(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-01
(54)【発明の名称】1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/149 20060101AFI20230221BHJP
C07C 31/27 20060101ALI20230221BHJP
B01J 23/62 20060101ALI20230221BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
C07C29/149
C07C31/27
B01J23/62 Z
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539242
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 KR2020015572
(87)【国際公開番号】W WO2021132876
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0176139
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・クォン・イ
(72)【発明者】
【氏名】ナムジン・ジャン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08B
4G169BC17A
4G169BC22A
4G169BC22B
4G169BC64A
4G169BC66A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC75A
4G169CB02
4G169CB70
4G169DA05
4H006AA02
4H006AB20
4H006AB46
4H006AB84
4H006AC41
4H006BA11
4H006BA23
4H006BA55
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC35
4H006BE20
4H006FC22
4H006FE11
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】
本発明は、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)の製造方法に関し、より詳しくは、反応物である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)の含有量および/または反応温度を調節することによって、異性化反応段階を含まなくてもトランス異性体の比率が高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)、水素化触媒および水を含む混合溶液を水素化反応して、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸から1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)を製造する段階を含み、
前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5~40重量%であり、
水素化反応は、230~300℃の温度で行われる、
1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項2】
1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法は、シス異性体をトランス異性体に変換する異性化反応段階を含まない、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項3】
1,4-シクロヘキサンジカルボン酸全体に対して1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のトランス異性体の比率は、20~35%である、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項4】
1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して7~30重量%である、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項5】
水素化触媒は、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)および白金(Pt)からなる群より選択される1種以上の金属と、スズ(Sn)、鉄(Fe)、レニウム(Re)およびガリウム(Ga)からなる群より選択される1種以上の金属をそれぞれ含む、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項6】
水素化触媒は、ルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)を含む、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項7】
水素化触媒に対する1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の重量比は、0.01:1~3:1である、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項8】
水素化反応は、230~270℃の温度で行われる、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項9】
水素化反応は、50~220barで行われる、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項10】
1,4-シクロヘキサンジメタノール中のトランス異性体の含有量は、63重量%以上である、
請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法で製造された1,4-シクロヘキサンジメタノールを含む組成物。
【請求項12】
