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特表2023-508389治療用ワクチンのための組換えポックスウイルスを設計する方法
<図1>
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】治療用ワクチンのための組換えポックスウイルスを設計する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20230222BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 39/285 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230222BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 35/76 20150101ALN20230222BHJP
   C07K 14/065 20060101ALN20230222BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20230222BHJP
   C12N 15/39 20060101ALN20230222BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
A61K39/00 Z
A61K39/285
A61P35/00
A61P37/04
C12P21/02 C
A61K35/76
C07K14/065
C07K19/00
C12N15/39
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022538881
(86)(22)【出願日】2020-12-22
(85)【翻訳文提出日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 EP2020087597
(87)【国際公開番号】W WO2021130210
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】19306751.9
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】599082883
【氏名又は名称】トランジェーヌ
【氏名又は名称原語表記】TRANSGENE
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ、グルリエ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C085
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG31
4B064AG32
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE10
4B064DA01
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA45
4C085AA03
4C085BA86
4C085BB01
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA31
4H045FA74
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、概して、治療用ワクチン、すなわち、個別化癌ワクチンのための組換えポックスウイルスを設計する方法であって、組換えポックスウイルスが、それぞれ複数のペプチド(すなわち、ネオペプチド)の融合体を発現する1又は2以上の発現カセットを含み、サーバ(1)の処理手段(11)によって、以下のステップ:(a)候補ペプチドの第1のサブセットを選択するステップ、ここで、候補ペプチドは、TMS閾値未満の膜貫通スコアを示す;(b)複数の可能な分配のうち、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定するステップ、ここで、2以上の発現カセットが存在する場合には、最適な分配は、2以上の発現カセットのハイドロパシースコアのうち、最も低い範囲を示す;(c)最も低いTMスコアを有するペプチド融合体を選択するために、各発現カセットについて、カセットのスロット占有ルールの関数として候補ペプチドの最適なスロット割り当てを決定するステップ;(d)組換えポックスウイルスを作製するために、1又は2以上の発現カセットのヌクレオチド配列を含むDNAトランスファー配列を決定するステップを実行することを含む、方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ1又は複数のペプチドの融合体を発現する1又は2以上の発現カセットを含む組換えポックスウイルスを設計する方法であって、
サーバ(1)の処理手段(11)によって、以下のステップ:
(a)候補ペプチドの第1のサブセットを選択するステップ、ここで、候補ペプチドは、TMS閾値未満の膜貫通スコアを示す;
(b)複数の可能な分配のうち、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定するステップ、ここで、2以上の発現カセットが存在する場合には、最適な分配は、2以上の発現カセットのハイドロパシースコアのうち、最も低い範囲を示す;
(c)最も低いTMスコアを有するペプチド融合体を選択するために、各発現カセットについて、カセットのスロット占有ルールの関数として候補ペプチドの最適なスロット割り当てを決定するステップ;
(d)組換えポックスウイルスを作製するために、1又は2以上の発現カセットのヌクレオチド配列を含むDNAトランスファー配列を決定するステップ
を実行することを含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)のペプチドが、相同性閾値未満の連続領域を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)が、ペプチドがTMS閾値を超える膜貫通スコアを示す場合、及び/又は、予測された免疫原性に従ってより高くランク付けされた候補に対して、ペプチドが相同性閾値を超える相同領域を示す場合には、ペプチドを除外し;且つ、特定された候補ペプチドのセットのうちの第2のサブセットを、第1のサブセットにおいて開示も選択もされていない候補ペプチドとして選択することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)が、可能な分配の数がサーバ(1)の処理手段(11)のリソースの所与の最大限のファンクション数を超える場合には、複数の可能な分配のうちの最大限の数の可能な分配の少なくとも1回の反復の間に、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定することを試行することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)が、最大限の数の可能な分配の反復のうちの可能な分配のそれぞれについて、1以上の発現カセットが所与の閾値を超えるハイドロパシースコアを示す場合には、最大限の数の可能な分配の再度の反復を検討し;或いは、最高のハイドロパシースコアを示す候補ペプチドのうちの第1のサブセットからの候補ペプチドを、第2のサブセットからの候補ペプチドに置き換え、ステップ(a)のペプチド選択を再度続行する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)が、TMSK7閾値を超えるスコアを有する1以上のTMパッチを示すペプチド融合体を除外することをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)が、発現カセット中の候補ペプチドの可能なスロット割り当てにおいて、1以上の膜貫通ドメインが検出される場合には、最高の膜貫通スコアを示す候補ペプチドのうちの第1のサブセットからの候補ペプチドを、第2のサブセットからの候補ペプチドに置き換え、ステップ(b)、次いで、ステップ(c)を繰り返すことを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
カセットのスロット占有ルールが、ペプチドの膜貫通スコアに従って、又は、膜貫通スコアが等しい場合にはそれらのハイドロパシースコアに従って、カセット内の候補ペプチドの可能なスロット位置を決定する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
発現カセットに分配される候補ペプチドが、組換えポックスウイルスを作製又は生産しないリスクの3以上のクラスに従って分類され、カセットのスロット占有ルールが、カセットの各スロット位置について、候補ペプチドがこのスロット位置に割り当てられるべきクラスを決定する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
選択された候補ペプチドの数が10未満の場合には単一の発現カセットが存在し、選択された候補ペプチドの数が10~14の場合には2個の発現カセットが存在し、選択した候補ペプチドの数が15~30の場合には3個の発現カセットが存在する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
組換えポックスウイルスを含む治療用ワクチンを調製する方法であって、以下のステップ:
組換えウイルスを設計するために、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法を実行するステップ;
組換えポックスウイルスを作製するステップ
を含む、方法。
【請求項12】
組換えポックスウイルスを製造するステップをさらに含む、請求項11に記載の方法であって、
組換えポックスウイルスを製造するステップが、適切な生産細胞において適切な規模へ増幅させるステップ、生産された組換えポックスウイルスを細胞培養物から回収するステップ、及び、場合により、回収された組換えポックスウイルスを精製するステップを含む、方法。
【請求項13】
組換えポックスウイルスが、ネオペプチドをコードし、且つ、それを必要とする対象において癌を治療するため又は対象におけるその再発を予防するために使用される、請求項11及び12のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、それぞれ1又は複数のペプチドの融合体を発現する1又は2以上の発現カセットを含む組換えポックスウイルスを設計する方法、当該組換えポックスウイルスを調製する方法、並びに当該組換えポックスウイルス及び疾患の治療又は予防、特に癌の治療又は予防のためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ここ数十年間で、抗原を発現する多数の治療用ワクチンが、当該抗原に対する自然免疫応答及び特異的免疫応答を刺激することを目的として、作製されている。例えば、最初の癌ワクチンの多くは、最も一般的に特定され、腫瘍で過剰発現している腫瘍関連抗原(TAA)(例えば、MUC-1、WT1、PSA、CEA)に対する免疫系を抗原刺激するために構築された。しかしながら、これらのTAAは、非腫瘍細胞において残存発現する可能性があり、したがって、この従来のアプローチの有効性は、このような「自己」抗原に対する自己寛容によって制限されることが予想される。その他のグループもまた、候補ワクチンの有効性を改善し、且つ、様々な疾患関連抗原に対する特異的なT細胞応答を広く誘導するために、マルチエピトープポリペプチドの使用に着目している(例えば、Depla et al., 2008, J. Virol. 82(1): 435-450)。CTLエピトープを特定し、複数のマルチエピトープ含有ポリペプチドをコードする遺伝子を合成し、DNAプラスミド及びウイルスベクターを介してそれらを送達する技術は、現在非常に適している。
【0003】
さらに、同一セットの癌抗原を集団内の全員に送達するための従来のパラダイムは、疾患リスク及び免疫応答の個々の変動性を無視している。重要なことに、ヒトはワクチンに対して様々に反応し、宿主の免疫応答は集団内で大幅に異なるということは、無視することができない(Relman, 2008, J Infect Dis. 198(1):4-5; Plotkin, 2008, Clin Infect Dis.47(3):401-9)。クリニックにおける免疫チェックポイント遮断薬の最近の導入とともに、ある治療は一部の患者には有効であるが、その他の患者には有効でないということが医療従事者にとって実際に明らかとなってきている。
【0004】
免疫学、遺伝学、分子生物学及びバイオインフォマティクスの進歩が、より個別化されたアプローチへの道を開いている。ゲノムシークエンシング(例えば、次世代シークエンシング(NGS))の分野における技術的なブレークスルーにより、今では、腫瘍の全ゲノム又はエクソーム(ゲノムのコード領域)を、前例のないスピード及びコストで配列決定することが可能となっている。腫瘍の分子キャラクタリゼーションにより、癌細胞の発癌及び増殖の過程中に変異が、高速の増殖、修復機序の欠陥及びクローン選択の結果として生じることが実証された。腫瘍ゲノムにおける変異の蓄積は、一般に、癌組織に特異的な異常型タンパク質種の発現をもたらす。それらはネオ抗原と呼ばれる。最も一般的な腫瘍関連抗原とは対照的に、腫瘍ネオ抗原は、腫瘍細胞にのみ存在し、正常細胞には存在せず、胸腺における抗原特異的T細胞の除去を誘導しない。したがって、それらは、自己タンパク質に対する自己寛容及び自己免疫応答のリスクを負うことなく、強力な免疫応答を誘導することが予想される。したがって、慣例的なケアにおける腫瘍ネオ抗原の採用は、いくつかの科学的及び技術的な課題を克服することを必要とするが、腫瘍ネオ抗原は、腫瘍に特異的に適合された治療用ワクチンを設計するための理想的な標的となり得る。特に、ほとんどの癌変異は、確率的現象の結果であり、各患者に特異的である。
【0005】
その他のトピックの中でも、橋渡しの成功は、患者のベッドサイドに臨床的に十分な量を迅速に送達することを保証するための有効な製造方法の達成に従属し、この理由は、腫瘍変異の特定、当該変異を組み込んだネオペプチドの設計、個別化ワクチンの製造及び試験は、疾患進行に付随するためである。
【0006】
したがって、出願WO2018/234506において、複数のネオペプチド(それぞれが1以上の腫瘍特異的変異を含む)をコードする組換えポックスウイルスを含む個別化癌ワクチン、及び当該個別化癌ワクチンを調製する方法が提案されている。ポックスウイルスは二本鎖DNAウイルスであり、その生活環は細胞質で行われ、細胞機構及びそれ自体のウイルスタンパク質を使用して複製する。
【0007】
より詳細には、この方法は、いわゆる個別化癌ワクチンがコードするのに適したネオペプチドを特定するステップ、及び当該組換えポックスウイルスを作製するステップを含む。この目的のために、組換えポックスウイルスのゲノムに挿入される当該ペプチドをコードする核酸分子は、対象における発現を可能にする好適な調節エレメントの制御下で1又は2以上の「発現カセット」(好ましくは、3個のカセットであり、それぞれが最大10個のペプチドを有する融合体である)内に、ランダムであるが、融合体の長さの観点でバランスに配慮して、配置される。組換えポックスウイルス自体の作製は、通常、親ポックスウイルスと、ペプチド発現カセット及び追加機能(例えば、発現カセットのクローニングに必要な隣接する組換え用のアーム及び酵素切断部位)を含む「トランスファー」プラスミドとの間の相同組換えによって実施される。ペプチド発現カセットを組み込んだ組換えポックスウイルスの選択は、組換え状態の確認にはより詳細な分析(例えば、PCR)が必要であるが、ポックスウイルスゲノム内への発現カセットの挿入を反映することを目的とした選択マーカー又は着色マーカーをコードするレポーター遺伝子の使用によって促進され得る。
【0008】
しかしながら、疎水性ペプチド及び膜貫通(TM)ドメインを有するペプチドの発現は、組換えウイルスの作製又は生産を損ない得、したがって、一部のワクチン候補の開発を不可能にする可能性がある疑義がある。TMドメインが所与のペプチド内に存在する(ペプチド内TM)場合には、当該ペプチドは単に除外され得る。しかしながら、TMドメインは、発現カセットにコードされる融合体内の2個の特定のペプチドの接合によって生成され得ること(ペプチド間TM)も観察され、これは、ペプチドの順序を変更する必要がある。ポックスウイルスの別の特徴は、相同組換え現象に対する感受性である。制御下では、遺伝子工学にとっては利点であるが、予期しない相同領域が組み込まれる場合は問題として残る。
【0009】
この問題に対処する簡単な方法は、疎水性インデックスの高いTM及びペプチドを単純に除外することであるが、WO2018/234506の実施例5に示されるように、これはあまり効果的ではない。この実施例は、3個の発現カセットに分配された30個のペプチドのセットを発現するように設計された組換えMVAの作製がいかに難しいかを示している。ペプチド間(ペプチドの反転による)及びペプチド内(TM含有ペプチドの除外による)の潜在的なTMセグメントの排除は、発現する組換えMVAを作製することを可能にしなかった。ペプチド融合体の疎水性スコアの低減(133スコアから28.5スコア)もまた、発現する組換えMVAを作製することを可能にしなかった。これは、TMを含まないペプチド及び疎水性インデックスの低いペプチドを選択した場合であっても、組換えポックスウイルスの作製又は生産が、依然として非常に低いことを示している。
【発明の概要】
【0010】
上記の理由により、複数のペプチド又は1若しくは2以上のペプチド融合体を発現する最適化された発現カセットを設計するための解決策が必要である。本発明は、以下の特性:疎水性度及び疎水性に関連するタンパク質の特徴、膜貫通ドメインを形成する傾向、並びに配列相同性、並びに融合体内の一方のペプチドに対する他方のペプチドの位置に基づく方法を提案する。実施例のセクションに示されているように、本発明の方法は、組換えポックスウイルス作製の収量を増加させることを可能にする。
【0011】
この技術的課題は、特許請求の範囲に定義される実施形態の提供により解決される。
【0012】
本発明のその他の及び追加の態様、特徴及び利点は、本発明の現在好ましい実施形態の以下の記載から明らかである。これらの実施形態は、開示の目的のために示される。
【0013】
発明の簡単な要約
第1の態様によれば、本発明は、それぞれ1又は複数のペプチドの融合体を発現する1又は2以上の発現カセットを含む組換えポックスウイルスを設計する方法であって、
サーバの処理手段によって、以下のステップ:
(a)候補ペプチドの第1のサブセットを選択するステップ、ここで、候補ペプチドは、TMS閾値未満の膜貫通スコアを示す;
