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▶ フェデラル ステート バジェタリー インスティテューション“ナショナル リサーチ センター フォー エピデミオロジー アンド マイクロバイオロジー ネームド アフター ザ オナラリー アカデミシャン エヌ.エフ.ガマレヤ”オブ ザ ミニストリー オブ ヘルス オブ ザ ロシアン フェデレーションの特許一覧

特表2023-507543年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質(変形例)の使用
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  • 特表-年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質(変形例)の使用 図1
  • 特表-年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質(変形例)の使用 図2
  • 特表-年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質(変形例)の使用 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(54)【発明の名称】年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質(変形例)の使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/215 20060101AFI20230216BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 39/235 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20230216BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230216BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230216BHJP
   C12N 15/50 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
A61K39/215
A61P11/00
A61K39/235
A61K9/08
A61P43/00 121
A61K9/19
A61K47/02
A61K47/26
A61K47/18
A61K47/10
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/50
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022520003
(86)(22)【出願日】2022-02-18
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 RU2022000045
(87)【国際公開番号】W WO2022177465
(87)【国際公開日】2022-08-25
(31)【優先権主張番号】2021104430
(32)【優先日】2021-02-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522075140
【氏名又は名称】フェデラル ステート バジェタリー インスティテューション“ナショナル リサーチ センター フォー エピデミオロジー アンド マイクロバイオロジー ネームド アフター ザ オナラリー アカデミシャン エヌ.エフ.ガマレヤ”オブ ザ ミニストリー オブ ヘルス オブ ザ ロシアン フェデレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ズブコワ,オルガ ヴァディモヴナ
(72)【発明者】
【氏名】オザロフスカイア,タチアナ アンドレーヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ドルジコワ,インナ ヴァディモヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ポポーワ,オルガ
(72)【発明者】
【氏名】シチェブリアコフ,ドミトリー ウィークトロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】グロウソワ,ダリア ミハイロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ザルラエワ,アリーナ シャミロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ツカバツリン,アミール イルダロビヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ツカバツリーナ,ナタリア ミハイロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】シシェルビニン,ドミトリー ニコラエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】エスマガムベトフ,イリアス ブラトビッチ
(72)【発明者】
【氏名】トカルスカヤ,エリザヴェータ アレクサンドロヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ボティコフ,アンドレイ ジェンナデビッチ
(72)【発明者】
【氏名】エロコワ,アリーナ セルゲーヴナ
(72)【発明者】
【氏名】イザエヴァ,ファティマ マゴメドヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ニキテンコ,ナタリア アナトレヴナ
(72)【発明者】
【氏名】ルベネッツ,ナデジダ レオニドヴナ
(72)【発明者】
【氏名】セミキン,アレクサンドル セルゲーヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ナロディツキー,ボリス サベリエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ログノフ,デニス ユーリエヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ギンツブルク,アレクサンドル レオニドヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】チェルネツォフ,ウラジーミル アレクサンドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】クリュコフ,エフゲニー ウラジーミロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】バビラ,ウラジーミル フェドロヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】キタエフ,ドミトリー アナトレヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ロギノヴァ,スヴェトラーナ ヤコヴレヴァ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA29
4C076BB15
4C076BB25
4C076CC06
4C076CC15
4C076DD23
4C076DD37
4C076DD46
4C076DD49
4C076FF01
4C076FF11
4C076FF61
4C085AA03
4C085BA71
4C085BA77
4C085DD61
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG01
4C085GG03
(57)【要約】
本発明は、生物工学、免疫学及びウイルス学の分野に関する。年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質の使用が開示され、前記作用物質は、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有するか、そして/あるいはゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2を含有する。加えて、年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質の使用が開示され、前記作用物質は、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有し、且つ、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2も含有するか、又は成分2のみを含有する。更に、年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質の使用が開示され、前記作用物質は、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有し、且つ、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2も含有する。本発明は、年齢60歳超の、また慢性疾患を有する対象において、SARS-CoV-2ウイルスに対する免疫応答の有効な誘導をもたらす。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有するか、そして/あるいはゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2を含有する、作用物質の使用。
【請求項2】
年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有し、且つ、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2も含有するか、又は成分2のみを含有する、作用物質の使用。
【請求項3】
年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有し、且つ、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2も含有する作用物質の使用。
【請求項4】
前記作用物質が鼻腔内投与及び/又は筋肉内投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記作用物質の前記成分が、1週間より長い時間間隔を置いて逐次投与される、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記作用物質が液体形態又は凍結乾燥形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記液体形態が、重量%で、以下:
トリス 0.1831~0.3432
塩化ナトリウム 0.3313~0.6212
サッカロース 3.7821~7.0915
塩化マグネシウム六水和物 0.0154~0.0289
EDTA 0.0029~0.0054
ポリソルベート80 0.0378~0.0709
エタノール95% 0.0004~0.0007
水 残量
により構成される緩衝液を含有する、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
再構成した凍結乾燥作用物質が、重量%で、以下:
トリス 0.0180~0.0338
塩化ナトリウム 0.1044~0.1957
サッカロース 5.4688~10.2539
塩化マグネシウム六水和物 0.0015~0.0028
EDTA 0.0003~0.0005
ポリソルベート80 0.0037~0.0070
水 残量
により構成される緩衝液を含有する、請求項6に記載の使用。
【請求項9】
前記作用物質の成分1及び成分2が別個の容器内にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野
本発明は、生物工学、免疫学及びウイルス学に関する。重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる疾患の予防用作用物質、即ち、年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象のワクチン再接種を含めた、ワクチン接種用の作用物質の使用が開示される。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
世界的大流行が続いているコロナウイルス感染症COVID-19には、全世界で何百万人もの人が罹患している。現時点で記録されたCOVID-19疾患症例は1億例を超え、この疾患による死亡者は200万人を超える。
【0003】
本研究では、この疾患の原因作用物質が、コロナウイルス科(Coronaviridae)、β-CoV B系統に属するRNAウイルスSARS-CoV-2であることを明らかにした。
【0004】
このウイルスは、直接的な接触によって広がるとともに、空気感染によっても広がることが示された。平均潜伏期間は5.1日であり、その後にこの疾患の初発症状が発生する(Lauer SA, Grantz KH, Bi Q, et al. The incubation period of coronavirus disease 2019 (COVID-19) from publicly reported confirmed cases: estimation and application. Ann Intern Med. 2020. 10.7326/M20-0504)。COVID-19の典型的な症状としては、発熱、乾性咳嗽、呼吸困難、及び疲労が挙げられる。まれには、咽頭痛、関節痛、鼻水、及び頭痛も起こる。
【0005】
COVID-19の経過は軽症であることも、又は重症であることもある。最も危険な合併症としては、肺炎、急性呼吸窮迫症候群、急性呼吸不全、急性心不全、急性腎不全、敗血症性ショック、心筋症等が挙げられる。この疾患の重症型は、高齢者及び慢性疾患罹患者に発症することが多い。米国疾病管理予防センター(Center for Disease Control And Prevention)は、年齢50~64歳、65~74歳、75~84歳、及び85歳超のCOVID-19に関連する致死リスクが、若年者(年齢18~29歳)と比較して、それぞれ、30倍、90倍、220倍、及び630倍に上ることを報告した(https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/need-extra-precautions/older-adults.html)。
【0006】
SARS-CoV-2は、肺、内皮、心臓、腎臓、及び胃腸管に発現するアンジオテンシン変換酵素2(ACE-2)受容体とウイルスのSタンパク質が結合することによって人体に侵入する。この特異な機構が、高齢者で感染汚染リスクが高くなる原因であると考えられている。CDCのデータによれば、60歳超の成人の63.1%が動脈性高血圧症を有し、65歳超の成人の38%が慢性腎疾患(CKD)を有し、及び65歳超の成人の26.8%が真性糖尿病を有する。これらの患者の多くがACE-2阻害薬及びアンジオテンシン受容体遮断薬を投与されており、これらはACE-2受容体を活性化するものである。従って、これらの共存症を有する高齢者はSARS-CoV-2感染症に罹るリスクが増し、この疾患のより重篤な経過をたどり得ると考えられる(Z. Shahid et al. COVID-19 and Older Adults: What We Know. J Am Geriatr Soc. 2020 May; 68(5): 926-929)。
【0007】
従って、高齢者及び/又は慢性疾患罹患者は、COVID-19に対するワクチン接種が特に必要である。
【0008】
現在までに、Covid-19に対するワクチンは数種が開発されている。製薬会社Modernaは、国立衛生研究所(National Institute of Health)(米国)と協力して、脂質膜で保護された、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードするmRNAを含むmRNA-1273ワクチンを開発した。最近になって、このワクチンの第3相臨床試験が終了した。この研究には、COVID-19が重症経過をたどる高いリスクを伴う慢性疾患(真性糖尿病、肥満及び心疾患)を有する7000例を超える年齢65歳超のボランティア及びまた5000例を超える65歳未満のボランティアが登録した。公開されたデータによれば、65歳超に対するワクチン有効性は86.4%であった(L. Baden et al. Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine. N Engl J Med. 2020 Dec 30)。
【0009】
製薬会社Pfizerは、バイオテクノロジー企業BioNTechと協力して、BNT162b2ワクチン(トジナメラン)を開発した。このワクチンは、SARS-CoV-2の突然変異型Sタンパク質をコードする修飾mRNAが封入された脂質ナノ粒子を含む。臨床開発の最終段階の間に、1万8000例を超える年齢16~89歳の人がワクチン接種を受け、そのうち7971例の人が55歳超であった(42.3%)。更に、一部の患者は、COVID-19の臨床転帰不良のリスク要因である慢性疾患(肥満等)を有したと報告されている。ワクチン有効性は、55歳超、65歳超、及び75歳超の患者について、それぞれ、93.7%、94.7%、及び100%であった(Polack F. et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 2020 Dec)。
【0010】
オックスフォード大学は、製薬会社AstraZenecaと協力して、ベクターワクチンChAdOx1 nCoV-19(AZD1222)を開発した。このワクチンでは、活性成分として、SARS-CoV-2(GenBank MN908947)の完全長Sタンパク質のコドン最適化されたコード配列を組織型プラスミノーゲンアクチベーターのリーダー配列と共に含むチンパンジーアデノウイルスChAdOx1が働く。この製剤の臨床研究には、コホート全体の12.2%を占める年齢56歳以上の対象(英国で1006例[13.3%]及びブラジルで412例[10.1%])が登録した。この研究コホートには、年齢56~69歳の対象が974例、70歳超の対象が444例含まれた。しかしながら、これらの患者について、56歳超の年齢群におけるワクチン評価は、データが限られていたため実現不可能であったと報告された(Voysey M. et al. Safety and efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an interim analysis of four randomized controlled trials in Brazil, South Africa, and the UK. Lancet. 2021 Jan 9;397(10269):99-111)。
【0011】
Johnson and Johnson及びJanssen Pharmaceuticalの研究班は、Beth Israel Deaconess Medical Centerと協力して、Ad26.COV2.Sワクチンを開発した。このワクチンの有効成分は、E1及びE3部位が欠失しているヒトアデノウイルス血清型26型のゲノムをベースとした、フューリン切断部位における突然変異及び2つのプロリン安定化突然変異を有するSARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子を含む組換えベクターである。最近になって、第1~2b相臨床研究の結果が公開された。この研究には、18~55歳の年齢コホート及び65歳超の年齢コホートの対象が参加した。研究結果が示すところによれば、年齢群に関わらず、対象の90%において、ワクチンの初回投与後29日目にウイルス中和抗体を検出することができた。57日目までには、ワクチン接種を受けた全てのボランティアにウイルス中和抗体が検出された。2回目の用量投与により、抗体力価の2.6~2.9の上昇が生じた(Sadoff J. Interim Results of a Phase 1-2a Trial of Ad26.COV2.S Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 2021 Jan 13. doi: 10.1056/NEJMoa2034201. Epub ahead of print. PMID: 33440088.)。この解決法が、本著者らによりプロトタイプとして選ばれた。このプロトタイプの不都合な点は、ワクチンの初回投与後に発現ベクターのベクター部分に対する抗体が発生し得ることであり、これは後続用量の投与下でワクチン接種の有効性を低下させることになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明のこの背景から、高齢者及び/又は慢性疾患を有する患者においてSARS-CoV-2ウイルスに対する免疫応答を誘導することのできる安全な作用物質を開発する必要性が明らかである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の開示
特許請求される一群の発明の技術的問題は、年齢60歳以上の対象及び慢性疾患を有する患者においてSARS-CoV-2ウイルスに対する免疫応答の有効な誘導をもたらす作用物質の開発である。
【0014】
技術的結果は、年齢60歳以上の対象及び慢性疾患を有する患者においてSARS-CoV-2に対する体液性及び細胞性免疫応答の発生をもたらす安全且つ有効な作用物質の創製である。
【0015】
年月が過ぎるとともに免疫系の老化が起こり、これは免疫応答の定性的及び定量的特性が損なわれることとして特徴付けられるもので、開発されるワクチンの安全性及び有効性プロファイルに影響を及ぼし得る。
【0016】
定量的変化は、ナイーブT細胞集団の減少、またCD4+:CD8+細胞比の変化も特徴とし、その主な原因は、CD8+ T細胞数の大幅な減少である。老化はまた、T細胞受容体レパートリーの減少及びT細胞生存の全般的な悪化にもつながる。定性的変化としては、記憶細胞前駆体と比べて短命なエフェクターT細胞の優勢な産生が挙げられ、ひいては免疫応答の障害につながる。B細胞集団は加齢変化にそれほど敏感でないが、しかしながら高齢者では特定のタンパク質の発現が低下するため、機能性抗体の産生が落ち込む。年齢以外にも、様々な慢性疾患が、その多くは往々にして免疫系機能の乱れに関連するため、免疫応答の発生に影響を与え得る。
【0017】
従って、老年者及び/又は慢性疾患罹患者のための、SARS-CoV-2に対する体液性及び細胞性応答を含めた、SARS-CoV-2に対する免疫応答の有効な誘導をもたらす作用物質の開発は、困難な科学的課題である。
【0018】
