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特表2023-507922FcγRIIB親和性が増強された抗体Fc領域
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(54)【発明の名称】FcγRIIB親和性が増強された抗体Fc領域
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230220BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20230220BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230220BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230220BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230220BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230220BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230220BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230220BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/00 ZNA
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K39/395 E
A61K39/395 T
A61K39/395 Y
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022533391
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(85)【翻訳文提出日】2022-06-28
(86)【国際出願番号】 CN2020133685
(87)【国際公開番号】W WO2021110110
(87)【国際公開日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】201911223227.1
(32)【優先日】2019-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】522200317
【氏名又は名称】上海交通大学医学院
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI JIAOTONG UNIVERSITY SCHOOL OF MEDICINE
【住所又は居所原語表記】No. 280, Chongqing South Road, Huangpu District, Shanghai 200025,China
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】李 福彬
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 燕
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ ▲み▼
(72)【発明者】
【氏名】▲畢▼ ▲艶▼侠
(72)【発明者】
【氏名】田 世豪
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 慧慧
(72)【発明者】
【氏名】柳 淑君
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG26
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA01
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA83X
4B065AA87X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB271
4C084ZB272
4C085AA13
4C085AA14
4C085AA16
4C085BB36
4C085BB42
4C085CC22
4C085CC23
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA40
4H045DA75
4H045DA76
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、エンジニアリングされたFc領域を提供し、親Fc領域と比較し、前記のFc領域は、少なくとも1つのアミノ酸変異を有し、FcγRIIBに対するこれらのエンジニアリングされたFc領域の親和性は、FcγRIIBに対する親Fc領域の親和性と比較して向上した。前記エンジニアリングされたFc領域を含む抗体、特にアゴニスト抗体も提供した。エンジニアリングされたFc領域は、抗体のアゴニスト活性を最適化するために重要である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異型Fcポリペプチドフラグメントであって、
(i)前記変異型Fcポリペプチドフラグメントは、変異前の対応する野生型Fcフラグメントと比較して変異を持つ;かつ
(ii)野生型Fc領域と比較し、FcγRIIBに対する前記変異型Fc領域の親和性が向上する;かつ、前記野生型Fcは、野生型IgG2のFcであることを特徴とする変異型Fcポリペプチドフラグメント。
【請求項2】
請求項1に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメントを含むことを特徴とする変異型免疫グロブリンFc領域。
【請求項3】
請求項1に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、又は請求項2に記載された変異型免疫グロブリンFc領域を含むことを特徴とする抗体。
【請求項4】
請求項1に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、請求項2に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、又は請求項3に記載された抗体を含むことを特徴とする融合タンパク質。
【請求項5】
請求項1に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、請求項2に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、請求項3に記載された抗体、又は請求項4に記載された組換えタンパク質をコードすることを特徴とする単離されたポリヌクレオチド。
【請求項6】
請求項5に記載された単離されたポリヌクレオチドを含むことを特徴とするベクター。
【請求項7】
請求項6に記載されたベクターを含むか、又はそのゲノムに請求項5に記載されたポリヌクレオチドを組み込む;
或いは請求項1に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、請求項2に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、請求項3に記載された抗体、又は請求項4に記載された組換えタンパク質を発現することを特徴とする宿主細胞。
【請求項8】
(a)請求項1に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、請求項2に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、請求項3に記載された抗体、又は請求項4に記載された組換えタンパク質;及び
(b)薬学的に許容される担体;を含むことを特徴とする薬物組成物。
【請求項9】
請求項1に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、請求項2に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、請求項3に記載された抗体、又は請求項4に記載された組換えタンパク質を産生する方法であって、
(i)適切な条件では、請求項7に記載された宿主細胞を培養し、前記変異型Fcポリペプチドフラグメント、前記変異型免疫グロブリンFc領域、前記抗体、又は前記組換えタンパク質を含有する培養物を得る;及び
(ii)ステップ(i)で得られた培養物を精製および/または単離し、前記の前記変異型Fcポリペプチドフラグメント、変異型免疫グロブリンFc領域、抗体、又は組換えタンパク質を得るというステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
腫瘍免疫療法に用いられる、炎症および/または自身免疫症状を軽減する薬物組成物の調製に使用することを特徴とする請求項1に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、請求項2に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、請求項3に記載された抗体、又は請求項4に記載された組換えタンパク質、請求項5に記載されたポリヌクレオチド、請求項6に記載されたベクターおよび/または請求項7に記載された宿主細胞の応用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオ医薬分野に関し、特に一列のヒトIgG2抗体のFc領域のバリアントに関し、これらのバリアントは、増強されたFcγRIIB親和性を有するので、これらのFc領域バリアントを含むアゴニスト抗体は、より優れたアゴニスト活性を有すると期待される。
【背景技術】
【0002】
生体高分子医薬品の開発は、さまざまな疾病の治療に新たなアプローチと可能性をもたらし、特に抗体と重鎖定常領域(Fc領域を含む)に基づく分子標的療法は、抗体と重鎖定常領域融合タンパク質を含み、過去30年間にバイオ医薬品分野に大きな成功を収めながら、引き続き当該分野の焦点になる。
【0003】
生体高分子は、その作用方式から、標的(分子や細胞)をクリアするエフェクター分子、標的が関与するシグナル伝達経路をブロックするブロッキング分子、標的の下流のシグナル伝達経路を活性化するアゴニスト分子に大別される。近年に、腫瘍の免疫療法が、重大な進展を遂げた。これは、免疫を抑制するノードを遮断することで、免疫細胞の活性を向上し、腫瘍を殺滅する抗体を使用することのかげである。しかしながら、ただいま相変わらず、多くのがん患者は、既存の治療手段に反応しない。そして、一方では、既存の腫瘍免疫療法の手段を最適化する必要があり、他方では、新しい腫瘍免疫療法の薬物を研究開発することは、急務である。特に、「アゴニスト抗体」と呼ばれる腫瘍免疫療法手段は、免疫細胞の表面との結合によって、免疫活性化シグナルの標的分子を転送し、かつそれに制御される重要な免疫活性化シグナル経路を活性化して、さらに抗腫瘍免疫応答を増強して、間接に腫瘍細胞を殺滅できる。しかしながら、アゴニスト腫瘍免疫療法の抗体の大きな可能性は、既に動物モデルに証明され、かつ広くに納得されだけではなく、将来性があるとみられる腫瘍免疫療法構想になるが、これらの抗体の研究開発がまだ成功しておらず、腫瘍免疫療法の分野における大きな課題である。また、アゴニスト抗体の活性化も、他の生物学過程における肝心なシグナル経路を介入・調整する有利な手段であり、疾患の予防と制御及び治療分野に広い応用見通しがある。たとえば、免疫抑制シグナル経路を活性化すると、炎症と自己免疫症状の軽減に役立つ可能性がある。
