(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(54)【発明の名称】ミクロフィブリル化セルロースを含むセルロースフィルムを作成する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230217BHJP
D21H 11/18 20060101ALI20230217BHJP
D21H 15/02 20060101ALI20230217BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20230217BHJP
B05D 7/00 20060101ALI20230217BHJP
B05D 3/12 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C08J5/18 CEP
D21H11/18
D21H15/02
B05D7/24 302C
B05D7/24 303E
B05D7/24 303G
B05D7/00 K
B05D3/12 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022536997
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-15
(86)【国際出願番号】 IB2020062324
(87)【国際公開番号】W WO2021130668
(87)【国際公開日】2021-07-01
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501239516
【氏名又は名称】ストラ エンソ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ニーレン, オットー
(72)【発明者】
【氏名】ヘイスカネン, イスト
(72)【発明者】
【氏名】ヌース, イザベル
【テーマコード(参考)】
4D075
4F071
4L055
【Fターム(参考)】
4D075AE03
4D075BB20Z
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(57)【要約】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを作成する方法であって、1種または複数の植物油の水性エマルジョンをキャスティング基板の表面に塗布する工程を含む方法が提供される。したがって、MFCフィルムの改善された剥離を達成することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを作成する方法であって、
a.少なくとも1つの表面を有するキャスティング基板を用意する工程と;
b.1種または複数の植物油の水性エマルジョンを前記キャスティング基板の前記表面に塗布する工程と;
c.前記キャスティング基板の処理表面上に膜形成組成物をキャスティングし、前記膜形成組成物は、MFCおよび親水性膜形成ポリマーを含む、工程と;
d.膜形成組成物をキャスティング基板上で乾燥させて、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを形成する工程と;
e.形成されたセルロースフィルムをキャスティング基板から分離する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記膜形成組成物が、膜形成組成物の全固形分に基づいて、10~99重量%のMFC、好ましくは50~99重量%のMFC、より好ましくは70~95重量%のMFCを含む水性組成物である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記膜形成組成物が、膜形成組成物の全固形分に基づいて、0.1~50重量%、好ましくは0.1~25重量%、より好ましくは0.1~15重量%の前記膜形成ポリマーを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記膜形成ポリマーが、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、アクリルポリマーおよびポリエチレングリコール(PEG)、ならびにそれらの部分的または完全加水分解誘導体;好ましくはポリエチレングリコール(PEG)およびポリビニルアルコール(PVA)ならびにそれらの部分的または完全加水分解誘導体から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記膜形成組成物が、膜形成組成物の全固形分に基づいて、0.1~30重量%、好ましくは0.1~25重量%、より好ましくは0.1~15重量%の充填剤、好ましくは例えば粘土などの鉱物充填剤を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記セルロースフィルムが10~60gsmの乾燥坪量を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
