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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-24
(54)【発明の名称】ボツリヌス毒素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/00 20060101AFI20230216BHJP
   C12N 1/20 20060101ALI20230216BHJP
【FI】
C12P21/00 B
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538173
(86)(22)【出願日】2020-12-19
(85)【翻訳文提出日】2022-08-19
(86)【国際出願番号】 IB2020062252
(87)【国際公開番号】W WO2021124296
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】62/951,549
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517242544
【氏名又は名称】ガルデルマ・ホールディング・エスアー
(71)【出願人】
【識別番号】517340507
【氏名又は名称】イプセン バイオファーム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IPSEN BIOPHARM LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ストール, ウルフ
(72)【発明者】
【氏名】フランク, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ジョルスタッド, アンデシュ
(72)【発明者】
【氏名】ピケット, アンドリュー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG30
4B064CA02
4B064CC06
4B064CC07
4B064CC09
4B064CD22
4B064DA01
4B065AA23X
4B065AC14
4B065BB26
4B065BB31
4B065CA24
4B065CA44
(57)【要約】
本開示は、一般にボツリヌス毒素を製造する分野に関する。より具体的には、本開示は、動物生成物を含まないか、あるいは実質的にそれを含まない培地中でボツリヌス毒素を製造する方法に関する。本開示はまた、ボツリヌス毒素を製造するための、動物生成物を含まないか、あるいは実質的にそれを含まない培地に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)クロストリジウム・ボツリヌス菌を含む作業細胞バンク(WBC)を準備する工程、
(b)上記作業細胞バンクを、野菜毒素産生培地(VTPM)を含む第一の容器に加え、上記クロストリジウム・ボツリヌスを成長させて前培養物を製造できる条件下、上記VTPM中で上記クロストリジウム・ボツリヌス菌を培養する工程、
(c)上記前培養物を、VTPMを含む第二の容器に加え、ボツリヌス毒素を産生可能な条件下で上記クロストリジウム・ボツリヌス菌を培養する工程、及び
(d)上記ボツリヌス毒素を回収する工程を含み、
上記VTPMは、動物由来生成物を実質的に含まないか、あるいは含まず、少なくとも1種の植物由来タンパク質を含む、ボツリヌス毒素を製造する方法。
【請求項2】
上記ボツリヌス毒素はボツリヌス神経毒A型(BoNT/A)である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記工程(b)及び(c)に用いられる容器は発酵袋である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
上記工程(b)及び(c)の条件は嫌気性環境を含む、請求項1~3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
上記嫌気性環境は溶存酸素(DO)濃度が2%未満である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
上記工程(b)の条件は約35℃と約39℃の間の温度、好ましくは約37±1℃の温度を含む、請求項1~5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
上記工程(c)の条件は約30℃と約37℃の間の温度、好ましくは約33±1℃の温度を含む、請求項1~6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
上記工程(b)において上記WCBの上記VTPMに対する体積比は、約2.0%以下、好ましくは約0.08%以下である、請求項1~7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
上記工程(c)での上記前培養物の上記VTPMに対する体積比は約1:2と約1:50の間、好ましくは約1:9である、請求項1~8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
OD600が約0.1~約1.0、好ましくは約0.2~約0.4の範囲に達するまで上記工程(b)が行われる、請求項1~9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
上記工程(b)は、約10時間と約30時間の間の時間、好ましくは約19時間行われる、請求項1~10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
上記工程(c)は、約60時間と約80時間の間の時間、好ましくは約69±2時間行われる、請求項1~11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
C.ボツリヌス以外の他の微生物に関する微生物学的純度は、工程(b)の後で工程(c)の前に上記前培養物中で試験される、請求項1~12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
C.ボツリヌス以外の他の微生物に関する微生物学的純度は、工程(c)の後で工程(d)の前に上記培養物中で試験される、請求項1~13の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
上記植物由来タンパク質は小麦ペプトン、ソラマメペプトン、ジャガイモペプトン、エンドウペプトン、米ペプトン、又は大豆ペプトン、好ましくは小麦ペプトンである、請求項1~14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
上記VTPM中の小麦ペプトンの濃度は約10g/Lと約30g/Lの間、好ましくは約20g/Lである、請求項1~15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
上記VTPMは小麦ペプトン、酵母菌抽出物、D-(+)-グルコース、L-システイン塩酸塩一水和物、及び医療用消泡剤C乳化液を含む、請求項1~16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
上記VTPMは、
約5g/Lと約50g/Lの間、好ましくは約20g/Lの小麦ペプトン、
約5g/Lと約50g/Lの間、好ましくは約20g/Lの酵母菌抽出物、
約0.05g/Lと約20g/Lの間、好ましくは約5g/LのD-(+)-グルコース、
約0.05g/Lと約0.50g/Lの間、好ましくは約0.20g/LのL-システイン塩酸塩一水和物、及び
約0.05g/Lと約0.50g/Lの間、好ましくは約0.24g/Lの医療用消泡剤C乳化液を含む、請求項1~17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
