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▶ アナカーディオ エルアンドデー アクティエボラーグの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(54)【発明の名称】急性心不全の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20230217BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20230217BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20230217BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230217BHJP
   C07K 14/575 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
A61K38/22 ZNA
A61P9/04
A61K45/00
A61P43/00 121
C07K14/575
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022538230
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(85)【翻訳文提出日】2022-08-15
(86)【国際出願番号】 EP2020086960
(87)【国際公開番号】W WO2021123119
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】1918853.1
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522244115
【氏名又は名称】アナカーディオ エルアンドデー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】ラーシュ ホー.ルンド
【テーマコード(参考)】
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA23
4C084CA18
4C084CA53
4C084CA59
4C084DB01
4C084DB02
4C084DB48
4C084MA16
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA361
4C084ZA362
4C084ZC521
4C084ZC522
4C084ZC751
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA18
4H045CA40
4H045DA30
4H045EA20
4H045EA23
4H045FA10
(57)【要約】
本発明は、個体での急性心不全(AHF)の治療および/または予防に使用するためのグレリン分子、ならびにそれに対応する方法および使用を提供する。本発明はさらに、個体でのAHFの治療および/または予防に使用するための関連する組成物および部品キットを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体での急性心不全(AHF)の治療および/または予防に使用のためのグレリン分子。
【請求項2】
個体での急性心不全(AHF)の治療および/または予防のための医薬品の製造のためのグレリン分子の使用。
【請求項3】
個体での急性心不全(AHF)を治療および/または予防する方法であって、前記個体にグレリン分子を投与する工程を、含む方法。
【請求項4】
前記AHFは、心臓の左側のAHFまたは心臓の右側のAHFである、請求項1に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2に記載の使用、あるいは請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記AHFは、急性非代償性心不全(ADHF);高血圧症に関連するAHF;頻脈症を媒介とするAHF;肺水腫に関連するAHF;心原性ショックAHF;または重度の心原性ショックAHFを含む群から選択される、請求項1または4に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4に記載の使用、あるいは請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記急性非代償性心不全(ADHF)は、急性非代償性慢性心不全(ADCHF)またはうっ血性ADHF、適切には急性非代償性慢性心不全(ADCHF)である、請求項5に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項7】
前記急性非代償性慢性心不全(ADCHF)は重度のADCHFである、請求項6に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項8】
前記AHFはADCHFまたは重度のADCHFであり、前記個体は、約1年以上、適切には約2年以上または約3年以上に亘って慢性心不全(CHF)を患っている、請求項6または7に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項9】
前記AHFはADCHFまたは重度のADCHFであり、前記個体は、約1年以下に亘って慢性心不全(CHF)を患っている、請求項6または7に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項10】
前記AHFは心筋梗塞とは関連しない、請求項1または4~9のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~9のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記AHFは新生のAHFではない、請求項1または4~10のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~10のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記グレリン分子の投与後に、前記個体は、心拍出量の増加;および/または心収縮率の増加;および/または心臓の一回拍出量の増加;および/または心室機能の向上;および/または心室駆出率の増加;および/またはトロポニンIのリン酸化の低下;および/またはカルシウム感受性の増加;および/または細胞内cAMPの低下;および/または腎機能の改善;および/またはた推算糸球体濾過量(eGFR)の向上;および/または呼吸困難の改善;および/または浮腫の改善;および/またはバイオマーカーの低下;および/または低血圧の減少;および/または心原性ショックの解消;および/またはめまいの減少;および/またはふらつき感の減少;および/または動脈血酸素(AVO2)較差の低下;および/または肺血流量(PBF)の増加;および/または推算全身血管抵抗(eSVR)の低下;および/または肺毛細血管楔入圧の低下;および/または左心室拡張末期圧の低下;および/または左心室拡張末期容積の低下;および/または肺動脈圧の低下;および/または中心静脈圧の低下を含む群からの1種以上のパラメータを示す、請求項1または4~11のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~11のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記1種以上のパラメータは、心拍出量の増加;および/または動脈血酸素(AVO2)較差の低下;および/または肺血流量(PBF)の増加;および/または推算全身血管抵抗(eSVR)の低下を含む群に由来する、請求項12に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項14】
前記心拍出量は、心拍出量が約1.5 L/分以上、好ましくは約5.2 L/分以上である場合;および/または心拍出量が約0.1 L/分以上、好ましくは約0.5 L/分以上、より好ましくは約1.15 L/分以上増加する場合;および/または心拍出量が約5%以上増加する場合に増加する、請求項12または13に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項15】
前記心収縮率は、絶対短縮率が約2%以上、好ましくは約3%以上増加する場合;および/または相対短縮率が約20%以上、好ましくは約42%以上増加する場合に増加する、請求項12~14に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項16】
前記心臓の一回拍出量は、その一回拍出量が約30 mL以上、好ましくは約69 mL以上、より好ましくは約79 mL以上である場合;および/またはその一回拍出量が約3 mL以上増加する場合;および/またはその一回拍出量が、約5%以上、好ましくは約15%以上、より好ましくは約25%以上増加する場合に増加する、請求項12、14または15のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項17】
前記トロポニンIのリン酸化は、約20%以上低下する、請求項12または14~16のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項18】
前記細胞内cAMPは、約20%以上低下する、請求項12または14~17のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項19】
前記心室駆出率は、絶対率が約2%以上増加する場合;および/または相対率が約5%以上、好ましくは約10%以上増加する場合に増加する、請求項12または14~18のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項20】
前記動脈血酸素(AVO2)較差は、約2%以上、好ましくは約7%以上低下する、請求項12~19のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項21】
前記肺血流量(PBF)の水準は、約0.1 L/分以上、好ましくは約0.8 L/分以上または約1 L/分以上増加する、請求項12~20のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項22】
前記推算全身血管抵抗(eSVR)は、約100 dyn*s/cm-5以上、好ましくは約300 dyn*s/cm-5以上低下する、請求項12~21のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項23】
前記AHFは、慢性心不全の自発的悪化;および/または感染症;および/またはアレルギー反応;および/または血栓;および/または外科手術;および/または心血管疾患;および/または肺疾患;および/または心筋症;および/または睡眠時無呼吸症;および/またはアルコール摂取;および/または脱法ドラッグ摂取;および/または貧血症;および/または脂質異常症;および/または甲状腺機能亢進症;および/またはパジェット病;および/または高血圧症(肺高血圧症など);および/または処方薬の摂取;および/または喫煙;および/または高血圧;および/または腎機能障害;および/または糖尿病;および/または先天性心疾患;および/または選択生活様式;および/または不整脈;および/または頻脈;および/または徐脈;および/または炎症;および/または毒素;および/または自己免疫疾患;および/または浸潤性疾患;および/または結合組織疾患;および/または代謝性疾患;および/または内分泌疾患;および/または老化;および/または遺伝性遺伝子変異;および/または妊娠を含む群のうちの1種以上の因子に関連している、請求項1または4~22のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~22のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記AHFは、慢性心不全の自発的悪化;感染症;糖尿病;および/または選択生活様式(肥満を起こす、および/または座りがちの生活様式など)を含む群のうちの1種以上の因子に関連している、請求項23に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項25】
前記AHFは高血圧症に関連している、請求項23または24に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項26】
前記AHFは、胸部痛;および/または咳;および/またはショック症(心原性ショックなど);および/または高血圧;および/または乏尿症;および/または無尿症;および/または倦怠感;および/または息切れ(呼吸困難);および/または低酸素血症;および/または急速な呼吸(頻呼吸);および/または頻脈;および/または虚血;および/または浮腫(浮腫の悪化など);および/または腎機能障害(腎機能の悪化など);および/または低血圧;および/または臓器不全(肝不全および/または腎不全など);および/または冷感四肢;および/または四肢麻痺;および/または筋肉疲労;および/または吐き気;および/または嘔吐;および/または体重減少(食欲不振など);および/または肺水腫;および/または下半身の不快感;および/または末梢部の腫れ;および/または低灌流;および/または下半身の腫れ;および/または心臓の腫れ;および/または体重増加(突然の体重増加など);および/または体重減少;および/または悪液質;および/または隆起型頸部血管(隆起型頸部静脈および/または頸部静脈の膨満など);および/または肝腫大;および/またはめまい;および/または失神(卒倒としても知られる);および/または精神状態の変化(例えば、不安および/または混乱および/またはうつ病);および/または食欲不振;低血圧症;および/または不整脈;および/または睡眠困難;および/または平座時の不快感;および/または睡眠時無呼吸症を含む群の症状のうちの1種以上を含む、請求項1または4~25のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~25のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記AHFは、呼吸困難(例えば安静時の呼吸困難);および/または低酸素血症;および/または浮腫(浮腫の悪化など);および/または突然の体重増加;および/または腎機能障害(腎機能の悪化など);および/または低血圧;および/またはめまい;および/または心原性ショックを含む群の症状のうちの1種以上を含む、請求項26に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項28】
前記AHFは、呼吸困難;および/または平座時の不快感;および/または呼吸促拍;および/または不安;および/または低酸素血症;および/または高血圧を含む群の症状のうちの1種以上を含む、請求項26に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項29】
前記AHFは、浮腫(例えば浮腫の悪化);体重の増加;および/または隆起型頸部静脈;および/または肝腫大を含む群の症状のうちの1種以上を含む、請求項26に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項30】
1種以上の症状は、約1ヶ月以内、好ましくは約7日以内、より好ましくは約7日~約1日の期間に亘って発症する、請求項1または4~29のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~29のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記個体は、X線検査;および/または血液検査;および/または心電図(ECG);および/または前記個体の病歴追跡;および/または陽電子放出断層撮影(PET)走査;および/またはマルチゲート収集(MUGA)走査;および/またはシンチ撮影;および/または心エコー図;および/または血管造影;および/または血行動態測定;および/またはコンピューター断層撮影(CT)走査;および/または症状の医学診査;および/またはバイオマーカー(血清ナトリウム利尿ペプチドおよび/または血漿ナトリウム利尿ペプチドなど)測定;および/または磁気共鳴画像(MRI)走査を含む群のうちの1種以上の手順を用いてAHFを患うと診断される、請求項1または4~30のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~30のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記個体は、前記個体の病歴追跡;および/または症状の医学診査;および/または心エコー図;および/または血清ナトリウム利尿ペプチド測定を含む群のうちの1種以上の手順を用いてAHFを患うと診断される、請求項31に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項33】
前記バイオマーカーは、血清ナトリウム利尿ペプチド;および/またはsST2心臓バイオマーカー;および/または中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM);および/または乳酸塩を含む群から選択される1種以上である、請求項32に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項34】
前記血清ナトリウム利尿ペプチドは、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP);および/またはN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP);および/または中央領域プロ心房性ナトリウム利尿ペプチド(MR-proANP)を含む、請求項33に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項35】
前記個体は、BNPが50 ng/L以上、好ましくは約100 ng/L以上である場合;および/またはNT-proBNPが250 ng/L以上、好ましくは約300 ng/L以上である場合にAHFを患うと診断される、請求項34に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項36】
前記血行動態測定は、収縮期血圧の測定;および/または心係数の測定;および/または肺毛細血管楔入圧の測定を含む群のうちの1種以上である、請求項31~35のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項37】
前記血行動態測定は、心係数の測定であり、前記心係数は約5 L/分/m2以下、好ましくは約2 L/分/m2以下または1.8 L/分/m2以下である、請求項36に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項38】
前記血行動態測定は、肺毛細血管楔入圧の測定であり、前記肺毛細血管楔入圧は約10 mmHg以上である、請求項36または37に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項39】
前記グレリン分子の投与後に、前記個体は、心拍数の増加;および/または頻脈;および/または血圧の低下;および/または低血圧;および/または酸素要求の増加;および/または虚血;および/または血漿トロポニンTの増加;および/または心不整脈;および/または影響を受けたカルシウム過渡応答を含む群のうちの1種以上のパラメータを示さない、請求項1または4~38のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~38のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記グレリン分子の投与後に、前記個体は、低血圧;および/または虚血;および/または心不整脈;および/または頻脈を含む群のうちの1種以上のパラメータを示さない、請求項39に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項41】
前記心拍数は、約5心拍/分以上増加する、かつ/あるいは約100心拍/分以上である、請求項39に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項42】
前記頻脈は、約10心拍/分以上の心拍数の増加である、かつ/あるいは約110心拍/分以上である、請求項39または41に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項43】
前記血圧は、約5 mmHg以上、好ましくは約20 mmHg以上、より好ましくは20 mmHg~80 mmHg低下する、請求項39、41または42のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項44】
前記低血圧は、約90 mmHg以下、好ましくは約80 mmHg以下の血圧である、請求項39または41~43のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項45】
前記心不整脈は、心室性不整脈;上室性不整脈;異所性心房性頻脈;心房粗動;洞性徐脈;房室ブロック(AVブロック);および心房細動を含む群から選択される、請求項39または41~44のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項46】
前記虚血は、心電図(ECG)の変化および/または血漿トロポニンTの増加を含む、請求項39または41~45のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項47】
前記心電図(ECG)の変化は、ST上昇;および/またはST降下;および/またはT波の変化を含む群のうちの1種以上を含む、請求項46に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項48】
前記血漿トロポニンTは、約40%以上、好ましくは約100%以上増加する、請求項39~47のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項49】
前記カルシウム過渡応答は、カルシウム過渡応答の振幅に変化がないことを含む、請求項33~48のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項50】
前記グレリン分子は、修飾グレリン;および/またはグレリン融合分子;および/またはグレリン断片;および/またはグレリン変異体;および/またはグレリン誘導体;および/または野生型グレリンを含む群のうちの1種以上を含む、請求項1または4~49のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~49のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記修飾グレリンは、アシル化グレリン分子を含む群のうちの1種以上を含む、請求項50に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項52】
前記グレリン分子は、合成グレリン分子;および/または組換えグレリン分子;および/または内因性グレリン分子を含む群のうちの1種以上を含む、請求項1または4~51のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~51のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~51のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記グレリン分子は、1日1回以上、好ましくは1日2回投与される、請求項1または4~52のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~52のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記グレリン分子は、注入によって投与される、請求項1または4~53のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~53のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~53のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記注入は、約10分以上の期間、好ましくは約120分の期間に亘って実施される、請求項54に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項56】
