(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(54)【発明の名称】加工性に優れた鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230217BHJP
C22C 38/18 20060101ALI20230217BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/18
C21D9/46 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022536689
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(85)【翻訳文提出日】2022-08-09
(86)【国際出願番号】 KR2020018395
(87)【国際公開番号】W WO2021125765
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0171860
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ソン、 チャン-ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ジェ-フン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ハク-ジュン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA07
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037FA01
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FC04
4K037FC05
4K037FE02
4K037FG01
4K037FJ04
4K037JA06
(57)【要約】
本発明の一側面によると、加工性に優れた鋼材は、重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.1~0.3%、Mn:0.2~0.5%、Cr:0.1~0.3%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、微細組織は、球状化炭化物を含むフェライト単相組織であり、上記炭化物の平均粒度は0.8μm以下であり、上記炭化物の数密度は2*105~7*105個/mm2であることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.1~0.3%、Mn:0.2~0.5%、Cr:0.1~0.3%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、
微細組織は、球状化炭化物を含むフェライト単相組織であり、
前記炭化物の平均粒度は0.8μm以下であり、
前記炭化物の数密度は2*10
5~7*10
5個/mm
2である、加工性に優れた鋼材。
【請求項2】
前記炭化物の球状化率が95%以上である、請求項1に記載の加工性に優れた鋼材。
【請求項3】
前記鋼材の常温表面硬度が230~270HVである、請求項1に記載の加工性に優れた鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は、プレス加工後のバリの高さが20μm以下であり、
前記鋼材の曲げ加工性(R/t)が2以下である、請求項1に記載の加工性に優れた鋼材。
【請求項5】
前記炭化物の平均粒度が0.55μm以上である、請求項1に記載の加工性に優れた鋼材。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の鋼材を800~950℃に加熱して30分以下の時間維持し、50~150℃/sの冷却速度で50℃以下の温度範囲まで冷却し、200~300℃で10~60分間熱処理した後の前記鋼材の表面硬度が56HRC以上である、加工性に優れた鋼材。
【請求項7】
重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.1~0.3%、Mn:0.2~0.5%、Cr:0.1~0.3%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むスラブを再加熱し、熱間圧延し、巻き取る段階と、
前記巻き取られた鋼材に機械的外力を加えて前記鋼材の炭化物を分節する段階と、
前記炭化物が分節された鋼材を加熱した後、650~700℃の温度範囲で5~20時間維持して球状化焼鈍する段階と、を含む、加工性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項8】
前記炭化物を分節する段階において、前記巻き取られた鋼材を30~50%の圧下率で冷間圧延することで前記鋼材の炭化物を分節する、請求項7に記載の加工性に優れた鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記スラブを1000~1300℃の温度範囲で再加熱し、
前記再加熱されたスラブを850~1150℃の温度範囲で熱間圧延し、