組成物内の全体の1,4-シクロヘキサンジメタノール中、トランス異性体の含有量は、63重量%以上である、
請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
組成物は、医薬品、合成樹脂、合成繊維または染料の原料である、
請求項11に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年12月27日付の韓国特許出願第10-2019-0176139号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)は、医薬品、合成樹脂、合成繊維または染料などの原料として幅広く使用されており、特に、環境にやさしいポリエステルであるポリエチレンテレフタレートの原料として用いられている。
【0004】
1,4-シクロヘキサンジメタノールは、シス(cis)とトランス(trans)形態の立体異性体(stereoisomer)として存在するが、より高品質の製品のためには、シスよりトランス1,4-シクロヘキサンジメタノール(trans CHDM)の比率が高いことが要求される。
【0005】
一般的なCHDMの製造方法では、トランスの含有量が高くなるように1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)の異性化反応を進行させた後、CHDMへと水素化反応する方法、CHDAを水素化反応してCHDMを製造した後、異性化反応をしてトランスの含有量を高めたCHDMを製造する方法などを利用して、異性化反応を伴うことが通常である。しかし、異性化反応を追加的に行う従来の方法は、工程が複雑で非効率的であり、追加的な生産費用が必要であって商業的に望ましくないというデメリットがある。
【0006】
そこで、異性化反応を進行させることなく、高いトランスCHDMの比率を得ることができるCHDMの製造方法の研究が進められている。一例として、国際公開特許第2019-046412号では、CHDAの反応時に使用される水素化触媒のスズとルテニウムの比率を調節して、生成されるトランスCHDMの含有量を高めようとしたが、触媒を含む固定床反応器は、反応物であるCHDAの転換において容易に結晶化が進行し、この時、結晶により触媒の性能が低下して、所望の収率およびトランスCHDMの比率が達成できないという問題がある。また、韓国登録特許第10-1639487号では、単純化された反応器を発明して副産物を最小化しようとしたが、生成物の純度が向上したのとは別に、生成物中の所望のトランスCHDMの比率を満たしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許公開番号第2019-046412号
【特許文献2】韓国特許登録番号第10-1639487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)の製造方法に関し、より詳しくは、反応物(反応原料)である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)の含有量を調節することによって、異性化反応段階を含まなくてもトランス異性体の比率が高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)、水素化触媒および水を含む混合溶液を水素化反応して、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸から1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)を製造する段階を含み、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5~40重量%であり、水素化反応は、230~300℃の温度で行われる、1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法で製造された1,4-シクロヘキサンジメタノールを含む組成物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法によれば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を出発物質として異性化反応段階を経ずに水素化反応を進行させても、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の含有量および/または反応温度の調節によりトランス異性体の比率が高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造することができる。
【0012】
前記製造方法によれば、追加的な異性化段階を行わないので、工程が単純化されて経済的であり、製造されたCHDMのトランス異性体の含有量が高く、高分子原料への使用時に物性の向上を期待することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使用される用語は単に例示的な実施例を説明するために使用されたもので、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は文脈上明白に異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであって、1つまたはそれ以上の他の特徴や段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
【0014】
本発明は多様な変更が加えられて様々な形態を有することができるが、特定の実施例を例示して下記に詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるあらゆる変更、均等物乃至代替物を含むことが理解されなければならない。
【0015】
以下、発明の具体的な実施形態により1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法についてより詳しく説明する。
【0016】
