%の配列同一性を有してもよく、依然として機能的である限り、例えば、ヌクレオチドの挿入、突然変異、欠失もしくは置換によって変更されていてもよい。これに関連して、機能性とは、カプシドシェルへのゲノムのパッケージングを誘導し、次いで、感染する宿主細胞または標的細胞における発現を可能にする能力を指す。本発明に関して、カプシドタンパク質シェルは、AAVベクターゲノムITRとは異なる血清型のものであってもよい。したがって、本発明によるAAVベクターは、カプシドタンパク質シェル、すなわち、正二十面体のカプシドで構成されていてもよく、これは、1つのAAV血清型、例えばAAV血清型2のカプシドタンパク質(VP1、VP2、および/またはVP3)を含むが、一方、AAV2ベクターを含有するITR配列は、AAV2ベクターを含めて、上記のAAV血清型のいずれかとすることができる。したがって、「AAV2ベクター」は、AAV血清型2のカプシドタンパク質シェルを含み、一方、例えば、「AAV5ベクター」は、AAV血清型5のカプシドタンパク質シェルを含むが、これによって、どちらも本発明による任意のAAVベクターゲノムITRをカプシドで包むことができる。好ましくは、本発明による組換えAAVベクターは、AAV血清型2、5、8またはAAV血清型9のカプシドタンパク質シェルを含み、ここで、前記AAVベクターに存在するAAVゲノムまたはITRは、AAV血清型2、5、8またはAAV血清型9に由来する;そのようなAAVベクターは、AAV2/2、AAV2/5、AAV2/8、AAV2/9、AAV5/2、AAV5/5、AAV5/8、AAV5/9、AAV8/2、AAV8/5、AAV8/8、AAV8/9、AAV9/2、AAV9/5、AAV9/8、またはAAV9/9ベクターと呼ばれる。
【0038】
より好ましくは、本発明による組換えAAVベクターは、AAV血清型2のカプシドタンパク質シェルを含み、前記ベクターに存在するAAVゲノムまたはITRは、AAV血清型5に由来する;このようなベクターは、AAV2/5ベクターと呼ばれる。より好ましくは、本発明による組換えAAVベクターは、AAV血清型2のカプシドタンパク質シェルを含み、前記ベクターに存在するAAVゲノムまたはITRは、AAV血清型8に由来する;このようなベクターは、AAV2/8ベクターと呼ばれる。より好ましくは、本発明による組換えAAVベクターは、AAV血清型2のカプシドタンパク質シェルを含み、前記ベクターに存在するAAVゲノムまたはITRは、AAV血清型9に由来する;このようなベクターは、AAV2/9ベクターと呼ばれる。より好ましくは、本発明による組換えAAVベクターは、AAV血清型2のカプシドタンパク質シェルを含み、前記ベクターに存在するAAVゲノムまたはITRは、AAV血清型2に由来する;このようなベクターは、AAV2/2ベクターと呼ばれる。選択した核酸配列によって表される本発明によるEONをコードする核酸分子は、上で特定したAAVゲノムまたはITR配列の間に挿入されることが好ましく、例えば、発現構築物は、コード配列に作動可能に連結された発現調節エレメントおよび3’終止配列を含む。「AAVヘルパー機能」とは一般に、トランスでAAVベクターに与えられるAAV複製およびパッケージングに必要とされる対応するAAVの機能を指す。AAVヘルパー機能は、AAVベクターに欠けているAAVの機能を補完するが、(AAVベクターゲノムによってもたらされる)AAV ITRがない。AAVヘルパー機能は、AAVの主要な2つORF、すなわち、repコード領域およびcapコード領域またはそれらの機能上実質的に同一の配列を含む。Rep領域およびCap領域は、当技術分野において周知である。AAVヘルパー機能を、AAVヘルパー構築物上に与えることができ、これは、プラスミドとすることができる。
【0039】
ヘルパー構築物の宿主細胞への導入は、例えば、本明細書で特定したAAVベクターに存在するAAVゲノムの導入の前またはそれと同時のトランスフォーメーション、トランスフェクション、またはトランスダクションによって行うことができる。したがって、本発明のAAVヘルパー構築物については、一方でAAVベクターのカプシドタンパク質シェルに関する血清型と、他方で前記AAVベクター複製およびパッケージングにおいて存在するAAVゲノムに関する血清型との所望の組合せをもたらすように選択することができる。「AAVヘルパーウイルス」によって、AAV複製およびパッケージングに必要とされるさらなる機能がもたらされる。
【0040】
適切なAAVヘルパーウイルスには、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス(例えば、HSV1型および2型)およびワクチニアウイルスが含まれる。米国特許第6,531,456号明細書に記載のように、ヘルパーウイルスによってもたらされるさらなる機能も、ベクターを介して宿主細胞に導入することができる。好ましくは、本発明による組換えAAVベクターに存在するようなAAVゲノムは、AAVのrep(複製)遺伝子またはcap(カプシド)遺伝子などの、ウイルスタンパク質をコードするいかなるヌクレオチド配列も含まない。AAVゲノムは、例えば、抗生物質耐性遺伝子、蛍光タンパク質(例えば、gfp)をコードする遺伝子または当技術分野において知られている化学的に、酵素的にもしくはその他の方法で検知可能なおよび/もしくは選択可能な産物をコードする遺伝子(例えば、lacZ、aph等)などの、マーカー遺伝子あるいはレポーター遺伝子をさらに含むことができる。本発明による好ましいAAVベクターは、AAVベクター、好ましくは、AAV2/5、AAV2/8、AAV2/9またはAAV2/2ベクターであり、本発明によるEONを発現する。
【0041】
「アンチセンスオリゴヌクレオチド」(「AON」)、「RNA編集オリゴヌクレオチド」(「EON」)、「オリゴヌクレオチド」、または「オリゴ」に言及する場合はいつでも、文脈が明瞭に指示しない限り、オリゴリボヌクレオチドとデオキシオリゴリボヌクレオチドの両方を意味する。「オリゴリボヌクレオチド」に言及する場合はいつでも、これには、リボヌクレオシドであるアデノシン(A)、グアノシン(G)、シチジン(C)、5-メチルシチジン(m5C)、ウリジン(U)、5-メチルウリジン(m5U)またはイノシン(I)が含まれ得る。「デオキシオリゴリボヌクレオチド」に言及する場合はいつでも、これには、デオキシリボヌクレオシドであるデオキシアデノシン(A)、デオキシグアノシン(G)、デオキシシチジン(C)、チミン(T)またはデオキシイノシン(I)が含まれ得る。好ましい態様では、本発明のEONのほとんどが、化学修飾を含み得、いくつかの特定の位置で、デオキシリボヌクレオシド(DNA)を含み得るオリゴリボヌクレオチドである。シトシンなどのオリゴヌクレオチド構築物中のヌクレオチドに言及する場合、5-メチルシトシン、5-ヒドロキシメチルシトシン、ピロロシチジン、およびβ-D-グルコシル-5-ヒドロキシ-メチルシトシンが含まれる。アデニンに言及する場合、2-アミノプリン、2,6-ジアミノプリン、3-デアザアデノシン、7-デアザアデノシン、8-アジドアデノシン、8-メチルアデノシン、7-アミノメチル-7-デアザグアノシン、7-デアザグアノシン、N6-メチルアデニンおよび7-メチルアデニンが含まれる。ウラシルに言及する場合、5-メトキシウラシル、5-メチルウラシル、ジヒドロウラシル、シュードウラシル、およびチエノウラシル、ジヒドロウラシル、4-チオウラシルおよび5-ヒドロキシメチルウラシルが含まれる。グアノシンに言及する場合、7-メチルグアノシン、8-アザ-7-デアザグアノシン、チエノグアノシンおよび1-メチルグアノシンが含まれる。ヌクレオシドまたはヌクレオチドに言及する場合、2’-デオキシ、2’-ヒドロキシ、2-フルオロリボースなどのリボフラノース誘導体、および2’-O-メチルなどの2’-O-置換バリアント、ならびに、2’-4’架橋バリアントを含めてその他の修飾が含まれる。
【0042】
