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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(54)【発明の名称】光学装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/11 20150101AFI20230220BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20230220BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20230220BHJP
   G02B 5/08 20060101ALI20230220BHJP
   G02B 1/113 20150101ALI20230220BHJP
【FI】
G02B1/11
G02B5/26
G02B5/28
G02B5/08
G02B1/113
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022524166
(86)(22)【出願日】2020-10-26
(85)【翻訳文提出日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 FR2020051933
(87)【国際公開番号】W WO2021079077
(87)【国際公開日】2021-04-29
(31)【優先権主張番号】1911937
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506126266
【氏名又は名称】イドロメカニーク・エ・フロットマン
(71)【出願人】
【識別番号】521372183
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ジャン・モネ・サン・テティエンヌ
(71)【出願人】
【識別番号】518098391
【氏名又は名称】マニュテック - ユエスデ
(71)【出願人】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】トマ・ケンプフェ
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・デュボ
(72)【発明者】
【氏名】イクスイクスイクス・セダオ
【テーマコード(参考)】
2H042
2H148
2K009
【Fターム(参考)】
2H042AA02
2H042AA06
2H148FA05
2H148FA07
2H148FA09
2H148FA12
2H148FA24
2H148GA03
2H148GA09
2H148GA30
2H148GA32
2K009AA02
2K009AA12
2K009BB04
2K009CC02
2K009CC03
2K009CC42
(57)【要約】
本発明は、電磁スペクトルの波長域において電磁放射を透過/反射するのに適した光学装置(1)に関し、前記装置(1)は、少なくとも、第1の材料でできた基板(10)、第1の材料とは異なる第2の材料でできたコーティング層(20)、および装置(1)にキャビティ(31)を形成する表面テクスチャリング(30)を含み、キャビティ(31)がコーティング層(20)を通って延び、基板(10)に部分的に沈み込んでいることを特徴としている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁スペクトルの波長域において電磁放射を透過/反射するのに適した光学装置(1)であって、前記装置(1)が、少なくとも
-第1の材料からなる1つの基板(10)と、
-前記第1の材料とは異なる第2の材料からなる1つのコーティング層(20)と、
-前記装置(1)にキャビティ(31)を形成する表面テクスチャリング(30)を含み、
前記キャビティ(31)が、前記コーティング層(20)を通って延び、前記基板(10)に部分的に沈み込んでいることを特徴とする、光学装置(1)。
【請求項2】
前記キャビティ(31)が、前記コーティング層(20)と前記基板(10)との間で連続したプロファイルを有することを特徴とする、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記キャビティ(31)が、円形の断面を有することを特徴とする、請求項1または2に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記キャビティ(31)が、軸方向平面において凹状のプロファイルを有し、面積断面が、深さに応じて減少することを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記キャビティ(31)が、軸方向平面において対称的な凹状のプロファイルを有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記キャビティ(31)が、軸方向平面において非対称の凹状プロファイルを有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項7】
前記キャビティ(31)が、前記装置(1)の表面上に規則的な配列に従って配置されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項8】
前記キャビティ(31)が、定義された規則に従って進化し、ランダムではない、可変の周期、例えば前記装置(1)の中央と端の間で異なる周期で、前記装置(1)の表面上にわたって配置されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項9】
前記装置(1)が、第1のコーティング層(20)と第1の基板(10)の少なくとも1つの第1の組み合わせ(10+20)、および最後のコーティング層(20)と最後の基板(10)の最後の組み合わせ(10+20)を含む、複数の基板(10)とコーティング層(20)のスタックを交互に備えることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項10】
前記キャビティ(31)が、前記第1の組み合わせ(10+20)においてのみ形成されることを特徴とする、請求項9に記載の装置(1)。
【請求項11】
前記キャビティ(31)が、部分的に沈み込んでいる前記最後の基板(10)を除いて、前記スタックを完全に通って延び、前記キャビティ(31)が、前記最後の基板(10)の方向に厳密に減少する面積断面を有することを特徴とする、請求項9に記載の装置(1)。
【請求項12】
前記スタックが、前記第1の組み合わせ(10+20)と前記最後の組み合わせ(10+20)との間の少なくとも1つの中間の組み合わせ(10+20)を含むことを特徴とする、請求項9から11のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項13】
前記装置(1)が、前記基板(10)および前記コーティング(20)とは異なる材料からなる少なくとも1つの背面層(40)を含み、前記コーティング(20)が前記基板(10)の第1の側に形成され、前記背面層(40)が前記第1の側とは反対の前記基板(10)の第2の側に形成されていることを特徴とする、請求項1から12のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項14】
前記装置(1)が、コーティング層(20)と、前記コーティング層を通って延び、前記基板または前記基板の1つを部分的に貫通する前記キャビティ(31)を形成する、表面テクスチャリング(30)とをそれぞれ有する、2つの面を含むことを特徴とする、請求項1から13のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項15】
