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特表2023-508356精製所・粗製ユニットを介したポリエチレンへの廃プラスチックのサーキュラーエコノミー
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  • 特表-精製所・粗製ユニットを介したポリエチレンへの廃プラスチックのサーキュラーエコノミー 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】精製所・粗製ユニットを介したポリエチレンへの廃プラスチックのサーキュラーエコノミー
(51)【国際特許分類】
   C10G 55/04 20060101AFI20230222BHJP
   C10G 1/10 20060101ALI20230222BHJP
   C10G 9/36 20060101ALI20230222BHJP
   C10G 32/00 20060101ALI20230222BHJP
   C07C 4/22 20060101ALI20230222BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20230222BHJP
   C08J 11/12 20060101ALI20230222BHJP
   C08F 110/02 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C10G55/04
C10G1/10
C10G9/36
C10G32/00
C07C4/22
C07C11/04
C08J11/12 ZAB
C08F110/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538704
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(85)【翻訳文提出日】2022-08-10
(86)【国際出願番号】 US2020066780
(87)【国際公開番号】W WO2021133875
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】62/952,636
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ティムケン、へ - キョン
【テーマコード(参考)】
4F401
4H006
4H129
4J100
【Fターム(参考)】
4F401AA09
4F401AA10
4F401AB10
4F401BA02
4F401BA06
4F401BB09
4F401CA67
4F401CA70
4F401DA16
4F401DC01
4H006AA02
4H006AC91
4H006BD84
4H129AA01
4H129BA04
4H129BB03
4H129BC35
4H129BC36
4H129BC37
4H129BC38
4H129CA22
4H129CA25
4H129KB02
4H129MA01
4H129MA07
4H129MA12
4H129MB02B
4H129MB08A
4H129NA20
4H129NA21
4H129NA22
4H129NA43
4J100AA02P
4J100CA01
4J100FA47
(57)【要約】
提供されるのは、廃プラスチックをポリエチレン重合のための原料に変換するための連続プロセスである。このプロセスは、ポリエチレンとポリプロピレンを含む廃プラスチックを選択し、次いで、廃プラスチックを熱分解反応器に通して、ポリオレフィン廃棄物の少なくとも一部を熱的に分解し、熱分解された流出物を生成することを含む。次いで、熱分解された流出物は、オフガス、熱分解油(ナフサ/ディーゼル/重質留分を含む)、及びチャーに分離される。熱分解油は、精製所の粗製ユニットに通され、そこからナフサ留分(C-C)、又はプロパン及びブタン(C-C)留分が回収される。次いで、ナフサ留分、又はプロパン及びブタン(C-C)留分は、エチレン製造用にスチームクラッカーに通される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃プラスチックを、ポリエチレン重合のためのナフサに変換するための連続プロセスであって、
(a) ポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む廃プラスチックを選択する工程、
(b) (a)からの前記廃プラスチックを、熱分解反応器に通して、ポリオレフィン廃棄物の少なくとも一部を熱的に分解し、熱分解された流出物を生成する工程、
(c) 前記熱分解された流出物を、オフガス、熱分解油及び任意選択で熱分解ワックス(ナフサ/ディーゼル留分及び重質留分を含む)、並びにチャーに分離する工程、
(d) 前記熱分解油及びワックスを、精製所の粗製ユニットに通す工程、
(e) 粗製ユニットから、ナフサ留分(C-C)を回収する工程、
(f) 前記ナフサ留分を、エチレン製造用にスチームクラッカーに通す工程、
を含む、上記プロセス。
【請求項2】
(c)の熱分解油及びワックスを、精製所・粗製ユニットに直接通し、汚染物質が粗製ユニット脱塩装置で除去される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
汚染物質が、熱分解サイトで除去される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
(f)で製造したエチレンを、その後、重合する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
ポリエチレン生成物が、重合されたエチレンから調製される、請求項4に記載のプロセス。
【請求項6】
重質ナフサ/ディーゼル/常圧軽油が、粗製ユニットから回収され、精製所において清浄なガソリン、ディーゼル、又はジェット燃料へとさらに処理される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
前記粗製ユニットによって処理される未使用の粗製油の量が、リサイクルされた熱分解油で減少する、請求項6に記載のプロセス。
【請求項8】
(a)で選択された廃プラスチックが、プラスチック分類グループ2、4、及び/又は5からのものである、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
