(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ボツリヌス毒素の精製方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/02 20060101AFI20230216BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20230216BHJP
C07K 14/33 20060101ALI20230216BHJP
C07K 1/18 20060101ALI20230216BHJP
C07K 1/16 20060101ALI20230216BHJP
B01D 24/00 20060101ALI20230216BHJP
B01D 24/02 20060101ALI20230216BHJP
B01D 15/36 20060101ALI20230216BHJP
B01D 15/34 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C12P21/02 A
G01N30/88 J
C07K14/33
C07K1/18
C07K1/16
B01D25/06
B01D23/10 A
B01D15/36
B01D15/34
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538172
(86)(22)【出願日】2020-12-19
(85)【翻訳文提出日】2022-08-19
(86)【国際出願番号】 IB2020062249
(87)【国際公開番号】W WO2021124295
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】517242544
【氏名又は名称】ガルデルマ・ホールディング・エスアー
(71)【出願人】
【識別番号】517340507
【氏名又は名称】イプセン バイオファーム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IPSEN BIOPHARM LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ストール, ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】フランク, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ジョルスタッド, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】ムール, セバスティアーン
(72)【発明者】
【氏名】ノーリン, ジョン
(72)【発明者】
【氏名】ノドクヴィスト, レーナ
(72)【発明者】
【氏名】オーベリ, シモン
【テーマコード(参考)】
4B064
4D017
4D116
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG30
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4H045AA10
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4H045CA11
4H045DA83
4H045EA20
4H045GA22
4H045GA23
(57)【要約】
本技術は、細胞培養物から得たボツリヌス毒素組成物を精製するための商業規模の方法に関する。本開示による精製方法は、ボツリヌス毒素タンパク質分子を沈殿又は凍結乾燥せずに、ボツリヌス毒素複合体及び動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない溶液中にボツリヌス毒素タンパク質分子(約150kDa)を含む高純度ボツリヌス毒素組成物を得るための一連の濾過工程及びクロマトグラフィーによる分離工程に基づいている。本開示による精製方法は、沈殿、遠心分離、又は凍結乾燥工程を用いず、末端利用者による再構成の必要がない、高純度、高活性の遊離ボツリヌス毒素タンパク質分子(約150kDa)を溶液中に得ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス毒素を含む溶液から前記毒素を精製することを含み、その過程は沈殿、遠心分離、又は凍結乾燥を含まない、ボツリヌス毒素を精製する方法。
【請求項2】
前記ボツリヌス毒素は血清A型である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
得られた精製ボツリヌス毒素はボツリヌス毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記得られた精製ボツリヌス毒素は動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記得られた精製ボツリヌス毒素はヒトアルブミンを含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項1~4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記精製は濾過工程、好ましくは接線流濾過工程を含む、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記濾過工程は中空繊維濾過器を用いる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記精製は、前記毒素を含む溶液に第一のクロマトグラフィーカラムを接触させて毒素含有画分を得ることを含む、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記陰イオン交換クロマトグラフィーカラムはQセファロースを含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記精製は前記毒素含有画分を回収することをさらに含み、前記毒素含有画分は第一の固定相に吸着しない、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記精製は、前記毒素含有画分に第二のクロマトグラフィーカラムを接触させることをさらに含む、請求項8~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記第二のクロマトグラフィーカラムは陽イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記陽イオン交換クロマトグラフィーカラムはSPセファロースを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ボツリヌス毒素を前記第二のクロマトグラフィーカラムから溶出させて第一の毒素含有溶出液を得ることをさらに含む、請求項12~14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記第一の毒素含有溶出液を濾過して毒素含有保持液を得ることをさらに含む、請求項12~15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記毒素含有溶出液を濾過することは緩衝液交換を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の毒素含有溶出液を濾過することは、ボツリヌス毒素分子を非毒素タンパク質から分離して、前記毒素含有保持液中に遊離毒素分子を得る、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記毒素含有保持液に第三のクロマトグラフィーカラムを接触させることをさらに含む、請求項16~18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第三のクロマトグラフィーカラムは第二の陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記第二の陰イオン交換クロマトグラフィーカラムはQセファロースを含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記第三のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて第二の毒素含有溶出液を得ることをさらに含む、請求項19~21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記第二の毒素含有溶出液に第四のクロマトグラフィーカラムを接触させることをさらに含む、請求項19~22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記第四のクロマトグラフィーカラムはサイズ排除クロマトグラフィーカラムを含む、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記サイズ排除クロマトグラフィーカラムはゲル濾過クロマトグラフィーカラムを含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ゲル濾過クロマトグラフィーカラムはSuperdex200を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記第四のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて精製ボツリヌス毒素を得ることをさらに含む、請求項23~26の何れか一項に記載の方法。
【請求項28】
ボツリヌス毒素を含む溶液から前記ボツリヌス毒素を精製する方法であって、
(a)前記毒素を含む溶液を濾過すること、
(b)(a)からの前記毒素を含む濾過された溶液に、イオン交換クロマトグラフィーカラムである第一のクロマトグラフィーカラムを接触させること、
(c)固定相に吸着せずに前記第一のクロマトグラフィーカラム中を通過する毒素含有画分を回収すること、
(d)前記毒素含有画分に、イオン交換クロマトグラフィーカラムである第二のクロマトグラフィーカラムを接触させること、
(e)前記第二のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて第一の毒素含有溶出液を得ること、
(f)前記第一の毒素含有溶出液を濾過して毒素含有保持液を得ること、
(g)前記濾過(f)からの毒素含有保持液に、イオン交換カラムである第三のクロマトグラフィーカラムを接触させること、
(h)前記第三のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて第二の毒素含有溶出液を得ること、
(i)サイズ排除クロマトグラフィーカラムである第四のクロマトグラフィーカラムに前記第二の毒素含有溶出液を接触させること、及び
(j)前記第四のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて、これにより精製ボツリヌス毒素を得ることを含み、
その過程は前記ボツリヌス毒素の沈殿、遠心分離、又は凍結乾燥を含まない、方法。
【請求項29】
前記ボツリヌス毒素はボツリヌス神経毒素血清A型を含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
得られた精製ボツリヌス毒素はボツリヌス毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
前記得られた精製ボツリヌス毒素は、動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項28~30の何れか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記精製ボツリヌス毒素は、ヒトアルブミンを含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項28~31の何れか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記第一のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む、請求項28~32の何れか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記第一のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含む、請求項28~33の何れか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記第二のクロマトグラフィーカラムは陽イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む、請求項28~34の何れか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記第二のクロマトグラフィーカラムはSPセファロースを含む、請求項28~35の何れか一項に記載の方法。
【請求項37】
前記第一のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含み、前記第二のクロマトグラフィーカラムは陽イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む、請求項28~36の何れか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記第一のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含み、前記第二のクロマトグラフィーカラムはSPセファロースを含む、請求項28~37の何れか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記第三のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む、請求項28~38の何れか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記第三のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含む、請求項28~39の何れか一項に記載の方法。
【請求項41】
前記第四のクロマトグラフィーカラムはゲル濾過カラムを含む、請求項28~40の何れか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記第四のクロマトグラフィーカラムはSuperdex200を含む、請求項28~41の何れか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記第三のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含み、前記第四のクロマトグラフィーカラムはゲル濾過クロマトグラフィーカラムを含む、請求項28~42の何れか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記第三のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含み、前記第四のクロマトグラフィーカラムはSuperdex200を含む、請求項28~43の何れか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記第二の毒素含有溶出液は前記第四のクロマトグラフィーカラムに直接注入される、請求項28~44の何れか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記第三のクロマトグラフィーカラムと前記第四のクロマトグラフィーカラムは相互接続されている、請求項28~45の何れか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記第一のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムであり、前記第二のクロマトグラフィーカラムは陽イオン交換クロマトグラフィーカラムであり、前記第三のクロマトグラフィーカラムは第二の陰イオン交換クロマトグラフィーカラムであり、前記第四のクロマトグラフィーカラムはゲル濾過クロマトグラフィーカラムである、請求項28~46の何れか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記第一のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含み、前記第二のクロマトグラフィーカラムはSPセファロースを含み、前記第三のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含み、前記第四のクロマトグラフィーカラムはSuperdex200を含む、請求項28~47の何れか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記第一、第二、第三、及び第四のクロマトグラフィーカラムは単回使用のクロマトグラフィー系である、請求項28~48の何れか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記濾過(f)は非毒素タンパク質からボツリヌス毒素タンパク質分子を解離させて遊離毒素分子を得る、請求項28~49の何れか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記濾過(f)は緩衝液交換を含む、請求項28~50の何れか一項に記載の方法。
