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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-28
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20230220BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230220BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20230220BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20230220BHJP
【FI】
C22C38/00 303U
C22C38/60
C21D8/12 B
H01F1/147 175
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538330
(86)(22)【出願日】2020-12-09
(85)【翻訳文提出日】2022-06-20
(86)【国際出願番号】 KR2020017982
(87)【国際公開番号】W WO2021125686
(87)【国際公開日】2021-06-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0171869
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ソン,デ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジュンスゥ
(72)【発明者】
【氏名】イ,サン-ウ
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA02
4K033BA01
4K033BA02
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA07
4K033CA08
4K033CA09
4K033DA01
4K033DA02
4K033FA01
4K033GA00
4K033HA01
4K033HA02
4K033HA03
4K033HA04
4K033HA05
4K033HA06
4K033JA01
4K033JA04
4K033LA01
4K033MA02
4K033MA03
4K033NA01
4K033NA02
4K033NA03
4K033RA04
4K033RA09
4K033SA02
4K033SA03
4K033TA02
5E041AA02
5E041AA19
5E041BD10
5E041CA02
5E041HB05
5E041HB11
5E041HB15
5E041NN01
5E041NN06
5E041NN17
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、C、Cr、Sn、Sbの含有量を適切に制御して、熱延板焼鈍段階を省略しても磁性劣化を抑制できる方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することである。
【解決手段】本発明の方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.005%以下(0%を除く)、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、平均粒径が5~50nmであり、AlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)N、MnsおよびCuSのうちの1種以上を含む析出物を含むことができることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.005%以下(0%を除く)、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
平均粒径が5~50nmであり、AlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)N、MnsおよびCuSのうちの1種以上を含む析出物を含むことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
結晶粒の粒径が1mm以下の結晶粒の面積分率が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
Al:0.005~0.030重量%をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
S:0.010重量%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
P:0.0005~0.045重量%をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
Sb:0.1重量%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
Co:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下およびMo:0.1重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項8】
重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.001~0.04%、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を巻取る段階と、
