(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(54)【発明の名称】超硬合金又はサーメット体の3D印刷のための熱硬化性バインダーの使用
(51)【国際特許分類】
B22F 3/02 20060101AFI20230217BHJP
C22C 29/08 20060101ALI20230217BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230217BHJP
B22F 1/148 20220101ALI20230217BHJP
B22F 10/14 20210101ALI20230217BHJP
B22F 10/64 20210101ALI20230217BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230217BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20230217BHJP
C22C 1/051 20230101ALI20230217BHJP
B23P 15/28 20060101ALN20230217BHJP
【FI】
B22F3/02 M
C22C29/08
B22F1/00 Q
B22F1/148
B22F10/14
B22F10/64
B33Y10/00
B33Y70/00
C22C1/051 G
B23P15/28 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022535806
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(85)【翻訳文提出日】2022-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2020085334
(87)【国際公開番号】W WO2021122238
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519208731
【氏名又は名称】サンドビック マシニング ソリューションズ アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ギレンフライクト, トビアス
(72)【発明者】
【氏名】ボストロム, マグナス
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AB02
4K018AD06
4K018BB03
4K018BB04
4K018BC11
4K018CA08
(57)【要約】
本発明は、超硬合金又はサーメットグリーン体のバインダー噴射のための水溶性熱硬化性バインダーの使用に関する。水溶性熱硬化性バインダーは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Aと、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Bとを含み、化合物A及び化合物Bは、モノマー又はオリゴマーである。バインダーは、印刷されたグリーン体の強度の増加をもたらす。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金又はサーメットグリーン体のバインダー噴射のための水溶性熱硬化性バインダーの使用であって、水溶性熱硬化性バインダーが、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Aと、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Bとを含み、化合物A及び化合物Bが、2000g/mol未満の分子量を有するモノマー又はオリゴマーである、使用。
【請求項2】
化合物A及びBがエポキシ基を含まない、請求項1に記載の水溶性熱硬化性バインダーの使用。
【請求項3】
化合物A及びBが、窒素、リン、ケイ素、カリウム、ナトリウム、又はフッ素を含まない、請求項1又は2に記載の水溶性熱硬化性バインダーの使用。
【請求項4】
化合物A及びBの量が、化合物A中のヒドロキシル基と化合物B中のカルボキシル基とのモル比が0.1と10との間であるような量である、請求項1から3のいずれか一項に記載の水溶性熱硬化性バインダーの使用。
【請求項5】
化合物Aが、プロピレングリコール、グリセリン、マルトデキストリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールから選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の水溶性熱硬化性バインダーの使用。