【請求項52】
ボツリヌス毒素を含む前記溶液は、動物性生成物を含まない、本質的に動物性生成物を含まない、又は実質的に動物性生成物を含まない発酵培地である、請求項1~27の何れか一項に記載の方法。
【請求項53】
ボツリヌス毒素を含む前記溶液は、動物性生成物を含まない、本質的に動物性生成物を含まない、又は実質的に動物性生成物を含まない発酵培地である、請求項28~51の何れか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記ボツリヌス毒素を、濾過されて生物汚染度が低減された緩衝溶液に接触させることをさらに含む、請求項1~27の何れか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記ボツリヌス毒素を、濾過されて生物汚染度が低減された緩衝溶液に接触させることをさらに含む、請求項28~51の何れか一項に記載の方法。
【請求項56】
請求項1~27の何れか一項に記載の方法によって得られた精製ボツリヌス毒素。
【請求項57】
前記ボツリヌス毒素は血清A型である、請求項56に記載の精製ボツリヌス毒素。
【請求項58】
前記精製ボツリヌス毒素は毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項56又は57に記載の精製ボツリヌス毒素。
【請求項59】
前記精製ボツリヌス毒素は動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項56~58の何れか一項に記載の精製ボツリヌス毒素。
【請求項60】
前記精製ボツリヌス毒素はヒトアルブミンを含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項56~59の何れか一項に記載の精製ボツリヌス毒素。
【請求項61】
請求項28~51の何れか一項に記載の方法によって得られた精製ボツリヌス毒素。
【請求項62】
血清A型である、請求項61に記載の精製ボツリヌス毒素。
【請求項63】
前記精製ボツリヌス毒素は毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項61又は62に記載の精製ボツリヌス毒素。
【請求項64】
前記精製ボツリヌス毒素は動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項61~63の何れか一項に記載の精製ボツリヌス毒素。
【請求項65】
前記精製ボツリヌス毒素はヒトアルブミンを含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項61~64の何れか一項に記載の精製ボツリヌス毒素。
【請求項66】
リン酸塩を含む緩衝液中に精製ボツリヌス毒素を含む、組成物。
【請求項67】
前記緩衝液はさらに酢酸塩を含む、請求項66に記載の組成物。
【請求項68】
前記緩衝液は少なくとも1つの塩化物イオン源をさらに含む、請求項66又は67に記載の組成物。
【請求項69】
前記少なくとも1つの塩化物イオン源は塩化ナトリウムである、請求項68に記載の組成物。
【請求項70】
前記緩衝液は少なくとも1種の界面活性剤をさらに含む、請求項66~69の何れか一項に記載の組成物。
【請求項71】
前記少なくとも1種の界面活性剤はポリソルベート20を含む、請求項70に記載の組成物。
【請求項72】
前記ボツリヌス毒素はボツリヌス神経毒素血清A型である、請求項66~71の何れか一項に記載の組成物。
【請求項73】
前記組成物はボツリヌス毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項66~72の何れか一項に記載の組成物。
【請求項74】
前記組成物は動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項66~73の何れか一項に記載の組成物。
【請求項75】
前記組成物はヒトアルブミンを含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない、請求項66~74の何れか一項に記載の組成物。
【請求項76】
前記組成物のpHが約6.6と6.9の間である、請求項66~75の何れか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、米国特許法第119条(e)の下で、2019年12月20日に提出された米国特許仮出願第62/951,549号に対する優先権を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本技術は、一般に神経毒素タンパク質分子を精製する分野に関する。特に、本技術は、ボツリヌス毒素を精製する方法に関する。そこから精製されたボツリヌス毒素は、治療での使用、特に患者に投与して所望の治療効果又は美容効果を達成するのに好適である。
【背景技術】
【0003】
本技術の背景技術に関する以下の説明は、単に本技術の理解を助けるために提供されるものであり、本技術の先行技術を説明するものや構成するものとは認められない。
【0004】
一般的に免疫学的に異なる7つのボツリヌス神経毒(ボツリヌス神経毒血清A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型)が特徴づけられており、それぞれが型特異的な抗体による中和によって区別されている。一例として、ボトックス(登録商標)は、アラガン社(カリフォルニア州アーバイン)から市販されているボツリヌス毒素A型精製神経毒複合体の商標である。ボトックス(登録商標)は、細かい皺を一時的に目立たなくする、注射による美容トリートメントとして人気がある。
【0005】
従来、A型毒素を含むボツリヌス毒素はC.ボツリヌスの発酵から産生されるが、ボツリヌス毒素分子に加えて、完全なバクテリア、溶解バクテリア、培地の栄養素、及び発酵副生成物を含む培養物溶液が生成されることがある。完全な細胞成分及び/又は溶解細胞成分、及び必要に応じて他の発酵培地残渣を除去するためにC.ボツリヌス培養物溶液を濾過すると、清澄化培養物が得られる。清澄化培養物溶液はボツリヌス毒素分子と様々な不純物を含んでおり、これら不純物を除去してボツリヌス毒素医薬組成物とするのに好適な精製ボツリヌス毒素(例えば、BoNT/A1)を得ることができる。
【0006】
薬学的に好適なボツリヌス毒素組成物を得るための既存の商業規模の過程では、典型的には、発酵過程由来の不純物残差を毒素複合体から分離するための複数の沈殿工程が用いられる。例えば、冷アルコール分別(例えば、コーン法)又は沈殿を用いて血漿タンパク質を除去する。しかしながら、ボツリヌス毒素を精製するための沈殿技術には、低解像度、低収率、操作の難しさ、制御及び/又は検証の難しさ、及び拡張性の欠如といった問題がある。また、(例えば、凍結乾燥、沈殿などにより)ボツリヌス毒素を乾燥させると、実質的に毒性が低減する。これは、不活性の毒素がトキソイドを形成して、患者にボツリヌス毒素に対する免疫を与えることがあるためであり、臨床的問題である。
【0007】
それにもかかわらず、現在米国で承認されているボツリヌス毒素製品(例えば、BOTOX COSMETIC(登録商標)、DYSPORT(登録商標)、XEOMIN(登録商標)、及びJEUVEAU(登録商標))は、安定性という理由から凍結乾燥又は冷凍乾燥された状態で保存されている。このような製剤は、患者に投与する前に医師により殺菌生理食塩水中で再構成される必要がある。この再構成工程は、医師の時間を奪うこと、希釈を間違える危険性、及び汚染の危険性と関連付けられる。ボツリヌス毒素の供給者はまた、再構成工程が適切に行われることを確実にするため、医師を訓練しなければならない。
【0008】
従って、動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まず、患者に投与する前に再構成を必要としない、高純度、高活性で薬学的に好適なボツリヌス毒素組成物を得るために発酵培地からボツリヌス毒素を精製するための制御可能でスケールアップ可能な高収率の方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
一態様では、本開示は、ボツリヌス毒素を精製する方法に関する。前記方法は、前記毒素を含む溶液から前記毒素を精製することを含み、その過程は沈殿、遠心分離、または凍結乾燥を含まない。
【0010】
実施形態によっては、前記ボツリヌス毒素は血清A型である。実施形態によっては、得られた精製ボツリヌス毒素はボツリヌス毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。実施形態によっては、得られた精製ボツリヌス毒素は、ヒトアルブミンを含む動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。
【0011】
実施形態によっては、前記精製は濾過工程、好ましくは接線流濾過工程を含む。実施形態によっては、前記濾過工程は中空繊維濾過器を用いる。実施形態によっては、前記精製は、第一のクロマトグラフィーカラムを、前記毒素を含む溶液と接触させて毒素含有画分を得ることを含む。実施形態によっては、前記第一のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記陰イオン交換クロマトグラフィーカラムはQセファロースを含む。実施形態によっては、前記精製は前記毒素含有画分を回収することをさらに含み、前記毒素含有画分は第一の固定相に吸着しない。
【0012】
実施形態によっては、前記精製は、第二のクロマトグラフィーカラムを前記毒素含有画分に接触させることをさらに含む。実施形態によっては、前記第二のクロマトグラフィーカラムは陽イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記陽イオン交換クロマトグラフィーカラムはSPセファロースを含む。実施形態によっては、前記精製は、前記第二のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて第一の毒素含有溶出液を得ることをさらに含む。
【0013】
実施形態によっては、前記精製は、前記第一の毒素含有溶出液を濾過して毒素含有保持液を得ることをさらに含む。実施形態によっては、前記第一の毒素含有溶出液を濾過することは緩衝液の交換を含む。実施形態によっては、前記第一の毒素含有溶出液を濾過することは、ボツリヌス毒素分子を非毒素タンパク質から分離して遊離毒素分子を得る。
【0014】
実施形態によっては、前記精製は、第三のクロマトグラフィーカラムを毒素含有保持液に接触させることをさらに含む。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムは第二の陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記第二の陰イオン交換クロマトグラフィーカラムはQセファロースを含む。実施形態によっては、前記精製は、前記第三のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて第二の毒素含有溶出液を得ることをさらに含む。
【0015】
実施形態によっては、前記精製は、第四のクロマトグラフィーカラムを第二の毒素含有溶出液に接触させることをさらに含む。実施形態によっては、前記毒素含有溶出液は第四のクロマトグラフィーカラムに直接注入される。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムと第四のクロマトグラフィーカラムは相互接続されている。
【0016】
実施形態によっては、前記第四のクロマトグラフィーカラムはサイズ排除クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記サイズ排除クロマトグラフィーカラムはゲル濾過クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記ゲル濾過クロマトグラフィーカラムはSuperdex200を含む。実施形態によっては、前記精製は、前記第四のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて精製ボツリヌス毒素を得ることをさらに含む。
【0017】
他の態様では、ボツリヌス毒素を含む溶液から前記毒素を精製する方法は、(a)前記毒素を含む溶液を濾過すること、(b)(a)からの前記毒素を含む濾過された溶液に、イオン交換クロマトグラフィーカラムである第一のクロマトグラフィーカラムを接触させること、(c)固定相に吸着せずに前記第一のクロマトグラフィーカラム中を通過する毒素含有画分を回収すること、(d)前記毒素含有画分に、イオン交換クロマトグラフィーカラムである第二のクロマトグラフィーカラムを接触させること、(e)前記第二のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて第一の毒素含有溶出液を得ること、(f)前記第一の毒素含有溶出液を濾過して毒素含有保持液を得ること、(g)前記濾過(f)からの毒素含有保持液に、イオン交換カラムである第三のクロマトグラフィーカラムを接触させること、(h)前記第三のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて第二の毒素含有溶出液を得ること、(i)サイズ排除クロマトグラフィーカラムである第四のクロマトグラフィーカラムに前記第二の毒素含有溶出液を接触させること、及び(j)前記第四のクロマトグラフィーカラムから前記ボツリヌス毒素を溶出させて、これにより精製ボツリヌス毒素を得ることを含み、その過程は前記ボツリヌス毒素の沈殿、遠心分離、又は凍結乾燥を含まない。
【0018】
実施形態によっては、前記ボツリヌス毒素はボツリヌス神経毒素血清A型を含む。実施形態によっては、前記得られた精製ボツリヌス毒素はボツリヌス毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。実施形態によっては、前記得られた精製ボツリヌス毒素はヒトアルブミンを含む動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。
【0019】
実施形態によっては、前記第一のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記第一のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含む。
【0020】
実施形態によっては、前記第二のクロマトグラフィーカラムは陽イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記第二のクロマトグラフィーカラムはSPセファロースを含む。
【0021】
実施形態によっては、前記第一のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含み、前記第二のクロマトグラフィーカラムは陽イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記第一のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含み、前記第二のクロマトグラフィーカラムはSPセファロースを含む。
【0022】
実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含む。
【0023】
実施形態によっては、前記第四のクロマトグラフィーカラムはゲル濾過カラムを含む。実施形態によっては、前記第四のクロマトグラフィーカラムはSuperdex200を含む。
