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特表2023-508439治療FC組成物の化学誘導会合および解離ならびにT細胞エンゲージャーとヒト血清アルブミンとの化学誘導二量体形成
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】治療FC組成物の化学誘導会合および解離ならびにT細胞エンゲージャーとヒト血清アルブミンとの化学誘導二量体形成
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20230222BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20230222BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20230222BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 38/20 20060101ALI20230222BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20230222BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20230222BHJP
   C07K 14/55 20060101ALN20230222BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20230222BHJP
   C12P 21/02 20060101ALN20230222BHJP
【FI】
C07K19/00 ZNA
A61P35/00
A61K47/68
A61K47/64
A61P43/00 121
A61K38/19
A61K38/22
A61K39/395 C
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K39/395 L
A61K38/20
A61K39/395 G
A61K39/395 E
A61K39/395 T
C07K16/46
C07K16/28
C07K14/55
C12P21/08
C12P21/02 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539277
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(85)【翻訳文提出日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 US2020066865
(87)【国際公開番号】W WO2021133921
(87)【国際公開日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】62/953,003
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/952,984
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522253058
【氏名又は名称】ソテリア・バイオセラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】SOTERIA BIOTHERAPEUTICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ヒル,ザッカリー ビー
(72)【発明者】
【氏名】マルティンコ,アレクサンダー ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ウェルズ,ジェイムズ エイ
(72)【発明者】
【氏名】ズブラット,メーガン
(72)【発明者】
【氏名】シモンズ,エリン エフ
【テーマコード(参考)】
4B064
4C076
4C084
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG05
4B064AG27
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4C076AA94
4C076BB13
4C076CC27
4C076CC41
4C076EE41
4C076EE41M
4C076EE59
4C076EE59M
4C076FF31
4C084AA02
4C084AA03
4C084BA44
4C084CA18
4C084DA01
4C084DA12
4C084DA14
4C084DB01
4C084MA05
4C084NA12
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB36
4C085CC22
4C085CC23
4C085EE01
4C085EE05
4C085GG02
4H045AA10
4H045AA11
4H045AA30
4H045BA41
4H045DA04
4H045DA76
4H045EA22
4H045EA28
4H045FA74
4H045GA22
4H045GA26
(57)【要約】
本開示は、治療部分とFcドメインとの会合または解離を低分子によって誘導することによって、治療部分の血清半減期の正確な時間制御を可能にするシステムを提供する。本開示はまた、化学誘導二量体形成化合物(CID)を組み込むことによって、T細胞エンゲージャードメインの血清半減期の正確な制御を可能にするシステムも提供する。CIDの一方はT細胞エンゲージャーと融合し、CIDの他方はHSA結合ドメインと融合する。低分子の添加または除去は、T細胞エンゲージャーとHSAとの会合または解離を誘導し、それによってT細胞エンゲージャーの血清半減期の正確な時間制御を可能にする。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)a)第1のCIDドメインと、IgGの第1のFcドメインとを含み、前記第1のCIDドメインが前記第1のFcドメインに共有的に連結された、第1の単量体、