(b)複数の可能な分配のうち、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定するステップ、ここで、2以上の発現カセットが存在する場合には、最適な分配は、2以上の発現カセットのハイドロパシースコアのうち、最も低い範囲を示す;
(c)最も低いTMスコアを有するペプチド融合体を選択するために、各発現カセットについて、カセットのスロット占有ルール(cassette slot occupancy rule)の関数として候補ペプチドの最適なスロット割り当てを決定するステップ;
(d)組換えポックスウイルスを作製するために、1又は2以上の発現カセットのヌクレオチド配列を含むDNAトランスファー配列を決定するステップ
を実行することを含む、方法に関する
【0014】
有利で非限定的な特徴は、以下のとおりである。
【0015】
ステップ(a)のペプチドが、相同性閾値未満の連続領域を示す。
【0016】
ステップ(a)が、ペプチドがTMS閾値を超える膜貫通スコアを示す場合、及び/又は、予測された免疫原性に従ってより高くランク付けされた候補に対して、ペプチドが相同性閾値を超える相同領域を示す場合には、ペプチドを除外し;且つ、特定された候補ペプチドのセットのうちの第2のサブセットを、第1のサブセットにおいて開示も選択もされていない候補ペプチドとして選択することを含む。
【0017】
ステップ(b)が、可能な分配の数がサーバの処理手段のリソースの所与の最大限のファンクション数(given maximum number function of resources of the processing means of the server)を超える場合には、複数の可能な分配のうちの最大限の数の可能な分配の少なくとも1回の反復の間に、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定することを試行する。
【0018】
ステップ(b)が、最大限の数の可能な分配の反復のうちの可能な分配のそれぞれについて、1以上の発現カセットが所与の閾値を超えるハイドロパシースコアを示す場合には、最大限の数の可能な分配の再度の反復を検討し;或いは、最高のハイドロパシースコアを示す候補ペプチドのうちの第1のサブセットからの候補ペプチドを、第2のサブセットからの候補ペプチドに置き換え、ペプチド選択を再度続行する。
【0019】
ステップ(c)が、TMSK7閾値を超えるスコアを有する1以上のTMパッチを示すペプチド融合体を除外することをさらに含む。
【0020】
ステップ(c)が、発現カセット中の候補ペプチドの可能なスロット割り当てにおいて、1以上の膜貫通ドメインが検出される場合には、最高の膜貫通スコアを示す候補ペプチドのうちの第1のサブセットからの候補ペプチドを、第2のサブセットからの候補ペプチドに置き換え、ステップ(b)、次いで、ステップ(c)を繰り返すことを含む。
【0021】
カセットのスロット占有ルールが、ペプチドの膜貫通スコアに従って、又は、膜貫通スコアが等しい場合にはそれらのハイドロパシースコアに従って、カセット内の候補ペプチドの可能なスロット位置を決定する。
【0022】
発現カセットに分配される候補ペプチドが、組換えポックスウイルスを作製又は生産しないリスクの3以上のクラスに従って分類され、カセットのスロット占有ルールが、カセットの各スロット位置について、候補ペプチドがこのスロット位置に割り当てられるべきクラスを決定する。
【0023】
発現カセットに分配される候補ペプチドの最適なスロット割り当てが、所与の閾値未満の膜貫通スコアを示す。
【0024】
選択された候補ペプチドの数が10未満の場合には単一の発現カセットが存在し、選択された候補ペプチドの数が10~14の場合には2個の発現カセットが存在し、選択した候補ペプチドの数が15~30の場合には3個の発現カセットが存在する。
【0025】
第2の態様によれば、本発明は、組換えポックスウイルスを含む治療用ワクチンを調製する方法であって、以下のステップ:
組換えウイルスを設計するために、第1の態様による方法を実行するステップ;
組換えポックスウイルスを作製するステップ
を含む、方法。
【0026】
有利で非限定的な特徴は、以下のとおりである。
【0027】
この方法が、組換えポックスウイルスを製造するステップをさらに含み、
組換えポックスウイルスを製造するステップが、適切な生産細胞において適切な規模へ増幅させるステップ、生産された組換えポックスウイルスを細胞培養物から回収するステップ、及び、場合により、回収された組換えポックスウイルスを精製するステップを含む。
【0028】
組換えポックスウイルスが、ネオペプチドをコードし、個別化癌ワクチンとして使用するためのものである。
【0029】
第3の態様によれば、本発明は、第2の態様による方法に従って得られる個別化癌ワクチンであって、個別化癌ワクチンが、治療有効量の組換えポックスウイルス及び薬学的に許容可能なビヒクルを含み、好ましくはそれを必要とする対象において癌を治療するため、又は対象においてその再発を予防するために、使用するためのものである、個別化癌ワクチンに関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、ペプチドの融合体を発現する組換えポックスウイルスを設計するための本発明による方法の一般的なスキームを表す図である。主なステップ(a)~(d)は、灰色のボックスで示されている(HSK7:融合体のハイドロパシースコア;HSK7Thresh:HSK7閾値;TM patch:膜貫通パッチ;TMSK7:融合体のTMS閾値)。
図2図2は、サーバ1、データ処理手段11、ストレージ手段12及びインターフェース13を含む、本発明による方法を実行するためのアーキテクチャ(architecture)を表す図である。
図3図3は、本発明による方法における組換えポックスウイルスによる発現に適した候補ペプチドを選択するステップ(a)の実施形態を示すフローチャートである(TMS:膜貫通スコア;TMSThresh:ペプチドのTMS閾値;N:候補ペプチドの総数;Nmax:ペプチドの最大限の数)。
図4図4は、本発明による方法における候補ペプチドの最適なカセット間分配を決定するステップ(b)の実施形態を示すフローチャートである(L:低、M:中、H:高)。クラスL、M及びHは、組換えポックスウイルスを作製又は生産しないリスクを示す(TMS:膜貫通スコア;HS:ハイドロパシースコア;HSK7:融合体のハイドロパシースコア;HSK7Thresh:HSK7閾値;Nmin:ペプチドの最小限の数;R:範囲;RThresh:範囲閾値;iter:反復)。
図5図5は、ペプチドの総数及びカセット間分配におけるペプチドのクラスに応じてペプチドをカセットにペプチドを分配する表の例を示す図である(L:低、M:中、H:高)。
図6図6は、膜貫通スコア及びハイドロパシースコアによるペプチドのランク付けの例を示す図である(TMS:膜貫通スコア、HS:ハイドロパシースコア、L:低、M:中、H:高)。
図7図7は、各発現カセットについて候補ペプチドの最適なスロット割り当てを決定するステップ(c)の実施形態を示すフローチャートである(TMS:膜貫通スコア;TM patch:膜貫通パッチ;TMSK7Thresh:融合体のTMS閾値;iter:反復)。
図8図8は、ペプチド数に応じたスロット占有ルールの例を示す図である。 A)カセットのペプチド数n及びペプチドのクラスに応じた10個のスロットの占有ルールの実施形態を表す図である(ライトグレー:「低」クラス;ミディアムグレー:「中」クラス;ダークグレー:「高」クラス)。 B)カセットのペプチド数n及びペプチドのクラスに応じたスロット占有の表であり、可能な組み合わせの数を示す。
図9図9は、組換えポックスウイルスに挿入されるDNAトランスファー配列の決定を可能にする、本発明による逆翻訳のステップ(d)の実施形態を示すフローチャートである。
図10図10は、個別化癌ワクチンを設計する手動のアプローチを使用して得られた3個の発現カセット(A、B及びC)を有する組換えポックスウイルス(各カセットにそれぞれ10個及び6個のネオペプチドを発現するpTG19247及びpTG19266)の例を示す図である(TM domains:膜貫通ドメイン;HSK7:融合体のハイドロパシースコア;PCR:ポリメラーゼ連鎖反応)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
一般的な定義
特に定義されない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する当業者により通常理解されるものと同じ意味を有する。
【0032】
用語「a」及び「an」は、文脈上別段の明確な指示がない限り、その冠詞の文法的目的語が「1」又は「2以上」(すなわち、2、3、4、5等を含む1以上)であることを指す。
【0033】
用語「及び/又は」は、本明細書で使用する場合は常に、「及び」、「又は」及び「当該用語により接続される要素の全部又は任意のその他の組み合わせ」の意味を含む。
【0034】
用語「等」、「例えば」は、本明細書で使用する場合、例示的目的のためであり、したがって、限定するものではない。
【0035】
用語「約」又は「およそ」は、本明細書に示される値又は範囲は決定的なものではなく、デバイス又はこのような値若しくは範囲を決定するために用いられる方法の誤差の固有の変動、又は試験対象間に存在する変動を含むように、所与の値又は範囲の10%以内、好ましくは8%以内、より好ましくは5%以内で変動し得ることを示すために、本明細書において使用される。
【0036】
本明細書で使用する場合、製品、組成物及び方法の定義に使用する場合、用語「含む(comprising)」(及び「含む(comprising)」の任意の形態、例えば、「含む(comprise)」及び「含む(comprises)」)、「有する(having)」(及び「有する(having)」の任意の形態、例えば、「有する(have)」及び「有する(has)」)、「含む(including)」(及び「含む(including)」の任意の形態、例えば、「含む(includes)」及び「含む(include)」)又は「含有する(containing)」(及び「含有する(containing)」の任意の形態、例えば、「含有する(contains)」及び「含有する(contain)」)は、オープンエンド形式であり、記載されていない付加的な要素又は方法ステップを排除しない。「から本質的になる」は、いずれの本質的に重要なその他の成分又はステップを排除することを意味する。「からなる」は、その他の成分又はステップの微量ではない要素を排除することを意味する。
【0037】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、ペプチド結合により共有結合したアミノ酸残基のポリマーを指すために、互換的に使用される。ポリマーは、直鎖、分岐又は環状であり得、天然に存在する及び/又はアミノ酸の類似体を含んでもよく、非アミノ酸により割り込まれてもよい。アミノ酸の最大数は、限定されない。一般的な指示として、ペプチドという用語は、好ましくは、短いポリマー(例えば、少なくとも9個のアミノ酸残基を含む)を指し、一方、ポリペプチド又はタンパク質は、より長いポリマー(通常、50個を超えるアミノ酸を含む)を指す。これらの用語は、天然ポリマー、修飾ポリマー(誘導体、類似体、バリアント又は変異体とも呼ばれる)及びそれらのフラグメントを包含する。本発明の文脈において、ポリペプチドはまた、とりわけ、様々なペプチドの融合体及び多量体(例えば、二量体)の形態であり得る。本発明の文脈において、本明細書で使用するペプチドという用語はまた、ネオペプチドを包含する。
【0038】
用語「ネオペプチド」は、本明細書に記載されるように、少なくとも腫瘍特異的変異を含むペプチドを指す。
【0039】
本明細書で使用する場合、用語「融合体」は、単一のポリペプチド鎖としての1又は2以上のペプチドの組み合わせ、例えば、2又は3以上のネオペプチドの組み合わせ、1のネオペプチドへの1のシグナルペプチドの融合体等を指す。
【0040】
本発明の文脈において、本発明の文脈内では、用語「核酸」、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」、「核酸配列」及び「ヌクレオチド配列」は、互換的に使用され、デオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)又は混合ポリリボ-ポリデオキシリボヌクレオチドのいずれかにおける少なくとも9個のヌクレオチド残基のポリマーを定義する。これらの用語は、それらの一本鎖又は二本鎖、直鎖又は環状、天然又は合成、未修飾又は修飾バージョン(例えば、遺伝子改変ポリヌクレオチド;最適化ポリヌクレオチド)、センス又はアンチセンスポリヌクレオチド、キメラ混合物(例えば、RNA-DNAハイブリッド)を包含する。例示的なDNA核酸としては、限定されるものではないが、相補的DNA(cDNA)、ゲノムDNA、プラスミドDNA、ベクター、ウイルスDNA(例えば、ウイルスゲノム、ウイルスベクター)、オリゴヌクレオチド、プローブ、プライマー、コーディングDNA、非コーディングDNA、又はそれらのいずれかの断片等が含まれる。例示的なRNA核酸としては、限定されるものではないが、メッセンジャーRNA(mRNA)、前駆体メッセンジャーRNA(プレmRNA)、コーディングRNA、非コーディングRNA等が含まれる。本明細書に記載の核酸配列は、当技術分野で公知の標準的な方法、例えば、自動DNA合成装置(例えば、Biosearch、Applied Biosystemsから市販されている装置等)の使用により合成してもよいし、或いは、天然に存在する供給源(例えば、ゲノム、cDNA等)又は当技術分野で周知の分子生物学技術(例えば、クローニング、PCR等)を使用する人工的な供給源(例えば、市販のライブラリー、プラスミド等)から得てもよい。
【0041】
一般的に、用語「同一性」は、2種のポリペプチド配列又は核酸配列間のアミノ酸に対するアミノ酸又はヌクレオチドに対するヌクレオチドの一致を指す。2種の配列間の同一性パーセンテージは、最適なアラインメントのために導入する必要のあるギャップの数と各ギャップの長さとを考慮した、これらの配列が共有する同一位置の数の関数である。アミノ酸配列間の同一性パーセンテージを決定するために当技術分野では、様々なコンピュータープログラム及び数学的アルゴリズム、例えば、Atlas of Protein Sequence and Structure (Dayhoffed, 1981, Suppl., 3: 482-9)において、NCBI又はALIGNで利用可能なBLASTプログラムが利用可能である。ヌクレオチド配列間の同一性を決定するためのプログラムもまた、専門のデータベース(例えば、Genbank、ウィスコンシン配列分析パッケージ、BESTFIT、FASTA及びGAPプログラム)で利用可能である。
【0042】
用語「ウイルス」、「ウイルス粒子」、「ウイルスベクター」及び「ビリオン」は、互換的に使用され、ウイルス粒子に封入され得る野生型ウイルスゲノムの1以上のエレメントを含むビヒクルを意味するものと広く理解される。この用語は、ウイルスゲノム及びウイルス粒子を包含する。
【0043】
本明細書で使用する場合、用語「ポックスウイルス」は、ポックスウイルス科に属するウイルスを指す。
【0044】
用語「組換え」は、遺伝子工学に関連している。ウイルス、特に本明細書に記載のポックスウイルスに関連して使用する場合、それは、ウイルスがそのゲノムに挿入された1以上の外因性核酸分子(組換え遺伝子又は組換え核酸とも呼ばれる)を含むように遺伝子操作されていることを示す。外因性核酸分子は、天然に存在するウイルスゲノムには見られないか、或いは、それによって発現されない。しかしながら、外因性核酸は、組換えウイルスが導入される対象に対して同種又は異種であり得る。本発明の文脈において有利には、外因性核酸は、1又は2以上の発現カセットであり、それぞれが、好ましくは融合体に配置される複数のペプチドをコードする。
【0045】
用語「から得られる」、「由来する(originating)」又は「由来する(originate)」は、成分の起源(例えば、(ネオ)エピトープ、(ネオ)ペプチド、(ネオ)抗原、核酸分子、ウイルス等)又はサンプルの起源(例えば、対象又は対象の群)を特定するために使用されるが、成分/サンプルが得られる方法(これは例えば、化学合成又は組換えの手段によりなされ得る)を限定することを意味しない。
【0046】
本明細書で使用する場合、用語「単離される」は、その自然環境から取り出される(すなわち、それが自然に関連している又は自然において認められる1以上のその他の成分から分離される)成分(例えば、ポリペプチド、核酸分子、ベクター等)を指す。より具体的には、それは、(部分的に又は実質的に)精製される成分を指す。例えば、核酸分子は、自然においてそれと通常関連する配列から分離される(例えば、染色体又はゲノムから解離される)場合に単離されるが、異種配列(例えば、組換えベクター内)と関連し得る。合成成分は、本質的に単離されている。
【0047】
用語「対象」は、一般に、本明細書に開示される産物又は方法のいずれかが必要であるか、又は有益であり得る脊椎動物生物体を指す。一般に、生物体は、哺乳動物、特に、家畜、農用動物、競技動物及び霊長類(ヒト及び非ヒト)からなる群から選択される哺乳動物である。用語「対象」及び「患者」は、ヒト生物体を指す場合、互換的に使用され得、男性及び女性、並びに胎児、新生児、乳児、若年成人、成人及び高齢者を網羅する。
【0048】
用語「投与する」(又は「投与」の任意の形態、例えば、「投与された」)は、本明細書で使用する場合、本明細書に記載の様式に従って、成分(例えば、少なくとも、ネオペプチドをコードするポックスウイルス)を対象に送達することを指す。
【0049】
組換えポックスウイルスの設計
第1の態様において、本発明は、それぞれ1又は複数のペプチド、好ましくは1又は複数のペプチドの融合体を発現する1又は2以上の発現カセットを含む組換えポックスウイルスを設計する方法に関する。この方法の一般的なスキームを図1に示す。
【0050】
