(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-01
(54)【発明の名称】1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 29/149 20060101AFI20230221BHJP
C07C 31/27 20060101ALI20230221BHJP
B01J 23/62 20060101ALI20230221BHJP
B01J 23/44 20060101ALI20230221BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230221BHJP
【FI】
C07C29/149
C07C31/27
B01J23/62 Z
B01J23/44 Z
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539248
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(85)【翻訳文提出日】2022-06-24
(86)【国際出願番号】 KR2020019189
(87)【国際公開番号】W WO2021133138
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】10-2019-0176139
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0183548
(32)【優先日】2020-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501014658
【氏名又は名称】ハンワ ソリューションズ コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】HANWHA SOLUTIONS CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】スン・ウク・イ
(72)【発明者】
【氏名】ナムジン・ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ウン・ジョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・クォン・イ
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA08B
4G169BC17A
4G169BC22A
4G169BC22B
4G169BC64A
4G169BC66A
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BC71A
4G169BC72A
4G169BC72B
4G169BC75A
4G169CB02
4G169CB65
4G169CB70
4G169DA05
4H006AA02
4H006AB20
4H006AB46
4H006AB84
4H006AC41
4H006BA11
4H006BA23
4H006BB31
4H006BC10
4H006BC11
4H006BC35
4H006FC22
4H006FE11
4H039CA60
4H039CB20
(57)【要約】
本発明は、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)の製造方法に関し、より詳しくは、テレフタル酸を出発物質として2段階の水素化反応と精製段階を行い、異性化反応段階を含まなくてもトランス異性体の比率の高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
撹拌機が備えられた第1反応器にテレフタル酸(terephthalic acid)、第1水素化触媒、および水を含む反応溶液、および水素気体を供給し、水素化反応を行い、シス異性体およびトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)を製造する第1段階;および
撹拌機が備えられた第2反応器に前記第1段階反応生成物、第2水素化触媒、および水を含む反応溶液、および水素気体を供給し、水素化反応を行い、シス異性体およびトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)を製造する第2段階;を含む、1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項2】
前記テレフタル酸は、テレフタル酸および水の総量に対して5~25重量%で含まれる、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項3】
第1段階の水素化反応を行う段階は、230~300℃の温度で行われる、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項4】
第1段階で前記水素気体は50~220barの圧力で供給する、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項5】
前記第1水素化触媒は、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、および白金(Pt)からなる群より選択される1種以上の金属を含む、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項6】
前記第1段階反応の生成物は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水を含み、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5~30重量%で含まれる、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項7】
前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、トランス異性体を60重量%以上で含む、請求項6に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項8】
第2段階の水素化反応を行う段階は、230~300℃の温度で行われる、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項9】
第2段階で前記水素気体は50~220barの圧力で供給する、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項10】
前記第2水素化触媒は、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、およびルテニウム(Ru)からなる群より選択される1種以上の金属、および
スズ(Sn)、鉄(Fe)、レニウム(Re)、およびガリウム(Ga)からなる群より選択される1種以上の金属をそれぞれ含む、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項11】
前記第2水素化触媒は、ルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)を含む、請求項10に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項12】
