(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-27
(54)【発明の名称】硬度と加工性に優れた構造部用冷延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230217BHJP
C22C 38/14 20060101ALI20230217BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230217BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230217BHJP
【FI】
C22C38/00 301U
C22C38/00 301T
C22C38/14
C22C38/60
C21D9/46 F
C21D9/46 J
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538243
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(85)【翻訳文提出日】2022-08-16
(86)【国際出願番号】 KR2020017977
(87)【国際公開番号】W WO2021125684
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0170757
(32)【優先日】2019-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】ヨ、 ミンホ
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ヨン-クァン
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA04
4K037EA11
4K037EA15
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA23
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4K037EA27
4K037EA31
4K037EB01
4K037EB02
4K037FA02
4K037FA03
4K037FB00
4K037FC07
4K037FE02
4K037FE03
4K037FG00
4K037FH08
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
本発明の一実施形態による冷延鋼板は、重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含み、下記式1で定義される結晶粒の形状比が1.4~4.0である微細組織を有する。
[式1]
結晶粒の形状比=圧延方向の結晶粒の平均直径/厚さ方向の結晶粒の平均直径
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含み、
下記式1で定義される結晶粒の形状比が1.4~4.0である微細組織を有する冷延鋼板。
[式1]
結晶粒の形状比=圧延方向の結晶粒の平均直径/厚さ方向の結晶粒の平均直径
【請求項2】
Cu:0.003%以下、Nb:0.01重量%以下、Sb:0.03重量%以下、Sn:0.03重量%以下、Ni:0.03重量%以下、Cr:0.03重量%以下およびMo:0.03重量%以下のうちの1種以上をさらに含む、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項3】
請求項1に記載の冷延鋼板、および前記冷延鋼板の一面または両面に位置するメッキ層を含むメッキ鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含むスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;および
前記熱延鋼板を30~75%圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階を含む冷延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記熱延鋼板を製造する段階の前に、前記スラブを1150℃以上で加熱する段階をさらに含む、請求項4に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延鋼板を製造する段階は、Ar
3以上で熱間仕上げ圧延する段階を含む、請求項4に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延鋼板を製造する段階は、550~700℃で巻き取る段階を含む、請求項4に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項4に記載の方法で冷延鋼板を製造する段階;および
前記冷延鋼板の一面または両面に溶融メッキまたは電気メッキしてメッキ層を形成する段階を含むメッキ鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
