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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(54)【発明の名称】膵臓がんの治療および予後
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230217BHJP
   A61K 45/06 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 31/495 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 31/7068 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 31/513 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 31/438 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 31/4523 20060101ALI20230217BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230217BHJP
   A61P 1/18 20060101ALI20230217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K45/06
A61K31/495
A61K31/7068
A61K31/513
A61K31/337
A61K31/438
A61K31/4523
A61P35/00
A61P1/18
A61P43/00 111
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022537349
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-08-12
(86)【国際出願番号】 GB2020053295
(87)【国際公開番号】W WO2021123813
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】1918692.3
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501308812
【氏名又は名称】ケンブリッジ エンタープライズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ウー,トニー ジェイムズ
(72)【発明者】
【氏名】ジル,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ミラー,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】キャスト,オリヴァー
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084AA19
4C084AA20
4C084MA02
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC202
4C084ZC412
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086BC43
4C086BC50
4C086CB22
4C086EA17
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC41
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、膵臓がんの治療における使用のためのCCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物、特に、例えば、膵臓がんの治療における抗腫瘍剤として有効な1つ以上のさらなる治療薬と組み合わせた、CCR1アンタゴニストを提供する。そのような抗腫瘍剤は、ゲムシタビン、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、FOLFIRINOX(ロイコボリンカルシウム、フルオロウラシル、イリノテカン塩酸塩およびオキサリプラチン)、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))ならびにそれらの組み合わせから選択される化学療法剤であり得る。がん免疫療法剤(例えば、PD-1阻害剤および/またはPD-L1阻害剤)もまた、CCR1アンタゴニストとともに好適に使用され得る。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵臓がんの治療における使用のための、CCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物。
【請求項2】
膵臓がんの治療における抗腫瘍剤として有効な1つ以上のさらなる治療薬と組み合わせた、請求項1に記載の使用のためのCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物。
【請求項3】
ゲムシタビン、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン、FOLFIRINOX(ロイコボリンカルシウム、フルオロウラシル、イリノテカン塩酸塩およびオキサリプラチン)、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))ならびにそれらの組み合わせから選択される化学療法剤と組み合わせた、請求項1または2に記載の使用のためのCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物。
【請求項4】
がん免疫療法剤(例えば、PD-1阻害剤および/またはPD-L1阻害剤)と組み合わせた、請求項1~3のいずれか一項に記載の使用のためのCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物。
【請求項5】
MEK阻害剤および/またはIGF1R阻害剤と組み合わせた、請求項1~4のいずれか一項に記載の使用のためのCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物。
【請求項6】
前記CCR1アンタゴニストが、UCB-35625、BX-471、AZD-4818、J113863、BAY-865047、BMS-817399、C-4462、CCX-354、CP-481715、およびMLN-3897、またはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用のためのCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物。
【請求項7】
前記CCR1アンタゴニストが、BX-471であり、それが、ゲムシタビンおよび任意選択でPD-1阻害剤と組み合わせて使用される、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用のためのCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物。
【請求項8】
以下の薬剤:
ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOX、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))およびそれらの組み合わせから選択される化学療法剤、
PD-1および/もしくはPD-L1阻害剤、
MEK阻害剤、ならびに/または
IGF1R阻害剤、のうちの1つ以上と組み合わせてCCR1アンタゴニストを含む医薬組成物。
【請求項9】
前記膵臓がんが、ステージIIIもしくはIVのがんである、かつ/または前記膵臓がんが、膵管腺がん(PDAC)である、請求項1~8のいずれか一項に記載の使用のためのCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物。
【請求項10】
膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がんを治療する方法であって、前記方法は、前記対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物を投与することを含む、方法。
【請求項11】
前記方法が、請求項2~9のいずれか一項に記載の特徴のうちの1つ以上を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
パーツキットであって、以下の構成要素:
-任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、本明細書で規定されるCCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物と、
-任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される1つ以上の化学療法剤と、を含み、
前記構成要素は、逐次的な、別個の、および/または同時の投与に適切である形態で提供される、パーツキット。
【請求項13】
膵臓がんと診断された対象の予後決定を実施する方法であって、前記方法は、
a)前記対象から取得されたサンプルにおける免疫(例えば、マクロファージ)浸潤のレベルおよび/またはCCR1発現のレベルを測定するステップと、
b)ステップa)において測定された前記免疫(例えば、マクロファージ)浸潤のレベルおよび/または前記CCR1発現のレベルをそれぞれ参照浸潤レベルおよび/または参照発現レベルと比較するステップと、
c)ステップb)において決定された、前記参照浸潤レベルと比較した前記免疫(例えば、マクロファージ)浸潤レベルおよび/または前記参照発現レベルに対する前記CCR1発現のレベルに基づいて前記対象の予後を決定するステップと、を含み、
それぞれの前記参照レベルに対して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤および/またはCCR1発現は、前記対象にとって好ましくない予後を示し、前記それぞれの参照レベルと比較して減少したかまたは変化していないレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤および/またはCCR1発現は、前記対象にとって好ましい予後を示す、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
序論
本発明は、膵臓がんの治療におけるCCR1アンタゴニストの使用に関する。本発明はまた、膵臓がんの治療のための、CCR1アンタゴニストを含む医薬組成物の使用、および1つ以上の他の治療薬と組み合わせたCCR1アンタゴニストの使用に関する。膵臓がんのための治療および予後の新規の方法もまた記載される。
【背景技術】
【0002】
膵臓がんは、がんが進行した状態になるまで非常に少ししか症状を呈しない、侵襲性形態のがんである。その名称が示唆するように、膵臓がんは、膵臓の組織において悪性(がん性)細胞が形成される疾患である。膵臓がんは現在、英国において診断されるがんの10番目に一般的な形態となっており、9,912の膵臓がんの症例が2015年に英国において診断された。膵臓がんと診断された患者についての生存率は著しく低く、膵臓がんと診断された患者の1%未満が10年を超えて生存する。2016年だけでも、英国における9,263人の人々が膵臓がんで死亡し、この数は、同じ年に英国において膵臓がんと診断された人の数におおよそ相関している。
【0003】
過去40年にわたる予防、検出および治療における著しい改善により、大部分の他の形態のがんと診断された患者の生存率は革命的に変化したが、膵臓がんと診断された患者の臨床アウトカムは変わらず不良である。全膵臓がん症例の90%超を構成する膵管腺がん(PDAC)は、地球全体でおおよそ140,000の新たな症例が見られ、世界で4番目に多いがん関連死の原因となっている。
【0004】
膵臓がんに関連する不良な臨床アウトカムおよび低い生存率は、部分的には、この疾患を治療するために現在利用可能である有効な治療オプションの欠如に起因する。例えば、切除不能な膵臓がんのための現在の第1選択のオプションであるゲムシタビン(Gemzar(登録商標))+nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))および/またはFOLFIRINOX(フルオロウラシル、ロイコボリン、イリノテカンおよびオキサリプラチンの組み合わせ)は、切除不能な膵臓がんと診断された個体に投与されると、その個体の寿命を平均して11ヶ月のみ延長する、化学療法剤である。
【0005】
したがって、膵臓がんのための新たな改善された治療レジメンの必要性が依然として存在する。また、医師が、進行した形態の膵臓がんを有する患者をどのように治療するのが最善かについてより多くの情報に基づいた決定を下し得るように、この疾患と診断された患者を予後決定および層別化するための新たな方法が望まれている。
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様によれば、膵臓がんの治療における使用のための、CCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物が提供される。
【0007】
本発明者らは、膵臓がん細胞(例えば、PDAC細胞)において発現されるCCR1と患者の予後との間に強い相関が存在すると決定し、本発明者らは、高レベルのCCR1が、最も悪い臨床アウトカムを有する患者に強く相関することを見出した。本発明者らはさらに、高レベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤もまた、患者の不良な予後とよく相関することを見出した。したがって、本発明者らは、膵臓がん患者を予後決定するための新たなバイオマーカーおよび方法を特定することができた。
【0008】
さらに、本発明者らは、いくつかの構造的に異なるCCR1アンタゴニストが、膵臓がん細胞のマクロファージ媒介性浸潤促進性(pro-invasive)特性を妨害すること、およびCCR1発現レベルを低下させることの両方において有効であることを見出した。インビボ腫瘍成長研究により、特に膵臓がん細胞がマクロファージにも曝露されたときに、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)の投与が、膵臓がん細胞(例えば、PDAC細胞)の増殖に対する著しい阻害をもたらすことが確認された。本発明者らはまた、標準治療薬物治療にCCR1アンタゴニストを含めることが、膵管腺がん(PDAC)のマウスモデルにおけるマウスの生存期間を増加することを見出した。
【0009】
本発明による使用のためのCCR1アンタゴニストは、しばしば「標準治療」と称される治療などの、確立された治療レジメンと組み合わせて使用されるときに、膵臓がんの治療において特に有効である。そのような組み合わせは、以下でさらに詳細に考察される。好ましい実施形態では、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される1つ以上の化学療法剤と組み合わせた、膵臓がんの治療における使用のための、CCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
【0010】
CCR1アンタゴニストは、さらに、またはあるいは、がん免疫療法剤(例えば、PD-1および/またはPD-L1阻害剤)と組み合わせて使用され得る。
【0011】
CCR1アンタゴニストは、さらに、またはあるいは、MEK阻害剤と組み合わせて使用され得る。
【0012】
CCR1アンタゴニストは、さらに、またはあるいは、IGF1R阻害剤と組み合わせて使用され得る。
【0013】
上記のように、本発明者らは、膵臓がん細胞(例えば、PDAC細胞)において発現されるCCR1のレベルと患者の予後との間に強い相関を見出した。したがって、本発明の治療は、一実施形態では、参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1発現を有すると特定された対象の治療である。
【0014】
上記のように、本発明者らは、免疫(例えば、マクロファージ)浸潤のレベルと患者の予後との間に強い相関を見出した。したがって、本発明の治療は、一実施形態では、参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤が特定された対象の治療である。いくつかの実施形態では、マクロファージは、M1マクロファージである。他の実施形態では、マクロファージは、M2マクロファージである。すなわち、適切には、本明細書で言及されるマクロファージ浸潤は、M1またはM2マクロファージ浸潤であると理解される。