1種または複数の植物油が、0.1~500mg/m
2、好ましくは0.5~150mg/m
2のレベルで前記キャスティング基板の表面に塗布される、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記水性エマルジョンが、0.01~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%の前記1種または複数の植物油を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
1種または複数の植物油が、ベン油、パーム油、パーム核油、キャノーラ油、ヤシ油、大豆油、ヒマワリ油、ナタネ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、亜麻仁油、トウモロコシ油、ベニバナ油、クルミ油、ゴマ油、アーモンド油、ヒマシ油、コルザ油、アマナズナ油、麻実油、カラシ油、ダイコン油、ラムチル油、米ぬか油、桐油、サリコルニア油、ジャトロファ油または藻類ベースの油から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
膜形成組成物が、1種または複数の安定化剤および/または可塑剤をさらに含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
可塑剤が、C1~C24ポリアルコール、好ましくはC1~C12ポリアルコール、より好ましくはソルビトールなどのC1~C6ポリアルコールである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
充填剤が、層状ケイ酸塩、金属酸化物、カーボンナノチューブおよび金属ナノ粒子から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
水性エマルジョンが1種または複数の乳化剤を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
乳化剤が、非イオン性、カチオン性またはアニオン性乳化剤から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
セルロースフィルムが、キャスティング基板から分離される点で、75~99%、好ましくは80~97%の固形分を有する、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
キャスティング基板の表面からのMFCおよび親水性膜形成ポリマーを含むセルロースフィルムの剥離を促進することにおける、1種または複数の植物油の水性エマルジョンの使用。
【請求項17】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)および親水性膜形成ポリマーを含むセルロースフィルムであって、表面を規定し、少なくとも1種の植物油が前記表面上に存在する、セルロースフィルム。
【請求項18】
75~99%、好ましくは80~97%の固形分を有する、請求項17に記載のセルロースフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを作成する方法に関する。MFCフィルムも提供される。
【背景技術】
【0002】
セルロースフィルムのバリア特性および補強性を高めるために、ポリビニルアルコールなどの親水性膜形成ポリマーを使用することが好ましい。特に、このような添加剤は、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)の繊度のために繊維間結合が弱い、MFCのフィルムに有用である。
【0003】
基板上にキャスティングする場合にセルロースフィルム製造において生じる1つの課題は、このような成分が付与し得るフィルムと基板との間の非常に高い接着度である。非常に低い用量であっても、膜形成ポリマーは、乾燥時にセルロースフィルムをキャスティング基板から分離することができないような高い接着性を作り出し得る。この課題に対する解決策は、キャスティング基板からのセルロースフィルムのブラッシングまたは洗浄を含む。しかしながら、このような解決策は、機械速度が速く、セルロースフィルムを正確かつ制御された方法でキャスティング基板から分離する必要がある連続製造プロセスではあまり有効ではない。
【0004】