巻取られた前記熱延鋼板をそのまま冷却し、冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を1次再結晶焼鈍する段階と、
前記1次再結晶焼鈍した冷延鋼板を2次再結晶焼鈍する段階とを含むことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
0.038×[Si]-0.069-[N]≦[C]≦0.038×[Si]-0.069+[N]
(式1中、[Si]、[N]および[C]はそれぞれ、スラブ中のSi、NおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【請求項9】
前記熱延鋼板を製造する段階の前に、スラブを1300℃以下に加熱する段階をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記巻取る段階の後および冷延鋼板を製造する段階の前に、鋼板の外部から熱を加える熱処理がないことを特徴とする請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記冷延鋼板を製造する段階は、前記熱延鋼板を1回冷間圧延する段階で行われる、請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記1次再結晶焼鈍する段階は、脱炭段階および浸窒段階を含み、
前記脱炭段階の後、前記浸窒段階を行うか、
前記浸窒段階の後、前記脱炭段階を行うか、または
前記脱炭段階および前記浸窒段階を同時に行うことを特徴とする請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記1次再結晶焼鈍する段階の後、焼鈍分離剤を塗布する段階をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記2次再結晶焼鈍する段階は、900~1210℃の温度で2次再結晶が完了することを特徴とする請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り、より詳しくは、C、Cr、Sn、Sbの含有量を適切に制御して、熱延板焼鈍段階を省略しても磁性劣化を抑制できる方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、圧延方向に対して鋼片の集合組織が{110}<001>のゴス集合組織(Goss texture)を示しており、一方向あるいは圧延方向に磁気的特性に優れた軟磁性材料である。このような集合組織を発現させて方向性電磁鋼板の磁性特性を改善するためには、製鋼での成分制御、熱間圧延でのスラブ再加熱および熱間圧延工程因子制御、熱延板焼鈍熱処理、冷間圧延、1次再結晶焼鈍、2次再結晶焼鈍などの複雑な工程が要求され、非常に精密で厳格に管理されなければならない。
【0003】
このうち、熱延板焼鈍工程は、熱間圧延後の熱延板の不均一な微細組織および析出物を均一に制御することによって、2次再結晶焼鈍中のGoss方位結晶粒が安定的に2次再結晶を起こすのに必須の工程である。しかし、熱延板焼鈍は、方向性電磁鋼板の生産コストを増加させる要因であるので、熱延板焼鈍を省略しながら同時に熱延板の微細組織および析出物を均一化できれば、熱延板焼鈍工程による製造コストも節減可能であり、生産性も向上させることができる。
【0004】
スラブ加熱時のスキッド(skid)での熱的偏差が必然的に発生し、これによって熱延板析出物および微細組織の不均一が発生する。熱延板焼鈍を省略する場合、前述した熱的偏差を低減することができなくなり、これは窮極的に最終製造される方向性電磁鋼板の磁性偏差の深化と、深刻化する場合、磁性劣化につながる。
熱延板焼鈍を省略するために多様な試みがあったが、スラブ加熱時の加熱炉内スキッド(skid)での熱的偏差を低減するための技術、析出物および微細組織の不均一を解消できる技術について直接的に解決策を提案した技術はなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することである。より詳しくは、C、Cr、Sn、Sbの含有量を適切に制御して、熱延板焼鈍段階を省略しても磁性劣化を抑制できる方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.005%以下(0%を除く)、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
平均粒径が5~50nmであり、AlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)N、MnsおよびCuSのうちの1種以上を含む析出物を含む。
【0007】
本発明の方向性電磁鋼板は、結晶粒の粒径が1mm以下の結晶粒の面積分率が10%以下であってもよい。
本発明の方向性電磁鋼板は、Al:0.005~0.030重量%をさらに含むことができる。
【0008】
本発明の方向性電磁鋼板は、S:0.010重量%以下をさらに含むことができる。
【0009】
本発明の方向性電磁鋼板は、P:0.0005~0.045重量%をさらに含むことができる。
本発明の方向性電磁鋼板は、Sb:0.1重量%以下をさらに含むことができる。
【0010】
本発明の方向性電磁鋼板は、Co:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下およびMo:0.1重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0011】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.001~0.04%、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、熱延鋼板を巻取る段階と、巻取られた熱延鋼板をそのまま冷却し、冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、冷延鋼板を1次再結晶焼鈍する段階と、1次再結晶焼鈍した冷延鋼板を2次再結晶焼鈍する段階と、を含む。