組換えポックスウイルスを「設計」するとは、ここでは特に、特定された「候補」ペプチドのセット、1又は2以上の発現カセットにおけるそれらの分配及びペプチド融合体におけるそれらのスロット割り当てを決定し、DNAトランスファー配列を決定し、その結果、そのようなDNAトランスファー配列を有する組換えポックスウイルスは、治療用ワクチンとして、特に感染性疾患又は増殖性疾患、例えば、癌を治療するための使用に適していることが意味される。好ましくは、本発明の方法は、少なくとも4つのステップ:(a)本明細書に記載される異なる基準に基づいてペプチドリストから選択される、組換えポックスウイルスによって発現されるのに適したペプチド(すなわち、候補ペプチド)の第1のサブセットを選択するステップ;(b)カセット間分配のステップ(例えば、1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの分配);(c)カセット内のスロット割り当てのステップ(例えば、各発現カセットについて、発現カセットに分配された候補ペプチドの最適な割り当てを決定する、言い換えれば、発現カセット内の候補ペプチドを順序付ける);及び(d)組換えポックスウイルスの作製のための1又は2以上の発現カセットのヌクレオチド配列を含むDNAトランスファー配列を決定するステップを含む。言い換えれば、本発明の方法は、ペプチド融合体を生産するためにペプチドのリストから候補ペプチドを選択し、1又は2以上の発現カセット内で再配分し、ポックスウイルスの仕様に従って発現カセットのヌクレオチド配列を生成することを可能にする。
【0051】
図2を参照すると、組換えポックスウイルスの本設計は、サーバ1のデータ処理手段11(例えば、プロセッサ)によって実行されることを意図している。サーバ1は、特にペプチドデータベースを格納するためのデータ記憶手段12(すなわち、メモリ)と、インターフェース13(すなわち、画面、マウス、キーボード、さらなるデバイスを備えたコネクタ等)とをさらに備え得る。
【0052】
ポックスウイルス
一実施形態において、本発明の設計方法によって作製される組換えポックスウイルスは、いくつかの属を含む脊椎動物宿主を対象とするコードポックスウイルス亜科サブファミリー種、例えば、オルソポックスウイルス、カプリポックスウイルス、アビポックスウイルス、パラポックスウイルス、レポリポックスウイルス及びスイポックスウイルスから得られる。好ましい実施形態において、本明細書における使用のための組換えポックスウイルスは、オルソポックスウイルス属、さらにより好ましくは、ワクシニアウイルス(VV)種に属するポックスウイルスから作製される。いずれのワクシニアウイルス株も本発明の文脈で使用することができ、その例には、限定されるものではないが、ウエスタンリザーブ(WR)、コペンハーゲン(Cop)、リスター、LIVP、ワイス、タシケント、Tian Tan、ブライトン、アンカラ、MVA(改変ワクシニアウイルスアンカラ)、LC16M8、LC16M0株等が含まれ、特に好ましくは、WR、コペンハーゲン、ワイス及びMVAワクシニアウイルスである。様々なポックスウイルス科のゲノムの配列が、専門データバンク、例えば、Genbankにおいて当技術分野で入手可能である(例えば、受託番号NC_006998、M35027及びU94848は、WR、コペンハーゲン及びMVAゲノムの配列を提供する)。別の実施形態において、本明細書で使用するための組換えポックスウイルスは、パラポックスウイルス、特に好ましくは、偽牛痘ウイルス(PCPV)種のうちの1種から作製され得る。PCPVは、通常、130~150キロベースのDNAの直鎖及び二本鎖セグメントであるゲノムを有する。
【0053】
本明細書で使用するための適切なポックスウイルスは、WO2018/234506に記載されている。本発明の文脈において、野生型株及びその任意の誘導体(すなわち、例えば、切断、欠失、置換、及び/又はウイルスゲノム内に隣接しているか若しくは存在しない1又は2以上のヌクレオチドの挿入によって、野生型株と比較して改変されたポックスウイルス)のいずれかを使用することができる。例示的な改変は、好ましくは、DNA代謝、宿主病原性又はIFN経路に関与するウイルス遺伝子に存在する(例えば、Guse et al., 2011, Expert Opinion Biol. Ther.11(5):595-608参照)。特に好適な破壊される遺伝子は、チミジンキナーゼ(TK)をコードする遺伝子(座位J2R;Genbank受託番号AAA48082)である。代わりに又は組み合わせて、本明細書における使用のためのポックスウイルスは、ウイルスリボヌクレオチドレダクターゼ(RR)をコードする1以上の遺伝子又は両方の遺伝子を変化させることにより、改変され得る。ウイルス酵素は、I4L及びF4L座位によりそれぞれコードされるR1及びR2と呼ばれる)、2種の異種サブユニットから構成される。I4L及びF4L遺伝子の配列と、様々なポックスウイルスのゲノム中のそれらの位置とは、公開データベースにおいて入手可能である。本明細書で使用する遺伝子命名法は、コペンハーゲンワクシニア株のものである。これは、本明細書において、特に断りのない限り、その他のポックスウイルス科の相同遺伝子に対しても使用され、コペンハーゲンとその他のワクシニア株との対応関係は、当業者に利用可能である。例示的目的のために、TKを欠くワクシニアウイルス(VV)又はTK及びRRを欠くワクシニアウイルス(VV)は、文献に記載されている(例えば、WO2009/065546参照)。
【0054】
好ましくは、本発明の設計方法によって設計される組換えポックスウイルスは、複製欠損ポックスウイルス、好ましくは、複製欠損ワクシニアウイルスであり、これは、それはヒト細胞においてほとんど複製することができないことを意味する。
【0055】
本発明の文脈において使用するための特に適切なポックスウイルスは、MVAであり、これは、その高度に弱毒化された表現型のためである(Mayr et al., 1975, Infection 3: 6-14; Sutter and Moss, 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 10847-51)。MVAゲノムの核酸配列及びコードされるウイルスタンパク質のアミノ酸配列は、当技術分野で、例えば、Antoine et al.(1998, Virol. 244: 365-96)及びGenbank(受託番号U94848)から入手可能である。
【0056】
複数のペプチド
本明細書で使用する用語「複数」は、多数(例えば、少なくとも5以上)の状態を指す。組換えポックスウイルスによってコードされ得るペプチド(すなわち、複数のペプチド)の数は、選択されたポックスウイルスの種類(例えば、MVA)及びポックスウイルス媒介性発現(例えば、以下に記載されるような短い又は大きな融合体及び調節エレメントにおける発現)に応じて限定されない。例示の目的で、5~150個、好ましくは7~100個、より好ましくは9~40個、より一層好ましくは10~35個、より一層好ましくは約30(例えば、27、28、29、30、31、32又は33)のペプチドを組換えポックスウイルスによって発現させる。
【0057】
組換えポックスウイルスによってコードされる、本発明による方法によって選択されるペプチドの長さは、典型的には、12アミノ酸残基~約150アミノ酸残基であるが、当然のことながら、長さはペプチドによって変わり得る。例示の目的で、各ペプチドは、13~101アミノ酸残基、望ましくは16~90アミノ酸残基、好ましくは17~85アミノ酸残基、より好ましくは18~80アミノ酸残基、より一層好ましくは、20~40アミノ酸残基の長さを有し得る。
【0058】
ネオペプチド
本発明の方法は、個別化癌ワクチンの開発に特に適合され、患者ごとに1以上の腫瘍特異的変異を含む候補ペプチドのセット、すなわち、候補ネオペプチドを特定及び提供することを可能にする。したがって、ネオペプチドは、本明細書で説明するように、非自己性(自己タンパク質には見られない)のものである。この非自己性のために、このようなネオペプチドは腫瘍特異的Tリンパ球により認識されることが予想される。
【0059】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、複数のネオペプチドを選択するために実行される。通常、「ネオペプチド」は、ネオ抗原のフラグメントに対応するペプチドである。したがって、MHC依存性T細胞認識に寄与する(又は対象の細胞の表面でMHC分子によって提示される)最小の免疫決定因子(すなわち、「ネオエピトープ」)と、少なくとも、非サイレントである腫瘍特異的変異とを含む。通常、腫瘍特異的変異は、ネオエピトープ内に位置し、通常の環境において天然に存在する隣接配列(隣接配列は、ネオエピトープが由来するネオ抗原の配列である。)によって、(片側又は両側で)囲まれている。
【0060】
用語「ネオ抗原」は、本明細書で使用する場合、癌細胞における発癌過程中に出現する抗原を指す。したがって、ネオ抗原は、患者から得た癌細胞又は組織において認められるが、患者又は健常者から得た正常細胞又は組織のサンプルには認められない。典型的には、腫瘍特異的変異は、好ましくは、癌細胞(例えば、腫瘍サンプル)に含まれるDNAに存在するが、非癌性細胞(例えば、非腫瘍サンプル)に含まれるDNAには存在しない。
【0061】
用語「変異」は、試験配列(例えば、ネオ抗原)と参照配列(自己抗原)との間の少なくとも1個の配列の違いに関する。いくつかの種類の腫瘍特異的変異、例えば、ミスセンス変異、欠失、挿入、フレームシフト変異及びスプライシング部位における変異が本発明により包含される(WO2018/234506参照)。本発明の文脈において、腫瘍特異的変異は、好ましくは非サイレントであり、対応する自己抗原に対してアミノ酸レベルでの変化で翻訳される。より好ましくは、それはミスセンス変異又はフレームシフト変異である。「ミスセンス」変異は、コードされたアミノ酸配列に影響を及ぼす特定のコドン内での1個のヌクレオチドの別のヌクレオチドとの置換により生じ、したがって、1個のアミノ酸変化をもたらす。タンパク質配列に影響を及ぼす別の方法は、核酸分子内のヌクレオチドの数を変化させる、1以上のヌクレオチド(例えば、DNAの小片)の挿入又は欠失である。挿入及び欠失変異は、リーディングフレームの変化(いわゆるフレームシフト変異)をもたらし得るが、インフレームの挿入欠失の場合において必ずしもリーディングフレームの変化をもたらすわけではない(例えば、多重の3個のヌクレオチドの挿入又は欠失は、少なくとも1個のコドンの付加又は抑制をもたらす)。変異がヌクレオチド配列の初期に生じた場合、ほぼすべてのアミノ酸配列が変化し得る。フレームシフト変異はまた、終止シグナルに翻訳される終止コドンの生成ももたらし得、次いで、得られたタンパク質は切断される(de novoで生成した終止コドンの下流のその部分の欠失)。ミスセンス変異は、mRNAのスプライシング部位に位置することもあり、異常なスプライシングをもたらし、したがって、異常なタンパク質配列をもたらし得る。
【0062】
ネオペプチドの実施形態に関して、選択されるネオペプチドの少なくとも70%(例えば、80%、85%、90%、95%、さらには100%)が、ネオペプチドの中央において、中心にある単一のミスセンス変異を有する(例えば、変異アミノ酸が、ネオペプチドの中央(ネオペプチドが奇数のアミノ酸を有する場合)又は2つの中心の位置の一方(ネオペプチドが偶数のアミノ酸を有する場合)、又は変異したアミノ酸の両側に同じ数の隣接アミノ酸を有する正確に中心の位置の片側の2~5個のアミノ酸のいずれかに正確に位置する)。
【0063】
しかしながら、特に、フレームシフト変異に関して、或いは、ミスセンス変異がネオ抗原のN若しくはC末端又はその近くで生じる場合に、変異は、少なくとも一部のネオペプチドにおいて、N末端又はC末端の近くに位置することがある。
【0064】
当然ながら、ネオペプチドの長さは、ペプチドの実施形態に関連して上記の特徴を共有する。好ましくは、例示的であるが限定的ではない目的で、ミスセンス変異を含むネオペプチドは、別個に20~40個の長さ、好ましくは25~35個のアミノ酸残基を有する。25、27又は29残基の別個のネオペプチドがが特に好ましい(好ましくは、ミスセンス変異は、変異の片側に12(25mer)、13(27mer)又は14(29mer)のアミノ酸を隣接したネオペプチドのN末端から出発する位置13(25mer)、14(27mer)又は15(29mer)に位置する)。
【0065】
ペプチドの融合体
説明したように、本発明の方法は、1又は複数の融合体の形態に、本発明の方法に従って割り当てられた複数のペプチド(例えば、ネオペプチド)の組換えポックスウイルスによる発現を企図する。本発明の文脈において、「1又は複数のペプチドの融合体」(「複数のペプチドの融合体(peptides fusion)」又は「ペプチド融合体(peptide fusion)」とも呼ばれる)は、1又は2以上のペプチドを含むことができる。「融合体」とは、含まれるペプチドの数に関係なく、単一のポリペプチド鎖としてのペプチドの組み合わせを意味する。単一のペプチドの場合には、それはすでに単一のポリペプチド鎖であるため、単一のペプチドの「融合体」はペプチド自体を指すことが理解されるべきである。ペプチドの数は、融合体ごとに変化し得、1~20個のペプチド、好ましくは2~15個のペプチド、好ましくは3~12個のペプチド、より好ましくは4~11個のペプチド、より一層好ましくは5~10個(例えば、5、6、7、8、9又は10個)のペプチドを含む融合体が好ましい。
【0066】
ペプチド融合体におけるペプチドの位置は「スロット」と呼ばれる。
【0067】
特定の実施形態は、ER(小胞体)を介したプロセシング及び/又は分泌を亢進するための、ペプチド融合体(例えば、1又は2以上のペプチドで構成される)のN末端におけるシグナルペプチドの存在を企図する。シグナルペプチドそれ自体が、ペプチド融合体に融合されている。簡単に述べれば、シグナルペプチドは、通常、15~35個の疎水性のアミノ酸を実質的に含み、翻訳の開始のためのコドンの下流にあるポリペプチドのN末端で挿入され、次いで、特定のERに位置するエンドペプチダーゼにより除去されて、成熟ポリペプチドを生じる。適切なシグナルペプチドは、当技術分野で公知である。それらは、細胞又はウイルスのポリペプチド、例えば、免疫グロブリン、組織プラスミノーゲンアクチベーター、インスリン、狂犬病糖タンパク質、HIVウイルスエンベロープ糖タンパク質又は麻疹ウイルスF糖タンパク質(gp)のシグナルペプチドから得てもよいし、合成であってもよい。2個以上のシグナルペプチド配列が組換えポックスウイルスに使用される場合、異なる起源(例えば、狂犬病ウイルス又は麻疹ウイルスFgp)のシグナルペプチド配列を選択してもよいし、且つ/或いは、生産プロセスを悪化させ得る相同組換え現象を制限するために、高度の配列同一性(例えば、75%超)を示す相同配列を変性(degenerate)させてもよい。(WO2008/138649参照)。
【0068】
本発明の文脈において、融合体は、それが2又は3以上のペプチドを含む場合、トランスフォーメーション(transformation)(例えば、化学的作用)を含み得る:ペプチドの融合体は、直接的(すなわち、間に追加のアミノ酸残基なし)でもよいし、ペプチドのアクセシビリティを向上させるためにリンカーを介していてもよい。通常、リンカーは、アミノ酸残基、例えば、グリシン(Gly又はG)、セリン(Ser又はS)、スレオニン(Thr又はT)、アスパラギン(Asn又はN)、アラニン(Ala又はA)、及び/又はプロリン(Pro又はP)の短いひと続き(short stretch)であり得る。本発明の文脈における好ましいリンカーは、2~10個のアミノ酸を含み、好ましくは、3、5又は10個のアミノ酸、主にグリシン及びセリン(例えば、1又は2以上のアミノ酸モチーフ、例えば、GSG、GST、GAS又はGTSで構成される)。2個の融合ペプチドの間にリンカーを含める必要があるか否かを評価することは、当業者の手の届く範囲にある。好ましい実施形態において、ペプチドは、各ペプチドの間(例えば、ペプチド1及びペプチド2の間、ペプチド2及びペプチド3の間等)のリンカー、及び、場合により、第1のペプチドのN末端におけるリンカーとともに融合体に配置される。1つの組換えポックスウイルスに含まれるリンカー核酸配列は、コドン縮重(G残基をコードするために利用可能な4種のコドン、S残基をコードするために利用可能な6種のコドン、T残基をコードするために利用可能な4種のコドン等)を利用することによって変性され得、したがって、組換えポックスウイルス内の配列同一性の減少に寄与し、生産プロセス中に発生する可能性のある望ましくない組換え現象を制限する。
【0069】
本発明の特定の実施形態はまた、ペプチド(又はその融合体)の発現又はこのようなペプチド(又は融合体)を発現する感染宿主細胞の検出を促進するために、タグ(典型的には利用可能な抗血清又は化合物によって認識され得る短いペプチド配列)の存在を企図する。非常に多様なタグペプチドが本発明の文脈において使用することができ、例えば、限定されるものではないが、PKタグ、FLAGオクタペプチド、MYCタグ、HISタグ(通常、ひと続きの4~10ヒスチジン残基)及びe-タグ(US6,686,152)が含まれる。タグペプチドは、タンパク質のN末端、又はそのC末端、又は内部に、又はいくつかのタグが使用される場合はこれらの位置のいずれかに、独立に位置し得る。タグペプチドは、抗タグ抗体を使用した免疫検出アッセイにより検出することができる。
【0070】
本発明の文脈において、各融合体は、その他と異なって設計され得、エレメント、例えば、ペプチドシグナル、リンカー、タグ等の存在及び/又は配列及び/又は数及び/又は位置によって互いに区別し得る。しかしながら、好ましい実施形態によれば、各融合体は、a)そのN末端にシグナルペプチド、b)第1のペプチドのN末端、各ネオペプチドの間及び最後のネオペプチドのC末端におけるリンカー、及びc)そのC末端にタグを含む。
【0071】
ペプチド融合体の発現
本発明によれば、各ペプチド融合体は、「発現カセット」と呼ばれる適切な調節エレメント(特にプロモーター及び終結配列)の制御下に置かれる。典型的には、「発現カセット」は、対象における発現を可能にする適切な調節エレメントの制御下で、1又は2以上のペプチド(例えば、ネオペプチド)又はペプチド融合体をコードする核酸分子を含む。言い換えれば、本明細書に記載のペプチド融合体をコードする1又は2以上の発現カセットのそれぞれは、宿主細胞又は対象における発現のための適切な調節エレメントを備えている。本明細書で使用する場合、用語「調節エレメント」又は「調節配列」は、所与の宿主細胞又は対象における核酸(例えば、本明細書に記載のペプチド融合体をコードする)の発現、例えば、核酸又はその誘導体(すなわち、mRNA)の複製、重複、転写、スプライシング、翻訳、安定性及び/又は輸送を可能にする、それに寄与する、又はそれを調節するいずれかのエレメントを指す。
【0072】
調節エレメントの選択は、発現カセット自体、それが挿入されるウイルス、宿主細胞又は対象、所望の発現レベル等のような要因に依存し得ることが当業者によって理解される。プロモーターは特に重要である。ポックスウイルスプロモーターは、本明細書に記載のポックスウイルス、例えば、組換えポックスウイルスからの所与の核酸の発現を指示するために特に適合されている。代表的な例として、限定されるものではないが、ワクシニア7.5K、H5R、11K7.5(Erbs et al., 2008, Cancer Gene Ther. 15(1): 18-28)、TK、p28、p11、pB2R、pA35R及びK1Lプロモーター、並びに合成プロモーター、例えば、Chakrabarti et al. (1997, Biotechniques 23: 1094-7; Hammond et al, 1997, J. Virol Methods 66: 135-8; and Kumar and Boyle, 1990, Virology 179: 151-8)に記載の合成プロモーター、並びに初期/後期キメラプロモーターが含まれる。