光学フィルムおよびプラスチックフィルム産業では、フルオロポリマー、シラン、シラノール、またはシロキサンに基づく剥離剤を使用して、プラスチックフィルムをキャスティング基板から分離することが知られている。このような剥離剤はしばしば毒性であり、したがって、例えば食品との接触を意図したフィルムの製造には適さない。
【0005】
キャスティング基板からのMFCを含むセルロースフィルムの剥離の改善が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
そこで、第1の態様では、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを作成する方法であって、
a.少なくとも1つの表面を有するキャスティング基板を用意する工程と;
b.1種または複数の植物油の水性エマルジョンを前記キャスティング基板の前記表面に塗布する工程と;
c.前記キャスティング基板の処理表面上に膜形成組成物をキャスティングし、前記膜形成組成物は、MFCおよび親水性膜形成ポリマーを含む、工程と;
d.膜形成組成物をキャスティング基板上で乾燥させて、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを形成する工程と;
e.形成されたセルロースフィルムをキャスティング基板から分離する工程と
を含む方法が提供される。
【0007】
キャスティング基板の表面からのMFCおよび親水性膜形成ポリマーを含むセルロースフィルムの剥離を促進することにおける、1種または複数の植物油の水性エマルジョンである剥離剤の使用も提供される。
【0008】
さらに、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)および親水性膜形成ポリマーを含むセルロースフィルムであって、表面を規定し、少なくとも1種の植物油が前記表面上に存在する、セルロースフィルムが提供される。
【0009】
本発明のさらなる詳細は、以下の説明および従属請求項から明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
キャスティング基板からのMFCおよび親水性膜形成ポリマーを含有するセルロースフィルムの剥離の有意な改善が、少なくとも1種の植物油である剥離剤の薄層を、キャスティング基板の表面上でのMFCフィルム形成前に前記表面上に塗布することによって達成され得ることが見出された。このような剥離剤は、膜形成ポリマーを含有するニートな損傷のないMFCフィルムをキャスティング基板の表面から分離することを可能にする。特に、このタイプの剥離剤は、実質的に非毒性であり得、連続製造中に添加することができ、剥離特性における迅速な応答を与え、MFCフィルム自体の特性(例えば、酸素バリア特性)に影響を及ぼすことなく、フィルムの接着および剥離の正確な制御を可能にする。
【0011】
特に、低用量の植物油剥離剤であっても、剥離が有意に改善され得る。ある特定の化学物質は「デボンダー」として機能し得るため、これは重要であり、したがって低用量での塗布が有用である。
【0012】
本発明で使用される植物油は、FDAからの「GRAS」指定に従って直接的な食品との接触について承認され得る、またはBfR推奨XXXVIに準拠し得る。植物油は食用であってもよい。
【0013】
本発明の剥離剤を使用することにより、キャスティング基板へのMFCフィルムの接着性を制御可能に調整することができる。
【0014】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルム、すなわち、MFCフィルムを作成する方法が提供される。この方法は、
a.少なくとも1つの表面を有するキャスティング基板を用意する工程;
b.1種または複数の植物油の水性エマルジョンを前記キャスティング基板の前記表面に塗布する工程;
c.前記キャスティング基板の処理表面上に膜形成組成物をキャスティングし、前記膜形成組成物は、MFCおよび親水性膜形成ポリマーを含む、工程;
d.膜形成組成物をキャスティング基板上で乾燥させて、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを形成する工程;および
e.形成されたセルロースフィルムをキャスティング基板から分離する工程
という一般的な工程を含む。
【0015】
MFCフィルムの1つの利点は、これらが可視光に対して透明であり得ることである。したがって、好ましくは、MFCフィルムは、標準DIN 53147を使用して約30gsmの坪量を有するフィルムについて測定した場合に、50%超、好ましくは65%超、より好ましくは75%超の透明度を有する。MFCフィルムが、可視光に対しては高い透明度を有するが、UV光に対しては低い透明度を有することができることに留意されたい。