前記第2段階で得られる1,4-シクロヘキサンジメタノールは、トランス異性体を63重量%以上で含む、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項13】
前記第2段階を行う前に、前記第1段階反応の反応生成物に含まれている第1水素化触媒を除去する段階をさらに含む、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項14】
前記第2段階反応生成物から溶媒と副生成物を除去して精製された1,4-シクロヘキサンジメタノールを回収する第3段階をさらに含む、請求項1に記載の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法で製造される1,4-シクロヘキサンジメタノールを含む、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年12月27日付の韓国特許出願第10-2019-0176139号および2020年12月24日付の韓国特許出願第10-2020-0183548号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)の製造方法に関する。より詳しくは、テレフタル酸を出発物質として2段階の水素化反応と精製段階を行い、異性化反応段階を含まなくてもトランス異性体の比率の高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)は、医薬品、合成樹脂、合成繊維または染料などの原料として幅広く使用されており、特に、環境にやさしいポリエステルであるポリエチレンテレフタレートの原料として用いられている。
【0004】
1,4-シクロヘキサンジメタノールは、シス(cis)とトランス(trans)形態の立体異性体(stereoisomer)として存在するが、より高品質の製品のためには、シスよりトランス1,4-シクロヘキサンジメタノール(trans CHDM)の比率が高いことが要求される。
【0005】
1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する方法のうち、ジメチルテレフタレート(dimethyl terephthalate、DMT)の水素化反応による方法が商業的に多く用いられる。この方法は、フタレートをメタノールと反応してDMTを製造し、その後、2段階の水素化反応によって1,4-シクロヘキサンジメタノールを生成する方法である。1番目の水素化反応は、DMTをDMCD(ジエステル ジメチル 1,4-シクロヘキサンジカルボキシレート;diester dimethyl 1,4-cyclohexanedicarboxylate)に転換する反応であり、2番目の水素化反応でDMCDをCHDMに転換する。この時、触媒の種類によってシスCHDMとトランスCHDMの比率が決定される。商業的に主に使用される銅クロム酸化物であるcopper chromite触媒を用いる場合、シスCHDMとトランスCHDMとの比率が約3:7で製造される。このような方法は、DMTを用い、メタノールを用いたトランスエステル化(trans esterification)反応を利用するため、反応および分離工程が複雑であり、異性化のために添加物を使用しなければならず、最終製品の品質に影響を与えることがある。
【0006】
他の方法として、フタレートをまず水素化して1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexanedicarboxylic acid、CHDA)に転換し、CHDAを水素化してCHDMに転換する方法がある。この方法は、不均一系触媒を用い、2段階の水素化反応で構成される。
【0007】
韓国公開特許第2015-0062911号においては、異性化反応なしにフタレートに対して1つの反応器でパラジウム(Pd)化合物を含む第1金属触媒の存在下でテレフタル酸を還元させ、ルテニウム(Ru)化合物、スズ(Sn)化合物および白金(Pt)化合物を1:0.8~1.2:0.2~0.6の重量比で含む第2金属触媒の存在下で、前記テレフタル酸の還元結果物を還元させる2段階の還元工程を経てCHDMを製造する方法を提案した。しかし、この方法は異性化反応を経ないので、トランスCHDMの比率が低い問題がある。
【0008】
韓国特許第0943872号においては、トランスCHDMの比率を高めるために、中間生成物であるトランスCHDAを分離して生産する方法を提案した。この方法は、シスCHDAとトランスCHDAとの融点の差を利用して異性化反応を行うと同時に、トランスCHDAを固体または溶融した状態で生産する方法である。しかし、上記方法は、溶媒として用いられる水または他の溶媒を除去する工程が必要であり、再結晶化のために低い温度で運転することによって、フタレートの還元工程で使用された熱を除去しなければならないので、経済的な方法であるとはいえない。
【0009】
さらに他の方法として、特開第2014-177422号においては、水素化反応の温度と反応時間を調節することによって、所望のトランスCHDMの比率を得る方法を提案した。該方法は、CHDAの還元反応と同時に異性化反応を進行させる方法で、固定層反応器で反応温度と反応時間を調節する手段を採用したが、固定層反応器は反応物であるCHDAの転換で容易に結晶化が進行し、この時、結晶により触媒の性能が減少して、所望の収率およびトランスCHDMの比率が達成できない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】韓国特開第2015-0062911号
【特許文献2】韓国特許第0943872号
【特許文献3】特開第2014-177422号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、テレフタル酸を出発物質として2段階の水素化反応を行い、原料物質であるテレフタル酸の含有量および1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)の含有量を調節することによって、異性化反応段階を含まなくてもトランス異性体の比率の高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを高収率で安定して製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するために、本発明の一実施形態は、
撹拌機が備えられた第1反応器にテレフタル酸(terephthalic acid)、第1水素化触媒、および水を含む反応溶液および水素気体を供給し、水素化反応を行い、シス異性体およびトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)を製造する第1段階;および
撹拌機が備えられた第2反応器に前記第1段階反応生成物、第2水素化触媒、および水を含む反応溶液、および水素気体を供給し、水素化反応を行い、シス異性体およびトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)を製造する第2段階;を含む、1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法を提供する。
【0013】
また、本発明の他の一実施形態は、前記製造方法で製造された1,4-シクロヘキサンジメタノールを含む組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法によれば、テレフタル酸を出発物質として連続的な水素化反応によって1,4-シクロヘキサンジメタノールを高収率で製造することができ、異性化反応段階を経ずに、1,4-シクロヘキサンジメタノールのシス異性体とトランス異性体のうち、トランス異性体の比率の高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを安定して製造することができる。