硬度と加工性に優れた冷延鋼板およびその製造方法に関する。より詳しくは、形態を維持するための高い硬度と各種形態の構造用素材として加工され得る成形性を備えた優れた冷延鋼板とその経済的な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板は、各種表面処理後に建築資材など多くの用途の構造材として使用されている。構造材として使用時、硬度が高い場合に成形後外力による変形に対してよく耐えることができる長所がある。特に電子製品などのように表面の美的特性が要求される場合には高い硬度を有することによって表面の平坦度を維持することが重要である。
【0003】
鋼板の硬度を高めるための方法として固溶強化、析出強化、加工硬化、硬質相の制御などの多様な方法が使用されている。そのうち、固溶強化は多量の合金元素の添加を必要とし、硬質相を制御する方法も硬化能を高めるために多量の合金元素を添加したり焼鈍後に急冷工程を必要として製造時に経済性を落とすという短所がある。析出強化も析出物を形成するために高価の合金元素の添加を必要とし、過剰に析出物を形成する場合、冷間圧延性を大きく落とすという短所がある。
【0004】
前記方法とは異なり、加工硬化の場合には、合金元素を添加せずに単純な冷間圧延による高い電位生成で強度を向上させることができるため、経済的な方法で活用され得る。しかし、加工硬化後に電位密度が高くて成形性が大きく落ちるため、加工硬化後にも成形性を確保することが重要である。また加工硬化量が大きいほど成形性の低下が大きいため、成形性確保のための適正の加工硬化量を決めることが重要である。一般的な成分系を有する冷延鋼板に対して硬度(HRB)75以上を確保するためには20%内外の冷間圧下率が必要であり、20%を超過時に延伸率の低下により成形性を確保することが難しい。
【0005】
加工硬化を活用して硬度を確保する技術として、重量%で、C0.01~0.1%を有する低炭素鋼スラブを熱間圧延、1次冷間圧延、連続焼鈍、2次冷間圧延を経て硬度が高い冷延鋼板を製造する方法が提案されている。前記技術では、前述した延伸率低下の問題を緩和するために加工硬化過程である2次冷間圧延時に圧下率を15%以下に制限した。2次冷間圧下率による加工硬化圧下率が15%以下に低いため、直前の製造工程までの素材は目標厚さとの差が大きくてはならない。しかし、一般的に熱間圧延の厚さの限界は1mm以上であるため、遥かに薄い厚さを有する鋼板を得るためには熱間圧延後に50%以上の1次冷間圧延を通じて厚さを減らした後、連続焼鈍を通じた再結晶で加工硬化により応力を解消する過程が要求される。つまり、所望する水準の薄い目標厚さを得るために追加的に二つの工程を実施するため、生産性および経済性を落とす問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
硬度と加工性に優れた冷延鋼板およびその製造方法を提供する。より詳しくは、形態を維持するための高い硬度と各種形態の構造用素材として加工され得る成形性を備えた優れた冷延鋼板とその経済的な製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態による冷延鋼板は、重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含み、下記式1で定義される結晶粒の形状比が1.4~4.0である微細組織を有する。
【0008】
[式1]
結晶粒の形状比=圧延方向の結晶粒の平均直径/厚さ方向の結晶粒の平均直径
【0009】
Cu:0.003%以下、Nb:0.01重量%以下、Sb:0.03重量%以下、Sn:0.03重量%以下、Ni:0.03重量%以下、Cr:0.03重量%以下、およびMo:0.03重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0010】
本発明の一実施形態によるメッキ鋼板は、冷延鋼板、および冷延鋼板の一面または両面に位置するメッキ層を含む。
【0011】
本発明の一実施形態による冷延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含むスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;および熱延鋼板を30~75%圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階を含む。
【0012】
熱延鋼板を製造する段階の前に、スラブを1150℃以上で加熱する段階をさらに含むことができる。
【0013】
熱延鋼板を製造する段階は、Ar3以上で熱間仕上げ圧延する段階を含むことができる。
【0014】
熱延鋼板を製造する段階は、550~700℃で巻き取る段階を含むことができる。
【0015】
本発明の一実施形態によるメッキ鋼板の製造方法は、冷延鋼板を製造する段階;および冷延鋼板の一面または両面に溶融メッキまたは電気メッキしてメッキ層を形成する段階を含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一実施形態による、高価の合金成分を多量添加しないため、経済性を有しながらも、硬度と加工性に優れた冷延鋼板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これら用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためだけに使用される。したがって、以下で叙述する第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及され得る。