【0024】
実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムを含み、前記第四のクロマトグラフィーカラムはゲル濾過クロマトグラフィーカラムを含む。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含み、前記第四のクロマトグラフィーカラムはSuperdex200を含む。実施形態によっては、前記第二の毒素含有溶出液は、前記第四のクロマトグラフィーカラムに直接注入される。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムと前記第四のクロマトグラフィーカラムは相互接続されている。
【0025】
実施形態によっては、前記第一のクロマトグラフィーカラムは陰イオン交換クロマトグラフィーカラムであり、前記第二のクロマトグラフィーカラムは陽イオン交換クロマトグラフィーカラムであり、前記第三のクロマトグラフィーカラムは第二の陰イオン交換クロマトグラフィーカラムであり、前記第四のクロマトグラフィーカラムはゲル濾過クロマトグラフィーカラムである。一実施形態では、前記第一のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含み、前記第二のクロマトグラフィーカラムはSPセファロースを含み、前記第三のクロマトグラフィーカラムはQセファロースを含み、前記第四のクロマトグラフィーカラムはSuperdex200を含む。
【0026】
実施形態によっては、前記第一、第二、第三、及び第四のクロマトグラフィーカラムは単回使用のクロマトグラフィー系である。
【0027】
実施形態によっては、前記濾過(f)は非毒素タンパク質からボツリヌス毒素タンパク質分子を解離させて遊離毒素分子を得る。実施形態によっては、前記濾過(f)は緩衝液交換を含む。
【0028】
実施形態によっては、ボツリヌス毒素を含む溶液は、動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。実施形態によっては、前記精製は、前記ボツリヌス毒素を、濾過されて生物汚染度が低減された緩衝溶液に接触させることを含む。
【0029】
他の態様では、本開示は、毒素を含む溶液から前記毒素を精製して得た精製ボツリヌス毒素に関する。ここで、前記過程は沈殿、遠心分離、又は凍結乾燥を含まない。実施形態によっては、前記精製ボツリヌス毒素は血清A型である。実施形態によっては、前記精製ボツリヌス毒素は毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。実施形態によっては、前記精製ボツリヌス毒素は、ヒトアルブミンを含む動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。
【0030】
他の態様では、本開示は、リン酸塩を含む緩衝溶液中に精製ボツリヌス毒素を含む組成物に関する。実施形態によっては、前記緩衝溶液は酢酸塩をさらに含む。実施形態によっては、前記緩衝溶液は少なくとも1つの塩化物イオン源をさらに含む。実施形態によっては、前記少なくとも1つの塩化物イオン源は塩化ナトリウムを含む。実施形態によっては、前記緩衝溶液は少なくとも1種の界面活性剤をさらに含む。実施形態によっては、前記界面活性剤はポリソルベート20である。
【0031】
本開示による組成物の実施形態によっては、前記ボツリヌス毒素はボツリヌス神経毒素血清A型である。実施形態によっては、前記組成物はボツリヌス毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。実施形態によっては、前記組成物は動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。実施形態によっては、前記組成物はヒトアルブミンを含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない。実施形態によっては、前記組成物のpHは約6.6と6.9の間である。
【0032】
以下の詳細な記載は例示的及び説明的なものであり、限定であると解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、本開示による発酵培地からボツリヌス毒素組成物を精製する方法の一実施形態を示すフロー図である。
【
図2】
図2は、本開示に従って調製された生成物毒素溶液に対してコロイド状クーマシーブルー染色を用いたSDS-PAGEの結果を示す。
【
図3】
図3は、本開示に従って調製された3種の異なる生成物毒素溶液のSDS-PAGEの結果を示す。
【
図4】
図4は、本開示に従って調製された生成物毒素溶液のSEC分子量分布の結果を示す。
【
図5】
図5は、本開示に従って調製された3種の生成物毒素溶液について連続精製工程に跨がる平均過程収率を示す。
【
図6】
図6は、本開示に従って調製された3種の生成物毒素溶液について連続精製工程に跨がる平均累積過程収率を示す。
【
図7】
図7は、本開示に従って調製された3種の生成物毒素溶液について連続精製工程に跨がる平均純度向上因子を示す。
【
図8】
図8は、本開示に従って調製された3種の生成物毒素溶液について連続精製工程に跨がる平均累積純度向上因子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本開示に従う実施形態は、以下により十分に記載される。しかしながら、本開示の態様は、異なる形態で体現されてもよく、本明細書に明記される実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。本技術は、もちろん、変動し得る特定の方法、試薬、化合物、組成物、又は生物学的系に限定されないことが理解されるべきである。本明細書の記載において使用される用語は、特定の実施形態を記載するためのものに過ぎず、限定することは意図されない。
【0035】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書で定義されるような用語は、本出願の文脈及び関連技術におけるそれらの意味と一致する意味を有するものと解釈されるべきであり、本明細書で明確に定義されない限り、理想的又は過度に正式な意味で解釈されるべきではないこともさらに理解される。そのような用語は、以下に明示的には定義されないが、それらの一般的な意味に従って解釈されるべきである。
【0036】
また、本開示の特徴又は態様がマーカッシュ群で記載される場合、当業者であれば、本開示もまた任意の個々の要素又はマーカッシュ群の要素の下位群に関して記載されることを認識するであろう。
【0037】
当業者に理解されるように、ありとあらゆる目的のため、特に記載された説明を提供する観点から、本明細書で開示されるすべての範囲はまた、ありとあらゆる下位範囲及びその下位範囲の組み合わせをも包含する。任意の指定範囲は、十分に記述的であり、同じ範囲を少なくとも二等分、三等分、五等分、十等分などに分割することができることが容易に認識され得る。非限定的な一例として、本明細書で論じた各範囲は、下三分の一、中三分の一、及び上三分の一などに容易に分割することができる。また、当業者に理解されるように、「まで」、「少なくとも」、「超」、「未満」などすべての言語は、引用された数字を含み、上記のように順次下位範囲に分割することができる範囲を言う。最後に、当業者に理解されるように、1つの範囲は、個々の要素をそれぞれ含む。よって、例えば、1~3個の細胞を有する群は、1個の細胞を有する群、2個の細胞を有する群、又は3個の細胞を有する群を言う。同様に、1~5個の細胞を有する群は、1個の細胞を有する群、2個の細胞を有する群、3個の細胞を有する群、4個の細胞を有する群、5個の細胞を有する群などを言う。
【0038】
別段文脈が示さない限り、本明細書に記載の本発明の様々な特徴が任意の組み合わせで使用され得ることが、具体的に意図される。さらに、本開示はまた、いくつかの実施形態では、本明細書に明記される任意の特徴又は特徴の組み合わせが、除外又は省略され得ることも企図する。説明すると、本明細書が、ある複合体が構成要素A、B、及び、Cを含むと述べる場合、A、B、もしくはCのいずれか、又はそれらの組み合わせが、単独又は任意の組み合わせで省略され、放棄され得ることが具体的に意図される。
【0039】
別段明示的に示されない限り、すべての特定の実施形態、特徴、及び、用語は、列挙される実施形態、特徴、又は用語、及び、それらの生物学的等価物を含むことを意図する。
【0040】
本明細書で言及又は引用されたすべての特許、特許出願、仮出願、及び出版物は、本明細書の明示的な教示と矛盾しない限り、参照によりすべての図及び表を含むその全内容が組み込まれる。
定義
【0041】
本明細書で使用される場合、単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、及び、「the(その)」は、単数形のみを示すことが明確に述べられない限り、単数形及び複数形の両方を示す。
【0042】
また、本明細書で使用される場合、「及び/又は」は関連する列挙された項目の1つ以上のありとあらゆる可能性のある組み合わせだけでなく、代替案(「又は」)で解釈される場合、組み合わせの欠如も指し、それらを包含する。
【0043】
明示されていない場合でも、すべての数字的指定は用語「約」又は「およそ」が先行する。用語「約」又は「およそ」は、包含される数が、本明細書に明記される数きっかりに限定されず、本発明の範囲から逸脱することなく、実質的に列挙される数の付近にある数を言うことが意図されることを意味する。本明細書で使用される場合、「約」又は「おそよ」は当業者によって理解され、それが使用される文脈である程度変動する。この用語の使用が、それが使用される文脈を考慮して、当業者にとって明確ではない場合、「約」又は「およそ」は最大で特定の用語のプラスマイナス10%、5%、1%、又は0.1%までを意味する。
【0044】
本明細書で使用される場合、「含まない」又は「全く含まない」は、用いられる装置又は工程の検出範囲内でその物質を検出することができない、あるいはその存在を確認することができないことを意味する。
【0045】
本明細書で使用される場合、「本質的に含まない」は、その物質をほんの微量だけ検出することができることを意味する。本開示では、「本質的に含まない」は、その物質の量が組成物全体の0.1%重量未満であり、好ましくは0.01重量%未満、最も好ましくは0.001重量%未満であることを意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「実質的に含まない」は、その物質の量が組成物全体の5重量%未満、好ましくは2重量%未満、最も好ましくは1重量%未満であることを意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「ボツリヌス毒素」は、クロストリジウム・ボツリヌスによって産生される神経毒素に加えて、非クロストリジウム種により組換えで作製されたボツリヌス毒素(又はその軽鎖あるいは重鎖)を意味する。本明細書で使用される場合、「ボツリヌス毒素」はA型、B型、C型、D型、E型、F型、及びG型を包含する。「ボツリヌス毒素」はまた「改変ボツリヌス毒素」を包含する。
【0048】
本明細書で使用される場合、「ボツリヌス毒素複合体」又は「毒素複合体」は、ボツリヌス毒素タンパク質分子(すべての血清型で約150kDa)と1種以上の会合非毒素タンパク質とを含む、クロストリジウム細菌によって放出された複合体を包含する。これらの複合体(例えば、分子量が約300kDa、500kDa、又は900kDa)は、非毒素血球凝集素タンパク質(「NTHタンパク質」)及び非毒素非血球凝集素タンパク質(「NTNHタンパク質」)を含むと思われる。よって、ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス毒素分子(神経毒性成分)と、1種以上のNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質とを含んでいてもよい。これら2種類の非毒素タンパク質は、変性に対して毒素分子を安定させて、毒素が摂取されると消化性の酸から毒素分子を保護し得る。また、ボツリヌス毒素タンパク質に比べて、大きい(300kDa以上)ボツリヌス毒素複合体ほど、筋肉内注射部位からよりゆっくりと分散し得る。
【0049】
毒素複合体の一例として、ボツリヌス毒素A型複合体は、クロストリジウム細菌によって900kDa形態、500kDa形態、及び300kDa形態として得ることができる。ボツリヌス毒素B型及びC1型は500kDa複合体として得られる。ボツリヌス毒素D型は300kDa複合体及び500kDa複合体として得られる。最後に、ボツリヌス毒素E型及びF型は約300kDaの複合体として得られる。
【0050】
ボツリヌス神経毒素A1型を参照すると、pHが約7超の時、非毒素タンパク質はボツリヌス毒素タンパク質分子(約150kDa)から解離することが知られている。よって、これらの毒素複合体は、pHが約7~8の好適な緩衝液中でカラムクロマトグラフィーなどの分離工程を行うことで解離してボツリヌス毒素タンパク質と血球凝集素タンパク質にすることができる。しかしながら、ボツリヌス毒素タンパク質は、NTH血球凝集素タンパク質及び/又はNTNH血球凝集素タンパク質を除去する際に不安定であることが知られており、pH及び温度が上昇すると、あるいは表面が伸縮又は乾燥した結果(例えば、凍結乾燥又は沈殿時)、毒素はその毒性を失う。さらに、安定化剤が存在しなければ、毒素は希釈(例えば、培養、発酵及び精製時の希釈)時にその特定の活性を失う。
【0051】
本明細書で使用される場合、「改変ボツリヌス毒素」は、ネイティブボツリヌス毒素に比べてそのアミノ酸の少なくとも1個が削除、改変、又は置換されたボツリヌス毒素を意味する。また、改変ボツリヌス毒素は、組換えで作製された神経毒素、あるいは組換えで作製された神経毒素の誘導体又は断片であり得る。改変ボツリヌス毒素は、ネイティブボツリヌス毒素の少なくとも1つの生物学的活性、例えば、ボツリヌス毒素受容体に結合する能力、又は神経からの神経伝達物質の放出を阻害する能力を保持する。改変ボツリヌス毒素の一例は、1種のボツリヌス毒素血清型(例えば、血清A型)に由来する軽鎖と、異なるボツリヌス毒素血清型(例えば、血清B型)に由来する重鎖を有するボツリヌス毒素である。よって、改変ボツリヌス毒素は、血清A型、B型、C型、D型、E型、F型、又はG型の何れかから選択された異なる2つの血清型に由来する軽鎖及び重鎖を含んでいてもよい。他の改変ボツリヌス毒素の例は神経伝達物質に結合するボツリヌス毒素である。
【0052】
本明細書で使用される場合、「精製ボツリヌス毒素」、「純粋毒素」、「遊離ボツリヌス毒素」、「遊離毒素」、又は「ボツリヌス毒素タンパク質」は、ボツリヌス毒素複合体を形成するNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質を含むその他のタンパク質から単離、又は実質的に単離されたボツリヌス毒素である。精製ボツリヌス毒素の純度は95%超であってもよく、好ましくは99%超である。
【0053】
本明細書で使用される場合、「培地」又は「発酵培地」は、バクテリアを培養するための何れかの培地を意味し、産生培地の播種に用いられる種培養物を作製するための成長培地であるか、又はバクテリアが成長して毒素を産生する産生培地である。
【0054】
本明細書で使用される場合、「動物性生成物を含まない」(「APF」)、「本質的に動物性生成物を含まない」、又は「実質的に動物性生成物を含まない」はそれぞれ、「動物タンパク質を含まない」、「本質的に動物タンパク質を含まない」、又は「実質的に動物タンパク質を含まない」を包含し、血液由来、血液プール、及びその他の動物由来生成物又は化合物の欠如、本質的欠如、又は実質的欠如を意味する。この文脈において、「含まない」、「本質的に含まない」、及び「実質的に含まない」は上で示した定義に対応している。「動物」は、哺乳類(ヒトなど)、鳥、爬虫類、魚類、昆虫、蜘蛛、その他の動物種を意味する。「動物」は、バクテリアなどの微生物を除外する。よって、本発明の範囲内のAPF培地又は過程、あるいは実質的APF培地又は過程は、ボツリヌス毒素又はクロストリジウム系ボツリヌス細菌を含むことができる。例えば、APF過程又は実質的APF過程は、例えば、免疫グロブリン、ヒトアルブミン、肉消化物、肉副産物、及び乳又は乳製品、又は乳消化物などを含まない、あるいは実質的含まない過程を意味する。よって、APF過程の一例は、肉及び乳製品あるいは肉又は乳製品を除外した過程(例えば、バクテリア培養過程又はバクテリア発酵過程)である。
【0055】