【0012】
[式1]
0.038×[Si]-0.069-[N]≦[C]≦0.038×[Si]-0.069+[N]
(式1中、[Si]、[N]および[C]はそれぞれ、スラブ中のSi、NおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【0013】
熱延鋼板を製造する段階の前に、スラブを1300℃以下に加熱する段階をさらに含むことができる。
【0014】
巻取る段階の後および冷延鋼板を製造する段階の前に、鋼板の外部から熱を加える熱処理がない。
【0015】
冷延鋼板を製造する段階は、熱延鋼板を1回冷間圧延する段階で行われる。
【0016】
1次再結晶焼鈍する段階は、脱炭段階および浸窒段階を含み、脱炭段階の後、前記浸窒段階を行うか、浸窒段階の後、前記脱炭段階を行うか、または脱炭段階および浸窒段階を同時に行うことができる。
【0017】
1次再結晶焼鈍する段階の後、焼鈍分離剤を塗布する段階をさらに含むことができる。
【0018】
2次再結晶焼鈍する段階は、900~1210℃の温度で2次再結晶が完了できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の方向性電磁鋼板は、スラブ加熱時の加熱炉内スキッド(skid)での熱的偏差が低減されて、熱延板焼鈍を省略しても析出物および微細組織の不均一を解消することができる。
【0020】
窮極的には、熱延板焼鈍を省略しても方向性電磁鋼板の磁性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】発明材1における析出物を分析した写真である。
図2】比較材1における析出物を分析した写真である。
図3】発明材11で製造した最終方向性電磁鋼板の写真である。
図4】比較材23で製造した最終方向性電磁鋼板の写真である。
図5】比較材11で製造した最終方向性電磁鋼板の写真である。
図6】比較材12で製造した最終方向性電磁鋼板の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及される。
【0023】
ここで使用される専門用語は単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文言がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるわけではない。
ある部分が他の部分の「上に」あると言及する場合、これは、直に他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴ってもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及する場合、その間に他の部分が介在しない。
【0024】
他に定義しないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0025】
また、特に言及しない限り、%は、重量%を意味し、1ppmは、0.0001重量%である。
【0026】
本発明の一実施例において、追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
【0027】
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0028】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.005%以下(0%を除く)、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなる。
【0029】
下記では、合金成分限定理由を説明する。
Si:2.0~4.0重量%
シリコン(Si)は、電磁鋼板の基本組成で、素材の比抵抗を増加させて鉄損(core loss)を低くする役割を果たす。Siの含有量が少なすぎる場合、比抵抗が減少して渦電流損が増加して鉄損特性が劣化し、1次再結晶焼鈍時、フェライトとオーステナイトとの間の相変態が活発になって1次再結晶集合組織が深刻に損なわれる。また、2次再結晶焼鈍時、フェライトとオーステナイトとの間の相変態が発生して2次再結晶が不安定になるだけでなく、{110}ゴス集合組織が深刻に損なわれる。一方、Siの含有量の過剰含有時には、1次再結晶焼鈍時、SiOおよびFeSiO酸化層が過度かつ緻密に形成されて脱炭挙動を遅延させて、フェライトとオーステナイトとの間の相変態が1次再結晶焼鈍処理中に持続的に起こるようになって1次再結晶集合組織が深刻に損なわれる。また、上述した緻密な酸化層の形成による脱炭挙動遅延効果で窒化挙動も遅延して(Al、Si、Mn)NおよびAlNなどの窒化物が十分に形成できず、高温焼鈍時、2次再結晶に必要な十分な結晶粒抑制力を確保できなくなる。
また、Siが過剰含有されると、機械的特性である脆性が増加し、靭性が減少して、圧延過程中の板破断発生率が深刻化し、板間溶接性に劣って容易な作業性を確保できなくなる。結果的に、Siの含有量を前記所定の範囲に制御しなければ、2次再結晶の形成が不安定になって磁気的特性が深刻に損なわれ、作業性も悪化する。そのため、Siは2.0~4.0重量%含むことができる。より具体的には2.1~3.5重量%含むことができる。
【0030】
Mn:0.04~0.2重量%