前記技術的結果は、年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群SARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有するか、そして/あるいはゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2を含有する作用物質を使用することの開示によって達成される。
【0019】
加えて、年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群SARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質の使用が開示され、前記作用物質は、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有し、且つ、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2も含有するか、又は成分2のみを含有する。
【0020】
年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群SARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための別の作用物質の使用もまた開示され、前記作用物質は、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有し、且つ、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2も含有する。
【0021】
更に、前記作用物質は、鼻腔内投与及び/又は筋肉内投与で使用される。
【0022】
加えて、前記作用物質は、これらの成分を1週間より長い時間間隔で逐次投与することによって使用される。
【0023】
加えて、前記作用物質は、液体又は凍結乾燥形態で使用される。
【0024】
更に、使用時の液体形態の作用物質は緩衝溶液を含有し、この緩衝溶液は、重量%で、以下:
トリス 0.1831~0.3432
塩化ナトリウム 0.3313~0.6212
サッカロース 3.7821~7.0915
塩化マグネシウム六水和物 0.0154~0.0289
EDTA 0.0029~0.0054
ポリソルベート80 0.0378~0.0709
エタノール95% 0.0004~0.0007
水 残量
により構成される。
【0025】
加えて、使用時の再構成した凍結乾燥作用物質は、重量%で、以下:
トリス 0.0180~0.0338
塩化ナトリウム 0.1044~0.1957
サッカロース 5.4688~10.2539
塩化マグネシウム六水和物 0.0015~0.0028
EDTA 0.0003~0.0005
ポリソルベート80 0.0037~0.0070
水 残量
により構成される緩衝液を含有する。
【0026】
更に、本作用物質の使用時、成分1及び成分2は別個の容器内にある。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図の簡単な説明
図1】SARS-CoV-2のS抗原で再刺激された増殖性CD4+及びCD8+リンパ球の割合を評価することによる、変形例1に係る開発された作用物質の液体形態を使用したボランティアにおける免疫有効性評価の結果を示す。Y軸-増殖性細胞量、%X軸-日数○(黄色)-0日目における各ボランティアの増殖性CD4+ T細胞の%を示す。○(赤色)-28日目における各ボランティアの増殖性CD4+ T細胞の%を示す。○(水色)-0日目における各ボランティアの増殖性CD8+ T細胞の%を示す。○(青色)-28日目における各ボランティアの増殖性CD8+ T細胞の%を示す。 各データセットの中央値を黒色の線で示し、偏差は95%信頼区間に対応する。記号****は、0日目と28日目とに得られた値の差が統計的に有意であることを示す(p<0.001、マン-ホイットニー検定)。
図2】コロナウイルスS抗原で再刺激した後の末梢血単核球の培養培地中におけるIFNγ濃度の増加倍数を示し、ここで末梢血単核球は、作用物質、変形例1で逐次的に免疫した年齢60歳超のボランティアから免疫前(0日目)及び研究28日目に採取したものである。Y軸-インターフェロンガンマ濃度(倍数)X軸-日数○(緑色)-0日目に各ボランティアで測定された値を示す。□(赤色)-28日目に各ボランティアで測定された値を示す。 各データセットの中央値を黒色の線で示し、偏差は95%信頼区間に対応する。記号****は、0日目と28日目とに得られた値の差が統計的に有意であることを示す(p<0.001、マン-ホイットニー検定)。
図3】変形例1に係る開発された作用物質の液体形態で免疫したボランティアにおけるSARS-CoV2の抗原に対する抗体介在性免疫応答の評価の結果を示す。Y軸-SARS-CoV-2のS糖タンパク質のRBDに対するIgG力価X軸-日数○(灰色)-各ボランティアについて得られた値を示す。 各データセットの幾何平均抗体力価を黒色の線で示す。21、28及び42日目に得られた値の間の統計的に有意な差を、ウィルコクソンT検定によるp値を上に付記した角括弧で示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
発明の実装
重症急性呼吸器症候群SARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための作用物質の開発における第一段階は、ワクチン抗原の選択であった。このプロセスの一環として、コロナウイルスSタンパク質が候補ワクチンの創製に最も有望な抗原であることを実証する文献調査を実施した。このI型膜貫通糖タンパク質は、細胞へのウイルス粒子の結合、融合及び侵入に関与する。実証されているとおり、これは中和抗体の誘導因子として働く(Liang M et al, SARS patients-derived human recombinant antibodies to S and M proteins efficiently neutralize SARS-coronavirus infectivity. Biomed Environ Sci. 2005 Dec;18(6):363-74)。
【0029】
SARS-CoV-2のSタンパク質に対する免疫応答の最も効果的な誘導を実現するため、本著者らは、発現カセットの様々な変形例を開発した。
【0030】
発現カセット配列番号1は、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む。CMVプロモーターは、数多くの細胞型で構成的発現をもたらす初期サイトメガロウイルス遺伝子のプロモーターである。しかしながら、CMVプロモーターによって制御される標的遺伝子の発現の強度は、細胞型によってばらつきがある。加えて、細胞培養時間が長くなると、DNAメチル化に関連する遺伝子発現の阻害に起因して、CMVプロモーターによって制御されるトランス遺伝子の発現レベルが下がることが示された[Wang W., Jia YL., Li YC., Jing CQ., Guo X., Shang XF., Zhao CP., Wang TY. Impact of different promoters, promoter mutation, and an enhancer on recombinant protein expression in CHO cells. // Scientific Reports - 2017. - Vol. 8. - P. 10416]。
【0031】
発現カセット配列番号2は、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む。CAG-プロモーターは合成プロモーターであり、CMVプロモーターの初期エンハンサー、ニワトリβ-アクチンプロモーター及びキメライントロン(ニワトリβ-アクチン及びウサギβ-グロビン)のスイッチをオンに切り換える。CMVプロモーターと比較して、CAGプロモーターの転写活性はより高いことが実験で示されている。[Yang C.Q., Li X.Y., Li Q., Fu S.L., Li H., Guo Z.K., Lin J.T., Zhao S.T. Evaluation of three different promoters driving gene expression in developing chicken embryo by using in vivo electroporation. // Genet. Mol. Res. - 2014. - Vol. 13. - P. 1270-1277]。
【0032】
発現カセット配列番号3は、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む。EF1プロモーターは、ヒト真核生物翻訳伸長因子1β(EF-1α)のプロモーターである。このプロモーターは、広範囲の細胞型において構成的に活性である[PMID: 28557288. The EF-1α promoter maintains high-level transgene expression from episomal vectors in transfected CHO-K1 cells]。遺伝子EF-1αは伸長因子1αをコードし、これは真核細胞において極めて一般的なタンパク質であり、哺乳類のほぼ全ての細胞型で発現する。このEF-1αプロモーターは、ウイルスプロモーターがその制御下にある遺伝子を発現させることができない細胞、及びウイルスプロモーターが徐々に消えていく細胞において活性であることが多い。
【0033】
発現カセット配列番号4は、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む。
【0034】
アデノウイルスベースのベクターシステムは、SARS-CoV-2コロナウイルスのSタンパク質をコードする遺伝子を人体に有効に送達することから選択した。アデノウイルスベクターは、幾つもの利点を提供する:アデノウイルスベクターは、ヒト細胞で複製することができず、分裂細胞及び非分裂細胞の両方に侵入し、細胞介在性及び抗体介在性免疫応答を誘導可能であり、及び高度な標的抗原発現を提供する。
【0035】
本著者らは、種々のアデノウイルス血清型をベースとして、2つの成分を含有する作用物質の変形例を開発し、また、1つの成分を含有する作用物質の変形例も開発した。このイベントでは、作用物質の第1の成分又は単一成分作用物質の投与後に発生し得るアデノウイルスのベクター部分に対する免疫応答がその後もブーストされず、2成分作用物質が投与された場合にも、又は単一成分作用物質の反復投与が必要になった場合にも、後者の場合には別のアデノウイルスをベースとする作用物質が投与され得るため、ワクチン抗原に対する抗原特異的免疫応答の生成に影響を及ぼさない。
【0036】
更に、開発された本作用物質は、SARS-CoV-2コロナウイルスに対する免疫応答を誘導するための作用物質の有用な範囲(armamentarium)を拡大し、これは、ある一部の集団で一部のアデノウイルス血清型に対して既存の免疫応答が存在するために生じる困難の解消をもたらすことになる。
【0037】
このように、これらの取り組みが、以下の作用物質変形例の開発に結び付いた。
1.ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有するか、そして/あるいはゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2を含有する、重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる疾患に対する特異的免疫を誘導するための作用物質。