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」ならびに「からなる(consisting of)」を包含する、例えば、「Xを含む」組成物は、排他的にXのみからなっていてもよく、さらなる何か、例えばX+Yを含んでもよい。数値xに関して「約」という用語は任意選択であり、例えば、x±10%を意味する。「実質的に」という語は、「完全に」を除外するものではない、例えば、「Yを実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まない場合もある。適切な場合には、「実質的に」という語は、本発明の定義から省略される場合もある。核酸配列に関して「下流に」という用語は、3’方向に配列にさらに沿っていることを意味し;「上流に」という用語はその逆を意味する。したがって、ポリペプチドをコードする任意の配列において、開始コドンはセンス鎖において停止コドンの上流にあるが、アンチセンス鎖において停止コドンの下流にある。「ハイブリダイゼーション」への言及は典型的には、特異的ハイブリダイゼーションを指し、非特異的ハイブリダイゼーションを除外する。特異的ハイブリダイゼーションは、プローブと標的の間での最も安定な相互作用が、プローブと標的が少なくとも70%、好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、少なくとも90%の配列同一性を有している場合を確実にするように、当技術分野においてよく知られている技法を使用して、選択された実験条件下で行うことができる。「ミスマッチ」という用語は、ワトソン-クリック型塩基対合則に従う完全な塩基対を形成していない、二本鎖RNA複合体中の対向しているヌクレオチドを指すために本明細書で使用される。ミスマッチ塩基対とは、G-A、C-A、U-C、A-A、G-G、C-C、U-Uの各塩基対である。一部の実施形態では、本発明のEONは、0、1、2または3個のミスマッチを含み、ここで単一のミスマッチは連続するいくつかのヌクレオチドを含むことができる。一部の実施形態では、本発明のEONは、0、1、2または3対のゆらぎ塩基対を含む。ゆらぎ塩基対は、G-U、I-U、I-A、およびI-Cの各塩基対である。
【0043】
ヌクレオチド間の通常のヌクレオシド間連結を、ホスホジエステル結合のモノ-またはジ-チオエーション(thioation)により変更して、それぞれ、ホスホロチオエートエステルまたはホスホロジチオエートエステルを得ることができる。ヌクレオシド間連結のその他の修飾が、アミド化およびペプチドリンカーを含めて、可能である。好ましい態様では、本発明のEONは、EONの最終端のヌクレオチド間(したがって、好ましくは5’末端と3’末端の両方で)に1、2、3、4またはこれ超のホスホロチオエート連結を有し、このことは、4つのホスホロチオエート連結の場合、これは特に好ましい態様ではあるが、最終の5個のヌクレオチドがそれに応じて連結されていることを意味する。こういった連結の数は、標的配列に応じて、または安定性、毒性および/もしくは効率などの他の側面に基づいて、各末端で様々であり得ることが当業者であれば理解されよう。本発明の一実施形態では、本発明によるEONは、ホスホジエステル連結における非架橋酸素のうちの1つの置換を含む。この修飾は、塩基対合をやや不安定にするが、ヌクレアーゼ分解に対する著明な耐性を付加する。正確な化学的性質およびフォーマットは、オリゴヌクレオチド構築物ごとに、および適用ごとに左右され得、当業者の希望および好みに従って求めることができる。オリゴヌクレオチド中の連続する4個以上のDNAヌクレオチドがいわゆる「ギャップマー」を創り出すが、これらは、そのRNAコグネート配列にアニーリングすると、RNase Hによる標的RNAの切断を誘導すると当技術分野では考えられている。本発明によれば、標的RNAのRNase H切断は一般には、可能な限り回避すべきである。
【0044】
本発明によるEONは通常、10個のヌクレオチドよりも長く、好ましくは11、12、13、14、15、16個よりも多く、さらにより好ましくは17個のヌクレオチドよりも多い。一実施形態では、本発明によるEONは、20個のヌクレオチドよりも長い。本発明によるオリゴヌクレオチドは、100個のヌクレオチドよりも短いのが好ましく、さらにより好ましくは60個のヌクレオチドよりも短く、さらにより好ましくは50個のヌクレオチドよりも短い。好ましい態様では、本発明によるオリゴヌクレオチドは、18~70個のヌクレオチドを含み、より好ましくは18~60個のヌクレオチドを含み、さらにより好ましくは18~50個のヌクレオチドを含む。したがって、特に好ましい態様では、本発明のオリゴヌクレオチドは、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49または50個のヌクレオチドを含む。好ましい別の態様では、本発明によるEONのいずれかの末端または両末端に、反転したデオキシTまたはジデオキシTのヌクレオチドを組み込むことができる。
【0045】
RNA編集実体(例えば、ヒトADAR酵素)が、いくつかの要因に応じて、様々な特異性を有するdsRNA構造を編集することが、当技術分野において知られている。重要な一要因は、dsRNA配列を構成する二本鎖の相補性の程度である。二本鎖の完全な相補性によって通常は、hADARの触媒ドメインが非識別的にアデノシンを脱アミノ化し、hADARが遭遇するあらゆるアデノシンと反応する。hADAR1および2の特異性は、まだ明確になっていない方法でdsRNA結合ドメインを位置決めするのに役立つと推定されるいくつかのミスマッチをdsRNA中に確保することによって向上させることができる。加えて、脱アミノ化反応それ自体は、編集するアデノシンの反対側のミスマッチを含むEONを提供することによって増強することができる。ミスマッチは、編集するアデノシンの反対側にシチジンを有する標的部分を提供することによって創り出すことが好ましい。代替として、ウリジンもアデノシンの反対側に使用することができるが、これは、当然のことながら、UとAが対になっているので、「ミスマッチ」を招かないことになる。標的鎖のアデノシンが脱アミノ化されると、標的鎖はイノシンを得ることになるが、これは、ほとんどの生化学的プロセスでは、細胞の生化学的機構によってGとして「読み取られる」。したがって、AからIへの変換後、ミスマッチが解決されたことになる。なぜなら、Iは、本発明によるオリゴヌクレオチド構築物の標的部分中の反対側のCと塩基対合することが完全にできるからである。ミスマッチが編集により解決された後、基質が放出され、オリゴヌクレオチド構築物-編集実体複合体が標的RNA配列から放出され、次いで、それはスプライシングや翻訳などの下流の生化学プロセスに利用可能になる。標的RNA配列を編集する特異性の所望のレベルは、適用に依存し得る。本開示の指示に従い、当業者であれば、彼らのニーズに合わせてオリゴヌクレオチドの相補的部分を設計することができ、若干の試行錯誤で、所望の結果を得ることができることになる。
【0046】
本発明の教示はまた、インビトロで生成した眼杯などの、いわゆるオルガノイド内の細胞中の標的RNA配列を編集するのにも使用することができる。オルガノイドにおいて、またはin vivo、またはin vitroまたはex vivoの状況で処理された細胞は一般に、アデノシンが標的とされる遺伝子突然変異を有することになる。突然変異はヘテロ接合型であってもホモ接合型であってもよい。本発明は典型的には、NからAへの突然変異などの点突然変異を改変するために使用することができ、ここで、NはG、C、U(DNAレベル上ではT)とすることができ、好ましくはGからAへの突然変異、またはNからCへの突然変異とすることができ、ここでNはA、G、U(DNAレベル上ではT)とすることができ、好ましくはUからCへの突然変異とすることができる。表1に、ABCA4遺伝子に見られる(当技術分野で報告されている)最も関連性のある病原性G>A突然変異のリストを示すが、それらすべてが、本発明によるEONによって標的とされる可能性を秘めている。すべての(潜在的に可能である)突然変異がここに与えられているわけではなく、その理由は、本発明のEONはまた、G>A突然変異の結果ではないが、実際にはTまたはGを出現させる突然変異に起因する未成熟停止コドンの一部であるアデノシンを標的とするために適用することができるからである、ということに留意されたい。例をあげると、野生型TCAコドン(セリン)がC>G突然変異のためにTGA(停止)に突然変異する場合、本発明によるEONを使用したAの標的化によって、停止コドンが、ABCA4タンパク質において許容され得るTGG(トリプトファン)に変化させられる。別の例としては、野生型AAAコドン(リジン)が、A>T突然変異のためにTAA(停止)に突然変異し、次いで、本発明によるEONを使用した5’のAの標的化によって、この停止コドンがABCA4タンパク質において許容され得るGAA(グルタミン酸)に変化させられることであり得る。
【0047】
【0048】
【0049】