【0004】
抗体は、主に定常領域を介してFcγRと相互作用し、抗体が異なればFcγRへの結合能力も異なり、この違いはインビボでの抗体の機能にも影響を及ぼす。抗体Fcのエンジニアリングは、治療用抗体を最適化するための重要な手段および傾向であり、ただし、抗体Fc領域と、FcγRなどの主要タンパク質との相互作用能を変更することは、抗体活性を最適化するための非常に効果的な方法である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記課題に対し、本発明は、IgGに基づき、Fc領域を変異させることにより、FcγRIIBの親和性を増強することができるアミノ酸変異およびその組み合わせを得る;これらのアミノ酸変異を含むFcは、抗体の活性を最適化するため、特にアゴニスト抗体のアゴニスト活性を向上するために使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様では、変異型Fcポリペプチドフラグメントを提供し、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、以下の特徴を有する:
(i)前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、変異前の対応する野生型Fcフラグメントと比較して変異を持つ;かつ
(ii)野生型Fc領域と比較し、FcγRIIBに対する前記変異型Fc領域の親和性が向上する;かつ、前記の野生型Fcは、野生型IgG2のFcである。
【0007】
別の好ましい例では、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、変異前の対応する野生型Fcフラグメントと比較して、以下から選べられるサイトの変異を有する:L328、H268、S267、P271、G327、又はその組み合わせ;
ただし、全てのアミノ酸の番号は、IgG Eu番号に基づく。
【0008】
別の好ましい例では、前記の親和性は、スクリーニングの濃縮度または結合分析シグナルに反映することができる。
【0009】
別の好ましい例では、前記野生型Fcフラグメントは、IgG Eu番号に基づくIgG2のアミノ酸配列における233位から332位までであり、かつ前記野生型Fcフラグメントのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:20に示される。
【0010】
別の好ましい例では、野生型Fcフラグメントと比較し、前記変異型Fcポリペプチドフラグメントは、増強されたFcγRIIB親和性を有する。
【0011】
別の好ましい例では、FcγRIIBに対する変異型Fcポリペプチドフラグメントの親和性は、FcγRIIBに対する野生型Fcフラグメントの親和性よりも1倍以上高く、好ましくに、2、3、4、5、10、20、50又は100倍以上高い。
【0012】
別の好ましい例では、前記変異型Fcポリペプチドフラグメントは、FcγRIIBよりも活性化性FcγRに対する親和性が低い。
【0013】
別の好ましい例では、野生型Fcフラグメントと比較し、前記変異型Fcポリペプチドフラグメントは、FcγRIIBへの親和性が向上し、且つ活性化性FcγRへの親和性が低下する(I/A比の値は、野生型Fcフラグメントより高い)。
【0014】
別の好ましい例では、FcγRIIBおよびFcγRIIA131Rに対する前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントの親和性の比(RIIB/RIIAR)は、野生型IgG2より高い。
【0015】
別の好ましい例では、前記の活性化性FcγRは、FcγRI、FcγRIIA131H、FcγRIIA131R、FcγRIIIA158FとFcγRIIIA158Vを含む。
【0016】
別の好ましい例では、変異L328は、L328W、L328E、L328Y、L328F、L328M、L328A、L328G、L328N、L328P、L328R、L328V;好ましくに、L328W又はL328Eを含む。
【0017】
別の好ましい例では、変異H268は、H268D、H268S、H268E、H268K、H268N;好ましくに、H268D、H268S又はH268Eを含む。
【0018】
別の好ましい例では、変異S267は、S267E、S267V、S267D、S267M、S267Q、S267A、S267G、S267R、S267N、S267W;好ましくにS267E、S267V、S267D、S267M;より好ましくにS267Eを含む。
【0019】
別の好ましい例では、変異P271は、P271C、P271G、P271V、P271A、P271W、P271Y、P271Q、P271T、P271I、P271L、P271S;好ましくにP271C、P271G、P271V、P271A、P271W、P271Y、P271Q、P271T;より好ましくにP271C、P271Gを含む。
【0020】
別の好ましい例では、変異G327は、G327A、G327L、G327S;好ましくにG327Aを含む。
【0021】
別の好ましい例では、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、野生型Fcフラグメントと比較して、以下から選択される部位に変異L328W、L328E、H268D、H268S、H268E、S267E、A330S、P233G、P271G、P271C、P271V、P271A、P271W、P271Y、G327A、又はその組み合わせを有する;ただし、全てのアミノ酸の番号は、IgG Eu番号に基づく。
【0022】
別の好ましい例では、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、野生型Fcフラグメントと比較して、2つのサイトL328とH268のうちの少なくとも1つの変異を有し、かつ前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントの変異は、具体的に、以下から選べられる:L328W、L328E、H268D、H268S、H268E、H268D/S298L/L328W、S267V/S298L/L328W、V234M/S267E/S298L/L328W、A235W/V266L/S298L/L328W、V234Q/A235G/P238L/S239V/H268D/G327A/L328E/A330S/I332T、S239V/V266L/S298L/L328W、V266L/L328W、V266L/S267D/H268D/E269D/P271Q、S267E/H268S/E269D、P233F/V266L/S298L/L328W、V266L/S298L/L328W、V234Q/A235G/P238L/S239V/G327A/L328E/A330S/I332T、V266L/S267E/H268S/E269V、V266L/S267E/H268S/E269V/P271C、V266L/S267E/H268S/E269A/P271C、S267V/S298G/L328W、V266L/S267M/H268E/P271Q、V266L/S267E/H268S/E269G/P271T、V234Q/V266L/S267D/H268D/E269D/P271Q、V234Q/A235G/P238L/S239V/S267E/H268S/E269D、V266L/S267E/H268S/P271V、V234Q/A235G/P238L/S239V/S267E/S298L/G327A/L328E/A330S/I332T、V234Q/V266L/S267E/H268S/E269V、L328E/I332T;ただし、全てのアミノ酸の番号は、IgG Eu番号に基づく。
【0023】
別の好ましい例では、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、野生型Fcフラグメントと比較して、S267サイトの変異を有し、かつ前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントの変異は、具体的に、以下から選べられる:S267E/A330S、S267E/S298G、P233G/S267E、V234M/S267E/S298G/I332L、P233G/S267E/S298G、V266L/S267E/E269K/P271G、P238Q/S267E、S267A/P271C、S267A/P271G、S267E/D270H、S267E/P271C、S267E/P271V、S267E/P271W、S267E/P271Y、S267E/S298R、S267M/P271C、S267M/P271G、S267V/S298L、S267E/P329R;ただし、全てのアミノ酸の番号は、IgG Eu番号に基づく。
【0024】
別の好ましい例では、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、野生型Fcフラグメントと比較して、S267サイトの変異を有し、かつ前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントの変異は、具体的に、以下から選べられる:S267E/A330S、S267E/S298G、P233G/S267E、V234M/S267E/S298G/I332L、P233G/S267E/S298G、V266L/S267E/E269K/P271G、S267E/P271C;ただし、全てのアミノ酸の番号は、IgG Eu番号に基づく。
【0025】
別の好ましい例では、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、野生型Fcフラグメントと比較して、P271サイトの変異を有し、かつ前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントの変異は、以下から選べられる:V266L/S267E/E269K/P271G、V266A/P271C、V266A/P271G、S267A/P271C、S267A/P271G、S267E/P271C、S267E/P271V、S267E/P271W、S267E/P271Y、S267M/P271C、S267M/P271G、V266G/P271C、P271A/S298R、P271G/G236V、P271G/P329S、P271G/P331C、P271G/P331T、P271G/S298D、P271G/S298E、P271G/S298G、P271G/S298K、P271G/S298L、P271G/S298N、P271G/S298R、P271G/T299A、P271G/T299M、P271G/T299S、P271G/T299W、P271G/I332L;ただし、全てのアミノ酸の番号は、IgG Eu番号に基づく。
【0026】
別の好ましい例では、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントは、野生型Fcフラグメントと比較して、G327サイトの変異を有し、かつ前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントの変異は、具体的に、以下から選べられる:G327A/A330R、G327A/A330V、G327A/I332A、G327A/I332C、G327A/I332E。
【0027】
別の好ましい例では、野生型Fcフラグメントと比較して、前記の変異型Fcポリペプチドフラグメントの変異は、具体的に、以下から選べられる:H268D/S298L/L328W、S267V/S298L/L328W、V234M/S267E/S298L/L328W、A235W/V266L/S298L/L328W、V234Q/A235G/P238L/S239V/H268D/G327A/L328E/A330S/I332T;ただし、全てのアミノ酸の番号は、IgG Eu番号に基づく。