本明細書で使用される場合、「生物汚染度」は、殺菌されていない表面、装置の内部、又は溶液中で生きているバクテリアを意味する。例えば、本技術の実施形態は、緩衝溶液を濾過して、「生物汚染度」、すなわち緩衝溶液中で生きているバクテリア、又はその溶液に接触している表面(例えば、ガラス器の表面)から溶液に移されたバクテリアを低減することを含む。
【0056】
本明細書で使用される場合、「接線流濾過」及び「TFF」は、生物学的材料(例えば、タンパク質)を清澄化する、濃縮する、または精製するのに有用な濾過の形態を言う。TFFでは、マクロ分子又は生物学的材料を含む溶液又は懸濁液は、膜の表面に沿って接線状にポンプで送られてもよい。圧力を加えると、膜の孔から溶液の一部が押し出され得る。本明細書では、この溶液を「透過液」(又は「濾液」)と言う。大きすぎて膜の孔を通過しないマクロ分子、生物学的材料、及び粒子は、上流側に保持され得る。本明細書では、この溶液を「保持液」と言う。通常の濾過方法に対して、保持された材料は膜の表面に堆積しない。その代わり、流体の接線流によって膜表面に沿って流され得る。例えば、L.Schwartz and K.Seeley,Introduction to Tangential Flow Filtration for Laboratory and Process Development Applications,PALL LIFE SCIENCES(2002),https://laboratory.pall.com/content/dam/pall/laboratory/literature-library/non-gated/id-34212.pdfを参照のこと。
【0057】
本明細書で使用される場合、「透過液」は、濾過器又は膜の孔を通過することにより濾過器又は膜(例えば、透析濾過膜、接線流濾過膜、超濾過膜、マイクロ濾過膜、又は中空繊維濾過器)を横断する溶液、懸濁液、又はそれらの成分、及び既に濾過器又は膜を横断又は通過した溶液を言う。一般に、濾過器又は膜の孔径よりも小さい溶媒分子と溶質分子は濾過器又は膜を横断し、孔径より大きい分子は濾過器又は膜を横断しない。
【0058】
本明細書で使用される場合、「毒素含有透過液」は、濾過器を横断する程度に濾過器の孔径がボツリヌス毒素分子より大きい場合においてボツリヌス毒素分子を含む透過液を言う。
【0059】
本明細書で使用される場合、「保持液」は、濾過器又は膜を横断しない溶液、懸濁液、又はそれらの成分を言う。例えば、接線流濾過の場合、保持液は、濾過器又は膜を横断しないがそれに沿って接線状に流れる溶液又は懸濁液の成分あるいはその一部である。一般に、濾過器又は膜の孔径より大きい分子は濾過器又は膜を横断しない。
【0060】
本明細書で使用される場合、「毒素含有保持液」は、濾過器を横断できない程度に濾過器の孔径がボツリヌス毒素分子より小さい場合においてボツリヌス毒素分子を含む保持液を言う。
【0061】
本明細書で使用される場合、「膜差圧」又は「TMP」は、流体及び濾過可能な溶質を濾過器又は膜を通過あるいは横断させるために濾過膜の長さに沿って加えられる圧力の差分勾配を言う。
【0062】
本明細書で使用される場合、「透析濾過」は、保持液が溶媒で希釈され、再濾過されて可溶性の透過液成分の濃度を低減する特殊な類の濾過を言う。透析濾過は、タンパク質(例えば、BoNT/A)を含む保持成分の濃度を高めてもよく、高めなくてもよい。例えば、連続透析濾過では、透過液が生成されるのと同じ速度で溶媒が連続して保持液に加えられる。この場合、保持液の体積及び保持された成分の濃度は過程中に変化しない。一方、非連続透析濾過又は連続希釈透析濾過では、濾過工程の後で溶媒が保持液側へ添加される。保持液側に添加した溶媒の体積が生成された透過液の体積より少ないと、保持された成分の濃度は元の溶液中の濃度よりも高くなる。透析濾過を用いて、マクロ分子(例えば、BoNT/Aなどのタンパク質)の溶液又は懸濁液のpH、イオン強度、塩組成物、又は他の特性を変更してもよい。例えば、L.Schwartz,Diafiltration:A Fast,Efficient,Method for Desalting,or Buffer Exchange of Biological Samples,PALL LIFE SCIENCES(2003),https://laboratory.pall.com/content/dam/pall/laboratory/literature-library/non-gated/02.0629_Buffer_Exchange_STR.pdf(直近の訪問は2019年12月9日)を参照のこと。
【0063】
本明細書で使用される場合、「透析濾過体積」又は「DV」は透析濾過の過程中に交換された総体積を言う。1つのDVは透析濾過の開始時における保持液の体積に等しい。例えば、元の溶液の体積が1リットルであり、透析濾過工程により1リットルにほぼ等しい体積の透過液が得られ、(例えば、緩衝溶液を用いて)保持液の1Lの体積が維持または回復される場合、元の溶液又は懸濁液は1つのDVで濾過又は洗浄されている。連続透析濾過により複数のDVを交換することができる。例えば、元の保持液の体積が1リットルであり、透析濾過工程により約5リットルの体積にほぼ等しい透過液が得られる場合、元の溶液又は懸濁液は5つのDVで濾過又は洗浄されている。
【0064】
本明細書で使用される場合、「マイクロ濾過」は典型的に孔径が約0.1μm~約10μm及びそれ以上の範囲である膜を用いた類の濾過を言う。例えば、Munir Cheryan,Ultrafiltration and Microfiltration Handbook(2d ed.1998)を参照のこと。
【0065】
本明細書で使用される場合、「超濾過」は典型的に孔径が約0.1μm~約0.01μm及びそれ以下の範囲である膜を用いた類の濾過を言う。あるいは、分子量で表される公称膜孔径が、例えば、約30kDa以下~約750kDa以下、好ましくは50kDa以下、又は30kDa以下であってもよい。これは、溶媒及び小さい溶質分子は通過できるがマクロ分子を保持する半透過性膜に溶液又は懸濁液を通すような任意の技術を指すことがある。超濾過を用いて溶液又は懸濁液中のマクロ分子(例えば、BoNT/Aなどのタンパク質)を濃縮してもよい。例えば、Munir Cheryan,Ultrafiltration and Microfiltration Handbook(2d ed.1998)を参照のこと。
【0066】
本明細書で使用される場合、「クロマトグラフィー」又は「クロマトグラフィーによる分離」は、分離される成分(例えば、タンパク質)が固定相と移動相の2つの相の間に分配される物理的分離方法を言う。分離される分子は、移動相中に溶解させて、固定相(例えば、多孔質ゲル、帯電ポリマービーズなど)中を移動する。試料中の異なる分子は固定相に対して異なる親和性を示して類似の分子が分離されるため、分離が可能である。固定相に対して高い親和性を持つ分子は、低い親和性を持つ分子に比べて固定相中をよりゆっくりと移動する傾向がある。タンパク質(例えば、ボツリヌス毒素)に適用する場合、クロマトグラフィーによる分離によって多くの異なる特性に基づいてタンパク質を分離することができる。例えば、ゲル濾過クロマトグラフィーでは、移動相中のタンパク質は粒径に基づいて分離される。というのは、異なる粒径のタンパク質が多孔質固定相中を移動し、小さいタンパク質は固定相に拿捕されて移動が遅くなるためである。イオン交換クロマトグラフィーでは、タンパク質はその電荷に基づいて分離され、固定相とのクーロン力による相互作用が得られる。
【0067】
本明細書で使用される場合、「クロマトグラフィーカラム」又は単に「カラム」は、クロマトグラフィーマトリックス(例えば、固定相又は固体相)を含み、移動相(例えば、流体試料又は緩衝液)がその中を通過することでカラムに保持された固定相を通過できるよう構成された構成要素を言う。そのようなカラムの非限定的な例は、G.E.ヘルスケアから市販されているものが挙げられる。Chromatography Products:Chromatography columns,systems,resins,and buffer management solutions,G.E.HEALTHCARE,https://www.gelifesciences.com/en/us/shop/chromatography(直近の訪問は2019年12月9日)を参照のこと。
【0068】
本明細書で使用される場合、「画分」は、カラムを出る時に回収される移動相の部分を言う。「画分」の成分は、回収される時間に基づいて異なっている。速く移動する「画分」は早い時間に回収され、固定相中をより速く移動する分子を相対的に高い濃度で含んでいる。ゆっくり移動する「画分」は遅い時間に回収され、固定相中をよりゆっくりと移動する分子を相対的に高い濃度で含んでいる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「毒素含有画分」は、移動相中のボツリヌス毒素分子(例えば、BoNT/A分子)がカラムを出る時にクロマトグラフィーカラムから回収される画分を意味する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「イオン交換クロマトグラフィー」又は「IEX」は、分子の極性と電荷の大きさ(例えば、+2、+1、中性、-1、-2)に基づいて分子を分離するクロマトグラフィーによる分離技術を言う。IEXは、固定相とクーロン力で相互作用する程度に基づいて検体分子(例えば、タンパク質)を固定相に保持する。固定相の表面は、反対の電荷を持つ検体(例えば、ボツリヌス毒素)イオンと相互作用するイオン性官能基を提示する。電気的中和を達成するため、これらの静止電荷は移動相中の交換可能な対イオンと相互作用する。検体分子は、結合についてこれら交換可能な対イオンと競合する。検体分子がその電荷に基づいて保持又は「溶出」される。まず、固定相に結合していないか、あるいは弱く結合している分子をはじめに洗い流す。一般に、例えば、Ion Exchange Chromatography:Principles and Methods,G.E.HEALTHCARE(2016),https://cdn.gelifesciences.com/dmm3bwsv3/AssetStream.aspx?mediaformatid=10061&destinationid=10016&assetid=13101(直近の訪問は2019年12月9日)を参照のこと。
【0071】
本明細書で使用される場合、「陰イオン交換クロマトグラフィー」又は「AIEX」は、陰イオン性検体分子(例えば、タンパク質)が陽イオン性の固定相に保持されるようなイオン交換クロマトグラフィーを意味する。一般に、例えば、Ion Exchange Chromatography:Principles and Methods,G.E.HEALTHCARE(2016),https://cdn.gelifesciences.com/dmm3bwsv3/AssetStream.aspx?mediaformatid=10061&destinationid=10016&assetid=13101(直近の訪問は2019年12月9日)を参照のこと。
【0072】
本明細書で使用される場合、「陽イオン交換クロマトグラフィー」又は「CIEX」は、陽イオン性の検体分子(例えば、タンパク質)が陰イオン性の固定相に保持されるようなイオン交換クロマトグラフィーを言う。一般に、例えば、Ion Exchange Chromatography:Principles and Methods,G.E.HEALTHCARE(2016),https://cdn.gelifesciences.com/dmm3bwsv3/AssetStream.aspx?mediaformatid=10061&destinationid=10016&assetid=13101(直近の訪問は2019年12月9日)を参照のこと。
【0073】
本明細書で使用される場合、「溶出」は、クロマトグラフィーカラム内の溶液条件を変更することにより固定相に結合していた分子を脱着させることを言う。交換可能な対イオンの濃度を高めることができる、あるいはそのpHを変えて検体の結合親和性に影響を及ぼすことができる。固定相に対する親和性を失って移動相に入った分子は、カラムから「溶出する」。
【0074】
本明細書で使用される場合、「溶出液」又は「洗浄溶液」は、固定相への検体(例えば、ボツリヌス毒素分子)の吸着を変更し、かつ/又は固定相から未結合の材料を除去するのに用いられる薬剤、典型的には溶液を言う。溶出液の溶出特性は、他の因子の中でも、例えば、pH、イオン強度、及び洗剤強度に依存し得る。
【0075】
本明細書で使用される場合、「溶出液」は、クロマトグラフィーによる分離において固定相中を移動してカラムを出た未結合の材料(「溶出された」又は脱着された検体分子、例えば、ボツリヌス毒素分子を含む)を含む溶液(例えば、洗浄溶液又は緩衝溶液)を言う。
【0076】
本明細書で使用される場合、「毒素含有溶出液」は、クロマトグラフィーによる分離用カラムを出た溶出ボツリヌス毒素分子を含む移動相を言う。
【0077】
本明細書で使用される場合、「ゲル濾過クロマトグラフィー」又は「ゲル濾過」は、試料中の分子(例えば、タンパク質、タンパク質複合体、多糖類、核酸、小分子など)を、それぞれ特定の範囲の粒径を有する画分に分画するのに用いることができるようなサイズ排除クロマトグラフィーを意味する。あるいは、「ゲル濾過」は、試料から特定のカットオフ値の粒径より大きい分子をすべて除去することができる。ゲル濾過クロマトグラフィーカラムでは、固定相は多孔質マトリックス(例えば、ビーズ)を含み、移動相はマトリックス周辺を流れる溶液(例えば、緩衝溶液)である。マトリックスは、「分画範囲」として知られている規定された範囲の孔径を有していてもよい。大きすぎて孔に入らない分子及び複合体は、移動相中に残っていて、緩衝溶液と共にカラム中を移動する。孔中を移動することができる小さい分子及び複合体は、固定相に入って、より長い経路(すなわち、ビーズ周辺ではなく、孔中を通る)でゲル濾過カラム中を移動する。固定相に入ることが出来る分子は、粒径によって分画される。小さい分子は孔中を移動し、孔に容易に入ることができない大きい分子よりもゆっくりと移動する。従って、大きい分子はより速く溶出される。よって、分画範囲を超える試料成分は、分画範囲内の成分の前に溶出する。一般に、例えば、Size Exclusion Chromatography:Principles and Methods,G.E.HEALTHCARE(2018),https://cdn.gelifesciences.com/dmm3bwsv3/AssetStream.aspx?mediaformatid=10061&destinationid=10016&assetid=11639(直近の訪問は2019年12月9日)を参照のこと。
【0078】
クロマトグラフィー系の構成要素を参照するのに本明細書では使用する場合、「単回使用」は、各使用後に交換又は廃棄されるように構成され、その系で再使用することを意図しない構成要素を言う。
発酵培地
【0079】
ここで、
図1を参照して、ボツリヌス毒素を精製する方法100は、ボツリヌス毒素(例えば、BoNT/A)を含む溶液(例えば、発酵培地)を得る工程104を含んでいてもよい。実施形態によっては、前記溶液は発酵培地であってもよく、好ましくは、完全なC.ボツリヌス細胞、溶解バクテリア、培地栄養素(例えば、野菜ペプトン)、及び発酵副生成物を含む発酵培地からの上澄みである。実施形態によっては、前記発酵培地は、米国特許同時係属仮出願番号第62/951,549号に記載された発酵培地など、動物性生成物を実質的に含まない、本質的に含まない、又は含んでいなくてもよい(すなわち、「APF」発酵培地)。
【0080】
ボツリヌス毒素は、タンパク質精製分野の当業者に周知のタンパク質精製法を用いて発酵培地から単離され、かつ精製されてもよい。一般に、例えば、Munir Cheryan,Ultrafiltration and Microfiltration Handbook(2d ed.1998);Ozutsumi et al.,49 Appl.Envtl.Microbiol.939(1985);GE Healthcare,Strategies for Protein Purification Handbook(2010)を参照のこと。
【0081】