および
b)前記IgGの第2のFcドメインを含む第2の単量体
を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質;
(2)第2のCIDドメインと、治療部分とを含み、前記第2のCIDドメインが、NまたはC末端で前記治療部分に共有的に連結された、融合タンパク質部分
を含む組成物であって、
CID低分子の存在下で、前記第1のCIDドメインと、前記第2のCIDドメインとが、前記第1のCIDドメイン-前記CID低分子-前記第2のCIDドメインの複合体を形成する、組成物。
【請求項2】
前記CID低分子が、FK1012、リミドゥシド、FK506、FKCsA、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ、クーママイシン、ジベレリン、HaXS、TMPタグ、ABT-737からなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第1のCIDドメイン-前記CID低分子-前記第2のCIDドメインが、FKBP-FK1012-FKBP、変異体FKBP-リミドゥシド-変異体FKBP、FKBP-FK506-カルシニューリン、FKBP-FKCsA-CyP-Fas、FKBP-ラパマイシン-FRB、変異体FKBP-ラパマイシンアナログ-変異体FRB、CyrB-クーママイシン-GyrB、GAI-ジベレリン-GID1、SNAPタグ-HaXS-HaloTag、eDHFR-TMPタグ-HaloTagおよびAZ1-ABT-737-BCL-xLからなる複合体群から選択され、前記第1のCIDドメインと前記第2のCIDドメインとが、前記複合体内で位置を交換してもよい、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記第1のCIDドメインが、重鎖可変ドメインと、軽鎖可変ドメインとを含み、前記第2のCIDドメインが、前記第1のCIDドメインと前記CID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記低分子が、メトトレキサートである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記第1のCIDドメインが、BCL-2またはその変異体であり、前記CID低分子が、ABT-199またはABT-263であり、前記第2のCIDドメインが、前記第1のCIDドメインと前記CID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記第1のCIDドメインが、BCL-2またはBCL-2(C158A)であり、前記CID低分子が、ABT-199であり、前記第2のCIDドメインが、
a)i)配列番号1を含むvhCDR1;
ii)配列番号72を含むvhCDR2;および
iii)配列番号129を含むvhCDR3
を含む可変重鎖ドメイン(VH);ならびに
b)i)配列番号310を含むvlCDR1;
ii)配列番号311を含むvlCDR2;および
iii)配列番号233を含むvlCDR3
を含む可変軽鎖ドメイン(VL)
を含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記第1のCIDドメインが、Bcl-xLのABT-737結合ドメインであり、前記CID低分子が、ABT-737であり、前記第2のCIDドメインが、前記第1のCIDドメインと前記CID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記第1のCIDドメインが、FKBPのラパマイシン結合ドメインであり、前記CID低分子が、ラパマイシンであり、前記第2のCIDドメインが、前記第1のCIDドメインと前記CID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記第1のCIDドメインが、GDC-0152、LCL161、AT406、CUDC-427、またはcIAPlのビリナパント結合ドメインであり、前記CID低分子が、GDC-0152、LCL161、AT406、CUDC-427、またはビリナパントであり、前記第2のCIDドメインが、前記第1のCIDドメインと前記CID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記第1のCIDドメインが、セレブロンのサリドマイド結合ドメインであり、前記低分子が、サリドマイド、レナリドミド、またはポマリドミドであり、前記第2のCIDドメインが、前記第1のCIDドメインと前記CID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
前記治療部分が、抗体、抗体断片、サイトカイン、ホルモン、ペプチド、および抗体薬物コンジュゲートから選択される、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記治療部分が、二特異性抗体である、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記治療部分が、二特異性T細胞エンゲージャー部分である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記二特異性T細胞エンゲージャー部分が、T細胞抗原結合ドメインおよび腫瘍関連抗原結合ドメインを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