上記VTPMのpHは約6.7と約7.2の間である、請求項1~18の何れか一項に記載の方法。
【請求項20】
クロストリジウム・ボツリヌスと、ボツリヌス毒素を製造するための培地とを含み、上記培地は動物由来生成物を含まないか、あるいは実質的にそれを含まず、少なくとも1種の植物由来タンパク質を含む、組成物。
【請求項21】
上記植物由来タンパク質は小麦ペプトンである、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
上記VTPM中の小麦ペプトンの濃度は約5g/Lと約50g/Lの間、好ましくは約20g/Lである、請求項21に記載の組成物。
【請求項23】
上記培地は小麦ペプトン、酵母菌抽出物、D-(+)-グルコース、L-システイン塩酸塩一水和物、及び医療用消泡剤C乳化液を含む、請求項20~22の何れか一項に記載の組成物。
【請求項24】
上記培地は、
約5g/Lと約50g/Lの間、好ましくは約20g/Lの小麦ペプトン、
約5g/Lと約50g/Lの間、好ましくは約20g/Lの酵母菌抽出物、
約1g/Lと約20g/Lの間、好ましくは約5g/LのD-(+)-グルコース、
約0.05g/Lと約0.50g/Lの間、好ましくは約0.20g/LのL-システイン塩酸塩一水和物、及び
約0.05g/Lと約0.50g/Lの間、好ましくは約0.24g/Lの医療用消泡剤C乳化液を含む、請求項20~23の何れか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、米国特許法第119条(e)の下で、2019年12月20日に提出された米国特許仮出願第62/951,549号に対する優先権を主張するものであり、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般にボツリヌス毒素を製造する分野に関する。より具体的には、本開示は、動物生成物を含まない、あるいは実質的にそれを含まない培地でボツリヌス毒素を製造する方法に関する。本開示はまた、動物生成物を含まない、あるいは実質的にそれを含まないボツリヌス毒素を製造するための培地に関する。
【背景技術】
【0003】
本技術の背景技術に関する以下の説明は、単に本技術の理解を助けるために提供されるものであり、本技術の先行技術を説明するものや構成するものとは認められない。
【0004】
一般的に免疫学的に異なる7つのボツリヌス神経毒は、(ボツリヌス神経毒血清A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型)が特徴づけられており、それぞれが型特異的な抗体による中和によって区別されている。一例として、ボトックス(登録商標)は、アラガン社(カリフォルニア州アーバイン)から市販されているボツリヌス毒素A型精製神経毒複合体の商標である。ボトックスは、細かい皺を一時的に目立たなくする、注射による美容処置として人気がある。ボツリヌス毒素の1単位(U)は、それぞれ体重が18~20グラムのメスのスイス・ウエブスター・マウスに腹腔内注射したときのLD50として定義されている。換言すると、1単位のボツリヌス毒素は、メスのスイス・ウエブスター・マウス群の50%を殺傷するボツリヌス毒素の量である。一般的に免疫学的に異なる7つのボツリヌス神経毒が特徴づけられており(ボツリヌス神経毒血清A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型)、それぞれが型特異的な抗体による中和によって区別されている。ボツリヌス毒素の異なる血清型は、それらが影響を及ぼす動物種と、それらが誘発する麻痺の重症度及び期間とによって異なる。例えば、ラットでは、ボツリヌス毒素A型はラットで生じる麻痺率による測定で、ボツリヌス毒素B型の500倍以上強力である。加えてボツリヌス毒素B型は、480U/kgの投与量で霊長類には毒性がないと判定されたが、この投与量は、霊長類でのボツリヌス毒素A型のLD50の約12倍である。また、ボツリヌス毒素は様々な疾患を治療するのに利用することができることが知られている。例えば、特許文献1(片頭痛);特許文献2(頭痛);特許文献3(薬物乱用による頭痛);及び特許文献4(精神神経疾患)が挙げられ、そのすべてを参照により本明細書に組み込む。
【0005】
ボツリヌス毒素は、従来、1種以上の動物由来生成物(肉汁培地、及び血液画分又は血液由来の賦形剤)を用いた培養及び発酵過程により得られる。動物由来生成物を利用する過程で生物学的薬効成分が得られた医薬組成物を患者に投与すると、その患者を様々な病原体や感染性剤を受容する危険性にさらす可能性がある。例えば、プリオンが医薬組成物に存在し得る。プリオンは、タンパク質性の感染性粒子で、正常なタンパク質を作る同じ核酸配列から異常な高次構造アイソフォームとして生じると仮定されている。さらに、感染性は、翻訳後レベルでの正常なアイソフォームタンパク質のプリオンタンパク質アイソフォームへの「動員(recruitment)反応」にあると仮定されている。明らかに、正常な内因性細胞タンパク質が誤って病原性プリオン高次構造に折りたたまれるように誘導されている。
【0006】
動物由来の望ましくない汚染物質に関連する危険性及び問題を最小にする、動物由来生成物を含まない、あるいは実質的にそれを含まない培地でボツリヌス毒素を製造する過程の開発が必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,714,468号明細書(1998年2月3日発行)
【特許文献2】米国特許出願公開第2005/019132号明細書(シリアル番号第11/039,506号、2005年1月18日に提出)
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0191320号明細書(シリアル番号第10/789,180号、2004年2月26日提出)
【特許文献4】米国特許第7,811,587号明細書(2010年10月12日発行)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書では、ボツリヌス毒素の製造方法が提供される。上記方法は、(a)クロストリジウム・ボツリヌス菌を含む作業細胞バンク(WCB)を準備する工程、(b)上記作業細胞バンクを、野菜毒素産生培地(VTPM)を含む第一の容器に加え、上記クロストリジウム・ボツリヌスを成長させて前培養物を製造できる条件下で上記VTPM中の上記クロストリジウム・ボツリヌス菌を培養する工程、(c)上記前培養物を、VTPMを含む第二の容器に加え、ボツリヌス毒素を産生可能な条件下で上記クロストリジウム・ボツリヌス菌を培養する工程、及び(d)上記ボツリヌス毒素を回収する工程を含み、上記VTPMは実質的に動物由来生成物を含まない、あるいは動物由来生成物を含まず、植物由来タンパク質を含む。
【0009】
実施形態によっては、上記ボツリヌス毒素はボツリヌス神経毒A型(BoNT/A)である。
【0010】
実施形態によっては、工程(b)及び(c)に用いられる容器は発酵袋である。
【0011】
実施形態によっては、上記工程(b)及び(c)の条件は嫌気性環境を含む。実施形態によっては、上記嫌気性環境は溶存酸素(DO)濃度が2%未満である。実施形態によっては、上記嫌気性環境は溶存酸素(DO)濃度が1%未満である。実施形態によっては、上記嫌気性環境は溶存酸素(DO)濃度が0.5%未満である。
【0012】
実施形態によっては、上記工程(b)の条件は、約35℃と約39℃の間、約36℃と約38℃の間(あるいはこれらの間の範囲)の温度を含む。実施形態によっては、上記工程(b)の条件は約35.0℃、約35.5℃、約36.0℃、約36.5℃、約37.0℃、約37.5℃、約38.0℃、約38.5℃、又は約39.0℃の温度を含む。実施形態によっては、上記工程(b)の条件は約37±1℃の温度を含む。実施形態によっては、上記工程(b)の条件は約37±0.5℃の温度を含む。実施形態によっては、上記工程(b)の条件は約37±0.2℃の温度を含む。
【0013】
