(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(54)【発明の名称】腱再生効果を示す皮膚由来線維芽細胞およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20230217BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20230217BHJP
A61K 35/33 20150101ALI20230217BHJP
A61K 31/728 20060101ALI20230217BHJP
A61K 31/734 20060101ALI20230217BHJP
A61K 38/39 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61P21/00
A61K35/33
A61K31/728
A61K31/734
A61K38/39
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021574812
(86)(22)【出願日】2021-05-04
(85)【翻訳文提出日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 KR2021005591
(87)【国際公開番号】W WO2022114412
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0162290
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513225811
【氏名又は名称】テゴ サイエンス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】チョン,セファ
(72)【発明者】
【氏名】ハン,ジクヒョン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ユンヒ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジヘ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA30
4B065BC02
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084MA02
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA25
4C086ZA94
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087MA02
4C087NA14
4C087ZA94
(57)【要約】
本発明は、腱再生効果を示すヒト皮膚由来線維芽細胞およびこれを有効成分として含む腱再生および治療用薬学的組成物に関し、前記同種皮膚由来線維芽細胞は、腱細胞と細胞形態学的に類似しており、線維芽細胞マーカーであるビメンチン発現レベルが高く、細胞外基質タンパク質を多量発現し、TGF-β、ERK信号伝達機序に作用してコラーゲン合成を増加させることができるので、損傷した腱を効率的に再生させることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に由来し、腱細胞と比較してビメンチン、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンV、フィブロネクチンおよびエラスチンよりなる群から選ばれる1つ以上のタンパク質の発現が増加した、筋再生効果を有する線維芽細胞。
【請求項2】
前記線維芽細胞は、自家または同種由来である、請求項1に記載の筋再生効果を有する線維芽細胞。
【請求項3】
前記線維芽細胞は、2継代以上継代培養されたものである、請求項1に記載の筋再生効果を有する線維芽細胞。
【請求項4】
前記線維芽細胞は、pH6.5~pH8.0の培地で1継代以上継代培養されたものである、請求項3に記載の筋再生効果を有する線維芽細胞。
【請求項5】
前記線維芽細胞は、1継代当たり細胞集団倍加レベル(population doubling level)が2.5~5.0の範囲であることである、請求項1に記載の筋再生効果を有する線維芽細胞。
【請求項6】
前記線維芽細胞は、腱細胞と比較してTGF-β(transforming Growth factor-β)の分泌が増加したものである、請求項1に記載の筋再生効果を有する線維芽細胞。
【請求項7】
前記線維芽細胞は、ERK(extracellular-signal regulated kinase)信号伝達経路を活性化させるものである、請求項1に記載の筋再生効果を有する線維芽細胞。