本発明の一態様では、本発明による少なくとも1つのEONを含む組成物が提供され、ここで、好ましくは、前記組成物は、少なくとも1つの賦形剤を含み、ならびに/または前記EONは、前記組成物および/もしくは前記EONの、組織および/もしくは細胞への、および/または組織および/もしくは細胞中への標的化および/もしくは送達を高めることをさらに助け得る少なくとも1つのコンジュゲートされたリガンドを含む。本明細書に記載の組成物は、本明細書では、本発明による組成物と呼ばれる。本発明による組成物は、本発明による1つまたは複数のEONを含むことができる。本発明の文脈において、賦形剤は別個の分子であり得るが、それはまた、コンジュゲートされた部分でもあり得る。第1のケースでは、賦形剤はデンプンなどの充填剤であり得る。後者のケースでは、賦形剤は例えば、本発明によるEONに連結された標的化リガンドであり得る。
【0050】
この態様の好ましい実施形態では、そのような組成物は、カチオン性両親媒性化合物(CAC)またはカチオン性両親媒性薬物(CAD)をさらに含むことができる。CACは一般にリソソーム指向性の薬剤であり、エンドソームおよびリソソームを緩衝化することができる弱塩基である(Mae et al. J Contr Rel 2009, 134: 221)。CACをさらに含む組成物は、好ましくは、前記CACを含まない同様な組成物と比較して、RNA編集のための改善されたパラメータを有する。CACの例は、例えば国際公開第2018/007475号パンフレットまたは国際公開第2018/134310号パンフレット中に見出すことができる。
【0051】
好ましい実施形態では、本発明による組成物は、医薬として使用するためのものである。その場合、本発明による組成物は医薬組成物である。医薬組成物は通常、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む。好ましい実施形態では、本発明による組成物は、本明細書で定義のEONを含み、任意選択で、薬学的に許容される製剤、充填剤、防腐剤、可溶化剤、担体、希釈剤、賦形剤、塩、アジュバントおよび/または溶媒をさらに含む。そのような薬学的に許容される担体、充填剤、防腐剤、可溶化剤、希釈剤、塩、アジュバント、溶媒および/または賦形剤は、例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (20thedition, Baltimore, MD; Lippincott, Williams & Wilkins, 2000)中に見出され得る。本発明によるEONは、少なくとも1つのイオン化可能な基を有していてもよい。イオン化可能な基は、塩基または酸であってもよく、そして荷電または中性であってもよい。イオン化可能な基は、反対の電荷を保有する適切な対イオンとのイオン対として存在してもよい。カチオン性対イオンの例は、ナトリウム、カリウム、セシウム、トリス、リチウム、カルシウム、マグネシウム、トリアルキルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、およびテトラアルキルアンモニウムである。アニオン性対イオンの例は、塩化物、臭化物、ヨウ化物、乳酸塩、メシル酸塩、ベシル酸塩、トリフレート、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、ジクロロ酢酸塩、酒石酸塩、リン酸塩、およびクエン酸塩である。
【0052】
本発明による医薬組成物は、EONの安定性、溶解性、吸収、バイオアベイラビリティ、活性、薬物動態、薬力学、細胞への取り込み、および/または細胞内輸送を高めるための補助剤、特に、複合体、ナノ粒子、微粒子、ナノチューブ、ナノ粒子、ナノゲル、ビロソーム、エキソソーム、ヒドロゲル、ポロキサマーもしくはプルロニック、ポリマーソーム、コロイド、マイクロバブル、小胞、ミセル、リポプレックス、および/またはリポソームを形成できる賦形剤を含んでいてもよい。ナノ粒子の例としては、高分子ナノ粒子、(混合)金属ナノ粒子、炭素ナノ粒子、金ナノ粒子、脂質ナノ粒子、磁性ナノ粒子およびペプチドナノ粒子、ならびにそれらの組合せが挙げられる。ナノ粒子とオリゴヌクレオチドの組合せの例は、球状核酸(SNA;Barnaby et al. Cancer Treat. Res. 2015, 166: 23)である。
【0053】
本発明による好ましい組成物は、組織および/もしくは細胞へのEONの標的化、ならびに/または組織および/もしくは細胞中へのEONの送達を高めるのをさらに助け得る少なくとも1つの賦形剤を含む。好ましい組織または細胞は、筋肉細胞、光受容細胞もしくはRPE層の細胞などの網膜細胞、角膜細胞、網膜組織、または角膜組織である。好ましくは、本発明によるEONは、シュタルガルト病を引き起こす突然変異を保有するヒトABCA4mRNAおよび/またはABCA4のpre-mRNA中の標的アデノシンを編集するために、網膜内の光受容体細胞またはRPEを標的化するために硝子体内投与によって(例をあげると、注射器を使用したネイキッドEONの直接注射によって)投与される、本発明による医薬組成物中に存在する。
【0054】
潜在的な賦形剤の多くは、当技術分野で知られており、第1のタイプの賦形剤として分類され得る。第1のタイプの賦形剤の例としては、ポリマー(例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリプロピレンイミン(PPI)、デキストラン誘導体、ブチルシアノアクリレート(PBCA)、ヘキシルシアノアクリレート(PHCA)、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)、ポリアミン(例えば、スペルミン、スペルミジン、プトレシン、カダベリン)、キトサン、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)、ポリ(エステルアミン)、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングリコール(PEG)、シクロデキストリン、ヒアルロン酸、コロミン酸、およびそれらの誘導体)、デンドリマー(例えば、ポリ(アミドアミン))、脂質(例えば、1,2-ジオレオイル-3-ジメチルアンモニウムプロパン(DODAP)、ジオレオイルジメチルアンモニウムクロリド(DODAC)、ホスファチジルコリン誘導体(例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DSPC))、リゾ-ホスファチジルコリン誘導体(例えば、1-ステアロイル-2-リゾ-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(S-LysoPC))、スフィンゴミエリン、2-(3-ビス-(3-アミノプロピル)アミノ)プロピルアミノ)-N-ジテトラデシルカルバモイルメチルアセトアミド(RPR209120)、ホスホグリセロール誘導体(例えば、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホグリセロール,ナトリウム塩(DPPG-Na)、ホスファチジン酸誘導体(例えば、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジン酸,ナトリウム塩(DSPA)、ホスホエタノールアミン誘導体(例えば、ジオレオイル-L-R-ホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DSPE)、2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン(DPhyPE))、N-(1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTAP)、N-(1-(2,3-ジオレイルオキシ)プロピル)-N,N,N-トリメチルアンモニウム(DOTMA)、1,3-ジ-オレオイルオキシ-2-(6-カルボキシ-スペルミル)プロピルアミド(DOSPER)、(1,2-ジミリストイルオキシプロピル-3-ジメチルヒドロキシエチルアンモニウム(DMRIE)、(N1-コレステリルオキシカルボニル-3,7-ジアザノナン-1,9-ジアミン)(CDAN)、ジメチルジオクタデシルアンモニウムブロミド(DDAB)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロール-3-ホスホコリン(POPC)、(b-L-アルギニル-2,3-L-ジアミノプロピオン酸N-パルミチル-N-オレイルアミド三塩酸塩(AtuFECT01)、N,N-ジメチル-3-アミノプロパン誘導体(例えば、1,2-ジステアロイル-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DSDMA)、1,2-ジオレイルオキシ-N,N-ジメチル-3-アミノプロパン(DoDMA)、1,2-ジリノレイルオキシ-N,N-3-ジメチルアミノプロパン(DLinDMA)、2,2-ジリノレイル-4-ジメチルアミノメチル(1,3)-ジオキソラン(DLin-K-DMA)、DLinKC2DMA、DLinMC3DMA(MC3)、ホスファチジルセリン誘導体(1,2-ジオレイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-L-セリン,ナトリウム塩(DOPS))、トランスフェクション試薬、タンパク質(例えば、アルブミン、ゼラチン、アテロコラーゲン)、および直鎖状もしくは環状ペプチド(例えば、プロタミン、PepFects、NickFects、ポリアルギニン、ヘキサ-アルギニン、ポリリジン、ポリオルニチン、CADY、MPG、細胞透過性ペプチド(CPP)、細胞移送ペプチド(CTP)、標的化ペプチド、エンドソームエスケープペプチド)が挙げられる。炭水化物および炭水化物クラスターは、別個の化合物として使用される場合、第1のタイプの賦形剤としての使用にも適している。
【0055】
本発明による別の好ましい組成物は、第2のタイプの賦形剤として分類される少なくとも1つの賦形剤を含んでいてもよい。第2のタイプの賦形剤は、例えば網膜(光受容体もしくはRPE)または角膜の組織もしくは細胞などの組織および/または細胞への標的化および/または送達を高めるために、本明細書に記載のコンジュゲート基を含むか、または含有していてもよい。コンジュゲート基は、1つまたは複数の異なる、または同一のリガンドを提示し得る。コンジュゲート基のリガンドの例は、例えば、ペプチド、ビタミン、アプタマー、炭水化物または炭水化物の混合物、タンパク質、低分子、抗体、ポリマー、薬物である。炭水化物コンジュゲート基リガンドの例は、グルコース、マンノース、フルクトース、マルトース、ガラクトース、N-ガラクトサミン(GalNAc)、グルコサミン、N-アセチルグルコサミン、グルコース-6-リン酸、マンノース-6-リン酸、およびマルトトリオースである。炭水化物はまた、GalNAcクラスター部分などの炭水化物クラスター部分の中に含まれていてもよい。炭水化物クラスター部分は、標的化部分、および任意選択でコンジュゲートリンカーを含むことができる。いくつかの実施形態では、炭水化物クラスターは、1、2、3、4、5もしくは6、またはそれ超のGalNAc基を含む。本明細書で使用される場合、「炭水化物クラスター」は、足場またはリンカー基に結合した1つまたは複数の炭水化物残基を有する化合物を意味する(Maier et al. Bioconj Chem 2003, 14: 18)。この文脈において、「修飾炭水化物」は、天然に生じる炭水化物に対して1つまたは複数の化学修飾を有する任意の炭水化物を意味する。本明細書で使用される場合、「炭水化物誘導体」は、出発物質または中間体として炭水化物を使用して合成され得る任意の化合物を意味する。本明細書で使用される場合、「炭水化物」は、天然に存在する炭水化物、修飾された炭水化物、または炭水化物誘導体を意味する。本明細書において特定されるように、両方のタイプの賦形剤が、単一の組成物へと組み合わせられ得る。三価のN-アセチルグルコサミンクラスターの例は、国際公開第2017/062862号パンフレットに記載されており、これはまた、スルホンアミド低分子のクラスターについても記載している。低分子セルトラリンの単一のコンジュゲートの例(Ferres-Coy et al. Mol. Psych. 2016, 21: 328)、ならびにイブプロフェン(米国特許第6,656,730号明細書)、スペルミン(Noir et al. J. Am. Chem. Soc. 2008, 130: 13500)、アニスアミド(Nakagawa J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 8848)、および葉酸(Dahmen Mol. Ther. Nucl. Acids 2012, 1, e7)を含む、タンパク質結合性低分子のコンジュゲートの例もまた記載されている。脂質コンジュゲートの例としては、脂肪酸およびその誘導体、例えば、パルミチル、パルミトイル、ステアリル、ステアロイル、ミリスチル、ミリストイル、ラウリル、ラウロイル、アラキドニル、アラキドノイル、ベヘニル、ベヘノイル、リグノセリル、リグノセロイル、サピエニル、サピエノイル、オレイル、オレオイル、エライジル、エライドイル、バセニル、バセノイル、リノレイル、リノレオイル、EPA、DHA、コレルステリル、ステロイド、ω-3脂肪酸、ω-6脂肪酸が挙げられ、脂質または脂質の混合組成物が1つまたは複数、本発明のオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされる。オリゴヌクレオチドの脂質コンジュゲートの例が記載されている(国際公開第2019/232255号パンフレット;Biscans J. Control. Rel. 2019, 302, 116;Biscans Nucl. Acids Res. 2019, 47, 1082;Wang Nucl. Acid Ther. 2019, 29, 245)。コンジュゲーションに使用されるビタミンの例が知られている(Winkler Ther. Deliv. 2013, 4, 791;US 6,127,533)。オリゴヌクレオチドとアプタマーとのコンジュゲートも当技術分野で知られている(Zhao Biomaterials 2015, 67, 42)。
【0056】
抗体および抗体フラグメントもまた、本発明のオリゴヌクレオチドにコンジュゲートさせることができる。好ましい実施形態では、特定の目的の組織、特に網膜または、および/または角膜組織を標的化する抗体またはそのフラグメントが、本発明のオリゴヌクレオチドにコンジュゲートされる。そのような抗体および/またはフラグメントの例は、例えば、CD71(トランスフェリン受容体;国際公開第2016/179257号パンフレット;Sugo J. Control. Rel. 2016, 237, 1)に標的化される。他のオリゴヌクレオチドコンジュゲートが当業者に知られており、Winkler et al. (Ther. Deliv. 2013, 4, 791, Manoharan Antisense Nucl. Acid Dev 2004, 12, 103)およびMing et al. (Adv. Drug Deliv. Rev. 2015, 87, 81)によりレビューされている。
【0057】
当業者は、本発明において使用するためのEONを製剤化および送達するために、上記または他の代替的な賦形剤および送達システムのうちの1つまたは複数を選択、組み合わせ、および/または適合させることができる。
【0058】
本発明による組成物に含まれる化合物は、例えば、本発明による組成物の活性成分の連続的な投与を可能にするために、別々に提供することもできる。そのような場合、本発明による組成物は、コンジュゲートされたリガンド、少なくとも1つの賦形剤、および任意選択で上記のCACを伴うか、または伴わない、本発明による少なくとも1つのEONを含む化合物の組合せである。
【0059】
好ましくは、好ましくは硝子体への直接注射による医薬組成物は硝子体内投与用であり、1眼あたり0.05mg~5mgの範囲の総EON量で投与される。本発明はまた、本発明による医薬組成物に関し、ここで、医薬組成物は注射による直接的な眼内投与用であり、1眼あたり0.1~1mgの範囲の総EON量、例えば1眼あたり約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mgの総EONの用量で投与される。好ましい量は、1眼あたり80、160、および320μgのオリゴヌクレオチドであり、初回の用量は、好ましくは2回目、3回目、およびそれ以降の用量の2倍の量である。したがって、初回の注射でオリゴヌクレオチド(2種類以上投与する場合はヌクレオチドの合計)を160μg投与し、その後80μgの注射を行う投与レジメン、または初回の注射が320μgのオリゴヌクレオチドを含有し、その後1眼あたり160μgのオリゴヌクレオチドの維持注射を行う投与レジメンである。そのような投与量は、臨床成果に応じて調整され得る。本発明はまた、本発明によるEONを発現するウイルスベクターに関する。さらに別の態様では、本発明は、医薬として使用するための、本発明によるEON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターに関する。さらに別の態様では、本発明は、シュタルガルト病の処置、予防、または遅延に使用するための、本発明によるEON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターに関する。さらに別の実施形態では、本発明は、シュタルガルト病の処置、予防、または遅延のための、本発明によるEON、本発明による医薬組成物、または本発明によるウイルスベクターの使用に関する。
