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特表2023-507626駆出率が保たれた心不全を伴う肺高血圧症(PH-HF-pEF)を治療するためのレボシメンダン
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(54)【発明の名称】駆出率が保たれた心不全を伴う肺高血圧症(PH-HF-pEF)を治療するためのレボシメンダン
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/50 20060101AFI20230216BHJP
   A61K 47/56 20170101ALI20230216BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20230216BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 9/22 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230216BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20230216BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
A61K31/50
A61K47/56
A61K47/12
A61K47/10
A61K47/26
A61K9/08
A61K9/28
A61K9/107
A61K9/06
A61K9/22
A61K9/48
A61K47/40
A61K45/00
A61K47/02
A61P9/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537748
(86)(22)【出願日】2020-12-15
(85)【翻訳文提出日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 US2020065166
(87)【国際公開番号】W WO2021126884
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】62/988,720
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/967,920
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/033,773
(32)【優先日】2020-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/064,671
(32)【優先日】2020-08-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/948,735
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522241815
【氏名又は名称】テナックス・セラピューティクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【弁理士】
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】リッチ、スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】ランドール、ダグラス
(72)【発明者】
【氏名】ハイ、ダグラス
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA12
4C076AA17
4C076AA44
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB13
4C076BB16
4C076DD23
4C076DD30Z
4C076DD37
4C076DD41Z
4C076DD43
4C076DD67
4C076EE16
4C076EE39E
4C076FF31
4C076FF33
4C084AA19
4C084MA05
4C084MA17
4C084MA22
4C084MA23
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA05
4C084ZA37
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC41
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA03
4C086MA04
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA22
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA52
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA37
(57)【要約】
本発明は、駆出率が保たれた心不全を伴う肺高血圧症(PH-HFpEF)の治療に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、レボシメンダンの使用を採用する、PH-HFpEFの治療に有用な組成物及び方法を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者において、PH-HFpEFを治療する方法であって、前記ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効な量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを前記ヒト被験者に投与することを含む方法。
【請求項2】
前記治療が、以下:
a)安静時の前記ヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の、好ましくは1~30mmHgの低下;
b)安静時の前記ヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の、5~35mmHg又は10~35mmHgでの安定化;
c)前記ヒト被験者による運動中の前記ヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の、好ましくは1~40mmHgの低下;
d)前記ヒト被験者による運動中の前記ヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の、好ましくは10~50mmHgでの低下;
e)前記治療は、前記ヒト被験者による運動中の肺毛細血管楔入圧の有意な変化を含まない;
f)前記ヒト被験者の脚を上げたときの前記ヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の、好ましくは1~30mmHgの低下;
g)前記ヒト被験者の脚を上げたときの前記ヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の、好ましくは10~50mmHgでの安定化;
h)安静時の前記ヒト被験者の右心房圧の、好ましくは1~30mmHgの低下;
i)安静時の前記ヒト被験者の右心房圧の、好ましくは1~30mmHg又は5~30mmHgでの安定化;
j)前記ヒト被験者による運動中の前記ヒト被験者の右心房圧の、好ましくは1~30mmHgの低下;
k)前記ヒト被験者による運動中の前記ヒト被験者の右心房圧の、好ましくは5~40mmHgでの安定化;
l)前記ヒト被験者の脚を上げたときの前記ヒト被験者の右心房圧の低下;
m)安静時の前記ヒト被験者の平均肺動脈圧の、好ましくは1~30mmHgの低下;
n)安静時の前記ヒト被験者の平均肺動脈圧の、好ましくは15~65mmHgでの安定化;
o)前記ヒト被験者による運動中の前記ヒト被験者の平均肺動脈圧の、好ましくは1~30mmHgの低下;
p)前記ヒト被験者による運動中の前記ヒト被験者の平均肺動脈圧の、25~85mmHg又は25~80mmHgでの安定化;
q)前記ヒト被験者の脚を上げたときの前記ヒト被験者の平均肺動脈圧の低下;
r)安静時の前記ヒト被験者の心拍出量の、好ましくは0.01~3リットル/分の増加;
s)安静時の前記ヒト被験者の心拍出量の2~10リットル/分での安定化;
t)前記ヒト被験者による運動中の前記ヒト被験者の心拍出量の増加;
u)前記ヒト被験者による運動中の前記ヒト被験者の心拍出量の0.01~5リットル/分又は0.01~4リットル/分又は3.0~15.0リットル/分の増加;
v)前記ヒト被験者の心拍数の有意な増加を含まないか、又は10拍/分を超えるヒト前記被験者の心拍数の増加を含まない;
w)前記ヒト被験者のクオリティオブライフの改善;
x)前記ヒト被験者の6分間歩行距離の、好ましくは5~150メートルの改善;
y)前記ヒト被験者の心機能分類の医師による評価の改善;
z)心不全に関する入院の発生率の低下;
aa)全死因死亡率の低下;
bb)好ましくは、安静時及び25ワットの運動中の右心房圧の低下によって証明される右心不全及び/又は右心室機能障害の改善
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(w)において、前記ヒト被験者のクオリティオブライフの改善が、患者報告アウトカム評価ツールにより測定される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記治療が、前記ヒト被験者の患者報告アウトカム評価ツールスコアの変化に従う前記ヒト被験者のクオリティオブライフの少なくとも1、より好ましくは2の改善を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト被験者が、レボシメンダン療法の応答者である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
a)レボシメンダン療法に対する応答者は、その肺毛細血管楔入圧が、最初の注入後の25ワットの自転車運動中に少なくとも4mmHG低下するヒト被験者であり;
b)レボシメンダン療法に対する応答者は、ベースライン測定と最初の注入後の反復測定との間で心係数が10%以下まで低下するヒト被験者であり;
c)前記ヒト被験者は、前記ヒト被験者が心臓予備能を有する場合、レボシメンダン療法に対する応答者であり;
d)前記ヒト被験者は、前記ヒト被験者による運動中に前記ヒト被験者の1回拍出量が増加する場合、レボシメンダン療法に対する応答者であり;
e)前記ヒト被験者は、拍動毎に左心室から移動する血液を測定する前記ヒト被験者の心臓内のカテーテルを用いて決定した場合、前記ヒト被験者による運動中に前記ヒト被験者の1回拍出量が増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者であり;
f)前記ヒト被験者は、心電図及び/又は心エコー図で推定した場合、前記ヒト被験者による運動中に前記ヒト被験者の1回拍出量が増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者であり;
g)前記ヒト被験者は、ドブタミンストレス試験で決定した場合、前記ヒト被験者による運動中に前記ヒト被験者の1回拍出量が増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者であり;
h)前記ヒト被験者は、前記ヒト被験者による運動中に前記ヒト被験者の1回拍出量が少なくとも0.005リットル増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者であり;
i)前記ヒト被験者は、拍動毎に左心室から移動する血液を測定する前記ヒト被験者の心臓内のカテーテルで決定した場合、前記ヒト被験者による運動中に前記ヒト被験者の1回拍出量が1~50mL増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者であり;
j)前記ヒト被験者は、心エコー図、右心カテーテル検査、又は他の手段によって推定した場合、前記ヒト被験者による運動中に前記ヒト被験者の1回拍出量が1~50mL増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者であり;或いは
k)前記ヒト被験者は、ドブタミンストレス試験で決定した場合、前記ヒト被験者による運動中に前記ヒト被験者の1回拍出量が1~50mL増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者である、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
PH-HFpEFに罹患した前記ヒト被験者は、以下:
a)少なくとも40%の左室駆出率を有し;
b)少なくとも35のベースライン肺動脈圧を有し;
c)少なくとも20のベースライン肺毛細血管楔入圧を有し;
d)医師の評価により、ニューヨーク心臓協会分類(New York Heart Association Classification)の分類IIb又は分類IIIとして分類され;
e)6分間歩行試験で少なくとも50メートル歩く能力を有するが、6分間歩行試験で550メートル以上歩く能力を有していないか、又は6分間歩行試験で、少なくとも50メートル、但し550メートル以下を歩く能力を有し;
f)駆出率が低下した心不全に罹患しておらず;
g)肺高血圧症を伴わない、駆出率が保たれた心不全に罹患しておらず;
h)第2群のPH-HFpEFの一次診断を有し;
i)冠動脈疾患に罹患しておらず;
j)過去に経皮的冠動脈インターベンションを受けたことがなく;
k)前記ヒト被験者が過去1年以内に陰性のストレステスト結果を有した場合を除いて、過去に経皮的冠動脈インターベンションを受けたことがなく;
l)過去に心臓手術を受けたことがなく;
m)前記ヒト被験者が過去1年以内に陰性のストレステスト結果を有した場合を除いて、過去に心臓手術を受けたことがなく;
n)先天性心疾患に罹患しておらず;
o)臨床的に有意な肺疾患に罹患しておらず;
p)心臓又は肺手術の計画がなく;
q)4.0L/分/m2を超える心係数を有しておらず;
r)肺血管拡張療法を同時に受けておらず;
s)過去14日以内に肺血管拡張療法を受けておらず;
t)透析治療を受けておらず;
u)30mL/分/1.73m2未満の糸球体濾過速度を有しておらず;
v)チャイルド・ピュー分類B又はCの肝機能障害を有しておらず;
w)全身感染のエビデンスを有しておらず;
x)体重は、150kg以下であり;
y)その症候性収縮期血圧が確実に100mmHgを超えるように管理することができ;
z)薬剤の使用による毎分100拍以上の心拍数を有しておらず;
aa)症状性で、且つ少なくとも10分間持続性である、薬剤の使用による毎分100拍以上の心拍数を有しておらず;
bb)80g/L未満のヘモグロビンを有しておらず;
cc)ベースライン時に3.0ミリモル/L未満の血清カリウムを有しておらず;
dd)ベースライン時に5.5ミリモル/Lを超える血清カリウムを有しておらず;
ee)ベースライン時に3.0ミリモル未満又は5.5ミリモル/Lを超える血清カリウムを有しておらず;
ff)重度の免疫機能障害を有しておらず;
gg)妊娠しておらず、妊娠が疑われず、又は授乳中ではなく;或いは
hh)両心室不全を有する患者である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記投与が、IV投与を介して実施される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記投与が、間欠的に、毎週、又は長期に行われる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記投与が、24時間の注入によって実施される、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記投与が、24時間未満の注入によって実施される長期投与である、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記投与が、以下:
a)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり;
b)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量5mLで供給され;
c)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量5mLで供給され、これは5%デキストロースの250mL注入バッグ1個に添加され;
d)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量5mLで供給され、これは0.9生理食塩水の250mL注入バッグ1個に添加され;
e)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、前記ヒト被験者の体重が85kg未満の場合、総量5mLで供給され、これは5%デキストロース又は0.9生理食塩水の250mL注入バッグ1個に添加され;
f)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量10mLで供給され;
g)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量10mLで供給され、これは5%デキストロースの500mL注入バッグ1個に添加され;
h)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量10mLで供給され、これは0.9生理食塩水の500mL注入バッグ1個に添加され;
i)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、前記ヒト被験者の体重が少なくとも85kgである場合、総量10mLで供給され、これは5%デキストロース又は0.9生理食塩水の500mL注入バッグ1個に添加される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
用量に対して前記ヒト被験者の忍容性が良好でない場合、投与注入速度が0.05μg/kg/分に低減される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記投与が、経口投与により行われる、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記経口投与が、即時放出製剤又は徐放性製剤を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記投与が、皮下製剤の皮下投与である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記皮下製剤が、添加剤を含む静脈内製剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記皮下製剤が、以下:
a)前記皮下製剤中に0.0833mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、150mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される、非水性製剤中の12.5mgのレボシメンダン;
b)前記皮下製剤中に0.05mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、250mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される、非水性製剤中の12.5mgのレボシメンダン;
c)前記皮下製剤中に0.025mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、500mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される、非水性製剤中の12.5mgのレボシメンダン;
d)前記皮下製剤中に0.0125mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、1000mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される、非水性製剤中の12.5mgのレボシメンダン;
e)前記皮下製剤中に0.008333mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、1500mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される、非水性製剤中の12.5mgのレボシメンダン
を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記皮下製剤の前記皮下投与が、前記皮下投与により引き起こされる疼痛を軽減するのに有効な量の水を含む、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記皮下製剤の前記皮下投与が、pHを3.5より高くするための緩衝剤を含む、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記皮下製剤の前記皮下投与が、
a)前記ヒト被験者におけるレボシメンダンの静脈内投与と比較して低い副作用を有するか;又は
b)前記ヒト被験者における静脈内投与と比較して、レボシメンダンのピーク血漿濃度を少なくとも1%~25%低下させる、
請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せが、心血管薬と組み合わせて投与される、請求項16~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せと、前記量の前記心血管薬が、一緒に摂取されると、PH-HFpEFの症状を軽減するのに有効である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記心血管薬が、肺動脈性高血圧症(PAH)、世界保健機関(World Health Organization)(WHO)第1~5群の肺高血圧症患者、冠動脈疾患(CAD)、又は駆出率が低下した心不全(HFrEF)を治療するために使用される薬剤である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記心血管薬が、PDE阻害剤、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、プロスタノイド、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、硝酸塩、亜硝酸塩、NOドナー、カルシウムチャネル阻害剤(CCB)、脂肪酸酸化阻害剤、βブロッカー(BB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ネプリライシン阻害剤、ネプリライシン及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ANRI)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、利尿薬、アルドステロンアンタゴニスト、ジゴキシン、イバブラジン、ヒドララジン、セララキシン、ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ナトリウム利尿ペプチド、K-ATPチャネル活性化剤、NEP阻害剤、又はプロスタサイクリンである、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項26】
前記心血管薬が、肺血管拡張薬である、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項27】
前記肺血管拡張剤が、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、又はプロスタサイクリンである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記肺血管拡張薬と組み合わせて投与される、前記量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せが、前及び後毛細血管性肺高血圧症及び駆出率が保たれた心不全(Cpc-PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に投与される、請求項26又は27に記載の方法。
【請求項29】
ベースライン心電図モニタリングを5週間の治療後の72時間モニタリングと比較すると、心房性又は心室性のいずれの不整脈も観察されない、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
治療することが、マッチングプラセボと同程度の統計的に有意な有害事象しか示さない、請求項1~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
レボシメンダンの週24時間の投与が、0.20ng/mL~25.00ng/mLの範囲のOR1896の定常状態血中濃度をもたらす、請求項1~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
a)レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の5mLバイアル用量;
b)250mLの5%デキストロース又は0.9生理食塩水;及び
c)pHを高めるための緩衝剤
を含む製品。
【請求項33】
ヒト被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)を有効に治療するための、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの使用。
【請求項34】
駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に投与して、前記ヒト被験者のPH-HFpEFを有効に治療するための医薬の調製を目的とする、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの使用。
【請求項35】
ヒト被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)を有効に治療するのに使用するための、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを含む医薬。
【請求項36】
ヒト被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)を有効に治療するための、心血管薬と組み合わせた、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの使用。
【請求項37】
駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に投与して、前記ヒト被験者のPH-HFpEFを有効に治療するための心血管薬と組み合わせた医薬の調製を目的とする、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの使用。
【請求項38】
ヒト被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)を有効に治療するために心血管薬と組み合わせて使用することを目的とする、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを含む医薬。
【請求項39】
PH-HFpEFに罹患したヒト被験者のPH-HFpEFの治療に使用するためのレボシメンダンの皮下製剤であって、前記皮下製剤は乾燥粉末から得られ、前記乾燥粉末は、(a)レボシメンダン、(b)スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン;(c)水酸化ナトリウム又は酢酸;及び注射用水を含む医薬組成物から得られる、皮下製剤。
【請求項40】
レボシメンダンの前記量が、2.5mg/ml注射用水である、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンの前記量が、0.175mg/ml注射用水である、請求項39又は40に記載の組成物。
【請求項42】
前記水酸化ナトリウム又は酢酸が、pHを7.2~7.8の範囲に調節するのに適切な量である、請求項39~41のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項43】
前記医薬組成物が、凍結乾燥される、請求項39~42のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項44】
レボシメンダンの前記皮下製剤が、皮下投与に適した量の水溶液中で前記乾燥粉末を再構成することによって前記乾燥粉末から得られる、請求項39~43のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項45】
前記再構成された皮下製剤が、水酸化ナトリウム又は酢酸を用いてpHが7.2~7.8に調節される、請求項44に記載の組成物。
【請求項46】
駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者における、PH-HFpEFを治療するための方法であって、前記ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効な量の心血管薬を前記ヒト被験者に投与することを含み、ここで、前記心血管薬が、以下:PDE阻害剤、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、プロスタノイド、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、硝酸塩、亜硝酸塩、NOドナー、カルシウムチャネル阻害剤(CCB)、脂肪酸酸化阻害剤、β-ブロッカー(BB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ネプリライシン阻害剤、ネプリライシン及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ANRI)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、利尿薬、アルドステロンアンタゴニスト、ジゴキシン、イバブラジン、ヒドララジン、セララキシン、ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ナトリウム利尿ペプチド、K-ATPチャネル活性化剤、NEP阻害剤、及びプロスタサイクリンからなる群から選択される、方法。
【請求項47】
駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者における、PH-HFpEFを治療するための方法であって、前記ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効な量の肺血管拡張薬を前記ヒト被験者に投与することを含み、ここで、前記肺血管拡張薬が、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、及びプロスタサイクリンからなる群から選択される、方法。
【請求項48】
前記量の前記肺血管拡張薬が、前及び後毛細血管性肺高血圧症及び駆出率が保たれた心不全(Cpc-PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に投与される、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)の治療に使用するための心血管薬であって、前記心血管薬が、以下:PDE阻害剤、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、プロスタノイド、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、硝酸塩、亜硝酸塩、NOドナー、カルシウムチャネル阻害剤(CCB)、脂肪酸酸化阻害剤、β-ブロッカー(BB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ネプリライシン阻害剤、ネプリライシン及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ANRI)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、利尿薬、アルドステロンアンタゴニスト、ジゴキシン、イバブラジン、ヒドララジン、セララキシン、ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ナトリウム利尿ペプチド、K-ATPチャネル活性化剤、NEP阻害剤、及びプロスタサイクリンからなる群から選択される、心血管薬。
【請求項50】
被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)の治療に使用するための肺血管拡張薬であって、前記肺血管拡張薬が、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、及びプロスタサイクリンからなる群から選択される、肺血管拡張薬。
【請求項51】
前記駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)が、前及び後毛細血管性肺高血圧症及び駆出率が保たれた心不全(Cpc-PH-HFpEF)である、請求項51に記載の方法。
【請求項52】
前記被験者に、最大0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1mg、2mg、3mg、又は4mg、より好ましくは1~3mgのレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを含むカプセルを経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項53】
前記被験者に、1日1回カプセルを1~60日、好ましくは14日の期間にわたって投与する、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記被験者は、前記治療が前記被験者により忍容される場合、各期間の後に1日当たり摂取するカプセルの数を増やす、請求項52又は53に記載の方法。
【請求項55】
前記被験者に、1日当たり0.1~10mgのレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを、好ましくは、1日当たり1~4mgのレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを経口投与する、請求項52~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記被験者が、レボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの経口投与を開始する少なくとも1日、より好ましくは少なくとも1週間前に、レボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの最終静脈内注射を受けている、請求項52~55のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年8月12日に出願された米国仮出願第63/064,671号明細書、2020年6月2日に出願された同第63/033,773号明細書、2020年3月12日に出願された同第62/988,720号明細書、2020年1月30日に出願された同第62/967,920号明細書、及び2019年12月16日に出願された同第62/948,735号明細書の利益を主張し、これら各々の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願全体を通して、括弧内に参照されるものを含め、様々な刊行物が参照される。本出願で言及される全ての刊行物の開示内容は、その全体が、本発明が関連する技術及び本発明に使用することができる当技術分野における特徴のさらなる説明を提供するために、参照により本出願に組み込まれる。
【0003】
本発明は、具体的には肺高血圧症も有するヒト被験者(PH-HFpEF患者)における、駆出率が保たれた心不全の治療に関する。
【背景技術】
【0004】
レボシメンダン
レボシメンダンは、急性非代償心不全(ADHF)の入院被験者への静脈内使用のために60カ国以上で承認されたカルシウム増感剤及びカリウムチャネル活性化剤である。レボシメンダンは現在、院内での使用のみに承認されており、現在、変力剤の使用に関して適切な監視施設及び専門知識が利用可能な病院環境での投与に限り承認されている。(Simdax.Finland:Orion Corporation;2010.)
