(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(54)【発明の名称】バインダーを有する複合体電解質
(51)【国際特許分類】
C08L 101/02 20060101AFI20230217BHJP
C08K 3/01 20180101ALI20230217BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C08L101/02
C08K3/01
C08K3/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022536988
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-08-16
(86)【国際出願番号】 US2020066180
(87)【国際公開番号】W WO2021127542
(87)【国際公開日】2021-06-24
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519030084
【氏名又は名称】ブルー カレント、インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブルディンスカ、ジョアンナ
(72)【発明者】
【氏名】ビラルエンガ、イルネ
(72)【発明者】
【氏名】ウジシク、ケビン
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC111
4J002BD171
4J002BP011
4J002DA017
4J002DA027
4J002DA028
4J002DA037
4J002DC009
4J002DH006
4J002DJ009
4J002FA047
4J002FD116
4J002FD117
4J002FD118
4J002FD209
4J002GQ00
4J002GT00
4J002HA06
4J002HA08
(57)【要約】
【要約】
電解質および電極組成物用の官能基化された高分子バインダーは、ポリマー骨格および官能基を有するポリマーを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーは、非極性ポリマー骨格と、ポリマーの0.1~5重量%である官能基とを含む。いくつかの実施形態において、ポリマーは、極性骨格と、ポリマーの0.1~50重量%である官能基とを含む。また、アルジロダイトイオン導体と極性ポリマーとを含む電解質セパレータおよび電極用の複合体についても説明する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機イオン伝導性アルジロダイト含有粒子と、
極性ポリマーバインダーを含む有機相と
を備える、複合体。
【請求項2】
前記複合体が、25℃で少なくとも0.2mS・cm
-1のイオン伝導度を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
前記複合体が、25℃で少なくとも0.25mS・cm
-1のイオン伝導度を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
前記複合体が、25℃で少なくとも0.3mS・cm
-1のイオン伝導度を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
前記無機イオン伝導性アルジロダイト含有粒子が、前記複合体の90重量%以下である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項6】
前記無機イオン伝導性アルジロダイト含有粒子が、前記複合体の85重量%以下である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項7】
前記無機イオン伝導性アルジロダイト含有粒子が、前記複合体の80重量%以下である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項8】
前記複合体が、25℃で少なくとも0.5mS・cm
-1のイオン伝導度を有する、請求項1に記載の複合体。
【請求項9】
前記複合体が、少なくとも10%の破断伸び率を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項10】
前記複合体が、少なくとも15%の破断伸び率を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項11】
前記複合体が、少なくとも20%の破断伸び率を有する、請求項1から8までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項12】
前記極性ポリマーバインダーが、最大30%のニトリル基を有するポリ(酢酸ビニル)またはニトリルブタジエンゴムである、請求項1から11までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項13】
前記極性ポリマーバインダーが、ポリ(アクリロニトリル-co-スチレン-co-ブタジエン)(ABS)、ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)、ポリ(スチレン-co-アクリロニトリル)(SAN)、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(ブタジエン-co-アクリレート)、ポリ(ブタジエン-co-アクリル酸-co-アクリロニトリル)、ポリ(エチレン-co-アクリレート)、ポリエーテル、フタル酸ジアルキルのポリエステルまたはポリ(塩化ビニル)(PVC)である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項14】
前記極性ポリマーバインダーが、官能基で修飾された第1のポリマーを備え、前記官能基が第1のポリマーの0.1~5重量%である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項15】
前記極性ポリマーバインダーが、官能基で修飾された第1のポリマーを備え、前記官能基が第1のポリマーの0.1~50重量%である、請求項1から11までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項16】
修飾されていない前記第1のポリマーが、3.5未満の極性指数を有する溶媒に不溶性である、請求項15に記載の複合体。
【請求項17】
修飾された前記第1のポリマーが、3.5未満の極性指数を有する溶媒に可溶性である、請求項16に記載の複合体。
【請求項18】
修飾されていない前記第1のポリマーが、3.5未満の極性指数を有する溶媒に不溶性であり、修飾された前記第1のポリマーが、4.5未満の極性指数を有する溶媒に可溶性である、請求項15に記載の複合体。
【請求項19】
前記アルジロダイトが、式Li
7-xPS
6-xHal
x(Hal=Cl、Br、I、および0<x<2)を有する、請求項1から18までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項20】
Xが1よりも大きい、請求項19に記載の複合体。
【請求項21】
無機イオン伝導性粒子と
ポリマーバインダーを含む有機相であって、前記ポリマーバインダーは官能基で修飾された第1のポリマーを含み、前記官能基は前記第1のポリマーの0.1~5重量%である、有機相と
を備える、複合体。
【請求項22】
前記第1のポリマーが非極性ポリマーであり、前記官能基が極性基である、請求項21に記載の複合体。
【請求項23】
前記官能基が、
【化1】
から選択され、R、R
1、R
2、R
3は、各出現に対して独立して、-CN、-H、-OH、Me
+、-OMe
+、任意選択的に置換されたアリール、任意選択的に置換されたアルコキシ、任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアルケニル、および任意選択的に置換されたアルキニルから選択され、Xは、各出現に対して独立して、-F、-Cl、-Brおよび-Iから選択され、nは1~10の整数である、請求項21に記載の複合体。
【請求項24】
前記第1のポリマーが、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、ポリブタジエン(PBD)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリスチレン(PS)のうちの1つである、請求項21に記載の複合体。
【請求項25】
前記ポリマーバインダーが、無水マレイン酸で修飾されたSEBS(SEBS-gMA)を備える、請求項21に記載の複合体。
【請求項26】
前記ポリマーバインダーが、修飾されていないSEBSとSEB-gMAとの混合物を備える、請求項25に記載の複合体。
【請求項27】
前記ポリマーバインダーが、フルフリルアミンで修飾されたSEBS(SEBS-gFA)を備える、請求項21に記載の複合体。
【請求項28】
前記ポリマーバインダーが、官能基で修飾された第1のポリマーと、修飾されていない第1のポリマーとの混合物を備える、請求項21に記載の複合体。
【請求項29】
前記無機イオン伝導性粒子がアルジロダイトである、請求項21から28までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項30】
前記無機イオン伝導性粒子が硫化物ガラス粒子である、請求項21から28までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項31】
前記複合体が、少なくとも10%の破断伸び率を有する、請求項21から28までのいずれか1項に記載の複合体。
【請求項32】
溶媒と、
前記溶媒に溶解したポリマーバインダーであって、前記ポリマーバインダーは官能基で修飾された第1のポリマーを含み、前記官能基は前記第1のポリマーの0.1~5重量%である、ポリマーバインダーと、
溶媒に懸濁したイオン伝導性硫化物系粒子と
を備える、スラリー。
【請求項33】
前記溶媒が3.5未満の極性指数を有する、請求項32に記載のスラリー。
【請求項34】
前記溶媒がハロゲン化されており、3.5超の極性指数を有する、請求項32に記載のスラリー。
【請求項35】
前記第1のポリマーが非極性ポリマーであり、前記官能基が極性基である、請求項32に記載のスラリー。
【請求項36】
前記官能基が、
【化2】
から選択され、R、R
1、R
2、R
3は、各出現に対して独立して、-CN、-H、-OH、Me
+、-OMe
+、任意選択的に置換されたアリール、任意選択的に置換されたアルコキシ、任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアルケニル、および任意選択的に置換されたアルキニルから選択され、Xは、各出現に対して独立して、-F、-Cl、-Brおよび-Iから選択され、nは1~10の整数である、請求項32に記載のスラリー。
【請求項37】
前記第1のポリマーが、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、ポリブタジエン(PBD)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)およびポリスチレン(PS)のうちの1つである、請求項32に記載のスラリー。
【請求項38】
前記ポリマーバインダーが、無水マレイン酸で修飾されたSEBS(SEBS-gMA)を備える、請求項32に記載のスラリー。
【請求項39】
前記ポリマーバインダーが、フルフリルアミンで修飾されたSEBS(SEBS-gFA)を備える、請求項32に記載のスラリー。
【請求項40】
前記ポリマーバインダーが、官能基で修飾された前記第1のポリマーと、修飾されていない第1のポリマーとの混合物を備える、請求項32に記載のスラリー。
【請求項41】
前記溶媒が、前記スラリーの少なくとも50重量%である、請求項32に記載のスラリー。
【請求項42】
無機イオン伝導性粒子と
ポリマーバインダーを含む有機相であって、前記ポリマーバインダーは官能基で修飾された第1のポリマーを含み、前記官能基は前記第1のポリマーの0.1~50重量%である、有機相と
を備える、複合体。
【請求項43】
前記官能基が、前記第1のポリマーの5~50重量%である、請求項42に記載の複合体。
【請求項44】
修飾されていない前記第1のポリマーが、4.5未満の極性指数を有する溶媒に不溶性である、請求項42に記載の複合体。
【請求項45】
修飾された前記第1のポリマーが、4.5未満の極性指数を有する溶媒に可溶性である、請求項44に記載の複合体。
【請求項46】
修飾されていない前記第1のポリマーが、3.5未満の極性指数を有する溶媒に不溶性である、請求項42に記載の複合体。
【請求項47】
修飾された前記第1のポリマーが、3.5未満の極性指数を有する溶媒に可溶性である、請求項46に記載の複合体。
【請求項48】
前記第1のポリマーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)である、請求項42に記載の複合体。
【請求項49】
前記ポリマーバインダーが、スチレンで修飾されたPVDFを備える、請求項42に記載の複合体。
【請求項50】
前記無機イオン伝導性粒子がアルジロダイト粒子を備える、請求項42に記載の複合体。
【請求項51】
前記無機イオン伝導性粒子が硫化物ガラス粒子を備える、請求項42に記載の複合体。
【請求項52】
溶媒と、
前記溶媒に溶解したポリマーバインダーであって、前記ポリマーバインダーは官能基で修飾された第1のポリマーを含み、前記官能基は前記第1のポリマーの0.1~50重量%または1~5重量%である、ポリマーバインダーと、
溶媒に懸濁したイオン伝導性硫化物系粒子と
を備える、スラリー組成物。
【請求項53】
修飾されていない前記第1のポリマーが、溶媒に不溶性である、請求項52に記載のスラリー組成物。
【請求項54】
前記溶媒が4.5未満の極性指数を有する、請求項52または53に記載のスラリー組成物。
【請求項55】
前記溶媒が3.5未満の極性指数を有する、請求項52または53に記載のスラリー組成物。
【請求項56】
前記第1のポリマーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)である、請求項52から55までのいずれか1項に記載のスラリー組成物。
【請求項57】
前記ポリマーバインダーが、スチレンで修飾されたPVDFを備える、請求項52から55までのいずれか1項に記載のスラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