【0060】
「pre-mRNA」という用語は、核内などの転写によって細胞のDNAテンプレートから合成される、プロセシングを受けていないか、または部分的にプロセシングを受けた前駆体mRNAを指す。
【0061】
これまでに達成された進歩を考慮すると、個体または前記個体の細胞、組織、器官に本発明によるEONを提供するための手段における改善が予想される。そのような将来的な改善は、もちろん、本発明の方法を使用したmRNAの再構築に対する上述の効果を達成するために組み込まれ得る。本発明によるEONは、個体、前記個体の細胞、組織、または器官にそのまま送達することができる。本発明によるEONを投与する際、EONは、送達方法に適合する溶液に溶解されていることが好ましい。水溶液中にプラスミドを提供することにより、網膜細胞にEON発現用のプラスミドを提供することができる。あるいは、EONまたはEON発現のためのプラスミドのための好ましい送達方法は、上で概説したようなウイルスベクター、またはナノ粒子である。好ましくは、ウイルスベクターまたはナノ粒子は、網膜細胞、より好ましくは、機能不全のABCA4タンパク質が存在し、疾患を引き起こす光受容体細胞またはRPEの細胞に送達される。網膜細胞または他の関連する細胞へのそのような送達は、インビボ、インビトロ、またはエクスビボであり得る。
【0062】
当業者は、本発明に使用するためのEONをパッケージ化し、送達して、ABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の予防、処置または遅延のためにEONを送達するために、上記または他の市販の代替的な賦形剤および送達システムのいずれかを選択し、適応させ得る。「ABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の予防、処置または遅延」は、本明細書において、好ましくは、ABCA4遺伝子の遺伝的欠陥によって引き起こされる部分的または完全な視覚障害または失明の予防、停止、進行中止、または逆転として定義される。
【0063】
本発明による複数の別個のEONが使用される場合、本明細書で定義の濃度または用量は、使用されるすべてのEONの総濃度もしくは総用量、または使用もしくは添加される各EONの濃度もしくは用量を指し得る。したがって、一実施形態では、使用される本発明によるEONの各量または総量が、0.01から20mg/kg、好ましくは0.05から20mg/kgの範囲の量で投与される組成物が提供される。適切な硝子体内用量は、1眼あたり0.05mgから5mgの間、好ましくは、約0.1から1mgの間、例えば、1眼あたり約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9または1.0mgである。
【0064】
本発明による好ましいAONは、ヒト個体のABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の処置のためのものである。好ましくは、ABCA4バリアントは、表1にリストされたバリアントの群から選択され、より好ましくは、ヒトABCA4遺伝子のエクソン42におけるc.5882G>A突然変異であるが、複数のEONを使用して、同じ処置において他のABCA4突然変異も標的化されることを排除することはできない。
【0065】
本発明のすべての実施形態では、「処置」という用語は、ABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の予防および/または遅延も含むと理解される。本発明に従ってEONを使用して処置され得る個体は、ABCA4-バリアントに関連した疾患または状態を有するとすでに診断されていてもよい。あるいは、本発明に従ってEONを使用して処置され得る個体は、シュタルガルト病などのABCA4-バリアントに関連した疾患または状態を有するとまだ診断されていなくてもよいが、彼または彼女の遺伝的背景を考えると、将来、そのような疾患または状態を発症するリスクが高い個体であり得る。好ましい個体は、ヒトの個体である。好ましい実施形態では、ABCA4-バリアントに関連した疾患または状態は、シュタルガルト病である。したがって、本発明は、ABCA4のRNA編集を必要とするABCA4-バリアントに関連した疾患または状態を処置するための医薬として使用するための、およびABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の予防、処置または遅延のための医薬として使用するための、本発明によるEON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物をさらに提供する。前記使用の各特徴は、本明細書において先に定義されている。
【0066】
本発明は、ABCA4(pre-)mRNAのRNA編集(または特定のアデノシンの脱アミノ化)を必要とするABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の処置のための、本発明によるEON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による(医薬)組成物の使用をさらに提供する。好ましい実施形態では、本発明のすべての態様について、ABCA4-バリアントに関連した障害、疾患、または状態は、ヒトABCA4遺伝子におけるc.5882G>A突然変異によって引き起こされる。
【0067】
本発明は、医薬の調製のための、ABCA4(pre-)mRNA内の特定のアデノシンのRNA編集を必要とするABCA4-バリアントに関連した疾患または状態を処置するための医薬の調製のための、およびABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の予防、処置または遅延のための医薬の調製のための、本発明によるEON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物の使用をさらに提供する。したがって、さらなる態様において、医薬の調製のための、ABCA4(pre-)mRNAの特定の標的アデノシンのRNA編集を必要とする状態を処置するための医薬の調製のための、およびABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の予防、処置または遅延のための医薬の調製のための、本明細書において定義されるEON、ウイルスベクターまたは組成物の使用が提供される。
【0068】
本発明による使用または方法における処置は、少なくとも1回、少なくとも1週間、1カ月、数カ月、1、2、3、4、5、6年またはそれよりも長く、例えば一生涯、である。本明細書に開示の処置は、細胞のDNAを編集せず、突然変異型の(pre-)mRNAが細胞によって絶えず生成され、突然変異型の(pre-)mRNAは、疾患を解除するために継続的な編集を必要とし得ることが理解されるべきである。本発明に従って使用するための本明細書で定義の各EONまたはその等価物は、ABCA4-バリアントに関連した疾患または状態をすでに患っているか、または発症するリスクのある個体のインビボにおける細胞、組織および/または器官への直接投与に適したものであり得、インビボ、エクスビボまたはインビトロで直接投与され得る。本発明のEON、組成物、化合物または補助化合物の投与の頻度は、疾患の重症度、患者の年齢、患者の突然変異、EONの数(すなわち、用量)、前記EONの製剤、投与経路など、いくつかのパラメータに依存し得る。頻度は、毎日、毎週、少なくとも2週間に1回、または3週間に1回、または4週間に1回、または5週間に1回、またはそれよりも長い期間に1回の間で変動し得る。本発明によるEONの用量範囲は、好ましくは、厳格なプロトコル要件が存在する臨床試験(インビボでの使用)における用量漸増試験に基づいて設計される。本明細書で定義のEONの濃度は、好ましい実施形態では、0.1nM~1μMの範囲で使用される。好ましくは、この範囲は、網膜細胞または網膜組織、好ましくは光受容細胞および/またはRPEなどの細胞モデルにおけるインビトロでの使用のためのものである。より好ましくは、使用される濃度は、1~400nM、さらにより好ましくは10~200nM、さらにより好ましくは50~100nMの範囲である。いくつかのEONを使用する場合、この濃度または用量は、EONの総濃度もしくは総用量、または添加される各EONの濃度もしくは用量を指し得る。好ましい実施形態では、本発明による分子のための送達ビヒクルとしてのウイルスベクター、好ましくは本明細書に先に記載のAAVベクターは、注射1回あたり1×109~1×1017個のウイルス粒子、より好ましくは注射1回あたり1×1010~1×1012個のウイルス粒子の範囲の用量で投与される。上記のEONの濃度または用量の範囲は、インビボ、インビトロまたはエクスビボでの使用に好ましい濃度または用量である。当業者は、使用されるEON、処置される標的細胞、遺伝子標的およびその発現レベル、使用される培地ならびにトランスフェクションおよびインキュベーション条件に応じて、使用されるEONの濃度または用量がさらに変化し得、さらに最適化される必要があり得ることを理解するであろう。
