IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジアの特許一覧

特表2023-508401ジスルフィド結合の再配列を有するヒトVEGF-Aの変異型を含むポリペプチド及びそれを含む組成物
<>
  • 特表-ジスルフィド結合の再配列を有するヒトVEGF-Aの変異型を含むポリペプチド及びそれを含む組成物 図1
  • 特表-ジスルフィド結合の再配列を有するヒトVEGF-Aの変異型を含むポリペプチド及びそれを含む組成物 図2
  • 特表-ジスルフィド結合の再配列を有するヒトVEGF-Aの変異型を含むポリペプチド及びそれを含む組成物 図3
  • 特表-ジスルフィド結合の再配列を有するヒトVEGF-Aの変異型を含むポリペプチド及びそれを含む組成物 図4
  • 特表-ジスルフィド結合の再配列を有するヒトVEGF-Aの変異型を含むポリペプチド及びそれを含む組成物 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】ジスルフィド結合の再配列を有するヒトVEGF-Aの変異型を含むポリペプチド及びそれを含む組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/475 20060101AFI20230222BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 7/10 20060101ALI20230222BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230222BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20230222BHJP
【FI】
C07K14/475
A61K39/00 H
A61K39/39
A61P29/00
A61P9/00
A61P37/06
A61P35/00
A61P27/02
A61P3/10
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P7/10
A61P37/02
C12N15/12 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022538974
(86)(22)【出願日】2020-12-21
(85)【翻訳文提出日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 CU2020050011
(87)【国際公開番号】W WO2021129898
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】CU-2019-0111
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CU
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】304012895
【氏名又は名称】セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベケット ロメロ、モニカ
(72)【発明者】
【氏名】モレーラ ディアス、ヤネリス
(72)【発明者】
【氏名】アヤラ アヴィラ、マルタ
(72)【発明者】
【氏名】ガヴィロンド コウリー、ホルヘ ヴィクトール
(72)【発明者】
【氏名】サンチェス ラミレス、ハヴィエル
(72)【発明者】
【氏名】ヘルナンデス ベルナール、フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス ブランコ、ソニア
(72)【発明者】
【氏名】エスピノーサ ロドリゲス、ルイス アリエル
(72)【発明者】
【氏名】ベサダ ぺレス、ウラジミール アルマンド
(72)【発明者】
【氏名】ペレス デ ラ イグレシア、マリエラ
(72)【発明者】
【氏名】トリミーニョ ロレンゾ、リアン
(72)【発明者】
【氏名】リモンタ フェルナンデス、ミラディス
(72)【発明者】
【氏名】ウビエタ ゴメス、ライムンド
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085EE01
4C085EE06
4C085FF01
4C085FF14
4C085FF21
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA45
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
(57)【要約】
非天然再配列で折り畳まれたヒト血管内皮増殖因子A(VEGF-A)のアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドであって、変異体のポリペプチド鎖の第2及び第4のシステインは分子内架橋のみを形成しており、第7及び第8のシステインは分子間結合の一部のみであるポリペプチド。本発明は、これらのポリペプチドの少なくとも1つを含有する抗原調製物、並びにそのような抗原調製物及びワクチンアジュバントを含む医薬組成物を更に含む。本発明による抗原調製物は、血管新生、炎症及び免疫抑制の増加に関連する疾患の治療、並びに免疫系の回復のために、薬物の製造において使用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト血管内皮増殖因子A(VEGF-A)のアイソフォームの機能的変異型を含むことを特徴とするポリペプチドであって、変異体のポリペプチド鎖の第2及び第4のシステインが分子内架橋の一部としてのみ見出され、変異体の第7及び第8のシステインが分子間結合を形成していることのみが見出されるジスルフィド架橋の非天然配置で折り畳まれる、ポリペプチド。
【請求項2】
機能的変異体が、2型受容体(VEGFR2)への結合に関与するVEGF-Aのアミノ酸の変異から得られることを特徴とする、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ヒトVEGF-Aアイソフォームが、VEGF-A121、VEGF-A145、VEGF-A165、VEGF-A189及びVEGF-A206からなる群から選択されることを特徴とする、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
第1のシステインが第2のシステインに連結され、第3のシステインが第4のシステインに連結され、第5のシステインが第6のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の再配列、並びに2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項5】
第1のシステインが第2のシステインに連結され、第3のシステインが第4のシステインに連結され、第5のシステインが第6のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の分子内ジスルフィド架橋再配列、及びポリペプチド鎖の第7のシステインが別のポリペプチド鎖の第8のシステインと連結され、2つのポリペプチド鎖の最後のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項6】
第1のシステインが第2のシステインに連結され、第3のシステインが第5のシステインに連結され、第4のシステインが第6のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の分子内ジスルフィド架橋再配列、並びに2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項7】
第1のシステインが第2のシステインに連結され、第3のシステインが第5のシステインに連結され、第4のシステインが第6のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の分子内ジスルフィド架橋再配列、及びポリペプチド鎖の第7のシステインが別のポリペプチド鎖の第8のシステインと連結され、2つのポリペプチド鎖の最後のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項8】
第1のシステインが第2のシステインに連結され、第3のシステインが第6のシステインに連結され、第4のシステインが第5のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の分子内ジスルフィド架橋再配列、並びに2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項9】
第1のシステインが第2のシステインに連結され、第3のシステインが第4のシステインに連結され、第5のシステインが第6のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の分子内ジスルフィド架橋再配列、及びポリペプチド鎖の第7のシステインが別のポリペプチド鎖の第8のシステインと連結され、2つのポリペプチド鎖の最後のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項10】
第1のシステインが最後のシステインに連結され、第2のシステインが第3のシステインに連結され、第4のシステインが第5のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の分子内ジスルフィド架橋再配列、並びに2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項11】
第1のシステインが最後のシステインに連結され、第2のシステインが第3のシステインに連結され、第4のシステインが第5のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の分子内ジスルフィド架橋再配列、及びポリペプチド鎖の第7のシステインが別のポリペプチド鎖の第8のシステインと連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項12】
第1のシステインが最後のシステインに連結され、第2のシステインが第4のシステインに連結され、第3のシステインが第5のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の再配列、及び2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項13】
第1のシステインが最後のシステインに連結され、第2のシステインが第4のシステインに連結され、第3のシステインが第5のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の再配列、及びポリペプチド鎖の第7のシステインが別のポリペプチド鎖の第8のシステインと連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項14】
第1のシステインが最後のシステインに連結され、第2のシステインが第5のシステインに連結され、第3のシステインが第4のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の再配列、並びに2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステインが連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項15】
第1のシステインが最後のシステインに連結され、第2のシステインが第5のシステインに連結され、第3のシステインが第4のシステインと連結される分子内ジスルフィド架橋の再配列、及びポリペプチド鎖の第7のシステインが別のポリペプチド鎖の第8のシステインと連結されて分子間ジスルフィド架橋を形成することを含むことを特徴とする、請求項3に記載のポリペプチド。
【請求項16】
細菌におけるその発現を増加させるためのアミノ末端セグメントと、精製を容易にするカルボキシ末端セグメントとを含む、請求項4から15のいずれか一項に記載のポリペプチド。
【請求項17】
細菌におけるその発現を増加させるための前記アミノ末端セグメントが、配列番号24からなるアミノ酸配列を有する、請求項16に記載のポリペプチド。
【請求項18】
そのアミノ酸配列が、配列番号18~配列番号23の配列からなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載のポリペプチド。
【請求項19】
請求項4から18のいずれか一項に記載の少なくとも1つのポリペプチドと、薬学的に許容される賦形剤又は希釈剤とを含む、抗原調製物。
【請求項20】
請求項19に記載の抗原調製物と、薬学的に許容されるワクチンアジュバントとを含む、医薬組成物。
【請求項21】
前記ワクチンアジュバントが、オイルアジュバント、アルミニウム塩、プロテオリポソーム、及びガングリオシドにコンジュゲートされたプロテオリポソームからなる群から選択される、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
進行が血管新生、炎症及び免疫抑制の増加に関連する疾患を治療するための医薬品を製造するための、請求項4から18のいずれか一項に記載の少なくとも1つのポリペプチドを含む抗原調製物の使用。
【請求項23】
進行が血管新生、炎症及び免疫抑制の増加に関連する前記疾患が、がん、黄斑変性症、糖尿病、関節リウマチ及び浮腫からなる群から選択される、請求項22に記載の使用。
【請求項24】
免疫系の回復のための医薬品を製造するための、請求項4から18のいずれか一項に記載の少なくとも1つのポリペプチドを含む抗原調製物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー及びヒトの健康の分野に関する。本発明は、ジスルフィド架橋の非天然配置で折り畳まれたヒト血管内皮増殖因子A(VEGF-A)の機能的変異体を含むポリペプチドを提供する。本発明は、血管新生、炎症、及び免疫抑制の増加を介して進行する病態の予防及び治療薬に使用される、これらのポリペプチドを含む組成物を生成するための基礎を提供する。
【背景技術】
【0002】