【0018】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数の形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数の形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
【0019】
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0020】
本発明の一実施形態で追加元素をさらに含むことの意味は、追加元素の追加量の分、残部である鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0021】
異なって定義していないが、ここで使用される技術用語および科学用語を含む全ての用語は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味に解釈されない。
【0022】
以下、本発明の実施形態について本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施することができるように詳細に説明する。しかし、本発明は多様な異なる形態に実現することができ、ここで説明する実施形態に限定されない。
【0023】
本発明の一実施形態による硬度と加工性に優れた冷延鋼板は、各種構造材として使用される冷延鋼板に関する。当該用途の素材は、形状を作るための加工性と構造物の形態を維持するための硬度が確保されなければならない。このために合金元素を0.5%以上多量添加する場合には経済性が落ちるため、合金元素を多量添加せずに加工硬化を利用して硬度および加工性を同時に確保できる方法を発明する必要がある。それだけでなく、加工硬化の目的で実施する最終冷間圧下率の範囲を拡大することによって、単に目標厚さを得る目的で最終的な冷間圧延直前に実施する1次冷間圧延および連続焼鈍工程を省略して経済性を高める方法を発明する必要がある。
【0024】
本発明者らは、前記の目的を達成するために合金元素の種類およびその含有量、製造条件の最適化を通じて前記の目標物性を有する冷延鋼板が製造され得ることを発見して本発明に至るようになった。より詳しくは、熱間圧延直後、鋼が最大に軟質化されるように設計することによって目標硬度に到達するための冷間圧下量の範囲を大きく拡大した。これによって、追加的な冷間圧延および焼鈍工程を省略し、1回の冷間圧延で最終厚さを得ることによって生産性および経済性を大きく向上させることができる。
【0025】
本発明の一実施形態による冷延鋼板は、重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含み、下記式1で定義される結晶粒の形状比が1.4~4.0である微細組織を有する。
【0026】
[式1]
結晶粒の形状比=圧延方向の結晶粒の平均直径/厚さ方向の結晶粒の平均直径
【0027】
以下、まず、本発明の一実施形態で提供する冷延鋼板の成分組成について詳細に説明する。このとき、特別な記載がない限り、各成分の含有量は重量%を意味する。
【0028】
炭素(C):0.004重量%以下
【0029】
Cは、強度および硬度の向上に寄与する元素であるが、本発明では加工硬化による強度確保が可能であり、鋼を軟質化して加工硬化のための冷間圧下率の範囲を拡大しようとするため、下限はない。Cは、Tiと結合して析出されることによって硬度が向上して加工硬化時に冷間圧下率の範囲が狭くなり、C含有量が過剰な場合には固溶炭素による時効を防止し難いため、その含有量は0.004重量%以下に制限することができる。より具体的にCは、0.0035重量%以下に含まれ得る。さらに具体的にCは0.001~0.003重量%含まれ得る。
【0030】
ケイ素(Si):0.02重量%以下
【0031】
Siは、脱炭剤として使用され得る元素であり、固溶強化による強度および硬度の向上に寄与することができるが、本発明の一実施形態では一次的に鋼を軟質化しなければならず、表面にSi系酸化物が生成されてメッキ時に欠陥を誘発してメッキ性を落とすことがある。したがって、Siは、0.02重量%以下に含まれ得る。より具体的にSiは0.015重量%含まれ得る。さらに具体的にSiは0.005~0.013重量%含まれ得る。
【0032】
マンガン(Mn):0.1~0.3重量%
【0033】
Mnは、鋼中の固溶Sと結合してMnSで析出されることによって固溶Sによる赤熱脆性(Hot shortness)を防止する元素である。このような効果を出すために0.1重量%以上含まれ得る。しかし、Mn含有量の増加により加工硬化の効果が大きく現れるため、本発明では圧下量の範囲拡大の側面で加工硬化の効果を減らすためにその含有量を0.3%以下に制限することができる。より具体的にMnは0.15~0.20重量%含まれ得る。
【0034】
アルミニウム(Al):0.05重量%以下
【0035】
Alは、脱酸効果が非常に大きい元素であり、鋼中のNと反応してAlNを析出させることによって固溶Nによる成形性が低下することを防止する。しかし、多量添加される場合、軟性が急激に低下するため、含有量を0.05重量%以下に制限することができる。より具体的にAlを0.03重量%以下に含むことができる。さらに具体的にAlを0.01~0.025重量%含むことができる。