【0016】
本明細書に記載されるMFCフィルムは、少なくともグリース/油、水分、酸素または芳香の1つに対して増加したバリアを提供することができる。MFCフィルムは、適切には、10~50gsm、より好ましくは100~1000cc/m2/24時間の範囲の坪量で、ASTM D-3985による5000cc/m2/24時間(23℃、50% RH)未満の酸素透過率(OTR)値を有する。OTRはまた、これらの条件下で100cc/m2/24時間未満、例えば0.1~100cc/m2/24時間であり得る。
【0017】
さらに、本発明の剥離剤を使用せずに作成された同じ組成の基準MFCフィルムと比較して、少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%または最も好ましくは少なくとも80%の本発明により作成されたMFCフィルムの引張強度(指数)が維持され得る。これは、剥離剤が少量で塗布され、それによってフィルムの引張強度に影響を及ぼさない場合に特に関連する。
【0018】
キャスティング基板
この方法は、少なくとも1つの表面を有するキャスティング基板を必要とする。キャスティング基板は、繊維懸濁液をキャスティングするために一般的に使用される任意のこのような基板であり得る。基板は、プラスチックもしくは金属、またはそれらの組み合わせから形成され得る。方法が連続である一実施形態では、キャスティング基板が金属ベルトなどのベルトである。
【0019】
MFCフィルム(膜形成組成物)がキャスティングされる表面は、実質的に平面であっても、テクスチャ加工されていても、テクスチャ加工された領域および実質的に平面の他の領域を有していてもよい。表面は、膜形成組成物から液体を排出するための開口部を有していてもよい。
【0020】
膜形成組成物がキャスティングされる表面(例えば、ベルト)は、長さ1~300mおよび幅0.2~10mを有し得る。表面はまた、例えば表面エネルギーを調整するために、例えばセラミックまたはプラスチックコーティングでコーティングされてもよい。
【0021】
表面がテクスチャ加工される場合、凹部または突出領域をランダムパターンまたは所定のパターンで含有し得る。例えば、非導電性チャネルまたは導電性チャネルをエッチングすることによって、テクスチャ加工された表面に凹部のパターンを作成することができる。材料を堆積させて突出領域を作成することも可能である。一例は、テクスチャ加工された表面を彫刻するためにレーザー技術を使用することである。
【0022】
キャスティング基板が金属ベルトである一実施形態では、表面が、滑らかなフィルム表面を提供するために研削または研磨仕上げを有することができる。非常に滑らかなフィルム表面のために、鏡面品質の研磨された金属ベルトを使用することができる。金属ベルトはまた、PTFEコーティングなどのポリマーコーティングを有することができる。
【0023】
剥離剤
1種または複数の植物油の水性エマルジョンが、前記キャスティング基板の表面に塗布される。上記のように、このような植物油の使用は、膜形成ポリマーを含有するニートな損傷のないMFCフィルムをキャスティング基板の表面から分離することを可能にする。
【0024】
植物油に基づく剥離剤は、薄葉紙産業において、薄葉原紙の良好なクレーピングのためにヤンキーシリンダ表面特性を修飾するのに使用され、例えば、Pratima Bajpaiによる「Pulp and paper industry chemicals」(2015、ISBN 978-0-12-803408-8)および国際公開第2011156313号パンフレットを参照されたい。しかしながら、クレーピングはキャスティングとは異なるプロセスであり、薄葉紙は一般にMFC繊維を含まない。このような剥離剤は、通常、キャスティングプロセスにもMFCを含むセルロースフィルムにも使用されない。
【0025】
適切には、エマルジョンは、1種または複数の植物油が0.1~500mg/m2、好ましくは0.5~150mg/m2のレベルでコーティングされるように、前記キャスティング基板の表面に塗布される。水性エマルジョンは、キャスティング基板からの良好な剥離を依然として提供しながら、少量の植物油、例えば0.01~20重量%、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%の前記1種または複数の植物油を含み得る。
【0026】
1種または複数の植物油は、ベン油、パーム油、パーム核油、キャノーラ油、ヤシ油、大豆油、ヒマワリ油、ナタネ油、落花生油、綿実油、オリーブ油、亜麻仁油、トウモロコシ油、ベニバナ油、クルミ油、ゴマ油、アーモンド油、ヒマシ油、コルザ油、アマナズナ油、麻実油、カラシ油、ダイコン油、ラムチル油(ramtil oil)、米ぬか油、桐油、サリコルニア油(salicornia oil)、ジャトロファ油(jatropha oil)または藻類ベースの油から選択され得る。