2.ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有し、且つ、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2も含有するか、又は成分2のみを含有する、重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる疾患に対する特異的免疫を誘導するための作用物質。
3.ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分1を含有し、且つ、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の作用物質である成分2も含有する、重症急性呼吸器症候群ウイルスSARS-CoV-2によって引き起こされる疾患に対する特異的免疫を誘導するための作用物質。
【0038】
加えて、本作用物質のこれらの成分は、別個の容器に供給される。
【0039】
更に、本発明の著者らは、本作用物質の液体及び凍結乾燥形態を開発した。
【0040】
加えて、本発明の著者らは、開発した作用物質を-18℃未満の温度で凍結して保存すること、及び+2℃~+8℃の温度で凍結乾燥物として保存することの両方を可能にする緩衝溶液の変形例を選定した。
【0041】
更には、本作用物質を有効量で生物に投与することにより、年齢60歳超であり、そして/あるいは慢性疾患を有する対象において重症急性呼吸器症候群SARS-CoV-2に対する特異的免疫を誘導するための本作用物質の使用方法。
【0042】
加えて、本作用物質は、1成分のみを含有する作用物質を含め、一度に使用することができる。
【0043】
2成分作用物質は、少なくとも1週間の時間間隔を置いて逐次的に使用することができる。
【0044】
本作用物質は、鼻腔内投与及び/又は筋肉内投与することができる。
【0045】
開示される作用物質のいずれも、ワクチン接種に使用した作用物質を考慮することなくワクチン再接種に使用することができる。
【0046】
本発明の実施態様は、以下の例によって裏付けられる。
【実施例
【0047】
実施例1
ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムを含有する発現ベクターを入手する。
【0048】
第1段階で、本著者らは、プラスミドコンストラクトpAd26-Endsの設計を開発した。これは、ヒトアデノウイルス血清型26型のゲノムに相同な2つの部位(2本の相同性アーム)及びアンピシリン耐性遺伝子を保有する。一方の相同性アームが、ヒトアデノウイルス血清型26型ゲノムの始まり(左の逆方向末端反復からE1部位まで)及びpIXタンパク質を含むウイルスゲノム配列である。第2の相同性アームは、Е4部位のORF3からゲノムの終わりまでのヌクレオチド配列を含有する。pAd26-Endsコンストラクトは、ZAO「Eurogene」(モスクワ)によって合成された。
【0049】
ビリオンから単離したヒトアデノウイルス血清型26型のDNAをpAd26-Endsコンストラクトと混合した。pAd26-EndsとウイルスDNAとの間の相同組換えにより、E1部位が欠失しているヒトアデノウイルス血清型26型のゲノムを保有するプラスミドpAd26-dlE1が得られた。
【0050】
次に、得られたプラスミドpAd26-dlE1において、オープンリーディングフレーム6(ORF6-Ad26)を含有する配列を従来のクローニング方法を用いてヒトアデノウイルス血清型5型由来の類似配列に置き換えることにより、細胞培養株HEK293においてヒトアデノウイルス血清型26型が有効に複製できるようにした。これにより、プラスミドpAd26-dlE1-ORF6-Ad5が得られた。
【0051】
次に、構築したプラスミドpAd26-dlE1-ORF6-Ad5から従来の遺伝子工学方法を用いてアデノウイルスゲノムのE3部位(pIII遺伝子とU-エクソンとの間の約3321b.p.)を欠失させることにより、ベクターパッケージング容量を増加させた。これにより、ヒトアデノウイルス血清型5型のオープンリーディングフレームORF6を含有し、且つゲノムのE1及びE3部位が欠失しているヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする組換えベクターpAd26-only-nullが得られた。配列番号5をヒトアデノウイルス血清型26型の母配列として使用した。
【0052】
加えて、本著者らは、発現カセットの幾つかの設計を開発した:
-発現カセット配列番号1は、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む;
-発現カセット配列番号2は、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む;
-発現カセット配列番号3は、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む。
【0053】
プラスミドコンストラクトpAd26-Endsをベースとして、発現カセット配列番号1、配列番号2又は配列番号3をそれぞれ含有し、またヒトアデノウイルス血清型26型のゲノムの相同性アームも担持するコンストラクトpArms-26-CMV-S-CoV2、pArms-26-CAG-S-CoV2、pArms-26-EF1-S-CoV2を遺伝子工学方法を用いて入手した。次にコンストラクトpArms-26-CMV-S-CoV2、pArms-26-CAG-S-CoV2、pArms-26-EF1-S-CoV2を相同性アーム間のユニークな加水分解部位で線状化し、各プラスミドを組換えベクターpAd26-only-nullと混合した。相同組換えにより、ヒトアデノウイルス血清型5型のオープンリーディングフレームORF6を含有し、且つゲノムのE1及びE3部位が欠失しており、それぞれ、発現カセット配列番号1、配列番号2又は配列番号3によるヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムを保有するプラスミドpAd26-only-CMV-S-CoV2、pAd26-only-CAG-S-CoV2、pAd26-only-EF1-S-CoV2が得られた。
【0054】
第4段階で、プラスミドpAd26-only-CMV-S-CoV2、pAd26-only-CAG-S-CoV2、pAd26-only-EF1-S-CoV2を特異的制限エンドヌクレアーゼで加水分解して、ベクター部分を取り出した。入手されたDNA産物を細胞培養株HEK293のトランスフェクションに使用した。
【0055】
このようにして、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムを含有する発現ベクターを入手した。
【0056】
実施例2
ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする発現ベクターの形態の免疫生物学的作用物質を入手する。
【0057】
作業のこの段階では、実施例1で入手した発現ベクターを陰イオン交換及び排除クロマトグラフィーを用いて精製した。得られた懸濁液は、液体形態の作用物質用の緩衝液中又は凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にアデノウイルス粒子を含有した。
【0058】
このようにして、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されている、ヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする以下の免疫生物学的作用物質を入手した:
1.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されている、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号1によるヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad26-CMV-S-CoV2)。
2.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されている、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号1によるヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad26-CMV-S-CoV2)。
3.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されている、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号2によるヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad26-CAG-S-CoV2)。
4.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されている、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号2によるヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad26-CAG-S-CoV2)。
5.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されている、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号3によるヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad26-EF1-S-CoV2)。
6.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ部位ORF6-Ad26がORF6-Ad5に置換されている、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号3によるヒトアデノウイルス血清型26型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad26-EF1-S-CoV2)。
【0059】
提供される免疫生物学的作用物質の各々は、開発される作用物質の変形例1及び変形例2における成分1である。
【0060】
実施例3
サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムを含有する発現ベクターを入手する。
【0061】
第1段階で、サルアデノウイルス血清型25型のゲノムと相同な2つの部位(2本の相同性アーム)を保有するプラスミドコンストラクトpSim25-Endsの設計を開発した。一方の相同性アームが、サルアデノウイルス血清型25型ゲノムの始まり(左の逆方向末端反復からE1部位まで)及びE1部位の終わりからpIVa2タンパク質までの配列である。第2の相同性アームは、右の逆方向末端反復を含むアデノウイルスゲノムの終わりのヌクレオチド配列を含有する。pSim25-Endsコンストラクトは、ZAO「Eurogene」(モスクワ)によって合成された。
【0062】
ビリオンから単離したサルアデノウイルス血清型25型のDNAをpSim25-Endsと混合した。pSim25-EndsとウイルスDNAとの間の相同組換えにより、E1部位が欠失しているサルアデノウイルス血清型25型のゲノムを保有するプラスミドpSim25-dlE1が得られた。