前記熱間圧延された鋼材を600~650℃の温度範囲で巻き取る、請求項7に記載の加工性に優れた鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れ、工具用素材として特に適した鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鋼材の物性において硬度と加工性とは、両立が困難な物性として広く知られている。これは、鋼材の強度上昇は硬度を上昇させるが、鋼材の強度が高くなると鋼材の加工性が低下する特性を示すためである。
【0003】
工具用部品の製作に用いられる工具用鋼材においても、部品形状への製作時には優れた加工性が求められる一方で、最終加工後の部品には、耐摩耗特性及び耐衝撃特性などを確保するために高い硬度が求められる。特に、工具用部品の製作に用いられる工具用鋼材は、一定レベル以上の硬度及び強度を確保するために、相対的に多量の炭素(C)を含有する鋼材が主に用いられることから、目的のレベルの加工性を確保することが困難な状況である。
【0004】
工具用鋼材では、球状化焼鈍によって鋼材の加工性を確保してから部品形状に加工し、その後で、焼入れによって鋼材にマルテンサイト組織を取り入れることで硬度を確保する方式が一般的に適用される。球状化焼鈍は、板状のラメラセメンタイトを球状にするために高温で行われる熱処理であり、目的のレベルの加工性を確保するためには長時間かかるため、生産性及び経済性の点からは望ましくない。
【0005】
特許文献1では、焼鈍熱処理時間を短縮するために、A1以上の温度で短時間熱処理した後、A1未満の温度で長時間熱処理する焼鈍熱処理工程条件が提案されている。しかし、このような加熱パターンは、通常の加熱炉を用いて実現しにくいだけでなく、高炭素鋼材の加工性を確保するためには依然として長時間かかるという問題がある。そのため、高炭素工具用鋼材の製造のための現実的な方案としては望ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2015-0075290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一側面によると、加工性に優れた鋼材及びその製造方法を提供できる。
【0008】
本発明の課題は上述の内容に限定されない。通常の技術者であれば、本明細書の全体的な内容から本発明の付加的な課題を理解するのに何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面によると、加工性に優れた鋼材は、重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.1~0.3%、Mn:0.2~0.5%、Cr:0.1~0.3%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、残部Fe、及びその他の不可避不純物を含み、微細組織は球状化炭化物を含むフェライト単相組織であり、上記炭化物の平均粒度は0.8μm以下であり、上記炭化物の数密度は2*105~7*105個/mm2であってよい。
【0010】
上記炭化物の球状化率は95%以上であってよい。
【0011】
上記鋼材の常温表面硬度は230~270HVであってよい。
【0012】
上記鋼材は、プレス加工後のバリの高さが20μm以下であり、上記鋼材の曲げ加工性(R/t)が2以下であってよい。
【0013】
上記炭化物の平均粒度は0.55μm以上であってよい。
【0014】
上記鋼材を800~950℃に加熱して30分以下の時間維持し、50~150℃/sの冷却速度で50℃以下の温度範囲まで冷却し、200~300℃で10~60分間熱処理した後の上記鋼材の表面硬度は56HRC以上であってよい。
【0015】
本発明の他の側面によると、加工性に優れた鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.1~0.3%、Mn:0.2~0.5%、Cr:0.1~0.3%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むスラブを再加熱し、熱間圧延し、巻き取る段階と、上記巻き取られた鋼材に機械的外力を加えて上記鋼材の炭化物を分節する段階と、上記炭化物が分節された鋼材を加熱した後、650~700℃の温度範囲で5~20時間維持して球状化焼鈍する段階と、を含むことができる。
【0016】
上記炭化物を分節する段階では、上記巻き取られた鋼材を30~50%の圧下率で冷間圧延して上記鋼材の炭化物を分節することができる。
【0017】
上記スラブを1000~1300℃の温度範囲で再加熱し、上記再加熱されたスラブを850~1150℃の温度範囲で熱間圧延し、上記熱間圧延された鋼材を600~650℃の温度範囲で巻き取ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の好ましい一側面によると、硬度特性に優れるだけでなく、加工性に優れた工具用鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、加工性に優れた鋼材及びその製造方法に関し、以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明の実施形態は様々な形態に変形可能であり、本発明の範囲が下記で説明される実施形態に限定されると解釈されてはならない。本実施形態は、当該発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に本発明をより詳細にするために提供されるものである。