【0027】
1種または複数の植物油の水性エマルジョンは、表面上に噴霧または他の方法で散布することができるように、十分に低い粘度であるべきである。植物油の水性エマルジョンは、適切には、20℃でDIN 53015に従って測定した場合、1000mPas未満、好ましくは500mPas未満の粘度を有する。
【0028】
水性エマルジョンは、安定剤または乳化剤を含有し得る。乳化剤は、非イオン性、カチオン性またはアニオン性乳化剤から選択され得る。エマルジョン中の平均粒径は、10~1000nmまたは好ましくは20~400nmである。
【0029】
膜形成組成物
本発明の膜形成組成物は、MFCおよび親水性膜形成ポリマーを含む。組成物は、典型的には、親水性膜形成ポリマーが溶解されたMFCの水性懸濁液である。好ましくは、膜形成組成物は、膜形成組成物の全固形分に基づいて、10~99重量%のMFC、好ましくは50~99重量%のMFC、より好ましくは70~95重量%のMFCを含む水性組成物である。
【0030】
膜形成組成物の粘度は、20℃、100rpmでブルックフィールド粘度計を用いて測定した場合、500cP超、好ましくは1000cP超であるべきである。
【0031】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)
本発明は、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを提供する。MFCは、本技術の文脈において、少なくとも1つの寸法、好ましくは直径が1000nm未満のナノスケールセルロース繊維またはフィブリルを意味するものとする。MFC懸濁液はまた、部分的または完全非フィブリル化セルロースまたはリグノセルロース繊維を含み得る。セルロース繊維は、好ましくは、形成されたMFCの最終比表面積が、BET法を用いて溶媒交換および凍結乾燥材料について決定した場合、約1~約500m2/g、例えば10~300m2/g、またはより好ましくは50~200m2/gとなるような程度までフィブリル化される。MFCの平均フィブリル径は、1~1000nm、好ましくは10~1000nmである。MFCは、高分解能SEMまたはESEM画像を分析することによって特徴付けられ得る。
【0032】
好ましくは、MFCフィルム中のMFC含有量は、全固形分に基づいて、少なくとも10重量%、好ましくは50重量%、より好ましくは少なくとも60重量%、最も好ましくは少なくとも70重量%である。ある実施形態では、MFCフィルムが、全固形分に基づいて、最大50重量%、例えば最大30重量%、適切には最大20重量%の、1000nm超の平均フィブリル径を有する部分的または完全非フィブリル化セルロースまたはリグノセルロース繊維を含む。
【0033】
MFCを作成するための様々な方法、例えば、シングルパスまたはマルチパス精錬、予備加水分解、引き続いて精錬または高剪断崩壊またはフィブリルの遊離が存在する。MFC製造をエネルギー効率が良いものと持続可能なものの両方にするためには、通常、1個または数個の前処理工程が必要である。したがって、供給されるパルプのセルロース繊維は、例えばヘミセルロースまたはリグニンの量を減少させるために、酵素的または化学的に前処理され得る。セルロース繊維は、フィブリル化の前に化学修飾され得、セルロース分子は、元のセルロースに見られるもの以外の(またはそれ以上の)官能基を含有する。このような基には、とりわけ、カルボキシメチル、アルデヒドおよび/またはカルボキシル基(N-オキシル媒介酸化によって得られるセルロース、例えば「TEMPO」)、または第四級アンモニウム(カチオン性セルロース)が含まれる。上記方法の1つで修飾された、または酸化された後、繊維をMFCに崩壊させることがより容易である。
【0034】
MFCはいくらかのヘミセルロースを含有し得;その量は植物源に依存する。前処理された繊維、例えば加水分解された、予備膨潤された、または酸化されたセルロース原料の機械的崩壊は、リファイナ、グラインダ、ホモジナイザ、コロイダ、摩擦グラインダ、超音波ソニケータ、単軸もしくは二軸スクリュー押出機、マイクロフルイダイザ、マクロフルイダイザなどのフルイダイザ、またはフルイダイザ型ホモジナイザなどの適切な装置を用いて行われる。MFC製造方法に応じて、生成物はまた、微粉、またはナノ結晶セルロース、または例えば木材繊維もしくは製紙プロセスに存在する他の化学物質を含有し得る。生成物はまた、様々な量の効率的にフィブリル化されていないミクロンサイズの繊維粒子を含有し得る。
【0035】