【0015】
また、本発明の製造方法によれば、テレフタル酸の1段階の水素化反応生成物を追加の精製や分離工程なしにそのまま反応物として用いて2段階の水素化工程を行うので工程が単純化され、また、テレフタル酸の水素化反応段階での反応温度を維持したまま水素化段階を行うことができるので、熱的エネルギー損失も発生せず、経済的である。
【0016】
前記製造方法によれば、追加的な異性化段階を行わないので、工程が単純化されて経済的であり、製造された1,4-シクロヘキサンジメタノールのトランス異性体の含有量が高くて、高分子原料としての使用時に物性の向上を期待することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書で使用される用語は単に例示的な実施例を説明するために使用されたものであって、本発明を限定する意図はない。単数の表現は文脈上明白に異なることを意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定するものであって、一つまたはそれ以上の他の特徴や段階、構成要素またはこれらを組み合わせたものなどの存在または付加可能性を予め排除しないものと理解しなければならない。
【0018】
本発明は多様な変更を加えることができ、様々な形態を有することができるため、特定の実施例を例示し詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の実施形態に対して限定しようとするのではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれる全ての変更、均等物または代替物を含むものと理解しなければならない。
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態により1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法についてより詳しく説明する。
【0020】
本発明の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法は、撹拌機が備えられた第1反応器にテレフタル酸(terephthalic acid)、第1水素化触媒、および水を含む反応溶液、および水素気体を供給し水素化反応を行い、シス異性体およびトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジカルボン酸(1,4-cyclohexane dicarboxylic acid、CHDA)を製造する第1段階;および撹拌機が備えられた第2反応器に前記第1段階反応生成物、第2水素化触媒、および水を含む反応溶液、および水素気体を供給し水素化反応を行い、シス異性体およびトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)を製造する第2段階を含む。
【0021】
従来はトランス含有量が高い1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造のために、シス異性体をトランス異性体に変換する異性化反応段階を必須に伴った。一例として、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を異性化反応原料として使用してトランス含有量を高めた1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を得た後、これを再び水素化反応原料として使用してトランス含有量の高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造するか、または原料物質である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸をまず水素化反応させた後、得られた1,4-シクロヘキサンジメタノールを異性化反応させてトランス含有量が向上した1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造した。しかし、従来の方法で1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する場合、追加的な異性化工程によって工程が複雑で非効率的であり、追加的な生産費用が要求されて商業的に望ましくない側面があった。
【0022】
そこで、本発明の一実施形態による1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法は、テレフタル酸を出発物質として水素化反応を行い、シス異性体をトランス異性体に変換する異性化反応段階を含まず、かつ高い含有量のトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を製造できることに着眼した。また、このように製造された1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を用いて水素化反応を行うと、やはり高い含有量のトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造することができる。
【0023】
水素化触媒の存在下でテレフタル酸に対して水素化反応を行い1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を製造する場合、前記反応生成物として得られる1,4-シクロヘキサンジカルボン酸はシス異性体とトランス異性体、つまり、シスCHDA(cis CHDA)とトランスCHDA(trans CHDA)との混合した形態で得られる。
【0024】
韓国特開第2020-0081096号によれば、テレフタル酸の水素化反応の結果物として、シス異性体に対するトランス異性体のモル比は約8:2~約6:4でシス異性体がより多く得られ、また、前記シス異性体に対するトランス異性体のモル比は、水素化触媒の種類や水素化反応時の細部条件に関係なくほぼ上記範囲内であることが開示されている。
【0025】
したがって、従来は、トランス含有量が高い1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の製造のために、テレフタル酸から1,4-シクロヘキサンジカルボン酸への水素化反応を行った後、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のシス異性体をトランス異性体に変換する異性化反応段階を必須に伴った。しかし、このような方法は、異性化工程によって工程が複雑で非効率的であり、追加的な生産費用が要求されて商業的に望ましくない側面があった。
【0026】
しかし、本発明の一実施形態による製造方法は、テレフタル酸を出発物質として多段反応器で2段階の連続的な水素化反応を行い、シス異性体をトランス異性体に変換する異性化反応段階を含まず、かつ最終的に高い含有量のトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造できることに着眼した。
【0027】
また、反応原料であるテレフタル酸の濃度を調節して、テレフタル酸の水素化工程だけで高い含有量のトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を製造することができる。