【0073】
当業者は、プロモーターに加えて、調節エレメントが、転写の適切な開始、調節及び/又は終結(例えば、ポリA転写終結配列)、mRNAの輸送(例えば、本明細書に記載のシグナル配列)、安定性(例えば、イントロン及び非コーディング5’及び3’配列)、翻訳(例えば、開始Met、3個に分割されたリーダー配列、IRESリボソーム結合部位、シグナルペプチド等)及び特定及び精製(例えば、本明細書に記載のタグペプチド)のためのさらなるエレメントをさらに含んでもよいことを認識する。
【0074】
好ましい実施形態において、本発明の方法によって選択されたすべてのペプチドは、1~20個のペプチドのための、1~5個の発現カセット、好ましくは、1~3個のカセット、より好ましくは2又は3個のカセット、より一層好ましくは3個のカセットにクラスター化される。特に好ましい実施形態において、組換えポックスウイルスは、それぞれが5~10個のペプチドの融合体、好ましくは、約10個のペプチドの融合体をコードする3個のカセットを含む。例示の目的で、組換えポックスウイルスが3個の発現カセットを含む場合には、それらのそれぞれは、異なるプロモーターを使用して、各ペプチド融合体をコードする核酸配列を制御し、例えば、第1のカセットに対してpH5Rプロモーター、第2のカセットに対してpC11Rプロモーター及び第2のカセットに対してp7.5Kプロモーターである。
【0075】
設計方法のステップ(a):組換えポックスウイルスによる発現に適した候補ペプチドの特定及び選択
本発明による設計方法は、図3に記載のように、最初にペプチドの特定及びランク付け(ステップ(a0))並びに組換えポックスウイルスによって発現される候補ペプチドの選択を必要とする(ステップ(a))。
【0076】
説明したように、組換えポックスウイルスを設計するための本方法は、目的のペプチドのセットが利用可能であることを前提としている。ステップ(a0)は、ペプチドの特定及びランク付けを介して、目的のペプチドのセットの選択を可能にする。目的のペプチドのセットはまた、「入力ファイルからのペプチド」によって設計され得る。好ましい実施形態において、目的のペプチドは、1又は2以上の基準、例えば、ペプチドの予測された免疫原性に従って特定及び/又はランク付けされる。明確にするために、「免疫原性」は、対象に送達されると(例えば、そのようなペプチド又はペプチド融合体をコードする組換えポックスウイルスを介して)、免疫応答を起こすペプチドの能力を指す。本発明の文脈において、免疫応答は、液性応答又はT細胞応答(又は両方)、例えば、CD4+(例えば、Th1、Th2及び/又はTh17)及び/又はCD8+T細胞応答(例えば、CTL応答)であり得る。多数の予測アルゴリズムが、当技術分野にペプチド又はペプチド融合体の免疫原性のin silico予測のため、特にT細胞応答を起こす能力を予測するために存在する。(例えば、Nielsen et al., 2010, Immunology 130(3): 319-28)。MHC分子へのペプチドの結合親和性予測に依存するアルゴリズムは、本発明の文脈において適切である。例示の目的で、SVMHC、NetMHCII、Tepitope/propped、syfpeithi、Epitolkit等を引用することができる。候補ペプチドの数は、カセットによって実際に発現されるペプチドの最終的な数よりも多い場合があることに注意する必要がある(例えば、提案する最終ペプチドを10~35にするために、数百の候補ペプチドが存在する場合がある)。
【0077】
ステップ(a)は、特定されランク付けされたペプチドを別個に評価し、候補ペプチドの選択を可能にする。「候補」とは、組換えポックスウイルスを作製するのに適していることを意味する。
【0078】
一実施形態において、候補ペプチドの選択は、1又は2以上の基準に基づくフィルタリング手段を介して実行される。このステップでは、処理手段(11)(図2)は、目的のペプチドのセットの1又は2以上のサブセットを生成する。これらのペプチドは除外され、OUTリストに入れられ得るか、或いは、組換えポックスウイルスの作製に適していると見なされ得る。ペプチドが組換えポックスウイルスの作製に適していると考えられる場合には、特定された候補ペプチドは、第1のサブセット(TOPリスト)又は第2のサブセット(EXTRAリスト)に入れられ、ここで、TOPリストは、組換えポックスウイルスを作製するための最高の予測を有する最大限の数の候補ペプチドを含み、EXTRAリストは、残りの候補ペプチドを含む。
【0079】
本発明の好ましい実施形態において、目的のペプチドのセット又は入力ファイルからのペプチドのセットは、膜貫通(TM)セグメントを有する傾向に対応する基準に基づいて、独立して又は追加的に除外される。本明細書で使用する「TMセグメント」又は「TMドメイン」は、約20個のアミノ酸残基の短い疎水性アルファヘリックスであると定義され得る。膜貫通スコア(「TMスコア」又は「TMS」)は、累積和法を使用して、アミノ酸配列全体の評価可能な値で局所的なトポロジー予測を変換するために計算されたスコアである。これは、ペプチドがその配列内に1以上のTMセグメントを生じる又は形成する確率を示す(すなわち、TM内)。これは、0(予測されたTMドメインなし)からn*(n+1)/2まで有利に変化し、nは予測ツールによって評価されたローカルフラグメント(local fragment)の数であり、n*(n+1)/2はn個の要素の累積和からの最大スコアである。TMSが高いほど、ペプチド配列がTMドメインを生じる又は形成する可能性が高くなる。TMスコアは、当業者によく知られているいくつかの予測ツール、例えば、TMHMM(膜貫通用の隠れマルコフモデル;Krogh et al., 2001, J. Mol. Biol. 305: 567-80)、DAS(Dense Alignment Surface)を使用して決定され得る。DAS-TMフィルタリングーアルゴリズムは、潜在的なTMセグメントの位置を取得可能なクエリに高精度の疎水性プロファイルを提供するか、又は膜貫通ドメインを形成する傾向における疎水性度及び疎水性モーメントの関係に基づく方法を提供し(Eisenberg et al., 1982, Nature, Sep 23;299(5881):371-4)、ここで、疎水性度及び疎水性モーメントの相関は、タンパク質セクションを球状、膜貫通又は表面として定義する。
【0080】
通常、TMスコアは別個の各ペプチドのアミノ酸組成に基づいて計算される。好ましくは、TMスコアの計算は、アイゼンバーグによって定義されるように、膜貫通セグメントを形成する傾向における疎水性度及び疎水性モーメントとの間の関係に基づく。TMSの計算は、好ましくは、アイゼンバーグの標準化された尺度(Eisenberg et al., 1984, Annual review of biochemistry 53.1: 595-623)に基づいて、membpos関数(membpos function)を使用して、理論上のフラグメントタイプを計算するために11種のアミノ酸のウィンドウ(window)を使用して実行する。好ましくは、membpos関数は、アミノ酸配列及びタンパク質回転角を含む群から選択される2以上の基準に基づく。本発明の態様において、離散値「1」は、膜貫通に起因し、離散値「0」は、球状又は表面に起因する。次いで、TMスコアは、線形シーケンス(linear sequence)内のTMパッチの空間位置を考慮するために使用される「連続性閾値(continuity threshold)」を含むローカル離散値の累積和を計算することによって算出される。連続性閾値の増加は、累積計算における離散値「0」を発生させ得る。増分計算(incremental calculation)は、バイアスを回避するために両方向で実行される。したがって、TMスコアはTMパッチの合計である。最高のスコアが使用され、TMスコアに対応する。
【0081】
例えば、ペプチドTVHHRIVGCSLAVICGVLYGSTFQVPIIYIのTMSは、連続性閾値0及び1で計算された(表1)。連続性閾値が0の場合には、計算されたTMパッチは両方向で36_3_1であり、TMスコアは40であった。連続性閾値が1の場合には、計算されたTMパッチは一方向で36_8(TMスコア=44)、もう一方向で36_7(TMスコア=43)であった。2つのTMスコアは異なり、最も高いTMスコアが使用される:連続性閾値1について、TMスコア44。この例では、連続性閾値を3以上に拡張することにより、ローカルパッチは考慮されず、TMSはより高くなる。
【0082】
【表1】
【0083】
好ましい実施形態において、組換えポックスウイルスを設計する方法は、候補ペプチドの第1のサブセット(TOPリスト)を選択することを含み、ここで、候補ペプチドは、TMS閾値未満の膜貫通スコアを示す。この方法はさらに、TMS閾値を超える膜貫通スコアを示す場合に、ペプチドを除外し(OUTリスト)、第1のサブセットで開示も選択もされていない候補ペプチドとして、特定された候補ペプチドのセットの第2のサブセット(EXTRAリスト)を選択することを含む。
【0084】
より好ましい実施形態において、第1及び第2のサブセットの候補ペプチドは、閾値40未満、より好ましくは閾値30未満、より一層好ましくは閾値25未満(例えば、好ましいTMスコアの閾値:24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11、10等)の膜貫通スコアを示す。
【0085】
例示の目的で、アイゼンバーグらによって記載された方法に従って決定された、閾値25未満のTMスコアを有する目的のペプチドは、保持され、第1及び第2のサブセットを含む候補ペプチドのセットに入れられる。
【0086】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、目的のペプチドのセット、又は入力ファイルからのペプチドは、ペプチド間の組換え現象を制限するために、ペプチド配列の相同性に対応する基準に基づいて、独立して又は追加的に除外される。相同性は、ペプチド又はタンパク質間のアミノ酸配列の同一性を示す。
【0087】
同一のアミノ酸がX個を超える連続領域を備える配列を有するペプチドは、相同と見なされ、ここで、Xは12、より好ましくは11、より一層好ましくは10、より一層好ましくは9、より一層好ましくは8、より一層好ましくは7、より一層好ましくは6、より一層好ましくは5である。そのような相同な連続領域を有するペプチドのうちの1種のペプチドのみが保持され、このペプチドは、最高ランクのスコア(例えば、予測された免疫原性)で選択される。保持されないペプチドは除外され、OUTリストに入れられる。例えば、5個以上のアミノ酸の相同な連続配列を有する3種のペプチドを含むペプチドのリストにおいて、最高の免疫原性ランクのスコアを有するペプチドが保持され、その他の2種は除外される。
【0088】
重複は相同性の特定の場合である。これは、特定のペプチドに存在する変異(例えば、特定のネオペプチドの腫瘍特異的変異)がいくつかのエピトープの一部である場合、又はいくつかのHLAタイプのスコアが与えられた場合に発生し得る。好ましくは、そのような重複したペプチドのうちの1種のペプチドのみが保持され、このペプチドは、最高の免疫原性ランクのスコアで選択され、その他の重複したペプチドは除外される。
【0089】
好ましい実施形態において、組換えポックスウイルスを設計する方法は、候補ペプチドの第1のサブセットを選択することを含み、ここで、候補ペプチドは、相同性閾値未満の連続領域を示す。好ましくは、相同性閾値5未満の連続領域を示す目的のペプチドが保持され、第1及び第2のサブセットを含む候補ペプチドのセットに入れられる。
【0090】
本発明の好ましい実施形態において、選択ステップ(a)は、候補ペプチドの第1のサブセットを選択することを含み、ここで、ペプチドは、TMS閾値未満(例えば、25未満)の膜貫通スコアを示す。より好ましい実施形態において、ステップ(a)のペプチドは、相同性閾値未満(例えば、5未満)の連続領域を示す。好ましくは、フィルタリングステップは、以下の順序:1)TMS閾値;2)相同性閾値で順次実行される(図3)。
【0091】
したがって、出力は最大3つのリストになる(各リストは、免疫原性に従ってランク付けされることが好ましい)。
1.OUTリスト:除外されたペプチドを含む。
2.TOPリスト:組換えポックスウイルスを作製するための候補ペプチドの最大限の数を含み、ペプチドは最高の免疫原性予測ランクスコアを有する(第1のサブセット)。
3.EXTRAリスト:残りの適格な候補を含む(第2のサブセット)。
【0092】
実用的には、ステップ(a)は通常、TMS閾値を超えるTMスコアを示す候補(例えば、閾値25と同一又はそれ以上のTMスコアを有する候補)及び/又は相同領域を有する候補(例えば、適格なペプチドと共通して、5個を上回る連続するアミノ酸を有する候補)を最初に除外し、次いで、残りのN個の候補ペプチドから、最大Nmax個の最良の候補ペプチドを第1のサブセットとして選択し(Nmaxは組換えポックスウイルスによって発現されるペプチドの最大限の数、例えば、約30である。)、N-Nmax個のその他を第2のサブセットとして保持することを含む(図1及び3)。
【0093】
しかしながら:
・第2のサブセットは空であってもよい(N<Nmaxの場合、第1のサブセットはN個のペプチドしか含まない);
・候補ペプチドの膜貫通スコア及び/又はペプチド配列相同性があまりに高いために、第1のサブセットで選択されたペプチドの数が、Nmin個未満のペプチドである場合には(Nminは組換えポックスウイルスを作製するためのペプチドの最低限の数、例えば約5である。)、組換えポックスウイルスを作製することは不可能であると認められ、方法は失敗する。
【0094】
設計方法のステップ(b):カセット間の分配
好ましい実施形態において、本発明の方法は、複数の可能な分配のうち、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定するステップ(b)をさらに含む。
【0095】
ステップ(b)では、ポックスウイルスの作製及び生産に「リスク」であり得るペプチドが過剰であることによるバイアスを回避するために、各発現カセット内のペプチドの質及び量のバランスを取ることができる(図4)。
【0096】
ステップ(b)の一実施形態において、ステップ(a)で生成された第1のサブセット(TOPリスト)の選択されたペプチドは、ペプチドTMスコア及びペプチドハイドロパシースコア(HS)に基づいて異なるクラスに分類される。特に、TOPリストのサブセットのペプチドは、好ましくは、3つのクラス「低」(L)、「中」(M)及び「高」(H)に分類される。これらのクラスは、組換えポックスウイルスを作製も生産もしないリスク(各ペプチド単独について)を指す。
【0097】
「低」、「中」及び「高」という単語は相対的であり、クラスがTOPリストのサブセットのペプチドを比較することができることを単に表現していることを理解する必要がある。言い換えれば、Lペプチド(Lクラスのペプチド)は、組換えポックスウイルスを作製又は生産する可能性が最も高く、Hペプチド(Hクラスのペプチド)は、組換えポックスウイルスを作製又は生産する可能性が最も低く、Mペプチド(Mクラスのペプチド)は、Lペプチドよりも組換えポックスウイルスを作製又は生産する可能性が低いが、Hペプチドよりも組換えポックスウイルスを作製又は生産する可能性が高い。
【0098】
より好ましくは、TOPリストのペプチドは、それらのTMスコア(好ましくは25未満)に従ってランク付けされる。TMスコアが等しい場合には、ペプチドはハイドロパシースコアに従ってランク付けされる。所与のペプチド又はペプチド融合体のハイドロパシースコアは、ペプチド又は融合体について決定された疎水性スコアを、ペプチド又は融合体に存在する残基の数で除算することによって計算される。一般的な方法において、所与のペプチドの疎水性スコアは、例えば、WO2018/234506に記載されているように、ペプチドの各アミノ酸残基の疎水性値/親水性値の合計によって決定される。ペプチド融合体の疎水性スコアは、融合体に含まれる各ペプチドについて決定された疎水性スコアの合計に対応する。技術的には、組換えポックスウイルスによってコードされる1又は2以上のペプチド又はその融合ペプチドのアミノ酸配列は、本質的に親水性である。所与の配列の親水性又は疎水性の性質は、当技術分野で利用可能ないくつかの方法及びアルゴリズムによって容易に決定され得る。特定の配列の疎水性スコア及び/又はハイドロパシースコアを計算することは、当業者の手の届く範囲にある。例えば、これらのスコアは、Kyte-Doolittleメソッド(Kyte and Doolittle, 1982, J. Mol. Biol. 157: 105-32)又はその他の適切な方法(その他の多くの中で、例えば、Rose et al., 1993, Ann. Rev. Biomol. Struc. 22: 381-415; Kallol et al., 2003, J. Chromat. 1000: 637-55; Sweet et al., 1983, J. Mol. Biol. 171: 479-88)又はその他の適切なアルゴリズム(例えば、ExPAsy Prot Scale Protein;コロラド州又はthe World of Bioinformatics等によって開発されたタンパク質の疎水性プロット)を使用して決定され得る。
【0099】
上で説明したように、クラスを決定するためのレベルは相対的であり、関与する特定の閾値はなく、有利には、各クラス(L、M又はH)のペプチドの数は、ペプチド数Nの関数のみである。
【0100】
好ましい実施形態において、各クラスに分配される各クラスの候補ペプチドの数は、図5に示される表を含むがこれに限定されない第1の分配表に従う。この図では、より具体的には、「ペプチド数」の列は、各組換えポックスウイルスが含むペプチド数を示す(ここで、ペプチド数は、1~30個で構成される。)。「クラスあたりの合計」の列は、組換えポックスウイルス全体が表す各クラスのペプチドの数を、選択されたペプチドの数の関数として示す。図6は、ペプチドのランク付け及びそれらのクラスの決定の例を示す。ここでは、ペプチドの数は30個である。図5は、30個のペプチドに対して、6個のH、6個のM及び18個のLペプチドが存在することを示す。30個のペプチドは、TMスコアに従ってランク付けされ、TMスコアが等しい場合は、ハイドロパシースコアに従ってランク付けされる。ここでは、3個のペプチドのTMスコアは0を超えており、これらはHクラスに分類される。その他の27個のペプチドのTMスコアは0であるため、それらのハイドロパシースコアがランク付けに考慮される。27個のペプチドについて、HSが0.32~0.64である3個のペプチドがHクラスに入れられ、HSが-0.21~0.07である6個のペプチドがMクラスに入れられ、HSが-1.31~-0.25である18個のペプチドがLクラスに入れられる。