【0005】
レボシメンダンは、カルシウム依存的に心臓トロポニンCに結合することによって収縮性タンパク質のカルシウム感受性を増大する。レボシメンダンは、収縮力を増加させるが、心室弛緩は損なわない。加えて、レボシメンダンは、血管平滑筋においてATP感受性カリウムチャネルを開き、全身性及び冠動脈抵抗血管並びに全身性静脈容量血管の血管拡張を誘導する。レボシメンダンはまた、インビトロで選択的ホスホジエステラーゼIII阻害剤である。(Simdax.Finland:Orion Corporation;2010.)
【0006】
レボシメンダンは、駆出率が低下した心不全患者(HFrEF)において排他的に研究されている。実際、本発明の基礎となるHP-HFpEF(HELP)試験におけるレボシメンダンの血行動態評価(Borlaug 2020,Burkhoff 2020)の唯一の例外を除いて、心不全患者におけるレボシメンダンの多くの以前の多施設無作為化プラセボ対照試験は全て、駆出率が保たれた心不全患者(HFpEF)を明確に除外している。HFpEF及びPH-HFpEF患者におけるレボシメンダンを評価する臨床研究が完全に欠如していることは、HFrEF患者の治療のためにレボシメンダンを使用すべきであるという歴史的な治療パラダイムと一致している。HELP試験は、この伝統的な考え方からの大きな逸脱を表しており、その結果、この新規臨床試験からの知見は、PH-HFpEF患者におけるレボシメンダンの利点に関する重要且つ驚くべき発見を提示している。
【0007】
HFrEF患者の場合、レボシメンダンの陽性変力作用及び血管拡張作用は、拡張機能に悪影響を及ぼすことなく、収縮力の増大、及び前負荷及び後負荷の両方に減少をもたらす。健康なボランティア及び安定及び不安定な心不全を有する患者における血行動態学研究により、負荷用量(3マイクログラム/kg~24マイクログラム/kg)及び連続注入(毎分0.05~0.2マイクログラム/kg)として静脈内投与されたレボシメンダンの用量依存的効果が明らかにされている。プラセボと比較して、HFrEF患者の場合、レボシメンダンは、心拍出量、1回拍出量、駆出率、及び心拍数を増加させると共に、収縮期血圧、拡張期血圧、肺毛細血管楔入圧、右心房圧、及び末梢血管抵抗を減少させた。(Simdax.Finland:Orion Corporation;2010.)
【0008】
レボシメンダンの活性は、ユニークな作用機序により媒介され、そうしたものとして、トロポニンCのカルシウム感作による心臓収縮性の増大、カリウムチャネルの開放を介した血管拡張、及びミトコンドリアにおけるカリウムチャネル開放を介した心臓保護作用が挙げられる。(Haikala et al.1995,Haikala et al.1995,Pollesello et al.1994,Sorsa et al.2004,Yokoshiki et al.1997,Pataricza et al.2000,Kaheinen et al.2001,Erdei et al.2006,Maytin et al.2005,Pollesello et al.2007,du Toit et al.2008,Louhelainen et al.2010)
【0009】
レボシメンダンは、インビトロで強力且つ選択的なホスホジエステラーゼ-3(PDE3)阻害剤であることが証明されている。この薬剤は、PDE3選択的であり、10,000のPDE3/PDE4阻害比を有する。しかし、cAMP濃度及び変力効果に作用を及ぼすためには、心筋細胞において両方のアイソザイムを阻害しなければならない。古典的なPDE阻害剤(即ち、ミルリノン、エノキシモン、及びアムリノン)は、両方を阻害し(PDE3:PDE4は17倍と低い)、それらの変力効果の理由を十分に説明している。(Yokoshiki et al.1997,Szilagyi et al.2004)
【0010】
レボシメンダンは、アデノシン三リン酸感受性カリウムチャネルを開放し、一酸化窒素産生を増加させることによって、内皮機能を改善すると共に、拡張期冠血流を増大する。レボシメンダンは、高い収縮期細胞内カルシウム濃度でのトロポニン-Cへの直接結合を介して作用すると共に、低い拡張期濃度でトロポニン-Cからの脱離が容易になる。レボシメンダンは、ミルリノン及びニトログリセリンに対して正の変弛緩作用を示した。レボシメンダンの変弛緩作用は、変力効果の程度から独立している。(Michaels et al.2005,Grossini et al.2005,Hasenfuss et al.1998,De Luca et al.2006)
【0011】
代謝物OR-1896及びOR-1855
レボシメンダンは、注入期間をはるかに超えてその効果を延長する活性代謝物を有する。静脈内又は経口投与の後、レボシメンダンは、腸内細菌によって還元されてOR-1855(限定的な活性)を形成し、これがアセチル化されて、活性代謝物であるOR-1896を形成する。患者の半減期は約1時間で、静脈内注入終了から数時間で排除されるが、OR-1896は、脱アセチル化/アセチル化経路を介して維持されるOR-1855及びOR-1896のほぼ同等の曝露を有する心不全被験者において70~80時間の延長された半減期を有する。OR-1896代謝物は、レボシメンダンと類似する血行動態及び薬理学的特性を保持し、前臨床モデルでは、レボシメンダンとほぼ同等の特性を維持することが証明されている。この活性は、レボシメンダンと比較してかなり低い血漿濃度にもかかわらず起こり、これは、循環中の大部分の非結合OR-1896についての明らかな結果である。このように、長期の反復投与では、レボシメンダンは、本質的に、活性代謝物部分OR-1896に対する活性プロドラッグである。(Louhelainen et al.2010,Erdei et al.2006,Szilagyi et al.2004,Banfor et al.2008,Louhelainen et al.2009,Segreti et al 2008)
【0012】
OR-1896は、心筋細胞全体及び単離された収縮装置調製物におけるその変力効果で、レボシメンダンと等効力である。しかし、OR-1896は、PDE3及びPDE4アイソザイム両方の阻害において効力が大きく劣る。これは、レボシメンダン及びOR-1896のいずれについても変力効果の主成分が、PDE阻害によるのではなく、トロポニンCへの結合によるものであるという仮説を支持する。(Szilagyi et al.2004)
【0013】
臨床観察は、短期のレボシメンダン投与後に、OR-1896のレベルと対応して長期血行動態変化が続くことを実証している。患者は、治療から2週間後の追跡調査で、代謝物OR-1896及びOR-1855の両方の検出可能な濃度を有することが観察されている。OR-1855の不活性が観察されているにもかかわらず、OR-1896は、親レボシメンダンの活性を大幅に延長し、間欠的静脈内レボシメンダン療法を受けている被験者に一次活性部分を提供する。(Banfor et al.2007,Kivikko et al.2003,Kivikko et al.2002)
【0014】
OR-1896及びOR-1855の知識に基づいて、代謝物の投与は、代謝物自体のパラメータを調節して、レボシメンダンと同様に使用することができる。両方の代謝物は、限定されないが、経口、静脈内、及び皮下投与を含め、様々な投与経路を介して送達することができる。選択される用量は、具体的な投与経路に応じて変動する。あらゆる場合で、目標とする投与は、OR-1896の定常状態濃度:0.5~10.0ng/mlを達成することが意図される。レボシメンダンとOR-1896及びOR-1855との関係は、代謝物同士の相互作用と共に、Pharmacodynamics and Safety of a New Calcium Sensitizer,Levosimendan,and Its Metabolites during an Extended Infusion in Patients with Severe Heart Failure(Kivikko et al.2002)において取り上げられており、その全内容は、参照により組み込まれる。
【0015】
心不全のタイプ-HFrEFとHFpEF
HFpEFとHFrEFは、別個の臨床実体である。各タイプの心不全は、全心不全患者の約50%を占めるが、これら2つの形態の心不全には多くの違いがある。
【0016】
Shawらによる最近のレビューには、HFpEFとHFrEFの明確な特徴のいくつかが記載されており、それらを以下のチャートに要約する。レビューは、過去30年にわたり、HFrEFが、大規模なアウトカム臨床試験で認められる神経ホルモン阻害の効果によって、それ自身の全く異なる治療薬実体に進化したことを指摘した。しかし、HFpEFは、神経ホルモン阻害を個別に又はメタアナリシスで試験する大規模な試験が相次いで失敗したために、同様の進化を遂げていない。(Shaw et al.2016)
【0017】
【表1】
【0018】
肺高血圧症-駆出率が保たれた心不全(PH-HFpEF)
多くのHFpEF患者は、合併した肺高血圧症を有する。左心房圧の持続的な上昇は肺静脈鬱血を引き起こし、これは、多くの場合、肺圧の上昇を招いて、低心拍出量、浮腫、低酸素血症、及び重度の運動能力制限を伴う重症右心室不全をもたらす。心不全及び保持された駆出率を有する被験者(PH-HFpEF)における肺高血圧症(PH)は、肺高血圧症の一般的な形態であり、150万人を超える推定米国患者数を有する。(Oktay et al.2013,Oudiz et al.2007,Hoeper et al.2016)
【0019】
PH-HFpEFは、PHの世界保健機関(World Health Organization)(WHO)の臨床分類のII群に分類されており、これは、左心疾患から起こるPHを特徴とする。左心疾患の原則とは関係なく、PHは、初め、主として左室(LV)拡張機能により駆動される充満圧の受動的な後方伝達から発生し、これが、左房圧の慢性的な上昇及び左房コンプライアンスの喪失を引き起こす。肺静脈鬱血のこれらの機械的要素は、肺血管収縮、一酸化窒素(NO)利用可能性の低下、エンドセリン発現の増加、ナトリウム利尿ペプチド誘発血管拡張に対する脱感作、及び血管リモデリングをトリガーし得る。最後に、これらの変化は、往々にして、進行した肺血管疾患、右室(RV)後負荷の増加、及びRV不全を招く。PH-HFpEFは、肺動脈圧(mPAP)≧25mmHg、肺毛細血管楔入圧(PCWP)>15mmHg、及び拡張期血圧較差[拡張期PAP-PCWP]>7mmHgにより、血行動態学的に定義される。(Galie et al.2009,McLaughlin et al.2009,Simonneau et al.2009,Dixon et al.2015)
【0020】
PH-HFpEF被験者の治療におけるESCガイドラインは、容認される治療標的が、鬱血のための利尿薬を用いた肺楔入圧の低下であることを認めている。しかし、臨床試験では、肺高血圧症(PH)標的療法がLV充満圧の急速な上昇に起因する有害な影響を及ぼし、急性肺水腫を引き起こす恐れがあるという懸念の明示と共に、曖昧な結果が示されている。このように、ESCガイドラインは、HFpEFにおいて肺血管疾患(PVD)及び右心室疾患(RVD)を治療するための確立された戦略が現在存在しないことを明記しており、承認済PAH治療をPH-HFpEF被験者に使用しないよう勧告している(クラスIII)。有効な治療法が実証されていないため、これらの被験者は転帰が不良である(5年生存率<50%、頻繁な入院)。(Shaw et al.2016,Galie et al.2009,Gorter et al.2018,Klapholz et al.2004)
【0021】
レボシメンダンは、これまでPH-HFpEF集団において研究されたことがない。PH-HFpEFにおけるレボシメンダンの潜在的な有用性に関する研究が完全に欠如しているのは、恐らく、レボシメンダンなどの変力物質が、ほとんどの心不全ガイドラインにおいて、HFpEF患者ではなく、専らHFrEFの治療だけに使用されることが推奨されているという事実によるものであろう。一例として、心不全の管理のための2013 ACCF/AHAガイドラインは、HFrEF患者への変力物質使用の推奨を明確に制限し、「鬱血の有無にかかわらず、書面に記録された重度の収縮機能障害、低血圧、又は灌流障害、並びに著しく低下した心拍出量のエビデンスのない入院患者における非経口変力剤の使用は、有害となる可能性がある」と記載している。
【0022】
失敗した治療の試み
さらに、他の形態の肺高血圧症を治療するために使用される現在承認されている薬剤のいずれも、PH-HFpEFに有効であることが証明されていない。実際、PH-HFpEFで他の薬剤を試験した以前の試験は全て、中性から陰性の結果を繰り返し報告している。(ElGuindy et al.2012)。
【0023】
試みられたPH-HFpEFの治療で繰り返された失敗を整理するために、多数のレビュー論文が発表されている。1つは、特に、Andrea R.Levine et al.によって著された、駆出率が保たれた心不全の設定での肺血管疾患(Pulmonary Vascular Disease in the Setting of Heart Failure with Preserved Ejection Fraction)は、この疾患の背後にある全ての背景情報を統合すると同時に、この背景情報を以前に失敗した試みにも適用した。様々な治療薬の失敗した試みに関する所見は、PH-HFpEFを治療する上での著しい困難の説明を助けるために以下に参照される。
【0024】
以前の臨床試験における1つの標的経路は、硝酸塩-NO-sGC-cGMP経路であった。いくつかの小規模な単一施設試験では、PH-HFpEFをPDE5iで治療した陽性結果が報告されているが、大規模な多施設試験では陰性であったため、PDE5iがPH-HFpEFの承認された治療法になる可能性は低い。2015年、Hoendermis et al.は、52人の患者にシルデナフィル投与の12週間後にmPAPの変化を見いださなかった。RELAX試験では、長期のシルデナフィル投与が、HFpEF患者において24週でピーク酸素消費量を変化させたかどうかを確認しようとした。しかし、長期のシルデナフィル処置は、216人の患者のこの多施設試験で、6分間歩行時間、臨床状態、又はクオリティオブライフを改善することができなかった。SIOVAC試験は、心臓弁膜症に続発するPH左心疾患(LHD)患者におけるシルデナフィルの多施設プラセボ対照試験であった。この試験は、PH-LHD患者におけるシルデナフィルの使用に関連するリスクを補足し、PH-LHD患者におけるPDE5iの使用に対する勧告も支持した。今日までに見られたこれらの否定的な結果のために、PH-HFpEFにおけるPDE5iの有効性は極めて可能性が低いと思われる。多施設INDIE-HFpEFでは、無機亜硝酸塩注入の急性心肺血行動態効果を試験した。しかし、この試験は、吸入亜硝酸ナトリウムを1日3回4週間投与した患者において、心肺運動中のピーク酸素消費の主要エンドポイント、又は活動レベル、クオリティオブライフスコア、若しくはNT-proBNPなどの副次エンドポイントに全く改善を実証することができなかったため、成功しなかった。Simon et al.により実施された別の研究では、PH-HFpEF患者の吸入亜硝酸塩をさらに評価し、心肺血行動態に関連するいくつかの有望なデータが得られたが;臨床エンドポイントの改善は、今日まで実証されていない。DILATE試験及びSOCRATES-PRESERVED試験ではいずれも、sGC刺激剤であるリオシグアト及びベリシグアトの急性血行動態作用をそれぞれ評価した。DILATE試験はいくつかの有望な結果を示したが、主要アウトカムは平均肺動脈圧では達成されず、また、TPG又は肺血管抵抗にも変化はなかった。SOCRATES-PRESERVED試験も同様の結果で終了し、主要エンドポイントでも有意な変化は見られなかった。(Levine et al.2019)
【0025】
エンドセリン受容体は、PH-HFpEFの治療のための別の以前に標的化された分子標的である。MELODY-1は、左心疾患患者においてマシテンタンを評価する小規模なパイロット試験であった。しかし、主要アウトカムは、体液貯留及びニューヨーク心臓協会(New York Heart Association)(NYHA)心機能分類の悪化であった。さらに、肺血管抵抗、平均肺動脈圧、又は肺動脈楔入圧などの血行動態パラメータに変化は見られなかった。BADDHY試験では、PH-HFpEF患者にエンドセリン受容体アンタゴニストであるボセンタンの使用も試みられたが6分間歩行試験又は、肺高血圧症の心エコー検査に改善は全く見られなかった。ボセンタンを投与された患者は、プラセボのみを投与された患者よりも実際に臨床転帰が不良であった。これらの2つの試験のいずれも、PH-HFpEFの治療におけるエンドセリン受容体アンタゴニストを用いた成功を示さなかった。(Levine et al.2019)
【0026】
HFpEFにおけるこれまでの最大の臨床試験は、Novartisにより実施されたPARAGON-HF試験であった。この試験は、HFpEF患者に対するサクビトリル/バルサルタンの効果を評価するために設計された。PARAGON-HFは、主要エンドポイントの低下が統計的に有意ではなかった大規模な臨床試験のさらに別の例であった。(Novartis 2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
2009 ACCF/AHA及び2015 ESC/ERSガイドラインによれば、PH-HFpEFに対する現在の臨床的に承認された治療法はない。上に要約したように、当技術分野で知られている多くの失敗及び有害作用を考慮すれば、いずれの薬剤もPH-HFPEFを治療することを期待することはできないが、この現在治療不可能な疾患の治療法を見出すことが当技術分野で強く求められている。(Levine et al.2019).