【請求項6】
化合物Bが、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、ポリアクリル酸オリゴマー、及びカルバリル酸から選択される、請求項1から5のいずれか一項に記載の水溶性熱硬化性バインダーの使用。
【請求項7】
化合物AとBとの総量が30と80重量%との間である、請求項1から6のいずれか一項に記載の水溶性熱硬化性バインダーの使用。
【請求項8】
化合物Aがグリセリン又はマルトデキストリンから選択され、化合物Bがクエン酸である、請求項1から7のいずれか一項に記載の水溶性熱硬化性バインダーの使用。
【請求項9】
バインダーが、35と50重量%との間の量のグリセリン、15と25重量%との間の量のクエン酸を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の水溶性熱硬化性バインダーの使用。
【請求項10】
超硬合金又はサーメット体の製造方法であって、以下の工程:
印刷準備済みの超硬合金又はサーメット粉末を提供する工程、
水溶性熱硬化性バインダーを提供する工程、
バインダー噴射技術によって前記粉末をグリーン体に印刷する工程、
100℃と250℃との間の温度で加熱することによって前記体を硬化させる工程
前記グリーン体を焼結する工程
を含み、
水溶性熱硬化性バインダーが、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Aと、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Bとを含み、化合物A及び化合物Bが、モノマー又はオリゴマーである、方法。
【請求項11】
印刷準備済みの粉末が、10と13重量%との間の量の金属バインダーを含む超硬合金粉末であり、超硬合金の粒子が、17と21μmとの間のD50及び0と5体積%との間の気孔率を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
化合物Aが、プロピレングリコール、グリセリン、マルトデキストリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールから選択される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
化合物Bが、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、ポリアクリル酸オリゴマー、及びカルバリル酸である、請求項10から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
化合物A及びBの量が、化合物A中のヒドロキシル基と化合物B中のカルボキシル基とのモル比が0.1と10との間であるような量である、請求項10から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
化合物Aがグリセリン又はマルトデキストリンから選択され、化合物Bがクエン酸である、請求項10から14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超硬合金及びサーメットグリーン体のバインダー噴射のための水溶性熱硬化性バインダーの使用に関する。水溶性熱硬化性バインダーは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Aと、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Bとを含み、化合物A及び化合物Bは、モノマー又はオリゴマーである。
【背景技術】
【0002】
3D印刷としても知られている積層造形は、一般に、特殊なシステムを使用して一度に1つの層を印刷し接合することを含む。具体的には、材料の層を造形チャンバの作業面上に堆積させ、同じ又は異なる材料の別の層と接着させ得る。積層造形は、粉末床溶融結合(PBF)、直接金属レーザ焼結(DMLS)、又はバインダー噴射3D印刷などであるが、これらに限定されない技術を使用して、コンピュータ支援設計モデルから物品を製造するために使用され得る。
【0003】
超硬合金又はサーメット体の積層造形は、好ましくは、最初にグリーン体を作製し、その後グリーン体を別個の炉で焼結する3D印刷技術によって行われる。バインダー噴射は、このような3D印刷技術のうち最も一般的な種類のものである。
【0004】
バインダー噴射を用いて超硬合金及びサーメット体を印刷する場合、印刷された物体の強度、すなわちグリーン強度は、その後の取り扱い中、例えば粉末除去、焼結炉への物体の移動などの間に物体の破損を回避するのに十分でなければならない。