VEGF-A系及びその受容体は分子複合体であり、それらの相互作用は、内皮細胞の増殖、透過性、可塑性及び運動性を特異的に調節し、病理学的血管新生にプラスの効果をもたらす。VEGF-A発現及びそれらの受容体の調節不全は、腫瘍細胞及び間質の両方で起こり、そこでVEGF-Aは特に発現され、内皮細胞の機能を調節する。腫瘍周囲の内皮細胞に対する腫瘍VEGF-Aのパラクリン作用、並びに腫瘍細胞及びそれらの受容体を発現する間質に対するこの増殖因子の自己分泌作用は、主に過去20年間に報告されている(Carmeliet,Nat Med,2003:9:653-60、Mashreghi,et al.,J Cell Physiol,2018:233:2949-65)。
【0003】
VEGF-Aは、内皮細胞において増殖、運動性及び組織化の増加を誘導し、VEGF-A及びそのアイソフォームの濃度勾配、並びに他の血管新生促進因子及びそれらの受容体の存在に依存する配置及び成熟を有する新しい血管の形成をもたらす(Carmeliet,Nat Med,2003:9:653-60)。この主要な機能に加えて、骨髄起源の細胞における1型VEGF-A受容体及び2型VEGF-A受容体並びに共受容体の発現に関する証拠の一部は、炎症プロセス及び免疫抑制プロセスにおける主要なメディエータとしてこの因子を指摘している。例えば、VEGF-Aが樹状細胞においてその1型受容体と相互作用し、NFκBを介してそれらの成熟を低下させることが知られている(Gabrilovich,et al.,Nat Med,1996:2:1096-103、Gabrilovich,et al.,Blood,1998:92:4150-66)。更に、VEGF-Aは、インターフェロン-ガンマ(IFN-γ)分泌を阻害する制御機構として、エフェクターT細胞上で誘導されるその2型受容体(VEGFR2)に結合する(Ziogas,et al.,Int J Cancer,2012:130:857-64)。VEGF-Aはまた、炎症プロセスの必須メディエータであり、とりわけ腫瘍性現象及び関節炎現象に関連する病変の微小環境でマクロファージ及び好中球の表現型変化を誘導する(Voron,et al.,Front Oncol,2014:4:70)。
【0004】
これに関連して、VEGF-Aタンパク質ファミリー及びそれらの受容体は、既に記載されたプロセスを経て進行する疾患における能動免疫療法及び受動免疫療法の標的である。標的としてのVEGF-A及びそれらの受容体の使用は、複数の腫瘍型並びに加齢黄斑変性(AMD)に対する第一選択の治療として、アバスチン、ソラフェニブ及びスニチニブを用いた受動免疫療法の包含の承認によって検証された(Wentink,et al.,Biochim Biophys Acta,2015:1855:155-71)。自己免疫応答の誘導に関与するこの増殖因子による能動免疫療法は、よりゆっくりとした展開となる。2002年まで、標的としてVEGF-VEGFRを使用した研究はわずかしか報告されていない。これらの努力のほとんどは、異種変異体(Wei,et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2001:98:11545-50)、又はVEGFAに対して高い構造的及び機能的相同性を有するタンパク質(国際公開第99/45018号及び国際公開第00/53219号)の免疫原性、抗血管新生及び抗腫瘍効果の研究に充てられた。異種変異体の使用は、細胞応答が存在しない場合に高い中和及び特異的抗体力価を誘導するが、相同分子の使用は、抗腫瘍効果又は抗転移効果の証拠のかけらもない、わずかな免疫応答をもたらす。これらの戦略のいずれも臨床診療に移された。
【0005】
この因子に特異的な能動免疫におけるVEGF-Aの機能的変異体の使用は、裸のデオキシリボ核酸(DNA)又はアジュバントとして使用される免疫賦活性配列に融合した組換えタンパク質のいずれかを使用して、2002年に記載された(特許出願番号PCT/CU03/00004)。
【0006】
VEGF-A変異体(Arg82、Lys84、His86→Ala82、Ala84、Ala86、又はArg82、Lys84、His86→Glu82、Glu84、Glu86)の投与は、裸のDNAベースの免疫化(Bequet-Romero,et al.,Angiogenesis,2007:10:23-34))、又はタンパク質+アジュバントベースの免疫化(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93)を使用した場合、T特異的抗腫瘍応答の誘導をもたらす。タンパク質ベースの製剤により、VEGFR1及びVEGFR2へのその結合を阻害するVEGF-A特異的抗体の誘導が達成された(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93、Morera,et al.,Vaccine,2012:30:368-77)。VEGFR-2へのタンパク質結合を妨害する、VEGF-Aに導入された変異にもかかわらず、この相互作用を中和する抗体を誘導することが可能であった。このワクチン戦略の使用は、メラノーマ(MB16F10)、肺癌(3LLD122 y TC1)、乳癌(F3II)及び結腸直腸癌(CT26)のマウスモデルにおいて関連する抗腫瘍効果及び抗転移効果をもたらす。この変異体について、VEGF-A)とのインキュベーション後のIFN-γの分泌を伴う、同系腫瘍細胞に対する直接的な細胞応答が実証された(Bequet-Romero,et al.,Vaccine,2012:30:1790-9)。他の戦略とは異なり、これは、VEGF-A二量体の形成に関与するシステイン残基が除去されていないVEGF-Aアイソフォーム121の代表である、細菌において産生される組換え抗原を使用する。研究された種におけるこの戦略の使用は、優れた免疫応答の潜在的予備能の存在を実証した(Sanchez Ramirez,et al.,BMC Immunol,2017:18:39)。
【0007】
アジュバントの変更及びそれらの濃度のような戦略を使用し、また、投与される抗原の量を変更することによって、前臨床モデル及び診療所においてより高い免疫応答が達成され、同時に利益が得られた(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93、Gavilondo,et al.,Vaccine,2014:32:2241-50、Perez Sanchez,et al.,Hum Vaccin Immunother,2015:11:2030-7、Sanchez Ramirez,et al.,BMC Immunol,2017:18:39)。これらのより高い免疫応答は、応答の自己調節された特徴を維持しながら、研究された種の生理学的パラメータを損なうことなく起こる。免疫化スケジュール下で得られた抗体レベルは、治療抗体のボーラス投与後に達成されたものよりも有意に低かった。以前に論じられた要素は、有害作用を誘発することなくワクチンに対する応答を改善する可能性が残っていることを示している。
【0008】
したがって、抗血管新生効果、抗腫瘍効果、抗転移効果、抗炎症効果、又は免疫回復効果を増加させるヒトVEGF-Aの変異体であって、そのような変異体を含む抗原調製物で免疫された個体に対して免疫応答の改善が達成される変異体を得ることに依然として関心がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ジスルフィド架橋の非天然再配列で折り畳まれたヒトVEGF-Aアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドを提供することによって前述の問題を解決し、ここで、第2及び第4のシステインは分子内結合のみを形成し、同じ分子の第7及び第8のシステインは分子間架橋の一部としてのみ見出される。
【0010】
本発明の場合、VEGF-Aの機能的変異体は、天然変異体と比較して95%の配列同一性を有するが、VEGFR2へのその結合、及び受容体結合に関連するシグナル伝達を誘導しないという事実が前者とは異なる分子である。
【0011】
本明細書に記載のポリペプチドは、ヒトVEGFのタンパク質、特にVEGF-A及びそのアイソフォームに関連しており、これまでには記載されていない。それらは、主に、配列番号2によって定義されるポリペプチドの精製プロセスを変更することによって生成された(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93)。それらの分析は、元の抗原調製物PVMと比較して、安定性、免疫原性及び抗腫瘍効果の増加を示した(例1、2、3、4及び5)。
【0012】
ヒトVEGF-Aアイソフォームの機能的変異型を含む本発明関連ポリペプチドを得るために、VEGFR2結合に関与するアミノ酸を変異させた。本発明の実施形態の1つでは、ポリペプチドは、VEGF-A121、VEGF-A145、VEGF-A165、VEGF-A189及びVEGF-A206を含む群から選択されるヒトVEGF-Aアイソフォームを特徴とする。本発明で特許請求される免疫原性を増加させるシステイン配置は、VEGF-A121図1)について記載される標準的なシステイン構造を共有し、同じ治療効果を示すアイソフォームにまで及ぶ。したがって、同じクローニング及び発現系を使用して、VEGF-A145、VEGF-A165、VEGF-A189及びVEGF-A206に対応する配列を挿入した。システインノットを保存する産物と保存しない産物との間の比較評価は、この標準的な構造の非存在下で、PVM及びPVM-Iについて記載された免疫原性の増加が複製され得ることを示す(例2)。
【0013】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び第2のシステイン、第3及び第4のシステイン、並びに第5及び第6のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインの間に形成される。
【0014】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び第2のシステイン、第3及び第4のシステイン、並びに第5及び第6のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つの異なるポリペプチド鎖の第7と第8のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステイン間に形成される。
【0015】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び第2のシステイン、第3及び第5のシステイン、並びに第4及び第6のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインの間に形成される。
【0016】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び第2のシステイン、第3及び第5のシステイン、並びに第4及び第6のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つの異なるポリペプチド鎖の第7と第8のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステイン間に形成される。
【0017】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び第2のシステイン、第3及び第6のシステイン、並びに第4及び第5のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインの間に形成される。
【0018】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び第2のシステイン、第3及び第6のシステイン、並びに第4及び第5のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つの異なるポリペプチド鎖の第7と第8のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステイン間に形成される。
【0019】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び最後のシステイン、第2及び第3のシステイン、並びに第4及び第5のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン間に形成される。
【0020】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び最後のシステイン、第2及び第3のシステイン、並びに第4及び第5のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つの異なるポリペプチド鎖の第7及び第8のシステイン間に形成される。
【0021】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び最後のシステイン、第2及び第4のシステイン、並びに第3及び第5のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン間に形成される。
【0022】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び最後のシステイン、第2及び第4のシステイン、並びに第3及び第5のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つの異なるポリペプチド鎖の第7及び第8のシステイン間に形成される。
【0023】
一実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び最後のシステイン、第2及び第5のシステイン、並びに第3及び第4のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン、及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン間に形成される。
【0024】
他の実施形態では、ヒトVEGFアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、第1及び最後のシステイン、第2及び第5のシステイン、並びに第3及び第4のシステインの間のジスルフィド分子内架橋の再配列を含み、分子間結合は、2つの異なるポリペプチド鎖の第7及び第8のシステイン間に形成される。
【0025】
本発明の特定の実施形態では、ヒトVEGF-Aアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドは、更に、細菌におけるその発現を増加させるアミノ末端セグメント及び精製プロセスを容易にするカルボキシ末端断片を含む。