本明細書で記載するように、本開示精製方法は、150kDaボツリヌス毒素タンパク質分子よりも安定したボツリヌス毒素複合体(例えば900kDa複合体)を精製し、次いで、非毒素タンパク質(すなわち、NTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質)から毒素タンパク質分子を分離・精製して沈殿、遠心分離、又は凍結乾燥工程なしに精製ボツリヌス毒素(約150kDa)生成物を得ることを含んでいてもよい。生成物毒素溶液は、毒素複合体及び/又は動物性生成物を含んでいない、本質的に含んでいない、又は実質的に含んでいなくてもよい。さらに、沈殿、遠心分離、又は凍結乾燥工程を必要としないので、ボツリヌス毒素を溶液中に回収することができる。これに対して、粉末は患者に投与する前に末端利用者によって再構成されなければならない。
濾過
濾過1
【0082】
さらに
図1を参照して、前記方法は第一の濾過(「濾過1」)106を含んでいてもよい。第一の濾過は、培地又は培養物溶液を濾過して完全なバクテリア又は溶解バクテリア、芽胞(例えば、C.ボツリヌス芽胞)、及び残骸を除去し、毒素含有透過液107を得ることを含んでいてもよい。毒素含有透過液107はボツリヌス毒素及び様々な不純物を含んでおり、処理して濃縮ボツリヌス毒素(例えば、BoNT/A)を得てもよい。
【0083】
特定の実施形態では、第一の濾過106は、何れかの好適な濾過技術(例えば、透析濾過、接線流マイクロ濾過、接線流超濾過、中空繊維濾過など)を用いて発酵培地から完全なC.ボツリヌス細胞又は溶解C.ボツリヌス細胞(またはその成分)を除去することを含んでいてもよい。タンパク質などの生分子を精製するための濾過技術は当該分野でよく知られている。例えば、L.Schwartz and K.Seeley,Introduction to Tangential Flow Filtration for Laboratory and Process Development Applications,PALL LIFE SCIENCES(2002),https://laboratory.pall.com/content/dam/pall/laboratory/literature-library/non-gated/id-34212.pdf(直近の訪問は2019年12月9日);Munir Cheryan,Ultrafiltration and Microfiltration Handbook(2d ed.1998)を参照のこと。一実施形態では、第一の濾過106は接線流マイクロ濾過を含む。
【0084】
実施形態によっては、第一の濾過工程106は濾過器(例えば、中空繊維濾過器、接線流濾過膜など)を用いてもよい。ここで、少なくとも溶媒及びボツリヌス毒素分子又は毒素複合体は、濾過器を通過して毒素含有透過液107が得られ、完全な細胞又は溶解細胞が存在する場合は、それらは濾過器を通過せず保持液中に保持される。実施形態によっては、濾過器は直径が約0.1μmと10μmの間(例えば、約0.2μm)の孔を含む。一実施形態では、濾過器は中空繊維濾過器である。
【0085】
実施形態によっては、第一の濾過工程106は、何れかの好適な方法(例えば、透析濾過)によって毒素含有透過液107を濃縮して、保持液及び/又は毒素含有透過液107からさらなるボツリヌス毒素分子を回収することをさらに含んでいてもよい。
濾過2
【0086】
引き続き
図1を参照して、前記方法は、毒素含有透過液107から発酵培地残渣(例えば、小さいペプチド、炭水化物など)を除去する第二の濾過(「濾過2」)108をさらに含んでいてもよい。この工程は、何れかの好適な濾過技術(例えば、透析濾過、接線流マイクロ濾過、接線流超濾過、中空繊維濾過など)を含んでいてもよい。一実施形態では、発酵培地残渣を除去するための第二の濾過108は、発酵培地残渣は通過するが、ボツリヌス毒素分子及び/又は毒素複合体を保持することができる孔径を有する接線流濾過器(例えば、中空繊維濾過器)を用いた超濾過を含む。例えば、実施形態によっては、濾過器の孔径は、150kDa以下、100kDa以下、又は50kDa以下であってもよい。この場合、ボツリヌス毒素分子又はボツリヌス毒素複合体は前記第二の濾過108から得た保持液中に残っており、ボツリヌス毒素分子又はボツリヌス毒素複合体を含むが、完全なC.ボツリヌス細胞又は溶解C.ボツリヌス細胞(又はその成分)及び発酵培地残渣(例えば、小さいペプチド、炭水化物など)を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない清澄化培養物110が得られる。
【0087】
実施形態によっては、清澄化培養物110は回収され、精製工程の何れの時間においても溶液からボツリヌス毒素分子又は毒素複合体を析出させることなく、続く処理工程でさらに精製されてもよい。利点として、これによって工程全体収率が高められ、毒素活性が保存され、末端利用者によって凍結乾燥状態の薬物生成物を再構成する必要がなくなる。
カラムクロマトグラフィー
第一のクロマトグラフィーによる分離
【0088】
引き続き
図1を参照して、方法100のいくつかの実施形態は、第一のクロマトグラフィーによる分離112を用いて清澄化培養物110を精製し、第一の毒素含有画分114を得ることをさらに含む。この工程の目的は、清澄化培養物110中に存在する核酸(例えば、DNA及びRNA)からボツリヌス毒素複合体を分離することである。第一のクロマトグラフィーによる分離112は、何れかの好適なクロマトグラフィーによる分離技術(例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー又は陽イオン交換クロマトグラフィーを含むイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなど)を含んでいてもよい。実施形態によっては、第一のクロマトグラフィーによる分離は陰イオン交換クロマトグラフィー(AIEX)を含んでいてもよい。一実施形態では、第一のクロマトグラフィーによる分離はQセファロース上でのAIEXを含む。
【0089】
第一のクロマトグラフィーによる分離112は、前記第一のクロマトグラフィーカラムを、ボツリヌス毒素又は毒素複合体を含む清澄化培養物110に接触させることを含んでいてもよい。移動相(清澄化培養物110を含む)は第一の固定相中を流れて、その他の残った不純物(例えば、核酸)からボツリヌス毒素を分離してもよい。第一の固定相は、何れかの好適なクロマトグラフィーマトリックス(例えば、QセファロースFF(GEヘルスケア)などのアガロースビーズ系培地)を含んでいてもよい。
【0090】
特定の実施形態では、清澄化培養物110は、(例えば、緩衝溶液中での希釈、又は緩衝液交換によって)カラムクロマトグラフィーのために調整されてもよい。特定の一実施形態では、清澄化培養物110は、リン酸緩衝液中でpHが約7.5以下、好ましくは約7以下、より好ましくは約6.1のリン酸緩衝液で調製されてもよい。実施形態によっては、清澄化培養物110は、pHが約7.5、約7.4、約7.3、約7.2、約7.1、約7.0、約6.9、約6.8、約6.7、約6.6、約6.5、約6.4、約6.3、約6.2、約6.1、約6.0、約5.9、約5.8、約5.7、約5.6、又は約5.5に調整されてもよい。
【0091】
特定の実施形態では、第一のクロマトグラフィーによる分離112は、好適な緩衝溶液(例えば、pHが6.1のリン酸緩衝液)を用いてボツリヌス毒素又は毒素複合体を固定相に通して洗浄することさらに含んでいてもよい。この工程の目的は、ボツリヌス毒素複合体を他のタンパク質から分離し、核酸(RNA及びDNA)を除去しながら、ボツリヌス毒素複合体をカラムに通して出来るだけ多く洗浄することである。実施形態によっては、緩衝溶液の塩の濃度は、カラム内を流れるボツリヌス毒素又は毒素複合体の量が最大になり、カラム内を流れる他のタンパク質の量が最小になるように選択される。
【0092】
実施形態によっては、この緩衝溶液は、塩化ナトリウム(NaCl)を約15mM以上、約20mM以上、約30mM以上、約40mM以上、約50mM以上、約60mM以上、約70mM以上、約80mM以上、約90mM以上、約100mM以上、約150mM以上、約200mM以上、約250mM以上、約300mM以上、約350mM以上、約400mM以上、約450mM以上、又は約500mM以上(及びこれらの間の範囲)の濃度で含む。実施形態によっては、この緩衝溶液は、NaClを約15mM、約20mM、約30mM、約40mM、約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、約150mM、約200mM、約250mM、約300mM、約350mM、約400mM、約450mM,又は約500mMの濃度で含む。一実施形態では、この緩衝溶液はNaClを約150mMの濃度で含む。
【0093】
特定の一実施形態では、前記第一のクロマトグラフィーカラムは通過分画モードで作動してもよく、ボツリヌス毒素及び/又は毒素複合体は固定相に吸着せずにカラムを通過してもよい。この構成では、カラムからボツリヌス毒素又は毒素複合体を溶出させることは求められていない。その代わり、ボツリヌス毒素又は毒素複合体は毒素含有画分114に含まれた状態でカラムを出てもよく、その毒素含有画分114を回収して、続く処理工程でさらに精製してもよい。実施形態によっては、毒素含有画分114の回収は、280nm(「A280」)での通過分画吸光度検出によって監視され、毒素含有画分114はA280のピークの現れている間に回収される。
第2のクロマトグラフィーによる分離
【0094】
方法100のいくつかの実施形態は、毒素含有画分114を精製して嵩高い不純物(例えば、他のタンパク質)を除去して第一の毒素含有溶出液118を得る第二のクロマトグラフィーによる分離工程116をさらに含んでいてもよい。第二のクロマトグラフィーによる分離116は、何れかの好適なクロマトグラフィーによる分離技術(例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー又は陽イオン交換クロマトグラフィーを含むイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなど)を含んでいてもよい。特定の一実施形態では、前記第二のクロマトグラフィーによる分離116は陽イオン交換クロマトグラフィー(CIEX)を含む。
【0095】
第2のクロマトグラフィーによる分離116は、前記ボツリヌス毒素又は毒素複合体を第二のクロマトグラフィーカラムに接触させることを含んでいてもよく、毒素含有画分114を含む移動相は第二の固定相中を移動する。第二の固定相は、何れかの好適なクロマトグラフィーマトリックス(例えば、SPセファロースFF(GEヘルスケア)などのアガロースビーズ系培地など)を含んでいてもよい。複数の実施形態では、前記ボツリヌス毒素分子又は毒素複合体は前記第二の固定相に結合してもよい。複数の実施形態では、前記ボツリヌス毒素又は毒素複合体は前記第二の固定相に結合してもよく、カラムを通して洗浄する溶液のA280が監視される。複数の実施形態では、A280がベースライン値に戻るまで(これは毒素含有溶出液118のすべてがカラムを通過したが、ボツリヌス毒素及び毒素複合体は前記第二の固定相に結合したままであることを示している)、カラムは好適な緩衝溶液(例えば、50mMの酢酸ナトリウム、0.2%ポリソルベート20、pH4.5)で洗浄される。
【0096】
実施形態によっては、第二のクロマトグラフィーによる分離116は、前記第二のクロマトグラフィーカラムを洗浄緩衝液で洗浄して、弱く結合しているタンパク質があれば除去し、ボツリヌス毒素及び毒素複合体は前記第二の固定相に結合したままにすることをさらに含んでいてもよい。この洗浄工程は、何れかの好適な緩衝溶液(例えば、50mMの酢酸ナトリウム、0.2%ポリソルベート20、pH4.5、210mMのNaCl)を用いてもよい。実施形態によっては、この洗浄緩衝液は、250mM以下、240mM以下、230mM以下、220mM以下、210mM以下、200mM以下、190mM以下、180mM以下、170mM以下、160mM以下、150mM以下、140mM以下、130mM以下、120mM以下、110mM以下、又は100mM以下の濃度でNaClを含んでいてもよい。実施形態によっては、この洗浄緩衝液は、約100mM、約110mM、約120mM、約130mM、約140mM、約150mM、約160mM、約170mM、約180mM、約190mM、約200mM、約210mM、約220mM、約230mM、約240mM、又は約250mMの濃度でNaClを含む。
【0097】
実施形態によっては、第二のクロマトグラフィーによる分離116は、毒素含有画分114を前記第二のクロマトグラフィーカラムに接触させる前にカラムクロマトグラフィー用に(例えば、希釈又は緩衝液交換によって)毒素含有画分114を調整することをさらに含んでいてもよい。例えば、実施形態によっては、毒素含有画分114は、pHが約3と約7の間、約3.5と約6の間、又は約4と約5の間、好ましくは約4.5の酢酸-酢酸塩緩衝液中で調整されてもよい。実施形態によっては、毒素含有画分は、pHが約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4.0、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、又は約5.5の緩衝液中で調整される。
【0098】
実施形態によっては、第二のクロマトグラフィーによる分離116は、前記カラムからボツリヌス毒素又は毒素複合体を溶出させて、第一の毒素含有溶出液118を得ることをさらに含んでいてもよい。前記溶出は、(例えば、pH又はイオン強度を変更することにより)固定相からの毒素(又は毒素複合体)の解離を促進させる1種以上の緩衝溶液でカラムを洗浄することを含んでいてもよい。この溶出緩衝液は、前記第二の固定相(例えば、50mMの酢酸ナトリウム、0.2%ポリソルベート20、pH4.5)からの毒素又は毒素複合体の解離を促進させるための何れかの好適な緩衝溶液であってもよい。例えば、そのような緩衝溶液は、pHが約3と約7の間、約4と約6の間、又は約4と約5の間、又は約4.5の酢酸-酢酸塩緩衝液を含んでいてもよい。実施形態によっては、pHが約3.5、約3.6、約3.7、約3.8、約3.9、約4.0、約4.1、約4.2、約4.3、約4.4、約4.5、約4.6、約4.7、約4.8、約4.9、約5.0、約5.1、約5.2、約5.3、約5.4、又は約5.5の緩衝液を用いて前記第二のクロマトグラフィーカラムから毒素含有画分が溶出される。
【0099】
実施形態によっては、この溶出緩衝液は、前記第二の固定相からのボツリヌス毒素又は毒素複合体の解離を促進するのに十分な濃度で塩を含んでいてもよい。複数の実施形態では、この溶出緩衝液は、230mM以上、240mM以上、250mM以上、260mM以上、270mM以上、280mM以上、290mM以上、300mM以上、350mM以上、又は400mM以上の濃度でNaClを含む。実施形態によっては、この溶出緩衝液は、約230mM、約240mM、約250mM、約260mM、約270mM、約280mM、約290mM、約300mM、約310mM、約320mM、約330mM、約340mM、約350mM、約360mM、約370mM、約380mM、約390mM、又は約400mM、又はこれらの間の何れかの値の濃度でNaClを含む。
【0100】
複数の実施形態では、ボツリヌス毒素分子又は毒素複合体をカラムから溶出させて、第一の毒素含有溶出液118を得る。この第一の毒素含有溶出液は回収されて、続く処理工程においてさらに精製されてもよい。実施形態によっては、前記第二のクロマトグラフィーカラムからの溶出の間、カラムから溶出するボツリヌス毒素分子又は毒素複合体の存在を検知するためにA280が測定される。A280のピークを1つの画分として回収して第一の毒素含有溶出液118を得る。
濾過3
【0101】
前記方法のいくつかの実施形態は、前記第二のクロマトグラフィーによる分離116の後で第三のクロマトグラフィーによる分離124の前に行われる第三の濾過工程120をさらに含む。一実施形態では、第三の濾過120は、ボツリヌス毒素複合体からNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質を解離させる。複数の実施形態では、第三の濾過120は緩衝液交換を含む。緩衝液交換は第一の毒素含有溶出液118のpHを高めてもよい(例えば、約4.5~約8.0)緩衝液交換を含む。複数の実施形態では、緩衝液交換は、毒素含有溶出液118中の塩の濃度を低減させてもよい(例えば、約270mM~約50mM)。複数の実施形態では、第三の濾過120は、(例えば、約300mLから約50~60mLまで体積を低減することにより)毒素含有溶出液118を濃縮してもよい。
【0102】