【0028】
シス/トランス異性体を有する化合物の水素化反応の進行時、一般に、反応前後に反応物と生成物のシスおよびトランスの比率は大きな変化なく維持されると予測される。反応物の濃度を増加しても反応速度の向上だけが予想できるとは別に、水素化反応による生成物の異性体比率の変化は期待しないことが通常である。
【0029】
しかし、本発明の一実施形態によれば、テレフタル酸の濃度が一定の範囲であるとき、追加的な異性化反応段階を含まず、かつ生成物である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のトランス異性体の含有量が増加する予期せぬ効果を確認することができた。
【0030】
また、次の段階である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の水素化反応段階でも、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の濃度が一定の範囲であるとき、追加的な異性化反応段階を含まず、かつ生成物である1,4-シクロヘキサンジメタノールのトランス異性体の含有量が増加する予期せぬ効果を確認することができた。これは水素化反応対象物の濃度と水素化触媒の濃度によって異性化速度が異なり、一定の濃度で異性化速度が速くなることで、熱力学的にトランス/シス異性体の比率が平衡に到達する時間が短くなるからであると考えられる。
【0031】
このように本発明の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法は、テレフタル酸を出発物質として多段反応器で2段階の水素化反応を行い、異性化段階を行わなくとも、トランス異性体の比率の高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを安定して製造することができる方法である。
【0032】
したがって、本発明の1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法によれば、1,4-シクロヘキサンジメタノールを高収率で製造することができ、1,4-シクロヘキサンジメタノールのシス異性体とトランス異性体のうち、トランス異性体の比率の高い1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造することができる。
【0033】
以下、各段階別に本発明の一実施形態による1,4-シクロヘキサンジメタノールの製造方法を詳しく説明する。
【0034】
第1段階
第1段階は、撹拌機が備えられた第1反応器にテレフタル酸(terephthalic acid)、第1水素化触媒、および水を含む反応溶液、および水素気体を供給し水素化反応を行い、シス異性体およびトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を製造する段階である。
【0035】
前記第1段階の水素化反応によって、テレフタル酸の芳香族環が水素化され、これに相応する1,4-シクロヘキサンジカルボン酸に転換される。
【0036】
より具体的には、撹拌機が備えられた第1反応器にテレフタル酸(terephthalic acid)、第1水素化触媒、および水を含む反応溶液を供給する。
【0037】
前記テレフタル酸は、テレフタル酸および水の総量に対して5~25重量%である。より具体的には、前記テレフタル酸は、テレフタル酸および水の総量に対して5重量%以上、または10重量%以上、または15重量%以上、または18重量%以上であり、かつ25重量%以下、または24重量%以下、または22重量%以下であり得る。
【0038】
前記テレフタル酸がテレフタル酸および水の総量に対して5重量%未満の場合、トランス/シス異性体の比率が平衡に到達する時間が非常に長くかかり、生成されるCHDA中のトランス異性体の比率が低い問題があり、25重量%を超える場合、テレフタル酸の低い溶解度で溶解が難しくなり、反応温度を高く設定しなければならない問題がある。反応温度が高くなる場合、低沸点副生成物が多量発生して収率が低くなり、熱疲労によって触媒活性が低くなる。
【0039】
本発明の一実施形態によれば、前記第1水素化触媒としては、テレフタル酸の水素化反応に使用できると知られている触媒を使用することができる。
【0040】
本発明の一実施形態によれば、前記第1水素化触媒は活性成分としてパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、ルテニウム(Ru)、および白金(Pt)からなる群より選択される1種以上の金属を含み得る。
【0041】
好ましくは、前記第1水素化触媒は活性成分としてパラジウム(Pd)を含み得る。
【0042】
本発明の一実施形態によれば、前記第1水素化触媒の活性成分は、反応物であるテレフタル酸の含有量によりその使用量を適切に調節することができる。具体的には、テレフタル酸に対して触媒の含有量が高いほど反応速度は増加するので、水素化触媒は、前記第1水素化触媒に対するテレフタル酸の重量比が0.01:1以上となる量が添加される。
【0043】
しかし、テレフタル酸に対して第1水素化触媒の含有量が一定水準以上である場合、使用量に比べて反応速度の増加効果が微小であり、反応効率性が減少することを考慮すると、前記第1水素化触媒はより具体的には、第1水素化触媒に対するテレフタル酸の重量比が0.01:1~3:1、または0.01:1~2.5:1、または0.1:1~2:1を満たす量が添加される。
【0044】
しかし、前記重量比が本発明の範囲を限定されず、細部的な反応条件、および反応器の種類によって触媒の比率を適切に調節することができる。
【0045】
このような第1水素化触媒は担体に担持させて使用することができ、この時、担体としては当業界で公知の担体を制限なく使用することができる。具体的には、炭素、ジルコニア(ZrO2)、チタン(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、またはシリカ(SiO2)などの担体を使用することができる。
【0046】
前記担体に炭素を使用する場合、特に限定されるものではないが、活性炭、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、OMC(規則性メソ多孔性炭素;ordered mesoporous carbon)およびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つを使用することができる。
【0047】
好ましくは、全体気孔中のメソ多孔の比率が高いカーボンブラックであり得、具体的な例において、前記活性炭は、SXULTRA、CGSP、PK1-3、SX 1G、DRACO S51HF、CA-1、A-51、GAS 1240 PLUS、KBG、CASPおよびSX PLUSなどであり得、前記カーボンブラックは、BLACK PEARLS(登録商標)、ELFTEX(登録商標)、VULCAN(登録商標)、MOGUL(登録商標)、MONARCH(登録商標)、EMPEROR(登録商標)、およびREGAL(登録商標)などであり得るが、これらに限定されるものではない。
【0048】
ここで、本発明によれば、前記炭素担体における前記炭素は、全体気孔中の気孔の大きさが2~50nmであるメソ多孔の体積比率が50%以上であり得る。好ましくは、前記炭素担体における前記炭素は、全体気孔中のメソ多孔の体積比率が70%以上であり、より好ましくは、前記炭素担体における前記炭素は、全体気孔中のメソ多孔の体積比率が75%以上であり得る。
