(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ポリアミド-金属積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/088 20060101AFI20230216BHJP
B32B 7/12 20060101ALI20230216BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20230216BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20230216BHJP
C08F 8/42 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
B32B15/088
B32B7/12
B32B27/00 D
B32B27/34
C08F8/42
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022530892
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(85)【翻訳文提出日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 US2020062203
(87)【国際公開番号】W WO2021108533
(87)【国際公開日】2021-06-03
(32)【優先日】2019-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519393129
【氏名又は名称】デュポン ポリマーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】剣持 綱雄
(72)【発明者】
【氏名】眞木 晴季
【テーマコード(参考)】
4F100
4J100
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB02
4F100AB10
4F100AB10A
4F100AB11
4F100AH03
4F100AH03B
4F100AH06
4F100AH06B
4F100AK28B
4F100AK46C
4F100AK70
4F100AK70B
4F100AL07B
4F100BA03
4F100BA07
4F100CA05
4F100DA11A
4F100DA11B
4F100DA11C
4F100EC03
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4F100EJ42
4F100EJ42C
4F100EJ85
4F100EJ85A
4F100JK06
4F100JL11
4F100JL11B
4F100YY00B
4J100AA02P
4J100AJ09Q
4J100AK32Q
4J100AS02P
4J100CA03
4J100CA27
4J100CA31
4J100HC43
4J100HC47
4J100HC78
4J100HG28
4J100JA28
(57)【要約】
望ましい耐加水分解性を有する新規なポリアミド-金属積層体が提供される。積層体は、(A)金属、(B)結合層、及び(C)ポリアミド組成物を含む。結合層は、(B1)少なくとも2つの隣接するカルボン酸基を有するコモノマーを含むポリマー、及び(B2)一級アミンと少なくとも1つのヒドロキシル基とを含むアミノシラン、を含有する、組成物から形成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)金属、(B)前記金属の表面に形成された結合層、及び(C)前記結合層の表面に形成されたポリアミド組成物、を含むポリアミド-金属積層体であって、前記結合層が、
B1)カルボン酸基を含むポリマー、及び
B2)一級アミンと少なくとも1つのヒドロキシル基とを含むアミノシラン
を含み、
ポリマー(B1)の中の少なくとも2つのカルボン酸基が互いに隣接しており、ポリマー(B1)中の前記2つの隣接するカルボン酸基対アミノシラン(B2)中の一級アミン基のモル比が1:0.8~1:12である、
ポリアミド-金属積層体。
【請求項2】
ポリマー(B1)中の前記隣接する2つのカルボン酸基の含有量が、ポリマー(B1)の総重量%を基準として2重量%以上である、請求項1に記載のポリアミド-金属積層体。
【請求項3】
ポリマー(B1)が、ポリ(ブタジエン-マレイン酸)コポリマー、プロピレン-マレイン酸コポリマー、エチレン-マレイン酸コポリマー、エチレン-無水マレイン酸コポリマー、プロピレン-無水マレイン酸コポリマー、エチレン-無水マレイン酸コポリマー、ポリマレイン酸、無水マレイン酸グラフト化エチレンオクテンコポリマー、無水マレイン酸グラフト化エチレンブテンコポリマー、及び無水マレイン酸グラフト化エチレンプロピレンコポリマーからなる群から選択される1種以上のポリマーを含む、請求項1又は2に記載のポリアミド-金属積層体。
【請求項4】
アミノシラン(B2)が式(I):
【化1】
(式中、R
1、R
2、及びR
3は、H、C1~C6の直鎖、分岐、又は環状のアルキル基から独立して選択され、R
4はHであり、R
5は、H及び-(CH
2)
y-NH
2から独立して選択され、x及びyは、独立して1~6の範囲であり、R
1、R
2、及びR
3のうちの少なくとも1つはHである)
で表される、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリアミド-金属積層体。
【請求項5】
金属(A)がアルミニウムである、請求項1~4のいずれか一項に記載のポリアミド-金属積層体。
【請求項6】
前記アルミニウムが、前記アルミニウムの表面上にヒドロキシル基を有する、請求項5に記載のポリアミド-金属積層体。
【請求項7】
表面に結合層を有する金属パーツであって、前記結合層が、
B1)カルボン酸基を含むポリマー、及び
B2)一級アミンと少なくとも1つのヒドロキシル基とを含むアミノシラン
を含み、
ポリマー(B1)の中の少なくとも2つのカルボン酸基が互いに隣接しており、(B1)中のカルボン酸基対(B2)中の一級アミン基のモル比が1:0.8~1:12である、
金属パーツ。
【請求項8】
ポリアミドを金属の表面に積層するために適した組成物であって、前記組成物が、
(b-1)カルボン酸基を含むポリマー、
(b-2)一級アミンと少なくとも1つのヒドロキシル基とを含むアミノシラン、及び
(b-3)水
を含み、
ポリマー(b-1)中の少なくとも2つのカルボン酸基が互いに隣接しており、(b-1)中のカルボン酸基対(b-2)中の一級アミン基のモル比が1:0.8~1:12である、
組成物。
【請求項9】
前記pHが5以上である、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
(i)表面が洗浄されたアルミニウムを準備する工程、
(ii)請求項8に記載の組成物を塗布して前記アルミニウムの表面上に結合層を形成する工程、その後
(iii)少なくとも前記ポリアミドが溶融する温度で加熱しながら前記結合層上にポリアミド組成物を積層する工程
を含む、アルミニウムの表面へのポリアミドの積層方法。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか一項に記載のポリアミド-金属積層体を含む物品。
【請求項12】
チューブ、ホース、ウォーターポンプハウジング、オイルフィルターハウジング、及びトランスミッションハウジングからなる群から選択される、請求項11に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、米国特許法第365条の下、2019年11月26日出願の米国仮特許出願第62/940,397号明細書に基づく優先権を主張するものであり、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明が関係する技術分野をより完全に説明するために、複数の特許及び刊行物が本明細書で引用される。これらの特許及び刊行物のそれぞれの開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
本明細書では、望ましい耐加水分解性を有し、且つポリアミド組成物を金属表面に接合するための新規な結合層を含む、新規なポリアミド-金属積層体が説明される。また、金属上に結合層を形成するのに適した組成物、結合層を有する金属パーツ、前記ポリアミド-金属積層体を含む物品、及びこれらのポリアミド-金属積層体の作製方法も説明される。
【背景技術】
【0004】
ポリアミドに基づく組成物は、典型的には、望ましい耐薬品性、加工性、及び耐熱性を有している。このため、車両のラジエータやヒーターホースなどの、高い性能が要求される自動車及び電気/電子機器の用途に特によく適している。自動車分野では、自動車に含まれる様々なコンポーネントの重量を継続的に減らすことが現在及び一般的に望まれている。
【0005】
米国特許出願公開第2003/0116269号明細書には、主に2つの金属を互いに接合するために金属表面上で使用するためのオルガノシラン含有水性プライマー組成物が開示されている。米国特許出願公開第2003/0180552号明細書には、金属表面へのポリマーの接着性を改善するために、金属表面をシラン組成物で処理する方法が開示されている。米国特許出願公開第2007/0056469号明細書には、金属表面へのポリマーの接着性を改善するために、金属表面をシラン組成物で処理する方法が開示されている。このシラン組成物は、少なくとも1種の水溶性又は分散性シランとポリマー樹脂とを含むシランコーティング組成物を含む。ポリマー樹脂は非水溶性であり、水性分散液として使用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