【0101】
好ましい実施形態において、ステップ(b)は、複数の可能な分配のうち、分類されたペプチドの第1のサブセットから異なる発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配の決定をさらに含む(「カセット間の分配」)。「分配」とは、カセット内の順序(「カセット内のスロット割り当て」)とは独立に、選択された各ペプチドについて、このペプチドをコードするカセットを単に指定することを意味する。分配のプリセットは、TOPの第1のサブセットの候補ペプチドの総数(N)と、各クラスから各カセットに受け入れるペプチド数とに基づく。
【0102】
「最適な」分配とは、組換えポックスウイルスを作製又は生産しないという全体的なリスクが最も低い分配を意味し、そのような最適な分配に到達するための基準を以下に説明する。
【0103】
図4に示すように、カセットの数は、第1のサブセットの選択されたペプチドの数の関数として決定される:通常、第1のサブセットが少なくとも15個のペプチドを含む場合は3個のカセット(カセットあたり少なくとも5個)、第1のサブセットが10~14個のペプチド含む場合は2個のカセット(カセットあたり5~7個)、第1のサブセットが10個未満のペプチドを含む場合は1個のカセット(ただし、説明したように、選択されたペプチドの最小限の数は、通常は5個のペプチドである)。1個のカセットの場合には、分配は自明であり、2個のカセットの場合には、各ペプチドに対して2の選択肢しか存在しないため、組み合わせの数は少なく、すべて試され得る。3個のカセットの場合には、組み合わせの数が非常に多くなり得るため、プロセスは、所与の最大限の数のバッチ、すなわち可能な組み合わせのみの反復(「iter」)を介して動作することが好ましい。最大限の数は、一度に対処可能(すなわち、許容可能な処理時間、例えば、30秒以内)な候補ペプチドの分配(例えば、すべての可能な候補ペプチドの分配の中からランダムに選択される)の最大限の数を定義する。言い換えれば、複数の可能な分配のうちの最大限の数の可能な分配の反復の間に、第1のサブセットから発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定することを試行する。
【0104】
この最大限の数は、サーバ1の処理手段11のリソース(すなわち、計算性能)のファンクション数である。実際、処理手段11が強力であるほど、組み合わせをより速く処理することができる。一般的なデスクトップコンピューター(最大4GBのRAMを備えた2コア4スレッドCPU)の場合には、所与の数は通常15,000バッチ(処理時間:28.9秒)である。ここで好ましい機器であるプロフェッショナルサーバ(24GBのRAMを備えた8コア16スレッドCPU)の場合には、最大限の数は通常30,000バッチ(処理時間:20.7秒)である。スーパーコンピューター(136GBのRAMを備える56スレッドCPU)の場合には、最大限の数は最大60,000バッチ(処理時間:42.4秒)であり得る。以下の説明では、最大限の数として30,000バッチの好ましい例を取り上げる。
【0105】
これらのバッチのいずれも満足のいくものではない場合には(以下を参照)、少なくとも2回目の反復(すなわち、所与の最大限の数(例えば、30,000)の追加のバッチ)が試行される。反復による処理は一般に、3個のカセットの場合に発生するが、実際には、可能な組み合わせの数が所与の数nより少ない場合、プロセスは1回の反復ですべての可能なバッチを処理することができることに注意すべきである。言い換えれば、ステップ(b)は、好ましくは、可能な分配の数(複数の可能な分配のサイズ)を最大限の数と比較することを含み、可能な分配の数が最大限の数を超える場合に、複数の可能な分配のうち、可能な分配の最大限の数の選択(特にランダムな選択)の中で、第1のサブセットから発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定することを繰り返し試行することを含む。
【0106】
好ましくは、各カセットに分配される候補ペプチドの数は、分配表に従う(例えば、図5参照)。この表はまた、サーバ1の記憶手段12によって有利に記憶される。示されているように、図5の表に従って、選択されたペプチド数が3で割り切れる場合には、各カセットは同じ数のペプチドを受け取るが、そうでない場合には、2個のカセットの間で最大1個のペプチド数の違いが存在する。例えば、ペプチド数が26個の場合には、26≧15であり、その結果、3個のカセットが使用され、第1及び第2のカセットに9個のペプチド、第3のカセットに8個のペプチドが存在する。
【0107】
さらに、図5の表は、各クラス(L、M又はH)のペプチド数(n)を決定し、各カセット(A、B及びC)には、カセットに分配されるペプチド数の関数として含まれる。例えば、ペプチド数が13個である場合には、第1のカセットは、3個のLペプチド、2個のMペプチド及び2個のHペプチドを含む7個のペプチドを発現し、第2のカセットは、2個のLペプチド、2個のMペプチド及び2個のHペプチドを含む6個のペプチドを発現する。全体的に、右の列に示されるように、ポックスウイルスは5個のLペプチド、4個のMペプチド及び4個のHペプチドを発現する。
【0108】
より好ましい実施形態において、ステップ(b)は、各バッチについて各発現カセットの内容のハイドロパシースコア(「発現カセットのハイドロパシースコア」又は単に「融合体のハイドロパシースコア」とも呼ばれる)の計算と、融合体のハイドロパシー閾値(HSK7Thresh)に対する比較とをさらに含む。好ましくは、ハイドロパシー閾値は、0.2と同一又はそれ未満、好ましくは0.19未満、より好ましくは0.18未満、より一層好ましくは0.17未満、より一層好ましくは0.16未満、より一層好ましくは0.15未満である。各発現カセットの内容によって、それはバッチ内でカセットに分配された候補ペプチドを指すことに注意する必要がある。カセットのハイドロパシースコアは、その順序(この段階ではまだ決定されていない)に関係なく、このカセットに含まれる候補ペプチドによってのみ決定されることを理解する必要がある。
【0109】
1以上の発現カセットが閾値を超えるハイドロパシースコアを示す場合には、対応するバッチは満足のいくものではなく、除外される。
【0110】
すべてのバッチが除外された場合:
・反復を行っている場合(すなわち、可能な分配の数が所与の最大限の数を超えている場合)、説明したように、少なくとも1回の追加の反復を試行することができる。言い換えると、複数の可能な分配のうち、可能な分配の最大限の数の新たな選択である;
・それ以外の場合、又は十分な反復がすでに試行されている場合(例えば、3回の反復)、ハイドロパシースコアが最も高い別個のペプチドが除外され(OUTリストに配置)、好ましくは、存在すれば、第2のサブセット(EXTRAリスト)の第1のペプチド(存在する場合)に置き換えられる。EXTRAリストが空の場合、バッチの生成はN-1個のペプチドを有するTOPリストから再度実行される。次いで、ステップ(b)を繰り返す(場合により再度の反復を通じて)。
【0111】
少なくとも1個のバッチで十分な場合は、異なる発現カセット間のハイドロパシースコアの範囲が最も低い分配が選択される。「範囲」(R)とは、バッチの2以上の発現カセットのハイドロパシースコアのうちの最大のギャップ、すなわち、(HSK7)max-(HSK7)minを意味する。範囲が明らかに低い場合(例えば、図4に示すように範囲閾値(RThresh)を下回る場合、通常は0.005に設定される)、このような「低い範囲」を有するいくつかの異なるバッチを検討することができる。すなわち、カセットあたりの候補ペプチドの2以上の最適な分配が存在する。好ましい実施形態において、本発明の方法は、複数の可能な分布のうちで、第1のサブセットから発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定することを含み、2以上の発現カセットのハイドロパシースコアのうちの最も低い範囲を示す。
【0112】
設計方法のステップ(c):カセット内のスロット割り当て
図7に詳述されているステップ(c)において、処理手段11は、各発現カセットについて、カセットのスロット占有ルールの関数として候補ペプチドの最適なスロット割り当てを決定し、ここで、候補ペプチドは、ステップ(b)に記載されるように発現カセットに分配されている。カセット内の候補ペプチドの「スロット割り当て」とは、発現カセット内のペプチドの順序を意味する。言い換えれば、カセットの各「スロット」に対して、このカセットに分配されたペプチドのうち1個のペプチドが選択される。
【0113】
「最適な」スロット割り当てとは、組換えポックスウイルスを作製又は生産しないという全体的なリスクが最も低い割り当てを意味し、そのような最適な分配に到達するための基準を以下に説明する。
【0114】
膜貫通ドメインを生成するリスクは、各カセットについて、スロット占有ルールにより可能なすべてのペプチドの組み合わせを生成することによって評価される。TMセグメントは、2個の特定のペプチド(ペプチド間TM)の接合によって生成され得ることが実際に観察されている。この場合、融合体におけるペプチドの順序を変更することは、TMの存在を排除するためのオプションである。例えば、TMセグメントが、ペプチド2のN末端でのペプチド1の融合の結果である場合には、ペプチドの反転(ペプチド1のN末端でのペプチド2の融合)は、TMセグメントを有するリスクを排除することができる。したがって、このステップは、別個のペプチドのすべての組み合わせを実行して、融合タンパク質を形成させる。
【0115】
好ましい実施形態において、ステップ(c)は、ペプチドの膜貫通スコアに従って、膜貫通スコアが等しい場合には、ハイドロパシースコアに従って、カセット内のペプチドの可能なスロット位置を決定するカセットのスロット占有ルールに基づいて、各発現カセットに対する候補ペプチドの最適なスロット割り当てを決定する。より好ましくは、発現カセットに分配される候補ペプチドは、組換えポックスウイルスを作製又は生産しないリスクの3以上のクラスに従って分類され、ここで、カセットのスロット占有ルールは、カセットの各スロット位置について、候補ペプチドがこのスロット位置に割り当てられるべきクラスを決定する。
【0116】
「スロット占有ルール」とは、ステップ(b)で決定された膜貫通スコア及びハイドロパシースコアに基づいて、ペプチドクラス「低」(L)、「中」(M)又は「高」(H)に従って、カセット内のペプチドのスロット位置を決定するルールを意味する。
【0117】
「カセットのスロット占有ルール」は、可能な組み合わせの数を減少させるための賢明な方法である。実際、10種のペプチドのカセットの場合、10!個、すなわち、360万個を超える可能なカセット内のスロット割り当てが存在する。
【0118】
発想は、これらの低、中又は高のクラスに従ってスロットを選択し、その結果、合計TMスコアを最小限に抑えながら可能な組み合わせの数を制限することである。実際、各ペプチドの可能なスロットの数は減少し、可能な組み合わせの数は大幅に減少する。
【0119】
図8A及び8Bは、スロット占有ルールの2つの可能性を表したものである。例えば、図8Aは、Hペプチドが融合体の末端(カセット内TMを生成するリスクが存在しない)及び3番目のスロット(その他のHペプチドから離れている)に配置されることが好ましいことを示す。
【0120】
ステップ(b)で進展させたN=13の例に従うために、図8Bは、第1のカセット(7個のペプチド)において、3個の低クラスペプチドをスロットII、IV及びVIに配置し、2個の中クラスペプチドをスロットI及びVに配置し、2個の高クラスペプチドをスロットIII及びVIIに配置し;第2のカセット(6個のペプチド)において、2個の低クラスペプチドをスロットII及びIVに配置し、2個の中クラスペプチドをスロットI及びVに配置し、2個の高クラスペプチドをスロットIII及びVIに配置する。第1のカセットには(7!=5040の代わりに)、3!×2!×2!=24の可能な組み合わせのみが存在し、第2のカセットには(6!=720の代わりに)、2!×2!×2!=8の可能な組み合わせのみが存在することに注意する必要がある。カセットに10個のペプチドが存在するという最悪の場合であっても(第1行)、360万の代わりに6!×2!×2!=2880の可能な組み合わせのみが存在する。
【0121】
好ましい実施形態において、ステップ(c)で生成された各組み合わせは、組換えウイルスの作製及び生産を損なうTMドメインを生成するそれらのリスクについて評価される。より具体的には、このステップは、各ペプチド融合体のTMパッチを計算し、TMパッチを閾値と比較し、閾値を超えるスコアを有する1以上のTMパッチを示す融合体を除外することを含む。より一層具体的には、このステップは、各ペプチド融合体のTMパッチを計算し、TMパッチをペプチド融合体のTMS閾値(TMSK7)と比較し、TMSK7を超えるスコアを有する1以上のパッチを示すペプチド融合体を除外することを含む。好ましくは、TMパッチは、融合体のTMS閾値60と同一又はそれ未満、より好ましくは融合体のTMS閾値50と同一又はそれ未満であり、よい一層好ましくは融合体のTMS閾値40と同一又はそれ未満(例えば、好ましいTMパッチ:40、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30等)である。
【0122】
すべてのペプチド融合体が除外された場合、カセット間の分配ステップを合格したペプチドの次のバッチにより、カセット内のスロット割り当てを実行する必要がある。その他のバッチが利用できない場合、ステップ(b)で提案されたものと同様に、別個の膜貫通スコアが最も高いペプチドは、TOPリストから有利に除外され、EXTRAリストの第1のペプチドに置き換えられる。次いで、新たなTOPリストが前のステップ(b)で再処理される。EXTRAリストが空である場合、TOPリストは残りの要素(N-1個)とともに使用される。
【0123】
すべてのペプチド融合体がTMSK7閾値を満たしている場合、全体的なTMSが算出され、次いで、各ペプチド融合体の最良の組み合わせが、全体的なTMSに基づいてランク付けされる。好ましい実施形態において、ステップ(c)は、最も低いTMスコアを有するペプチド融合体の選択を含む。
【0124】
設計プロセスのステップ(d):逆翻訳
一実施形態において、本発明の方法は、組換えポックスウイルスに挿入される発現カセットの1以上を含むDNA(核酸分子)トランスファー配列を決定する、いわゆる「逆翻訳」ステップ(d)をさらに含む。(図9)。好ましくは、DNAトランスファー配列はまた、組換えポックスウイルスの作製を容易にするためのエレメント(例えば、制限部位及び/又は組換えアーム)を含み得る。
【0125】
このファンクション(function)は、コドン最適化融合体タンパク質をコードする各発現カセットを(アミノ酸からヌクレオチド配列に)逆翻訳し、組換えポックスウイルスの作製に使用される事前に決定したプラスミド(すなわち、トランスファープラスミド)の生成に必要なDNAバックボーンにそれらを挿入する。この最終的なDNA配列は「トランスファー配列」と呼ばれる。
【0126】
有利には、出力(特にインターフェース(13)上)は、例えばFASTA形式で、ファイルに書き込まれ、プラスミド合成外部プロバイダに送信される固有のトランスファー配列である。トランスファー配列を生成するそのようなステップ(d)は当業者によく知られており、詳細には説明しない。
【0127】
逆翻訳ステップ(d)は、1又は2以上のペプチド融合体の発現に有用な様々な特徴について最適なDNA配列を提供するようにカスタマイズ及び最適化され得、中間のクローニングステップ、組換えポックスウイルスゲノム内の挿入部位及び組換えポックスウイルスの作製(plasmidFeatures.yml構成ファイルによって規定される設計)を考慮する。
【0128】
一実施形態において、各ペプチド融合体は、「最も頻繁な」コドン使用頻度に従ってDNAに逆翻訳され、その予想される挿入部位でDNAトランスファー配列のドラフト(draft)に結合される。次いで、JSON形式のファイルが逆翻訳の後に書き込まれる。これには、最適化されていないトランスファー配列、最適化される必要がある領域の座標(coordinate)を含む。その情報は、plasmiFeatures.yml構成ファイルの「custMots」セクションを形成する。次いで、各発現カセットに対してコドン最適化ステップが実行される(例えば、GeneOptimizer(商標)ツール(ThermoFisher)を使用)。次いで、最適化された配列が作業ディレクトリにインポートされ、トランスファー配列のバックボーンに再結合される。このステップは、所定のPMY IDに対してTransferSeqAssembler関数を実行するTSAssembler.shスクリプトを使用して実行される。
【0129】
最適化されたコドンの特徴に加えて、このファイルには、「custMots」(costom Motives)セクションの配列最適化プロセスに関する情報も含まれている。最適化はまた、発現レベルに悪影響を与えると予想される集中領域(concentrated area)及び/又は「負の」配列エレメントに存在するまれな非最適コドンのクラスターを抑制することによっても実行され得る。このような負の配列エレメントには、非常に高い(>80%)又は非常に低い(<30%)GC含量を有する領域:ATリッチ又はGCリッチのひと続きの配列;不安定な同方向又は逆方向の反復配列;内部の隠れ調節エレメント(internal cryptic regulatory element)(例えば、内部のTATAボックス、chi部位、リボソームエントリーサイト及び/又はスプライシングドナーサイト/スプライシングアクセプターサイト)及び/又は5TNT配列(TTTTT{N}T)が含まれるが、これらに限定されない。
【0130】
別の実施形態において、ファイルはまた、ペプチド融合体の最適な発現に適切な調節エレメント、特に、本明細書に記載される機能的な発現カセットを作製するためのプロモーター及びポリAを組み込んでいる。
【0131】