【0015】
適切には、本発明の任意の態様に関するCCR1アンタゴニストは、UCB-35625、BX-471、AZD-4818、およびJ113863、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】TCGAヒト膵臓がんにおける免疫浸潤画分のssGSEA分析を示す。列は、個々の患者を表し、行は、種々の免疫細胞型を表す。
図2】膵臓がん患者の層別化のためのTCGA PAAD(膵臓がん)におけるマクロファージ浸潤のカプラン・マイヤー生存分析を示す。免疫スコア(Immune Score)対M1およびM2様マクロファージシグネチャーによって計算された膵臓がん患者の生存:しかしながら、免疫浸潤状態(免疫スコア)に従って膵臓がん患者において差次的な全生存は計算されなかった;低レベルのM1またはM2様マクロファージシグネチャーを有する膵臓がん患者においてより高い全生存が計算された(p=0.01)。*低<30パーセンタイル<中<70パーセンタイル<高。
図3】マウスPDAC間葉系細胞が、浸潤の3Dインビトロアッセイにおいて血管擬態を形成することを示す。細胞クラスターを形成するPDAC上皮細胞とは対照的に、PDAC間葉系細胞は、100%のmatrigelでプレコートされたプレート上で増殖するときに、血管擬態(VM)様構造を形成する。播種後96時間で取得された血管構造の定量化(p=0.01)。
図4】IncuCyte Zoomによって7日間にわたって画像化された3D細胞培養におけるmCherry標識PDAC上皮および間葉系細胞と、ZsGreen標識初代骨髄由来マクロファージ(BMDM)を示す。それぞれPDAC上皮およびPDAC間葉系について6日目および4日目に取得された浸潤促進性表現型の代表的な画像および定量化。スケールバー、300ミクロン。
図5】以下を示す:A)2D培養における単培養または混合PDACおよびBMDM細胞の模式図と、下流のRNAシーケンシング分析のためのその後の蛍光活性化セルソーティング(FACS);B)ケモカインおよびその受容体は、BMDMとの延長された共培養の後のPDACトランスクリプトームにおいて最も高い差次的に発現される遺伝子に入る;およびC)BMDMとの延長された共培養の後のPDAC細胞におけるqRT-PCRによるRNAシーケンシングデータの確認。
図6】PDAC細胞浸潤を促進する新規のタンパク質標的を特定するために(プロテオーム)CTAP(アミノ酸前駆体を使用した細胞型特異的標識)標識された2D培養における単培養または混合PDACおよびBMDM細胞の模式図を示す。単培養物および混合共培養物を、下流のプロテオームおよびセクレトーム分析のためにバルクで回収した。
図7図6のプロテオームアプローチの結果を示す。CTAP-TMT(タンデム質量タグ)プロテオームは、ケモカインおよびその受容体を、BMDMとの延長された共培養の後のPDACにおいて最も高い差次的に発現される遺伝子に入るものとして明らかにする。
図8図6のセクレトームアプローチの結果を示す。馴化培地(CM)(単培養のまたは2D培養において一緒に混合したPDACおよびBMDM細胞)を用いてプローブされた代表的な炎症抗体アレイを示す。
図9図8に示されるアレイに由来する種々のCCLケモカインの定量化を示す。
図10】IncuCyte Zoomによって7日間にわたって画像化された、CCR1の種々の小分子阻害剤で処理した、3D細胞培養におけるmCherry標識PDAC間葉系細胞と、ZsGreen標識BMDMを示す。4日目に取得された代表的な画像および浸潤促進性表現型の定量化。スケールバー、300ミクロン。下は、4日目に取得された浸潤促進性表現型の定量化である。
図11】qRT-PCRによる種々のCCR1アンタゴニストの存在下および非存在下でのBMDMとの共培養の後のPDAC間葉系細胞における相対的CCR1発現(mRNA)を示し、これは図10において得られたデータと一致する。
図12】種々のCCR1アンタゴニストの存在下および非存在下での延長された共培養の後のPDAC細胞におけるCCR1発現(タンパク質)を示す。
図13図12に示されるCCR1発現(タンパク質)データの定量化を示す。
図14】IncuCyte Zoomによって7日間にわたって画像化された3D細胞培養におけるmCherry標識PDAC間葉系細胞のZsGreen標識BMDMとの共培養の前のsiRNAによるCCR1のノックダウンを示す。4日目に取得された浸潤促進性表現型の代表的な画像。
図15図14の3D細胞培養画像の定量化を示す。
図16】IncuCyte Zoomによって7日間にわたって画像化された、CCR1に結合する既知および新規のリガンドに対する種々の中和抗体で処理した、3D細胞培養におけるmCherry標識PDAC間葉系細胞とZsGreen標識BMDMを示す。4日目に取得された代表的な画像および浸潤促進性表現型の定量化。スケールバー、300ミクロン。
図17】以下についての、経時的な(例えば、7~34日の)腫瘍体積を示す2つのグラフを示す:i)PDAC細胞(K84)単独、ii)PDAC細胞(K84)+CCR1アンタゴニスト、BX471、iii)PDAC細胞(K84)+骨髄由来マクロファージ、およびiv)PDAC細胞(K84)+CCR1アンタゴニスト、BX471+骨髄由来マクロファージ。
図18】以下についての生存パーセンテージを示すグラフを示す:i)PDAC細胞(K84)単独、ii)PDAC細胞(K84)+CCR1アンタゴニスト、BX471、iii)PDAC細胞(K84)+骨髄由来マクロファージ、およびiv)PDAC細胞(K84)+CCR1アンタゴニスト、BX471+骨髄由来マクロファージ。
図19】TCGA膵臓がん(PAAD)における免疫細胞高/低サンプルのCCR1発現を示す。各列は、それぞれの細胞型についてのサンプルの高および低への分岐ならびにグループにわたるCCR1発現を示す。
図20図19に示されるデータのカプラン・マイヤー生存分析を通じて生成された経時的な生存率(%)を示すグラフを示す。
図21】延長された共培養の後に最も変化したタンパク質の遺伝子オントロジー(GO)分析が、ケモカイン関連生物学的プロセスのエンリッチメントを明らかにすることを示す。
図22】実施例1の組み合わせたマクロファージ浸潤およびCCR1発現データのカプラン・マイヤー生存分析を通じて生成された経時的な生存率(%)を示すグラフを示す。
図23】PDAC間葉系細胞におけるIGF1シグナル伝達経路の発現を示す。PDAC細胞からの総タンパク質(30ug)を、SDS-PAGEゲルによって分離した。IGF1下流標的遺伝子の発現を、抗AKT、4E-BP1、MEKおよびMAPK抗体を用いたウエスタンブロット分析によって検出した。GAPDHを、すべてのサンプルのためのローディング対照として使用した。
図24】IGF1およびBX-471の両方の組み合わせで処理されたサンプルと比較した、組換えIGF1で処理したサンプルにおける様々なキナーゼ活性について観察されたキナーゼ活性を推定するためのキナーゼセットエンリッチメント分析(KSEA)を使用して生成されたヒートマッププロットを示す。
図25】PDACのKPCマウスモデルを使用した、膵臓がんの治療におけるCCR1アンタゴニストBX-471の有効性を決定するための研究計画を示す。使用した5つの実験コホートの説明ならびに治療条件および研究期間を示すタイムラインが含まれる。
図26】コラーゲンIV、免疫細胞(H&EおよびCD45)、ならびにがん細胞(KRT19)について染色した、KPCマウス(ビヒクル、BX-471、ゲムシタビン、ゲムシタビン+BX471、またはゲムシタビン+抗PD1+BX-471のいずれかで治療した)からの原発腫瘍の予備的なイメージングを示す。
図27】以下で治療したKPCマウスについての経時的な生存率(%)を示すグラフを示す:(i)ビヒクル、(ii)BX-471、(iii)ゲムシタビン、(iv)ゲムシタビン+BX471二重療法、または(v)ゲムシタビン+抗PD1+BX-471三重療法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
CCR1アンタゴニスト
CCR1遺伝子によってコードされるタンパク質である、CCケモカイン受容体1型(CCR1)は、シグナル伝達の媒介および炎症の部位へのエフェクター免疫細胞の動員における能動的な役割を果たすことが知られている受容体のファミリーである、ベータケモカイン受容体ファミリーのメンバーである。免疫応答を媒介することにおけるCCR1、ならびに他のケモカインファミリーメンバー(例えば、CCR2、CCR3およびCCR5)の能動的な関与に起因して、CCR1のいくつかの小分子アンタゴニスト、およびCCR1中和抗体が開発されており、自己免疫疾患および慢性炎症性疾患の治療において高度に有効であることが示されている。
【0018】
自己免疫疾患および炎症性障害の治療におけるCCR1アンタゴニストの広範な使用にかかわらず、CCR1アンタゴニストが、一般的に他の形態のがんよりも治療することがずっと挑戦的であると考えられている(膵臓がん患者の間での不良な生存率によって証明されている)、侵襲性形態の固形がんの治療のために有効な薬剤として使用されるという報告は非常に少ししか存在しない。
【0019】
米国特許出願第2017/0290808号は、特定のCCR1アンタゴニスト(例えば、CCR1の小分子アンタゴニスト)とPD-1および/またはPD-L1阻害剤との特定の組み合わせが、例えば、トリプルネガティブ乳がん転移などの、乳がん転移の治療において有用であり得ることを報告している。しかしながら、US2017/0290808には、CCR1アンタゴニストが、例えば、膵臓がんなどの、より侵襲性形態のがんを治療するために使用され得ることを支持するか、または推察する理由を与えるデータも、原発がんの治療におけるCCR1アンタゴニストの使用を支持するデータも含まれていない。さらに、膵臓がん細胞は、典型的には、多くの他の形態の固形腫瘍よりも高い量のコラーゲンおよび/または細胞外マトリックス(ECM)を有することから、膵臓がんは、一般的に、構造的に異なる形態の固形がんとみなされている(Weniger et al.,Cancers,2019,10(9),316)。すなわち、膵臓がん細胞において典型的に見出される高レベルのコラーゲンおよび/またはECMは、膵臓がん細胞への化学療法剤の接近を制限し、これは、今度は、多くの化学療法剤が膵臓がんの治療において有効に使用され得ないことを意味する。
【0020】
US2009/0286823において、特定のCCR1阻害剤が、多発性骨髄腫および他の障害の治療のために有用であることが報告されている。膵臓がんは、阻害剤がそのために有用であり得ると著者らが推測するがんのリストにおいて言及されている。そこに記載される化合物が、単独でまたはいずれかの他の療法との組み合わせで膵臓がんの治療において有効であろうという何らかの示唆を支持するデータは提供されていない。
【0021】
US2013/0280254において、CCR1受容体の、特定のアンタゴニストとの拮抗作用が、患者における腫瘍の転移を抑制し得ることが報告されている。膵臓がんは、アンタゴニストがそのために有用であり得ると著者らが推測するがんのリストにおいて言及されている。そこに記載される化合物が単独でまたはいずれかの他の療法との組み合わせで膵臓がんの治療において有効であろうという何らかの示唆を支持するデータは提供されていない。
【0022】
上記のように、本発明者らは、特に他の治療と組み合わせて使用されるときに、CCR1のアンタゴニストが膵臓がんを治療することにおいて有効であることを見出した。
【0023】
「CCR1アンタゴニスト」という用語は、ケモカイン受容体CCR1およびそのリガンドのうちのいずれか1つの相互作用に拮抗する薬剤(例えば、小分子またはCCR1中和抗体)を意味すると理解される。すなわち、CCR1アンタゴニストは、通常、CCR1の、そのリガンドのうちの1つとの相互作用によってトリガーされるプロセスのうちの1つ以上を阻害することができる。適切には、CCR1アンタゴニストは、IL1B、CCL1、CCL3、CCL5、CCl6、CCL7、CCL9、CCL15、CCL20および/またはCCL23リガンドの相互作用に拮抗する薬剤である。最も適切には、CCR1アンタゴニストは、IL1B、CCL1、CCL9および/またはCCL23リガンド、例えば、CCL9リガンドの相互作用に拮抗する薬剤である。
【0024】
特定の実施形態では、CCR1アンタゴニストは、CCR1中和抗体である。CCR1中和抗体の例は、MBL International(Woburn,MA)から入手可能な抗体IgG1(クローン141-2)である。当該技術分野で知られている方法を使用してさらなる抗体が実現され得ることが理解される。
【0025】
本発明者らは、CCR1アンタゴニストが、非がん性細胞に対する最小の有害な効果を伴うことを見出した。CCR1アンタゴニスト(BX471)で処理された線維芽細胞およびマクロファージは、ビヒクル対照で処理された細胞と同じように生存可能であるようであることが観察された。したがって、ヒト対象におけるそれらの使用は、多くの他のがん治療よりも、少なく重度の低い副作用を伴うことが予想される。
【0026】
好ましくは、CCR1アンタゴニストは、例えば、本明細書中下記のものなどの、小分子アンタゴニストである。適切には、CCR1アンタゴニストは、最大1000Daの分子量を有する小分子CCR1アンタゴニストである。最も適切には、CCR1アンタゴニストは、250Da~550Daの分子量を有する小分子CCR1アンタゴニストである。
【0027】
特定の実施形態では、CCR1アンタゴニストは、BL-5923、UCB-35625、BX-471、BI-638683、BI-639667、PS-031291、MLN-3701、AZD-4818、AZD-0492、MLN-3897、CP-481715、F-18-CCR1、AOP-RANTES、PS-375179、J113863、NSC-651016、およびBAY-865047、BMS-817399、C-4462およびCCX-354、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される(例えば、BL-5923、UCB-35625、BX-471、BI-638683、BI-639667、PS-031291、MLN-3701、AZD-4818、AZD-0492、MLN-3897、CP-481715、F-18-CCR1、AOP-RANTES、PS-375179、J113863およびNSC-651016、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される)。適切には、CCR1アンタゴニストは、BL-5923、UCB-35625、BX-471、BI-638683、BI-639667、PS-031291、AZD-4818、AZD-0492、PS-375179、J113863およびNSC-651016、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される。より適切には、CCR1アンタゴニストは、UCB-35625、BX-471、BI-639667、AZD-4818、AZD-0492、およびJ113863、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される。さらにより適切には、CCR1アンタゴニストは、BX-471、BI-639667、J113863、AZD-4818もしくはAZD-0492またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される。さらにより適切には、CCR1アンタゴニストは、BX-471、BI-639667、J113863もしくはAZD-0492またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される。最も適切には、CCR1アンタゴニストは、BX-471、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物である。
【0028】
特定の実施形態では、CCR1アンタゴニストは、以下のCCR1アンタゴニスト:UCB-35625、BX-471およびJ113863、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物のうちの1つから選択される。
【0029】
例えば、CCR1アンタゴニストは、WO03/035627および/またはUS2003/0109534に記載されるタイプのピペラジンベースのCCR1アンタゴニストである。したがって、いくつかの実施形態では、CCR1アンタゴニストは、以下に示される式(I)の化合物:
【化1】
(式中、
nは、1、2または3から選択される整数であり、
100は、アルキルまたはヒドロキシアルキルから選択される置換基であり、