精製所の粗製ユニットへと流れる熱分解油及びワックスの体積流量が、粗製ユニットへと流れる炭化水素の総流量の最大50体積%を構成する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記熱分解油及びワックスの流量が、最大約20体積%を構成する、請求項9に記載のプロセス。
【請求項11】
廃プラスチックを、ポリエチレン重合のためのC-C流に変換するための連続プロセスであって、
(a) ポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む廃プラスチックを選択する工程、
(b) (a)からの前記廃プラスチックを、熱分解反応器に通して、ポリオレフィン廃棄物の少なくとも一部を熱的に分解し、熱分解された流出物を生成する工程、
(c) 前記熱分解された流出物を、オフガス、熱分解油及び任意選択でワックス(ナフサ/ディーゼル留分及び重質留分を含む)、並びにチャーに分離する工程、
(d) 前記熱分解油を、精製所の粗製ユニットに通す工程、
(e) 粗製ユニットから、プロパン及びブタン(C-C)留分の一部を回収する工程、
(f) 前記(C-C)留分を、エチレン製造用にスチームクラッカーに通す工程、
を含む、上記プロセス。
【請求項12】
(c)の熱分解油及びワックスを、精製所・粗製ユニットに直接通し、汚染物質が粗製ユニット脱塩装置で除去される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
汚染物質が、熱分解サイトで除去される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項14】
(f)で製造したエチレンを、その後、重合する、請求項11に記載のプロセス。
【請求項15】
ポリエチレン生成物が、重合されたエチレンから調製される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項16】
重質ナフサ/ディーゼル/常圧軽油が、粗製ユニットから回収され、精製所において清浄なガソリン、ディーゼル、又はジェット燃料へとさらに処理される、請求項11に記載のプロセス。
【請求項17】
精製所の粗製ユニットへと流れる熱分解油及びワックスの体積流量が、粗製ユニットへと流れる炭化水素の総流量の最大50体積%を構成する、請求項11に記載のプロセス。
【請求項18】
前記熱分解油及びワックスの流量が、最大20体積%を構成する、請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
(a)で選択された廃プラスチックが、プラスチック分類グループ2、4、及び/又は5からのものである、請求項11に記載のプロセス。
【請求項20】
廃プラスチックを、ポリエチレンの調製に有用な化学物質に変換するためのプロセスであって、
(a) ポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む廃プラスチックを選択する工程、
(b) 前記廃プラスチックを熱分解し、熱分解油及びワックス(ナフサ/ディーゼル/重質留分を含む)を回収する工程、
(c) 前記熱分解油を、精製所の粗製ユニットに通す工程、
を含む、上記プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(背景)
世界はプラスチック生産の非常に急速な成長を目の当たりしてきた。PlasticsEurope Market Research Groupによると、世界のプラスチック生産量は、2016年に3億3500万トン、2017年に3億4800万トン、2018年に3億5900万トンであった。マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、世界のプラスチック廃棄物量は、2016年に年間約2億6000万トンと推定され、現在の軌道が続く場合、2030年までに年間4億6000万トンになると予測されている。
【背景技術】
【0002】
使い捨てプラスチック廃棄物は、ますます重要な環境問題になっている。現時点では、ポリエチレンやポリプロピレンの廃プラスチックを付加価値のある化学製品や燃料製品にリサイクルするための選択肢はほとんどないようである。現在、少量のポリエチレンとポリプロピレンのみが、ケミカルリサイクルを介してリサイクルされ、このリサイクルされて清浄化されたポリマーペレットは、熱分解ユニットで熱分解され、燃料(ナフサ、ディーゼル)、スチームクラッカー供給原料、又はスラックワックスが生成される。
【0003】
廃プラスチックを炭化水素潤滑剤に変換するプロセスが知られている。例えば、米国特許第3,845,157号は、廃ポリオレフィン又は未使用のポリオレフィンを分解して、エチレン/オレフィンコポリマーなどのガス状生成物を形成し、これらをさらに処理して合成炭化水素潤滑剤を製造することを開示している。米国特許第4,642,401号は、粉砕されたポリオレフィン廃棄物を150~500℃の温度及び20~300バールの圧力で加熱して、液体炭化水素を製造することを開示している。米国特許第5,849,964号は、廃プラスチック材料を揮発性相と液相に解重合するプロセスを開示している。揮発性相は、気相と凝縮物に分離される。液相、凝縮物及び気相は、標準的な精製技術を用いて液体燃料成分に精製される。米国特許第6,143,940号は、廃プラスチックを重質ワックス組成物に変換するための手順を開示している。米国特許第6,150,577号は、廃プラスチックを潤滑油に変換するプロセスを開示している。欧州特許出願公開第0620264号は、廃ポリオレフィン又は未使用のポリオレフィンから潤滑油を製造するプロセスであって、廃棄物を流動床内で熱的に分解することにより、ワックス状生成物を形成し、任意選択で水素化処理を使用し、次いで触媒的に異性化及び分留して潤滑油を回収するプロセスを開示している。
【0004】
廃プラスチックを潤滑油に変換するためのプロセスに関する他の文書には、米国特許第6,288,296号、第6,774,272号、第6,822,126号、第7,834,226号、第8,088,961号、第8,404,912号及び第8,696,994号、並びに米国特許出願公開第2019/0161683号、第2016/0362609号、及び第2016/0264885号が含まれる。前述の特許文書は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0005】