前記個体は、18歳以上、好ましくは65歳以上である、請求項1または4~55のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~55のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記グレリン分子は、手術前、および/または手術中、および/または手術後に投与される、請求項1または4~56のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~56のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記個体は、1種以上の追加の治療薬とともに投与される、請求項1または4~57のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~57のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記グレリン分子は、組成物中に、好ましくは医薬組成物中に存在する、請求項1または4~58のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子、あるいは請求項2または4~58のいずれか一項に記載の使用、あるいは請求項3~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
前記組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤を含む、請求項59に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項61】
前記組成物は、1種以上の追加の治療薬を含む、請求項59または60に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項62】
前記治療薬は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;および/またはアンジオテンシンII受容体遮断薬;および/またはバソプレシン受容体拮抗薬;および/またはβ遮断薬;および/または強心性血管拡張薬(特にミリノンおよび/またはエノキシモンおよび/またはドブタミンおよび/またはレボシメンダン);および/またはオメカムチブ・メカルビル;および/またはレニン拮抗薬;および/またはリラキシン;および/またはウラリチド;および/またはジゴキシン(ラノキシン);および/または血管拡張剤;および/またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(バルサルタンなど);および/またはアスピリン;および/またはスタチン;および/または降圧剤(サクビトリルなど);および/またはカルシウム増感剤;および/またはイバブラジン;および/または利尿剤;および/または昇圧剤(ノルアドレナリン、ドーパミン、バソプレッシン、および/またはアンジオテンシンIIなど);および/またはアデノシン拮抗薬;および/またはアルドステロン拮抗薬を含む群から選択される1種以上の治療薬である、請求項58~61のいずれか一項に記載の使用のためのグレリン分子あるいは使用あるいは方法。
【請求項63】
グレリン分子と、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;および/またはアンジオテンシンII受容体遮断薬;および/またはバソプレシン受容体拮抗薬;および/またはβ遮断薬;および/または強心性血管拡張薬(特にミリノンおよび/またはエノキシモンおよび/またはドブタミンおよび/またはレボシメンダン);および/またはオメカムチブ・メカルビル;および/またはレニン拮抗薬;および/またはリラキシン;および/またはウラリチド;および/またはジゴキシン(ラノキシン);および/または血管拡張剤;および/またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(バルサルタンなど);および/またはアスピリン;および/またはスタチン;および/または降圧剤(サクビトリルなど);および/またはカルシウム増感剤;および/またはイバブラジン;および/または利尿剤;および/または昇圧剤(ノルアドレナリン、ドーパミン、バソプレッシン、および/またはアンジオテンシンIIなど);および/またはアデノシン拮抗薬;および/またはアルドステロン拮抗薬を含むリストから選択される1種以上の治療薬とを含む組成物。
【請求項64】
リラキシン;および/またはウラリチド;および/または強心性血管拡張薬;および/または昇圧剤;および/または血管拡張剤を含むリストから選択される1種以上の治療薬を含む、請求項63に記載の組成物。
【請求項65】
薬学的に許容可能な賦形剤を含む、請求項63または64に記載の組成物。
【請求項66】
請求項1~62のいずれか一項に規定される使用のための請求項63~65のいずれか一項に規定される組成物。
【請求項67】
.請求項63~65のいずれか一項に規定される組成物の請求項1~62のいずれか一項に規定される使用。
【請求項68】
請求項63~65のいずれか一項に規定される組成物を前記個体に投与する工程を含む、請求項1~62のいずれか一項に規定される方法。
【請求項69】
請求項1~62のいずれか一項に規定されるグレリン分子および/または請求項63~65のいずれか一項に規定される組成物を含む部品キット。
【請求項70】
請求項1~62のいずれか一項に規定の前記AHFの治療での前記グレリン分子および/または組成物の使用に関する説明書を含む、請求項69に記載の部品キット。
【請求項71】
実質的に添付の特許請求の範囲、説明、実施例、および図を参照して本明細書で請求される、グレリン分子、使用のためのグレリン分子、使用、方法、組成物、使用のための組成物、および部品キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に急性心不全(AHF)の治療に関する。
【背景技術】
【0002】
AHFは、患者の心臓機能の急速な喪失を伴う明確に識別可能な心臓病であり、これは死に至ることが多い。AHFは、入院を要する最も一般的な原因となる(Ambrosy et al., 2014)。特に問題となる2種のAHFとしては、急性非代償性心不全(ADHF)および急性非代償性慢性心不全(ADCHF)である。
【0003】
ADHFおよびADCHFでは、院内死亡率は5~10%の範囲にあり、入院期間の中央値は5~8日間である。患者の50%超が未治癒の症状のままに退院し、種々の検討では30日または60日以内に、半分が再び症状を悪化させて、4分の1が再入院して10%超が死亡する(Baker et al., 2003;Curtis et al., 2008;Gheorghiade et al., 2006;Go et al., 2014;およびPolanczyk et al., 2000)。集団全体の記録では1年での死亡率は25~35%である(Lund, 2017)。1990年代後半に転帰が改善した後も、ADCHFでの予後は2000年以降では改善していない(Baker et al., 2003;Curtis et al., 2008;Polanczyk et al., 2000;およびThorvaldsen et al., 2016)。心不全による社会への損失は、2010年~2030年の間に3倍に膨らむと予測されていて、この損失の大半はADCHFに関連している(Heidenreich et al., 2013)。
【0004】
現状では、AHF、ADHF、またはADCHFを患う患者の死亡率または再入院を低減させるのに利用可能な治療法は無い。状況によっては、利尿剤が症状を緩和するのに用いられている。
【0005】
治療のための1つの特定の課題は、その病状により、患者が不整脈、低血圧、および虚血などの生理学的変化に非常に敏感になることである。その敏感な状態は、いくらかの薬剤(変力薬剤など)が、AHFでの転帰の悪化をもたらす問題のある生理学的変化を引き起こすことを意味している。
【0006】
それに伴ってAHF、特にADHFとADCHFは治療が困難でかつ費用を要し、これにより医療サービスへの経済的負担をもたらす。従って、AHF、特にADHFとADCHFに対する新たなかつ効果的な治療法の開発が強く求められている。
【発明の概要】
【0007】
このような背景において、本発明者らは、グレリンを用いるAHF、特にADHFおよびADCHFに対する新たな治療法を開発した。
【0008】
従って本発明の第1の側面は、個体での急性心不全(AHF)の治療および/または予防に用いるグレリン分子を提供する。
【0009】
本発明の第2の側面は、個体での急性心不全(AHF)の治療および/または予防のための薬剤の製造へのグレリン分子の使用を提供する。
【0010】
本発明の第3の側面は、個体での急性心不全(AHF)を治療および/または予防する方法を提供し、この方法は、個体にグレリン分子を投与する工程を含む。
【0011】
AHFは、個体での心臓の機能(例えば血流を維持する心臓の機能)が短期間に急速に劣化する場合に個体で発生する。個体が、息切れ(呼吸困難とも呼ばれる)、倦怠感、咳、組織の腫れ(浮腫とも呼ばれる)、めまい、および/またはふらつき感などの心不全に関連する症状の急速な発症を示す場合には、その個体はAHFを患うと診断できる。AHFを患う個体が治療を受けないと、その個体の心臓は機能しなくなり、その個体は死に至る可能性がある。医療の当業者なら、その個体がAHFを患うか否かを識別できる。
【0012】
グレリンは、28個のアミノ酸のペプチドホルモンである。一般的に、グレリンは個体の胃腸管内の細胞から血流に分泌されることが知られており、かつ食欲ならびにエネルギー活用への分布および速度を調節するように機能する。グレリンは、変力物質として作用して、心不整脈、低血圧、虚血の増大を含む、AHF患者にとって非常に危険と思われる副作用を示すと考えられてきた(Abraham etal., 2005;Cuffe etal , 2002;Mebasaa etai, 2007;およびPacker et al., 2013)。これらの予測される危険な副作用のために、グレリンはAHFへの治療として適切であるとは全く考えられてこなかった。
【0013】
その背景において、本発明者らは今回意外なことに、グレリンには変力作用はあるが予測された副作用は示さず、AHFの治療に適切かつ非常に効果的であることを特定した。本発明者らは、グレリンが心筋収縮性を増大させるが、それは心筋細胞中のCa2+濃度を増加させるのではなく既存のCa2+に対して感受性を増大させ、それにより変力剤に関連するAHF患者での以前より予測されてきた危険な副作用(特に心不整脈、低血圧、および虚血)をもたらさないという、グレリンが機能するメカニズムを実証した。本発明者らはまた、AHFとは密接に関連しているが、それほど重症ではない進行性心不全を患う患者でのグレリン治療のヒトでの検討を実施したが、この検討ではグレリンが症状および心拍出量を改善するのに効果的であり、かつ患者の生存率を悪化させないことが分かった。それほど重症ではない心不全症状のヒト患者でまずグレリンを試験する方がより安全であるので、倫理的な理由から、この検討ではAHF患者の代わりに進行性心不全患者を用いた。
[本開示の詳細な説明]
【0014】
用語「治療」および「予防」については、医療の当業者なら分かっている。
【0015】
「治療」とは、個体、特にヒトでのAHFのいずれかの治療を含み、必要に応じて以下の効果のうちの1種以上を含む:
(i)AHFを阻害すること、例えばAHFの発症を遅延させる、低減する、または阻止すること;
(ii)AHFを緩和すること、例えばAHFを患う個体でAHFの退縮を引き起こすこと;
(iii)AHFを治癒すること、例えばAHFを患う個体を、AHFが全く検出されない健康状態にまで戻すこと;および/または
(iv)AHFが解消された場合に、慢性心不全(HF)の進行および/または発症を軽減かつ/あるいは抑制すること。
【0016】
「予防」とは、個体、特にヒトでのAHFのいずれかの予防的処置を含み、必要に応じて以下の効果のうちの1種以上を含む:
(i)個体(例えば、AHFを発症する素因がある、あるいは発症するリスクがあるが、まだ発症していると診断されていない個体)でAHFが発生するのを防止すること、例えば個体がAHFが発症するのを停止すること;
(ii)個体でのAHFの発症を遅延させること、例えば個体の生涯の後半部まで個体がAHFを発症するのを遅延させること;
(iii)個体でのAHFの発生を制限すること、例えば個体がAHFの影響を受ける程度を低減すること;
(iv)個体でのAHFの1種以上の症状を防止すること、例えば個体がAHFの1種以上の症状を発症するのを停止すること;かつ/あるいは
(v)個体の死亡、および/または最初の事象が解消かつ/あるいは治癒した後のAHFの繰り返し事象の発生などのAHFの合併症を防止すること。
【0017】
一実施態様では、個体はAHFを患うことが疑われる。
【0018】
AHFの急速な発症のために、状況によっては、AHFの診断が確認される前に、すなわちAHFがまさに疑われる場合に、グレリンなどによる治療を施す必要の可能性がある。従って「AHFを患う疑いがある」とは、その個体がAHFの兆候および/または症状のうちの1種以上を示しているが、まだその個体はAHFの診断を受けていないことを含む。
【0019】
一実施態様では、個体には治療有効量のグレリン分子が投与される。
【0020】
医療の当業者なら、グレリンの「治療有効量」が何であるかが分かる。「治療有効量」には、AHFの治療または予防に関連する、臨床的成果を含む有益なかつ所望の結果をもたらすのに十分なグレリンの量が含まれる。
【0021】
一実施態様では、AHFとは、心臓の左側でのAHFであり、あるいは心臓の右側でのAHFである。適切には、AHFは心臓の左側のAHFである。
【0022】
医療の当業者には分かるように、心臓は解剖学的に左側と右側に分離されている。心臓の各側は、2つのチャンバー、すなわち心室と心房に分かれている。従って、心臓の右側は右心室と右心房を含み、心臓の左側は左心室と左心房を含む。酸素の少ない血液は、上大静脈と下大静脈から右心房に入り、次に右心室内を通過する。次いで血液は肺循環を介して肺に送り込まれ、そこで酸素を受け取る。次に酸素の多い血液は左心房に入り、左心室内を通過して、そこから大動脈を介して全身循環に送り出される。従って「心臓の右側のAHF」には、右心房および/または右心室がAHFの対象となることを含む。「心臓の左側のAHF」には、左心房および/または左心室がAHFの対象となることを含む。
【0023】
一実施態様では、AHFは、急性非代償性心不全(ADHF);高血圧症に関連するAHF;頻脈症を媒介とするAHF;肺水腫に関連するAHF;心原性ショックAHF;または重度の心原性ショックAHFを含む群、あるいはそれらからなる群から選択される。
【0024】
急性非対償性心不全(ADHF)は、既に心不全を患う個体で、または心不全の素因がある個体で、その個体が新たな心不全の症状および/または徴候、既存の心不全の症状および/または徴候の悪化、かつ/あるいはさらなる心不全の症状および/または徴候の数の急激な増加によって特徴付けできる、短期間での心機能の急速な悪化を示す場合に発生する。特にその関連の症状および徴候は、息切れ、足の腫れ、めまい、ふらつき感、および/または倦怠感である。医療の当業者なら、個体がADHFを患うか否かを識別できる。
【0025】
高血圧症に関連するAHFは、上述のAHFに類似しているが、その主な症状または徴候は高血圧である。医療の当業者なら、個体が高血圧症に関連するAHFを患うか否かを識別できる。
【0026】
頻脈を媒介とするAHFは、上述のAHFに類似しているが、その主な症状または徴候は頻脈である。医療の当業者なら、個体が頻脈を媒介とするAHFを患うか否かを識別できる。
【0027】
肺水腫に関連するAHFは、上述のAHFに類似しているが、その主な症状または徴候は肺水腫である。医療の当業者なら、個体が肺水腫に関連するAHFを患うか否かを識別できる。
【0028】
心原性ショックAHFは、上述のAHFに類似しているが、その主な症状または徴候は心原性ショックである。医療の当業者なら、個体が心原性ショックAHFを患うか否かを識別できる。
【0029】
重度の心原性ショックAHFは、上述のAHFに類似しているが、その主な症状または徴候は重度の心原性ショックである。医療の当業者は、個体が重度の心原性ショックAHFを患っているかどうかを識別できる。
【0030】
好ましい実施態様では、急性非代償性心不全(ADHF)は、急性非代償性慢性心不全(ADCHF)(急性非代償性うっ血性心不全としても知られる)またはうっ血性ADHF、より好ましくは急性非代償性慢性心不全(ADCHF)である。
【0031】
急性非代償性慢性心不全(ADCHF)は、既存の慢性心不全(CHF)を患う個体に発生する。CHFは、個体での心機能が長期間(例えば、少なくとも数ヶ月かつ数年の場合も多い)に亘って徐々に悪化することを特徴とし、これは心不全の症状および/または徴候の段階的な悪化および/または見掛けによって診断ができる。ADCHFは、呼吸困難、浮腫、および/または倦怠感などの症状を特徴とするCHFを患う個体に特に関連性が高い。ADCHFは、CHFを患う個体が短期間に亘って(例えば、数週間から数日に亘って)心機能の急激な悪化を示す場合に発生する。その患者は通常はCHFの治療を受けているために、ADCHFでの予後は特に不良となるが、その治療を受けていても悪化する。医療の当業者なら、個体がADCHFを患うか否かを識別できる。
【0032】
CHF患者は、呼吸困難(息切れ)がなく安静時には安定しかつ臓器機能が悪化しないように十分な心拍出量を確保しているので、AHF(特にADHFおよびADCHF)はCHFとは異なる。逆にAHF(特にADHFおよびADCHF)の患者では、他の症状の中でも特に、安静時でも呼吸困難があり、かつ心機能は不十分である。
【0033】
AHF(特にADHFおよびADCHF)患者に存在するがCHF患者には存在しないその他の症状は、低酸素血症、浮腫の悪化、急激な体重増加、バイオマーカー(BNPやNT-proBNPなど)の上昇(濃度上昇など)、腎機能の悪化(推算糸球体濾過量の悪化によって測定)、低血圧、めまい、および/またはふらつき感である。
【0034】
うっ血性ADHFは、AHFおよびADHFに類似しており、うっ血性ADHFを患う個体は類似の症状を示すと思われる。但しうっ血性ADHFでは、個体は特に体液貯留の影響を受け易く、これにより呼吸困難、倦怠感、浮腫を引き起こす。
【0035】
別の好ましい実施態様では、急性非代償性慢性心不全(ADCHF)は重度のADCHFである。
【0036】
重度のADCHFは、心機能が非常に急速に(例えば、数日から数時間の期間に亘って)悪化しているCHFを患う個体に発生する。重度のADCHFでは、個体は、低血圧、ショック、不整脈、および広範囲に亘る虚血を示すことが特徴である。重度のADCHFを患う個体の死亡率は高く、50%を超えている。患者は通常はCHFの治療を受けているために、ADCHFでの予後は特に不良となるが、その治療を受けていても急速に悪化する。重度のADCHFの患者は、当技術分野で知られている治療法(利尿剤、酸素、現在既存の変力剤および/または血管拡張剤など)で治療されても、生存の可能性は低い。医療の当業者なら、個体が重度のADCHFを患っているか否かを識別できる。
【0037】
一実施態様では、個体はCHFを患っていたことがある。医療の当業者なら、例えばその個体の病歴に基づいて、個体がCHFを患っているか否かを確認できる。状況によっては、その個体は、過去にCHFを患っていた、または診断されていた、および完全に回復した、または完全に回復していたと見做されていた可能性がある。「完全に回復した」とは、その個体にはいずれのCHF症状も無いことを含む。
【0038】
一実施態様では、個体は進行性心不全を患っていたことがある。進行性心不全は、慢性心不全の進行型であるので、進行性慢性心不全と呼ばれることもある。進行性心不全および進行性慢性心不全は、この疾患の境界線となる安定な形態である。AHFの患者とは異なり、進行性心不全または進行性慢性心不全の患者は通常、病院ではなく自宅で治療を受けている。医療の当業者なら、例えば個体の病歴に基づいて、個体が進行性慢性心不全を患っているか否かを確認できる。状況によっては、その個体は、過去に進行性慢性心不全を患っていた、または診断されていた、かつ回復した、または回復していたと見做されていた可能性がある。「回復した」とは、その個体にはいずれの進行性心不全の症状も無いような「完全に回復した」、ならびにその個体で進行性心不全の症状数が低下しかつ/あるいは進行性心不全症状の重症度が低下しているような「部分的に回復した」を含む。他の状況によっては、個体は、AHFの発症または診断の直前に進行性慢性心不全を患っていた、または患うと診断された可能性があり、このことは1種以上のAHF症状の出現の直前に、その個体は1種以上の進行性心不全の症状を有していたことを含む。言い換えれば、進行性慢性心不全はAHFにまで悪化する。個体がさらにAHFを患っていなくとも、本発明の実施態様をまた、現状で進行性心不全を患っている個体の治療に適用してもよいことが分かる。
【0039】
一実施態様では、AHFはADCHFまたは重度のADCHFであり、個体は、約1年以上、例えば約13ヶ月以上;約14ヶ月以上;約15ヶ月以上;約16ヶ月以上;約17ヶ月以上;約18ヶ月以上;約19ヶ月以上;約20ヶ月以上;約21ヶ月以上;約22ヶ月以上;約23ヶ月以上;約2年以上;約25ヶ月以上;約26ヶ月以上;約27ヶ月以上;約28ヶ月以上;約29ヶ月以上;約30ヶ月以上;約31ヶ月以上;約32ヶ月以上;約33ヶ月以上;約34ヶ月以上;約35ヶ月以上;約3年以上;約37ヶ月以上;約38ヶ月以上;約39ヶ月以上;約40ヶ月以上;約41ヶ月以上;約42ヶ月以上;約43ヶ月以上;約44ヶ月以上;約45ヶ月以上;約46ヶ月以上;約47ヶ月以上;約4年以上;約49ヶ月以上;約50ヶ月以上;約51ヶ月以上;約52ヶ月以上;約53ヶ月以上;約54ヶ月以上;約55ヶ月以上;約56ヶ月以上;約57ヶ月以上;約58ヶ月以上;約59ヶ月以上;約5年以上;約66ヶ月以上;約6年以上;約78ヶ月以上;約7年以上;約90ヶ月以上;約8年以上;約102ヶ月以上;約9年以上;約114ヶ月以上;または約10年以上、適切には約2年以上あるいは約3年以上に亘って慢性心不全(CHF)を患っていた。別の実施態様では、AHFはADCHFまたは重度のADCHFであり、個体は、約1年以内;例えば約11ヶ月以内;約10ヶ月以内;約9ヶ月以内;約8ヶ月以内;約7ヶ月以内;約6ヶ月以内;約5ヶ月以内;約4ヶ月以内;約3ヶ月以内;約2ヶ月以内;または約1ヶ月以内の期間に亘って慢性心不全(CHF)を患っていていた。
【0040】
医療の当業者なら、例えば個体の病歴に基づいて、ADCHFまたは重度のADCHFの発症前に、個体がどれ程の期間に亘ってCHFを患っていたかを確認できる。従って、「AHFはADCHFまたは重度のADCHFであり、個体は慢性心不全(CHF)を患っていた」とは、以下の内容を含む:
その個体が、ADCHFまたは重度のADCHFの発症前の一定期間に亘ってCHFを患っていた、あるいはCHFの1種以上の症状を有していたこと;および/または
その個体が、ADCHFまたは重度のADCHFの発症前の一定期間に亘ってCHFと診断されていたこと;および/または
その個体が、ADCHFまたは重度のADCHFの診断前の一定期間に亘ってCHFを患っていた、あるいはCHFの1種以上の症状を有していたこと;および/または
その個体が、ADCHFまたは重度のADCHFの診断前の一定期間に亘ってCHFと診断されていたこと。
【0041】
一実施態様では、個体は過去にAHF、適切にはADCHFを患っていた。医療の当業者なら、例えば個体の病歴に基づいて、その個体が過去にAHFを患ったことがあるか否かを確認できる。状況によっては、その個体は、過去にAHFを患っていた、または診断されていた、かつ回復したあるいは回復していたと見做されていた可能性がある。但し個体が過去にAHFから回復した後に、その個体は現在AHFを再発している。
【0042】
従って、「個体が過去にAHFを患っていた」とは、以下の内容を含む:
その個体が、過去にAHFから完全に回復した(例えば、その個体は過去にはいずれのAHF症状も無く、かつ/あるいはAHFを患うと診断されなくなった)が、現在はその個体は再発している(例えば、その個体は現在では1種以上のAHFの症状を有し、かつ/あるいは再度AHFを患うと診断された);かつ/あるいは
その個体が、過去にAHFから部分的に回復した(例えば、その個体では過去にAHF症状の数が低下し、かつ/あるいはAHF症状の重症度が低下した)が、現在は再発している(例えば、その個体では現在AHF症状の数が増加し、かつ/あるいはAHF症状の重症度が増大した)。