【0036】
リン(P):0.02重量%以下
【0037】
一定量以下のPの添加は、鋼の軟性を大きく減少させずに強度を上げることができる元素であるが、0.02重量%を超えて添加すると結晶粒系に偏析して鋼を過度に硬化させ、延伸率が落ちるため、0.02重量%以下に制限することができる。より具体的にPは0.015重量%以下に含むことができる。さらに具体的にPは0.001~0.013重量%含むことができる。
【0038】
硫黄(S):0.01重量%以下
【0039】
Sは、固溶時に赤熱脆性を誘発する元素であるため、Mnの添加を通じてMnSの析出が誘導されなければならない。また過剰なMnSの析出は鋼を硬化させるため、本発明では鋼の軟質化の側面で好ましくない。したがって、Sの上限を0.01重量%に制限することができる。より具体的にSは0.001~0.009重量%含むことができる。
【0040】
窒素(N):0.004重量%以下
【0041】
Nは、鋼中に不可避な元素として含有されており、本発明でTiと結合して析出硬化により強度および硬度を向上させるため、回避される。また析出されずに固溶された状態で存在するNは、軟性を落とし、耐時効性を悪化させるだけでなく、加工性を落とす。したがって、Tiと結合して全て析出され得る含有量を考慮して0.004重量%以下に制限することができる。より具体的にNを0.0035重量%以下に含むことができる。さらに具体的にNを0.001~0.003重量%含むことができる。
【0042】
チタン(Ti):0.015~0.035重量%
【0043】
Tiは、CおよびNと結合して析出されることによって強度および硬度上昇に寄与する。しかし、本発明の一実施形態では、一次的に鋼を最大に軟質化しなければならないため、TiCおよびTiN析出物の含有量は少ないほど有利である。しかし、Tiが少ない時にはCおよびNが十分に析出されず、固溶状態で存在して時効発生による加工性低下を起こすため、0.015重量%以上のTi添加が必要である。反対にTiが必要以上に過多な時には固溶強化により鋼を硬質化させるため、その上限を0.035重量%以下に制限することができる。より具体的にTiを0.018~0.030重量%含むことができる。
【0044】
ホウ素(B):0.001~0.003重量%
【0045】
Bは、結晶粒界面に偏析しやすい元素であり、溶接時に冷却過程で結晶粒の粗大化を防止するのに寄与することができる。添加量が小さい場合にはNと結合してBNを形成することによって結晶粒系偏析効果が微々であるため、溶接性向上の効果を得るためには0.001重量%以上添加することができる。しかし、過剰な時は結晶粒を微細化させて硬質化させるため、本発明ではその上限を0.003重量%に制限することができる。より具体的にBを0.0015~0.0025重量%含むことができる。
【0046】
Cu:0.003%以下、Nb:0.01重量%以下、Sb:0.03重量%以下、Sn:0.03重量%以下、Ni:0.03重量%以下、Cr:0.03重量%以下およびMo:0.03重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0047】
前記組成以外に残りは、Feおよび不可避な不純物を含むことが好ましく、本発明の鋼材は、他の組成の添加を排除するのではない。前記不可避な不純物は、通常の鉄鋼製造過程では原料または周囲環境から意図せずに混入され得るもので、これを排除することはできない。前記不可避な不純物は、通常の鉄鋼製造分野の技術者であれば理解できるはずである。
【0048】
本発明の一実施形態による冷延鋼板は、下記式1で定義される結晶粒の形状比が1.40~4.00である。
【0049】
[式1]
結晶粒の形状比=圧延方向(RD方向)の結晶粒の平均直径/厚さ方向(ND方向)の結晶粒の平均直径
【0050】
結晶粒の形状比が過度に低ければ硬度が低いという問題が発生することがある。結晶粒の形状比が過度に高ければ延伸率が劣位になるという問題が発生することがある。より具体的に結晶粒の形状比は1.50~3.81であり得る。
【0051】
結晶粒の平均直径は、100μm以下であり得る。より具体的に10~100μmであり得る。結晶粒の平均直径は、圧延面(ND面)と平行な面で測定することができ、結晶粒と同一な面積を有する仮想の円を仮定してその円の直径になることができる。
【0052】
本発明の一実施形態によるメッキ鋼板は、冷延鋼板、および冷延鋼板の一面または両面に位置するメッキ層を含む。
【0053】
具体的にメッキ層は、アルミニウムおよび亜鉛のうちの1種以上を含むことができる。
【0054】
本発明の一実施形態による冷延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含むスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;および熱延鋼板を30~75%圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階を含む。
【0055】
以下、各段階別に具体的に説明する。
【0056】
まず、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。