第3の濾過120は、何れかの好適な濾過技術(例えば、透析濾過、接線流マイクロ濾過、接線流超濾過、中空繊維濾過など)を含んでいてもよい。特定の一実施形態では、第三の濾過120は、解離したボツリヌス毒素分子(150kDa)と、NTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質を保持するのに好適な孔径を有する接線流濾過器(例えば、中空繊維濾過器)を用いた超濾過を含んでいてもよい。実施形態によっては、濾過器は、孔径が約150kDa以下、約140kDa以下、約130kDa以下、約120kDa以下、約110kDa以下、約100kDa以下、約90kDa以下、約80kDa以下、約70kDa以下、約60kDa以下、約50kDa以下、約40kDa以下、約30kDa、又は約20kDa以下(又はこれらの間の範囲)であってもよい。例えば、接線流濾過器は、孔径が約20kDa、約25kDa、約30kDa、約35kDa、約40kDa、約45kDa、約50kDa、約55kDa、約60kDa、約65kDa、約70kDa、約75kDa、約80kDa、約85kDa、約90kDa、約95kDa、約100kDa、約110kDa、約120kDa、約130kDa、約140kDa、又は約150kDa、又はこれらの間の何れかの値であってもよい。一実施形態では、濾過器は孔径が約30kDaである。
【0103】
実施形態によっては、毒素含有溶出液118は、超濾過によって濃縮され、次いで緩衝溶液に対する透析濾過を用いて洗浄されて、NTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質をボツリヌス毒素複合体から解離させてもよい。特定の一実施形態では、ボツリヌス毒素タンパク質分子とNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質は保持液121(すなわち、毒素含有保持液)中に残っていてもよいが、他の濾過残渣及びクロマトグラフィー培地残渣は分離されて透過液に回収される。
【0104】
第三の濾過120に用いられる緩衝溶液は、毒素複合体中のNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質をボツリヌス毒素分子から解離させるための何れかの好適な緩衝溶液(例えば、Tris-HCl緩衝液)であってもよい。実施形態によっては、第三の濾過120に用いられる緩衝溶液は、第三のクロマトグラフィーカラムを調整するのに用いられるのと同じ緩衝液(例えば、以下に記載するようなpH7超のTris-HCl緩衝液)であってもよい。
【0105】
実施形態によっては、第三の濾過120に用いられる緩衝溶液は、NTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質をボツリヌス毒素タンパク質分子から解離させるのに好適なpHを有する。実施形態によっては、緩衝溶液のpHは、少なくとも約7、好ましくは約7と約10の間、好ましくは約7と約9の間、好ましくは約7.5と約8.5の間、好ましくは約8.0である。実施形態によっては、第三の濾過120用の緩衝溶液のpHは、約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8.0、約8.1、約8.2、約8.3、約8.4、約8.5、約8.6、約8.7、約8.8、約8.9、約9.0、約9.5、又は約10.0であってもよい。一実施形態では、第三の濾過120用の緩衝溶液のpHは約8.0である。
【0106】
実施形態によっては、第三の濾過120から得た毒素含有保持液121は、回収されて、精製工程のどこかの時点で溶液からボツリヌス毒素分子又は毒素複合体を析出させることなく、続く処理工程でさらに精製されてもよい。利点として、これによって、全体の過程収率が高められ、精製工程の間のどこかの時点で、又は末端利用者によって凍結乾燥薬物生成物を再構成する必要がなくなる。
第3のクロマトグラフィーによる分離
【0107】
方法100のいくつかの実施形態は、ボツリヌス毒素タンパク質分子を保持しつつ、前記第三の濾過120中に毒素複合体から解離されたNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質を分離・除去する第三のクロマトグラフィーによる分離124をさらに含む。得られた第二の毒素含有溶出液126は、遊離ボツリヌス毒素タンパク質分子(約150kDa)を含んでいてもよく、毒素複合体を含んでいない、本質的に含んでいない、又は実質的に含んでいなくてもよい。第3のクロマトグラフィーによる分離124は、何れかの好適なクロマトグラフィーによる分離技術(例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー又は陽イオン交換クロマトグラフィーを含むイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなど)を含んでいてもよい。特定の一実施形態では、第三のクロマトグラフィーによる分離124は陰イオン交換クロマトグラフィー(AIEX)を含んでいてもよい。
【0108】
第三のクロマトグラフィーによる分離124は、第三の濾過120から得た毒素含有保持液121中のボツリヌス毒素又は毒素複合体を第三のクロマトグラフィーカラムに接触させることを含んでいてもよい。ここで、毒素含有保持液121(及びその中の遊離ボツリヌス毒素タンパク質分子を含む移動相)は、第三の固定相中を移動する。第三の固定相は、何れかの好適なクロマトグラフィーマトリックス(例えば、QセファロースFF(GEヘルスケア)などのアガロースビーズ系培地など)を含んでいてもよい。
【0109】
実施形態によっては、第三のクロマトグラフィーによる分離124は、第三の濾過120から得た毒素含有保持液121をカラムクロマトグラフィー用に(例えば、希釈、緩衝液交換、濾過、又はこれらの組み合わせにより)調整することをさらに含んでいてもよい。例えば、毒素含有保持液121は、pHが7超、好ましくは7と10の間、好ましくは約7と約9の間、好ましくは約7.5と約8.5との間、又は好ましくは約8.0のTris-HCl緩衝液など、緩衝溶液中で希釈されてもよい。実施形態によっては、緩衝溶液のpHは約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8.0、約8.1、約8.2、約8.3、約8.4、約8.5、約8.6、約8.7、約8.8、約8.9、約9.0、約9.5、又は約10.0である。
【0110】
実施形態によっては、毒素含有保持液121中のボツリヌス毒素タンパク質分子、毒素複合体、及びNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質は前記第三の固定相に吸着してもよい。実施形態によっては、毒素含有保持液121は、前記第三のクロマトグラフィーカラムに充填され、洗浄緩衝溶液で洗浄されて前記第三の固定相に結合していない非毒素不純物が除去される。洗浄緩衝液は何れかの好適な緩衝溶液(例えば、20mMのTris/HCl、50mMのNaCl、0.2%ポリソルベート20、pH8.0)であってもよく、A280がベースライン値に達する(すべての未結合の材料が前記第三のクロマトグラフィーカラム中を流れたことを意味する)までカラムを通過する溶液のA280が監視されてもよい。
【0111】
第3のクロマトグラフィーによる分離124は、前記第三の固定相に結合したボツリヌス毒素タンパク質を溶出させて、第二の毒素含有溶出液126を得ることをさらに含んでいてもよい。前記溶出は、何れかの好適なタンパク質相溶性緩衝溶液を用いて、前記カラムを1種以上の緩衝溶液で洗浄して、(例えば、pH、イオン強度などを変えることで)固定相からボツリヌス毒素タンパク質分子を脱着させることを含んでいてもよい。例えば、pHが7超、好ましくは7と10の間、好ましくは約7と約9の間、好ましくは約7.5と約8.5の間、又は好ましくは約8.0のTris-HCl緩衝溶液を用いて、ボツリヌス毒素分子を前記第三の固定相から溶出させてもよい。実施形態によっては、緩衝溶液のpHは約7.5、約7.6、約7.7、約7.8、約7.9、約8.0、約8.1、約8.2、約8.3、約8.4、又は約8.5である。
【0112】
実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムからボツリヌス毒素分子を溶出させるのに用いた緩衝溶液は、塩(例えば、NaCl)を含んでいてもよい。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムからボツリヌス毒素分子を溶出させるのに用いた緩衝溶液は、前記第三の固定相からのボツリヌス毒素分子の脱着を促進するのに好適な濃度でNaClを含む。複数の実施形態では、この溶出緩衝液は、約25mMと約250mMの間、好ましくは約50mMと約200mMの間、好ましくは約100mMと約150mMの間、好ましく約120mMの濃度でNaClを含んでいてもよい。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムからボツリヌス毒素分子を溶出させるのに用いる溶出緩衝液は、濃度が約50mM、約60mM、約70mM、約80mM、約90mM、約100mM、約110mM、約115mM、約120mM、約125mM、約130mM、約135mM、約140mM、約145mM、約150mM、約155mM、約160mM、約165mM、約170mM、約175mM、約180mM、約185mM、約190mM、約195mM、約200mM、約210mM、約220mM、約230mM、約240mM、又は約250mMのNaClを含む。一実施形態では、前記第三のクロマトグラフィーカラムからボツリヌス毒素分子を溶出させるのに用いる緩衝溶液は約120mM又は約150mMのNaClを含む。
【0113】
実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムからボツリヌス毒素分子を溶出させるのに用いる緩衝溶液は、界面活性剤(例えば、ポリソルベート20)をさらに含む。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムからボツリヌス毒素分子を溶出させるのに用いる緩衝溶液は、濃度が約0.05vol%~約1.0vol%、好ましくは約0.10vol%~約0.5vol%、好ましくは約0.15vol%~約0.25vol%、好ましくは約0.20vol%の界面活性剤を含む。実施形態によっては、前記第三のクロマトグラフィーカラムからボツリヌス毒素分子を溶出させるのに用いる緩衝溶液は、濃度が約0.05vol%、約0.10vol%、約0.15vol%、約0.20vol%、約0.25vol%、約0.30vol%、約0.35vol%、約0.40vol%、約0.45vol%、約0.50vol%、約0.55vol%、約0.60vol%、約0.65vol%、約0.70vol%、約0.75vol%、約0.80vol%、約0.85vol%、約0.90vol%、約0.95vol%、又は約1.0vol%の界面活性剤を含む。一実施形態では、前記第三のクロマトグラフィーカラムからボツリヌス毒素分子を溶出させるのに用いる緩衝溶液は、濃度が約0.20vol%のポリソルベート20を含む。
【0114】
特定の実施形態では、ボツリヌス毒素タンパク質を析出又は凍結乾燥することなく、続く処理工程で第二の毒素含有画分126をカラムから溶出させてさらに精製しながら回収する。一実施形態では、第二の毒素含有画分126は、仕上げ(すなわち、標的タンパク質の凝集体を含む高分子量汚染物質、標的タンパク質の断片を含む低分子量汚染物質、及び前の精製工程で除去されていないかもしれない他の不純物を除去すること)用の第四のクロマトグラフィーカラムに直接注入される。
第四のクロマトグラフィーによる分離
【0115】
方法100のいくつかの実施形態は、第三の毒素含有溶出液130を得る第四のクロマトグラフィーによる分離128を用いて第二の毒素含有画分126から凝集体及び/又はタンパク質不純物を除去する仕上げ工程をさらに含む。第四のクロマトグラフィーによる分離128は何れかの好適なクロマトグラフィーによる分離技術(例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー又は陽イオン交換クロマトグラフィーを含むイオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィーなど)を含んでいてもよい。例えば、一実施形態では、第四のクロマトグラフィーによる分離128はゲル濾過クロマトグラフィーを含んでいてもよい。
【0116】
第四のクロマトグラフィーによる分離128は、凝集ボツリヌス毒素及び他のタンパク質不純物から純粋ボツリヌス毒素タンパク質分子を分離することができる何れかの好適なタンパク質相溶性クロマトグラフィーマトリックスを用いてもよい。例えば、第四のクロマトグラフィーによる分離128はSuperdex200クロマトグラフィー溶媒(GEヘルスケア))を用いてもよい。
【0117】
第四のクロマトグラフィーによる分離128は、(例えば、希釈、緩衝液交換、濾過、又はこれらの組み合わせにより)カラムクロマトグラフィー用に前記第二の毒素含有溶出液126を調整することをさらに含んでいてもよい。あるいは、一実施形態では、第三のクロマトグラフィーによる分離124から得た第二の毒素含有溶出液126を、さらに調整せずに前記第四のクロマトグラフィーカラムに直接注入してもよい。この構成では、前記第三及び第四のクロマトグラフィーカラムは、前記第二の毒素含有溶出液126を直接充填できるように相互接続されていてもよい。
【0118】
第四のクロマトグラフィーによる分離128は、第三の毒素含有溶出液130を得るための洗浄溶液又は緩衝液を用いて固定相に通してボツリヌス毒素分子を洗浄することをさらに含んでいてもよい。この緩衝溶液は何れかの好適なタンパク質相溶性緩衝液であってもよい。特定の一実施形態では、この緩衝溶液は、pHが約7未満、好ましくは約5と約7の間、好ましくは約6と約7の間、好ましくは約6.6と約6.9との間の酢酸-酢酸塩緩衝溶液であってもよい。実施形態によっては、この緩衝溶液のpHは、約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、又は約7.0であってもよい。
【0119】
実施形態によっては、第四のクロマトグラフィーカラム中の固定相を通してボツリヌス毒素分子を洗浄するのに用いられる緩衝溶液は、塩(例えば、NaCl)をさらに含む。実施形態によっては、この洗浄緩衝溶液は、約100mM~約1M、好ましくは約200mM~約600mM、より好ましくは約300mM~約500mM、最も好ましくは約400mMの濃度のNaClを含む。実施形態によっては、この緩衝溶液は、約100mM、約150mM、約200mM、約250mM、約300mM、約310mM、約320mM、約330mM、約340mM、約350mM、約360mM、約370mM、約380mM、約390mM、約400mM、約410mM、約420mM、約430mM、約440mM、約450mM、約500mM、約550mM、約600mM、約650mM、約700mM、約750mM、約800mM、約850mM、約900mM、約950mM、又は約1Mの濃度のNaClを含む。一実施形態では、第四のクロマトグラフィーカラム中の固定相を通してボツリヌス毒素分子を洗浄するのに用いられる緩衝溶液は、約350mM又は約370mMのNaClを含む。
【0120】
実施形態によっては、前記第四のクロマトグラフィーカラムの固定相を通してボツリヌス毒素分子を洗浄するのに用いられる緩衝溶液は、界面活性剤(例えば、ポリソルベート20)をさらに含む。実施形態によっては、この緩衝溶液は、約0.05vol%~約1.0vol%、好ましくは約0.10vol%~約0.5vol%、好ましくは約0.15vol%~約0.25vol%、好ましくは約0.20vol%の濃度で界面活性剤を含む。実施形態によっては、この緩衝溶液は、約0.05vol%、約0.10vol%、約0.15vol%、約0.20vol%、約0.25vol%、約0.30vol%、約0.35vol%、約0.40vol%、約0.45vol%、約0.50vol%、約0.55vol%、約0.60vol%、約0.65vol%、約0.70vol%、約0.75vol%、約0.80vol%、約0.85vol%、約0.90vol%、約0.95vol%、又は約1.0vol%の濃度で界面活性剤を含む。一実施形態では、前記第四のクロマトグラフィーカラムの固定相を通してボツリヌス毒素分子を洗浄するのに用いられる緩衝溶液は、約0.20vol%の濃度でポリソルベート20を含む。
【0121】
実施形態によっては、カラムを通過する溶液中の遊離ボツリヌス毒素分子の存在はA280によって監視される。一実施形態では、A280のピーク(遊離ボツリヌス毒素分子の存在を示す)を1つの画分として回収して前記第三の毒素含有溶出液130を得る。
【0122】