【0043】
一実施態様では、AHFは心筋梗塞には関連していない。
【0044】
心筋梗塞は心臓発作としても知られている。心筋梗塞は、心臓の一部への血流が減少または停止した場合に起こり、これは心臓に損傷を与える。医療の当業者なら、個体が心筋梗塞を患っているか否か、かつAHFが心筋梗塞に関連しているか否かを識別できる。従って「AHFは心筋梗塞に関連していない」とは、AHFが心筋梗塞によって引き起こされていないこと;および/またはAHFの発症または診断が心筋梗塞とは関連していないことを含む。
【0045】
好ましい実施態様では、個体は心筋梗塞を患っていると診断されてなく、かつ/あるいは個体は心筋梗塞を患っている疑いがない。
【0046】
一実施態様では、個体は、約1ヶ月以内;例えば約3週間以内;約2週間以内;約1週間以内;約6日以内;または約5日以内の期間に亘って心筋梗塞を起こしていない。
【0047】
一実施態様では、AHFは新生のAHFではない。別の実施態様では、AHFは新生のAHFである。
【0048】
新生のAHFは、心不全の既往歴のない個体でのAHFであり、その個体が急性の原因(例えば心筋炎)による短期間に亘る心機能の急速な悪化を示す場合に発生する。医療の当業者なら、個体が新生のAHFを患うか否かを識別できる。
【0049】
一実施態様では、グレリン分子の投与後に、個体は、心拍出量の増加;および/または心収縮率の増加;および/または心臓の一回拍出量の増加;および/または心室機能の向上;および/または心室駆出率の増加;および/またはトロポニンIのリン酸化の低下;および/またはカルシウム感受性の増加;および/または細胞内cAMPの低下;および/または腎機能の改善;および/または推算糸球体濾過量(eGFR)の向上;および/または呼吸困難の改善;および/または浮腫の改善;および/またはバイオマーカーの低下;および/または低血圧の減少;および/または心原性ショックの解消;および/またはめまいの減少;および/またはふらつき感の減少;および/または動脈血酸素(AVO2)較差の低下;および/または肺血流量(PBF)の増加;および/または推算全身血管抵抗(eSVR)の低下;および/または肺毛細血管楔入圧の低下;および/または左心室拡張末期圧の低下;および/または左心室拡張末期容積の低下;および/または肺動脈圧の低下;および/または中心静脈圧の低下を含む群、あるいはそれらからなる群からの1種以上のパラメータを示す。
【0050】
「個体が示す」とは、個体の特定のパラメータ(心拍出量など)の変化が検出可能および/または観測可能であること、例えば、グレリン分子の投与後に個体の心拍出量の増加が検出可能および/または観測可能であることを含む。医療の当業者なら、個体が前述のパラメータのいずれかを示すか否かを識別できる。
【0051】
グレリン分子の投与後に個体が示すパラメータのいずれかの変化は、通常はグレリン分子の投与前の同一のパラメータの測定値と比較される。例えば、グレリン分子の投与前の個体の心拍出量と比較した場合に、グレリン分子の投与後の個体内の心拍出量は増加すると思われる。
【0052】
好ましい実施態様では、グレリン分子の投与後に、個体は、心拍出量の増加;および/または動静脈酸素(AVO2)較差の低下;および/または肺血流量(PBF)の増加;および/または推算全身血管抵抗(eSVR)の低下を含む群、あるいはそれらからなる群からの1種以上のパラメータを示す。これらの特定のパラメータは特にAHFに関連するので、グレリンが望ましい効果を発揮していることを示すように個体がそれらのパラメータのいずれかを示す場合には特に関連することになる。より好ましい実施態様では、グレリン分子の投与後に、個体は心拍出量の増加を示す。
【0053】
一実施態様では、グレリン分子は、個体中で1種以上のパラメータの変化を引き起こし、ここで1種以上のパラメータは、心拍出量の増加;および/または心収縮率の増加;および/または心臓の一回拍出量の増加;および/または心室機能の向上;および/または心室駆出率の増加;および/またはトロポニンIのリン酸化の低下;および/またはカルシウム感受性の増加;および/または細胞内cAMPの低下;および/または腎機能の改善;および/またはた推算糸球体濾過量(eGFR)の向上;および/または呼吸困難の改善;および/または浮腫の改善;および/またはバイオマーカーの低下;および/または低血圧の減少;および/または心原性ショックの解消;および/またはめまいの減少;および/またはふらつき感の減少;および/または動脈血酸素(AVO2)較差の低下;および/または肺血流量(PBF)の増加;および/または推算全身血管抵抗(eSVR)の低下;および/または肺毛細血管楔入圧の低下;および/または左心室拡張末期圧の低下;および/または左心室拡張末期容積の低下;および/または肺動脈圧の低下;および/または中心静脈圧の低下を含む群、あるいはそれらからなる群に由来する。
【0054】
「グレリン分子が変化を引き起こす」とは、グレリン分子の投与後に、特定のパラメータが個体中で変化しかつ/あるいは変更されることを含む。医療の当業者なら、グレリン分子が前述のパラメータのいずれかに変化を引き起こすか否かを識別できる。
【0055】
好ましい実施態様では、グレリン分子は、個体中で1種以上のパラメータの変化を引き起こし、ここで1種以上のパラメータは、心拍出量の増加;および/または動静脈酸素(AVO2)較差の低下;および/または肺血流量(PBF)の増加;および/または推算全身血管抵抗(eSVR)の低下を含む群、あるいはそれらからなる群に由来する。好ましい実施態様では、グレリン分子は、心拍出量の増加である個体中の変化を引き起こす。
【0056】
パラメータを測定する方法は、医療の当業者には知られている。
【0057】
一実施態様では、心拍出量は、
心拍出量が、約1.5 L/分以上;例えば約1.6 L/分以上;約1.7 L/分以上;約1.8 L/分以上;約1.9 L/分以上;約2 L/分以上;約2.1 L/分以上;約2.2 L/分以上;約2.3 L/分以上;約2.4 L/分以上;約2.5 L/分以上;約2.6 L/分以上;約2.7 L/分以上;約2.8 L/分以上;約2.9 L/分以上;約3 L/分以上;約3.1 L/分以上;約3.2 L/分以上;約3.3 L/分以上;約3.4 L/分以上;約3.5 L/分以上;約3.6 L/分以上;約3.7 L/分以上;約3.8 L/分以上;約3.9 L/分以上;約4 L/分以上;約4.1 L/分以上;約4.2 L/分以上;約4.3 L/分以上;約4.4 L/分以上;約4.5 L/分以上;約4.6 L/分以上;約4.7 L/分以上;約4.8 L/分以上;約4.9 L/分以上;約5 L/分以上;約5.1 L/分以上;約5.2 L/分以上;約5.3 L/分以上;約5.4 L/分以上;約5.5 L/分以上;約5.6 L/分以上;約5.7 L/分以上;約5.8 L/分以上;約5.9 L/分以上;約6 L/分以上;約6.5 L/分以上;約7 L/分以上;約7.5 L/分以上;約8 L/分以上;約8.5 L/分以上;約9 L/分以上;約9.5 L/分以上;または約10 L/分以上、好ましくは約5.2 L/分以上である場合に増加する;かつ/あるいは
心拍出量が、約0.1 L/分以上;例えば約0.15 L/分以上;約0.2 L/分以上;約0.25 L/分以上;約0.3 L/分以上;約0.35 L/分以上;約0.4 L/分以上;約0.45 L/分以上;約0.5 L/分以上;約0.55 L/分以上;約0.6 L/分以上;約0.65 L/分以上;約0.7 L/分以上;約0.75 L/分以上;約0.8 L/分以上;約0.85 L/分以上;約0.9 L/分以上;約0.95 L/分以上;約1 L/分以上;約1.05 L/分以上;約1.1 L/分以上;約1.15 L/分以上;約1.2 L/分以上;約1.25 L/分以上;約1.3 L/分以上;約1.35 L/分以上;約1.4 L/分以上;約1.45 L/分以上;約1.5 L/分以上;約1.55 L/分以上;約1.6 L/分以上;約1.65 L/分以上;約1.7 L/分以上;約1.75 L/分以上;約1.8 L/分以上;約1.85 L/分以上;約1.9 L/分以上;約1.95 L/分以上;約2 L/分以上;約2.5 L/分以上;約3 L/分以上;約4 L/分以上;または約5 L/分以上、好ましくは約0.5 L/分以上、より好ましくは約1.15 L/分以上増加する場合に増加する;かつ/あるいは
心拍出量が、約5%以上、例えば約6%以上;約7%以上;約8%以上;約9%以上;約10%以上;約11%以上;約12%以上;約13%以上;約14%以上;約15%以上;約16%以上;約17%以上;約18%以上;約19%以上;約20%以上;約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;約95%以上;約100%以上;約105%以上;約110%以上;約115%以上;約120%以上;約125%以上;約130%以上;約135%以上;約140%以上;約145%以上;約150%以上;約155%以上;約160%以上;約165%以上;約170%以上;約175%以上;約180%以上;約185%以上;約190%以上;約195%以上;または約200%以上、より好ましくは約15%以上、さらにより好ましくは約25%以上増加する場合に増加する。
【0058】
心拍出量の測定法の一例は、Innocor(登録商標)装置(Innovision, Odense, Denmark)を使用するなど、不活性ガス再呼吸技術の使用である。その他の技術として、心エコー検査法、フィック法、熱希釈法、および指示薬希釈法が挙げられ、これらは、医療の当業者に知られている技術である。
【0059】
一実施態様では、心拍出量を不活性ガス再呼吸技術を用いて測定する。
【0060】
別の実施態様では、心拍出量を、心エコー検査法、またはフィック法、または熱希釈法、または指示薬希釈法によって測定する。
【0061】
好ましい実施態様では、心拍出量が約5.2 L/分以上である場合に心拍出量は増加する。
【0062】
別の好ましい実施態様では、心拍出量が約0.5 L/分以上、より好ましくは、約1.15 L/分以上増加する場合に心拍出量は増加する。
【0063】
実施態様によっては、心拍出量は、代理のパラメータ、例えば血圧、および/または尿量、および/または強い脈拍、および/または弱い脈拍、および/または(腕および脚などの)温感四肢、および/または(腕および脚などの)冷感四肢、および/または血清クレアチニン濃度、および/または推算糸球体濾過量を用いて測定できる。医療の当業者なら、どのようにこれらの代理のパラメータの測定値を用いて、個体の心拍出量が増加することを実証できるかを分かっている。
【0064】
一実施態様では、心収縮率は、
絶対短縮率の増加が、約2%以上、例えば約3%以上;約4%以上;約5%以上;約6%以上;約7%以上;約8%以上;約9%以上;約10%以上;約11%以上;約12%以上;約13%以上;約14%以上;約15%以上;約16%以上;約17%以上;約18%以上;約19%以上;約20%以上;約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上、好ましくは約3%以上である場合に増加する;かつ/あるいは
相対短縮率の増加が、約20%以上、例えば約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上、好ましくは約42%以上である場合に増加する。
【0065】
用語「絶対短縮率」および「相対短縮率」は、医療の当業者には知られている。絶対短縮率の増加は、(グレリン分子の投与後と投与前などの)前後の短縮率の差になる(例えば、投与後の短縮率-投与前の短縮率)。相対短縮率の増加は、(グレリン分子の投与後と投与前などの)前後の短縮率の差を前の値で割った値になる(例えば(投与後の短縮率-投与前の短縮率)/投与前の短縮率)。
【0066】
好ましい実施態様では、約3%以上の絶対短縮率の増加がある場合に心収縮率が増加する。
【0067】
別の好ましい実施態様では、約42%以上の相対短縮率の増加がある場合に心収縮率が増加する。
【0068】
一実施態様では、心臓の一回拍出量は、
心臓の一回拍出量が、約30 mL以上、例えば約31 mL以上;約32 mL以上;約33 mL以上;約34 mL以上;約35 mL以上;約36 mL以上;約37 mL以上;約38 mL以上;約39 mL以上;約40 mL以上;約41 mL以上;約42 mL以上;約43 mL以上;約44 mL以上;約45 mL以上;約46 mL以上;約47 mL以上;約48 mL以上;約49 mL以上;約50 mL以上;約51 mL以上;約52 mL以上;約53 mL以上;約54 mL以上;約55 mL以上;約56 mL以上;約57 mL以上;約58 mL以上;約59 mL以上;約60 mL以上;約61 mL以上;約62 mL以上;約63 mL以上;約64 mL以上;約65 mL以上;約66 mL以上;約67 mL以上;約68 mL以上;約69 mL以上;約70 mL以上;約71 mL以上;約72 mL以上;約73 mL以上;約74 mL以上;約75 mL以上;約76 mL以上;約77 mL以上;約78 mL以上;約79 mL以上;約80 mL以上;約85 mL以上;約90 mL以上;約95 mL以上;または約100 mL以上、好ましくは約69 mL以上、より好ましくは約79 mL以上である場合に増加する;かつ/あるいは
心臓の一回拍出量が、約3 mL以上、例えば約4 mL以上;約5 mL以上;約6 mL以上;約7 mL以上;約8 mL以上;約9 mL以上;約10 mL以上;約11 mL以上;約12 mL以上;約13 mL以上;約14 mL以上;約15 mL以上;約16 mL以上;約17 mL以上;約18 mL以上;約19 mL以上;約20 mL以上;約25 mL以上;約30 mL以上;約35 mL以上;約40 mL以上;約45 mL以上;または約50 mL以上増加する場合に増加する;かつ/あるいは
心臓の一回拍出量が、約5%以上、例えば約10%以上;約15%以上;約20%以上;約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上、より好ましくは約15%以上、さらにより好ましくは約25%以上増加する場合に増加する。
【0069】
一実施態様では、心臓の一回拍出量は、その一回拍出量が約30 mL~約100 mL、例えば約40 mL~約100 mL;約50 mL~約100 mL;約60 mL~約100 mL;約70 mL~約100 mL;約80 mL~約100 mL;または約90 mL~約100 mLの場合に増加する。
【0070】
好ましい実施態様では、心臓の一回拍出量は、その一回拍出量が約69 mL以上、より好ましくは約79 mL以上である場合に増加する。
【0071】
別の好ましい実施態様では、心臓の一回拍出量は、心臓の一回拍出量が約15%以上、より好ましくは約25%以上増加する場合に増加する。
【0072】
心臓の一回拍出量は、心エコー検査によって測定できる。一実施態様では、心臓の一回拍出量は、心エコー検査によって測定される。
【0073】
心臓の一回拍出量は、1分あたりの心拍出量を1分あたりの心拍数で割り算して計算できる。一実施態様では、心臓の一回拍出量は、1分あたりの心拍出量を1分あたりの心拍数で割り算して計算される。
【0074】
一実施態様では、トロポニンIのリン酸化は、約20%以上、例えば約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上、好ましくは50%以上低下する。
【0075】
一実施態様では、細胞内cAMPは、約20%以上、例えば約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上、好ましくは75%以上低下する。
【0076】
本明細書で検討するように、本発明者らは、グレリンが機能するメカニズムは細胞内cAMPの低下によるものと特定した。従って細胞内cAMPが低下する場合に、それは特に有益なものになる。
【0077】
一実施態様では、心室駆出率は、
絶対率の増加が、約2%以上、例えば約5%以上;約10%以上;約15%以上;約20%以上;約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上、好ましくは約5%以上または約10%以上である場合に増加する;かつ/あるいは
相対率の増加が、約15%以上、例えば約16%以上;約17%以上;約18%以上;約19%以上;約20%以上;約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上、好ましくは約17%以上である場合に増加する。
【0078】
好ましい実施態様では、心室駆出率は、約5%以上、約10%以上の絶対率の増加がある場合に増加する。
【0079】
好ましい実施態様では、心室駆出率は、約25%以上の相対率の増加がある場合に増加する。
【0080】
一実施態様では、心室駆出率は、約20%~約25%の相対率の増加がある場合に増加する。
【0081】
心室駆出率は、心エコー検査によって測定できる。一実施態様では、心室駆出率は心エコー検査によって測定される。
【0082】
用語「絶対率」および「相対率」は、医療の当業者には知られている。絶対率の増加は、(グレリン分子の投与後と投与前などの)前後の百分率の差(例えば、投与後の百分率-投与前の百分率)である。相対率の増加は、(グレリン分子の投与後と投与前などの)前後の差を前の値で割り算した値(例えば、(投与後の百分率-投与前の百分率)/投与前の百分率)である。
【0083】
一実施態様では、推算糸球体濾過量(eGFR)の向上は、約10%以上、例えば約20%以上;約30%以上;約40%以上;約50%以上;約60%以上;約70%以上;約80%以上;または約90%以上の増加である。好ましくは、推算糸球体濾過量(eGFR)の向上は、約30%以上の増加である。
【0084】
一実施態様では、動静脈酸素(AVO2)較差は、約2%以上、例えば約3%以上;約4%以上;約5%以上;約6%以上;約7%以上;約8%以上;約9%以上;約10%以上;約15%以上;約20%以上;約25%以上;約30%以上;約35%以上;約40%以上;約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上、好ましくは約7%以上低下する。
【0085】
一実施態様では、肺血流量(PBF)の水準は、約0.1 L/分以上、例えば約0.15 L/分以上;約0.2 L/分以上;約0.25 L/分以上;約0.3 L/分以上;約0.35 L/分以上;約0.4 L/分以上;約0.45 L/分以上;約0.5 L/分以上;約0.55 L/分以上;約0.6 L/分以上;約0.65 L/分以上;約0.7 L/分以上;約0.75 L/分以上;約0.8 L/分以上;約0.85 L/分以上;約0.9 L/分以上;約0.95 L/分以上;約1 L/分以上;約1.05 L/分以上;約1.1 L/分以上;約1.15 L/分以上;約1.2 L/分以上;約1.25 L/分以上;約1.3 L/分以上;約1.35 L/分以上;約1.4 L/分以上;約1.45 L/分以上;約1.5 L/分以上;約1.55 L/分以上;約1.6 L/分以上;約1.65 L/分以上;約1.7 L/分以上;約1.75 L/分以上;約1.8 L/分以上;約1.85 L/分以上;約1.9 L/分以上;約1.95 L/分以上;または約2 L/分以上、好ましくは約0.8 L/分以上または約1 L/分以上増加する。
【0086】
一実施態様では、推算全身血管抵抗(eSVR)は、約100 dyn*s/cm-5以上、例えば約120 dyn*s/cm-5以上;約140 dyn*s/cm-5以上;約160 dyn*s/cm-5以上;約180 dyn*s/cm-5以上;約200 dyn*s/cm-5以上;約220 dyn*s/cm-5以上;約240 dyn*s/cm-5以上;約260 dyn*s/cm-5以上;約280 dyn*s/cm-5以上;約300 dyn*s/cm-5以上;約320 dyn*s/cm-5以上;約340 dyn*s/cm-5以上;約360 dyn*s/cm-5以上;約380 dyn*s/cm-5以上;約400 dyn*s/cm-5以上;約420 dyn*s/cm-5以上;約440 dyn*s/cm-5以上;約460 dyn*s/cm-5以上;約480 dyn*s/cm-5以上;または約500 dyn*s/cm-5以上、好ましくは約300 dyn*s/cm-5以上低下する。
【0087】
全身血管抵抗(eSVR)は、医療の当業者には知られている測定値である。これは、血液が組織に到達するのに克服すべき抵抗の測定値である。これは、(動脈圧-静脈圧)を心拍出量で割ることで計算できる。
【0088】
一実施態様では、AHFは、慢性心不全の自発的悪化;および/または感染症;および/またはアレルギー反応;および/または血栓;および/または外科手術;および/または心血管疾患;および/または肺疾患;および/または心筋症;および/または睡眠時無呼吸症;および/またはアルコール摂取;および/または脱法ドラッグ摂取;および/または貧血症;および/または脂質異常症;および/または甲状腺機能亢進症;および/またはパジェット病;および/または高血圧症(肺高血圧症など);および/または処方薬の摂取;および/または喫煙;および/または高血圧;および/または腎機能障害;および/または糖尿病;および/または先天性心疾患;および/または選択生活様式;および/または不整脈;および/または頻脈;および/または徐脈;および/または炎症;および/または毒素;および/または自己免疫疾患;および/または浸潤性疾患;および/または結合組織疾患;および/または代謝性疾患;および/または内分泌疾患;および/または老化;および/または遺伝性遺伝子変異;および/または妊娠を含む群、あるいはそれらからなる群の1種以上の因子に関連している。
【0089】
医療の当業者なら、AHFが上述の因子(例えば感染症)に関連しているか否かを識別できる。従って、「AHFが関連している」とは、AHFは上述の因子によって引き起こされる;および/またはAHFの発症または診断は上述の因子に関連していることを含む。
【0090】
好ましい実施態様では、AHFは、慢性心不全の自発的な悪化;および/または感染症;および/または糖尿病;および/または選択生活様式(肥満を起こす、および/または座りがちな生活様式など)を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上の因子に関連している:
【0091】
別の好ましい実施態様では、AHFは高血圧症に関連している。
【0092】
一実施態様では、感染症は、細菌感染症(細菌性肺炎および/または細菌性敗血症など)、および/またはウイルス感染症(ウイルス性肺炎および/またはウイルス性敗血症など)、および/または真菌感染症、および/または原生動物感染症である。
【0093】
一実施態様では、外科手術は、心臓手術;および/または心臓バイパス手術(逆方向動脈の心臓バイパス手術など);および/または血管形成術;および/または心臓弁修復手術;および/または心臓移植手術;および/またはデバイス埋込手術(場合によっては、デバイスはペースメーカー、および/または心臓ポンプ、および/または除細動器である)を含む群、あるいはそれらからなる群に由来する。
【0094】
一実施態様では、心血管疾患は、冠状心臓病;および/または弁膜症;および/または冠状動脈疾患;および/またはアテローム性動脈硬化症;および/または脳卒中;および/または末梢血管疾患を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上である。
【0095】
一実施態様では、肺疾患は、喘息および/または慢性閉塞性肺疾患(COPD)である。
【0096】
一実施態様では、処方薬は、糖尿病薬;および/またはカルシウムチャネル遮断薬;および/または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID);および/またはチアゾリジンジオンを含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上である。
【0097】
一実施態様では、選択生活様式は、貧弱な食生活;および/または運動不足;および/または太り過ぎ;および/または肥満;および/または座りがちの生活様式を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上である。
【0098】
一実施態様では、甲状腺機能亢進症は甲状腺中毒症に関連している。
【0099】