熱分解を介したケミカルリサイクルの現在の方法では、プラスチック業界に大きな影響を与えることはできない。現在の熱分解操作では、品質に乏しい燃料成分(ナフサ及びディーゼル範囲の製品)が生成されるが、その量は十分少ないので、これらの生成物を燃料供給にブレンドすることができる。しかし、環境問題に対処するため、非常に大量の廃ポリエチレンと廃ポリプロピレンをリサイクルするためには、このような単純なブレンドを続けることはできない。熱分解ユニットから生成されたままの生成物は、品質があまりに乏しすぎるので、輸送用燃料に大量にブレンド(例えば、5~20vol%ブレンド)することはできない。
【0006】
使い捨てプラスチックを工業的に大量にリサイクルして環境への影響を減らすためには、より堅牢なプロセスが必要である。この改善されたプロセスでは、廃ポリエチレン及び廃ポリプロピレンプラスチックの「サーキュラーエコノミー(循環経済)」が確立されるべきであり、使用済みの廃プラスチックが、ポリマーや高価値の副生成物の出発原料として効果的にリサイクルされる必要がある。
【発明の概要】
【0007】
提供されるのは、廃プラスチックをポリエチレン重合のためのナフサに変換するための連続プロセスである。このプロセスは、最初にポリエチレン及び/又はポリプロピレンを含む廃プラスチックを選択することを含む。次いで、これらの廃プラスチックを熱分解反応器(pyrolysis reactor)に通して、ポリオレフィン廃棄物の少なくとも一部を熱的に分解し(thermally crack)、熱分解された流出物(pyrolyzed effluent)を生成する。熱分解された流出物は、オフガス、熱分解油及びワックス(ナフサ/ディーゼル留分及び重質留分を含む)、並びにチャーに分離される。
【0008】
このプロセスを石油精製(oil refinery)に組み込むことは、本プロセスの重要な側面であり、ポリエチレンなどの使い捨て廃プラスチックで、サーキュラーエコノミーを実現することができる。このように、回収された熱分解油及びワックスは、精製所の粗製ユニットに通される。ナフサ留分(C-C)は、蒸留塔から回収され、当該ナフサ留分は、エチレン製造用にスチームクラッカーに通される。
【0009】
精製所(refinery)は、一般に、精製ユニット(refinery units)を通って流れる独自の炭化水素の供給を有している。廃プラスチックの熱分解から生成され、精製ユニットへと流れる、熱分解油及びワックスの流れの体積は、精製ユニットへの流れ全体(総流量)の任意の実用的又は収容可能な体積%(vol%)を構成することができる。一般に、廃プラスチックの熱分解から生成される熱分解油及びワックスの流量は、実際的な理由から、総流量(すなわち、精製流量と熱分解流量)の最大約50vol%とすることができる。一実施形態では、熱分解油及びワックスの流量は、総流量の最大約20vol%の量である。
【0010】
別の実施形態では、ポリエチレンを含む廃プラスチックを、ポリエチレン重合のためのC-C流に変換するための連続プロセスが提供される。このプロセスは、ポリエチレン及びポリプロピレンを含む廃プラスチックを選択することを含む。選択された廃プラスチックを熱分解反応器に通して、ポリオレフィン廃棄物の少なくとも一部を熱的に分解し、熱分解された流出物を生成する。熱分解された流出物は、オフガス、熱分解油及びワックス(ナフサ/ディーゼル/重質留分を含む)、並びにチャーに分離される。熱分解油及び/又は任意選択でワックスは、精製所の粗製ユニット蒸留塔に通される。プロパン及びブタン(C-C)留分の一部は、蒸留塔から回収され、エチレン製造用にスチームクラッカーに通される。
【0011】
とりわけ他の要因の中でも、精製操作(refinery operation)を追加することにより、廃熱分解油(waste pyrolysis oil)及び廃熱分解ワックスを、ガソリン及びディーゼルなどの高価値製品にアップグレードできることがわかっている。また、精製操作を追加することにより、廃熱分解油及び廃熱分解ワックスから、清浄なナフサ(C-C)又はC-Cを効率的かつ効果的に生成し、究極のポリエチレンポリマーの生産ができることがわかっている。リサイクルされたプラスチックから、未使用のポリマーと同等の製品品質を備えたポリエチレン製品に至るプロセス全体において、プラスの経済性が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、廃プラスチックを熱分解して燃料又はワックスを生成する現在のプラクティスを示している(基本ケース)。
【0013】
図2図2は、廃プラスチックのサーキュラーエコノミー(循環経済)を確立するための本プロセスを示している。
【0014】
図3図3は、廃プラスチックのリサイクルに関するプラスチックのタイプ分類を示している。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本プロセスでは、廃ポリエチレン及び/又は廃ポリプロピレンを、未使用ポリエチレン(virgin polyethylene)にリサイクルする方法が提供され、別個の工業プロセスを組み合わせることによって、サーキュラーエコノミー(循環経済)を確立する。ポリエチレンとポリプロピレンポリマーの大部分は、使い捨てプラスチックに使用され、使用後に廃棄される。この使い捨てプラスチック廃棄物は、ますます重要な環境問題になってきている。現時点では、ポリエチレンやポリプロピレンの廃プラスチックを付加価値のある化学物質や燃料製品にリサイクルするための選択肢はほとんどないようである。現在、少量のポリエチレン/ポリプロピレンのみがケミカルリサイクルを介してリサイクルされ、このリサイクルされて清浄化されたポリマーペレットは、熱分解ユニットで熱分解され、燃料(ナフサ、ディーゼル)、スチームクラッカー供給原料、又はスラックワックスが生成される。
【0016】
エチレンは、最も生産されている石油化学の基礎的要素(building block)である。エチレンは、スチームクラッキングを介して年間数億トン生産される。スチームクラッカーは、ガス状原料(エタン、プロパン及び/又はブタン)又は液体原料(ナフサ又はガスオイル)のいずれかを使用する。スチームクラッキングは、最高850℃の非常に高い温度で行われる非触媒的分解プロセスである。
【0017】
ポリエチレンは、さまざまな消費者向け製品や工業製品に広く使用されている。ポリエチレンは、最も一般的なプラスチックであり、年間1億トン以上のポリエチレン樹脂が生産されている。その主な用途は、包装(ポリ袋、プラスチックフィルム、ジオメンブレン、ボトルなどの容器)である。ポリエチレンは、以下の3つの主要な形態で生産され、これらは同じ化学式(Cであるが、分子構造が異なっている:高密度ポリエチレン(HDPE、約0.940~0.965g/m-3)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE、約0.915~0.940g/cm-3)、低密度ポリエチレン(LDPE、<0.930g/cm-3)。HDPEは、分岐度が低くて側鎖が短いのに対して、LDPEは、分岐度が非常に高くて側鎖が長い。LLDPEは、実質的に直鎖状のポリマーで、かなりの数の短い分岐を有し、通常、エチレンと短鎖アルファオレフィンとの共重合によって作られる。