【0049】
この時、前記メソ多孔の体積比率が50%未満である場合には反応物および生成物の炭素担体内の微視的物質伝達速度の問題があり、前記気孔の平均サイズが50nm超である場合には担体の物理的強度が弱い問題があり得るので、上記の範囲が好適である。
【0050】
また、本発明によれば、前記炭素は、比表面積(BET)が100~1,500m2/gの範囲を含む規則的なメソ多孔性炭素(ordered mesoporous carbon、OMC)を含む。好ましくは、前記炭素は、比表面積(BET)が200~1,000m2/gの範囲を含む規則的なメソ多孔性炭素(ordered mesoporous carbon、OMC)を含むことができる。この時、前記炭素の比表面積が100m2/g未満である場合には活性金属の高分散が難しい問題があり、前記炭素の比表面積である1,500m2/gを超える場合にはメソ気孔の比率が低くなる問題があり得るので、上記の範囲が好適である。
【0051】
また、場合によって、本発明による触媒の前記炭素担体は、中間サイズのメソ多孔性以外にマイクロポア(micropore)を適正な比率で含み、好ましくは、全体気孔中のマイクロポア(micropore)の体積比率を0~25%で含むことができる。この時、前記マイクロポアの体積比率が25%を超えて含まれる場合には反応物および生成物の炭素担体内の微視的物質伝達速度の問題があり得るので、上記の範囲が好適である。
【0052】
前記第1水素化触媒が担体に担持された場合、第1水素化触媒の活性成分の量は担体100重量部に対して20重量部以下であることが好ましく、15重量部以下、または10重量部以下であり、かつ1重量部以上、または3重量部以上であり得る。もし、第1水素化触媒の量が担体100重量部に比べて多すぎると、触媒表面で反応が急激に行われ、この過程で副反応も増加して副生成物の量が急増する問題が発生することがあり、少なすぎると触媒量が不足して水素化反応の収率が低下するので、上記の範囲が好ましい。
【0053】
前記第1段階は、攪拌機、原料投入部、金属焼結フィルター、および生成物排出部を含む第1反応器を用いて行うことができる。
【0054】
一例として、前記攪拌機は、ガス誘導式(gas-induced type)攪拌機であって、ガス吸込口、ガス移動通路、インペラ、および噴射口を含むことができる。
【0055】
より具体的には、前記攪拌機は、第1反応器の上下部方向に備えられ、上部にはガス、すなわち、水素気体を遠心力によって吸い込むガス吸込口を含むことができる。前記ガス吸込口に吸い込まれた水素気体は、ガス移動通路を介して前記反応器の下部に移動する。前記第1反応器の下部に移動した水素気体は、前記攪拌機に備えられた複数の噴射口を介して反応溶液に噴射、供給されて水素化反応を行うことができる。前記噴射口は、前記攪拌機の下部、側面、または下部および側面にすべて位置することができる。
【0056】
このように、前記ガス吸込口を介して吸い込まれた水素気体は、前記攪拌機に備えられた複数の噴射口を介して水素気体を反応溶液内に噴射し混合しながら水素化反応を行うことによって水素化反応速度が上昇することができる。
【0057】
また、前記攪拌機はインペラを含み、インペラは反応溶液を攪拌するので、気体捕集率(Gas holdup)および単位体積当たりの表面積が上昇する。これによって、前記反応器内での水素化反応速度が上昇することができる。
【0058】
前記インペラは、前記攪拌機の回転軸に複数段に配置される。
【0059】
あるいは、他の一実施形態によれば、前記攪拌機の下端に噴射口を備えたインペラのみが設けられ、追加のインペラは設けられなくてもよい。
【0060】
回転軸は、外部に備えられる駆動モータで駆動される。
【0061】
前記第1反応器の下部には、反応原料投入部に連結され、反応原料、すなわちテレフタル酸、溶媒、水素気体を投入することができる。
【0062】
一方、前記第1反応器は、生成物から触媒をろ過する金属焼結フィルターおよび生成物排出部を含むことができ、前記金属焼結フィルタは、生成物排出部に連結されて設けられる。また、前記金属焼結フィルターは、前記生成物排出部に連結され、前記反応器の外部に設けられてもよい。金属焼結フィルターは、生成物に残留する触媒成分を効果的にろ過することができる。
【0063】
次に、前記反応溶液が投入された第1反応器に水素気体を供給する。
【0064】
前記水素化反応は液体状または気体状で行うことができる。本発明の一実施形態によれば、前記テレフタル酸は水などの溶媒に溶解した液状で、水素は気体状態で水素化反応が行われる。
【0065】
次に、前記第1反応器の攪拌機を攪拌して水素化反応を行うことによって1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を製造する。
【0066】
本発明において前記水素化反応条件は特に限定されるものではないが、一例として、反応温度は230℃以上であり、かつ300℃以下、または280℃以下、または270℃以下であり得る。反応温度が230℃未満であれば反応物と触媒の接触が減少するかまたは触媒の活性可能な温度範囲から外れて反応速度が低下するか、生成されたCHDA中のトランス異性体の含有量が減少し、300℃を超えると副生成物が急激に増加する。また、触媒寿命にも影響を与えられるので、上記の範囲が好ましい。
【0067】
また、反応圧力は、50bar以上、または80bar以上であり、かつ220bar以下、または200bar以下、または180bar以下であり得る。もし、反応圧力が50bar未満であれば反応がうまく起こらず、過剰量の触媒が消耗し、滞留時間が長すぎて副生成物が増加するなどの多様な問題があり得、220barを超えると工程の運転時に過度な電力などのエネルギーを必要とし、また、反応器などの設備製作費用が大きく増加する問題があり得るので、上記の範囲が好ましい。
【0068】
前記反応圧力は供給される水素気体によって設定される圧力であるので、水素気体の供給量に応じて調節することができる。
【0069】
水素化反応の間攪拌工程が行われ、前記攪拌工程の間速度制御により水素化反応時の反応効率を高めることができる。具体的には、前記攪拌工程は、水素気体気泡の単位体積当たりの表面積が15m2/m3以上となるように行われる。より具体的には、50m2/m3以上、または100m2/m3以上、または150m2/m3以上、または200m2/m3、または300m2/m3以上となるように行われる。
【0070】
単位体積当たりの表面積が一定の水準、例えば15m2/m3以上を満足しさえすれば、それ以上の範囲では反応速度が、水素気体が溶解する速度より遅くて反応速度に大きな影響を与えない。したがって、前記単位体積当たりの表面積が15m2/m3以上を満足すればよく、上限値はあまり影響がないので大きく制限されないが、反応器のエネルギー効率を考慮すると500m2/m3以下であることが好ましい。
【0071】
一方、前記攪拌工程は、上述した第1反応器の攪拌装置を用いて行われる。
【0072】
上記した水素化反応条件をすべて満たす条件で1~10時間行われることが、工程効率性の面からより好ましい。
【0073】
前記第1段階の反応後に得られる反応生成物にはシス異性体およびトランス異性体を含むCHDA、溶媒である水、触媒などが含まれており、これを後続する第2段階水素化反応(CHDAからCHDMへの水素化反応)の反応物として用いることになる。必要に応じて、前記反応生成物に含まれている触媒は、触媒フィルターなどによって除去した後、第2段階水素化反応の反応物として送られる。