200は、4位がクロロ基で置換され、2位がアミノカルボニル、ウレイドまたはグリシンアミド基で置換されたフェニル基である)、
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物である。
【0030】
例えば、CCR1アンタゴニストは、以下に示される、BX-471((2R)-1-[[2-[(アミノカルボニル)アミノ]-4-クロロフェノキシ]アセチル]-4-[(4-フルオロフェニル)メチル]-2-メチルピペラジン):
【化2】
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物である。
【0031】
例えば、CCR1アンタゴニストは、WO2008/103126に記載されるようなスピロ環式ピペリジンベースのCCR1アンタゴニストである。すなわち、いくつかの実施形態では、CCR1アンタゴニストは、以下に示される式(II)の化合物:
【化3】
(式中、
mは、1であり、
tは、1であり、
は、ハロゲンであり、
X、YおよびZは、独立して、結合、-O-または-CH-であり、ただし、X、YおよびZのうちの1つのみが結合であり、
は、任意選択でヒドロキシルおよびカルボキシルから独立して選択される1つ以上の置換基によって置換された、C1-6アルコキシであり、
は、ハロゲンであり、
およびRは、水素およびC1-6アルキルから独立して選択される)
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物である。
【0032】
例えば、CCR1アンタゴニストは、以下に示される、AZD-4818((2-[2-クロロ-5-[(2S)-3-(5-クロロスピロ[ベンゾフラン-2(3H),4’-ピペリジン]-1’-イル)-2-ヒドロキシプロポキシ]-4-[(メチルアミノ)カルボニル]フェノキシ]-2-メチルプロパン酸):
【化4】
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物である。
【0033】
例えば、CCR1アンタゴニストは、EP0916668A1に記載されるような2,7-ジクロロ-9H-キサンテン-9-イルベースのCCR1アンタゴニストである。すなわち、いくつかの実施形態では、CCR1アンタゴニストは、以下に示される式(III)の化合物:
【化5】
(式中、
10およびR20は、水素原子、ハロゲン原子またはC1-6アルカリ原子から独立して選択され、
Xは、-O-、-S-または-CH-であり、
Qは、アニオン(例えば、Cl、BrまたはI)であり、
30は、シクロオクチルメチル基、シクロノニルメチル基、1-デカリルメチル基、2-デカリルメチル基、(1-シクロオクテニル)メチル基または(1-シクロノネニル)メチル基であり、
40は、メチル、エチル、プロピルまたはアリルから選択される)
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物である。
【0034】
例えば、CCR1アンタゴニストは、EP0916668A1に記載されるような2,7-ジクロロ-9H-キサンテン-9-イルベースのCCR1アンタゴニストである。すなわち、いくつかの実施形態では、CCR1アンタゴニストは、以下に示される式(III)の化合物またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物である:
【化6】
(式中、R10、R20、X、Q、R30およびR40は、上記で定義されたとおりである)。
【0035】
例えば、CCR1アンタゴニストは、以下に示される、J113863(1,4-cis-1-(1-シクロオクテン-1-イルメチル)-4-[[(2,7-ジクロロ-9H-キサンテン-9-イル)カルボニル]アミノ]-1-エチルピペリジニウムヨージド):
【化7】
またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物である。
【0036】
本発明は、本明細書に記載されるCCR1アンタゴニストのすべての薬学的に許容される塩を包含する。本発明のCCR1アンタゴニストの適切な薬学的に許容される塩は、例えば、十分に塩基性である本発明の化合物の酸付加塩、例えば、無機酸または有機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、クエン酸 メタンスルホン酸またはマレイン酸を有する酸付加塩である。加えて、十分に酸性である本発明のCCR1アンタゴニストの適切な薬学的に許容される塩は、アルカリ金属塩、例えば、ナトリウムもしくはカリウム塩、アルカリ土類金属塩、例えば、カルシウムもしくはマグネシウム塩、アンモニウム塩または薬学的に許容されるカチオンを与える有機塩基を有する塩、例えば、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、ピペリジン、モルホリンもしくはトリス-(2-ヒドロキシエチル)アミンを有する塩である。
【0037】
本発明はまた、1つ以上の同位体置換を含む本明細書で規定される本発明のCCR1アンタゴニストを包含する。例えば、Hは、1H、2H(D)、および3H(T)を含む、任意の同位体形態であり得、Cは、12C、13C、および14Cを含む、任意の同位体形態であり得、Oは、16Oおよび18Oを含む、任意の同位体形態であり得る、など。
【0038】
本発明の特定のCCR1アンタゴニストは、例えば、水和形態などの溶媒和形態ならびに非溶媒和形態で存在し得ることもまた理解される。本発明は、抗がん活性を有するすべてのそのような溶媒和形態を包含することが理解される。
【0039】
特定のCCR1アンタゴニストは、多形を示し得ること、および本発明は、抗がん活性を有するすべてのそのような形態を包含することもまた理解される。
【0040】
CCR1アンタゴニストはまた、ヒトまたは動物の身体中で分解されて、本発明のCCR1アンタゴニストを放出するプロドラッグの形態で投与され得る。プロドラッグは、CCR1アンタゴニストの物理的特質および/または薬物動態学的特質を変化させるために使用され得る。プロドラッグは、CCR1アンタゴニストが、それに特質修飾基が結合され得る適切な基または置換基を含有するときに形成され得る。プロドラッグの例には、CCR1アンタゴニスト中のカルボキシ基またはヒドロキシ基で形成され得るインビボで切断可能なエステル誘導体、およびCCR1アンタゴニスト中のカルボキシ基またはアミノ基で形成され得るインビボで切断可能なアミド誘導体が含まれる。
【0041】
治療の方法
本発明は、膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がんを治療する方法であって、当該方法は、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、またはその医薬組成物を投与することを含む、方法を提供する。
【0042】
「治療する」または「治療」への言及は、予防ならびに状態の確立された症状の軽減を含むことが理解される。したがって、健康状態、障害または状態を「治療する」またはその「治療」には、(1)健康状態、障害または状態に罹患している可能性があるかまたはその素因があり得るが、健康状態、障害または状態の臨床的または準臨床的症状をまだ経験していないかまたは呈していないヒトにおいて発達する健康状態、障害または状態の臨床的症状の出現を防止するかまたは遅延させること、(2)健康状態、障害または状態を阻害すること、すなわち、疾患の発達またはその再発(維持治療の場合)またはその少なくとも1つの臨床的もしくは準臨床的症状を停止、低下または遅延させること、あるいは(3)疾患を和らげるかまたは減弱すること、すなわち、健康状態、障害もしくは状態またはその臨床的もしくは準臨床的症状のうちの少なくとも1つの退行を引き起こすことが含まれる。
【0043】
膵臓がんの治療を必要とする対象において本発明による膵臓がんを治療する方法は、それが、しばしば「標準治療」と称される治療などの、確立された治療レジメンと組み合わせて実施されるときに、膵臓がんの治療において特に有効である。そのような組み合わせは、以下でさらに詳細に考察される。好ましい実施形態では、膵臓がんを治療する方法であって、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、またはその医薬組成物を、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される1つ以上の化学療法剤と組み合わせて投与することを含む、方法が提供される。
【0044】
CCR1アンタゴニストは、さらに、またはあるいは、がん免疫療法剤(例えば、PD-1および/またはPD-L1阻害剤)と組み合わせて使用され得る。
【0045】
CCR1アンタゴニストは、さらに、またはあるいは、MEK阻害剤と組み合わせて使用され得る。
【0046】
上記のように、本発明者らは、膵臓がん細胞(例えば、PDAC細胞)において発現されるCCR1のレベルと患者の予後との間に強い相関を見出した。したがって、本発明の治療の方法は、一実施形態では、参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1発現を有すると特定された対象において膵臓がんを治療する方法である。
【0047】
上記のように、本発明者らは、免疫(例えば、マクロファージ)浸潤のレベルと患者の予後との間に強い相関を見出した。したがって、本発明の治療の方法は、一実施形態では、参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤が特定された対象において膵臓がんを治療する方法である。
【0048】
また本明細書で言及されるように、本発明者らは、バイオマーカーPIM3、GSK3B、ATK1、CDK1、CDK5、MAPK14、MTOR、MAPK3、CAMK2A、MAP2K1、MAPK8、PRKACA、SRC、RPS6KA1、MAPK1およびPRKCAのレベルと不良な患者の予後との間の相関を見出した。AKT/MAPK経路におけるこれらのキナーゼおよび遺伝子は、一般に多発がんにおける不良な予後と関連している。したがって、本発明の治療の方法は、一実施形態では、PIM3、GSK3B、ATK1、CDK1、CDK5、MAPK14、MTOR、MAPK3、CAMK2A、MAP2K1、MAPK8、PRKACA、SRC、RPS6KA1、MAPK1およびPRKCAから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの増加したレベルが特定された対象において膵臓がんを治療する方法である。
【0049】
「治療有効量」は、疾患を治療するために哺乳動物に投与されたときに、疾患のためにそのような治療をもたらすのに十分である化合物の量を意味する。「治療有効量」は、化合物、疾患およびその重症度、治療される哺乳動物の年齢、体重など、ならびに/または画像化および/もしくはスキャンされた腫瘍のサイズに応じて変動する。適切には、「治療有効量」は、画像化および/またはスキャンされた腫瘍のサイズに応じて変動する。医師は、上記で概要を述べた要因(例えば、画像化および/またはスキャンされた腫瘍のサイズ)を考慮して、「治療有効量」を決定するように適切に資格を与えられる。以下に記載される現在の標準治療は、それらに伴う確立された最良の投薬レジメンを有しており、これらはまた、治療が組み合わせて使用されるときに適切である。
【0050】
本発明の「対象」は、ヒトおよび/または動物の対象を意味すると理解される。
【0051】
「膵臓がん」という用語は、膵臓のがんのすべての形態を包含することが理解される。すなわち、膵臓がんは、外分泌腺のがん(例えば、膵管腺がん)および/または内分泌腺のがん(例えば、膵神経内分泌腫瘍)であり得る。「膵臓がん」という用語はまた、身体における他所(例えば、肝臓、腹膜、肺、副腎および骨)を起源とする悪性腫瘍から膵臓に広がったがんを包含し得ることもまた理解される。
【0052】
膵臓がんは、典型的には、身体内のがんのサイズおよび位置によって分類される。ステージ1の膵臓がんは、膵臓がんの最も早期の形態であり、がん細胞が優勢に膵臓内に含有されている状況を記述する。ステージ1の膵臓がんはしばしば、早期の、局在性のまたは切除可能な膵臓がんと称される(これは、がんがしばしば外科手術によって除去され得るという事実を指す)。ステージ2の膵臓がんは、がん細胞が膵臓から、例えば、十二指腸、胆管、または膵臓を直接取り囲んでいる組織に広がったときに使用される記述語である。ステージ2の膵臓がんのいくつかの形態は、切除可能である。ステージ3の膵臓がんは、がん細胞が膵臓から胃、脾臓、大腸、または膵臓近くの大血管に広がったときに使用される記述語である。ステージ3の膵臓がんは、しばしば切除可能でない。ステージ4の膵臓がんは、がん細胞が膵臓から肺、肝臓または腹膜などの身体の部分に広がったときに使用される記述語である。ステージ4の膵臓がんは、切除不能である。
【0053】
特定の実施形態では、膵臓がんは、ステージ3またはステージ4の膵臓がん、適切には、ステージ4の膵臓がんである。
【0054】
さらなる実施形態では、膵臓がんは、膵管腺がん(PDAC)、適切には、ステージ4の膵管腺がん(PDAC)である。
【0055】
膵臓がんの治療における使用のためのCCR1アンタゴニストの有効量は、膵臓がんの増殖性を治療、予防もしくは治癒する、その進行を遅らせる、かつ/または膵臓がんに関連する症状を低下させるのに十分な量であることが理解される。
【0056】
1つ以上の賦形剤と組み合わされて、単回剤形を生じさせる有効成分(例えば、CCR1アンタゴニスト)の量は、治療される個体および特定の投与経路に応じて必然的に変動する。例えば、ヒトへの経口投与のために意図される製剤は、一般的に、全組成物の約5~約98重量パーセントで変動し得る適切で好都合な量の賦形剤と配合された、例えば、0.5mg~0.5gの活性剤(より適切には、0.5~100mg、例えば、1~30mg)を含有する。
【0057】
CCR1アンタゴニストの治療(または予防)目的のための用量のサイズは、よく知られている医学の原則に従って、状態の性質および重症度、動物または患者の年齢および性別ならびに投与経路に従って当然に変動する。
【0058】
膵臓がんの治療のためにCCR1アンタゴニストを使用するときに、分割用量で必要とされるとすると、それは一般的に、例えば、0.1mg/kg~75mg/kg体重の範囲の1日用量が与えられるように投与される。一般に、非経口経路が用いられるときは、より低い用量が投与される。したがって、例えば、静脈内または腹腔内投与については、例えば、0.1mg/kg~30mg/kg体重の範囲の用量が一般的に使用される。同様に、吸入による投与については、例えば、0.05mg/kg~25mg/kg体重の範囲の用量が使用される。経口投与(特に錠剤形態での)もまた適切であり得る。典型的には、単位剤形は、約0.5mg~0.5gのCCR1アンタゴニストを含有する。
【0059】
膵臓がん患者の診断:
対象における膵臓がんの診断において、CCR1の発現レベルは、当該技術分野で知られている任意の適切な手段によって決定され得る。例えば、CCR1の発現のレベルは、CCR1タンパク質レベルを測定することによって決定され得る。CCR1タンパク質レベルは、例えば、SDS-PAGEと、それに続く、標的タンパク質に対して惹起された適切な抗体を使用するウエスタンブロット、プロテオミクスによる、メンブレンスポットアレイ、または免疫組織化学(IHC)方法によるなどの、当該技術分野で知られている任意の適切な技術を使用して測定され得る。加えて、またはあるいは、CCR1の発現のレベルは、mRNAのレベルを測定することによって決定され得る。mRNAのレベルは、例えば、ノーザンブロット、イメージングマスサイトメトリー(IMC)、RNAシーケンシング(RNAseq)、シングルセルRNAシーケンシング(scRNAseq)または定量的RT-PCR(qRT-PCR)などの、当該技術分野で知られている任意の適切な技術を使用して測定され得る。分析は、対象から取得された生検に対して実施され得る。各々の場合で、サンプルにおいて測定されたレベルは、参照発現レベルと比較され得る。
【0060】
免疫(例えば、マクロファージ)浸潤は、当該技術分野で知られている任意の適切な技術を使用して決定され得ることが理解される。マクロファージ浸潤レベルを決定するための可能な技術の非限定的なリストには、免疫蛍光(IF)、免疫組織化学(IHC)、イメージングマスサイトメトリー(IMC)、フローサイトメトリー、RNAシーケンシング(RNAseq)、シングルセルRNAシーケンシング(scRNAseq)またはプロテオミクスが含まれる。
【0061】