実施形態によっては、上記工程(c)の条件は、約30℃と約37℃の間、約31℃と約36℃の間、約32℃と約35℃の間、又は約32℃と約34℃(あるいはこれらの間の範囲)の温度を含む。実施形態によっては、上記工程(c)の条件は約33±1℃の温度を含む。実施形態によっては、上記工程(c)の条件は約33±0.5℃の温度を含む。実施形態によっては、上記工程(c)の条件は約33±0.2℃の温度を含む。
【0014】
実施形態によっては、上記工程(b)において上記WCBの上記VTPMに対する体積比は、約2.0%以下、約1.9%以下、約1.8%以下、約1.7%以下、約1.6%以下、約1.5%以下、約1.4%以下、約1.3%以下、約1.2%以下、約1.1%以下、約1.0%以下、約0.9%以下、約0.8%以下、約0.7%以下、約0.6%以下、約0.5%以下、約0.4%以下、約0.3%以下、約0.2%以下、約0.1%以下、約0.09%以下、約0.08%以下、約0.07%以下、約0.06%以下、約0.05%以下、約0.04%以下、約0.03%以下、約0.02%、又は約0.01%以下(あるいはこれらの間の範囲)である。
【0015】
実施形態によっては、上記工程(b)での上記WCBの上記VTPMに対する体積比は約0.01%、約0.02%、約0.03%、約0.04%、約0.05%、約0.06%、約0.07%、約0.08%、約0.09%、約0.10%、約0.15%、約0.20%、約0.25%、約0.30%、約0.35%、約0.40%、約0.45%、約0.50%、約0.55%、約0.60%、約0.65%、約0.70%、約0.75%、約0.80%、約0.85%、約0.90%、約0.95%、約1.0%、約1.1%、約1.2%、約1.3%、約1.4%、約1.5%、約1.6%、約1.7%、約1.8%、約1.9%、又は約2.0%である。
【0016】
実施形態によっては、上記工程(c)での上記前培養物の上記VTPMに対する体積比は、約1:2と約1:50の間、約1:3と約1:45の間、約1:4と約1:40の間、約1:5と約1:35の間、約1:6と約1:30の間、約1:7と約1:25の間、約1:8と約1:20、又は約1:8と約1:10の間(あるいはこれらの間の範囲)である。実施形態によっては、上記工程(c)での上記前培養物の上記VTPMに対する体積比は約1:2、約1:3、約1:4、約1:5、約1:6、約1:7、約1:8、約1:9、約1:10、約1:15、約1:20、約1:25、約1:30、約1:35、約1:40、約1:45、又は約1:50である。
【0017】
実施形態によっては、OD600が約0.1~約1.0、約0.1~約0.05、又は約0.2~約0.4の範囲に達するまで上記工程(b)が行われる。実施形態によっては、OD600が約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、又は約1.0に達するまで上記工程(b)が行われる。
【0018】
実施形態によっては、上記工程(b)は、約10時間と約30時間の間、約15時間と約25時間の間、又は約17時間と約21時間の間(あるいはこれらの間の範囲)行われる。実施形態によっては、上記工程(b)は約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間、約25時間、約26時間、約27時間、約28時間、約29時間、又は約30時間行われる。実施形態によっては、上記工程(b)は約19±2時間行われる。実施形態によっては、上記工程(b)は約19±1時間行われる。実施形態によっては、上記工程(b)は約19±0.5時間行われる。実施形態によっては、上記工程(b)は約19±0.2時間行われる。実施形態によっては、上記工程(b)は約19時間行われる。
【0019】
実施形態によっては、上記工程(c)は約60時間と約80時間の間、約65時間と約75時間、又は約67時間と約71時間(あるいはこれらの間の範囲)行われる。実施形態によっては、発酵過程は、約60時間、約65時間、約66時間、約67時間、約68時間、約69時間、約70時間、約71時間、約72時間、約73時間、約74時間、約75時間、約76時間、約77時間、約78時間、約79時間、又は約80時間継続する。実施形態によっては、上記発酵過程は約69±2時間、約69±1時間、約69±0.5時間、又は約69±0.2時間継続する。一実施形態では、上記工程(c)は約69時間行われる。
【0020】
実施形態によっては、C.ボツリヌス以外の他の微生物に関する微生物学的純度は、工程(b)の後で工程(c)の前に上記前培養物中で試験される。
【0021】
実施形態によっては、C.ボツリヌス以外の他の微生物に関する微生物学的純度は、工程(c)の後で工程(d)の前に上記培養物中で試験される。
【0022】
実施形態によっては、上記植物由来タンパク質は小麦ペプトンである。実施形態によっては、上記VTPM中の小麦ペプトンの濃度は、1リットルあたり約10グラムと1リットルあたり約30グラムの間、例えば、1リットルあたり約20グラムである。実施形態によっては、上記VTPM中の小麦ペプトンの濃度は1リットルあたり約20グラムである。実施形態によっては、上記VTPMは、小麦ペプトン、酵母菌抽出物、D-(+)-グルコース、L-システイン塩酸塩一水和物、医療用消泡剤C乳化液を含む。
【0023】
実施形態によっては、上記VTPMは、小麦ペプトン、酵母菌抽出物、D-(+)-グルコース、L-システイン塩酸塩一水和物、医療用消泡剤C乳化液、蒸留水、NaOH、及びHClを含む。特定の一実施形態では、上記VTPMは、1リットルあたり約20グラムの小麦ペプトン、1リットルあたり約20グラムの酵母菌抽出物、1リットルあたり約5グラムのD-(+)-グルコース、1リットルあたり約0.20グラムのL-システイン塩酸塩一水和物、及び1リットルあたり約0.24グラムの医療用消泡剤C乳化液を含む。特定の一実施形態では、上記VTPMのpHは約6.7と約7.2の間である。
【0024】
他の側面では、クロストリジウム・ボツリヌスと、ボツリヌス毒素を製造するための培地とを含み、上記培地は動物由来生成物を含まないか、あるいは実質的にそれを含まず、1種以上の植物由来タンパク質を含む、組成物が本明細書で提供される。実施形態によっては、上記1種以上の植物由来タンパク質は、小麦ペプトン、ソラマメペプトン、ジャガイモペプトン、エンドウペプトン、米ペプトン、又は大豆ペプトン、又はこれらの組み合わせである。実施形態によっては、上記植物由来タンパク質は小麦ペプトンである。
【0025】
実施形態によっては、上記VTPM中の小麦ペプトンの濃度は1リットルあたり約20グラムである。実施形態によっては、上記VTPMは、小麦ペプトン、酵母菌抽出物、D-(+)-グルコース、L-システイン塩酸塩一水和物、医療用消泡剤C乳化液を含む。
【0026】
実施形態によっては、上記VTPMは、小麦ペプトン、酵母菌抽出物、D-(+)-グルコース、L-システイン塩酸塩一水和物、医療用消泡剤C乳化液、蒸留水、NaOH、及びHClを含む。特定の一実施形態では、上記VTPMは、1リットルあたり約20グラムの小麦ペプトン、1リットルあたり約20グラムの酵母菌抽出物、1リットル約5グラムのD-(+)-グルコース、1リットルあたり約0.20グラムのL-システイン塩酸塩一水和物、及び1リットルあたり約0.24グラムの医療用消泡剤C乳化液を含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は発酵過程を示す。400μlの作業細胞バンク(WCB)を2Lの発酵袋内の500mLの成長培地に加える。播種の前にこの袋を濾過した窒素でパージする。OD600が37±℃で0.2~0.4になるまで発酵を行う。次いで、4500mLの野菜毒素産生培地(VTPM)を、500mLの前培養物を含む5Lの培養袋に加える。播種の前に、この袋を濾過した窒素でパージする。発酵は、33±1℃で69±2時間行われる。
図2図2は、主培養における600nmでの光学濃度曲線を示す。この曲線は、以下の実施例2で記載されるように行われたいくつかの発酵試料を抽出して分析した試料に基づいている。