マンガン(Mn)は、Siと同一に比抵抗を増加させて渦電流損を減少させることによって全体鉄損を減少させる効果もあり、素鋼状態でSと反応してMn系硫化物を作るだけでなく、Siと共に窒化処理により導入される窒素と反応して(Al、Si、Mn)Nの析出物を形成することによって、1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を起こすだけでなく、最終製品の表面品質に影響を及ぼす重要な元素である。Mnが過度に少なく含まれる場合、最終製品の表面品質が劣化しうる。Mnが過度に多く含まれる場合、オーステナイト相分率が非常に増加してGoss集合組織が損なわれ、磁束密度が減少し、脱炭焼鈍時、酸化層が過度に形成されて脱炭を妨げることがある。したがって、Mnを0.04~0.20重量%含むことができる。より具体的には、Mnを0.07~0.15重量%含むことができる。
【0031】
N:0.010重量%以下
窒素(N)は、Alと反応してAl系窒化物を形成する重要な元素であって、スラブ中には0.010重量%以下で添加することができる。スラブ中にNが多すぎると、熱延後の工程で窒素拡散によるBlisterという表面欠陥をもたらし、スラブ状態で窒化物が過度に多く形成されるため、圧延が難しくなって後の工程が複雑になり、製造単価が上昇する原因になる。より具体的には、Nを0.005重量%以下で含むことができる。一方、(Al、Si、Mn)N、AlN、(Si、Mn)Nなどの窒化物を形成するために追加的に必要なNは、冷間圧延後の焼鈍工程でアンモニアガスを用いて鋼中に浸窒処理を実施して補強することができる。ただし、2次再結晶焼鈍過程でNが再び除去されるため、最終電磁鋼板内に残存するNは0.010重量%以下になる。
【0032】
Sb:0.01~0.05重量%
アンチモン(Sb)は、結晶粒界に偏析して結晶粒の成長を抑制する効果があり、2次再結晶を安定化させる効果がある。しかし、融点が低くて、脱炭焼鈍つまり、1次再結晶焼鈍中の表面への拡散が容易で、脱炭、酸化層形成および浸窒を妨げる効果がある。したがって、Sbを一定水準以上に添加すると、脱炭を妨げ、ベースコーティングの基礎となる酸化層形成を抑制するため、含有量の上限が存在する。したがって、Sbを0.01~0.05重量%含むことができる。より具体的には0.02~0.05重量%含むことができる。
【0033】
C:0.001~0.04重量%
炭素(C)は、フェライトおよびオーステナイト間の相変態を起こして結晶粒を微細化させ、延伸率を向上させるのに寄与する元素であって、脆性が強くて圧延性が良くない電磁鋼板の圧延性向上のために必須の元素である。このようなCは最終製品に残存する場合、磁気的時効効果によって形成される炭化物を製品板内に析出させて磁気的特性を悪化させる元素であるため、適正な含有量で制御されなければならないことが好ましい。スラブ中にCが過度に少なく含有されると、フェライトおよびオーステナイト間の相変態が十分に起こらず、スラブおよび熱間圧延微細組織の不均一化をもたらすことがある。これによって、析出物が粗大で不均一に析出して2次再結晶が不安定になるだけでなく、熱間圧延後に行うこととなる冷間圧延性まで阻害することがある。また、スラブ加熱時の加熱炉内スキッド(skid)での熱的偏差によって析出物および微細組織の不均一が発生しうる。スラブ中にCを過度に多く含むと、炭化物が過度に粗大になり、析出量が過度に増加するため、脱炭が十分に行われず、Goss集合組織の集積度が低下して2次再結晶集合組織が深刻に損なわれ、ひいては最終製品に磁気時効による磁気的特性の劣化現象をもたらすことがある。したがって、スラブのCの含有量は0.001~0.040重量%含む。より具体的には、スラブ中のCの含有量は0.001~0.030重量%になる。一方、最終製品つまり、方向性電磁鋼板の使用中の磁気時効の発生を最小化するために、2次再結晶焼鈍後の最終方向性電磁鋼板製品のCの含有量は0.005重量%以下になる。
【0034】
Sn:0.03~0.08重量%
スズ(Sn)は、結晶粒界偏析元素として結晶粒界の移動を妨げる元素であるため、結晶粒成長抑制剤として知られている。本発明の一実施例におけるSiの含有量範囲では円滑な2次再結晶挙動のための結晶粒成長抑制力が不足するため、結晶粒界に偏析することによって結晶粒界の移動を妨げるSnが必ず必要である。Snが過度に少なく含まれると、前述した効果を適切に発揮しにくい。逆に、Snを過剰添加する場合、1次再結晶焼鈍区間で昇温速度を調節したり一定時間維持しなければ、結晶粒成長抑制力が強すぎて安定した2次再結晶を得ることができない。したがって、Snの含有量は0.03~0.08重量%含むことができる。より具体的には0.03~0.07重量%含むことができる。
【0035】
Cr:0.01~0.2重量%
クロム(Cr)は、熱延板内の硬質相の形成を促進して、冷間圧延時、Goss集合組織の{110}<001>の形成を促進し、1次再結晶焼鈍過程中の脱炭を促進することによって、オーステナイト相変態の維持時間が長くなって集合組織が損なわれる現象を防止できるようにオーステナイト相変態の維持時間を減少させる効果を発現する。また、1次再結晶焼鈍過程中に形成される表面の酸化層形成を促進させることによって、結晶粒成長補助抑制剤として使用される合金元素中のSnとSbによって酸化層形成が阻害されるというデメリットを解決できるという効果がある。Crが少なく含まれる場合、前述した効果を適切に発揮しにくい。逆に、Crが過剰添加される場合、1次再結晶焼鈍過程中の酸化層形成時により緻密な酸化層が形成されるように促して、むしろ酸化層形成に劣り、脱炭および浸窒まで妨げることができる。したがって、Crは0.01~0.2重量%含むことができる。より具体的には0.03~0.1重量%含むことができる。
【0036】
本発明の一実施例によるスラブは、下記式1を満足する。
[式1]
0.038×[Si]-0.069-[N]≦[C]≦0.038×[Si]-0.069+[N]