PCT願書が、本出願の一部として本明細書と同時に提出される。同時に提出されたPCT願書において確認されるように、本出願が利益または優先権を主張する各出願は、その全体が、あらゆる目的のために、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
固体状電解質は、一次および二次電池において、液体電解質に対する様々な利点を提示する。例えば、リチウムイオン二次電池において、無機固体状電解質は、従来の液体有機電解質よりも可燃性が低い可能性がある。また、固体状電解質は、デンドライト形成の影響を受けないため、リチウム金属電極の使用が容易になり得る。また、固体状電解質は、広範な条件において、高いエネルギー密度、良好なサイクル安定性、および電気化学的安定性の利点を提示し得る。しかしながら、固体状電解質の大規模な実用化には様々な課題がある。1つの課題は、電解質と電極との間の接触を維持することである。例えば、無機硫化物ガラスおよびセラミックなどの無機材料は室温で高いイオン伝導度(10-4S/cmよりも高い)を有するが、電池サイクル中における電極への密着性が低いことに起因して、効率的な電解質として機能しない。別の課題は、ガラスおよびセラミック固体状導体は、脆すぎて緻密な薄膜に大規模に加工できないということである。この結果、膜が厚すぎることに起因してバルク電解質抵抗が高くなったり、デンドライトの侵入を可能にする空隙の存在に起因してデンドライトが形成したりすることもある。比較的延性の高い硫化物ガラスの機械的性質でさえ、ガラスを緻密な薄膜に加工することに適していない。固体ポリマーバインダーの添加など、密着性を改善する技法は、イオン伝導度を低減させる傾向にあるため、イオン伝導度を犠牲にすることなく、これらの機械的性質を改善することが課題として特にある。わずか1重量%のバインダーを導入することに伴い、伝導度の一桁を超える低下が見られることも珍しいことではない。固体状ポリマー電解質系は、密着および薄膜形成を容易にする機械的特性を改善し得るが、室温でのイオン伝導度が低かったり、機械的強度が低かったりする場合がある。
【0003】
固体電池の大量生産および実用化には、イオン伝導度を犠牲にすることなく、室温で高いイオン伝導度を有し、緻密な薄膜に加工できるほど十分に適合した材料が必要である。
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様は、無機イオン伝導性粒子と、ポリマーバインダーを含む有機相であって、ポリマーバインダーは官能基で修飾された第1のポリマーを含み、官能基は第1のポリマーの0.1~5重量%である有機相とを備える、複合体に関する。いくつかの実施形態において、第1のポリマーは非極性ポリマーであり、官能基は極性基である。いくつかの実施形態において、官能基は、以下から選択される:
【化1】
式中、R、R
1、R
2、R
3は、各出現に対して独立して、-CN、-H、-OH、Me
+、-OMe
+、任意選択的に置換されたアリール、任意選択的に置換されたアルコキシ、任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアルケニル、および任意選択的に置換されたアルキニルから選択され、Xは、各出現に対して独立して、-F、-Cl、-Brおよび-Iから選択され、nは1~10の整数である。
【0005】
いくつかの実施形態において、第1のポリマーは、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、ポリブタジエン(PBD)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)のうちの1つである。
【0006】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、無水マレイン酸で修飾されたSEBS(SEBS-gMA)を備える。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、フルフリルアミンで修飾されたSEBS(SEBS-gFA)を備える。
【0007】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、官能基で修飾された第1のポリマーと、修飾されていない第1のポリマーとの混合物を含む。
【0008】
本開示の別の態様は、以下のものを含むスラリーに関する:溶媒、溶媒に溶解したポリマーバインダーであって、ポリマーバインダーは官能基で修飾された第1のポリマーを含み、官能基は第1のポリマーの0.1~5重量%であるポリマーバインダー、および溶媒に懸濁したイオン伝導性硫化物系粒子。
【0009】
いくつかの実施形態において、溶媒は、極性指数が3.5未満である。いくつかの実施形態において、溶媒はハロゲン化されており、極性指数が3.5よりも高い。いくつかの実施形態において、第1のポリマーは非極性ポリマーであり、官能基は極性基である。
いくつかの実施形態において、官能基は、以下から選択される:
【化2】
式中、R、R
1、R
2、R
3は、各出現に対して独立して、-CN、-H、-OH、Me
+、-OMe
+、任意選択的に置換されたアリール、任意選択的に置換されたアルコキシ、任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアルケニル、および任意選択的に置換されたアルキニルから選択され、Xは、各出現に対して独立して、-F、-Cl、-Brおよび-Iから選択され、nは1~10の整数である。
【0010】
いくつかの実施形態において、第1のポリマーは、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、ポリブタジエン(PBD)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)のうちの1つである。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、無水マレイン酸で修飾されたSEBS(SEBS-gMA)を備える。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、フルフリルアミンで修飾されたSEBS(SEBS-gFA)を備える。
【0011】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、官能基で修飾された第1のポリマーと、修飾されていない第1のポリマーとの混合物を備える。
【0012】
本開示の別の態様は、無機イオン伝導性粒子と、ポリマーバインダーを含む有機相であって、ポリマーバインダーは官能基で修飾された第1のポリマーを含み、官能基は第1のポリマーの0.1~50重量%である有機相とを備える、複合体に関する。いくつかの実施形態において、官能基は、第1のポリマーの5~50重量%である。
【0013】
いくつかの実施形態において、修飾されていない第1のポリマーは、4.5未満の極性指数を有する溶媒に不溶性である。いくつかのこのような実施形態において、修飾された第1のポリマーは、4.5未満の極性指数を有する溶媒に可溶性である。いくつかの実施形態において、修飾されていない第1のポリマーは、3.5未満の極性指数を有する溶媒に不溶性である。いくつかのこのような実施形態において、修飾された第1のポリマーは、3.5未満の極性指数を有する溶媒に可溶性である。いくつかの実施形態において、第1のポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)である。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、スチレンで修飾されたPVDFを含む。
【0014】
本開示の別の態様は、以下のものを含むスラリー組成物に関する:溶媒、溶媒に溶解したポリマーバインダーであって、ポリマーバインダーは官能基で修飾された第1のポリマーを含み、官能基は第1のポリマーの0.1~50重量%または1~5重量%であるポリマーバインダー、および溶媒に懸濁したイオン伝導性硫化物系粒子。いくつかの実施形態において、修飾されていない第1のポリマーは、溶媒に不溶性である。いくつかのこのような実施形態において、溶媒は、4.5未満の極性指数を有する。いくつかのこのような実施形態において、溶媒は、3.5未満の極性指数を有する。いくつかの実施形態において、第1のポリマーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)である。いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、スチレンで修飾されたPVDFを含む。
【0015】
本開示の別の態様は、無機イオン伝導性アルジロダイト含有粒子と、極性ポリマーバインダーを含む有機相とを備える複合体に関する。
【0016】
いくつかの実施形態において、複合体は、25℃で少なくとも0.2mS・cm-1、25℃で少なくとも0.25mS・cm-1、または25℃で0.3mS・cm-1のイオン伝導度を有する。いくつかのこのような実施形態において、無機イオン伝導性アルジロダイト含有粒子は、複合体の90重量%以下、85重量%以下、または80重量%以下である。いくつかの実施形態において、複合体は、25℃で少なくとも0.6mS・cm-1、25℃で少なくとも0.6mS・cm-1、または25℃で0.6mS・cm-1のイオン伝導度を有する。いくつかのこのような実施形態において、複合体は、少なくとも10%、15%、または20%の破断伸びを有する。
【0017】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、最大30%のニトリル基を有するポリ(酢酸ビニル)またはニトリルブタジエンゴムである。
【0018】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、ポリ(アクリロニトリル-co-スチレン-co-ブタジエン)(ABS)、ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)、ポリ(スチレン-co-アクリロニトリル)(SAN)、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(ブタジエン-co-アクリレート)、ポリ(ブタジエン-co-アクリル酸-co-アクリロニトリル)、ポリ(エチレン-co-アクリレート)、ポリエーテル、フタル酸ジアルキルのポリエステルまたはポリ(塩化ビニル)(PVC)である。
【0019】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、官能基で修飾された第1のポリマーを含み、官能基は、第1のポリマーの0.1~5重量%である。
【0020】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、官能基で修飾された第1のポリマーを含み、官能基は、第1のポリマーの0.1~50重量%である。いくつかのこのような実施形態において、修飾されていない第1のポリマーは、3.5未満の極性指数を有する溶媒に不溶性である。いくつかの実施形態において、修飾された第1のポリマーは、3.5未満の極性指数を有する溶媒に可溶性である。
【0021】
いくつかの実施形態において、アルジロダイトは、式Li7-xPS6-xXx(X=Cl、Br、I、および0<x<2)を有する。いくつかのこのような実施形態において、Xは1よりも大きい。
【0022】
本開示の別の態様は、無機イオン伝導性アルジロダイト含有粒子と、極性ポリマーバインダーを含む有機相とを備える複合体に関する。いくつかの実施形態において、極性ポリマーバインダーは、最大30%のニトリル基を有するポリ(酢酸ビニル)またはニトリルブタジエンゴムである。
【0023】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、ポリ(アクリロニトリル-co-スチレン-co-ブタジエン)(ABS)、ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)、ポリ(スチレン-co-アクリロニトリル)(SAN)、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(ブタジエン-co-アクリレート)、ポリ(ブタジエン-co-アクリル酸-co-アクリロニトリル)、ポリ(エチレン-co-アクリレート)、ポリエーテル、フタル酸ジアルキルのポリエステルまたはポリ(塩化ビニル)(PVC)である。
【0024】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、官能基で修飾された第1のポリマーを含み、官能基は第1のポリマーの0.1~5重量%である。
【0025】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、官能基で修飾された第1のポリマーを含み、官能基は、第1のポリマーの0.1~50重量%である。
【0026】
いくつかのこのような実施形態において、修飾されていない第1のポリマーは、3.5未満の極性指数を有する溶媒に不溶性である。いくつかのこのような実施形態において、修飾された第1のポリマーは、3.5未満の極性指数を有する溶媒に可溶性である。
【0027】
これらと他の態様については、以下で詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1A】様々な実施形態によるセルの概略的な例を示す。
【
図1B】様々な実施形態によるセルの概略的な例を示す。
【
図1C】様々な実施形態によるセルの概略的な例を示す。
【0029】
【
図2】立方晶アルジロダイトLi
6PS
5Clの結晶構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
イオン伝導性の無機相と有機相とを有するイオン伝導性複合体電解質が本明細書で提供される。複合体は、良好な電気化学的安定性と室温伝導性とを有する単一イオン導体である。有機相は、加工および全固体電池への組み込みを可能にする十分な機械的性質を提供する高分子バインダーを備える。また、複合体電解質は、動作中に大きなストレスにさらされるフレキシブルエレクトロニクスなどのデバイスに必要とされる高い弾性、曲げ性および機械的強度を提供することができる。
【0031】
固体状組成物の特定の成分(例えば、高分子量ポリマーバインダー)に関しての「数平均分子量」または「Mn」という用語は、g/molの単位で表される、成分のすべての分子の統計平均分子量を指す。数平均分子量は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(Mnは、屈折率、紫外線、または他の検出器などのオンライン検出システムに基づく既知の基準に基づいて算出され得る)、粘度法、質量分析法、または束一的性質を用いた方法(例えば、蒸気圧浸透圧法、末端基決定、またはプロトンNMR)などの、当該技術分野において既知の技法によって決定され得る。数平均分子量は、以下の式によって定義される:
【数1】
【0032】
式中、Miは、分子の分子量、Niは、その分子量の分子の数である。下の説明において、特定のポリマーの分子量についての言及は、数平均分子量を指す。
【0033】
本明細書で単独または別の基の一部として使用される「アルキル」という用語は、任意の数の炭素原子を含み、主鎖に二重結合もしくは三重結合を含まない直鎖または分岐鎖の炭化水素を指す。本明細書で使用される「低級アルキル」は、アルキルのサブセットで、1~6個の炭素原子を含む直鎖または分岐鎖の炭化水素基を指す。「アルキル」および「低級アルキル」という用語は、別段の指示がない限り、両方とも置換および非置換のアルキルまたは低級アルキルを含む。低級アルキルの例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチルなどが挙げられる。
【0034】
また、アルキル基は、置換されていてもよく、非非置換であってもよい。例えば、アルキル基は、以下からなる群から独立して選択される1個、2個、3個、または炭素数が2個もしくはそれを上回るアルキル基の場合には4個の置換基で置換されていてもよい:(1)C1-6アルコキシ(例えば、-O-Ak、式中、Akは、任意選択的に置換されたC1-6アルキルである)、(2)C1-6アルキルスルフィニル(例えば、-S(O)-Ak、式中、Akは任意選択的に置換されたC1-6アルキルである)、(3)C1-6アルキルスルホニル(例えば、-SO2-Ak、式中、Akは、任意選択的に置換されたC1-6アルキルである)、(4)アミノ(例えば、NRN1RN2、式中、RN1およびRN2の各々は、独立して、Hもしくは任意選択的に置換されたアルキルであるか、またはRN1とRN2とは、各々が結合している窒素原子と一緒になってヘテロシクリル基を形成する)、(5)アリール、(6)アリールアルコキシ(例えば、-O-L-Ar、式中、Lは、任意選択的に置換されたアルキルの二価の形態であり、Arは、任意選択的に置換されたアリールである)、(7)アリーロイル(例えば、-C(O)-Ar、式中、Arは、任意選択的に置換されたアリールである)、(8)アジド(例えば、-N=N-)、(9)シアノ(例えば、-CN)、(10)カルボキシアルデヒド(例えば、-C(O)H)、(11)C3-8シクロアルキル(例えば、一価の飽和または不飽和の非芳香族環状C3-8炭化水素基);(12)ハロ(例えば、F、Cl、BrまたはI)、(13)ヘテロシクリル(例えば、特に明記しない限り、窒素、酸素、リン、硫黄またはハロなどの1個、2個、3個もしくは4個の非炭素ヘテロ原子を含む5員、6員または7員環)、(14)ヘテロシクリルオキシ(例えば、-O-Het、式中、Hetは、本明細書に記載されるようなヘテロシクリルである)、(15)ヘテロシクリロイル(例えば、-C(O)-Het、式中、Hetは、本明細書に記載されるようなヘテロシクリルである)、(16)ヒドロキシル(例えば、-OH)、(17)N-保護アミノ、(18)ニトロ(例えば、-NO2)、(19)オキソ(例えば、=O)、(20)C3-8スピロシクリル(例えば、アルキレンまたはヘテロアルキレンジラジカルであって、その両端が親基の同じ炭素原子に結合しているもの)、(21)C1-6チオアルコキシ(例えば、-S-Ak、式中、Akは、任意選択的に置換されたC1-6アルキル)、(22)チオール(例えば、-SH)、(23)-CO2RA、式中、RAは、(a)水素、(b)C1-6アルキル、(c)C4-18アリール、および(d)(C4-18アリール)C1-6アルキルからなる群から選択される(例えば、-L-Ar、式中、Lは、任意選択的に置換されたアルキル基の二価の形態であり、Arは、任意選択的に置換されたアリールである)、(24)-C(O)NRBRC、式中、RBおよびRCの各々は、独立して、(a)水素、(b)C1-6アルキル、(c)C4-18アリール、(d)(C4-18アリール)C1-6アルキルからなる群から選択される(例えば、-L-Ar、式中、Lは、任意選択的に置換されたアルキル基の二価の形態であり、Arは、任意選択的に置換されたアリールである)、(25)SO2RD、式中、RDは、(a)C1-6アルキル、(b)C4-18アリール、および(c)(C4-18アリール)C1-6アルキルからなる群から選択される(例えば、-L-Ar、式中、Lは、任意選択的に置換されたアルキル基の二価の形態であり、Arは、任意選択的に置換されたアリールである)、(26)-SO2NRERF、式中、REおよびRFの各々は、独立して、(a)水素、(b)C1-6アルキル、(c)C4-18アリール、(d)(C4-18アリール)C1-6アルキルからなる群から選択される(例えば、-L-Ar、式中、Lは、任意選択的に置換されたアルキル基の二価の形態であり、Arは、任意選択的に置換されたアリールである)および(27)-NRGRH、式中、RGおよびRHの各々は、独立して、(a)水素、(b)N-保護基、(c)C1-6アルキル、(d)C2-6アルケニル(例えば、1個または複数の二重結合を有する任意選択的に置換されたアルキル)、(e)C2-6アルキニル(例えば、1個または複数の三重結合を有する任意選択的に置換されたアルキル)、(f)C4-18アリール、(g)(C4-18アリール)C1-6アルキル(例えば、-L-Ar、式中、Lは、任意選択的に置換されたアルキル基の二価の形態であり、Arは、任意選択的に置換されたアリールである)、(h)C3-8シクロアルキル、および(i)(C3-8シクロアルキル)C1-6アルキル(例えば-L-Cy、式中、Lは、任意選択的に置換されたアルキル基の二価の形態であり、Cyは、本明細書に記載されるような任意選択的に置換されたシクロアルキルである)からなる群から選択され、ここで、一実施形態において、カルボニル基またはスルホニル基を介して窒素原子に2個の基が結合されていない。アルキル基は、1個または複数の置換基(例えば、1個もしくは複数のハロまたはアルコキシ)で置換された第一級、第二級または第三級アルキル基であり得る。いくつかの実施形態において、非置換アルキル基は、C1-3、C1-6、C1-12、C1-16、C1-18、C1-20、またはC1-24アルキル基である。
【0035】
「アルケニル{XE「アルケニル」}」とは、1個または複数の二重結合を有する任意選択的に置換されたC2-24アルキル基を意味する。アルケニル基は、環状(例えば、C3-24シクロアルケニル)であってもよく、非環状であってもよい。また、アルケニル基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。例えば、アルケニル基は、本明細書でアルキルについて説明するように、1個または複数の置換基で置換されていてもよい。いくつかの実施形態において、非置換アルケニル基は、C2-6、C2-12、C2-16、C2-18、C2-20、またはC2-24アルケニル基である。
【0036】
「アルキニル{XE「アルキニル」}」とは、1個または複数の三重結合を有する任意選択的に置換されたC2-24アルキル基を意味する。アルキニル基は、環状または非環状であってもよく、エチニル、1-プロピニルなどが例示される。また、アルキニル基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。例えば、アルキニル基は、本明細書でアルキルについて説明するように、1個または複数の置換基で置換されていてもよい。いくつかの実施形態において、非置換アルキニル基は、C2-6、C2-12、C2-16、C2-18、C2-20、またはC2-24アルキニル基である。
【0037】
「アルコキシ」とは、-ORを意味し、式中、Rは、本明細書に記載されるような任意選択的に置換されたアルキル基である。例示的なアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、ブトキシ、トリハロアルコキシ、例えばトリフルオロメトキシなどが挙げられる。アルコキシ基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。例えば、アルコキシ基は、本明細書でアルキルについて説明するように、1個または複数の置換基で置換されていてもよい。例示的な非置換アルコキシ基としては、C1-3、C1-6、C1-12、C1-16、C1-18、C1-20、またはC1-24アルコキシ基が挙げられる。
【0038】
本明細書で使用される「アリール」という用語は、単環式および二環式の芳香族基を含む基を指す。例としては、フェニル、ベンジル、アントラセニル、アントリル、ベンゾシクロブテニル、ベンゾシクロオクテニル、ビフェニリル、クリセニル、ジヒドロインデニル、フルオランテニル、インダセニル、インデニル、ナフチル、フェナントリル、フェノキベンジル、ピセニル、ピレニル、テルフェニルなど、縮合ベンゾC4-8シクロアルキル基(例えば、本明細書において定義される)、例えば、インダニル、テトラヒドロナフチル、フルオレニルなどを含むものが挙げられる。また、アリールという用語にはヘテロアリールも含まれ、これは芳香族基の環内に少なくとも1個のヘテロ原子が組み込まれた芳香族基を含む基と定義される。ヘテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄、リンが挙げられるが、これらに限定されない。同様に、非ヘテロアリールという用語は、アリールという用語にも含まれ、ヘテロ原子を含まない芳香族基を含む基を定義する。アリール基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。アリール基は、本明細書でアルキルについて記載されているものなど、1、2、3、4または5個の置換基で置換されていてもよい。特定の実施形態において、非置換アリール基は、C4-18、C4-14、C4-12、C4-10、C6-18、C6-14、C6-12、またはC6-10アリール基である。
【0039】
「ヘテロシクリル」とは、特に明記しない限り、1、2、3もしくは4個の非炭素ヘテロ原子(例えば、窒素、酸素、リン、硫黄、セレン、またはハロからなる群から独立して選択される)を含む3、4、5、6もしくは7員環(例えば、5、6もしくは7員環)を意味する。3員環は0~1個の二重結合を有し、4および5員環は0~2個の二重結合を有し、6および7員環は0~3個の二重結合を有する。また、「ヘテロシクリル」という用語には、上記の複素環のいずれかが、アリール環、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、シクロペンタン環、シクロペンテン環、および別の単環式複素環、例えば、インドリル、キノリル、イソキノリル、テトラヒドロキノリル、ベンゾフリル、ベンゾチエニルなどからなる群から独立して選択される1、2または3個の環に縮合した二環式、三環式および四環式基も含む。複素環としては、アクリジニル、アデニル、アロキサジニル、アザアダマンタニル、アザベンズイミダゾリル、アザビシクロノニル、アザシクロヘプチル、アザシクロオクチル、アザシクロノニル、アザヒポキサンチニル、アザインダゾリル、アザインドリル、アゼシニル、アゼパニル、アゼピニル、アゼチジニル、アゼチル、アジリジニル、アジリニル、アゾカニル、アゾシニル、アゾナニル、ベンズイミダゾリル、ベンズイソチアゾリル、ベンズイソオキサゾリル、ベンゾジアゼピニル、ベンゾジアゾシニル、ベンゾジヒドロフリル、ベンゾジオキセピニル、ベンゾジオキシニル、ベンゾジチオキサニル、ベンゾジオキソシニル、ベンゾジオキソリル、ベンゾジチエピニル、ベンゾジチイニル、ベンゾジオキソシニル、ベンゾフラニル、ベンゾフェナジニル、ベンゾピラノニル、ベンゾピラニル、ベンゾピレニル、ベンゾピロニル、ベンゾキノリニル、ベンゾキノリジニル、ベンゾチアジアゼピニル、ベンゾチアジアゾリル、ベンゾチアゼピニル、ベンゾチアゾシニル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチエニル、ベンゾチオフェニル、ベンゾチアジノニル、ベンゾチアジニル、ベンゾチオピラニル、ベンゾチオピロニル、ベンゾトリアゼピニル、ベンゾトリアジノニル、ベンゾトリアジニル、ベンゾトリアゾリル、ベンゾオキサチイニル、ベンゾトリオキセピニル、ベンゾオキサジアゼピニル、ベンゾオキサチアゼピニル、ベンゾオキサチエピニル、ベンゾオキサチオシニル、ベンゾオキサゼピニル、ベンゾオキサジニル、ベンゾオキサゾシニル、ベンゾオキサゾリノニル、ベンゾオキサゾリニル、ベンゾオキサゾリル、ベンジルスルタミル、ベンジルスルチミル、ビピラジニル、ビピリジニル、カルバゾリル(例えば、4H-カルバゾリル)、カルボリニル(例えば、β-カルボリニル)、クロマノニル、クロマニル、クロメニル、シノリニル、クマリニル、シチジニル、シトシニル、デカヒドロイソキノリニル、デカヒドロキノリニル、ジアザビシクロオクチル、ジアゼチル、ジアジリジンチオニル、ジアジリジノニル、ジアジリニル、ジアジリニル、ジベンズイソキノリニル、ジベンゾアクリジニル、ジベンゾカルバゾリル、ジベンゾフラニル、ジベンゾフェナジニル、ジベンゾピラノニル、ジベンゾピロニル(キサントニル)、ジベンゾキノキサリニル、ジベンゾチアゼピニル、ジベンゾチエピニル、ジベンゾチオフェニル、ジベンゾオキセピニル、ジヒドロアゼピニル、ジヒドロアゼチル、ジヒドロフラニル、ジヒドロフリル、ジヒドロイソキノリニル、ジヒドロピラニル、ジヒドロピリジニル、ジヒドロピリジル、ジヒドロキノリニル、ジヒドロチエニル、ジヒドロインドリル、ジオキサニル、ジオキサジニル、ジオキシインドリル、ジオキシラニル、ジオキセニル、ジオキシニル、ジオキソベンゾフラニル、ジオキソリル、ジオキソテトラヒドロフラニル、ジオキソチオモルホリニル、ジチアニル、ジチアゾリル、ジチエニル、ジチイニル、フラニル、フラザニル、フロイル、フリル、グアニニル、ホモピペラジニル、ホモピペリジニル、ヒポキサンチニル、ヒダントイニル、イミダゾリジニル、イミダゾリニル、イミダゾリル、インダゾリル(例えば、1H-インダゾリル)、インドレニル、インドリニル、インドリジニル、インドリル(例えば、1H-インドリルまたは3H-インドリル)、イサチニル、イサチル、イソベンゾフラニル、イソクロマニル、イソクロメニル、イソインダゾイル、イソインドリニル、イソインドリル、イソピラゾロニル、イソピラゾリル、イソキサゾリジニル、イソキサゾリル、イソキノリニル、イソキノリニル、イソチアゾリジニル、イソチアゾリル、モルホリニル、ナフチンダゾリル、ナフトインドリル、ナフチリジニル、ナフトピラニル、ナフトチアゾリル、ナフトチオオキソリル、ナフチトリアゾリル、ナフチトキシンドリル、ナフチリジニル、オクタヒドロイソキノリニル、オキサビシクロヘプチル、オキサウラシル、オキサジアゾリル、オキサジニル、オキサジリジニル、オキサゾリジニル、オキサゾリドニル、オキサゾリニル、オキサゾロニル、オキサゾリル、オキセパニル、オキセタノニル、オキセタニル、オキセチル、オキセタニル、オキシインドリル、オキシラニル、オキソベンゾイソチアゾリル、オキソクロメニル、オキソイソキノリニル、オキソキノリニル、オキソチオラニル、フェナントリジニル、フェナントロリニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノチエニル(ベンゾチオフラニル)、フェノキサチイニル、フェノキサジニル、フタルアジニル、フタルアゾニル、フタリジル、フタルイミジニル、ピペラジニル、ピペリジニル、ピペリドニル(例えば、4-ピペリドニル)、プテリジニル、プリニル、ピラニル、ピラジニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、ピラゾロピリミジニル、ピラゾリル、ピリダジニル、ピリジニル、ピリドピラジニル、ピリドピリミジニル、ピリジル、ピリミジニル、ピリミジル、ピロニル、ピロリジニル、ピロリドニル(例えば、2-ピロリドニル)、ピロリニル、ピロリジニル、ピロリル(例えば、2H-ピロリル)、ピリリウム、キナゾリニル、キノリニル、キノリジニル(例えば、4H-キノリジニル)、キノキサリニル、キヌクリジニル、セレナジニル、セレナゾリル、セレノフェニル、スクシンイミジル、スルホラニル、テトラヒドロフラニル、テトラヒドロフリル、テトラヒドロイソキノリニル、テトラヒドロイソキノリル、テトラヒドロピリジニル、テトラヒドロピリジル(ピペリジル)、テトラヒドロピラニル、テトラヒドロピロニル、テトラヒドロキノリニル、テトラヒドロキノリル、テトラヒドロチエニル、テトラヒドロチオフェニル、テトラジニル、テトラゾリル、チアジアジニル(例えば、6H-1,2,5-チアジアジニルまたは2H,6H-1,5,2-ジチアジニル)、チアジアゾリル、チアントレニル、チアニル、チアナフテニル、チアゼピニル、チアジニル、チアゾリジンジオニル、チアゾリジニル、チアゾリル、チエニル、チエパニル、チエピニル、チエタニル、チイチル、チイラニル、チオカニル、チオクロマノニル、チオクロマニル、チオクロメニル、チオジアジニル、チオジアゾリル、チオインドキシル、チオモルホリニル、チオフェニル、チオピラニル、チオピロニル、チオトリアゾリル、チオウラゾリル、チオキサニル、チオキソリル、チミジニル、チミニル、トリアジニル、トリアゾリル、トリチアニル、ウラジニル、ウラゾリル、ウレチジニル、ウレチニル、ウリシル、ウリジニル、キサンテニル、キサンチニル、キサンチオニルなど、ならびにそれらの修飾形態(例えば、1個または複数のオキソおよび/またはアミノを含む)およびそれらの塩が挙げられる。ヘテロシクリル基は、置換されていてもよく、非置換であってもよい。例えば、ヘテロシクリル基は、本明細書においてアルキルについて説明するように、1個または複数の置換基で置換されていてもよい。
導入説明
【0040】
イオン伝導性無機相と非イオン伝導性有機相とを有するイオン伝導性複合体電解質は、固体状電解質の製造および使用における様々な課題に取り得む。複合体電解質の特定の実施形態は、相対的に高いポリマー負荷量(例えば、約50体積%)を有する。これにより、フレキシブルエレクトロニクスでの使用が可能となり、良好な機械的性質を提供することができる。
【0041】
有機物を多く含む最新の複合体電解質の殆どは、無機導体ではなく、イオン伝導性ポリマーマトリックスに依拠している。典型的なポリマー電解質は、ポリマーマトリックスに無機塩を溶解して調製され、これにより、イオン伝導度および輸率が比較的低い非単一イオン導体がもたらされ、適切な動作のためには高温にする必要がある。さらに、この電解質は酸化安定性が低く、セルの動作中に分解する傾向があるため、サイクル性能の非効率性およびセル寿命の低下につながる。しかしながら、ポリマーの機械的性質により、容易な加工、電極との良好な界面接触、固体電池の適切な取り扱いおよび動作のための柔軟性を可能にする。ポリマー電解質は、イオン伝導性または非伝導性の無機充填剤いずれかとの複合体として調製することができ、機械的性質と電気化学的性質との両方を改善することができる。しかしながら、無機粒子を添加しても、ポリマー電解質は、安定性の問題と、非単一イオン移動性質との欠点を依然として抱えている。
【0042】
イオン伝導性の無機相と有機相とを有するイオン伝導性複合体電解質が本明細書で提供される。いくつかの実施形態において、複合体は、良好な電気化学的安定性と室温伝導性とを有する単一イオン導体である。有機相は、加工および全固体電池への組み込みを可能にする十分な機械的性質を提供する高分子バインダーを備える。また、複合体電解質は、動作中に大きなストレスにさらされるフレキシブルエレクトロニクスなどのデバイスに必要とされる高い弾性、曲げ性および機械的強度を提供することができる。
有機相
【0043】
有機ポリマー相は、1または複数のポリマーを含んでいてもよく、無機イオン伝導性粒子と化学的に適合性がある。いくつかの実施形態において、有機相は、実質的にイオン伝導度を有さず、「非イオン伝導性」と呼ばれる。非イオン伝導性ポリマーは、0.0001S/cm未満のイオン伝導度を有することが本明細書に記載されている。
【0044】
様々な実施形態によれば、有機相は、極性または非極性である高分子バインダーを含んでいてもよい。分子内で発生する物理的な力には、様々なタイプがある。このような力の強さは様々であり、相互作用する分子の構造に基づくところが大きい。最も弱い力は分散力(ロンドン分散力、ファンデルワールス力とも呼ばれる)として知られており、すべての原子および分子に存在する力である。このような力は、原子/分子内の電子の偏在に起因して発生する一時的双極子が、隣接する分子/原子に反対方向の双極子を誘起することによってもたらされるものである。一時的双極子の形成により、正の引力の源である正負の部分電荷が誘起される。このような引力は、電子雲のサイズ、粒子のモル質量および表面積とともに増加する。これらは、非極性分子および希ガスに見られる唯一のタイプの相互作用である。双極子-双極子力は、極性分子内の永久双極子によって発生し、この場合、分子は、ある粒子の正の部分電荷が隣接する分子の負電荷の隣にあるように配置している。この力はロンドン分散力よりも強く、双極子を形成する原子間の電気陰性度の差が大きくなるにつれて大きくなる。また、この引力は、引き寄せる分子間の距離が小さくなると、引き寄せられた分子のサイズが小さくなるにつれて大きくなる。水素結合は、窒素(N)、酸素(O)またはフッ素(F)などの電気陰性度の高い小さな原子に直接結合した水素原子を含む分子間で起こる、特殊で強いタイプの双極子-双極子相互作用である。このような場合、水素原子と電気陰性原子とのそれぞれに正負の永久部分電荷が形成される。このような永久部分電荷は、双極子-双極子力の場合よりもさらに強い引力をもたらす。イオン-双極子力は、極性分子内で発生する反対方向の永久双極子にイオンまたは電荷のいずれかが引き寄せられ、イオンが反対電荷の双極子を有する分子に囲まれるように発生する力である。例えば、リチウムイオン電池の電解質または有機配位子を有する金属イオン複合体などの塩の溶解には、これらの力が関与している。
【0045】
本明細書の説明において、非極性バインダーとは、純粋な形態で弱い分散力によって分子内相互作用をする材料をいう。このような材料では、複合体電解質に影響を与え得る双極子-双極子、または水素結合などの他のより強い相互作用が寄与することは殆どない。例としては、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、ポリスチレン(PSt)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、ポリエチレンが挙げられる。このような材料は、固体状リチウムイオン導体またはリチウム塩などの無機材料との低い親和性および弱い相互作用を示す。場合によっては、より強い力の寄与が無視できる限り、低濃度での極性基の存在が許容され得る。例えば、2重量%未満または0.5重量%未満の極性基を有するバインダーは、より強い力の寄与が無視できる場合は、依然として非極性であってもよい。他の高分子バインダーは極性である。さらに他の実施形態において、非極性バインダーは、炭化水素(例えば、炭素原子および水素原子のみを含む)であるか、または炭化水素を含む。極性バインダーは、複合体電解質の性質に対して、より強い引力を与える効果が顕著である。これらの性質としては、引張強度、弾性率、破断伸び、イオン伝導度および粒子分散性などが挙げられる、これらに限定されない。極性のレベルは、非常に低いものから非常に高いものまでであり得る。低めの極性バインダーの例としては、グラフト化された無水マレイン酸で修飾されたSEBSまたはカルボン酸で修飾されたSBSが挙げられる。極性は、極性基の性質だけでなくそれらの重量分率にも依存する。いくつかの実施形態において、これは0.1重量%と低くてもよい。いくつかの実施形態において、それは0.5重量%超、例えば1~5重量%である。より極性の高いバインダーとしては、グラフト化された極性基を5%超で有するポリマーを挙げることができる。非常に極性の高いポリマーの例としては、ポリ(酢酸ビニル)、ポリ(メチルメタクリレート)PMMAが挙げられる。さらに他の実施形態において、極性バインダーは、1個または複数の非炭素ヘテロ原子(例えば、窒素、酸素、硫黄、ケイ素など)を有する炭化水素であるか、またはそれを含む。このようなヘテロ原子は、本明細書に記載されるように、グラフト化された官能基の方法で提供することができる。
【0046】
いくつかの実施形態において、有機相は、ポリマーバインダー、比較的高分子量のポリマーまたは異なる高分子量のポリマーの混合物を含む。ポリマーバインダーは、少なくとも30kg/molの分子量を有し、少なくとも50kg/mol、または100kg/molであってもよい。分子量分布は、モノモーダル、バイモーダルおよびマルチモーダルであり得る。
【0047】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、非極性の骨格を有する。非極性ポリマーバインダーの例としては、スチレン、ブタジエン、イソプレン、エチレンおよびブチレンを含む、ポリマーまたはコポリマーが挙げられる。ポリスチレンブロックおよびゴムブロックを含むスチレン系ブロックコポリマーが使用され得、ゴムブロックの例としては、ポリブタジエン(PBD)およびポリイソプレン(PI)が挙げられる。ゴムブロックは、水素化されてもよいし、されていてもよい。ポリマーバインダーの具体例としては、スチレンエチレンブチレンスチレン(SEBS)、スチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリスチレン(PSt)、PBD、ポリエチレン(PE)、およびPIが挙げられる。非極性ポリマーは無機粒子を被覆しないため、伝導性を低下させる可能性がある。
【0048】
有機相の高分子成分の主鎖または骨格は、無機相と強く相互作用しない。骨格の例としては、飽和または不飽和のポリアルキル、多環芳香族、およびポリシロキサンが挙げられる。無機相との相互作用が強すぎる可能性がある骨格の例としては、ポリアルコール、ポリ酸、ポリエステル、ポリエーテル、ポリアミン、およびポリアミドなどの、強い電子供与性基を有するものが挙げられる。酸素または他の求核基の結合強度を減少させる他の部分を有する分子が使用され得ることを理解されたい。例えば、パーフルオロポリエーテル(PFPE)骨格のパーフルオロ特性は、エーテル酸素の電子密度を非局在化し、特定の実施形態での使用を可能にする。
【0049】
いくつかの実施形態において、可塑性コポリマーセグメントと弾性コポリマーセグメントとの両方を有する疎水性ブロックコポリマーが使用される。例としては、スチレン系ブロックコポリマー、例えばSEBS、SBS、SIS、スチレン-イソプレン/ブタジエン-スチレン(SIBS)、スチレン-エチレン/プロピレン(SEP)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、およびイソプレンゴム(IR)が挙げられる。
【0050】
バインダーがコポリマーである実施形態において、構成ポリマーは、バインダーがブロックコポリマー、ランダムコポリマー、統計コポリマー、グラフトコポリマーなどであり得るように、任意の適切な方法で分布され得る。ポリマー骨格は、分岐型、星型、櫛型、およびボトルブラシ型ポリマーを含む例では、線形または非線形であってもよい。さらに、コポリマーの構成ポリマー間の遷移は、シャープ、テーパー、またはランダムであり得る。
【0051】
いくつかの実施形態において、有機相は、実質的に非イオン伝導性であり、非イオン伝導性ポリマーの例としては、PDMS、PBD、および上記の他のポリマーが挙げられる。LiIなどの塩を溶解または解離することからイオン伝導性であるポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)などのイオン伝導性ポリマーとは異なり、非イオン伝導性ポリマーは、塩の存在下でもイオン伝導性でない。これは、塩を溶解しなければ、伝導する可動性イオンが存在しないためである。いくつかの実施形態において、これらのうちの1つ、または別のイオン伝導性ポリマーが使用されてもよい。上記で言及され、参照により本明細書に組み込まれるCompliant glass-polymer hybrid single ion-conducting electrolytes for lithium ion batteries,PNAS,52-57,vol.113,no.1(2016)に記載のPFPEは、イオン伝導性であり、リチウムの単一イオン導体であって、いくつかの実施形態において使用され得る。
【0052】
いくつかの実施形態において、有機相は、架橋を含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、有機相は、架橋ポリマーネットワークである。架橋ポリマーネットワークは、in-situで、すなわち、無機粒子をポリマーまたはポリマー前駆体と混合して複合体を形成した後に、架橋させることができる。ポリマーのin-situ重合(in-situ架橋を含む)は、米国特許第10,079,404号明細書に記載されており、参照により本明細書に組み込まれる。
極性高分子バインダー
【0053】