それにもかかわらず、車両のボンネット下用途のコンポーネントを製造するために使用され、現在入手可能な自動車コンポーネントよりもパーツが少なく製造が容易である、さらに軽量の物品が依然として必要とされている。アルミニウム又は他の軽量金属をポリアミドに直接接合すると、パーツが取り除かれ、より軽量の物品が得られるであろう。しかしながら、そのような直接接合は、特に物品が高温のエチレングリコール水溶液にさらされたときに、自動車のボンネット下の領域に見られる高温に耐えることができなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】積層されたポリアミド-アルミニウムの金属(A)、結合層(B)、及びポリアミド(C)の予想される化学構造の概略図を示す。
【
図2】アルミニウム(A)上に結合層(B)が形成された後に予想される化学構造の概略図を示す。
【
図3】アルミニウム(A)上に結合層(B)が形成された後の別の予想される化学構造の概略図を示す。
【
図4】アミノシラン(B2)が結合層(B)に含まれていない場合に予想される化学構造の概略図を示す(比較)。
【
図5】カルボン酸含有ポリマー(B1)が結合層(B)に含まれていない場合に予想される化学構造の概略図を示す(比較)。
【
図6】ポリアミドキャップ試験サンプルの断側面図を示す。
【
図7】結合層を介して金属層に積層して結合層を有するポリアミド-金属積層体を形成するための積層装置におけるポリアミドキャップ試験サンプルの側断面図を示す。
【
図8】ポリアミドキャップ試験サンプルと金属層との間の接合強度を決定するための装置における、結合層を備えたポリアミド-金属積層体の断面の側面図を示す。
【
図9】ISO-19095-3に準拠した接合強度を決定するための試験サンプルの斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
略語
特許請求の範囲及び本明細書での説明は、以下に示される略語及び定義を用いて解釈されるべきである。
「h」、「hrs」は、時間を意味する。
「%」は、用語パーセントを意味する。
「モル%」は、モルパーセントを意味する。
「wt%」は、重量パーセントを意味する。
「部」は、重量部を意味する。
「g」は、グラムを意味する。
【0009】
定義
本明細書において使用される場合、冠詞「1つの(a)」は、1つだけでなく2つ以上も意味し、その指示対象名詞を単数の文法上のカテゴリーに必ずしも限定しない。
【0010】
本明細書において使用される「物品」という用語は、その全体又は一部をさらに処理することなしに特定の用途/目的に好適である形態、形状、構成にある品物、物、構造体、物体、要素、装置等を意味する。物品は、部分的に完成して更なる処理を待っているか、又は共に完成品を構成することになる他の要素/組立部品と組み立てられる1つ以上の要素又は組立部品を含むことができる。さらに、本明細書において使用される場合、「物品」という用語は、物品のシステム又は構成を指す場合がある。
【0011】
本明細書において使用される「溶液」という用語は、成分が水、アルコール、別の適切な液体、又は2つ以上の適切な液体の組み合わせに溶解、懸濁、又は分散されている場合がある成分の水性混合物を指す。
【0012】
本明細書において使用される「純アルミニウム」という用語は、純アルミニウムの総重量を基準として少なくとも99重量%のアルミニウムを含むアルミニウム金属を指す。
【0013】
本明細書において使用される「アルミニウム合金」という用語は、合金の総重量を基準として99重量%未満のアルミニウムを含み、且つ1種以上の他の金属及び任意選択的な1種以上の非金属元素を含むアルミニウム金属を指す。
【0014】
本明細書において使用される「結合層」という用語は、機械的接合を必要とせずに金属をポリアミド組成物に結合させる組成物を指すが、必要に応じた機械的手段による追加の結合は任意選択的である。結合層はサンドイッチ構造を形成し、結合層は中間層であり、金属は結合層に直接接合された一方の外層又は外側層であり、ポリアミド組成物は結合層に直接接合された他方の外層を形成する。或いは、金属層は結合層の一方の面に直接接合され、ポリアミド組成物は結合層の反対側の面に直接接合される。
【0015】
範囲及び好ましい変形形態
本明細書に記載のいかなる範囲も、特に明記しない限り、その端点を明確に包含する。範囲としての量、濃度、又は他の値若しくはパラメーターの記載は、そのような範囲の上限及び下限の対が本明細書に明確に開示されるか否かに関わらず、任意の可能な範囲の上限及び任意の可能な範囲の下限から形成される全ての可能な範囲を具体的に開示する。本明細書に記載の化合物、プロセス及び物品は、本説明における範囲を規定するときに開示された特定の値に限定されない。
【0016】
材料、化学物質、方法、工程、値、及び/又は範囲などに関する任意の変形形態の本明細書における開示は、本明細書で記載されているプロセス、化合物、及び物品が好ましい又は好ましくないとして特定されているかどうかに関わらず、その変形形態と、本明細書に記載されている他の材料、方法、工程、値、範囲などとの任意の可能な組み合わせが含まれることが具体的に意図されている。開示されている特徴の任意の組み合わせは、本明細書に記載のプロセス、化合物、及び物品の好ましい変形形態である。
【0017】
概要
本明細書では、特定の組成の結合層を使用して金属に結合されたポリアミド組成物を含むポリアミド-金属積層体が説明される。好ましくは、前記ポリアミド-金属積層体は、エチレングリコール/水溶液にさらされる前の初期結合強度と比較して、130℃で1000時間エチレングリコール/水溶液にさらされたときに望ましい耐加水分解性を示す。
【0018】
また、本明細書では、ポリアミド組成物への金属の結合を改善するために使用される結合層、及びこれらの結合層を作製するための方法も説明される。
【0019】
また、好ましくは、ポリアミド-金属積層体は、(A)金属、(B)金属の表面に形成された結合層、及び(C)結合層の表面に形成されたポリアミドを含み、結合層は、
B1)カルボン酸基を含むポリマー、及び
B2)一級アミンと少なくとも1つのヒドロキシル基とを含むアミノシラン
を含み、
ポリマー(B1)の中の少なくとも2つのカルボン酸基は互いに隣接しており、(B1)の2つの隣接するカルボン酸基対(B2)の一級アミン基のモル比は、1:0.8~1:14である。
【0020】
また、上述した(B1)と(B2)とを含む組成物、結合層(B)を有する金属パーツ、ポリアミド-金属積層体の製造方法、並びに前記ポリアミド-金属積層体を含む物品も説明される。
【0021】
ポリアミド-金属積層体
結合層(B)を使用して金属ラジエータ(金属(A))に結合されたポリアミドホース(ポリアミド(C))などの任意の形状を有する物品を作製するために、本明細書に開示のポリアミド-金属積層体を使用することができる。本明細書に開示の結合層(B)は、結合層/金属積層体を得るために金属(A)に塗布又はコーティングすることができる。これらの結合層/金属積層体は、その後、ポリアミド-金属積層体を作製するためにポリアミド組成物に結合させることができる。
【0022】
金属層(A)
金属(A)は、アミノシラン(B2)のヒドロキシル基と結合を形成することができる任意の金属であってよい。金属(A)の例としては、炭素鋼、亜鉛メッキ鋼、ステンレス鋼、鋳鋼、アルミニウム、チタン、及びこれらの合金が挙げられる。金属(A)は、好ましくは、アルミニウム又はチタンなどの軽量金属、好ましくはアルミニウムである。金属は、純金属であっても金属合金であってもよい。金属合金には、金属の混合物が含まれ得る。或いは、合金を形成するために、1種以上の金属を、炭素又はケイ素などの1種以上の非金属元素と組み合わせることができる。金属がアルミニウムである場合、アルミニウム合金のアルミニウム含有量は、少なくとも約70重量パーセントのアルミニウム、好ましくは少なくとも約80重量パーセントのアルミニウム、より好ましくは少なくとも90重量パーセントのアルミニウムである必要がある。
【0023】
金属表面の洗浄
金属(A)上に結合層(B)を形成する前に、金属表面の洗浄が必要な場合と不要な場合がある。金属表面の洗浄が必要とされる場合、金属の表面から汚染物質及び酸化物を除去するために当該技術分野で典型的に使用される方法を使用することができる。金属表面の洗浄には、化学的処理と機械的方法の両方、及び2つ以上の適切な洗浄方法の組み合わせが含まれる。そのような洗浄方法の例としては、限定するものではないが、研磨、サンドペーパーなどの研磨材による研磨、大気プラズマ処理、コロナ放電処理、ショットブラスト、クリーナー溶液、洗剤溶液、溶剤、又は脱イオン水による洗浄、及び化学エッチングが挙げられる。金属を研磨する際には、研磨材を含む溶液を使用することができる。研磨材の非限定的な例としては、炭酸カルシウム、重炭酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。この溶液は、エチルアルコール、メチルアルコール、及びイソプロピルアルコールなどのアルコールも含み得る。洗剤溶液は、好ましくは、カチオン性、アニオン性、若しくは非イオン性界面活性剤、又は2種以上の界面活性剤の組み合わせを含む。洗剤溶液は、金属表面の汚染物質を除去することができる任意の洗剤又は界面活性剤溶液であってよい。適切な洗剤溶液の例は当該技術分野で周知である。
【0024】