【0005】
熱硬化性バインダー、すなわち、高温で反応する化学バインダーが、粉末のバインダー噴射において知られている。いくつかの用途では、一方の成分が粉末と一緒に添加され、他方の成分が印刷中に添加され、その後、印刷された物体が硬化される。超硬合金及びサーメット粉末の場合、このことは不利である。なぜなら、主な問題の1つは焼結体の気孔率であるためである。粉末に一方の成分を添加すると、粉末間の接触が減少し、気孔率が増加したり、又は焼結状態でバインダーの多い領域が生じたりする可能性がある。
【0006】
異なる種類のポリマーを含む熱硬化性バインダーが最も一般的である。しかしながら、溶解度のためにポリマーの濃度を低く維持しなければならず、印刷中に大量の溶媒が添加され、それにより、印刷された物体を乾燥させるときに問題が起こる可能性がある。
【0007】
エポキシバインダーも存在するが、これらは通常、環境にも健康にも優しくない。
【0008】
バインダー噴射に使用される別の種類のバインダーは、硬化中に化学的に反応するのではなく、ポリマーが絡み合い、それによってグリーン強度を増加させるバインダーである。これらのバインダーは、湿式粉末除去が使用される場合、洗浄液によって溶解する可能性があり、したがって、グリーン体はその強度を失う。
【0009】
米国特許出願公開第2019/0054527号明細書は、例えば、2つの異なるポリマーを含むセラミックのバインダー噴射のためのバインダーを記載しており、これは、硬化中に2つの異なる種類のポリマーを非共有結合的に結合する。
【発明の概要】
【0010】
本発明の1つの目的は、より危険性の低いバインダーを得ることである。
【0011】
本発明の別の目的は、より高濃度で、すなわち、より少ない溶媒を用いて添加することができる、バインダー噴射のためのバインダーを得ることである。
【0012】
本発明の別の目的は、グリーン強度の増加をもたらす、バインダー噴射のためのバインダーを得ることである。
【0013】
本発明の別の目的は、硬化後、すなわち粉末除去中などに溶解しない、バインダー噴射のためのバインダーを得ることである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、超硬合金又はサーメットグリーン体のバインダー噴射のための水溶性熱硬化性バインダーの使用に関する。水溶性熱硬化性バインダーは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Aと、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Bとを含み、化合物A及び化合物Bは、2000g/mol未満の分子量を有するモノマー又はオリゴマーである。
【0015】
熱硬化性バインダーとは、本明細書において、バインダー中の成分が硬化によって固まることを意味する。硬化は、通常、加熱によって誘導される。
【0016】
熱硬化性バインダーは、化合物A及び化合物B、並びに場合によっては他の添加剤、例えばpH調整剤、界面活性剤などを含む。化合物A及びBは、妥当な貯蔵寿命を得るために、室温での反応速度が遅いか、又は反応速度を持たない必要がある。
【0017】
化合物A及びBは、両方とも水溶性である。水溶性とは、本明細書において、本明細書に記載される化合物A及びBが、以下に示す量で水に可溶であることを意味する。化合物A及びBの両方は、モノマー又はオリゴマーである。オリゴマーとは、本明細書において、2000g/mol未満、好ましくは1000g/mol未満の分子量を有する化合物を意味する。
【0018】
化合物A及びBはまた、非芳香族物質であり、このことは、本明細書において、化合物A及びBが芳香族基、例えばベンジル基、フェニル基などを含まないことを意味する。芳香族物質は、脱バインダー及び/又は焼結中に有害な副生成物を形成するおそれがあるため、望ましくない。
【0019】
化合物A及びBは、硬化中にグリーン体が高温にさらされた後、架橋及びエステル結合の形成によって反応して、高い強度を有するグリーン体を形成する。
【0020】
化合物Aは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質からなり、化合物Aはモノマー又はオリゴマーである。化合物Aは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む単一の有機非芳香族物質のみによって構成され得るか、又は少なくとも2つのヒドロキシル基を含む有機非芳香族物質の2つ以上の混合物であり得る。
【0021】