【0074】
本発明の一実施形態によれば、前記第1階段の反応生成物でのシス異性体およびトランス異性体を含む全体1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5~30重量%であり得る。より具体的には、5重量%以上、または7重量%以上、または10重量%以上であり、かつ30重量%以下、または25重量%以下、または23重量%以下であり得る。
【0075】
本発明の一実施形態によれば、テレフタル酸、第1水素化触媒および水を含む混合溶液中のテレフタル酸は、テレフタル酸および水の総量に対して5~25重量%、好ましくは10~25重量%、より好ましくは、12~22重量%含まれた混合溶液を水素化反応して1,4-シクロヘキサンジカルボン酸を製造する場合、製造された全体1,4-シクロヘキサンジカルボン酸中のトランス異性体の比率が60重量%以上、または62重量%以上、または65重量%以上、または67重量%以上、または70重量%以上であり得、トランス異性体の比率の上限はないが、一例として80重量%以下、または78重量%以下、または75重量%以下であり得る。
【0076】
このように、第1段階水素化反応によって得られる1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、トランス異性体の含有量が60重量%以上と優れて、追加的な異性化工程がなくとも、後続する第2段階水素化反応の反応物として有用に使用することができる。
【0077】
第2段階
第2段階は、撹拌機が備えられた第2反応器に前記第1段階反応生成物、第2水素化触媒、および水を含む反応溶液、および水素気体を供給し水素化反応を行い、シス異性体およびトランス異性体を含む1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-cyclohexanedimethanol、CHDM)を製造する段階である。
【0078】
より具体的には、撹拌機が備えられた第2反応器に第1段階反応生成物、第2水素化触媒、および水を含む反応溶液を供給する。
【0079】
第1段階反応の反応生成物には1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、第1水素化触媒、および溶媒である水が含まれており、これを第2段階水素化反応の反応物として用いられる。この時、第2段階を行う前に、前記第1段階反応の反応生成物に含まれている第1水素化触媒はフィルターなどで除去することが好ましい。
【0080】
また、前記第1段階反応生成物には1,4-シクロヘキサンジカルボン酸以外に水である溶媒が含まれているので、追加的な水の投入なしにそのまま第2段階反応に用いられる。あるいは、反応溶液の濃度を調節するために必要な場合、水の一部を除去するか、またはさらに投入することもできる。
【0081】
前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5~30重量%で含まれる。より具体的には、5重量%以上、または7重量%以上、または10重量%以上であり、かつ30重量%以下、または25重量%以下、または23重量%以下であり得る。
【0082】
前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸が、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸および水の総量に対して5重量%未満の場合、反応物と触媒の接触が減少して反応速度が遅くなるか、または生成されるCHDM中のトランス異性体の比率が減少する問題があり、30重量%を超える場合1,4-シクロヘキサンジカルボン酸の溶解度が低くなり、生産性が減少し、これによって反応物の結晶および触媒量が増加してスラリーを供給(Feeding)する工程に難しさがあり得る。
【0083】
この時、反応原料である1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のシス異性体およびトランス異性体の比率は、前記第1段階水素化反応で得られた1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のシス異性体およびトランス異性体の比率と同じである。したがって、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は、トランス異性体の比率が60重量%以上、または62重量%以上、または65重量%以上、または67重量%以上、または70重量%以上であり、トランス異性体の比率の上限はないが、一例として、80重量%以下、または78重量%以下、または75重量%以下であり得る。
【0084】
本発明の一実施形態によれば、前記第2水素化触媒は、活性成分としてパラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、およびルテニウム(Ru)からなる群より選択される1種以上の金属と、スズ(Sn)、鉄(Fe)、レニウム(Re)、およびガリウム(Ga)からなる群より選択される1種以上の金属をそれぞれ含み得る。
【0085】
好ましくは、前記第2水素化触媒の活性成分としてルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)を含み得る。より好ましくは、前記水素化触媒の活性成分は、ルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)のみからなり、他の活性成分を含まない場合がある。
【0086】
本発明の一実施形態によれば、前記第2水素化触媒の活性成分は、反応物であるCHDAの含有量によりその使用量を適切に調節することができる。具体的には、CHDAに対して第2水素化触媒の含有量が高いほど反応速度は増加するので、発明の一実施形態によるCHDMの製造方法において前記第2水素化触媒は、第2水素化触媒に対するCHDAの重量比が0.01:1以上となる量が添加される。
【0087】
しかし、CHDAに対して第2水素化触媒の含有量が一定水準以上である場合、使用量に比べて反応速度の増加効果が微小であり、反応効率性が減少することを考慮すると、前記第2水素化触媒はより具体的には、第2水素化触媒の活性成分に対するCHDAの重量比が0.01:1~3:1を満たす量が添加される。
【0088】
第2水素化触媒に対するCHDAの重量比の調節による反応速度の改善効果を考慮すると、前記第2水素化触媒は、第2水素化触媒に対するCHDAの重量比が0.01:1~3:1、あるいは0.1:1~3:1、あるいは0.1:1~2:1となる量が添加されることがさらに好ましい。
【0089】
しかし、前記重量比が本発明の範囲を限定されず、細部的な反応条件、および反応器の種類によって触媒の比率を適切に調節することができる。
【0090】
このような第2水素化触媒は担体に担持させて使用することができ、この時、担体としては当業界で公知の担体を制限なく使用することができる。具体的には、炭素、ジルコニア(ZrO2)、チタン(TiO2)、アルミナ(Al2O3)、またはシリカ(SiO2)などの担体を使用することができる。
【0091】
本発明の一実施形態によれば、前記第2水素化触媒の活性成分としてルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)を含む場合、ルテニウム(Ru)およびスズ(Sn)は、前記担体全体100重量部に対して、それぞれ1~20重量部、または1~10重量部、または3~8重量部で含まれる。