前記T細胞抗原がCD3であり、前記腫瘍関連抗原がCD19である、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記治療部分が、ヒトインターロイキン分子である、請求項12に記載の組成物。
【請求項18】
前記治療部分が、ヒトIL-2である、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
前記第1のCIDドメインが、第1のリンカーを介して前記第1のFcドメインに連結される、請求項1から18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記第2のCIDドメインが、第2のリンカーを介して前記治療部分に連結される、請求項1から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
前記IgGが、ヒトIgG1である、請求項1から20のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項22】
前記第1のFcドメインが、第1の変異体Fcドメインであり、前記第2のFcドメインが、第2の変異体Fcドメインである、請求項1から21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
患者における治療部分の血清半減期を延長する方法であって、
a)前記患者に、請求項1から22のいずれか一項に記載の前記治療部分を含む前記組成物を投与すること;
b)前記患者に、請求項1から22のいずれか一項に記載の前記CID低分子を投与すること
を含み、
前記第1および第2のCIDドメインが、前記患者において前記低分子と複合体を形成し、それによって、前記治療部分の血清半減期が延長される、方法。
【請求項24】
請求項1から22のいずれか一項に記載の前記治療部分および前記CID低分子を含む前記組成物を投与された患者から治療部分をクリアランスさせる方法であって、前記治療部分が前記患者の血液からクリアランスされるように、前記患者への前記CID低分子の投与を停止することを含む、方法。
【請求項25】
(1)a)第1のCInDドメインと、IgGの第1のFcドメインとを含み、前記第1のCInDドメインが、前記第1のFcドメインに共有的に連結された、第1の単量体、
および
b)IgGの第2のFcドメインを含む第2の単量体
を含む、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質;
(2)第2のCInDドメインと、第2の治療部分とを含み、前記第2のCInDドメインが、NまたはC末端で前記第2の治療部分に共有的に連結された、融合タンパク質部分
を含む組成物であって、
前記第1のCInDドメインが、前記第2のCInDドメインに結合し、複合体を形成し、複合体が、CInD低分子によって中断されていてもよい、組成物。
【請求項26】
前記第1のCInDドメインまたは前記第2のCInDドメインのいずれかが抗体部分を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記第1のCInDドメインが、第1のリンカーを介して前記第1のFcドメインに連結される、請求項25または26に記載の組成物。
【請求項28】
前記第2のCInDドメインが、第2のリンカーを介して前記治療部分に連結される、請求項25から27のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項29】
前記IgGが、ヒトIgG1である、請求項25から28のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項30】
前記第1のFcドメインが、第1の変異体Fcドメインであり、前記第2のFcドメインが、第2の変異体Fcドメインである、請求項25から29のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項31】
前記第2の治療部分が、抗体、抗体断片、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、および抗体薬物コンジュゲートから選択される、請求項25から30のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項32】
前記第2の治療部分が、二特異性抗体である、請求項31に記載の組成物。
【請求項33】
前記第2の治療部分が、二特異性T細胞エンゲージャー部分である、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記二特異性T細胞エンゲージャー部分が、T細胞抗原結合ドメインおよび腫瘍関連抗原結合ドメインを含む、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記T細胞抗原がCD3であり、前記腫瘍関連抗原がCD19である、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記第2の治療部分が、ヒトインターロイキン分子である、請求項31に記載の組成物。
【請求項37】
前記第2の治療部分が、ヒトIL-2である、請求項36に記載の組成物。
【請求項38】
前記第2の単量体が、前記第2のFcドメインに共有的に連結された第1の治療部分をさらに含む、請求項25から31のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項39】
前記第1の治療部分が、抗体、抗体断片、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、および抗体薬物コンジュゲートから選択される、請求項38に記載の組成物。