他の電池用途で使用されている、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)、およびポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの極性高分子バインダーは、無機導体と混合するとイオン伝導性の低い複合体をもたらす。これは、ポリマーが無機粒子の表面に強く結合し、隣接する粒子と直接接触することを妨げる緻密な絶縁被膜を形成することができるためである。このようなポリマーは1~5重量%と低くても粒子を絶縁し、複合体全体のリチウムイオン経路を遮断するため、非常に抵抗性の高い材料をもたらし得る。
【0054】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、SEBS、SBS、またはSISなどの熱可塑性エラストマーである。このようなバインダーの無極性および疎水性により、純粋な無機導体の初期伝導性を高く保持することが可能となる。電解質セパレータおよび電極を含む複合材料では、溶媒および/またはポリマーが無機導体の化学的もしくは形態的変化および/または伝導性の低下を引き起こすことがある。例えば、アルジロダイト様無機物を含む硫化物系無機導体は、極性ポリマーおよび/または極性溶媒によって分解されることがある。
【0055】
本開示で取り扱う別の課題は、複合体電解質中の硫化物系材料が中程度の極性を持つ・非常に極性の高い溶媒中で不安定なことである。下記の表1は、硫化物系材料の安定性に及ぼす溶媒の極性の影響を示したものである。
表1:硫化物系材料の安定性に及ぼす溶媒極性の影響
【表1】
*クロロホルムを含むこの範囲のハロゲン化溶媒には硫化物系材料が安定している
【0056】
ガラス材料(LPSガラスなど)は極性溶媒またはポリマーによる結晶化の影響を受けやすく、伝導性の酷い損失を招く可能性があるが、結晶性アルジロダイトは伝導性の保持がより良好である。したがって、いくつかの実施形態において、無機物を劣化させる極性溶媒を使用せずにプロセスが行われる限り、非常に極性の高いものを含む様々な高分子バインダーを用いてアルジロダイト含有複合体を調製することができる。このようなバインダーの例としては、ポリ(酢酸ビニル)、最大30%のニトリル基を有するニトリルブタジエンゴム、ポリ(アクリロニトリル-co-スチレン-co-ブタジエン)(ABS)、ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)、ポリ(スチレン-co-アクリロニトリル)(SAN)、ポリ(スチレン-co-無水マレイン酸)、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(アルキレングリコール)、ポリ(ブタジエン-co-アクリレート)、ポリ(ブタジエン-co-アクリル酸-co-アクリロニトリル)、ポリ(エチレン-co-アクリレート)、ポリエーテル、フタル酸ジアルキルのポリエステルまたはポリ(塩化ビニル)(PVC)が挙げられる。
【0057】
本明細書に記載される実施形態は、1種類または複数種類の官能基を含む高分子バインダーを備える。官能基により、有機溶媒への溶解性、無機粒子への密着性、電流コレクタへの密着性、無機粒子の分散性、機械的性能、イオン伝導性、および電子伝導性のうちの1または複数を改善することができる。
【0058】
特定の実施形態において、SEBSなどの非極性バインダーは、少量の極性官能基で修飾される。こうして得られたバインダーは、複合体で使用するのに適した機械的性質を有している。特定の実施形態において、PVDFなどの極性バインダーが官能基で修飾される。こうして得られたバインダーは、極性の低い溶媒に可溶性である。
官能基化された高分子バインダー
【0059】
ポリマーバインダーのポリマーは、官能基化されていてもよい骨格を有する。上記のとおり、いくつかの実施形態において、ポリマー骨格は非極性である。例としては、コポリマー(ブロック、グラジエント、ランダムなど)、例えばスチレン-ブタジエン-スチレン(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレン(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、ならびにホモポリマー、例えばポリブタジエン(PBD)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、およびポリスチレン(PS)が挙げられる。いくつかの実施形態において、ポリマーは極性であり、例としては、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン酢酸ビニル(EVA)コポリマー、酸化ポリエチレンが挙げられる。更なる例としては、フルオロポリマー、例えばPVDF、ポリテトラフルオロエチレン、およびパーフルオロポリエーテル(PFPE)、ならびにシリコーン、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS)が挙げられる。
官能基
【0060】
官能基としては、芳香族、アルキル(飽和および不飽和、例えばアルケニルまたはアルキニル)、アルコール(-OH)、アミン(-N-R
1R
2、式中、R
1およびR
2は、独立して、H、任意選択的に置換されたアルキル、もしくは任意選択的に置換されたアリールであり、またはR
1とR
2とは、各々が結合している窒素原子と一緒になってヘテロシクリル基を形成する)、ヘテロシクリル(例えば、置換されたフラニル、チオフェニル、またはピロリル)、カルボン酸(-C(=O)OH)、カルボン酸塩(-C(=O)O
-M
+)、カルボン酸エステル(C(=O)O-R)、アミド(-C(=O)NR
1R
2)、エーテル(-OR)、チオール(-SH)、チオエーテル(-S-R)、ジスルフィド(-SS-R)、ニトロ(-NO
2)、スルホン酸(-S(=O)
2OH)、スルホネート(-S(=O)
2O
-M
+)、スルホン酸エステル(-S(=O)
2OR)、スルホキシド(-S(=O)
2R)、スルフィン酸(-S(=O)OH)、スルフィネート(-S(=O)O
-M
+)、スルフィン酸エステル(-S(=O)OR)、スルフィンアミド(-S(=O)NR
1R
2)、スルホンアミド(-S(=O)
2NR
1R
2)、ニトリル(-CN)、アジド(-N
3)、無水物(-C(=O)OC(=O)R)、ケトン(-C(=O)R)、アルデヒド(-C(O)H)、ホスフェートの酸、塩およびエステル(-OP(=O)(OR)
2)、ホスホネートの酸、塩およびエステル(-P(=O)(OR)
2)、ホスフィネートの酸、塩およびエステル(-P(-R)(=O)OR)、ホスフィン(-P(=O)(-R)
3)、ホスフェート、ホスホネート、ホスフィネートおよびホスフィンのアミドおよびアミド-エステル、カーボネート、環状エステル、環状無水物、β-ケト酸、エステルおよび塩、マレイン酸、エステル、塩無水物、マレイミド、マラミドならびにコハク酸誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。以下に例を示す。
【化3】
式中、R、R
1、R
2、R
3は、各出現に対して独立して、-CN、-H、-OH、金属カチオン、Me
+、-OMe
+、任意選択的に置換されたアリール、任意選択的に置換されたアルコキシ、任意選択的に置換されたアルキル、任意選択的に置換されたアルケニル、および任意選択的に置換されたアルキニルから選択され、Xは、各出現に対して独立して、-F、-Cl、-Brおよび-Iから選択され、nは1~10の整数である。金属カチオンMe
+の例としては、Li
+,Na
+、K
+が挙げられる。場合によっては、金属カチオンMe
+は、非炭素ヘテロ原子(例えば、O、N、Sなど)と相互作用する。
【0061】
官能基は、重合段階および/または重合後の官能基化段階において組み込むことができる。ポリマーは、バインダーの目標機能に応じて、1種類または複数種類の官能基で調製することができる。性質としては、有機溶媒への溶解性、無機粒子への密着性、電流コレクタへの密着性、無機物の分散性、機械的性能、イオン伝導性、電気化学的および化学的安定性、ならびに電子伝導性が挙げられるが、これらに限定されない。
【0062】
特定の例では、機械的性能を改善するために、非極性骨格を極性基で官能基化してもよい。SEBSなどの非極性骨格を無水マレイン酸およびフルフリルアミンなどの基で官能基化することは、以下で詳しく説明する。
【0063】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、非極性骨格を有する。PVDFおよびNBRなどの極性骨格は、P指数のより低い溶媒への溶解性を改善するために官能基で官能基化されていてもよい。官能基としては、完全および部分飽和および不飽和の直鎖、分岐鎖または環状炭化水素、すなわち、n-ブチル、n-ヘキシル、n-ドデシル、2-エチルヘキシル、シクロヘキシル、パルミトイル、リノレオイル、またはブテニル基が挙げられるが、これらに限定されない。他の非極性基としては、フェニル、ベンジル、ナフタレン官能基などの芳香族が挙げられる。さらに、特定のP指数の溶媒に可溶性のものである限り、より極性の高い官能基も使用可能である(表1)。例としては、脂肪酸または高級Cアルコールのエステル、すなわち、パルミテート、ミリステートまたはドデカノールエステル、ポリエステル、すなわち、ポリ(ラウリラクトン)-ブロック-ポリテトラヒドロフラン、またはポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)のような他のポリマーなどの様々なモノ-、ジ-、オリゴ-およびポリエステルが挙げられるが、これらに限定されない。スチレンなどの非極性基によるPVDFの官能基化については、以下で詳しく説明する。
【0064】
いくつかの実施形態において、バインダーが、電流コレクタへの密着性を改善するために官能基化されている。いくつかの実施形態において、バインダーが、金属電流コレクタ、特にアルミニウムおよび銅への密着性を改善するために、シランで官能基化されてもよい。いくつかの実施形態において、バインダーが、化学反応によって金属の表面に結合するホスフェートまたはカルボキシレートなどの酸性官能基で官能基化されていてもよい。さらに、電流コレクタの表面に存在する種と、アルコール、アミドおよびエステルなどのバインダー官能基との間に生じる水素結合またはイオン配位などの物理的相互作用によって、密着性を高めることができる。
【0065】
いくつかの実施形態において、バインダーは、複合体の機械的性質およびそれらの加工性を改善するために官能基化されている。極性基の存在は、リチウム塩、すなわち、LiPF6、LiTFSI、LiClO4などと混合した場合、ポリマー相でイオン伝導性を誘起し得る。しかしながら、多くの実施形態において、ポリマー相を介したイオン伝導は、無機導体のそれよりも数桁低く、ひいては全イオン伝導性に対する寄与は無視できるほど小さいと予想される。これは、ポリマーがイオン伝導性を持つように特別に設計されていない限り、一般的に当てはまり得る。
極性基で修飾された疎水性バインダー
【0066】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダーは、SEBS、SBS、またはSISなどの熱可塑性エラストマーである。このようなバインダーの低い極性および疎水性により、LPSガラスまたはアルジロダイトなどの純粋な無機導体の初期伝導性を高く保持することが可能となる。
【0067】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダー骨格はSEBSである。SEBSは、SBSを飽和させたものである。飽和は、無機物との不要な化学反応、または電極上でのゲル化を低減し、熱安定性を改善する。これは、1,2-ビニル含有量の高いSBSに特に当てはまる。純粋なPBD(スチレン0%)はゴムのような材料であり、純粋なPSは脆い樹脂である。SBSまたはSEBSなどのこれらのコポリマーは、成分の体積比によって塑性および弾性の挙動が制御され、混合された性質を示す。様々な実施形態によれば、10%~90%、より詳細には15%~65%のスチレン体積分率を有するSBSまたはSEBSを使用可能である。トリブロック高分子骨格により、高疎水性組成でありながら、高い弾性および機械的強度が提供される。ポリオレフィンおよびポリスチレンブロックはロンドン力とπ-π力とに依拠し、無機導体粒子との相互作用は非常に弱い。そのため、バインダーと無機物表面との間の物理的結合を破壊し、粒子間接触、ひいては複合体電解質の高い伝導性を可能にするのには、比較的低い圧力および温度(ポリスチレンのTgを上回る)で十分である。しかしながら、粒子-ポリマーの相互作用が弱いと相間接触に大きな影響を与え、複合体の機械的性質が低下し、濡れ、密着および剥離の問題につながる可能性がある。
【0068】
本明細書で提供されるのは、極性基の割合が少ない(数%のレベル、例えば0.5~5%)修飾された疎水性バインダーで、ハイブリッド電解質のバインダーとしてうまく使用され、許容可能な室温でのイオン伝導性を維持しながら改善された機械性能を示すものである。
【0069】
SEBS、SBS、またはSISなどの熱可塑性エラストマーが、無水マレイン酸またはフルフリルアミンなどの極性基で修飾されていてもよい。以下の実施例1および2では、修飾されたSEBSバインダーの弾性率、引張強度、および破断伸びの増加について説明する。
非極性基で修飾された極性バインダー
【0070】
いくつかの実施形態において、ポリマーバインダー骨格は、PVDFまたはNBRなどの極性ポリマーである。いくつかの実施形態において、極性ポリマーは、無機導体と適合性のある溶媒への溶解性を改善するために官能基化されている。いくつかの実施形態において、極性ポリマーは、無機導体との適合性を改善するために官能基化されている。
【0071】
電解質セパレータおよび電極を含む複合材料では、溶媒および/またはポリマーが無機導体の化学的もしくは形態的変化および/または伝導性の低下を引き起こすことがある。例えば、Li2S-P2S5、Li2S-P2S5-LiX、Li2S-P2S5-Li2O、LiX-P2S5-Li3PO4ガラス、ガラスセラミック、セラミックなどの硫化物系無機導体だけでなく、アルジロダイト様無機物は、極性溶媒および/または極性ポリマーによって分解されることがある。
【0072】
NMP、DMF、DMSO、エタノール、THF、アセトン、酢酸エチルなどの非常に極性の高い・中程度の極性を持つ溶媒は、伝導性の損失または他の望ましくない変化を妨げるために回避されるべきである。炭化水素(ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン)、芳香族(トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン)、塩素化芳香族および炭化水素(クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム)を含む低極性溶媒、高級Cエステル、エーテルおよびケトン(酢酸2-エチルヘキシル、酪酸ブチル、ジブチルエーテル、シクロヘキサノン)は無機導体への影響がないため使用可能である。上記の表1は、いくつかの実施形態において使用可能な溶媒の極性指数に関するガイドラインを提供する。