試験スコアは、免疫スコアメトリック(本明細書中下記の実施例の節に記載されるような)を発現レベルデータに適用することによって計算され得る。適切には、免疫スコアは、単一サンプル遺伝子セットエンリッチメント分析(ssGSEA)を発現データに対して用いて、正規化されたエンリッチメントスコア(NES)を計算することによって計算される。最も適切には、免疫スコアは、単一サンプル遺伝子セットエンリッチメント分析(ssGSEA)ベースの方法である「発現データを使用した悪性腫瘍におけるストローマ細胞および免疫細胞の推定」(”Estimation of STromal and Immune cells in Malignant Tumours using Expression data”)(ESTIMATE,Nature Comm.,2013,4(2612),1-11)を発現データに対して用いることによって計算される。
【0062】
事前に決定された閾値スコアは、膵臓がん患者の参照サンプルセットから生成された事前に決定された免疫スコアを表す。適切には、事前に決定された閾値スコアは、ステージIVの膵臓がん(PDAC)患者の参照サンプルセットから生成された事前に決定された免疫スコアを表す。
【0063】
事前に決定された閾値スコアは、当該技術分野で知られている任意の適切な方法を使用して導き出され得る。適切には、事前に決定された閾値スコアは、膵臓がん患者の参照サンプルセットからの発現データから導き出される。参照サンプルセットは、例えば、それについての発現データが生成されている膵臓がん患者(例えば、ステージIVの膵臓がん患者)のサンプルであり得る。適切な参照サンプルセットの非限定的な例には、例えば、The Cancer Genome Atlas(TCGA)、または同様のデータベース(例えば、International Cancer Genome Consortium(ICDC)、UT Southwestern Medical CentreおよびQueensland Centre for Medical Genomics(QCMG)のデータベース)で利用可能である膵臓がん患者(例えば、ステージIVの膵臓がん患者)についての発現データが含まれる。したがって、事前に決定された閾値スコアは、The Cancer Genome Atlas(TCGA)から利用可能である膵臓がん患者(例えば、ステージIVの膵臓がん患者)からの発現データを使用して、単一サンプル遺伝子セットエンリッチメント分析(ssGSEA)ベースの方法である「発現データを使用した悪性腫瘍におけるストローマ細胞および免疫細胞の推定」(ESTIMATE)を当該発現データに対して用いることによって生成され得る。
【0064】
適切には、事前に決定された閾値スコアは、参照サンプルセットから生成された免疫スコアの25パーセンタイルに対応する免疫スコアである。
【0065】
適切には、方法は、試験スコア(例えば、免疫スコア)が、参照サンプルセットから生成された免疫スコア(すなわち、事前に決定された閾値スコア)の25パーセンタイルよりも大きい場合に対象を治療することを含む。
【0066】
例えば、治療を必要とする対象は、膵臓がんと診断され、以下のうちの1つ以上を有すると特定された対象である:
参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1の発現、
参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤、
高レベルのMYC発現および/もしくはMYCがん遺伝子の変異、
SMAD4変異、ならびに/または
古典的なモフィットの腫瘍RNAサブタイプ。
【0067】
本明細書で使用される「MYC」という用語は、MYC遺伝子ファミリー内に入る調節遺伝子(転写因子)のファミリー全体を意味すると理解される。MYC転写因子ファミリーのメンバーには、c-MYC、MYCNおよびMYCLが含まれ、したがって、本明細書における「MYC」への言及は、そのようなファミリーメンバーのすべてをカバーすると理解される。MYC調節遺伝子は、細胞増殖、成長、分化およびアポトーシスに関与する転写因子のファミリーをコードする。正常なMYC遺伝子の活性化は、細胞周期進行、細胞の増殖および分裂、代謝、テロメラーゼ活性、接着および運動性、血管新生および分化を含む、多数の細胞プロセスに影響する。MYCは、強いがん原遺伝子として同定されており、その変異バージョンは、血液がんおよび固形腫瘍悪性腫瘍などの、特定の型のがんにおいてアップレギュレートされる、かつ/または構成的に発現されることがしばしば見出される(Miller et al.,Clin.Cancer Res.,2012,18(20),5546-5553)。したがって、膵臓がんと診断され、高いMYC発現および/またはMYCがん遺伝子の突然変異を有すると特定された対象は、膵臓がんのための標準治療に対してより悪く応答する対象である可能性があり、したがって、より不良な無増悪生存率を有する可能性がある。
【0068】
膵臓がんにおける重要な遺伝子変化は、SMAD4変異であり、これは、SMAD4タンパク質発現の喪失を導く。SMAD4は、膵臓がん症例の50%超において不活化されている腫瘍抑制遺伝子である。多くの研究は、SMAD4発現の喪失が膵臓がん患者における不良な予後と正に関連することを示している(Wei et al.,Transl.Oncol.2016,9(1),1-7)。したがって、膵臓がんと診断され、SMAD4変異を有すると特定された対象は、より高い必要性およびより不良な無増悪生存率を有する可能性がある対象である。
【0069】
併用療法
本発明の重要な態様では、膵臓がんの治療における使用のための、1つ以上の標準的な膵臓がん治療レジメンと組み合わせた、CCR1アンタゴニスト、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物が提供される。
【0070】
1つ以上の標準的な膵臓がん治療レジメンは、膵臓がんを治療するために一般に用いられる任意の適切な治療レジメン(すなわち、膵臓がんのための「標準治療」)であり得ることが理解される。適切には、1つ以上の標準的な膵臓がん治療レジメンは、外科手術、放射線療法、化学療法、免疫療法およびそれらの組み合わせから選択される。より適切には、標準的な膵臓がん治療レジメンは、外科手術、化学療法または免疫療法およびそれらの組み合わせから選択される。最も適切には、標準的な膵臓がん治療レジメンは、化学療法ならびに任意選択で外科手術および免疫療法から選択される1つ以上の追加の治療レジメンを含む。
【0071】
早期膵臓がん(ステージIまたはII)と診断された膵臓がん患者については、標準的な膵臓がん治療レジメンは、外科手術ならびに任意選択で化学療法および免疫療法から選択される1つ以上の追加の治療レジメンを含む。例えば、英国国立臨床評価機構は、非転移性またはそうでなければ十分に「局所進行性」でないものについて、膵臓がんが外科手術とそれに続く補助化学療法によって治療されることを推奨している。第1の推奨は、ゲムシタビン+カペシタビンの組み合わせを6治療サイクルであり、この併用療法が許容されない場合は、ゲムシタビン単独である。
【0072】
後期膵臓がん(ステージIIIまたはIV)と診断された膵臓がん患者については、標準的な膵臓がん治療レジメンは、化学療法ならびに任意選択で外科手術および免疫療法から選択される1つ以上の追加の治療レジメンを含む。例えば、英国国立臨床評価機構は、局所進行性または転移性膵臓がんについて、それが化学療法または化学放射線療法によって治療されることを推奨している。局所進行性膵臓がんについては、第1の推奨は、全身的併用化学療法(例えば、以下で考察されるFOLFIRINOXの組み合わせ)である。組み合わせが許容されない場合は、ゲムシタビン単独である。化学放射線療法が使用される場合は、カペシタビンが与えられるべきである。FOLFIRINOXのバリアントは、mFOLFIRINOXであり、これは、フルオロウラシルの初期注射/ボーラスを有さず、イリノテカンレベルは150mg/mに減少されている。米国における膵臓がんのための米国診療ガイドラインによって推奨される、さらなる治療オプションは、新規の阻害剤、例えば、エルロチニブ、カペシタビンまたはタキサン(ドセタキセルなど)を含む。
【0073】
転移性膵臓がんについては、第1の推奨は、FOLFIRINOXでの治療である(これは、最良の生存統計を有するが、最も低く許容される)。FOLFIRINOXが許容されない場合は、ゲムシタビン+nab-パクリタキセルが与えられるべきである。いずれの組み合わせも許容されない場合は、ゲムシタビン単独が与えられるべきである。米国における膵臓がんのための米国診療ガイドラインによって推奨される、さらなる治療オプションは、さらなる新規の薬剤であるペムブロリズマブ、ラロトレクチニブまたはエヌトレクチニブを加えることを含む。
【0074】
転移性の第2選択の療法は、ゲムシタビンベースのレジメン(第1選択のFOLFIRINOXの後)、またはオキサリプラチンベースのレジメン(他の第1選択の組み合わせの後)である。イリノテカン+フルオロウラシル+フォリン酸のナノリポソームの組み合わせは、欧州臨床腫瘍学会(ESMO)の診療ガイドラインにおける第2選択の療法として推奨されている(第1選択のゲムシタビンベースの療法の後)。米国における膵臓がんのための米国診療ガイドラインによって推奨される、さらなる治療オプションは、カペシタビンまたはフルオロウラシル単独、およびさらなる新規の薬剤であるペムブロリズマブ、ラロトレクチニブまたはエヌトレクチニブを加えることを含む。
【0075】
外科手術は、腫瘍の全体または一部を除去するための医師による外科的介入であり得る。
【0076】
放射線療法は、電離放射線を利用する任意の形態の治療であり得る。適切な放射線療法治療の非限定的な例には、例えば、外照射療法(EBRT)、定位放射線照射(STRS)および遠隔照射治療が含まれる。
【0077】
化学療法は、1つ以上の抗腫瘍(抗がん)剤の投与による治療であり得る。上記のように、膵臓がんの治療に適切な抗腫瘍剤の非限定的な例には、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOX(ロイコボリンカルシウム、フルオロウラシル、イリノテカン塩酸塩およびオキサリプラチン)ならびにNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))が含まれる。
【0078】
ゲムシタビン、5-フルオロウラシル、およびカペシタビンは、ピリミジンアンタゴニストである(ときおり広く代謝拮抗剤としても分類される)。
【0079】
免疫療法(がん免疫療法)は、患者の免疫系を活用する任意の形態の治療であり得る。適切な免疫療法治療の非限定的な例には、例えば、モノクローナル抗体(MAB)、予防接種、サイトカイン、およびCAR-T細胞のうちの1つまたは複数を利用する治療が含まれる。適切には、免疫療法(がん免疫療法)は、PD-L1阻害剤および/またはPD-1阻害剤の投与を含む。適切なPD-1阻害剤の非限定的な例には、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、IBI-308、mDX-400、BGB-108、MEDI-0680、SHR-1210、PF-06801591、PDR-001、GB-226およびSTI-1110が含まれる。適切なPD-L1阻害剤の非限定的な例には、デュルバルマブ、アテゾリズマブ、アベルマブ、BMS-936559、ALN-PDL、TSR-042、KD-033、CA-170、STI-1014およびKY-1003が含まれる。
【0080】
適切には、PD-1阻害剤は、ペムブロリズマブまたはニボルマブから選択される。最も適切には、PD-1阻害剤は、ニボルマブである。
【0081】
したがって、要約すると、膵臓がん(例えば、ステージIまたはIIの膵臓がん)のための標準的な膵臓がん治療レジメンは、腫瘍の一部または全部を除去するための外科手術と、それに続くゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOX、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))またはそれらの組み合わせから選択される化学療法剤の投与を含み得る。同様に、ステージIIIまたはIVの膵臓がんのための標準的な腫瘍治療レジメンは、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOX、Nab-パクリタキセル(アブラキサン(登録商標))またはそれらの組み合わせから選択される化学療法剤の投与を含む。
【0082】
本発明による好ましい治療では、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物は、膵臓がんのための確立された療法と組み合わせて使用される。
【0083】
現在推奨されている標準治療レジメンを考慮すると、CCR1アンタゴニストは、適切には、ゲムシタビンまたはカペシタビンから選択される化学療法剤、特にゲムシタビンと組み合わせて使用される。本発明者らは、CCR1アンタゴニストがゲムシタビンとともに投与されたときに、マウスモデルにおいて特に強い治療上有益な効果を見ている。
【0084】
さらに特定の併用療法では、CCR1アンタゴニストは、FOLFIRINOXと組み合わせて使用される。それはまた、オキサリプラチンと組み合わせて使用され得る。それはまた、Nab-パクリタキセルと組み合わせて使用され得る。それはまた、PD-1またはPD-L1阻害剤などの、免疫療法と組み合わせて使用され得る。
【0085】
さらなる新規の療法が開発されており、CCR1アンタゴニストはまた、それらと適切に使用され得る。したがって、CCR1アンタゴニストは、エルロチニブ、カペシタビン タキサン(ドセタキセルなど)、ペムブロリズマブ、ラロトレクチニブまたはエヌトレクチニブと組み合わせて使用され得る。
【0086】
特に適切な併用療法は、ゲムシタビン(例えば、FOLFIRINOXの組み合わせ中の)およびPD-1阻害剤とともに投与されるCCR1アンタゴニストである。本発明者らは、CCR1アンタゴニストがゲムシタビンおよびPD-1阻害剤とともに投与されたときに、マウスモデルにおいて特に強い治療上有益な効果を見ている。したがって、CCR1アンタゴニスト、ゲムシタビンおよびPD-1阻害剤の併用治療が好ましい。Nab-パクリタキセルもまた任意選択で含まれ得る。
【0087】
さらに特に適切な併用療法は、FOLFIRINOXおよびPD-1阻害剤とともに投与されるCCR1アンタゴニストである。したがって、CCR1アンタゴニスト、FOLFIRINOXおよびPD-1阻害剤の併用治療が好ましい。Nab-パクリタキセルもまた任意選択で含まれ得る。
【0088】
例えば、CCR1アンタゴニストは、膵臓がんの治療において、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される1つ以上の化学療法剤と組み合わせて使用される。適切には、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、FOLFIRINOXまたはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の化学療法剤と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。より適切には、膵臓がんの治療における使用のための、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))および/またはNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。最も適切には、膵臓がんの治療における使用のための、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
【0089】
本発明の別の態様では、膵臓がんの治療における使用のための、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される化学療法剤、ならびに任意選択で以下の薬剤:MEK阻害剤、IGF1R阻害剤、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤および/またはがん免疫療法剤(例えば、PD-1および/またはPD-L1阻害剤)のうちの1つ以上と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
【0090】
本発明の別の態様では、膵臓がんの治療における使用のための、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される化学療法剤、ならびに任意選択で1つ以上のがん免疫療法剤(例えば、PD-1および/またはPD-L1阻害剤)と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
【0091】
例えば、化学療法剤は、同時に投与され、1つ以上のがん免疫療法剤は、その後逐次的に投与される。
【0092】
例えば、化学療法剤および1つ以上のがん免疫療法剤は、逐次的に投与される。CCR1アンタゴニスト、化学療法剤および1つ以上のがん免疫療法剤は、任意の逐次的な順序で投与され得ることが理解される。適切には、CCR1アンタゴニストが先ず投与され、それに化学療法剤および1つ以上のがん免疫療法剤の逐次的な投与が続く。