【0063】
次に、構築したプラスミドpSim25-dlE1から、従来の遺伝子工学方法を用いてアデノウイルスゲノムのE3部位(遺伝子の始まり12.5Kから遺伝子14.7Kまでの3921b.p.)を取り除き、ベクターパッケージング容量を増加させた。これにより、ゲノムのE1及びE3部位が欠失しているサルアデノウイルス血清型25型の完全長ゲノムをコードするプラスミドコンストラクトpSim25-nullが得られた。配列番号6をサルアデノウイルス血清型25型の母配列として使用した。
【0064】
加えて、本著者らは、発現カセットの幾つかの設計を開発した:
-発現カセット配列番号4は、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む;
-発現カセット配列番号2は、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む;
-発現カセット配列番号3は、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む。
【0065】
次に、プラスミドコンストラクトpSim25-Endsをベースとして、発現カセット配列番号4、配列番号2又は配列番号3をそれぞれ含有し、またサルアデノウイルス血清型25型のゲノムの相同性アームも担持するコンストラクトpArms-Sim25-CMV-S-CoV2、pArms-Sim25-CAG-S-CoV2、pArms-Sim25-EF1-S-CoV2を遺伝子工学方法を用いて入手した。次にコンストラクトpArms-Sim25-CMV-S-CoV2、pArms-Sim25-CAG-S-CoV2、pArms-Sim25-EF1-S-CoV2を相同性アーム間のユニークな加水分解部位で線状化し、各プラスミドを組換えベクターpSim25-nullと混合した。相同組換えにより、E1及びE3部位が欠失しているサルアデノウイルス血清型25型の完全長ゲノム、及びそれぞれ発現カセット配列番号4、配列番号2又は配列番号3を含有する組換えプラスミドベクターpSim25-CMV-S-CoV2、pSim25-CAG-S-CoV2、pSim25-EF1-S-CoV2が得られた。
【0066】
第3段階で、プラスミドpSim25-CMV-S-CoV2、pSim25-CAG-S-CoV2、pSim25-EF1-S-CoV2を特異的制限エンドヌクレアーゼで加水分解して、ベクター部分を取り出した。入手されたDNA産物を細胞培養株HEK293のトランスフェクションに使用した。得られた材料を調製量の組換えアデノウイルスの蓄積に使用した。
【0067】
この作業の結果、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子を含有するヒトアデノウイルス血清型25型:simAd25-CMV-S-CoV2(発現カセット配列番号4を含有する)、simAd25-CAG-S-CoV2(発現カセット配列番号2を含有する)、simAd25-EF1-S-CoV2(発現カセット配列番号3を含有する)が入手された。
【0068】
このようにして、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムを含有する発現ベクターを入手した。
【0069】
実施例4
ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、且つ配列番号4、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的発現ベクターの形態の作用物質を入手すること。
【0070】
作業のこの段階では、実施例3で入手した発現ベクターを陰イオン交換及び排除クロマトグラフィーを用いて精製した。得られた懸濁液は、液体形態の作用物質用の緩衝液中又は凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にアデノウイルス粒子を含有した。
【0071】
このようにして、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、サルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする以下の免疫生物学的作用物質を入手した:
1.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号1によるサルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(simAd25-CMV-S-CoV2)。
2.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号1によるサルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(simAd25-CMV-S-CoV2)。
3.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号2によるサルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(simAd25-CAG-S-CoV2)。
4.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号2によるサルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(simAd25-CAG-S-CoV2)。
5.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号3によるサルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(simAd25-EF1-S-CoV2)。
6.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失している、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号3によるサルアデノウイルス血清型25型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(simAd25-EF1-S-CoV2)。
【0072】
提供される免疫生物学的作用物質の各々は、開発された作用物質の変形例1における成分2及び開発された作用物質の変形例3における成分1である。
【0073】
実施例5
ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムを含有する発現ベクターを入手する。
【0074】
第1段階で、ヒトアデノウイルス血清型5型のゲノムと相同な2つの部位(2本の相同性アーム)を保有するプラスミドコンストラクトpAd5-Endsの設計を開発した。一方の相同性アームがヒトアデノウイルス血清型5型の始まりであり(左の逆方向末端反復からE1部位まで)、この配列はウイルスゲノムのpIXタンパク質を含む。第2の相同性アームは、E4部位のORF3の後からゲノムの終わりまでのヌクレオチド配列を含有する。pAd5-Endsコンストラクトは、ZAO「Eurogene」(モスクワ)によって合成された。
【0075】
ビリオンから単離したヒトアデノウイルス血清型5型のDNAをpAd5-Endsコンストラクトと混合した。pAd5-EndsとウイルスDNAとの間の相同組換えにより、E1部位が欠失しているヒトアデノウイルス血清型5型のゲノムを保有するプラスミドpAd5-dlE1が得られた。
【0076】
次に、構築したプラスミドpAd5-dlE1から、従来の遺伝子工学方法を用いてアデノウイルスゲノムのE3部位(遺伝子の終わり12.5KからU-エクソン配列の始まりまでの約2685b.p.)を欠失させて、ベクターパッケージング容量を増加させた。これにより、ゲノムからE1及びЕ3が欠失しているヒトアデノウイルス血清型5型のゲノムをベースとする組換えプラスミドベクターpAd5-too-nullが得られた。配列番号7をヒトアデノウイルス血清型5型の母配列として使用した。
【0077】
加えて、本著者らは、発現カセットの幾つかの設計を開発した:
-発現カセット配列番号1は、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む;
-発現カセット配列番号2は、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む;
-発現カセット配列番号3は、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含む。
【0078】
次に、プラスミドコンストラクトpAd5-Endsをベースとして、発現カセット配列番号1、配列番号2又は配列番号3をそれぞれ含有し、またヒトアデノウイルス血清型5型のゲノムの相同性アームも担持するコンストラクトpArms-Ad5-CMV-S-CoV2、pArms-Ad5-CAG-S-CoV2、pArms-Ad5-EF1-S-CoV2を遺伝子工学方法を用いて入手した。
【0079】
次にコンストラクトpArms-Ad5-CMV-S-CoV2、pArms-Ad5-CAG-S-CoV2、pArms-Ad5-EF1-S-CoV2を相同性アーム間のユニークな加水分解部位で線状化し、各プラスミドを組換えベクターpAd5-too-nullと混合した。相同組換えにより、ゲノムからЕ1及びЕ3部位が欠失した、及びそれぞれ発現カセット配列番号1、配列番号2又は配列番号3によるヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムを保有するプラスミドpAd5-too-CMV-S-CoV2、pAd5-too-GAC-S-CoV2、pAd5-too-EF1-S-CoV2が得られた。
【0080】
第4段階で、プラスミドpAd5-too-CMV-S-CoV2、pAd5-too-GAC-S-CoV2、pAd5-too-EF1-S-CoV2を特異的制限エンドヌクレアーゼで加水分解して、ベクター部分を取り出した。入手されたDNA産物を細胞培養株HEK293のトランスフェクションに使用した。得られた材料を調製量の組換えアデノウイルスの蓄積に使用した。
【0081】
この作業の結果、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子を含有するヒトアデノウイルス血清型5型:Ad5-CMV-S-CoV2(発現カセット配列番号1を含有する)、Ad5-CAG-S-CoV2(発現カセット配列番号2を含有する)、Ad5-EF1-S-CoV2(発現カセット配列番号3を含有する)が入手された。
【0082】
このようにして、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムを含有する発現ベクターを入手した。
【0083】
実施例6
ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、配列番号1、配列番号2、配列番号3から選択される発現カセットが組み込まれている、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的発現ベクターの形態の作用物質を入手する。
【0084】
作業のこの段階では、実施例5で入手した発現ベクターを陰イオン交換及び排除クロマトグラフィーを用いて精製した。得られた懸濁液は、液体形態の作用物質用の緩衝液中又は凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にアデノウイルス粒子を含有した。
【0085】