一実施態様では、AHFは、胸部痛;および/または咳;および/またはショック症(心原性ショックなど);および/または高血圧;および/または乏尿症;および/または無尿症;および/または倦怠感;および/または息切れ(呼吸困難);および/または低酸素血症;および/または急速な呼吸(頻呼吸);および/または頻脈;および/または虚血;および/または浮腫(浮腫の悪化など);および/または腎機能障害(腎機能の悪化など);および/または低血圧;および/または臓器不全(肝不全および/または腎不全など);および/または冷感四肢;および/または四肢麻痺;および/または筋肉疲労;および/または吐き気;および/または嘔吐;および/または体重減少(食欲不振など);および/または肺水腫;および/または下半身の不快感;および/または末梢部の腫れ;および/または低灌流;および/または下半身の腫れ;および/または心臓の腫れ;および/または体重増加(突然の体重増加など);および/または体重減少;および/または悪液質;および/または隆起型頸部血管(隆起型頸部静脈および/または頸部静脈の膨満など);および/または肝腫大;および/またはめまい;および/または失神(卒倒としても知られる);および/または精神状態の変化(例えば、不安および/または混乱および/またはうつ病);および/または食欲不振;低血圧症;および/または不整脈;および/または睡眠困難;および/または平座時の不快感;および/または睡眠時無呼吸症を含む群、あるいはそれらからなる群の症状のうちの1種以上を含む。
【0100】
好ましい実施態様では、AHFは、息切れ(呼吸困難、例えば安静時の呼吸困難);および/または低酸素血症;および/または浮腫(浮腫の悪化など);および/または突然の体重増加;および/または腎機能障害(腎機能の悪化など);および/または低血圧;および/またはめまい;および/または心原性ショックを含む群、あるいはそれらからなる群の症状のうちの1種以上を含む。
【0101】
別の好ましい実施態様では、AHFは、息切れ(呼吸困難);および/または平座時の不快感;および/または呼吸促拍;および/または不安;および/または低酸素血症;および/または高血圧を含む群、あるいはそれらからなる群の症状のうちの1種以上を含む。
【0102】
さらなる別の好ましい実施態様では、AHFは、浮腫(例えば浮腫の悪化);体重の増加;および/または隆起型頸部静脈;および/または肝腫大を含む群、あるいはそれらからなる群の症状のうちの1種以上を含む。
【0103】
一実施態様では、下半身は、足;および/または足首;および/または脚(下肢および/または上肢など);および/または腰を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上を含む。
【0104】
一実施態様では、突然の体重増加は、
1日で約1ポンド以上、例えば1日で約2ポンド以上;約3ポンド以上;約4ポンド以上;約5ポンド以上;約6ポンド以上;約7ポンド以上;約8ポンド以上;約9ポンド以上;または約10ポンド以上、好ましくは1日で2ポンド以上または1日で3ポンド以上の体重増加を含む;かつ/あるいは
1週間で約1ポンド以上、例えば1週間で約2ポンド以上;約3ポンド以上;約4ポンド以上;約5ポンド以上;約6ポンド以上;約7ポンド以上;約8ポンド以上;約9ポンド以上;約10ポンド以上;約11ポンド以上;約12ポンド以上;約13ポンド以上;約14ポンド以上;約15ポンド以上;約16ポンド以上;約17ポンド以上;約18ポンド以上;約19ポンド以上;約20ポンド以上;約21ポンド以上;約22ポンド以上;約23ポンド以上;約24ポンド以上;約25ポンド以上;約26ポンド以上;約27ポンド以上;約28ポンド以上;約29ポンド以上;または約30ポンド以上、好ましくは1週間で5ポンド以上の体重増加を含む。
【0105】
好ましい実施態様では、突然の体重増加は、1日で2ポンド以上の体重の増加を含む。
【0106】
別の好ましい実施態様では、突然の体重増加は、1日で3ポンド以上の体重の増加を含む。
【0107】
さらなる別の好ましい実施態様では、突然の体重増加は、1週間で5ポンド以上の体重の増加を含む。
【0108】
一実施態様では、息切れ(呼吸困難)は、安静時の息切れ;および/または歩行時の息切れ;および/または横臥時の息切れ;および/または労作性呼吸困難;および/または起座呼吸;および/または発作性呼吸困難;および/または夜間呼吸困難を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上である。
【0109】
一実施態様では、低血圧は、約40 mmHg以下、例えば約45mmHg以下;約50 mmHg以下;約55 mmHg以下;約60 mmHg以下;約65 mmHg以下;約70 mmHg以下;約75 mmHg以下;約80 mmHg以下;約85 mmHg以下;約90 mmHg以下;約95 mmHg以下;約100 mmHg以下;約105 mmHg以下;約110 mmHg以下;約115 mmHg以下;または約120 mmHg以下、好ましくは約90 mmHg以下の収縮期血圧である。
【0110】
一実施態様では、低血圧は、約40 mmHg~約120 mmHgの収縮期血圧である。
【0111】
一実施態様では、心原性ショックは、
約45 mmHg以下、例えば約50 mmHg以下;約55 mmHg以下;約60 mmHg以下;約65 mmHg以下;約70 mmHg以下;約75 mmHg以下;約80 mmHg以下;約85 mmHg以下;約90 mmHg以下;約95 mmHg以下;約100 mmHg以下、好ましくは約90 mmHg以下の血圧;および/または
約3 L/分/m2以下、例えば約2.5 L/分/m2以下;約2 L/分/m2以下;約1.5 L/分/m2以下;または約1 L/分/m2以下、好ましくは約2.5 L/分/m2以下の心係数;および/または
約5 mmHg以上、例えば約10 mmHg以上;約15 mmHg以上;約20 mmHg以上;約25 mmHg以上;または約30 mmHg以上、好ましくは約15 mmHg以上または約16 mmHg以上の楔入圧(肺毛細血管楔入圧など);および/または
冷感四肢(例えば、冷たいつま先および/または冷たい指);および/または
乏尿症;および/または
無尿症を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上に関連する。
【0112】
好ましい実施態様では、心原性ショックは、約90 mmHg以下の血圧に関連し、かつ約2.5 L/分/m2以下の心係数;および/または約15 mmHg以上の楔入圧;冷感四肢;および/または乏尿症;および/または無尿症を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上に関連する。
【0113】
一実施態様では、虚血は、1種以上の器官、例えば、心臓;および/または脳;および/または腎臓;および/または胃腸管;および/または肝臓を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1つ以上の器官で起こり、適切には心臓で起こる。
【0114】
虚血は、不十分な血流により起こる可能性があり、心臓の圧送が不十分であるか、または肺系の閉塞により起こることがある。
【0115】
一実施態様では、AHFはうっ血性ADHFであり、末梢部の腫れおよび/または息切れの症状を含む。
【0116】
一実施態様では、AHFは、低血圧に関連するAHFであり、息切れ;および/または精神状態の変化;および/または乏尿症;および/または無尿症;および/または低血圧症を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上の症状を含む。
【0117】
一実施態様では、AHFは、肺水腫に関連するAHFであり、息切れ;および/または急速な呼吸;および/または頻脈;および/または肺水腫を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上の症状を含む。
【0118】
一実施態様では、AHFは、心原性ショックによるAHFであり、低血圧症;および/または低灌流;および/または乏尿症;および/または心原性ショック;および/または精神状態の変化;および/または無尿症を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上の症状を含む。
【0119】
一実施態様では、AHFは、重度の心原性ショックによるAHFであり、低血圧症;および/または低灌流;および/または無尿症;および/または乏尿症;および/または重度の心原性ショック;および/または精神状態の変化を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上の症状を含む。
【0120】
一実施態様では、AHFは、心臓の右側のAHFであり、浮腫および/または隆起型頸部血管の症状を含む。
【0121】
一実施態様では、AHFは重度のADCHFであり、低血圧;および/またはショック;および/または不整脈;および/または広範囲の虚血を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上の症状を含む。
【0122】
一実施態様では、1種以上の症状は、約1ヶ月以内、例えば約3週間以内;約2週間以内;約7日以内;約6日以内;約5日以内;約4日以内;約3日以内;約2日以内;または約1日以内の期間、好ましくは約7日以内、より好ましくは約7日~約1日の期間に亘って発症する。
【0123】
「1種以上の症状が一定期間に亘って発症する」とは、その期間に亘って症状の数が増加すること、および/または症状の重症度が増大することを含む。
【0124】
一実施態様では、個体は、X線検査;および/または血液検査;および/または心電図(ECG);および/または個体の病歴追跡;および/または陽電子放出断層撮影(PET)走査;および/またはマルチゲート収集(MUGA)走査;および/またはシンチ撮影;および/または心エコー図;および/または血管造影;および/または血行動態測定;および/またはコンピューター断層撮影(CT)走査;および/または症状の医学診査;および/またはバイオマーカー(血清ナトリウム利尿ペプチドおよび/または血漿ナトリウム利尿ペプチドなど)測定;および/または磁気共鳴画像(MRI)走査を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上の手順を用いてAHFを患うと診断される。
【0125】
医療の当業者なら、上述の手順を用いてAHFを患う個体を診断する方法が分かっている。例えば、X線を用いて、心臓の肥大および肺や胸部空間の体液を検出できる。ECGを用いて、虚血、頻脈、徐脈、および/または不整脈を検出できる。PET走査、MUGA走査、シンチ撮影、心エコー図、血管造影、血行動態的評価、CT走査、および/またはMRI走査を用いて、心拍出量、肺血流量、一回拍出量、駆出率、心収縮率、および/または心臓損傷を検出(かつ/あるいは測定かつ/あるいは定量)できる。
【0126】
好ましい実施態様では、個体は、個体の病歴追跡;および/または症状の医学診査;および/または心エコー図;および/または血清ナトリウム利尿ペプチド測定を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上の手順を用いて、AHFを患うと診断される。
【0127】
一実施態様では、バイオマーカーは、血清ナトリウム利尿ペプチド;および/またはsST2心臓バイオマーカー;および/または中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM);および/または乳酸塩を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上であり、好ましくは血清ナトリウム利尿ペプチドである。好ましくは、その個体は、血清および/または血漿ナトリウム利尿ペプチド;および/またはsST2心臓バイオマーカー;および/または中央領域プロアドレノメデュリン(MR-proADM);および/または乳酸塩のうちの1つ以上のバイオマーカーが上昇している場合に、AHFを患うと診断される。
【0128】
バイオマーカーが「上昇している」とは、個体内のバイオマーカーが、AHFを患わない個体で予測されるよりも高いことを意味する。医療の当業者なら、これらのバイオマーカーを検出する方法、およびそれらのバイオマーカーのどの程度の濃度を上昇と見做すのかが分かっている(例えば、Ponikowski 2016, ESC HF guidelines, European Heart Journalに基づく)。
【0129】
一実施態様では、血清ナトリウム利尿ペプチドは、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP);および/またはN末端プロB型ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP);および/または中央領域プロ心房性ナトリウム利尿ペプチド(MR-proANP)を含む。
【0130】
一実施態様では、個体は、
BNPが、約50 ng/L以上、例えば約60 ng/L以上;約70 ng/L以上;約80 ng/L以上;約90 ng/L以上;約100 ng/L以上;約110 ng/L以上;約120 ng/L以上;約130 ng/L以上;約140 ng/L以上;または約150 ng/L以上;または約160 ng/L以上;または約170 ng/L以上;または約180 ng/L以上;または約190 ng/L以上;または約200 ng/L以上、または約250 ng/L以上、または約300 ng/ L以上、好ましくは約100 ng/L以上である場合にAHFを患うと診断され;かつ/あるいは
NT-proBNPが、約250 ng/ L以上、例えば約260 ng/L以上;約270 ng/L以上;約280 ng/L以上;約290 ng/L以上;約300 ng/L以上;約310 ng/L以上;約320 ng/L以上;約330 ng/L以上;約340 ng/L以上;または約350 ng/L以上;または約360 ng/L以上;または約370 ng/L以上;または約380 ng/L以上;または約390 ng/L以上;または約400 ng/L以上;または約425 ng/L以上;または約450 ng/L以上;または約500 ng/ L以上、好ましくは約300 ng/L以上である場合にAHFを患うと診断される。
【0131】
好ましい実施態様では、BNPが約100 ng/L以上の場合および/またはNT-proBNPが約300 ng/L以上の場合に、個体はAHFを患うと診断される。
【0132】
一実施態様では、MR-proANPが約80 pmol/L以上、例えば約90 pmol/L以上;約100 pmol/L以上;約110 pmol/L以上;約120 pmol/L以上;約130 pmol/L以上;約140 pmol/L以上;または約150 pmol/L以上、好ましくは約120 pmol/L以上である場合に、個体はAHFを患うと診断される。
【0133】
一実施態様では、血行動態測定は、収縮期血圧の測定;および/または心係数の測定;および/または肺毛細血管楔入圧の測定を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上である。
【0134】
肺毛細血管楔入圧は、肺動脈カテーテルによって測定できる。一実施態様では、肺毛細血管楔入圧は、肺動脈カテーテルによって測定される。
【0135】
一実施態様では、血行動態測定は、収縮期血圧の測定であり、収縮期血圧は約180 mmHg以上である。
【0136】
一実施態様では、血行動態測定は、収縮期血圧の測定であり、収縮期血圧は約90 mmHg以下である。
【0137】
別の実施態様では、血行動態測定は、収縮期血圧の測定であり、収縮期血圧は、約90 mmHg~約180 mmHgである。
【0138】
一実施態様では、血行動態測定は心係数の測定であり、心係数は、約5 L/分/m2以下、例えば約4.5 L/分/m2以下;約4 L/分/m2以下;約3.5 L/分/m2以下;約3 L/分/m2以下;約2.5 L/分/m2以下;約2 L/分/m2以下;約1.5 L/分/m2以下;または約1 L/分/m2以下であり、好ましくは約2 L/分/m2以下または約1.8 L/分/m2以下である。
【0139】
一実施態様では、血行動態測定は、肺毛細血管楔入圧の測定であり、肺毛細血管楔入圧は、約10 mmHg以上、例えば約11 mmHg以上;約12 mmHg以上;約13 mmHg以上;約14 mmHg以上;約15 mmHg以上;約16 mmHg以上;約17 mmHg以上;約18 mmHg以上;約19 mmHg以上;約20 mmHg以上;約25 mmHg以上;約30 mmHg以上;約35 mmHg以上;または約40 mmHg以上であり、好ましくは約15 mmHg以上である。
【0140】
一実施態様では、グレリン分子の投与後に、個体は、心拍数の増加;および/または頻脈;および/または血圧の低下;および/または低血圧;および/または酸素要求の増加;および/または虚血;および/または血漿トロポニンTの増加;および/または心不整脈;および/または影響を受けたカルシウム過渡応答を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上のパラメータを示さない。医療の当業者は、これらのパラメータを測定する方法を知っている。例えば、心拍数は、脈拍触診、心電図(ECG)、または遠隔測定を用いて測定できる。血圧は、動脈カフまたは動脈ラインを用いて測定できる。ここに説明するように、虚血は、特にBCGを用いて測定できる。虚血は、胸部痛および/または胸部圧迫などの臨床的症状、ならびに心筋傷害バイオマーカー(トロポニンTおよび/またはトロポニンIなど)の増加を用いて識別できる。
【0141】
「個体が示さない」とは、個体の特定のパラメータ(心拍数など)の変化が検出かつ/あるいは観測できず、かつ/あるいはこれは臨床的に意味があり、例えばグレリン分子の投与後に、個体の心拍数の増加が検出も観測もできないことを含む。医療の当業者は、個体がいずれの前述のパラメータをも示さないことを識別できる。
【0142】
グレリン分子の投与後に個体が示さないパラメータの任意の変化は、通常は、グレリン分子の投与前の同じパラメータの測定値と比較される。例えば、グレリン分子の投与前の個体の心拍数と比較した場合に、グレリン分子の投与後の個体の心拍数は増加しない。
【0143】
好ましい実施態様では、グレリン分子の投与後に、個体は、低血圧;および/または虚血;および/または心不整脈;および/または頻脈を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上を示さない。より好ましい実施態様では、グレリン分子の投与後に、個体は、低血圧;および/または虚血;および/または心不整脈を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上を示さない。これらの特定のパラメータは、変力作用によって引き起こされると予測される、AHFの患者にとって特に問題のある副作用である。従って、それらをグレリンが引き起こさないのなら特に有益である。
【0144】
一実施態様では、グレリン分子は、個体中の1種以上のパラメータに変化を引き起こさず、この1種以上のパラメータは、心拍数の増加;および/または頻脈;および/または血圧の低下;および/または低血圧;および/または酸素要求の増加;および/または虚血;および/または血漿トロポニンTの増加;および/または心不整脈;および/または影響を受けたカルシウム過渡応答を含む群、あるいはそれらからなる群に由来する。
【0145】
「グレリン分子は変化を引き起こさない」とは、グレリン分子の投与後に特定のパラメータが個体中で変化しかつ/あるいは変更されないことを含む。医療の当業者なら、グレリン分子がいずれの前述のパラメータでも変化を引き起こさないか否かを識別できる。
【0146】
好ましい実施態様では、グレリン分子は、個体中の1種以上のパラメータに変化を引き起こさず、この1種以上のパラメータは、低血圧;および/または虚血;および/または心不整脈;および/または頻脈を含む群、あるいはそれらからなる群に由来する。より好ましい実施態様では、グレリン分子は、個体中の1種以上のパラメータの変化を引き起こさず、この1種以上のパラメータは、低血圧;および/または虚血;および/または心不整脈を含む群、あるいはそれらからなる群に由来する。
【0147】
パラメータを測定する方法は、医療の当業者には知られている。
【0148】
一実施態様では、心拍数は、
約5心拍/分以上、例えば約10心拍/分以上;約15心拍/分以上;約20心拍/分以上;約25心拍/分以上;約30心拍/分以上;約35心拍/分以上;または約40心拍/分以上増加し、かつ/あるいは
約100心拍/分以上、例えば約105心拍/分以上;約110心拍/分以上;約115心拍/分以上;約120心拍/分以上;約125心拍/分以上;約130心拍/分以上;約135心拍/分以上;または約140心拍/分以上である。
【0149】
一実施態様では、頻脈は、
約10心拍/分以上、例えば15心拍/分以上;約20心拍/分以上;約25心拍/分以上;約30心拍/分以上;約35心拍/分以上;または約40心拍/分以上、好ましくは約20心拍/分以上の心拍数の増加であり、かつ/あるいは
約100心拍/分以上、例えば約110心拍/分以上;115心拍/分以上;約120心拍/分以上;約125心拍/分以上;約130心拍/分以上;約135心拍/分以上;または約140心拍/分以上、好ましくは約100心拍/分以上の心拍数である。
【0150】
一実施態様では、頻脈は、持続性の心室性頻脈および/または非持続性の心室性頻脈である。
【0151】
一実施態様では、血圧は、約5 mmHg以上、例えば約10 mmHg以上;約15 mmHg以上;約20 mmHg以上;約25 mmHg以上;約30 mmHg以上;約35 mmHg以上;約40 mmHg以上;約45 mmHg以上;約50 mmHg以上;約55 mmHg以上;約60 mmHg以上;約65 mmHg以上;約70 mmHg以上;約75 mmHg以上;約80 mmHg以上;約85 mmHg以上;約90 mmHg以上;約95 mmHg以上;約100 mmHg以上、好ましくは約20 mmHg以上、より好ましくは20 mmHg~80 mmHg低下する。好ましい実施態様では、血圧の低下は、個体の開始血圧とは関係ない。
【0152】
一実施態様では、低血圧は、約90 mmHg以下、例えば約85 mmHg以下;約80 mmHg以下;約75 mmHg以下;約70 mmHg以下;約65 mmHg以下;約60 mmHg以下;約55 mmHg以下;約50 mmHg以下、好ましくは約80 mmHg以下の血圧である。
【0153】
一実施態様では、心不整脈は、心室性不整脈;上室性不整脈;異所性心房性頻脈;心房粗動;洞性徐脈;房室ブロック(AVブロック);心房細動を含む群、あるいはそれらからなる群から選択される。
【0154】
一実施態様では、虚血は、心電図(ECG)の変化および/または血漿トロポニンTの増加を含む。
【0155】
一実施態様では、心電図(ECG)の変化は、ST上昇;および/またはST降下;および/またはT波の変化を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上を含む。医療の当業者なら、ECGでのこれらの変化を如何に解釈するか、かつそれらが個体の診断および/または予後において何を表すかを分かっている。
【0156】
一実施態様では、血漿トロポニンTは、約40%以上、例えば約45%以上;約50%以上;約55%以上;約60%以上;約65%以上;約70%以上;約75%以上;約80%以上;約85%以上;約90%以上;または約95%以上;または約100%以上;または約110%以上;または約120%以上;または約130%以上;または約150%以上;または約200%以上;または約250%以上;または約300%以上;または約400%以上;または約500%以上、好ましくは約100%以上増加する。
【0157】
一実施態様では、カルシウム過渡応答は、カルシウム過渡応答の振幅に変化がないことを含む。
【0158】
一実施態様では、グレリン分子は、修飾グレリン;および/またはグレリン融合分子;および/またはグレリン断片;および/またはグレリン変異体;および/またはグレリン誘導体;および/または野生型グレリンを含む群、あるいはそれからなる群のうちの1種以上を含む。
【0159】
グレリン(レノモレリン(INN)としても知られている)は、分子量が約3,371 g/モルである28個のアミノ酸のペプチドであり、ヒトではそれはGHRL遺伝子によってコードされている。グレリンは、消化管内のグレリン作動性細胞によって産生されるペプチドホルモンであり、中枢神経系での神経ペプチドとして機能する。グレリンは、グレリン/成長ホルモン分泌促進物質受容体(GHS-R)に結合する。血漿中のグレリンの半減期は約24~30分である。正常なヒト中の濃度は、総グレリンに対して100~300 pmol/L(300~900 ng/L)と種々の形で報告されている。アシルグレリンに関するデータは限られているが、本発明者らは最近、41人の健康な肥満でない成人でのアシルグレリンを測定したが、空腹時で平均±標準偏差は118±14 ng/L、5~95番目の百分位は27~328 ng/Lであり、260 kcalの混合食の摂取後60分での最低濃度は80±12 ng/L、5~95番目の百分位は21~293 ng/Lであった。グレリンは、例えば、Bachem社(Bubendorf, Switzerland)から市販されている。Bachem社から入手できる特定のグレリン製品は、Clinalfaという商標名を持つ合成アシル化ヒトグレリンである。