【0093】
本発明の別の態様では、膵臓がんの治療における使用のための、
MEK阻害剤および/またはIGF1R阻害剤、ならびに
任意選択でゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される化学療法剤
と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
【0094】
本発明の別の態様では、膵臓がんの治療における使用のための、
PD-1またはPD-L1阻害剤、ならびに
任意選択でゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される化学療法剤
と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
【0095】
本発明の別の態様では、膵臓がんの治療における使用のための、MEK阻害剤および/またはIGF1R阻害剤と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、その薬学的に許容される塩、溶媒和物または水和物が提供される。
【0096】
適切なMEK阻害剤の非限定的な例には、CI-1040(PD184352)、PD0325901、セルメチニブ(AZD6244)、MEK162、AZD8330、TAK-733、GDC-0623、レファメチニブ(RDEA119、BAY869766)、ピマセルチブ(AS703026)、RO4987655(CH4987655)、RO5126766、WX-554、HL-085およびそれらの組み合わせが含まれる(Tian et al.,Molecules,2017,22(10),1551)。
【0097】
適切なIGF1R阻害剤の非限定的な例には、ダロツズマブ(およびダロツズマブの、MK-2206、リダフォロリムス、MK-0752、セツキシマブ、イリノテカン、シスプラチン エトポシドおよびエルロチニブのうちの1つ以上との組み合わせ)フィギツムマブ(およびフィギツムマブの、カルボプラチン、パクリタキセル、デキサメタゾン、ドセタキセル、プレドニゾン、エルロチニブおよびエベロリムスのうちの1つ以上との組み合わせ)、ガンチツマブ(Gantitumab)(およびガンチツマブの、エキセメスタン、フルベストラント、FOLFIRI、ゲムシタビン、パニツムマブ、ソラフェニブおよびエルロチニブのうちの1つ以上との組み合わせ)、リンシツムマブ(およびリンシチニブのエベロリムスとの組み合わせ)ならびにR1507が含まれる(Yee et al.,Molecular Endocrinology,2015,29(11),1549-1557)。
【0098】
本発明のさらなる態様では、膵臓がんの治療を必要とする対象における膵臓がんの治療における使用のための、以下の薬剤:
MEK阻害剤
IGF1R阻害剤、
PD-1もしくはPD-L1阻害剤、ならびに/または
ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される化学療法剤
のうちの1つ以上と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物であって、当該対象は、膵臓がんと診断され、
参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1の発現、および/または
参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤を有すると特定された対象である、CCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物が提供される。
【0099】
一実施形態では、本発明は、膵臓がんの治療を必要とする対象における膵臓がんの治療における使用のための、以下の薬剤:
MEK阻害剤
IGF1R阻害剤、
PD-1もしくはPD-L1阻害剤、ならびに/または
ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、FOLFIRINOXもしくはそれらの組み合わせから選択される化学療法剤
のうちの1つ以上と組み合わせた、CCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物であって、当該対象は、膵臓がんと診断され、
参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1の発現、
参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤、
高レベルのMYC発現および/もしくはMYCがん遺伝子の変異、
SMAD4変異、ならびに/または
古典的なモフィットの腫瘍RNAサブタイプを有すると特定された対象である、CCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物を提供する。
【0100】
特定の実施形態では、対象は、膵臓がんと診断され、本明細書中上記で規定される本発明の方法によって決定される、事前に決定された閾値スコアよりも大きな試験スコア(例えば、参照サンプルセットから生成された免疫スコアの25パーセンタイル)を有すると特定された対象である。
【0101】
本発明のさらに別の態様では、膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がんを治療する方法であって、当該方法は、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、あるいはその医薬組成物を、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される1つ以上の化学療法剤と組み合わせて投与することを含む、方法が提供される。
【0102】
いくつかの実施形態では、膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がん(例えば、ステージIVの膵臓がん)を治療する方法であって、当該方法は、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、あるいはその医薬組成物を、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、FOLFIRINOXまたはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の化学療法剤、ならびに任意選択で1つ以上のがん免疫療法剤(例えば、PD-1および/またはPD-L1阻害剤)と組み合わせて投与することを含む、方法が提供される。
【0103】
本発明のさらに別の態様では、膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がんを治療する方法であって、当該方法は、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、あるいはその医薬組成物を、MEK阻害剤および/またはIGF1R阻害剤、ならびに任意選択でゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される1つ以上の化学療法剤と組み合わせて投与することを含む、方法が提供される。
【0104】
いくつかの実施形態では、膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がん(例えば、ステージIVの膵臓がん)を治療する方法であって、当該方法は、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、あるいはその医薬組成物を、MEK阻害剤および/またはIGF1R阻害剤、ならびに任意選択でゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、FOLFIRINOXまたはそれらの組み合わせから選択される1つ以上の化学療法剤と組み合わせて投与することを含む、方法が提供される。
【0105】
本発明のさらなる態様では、膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がんを治療する方法であって、当該方法は、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、あるいはその医薬組成物を、以下の薬剤:
MEK阻害剤
IGF1R阻害剤、
PD-1もしくはPD-L1阻害剤、ならびに/または
ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される化学療法剤
のうちの1つ以上と組み合わせて投与することを含み、治療を必要とする対象は、
参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1の発現、および/または
参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤を有すると特定された対象である、方法が提供される。
【0106】
特定の実施形態では、膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がん(例えば、ステージIVの膵臓がん)を治療する方法であって、当該方法は、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、あるいはその医薬組成物を、以下の薬剤:
MEK阻害剤
IGF1R阻害剤、
PD-1もしくはPD-L1阻害剤、ならびに/または
ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、Nab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、FOLFIRINOXまたはそれらの組み合わせから選択される化学療法剤
のうちの1つ以上と組み合わせて投与することを含み、治療を必要とする対象は、以下:
参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1の発現、
参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤、
高レベルのMYC発現および/もしくはMYCがん遺伝子の変異、
SMAD4変異、ならびに/または
古典的なモフィットの腫瘍RNAサブタイプのうちの1つ以上を有すると特定された対象である、方法が提供される。
【0107】
より適切には、膵臓がんの治療を必要とする対象において膵臓がん(例えば、ステージIVの膵臓がん)を治療する方法であって、当該方法は、当該対象に治療有効量のCCR1アンタゴニスト(例えば、BX-471)、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物、あるいはその医薬組成物を、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される化学療法剤と組み合わせて、ならびに任意選択で以下の薬剤:
MEK阻害剤、
IGF1R阻害剤、および/または
PD-1もしくはPD-L1阻害剤
のうちの1つ以上と組み合わせて投与することを含み、対象は、
参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1の発現、および/または
参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤
を有すると特定され、そして任意選択で治療を必要とする対象は、以下
高レベルのMYC発現および/もしくはMYCがん遺伝子の変異、
SMAD4変異、ならびに/または
古典的なモフィットの腫瘍RNAサブタイプのうちの1つ以上を有すると特定された対象である、方法が提供される。
【0108】
特定の実施形態では、対象は、膵臓がんと診断され、本明細書中上記で規定される本発明の方法によって決定される、事前に決定された閾値スコアよりも大きな試験スコア(例えば、参照サンプルセットから生成された免疫スコアの25パーセンタイル)を有すると特定された対象である。
【0109】
本明細書に記載される組み合わせは、列挙された薬剤の逐次的な、別個の、および/または同時の組み合わせであり得ることが理解される。すなわち、列挙された薬剤は、同時にまたは別個に加えられ得る。組み合わせが2つよりも多い薬剤を含む状況では、組み合わせは、列挙された薬剤のすべての逐次的な、別個の、および/または同時の投与を含み得るか、あるいは組み合わせは、いくつかの薬剤の逐次的な投与および他の薬剤の同時の投与を含み得る。特定の実施形態では、本明細書に記載される組み合わせは、逐次的な組み合わせであり、ここで、列挙された薬剤は、順を追って(例えば、1つずつ)投与される。他の実施形態では、本明細書に記載される組み合わせは、同時の組み合わせであり、ここで、列挙された薬剤は、一緒に投与される。
【0110】
医薬組成物
本発明の別の態様によれば、膵臓がんの治療における使用のための、薬学的に許容される希釈剤または担体を伴う、本明細書中上記で規定されるCCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、水和物もしくは溶媒和物を含む医薬組成物が提供される。
【0111】
本発明は、CCR1アンタゴニストを、
MEK阻害剤
IGF1R阻害剤、
PD-1もしくはPD-L1阻害剤、ならびに/または
ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される化学療法剤から選択される1つ以上の追加の治療薬と一緒に含む医薬組成物を提供する。
【0112】
好ましくは、膵臓がんの治療における使用のための医薬組成物は、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)およびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))から選択される1つ以上の追加の治療薬を含む。
【0113】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、1つ以上のMEK阻害剤および/またはIGF1R阻害剤を含む。
【0114】
本発明の医薬組成物は、経口使用(例えば、錠剤、ロゼンジ、硬もしくは軟カプセル、水性もしくは油性の懸濁液、乳濁液、分散性の粉末もしくは顆粒、シロップまたはエリキシルとして)、局所使用(例えば、クリーム、軟膏、ゲル、または水性もしくは油性の溶液もしくは懸濁液として)、吸入による投与(例えば、微細粉末または液体エアロゾルとして)、吹送による投与(例えば、微細粉末として)あるいは非経口投与(例えば、静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内もしくは筋肉内投薬のための無菌の水性もしくは油性の溶液として、または直腸投薬のための坐剤として)に適切な形態であり得る。
【0115】
CCR1アンタゴニストの選択に応じて、特定の有効な製剤が知られており、市販されている。
【0116】
本発明の医薬組成物は、当該技術分野で知られている、従来の医薬賦形剤を使用する従来の手順によって得られ得る。したがって、経口使用のために意図される医薬組成物は、例えば、1つ以上の着色剤、甘味料、香味剤および/または防腐剤を含有し得る。
【0117】
予後の方法
本発明は、膵臓がんと診断された対象の予後決定を実施する方法であって、当該方法は、
対象から取得されたサンプルにおけるCCR1発現のレベルを測定するステップと、
ステップa)において測定されたCCR1発現のレベルを参照発現レベルと比較するステップと、
ステップb)において決定された、参照発現レベルに対するCCR1のレベルに基づいて対象の予後を決定するステップと、を含み、
参照発現レベルと比較して増加したレベルのCCR1発現は、対象にとって好ましくない予後を示し、対照と比較して減少したかまたは変化していないレベルのCCR1発現は、対象にとって好ましい予後を示す、方法を提供する。
【0118】
本発明の別の態様では、膵臓がんと診断された対象の予後決定を実施する方法であって、当該方法は、
対象から取得されたサンプルにおける免疫(例えば、マクロファージ)浸潤のレベルを測定するステップと、
ステップa)において測定された免疫(例えば、マクロファージ)浸潤のレベルを参照浸潤レベルと比較するステップと、
ステップb)において決定された、参照浸潤レベルと比較した免疫(例えば、マクロファージ)浸潤レベルに基づいて対象の予後を決定するステップと、を含み、
参照浸潤レベルと比較して増加したレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤は、対象にとって好ましくない予後を示し、参照浸潤レベルと比較して減少したかまたは変化していないレベルの免疫(例えば、マクロファージ)浸潤は、対象にとって好ましい予後を示す、方法が提供される。