【0026】
本発明の範囲を制限することなく、好ましい実施形態では、髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)由来のタンパク質P64Kのアミノ末端断片(配列番号24)の46アミノ酸を含む組換えタンパク質異性体混合物が使用される。当該キメラタンパク質では、VEGFアイソフォーム121の言及されたアミノ末端セグメント及びアミノ末端部分は、これらの2つのセグメントを連結する13個のアミノ酸によって分離されている。更に、タンパク質は、抗原産生に有用なカルボキシ末端6ヒスチジン配列を有する。天然VEGF-A(図1)中のCys51及び60に相当するCys110及び119の融合ポリペプチド内での保存は、タンパク質の二次構造の変化を伴ういくつかの構造異性体の形成を促進する可能性がある。Bequet-Romeroら及びMoreraらの以前の研究のみが、これらのシステインを含むVEGF-A変異体を使用した。それにもかかわらず、それらのいずれにおいても、ポリペプチド鎖中のシステイン2とシステイン4との間に分子内ジスルフィド架橋が検出された。これらの2つのCysの存在並びにCys2及び4が分子内結合のみを形成する抗原産生のためのプロセスは、ワクチン目的でのタンパク質の産生に対する新しいアプローチを構成する。全体として、この戦略により、免疫学的応答を高める部位を露出させることができる。前者は、VEGF-Aのその2型受容体への結合を中和する抗体による認識、又はプロテアソームによる抗原消化が促進され、したがって抗原提示細胞によって新しいペプチドを提示することができるという事実に起因する可能性がある。
【0027】
本発明の特定の実施形態は、配列番号18~配列番号23を含むアミノ酸配列を有するポリペプチドである。それらは、VEGF-Aアイソフォーム121について記載された三次構造を保存するポリペプチドと比較して、免疫原性特性が増加している。これらのポリペプチドでは、所望の優れた効果を説明する三次構造の修飾が検出された。この優れた免疫原性は、これまでのところ、二次構造の変化がヒトVEGF-Aに対する有効な免疫応答の生成に最適ではないと記載されているので、驚くべきことであった(Wentink,et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2016:113:12532-7)。
【0028】
配列番号2によって同定されるポリペプチドについて確立された精製プロセスでは、野生型分子のものに類似する、Cys-ノット構造を有するVEGF-Aの構造異性体が例1に示すように産生される。予想外にも、精製プロセスの変更は、天然に分子間架橋を形成するVEGF-A由来のCys51及び60に対応するCys110及び119を含む分子内ジスルフィド結合を提示する異性体ファミリーの濃縮をもたらす。本明細書でPVM-Iと呼ばれる抗原調製物では、ジスルフィド架橋によって安定化されたオリゴマー構造の産生に関連する事実であるCys161、163及び175を含む他の分子間結合が観察された。本明細書に記載の折り畳みの形成、安定化、及び順序に関する先行技術の情報はない。これは、実際にVEGF-A組換え産生を扱うあらゆる研究が、天然VEGF-AのCys51及び60に相当するCys残基の配列を保存したという事実に関連する。これらのシステインが一次配列で保存された場合、再天然化プロセスを使用して天然のジスルフィド架橋を再生成した(Pizarro,et al.,Protein Expression and Purification,2010:72:184-93)。したがって、天然結合の非存在下での新規な非標準的な結合の検出、並びにPVM-I調製物の安定性及び生物学的活性の増加とのそれらの関係は、本発明の予想外の驚くべき発見である。
【0029】
本発明は、抗原調製物PVM-I中に存在する構造異性体の産生のための特定の形態に限定されない。例7に示すように、これらの異性体は、他の手順を用いて得られ、分離することができる。同様に、この例では、同定された異性体の等しい寄与が免疫原性の増分に関して示されている。いくつかの構造アイソフォームが、トリプシンベースの消化に対する耐性がより低いタンパク質画分内に共存し、それらは、特異的免疫応答の増大について同様の能力を示す。
【0030】
PVM-I調製物は、異性体混合物から構成されるか、又は12種の異性体変異体を効率的に分離することができる逆相クロマトグラフィを使用して単離された特定の異性体によって構成される。分離された異性体の投与は、それらの全てを含有する調製物について観察された効果が免疫学的レベルまで再現されるため、異性体混合物のいずれも潜在的に有効である(例7)。これは、全ての場合において、トリプシンのようなエンドプロテアーゼによるペプチドの生成が好まれ、トリプシンが、MHC分子の枠内で免疫系に提示されるペプチドの生成を担うプロテアソーム系の必須成分の1つであるという事実に関連し得る(Pamer,et al.,Annu Rev Immunology 1998:323-358)。
【0031】
また、本発明の主題は、ジスルフィド架橋の非天然再配列で折り畳まれたVEGF-Aアイソフォームの機能的変異体の少なくとも1つのポリペプチドを含む抗原調製物であって、ポリペプチド鎖の第2及び第4のシステインが分子内結合のみを形成しており、ポリペプチド鎖の第7及び第8のシステインが分子間架橋のみを形成している抗原調製物である。抗原調製物は、少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤又は希釈剤を含む。免疫原用量は、毒性がなく、固有の治療効果を示さない、薬学的使用のために認められているビヒクル中で投与することができる。これらのビヒクルとしては、イオン交換体、ミョウバン、ステアリン酸アルミニウム、レシチン、血清タンパク質、緩衝物質、グリシン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、植物起源の脂肪酸の部分グリセリド混合物、水、塩及び電解質、ポリビニルピロリドン、セルロース及びポリエチレングリコールに基づく物質が挙げられる。本発明では、ワクチン調製物のビヒクルとして塩化トリス緩衝液が優先的に用いられる。
【0032】
本発明の主な目的は、天然に見られるものとは有意に異なる二次/三次構造を有するポリペプチドであるため、本発明は所与の手順によって得られる抗原調製物に限定されない。
【0033】
VEGF-Aアイソフォームの変異体を含むポリペプチドから構成される異性体ファミリーは、とりわけ、逆相高圧液体クロマトグラフィ(RP-HPLC)を使用した構造異性体の精製又は不均衡に存在する変性剤での制御された再天然化を含む他の戦略を使用して、均一な組成物中で得ることができる。例7に示すように、構造アイソフォームは、RP-HPLCを使用して分離することができ、同一濃度でのそれらの独立した使用は、既に記載された混合物(PVM-I)と比較して、免疫原性、抗腫瘍効果及び抗転移効果に関して同様の効果をもたらす。
【0034】
PVM-I調製物は、フロイントアジュバントを用いた予備研究(例1)によるより高い免疫原性及び安定性を有する抗原変異体である。これらの研究は、非ヒト哺乳動物(例2~5、及び9~13)及びヒト(例14及び15)における治療シナリオに関連するアジュバント及びスキームに拡張された。より高い安定性の抗原変異体の使用は、生産的及び商業的状況に関連するが、免疫原性の増加により、優れた治療的解決策が提供される(例2~5、9~15)。
【0035】
好ましい実施形態では、本発明はまた、ジスルフィド架橋の非天然再配列で折り畳まれるヒトVEGF-Aの機能的変異体を含む医薬組成物を記載し、ポリペプチド配列の第2及び第4のシステインは分子内結合のみを形成し、第7及び第8のシステインは分子間架橋のみを形成する。
【0036】
本発明に関連する組成物は、少なくとも薬学的に許容されるアジュバントを含有する。免疫応答を増加させるために、本発明に記載される構造異性体は、既に記載された免疫賦活剤と組み合わせることができる。それらの中には、無機塩、サイトカインのような免疫刺激剤、分子アジュバント(CD40、CD154、MHC I型の不変鎖、LFA3)、サポニン、ムラミルジペプチド誘導体、オリゴヌクレオチドCpG、リポ多糖、モノホスホリルリピドA及びポリホスフェターゼ、脂質粒子(すなわち、フロイントアジュバント、MF59及びMontanide)、リポソーム、ナノ粒子、ビロソーム、ISCOMS、コイル状物質、微粒子アジュバント、ポロキサマー、ウイルス及び細菌抗原がある。また、粘膜アジュバントが含まれる。特定の実施形態では、アジュバントは、オイルベースアジュバント、アルミニウム塩、プロテオリポソーム、及びガングリオシドにコンジュゲートされたプロテオリポソームからなる群から選択される。
【0037】
薬学的に許容されるアジュバントと共に抗原を投与することは、他の抗腫瘍剤と併用して又は併用せずに第一選択又は第二選択の治療として、新たな転移の出現を回避すること、並びに原発腫瘍の減少及び更には除去に寄与することができる(例2~5、9~12、及び14)。また、このタイプの免疫療法は、とりわけ、急性及び慢性炎症過程(喘息、呼吸促迫、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症、組織浮腫)、感染症(肝炎、カポジ肉腫)、自己免疫疾患(糖尿病乾癬、関節リウマチ)、糖尿病性網膜症、黄斑変性症、血管新生緑内障、血管腫、及び血管線維腫の治療に有用であり得る(例12、13及び15)。
【0038】
特に、本発明は、NAcGM3-VSSPの名称でアジュバントの群に製剤化された場合、週に1回のスケジュールで、ワクチン抗原を投与することを記載した。これらのアジュバントは、髄膜炎菌(N.meningitidis)由来の外膜小胞への、ガングリオシドN-アセチルGM3の天然又は合成形態のコンジュゲーションから得ることができる(米国特許第6149921号、国際公開第201986056号、Regalado,et al.,Organic Process Research&Development 2013:17:53-60)。本明細書から、VSSP(超小型プロテオリポソーム)としても知られているこれらのアジュバント変異体は、NAcGM3-VSSPと呼ばれる。合成N-Acetyl GM3を組み込んだものは、ガングリオシドに付加される脂肪酸の長さがそれぞれ異なる。一般に、ステアリン酸を含む変異体(sNAcGM3-VSSP)又はオレイン酸を含む変異体(oNAcGM3-VSSP)の使用は、免疫原性、抗腫瘍効果及び抗転移効果に関してガングリオシドの天然変異体を使用して得られた結果を再現する。これらの製剤条件の全てにおいて、PVM-Iを抗原として使用した場合、PVMと比較して、優れた抗腫瘍、抗転移性、抗炎症性、及び免疫回復効果が得られた(例4~12)。
【0039】
組織病理学的研究は、全ての場合において、原発腫瘍における機能性血管の数の減少、腫瘍細胞密度の減少、及び有糸分裂/アポトーシス比の減少に対する有意な傾向を明らかにし、これらは腫瘍成長と逆相関した。がんに関連する致死が主に転移事象に関連することを考慮して、抗原調製物を肺への自発的及び実験的転移の積極的モデルにおいて更に評価した。全ての場合において、PVM-Iベースの調製物は、ワクチン抗原PVMを用いて得られたものよりも有意に良好な抗転移プロファイルを示した。
【0040】
処置された動物における転移巣の分析は、発見された転移の数と相関する壊死巣の数の増加と平行して、血管密度及び有糸分裂/アポトーシスのバランスが低下し、処置された原発腫瘍について記載された特徴と同様の特徴を示した。興味深いことに、ワクチンベースの処置は、転移の数を減少させることができただけでなく、そのサイズ及び増殖能も減少させることができ、転移プロセスに対する治療的介入の二重の効果である病巣の移植及びその増殖を示した(例9)。
【0041】
注目すべきことに、本発明の抗原調製物は、リン酸アルミニウムに製剤化される場合、2週間ごとに投与される。このアジュバントにより、PVM-Iを抗原として使用した場合、PVMと比較して、優れた抗腫瘍、抗転移性、抗炎症性及び免疫回復効果が得られた。
【0042】
同様の濃度で、全ての試験されたアジュバントにおいて、PVM-I調製物は、達成された特異的抗体応答及び血清の中和能に関して、PVMよりも有意に優れている。これらの効果は、使用した両方のマウス系統で観察され、多様なハプロタイプの状況で処置によって達成可能な広いスペクトルの応答を示した。同様に、NAcGM3-VSSPベースの製剤についてPVM-Iは、同系腫瘍細胞を直接排除する細胞応答の誘導のための優れた抗原選択である。新規抗原調製物はまた、ヒト霊長類のように天然VEGF-Aについてより高い相同性を共有する種でアッセイした場合、より高い免疫原性を証明した。
【0043】
治療適用のために、本発明からのワクチンは、当業者に公知の経路を使用して、薬学的に許容される投与量で哺乳動物、好ましくはヒトに投与される。記載された抗原調製物は、他の処置と同時又は連続スケジュールで投与することができる。
【0044】
新規抗原調製物PVM-Iの投与は、黒色腫、肺癌、乳癌、及び結腸癌を含む多様な起源の腫瘍の成長を有意に減少させ、これらの結果は、他の抗腫瘍治療の臨床診療への転換に関連する腫瘍モデルで得られたものであり、このワクチン戦略ががん治療における臨床場面に適用可能であることを示している。抗原投与量の増加は、免疫応答に関連する生物学的効果の増加に関連し、したがって、各用途に使用される抗原の量は所望の効果に依存する。
【0045】
本発明はまた、血管新生、炎症及び免疫抑制の増加に関連する疾患を治療するための薬物の製造における、ジスルフィド架橋の非天然再配列で折り畳まれたヒトVEGF-Aアイソフォームの機能的変異体を含むポリペプチドの使用を初めて明らかにする。特定の実施形態では、治療される疾患は、がん、黄斑変性症、糖尿病、関節リウマチ、及び浮腫を含む群から選択される。
【0046】