【0160】
グレリンは下記のアミノ酸配列を有する:
Gly-Ser-Ser(オクタノイル)-Phe-Leu-Ser-Pro-Glu-His-Gln-Arg-Val-Gln-Gln-Arg-Lys- Glu-Ser-Lys-Lys-Pro-Pro-Ala-Lys-Leu-GIn-Pro-Arg(配列番号1)。
【0161】
一実施態様では、グレリン分子は、グレリンホルモン分泌促進物質受容体(GHS-R)に特異的に結合し、かつ/あるいはGHS-Rを活性化する。
【0162】
「修飾グレリン分子」には、誘導体化グレリン分子などの化学修飾されたグレリン分子が含まれる。1種以上のアミノ酸の化学的誘導体は、官能性側基との反応によって得ることができる。そのような誘導体化分子には、例えば、遊離アミノ基が誘導体化されてアミン塩酸塩、p-トルエンスルホニル基、カルボキシベンゾキシ基、f-ブチルオキシカルボニル基、クロロアセチル基、またはホルミル基を形成する分子が含まれる。遊離カルボキシル基を誘導体化して、塩、メチルエステルおよびエチルエステル、または他種のエステルおよびヒドラジドを形成してもよい。遊離ヒドロキシル基を誘導体化して、O-アシル誘導体またはO-アルキル誘導体を形成してもよい。また化学誘導体として、20個の標準アミノ酸の天然起源のアミノ酸誘導体を含むペプチドを含む。例えば、プロリンを4-ヒドロキシプロリンに代えてもよく、リシンを5-ヒドロキシリシンに代えてもよく、ヒスチジンを3-メチルヒスチジンに代えてもよく、セリンをホモセリンに代えてもよく、リジンをオルニチンに代えてもよい。誘導体にはまた、必要な活性が維持されている限り、1つ以上の付加または欠失を含むペプチドを含んでもよい。含まれるその他の修飾は、アミド化、アミノ末端アシル化(例えばアセチル化またはチオグリコール酸アミド化)、(例えばアンモニアまたはメチルアミンによる)末端カルボキシルアミド化、および類似の末端修飾である。
【0163】
例えば、本明細書に記載の修飾グレリン分子は、アミノ酸残基がペプチド(-CO-NH-)結合によって連結される分子だけでなく、ペプチド結合が逆になっている分子も含む。このようなレトロ-インベルソペプチド模倣物は、例えばMeziere et al. (1997) J. Immunol. 159, 3230-3237に記載の当技術分野で知られている方法で生成されてもよく、この開示は参照により本明細書に組み込まれる。CO-NHペプチド結合に代えてNH-CO結合を含むこのようなレトロ-インベルソペプチドは、タンパク質分解に対して遥かに耐性が高い。あるいは、本発明のポリペプチドは、1種以上のアミノ酸残基が通常のアミド結合に代えて-y(OH2NH)-結合によって連結されているペプチド模倣化合物でもよい。
【0164】
ポリペプチドは、例えばアミド化によって、体外タンパク質分解消化に対する感受性を低下させるのを助けるように、そのN末端またはC末端で都合よく阻害され得ることが分かっている。
【0165】
上述のように、D-アミノ酸およびN-メチルアミノ酸などの様々なコードされていないまたは修飾されたアミノ酸を用いて、本発明のグレリン分子を修飾してもよい。さらに推測される生体活性構造は、ラクタムまたは他種の架橋の環化または組込みなどの共有結合修飾によって安定化されてもよい。二硫化物、硫化物、およびアルキレン架橋を含む環状ホモデチックペプチドおよび環状ヘテロデチックペプチドの合成方法は、米国特許第5,643,872号に開示されている。環化方法の他の例は、米国特許第6,008,058号に説明かつ開示されており、これら関連する開示文書は、参照により本明細書に組み込まれる。環状安定化ペプチド模倣化合物の合成へのさらなる手法は、閉環メタセシス(RCM)である。
【0166】
要約すると、末端修飾は周知のように、プロテイナーゼ消化により感受性を低減し、従って、溶液中、特にプロテアーゼが存在し得る体液中でのペプチドの半減期を延長するのに有用である。ポリペプチド環化はまた有用な修飾であり、環化によって形成される安定構造を理由として好ましく、かつ環状ペプチドについて観察される生体活性の観点で好ましい。
【0167】
一実施態様では、修飾グレリンは、アシル化グレリン分子である。アシル化グレリン分子は、活性化グレリン分子またはオクタノイル化グレリン分子と呼ばれることもある。
【0168】
「グレリン断片」には、GHS-Rに特異的に結合する、かつ/あるいはGHS-Rを活性化する、かつ/あるいはグレリンと相互作用する他の受容体に特異的に結合する、かつ/あるいはグレリンと相互作用する他の受容体を活性化するグレリン断片などの機能的グレリン断片が含まれる。一実施態様では、この断片は、野生型グレリン分子の約5個以上のアミノ酸、例えば野生型グレリン分子の約6個以上のアミノ酸;約7個以上のアミノ酸;約8個以上のアミノ酸;約9個以上のアミノ酸;約10個以上のアミノ酸;約11個以上のアミノ酸;約12個以上のアミノ酸;約13個以上のアミノ酸;約14個以上のアミノ酸;約15個以上のアミノ酸;約16個以上のアミノ酸;約17個以上のアミノ酸;約18個以上のアミノ酸;約19個以上のアミノ酸;約20個以上のアミノ酸;約21個以上のアミノ酸;約22個以上のアミノ酸;約23個以上のアミノ酸;約24個以上のアミノ酸;約25個以上のアミノ酸;約26個以上のアミノ酸;または約27個以上のアミノ酸を含む。
【0169】
「野生型グレリン」には、28個のアミノ酸のヒトグレリン分子などの生物内に内因的に見られるグレリン分子のアミノ酸配列を有するグレリン分子が含まれる。一実施態様では、野生型グレリン分子は、齧歯動物(例えば、マウス、および/またはラット、および/またはハムスター、および/またはモルモット、および/またはアレチネズミ、および/またはウサギ)の野生型グレリン分子;および/またはイヌ科動物(例えばイヌ)の野生型グレリン分子;および/またはネコ科動物(例えばネコ)の野生型グレリン分子;霊長類(例えば、ヒト、および/またはサル、および/または類人猿)の野生型グレリン分子;および/またはウマ科動物(例えばウマ)の野生型グレリン分子;および/またはウシ科動物(例えばウシ)の野生型グレリン分子;および/またはブタ科動物(例えばブタ)の野生型グレリン分子を含む群、あるいはそれらからなる群からの1種であり、好ましくはヒトの野生型グレリン分子、より好ましくは28個のアミノ酸を有するヒトの野生型グレリン分子である。
【0170】
「グレリン融合分子」には、他のポリペプチドおよび/またはタンパク質および/またはペプチドに融合する(修飾グレリン、および/またはグレリン断片、および/またはグレリン変異体、および/またはグレリン誘導体、および/または野生型グレリンなどの)グレリン分子が含まれる。例えばグレリン分子は、内部に挿入された、かつ/あるいはN末端および/またはC末端に挿入された1種以上の追加のアミノ酸を含んでもよい。
【0171】
「グレリン変異体」には、保存的または非保存的のいずれかの挿入、欠失、および/または置換を含む野生型グレリン分子が含まれる。特に、その変更がグレリン分子の活性を実質的に変化させないポリペプチドの変異体が含まれる。特に、その変更がGHS-Rへの結合特異性および/またはGHS-Rの活性化を実質的に変化させないグレリン変異体がまた含まれる。一実施態様では、グレリン変異体は、野生型グレリン分子に対して約5%以上の同一性、例えば野生型グレリン分子に対して約10%以上の同一性;約15%以上の同一性;約20%以上の同一性;約25%以上の同一性;約30%以上の同一性;約35%以上の同一性;約40%以上の同一性;約45%以上の同一性;約50%以上の同一性;約55%以上の同一性;約60%以上の同一性;約65%以上の同一性;約70%以上の同一性;約75%以上の同一性;約80%以上の同一性;約85%以上の同一性;約86%以上の同一性;約87%以上の同一性;約88%以上の同一性;約89%以上の同一性;約90%以上の同一性;約91%以上の同一性;約92%以上の同一性;約93%以上の同一性;約94%以上の同一性;約95%以上の同一性;約96%以上の同一性;約97%以上の同一性;約98%以上の同一性;または約99%の同一性を含み、かつ/あるいは野生型グレリン分子の約5個以上の連続したアミノ酸、例えば約6個以上の連続したアミノ酸;約7個以上の連続したアミノ酸;約8個以上の連続したアミノ酸;約9個以上の連続したアミノ酸;約10個以上の連続したアミノ酸;約11個以上の連続したアミノ酸;約12個以上の連続したアミノ酸;約13個以上の連続したアミノ酸;約14個以上の連続したアミノ酸;約15個以上の連続したアミノ酸;約16個以上の連続したアミノ酸;約17個以上の連続したアミノ酸;約18個以上の連続したアミノ酸;約19個以上の連続したアミノ酸;約20個以上の連続したアミノ酸;約21個以上の連続したアミノ酸;約22個以上の連続したアミノ酸;約23個以上の連続したアミノ酸;約24個以上の連続したアミノ酸;約25個以上の連続したアミノ酸;約26個以上の連続したアミノ酸;または約27個の連続したアミノ酸を含む。
【0172】
2個のポリペプチド間の配列同一性の百分率は、適切なコンピュータープログラム、例えばWisconsin大学Genetic Computing GroupのGAPプログラムを使用して決定してもよく、同一性の百分率は、配列が最適に整列したポリペプチドに関して計算されるということは分かっている。
【0173】
あるいは、この配列比較を、(参照により本明細書に組み込まれるThompson et al_, 1994, NucL Acid Res. 22:4673-4680に記載されるような)Clustal W programを用いて実施してもよい。
【0174】
グレリン分子の断片および変異体を、当技術分野で周知のタンパク質工学、定向進化、および/または部位特異的変異誘発のうちの任意の方法を用いて生成してもよい(例えば、Molecular Cloning: a Laboratory Manual「分子クローニング:実験室マニュアル」, 3rd edition, Sambrook & Russell, 2001, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照。本開示は参照により本明細書に組み込まれる)。
【0175】
「誘導体グレリン」には、GHS-Rに特異的に結合し、かつ/あるいはGHS-Rを活性化するペプチド模倣化合物など、有用である可能性があるペプチド模倣化合物が含まれる。用語「ペプチド模倣」は、治療薬としての特定のグレリン分子の構造および望ましい特徴を模倣する化合物を指す。
【0176】
一実施態様では、グレリン分子は、合成グレリン分子;および/または組換えグレリン分子;および/または内因性グレリン分子を含む群、あるいはそれらからなる群のうちの1種以上を含む。
【0177】
「合成グレリン分子」には、液相ペプチド合成および固相ペプチド合成などにより、宿主細胞または宿主生物を使用せずに人工的に生成されたグレリン分子が含まれる。
【0178】
一実施態様では、合成グレリン分子は、合成修飾グレリン;および/または合成グレリン融合分子;および/または合成グレリン断片;および/または合成グレリン変異体;および/または合成グレリン誘導体;および/または合成野生型グレリンを含む群、あるいはそれらからなる群からの1種以上である。
【0179】
「組換えグレリン分子」には、組換え大腸菌宿主などの組換え宿主細胞生物内でグレリン分子をコードする遺伝子を組換え発現し、好ましくは続いてそれからグレリン分子を回収および精製して生成されたグレリン分子が含まれる。実施態様によっては、組換えグレリン分子は、N末端メチオニンアミノ酸を含まない。
【0180】
一実施態様では、組換えグレリン分子は、組換え修飾グレリン;および/または組換えグレリン融合分子;および/または組換えグレリン断片;および/または組換えグレリン変異体;および/または組換えグレリン誘導体;および/または組換え野生型グレリンを含む群、あるいはそれらからなる群からの1種以上である。
【0181】
「内因性グレリン分子」には、宿主生物によって生成されたグレリン分子が含まれ、このグレリン分子は、その宿主生物の野生型グレリン分子であるグレリン分子、またはその宿主生物の野生型グレリン分子ではないグレリン分子である可能性がある。
【0182】
一実施態様では、内因性グレリン分子は、内因性修飾グレリン;および/または内因性グレリン融合分子;および/または内因性グレリン断片;および/または内因性グレリン変異体;および/または内因性グレリン誘導体;および/または内因性野生型グレリンを含む群、あるいはそれらからなる群からの1種以上である。
【0183】
一実施態様では、宿主生物は、齧歯動物(例えば、マウス、および/またはラット、および/またはハムスター、および/またはモルモット、および/またはアレチネズミ、および/またはウサギ);および/またはイヌ科動物(例えばイヌ);および/またはネコ科動物(例えばネコ);霊長類(例えば、ヒト、および/またはサル、および/または類人猿);および/またはウマ科動物(例えばウマ);および/またはウシ科動物(例えばウシ;および/またはブタ科動物(例えばブタ)を含む群、あるいはそれらからなる群からの1種である。
【0184】
一実施態様では、グレリン分子は、1日1回以上投与され、例えば1日2回以上;1日3回以上;1日4回以上;または1日5回以上投与され、好ましくは1日2回投与される。
【0185】
一実施態様では、グレリン分子は、1日以上の期間に亘って投与され、例えば2日以上;3日以上;4日以上;5日以上;6日以上;1週間以上;8日以上;9日以上;10日以上;11日以上;12日以上;13日以上;2週間以上;3週間以上;4週間以上;1ヶ月以上;5週間以上;6週間以上;7週間以上;8週間以上;2ヶ月以上;3ヶ月以上;4ヶ月以上;5ヶ月以上;6ヶ月以上;7ヶ月以上;8ヶ月以上;9ヶ月以上;10ヶ月以上;11ヶ月以上;または1年以上の期間に亘って投与される。
【0186】
一実施態様では、グレリン分子は、毎日、2日毎、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、1週間毎、8日毎、9日毎、10日毎、11日毎、12日毎、13日毎、2週間毎、3週間毎、4週間毎、1ヶ月毎、2ヶ月毎、3ヶ月毎、4ヶ月毎、5ヶ月毎、6ヶ月毎、7ヶ月毎、8ヶ月毎、9ヶ月毎、10ヶ月毎、11ヶ月毎、または1年毎に投与される。
【0187】
一実施態様では、グレリン分子は、以下のような所望の効果が出るまで投与される:
(i)AHFを阻害すること、例えばAHFの発症を遅らせる、低減する、または阻止すること;
(ii)AHFを軽減すること、例えばAHFを患う個体にAHFの退縮を引き起こすこと、および/または
(iii)AHFを治癒すること、例えばAHFを患う個体を、AHFがもはや検出できない健康状態にまで戻すこと。
【0188】
一実施態様では、グレリン分子は、非経口的に、および/または静脈内に、および/または動脈内に、および/または腹腔内に、および/または髄腔内に、および/または筋肉内に、および/または皮下に、および/または注入によって投与される。
【0189】
好ましい実施態様では、グレリン分子は、静脈内注入などの注入によって投与される。
【0190】
一実施態様では、グレリン分子は、約10分以上、例えば約20分以上;約30分以上;約40分以上;約50分以上;約1時間以上;約2時間以上;約3時間以上;約4時間以上;約5時間以上;約6時間以上;約7時間以上;約8時間以上;約9時間以上;約10時間以上;約11時間以上;約12時間以上;約13時間以上;約14時間以上;約15時間以上;約16時間以上;約17時間以上;約18時間以上;約19時間以上;約20時間以上;約21時間以上;約22時間以上;約23時間以上;または約24時間以上、好ましくは約6時間以上または約24時間以上、より好ましくは2時間以上の期間に亘って注入によって投与される。
【0191】
一実施態様では、グレリン分子は、約0.1 mL/分以上、例えば約0.2 mL/分以上;約0.3 mL/分以上;約0.4 mL/分以上;約0.5 mL/分以上;約0.6 mL/分以上;約0.7 mL/分以上;約0.8 mL/分以上;約0.9 mL/分以上;約1 mL/分以上;約1.1 mL/分以上;約1.2 mL/分以上;約1.3 mL/分以上;約1.4 mL/分以上;約1.5 mL/分以上;約1.6 mL/分以上;約1.7 mL/分以上;約1.8 mL/分以上;約1.9 mL/分以上;約2 mL/分以上;約3 mL/分以上;約4 mL/分以上;約5 mL/分以上;約6 mL/分以上;約7 mL/分以上;約8 mL/分以上;約9 mL/分以上;または約10 mL/分以上、好ましくは約0.5 mL/分以上の速度で注入によって投与される。
【0192】
一実施態様では、グレリン分子は、約1 μg/kg体重以上、例えば約2 μg/kg体重以上;約3 μg/kg体重以上;約4 μg/kg体重以上;約5 μg/kg体重以上;約6 μg/kg体重以上;約7 μg/kg体重以上;約8 μg/kg体重以上;約9 μg/kg体重以上;約10 μg/kg体重以上;約11 μg/kg体重以上;約12 μg/kg体重以上;約13 μg/kg体重以上;約14 μg/kg体重以上;約15 μg/kg体重以上;約16 μg/kg体重以上;約17 μg/kg体重以上;約18 μg/kg体重以上;約19 μg/kg体重以上;約20 μg/kg体重以上;約25 μg/kg体重以上;約30 μg/kg体重以上;約40 μg/kg体重以上;約50 μg/kg体重以上;約60 μg/kg体重以上;約70 μg/kg体重以上;約80 μg/kg体重以上;約90 μg/kg体重以上;または約100 μg/kg体重以上、好ましくは約12 μg/kg体重以上の用量で投与される。
【0193】
一実施態様では、グレリン分子は、約0.001 μg/kg体重/分以上、例えば約0.002 μg/kg体重/分以上;約0.003 μg/kg体重/分以上;約0.004 μg/kg体重/分以上;約0.005 μg/kg体重/分以上;約0.006 μg/kg体重/分以上;約0.007 μg/kg体重/分以上;約0.008 μg/kg体重/分以上;約0.009 μg/kg体重/分以上;約0.01 μg/kg体重/分以上;約0.02 μg/kg体重/分以上;約0.03 μg/kg体重/分以上;約0.04 μg/kg体重/分以上;約0.05 μg/kg体重/分以上;約0.06 μg/kg体重/分以上;約0.07 μg/kg体重/分以上;約0.08 μg/kg体重/分以上;約0.09 μg/kg体重/分以上;約0.1 μg/kg体重/分以上;約0.2 μg/kg体重/分以上;約0.3 μg/kg体重/分以上;約0.4 μg/kg体重/分以上;約0.5 μg/kg体重/分以上;約0.6 μg/kg体重/分以上;約0.7 μg/kg体重/分以上;約0.8 μg/kg体重/分以上;約0.9 μg/kg体重/分以上;約1 μg/kg体重/分以上;約1.5 μg/kg体重以上;約2 μg/kg体重以上;約2.5 μg/kg体重以上;約3 μg/kg体重以上;約3.5 μg/kg体重/分以上;約4 μg/kg体重/分以上;約4.5 μg/kg体重/分以上;約5 μg/kg体重/分以上;約5.5 μg/kg体重/分以上;約6 μg/kg体重/分以上;約6.5 μg/kg体重/分以上;約7 μg/kg体重/分以上;約7.5 μg/kg体重/分以上;約8 μg/kg体重/分以上;約8.5 μg/kg体重/分以上;約9 μg/kg体重/分以上;約9.5 μg/kg体重/分以上;または約10 μg/kg体重分/分以上、好ましくは約0.1 μg/kg体重/分以上の用量で投与される。
【0194】
一実施態様では、グレリン分子は、約1ピコモル(pmol)以上、例えば約2 pmol以上;約3 pmol以上;約4 pmol以上;約5 pmol以上;約6 pmol以上;約7 pmol以上;約8 pmol以上;約9 pmol以上;約10 pmol以上;約15 pmol以上;約20 pmol以上;約25 pmol以上;約30 pmol以上;約35 pmol以上;約40 pmol以上;約45 pmol以上;約50 pmol以上;約55 pmol以上;約60 pmol以上;約65 pmol以上;約70 pmol以上;約75 pmol以上;約80 pmol以上;約85 pmol以上;約90 pmol以上;約95 pmol以上;約100 pmol以上;約110 pmol以上;約120 pmol以上;約130 pmol以上;約140 pmol以上;約150 pmol以上;約160 pmol以上;約170 pmol以上;約180 pmol以上;約190 pmol以上;約200 pmol以上;約250 pmol以上;約300 pmol以上;約350 pmol以上;約400 pmol以上;約450 pmol以上;または約500 pmol以上、好ましくは約30 pmol以上の用量で投与される。
【0195】
一実施態様では、グレリン分子は、約1 μg/mL以上、例えば約1.2 μg/mL以上;約1.4 μg/mL以上;約1.6 μg/mL以上;約1.8 μg/mL以上;約2 μg/mL以上;約2.2 μg/mL以上;約2.4 μg/mL以上;約2.6 μg/mL以上;約2.8 μg/mL以上;約3 μg/mL以上;約3.2 μg/mL以上;約3.4 μg/mL以上;約3.6 μg/mL以上;約3.8 μg/mL以上;約4 μg/mL以上;約4.2 μg/mL以上;約4.4 μg/mL以上;約4.6 μg/mL以上;約4.8 μg/mL以上;約5 μg/mL以上;約5.2 μg/mL以上;約5.4 μg/mL以上;約5.6 μg/mL以上;約5.8 μg/mL以上;約6 μg/mL以上;約6.2 μg/mL以上;約6.4 μg/mL以上;約6.6 μg/mL以上;約6.8 μg/mL以上;約7 μg/mL以上;約7.2 μg/mL以上;約7.4 μg/mL以上;約7.6 μg/mL以上;約7.8 μg/mL以上;約8 μg/mL以上;約8.1 μg/mL以上;約8.2 μg/mL以上;約8.3 μg/mL以上;約8.4 μg/mL以上;約8.5 μg/mL以上;約8.6 μg/mL以上;約8.7 μg/mL以上;約8.8 μg/mL以上;約8.9 μg/mL以上;約9 μg/mL以上;約9.1 μg/mL以上;約9.2 μg/mL以上;約9.3 μg/mL以上;約9.4 μg/mL以上;約9.5 μg/mL以上;約9.6 μg/mL以上;約9.7 μg/mL以上。約9.8 μg/mL以上;約9.9 μg/mL以上;約10 μg/mL以上;約11 μg/mL以上;約12 μg/mL以上;約13 μg/mL以上;約14 μg/mL以上;約15 μg/mL以上;約16 μg/mL以上;約17 μg/mL以上;約18 μg/mL以上;約19 μg/mL以上;約20 μg/mL以上;約21 μg/mL以上;約22 μg/mL以上;約23 μg/mL以上;約24 μg/mL以上;約25 μg/mL以上;約26 μg/mL以上;約27 μg/mL以上;約28 μg/mL以上;約29 μg/mL以上;または約30 μg/mL以上の濃度で投与される。
【0196】
好ましい実施態様では、グレリン分子は、約10 μg/mL~約30 μg/mLの濃度で投与される。
【0197】
一実施態様では、投与されるグレリン分子の量は、約100 μg以上、例えば約120 μg以上;約140 μg以上;約160 μg以上;約180 μg以上;約200 μg以上;約220 μg以上;約240 μg以上;約260 μg以上;約280 μg以上;約300 μg以上;約320 μg以上;約340 μg以上;約360 μg以上;約380 μg以上;約400 μg以上;約420 μg以上;約440 μg以上;約460 μg以上;約480 μg以上;約500 μg以上;約520 μg以上;約540 μg以上;約560 μg以上;約580 μg以上;約600 μg以上;約620 μg以上;約640 μg以上;約660 μg以上;約680 μg以上;約700 μg以上;約720 μg以上;約740 μg以上;約760 μg以上;約780 μg以上;または約800 μg以上である。
【0198】
好ましい実施態様では、グレリン分子は、約0.1 μg/kg体重/分の投与量で、約10 μg/mL~約30 μg/mLの濃度で、かつ0.5 mL/分の注入速度で投与される。
【0199】
以下の表2に概説のように、投与されるグレリンの濃度および/または量は、グレリンが投与される個体の体重に依存してもよい。
【0200】
治療では、本発明のグレリン分子および組成物は、単独で投与してもよいが、一般には意図される投与経路および標準的な医薬実務に関連して選択される適切な医薬賦形剤、希釈剤、または担体と混合して投与される。
【0201】