【請求項40】
前記第1の治療部分が、T細胞抗原結合ドメインであり、前記第2の治療部分が、腫瘍関連抗原結合ドメインであるか、または前記第1の治療部分が、腫瘍関連抗原結合ドメインであり、前記第2の治療部分が、T細胞抗原結合ドメインである、請求項39に記載の組成物。
【請求項41】
前記T細胞抗原がCD3であり、前記腫瘍関連抗原がCD19である、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
(1)2つの同一の単量体を含み、前記2つの単量体がそれぞれ、IgGのFcドメインに共有的に連結された第1のCInDドメインを含む、ホモ二量体Fc融合タンパク質;
(2)第2のCInDドメインと、治療部分とを含み、前記第2のCInDドメインが、NまたはC末端で前記治療部分に共有的に連結された、融合タンパク質部分
を含む組成物であって、
前記第1のCInDドメインが、前記第2のCInDドメインに結合し、複合体を形成し、前記複合体が、CInD低分子によって中断されていてもよい、組成物。
【請求項43】
前記第1のCInDドメインまたは前記第2のCInDドメインのいずれかが抗体部分を含む、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
前記第1のCInDドメインが、第1のリンカーを介して前記第1のFcドメインに連結される、請求項42または43に記載の組成物。
【請求項45】
前記第2のCInDドメインが、第2のリンカーを介して前記治療部分に連結される、請求項42から44のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項46】
前記IgGが、ヒトIgG1である、請求項42から45のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項47】
前記治療部分が、抗体、抗体断片、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、および抗体薬物コンジュゲートから選択される、請求項42から46のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項48】
前記治療部分が、二特異性抗体である、請求項47に記載の組成物。
【請求項49】
前記治療部分が、二特異性T細胞エンゲージャー部分である、請求項48に記載の組成物。
【請求項50】
前記二特異性T細胞エンゲージャー部分が、T細胞抗原結合ドメインおよび腫瘍関連抗原結合ドメインを含む、請求項49に記載の組成物。
【請求項51】
前記T細胞抗原がCD3であり、前記腫瘍関連抗原がCD19である、請求項50に記載の組成物。
【請求項52】
前記治療部分が、ヒトインターロイキン分子である、請求項47に記載の組成物。
【請求項53】
前記治療部分が、ヒトIL-2である、請求項52に記載の組成物。
【請求項54】
患者における治療部分の血清半減期を延長する方法であって、前記患者に、請求項25から53のいずれか一項に記載の組成物を投与することを含む、方法。
【請求項55】
請求項25から53のいずれか一項に記載の組成物を以前に投与された患者から治療部分をクリアランスさせる方法であって、請求項25から53に記載の前記CInD低分子を投与することを含み、それによって、前記治療部分が、前記ヘテロ二量体またはホモ二量体Fc融合タンパク質から解離する、方法。
【請求項56】
(a)i)第1のCIDドメイン;
ii)必要に応じたドメインリンカー;および
iii)ヒト血清アルブミン(HSA)結合ドメイン
を含む第1の単量体;ならびに
(b)i)第2のCIDドメイン;
ii)必要に応じたドメインリンカー;および
iii)A)CD3抗原結合ドメイン(ABD);
B)必要に応じたドメインリンカー;および
C)腫瘍関連抗原(TAA)ABD(TAA-ABD)
を含むT細胞エンゲージャー
を含む第2の単量体
を含む組成物であって、
CID低分子の存在下で、前記第1のCIDドメインと、前記第2のCIDドメインとが、前記第1のCIDドメイン-前記CID低分子-前記第2のCIDドメインの複合体を形成する、組成物。
【請求項57】
前記CID低分子が、FK1012、リミドゥシド、FK506、FKCsA、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ、クーママイシン、ジベレリン、HaXS、TMPタグ、ABT-737からなる群から選択される、請求項56に記載の組成物。
【請求項58】
前記第1のCIDドメイン-前記CID低分子-前記第2のCIDドメインの前記複合体が、FKBP-FK1012-FKBP、変異体FKBP-リミドゥシド-変異体FKBP、FKBP-FK506-カルシニューリン、FKBP-FKCsA-CyP-Fas、FKBP-ラパマイシン-FRB、変異体FKBP-ラパマイシンアナログ-変異体FRB、GyrB-クーママイシン-GyrB、GAI-ジベレリン-GID1、SNAPタグ-HaXS-HaloTag、eDHFR-TMPタグ-HaloTag、AZ1-ABT-737-BCL-xL、カルシニューリン-FK506-FKBP、CyP-Fas-FKCsA-FKBP、FRB-ラパマイシン-FKBP、変異体FRB-ラパマイシンアナログ-変異体FKBP、GID1-ジベレリン-GAI、HaloTag-HaXS-SNAPタグ、HaloTag-TMPタグ-eDHFR、BCL-xL-ABT-737-AZ1からなる複合体群から選択される、請求項57に記載の組成物。
【請求項59】
前記HSA結合ドメインが、重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメイン、または単一の単量体可変抗体ドメインを含む、請求項56から58のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項60】