新規抗原調製物PVM-Iは、ヒトにおけるがんの能動免疫療法に有用である。腫瘍性疾患の治療と同じものの使用は、前臨床段階で記載された免疫学的効果を再現する。免疫された患者では、VEGF-A特異的抗体、並びにVEGF-A刺激に応答してIFN-γを分泌するTリンパ球のクローンが検出された。この免疫応答の存在は、生存の有意な増加と関連していた。長期の免疫応答が、完全応答を有する患者群において認められた。これは、がんワクチンにとって珍しい発見である。更に、治療の成功は、血漿中のVEGF-Aを完全に除去することとは関係がないことも興味深い。この要素は、前臨床及び臨床の両方の場面でVEGF/VEGFR2系を標的とする他の治療代替物について記載されているものと同様の副作用がないことに関連している可能性がある。同様に、循環VEGF-Aの減少、及びVEGF-AがVEGFR2に結合する能力の全身中和を達成することによって、薬学的に許容されるアジュバント中で投与される新規抗原調製物は、過剰な血管新生に関連する病態の別の群の治療に使用することができる。
【0047】
本発明は、本明細書中に開示される抗原調製物の使用を特定の疾患に限定するものではなく、治療がそれらの状況においてどのように有効であるかを例示する。したがって、リン酸アルミニウム又はsNAcGM3-VSSPの存在下で本発明の抗原調製物を投与することにより、担癌動物の免疫系を救済する(例11)。抗原調製物PVM-Iはまた、DBA/Iマウスにおけるコラーゲン誘導性関節炎モデルの状況において、本明細書でPVMと呼ばれる抗原調製物と比較して、抗炎症効果が増加することが示されている(例12)。同様に、抗原調製物PVM-Iは、角膜損傷の動物モデル及びヒトの加齢黄斑変性においてより大きな抗血管新生効果を有していた(例13及び15)。これは、非腫瘍性疾患の治療におけるこの戦略の潜在的有用性を示している。このコンパートメントにおけるVEGF-Aの投与の結果としての、角膜における血管新生の減少は、VEGF-Aの局所レベルの増加を示し、本発明のポリペプチドを含む調製物による能動免疫を誘導する免疫応答から制御することができる疾患である、加齢黄斑変性及び糖尿病性網膜症を治療するための戦略の可能性を示す。
【0048】
別の態様では、本発明は、免疫系を回復させる際に、ジスルフィド架橋の非天然再配列に折り畳まれる、ヒトVEGF-Aのアイソフォームの機能的変異体を含む少なくとも1つのポリペプチドを含む抗原調製物を含む医薬組成物の使用を明らかにする。新規抗原調製物は、より良好な免疫原性特性を示すことに加えて、免疫系の優れた回復をもたらす。サプレッサー骨髄性及び制御性T細胞の分析を、本発明の抗原調製物で処置した動物の原発性病変及び転移性病変において行った。この分析は、ワクチン調製物を異なるアジュバント及びスケジュールで投与すると、これらのサプレッサー細胞の数が減少することを示した。サプレッサー細胞の機能性、並びに全身レベルでのその数も影響を受ける(例10)。
【0049】
本発明で開示される抗原調製物のアジュバント効果は、オボアルブミン抗原(OVA)を発現する実験モデルで実証された。アジュバント中のPVM-Iワクチン抗原をOVAと共に逐次投与又は併用投与すると、OVA特異的細胞性及び体液性免疫応答が有意に増加した。更に、クラスI提示分子に関連して、VEGF-AとOVAとの交差提示に対するPVM-Iによるワクチン接種の効果が観察された(例11)。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1A】アイソフォーム121、145、165、206及び189における天然VEGF-A由来のアミノ酸配列と、抗原調製物PVM中に存在するアミノ酸配列との配列アラインメントである。濃いC(C)で表されるシステインは分子内架橋に関与するものであり、更に下線が引かれたもの()は分子間結合を形成する。
図1B】天然VEGF-A変異体におけるジスルフィド結合配置の概略図である。
図2】抗原調製物PVM-Iで検出されたジスルフィド結合の概略図である。
図3】ネイティブポリアクリルアミドゲル電気泳動(ジチオスレイトール又はβ-メルカプトエタノールの非存在下)を使用した、VEGF-Aからの標準的な「シスチンノット」の存在の評価を示す図である。
図3A】トリプシン消化後のPVM、CHO-VEGF-A及びVMタンパク質の分析を示す図である。
図3B】トリプシン消化後の2つのロットのPVM-I調製物(レーン2~5)及び対照としてのPVM(レーン6~7)におけるタンパク質の分析を示す図である。分子量マーカを、PM1及びPM2としてマークしたレーンに流した。
図4】NAcGM3-VSSPアジュバント(I)又はリン酸アルミニウム(II)中で投与した、PVM-Iで免疫した進行がん患者における体液性及び細胞性応答の評価を示す図である。
図4A】免疫した患者に対するVEGF-A特異的IgG力価を示す図である。
図4B】VEGF-VEGFR2相互作用をブロックする免疫化患者血清の能力の研究を示す図である。
図4C】INF-γ ELISPOTによって測定したVEGF特異的細胞応答の評価を示す図である。全ての場合において、値は、処置開始時の値と比較して見出された差を表す。
図5】抗原調製物PVM-Iで免疫した患者の生存に対する免疫応答及びその影響の分析を示す図である。生存時間は、NAcGM3-VSSPアジュバント(I)又はリン酸アルミニウム(II)のいずれかで抗原を投与された群について検出された陽性免疫応答の関数として示される。
【0051】

例1.PVM及びPVM-I抗原調製物の精製及び特性決定。
アミノ酸82、84及び86がグルタミン酸によって変異されたヒトVEGF-Aのアイソフォーム121をコードするDNAをベクターPM238にクローニングした(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93)。DNA配列の100%を確認し、配列番号1と命名した。この遺伝子構築では、アンピシリン耐性遺伝子は、発現レベルの変化なしに、カナマイシン耐性に対応する遺伝子によって中断された。プラスミドを大腸菌(Escherichia coli)BL21株に形質転換し、最も高い発現レベルを有する形質転換体を化学的に定義された培地中で選択した。この培地は、動物起源の成分の非存在下で、組換えタンパク質の発現を最大化するように設計された。このタンパク質を、Moreraら(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93)によって記載されたものに従って精製した。簡単に説明すると、タンパク質を50mM NaH2PO4緩衝液、300mM NaCl、6M尿素、pH7.8中で4℃で16時間抽出し、製造業者の説明書(QIAGEN)に従って精製した。緩衝液を、マトリックスG25(GE Healthcare)でのサイズ排除クロマトグラフィにおいてpH7.4の10mMのTrisに変更した。
【0052】
得られたタンパク質調製物を質量分析によって評価して、そのアミノ酸配列を検証した。ESI-MS及びESI-MS/MS(エレクトロスプレーイオン化質量分析及びエレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析)は、Z-スプレーエレクトロスプレーイオン化源(nanoESI)を備えたQTOF-2直交ハイブリッド構成分光計(Micromass、英国)で得た。還元されたタンパク質調製物の分子量(21569.13Da)は、アミノ末端で細菌タンパク質P64Kの断片に融合され、これらのポリペプチド間の架橋として機能する13個のアミノ酸によってそれから分離され、カルボキシル末端にヒスチジンテールも組み込んだヒトVEGF-Aのアイソフォーム121の理論的推定値(21569.31Da)に相当した。ヒトVEGF-A配列に導入された変異を確認し、位置141、143及び145の天然VEGF-A配列に対応するアミノ酸、それぞれアルギニン、リジン及びヒスチジンの代わりにグルタミン酸を検出した。
【0053】
Glu-Cエンドプロテイナーゼによる消化から得られたペプチドの混合物から、試料中のアミノ末端の完全性を検証した。ESI-MSスペクトルでは、ペプチドVDKRMALVE(二重荷電、理論値m/z530.78)に対応するシグナルが確認された。このペプチドをESI-MS/MSによって配列決定し、配列はタンパク質のアミノ末端について予想される配列と同一であった。
【0054】
還元されたインタクトなタンパク質のESI-MSスペクトルでは、質量分析計の入力コーンの電圧を増加させることによって、供給源で断片化が引き起こされ、C末端に対応するシグナルが検出された。結果の分析は、ESI-MS/MSによる配列決定後のペプチド177KPRRGSRAHHHHHH190(二重荷電、m/z875.46)と一致し、カルボキシル末端配列を確認した。全体として、配列決定の結果により、本発明者らは抗原調製物中に存在するポリペプチドの一次構造を検証することができた(配列番号2)。以下、配列番号2で定義されるタンパク質調製物をPVMと呼ぶ。
【0055】
発酵及び精製条件の研究は、発酵中の増殖条件を変更し、抽出時間を短縮し、ニッケルアフィニティクロマトグラフィにおける特定のタンパク質負荷を調整し、洗浄工程に洗剤を組み込むことによって、以前に記載された方法(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93)よりも優れた回収率を示した。簡単に説明すると、発酵プロセス中に、増殖相の発酵温度を28℃に変更し、化学誘導剤を必要とせずに、温度を37℃に上昇させるだけで発現を誘導した。6M尿素中のバイオマスからのタンパク質抽出時間も16時間から2時間に短縮され、0.1% Triton X114を用いたニッケルアフィニティクロマトグラフィに洗浄工程を導入した。更に、分子排除クロマトグラフィから得られた調製物を、マンニトール(40mg/mL)、スクロース(10mg/mL)及び10mM Tris-HCl pH7.4に製剤化した。この最終的なタンパク質調製物は、PVM-Iと呼ばれ、以下、最初のプロセスで得られた調製物、PVM調製物と比較する。
【0056】
両方の調製物において、総タンパク質の濃度を、二重波長(620及び450nm)でマイクロクーマシー法、及びSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)での純度パーセントを使用して評価した。免疫同定は、抗原中に存在する異なるセグメントを認識するモノクローナル抗体を用いた免疫ブロット法によって行った。これらの研究では、PVM及びPVM-I調製物は同一であった。
【0057】
これらの凍結乾燥タンパク質調製物の立体配座及び安定性の分析は、Superdex200XK10/300カラム(GE-Healthcare)で分析規模の分子排除クロマトグラフィを使用して行った。緩衝液Tris-HCl 10mM、NaCl 150mM、pH7.4を0.5mL/分の流速で移動相として使用した。凍結乾燥タンパク質調製物を1ミリリットルの水に懸濁し、比較データは、再構成時に、PVM及びPVM-Iがこのタイプのクロマトグラフィにおいて同じ保持プロファイルを示すことを示した。どちらの場合も、使用される分子量標準に従って、670kDaを超える分子量を有する可溶性凝集体が形成される。しかし、PVM-Iからの再構成溶液は、添加された組成物の経時的な安定性に関して差次的な特性を示し、その構造組成の変動を示した。PVM-I調製物は、再構成された後、分子排除クロマトグラフィにおいて、4℃で30日間、その保持時間プロファイルを維持するが、PVM調製物は、72時間で安定性を有意に失い始める(表1)。クロマトグラフィチャートの曲線下面積の分析によると、72時間でのPVMタンパク質質量の14%を超える立体配座変化は、30日目に有意に増加し、このとき、元の立体配座は45%を超えて失われる。
【表1】
【0058】
PVM及びPVM-Iタンパク質調製物の免疫原性を評価するために、マウスにおいて産生された体液性免疫応答を評価した。2つのマウス系統(C57Bl/6及びBALB/c)から、1群あたり10匹の動物を使用し、100μgのタンパク質調製物を、250μLの総体積(タンパク質/アジュバント比1:1v/v)で、1回目の投与では完全フロイントアジュバント(SIGMA)上で、2回目の投与では不完全フロイントアジュバント(SIGMA)上で、週間隔で投与した。動物由来の血清は、2回目の免疫の1週間後に収集した。血清中に存在するヒトVEGF-Aに対する特異的抗体力価、及びVEGF-Aとその2型受容体との相互作用を中和するそれらの能力を、以前に記載されたようにELISAによって評価した(Bequet-Romero,et al.,Vaccine,2012:30:1790-9)。力価の結果は、VEGF-Aに対する特異的抗体の存在が検出される最大希釈として表される。中和能は、血清中に存在する抗体が除去することができる最大VEGF-A/VEGFR2結合のパーセンテージとして表される。
【0059】
免疫原性を比較すると、新規抗原調製物(PVM-I)で免疫した場合に達成される血清転換レベルの有意な増加が、表2に示すように、これらの等量が投与された場合でさえ、以前のもの(PVM)と比較して証明された。
【表2】
【0060】
ジスルフィド架橋の形成は、(a)これらのタンパク質調製物のモノマーが同一の一次配列(配列番号2)を有すること、(b)それらが9個のシステイン残基を有すること、並びに(c)ヒトVEGF-A(PVM及びPVM-Iポリペプチド配列の63%を構成する)の免疫原性、熱及び立体配座安定性が、野生型タンパク質及びそのファミリーについて広く特徴付けられている標準的なシステイン構造の形成に関連することを考慮して、両方の調製物で研究した。
【0061】
タンパク質調製物内のジスルフィド架橋の順序付けを、トリプシンによるタンパク質分解の研究を介して事前に評価し、非変性条件下での電気泳動によって、及び移動相として200mM Tris-HCl、pH8.0を用いて、0.5mL/分でSuperose12XK10/300カラムでの分子排除クロマトグラフィによって分析した。
【0062】
天然VEGF-A中のシステインの特徴的な配置により、トリプシン消化に対して耐性となることが知られており(Keck,et al.,Arch Biochem Biophys,1997:344:103-13)、したがって、本発明者らは、この酵素によるPVM及びPVM-Iの消化の比較を行う。この目的のために、最終精製緩衝液を200mM Tris-HCl pH8.0に交換し、タンパク質をトリプシンの存在下又は非存在下、50:1の比(タンパク質:トリプシン)で37℃で16時間インキュベートした。その後、試料を採取して、非変性ネイティブ電気泳動によりトリプシン消化の効率を評価した(図3)。以下の試料をVEGF-A分子中の架橋の正しい立体配座の対照として使用した:1)VMタンパク質:大腸菌(E.coli)のペリプラズムから産生されたEに対するR80、K82、及びH84変異を有するヒトVEGF-Aのアイソフォーム121(Gavilondo,et al.,Vaccine,2014:32:2241-50)、及び2)CHO-VEGFタンパク質:真核細胞株CHO(チャイニーズハムスター卵巣)のトランスフェクションから得られたヒトVEGF-Aのアイソフォーム121(Sanchez Ramirez,et al.,J Immunoassay Immunochem,2016:37:636-58)。これらのVEGF-A変異体を、還元剤の非存在下での非変性プロセスによって精製した。図3は、細菌ペリプラズムからの調製物がトリプシンによる消化にどの程度耐性であるかを示し、これは、その90%は未消化タンパク質の分子量よりも低い分子量で移動する画分に回収され、推定分子量及びP64Kセグメント(19.902kDa)を有するか又は有さない変異体の二量体型における「システインノット」としても知られる標準的なシステイン構造の存在と一致するためである(図3A)。