前記装置(1)が、コーティング層(20)と、前記コーティング層(20)を通って延び、前記基板(10)または前記基板の1つを部分的に貫通するキャビティ(31)を形成する表面テクスチャリング(30)とを有する第1の面と、テクスチャリングを有さない、または処理を有さない、または前記第1の面のテクスチャリングとは異なる処理を受けるコーティング層(20)を有する第2の面とを含むことを特徴とする、請求項1から13のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項16】
電磁スペクトルの波長域において電磁放射を透過/反射するのに適した光学装置を製造するための方法であって、前記方法が、少なくとも、
-第1の材料からなる基板と、前記第1の材料とは異なる第2の材料からなるコーティング層との少なくとも1つの組み合わせを形成するステップと、
-前記装置にキャビティを形成する表面テクスチャリングを行うステップを含み、
前記キャビティが、前記コーティング層を通って延び、部分的に前記基板に沈み込んでいることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば紫外線、可視光線、赤外線、マイクロ波などの所定の波長域の放射線を透過または反射するのに適した、光学装置に関するものである。
【0002】
本発明の分野は、例えばイメージングシステムを装備するために設計された光学装置の分野である。実際には、用途は波長域に依存する。
【背景技術】
【0003】
既知の方法で、反射防止効果またはミラー効果は、多層構造および/または光学装置の構造化によって得ることができる。
【0004】
以下の文献では、光学装置のさまざまな例について説明している。
-EP3206059A1には、装置の表面で有効な指数変化を有する人工材料を形成するように配置された複数の素領域および微細構造から構成されている、広帯域回折装置が記載されている。
-BRUYNOOGHE(2016),“Broadband and wide-angle hybrid antireflection coatings prepared by combining interference multilayers with subwavelength structures”,Journal of Nanophotonics, SPIE, International Society for Optics and Photonics.この文献は、ドライエッチングで作製した確率的な構造と組み合わせた多層構造について記載している。
-KUBOTA(2014),“Optimization of hybrid antireflection structure integrating surface texturing and multi-layer interference coating”,School of Science and Engineering, Yamagata University, Japan.この文献は、多層構造とモスアイ型アレイの組み合わせの理論的研究について記載している。
-CAMARGO(2012),“Multi-scale structured, superhydrophobic and wide-angle, antireflective coating in the near-infrared region”,Chem.Commun.,2012,48,4992-4994,Royal Society of Chemistry,United Kingdom.この文献は、特定の表面挙動の改善に焦点を当てた、いくつかの層の構造化について記載している。
-RALCHENKO(1999),“Fabrication of CVD Diamond Optics with Anti-reflective Surface Structures”, phys. stat. sol.,General Physics Institute,Moscow,Russia.この文献は、反射防止効果を得るためのCVDで成膜されたダイヤモンドの構造化について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3206059号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】BRUYNOOGHE(2016),“Broadband and wide-angle hybrid antireflection coatings prepared by combining interference multilayers with subwavelength structures”,Journal of Nanophotonics, SPIE, International Society for Optics and Photonics
【非特許文献2】KUBOTA(2014),“Optimization of hybrid antireflection structure integrating surface texturing and multi-layer interference coating”,School of Science and Engineering, Yamagata University, Japan
【非特許文献3】CAMARGO(2012),“Multi-scale structured, superhydrophobic and wide-angle, antireflective coating in the near-infrared region”,Chem.Commun.,2012,48,4992-4994,Royal Society of Chemistry、United Kingdom
【非特許文献4】RALCHENKO(1999),“Fabrication of CVD Diamond Optics with Anti-reflective Surface Structures”,phys. stat. sol.,General Physics Institute、Moscow,Russia
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、反射防止型またはミラー型の、改善された特性を有する光学装置を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的のために、本発明は、電磁スペクトルの波長域において電磁放射を透過/反射するのに適した光学装置を目的とし、前記装置は、少なくとも
-第1の材料からなる基板と、
-第1の材料とは異なる第2の材料からなるコーティング層と、
-装置にキャビティを形成する表面テクスチャリングを含み、
キャビティが、コーティング層を通って延び、基板に部分的に沈み込んでいることを特徴とする。
【0009】
このように、本発明は、制御された方法で、電磁波の前面を変更することを可能にする。
【0010】
テクスチャリングは、テクスチャされた装置の表面で有効屈折率を変化させることを可能にする。特に、テクスチャリングは、テクスチャされたコーティング層と基板のテクスチャ領域で、より低い実効屈折率を制御された方法で得ることを可能にする。テクスチャリングは、多層膜を使用することで、達成不可能な有効指数を直接得ることを可能にする。指数は、放射線の波長によって変化する。
【0011】
また、本発明により、光学関数の有効性が興味深い入射角範囲を広げることが可能になる。
【0012】
装置の構造は、基板の非テクスチャ部分を取り囲む、テクスチャされたコーティング層と基板のテクスチャ層とを含む、少なくとも1つの2層システムを形成する。
【0013】
第1の用途によれば、光学装置は、反射防止機能を有する。装置は、電磁スペクトルの波長域の電磁放射を透過するのに適している。装置は、前記波長域において透過的な第1の材料からなる少なくとも1つの基板と、第1の材料とは異なり、前記波長域において透過的な第2の材料からなるコーティング層と、装置にキャビティを形成する表面テクスチャリングとを含む。装置は、キャビティがコーティング層を通って延び、部分的に基板に沈み込んでいることを特徴としている。