別の実施形態において、ファイルはまた、そのようなDNAトランスファーのその後のクローニングと、本明細書に記載の組換えポックスウイルスの作製とに有用な追加のエレメントをDNAトランスファー配列に組み込んでもよい。望ましくは、そのような追加のエレメントは、その後のクローニングステップを可能にするための適切な制限部位を含む。望ましくは、そのような制限部位は、各発現カセット及び/又はDNAトランスファー配列の5’及び3’に位置する。好ましくは、そのような制限部位は、核酸配列をコードするペプチド融合体内に存在しない。
【0132】
さらなる実施形態において、ファイルはまた、ポックスウイルスゲノムにおける選択された挿入部位に適合された組換えアームを、DNAトランスファー配列に組み込むことができる。好ましくは、挿入部位の両側の親ゲノムに存在するものと相同である(例えば、90~100%同一である)ポックスウイルス配列のストレッチに対応する2個の組換えアームが、1又は2以上の発現カセットのDNAトランスファー配列の5’及び3’に組み込まれる。再結合アームの長さは変動し得る。望ましくは、組換えアームのそれぞれは、少なくとも150bp、好ましくは少なくとも200bp、より好ましくは少なくとも300bp、より一層好ましくは300~600bp、より一層好ましくは350~500bp(例えば、約350bp又は500bp)又は300~400bpの相同なポックスウイルス配列を含む。
【0133】
本発明の好ましい実施形態において、それぞれ1又は複数のペプチドの融合体を発現する1又は2以上の発現カセットを含む組換えポックスウイルスを設計する方法であって、サーバ(1)の処理手段(11)によって、以下のステップ:
(a)候補ペプチドの第1のサブセットを選択するステップ、ここで、ペプチドは、TMS閾値を下回る膜貫通スコアを示す;
(b)複数の可能な分配のうち、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定するステップ、ここで、2以上の発現カセットが存在する場合には、最適な分配は、2以上の発現カセット間のハイドロパシースコアのうち、最も低い範囲を示す;
(c)最も低いTMスコアを有するペプチド融合体を選択するために、各発現カセットについて、カセットのスロット占有ルールの関数として候補ペプチドの最適なスロット割り当てを決定するステップ;
(d)組換えポックスウイルスを作製するために、1又は2以上の発現カセットのヌクレオチド配列を含むDNAトランスファー配列を決定するステップ
によって実行されることを含む。
【0134】
組換えポックスウイルスの作製
第2の態様において、本発明はまた、本明細書に記載の組換えポックスウイルスを調製する方法を記載する。この第2の方法は、組換えウイルスを設計するために、第1の態様による方法を実行するステップ、次いで、(設計されたように)組換えポックスウイルスを作製するステップを含む。
【0135】
典型的には、組換えポックスウイルスを作製するそのようなステップは、第1の方法のステップ(d)で得られたDNAトランスファー配列を含むDNAトランスファープラスミドの作製、ペプチドを発現する組換えポックスウイルスの作製、及び、場合により、組換えポックスウイルスの製造を含む。
【0136】
組換えポックスウイルスを構築するための一般的な条件は、当技術分野で周知である(例えば、WO2018/234506、WO2007/147528;WO2010/130753;WO03/008533;US6,998,252;US5,972,597及びUS6,440,422参照)。典型的には、トランスファーDNA配列は、トランスファープラスミドにクローン化され、組換えポックスウイルスは、ウイルスゲノム内の挿入部位に適合された組換えアームが5’及び3’に隣接するペプチド発現カセットを含むトランスファープラスミドとの間の相同組換えによって作製される。一実施形態において、この方法は、トランスファープラスミドを作製するステップ(例えば、従来の分子生物学的方法による)と、トランスファープラスミドを、特にポックスウイルスゲノム(すなわち、親ウイルス)とともに、適切な宿主細胞に導入するステップとを含む。改変ポックスウイルスの作製を可能にする相同組換えは、好ましくは、適切な宿主細胞(例えば、HeLa又はCEF細胞)において行われる。好ましくは、トランスファープラスミドは、宿主細胞にトランスフェクトされる前に線状化され、親ウイルスは、好ましくは、感染によって導入される。
【0137】
親ポックスウイルスは、用語「ポックスウイルス」に関連して上記したように、野生型ポックスウイルス又は改変されたポックスウイルス(例えば、弱毒)であり得る。次いで、親ゲノム及び線状化トランスファープラスミドの両方に存在する相同配列のひと続きの間の相同組換えにより、挿入が行われ、これは、線状化トランスファープラスミドによる許容細胞(permissive cell)のトランスフェクション及び親ポックスウイルスによる感染を必要とする。
【0138】
ステップ(d)で作製されたDNAトランスファー配列は、ポックスウイルスゲノムの任意の位置に独立して挿入され得る。様々な挿入部位を検討することができ、例えば、ポックスウイルスゲノムの非必須ウイルス遺伝子、遺伝子間領域又は非コード部分中である。腫瘍溶解性ワクシニアウイルスの場合には、J2R遺伝子座(TKをコードする)が、本発明の文脈において特に適切であり、組換えアームは、ポックスウイルスゲノムへのDNAトランスファー配列の挿入時に、少なくとも部分的にJ2R遺伝子座を欠損させ、TK欠損組換えポックスウイルスが得られるように設計される。TK挿入に加えて又はTK挿入とは独立して、適切な組換えアームを使用してRR欠損組換えポックスウイルスが得られるI4L遺伝子座(RRをコードする)内への挿入を検討することもできる。MVAの場合には、欠失III及び/又は欠失IIは、1又は2以上の発現カセットの挿入に特に適合している。本発明の文脈において、1又は2以上の発現カセットを、ポックスウイルスゲノム内の同じ挿入部位又は異なる部位内(例えば、WR又はコペンハーゲンワクシニアウイルスの場合はTK及びRR、MVAの場合は欠失II及びIII)に挿入することを検討することができる。
【0139】
特定の実施形態において、組換えポックスウイルスの特定は、選択遺伝子及び/又は検出用遺伝子の使用によって促進され得る。好ましい実施形態において、トランスファープラスミドは、選択培地(例えば、ミコフェノール酸、キサンチン及びヒポキサンチンの存在下)での成長を可能とする選択マーカー、特に好ましくはGPT遺伝子(グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼをコードする)をさらに含む。
【0140】
特定の実施形態において、組換えポックスウイルスを作製するステップは、ペプチド発現カセットに選択された挿入部位でクローン化されているレポーター遺伝子であって、検出用遺伝子産物をコードするレポーター遺伝子、特に蛍光レポーター遺伝子を含む親ポックスウイルスの使用を含む。好ましくは、レポーター遺伝子は、許容細胞内でのその発現を可能にするプロモーター、例えば、ワクシニアプロモーターの転写制御下に置かれる。本実施形態は、親ポックスウイルスに関する組換えポックスウイルスの選択を促進する。本発明の文脈で使用され得る蛍光レポーターの代表的な例としては、限定されるものではないが、GFP(緑色蛍光タンパク質)、eGFP(高感度緑色蛍光タンパク質)、AmCyan1蛍光タンパク質及びmCherryが含まれる。例えば、mCherry(Discosoma mushroomに由来する、587nm及び610nmでピーク吸収/発光を有する単量体蛍光タンパク質)による場合には、mCherryをコードする配列の代わりにペプチドをコードする核酸分子又は発現カセットが挿入された組換えウイルスは、白色プラークを生じるが、mCherry発現カセットを保持する親ウイルスは、赤色プラークを生じる。組換えポックスウイルスの選択は、直接可視化(組換えポックスウイルスの場合は白色プラークであるが、親ウイルスは赤色で表れる)によるものでもよいし、或いは、APC(アロフィコシアニン)標識された抗ワクシニアウイルス抗体で標識した後のソーティング手段、例えば、FACSにより促進されてもよい。膨大な数の抗ワクシニア抗体が、商業的供給源から入手可能である。
【0141】
組換えポックスウイルスを作製するステップは、レポーター(例えば、mCherry)のヌクレオチド配列中に1以上の二本鎖切断を生じることができるエンドヌクレアーゼによる切断という追加のステップを含み得、ここで、このエンドヌクレアーゼはポックスウイルスゲノムを切断しない。エンドヌクレアーゼは、タンパク質の形態であり得るか、又は発現ベクターによって発現され得る。好適なエンドヌクレアーゼは、好ましくは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、クラスター化した規則的な配置の短い回文配列リピート(CRISPR)/Cas9ヌクレアーゼ及び蛍光レポーター遺伝子内に固有の切断を有する制限酵素からなる群から選択される。ウイルス編集のためのCRISPR/CAS9系の使用は、当技術分野で記載されており(Yuan et al., 2015, J. Virol 89, 5176-9; Yuan et al., 2016, Viruses 8, 72, doi:10.3390)、核局在化シグナルを有しないCas9をコードするプラスミド及び好適なガイドRNAの使用を必要とする。これに鑑みて、親ウイルスによる感染に加えて、許容細胞は、トランスファープラスミドと、Cas9を発現するプラスミドと、ガイドRNA(例えば、mCherry標的ガイドRNA)をコードする1又は2以上のプラスミドとによりトランスフェクトされてもよい。
【0142】
次いで、組換えポックスウイルスの選択は、視覚的に(組換えポックスウイルスに理論的には対応する白色プラークの直接単離、一方、有色プラークは親ポックスウイルスに対応し、色はレポーター遺伝子に依存する)又は従来のソーティング手段(FACS、場合により、上記のような適当な抗体による標識ステップ後のFACS)を使用して行われる。
【0143】
通常、本設計方法を伴わない従来の技術では、得られる白色プラークの割合は低く(約1%)、50~100個の親ウイルスに対して約1個の組換えポックスウイルスが得られる(約1%~2%)。一方、本発明の方法は、白色プラークの存在の増加及び組換えポックスウイルスの数の増加によって反映されるように、組換えポックスウイルスの作製を向上させることを可能にする。望ましくは、組換えポックスウイルスを作製する本方法は、白色プラークの収率が少なくとも2%、好ましくは少なくとも3%、より好ましくは少なくとも4%に達し、組換えポックスウイルスの収率が少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、より好ましくは70%、より一層好ましくは少なくとも80%に達することを可能にする。
【0144】
次いで、組換えポックスウイルスは、ポックスウイルスゲノムへの発現カセットの挿入を確認するために、こうして作製された白色プラークの分析ステップ(好ましくはPCRによる分析)によって特定され得る。
【0145】
組換えポックスウイルスの製造
本発明の方法によって作製されると、組換えポックスウイルスは、従来の技術を使用して作製/増幅され得る。したがって、本発明の方法は、組換えポックスウイルスを製造するステップをさらに含み得る。好ましい実施形態において、製造ステップは、適切な生産細胞において適切な規模へ増幅させるステップ、生産された組換えポックスウイルスを細胞培養物から回収するステップ、及び、場合により、回収された組換えポックスウイルスを精製するステップを含む。そのようなステップは、当技術分野では慣習的である(例えば、WO2007/147528又はWO2018/234506)。
【0146】
簡単に言えば、増幅ステップは、生産(例えば、許容)宿主細胞の培養と、培養された生産宿主細胞の感染と、組換えポックスウイルス(例えば、感染性ウイルス粒子)の生産を可能にするための好適な条件下での感染宿主細胞の培養とを含む。生産細胞の選択は、増幅される組換えポックスウイルスの種類に依存する。MVAは、厳密に宿主制限され、一般に、初代鳥類細胞(例えば、受精卵から得たニワトリ胚から調製されたニワトリ胚線維芽細胞(CEF))又は不死化鳥類細胞株のいずれかの鳥類細胞で増幅される。不死化鳥類細胞株は、例えば、アヒルTERT遺伝子で不死化された不死化鳥類細胞株(例えば、WO2007/077256、WO2009/004016、WO2010/130756及びWO2012/001075参照);又は成長因子及びフィーダー層からの進行的な分離による、胚細胞から得られる不死化細胞(例えば、Olivier et al., 2010, mAbs 2(4): 405-15に記載のEb66)である。その他のワクシニアウイルス又はその他のポックスウイルス株に関しては、鳥類初代細胞(例えば、CEF)及び鳥類細胞株に加えて、多くのその他の非鳥類細胞株が生産のために利用可能であり、その例として、ヒト細胞株、例えば、HeLa(ATCC-CRM-CCL-2(商標)又はATCC-CCL-2.2(商標))細胞が挙げられる(例えば、WO2010/130753参照)。
【0147】
生産細胞は、好ましくは、動物又はヒト由来の産物を含まない既知組成培地を使用して、動物又はヒト由来産物を含まない培地で培養される。このような培地は市販されている(例えば、VP-SFM培地(Invitrogen)は、CEFを培養するのに適している)。生産細胞は、好ましくは、感染前に、30℃~38℃の温度(より好ましくは、約37℃)で、1~8日間(好ましくは、CEFでは1~5日間、不死化細胞では2~7日間)培養される。
【0148】
組換えポックスウイルスによる生産細胞の感染は、生産細胞の増殖性感染を可能とする適切な条件下(例えば、適切な感染多重度(MOI))で行われる。ポックスウイルスの増幅に使用される好適なMOIは、一般に、0.001~1(より好ましくは、約0.05)である。感染ステップは、生産細胞の培養に使用した培地と同じ培地で行われてもよいし、異なる培地で行われてもよい。
【0149】
次いで、感染した生産細胞は、後代ウイルスベクター(例えば、感染性ウイルス粒子)が生産されるまで、当業者に周知の適切な条件下で培養される。感染した生産細胞の培養もまた、好ましくは、生産細胞の培養及び/又は感染ステップに使用した培地と同じ培地で行われてもよいし、異なる培地で行われてもよく、好ましくは、30℃~37℃の温度で1~5日間行われる。
【0150】
ポックスウイルス粒子は、培養上清及び/又は生産細胞から回収され得る。細胞培養上清及び生産細胞は、別個にプール又は回収され得る。生産細胞からの回収は、ウイルスの遊離を可能にするための生産細胞の膜を破壊するステップを必要とする場合がある。様々な技術が当業者に利用可能であり、その例として、限定されるものではないが、凍結/解凍、低張溶解、超音波処理、顕微溶液化又は高速ホモジナイゼーションが挙げられ、後者が好ましい(例えば、SILVERSON L4Rを使用する)。
【0151】
次いで、ポックスウイルス粒子は、当技術分野で周知の精製ステップを使用して、さらに精製され得る。様々な精製ステップが想定され得、その例として、清澄化、酵素処理(例えば、エンドヌクレアーゼ、プロテアーゼ等)、クロマトグラフィー及び濾過ステップが挙げられる。適切な方法は、当技術分野で記載されている(例えば、WO2007/147528;WO2008/138533、WO2009/100521、WO2010/130753、WO2013/022764)。
【0152】
好ましい実施形態において、製造ステップは、患者の検査及び治療のために好適な用量で分配される組換えポックスウイルスに関して、少なくとも10pfu、望ましくは、少なくとも5×10pfu、好ましくは、約1010pfu以上の生産に達する。
【0153】
武装した組換えポックスウイルス
本発明の特定の実施形態はまた、ペプチドをコードする発現カセットに加えて、ウイルスゲノムに挿入された追加の治療遺伝子を含む組換えポックスウイルスも含む。膨大な数の治療遺伝子が想定され得、特に、ウイルスの抗腫瘍有効性を増強する又は宿主の免疫を強化することができるポリペプチドをコードする治療遺伝子が挙げられる。好ましい治療遺伝子は、自殺遺伝子(薬物前駆体を細胞傷害性薬物に変換することができるタンパク質をコードする遺伝子)及び免疫刺激遺伝子(特異的又は非特異的な様式で、免疫系又はエフェクター細胞を刺激することができるポリペプチドをコードする治療遺伝子)からなる群から選択される。
【0154】
組換えポックスウイルス組成物
第3の態様によれば、本発明は、本発明の第2の態様による方法を使用して得られる組換えポックスウイルスを含む組成物であって、組換えポックスウイルスが、それぞれ本明細書に記載の複数のペプチド(例えば、ネオペプチド)の融合体を発現する1又は2以上の発現カセットを含む、組成物を提示する。
【0155】
一実施形態において、本発明の第3の態様による組成物は、本明細書に記載の(又は本明細書に記載の方法により得られる)組換えポックスウイルスと、薬学上許容可能なビヒクルとを含む医薬組成物の形態である。好ましい実施形態において、組成物は、治療有効量の組換えポックスウイルスを含む。
【0156】
用語「薬学上許容可能なビヒクル」は、哺乳動物、特にヒト対象における投与に適合する、任意の及びすべての担体、溶媒、希釈剤、賦形剤、アジュバント、分散媒、被覆剤、抗細菌剤及び抗真菌剤、吸収剤等を含むことを意図する。
【0157】
「治療有効量」は、本発明に従って治療される対象において、本明細書で記載する臨床状態の1以上を含む臨床状態の観察可能な改善をもたらすのに必要な組換えポックスウイルスの量に相当する。
【0158】
このような治療有効量は、多様な因子、例えば、限定されるものではないが、ポックスウイルスの特徴(例えば、ウイルスの種類、バイオアベイラビリティ及び用量)、疾患の重症度及び経過(例えば、癌のグレード)、対象自体(例えば、年齢、性別、病歴、全身健康状態等)、ウイルス製剤中の薬学上許容可能な担体又は賦形剤の性質、並びに治療様式(投与経路、投与頻度、併用薬の種類等)に応じて変わり得る。ポックスウイルスの適当な用量は、関連状況を考慮して医師により、例えば、ウイルスの投与に対する対象の反応をモニタリングすること、及びそれに従って用量を調整することによって、慣例的に決定及び適合され得る(さらなるガイダンスについては、Remington, ; The Science and Practice of Pharmacy; Gennaro ed., Pharmaceutical Press, London, UK;例えば、第22版以降を参照)。
【0159】