前記第1のCIDドメインが、第1のリンカーを介して前記HSA結合ドメインに連結され、前記第2のCIDドメインが、第2のリンカーを介して前記T細胞エンゲージャーに連結される、請求項56から59のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項61】
請求項56から60のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬組成物。
【請求項62】
患者におけるT細胞エンゲージャーの血清半減期を延長する方法であって、
a)前記患者に、請求項56から61のいずれか一項に記載の前記T細胞エンゲージャーを含む前記組成物または前記医薬組成物を投与すること;
b)前記患者に、請求項56から61のいずれか一項に記載の前記低分子薬物を投与すること
を含み、
前記第1および第2のCIDドメインが、前記患者において前記低分子と複合体を形成し、それによって、前記T細胞エンゲージャーの血清半減期が延長される、方法。
【請求項63】
患者におけるがんを処置する方法であって、
a)前記患者に、請求項56から61のいずれか一項に記載の前記T細胞エンゲージャーを含む前記組成物または前記医薬組成物を投与すること;
b)前記患者に、請求項56から61のいずれか一項に記載の前記低分子を投与すること
を含み、
前記第1および第2のCIDドメインが、前記患者において前記低分子と複合体を形成して、がんを処置する、方法。
【請求項64】
請求項56から61のいずれか一項に記載の前記T細胞エンゲージャーおよび前記低分子を含む前記組成物を投与された患者からT細胞エンゲージャーをクリアランスさせる方法であって、前記T細胞エンゲージャーが前記患者の血液からクリアランスされるように、前記患者への前記低分子の投与を停止することを含む、方法。
【請求項65】
患者におけるがんを処置する方法であって、
a)前記患者に、請求項1から53のいずれか一項に記載の前記T細胞エンゲージャーを含む前記組成物または前記医薬組成物を投与すること;
b)前記患者に、請求項1から53のいずれか一項に記載の前記低分子を投与すること
を含み、
前記第1および第2のCIDドメインが、前記患者において前記低分子と複合体を形成して、がんを処置する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年12月23日に出願された米国仮出願第62/953,003号および2019年12月23日に出願された同第62/952,984号の優先権を主張し、これらの内容はいずれも全体が参照により明白に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
T細胞エンゲージャーは、T細胞受容体複合体(TCR)を介してT細胞と腫瘍細胞の表面抗原とを一過性に繋ぐ抗体由来治療薬である。これは、T細胞の活性化と、結合された標的腫瘍細胞のT細胞誘導溶解の指示とをもたらす。T細胞エンゲージャーの治療能は、再発/難治性急性リンパ性白血病を有する成人患者の処置に関して承認されたCD19/CD13二特異性T細胞エンゲージャーであるブリナツモマブによって実証された。T細胞誘導療法の成功にもかかわらず、既存のT細胞エンゲージャーの欠点のうちの1つは短い血清半減期である。
【0003】
T細胞エンゲージャーの短い血清半減期に対処するための改良は、例えば、T細胞エンゲージャーをヒト血清アルブミン(HSA)またはFcドメインと融合させることによって行われている(Merlot et al., Future Med Chem. 2015; 7:553-556、Kontermann et al., Chem Biotechnol. Pharm Biotechnol. 2011;22:868-876)。
【0004】
ヒト血清アルブミン(HSA)(分子量約67kDa)は、血漿中で最も豊富なタンパク質であり、約50mg/ml存在し、ヒトにおいて20日前後の半減期を有する。HSAは、血漿pHを維持するのに役立ち、膠質血圧に寄与し、多くの代謝産物および脂肪酸の担体として機能し、血漿における主要な薬物輸送タンパク質として役立つ。アルブミンとの非共有的会合は、短寿命タンパク質の消失半減時間(elimination half-time)を延長する。例えば、アルブミン結合ドメインとFab断片との組換え融合は、マウスおよびウサギに静脈内投与した場合、それぞれ、Fab断片単独の投与と比較して25および58倍のインビボ(in vivo)クリアランス、ならびに26および37倍の半減期延長をもたらした[Dennis et al., J Biol Chem. 2002;277(38):35035-43]。別の例では、アルブミンとの会合を促進するために脂肪酸を用いてインスリンをアシル化する場合、ウサギまたはブタに皮下注射すると遅延性効果が観察される(Kurtzhals et al., Biochem. J. 1995; 312: 725-731)。まとめると、これらの研究はアルブミン結合と作用の長期化との関連性を実証する。
【0005】