【0069】
本発明は、細胞、好ましくは網膜細胞、より好ましくは光受容細胞および/またはRPE細胞を、本発明によるEON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物と接触させることを含む、細胞におけるABCA4のpre-mRNAのRNA編集のための方法をさらに提供する。この態様の特徴は、好ましくは、本明細書で先に定義されたものである。本発明によるEON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物と細胞を接触させることは、当業者に知られている任意の方法によって行われ得る。本明細書に記載のEON、ウイルスベクターおよび組成物の送達のための方法の使用が含まれる。接触は直接的または間接的であり得、そしてインビボ、エクスビボまたはインビトロであり得る。
【0070】
本発明は、それを必要とする個体(例えば、シュタルガルト病に罹患している患者)のABCA4のpre-mRNAの特定の標的アデノシンのRNA編集を必要とするABCA4-バリアントに関連した疾患または状態の処置のための方法であって、前記pre-mRNA内の特定のアデノシンを脱アミノ化するために、前記個体の細胞、好ましくは網膜細胞、より好ましくは光受容細胞および/またはRPE中の細胞を、本発明によるEON、または本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物と接触させることを含む、方法をさらに提供する。この態様の特徴は、好ましくは、本明細書で先に定義されたものである。細胞、好ましくは網膜細胞、より好ましくは視細胞および/またはRPE内の細胞を、本発明によるEON、本発明によるウイルスベクター、または本発明による組成物と接触させることは、当業者に知られている任意の方法によって行われ得る。本明細書に記載のEON、ウイルスベクターおよび組成物の送達のための方法の使用が含まれる。接触は直接的または間接的であり得、そしてインビボ、エクスビボまたはインビトロであり得る。特に明記しない限り、本明細書に記載の各実施形態は、本明細書に記載の別の実施形態と組み合わせてもよい。
【0071】
本明細書で提供される配列情報は、誤って同定された塩基を含めることを要求するほど狭義に解釈されるべきではない。当業者は、そのような誤って同定された塩基を同定でき、そのような誤りを訂正する方法を知っている。
【0072】
本明細書で引用されたすべての特許および参考文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0073】
[実施例1]
生化学的アッセイにおいて4つのEONを使用したヒトABCA4(pre-)mRNAのエクソン42中のc.5882G>A突然変異のRNA編集
本発明者らは、シュタルガルト病を引き起こす比較的一般的な突然変異(ヒトABCA4遺伝子のエクソン42におけるc.5882G>A突然変異)が、(エクスビボ、インビトロ、およびインビボで)ADAR2をリクルートできるオリゴヌクレオチドによって、事前にオリゴヌクレオチドをADAR2酵素に物理的に結合させる必要なしに修復できるかどうかを判定することにした。この突然変異は、野生型のGGAコドン(グリシンをコードする)をGAA(グルタミン酸をコードする)に変える。中央のヌクレオチドである第1のアデノシン(A)からイノシン(I)への脱アミノ化は、野生型の状況への復帰であるGGAとして見られるリーディングフレームをもたらす。両方のアデノシンがイノシンに脱アミノ化されると、GGGコドンが生成される。そのコドンもまた、タンパク質レベルではグリシンをコードし、したがって、これもまた野生型の状況となる。したがって、第1のアデノシンの脱アミノ化、または同じ反応における第1のアデノシン+第2のアデノシンの脱アミノ化は有益となるであろう。特に、第2のアデノシンのみが脱アミノ化された場合(GAGが生じる;これもグルタミン酸をコードする)、病状に変化はないであろう。したがって、RNA編集反応では第1のアデノシンのみが脱アミノ化されることが好ましいが、両方のアデノシンの脱アミノ化も潜在的に有害ではない一方、第2のアデノシンの単独の脱アミノ化はすでに変異したmRNAに由来するアミノ酸(グルタミン酸)を変化させないであろう。
【0074】
4つの異なるEON(それぞれ、ABCA4-1、-2、-3、および-4;配列および化学修飾については、
図1を参照されたい)を使用した第1の生化学的アッセイを、12nMおよび1nM濃度の二本鎖RNAで全長hADAR2タンパク質(組換え生成;Genscript)を飽和させて実施した(標的RNA:EON比は1:6)。標的RNA/EON混合物を95℃で加熱し、分子間相互作用を促進するために、ゆっくりと室温まで冷却した(30分)。二本鎖形成は、アニーリングバッファー(10mM Tris-Cl pH7.4;1mM EDTA;100mM NaCl)中で行った。形成された二本鎖RNAを水で2倍に希釈した後、編集反応バッファー(15mM Tris-Cl pH7.4;1.5mM EDTA;60mM KCl;3mM MgSO
4;0.5mM DTT;3%グリセロール;0.003% NP-40;40mM K-グルタミン酸)中で10ng/μLの酵母tRNA(Invitrogen)、20ng/μLのポリA RNA(Qiagen)、プロテアーゼ(EDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤カクテル)およびRNase阻害剤(RNasinリボヌクレアーゼ阻害剤)と混合した。編集反応を、反応混合液(最終容量50μL)にhADAR2タンパク質を添加することで開始させた。この反応を37℃で最大50分間行った。8つの異なる中間時点で、5μLの試料を採取した。5μLの試料を95μLの沸騰3mM EDTAに添加し、95℃でインキュベートしてタンパク質を変性させることにより、各時点の反応を停止させた。次に、製造元の指示に従って、プライマーgBlock PCR REV:5’-TGG ACC GAC TGG AAA CGT AG-3’(配列番号13)を用いるMaxima逆転写酵素キットを使用して、停止した反応混合物6μlをcDNA合成のテンプレートとして使用した。総反応量は20μlであり、伸長温度は62℃を使用した。
【0075】
パイロシーケンス分析のために、Amplitaq gold 360 DNA Polymeraseキット(Applied Biosystems)を製造元の指示に従って使用し、1μlのcDNAをテンプレートとして用いたPCRにより、生成物を増幅させた。以下のプライマーを10μMの濃度で使用した:Pyroseq Fwd ABCA4:5’-ATG ATG ATG TGG CTG AAG AAA GA-3’(配列番号14)、およびPyroseq Rev ABCA4 Biotin、5’-CCC AGT GAG CAT CTT GAA TGT-3’(配列番号15)。後者のプライマーは、パイロシーケンス反応中の自動処理に必要な、5’末端にコンジュゲートしたビオチンも含有している。
【0076】