【0014】
有利には、本発明は、テクスチャされておらずコーティングされていない基板;テクスチャされておりコーティングされていない基板;テクスチャされていないコーティング層のコーティングされた基板;さらにはテクスチャされたコーティング層でコーティングされるが、テクスチャリングは基板を貫通していない基板、に関して、スペクトル幅および最大透過率(したがって最小吸収率)のレベルで装置の透過率を高めることを可能にする。この改善は、装置の構成、特に基板/コーティングの組み合わせの特性およびテクスチャリングの特性に依存する。
【0015】
テクスチャされておりコーティングされていない基板と比較して、テクスチャされたコーティング層は、より浅いキャビティを形成することにより、透過率を向上させることが可能となる。したがって、テクスチャリングは容易かつ迅速に行うことができる。
【0016】
テクスチャされていないコーティング層のコーティングされた基板と比較して、装置の表面挙動は変更される。
【0017】
実際には、装置は、全電磁スペクトルにわたって透過率を改善することはできないが、基板/コーティングの組み合わせの特性およびテクスチャリングの特性に依存して、波長域にわたって透過するように構成されている。
【0018】
波長域は、国際照明委員会(CIE)が推奨する細分化に従って定義されている。
-ガンマ線:10pm未満
-X線:10pmから10nm
-紫外線:10nmから380nm
-可視:380nmから780nm
-IR-A(近赤外):0.78μmから1.4μm
-IR-B(中赤外):1.4μmから3μm
-IR-B(遠赤外):3μmから1mm
-電波:1mmより大きい
【0019】
IR領域については、以下の細分化も可能である。
-NIR(近赤外):0.75μmから1.4μm
-SWIR:1.4μmから3μm
-MWIR:3μmから8μm
-LWIR:8μmから15μm
-FIR(遠赤外):15μmから1mm
【0020】
透過率に関しては、装置の異なる変形は、必ずしも最先端の装置より効率的であるとは言えない。しかし、本発明による装置は、製造が容易であること、表面電圧など、他の利点がある。
【0021】
第2の用途によれば、光学装置は、ミラー機能を有する。装置は、電磁スペクトルの波長域の電磁放射を反射するのに適している。装置は、前記波長域を反射する第1の材料からなる、少なくとも1つの基板と、前記第1の材料とは異なる第2の材料からなり、前記波長域を反射するコーティング層と、装置にキャビティを形成する表面テクスチャリングとを含む。装置は、キャビティがコーティング層を通って延び、部分的に基板に沈み込んでいることを特徴する。
【0022】
したがって、本発明は、テクスチャされておらずコーティングされていない基板、テクスチャされておりコーティングされていない基板、またはテクスチャされていないコーティング層でコーティングされた基板に関して、装置の反射を改善することを可能にする。
【0023】
変形例によれば、光学装置は、ミラー機能を有し、前記波長域において透過的な第1の材料からなる少なくとも1つの基板と、前記第1の材料とは異なり、前記波長域において透過的な第2の材料からなるコーティング層と、前記装置にキャビティを形成する表面テクスチャリングを含む。装置は、キャビティがコーティング層を通って延び、部分的に基板に沈み込んでいることを特徴としている。
【0024】
あるいは(反射や透過の機能と組み合わせて)、光学装置は、反射防止やミラーの機能とは異なる、光学面の波面を変更する機能を持つことができる。
【0025】
第1の実施形態によれば、装置は、1つまたは複数のコーティング層を支持する1つの単一基板層を含む。
-基板は、好ましくは0.1から30mmの間、例えば1または2mm程度の厚みを有する。
-コーティング層は、好ましくは0.01から50μmの間、例えばIR領域では0.5μmまたは2μm程度の厚さを有する。
-基板の材料は、例えば、IR用途では、例えば、シリコンSi、ゲルマニウムGe、硫化亜鉛ZnS、セレン化亜鉛ZnSeなどである。
-基板は一般に結晶構造を有している。
-コーティングは、アモルファスまたは結晶構造を有することができる。
-コーティング層の材料は、例えば、アモルファスカーボンDLC(「Diamond Like Carbon」)、シリコンSi、ゲルマニウムGe、硫化亜鉛ZnS、セレン化亜鉛ZnSe、五酸化タンタルTa2O5、二酸化ハフニウムHfO2、アルミナAl2O3などである。
-装置は、好ましくは、少なくとも1つの背面層を含む。
-装置は、1つの単一基板と1つの単一コーティング層とを含み得る。この場合、好ましくは、基板は、テクスチャリング前のコーティングの屈折率よりも大きい屈折率を有する。
-装置は、1つの単一基板と複数のテクスチャされたコーティング層とを含み得る。この場合、好ましくは、基板は、テクスチャリング前のコーティングの屈折率より大きい屈折率を有する。あるいは、基板は、コーティング層のうちの少なくとも1つよりも小さい屈折率を有することができる。
【0026】
第2の実施形態によれば、装置の構造は、1つ以上のコーティング層と1つの基板の層とを含む層のスタックを形成する。この場合、各基板は、コーティング層の支持層として定義される。
-基板およびコーティング層は、好ましくは0.01から50μmの間、例えばIR領域では0.5μmまたは2μm程度の厚さを有する。
-基板およびコーティング層の材料は、例えば、アモルファスカーボンDLC(Diamond Like Carbon)、シリコンSi、ゲルマニウムGe、硫化亜鉛ZnS、セレン化亜鉛ZnSe、五酸化タンタルTa2O5、二酸化ハフニウムHfO2、アルミナAl2O3などである。
-基板は、アモルファスまたは結晶構造を有し得る。
-コーティングは、アモルファスまたは結晶構造を有し得る。
-装置は、好ましくは、少なくとも1つの背面層を含む。
-最後の基板に対して配置される背面層は、好ましくは0.1から30mmの間、例えば1または2mm程度の厚さを有する。
-最後の基板に対して配置される背面層は、結晶構造を有し得る。
-装置が複数の背面層を含む場合、第2の背面層は、好ましくは0.01から50μmの間、例えばIR領域では約0.5μmまたは2μmの厚さを有する。
-背面層の材料としては、例えば、アモルファスカーボンDLC(「Diamond Like Carbon」)、シリコンSi、ゲルマニウムGe、硫化亜鉛ZnS、セレン化亜鉛ZnSe、五酸化タンタルTa2O5、二酸化ハフニウムHfO2、アルミナAl2O3など、また、IR用途としてシリコンSi、ゲルマニウムGe、硫化亜鉛ZnS、セレン化亜鉛ZnSeなどであり得る。
-背面層がない場合、最後の基板は、好ましくは0.1から30mmの間、例えば1または2mm程度の厚さを有し、その材料は、例えば、シリコンSi、ゲルマニウムGe、硫化亜鉛ZnS、セレン化亜鉛ZnSe等のIR用途のものである。
-装置は、上側に向けられ、入射放射線を受ける、第1のコーティング層と第1の基板の少なくとも1つの第1の組み合わせと、最後のコーティング層と最後の基板の最後の組み合わせとを含む、複数の基板とコーティング層の交互のスタックを含み得る。
-キャビティは、入射放射線を受ける上側に向いている第1の組み合わせにのみ形成し得る。
-キャビティは、部分的に沈み込んでいる最後の基板を除いて、スタック内を完全に通って延び得る。
-好ましくは、キャビティは、最後の基板方向に厳密に減少する面積断面を有する。
-キャビティは、スタックを形成する各組み合わせについて、コーティング層を完全に通って延び、部分的に基板に沈み込み得る。
-スタックは、第1の組み合わせと最後の組み合わせの間の少なくとも1つの中間の組み合わせを含み得る。
-装置は、基板/コーティングの組み合わせごとに背面層を含み得る。この場合、背面層はキャビティによって拡張され、次のコーティング層に貫通し得る。あるいは、装置は、最後の組み合わせに対して1つの単一の背面層から構成され得る。この場合、背面層はキャビティによって拡張されない。