【0119】
例えば、免疫(例えば、マクロファージ)浸潤およびCCR1発現のレベルの両方が、対象から取得されたサンプルにおいて測定され得る。
【0120】
例えば、MYCの発現のレベル、SMAD4変異、または古典的なモフィットの腫瘍RNAサブタイプもまた、予後の一部として測定され得る。
【0121】
本発明のさらなる態様によれば、予後決定を実施する方法は、PIM3、GSK3B、ATK1、CDK1、CDK5、MAPK14、MTOR、MAPK3、CAMK2A、MAP2K1、MAPK8、PRKACA、SRC、RPS6KA1、MAPK1およびPRKCAから選択される少なくとも1つのバイオマーカーの発現レベルを測定することを含む。
【0122】
方法は、CCR1および少なくとも1つのバイオマーカーの測定された発現レベルから導き出された試験スコアを決定することと、試験スコアと事前に決定された閾値スコアとを比較することとを含み得、ここで、事前に決定された閾値よりも大きな試験スコアは、対象にとって好ましくない予後を示し、事前に決定された閾値スコアよりも低いかそれと等しい試験スコアは、対象にとって好ましい予後を示す。
【0123】
「予後」という用語は、医学的状態(例えば、膵臓がん)の可能性のある経過を指すことが理解される。したがって、「好ましい予後」という用語は、膵臓がんの経過が、対象にとって好ましくなることを意味すると理解される。適切には、「好ましい予後」という用語は、膵臓がんを有する対象が、1つ以上の標準的な膵臓がん治療レジメン(すなわち、外科手術および/または化学療法治療)の後に、少なくとも3ヶ月間、好ましくは少なくとも6ヶ月間、より好ましくは少なくとも1年間、さらにより適切には少なくとも2年間、最も好ましくは少なくとも5年間生存する可能性が高いことを意味する。すなわち、「好ましい予後」という用語は、膵臓がん患者の間で一般的に非常に不良な予後の文脈内で、1つ以上の標準的な膵臓がん治療レジメンに対して良好に応答する高い可能性(すなわち、膵臓がんが治療後に再発または進行しない高い可能性)を有する膵臓がんを有する対象を指す。
【0124】
「好ましくない予後」という用語は、膵臓がんの経過が、対象にとって好ましくなくなることを意味すると理解される。適切には、「好ましくない予後」という用語は、膵臓がんを有する対象が、1つ以上の標準的な膵臓がん治療レジメン(すなわち、外科手術および/または化学療法治療)の後に、少なくとも3ヶ月間(適切には少なくとも6ヶ月間、より適切には少なくとも1年間、さらにより適切には少なくとも2年間、最も適切には少なくとも5年間)生存する可能性が低いことを意味する。すなわち、「好ましくない予後」という用語は、1つ以上の標準的な膵臓がん治療レジメンに対して良好に応答する低い可能性(すなわち、膵臓がんが治療後に再発または進行する高い可能性)を有する膵臓がんを有する対象を指す。
【0125】
適切には、本明細書中上記の予後の方法は、対象からサンプルを取得する最初のステップを含む。当該サンプルは、例えば、患者の膵臓(または周囲組織)から取得された腫瘍細胞のサンプルおよび/または対象の血液のサンプルであり得る。サンプルは、例えば、外科手術、生検または血液サンプルなどの、当該技術分野で知られている任意の適切な技術を使用して取得され得る。
【0126】
本明細書中上記で言及される参照レベル(すなわち、「参照発現レベル」および「参照浸潤レベル」)は、対象から取得されたサンプルにおいて測定されたCCR1発現および/またはマクロファージ浸潤のレベルがそれから比較され得る、参照点(またはベンチマーク)として作用する対照値を指す。参照レベルは、例えば、膵臓がんと診断されていない対象におけるCCR1発現の平均レベルおよび/もしくはマクロファージ浸潤の平均レベル(例えば、陰性対照もしくは参照レベル)、または膵臓がんと診断された対象についてのCCR1発現の平均レベルおよび/もしくはマクロファージ浸潤の平均レベル(例えば、陽性対照もしくは参照レベル)に対応し得る。
【0127】
一実施形態では、対象における遺伝子発現レベルまたはマクロファージ浸潤レベルは、レベルが、関連する集団のより低い四分位数、最も高い四分位数または中間の2つの四分位数に入るかどうかに応じて、「高」、「中」および「低」グループに層別化され得、あるいは、対象における遺伝子発現レベルまたはマクロファージ浸潤レベルは、レベルが、関連する集団のより低い四分位数、最も高い四分位数または中間の2四分位数に入るかどうかに応じて、「高」または「低」グループに層別化され得る。
【0128】
パーツキット
上記のように、本発明による使用のためのCCR1アンタゴニストは、最も好ましくは、1つ以上のさらなる治療薬と組み合わせて使用される。したがって、CCR1アンタゴニストは、そのような他の治療薬と一緒に提供され得る。
【0129】
本発明の別の態様では、したがって、パーツキットであって、以下の構成要素:
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、本明細書で規定されるCCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物と、
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される1つ以上の化学療法剤と、を含み、
構成要素は、逐次的な、別個の、および/または同時の投与に適切である形態で提供される、パーツキットが提供される。
【0130】
本発明の別の態様では、パーツキットであって、以下の構成要素:
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、本明細書で規定されるCCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物と、
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、MEK阻害剤および/もしくはIGF1R阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物と、を含み、
構成要素は、逐次的な、別個の、および/または同時の投与に適切である形態で提供される、パーツキットが提供される。
【0131】
本発明の別の態様では、パーツキットであって、以下の構成要素:
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、本明細書で規定されるCCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物と、
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、MEK阻害剤および/もしくはIGF1R阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物と、
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される1つ以上の化学療法剤と、を含み、
構成要素は、逐次的な、別個の、および/または同時の投与に適切である形態で提供される、パーツキットが提供される。
【0132】
本発明の別の態様では、パーツキットであって、以下の構成要素:
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、本明細書で規定されるCCR1アンタゴニスト、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物と、
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、PD-1および/もしくはPD-L1阻害剤、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物と、
任意選択で薬学的に許容されるアジュバント、希釈剤または担体を伴う、ゲムシタビン(Gemzar(登録商標))、フルオロウラシル(5-FU)、カペシタビン(Xeloda(登録商標))、FOLFIRINOXおよびNab-パクリタキセル(Abraxane(登録商標))、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物もしくは水和物から選択される1つ以上の化学療法剤と、を含み、
構成要素は、逐次的な、別個の、および/または同時の投与に適切である形態で提供される、パーツキットが提供される。
【0133】
パーツキットは、膵臓がんの治療のためのものである。適切には、パーツキットは、本明細書に記載されるような膵臓がんの治療における使用のためのもの、および/または本明細書に記載される方法による治療に適切であると特定された対象の治療における使用のためのものである。
【0134】
本発明の特定の態様、実施形態または例と併せて記載される特徴、整数、特性、化合物、または特質は、それと不適合でない限り本明細書に記載される任意の他の態様、実施形態または例に適用可能であると理解される。本明細書(いずれの添付の特許請求の範囲、要約および図面も含む)に開示される特徴のすべて、および/またはそのように開示されるいずれの方法もしくはプロセスのステップのすべてが、そのような特徴および/またはステップの少なくともいくらかが相互に排他的である組み合わせを除いて、いずれの組み合わせでも組み合わされ得る。
【実施例
【0135】
実施例1-ヒト膵臓がんにおける免疫浸潤の画分としてのマクロファージ集団
ConsensusTME:デコンボリューションツール
ConsensusTMEは、18個の細胞型の相対的腫瘍微小環境(TME)細胞推定のためのすべての他の現在のデコンボリューション方法からの遺伝子セットを統合するデコンボリューションツールである。すなわち、ConsensusTMEは、様々な公開されているTME細胞推定方法によって使用される一般的な細胞型特異的遺伝子セットをコンパイルするRソフトウェア環境用のパッケージである。このプログラムは、ヒト腫瘍サンプルのバルク発現データを使用した細胞型量の推定を可能にする。さらに、それは、独立した細胞推定方法からの細胞型特異的遺伝子マーカーを含み、様々ながん型に特異的であるように遺伝子セットをフィルタリングし、単一サンプル遺伝子セットエンリッチメント分析(ssGSEA)を使用して、バルク遺伝子発現データからTME細胞型および腫瘍特異的エンリッチメントスコアを算出する。
【0136】
ConsensusTME遺伝子セットを生成するために、それについて少なくとも2つの異なるソースからのシグネチャーが存在する細胞型を特定し、合計で18個の細胞型を使用した。
【0137】
CIBERSORT(Nature Methods,2015,12,453-457)によって使用されているシグネチャーマトリックス「LM22」から遺伝子を抽出するために、その発現値が各細胞型について平均の1.96標準偏差未満である遺伝子を先ずフィルタリング除去した。加えて、対応する細胞型についての活性化および休止状態を崩壊させた。一旦、他のデコンボリューション方法(Bindea et al.,Immunity,2013,39(4),782-795、Danaher et al.,Journal for ImmunoTherapy of Cancer,2017,5(18),1-15、Davoli et al.,Science,2017,355(6322),2499-250、CIBERSORT,Nature Methods,2015,12,453-457、MCP-Counter,Genome Biology,2016,17(218),1-20、およびxCell,Genome Biology,2017,18(220),1-14)からのシグネチャー遺伝子を収集すると、各細胞型についての遺伝子の特有のユニオンを作成した。この遺伝子のユニオンから、TCGAがん型の各々について細胞型特異的遺伝子のセットをキュレートした。これを、TIMERアルゴリズム(Genome Biology,2016,17(174),1-16)と同様のアプローチを使用して行い、ここで、その遺伝子の発現が、対応するがん型についての腫瘍純度(ABSOLUTE由来)と負の相関(ピアソンの相関<0.2、p値0.05)を有する場合にのみ遺伝子を含めた。
【0138】
最後に、単一サンプル遺伝子セットエンリッチメント分析(ssGSEA)を用いて、上記のように各細胞型について正規化されたエンリッチメントスコア(NES)を計算した。各腫瘍型についての一般的な免疫スコアを、様々な免疫細胞の遺伝子を各TCGAがん型について1つの遺伝子セットに組み合わせることによって生成した。
【0139】
膵臓がんにおける腫瘍サンプルの免疫浸潤に対するマクロファージの相対的寄与を全身的に探索するために、TCGA腫瘍サンプルの遺伝子発現データをConsensusTMEを使用して分析して、上記のように、免疫細胞遺伝子発現シグネチャーを各腫瘍サンプルバルクRNA混合物からデコンボリューションした。
【0140】
汎がんデータ(DNA由来の純度、白血球メチル化およびH&E由来のリンパ球数)ならびに細胞特異的ベンチマークデータセット(末梢血細胞および腫瘍組織)からなる包括的なベンチマークデータセットを収集した。
【0141】
TCGA膵臓がんにおける免疫浸潤画分のssGSEA分析を図1に示し、ここで、マクロファージが膵臓がん患者における免疫浸潤において最も豊富な免疫細胞型の1つであることが見られ得る。
【0142】
実施例2-膵臓がん患者の層別化のためのTCGA PAAD(膵臓がん)におけるマクロファージ浸潤のカプラン・マイヤー生存分析
カプラン・マイヤー生存分析
cBioPortalから収集したRNA-Seqデータである、The Cancer Genome Atlas(TCGA)からの遺伝子発現データを使用して、ConsensusTMEを適用して、PAADコホートについて18個の免疫細胞型の相対的存在量を推定した。データは、cbioportal.org(Cancer Discovery,2014,2(5),401-404)で公開されている、RNA-Seqからの遺伝子発現データであった。患者を最初に、マクロファージの存在量に応じて、「高」、「中」および「低」に層別化した(高>0.75四分位数>中>0.25四分位数>低)。
【0143】
この層別化に基づく無増悪生存のカプラン・マイヤー生存分析は、生存曲線における分岐を示し、高/中グループは一緒のままである一方で、低グループはより良い予後を示した。高および中グループは有意差を示さず、それらを組み合わせて、2つの患者グループ、マクロファージ低およびマクロファージ中/高を残した。
【0144】
中または高のマクロファージ浸潤の数を有する患者は、不良な予後とよく相関することが見出された。
【0145】
CCR1発現によって患者を層別化するTCGA PAADにおけるさらなるKM分析は、CCR1高発現(>中央値)の患者が有意により悪い無増悪生存を示すことを明らかにした。
【0146】
次に、ConsensusTMEマクロファージ遺伝子シグネチャーをCCR1発現と組み合わせて、組み合わせたシグネチャーを作成した。ssGSEAを実施して、この組み合わせたシグネチャーのエンリッチメントを調べ、サンプルをこのシグネチャーのエンリッチメントに基づいてもう一度「低」または「中/高」のいずれかに層別化した。これは、組み合わせたシグネチャーが、膵臓がん患者における無増悪生存(PFS)の差異を予測し得ることを明らかにした。
【0147】
結果を図2に示す。
【0148】
実施例3-PDAC間葉系細胞は、浸潤の3Dインビトロアッセイにおいて血管擬態を形成する
細胞培養
使用したマウスがん細胞株、TB32048(本明細書中以下で、PDAC上皮と称される)およびK8484(本明細書中以下で、PDAC間葉系と称される)は、KPCマウス(David Tuvesonによって生成された)から生じた腫瘍から単離され、Duncan Jodrellによって供給された。すべての細胞株を、10%熱不活化ウシ胎児血清、FBS、(Gibco)を補充したダルベッコ改変イーグル培地:栄養素混合物F-12、DMEM/F12(Gibco)中で増殖させ、37℃で5%CO中でインキュベートした。すべての細胞株は、マイコプラズマについて陰性であると試験された。
【0149】
浸潤の3Dインビトロモデル
細胞マトリックス培養を、1mg/mLのMatrix Growth Factor Reduced Matrigel(Becton Dickinson)でプレコートしたウェル上にPDAC細胞を播種することによって行った。Matrigelを通った細胞浸潤を観察するために、プレートをIncuCyte Zoom(Essen Bioscience)中に配置し、緑色および蛍光タンパク質(GFP/RFP)/明視野(または位相差)で3時間ごとに画像をとらえるようにソフトウェアを設定した。
【0150】
VM様構造の定量化