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、駆出率が保たれた心不全を伴う肺高血圧症(PH-HFpEF)の治療に関する。より具体的には、本発明の実施形態は、レボシメンダン、又はOR1896、若しくはOR1855の使用を採用する、PH-HFpEFの治療に有用な組成物及び方法を提供する。他の実施形態では、皮下投与によるPH-HFpEFの治療が企図される。他の実施形態では、経口投与によるPH-HFpEFの治療が企図される。他の実施形態では、レボシメンダン、又はOR1896、若しくはOR1855と他の心血管薬との併用療法によるPH-HFPEFの治療が企図される。
【0029】
本発明は、本発明の方法のいずれかに使用するためのレボシメンダン及びレボシメンダンを含む医薬を提供する。
【0030】
本発明の他の目的、特徴及び利点は、以下の説明及び図面から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1A-1B】レボシメンダンリードイン注入前対後の肺毛細血管楔入圧(PCWP)オープンラベルレボシメンダン応答者(n=30)。図1A~1Bは、実施例1の結果のグラフ表示であり、30人の患者におけるレボシメンダン投与後の肺毛細血管楔入圧(PCWP)の低下を示す。これらの結果は、単一の24時間オープンラベルリードイン注入データに基づく。図1Aは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時のレボシメンダン注入後のPCWPの低下を示す。図1Bは、ヒト被験者が25ワットを使う運動中のレボシメンダン注入後のPCWPの低下を示す。
図2A-2B】レボシメンダンリードイン注入前対後の右心房圧(RAP)オープンラベルレボシメンダン応答者(n=30)。図2A~2Bは、実施例1の結果のグラフ表示であり、30人の患者におけるレボシメンダン投与後の右心房圧(RAP)の低下を示す。これらの結果は、単一の24時間オープンラベルリードイン注入データに基づく。図2Aは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時のレボシメンダン注入後のRAPの低下を示す。図2Bは、ヒト被験者が25ワットを使う運動中のレボシメンダン注入後のRAPの低下を示す。
図3A-3B】レボシメンダンリードイン注入前対後の平均肺動脈圧(mPAP)オープンラベルレボシメンダン応答者(n=30)。図3A~3Bは、実施例1の結果のグラフ表示であり、30人の患者におけるレボシメンダン投与後の平均肺動脈圧(mPAP)の低下を示す。これらの結果は、単一の24時間オープンラベルリードイン注入データに基づく。パネルAは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時のレボシメンダン注入後のmPAPの低下を示す。パネルBは、ヒト被験者が25ワットを使う運動中のレボシメンダン注入後のmPAPの低下を示す。
図4A-4B】レボシメンダンリードイン注入前対後の心拍出量オープンラベルレボシメンダン応答者(n=30)。図4A~4Bは、実施例1の結果のグラフ表示であり、30人の患者におけるレボシメンダン投与後の心拍出量(CO)の増加を示す。これらの結果は、単一の24時間オープンラベルリードイン注入データに基づく。パネルAは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時のレボシメンダン注入後のCOの増加を示す。パネルBは、ヒト被験者が25ワットを使う運動中のレボシメンダン注入後のCOの増加を示す。
図5】6分間歩行距離オープンラベル延長試験(n=8)。図5は、実施例2の結果のグラフ表示であり、8人の患者におけるレボシメンダン投与後の6分間歩行距離の増加を示す。
図6】クオリティオブライフの改善のエビデンス-患者の自己評価-延長試験、5点リッカート尺度。図6は、実施例2の結果のグラフ表示であり、8人の患者における5点リッカートスケールによるレボシメンダン投与後のクオリティオブライフ評価の増加を示す。
図7】運動1回拍出量は、レボシメンダンに対する応答を予測し得る。図7は、実施例1の結果のグラフ表示であり、21人の患者において、レボシメンダンで処置されたPH-HFpEF患者に対する応答の予測因子を示す。このグラフは、安静時と25ワットの運動との間の患者の1回拍出量の変化が大きいほど、レボシメンダン投与後のPCWPの低下が大きいことを示している。
図8】PCWPエンドポイント-ベースライン対6週。全姿勢でPCWPに対するレボシメンダン効果は、プラセボに対して有意である。図8は、実施例2の結果のグラフ表示であり、35人のPH-HFpEF患者(18人のレボシメンダン処置患者と17人のプラセボ処置患者)に対して、レボシメンダン又はプラセボを5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与した後の肺毛細血管楔入圧(PCWP)の低下を示す。左パネルは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時、仰臥位自転車で脚を上げた状態、及びヒト被験者が25ワットを使う運動中のプラセボ投与後のPCWPの差を示す。右パネルは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時、仰臥位自転車で脚を上げた状態、及びヒト被験者が25ワットを使う運動中のレボシメンダン注入後のPCWPの低下を示す。†係数として処置を、ランダム効果として姿勢を使用する混合効果モデルで試験した。
図9A-9C】第6週におけるベースラインからのPCWP変化-レボシメンダン対プラセボ。図9A~9Cは、レボシメンダン又はプラセボが、35人のPH-HFpEF患者(18人のレボシメンダン処置患者及び17人のプラセボ処置患者)に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、18人のPH-HFpEF患者のレボシメンダン投与後のPCWPに、17人の別のPH-HFpEF患者のプラセボ投与と比較して、より大きな低下を示している。図9Aは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時のレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のPCWPの低下を示す。図9Bは、仰臥位で患者の脚を上げた状態でのレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のPCWPの低下を示す。図9Cは、ヒト被験者が25ワットを使う運動中のレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のPCWPの低下を示す。
図10】第6週におけるベースラインからのPCWPの変化-レボシメンダン。図10は、レボシメンダン又はプラセボが、35人のPH-HFpEF患者(18人のレボシメンダン処置患者及び17人のプラセボ処置患者)に5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、18人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後のPCWPの低下を示している。
図11】第6週におけるベースラインからのRAP変化-レボシメンダン処置患者。図11は、レボシメンダン又はプラセボが、35人のPH-HFpEF患者(18人のレボシメンダン処置患者及び17人のプラセボ処置患者)に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、17人のプラセボ処置患者と比較して18人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後に右心房圧(RAP)の低下を示している。この図は、被験者の脚を下ろした安静時、仰臥位自転車で脚を上げた状態、及びヒト被験者が25ワットを使う運動中のRAPの低下を示す。
図12A-12B】第6週におけるRAPの変化-レボシメンダン対プラセボ。図12A~12Cは、レボシメンダン又はプラセボが、35人のPH-HFpEF患者(18人のレボシメンダン処置患者及び17人のプラセボ処置患者)に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、18人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後のRAPに、17人の別のPH-HFpEF患者におけるプラセボ投与と比較して、より大きな減少を示している。図12Aは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時のレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のRAPの低下を示す。図12Bは、仰臥位で患者の脚を上げた状態でのレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のRAPの低下を示す。4
図12C図12Cは、ヒト被験者が25ワットを使う運動中のレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のRAPの低下を示す。
図13】第6週におけるベースラインからのmPAPの変化-レボシメンダン。図13は、レボシメンダン又はプラセボが、35人のPH-HFpEF患者に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、17人のプラセボ処置患者と比較して18人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後の平均肺動脈圧(mPAP)の低下を示している。この図は、ヒト被験者が脚を下ろした安静時、仰臥位自転車で脚を上げた状態、及びヒト被験者が25ワットを使う運動中のmPAPの低下を示している。
図14A-14C】第6週におけるmPAP(mmHg)の変化-レボシメンダン対プラセボ。図14A~14Cは、レボシメンダン又はプラセボが、35人のPH-HFpEF患者に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、18人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後のmPAPに、17人の別のPH-HFpEF患者におけるプラセボ投与と比較して、より大きな低下を示している。図14Aは、ヒト被験者が脚を下ろした安静時のレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のmPAPの低下を示す。図14Bは、仰臥位で患者が脚を上げた状態でのレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のmPAPの低下を示す。図14Cは、ヒト被験者が25ワットを使う運動中のレボシメンダン注入及びプラセボ注入後のmPAPの低下を示す。
図15】第6週におけるベースラインからの6分間歩行距離(メートル)の変化-レボシメンダン対プラセボ。図15は、レボシメンダン又はプラセボが、35人のPH-HFpEF患者に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、18人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後の6分間歩行距離に、17人の別のPH-HFpEF患者におけるプラセボ投与と比較して増加を示している。
図16】治験薬投与下の有害事象。図16は、レボシメンダン又はプラセボが、36人のPH-HFpEF患者に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果を示し、18人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後と18人の別のPH-HFpEF患者におけるプラセボ投与との治験薬投与下の有害事象(TEAE)の比較を示す。
図17】治験薬投与下の有害事象(2件以上の発生率)。図17は、レボシメンダン又はプラセボが、36人のPH-HFpEF患者に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果を示し、18人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後と18人の追加のPH-HFpEF患者におけるプラセボ投与との特定の治験薬投与下の有害事象(TEAE)の比較を示す。
図18】重篤な有害事象。図18は、レボシメンダン又はプラセボが、36人のPH-HFpEF患者に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果を示し、重篤な有害事象、及びレボシメンダンの関連性/用量の変更を示す。
図19】最終RHCレボシメンダン処置患者におけるOR1896トラフ血中濃度。図19は、レボシメンダン又はプラセボが、36人のPH-HFpEF患者に対して5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、レボシメンダン処置患者における最終RHCでのOR1896トラフ血中濃度を示す。
図20A-20B】レボシメンダン又はプラセボが、35人のPH-HFpEF患者に5週間にわたり毎週24時間IV注入を介して投与された実施例2の結果のグラフ表示であり、36人のPH-HFpEF患者におけるレボシメンダン投与後の心係数(CI)(図20A)及び肺血管抵抗(PVR)(図20B)を示す。PVRとCIは、他の変数と比較して驚くほど異なる振る舞いをした(即ち、第6週で不変)。このデータは、レボシメンダンが、長期(5週間毎週)投与対短期(24時間)投与に関して、作用の仕方が異なることを示唆している(例えば、図4A~4Bを参照のこと)。
図21A-21B】ベースライン対24時間レボシメンダン注入-CVP及びPCWPに対する影響。全ての値は、対応のあるt検定により、ベースラインと24時間LEVO注入の間で異なる。図21Aは、CVPに対する影響を示す。図21Bは、PCWPに対する影響を示す。図21A~21Bの両方で、「ベースライン」測定値は、「24時間」測定値の左側に表示される。
図22】無作為化された患者におけるベースライン特性。
図23】24時間レボシメンダン注入の血行動態効果全体の要約。図23は、オープンラベルレボシメンダン(n=44)の短期(24時間)効果を示す。患者の85%がPCWPの≧4mmHgの低下を示した。略語:HR、心拍数;CVP、中心静脈圧;PAS、肺動脈収縮期血圧;PAD、肺動脈拡張期血圧;PA、肺動脈;PCWP、肺毛細血管楔入圧;AoS、動脈収縮期血圧;CI、心係数;SVR、全身血管抵抗;PVR、肺血管抵抗。*p<.05(ベースラインと比較して)。
図24】全ての無作為化された患者(n=18人のプラセボ及び17人のレボシメンダン処置患者)についてのベースライン及び6週間血行動態パラメータ値。最小2乗(LS)平均及び信頼区間(CI)は、係数として治療群を用いたベースラインからの変化についての分散分析(ANOVA)モデルからのものである。†混合効果混合効果反復測定モデルによるグループ間差p=0.04。略語:HR、心拍数;CVP、中心静脈圧;PAS、肺動脈収縮期血圧;PAD、肺動脈拡張期血圧;PA、肺動脈;PCWP、肺毛細血管楔入圧;AoS、動脈収縮期血圧;CI、心係数;SVR、全身血管抵抗;PVR、肺血管抵抗。
図25】25ワット運動(EX)中の肺毛細血管楔入圧(PCWP)の≧4mmHg低下として定義されるレボシメンダン「応答者」を識別するための最初の非盲検レボシメンダン注入と、それに続く無作為化二重盲検段階を含む、2相試験の概要。
図26】試験全体を通して患者の流れを示すCONSORT図
図27A-27B】安静時、脚を上げた状態、及び25ワットの運動中のベースライン、24時間及び6週間の間の肺毛細血管楔入圧(PCWP)と中心静脈圧(CVP)の比較。図27A及び図27Bにプラセボ群を示す。それぞれのベースライン及び24時間測定値との比較について*p<0.05。
図27C-27D】図27C及び図27Dにレボシメンダン群を示す。それぞれのベースライン及び24時間測定値との比較について*p<0.05。
図28A-28B】図28Aは、治療群及び対照群における6分間歩行距離(6MWD)の比較である。図28Bが、グループ割当てにより指定された各患者に対する6MWDの変化のランク順リストである。治療群でより多くの患者が6MWDを増加させたのに対し、対照群では、より多くの患者が6MWDを減少させた。*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0032】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者において、PH-HFpEFを治療するための方法を提供し、これは、ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効な量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せをヒト被験者に投与することを含む。
【0033】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の低下を含む。
【0034】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の肺毛細血管楔入圧を1~30mmHg低下させることを含む。
【0035】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の肺毛細血管楔入圧を5~35mmHgに安定化することを含む。
【0036】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の肺毛細血管楔入圧を10~35mmHgに安定化することを含む。
【0037】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の低下を含む。
【0038】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の肺毛細血管楔入圧を1~40mmHg低下させることを含む。
【0039】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の肺毛細血管楔入圧を10~50mmHgに安定化することを含む。
【0040】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中の肺毛細血管楔入圧の有意な変化を含まない。
【0041】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の脚を上げたときのヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の低下を含む。
【0042】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の脚を上げたときのヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の低下を含み、その低下は、1~30mmHgである。
【0043】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の脚を上げたときのヒト被験者の肺毛細血管楔入圧の安定化を含み、その安定化は、10~50mmHgでのものである。
【0044】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の右心房圧の低下を含む。
【0045】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の右心房圧を1~30mmHg低下させることを含む。
【0046】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の右心房圧を1~30mmHgに安定化することを含む。
【0047】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の右心房圧を5~30mmHgに安定化することを含む。
【0048】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の右心房圧の低下を含む。
【0049】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の右心房圧を1~30mmHg低下させることを含む。
【0050】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の右心房圧を5~40mmHgに安定化することを含む。
【0051】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の脚を上げたときのヒト被験者の右心房圧の低下を含む。
【0052】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の平均肺動脈圧の低下を含む。
【0053】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の平均肺動脈圧を1~30mmHg低下させることを含む。
【0054】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の平均肺動脈圧を15~65mmHgに安定化することを含む。
【0055】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の平均肺動脈圧の低下を含む。
【0056】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の平均肺動脈圧を1~30mmHg低下させることを含む。
【0057】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の平均肺動脈圧を25~85mmHgに安定化することを含む。
【0058】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の平均肺動脈圧を25~80mmHgに安定化することを含む。
【0059】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の脚を上げたときのヒト被験者の平均肺動脈圧の低下を含む。
【0060】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の心拍出量の増加を含む。
【0061】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の心拍出量を0.01~3リットル/分増加させることを含む。
【0062】
一部の実施形態では、治療は、安静時のヒト被験者の心拍出量を2~10リットル/分に安定化することを含む。
【0063】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の心拍出量の増加を含む。
【0064】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の心拍出量を0.01~5リットル/分増加させることを含む。
【0065】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の心拍出量を0.01~4リットル/分増加させることを含む。
【0066】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者による運動中のヒト被験者の心拍出量を3.0~15.0リットル/分に安定化することを含む。
【0067】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の心拍数の有意な増加を含まない。
【0068】
一部の実施形態では、治療は、10拍/分を超えるヒト被験者の心拍数の増加を含まない。
【0069】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者のクオリティオブライフの改善を含む。
【0070】
一部の実施形態では、ヒト被験者のクオリティオブライフの改善は、患者報告アウトカム評価ツールによって測定される。
【0071】
一部の実施形態では、ヒト被験者のクオリティオブライフの改善は、5点の患者報告アウトカム評価ツールであるリッカート尺度によって測定される。
【0072】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の患者報告アウトカム評価ツールスコアの少なくとも1の変化によるヒト被験者のクオリティオブライフの改善を含む。
【0073】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の患者報告アウトカム評価ツールスコアの少なくとも2の変化によるヒト被験者のクオリティオブライフの改善を含む。
【0074】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の6分間歩行距離の改善を含む。
【0075】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の6分間5~150メートルの歩行距離の改善を含む。
【0076】
一部の実施形態では、治療は、ヒト被験者の心機能分類の医師による評価の改善を含む。
【0077】
一部の実施形態では、治療は、心不全に関する入院の発生率の低下を含む。
【0078】
一部の実施形態では、治療は、全死因死亡率の低下を含む。
【0079】
一部の実施形態では、治療は、右心不全及び/又は右心室機能障害の改善を含む。
【0080】
一部の実施形態では、上記改善は、安静時及び25ワットの運動中の右心房圧の低下によって証明される。
【0081】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0082】
一部の実施形態では、レボシメンダン療法に対する応答者は、その肺毛細血管楔入圧が、最初の注入後の25ワットの自転車運動中に少なくとも4mmHG低下するヒト被験者である。