【請求項8】
請求項1に記載の腱再生効果を有する線維芽細胞を有効成分として含む、腱疾患の改善または治療用薬学的組成物。
【請求項9】
前記腱疾患は、回旋筋腱板断裂、アキレス腱疾患、腱炎、腱損傷および腱剥離よりなる群から選ばれるものである、請求項8に記載の腱疾患の改善または治療用薬学的組成物。
【請求項10】
前記組成物は、ヒアルロン酸(Hyaluronic acid)、アルギネート(Alginate)およびフィブリン(Fibrin)よりなる群から選ばれる高分子伝達体をさらに含む、請求項8に記載の腱疾患の改善または治療用薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の腱再生効果を有する線維芽細胞または請求項8に記載の腱疾患の改善または治療用薬学的組成物を、治療が必要な個体に投与する段階を含む、腱疾患の改善または治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腱再生効果を示す皮膚由来線維芽細胞およびこれを有効成分として含む腱の再生および治療用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
腱(tendon)は、筋肉と骨(bone)を連結させ、筋肉で生成された力を骨に伝達して関節運動を起こす結合組織であり、腱細胞(tenocyte)とコラーゲン(collagen)等の細胞外基質(extra cellular matrix,ECM)で構成されている。腱細胞は、腱特異的線維芽細胞であり、腱の基質生成および維持の役割をする。外傷による腱の損傷は、運動や作業、日常生活でも頻繁に発生し、老化によって退行性変化による腱の炎症や部分断裂等は、ささいな外傷によっても発生しうる。
【0003】
回旋筋腱板断裂(rotator cuff tear)は、肩骨を囲み、上腕が自由に動くのを助ける4つの筋肉である棘上筋(supraspinatus)、棘下筋(infraspinatus)、小円筋(teres minor)および肩甲下筋(subscapularis)の腱(tendon)が、老化現象等のような原因によって部分的または全体的に断裂することをいう。回旋筋腱板断裂は、肩病変の約70%を占め、老齢化およびスポーツ人口の増加等によって発生が増加している。現在までの治療法は、手術縫合が大部分であるが、縫合後に再断裂の割合が高くて、代替治療法の開発が求められている。
【0004】
現在まで商用化された類似細胞治療剤として腱細胞を用いた自家由来細胞治療剤があるが、細胞治療剤の原料細胞を得るためには、患者の正常腱組織を採取する手術を伴わなければならないという短所がある。
【0005】
他方で、線維芽細胞を治療剤として活用できると、線維芽細胞は、相対的に非侵襲的な方法で容易に採取することができ、必要に応じてすぐに利用できるように品質基準を確保した既製器(ready-made)の形態で製造することができるので、前記自家由来腱細胞を用いた細胞治療剤の問題点を解決することができる。したがって、同種由来腱細胞以外に線維芽細胞を用いた腱損傷治療剤を開発する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明者らは、線維芽細胞を用いた腱損傷治療剤を開発するために努力し、ヒト皮膚に由来し、腱細胞と比較してビメンチン、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンV、フィブロネクチンおよびエラスチンよりなる群から選ばれる1つ以上の発現が増加した線維芽細胞が、腱再生効果を有することを確認して、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様は、
皮膚に由来し、腱細胞と比較してビメンチン、コラーゲンI、コラーゲンIII、コラーゲンV、フィブロネクチンおよびエラスチンよりなる群から選ばれる1つ以上のタンパク質の発現が増加したことを特徴とする腱再生効果を有する線維芽細胞(皮膚由来線維芽細胞)を提供する。
【0008】
本明細書において、「線維芽細胞(fibroblast)」とは、多様な組織で発見される多様性の大きい中胚葉細胞を意味し、アメリカ国立衛生研究所のデータベースMeSHによれば、その定義は、「コラーゲンおよび高分子物質を豊富に分泌する結合組織細胞(connective tissue cells which secrete an extracellular matrix rich in collagen and other macromolecules)である。
【0009】