本発明の一実施形態では、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質は、エポキシ基を含まない。
【0022】
本発明の一実施形態では、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質は、窒素、リン、ケイ素、カリウム、ナトリウム、又はフッ素を含まない。
【0023】
本発明の一実施形態では、化合物Aは、ポリオール、例えばジオール、トリオール、又はテトリオール(tetriol)であり、より好ましくは、化合物Aは、プロピレングリコール、グリセリン、マルトデキストリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、及びマンニトールの群から選択され、最も好ましくは、化合物Aは、グリセリン及びマルトデキストリンから選択される。
【0024】
化合物Bは、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質からなり、モノマー又はオリゴマーである。化合物Bは、少なくとも2つのカルボキシル基を含む単一の有機非芳香族物質のみによって構成され得るか、又は少なくとも2つのカルボキシル基を含む有機非芳香族物質の2つ以上の混合物であり得る。
【0025】
本発明の一実施形態では、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質は、エポキシ基を含まない。
【0026】
本発明の一実施形態では、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質は、窒素、リン、ケイ素、カリウム、ナトリウム、又はフッ素を含まない。
【0027】
本発明の一実施形態では、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質は、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、及びカルバリル酸、ポリアクリル酸オリゴマーの群から選択され、最も好ましくは、化合物Bはクエン酸である。
【0028】
化合物A及びBの量は、化合物A中のヒドロキシル基と化合物B中のカルボキシル基とのモル比が0.1と10との間、好ましくは0.5と2.0との間、最も好ましくは0.8及び1.2であるような量である。
【0029】
本発明の一実施形態では、化合物Aと化合物Bとの総量は、2と80重量%との間、好ましくは30と80重量%との間、最も好ましくは30と50重量%との間である。
【0030】
本発明の一実施形態では、化合物AとBとの総量は、「乾燥」成分、すなわち溶媒を除いた場合の成分の80重量%超である。
【0031】
熱硬化性バインダーはまた、他の添加剤、例えば界面活性剤、pH調整剤、例えばエタノール、エチレングリコール、エチレングリコールモノブチルエーテルを含み得る。
【0032】
化合物A及びBは、他の添加剤が添加される場合はそれらと共に、溶媒に溶解される。好ましくは、溶媒は水系であり、すなわち、溶媒は50体積%超の水、好ましくは60体積%超の水を含み、最も好ましくは、溶媒は100%水である。
【0033】
本発明の一実施形態では、バインダーは、35と50重量%との間の量のグリセリン、15と25重量%との間の量のクエン酸を含む。
【0034】
本発明の一実施形態では、バインダーは、グリーン強度をさらに高めるために、他のバインダーと共に使用され得る。この場合、化合物AとBとの総量は、バインダーの総量の少なくとも2重量%でなくてはならない。
【0035】
本発明はまた、上記のバインダーを用いた超硬合金又はサーメット体の製造方法に関する。この方法は、以下の工程:
印刷準備済みの超硬合金又はサーメット粉末を提供する工程、
水溶性熱硬化性バインダーを提供する工程、
バインダー噴射技術によって前記粉末をグリーン体に印刷する工程、
100℃と250℃との間の温度で加熱することによって前記体を硬化させる工程
前記グリーン体を焼結する工程
を含み、
水溶性2成分バインダーは、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Aと、少なくとも2つのカルボキシル基を含む少なくとも1つの有機非芳香族物質である化合物Bとを含み、化合物A及び化合物Bは、モノマー又はオリゴマーである。
【0036】
「サーメット」という用語は、本明細書において、金属バインダー相中に硬質成分を含む材料を示すことを意図しており、この硬質成分は、Ta、Ti、Nb、Cr、Hf、V、Mo、及びZrのうち1つ又は複数の炭化物又は炭窒化物、例えばTiN、TiC、及び/又はTiCNを含む。
【0037】