【0083】
一部の実施形態では、レボシメンダン療法に対する応答者は、ベースライン測定と最初の注入後の反復測定との間で心係数が10%以下まで低下するヒト被験者である。
【0084】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、ヒト被験者が心臓予備能を有する場合、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0085】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、ヒト被験者による運動中にヒト被験者の1回拍出量が増加する場合、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0086】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、拍動毎に左心室から移動する血液を測定するヒト被験者の心臓内のカテーテルを用いて決定した場合、ヒト被験者による運動中にヒト被験者の1回拍出量が増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0087】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、心電図及び/又は心エコー図で推定した場合、ヒト被験者による運動中にヒト被験者の1回拍出量が増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0088】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、ドブタミンストレス試験で決定した場合、ヒト被験者による運動中にヒト被験者の1回拍出量が増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0089】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、ヒト被験者による運動中にヒト被験者の1回拍出量が少なくとも0.005リットル増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0090】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、拍動毎に左心室から移動する血液を測定するヒト被験者の心臓内のカテーテルで決定した場合、ヒト被験者による運動中にヒト被験者の1回拍出量が1~50mL増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0091】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、心エコー図、右心カテーテル検査、又は他の手段によって推定した場合、ヒト被験者による運動中にヒト被験者の1回拍出量が1~50mL増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0092】
一部の実施形態では、ヒト被験者は、ドブタミンストレス試験で決定した場合、ヒト被験者による運動中にヒト被験者の1回拍出量が1~50mL増加すれば、レボシメンダン療法に対する応答者である。
【0093】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、少なくとも40%の左室駆出率を有する。
【0094】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、少なくとも35のベースライン肺動脈圧を有する。
【0095】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、少なくとも20のベースライン肺毛細血管楔入圧を有する。
【0096】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、医師の評価により、ニューヨーク心臓協会分類(New York Heart Association Classification)の分類IIbとして分類される。
【0097】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、医師の評価により、ニューヨーク心臓協会分類(New York Heart Association Classification)の分類IIIとして分類される。
【0098】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、6分間歩行試験で少なくとも50メートル歩く能力を有する。
【0099】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、6分間歩行試験で550メートル以上歩く能力を有していない。
【0100】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、6分間歩行試験で、少なくとも50メートル、但し550メートル以下を歩く能力を有する。
【0101】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、駆出率が低下した心不全に罹患していない。
【0102】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、肺高血圧症を伴わない、駆出率が保たれた心不全に罹患していない。
【0103】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、第2群のPH-HFpEFの一次診断を有する。
【0104】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、冠動脈疾患に罹患していない。
【0105】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、過去に経皮的冠動脈インターベンションを受けたことがない。
【0106】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、ヒト被験者が過去1年以内に陰性のストレステスト結果を有した場合を除いて、過去に経皮的冠動脈インターベンションを受けたことがない。
【0107】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、過去に心臓手術を受けたことがない。
【0108】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、ヒト被験者が過去1年以内に陰性のストレステスト結果を有した場合を除いて、過去に心臓手術を受けたことがない。
【0109】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、先天性心疾患に罹患していない。
【0110】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、臨床的に有意な肺疾患に罹患していない。
【0111】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、心臓又は肺手術の計画を有していない。
【0112】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、4.0L/分/m2を超える心係数を有してない。
【0113】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、肺血管拡張療法を同時に受けない。
【0114】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、過去14日以内に肺血管拡張療法を受けていない。
【0115】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、透析治療を受けない。
【0116】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、30mL/分/1.73m2未満の糸球体濾過速度を有してない。
【0117】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、チャイルド・ピュー分類(Child Pugh Class)B又はCの肝機能障害を有していない。
【0118】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、全身感染のエビデンスを有していない。
【0119】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者の体重は、150kg以下である。
【0120】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、その症候性収縮期血圧が確実に100mmHgを超えるように管理することができる。
【0121】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、薬剤の使用による毎分100拍以上の心拍数を有さない。
【0122】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、症状性で、且つ少なくとも10分間持続性である、薬剤の使用による毎分100拍以上の心拍数を有さない。
【0123】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、80g/L未満のヘモグロビンを有していない。
【0124】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、ベースライン時に3.0ミリモル/L未満の血清カリウムを有していない。
【0125】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、ベースライン時に5.5ミリモル/Lを超える血清カリウムを有していない。
【0126】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、ベースライン時に3.0ミリモル未満又は5.5ミリモル/Lを超える血清カリウムを有していない。
【0127】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、重度の免疫機能障害を有していない。
【0128】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は妊娠していない。
【0129】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、妊娠が疑われない。
【0130】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、授乳中ではない。
【0131】
一部の実施形態では、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者は、両心室不全を有する患者である。
【0132】
一部の実施形態では、投与は、ヒト被験者による自己投与である。
【0133】
一部の実施形態では、自己投与は、ヒト被験者によって病院で行われる。
【0134】
一部の実施形態では、自己投与は、ヒト被験者によって外来診療現場で行われる。
【0135】
一部の実施形態では、自己投与は、ヒト被験者によって病院外で行われる。
【0136】
一部の実施形態では、自己投与は、ヒト被験者によって自宅で行われる。
【0137】
一部の実施形態では、投与は、ヒト被験者による自己投与ではない。
【0138】
一部の実施形態では、投与は、訓練された専門家により実施される。
【0139】
一部の実施形態では、投与は、訓練された専門家により病院で行われる。
【0140】
一部の実施形態では、投与は、訓練された専門家により外来診療現場で行われる。
【0141】
一部の実施形態では、投与は、訓練された専門家により病院外で行われる。
【0142】
一部の実施形態では、投与は、訓練された専門家により自宅で行われる。
【0143】
一部の実施形態では、投与は、IV投与を介して送達される。
【0144】
一部の実施形態では、IV投与は、PICCラインを介して静脈にアクセスする。
【0145】
一部の実施形態では、IV投与は、ポート・ア・キャス(Port-a-cath)を介して静脈にアクセスする。
【0146】
一部の実施形態では、投与は間欠的に行われる。
【0147】
一部の実施形態では、投与は毎週行われる。
【0148】
一部の実施形態では、投与は、24時間の注入によって実施される。
【0149】
一部の実施形態では、投与は、週24時間注入によって実施される。
【0150】
一部の実施形態では、投与は長期に行われる。
【0151】
一部の実施形態では、投与は、24時間未満の注入によって実施される長期投与である。
【0152】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量である。
【0153】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量5mLで供給される。
【0154】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量5mLで供給され、これは5%デキストロースの250mL注入バッグ1個に添加される。
【0155】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量5mLで供給され、これは0.9生理食塩水の250mL注入バッグ1個に添加される。
【0156】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、ヒト被験者の体重が85kg未満の場合、総量5mLで供給され、これは5%デキストロース又は0.9生理食塩水の250mL注入バッグ1個に添加される。
【0157】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量10mLで供給される。
【0158】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量10mLで供給され、これは5%デキストロースの500mL注入バッグ1個に添加される。
【0159】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、総量10mLで供給され、これは0.9生理食塩水の500mL注入バッグ1個に添加される。
【0160】
一部の実施形態では、投与は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の用量であり、ヒト被験者の体重が少なくとも85kgである場合、総量10mLで供給され、これは5%デキストロース又は0.9生理食塩水の500mL注入バッグ1個に添加される。
【0161】
一部の実施形態では、投与リードイン注入速度は、24時間にわたり0.10μg/kg/分である。
【0162】
一部の実施形態では、投与2週目の注入速度は、24時間にわたり0.075μg/kg/分である。
【0163】
一部の実施形態では、投与3週目の注入速度は、24時間にわたり0.075μg/kg/分である。
【0164】
一部の実施形態では、投与4週目の注入速度は、24時間にわたり0.10μg/kg/分である。
【0165】
一部の実施形態では、投与5週目の注入速度は、24時間にわたり0.10μg/kg/分である。
【0166】
一部の実施形態では、より高い用量に対してヒト被験者の忍容性が良好でない場合、投与注入速度を0.05μg/kg/分に低減する。
【0167】
一部の実施形態では、投与は、経口投与により行われる。
【0168】
一部の実施形態では、経口投与は、即時放出製剤を含む。
【0169】
一部の実施形態では、経口投与は、徐放性製剤を含む。
【0170】
一部の実施形態では、投与は、吸入送達を介して行われる。
【0171】
一部の実施形態では、吸入送達は、吸入製剤を含む。
【0172】
一部の実施形態では、投与は、経皮送達を介して行われる。
【0173】
一部の実施形態では、経皮送達は、経皮製剤を含む。
【0174】
一部の実施形態では、投与は、皮下投与である。
【0175】
一部の実施形態では、投与は、皮下薬剤送達装置を介した皮下投与である。
【0176】
一部の実施形態では、薬剤送達装置は、連続携帯式送達装置(Continuous ambulatory delivery device)(CADD)ポンプである。
【0177】
一部の実施形態では、皮下投与は、皮下製剤の投与を含む。
【0178】
一部の実施形態では、皮下製剤は、添加剤を含む静脈内製剤である。
【0179】
一部の実施形態では、皮下製剤は、皮下製剤中に0.0833mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、非水性製剤中に12.5mgのレボシメンダンを含有し、これは、150mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される。
【0180】
一部の実施形態では、皮下製剤は、皮下製剤中に0.05mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、非水性製剤中に12.5mgのレボシメンダンを含有し、これは、250mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される。
【0181】
一部の実施形態では、皮下製剤は、皮下製剤中に0.025mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、非水性製剤中に12.5mgのレボシメンダンを含有し、これは、500mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される。
【0182】
一部の実施形態では、皮下製剤は、皮下製剤中に0.0125mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、非水性製剤中に12.5mgのレボシメンダンを含有し、これは、1000mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される。
【0183】
一部の実施形態では、皮下製剤は、皮下製剤中に0.008333mg/mLのレボシメンダン濃度を生成するように、非水性製剤中に12.5mgのレボシメンダンを含有し、これは、1500mLの5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の薬学的に許容される希釈剤若しくは担体に添加される。
【0184】
一部の実施形態では、皮下製剤の皮下投与は、皮下投与によって引き起こされる疼痛を軽減するのに有効な量の水を含む。
【0185】
一部の実施形態では、皮下製剤の皮下投与は、pHを3.5より高くするための緩衝剤を含む。
【0186】
一部の実施形態では、皮下製剤の皮下投与は、ヒト被験者におけるレボシメンダンの静脈内投与と比較して低い副作用を有する。
【0187】
一部の実施形態では、皮下製剤の皮下投与は、ヒト被験者における静脈内投与と比較して、レボシメンダンのピーク血漿濃度を低下させる。
【0188】
一部の実施形態では、皮下製剤の皮下投与は、ヒト被験者における静脈内投与と比較して、レボシメンダンのピーク血漿濃度を少なくとも1%~25%低下させる。
【0189】
一部の実施形態では、上記量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せは、心血管薬と組み合わせて投与される。
【0190】
一部の実施形態では、上記量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せと、特定の量の心血管薬(それらの量は、一緒に摂取されると、ヒト被験者を治療するのに有効である)が、定期的にヒト被験者に投与される。
【0191】
一部の実施形態では、上記量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せと、上記量の心血管薬は、一緒に投与されると、同量の各薬剤が単独で投与される場合よりも、被験者を治療するのに、より有効である。
【0192】
一部の実施形態では、上記量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せと、上記量の心血管薬は、一緒に摂取されると、PH-HFpEFの症状を軽減するのに有効である。
【0193】
一部の実施形態では、心血管薬は、肺動脈性高血圧症(PAH)、世界保健機関(World Health Organization)(WHO)第1~5群の肺高血圧症患者、冠動脈疾患(CAD)、又は駆出率が低下した心不全(HFrEF)を治療するために使用される薬剤である。
【0194】
一部の実施形態では、心血管薬は、PDE阻害剤、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、プロスタノイド、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、硝酸塩、亜硝酸塩、NOドナー、カルシウムチャネル阻害剤(CCB)、脂肪酸酸化阻害剤、βブロッカー(BB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ネプリライシン阻害剤、ネプリライシン及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ANRI)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、利尿薬、アルドステロンアンタゴニスト、ジゴキシン、イバブラジン、ヒドララジン、セララキシン、ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ナトリウム利尿ペプチド、K-ATPチャネル活性化剤、NEP阻害剤、又はプロスタサイクリンである。
【0195】
一部の実施形態では、心血管薬は、肺血管拡張薬である。
【0196】
一部の実施形態では、肺血管拡張剤は、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、又はプロスタサイクリンである。
【0197】
一部の実施形態では、肺血管拡張薬と組み合わせて投与される、上記量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せは、前及び後毛細血管性肺高血圧症及び駆出率が保たれた心不全(Cpc-PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に投与される。
【0198】
一部の実施形態では、ベースライン心電図モニタリングを5週間の治療後の72時間モニタリングと比較すると、心房性又は心室性のいずれの不整脈も観察されない。
【0199】
一部の実施形態では、レボシメンダンの週24時間の投与は、安全且つ忍容性が良好である。
【0200】
一部の実施形態では、治療は、マッチングプラセボと同等程度の統計的に有意な有害事象しか示さない。
【0201】
一部の実施形態では、レボシメンダンの週24時間の投与は、0.20ng/mL~25.00ng/mLの範囲のOR1896の定常状態血中濃度をもたらす。
【0202】
いくつかの実施形態によれば、本発明はまた、以下を含む製品を提供する:
a.レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の5mLバイアル用量;
b.250mLの5%デキストロース又は0.9生理食塩水;及び
c.pHを高めるための緩衝剤。
【0203】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、ヒト被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)を有効に治療するための、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの使用も提供する。
【0204】
いくつかの実施形態によれば、本発明はまた、駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に投与して、ヒト被験者のPH-HFpEFを有効に治療するための医薬の調製を目的とする、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの使用を提供する。
【0205】
いくつかの実施形態によれば、本発明はまた、ヒト被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)を有効に治療するのに使用するための、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを含む医薬を提供する。
【0206】
いくつかの実施形態によれば、本発明はまた、ヒト被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)を有効に治療するための、心血管薬と組み合わせた、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの使用を提供する。
【0207】
いくつかの実施形態によれば、本発明はまた、駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に投与して、ヒト被験者のPH-HFpEFを有効に治療するための心血管薬と組み合わせた医薬の調製を目的とする、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの使用を提供する。
【0208】
いくつかの実施形態によれば、本発明はまた、ヒト被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)を有効に治療するために心血管薬と組み合わせて使用することを目的とする、特定の量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを含む医薬を提供する。