実施形態によっては、ボツリヌス毒素タンパク質を析出又は凍結乾燥することなく、続く処理工程で前記第三の毒素含有溶出液130を前記第四のクロマトグラフィーカラムから溶出させ、希釈又はさらに精製しながら回収してもよい。実施形態によっては、前記第三の毒素含有溶出液130は、後精製処理まで約2~8℃で保存されてもよい。実施形態によっては、前記第三の毒素含有溶出液130は、希釈、濾過、及び分配されて生成物毒素溶液134を得てもよい。
希釈、濾過、及び分配
【0123】
実施形態によっては、前記方法100は、第三の毒素含有溶出液130を希釈、濾過、及び分配132して生成物毒素溶液134を得ることをさらに含む。実施形態によっては、第三の毒素含有溶出液130は、何れかの好適な緩衝溶液を用いて最終濃度に希釈されてもよい。実施形態によっては、希釈剤緩衝溶液は、第四のクロマトグラフィーによる分離128に用いられる洗浄緩衝液とほぼ同じ組成であってもよい。例えば、希釈剤緩衝溶液は、pHが約7未満、好ましくは約5と約7の間、好ましくは約6と約7の間、好ましくは約6.6と約6.9の間である酢酸-酢酸塩緩衝液を含んでいてもよい。実施形態によっては、この緩衝溶液のpHは約6.5、約6.6、約6.7、約6.8、約6.9、又は約7.0である。
【0124】
前記方法100は、前記第三の毒素含有溶出液130(またはその希釈形態)を濾過して生物汚染度を低減し、かつ生成物毒素溶液134を得ることをさらに含んでいてもよい。前記第三の毒素含有溶出液130を濾過することは、何れかの好適な濾過技術(例えば、透析濾過、接線流マイクロ濾過、接線流超濾過、中空繊維濾過など)を含んでいてもよい。実施形態によっては、濾過器は、0.1μmと10μmの間(例えば、約0.2μm)の孔径を有していてもよい。
【0125】
生成物毒素溶液134は、容器(例えば、低温バイアル)に分配されて、その中のボツリヌス毒素タンパク質の有効性を保存する条件下で輸送及び保存されてもよい。例えば、生成物毒素溶液134は、予め冷却した保存容器(例えば、予め冷却したアルミニウムブロックに収容されたバイアル)に分配し、輸送及び/又は保存されてもよい。
【0126】
実施形態によっては、生成物毒素溶液134を分配することは、生成物毒素溶液を殺菌容器(例えば、単回使用の殺菌袋)から一次保存容器(例えば、低温バイアル)にポンプで入れることを含んでいてもよい。実施形態によっては、例えば、予め冷却したアルミニウムブロック内に一次保存容器を保存、移動、及び冷凍することにより、一次保存容器は予め冷却されて、適切な温度(例えば、0℃以下)で維持されてもよい。これにより、生成物毒素溶液134は、ボツリヌス毒素分子が安定し、その神経毒性を保持するような温度で維持される。また、これにより、生成物毒素溶液134を凍結乾燥する必要がなくなることがある。生成物毒素溶液134は、さらに、約0℃以下、好ましくは約-70℃以下の温度で保存されてもよい。
過程収率
【0127】
過程の総収率及び各工程の収率は、精製過程を評価するのに算出されてもよい。収率は、各画分について得られた毒素の濃度から算出されてもよい。各工程の収率(すなわち、「工程収率」)は下記式によって算出されてもよい。
【数1】
ここで、Cは毒素の濃度、Vは体積、下付の「画分」は現在の処理工程から得た毒素の濃度又は体積、下付の「前の画分」は前の処理工程から得た毒素の濃度又は体積を示す。例えば、工程が体積1000mLで1.0μg/mLの毒素を製造し、その前の工程が体積4000mLで0.5μg/mLの毒素を製造する場合、この工程の収率は50%となる([1.0μg/mL×1000mL]/[0.5μg/mL×4000mL])×100=50%)。
【0128】
総収率は下記式を用いて算出されてもよい。
【数2】
ここで、Cは毒素の濃度、Vは体積、下付のDSは薬物物質(すなわち、生成物毒素溶液)、下付のKSは0.2μmの濾過器で濾過して細胞を除去した回収時の培養物を示す。例えば、DSが体積100mLで50μg/mLの毒素を含み、回収時の培養物が体積5000mLで5μg/mLの毒素を含む場合、総収率は20%になる([50μg/mL×100mL]/[5μg/mL×5000mL])×100=20%)。
【0129】
実施形態によっては、総収率は少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、又はこの間の何れかの範囲又は値である。実施形態によっては、総収率は約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、又は約40%、又はこの間の何れかの範囲又は値である。
【0130】
一実施形態では、薬物物質の純度はSDS-PAGE及び/又はHPLC-SECから決定されてもよい。一実施形態では、本開示による過程から得られた薬物物質は純度が少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%,又は少なくとも約99%(及びこの間の範囲)である。一実施形態では、薬物物質の純度が約96.0%、約96.5%、約97.0%、約97.5%、約98.0%、約98.5%、約99.0%、約99.5%、又は約100.0%、又はこの間の何れかの範囲又は値であってもよい。
【実施例】
【0131】
実施例1:ボツリヌス毒素を精製するための4本のカラムを用いたクロマトグラフィー法
一例として、以下の記載に従って前記方法の一実施形態を行ってもよい。ここで、ボツリヌス毒素A1(約150kDa)は、C.ボツリヌス細胞とボツリヌス毒素A1タンパク質分子と毒素複合体を含み、動物性生成物を実質的に含まない、本質的に含まない又は含まない発酵培地から回収される。このようなAPF発酵培地は、米国特許同時係属仮出願番号第62/951,549号に記載されている。本明細書のボツリヌス毒素は、以下でより詳細に説明される過程に従って濾過及び精製されて、沈殿工程又は凍結乾燥工程を用いることなく、ボツリヌス毒素タンパク質分子を含み、毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない生成物毒素溶液を得る。
緩衝液の準備
【0132】
表1に示すように、前記方法の本実施形態において複数の異なる緩衝溶液が用いられてもよい。一実施形態では、(生物汚染度を低減するため)緩衝液は0.2μmの濾過器を通過させて単回使用の殺菌袋に入れられる。用いた濾過器を取り外して、緩衝液を入れた袋を使用まで室温で保存する。
【0133】
【0134】
表1では、緩衝液1及び2を用いて前記第一のクロマトグラフィーカラムを平衡化した。緩衝液3を用いてカラムクロマトグラフィー用の清澄化培養物を調整した。緩衝液4を用いて、ボツリヌス毒素複合体を通過分画モードの第一のカラムに通して洗浄した。緩衝液5及び6を用いて前記第二のクロマトグラフィーカラムを平衡化した。緩衝液7を用いて、第一のクロマトグラフィーによる分離から得た毒素含有画分を前記第二のクロマトグラフィーによる分離用に調整した。緩衝液8を用いて、嵩高い不純物(例えば、タンパク質)を前記第二のクロマトグラフィーカラムに通して洗浄した。緩衝液9を用いて結合しているボツリヌス毒素複合体を前記第二のクロマトグラフィーカラムから溶出させた。緩衝液10を用いて、ボツリヌス毒素タンパク質分子からNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質を分離した(すなわち、前記第二のクロマトグラフィーによる分離から得た第一の毒素含有溶出液を前記第三のクロマトグラフィーによる分離用に調製した)。緩衝液11及び12を用いて前記第三のクロマトグラフィーカラムを平衡化した。緩衝液13を用いて前記第三のクロマトグラフィーカラムから不純物を洗い流した。緩衝液14を用いて結合したボツリヌス毒素タンパク質分子を前記第三のクロマトグラフィーカラムから溶出させた。緩衝液15を用いて前記第四のクロマトグラフィーカラムを平衡化した。緩衝液16を用いて前記第四のクロマトグラフィーカラムに通してボツリヌス毒素分子を洗浄した。緩衝液17を用いて、第四のクロマトグラフィーによる分離から得た毒素含有溶出液を一次保存容器に分配する前にその最終濃度まで希釈して生成物毒素溶液を得た。
濾過
【0135】
米国特許同時係属仮出願番号第62/951,549号に記載のAPF調製法でC.ボツリヌス発酵培地を得た。直接回収した後、培養物(約5L)を濾過の直前に約280mLの緩衝溶液(1Mの酢酸ナトリウム、4MのNaCl、pH5.5)を用いて希釈してpHを調整した。接線流濾過により0.2μmの中空繊維濾過器を用いたマイクロ濾過(「濾過1」)によって希釈溶液を濾過して、芽胞、完全なC.ボツリヌス細胞及び溶解C.ボツリヌス細胞を分離して、清澄化培養物を得た。C.ボツリヌスが存在しないことについて工程内管理のために清澄化培養物を標本化した。次いで、50kDaの中空繊維濾過器を用いた接線流超濾過(「濾過2」)により発酵培地残渣(例えば、タンパク質、炭水化物など)を除去することにより清澄化培養物を精製した。次いで、清澄化培養物をリン酸ナトリウム緩衝液(pH約6.1)中で緩衝液交換して清澄化培養物をカラムクロマトグラフィー用に調整した。この濾過過程及びその他の好適なタンパク質濾過過程が当該分野で知られている。例えば、Munir Cheryan,Ultrafiltration and Microfiltration Handbook(2d ed.1998)を参照のこと。
精製
【0136】
沈殿、凍結乾燥工程、又は遠心分離工程を用いることなくBoNT/A1タンパク質分子(約150kDa)を精製するための4本のカラムによるクロマトグラフィー過程が開発された。この過程により、ボツリヌス毒素複合体及び/又は動物性生成物を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない生成物毒素溶液が得られる。これにより、収率を高めて、再構成手順(ボツリヌス毒素薬物組成物の有効性を低減することが知られている)に関連した末端利用者による間違いをなくすものである。
【0137】
この過程は、プロテアーゼ及びその他の嵩高い汚染タンパク質を除去しながら、初期の複数の工程を通じてボツリヌス毒素複合体を利用して毒素を保護する。第一のクロマトグラフィー工程は、陰イオン交換クロマトグラフィーであり、回収時の培地内の大部分の核酸を除去する。そうしなければ、核酸が下流のクロマトグラフィー工程に干渉するからである。これにより、精製過程中のボツリヌス毒素分子の変性を阻害する。次いで、この過程により、ボツリヌス毒素タンパク質分子をそれが会合しているNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質から分離して、純粋ボツリヌス毒素分子(約150kDa)を含み、ボツリヌス毒素複合体を含まない、本質的に含まない、又は実質的に含まない生成物毒素溶液を得る。
【0138】
また、この過程で用いられるすべてのクロマトグラフィー工程は、1回の精製手順の後に使い捨てる単回使用のクロマトグラフィーカラムで行うように設計された。これにより、複数回使用のクロマトグラフィー系が直面する、コストと時間がかかるカラム再生工程をなくすことができる。単回使用の袋、管、濾過器、及びクロマトグラフィーカラムを利用した閉鎖系を用いて全過程が行われる。さらに、好ましくは、処理流体が、袋、管、濾過器、又はカラム内に維持されるため、開放系での取扱工程を回避し、生成物毒素溶液を汚染から保護し、操作者が毒素に晒されることから守られる。
【0139】
表2は、本開示によるBoNT/A1の4本のカラムによるクロマトグラフィー精製法の概要を示す。この過程は以下の工程を含む。
(1)リン酸ナトリウム緩衝液(pH6.1)を用いて核酸からボツリヌス毒素複合体を分離する通過分画モードでQセファロースFFカラム(直径80mm、高さ500mmのカラムに2.5L充填済み)に清澄化培養物を直接充填した。この工程では、ボツリヌス毒素複合体は固定相に結合しておらず、その代わり、カラム中を流れて毒素含有画分に含まれる。
(2)QセファロースFFカラム(直径50mm、高さ50mmのカラムに100mL充填済み)からの毒素含有画分を酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)中で調整し、酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を用いてSPセファロースFFカラムを通した。この工程では、ボツリヌス毒素複合体は固定相に吸着したが、嵩高い不純物(例えば、その他のタンパク質)はカラムを通して洗浄された。NaClを含む酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)を用いてカラムに結合した毒素複合体を溶出させ、第一の毒素含有溶出液中に回収した。
(3)第一の毒素含有溶出液を濾過して発酵培地残渣を除去し、30kDa濾過器を用いて毒素複合体中のNTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質からボツリヌス毒素分子を解離させる接線流超濾過(「濾過3」)により好適な緩衝溶液中で緩衝液交換(Tris-HCl緩衝液、pH8.0)用に調整した。次いで、保持液をQセファロースFFカラム(直径5mm、高さ100mmのカラムに2mL充填済み)に通して、NTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質から遊離ボツリヌス毒素タンパク質を分離した。この工程では、ボツリヌス毒素分子は固定相に吸着したが、NTHタンパク質及び/又はNTNHタンパク質(及びその他の嵩高い不純物)はカラムを通してある程度洗浄された(しかしながら、大部分はボツリヌス毒素分子よりも強く固定相に吸着した)。NaClを含むTris-HCl緩衝液(pH8.0)を用いてボツリヌス毒素タンパク質を第二の毒素含有溶出液中に回収した。
(4)仕上げ(すなわち、凝集体の除去)のため、第二の毒素含有溶出液をSuperdex200ゲル濾過カラム(直径25mm、高さ600mmのカラムに320mL充填済み)に直接注入した。この工程では、50mMの酢酸ナトリウム、370mMのNaCl、0.2%ポリソルベート20、13mMのNa2HPO4、及び17mMのNaOH(pH6.6~6.9)を含む緩衝液でカラムを洗浄し、精製ボツリヌス毒素タンパク質を第三の毒素含有溶出液中に回収した。
【0140】
【0141】
上述のカラムクロマトグラフィー工程のそれぞれは、現場での洗浄手順、及びクロマトグラフィーによる分離を行う前の他のカラム準備工程を含んでいてもよい。カラムの準備及び操作手順は当該分野でよく知られている。一般に、例えば、Ozutsumi et al.,49 APPL.ENVTL.MICROBIOL.939(1985);GE Healthcare,Strategies for Protein Purification Handbook(2010);Schmidt et al.,156 ANAL.BIOCHEM.213(1986);Simpson et al.,165 METHODS ENZYMOL.76(1988);Zhou et al.,34 BIOCHEM.15175(1995);Kannan et al.,15 MOV.DISORD.20(2000);Wang Y-c,DERMATOL.LAS FACIAL COSMET.SURG.58(2002);Johnson et al.,32 PROTEIN EXPR.&PURIF.1(2003);US2003/0008367A1を参照のこと。
希釈/濾過/分配
【0142】
精製ボツリヌス毒素タンパク質は好適な緩衝溶液(例えば、50mMの酢酸ナトリウム、0.2%ポリソルベート20、370mMのNaCl、13mMのリン酸ナトリウム、17mMのNaOH)中で希釈されて最終濃度とし、プラットフォームロッカー上で約30分間穏やかに混合した。0.2μmの濾過器を用いて希釈物を濾過して単回使用の殺菌袋に入れて、分配ポンプ及び針を用いて0.4mLの分割量で1.8mLの低温バイアルに分配した。次いで、予め冷却して-70℃以下で保存したアルミニウムブロックを用いて試料を急速に冷凍した。本明細書では、以下、前記方法に従って保存用に準備した最終溶液を「薬物物質」(又は「DS」)と言う。
【0143】
上で概略を述べた工程に従って3つの異なる薬物物質ロット:#16852、#17043、及び#19139を準備した。次いで、以下の実施例で記載するように、DSロットを外観、有効性、比活性、及び総タンパク質濃度について試験した。
【0144】
実施例2:外観試験
【0145】