【0063】
PVM調製物の分析は同様の現象を示したが、これはPVM-I調製物では観察されず、システインノットに対応するペプチドは現れない(図3B)。これを考慮して、トリプシン又はGluCによるPVM-I調製物の消化から生じるペプチドを、PVMについて記載されるように、試料を還元プロセスに供することなく質量分析によって分析した。表3は、検出されたジスルフィド結合を示す。
【表3】
【0064】
上記のジスルフィド結合の存在の一貫性を分析し、合計8ロットの最終生成物で検証した。同定された構造は、活性医薬成分と最終製剤の両方で見られる。PVM-Iについて見出されたジスルフィド架橋の特定のアレイは、VEGF-A121の野生型分子及びこのタンパク質の他のアイソフォームについて記載されたものとは有意に異なる。それらはまた、多様な原核生物及び真核生物発現系における組換え技術によって得られる場合、タンパク質について記載されるアレイとは異なる(Keck,et al.,Arch Biochem Biophys,1997:344:103-13)。天然VEGF-Aの2番目及び4番目のシステインに対応する、システイン110と119との間の分子間架橋について徹底的な探索を行った。野生型分子においてこれらのシステイン残基が分子内結合を形成する場合でも、それらに対応するペプチドは、いずれの実験条件においてもトリプシン又はGlu-C消化PVM-I調製物では検出されなかった。
【0065】
従来技術によれば、VEGF-Aの最も安定した構造は、いわゆる「システインノット」を維持する構造に相当する。しかし、タンパク質調製物PVM及びPVM-Iを用いて行われた研究は、それらが精製される条件では、より高い安定性が天然構造を欠く変異体に関連することを示した。同様に、Timmermanらのデータ(米国特許出願公開第2012/0231000号)にもかかわらず、フロイントアジュバントにおけるPVM-I免疫原性のPVMと比較した比較分析は、図2の異性体混合物を含むフロイントアジュバントがより免疫原性であることを示している。
【0066】
この研究は、PVMと比較してPVM-I調製では、ジスルフィド結合の配置の変化が起こり、抗原産生のための新しいプロトコルに従ってより高い安定性及び再現性をもたらすことを示している。図2は、PVM-Iのポリペプチド配列中に検出された9つのシステインの中で安定な形態で確立された架橋の12個の変異体を示す。
【0067】
例2.NAcGM3-VSSP中で投与された抗原調製物PVM及びPVM-Iの免疫原性の比較。
抗原チャレンジに対する体液性又は細胞性免疫応答を生成する能力が異なるマウス株C56BL/6及びBALB/cを使用した。両方の場合において、100μgの抗原調製物を、a)天然ガングリオシドを組み込んだ100μgのNAcGM3-VSSP、b)ガングリオシドをステアリン酸と組み込んだ100μgのsNAcGM3-VSSP、又はc)ガングリオシドをオレイン酸と組み込んだ100μgのoNAcGM3-VSSPにおいて、用量あたり投与した。1群あたり10匹の動物を、週に1回のスケジュールで8週間免疫した。各免疫の1週間後、3回目の後、及び8回目まで、動物の血清を収集した。ヒトVEGF-Aに特異的な抗体力価及びVEGF-Aとその2型受容体との相互作用を中和するそれらの能力を、記載されるようにELISAによって評価した(Bequet-Romero,et al.,Vaccine,2012:30:1790-9)。
【0068】
特異的IgG力価は免疫回数の増加と共に増加し、8回目の免疫後1週間で最大に達した。この実験点に対応する結果を表4に示す。図から分かるように、両株において、8回目の免疫後、特異的力価及びVEGF-Aのその受容体への結合の阻害の両方に関して、PVM-I抗原調製物について有意に優れた結果が得られる。アジュバントNAcGM3-VSSPの3つの変異体の比較分析は、ワクチン調製物が同等に免疫原性であることを示している。
【表4】
【0069】
例3.リン酸アルミニウム中で投与された抗原調製物PVM及びPVM-Iの免疫原性の比較。
マウス系統C56BL/6及びBALB/cを使用した。1用量あたり100マイクログラムの抗原調製物を、0.7mg当量のAl3+(リン酸アルミニウム)中に投与した。10匹の動物を、1群あたり、2週に1回の頻度で合計4回の免疫化のために免疫化した。2回目及び4回目の免疫の1週間後に動物の血清を採取した。ヒトVEGF-A特異的抗体力価、及びVEGF-AとVEGFR2との相互作用を中和するそれらの能力を、記載されるようにELISAによって評価した(Bequet-Romero,et al.,Vaccine,2012:30:1790-9)。
【0070】
両方の抗原タイプ及び両方のマウス系統について、投与された用量の数が増加するにつれて、力価の増加が観察された。4回目の免疫後に得られた血清試料についての結果を表5に示す。両方の株について、4回目の免疫後、特異的抗体力価及びその受容体へのVEGF-A結合の阻害に関して、PVM-I抗原調製物について有意に優れた結果が得られる。
【表5】
【0071】
例4.NAcGM3-VSSP中で投与されたPVM又はPVM-Iの抗原調製物による免疫化によって誘導された細胞応答の評価。
細胞応答を、Bequet-Romeroら(Bequet-Romero,et al.,Angiogenesis,2007:10:23-34、Morera,et al.,Vaccine,2012:30:368-77)に記載されているように分析した。この場合、応答はアジュバントNAcGM3-VSSPの状況でのみ評価した。動物(n=10、1群あたり)を例2でこのアジュバントについて記載されるスキームで免疫化し、最後の免疫化の1週間後に屠殺し、マウス脾臓から単離した細胞を、CFSE(カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル)フルオロフォアで標識した同系腫瘍細胞と100:1の比(エフェクター細胞:標識腫瘍細胞)で共インキュベートした。
【0072】
C56BL/6株と同系のメラノーマ細胞株B16F10、EL4リンパ腫及び肺癌3LL-D122、並びにBALB/c株と同系の結腸癌株CT26、乳癌F3II及び腎RENCAをこの研究のために選択した。共インキュベーション後の生細胞のフローサイトメトリー(Space ML-PARTEC)による分析により、両方のマウス株において、2つの抗原調製物の同様の用量を投与した場合でさえ、PVM-I調製物の投与がより強い直接的な細胞応答をもたらすことが示された。表6は、免疫化動物のリンパ球と遭遇した際に死滅する腫瘍細胞のパーセンテージに対応する結果を示し、賦形剤による処置に対応する細胞の平均値を100%生存率として採用している。両方のマウス系統(C57Bl/6及びBALB/c)において、抗原調製物PVM-Iの投与(全ての場合において群IVに対応する)は、有効な細胞応答の誘導の点でPVM製剤の使用よりも優れている。
【表6】
【0073】
例5.マウスにおける固形腫瘍の治療のためのPVM及びPVM-Iベースの免疫化の有効性。
全ての場合において、12匹のマウスの群を免疫した。sNAcGM3-VSSP又はリン酸アルミニウムによる免疫化の結果を2つの腫瘍モデルについて記載する。アジュバントsNAcGM3-VSSPを使用する場合、動物を、対応する抗原100μg及びアジュバント100μgを含有する合計200μLの週に1回の用量で8週間皮下免疫した。リン酸アルミニウムについては、動物を2週に1回のスケジュールで4回免疫した。毎回、100μgの抗原を、0.7mg当量のリン酸アルミニウムの形態のAl3+を含有する200μlの総体積で投与した。
【0074】
マウスC57BL/6株において、黒色腫モデルB16F10を評価した。4回目の免疫(sNAcGM3-VSSPの存在下)又は2回目の免疫(リン酸アルミニウムの存在下)の3日後、マウスの皮下に、100μLのDMEM培養培地中、合計20000個の細胞を接種した。表7は、腫瘍チャレンジの25日後の、安楽死させた動物から手術によって除去された原発腫瘍の重量を示す。
【表7】
【0075】
表7で観察されるように、両方のアジュバントにおいて、抗原調製物による動物の処置は、腫瘍チャレンジ後25日目に向かって腫瘍成長を有意に減少させるが、より有意な阻害を示すのは新規抗原調製物(PVM-I)の使用である。この抗腫瘍応答は、体液性及び細胞性の両方のVEGF-Aに対する特異的免疫応答の存在と相関していた(p<0.05、ピアソン試験)。
【0076】
同様に、抗腫瘍効果を、同じ免疫スキームを使用して、マウス系統BALB/cにおいて評価した。腫瘍チャレンジはまた、この株を有するCT26同系結腸癌の25000個の細胞による4回目の免疫(NAcGM3-VSSPの存在下)又は2回目の免疫(リン酸アルミニウムの存在下)の3日後にも行われた。チャレンジの30日後の腫瘍成長の比較分析により、PVM調製物の使用と比較して、抗原調製物PVM-Iによる免疫化による優れた抗腫瘍効果が示された(表8)。
【表8】
【0077】
以前の研究と同様に、この結果は、VEGF-Aに特異的な体液性及び細胞性免疫応答の両方の存在と相関し、抗原調製物PVM-Iの使用の場合に優れていた(p<0.05、試験ピアソン)。両方の研究において、抽出された腫瘍の連続切片の組織学的分析により、抗原調製物PVM-Iの使用にとって有意により好ましいワクチン接種の抗血管新生、アポトーシス促進及び抗増殖効果が示された(p<0.05、全ての分析においてダネット)。
【0078】
例6.VEGF-A由来のアイソフォーム145、165、189及び206に基づくポリペプチド変異体の調製及び特性決定。
図1のアラインメントが示すように、VEGF-Aの全てのアイソフォームは、アイソフォーム121に存在するシステイン残基を共有しているので、免疫原性を増加させるために使用される戦略は、タンパク質ファミリー全体に有効であり得る。この仮説を検証するために、アイソフォーム145、165、189及び206をHeLa腫瘍細胞のmRNA(メッセンジャーリボ核酸)からクローニングした。自動配列決定は、2018年6月の更新(2019年12月23日参照)に従って、CCDSデータベース(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/CCDS/CcdsBrowse.cgi Release22)に報告されているものに従って配列を検証した。
【0079】
簡単に説明すると、VEGF-Aの全てのアイソフォームを単一の増幅反応で得ることができ、それらはそれらの異なるサイズのために完全に分離可能であるので、例1に記載された戦略を使用した。全ての場合において、VEGFR2活性化の誘導を排除するために、例1に記載される変異を抗原調製物の投与から導入した。タンパク質変異体PVM145、PVM165、PVM189、PVM206を生成したタンパク質に対応するアミノ酸配列を、それぞれ配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6と命名した。
【0080】
記載されているようにベクターpM238中で当該タンパク質変異体をクローニングした後、2つの戦略であるa)Moreraらによって記載されている方法(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93)、及びb)例1に記載されている方法を使用してタンパク質を得た。2つの精製変異体のトリプシン消化に対する耐性を各アイソフォームについて比較した。消化物の分析は、分子排除クロマトグラフィによって行った。結果により、PVM-Iについて記載されるように、VEGF-Aアイソフォームの変異体が第2の精製戦略(PVM145-I、PVM165-I、PVM189-I、PVM206-I)に従って得られる場合、トリプシン消化に対する耐性が総タンパク質質量の5%未満で観察されることが示された。この耐性は、「システインノット」の二量体に対応するシグナルの存在下で反映され、これは、ジスルフィド架橋が自然界に存在する配置に従って確立された場合にのみ得られる(23~25分のシグナル)(表9)。したがって、タンパク質調製物が例1に記載される方法に従って得られる場合、タンパク質調製物は、表9に示されるように、Moreraらによって記載される最初の方法で製造された対応物と比較して、トリプシンとのインキュベーションによって95%超消化される。表3(例1)に詳述されている、標準的なシステインノットが存在しないことを確認するペプチドまた、抗原調製物PVM145-I、PVM165-I、PVM189-I、PVM206-Iのトリプシンによる消化についてESI-MS/Sによって確認され、調製物PVM145、PVM165、PVM189、PVM206では検出することができなかった。
【0081】
フロイントアジュバント中のこれらの変異体の免疫原性の比較分析を、例1に記載したように行った。この研究により、その変異体PVM145、PVM165、PVM189、PVM206と比較した場合、トリプシン消化に対する耐性が低い変異体(PVM145-I、PVM165-I、PVM189-I、PVM206-I)で処置した動物の血清による、VEGF-AのVEGFR2への結合の優れた中和が示された(表9)。
【表9】
【0082】
これらのタンパク質を、皮下経路によって10000個のCT26細胞でチャレンジしたBALB/c動物における、例5に記載されるものと同様の免疫化及び用量スケジュールで使用した。結果により、腫瘍接種の28日後、アジュバントsNAcGM3-VSSPと共に抗原変異体を使用すると、調製物PVM145、PVM165、PVM189、PVM206と比較して、変異体PVM145-I、PVM165-I、PVM189-I、PVM206-Iの場合に優れた抗腫瘍効果が誘導されることが示された(表10)。
【表10】
【0083】