【0018】
低密度ポリエチレン(LDPE)は、150~300℃、及び1,000~3,000気圧の非常に高い圧力で、ラジカル重合によって生成される。このプロセスでは、少量の酸素及び/又は有機過酸化物開始剤を用いて、平均ポリマー分子あたり約4,000~40,000の炭素原子を有し、多くの分岐を有するポリマーを生成する。高密度ポリエチレン(HDPE)は、比較的低い圧力(10~80気圧)、及び80~150℃の温度で、触媒の存在下で生成される。チーグラー・ナッタ有機金属触媒(アルミニウムアルキルを有する塩化チタン(III))とフィリップス型触媒(シリカに担持した酸化クロム(IV))が典型的には使用され、ループ反応器を用いたスラリープロセス、又は流動床反応器を用いた気相プロセスを介して、この製造が行われる。水素がエチレンに混合されて、ポリマーの鎖長を制御する。直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の製造条件は、エチレンと短鎖アルファオレフィン(1-ブテン又は1-ヘキセン)との共重合を除いて、HDPEの製造条件と同様である。
【0019】
今日、使用済みポリエチレン製品のごく一部のみがリサイクルのために収集されている。これは、上述したリサイクルの取り組みの非効率性と非効果性のためである。
【0020】
図1は、今日の業界で一般的に行われている廃プラスチック燃料又はワックスの熱分解の図を示している。上述したように、一般的に、ポリエチレンとポリプロピレンの廃棄物は、一緒に選別される(1)。洗浄されたポリエチレン/ポリプロピレン廃棄物2は、熱分解ユニット3において、オフガス4及び熱分解油(液体生成物)に変換され、場合によってはワックスに変換される。熱分解ユニットからのオフガス4は、熱分解ユニット3を操作するための燃料として使用される。オンサイト蒸留ユニット(図示せず)は、熱分解油を分離してナフサ及びディーゼル製品5を製造し、これらを燃料市場に販売する。重質熱分解油留分6は、燃料収量を最大化するために熱分解ユニット3に再循環される。チャー7は、熱分解ユニット3から除去される。重質留分6は、長鎖の直鎖状炭化水素に富み、非常にワックス状である(すなわち、周囲温度まで冷却するとパラフィン系ワックスを形成する)。このワックスは、重質留分6から分離して、ワックス市場に販売することができる。
【0021】
本プロセスは、廃ポリマーの熱分解生成物流を石油精製操作(oil refinery operation)に統合することにより、熱分解されたポリエチレン及び/又はポリプロピレンの廃プラスチックを大量に変換する。得られたプロセスは、ポリマーの原料(エチレンクラッカー用のナフサ又はC-C)、並びに高品質のガソリン及びディーゼル燃料、及び/又は高品質の基油を生成する。
【0022】
一般に、本プロセスは、ポリエチレンプラントのためのサーキュラーエコノミー(循環経済)を提供する。ポリエチレンは、純粋なエチレンの重合を介して製造される。清浄なエチレンは、スチームクラッカーを使用して製造することができる。ナフサ又はC-Cのいずれかの流れを、スチームクラッカーに供給することができる。次いで、エチレンを重合して、ポリエチレンを生成する。
【0023】
廃熱分解油及び廃熱分解ワックスを高価値製品(ガソリン及びディーゼル)にアップグレードするための、並びに、究極のポリエチレンポリマーの生産のためのスチームクラッカー用の清浄なLPG及びナフサを生産するための、精製操作を追加することによって、リサイクルされたプラスチックから、未使用のポリマーと同等の品質を備えたポリエチレン製品に至るプロセス全体において、プラスの経済性を生み出すことができる。
【0024】
熱分解ユニットは、カルシウム、マグネシウム、塩化物、窒素、硫黄、ジエン、及び重質成分などの汚染物質を含む低品質の製品を製造し、これらの製品は、輸送用燃料のブレンドのために大量に使用することができない。これらの製品を精製ユニットに通すことにより、汚染物質を前処理ユニットで捕捉し、それらの悪影響を軽減できることがわかっている。燃料成分は、化学変換プロセスを備えた適切な精製ユニットでさらにアップグレードすることができ、統合プロセスによって製造される最終的な輸送用燃料は、より高品質で、燃料の品質要件を満たすことができる。統合プロセスは、エチレン生成及びポリエチレン製造用のスチームクラッカー原料として、はるかに清浄なナフサ流を生成する。これらの仕様通りの大量生産により、実現可能なリサイクルプラスチックの「サーキュラーエコノミー」が可能になる。
【0025】
精製操作において出入りするカーボンは「透明」(“transparent”)であり、これは、廃プラスチックからのすべての分子が、ポリオレフィンプラントに循環して戻り、正確なオレフィン製品になるとは限らないことを意味するが、それにもかかわらず、精製所に出入りする正味の「グリーン」カーボン(“green”carbon)がポジティブであるため、「クレジット(credit)」と見なされる。この統合プロセスにより、ポリエチレンプラントに必要な未使用供給原料の量は大幅に削減されることになる。
【0026】
図2は、効果的なポリエチレン生産のために、精製操作をリサイクルと統合した本統合プロセスを示している。図2では、混合廃プラスチックは、一緒に選別される(21)。洗浄された廃プラスチック22は、熱分解ユニット23において、オフガス24と熱分解油(液体生成物)と、場合によってはワックス(周囲温度で固体生成物)とに変換される。熱分解ユニットからのオフガス24は、熱分解ユニット23を操作するための燃料として使用することができる。熱分解油は、一般に、オンサイト蒸留ユニットで、ナフサ/ディーゼル留分25と重質留分26に分離される。熱分解工程の完了後、チャー27は、熱分解ユニット23から除去される。
【0027】
熱分解ユニットは、廃プラスチック収集サイトの近くに配置することができ、このサイトは、精製所から離れた場所、精製所の近く、又は精製所内にあることができる。熱分解ユニットが精製所から離れた場所にある場合、熱分解生成物(ナフサ/ディーゼル及び重質油)は、トラック、はしけ、鉄道車両、又はパイプラインによって精製所に移送することができる。しかしながら、熱分解ユニットは、プラスチック収集サイト又は精製所内にあることが好ましい。