本発明の一実施形態では、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)、水素化触媒および水を含む混合溶液を水素化反応して、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸から1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)を製造する段階を含み、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5~40重量%であり、水素化反応は、230~300℃の温度で行われる、1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法を提供する。
【0017】
従来は、トランスの含有量が高い1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造のために、シス異性体をトランス異性体に変換する異性化反応段階を必ず伴っていた。一例として、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を異性化反応原料として用いて、トランスの含有量が高い1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を得た後、これを再び水素化反応原料として用いてトランスの含有量が高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造するか、原料物質である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を先に水素化反応させてから、得られた1,4-シクロヘキサンジメタノールを異性化反応させてトランスの含有量が向上した1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造していた。しかし、従来の方法で1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する場合、追加的な異性化工程によって工程が複雑で非効率的であり、追加的な生産費用が必要であり、商業的に望ましくないという面があった。
【0018】
そこで、本発明の一実施形態による1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法は、反応原料である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の含有量および反応温度を調節して、シス異性体をトランス異性体に変換する異性化反応段階を含むことなく、高い含有量のトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造できるようにした。
【0019】
シス/トランス異性体を有する化合物の水素化反応を進行させる時、一般に、反応前後で反応物(反応原料)と生成物のシスおよびトランスの比率は大きな変化なく維持されることが予測される。反応物の含有量および反応温度を高めても反応速度の向上を予想できるのとは別に、水素化反応による生成物の異性体の比率の変化は期待できないことが通常である。
【0020】
しかし、本発明の一実施例によれば、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の含有量および反応温度が一定範囲の時、追加的な異性化反応段階を含むことなく、生成物である1,4-シクロヘキサンジメタノールのトランス異性体の含有量が反応物(反応原料)に比べて増加するという予期せぬ効果を確認することができた。
【0021】
より具体的には、本発明の一実施形態による1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を水素化触媒の存在下で水に溶かして混合溶液を製造した後、水素化反応する段階を含んで行われる。この時、反応原料である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のシス/トランスの比率には制限がないが、一例として、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸中のトランス異性体の比率が20~35%、または20~25%であってもよい。
【0022】
前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5~40重量%であるが、好ましくは、5~30重量%、7~30重量%、7~25重量%、7~23重量%、または10~23重量%であってもよい。
【0023】
前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5重量%未満の場合、反応物(反応原料)と触媒との接触が減少して反応速度が遅くなったり、生成されるCHDM中のトランス異性体の比率が減少する問題があり、40重量%を超える場合、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の溶解度が低くなって生産性が低下し、それによって反応物の結晶および触媒量が増加してスラリーを供給(フィーディング(Feeding))する工程に困難がありうる。
【0024】
一方、前記水素化反応は、液体状または気体状で行われる。本発明の一実施例によれば、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は水などの溶媒に溶解した液状で、水素は気体状態で、水素化反応が行われる。
【0025】
一方、副反応を最小化し、反応物質間の比率を最適化して工程生産性を向上させるために、反応器に投入される水素の量は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸1モルに対して3モル以上、または4モル以上、または7モル以上かつ、300モル以下、または100モル以下、または50モル以下、または30モル以下であってもよい。
【0026】
水素の量が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸1モルに対して3モル未満と少なすぎると、反応転化率が低くなって95%以上の転化率を得ることができず、300モル超と多すぎると、水素によって液状原料の液滴の反応器内の滞留時間が短くなって転化率が低くなったり、あるいは副生成物が増加したり、触媒の寿命が急激に低下することがある。このような観点から、前記水素の量は上述した範囲が好ましい。