(式1中、[Si]、[N]および[C]はそれぞれ、スラブ中のSi、NおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【0037】
式1のように、スラブ中のSiおよびNの含有量によりC含有量を制御すれば、スラブ加熱および熱間圧延段階で析出物がほぼまたは完全に溶体化された後、非常に均一に析出して、熱延板焼鈍を省略しても、スラブ加熱時の加熱炉内スキッド(skid)での熱的偏差による悪影響を低減したり防止することができ、2次再結晶焼鈍後に磁性を劣らせる残留析出物の平均粒径が5~50nmになって安定した磁気的特性を確保するのに非常に効果的である。一方、残留析出物の平均粒径の測定は、2次再結晶焼鈍後に表面の酸化層をすべて除去した後、表面を50~100μm程度研磨してreplica試験片を製作し、TEMにより撮影された写真からイメージ分析を実施して測定できる。測定基準面は、圧延面と平行な面である。
【0038】
前述した析出物の平均粒径は5~50nmであり、AlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)NまたはMnS、CuSを含むことができる。前述したように、スラブ中のCの含有量および式1により、スラブ加熱時の加熱炉内スキッド(skid)での熱的偏差を低減することができる。後の工程で熱延板焼鈍工程を省略して、スキッドでの熱的偏差による析出物の成長を抑制することができる。
【0039】
析出物が小さすぎる場合は、熱延板焼鈍を行った場合であって、本発明の一実施例による目的に符合しない場合である。析出物が大きすぎる場合、磁性に劣ることがある。
このように析出物を適切に形成することによって、熱延板焼鈍を省略しても、2次再結晶焼鈍過程で2次再結晶を完全に発生させることができる。具体的には、結晶粒の粒径が1mm以下の結晶粒の面積分率が10%以下であってもよい。結晶粒の粒径および分率は、圧延面(ND面)と平行な面を基準とする。平均粒径は、結晶粒と同一の面積の仮想の円を仮定してその円の粒径で計算する。
結晶粒の平均粒径は0.1~5cmであってもよい。
【0040】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、Al:0.005~0.030重量%をさらに含むことができる。前述したように、追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して添加する。
Al:0.005~0.030重量%
アルミニウム(Al)は、熱間圧延で析出したAl系窒化物以外にも、冷間圧延後の焼鈍工程でアンモニアガスによって導入された窒素イオンが鋼中に固溶状態で存在するAl、Si、Mnと結合して(Al、Si、Mn)NおよびAlN形態の窒化物を形成することによって、強力な結晶粒成長抑制剤の役割を果たす。その含有量が少なすぎる場合には、形成される個数と体積が非常に低い水準であるため、抑制剤としての十分な効果を期待することができない。逆に、含有量が高すぎると、Al系窒化物が過度に粗大になって結晶粒成長抑制力が低下する。また、スラブ再加熱時、Al系窒化物が完全に溶体化されず、スラブ再加熱後の大きさと分布が非常に不均一に析出して2次再結晶挙動が不安定になって、最終製品の磁気的特性が劣化したり、偏差が増加したりすることがある。そのため、Alをさらに含む場合、その含有量を0.005~0.030重量%含むことができる。より詳細には、Alを0.015~0.030重量%含むことができる。
【0041】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、S:0.010重量%以下をさらに含むことができる。
S:0.010重量%以下
硫黄(S)は、過度に多く添加すると、スラブ中心部に偏析してMnS、CuSなどの硫化物の析出物が不均一に析出して、1次再結晶微細組織を不均一に誘導して2次再結晶を不安定にする。したがって、Sをさらに含む場合、その含有量は0.010重量%以下になる。また、製鋼作業時、脱硫を極低に制御するのに莫大な時間と金額がかかるので、下限は0%を超えることができる。本発明の一実施例では、特に下限を設定しない。
【0042】
P:0.005~0.045重量%
リン(P)は、結晶粒界に偏析して結晶粒界の移動を妨げ、同時に結晶粒成長を抑制する補助的な役割が可能であり、微細組織の面から{110}<001>集合組織を改善する効果がある。Pが添加される場合、添加量が少なすぎると、添加効果がない。逆に、添加量が多すぎると、脆性が増加して圧延性が大きく劣化する。したがって、Pをさらに含む場合、Pは0.005~0.045重量%さらに含むことができる。より詳細には0.01~0.035重量%含むことができる。
【0043】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、Sb:0.1重量%以下をさらに含むことができる。
Sb:0.1重量%以下
アンチモン(Sb)は、結晶粒界に偏析して結晶粒の成長を抑制する効果があり、2次再結晶を安定化させる効果がある。しかし、融点が低くて1次再結晶焼鈍中の表面への拡散が容易で、脱炭や酸化層形成および窒化による浸窒を妨げる効果がある。したがって、必要に応じてSbをさらに添加することができる。Sbを過剰添加すると、脱炭を妨げ、ベースコーティングの基礎になる酸化層形成を抑制することができる。したがって、Sbを0.1重量%以下でさらに含むことができる。より詳細には0.01~0.05重量%をさらに含むことができる。 本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、Co:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下およびMo:0.1重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【0044】