【0028】
本プロセスの好ましい出発材料は、主にポリエチレンとポリプロピレンを含む選別された廃プラスチックである(プラスチックリサイクル分類タイプ2、4、及び5)。事前に選別された廃プラスチックは、洗浄され、細断又はペレット化されて、熱分解ユニットに供給され、熱分解される。図3は、廃プラスチックのリサイクルに関するプラスチックのタイプ分類を示している。分類タイプ2、4、及び5は、それぞれ高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、及びポリプロピレンである。ポリエチレンとポリプロピレンの廃プラスチックは、任意の組合せで使用することができる。本プロセスでは、少なくともいくらかのポリエチレンの廃プラスチックを使用することが好ましい。
【0029】
N、Cl、Sなどの汚染物質を最小限に抑えるには、廃プラスチックを適切に選別することが非常に重要である。ポリエチレンテレフタレート(プラスチックリサイクル分類タイプ1)、ポリ塩化ビニル(プラスチックリサイクル分類タイプ3)及びその他のポリマー(プラスチックリサイクル分類タイプ7)を含むプラスチック廃棄物は、5%未満、好ましくは1%未満、最も好ましくは0.1%未満に選別される必要がある。本プロセスは、適度な量のポリスチレンを許容できる(プラスチックリサイクル分類タイプ6)。廃ポリスチレンは、30%未満、好ましくは20%未満、最も好ましくは5%未満に選別される必要がある。
【0030】
廃プラスチックを洗浄すると、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの汚染物質、及び他の廃棄物源からの非金属汚染物質が除去される。非金属汚染物質には、シリカなどの周期表第IV族からの汚染物質、リンや窒素化合物などの第V族からの汚染物質、硫黄化合物などの第VI族からの汚染物質、及び、フッ化物、塩化物、ヨウ化物などの第VII族からのハロゲン化物汚染物質が含まれる。残留金属、非金属汚染物質、及びハロゲン化物は、50ppm未満、優先的には30ppm未満、最も優先的には5ppm未満まで除去する必要がある。
【0031】
洗浄によって金属、非金属汚染物質、及びハロゲン化物不純物が適切に除去されない場合は、別のガード床を使用して金属及び非金属汚染物質を除去することができる。
【0032】
熱分解は、プラスチック材料原料を、熱分解ゾーン内において熱分解条件で接触させることによって行われ、そこでは、供給原料の少なくとも一部が分解され、それにより、オレフィン及びn-パラフィンを含む熱分解ゾーン流出物が形成される。熱分解条件は、約400℃~約700℃、好ましくは約450℃~約650℃の温度を含む。従来の熱分解技術は、大気圧を超える圧力での操作条件を教示している(例えば、米国特許第4,642,401号を参照)。さらに、圧力を下方に調整することにより、所望の生成物の収率を制御できることがわかっている(例えば、米国特許第6,150,577号を参照)。したがって、そのような制御が望まれるいくつかの実施形態では、熱分解圧力は大気圧未満である。
【0033】
図2は、熱分解ユニットからの熱分解油及びワックス全体が精製所・粗製ユニット脱塩装置28に送られる本統合プロセスを示している。粗製ユニット脱塩装置は、熱分解生成物中の汚染物質を除去し、次いで、その生成物は、粗製ユニット蒸留塔に送られる(精製所・粗製ユニットの一部としては図示せず)。あるいは、熱分解油及びワックスを、熱分解サイトで処理して汚染物質を除去し、次いで、精製所・粗製蒸留ユニット(refinery crude distillation unit)に直接注入することもできる。
【0034】
精製所・粗製ユニット(refinery crude unit)は、粗製油を、液化石油ガス(LPG)、ナフサ、灯油、ディーゼル、ガス油などの複数の留分に分離し、さらに処理して有用な石油製品にする。精製所・粗製ユニットには、一般に脱塩装置として知られる粗製油処理セクションと、粗製油蒸留セクション又は粗製油分留セクションがある。蒸留セクションは、典型的には、常圧蒸留ユニット及び真空蒸留ユニットを含む。
【0035】
熱分解油(及びワックス)を、脱塩装置に供給し、油に含まれる塩と固形物を除去して、汚染物質の有害な影響から下流の機器を保護する。
塩を除去するために、水を油と混合し、典型的には、約215°F~約280°Fの温度に加熱して、脱塩装置内で分離する。
【0036】
精製所は、一般に、精製ユニットを通って流れる独自の炭化水素の供給を有している。廃プラスチックの熱分解から生成され、精製ユニットへと流れる熱分解油及びワックスの流れの体積は、精製ユニットへの流れ全体(総流量)の任意の実用的又は収容可能な体積%(vol%)を構成することができる。一般に、廃プラスチックの熱分解から生成される熱分解油及びワックスの流量は、実際的な理由から、総流量(すなわち、精製流量と熱分解流量)の最大約50vol%とすることができる。一実施形態では、熱分解油及びワックスの流量は、総流量の最大約20vol%の量である。別の実施形態では、熱分解油及びワックスの流量は、総流量の最大約10vol%の量である。約20vol%は、精製所への影響において非常に実用的な量であると同時に、優れた結果を提供し、収容可能な量であることがわかっている。もちろん、熱分解から生成される熱分解油及びワックスの量は、精製ユニットに通される留分が、流量の所望の体積%を提供するように制御することができる。
【0037】
脱塩された油及びワックスは、蒸留塔の底部で約340~372℃(644~700°F)に加熱された常圧蒸留ユニットに送られ、分別蒸留塔のさまざまな場所で液体が除去されて、さまざまな燃料が生成される。粗製ユニットからの燃料は、精製所のさまざまなアップグレードユニットに送られ、不純物(窒素、硫黄)を除去し、留分を触媒的に変換して、オクタン価やセタン価などの製品特性を改善することができる。常圧蒸留塔からの底部残油(常圧残油としても知られる)は、典型的には、真空蒸留塔に送られ、減圧軽油(650~1050°F)及び減圧残油を生成する。減圧軽油は、潤滑油を製造するために使用するか、さらに分解してガソリン、ジェット、及びディーゼル燃料を製造することができる。プロセス全体では、LPG(<80°F)、ガソリン(80~400°F)、ジェット燃料(360~500°F)、及びディーゼル燃料(300~700°F)を製造することができる。これらの留分の沸点は、季節や地域の仕様に応じて調整される。
【0038】