【0092】
前記担体に炭素を使用する場合、特に限定されるものではないが、活性炭、カーボンブラック、黒鉛、グラフェン、OMC(ordered mesoporous carbon)およびカーボンナノチューブからなる群より選択される少なくとも1つを使用することができる。
【0093】
好ましくは、全体気孔中のメソ多孔の比率が高いカーボンブラックであり得、具体的な例において、前記活性炭は、SXULTRA、CGSP、PK1-3、SX 1G、DRACO S51HF、CA-1、A-51、GAS 1240 PLUS、KBG、CASPおよびSX PLUSなどであり得、前記カーボンブラックは、BLACK PEARLS(登録商標)、ELFTEX(登録商標)、VULCAN(登録商標)、MOGUL(登録商標)、MONARCH(登録商標)、EMPEROR(登録商標)、およびREGAL(登録商標)などであり得るが、これらに限定されるものではない。
【0094】
ここで、本発明によれば、前記炭素担体における前記炭素は、全体気孔中の気孔の大きさが2~50nmであるメソ気孔の体積比率が50%以上であり得る。好ましくは、前記炭素担体における前記炭素は、全体気孔中のメソ多孔の体積比率が70%以上であり、より好ましくは、前記炭素担体における前記炭素は、全体気孔中のメソ気孔の体積比率が75%以上であり得る。
【0095】
この時、前記メソ気孔の体積比率が50%未満である場合には反応物および生成物の炭素担体内の微視的物質伝達速度の問題があり、前記気孔の平均サイズが50nm超である場合には担体の物理的強度が弱い問題があり得るので、上記の範囲が好適である。
【0096】
また、本発明によれば、前記炭素は、比表面積(BET)が100~1,500m2/gの範囲を含む規則的なメソ多孔性炭素(ordered mesoporous carbon、OMC)を含む。好ましくは、前記炭素は、比表面積(BET)が200~1,000m2/gの範囲を含む規則的なメソ多孔性炭素(ordered mesoporous carbon、OMC)を含むことができる。この時、前記炭素の比表面積が100m2/g未満である場合には活性金属(Ru、Sn)の高分散が難しい問題があり、前記炭素の比表面積である1,500m2/gを超える場合にはメソ気孔の比率が低くなる問題があり得るので、上記の範囲が好適である。
【0097】
また、場合によって、本発明による触媒の前記炭素担体は、中間サイズのメソ多孔性以外にマイクロポア(micropore)を適正な比率で含み、好ましくは、全体気孔中のマイクロポア(micropore)の体積比率を0~25%で含むことができる。この時、前記マイクロポアの体積比率が25%を超えて含まれる場合には反応物および生成物の炭素担体内の微視的物質伝達速度の問題があり得るので、上記の範囲が好適である。
【0098】
前記第2段階は、攪拌機、原料投入部、金属焼結フィルター、および生成物排出部を含む第2反応器を用いて行うことができる。
【0099】
前記第2反応器に対する説明は、上述した第1段階での第1反応器に対する説明と同様であるので、その説明は省略する。
【0100】
次に、前記反応溶液が投入された反応器に水素気体を供給する。
【0101】
前記水素化反応は液体状または気体状で行うことができる。本発明の一実施形態によれば、前記1,4-シクロヘキサンジカルボン酸は水などの溶媒に溶解した液状で、水素は気体状態で水素化反応が行われる。
【0102】
次に、前記第2反応器の攪拌機を攪拌して水素化反応を行うことによって1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する。
【0103】
本発明において前記水素化反応条件は特に限定されるものではないが、一例として、反応温度は230℃以上であり、かつ300℃以下、または280℃以下、または270℃以下であり得る。反応温度が230℃未満であれば反応物と触媒の接触が減少するかまたは触媒の活性可能な温度範囲から外れて反応速度が低下するか、生成されたCHDA中のトランス異性体の含有量が減少し、300℃を超えると副生成物が急激に増加する。また、触媒寿命にも影響を与えられるので、上記の範囲が好ましい。
【0104】
また、反応圧力は、50bar以上、または80bar以上であり、かつ220bar以下、または200bar以下、または180bar以下であり得る。もし、反応圧力が50bar未満であれば反応がうまく起こらず、過剰量の触媒が消耗し、滞留時間が長すぎて副生成物が増加するなどの多様な問題があり得、220barを超えると工程の運転時に過度な電力などのエネルギーを必要とし、また、反応器などの設備製作費用が大きく増加する問題があり得るので、上記の範囲が好ましい。
【0105】
前記反応圧力は供給される水素気体によって設定される圧力であるので、水素気体の供給量に応じて調節することができる。
【0106】
水素化反応の間攪拌工程が行われ、前記攪拌工程の間速度制御により水素化反応時の反応効率を高めることができる。具体的には、前記攪拌工程は、水素気体気泡の単位体積当たりの表面積が15m2/m3以上となるように行われる。より具体的には、50m2/m3以上、または100m2/m3以上、または150m2/m3以上、または200m2/m3、または300m2/m3以上となるように行われる。
【0107】
単位体積当たりの表面積が一定の水準、例えば15m2/m3以上を満足しさえすれば、それ以上の範囲では反応速度が、水素気体が溶解する速度より遅くて反応速度に大きな影響を与えない。したがって、前記単位体積当たりの表面積が15m2/m3以上を満足すればよく、上限値はあまり影響がないので大きく制限されないが、反応器のエネルギー効率を考慮すると500m2/m3以下であることが好ましい。
【0108】
一方、前記攪拌工程は、上述した反応器の攪拌装置を用いて行われる。
【0109】
上記した水素化反応条件をすべて満たす条件で1~10時間行われることが、工程効率性の面からより好ましい。
【0110】
前記第2段階の反応後に得られる反応生成物にはシス異性体およびトランス異性体を含むCHDA、溶媒である水、触媒などが含まれており、これを多様な反応の反応物として用いられる。必要に応じて、前記反応生成物に含まれている副生成物、溶媒、および触媒などは精製工程によって除去した後に用いることができる。
【0111】
本発明の一実施形態によれば、前記階段の反応生成物の全体重量中のシス異性体およびトランス異性体を含む全体CHDAの5~30重量%で含まれる。より具体的には、5重量%以上、または7重量%以上、または10重量%以上であり、かつ30重量%以下、または25重量%以下、または23重量%以下であり得る。
【0112】
1,4-シクロヘキサンジメタノールに対して異性化工程なしに直ちに他の工程の原料または反応物として用いるためには1,4-シクロヘキサンジメタノール中のトランス異性体の含有量が63重量%以上であることが求められる。
【0113】
本発明の一実施形態によれば、前記第2段階の反応生成物である1,4-シクロヘキサンジメタノール中のトランス異性体の含有量が63重量%以上、または65重量%以上、または67重量%以上、または69重量%以上、または70重量%以上と非常に高いトランス異性体の含有量を有し得る。また、トランス異性体の比率の上限はないが、一例として、99重量%以下、または95重量%以下、または90重量%以下、または85重量%以下であり得る。
【0114】