使用されるVEGF-Aアイソフォームにかかわらず、トリプシンによる消化に対する耐性を示さない変異体は、最も高い免疫原性及び抗腫瘍効果を有する変異体であることが観察された。
【0084】
例7.トリプシン感受性変異体の酸化及び選択を用いたPVM-Iの調製。
複数のジスルフィド結合の形成により、いくつかの立体配座がPVM-Iタンパク質調製物に共存する。これらは、酸化剤の存在下で、制御された変性及び再生工程を含む、例1に既に記載されているものとは異なる方法によって得られ、分離することができる。大腸菌(E.coli)で発現されたVEGF-Aのより小さなアイソフォーム(配列番号2)については、封入体を6M塩化グアニジウムに可溶化し、この変性剤の存在下で、製造業者の推奨事項(QIAGEN)を使用してニッケルに対する親和性によってタンパク質を精製した。次いで、溶出結果を、分取C18カラムで、緩衝液が(A)水中トリフルオロ酢酸(TFA)(0.088%v/v)と(B)水中0.084% TFA、90%アセトニトリル(v/v)との間の直線勾配によって、逆相クロマトグラフィ(RP)で分離した。目的のタンパク質が溶出した画分では、タンパク質調製物の変性及び還元状態と一致して、予想通りトリプシンによる消化に対する耐性は観察されなかった。次いで、タンパク質を、塩化グアニジウム及びβ-メルカプトエタノール(0.2mM)の存在下又は非存在下、Tris-HCl pH8.6中で、22℃で20時間、酸化的再天然化プロセスに供した。緩衝液を10mM Tris-HCl pH7.4に変更した後、G25セファロースでのサイズ排除クロマトグラフィにより、ジスルフィド架橋の形成を評価した。例1に記載するように、200mM Tris-HCl緩衝液、pH8.0中、50:1の比(タンパク質:トリプシン)で、トリプシンを用いて16時間消化することによって、「システインノット」の形成を分析した。これによれば、塩化グアニジウムの非存在下での再天然化タンパク質は、90%の消化抵抗性を示したが(PVM-IA)、変性剤の存在下での再天然化は、異なるパーセンテージの消化抵抗性をもたらし、これは塩化グアニジウムのモル濃度の増加と共に減少した。
【0085】
6M塩化グアニジウムを使用した場合、トリプシン消化に耐えられないフラクションが最も多く得られ、いずれもPVM-IOと呼ばれた。これらの画分をC18分取カラムでRP-HPLCクロマトグラフィで分離した。合計15個の画分を分離し、これをRPクロマトグラフィ(F1~F15、表11)における溶出順序に従って番号付けした。
【0086】
10mM Tris pH7.4に緩衝液交換した後、BALB/cマウスを用いた研究において、PVM-IA、PVM-IO調製物、及び後者の画分をPVM及びPVM-Iと比較した。タンパク質の投与は、100μgのsNAcGM3-VSSP中に200μgのタンパク質調製物の割合で、1週間間隔で8回投与する従来のスキームで評価した。表11は、マウスVEGF-Aに対する特異的IgGの力価、VEGFR2へのその結合の阻害、リンパ節及び脾臓の両方における細胞傷害性細胞応答の誘導、並びに皮下CT26腫瘍成長に対する免疫化の効果を比較分析した結果を示す。
【表11】
【0087】
表11は、PVM調製物と比較して、PVM-I調製物の優れた効果を示し、これはフロイントアジュバントにおける例1に示す結果を裏付けている。この研究は、既に記載された免疫に対する効果、並びに効果的な体液性及び細胞性応答の誘導に直接関係する抗腫瘍効果を説明する。還元剤の非存在下での再天然化タンパク質調製物(PVM-IA)の分析の結果は、PVM-Iよりも、更にはPVMよりも7~10倍免疫原性が低く、抗腫瘍効果が低いことを示している。しかし、6M塩化グアニジウムの存在下での再天然化調製物(PVM-IO)の使用により、PVM-Iについて記載されたものと有意に異ならない結果が得られる。更に、PVM-IO調製物の画分の評価は、これらの少なくとも12個(F4~F15)が、特異的な体液性及び細胞性免疫応答の誘導、並びに抗腫瘍応答の生成において等能であることを示す。
【0088】
エドマン分解(Marti,T.,Rosselet,SJ,Titani,K.,and Walsh,KA(1987)Biochemistry 26,8099-8109)を伴う、例1に記載されているように開発されたトリプシン消化及び質量分析によるこれらの画分の分析により、画分F4~F15において、システインノットの標準的な構造のシステイン2及び4が分子内架橋を形成していることが見出され、一方、画分F1~F3の場合、C2-C2、C4-C4、C2-C4、C2-C9、及びC4-C9のいずれかの分子間結合が検出されることを確認することができた。
【0089】
システインが画分F4~F15に関与する結合の順序は、以下に詳述するように、配列番号18~配列番号23として配列表で同定されたポリペプチドに対応する。
-F4は、配列番号18に対応し、ここで、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステイン(175位)は分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F5は、配列番号18に対応し、ここで、ポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)と別のポリペプチド鎖第8のシステイン(163位)及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインは分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F6は、配列番号19に対応し、ここで、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステイン(175位)は分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F7は、配列番号19に対応し、ここで、ポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)と別のポリペプチド鎖第8のシステイン(163位)及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインは分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F8は、配列番号20に対応し、ここで、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)、2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)、及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステイン(175位)は分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F9は、配列番号20に対応し、ここで、ポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)と別のポリペプチド鎖第8のシステイン(163位)及び2つのポリペプチド鎖の最後のシステインは分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F10は、配列番号21に対応し、ここで、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)は分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F11は、配列番号21に対応し、ここで、ポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)が別のポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)と連結して分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F12は、配列番号22に対応し、ここで、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)は連結して分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F13は、配列番号22に対応し、ここで、ポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)が別のポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)と連結して分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F14は、配列番号23に対応し、ここで、2つのポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)及び2つのポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)は連結して分子間ジスルフィド架橋を形成している。
-F15は、配列番号23に対応し、ここで、ポリペプチド鎖の第7のシステイン(161位)が別のポリペプチド鎖の第8のシステイン(163位)と連結して分子間ジスルフィド架橋を形成している。
【0090】
例8.免疫原性構造の生成におけるシステイン2及び4の関連性の分析。
例1、9及び10に記載される結果から、PVM-Iのより免疫原性の高い構造に共通する特徴は、VEGF-Aの分子内結合が一次配列のシステイン2及び4(PVM-IのCys110及びCys119)を含むことであることが見出された。これらの残基は、タンパク質の二量体凝集を回避するので、VEGF-Aを得るために検討された研究では高頻度で変異しているようである(Jiang,et al.,Biochemistry,2010:49:6550-6、Wentink,et al.,Proc Natl Acad Sci USA,2016:113:12532-7)。天然の立体配座では、これらは、VEGF-A二量体を生成するための鎖間架橋を形成するアミノ酸である。Bequet-Romeroら及びMoreraらによる以前の研究のみ、これらのシステインを含むVEGF-Aの一次配列変異体を使用するが、これらのいずれにおいても、観察された配列のシステイン2とシステイン4との間の鎖内ジスルフィド結合の形成はない。抗原を生成するために使用される配列中のこれらのアミノ酸の存在及び言及されるシステインが鎖内結合のみを形成するようにそれらが得られるプロセスは、ワクチン接種目的のためにタンパク質を得るための新規なアプローチを構成する。抗原調製物の免疫原性に対するこれらの残基の関連性をより良好に特性決定するために、本発明者らは、一次配列にシステインからアラニンへの以下の変化を含む変異体を(部位特異的変異誘発によって)得ることを進めた。
a)PVM-IAla110:Ala110によるCys110の変化
b)PVM-IAla119:Ala119によるCys119の変化
c)PVM-IAla110、119:Ala110によるCys110及びAla119によるCys119の変化
【0091】
この目的のために、表12に示されるオリゴヌクレオチド対を使用して、(Bequet-Romero,et al.,Angiogenesis,2007:10:23-34))に記載されるように、ネステッドポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって変異を導入した。簡単に説明すると、配列番号2をコードする配列を含むプラスミドを鋳型として、PCR1及び2を行った。PCR MasterMix(Qiagen)及び表12に示すオリゴヌクレオチドの混合物を使用した。各反応における増幅されたDNAを、反応鋳型からアガロースゲルで分離した後に精製した。得られた2本のDNA鎖を、表12に記載の各分子のPCR3の鋳型として使用した。25サイクルのPCRを実施し、得られたDNAをアガロースゲルで分離した後、製造業者の指示に従って酵素NheI及びBamHI(Promega)で消化した。消化したDNAを、記載されているように(Morera,et al.,Angiogenesis,2008:11:381-93)、ベクターpM238にクローニングした。得られたDNAの自動配列決定により、導入された変異を検証した。これらの変異タンパク質をコードするDNAをBL21株(DE3)に形質転換し、PVM-Iについて例1に記載の方法に従ってポリペプチドを産生した。配列番号15、配列番号16及び配列番号17の配列に対応するポリペプチドにより、調製物PVM-IAla110、PVM-IAla119及びPVM-IAla110、119が得られる。
【表12】
【0092】
システイン110及び119に変異を有するタンパク質を含有する調製物を、BALB/cマウスにおける研究においてPVM及びPVM-Iと比較し、それらの投与を、100μgのアジュバントsNAcGM3-VSSP中に200μgの抗原調製物の割合で、1週間間隔で分離した8回の投与のスキームで評価した。比較試験は、皮下CT26結腸癌モデルにおいて、1群あたり10匹の動物を用いて実施した。表13は、PVMと比較してPVM-I調製物の優れた免疫原性を示し、これは例1に示す結果を裏付けている。システイン110及び119における変異体のタンパク質調製物の分析の結果により、それらがPVM-I、更にはPVMよりも約2倍免疫原性が低く、抗腫瘍効果が低いことが示された。
【表13】
【0093】
例9.マウスの肺転移の治療における抗原調製物PVM及びPVM-Iの前臨床使用の比較評価。
転移は、あらゆる起源のがんによる根本的な死因である。これらのうち、肺にあるものは、患者が引き起こす呼吸器合併症、腫瘍による肺組織の置き換わり、及び胸水の蓄積に起因して、患者の死亡に至ることが最も多い疾患である。肺における転移は、VEGF-A受容体を伝達するリガンド又はシグナルサプレッサーを除去する薬剤の単回投与に基づく抗血管新生介入にとって、最も抵抗性の高い状況の1つを構成する。これに関連して、免疫応答の細胞分枝をワクチンによる免疫化に対する応答の武器に組み込むことが、決定的な役割を果たす可能性がある。
【0094】
分析中のワクチン調製物の有効性を評価するために、マウスの肺転移の治療について、12匹のマウスの群をこれらの調製物で免疫し、腫瘍チャレンジを全てのモデルの要件に従って実施した。アジュバントとしてのsNAcGM3-VSSPによる免疫化の結果を、3つの転移モデルについて以下に記載する。動物を、対応する抗原100μg及びアジュバント100μgを含有する総体積200μLの週に1回の用量で8週間皮下免疫した。