逆転写反応におけるcDNA合成中にイノシンはシチジンと対合するため、PCR中に編集された位置に組み込まれるヌクレオチドはグアノシンとなる。グアノシン(編集済み)とアデノシン(未編集)のパーセンテージを、パイロシーケンスによって定義した。PCR産物のパイロシーケンスとデータ分析を、PyroMark Q48 Autoprep機器(Qiagen)によって、10μlのPCR産物のインプットと4μMのシーケンシングプライマーABCA4-Seq2:5’-CTC CAG CCC AGC AGT-3’(配列番号16)を使用して、製造元の指示に従って実行した。この標的RNA鎖に対して特異的に定義された設定は、2セットの配列情報を含んでいた。これらの第1のセットは、機器が分析する配列を定義し、一方、第2のセットは、各ヌクレオチドに対応する配列決定試薬が分配される順序を定義し、また、バックグラウンド信号を定義するために機器によって使用されるブランク対照(すなわち、その特定の位置に組み込まれてはならないヌクレオチド)も含む。機器によって実行される分析は、選択されたヌクレオチドの結果を、その位置で検出されたアデノシンとグアノシンのパーセンテージとして提供し、したがって、選択された位置でのAからIへの編集の程度は、その位置におけるグアノシンのパーセンテージによって測定されることになる。パイロシーケンスは、編集の効率が最大140%に達することを明らかにした(データは示さず)。標的コドン中に編集されるアデノシンが1つだけ存在する場合には、効率が100%を超えることはあり得ない。これは、標的GAAコドン中の第1のアデノシンがイノシンに脱アミノ化されただけでなく、第2のアデノシンも編集されたことを示唆している。場合によっては、標的配列が第2のアデノシンでのみ編集されて、GAGが生じ、(上で概説したように)病状が変化しないことも排除することはできない。それでも、いずれの場合も編集のパーセンテージは、標的GAAコドンの第1のアデノシンおよび/または第2のアデノシンが編集されたことを示し、これは、本発明者らがこのABCA4突然変異を非常に効率的に標的化し、編集できたことを示している。
【0077】
ABCA4-1~4のEONを使用した生化学的実験の結果が
図2Aに示されており、これは、試験した4つのEONすべてが、比較的迅速に標的アデノシンをイノシンに編集できたことを明確に示している。3つのEON(ABCA4-1、-2、および-3)は、ほぼ完全にホスホロチオエート化されたEONであるABCA4-4 EONの性能を上回っていた。これは今回、本発明者らがABCA4のG>A突然変異を標的化することができ、患者がABCA4遺伝子中のG>A突然変異に罹患しているシュタルガルト病の処置に有用な医薬化合物のさらなる開発を可能としたことを示している。
【0078】
[実施例2]
生化学的アッセイにおいて追加のEONを使用したヒトABCA4(pre-)mRNAのエクソン42中のc.5882G>A突然変異のRNA編集
最初に設計された4つのEONに加えて、本発明者らはABCA4-5~29を設計した(配列および修飾については
図1を参照されたい)。ABCA4-5は、分子内ループ構造を含有している一方、ABCA4-29は、標的配列に対する様々な追加のミスマッチを含有している。ABCA4-17~27は、最初のEONおよび以前に当技術分野で使用されていたものよりも大幅に短くなるように設計され、一方、ABCA4-21~27はそれぞれ、分割されたEONのセットを形成しており、突然変異の領域を標的化しないABCA4-28オリゴヌクレオチドを伴う。短いEONおよび分割されたEONの使用は協調して機能することは、英国特許出願第2011428.6号明細書(未公開)に記載されている。
【0079】
追加のEONのセットも、実施例1に開示の最初の4つのEONに対して使用されたアッセイと比較して若干の調整を加えた生化学的アッセイで試験した(配列および化学修飾については
図1を参照されたい)。24nMおよび2nMの二本鎖RNA濃度で、飽和した全長hADAR2タンパク質(組換え生産;Genscript)を使用した(標的RNA:EON比1:3)。標的RNA/EON混合物を95℃で加熱し、分子間相互作用を促進するために、ゆっくりと室温まで冷却した(1時間15分)。二本鎖形成を、アニーリングバッファー(10mM Tris-Cl pH7.4;1mM EDTA;100mM NaCl)中で行った。形成された二本鎖RNAを水で2倍に希釈し、0.5×アニーリングバッファー(5mM Tris-HCl pH7.4、0.5mM EDTA、50mM NaCl)で5倍に希釈した後、編集反応バッファー(15mM Tris-Cl pH7.4;1.5mM EDTA;60mM KCl;3mM MgSO
4;0.5mM DTT;3%グリセロール;0.003% NP-40;40mM K-グルタミン酸)中で10ng/μLの酵母tRNA(Invitrogen)、20ng/μLのポリA RNA(Qiagen)、プロテアーゼ(EDTAフリーのプロテアーゼ阻害剤カクテル)およびRNase阻害剤(RNasinリボヌクレアーゼ阻害剤)と混合した。編集反応を、反応混合液(最終容量50μL)にhADAR2タンパク質を添加することで開始させた。この反応を37℃で最大60分間行った。6つの異なる中間時点で、5μLの試料を採取した。5μLの試料を95μLの沸騰3mM EDTAに添加し、95℃でインキュベートしてタンパク質を変性させることにより、各時点の反応を停止させた。次に、製造元の指示に従って、プライマーgBlock PCR REVと共にMaxima逆転写酵素キットを使用して、停止した反応混合物10μlをcDNA合成のテンプレートとして使用した。総反応量は20μlであり、伸長温度は62℃を使用した。
【0080】
パイロシーケンス分析のために、Amplitaq gold 360 DNA Polymeraseキット(Applied Biosystems)を製造元の指示に従って使用し、1μlのcDNAをテンプレートとして用いて、生成物を増幅させた。以下のプライマーを10μMの濃度で使用した:Pyroseq Fwd2 ABCA4:5’-ACT AAC CAA GAT TTA TCC AGG C-3’(配列番号17)およびPyroseq Rev ABCA4 Biotin(上記を参照されたい)。後者のプライマーは、パイロシーケンス反応中の自動処理に必要な、5’末端にコンジュゲートしたビオチンも含有している。
【0081】
生化学的アッセイの結果が
図2BからGに示されており、それぞれ、3つまたは4つのEONの結果を示している。明らかに、一部のEONは他のEONよりも性能が優れているが、短いバージョンのABCA4-17、18、19、20、21、22、23、24、25、および27は、長いバージョンよりも効率が低くなっている。しかし、同じく短いEONであるABCA4-26は、非常に優れた性能を見せている。標的配列とのミスマッチが多いABCA4-29は、少なくともこのアッセイでは、他のEONと比較してうまく機能していない。生化学的アッセイは、分割されたEON(ABCA4-21~27、それぞれABCA4-28を伴う)では行わなかった。これは、セルベースアッセイにおいて試験した(以下を参照されたい)。
【0082】
[実施例3]
細胞アッセイにおいて決定されたRNA編集
細胞トランスフェクション実験を、様々な異なるEONを使用して実行した(配列および化学的改変については
図1を参照されたい)。マウスのRPE細胞をDMEM(10%PBS+P/S)中、コラーゲンでコーティングされた12ウェルプレートに4×10
4細胞/cm
2で播種した。5% CO
2および37℃で2~3時間インキュベートした後、トランスフェクション試薬(3μL)としてDharmafect duo(Dharmacon)を使用して、細胞に500ngのミディジーンと500ngのヒトADAR2を発現するプラスミドを1mLの総量でトランスフェクトした。ミディジーンは、ヒトABCA4ゲノム配列の一部、すなわち、T7によって調節され、CMVプロモーターが先行するロドプシンのエクソン3および5に隣接した中間エクソンを含む、イントロン40からイントロン43を含む構築物である。ミディジーンの2つのバージョンを作製した。1つは野生型ABCA4配列を含み、もう1つはエクソン42のc.5882G>A突然変異(「突然変異型」)を含む。突然変異型ミディジーンは、本明細書に概説されるようにして、EONとコトランスフェクトした。
【0083】
5% CO2および37℃で24時間のインキュベーション時間の後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した。細胞に新鮮な培地(900μL)を補充し、トランスフェクション試薬としてLipofectamine 2000(Invitrogen)を使用して100nM EONをトランスフェクトした。EONとヘルパーAON(ABCA4-28)をトランスフェクトした場合、分割されたEONを含む組成物として、両方のオリゴヌクレオチドを100nMの量でトランスフェクトした。トランスフェクションは、1μgのEONと2μLのLipofectamine 2000の比率で、総量1mLで行った。5% CO2および37℃で6時間のインキュベーション時間の後、培地を除去し、細胞を洗浄し、新鮮な培地を細胞に加えた。
【0084】
5% CO2および37℃で合計24時間のインキュベーション時間の後、RNeasy plus miniキット(Qiagen)を使用して細胞からRNAを単離し、RNAを50μLのRNaseフリー水に溶解させた。
【0085】