【0057】
スラブの合金組成については、前述した冷延鋼板と同一であるため、重複する説明は省略する。冷延鋼板製造過程で合金成分が実質的に変動しないため、スラブと冷延鋼板の合金組成は実質的に同一である。
【0058】
スラブを熱間圧延する前に1150℃以上の温度で再加熱することができる。鋼中に存在する析出物を大部分再固溶させなければならないため、1150℃以上の温度が必要になり得る。より具体的には析出物をよく固溶させるために1200℃以上に加熱することができる。
【0059】
徐冷されたスラブをAr3以上の温度で熱間仕上げ圧延して熱延鋼板を製造する。熱間圧延仕上げ温度をAr3以上に限定する理由は、オーステナイト単相領域で圧延をするためである。
【0060】
Ar3温度は、下記式で計算され得る。
【0061】
Ar3=910-(310×[C])-(80×[Mn])-(20×[Cu])-(15×[Cr])-(55×[Ni])-(80×[Mo])-(0.35×(25.4-8))
【0062】
[C]、[Mn]、[Cu]、[Cr]、[Ni]および[Mo]は、それぞれ鋼板内のC、Mn、Cu、Cr、NiおよびMoの含有量(重量%)である。
【0063】
熱延鋼板を550~700℃で巻き取ることができる。550℃以上で巻き取ることによって固溶された状態でまだ残っているNをAlNで追加的に析出させることができるため、優れた耐時効性を確保することができる。550℃未満で巻き取る場合にはAlNで析出されず、残っている固溶Nにより加工性が落ちる危険がある。700℃超過で巻き取る場合には結晶粒が粗大化されて冷間圧延性を落とす要因になり得る。
【0064】
次に、熱延鋼板を冷間圧延する。
【0065】
このとき、30~75%圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する。圧下率は、冷延鋼板の最終厚さと最終材質を決定するものであり、圧下率が30%未満に低い場合には熱延鋼板の厚さ制限により目標厚さを得ることが難しく、圧下率が75%を超える場合には鋼が過度に硬質化されて成形性を確保することが難しい。より具体的に30~70%圧下率で冷間圧延することができる。
【0066】
その後、冷延鋼板の一面または両面に溶融メッキまたは電気メッキしてメッキ層を形成してメッキ鋼板を製造することができる。
【0067】
本発明の一実施形態による硬度と加工性に優れた冷延鋼板は、硬度(HRB)が75以上であり得、延伸率が3%以上であり得る。より具体的に硬度(HRB)が75~88.0であり得、延伸率が3.3~5.0%であり得る。
【0068】
本発明の一実施形態による冷延鋼板は、時効性に優れている。時効性は0.1~1.5MPaであり得る。より具体的に0.5~1.1MPaであり得る。時効性は、時間経過による材質変化を示す指標であり、100℃で1時間維持して加速時効を起こした後に示される降伏強度の増加量を測定することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明はこれに限定されない。
【0070】
(実施例)
下記表1の組成を有し、残部はFeおよび不可避な不純物を含む鋼を製造し、成分は実績値を表記したものである。このような表1の組成を有する鋼スラブを1250℃で再加熱して910℃で熱間圧延を施し、640℃で巻き取り、25~80%の圧下率で冷間圧延した。
【0071】
【0072】
製造された前記冷延鋼板に対して下記の結晶粒の形状比、硬度、延伸率、時効性、メッキ性、溶接性を評価して下記表2に示した。結晶粒の形状比は、下記式1を通じて定義し、光学観察を通じて測定することができる。ロックウェル硬さ(HRB)測定を通じて硬度を測定し、引張試験を通じて延伸率を測定した。時効性は、時間経過に応じた材質変化を示す指標として、100℃で1時間維持して加速時効を起こした後に示される降伏強度の増加量を測定して比較した。また本発明の冷延鋼板は、主にメッキなどの表面処理を経て使用されるため、Zn溶融メッキを通じて表面の異常有無を確認した。このとき、面積比で0.1%以上の未メッキが確認される時にメッキ性が不良であると判断した。溶接性を判断するためにTIG溶接を施し、結晶粒の直径が100μm超過に粗大化時に溶接性が不良であると判断した。
【0073】
【0074】
前記表3の開発鋼1~9は、成分範囲を全て充足し、冷間圧下率30~75%の範囲で結晶粒の形状比1.4~4.0間の値を有する。材質的側面で75以上の高い硬度を有して外力を耐えるには適し、延伸率が全て3%以上であり、加速時効後に降参強度の増加が3MPa以下であり、基本的な形状具現に適した水準の成形性を有する。またメッキ性および溶接性が良好で使用に問題がない。
【0075】
比較鋼1は、開発鋼と成分は同一であるが、冷間圧下率が25%に低くて組織的側面で結晶粒の形状比が1.32に小さい。冷間圧下率が低いため、最終的に所望する厚さを得るためには熱間圧延板の厚さがそれに相応する水準に薄くなければならない。これは熱間圧延時に負荷を与えるため、生産性を落とす要因になる問題点がある。また成分的側面での強化機構がない軟質成分系であるため、25%の圧下時に硬度が75以下に低い問題点もある。
【0076】
反面、比較鋼2は、冷間圧下率が80%に高くて5以上の結晶粒の形状比を有し、このとき、硬度は高いが延伸率が2%以下に低くて成形が難しい問題点がある。