【0095】
マウスC57Bl/6株における研究のために、3LL転移性肺癌(クローンD122)の250,000個の細胞を、4回目の免疫の3日後に足蹠に接種した。原発腫瘍を移植の20日後に手術によって除去し、動物を15日後に屠殺して肺転移を計数し特性決定した。転移負荷の分析は、肺の重量及び巨大転移の数を評価することによって評価した。有糸分裂指数研究は、動物あたり、一切断あたり10視野で、視野あたりの有糸分裂数を測定することによって行った。同様に、アポトーシスの数値を視野ごとに定量し、有糸分裂/アポトーシス比を計算した。
【0096】
表14は、処置に供した動物の肺重量の比較を示す。両抗原間で差次的な効果が観察され、天然VEGF-Aに存在するジスルフィド結合を完全に欠く構造異性体のファミリーが豊富な抗原調製物PVM-Iが有利であった。ヘマトキシリン-エオシン染色を使用した転移性病変の組織病理学的特性決定、及び連続切片の分析により、VEGF-Aに対する特異的免疫応答もまた、転移巣で観察される有糸分裂/アポトーシスのバランスの有意な減少につながることが示された。
【表14】
【0097】
マウス系統BALB/cでは、20,000個のCT26がん細胞の静脈内接種後に実験的肺転移の確立を評価した。4回目の免疫の3日後に、後眼窩神経叢を通して抗原刺激を行った。腫瘍チャレンジの30日後に動物を屠殺し、肺組織の連続切片の組織病理学的分析において、肺における腫瘍負荷量、並びに形態、細胞密度、血管新生及び有糸分裂/アポトーシスのバランスを評価した。表15に示すように、分析した切片(動物あたり10個)において、転移の数及び占める面積の両方が、PVMによる免疫化によって減少する。最も有意な効果は、PVM-I調製物で免疫した場合に観察された(p<0.05、ダネットの事後検定)。興味深いことに、有糸分裂指数(1視野あたりの有糸分裂数)は、このモデルによって引き起こされる肺の転移性病変について非常に高く、ワクチン調製物を投与した場合に約4倍減少した。以前の分析と同様に、抗原変異体PVM-Iで処置した群で最良の効果が観察された。
【表15】
【0098】
BALB/cマウス系統では、自発的に肺に転移するF3II転移性乳癌モデルも評価した。この場合、2週に1回のスキームの使用が含まれ、追加の群としてリン酸アルミニウムアジュバントを使用した。4回目の免疫(sNAcGM3-VSSP存在下)又は2回目の免疫(リン酸アルミニウム存在下)の3日後に、100μLのDMEM培養培地中、合計200000個の細胞を皮下接種した。
【0099】
表16は、腫瘍移植の28日後の原発腫瘍の重量の分析を示す。両方の抗原変異体による動物の処置、並びにアジュバント及び投与スキームの両方における動物の処置は、腫瘍成長を有意に減少させるが、より有意な阻害を示すのは抗原調製物PVM-Iである(p<0.05、ダネットの事後検定)。同じ表は、肺の巨大転移数の結果を示す。見て分かるように、腫瘍成長が減少することで、移植される転移の数も有意に減少する。更に、これらの研究では、有糸分裂/アポトーシスのバランスの減少が観察され、転移病変に関連する壊死巣の数の増加が検出された。これらの効果は全て、抗原調製物PVM-Iで処置した群においてより有意に検出される。
【表16】
【0100】
全体として、結果により、抗原調製物PVM-Iが原発腫瘍の転移能及び肺における転移細胞の移植能力を低下させるのにより有効であることが示された。更に、転移表現型の変化において、抗原調製物PVM-Iによるワクチン接種の優れた効果が観察され、有糸分裂/アポトーシスバランスの低下、壊死のより高い発生率、及び血管新生の有意な減少を伴う細胞病巣が観察された。
【0101】
例10。腫瘍誘導免疫抑制に対する抗原調製物PVM及びPVM-Iによる免疫化の効果。
BALB/c株の15匹の動物群を使用し、これを以下の変異体で皮下免疫した。
1.sNAcGM3-VSSP中のPVM(8回の免疫、週に1回の頻度)
2.sNAcGM3-VSSP中のPVM-I(8回の免疫、週に1回の頻度)
3.sNAcGM3-VSSP(8回の免疫、週に1回の頻度)
4.リン酸アルミニウム中のPVM(4回の免疫、2週に1回の頻度)
5.リン酸アルミニウム中のPVM-I(4回の免疫、2週に1回の頻度)
6.リン酸アルミニウム(4回の免疫、2週に1回の頻度)
【0102】
全ての場合において、免疫化を、総体積200μLで皮下的に行った。最後の免疫化の3日後、1群あたり5匹の動物をランダムに選択し、安楽死させて、それらの免疫学的状態及び実験対照の免疫学的状態を分析した(群3及び6)。この評価は、全血試料、脾臓細胞、リンパ節及び骨髄において、フローサイトメトリーによって行った。
【0103】
各群の残りの動物には、右側腹部に20000個のCT26結腸癌細胞を皮下投与した。腫瘍細胞の注射の14及び21日後、1群あたり5匹のマウスを安楽死させ、評価したが、この場合は、解離した腫瘍組織の分析を追加した。
【0104】
肉眼レベルでの毒性事象の発生はいずれの動物についても証明されず、組織病理学的分析は、最後の免疫化の7日後に分析した器官のいずれにおいても損傷の存在を明らかにしなかった。免疫学的評価は、(1)マウスVEGF-Aの血清濃度の分析、(2)全血、原発腫瘍を排出するリンパ節及び腫瘍自体のTリンパ球の濃度の評価、(3)変異型VEGF-Aの代表的抗原に曝露した場合の腫瘍内リンパ球によるIFN-γ分泌の研究からなった。
【0105】
非処置動物では、マウスVEGF-Aレベルは、腫瘍サイズの増加と一致して腫瘍への曝露時間と共に増加する。抗原変異体で免疫した群では、VEGF-Aレベルの有意な低下(p<0.001 ANOVA、ダネットの事後検定)が観察され、腫瘍チャレンジ後30日間も持続した(表17)。腫瘍コンパートメントに向かっても、同様の現象が観察された。
【表17】
【0106】
各時点での屠殺した動物の免疫系の状態を、Gabrilovichら(Gabrilovich D et al.Blood 1998,92:4150)によって報告されているように、リンパ節及び腫瘍自体に存在する細胞集団の割合の研究を通して分析した。これらの研究では、フルオレセインイソチオシアナート、フィコエリトリン、及びフィコエリトリン-Cy7で標識した、CD3、CD4、CD8に対するモノクローナル抗体を使用し、フローサイトメーター(Sysmex Partec)を使用して細胞集団を可視化した。得られた結果を表18に示す。
【表18】
【0107】
腫瘍チャレンジの14日後の動物におけるリンパ系細胞集団の分析により、ワクチン調製物の投与に直接関係する、3つの分析されたコンパートメントにおけるCD3、CD4及びCD8陽性細胞コンパートメントの増加が示された。抗原変異体PVM-Iでは、これらの免疫系細胞の濃度が有意に高くなった(試験後、p<0.05ボンフェローニ)。更に、皮下腫瘍に浸潤したCD8Tリンパ球におけるPD1マーカの研究により、これらの増加が、抗原で処置された動物において、PVM-I抗原を受けた場合により高いパーセンテージで、陰性PD1表現型と関連することが示された(表18)。CD4及びCD8細胞の浸潤物の増加は、腫瘍量の減少と正に有意に関連していた(r=0.7147、p<0.002)。
【0108】
腫瘍由来の白血球を、CD45に特異的な抗体(Miltenyi)でコーティングされた磁気ビーズを使用してカラムでの陽性選択プロセスによって単離し、IFN-γ分泌を、ELISPOTタイプシステム(MABTECH)を使用して、培地中で変異したVEGF-Aの添加に応答して評価した。抗原をワクチン接種した動物の場合にのみ、このサイトカインの分泌の増加が観察され、PVM-I抗原を投与された群では両方のアジュバントについてより高かった(p<0.05、試験後のボンフェローニ)(表19)。これは、細胞浸潤が増加しただけでなく、これらの浸潤白血球がワクチン調製物の投与に関連してより高い活性を有することが示された。
【表19】
【0109】
例11.別の抗原チャレンジに対して生成される免疫原性に対するPVM-Iによる免疫化のアジュバント効果の評価。
免疫回復の可能性を考慮して、PVM-Iによる免疫化が、VEGF-Aだけでなく無関係な抗原にも特異的な体液性及び細胞性応答の増加を伴うアジュバント効果を誘導し得るかどうかを調べた。この潜在的な効果は、腫瘍中に存在する抗原及びワクチンと同時投与された抗原に対する特異的免疫の程度を評価することによって試験した。
【0110】
卵巣腫瘍モデルID8-OVAを、インビトロ溶解試験におけるC57Bl/6動物及び親系統ID8の腫瘍チャレンジに使用した。動物(n=10/群)に、以下に記載されるように、250万個の細胞の腫瘍チャレンジを腹腔内投与し、3日後に免疫化スケジュールを開始した。
a)PVM-I(200μg)、sNAcGM3-VSSP(100μg):8週間にわたって週に1回皮下投与
b)OVA(1mg)、sNAcGM3-VSSP(100μg):2週間にわたって週に1回皮下投与。sNAcGM3-VSSP(100μg):残り6週間にわたって週に1回皮下投与
c)PVM-I(200μg)、sNAcGM3-VSSP(100μg)、OVA(1mg):2週間にわたって週に1回皮下投与、及びPVM-I(200μg)、sNAcGM3-VSSP(100μg):残りの6週間にわたって週に1回皮下投与。
d)sNAcGM3-VSSP(100μg):8週間にわたって週に1回皮下投与
e)OVA(1mg):2週間にわたって毎週皮下投与。sNAcGM3-VSSP(100μg):残りの6週間にわたって週に1回皮下投与。
【0111】
8回目の免疫化の1週間後、及び腫瘍移植の60日後、動物を安楽死させた。この腫瘍モデルでは、動物の体重は腫瘍の成長と相関する。表20は、観察された抗腫瘍効果を示し、これは、sNAcGM3-VSSP中のPVM-Iの存在下でOVAを投与することによって協調的に増加する。
【0112】
VEGF-A及びOVAについての体液性応答の分析は、例1、2及び3に記載されているように、採取した血清中のELISA型システムを使用して行った。特異的細胞応答を、特異的細胞溶解試験腫瘍を使用して、脾臓細胞とID8及びID8-OVA腫瘍細胞株とのインビトロ共インキュベーションによって分析した(例4に記載)。更に、72時間の特異的刺激(ペプチドOVA257-264又はVEGFKDR-)の添加に応答して、免疫化動物から単離した脾臓細胞の上清中のIFN-γの分泌を調べた。後者の場合、ELISA型アッセイを、製造者の説明書(Biolegend)に従ってIFN-γの検出のために使用した。結果を表20及び21に要約する。
【表20】

【表21】
【0113】
体液性(表20)及び細胞性(表21)応答は、sNAcGM3-VSSPの状況で投与した場合、両方の抗原に対して誘導される。OVAとPVM-Iを含む免疫療法との同時投与は、免疫原としてOVAを投与された動物だけでなく、PVM-Iのみを投与された動物においても、OVAに対する特異的応答の有意な増加をもたらす。この事実は、この抗原調製物を用いたワクチン戦略が、ワクチン調製物内には見られないが腫瘍によって発現される抗原に対して増幅された応答を誘導する可能性を示している。両方の抗原で処置した群における体液性応答、並びにIFN-γ分泌及びID8-OVA細胞溶解は、併用が相加的効果を有するだけでなく、優れた効果を誘導する協調があることを示している。この要素は、他の腫瘍関連抗原に対する免疫応答を増加させる際にこの戦略を使用する可能性を示している。
【0114】
例12.2つのアジュバント中のPVM又はPVM-Iによる免疫化によるコラーゲン誘導性関節炎モデルにおけるインビボ保護実験。
コラーゲン誘導性関節炎にかかりやすい20匹のDBA/1マウス(H-2qハプロタイプ)の群を免疫した。リン酸アルミニウム又はsNAcGM3-VSSP中にアジュバント化された試験抗原調製物(PVM又はPVM-I)を動物に投与した。sNAcGM3-VSSPの場合、100μgの抗原及び100μgのアジュバントを週に1回の間隔で8回投与するスキームを使用し、リン酸アルミニウムの場合、0.7mg当量のAl3+中の100μgの抗原を2週に1回で4回投与した。処置群を以下のように定義した。
I.sNAcGM3-VSSP注のPVM
II.sNAcGM3-VSSP注のPVM-I
III.sNAcGM3-VSSP
IV.リン酸アルミニウム中のPVM
V.リン酸アルミニウム中のPVM-I
VI.リン酸アルミニウム
【0115】
NAcGM3-VSSPによる4回目の免疫又はリン酸アルミニウムによる2回目の免疫の3日後に、以前に記載されたモデル(Campbell IK et al Eur.J.Immunol.30:1568,2000)に従って、ニワトリコラーゲンII(Sigma)による免疫による自己免疫性関節炎の誘導を開始した。この免疫化を26日目に繰り返して、自己免疫応答の誘導を完了させた。マウスの4つの脚を、各脚について0~3のスコアを確立する関節炎指数に従って、検査における紅斑(1)、炎症(2)又は関節硬直(3)の徴候の存在について毎日評価し、最大値は12であった。マウスは、誘導後23日で関節炎の発症の臨床症状を示し始め、50日で最大発生率に達した。表22は、異なる実験群の動物における関節炎の発生率の分析を示す。40日目及び55日目に、対応するアジュバント中にプラセボを投与した対照群III及びVIと比較して、ワクチン接種群(I、II、IV、及びV)で関節炎の発生率の有意な減少が観察された。
【表22】
【0116】
例13.非ヒト霊長類におけるPVM及びPVM-Iの免疫原性の評価並びに実験的レーザ誘導脈絡膜新生血管に対する免疫化の効果の分析。
抗原調製物PVM及びPVM-Iが関連する免疫応答を誘導する能力を、より自己的な状況で、非ヒト霊長類(Chlorocebus aethiops sabaeus)において評価した。1群あたり4匹の動物を使用した。400μgの抗原調製物PVM又はPVM-Iを、200μgのNAcGM3-VSSP又は0.7mgのリン酸アルミニウムの形態のAl3+当量で投与した。投与スケジュールは、NAcGM3-VSSPの場合は週に1回で8回、リン酸アルミニウムの場合は2週に1回で4回とした。VEGF-Aに対する特異的IgG抗体力価、及び2型受容体への結合の中和を、免疫化8週目(NAcGM3-VSSP)又は免疫化4週目(リン酸アルミニウム)に評価した。結果を表23に示す。図から分かるように、両方の抗原調製物はVEGF-Aに対する特異的力価の誘導をもたらし、PVM-Iで誘導されたものは両方のアジュバントにおいてより高かった。これらの力価は、同様に、血清の中和能の増加と相関していた。
【表23】