「超硬合金」という用語は、本明細書において、金属バインダー相中に硬質成分を含む材料を示すことを意図しており、この硬質成分は、少なくとも50重量%のWC粒子を含む。硬質成分はまた、Ta、Ti、Nb、Cr、Hf、V、Mo、及びZrのうち1つ又は複数の炭化物又は炭窒化物、例えばTiN、TiC、及び/又はTiCNを含み得る。
【0038】
サーメット又は超硬合金中の金属バインダー相は、金属又は金属合金であり、金属は、例えば、Cr、Mo、Fe、Co、又はNiの単独又は任意の組み合わせから選択され得る。好ましくは、金属バインダー相は、Co、Ni、及びFeの組み合わせ、CoとNiとの組み合わせ、又はCoのみを含む。金属バインダー相は、当業者に知られている他の適切な金属を含み得る。粉末中の金属バインダー相の平均含有量は、4~15重量%、好ましくは8~13重量%又は10~13重量%である。
【0039】
サーメット又は超硬合金体の三次元印刷物の製造方法で使用される印刷準備済みの粉末は、三次元印刷に適したサーメット又は超硬合金粒子からなるいかなる粉末であってもよい。
【0040】
サーメット又は超硬合金粒子とは、本明細書において、粒子が予備焼結されていることを意味する。予備焼結されているとは、本明細書において、粉末が、固相焼結及び/又は液相焼結を使用するなどして焼結されていることを意味する。
【0041】
好ましくは、印刷準備済みの粉末は、良好な流動性を有する球状サーメット又は超硬合金粒子からなる予備焼結粉末である。
【0042】
本発明の一実施形態では、超硬合金及び/又はサーメット粒子のD50は、5と35μmとの間、好ましくは10と30μmとの間、より好ましくは15と25μmとの間、最も好ましくは17と21μmとの間である。
【0043】
本発明の一実施形態では、印刷準備済みの粉末は、サーメット又は超硬合金粒子の気孔率が、0と40%との間の気孔率、好ましくは5と20体積%との間又は15と20%との間となるように予備焼結されている。
【0044】
本発明の一実施形態では、印刷準備済みの粉末は、サーメット又は超硬合金粒子の気孔率が、0と20%との間の気孔率、好ましくは0と10体積%との間若しくは0と5体積%との間となるように、又は粒子が完全に緻密であるように予備焼結されている。
【0045】
特定の気孔率は、場合によっては、印刷されたグリーン体の焼結中に焼結活性に寄与することができ、特定のサーメット又は超硬合金組成物に望ましい焼結活性の程度に応じて、気孔率を調整することができる。気孔率は、例えば、倍率1000倍のLOMで測定することができる。
【0046】
本発明の一実施形態では、印刷準備済みの粉末は、
サーメット又は超硬合金原料粉末と有機バインダーとを混合すること
原料粉末を噴霧乾燥し、それによって造粒原料粉末を形成すること
噴霧乾燥された原料粉末を予備焼結して有機バインダーを除去し、それによって予備焼結された造粒粉末を形成すること、
所望の粒度分布が得られるまで予備焼結された造粒粉末を前処理し、それによって印刷準備済みの粉末を形成すること
によって製造される。
【0047】
前処理とは、本明細書において、予備焼結された造粒粉末が解凝集されることを意味する。なぜなら、顆粒はクラスター状に集まることがあり、それにより印刷中に問題が生じるおそれがあるためである。これは、穏やかなミリング工程によって行われ得る。粒径をさらに調整する必要がある場合、ミリング工程を延長することができる。
【0048】
本発明の一実施形態では、噴霧乾燥された粉末は、予備焼結工程の前にふるい分けされ、好ましくは、直径42μmよりも大きい粒子を除去するようにふるい分けされる。これは、粉末中の非常に大きな粒子について問題が生じるおそれを低減するという点で有利である。
【0049】
本発明の一実施形態では、印刷準備済みの粉末は超硬合金粒子からなる。超硬合金粒子は、0.5~5μm又は0.5~2μmの平均粒径を有するWCを含む。好ましくは、硬質成分の80重量%超がWCである。
【0050】
本発明の一実施形態では、印刷準備済みの粉末は、10と13重量%との間の量でWCとCoとを含む超硬合金粒子からなる。超硬合金粒子は、17と21μmとの間のD50及び0と5体積%との間の気孔率を有する。
【0051】
バインダー噴射は、周知の比較的安価な3D印刷法である。この方法は、最初に粉末層を塗布し、この粉末層上にバインダーを選択的に堆積させ、次いで、1層ずつ、所望の形状を有するグリーン体を造形する工程を含む。
【0052】
硬化は、通常、印刷工程後に行われる。熱硬化性バインダーが硬化することにより、グリーン体は十分なグリーン強度を得る。硬化は、過剰な粉末を除去する前に、印刷されたグリーン体を1と100時間との間、好ましくは1と5時間との間にわたって、100と250℃との間、好ましくは140℃と200℃との間の高温に供することによって行われ得る。一実施形態では、硬化は、非酸化環境、例えばAr若しくはN2中で、及び/又は低圧若しくは真空中で行われる。