本発明のグレリン分子および組成物は、他の物質、例えば溶液を血液と等張にするのに十分な塩またはグルコースを含み得る滅菌水溶液の形態で最適に用いられる。この水溶液は、必要に応じて適切に(好ましくは3~9のpHに)緩衝する必要がある。無菌条件下での適切な非経口製剤の調製は、医療の当業者には周知の標準的な製薬技術によって容易に達成される。
【0202】
非経口投与に適するグレリン分子および組成物には、抗酸化剤、緩衝液、静菌剤、および製剤を意図される受容者の血液と等張にする溶質を含み得る、水性および非水性の滅菌注射溶液;および懸濁剤および増粘剤を含み得る、水性および非水性の滅菌懸濁液が含まれる。
【0203】
グレリン分子および組成物は、単位用量または複数回用量の容器、例えば密封されたアンプルおよびバイアルに入れられてもよく、かつ使用直前の注射用水などの滅菌液状担体の添加のみを必要とする凍結乾燥状態で保存されていてもよい。即席の注射溶液および懸濁液は、滅菌粉末、顆粒、および錠剤から調製してもよい。
【0204】
医師は、任意の個体に最も適するグレリン分子および組成物の投与量を決定し、その投与量は、特定の個体の年齢、体重、および応答性によって変更される。
【0205】
一実施態様では、その個体は、齧歯動物(例えば、マウス、および/またはラット、および/またはハムスター、および/またはモルモット、および/またはアレチネズミ、および/またはウサギ);および/またはイヌ科動物(例えばイヌ);および/またはネコ科動物(例えばネコ);霊長類(例えば、ヒト、および/またはサル、および/または類人猿);および/またはウマ科動物(例えばウマ);および/またはウシ科動物(例えばウシ);および/またはブタ科動物(例えばブタ)を含む群、あるいはそれらからなる群からの1種であり、好ましくはヒトである。
【0206】
一実施態様では、その個体は18歳以上であり、例えば20歳以上;30歳以上;40歳以上;50歳以上;60歳以上;65歳以上;70歳以上;75歳以上;80歳以上;85歳以上;または90歳以上であり、好ましくは65歳以上である。
【0207】
一般的にAHFは、高齢個体に蔓延している疾患であると考えられている。従って本発明のグレリン分子は、高齢個体に特に効果的である可能性が高い。
【0208】
一実施態様では、グレリン分子は、手術前、および/または手術中、および/または手術後に投与される。
【0209】
状況によっては、AHFは、一部では手術によって引き起こされることがある。従って本発明のグレリン分子の投与は、手術前、手術後、または手術中に特に効果的な可能性がある。
【0210】
一実施態様では、外科手術は、心臓手術;および/または心臓バイパス手術(逆方向動脈の心臓バイパス手術など);および/または血管形成術;および/または心臓弁修復手術;および/または心臓移植手術;および/または胃腸手術;および/または整形外科手術;および/または神経外科手術;デバイス埋込手術(場合によっては、デバイスはペースメーカー、および/または心臓ポンプ、および/または除細動器である)を含む群、あるいはそれらからなる群から選択され、適切には心臓バイパス手術である。
【0211】
一実施態様では、個体には、1種以上の追加の治療薬が投与される。
【0212】
一実施態様では、グレリン分子は、組成物中に、好ましくは医薬組成物中に存在する。
【0213】
一実施態様では、この組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤を含む。
【0214】
一実施態様では、この組成物は、無毒の有機酸;および/または無毒の無機酸;および/または無毒の有機塩基;および/または無毒の無機塩基;およびそれらの塩を含む群、あるいはそれらからなる群からの1種以上を含む。
【0215】
本質的に酸性である本薬剤の薬学的に許容可能な塩基性塩を調製するための試薬として使用できる化学塩基は、その化合物とともに無毒の塩基性塩を生成する塩基である。その無毒の塩基性塩としては、限定はされないが、特にアルカリ金属陽イオン(例えばカリウムおよびナトリウム)およびアルカリ土類金属陽イオン(例えばカルシウムおよびマグネシウム)などの薬学的に許容可能な陽イオン、N-メチルグルカミンメグルミンなどのアンモニウムまたは水溶性アミン付加塩、ならびに低級アルカノールアンモニウムおよび医薬的に許容可能な有機アミンの他の塩基性塩に由来する塩が挙げられる。
【0216】
一実施態様では、この組成物は、1種以上の追加の治療薬を含む。
【0217】
一実施態様では、1種以上の追加の治療薬は、AHFの治療のための1種以上の追加の治療薬である。
【0218】
一実施態様では、1種以上の治療薬は、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;および/またはアンジオテンシンII受容体遮断薬;および/またはバソプレシン受容体拮抗薬;および/またはβ遮断薬;および/または強心性血管拡張薬(特にミリノンおよび/またはエノキシモンおよび/またはドブタミンおよび/またはレボシメンダン);および/またはオメカムチブ・メカルビル;および/またはレニン拮抗薬;および/またはリラキシン;および/またはウラリチド;および/またはジゴキシン(ラノキシン);および/または血管拡張剤;および/またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(バルサルタンなど);および/またはアスピリン;および/またはスタチン;および/または降圧剤(サクビトリルなど);および/またはカルシウム増感剤;および/またはイバブラジン;および/または利尿剤;および/または昇圧剤(ノルアドレナリン、ドーパミン、バソプレッシン、および/またはアンジオテンシンIIなど);および/またはアデノシン拮抗薬;および/またはアルドステロン拮抗薬を含む群、あるいはそれらからなる群から選択される。
【0219】
好ましい実施態様では、1種以上の治療薬は、バルサルタンおよび/またはサクビトリルを含む。
【0220】
別の好ましい実施態様では、1種以上の治療薬は、血管拡張剤を含む。
【0221】
一実施態様では、カルシウム増感剤は、レボシメンダンおよび/またはドブタミンを含む。
【0222】
一実施態様では、血管拡張剤は、ニトロ血管拡張剤(ニトログリセリン、および/またはニトロプルシド、および/またはネシリチドなど)を含む。
【0223】
一実施態様では、利尿剤は、フロセミド;および/またはブメタニド;および/またはチアジド;および/またはメトラゾンを含む群、またはそれらからなる群のうちの1種以上を含む。
【0224】
一実施態様では、バソプレシン受容体拮抗薬は、トルバプタンおよび/またはコニバプタンを含む。
【0225】
一実施態様では、アデノシン拮抗薬は、BG9719および/またはロロフィリンを含む。
【0226】
一実施態様では、グレリン分子は、心臓ポンプなどの医療デバイスとともに用いられる。「ともに用いられる」とは、医療デバイスの1つ以上の表面がグレリン分子で被覆されていることを含む。
【0227】
本発明の第4の側面は、グレリン分子と、以下を含むリストから選択される1種以上の治療薬とを含む組成物を提供する:アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;および/またはアンジオテンシンII受容体遮断薬;および/またはバソプレシン受容体拮抗薬;および/またはβ遮断薬;および/または強心性血管拡張薬(特にミリノンおよび/またはエノキシモンおよび/またはドブタミンおよび/またはレボシメンダン);および/またはオメカムチブ・メカルビル;および/またはレニン拮抗薬;および/またはリラキシン;および/またはウラリチド;および/またはジゴキシン(ラノキシン);および/または血管拡張剤;および/またはアンジオテンシンII受容体拮抗薬(バルサルタンなど);および/またはアスピリン;および/またはスタチン;および/または降圧剤(サクビトリルなど);および/またはカルシウム増感剤;および/またはイバブラジン;および/または利尿剤;および/または昇圧剤(ノルアドレナリン、ドーパミン、バソプレッシン、および/またはアンジオテンシンIIなど);および/またはアデノシン拮抗薬;および/またはアルドステロン拮抗薬。
【0228】
(特に第4の側面の)好ましい実施態様では、1種以上の治療薬は、リラキシン;および/またはウラリチド;および/または強心性血管拡張薬;および/または昇圧剤;および/または血管拡張剤を含むリストから選択される。
【0229】
より好ましい実施態様では、1種以上の治療薬は、血管拡張剤(特にノルアドレナリンおよび/またはバソプレッシンおよび/またはアンジオテンシンII)を含む。より好ましい別の実施態様では、1種以上の治療薬は、強心性血管拡張薬(特にミリノンおよび/またはエノキシモンおよび/またはドブタミンおよび/またはレボシメンダン)を含む。
【0230】
(特に第4の側面の)一実施態様では、組成物は、心臓ポンプなどの医療デバイスとともに用いられる。「ともに用いられる」とは、医療デバイスの1つ以上の表面がグレリン分子で被覆されていることを含む。
【0231】
本発明の第4の側面の一実施態様では、組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤を含む。
【0232】
本発明の第4の側面の組成物は、本発明の第1、第2、および/または第3の側面で説明した構成のいずれか1つを含んでもよく、かつ本発明の第1、第2、および/または第3の側面で説明した使用または方法のいずれか1つに使用してもよい。
【0233】
本発明の第5の側面は、本発明の第1、第2、第3、および/または第4の側面のグレリン分子および/または組成物を含む部品キットを提供する。
【0234】
本発明の第5の側面の実施態様では、部品キットは説明書を含む。この説明書は、本明細書に記載の使用、および/または方法、および/またはグレリン分子、および/または組成物に関連する、説明、指導、販売に関する資料、または他の資料であってもよい。
【0235】
キットの情報資料は、その形式に限定はない。本発明の第5の側面の一実施態様では、情報資料は、グレリン分子および/または組成物の生成、および/またはグレリン分子および/または組成物の分子量、および/またはグレリン分子および/または組成の濃度、および/または有効期限、および/またはバッチ、および/または生産拠点に関する情報を含んでもよい。この情報は、種々の形式で提供されてもよく、印刷文書、コンピュータで読取り可能な資料、ビデオ録画、または音声録音、あるいはインターネットなどでの実質資料へのリンクまたはアドレスを提供する情報を含んでもよい。
【0236】
本発明の第5の側面の好ましい実施態様では、部品キットは、AHFの治療でのグレリン分子および/または組成物の使用のための説明書を含む。
【0237】
本発明の第5の側面の実施態様では、キットは、グレリン分子および/または組成物のための1つ以上の容器を含む。
【0238】
本発明の第5の側面の実施態様では、部品キットは、溶媒;および/または緩衝液;および/または安定剤;および/または防腐剤を含む群、あるいはそれらからなる群うちの1種以上の他の品目を含む。
【0239】
本発明の第5の側面の実施態様では、部品キットは、グレリン分子および/または組成物を個体に投与するための手段、好ましくはグレリン分子および/または組成物を個体に注入するための手段を含む。
【0240】
本発明の第5の側面の部品キットは、本発明の第1、第2、第3、および/または第4の側面で説明した構成のうちのいずれか1つを含んでもよく、かつ本発明の第1、第2、第3、および/または第4の側面で説明した使用または方法のうちのいずれか1つに使用してもよい。
【0241】
本明細書での明らかに過去に公開された文書のリストまたは説明は、その文書が最新技術の一部であるのか、あるいは共通の一般的な知識であるのかを認定するものとして、必ずしも解釈されるべきではない。
本発明を、1つ以上の非限定の図表および実施例を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0242】
図1図1は、選別かつ登録された患者の調和した流れ図である。
図2図2は、調査検討およびグレリン/偽薬の注入の流れ図である。
図3図3は、アシル化グレリン濃度(ng/L)を示す。「FU」という表記は、2~5日目での追跡を表す。
図4図4は、グレリン/偽薬の注入前、注入中、および注入後の心拍出量(CO)を示す。(A)グレリン群では、COは注入とともに増加し、注入の停止後に低下し、全ての対比較において有意であった。偽薬群では、COに有意な変化は無かった。(B、C)個々の患者でのCOの絶対値および変化率の変動は、グレリン群(増加あり)対偽薬群(変化なし)で異なっていた。
図5図5は、グレリン/偽薬の注入前、注入中、および注入後の一回拍出量(SV)を示す。(A)グレリン群では、SVは注入とともに増加し、注入の停止後に低下し、全ての対比較において有意であった。偽薬群では、SVに有意な変化は無かった。(B、C)個々の患者でのSVの絶対値および変化率の変動は、グレリン群(増加あり)対偽薬群(変化なし)で異なっていた。
図6A図6Aは、グレリン/偽薬の注入前、注入中、注入後に手で測定された心拍数(HR)を示す。(A)グレリン群では、HRは基準に対して120分では僅かな低下があった。偽薬群では、HRに有意な変化は無かった。(B、C)HRの絶対値または変化率には統計的に有意な差異は無かった。
図6B図6Bは、Nexfinを用いる継続的な監視による心拍数の中央値を示す。多くの患者を心臓再同期療法(両心室ペースメーカー)により毎分70拍でペース調節していたので、心拍数の中央値は70である。平均値については、図6Cを参照のこと。図6Cは、Nexfinを用いる継続的な監視による心拍数の平均値を示す。
図7図7は、グレリン/偽薬の注入前、注入中、注入後の推算全身血管抵抗(SVR)を示す。(A)グレリン群では、SVRは基準に対し60分では低下があった。偽薬群では、SVRに有意な変化は無かった。(B、C)SVRの絶対値および変化率の変動は、グレリン群(低下あり)対偽薬群(変化なし)で異なっていた。
図8図8は、Nexfinによって測定された血圧を示す。グレリン/偽薬の注入中および注入後の収縮期動脈圧(図8)、拡張期動脈圧(図9)、および平均動脈圧(図10)、ならびにNexfinによって継続的に測定された平均動脈圧の中央値(図11)および平均動脈圧の平均値(図12)を示す。グレリン群と偽薬群の間には、あるいはそれらの群内には変化または差異は無かった。
図9図9は、Nexfinによって測定された血圧を示す。グレリン/偽薬の注入中および注入後の収縮期動脈圧(図8)、拡張期動脈圧(図9)、および平均動脈圧(図10)、ならびにNexfinによって継続的に測定された平均動脈圧の中央値(図11)および平均動脈圧の平均値(図12)を示す。グレリン群と偽薬群の間には、あるいはそれらの群内には変化または差異は無かった。
図10図10は、Nexfinによって測定された血圧を示す。グレリン/偽薬の注入中および注入後の収縮期動脈圧(図8)、拡張期動脈圧(図9)、および平均動脈圧(図10)、ならびにNexfinによって継続的に測定された平均動脈圧の中央値(図11)および平均動脈圧の平均値(図12)を示す。グレリン群と偽薬群の間には、あるいはそれらの群内には変化または差異は無かった。
図11図11は、Nexfinによって測定された血圧を示す。グレリン/偽薬の注入中および注入後の収縮期動脈圧(図8)、拡張期動脈圧(図9)、および平均動脈圧(図10)、ならびにNexfinによって継続的に測定された平均動脈圧の中央値(図11)および平均動脈圧の平均値(図12)を示す。グレリン群と偽薬群の間には、あるいはそれらの群内には変化または差異は無かった。
図12図12は、Nexfinによって測定された血圧を示す。グレリン/偽薬の注入中および注入後の収縮期動脈圧(図8)、拡張期動脈圧(図9)、および平均動脈圧(図10)、ならびにNexfinによって継続的に測定された平均動脈圧の中央値(図11)および平均動脈圧の平均値(図12)を示す。グレリン群と偽薬群の間には、あるいはそれらの群内には変化または差異は無かった。
図13図13は、心エコー検査からの左心室拡張末期直径(LVEDD)を示す。グレリン群と偽薬群の間には、あるいはそれら群内には変化または差異は無かった。
図14図14は、左心室収縮末期直径(LVESD)を示す。グレリン群と偽薬群の間には、あるいはそれら群内には変化または差異は無かった。
図15図15は、左心室駆出率(LVEF)を示す。グレリンを用いた駆出率(EF)には絶対値(p = 0.12)および変化率(p = 0.14)の変動がより大きい傾向はあったが、グレリン群と偽薬群の間には、あるいはそれら群内には統計的な変化または差異は無かった。
図16図16は、三尖弁輪収縮期移動距離(TAPSE)を示す。グレリンと偽薬の間で変化の差異は大きくなる傾向があった。
図17図17は、E/e’(脈波ドップラー拡張期僧帽弁流入速度[E]/組織ドップラー拡張期僧帽弁輪速度[e]、LV充満圧の代用値)を示す。グレリンと偽薬の間で変化に差異は無かった。
図18図18は、心エコー検査によって測定された一回拍出量(SV)を示す。グレリンの方ではSVの変化に有意差があり(A)、グレリンの方では60分で絶対値と変化率の変動に差異が出る傾向が有り、120分で絶対値と変化率の変動に有意差が出る傾向が有った。
図19図19は、心エコー検査によって測定された心拍出量(CO)を示す。グレリンの方ではCOの変化に差異が出る傾向があり(A)、グレリンの方では60分と120分での絶対値と変化率の変動に差異が出る傾向があった。
図20図20は、心エコー検査によって測定された部分歪みを示す。グレリンの方には数値に差異が有ったが、統計的な有意性は無かった。
図21図21は、注入(INFUSION)中のQTc、および基準に対する2~5日目の追跡(BL対FU)時のQTcを示す。
図22図22は、90日目までのHFによる入院の必要のない生存率を示す。
図23図23は、90日目までのHFによる入院あるいは心臓移植あるいは左心室補助デバイスの必要のない生存率を示す。
図24図24は、心筋細胞の短縮率を示す。グレリン、偽薬、D-Lys(グレリン拮抗薬)、およびD-Lys+グレリンに曝露されたSHAM(対照)マウスおよびHFマウスからの単離された心筋細胞の短縮率(FS)によって測定された収縮性を示す。グレリンは、グレリン受容体に特異的な方式で収縮性を高める。この試験は生体外であるために、これらの効果は、負荷条件(左心室の前負荷または後負荷)とは無関係である。このMIモデルでは、HF心筋細胞は、代償応答による収縮性すなわち短縮率(FS)がより高くなる。
図25A図25Aは、電気的に刺激された成体の心筋細胞から得られた代表的なCa2+過渡応答を示す。心筋細胞のグレリン治療後のCa2+過渡応答の振幅は、SHAMマウスでもHFマウスでも違いは無かった。左側の図は、fluo-3で負荷した心筋細胞の代表的な線形走査の記録図を示し、右側の図は、代表的な心筋細胞のCa2+過渡応答を示す。
図25B図25Bは、成体マウスの心筋細胞からのCa2+過渡応答の平均値を示す。SHAMマウスまたはHFマウスではグレリンと偽薬の間に差異は無かった。データは、平均値±標準誤差として表示される。
図26図26は、心臓トロポニンIのリン酸化を示す。トロポニンIでのセリン23~24のリン酸化に対する抗体を用いたタンパク質溶解物の免疫ブロットであり、左側の図は、リン酸化(セリン23~24)心臓トロポニンI(cTnIホスホ(23~24))および総心臓トロポニンI(cTnl)の免疫ブロットのブロット例を示す。心筋細胞のグレリン処理は、総トロポニンI発現を変化させることなく、cTnIリン酸化の低下(低リン酸化)と関連していた。グレリン受容体拮抗薬であるD-Lysとの共培養は、グレリン誘導性低リン酸化の効果を阻止した。右側の図は、マウスの心筋梗塞の心臓から単離された心筋細胞でのcTnIのリン酸化濃度を表す免疫ブロット帯強度の定量を示す。2匹の動物を用い、1匹あたり1回の実験であった。各実験では、表示のように単離かつ処理された心筋細胞の4個の分量を用いた。2回の実験の平均値±標準誤差を示す。
図27図27は、グレリンによる培養後のcAMPの心筋細胞濃度を示す。グレリンは心筋細胞内のcAMP濃度を低下させる。グレリン受容体拮抗薬であるD-lys 3の存在下では、cAMPへのグレリンの効果が遮断された。
【実施例
【0243】
以下の実施例は、本発明の特定の実施態様を実証するために含まれる。以下の実施例に開示される技術は、本発明の実施において良好に機能させるために本発明者が見出した技術を示していて、従ってその実施のための好ましい方式を構成すると見做すことができることが当業者には分かっている。但し当業者は、本開示に照らして、開示される特定の実施態様では多くの変更を実施でき、それでもなお本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果を得ることが可能なことを認識すべきである。
【0244】
試験作業の纏め
序説
グレリンは、潜在的な心血管作用を有する内因性の食欲刺激ペプチドホルモンである。グレリンは潜在的な変力剤であると長い間考えられていて、細胞内のCa2+濃度を増加させることで作用すると予測されてきた。この考えに基づいて、グレリンには、心不整脈の増加、低血圧、虚血を含む急性心不全(AHF)の患者にとって非常に危険な多くの副作用があると思われると広く予想されてきた(Abraham et al., 2005; Cuffe et al., 2002; Mebasaa et al, 2007; and Packer et al., 2013)。
【0245】
その解釈に反して、本発明者らは、意外なことに、グレリンが細胞内Ca2+濃度を増加させることはないが、既存のCa2+に対する感受性を増加させることを特定した。これにより、発明者らは、グレリンが従来の変力剤として作用し、従って低血圧、虚血、および不整脈を引き起こすという以前からの仮定は正しくなく、グレリンの機能に関する以前からの誤解とは逆に、グレリンは新種の変力剤として作用し、かつ低血圧、虚血、または不整脈を引き起こすことなくAHFを治療するために使用できると考えた。
【0246】
この仮説を試験するために、本発明者らは、心不全患者に対してグレリンを試験した。グレリンを試験された患者に不注意に害を及ぼすことを回避するために、本発明者らは、進行性心不全の患者に対して臨床検討を実施した。進行性心不全はAHFに類似しているが、変力剤に応答してAHFで観察されると思われる重篤な副作用は同じ程度には起こらないと予想された。従って、進行性心不全の患者にグレリンを投与すると、AHF患者に投与した場合のグレリンの安全性および有効性に非常に類似した指標が得られるが、試験をより安全な方法で実施できると考えられた。
【0247】
以下に説明するように、本発明者らは、グレリンは変力剤として作用するが、そのグレリンはCa2+濃度を増加させないことを臨床検討で確認した。最も重要なことに、本発明者らは、グレリンが、心不整脈の増加、低血圧、および虚血など、AHFの患者にとって深刻な問題となると思われる副作用のいずれも引き起こさなかったことを実証した。この実験はまた、グレリンによる治療がAHFでも発生する兆候の改善に繋がることを示し、グレリンがその疾患の治療に有効であることを実証している。
心不全およびその形態ならびに転帰
【0248】
心不全(HF)は、代償性神経ホルモンの活性化に次いで代謝要求または適切なCOを満たすには不十分な心拍出量として定義される。
【0249】
慢性HF(CHF)は、人口の2~3%および高齢者の最大20%にまで影響を及ぼし(Go et al., 2014)、かつ入院の最も一般的な原因(急性心不全;AHF)となる(Ambrosy et al., 2014 JACC 2014;63:1123-33)。
【0250】
AHFは、慢性代償が不十分である場合に最も頻繁に発生し、急性非代償性心不全(ADHF)と呼ばれる。この大部分は、既存のCHFの患者に起こり、従って急性非代償性慢性心不全(ADCHF)という用語が使用される。
【0251】
医療的療法およびデバイス療法が、駆出率(HFrEF)の低下を伴うCHFの転帰を改善してきたが、患者の5~10%は、心拍出量(CO)の低下、臓器不全、ADCHFによる頻繁な反復入院、および高い死亡リスクを特徴とする進行性(重症または末期とも呼ばれる)CHFを患っている。
【0252】
ADHFおよびADCHFでは、院内死亡率は5~10%の範囲であり、入院期間の中央値は5~8日である。患者の50%超が未治癒の症状で退院し、種々の検討では30日または60日以内に、半分が再び症状を悪化させて、4分の1が再入院し、10%超が死亡した(Baker et al., 2003;Curtis et al., 2008;Gheorghiade et al., 2006;Go et al., 2014;およびPolanczyk et al., 2000)。集団全体の記録では1年での死亡率は25~35%である(Lund, 2017)。1990年代後半に転帰が改善した後も、CHFおよびADCHFでの予後は2000年以降では改善していない(Baker et al., 2003;Curtis et al., 2008;Polanczyk et al., 2000;およびThorvaldsen et al., 2016)。心不全による社会への損失は、2010年~2030年の間に3倍に膨らむと予測されていて、この損失の大半はADCHFに関連している(Heidenreich et al., 2013)。