金属がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合、アミノシラン(B2)と反応できるようにアルミニウムを洗浄する必要がある。任意の洗浄方法を使用することができる。アルミニウム又はアルミニウム合金を洗浄するための好ましい方法は、水中でのサンドペーパーなどの研磨材によるアルミニウム又はアルミニウム合金の表面の研磨、又はショットブラストである。理論に拘束されるものではないが、ポリアミド-金属積層体を形成するのに十分な耐加水分解性を得るために、アルミニウム表面を洗浄し、任意選択的に活性化する必要があると考えられる。アルミニウム表面を分析するための1つの例は、X線光電子分光法(XPS)である。通常、アルミニウム又はアルミニウム合金の表面は油によって酸化されているか汚染されているため、アルミニウムのシグナルに加えて、炭素原子と酸素原子のシグナルが観察される。ポリアミド-金属積層体を形成するのに十分な耐加水分解性を得るためには、XPSによって分析されるアルミニウムのシグナルは15%以上、好ましくは20%以上である必要がある。アルミニウムシグナルのパーセント割合は、アルミニウム表面に存在する元素の総モル数を基準とする。或いは、相対感度係数を適用し、XPSスペクトルのピーク面積を適切に積分した後、パーセント割合は、分析で検出された原子の総数を基準とした「原子%」である。アルミニウム表面を分析する別の例は、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)である。これも、理論に拘束されるものではないが、ポリアミド-金属積層体の十分な耐加水分解性を得るためには、アルミニウムの表面にヒドロキシル基が存在する必要があると考えられる。ヒドロキシル基の数は、TOF-SIMSによって水酸化アルミニウムシグナル(Al(OH)3又はAlO(OH)・nH2O)として分析される。
【0025】
結合層(B)
本明細書に記載のポリアミド-金属積層体を作製するために使用され得る結合層(B)は、ポリマー(B1)とアミノシラン(B2)とを含む。ポリマー(B1)は、カルボン酸基を含む。アミノシラン(B2)は、アミノシラン分子中に一級アミン基と少なくとも1つのヒドロキシル基とを含む。結合層(B)は、ポリマー(B1)とアミノシラン(B2)との混合物、又はポリマー(B1)とアミノシラン(B2)との反応生成物であってよい。結合層(B)が反応生成物である場合、ポリマー(B1)のカルボン酸基はアミノシラン(B2)のアミノ基と反応する。いくつかの好ましい結合層では、この反応により、イミド窒素からのシラン基ペンダントを有する環状イミドが形成される。ポリマー(B1)のカルボン酸基とアミノシラン(B2)のアミノ基との間の反応は、例えば220℃以上の温度に加熱すると起こると考えられる。
【0026】
ポリマー(B1)
結合層(B)を作製するために使用されるポリマー(B1)は、カルボン酸基を含む。カルボン酸基は、限定するものではないが、カルボン酸塩、モノエステル及びジエステルを含むアルキルエステル、又はカルボン酸無水物などのカルボン酸基の誘導体であってよい。(B1)中の少なくとも2つのカルボン酸基は互いに隣接している必要がある。無水物基は、それらが加水分解されるときに2つの隣接するカルボン酸基を提供することから、隣接するカルボン酸基は、好ましくは、無水マレイン酸の共重合した単位などの無水物基に由来する。隣接するカルボン酸基は、以下で説明するように、アミノ基の窒素原子と共に環状イミド構造の形成に寄与する。
【0027】
典型的には、ポリマー(B1)は、エチレン性不飽和基を有する1種以上のモノマー(B1-a)と、エチレン性不飽和基及び少なくとも2つの隣接するカルボン酸基を有する1種以上のモノマー又はその誘導体(B1-b)とからの共重合によって調製することができる。本明細書で使用される「隣接するカルボン酸基」という用語は、少なくとも2つの炭素原子が単結合又は二重結合によって互いに直接結合し、これらの少なくとも2つの炭素原子のそれぞれがカルボン酸基で置換されている分子を指す。モノマー(B1-a)は、カルボン酸基も有し得る。エチレン性不飽和基(B1-a)を有するモノマーとしては、限定するものではないが、エチレン、プロピレン、ブテン、オクテン、及びイソプロピレンなどの不飽和脂肪族炭化水素、スチレンや4-メチルスチレンなどの芳香族モノマー、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸塩又はエステルなどのアクリレート、メタクリル酸塩又はエステルなどのメタクリレート、及びこれらの2つ以上の組み合わせが挙げられる。ジカルボン酸基又はその誘導体を有する好ましいモノマー(B1-b)としては、限定するものではないが、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、並びにこれらの酸の酸無水物、塩、ジエステル、及びモノエステルなどの誘導体が挙げられる。好ましいものは、無水マレイン酸及びマレイン酸のアルキルモノエステルである。モノマー(B1-a)とモノマー(B1-b)とのコポリマーにおいて、モノマー(B1-b)の残基の好ましいモル含有量は、(B1-a)と(B1-b)の共重合したモル数の総モル数を基準として、10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上である。ポリマー(B1)中の2つの隣接するカルボン酸基の含有量は、ポリマー(B1)の合計の重量パーセントを基準として、2重量%以上、好ましくは5重量%以上であってよい。ポリマーB1の共重合した単位の残部は、最大90モル%以上、より好ましくは最大80モル%以上の(B1-a)から構成されているか、又は(B1-a)から本質的に構成されていてよい。
【0028】
ポリマー(B1)は、ジカルボン酸基を有するモノマー又はその誘導体(B1-b)、例えばマレイン酸、フマル酸、及びそれらの誘導体から直接重合することによって調製することができる。
【0029】
ポリマー(B1)は、無水マレイン酸をポリマー(B1)の主鎖にグラフトし、無水物を加水分解して2つのカルボン酸基を形成することによって調製することもできる。
【0030】
適切なポリマー(B1)の例としては、例えば、ポリ(ブタジエン-マレイン酸)コポリマー、プロピレン-マレイン酸コポリマー、エチレン-マレイン酸コポリマー、エチレン-無水マレイン酸コポリマー、プロピレン-無水マレイン酸コポリマー、ポリ-マレイン酸、ポリ(イソブチレン-マレイン酸)又はその加水分解物、エチレン-無水マレイン酸コポリマー又はそれらの加水分解物、及びこれらのポリマーの2種以上の組み合わせが挙げられる。
【0031】
カルボン酸基がポリマー(B1)の主鎖にグラフトされた適切なポリマー(B1)の例としては、例えば、エチレンオクテンコポリマー、エチレンブテンコポリマー、エチレンプロピレンコポリマー、及びこれらのポリマーの2種以上の組み合わせにグラフトされた無水マレイン酸が挙げられる。
【0032】
本発明のポリマー(B1)として使用することができる市販のコポリマーとしては、Vertellusから入手可能なZeMac(商標)E60、E400、及びSolution S67025、並びにKuraray co.,ltd.から入手可能なISOBAM(商標)104が挙げられる。
【0033】
アミノシラン(B2)
アミノシラン(B2)は、アミノシラン分子中に一級アミン基と少なくとも1つのヒドロキシル基とを含む。結合層(B)で使用されるアミノシラン(B2)は、式(I)で表される:
【0034】
【0035】
式(I)において、R1、R2、及びR3は、H、1~6個の炭素原子を有する直鎖、分岐、又は環状のアルキル基から独立して選択される。R4はHであり、R5は、H及び-(CH2)y-NH2から独立して選択され、x及びyは、1~6の独立して選択される整数である。R1、R2、及びR3のうちの少なくとも1つはHである。好ましくは、R1、R2、R3、R4、及びR5はHである。これは式(II)で表される。
【0036】
【0037】
式(II)において、xは1~6の範囲である。
【0038】
適切なアミノシラン(B2)の非限定的な例としては、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、2-アミノエチルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-アミノエチルトリエトキシシラン、及びN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、並びにこれらのアミノシランのうちの2つ以上の組み合わせが挙げられる。
【0039】
アミノシランは水中で加水分解されてオリゴマーになることができる。そのようなオリゴマーを本発明で使用することができる。
【0040】
組成物
上述したように、結合層(B)は、ポリマー(B1)とアミノシラン(B2)との反応生成物であってよく、或いはこれらの材料の未反応混合物であってよい。結合層(B)の作製の際に、(B1)カルボン酸基を含むポリマーと、(B2)一級アミン及び少なくとも1つのヒドロキシル基を含むアミノシランとを含む組成物が使用される。適切なポリマー(B1)及びアミノシラン(B2)は、上で詳細に説明されている。ポリマー(B1)のカルボン酸基は、例えばアンモニウム塩又はアルカリ金属塩などの塩として存在し得る。組成物は、溶剤混合物を形成するために、水又はアルコール/水混合物など(ただしこれらに限定されない)の溶剤をさらに含み得る。組成物は、アミノシラン系材料とポリマーとを含むエマルジョン又は分散液であってよく、或いは組成物は溶液であってよい。
【0041】
組成物中の少なくとも1種のアミノシラン(B2)と少なくとも1種のポリマー(B1)との組み合わせの総濃度は、組成物の総重量を基準として、約0.5~20重量パーセント、好ましくは1~15重量パーセント、より好ましくは1~10重量パーセントの範囲の、ポリマー(B1)とアミノシラン(B2)の総濃度の範囲とすることができる。
【0042】