【0021】
以下、本発明の一側面として加工性に優れた鋼材についてより詳細に説明する。
【0022】
本発明の一側面によると、加工性に優れた鋼材は、重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.1~0.3%、Mn:0.2~0.5%、Cr:0.1~0.3%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、微細組織は球状化炭化物を含むフェライト単相組織であり、上記炭化物の平均粒度は0.8μm以下であり、上記炭化物の数密度は2*105~7*105個/mm2であってよい。
【0023】
以下、本発明の合金組成について詳細に説明する。以下、別途記載しない限り、合金組成の含量に関する%及びppmは重量を基準とする。
【0024】
本発明の一側面によると、加工性に優れた鋼材は、重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.1~0.3%、Mn:0.2~0.5%、Cr:0.1~0.3%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。
【0025】
炭素(C):0.8~1.0%
炭素(C)は硬化能の向上に寄与する代表的な元素であり、本発明では、焼入れ後における硬度を確保するために添加される必須の元素である。したがって、本発明では、このような効果のために0.8%以上の炭素(C)を含むことができる。好ましい炭素(C)の含量は0.8%超過であってよく、より好ましい炭素(C)の含量は0.82%以上であってよい。これに対し、鋼中の炭素(C)の含量が一定範囲を超える場合、鋼中の炭化物の分率が過度に高くなり、脆性破壊を助長する恐れがある。したがって、本発明では、炭素(C)の含量の上限を1.0%に制限することができる。好ましい炭素(C)の含量は1.0%未満であり、より好ましい炭素(C)の含量は0.98%以下であってよい。
【0026】
シリコン(Si):0.1~0.3%
シリコン(Si)は、鋼の強度向上に寄与する成分である。したがって、本発明では、このような効果を達成するために0.1%以上のシリコン(Si)を含むことができる。好ましいシリコン(Si)の含量の下限は0.12%であり、より好ましいシリコン(Si)の含量の下限は0.15%であることができる。但し、鋼中のシリコン(Si)の含量が一定範囲を超える場合、冷間圧延性が低下するだけでなく、熱処理時に脱炭が発生する可能性が高くなり、鋼材の表面に表面スケール欠陥の増加を誘発する恐れがあるため、本発明では、シリコン(Si)の含量の上限を0.3%に制限することができる。好ましいシリコン(Si)の含量の上限は0.28%であり、より好ましいシリコン(Si)の含量の上限は0.25%であってよい。
【0027】
マンガン(Mn):0.2~0.5%
マンガン(Mn)は、硬化能の向上に寄与する元素であるだけでなく、固溶強化によって鋼の強度向上に効果的に寄与する元素である。また、マンガン(Mn)は、鋼中の硫黄(S)と結合してMnSとして析出するため、硫黄(S)による赤熱脆性を効果的に防止することができる。本発明では、このような効果を達成するために0.2%以上のマンガン(Mn)を含むことができる。好ましいマンガン(Mn)の含量の下限は0.25%であり、より好ましいマンガン(Mn)の含量の下限は0.3%であってよい。但し、鋼中のマンガン(Mn)の含量が一定範囲を超える場合、冷間圧延性が低下するだけでなく、中心偏析による加工性の低下を誘発する恐れがあるため、本発明では、マンガン(Mn)の含量の上限を0.5%に制限することができる。好ましいマンガン(Mn)の含量の上限は0.45%であり、より好ましいマンガン(Mn)の含量の上限は0.4%であってよい。
【0028】
クロム(Cr):0.1~0.3%
クロム(Cr)は、マンガン(Mn)と同様に硬化能の向上に効果的に寄与する元素である。したがって、本発明では、このような効果のために0.1%以上のクロム(Cr)を含むことができる。好ましいクロム(Cr)の含量の下限は0.13%であり、より好ましいクロム(Cr)の含量の下限は0.16%であってよい。但し、鋼中のクロム(Cr)の含量が一定範囲を超える場合、冷間圧延性が低下する恐れがあるだけでなく、熱処理による炭化物の分解が遅延され、球状化焼鈍によっても炭化物の球状化が完了されない可能性がある。したがって、本発明では、クロム(Cr)の含量の上限を0.3%に制限することができる。好ましいクロム(Cr)の含量の上限は0.28%であり、より好ましいクロム(Cr)の含量の上限は0.25%であってよい。
【0029】
リン(P):0.03%以下(0%を含む)
鋼中のリン(P)は代表的な不純物元素であるが、成形性を大きく損なわず、且つ強度確保に最も有利な元素である。但し、リン(P)が過剰に添加される場合には、脆性破壊の可能性が増加し、熱間圧延の途中にスラブの板破断を誘発する恐れがあるだけでなく、めっき鋼板の表面特性を大きく低下させる恐れがある。したがって、本発明では、リン(P)の含量の上限を0.03%に制限することができる。
【0030】
硫黄(S):0.005%以下(0%を含む)