このようにして、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、ヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする以下の免疫生物学的作用物質:
1.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号1によるヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad5-CMV-S-CoV2)。
2.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号1によるヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad5-CMV-S-CoV2)。
3.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号2によるヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad5-CAG-S-CoV2)。
4.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、CAGプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号2によるヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad5-CAG-S-CoV2)。
5.液体形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号3によるヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad5-EF1-S-CoV2)。
6.凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中にある、ゲノムからE1及びE3部位が欠失しており、EF1プロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセット、配列番号3によるヒトアデノウイルス血清型5型の組換え株のゲノムをベースとする免疫生物学的作用物質(Ad5-EF1-S-CoV2)。
【0086】
提供される免疫生物学的作用物質の各々は、開発された作用物質の変形例1及び変形例2における成分1である。
【0087】
提供される免疫生物学的作用物質の各々は、開発された作用物質の変形例1及び変形例3における成分2である。
【0088】
実施例7
緩衝溶液の調製。
【0089】
特許請求される発明に係る開発された作用物質は、別個のバイアルに供給される2つの成分を含む。各成分は、緩衝溶液中にある発現カセットによる組換えアデノウイルスをベースとする免疫生物学的作用物質である。
【0090】
本発明の著者らは、組換えアデノウイルス粒子の安定性を維持する能力のある緩衝溶液の組成を同定した。この溶液は、以下からなる:
1.トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(トリス)、これは溶液のpHを維持するために必要である。
2.塩化ナトリウム、これは適切なイオン強度及び容量オスモル濃度を達成するために加えられる。
3.サッカロース、これは凍結保護剤として使用される。
4.塩化マグネシウム六水和物、これは二価カチオンの供給源として必要である。
5.EDTA、これはフリーラジカル酸化の阻害剤として使用される。
6.ポリソルベート80、これは界面活性剤として使用される。
7.エタノール95%、これはフリーラジカル酸化の阻害剤として使用される。
8.水、これは溶媒として使用される。
【0091】
本発明の著者らは、液体形態の作用物質用及び凍結乾燥形態の医薬製剤用に、緩衝溶液の2つの変形例を開発した。
【0092】
液体形態の作用物質用の緩衝溶液の組成における化合物の濃度を決定するため、実験群の変形例を幾つか入手した(表1)。調製した緩衝溶液の各々に、作用物質の成分のうちの1つを加えた:
1.CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセットによる組換えヒトアデノウイルス血清型26型をベースとする免疫生物学的作用物質、1×1011ウイルス粒子。
2.CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセットによる組換えヒトアデノウイルス血清型5型をベースとする免疫生物学的作用物質、1×1011ウイルス粒子。
3.CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセットによる組換えサルアデノウイルス血清型25型をベースとする免疫生物学的作用物質、1×1011ウイルス粒子。
【0093】
このようにして、作用物質組成物におけるアデノウイルス血清型の各々の安定性を試験した。調製した医薬製剤を-18℃及び-70℃の温度で3ヵ月間貯蔵し、続いて解凍し、組換えアデノウイルス力価の変化を評価した。
【0094】
【表1】
【0095】
この実験の結果から、液体形態の作用物質用の緩衝液中に-18℃及び-70℃の温度で3ヵ月間貯蔵した後にも、組換えアデノウイルスの力価は変化しなかったことが明らかになった。
【0096】
従って、開発された液体形態の作用物質用の緩衝溶液は、以下の活性成分範囲(重量%):
トリス:0.1831重量%~0.3432重量%;
塩化ナトリウム:0.3313重量%~0.6212重量%;
サッカロース:3,7821重量%~7,0915重量%;
塩化マグネシウム六水和物:0.0154重量%~0.0289重量%;
EDTA:0.0029重量%~0.0054重量%;
ポリソルベート80:0.0378重量%~0.0709重量%;
エタノール95%:0.0004重量%~0.0007重量%;
溶媒:残量
にある開発された作用物質の全ての成分の安定性をもたらす。
【0097】
凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝溶液の組成における化合物の濃度を決定するため、実験群の変形例を幾つか入手した(表2)。調製した緩衝溶液の各々に、作用物質の成分のうちの1つを加えた:
1.CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセットによる組換えヒトアデノウイルス血清型26型をベースとする免疫生物学的作用物質、1×1011ウイルス粒子。
2.CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセットによる組換えヒトアデノウイルス血清型5型をベースとする免疫生物学的作用物質、1×1011ウイルス粒子。
3.CMVプロモーターと、SARS-CoV-2のSタンパク質をコードする遺伝子と、ポリアデニル化シグナルとを含有する発現カセットによる組換えサルアデノウイルス血清型25型をベースとする免疫生物学的作用物質、1×1011ウイルス粒子。
【0098】
このようにして、作用物質組成物におけるアデノウイルス血清型の各々の安定性を試験した。調製した医薬製剤を+2及び+8℃℃の温度で3ヵ月間貯蔵し、組換えアデノウイルス力価の変化を評価した。
【0099】
【表2】
【0100】
この実験の結果から、凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝液中に+2℃及び+8℃の温度で3ヵ月間貯蔵した後にも、組換えアデノウイルスの力価は変化しなかったことが明らかになった。
【0101】
従って、開発された凍結乾燥形態の作用物質用の緩衝溶液は、以下の活性成分範囲(重量%):
トリス:0.0180重量%~0.0338重量%;
塩化ナトリウム:0.1044重量%~0.1957重量%;
サッカロース:5,4688重量%~10.2539重量%;
塩化マグネシウム六水和物:0.0015重量%~0.0028重量%;
EDTA:0.0003重量%~0.0005重量%;
ポリソルベート80:0.0037重量%~0.0070重量%;
溶媒:残量
にある開発された作用物質の全ての成分の安定性をもたらす。
【0102】
実施例8
開発された作用物質をワクチン接種した高齢動物における体液性免疫応答の評価に基づく免疫有効性の研究。
【0103】
抗体力価は、免疫有効性の主要な特性の一つである。本実施例では、ベースラインと比較した作用物質の投与後21日目の実験動物におけるSARS-CoV-2糖タンパク質に対する抗体の力価でデータを提示する。
【0104】
この実験では、20ヵ月齢の雌マウスC57/Bl6を使用した。全ての動物を各群3匹の動物とする43群に分け、用量1011ウイルス粒子/100μlの作用物質の成分1と、続く用量1011ウイルス粒子/100μlの成分2、又は用量1011ウイルス粒子/100μlの成分1のみ、又は用量1011ウイルス粒子/100μlの成分2のみの筋肉内注射を投与した。従って、以下の動物群:
1)Ad26-CMV-S-CoV2(成分1)、Ad5-CMV-S-CoV2(成分2);
2)Ad26-CMV-S-CoV2(成分1)、Ad5-CAG-S-CoV2(成分2);
3)Ad26-CMV-S-CoV2(成分1)、Ad5-EF1-S-CoV2(成分2);
4)Ad26-CAG-S-CoV2(成分1)、Ad5-CMV-S-CoV2(成分2);
5)Ad26-CAG-S-CoV2(成分1)、Ad5-CAG-S-CoV2(成分2);
6)Ad26-CAG-S-CoV2(成分1)、Ad5-EF1-S-CoV2(成分2);
7)Ad26-EF1-S-CoV2(成分1)、Ad5-CMV-S-CoV2(成分2);
8)Ad26-EF1-S-CoV2(成分1)、Ad5-CAG-S-CoV2(成分2);
9)Ad26-EF1-S-CoV2(成分1)、Ad5-EF1-S-CoV2(成分2);
10)Ad26-null(成分1)、Ad5-null(成分2);
11)Ad26-CMV-S-CoV2(成分1)、simAd25-CMV-S-CoV2(成分2);
12)Ad26-CMV-S-CoV2(成分1)、simAd25-CAG-S-CoV2(成分2);
13)Ad26-CMV-S-CoV2(成分1)、simAd25-EF1-S-CoV2(成分2);
14)Ad26-CAG-S-CoV2(成分1)、simAd25-CMV-S-CoV2(成分2);
15)Ad26-CAG-S-CoV2(成分1)、simAd25-CAG-S-CoV2(成分2);
16)Ad26-CAG-S-CoV2(成分1)、simAd25-EF1-S-CoV2(成分2);
17)Ad26-EF1-S-CoV2(成分1)、simAd25-CMV-S-CoV2(成分2);
18)Ad26-EF1-S-CoV2(成分1)、simAd25-CAG-S-CoV2(成分2);
19)Ad26-EF1-S-CoV2(成分1)、simAd25-EF1-S-CoV2(成分2);
20)Ad26-null(成分1)、simAd25-null(成分2);
21)simAd25-CMV-S-CoV2(成分1)、Ad5-CMV-S-CoV2(成分2);
22)simAd25-CMV-S-CoV2(成分1)、Ad5-CAG-S-CoV2(成分2);
23)simAd25-CMV-S-CoV2(成分1)、Ad5-EF1-S-CoV2(成分2);
24)simAd25-CAG-S-CoV2(成分1)、Ad5-CMV-S-CoV2(成分2);
25)simAd25-CAG-S-CoV2(成分1)、Ad5-CAG-S-CoV2(成分2);
26)simAd25-CAG-S-CoV2(成分1)、Ad5-EF1-S-CoV2(成分2);