MFCは、広葉樹繊維または針葉樹繊維の両方からの木材セルロース繊維から製造することができる。これはまた、微生物源、農業繊維、例えば麦わらパルプ、竹、バガス、または他の非木材繊維源から作成することもできる。これは、好ましくは、バージン繊維からのパルプ、例えば機械パルプ、化学パルプおよび/またはサーモメカニカルパルプを含むパルプから作成される。これはまた、損紙または再生紙、すなわちプレおよびポストコンシューマ廃棄物から作成することもできる。
【0036】
MFCは、天然(すなわち、化学的に非修飾の)であっても、または化学修飾されていてもよい。リン酸化MFCは、典型的には、NH4H2PO4、水および尿素の溶液に浸したセルロース繊維を反応させ、その後、繊維をフィブリル化することによって得られる。1つの特定の方法は、セルロースパルプ繊維の水中懸濁液を用意し、前記水懸濁液中のセルロースパルプ繊維をリン酸化剤でリン酸化し、引き続いて当該技術分野で一般的な方法でフィブリル化することを伴う。適切なリン酸化剤には、リン酸、五酸化リン、オキシ塩化リン、リン酸水素二アンモニウムおよびリン酸二水素ナトリウムが含まれる。
【0037】
フィルムはまた、他のセルロース成分を含んでもよい。
【0038】
親水性膜形成ポリマー
膜形成組成物は親水性膜形成ポリマーを含む。ポリマーは、フィルムのMFC繊維を互いに結合するのを助ける。膜形成組成物は、典型的には、膜形成組成物の全固形分に基づいて、0.1~50重量%、好ましくは0.1~25重量%、より好ましくは0.1~15重量%の前記膜形成ポリマーを含む。「親水性」という用語は、固体形態の場合、ポリマーが90度未満、好ましくは70度未満の水との接触角を有することを意味する。
【0039】
適切には、膜形成ポリマーは、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、アクリルポリマーおよびポリエチレングリコール(PEG)から選択される。好ましい膜形成ポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)およびポリビニルアルコール(PVA)である。
【0040】
これらの膜形成ポリマーの部分的または完全加水分解誘導体も潜在的に使用される。加水分解度は85~99%であり得る。
【0041】
膜形成ポリマー、特にPVAは、例えばシラノールまたはカルボン酸などの様々な官能基で誘導体化することもできる。
【0042】
膜形成性ポリマーとして使用されるセルロース誘導体には、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(NaCMC)またはカルボキシメチルセルロース(CMC)が含まれる。セルロース誘導体はまた、デンプンもしくはヘミセルロース、またはそれらの誘導体を含み得る。
【0043】
膜形成組成物は、1種の親水性膜形成ポリマーまたは2種以上の親水性膜形成ポリマーを含んでもよい。一実施形態では、各親水性膜形成ポリマーが、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース誘導体、ポリアクリルアミド、ポリエチレンイミン、アクリルポリマーおよびポリエチレングリコール(PEG)、ならびにそれらの部分的または完全加水分解誘導体から選択され得る。
【0044】
膜形成
上記の膜形成組成物は、前記キャスティング基板の処理表面上にキャスティングされる。キャスティングは、10~500m/分、好ましくは20~300m/分の速度で行われ得る。膜形成組成物は、10~90℃、好ましくは20~70℃、より好ましくは20~60℃の温度を有し得る。
【0045】
膜形成組成物をキャスティング基板上で乾燥させて、ミクロフィブリル化セルロース(MFC)を含むセルロースフィルムを形成する。乾燥工程では、乾燥および場合により脱水が行われる。乾燥は、エバポレーションによって行うことができ、乾燥方法は、インピンジメント乾燥(impingement drying)、接触乾燥、赤外線乾燥、蒸気乾燥、これらの組み合わせ、または当業者に知られている任意の他の方法であり得る。乾燥中、膜形成組成物の温度は90℃未満、好ましくは80℃未満であり得る。キャスティング直後またはキャスティングおよびある特定の乾燥度までのフィルムの乾燥後のいずれかに、別個の脱水工程を含めることもできる。脱水は、プレス脱水、毛管脱水、濾過または重力脱水によって行うことができる。例えば、脱水工程の後にエバポレーション乾燥を行うことができる。乾燥工程および任意の脱水工程の目的は、75~99%、より好ましくは80~97%のセルロースフィルムの最終乾燥度に到達することである。
【0046】
次いで、形成されたセルロースフィルムをキャスティング基板から分離する。
【0047】