組成物は、pH調整剤をさらに含むことができる。pH調整剤の例としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク-7-エン、これらの材料の塩、及びこれらの材料とそれらの塩との混合物が挙げられる。組成物が溶液である場合には、溶液のpHは、好ましくは5~14、より好ましくは7~12、さらに好ましくは8~11である。理論に拘束されるものではないが、ポリマー(B1)のカルボン酸基がアルカリ性溶液中で電気的に解離すると考えられる。したがって、ポリマー(B1)はアルカリ性溶液中で安定である。それと同時に、アミノシラン(B2)のアミノ基がアルカリ性溶液中でイオン化される。これら2つの基はアルカリ性溶液中で相互作用すると考えられている。したがって、溶液がアルカリ性である場合には、溶液は安定である。溶液が弱酸の範囲(pHは5~7)の場合には、ポリマー(B1)のカルボン酸基の一部が電気的に解離する。したがって、この溶液も上の開示と同じ理由で安定である。
【0043】
結合層Bは、1つ以上の追加の成分をさらに含み得る。適切な追加の成分としては、限定するものではないが、ポリアミド組成物Cに関して以降で説明されるカーボンブラッやガラス繊維などの強化剤、ポリアクリレートやエチレンアクリレートコポリマーなどの他のポリマー、ポリアミド組成物Cに関して以降で説明される熱安定剤、及びポリアミド組成物Cに関して以降で説明される任意選択的な添加剤が挙げられる。
【0044】
結合層B中に溶剤又は1種以上の追加の成分が存在する場合、それらは、好ましくは、組成物の総重量を基準として50重量%以上、又は20重量%以上、又は15重量%以上、又は10重量%以上のレベルで存在する。相補的に、組成物中のポリマーB1及びアミノシランB2の量は、組成物の総重量を基準として50重量%以下、又は80重量%以下、又は85重量%以下、又は90重量%以下である。組成物中の全ての成分の重量パーセントの合計は100重量%である。或いは、任意選択的な成分がポリマー組成物C中での使用にも適している場合、それは、ポリアミド組成物C中での使用に適している量と同じ量で存在することができる。
【0045】
結合層(B)の作製
金属(A)上への結合層(B)の形成
ここで図面を参照する。図面の中では、同様の参照番号は、図全体にわたって対応する構造を示している。特に
図3を参照すると、これらの組成物は、噴霧、ロールコーティング、又は浸漬などの任意の公知の方法によって金属(A)11の上に塗布することができ、その後、存在する場合には、溶剤が留去(すなわち除去)されて、金属(A)11上に結合層(B)21が形成される。溶剤の留去は、室温又は加熱などの任意の適切な公知の条件下で、大気圧下又は減圧下で、行うことができる。理論に拘束されるものではないが、組成物を金属(A)11に塗布すると、
図3に示されているようにアミノシランのヒドロキシル基が金属表面のヒドロキシル基と相互作用し、その後溶剤が除去されたときにアミノシランが脱水によって金属(A)11の表面に結合すると考えられる。
【0046】
ここで
図2を参照すると、結合層(B)21は、金属(A)11に塗布された後、例えば100~300℃で1~120分間、任意選択的に加熱することができる。理論に拘束されるものではないが、結合層(B)21が加熱されると、ポリマー(B1)の2つの隣接するカルボン酸基がアミノシラン(B2)の一級アミン基と化学的に反応して、アミノシラン分子をポリマー分子に共有結合させる環状イミド基を形成すると考えられる。したがって、加熱工程を追加すると、
図2に示すように、結合層(B)21はポリマー(B1)とアミノシラン(B2)との反応生成物になると考えられる。しかしながら、結合層(B)21は、後に開示するように、ポリアミド(C)の積層工程中に加熱されるため、この工程は省略することができる。
【0047】
ポリマー(B1)の2つの隣接するカルボン酸基対アミノシラン(B2)の一級アミン基(酸:アミン)のモル比は、1:0.8~1:12、好ましくは1:0.9~1:6、より好ましくは1:0.9~1:5、さらに好ましくは1:1~1:4、さらに好ましくは1:1.3~1:4である。ここに記載のモル比は、加水分解されたときに1つの無水物基が2つのカルボン酸基を与えるという事実に基づいている。
【0048】
金属(A)11上に層(B)21が形成された後、金属は、安定した金属パーツとして使用することができる。結合層(B)を有する金属パーツは、ポリアミド(C)とすぐに積層できるコンポーネントとして保管、配布、及び使用することができる。
【0049】
ポリアミド組成物(C)
ポリアミド組成物(C)は、シート若しくはプレート、チューブ若しくはホース、又はボックスなどの任意の形状であってよい。ポリアミド組成物(C)がチューブ又はホースである場合、チューブ又はホースの端部は、金属(A)上の結合層(B)と接触するように配置することができる。言い換えると、ポリアミド金属積層体は、シート又はプレート構造に限定されず、例えば結合層/金属パーツに結合されたポリアミドホースなどであってよい。結合層(B)を介してポリアミド組成物(C)に結合された金属(A)を有する任意の物品は、物品の一部が金属(A)/結合層(B)/ポリアミド組成物(C)の構造を有する限り、金属(A)、結合層(B)、又はポリアミド組成物(C)の形状にかかわらず本発明の範囲内であり、(A)、(B)、及び(C)は隣接した層である。より好ましくは、金属(A)は結合層(B)と直接接触しており、結合層(B)はポリアミド組成物(C)と直接接触しており、金属(A)及びポリアミド組成物(C)は結合層(B)の反対側の面と直接接触している。
【0050】
ポリアミド樹脂(C1)
本明細書に記載のポリアミド積層体を作製するために使用され得るポリアミド樹脂(C1)は、限定されず、好ましくは約170℃よりも上、好ましくは約180℃よりも上の融点を有する任意のポリアミドであってよい。ポリアミドは、1種以上のジカルボン酸と1種以上のジアミンとの、及び/若しくは1種以上のアミノカルボン酸の縮合生成物、並びに/又は1種以上の環式ラクタムの開環重合生成物である。好適な環状ラクタムは、カプロラクタム及びラウロラクタムである。ポリアミドは、全脂肪族又は半芳香族であってもよい。
【0051】
ポリアミド-金属積層体において使用され得るポリアミドの例としては、ポリ(テトラメチレンヘキサンジアミド)(PA46)、ポリ(ε-カプロラクタム)(PA6)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド/(ε-カプロラクタム/)(PA66/6)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド)(PA66)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド/ヘキサメチレンデカンジアミド)(PA66/610)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド/ヘキサメチレンドデカンジアミド)(PA66/612)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド/デカメチレンデカンジアミド)(PA66/1010)、ポリ(ヘキサメチレンデカンジアミド)(PA610)、ポリ(ヘキサメチレンドデカンジアミド)(PA612)、ポリ(ヘキサメチレンテトラデカンジアミド)(PA614)、ポリ(テトラメチレンヘキサンジアミド/2-メチルペンタメチレンヘキサンジアミド)(PA46/D6)、ポリ(テトラメチレンヘキサンジアミド/テトラメチレンテレフタルアミド)(PA46/4T)、ポリ(テトラメチレンヘキサンジアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド)(PA46/6T)、ポリ(テトラメチレンヘキサンジアミド/2-メチルペンタメチレンヘキサンジアミド/デカメチレンテレフタルアミド)(PA46/D6/10T)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド)(PA66/6T)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミドPA66/6I/6T、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド/2-メチルペンタメチレンヘキサンジアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド(PA66/D6/6T)、ポリ(テトラメチレン)テレフタルアミド/ヘキサメチレンヘキサンジアミド)(PA4T/66)、ポリ(テトラメチレンテレフタルアミド/ε-カプロラクタム)(PA4T/6)、ポリ(テトラメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンドデカンジアミド)(PA4T/612)、ポリ(テトラメチレンテレフタルアミド/2-メチルペンタメチレンヘキサンジアミド/ヘキサメチレンヘキサンジアミド)(PA4T/D6/66)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/2-メチルペンタメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンヘキサンジアミド)(PA6T/DT/66)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンヘキサンジアミド)PA6T/66、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンデカンジアミド)(PA6T/610)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンドデカンジアミド)(PA6T/612)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンテトラデカンジアミド)(PA6T/614)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド/イソホロンジアミンテレフタルアミド)(PA6T/IPDT)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド/ノナメチレンデカンジアミド)(PA9T/910)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド/ノナメチレンドデカンジアミド(PA9T/912)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド/11-アミノウンデカンアミド)(PA9T/11)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド/12-アミノドデカンアミド)(PA9T/12)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド/11-アミノウンデカンアミド)(PA10T/11)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド)/12-アミノドデカンアミド)(PA10T/12)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド/デカメチレンデカンジアミド)(PA10T/1010)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド/デカメチレンドデカンジアミド)(PA10T/1012)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド/テトラメチレンヘキサンジアミド)(PA10T/46)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド/ε-カプロラクタム)(PA10T/6)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンヘキサンジアミド)(PA10T/66)、ポリ(ドデカメチレンテレフタルアミド/ドデカメチレンドデカンジアミド)(PA12T/1212)、ポリ(ドデカメチレンテレフタルアミド/ε-カプロラクタム)(PA12T/6)、並びにポリ(ドデカメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンヘキサンジアミド)(PA12T/66)が挙げられる。
【0052】
本明細書で開示される好ましいポリアミドとしては、PA6T/DT、PA66、PA612、PA610、PA6T/610、PA6T/612、PA6T/IPDT、PA6、PA10、及びこれらのブレンドが挙げられる。
【0053】
ポリアミド組成物(C)中のポリアミド(C1)の量は、ポリアミド組成物(C)中の他の成分の量と相補的である。言い換えると、ポリアミド組成物(C)の全ての成分の重量パーセントの合計は100重量%である。したがって、例えばポリアミド組成物(C)が70重量%の強化剤と5重量%の熱安定剤とを含む場合、ポリアミド(C1)の量は、ポリアミド組成物(C)の総重量を基準として25重量%である。
【0054】
強化剤(C2)
本明細書に記載のポリアミド組成物(C)は、1種以上の強化剤(C2)を含み得る。強化剤は、好ましくは、炭酸カルシウム、円形及び非円形断面のガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、アラミド繊維、タルク、マイカ、ウォラストナイト、焼成粘土、カオリン、ダイアトマイト、硫酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、炭酸アルミニウムナトリウム、バリウムフェライト、チタン酸カリウム、及び2種以上の適切な強化剤(C2)の混合物からなる群から選択される。好ましい実施形態では、強化剤は、円形断面を有するガラス繊維、非円形断面を有するガラス繊維、及びアラミド繊維からなる群から選択される。強化剤は、強化剤とポリアミド樹脂との間の結合を改善するサイジング剤又はカップリング剤、有機又は無機材料を有し得る。
【0055】
本明細書に記載のポリアミド組成物(C)は、ポリアミド組成物(C)中の全ての成分の総重量パーセントを基準として0~70重量パーセント、好ましくは10~70重量パーセント、最も好ましくは20~70重量パーセントの1種以上の強化剤を含み得る。
【0056】
熱安定剤(C3)
ポリアミド組成物(C)は、熱安定剤(C3)を含み得る。無機熱安定剤は通常金属(A)の腐食に影響を与えるハロゲンイオン及び/又は銅イオンを供給することから、有機熱安定剤が好ましい。
【0057】
本明細書に開示の有機熱安定剤は、酸化防止剤とも呼ばれ、これにはヒンダードフェノール化合物、アミン系熱安定剤、及びリン系熱安定剤が含まれる。
【0058】
ヒンダードフェノール化合物の例としては、CIBA Specialty Chemicals,Tarrytown,N.Y.からIrganox(商標)1010として市販されているテトラキス(メチレン(3,5-ジ-(tert)-ブチル-4-ヒドロキシヒドロシンナメート))メタン、及び同様にCIBA Specialty ChemicalsからIrganox(商標)1098として入手可能なN,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-(tert)ブチル-ヒドロキシヒドロ-シンナムアミド)が挙げられる。その他の適切なヒンダードフェノールとしては、共にCIBA Specialty ChemicalsからそれぞれIrganox(商標)1330及び259として入手可能な1,3,5-トリメチル-2,4,6トリス(3,5-ジ-(tert)-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン及び1,6ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-(tert)ブチル4ヒドロキシヒドロシンナメート)が挙げられる。
【0059】
アミン系熱安定剤の例としては、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)が挙げられる。好ましくは、HALSは、置換ピペリジン化合物に由来する化合物、特にアルキル置換ピペリジル、ピペリジニル、又はピペラジノン化合物に由来する任意の化合物、及び置換アルコキシピペリジニル化合物である。そのような化合物の例は:2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリドン、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノール、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジル)-(3’,5’-ジ-tert-ブチル-4’-ヒドロキシベンジル)ブチルマロネート、ジ-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(Tinuvin(登録商標)770、MW481)、N-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノールとコハク酸とのオリゴマー(Tinuvin(登録商標)622)、シアヌル酸とN,N-ジ(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ヘキサメチレンジアミンとのオリゴマー、ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)スクシネート、ビス-(1-オクチルオキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート(Tinuvin(登録商標)123)、ビス-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)セバケート(Tinuvin(登録商標)765)、Tinuvin(登録商標)144、Tinuvin(登録商標)XT850、テトラキス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、N,N’-ビス-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-ヘキサン-1,6-ジアミン(Chimasorb(登録商標)T5)、N-ブチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジンアミン、2,2’-[(2,2,6,6-テトラメチル-ピペリジニル)イミノ]ビス[エタノール]、ポリ((6-モルホリン-S-トリアジン-2,4-ジイル)(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-イミノヘキサメチレン-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-イミノ)(Cyasorb(登録商標)UV3346)、5-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)-2-シクロ-ウンデシル-オキサゾール)(Hostavin(登録商標)N20)、1,1’-(1,2-エタン-ジ-イル)-ビス-(3,3’,5,5’-テトラメチル-ピペラジノン)、8-アセチル-3-ドテシル-7,7,9,9-テトラメチル-1,3,8-トリアザスピロ(4,5)デカン-2,4-ジオン、ポリメチルプロピル-3-オキシ-[4(2,2,6,6-テトラメチル)ピペリジニル]シロキサン(Uvasil(登録商標)299)、1,2,3,4-ブタン-テトラカルボン酸-1,2,3-トリス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)-4-トリデシルエステル、α-メチルスチレン-