例示的目的のために、別個の用量に対する好適な治療有効量は、使用するポックスウイルス及び定量化技術に応じて、約10~約1013vp(ウイルス粒子)、iu(感染単位)又はpfu(プラーク形成単位)で変わり得る。一般的なガイダンスとして、約10pfu~約1011pfuの別個の用量が、本発明の文脈において特に適切であり、より好ましくは、約5×10pfu~約5×10pfu、より一層好ましくは、約10pfu~約10pfuである。好ましくは、別個の用量は、約5×10pfu又は約10pfuの組換えポックスウイルスを含む。別個の用量は、局所投与、例えば、腫瘍内注射では2~20倍減量してよい。サンプル中に存在するウイルスの量は、慣例的な力価測定技術により、例えば、許容細胞(例えば、BHK-21又はCEF)の感染後のプラーク数を計数することにより、免疫染色(例えば、抗ウイルス抗体を使用する)により、A260吸光度(vp力価)を測定することにより、定量的免疫蛍光(iu力価)により、又は特異的なウイルスプライマー及びプローブを使用するqPCRにより、決定され得る。
【0160】
製造条件及び凍結温度(例えば、-70℃、-20℃)、冷蔵温度(例えば、4℃)又は周囲温度(例えば、20~25℃)での長期保管(すなわち、少なくとも6か月間)条件下でのウイルス安定性を保証するために、液体又は凍結乾燥のいずれかの様々な製剤が本発明の文脈において想定され得る。組換えポックスウイルスは、有利には、ヒト又は動物への使用に適切な希釈剤に入れられる。好適な希釈剤の代表的な例として、滅菌水、生理食塩水(例えば、塩化ナトリウム)、リンゲル液、グルコース溶液、トレハロース溶液、サッカロース溶液、ハンクス液及びその他の生理学的に平衡な塩の水溶液が挙げられる。
【0161】
望ましくは、ポックスウイルス組成物は、好適には、ヒトへの使用のために緩衝される。緩衝液、例えば、TRIS(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン)緩衝液、TRIS-HCl(トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン-HCl)緩衝液、リン酸緩衝液(例えば、PBS;NaHPO及びKHPOの混合物;NaHPO及びNaHPOの混合物)及び重炭酸緩衝液が、生理的な又はわずかに塩基性のpH(例えば、約pH7~約pH9)を維持するために特に適切である。緩衝液(例えば、TRIS-HCl)の濃度は、好ましくは、10~50mMである。
【0162】
適切な浸透圧を保証するために、一価の塩を含めることも有益であり得る。一価の塩は、特に、NaCl及びKClから選択され得、好ましくは、一価の塩は、NaCl、特に10~500mMの濃度のNaClである。
【0163】
必要に応じて、組成物はまた、低温での保管を容易にするために、凍結防止剤を含み得る。好適な凍結防止剤として、限定されるものではないが、例えば、0.5~20%(重量(g)/容量(L)、w/vという)、好ましくは、5~15%(w/v)で変動する濃度の、好ましくは約10%の、スクロース、トレハロース、マルトース、ラクトース、マンニトール、ソルビトール及びグリセロールが挙げられる。高分子量ポリマー、例えば、デキストラン又はポリビニルピロリドン(PVP)の存在は、真空乾燥及び凍結乾燥ステップ中の組換えポックスウイルスを保護するための凍結乾燥製剤に特に適する(例えば、WO2014/053571参照)。
【0164】
例示的目的のために、NaCl及び/又は糖を含む緩衝製剤(例えば、サッカロース5%(W/V)、グルタミン酸ナトリウム10mM、及びNaCl 50mMを含有するトリス10mM pH8;又はグリセロール(10%)及びNaClを含有するリン酸緩衝食塩水)及びWO2016/087457に記載されている緩衝製剤は、ポックスウイルスの保存に特に適合される。
【0165】
治療用途及び治療方法
本明細書に記載され、本発明による方法によって得られる組換えポックスウイルス又はその組成物は、(治療用ワクチンとしての)治療目的での使用に特に適している。このような使用には、予防及び/又は治療の目的が含まれる。通常、「予防」は、病状又は病態(例えば、過剰増殖性(癌)又は感染性疾患)の発症を予防する、防止する、抑制する又は遅延させるためのアプローチを示すが、治療は、有益な又は所望の転帰(臨床転帰を含む)を得るためのアプローチを指す。
【0166】
本明細書に記載の組換えポックスウイルス又はその組成物によって提供される有益な効果は、ベースライン状態又は本明細書に記載の様式に従って治療されない場合に予想される状態を上回る臨床状態の観察可能な改善により、証明され得る。臨床状態の改善は、一般に医師又はその他の熟練の医療従事者により使用されるいずれかの関連する臨床測定により、容易に評価され得る。本発明の目的について、有益な又は所望の臨床転帰には、疾患に起因する1又は2以上の症状の軽減、疾患の程度の減少、疾患の安定化(例えば、疾患の進行の予防又は遅延、腫瘍のサイズの縮小等)、疾患の拡散(例えば、転移)の予防又は遅延、疾患の再発の予防又は遅延、再発のリスクの低減、疾患の寛解(部分的又は全体的)の提供、疾患の重症度の低減、疾患の治療に必要な1種又は2種以上のその他の医薬の投与量の低減、生活の質の向上、及び/又は生存期間の延長のうちの1又は2以上が含まれるが、これらに限定されない。
【0167】
適切な測定、例えば、血液検査、生体液及び生検の分析、並びに医用画像技術の分析が、臨床的利益を評価するために利用可能な医学研究室及び病院において慣例的に行われ、多数のキットが市販されている。それらは、投与前(ベースライン)、治療中及び治療休止後の様々な時点で実施され得る。
【0168】
本発明の文脈において、有益な又は所望の臨床転帰は、一過性(投与休止後1か月間又は数か月間)又は持続的(数か月間又は数年間)であり得る。臨床状態の自然経過は対象毎にかなり変わり得るため、治療的利益は、治療される各対象において観察される必要はないが、かなりの数の対象において観察される必要がある(例えば、2群間の統計的有意差は、当技術分野で公知の任意の統計的検定、例えば、チューキーパラメトリック検定、クラスカル・ウォリス検定およびマン・ホイットニーによるU検定、スチューデントのt検定、ウィルコクソン検定等により決定され得る)。
【0169】
好ましい実施形態において、組換えポックスウイルス又はその組成物は、過剰増殖性疾患の治療に使用するためのものである。本明細書で使用する場合、用語「過剰増殖性疾患」は、細胞の異常な増殖及び拡散、例えば、癌及びいくつかの心血管疾患(例えば、血管壁の平滑筋細胞の増殖に起因する再狭窄等)を含む。本明細書で使用する場合、用語「癌」は、用語「腫瘍」、「悪性腫瘍」、「新生物」のいずれとも互換的に使用され得、制御されない細胞の成長及び拡散からもたらされる任意の病状又は病態を包含する。これらの用語は、いずれの種類の組織、器官又は細胞、いずれのステージの悪性腫瘍(例えば、前病変からステージIV)も含むことを意味する。一般に、腫瘍、特に悪性腫瘍は、正常組織と比較して構造組織及び機能的調和の部分的又は完全な欠如を示し、一般に、周囲の組織に浸潤(拡散)する傾向、及び/又は、別の部位へ転移する傾向を示す。
【0170】
特に、本発明は、対象における癌を治療するため、又はその再発を予防するために使用する組換えポックスウイルス又はその組成物を提供する。本発明はまた、癌を治療するための医薬又はその再発を予防するための医薬の製造のための組換えポックスウイルス又はその組成物に関する。本発明はまた、本発明の第2の態様による方法を使用して得られた組換えポックスウイルス又はその組成物を、対象における癌を治療するか又その再発を予防するのに十分な量で、それを必要とする対象に投与することを含む治療方法に関する。
【0171】
特に好ましい実施形態において、本発明は、個別化癌ワクチンとして使用するための組換えポックスウイルス又は組成物を設計及び作製するために実施される。本明細書で適用する用語「個別化」は、個体レベル(特定の対象)又は部分集団レベル(共通の特徴を共有する、例えば、特定の疾患を有する、特定の表現型の特徴を有する、同じ薬物を服用する、又は同じ欠損、例えば、免疫系における欠損を示す人々の小グループ)のいずれかを指す。この文脈における特に適切な組換えポックスウイルスは、本明細書に記載の方法によって設計されて、1又は複数の発現カセットを含み、それぞれが実施例のセクションに記載されるような複数のネオペプチドの融合体を発現する。
【0172】
本発明の文脈において治療され得る癌の代表的な例として、骨癌、肝臓癌、膵臓癌、胃癌、結腸癌、食道癌、中咽頭癌、肺癌、頭部又は頸部の癌、皮膚癌、黒色腫、子宮癌、子宮頸癌、卵巣癌、乳癌、直腸癌、肛門部の癌、前立腺癌、リンパ腫、内分泌系の癌、甲状腺癌、軟組織肉腫、慢性又は急性白血病、膀胱癌、腎臓癌、中枢神経系(CNS)の新生物、神経膠腫等が挙げられる。本発明は、固形腫瘍の治療に特に適切である。これはまた、進行性の癌、例えば、転移性固形癌又は再発の高リスクに関連する癌の治療に特に有用である。本明細書に記載の様式に従って治療される好ましい癌として、脳癌、例えば、星状細胞腫、胚芽腫、生殖細胞腫瘍、中枢神経系非定型奇形/ラブドイド腫瘍、頭蓋咽頭腫、上衣腫、神経膠腫、神経膠芽腫及び頭頸部癌が挙げられる。本明細書に記載の様式に従って治療されるためのその他の種類の癌は、卵巣癌及び肺癌、特にNSCLC、特に好ましくは腺癌、扁平上皮癌及び大細胞癌である。
【0173】
例えば、有益な又は所望の臨床転帰は、以下の転帰の1又は2以上と相関し得る:本発明に従って治療される対象における、腫瘍の成長、増殖及び転移の阻害若しくは緩徐化、腫瘍浸潤(隣接組織への腫瘍細胞の拡散)の予防若しくは遅延、腫瘍病変数の減少;腫瘍のサイズの減少、転移の数若しくは程度の減少、全生存率(OS)の延長、無増悪生存期間(PFS)の増加、寛解の長さの増加、疾患の状態の安定化(すなわち、悪化しない)、疾患の再発の予防、別の治療に対する良好な反応の提供、生活の質の向上、及び/又は抗腫瘍応答(例えば、非特異的(先天性)応答及び/又は特異的応答、例えば、細胞傷害性T細胞応答)の誘導。
【0174】
別の実施形態において、組換えポックスウイルス又はその組成物は、感染性疾患の治療に使用するためのものである。本明細書で使用する場合、用語「感染性疾患」は、病原性生物(例えば、細菌、寄生虫、ウイルス、真菌等)による感染に起因する疾患を指す。本発明はまた、本発明の第2の態様による方法を使用して得られた組換えポックスウイルス又はその組成物を、対象における感染性疾患を治療するか又はその再発を予防するのに十分な量でそれを必要とする対象に投与することを含む、治療方法に関する。
【0175】
本発明の文脈で治療され得る感染性疾患の代表的な例には、慢性HBV(B型肝炎ウイルス)感染症及びHPV(ヒトパピローマウイルス)感染症が含まれる。この文脈における特に適切な組換えポックスウイルスは、本明細書に記載の方法によって設計及び作製されて、1又は2以上の発現カセットを含み、それぞれが病原性生物から得られた複数の免疫原性ペプチドの融合体を発現する。この方法が感染性疾患の治療を目的とする場合、治療利益は、例えば、治療された対象の血液、血漿若しくは血清において定量される感染している病原性生物の量の減少、及び/又は感染性疾患の安定化(非増悪)状態(例えば、炎症状態の安定化)、及び/又は特定の血清マーカーレベルの低下(例えば、慢性B型及びC型肝炎において通常観察される肝臓不全状態に関連したアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)及び/又はアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の減少)、感染性疾患の発症に関連した任意の抗原レベルの低下、及び/又は病原性生物に対する抗体の出現若しくはそのレベルの変化、及び/又は免疫細胞によるシグナル伝達物質(例えば、サイトカイン)の放出、及び/又は従来療法(例えば、抗生物質、ヌクレオシド類似体等)に対する治療された対象の応答の改善、及び/又は併用治療を受けない場合に予想される生存期間と比較した生存期間の延長を証拠とし得る。
【0176】
組換えポックスウイルス又はその組成物の投与
いずれの従来の投与経路も適用可能であり、好ましくは、非経口経路である。非経口経路は、注射又は注入としての投与を対象とし、全身経路及び局所経路を含む。特に好適な投与経路としては、限定されるものではないが、静脈内(静脈へ)、血管内(血管へ)、動脈内(動脈へ)、皮内(真皮へ)、皮下(皮膚の下に)、筋肉内(筋肉へ)、腹腔内(腹膜へ)、脳内(脳へ)及び腫瘍内(腫瘍又はその近傍へ)経路並びに乱刺(scarification)が挙げられる。注入は、一般に、静脈内経路又は腫瘍内(大きな腫瘍内)により行われる。粘膜投与も本発明により企図され、その例としては、限定されるものではないが、経口/食事性(alimentary)、鼻腔内、気管内、鼻咽頭、肺内、膣内又は直腸内経路が挙げられる。局所投与は、皮膚又は組織の表面(例えば、点眼薬、点耳薬等)に直接適用する。特に、治療される腫瘍が気道及び肺にある場合、吸入も想定され得る。組換えポックスウイルス又はその組成物は、好ましくは、静脈内、皮下、筋肉内又は腫瘍内注射により患者に投与される。
【0177】
投与は、標準的な針及びシリンジ又は送達を促進する若しくは向上させる当技術分野で利用可能ないずれかのデバイス、例えば、カテーテル、電気シリンジ、Quadrafuse注射針、無針注射デバイス(例えば、Biojector(商標)デバイス)、注入ポンプ、スプレー等を使用してよい。電気穿孔も、筋肉内投与を促進するために実施してよい。局所投与は、経皮的な手段(例えば、パッチ、顕微針等)を使用して行うこともできる。
【0178】
組換えポックスウイルスは、単回投与で、又はより望ましくは、長期間にわたり複数回投与により投与することができる。本発明の文脈では、休薬期間後に繰り返される投与の逐次サイクルを介して進めることが可能である。各ポックスウイルス投与間の間隔は、数時間~6か月(例えば、24時間、48時間、72時間、1週間、2週間、3週間、1か月、2か月等)であり得る。間隔は、規則的でもよいし、そうでなくてもよい(例えば、6回の投与について、1週間に1回の投与、次いで、1~14回の投与について、3週間毎に1回の投与)。用量は、上記の範囲内で、各投与で変更してもよい。例示的目的のために、好ましい治療スキームは、臨床的利益が認められるまでは約1又は3週間の間隔で、その後は1~6か月毎に、5×10~5×10pfuの組換えMVAの1~40回(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40回)の投与が含まれる。
【0179】
併用療法
本明細書に記載の方法及び治療的使用のさらなる実施形態において、組換えポックスウイルス又はその組成物は、上記の癌の治療において有用性を有する1種又は2種以上の追加の抗癌療法と併用して投与され得る。特に、さらなる抗癌療法は、手術、放射線療法、化学療法、寒冷療法、ホルモン療法、毒素療法、免疫療法及びサイトカイン療法からなる群から選択される。このような追加の抗癌療法は、組換えポックスウイルス又はその組成物の前、後、実質的に同時に、又は間欠的な様式で、標準的技法に従って対象に投与される。
【0180】
特定の実施形態において、本発明による方法又は使用は、手術と併用して行われ得る。例えば、組換えポックスウイルス組成物は、腫瘍の部分的又は完全な外科的切除後に投与され得る(例えば、切除領域内の局所適用により)。
【0181】
その他の実施形態において、組換えポックスウイルス又はその組成物は、放射線療法と関連して使用され得る。当業者ならば、適当な放射線療法のプロトコル及びパラメータを容易に処方することができる(例えば、Perez and Brady, 1992, Principles and Practice of Radiation Oncology, 第2版. JB Lippincott Coを参照;当業者に容易に明らかな適当な改変及び修飾を使用する)。癌治療に使用され得る放射線の種類は、当技術分野で周知であり、直線加速器又は放射線源、例えば、コバルト又はセシウム、プロトン及び中性子からの電子線、高エネルギー光子が含まれる。放射性同位体の線量範囲は大きく変動し、同位体の半減期、放射される放射線の強さ及び種類、並びに新生細胞による取り込みに依存する。長期間(3~6週間)の通常のX線線量、又は高単一線量が、本発明により企図される。
【0182】
本発明の特定の実施形態において、組換えポックスウイルス又はその組成物は、癌の治療のために現在利用可能な化学療法と併用して使用され得る。好適な化学療法剤の代表的な例としては、限定されるものではないが、アルキル化剤、トポイソメラーゼI阻害剤、トポイソメラーゼII阻害剤、PARP阻害剤、白金誘導体、チロシンキナーゼ受容体の阻害剤、シクロホスファミド、代謝拮抗剤、DNA損傷剤及び有糸分裂阻害剤が含まれる。
【0183】
さらなる実施形態において、組換えポックスウイルス又はその組成物は、免疫療法、例えば、抗新生物抗体、並びにsiRNA及びアンチセンスポリヌクレオチドと併用して使用され得る。代表的な例としては、とりわけ、特定の免疫チェックポイント、例えば、抗PD-1、抗PD-L1、抗CTLA-4、抗LAG3等を遮断するモノクローナル抗体(例えば、イピリムマブ、トレメリムマブ、ペムブロリズマブ、ニボルマブ、ピディリズマブ、AMP-224MEDI4736、MPDL3280A、BMS-936559等)、上皮成長因子受容体を遮断するモノクローナル抗体(特に、セツキシマブ、パニツムマブ、ザルツムマブ、ニモツズマブ、マツズマブ、トラスツズマブ(ハーセプチン(商標))等)及び血管内皮成長因子を遮断するモノクローナル抗体(特に、ベバシズマブ及びラニビズマブ)が含まれる。
【0184】
好ましい実施形態において、組換えポックスウイルスの投与は、未治療の対象と比較して、治療された対象における生存期間を、例えば少なくとも3か月延長させる。或いは、それは、腫瘍に対するT細胞応答(CD4+及び/又はCD8+T細胞応答)を生じる。
【0185】
組換えポックスウイルス組成物及び1種又は2種以上の追加の抗癌療法の投与は、分から週にわたる間隔を空けてもよい。例えば、対象に対して、組換えポックスウイルス及び追加の抗癌療法を逐次的又は間欠的に与えてもよいが、同じ期間内での両療法の同時投与も企図される。治療の過程は、医師により慣例的に決定され得るが、様々なプロトコルが本発明により包含される。例えば、組換えポックスウイルス組成物の1~10回の投与が、手術及び化学(chimio)/放射線療法の後に行われ得る。さらに、治療の過程の後、治療サイクルの反復前に抗癌治療を投与しない期間が存在することが企図される。
【実施例
【0186】
組換えMVAの作製
MVAゲノムの欠失IIIへの相同組換えにより導入されるヌクレオチド配列の挿入を可能にするように、MVAトランスファープラスミドを設計する。これは、MVA欠失IIIを挟むフランキング配列(BRG3及びBRD3)の間に挿入されたトランスファー配列を含む。
【0187】
その欠失III内にmCherry蛍光タンパク質をコードする遺伝子を含有する親MVA(MVA mCherry)を使用して、相同組換えを行った。MVA mCherryの利点は、発現カセットの組み込みに成功している組換えウイルスが感染している細胞を、最初の出発MVA mCherryウイルス(親ウイルス)が感染している細胞から区別することである。実際に、欠失III内での発現カセットの組換えが成功している場合は、mCherry遺伝子は除去され、ウイルスプラークは白色として出現する。