【0028】
本発明の第2の態様では、変異型免疫グロブリンFc領域を提供し、前記の変異型免疫グロブリンFc領域は、本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメントを含む。
【0029】
別の好ましい例では、前記の免疫グロブリンは、ヒトIgG2である。
【0030】
別の好ましい例では、野生型IgG2 Fc領域と比較し、前記の変異型免疫グロブリンFc領域は、増強されたFcγRIIB親和性を有する。
【0031】
別の好ましい例では、FcγRIIBに対する前記の変異型免疫グロブリンFc領域の親和性は、FcγRIIBに対する野生型IgG2 Fc領域の親和性よりも1倍以上高く、好ましくに、2、3、4、5、10、20、50又は100倍以上高い。
【0032】
別の好ましい例では、前記の親和性は、スクリーニングの濃縮度または結合分析シグナルに反映することができる。
【0033】
別の好ましい例では、前記変異型免疫グロブリンFc領域は、FcγRIIBよりも活性化性FcγRに対する親和性が低い。
【0034】
別の好ましい例では、野生型IgG2 Fc領域と比較し、前記変異型免疫グロブリンFc領域は、FcγRIIBへの親和性が向上し、且つ活性化性FcγRへの親和性が低下する(I/A比の値は、野生型IgG2 Fc領域より高い)。
【0035】
別の好ましい例では、FcγRIIBおよびFcγRIIA131Rに対する前記の変異型免疫グロブリンFc領域の親和性の比(RIIB/RIIAR)は、野生型IgG2より高い。
【0036】
本発明の第3の態様において、抗体を提供し、前記抗体は、本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント又は本発明の第2の態様に記載された変異型免疫グロブリンFc領域を含む。
【0037】
別の好ましい例では、前記の抗体は、ヒトIgG2骨格に基づく抗体である。
【0038】
別の好ましい例では、前記抗体は、アゴニスト抗体である。
【0039】
別の好ましい例では、前記抗体は、腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリーを特異性に標的する。
【0040】
別の好ましい例では、前記抗体は、以下から選べられる標的を特異的に結合することができる:CD40、DR5、OX40、CD137、CD27、CD30、GITR、HVEM、TACI、DR4、FAS、又はその組み合わせ。
【0041】
別の好ましい例では、前記抗体は、OX40を特異的に結合することができる。
【0042】
別の好ましい例では、前記抗体が標的とする抗原が、免疫受容体分子又はその組み合わせである。
【0043】
別の好ましい例では、前記抗体が標的とする抗原は、免疫抑制性受容体分子であり、かつ前記免疫抑制性受容体分子は、PD-1、CTLA-4、VISTA、TIM-3、BTLA、LAG-3、又はその組み合わせから選べられる。
【0044】
別の好ましい例では、前記抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体、又はキメラ抗体である。
【0045】
別の好ましい例では、前記抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体、好ましくにモノクローナル抗体である。
【0046】
本発明の第4の態様において、融合タンパク質を提供し、前記融合タンパク質は、本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、本発明の第2の態様に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、又は本発明の第3の態様に記載された抗体を含む。
【0047】
別の好ましい例では、前記融合タンパク質は、受容体アゴニスト機能を有する他のタンパク質配列又はそのフラグメントも含む。
【0048】
別の好ましい例では、前記の受容体アゴニスト機能を有する他のタンパク質は、TNF遺伝子ファミリーにおけるサイトカインである。
【0049】
別の好ましい例では、前記の受容体アゴニスト機能を有する他のタンパク質は、免疫受容体のリガンド分子を含む。
【0050】
別の好ましい例では、前記受容体アゴニスト機能を有する他のタンパク質は、免疫受容体のリガンド分子を含み、前記免疫受容体のリガンド分子は、CD80、CD86、ICOSL、OX40L、CD137L、CD40L、CD30L、CD27L、CD244、CD150、CD48、CD84、CD319、Ly118或いはCD229から選べられるいずれか一つ、又はその組み合わせである。
【0051】
別の好ましい例では、前記受容体アゴニスト機能を有する他のタンパク質は、免疫受容体のリガンド分子を含み、前記免疫受容体のリガンド分子は、PD-L1、PD-L2、B7-H3、B7-H4、CD47、VISTA、HVEM、GAL9、又はその組み合わせから選べられる。
【0052】
別の好ましい例では、前記融合タンパク質は、発現および/または精製に寄与するタグ配列を含む;好ましくに、前記のタグ配列は、6Hisタグ、HAタグおよび/またはFLAGタグを含む。
【0053】
本発明の第5の態様において、単離されたポリヌクレオチドを提供し、前記ポリヌクレオチドは、本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、本発明の第2の態様に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、本発明の第3の態様に記載された抗体、又は本発明の第4の態様に記載された組換えタンパク質をコードする。
【0054】
本発明の第6の態様において、ベクターを提供し、前記ベクターは、本発明の第5の態様に記載された単離されたポリヌクレオチドを含む。
【0055】
別の好ましい例では、前記のベクターは、DNA、RNA、ウイルスベクター、プラスミド、トランスポゾン、他の遺伝子導入システム、又はその組み合わせから選べられる。
【0056】
別の好ましい例では、前記ベクターは、ウイルスベクターを含み、例えば、レンチウイルス、アデノウイルス、AAVウイルス、逆転写ウイルス、又はその組み合わせを含む。
【0057】
本発明の第7の態様において、宿主細胞を提供し、前記宿主細胞は、本発明の第6の態様に記載されたベクターを含むか、又はそのゲノムに本発明の第5の態様に記載されたポリヌクレオチドを組み込む;
或いは、前記宿主細胞は、本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、本発明の第2の態様に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、本発明の第3の態様に記載された抗体、又は本発明の第4の態様に記載された組換えタンパク質を発現する。
【0058】
別の好ましい例では、前記の宿主細胞は、原核細胞または真核細胞を含む。
【0059】
別の好ましい例では、前記の宿主細胞は、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、鳥類細胞、哺乳類細胞から選べられる。
【0060】
本発明の第8の態様において、薬物組成物を提供し、上記の薬物組成物が、以下を含む:
(a)本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、本発明の第2の態様に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、本発明の第3の態様に記載された抗体、又は本発明の第4の態様に記載された組換えタンパク質;及び
(b)薬学的に許容される担体。
【0061】
別の好ましい例では、前記薬物組成物は、腫瘍を治療する他の薬物、例えば細胞毒性薬物を含む。
【0062】
別の好ましい例では、前記薬物組成物は、受容体アゴニスト機能を有する他の活性物質を含む。
【0063】
別の好ましい例では、前記の薬物組成物は、注射剤形である。
【0064】
本発明の第9の態様において、本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、本発明の第2の態様に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、本発明の第3の態様に記載された抗体、又は本発明の第4の態様に記載された組換えタンパク質を産生する方法を提供し、以下のステップを含む:
(i)適切な条件では、本発明の第7の態様に記載された宿主細胞を培養し、前記変異型Fcポリペプチドフラグメント、前記変異型免疫グロブリンFc領域、前記抗体、又は前記組換えタンパク質を含有する培養物を得る;及び
(ii)ステップ(i)で得られた培養物を精製および/または単離し、前記の前記変異型Fcポリペプチドフラグメント、変異型免疫グロブリンFc領域、抗体、又は組換えタンパク質を得る。
【0065】
別の好ましい例では、前記精製は、プロテインAアフィニティーカラムによる精製・単離で標的抗体を得る。
【0066】
別の好ましい例では、前記精製は、プロテインGアフィニティーカラムによる精製・単離で標的抗体を得る。
【0067】
別の好ましい例では、前記の精製・単離された標的抗体の純度は、95%より高く、96%より高く、97%より高く、98%より高く、99%より高く、好ましくに100%である。
【0068】
本発明の第10の態様において、腫瘍免疫療法に用いられる、炎症および/または自身免疫症状を軽減する薬物組成物の調製における本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、本発明の第2の態様に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、本発明の第3の態様に記載された抗体、又は本発明の第4の態様に記載された組換えタンパク質、本発明の第5の態様に記載されたポリヌクレオチド、本発明の第6の態様に記載されたベクターおよび/または本発明の第7の態様に記載された宿主細胞の応用を提供する。
【0069】
本発明の第11の態様において、疾患を治療する方法を提供し、当該方法は、以下のステップを含む:必要が有る対象に、本発明の第1の態様に記載された変異型Fcポリペプチドフラグメント、本発明の第2の態様に記載された変異型免疫グロブリンFc領域、本発明の第3の態様に記載された抗体、又は本発明の第4の態様に記載された組換えタンパク質、本発明の第5の態様に記載されたポリヌクレオチド、本発明の第6の態様に記載されたベクター、本発明の第7の態様に記載された宿主細胞、および/または本発明の第8の態様に記載された薬物組成物を使用する。
【0070】
別の好ましい例では、前記の対象は、哺乳類を含み、好ましくにヒトである。
【0071】
別の好ましい例では、前記の疾患は、腫瘍、炎症性疾患、自身免疫疾患、又はその組み合わせから選べられる。
【0072】
別の好ましい例では、前記のがんは、乳がん、前立腺がん、肺がん、卵巣がん、子宮頸がん、皮膚がん、黒素瘤、結腸がん、胃がん、肝がん、食道がん、腎臓がん、咽喉がん、甲状腺がん、膵臓がん、精巣がん、脳がん、骨がんと血液かん(例えば白血病、慢性リンパ球性白血病)などを含むが、これらに限定されない。
【0073】
別の好ましい例では、前記のがんは、基底細胞がん、胆道がん、膀胱がん、骨がん、脳および中枢神経系(CNS)がん、子宮頸がん、絨毛がん、結腸直腸がん、結合組織がん、消化器系がん、子宮内膜がん、食道がん、目がん、頭頸部がん、胃がん、上皮性腫瘍、腎臓がん、喉がん、肝がん、(小細胞、大細胞)肺がん、リンパ腫(ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫を含む);黒素瘤;神経芽細胞腫;口腔がん(たとえば唇、舌、口、及びのど);卵巣がん;膵臓がん;網膜芽細胞腫;横紋筋肉腫;直腸がん;呼吸器系がん;肉腫;皮膚がん;胃がん;精巣がん;甲状腺がん;子宮がん;泌尿器系がん;及び他のがんと肉腫を含むが、それらに限定されない。