【0053】
硬化工程の後、余分な粉末はすべて、粉末除去工程によってグリーン体から除去される。粉末除去は乾式プロセスであってもよく、すなわち、余分な粉末は、例えばグリーン体から吹き飛ばされブラシで落とされる。粉末除去はまた、湿式プロセス、すなわち、グリーン体を任意の種類の溶媒に浸漬し、余分な粉末を単に洗い流すことであってもよい。また、振動、例えば超音波などが、乾式又は湿式の粉末除去の両方で使用され得る。
【0054】
次いで、グリーン体は、液相焼結によって焼結炉内で焼結される。液相焼結は、特定のサーメット又は超硬合金組成物中の金属バインダーが溶融する温度よりも高い温度で行われる。好ましくは、液相焼結は、1350℃と1500℃との間の温度で行われる。好ましくは、液相焼結の持続時間は、30と300分との間、より好ましくは30と120分との間である。
【0055】
液相焼結工程は、好ましくは真空中、すなわち、いわゆる真空焼結で行われる。これは、本明細書において、圧力が0.5mbar未満であることを意味する。
【0056】
液相焼結工程は、サーメット及び超硬合金の焼結の技術分野において一般的であり、通常、液相焼結温度に達する前に、通常200℃と550℃との間の温度で約30と120分間との間の脱バインダー工程を含む。脱バインダー工程は、残留バインダー、例えば熱硬化性印刷バインダーを除去するために行われる。
【0057】
本発明の一実施形態では、本発明に従って製造された超硬合金又はサーメット体は、切削工具、例えばインサート、ドリル、又はエンドミルである。
【0058】
本発明の一実施形態では、本発明に従って製造された超硬合金又はサーメット体は、摩耗部品、例えばノズル、シールリング、ポンプインペラ、油/ガス用の流量制御器などであり得る。
【実施例】
【0059】
実施例1
60×15×5mmの矩形ブロックの形状のグリーン体を、大部分が球形でD10が11.1μm、D50が20.3μm、D90が33.6μmの顆粒を含む予備焼結された超硬合金粉末から印刷した。粉末の組成は、12重量%のCo及び残部のWCであった。顆粒の平均気孔率は0体積%であるか、又は0に非常に近い。
【0060】
バインダーは、水、エタノール、グリセリン、及びクエン酸を混合することによって調製した。すべての成分が溶解するまで、成分を十分に撹拌した。組成を表1に示す。表1中のモル比は、化合物A中のヒドロキシル基と化合物B中のカルボキシル基とのモル比である。
表1
【0061】
印刷は、バインダー噴射印刷機で、印刷時の層厚を50μmとして行った。粉末の印刷は、「ExOne Innovent+」で行った。印刷中の飽和度は110%であり、部品の倍率は1に設定した。
【0062】
印刷バインダーの飽和度は、指定された粉末充填密度(ここでは、粉末充填密度を60%に設定する)で印刷バインダーで満たされた空隙体積のパーセンテージとして定義される。高い割合で多孔質粒子を含む粉末で印刷する方が、低い割合の多孔質粒子と比較して、高い飽和度が必要である。
【0063】
印刷中、各層の順序は以下の通りであった:50μmの粉末層を床上に広げ、印刷バインダーをCADモデルで定義されたパターンで広げ、続いて印刷バインダーを乾燥させて印刷バインダーの溶媒の全部又は一部を除去した。これを、完全な高さのグリーン体が印刷されるまでくり返した。その後、真空中200℃で一晩硬化を行った。粉末除去は、ブラシ及び加圧空気によって手動で行った。
【0064】
実施例2
マルトデキストリン(デキストロース当量約18)及びクエン酸を市販の水性バインダーと混合することによってバインダーを調製したこと、並びに印刷中の飽和度が100%であったことを除いて、実施例1に記載したのと同じプロセス及び超硬合金粉末を使用してグリーン体を印刷した。マルトデキストリン及びクエン酸がすべて溶解するまで、成分を十分に撹拌した。組成を表2に示す。表2中のモル比は、化合物A中のヒドロキシル基と化合物B中のカルボキシル基とのモル比である。
表2
【0065】
比較のために、市販の水性バインダーのみを使用したグリーン体を、実施例2と同じ粉末及び同じプロセスで印刷した。
【0066】
実施例3
粉末除去後、グリーン体の強度を、10mm/分の速度及び0.05Nの予荷重による横曲げ試験によって試験した。結果を表3に示す。
表3
【0067】
表3において、本発明によるバインダー、すなわち本発明1及び2を用いたグリーン体は、市販の水性バインダーと比較して、グリーン強度の大幅な改善を示すことが明らかにわかる。
【国際調査報告】