硫黄(S)は、鋼中に不可避に混入する不純物元素であって、できるかぎりその含量を低く管理することが好ましい。特に、鋼中の硫黄(S)は赤熱脆性を誘発する恐れがあるため、本発明では、硫黄(S)の含量の上限を0.005%に制限することができる。
【0031】
本発明の一側面によると、加工性に優れた鋼材は、上記の成分の他に、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むことができる。但し、通常の製造過程では、原料または周辺環境から意図しない不純物が不可避に混入され得るため、これを全面的に排除することはできない。これらの不純物は、本技術分野において通常の知識を有する者であれば誰でも周知のものであるため、その全ての内容を本明細書では特に言及しない。尚、上記の組成以外に有効な成分の添加が排除されるわけではない。
【0032】
本発明の一側面によると、鋼材の微細組織は、球状化炭化物を含むフェライト単相組織であってよい。本発明の球状化炭化物は、全ての炭化物が球状化された場合だけでなく、炭化物の一部の炭化物が球状化された場合も含むことを意味する。上記炭化物の平均粒度は0.8μm以下であり、上記炭化物の数密度は2*105~7*105個/mm2であってよい。すなわち、本発明の一側面によると、鋼材は、鋼中に球状化炭化物が微細に形成されるだけでなく、多量の炭化物が均一に分布されているため、鋼材の加工性を効果的に確保することができる。
【0033】
本発明の一側面によると、鋼材に含まれる炭化物は、球状化率が95%以上であってよく、好ましい炭化物の球状化率は99%以上であってよい。ここで、炭化物の球状化率とは、全炭化物の面積に対する、アスペクト比(長軸と短軸の比率)が2以下の球状化炭化物の面積の比率を意味する。すなわち、本発明の一側面によると、鋼材は、鋼材に含まれる炭化物の殆どが球状化された炭化物であるため、鋼材の加工性を効果的に確保することができる。
【0034】
また、上記鋼材に含まれる炭化物の平均粒度が一定レベル以下である場合、炭化物が十分に球状化されていないことを意味するため、本発明では、炭化物の平均粒度の下限を0.55μmに制限することができる。
【0035】
本発明の一側面によると、鋼材の常温表面硬度は230~270HVであってよい。また、本発明の一側面によると、加工性に優れた鋼材は、プレス加工後のバリ(burr)の高さが20μm以下であり、上記鋼材の曲げ加工性(R/t)は2以下であってよい。バリの高さは、クリアランス5゜の条件でブランキング加工後、粗さ測定器にて表面エッジの高さの差を測定することで求めることができる。曲げ加工性は、端部分の曲率半径がR(mm)である三角柱の超硬合金で素材を押しながら90゜に曲げた時に、素材の表面に割れが発生するか否かによって測定することができる。曲げ加工性のtは鋼材の厚さ(mm)を意味する。
【0036】
本発明の一側面によると、鋼材は、上述の鋼材を800~950℃に加熱して30分以下の時間維持し、50~150℃/sの冷却速度で50℃以下の温度範囲まで冷却し、200~300℃で10~60分間熱処理した後の上記鋼材の表面硬度が56HRC以上であってよい。すなわち、本発明の一側面によると、鋼材は、焼入れの前に優れた加工性を確保するとともに、焼入れの後には優れた硬度特性を確保することができる。
【0037】
以下、本発明の一側面として、加工性に優れた鋼材の製造方法についてより詳細に説明する。
【0038】
本発明の一側面によると、加工性に優れた鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.8~1.0%、Si:0.1~0.3%、Mn:0.2~0.5%、Cr:0.1~0.3%、P:0.03%以下、S:0.005%以下、残部Fe及びその他の不可避不純物を含むスラブを再加熱し、熱間圧延し、巻き取る段階と、上記巻き取られた鋼材に機械的外力を加えて上記鋼材の炭化物を分節する段階と、上記炭化物が分節された鋼材を加熱した後、650~700℃の温度範囲で5~20時間維持して球状化焼鈍する段階と、を含むことができる。
【0039】
(スラブ再加熱、熱間圧延、及び巻き取り)
所定の合金組成の含量からなるスラブを準備した後、再加熱を行うことができる。本発明のスラブの合金組成は上述の鋼材の合金組成に対応するため、本発明のスラブの合金組成についての説明は、上述の鋼材の合金組成についての説明で代替する。また、本発明のスラブの再加熱温度は、通常のスラブの再加熱に適用される条件が適用可能であるが、非制限的な例として、本発明におけるスラブの再加熱温度は1000~1300℃の範囲であってよい。
【0040】
再加熱されたスラブに対して、850~1150℃の温度範囲で熱間圧延を行うことで、熱延鋼材を提供することができる。熱間圧延の温度が高すぎる場合には、微細組織の粗大化により、目的とする物性を確保することができないという問題があるため、本発明では、熱間圧延の温度範囲の上限を1150℃に制限することができる。これに対し、熱間圧延の温度が一定レベル未満である場合には、過度な圧延負荷が問題となることがあるため、本発明では、熱間圧延の温度の下限を850℃に制限することができる。
【0041】