【0074】
別の好ましい例では、前記方法は、免疫反応を刺激するために用いられ、腫瘍の成長の抑制又は遷延や、腫瘍の大きさの減少で、腫瘍を治療する。
【0075】
本発明のもう一つの態様では、タンパク質-分子結合能を増強するアミノ酸変異をスクリーニングする方法を提供し、以下のステップを含む:
1)親タンパク質配列を提供し、PCRで親タンパク質配列にアミノ酸変異を導入する;
2)親タンパク質及び変異されたタンパク質を、発現ベクターに構築し、変異ライブラリーを作成する;
3)発現ベクターを、哺乳類細胞へトランスフェクションし、親タンパク質及び変異されたタンパク質を、細胞の表面に発現する;
4)マーカー付き相互作用分子を、前記哺乳類細胞とインキュベートし、フローサイトメトリー或いは磁気ビーズで、マークされた哺乳類細胞をソーティングする;
5)マークされた哺乳類細胞のDNAを抽出し、シーケンシングを行い、ソーティング前後の配列比率の変化を分析・比較する;
ただし、ソーティング後の比率が、有意にソーティング前の比率より高いであるアミノ酸変異は、前記タンパク質と相互作用分子との間の結合能を増強できるアミノ酸変異である。
【0076】
当該スクリーニング方法は、様々なアミノ酸変異を効率的にスクリーニングでき、非常に便利で効果的であり、様々なタンパク質-タンパク質相互作用或いはタンパク質-他の分子相互作用を増強するアミノ酸変異のスクリーニングに用いられてもよい。
【0077】
本発明の有利な効果は、本発明に提供されたエンジニアリングされたFc領域又はFcフラグメントは、増強されたFcγRIIB親和性を有し、その一部は、増強されたFcγRIIB親和性を有しながら、低下された活性化性FcγR親和性も有する。これらのタンパク質は、抗体または融合タンパク質のアゴニスト活性をデザイン、エンジニアリング又は最適化するために使用できる。特に、ヒトIgG2骨格に基づく抗体或いは融合タンパク質のアゴニスト活性のデザインに用いられても良い。これによって、アゴニスト活性が著しく増強されたタンパク質分子を提供し、腫瘍、炎症性疾患、自身免疫疾患又はその組み合わせの治療に用いられ、重要な適用の見通しがある。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1】哺乳類の表面ディスプレイ抗体プラスミドの構築マップを示す。
図2】変異をスクリーニングするフローの概略図を示す。具体的に、変異ライブラリーを構築し、逆転写ウイルスによって細胞に導入し、Fc変異ライブラリーを細胞の表面に発現し、FcγRIIBに対する高親和性を有する細胞をソーティングし、DNAを抽出し、ハイスループットシーケンス(NSG)を行い、そしてソーティング前後に様々な変異の濃縮状況を分析し、野生型と比較して濃縮倍率が比較的高い変異型を選択する。
図3】ヒトIgG2 FcにCH2コードアミノ酸に対応するEu番号を示す。
図4】フローサイトメトリーソーターでのソーティングが、次第にFcγRIIBへの結合能が高い細胞を濃縮することができることを示す。この図は、野生型ヒトIgG2細胞と、ヒトIgG2ライブラリーLibraryMix細胞をそれぞれ1回と2回のFcγRIIBソーティング後の細胞のフローサイトメトリー分析結果を示す。
図5】ライブラリーによってスクリーニングされた細胞が、FcγRIIBへの結合能を大幅に改善したことを示す。この図は、野生型ヒトIgG2細胞と2回のFcγRIIBソーティング後の細胞のフローサイトメトリー分析結果を示す。
図6】2種類のコンビナトリアル変異ライブラリーの概略図を示す。種類一:4つの領域間のシングルポイントコンビナトリアル変異、すなわち、P233-V240、V266-P271、S298-T299及びG327-I332の4つの領域のそれぞれで0-1つの突然変異があり、合計0~4サイトのコンビナトリアル変異;種類二:単一領域内の複数のアミノ酸のコンビナトリアル変異、すなわち、P233-V240、V266-P271、S298-T299及びG327-I332の4つの領域の各領域内部のアミノ酸のコンビナトリアル変異である(それぞれ0-7、0-6、0-2、および0-6個のコンビナトリアル変異)。
図7】野生型IgG2と、フローサイトメトリーソーティングされたライブラリーIgG2_C01、ライブラリー IgG2_C02のフローサイトメトリー分析結果を示し、ライブラリーIgG2_C01とライブラリー IgG2_C02には、FcγRIIBと結合する細胞の比率の増加が見られた。
図8】フローサイトメトリーでのソーティング前(「_befor」)とソーティング後(「_1st」と「_2nd」)に、ライブラリーCmixとライブラリーC2細胞のFcγRIIBへの結合能を示し、結果としては、ソーティング後のライブラリーには、FcγRIIBと結合する細胞の比率は、次第に向上することが見られた(2nd>1st>befor)。
図9】異なるIgG2抗体Fc変異体のFcγRIへの結合能(ELISA信号:650nmで吸光度(A650)として表す)を示す。
図10】異なるIgG2抗体Fc変異体のFcγRIIA131Hへの結合能(ELISA信号:650nmで吸光度(A650)として表す)を示す。
図11】異なるIgG2抗体Fc変異体のFcγRIIA131Rへの結合能(ELISA信号:650nmで吸光度(A650)として表す)を示す。
図12】異なるIgG2抗体Fc変異体のFcγRIIBへの結合能(ELISA信号:650nmで吸光度(A650)として表す)を示す。
図13】異なるIgG2抗体Fc変異体のFcγRIIIA158Fへの結合能(ELISA信号:650nmで吸光度(A650)として表す)を示す。
図14】異なるIgG2抗体Fc変異体のFcγRIIIA158Vへの結合能(ELISA信号:650nmで吸光度(A650)として表す)を示す。
図15】ELISAによって、IgG1V11(hIgG1V11)上のIgG2に対応する変異体のFcγRIIA131HおよびFcγRIIBへの結合能を分析した(ELISA信号:650nmでの吸光度(A650)として表す)。
図16】さまざまな抗体Fc変異体抗ヒトOX40抗体の免疫活性化活性の分析結果を示し、CD4陽性細胞におけるCFSEの平均蛍光強度の棒グラフとして表される(CFSE信号が低いほど、活性は高くなる)。
図17】さまざまな抗体Fc変異体抗ヒトOX40抗体の免疫活性化活性の分析結果を示し、CD4陽性細胞におけるCFSEの蛍光強度ヒストグラムとして表される(CFSE信号が低いほど、活性は高くなる)。
【発明を実施するための形態】
【0079】
特に記載がない限り、本明細書で使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。また、本明細書に特に限定されていない限り、単数の用語は複数を含み、複数の用語は単数を含む。一般に、本明細書に記載される細胞および組織培養、分子生物学、免疫学、およびタンパク質と核酸化学に関わる命名法および技術は、当技術分野において公知なものであり、一般的に用いられている。
【0080】
本発明の方法および技術は、一般に、当技術分野で公知の従来の方法に従って行われ、特に限定されていない限り、本明細書に列挙された一般的および専門的な参考文献に記載されている。たとえば、SambrookなどのMolecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1989))及びAusubelなどのCurrent Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates (1992)、及びHarlowとLaneのAntibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(1990))を参照して、その内容は引用の方式で本明細書に取り入られる。酵素反応および精製技術は、製造者の指示に従って行われ、一般に、当該分野で公知の方法または本明細書に記載の方法に従って実施することができる。本明細書に記載される分析化学、合成有機化学、および医学および薬学に関連する命名法、ならびに実験方法と技術は、当技術分野において公知なものであり、一般的に用いられている。化学合成方法、化学分析方法、医薬品製造方法、調製方法および薬物送達方法、および患者の治療方法には、いずれも標準的な技術が用いられる。
【0081】
特に断りのない限り、以下の用語は以下の定義を有する。
【0082】
「抗体」(Ab)は、糖タンパク質免疫グロブリンまたはその抗原結合部分を含むが、これに限定されなく、それは、抗原に特異的に結合し、かつ少なくとも、ジスルフィド結合によって相互接続された2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む。各のH鎖は、重鎖可変領域(本明細書では、単にVHという)と重鎖定常領域を含む。抗体の「重鎖定常領域」は、CDsとも呼ばれ、CH1、CH2とCH3の三つのドメイン、及びCH1ドメインとCH2ドメインの間に位置するヒンジ領域を含む。各の軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書には、単にVLという)と軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、一つのドメインCLからなるものである。VHとVL領域は、更に、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる高度可変な領域に細かく分かれ、それらの間に、比較的に保存的な、フレーム領域(FR)と呼ばれる領域が散在してある。各VHとVLは、三つのCDRと四つのFRからなり、アミノ末端からカルボキシ末端まで、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4の順に並べる。重鎖と軽鎖の可変領域は、抗原と互いに作用する結合ドメインを含む。
【0083】
「Fc領域」(結晶化可能領域)又は「Fcドメイン」又は「Fc」とは、抗体の重鎖におけるC-末端領域であり、それが、免疫システムの各種の細胞(たとえば、エフェクター細胞)に位置するFc受容体との結合、或いは古典的補体系の第一成分(C1q)との結合を含む、免疫グロブリンと宿主組織或いは因子との結合を仲介する。したがって、Fc領域は、抗体重鎖定常領域の第一の定常領域免疫グロブリンドメイン(CH1ドメイン)以外の部分を構成するポリペプチドである。IgG、IgAとIgD抗体のアイソタイプには、Fc領域は、抗体の二つの重鎖の第二(CH2ドメイン)と、第三(CH3ドメイン)定常ドメインの二つの同一のタンパク質フラグメントからなる;IgMとIgEのFc領域は、各ポリペプチド鎖に三つの重鎖定常ドメイン(CH2-CH3-CH4ドメイン)を含む。IgGの場合、Fc領域は、免疫グロブリンドメインCH2とCH3、及びCH1とCH2の間のヒンジ領域を含む。免疫グロブリンの重鎖のFc領域の限界は変化できるが、ヒトIgG重鎖のFc領域は、本発明では、重鎖のP231位置のアミノ残基からカルボキシ末端までの配列断片と定義され、ただし、当該番号は、Kabatのように、EU番号に基づくものである。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメインは、約アミノ酸231から約アミノ酸340まで伸びるが、CH3ドメインは、Fc領域のCH2ドメインのC末端側に位置し、すなわち、IgGの約アミノ酸341から約アミノ酸447まで伸びる。
【0084】