【0027】
本発明の他の有利な特徴によれば、個々にまたは以下の組み合わせで取られる。
-キャビティは、3μmを超える遠赤外域に対して、好ましくは0.5から10μmの間、例えば1μm前後、深さに渡って基板に形成されている。
-キャビティは、780nmから3μmの間の近赤外領域または中赤外領域に対して、好ましくは0.08μmから3μmの間、例えば200nm程度の深さに渡って基板に形成されている。
-キャビティは、可視域対して、好ましくは1nmから600nmの間、例えば80nm程度の深さに渡って形成されている。
-好ましくは、IR用途では、基板およびコーティング層は、1μmから50μmの間の全波長領域で透過的/反射性である。
-好ましくは、8μmから12μmの間の遠赤外線領域に対して、装置は、当該ジオプトリ―について、入射赤外線の少なくとも90%の透過率/反射率を可能にする。
-キャビティの特性(形状、寸法、分布など)は、テクスチャリング技術や使用するパラメータに依存する。
-好ましくは、キャビティは、0.02から3μmの間、特に1から2μmの間の大きな幅または直径を有する。
【0028】
-コーティング層は、PVDやCVDなどの薄膜堆積技術によって作製することができる。
-テクスチャリングは、例えばレーザーアブレーション、フォトリソグラフィー、ナノプリンティングなど、コーティング層を通って延び、部分的に基板に沈み込むための任意のタイプの適切な技術によって行うことができる。レーザーテクスチャリングは、比較的経済的で、よく制御されている。
-テクスチャリングは、フェムト秒またはピコ秒領域のパルス持続時間を持つ超短パルスレーザーによって行うことができる。レーザーの波長は、一般的に200から16000nmの間で、所望のテクスチャリング特性(キャビティ、パターンなどの形状や寸法)に応じて選択される。
-レーザーの光学機械環境は、電動ステージ、顕微鏡レンズ(および/またはガルバノスキャナー、および/またはマイクロスフィア単層)、オンラインビューイングユニットなどを含む。
-好ましくは、キャビティは、コーティング層と基板との間の遷移の間に連続的なプロファイルを有する。この連続的なプロファイルは、例えばレーザーテクスチャリングなどの1つの同じテクスチャリング操作中に、コーティング層および基板にキャビティを形成することによって得ることができる。連続的なプロファイルは、波面に求められる形状の制御を向上させる。実際、不連続性は、回折やその他の望ましくない効果を発生させ得る。
-キャビティは、円形の断面を持ち得る。
-キャビティは、最後の基板方向において厳密に減少している面積断面を有する。
-キャビティは、軸方向において凹状のプロファイルを有し、面積断面は深さに応じて小さくなっている。
-キャビティは、軸方向平面において対称的な凹状のプロファイルを有し得る。
-キャビティは、軸方向平面において非対称の凹状のプロファイルを有し得る。
-キャビティは、異なる寸法、特に異なる直径、幅および/または深さを有し得る。
-キャビティの寸法は周期的に変化し得る。
-キャビティの寸法は、ランダムではなく、決められたルールに従って変化する、可変の周期を有し得る。
-キャビティは、装置の表面にわたってランダムに配置され得る。
-キャビティは、装置の表面にわたって規則的な配列に従って配置され得る。
-キャビティは、三角形、四角形、六角形のメッシュなどを持つ配列に従って配置され得る。
-キャビティは、装置の表面にわたって可変の周期で配置され得る。
-可変の周期は、定義されたルールに従って進化し、ランダムではない。
-可変の周期は、規則的に進化する。
-キャビティは、装置の中央と端で異なる周期を有し得る。
-キャビティは、装置の中心により近い位置に配置され得る。
-コーティング層では、キャビティは20から91%の間の密度を有し、すなわち、20から91%の間の空間を充填する割合を有する。割合91%は、六角形に配置され、互いに接触しているキャビティに相当する。
-装置は、基板およびコーティングとは異なる材料からなる少なくとも1つの背面層を含むことができ、コーティングは基板の第1の側に形成され、背面層は第1の側とは反対側の基板の第2の側に形成される。
-背面層は、例えば、硫化亜鉛ZnS、または基板やコーティング層について上述した材料で構成される。
-装置は2つの面を含み、それぞれがコーティング層と、コーティング層を通って延び、基板または基板の1つを部分的に貫通するキャビティを形成する表面テクスチャリングを備え得る。
-装置は、コーティング層と、コーティング層を通って延び、基板または基板の1つを部分的に貫通するキャビティを形成する表面テクスチャリングを有する第1の面と、本発明によるテクスチャリングを有さない、または第1の面のテクスチャリングとは異なる処理を受ける、または処理を受けないコーティング層を有する第2の面を含み得る。
-2つの面のコーティング層は異なっていてもよい(材質、厚さなど)。
-装置の面は、平行であってもなくてもよい。例えば、面は傾斜した平面で配置され得る。別の例によれば、面は凹面または凸面であり得る。
【0029】
本発明はまた、電磁スペクトルの波長域において電磁放射を透過/反射するのに適した、光学装置の製造方法を目的とし、前記方法は、少なくとも以下の、
-第1の材料からなる基板と、第1の材料とは異なる第2の材料からなるコーティング層との少なくとも1つの組み合わせを形成するステップと、
-装置にキャビティを形成する表面テクスチャリングを行うステップを含み、
キャビティはコーティング層を通って延び、部分的に基板に沈み込んでいることを特徴とする。
【0030】
本発明は、光学装置の分野で多くの応用が可能である。
-IR用途:カメラ、レンズ、光学窓、カモフラージュ表面、ルアーなど。
-可視・近赤外域用途:光学窓、レンズ、撮像素子カメラ用ミラー、レーザーライン、レーザー成形など。
-電波応用製品:レーダーなど。
【0031】
本発明は、非限定的な例としてのみ与えられ、添付の図面を参照してなされる以下の説明を読めば、最もよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明による装置の概略断面図であり、シリコンSi基板、アモルファスカーボンDLCコーティング層、および装置にキャビティを形成するテクスチャを含み、キャビティはコーティング層を通って延び、一部は基板に沈み込んでいる。
図2図1と同様の断面であり、テクスチャされていないSI基板とテクスチャされていないDLCコーティングで構成された装置を示す。
図3図1と同様の断面図であり、テクスチャされておりコーティングされていないSi基板で構成された装置を示す。
図4図1と同様の断面図であり、テクスチャされていないSi基板とテクスチャされたDLCコーティングで構成された装置を示す。
図5図1と同様の断面図であり、テクスチャされておらずコーティングされていないSi基板で構成された装置を示す。
図6図1の装置の概略図、上面図である。
図7図1から図5の各装置について、波長(WL:3から15μm)に応じた透過率(T:0から1)の変化を示すグラフである。
図8図1および図2の装置について、装置表面への放射線の入射角(角度:0から80°)に応じた透過率(T[%])の変化を示すグラフである。
図9図8と同様のグラフであり、図1、2の装置の入射角(角度:0から60°)に応じた透過率(T[%])の変化を示す。
図10】本発明による図1の装置について、波長(WL:3から15μm)および入射角(角度:0から80°)に応じた透過率(T[%])の変化を示す図である。
図11図2の装置について、図10と同様の図である。
図12図7と同様のグラフであり、図1から図5と同様にセレン化亜鉛ZnSe基板と、一部に二酸化ケイ素SiO2コーティング層を持つ5種類の装置について、波長(WL:0.8から3μm)に応じた透過率(T:0.7から1)の変化を示す。