本発明の方法は、例えば印刷、コーティング、積層等などの、セルロースフィルム上で行われる追加の変換工程を含み得る。1つの追加の工程は、セルロースフィルムをすすいで、セルロースフィルムから過剰な水性エマルジョンを除去することであり得る。MFCフィルム上に残っている植物油の量は非常に少量であり得るが、UVまたはUV-Vis分光法によって検出可能であり得る。植物油は、その特徴的なUVスペクトルのために、トレース化学および/または化学フィンガープリントとして使用され得る。
【0048】
他の成分
本方法で使用される膜形成組成物および得られたセルロースフィルムは、1種または複数の追加の成分を含み得る。
【0049】
一態様では、膜形成組成物が、膜形成組成物の全固形分に基づいて、0.1~30重量%、好ましくは0.1~25重量%、より好ましくは0.1~15重量%の充填剤、好ましくは例えば粘土などの鉱物充填剤を含む。典型的な充填剤は、ナノクレイ、ベントナイト、シリカまたはケイ酸塩、炭酸カルシウム、滑石等であり得る。好ましくは、充填剤の少なくとも一部が板状充填剤である。好ましくは、充填剤の1つの寸法が、1nm~10μmの平均厚さまたは長さを有するべきである。例えば光散乱技術を用いて充填剤の粒径分布を決定する場合、好ましい粒径は、90%超が2μm未満であるようなものであるべきである。他の充填剤は、層状ケイ酸塩、金属酸化物、カーボンナノチューブおよび金属ナノ粒子から選択され得る。
【0050】
さらに、膜形成組成物は、1種または複数の安定化剤または可塑剤をさらに含み得る。1つの特定の態様では、可塑剤が、C1~C24ポリアルコール、好ましくはC1~C12ポリアルコール、より好ましくはソルビトールなどのC1~C6ポリアルコールである。膜形成組成物は、膜形成組成物の全固形分に基づいて、1~40重量%、好ましくは3~20%のこのような可塑剤を含み得る。一態様では、膜形成組成物が植物油を含まない。
【0051】
膜形成組成物は、セルロース誘導体または天然デンプンまたは加工デンプン、例えばカチオン性デンプン、非イオン性デンプン、アニオン性デンプンまたは両性デンプンなどの強化剤も含有し得る。さらなる実施形態では、膜形成組成物が、保持および排出化学物質も含有し得る。さらに別の実施形態では、膜形成組成物が、染料または蛍光増白剤、消泡剤、湿潤増強樹脂、殺生物剤、疎水性薬剤、バリア化学物質、可塑剤、湿潤剤等などの他の典型的なプロセスまたは性能化学物質も含有し得る。
【0052】
一実施形態では、1種または複数の植物油の水性エマルジョンが、0.5~5N/mの間のセルロースフィルムとキャスティング基板との間の接着性を提供し得る。
【0053】
一般に、本発明はまた、キャスティング基板の表面からのMFCおよび親水性膜形成ポリマーを含むセルロースフィルムの剥離を促進することにおける、1種または複数の植物油の水性エマルジョンの使用を提供する。
【0054】
ミクロフィブリル化セルロース(MFC)および親水性膜形成ポリマーを含むセルロースフィルムであって、表面を規定し、少なくとも1種の植物油が前記表面上に存在する、セルロースフィルムも提供される。本明細書で提供されるセルロースフィルムは、典型的には、乾燥時に10~60gsmの坪量を有する。本発明の方法に関して上に提供される全ての詳細は、可能な限り、セルロースフィルム自体にも適用可能である。
【0055】
好ましくは、本明細書に定義されるセルロースフィルムは、キャスティング基板から分離される点で、75~99%、最も好ましくは80~97%の固形分を有する。
【0056】
セルロースフィルムは、例えば、食品、電子製品または化粧品用の包装材料として利用することができる。
【0057】
フィルムはまた、水溶性ポリマーおよび天然ゴムなどのポリマーを含み得る。水溶性ポリマーは、例えばポリビニルアルコールであり得、天然ゴムは、例えばグアーガム、セルロース誘導体、ヘミセルロース、および他の多糖類であり得る。
【実施例】
【0058】
実施例1(比較)
ミクロフィブリル化セルロース、ポリビニルアルコールおよびベントナイトを含むフィルムを、脱水および乾燥後に740μmの湿潤フィルム厚さを得るように移動するスチールベルト上にキャスト成形した。スチールベルトは、PTFEコーティング、0.9μmのRa粗さ、および40~42mN/mの表面エネルギーを有していた。
【0059】
フィルムを作成するために使用した懸濁液の固形分は4.24重量%であり、95.76重量%の水、3.69重量%のミクロフィブリル化セルロース、0.37重量%のポリビニルアルコールおよび0.18重量%のベントナイトを含有していた。
【0060】
フィルムを95重量%超の最終固形分まで乾燥させ、フィルムをスチールベルトから分離し、自立型フィルムとしてリーラに持ち込んで連続フィルムリールを作成する試みを行った。
【0061】