【0209】
いくつかの実施形態によれば、本発明はまた、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者のPH-HFpEFの治療に使用するためのレボシメンダンの皮下製剤を提供し、ここで、皮下製剤は乾燥粉末から得られ、この乾燥粉末は、(a)レボシメンダン、(b)スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン;(c)水酸化ナトリウム又は酢酸;及び注射用水を含む医薬組成物から得られる。
【0210】
一部の実施形態では、レボシメンダンの量は、2.5mg/ml注射用水である。
【0211】
一部の実施形態では、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンの量は、0.175mg/ml注射用水である。
【0212】
一部の実施形態では、水酸化ナトリウム又は酢酸は、pHを7.2~7.8の範囲に調節するのに適切な量である。
【0213】
一部の実施形態では、医薬組成物は、フィルター滅菌される。
【0214】
一部の実施形態では、医薬組成物は、凍結乾燥される。
【0215】
一部の実施形態では、レボシメンダンの皮下製剤は、皮下投与に適した量の水溶液中で乾燥粉末を再構成することによって乾燥粉末から得られる。
【0216】
一部の実施形態では、再構成された皮下製剤は、水酸化ナトリウム又は酢酸を用いてpHが7.2~7.8に調節される。
【0217】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者における、PH-HFpEFを治療するための方法を提供し、これは、ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効な量の心血管薬をヒト被験者に投与することを含み、ここで、心血管薬は、以下:PDE阻害剤、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、プロスタノイド、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、硝酸塩、亜硝酸塩、NOドナー、カルシウムチャネル阻害剤(CCB)、脂肪酸酸化阻害剤、β-ブロッカー(BB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ネプリライシン阻害剤、ネプリライシン及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ANRI)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、利尿薬、アルドステロンアンタゴニスト、ジゴキシン、イバブラジン、ヒドララジン、セララキシン、ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ナトリウム利尿ペプチド、K-ATPチャネル活性化剤、NEP阻害剤、及びプロスタサイクリンからなる群から選択される。
【0218】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者における、PH-HFpEFを治療するための方法を提供し、これは、ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効な量の肺血管拡張薬をヒト被験者に投与することを含み、ここで、肺血管拡張薬は、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、及びプロスタサイクリンからなる群から選択される。
【0219】
一部の実施形態では、上記量の肺血管拡張薬は、前及び後毛細血管性肺高血圧症及び駆出率が保たれた心不全(Cpc-PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に投与される。
【0220】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)の治療に使用するための心血管薬を提供し、ここで、心血管薬は、以下:PDE阻害剤、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、プロスタノイド、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤、硝酸塩、亜硝酸塩、NOドナー、カルシウムチャネル阻害剤(CCB)、脂肪酸酸化阻害剤、β-ブロッカー(BB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ネプリライシン阻害剤、ネプリライシン及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ANRI)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、利尿薬、アルドステロンアンタゴニスト、ジゴキシン、イバブラジン、ヒドララジン、セララキシン、ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、ナトリウム利尿ペプチド、K-ATPチャネル活性化剤、NEP阻害剤、及びプロスタサイクリンからなる群から選択される。
【0221】
いくつかの実施形態によれば、本発明は、被験者における駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)の治療に使用するための肺血管拡張薬を提供し、ここで、肺血管拡張薬は、ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)、及びプロスタサイクリンからなる群から選択される。
【0222】
一部の実施形態では、駆出率が保たれた肺高血圧性心不全(PH-HFpEF)は、前及び後毛細血管性肺高血圧症及び駆出率が保たれた心不全(Cpc-PH-HFpEF)である。
【0223】
一部の実施形態では、最大0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1mg、2mg、3mg、又は4mg、より好ましくは1~3mgのレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを含むカプセルを被験者に経口投与する。
【0224】
一部の実施形態では、1日1回カプセルを1~60日、好ましくは14日の期間にわたって被験者に投与する。
【0225】
一部の実施形態では、被験者は、治療が被験者により忍容される場合、各期間の後に1日当たり摂取されるカプセルの数を増やす。
【0226】
一部の実施形態では、1日当たり0.1~10mgのレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを、好ましくは、1日当たり1~4mgのレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを被験者に経口投与する。
【0227】
一部の実施形態では、被験者は、レボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの経口投与を開始する少なくとも1日、より好ましくは少なくとも1週間前に、レボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せの最終静脈内注射を受けている。
【0228】
本出願全体を通して、パラメータの範囲が提供される場合、その範囲内の全ての整数、並びに必要に応じてその10分の1及び100分の1も、本発明により企図されるものとして本出願に提供及び開示されるとみなされるものとする。例えば、「0.2~5mg/kg/日」は、0.2mg/kg/日、0.3mg/kg/日、0.4mg/kg/日、0.5mg/kg/日、0.6mg/kg/日等、5.0mg/kg/日までの開示とみなされるべきである。
【0229】
いくつかの実施形態によれば、投与される化合物(例えばレボシメンダン)は、前記化合物の少なくとも1つを治療有効量で含む組成物(本発明の組成物と呼ばれる)の形態をしている。本明細書で使用される場合、用語「有効量」は、本明細書に記載される障害又は症状を軽減及び/又は減弱させることができる化合物の量を意味する。本発明に従って投与される化合物の具体的用量は、当然のことながら、例えば、投与される化合物、投与経路、被験者の生理状態、及び治療しようとする状態の重症度を含め、患者を取り巻く具体的な状況によって決定される。
【0230】
任意の好適な経路を用いて、本発明の医薬又はレボシメンダンを被験者に投与することができる。
【0231】
いくつかの実施形態によれば、適切な投与経路は、全身経路であってもよい。いくつかの実施形態によれば、投与は、全身投与である。いくつかの実施形態によれば、組成物は、全身投与のために製剤化される。
【0232】
別の実施形態によれば、全身投与は経腸経路を介する。別の実施形態によれば、経腸経路を介した投与は、経口投与である。いくつかの実施形態によれば、組成物は、経口投与のために製剤化される。
【0233】
一実施形態では、投与は、24時間、毎週の投与により間欠的に行われる。
【0234】
一実施形態では、投与は、24時間未満にわたって絶えず行われる。
【0235】
一実施形態では、用量は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物であり、ヒト被験者の体重が85kg未満の場合、5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の希釈剤の250mL注入バッグ1個に添加される総量5mLで供給される。
【0236】
一実施形態では、用量は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノールを含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物であり、ヒト被験者の体重が少なくとも85kgの場合、5%デキストロース、0.9生理食塩水、又は他の希釈剤の500mL注入バッグ1個に添加される総量10mLで供給される。
【0237】
一実施形態では、注入速度は、24時間にわたって0.075~0.10μg/kg/分である。
【0238】
一実施形態では、投与は、経口投与を介して送達される。投与は、即時放出又は徐放性製剤のいずれであってもよい。
【0239】
一実施形態では、投与は、吸入製剤の吸入を介して送達される。
【0240】
一実施形態において、投与は、経皮製剤の経皮送達を介して送達される。
【0241】
一実施形態において、本発明は、レボシメンダン、ポビドン、クエン酸、及びエタノール;250mLの5%デキストロース又は0.9生理食塩水;並びにpHを高めるための緩衝剤を含むレボシメンダン2.5mg/mL注入濃縮物の5mLバイアル用量を含む製品である。
【0242】
一実施形態において、レボシメンダンの量は、ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効である。
【0243】
一実施形態において、投与のための医薬を調製するためのレボシメンダンの量は、ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効である。
【0244】
一実施形態では、医薬は、ヒト被験者におけるPH-HFpEFを治療するのに有効な量のレボシメンダンを有する。
【0245】
一実施形態では、心血管薬と組み合わせた上記量のレボシメンダンは、ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効である。
【0246】
一実施形態では、投与の目的で医薬を調製するために心血管薬と組み合わせた上記量のレボシメンダンは、ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効である。
【0247】
一実施形態では、医薬は、ヒト被験者のPH-HFpEFを治療するのに有効である心血管薬と組み合わせた特定の量のレボシメンダンを含有する。
【0248】
一実施形態では、ベースライン心電図モニタリングを5週間の治療後の72時間モニタリングと比較すると、心房性又は心室性のいずれの不整脈が観察されない。
【0249】
一実施形態では、レボシメンダンを毎週24時間投与すると、0.20ng/mL~25.00ng/mLの範囲のOR1896の定常状態血中濃度がもたらされる。
【0250】
定義/略語
本明細書で使用される場合、用語「レボシメンダン」は、レボシメンダン塩基又はその薬学的に許容される塩を意味する。本発明に従って使用される活性化合物は、意図される投与に好適な任意の形態で提供され得る。好適な形態には、本発明の化合物の薬学的に(即ち、生理学的に)許容される塩、及びプレドラッグ又はプロドラッグ形態が含まれる。
【0251】
薬学的に許容される付加塩の例として、限定はされないが、非毒性有機及び無機酸付加塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、L-酒石酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、アコネート、アスコルビン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、ケイ皮酸塩、クエン酸塩、エンボネート、エナンテート、フマル酸塩、グルタミン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メタンスルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホネート、フタル酸塩、サリチル酸塩、ソルビン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、トルエン-p-スルホネートなどが挙げられる。このような塩は、当技術分野で公知であり、且つ記載されている手順によって形成され得る。
【0252】
PHは肺高血圧症の略語である。PHは、肺血管抵抗の増大という共通の特徴を有する異種障害群を包含する。(Oldroyd et al.2019)
【0253】
HFpEFは、駆出率が保たれた心不全の略語である。HFpEFは、駆出率が40%≧に保たれたまま、患者が心不全に罹患している場合である。(Kelly et al.2015)
【0254】
PH-HFpEFは、駆出率が保たれた心不全を伴う肺高血圧症の略語である。PH-HFpEFは、高い肺動脈圧、高い左室拡張末期圧及び正常な駆出率により定義される。(Lai et al.2019)
【0255】
PCWPは、肺毛細血管楔入圧の略語である。PCWPは、膨らませたバルーンで肺カテーテルを小さな肺動脈枝に楔入することにより測定される圧力である。PCWPによって、左心房圧が推定される。(Peacock et al.2004)
【0256】
RAPは、右心房圧の略語である。RAPは、心臓の右心房の血圧である。RAPは、心臓に戻る血液の量と、動脈系に血液を送り込む心臓の能力を表している。
【0257】
mPAPは、平均肺動脈圧の略語である。mPAPは、右心室が肺循環に血液を排出することによって生成され、これは右心室からの出力に対する抵抗として作用する。
【0258】
PVRは、肺血管抵抗の略語である。PVRは、肺に血液を供給する動脈内の抵抗を指す。(Schnur 2017)
【0259】
COは、心拍出量の略語である。COは、単位時間当たりで心臓により送り出される血液の量である。(Vincent 2008)
【0260】
CIは、心係数の略語である。CIは、1分間の左心室からの心拍出量を体表面積に関連付ける血行動態パラメータである。この測定値は、心臓の機能を個体のサイズと関連付ける。(Shea 2019)
【0261】
HRは心拍数の略語である。HRは、1分間当たりの心臓の収縮数によって測定される心拍の速度である。(Heart.org 2015)
【0262】
PRは脈拍数の略語である。PRは心拍数の測定値である。(Heart.org 2015)
【0263】
BPは血圧の略語である。BPは、身体の主要な動脈系内の循環血液の圧力である。(Brezinski 1990)
【0264】
6MWTは、6分間歩行試験の略語である。6MWTは、機能的運動能力を測定するために使用されるパフォーマンスベースのテストである。6MWTは、個体が、一定且つ通常のペースで合計6分間歩くことができる距離を測定する。(Vandoni et al.2018)
【0265】
リッカート尺度は、アンケートを使用する研究に一般的に含まれる心理測定尺度である。以下に述べるの臨床試験では、6問、5点のリッカート尺度が患者に提供され、患者のクオリティオブライフが評価される。(HELP臨床試験プロトコル)
【0266】
ECGは、心エコー図の略語である。ECGは、心エコー検査によって形成される人の心拍の記録である。ECGは、高周波音波(超音波)を使用して心臓の写真を作成するテストである。(Heart.org 2015)
【0267】
ドブタミンストレステストは、静脈にドブタミンを投与することにより、心臓にストレスを誘発して、心臓の機能及び構造を評価するECGの一形態である。このテストは、心臓に対する運動の影響を模倣する。(Hawthorne et al.2012)
【0268】
ニューヨーク心臓協会機能分類(New York Heart Association Functional Classification)は、心不全の程度を分類する簡単な方法を提供する。I度の患者は、身体活動に制限はない。II度の患者は、身体活動に軽度の制限を有する。III度の患者は、身体活動に著しい制限を有する。IV度の患者は、不快感なしにいかなる身体活動も継続することができない。患者の症状に基づくこれらの分類番号に加えて、全ての患者には客観的な評価に基づく分類記号が割り当てられる。分類Aの患者は、心血管疾患の客観的なエビデンスがない。分類Bの患者は、最小限の心血管疾患の客観的なエビデンスを有する。分類Cの患者は、中等度の心血管疾患の客観的なエビデンスを有する。分類Dの患者は、重度の心血管疾患の客観的なエビデンスを有する。(Yancy et al.2013)
【0269】
自己投与は、疾患に罹患したヒト被験者により投与される製剤の投与である。(HELP臨床試験プロトコル)
【0270】
外来診療現場とは、患者が夜間療養のために入院を必要としない現場である。(World Health Organization 2009年)
【0271】
訓練を受けた専門家とは、医師、看護師、在宅医療看護師、或いは医療従事者の訓練及び/又は経験及び/又は免許を有するその他の者を指す。
【0272】
TEAEは、治験薬投与下の有害事象の略語である。特に注目すべきTEAEは、低血圧、心房細動、他の有意な不整脈、蘇生死脳卒中である。他のTEAEとして、限定はされないが、頭痛、心拍数の増加、疲労、急性心不全、呼吸困難、バスキュラーアクセス部位痛、筋肉痙攣、及び低カリウム血症が挙げられる。
【0273】
SAEは、重篤有害事象の略語である。SAEとして、限定はされないが、感染症及び侵入、デバイス関連感染;感染症及び侵入、菌血症;心臓障害、急性心不全;並びに心臓障害、急性心不全が挙げられる。
【0274】
本明細書で使用される場合、用語「急性投与」は、短期間での薬剤、例えばレボシメンダンの投与、例えば、薬剤の単回用量の送達、迅速に連続した薬剤の用量の送達、又は短時間(好ましくは48時間未満の)スケールでの薬剤の送達である。薬剤の急性投与は、一般に、短期で薬剤が病態に対し有益な効果を及ぼすことを目的とする。例えば、レボシメンダンの急性投与は、投与されるレボシメンダンの量が、レボシメンダン代謝物のあらゆる有意な活性に先行して、レボシメンダン薬が、病態、例えばPH-HFpEFを直接改善することを目的とするように実施され得る。急性投与は、一般に、訓練された専門家によって、例えば、臨床現場での静脈内投与によって行われる。
【0275】
本明細書で使用される場合、用語「長期投与」は、薬剤、例えばレボシメンダンの長期且つ反復投与を意味する。例えば、薬剤の複数回又は反復用量の送達は、長時間スケールの期間(好ましくは、少なくとも1週間)にわたって行われる。薬剤の長期投与は、一般に、薬剤又はその代謝物が、ある病態に対して継続的な有益な効果を及ぼすこと、又は時間の経過に伴う疾患状態の悪化を予防するか、若しくは緩徐にすることを目的とする。長期投与は、多くの場合、被験者によって(即ち、自己投与によって)、例えば、経口又は皮下投与により被験者に送達される。
【0276】
皮下投与
本発明はまた、本明細書に開示される効果を達成するための皮下製剤におけるレボシメンダンの皮下投与に関する。レボシメンダンなどの変力物質及び血管活性物質の投与の潜在的に刺激性の、水疱発生、及び血管外漏出作用のために、既存のレボシメンダン製剤の皮下投与は、これまで検証されていない。それでも尚、皮下投与は、より低侵襲性の送達経路が新たな投与方法となる場合に使用することができるだろう。
【0277】
皮下投与に伴う潜在的な血管外漏出の懸念にもかかわらず、レボシメンダン投与の皮下経路は、静脈内送達よりも忍容性が良好であり得る。皮下投与は、レボシメンダンの吸収を抑制すると共に、遅延させ、静脈内投与と比較してレボシメンダンのピーク血漿濃度を低下させ得る。これは、レボシメンダン投与の典型的な副作用、特にレボシメンダンの最大濃度(Cmax)により引き起こされる低血圧の発生を回避し得る。というのも、レボシメンダンの血漿濃度及びCmaxが高いほど、一般に、低血圧などの副作用を招く頻度が高くなるからである。
【0278】
レボシメンダンの皮下投与は、好都合な反復IVアクセスにしばしば必要とされるPICC及びポート・ア・キャス(port-a-cath)デバイスを介したIV長期投与に共通する中心ライン感染の可能性を排除するという点で、明らかな利点を提供する。
【0279】
より低い血漿濃度と共に、レボシメンダン吸収の遅延を示すにもかかわらず、レボシメンダンの皮下投与は、意外にも、レボシメンダン代謝物OR-1896の同様の血漿濃度プロファイルをもたらす。これによって、レボシメンダンの高いピーク血漿濃度を伴わずに血液中のOR-1896が同等レベルとなるために、より良好な安全性プロファイルが得られる。
【0280】
皮下投与には、用量の調製が容易であること、患者の管理が容易であること、信頼できる投与記録、看護負担の軽減、薬物転用のリスクの低減など、多くの実用的な利点がある。
【0281】
皮下投与に好適な1つの送達装置は、CADDポンプ(携帯式連続送達装置ポンプの略称である)などの携帯式輸液ポンプである。さらに、皮下投与は、単純なプレフィルドシリンジ、シリンジポンプ、インジェクションペン、自動注入装置、マイクロポンプ、又はパッチ装置を介して送達することができる。(Bittner et al.2018)
【0282】
この事例において、皮下製剤は、静脈内製剤と実質的に類似している可能性があるが、患者に対して治療の忍容性を高めるために、特定の添加剤を導入することができる。緩衝剤、例えば、水、炭酸水素ナトリウム、又はpHを高めることが知られている他の同様の緩衝剤を添加して、皮下製剤のpHを高めることができる。
【0283】
静脈内製剤の投与と同様に、レボシメンダンの皮下投与は、間欠的に、さらには長期的に投与することができる。間欠的な投与は、毎週24時間にわたって行うことができる。訓練を受けた専門家による投与以外にも、皮下投与は、患者がレボシメンダン製剤を自己投与することをはるかに簡便にする。
【0284】
レボシメンダンの皮下投与は、依然として実行可能なまま、より広い範囲の希釈及び対応する濃度を支持し得る。
【0285】
【表2】
【0286】
全体として、データは、皮下投与が静脈内注入よりも簡便で、薬剤送達関連の医療費及び資源を削減することができ、患者及び医療提供者双方の大部分が皮下投与を選択することを支持するものである(Bittner et al.2018)。
【0287】
皮下投与のいくつかの方法が当技術分野において公知であり、そうしたいずれの方法もレボシメンダンの皮下投与に使用され得る。皮下投与方法の例として、限定されないが、マニュアルニードルインジェクション、並びに特定のインスリンポンプシステム、例えば、Omnipod(著作権)systemを用いて行われるようなポンプ装置を介して薬剤を送達する皮下投与システムなどの多様な皮下薬剤送達装置が挙げられる。
【0288】
一実施形態では、皮下製剤は、投与によって引き起こされる疼痛を軽減するのに有効な量の水を含む。
【0289】
一実施形態では、皮下製剤は、pHを3.0超に高める緩衝剤を含む。
【0290】
一実施形態では、皮下投与は、静脈内投与に比べて副作用を軽減する。
【0291】
一実施形態では、皮下投与は、静脈内投与に比べて、レボシメンダンのピーク血漿濃度を少なくとも1%~25%減少させる。
【0292】
皮下投与について記載されているレボシメンダン製剤は、例えば、国際公開第2020/041180A1号パンフレット(出願番号:PCT/米国特許第2019/047032号明細書)に記載されており、その全内容が参照により組み込まれる。
【0293】
一部の実施形態では、皮下投与による、それを必要とする被験者における治療のための、例えば、具体的には肺高血圧症も有するヒト被験者(PH-HFpEF患者)における、駆出率が保たれた心不全の治療のためのレボシメンダンの医薬組成物は、以下:(a)有効量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せ;(b)シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体;及び(c)1つ以上の追加の薬学的に許容される添加剤を処方中に含む。
【0294】
一実施形態において、シクロデキストリン誘導体は、α-シクロデキストリン誘導体、β-シクロデキストリン誘導体、又はγ-シクロデキストリン誘導体を含む。
【0295】
一実施形態において、シクロデキストリン誘導体は、スルホン酸ナトリウム塩を含む。
【0296】
一実施形態において、シクロデキストリン誘導体は、ブチルエーテルスペーサ基、アルキルエーテルスペーサ基、又はそれらの組合せを含む。
【0297】