本明細書において、「腱(tendon)」とは、筋肉と骨を連結させ、筋肉で生成された力を骨に伝達して関節運動を起こす結合組織であり、腱の重さの85~95%をタイプIコラーゲンが占め、タイプIIIコラーゲンが約5%以内、プロテオグリカンが約5%以内を占める。また、フィブロネクチン、エラスチン等が組織内堅固な細胞スキャフォールド(cell scaffold)を提供する。
【0010】
本発明者らは、自家由来腱細胞を用いた細胞治療剤の問題点を解決するために、自家または同種(allogenic)の細胞を比較的非侵襲的な方法で得ることができる線維芽細胞を用いた。具体的に、供与者から分離した正常皮膚組織を細切し、細胞基質等を分解させて、線維芽細胞のみを分離した。前記供与者は、適合性評価によって細胞バンクの構築に適合したと評価されたヒトであってもよく、特定の供与者に限定されるものではない。したがって、本発明の皮膚由来線維芽細胞は、自家または同種由来でありうる。同種由来線維芽細胞は、他家に由来する線維芽細胞をいう。
【0011】
供与者から分離した線維芽細胞は、37℃および10%CO2の条件で一次培養を開始し、一般細胞培養とは異なって、細胞培養培地のpHを7.4に維持するために、10%CO2を細胞培養に使用した。培養皿に細胞が70%~80%程度でpreconfluentな密集度で満たされると、継代培養を行い、継代2にマスターセルバンク、継代6でワーキングセルバンクを樹立した。
【0012】
したがって、本発明の一具体例によれば、前記皮膚由来線維芽細胞は、2継代以上継代培養されたものであり、好ましくは、6継代以上培養されたものであってもよく、pH6.5~pH8.0の培地で継代培養されたものである。
【0013】
また、本発明の一具体例によれば、前記皮膚由来線維芽細胞は、1継代当たり細胞集団倍加レベル(population doubling level)が2.5~5.0の範囲であり、この数値は、継代培養が持続しても、比較的一定のレベルに維持される。他方で、ヒト腱細胞は、継代培養が持続すると、細胞集団倍加レベルが顕著に減少する(
図2)。ここで、1継代というのは、1培養皿に細胞を接種(seeding)した後、preconfluentな密集度で約6日間培養した細胞を称する。
【0014】
本発明の一具体例によれば、前記皮膚由来線維芽細胞は、細胞外基質の形成および組織再生の促進に関与すると報告されたサイトカインおよび信号伝達物質の発現が増加したものでありうる。具体的に、腱細胞と比較して、TGF-β(transforming Growth factor-β)の分泌が増加し、ERK(Extracellular-signal regulated kinase)信号伝達に関与するp-ERK 1/2(phosphorylated extracellular-signal regulated kinase 1/2)の発現およびコラーゲンI発現もまた増加した状態である。
【0015】
また、本発明の皮膚由来線維芽細胞は、長期間保管後、解凍した場合にも、細胞生存率が約70%以上であり、細胞外基質であるコラーゲンが単位細胞数106当たり0.10μg以上確認されるので、細胞の品質もまた顕著に優れている。
【0016】
したがって、本発明の他の態様は、前記腱再生効果を有する線維芽細胞を有効成分として含む腱疾患の改善または治療用薬学的組成物を提供する。
【0017】
本発明の一具体例によれば、腱疾患は、回旋筋腱板断裂、アキレス腱疾患、腱炎、腱損傷および腱剥離よりなる群から選ばれ得、好ましくは、回旋筋腱板断裂でありうる。
【0018】
本発明者らは、回旋筋腱板断裂の動物モデルに腱再生効果を有する線維芽細胞を注入した結果、回旋筋腱板断裂のない正常群と類似したレベルまで腱組織が再生することを確認した(
図8)。
【0019】
また、腱再生の機序を確認するために、腱再生効果を有する線維芽細胞の溶解物を腱細胞に処理した結果、ERK信号伝達に関与するp-ERK 1/2の発現が著しく増加し、コラーゲンI発現もまた増加することを確認した(
図9)。
【0020】
前記腱疾患の改善または治療用薬学的組成物は、薬効を増進させることができる高分子伝達体であるヒアルロン酸(Hyaluronic acid)、アルギネート(Alginate)、フィブリン(Fibrin)等の補助剤をさらに含むことができる。このような高分子伝達体は、生体適合性を有さなければならないし、細胞の伝達を助け、細胞の生存率に影響を及ぼさずに、物性を良好にする役割をして、薬効を増進させることができる。
【0021】
また、前記腱疾患の改善または治療用薬学的組成物は、細胞凍結防止剤であるDMSO(dimethyl sulfoxide)をさらに含むことができ、細胞凍結培地の2%~15%の濃度で含まれ得る。DMSOは、細胞凍結時期に氷の形成過程で非浸透性細胞外液の濃度を変化させて、脱水を防止する。
【0022】