「Fcポリペプチドフラグメント」とは、Fc領域に含まれるフラグメントを指し、本発明に言及されるFcポリペプチドフラグメントとは、Fc領域のアミノ酸233からアミノ酸332まで伸びるフラグメント、或いは当該フラグメントを含む他のFc領域の内のフラグメント、例えばFc CH2ドメイン或いはFc領域を指す。
【0085】
本明細書で使用される場合、「Fc領域」或いは「Fcポリペプチドフラグメント」は、天然Fc又はエンジニアリングされたFcであっても良い。また、「Fc領域」或いは「Fcポリペプチドフラグメント」とは、さらに単離される状態にあるこの領域、或いはFcを含むタンパク質ポリペプチドにあるこの領域を指し、このようなポリペプチドは、「Fc融合タンパク質」とも呼ばれる(例えば、抗体又はイムノアドヘシン(immunoadhesin))。
【0086】
「Fc受容体」又は「FcR」は、免疫グロブリンのFc領域と結合する受容体である。IgG抗体と結合するFcRは、FcγRファミリーの受容体を含み、これらの受容体の対立遺伝子バリアントと選択的スプライシング形式も含む。ヒトFcγ受容体ファミリーは、いくつのメンバーを含む:FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32a)、FcγRIIB(CD32b)、FcγRIIIA(CD16a)、FcγRIIIB(CD16b)。その中、FcγRIIBは、唯一の抑制性Fcγ受容体であり、他のは、いずれも活性化性Fcγ受容体である。大多数の自然エフェクター細胞型が、一種又は多種の活性化性FcγRと抑制性FcγRIIBを共発現するが、ナチュラルキラー(NK)細胞が、選択的に一つの活性化性Fcγ受容体(マウスではFcγRIII、ヒトではFcγRIIIA)を発現しつつ、マウスとヒトに、抑制性FcγRIIBを発現しない。これらのFcγ受容体の分子構造が異なるから、各IgG抗体サブクラスに対する異なる親和性を有する。これらのFcγ受容体の中、FcγRIは、高親和性の受容体であるが、FcγRIIA、FcγRIIBとFcγRIIIAは、低親和性の受容体である。遺伝子多型も、これらの異なるFcγ受容体に存在しつつ、それらの結合親和性に影響する。最も一般的な遺伝子多型は、FcγRIIAのR131/H131と、FcγRIIIAのV158/F158などの多型形式である。これらの多型形式の中、多種の疾患に関係することが見つかれることもあり、一部の特定な治療抗体の效果も、患者が特定なFcγ受容体遺伝子多型形式を持つか否かに依存する。
【0087】
本発明に記載された「配列」は、本発明の配列と実質的に同一の配列を含むと理解され、上記の「実質的に同一の配列」とは、最適化アラインメントされた後に、例えばGAP又はBESTFITプログラムを採用し、デフォルトギャップ値で測定する際に、二種類のペプチド配列の間に、少なくとも70、75或80%の配列同一性を有し、好ましくに、少なくとも90或95%の配列同一性を有し、より好ましくに、少なくとも97、98或99%の配列同一性を有する。好ましくに、異なる残基位置の相違は、保存的アミノ酸置換であるのは思わしい。「保存的アミノ酸置換」とは、その中のアミノ酸残基は、化学的性質(たとえば:電荷又は親水性)が類似する側鎖のR基を有する別のアミノ酸残基で置換されることである。一般的に、保存的アミノ酸置換は、実質的にタンパク質の機能と性質を変化させない。2つ以上のアミノ酸配列が保存的置換によって異なる場合、配列の同一性百分比または類似性は、置換の保存的な性質を修正するように向上されることができる。たとえば、Pearson、Methods Mol.Biol.243:307-31(1994)を参照する。化学的性質が類似する側鎖を有するアミノ酸基の実例は、1)脂肪族側鎖:グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、とイソロイシン;2)脂肪族-ヒドロキシル基側鎖:セリンとトレオニン;3)アミドを含有する側鎖:アスパラギンとグルタミン;4)芳香族側鎖:フェニルアラニン、チロシン、とトリプトファン;5)アルカリ側鎖:リシン、アルギニン、とヒスチジン;6)酸性側鎖:アスパラギン酸とグルタミン酸;及び7)硫黄を含有する側鎖:システイン与メチオニンを含む。好ましい保存的アミノ酸置換のグループは、バリン-ロイシン-イソロイシン、フェニルアラニン-チロシン、リシン-アルギニン、アラニン-バリン、グルタミン酸-アスパラギン酸、及びアスパラギン-グルタミンである。以上で指摘したように、本発明にかかるFc領域、抗体、Fcフラグメント或いは融合タンパク質は、本発明に提供されるアミノ酸変異を備える以外、上記と実質的に同じ配列要件が満たされている限り、さらに、本発明に開示されない他の可能な修飾を含んでも良い。
【0088】
本発明の抗体及びその断片或いはドメインのアミノ酸のシリアルナンバーは、IgG EU番号に基づくものである。本発明に関与する一部の変異体の対応する変異の種類および名前を表1に示す。
【0089】
抗体は、一般的に高親和性でその関連する抗原と特異性に結合し(同様に、本発明のタンパク質はまた、それらのエピトープ認識分子に特異的に結合することができる)、それは、10-5-10-11M又はより小さい解離定数(KD)によって表される。約10-4-1より大きいあらゆるKDは、一般的に非特異性の結合を指示する。本明細書に使用されたように、抗原と「特異性に結合」する抗体とは、高親和性で、抗原や基本的に同一の抗原と結合する抗体であり、それは、KDは、10-7M又はより小さい、好ましくに10-8M又はより小さい、より好ましくに5×10-9M又はより小さい、最も好ましくに10-8-10-10M又はより小さいが、高親和性で関係がない抗原と結合しないことを表す。抗原が、指定された抗原と、高い配列同一性を表し、たとえば、指定された抗原の配列と、少なくとも80%、少なくとも90%、好ましくに少なくとも95%、より好ましくに少なくとも97%、又はより好ましくに少なくとも99%の配列同一性を表すと、当該抗原は、指定された抗原とは、「基本的に同一」なものである。
【0090】
免疫グロブリンは、一般的に知られている任意のアイソタイプに由来する可能性がある。IgGアイソタイプは、一部の種ではサブクラスに分類できる:ヒトではIgG1、IgG2、IgG3、IgG4サブクラスに、マウスではIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3サブクラスに分類できる。「アイソタイプ」とは、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体のクラス(例えば、IgMまたはIgG1)を指す。「抗体」は、たとえば天然に存在する、或いは天然に存在しない抗体;モノクローナルとポリクローナル抗体;キメラとヒト化抗体;ヒト或いは非ヒト抗体;完全合成抗体;及び単鎖抗体を含む。
【0091】
本発明に記載された「天然IgG」は、自然界に天然に存在することができるIgGを指し、これらのIgGの配列は、人工的に修飾されない。注意する必要があるのは、遺伝子多型により、天然のIgGでも異なる変異体があるが、変異するかどうかに関係なく、天然の状態で人工的に修飾されないIgGであれば、天然IgGと呼ばれる。
【0092】
「アゴニスト抗体」は、受容体に結合し、受容体を活性化する抗体であり、アゴニスト抗体の機能実例としては、腫瘍壊死因子受容体(TNFR)スーパーファミリーの受容体に結合し、TNF受容体を発現する細胞にアポトーシスを誘導する。アポトーシス誘導機能を測定するためのアッセイは、WO98/51793およびWO99/37684に記載され、これらは両方とも、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。本発明の具体的な実施例において、抗CD40アゴニスト抗体は、免疫細胞の表面で免疫活性化シグナルを伝達する標的分子に結合し、それらに制御される重要な免疫活性化シグナル経路を活性化することによって、抗腫瘍免疫応答を増強し、腫瘍細胞を間接的に殺滅することができる。臨床研究段階に入ったアゴニスト抗体の一部の実例は、PCT/CN2017/087620に参照する。
【0093】
「アゴニスト活性」とは、抗体を抗原分子に結合させ、抗原分子を刺激してシグナルを生成することによって、ある特異的な生理学的活性の変化を誘発する活性を指す。抗原分子は、受容体分子と、シグナル伝達または生理学的機能を有する他の分子を含む。上記の特異的な生理学的活性は、例えば、増殖活性、生存活性、分化活性、転写活性、膜輸送活性、親和性、タンパク質分解活性、リン酸化/脱リン酸化活性、レドックス活性、転移活性、核酸分解活性、脱水活性、細胞死誘導活性およびアポトーシス誘導活性を含むが、これらに限定されない。
【0094】
「親」とは、タンパク質エンジニアリングの過程におけるエンジニアリングされた対象を指す。前記の親は、天然に存在するポリペプチド、又は天然に存在するポリペプチドのバリアントまたはエンジニアリングされたバージョンであり得る。いくつかの実施例において、本発明に記載された親Fc領域は、天然IgGのFc領域である。
【0095】
「バリアント」とは、タンパク質エンジニアリング過程には、親を修飾して得るタンパク質を指す。具体的には、それは、親アミノ酸の変異、欠失、および/または付加によって誘導され、親に固有の一部またはすべての機能を保持するタンパク質であっても良く、本明細書のバリアントの配列は、好ましくは、親配列と少なくとも約80%の同一性、最も好ましくは少なくとも約90%の同一性、より好ましくは少なくとも約95%の同一性を有する。したがって、本明細書で使用される「Fcバリアント」とは、少なくとも一つのアミノ酸の修飾によって、親Fc配列と異なるFc配列を指す。Fcバリアントは、Fc領域のみを含み得るか、または抗体、Fcフュージョン、単離されたFc、Fc領域、または実質的にFcによってコードされる他のポリペプチドとの関連で存在し得る。Fcバリアントは、Fcポリペプチド自体、Fc変異体ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指すことができる。
【0096】
本明細書の「腫瘍壊死因子受容体スーパーファミリー」或いは「TNF受容体スーパーファミリー」とは、TNFファミリーのサイトカインと結合できる受容体ポリペプチドである。一般的に、これらの受容体は、その細胞外領域に一つ又は複数のシステインリッチ重複配列を有するI型膜貫通受容体である。TNF遺伝子ファミリーの中のサイトカインの実例は、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)、腫瘍壊死因子-β(TNF-β又はリンパ毒素)、CD30リガンド、CD27リガンド、CD40リガンド、OX-40リガンド、4-1BBリガンド、Apo-1リガンド(Fasリガンド又はCD95リガンドとも言う)、Apo-2リガンド(TRAILとも言う)、Apo-3リガンド(TWEAKとも言う)、オステオプロテゲリン(OPG)、APRIL、RANKリガンド(TRANCEとも言う)、とTALL-1(BlyS、BAFF又はTHANKとも言う)を含む。TNF受容体スーパーファミリーの中の受容体の実例は、1型腫瘍壊死因子受容体(TNFR1)、2型腫瘍壊死因子受容体(TNFR2)、p75神経成長因子受容体(NGFR)、B細胞表面抗原CD40、T細胞抗原OX-40、Apo-1受容体(Fas又はCD95)、Apo-3受容体(DR3、sw1-1、TRAMPとLARDとも言う)、「膜貫通型の活性化因子およびCAMLインタラクタ(interactor)」又は「TACI」と呼ばれる受容体、BCMAタンパク質、DR4、DR5(或いは、Apo-2;TRAIL-R2、TR6、Tango-63、hAPO8、TRICK2又はKILLERとも言う)、DR6、DcR1(TRID、LIT又はTRAIL-R3とも言う)、DcR2(TRAIL-R4又はTRUNDDとも言う)、OPG、DcR3(TR6又はM68とも言う)、CAR1、HVEM(ATAR又はTR2とも言う)、GITR、ZTNFR-5、NTR-1、TNFL1、CD30、リンパ毒素β受容体(LTBr)、4-1BB受容体及びTR9(EP988,371A1)を含む。