図3図3は、主培養におけるpH曲線を示す。この曲線は、以下の実施例2に従って行われたいくつかの発酵試料を抽出して分析した試料に基づいている。
図4図4は、実施例2に従って行われた主培養におけるBoNT/A重鎖多様体のウエスタンブロット解析を示す。試料は、発酵の異なる時点で抽出し、参照試料(バンド2のみ、又はバンド1とバンド2の両方を示す)と共に流す。
図5図5は、異なる温度で行った主培養を回収したときの試料におけるBoNT/A重鎖多様体のウエスタンブロット解析の切取り図を含む表を示す。これらの表はまた、ELISAにより決定された同じ試料のBoNT/A濃度を示す。
図6図6は、小麦ペプトンに基づくVTPM、又は大豆ペプトンに基づくVTPMで成長させた主培養物を69時間で回収して得た毒素の含有量を示す。
図7図7は、ジャガイモ、ソラマメ、又は小麦由来のペプトンに基づくVTPM中で成長させた主培養物を69時間で回収して得た毒素の濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本開示に従う実施形態は、以下により十分に記載される。しかしながら、本開示の態様は、異なる形態で具体化されてもよく、本明細書に明記される実施形態に限定されるものと解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全であり、本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供される。本技術は、当然、変化し得る特定の方法、試薬、化合物組成物、又は生物学的系に限定されるものではないことが理解される。本明細書の記載において使用される用語は、特定の実施形態を記載するためのものに過ぎず、限定することは意図されない。
【0029】
別段定義されない限り、本明細書で使用されるすべての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本開示が属する当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。一般的に使用される辞書で定義されるような用語は、本出願の文脈及び関連技術におけるそれらの意味と一致する意味を有するものと解釈されるべきであり、本明細書で明確に定義されない限り、理想的又は過度に正式な意味で解釈されるべきではないこともさらに理解される。そのような用語は、以下に明示的には定義されないが、それらの一般的な意味に従って解釈されるべきである。
【0030】
加えて、本開示の特徴又は態様がマーカッシュ群で記載される場合、当業者であれば、本開示もまた任意の個々の要素又はマーカッシュ群の要素の下位群に関して記載されることを認識するであろう。
【0031】
当業者に理解されるように、ありとあらゆる目的のため、特に記載された説明を提供する観点から、本明細書で開示されるすべての範囲はまた、ありとあらゆる下位範囲及びその下位範囲の組み合わせをも包含する。任意の記載範囲は、十分に記述的であり、同じ範囲を少なくとも二等分、三等分、四等分、五等分、十等分などに分割することができることが容易に認識され得る。非限定的な一例として、本明細書で論じた各範囲は、下三分の一、中三分の一、及び上三分の一などに容易に分割することができる。また、当業者に理解されるように、「まで」、「少なくとも」、「超」、「未満」などすべての言語は、引用された数字を含み、上記のように順次下位範囲に分割することができる範囲を指す。最後に、当業者に理解されるように、1つの範囲は、個々の要素をそれぞれ含む。よって、例えば、1~3個の細胞を有する群は、1個の細胞を有する群、2個の細胞を有する群、又は3個の細胞を有する群を指す。同様に、1~5個の細胞を有する群は、1個の細胞を有する群、2個の細胞を有する群、3個の細胞を有する群、4個の細胞を有する群、5個の細胞を有する群などを指す。
【0032】
別段文脈が示さない限り、本明細書に記載の技術の様々な特徴が任意の組み合わせで使用され得ることが、具体的に意図される。さらに、本開示はまた、いくつかの実施形態では、本明細書に明記される任意の特徴又は特徴の組み合わせが、除外又は省略され得ることも企図する。説明すると、本明細書が、ある複合体が構成要素A、B、及び、Cを含むと述べる場合、A、B、もしくはCのいずれか、又はそれらの組み合わせが、単独又は任意の組み合わせで省略され、放棄され得ることが具体的に意図される。
【0033】
別段明示的に示されない限り、すべての特定の実施形態、特徴、及び用語は、列挙される実施形態、特徴、又は用語、及びそれらの生物学的等価物を含むことを意図する。
【0034】
本明細書で言及又は引用されたすべての特許、特許出願、仮出願、及び出版物は、本明細書の明示的な教示と矛盾しない限り、参照によりすべての図及び表を含むその全内容が組み込まれる。
【0035】
定義
本明細書で使用される場合、単数形「a(1つの)」、「an(1つの)」、及び、「the(その)」は、単数形のみを示すことが明確に述べられない限り、単数形及び複数形の両方を示す。
【0036】
常に明示されないものの、すべての数値的指定には、「約」又は「およそ」という用語が先行することを理解されたい。用語「約」又は「およそ」は、包含される数が、本明細書に明記される数きっかりに限定されず、本発明の範囲から逸脱することなく、実質的に列挙される数の付近にある数を指すことが意図されることを意味する。本明細書で使用される場合、「約」又は「およそ」は当業者によって理解され、それが使用される文脈である程度変動する。この用語の使用が、それが使用される文脈を考慮して、当業者にとって明確ではない場合、「約」又は「およそ」は、最大で特定の用語のプラスマイナス15%、10%、5%、1%、又は0.1%までを意味する(例えば、「約10」は10及び8.5~11.5の範囲として理解されるべきである)。
【0037】
また、本明細書で使用される場合、「及び/又は」は関連する列挙された項目の1つ以上のありとあらゆる可能な組み合わせだけでなく、代替案(「又は」)で解釈される場合、組み合わせの欠如も指し、それらを包含する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「動物生成物を含まない」、「本質的に動物生成物を含まない」、又は「実質的に動物生成物を含まない」は、それぞれ、「動物タンパク質を含まない」、「本質的に動物タンパク質を含まない」、又は「実質的に動物タンパク質を含まない」を包含し、血液由来、血液プール、及びその他の動物由来生成物又は化合物の欠如、本質的欠如、又は実質的欠如を意味する。「動物」は、哺乳類(ヒトなど)、鳥、爬虫類、魚類、昆虫、蜘蛛、その他の動物種を意味する。「動物」は、バクテリアなどの微生物を除外する。よって、本開示の範囲内の動物生成物を含まない培地又は工程、あるいは実質的に動物生成物を含まない培地又は工程は、ボツリヌス毒素又はクロストリジウム系ボツリヌス細菌を含むことができる。例えば、動物生成物を含まない工程、又は実質的に動物生成物を含まない工程は、動物由来タンパク質、例えば、免疫グロブリン、肉消化物、肉副産物、及び乳又は乳製品、又は乳消化物などを実質的又は本質的に、あるいは全く含まない工程を意味する。よって、動物生成物を含まない工程の一例は、肉及び乳製品あるいは肉又は乳製品を除外した工程(例えば、バクテリア培養過程又はバクテリア発酵過程)である。
【0039】
本明細書で使用される場合、「ボツリヌス毒素」は、クロストリジウム・ボツリヌスによって産生される神経毒素に加えて、非クロストリジウム種により組換えで作製されたボツリヌス毒素(又はその軽鎖あるいは重鎖)を意味する。本明細書で使用される場合、「ボツリヌス毒素」という用語はボツリヌス毒素血清A型、B型、C型、D型、E型、F型、及びG型を包含する。本明細書で使用される場合、ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素複合体(すなわち、300、600、及び900kDaの複合体)と純粋なボツリヌス毒素(すなわち約150kDa)の両方を含む。「精製ボツリヌス毒素」は、ボツリヌス毒素複合体を形成するタンパク質を含む他のタンパク質から単離又は実質的に単離されたボツリヌス毒素として定義される。純粋なボツリヌス毒素は、純度が95%超であってもよく、純度が99%超であることが好ましい。ボツリヌスC及びC細胞毒素は神経毒素ではないので、本開示の範囲から除外される。本明細書で使用される場合、「ボツリヌス毒素」はまた「改変ボツリヌス毒素」を包含する。