27)simAd25-EF1-S-CoV2(成分1)、Ad5-CMV-S-CoV2(成分2);
28)simAd25-EF1-S-CoV2(成分1)、Ad5-CAG-S-CoV2(成分2);
29)simAd25-EF1-S-CoV2(成分1)、Ad5-EF1-S-CoV2(成分2);
30)simAd25-null(成分1)、Ad5-null(成分2);
31)Ad26-CMV-S-CoV2;
32)Ad26-CAG-S-CoV2;
33)Ad26-EF1-S-CoV2;
34)Ad26-null;
35)Ad5-CMV-S-CoV2;
36)Ad5-CAG-S-CoV2;
37)Ad5-EF1-S-CoV2;
38)Ad26-null;
39)simAd25-CMV-S-CoV2;
40)simAd25-CAG-S-CoV2;
41)simAd25-EF1-S-CoV2;
42)simAd25-null;
43)リン酸緩衝生理食塩水
を調べた。
【0105】
免疫化後3週間で尾静脈から血液を採取し、続いて血清を分離した。酵素イムノアッセイ(EIA)によって以下のプロトコルに従い抗体力価を決定した:
1)96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに抗原を+4℃の温度で16時間吸着させた。
2)非特異的結合を除外するため、100μL/ウェルの量のTPBSに溶解した5%ミルクでプレートを「ロック」した。プレートを振盪機上で+37℃で1時間インキュベートした。
3)免疫化マウスの血清の2倍希釈系列を調製した。各試料につき合計12段階の希釈液を作成した。
4)プレートウェルに50μLの各希釈血清試料を加えた。
5)次にプレートを+37℃で1時間インキュベートした。
6)インキュベーションの終了後、3分量のリン酸緩衝液でウェルを洗浄した。
7)次に西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗マウスIgG抗体を加えた。
8)次にプレートを+37℃で1時間インキュベートした。
9)インキュベーションの終了後、3分量のリン酸緩衝液でウェルを洗浄した。
10)次にテトラメチルベンジジン(TMB)溶液を加えた。これは西洋ワサビ基質であり、反応の過程で色付きの化合物に変わる。15分以内に硫酸を加えて反応を停止させた。次に溶液の光学濃度(OD)を分光光度計を用いてウェル毎に波長450nmで測定した。
【0106】
抗体力価は、陰性対照群と比べて有意に高い溶液光学濃度を示す最も高い希釈度として決定した。結果(幾何平均)を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
【表4】
【0109】
【表5】
【0110】
【表6】
【0111】
【表7】
【0112】
提示されるデータから、作用物質の全ての変形例が、高齢動物においてSARS-CoV-2糖タンパク質に対する体液性免疫応答を誘導することが明らかである。
【0113】
実施例9
体液性免疫応答の評価に基づく作用物質成分による鼻腔内免疫の有効性の研究。
【0114】
本研究の目的は、開発された作用物質の鼻腔内(intransal)投与後の有効性を評価することであった。
【0115】
この実験では、体重18~20gの雌マウスC57/Bl6、各群5匹の動物。以下の動物群を調べた:
1)液体形態の組換えヒトアデノウイルス血清型26型のゲノムをベースとする作用物質(Ad26-too-CMV-S-CoV2)の単回鼻腔内投与、5×1010ウイルス粒子/用量。
2)液体形態の組換えヒトアデノウイルス血清型5型のゲノムをベースとする作用物質(Ad5-too-CMV-S-CoV2)の単回鼻腔内投与、5×1010ウイルス粒子/用量。
3)液体形態の組換えサルアデノウイルス血清型25型のゲノムをベースとする作用物質(simAd25-too-CMV-S-CoV2)の単回鼻腔内投与、5×1010ウイルス粒子/用量。
4)液体形態の組換えヒトアデノウイルス血清型26型のゲノムをベースとする作用物質(Ad26-too-CMV-S-CoV2)の単回鼻腔内投与、5×1011ウイルス粒子/用量。
5)液体形態の組換えヒトアデノウイルス血清型5型のゲノムをベースとする作用物質(Ad5-too-CMV-S-CoV2)の単回鼻腔内投与、5×1011ウイルス粒子/用量。
6)液体形態の組換えサルアデノウイルス血清型25型のゲノムをベースとする作用物質(simAd25-too-CMV-S-CoV2)の単回鼻腔内投与、5×1011ウイルス粒子/用量。
7)緩衝溶液(陰性対照)の単回鼻腔内投与。
【0116】
免疫化後3週間で尾静脈から血液を採取し、続いて血清を分離した。酵素イムノアッセイ(EIA)によって以下のプロトコルに従い抗体力価を決定した:
1)96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに抗原を+4℃の温度で16時間吸着させた。
2)非特異的結合を除外するため、100μL/ウェルの量のTPBSに溶解した5%ミルクでプレートを「ロック」した。プレートを振盪機上で+37℃で1時間インキュベートした。
3)免疫化マウスの血清の2倍希釈系列を調製した。各試料につき合計12段階の希釈液を作成した。
4)プレートウェルに50μLの各希釈血清試料を加えた。
5)次にプレートを+37℃で1時間インキュベートした。
6)インキュベーションの終了後、3分量のリン酸緩衝液でウェルを洗浄した。
7)次に西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート二次抗マウスIgG抗体を加えた。
8)次にプレートを+37℃で1時間インキュベートした。
9)インキュベーションの終了後、3分量のリン酸緩衝液でウェルを洗浄した。
10)次にテトラメチルベンジジン(TMB)溶液を加えた。これは西洋ワサビ基質であり、反応の過程で色付きの化合物に変わる。15分以内に硫酸を加えて反応を停止させた。次に溶液の光学濃度(OD)を分光光度計を用いてウェル毎に波長450nmで測定した。
【0117】
抗体力価は、陰性対照群と比べて有意に高い溶液光学濃度を示す最も高い希釈度として決定した。結果(幾何平均)を表4に示す。
【0118】
【表8】
【0119】
提示されるデータは、開発された医薬製剤で動物を鼻腔内免疫すると、SARS-CoV-2のSタンパク質に対する抗体力価が増加したことを実証している。従って、この実験の結果は、特異的免疫SARS-CoV-2ウイルスを誘導するための開発された作用物質の鼻腔内経路による使用を裏付けている。
【0120】
実施例10
慢性疾患を有する年齢60歳超のボランティアにおける開発された作用物質の安全性の研究。
【0121】
本研究には、110例の年齢60歳超のボランティアが登録した。提案される免疫レジメンには、作用物質、変形例1の成分1及び成分2(Ad26-CMV-S-CoV2、Ad5-CMV-S-CoV2)の逐次筋肉内投与が含まれた。1例のボランティアは、同意を撤回したためワクチン接種前に中止となり、109例のボランティアが研究治療を開始した。別のボランティアは作用物質の成分1を投与されたが、成分2の投与前に中止となった。従って、108例のボランティアに作用物質の両方の成分が投与された。フル・アナリシス・セット(n=109)に基づく試料には、56例(51.4%)の男性及び53例(48.6%)の女性、107例(98.2%)の白色人種ボランティア及び2例(1.8%)のアジア人種ボランティアが含まれ、平均年齢68.2(5.96)歳で60~85歳の範囲であった。体格指数(平均値(SD))は28.4(4.11)kg/m2であった。
【0122】
この年齢コホートについて予想されるとおり、106例(97.2%)の病歴に高い罹患率が報告された。最も一般的な併発疾患は、動脈性高血圧症、肥満及び脂質異常症であった。
【0123】
研究中、17例(15.60%)のボランティアに合計35件の有害事象(AE)が報告された。16例(14.68%)のボランティアには、34件の重篤でないAEが見られた。1例(0.92%)のボランティアにおける1件のAE(心房細動)は、判定基準「入院又は現在の入院期間の延長が必要」を満たしたため重篤と判断され、本試験作用物質との原因関連性は疑わしいと評価され、中等度の重症度のこのSAEには医学的治療が必要となり、アウトカムは回復であった。
【0124】
本研究の製剤との関連性に基づけば、報告された全てのAEの分布は以下のとおりであった:12件のAEが本製剤に関連すると見なされ(確実な関連性)、89件のAEがほぼ確実に関連性があると見なされ、4件のAEが関連性がある可能性があると見なされ、7件のAEについては関連性が疑わしい、及び3件のAEについては「不明」と判断された。
【0125】
重症度に関しては、重篤でないAEはいずれも軽症であった(34件のAE)。1件のAE(上述のSAE)のみが、中等度の重症度と評価された。
【0126】
AEが見られたボランティアについて、表5にMedDRA器官別大分類別に示した。
【0127】
【表9】
【0128】
データはX(%)Yとして示し、ここでX(%)は、少なくとも1件の事象で報告があったボランティアの人数(パーセンテージの欄)であり、及びYは事象の件数である。
【0129】
本研究の結果に基づけば、研究中に年齢60歳超のボランティアに認められたAEが、ほとんどのワクチンに典型的なものであると結論付けることができる。重篤なAEは記録されなかった。
【0130】
実施例11
年齢60歳超のボランティアにおける細胞介在性免疫レベルの評価に基づく開発された作用物質の免疫有効性の研究。
【0131】
本研究の目的は、開発された作用物質の様々な変形例による免疫後の慢性疾患を有する年齢60歳超のボランティアにおける増殖性T細胞のパーセンテージの測定及び単核球によって分泌されるインターフェロンガンマのインビトロアッセイに基づきSARS-CoV-2ウイルスに対する細胞介在性免疫のレベルを評価することであった。
【0132】
本研究には、110例の年齢60歳超のボランティアが登録した。提案される免疫レジメンには、作用物質、変形例1の成分1及び成分2(Ad26-CMV-S-CoV2、Ad5-CMV-S-CoV2)の逐次筋肉内投与が含まれた。1例のボランティアは、同意を撤回したためワクチン接種前に中止となり、109例のボランティアが研究治療を開始した。別のボランティアは作用物質の成分1を投与されたが、成分2の投与前に中止となった。従って108例のボランティアに作用物質の両方の成分が投与された。フル・アナリシス・セット(n=109)に基づく試料には、56例(51.4%)の男性及び53例(48.6%)の女性、107例(98.2%)の白色人種ボランティア及び2例(1.8%)のアジア人種ボランティアが含まれ、平均年齢68.2(5.96)歳で60~85歳の範囲であった。体格指数(平均値(SD))は28.4(4.11)kg/m2であった。
【0133】
この年齢コホートについて予想されるとおり、106例の病歴に高い罹患率が報告された(97.2%)。最も一般的な併発疾患は、動脈性高血圧症、肥満及び脂質異常症であった。
【0134】
免疫前及び免疫後28日目にボランティアから血液試料を採取し、フィコール(ficcol)密度勾配(1,077g/mL;PanEco)で遠心することにより単核球を単離した。次に単離された細胞をCFSE蛍光色素(Invivogen、米国)で染色し、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルに加えた(2×10細胞/ウェル)。次に、培養培地にコロナウイルスSタンパク質を加えることにより(最終的なタンパク質濃度は最高1μg/mL)、リンパ球をインビトロで再刺激した。抗原を加えないインタクトな細胞を陰性対照として供した。抗原を加えて72時間後に増殖性細胞のパーセンテージを測定し、培養培地を回収してインターフェロンガンマレベルを測定した。