精製所・粗製蒸留ユニットから、C-Cナフサストリーム29、優先的にはC-Cナフサ、最も優先的にはC-Cナフサストリームを収集する。軽質ナフサ流は、直鎖状パラフィンが豊富であり、エチレン生成用のスチームクラッカー30のための非常に優れた軽質ナフサ供給原料である。エチレンは、重合ユニット40に通されてポリエチレンを製造する。ポリエチレンはさらに処理されて、消費者製品のニーズに合うようにさまざまなポリエチレン製品41が製造される。熱分解油の重質部分は、粗製ユニット蒸留からの炭化水素と組み合わされ、清浄なガソリン、ディーゼル、又はジェット燃料にアップグレードするために、重質ナフタ、ディーゼル、常圧軽油流31として適切な精製ユニットに送られる。
【0039】
エチレン重合ユニットは、原料(プロパン、ブタン、ナフサ)をパイプラインを介して移送できるように、精製所の近くに配置することが好ましい。精製所から離れた場所にある石油化学プラントの場合、原料は、トラック、はしけ、鉄道車両、又はパイプラインを介して配送することができる。
【0040】
別の実施形態では、C-C留分32は、精製所・粗製ユニット28から回収される。この流れは、エチレンの生成のために、スチームクラッカー30に供給することもできる。エチレンは、重合ユニット40に通されてポリエチレンを製造する。ポリエチレンはさらに処理されて、消費者製品のニーズに合うようにさまざまなポリエチレン製品41が製造される。
【0041】
サーキュラーエコノミーと効果的かつ効率的なリサイクルキャンペーンのメリットは、本統合プロセスによって実現される。
【0042】
以下の例は、本プロセスとその利点をさらに説明するために提供される。これらの例は、例示を目的としたものであり、限定することを意図したものではない。
【実施例
【0043】
[例1] 商業的供給源からの熱分解油及びワックスの特性
【0044】
熱分解油とワックスの試料を商業的供給源から入手した。それらの特性を表1に要約する。これらの熱分解試料は、主にポリエチレンとポリプロピレンを含む廃プラスチックから、ガスや触媒を添加せずに、約400~600℃、大気圧近くで熱分解反応器内での熱分解を介して調製した。熱分解ユニットは、典型的には、ガス、液体油製品、任意選択でワックス製品、及びチャーを生成する。熱分解ユニットの、熱的に分解された炭化水素を含むオーバーヘッドガス流を冷却し、凝縮物を、熱分解油(周囲温度で液体)及び/又は熱分解ワックス(周囲温度で固体)として収集した。熱分解油は、熱分解ユニットの主な製品である。熱分解ユニットによっては、熱分解油に加えて、別の製品として熱分解ワックスを生成するものもある。
【表1】
【0045】
比重測定にはASTM D4052法を用いた。シミュレートされた沸点分布曲線は、ASTM D2887法を用いて得た。炭素及び水素のCarlo-Erba分析は、ASTM D5291法に基づいて行った。臭素数の測定は、ASTM D1159法に基づいて行った。炭化水素タイプの分析は、高分解能磁気質量分析計を使用し、磁石を40~500ダルトンまでスキャンして行った。総硫黄は、ASTM D2622法に従ってXRFを使用して決定した。窒素は、修正ASTM D5762法により、化学発光検出を使用して決定した。総塩化物含有量は、修正ASTM 7359法により、燃焼イオンクロマトグラフィー機器を使用して測定した。ナフサ及び留出物の沸騰範囲の酸素含有量は、29~500のm/Z範囲の電子イオン化検出器を備えたGC/MS測定によるGCを使用して推定した。油中の微量金属及び非金属元素は、誘導結合プラズマ原子発光分析(ICP-AES)を使用して決定した。
【0046】
主にポリエチレン及びポリプロピレン廃棄物から供給される選別されたプラスチックの工業的熱分解プロセスでは、熱分解油又は熱分解ワックスの場合のように、比重が0.7~0.9の範囲で、沸点範囲が18~1100°Fの高品質の炭化水素流を生成した。
【0047】
熱分解生成物は、主に炭素及び水素から構成されるかなり純粋な炭化水素である。炭素に対する水素のモル比は、1.7~2.0近くまで変化する。臭素数は14~60の範囲にあり、これは、オレフィンと芳香族化合物に起因して、不飽和の程度がさまざまであることを示している。芳香族含有量は5~23体積%の範囲にあり、熱分解条件がより厳しいユニットほどより多くの芳香族化合物を生成する。熱分解ユニットのプロセス条件に応じて、熱分解生成物は、20vol%半ばから50vol%半ばの範囲のパラフィン含有量を示す。熱分解生成物には、かなりの量のオレフィンが含まれている。試料A及び試料Bは、より高い熱分解温度及び/又はより長い滞留時間などのより厳しい条件下で生成された熱分解油であり、芳香族成分が多くてパラフィン成分が少なく、その結果、H/Cモル比が約1.7で、臭素数が50~60と高い。試料C及び試料Dは、それほど厳しくない条件で生成され、それらの熱分解油はよりパラフィン性であり、その結果、H/Cモル比は2.0に近く、臭素数は約40になる。試料E(熱分解ワックス)は、ほとんどがパラフィン系の飽和炭化水素であり、(分岐炭化水素とは対照的に)かなりの量の直鎖炭化水素が含まれており、臭素数はわずか14である。
【0048】
以下の例2~例5は、輸送用燃料としての廃プラスチック熱分解油の評価を示している。
【0049】
[例2] 輸送用燃料として評価するための熱分解油の分留
【0050】
試料Dを蒸留して、炭化水素の複数の留分、すなわち、ガソリン(350°F)留分、ジェット(350~572°F)留分、ディーゼル(572~700°F)留分、及び重質(700°F)留分を生成した。表2は、蒸留生成物の各留分の沸点分布と不純物分布をまとめたものである。
【表2】
【0051】
[例3] ガソリン燃料用の熱分解油の留分の評価
【0052】
試料F(ガソリン燃料の沸点範囲の熱分解油の留分)について、ガソリン燃料としての使用可能性を評価した。試料Fの炭素数の範囲は、ガソリン燃料に典型的なC5~C12である。
【0053】
熱分解油はオレフィン性であるため、酸化安定性(ASTM D525)とガム形成傾向(ASTM D381)を、調査すべき最も重要な特性として特定した。リサーチ・オクタン価(RON)とモーター・オクタン価(MON)も、エンジン性能のための重要な特性である。RONの値とMONの値は、炭化水素の詳細なGC分析から推定した。
【表3】
【0054】
試料F(ガソリン燃料の沸点範囲の熱分解油の留分)は、品質に乏しいため、自動車用ガソリン燃料として単独で使用することはできない。熱分解油からのガソリン留分は、1440分を超える目標安定性と比較して、試料Fがわずか90分後に不合格となるという点で、非常に低い酸化安定性を示した。熱分解ガソリンは、洗浄ガム(wash gum)の目標である4mg/100mLを超えており、ガムの形成傾向が激しいことを示している。熱分解ガソリンは、参照ガソリンと比較して、オクタン価が低くなっている。プレミアム無鉛ガソリンを参照ガソリンとして使用した。