【0040】
「改変ボツリヌス毒素」は、元のボツリヌス毒素に比べてそのアミノ酸の少なくとも1個が削除、改変、又は置換されたボツリヌス毒素を意味する。加えて、改変ボツリヌス毒素は、組換えで作製された神経毒素、あるいは組換えで作製された神経毒素の誘導体又は断片であり得る。改変ボツリヌス毒素は、元のボツリヌス毒素の少なくとも1つの生物学的活性、例えば、ボツリヌス毒素受容体に結合する能力、又は神経からの神経伝達物質の放出を阻害する能力を保持する。改変ボツリヌス毒素の一例は、1種のボツリヌス毒素血清型(例えば、血清A型)に由来する軽鎖と、異なるボツリヌス毒素血清型(例えば、血清B型)に由来する重鎖を有するボツリヌス毒素である。改変ボツリヌス毒素の他の例は、物質Pなどの神経伝達物質に結合するボツリヌス毒素である。
【0041】
本明細書で使用される場合、「培地」又は「発酵培地」は、バクテリアを培養するための何れかの培地であって、産生培地の播種に用いられる種培養物を作製するための成長用培地であるか、又はバクテリアが成長して毒素を産生する産生培地であることを意味する。本開示による発酵培地の一例は野菜毒素産生培地(VTPM)である。
【0042】
本明細書で使用される場合、「クロストリジウム神経毒素」は、クロストリジウム細菌(例えば、クロストリジウム・ボツリヌス、クロストリジウム・ブチリカム、又はクロストリジウム・バラティ)から産生された神経毒素又はこれらに固有の神経毒素、及び非クロストリジウム種により組換えによって作製されたクロストリジウム神経毒素を意味する。クロストリジウム・ボツリヌス、破傷風菌、クロストリジウム・バラティ、及びクロストリジウム・ブチリカムによって産生されるクロストリジウム毒素は、ヒト及び他の哺乳類の治療及び美容処置において最も広く用いられている。C.ボツリヌス株は、抗原性が異なる7種のボツリヌス毒素(BoNT)を産生する。これら毒素は、ヒト(BoNT/A、7B、FE及び/F)、動物(BoNT/C及び/D)で大流行したボツリヌス中毒症を調査して同定したものであるか又は土壌から単離されたもの(BoNT/G)である。BoNTは、互いに約35%のアミノ酸同一性を有し、同じ機能ドメイン構成及び全体的構造設計を共有している。当業者によって認識されるように、それぞれのクロストリジウム毒素には、そのアミノ酸配列及びこれらのタンパク質をコードする核酸が幾分異なる亜種が存在し得る。例えば、現在、BoNT/A1、BoNT/A2、BoNT/A3、BoNT/A4、及びBoNT/A5という5つのBoNT/A亜種が存在する。これら特定の亜種は、他のBoNT/A亜種と比較した場合に約89%のアミノ酸同一性を示す。7つのBoNT血清型はすべて、類似の構造及び薬理特性を有するが、それぞれはまた異なる細菌学的特性を示す。これに対して、破傷風毒素(TeNT)は破傷風菌の均一な群によって産生される。他の2種のクロストリジウム、C.バラティ及びC.ブチリカムもまた、それぞれ、BoNT/F及びBoNT/Eに類似した毒素BaNT及びBuNTを産生する。
【0043】
クロストリジウム毒素は、クロストリジウム細菌により、結合した非毒素タンパク質(NAP)とともに約150kDaのクロストリジウム毒素を含む複合体として放出される。同定されたNAPは血液凝集活性を有するタンパク質を含み、例えば、約17kDaの赤血球凝集素(HA-17)、約33kDaの赤血球凝集素(HA-33)、及び約70kDaの赤血球凝集素(HA-70)、ならびに非毒性非赤血球凝集素(NTNH)、約130kDaのタンパク質(例えば、Eric A.Johnson and Marite Bradshaw、Clostridial botulinum and its Neurotoxins:A Metabolic and Cellular Perspective,39 Toxicon 1703-1722(2001);及びStephanie Raffestin et al.,Organization and Regulation of the Neurotoxin Genes in Clostridium botulinum and Clostridium tetani,10 Anaerobe 93-100(2004)を参照のこと)が挙げられる。よって、ボツリヌス毒素A型複合体は、クロストリジウム細菌により900kDa形態、500kDa形態、及び300kDa形態として産生され得る。ボツリヌス毒素B型及びC型は、一見して500kDa複合体としてのみ産生される。ボツリヌス毒素D型は300kDa複合体及び500kDa複合体として産生される。最後に、ボツリヌス毒素E型及びF型は、約300kDaの複合体としてのみ産生される。これら複合体の分子量の差は、NAPの比率が異なるためである。毒素複合体は中毒過程にとって重要である。なぜなら、毒素複合体によって悪環境条件から保護されて、プロテアーゼ消化に対する耐性が得られ、毒素の内部移行と活性化が容易になると思われる。
【0044】
クロストリジウム毒素は、それぞれ1本鎖ポリペプチドとして翻訳され、次いで、天然発生のプロテアーゼによるジスルフィドループ内でのタンパク質分解切断により開裂される。この開裂は、ジスルフィド架橋を形成する2個のシステイン残基間に形成される個別の2本鎖ループ領域内で起こる。この翻訳後処理により、単一のジスルフィド結合及び2本鎖間の非共有結合性相互作用によって結合された約50kDaの軽鎖(LC)と約100kDaの重鎖(HC)を含む2本鎖分子ができる。1本鎖分子を2本鎖に変換するのに用いられる天然発生のプロテアーゼは、現在のところ知られていない。血清型によっては、例えば、BoNT/Aでは、天然発生のプロテアーゼはバクテリアの血清型によって内因的に産生されて、毒素が環境に放出される前に細胞内で開裂が起こる。しかしながら、他の血清型、例えば、BoNT/Eでは、バクテリア株は毒素の1本鎖形態を2本鎖形態に変換することができる内因性プロテアーゼを産生しないようである。これらの状況において、毒素は1本鎖毒素として細胞から放出され、次いで、その環境で見られる天然発生のプロテアーゼにより2本鎖に変換される。
【0045】
本明細書で使用される場合、「含まない」又は「全く含まない」は、用いられる装置又は工程の検出範囲内でその物質を検出することができない、あるいはその存在を確認することができないことを意味する。
【0046】
本明細書で使用される場合、「本質的に含まない」は、その物質をほんの微量だけ検出することができることを意味する。本開示では、「本質的に含まない」は、その物質の量が組成物全体の0.1重量%未満であり、好ましくは0.01重量%未満、最も好ましくは0.001重量%未満であることを意味する。
【0047】
本明細書で使用される場合、「実質的に含まない」は、その物質の量が組成物全体の5重量%未満、好ましくは2重量%未満、最も好ましくは1重量%未満であることを意味する。
【0048】
本明細書で使用される場合、「培地」又は「発酵培地」は、バクテリアを培養するための何れかの培地を意味し、産生培地の播種に用いられる種培養物を作製するための成長培地であるか、又はバクテリアが成長して毒素を産生する産生培地である。
【0049】
本明細書で使用される場合、「作業細胞バンク」又は「WCB」は、単一のマスター細胞バンク(MCB)に由来する本質的に相同な細胞群を意味する。WCBは一般に、治療の開発及び製造に必要とされる。WCBは、何度か継代して成長させて凍結保存したMCBの単一バイアルから作製される。換言すると、WCB用の細胞はMCBから広がったものである。実際、ある細胞株を多くの製造サイクルに亘って用いる場合、マスター細胞バンク(MCB)と作業細胞バンク(WCB)からなる2段の細胞預託システムが広く推奨されている。
【0050】