【0027】
本発明の一実施例によれば、前記水素化触媒は、活性成分として、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)および白金(Pt)からなる群より選択される1種以上の金属と、スズ(Sn)、鉄(Fe)、レニウム(Re)およびガリウム(Ga)からなる群より選択される1種以上の金属をそれぞれ含むことができる。
【0028】
好ましくは、前記水素化触媒の活性成分として、ルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)を含むことができる。
【0029】
本発明の一実施形態によれば、前記水素化触媒の活性成分は、反応物(反応原料)であるCHDAの含有量によりその使用量が適切に制御可能である。具体的には、CHDA対比の水素化触媒の含有量が高いほど反応速度は増加するため、発明の一実施形態によるCHDMの製造方法において、前記水素化触媒は、水素化触媒に対するCHDAの重量比が0.01:1以上となるようにする量で添加されてもよい。
【0030】
しかし、CHDA対比の水素化触媒の含有量が一定水準以上の場合、使用量対比の反応速度の増加効果がわずかで反応効率性が低下する点を考慮する時、前記水素化触媒は、より具体的には、水素化触媒の活性成分に対するCHDAの重量比が0.01:1~3:1を満たすようにする量で添加されてもよい。
【0031】
水素化触媒に対するCHDAの重量比の制御による反応速度改善効果を考慮する時、前記水素化触媒は、水素化触媒に対するCHDAの重量比が0.01:1~3:1、あるいは0.1:1~3:1、あるいは0.1:1~2:1となるようにする量で添加されることがより好ましい。
【0032】
しかし、前記重量比が本発明の範囲を制限するものではなく、細部的な反応条件、および反応器の種類によって触媒の比率を適切に調節することができる。
【0033】
このような水素化触媒は、担体に担持させて使用することができ、この時、担体としては、当業界にて知られている担体が制限なく使用可能である。具体的には、炭素、ジルコニア(ZrO2)、チタニア(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、またはシリカ(SiO2)などの担体が使用できる。
【0034】
本発明の一実施形態によれば、前記水素化触媒の活性成分としてルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)を含む場合、ルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)は、前記担体全体100重量部に対して、それぞれ1~20重量部、または1~10重量部、または3~8重量部含まれる。
【0035】
前記担体として炭素を使用する時、特に制限されるわけではないが、活性炭、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、OMC(ordered mesoporous carbon)およびカーボンナノチューブからなる群より選択された少なくとも1つを使用することができる。
【0036】
好ましくは、全体の気孔中のメソ気孔の比率が高いカーボンブラックであってもよいし、具体的な例において、前記活性炭は、SXULTRA、CGSP、PK1-3、SX 1G、DRACO S51HF、CA-1、A-51、GAS 1240 PLUS、KBG、CASPおよびSX PLUSなどであってもよく、前記カーボンブラックは、BLACK PEARLS(登録商標)、ELFTEX(登録商標)、VULCAN(登録商標)、MOGUL(登録商標)、MONARCH(登録商標)、EMPEROR(登録商標)およびREGAL(登録商標)などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0037】
ここで、本発明によれば、前記炭素担体における前記炭素は、全体の気孔中の気孔の大きさが2~50nmであるメソ気孔の体積比率が50%以上であってもよい。好ましくは、前記炭素担体における前記炭素は、全体の気孔中のメソ気孔の体積比率が70%以上であり、さらに好ましくは、前記炭素担体における前記炭素は、全体の気孔中のメソ気孔の体積比率が75%以上であってもよい。
【0038】
この時、前記メソ気孔の体積比率が50%未満の場合には、反応物(反応原料)および生成物の炭素担体内のミクロ的物質伝達速度の問題があり、前記気孔の平均サイズが50nm超の場合には、担体の物理的強度が弱い問題がありうるので、前記の範囲が好適である。
【0039】
また、本発明によれば、前記炭素は、比表面積(BET)が100~1,500m2/gの範囲を含む規則的なメソ多孔性炭素(ordered mesoporous carbon、OMC)を含む。好ましくは、前記炭素は、比表面積(BET)が200~1,000m2/gの範囲を含む規則的なメソ多孔性炭素(ordered mesoporous carbon、OMC)を含むことができる。この時、前記炭素の比表面積が100m2/g未満の場合には、活性金属(Ru、Sn)の高分散が難しい問題があり、前記炭素の比表面積が1,500m2/gを超える場合には、メソ気孔の比率が低くなる問題がありうるので、前記の範囲が好適である。
【0040】
また、場合によって、本発明による触媒の前記炭素担体は、中間サイズのメソ多孔性以外にマイクロポア(micropore)を適正比率で含み、好ましくは、全体の気孔中のマイクロポア(micropore)の体積比率が0~25%である。この時、前記マイクロポアの体積比率が25%超である場合には、反応物(反応原料)および生成物の炭素担体内のミクロ的物質伝達速度の問題がありうるので、前記の範囲が好適である。
【0041】
本発明において、前記水素化反応条件は特に制限されるわけではないが、一例として、反応温度は、230℃以上かつ、300℃以下、または280℃以下、または270℃以下であってもよい。反応温度が230℃未満であると、反応物(反応原料)と触媒との接触が減少したり、または触媒の活性可能な温度範囲から外れて反応速度が低下したり、生成されたCHDM中のトランス異性体の含有量が減少し、300℃を超えると、副生成物が急激に増加することがある。また、触媒の寿命にも影響を及ぼしうるので、前記の範囲が好ましい。