血管擬態(VM)構造を形成するPDAC細胞の能力を定量化するために、3Dインビトロアッセイを、Essen Bioscienceによって提供される血管新生分析ソフトウェアによって定量化した。血管新生ツールは、代表的な視野において3D構造が有する枝の数の、自動化された客観的な定量化を可能にする。一旦パラメータが規定されると、それらを堅調で再現性のある定量化のためにすべての3Dインビトロ構造形成実験に適用した。
【0151】
結果を図3に示す。
【0152】
浸潤の3Dインビトロアッセイにおいてクラスターを形成するPDAC上皮細胞とは対照的に、PDAC間葉系細胞は、ウェルの表面積全体にわたって広範で複雑な管状の格子状ネットワークを形成した。これらのネットワークの完全性は、実験期間にわたって概して不変であった。加えて、管状構造は、VMを表すことが示唆されており、(上皮間葉転換)EMT状態が3Dアーキテクチャーの構造を形成する能力を媒介し得ることを暗示する。
【0153】
実施例4-初代BMDMは、EMT状態にかかわりなく、膵臓がん細胞に浸潤促進性表現型を付与する
すべてのその後のマクロファージ共培養アッセイにおいて、生物学的に関連するマクロファージ集団を最もよく表すために、浸潤の3Dインビトロモデルにおいて、ZsGreen標識初代BMDMを、mCherry発現PDAC上皮細胞と共培養した。
【0154】
骨髄由来マクロファージ
骨髄を、C57BL/6マウス(10~14週齢)の大腿骨および脛骨から単離した。大腿骨および脛骨にPBS緩衝液を流し、70μMのふるい(Greiner Bio-One)に通し、細胞を標準的なプラスチック組織培養100mmディッシュ(Corning)上に再播種した。細胞を、10%FBSおよび15%L929-Cell Conditioned Media(LCM)を補充したDMEM/F12培地中での培養によって、骨髄由来マクロファージ(BMDM)に分化させ、37℃で低酸素条件(1%O)で3日間インキュベートした。BMDMを、10%熱不活化ウシ胎児血清、FBS、(Gibco)を補充したダルベッコ改変イーグル培地:栄養素混合物F-12、DMEM/F12、(Gibco)中で増殖させ、維持し、37℃で1%O中でインキュベートした。
【0155】
細胞共培養
本研究において使用したPDACおよびBMDM細胞株のための培養条件は上記のとおりである。共培養のために、mCherry標識PDAC細胞を、ZsGreen標識マクロファージ(別段の記載がない限り典型的には初代BMDM)と1:1で混合した。共培養物を播種し、サブコンフルエントな培養物として2Dまたは3Dのいずれかの条件で48~96時間保持した。
【0156】
浸潤の3Dインビトロアッセイの定量化
PDAC細胞の浸潤能力を定量化するために、Essen Bioscienceによって提供されるソフトウェア、NeuroTrackを使用して3Dインビトロ浸潤アッセイを定量化した。この方法は、Essen Bioscienceによって設計されたソフトウェアアルゴリズムを用いて、IncuCyteZoomプラットフォームによって生成された動態データを測定する。細胞の固定、染色、およびエンドポイント分析を必要とする、ハイコンテントイメージングシステムとは異なり、アルゴリズムは生細胞ダイナミクスを測定した。NeuroTrackは、時間に対して3D構造から浸潤する細胞の数を表示した。この方法は、mCherry標識PDAC細胞との共培養の計数プロセスにおけるマクロファージ(非標識および/またはZsGreen)の除外を可能にした。一旦パラメータが規定されると、それらを定量化のためにすべての3Dインビトロ浸潤アッセイに適用した。
【0157】
NeuroTrackソフトウェアは、蛍光標識細胞を測定する。処理規定を、上皮間葉転換(EMT)状態および3D構造の寸法にかかわらず、2つのPDAC細胞型(両方がH2B-mCherryによって核標識されている)の浸潤を一貫して分析するように調整した。ここで、BMDMは、ZsGreen標識細胞を表す。この方法では、3D構造から浸潤したPDAC細胞のみが、それらがその核中に存在する蛍光mCherry標識を有する場合に、計数される。データを、y軸上に計数された核の数、x軸上に時間でプロットする。
【0158】
結果を図4に示す。
【0159】
血管網を形成する代わりに、PDAC上皮細胞は、先ず播種の24時間以内にそれらのそれぞれの丸みを帯びた凝集したクラスターを形成した後、驚くべきことに、およそ96時間の時点でこれらの構造から浸潤した。一旦自由になると、これらの浸潤細胞は広がり始め、およそ7日後にプレートの表面積全体を覆った。平行した研究において、PDAC間葉系細胞単独またはBMDMの存在下での挙動もまた調べた。PDAC間葉系細胞もまた、先ず播種の24時間以内にそれらのVM構造を形成した後、自由になり、ずっと速い速度ではありが、およそ48時間の時点で、浸潤促進性表現型を示すことが見出された。
【0160】
実施例5-BMDMとの延長された共培養の後のPDAC細胞浸潤を促進する新規のRNA標的を特定するためのマルチオミクスアプローチ(トランスクリプトーム)
延長された共培養の後のPDAC細胞およびマクロファージのトランスクリプトームにおける変化を解明するために、BMDMとの共培養からの事前教育されたPDAC上皮および間葉系細胞を、単培養PDAC細胞およびBMDM対照とともに蛍光活性化セルソーティング(FACS)によって選別し、RNAシーケンシングに付した。単培養と比較したPDAC細胞の共培養からの全ゲノムトランスクリプトーム分析は、ほぼすべてのケモカイン受容体およびそれらの受容体遺伝子のアップレギュレーションを示した。
【0161】
RNA品質管理
RNAの品質を、Bioanalyzer/RNA nano 6000キット(Agilent)を使用してチェックした。
【0162】
差次的に発現される遺伝子の決定
非特異的フィルタリングを使用して、サンプルの90%以上の、0.3未満の四分位間範囲、または低い発現値(log2スケールで3未満)の遺伝子を除去した。PDAC細胞における単培養と比較して共培養の後に差次的に発現される遺伝子(DEG)を見出すために、閾値を1.5の最小倍率変化、および0.10の偽発見率中央値(FDR)に設定した。BMDMの単培養対共培養において、および他の関連する比較においてDEGを決定するために、これらの同じパラメータを使用した。注釈なしの転写物は考慮しなかった。
【0163】
qRT-PCR遺伝子発現分析
全RNAを、Qiazol試薬およびmiRNeasy miniキット(Qiagen)を使用して細胞から単離および精製した。cDNAを、製造者の説明書に従ってHigh Capacity RNA-to-cDNAキット(ABI)を使用して合成した。qRT-PCRを、TaqMan 7900(ABI)上でPower SYBR Green PCR Master Mix(ABI)を使用して行った。相対的発現レベルを、ΔΔCt法を使用して規定し、18S rRNAおよび/またはGAPDHに対して正規化した。
【0164】
結果を図5に示す。
【0165】
ケモカインファミリー遺伝子のマクロファージ媒介性誘導が、試験したすべてのPDAC細胞において、EMT状態にかかわりなく観察され、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT-PCR)によって確認された。
【0166】
実施例6-BMDMとの延長された共培養の後のPDAC細胞浸潤を促進する新規のタンパク質標的を特定するためのマルチオミクスアプローチ(プロテオーム)
延長された共培養の後のPDAC細胞およびマクロファージのプロテオームまたはセクレトームにおける変化を解明するために、BMDMとの共培養からの事前教育されたPDAC上皮および間葉系細胞を、単培養PDAC細胞およびBMDM対照とともにバルクで回収し、TMT完全プロテオームおよびセクレトーム分析に付した。
【0167】
CTAP標識
標識交換実験のために、PDACおよびBMDM細胞を、先ず798μMの軽同位体標識l-リジン(本明細書中以下で、軽もしくはDAPと称される)または重同位体標識[136、 15]l-リジン(+8ダルトン、Cambridge Isotopes)(本明細書中以下で、重もしくはd-Lys-8と称される)を補充したl-アルギニンおよび10%透析FBS含有SILAC DMEM中で少なくとも10細胞倍加(10日以上)の増殖によって代謝的に標識した。標識を維持する実験のために、細胞を、最初にそれらのそれぞれの前駆体中で少なくとも10細胞倍加(10日以上)増殖させた:DAP(L)中のDOPAデカルボキシラーゼ(DDC)発現細胞(初代BMDM)およびd-リジン(H)中のlyr発現細胞(PDAC細胞)。次いで、集団を10mM DAP(L)および1mM d-リジン(H)中で合わせ、共培養で4日間(およそ4細胞倍加)一緒に増殖させた。共培養物を、実験の終わりに等しい数の細胞が予想される比率で播種した。馴化培地(CM)を回収し、下流のセクレトーム分析のために急速凍結した。細胞ペレットおよび溶解物を回収し、下流のプロテオーム分析のために急速凍結した。
【0168】
結果を図6および7に示す。
【0169】
単培養と比較した共培養におけるPDAC細胞からのプロテオーム分析は、PDAC細胞が、BMDMとの延長された共培養の後にマクロファージ由来のケモカインを取り入れることを示唆するRNAシーケンシングデータを確証する。
【0170】
実施例7-BMDMとの延長された共培養の後のPDAC細胞浸潤を促進する新規のタンパク質標的を特定するためのマルチオミクスアプローチ(セクレトーム)
3D混合培養において観察された迅速な浸潤促進性表現型変化は、これらのPDAC上皮およびBMDM細胞の相互作用から放出されるシグナルによって媒介されている可能性があることが仮定された。それを特定するために、馴化培地(CM)を48時間インキュベートした共培養物から回収し、タンパク質抽出物を使用して炎症抗体アレイを調べた。
【0171】
馴化培地
馴化培地サンプルを、播種の48時間後にPDACおよびBMDMの単培養物および共培養物から単離し、製造者の説明書に従ってマウス炎症抗体アレイ(Abcam)上でインキュベートした。画像を取得し、シグナルの強度をAmersham Imager 680を使用して分析した。
【0172】
結果を図8および9に示す。
【0173】
40個の潜在的な候補のうち、延長された共培養による最も高い検出可能なアップレギュレートされた強度を有する3つの炎症シグナルには、CCモチーフケモカイン受容体1(CCR1)のリガンドである、ケモカインCCL2、CCL3およびCCL9が含まれた。
【0174】
実施例8-CCR1遮断は、マクロファージ媒介性浸潤促進性表現型を阻害する
BMDMとの延長された共培養の後のPDAC細胞におけるCCR1発現のアップレギュレーションがqRT-PCRおよびフローサイトメトリーによって確認されたことから、次に、種々の小分子阻害剤を使用したCCR1の遮断が、BMDMが浸潤の3DインビトロアッセイにおいてPDAC細胞に浸潤促進性表現型を付与することを可能にする、PDAC細胞とマクロファージとの間のクロストークを潜在的に妨害し得るかどうかを決定しようとした。
【0175】
細胞共培養におけるCCR1アンタゴニスト処理
前処理:PDAC細胞およびBMDMを、実験開始の24時間前にCCR1アンタゴニストで前処理し、回収し、次いで、実験期間の間、以前に記載される共培養方法に従って播種した。
【0176】
共培養時の処理:PDAC細胞およびBMDMを、以前に記載される共培養方法に従って播種し、CCR1アンタゴニストを、播種時に処理し、実験期間の間インキュベートした。
【0177】
結果を図10~13に示す。
【0178】
3つの市販のCCR1アンタゴニスト(BX-471、J113863およびUCB35625、すべてTocris Bioscienceから供給)での処理は、qRT-PCRおよびフローサイトメトリーによって、マクロファージの効果を制御して、PDAC細胞に機能的な浸潤促進能力を付与する一方で、延長された共培養に起因するCCR1発現の誘導を鈍らせもする著しい能力を示した。
【0179】
実施例9-siRNAによるCCR1のノックダウンは、マクロファージ媒介性浸潤促進性表現型を鈍らせる
遺伝子ターゲティングおよび発現
siRNAによる遺伝子ノックダウンを、SmartPool siRNA(Thermo Fisher Scientific)または個々のsiRNA配列を使用して達成し、15nMのsiRNAおよびRNA iMAX(Invitrogen)トランスフェクション試薬を使用してトランスフェクトした。
【0180】
細胞共培養におけるCCR1のsiRNAノックダウン
CCR1のsiRNAノックダウンを、実験開始の24時間前にPDAC細胞およびBMDMに対して行い、回収し、次いで、実験期間の間、以前に記載される共培養方法に従って播種した。
【0181】
結果を図14および15に示す。
【0182】
共培養前のPDACおよびBMDM細胞におけるCCR1のノックダウンは、対照と比較してCCR1発現の誘導を抑制し、また、3Dでのマクロファージ媒介性浸潤を部分的に阻害した。この結果は、CCR1を標的とする複数の異なるsiRNAを用いて観察された。
【0183】
実施例10-CCR1に結合するリガンドに対する中和抗体は、マクロファージ媒介性浸潤促進性表現型を緩和し得る
炎症性ケモカイン受容体は、無差別なリガンド結合を示し、ケモカインは、今度は、複数の異なるケモカイン受容体に結合する。これが生物学的冗長性を表す程度、または個々のケモカイン受容体を通じた異なるケモカインによってトリガーされる個別のシグナルが存在するかどうかは、まだ決定されていない。単一のリガンドの遮断が、マクロファージによってPDAC細胞に付与される浸潤促進性表現型を減少させるのに十分であり得るかどうかを試験するために、中和抗体(すべて、R&D Systems)の使用によって、2つの既知のリガンドであるCCL3およびCCL9(ヒトホモログCCL15)、ならびにCCR1の1つの未知であるが潜在的に新規のリガンドであるIL-1Bを中和した。すべてのリガンドを、以前のマルチオミクスハイスループットスクリーニングにおいて特定および確証した後に選択した。
【0184】
細胞共培養における中和抗体処理
前処理:PDAC細胞およびBMDMを、実験開始の24時間前にCCR1リガンド中和抗体で前処理し、回収し、次いで、実験期間の間、以前に記載される共培養方法に従って播種した。
【0185】
共培養での処理:PDAC細胞およびBMDMを、以前に記載される共培養方法に従って播種し、CCR1リガンド中和抗体(R&D Systemsから供給)を、播種時に処理し、実験期間の間インキュベートさせた。
【0186】
結果を図16に示す。
【0187】
3つのリガンド(CCL3およびCCL9およびIL-1B)の各々の単一の遮断は、BMDMの存在下でPDAC細胞がその構造から浸潤することを防止する効力を示した。興味深いことに、抗CCL9は、観察されたマクロファージ遊走の能力において独特であり、浸潤についてのPDAC細胞の追跡能力の喪失を伴った。これは、どのようにして種々のリガンドがCCR1に結合し得るかにおける明確な二分を示唆し、さらなる調査の理論的根拠を提供する。重要なことに、IL-1BはPDACの浸潤促進性表現型を鈍らせもすることが観察された。
【0188】
実施例11-CCR1アンタゴニスト、BX471は、インビボで原発腫瘍成長を鈍らせる
皮下側腹部注射モデルを、PDACの遺伝子操作されたマウスモデル、KPCマウスモデルのパイロットおよび代用実験として使用した。ここで、BMDM有りまたは無しのPDAC細胞株を注射し、原発腫瘍を成長について追跡した。
【0189】
インビボマウス研究
前処理:PDACおよびBMDM細胞を、実験開始の24時間前に、CCR1アンタゴニスト、BX471で前処理し、一晩のインキュベーションのために、以前に記載される共培養方法に従って播種した。翌日に、等しい数の初代BMDM有りまたは無しの1×10個のmCherry標識PDAC間葉系細胞を、Matrigelとともに、6~8週齢の雄性の免疫能力のあるC57BL/6Jマウス(Charles River Laboratoriesから供給)の側腹部に注射した。7日目から開始して、マウスをカリパスを使用して別々に測定した。
【0190】
結果を図17および18に示す。
【0191】
原発腫瘍成長の低下が、CCR1アンタゴニスト、BX471の治療群において観察された。重要なことに、BX471治療マウスは、特にPDAC細胞をBMDM細胞と組み合わせたときに、延長された全生存を有することが観察された。
【0192】
実施例12-CCR1の高発現は、マクロファージ浸潤に関連しており、膵臓がんを有する患者を層別化するために使用され得る
ConsensusTME:デコンボリューションツール