一実施形態において、シクロデキストリン誘導体は、スルホブチルエーテルを含む。
【0298】
一実施形態において、シクロデキストリン誘導体は、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンを含む。
【0299】
一実施形態では、シクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体は、約50mg/ml~約400mg/mlの量、好ましくは約100mg/ml~約300mg/mlの量である。
【0300】
一実施形態では、製剤は、約5~約9のpH、好ましくは約6~約8のpHを含む。
【0301】
一実施形態では、1つ以上の薬学的に許容される添加剤は、1つ以上の非クエン酸緩衝剤を含む。
【0302】
一実施形態では、1つ以上の薬学的に許容される添加剤は、リン酸緩衝液を含む。
【0303】
一実施形態では、1つ以上の薬学的に許容される添加剤は、1つ以上のpH調整剤を含む。
【0304】
一実施形態では、1つ以上の薬学的に許容される添加剤は、1つ以上の防腐剤、1つ以上の抗酸化剤、1つ以上の担体、又はそれらの組合せを含む。
【0305】
一実施形態では、1つ以上の担体は、溶液、懸濁液、ヒドロゲル、リポソーム、エマルジョン、及びそれらの組合せからなる群から選択される液体媒体を含む。
【0306】
一実施形態では、1つ以上の担体は、有効性を延長し、且つ/又は副作用を最小限に抑える様式で、吸収特性を変化させる。
【0307】
一実施形態では、レボシメンダンは、約0.1mg/ml~約100mg/mlの量、好ましくは約0.1mg/ml~約30mg/mlの量である。
【0308】
一実施形態では、製剤は、実質的にアルコールを含まない。
【0309】
一実施形態では、製剤は、アルコールを含まない。
【0310】
一実施形態では、製剤は、防腐剤を含まない。
【0311】
一実施形態では、製剤は、粒子の形態をしている。
【0312】
一実施形態では、製剤は、凍結乾燥される。
【0313】
一実施形態では、製剤は、噴霧乾燥される。
【0314】
一実施形態では、レボシメンダンの皮下投与のための医薬組成物は、以下:(a)約0.1mg/ml~約10mg/mlの量のレボシメンダン;(b)約50mg/ml~約500mg/mlの量のシクロデキストリン又はシクロデキストリン誘導体;及び(c)約1mM~約20mMのリン酸緩衝液を含有する製剤の形態をしている。
【0315】
一実施形態では、製剤は、約6~約8のpHを有する。
【0316】
一実施形態では、製剤は、実質的にアルコールを含まない。
【0317】
一実施形態では、製剤は、凍結乾燥される。
【0318】
さらに、静脈内投与用に記載されているレボシメンダン製剤を、皮下投与のために採用してもよい。例えば、米国特許第10,507,179号明細書(その全内容は参照により組み込まれる)を参照されたい。
【0319】
一部の実施形態では、皮下投与に好適なレボシメンダン製剤は、限定されないが、有効成分としてのレボシメンダンと、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン、α-シクロデキストリン及びメチル-β-シクロデキストリン並びにそれらの混合物からなるシクロデキストリン、グリセロールの脂肪酸エステル、α-トコフェロールのポリエチレン誘導体、胆汁酸からなる群から選択される可溶化剤とを含有する医薬組成物が挙げられるが、この場合、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポロキサマー又はポリビニルピロリドンなどの共溶媒の使用は除外される。
【0320】
一実施形態では、可溶化剤は、D-αトコフェリルポリエチレングリコール1000コハク酸塩又は胆汁酸塩であり、これは、好ましくはグリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム塩、タウロデオキシコール酸ナトリウム塩及びコール酸ナトリウム、又はこれらの混合物からなる群から選択される。
【0321】
一実施形態では、ミセルは、高分子ミセル、好ましくはポリエチレンオキシド)-ポリ(プロピレンオキシド)ブロックコポリマーミセル、又はダイズホスファチジルコリン/グリココール酸ナトリウム又はハイブリッドミセルからなる混合ミセルである。
【0322】
一実施形態では、医薬組成物は、有効成分としてレボシメンダン、及び可溶化剤としてスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンを含むが、この場合、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポロキサマー又はポリビニルピロリドンからなる共溶媒の使用は除外される。
【0323】
一実施形態では、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンは、好ましくは、1~15mmolシクロデキストリン:1mmolレボシメンダンの範囲内のレボシメンダンと比較して、mモル比で存在する。好ましくは、過剰のシクロデキストリンは、4~12mmolシクロデキストリン:1mmolレボシメンダン、さらに好ましくは6~10mmolシクロデキストリン:1mmolレボシメンダンである。
【0324】
一実施形態では、レボシメンダンは、可溶化された形態で存在する。
【0325】
一実施形態では、レボシメンダンは、ミセル化又は錯化によって可溶化される。
【0326】
一実施形態では、医薬組成物は、溶液の形態であり、より好ましくは水溶液の形態である。
【0327】
一実施形態において、可溶化剤の量は、医薬組成物の2~45重量%である。
【0328】
一実施形態において、溶液のpHは、7.0~8.0の範囲であり、より好ましくは7.2~7.8の範囲である。
【0329】
一実施形態では、レボシメンダンは、1~15mg/ml溶液の量である。
【0330】
一実施形態では、特に肺高血圧症も有するヒト被験者(PH-HFpEF患者)における、駆出率が保たれた心不全の治療に医薬として使用するための医薬組成物から、乾燥粉末を取得する。乾燥粉末は、可溶化レボシメンダンを含む溶液を乾燥することによって得られ、皮下投与に適した溶液に再構成される。
【0331】
一実施形態では、使用される乾燥粉末は、1~15mg/ml溶液の量でレボシメンダンを含有する皮下注入濃縮物である。
【0332】
一実施形態では、濃縮物は、7.2~8.0の範囲のpHに調整すべきである。
【0333】
一実施形態では、使用される乾燥粉末の再構成のための溶媒は、水、又は等張緩衝液系である。
【0334】
一実施形態では、水は、7.2~7.8の範囲のpHを有するか、又は等張緩衝液系は、7.2~7.4の範囲のpHを有する
【0335】
一実施形態では、乾燥粉末は、可溶化レボシメンダンと、凍結乾燥に使用される好適な医薬ビヒクルとを含む溶液を乾燥することによって得られる。
【0336】
本開示は、PH-HFpEFに罹患したヒト被験者におけるPH-HFpEFの治療に使用するためのレボシメンダンの皮下製剤を提供し、ここで、皮下製剤は、乾燥粉末から取得され、ここで、乾燥粉末は、以下:(a)レボシメンダン;(b)スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン;(c)水酸化ナトリウム又は酢酸;及び注射用水を含む医薬組成物から得られる。
【0337】
一実施形態では、レボシメンダンの量は、2.5mg/ml注射用水である。
【0338】
一実施形態では、スルホブチルエーテルβ-シクロデキストリンの量は、0.175mg/ml注射用水である。
【0339】
一実施形態では、水酸化ナトリウム又は酢酸は、pHを7.2~7.8の範囲に調整するのに適切な量である。
【0340】
一実施形態では、医薬組成物は、フィルター滅菌される。
【0341】
一実施形態では、医薬組成物は、凍結乾燥される。
【0342】
一実施形態では、レボシメンダンの皮下製剤は、皮下投与に適した量の水溶液で乾燥粉末を再構成することによって乾燥粉末から得られる。
【0343】
一実施形態では、再構成された皮下製剤は、水酸化ナトリウム又は酢酸を用いてpHを7.2~7.8に調整する。
【0344】
経口投与
本発明はまた、本明細書に開示される効果を達成するための経口製剤の形態でのレボシメンダンの経口投与に関する。経口投与には、投与及び用量調整が容易であること、患者の管理が容易であること、並びに看護負担の軽減など、多くの実用的な利点がある。
【0345】
いくつかの実施形態によれば、経口投与は、コーティング錠剤、糖衣錠、エリキシル剤、懸濁液剤、液剤、ゲル、スラリー又はシロップ及びそれらの制御放出形態を含む硬質若しくは軟質ゼラチンカプセル剤、丸薬、カプセル剤、錠剤の形態をしている。従って、本発明は、レボシメンダンを錠剤、カプセル剤、又は液剤の形態で投与する方法を提供する。
【0346】
経口投与に好適な担体は、当技術分野において公知である。経口使用のための組成物は、固体賦形剤を用いて製造することができ、任意選択で、得られた混合物を粉砕し、要望に応じて好適な助剤を添加した後、顆粒の混合物を処理して、錠剤又は糖衣錠コアを得ることができる。好適な賦形剤の非限定的な例としては、ラクトース、スクロース、マンニトール、又はソルビトールを含む糖などの充填剤、セルロース調製物、例えばトウモロコシデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガントガム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、及びカルボメチルセルロースナトリウム、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)などの生理学的に許容されるポリマーが挙げられる。
【0347】
所望であれば、崩壊剤、例えば架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸若しくはその塩、例えばアルギン酸ナトリウムを添加してもよい。例えば、ディスペンサーに使用するためのゼラチンのカプセル及びカートリッジを製剤化してもよく、これは、化合物と、ラクトース又はデンプンなどの好適な粉末基剤の粉末混合物を含有する。
【0348】
経口投与のための固体剤形は、限定されないが、カプセル剤、錠剤、丸薬、散剤、及び顆粒剤を含む。このような固体剤形において、活性化合物は、少なくとも1つの不活性な薬学的に許容される担体、例えばスクロース、ラクトース、又はデンプンと混合される。このような剤形はまた、その通常の慣行として、不活性希釈剤以外の追加物質、例えば、潤滑剤を含有することもできる。カプセル剤、錠剤及び丸薬の場合、剤形はまた、緩衝剤を含んでもよい。錠剤及び丸薬は、腸溶性コーティングでさらに調製することができる。用語「腸溶性コーティング」は、本明細書で使用される場合、消化器系内の組成物吸収の位置を制御するコーティングを指す。腸溶性コーティングに使用される材料の非限定的な例は、脂肪酸、ワックス、植物繊維又はプラスチックである。経口投与のための液体剤形は、湿潤剤、乳化剤及び懸濁化剤、並びに甘味剤、香味剤及び芳香剤などのアジュバントをさらに含有してもよい。
【0349】
一実施形態では、投与は、経口投与を介して送達され、経口投与は、即時放出又は徐放放出製剤であり得る。
【0350】
一部の実施形態では、それを必要とする被験者における治療のための、例えば、具体的には肺高血圧症も有するヒト被験者(PH-HFpEF患者)において、駆出率が保たれた心不全の治療を目的とする、経口投与によるレボシメンダンの医薬組成物は、有効量のレボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せ及び1つ以上の別の薬学的に許容される添加剤を含む製剤である。
【0351】
一実施形態では、経口製剤は、レボシメンダン、その代謝物OR-1896若しくはOR-1855、又はそれらの組合せを0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1mg、2mg、3mg、又は4mgの量で含む。
【0352】
一実施形態では、経口製剤は、微結晶セルロースを含む。
【0353】
一実施形態では、経口製剤は、アルギン酸を含む。
【0354】
一実施形態では、経口製剤は、ステアリン酸を含む。
【0355】
一実施形態では、経口製剤は、カプセル形態である。
【0356】
一実施形態では、経口製剤は、HPMCカプセルのカプセル形態である。
【0357】
一実施形態では、経口製剤は、カプセル形態で含み、経口製剤は、1mgのレボシメンダン、96.4mgの微結晶セルロース、30.0mgのアルギン酸、及び5.3mgのステアリン酸を含む。
【0358】
一実施形態では、経口剤形は、レボシメンダンを0.1mg、0.25mg、0.5mg、0.75mg、1mg、2mg、3mg又は4mgの量で、より好ましくは1~3mgの量で含む。
【0359】
一実施形態では、被験者は、1日1回1mgの量でレボシメンダンを含むカプセルを経口投与される。経口投与は、例えば、治療の有効性、忍容性、心拍数の変化、及び被験者の体重に応じて調整され得る。レボシメンダンの用量調整は、1mgずつの増量で、1日当たり1~10mgの範囲で、より好ましくは1日当たり1~4mgであってよい。
【0360】
レボシメンダン投与の用量調整は、数日、数週間、又は数ヶ月にわたって行われ得る。忍容性に対する特定の投与用量での持続時間の影響も、調整時に考慮すべきであり、例えばレボシメンダン経口治療に対する被験者の忍容性は、特定の投与量での持続時間の増加に従って増大し得る。
【0361】
例えば、被験者は、経口レボシメンダン治療コースを1mg/日で開始してよい(即ち、1日当たり1mgのレボシメンダンを含む1カプセルを摂取する)。被験者は、1mg/日のレボシメンダン投与量を2週間維持することができる。2週間後、レボシメンダン投与量が、良好に忍容され、心拍数が、<15BPMに上昇した場合、被験者は2mg/日の投与量まで調整することができる(即ち、1日当たり1mgのレボシメンダンを各々含む2カプセルを摂取する)。被験者は、最適な経口投与量が達成されるまで、例えば、1日当たり最大10mgのレボシメンダンを、このようにして1mgずつ増量して調整し続けることができる。
【0362】
他の投与経路、例えば、静脈内注射によりレボシメンダンを受ける被験者は、経口投与スキームに移行してもよい。例えば、静脈内注射によりレボシメンダンを受ける被験者は、レボシメンダンの最終24時間注入を受けた後に経口投与を開始してもよい。レボシメンダンの経口投与は、最終24時間注入から数日又は数週間以内、例えば、1週間以内に開始され得る。経口投与量は1mg/日で開始した後、上記のように調整を実施する。
【0363】
併用療法
PH-HFpEFなどの所与の状態を治療するための2つの薬剤の投与は、多くの潜在的な問題を提起する。2つの薬剤同士のインビボ相互作用は複雑である。あらゆる単一薬剤の効果は、その吸収、分布、及び排出に関連する。2つの薬剤が体内に導入されると、各薬剤は他方の吸収、分布、及び排出に影響を及ぼし得ることから、他方の作用を改変する可能性がある。例えば、一方の薬剤は、他方の薬剤の排出の代謝経路に関与する酵素の産生を阻害、活性化又は誘導し得る(Guidance for Industry,2006)。一例では、GAとインターフェロン(IFN)の併用投与は、いずれか一方の療法の臨床的有効性を相殺することが実験により証明されている。(Brod 2000)別の実験では、IFN-βとの併用療法へのプレドニゾンの添加が、その上方制御効果を弱めることが報告された。従って、同じ病態を治療するために2つの薬剤が投与された場合、それぞれが、ヒト被験者における他方の治療活性を補足するか、影響を及ぼさないか、又は妨害するかは予測不可能である。
【0364】
2つの薬剤同士の相互作用は、各薬剤の意図される治療活性に影響を及ぼし得るだけでなく、その相互作用は毒性代謝物のレベルを増加する恐れもある(Guidance for Industry,2006)。相互作用はまた、各薬剤の副作用を増大又は低減し得る。従って、疾患を治療するために2つの薬剤を投与すると、各薬剤の負の側面のプロファイルにどのような変化が生じるかは予測不可能である。一例では、ナタリズマブとインターフェロンβ-1aの組合せは、予想外の副作用のリスクを増大することが観察された。(Vollmer,2008;Rudick 2006;Kleinschmidt-DeMasters,2005;Langer-Gould 2005)
【0365】
さらに、2つの薬剤同士の相互作用の効果がいつ発現されるかを正確に予測することは困難である。例えば、薬剤同士の代謝的相互作用は、第2の薬剤の最初の投与時、2つの薬剤が定常状態濃度に達した後、又はこれら薬剤の一方の中止時に明らかになり得る。(Guidance for Industry,2006)
【0366】
本明細書で使用される場合、「組合せ」は、同時、同時期、又は固定用量併用送達のいずれかによる治療に使用するための試薬の集合体を意味する。同時送達は、薬剤の混和物(真の混合物、懸濁液、エマルジョン又は他の物理的組合せのいずれにかかわらず)の送達を指す。この場合、組合せは、送達の直前に組み合わされたレボシメンダンと第2の薬剤との混和物であっても、又は個別の容器であってもよい。同時期送達は、レボシメンダンと第2の薬剤を同時に、又は時には互いに十分に近接させて、レボシメンダン又は心血管薬単独のいずれかの活性に比べて、相加的又は好ましくは相乗的な活性が観察されるような個別の送達を指す。固定用量併用送達は、カプセル又は錠剤などの経口投与のための単一の剤形に含まれる2種以上の薬剤の送達を指す。
【0367】
本明細書で使用される場合、併用療法で使用される「第2の薬剤」は、以下のいずれか1つを含む:ホスホジエステラーゼ-5(PDE5)阻害剤、エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA)(例えば、ボセンタン、アンブリセンタン)、プロスタノイド(例えば、トレポスチニル、セレキシパグ、ラリネパグ)、可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤(例えば、リオシグアト)、硝酸塩又は亜硝酸塩、カルシウムチャネル阻害剤(CCB)、脂肪酸酸化阻害剤(例えば、ラノラジン、トリメタジジン)、βブロッカー(BB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤、ネプリライシン阻害剤(例えば、サクビトリル、サンパトリラート、ゲモパトリラート、ファシドトリル、オマパトリラート、カンドキサトリル)、ネプリライシン及びアンジオテンシン受容体遮断薬(ANRI)(例えば、エントレスト)、アンジオテンシンII受容体遮断薬(ARB)、利尿薬、アルドステロンアンタゴニスト、ジゴキシン、イバブラジン、ヒドララジン、セララキシン、ナトリウム利尿ペプチド、心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)、又はネシリチド。
【0368】
エントレストの推奨用量及びスケジュールは、1日2回24/26mg(24mgのサクビトリルと26mgのバルサルタン)である。用量は、患者の忍容性に応じて、2~4週間毎に倍増させる。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第7,468,390号明細書;同第8,101,659号明細書;同第8,404,744号明細書;同第8,796,331号明細書;同第8,877,938号明細書;及び同第9,388,134号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0369】
サクビトリルの推奨用量及びスケジュールは、1日2回24mgである。用量は、患者の忍容性に応じて、2~4週間ごとに倍増させる。
【0370】
ラノラジンの推奨用量及びスケジュールは、1日2回500mgである。用量は、臨床症状に基づき、必要に応じて1日2回1000mgまで増加させる。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第6,303,607号明細書;同第6,369,062号明細書;同第6,479,496号明細書;同第6,503,911号明細書;同第6,525,057号明細書;同第6,562,826号明細書;同第6,617,328号明細書;同第6,620,814号明細書;同第6,852,724号明細書;及び同第6,864,258号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0371】
ボセンタンの推奨用量及びスケジュールは、>12歳の患者で1日2回62.5mgである。4週間後、患者の体重が40kgを超える場合、用量は1日2回125mgまで増加させ、患者の体重が40kg未満の場合、用量は変更されない。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第7,959,945号明細書及び同第8,309,126号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0372】
アンブリセンタンの推奨用量及びスケジュールは、1日1回経口で5mgである。5mgの患者による忍容性が良好であれば、用量は1日1回経口で10mgまで増加させる。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第8,377,933号明細書;同第9,474,752号明細書;及び同第9,549,926号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0373】
トレポスチニルの推奨用量及びスケジュールは、経口徐放錠の場合、12時間毎に経口で0.25mg又は8時間毎に0.125mgであり;吸入の場合、治療セッション当たり3回の呼吸(18mcg)を1日4回、又は忍容性が不良である場合には、1回若しくは2回の呼吸に減らし、その後、吸入に対する忍容性が良好であれば、3回の呼吸に増加させ;或いはプロスタサイクリン注入療法を初めて受ける患者の場合、より多量の用量が忍容不可能であれば、連続皮下若しくはIV注入による1.25ng/kg/分又は0.625ng/kg/分とする。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第10,076,505号明細書;同第7,999,007号明細書;同第8,653,137号明細書;同第8,658,694号明細書;同第9,199,908号明細書;同第9,593,066号明細書;同第9,604,901号明細書;及び同第9,713,599号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0374】
セレキシパグの推奨用量及びスケジュールは、1日2回経口で200mcgである。用量は、最大耐用量まで、1週おきに1日2回経口的に200mcgずつ増量して増加させが、1日2回経口で1600mcgを超えないようにする。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第7,205,302号明細書;同第8,791,122号明細書;同第9,173,881号明細書;及び同第9,284,280号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0375】
ラリネパグの推奨用量及びスケジュールは、1日2回10μg~1日2回300μgである。本明細書の上文に詳述した組成物は、Efficacy and safety of ralinepag,a novel oral IP agonist,in PAH patients on mono or dual background therapy:results from a phase 2 randomised,parallel group,placebo-controlled trial(Torres et al.2019)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0376】
リオシグアトの推奨用量とスケジュールは、1日3回経口で1mgである。この用量は、忍容性が良好であれば、増加させるが、1日3回経口で2.5mgを超えないようにする。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第6,743,798号明細書及び同第7,173,037号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0377】
トリメタジジンの推奨用量及びスケジュールは、60mg/日~140mg/日である。本明細書の上文に詳述した組成物は、Defining the Role of Trimetazidine in the Treatment of Cardiovascular Disorders:Some Insights on Its Role in Heart Failure and Peripheral Artery Disease(Chrusciel et al.2014)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0378】
サンパトリラートの推奨用量及びスケジュールは、毎日50mg~100mgである。本明細書の上文に詳述した組成物は、Sustained Antihypertensive Actions of a Dual Angiotensin-Converting Enzyme Neutral Endopeptidase Inhibitor,Sampatrilat,in Black Hypertensive Subjects(Norton et al.1999)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0379】
ゲモパトリラートは、Metabolism Of[14c]Gemopatrilat After Oral Administration To Rats,Dogs,And Humans(Wait et al.2006)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0380】