Co:0.1重量%以下
コバルト(Co)は、鉄の磁化を増加させて磁束密度を向上させるのに効果的な合金元素であると同時に、比抵抗を増加させて鉄損を減少させる合金元素である。Coを適切に追加する場合、前記効果を追加的に得ることができる。Coを過度に多く添加する場合、オーステナイト相変態量が増加して微細組織、析出物および集合組織に否定的な影響を及ぼすことがある。したがって、Coを添加する場合、0.1重量%以下をさらに含むことができる。より詳細には0.005~0.05重量%をさらに含むことができる。
Ni、Moも、その上限を0.1重量%で追加可能である。
【0045】
残部として鉄(Fe)を含む。また、不可避不純物からなる。不可避不純物は、製鋼および方向性電磁鋼板の製造過程で不可避に混入する不純物を意味する。不可避不純物については広く知られているので、具体的な説明は省略する。本発明の一実施例において、前述した合金成分以外に元素の追加を排除するものではなく、本発明の技術思想を阻害しない範囲内で多様に含まれる。追加元素をさらに含む場合、残部のFeを代替して含む。
【0046】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、熱延鋼板を巻取る段階と、巻取られた熱延鋼板をそのまま冷却し、冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、冷延鋼板を1次再結晶焼鈍する段階と、1次再結晶焼鈍した冷延鋼板を2次再結晶焼鈍する段階と、を含む。
【0047】
以下、各段階別に具体的に説明する。
まず、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。スラブの合金組成については、方向性電磁鋼板の合金組成に関連して説明したので、重複する説明は省略する。具体的には、スラブは、重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.001~0.04%、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足できる。
[式1]
0.038×[Si]-0.069-[N]≦[C]≦0.038×[Si]-0.069+[N]
(式1中、[Si]、[N]および[C]はそれぞれ、スラブ中のSi、NおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【0048】
再び製造方法に関する説明に戻ると、熱延鋼板を製造する段階の前に、スラブを1300℃以下に加熱する段階をさらに含むことができる。
【0049】
次に、スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。熱延鋼板の厚さは5mm以下になる。
【0050】
以後、熱延鋼板を巻取る。
【0051】
次に、巻取られた熱延鋼板をそのまま冷却し、冷間圧延して冷延鋼板を製造する。
本発明の一実施例において、そのまま冷却するとの意味は、熱延鋼板の巻取後、外部から熱を加える熱処理がないことを意味する。つまり、熱延板焼鈍工程が省略されたことを意味する。熱間圧延後、熱延スケール除去のために酸洗処理をする。酸洗処理をする時、酸洗処理前または後に、shot blastingを実施してもよく、実施しなくてもよい。
【0052】
冷延鋼板を製造する段階は、1回の冷間圧延または中間焼鈍を含む2回以上の冷間圧延を実施できる。具体的には、熱延鋼板を1回冷間圧延する段階で行われる。
【0053】
冷延鋼板の厚さは0.65mm以下となるようにする。一方、冷間圧延を実施する時、冷間圧下率が87%以上で圧延することができる。冷間圧下率が増加するほど、ゴス集合組織の集積度が増加するからである。ただし、これより低い冷間圧下率を適用することも可能である。
【0054】
次に、冷延板を1次再結晶焼鈍する。この時、1次再結晶焼鈍する段階は、脱炭段階および浸窒段階を含むことができる。脱炭段階および浸窒段階は、順序に関係なく行うことができる。つまり、脱炭段階の後、浸窒段階を行うか、浸窒段階の後、脱炭段階を行うか、または脱炭段階および浸窒段階を同時に行うことができる。脱炭段階でCを0.005重量%以下に脱炭することができる。より具体的には、Cを0.003重量%以下に脱炭することができる。浸窒過程でNを0.015重量%以上で浸窒することができる。
【0055】
1次再結晶焼鈍する段階の均熱温度は840℃~900℃であってもよい。840℃より低い温度または900℃より高い温度で1次再結晶焼鈍を実施しても、本発明で提示する機能を発揮するのに問題がない。
【0056】
1次再結晶焼鈍する段階の後、鋼板に焼鈍分離剤を塗布することができる。焼鈍分離剤については広く知られているので、詳しい説明は省略する。一例として、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を使用することができる。
【0057】
次に、1次再結晶焼鈍した冷延板を2次再結晶焼鈍する。
2次再結晶焼鈍の目的は、大きくみれば、2次再結晶による{110}<001>集合組織の形成、1次再結晶焼鈍時に形成された酸化層とMgOとの反応によるガラス質被膜の形成で絶縁性付与、磁気特性を害する不純物の除去である。2次再結晶焼鈍の方法では、2次再結晶が起こる前の昇温区間では窒素と水素との混合ガスに維持して、粒子成長抑制剤の窒化物を保護することによって2次再結晶がよく発達できるようにし、2次再結晶が完了した後、均熱段階では100%水素雰囲気で長時間維持して不純物を除去する。
【0058】
2次再結晶焼鈍する段階は、900~1210℃の温度で2次再結晶が完了できる。