【0253】
ADCHFの入院のうち、約5%は、低血圧およびショック、不整脈、および全体的な虚血(閉塞性冠状動脈病変のない場合でも)を伴う重度の血行動態的障害を有し、この群での短期死亡率は50%を超える。
進行性HFおよびADCHFに対する変力療法
【0254】
大半の変力剤は、細胞内Ca2 +濃度を上げることで機能し(例えばミルリノン、ドブタミン)、いくらかの変力剤は、既存のCa2+に対する収縮性のタンパク質の感受性を高めることで機能する(レボシメンダン)が、前者の薬剤は酸素要求を増加させ、全ての薬剤は血管拡張を伴う複数かつ複雑なメカニズムを有している。臨床試験および臨床診療では、既存の変力剤は確かに普遍的に低血圧、頻脈性不整脈、および虚血を引き起こし、死亡率に中立的な効果を持つか、あるいは死亡率を増加させる(Abraham et al., 2005; Cuffe et al., 2002; Mebazaa et al., 2007; Packer et al., 2013)。3種の主要な部類の変力剤、すなわちホスホジエステラーゼ(PD)阻害剤(例えばミルリノン);アドレナリン作動薬(例えばドブタミン)、およびレボシメンダンが使用されている。具体的には、無作為化されたOPTIME CHFでは、偽薬に対してミルリノンは、顕著により多くの低血圧と心房性不整脈を引き起こし、顕著ではないがより多くの死亡を引き起こした(Cuffe et al., 2002)。観察的なADHERE登録では、ミルリノンおよびドブタミンの両方がそれぞれ独立して死亡率の増加と関連していた(Abraham et al., 2005)。経口PD阻害剤は、長期使用のために開発されたが、偽薬と比較してより多くの不整脈、めまい(低血圧による可能性が高い)、心臓死、および突然死を引き起こした(Amsallem et al., 2005; Cohn et al., 1998; Packer et al., 1991 ; Uretsky et al., 1990)。断続的なドブタミンの静脈内注入は、HFによる入院を低減させたが(Oliva et al., 1999)、早期に中止されかつ全く公表されなかったその後の検討では、死亡率を増加させ(Dies et al., 1986)、別の検討では対照群はないが、13人の患者のうち3人のみが、26週間の断続的な治療検討期間を生き延びた(Krell et al., 1986)。レボシメンダンはCOを増加させるが、低血圧も引き起こす。SURVIVEでは(有害である)ドブタミンと比較して中立的であり(Mebazaa et al., 2007)、REVIVEのIおよびIIでは偽薬と比較して低血圧および不整脈が増加した(Packer et al., 2013)。従って、既存の変力剤は転帰を悪化させるが、臓器機能が悪化し患者を動かして退院させることができない場合に、また心臓移植に取り掛かり、および/または死が差し迫っている場合には、重度のADCHFおよび進行性CHFで使用されることがある。
グレリン
【0255】
グレリン(「ghre」=成長)は、成長ホルモン(GH)分泌促進物質受容体(GHSR)の内因性リガンドである28個のアミノ酸ペプチドホルモンとして最初に特定され、GH放出を刺激することによって部分的に作用する(Kojima et al., 1999)。グレリンは、主に中枢作用性の食欲刺激剤として注目されている(Cummings et al., 2002)。グレリンは絶食と体重減少に応答して胃から放出されるが、放出は食物摂取によって阻害される(Kojima et al., 1999; Kojima and Kangawa, 2005; Shiiya et al., 2002)。グレリンはアミノ酸3でアシル化(「活性化」)され、アシル型/アシル化型がグレリンの作用の大部分に関与すると考えられている(Hosoda et al., 2000; Soares and Leite-Moreira, 2008)。
【0256】
グレリンの潜在的な心血管作用
グレリンは、悪液性CHF(Nagaya et al., 2001c)および非悪液性CHF(Lund et al., 2009)で上昇するが、心臓移植後に解消する食欲刺激効果に対して耐性を持つようである(Lund et al., 2009)。代謝効果を超えて、グレリンは特定の心血管作用を持つようである。グレリン受容体(成長ホルモン分泌促進物質受容体;GHSR)は、心筋および骨格筋と内皮に広く分布している(Papotti et al., 2000)。グレリンは、カテコラミンおよびナトリウム利尿ペプチドの代償性上昇と同様に、心機能低下に対する代償応答としてHFで上昇する可能性があり、実際にグレリンのアシル化はHFで増加し、潜在的に適応性の代償応答を表す可能性があり、心臓移植後に低下する(Zabarovskaja et al., 2014)。
グレリン治療に関する過去のデータ
【0257】
ラットのHFモデルでは、グレリンはCOおよび短縮率を増加させ(Nagaya et al., 2001d);ラットの心筋梗塞モデルでは、グレリンは心臓交感神経活性ならびに左心室(LV)の再形成(Schwenke et al., 2008; Soeki et al., 2008)およびアポトーシス(Yang et al., 2014)を低減させた。ヒトHFでの小規模な検討では、グレリンが、心拍出量(Nagaya et al., 2001b)および左心室駆出率(EF)、運動能力、および筋肉の消耗(Nagaya et al., 2004)を改善できることが示唆されたが、これらの検討では、用いられたグレリンの形態かアシル化されているか否かは特定されてない。グレリンの心血管作用を調べ直したが、データは一貫しておらず、正と負の両方の変力効果を示し(Soares et al., 2005)、グレリンの可変型および主に非アシル化不活性型を指している(Broglio et al., 2003b;Isgaard, 2013;Kishimoto et al., 2012;Leite-Moreira et al., 2008;Nagaya and Kangawa, 2003a, b, 2006;およびNagaya et al., 2006)。さらに、HFでのグレリンの安全性、臨床的有効性、および作用機序は不明である。プラルモレリンやヘキサレリンなどのGHSR作用薬は、アミノ酸が少なく、配列の類似性を持たない。グレリンまたはヘキサレリンではなくプラルモレリンは、急性心筋梗塞を患うイヌでのCOを改善した(米国特許第2004014671A1号)。
本発明の目的
【0258】
急性HF(AHF、ADHF、ADCHF)での未達の臨床的必要性に基づいて、心不全患者を対象とした静脈内アシルグレリンの無作為二重盲検の偽薬対照試験を実施した。いずれかの臨床効果の基本となるメカニズムを決定するために、健康な対照およびHFマウスから単離された心筋細胞のグレリンに応答する収縮性および細胞性Ca2+過渡応答を評価した。
【0259】
ヒトでの治験方法
検討の設計および設定
2013年2月17日~2015年5月19日の間に、アシルグレリンまたは偽薬の静脈内注入での単回治療による、二重盲検、偽薬対照、並行群の、かつ単一施設での予期的な無作為臨床試験を実施した。
【0260】
患者
患者は、カロリンスカ大学病院の心不全診療所で事前に選抜され(図1)、進行性CHFの症状および徴候(ニューヨーク心臓協会[NYHA]分類III~IV)および40%未満のEFを保有していた。詳細な受入および除外の基準を表1に示す。
【0261】
【表1】
【0262】
グレリンの調製
グレリンは、3,371 g/molの分子量を有する28個のアミノ酸のペプチドである。血漿中での半減期は24~30分である。正常なヒトでの濃度は、総グレリン量で100~300 pmol/L(300~900 ng/L)と様々な数値で報告されている。アシルグレリンに関するデータは限られるが、本発明者らは最近、41人の健康な肥満ではない成人でのアシルグレリンを測定したが、空腹時で平均値±標準偏差は118±14 ng/L、5~95番目の百分位は27~328 ng/Lであり、260 kcalの混合食の摂取後60分での最低濃度は80±12 ng/L、5~95番目の百分位は21~293 ng/Lであった。合成アシル化(活性)ヒトグレリン(商品名;Clinalfa、(ヒト)グレリン酢酸塩、製品番号4071265;Bachem, Hauptstrasse 144, 4416 Bubendorf, Switzerland、これ以降グレリンと呼ぶ)は、第一三共株式会社(Tokyo, Japan)からライセンスを受けたBachem社(Bubendorf、Switzerland)から購入した。各患者および治療ごとに、粉末グレリンの複数のバイアル(リン酸緩衝液を伴う100 μgのグレリン/バイアル)からなる貯蔵溶液を調製し、各バイアルを1 mLの注入用の滅菌水(B. Braun, Germany)に溶解して透明で無色の溶液であることを目視で検査し、その後0.001 g(0.02 mLの50 g/L貯蔵液)のヒトアルブミン(0.001 g/mL = 0.1%の濃度)を各バイアルに添加して、さらに通常の生理食塩水(9 mg/mL NaCl, B. Braun, Germany)で混合した。貯蔵溶液と生理食塩水の比率は患者の体重に従い(表2)、(全ての患者に同じ注入量となるのを確実にするように)総量を100 mLとした。最終の静脈内注入速度は、0.50 mL/分の容量(総容量は60 mL)であり、これはグレリンに対し無作為とされた全ての患者に投与されたアシルグレリンの0.1 μg(30 pmol)/kg/分(総量は12.0 μg/kg)に相当する。注入は120分間に亘って実施され、120分で全ての測定が完了するまで継続された(従っていくつかの追加のグレリンを供給する)。総注入時間の中央値は171分であった。注入停止の30分後に測定を繰り返した。
【0263】
【表2】
【0264】
*は、注入中の最後のデータ収集は120分の時点に実施されたことを示す。全てのデータが収集された後に、注入開始後の171分の中央値で注入を停止した。
【0265】
偽薬の調製
通常の生理食塩水溶液(9 mg/mLのNaCl、B. Braun社, Germany)を、グレリンの注入と同一量、同一速度(0.50 mL/分)、および同一総持続時間で注入した。
【0266】
手順およびデータ収集
事前に選抜され書面による告知に基づく同意を提出した適格と思われる患者を、絶食状態の午前8時に検査室に報告した。検査は図2に概略的に示される。手動により上腕動脈血圧および酸素飽和度(末梢脈拍酸素濃度計)を測定し、心エコー検査によってEFが40%未満であることを確認した(目視推定またはシンプソン法)。2本の末梢静脈カテーテルを挿入し、血液試料を採取して分析し、この分析には、(受入基準/除外基準の一部として)推算糸球体濾過量(eGFR)および血漿グルコースを含む。40%未満のEFを含む現時点で適格基準を満たさない患者は除外され、選抜の誤りと見做された。その後に患者に追加の検査を受けさせ、次いで(絶食により内因性グレリン濃度が上昇するので)500 kcalの標準化した朝食をコーヒーやお茶無しに自由に摂取させた。注入を開始する前に、血液試料採取および検査を再度実施した。
【0267】
患者は、グレリンまたは偽薬について紙封筒を用いて4つの群でのブロックランダム化によって並行して無作為にされ、120分に亘って肘前の静脈に注入された。検討のための専任の看護師が注入用にグレリンと偽薬を調製し、患者および他の全ての検討者を盲検とした。120分間の注入の直前、注入中、注入後、および注入を停止して30分後に、血液試料を採取して、症状、徴候、心エコー検査、ECG、および非侵襲的血行動態を評価した(図2)。患者は退院し、2~5日後に繰返しの測定のために戻って来た。患者を、罹患率および死亡率の転帰についてその将来に亘って追跡した。
【0268】
事前指定された試験の効力の転帰
効力の一次転帰は、グレリンと偽薬との間の注入の開始(時間:0分)から注入の終了(時間:120分)までのCO変化の差異であった。120分の注入、注入停止の30分後、および注入停止の2~5日後に応答する、血行動態、心エコー検査所見、および血漿バイオマーカーに関連する多数の二次転帰も評価した(結果を参照)。
【0269】
事前指定された試験の安全性の転帰
安全性の転帰には、注入中または注入後の収縮期血圧の低下、低血圧、および症候性低血圧、QTcの延長、虚血、および不整脈、ならびに臨床的転帰が含まれた。
【0270】
データ収集の方法および定義
心拍出量および血行動態
Innocor(登録商標)デバイス(Innovision, Odense, Denmark)を用いて、各測定時に非侵襲的な安静時COを2回評価した。Innocorは、不活性ガス再呼吸法を用いて肺血流を測定し、かつVO2を直接測定する非侵襲性デバイスである。安静時および運動時のCOおよびVO2については検証されている(Gabrielsen et al., 2002;Stahlberg et al., 2009)。至適基準のフィック法(Warburton et al., 1999)に類似し、他の非侵襲的方法よりも優れていて(Warburton et al., 1999)変動係数は低い(VO2<2%;CO 5~7%)(Stahlberg et al., 2009)。顕著な肺内シャントが無い場合には、Innocor(登録商標)によって測定された不活性ガス再呼吸によって計算された肺血流量により、COの信頼できる推定値が提供されることが分かっている(Stahlberg et al., 2009)。
【0271】
Innocor(登録商標)は、肺血流、VO2、およびSpO2を直接測定する。次いでこれらの変数から、シャント分率、心拍出量、SVO2、およびA-V O2差を標準式を用いて計算した。Nexfin(登録商標)デバイス(以下で説明)を用いて、心拍ごとのECG、血圧、および圧力信号の一次導関数(+dP/dt)を測定した。Innocorの測定時には、15分間の連続した心拍ごとのNexfinデータが平均化された。続いて推算全身血管抵抗(eSVR)は、平均血圧/心拍出量×80として計算された。一回拍出量(mL)は、Innocor由来の心拍出量/Nexfin由来の心拍数×1000として計算された。
継続的な血行動態およびEKG監視
【0272】
脈波計測器に基づく(指-カフ)手法を用いて血圧を測定した(Nexfin(登録商標)、BMEYE, Amsterdam, The Netherlands)。Nexfinを心拍数の監視にも使用した。心拍数と血圧のデータは、検討手順全体を通して、心拍ごとに継続的に測定された。次いでInnocorの測定後に15分間に亘ってデータを平均した。さらにEKGを、注入の開始前および注入の60分および120分後にかつ自由な昼食の後に評価した。QT間隔は、12本の導線表面ECGの前胸部導線V5で、50 mm/秒の紙送り速度および10 mm/mVの振幅で測定された。心拍数補正QT間隔(QTc)は、測定されたQT間隔に先立つRR間隔を用いて、Bazett式:QTc = QT/RR1/2によって手動で計算された。3個の心拍からの平均QTcが記録された。
【0273】
心エコー検査
心エコー検査は、治療の割当てを知らされていない技術者によって実施され、全てのエコー画像を、治療の割当ておよび患者の病歴を知らされていない一人の独立した検討者が解析かつ解釈した。2次元画像は、3MHzのドップラー変換器を備えたVivid 7/E9超音波システム(GE, Horten, Norway)で記録された。寸法、心臓の収縮期および拡張期の機能、弁の性能、および収縮期の肺動脈圧を含む詳細な心エコー検査を基準として実施した(表5)。左心室の寸法と機能、一回拍出量、心拍出量を含むより簡易な手順を使用して、経時的な変化を比較した(表9および10)。左心室の収縮末期と拡張末期の容積および左心室駆出率(LVEF)を、改変二方向シンプソン(Simpson)法を用いて測定した。LVEFをさらにティーショルツ(Teichholz)法を用いて測定した。低画質によりシンプソン法によるLVEFのデータが欠落しているので、LVEFの経時変化はティーショルツ法を用いて計算した。左心房容積は、頂端の4腔像および2腔像からの二方向面積長による方法を用いて計算され、体表面積に指数付けされた。E/e’比は、僧帽弁流入のピークE波速度ならびに中隔組織および側面組織のドップラー記録の平均値を用いて計算した。三尖弁輪収縮期移動距離(TAPSE)を、Mモードの心エコー検査で評価した。スペックル追跡を、左心室の縦方向歪み用に使用した。歪みの経時変化を、中隔区画および下部区画からの局所歪みの平均値を用いて計算した。一回拍出量を、左心室流出路(LVOT)面積とLVOT心室時間積分(VTI)から導き出した(LVOT面積×LVOT VTI)。心拍出量は、エコー由来の一回拍出量×心拍数として計算された。
【0274】
【表3】
【0275】
略語を纏めると、LVEDDは左心室拡張末期径;LVESDは左心室収縮末期径;LVESVは左心室収縮末期容積;LVEDVは左心室拡張末期容積;LEVFは左心室駆出率;SVは一回拍出量;COは心拍出量;LV質量は左心室質量; LAVは左心房容積;LAViは左心房容積指数;RAは右心房;MRは僧帽弁逆流;TRは三尖弁逆流;ARは大動脈弁逆流;MSは僧帽弁狭窄症;ASは大動脈弁狭窄症;TAPSEは三尖弁輪収縮期移動距離;SPAPは収縮期肺動脈圧;EはE波僧帽弁流入;E/e’はE波/e’比率;e’は僧帽弁弛緩速度である。
【0276】
【表4】
【0277】
【表5】
【0278】
症状と徴候
頭痛、めまい、呼吸困難、胸部中央部の痛み、顔面紅潮、眠気、胃のむかつき、およびその他の症状を、注入前、注入後の30分、60分、120分、注入完了後の30分後、および2~5日間の追跡時に「はい」または「いいえ」で評価した。ラッセル音、末梢性浮腫、頸静脈膨満、肝腫大、およびS3奔馬調律の兆候を、注入の開始前および昼食後に記録した。
【0279】
血液試料
血液試料を、1)基準としての朝の絶食状態、2)治療介入前の標準化された朝食後、3)注入後30分、4)注入後60分、5)注入後120分、6)注入完了の30分後、および7)2~5日後の追跡の各時点に採取した(図2)。血液をエチレンジアミン四酢酸(EDTA)および血清の管内に採取し、直ちに遠心分離し血漿と血清を分注して分析まで-70°Cで保存した。
【0280】
グレリン測定専用の試料では、DMSO中の5.5 piかつ10 mMのKR-62436(DPP4阻害剤)および2100 piの蒸留水に溶解されたSIGMAFAST(登録商標)プロテアーゼ阻害剤錠剤(両方ともSigma-Aldrich Corp.製, St. Louis, MO, USA)からなるプロテアーゼ阻害剤混合液(50倍の貯蔵溶液)を調製した。6 mLのEDTA血漿管を用いて血液試料を採取し、直ちに氷上に置いて、160 mLの50倍のプロテアーゼ阻害剤混合液を添加した。管を10秒間回転させて、4℃かつ10分で2500の相対遠心力(RCFまたはg)で遠心分離した。次いで得られた上清(血漿)をピペットでエッペンドルフ管(それぞれ450 mL)に入れて、-70℃で直ちに凍結して分析まで保存した。
【0281】
血清および血漿バイオマーカー
クレアチニン検査値を、コッククロフト・ゴールト式([140-年齢]×体重(kg)×1.23)/クレアチニン×(女性の場合には)0.85)に従って計算した。腎機能は、カロリンスカ大学病院の中央試験室でクレアチニンおよびシスタチンCによって測定された。NT-proBNPは、proBNPII(Roche Diagnostics, Bromma, Sweden)によって分析された。血漿グルコース測定値は、EDTA含有の全静脈血管に由来し、測光による治療現場技術であるHemoCue(登録商標)Glucose 201 RT(Angelholm, Sweden)で分析された。トロポニンTは、カロリンスカ大学病院の中央試験室で分析された。
【0282】
アシルグレリンおよび薬物動態
活性(アシル化)グレリンの血漿濃度を、電気化学発光検出を用いる専用のELISAによって測定した。血漿試料を解凍して渦攪拌した。次いでそれら試料を、製造元からの説明書に従って、アシルグレリンに対する捕捉抗体で被覆された96ウェルのマルチスポット・プレート(Meso Scale Diagnostics, Rockville, MD, USA)上で2回分析した。Meso Scale Diagnostics社のSector Imager 2400を使用してプレートを読み取った。曲面補正後の血漿濃度から計算された変動係数(CV%)は、9.3/3.5(測定内/測定間のCV%)であった。検出下限は3.2 ng/Lであり、上限は10,000 ng/Lに設定した。
【0283】
安全性の転帰
低血圧
低血圧は2種の方法で評価した:群間の血圧の変化の差を定量し、任意の1人の患者での低血圧を、20 mmHg超または80 mmHg未満の収縮期血圧の低下として定義した。
【0284】
不整脈
群間の心拍数変化の差を定量した。徐脈は、15拍/分超~40拍/分未満の心拍数の低下、20ミリ秒超のPQ時間の増加、またはAVブロックII~IIIとして定義された。個々の患者では、頻脈は、10拍/分超の心拍数の増加、または110拍/分超の心拍数として定義された。心室性期外収縮を定量し、心室性頻脈は、30秒未満まで連続して3拍超の場合には非持続性であり、30秒超の場合には持続性であると定義された。上室性不整脈は、異所性心房性頻脈、心房粗動または心房細動、あるいは持続時間が3秒を超えるAV結節性頻脈として定義された。グレリンはhERG経路を活性化する可能性があり、そのために、理論的には不整脈の素因となると考えられるEKGでのQTc間隔の延長を引き起こす可能性がある。従ってQTcを監視した。
【0285】
虚血
虚血は2種の方法で評価した:群間のトロポニンTの変化の差が定量され、任意の1人の患者での虚血は、虚血に一致するECG変化の症状、または50%を超えるトロポニンTの上昇として定義された。
【0286】
臨床的転帰
患者を、2017年4月30日までの医療記録内で追跡した。これらの転帰では、種々の原因による死亡は排除されて、全てで死亡あるいはHFによる入院が引き起こされ、全てで死亡あるいは心臓移植または左心室補助デバイス、およびこれら全ての組合せが引き起こされている。
【0287】
統計
基準の特性について、連続変数を、連続変数に対するウィルコクソン順位和検定によって、かつカテゴリ変数に対するフィッシャーの直接確率検定によって比較した。
【0288】
連続可変超過時間に対するグレリン対偽薬の効果を比較するために、二元配置反復測定分散分析(2W-RM-ANOVA)を用いて治療群内での治療効果を評価した。2W-RM-ANOVAでは、治療水準(2水準:グレリンまたは偽薬)および時間水準(3水準:基準、注入の60分後、および注入の120分後)の2種の因子がある。この統計モデルで考慮される主要な解析は相互作用(処理×時間)であり、ここでは処理間の差が全ての時点で同一であるという帰無仮説の有意性を試験する。時間効果が期待されるので、この解析では時間因子は殆ど意味がない。基準でのグレリン群と偽薬群の間の差異は期待されないので、この解析では治療因子は殆ど意味がない。事後の試験では、各治療群内の反復測定でのp値を調整したチューキー検定、および治療群間でのシダック検定を実施して、有意な変化について試験した。またウィルコクソン符号順位検定による群内かつウィルコクソン順位和検定による群間での注入開始後の60分および120分の時点での絶対値Δ値および%Δ値の独立t検定を用いて、60分および120分での治療群間の差異を評価した。
【0289】
時間を転帰と比較するために、生存率および無再発生存期間をカプランマイヤー曲線で図表にして、ログランク検定によって比較した。
試料サイズ
【0290】
検出力の計算は、CO変化の差に基づいていて、表3に記載のように実施された。80%の検出力では、両側αが0.05であり、仮定される10%の最小治療差を確認するには、試料サイズとして各群に10人の患者が必要であった。潜在的に欠失するデータ測定値および追加のマージンを考慮して、試料サイズは各群で15人の患者に設定した。
【0291】
【表6】
【0292】
倫理
グレリンは、健康なヒトおよび患者での検討に以前から使用されてきた。この試験は、調和と良好な臨床実践に関する国際会議のガイドライン(International Conference on Harmonization and Good Clinical Practice guidelines)およびヘルシンキ宣言(Declaration of Helsinki)に従って実施された。試験は地元(ストックホルム)の倫理委員会によって承認された(承認番号2008/1:12および2008/1695-31)。この生体検討では、倫理委員会は、胃腸への影響に関する別の検討における同一の治療に対する過去の免除に基づいて、医療製品機関(MPA)の承認の必要性が免除された(MPA免除番号159:2007/16373;倫理ストックホルム番号2007/119-31/1)。全ての患者は書面での告知による承諾を提出した。