【0097】
本発明に記載された「抑制性Fcγ受容体及び活性化性Fcγ受容体に対する親和性の比」或いは「I/A比」は、抑制性Fcγ受容体(例えば:ヒトFcγRIIB)に対する抗体重鎖定常領域の親和性値を、同じ種の活性化性Fcγ受容体(例えば:ヒトFcγRI、FcγRIIA、FcγRIIIA、FcγRIIIBを含む)に対する抗体重鎖定常領域の最高親和性値で割ったものに等しい。
【0098】
上記の「親和性」とは、二つの分子の間の結合能の大きさであり、通常に、KDで計測し、本発明において、それはまた、濃縮倍率(表7のように)または結合分析シグナル(図12のように)によって測定することができる。「KD」とは、二つの分子が(たとえば:特定な抗体と抗原、或いはリガンドと受容体)互いに作用する平衡解離定数である。「濃縮倍数」とは、本発明に提供されるフローサイトメトリーソーティング方法或いは磁気ビーズソーティング方法でソーティングした後に、特定のFc変異を含む抗体を発現する細胞の、ソーティング後の百分比/ソーティング前の百分比(次世代シーケンスで分析する、表7に示す)を指す。「結合分析シグナル」は、本発明に提供されるELISAアッセイにおける吸光度値を採用する(図12に示す)。
【0099】
「ヒト」抗体とは、その可変領域は、ヒト生殖系免疫グロブリン配列由来のフレーム領域とCDR領域を有する抗体である。なお、抗体が定常領域を含有すると、定常領域もヒト生殖系免疫グロブリン配列由来のものである。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(たとえば、生体外でのランダム突然変異または部位特異的突然変異や、生体内での体細胞突然変異によって、導入された突然変異)を含んでも良い。しかしながら、本明細書に使用されたように、用語「ヒト抗体」は、他の哺乳動物種(マウスのような)生殖系由来のCDR配列を、ヒトフレーム配列にグラフトしてなる抗体を含むことを意図しない。用語「ヒト」抗体と「完全ヒト」抗体は同じ意味で使用される。
【0100】
本発明の「抗体」は、たとえば天然に存在する、或いは天然に存在しない抗体;モノクローナルとポリクローナル抗体;キメラとヒト化抗体;ヒト或いは非ヒト抗体;完全合成抗体を含む。
【0101】
「ヒト化」抗体とは、その中の非ヒト抗体CDRドメインを除く一部、大部分或いは全部のアミノ酸は、ヒト免疫グロブリン由来の相応のアミノ酸に取り替えられた抗体である。ヒト化形式抗体の一つの実施の形態において、CDRドメインを除く一部、大部分或いは全部のアミノ酸は、ヒト免疫グロブリン由来のアミノ酸に取り替えられたが、一つ又は複数のCDR領域のうちの一部、大部分又は全部のアミノ酸は変わらない。抗体が、特定な抗原と結合する能を取り除かない限り、アミノ酸に対する小さい付加、欠失、挿入、置換または修飾は許容される。「ヒト化」抗体は、オリジナル抗体に類似する抗原特異性を保留する。
【0102】
「キメラ抗体」とは、可変領域と定常領域は、それぞれに異なる種に由来する抗体であり、たとえば可変領域は、マウス抗体に由来するが、定常領域はヒト抗体に由来する抗体である。
【0103】
以下、具体的な実施例を参照して、本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の単なる例示であることが理解されるべく。以下の実施例における特定の条件を特定しない実験方法は、通常に、J.Sambrookら、「分子クローニング:実験マニュアル(New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)」に記載された通常条件に従って実施され、或いはメーカーが推奨する条件に従って実施される。特に指定がない限り、百分比と部は、重量百分比と質量部である。
【0104】
【表1】

[材料と方法]
[哺乳類の表面ディスプレイベクターの構築]
ヒトIgG2抗マウスCD40抗体軽鎖と重鎖の全長配列は、マルチフラグメントワンステップラピッドクローニングキット(Multi One Step Pcr Cloning Kit)(上海イーセイバイオテクノロジー株式会社、中国)によって、レトロウイルスベクターMIGRI(Addgene、Pearら、Blood. 1998 Nov 15. 92(10):3780-92.)上に構築され、使用したプライマーを表2に、構築マップを図1に示し、制限エンドヌクレアーゼBglIIで単一消化した後、完全抗体の軽鎖DNAと重鎖DNAを挿入し、真ん中を、自己切断Linker P2Aで接続し、ただし、重鎖DNAの末端には、膜貫通ドメインDNA(各フラグメントのDNA配列を表3に示す)が含まれ、当該プラスミドは、抗体ヒトIgG2を発現しながらGFPタンパク質も同時に発現し、表面ディスプレイ抗体とそれに関連するFc領域のアミノ酸配列を表4に示す。成功した構築は、シーケンシングによって確認された。
【0105】
【表2】
【0106】
【表3】
【0107】
【表4】

[Fc変異ライブラリーの構築]
点変異ライブラリーでは、変異は縮重プライマーを介して導入され、複数の縮重プライマーが設計される。例えば、P233サイト変異に用いられる縮重プライマーは、CCACCGTGCCCAGCACCANNSGTGGCAGGACCGTCAGTC(SEQ ID NO:21)である。変異ライブラリーフラグメントと所要のライゲーションベクターをPCRで取得し、ワンステップラピッドクローニングキット(One Step Pcr Cloning Kit)(上海イーセイバイオテクノロジー株式会社、中国)によってライゲーションし、DH5αに形質転換して、変異ライブラリーを得た。各ライブラリーから20個のコロニーを選択し、シーケンシングし、変異が標的位置に導入されたかどうかを確認した。
【0108】
コンビナトリアル変異ライブラリーの方法は、これに類似し、プライマーは、点変異ライブラリーをスクリーニングすることによって得られた濃縮された変異タイプに従って設計され、中間の縮重プライマーは、特定のアミノ酸をコードするコドン、またはいくつかのアミノ酸をコードする縮重コドンからなるプライマー配列に変更され、例えば、L328W(TGCAAGGTCTCCAACAAAGGCTGGCCAGCCCCCATCGAGAAAAC,SEQ ID NO:22)、Combine2_1(ACGTGCGTGGTGGTGGACKNGWBGVASRWSSACCHGGAGGTCCAGTTCAACTGG,SEQ ID NO:23)。
【0109】
上記のプライマー配列の通常の塩基以外の記号は、縮重塩基である:RはA/G、YはC/T、MはA/C、KはG/T、SはG/C、WはA/T、HはA/T/C、BはG/T/C、VはG/A/C、DはG/A/T、NはA/T/C/Gである。
【0110】
[安定発現細胞株の構築]
上記のライブラリープラスミドとヘルパープラスミドPhoenix-Eco(モル比2:1)およびトランスフェクション試薬PEI(質量比1:5)を混合し、事前にプレーティングされたPhoenix細胞(密度80%)に加え、6時間後、培地を新鮮な培地に交換し、48時間後にレトロウイルスを含む上清を回収した。上記のレトロウイルス上清の50%と新鮮な培地50%を使用し、事前に80%密度になるようにプレーティングされた3T3細胞に感染させ、24時間後に培地を交換し、48時間後に抗体を発現する安定発現細胞株を得た。
【0111】
[フローサイトメーターで抗体を発現する安定発現細胞株を分析する]
3T3細胞をトリプシン処理によって収集し、単細胞懸濁液を調製し、PE-F(ab’)2フラグメントヤギ抗ヒトIgG(1:500,Jackson ImmunoResearch Laboratories)またはBiotin-FcγRIIB(1μg/ml、義翹神州会社)およびStreptavidin-APC(1:500,BD Biosciences)を含む50μlのFACSバッファー(0.5%FBSおよび2mM EDTAを含む1xPBS)に約1~5×10個の細胞を再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした後、細胞をFACSバッファーで2回洗浄し、200μlのFACSバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーで分析した。
【0112】
[FcγRIIBに高い親和性を持つ細胞をフローサイトメトリーソーティングする]
上記のフローサイトメトリー分析染色法に従って、染色システムを等比率で増幅し、最後に、細胞を約1~5×10細胞/mlに再懸濁し、マシンに移動し、IgGを発現する(PE蛍光シグナルが強い)かつFcγRIIBに高い親和性を持つ(APC蛍光シグナルが強い)細胞を選択し、その割合はIgG陽性細胞量の1%未満に制御された。
【0113】
[FcγRIIBに高い親和性を持つが、活性化性FcγRに低い親和性を持つ(I/A 比が高い)細胞を磁気ビーズソーティングする]
3T3細胞をトリプシン処理によって収集し、単細胞懸濁液を調製し、Biotin-FcγRIIB(1μg/ml、義翹神州会社)と活性化性FcγR(FcγRI、FcγRIIA131H、FcγRIIA131R、FcγRIIIA158V、FcγRIIIA158Fを含む、いずれも1μg/mlであり、上海近岸テクノロジー株式会社)を含む50μlのMACSバッファー(0.5%BSA、2mMEDTAを含む1xPBS)に約1x10個の細胞を再懸濁し、氷上で15分間インキュベートした後、細胞をMACSバッファーで2回洗浄し、100μlのMACSバッファーに再懸濁し、25μlの抗Biotinビーズを追加し、氷上で15分間インキュベートした後、細胞をMACSバッファーで1回洗浄し、500μlに再懸濁し、磁場に置かれたLSカラムに加え、排出液を回収し、3mlのMACSバッファーで洗浄して回収し、最後にLSカラムを磁場から外し、5mlのMACSバッファーを使用し、ソーティングカラムに保持された細胞を迅速に溶出し、陽性細胞、すなわちI/A比の高い細胞を収集した。
【0114】
[ハイスループットシーケンス分析]
標的細胞集団の約0.1~5×10個の細胞を採取し、溶解し、ゲノムDNAを抽出し、PCRを行い、ハイスループットシーケンシング(PE150またはPE250)のためにライブラリーを自作し、各サンプルで約60,000~300,000の配列を得、変異領域のヌクレオチド配列を抽出し、対応するアミノ酸配列にバッチ翻訳し(http://www.cbs.dtu.dk/services/VirtualRibosome/,Rasmus Wernersson.Nucl.Acids Res.2006 34:W385-W388)、各サンプルの各変異配列の割合を計算し、変異配列の割合=変異配列の数/配列の総数。
【0115】
[抗体の発現と精製]
次世代シーケンシングにおける望しいFc変異体または新しいコンビナトリアル変異体を抗ヒトOX40抗体の重鎖に構築し、対応する抗体軽鎖とともにHEK293S細胞に一過性にトランスフェクトし、タンパク質を発現し、プロテインGによる精製で異なるFc変異抗体を得、SDS-PAGEで検出されたように、抗体は構造的に無傷でした。抗ヒトOX40抗体のDNA配列とタンパク質配列を表5と表6に示す。
【0116】
【表5】
【0117】
【表6】

酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によってFcγRへの変異抗体の結合特性を分析する