図13図9と同様のグラフであり、図12で表される2つの装置の透過率、すなわちテクスチャ基板とテクスチャコーティングを含む本発明による装置、およびテクスチャされていない基板とテクスチャコーティングを含む装置についてである。
図14図7と同様のグラフであり、図1から図5と同様に二酸化ケイ素SiO2基板と、一部にフッ化マグネシウムMgF2コーティング層を持つ5種類の装置について、波長(WL:0.3から1μm)に応じた透過率(T:0.96から1)の変化を示す。
図15図9と同様のグラフであり、図14に表される2つの装置の透過率、すなわち、テクスチャ基板とテクスチャコーティングを含む本発明による装置、およびテクスチャされていない基板とテクスチャされていないコーティングからなる装置についてである。
図16図7と同様のグラフであり、図1から図5と同様にアルミナAl2O3基板と、一部の二酸化ケイ素SiO2コーティング層で構成された5種類の装置について、波長(WL:0.3から1μm)に応じた透過率(T:0.966から1)の変化を示す。
図17】本発明による装置の変形例の概略上面図であり、この装置のキャビティは、装置の端よりも中央の方が近いことにより、装置の表面にわたって可変の周期を有する。
図18図2と同様の断面図であり、本発明による装置の変形例を示し、キャビティは、深さに応じて減少する、断面が対称的な凹状のプロファイルを有し、円筒状のプロファイルを有しない。
図19図2と同様の断面図であり、本発明による装置の変形例を示し、キャビティは非対称の凹状プロファイルを有する。
図20図2と同様の断面図であり、本発明による装置の変形例を示し、キャビティは可変の深さを有している。
図21図2と同様の断面図であり、本発明による装置の変形例を示し、キャビティは可変の直径を有する。
図22図2と同様の断面図であり、2つの基板と2つのコーティング層の交互のスタックを含む本発明による装置の変形例を示し、キャビティは第1のコーティング層と第1の基板にのみ形成されている。
図23図2と同様の断面図であり、2つの基板と2つのコーティング層を交互のスタックを含む本発明による装置の変形例を示し、キャビティは、部分的に沈み込んでいる最後の基板を除き、積層体を完全に通って延びている。
図24図2と同様の断面図であり、基板およびコーティングとは異なる材料からなる背面層を含む、本発明による装置の変形例を示している。
図25図2と同様の断面図であり、2つの面を有し、それぞれが基板と、コーティング層と、コーティング層を通って延び、基板を部分的に貫通するキャビティを形成する表面テクスチャリングとを含む、本発明による装置の変形例を示している。
図26図2と同様の断面図であり、コーティング層と、コーティング層を通って延び、基板を部分的に貫通するキャビティを形成する表面テクスチャリングとを備える第1の面と、テクスチャリングを有さない、または第1の面のテクスチャリングとは異なる処理を受けるコーティング層を備える第2の面とを含む、本発明による装置の変形例を示している。
図27図2と同様の断面図であり、それぞれが基板、コーティング層およびテクスチャリングを含む2つの面、および2つの基板の間に形成される中間層を有する、本発明による装置の変形例を示している。
図28】装置の可逆性を説明するスキームである。
図29】複雑な装置と単純な2つの装置の光学的等価性を示すスキームである。
図30図2と同様の断面であり、2つの基板と2つのコーティング層の交互のスタックとともに、背面層を含み、キャビティが第1のコーティング層および第1の基板にのみ形成される、本発明による装置の変形例を示している。
図31図7と同様のグラフであり、3種類の装置について、波長(WL:340から840nm)に応じた透過率(T)の変化を示しており、そのうち2種類の装置は、HfO2基板層、SiO2コーティング層、アモルファスカーボン背面層を2層ずつ積層したものである。
図32図7と同様のグラフであり、1つのテクスチャされた装置と1つのテクスチャされていない装置を含む、3種類の装置、すなわち1つのアモルファスカーボン層からなる装置と、2つのSi基板層、2つのSiO2コーティング層、ZnSe背面層のスタックで構成される装置について、波長(WL:1から2.4μm)による透過率の変化を示している。
図33図9と同様のグラフであり、透過率が図32に表された多層装置についてのものである。
図34図7と同様のグラフであり、1つのテクスチャされた装置と1つのテクスチャされていない装置とを含む、3種類の装置、すなわち1つのアモルファスカーボン層からなる装置と、2つのDLCコーティング層のTiO2基板層と1つのSi背面層とのスタックを持つ2つの装置について、波長(WL:7から15μm)に応じた透過率(T)の変化を示している。
図35図9と同様のグラフであり、透過率が図34に表された2つの多層装置についてのものである。
図36図7と同様のグラフであり、3種類の装置、すなわち1つのアモルファスカーボン層からなる装置と、2つのTiO2基板層と2つのDLCコーティング層と1つのSi背面層のスタックを持つ装置(テクスチャされた装置とテクスチャされていない装置とを含む)について、波長(WL:7から15μm)に応じた透過率(T)の変化を示している。
図37図9と同様のグラフであり、透過率が図36に表された2つの多層装置についてのものである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図1図6において、本発明による反射防止光学装置(1)が表されている。
【0034】
装置(1)は、7から15μm(LWIR)の遠赤外波長域の電磁放射の透過によく適している。
【0035】
装置(1)は、例えば厚さ(E10)が1または2mmのシリコンSi基板(10)を含む。基板(10)は、屈折率n=3.43であり、上記波長域において透過的である。
【0036】
装置(1)は、厚さ(E20)が1425nmのDLCとも呼ばれるアモルファスカーボンコーティング層(20)を含む。このDLCは、屈折率n=1.8であり、上記波長域において透過的である。
【0037】
装置(1)は、コーティング層(20)を通って延び、基板(10)に部分的に沈み込んでいる別々のキャビティ(31)を形成する表面テクスチャリング(30)を含む。
キャビティ(31)は、装置(1)の表面上にわたって規則的な配列に沿って配置される。キャビティ(31)は、周期(L31)が2μm、直径(D31)が1.6μm、深さ(P31)が2.34μm程度である。キャビティ(31)は、基板(10)の厚さ(E10)よりもはるかに小さい915nmの深さ(P11)を有するテクスチャ層(11)において、基板(10)に貫入している。テクスチャリング(30)により、基板(10)のテクスチャ層(11)における有効屈折率を、制御された方法で、下げることが可能となる。
【0038】
テクスチャリング(30)は、コーティング層(20)を通って延び、部分的に基板(10)の中に沈み込むのに適した任意のタイプの技術、例えばレーザーアブレーション、フォトリソグラフィー、ナノプリンティングなどによって行うことができる。レーザーテクスチャリングは、比較的安価であり、よく制御される。特に、テクスチャリング(30)は、フェムト秒領域またはピコ秒領域のパルス持続時間を有する超短パルスレーザーによって行うことができる。レーザーの波長は、通常200から16000nmの間で変化し、キャビティ(31)の形状や寸法、パターン、周期など、所望のテクスチャリング(30)の特徴に応じて選択される。
【0039】
レーザーシステムの構成は、以下の文献を参考にすることができる。
-YU(2013),“Femtosecond laser nanomachining initiated by ultraviolet multiphoton ionization”, Optics Express.
-SEDAO(2012),“Large area laser surface micro/nanopatterning by contact microsphere lens arrays ”, Applied Physics A.