ファシドトリルの推奨用量及びスケジュールは、1日2回100mgである。本明細書の上文に詳述した組成物は、Antihypertensive effects of fasidotril,a dual inhibitor of neprilysin and angiotensin-converting enzyme,in rats and humans(Laurent et al.2000)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0381】
オマパトリラートの推奨用量及びスケジュールは、毎日10mg~80mgである。本明細書の上文に詳述した組成物は、Omapatrilat and enalapril in patients with hypertension:the Omapatrilat Cardiovascular Treatment vs.Enalapril(OCTAVE)trial(Kostis et al.2004)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0382】
カンドキサトリルの推奨用量及びスケジュールは、1日2回200mg~1日2回400mgである。本明細書の上文に詳述した組成物は、Comparison of the short-term effects of candoxatril,an orally active neutral endopeptidase inhibitor,and frusemide in the treatment of patients with chronic heart failure(Northridge et al.1999)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0383】
ジゴキシンの推奨用量及びスケジュールは、総負荷用量が静脈内投与を介した8~12mcg/kgであり、維持レジメンのために0.1~0.4mg/日に増加させる。経口投与の場合、用量及びスケジュールは、総負荷用量が10~15mcg/kgであり、3.4~5.1mcg/kg/日に増加させる。別の投与選択肢は、経口投与又は静脈内投与の場合、1日当たり0.125~0.25mgであり、0.375~0.5mg/日の高用量が稀に必要とされる。本明細書の上文に詳述した組成物は、Digoxin:A systematic review in atrial fibrillation,congestive heart failure and post myocardial infarction(Virgadamo et al.2015)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0384】
イバブラジンの推奨用量とスケジュールは、食事と一緒に1日2回経口で5mgである。この用量は、忍容性が良好であれば、増加させるが、1日2回経口で7.5mgを超えないようにする。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第7,361,649号明細書;同第7,361,650号明細書;同第7,867,996号明細書;及び同第7,879,842号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0385】
ヒドララジンの推奨用量及びスケジュールは、最初の2~4日間は1日4回経口で10mgであり、第1週の平衡のために1日4回経口で25mgに増加させる。この用量は、週2以降の週に1日4回経口で50mgに増加させる。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第6,465,463号明細書及び同第6,784,177号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0386】
セララキシンの推奨用量及びスケジュールは、30μg/kg/日で3回の48時間静脈内注入である。本明細書の上文に詳述した組成物は、RELAX-REPEAT:A Multicenter,Prospective,Randomized,Double-Blind Study Evaluating the Safety and Tolerability of Repeat Doses of Serelaxin in Patients with Chronic Heart Failure(Teerlink et al.2016)に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0387】
ネシリチドの推奨用量及びスケジュールは、2mcg/kg IVボーラス、続いて連続IV注入による0.01mcg/kg/分を実施するが;最大0.03mcg/kg/分まで3時間毎を超える高頻度に調整しないようにする。本明細書の上文に詳述した組成物は、米国特許第5,114,923号明細書に記載されており、その全内容は参照により組み込まれる。
【0388】
レボシメンダンとの併用療法に有益な効果を有する第2の薬剤のサブセットには、以下:K-ATPチャネル活性化剤(例えば、ピナシジル、ジアゾキシド、ビマカリム、レボクロマカリム、クロマカリム、リマカリム、及びニコランジルなど);硝酸塩(例えば、ニトログリセリン-NTG、硝酸イソソルビドなど);亜硝酸塩(例えば亜硝酸ナトリウム、亜硝酸アミルなど);NOドナー-(ニトロプルシドナトリウム、一酸化窒素、モルシドミン、リンシドミン);PDE阻害剤(例えば、ミルリノン、ピモベンダン、エノキシモンなど);ナトリウム利尿ペプチド、例えばBNP(例えば、ネシリチド)、ANP(例えばカルパレチド及びウラリチド)、CDNP(例えばセンデリチド)、及びその他(例えばCNP、DNP、マンプなど);NEP阻害剤(例えば、サクビトリル、サンパトリラート/シンパトリル、ファシドトリル、オマパトリラート/オマパトリル、カンドキサトリルなど);並びにARNIs(エントレスト)が含まれる。さらに、レボシメンダンとの併用療法は、上記第2の薬剤のいずれか、利尿薬、又はその両方を含み得る。
【0389】
さらに、前及び後毛細血管肺高血圧症と駆出率が保たれた心不全との複合(Cpc-PH-HFpEF)は、特定のPH-HFpEF患者の小さく、且つ特殊な表現型であることに留意されたい。これらの患者は、肺血管抵抗を低減する薬剤から利益を受ける可能性がある(Opitz 2016)。HELP試験によって、特に長期投与時に、レボシメンダンが肺血管抵抗を低減しないことが判明した。そのため、Cpc-PH-HFpEF患者は、レボシメンダンと、肺血管抵抗を低減する薬剤とを含む併用療法から利益を受け得る。従って、レボシメンダンと、限定されないが、ホスホジエステラーゼ-5阻害剤(PDE-5阻害剤、例えば、シルデナフィル、タダラフィルなど);エンドセリン受容体アンタゴニスト(ERA、例えば、ボセンタン、アンブリセンタンなど);及びプロスタサイクリン(例えば、エポプロステノール、イロプロスト、トレプロスチニルなど)をはじめとする肺血管拡張剤との併用療法は、Cpc-PH-HFpEF患者に治療利益をもたらし得る。
【0390】
各薬剤は、前述した薬物の文献に開示されている用量及びレジメンで投与することができる。
【0391】
上に挙げた実施形態は、同時に体内で実質的に有効であるいくつかの薬剤を示す。いくつかの薬物は、実質的に同時に投与することもできるし、又は異なる時間に投与することもできるが、身体に同時に影響を及ぼす。例えば、これは、体内のレボシメンダンの機能が実質的に存在している前又は後、その間にレボシメンダンを投与することを含む。
【0392】
従って、出願時の技術的現状は、2つの薬剤、特にレボシメンダンと第2の薬剤の併用療法の効果が、併用研究の結果が利用可能になるまで予測できないことである。
【0393】
本明細書に開示される各実施形態は、他の開示された実施形態の各々に適用可能なものとして意図される。従って、本明細書に記載される様々な要素の全ての組合せは、本発明の範囲内である。
【0394】
以下の実施例は、本発明のいくつかの実施形態をより十全に説明するために提示される。しかしながら、それらが本発明の広範な範囲を限定するものと決して解釈すべきではない。
【実施例
【0395】
本発明のより完全な理解を容易にするために実施例を以下に提供する。以下の実施例は、本発明を作製及び実施する例示的な形態を説明する。但し、本発明の範囲は、これらの実施例に開示される特定の実施形態に限定されるものではなく、あくまで例示を目的とするに過ぎない。(HELP Study-Hemodynamic Evaluation of Levosimendan in PH-HFpEF)
【0396】
実施例1
概要
心不全及び保持された左心室駆出率を有する肺高血圧症(PH-HFpEF)被験者の運動による血行動態改善について、プラセボと比較した間欠的レボシメンダンの有効性及び安全性を評価するために設計された、PH-HFpEF患者におけるレボシメンダンの多施設、第II相二重盲検、無作為化プラセボ対照試験を実施する。
【0397】
介入
薬剤:レボシメンダン
被験者に、以下のようにレボシメンダンを投与する:注入のための50マイクログラム/mL溶液を達成するための、250~500mLの5%デキストロース又は0.9生理食塩水で希釈された滅菌レボシメンダン2.5mg/mL濃縮溶液。
【0398】
被験者は、以下のようにマッチングプラセボを投与する:注入のための50マイクログラム/mL溶液を達成するために、250~500mLの5%デキストロース又は0.9生理食塩水で希釈された滅菌プラセボ2.5mg/mL濃縮溶液。
【0399】
試験アーム
実験:レボシメンダン2.5mg/mL注射液
a.0.075~0.1μg/kg/分、24時間(毎週)
b.介入:薬剤:レボシメンダン
【0400】
実験:マッチングプラセボ
a.0.075~0.1μg/kg/分、24時間(毎週)
b.介入:薬剤:レボシメンダン
【0401】
推定登録者数
36人の被験者
【0402】
参加基準
年齢18歳以上の男性又は女性。
【0403】
心不全及び保持された駆出率(HFpEF)を伴うWHOグループ2肺高血圧症(PH)の確定された診断。
【0404】
以下により定義される心不全及び保持された駆出率を伴うWHOグループ2肺高血圧症被験者:
a.安静時又は脚を挙げた状態で(ベースライン右心臓カテーテル/リードイン時)の平均肺動脈圧(mPAP)≧35mmHg
b.安静時又は脚を挙げた状態で(ベースライン右心臓カテーテル/リードイン時)の肺毛細血管楔入圧(PCWP)≧20mmHg
c.NYHA分類 II又はIII度
d.臨床状態の変化はなく、登録後3ヶ月以内の心エコー図によるLVEF≧40%、これは、収縮機能の低下の可能性を示唆している。
【0405】
被験者が試験の目的と試験に必要な手順を理解し、試験に参加する意思があることを示す(被験者又はその法定代理人等により)署名されたインフォームドコンセント書類。
【0406】
6分間歩行テストで少なくとも50メートル、但し550メートル以下を歩く能力。
【0407】
長期の酸素治療(該当する場合)は、登録前の30日間安定していなければならない。
【0408】
心臓の基礎疾患のための長期投薬又は治療を受けている被験者は、適切とみなされれば中止することができる利尿薬及び血圧制御のための降圧薬を除いて、無作為化前の≧30日間継続して服用していなければならない。
【0409】
呼吸器の基礎疾患のための長期投薬を受けている被験者は、無作為化前の≧30日間継続して服用していなければならない。
【0410】
無作為化基準
リードインレボシメンダンに対する応答:レボシメンダンの24時間注入後に、自転車運動(25ワット)中に測定されたベースラインからのPCWPの≧4mmHg低下と、ベースライン心係数からの10%以下の低下を示す患者。
【0411】
除外基準
過去12ヶ月以内にストレステストが陰性であるとの証拠が添付されていない限り、PCI又は心臓手術(CABG)の医療歴。
【0412】
臨床的に症候性の僧帽弁又は大動脈弁膜症。
【0413】
4.0L/分/mを超える心係数。
【0414】
治験責任医師の意見で、被験者は、WHOグループ2 PH-HFpEF以外のPHの一次診断を有する。
【0415】
少なくとも10年にわたって外科的に矯正された三尖弁前及び後シャント以外の先天性心疾患。
【0416】
陽性ストレステスト結果に基づく症候性冠動脈疾患。
【0417】
今後4ヶ月内に肺若しくは心臓移植;又は心臓手術を計画している患者。
【0418】
初期診断時に臨床的に有意な肺疾患に関連する肺高血圧症と診断された患者、又は肺の先天性欠陥を有する患者。
a.臨床的に有意な閉塞性肺疾患は、高解像度胸部CTスキャンが軽度以下の領域の肺気腫性変化を示すのでない限り、FEV1/FVC<予測の60%と定義される。
b.臨床的に有意な拘束性肺疾患は、高解像度胸部CTスキャンが軽度以下の領域の間質性肺疾患又は肺線維症を示すのでない限り、FVC<予測の60%として定義される。
【0419】
無作為化時の透析(血液透析、腹膜透析、持続的静脈-静脈血液濾過、又は限外濾過のいずれか)。
【0420】
推定糸球体濾過速度(eGFR)<30mL/分/1.73m
【0421】
チャイルド・ピュー分類(Child Pugh Class)B又はCの肝機能障害。
【0422】
過去2週間の全身性細菌、全身性真菌、又はウイルス感染症のエビデンス。
【0423】
体重>150kg。
【0424】
治験薬の開始時にSBP≧100mmHgを確実にするように管理することができない症候性低収縮期血圧(SBP)。
【0425】
リードイン(Lead-In)に、少なくとも10分間、治験薬を用いて心拍数≧100bpmで、症候性且つ持続性。
【0426】
ヘモグロビン<80g/L。
【0427】
ベースライン時に血清カリウム<3.0mmol/L又は>5.5mmol/L。
【0428】
妊娠している、妊娠の疑いがある、又は授乳中である。
【0429】
レボシメンダン又は賦形剤に対する既知のアレルギー反応又は感受性。
【0430】
トルサード・ド・ポワント(Torsades de Pointes)の病歴。
【0431】
治験薬の開始予定前の30日以内にレボシメンダンを受けた。
【0432】
治験薬の投与開始予定日前の30日以内に実験薬を受けたか、実験用医療装置を使用した。
【0433】
肺血管拡張療法の併用投与、又は無作為化の14日以内の投与。
【0434】
治験責任医師又は試験施設の従業員で、その治験責任医師又は試験施設の指示の下で提案された試験又はその他の試験に直接関与している者、並びに当該従業員又は治験責任医師の家族。
【0435】
計画された試験手順に従うことができない者。
【0436】
試験の説明(HELP試験)
これは、心不全及び保存された左心室駆出率(PH-HFpEF)被験者における運動による血行動態改善について、プラセボと比較して間欠的レボシメンダンの有効性及び安全性を評価するために設計された、PH-HFpEFを有する肺高血圧症患者におけるレボシメンダンの多施設、第II相二重盲検、無作為化、プラセボ対照試験である。
【0437】
登録されたPH-HFpEF被験者は、リードイン24時間レボシメンダン注入を受け、その血行動態応答及び試験の二重盲検段階に対する適格性を決定する。合計36人の「応答者」が二重盲検プラセボ対照段階で無作為化される。「応答者」は、ベースライン測定値と最初の注入後の反復測定値との間で、自転車での運動(25ワット)中PCWPの≧4mmHg低下及び心係数の10%以下の低下を有する被験者として同定される。
【0438】
治験薬は、PICCラインを介して第5週まで毎週24時間にわたってi.v.注入により投与される。注入(第2~5週)は、治験看護師によって被験者の自宅で行われる。患者は、被験者の安全性/応答及び用量調整の必要性を評価する目的で、第3週及び第4週の注入の間に訪問のために試験施設に戻る。各被験者は、治験薬の有効性及び安全性の評価のために第6週に再度訪問することになっている。右心臓カテーテルを挿入して、ベースラインでの安静及び運動時、リードイン24時間注入の翌日、及び第6週に血行動態測定値を取得する。
【0439】
この試験のリードイン段階では、十分な数の被験者が登録され、合計36人の「応答者」を識別するためにレボシメンダンが投与される。レボシメンダンの「応答者」は、試験の二重盲検段階のために、レボシメンダン又はプラセボで1:1に無作為化される。
【0440】
リードイン段階では、濃縮溶液(2.5mg/mL)として供給されたレボシメンダンを希釈剤と混合し、0.10μg/kg/分で24時間+/-30分にわたり静脈内投与する。
【0441】
二重盲検段階では、治験薬濃縮溶液(2.5mg/mL)、即ち、レボシメンダン又はプラセボを希釈剤と混合し、PICCラインを介し、24時間0.075μg/kg/分で毎週の注入として投与する。患者は、血圧又は心拍数に有意な変化がない限り、第4週及び第5週に(0.10μg/kg/分で24時間)用量漸増を受ける。注入速度は、より高い用量が最初の5週間の任意の時点で忍容性が良好でなければ、0.05μg/kg/分に減じることができる。
【0442】
この試験は、スクリーニング段階、リードイン段階、及び二重盲検処置段階に区分される。スクリーニング、リードイン、中間診療室(第3週から第4週の間)及び第6週の訪問は、治験責任医師の診療室で実施される。第2週、第3週、第4週及び第5週の注入は、在宅医療看護師の管理下、被験者の自宅で行われる。被験者は、有害事象を報告するために自宅での24時間注入の間いつでも、又は全試験期間を通して、試験に関して治験責任医師と話したい、若しくは有害事象を報告したいときはいつでも治験責任医師に連絡するよう指示される。
【0443】
試験のリードイン段階中の訪問では、被験者を全注入期間にわたって入院させる必要があり、注入は少なくとも24時間続く。注入が完了したら、被験者の適格性を確かめるために、血行動態測定値が収集される。第2週から第6週までの訪問数は、リードイン注入の日付に基づいて計算される。
【0444】
最初の注入(リードイン訪問)の少なくとも72時間前に、全ての患者は、心拍数を測定し、不整脈を検出するために、小型で軽量の心臓モニタリングセンサーを胸に装着する。このパッチは耐水性であり、患者がシャワー中にも着用することができる。パッチは、治験薬の最初の注入前に取り外される。さらに、以下の手順が実施される:署名されたメインスタディICFの取得(標準治療とはみなされない治験特有のテスト又は評価の実施前に取得されなければならない)、参加/除外基準、適格な血行動態の病歴の確認、医療歴、体重の管理、全ての処方薬及び非処方薬、ビタミン、及び栄養補助食品又はハーブサプリメントを含む過去/同時期投薬の記録、人口統計学的情報の記録、身長及び体重、尿妊娠検査(出産の可能性がある女性のみ)、血液学及び臨床化学血液サンプルを含む完全な身体検査の実施、バイタルサイン(BP、PR、呼吸数、体温)、チャイルド・ピュー分類、NYHA心機能分類の測定、12誘導心電図(ECG)、心エコー図(第0日から3ヶ月以内)(ベースラインの前に繰り返す必要がある)の実施、並びに6分間歩行テストの実施。
【0445】
リードイン注入(第0日)中に、以下の手順が行われる:バイタルサイン(BP、PR、呼吸数、体温)の測定、右心カテーテル法のための静脈シースの配置(シースはベースライン試験後も残り、患者は入院し、そこで24時間レボシメンダン注入を受ける(好ましくは、静脈シースを介して)。次に、24時間レボシメンダン注入後の右心カテーテル法検査、右心臓カテーテル測定:ベースライン(レボシメンダン注入前)及び24時間注入後のアクセスのためにシースが使用され(その後取り外される)、安静時及び運動中の適格ベースライン血行動態を確証すると共に、運動中のレボシメンダンに対する適格応答を確証し、有害事象を評価し、併用薬及び/又は手順、薬物動態学的サンプリング(注入終了時:24+/-2時間で採取)、ジェノタイピングサンプリング(注入終了時:24+/-2時間で採取)を評価する。血行力学的測定値に基づいてレボシメンダンに応答しない被験者は、スクリーニングから除外される。適格性基準を満たし、且つ試験の二重盲検段階に無作為化された患者にPICCラインを配置する。
【0446】
リードイン注入後の血行動態測定によって適格性が確認されたら、被験者は1:1に無作為化されて、レボシメンダン又はプラセボのいずれかを受ける。これは、リードイン投与日(第0日)と同じ訪問時に行われる。
【0447】
第2週、第3週、第4週、及び第5週の訪問は、予定訪問から+/-48時間以内に実施される。第2週~第5週の訪問は、リードイン注入の日付に基づいて計算される。これらの訪問は、在宅医療看護師の介助を受けて被験者の自宅で実施される。在宅医療看護師は、患者の安全を確実にするために、注入の最初の2~3時間患者と一緒にいる。在宅医療看護師は、注入を停止し、患者の状態を評価するために、24時間後に再び患者を訪問する。この訪問中に、以下の手順が実施される:手順、処方薬及び非処方薬、ビタミン、及び栄養補助食品又はハーブサプリメントの変更の記録;注入開始前、最初の2時間(+/-30分)後、及び24時間(+/-30分)後のバイタルサインの測定;有害事象の評価、並びに治験薬投与。第5週には、スクリーニング中に実施されたように、心拍リズムを測定するために胸に装着する新しい心臓モニタリングセンサーが全患者に賦与される。このパッチは、24時間注入の(<1時間)前に適用され、最低72時間患者をモニターし続け、第6週の訪問時に治験施設に返却された。
【0448】
中間診療室訪問は、第4週の注入訪問の48時間前に行われる。この訪問は、治験責任医師の診療室で行われる。注入は、これらの訪問中に診療室で行われる。この訪問中に、以下の手順が実施される:6分間歩行テスト、クオリティオブライフ(QOL)評価、NYHA心機能分類判定、体重、心臓モニタリングパッチの装着、及び注入を除く毎週の注入訪問に関して列記される全ての手順。
【0449】
第6週の訪問は、第5週の注入の完了から3~6日後に行うべきである。この訪問中に、以下の手順が実行される:手順、処方薬及び非処方薬、ビタミン、並びに栄養又はハーブサプリメントの変更の記録;バイタルサイン(BP、PR、呼吸数、体温)の測定;血液学及び臨床化学血液サンプル;12誘導心電図(ECG);第6週訪問の+/-72時間以内の心エコー図;安静時及び運動時の右心カテーテル法;QOL評価;チャイルド・ピュー分類、NYHA心機能分類の実施、有害事象、6分間歩行テストの評価;並びに薬物動態学観察用サンプリング(オープンラベル段階への登録前に採取すべきサンプル。
【0450】
6分間歩行テスト(6MWT)は、ベースライン訪問後の各試験訪問時のほぼ同じ時間に実施され、理想的には、最初に実施すべき評価の1つである。ECHO及び被験者アンケートは、6MWTが完了した後に実施される。6MWTは、米国胸部学会(ATS)声明:6分間歩行テストのガイドラインに記載されている方法を使用して実行される。テストは、評価される日のほぼ同じ時刻に実施され、可能な限り、同じ評価者によって行われる。
【0451】
コントラストを備える2次元(2D)心エコー図は、訓練を受けた職員によって実施される。これらの評価は、標準的な経胸部2D心エコー図である(心臓内測定値の正確度と精度を最適化するためのコントラストを備える。これらは、限定されないが、以下:左心室収縮及び拡張機能、サイズ、質量、及び形状幾何学;右心室のサイズ及び機能;肺動脈サイズ;左心房径、体積、及び圧力;弁膜(大動脈、僧帽弁、三尖弁及び肺)狭窄及び逆流(重症度);並びに肺動脈収縮期圧(PASP)及び下大静脈(IVC)内径を含み得る。
【0452】
バイタルサイン及び体重は、以下:体温、心拍数、呼吸数、並びに血圧(収縮期血圧及び拡張期血圧)を含む。血圧は、カフ(cuff)により(試験全体を通して同じ方法、同じアーム、及び同じ位置で)決定される。
【0453】
全ての血液臨床検査用の採取は、治験薬の投与前に実施しなければならない(他の除外が適用されない場合)。血液検体及び血液生化学検査が収集され、結果は、薬物動態及びジェノタイピングサンプルを除いて、現地研究室によって取得される。これらのサンプルは、レボシメンダン、OR-1855及びOR-1896代謝物の分析のために外部ラボに送られる。全ての臨床検査アッセイは、研究室の通常の手順に従って実施されることになる。研究室によって参照範囲が提供され、これらは、臨床的意義及び範囲外の病理学的変化について臨床検査室データを評価するために使用される。
【0454】
血液学及び凝固パネルは、ヘマトクリット、ヘモグロビン、白血球分類を伴う白血球(WBC)数、血小板数、プロトロンビン時間、及び部分トロンボプラスチン時間を含む。
【0455】
血液生化学検査パネルは、ナトリウム、カリウム、重炭酸塩、血中尿素窒素(BUN)、クレアチニンの試験を含む。
【0456】
結果
HELP試験のオープンラベルリードイン段階からの一次及び二次アウトカム尺度-最初の30人の無作為化された患者(計画登録の約83%)
0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入による処置で、安静時の肺毛細血管楔入圧が平均5.8mmHg(23.4から17.6mmHgに)低下し、25ワットの運動中に平均7.53mmHg(33.2から25.7mmHgに)低下する。これらの結果を図1に示す。
【0457】
【表3】
【0458】
0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入による処置で、安静時の右心房圧が平均4.83mmHg(16.2から11.3mmHgに)低下し、25ワットの運動中に平均4.97mmHg(27.9から23.0mmHgに)低下する。これらの結果を図2に示す。
【0459】
【表4】
【0460】
0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入による処置で、安静時の平均肺動脈圧が平均5.4mmHg(42.4から37.0mmHgに)低下し、25ワットの運動中に平均5.1mmHg(58.3から53.3mmHgに)低下する。これらの結果を図3に示す。
【0461】
【表5】
【0462】
0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入による処置で、安静時の心拍出量が平均0.33l/分(5.1から5.5l/分に)増加し、25ワットの運動中に平均0.60l/分(6.7から7.4l/分に)増加する。これらの結果を図4に示す。