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)マレイミドとN-ステアリルマレイミドとのコポリマー、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、β,β,β’,β’-テトラメチル-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノールを有するポリマー、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニルエステル(Mark(登録商標)LA63)、2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン-3,9-ジエタノール、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸を有するβ,β,β’,β’-テトラメチルポリマー、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニルエステル(Mark(登録商標)LA68)、D-グルシトール、1,3:2,4-ビス-O-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニリデン)-(HALS7)、7-オキサ-3,20-ジアザジスピロ[5.1.11.2]-ヘンイコサン-21-オン-2,2,4,4-テトラメチル-20-(オキシラニルメチル)のオリゴマー(Hostavin(登録商標)N30)、プロパン二酸、[(4-メトキシフェニル)メチレン]-,ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)エステル(Sanduvor(登録商標)PR31)、ホルムアミド、N,N’-1,6-ヘキサンジイルビス[N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル(Uvinul(登録商標)4050H)、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、N,N’’’-[1,2-エタンジイルビス[[[4,6-ビス[ブチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2-イル]イミノ]-3,1-プロパンジイル]]-ビス[N’,N’’-ジブチル-N’,N’’-ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)(Chimassorb(登録商標)119、MW2286)、ポリ[[6-[(1,1,3,33-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ペペリジニル(peperidinyl))イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]](Chimassorb(登録商標)944、MW2000~3000)、1,5-ジオキサスピロ(5,5)ウンデカン3,3-ジカルボン酸、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ペリジニル)エステル(Cyasorb(登録商標)UV-500)、1,5-ジオキサスピロ(5,5)ウンデカン3,3-ジカルボン酸、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ペリジニル)エステル(Cyasorb(登録商標)UV-516)、N-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル-N-アミノ-オキサミド、4-アクリロイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジン、1,5,8,12-テトラキス[2’,4’-ビス(1’’,2’’,2’’,6’’,6’’-ペンタメチル-4’’-ピペリジニル(ブチル)アミノ)-1’,3’,5’-トリアジン-6’-イル]-1,5,8,12-テトラアザドデカン、HALS PB-41(Clariant Huningue S.A.)、Nylostab(登録商標)S-EED(Clariant Huningue S.A.)、3-ドデシル-1-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ピロリジン-2,5-ジオン、Uvasorb(登録商標)HA88、1,1’-(1,2-エタン-ジ-イル)-ビス-(3,3’,5,5’-テトラ-メチル-ピペラジノン)(Good-rite(登録商標)3034)、1,1’1’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイルトリス((シクロヘキシルイミノ)-2,1-エタンジイル)トリス(3,3,5,5-テトラメチルピペラジノン)(Good-rite(登録商標)3150)及び、1,1’,1’’-(1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリイルトリス((シクロヘキシルイミノ)-2,1-エタンジイル)トリス(3,3,4,5,5-テトラメチルピペラジノン)(Good-rite(登録商標)3159)である。(Tinuvin(登録商標)及びChimassorb(登録商標)材料はCiba Specialty Chemicalsから入手可能であり、Cyasorb(登録商標)材料はCytec Technology Corp.から入手可能であり、Uvasil(登録商標)材料はGreat Lakes Chemical Corp.から入手可能であり、Saduvor(登録商標)、Hostavin(登録商標)、及びNylostab(登録商標)材料は、Clariant Corp.から入手可能であり、Uvinul(登録商標)材料はBASFから入手可能であり、Uvasorb(登録商標)材料はPartecipazioni Industrialiから入手可能であり、Good-rite(登録商標)材料はB.F. Goodrich Co.から入手可能であり、Mark(登録商標)材料はAsahi Denka Co.から入手可能である。)
【0060】
他の具体的なHALSは、ジ-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート(Tinuvin(登録商標)770、MW481)、Nylostab(登録商標)S-EED(Clariant Huningue S.A.)、1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリアミン、N,N’’’-[1,2-エタンジイルビス[[[4,6-ビス[ブチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2-イル]イミノ]-3,1-プロパンジイル]]-ビス[N’,N’’-ジブチル-N’,N’’-ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジニル)(Chimassorb(登録商標)119、MW2286)、及びポリ[[6-[(1,1,3,33-テトラメチルブチル)アミノ]-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル][(2,2,6,6-テトラメチル-4-ペペリジニル(peperidinyl))イミノ]-1,6-ヘキサンジイル[(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)イミノ]](Chimassorb(登録商標)944、MW2000~3000)からなる群から選択される。
【0061】
ポリアミド組成物(C)中の任意選択的な熱安定剤の濃度は、存在する場合、ポリアミド組成物(C)中の全ての成分の総重量を基準として、約0.01~5重量パーセント、好ましくは0.1~4重量パーセント、より好ましくは0.1~2重量パーセントの範囲である。
【0062】
添加剤
ポリアミド組成物(C)に添加することができる任意選択的な添加剤としては、例えば、ワックス、紫外線安定剤、着色剤、潤滑剤、及びこれらの混合物が挙げられる。任意選択的な添加剤には、本明細書に記載のポリアミド組成物(C)に添加するとポリアミド組成物(C)の線熱膨張係数を使用される金属と同様の線熱膨張係数にする材料も含まれ得る。アルミニウムについては、そのような添加剤の例は、DuPont(商標)Kevlar(登録商標)アラミド繊維などのアラミド繊維である。
【0063】
ポリアミド組成物(C)中の添加剤の濃度は、存在する場合、ポリアミド組成物(C)中の全ての成分の総重量を基準として約0.01~25重量パーセント、好ましくは0.1~20重量パーセントの範囲である。
【0064】
ポリアミド金属積層体の作製
本明細書に記載のポリアミド-金属積層体は、通常、以下の工程によって作製することができる:
a)金属上に結合層を形成して金属/結合層積層体を得る工程、
b)工程a)からの前記金属/結合層積層体をポリアミド組成物と結合させて、ポリアミド-金属積層体を得る工程。
【0065】
工程a)は、金属(A)上に結合層(B)を形成するための説明として上で開示したものと同じである。前述したように、結合層(B)の加熱工程は任意選択的である。理論に拘束されるものではないが、ポリマー(B1)のカルボン酸基又はカルボン酸二酸(diads)は、結合層(B)が加熱されるとアミノシラン(B2)と反応すると考えられる。
【0066】
工程(b)にはいくつかの実用的な方法が存在する。1つ目の適切な方法は、予め成形されたポリアミドを準備し、次いでそれを工程(a)によって作製された結合層の表面に結合させることである。この方法は、溶接(方法)とも呼ばれる。具体的には、ポリアミド-金属積層体は、以下の手順によって作製することができる。