酵素結合プレートに、2μg/mL、100μLの抗体若しくはその変異体を添加し、一晩でコーティングし、上清を捨て、1%BSAを含むPBSで2時間ブロッキングし、PBST(0.05%Tween 20を含むPBS)で洗浄し、そして適当な濃度のbiotinにマークされたFcγR細胞外ドメインタンパク質(北京義翹神州生物技術有限会社)を添加し、室温で1時間インキュベートした後に、上清を捨て、PBSTで洗浄した。Streptavidin-HRP (BDバイオテクノロジー)を添加し、室温で1時間インキュベートし、biotinタンパク質を検出し、上清を捨て、発色液を添加し、20-40分間発色した後、650nmにおける吸光値(A650)を測定した。
【0118】
[異なる抗体Fc変異体抗ヒトOX40抗体のインビトロ免疫活性化活性分析(T細胞増殖の促進)]
ヒト化FCγR/OX40マウス脾臓を単離し、溶解した赤血球の単細胞懸濁液を調製し、CFSEでマークし、細胞を5×10/mLの濃度で5μのMCFSEを含むPBSに再懸濁し、37℃で15分間置き、5%FBSを含むPBS 600gで5分間、2回洗浄し、次に、初代細胞培養培地(RPMI+10%FBS+1%Pen/Strep+1%HEPES+1%ピルビン酸ナトリウム+0.1%2ME(最終濃度50μM)+1%L-グルタミン+1%非必須アミノ酸)に再懸濁し、細胞濃度を3×10/mlにし、各ウェルに100μlの細胞溶液を加え、つまり、各ウェルには3×10個の細胞が含まれる。抗体は、0.2μg/mlの抗CD3を含む初代細胞培養培地で、それぞれ2、0.2、0.02μg/mlの濃度に希釈された。上記で調製した抗体混合物100μLを、CFSEでマークされたヒト化FCγR/OX40脾臓細胞をすでに含むウェルに移した。コントロールには2つのグループがある:CD3onlyのグループは、CFSEでマークされた細胞と抗マウスCD3を加えたが、他の抗体は加えない;CD3+CD28グループは、CFSEでマークされた細胞と抗マウスCD3を加え、2μg/mlの濃度で抗マウスCD28抗体(クローン37.51(RUO)、BD製薬)を加た(抗マウスCD3とCD28の最終濃度はそれぞれ0.1μg/mlおよび1μg/mlであった)。37℃、5%CO恒温セルインキュベーターで3日間インキュベートした。培養終了した後、細胞を収集し、フローサイトメトリーでCD4およびCD8細胞の数と増殖を検出した。T細胞の増殖を検出するためのフローサイトメトリー:上記で培養された細胞を96ウェルU底プレートに移し、PBSで2回洗浄し、500gで5分間遠心分離し、上清を捨て、PE抗マウスCD4(クローン:GK1.5、1:500、BD)およびAPC抗マウスCD8a(クローン:53-6.7、1:500、BioLegend)を含む50μlのFACSバッファー(0.5%FBS、2mM EDTAを含むPBS)に細胞を再懸濁し、暗所で15分間氷上でインキュベートした後、細胞をPBSバッファーで2回洗浄し、DAPI(0.5μg/ml,Invitrogen)とCountBrightAbsoluteCountingBeads(Life Technologies、2μl/サンプル)を含む200μlのFACSバッファーに再懸濁し、フローサイトメトリーで分析した。
【0119】
本発明は、主に、ヒトIgG2とFcγRIIBとの相互作用を増強する抗体Fc変異体配列を提供する。同時に、本発明は、これらの変異体をスクリーニング・取得する方法も提供し、図2に示すように、上記の方法に従って、特定の親和性特性を有するFc変異体をスクリーニングすることができる。
【0120】
それだけでなく、本発明に提供される上記のスクリーニング方法によれば、当業者は、様々なタンパク質-タンパク質相互作用またはタンパク質-他の分子相互作用を増強するアミノ酸変異をスクリーニングすることができる;一般的なスクリーニング方法には、以下が含まれる:
1)親タンパク質配列を提供し、PCRで親タンパク質配列にアミノ酸変異を導入する。
【0121】
2)親タンパク質及び変異されたタンパク質を、発現ベクターに構築し、変異ライブラリーを作成する。
【0122】
3)発現ベクターを、哺乳類細胞へトランスフェクションし、親タンパク質及び変異されたタンパク質を、細胞の表面に発現する。
【0123】
4)マーカー付き相互作用タンパク質を、前記哺乳類細胞とインキュベートし、フローサイトメトリー或いは磁気ビーズで、マークされた哺乳類細胞をソーティングする。
【0124】
5)マークされた哺乳類細胞のDNAを抽出し、シーケンシングを行い、ソーティング前後の配列比率の変化を分析・比較する;ただし、ソーティング後の比率が、有意にソーティング前の比率より高いであるアミノ酸変異は、前記タンパク質と相互作用分子との間の結合能を増強できるアミノ酸変異である。
【0125】
実施例1:ヒト抗体IgG2_Fc点変異ライブラリーの構築。
【0126】
本発明は、ヒトIgG2_Fc_CH2上の、P233-S239、V266-P271、S298-T299及びG327-I332(Eu番号、図3と表4に示す)を含むいくつかのサイトを選択し、これらのサイトのアミノ酸は、単一サイトランダム変異を行われ、各サイトには野生型を含めて合計20種類のアミノ酸がある(A、R、D、C、Q、E、H、I、G、N、L、K、M、F、P、S、T、W、Y、V)。上記のヒトIgG2_Fcの4つの領域に対応する単一サイトランダム変異のプラスミドライブラリー(Library1、Library2、Library3、Library4)、およびこれら4つのライブラリーの混合ライブラリー(LibraryMix)を作成した。
【0127】
実施例2:フローサイトメトリーでソーティング前後の細胞濃縮状況を分析する。
【0128】
上記のプラスミドライブラリーを成功に構築した後、レトロウイルスを調製し、3T3細胞に感染させ、これらのライブラリーを発現する安定発現細胞株を得た。本発明は、フローサイトメトリーソーティング技術を利用し、ヒトIgG2(抗ヒトIgG F(ab’)2によって検出される)を発現しつつ、ヒトFcγRIIBに結合する細胞をソーティングする。図4に示すように、フローサイトメトリーソーティングでは、次第にFcγRIIBとの結合能が高い細胞を濃縮することができる。ヒトIgG2ライブラリーLibraryMixをフローサイトメトリーソーターでソーティングし、異なるラウンドで得られた細胞を別々に分析した結果として、フローサイトメトリーで検出できるFcγRIIBに結合した細胞の割合は、ソーティングの各ラウンド後に増加し、最初のラウンドは0.90%、2番目のラウンドは22.2%であったが、野生型ヒトIgG2の0.34%と比較して、それぞれ2.65倍と65.29倍に増加した。
【0129】
図5に示すように、2ラウンドのソーティング後、フローサイトメトリーで検出できるLibrary1、Library2、Library3、Library4、およびLibraryMixの中のFcγRIIBに結合した細胞の割合は、すべて増加した:それぞれ1.85%、16.3%、0.57%、2.19%、22.2%に達し、野生型ヒトIgG2の0.34%と比較して、比率は5.44倍、47.94倍、1.69倍、6.44倍、65.29倍に増加した。
【0130】
実施例3:フローサイトメトリーソーティング後の次世代シーケンシングでFcγRIIBへの結合能が向上したIgG2 Fc変異タイプを分析する。
【0131】
本発明は、ソーティング前後の配列の割合が野生型ヒトIgG2の2倍以上増加する変異(濃縮倍数/野生型濃縮倍数>2)、つまり、FcγRIIBへの結合能を改善するのに有利なヒトIgG2の変異タイプ(野生型と比較して濃縮倍率が少なくとも1倍増加)を選択し、表7に示される。例えば、ソーティング前のL328Wの割合は0.39%、ソーティング後の割合は12.84%、濃縮倍率は33.20で、野生型(1.49)の22.21倍である。
【0132】
【表7】

#1-3:当該データは、Library2(#1)、Library4(#2)、およびLibraryMix(#3)の実験から得される。
【0133】
点変異に加え、本発明は、いくつかの二重変異タイプもスクリーニングし、これらのアミノ酸変異の比率は、フローサイトメトリーソーティングの前後で野生型ヒトIgG2の2倍以上に増加した。なかでも、二重変異の組み合わせ(V266A/P271C又はG、S267A/P271C又はG、S267E/D270H、S267E/P271C又はV又はW又はY、S267E/S298R、S267M/P271C又はG、P271A/S298R、P271G/G236V、P271G/G329S、P271G/P331C又はT、P271G/S298D又はE又はG又はK又はL又はN又はR、P271G/T299A又はM又はS又はW、G327A/A330R又はV、G327A/I332A又はC又はE、L328E/I332Tなど)の増加した割合は、どの点変異よりも高く、変異の組み合わせの両方のアミノ酸がFcγRIIBの結合能の向上に寄与することを示した。さらに、S267V/S298Lなどの変異の組み合わせもあり、そのコンビナトリアル変異が向上した倍数は、向上した倍数がより高いS298L変異とほぼ等しく、これにより、この変異の組み合わせの向上は、この1つのサイトの変異の寄与のみであり、他の点突然変異は基本的に効果がないと見られる(表8を参照)。したがって、本発明のFc領域、抗体、Fcフラグメント或いは融合タンパク質は、本発明に提供されるアミノ酸変異に加え、さらに他の可能的な組み合わせ又は修飾を含んでも良い。
【0134】
【表8】

a.ソーティング後の変異体の濃縮倍率/野生型の濃縮倍率の比の値
b.元の点変異ソーティング後の変異体の濃縮倍率/野生型の濃縮倍率の比の値
c.コンビナトリアル変異が増加した倍率/その中の一つの点変異が増加した倍率の比の値
実施例4:磁気ビーズソーティング後の次世代シーケンシングによって有利な変異体タイプを分析する。
【0135】
本発明では、磁気ビーズソーティング技術を用いて、上記のフローサイトメトリーソーティングに得られたFcγRIIB高親和性細胞を続いてソーティングし、BiotinにマークされたFcγRIIBとマークされない活性化性FcγRを混合し、細胞と一緒にインキュベートし、次に、抗Biotin磁性ビーズを使用し、マークされた細胞をソーティングし、ソーティング前後の濃縮比率を次世代シーケンシングで分析することにより、I/A比の高い変異をスクリーニングすることができ、表9に示された。変異を選択する方法:ソーティングの前後での比率が、野生型ヒトIgG2の2倍以上に増加しつつ、非結合磁気ビーズ部分(すなわち、LSカラムを通過するときの排出液)のソーティングでの割合が減少した変異を選択した。
【0136】
【表9】

NAは、この列のサンプルにおいて、この行に対応する変異タイプは検出されないことを表す。
【0137】
#1-#4:当該データは、Library2(#1)、Library4(#2)、LibraryMix(#3)の二回実験(#3、#4)から得される。
【0138】
G236D、S239D(Seung Y. Chuら(Molecular Immunology 45(2008)3926-3933)の報告によって)、およびS298Aの変異(特許US20090042291A1の報告によって)は、FcγRIIBに対するヒトIgG1の親和性を向上させることができる。しかしながら、本発明の次世代シーケンシング分析の結果は、ソーティング後のG236DまたはS298A変異を含むIgG2変異体の割合が増加せず、むしろ減少したことを示した(表10);S239D変異を含むヒトIgG2変異体の割合は、ソーティング前は0.026%であり、ソーティング後のシーケンシング結果では検出されなかった。これらの結果は、G236D、S239D、およびS298Aの変異がヒトIgG2のFcγRIIB結合能を増加させないことを示し、表10を参照する。
【0139】
【表10】