Fcに基づく融合タンパク質は、別のペプチドに直接連結する免疫グロビンFcドメインから構成される。融合パートナーは、細胞表面受容体との相互作用時に活性化するリガンド、課題となる病原体に対するペプチド抗原、またはタンパク質マイクロアレイにおいてアセンブルされる結合パートナーを同定するための「ベイト」タンパク質等の、任意の他の目的のタンパク質分子であり得る。しかしながら大半の場合、融合パートナーは、有意な治療能を有し、Fcドメインに結合して、そのハイブリッドにいくつかのさらなる有益な生物学的および薬理学的特性を付与する。最も重要な有益な特性のうちの1つは、Fcドメインの存在が、サルベージ胎児性Fc受容体(FcRn)との相互作用のため[Roopenian & Akilesh, Nat Rev Immunol. 2007;7(9):715-25]、およびより大きなサイズの分子のためにより緩慢となった腎クリアランスのため[Kontermann, Curr Opin Biotechnol. 2011; 22(6):868-76]に、血漿半減期を著しく増加することであり、このことが治療活性を長期化する。結合したFcドメインはまた、腫瘍学的療法およびワクチンにおける使用に特に重要な特色として、これらの分子が免疫細胞に見出されるFc受容体(FcR)と相互作用することを可能にする[Nimmerjahn & Ravetch, Nat Rev Immunol. 2008;8(1):34-47]。生物物理学的観点から見ると、Fcドメインは、独立してフォールディングし、インビトロ(in vitro)とインビボの両方においてパートナー分子の溶解性および安定性を向上させることができ、他方、技術的見地から見ると、Fc領域は、製造中にプロテインG/Aアフィニティークロマトグラフィーによる容易かつ費用対効果の高い精製を可能にする(Carter, Exp Cell Res. 2011;317:1261-1269)。
【発明の概要】
【0006】
生物製剤をFcドメインと融合させることによって遂げられた、生物製剤の血清半減期を延長することにおける成果および進歩にもかかわらず、血清半減期の延長はこれまでのところ調整可能ではない。本発明は、生物製剤の血清半減期の正確な時間制御を可能にするシステムを提供すること、およびそうすることで生物製剤の患者へのより安全かつより有効な投薬を可能にすることによって、より進展した療法の開発に対する必要性を満たす。
【0007】
本発明は、T細胞エンゲージャーの血清半減期のための調節可能な制御システムを提供する。一態様では、本発明は、(1)第1の化学誘導性二量体化剤(CID)ドメインと、IgGの第1のFcドメインとを含み、前記第1のCIDドメインが前記第1のFcドメインに共有的に連結された、第1の単量体および前記IgGの第2のFcドメインを含む第2の単量体を含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質;ならびに(2)第2のCIDドメインと、治療部分とを含み、前記第2のCIDドメインが、NまたはC末端で前記治療部分に共有的に連結された、融合タンパク質部分を含む組成物を提供する。CID低分子の存在下で、第1のCIDドメインと、第2のCIDドメインとは、第1のCIDドメイン-CID低分子-第2のCIDドメインの複合体を形成する。
【0008】
一部の実施形態では、CID低分子は、FK1012、リミドゥシド、FK506、FKCsA、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ、クーママイシン、ジベレリン、HaXS、TMPタグ、ABT-737からなる群から選択される。
【0009】
一部の実施形態では、第1のCIDドメイン-CID低分子-第2のCIDドメインは、FKBP-FK1012-FKBP、変異体FKBP-リミドゥシド-変異体FKBP、FKBP-FK506-カルシニューリン、FKBP-FKCsA-CyP-Fas、FKBP-ラパマイシン-FRB、変異体FKBP-ラパマイシンアナログ-変異体FRB、CyrB-クーママイシン-GyrB、GAI-ジベレリン-GID1、SNAPタグ-HaXS-HaloTag、eDHFR-TMPタグ-HaloTagおよびAZ1-ABT-737-BCL-xLからなる複合体群から選択され、第1のCIDドメインと第2のCIDドメインとは、複合体内で位置を交換してもよい。
【0010】
一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、重鎖可変ドメインと、軽鎖可変ドメインとを含み、第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む。
【0011】
一部の実施形態では、CID低分子は、メトトレキサートである。
【0012】
一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、BCL-2またはその変異体であり、CID低分子は、ABT-199またはABT-263であり、第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む。一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、BCL-2またはBCL-2(C158A)であり、CID低分子は、ABT-199であり、第2のCIDドメインは、配列番号1を含むvhCDR1、配列番号72を含むvhCDR2、配列番号129を含むvhCDR3を含む重鎖可変ドメイン(VH)と、配列番号310を含むvlCDR1、配列番号311を含むvlCDR2、および配列番号233を含むvlCDR3を含む軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む。
【0013】
一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、Bcl-xLのABT-737結合ドメインであり、CID低分子は、ABT-737であり、第2のCIDドメインは、前記第1のCIDドメインと前記CID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む。
【0014】
一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、FKBPのラパマイシン結合ドメインであり、CID低分子は、ラパマイシンであり、第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む。