本明細書で使用される場合、「野菜毒素産生培地」又は「VTPM」は、1種以上の野菜(例えば、小麦、大豆、ソラマメ、ジャガイモ、エンドウなど)に由来する1種またはそれ以上の成分を含む細胞培地を意味する。1種以上の野菜に由来する1種またはそれ以上の成分は、野菜消化物、ペプトン、又は抽出物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0051】
本明細書で使用される場合、「ペプトン」は、酵素又は酸による消化によって形成された加水分解タンパク性材料を意味する。
【0052】
本明細書で使用される場合、「野菜抽出物」は、アミノ酸及び低分子量ペプチド、炭水化物、ビタミン、及び他の成長因子を含む何れかの野菜の水性抽出物を意味する。
【0053】
本明細書で使用される場合、「植物ペプトン」は、微生物又は野菜酵素の使用、または酸加水分解により加水分解された植物由来のタンパク質性材料を意味する。ペプトンを形成するためのタンパク質基質は、野菜由来の何れかのタンパク質性材料であるか、あるいは例えば、米、小麦、又は大豆の粉から単離されたタンパク質濃縮物であってもよい。用語「酵母菌ペプトン」は、自己消化、微生物又は野菜酵素の使用、又は酸加水分解により加水分解された酵母細胞由来のタンパク質性材料を意味する。本開示の植物ペプトンは、1個のアミノ酸分子だけでなく、数個または数十個のアミノ酸からなるペプチド及び完全なタンパク質分子を含む混合物の形態である植物由来タンパク質の部分的消化生成物を指す。好ましくは、本開示の植物ペプトンは大豆ペプトン、小麦ペプトン、ソラマメペプトン、ジャガイモペプトン、エンドウペプトン、脱脂大豆ペプトン、又はルパン豆ペプトン、最も好ましくはエンドウペプトン及び小麦ペプトンである。
【0054】
本明細書で使用される場合、「OD600」は600nmの波長で測定された光学濃度を意味する。一般の当業者であれば、OD600測定が液体中の細胞(バクテリアを含む)濃度を見積もるための一般的な方法であることを認識している。OD600を決定する方法は、例えば、S.A.Janke、et al.,Microbiological Turbidity Using Standard Photometers,6 BIOSPEKTRUM 501-02(1999);K.Harnack、et al. Turbidity Measurements (OD600) with Absorption Spectrometers,6 BIOSPEKTRUM 503-04(1999)により記載されている。
【0055】
野菜毒素産生培地(VTPM)
病原性バクテリアの成長及びその毒素の産生のため、野菜抽出物を培地に使用することができる。野菜抽出物は、アミノ酸及び低分子量ペプチド、比較的高濃度の炭水化物、ビタミン、及び他の成長因子を含む植物の水性抽出物である。本開示によれば、ジャガイモ、小麦、米、小麦と米の混合物、綿、又はエンドウを含む植物由来のペプトンなど、植物由来タンパク質は動物由来生成物を置換して、クロストリジウム・ボツリヌス菌の成長を助けることができる。開示されたVTPMの目的で使用してもよいペプトンとしては、小麦ペプトンCAS#94350-06-8、小麦ペプトンE1、小麦ペプトンE260、エンドウペプトンCAS#100209-45-8、エンドウペプトンA482、エンドウペプトンA2501、ジャガイモペプトンCAS#100209-45-8、ジャガイモペプトンE210、ジャガイモペプトンL8、ジャガイモペプトンA2401、米ペプトン19560、綿ペプトン200、大豆ペプトンCAS#91079-46-8、大豆ペプトンA3SC、大豆ペプトンA2SC、及び他の植物ペプトン又は野菜ペプトンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
実施形態によっては、上記ペプトンは小麦ペプトンである。特定の実施形態では、発酵培地中の小麦ペプトンの濃度は、発酵培地の5~50g/Lの間、好ましくは10~40g/Lの間、好ましくは15~30g/Lの間、好ましくは15~25g/Lの間、より好ましくは約20g/Lである。実施形態によれば、発酵培地中の小麦ペプトンの濃度は、約5g/L、約10g/L、約15g/L、約20g/L、約25g/L、約30g/L、約35g/L、約40g/L、約45g/L、又は約50g/Lである。
【0057】
本開示によれば、上記発酵培地は酵母菌抽出物を含む。酵母抽出物は、一般に、一次酵母菌の塩を含まない自己消化とそれに続く広範囲な精製により得られ、これによって芽胞及びDNAなどの望ましくない成分を含まない酵母菌抽出物とする。
【0058】
本開示によれば、上記発酵培地は、酵母菌抽出物をさらに含む。実施形態によっては、発酵培地中の酵母菌抽出物の濃度は、発酵培地の5~50g/Lの間、好ましくは10~40g/Lの間、好ましくは15~30g/Lの間、好ましくは15~25g/Lの間、より好ましくは約20g/Lである。実施形態によっては、発酵培地中の酵母菌抽出物の濃度は約5g/L、約10g/L、約15g/L、約20g/L、約25g/L、約30g/L、約35g/L、約40g/L、約45g/L、又は約50g/Lである。
【0059】
C.ボツリヌスを成長させるのにグルコース及びグリセロールを含む様々な炭素源が用いられている。炭素を含有する窒素源を用いる場合(C.ボツリヌスはアミノ酸から炭素を資化することができる)、個別の炭素源の添加は必ずしも必要ではないが、さらなる炭素源が存在すれば発酵時の成長速度はより高まる。
【0060】
本開示によれば、上記発酵培地はD-(+)-グルコースを含む。実施形態によっては、発酵培地中のD-(+)-グルコースの濃度は、発酵培地の0.5~20g/Lの間、好ましくは1.0~10g/Lの間、好ましくは2.5~7.5g/Lの間、好ましくは3.5~6.5g/Lの間、より好ましくは約5g/Lである。実施形態によっては、発酵培地中のD-(+)-グルコース濃度は、約0.5g/L、約0.6g/L、約0.7g/L、約0.8g/L、約0.9g/L、約1.0g/L、約1.5g/L、約2.0g/L、約2.5g/L、約3.0g/L、約3.5g/L、約4.0g/L、約4.5g/L、約5.0g/L、約5.5g/L、約6.0g/L、約6.5g/L、約7.0g/L、約7.5g/L、約8.0g/L、約8.5g/L、約9.0g/L、約9.5g/L、約10.0g/L、約11.0g/L、約12.0g/L、約13.0g/L、約14.0g/L、約15.0g/L、約16.0g/L、約17.0g/L、約18.0g/L、約19.0g/L、又は約20.0g/Lである。
【0061】
本開示によれば、上記発酵培地はまた、L-システイン塩酸塩一水和物を含む。実施形態によっては、発酵培地中のL-システイン塩酸塩一水和物の濃度は、発酵培地の0.05~5g/Lの間、好ましくは0.1~5g/Lの間、好ましくは0.1~2.5g/Lの間、好ましくは0.15~1.5g/Lの間、より好ましくは約0.2g/Lである。実施形態によっては、発酵培地中のL-システイン塩酸塩一水和物の濃度は、約0.05g/L、約0.06g/L、約0.07g/L、約0.08g/L、約0.09g/L、約0.10g/L、約0.15g/L、約0.20g/L、約0.25g/L、約0.30g/L、約0.35g/L、約0.40g/L、約0.45g/L、約0.50g/L、約0.55g/L、約0.60g/L、約0.70g/L、約0.75g/L、約0.80g/L、約0.85g/L、約0.90g/L、約0.95g/L、約1.0g/L、約1.5g/L、約2.0g/L、約2.5g/L、約3.0g/L、約3.5g/L、約4.0g/L、約4.5g/L、又は約5.0g/Lである。
【0062】