溶液中の乳白光はタンパク質の凝集又は沈殿を示すことがあるので、透明度及び色を試験して薬物物質透明で無色であることを確認する。その方法は、Ph.Eur.2.2.1、題名“Clarity and Degree of Opalescence of Liquids”及びPh.Eur.2.2.2、題名“Degree of Coloration of Liquids”に基づく目視による方法であるが、薬局方の方法に規定された容器と体積に代えて薬物物質のバイアルと体積を用いるように修正されている。基準溶液として水が用いられる。
【0146】
この方法によって、実施例1に従って準備された薬物物質ロットはすべて、透明で無色の溶液であった。これは検出可能なボツリヌス毒素タンパク質分子の凝集又は沈殿がないことを示している。
実施例3:有効性
【0147】
マウスLD50アッセイを用いて実施例1から得た精製薬物物質の有効性を決定した。これは、試験した試料内の有効性を定量的に測定する絶対アッセイである。希釈剤としてゼラチン-リン酸緩衝液を用いて、標的とするLD50値を中心に11個の投与群を設ける。投与量あたり3.0~0.4単位の有効性を持つ投与群を約0.0899の対数間隔で等間隔に並べる。注射して72時間後の死亡数を記録し、Spearman-Karber法を用いてLD50を算出する。Spearman-Karber法による計算は、死亡に対する対数希釈曲線の中点(LD50)を求める数学的平均として用いられる。精製薬物物質の有効性は、LD50単位/mLとして表される。例えば、M.A.Ramakrishnan,Determination of 50% Endpoint Titer Using a Simple Formula,5 WORLD J.VIROL.85-86(2016);及びG.Kaerber,162 PATHOL.U PHARMAKOL.480-83(131);C.Spearman,The Method of “Right and Wrong Cases”(Constant Stimuli) Without Gauss’s Formula,2 BR.J.PSYCHOL.227-42(1908)を参照のこと。
【0148】
精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139はそれぞれ、11×106LD50単位/mL、23×106LD50単位/mL、及び19×106LD50単位/mLの有効性値を示した。これらの有効性値は、製造されたDSの体積と組み合わせて、上記過程収率は、DSの商業的な製造にとって望ましいDSロットから高投与量の薬物生成物を製造するのに十分であることが確認された。
実施例4:総タンパク質濃度
【0149】
実施例1に従って調製された薬物物質の総タンパク質濃度はビシンコニン酸(BCA)法に従って決定された。というのは、この方法は、実施例1に従って調製された典型的な薬物物質ロットのタンパク質濃度を決定するのに十分に高い感度を有するからである。Ph.Eur.2.5.33 method 4、およびUSP<507> method IIを参照のこと。
【0150】
マイクロBCAタンパク質アッセイキットを用いて総タンパク質濃度を決定し、ウシ血清アルブミンを用いた標準曲線を用いて測定された吸光度からタンパク質の濃度を算出する。結果は、同じものを2つ準備した試料を測定してその平均値として報告される。
【0151】
精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139について、総タンパク質濃度はそれぞれ、59.4μg/mL、107.0μg/mL、及び91.4μg/mLと決定された。上記DSロットから得たこれらタンパク質濃度の値は、放出と特徴付けについての分析方法が正確かつ精密であることを確実にするのに十分な高さである。
実施例5:比活性
【0152】
実施例1に従って製造された薬物物質について、LD
50アッセイ(実施例3)で得たその薬物物質の有効性値(単位/mL)とその薬物物質の総タンパク質濃度(mg/mL(実施例4)から比活性を算出する。比活性は以下の式に従って算出される。
【数3】
【0153】
精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139について、比活性はそれぞれ、1.9×108U/mg、2.2×108U/mg、及び2.1×108U/mgと決定された。これにより、DSの純度が高いことが確認された。これは、前記過程が高度に精製され、十分に活性した複合体-遊離ボツリヌス毒素の商業的な製造に好適であることを示している。
実施例6:タンパク質関連不純物
【0154】
実施例1に従って調製された薬物物質中のタンパク質関連不純物を決定するのに用いられる方法は、Ph.Eur.2.2.31 Electrophoresis、題名“Sodium Dodecyl Sulfate Polyacrylamide Gel Electrophoresis(SDS-PAGE)―Uniform Percentage Gels”に記載された原則に基づいている。この方法では、SDS-PAGEがコロイド状クーマシーブルー染色を組み合わせて用いられる。試料を希釈して標準曲線を準備し、非還元試料及び還元試料が分析される。標準曲線に対して不純物バンドのバンド強度を関係づけることにより、濃度測定法により不純物を定量する。不純物の結果は、ゲルに充填された総タンパク質量の百分率として表される。
【0155】
図2は、実施例1に従って調製されたDSロット#17043についての、SDS-PAGE及びコロイド状クーマシーブルー染色を用いて得られた純度の分析結果を示す。左から右へレーン1~5は、ロット#17043からの標準曲線(1.2~4.0μg/mL)の非還元試料、6~7は非還元ロット#17043の同じ試料1及び2(140μg/mL)、8は分子量マーカー、9~10は還元ロット#17043の同じ試料1及び2(140μg/mL)である。実施例1に従って調製された3つの薬物物質ロットはすべて、タンパク質関連不純物は6.0%未満であった。特に、ロット#16852では検出可能な不純物が見られなかった。
実施例7:残留核酸
【0156】
実施例1に従って調製された薬物物質中のRNA及び/又はDNAを検出するため、残留核酸の限界試験を行った。方法は市販のRiboGreen RNA定量キットを用いたものである。RiboGreenは核酸に結合して、試料中の核酸の量に比例する蛍光信号を生成する。RiboGreenに結合するとDNAはRNAよりも強い信号を生成するので、RNAを含む標準試料を用いることによりDNAを含む試料の核酸含有量が見積もられ、報告された核酸値を試料中の核酸の最大量とすることができる。
【0157】
精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139と、RNAが0.15μg/mLである最も低濃度の標準試料を基準標準曲線に対して比較した。すべての3つのロットは、試料が標準試料よりも弱い蛍光を示した。これは、残留核酸が0.15μg/mL以下に相当する(データ(図示せず))。
実施例8:タンパク質の特徴
【0158】
タンパク質の特徴を決定するのに用いられる方法は、Ph.Eur.2.2.31 Electrophoresis、題名“Sodium Dodecyl Sulfate Polyacrylamide Gel Electrophoresis(SDS-PAGE)―Uniform Percentage Gels”に記載された原則に基づいている。精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139を4~12%のBis-Trisゲルで分析して、構成要素タンパク質を分離し、銀染色(SilverQuest染色キット)を用いて染色した。
図3は、分子量マーカー(レーン1及び10)と比較した還元薬物物質試料(レーン6~9)及び非還元薬物物質試料(レーン2~5)のSDS-PAGEの結果を示す。レーン3及び7はロット#16852に対応し、レーン4及び8はロット#17043に対応し、レーン5及び9はロット#19139に対応する。(レーン2及び6は、過程の幾分異なるパラメータ(例えば、第一のクロマトグラフィーによる分離で僅かに高いpHの緩衝液など)を用いた4本のカラムによるクロマトグラフィー過程に従って調製された薬物物質ロット(#1014997)の結果を示す。)
【0159】
精製薬物物質ロット#1014997、#16852、#17043、及び#19139は、150kDa付近に強いバンド(それぞれ、レーン2、3、4、及び5)を示す同等のタンパク質の特徴を示している。これは、一次タンパク質成分が遊離BoNT/Aであることを示している。レーン6、7、8、及び9の還元試料は、100kDa付近と150kDa付近に2種類の主要なタンパク質成分を示している。これらは、それぞれ、BoNT/Aの重鎖及び軽鎖に対応する。
実施例9:薬物物質の分子量分布
【0160】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いて薬物物質成分の分子量サイズ分布を監視した。この方法は、生成物毒素と、過程又は生成物の何れかに関連し得る何れかの高分子量種及び低分子量種(それぞれHMW及びLMW)とを含む試料中の主成分を分析する。UPLC(登録商標)SECカラムが分離に用いられる。移動相は緩衝液17(上記の表1)であり、0.4MのL-アルギニンが追加され、pHが6.6~6.9の間である。L-アルギニンを緩衝液17に加えて、分離されたタンパク質とカラムマトリックス、濾過器、及びその他のクロマトグラフィー系の濡れた部品との二次的な相互作用を最小にする。0.25mL/分の流量を用いて、(1つのバイアルの薬物物質からの)同じ2つの試料を前処理又は希釈せずに分析する。280nmで検出する。得られたクロマトグラムを統合して、主要成分について得られた平均面積百分率(面積%)を薬物物質ロットごとに報告する。
【0161】
図4は、実施例1に従って調製されたDSロット#17043の分子量分布を示す。主要ピークは、遊離生成物毒素分子に対応する。精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139はすべて、少なくとも96%の主要な成分(BoNT/A)を示した。このデータから、本開示に従って調製された生成物毒素溶液中に高純度のボツリヌス毒素が含まれることが確認された。
実施例10:工程収率
【0162】
BoNT/Aの工程収率が、精製過程の各工程の堅固さを示す指標として決定される。工程収率を算出するため、各画分の重量を測定して体積を決定する。各画分中のBoNT/Aの濃度を決定するため、BoNT/A特異的ELISAが用いられる。
【0163】
ELISAのプロトコルは、USP<1103>“Immunological Test Methods―Enzyme-linked Immunosorbent Assay”に記載された原理及び一般的な方法に基づく間接サンドイッチELISAである。ELISA法は、異なる2種類のBoNT/A特異的ポリクロナール抗体を用いた免疫的結合及びBoNT/Aの検出に基づいている。
【0164】
BoNT/AをPBS-Tween溶液(0.05%のTween-20)で3~28ng/mLの濃度範囲に希釈することで市販のBoNT/A毒素に基づくタンパク質標準連続希釈液を作製する。PBS-Tweenでタンパク質標準希釈液の範囲に希釈された試料の3つ同じものをポリクロナール抗BoNT/A抗体で被覆したマイクロプレートウェルに加える。インキュベートにより抗体が識別され、BoNT/A抗原のウェルへの結合が得られる。各インキュベーション後にはPBS-Tween溶液を用いた自動洗浄工程が行われる。
【0165】
一次検出は別の種類のポリクロナール抗BoNT/A抗体の結合によって行われ、サンドイッチ複合体が形成される。次いで、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)に結合させた二次抗体を加える。これが一次抗体と結合して、サンドイッチ複合体内のBoNT/Aを検出することができる。次いで、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質を試料ウェルに加える。HRPはTMB基質を変換して青色の反応生成物が生じる。停止溶液を加えてTMBの変換を停止し、残りのTMBの黄色への色変換を開始する。各マイクロプレートウェルの吸光度をプレートリーダーにて450nmで検出し、測定された吸光度をウェル内のBoNT/A量に正比例させる。試料の吸光度値は、BoNT/A標準希釈液から得た吸光度値に基づく標準曲線と比較することで算出される。結果は、平均値(単位:μg/mL)として報告される。次いで、上記の式1に従って工程収率が算出される。
【0166】
図5は、ロット#16852、#17043、及び#19139について、精製過程の各工程での工程収率の平均値を示す。「DS」というラベルのバーは、最後の2つのクロマトグラフィー工程に跨がる合わせた収率を示す。というのは、これらは相互接続されており、この2つの工程の間で標本化が行われないからである。このデータから、これら工程の収率が100%から50%の間で変動することが示されている。
実施例11:累積工程収率
【0167】
個々の工程の累積工程収率は、以下の式によって算出される。
【数4】
ここで、Cは毒素の濃度、Vは体積、下付の「画分」は現在の処理工程から得た毒素の濃度又は体積、下付のKSは0.2μmの濾過器で濾過して細胞を除去した回収時の培養物を示す。回収時の培養物(KS)の累積工程収率は100%として設定される。
【0168】
図6は、精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139について、精製過程の各工程の平均累積工程収率を示す。「DS」というラベルのバーは、最後の2つのクロマトグラフィー工程に跨がる合わせた収率を示す。というのは、これらは相互接続されており、この2つの工程の間で標本化が行われないからである。
実施例12:総収率
【0169】
回収時の培養物(「KS」)と比べた生成物毒素溶液(又は「DS」)中のBoNT/Aの総収率が、全精製過程の堅固さを示す指標として決定される。過程収率を算出するため、KS画分とDS画分の重量を測定して、体積を決定する。KS及びDS中のBoNT/Aの濃度は、BoNT/A特異的ELISAを用いて決定される。総収率は、上記式2に従って算出される。
【0170】
精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139、総収率は13%と29%の間と決定された(データ(図示せず))。
実施例13:純度向上因子(工程に跨がる)
【0171】
個々の工程でのBoNT/Aの純度向上因子は、(過程及び生成物に関連した)望ましくないタンパク質成分を除去するための各工程(及び精製過程全体)の効率を示す指標として決定される。各工程の純度向上因子を算出するため、毒素濃度についてはBoNT/A特異的ELISAを用いて、総タンパク質濃度についてはマイクロBCA法(実施例4)を用いて各画分が分析される。各工程の純度の向上は、以下の式に従って算出される。
【数5】
【0172】
ここで、ToxCは毒素濃度、TotPCは総タンパク質濃度、下付の「画分」は現在の処理工程から得た毒素濃度又は総タンパク質濃度、下付の「前の画分」は前の処理工程から得た毒素濃度又は総タンパク質濃度を表す。
【0173】
図7は、精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139について工程に跨がる純度向上因子の平均値を示す。「DS」というラベルのバーは、最後の2つのクロマトグラフィー工程に跨る合わせた純度向上因子を示す。というのは、これらの工程は相互接続されており、この2つの工程の間で標本化が行われないからである。このデータから、第二のクロマトグラフィーカラムは、毒素の精製最も寄与する工程であることが明かである。しかしながら、すべての工程(完全な細胞又は溶解細胞及細胞成分を除去する濾過1を除く)が、総タンパク質濃度に対する毒素の全体的な精製に寄与している。
実施例14:累積純度向上因子(工程に跨がる)
【0174】
各工程について累積純度向上因子が以下のように算出される。
【数6】
ここで、ToxCは毒素濃度、TotPCは総タンパク質濃度、下付の「画分」は現在の処理工程から得た毒素濃度又は総タンパク質濃度、下付のKSは0.2μmの濾過器で濾過して細胞を除去した回収時の培養物から得た毒素濃度又は総タンパク質濃度を示す。精製過程の第一の工程(回収時発酵)が純度向上因子1として設定される。
【0175】
図8は、精製薬物物質ロット#16852、#17043、及び#19139について工程に跨がる平均累積純度向上因子を示す。「DS」というラベルのバーは、最後の2つのクロマトグラフィー工程に跨がる合わせた累積純度向上因子を示す。というのは、これらは相互接続されており、この2つの工程の間で標本化が行われないからである。
【国際調査報告】