【0040】
図2から図5において、本発明によらない異なる装置(2、3、4、5)が表されている。以下に詳述する相違点を除いて、基板(10)、コーティング層(20)、およびテクスチャリング(30)は、上述の装置(1)に対するものと同じ特性を有する。
【0041】
図2において、装置(2)は、シリコンSi基板(10)とDLCコーティング(20)によって構成されており、いずれもテクスチャされていない。
【0042】
図3において、装置(3)は、テクスチャされているがコーティングされていないシリコンSi基板(10)によって構成されている。装置(3)の基板(10)は、装置(1)と同じ厚さを有している。キャビティ(31)は、2つの装置(1、3)に対して同じ深さ(P31)を有する。
【0043】
図4において、装置(4)は、テクスチャされていないシリコンSi基板(10)とテクスチャされたDLCコーティング(20)により構成されている。キャビティ(31)はコーティング(20)を通って延びているが、基板(10)には貫入していない。
【0044】
図5において、装置(5)は、テクスチャされておらずコーティングされていないSi基板(10)によって構成されている。装置(3)の基板(10)は、装置(1)の基板(10)と同じ厚さを有している。
【0045】
図7は、装置(1、2、3、4、5)について、波長(WL)に応じた透過率(T1、T2、T3、T4、T5)の変化を示す5本の曲線を含むグラフである。x軸は、波長(WL)が3から15μmまで変化している。y軸は、透過率(T)が0から1まで変化している。
-透過率曲線(T1)は、図1および図6に示した本発明による装置(1)に対応する。
-透過率曲線(T2)は、図2に示した装置(2)に対応する。
-透過率曲線(T3)は、図3に示した装置(3)に対応する。
-透過率曲線(T4)は、図4に示した装置(4)に対応する。
-透過率曲線(T5)は、図5に示した装置(5)に対応する。
【0046】
図7のグラフに示すように、装置(1)の透過率(T1)は、各装置(2、3、4、5)に対して、スペクトル幅と最大透過率(したがって最小吸収率)で向上している。
【0047】
透過率(T1、T3)は3から5μm程度で途切れているが、これは基板(10)に貫入したキャビティ(31)の深さに関係していると思われる。
【0048】
図8および図9において、グラフは、装置(1、2)について、入射角(角度)に応じた透過率(T1、T2)の変化を示す2つの曲線を含む。角度透過幅は、装置(1)の方が装置(2)よりも大きいことが分かる。
【0049】
図10および図11は、波長(WL)および入射角(角度)に応じた透過率(T1,T2)の変化を示す図である。透過率(T1、T2)の変化は、色の濃淡によって2次元的に表現されている。透過範囲は、3から5μm付近の波長(WL)を除いて、素子(1)の方が素子(2)よりも広いことが分かる。
【0050】
装置(1)の構造は、テクスチャされたコーティング層(20)と、基板(10)のテクスチャされていない部分を取り囲むテクスチャ層(11)とを含む、2層システムを形成する。
【0051】
テクスチャリング(30)のおかげで、装置(1)の構造は、装置(2、3、4、5)に関して改善された反射防止性能を得ることを可能にする。
【0052】
装置(1)の反射防止性能は、いくつかの重ね合わせコーティング層(20)を含む多層システムの反射防止性能に匹敵する。テクスチャリング(30)の実行は、多層コーティングの適用が不可能、実用的でない、または望ましくない場合、特に有利である。
【0053】
図12は、図7と同様のグラフが表されており、図1から図5と同様に構成され、セレン化亜鉛ZnSe基板(10)上に二酸化ケイ素SiO2コーティング層(20)を堆積させた5つの装置(1、2、3、4、5)について、透過率(T1、T2、T3、T4、T5)の変化を示す。x軸では、波長(WL)は0.8から3μmの近・中赤外域で変化する。y軸では、透過率(T)は0.7から1まで変化する。
【0054】
装置(1、2、3、4、5)の場合、セレン化亜鉛ZnSe基板(10)は、屈折率n=2.46を有する。
【0055】
装置(1、2、4)の場合、二酸化ケイ素SiO2コーティング層(20)は、厚さ(E20)230nm、屈折率n=1.44を有する。
【0056】
装置(1、3、4)の場合、キャビティ(31)は、周期(L31)320nm、直径(D31)265nmを有する。
【0057】
装置(1、4)の場合、キャビティ(31)は、深さ(P31)400nm程度を有する。
【0058】
装置(1)は、0.8から3μmの間の近・中赤外波長域の電磁放射の透過によく適している。
【0059】
図12のグラフに示すように、装置(1)の透過率(T1)は、各装置(2、3、4、5)に対して、スペクトル幅と最大透過率(したがって最小吸収率)で、改善されていることがわかる。
【0060】
図13では、グラフは、図12に沿って上述した装置(1、2)について、入射角(角度)に応じた透過率(T1、T2)の変化を示す2つの曲線を含む。角度透過幅は、装置(1)の方が装置(2)よりも大きいことがわかる。
【0061】
図14では、図7と同様のグラフが表わされており、二酸化ケイ素SiO2基板(10)上にフッ化マグネシウムMgFコーティング層(20)を堆積させた、図1から5のように構成された5つの装置(1、2、3、4、5)について、透過率(T1、T2、T3、T4、T5)の変化を示している。x軸では、波長(WL)は0.3から1μmの、可視、近赤外、中赤外の範囲で変化する。y軸では、透過率(T)は0.96から1まで変化する。
【0062】
装置(1、2、3、4、5)の場合は、二酸化ケイ素SiO2基板(10)は屈折率n=1.44である。
【0063】
装置(1、2、4)の場合は、フッ化マグネシウムMgFコーティング層(20)は、厚さ(E20)が57nm、屈折率n=1.38を有する。
【0064】
装置(1、3、4)の場合は、キャビティ(31)は、周期(L31)202nm、直径(D31)160nmを有する。
【0065】
装置(1、4)の場合は、キャビティ(31)は、深さ(P31)約94nmを有する。
【0066】
装置(1)は、0.38から0.78μmの間の可視波長域の電磁放射の透過によく適している。
【0067】
図14のグラフに示すように、装置(1)の透過率(T1)は、装置(2、5)の透過率(T2、T5)に対して、スペクトル幅と最大透過率(したがって最小吸収率)で、改善される。しかしながら、装置(1)の透過率(T1)は、装置(3、4)の透過率(T3、T4)に比較的近い。
【0068】
図15では、グラフは、図14に即して上述した装置(1,2)について、入射角(角度)に応じた透過率(T1,T2)の変化を示す2本の曲線を含む。角度透過幅は、装置(1)の方が装置(2)よりも大きいことがわかる。
【0069】
図16では、図7と同様のグラフが表されており、アルミナAl2O3基板(10)上に二酸化ケイ素SiO2コーティング層(20)を堆積させた、図1から5のように構成された5つの装置(1、2、3、4、5)について、透過率(T1、T2、T3、T4、T5)の変化を示している。x軸では、波長(WL)が0.3から1μmの、可視、近赤外、中赤外域の範囲で変化する。y軸では、透過率(T)が0.96から1まで変化している。
【0070】