本開示によれば、上記発酵培地は医療用消泡剤C乳化液(Dow Corning(登録商標))を含んでいてもよい。実施形態によっては、発酵培地中の医療用消泡剤C乳化液の濃度は、約0.05g/Lと約0.50g/Lの間、約0.10g/Lと約0.40g/Lの間、約0.20g/Lと約0.30g/L、又は約0.22g/Lと約0.26g/Lの間(あるいはこれらの間の範囲)である。実施形態によっては、発酵培地中の医療用消泡剤C乳化液の濃度は、約0.05g/L、約0.10g/L、約0.12g/L、約0.14g/L、約0.16g/L、約0.18g/L、約0.20g/L、約0.22g/L、約0.24g/L、約0.26g/L、約0.28g/L、約0.30g/L、約0.32g/L、約0.34g/L、約0.36g/L、約0.38g/L、約0.40g/L、約0.45g/L、又は約0.50g/L、又はこれらの間の任意の値である。一実施形態では、発酵培地中の医療用消泡剤C乳化液の濃度は約0.24g/Lである。
【0063】
本開示によれば、VTPMのpHは5と8の間、好ましくは6と7.8の間、例えば、約6.1、6.3、6.5、6.7、6.9、7.0、7.1、7.3、7.5、及び7.7である。
【0064】
培養条件
本開示によれば、ボツリヌス毒素を製造する第一の工程は、作業細胞バンク(WCB)由来のクロストリジウム・ボツリヌス菌を前培養することである。特定の一実施形態では、上記WCBは、まず土壌試料から固有のC.ボツリヌスA1型株を単離することにより作製される。上記株をさらに培養して芽胞を形成させ、マスター細胞バンク(MCB)として複数の(例えば、100個の)0.5mL分取分中で冷凍させる。MCBの個々の分取分を培養して芽胞を形成させ、これら芽胞をWCBとして複数の(例えば、500個の)0.5mL分取分中で冷凍させる。
【0065】
特定の一実施形態では、WCBを解凍して、野菜毒素産生培地(VTPM)を含む発酵袋に加える。特定の一実施形態では、上記発酵袋は、培地の供給、播種、試料の回収、気体の導入及び排出のための口及び/又は管を含む殺菌済みで柔軟性のある単回使用向け発酵袋である。特定の一実施形態では、殺菌環境を確実にするため、上記発酵袋は気体供給口及び/又は管に0.2μmの気体フィルターを備える。好ましい一実施形態では、VTPMは約37±1℃に予備加熱されて、濾過された窒素ガスでパージして嫌気性環境とする。
【0066】
嫌気性環境は溶存酸素(DO)が2%未満である環境として定義される。実施形態によっては、溶存酸素(DO)は2.0%未満、1.9%未満、1.8%未満、1.7%未満、1.6%未満、1.5%未満、1.4%未満、1.3%未満、1.2%未満、1.1%未満、1.0%未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.09%未満、0.08%未満、0.07%未満、0.06%未満、0.05%未満、0.04%未満、0.03%未満、0.02%未満、又は0.01%未満であってよい。特定の一実施形態では、溶存酸素は約0%であってよい。特定の一実施形態では、WCBは室温で5分間解凍された後、500mLのVTPMを含む発酵袋に400μlのWCBを添加する前に各回5秒間3回ボルテックスされる。
【0067】
OD600が容認可能な値、例えば、約0.1と約1.0の間、約0.1と約0.5の間、又は好ましくは約0.2と約0.4の間(あるいはこれらの間の範囲)に達して前培養物が作製されるまで、発酵過程は継続される。実施形態によっては、OD600は約0.1、約0.2、約0.3、約0.4、約0.5、約0.6、約0.7、約0.8、約0.9、又は約1.0の値に達する。
【0068】
特定の一実施形態では、C.ボツリヌス以外の他の微生物に関する微生物学的純度の試験は、工程内管理における前培養として行われる。特定の一実施形態では、この試験は、発酵中のバクテリア培養物に起こりうる汚染を検出するために行われる。クロストリジウム・ボツリヌスのみが存在し、検出されなければならない。C.ボツリヌス培養物中に何らかの汚染バクテリア又は菌類が存在する可能性を選別するため、この試験は異なる培地及び環境条件で行われる。特定の一実施形態では、嫌気性バクテリアを検出するため、嫌気性条件下、30~35℃でインキュベートしたヒツジ血液寒天プレートに10μLの培養物を筋状に載せる。特定の一実施形態では、好気性バクテリアを検出するため、1mLの培養物をTSAと混合し、30~35℃でインキュベートする。特定の一実施形態では、酵母菌及びカビを検出するため、1mLの試料をSABと混合し、20~25℃でインキュベートする。TSAプレート及びSABプレートで成長があってはいけない。また、ヒツジ血液プレート上で成長する全てのコロニーは同じ(クロストリジウムの)形態を有していなければならない。次いで、血液プレート由来のコロニーをグラム染色して、グラム陽性の棒状バクテリア及び芽胞が示されなければならない。C.ボツリヌスの生菌数は工程内監視のために分析される。
【0069】
ボツリヌス毒素を製造する次の工程が主培養である。特定の一実施形態では、4500mlのVTPMを含む発酵袋に前培養物を加え、33±1℃まで予備加熱し、濾過された窒素ガスでパージして嫌気性環境とした。嫌気性環境は、溶存酸素(DO)が2%未満の環境として定義される。実施形態によっては、溶存酸素(DOは1.9%未満、1.8%未満、1.7%未満、1.6%未満、1.5%未満、1.4%未満、1.3%未満、1.2%未満、1.1%未満、1.0%未満、0.9%未満、0.8%未満、0.7%未満、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満、0.1%未満、0.09%未満、0.08%未満、0.07%未満、0.06%未満、0.05%未満、0.04%未満、0.03%未満、0.02%未満、又は0.01%未満(あるいはこれらの間の範囲)であってもよい。特定の一実施形態では、溶存酸素は約0%、約0.01%、約0.02%、約0.03%、約0.04%、約0.05%、約0.06%、約0.07%、約0.08%、約0.09%、約0.1%、約0.2%、約0.3%、約0.4%、約0.5%、約0.6%、約0.7%、約0.8%、約0.9%、約1.0%、約1.1%、約1.2%、約1.3%、約1.4%、約1.5%、約1.6%、約1.7%、約1.8%、約1.9%、又は約2.0%であってもよい。
【0070】
実施形態によっては、上記発酵過程は、約60時間と約80時間、約65時間と約75時間、又は約67時間と約71時間(あるいはこれらの間の範囲)の間、継続される。実施形態によっては、上記発酵過程は、約60時間、約65時間、約66時間、約67時間、約68時間、約69時間、約70時間、約71時間、約72時間、約73時間、約74時間、約75時間、約76時間、約77時間、約78時間、約79時間、又は約80時間、継続される。実施形態によっては、上記発酵過程は約69±2時間、約69±1時間、約69±0.5時間、又は約69±0.2時間、継続される。一実施形態では、上記工程(c)は約69時間行われる。
【0071】
特定の一実施形態では、C.ボツリヌス以外の他の微生物に関する微生物学的純度の試験は、工程内管理における前培養として行われる。C.ボツリヌスの生菌数は工程内監視のために分析される。
【実施例
【0072】
実施例1:前培養
2Lの発酵袋に500mLの野菜毒素産生培地(VTPM)(表1)を加えて、37℃に予備加熱し、濾過した窒素ガスでパージして嫌気性環境とした。溶存酸素(DO)の工程内管理は、DOが2%未満になるまで行われた。作業細胞バンク(WCB)の1バイアルを室温で5分間解凍した後、各回5秒間3回ボルテックスしてから、発酵袋にA等級の空気を供給下、ピペットで400μlのWCBを加え、次いで、この発酵袋をバイオ反応器に入れた。
【0073】
作業細胞バンク(WCB)については、独占所有権のある細胞バンクを用いた。要するに、ボツリヌス毒素型A1を土壌試料から単離する。このWCBについて、毒素オペロンは、代表的なI群(タンパク質分解)ボツリヌス毒素産生バクテリアであるStrain Hall,ATCC 3502と100%同一である。
【0074】
温度を37±1℃、撹拌角度を12°、振動周波数を12min-1に設定した。酸素濃度(DO)及びpHをリアルタイムで監視した。発酵を継続し、OD600が約19時間後に0.2~0.4の範囲の値に達するまでOD600の工程内管理を行った。
【0075】
前培養工程の終わりに、前培養工程内管理としてC.ボツリヌス以外の微生物について微生物学的純度の試験を行った。C.ボツリヌスの生菌数を工程内監視のために分析した。