【0073】
NBRのような中程度の極性を持つバインダーは、P<3.5の溶媒には溶解しないか溶解性が低く、典型的にはTHFまたはアセトンのような約4のPを有する溶媒が必要である。PVDFのような非常に極性の高いバインダーの場合、NMP(P=6.7)のような溶媒のみがバインダーを溶解し得る。いくつかの実施形態において、極性を低下させ、硫化物適合性溶媒における改善された溶解性を提供する官能基を官能基化した極性バインダーが提供される。すなわち、NBRまたはPVDFなどのバインダーは、P指数の低い溶媒への溶解性を改善するために、非極性基で官能基化されている。いくつかの実施形態において、バインダーの最大50重量%が官能基である。
【0074】
いくつかの実施形態において、修飾されたPVDFバインダーが提供される。PVDFは、合成時に直接、すなわち、スチレンと直接共重合されるか(スキーム1A)、クロロトリフルオロエチレンなどのラジカル活性モノマーで修飾される(スキーム1B)かのいずれかである。さらに、PVdFは、オゾン前処理による酸化物の形成または塩基処理による二重結合の組み込みなどの後官能化プロセスで修飾することができる。
【化4】
スキーム1
(A)スチレンとの直接共重合、(B)クロロトリフルオロエチレンと共重合したPVdFからのグラフト重合、および(C)塩基処理したPVdFからのラジカルスチレングラフト重合によるPVdFへのポリスチレンの組み込み。
【0075】
以下の表2は、非極性溶媒への溶解性が低く、官能基化して複合体の高分子バインダーとしての使用のために溶解性を改善することができるポリマーの例を示している。
表2:ポリマーおよび溶解性
【表2】
実施例
実施例1:SEBS、SEBS-gMA、およびSEBS-gFAの弾性率
【0076】
2%無水マレイン酸で修飾されたSEBS(SEBS-gMA)およびフルフリルアミンで官能基化されたSEBS-gMA(SEBS-gFA)。SEBS-gFAは、スキーム1に示すように、SEBS-gMAを過剰のフルフリルアミンと反応させることによって合成した。
【化5】
スキームI窒素下で操作するグローブボックス内で、ポリスチレン-b-ポリ(エチレン-ran-ブチレン)-b-ポリスチレン-g-無水マレイン酸(SEBS-gMA、Sigma-Aldrich社)の無水マレイン酸30.0g(6.1mmol)と乾燥トルエン250gとを使用前に145℃に乾燥した500ml圧力容器に配置した。フラスコを密閉し、混合物を60℃のホットプレート上でポリマーが完全に溶解するまで撹拌した。次に、フラスコをボックス内に戻し、室温まで冷却した後、フルフリルアミン2.4g(24.7mmol)をゆっくりと混合物に添加した。この反応をさらに60℃で18時間撹拌した。その後、反応混合物をメタノールに沈殿させ、固体をジクロロメタンに再溶解し、再びメタノールに沈殿させた。このプロセスをさらに2回繰り返し、フルフリルで修飾されたSEBS(SEBS-gFA)を白色固体として得た。この生成物を真空下、100℃で16時間乾燥させた。SEBS-gFAの官能基の重量%は3.5%であった。
【0077】
架橋された膜の引張試験を行い、弾性率、引張強度および破断伸びを測定した。SEBS-gMAおよびSEBS-gFA膜の性質を、同じ条件で加工したSEBS膜に対して測定した。すべての膜を8mm×50mmの短冊状にカットし,小型引張試験機を使用して1枚の膜あたり少なくとも3回の測定を行った。測定器のグリップ分離が短いことに起因して、材料の破壊が起こる前に測定器の限界に達してしまい、引張強度および破断伸びを測定することができなかった。各ポリマー膜は非常に伸縮性に富み、>800%の伸び率に達した。表3は,SEBS、SEBS-gMA、およびSEBS-gFA膜の応力-歪み曲線から抽出した弾性率のまとめである。
表3
異なるポリマー膜の弾性率
【表3】
SEBS、SEBS-gMA、およびSEBS-gFAで測定した弾性率は互いに大きく異なり,全体の組成および官能基の種類の重要性を示す証拠を提供する。SEBS組成物に極性無水マレイン酸グラフトを2重量%添加すると,バインダーの弾性率が飛躍的に増加し、修飾されていないSEBSと比べて70%よりも高い値を示した。さらにSEBS-gMAをフルフリル基で修飾すると、26.82MPaというさらに高い弾性率を有するSEBS-gFAバインダーが得られた。
実施例2:SEBS、SEBS-gMA、およびSEBS-gFAをバインダーとして含む複合体電解質
【0078】
純粋なSEBS、SEBS-gMA、SEBS-gFAの機械的性質を試験した後、ポリマーを複合体電解質に組み込んだ。各ポリマーは75:25=Li
2S:P
2S
5硫化物ガラスの80重量%で調製したハイブリッドのバインダーとして試験した。また、SEBSとSEBS-gMAとを80重量%のLi
5.6PS
4.6Cl
1.4アルジロダイトを用いて調製した複合体電解質にも組み込んだ。複合体をスラリーキャスティングによって薄膜として調製し、乾燥後160℃でホットプレスした。バインダーの構造を以下に示す:(A)SEBS、(B)SEBS-gMA、および(C)SEBS-gFA。
【化6】
【0079】
75:25=Li2S:P2S5硫化物ガラスの伝導度保持に及ぼすバインダーの影響を評価するため,複合体の伝導度を測定した。SEBSなどの非極性バインダーに極性基を組み込むことで、測定した膜の伝導度に飛躍的な影響が及ぼされた。バインダーとしてSEBSを使用した場合、伝導度は約0.18mS/cmとなり、元の無機材料(約0.55mS/cm)の高い(33%)伝導度保持率を示した(表3)。
【0080】
SEBSをガラス粒子表面に強く結合できる極性官能基で少量修飾すると、伝導度はほぼ一桁低下した(表5)。SEBSとSEBS-gMAとの混合バインダー(1:4、w/w)を用いた複合体は0.102mS/cmの良好な伝導度を示し(表5)、複合体電解質のイオン伝導度がポリマー相の合計20重量%におけるSEBS-gMAの割合の増加とともに指数関数的に低下する証拠を提供した。その傾向は、半対数スケールで伝導度が直線的に低下することを示しています。有機マトリックスとして純粋なSEBS-gFAを使用した場合、伝導度は2.3倍程度しか低下しなかった。アルジロダイト複合体の場合、ガラス複合体で約90%の伝導度が見られたのに対し、SEBS-gMAでは約30%低い伝導度となった。これらの結果は、ガラス質材料が極性溶媒またはポリマーによる結晶化の影響を受けやすく、伝導度を酷く損なわせることを示している。一方、結晶性アルジロダイトは、結晶化プロセス中に伝導度が低下するという欠点がないため、(実際の無機粉末ではなく、非極性SEBSバインダーを用いた複合体と比べて)伝導度の保持に優れていることを示している。
【0081】
いくつかの実施形態において、無機物を劣化させる極性溶媒を使用せずにプロセスが行われる限り、非常に極性の高いものを含む様々な高分子バインダーを用いてアルジロダイト(または他の結晶性硫化物系導体)複合体を調製することができる。以下の表4は、極性を増加させる5重量%のバインダー(95重量%アルジロダイト)、SEBS-gMA、NBR
20(ニトリル基20%)およびポリ酢酸ビニル(PVAc)で調製した、約0.5mS/cm~0.7mS/cmの伝導度を示す複合体をまとめたものである。より極性の高いバインダーを用いた複合体では、伝導度の低下が見られるが、ガラスの場合ほど急激な低下ではない。製造された複合体は、良好な伝導度を維持しながら、より優れた機械的性質を有している。
表4:アルジロダイト含有複合体の伝導度
【表4】
【0082】
すべての複合体の機械的試験を行い、弾性率、引張強度および破断伸びを求めた。機械的試験は、純粋なポリマー膜と同じ条件下で行った。応力-歪み曲線から弾性率、引張強度および破断伸びの値を抽出し、表5にまとめた。
表5:80重量%の75:25=Li
2S:P
2S
5ガラスまたはLi
5.6PS
4.6Cl
1.4アルジロダイトと、異なるポリマーバインダー(20重量%)とを用いたハイブリッドの伝導率および機械的性質の測定値
【表5】
【0083】
バインダーの異なる複合体で求められた応力-歪み曲線を目視で比較すると、機械的性質に明らかな違いがあることが示された。高極性バインダーを用いて調製された複合体の引張強度および破断伸びの増加。SEBSのみの複合体の場合、サンプルは約2%の伸び率で破断する。わずか2重量%のマレイン酸グラフトを含むSEBS-gMAを複合体に組み込んだ場合、75:25=Li2S:P2S5ガラス複合体の値は倍の4.5%に達する。アルジロダイト含有複合体の場合、複合体の弾性率はさらに約10倍まで増加し、20.24%の伸び率を提供している。さらにフルフリル基で修飾(SEBS-gFA)すると、極性基の重量%が3.5重量%に増加した。この修飾により、75:25=Li2S:P2S5ガラス複合体の破断伸びは17.0%と飛躍的に増加し、SEBSおよびSEBS-gMAの場合よりもそれぞれ8.5倍および4倍高くなった。同じ傾向が膜の引張強度にも見られ、SEBS、SEBS-gMAおよびSEBS-gFAバインダーでそれぞれ4.2、5.6および8.3MPaの値を示し、有機マトリックスにより極性の高いバインダーが組み込まれると、膜の破損に対する耐性が改善するという証拠が提供される。
【0084】
また、アルジロダイト膜においても、バインダーをSEBSからSEBS-gMAに変更したところ、極限強度が5.74MPaから11.6MPaに変化し、同様の観察がなされた。弾性率はバインダーの種類に殆ど依存せず、ガラスの場合は0.57~0.65GPa、アルジロダイト複合体の場合は0.76~0.82GPaで変化した。
【0085】
表5の複合体は、ポリマーの負荷がより高いことに起因して、表4の複合体よりも伝導度が低くなっている。しかしながら、アルジロダイト含有複合体の伝導度保持は明らかである。いくつかの実施形態において、極性ポリマー中のアルジロダイトは、90重量%、85重量%または80重量%の最大イオン伝導性粒子含有量を伴って、25℃で少なくとも0.2mS・cm-1、25℃で少なくとも0.25mS・cm-1、または25℃で少なくとも0.35mS・cm-1の伝導度を有し得る。同時に、極性基の存在に起因して機械的性質が良好であり得、例えば、破断伸びが少なくとも5%、10%、15%または20%である。
【0086】
このデータは、有機相と無機相との両方の組成を制御することによって、複合体電解質の性質を細かく調整できることを示している。バインダーの化学組成を微妙に変化させることで、得られる複合体の性質に多大な影響を与えることができる。わずか2%の極性官能基を添加するだけで、機械的強度と弾性とを数倍に高めることができ、一方、伝導度は許容可能な室温範囲にとどめることができる。
無機相
【0087】
本明細書に記載される複合材料の無機相は、アルカリイオンを伝導する。いくつかの実施形態において、無機相は、複合材料のイオン伝導性のすべてに関与し、複合材料を通るイオン伝導経路を提供する。
【0088】
無機相は、アルカリイオンを伝導する微粒子状の固体材料である。ナトリウムイオン伝導性材料または他のアルカリイオン伝導性材料を用いてもよいが、以下に示される例においては、リチウムイオン伝導性材料が主に記載される。様々な実施形態によれば、材料は、ガラス粒子、セラミック粒子、またはガラスセラミック粒子であり得る。この方法は、ガラスまたはガラスセラミック粒子を有する複合体に特に有用である。特に、上記のとおり、本方法は、粒子の結晶化(または更なる結晶化)を誘発することなく、ガラスまたはガラスセラミック粒子と極性ポリマーとを有する複合体を提供するために使用することができる。
【0089】
本明細書に記載される固体状組成物は、特定の種類の化合物に限定されるものではなく、任意の固体状無機イオン伝導性の微粒子状材料を用いてもよく、これらの例を以下に示す。
【0090】
いくつかの実施形態において、無機材料は、1に近い輸率を有する単一イオン導体である。電解質におけるイオンの輸率とは、電解質を流れる全電流のうち、そのイオンの割合である。単一イオン導体は、1に近い輸率を有する。様々な実施形態によれば、固体電解質の無機相の輸率は、少なくとも0.9(例えば、0.99)である。
【0091】
無機相は、酸化物ベースの組成物、硫化物ベースの組成物、またはホスフェートベースの組成物であり得、結晶質、部分結晶質、または非晶質であり得る。上記のとおり、特定の実施形態の方法は、極性ポリマーの存在下で劣化し得る硫化物ベースの組成物に対して特に有用である。
【0092】
特定の実施形態において、無機相は伝導度を高めるためにドープされ得る。固体リチウムイオン伝導性材料の例としては、ペロブスカイト(例えば、Li3xLa(2/3)-xTiO3、0≦x≦0.67)、リチウム超イオン導体(LISICON)化合物(例えば、Li2+2xZn1-xGeO4、0≦x≦1;Li14ZnGe4O16)、thio-LISICON化合物(例えば、Li4-xA1-yByS4、AはSi、GeまたはSn、BはP、Al、Zn、Ga;Li10SnP2S12)、ガーネット(例えば、Li7La3Zr2O12、Li5La3M2O12、MはTaまたはNb)、NASICON型Liイオン導体(例えば、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3)、酸化物ガラスまたはガラスセラミック(例えば、Li3BO3-Li2SO4、Li2O-P2O5、Li2O-SiO2)、アルジロダイト(例えば、Li6PS5X、式中、X=Cl、Br、I)、硫化物ガラスまたはガラスセラミック(例えば、75Li2S-25P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-B2S3)およびホスフェート(例えば、Li1-xAlxGe2-x(PO4)3(LAGP)、Li1+xTi2-xAlx(PO4))が挙げられる。更なる例としては、リチウムリッチアンチペロブスカイト(LiRAP)粒子が挙げられる。参照により本明細書に組み込まれるZhao and Daement,Jour J.Am.Chem.Soc.,2012,134(36),pp 15042-15047に記載されるように、これらのLiRAP粒子は、室温で10-3S/cmよりも高いイオン伝導度を有する。
【0093】
固体リチウムイオン伝導性材料の例としては、ナトリウム超イオン導体(NASICON)化合物(例えば、Na1+xZr2SixP3-xO12、0<x<3)が挙げられる。固体リチウムイオン伝導性材料の更なる例としては、Cao et al.,Front.Energy Res.(2014)2:25およびKnauth,Solid State Ionics 180(2009)911-916に見出すことができ、その両方が参照により本明細書に組み込まれる。