装置(1、2、3、4、5)の場合は、アルミナAl2O3基板(10)は、屈折率n=1.69を有する。
【0071】
装置(1、2、4)について、二酸化ケイ素SiO2コーティング層(20)は、厚さ(E20)83nmで、屈折率n=1.44を有する。
【0072】
装置(1、3、4)の場合は、キャビティ(31)は、周期(L31)176nm、直径(D31)159nmを有する。
【0073】
装置(1、4)の場合は、キャビティ(31)は、深さ(P31)156nm程度を有する。
【0074】
装置(1)は、0.3から1μmの間の可視・近赤外波長域の電磁放射の透過によく適している。
【0075】
図16のグラフに示すように、装置(1)の透過率(T1)は、装置(2、3、4、5)のそれぞれに関して、特に近・中赤外波長域のスペクトル幅と最大透過率(したがって最小吸収率)で、改善されている。
【0076】
本発明による装置(1)の他の変形例を図17から図37に示す。単に、上述の第1実施形態と同等の構成要素には、同じ数値参照を付している。
【0077】
図17では、キャビティ(31)は、可変の周期をもって装置(1)の表面上にわたって配置される。この可変の周期は、定義された規則に従って進化し、ランダムではない。キャビティ(31)は分離しており、互いに連通することはない。変化は制御されており、装置(1)の不規則な表面状態および/またはテクスチャリング方法の不正確さに起因するものではない。周期は、装置(1)の中央と端の間で異なっている。キャビティ(31)は、中央では端よりも接近している。
【0078】
図18では、キャビティ(31)は、軸方向平面において対称的な凹状のプロファイルを有し、直径(D31)および面積断面が、深さ(P31)と共に減少している。
【0079】
図19において、キャビティ(31)は、軸方向平面において非対称の凹状プロファイルを有し、より大きな寸法(D31)および面積断面が、深さ(P31)に応じて減少する。断面が円形の場合、最も大きい寸法(D31)は直径であり、そうでなければ、非円形の断面の場合、最も大きい寸法(D31)は長さである。実際には、テクスチャリング(30)は、入射放射線の方向に応じて異なる光学的効果をもたらす。この現象は、キャビティ(31)の非対称性によって強化される。
【0080】
図20では、キャビティ(31)は、異なる深さ(P31a、P31b)を有する。
【0081】
図21では、キャビティ(31)は、異なる直径を有する(D31a、D31b)。
【0082】
図22では、装置(1)は、2つの基板(10)と2つのコーティング層(20)との交互のスタックを含む。キャビティ(31)は、入射放射線を受ける、上側に向けられた基板(10)とコーティング層(20)の第1の組み合わせ(10+20)にのみ形成されている。多層膜反射防止型広帯域装置(1)の場合、この解決策は、テクスチャされていない多層膜装置と比較して、波面補正を向上させることを可能にする。また、この解決策は、後述するように、すべての層(20、30)がキャビティ(31)によって拡張される多層装置に関して、時間の節約を意味する。
【0083】
図23では、装置(1)はまた、2つの基板(10)と2つのコーティング層(20)との交互のスタックを含む。キャビティ(31)は、部分的に沈み込んでいる最後の基板(10)を除いて、スタックを完全に通って延びている。
【0084】
図24では、装置(1)は、基板(10)およびコーティング層(20)とは異なる材料を含む、背面層(40)から構成される。コーティング(20)は、基板(10)の第1面に形成され、背面層(40)は、基板(10)の第1面とは反対側の第2面に形成されている。背面層(40)は、コーティング層(20)とは異なる機能を有する。例えば、反射防止装置(1)の場合、この背面層(40)は、コーティング層(20)が広帯域で反射防止機能を有するのに対し、背面における反射防止機能および機械的機能を確保することができる。別の例によれば、ミラー装置(1)の場合、この背面層(40)は、放射線の一部を反射するように設計することができる。
【0085】
図25では、装置(1)は、本発明によって構成された2つの面を含み、中央の基板(10)を備えている。各面は、コーティング層(20)およびテクスチャリング(30)を含み、コーティング層(20)を通って延び、基板(10)を部分的に貫通するキャビティ(31)を形成している。2つのコーティング層(20)は、同一であっても異なっていてもよい(材料、厚さなど)。
【0086】
図28に示すように、回折次数がない場合、装置(1)の表面の挙動は、光路の方向には依存しない。すなわち、空気から装置(1)へ、あるいは装置(1)から空気への光の通過方向は、装置(1)の反射率や透過率を変えることはない。図28は、このような条件下で、装置(1)の方向がどのようなものであっても、したがって入射光放射(I)に対して、反射光(R)と透過光(T)は同じであることを模式的に示している。
【0087】
さらに、図29に示されるように、光のコヒーレンス長が装置(1)の厚さを超えない場合、したがって、図25に示される装置(1)は、それらが並置されていたであろう、2つの独立した単純な装置(1a、1b)のアセンブリとして考えることができる。図示の装置(1)の透過速度は、したがって、これら2つの独立した単純な装置の透過速度の掛け算となる。
【0088】
この構成は、光学系が、したがって二重波面補正装置を搭載することにより、装置(1)の性能を高めることを可能とする。この解決策は、1つ目の装置に加えて2つ目の装置を追加するのではなく、1つの同じ装置(1)の2つの面を使って2回波面を正しく補正することを可能にするため、波面補正の向上に有利である。全体的な嵩は適度なままである。
【0089】
図26では、装置(1)は、コーティング層(20)およびテクスチャリング(30)が部分的に基板(10)に貫入している、本発明によって構成された第1の面を含み、テクスチャリングを有さない、または処理を有さない、または第1の面のテクスチャリングと異なる処理を受けている、コーティング層(20)を有する第2の面とから構成されている。図25図28、および図29を参照して上述された説明によると、この構成は、2つの追加装置(1)に相当するものを有することを可能とする。第2の面は、処理またはテクスチャリングの観点で適しており、この解決策により、1つまたは複数の波長域について、求められる効果を選択することが可能になる。第1の例では、例えば、V字型反射防止処理と広帯域反射防止処理のように、1つの同じ波長域に異なる処理を施すことができる。第2の例によれば、異なる波長域で、異なる処理を施すことができる。第3の実施例によれば、1つの同じ処理を2つの別々の、並置された、または重なり合った波長域で適用することができる。各面が処理する2つの波長域が並列または重複している場合、装置(1)を用いて1面装置よりも広い範囲を処理することが可能である。あるいは、各面が扱う2つの波長域が別々であれば、装置(1)はフィルタの役割を確保することも可能である。特定の用途によれば、第1の検出器に関連する第1の波長域に対する第1の波面補正処理と、第2の検出器に関連する第2の波長域に対する第2の波面補正処理とを有することが可能である。
【0090】