【0188】
組換えはワクシニアウイルスで比較的頻繁に起きる現象であるが、組換えプラークの1~5%のみが挿入DNAを含有する。したがって、相同組換えの効率を高めるために、エンドヌクレアーゼによる切断というさらなるステップを追加した。例えば、エンドヌクレアーゼを使用して、MVAにおけるmCherry遺伝子の二本鎖切断を特異的に生じさせ、それにより、組換えMVAの選択効率を高めることができる(例えば、通常、ウイルスプラークの5~50%が発現カセットを含有する)。
【0189】
特許WO2018/234506に記載されているように、初代ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)での相同組換えによって、MVAの作製を実施した。発現カセットの存在及び親MVAによるコンタミネーションの不存在をPCRによって確認した。
【0190】
1.ネオペプチド再配分の手動処理
この実験の目的は、3種の融合タンパク質として最大30種のネオペプチドを発現する組換えMVAワクチンの設計を評価することであった。
【0191】
a.材料及び方法
データセット
公開データベースCOSMIC(Catalogue Of Somatic Mutations In Cancer、Tate et al., 2019, Nucleic Acids Res., 47(D1): D941-D947)から選択した30種の体細胞変異から、30種のヒトネオペプチド(29mer)のリストを生成した。
【0192】
【表2】
【0193】
ソフトウェア
Geneiousソフトウェア(バージョン8.1.9、Biomatters Inc)を使用して、膜貫通ドメイン(TM)の予測と、各発現カセット(HSK7)の産物のハイドロパシースコアの計算とを実行した。
【0194】
b.結果
30種のネオペプチドによるコンストラクト:pTG19247
それぞれが10種のネオペプチドをコードする3個の発現カセットを有するプラスミドコンストラクトpTG19247を作製した(図10)。公的に利用可能な患者データセット(PRJEB3132研究、ヒト肺腺癌サンプル及びそれらの正常な対応物のエクソームシーケンシング)から予測された免疫原性に基づいて、30種のネオペプチドのプールを選択した。再配分はアルファベット順に行われ、各ペプチド間にリンカーは存在しない。各カセットは、シグナル配列(狂犬病ウイルス及び麻疹ウイルスのF糖タンパク質から得られる)を含み、それぞれpH5R、pB2R及びp11k7.5プロモーターの制御下に置かれる。融合体の構築を容易にするために、リンカーを選択したネオペプチドの間に含めなかった。対応するウイルスの作製を相同組換えによってCEFで実行した。
【0195】
pTG19247を使用した組換えMVAの作製中に、白色プラークが低い比率で得られた(約1%)。5個のプラークのみを選択し、クローン化した。PCR分析により、組換えウイルスに対応するウイルスは存在しないことが示された(白色プラークは、mCherryレポーター遺伝子のシグナルをアーチファクトにより消失した親ウイルスの存在に起因する)(図10)。
【0196】
3個の融合タンパク質の内容物の分析により、融合タンパク質に膜貫通ドメインが存在し(発現カセットBの場合は2個、発現カセットCの場合は3個)、発現カセットCが比較的高いハイドロパシースコア(HSK7>0.5)を有することが示された。これらの生化学的特性の影響を評価し、TMドメイン及び/又は高HSK7に関与する12種のペプチドをデータセットから除外し、18種のネオペプチドが残りのセットとなった。
【0197】
18種のネオペプチドによるコンストラクト:pTG19266
コンストラクトpTG19266は、pTG19247に由来する18種の「TMが存在しない」ネオペプチドに基づいて構築されている。ペプチドを3個の発現カセットに、それぞれが6種のネオペプチドの融合タンパク質をコードするように分けて、各発現カセットの積載量(load)のバランスを取った。各融合体において、G及び/又はT及び/又はS残基からなる短い配列(5mer)で構成されるリンカー(例えば、GSTSG、GSGSG等)によっても、ペプチドを分離して、融合タンパク質内のネオペプチド間の相互作用を制限した。
【0198】
新たな組み合わせで設計した融合体のペプチド配列では、予想通り、TMドメインが存在しないこと、及び発現カセットCのHSK7が最大約0.2に低下したことが示された(図10)。
【0199】
組換えMVAは、pTG19266プラスミドを使用して作製され、白色プラークの割合が比較的低い(1.8%)にもかかわらず、PCRによって分析した(6個のうちの)6個のクローンが真正の組換え体であることが確認された。
【0200】
c.結論
この実験は、いくつかのネオペプチドを融合タンパク質として有する組換えMVAワクチンを作製するのに必要な条件を評価するために設計された。最大18種のネオペプチドを有する組換えMVAを作製するには、膜貫通(TM)ドメインの欠如と中程度のハイドロパシースコア(≦0.2)とが必要であると考えられた。次のステップは、TM及びHSK7の基準に従ってネオペプチドの選択及び再配分のプロセスを自動化することである。
【0201】
2.VacDesignRによるトランスファー配列の設計
a.材料及び方法
データセット
3種の非小細胞肺癌サンプル(P2918、V1035及びV1055)及びそれらの正常な対応物(血液)から、ネオペプチドの3個のリストを特定した。腫瘍由来のエクソーム及び正常組織由来のエクソームを比較することによる配列決定実験によって、変異を特定した。腫瘍免疫(Oncoimmunity)の専門知識に基づいてランク付けを実行した。
【0202】
VacDesignRパラメータ
デフォルトのパラメータ、とりわけ:
・ペプチドTMスコア閾値(TMSThresh):25
・融合体のTMスコア閾値(TMSK7Thresh):40
・融合体のハイドロパシースコアの閾値(HSK7Thresh):0.2
・ワクチンあたりのペプチドの最大限の数(Nmax):30
・ワクチンあたりのペプチドの最小限の数(Nmin):5
を使用して、このデータセットに対してVacDesignRを実行した。
【0203】
b.VacDesignRの結果
VacDesignRの結果は、発現カセット、調節エレメント、ターミネーター、及びクローニング制限部位を含むトランスファー配列バックボーン内のネオペプチドの位置のマップである。3個のサンプルについて、発現カセット内のネオペプチドの相対位置のみを表8に示す。各融合タンパク質の疎水性度の平均及び予測されたTMの数、並びに白色細胞(プラーク)の割合として組換えウイルスの生産結果及びPCRによって確認された組換えウイルスのクローンの絶対数として示される。
【0204】
以下のセクションでは、サンプルV1055の中間結果についてのみ説明し、これは30種を超えるネオペプチドが入力データとして利用可能であったためである。その他の2個のサンプルは、30種未満のネオペプチドを含む初期リストを有し、これにより、ネオペプチドの数が少ないトランスファー配列を作成したが、すべてのサンプルで同様のステップを使用した。
【0205】
ペプチドの選択
最初のステップは、VacDesignRのtmCalc関数によるTM(膜貫通)スコア及びTMパッチの計算である。表3に示す入力データセット全体に対してこのステップを実行する。TMスコアは、TMパッチで報告されたローカルTM領域の合計である(例えば、TMパッチ‘36_1’は、ローカルTMスコアがそれぞれ36及び1である2つの領域を記載する。このペプチドのTMスコアは、36+1=37である。)
【0206】
【表3】
【0207】
閾値以上のTMスコア(TMスコア≧25)を有するネオペプチドは、フィルタリングで除外され、OUTリストに送信される(表4)。理由はまた、フィルタリングコードの列及びフィルタリング理由の列の両方として、このリストに記載される。例として、フィルタリングコード「1」は、「TMスコア>閾値」を意味する。
【0208】
【表4】
【0209】
残存するリストのネオペプチドは、30種を超えるため、ネオペプチド選択ステップの結果として2個のリストが作成される:OUTリストに加えて、サブ機能listsCreatoRはネオペプチドを2個のリストに分割する。
【0210】
入力リストがフィルタリングされると、最高ランクのネオペプチドが、トランスファー配列の一部として選択され、TOPリストに送信される(表5)。さらに、TOPリストの各ネオペプチドについて、ハイドロパシースコアが計算される。このスコアは、ペプチド残基のハイドロパシースコアの平均に対応する。
【0211】
【表5】
【0212】
残存する候補はEXTRAリストに保存され(表6)、必要に応じて、最初のTOPリストの処理中にネオペプチドが失格になった場合の追加候補のプールとして使用され得る。
【0213】
【表6】
【0214】
カセット間の分配
TOPリストの一部である30種のネオペプチドを3個の発現カセットに分けた。疎水性度とネオペプチド間に膜貫通ドメインを生成するリスクとの観点から、3個の融合タンパク質のバランスを取るためにVacDesignRで事前決定された再配分ルールを使用する。したがって、高(H)、中(M)及び低(L)のリスクの相対的な分類が、30種のネオペプチドに適用されている。再配分ルールに関して、各発現カセットは、10種のネオペプチド:2種の高クラス、2種の中クラス及び6種の低クラスで構成される。各クラスからのペプチドの選択を、ランダムに30,000回行って、3個の発現カセット構成を30,000バッチ生成する。次いで、疎水性度の平均をネオペプチドの各セット及び各バッチについて計算し、範囲もまた計算する。閾値を超える1以上のカセットのハイドロパシースコア(HSK7)を有するバッチを、すべて除外する。HSK7の範囲が最も低いバッチを次のステップのために保持した。サンプルV1055の例では、カセット内スロットの割り当てステップ用に選択された最良のバッチは、0.028のカセットハイドロパシースコアの範囲を有する(表7)。
【0215】
【表7】
【0216】
カセット内スロットの割り当て
このステップでは、ネオペプチドの組成に基づき、VacDesignRで生成されたスロット占有ルールに従って、各発現カセットを構築する。10種のネオペプチドをコードする各発現カセットについて、合計2,880種の融合体が生成される。サンプルP2918、V1047及びV1055に対するネオペプチドの最終コンストラクトの内容を表8に示す。2個の隣接するネオペプチド間で生じ得るTMドメインを検出するために、TMS及びTMパッチを各ペプチド融合体について計算する。したがって、ローカルTM領域が検出された場合(TMパッチ>TMSK7Thresh)、その融合体を却下する。
【0217】
【表8】
【0218】
最大3個の融合タンパク質の形態でそれぞれ14、21及び30種のネオペプチドをコードする3種のサンプルP2918、V1047及びV1055に対してプラスミドを作製した。最終的なトランスファー配列は、以前に決定したコンプライアンスに従っており、すなわち、TMドメインがなく、融合体のハイドロパシースコア(HSK7)が0.2未満であった。
【0219】
これらのプラスミドを有する組換えMVAの作製は、ツールによって強化された。白色プラーク(%)の範囲は12~22%であり、組換えクローンの数は13、19及び24であった。PCRにより依然として見つかった親クローンは、V1055由来のプラスミドのみであり、数は限られていた(3)。TMSの問題により、サンプルV1055のネオペプチドの初期リストにおいて上位30位にランク付けされているペプチドのうち1種のみを除外したことに注意する必要がある。それを31番目に置き換えて、組換えMVAウイルスを作製した。
【0220】
c.結論
自動化ツールVacDesignRを使用すると、3個の融合タンパク質で最大30種のネオペプチドをコードする組換えMVAの作製が大幅に改善された。MVAの作製の改善は、上位ランクの候補ペプチドよりも関心度の低い候補ペプチドの過剰選択を費やして行われたものではない。この改善は、最適化された個別化ワクチンの設計に役立った。
【0221】
上記で引用した特許、刊行物及びデータベースエントリのすべての開示は、参照によりその全体が具体的に本明細書に組み込まれる。本発明のその他の特徴、目的及び利点は、明細書及び図面並びに特許請求の範囲から明らかである。以下の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために組み込まれる。しかしながら、本開示に照らして、当業者は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示される特定の実施形態において変更を行うことができることを理解すべきである。
【0222】
参考文献
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WO2014/053571
WO2016/087457
WO2018/234506
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【手続補正書】
【提出日】2022-10-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれペプチド又は複数のペプチドの融合体を発現する1又は2以上の発現カセットを含む組換えポックスウイルスを設計する方法であって、
サーバ(1)の処理手段(11)によって、以下のステップ:
(a)候補ペプチドの第1のサブセットを選択するステップ、ここで、候補ペプチドは、TMS閾値未満の膜貫通スコアを示し、ペプチドの膜貫通スコアは、ペプチドがその配列内に1以上の膜貫通セグメントを生じる又は形成する可能性を示す
(b)複数の可能な分配のうち、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定するステップ、ここで、2以上の発現カセットが存在する場合には、最適な分配は、2以上の発現カセットのハイドロパシースコアのうち、最も低い範囲を示す;
(c)最も低いTMスコアを有するペプチド融合体を選択するために、各発現カセットについて、カセットのスロット占有ルールの関数として候補ペプチドの最適なスロット割り当てを決定するステップ、ここで、カセットのスロット占有ルールは、ペプチドの膜貫通スコアに従って、又は、膜貫通スコアが等しい場合にはそれらのハイドロパシースコアに従って、カセット内の候補ペプチドの可能なスロット位置を決定する
(d)組換えポックスウイルスを作製するために、1又は2以上の発現カセットのヌクレオチド配列を含むDNAトランスファー配列を決定するステップ
を実行することを含む、方法。
【請求項2】
ステップ(a)のペプチドが、同一性閾値未満の連続領域を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップ(a)が、ペプチドがTMS閾値を超える膜貫通スコアを示す場合、及び/又は、ペプチドが、より高い免疫原性を有すると予測された候補ペプチドに対して、同一性閾値を超える配列同一領域を示す場合には、ペプチドを除外し;且つ、特定された候補ペプチドのセットのうちの第2のサブセットを、第1のサブセットにおいて開示も選択もされていない候補ペプチドとして選択することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(b)が、可能な分配の数がサーバ(1)の処理手段(11)のリソースの所与の最大限のファンクション数を超える場合には、複数の可能な分配のうちの最大限の数の可能な分配の少なくとも1回の反復の間に、第1のサブセットから1又は2以上の発現カセットへの候補ペプチドの最適な分配を決定することを試行することを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(b)が、最大限の数の可能な分配の反復のうちの可能な分配のそれぞれについて、1以上の発現カセットが所与の閾値を超えるハイドロパシースコアを示す場合には、最大限の数の可能な分配の再度の反復を検討し;或いは、最高のハイドロパシースコアを示す候補ペプチドのうちの第1のサブセットからの候補ペプチドを、第2のサブセットからの候補ペプチドに置き換え、ステップ(a)のペプチド選択を再度続行する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(c)が、TMSK7閾値を超えるスコアを有する1以上のTMパッチを示すペプチド融合体を除外することをさらに含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(c)が、発現カセット中の候補ペプチドの可能なスロット割り当てにおいて、1以上の膜貫通ドメインが検出される場合には、最高の膜貫通スコアを示す候補ペプチドのうちの第1のサブセットからの候補ペプチドを、第2のサブセットからの候補ペプチドに置き換え、ステップ(b)、次いで、ステップ(c)を繰り返すことを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
発現カセットに分配される候補ペプチドが、組換えポックスウイルスを作製又は生産しないリスクの3以上のクラスに従って分類され、カセットのスロット占有ルールが、カセットの各スロット位置について、候補ペプチドがこのスロット位置に割り当てられるべきクラスを決定する、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
選択された候補ペプチドの数が10未満の場合には単一の発現カセットが存在し、選択された候補ペプチドの数が10~14の場合には2個の発現カセットが存在し、選択した候補ペプチドの数が15~30の場合には3個の発現カセットが存在する、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
組換えポックスウイルスを含む治療用ワクチンを調製する方法であって、以下のステップ:
組換えウイルスを設計するために、請求項1~のいずれか一項に記載の方法を実行するステップ;
組換えポックスウイルスを作製するステップ
を含む、方法。
【請求項11】
組換えポックスウイルスを製造するステップをさらに含む、請求項10に記載の方法であって、
組換えポックスウイルスを製造するステップが、適切な生産細胞において適切な規模へ増幅させるステップ、生産された組換えポックスウイルスを細胞培養物から回収するステップ、及び、場合により、回収された組換えポックスウイルスを精製するステップを含む、方法。
【請求項12】
組換えポックスウイルスが、ネオペプチドをコードする、請求項10又は11に記載の方法。
【国際調査報告】