【0067】
ポリアミド組成物(C)をチューブ又はホースなどの望まれる形状で提供するために、ポリアミド組成物(C)は、成形、押出、又は圧縮などの任意の手順を使用して成形することができる。成形されたポリアミド組成物(C)は、本明細書で開示の通り、金属-結合層積層体と接触して配置される。ポリアミド組成物(C)と金属-結合層積層体は、互いに接触している間に、ポリアミド樹脂(C1)を溶融し、ポリアミドアミン基と結合層(B)の酸基との反応を可能にするのに十分な時間、200~350℃の温度に、好ましくは加圧下で加熱される。例えばオーブンやホットプレートのような加熱装置、レーザー溶接、超音波溶接、及び熱風溶接など、あらゆる溶接方法を使用することができる。ホットプレスの例示的な条件は、0.1MPa以上、220~320℃で1~120秒間である。その後、使用されている場合には圧力が解放され、ポリアミド-金属積層体を含む物品が得られる。
【0068】
2つ目の適切な方法は、ポリアミド(C1)並びに任意選択的な強化剤(C2)及び熱安定剤(C3)を含むポリアミド組成物を射出成形装置に供給し、溶融混合してポリアミド組成物(C)を形成し、その後ポリアミド組成物(C)を、金属-結合層積層体の表面上に直接、好ましくは射出成形によって、成形することである。理論にとらわれることを望むものではないが、ポリアミド(C1)がポリアミド組成物(C)の射出中に溶融するという仮説が立てられる。したがって、結合層-金属積層体及び射出されたポリアミド組成物(C)の温度は、ポリアミド(C1)のアミン基が結合層(B)の酸基と反応するのに十分に高いとさらに仮説が立てられる。
【0069】
結合層(B)を使用してポリアミド組成物(C)を金属(A)に結合させると、得られるポリアミド-金属積層体は、ポリアミド組成物(C)と金属(A)との間の望ましい結合強度と、優れた耐加水分解性との組み合わせを示す。理論に拘束されるものではないが、ポリアミドのアミン末端基がポリマーのカルボン酸基と結合して、ポリアミド分子を結合層に連結又は化学的に結合するイミド基を提供すると考えられる。
【0070】
ポリアミド-金属積層体
特定の結合層によって結合された得られたポリアミド-金属積層体は、従来の表面処理(アミノプロピルシラン)を使用した積層体よりも優れた、望ましい結合強度と優れた耐加水分解性を示す。特に、本発明の結合層を使用するポリアミド-金属積層体は、130℃のエチレングリコール/水溶液に1000時間さらされたときに、エチレングリコール/水溶液にさらされる前の初期結合強度と比較して、望ましい耐加水分解性を示す。
図1を参照すると、本発明のポリアミド-金属積層体の予想される構造が示されている。理論にとらわれることを望むものではないが、結合層21のシラノール基は金属(例えばアルミニウム)11のヒドロキシル基と反応する一方で、結合層21の2つのカルボン酸基はポリアミド組成物31のアミノ基の窒素原子と環状イミド構造を形成すると考えられる。したがって、アルミニウム11とポリアミド組成物31は、結合層21によって強く結合している。他方で、
図5に示されているようにアミノプロピルシランなどの従来の表面処理が使用される場合、ポリアミド組成物31のカルボン酸基とアミノシランのアミノ基との間の相互作用は、特に水の存在下では弱い(加水分解)。
図4は、アミノシランが結合層に含まれていない場合の別の比較モデルを示している。ポリアミド組成物31はポリマー23に結合することができるものの、ポリマー23のカルボン酸とアルミニウム11のヒドロキシル基との間の相互作用は弱く、そのためアルミニウム11とポリアミド組成物31との間の望ましい結合強度を得ることができる。
【0071】
物品
本発明の物品は、上で開示されたポリアミド-金属積層体を含む。この物品は、ポリアミドへの金属の直接接合を必要とするあらゆる技術に使用することができる。そのような技術の例としては、自動車、電子機器、建設産業が挙げられる。特に、物品は、自動車技術のチューブ、ホース、ウォーターポンプハウジング、オイルフィルターハウジング、及びトランスミッションハウジングに有用である。
【0072】
下記の実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために提供される。本発明を実施するために現在考えられる好ましいモードを示す、これらの実施例は、本発明を例示することを意図し、それを限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0073】
本発明の実施例である物品は、下の表で「E」によって識別され、比較例は以下の表で「C」によって識別される。
【0074】
材料
下の表で例示される化合物、プロセス、及び物品において、次の原材料を使用した。全てのパーセントは、特に明記しない限り重量基準である。
【0075】
金属層(A)
金属1:1.2~0.8重量パーセントのマグネシウムと、0.7重量パーセントの鉄と、0.4~0.8重量パーセントのシリカと、最大1.4重量パーセントの他の金属とを含むアルミニウムであり、JIS(日本工業規格)のA6061として入手可能である。
金属2:2.2~2.8重量パーセントのマグネシウムと最大1.3重量パーセントの他の金属とを含むアルミニウムであり、JISのA5052として入手可能である。
金属3:99.5重量パーセントを超えるアルミニウムと最大0.5重量パーセントの他の金属とを含むアルミニウムであり、JISのA1050として入手可能である。
【0076】
ポリマー(B1)
ポリマーA:エチレンと無水マレイン酸との1:1交互コポリマーであると報告されている、Vertellus Specialties Inc.からZeMac E60として入手可能なエチレン無水マレイン酸コポリマーである。
ポリマーB:Polysciences,Inc.から水中で固形分42%のポリ(ブタジエン-マレイン酸)として入手可能なポリブタジエン-マレイン酸コポリマー。
【0077】
アミノシラン(B2)
シランA:3-アミノプロピルトリメトキシシランの加水分解物の30重量パーセント水溶液であり、ShinEtsu SiliconeからKBP-90として入手可能である。
シランB:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを含むアミノシランカップリング剤であり、ShinEtsu SiliconeからKBM-603として入手可能である。
シランC:3-アミノプロピルトリエトキシシランを含むアミノシランカップリング剤であり、ShinEtsu SiliconeからKBE-903として入手可能である。
シランD:KBP-64としてのShinEtsu Siliconeからの加水分解物N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランの30重量パーセント水溶液。
【0078】
ポリアミド組成物(C)
ポリアミドA(PA-A):51%のPA66、13%のPA6と、35重量%のガラス繊維と、融点260℃のPA66及び融点221℃のPA6を含む有機熱安定剤とを含有するポリアミド組成物。
ポリアミドB(PA-B):66%のPA66と、33%のガラス繊維とを含み、熱安定剤を含まないポリアミド組成物であり、PA66の融点は260℃である。
ポリアミドC(PA-C):66%のPA612と、33%のガラス繊維と、有機熱安定剤とを含むポリアミド組成物であり、PA612の融点は218℃である。
ポリアミドD(PA-D):65%のPA612と、33%のガラス繊維とを含み、熱安定剤を含まないポリアミド組成物であり、PA612の融点は218℃である。
ポリアミドE(PA-E):63%のPA6T/DTと、35%のガラス繊維と、有機熱安定剤とを含むポリアミド組成物であり、PA6T/DTの融点は300℃である。
【0079】
熱安定剤(C3)
HS2-A:0.3%のChimasorb 944FDLと、0.75%のIrganox1098と、0.3%のUltranox626Aとの混合物を含む有機熱安定剤。ここでの重量はポリアミド組成物Cの重量基準である。
HS2-B:Irganox(登録商標)1098としてのBASFからの有機熱安定剤。
【0080】
本明細書に開示の通りに金属処理溶液でアルミニウムを処理する前に、アルミニウム表面を以下の洗浄手順のうちの1つによって洗浄することができる:
【0081】
洗浄手順
手順A-アルミニウム表面をイソプロピルアルコールにさらす。
手順B-研磨材(500グリットのサンドペーパー)でアルミニウム表面を研磨して、研磨したアルミニウム表面を得てからアルミニウム表面を洗浄液にさらし、続いて処理したアルミニウム表面を洗剤溶液ですすぎ洗いして、残留洗浄液を除去する。
手順C-Macoho Co.,Ltd.製のBaby-blastを使用して、0.2MPaで酸化アルミニウム粒子(#240)によってアルミニウム表面をブラストする。
手順D-紫外線(254nm)を14mW/cm2、5cmの距離で、室温(26℃)で1時間照射する。
【0082】
溶接A(ホットプレス溶接)
ここで
図6を参照すると、ポリアミドキャップ41は、ポリアミドキャップ41の断面が描かれている垂直面に垂直な水平面に円筒形の断面を有する。この円筒形の部分は、ポリアミドキャップ41が金属層Aに取り付ける溶接領域42である。ここで
図7を参照すると、アルミニウム試験板43(50mmの正方形且つ6mmの厚さ)は、中央に丸い穴(25mm)を有する。アルミニウム試験板43を洗浄し、次いで金属処理溶液で処理して、金属表面上に結合層44を得た。ポリアミドキャップ試験サンプル41を、ポリアミドキャップ41が円形の穴を覆うように、アルミニウム板43と接触させて中心に置いた。アルミニウム板43と接触するポリアミドキャップ41の表面積42は、約177mm