また、前記腱疾患の改善または治療用薬学的組成物は、有効成分以外に薬学的に許容される担体をさらに含むことができる。前記組成物に含まれる薬学的に許容される担体は、製剤の製造に通常的に用いられるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾアート、プロピルヒドロキシベンゾアート、滑石、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイル等を含むが、これらに限定されるものではない。
【0023】
前記腱疾患の改善または治療用薬学的組成物は、非経口で投与することが好ましい。非経口投与である場合には、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、皮内投与、局所投与等で投与することができ、患部に直接注射することができる。
【0024】
前記腱疾患の改善または治療用薬学的組成物の適切な投与量は、成人を基準として100~100,000,000(102~108)cells/kgの範囲内である。用語「薬学的有効量」は、腱損傷を予防したりまたは損傷した腱を治療するのに十分な量を意味する。
【0025】
前記組成物は、当該当業者が容易に実施できる方法によって、薬学的に許容される担体および/または賦形剤を用いて製剤化することによって、単位用量の形態で製造したり、または多用量の容器内に内入させて製造することができる。また、前記組成物は、個別治療剤で投与したり、他の治療剤と併用して投与することができ、従来の治療剤とは順次にまたは同時に投与することができる。また、1回または必要に応じて追加投与することができ、縫合等の外科的手術との併用で使用したりまたは単独で投与することができる。
【0026】
前記腱再生効果を有する線維芽細胞を有効成分として含む腱疾患の改善または治療用薬学的組成物は、細胞治療剤の形態で提供することができる。前記「細胞治療剤」とは、「細胞の組織と機能を復元させるために、生きている自家、同種または異種細胞を体外で増殖選別したり、その他の方法で細胞の生物学的特性を変化させる等の一連の行為を通じて治療、診断および予防の目的で使用される医薬品」を意味する。
【0027】
また、本発明は、請求項1に記載の腱再生効果を有する線維芽細胞または請求項8に記載の腱疾患の改善または治療用薬学的組成物を、治療が必要な個体に投与する段階を含む腱疾患の改善または治療方法を提供する。腱疾患の種類、薬学的組成物または線維芽細胞の投与量、投与方法は、前記腱疾患の改善または治療用薬学的組成物に記載したのと同一である。
【発明の効果】
【0028】
本発明の一例による腱再生効果を有する同種皮膚由来線維芽細胞は、腱細胞と細胞形態学的に類似しており、線維芽細胞マーカーであるビメンチン発現レベルが高く、細胞外基質タンパク質を多量発現し、TGF-β、ERK信号伝達機序に作用してコラーゲン合成を増加させることができるので、損傷した腱を効率的に再生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一例による皮膚由来線維芽細胞でヒト由来同種皮膚線維芽細胞バンクを構築する模式図である。
【
図2】ヒト由来腱細胞(A)および皮膚由来線維芽細胞(B)の継代培養による細胞集団倍加レベル(population doubling level,PDL)を確認した結果である。
【
図3】体外培養した腱細胞とマスターおよびワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞を位相差顕微鏡で確認した結果である。
【
図4】体外培養した腱細胞とワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞においてビメンチンの発現レベルを確認した結果である。
【
図5】ワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞においてケラチノサイトマーカーであるケラチン(keratin;K14)および汎サイトケラチン(Pan-cytokeratin)の発現レベルを確認した結果である。
【
図6】ワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞においてビメンチン発現細胞の割合をフローサイトメトリーで確認した結果である。
【
図7】体外培養した腱細胞とワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞において細胞外基質タンパク質の発現レベルを蛍光顕微鏡(A)およびウェスタンブロット(B)で確認した結果である。
【
図8】回旋筋腱板断裂の動物モデルに皮膚由来線維芽細胞を注入した後、腱組織の回復程度を組織学的分析で確認した結果である。
【
図9】