【0077】
比較鋼3は、Cの含有量が0.0055重量%に過剰であり、このとき、加速時効後に降参強度の上昇が30MPa以上に高くて成形性が劣位である。C含有量が高い場合、Tiによる析出が十分でないため、固溶Cが鋼内に残留するようになり、固溶Cは時効を起こす主原因になる。これを防止するためには、Tiを追加的に添加することができるが、これは析出硬化により鋼を硬化させるため、鋼を軟質化し、最終冷間圧下率の範囲を拡大しようとする本発明の方向に符合しない。
【0078】
このような理由でCの含有量が本発明で所望する水準に低い場合にもTiの含有量は重要である。比較鋼9は、Tiの含有量が0.010重量%に低いためCを十分に析出させることができず、固溶Cにより加速時効後に降参強度が30MPa以上上昇して成形性が劣位である。比較鋼10は、Ti含有量が0.045重量%に高くて時効を防止するには効果的であるが、Ti含有量が過剰であり、Cを析出させて残ったTiが鋼内で固溶強化効果をもたらすため、延伸率を落とすだけでなく、経済的でない短所がある。
【0079】
比較鋼8は、Nの含有量が0.0056重量%含む場合であり、N含有量が0.004重量%以下に低い場合にはAlと結合してAlNを形成することによって固溶Nがほとんど存在せず、時効がほとんど発生しない。しかし、含有量が過剰な場合、超過時にAlがNを十分に析出させることが難しいため、固溶Nが鋼内に残留するようになる。その結果、時効により降参強度の上昇を誘発して成形性を落とす。
【0080】
比較鋼11は、Bの含有量が0.0005重量%に小さい場合であり、溶接による溶融後冷却時に結晶粒の成長を防止し難いため、結晶粒が100μm超過に過剰に成長して溶接性が劣位である。Bは、一定量以上添加時に結晶粒界面に偏析することによって結晶粒の成長を効果的に抑制する役割を果たす。このような効果を得るためには0.001重量%以上の添加が好ましい。
【0081】
比較鋼12のように0.0035重量%に過剰な場合には、結晶粒を微細化させて鋼を硬質化させるため、延伸率を3%以下に減少させて成形性の側面で好ましくない。またBは、表面にも偏析する傾向があり、表面に偏析されたBは空気中の酸素と結合して酸化物を形成する。これによってメッキ性を劣位にする問題がある。
【0082】
本発明は、前記実施形態に限定されるのではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態で実施可能であることを理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施形態は全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【手続補正書】
【提出日】2022-08-16
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含み、
下記式1で定義される結晶粒の形状比が1.4~4.0である微細組織を有する冷延鋼板。
[式1]
結晶粒の形状比=圧延方向の結晶粒の平均直径/厚さ方向の結晶粒の平均直径
【請求項2】
Cu:0.003%以下、Nb:0.01重量%以下、Sb:0.03重量%以下、Sn:0.03重量%以下、Ni:0.03重量%以下、Cr:0.03重量%以下およびMo:0.03重量%以下のうちの1種以上をさらに含む、請求項1に記載の冷延鋼板。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の冷延鋼板、および前記冷延鋼板の一面または両面に位置するメッキ層を含むメッキ鋼板。
【請求項4】
重量%で、C:0.004%以下(0%を除く)、Si:0.02%以下(0%を除く)、Mn:0.1~0.3%、Al:0.05%以下(0%を除く)、P:0.02%以下(0%を除く)、S:0.01%以下(0%を除く)、N:0.004%以下(0%を除く)、Ti:0.015~0.035%、およびB:0.001~0.003%を含み、残部はFeおよびその他不可避な不純物を含むスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階;および
前記熱延鋼板を30~75%圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階を含む冷延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記熱延鋼板を製造する段階の前に、前記スラブを1150℃以上で加熱する段階をさらに含む、請求項4に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱延鋼板を製造する段階は、Ar
3以上で熱間仕上げ圧延する段階を含む、請求項4
または5に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延鋼板を製造する段階は、550~700℃で巻き取る段階を含む、請求項4
~6のいずれか一項に記載の冷延鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項4
~7のいずれか一項に記載の方法で冷延鋼板を製造する段階;および
前記冷延鋼板の一面または両面に溶融メッキまたは電気メッキしてメッキ層を形成する段階を含むメッキ鋼板の製造方法。
【国際調査報告】