【0094】
イオン伝導性ガラスの更なる例は、Ribes et al.,J.Non-Cryst.Solids,Vol.38-39(1980)271-276およびMinami,J.Non-Cryst.Solids,Vol.95-96(1987)107-118に開示されており、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0095】
様々な実施形態によれば、無機相は、1種類または複数種類の無機イオン伝導性粒子を含み得る。無機相の粒子のサイズは、特定の用途に従って変動してもよく、組成物の粒子の平均直径は、殆どの適用において0.1μm~500μmである。いくつかの実施形態において、平均直径は0.1μm~100μmである。いくつかの実施形態において、粒子充填を最適化するために、マルチモーダルなサイズ分布が使用され得る。例えば、バイモーダル分布が使用され得る。いくつかの実施形態において、複合体における最も近い粒子間の平均距離が1μm以下となるように、1μmまたはそれよりも小さいサイズを有する粒子が使用され得る。これは、デンドライトの成長を妨げるのに役立ち得る。いくつかの実施形態において、平均粒子径は10μm未満または7μm未満である。いくつかの実施形態において、平均サイズが7μm未満の第1のサイズ分布と10μm超の第2のサイズ分布とを有するマルチモーダルなサイズ分布が使用され得る。より大きな粒子はより強固な機械的性質と優れた伝導性とを持つ膜をもたらし、一方、より小さな粒子はより緻密で均一な膜をより低い空隙率および優れた密度とともにもたらす。
【0096】
無機相は任意の適切な方法により製造され得る。例えば、結晶質材料は、溶液法、ゾルゲル法および固相反応法などの様々な合成方法を使用して得ることができる。ガラス電解質は、参照により本明細書に組み込まれるTatsumisago,M.;Takano,R.;Tadanaga K.;Hayashi,A.J.Power Sources 2014,270,603-607に記載されるように、急冷溶解、溶液合成または機械的粉砕により得ることができる。
【0097】
本明細書で使用される非晶質ガラス材料という用語は、結晶度の狭い領域を有し得るが、少なくとも半分が非晶質である材料を指す。例えば、非晶質ガラス粒子は、完全非晶質(100%非晶質)、少なくとも95%(体積)非晶質、少なくとも80%(体積)非晶質、または少なくとも75%(体積)非晶質であってもよい。これらの非晶質粒子は、1または複数の結晶度の狭い領域を有し得るが、粒子を通してのイオン伝導は、大部分がまたは完全に等方性の伝導性パスを通る。
【0098】
イオン伝導性ガラスセラミック粒子は、非晶質領域を有するが、少なくとも半分は結晶質で、例えば、少なくとも75%(体積)結晶度を有する。ガラスセラミック粒子は、本明細書に記載される複合体に使用され得、比較的高い量の非晶質特性(例えば、少なくとも40(体積)%非晶質)を有するガラスセラミック粒子は、それらの等方性の伝導性パスのために特定の実施形態で有用である。
いくつかの実施形態において、イオン伝導性セラミック粒子が使用され得る。イオン伝導性セラミック粒子とは、狭い非晶質領域を有することもあるが、大部分が結晶質である材料を指す。例えば、セラミック粒子は完全に結晶質(100体積%結晶質)であっても、少なくとも95%(体積)結晶質であってもよい。
【0099】
いくつかの実施形態において、無機相はアルジロダイトを含む。アルジロダイトは、一般式を有し得る:A7-xPS6-xHalxAはアルカリ金属であり、Halは、塩素(Cl)、臭素(Br)およびヨウ素(I)から選択される。いくつかの実施形態において、アルジロダイトは、上記で示されるような一般式を有し、さらにドープされていてもよい。一例が、チオ親和性(thiophilic)金属でドープされたアルジロダイトである。
A7-x-(z*m)Mz
mPS6-xHalx
式中、Aはアルカリ金属であり、Mは、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、および水銀(Hg)から選択される金属であり、Halは、塩素(Cl)、臭素(Br)、およびヨウ素(I)から選択され、zは金属の酸化状態であり、0≦x≦2および0≦m<(7-x)/zである。いくつかの実施形態において、Aは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)である。いくつかの実施形態において、AはLiである。金属でドープされたアルジロダイトは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第16/829,962号明細書に詳しく記載されている。いくつかの実施形態において、複合体は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願第16/576,570号明細書に記載されるような酸化物アルジロダイトを含んでいてもよい。アルカリ金属アルジロダイトとしては、上記に示される式のアルジロダイトだけでなく、米国特許公開第20170352916号明細書に記載される、xおよびyが0.05≦y≦0.9および-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5なる式を満たすLi7-x+yPS6-xClx+yを含むアルジロダイト、またはA7-x+yPS6-xHalx+yなる式を有するアルジロダイトが挙げられる。また、このようなアルジロダイトは、上記のとおり金属でドープされていてもよく、これにはA7-x+y-(z*m)Mz
mPS6-xHalx+yが挙げられる。
【0100】
アルジロダイト(Ag8GeS6)という鉱物は、Ag4GeS4と2当量のAg2Sとの共結晶と考えることができる。この結晶におけるカチオンとアニオンとの両方が置換されても、様々なイオンの同じ全体的な空間配置に保持され続け得る。Li7PS6では、PS4
3-イオンが元の鉱物におけるGeS4
4-が占有していた結晶学的位置に存在するが、S2-イオンが元の位置を保持し、Li+イオンが元のAg+イオンの位置を取る。Li7PS6は元のAg8GeS6に比べてカチオンの数が少ないため、いくつかのカチオンサイトが空孔になっている。アルジロダイトの鉱物を構造的に類似させたものもアルジロダイトと呼ぶことがある。
【0101】
Ag8GeS6とLi7PS6との両方は室温で斜方晶であるが、高温になると立方晶空間群への相転移が起こる。さらに、1個のLi2Sに対して1当量のLiClを置換すると、材料Li6PS5Clが得られ、これはアルジロダイト構造を保持したまま、室温未満で斜方晶から立方晶に相転移し、有意に高いリチウムイオン伝導度を有するようになる。この材料もカチオンおよびアニオンの配置が全体的に同じであるため、一般にアルジロダイトとも呼ばれる。また、こうした全体的な構造を保持したまま、さらに置換したものもアルジロダイトと呼ぶこともある。アルカリ金属アルジロダイトとは、より一般的には、アルカリ金属が元のアルジロダイト構造のAg+サイトを占有し、元の鉱物中に見出されるアニオンの空間配置を保持した伝導性結晶のクラスのいずれかである。
【0102】
一例において、この鉱物種のリチウム含有例であるLi
7PS
6では、PS
4
3-イオンが元の鉱物中のGeS
4
4-が占有していた結晶学的位置に存在するが、S
2-イオンは元の位置を保持し、Li
+イオンは元のAg
+イオンの位置を取る。Li
7PS
6は、元のAg
8GeS
6に比べてカチオンの数が少ないため、いくつかのカチオンサイトが空孔である。上述のとおり、1個のLi
2Sに対して1当量のLiClをさらに置換すると、アルジロダイト構造を保持したまま材料Li
6PS
5Clが得られる。
図2は、立方晶のアルジロダイトLi
6PS
5Clを示す。
図2の例では、アルジロダイト鉱物のAg
+サイトをLi
+が占有し、元のGeS
4
4-サイトをPS
4
3-が占有し、元のS
2-サイト2個をS
2-とCl
-とが1対1の比で占有している。
【0103】
アルジロダイトの全体的な構造を保持したまま置換することができる方法には、様々な方式がある。例えば、元の鉱物は2当量のS2-を有し、これをO2-、Se2-およびTe2-などのカルコゲンイオンで置換することができる。S2-のかなりの部分をハロゲンで置換することができる。例えば、2当量のS2-のうち約1.6までCl-、Br-およびI-1で置換することができ、正確な量は系内の他のイオンに依存する。Cl-はS2-とサイズが似ているが、電荷は2個ではなく1個であり、結合性および反応性が実質的に異なる。他の置換を行ってもよく、例えば、場合によっては、S2-の一部をハロゲン(例えば、Cl-)で置換し、残りをSe2-で置き換えることができる。同様に、GeS4
3-サイトも様々な置換することができる。GeS4
3-の代わりにPS4
3-、またPO4
3-、PSe4
3-、SiS4
3-などを用いてもよい。これらはすべて4個のカルコゲン原子を有する四面体イオンで、全体としてS2-よりも大きく、三重または四重に帯電している。
【0104】
上記のLi6PS5Clアルジロダイト構造と比べられる他の例では、Li6PS5BrおよびLi6PS5Iは、塩化物の代わりにより大きなハロゲン化物、例えば、Li6PO5ClおよびLi6PO5Brを置換している。Z.anorg.Allg.Chem.,2010,636,1920-1924は、特定のアルジロダイトを説明する目的で参照により本明細書に組み込まれるが、記載されるハロゲン化物置換を含むだけでなく、S2-およびPS4
3-イオンの両方で、構造中のすべての硫黄原子を酸素に交換する。リチウム含有アルジロダイトの殆どの例で見出されるPS4
3-イオン中のリン原子は、部分的または全体的に置換することもでき、例えば、Li7+xMxP1-xS6(M=Si、Ge)系列は広い範囲のxでアルジロダイト構造を形成する。特定のアルジロダイトを説明する目的で参照により本明細書に組み込まれるJ.Mater.Chem.A,2019,no.7,2717-2722を参照されたい。また、Pの置換はハロゲンを取り込みながら行うことも可能である。例えば、Li6+xSixP1-xS5Brは、x=0~約0.5で安定である。特定のアルジロダイトを説明する目的で参照により本明細書に組み込まれるJ.Mater.Chem.A,2017,no.6,645-651を参照されたい。PS4
3-の代わりにSbS4
3-とMS4
4-との混合物を置換し、Cl-の代わりにI-を用いたLi7+xMxSb1-xS6(M=Si、Ge、Sn)系列の化合物を調製し、アルジロダイト構造を形成することが見出された。特定のアルジロダイトを説明する目的で参照により本明細書に組み込まれるJ.Am.Chem.Soc.,2019,no.141,19002-19013を参照されたい。また、リチウム(または銀)以外の他のカチオンをカチオンサイトに置換することも可能である。Cu6PS5Cl、Cu6PS5Br、Cu6PS5I、Cu6AsS5Br、Cu6AsS5I、Cu7.82SiS5.82Br0.18、Cu7SiS5I、Cu7.49SiS5.49I0.51、Cu7.44SiSe5.44I0.56、Cu7.75GeS5.75Br0.25、Cu7GeS5IおよびCu7.52GeSe5.52I0.48はすべて合成されており、アルジロダイト結晶構造を有している。特定のアルジロダイトを説明する目的で参照により本明細書に組み込まれるZ.Kristallogr,2005,no.220,281-294を参照されたい。これらの例のリストから、アルジロダイト構造の様々な部分のいずれかで単一元素の置換が可能なだけでなく、置換の組み合わせによっても、しばしばアルジロダイト構造が得られることがわかる。これらには、米国特許公開第20170352916号明細書に記載される、xおよびyが式0.05≦y≦0.9および-3.0x+1.8≦y≦-3.0x+5.7を満たすLi7-x+yPS6-xClx+yを含むアルジロダイトが挙げられる。
【0105】
本明細書に記載される組成物に使用されるアルジロダイトとしては、実質的な(少なくとも20%、しばしば少なくとも50%)アニオンが硫黄含有(例えば、S
2-およびPS
4
3-)である硫化物系ベースのイオン導体が挙げられる。硫化物系ベースのリチウムアルジロダイト材料は、高いLi
+可動度を示し、リチウム電池の材料として注目されている。上述のとおり、Li
3PS
4、Li
2SおよびLiClの三元共結晶であるLi
6PS
5Clが、このファミリーの例示的な材料である。本明細書に記載されるアルジロダイトの様々な実施形態は、アルジロダイト結晶構造中のリチウムカチオンサイトを占有し得るチオ親和性金属を有する。
図2に示すようなアルジロダイトでは、各カチオンは、PS
4
3-アニオンのメンバーである2つの硫黄と、1つのS
2-硫黄アニオンと、2つの塩化物アニオンとに配位している。いくつかの実施形態において、硫化水素の発生を抑制するために、親チオ性金属がこれらのリチウムカチオンサイトの一部の割合を占有する。親チオ性金属は、他のアルカリ金属アルジロダイトを同様にドープするために使用することができる。
複合体
【0106】
有機相と非イオン伝導性粒子とを含む複合体が提供される。いくつかの実施形態において、有機相は、実質的にイオン伝導度を有さず、「非イオン伝導性」と呼ばれる。本明細書に記載される非イオン伝導性ポリマーは、0.0001S/cm未満のイオン伝導度を有している。いくつかの実施形態において、有機相は、LiIなどの塩の存在下でイオン伝導性であるポリマーを含んでいてもよい。イオン伝導性ポリマー、例えばポリエチレンオキシド(PEO)、ポリプロピレンオキシド(PPO)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリ(メタクリル酸メチル)(PMMA)であって、これらは塩の存在下でLiIなどの塩を溶解または解離するイオン伝導性ポリマーである。非イオン伝導性ポリマーは、塩を溶解または解離せず、塩の存在下でもイオン伝導性ではない。これは、塩を溶解しなければ、伝導する可動性イオンが存在しないためである。
【0107】
固相複合体中のポリマー負荷量は、いくつかの実施形態において比較的高くてもよく、例えば、少なくとも2.5重量%~30重量%である。様々な実施形態によれば、0.5重量%~60重量%のポリマー、1重量%~40重量%のポリマー、または5重量%~30重量%であってもよい。固相複合体は連続した膜を形成する。
【0108】
いくつかの実施形態において、無機導体は、複合体の少なくとも75重量%、少なくとも80重量%、少なくとも85重量%、少なくとも90重量%、または少なくとも95重量%である。伝導性は含有量の増加に伴い増加するが、機械的強度は低下する可能性がある。いくつかの実施形態において、無機導体は75重量%~98重量%、例えば80重量%~95重量%である。複合体の残りはポリマーであってもよい。