NAは、この行の変異体タイプは、この列の実験で検出されておらず、百分比と倍率を計算できないことを表す。
【0140】
実施例5:ヒトIgG2 FcポリペプチドフラグメントにおけるFcγRIIB親和性を増強できるアミノ酸変異。
【0141】
表11は、本発明の点変異ライブラリースクリーニング法に従ってスクリーニングされたFcγRIIB親和性を増強できるアミノ酸変異をまとめる。以前の特許と比較して分かるように、本発明のサイトS267GおよびP271Cはいずれも、FcγRIIB結合能を向上できるヒトIgG2の新しいタイプの変異である。サイトH268S、L328AおよびG327Aはいずれも、FcγRIIB結合能を向上できると同時に、FcγRIIBよりも他の活性化性FcγRへの親和性が弱いヒトIgG2の新しいタイプの変異である。
【0142】
【表11】

実施例6:ヒト抗体IgG2_Fcコンビナトリアル変異ライブラリーの構築。
前記の点変異ライブラリーとハイスループットシーケンシングの結果によってスクリーニングされた、FcγRIIB親和性を向上できるFc変異タイプ(濃縮倍率が野生型の1倍以上高い変異)に基づき、二つのタイプのコンビナトリアル変異ライブラリーをデザインした:種類一:4つの領域間のシングルポイントコンビナトリアル変異、すなわち、P233-V240、V266-P271、S298-T299及びG327-I332の4つの領域のそれぞれで0-1つの突然変異があり、合計0~4サイトのコンビナトリアル変異;種類二:単一領域内の複数のアミノ酸のコンビナトリアル変異、すなわち、P233-V240、V266-P271、S298-T299及びG327-I332の4つの領域の各領域内部のアミノ酸のコンビナトリアル変異である(それぞれ0-7、0-6、0-2、および0-6個のコンビナトリアル変異)、図6に示された。プラスミドライブラリーのサイズは最大4.67×10であった。
【0143】
実施例7:コンビナトリアル変異ライブラリーのフローサイトメトリーソーティング前後の細胞濃縮状況。
点変異ライブラリーとハイスループットシーケンシングの結果によって、種類一と種類二のコンビナトリアル変異ライブラリーを構築し(実施例6)、コンビナトリアル変異を発現する細胞ライブラリーを得、そして、FcγRIIBへ高い親和性を持つ細胞を、連続に、2~3ラウンドにソーティングした。図7に示すように、2ラウンドのソーティング後、フローサイトメトリーで検出されたように、ライブラリーIgG2_C01、ライブラリーIgG2_C02のFcγRIIBに結合した細胞の割合は増加し、それぞれ9.53%、26.9%に達し、野生型ヒトIgG2の0.23%と比較して、比率は41.43倍と116.96倍に増加した。ただし、IgG2_C01は、P233-V240、V266-P271、S298-T299及びG327-I332の4つの領域には、それぞれで最大1つの変異があるコンビナトリアル変異(種類一)ライブラリーである;IgG2_C02は、P233-V240、V266-P271、S298-T299とG327-I332の4つの領域には、連続するコンビナトリアル変異(種類二)ライブラリーを合併し、一緒に3T3細胞に導入してなる細胞ライブラリーである。
【0144】
図8に示すように、2ラウンドのソーティング後、フローサイトメトリーで検出されたように、FcγRIIBへのライブラリーCmixとライブラリーC2細胞の結合能は、著しく増加し、FcγRIIBに結合した細胞の割合は、各ラウンドのソーティング後に大幅に増加した:ラウンド1とラウンド2のソーティング後、Cmixにおいて、FcγRIIBに結合した細胞の割合はそれぞれ1.86%と28.9%に達し、ソーティング前の0.00756%と比較して、それぞれ246.03倍と3822.75倍に増加した;Cmixは、それぞれ6.46%と28.9%に達したが、ソーティング前の0.00899%と比較して、それぞれ718.58倍と3214.68倍に増加した。ライブラリCmixは、4つの領域のそれぞれに最大1つの変異があるコンビナトリアル変異(種類一)ライブラリである;ライブラリC2は、V266-P271領域のコンビナトリアル変異(種類二)ライブラリである。
【0145】
実施例8:フローサイトメトリーソーティング後の次世代シーケンシングでFcγRIIBへの結合能が向上したIgG2 Fcコンビナトリアル変異タイプを分析する。
【0146】
FcγRIIBへの結合が向上されたIgG2Fcコンビナトリアル変異タイプをスクリーニングするために、本発明に構築されたコンビナトリアル変異ライブラリーをフローサイトメトリーソーティングし、FcγRIIBとの結合能が高い細胞を得、そして、次世代シーケンシングで、ソーティング前後の各変異タイプの濃縮倍率を分析し、結果は、表12に示された。選択された変異はすべて、高い倍率で濃縮されたか(最終ラウンドのソーティングの後/ソーティングの前)、少なくとも1つのラウンドのソーティングで大幅に濃縮されたか(現在のラウンドのソーティングの後/現在のラウンドのソーティングの前)、最終ラウンドの後にのみ検出された。たとえば、V266L/S298L/L328Wの濃縮倍率は、野生型の21920.33倍である(最終ラウンドのソーティングの後/ソーティングの前);点変異L328Wの濃縮倍率は野生型の8.78倍である(最終ラウンドのソーティングの後/ソーティングの前);H268D/S298L/L328Wの濃縮倍数はそれぞれ43.98(ラウンド2のソーティングの後/ラウンド2のソーティングの前)と5.95である(ラウンド3のソーティングの後/ラウンド3のソーティングの前);V234M/S267E/S298L/L328Wの濃縮倍数は5.13である(ラウンド3のソーティングの後/ラウンド3のソーティングの前);V234Q/A235G/P238L/S239V/G327A/L328E/A330S/I332Tは、最終ラウンドの後にのみ検出された。
【0147】
【表12】

#1-4:当該データは、ライブラリーIgG2_C01(#1)、IgG2_C02(#2)、Cmix(#3)、C2(#4)の実験から得される。NAは、この列のサンプルにおいて、この行に対応する変異タイプは検出されないことを表す。
【0148】
実施例9:酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によってFcγRへの変異抗体の結合特性を分析する。
次世代シーケンシングによってスクリーニングされた有利なFc単一点変異および変異組み合わせに基づいて、Fc変異の新しい組み合わせを構築し、Fc変異のこれらの新しい組み合わせを含む抗ヒトOX40抗体を発現し、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によってFcγRへの変異抗体の結合特性を分析した。図9-14は、異なるFc変異体のFcyRI、FcyRIIA131H、FcyRIIA131R、FcyRIIB、FcyRIIIA158F、およびFcyRIIIA158Vへの結合能を示した。IgG1の各FcγRへの結合能は、1に設定され、これらのFcγRに対する各変異体の相対的結合能(FcγRに結合する当該バリアントのELISA吸光度を当該FcγRに結合するIgG1のELISA吸光度で割ったもの)および野生型IgG2に対する各変異体のFcγRIIB結合能の増加した倍率(FcγRIIBに結合した当該バリアントのELISA吸光度をFcγRIIBに結合した野生型IgG2のELISA吸光度で割ったもの)を計算した。表13に示すように、野生型IgG2と比較し、各変異体のFcγRIIB結合能の増加した倍率は4.23~25.55倍である。また、各変異体のFcγRIIBとFcγRIIA131Rへの結合能(RIIB/RIIAR)の比を算出した結果(表13)、これらの変異体のRIIB/RIIAR比はいずれも、野生型IgG2よりも高かった(野生型IgG2:0.34;変異体:0.46-3.67)。
【0149】
【表13】

備考:表中、RI、RIAH、RIIAR、RIIB、RIIIAF、RIIIAVは、それぞれFcγRI、FcγRIIA131H、FcγRIIA131R、FcγRIIB、FcγRIIIA158F、FcγRIIIA158Vを表す。
【0150】
実施例10:有利な変異が、より強い免疫活性化活性をサポートする。
FCγR/OX40ヒト化マウス脾臓細胞における上記の有利な変異を含む抗ヒトOX40抗体(実施例9)の免疫活性化活性を分析し、図16と17は、抗体濃度が1μg/mlの場合のCD4+細胞のCFSE蛍光強度と対応するヒストグラムを示し、値が低いほど活性が強く、選択された抗体の活性はいずれも野生型IgG2よりも優れた。2つの実験における異なる抗体濃度の活性値を一緒に分析し、αCD3抗体のみ添加した場合の活性を0、αCD3抗体とαCD28抗体を陽性対照として添加した場合の活性を1とし、各変異抗体の相対活性を計算し、平均値を算出した。表14は、選択された30個の変異抗体の活性が、いずれも野生型IgG2の活性よりも優れ、活性が野生型の9.17~16.51倍に向上することを示した。
【0151】
【表14】

NAは、この行の変異抗体がこの列の実験を実行しなかったことを表す。
【0152】
実施例11:IgG1のFcγR結合能に対する既知の変異の影響に基づいて、IgG2のFcγR結合能に対するそれらの影響を直接予測することはできない。
【0153】
G236D、S239D(Seung Y.Chuら(Molecular Immunology 45(2008)3926-3933)の報告によって)、およびS298Aの変異(特許US20090042291A1の報告によって)は、FcγRIIBに対するヒトIgG1の親和性を向上させることができる。しかしながら、本発明の次世代シーケンシング分析の結果は、ソーティング後のG236DまたはS298A変異を含むIgG2変異体の割合が増加せず、むしろ減少したことを示した(表10);S239D変異を含むヒトIgG2変異体の割合は、ソーティング前は0.026%であり、ソーティング後のシーケンシング結果では検出されなかった。これらの結果は、G236D、S239D、およびS298Aの変異がヒトIgG2のFcγRIIB結合能を増加させないことを示し、表10を参照する。
【0154】
さらに、IgG1のFcγRIIB結合能を大幅に向上させることができるV11変異サイトをIgG2に導入することにより(G237D/P238D/H268D/P271G/A330R)(F.Mimotoら、Protein Engineering,Design&Selection vol.26no.10pp.589-598,2013)、IgG2_M2(H268D/P271G)、IgG2_M3(H268D/P271G/A330R)、IgG2_M4(G236D/P238D/H268D/P271G)とIgG2_M5(G236D/P238D/H268D/P271G/A330R)を得、ただし、IgG2中のM5の変異は、IgG1V11の変異に対応する。図15のELISAの結果は、これらの変異体がIgG1V11と同じようにIgG2にFcγRIIB結合能を付与しなかったことを示した。したがって、IgG1のFcγR結合能に対する既知の変異の影響に基づいて、IgG2のFcγR結合能に対するそれらの影響を直接予測することはできない。
【0155】
本出願に言及されている全ての参考文献は、参照として単独に引用されるように、本出願に引用されて、参照になる。理解すべきのは、本発明の上記の開示に基づき、当業者は、本発明を様々な変更または修正を行っても良い、これらの同等の形態も本出願に添付された請求の範囲に規定される範囲内に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図14
図15
図16
図17
【配列表】
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【国際調査報告】