【0055】
我々はまた、限られた量の熱分解ガソリンの留分を参照ガソリンにブレンドする可能性についても検討した。我々の研究では、燃料特性の目標を達成しながら、試料Fの最大15体積%を精製ガソリンにブレンドできる可能性があることが示された。熱分解ガソリン製品を精製燃料と統合することにより、製品全体の品質を維持することができる。
【0056】
これらの結果は、熱分解油の生成されたままのガソリン留分には、ガソリン燃料としての有用性に限界があることを示している。熱分解油のこのガソリン留分を、ガソリン燃料特性の目標を満たす炭化水素に変換するには、精製ユニットでのアップグレードが好ましい。
【0057】
[例4] ジェット燃料用の熱分解油の留分の評価
【0058】
試料G(ジェット燃料の沸点範囲の熱分解油の留分)について、ジェット燃料としての使用可能性を評価した。試料Gの炭素数の範囲は、ジェット燃料に典型的なC9~C18である。
【0059】
熱分解油はオレフィン性であるため、ジェット燃料の熱酸化試験(D3241)が、最も重要な試験と見なされた。熱分解油のジェット留分そのままである試料Gは、酸化安定性がわずか36分しかなく、純粋な熱分解ジェット留分は、ジェット燃料として使用するには不適切であることを示している。
【0060】
我々は、熱分解ジェット留分(試料G)を、精製所で製造されたジェット燃料に5体積%ブレンドしたものを調製した。このブレンドは、表4に示すように、ジェット燃料の酸化試験において依然として不合格であった。
【表4】
【0061】
これらの結果は、熱分解油の生成されたままのジェット留分はジェット燃料には完全に不適切であることを示しており、熱分解油のこのジェット留分を、ジェット燃料の特性目標を満たす炭化水素に変換するには、精製ユニットでのアップグレードが必要であることを示している。
【0062】
[例5] ディーゼル燃料用の熱分解油の留分の評価
【0063】
試料H(ディーゼル燃料の沸点範囲の熱分解油の留分)について、ディーゼル燃料としての使用可能性を評価した。試料Hの炭素数の範囲は、ディーゼル燃料に典型的なC14~C24である。
【0064】
試料Hには、かなりの量の直鎖(normal)炭化水素が含まれている。直鎖炭化水素は、ワックス状の特性を示す傾向があるため、流動点(ASTM D5950-14)や曇り点(ASTM D5773)などの低温流動特性が最も重要な試験と見なされた。
【0065】
我々は、試料Hを、精製所で製造されたディーゼル燃料に、10体積%及び20体積%ブレンドした2つのブレンドを調製した。しかし、これらのブレンドは両方とも、流動点が-17.8℃(0°F)未満という目標流動点において、依然として不合格であった。
【表5】
【0066】
これらの結果は、熱分解油そのままでは、ディーゼル燃料には完全に不適切であることを示しており、熱分解油のディーゼル留分を、ディーゼル燃料の特性目標を満たす炭化水素に変換するには、精製ユニットでのアップグレードが必要であることを示している。
【0067】
[例6] 粗製ユニット又は脱塩ユニットへの熱分解生成物の共処理
【0068】
表1の結果は、主にポリエチレン及びポリプロピレンの廃棄物から供給される選別されたプラスチックの工業用熱分解プロセスにより、主に炭素及び水素から構成される高品質の熱分解油又は熱分解ワックスが生成されることを示している。良好な選別と効率的な熱分解ユニットの操作により、窒素と硫黄の不純物は十分に低いレベルにあるため、最新の精製所は、有害な影響を与えることなく、熱分解原料の処理ユニットへの共供給(cofeeding)を処理することができる。
【0069】
しかし、一部の熱分解油又はワックスには、依然として大量の金属(Ca、Fe、Mg)及びその他の非金属(P、Si、Cl、O)が含まれている場合があり、精製所の変換ユニットの性能に悪影響を及ぼす可能性がある。熱分解の場合、不純物レベルの高い生成物は、粗製ユニットの前に脱塩ユニットに優先的に供給されるため、その脱塩装置によって不純物の大部分が効果的に除去される。
【0070】
熱分解原料全体を粗製ユニットに供給するか、その粗製ユニットの前に脱塩ユニットに供給することにより、熱分解油及びワックスは、複数の成分に分留され、次いで、パラフィン異性化ユニット、ジェット水素化処理ユニット、ディーゼル水素化処理ユニット、流動接触分解ユニット(FCC)、アルキレーションユニット、水素化分解ユニット及び/又はコーカーユニットを含む後続の変換ユニットでさらに変換され、満足のいく製品特性を備えたガソリン、ジェット、及びディーゼル燃料が製造される。変換ユニット(FCC又は水素化分解ユニット)は、重質留分(試料Iに対応)又はワックス(試料E)も高品質の輸送用燃料に変換する。
【0071】
粗製ユニットの後、熱分解油及びワックスは、後続の粗製ユニットでさらに変換される。以下の例7及び例8は、精製変換ユニット(例としてFCCユニットを使用)において、廃プラスチック熱分解生成物を、高品質の輸送用燃料に変換することを実証している。
【0072】
[例7] FCCにおける熱分解油の変換
【0073】
廃プラスチックの熱分解油のFCCへの共処理(coprocessing)の影響を研究するために、試料Aと試料Cを用いて、一連の実験室試験を実施した。減圧軽油(VGO)は、FCCの典型的な供給原料である。VGOを用いた熱分解油の20%ブレンドと、純粋な熱分解油のFCC性能を、純粋なVGO供給原料のFCC性能と比較した。
【0074】
FCC実験は、Kayser Technology Inc.製のModel C ACE(advanced cracking evaluation:高度な分解評価)ユニットで行い、精製所からの再生平衡触媒(Ecat)を用いた。反応器は、流動化ガスとしてNを使用する固定流動反応器であった。接触分解実験は、大気圧及び900°Fの反応器温度で実施した。触媒の量を変えることにより、触媒/油の比率を5~8の間で変化させた。ガス生成物を収集し、FID検出器付きGCを備えた精製ガス分析ユニット(RGA)を使用して分析した。使用済み触媒のその場再生は、1300°Fの空気の存在下で行い、再生煙道ガスをLECOに通して、コークス収率を決定した。液体生成物を秤量し、GCで、シミュレートされた蒸留(D2887)とC 組成分析を行った。物質収支により、コークス、乾燥ガス成分、LPG成分、ガソリン(C5、~430°F)、軽質サイクル油(LCO、430~650°F)及び重質サイクル油(HCO、650°F)の収率を決定した。結果を以下の表6に要約する。