このように、第2段階水素化反応によって得られる1,4-シクロヘキサンジメタノールはトランス異性体の含有量が高くて、追加的な異性化工程がなくともより高品質の製品を製造するための原料として有用に使用することができる。
【0115】
第3段階
本発明の一実施形態によれば、前記第2段階の反応生成物から溶媒と副生成物を除去して精製された1,4-シクロヘキサンジメタノールを回収する第3段階をさらに含むことができる。
【0116】
第3段階は、精製段階であって、前記第2段階の反応生成物から溶媒と副生成物を除去して精製された1,4-シクロヘキサンジメタノールを得る段階である。一方、第3段階を行う前に、前記第2段階反応の反応生成物に含まれている第2水素化触媒はフィルターなどで除去することが好ましい。
【0117】
より具体的には、前記第3段階は、前記第2段階の反応生成物である1,4-シクロヘキサンジメタノール、水、および副生成物を含む1,4-シクロヘキサンジメタノール組成物に対して水を除去する段階;および前記水を除去する段階を経た1,4-シクロヘキサンジメタノール組成物に対して副生成物を除去する段階を含み得る。
【0118】
このような第3段階の精製段階によって、水および副生成物が除去されて高純度の1,4-シクロヘキサンジメタノールを回収、得ることができる。
【0119】
したがって、本発明の他の一実施形態は、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールを製造する方法で製造された1,4-シクロヘキサンジメタノールを含む組成物を提供する。
【0120】
前記一実施形態の組成物は、医薬品、合成樹脂、合成繊維または染料の原料として使用することができる。
【0121】
以下、本発明の理解を助けるためにより詳しく説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容が下記の実施例によって限定されるものではない。
【0122】
<実施例>
実施例1
第1段階
ガス誘導式(gas-induced type)撹拌機を含む第1反応器を用意した。
【0123】
前記反応器に反応物であるテレフタル酸(TPA)550g、5重量%水素化触媒Pd/C(担体炭素に対してPdを5重量%で含む)92g、および溶媒である蒸留水2,100gを入れて、反応器内部の大気を窒素に代替した後、50rpmで攪拌しながら250℃まで混合溶液の温度を昇温させた。
【0124】
混合溶液の温度が250℃に到達した後、TPAの溶解のために温度を維持しながら30分間攪拌した。その後、攪拌速度を上げて反応器の内部が120bar、水素気体の単位体積当たりの表面積が300~500m2/m3を維持するように水素気体を反応溶液内に供給しながら1時間水素化反応させた。
【0125】
反応完了後、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDA)569g(CHDA中のトランスCHDAの比率:68重量%)、水2,100gを含む生成物が得られ、金属フィルターで水素化触媒のみを除去した後、そのまま第2段階水素化反応の反応物として用いた。
【0126】
第2段階
ガス誘導式(gas-induced type)撹拌機を含む第2反応器を用意した。
【0127】
前記第2反応器に第1段階反応の生成物であるCHDA(CHDA中のトランスCHDAの比率:68重量%)569g、溶媒である蒸留水2,100gに触媒(ルテニウム-スズ/カーボン触媒、カーボン担体100重量部に対してルテニウム5重量部、スズ5.8重量部で含む)152gを入れて、5barの窒素で2回パージ、5barの水素で2回パージした後、水素雰囲気(約14~15bar)で50rpmで攪拌しながら温度を230℃まで上げた。
【0128】
反応温度に到達すると、水素を反応圧力である100barまで注入した後、攪拌速度を上げて水素気体気泡の単位体積当たりの表面積が300~450m2/m3を維持するようにして6時間反応を行った。
【0129】
第3段階
第2段階反応の生成物から金属フィルターで水素化触媒を除去した1,4-シクロヘキサンジメタノール組成物に対してエバポレーター(Evaporator)で温度50~60℃、圧力10~20torrの条件で水を蒸発させて最初の水含有量に対して95%まで1次で水を除去し、前記1次の水除去段階を経た1,4-シクロヘキサンジメタノール組成物に対して蒸留(Distillation)装置で、温度100~120℃、圧力0.01~0.001torrの条件で水を蒸発させて最初の水含有量に対して99%まで2次で水を除去した。
前記水除去段階を経た1,4-シクロヘキサンジメタノール組成物に対してDistillation装置で蒸留によって副生成物を除去して精製された1,4-シクロヘキサンジメタノールを得た。
【0130】
実施例2
実施例1の第1段階で、テレフタル酸(TPA)286gを使用したことを除いては、実施例1の第1段階と同様に行った。
【0131】
第1段階の反応完了後、CHDA294g(CHDA中のトランスCHDAの比率:66重量%)を含む生成物が得られ、金属フィルターで水素化触媒のみを除去した後、そのまま第2段階水素化反応の反応物として用いて、実施例1の第2段階および第3段階と同様に行った。
【0132】
実施例3
実施例1の第1段階で、テレフタル酸(TPA)378gを使用したことを除いては、実施例1の第1段階と同様に行った。
【0133】
第1段階の反応完了後、CHDA389g(CHDA中のトランスCHDAの比率:67重量%)を含む生成物が得られ、金属フィルターで水素化触媒のみを除去した後、そのまま第2段階水素化反応の反応物として用いて、実施例1の第2段階および第3段階と同様に行った。
【0134】
実施例4
実施例1の第1段階で、テレフタル酸(TPA)492gを使用したことを除いては、実施例1の第1段階と同様に行った。
【0135】
第1段階の反応完了後、CHDA506g(CHDA中のトランスCHDAの比率:69重量%)を含む生成物が得られ、金属フィルターで水素化触媒のみを除去した後、そのまま第2段階水素化反応の反応物として用いて、実施例1の第2段階および第3段階と同様に行った。
【0136】
<実験例>
前記実施例に対して、CHDAの収率、転換率、選択度と、CHDMの収率、転換率、選択度を計算して下記表1に示す。
【0137】
1)CHDAの収率、転換率、選択度
転換率(conversion)=反応したTPAのモル数/供給されたTPAのモル数
選択度(selectivity)=生成されたCHDAのモル数/反応したTPAのモル数
収率(yield)=転換率×選択度
【0138】
2)CHDMの収率、転換率、選択度
転換率(conversion)=反応したCHDAのモル数/供給されたCHDAのモル数
選択度(selectivity)=生成されたCHDMのモル数/反応したCHDAのモル数
収率(yield)=転換率×選択度
【0139】
また、第1段階反応の反応生成物であるCHDA中のトランスCHDAの含有量および第2段階反応の反応生成物であるCHDM中のトランスCHDMの含有量は、ガスクロマトグラフィー(Gas Chromatography)(GC、カラム:HP-5、検出装置:FID)を用いて分析した。
【0140】
【0141】
表1を参照すると、テレフタル酸を一定の濃度で含む実施例1~4の場合、第1段階水素化反応生成物であるCHDA中のトランスCHDAの含有量が66重量%を越えるので非常に高いトランス異性体が生成され、その後、第2段階水素化反応によって得られるCHMAにおいてもCHDAの含有量が69重量%以上と非常に高いことを確認することができた。
【国際調査報告】