【0135】
T細胞マーカー分子CD3、CD4、CD8に対する抗体(抗CD3 Pe-Cy7(BD Biosciences、クローンSK7)、抗CD4 APC(BD Biosciences、クローンSK3)、抗CD8 PerCP-Cy5.5(BD Biosciences、クローンSK1))で細胞を染色することにより、増殖性細胞のパーセンテージを評価した。フロー細胞蛍光分析装置BD FACS AriaIII(BD Biosciences、米国)を使用して細胞混合物中の増殖性の(保有するCFSE色素の量が少ない)CD4+及びCD8+ T細胞を同定した。コロナウイルス抗原Sで再刺激した細胞の分析から得られた結果から、インタクトな細胞の分析から得られた結果を差し引くことにより、各試料中の結果として生じた増殖性細胞のパーセンテージを決定した。最終的な結果を図1に示す。
【0136】
本研究の結果に基づけば、年齢60歳超のボランティアを開発された作用物質で2度免疫すると、ワクチンの最初の成分の投与後28日目に抗原特異的(scpecific)CD4+及びCD8+ T細胞が生成されることになると結論付けることができる。60歳超の年齢コホートのボランティアにおける増殖性CD4+及びCD8+ T細胞のパーセンテージ中央値は、それぞれ、0.7(CI:0.5~2.2)及び0.8(CI:0.3~2.2)であった。免疫前(0日目)及び最初のワクチン成分の投与28日後に測定されたCD4+及びCD8+の両方のT細胞の値の差は、統計的に有意であった、p<0.001。
【0137】
本研究の第2段階では、年齢60歳超のボランティアから採取したヒト血中単核球の培養培地中のインターフェロンガンマ(IFNγ)の濃度を評価した。開発された作用物質による免疫前及び免疫28日後に採取した血液試料から、フィコール(ficcol)密度勾配(1,077g/mL;PanEco)で遠心することにより単核球を単離した。細胞をSARS-CoV-2のSタンパク質で再刺激し、製造者の指示に従いインターフェロンガンマEIA-BESTキット(VECTOR BEST、ロシア)を使用して再刺激の96時間後にインターフェロンガンマ(IFNγ)濃度を測定した。
【0138】
式Х=Сst/Сint[式中、ХはIFNγ濃度の増加(倍数)、Сst-刺激を受けた細胞の培地中におけるIFNγ濃度(pg/mL)、Сint-刺激を受けていない(インタクトな)細胞の培地中におけるIFNγ濃度(pg/mL)]から、IFNγ濃度の増加を決定した。
【0139】
本研究の結果を図2に示す。
【0140】
提示される結果から明らかなとおり、開発された作用物質で年齢60歳超のボランティアを免疫すると、最初の成分の投与後29日以内に抗原特異的インターフェロン分泌細胞の生成につながる。本研究の28日目、年齢60歳超のボランティアにおけるインターフェロンガンマの増加分中央値は4.041(CI:2.106~6.802であった。免疫前(0日目)と最初のワクチン成分の投与28日後との間のインターフェロンガンマ増加分の差は、統計的に有意であった、p<0.001。本研究の結果は、開発された作用物質による免疫後にボランティアにおいて細胞介在性の適応免疫エレメントが顕著に生成されることを実証している。
【0141】
このように、上記のデータに基づけば、開発された作用物質で免疫すると、年齢60歳超のボランティアにおいてSARS-CoV-2に対する強力な抗原特異的細胞介在性免疫エレメントが誘導されると結論付けることができ、この結論は、免疫前及び免疫後の測定パラメータの高度な統計的有意性によって裏付けられる。
【0142】
実施例12
年齢60歳超のボランティアにおける体液性免疫レベルの評価に基づく開発された作用物質の免疫有効性の研究。
【0143】
本研究の目的は、慢性疾患を有する年齢60歳超のボランティアにおいて開発された作用物質による免疫後のSARS-CoV-2のSタンパク質のRBDに対する抗体力価を測定することに基づき、SARS-CoV-2ウイルスに対する体液性免疫のレベルを評価することであった。
【0144】
本研究には、110例の年齢60歳超のボランティアが登録した。提案される免疫レジメンには、作用物質、変形例1の成分1及び成分2(Ad26-CMV-S-CoV2、Ad5-CMV-S-CoV2)を、成分間に21日の間隔を置いて逐次筋肉内投与することが含まれた。1例のボランティアは、同意を撤回したためワクチン接種前に中止となり、109例のボランティアが研究治療を開始した。別のボランティアは作用物質の成分1を投与されたが、成分2の投与前に中止となった。従って、108例のボランティアに作用物質、変形例1の両方の成分が投与された。
【0145】
この年齢コホートについて予想されるとおり、106例の病歴に高い罹患率が報告された。最も一般的な併発疾患は、動脈性高血圧症、肥満及び脂質異常症であった。
【0146】
108例の60歳超のボランティアで21日目及び28日目に、並びに63例のボランティアで42日目に、抗原特異的IgGの力価を評価した。
【0147】
抗体の力価は、ロシア連邦保健省(Ministry of Health of Russia)のガマレヤ記念国立疫学・微生物学研究センター(FGBU N.F.Gamaleya National Research Center For Epidemiology And Microbiology)によって開発された、SARS-CoV-2のSタンパク質のRBDに対するIgGを測定可能な酵素イムノアッセイ試験システム(RZN 2020/10393 2020-05-18)を用いて測定した。
【0148】
予めRBD(100ng/ウェル)を吸着させたマイクロタイタープレートを5分量の洗浄緩衝液で洗浄した。次に2レプリケートで100μLの陽性対照及び2レプリケートで100μLの陰性対照をウェルに加えた。残りのウェルに、試験試料の2倍希釈系列(各試料2レプリケート)を加えた。プレートを粘着フィルムで覆い、300rpmで連続的に振盪しながら温度+37℃で1時間インキュベートした。次にウェルを5分量の洗浄緩衝液で洗浄した。各ウェルに、コンジュゲート型モノクローナル抗体の100μLのワーキング溶液を加えた;プレートを粘着フィルムで覆い、300rpmで連続的に振盪しながら温度+37℃で1時間インキュベートした。次にウェルを5分量の洗浄緩衝液で洗浄した。各ウェルに100μLの色原体基質溶液を加え、プレートを暗所下、温度+20℃で15分間インキュベートした。次に、各ウェルに停止試薬(50μLの1M硫酸溶液)を加えることによって反応を停止させた。反応終了後10分以内に、分光光度計を使用して450nmで光学濃度を測定することにより結果を記録した。
【0149】
IgG力価は、対照血清(即ち、免疫前の対象の血清)で得られた値の2倍を超えるOD450を伴った免疫後の対象の最も高い血清希釈度として決定した。
【0150】
開発された作用物質の様々な変形例の投与後における60歳超のボランティアの血清中のSARS-CoV-2抗原に対する抗体力価の分析結果を図3に示す。
【0151】
提示されるデータから明らかなとおり、開発された作用物質でボランティアを連続して免疫することによって誘導される抗体の力価は、免疫から時間が経過するにつれ増大した。21日目(成分2の投与前)に53.2%のボランティア及び28日目(成分2の投与7日後)に98.1%のボランティアで、SARS-Cov2のSタンパク質のRBDに特異的なクラスG抗体(力価>1:50)が検出された。28日目には(幾何平均力価1719.9)、21日目(幾何平均力価33.8)と比較して抗原特異的IgG力価の有意な増加が認められた。42日目、本報告をまとめた時点で、108例中63例のボランティアが研究に残っていた。これらの研究に残っていたボランティアでは、抗体力価(幾何平均力価2926.2)が、同じボランティアで測定した28日目の力価値(幾何平均力価1773.5)と比較して有意に増加した。注目すべきことに、42日目、血液試料が利用可能なボランティアの100%に抗原特異的クラスG抗体が検出された。
【0152】
要約すれば、ボランティアの血清中における抗体力価の評価結果から、以下のことが示唆される:
1.作用物質の成分1による単回の免疫は、免疫後21日目に60歳超の年齢コホートのボランティアの53.2%に抗原特異的IgG抗体の生成を誘導することができる。
2.60歳超の年齢コホートのボランティアを作用物質の両方の成分で免疫すると、免疫後28日目に60歳超の年齢コホートのボランティアの98.1%に抗原特異的IgG抗体の生成をもたらすことができる。
3.開発された作用物質で免疫された60歳超の年齢コホートのボランティアでは、抗体力価は免疫開始後42日目まで増大し続ける。収集されたデータによれば、抗原特異的IgG抗体は免疫開始から42日目の後も増大し続けることが示唆される。
【0153】
実施例13
慢性疾患を有する対象についての開発された作用物質による免疫の有効性及び安全性の評価。
【0154】
本臨床開発プログラムには、35963例のボランティアにおける開発された作用物質、変形例1(Ad26-CMV-S-CoV2、Ad5-CMV-S-CoV2)の研究が含まれ、19,866例の対象が作用物質の両方の成分で免疫された(21日間隔で三角筋への筋肉内用量1×1011v.p.)。
【0155】
本研究には、年齢18~92歳のボランティアが登録した。群1(試験作用物質、SA)及び群II(プラセボ)の平均年齢は、それぞれ45.3±12.0歳及び45.3±11.9歳であった)。
【0156】
併発疾患の分析では、試験作用物質群の3687例のボランティア(24.7%)及びプラセボ群の1235例のボランティア(25.3%)が共存症を有することが明らかになった(表6)。
【0157】
【表10】
【0158】
スクリーニング来院時の検診から、42件の臨床的に有意な異常を含む、823件の異常の存在が見つかった。ほとんどの異常は、心血管系が関わるものであった(823件の異常中487件、即ち59.2%)(表7)。
【0159】
【表11】
【0160】
現在、中間免疫原性分析データが利用可能であり、それによれば、このワクチンがボランティアにおいて免疫応答を誘導することが明らかになった。本研究の42日目、抗体の幾何平均力価は8996であり、セロコンバージョンレベルは98.25%であった。プラセボ群では、セロコンバージョンレベルは有意に低かった:14.91%(p<0.001)。
【0161】
この臨床研究では、開発された作用物質の安全性もまた評価された。現時点までに7998例のボランティアに16795件の有害事象が記録されている。その中でも、70件のエピソードが、研究対象の入院が必要となったため、重篤有害事象として記載された。独立したデータモニタリング委員会によって判断が下されるとおり、これらのエピソードのいずれも、事象と試験作用物質との間の因果関係は認められなかった。
【0162】
全体として、本臨床研究で観察された有害事象は、ほとんどのワクチン製剤に典型的なものである。ワクチン製剤に特徴的なもの以外の有害事象率の点で、実験群と対照群との間に統計的に有意な差はない。インフルエンザ様の病気及び注射部位反応が、最も多く見られた副作用であった。本研究中、研究中に開発された作用物質によって引き起こされた重篤なアレルギー反応はなかったことが確認された。
【0163】
産業上の利用
提示される全ての例が、60歳超の人においてSARS-CoV-2に対する免疫応答の効果的な誘導をもたらすという本作用物質の有効性及び産業上の利用を裏付けている。
図1
図2
図3
【配列表】
2023507543000001.app
【国際調査報告】