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、鉄損および磁束密度特性が特に優れている。本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、磁束密度(B)が1.85T以上であり、鉄損(W17/50)が1.10W/kg以下であってもよい。この時、磁束密度Bは、800A/mの磁場下で誘導される磁束密度の大きさ(Tesla)であり、鉄損W17/50は、1.7Teslaおよび50Hzの条件で誘導される鉄損の大きさ(W/kg)である。より具体的には、本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、磁束密度(B)が1.90T以上であり、鉄損(W17/50)が1.00W/kg以下であってもよい。
【0059】
以下、本発明の具体的な実施例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の具体的な一実施例に過ぎず、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0060】
重量%で、Si:2.8%、Mn:0.09%、Al:0.026%、N:0.003%、S:0.004%、Sb:0.02%、Sn:0.05%、P:0.03%、Cr:0.03%およびCの含有量を表1のように変化させ、残りの成分は残部Feとその他不可避に含有される不純物からなる鋼組成を真空溶解した後、インゴットを作り、次いで、1250℃の温度に加熱した後、3.0mmの厚さに熱間圧延した後、酸洗処理をし、巻取った。以後、熱処理なしに、0.30mmtの厚さに1回冷間圧延し、冷間圧延した板は、860℃の温度で湿った水素と窒素およびアンモニアの混合ガス雰囲気中で炭素の含有量が30ppm、窒素の含有量が190ppmとなるように同時脱炭窒化焼鈍熱処理を行った。後続で鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布した後、最終焼鈍熱処理を行い、最終焼鈍熱処理は、25vol%窒素と75vol%水素との混合ガス雰囲気で1200℃まで加熱した後、1200℃到達後には、100%水素雰囲気で10時間以上維持後に炉冷した。Cの含有量による磁気的特性を測定した値は表1のとおりである。
【0061】
析出物の平均粒径の測定は、2次再結晶焼鈍後、表面の酸化層をすべて除去した後、表面を100μm程度研磨してreplica試験片を製作し、TEMにより撮影された写真からイメージ分析を実施して測定した。
2次再結晶の発生の有無は、結晶粒の粒径が1mm以下の結晶粒の面積分率が10%を超える場合、2次再結晶が不安定に発生または未発生と判断し、Xと表示した。
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、発明材と比較材の鉄損は1.102W/kgおよび1.603W/kgであり、偏差はそれぞれ0.02W/kgと0.14W/kgで式1を満足する発明材が、比較材に比べて鉄損に優れ、安定的であることが分かる。一方、磁束密度の場合、発明材と比較材はそれぞれ1.90Teslaおよび1.81Teslaであり、その偏差はそれぞれ0.022Teslaおよび0.035Teslaで式1を満足する発明材の磁束密度にも優れ、安定的であることを確認できる。そして、比較材の析出物の平均粒径が84~140nmであるのに対し、発明材は5~50nmを満足することを確認できる。
分析の結果、析出物は、AlN、(Al、Si、Mn)NとMnS、CuSを含んでいる。
これは、最終製品に残存する析出物の大きさが小さくなって、磁気的特性に及ぼす影響が減少して発生する影響であることを確認できる。
【実施例2】
【0064】
重量%で、Mn:0.09%、Al:0.027%、S:0.004%、Sb:0.02%、Sn:0.07%、P:0.03%、Cr:0.04%およびSi、C、Nの含有量を下記表2のように変化させ、残りの成分は残部Feとその他不可避に含有される不純物からなる鋼組成を真空溶解した後、インゴットを作り、次いで、1150℃の温度に加熱した後、2.3mmの厚さに熱間圧延した。以後、酸洗処理し、熱処理なしに、0.23mmtの厚さに1回冷間圧延し、冷間圧延した板は、850℃の温度で湿った水素と窒素およびアンモニアの混合ガス雰囲気中で炭素の含有量が30ppm、窒素の含有量が170ppmとなるように同時脱炭窒化焼鈍熱処理を行った。後続で鋼板に焼鈍分離剤のMgOを塗布した後、最終焼鈍熱処理を行い、最終焼鈍熱処理は、25vol%窒素と75vol%水素との混合ガス雰囲気で1200℃まで加熱した後、1200℃到達後には、100%水素雰囲気で10時間以上維持後に炉冷した。Si、C、Nの含有量による高温焼鈍後、磁気的特性および1mmあたりの残留析出物の平均粒径を測定した値は表2のとおりである。
【0065】
【表2】
【0066】
前記表2に示すように、発明材と比較材の鉄損は0.831W/kgおよび1.445W/kgであり、偏差はそれぞれ0.02W/kgと0.15W/kgで式1を満足する発明材が、比較材に比べて鉄損に優れ、安定的であることが分かる。一方、磁束密度の場合、発明材と比較材はそれぞれ1.90Teslaおよび1.79Teslaであり、その偏差はそれぞれ0.01Teslaおよび0.028Teslaで式1を満足する発明材の磁束密度にも優れ、安定的であることを確認できる。また、比較材の析出物の平均粒径が81~148nmであるのに対し、発明材は7~47nmを満足することを確認できる。
分析の結果、析出物は、AlN、(Al、Si、Mn)NとMnS、CuSを含んでいる。
これは、最終製品に残存する析出物の大きさが小さくなって、磁気的特性に及ぼす影響が減少して発生する影響であることを確認できる。
【実施例3】
【0067】