図27では、装置(1)は、本発明によって構成された2つの面を含み、中央層(20/40)を有する。各面は、コーティング層(20)およびテクスチャリング(30)を含み、コーティング層(20)を通って延び、基板(10)を部分的に貫通するキャビティ(31)を形成している。2つの面の基板(10)およびコーティング層(20)は、同一でも異なっていてもよい(材質、厚さなど)。
【0091】
図30では、装置(1)は、基板(10)およびコーティング(20)の2つのスタック、ならびに背面層(40)を含む。キャビティ(31)は、入射放射線を受ける上側に向けられた基板(10)とコーティング層(20)の第1の組み合わせ(10+20)にのみ形成されている。このような構成から、いくつかのテストが行われた。
【0092】
最初のテストは、350nmから750nmの間の、可視領域の波長に関するものである。装置(1)は次のように構成されている。
-基板(10)はHfO2からなり、コーティング(20)はSiO2からなり、背面層(40)はアモルファスカーボンからなる。
-第1膜厚(E201)は98nmを測定。
-第1基板厚み(E101)は409nmを測定。
-第2膜厚(E202)は174nmを測定。
-第2基板厚み(E102)は73nmを測定。
-背面層(40)の厚さは問わない。
-テクスチャリング(30)のキャビティ(31)は、377nmの深さを有し、したがって、第1のコーティング層(20)を通って延び、部分的に第1の基板層(10)に沈み込んでいる。これらは、138nmの直径を有する円形であり、174nmのステップを有する正方形のマトリックスに沿って規則的に配置されている。
【0093】
図31は、この装置(1)の透過率曲線(T3)を、
-基板(10)と、コーティング(20)と、背面層(40)の同じスタックを含み、テクスチャリング(30)がない装置の透過率曲線(T2)と比較したものと、
-アモルファスカーボン層のみを含む装置の透過率曲線(T1)と比較したものである。
上記構成による装置(1)は、他の2つの構成に対して改善された透過率を、より大きな波長域にわたって得ることを可能にすることが明確に分かる。
【0094】
第2のテストは、1から2μmの間の、近赤外領域の波長に関するものである。装置(1)は次のように構成されている。
-基板(10)はSi3N4からなり、コーティング(20)はSiO2からなり、背面層(40)はZnSeからなる。
-第1膜厚(E201)は228nmを測定。
-第1基板厚み(E101)は452nmを測定。
-第2膜厚(E202)は461nmを測定。
-第2基板厚み(E102)は166nmを測定。
-背面層(40)の厚さは問わない。
-テクスチャリング(30)のキャビティ(31)は、351nmの深さを有し、したがって、第1のコーティング層(20)を通って延び、第1の基板層(10)に部分的に沈み込んでいる。キャビティ(31)は、直径255nmの円形であり、320nmのステップを有する正方形のマトリックスに沿って規則的に配置される。
【0095】
図32および図33は、この装置(1)の透過率曲線(T3)を、
-基板(10)とコーティング(20)と背面層(40)の同じスタックを含み、テクスチャリング(30)がない装置の透過率曲線(T2)と比較したものと、
-アモルファスカーボン層のみを含む素子の透過率曲線(T1)と比較したもの(図32のみ)である。
【0096】
図32から明らかなように、上記構成による装置(1)は、他の2つの構成に対して改善された透過を、より大きな波長域にわたって得ることを可能にする。
【0097】
図33から、装置(1)への光放射の入射角に応じて、装置(1)の透過率(T3)が透過率(T2)に対して改善されることがわかる。
【0098】
第3のテストは、7から15μmの間の、中赤外領域の波長に関するものである。装置(1)は次のように構成されている。
-基板(10)はTiO2からなり、コーティング(20)はDLCからなり、背面層(40)はSiからなる。
-第1膜厚(E201)は1393nmを測定。
-第1基板厚み(E101)は541nmを測定。
-第2膜厚(E202)は2843nmを測定。
-第2基板厚み(E102)は838nmを測定。
-背面層(40)の厚さは問わない。
-テクスチャリング(30)のキャビティ(31)は、1934nmの深さを有し、したがって、第1のコーティング層(20)を通って延び、部分的に第1の基板層(10)に沈み込んでいる。キャビティ(31)は、直径1600nmの円形であり、2000nmのステップを有する正方形のマトリックスに沿って規則的に配置される。
【0099】
図34および図35は、この装置(1)の透過率曲線(T3)を、
-基板(10)とコーティング(20)と背面層(40)の同じスタックを含み、テクスチャリング(30)がない装置の透過率曲線(T2)と比較したものと、
-アモルファスカーボン層のみを含む素子の透過率曲線(T1)と比較したもの(図34のみ)である。
【0100】
図34から明らかなように、上記構成による装置(1)は、他の2つの構成に対して改善された透過を、より大きな波長域にわたって得ることを可能にする。
【0101】
図35から、装置(1)への光放射の入射角に応じて、装置(1)の透過率(T3)が透過率(T2)に対して改善されることがわかる。
【0102】
第4のテストはまた、7から15μmの間の、中赤外領域の波長に関するものである。装置(1)は次のように構成されている。
基板(10)はTiO2からなり、コーティング(20)はDLCからなり、背面層(40)はSiからなる。
-第1膜厚(E201)は1054nmを測定。
-第1基板厚み(E101)は2160nmを測定。
-第2膜厚(E202)は142nmを測定。
-第2基板厚み(E102)は1293nmを測定。
-背面層(40)の厚さは問わない。
-テクスチャリング(30)のキャビティ(31)は、1968nmの深さを有し、したがって、第1のコーティング層(20)を通って延び、部分的に第1の基板層(10)に沈み込んでいる。キャビティ(31)は、直径1600nmの円形であり、2000nmのステップを有する正方形のマトリックスに沿って規則的に配置される。
【0103】
図36および37は、この装置(1)の透過率曲線(T3)を、
-基板(10)とコーティング(20)と背面層(40)の同じスタックを含む、テクスチャリング(30)がない装置の透過率曲線(T2)と比較したものと、
-アモルファスカーボン層のみを含む素子の透過率曲線(T1)と比較したもの(図36のみ)である。
【0104】
図36から明らかなように、上記構成による装置(1)は、他の2つの構成に対して改善された透過を、より大きな波長域にわたって得ることを可能にする。
【0105】
図37から、装置(1)への光放射の入射角に応じて、装置(1)の透過率(T3)が透過率(T2)に対して改善されることがわかる。
【0106】
さらに、装置(1)は、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲から離れることなく、図1から図37とは異なる形状にすることができる。さらに、上述した異なる実施形態および変形例の技術的特徴を、完全に、またはその一部について、一緒に組み合わせることができる。したがって、装置(1)は、コスト、機能性、および性能の点で好適なものとすることができる。
図1
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【国際調査報告】