【0463】
【表6】
【0464】
探索的アウトカム尺度
PH-HFpEFに罹患した被験者への0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入による処置に対する血行動態反応(PCWP減少)は、安静時と運動時の間に認められる患者の1回拍出量の変化によって予測することができる。
【0465】
PH-HFpEFに罹患した被験者を0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入により処置すると、プラセボで処置したPH-HFpEFに罹患した被験者と比較して、肺毛細血管楔入圧が大きく低下する。
【0466】
PH-HFpEFに罹患した被験者を0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入により処置すると、プラセボで処置したPH-HFpEFに罹患した被験者と比較して、右心房圧が有意に大きく低下する。
【0467】
PH-HFpEFに罹患した被験者を0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入により処置すると、プラセボで処置したPH-HFpEFに罹患した被験者と比較して、平均肺動脈圧が有意に大きく低下する。
【0468】
PH-HFpEFに罹患した被験者を0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入により処置すると、プラセボで治療されたPH-HFpEFに罹患した被験者と比較して心拍出量が有意に大きく増加する。
【0469】
PH-HFpEFに罹患した被験者を0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入により処置すると、プラセボで処置したPH-HFpEFに罹患した被験者と比較して、6分間歩行試験距離が有意に増加する。
【0470】
PH-HFpEFに罹患した被験者を0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入により処置すると、プラセボで治療処置したPH-HFpEFに罹患した被験者と比較して、幸福感が改善された被験者の割合が有意に高くなる。
【0471】
実施例2
概要
実施例1に示したHELP臨床試験での処置に対して患者の忍容性が良好である場合、非盲検ロールオーバー試験を実施して、患者がレボシメンダン治療を継続できるようにする。
【0472】
参加基準
Tenax Therapeutics,Inc.が後援するPH-HFpEF臨床試験での二重盲検療法を終了している。
【0473】
治験責任医師の意見で、レボシメンダン処置の継続によって利益を受けると考えられる。
【0474】
妊娠の可能性がある女性患者は、極めて有効な避妊方法を使用することに同意しなければならない。
【0475】
予定された訪問、処置計画、臨床検査及びその他の試験手順を遵守する意思と能力。
【0476】
除外基準
試験の完了又はスポンサーによる試験停止以外の理由で、親試験での処置を中止した。
【0477】
妊娠中又は授乳中の女性。
【0478】
市販のレボシメンダンの現地での入手。
【0479】
計画された試験手順に従うことができない。
【0480】
肺又は心臓移植又は心臓手術を予定している患者。
【0481】
親試験への登録以降に開始された透析(血液透析、腹膜透析、持続的静脈-静脈血液濾過、又は限外濾過のいずれか)。
【0482】
推定糸球体濾過速度(eGFR)<30mL/分/1.73
【0483】
チャイルド・ピュー分類B又はCの肝機能不全。
【0484】
治療不応性の全身性細菌、全身性真菌、又はウイルス感染のエビデンス。
【0485】
重量>150kg。
【0486】
治験薬の開始時に確実にSBP≧100mmHgであるように、収縮期血圧(SBP)を管理することができない。
【0487】
治験薬による心拍数≧100bpmで、スクリーニング時に少なくとも10分間持続。
【0488】
ヘモグロビン<80g/L。
【0489】
ベースラインでの血清カリウム<3.0mmol/L又は>5.5mmol/Lで、管理に不応答性である。
【0490】
試験の説明
これは、実施例1に示されるHELP臨床試験での処置に対して患者の忍容性が良好である場合に、患者がレボシメンダン治療を継続できるようにするためのオープンラベルロールオーバー試験である。
【0491】
被験者は、第4~6週に自己投与を目標として治験薬を自己投与する能力を十分に実証することができるまで、在宅医療看護師による訪問を受けるが、8週以降は継続しない。8週後、在宅医療サポートは終了する。在宅医療訪問は、治験責任医師が臨床的に緊急の必要性を明示した場合に、試験中後に予定を立てることができる。被験者は、在宅医療看護師によってレボシメンダン(付属品を含む)の調製、投与、及び処分/返却について指示される。被験者の自宅への治験薬の分布の過程は、試験全体を通して同じである。
【0492】
治験薬濃縮溶液(2.5mg/mL)、即ち、レボシメンダンを希釈剤と混合し、24時間にわたる0.075μg/kg/分での毎週注入として投与する。患者は、血圧若しくは心拍数の有意味な変化又はその他の法外な根拠がない限り、第3週に24時間0.10μg/kg/分の速度での用量漸増を有し得る。
【0493】
被験者が、リードイン又は試験の二重盲検部分のいずれかのHELP試験で0.05μg/kg/分に漸減調整された場合、被験者はこの用量から開始し、このオープンラベル延長試験の第3週に漸増調整する最初の機会を得る。
【0494】
第3週目にオープンラベルレボシメンダンが患者による忍容性が良好であれば、治験責任医師は、それから数週間でPICCラインをポート・ア・キャスに転換する機会を被験者について検討する。一部の患者は、PICCラインの使用を継続するか、又は試験期間中、後にポート・ア・キャスを挿入することを選択し得る。ポート・ア・キャスの配置後、在宅医療看護師は、患者がポート・ア・キャスの使用について自分でできることを確実にするために、被験者を訪問して注入を補助する。第3週以降にPICCラインを続行することを選択した被験者は、PICCラインが失敗したら、ポート・ア・キャスに移行するか、又は試験を中止することになる。
【0495】
親試験の最終訪問時に、治験責任医師(又は試験部位の適切な代理人)は、各患者から書面によるインフォームドコンセントを取得し、その後、適格性基準の確認が行われる。スクリーニング訪問中に、以下の手順:署名されたメインスタディICFの取得(標準治療とはみなされない治験特有のテスト又は評価の実施前に取得されなければならない)、参加/除外基準、全ての処方薬及び非処方薬、ビタミン、及び栄養補助食品又はハーブサプリメントを含む併用薬の確認、身長及び体重を含む完全な身体検査が実施され;後の手順のために親試験で文書化された情報が、現行試験のeCRFに転送される。
【0496】
毎週の訪問は、約7日毎に行われ、予定された訪問の48時間以内に実施される。この延長試験の最初の注入は、通常、HELP試験の最終投与(第5週)の1週間後に予定されている。一部の患者は、初めて活性治験薬(レボシメンダン)を投与されることになる(即ち、HELP試験ではプラセボを受けていた)ため、被験者は、オープンラベル延長試験の開始から8週間にわたって安全性と忍容性を確実にするために在宅医療看護師の訪問を受ける。
【0497】
被験者は、試験開始から4~6週間後に自己投与を目標として、治験薬を自己投与する能力を十分に実証することができるまで、在宅医療看護師の訪問を受ける。8週間後、在宅医療のサポートは終了する。在宅医療訪問は、治験責任医師が臨床的に緊急の必要性を明示した場合、試験期間中、後に予定を立てることができる。被験者が治験薬を自己投与する能力を十分に実証したら、治験施設にあらゆる有害事象を報告する以外に、以下に列挙する手順は適用されなくなる。これらの訪問は、被験者の自宅で実施してもよい。被験者は、この訪問中に発生するあらゆる注入関連事象又はAEについて治験責任医師に通知するように指示される。これらの訪問中に、以下の手順が(該当する場合)実施される:手順、処方薬及び非処方薬、ビタミン、及び栄養補助食品又はハーブサプリメントのあらゆる変更の記録;バイタルサインの測定;有害事象の評価;並びに治験薬投与及び説明責任。
【0498】
第3週の診療室訪問時に、患者は24時間にわたり1.0μg/kg/分までの潜在的な漸増調整について評価される。用量を増加するという決定は、疾患又は薬物関連の有害事象がないこと、及び治験責任医師の判断に基づく。
【0499】
第3週、第6週、第12週、第24週、第48週の訪問及びフォローアップ訪問(終了時)の訪問は、予定される毎週の訪問の72時間以内に行われる。これらの訪問は、治験責任医師の診療室で行われる。フォローアップ訪問(終了時)は、被験者がこの延長試験に参加した日付から2年の早期に、又は試験中止後できるだけ早く、但し1週間以内に計算される。この訪問中に、以下の手順が実施される:バイタルサイン;体重(第3週のみ);6MWT;クオリティオブライフの評価;NYHA心機能分類;医師の評価;有害事象、並びに併用薬及び/又は手順の評価。
【0500】
結果
0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入により処置すると、6分間歩行距離で測定される運動能力が、平均30メートル(292から322メートルに)増加する。これらの結果を図5に示す。
【0501】
0.075~0.1μg/kg/分のレボシメンダンの毎週24時間注入により処置すると、8人中7人の患者において5点リッカート尺度で測定した全体的な幸福感を高め、5点リッカート尺度で1~2ポイントの改善を有する。これらの結果を図6に示す。
【0502】
HELP試験の結果は、レボシメンダンの毎週24時間投与が、PH-HFpEFのPCWP(左心不全)を改善することを示す。
【0503】
HELP試験の結果は、レボシメンダンの毎週24時間投与がPH-HFpEFの6分間歩行距離(運動能力)を改善することを示している。
【0504】
HELP試験の結果は、レボシメンダンの毎週24時間投与がPH-HFpEFの右心房圧(右心機能)を改善することを示している。
【0505】
HELP試験の結果は、レボシメンダンの毎週24時間投与がPH-HFpEFの肺動脈圧を低下させることを示している。
【0506】
HELP試験の結果は、レボシメンダンの毎週24時間投与が安全で忍容性が高いことを示す。
【0507】
HELP試験には、両心室不全(左右心室障害)を有するPH-HFpEF患者が登録されているため、試験からの良好な結果は、両心室不全を有する患者を含め、PH-HFpEF患者での使用に関する主張を支持するものである。
【0508】
実施例3
実施例1と同様に試験を実施する。但し、特定のパラメータは、異なる形態の投与を可能にするように変更される。
【0509】
皮下レボシメンダン製剤は、皮下投与により投与される。皮下製剤は、実施例1の静脈内製剤と実質的に類似する。
【0510】
結果は、実施例1の結果と実質的に類似しており、静脈内注入投与と比較すると、注射部位及び/又は中心ライン感染が低減する。さらに、クオリティオブライフの評価及び/又は投与の利便性の向上は、より容易な送達経路のために得られる。
【0511】
実施例4
実施例1と同様に試験を実施する。但し、特定のパラメータは、レボシメンダンと追加の心血管薬との併用投与を可能にするように変更される。
【0512】
レボシメンダン製剤は、実質的に実施例1と同様に投与されるが、エントレストと組み合わせて投与される。
【0513】
結果は実施例1とほぼ同様であり、心血管血行動態、運動能力、及びクオリティオブライフの改善を伴う。
【0514】
実施例5
実施例1と同様に試験を実施する。但し、特定のパラメータは、レボシメンダンと追加の心血管薬との併用投与を可能にするように変更される。
【0515】
レボシメンダン製剤は、実施例1と実質的に同様に投与されるが、サクビトリル及び/又は他のネプリルシン阻害剤と組み合わせて投与される。
【0516】
結果は実施例1とほぼ同様であり、心血管血行動態、運動能力、及びクオリティオブライフの改善を伴う。
【0517】
実施例6
実施例1と同様に試験を実施する。但し、特定のパラメータは、レボシメンダンと追加の心血管薬との併用投与を可能にするように変更される。
【0518】
レボシメンダン製剤は、実質的に実施例1と同様に投与されるが、ラノラジンと組み合わせて投与される。
【0519】
結果は実施例1とほぼ同様であり、心血管血行動態、運動能力、及びクオリティオブライフの改善を伴う。
【0520】
実施例7
概要
本発明の組成物の皮下投与をレボシメンダンの製剤のIV投与と比較するために、雄のスプラーグドーリー(Sprague Dawley)ラットにおいて薬物動態試験を実施した。この試験では、レボシメンダンの血中濃度及び注射部位での痛みを評価した。
【0521】
方法
この研究は、本発明の実施形態による2つの皮下組成物を投与した結果を、雄ラットに0.25mg/ml溶液を用いて0.5mg/kgでIVボーラス注射として尾静脈レボシメンダンを投与した以前の薬物動態学的研究と比較することを含む。従って、この研究は、次の3つの試験アームを含んだ:
a.注射用滅菌水中で調製し、1N NaOH又は10N NaOHを用いてpHを7.0~7.9に調整した、レボシメンダン(0.25mg/ml)及びリン酸緩衝液(10mmol)を含む組成物のIV投与;この組成物は、0.5mg/kgの用量で投与した。
b.注射用滅菌水中で調製し、1N NaOH又は10N NaOHを用いてpH7.0~7.9に調整した、レボシメンダン(1.0mg/ml)、Captisol(登録商標)(100mg/ml)、及びリン酸緩衝液(10mmol)を含む組成物を組成物の皮下投与;この組成物は、0.5mg/kgの用量で投与した。
c.注射用滅菌水中で調製し、1N NaOH又は10N NaOHを用いてpH7.0~7.9に調整した、レボシメンダン(1.0mg/ml)、Captisol(登録商標)(300mg/ml)、及びリン酸緩衝液(10mmol)を含む組成物の皮下投与;この組成物は、0.5mg/kgの用量で投与した。
【0522】
組成物の各々は、投与前に滅菌0.22ミクロンMillex-GV PVDFフィルターシリンジフィルターを用いて滅菌濾過した。
【0523】
この試験のために、10~12ヶ月齢のナイーブ雄スプラーグドーリー(Sprague Dawley)ラットを使用した。投与前、並びに投与後の以下:5分、15分、30分、1時間、2時間、4時間、8時間、12時間、及び18時間の時点でラットから血液サンプルを採取した。各ラットから5つの0.5ml~1.0ml血液サンプルを採取した。これらのサンプルのうち4つは尾静脈から採取し、5番目のサンプルは、イソフルラン吸入による深麻酔後の心臓穿刺及び瀉血によって採取した。各試験アームにおいて、ラットは、各々3匹のラットを含むA群及びB群の2つの群に分けた。サンプル採取時点は、A群の3匹のラットとB群の3匹のラットの間で交互に設定した。従って、投与前、15分、1時間、4時間及び12時間の時点でA群ラットからサンプルを収集した。5分、30分、2時間、8時間及び18時間の時点でB群ラットからサンプルを収集した。確実に死なせるために、開胸術を事前に施した。試験の各アームは、合計18匹のラットに対して6匹のラットを使用した。
【0524】
皮下注射及びIV注射後の試験中、有害反応の臨床的徴候についてラットを観察した。注射領域の舐め、噛付き又は引っ掻き、可動性の喪失、落ち着きのなさ、不応答性、及び異常な姿勢を含む挙動をモニターした。ラットは試験を通して正常に行動し続けたため、異常な観察は得られなかった。
【0525】
ラットを安楽死させた直後に、両肩の間の背中に沿った皮下注射部位に腫脹又は刺激の徴候がないか調べた。100mg/mlのCaptisol(登録商標)製剤を12時間投与した3匹のラット及び300mg/mlのCaptisol(登録商標)製剤を18時間投与した3匹のラットを、対照として注射していないナイーブラット3匹と比較した。ラットの表皮を注意深く除去し、皮下注射部位を直接取り囲む組織を露出させた。この組織に腫脹又は刺激の徴候は観察されなかった。
【0526】
抗凝固剤としてEDTAを含むチューブに血液サンプルを保存し、血漿を分離するために遠心分離するまで氷浴中に保持した。血漿サンプルをアッセイまで-20℃で保存した。サンプルの各々から得られた血漿を、化合物の液体クロマトグラフィー/質量分析に使用した。
【0527】
血漿サンプルは、レボシメンダン及びOR-1896(一次代謝物)について、HPLC/MS/MSにより分析した。サンプル調製のために、血漿サンプル又はブランク血漿にアセトニトリルスパイク液若しくはアセトニトリルと、内部標準とを添加することによる、タンパク質沈殿法を使用した。レボシメンダンの内部標準は13C6標識レボシメンダンであり、OR-1896については、13C6標識ORM-25632(OR-1896のラセミ体)であった。試薬を添加した後、混合物をボルテックスし、遠心分離した。プラスチックインサートを用いて、約75~80μlをオートサンプラーバイアルに移した。
【0528】
HPLC/MS/MS法は、Restek Raptor Biphenylカラム、2.7μm、100×3mmから構成された。移動相Aは、5mMギ酸アンモニウム/0.1%ギ酸から成り、移動相Bはメタノールであった。流量は0.6ml/分に設定し、注入量は10μlとした。検出は、MRMモードのSciex 3200 Qtrap質量分析計で行った。
【0529】
結果
IV及び皮下投与後のレボシメンダン血漿濃度。IV製剤のより高い初期血漿レベルは、IV注射に典型的なものである。血中濃度のより急速な初期低下(α期)は、体内の組織全体にわたる薬剤の分布である。薬剤の初期分布の後、血液からの薬剤の消失は、主に代謝(β期)に起因する。レボシメンダンでは、β期は約2時間で開始する。注目すべきことに、表7及び図2は、レボシメンダンの代謝がIV及び皮下組成物について非常に類似していることを示す。これは、一次活性代謝物OR-1896の血漿レベルがほぼ同一の結果であることによっても支持される。
【0530】
【表7】
【0531】
IV及び皮下投与後のOR-1896血漿濃度。レボシメンダンの主要な活性代謝物であるOR-1896は、投与経路又は製剤に関係なく、非常に類似した血漿濃度を示した。
【0532】
【表8】
【0533】
IV製剤及び皮下組成物の投与後のレボシメンダンの薬物動態パラメータ。IV製剤と比較して両方の皮下組成物について有意に低いCmaxが観察されたが、半減期は、全ての製剤について同等であった。
【0534】
【表9】
【0535】
IV製剤及び皮下組成物の投与後のOR-1896の薬物動態パラメータ。両方の皮下組成物についてCmax、Tmax、及びAUCは、IV投与経路と非常に類似している。皮下製剤からのOR-1896のバイオアベイラビリティは、95~113%である。
【0536】
【表10】
【0537】
これらの結果は、本発明の皮下組成物の投与後のOR-1896血漿中濃度が、IVレボシメンダン投与後に観察されたものと同等であったことを示す。これは、IV投与と比較して本発明の組成物の皮下投与後に観察されるレボシメンダンの実質的に低いCmax及びAUCを考えると予想外の知見であった。
【0538】
さらに、注射部位に痛み又は目に見える刺激の徴候のエビデンスはなく、ラットについて臨床関連の有害事象又は他の疼痛若しくは苦痛の徴候も観察されなかった。Captisol(登録商標)含有皮下組成物は、皮下投与された場合に有害反応の明らかな刺激を一切引き起こさなかった。
【0539】
実施例8
実施例7と同様の検討を行う。但し、特定のパラメータは、レボシメンダンの皮下投与を可能にするように変更される。
【0540】
結果は実施例7と実質的に類似しており、静脈内注入投与と比較した場合、注射部位及び/又は中心ライン感染の低減を伴う。加えて、クオリティオブライフの評価及び/又は投与の利便性の向上は、容易な送達経路によるものである。
【0541】
考察
レボシメンダンの臨床試験は、専らHFrEF患者に的を絞っている。駆出率≧40%を有する、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)に罹患した患者は、これらのレボシメンダン臨床試験から除外されている。レボシメンダンがHFpEF患者で研究されていない理由の1つは、変力物質、特にレボシメンダンなどのカルシウム感作変力物質が心室弛緩を損ない、これが、HFpEF患者において有害となり得ると考えられてきた、これまでの懸念のためであろう。この安全性の懸念の一例は、Hajjar et al.により、Cardiovascular Drugs and Therapyに言及されており、そこでは、以下のように述べられている:「これにより、CA2+に対する筋原線維の感受性を増大する変力剤が心筋症性心臓の弛緩をさらに損ない、収縮予備能の減少及び力発生の低減をもたらすという結論に到る」。
【0542】
HFpEF患者を除外した主要なHFrEF臨床試験の例としては、LIDO、REVIVE、SURVIVE、RUSSLAN、及びLEVO-CTSが挙げられる。これらの試験では全て、駆出率>36%の患者が除外された。加えて、レボシメンダンの慢性断続的投与を評価した全ての臨床試験が、HFpEF患者を除外した。HFpEF患者を除外したレボシメンダンの長期間欠的投与を評価した臨床試験の例には、LIONHEART、LEVOREP、LAICA、及び他の単一施設試験が多数含まれる。Kleber et al.は、肺高血圧症に罹患した患者におけるレボシメンダンによる間欠的投与に関する試験を実施したが、この試験もHFpEF患者を募集しておらず、8週間にわたる長期投与後に有効性を示すことはできなかった。最後に、Jiang et al.は、様々なタイプの肺動脈性高血圧症及び急性心不全を有する患者におけるレボシメンダンの試験を実施した。しかし、いずれの患者もPH-HFpEF患者ではなかった。
【0543】
以前の急性心不全試験におけるレボシメンダン投与では、病院環境で急性非代償性心不全患者を治療するために、0.5~0.2mcg/kg/分の24時間単回注入を採用した。他の試験では、慢性心不全患者におけるレボシメンダンの反復投与又は間欠的投与が評価されており、これらの試験では、24時間未満のIV注入を使用する様々な代替的投与を採用し、病院環境で2~4週間毎の反復投与頻度により投与した。これまでの試験では、病院環境外部で投与される毎週24時間注入は採用されていない。
【0544】
PH-HFpEF患者におけるレボシメンダンの血行動態効果を評価するHELP試験からのデータは、PH-HFpEF患者におけるレボシメンダンを評価する最初で唯一の調査である。他の形態の肺高血圧症に有効な多数の薬物を含め、PH-HFpEF患者において有効且つ安全であることが証明された薬剤は存在しないため、誰もHELP試験の結果を予測することができなかった。特に、多数の失敗した試みを考慮すると、HELP試験において、レボシメンダンがPCWPを低下させ、PA圧を低下させる、又は心拍出量を増加させ、6分間歩行距離を増大する、又はPH-HFpEF患者のクオリティオブライフを改善すると予想することは不合理であった。
【0545】
本明細書に報告されるように、レボシメンダンは、驚くべきことに、肺高血圧症及び駆出率が保たれた心不全(PH-HFpEF)に罹患したヒト被験者に有効な治療を提供することが判明している。レボシメンダンは、心血管血行動態、運動能力、及びクオリティオブライフを改善することができる。この研究は、レボシメンダン注入が肺毛細血管楔入圧、右心房圧、及び平均肺動脈圧を低下させることができるというエビデンスを示した。その上、レボシメンダン注入は、心拍出量、クオリティオブライフ、及び6分間歩行距離を向上させることもできた。レボシメンダン処置患者における6分間歩行距離の統計的に有意な改善(図15)は、HFpEF又はPH-HFpEF患者において、薬剤が6分間歩行距離を向上させ得ることを示す、これまでに初めての多施設プラセボ対照試験であることから、特に注目に値する。この試験は、6分間歩行距離の差を示すようにサイズ設定又は設計されていなかったため、これは非常に驚くべき知見であった。
【0546】
さらに、レボシメンダンは、驚くことに、非病院又は非臨床環境で投与された場合及び自己投与された場合にも、安全であることが判明している。レボシメンダン処置は、外来設定、並びにヒト被験者の自宅でも提供された。本試験の結果に基づき、PH-HFpEF患者においてレボシメンダンの在宅投与を安全に行うことができることが初めて確認される。
【0547】
加えて、レボシメンダンは、驚くことに、毎週24時間注入でPH-HFpEF患者に投与した場合に安全であることも判明している。他の研究では、HFrEF患者を治療するためのレボシメンダンの間欠的な投与が評価されているが、これらの研究のいずれもレボシメンダンの毎週の24時間注入を評価していない。こうした他の研究のほとんどが、わずか6~12時間の注入時間で2、3、4週間毎に注入を評価したものである。
【0548】
本明細書に提示される結果はまた、本発明者らが、レボシメンダンに応答する可能性の高いPH-HFpEF患者を識別する手段、即ちレボシメンダンに対するPH-HFpEF応答者を識別する手段を見出したことも証明している。安静時と比較して、25ワットの運動で観察された患者の1回拍出量の相対的な増加は、患者の応答の強力な予測因子である。いかなる機構的理論にも拘束されるものではないが、この指標は、患者がレボシメンダン療法に応答するために必要な適切な心臓予備力を有するかどうかを識別することができる。
【0549】
以上述べた予想外の結果は、PH-HFpEF患者において認められたこの種の最初の結果であり、以前の試験の極めて高い失敗率に照らして考察すると、さらに驚くべきものである。
【0550】
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図1A-1B】
図2A-2B】
図3A-3B】
図4A-4B】
図5
図6
図7
図8
図9A-9C】
図10
図11
図12A-12B】
図12C
図13
図14A-14C】
図15
図16
図17
図18
図19
図20A-20B】
図21A-21B】
図22
図23
図24
図25
図26
図27A-27B】
図27C-27D】
図28A-28B】
【国際調査報告】