熱間圧延された鋼材を600~650℃の温度範囲で巻き取ることができる。巻き取り温度が高すぎる場合には、パーライト組織内のセメンタイトの厚さが厚くなるだけでなく、巻き取り後の相変態によって形状不良が発生する恐れがあるため、本発明では、巻き取り温度の上限を650℃に制限することができる。これに対し、巻き取り温度が一定レベル未満である場合には、強度が高すぎて巻き取り後の工程での板破断が懸念されるため、本発明では、巻き取り温度の下限を600℃に制限することができる。また、後述の炭化物の分節段階で、材質偏差による板破断の発生を防止するために、熱延コイルの全長の長手方向の温度偏差を20℃以下に制御することができる。
【0042】
(機械的外力の印加による炭化物の分節)
巻き取られた鋼材を巻き出した後、巻き出した鋼材の表面品質に応じて選択的に酸洗工程を適用することができ、その後、鋼材に機械的外力を加えて炭化物(ラメラセメンタイト)を機械的に分節することができる。鋼材に機械的外力を加える方式としては、ラメラセメンタイトを分節可能な方式であれば如何なる方式であってもよいが、非制限的な例として、冷間圧延または鍛造などを適用することが可能である。一例として、冷間圧延を適用して鋼材に機械的外力を印加する場合、セメンタイトの効果的な分節を考慮して、30~50%の冷間圧下率を適用することができる。
【0043】
本発明では、熱延鋼材に機械的な外力を印加してラメラセメンタイトを分節するため、後続して行われる球状化焼鈍での球状化効率を効果的に向上させることができる。すなわち、本発明では、微細分節された炭化物が多量に分布する状態で球状化焼鈍を開始するため、相対的に短い時間内に炭化物を効果的に球状化することができる。
【0044】
(球状化焼鈍)
機械的外力の印加によって炭化物が分節された鋼材を650~700℃の温度範囲で加熱し、5~20時間維持して球状化焼鈍を行うことができる。球状化焼鈍の温度及び時間が一定レベル未満である場合には、炭化物が十分に球状化されない恐れがあるため、本発明では、球状化焼鈍の温度及び時間の下限をそれぞれ650℃及び5時間に制限することができる。これに対し、球状化焼鈍の温度及び時間が一定レベルを超える場合には、炭化物が過度に粗大化するだけでなく、鋼材の硬度低下が懸念されるため、本発明では、球状化焼鈍の温度及び時間の上限をそれぞれ700℃及び20時間に制限することができる。
【0045】
上述の製造方法によって製造された鋼材の微細組織は、球状化炭化物を含むフェライト単相組織であってよい。上記炭化物の平均粒度は0.55μm以上であり、上記炭化物の球状化率は95%以上であってよい。
【0046】
上述の製造方法によって製造された鋼材は、その常温表面硬度が230~270HVであり、プレス加工後のバリ(burr)の高さが20μm以下であり、曲げ加工性(R/t)は2以下であってよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、後述の実施例は、本発明を例示してより具体化するためのものにすぎず、本発明の権利範囲を制限するためのものではないことに留意する必要がある。
【0048】
(実施例)
表1の合金組成からなるスラブを準備した後、1200℃の温度範囲で加熱し、950℃の温度範囲で熱間圧延を行った。酸洗後、50%の圧下率で冷間圧延を行い、厚さ1.0mmの薄鋼板に圧延した。鋼種ごとに冷間圧延時の圧延性を評価し、これらを表1に記載した。冷間圧延時に板破断及びエッジ部クラックが発生しなかったか、エッジ部クラックが発生してもそのサイズが10mm未満のクラックが5個未満である場合を「○」として評価した。また、冷間圧延時に板破断及びエッジ部クラックが発生し、エッジ部クラックのサイズが10mm以上であるか、サイズが10mm未満のクラックが5個以上である場合を「X」として評価した。
【0049】
【0050】
その後、表2に示す条件下で球状化焼鈍を行い、各試験片の硬度及び微細組織を比較分析し、その結果を表2に記載した。但し、試験片Kは、冷間圧延を行わず、直ちに球状化焼鈍を行った試験片を意味する。この時、各試験片の硬度は、ブリネル硬度測定器を用いてHRCを測定した後、HVに換算した。また、各試験片の微細組織については、試験片を切断及び鏡面研磨した後、エッチングを行い、走査型電子顕微鏡を用いて断面組織を観察した。また、各試験片に対してクリアランス5%の条件でプレス加工を行った後、バリ(burr)の高さを測定し、90゜ベンディング試験を行って曲げ加工性(R/t)を測定した。なお、各試験片に対して、それぞれ900℃の温度に加熱及び急冷する焼入れ処理、250℃の温度に加熱する焼戻し処理を順に行った後、表面硬度を測定した。これらの結果についても表2に記載した。この時の表面硬度もブリネル硬度測定器を用いてHRCを測定した。
【0051】
【0052】
本発明が制限する合金組成及び工程条件を全て満たす試験片は、いずれも優れた硬度特性及び加工性を確保できるのに対し、本発明が制限する合金組成及び工程条件のうちのいずれか1つを満たさない試験片は、本発明が目的とするレベルの硬度特性及び加工性をともに確保することが不可能であることが確認できた。
【0053】
図1は試験片Aの微細組織の観察写真であり、球状化された微細炭化物が均一に多量に分布していることが確認できる。これに対し、
図2は試験片Hの微細組織の観察写真であり、炭化物の球状化率が低いだけでなく、粗大な炭化物が局所的に分布していることが確認できる。
【0054】
以上、実施形態を参照して本発明について詳細に説明したが、これと異なる形態の実施形態も可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の技術的思想と範囲は上述の実施形態に限定されない。
【国際調査報告】