【0117】
体液性応答の誘導と並行して、細胞性応答の活性化が達成される程度を評価するために、従来の遅延型皮膚反応(DTH)試験を、記載されるように行った(Morera,et al.,Vaccine,2010:28:3453-61)。48時間で、デジタルバーニアキャリパーを用いて硬結の2回の垂直測定を行った。病変の面積を計算し、それらの幾何平均を報告した。紅斑又は炎症は、この反応の一部とはみなされなかった。直径0.5mmを検出可能な反応の限界とみなした。結果は、以下の条件、(++)>5mm、(+)=0.5~4.99mm、(-)反応が検出できないに従って表された。その結果を表24に示す。更に、感作点で6mmのパンチ(動物1匹あたり6つ)を作製し、ヘマトキシリン/エオシン染色試験によって分析した。各生検からの少なくとも2つの切片を分析して、単核細胞、好中球又は好酸球の存在に関して、浸潤物の性質を決定した。
【0118】
抗原の皮内注射は十分に忍容され、水疱又は潰瘍などの有害事象はなかった。ワクチン調製物で処置した全ての群のサルは、アジュバントとの異なる組み合わせで、ヒトVEGF-Aに対して反応した。生理食塩水を注射した部位では、対照として、免疫群のいずれにおいても反応は報告されなかった。組織病理学的評価により、VEGF-A接種に対する強いDTH型反応の存在が裏付けられた。ヒトVEGF-Aの注射部位から得られた生検は、マクロファージ及びリンパ球の豊富な浸潤を伴うDTHシーンと一致していた。
【表24】
【0119】
免疫化動物由来の末梢血単核細胞(PBMC)を、以前に報告されたようにFicoll勾配によって単離し、VMと共に予めインキュベートし、CFSEでマークされた同系細胞の特異的細胞溶解について分析した。表25は、フローサイトメトリーによる、CFSEで標識した「帯電」細胞の生存の分析に対応する結果を示す。動物あたり少なくとも3回の反復の分析により、誘導期間に対応する最後の免疫化後の週に、ワクチン調製物が、細胞傷害能を有する抗原に対する特異的細胞免疫を誘導することが示された。見て分かるように、両方のアジュバントにおいて、ワクチンの効果は、PVM-I抗原を使用した場合に有意に大きかった(P<0.05、ダネット)。
【表25】
【0120】
これらの動物では、非ヒト霊長類における実験的レーザ誘導性脈絡膜新生血管形成の予防も評価した。モデルとしては、Krzystolikら(Krzystolik M.G.,et al.2006.Acta Ophthalmol,120:338-346)によって報告されたものを使用した。実験群あたり4匹のサルを使用した。全ての手順について、塩酸ケタミン、マレイン酸アセプロマジン及び硫酸アトロピンの筋肉内注射を用いて動物を麻酔した。局所の塩酸プロパラカイン麻酔も使用した。最後の免疫化の1週間後、脈絡膜新生血管(CNV)の形成が、アルゴンレーザによる熱傷で黄斑部において誘導された。写真撮影及び蛍光血管造影を使用して、病変の程度を検出及び測定し、病変の特徴を評価した。CNV病変の発生を、レーザ処置の前後並びにその後15、20及び29日目に評価した。病変は、実験計画外の専門家によって、以下のスケールを使用して分析し、グレード1は過蛍光なし、グレード2は滲出を伴わない過蛍光、グレード3は初期又は中間通過の過蛍光及び後期漏出、グレード4は初期又は中期通過の過蛍光が非常に明るく、レーザスポットの縁を越えて広がる後期漏れを有する。任意の眼異常を含む動物の臨床状態を評価するために、動物を毎日観察した。
【0121】
レーザ処置に割り当てられた4つのグレードのうち、グレード4は臨床的に有意な漏出状態に相当する。病変は、レーザ処置領域を超えて成長したか、又はフルオレセインが血管を超えて著しく広がっているほど激しく漏出している新しい脈絡膜血管の存在を反映していると考えられる。プラセボ群におけるグレード4病変の平均数は、レーザ処置領域の45.4%~50.2%の範囲であった。対照群におけるグレード4病変の平均パーセンテージは、CNVのこの動物モデルを使用した他の著者によって報告されたものと同様であった。対照的に、ワクチン調製物で処置した全ての群は、使用したアジュバントにかかわらず、グレード4の病変が著しく減少又は完全に消失した。表26は、処置群についての29日目の全ての傷害の程度の分布パーセンテージを示す。興味深いことに、ワクチン調製物PVM-Iの使用により、より高い階調の病変の顕著により大きな減少が得られることは(ANOVA、ボンフェローニ事後検定、p<0.05)。
【表26】
【0122】
例14.抗原調製物PVM-I及びアジュバントから構成されるワクチンの投与によるヒトにおける固形腫瘍の処置。
この研究は、ヒトにおける腫瘍病理の状況において、関連する特異的免疫応答を誘導する新しい抗原調製物の可能性を評価することを目的とした。進行期の固形腫瘍を有し、他の治療選択肢がなく、投与開始前少なくとも4週間の他の治療がない期間を有する患者を選択した。(a)8週間にわたる週に1回の接種スキーム、その後1ヶ月に1回投与で、sNAcGM3-VSSP中、又は(b)2週に1回で4回の投与スケジュール、その後は月に1回投与で、アルミニウムのリン酸塩中、抗原調製物PVM-Iを800μgの用量で投与した。
【0123】
体液性及び細胞性免疫応答を、免疫スケジュールの開始前及び最後の免疫の1週間後の両方の場合に採取した血清及びPBMCにおいて評価した。VEGF-Aに対する特異的抗体価、及びVEGFR2受容体との結合を中和する能力という2つの基本的なパラメータを血清で評価した。このパラメータは、2つのELISA型システムを使用して決定した(Morera,et al.,Vaccine,2012:30:368-77、Sanchez Ramirez,et al.,J Immunoassay Immunochem,2016:37:636-58)。1:500を超える力価及び10%を超える中和パーセンテージを陽性結果と定義した。
【0124】
記載されるように(Gavilondo,et al.,Vaccine,2014:32:2241-50)、IFN-γELISPOTによってPBMC試料において細胞応答を評価した。低応答者は、IFN-γ分泌が陽性であるクローンの数がCD3陽性細胞100万個あたり29~39個である患者と定義され、中応答者は、シグナル数が40~79個である患者、高応答者は、シグナル数が80を超える患者と定義される。
【0125】
両方のアジュバントにおけるPVM-Iの投与により、特異的抗体(図4A)、及び増殖因子とVEGFR2との相互作用を中和するそれらの能力(図4B)に関して、VEGF-Aに対する特異的免疫応答の確立がもたらされた。この応答は、使用したアジュバントのいずれかで処置した患者の70%で観察された。同様に、ヒトVEG-Aの変異体(VM)による刺激に対するPBMCの応答性の有意な増加が観察された(図4C)。これらの結果により、新規抗原変異体PVM-Iのヒトにおける使用がヒトVEGF-Aに対する特異的免疫応答を誘導することが示された。
【0126】
図5は、要約として、各アジュバントについて、全患者数とそのうちの何人がいずれかの検査で陽性を示したかを示したものである。対照として免疫前の値を使用した場合に、有意に高い結果を有する試験の数を考慮して、結果を層別化した。グラフ中、各患者には、ワクチン調製物の投与開始後に生存した月数も割り当てられている(24ヶ月での分析)。これにより、特異的免疫応答が、別の腫瘍特異的処置の非存在下で、どの程度生存の増加に寄与するかを関連付けることが可能になる。より多数の陽性応答を有する患者では、生存が有意に増加したことが観察される(p<0.05、カプラン・マイヤー)。
【0127】
例15.ヒトの加齢黄斑変性の治療における抗原調製物PVM-Iの臨床使用
この研究は、ヒトにおける加齢黄斑変性(AMD)の状況において、関連する特異的免疫応答を誘導する抗原調製物PVM-Iの潜在性を評価することを目的とした。患者は、硝子体内経路で、50μL中125μgのベバシズマブを月1回、3ヶ月連続で投与された。診断後の最初の3ヶ月間の本剤又はアフリベルセプト、ラニビズマブ若しくはラムシルマブなどの他の抗血管新生薬の投与は、この疾患の初期制御のための従来の治療として確立されているものである。これらの投与後、患者は、視力検査及び網膜の構造の表現型変異に体系的に注意し、これらの変化に応じて、抗血管新生薬の新たな硝子体内注射の適応となるか否かが判断される。治療の成功は、硝子体内投与の必要性の減少によって大きく決定される。
【0128】
この処置は、抗原調製物PVM-Iと同時又は非同時に、400μgの用量で、(群2)sNAcGM3-VSSP存在下で週1回のスケジュールで8週間の投与、その後は月1回の再投与、又は(群3)リン酸アルミニウム存在下で2週に1回で4回の投与、その後の月に1回投与で実施された。群1は、3ヶ月連続して毎月投与することからなる従来の処置のみを受けた。ベバシズマブの最初の3回の投与後、患者は、以前の眼科的分析と比較した場合、病変が悪化した場合にのみベバシズマブが再投与された。この悪化は、視力低下、網膜厚の増加、網膜内液の存在、又は網膜下液の増加(200μm超又は前回の診察時の値)として定義された。
【0129】
抗原調製物を示されたアジュバント及びレジメンで投与することにより、患者の視力の質及び黄斑の完全性を維持又は改善するために必要なベバシズマブの硝子体内注射の回数を有意に減少させた。表27は、要約として、ベバシズマブの3回目の投与後に必要となった患者あたりのベバシズマブ注射の数と、免疫を誘導するVEGF-Aに対する特異的抗体力価とを示す。抗原調製物PVM-Iによる免疫療法の使用により、従来のスキーム(群1)と比較して、患者に適用されるバシズマブの硝子体内注射の回数が有意に減少する(両方の場合でp<0.05、ダネットの検定)。両方の場合において、群2は4回目の免疫の1週間後(ピアソンr=-0.8788、p=0.0008)、及び群3は8回目の免疫後から(ピアソンr=-0.7894、p=0.0066)、硝子体内投与回数の減少と患者の血清中のヒトVEGF-Aの特異的抗体のレベルとの間に有意な相関が観察された。
【表27】
【0130】
研究に含まれた患者の約30%が活動性の中心窩外ポリープを有していた。これは、従来の硝子体内投与療法に応答した患者の回復の予後を悪化させる要因である。これは、ポリープ状病変が網膜のより深い層に由来するためである。興味深いことに、脈絡膜ポリープ状血管新生を示した患者の分析では、処置を開始してから1年後に、活動性病変の数が有意に減少し、この効果は、従来の処置が行われた群の患者の20%(5人に1人)ついてのみ認められた(表28)。
【表28】
【配列表フリーテキスト】
【0131】
配列表1 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドをコードする核酸
配列表2 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチド
配列表3 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドアイソフォーム145
配列表4 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドアイソフォーム165
配列表5 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドアイソフォーム189
配列表6 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドアイソフォーム206
配列表7 <223>人工配列の記載:オリゴヌクレオチド
配列表8 <223>人工配列の記載:オリゴヌクレオチド
配列表9 <223>人工配列の記載:オリゴヌクレオチド
配列表10 <223>人工配列の記載:オリゴヌクレオチド
配列表11 <223>人工配列の記載:オリゴヌクレオチド
配列表12 <223>人工配列の記載:オリゴヌクレオチド
配列表13 <223>人工配列の記載:オリゴヌクレオチド
配列表14 <223>人工配列の記載:オリゴヌクレオチド
配列表15 <223>人工配列の記載:Cys110がAlaに変更された変異ポリペプチド
配列表16 <223>人工配列の記載:Cys119がAlaに変更された変異ポリペプチド
配列表17 <223>人工配列の記載:Cys110及び119がAlaに変更された変異ポリペプチド
配列表18 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドの再配列1
配列表18 <223>Cys161、Cys163及びCys175は、分子間結合の一部である
配列表19 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドの再配列2
配列表19 <223>Cys161、Cys163及びCys175は、分子間結合の一部である
配列表20 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドの再配列3
配列表20 <223>Cys161、Cys163及びCys175は、分子間結合の一部である
配列表21 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドの再配列4
配列表21 <223>Cys161及びCys163は、分子間結合の一部である
配列表22 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドの再配列5
配列表22 <223>Cys161及びCys163は、分子間結合の一部である
配列表23 <223>人工配列の記載:変異ポリペプチドの再配列6
配列表23 <223>Cys161及びCys163は、分子間結合の一部である
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
2023508401000001.app
【手続補正書】
【提出日】2022-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
したがって、ワクチン調製物の一部として投与された場合、より優れた抗原能力を有するヒトVEGF-Aのバリアントを取得することが重要であり、それは、抗血管新生効果、抗腫瘍効果、抗炎症効果、及び増強した免疫修復効果に変換され得る有意に優れた免疫反応を誘導する
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】配列表
【補正方法】変更
【補正の内容】
【配列表】
2023508401000001.app
【国際調査報告】