【0076】
【表1】
【0077】
実施例2:主培養及び発酵
窒素ガス流下、10Lの発酵袋に4500mlのVTPMを充填し、撹拌角度12°、振動周波数12min-1のバイオ反応器上で33±1℃に予備加熱した。上記工程からの前培養物を発酵袋に吸い上げることで加えた。袋を窒素ガスでパージして嫌気性環境とし、溶存酸素(DO)の工程内管理をDOが2%未満で安定するまで行った。
【0078】
発酵は、主培養物の播種から69±2時間継続した。回収する培養物の工程内管理は、C.ボツリヌス以外の微生物について微生物学的純度を試験することにより行われる。C.ボツリヌスの生菌数は工程内監視のために分析される。
【0079】
要するに、微生物学的純度の試験は、発酵中のバクテリア培養物に起こりうる汚染を検出するために行われる。クロストリジウム・ボツリヌスのみが存在し、検出されなければならない。C.ボツリヌス培養物中に何らかの汚染バクテリア又は菌類が存在する可能性を選別するため、この試験は異なる培地及び環境条件で行われる。嫌気性バクテリアを検出するため、嫌気性条件下、30~35℃でインキュベートしたヒツジ血液寒天プレートに10μLの培養物を筋状に載せる。好気性バクテリアを検出するため、1mLの培養物をTSAと混合し、30~35℃でインキュベートする。酵母菌及びカビを検出するため、1mLの培養物をSABと混合し、20~25℃でインキュベートする。TSAプレート及びSABプレートで成長があってはいけない。また、ヒツジ血液プレート上で成長する全てのコロニーは同じ(クロストリジウムの)形態を有していなければならない。次いで、血液プレート由来のコロニーをグラム染色して、グラム陽性の棒状バクテリア及び芽胞が示されなければならない。
【0080】
【表2】
【0081】
主培養物をサンプリングして、600nmの光学濃度(OD600)を測定することでC.ボツリヌスの成長を監視する。図2には、実施例2に従って行ったVTPM中でのC.ボツリヌスの主培養に関する光学濃度曲線(吸光度:600nm)が示されている。経時の600nmでの吸光度から主培養物の成長曲線が得られる。始めの15時間でOD600がおよそ7まで増加し、急速な成長が見られる。その後、バクテリアの溶解及び毒素分子の放出によりOD600はおよそ1まで同じように急速に低下している。残りの時間について、およそ40時間から回収した69±2時間まではOD600は比較的安定しており、僅かな増加を示している。
【0082】
図3は、主培養物の発酵中の工程内pH監視の結果を示している。主培養物のpHの変動は、初期のpH7から約15時間あたり(OD600がピークに達するのとほぼ同じ時間)でpHはおよそ5.7まで低下するという典型的なパターンを示している。15時間後では、pHはゆっくりとではあるが上昇し続けて、69時間(すなわち、回収時)で6.3となる。
【0083】
回収時の主培養物中の毒素の収率は、BONT/A特異的ELISAで測定することができる。実施例2によって成長させた主培養物中で生成された平均濃度は4.9μg/mLであり、標準偏差は0.75である。
【0084】
ELISAのプロトコルは、USP <1103>,“Immunological Test Methods―Enzyme-linked Immunosorbent Assay”に記載された原理及び一般的方法に基づいた間接サンドイッチELISAである。このELISA法は、異なる2種類のBoNT/A特異的ポリクロナール抗体を用いたBoNT/Aの免疫的結合及び検出に基づいている。
【0085】
BoNT/AをPBS-Tween溶液(0.05%のTween-20)で3~28ng/mLの濃度範囲に希釈することで市販のBoNT/A毒素に基づくタンパク質標準連続希釈液を作製する。PBS-Tweenでタンパク質標準希釈液の範囲に希釈された試料の3つ同じものをポリクロナール抗BoNT/A抗体で被覆したマイクロプレートウェルに加える。インキュベートにより抗体が識別され、BoNT/A抗原のウェルへの結合が得られる。各インキュベーション後にはPBS-Tween溶液を用いた自動洗浄工程が行われる。
【0086】
一次検出は別の種類のポリクロナール抗BoNT/A抗体の結合によって行われ、サンドイッチ複合体が形成される。次いで、セイヨウワサビ・ペルオキシダーゼ(HRP)に結合させた二次抗体を加える。これが一次抗体と結合して、サンドイッチ複合体内のBoNT/Aを検出することができる。次いで、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)基質を試料ウェルに加える。HRPはTMB基質を変換して青色の反応生成物が生じる。停止溶液を加えてTMBの変換を停止し、残りのTMBの黄色への色変換を開始する。各マイクロプレートウェルの吸光度をプレートリーダーにて450nmで検出し、測定された吸光度をウェル内のBoNT/A量に正比例させる。試料の吸光度値は、BoNT/A標準希釈液から得た吸光度値に基づく標準曲線と比較することで算出される。結果は、平均値(単位:μg/mL)として報告される。
【0087】
主培養物の発酵中、およそ15時間後に毒素は培地中で検出可能になる。主培養物の還元発酵試料中の毒素の含有量をポリクロナール抗BoNT/A抗体によるウエスタンブロット解析によって分析する場合、異なる毒素重鎖多様体が検出される。図4はそのようなウエスタンブロット解析の一例を示しており、主発酵時(20~77時間の試料)に形成された重鎖バンド1及び重鎖バンド2が確認される。
【0088】
発酵の初期段階では目に見える3つの主要なバンドがあり、これらは160kDaの未開裂の前毒素ポリペプチド、およそ100kDaの重鎖バンド1、及び完全に成熟したBoNT/Aのバンド1のちょうど下を流れる重鎖バンド2を表している。発酵中、未開裂の前毒素ポリペプチド及び重鎖バンド1は徐々に消えて、成熟重鎖バンド2のアイソフォームに変換される。回収時(69±2時間)には成熟重鎖バンド2のアイソフォームのみが主培養物中に存在する。
【0089】
BoNT/Aタンパク質のバンド2重鎖アイソフォームへの成熟は、発酵時間によって調整されるが、発酵温度もその他の重要な因子である。図5は、異なる温度で行った主培養を回収した時のBoNT/A重鎖多様体の(ウエスタンブロット解析からの)切取り図を含む表を示している。この表はまた、同じ試料のBoNT/A濃度(ELISAによって決定されたように)を提供する。30℃又はそれ以下の温度では、成熟は主培養物の発酵69時間目では完全には終わっていない。35℃又はそれ以上の発酵温度では、バンド2重鎖アイソフォームへの成熟は69時間で完了しているが、培地中のBoNT/A濃度は低い。これらのことから、このデータは主培養に最適な温度は約33℃であることを示している。この温度で、完全に成熟BoNT/Aを高い毒素収率で生成することができる。
【0090】
実施例3:その他の植物由来ペプトンとの比較
小麦ペプトンは別として、C.ボツリヌスの成長及びボツリヌス毒素の製造用のVTPM培地は他の植物ペプトン(例えば、大豆、ジャガイモ、又はソラマメペプトン)に基づくことができる。
【0091】
図6は、同じ総量の大豆ペプトンに基づくVTPM(塗りつぶしバー)又は小麦ペプトンに基づくVTPM(影付きバー)内にて30℃で成長させたC.ボツリヌスの主培養物中に得られたボツリヌス毒素の量を示している。このデータから、小麦ペプトンは毒素収率を幾分高くするだけでなく、より強固で一貫性のある工程としていることが分かる。
【0092】
図7は、ジャガイモ、ソラマメ、又は小麦ペプトンに基づくVTPM中30℃で成長させたC.ボツリヌスの主培養物内で得られた毒素の濃度を示している。3種類のVTPM培地はすべて、回収時に1μg/mLを超える毒素濃度を達成している。しかしながら、小麦ペプトンの収率は、ジャガイモペプトン及びソラマメペプトンに基づくVTPMよりも実質的に多い量の毒素(約4μg/mL)を達成していることが分かる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】