CIBERSORTによって使用されているシグネチャーマトリックス「LM22」から遺伝子を抽出するために、その発現値が各細胞型について平均の1.96標準偏差未満である遺伝子を先ずフィルタリング除去した。加えて、対応する細胞型についての活性化および休止状態を崩壊させた。一旦、他のデコンボリューション方法(Bindea et al.、Danaher et al.、Davoli et al.CIBERSORT、MCP-CounterおよびxCell)からのシグネチャー遺伝子を収集すると、各細胞型についての遺伝子の特有のユニオンを作成した。この遺伝子のユニオンから、TCGAがん型の各々についての細胞型特異的遺伝子のセットをキュレートした。これを、TIMERアルゴリズムと同様のアプローチを使用して行い、ここで、その遺伝子の発現が、対応するがん型についての腫瘍純度(ABSOLUTE由来)と負の相関(ピアソンの相関<0.2、p値0.05)を有する場合にのみ遺伝子を含めた。最後に、単一サンプル遺伝子セットエンリッチメント分析(ssGSEA)を用いて、上記のように各細胞型について正規化されたエンリッチメントスコア(NES)を計算した。各腫瘍型についての一般的な免疫スコアを、様々な免疫細胞の遺伝子を各TCGAがん型について1つの遺伝子セットに組み合わせることによって生成した。
【0193】
ConsensusTME細胞型比較
ConsensusTME細胞型存在量を、以前に記載されるようにTCGA膵臓がんコホートからのバルク腫瘍RNA-Seqを使用して生成した。各細胞型についてのssGSEAエンリッチメントスコアを、総免疫細胞存在量で割ることによってさらに正規化して、総免疫細胞浸潤の画分割合に似た細胞型スコアの比較をよりよく可能にした。次いで、これらのスコアを、中央値分割を使用してサンプルを免疫細胞画分が高いもの対低いものに層別化するために使用した。
【0194】
カプラン・マイヤー生存分析
実施例2のTCGA発現データを使用して、カプラン・マイヤー生存分析を以前に記載されるように行った。
【0195】
TCGA膵臓がんコホートからのRNA-Seqデータを、カプラン・マイヤー分析のために使用した。患者を、中分割に基づいて「低」または「高」発現に層別化した。2つのグループ間のログランク検定は、CCR1低グループが高グループよりも有意に良好な無増悪生存を有することを示した(p=0.031)。
【0196】
ConsensusTMEによって生成された免疫細胞推定を使用して、マクロファージ、樹状細胞および単球高カテゴリーのサンプルが、免疫細胞低カテゴリーよりも高いCCR1の平均発現を有することが見られ得る。逆は、CD8+T細胞、B細胞および制御性T細胞を含む多くの他の免疫細胞型について見られる。これは、TCGA膵臓がんサンプルにおけるCCR1とマクロファージ浸潤との間に有意な関連が存在することを示す。
【0197】
CCR1遺伝子発現の高発現を有する患者は、低レベルを有する患者よりも悪い無増悪生存を示す。
【0198】
結果を図19および20に示す。
【0199】
実施例13-延長された共培養の後に最も変化したタンパク質の遺伝子オントロジー(GO)分析は、ケモカイン関連生物学的プロセスのエンリッチメントを明らかにする
延長された共培養の後に最も変化したタンパク質の遺伝子オントロジー(GO)分析(本明細書中上記、実施例4)は、ケモカイン関連生物学的プロセスのエンリッチメントを明らかにする
遺伝子オントロジー(GO)は、遺伝子または遺伝子産物を、グラフ構造に編成された用語に階層的に分類するためのシステムを提供する。GOの主な用途の1つは、遺伝子セットに対してエンリッチメント分析を行うことである。例えば、BMDMとの延長された共培養条件下で膵臓がん細胞においてアップレギュレートされる遺伝子のセットが与えられると、このエンリッチメント分析により、その遺伝子セットのための注釈を使用して過剰提示されるGO用語、または生物学的プロセスが見出された。
【0200】
PANTHER Classification System(pantherdb.org)を使用して、分析しようとする遺伝子の名称を、1行当たり1つまたはコンマで区切って入力した。このツールは、MOD特異的遺伝子名およびUniProt IDの両方を処理し得る。分析のためのGO態様(分子機能、生物学的プロセス、細胞構成要素)の選択を行った(この場合、生物学的プロセス)。種選択、マウスおよびヒトの両方、を考慮し、分析した。結果は、リダイレクトされたPANTHERウェブサイトに表示される。これらの結果は、ステップ3において選択したゲノムにおけるすべてのタンパク質コード遺伝子のセットに対するエンリッチメントに基づいている。
【0201】
結果を図21に示す。
【0202】
実施例14-組み合わせたマクロファージおよびCCR1シグネチャーを、無増悪生存によって膵臓がん患者を層別化するために使用し得る。
カプラン・マイヤー分析
組み合わせた遺伝子シグネチャーを、ConsensusTMEマクロファージ遺伝子シグネチャーをCCR1と組み合わせて、新たな遺伝子セットを作成することによって作成し、その後、ssGSEAを使用して、TCGA膵臓がんコホートにおける新たな遺伝子セットについての正規化されたエンリッチメントスコアを生成した。組み合わせたシグネチャーについての層別化を、「中/高」(x>0.25分位数)および「低」(x<0.25分位数)カテゴリーを作成するためのマクロファージシグネチャーカプラン・マイヤー分析において以前に記載されるように実施した。ログランク検定は、この組み合わせたシグネチャーのエンリッチメントが、有意により悪い無増悪生存と関連していることを示した(p=0.03)。
【0203】
腫瘍内の高レベルのCCR1発現とマクロファージ浸潤との併用効果を調べるために、ConsensusTMEマクロファージおよびCCR1発現の組み合わせた遺伝子シグネチャーを作成した。ssGSEAを使用して、膵臓がんTCGAコホートにおける患者にわたるこのスコアのエンリッチメントを決定すると、組み合わせたシグネチャーのエンリッチメントがより悪い予後を示すことが観察された。この組み合わせたシグネチャーは、患者のさらなる層別化に役立てるために、2つの別々のカプラン・マイヤー分析の代わりに使用され得る。
【0204】
結果を図22に示す。
【0205】
実施例17-BX-471での処理は、下流のIGF1シグナル伝達経路遺伝子の活性化を鈍らせる。
ウエスタンブロッティング
6ウェルプレート中で増殖するPDAC細胞株を、組換えIGF1、CCR1アンタゴニスト、BX-471もしくはJ-113863、または組換えIGF1とCCR1アンタゴニストとの組み合わせで24時間処理した。細胞をかき取り、ホスファターゼおよびプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche)を含有する氷冷溶解緩衝液中で溶解した。タンパク質抽出物をヒートブロック中で5分間95℃で変性させ、次いで、SDS-PAGEによって分離した。タンパク質をニトロセルロースメンブレンに移し、これを一次抗体で一晩4℃でプローブし、続いてIRDye二次抗体(Li-Cor Biosciences)との室温で60分間のインキュベーションを行った。標的タンパク質を、Li-Cor Odyssey Infrared Imaging Systemを用いて検出した。使用した一次抗体には、AKT、Phospho-AKT、4E-BP1、Phospho-4E-BP1、MEK、Phospho-MEK、MAPK、Phospho-ERK1/2およびGAPDHに対する抗体(Cell Signalling)が含まれる。
【0206】
以前の報告から、IGF1が、化学療法に対する膵臓がんの耐性において中心的な役割を果たしていることが明らかである。これに関連して、本発明者らは、CCR1阻害がIGF1シグナル伝達経路に何らかの影響を及ぼすかどうかを決定しようとした。組換えIGF1および種々のCCR1アンタゴニストでの処理後のPDAC細胞株における下流のIGF1シグナル伝達経路遺伝子の発現を、ウエスタンブロッティングを用いて評価した。組換えIGF1処理後のAKTおよび4E-BP1の活性化および発現プロファイルは、アンタゴニストBX-471を使用したCCR1の阻害によって特に鈍らされ、これは、BX-471に対する本発明者らの優先度の理論的根拠を提供した。
【0207】
どのようにしてCCR1阻害がIGF1シグナル伝達経路に影響を及ぼすかをさらに調べるために、組換えIGF1および種々のCCR1アンタゴニストでの処理後のPDAC細胞株を、包括的および比較プロテオームならびにリン酸化プロテオームプロファイリングアッセイによって評価した。データを、研究室のポストドクター研究員によって自前で開発された遺伝子経路ネットワーク分析パイプラインに入力した。IGF1ファミリー遺伝子は、対照と比較して組換えIGF1を加えることでアップレギュレートされた。しかしながら、CCR1アンタゴニスト、BX-471での処理は、このアップレギュレーションを激しく鈍らせた。
【0208】
結果を図23および24に示す。
【0209】
実施例18-CCR1アンタゴニストベースの併用療法での治療は、PDACのインビボ、遺伝子操作マウスモデル(KPCモデル)において有効である
インビボ研究の理論的根拠
本研究は、PDACのための新規の治療オプションとしてのCCR1阻害剤のゲムシタビンおよび/または免疫療法との併用を試験することを目的とする。予備的な前臨床データは、小分子CCR1阻害剤が、免疫抑制性であるとして関係付けられている腫瘍微小環境の主要な亜集団である、マクロファージと腫瘍細胞との間の細胞間コミュニケーションを妨害するという証拠を提供する。PDACは線維形成によって特徴付けられることから、先ずBX-471などのCCR1阻害剤を使用することによって患者の腫瘍微小環境を標的化し、次いで、ゲムシタビンおよび/または免疫療法で腫瘍を治療することが、標準治療を改善し、クリニックにおけるPDACのための将来の治療オプションの情報を与えることが期待される。この進行中の概念実証研究は、インビボKPCマウスモデルを使用する。これは、前臨床的に、臨床第I相検討の前にPDACのための治療オプションの効力を決定するための、ゴールドスタンダードである。この研究には、臨床グレードとみなされるKPCバンドAマウスを使用した無作為化5群間介入研究、ならびに追加のパイロット実験が含まれる。
【0210】
方法:動物モデルおよびサンプル処理
自発的PDACを保有するLSL-KrasG12D/+;LSL-Trp53R172H/+;Pdx-1-Cre(KPC)マウスの生成は、以前に記載されている(Hingorani et al.,Cancer Cell,2005,7(5),469-483)。遺伝子型決定したKPCマウスを、主な介入研究および追加のパイロット実験に登録した。(それらのPC同腹子は、腫瘍を生成しない。)すべてのKPC実験グループを、性別および年齢について無作為化した。
【0211】
KPCマウスにおけるPDAC腫瘍を、触診および高解像度超音波スキャン(Vevo 2100、VisualSonics)によって検出し、剖検で確認した。直径3~6mm(超音波による)の腫瘍を有する体重が安定したPDAC保有マウスとして規定される、臨床グレードのKPCバンドAマウスを、主な介入研究に登録した。(1)1個より多い腫瘍の特定、(2)大きな閉塞した総胆管、(3)6mmよりも大きな腫瘍、(4)腎炎の存在、(5)脾腫、(6)大きな嚢胞、または(7)横隔膜中に存在する可視性の転移性腫瘍を含むとして規定される、KPCバンドBマウス(非臨床グレードのKPC腫瘍保有マウス)を、追加の最初のパイロット実験のために使用した。すべての腫瘍は、組織病理学的に腺がんと確認された。すべてのマウスを、体重および状態について毎日モニターした。
【0212】
安楽死を、12時間の明期内に行った。終末出血を、イソフルラン麻酔下での心臓穿刺を介した放血を通じて得、死亡を頸椎脱臼によって確認した。血漿を、14,000gで5分間4℃での遠心分離によって調製し、液体窒素中で急速凍結した。臓器、他の組織、および腫瘍サンプルのアリコートを、一貫した順序で迅速に解剖し、10%中性緩衝ホルムアルデヒド(NBF)中で24時間室温で固定した後、70%エタノールに移し、免疫組織化学のために処理した。
【0213】
主な介入研究の設計
図25は、使用した5つの実験コホートの規定を含む、主な介入研究のための実験計画、ならびに治療条件および研究期間を示すタイムラインを示す。使用したCCR1阻害剤は、BX-471であった。使用した抗PD-1抗体は、BioXCell InVivoMabラット抗マウスPD-1(CD279)(クローン-RMP1-14モノクローナル抗体、IgG2a、k)であった。
【0214】
最初のパイロット実験は、併用(3×)療法におけるコラーゲン断片化および免疫細胞浸潤の増加を明らかにする
ホットで変化した(除外され、免疫抑制された)腫瘍とコールドな腫瘍との間の区別は、腫瘍内の細胞傷害性T細胞ランドスケープに基づく。この単純化は、腫瘍と免疫系との間の複雑な相互作用の結末を反映する。KPCバンドBマウスを使用して、主な研究の種々の介入群を先ず見た。
【0215】
少数のKPCバンドBマウスを、ビヒクル単独、BX-471単独(図28A)、ゲムシタビン単独もしくはBX-471との組み合わせ(図28B)、またはゲムシタビン、BX-471および抗PD1の併用(3×療法)として(図28C)のいずれかでの治療に登録した。規制上の制限に起因して、これらのマウスを延長された生存研究のために維持することはできず、登録後およそ10日で処分した。
【0216】
パイロット実験の結果を図26に示す。(A)は、ビヒクルまたはBX-471で10日間治療したときのKPCバンドB腫瘍におけるColVI(コラーゲン)およびKRT19(腫瘍細胞)の免疫蛍光染色を示す。(B)は、ゲムシタビン+ビヒクルまたはゲムシタビン+BX-471(2×療法)のいずれかで10日間治療したときのKPCバンドB腫瘍のH&E染色を示す。(C)は、ビヒクルまたはゲムシタビン+BX-471+抗PD-1(3×療法)のいずれかで10日間治療したときのKPCバンドB腫瘍におけるCD45(免疫細胞)、ColVI(コラーゲン)およびKRT19(腫瘍細胞)の免疫蛍光染色を示す。
【0217】
薬物送達に対する単純な生物物理学的障害としてのPDACストローマの特徴付けは、ストローマ中に存在する数十個の異なる細胞型の寄与を過度に単純化する。しかしながら、興味深いことに、コラーゲンVIに対する抗体で染色したバンドB腫瘍の予備的な分析は、マウスをCCR1アンタゴニスト、BX-471で治療したときの、ビヒクル対照と比較しての、PDAC腫瘍微小環境の形態の変化を明らかにした(図28A)。コラーゲン沈着のこの断片化は、マウスにおけるCCR1シグナル伝達軸を損なうことが、重大な生物学的アーキテクチャー変化をもたらし得ることを示唆する。
【0218】
マウスの別のコホートを、ゲムシタビン単独またはBX-471との組み合わせで治療した。興味深いことに、H&E染色は、以前に観察されたストローマ断片化表現型上に築かれ、原発腫瘍部位中への浸潤リンパ球および白血球の増加を示す(図28B)。浸潤免疫細胞集団および線維化アーキテクチャーの二分の差異は著しく、これは、CCR1の遮断が腫瘍部位中への免疫細胞侵入を改善することを示唆する。
【0219】
最後に、1匹のKPCバンドBマウスを、ビヒクル対照と並行して実行した、三重併用療法に登録した。三重療法は、コラーゲン断片化(コラーゲンVI染色によって明らかにされた)、CD45+染色の増加、およびKRT19腫瘍細胞染色の減少を示した(C)。
【0220】
介入研究の最初の結果:併用2×(BX-471+GEM)または3×(BX-471+GEM+抗PD1)療法におけるCCR1阻害は、PDACのマウスモデルにおける延命効果を示す
併用療法群の理論的根拠は、腫瘍細胞とマクロファージとの間のコミュニケーションを遮断し、コラーゲン配置の生物物理学的密度を断片化し、原発腫瘍部位中へのTILの流入を可能にするためのCCR1阻害のためである。CCR1の遮断と同時に、ゲムシタビンの治療は、全身的で直接的な腫瘍死滅を提供するように作用する(二重療法)。最後に、PD-1に結合する抗体を加えることは、このチェックポイント分子が浸潤細胞傷害性T細胞のスイッチをオフにするのを止めることによって免疫細胞の活性をブーストすることを目的とする(三重療法)。
【0221】
図27は、主な介入研究の5つすべての治療群に登録されたマウスについての生存率曲線を示す。生存の増加が、ゲムシタビンまたはBX-471単剤療法と比較して、2×(BX-471+ゲムシタビン)および3×(BX-471+ゲムシタビン+抗PD1)の両方の併用治療について観察された。
【0222】
本発明の特定の実施形態を、参照および例証の目的のために説明したが、種々の改変が、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなしに、当業者にとって明らかとなる。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7
図8
図9
図10
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図16-2】
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図26-1】
図26-2】
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【国際調査報告】