次に、製造元の指示に従い、250ngのRNAをテンプレートとして、Verso cDNA合成キット(Thermo scientific)を使用して、ランダムヘキサマーを用いたcDNA合成を行った。総反応量は20μLであった。試料はその後、パイロマーク配列分析およびddPCR分析に使用した。
【0086】
パイロシーケンス分析のために、Amplitaq gold 360 DNA Polymeraseキット(Applied Biosystems)を製造元の指示に従って使用し、5μlのcDNAをテンプレートとして用いたPCRにより、生成物を増幅させた。以下のプライマーを0.4μMの最終濃度で使用した:Pyroseq Fwd2 ABCA4およびPyroseq Rev ABCA4 Biotin(上記を参照されたい)。逆転写反応におけるcDNA合成中にイノシンはシチジンと対合するため、PCR中に編集された位置に組み込まれるヌクレオチドはグアノシンとなる。グアノシン(編集済み)対アデノシン(未編集)のパーセンテージは、パイロシーケンスによって定義される。PCR産物のパイロシークエンスおよびデータ分析を、PyroMark Q48 Autoprep機器(Qiagen)によって、10μlのPCR産物の入力と4μMのABCA4-Seq2プライマー(配列番号16)を用いて、製造元の指示に従って実行した。この標的RNA鎖に対して特異的に定義された設定は、2セットの配列情報を含んでいた。これらの第1のセットは、機器が可変領域におけるグアノシンとアデノシンの違いを分析するための配列を定義し、一方、第2のセットは、各ヌクレオチドに対応決定試薬が分配される順序を定義し、また、バックグラウンド信号を定義するために機器によって使用されるブランク対照(すなわち、その特定の位置に組み込まれるはずがないヌクレオチド)も含む。機器によって実行される分析は、選択されたヌクレオチドの結果を、その位置で検出されたアデノシンとグアノシンのパーセンテージとして提供し、したがって、選択された位置でのAからIへの編集の程度は、その位置におけるグアノシンのパーセンテージによって測定されることになる。
【0087】
パイロマークシーケンシングによって決定されたRNA編集結果が
図3に示されており、これは、ADAR2の過剰発現を用いたセルベースアッセイにおいて、試験したEONの多くが実際に、ヒトABCA4(pre-)mRNAのエクソン42において標的アデノシンをイノシンに編集できたことを明らかにしている。
【0088】
次に、二重ddPCRアッセイを用いて、試料中の野生型(WT)と参照(ref)のコピー数を測定した。WTアッセイは、ABCA4エクソン42のGを検出(ABCA4エクソン41からエクソン43まで)するために特別に設計され、FAM標識された陽性液滴をもたらす。refアッセイは、参照エクソンRho3からABCA4エクソン41を検出するように設計され、HEX標識された陽性液滴をもたらす。
【0089】
各ddPCR試料は、1×ddPCRプローブ用スーパーミックス(dUTPなし)(Biorad製)、0.6μMの各プライマー(フォワードrefプライマー配列:5’-TTC TGC TAT GGG CAG CTC-3’(配列番号18);リバースrefプライマー配列:5’-TGT CTT TCT TCA GCC ACA TC-3’(配列番号19);フォワードWTプライマー配列:5’-CTA ACC AAG ATT TAT CCA GGC-3’(配列番号20);リバースWTプライマー配列:5’-CCT GAG GTC ACT GTG GT-3’(配列番号21))、0.6μMの各ダブルクエンチプローブ(refプローブ配列:5’-HEX-CAC CGT CAA-ZEN-GGA GGA TTG CCG-IABkFQ-3’(配列番号22);WTプローブ配列:5’-6-FAM-TGT GTC GGA -ZEN- GTT CGC CCT GGA GA-IABkFQ-3’(配列番号23))、および25ngのcDNAを総量21μL中に含んでいた。液滴は、QX200液滴ジェネレーター(Biorad)を使用してPCRミックスから作製した。次に、液滴のPCRを105℃に加熱された蓋と2℃/秒のランプ温度を用いてT100サーマルサイクラー(Biorad)において実施した。ポリメラーゼを95℃で10分間、熱で活性化した。各サイクルで、変性を94℃で30秒間行い、アニーリング/伸長を60℃で30秒間行った。これを合計40サイクル繰り返した。酵素を98℃で10分間失活させ、反応を4℃で保持した。液滴からの蛍光シグナルを、QX200液滴リーダー(Biorad)によって測定した。絶対定量をQuantaSoftソフトウェア(Bio-Rad)を使用して行った。陽性液滴の数を決定するために、蛍光閾値をFAMシグナルの場合は3534、HEXシグナルの場合は2000に設定した。WT/refの比を、コピー数/反応を使用して計算した。各試料を二連で測定した。計算には平均値を使用した。
【0090】
図4は各試料におけるWT/refの比を示している。それは、より小さなEONで処置した試料において最も高いWT/ref比が測定されることを示している。より短いEONはすべてエクソン42の内部配列に相補的であるのに対し、より長いバージョンはエクソン/イントロン境界と重なったため、より長いEONの使用は、エクソン42のエクソンスキッピングを引き起こし、それにより、ddPCRのシグナルが減少し、それゆえ、観察されるRNA編集のレベルが低下したと推測された。したがって、そのようなエクソンスキッピングが実際に発生したかどうかを確認した。
【0091】
エクソン42スキップアッセイは、ABCA4エクソン42の欠失のために特別に設計した。上記と同じddPCR法をフォワードエクソンスキッププライマー:5’-GAT GTG GCT GAA GAA AGA CA-3’(配列番号24)、WTアッセイと同じリバースプライマー、およびダブルクエンチプローブエクソン42スキップ:5’-6-FAM- AAC TAA CCA -ZEN- AGT GCT TTG GCC TCC-IABkFQ-3’(配列番号25)を使用して行った。陽性液滴の数を決定するために、蛍光閾値をFAMシグナルの場合は4923、HEXシグナルの場合は2000に設定した。エクソン42スキップ/refの比は、コピー数/反応を使用して計算した。
【0092】
図5は、各試料におけるエクソン42スキップ/refの比を示しており、EON 13~16で処置した試料で最も高いスキップ比が測定されることを示している。
図4では、これらEON13~16は、標的アデノシンの比較的低いRNA編集を示している結果が示されている 。対照的に、内部のエクソン42配列に相補的な、より小さなEONでは、比較的高く効率的なRNA編集が観察され、そのようなエクソンスキッピングはほとんど検出できなかった。重要なことに、ABCA4-21~27を(ABCA4-28を伴わずに)使用した場合、スキッピングはまったく観察されなかった。したがって、配列番号8または9の配列など、エクソン42の3’末端および下流のイントロンと重複せず、むしろ完全にエクソン42内にある配列と完全に相補的であるEONを使用することが好ましい。
【0093】
これらの結果は、本発明者らが、細胞中およびインビトロの生化学的な設定で、ヒトABCA4(pre-)mRNAのエクソン42における標的アデノシンをイノシンに編集することができるEONを提供できたことを明確に示している。興味深いことに、分割されたEONのABCA4-24とABCA4-28とを一緒に使用した実験では、RNA編集のパーセンテージが、個別の(単一の)EONのトランスフェクションで見られたものよりも高く、そのような構成が好ましい場合があることを示している。さらに、検出可能なレベルのエクソンスキッピングを引き起こさないことから、短いEON(ABCA4-17から27、より好ましくはABCA4-21から27)を使用することが好ましい。エクソン42のエクソンスキッピングは望ましくないことが理解されるべきである。むしろ、エクソンスキッピングは生じるべきでなく、エクソン42における標的アデノシンの特異的なRNA編集のみが生じるべきである。ここでは、そのようなことが達成できることが実証されている。より小さな(分割された)EONの使用が好ましいということは、英国特許出願第2011428.6号明細書(未公開)に記載のようにして得られた結果を裏付けている。
【0094】
これらの実験は、本発明者らが、ヒトABCA4のpre-mRNAのエクソン42におけるG>A突然変異を標的化することができ、患者がABCA4遺伝子中のG>A突然変異に罹患しているシュタルガルト病の処置に有用な医薬化合物のさらなる開発を可能としたことを示している。
【配列表】
【国際調査報告】