【0015】
一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、GDC-0152、LCL161、AT406、CUDC-427、またはcIAPlのビリナパント結合ドメインであり、CID低分子は、GDC-0152、LCL161、AT406、CUDC-427、またはビリナパントであり、第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む。
【0016】
一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、セレブロンのサリドマイド結合ドメインであり、低分子は、サリドマイド、レナリドミド、またはポマリドミドであり、第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に結合することができる、重鎖可変ドメインと軽鎖可変ドメインとを含む。
【0017】
一部の実施形態では、治療部分は、抗体、抗体断片、サイトカイン、ホルモン、ペプチド、および抗体薬物コンジュゲートから選択される。一部の実施形態では、治療部分は、二特異性抗体である。
【0018】
一部の実施形態では、治療部分は、二特異性T細胞エンゲージャー部分である。一部の実施形態では、二特異性T細胞エンゲージャー部分は、T細胞抗原結合ドメインおよび腫瘍関連抗原結合ドメインを含む。一部の実施形態では、T細胞抗原はCD3であり、腫瘍関連抗原はCD19である。
【0019】
一部の実施形態では、治療部分は、ヒトインターロイキン分子である。一部の実施形態では、治療部分は、ヒトIL-2である。
【0020】
一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、第1のリンカーを介して第1のFcドメインに連結される。一部の実施形態では、第2のCIDドメインは、第2のリンカーを介して治療部分に連結される。
【0021】
一部の実施形態では、IgGは、ヒトIgG1である。
【0022】
一部の実施形態では、第1のFcドメインは、第1の変異体Fcドメインであり、第2のFcドメインは、第2の変異体Fcドメインである。
【0023】
本発明の別の態様は、患者における治療部分の血清半減期を延長させる方法に関する。方法は、患者に、(1)上記のその様々な実施形態を含む組成物;および(2)上記のCID低分子を投与することを含む。低分子の投与は、第1および第2のCIDドメインを誘導して、複合体を形成させ、それによって、治療部分の血清半減期を延長させる。
【0024】
本発明の別の態様は、治療部分と、上記のCID低分子とを含む組成物を投与された患者から治療部分をクリアランスさせる方法に関する。方法は、治療部分が患者の血液からクリアランスされるように、前記患者へのCID低分子の投与を停止することを含む。
【0025】
本発明の別の態様は、(1)(a)第1の化学阻害性二量体化剤(CInD)ドメインと、IgGの第1のFcドメインとを含み、第1のCInDドメインが第1のFcドメインに共有的に連結された、第1の単量体、および(b)IgGの第2のFcドメインを含む第2の単量体を含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質;ならびに(2)第2のCInDドメインと、第2の治療部分とを含み、第2のCInDドメインが、NまたはC末端で第2の治療部分に共有的に連結された、融合タンパク質部分を含む組成物に関する。第1のCInDドメインは、第2のCInDドメインに結合し、複合体を形成し、複合体は、CInD低分子によって中断されていてもよい。
【0026】
一部の実施形態では、第1のCInDドメインと、第2のCInDドメインとは、抗体部分を含む。
【0027】
一部の実施形態では、第1のCInDドメインは、第1のリンカーを介して第1のFcドメインに連結される。一部の実施形態では、第2のCInDドメインは、第2のリンカーを介して治療部分に連結される。
【0028】
一部の実施形態では、上記IgGは、ヒトIgG1である。
【0029】
一部の実施形態では、第1のFcドメインは、第1の変異体Fcドメインであり、第2のFcドメインは、第2の変異体Fcドメインである。
【0030】
一部の実施形態では、第2の治療部分は、抗体、抗体断片、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、および抗体薬物コンジュゲートから選択される。一部の実施形態では、第2の治療部分は、二特異性抗体である。一部の実施形態では、第2の治療部分は、二特異性T細胞エンゲージャー部分である。一部の実施形態では、第2の治療部分は、T細胞抗原結合ドメインおよび腫瘍関連抗原結合ドメインを含む二特異性T細胞エンゲージャー部分である。一部の実施形態では、T細胞抗原はCD3であり、腫瘍関連抗原はCD19である。
【0031】
一部の実施形態では、第2の治療部分は、ヒトインターロイキン分子である。一部の実施形態では、第2の治療部分は、ヒトIL-2である。
【0032】
一部の実施形態では、上記の第2の単量体は、第2のFcドメインに共有的に連結された第1の治療部分をさらに含む。一部の実施形態では、第1の治療部分は、抗体、抗体断片、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、および抗体薬物コンジュゲートから選択される。
【0033】
一部の実施形態では、第1の治療部分は、T細胞抗原結合ドメインであり、第2の治療部分は、腫瘍関連抗原結合ドメインである。あるいは、第1の治療部分は、腫瘍関連抗原結合ドメインであり、第2の治療部分は、T細胞抗原結合ドメインである。一部の実施形態では、T細胞抗原はCD3であり、腫瘍関連抗原はCD19である。