フィルムとスチールベルトとの間の接着性があまりに高かったので、フィルムをスチールベルトから分離することができず、機械を停止しなければならなかった。
【0062】
実施例2
ここではベルトをエマルジョンによって処理してベルトへの接着を制御したことを除いて、実施例1に示されるMFCフィルムレシピをキャスト成形した。
【0063】
レシチンを乳化剤として使用することによって、ナタネ油の水性エマルジョンを調製した。6gの大豆レシチンを、最初に100gのナタネ油中にキッチンブレンダー内で分散させ、その後、1000gの水を添加し、エマルジョンを、視覚的に均一になるまで混合した。次いで、エマルジョンを水で希釈して、2重量%のナタネ油の最終濃度に到達させた。
【0064】
実施例1と同じキャスト成形条件およびスチールベルトを使用したが、ここでは、MFC懸濁液をスチールベルトに供給する前に、エマルジョンを82g/分の速度で移動するスチールベルトの上面に霧化ノズルで噴霧した。ベルトは4.8m2/分の速度で移動していた。35g/分のエマルジョンを、ベルト表面を連続的に掻き取って過剰な水およびエマルジョンを除去するゴムスクレーパを用いてベルト表面から回収した。ケーシングおよび噴霧領域の周囲の表面から17g/分を回収した。したがって、30g/分は、6.25g/m2に相当する、スチールベルト表面上に残ったエマルジョンの量であった。したがって、植物油濃度2重量%を考慮すると、スチールベルト上のナタネ油量は125mg/m2であった。
【0065】
この場合、乾燥フィルムをスチールベルト基板から容易に分離し、自立型フィルムを巻き取って連続フィルムリールを作ることができた。エマルジョン形態のナタネ油の125mg/m2有効用量は効率的であったが、乾燥フィルムおよびスチールベルトの表面にはそれぞれいくらかの残留エマルジョンが残っていた。
【0066】
実施例3
実施例2と同じMFC組成物を調製したが、エマルジョン中のナタネ油濃度は0.2重量%に低下させた。
【0067】
また、12.5g/m2の用量は、スチールベルト表面から本質的に乾燥したフィルムの剥離に成功し、連続的な自立型フィルムを巻き取ることができた。より低い用量のナタネ油エマルジョンでは、フィルムおよびスチールベルト表面はエマルジョンからの少ない残留を示していた。
【0068】
実施例4(比較)
ミクロフィブリル化セルロース、ポリビニルアルコール、ベントナイトおよびポリエチレングリコールを含むフィルムでも実験を繰り返した。湿潤フィルムを移動するスチールベルト上にキャスティングして、脱水および乾燥後の湿潤フィルム厚さ690μmを得た。実施例1と同様のスチールベルトを使用した。懸濁液は、95.66重量%の水、3.62重量%のMFC、0.36重量%のポリビニルアルコール、0.18重量%のベントナイトおよび0.18重量%のポリエチレングリコールを含有し、4.34重量%の全固形分に達した。
【0069】
フィルムキャスティング前にナタネ油エマルジョンを噴霧塗布しないと、接着性が高すぎて乾燥後にスチールベルトからフィルムを除去することができなかった。
【0070】
実施例5
実施例4と同じフィルム組成、同じキャスト成形条件および同じスチールベルトを使用したが、ここではナタネ油エマルジョンで処理したベルトを使用した。ナタネ油エマルジョンを、有効ナタネ油量125mg/m2に相当する用量で噴霧した。ベルトの処理のプラスの効果は明らかであり、MFCフィルムの剥離を問題なく行うことができた。
【0071】
実施例6
実施例4と同じフィルム組成、同じキャスト成形条件および同じスチールベルトを使用したが、ここではナタネ油エマルジョンで処理したベルトを使用した。ナタネ油エマルジョンを、有効ナタネ油量12.5mg/m
2に相当する用量で噴霧した。ベルトの処理のプラスの効果は明らかであり、MFCフィルムの剥離を問題なく行うことができた。
【0072】
接着性は、巻き取りに移る前の乾燥セクション後にスチールベルトからのフィルムまたはウェブ剥離を追跡することによる試験から評価される。ウェブ接着性はまた、ウェブ剥離挙動のオンライン画像化によって、または例えば金属ベルト上の残留物を分析するための分光手段によって監視することができる。巻き取りは、張力、リール寸法等などのリールの品質を追跡することによって評価される。不均一なまたは高すぎるウェブ接着性は、ウェブ張力およびその後のリール品質に問題を引き起こす可能性がある。ウェブ接着性が高すぎると、ウェブ破損または同様の欠陥にもつながる。
【0073】
本発明をいくつかの実施形態に関連して説明してきたが、これらは本発明を限定するものと見なされるべきではない。当業者は、必要に応じて様々な態様および実施形態を組み合わせることによって、特許請求の範囲内に入る他の実施形態を提供することができる。
【国際調査報告】