【表6】
【0075】
表6の結果は、熱分解油の最大20体積%の共供給がFCCユニットの性能にごくわずかな変化をもたらすだけであることを示しており、最大20%の熱分解油の共処理が容易に実行可能であることを示している。試料A又は試料Cの20体積%のブレンドにより、コークスとドライガスの収量がごくわずかに減少し、ガソリンの収量がわずかに増加し、LCOとHCOがわずかに減少した。これらは、ほとんどの状況で良好である。熱分解油はパラフィン系であるため、試料A又は試料Cの20%ブレンドにより、オクタン価が約3~5低下した。精製所の運用上の柔軟性により、これらのオクタン価のマイナス分は、ブレンド又は供給位置の調整で補うことができる。熱分解油を、FCCプロセスユニットを通してゼオライト触媒とともに共供給することにより、燃料範囲内の酸素及び窒素不純物は、窒素(N)が約300~1400ppmから約30ppmに、酸素(O)が約250~540ppmから約60~80ppmに、大幅に減少した。これらすべての共供給生成物の炭化水素組成は、典型的なFCCガソリンの範囲内に十分収まっている。
【0076】
100%熱分解油のFCC操作では、オクタン価の大幅なマイナス分(マイナス分は約13~14)を示した。これは、純粋な100%熱分解油の処理よりも、熱分解油の共処理が好ましいことを示している。
【0077】
[例8] FCCにおける熱分解ワックスの共処理
【0078】
廃プラスチックの熱分解ワックスのFCCへの共処理(coprocessing)の影響を研究するために、試料EとVGOを用いて、一連の実験室試験を実施した。例7と同様に、VGOを用いた熱分解ワックスの20%ブレンドと、純粋な熱分解ワックスのFCC性能を、純粋なVGO供給原料のFCC性能と比較した。結果を以下の表7に要約する。
【表7】
【0079】
表7の結果は、熱分解ワックスの最大20体積%の共供給がFCCユニットの性能にごくわずかな変化をもたらすだけであることを示しており、最大20%の熱分解ワックスの共処理が容易に実行可能であることを示している。試料Eの20体積%のブレンドにより、コークスと乾燥ガスの収量はほとんど変化せず、LPGオレフィンの収量が著しく増加し、ガソリンの収量がごくわずかに増加し、LCOとHCOがわずかに減少した。これらは、ほとんどの状況で良好である。熱分解油ワックスはパラフィン系であるため、試料Eの20%ブレンドにより、オクタン価がわずかに1.5低下した。精製所のブレンドの柔軟性により、このオクタン価のマイナス分は、わずかなブレンドの調整で簡単に補うことができる。
【0080】
100%熱分解ワックスのFCC操作では、変換率が大幅に増加し、オクタン価のマイナス分(マイナス分は6)を示した。これは、100%熱分解ワックスの処理よりも、熱分解ワックスの共処理が好ましいことを示している。
【0081】
[例9] 廃プラスチック熱分解生成物の精製所・粗製ユニットへの共供給からのC-C及び/又はナフサ生成の原料
【0082】
熱分解原料全体を粗製ユニットに供給するか、その粗製ユニットの前に脱塩ユニットに供給することにより、熱分解油及びワックスは、複数の成分に分留される。熱分解油の共供給により、精製所・粗製ユニット(refinery crude unit)は、かなりの量の清浄なプロパン流、ブタン流、及びナフサ流、並びに精製変換ユニット(refinery conversion units)用の他の流れを生成する。
【0083】
[例10] エチレン製造のためのスチームクラッカーへのリサイクルC-C及び/又はナフサの供給と、それに続くポリエチレン樹脂及びポリエチレンの消費者向け製品の製造
【0084】
プロパン、ブタン、及びナフサの流れは、熱分解生成物を、粗製ユニットに共供給することを介して生成される(例9)。これらの流れは、リサイクル成分を含むエチレンを生成するために、スチームクラッカーに共供給するのに適した原料である。少なくともこれらの流れの一部は(すべてではないにしても)、スチームクラッカーに供給される。エチレンは、重合ユニットへと処理され、リサイクルポリエチレン/ポリプロピレン由来の材料を含むポリエチレン樹脂が生成される。新しく生成されたポリエチレンの品質は、完全に未使用の石油資源から作られた未使用のポリエチレンと見分けがつかない。このリサイクルされた材料を含むポリエチレン樹脂を、さらに処理して、消費者向け製品のニーズに合うさまざまなポリエチレン製品を製造する。これらのポリエチレンの消費者向け製品は、化学的にリサイクルされた循環型ポリマーを含んでいるが、それらの製品の品質は、完全に未使用のポリエチレンポリマーから作られたものと見分けがつかない。これらの化学的にリサイクルされたポリマー製品は、未使用のポリマーから作られたポリマー製品よりも品質が劣る機械的にリサイクルされたポリマー製品とは異なる。
【0085】
本開示で使用される場合、「含む(comprises)」又は「含む(comprising)」という単語は、オープンエンドの移行語として意図され、指示された要素を包含することを意味するが、必ずしも他の指示されない要素を除外するものではない。「本質的に・・・からなる(consists essentially of)」又は「本質的に・・・からなる(consisting essentially of)」という句は、構成にとって本質的に重要な他の要素を除外することを意味することが意図されている。「からなる(consisting of)」又は「からなる(consists of)」という句は、微量の不純物のみを除いて、記載されている要素以外のすべてを除外することを意味する移行句として意図されている。
【0086】
本明細書で参照されるすべての特許及び刊行物は、本明細書と矛盾しない範囲で参照により本明細書に組み込まれる。上記の実施形態の特定の上記の構造、機能、及び操作は、本発明を実施するために必要ではなく、単に例示的な実施形態又は複数の実施形態を完全にするために説明に含まれることが理解されよう。さらに、上記の参照された特許及び刊行物に記載されている特定の構造、機能、及び操作は、本発明と組み合わせて実施することができるが、それらはその実施に必須ではないことが理解されよう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から実際に逸脱することなく、具体的に説明されるように実施され得ることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
【国際調査報告】