図9のAは、皮膚由来線維芽細胞から分泌されるTGF-βレベルを確認した結果であり、Bは、腱細胞に皮膚由来線維芽細胞の細胞溶解物を処理した後、信号伝達分子の発現変化を確認した結果である。
【
図10】腱細胞に皮膚由来線維芽細胞の細胞溶解物を処理した後、信号伝達分子の発現変化を遺伝子レベルで確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、1つ以上の具体例を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これらの実施例は、1つ以上の具体例を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
実施例1:皮膚由来線維芽細胞培養
供与者から分離した正常皮膚組織を細切し、分解させて、線維芽細胞のみを分離した。分離した線維芽細胞は、10%ウシ胎児血清(fetal bovine serum,FBS)が含まれたDulbecco’s Modified Eagle’s medium(DMEM)/F12(Invitrogen、米国)で一次培養(primary culture)を行い、培養条件は、37℃、10%CO
2の湿潤環境を維持した。約5日~6日間隔で継代培養した後、継代(passage)2にマスターセルバンク(Master Cell Bank,MCB)を構築した。その後、約5日~6日間隔で追加で継代培養し、継代6でワーキングセルバンク(Working Cell Bank,WCB)を大量確保した(
図1)。細胞の継代培養は、培養皿に細胞が70~80%程度満たされたとき、トリプシン(Trypsin)-EDTAで細胞を分離して行った。大部分の体外(in vitro)細胞培養では、ガス組成として5%CO
2を用いるが、本発明では、培地のpHを7.4に正確に維持するために、10%CO
2を用いた。
【0032】
細胞バンクは、下記のように凍結させて保管した。まず、継代2~10の細胞と細胞用凍結防止剤であるジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide,DMSO)を10%以内で含む凍結培地を混合した。その後、ガラス製のアンプルに浮遊状態の細胞を1~10×106個分注し、イソプロパノール(isopropanol)で温度を徐々に落としながら、細胞を凍結させて、最終-15℃以下の冷凍庫や液体窒素で長期間保管した。
【0033】
以下では、本実施例で収得したヒト皮膚由来線維芽細胞を「皮膚由来線維芽細胞」と記載する。
【0034】
実施例2:皮膚由来線維芽細胞の特性確認
2-1.皮膚由来線維芽細胞の増殖および形態学的特性
実施例1で収得した皮膚由来線維芽細胞を同一の培養条件で継代2から継代10まで培養し、初期プレーティング時の細胞数と細胞収得後の総細胞数をカウントして、細胞の倍加時間(doubling time)を計算した。その結果、継代2から10まで平均して30時間であり、それぞれ異なる2つの培地に対して類似な値を示した。
【0035】
また、下記数式1によって細胞集団倍加レベル(population doubling level,PDL)を確認した結果、実施例1で収得した皮膚由来線維芽細胞は、1継代当たり2.7~4.5が算出された(
図2、下段のグラフ;N=3、平均±標準偏差)。この結果は、腱細胞が体外培養時に短い細胞寿命を有することと対照的であり(
図2、上段のグラフ;N=3、平均±標準偏差)、線維芽細胞の細胞治療剤の活用において重要な長所の1つである。
【0036】
[数式1]
PDL=(log(NH)-log(NI))/log2
NH:最終的に収得した細胞数;NI:初期プレーティング細胞数。
【0037】
また、実施例1で製造したマスターおよびワーキングセルバンクで皮膚由来線維芽細胞の形態を確認した結果、本発明の皮膚由来線維芽細胞は、腱細胞と同様に、線維芽細胞固有のスピンドル(spindle)の形態を維持することを確認した(
図3)。
【0038】
2-2.ビメンチン発現確認
培養した腱細胞と皮膚由来線維芽細胞に線維芽細胞標識タンパク質ビメンチンに対する一次抗体および緑色蛍光物質(FITC)結合二次抗体を処理した後、蛍光顕微鏡で観察した。細胞核は、DAPI(4,6-diamidino-2-phenylindole)で染色した。
【0039】
その結果、ワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞は、線維芽細胞固有の特徴を示し、腱細胞と類似しているか、さらに高いレベルでビメンチンを発現することを確認した(
図4)。
【0040】
2-3.均質性確認
ワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞において混合性および均質性を確認するために、ケラチノサイトマーカーであるケラチン(keratin;K14)および汎サイトケラチン(Pan-cytokeratin)抗体で細胞を染色して、蛍光顕微鏡観察およびフローサイトメトリーを行った。細胞核は、DAPIで染色した。
【0041】
その結果、定性観察である蛍光顕微鏡観察において、ケラチノサイト標識マーカーは全く検出されなかった(
図5)。また、定量分析であるフローサイトメトリーにおいて、線維芽細胞マーカーであるビメンチン発現細胞に分類された細胞が平均98.5%で確認されて、ワーキングセルバンクを構成する皮膚由来線維芽細胞の大部分が線維芽細胞の特徴を示すことを確認した(
図6)。
【0042】
2-4.細胞外基質タンパク質確認
ワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞において代表的な細胞外基質であるコラーゲン等の発現レベルを確認した。皮膚由来線維芽細胞に細胞外基質タンパク質に対するそれぞれの一次抗体および緑色蛍光物質(FITC)結合二次抗体を処理した後、蛍光顕微鏡で観察した。
【0043】
確認結果、皮膚由来線維芽細胞においてコラーゲンI、IIIおよびIV、フィブロネクチン(fibronectin)およびエラスチン(elastin)の発現レベルが非常に高いことが分かった(
図7)。
【0044】
実施例3:皮膚由来線維芽細胞の品質確認
凍結保管中の細胞バンクの皮膚由来線維芽細胞を解凍させた後、さらに培養して、品質を確認した。その結果、さらに培養した皮膚由来線維芽細胞の解凍収率、細胞生存率に優れていることが示されて、凍結期間に関係なく、細胞品質が維持されることを確認した(表1)。
【0045】
【0046】
また、食品医薬品安全処の細胞治療剤の許可基準に符合する外来性ウイルス否定試験および微生物残存検査を実施した結果、前記細胞バンクに外来性ウイルスおよび微生物が残存しないことを確認した。
【0047】
実験例1:回旋筋腱板断裂の治療効能の確認
1-1.前臨床効能
ワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞の回旋筋腱板断裂の治療効能を下記のように確認した。
【0048】
20週齢のNew Zealand White rabbitsの肩に両側棘上筋断裂(bilateral supraspinatus tears)を施行し、6週後に対照群に食塩水(saline)、実験群に皮膚由来線維芽細胞107個を注入した後に、縫合した。縫合後、12週が経過した後に、ウサギの体重およびその他の異常所見がないことを確認し、ウサギを犠牲にさせて肩腱を摘出し、脱灰(decalcification)させて、パラフィンブロックを製作した。パラフィンブロックをMasson’s trichromeで染色した後、組織学的に分析した。
【0049】
分析結果、食塩水を注入した対照群と比較して、皮膚由来線維芽細胞を注入した実験群において、回旋筋腱板断裂のない正常群と類似したレベルの整列されかつ緻密な腱組織配列を観察することができた(
図8)。
図8において、青色で染色された部分はコラーゲンであり、赤色で染色された部分は筋肉、細胞質およびケラチンである。
【0050】
1-2.治療効能機序の確認
本発明の一例による皮膚由来線維芽細胞の回旋筋腱板断裂の治療効能機序を確認するために、細胞外基質の形成および組織再生の促進に関与すると報告されたサイトカインおよび信号伝達物質を分析した。
【0051】
ヒト由来の腱細胞とワーキングセルバンクの皮膚由来線維芽細胞を培養して、TGF-β(transforming Growth factor-β)のレベルをELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)で定量した結果、皮膚由来線維芽細胞(HF)は、1×10
6細胞当たり692pgのTGF-βを分泌して、腱細胞(HT)より高い分泌量を示した(
図9のA)。
【0052】
また、皮膚由来線維芽細胞の細胞溶解物を腱細胞に処理して24時間が経過した後に、信号伝達に関与する細胞信号分子をウェスタンブロットで確認した。その結果、対照群と比較して、皮膚由来線維芽細胞溶解物を処理した実験群(HF溶解物)が、p-ERK 1/2(phosphorylated extracellular-signal regulated kinase 1/2)の発現が著しく増加し、コラーゲンI発現もまた増加することが分かった(
図9のB)。また、遺伝子レベルでも細胞信号分子の発現が増加することを確認することができた(
図10)。
【0053】
本実験例の結果は、本発明の皮膚由来線維芽細胞がERK信号伝達によってコラーゲンIの発現を増加させ、結果的に、腱再生効果を示すことを示唆する(
図9および
図10)。
【国際調査報告】