2であった。アルミニウム板43及びキャップ41をホットプレート46の上に置き、溶接領域42の真上に圧力を伝達する金属シリンダー45を配置した。圧力の方向は矢印で示されている。このアセンブリを、0.3MPa、240~315℃で1分間ホットプレスした後、同じ圧力でポリアミド組成物(C)の溶融温度よりも低い温度まで冷却した。
【0083】
溶接B(直接射出成形)
ここで
図9を参照すると、幅18mm、長さ45mm、厚さ2.0mmのアルミニウム板50をアルミニウム試験板として使用した。アルミニウム板50を洗浄し、次いで金属処理溶液で処理して、アルミニウム板50上に結合層Bを堆積させた。アルミニウム板50を成形ツールの中に入れ、その後10×5mmのオーバーラップ領域52で直接成形することにより、幅10mm、長さ45mm、及び厚さ3mmのポリアミド成形体51をアルミニウム板50上に形成した。ポリアミドケースの設定シリンダー温度は280~300℃、ツール温度は120~160℃である。Yamashita Electric Co.,Ltd.の加熱冷却システム「Y-HeaT」を直接射出成形に使用した。加熱温度は240℃、冷却温度は180℃、保持圧力は40MPa、保持時間は6秒であった。
【0084】
結合強度保持試験
それぞれのポリアミド組成物及び表面処理液について、2つの試験片を作製した。1つの試験片を130℃で1,000時間(別段の明記がない限り)加熱したエチレングリコール水溶液にさらして耐加水分解性を観察し、2つ目の試験片は溶液にさらさなかった。両方の試験片の結合強度を測定した。
【0085】
加熱されているエチレングリコール水溶液にさらした後、試験片を、成形されたポリアミド組成物のアルミニウム板への結合強度について試験する。ここで
図8を参照すると、溶接Aのために、長さ32mm、シャフト直径8mmのピストン48によって、キャップ形状のポリアミド41をキャップの内側から押し出した。矢印は、加えられた力の方向を示している。金属板47は、ポリアミドキャップ41が板47から完全に分離するまで、金属シリンダー49で所定の位置に保持した。溶接Bについては、試験片は、ISO 19095-3、§5.2.1.2の
図1に示されている固定装置に基づく試験片固定装置で保持した。測定は、破壊するまで10mm/minのクロスヘッド速度で実施した。剪断応力(MPa)は、破壊荷重(N)を接合面積(mm
2)で割ることにより、計算した。成形されたポリアミド組成物をアルミニウム板から分離するために必要な最大の力は、試験片の結合強度である。エチレングリコール水溶液にさらされていない試験片の結合強度を、同じプロセスで作製したがエチレングリコール水溶液にさらされた試験片の結合強度と比較する。エチレングリコール水溶液にさらされた後の試験片の結合強度と、エチレングリコール水溶液にさらされていない試験片の結合強度との間の差は、試験(text)片の結合強度の保持を表す。
【0086】
表1は、実施例及び比較例で使用したポリアミド層の成分を示す。表2は、アルミニウムをポリアミド層に結合させる前にアルミニウムに結合層(B)を塗布するために使用した溶剤溶液の組成を示す。表1及び2において、値は表1のポリアミド組成物の総重量を基準とした重量パーセント、及び表2の金属処理溶液の総重量を基準とした重量パーセントである。様々な試験片についての結合強度保持の値を表3及び4に示す。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
表3は、成形されたポリアミド組成物とアルミニウムとの間の耐加水分解性を結合層が改善することを示している。以下の比較例C10で得られた結果も参照のこと。脂肪族ポリアミドを使用すると、望ましい結合強度の保持が得られる。E1とE2では、それぞれPA66又はPA66とPA6とのブレンドが使用される。E3とE4ではPA612が使用される。E5は半芳香族ポリアミドであるPA6T/DTを使用しており、本明細書に開示の結合層を使用してこのポリアミドから作製された物品は、望ましい結合強度保持特性も示す。
【0091】
表3は、ポリアミド組成物のアルミニウムへの結合強度保持に様々な熱安定剤が及ぼす影響も示している。これらの実施例(E1~E7)は、130℃で1000時間エチレングリコール/水溶液に物品をさらした後、成形されたポリアミド組成物とアルミニウムとの間で得られる結合強度の保持が少なくとも7.1パーセントであることを示している。
【0092】
【0093】
表4は、金属処理溶液中のポリマーに対するアミノシラン系材料の比率が結合強度の保持に及ぼす影響を示している。C8では、アミノシラン系材料対ポリマーの比率は約1対14.4であり、これは1対0.8から1対12の望ましい範囲外であり、結合強度の保持率が1%未満になる。
【0094】
表4には、様々なアミノシラン系材料及びポリマーを含む溶剤溶液が、成形されたポリアミド組成物のアルミニウムへの結合強度の保持に対するそのような金属処理溶液の有効性にどのように影響を与えるかも示されている。E11の溶剤溶液は、ポリブタジエン-マレイン酸コポリマーを含む。この溶剤溶液は、アルミニウムと成形されたポリアミド組成物との間に望ましい結合強度の保持を与え、酸及び無水物に基づくコポリマーの両方を使用して本明細書に記載の溶剤溶液を調製できることを示している。
【0095】
C10で使用される溶剤溶液はポリマーを含まない。C11で使用される溶剤溶液は、アミノシラン系材料を含まない。両方の比較例において、望まれる結合強度保持が得られない。C12は、アミノシラン系材料としてN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランを含み、得られた物品は、望まれる結合強度保持を示さない。
【0096】
C9は、金属処理溶液中のポリマーに対するアミノシラン系材料の比率が結合強度の保持に及ぼす影響を示している。C9では、アミノシラン系材料対ポリマーの比率は約5.8対1であり、これは3対1~0.8対8の望ましい範囲外であり、結合強度の保持率が1%未満になる。
【0097】
【0098】
表5に、様々な洗浄方法及び溶接プロセス(直接射出成形)の影響が示されている。実施例13、14、及び比較例13を参照すると、洗浄手順Aでは良好な結合強度を得られない。実施例15を参照すると、直接射出成形(溶接B)によって形成されたポリアミド-金属積層体は、ホットプレス成形(溶接A)によって形成されたサンプルと同じ優れた耐加水分解性を示す。
【0099】
アルミ板の表面分析
洗浄プロセスを行った後、アルミニウム板の表面を、XPS又はTOF-SIMSによって分析した。上で開示した手順B又はDを選択した。比較例14(C14)の板は、手順Bで表面をきれいにした後、油に浸した布で拭いた。表面分析の後、実施例1と同様にポリアミドを積層した。結合強度と耐加水分解性の両方を分析した。
【0100】
PHI co.,inc.からのXPS測定QuanteraSXM、X線源:Al(1486.6eV)、検出領域:φ100マイクロメートル、検出深さ4~5nm、測定モード:ワイドスキャン:Al2p、O1s、C1s、各元素シグナルのパーセント割合は、ピーク面積のカーブフィッティングによって決定した。
【0101】
TOF-SIMS:装置:IONTOF GmbHのTOF.SIMS5-300、試験条件:一次イオン:Bi、分析領域:300マイクロメートル。質量分析計:飛行時間型質量分析計、各マスフラグメントは、Al、Al(OH)3、Al2O3、又はAlO(OH)nH2Oのデータの標準サンプルと比較することにより決定した。
【0102】
【0103】
表6に、アルミニウムの表面状態の影響が示されている。E16及びC14を参照すると、同じ表面洗浄B後であっても油汚染により結合強度が低下する。C15及びE18を参照すると、良好な結合強度のためには研磨やUV/オゾン処理などの表面洗浄が必要であり、これらの有効性は、Al(OH)3のフラグメント又はAlO(OH)nH2Oなどの部分的に水酸化物であるアルミニウム化合物でTOF-SIMSによって検出することができる。
【0104】
【0105】
【0106】
アミノシラン系材料とポリマーのモル比をさらに明確にするために、成形されたポリアミド(PA66)とアルミニウムを用いてホットプレス溶接(溶接B)によって作製された物品を130℃で250時間エチレングリコール/水溶液にさらした後の結合強度の保持を、いくつかの溶剤溶液中で測定した。
【0107】
表7は、様々な比率のアミノシラン系材料とエチレンマレイン酸コポリマーとを含む溶剤溶液がどのようなものかを示している。
【0108】
E18~E27では、アミノシラン系材料対ポリマーの比率は約1対19であり、50MPaを超える望ましい初期結合強度が得られる。
【0109】
さらに、E19~E24では、アミノシランとポリマーのモル比は約1:1.3~1:4であり、130℃で250時間、エチレングリコール/水溶液に物品をさらした後に、少なくとも20MPaの優れた結合強度の保持を示す。
【0110】
【0111】
表9には、90℃の水に96時間さらした後の溶接強度が示されている。ジアミンタイプのアミノシランの加水分解物であるポリマーDを含むSS-21を使用するE28とポリマーAは優れた結合強度を示したが、アミノシランのみからなるSS-8を使用するC17は暴露後に0MPaを示した。末端-NH2基を有するジアミンタイプのアミノシランは、加水分解されたときに良好な耐加水分解性を実現するのにも有効であることが分かる。
【0112】
本発明の特定の好ましい実施形態が上で説明され、具体的に例示されてきたが、本発明がそのような実施形態に限定されることは意図していない。むしろ、本発明の多くの特徴及び利点が、本発明の構造及び機能の詳細と一緒に、前述の説明において示されているけれども、本開示は例示的であるにすぎず、添付の特許請求の範囲が表現される用語の広範な一般的意味によって示される最大限まで、本発明の原理内で、詳細に、とりわけ部品の形状、サイズ及び配置に関して変更が行われ得ることは理解されるべきである。
【国際調査報告】