【0293】
齧歯類での検討方法
心筋梗塞誘発性心不全のマウスモデル
12週齢のC57BL6マウスを、酸素および(2~3%の)イソフルランのガス混合物で麻酔した。心筋梗塞(MI)は、過去の説明のように(Perrino et al., 2013)、左冠状動脈の永久結紮によってマウスに誘発された。簡潔に言えば、マウスは開胸術とそれに続く左冠状動脈結紮術を受け、追跡期間(4~6週間)中には約80%が生存していた。SHAM(対照)として手術した動物は、冠状動脈結紮をせずに同じ処置を受けた。検討の終了時に、マウスを鎮静剤の投与後に頸椎脱臼によって安楽死させた。
【0294】
マウスの経胸壁心エコー検査
心臓機能は、終了前にPhilips HDI 5000撮像システムを使用する経胸壁心エコー検査によって両群で非侵襲的に監視された。心エコー検査は、7~15 MHzのCL15~7走査ヘッドを用いて実施された。心収縮性は、式:LVd-LVs/LVd×100を用いて左心室短縮率(%)として測定され、式中、LVdおよびLVsは、それぞれ左心室の拡張期と収縮期の寸法を表す。
【0295】
マウス心筋細胞の単離
安楽死後に、単一の心筋細胞を、過去に説明(Pironti et al., 2016)されたような細胞シグナル伝達のための連盟(the Alliance for Cellular Signalling)によって開発された手順(AfCS Procedure Protocol ID PP00000 125)に従って、左心室および右心室から単離し(マウスの心臓は左心室によって支配されている)かつ心房は排除した。
グレリンおよび偽薬に応答する細胞質ゾル[Ca2+]および細胞短縮
【0296】
マウス心筋細胞を、細胞透過性形態の蛍光指示薬であるFluo-3 AMとともに培養し、続いてこれまでの説明(Andersson et al., 2011)のように5分間超に亘って洗浄した。心筋細胞をラミニン被覆されたガラス底の皿に播種した。これらの皿を特注の灌流/刺激チャンバーに入れて、以下の組成を有するO2/CO2(95/5%)を通気したタイロード溶液で連続的に灌流した:121 mMのNaCl、5.0 mMのKCl、1.8 mMのCaCl2、0.5 mMのMgCl2、0.4 mMのNaH2PO4、24 mMのNaHCOs、0.1 mMのEDTA、および5.5 mMのグルコース。心筋細胞は、灌流/刺激チャンバーに取り付けられた2枚の白金電極間の電場を使用して収縮するように刺激された。測定を、電気刺激を受けると収縮し正常な形態(例えば筋状の「レンガ型」)を示す心筋細胞内でのみ実施した。自発的収縮を示す細胞は測定されなかった。NikonのDiaphot倒立顕微鏡(40~60倍の油浸レンズ)に取り付けられた共焦点顕微鏡であるBio-Rad MRC 1024ユニットを使用して蛍光を測定した。共焦点画像を、ImageJ(National Institutes of Health;http://rsb.info.nih.gov/ijで入手可能)を用いてオフラインで解析した。ライン走査共焦点画像を、ペースを調整した心筋細胞の長軸に沿って走るライン走査によって得た。遊離細胞質Ca2+の変化を表す放出された蛍光の変化を定量した。Ca2+過渡応答の振幅を、制御条件下(FO)で付与された刺激パルスの直前の蛍光で除算したfluo-3の蛍光信号(F)の変化として測定した。Ca2+過渡減衰時定数(τ)を、GraphPad Prismソフトウェア(La Jolla, Ca, USA)内の指数関数的減衰関数に減衰を適合させて定量した。細胞の短縮率を、静止時および最大収縮時の細胞長さの変化率としてライン走査画像から計算した。
【0297】
筋細胞を、生理緩衝液(タイロード溶液)によって、あるいは薬理学的実験のためにタイロード+グレリン(100 nM)またはD-Lys 3(D-Lys 3 GHS-R1a拮抗剤、3 μM)で灌流した。グレリンを添加する10分前にD-Lys 3(3 μM)を灌流システムに導入したいくつかの試験を除いて、全ての細胞を測定前にそれぞれの溶液で15分間灌流した。全ての実験を室温(約24℃)で実施した。
【0298】
心筋細胞のグレリン治療
筋細胞を、グレリン(Bachem, Bubendorf, Switzerland)(100 nM)の有無にかかわらず、生理緩衝液(タイロード溶液)で灌流した。測定前に、全ての心筋細胞をそれぞれの溶液で15分間灌流した。グレリン受容体GHS-r1a(D-Lys 3;3 μM)に対する拮抗剤を、いくつかの実験で使用した。これらの実験では、グレリンを添加する10分前にD-Lys3を灌流システムに導入した。
【0299】
マウス心筋細胞タンパク質免疫ブロット
単離された心筋細胞を、種々の条件(偽薬、グレリン、D-Lys 3 GHS-R1a、D-Lys 3 GHS-R1a+グレリン)で15分間処理した。その後に心筋細胞をペレットにして均質化した。タンパク質溶解物を電気泳動で分離して膜上に移した。膜を一次抗体:ウサギホスホトロポニンI(心臓)(Ser 23/23)抗体(Cell Signaling #4004)、マウストロポニンI(Millipore MAB1691A)とともに培養した。次いで赤外線標識二次抗体(IRDye 680およびIRDye 800、1:5000, Licor)を使用した。Odyssey赤外線画像システムを用いて免疫反応帯を解析した。
【0300】
帯密度をImage Jで定量してGAPDHに正規化し、最終データを偽薬群と比較した増加倍率として表した。
【0301】
cAMP測定
細胞内cAMP濃度を、cAMP直接免疫測定キット(Abeam ab65355)を使用して測定した。簡潔に説明すると、上述の群(偽薬、グレリン、D-Lys 3 GHS-R1a+グレリン)からの凍結心筋細胞ペレットを、0.1 MのHClの容量を用いて氷上で均質にして、1 mg/mLのタンパク質濃度を得た。キットの製造元に従って、ELISAプレート内での抗体との培養のためにアセチル化上清試料を用いた。最後にマイクロプレートリーダー(Biotek, Synergy 2)を用いて、450 nmでの光学密度吸光度を分析した。cAMPの濃度を正規化し、得られた読取り値(pmol/mL)を各試料での総タンパク質濃度(mg/mL)で除算した。実験は、動物の治療について知らされていない操作者によって実施された。
統計
【0302】
2つの群間の統計的比較を、(独立した)スチューデントt検定を用いて実施した。2つを超える群間の比較には、分散分析を使用した。統計的有意性の定義としてp<0.05を用いた。平均データは、平均値±平均値の標準誤差(SEM)として表した。
【0303】
倫理的承認
全ての動物実験は、倫理承認番号N19/15、N273/15の下で実施された。
【0304】
ヒトによる治験の結果
患者
34人の患者がカロリンスカ大学病院の心不全診療所から特定され、試験に同意した。検討の朝に、1人の患者が神経障害と下肢痛により安静にできないために除外され、1人の患者が26 mL/分のクレアチニン検査値(30 mL/分未満が除外基準)のために除外され、かつ1人の患者がNYHA分類がII(NYHA分類III~IVが受入基準)およびEFが43%(40%未満のEFが受入基準)のために除外された。従って31人の患者が無作為に参画した。1人の患者(偽薬群)は、注入の開始後の早い段階で尿意切迫感とめまいを繰り返したので、注入が中断されてこの患者は除外された。30人の患者が解析に残った(15人のグレリン群;15人の偽薬群)。
【0305】
基準特性
基準特性を表4に示すが、治療群と偽薬群の間では類似していた。年齢の中央値はそれぞれ71歳と70歳で、両方の群とも13%が女性であった。基準の心エコー検査データを表5に示す。EFの中央値(シンプソン法)はそれぞれ30%と28%であった。
【0306】
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【0307】
略語を纏めると、BMIは肥満度指数;SBPは収縮期血圧;DBFは拡張期血圧;SpO2はパルス酸素測定による末梢血飽和度;HFは心不全;NYHA分類はニューヨーク心臓協会分類;INRは国際標準比;NT-proBNPはN末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド;hsCRPは高感度C反応性タンパク質;MIは心筋梗塞;APは狭心症;CABGは冠状動脈バイパス移植;PCIは経皮的冠動脈治療介入;TIAは一過性脳虚血発作;CRTは心臓再同期療法;ICDは植込み型除細動器;MRAはミネラルコルチコイド受容体拮抗剤;ACEiはアンジオテンシン変換酵素阻害剤;ARBはアンジオテンシン受容体遮断薬である。
*は、D Webbによる41人の健康な肥満でない成人からのファイルデータに基づく。
【0308】
【表8】
【0309】
患者の転帰
血漿アシルグレリンの薬物動態
基準時ならびにグレリンの注入中および注入後の血漿アシルグレリン濃度を表6および図3に示す。治療群では、アシルグレリンの中央値濃度は、測定の最大値近くに直ちに到達した。アシルグレリンは、注入後30分でほぼ正常になり、2~5日の追跡でも正常であった。
【0310】
【表9】
【0311】
一次効力の転帰:心拍出量
表7および8ならびに図4は、基準時のCOならびにグレリンおよび偽薬に対する応答性を示す。グレリン群では、COは注入とともに増加して注入停止後に低下し、全ての対比較では有意であった。偽薬群では、COに有意な変化はなくp相互作用は<0.0001であった。COの絶対値変化および変化率は、グレリン群と偽薬群で異なっていた。2~5日間の追跡では、偽薬群に比較してグレリンのCOは依然有意に増加していた(表8)。
【0312】
【表10】
【0313】
【表11】
【0314】
二次効力および安全性の結果:血行動態
表7および8ならびに図5は、グレリン/偽薬の注入前、注入中、および注入後の計算された一回拍出量(SV)を示す。グレリン群では、SVは注入とともに増加し、注入の停止後に低下し、全ての対比較では有意であった。偽薬群では、SVに有意な変化は無かった。SVの絶対値変化および変化率は、グレリン群対偽薬群で異なっていた。
【0315】
表7および8ならびに図6は、Nexfinによって手動でかつ継続的に記録された、選択された時点での心拍数(HR)を示す。グレリン群では、HRは基準と120分の間で僅かに低下した。偽薬群では、HRに有意な変化は無かった。HRの絶対値変化または変化率に統計的に有意な差は無かった。
【0316】
表7および8ならびに図7は、推算全身血管抵抗(SVR)を示し、図8~12は、収縮期血圧、拡張期血圧、および平均動脈血圧を示す。グレリンによるCOの増加に比例して計算されたSVRは低下したが、血圧の変化や低血圧の発生は無かった。
【0317】
表7および8は、追加の血行動態データを示す。酸素消費量(VO2)に変化はなく、グレリンも偽薬も代謝(酸素需要)に影響を及ぼさなかったことを示唆している。グレリン群では、COの増加に一致して肺血流量が増加した。
【0318】
二次転帰:心エコー検査
表9および10ならびに図13~20は、注入前、注入中、および注入後の心エコー検査パラメータを示す。左心室拡張末期径(LVEDD)(図13)または左心室収縮末期径(LVESD)(図14)に変化や変化の差は無かった。左心室機能を表すEFについて、グレリンによるEFの改善を示唆する僅かな相互作用があり、60分と120分でEFの変化に差が出る傾向があった(図15)。右心室機能を表す三尖弁輪収縮期移動距離(TAPSE)について、TAPSEの改善を示唆する相互作用に傾向があり、60分と120分での変化の差に傾向があり、120分での絶対値の変化に有意差があった(図16)。LV充填圧力の代理値であるE/e’に変化の相互作用および差はなく(図17)、これはCOの増加が充填圧力の逆行する増加を伴わなかったことを示唆している。心エコー検査で測定された一回拍出量(SV)については、グレリンによる改善を示唆する有意な相互作用があり、非侵襲的血行動態で測定されたSVよりも程度は小さいものの一貫性があった。SVの変化にも差異があったが、これは120分でのみ有意であり、60分では有意ではなかった(図18)。心エコー検査で測定された心拍出量(CO)については、グレリンによる改善を示唆する僅かな相互作用があったが、変化に有意差は無かった(図19)。同一の結果が、心収縮の代理値である収縮期歪みにも当て嵌まった(図20)。
【0319】
バイオマーカー
表11は、注入前、注入中、および注入後30分のバイオマーカーを示す。バイオマーカーには治療との相互作用は無かった。トロポニンTとの相互作用や変化は無かった。NT-proBNPは両群とも増加していて、このことは、仰臥位が長く注入中に利尿剤を服用しなかったことによると考えられる。シスタチンCは両群とも増加していた。表12は、注入後2~5日目のバイオマーカーを示す。NT-proBNPはグレリン群で上昇したままであった。このことは、グレリンの刺激効果が注入後または注入後の種々の時間で活性を高めることによると思われる。多重検定では、偶然性によるとも思われる。
【0320】
注入中および注入直後ならびに注入後2~5日目の安全性の結果を示す。心拍数(図6)または心室頻拍または徐脈性不整脈の発生率(図示せず)に対するグレリンまたは偽薬の影響は無かった。収縮期血圧(図7)、拡張期血圧(図8)、または平均動脈圧(図9)に対するグレリンまたは偽薬の影響は無かった。1人の患者(偽薬)が偽薬注入の開始後の早期に尿意切迫感およびめまいを繰り返し経験し、注入が中断されてこの患者が除外されたことを除いて、いずれの群にも低血圧または症候性低血圧の事象は無かった(図示せず)。トロポニンTへの影響は無かった(注入の相互作用によるp値:0.67[表11]および2~5日目の追跡での相互作用によるp値:0.36[表12])。虚血と一致する症状またはEKGの変化は無かった。グレリン群内の1人の患者では、トロポニンTが50%超増加していた(基準;31、注入中34、38、42、43、および追跡時164 ng/Lであり、胸痛の症状またはECGの変化は無し)。
【0321】
「はい」または「いいえ」で評価された任意の症状(頭痛、めまい、呼吸困難、胸部中央部の痛み、紅潮、眠気、胃のむかつき、および他の症状)の中で、60分時での紅潮は、偽薬と比較して治療介入群でより頻繁であった(7対0;p=0.006)。QTcは僅かに増加したが、有意ではなかった(表13および図21)。
【0322】
【表12】
【0323】
【表13】
【0324】
90日間の追跡での臨床的安全性の転帰
90日間の追跡では、臨床的事象に差異は無かった(図22および23)。
【0325】
生体外での齧歯類の心筋細胞検討の結果
マウスの健康な心筋細胞および心不全の心筋細胞に対するグレリンの変力効果
15分間のグレリン曝露後に、心筋細胞の短縮率(FS)は、偽薬に比較して増加した。グレリンで誘発された収縮性の増加は、対照のマウスとMI後のHFマウスの両方からの心筋細胞に見られた(図24)。FSへのグレリンの影響は、GHS受容体1a拮抗剤(D-Lys 3;Sigma)での前処理によって阻止された。このことは、心筋細胞でのグレリンの変力効果がGHS-R1aによって媒介されることを示唆している。
【0326】
グレリンの変力効果はCa2+の感作による
心筋細胞のCa2 +過渡応答は、種々の治療(偽薬、グレリン、D-Lys3、またはD-Lys 3+グレリン)で違いはなかった(図25Aおよび25B)。さらにROI(Ca2 +過渡応答の増加率)およびτ(減衰時定数)は群間で類似しているので、グレリン治療はCa2 +過渡応答の動態に影響を及ぼさなかった(図25A)。纏めると、これらのデータは、グレリンの収縮増強効果が細胞内Ca2+の増加により媒介されるのではなく、筋原繊維のCa2 +の感受性の増加により媒介される可能性があることを示唆している。
【0327】
グレリンによるCa2+の感作は、トロポニンIのリン酸化の低下と関連する
筋原線維タンパク質、例えばトロポニンの翻訳後修飾により、筋原線維のCa2 +の感受性を調節できる。例えばトロポニンIのセリン23~24のリン酸化は、筋原線維のCa2 +の感受性の低下に関連している(Hasenfuss and Teerlink, 2011; Layland et al., 2005)。グレリンがタンパク質のリン酸化を変化させるか否かを試験するために、本発明者らは、トロポニンIのリン酸化セリン23~24残基を標的とする抗体を使用した。偽薬、グレリン、D-Lys3+グレリンで処理された健康な心筋細胞からのタンパク質溶解物を使用した。グレリンの存在下では、リン酸化信号は偽薬に比較して低かった(図26)。心筋細胞をグレリン受容体拮抗剤であるD-Lys3で前処理すると、トロポニンでのセリン23~24のリン酸化の低下が防止された(図26)。これは、グレリンの変力効果がトロポニンの翻訳後修飾を伴う可能性があることを示している。
【0328】
グレリンは心筋細胞のcAMP濃度を下げ、かつトロポニンIのリン酸化を下げる
cAMPは、原形質膜受容体(例えばb-アドレナリン受容体)間の細胞内シグナル伝達および筋細胞収縮性の調節のための重要な分子である。cAMPは、トロポニンを含む下流のタンパク質を順にリン酸化できるプロテインキナーゼA(PKA)を活性化する。本発明者らは、グレリンの存在下では、心筋細胞中のcAMP濃度が偽薬と比較して低いことを見出した(図27の第1および第2の縦棒)。心筋細胞をGHS-R1a拮抗剤(D-Lys 3)で前処理すると、cAMP濃度の低下が防止され、偽薬の処理に似たままであった(図27の第3の縦棒)。これらの結果は、グレリンを介したトロポニンIのセリン23~24リン酸化の低下と一致していて、cAMPに依存するホスホキナーゼがセリン23~24リン酸化を担う可能性を示唆している。
考察
【0329】
進行性CHFおよびEFの低下を患う患者での静脈内のアシル化グレリン対偽薬のこの無作為の偽薬対照試験では、CO変化の一次転帰が達成された。グレリンは、低血圧、不整脈、または虚血に悪影響を及ぼすことなくCOを増加させた。これは、HRには変化が無いので、SVが大幅に増加したことによる。COの増加は、計算された変化の無い安静時のVO2、AVO2差の低下、SVO2の増加、および小さいが有意なSpO2の低下と関連していて、(SpO2として測定される動脈O2含量の僅かな低下にもかかわらず)COの増加による代謝組織へのO2送達の改善を示唆している。生体外データでは、COの増加が、cAMP産生の阻害、トロポニンIのリン酸化の低下、およびカルシウムの感作を含む新たなメカニズムに対して副次的であることを示唆している。このメカニズムは、(有害な副作用を有する)従来の変力作用のメカニズムとは異なり、グレリンによる副作用が無いことを示している可能性がある。
【0330】
グレリンの生理機能および血管作用
グレリンの濃度および効果は、正常なヒト対象(Akamizu et al., 2004;Arvat et al., 2001;Broglio et al., 2001;Broglio et al., 2003a;Broglio et al., 2003c;Broglio F., 2001;Enomoto et al., 2003;Falken et al., 2010;Levin et al., 2006;Nagaya et al., 2001a;Okumura et al., 2002;Peino et al., 2000;Vestergaard et al., 2007a;Vestergaard et al., 2007b;Vestergaard et al., 2008;およびVestergaard et al., 2007c)、ならびに癌悪液質(Garcia et al., 2013;およびGarcia et al., 2005)、慢性閉塞性肺疾患悪液質(Miki et al., 2012)、成長ホルモン欠乏症(Miki et al., 2012)、肥満症(Tassone et al., 2003)、代謝症候群(Tesauro et al., 2005)、およびクッシング症候群(Leal-Cerro et al., 2002)の患者で検討されてきた。
【0331】
効果には変動があり一貫性がなかった。小規模なヒトでの検討は、グレリンが心拍出量(Nagaya et al., 2001b)および左心室EF(Nagaya et al., 2004)を改善する可能性があることを示唆しているが、これら検討は、用いられるグレリン形態がアシル化されているか否かを特定しておらず、またAHFの特定の症状とは関連させていない。またアシルとデスアシルは異なる結合かつ心筋細胞での異なる効果を有するので(Lear et al., 2010)、これらの検討での観察された作用を担うグレリンがいずれの形態かは不明である。
【0332】
潜在的な根底のメカニズム
慢性かつ急性心不全で使用中または開発中の多くの薬物(例えば、β遮断薬、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬、レボシメンダン、セレラキシン、ウララチド、オメカムチブ・メカビル、ニトロキシルドナー、イスタロキシムなど)と同様に、臨床的な利益をもたらす作用およびメカニズムは不明であり、おそらく多因子性であると思われる。
【0333】
成長ホルモン分泌促進物質受容体(GHSR)は、多数の下流シグナル伝達経路を有する7回膜貫通型Gタンパク質共役受容体である。その受容体は、その他のGタンパク質共役受容体にヘテロ二量体化して、Gs、Gi効果のみならずGq効果ももたらす可能性がある。心臓および血管系構造には、十分に機能が分かっていない4種(場合によっては5種)の異なるグレリン受容体が存在する。
【0334】
グレリンの観察された変力性(収縮性)効果を担う前述のグレリンシグナル伝達および可能性のあるメカニズムには、以下が含まれる:
1)GHSR-1a→Gaq11に結合→ホスホリパーゼC(PLC)→イノシトール三リン酸(IP3)およびジアシルグリセロール(DAG)→細胞内質(および潜在的に筋形質)網状組織表面のIP3受容体→細胞内カルシウムの放出(Albarran-Zeckler and Smith, 2013)
2)DAG→プロテインキナーゼC(PKC)の活性化→電位依存性L型Caチャネルの活性化→細胞内カルシウムの増加(Sun et al., 2010b)
3)GHSR→PLCおよびプロテインキナーゼS(またはPKC?)による媒介→カリウム放出の阻害→作用能力の延長→L型カルシウムチャネルの活性化(Sun et al., 2010a)
【0335】
但しこれらのメカニズムは全て、観察されていない細胞内カルシウム濃度の増加をもたらす。AHF患者に重篤な副作用を誘導するのは、細胞内カルシウム濃度の増加である。それに代えて本発明者らは、カルシウムの感受性の増加に後続する収縮性および短縮率の増加を見出した。
【0336】
本発明者らのデータは、以下のような新たなメカニズムを支持している:
4)GHSR→Gi→cAMPの低下→PKA活性の低下→タンパク質(トロポニンIなど)のリン酸化の低下→Ca2+の感受性の変化
【0337】
グレリンがカルシウム濃度の増加を介して作用する場合には、それは、βアドレナリン受容体拮抗剤およびホスホジエステラーゼ阻害剤などの有害作用と潜在的に関連すると思われるが、これはグレリンによって相殺されて、また中枢交感神経遮断作用を生じるものと思われる(Nagaya et al., 2001b)。但し以下のように、本発明者らのデータは、カルシウムの感作を介する収縮性の増加モデルを支持している。従ってグレリンが変力作用として機能する場合には、副作用および有害事象が予想されるが、何も観察されなかった。これは斬新かつ予想外なことであり、本発明者らの生体外実験により証明されている。
【0338】
グレリンはまた、炎症の低下(Li et al., 2004)およびアポトーシスの以下(Baldanzi et al., 2002)、一酸化窒素の生体利用能の改善による内皮機能の改善(Tesauro et al., 2005)、ならびに除脂肪質量の増加(Nagaya et al., 2004)などのさらなる多くの潜在的な心臓保護効果を有する。さらにグレリンには血管拡張効果があることも観察されているが、これは多くの場合に変力剤の限界となり低血圧に繋がる。本検討で観察されたグレリンの主要な潜在的な利益は、血圧への影響が無いこと、かつ低血圧にならないことである。
【0339】
結論
進行性HFおよびEFの低下を有する患者では、120分の静脈内グレリン注入は、偽薬と比較して、有害な低血圧、不整脈、頻脈、または虚血を引き起こすことなく心拍出量を向上させた。本発明者らの生体外マウス心筋細胞の検討では、メカニズムがカルシウムの感作に関連している可能性があることを示唆していた。これらの試験は、グレリンがAHFの治療に効果的であり、かつその使用が安全であることを示している。
【0340】
参考文献
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【配列表】
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【国際調査報告】