発明材11と同様に実施し、熱間圧延後、熱延板焼鈍を省略または実施する場合を比較した。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示すように、熱延板焼鈍を省略しても、熱延板焼鈍を行った場合に対応して磁性が現れることを確認できる。
図3および図4に示すように、発明材11および比較材23は、2次再結晶が完璧に発生することを確認できる。特に発明材11の場合、熱延板焼鈍を省略したにもかかわらず2次再結晶が完璧に発生することを確認できる。
これに対し、図5および図6に示すように、合金成分が適切に制御されていない比較材11および比較材12では、2次再結晶が完璧に発生しないことを確認できる。つまり、粒径が1mm以下の結晶粒が多数存在することを確認できる。
【0070】
本発明は、上記の実施形態および/または実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施形態および/または実施例はあらゆる面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2022-06-20
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.005%以下(0%を除く)、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、
平均粒径が5~50nmであり、AlN、(Al、Si)N、(Al、Si、Mn)N、MnsおよびCuSのうちの1種以上を含む析出物を含むことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
結晶粒の粒径が1mm以下の結晶粒の面積分率が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
Al:0.005~0.030重量%をさらに含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
S:0.010重量%以下をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
P:0.0005~0.045重量%をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
Co:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下およびMo:0.1重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項7】
重量%で、Si:2.0~4.0%、Mn:0.04~0.2%、N:0.010%以下(0%を除く)、Sb:0.01~0.05%、C:0.001~0.04%、Sn:0.03~0.08%およびCr:0.01~0.2%を含み、残部はFeおよび不可避不純物からなり、下記式1を満足するスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する段階と、
前記熱延鋼板を巻取る段階と、
巻取られた前記熱延鋼板をそのまま冷却し、冷間圧延して冷延鋼板を製造する段階と、
前記冷延鋼板を1次再結晶焼鈍する段階と、
前記1次再結晶焼鈍した冷延鋼板を2次再結晶焼鈍する段階とを含むことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
[式1]
0.038×[Si]-0.069-[N]≦[C]≦0.038×[Si]-0.069+[N]
(式1中、[Si]、[N]および[C]はそれぞれ、スラブ中のSi、NおよびCの含有量(重量%)を示す。)
【請求項8】
前記熱延鋼板を製造する段階の前に、スラブを1300℃以下に加熱する段階をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記巻取る段階の後および冷延鋼板を製造する段階の前に、鋼板の外部から熱を加える熱処理がないことを特徴とする請求項7または請求項8に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷延鋼板を製造する段階は、前記熱延鋼板を1回冷間圧延する段階で行われる、請求項7乃至請求項9のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記1次再結晶焼鈍する段階は、脱炭段階および浸窒段階を含み、
前記脱炭段階の後、前記浸窒段階を行うか、
前記浸窒段階の後、前記脱炭段階を行うか、または
前記脱炭段階および前記浸窒段階を同時に行うことを特徴とする請求項7乃至請求項10のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記1次再結晶焼鈍する段階の後、焼鈍分離剤を塗布する段階をさらに含むことを特徴とする請求項7乃至請求項11のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記2次再結晶焼鈍する段階は、900~1210℃の温度で2次再結晶が完了することを特徴とする請求項7乃至請求項12のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、P:0.0005~0.045重量%をさらに含むことができる。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0043
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0043】
発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、Co:0.1重量%以下、Ni:0.1重量%以下およびMo:0.1重量%以下のうちの1種以上をさらに含むことができる。
【国際調査報告】