【0109】
上述のとおり、複合体は、官能基化されたポリマー骨格バインダーを含む。バインダーは、官能基化されたポリマーバインダーと、官能基化されていないポリマーバインダーとの混合物であってもよい。例えば、いくつかの実施形態において、バインダーは、非極性ポリマー(例えば、SEBS)と、ポリマーの官能基化されたもの(例えば、SEBS-gFA)との混合物であってもよい。混合物は、様々な実施形態による1:9~9:1重量%、例えば1:5~5:1または1:4~4:1重量%のポリマー:官能基化ポリマーであってもよい。ポリマーの修飾されていないもの(SEBS)としては、官能基化されていないポリマー、ポリマーの性質を変えない程度の重要でない官能基群を含むポリマーが挙げられる。同様に、いくつかの実施形態において、バインダーは、異なる官能基化の程度(例えば、1重量%および4重量%)を有する2またはそれよりも多いポリマーの混合物であってもよい。
【0110】
様々な実施形態によれば、ポリマーバインダーは、複合体の有機相の本質的にすべて、または複合体の少なくとも95重量%、90重量%、少なくとも80重量%、少なくとも70重量%、少なくとも60重量%、または少なくとも50重量%であってよい。
【0111】
いくつかの実施形態において、複合体は、イオン伝導性無機粒子と有機相とから本質的になる。しかしながら、代替的な実施形態において、1または複数の追加の成分が固体複合体に添加されてもよい。
【0112】
様々な実施形態によれば、固体組成物は、添加塩を含んでもよいし、含まなくてもよい。PEOなどのイオン伝導性ポリマーを含む実施形態において、イオン伝導度を改善するために、リチウム塩(例えば、LiPF6、LiTFSI)、カリウム塩、ナトリウム塩などを添加することができる。いくつかの実施形態において、固体状組成物は、添加塩を実質的に含まない。「添加塩を実質的に含まない」とは、微量の塩しか含まないことを意味する。いくつかの実施形態において、複合体のイオン伝導度は、実質的に無機粒子によって提供される。イオン伝導性ポリマーを使用する場合でも、複合体のイオン伝導度に対して0.01mS/cm、0.05mS/cm、または0.1mS/cmを超えて寄与しないことがある。他の実施形態において、より多く寄与してもよい。
【0113】
いくつかの実施形態において、固体状組成物は、1または複数の伝導性向上剤を含み得る。いくつかの実施形態において、電解質は、Al2O3などのセラミック充填剤を含む1または複数の充填剤材料を含み得る。使用される場合、充填剤は、特定の実施形態に応じて、イオン導体であってもなくてもよい。いくつかの実施形態において、複合体は、1または複数の分散剤を含み得る。さらに、いくつかの実施形態において、固体状組成物の有機相は、特定の適用に望ましい機械的性質を有する電解質の製造を容易にする、1または複数の追加の有機成分を含み得る。
【0114】
以下でさらに議論されるいくつかの実施形態において、複合体は、電極に組み込まれるか、または電極に組み込まれる準備ができており、電気化学的活物質と、任意選択的に、電子伝導性の添加剤とを含む。以下に、電極の構成要素および組成の例を示す。
【0115】
いくつかの実施形態において、電解質は、電極の表面に不動態化層を形成するのに使用できる電極安定剤を含み得る。電極安定化剤の例は、米国特許第9,093,722号明細書に記載されている。いくつかの実施形態において、電解質は、上記のような伝導性向上剤、充填剤、または有機成分を含んでいてもよい。
【0116】
複合体は、自立した膜、離型膜上に設けられた自立した膜、電極もしくはセパレータなどの電池または他のデバイスのコンポーネントに積層された膜、電極、セパレータ、または他のコンポーネントにキャストされた膜として提供することができる。
【0117】
複合体膜は、特定の電池または他のデバイスの設計に応じて、任意の好適な厚さを有することができる。多くの用途において、厚さは、1ミクロン~250ミクロンであり得、例えば15ミクロンである。いくつかの実施形態において、電解質は、例えば、ミリメートルのオーダーで、かなり厚いものであってもよい。
【0118】
いくつかの実施形態において、複合体は、スラリーまたはペーストとして提供される。このような場合、組成物は、後で蒸発される溶媒を含む。さらに、組成物は、貯蔵安定性のための1または複数の成分を含んでいてもよい。このような化合物としては、アクリル樹脂を挙げることができる。スラリーまたはペーストを加工できる状態になったら、適宜、基材にキャストまたは塗布して乾燥させてもよい。様々な実施形態によれば、スラリーは、約40重量%~50重量%、例えば、42重量%~45重量%の固形分を有していてもよい。固形分は無機粒子(例えば、無機導体80重量%~95重量%、ポリマー5重量%~20重量%)である。
【0119】
いくつかの実施形態において、複合体は、押出成形が可能な固体混合物として提供される。
デバイス
【0120】
本明細書に記載される複合体は、電池および燃料電池を含むイオン導体を使用する任意のデバイスに組み込むことができるが、これらに限定されない。例えば、電池では、複合体は電解質セパレータとして使用することができる。
【0121】
電極組成物はさらに、電極活物質と、任意選択的に、伝導性添加剤とを含む。カソードおよびアノードの組成例を以下に示す。
【0122】
カソードの組成については、下表に組成の例を示す。
【表6】
【0123】
様々な実施形態によれば、カソード活物質は遷移金属酸化物であり、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物(LiMnCoMnO2、またはNMC)が例として挙げられる。NMCは、LiNi0.6Mn0.2Co0.2O2(NMC-622)、LiNi0.4Mn0.3Co0.3O2(NMC-4330)などを含む様々な形態のものを使用可能である。重量%の範囲の下限は、エネルギー密度によって設定される。65重量%未満の活物質を有する組成物は、エネルギー密度が低く、有用でない場合がある。
【0124】
無機導体の説明で上述したように、任意の適切な無機導体を使用することができる。Li5.6PS4.6Cl1.4は、高い伝導性を有する得アルジロダイトの一例である。Li5.4Cu0.1PS4.6Cl1.4は、高いイオン伝導度を保持し、硫化水素を抑制するアルジロダイトの一例である。アルジロダイトが10重量%未満の組成は、Li+伝導度が低い。また、硫化物ガラスおよびガラスセラミックも使用することができる。
【0125】
電子伝導性添加剤は、NMCのように電子伝導性が低い活物質に対して有用である。カーボンブラックがそのような添加剤の一例であるが、他のカーボンブラック、活性炭、炭素繊維、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)を含む他の炭素ベースの添加剤を用いてもよい。1重量%未満では電子伝導性を向上させるのに十分でない場合があり、一方、5%を超えるとエネルギー密度の低下および活物質とアルジロダイトとの接点が阻害される。
【0126】
上記のとおり、任意の適切な有機相を使用することができる。1重量%未満では所望の機械的性質を得るのに十分ではない場合があり、5%を超えるとエネルギー密度の低下および活物質-無機導体-炭素の接点が阻害されることがある。いくつかの実施形態において、PVDFは、非極性ポリマーを用いて、または非極性ポリマーを用いずに使用される。
【0127】
アノードの組成については、下表に組成の例を示す。
【表7】
【0128】
Siとグラファイトとを活物質として利用するハイブリッドアノードは、グラファイトの含有量が多いほど高いICEを供給し、つまり、Si/グラファイト比を調整することでアノードのICEをカソードのICEに一致させることができ、したがって、初回サイクルでの不可逆的な容量損失が防止される。ICEは加工により変化し得るため、特定のアノードとその加工とに応じて、比較的広い範囲のグラファイト含有量が可能になる。さらに、グラファイトは電子伝導性を向上させ、アノードの緻密化に役立つと考えられ得る。
【0129】
カソードに関しては、上記のとおり任意の適切な無機導体を使用することができる。
【0130】
高表面積電子伝導性添加剤(例えば、カーボンブラック)が、いくつかの実施形態で使用されてもよい。Siは電子伝導性が低く、グラファイト(これはより優れた電子導体であるが、表面積が小さい)に加えて、このような添加剤も役立ち得る。しかしながら、Si合金の電子伝導性は適度に高く、いくつかの実施形態において、添加剤を使用しなくてもよい場合がある。また、Super Cの代わりに他の高表面積炭素(カーボンブラック、活性炭、グラフェン、カーボンナノチューブ)を使用することも可能である。
【0131】
任意の適切な有機相を使用可能である。いくつかの実施形態において、PVDFが使用される。
【0132】
本明細書では、アノードと、カソードと、アノードおよびカソードに動作可能に結合する上記のような適合性のある固体電解質組成物とを備えるアルカリ金属電池およびアルカリ金属イオン電池が提供される。電池は、アノードとカソードとを物理的に隔離するためのセパレータを含み得、これは固体電解質組成物であり得る。
【0133】
好適なアノードの例としては、リチウム金属、リチウム合金、ナトリウム金属、ナトリウム合金、グラファイトなどの炭素質材料、およびそれらの組み合わせから形成されたアノードが挙げられるが、これらに限定されない。好適なカソードの例としては、遷移金属酸化物、ドープされた遷移金属酸化物、金属ホスフェート、金属硫化物、リン酸鉄リチウム、硫黄、およびそれらの組み合わせから形成されたカソードが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、カソードは硫黄カソードであり得る。
【0134】
リチウム-空気電池、ナトリウム-空気電池、または、カリウム-空気電池などのアルカリ金属-空気電池において、カソードは、酸素透過性(例えば、メソポーラス炭素、多孔質アルミニウムなど)であり得、任意選択的に、カソードは、カソードにおいて発生する、リチウムイオンおよび酸素との還元反応を促進するべく、その中に組み込まれた金属触媒(例えば、マンガン、コバルト、ルテニウム、白金もしくは銀の触媒、またはそれらの組み合わせ)を含み得る。
【0135】
いくつかの実施形態において、リチウム金属アノードおよび硫黄含有カソードを含むリチウム-硫黄セルが提供される。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される固体状複合体電解質は、デンドライト形成を防止することによってリチウム金属アノードと、放電中にカソードで形成されるポリスルフィド中間体を溶解しないことによって硫黄カソードとの両方を独自に可能にする。
【0136】
また、アノードとカソードとが互いに直接電気的に接触することを防止するべく、イオン流透過性の任意の好適な材料から形成されたセパレータを含めることができる。しかしながら、本明細書に記載される電解質組成物は固体組成物であることから、特に膜状であるとき、セパレータとして機能し得る。
【0137】
いくつかの実施形態において、固体電解質組成物は、サイクル中のアルカリイオンのインターカレーションに依拠するアルカリイオン電池において、アノードとカソードとの間の電解質として機能する。
【0138】
上記のとおり、いくつかの実施形態において、固体複合体組成物は、電池の電極に組み込まれ得る。電解質は、上記のとおり適合性のある固体電解質、または液体電解質を含む任意の他の適切な電解質であり得る。
【0139】
いくつかの実施形態において、電池は、電極/電解質二重層を含み、各層は、本明細書に記載されるイオン伝導性固体状複合材料を取り込んでいる。
【0140】
図1Aは、特定の実施形態によるにセルの概略図の例を示す。セル、負電流コレクタ102と、アノード104と、電解質/セパレータ106と、カソード108と、正電流コレクタ110とを備える。負電流コレクタ102および正電流コレクタ110は、銅、鋼、金、白金、アルミニウム、およびニッケルなど、任意の適切な電子伝導性材料であってもよい。いくつかの実施形態において、負電流コレクタ102は銅であり、正電流コレクタ110はアルミニウムである。電流コレクタは、シート、フォイル、メッシュ、またはフォームなどの、任意の適切な形態であり得る。様々な実施形態によれば、アノード104、カソード108、および電解質/セパレータ106のうちの1または複数が、上記のとおり有機相および硫化物導体を含む固体状複合体である。いくつかの実施形態において、アノード104、カソード108、および電解質106のうちの2つまたはそれより多くが、上記のとおり有機相および硫化物導体を含む固体状複合体である。
【0141】
いくつかの実施形態において、電流コレクタは、対応する電極に埋め込むことができる多孔質体である。例えば、電流コレクタはメッシュであってもよい。疎水性ポリマーを含む電極は、フォイル状の電流コレクタへの密着性が良くない場合があるが、メッシュ状であれば良好な機械的接触を提供する。いくつかの実施形態において、本明細書に記載される2つの複合体膜は、メッシュ電流コレクタに押し付けて、電極に埋め込まれた電流コレクタを形成することができる。いくつかの実施形態において、良好な密着性を提供する親水性ポリマーが使用される。
【0142】
図1Bは、発明の特定の実施形態による、組み立てた状態のリチウム金属セルの概略図の例を示す。組み立てた状態のセルは、負電流コレクタ102と、電解質/セパレータ106と、カソード108と、正電流コレクタ110とを備える。初回充電時にリチウム金属が生成され、負電流コレクタ102上にプレートが形成され、アノードが形成される。電解質106およびカソード108の1つまたは両方が、上記のとおり複合材料であり得る。いくつかの実施形態において、カソード108と電解質306とは一緒になって、電極/電解質二重層を形成する。
図1Cは、発明の特定の実施形態によるセルの概略の例を示す。セルは、負電流コレクタ102と、アノード104と、カソード/電解質二重層112と、正電流コレクタ110とを備える。二重層の各層は、硫化物系導体を含んでいてもよい。このような二重層は、例えば、電解質スラリーを調製し、それを電極層上に堆積させることによって調製することができる。
【0143】
電池のコンポーネントはすべて、既知の技法に従ってアノードとカソードとの電気的接続を確立するために、外部のリード線または接点を有する好適な剛性または可撓性の容器に含まれ得るか、またはパッケージングされ得る。
【0144】
上記の説明において、特許請求の範囲において、数値の範囲は、範囲の終点を含む。例えば、「yは、0~0.8の数である」は、0と0.8とを含む。同様に、~で表される範囲も、範囲の終点を含む。
【国際調査報告】