【0042】
また、反応圧力は、50bar以上、または80bar以上かつ、200bar以下、または180bar以下であってもよい。万一、反応圧力が50bar未満であると、反応がよく起こらないので、過度な量の触媒が消耗し、滞留時間が過度に長くなって副生成物が増加するなどの多様な問題があり、200barを超えると、工程運転時に過度な電力などのエネルギーを必要とし、また、反応器などの設備製作費用が大きく増加する問題がありうるので、前記の範囲が好ましい。
【0043】
また、水素化反応中に撹拌工程が行われてもよいし、前記撹拌工程中の速度制御により水素化反応時の反応効率を高めることができる。具体的には、前記撹拌工程は、500~2,000rpmの速度で行われてもよいし、より具体的には、700~1,500rpmあるいは700~1,000rpmの速度で行われることが好ましい。
【0044】
一方、前記撹拌工程は、通常の撹拌装置を用いて行われる。
【0045】
上記の水素化反応条件をすべて満たす条件で1~10時間行われることが、工程効率性の面でより好ましい。
【0046】
本発明による一実施形態によれば、CHDA、水素化触媒および水を含む混合溶液中のCHDAが、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5~40重量%、好ましくは、5~30重量%、7~30重量%、7~25重量%、7~23重量%、または10~23重量%含まれている混合溶液を水素化反応してCHDMを製造する場合、製造された全体のCHDM中のトランスCHDMの比率が63重量%以上、65重量%以上、67重量%以上、69重量%以上、または70重量%以上であってもよく、トランスCHDMの比率の上限はないが、一例として、99重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、または85重量%以下であってもよい。
【0047】
したがって、本発明の製造方法によって最終的に得られるCHDMは、トランス異性体の含有量に優れ、より高品質の製品を製造するための原料として有用に使用できる。
【0048】
そこで、本発明の他の実施形態は、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する方法で製造されたCHDMを含む組成物を提供する。
【0049】
好ましくは、前記一実施形態の組成物内の全体の1,4-シクロヘキサンジメタノール中、トランス異性体の含有量が63重量%以上、65重量%以上、67重量%以上、69重量%以上、または70重量%以上であってもよく、トランスCHDMの比率の上限はないが、一例として、99重量%以下、95重量%以下、90重量%以下、または85重量%以下であってもよい。
【0050】
また、前記一実施形態の組成物は、医薬品、合成樹脂、合成繊維または染料の原料として使用できる。
【0051】
以下、本発明の理解のためにより詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
<実施例1>
反応器として、300℃、150barでも耐えられる回分式反応器を選定した。回分式反応器は、パージング(purging)のための窒素と水素化反応のための水素が導入され、反応のために撹拌が可能な装置である。回分式反応器に、反応物(反応原料)のCHDA(trans-CHDAの比率:21%)18.8g、触媒(ルテニウム-スズ/カーボン触媒、カーボン担体100重量部に対してルテニウム5重量部、スズ5.8重量部を含む)5.23g、溶媒の蒸留水250gを入れて、5barの窒素で2回パージ、約5barの水素で2回パージを実施後、水素雰囲気下(約14~15bar)で50rpmで撹拌を実施しながら温度を230℃まで上げた。
反応温度に到達したら、水素を反応圧力の100barまで注入後、撹拌速度を1000rpm上げて6時間反応を実施した。
【0053】
<実施例2>
CHDA(trans-CHDAの比率:21%)25g、触媒(ルテニウム-スズ/カーボン触媒、カーボン担体100重量部に対してルテニウム5重量部、スズ5.8重量部含む)7g、溶媒の蒸留水225gを用いたことを除いて、実施例1と同様の方法で反応を実施した。
【0054】
<実施例3>
CHDA(trans-CHDAの比率:21%)50g、触媒(ルテニウム-スズ/カーボン触媒、カーボン担体100重量部に対してルテニウム5重量部、スズ5.8重量部含む)14g、溶媒の蒸留水200gを用いたことを除いて、実施例1と同様の方法で反応を実施した。
【0055】
<実施例4>
反応温度を250℃で行ったことを除いて、実施例1と同様の方法で反応を実施した。
【0056】
<比較例1>
CHDA(trans-CHDAの比率:21%)4.05g、触媒(ルテニウム-スズ/カーボン触媒、カーボン担体100重量部に対してルテニウム5重量部、スズ5.8重量部含む)1.125g、溶媒の蒸留水250gを用いたことを除いて、実施例1と同様の方法で反応を実施した。
【0057】
<比較例2>
反応温度を190℃で行ったことを除いて、実施例1と同様の方法で反応を実施した。
【0058】
<比較例3>
反応温度を210℃で行ったことを除いて、実施例1と同様の方法で反応を実施した。
【0059】
<実験例>
トランスCHDMの含有量はガスクロマトグラフィー(GC、カラム:HP-5、検出器:FID)を用いて分析した。
【0060】
【0061】
前記表1中、比較例1と実施例1~実施例3とを比較すると、同一の反応条件下、CHDAの濃度によって、生成したCHDM中のトランス異性体の含有量が増加することが分かり、特に、CHDAの濃度が1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して7重量%以上の場合、トランスCHDMの比率が67%以上と優れていることが分かった。
【0062】
また、比較例2、3と実施例1、4とを比較すると、他の反応条件が同一の時、反応温度の上昇に伴って生成物中のCHDMの比率が増加することを確認することができ、特に反応温度が230℃以上の時、生成物中のトランスCHDMの比率が67%以上と優れていることが明らかになった。
【国際調査報告】