【0034】
本発明の別の態様は、(1)2つの単量体がそれぞれ、IgGのFcドメインに共有的に連結された第1のCInDドメインを含む、2つの同一の単量体を含むホモ二量体Fc融合タンパク質;および(2)第2のCInDドメインがNまたはC末端で治療部分に共有的に連結された、第2のCInDドメインと治療部分とを含む融合タンパク質部分を含む組成物に関する。第1のCInDドメインは、第2のCInDドメインに結合し、複合体を形成し、複合体は、CInD低分子によって中断されていてもよい。
【0035】
一部の実施形態では、第1のCInDドメインまたは第2のCInDドメインのいずれかは、抗体部分を含む。
【0036】
一部の実施形態では、第1のCInDドメインは、第1のリンカーを介して第1のFcドメインに連結される。一部の実施形態では、第2のCInDドメインは、第2のリンカーを介して治療部分に連結される。
【0037】
一部の実施形態では、IgGは、ヒトIgG1である。
【0038】
一部の実施形態では、治療部分は、抗体、抗体断片、サイトカイン、ホルモン、ポリペプチド、および抗体薬物コンジュゲートから選択される。一部の実施形態では、治療部分は、二特異性抗体である。一部の実施形態では、治療部分は、二特異性T細胞エンゲージャー部分である。一部の実施形態では、二特異性T細胞エンゲージャー部分は、T細胞抗原結合ドメインおよび腫瘍関連抗原結合ドメインを含む。一部の実施形態では、T細胞抗原はCD3であり、腫瘍関連抗原はCD19である。
【0039】
一部の実施形態では、治療部分は、ヒトインターロイキン分子である。一部の実施形態では、治療部分は、ヒトIL-2である。
【0040】
本発明の別の態様は、患者における治療部分の血清半減期を延長させる方法であって、患者に、上記のCInDを含む組成物のいずれかを投与することを含む、方法に関する。
【0041】
本発明の別の態様は、上記のCInDを含む組成物を以前に投与された患者から治療部分をクリアランスさせる方法に関する。方法は、CInD低分子を患者に投与すること、ヘテロ二量体またはホモ二量体Fc融合タンパク質から治療部分を解離させることを含む。
【0042】
本発明は、T細胞エンゲージャーの血清半減期のための調節可能な制御システムを提供する。一態様では、本発明は、第1の単量体と第2の単量体とを含み、第1の単量体が第1のCIDドメイン、必要に応じたドメインリンカー、およびヒト血清アルブミン(HSA)結合ドメインを含み、第2の単量体が第2のCIDドメイン、必要に応じたドメインリンカーおよびT細胞エンゲージャーを含み、第1のドメインと第2のドメインとが、CID低分子の存在下で会合して、第1のドメイン-CID低分子-第2のドメイン複合体を形成する、組成物を提供する。低分子の非存在下では、第1のドメインと第2のドメインとは、互いに会合しない。T細胞エンゲージャーは、CD3抗原結合ドメイン(ABD)、必要に応じたドメインリンカーおよび腫瘍関連抗原(TAA)結合ドメインを含む。
【0043】
一部の実施形態では、低分子は、FK1012、リミドゥシド、FK506、FKCsA、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ、クーママイシン、ジベレリン、HaXS、TMPタグ、ABT-737からなる群から選択される。
【0044】
一部の実施形態では、第1のドメイン-CID低分子-第2のドメインの複合体は、FKBP-FK1012-FKBP、変異体FKBP-リミドゥシド-変異体FKBP、FKBP-FK506-カルシニューリン、FKBP-FKCsA-CyP-Fas、FKBP-ラパマイシン-FRB、変異体FKBP-ラパマイシンアナログ-変異体FRB、GyrB-クーママイシン-GyrB、GAI-ジベレリン-GID1、SNAPタグ-HaXS-HaloTag、eDHFR-TMPタグ-HaloTag、AZ1-ABT-737-BCL-xL、カルシニューリン-FK506-FKBP、CyP-Fas-FKCsA-FKBP、FRB-ラパマイシン-FKBP、変異体FRB-ラパマイシンアナログ-変異体FKBP、GID1-ジベレリン-GAI、HaloTag-HaXS-SNAPタグ、HaloTag-TMPタグ-eDHFR、BCL-xL-ABT-737-AZ1からなる群から選択される。
【0045】
一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、重鎖可変ドメインと、軽鎖可変ドメインとを含む。
【0046】
一部の実施形態では、第1のドメインは、第1のリンカーを介してHSA結合ドメインに連結され、第2のドメインは、第2のリンカーを介してT細胞エンゲージャーに連結される。
【0047】
別の態様では、本発明は、上記の組成物のいずれか1つを含む医薬組成物を提供する。
【0048】
別の態様では、本発明は、患者におけるT細胞エンゲージャーの血清半減期を延長させる方法であって、患者に、本明細書に記載の組成物または医薬組成物のいずれか1つを投与すること、および患者に、本明細書に記載の第1のCIDドメインと第2のCIDドメインとの会合を誘導するCID低分子を投与すること、それによって、T細胞エンゲージャーの血清半減期を延長させることを含む、方法を提供する。
【0049】
別の態様では、本発明は、患者におけるがんを処置する方法であって、患者に、本明細書に記載の組成物または医薬組成物のいずれか1つを投与すること、および患者に、本明細書に記載の第1のCIDドメインと第2のCIDドメインとの会合を誘導するCID低分子を投与すること、それによって、がんを処置することを含む、方法を提供する。
【0050】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のT細胞エンゲージャーおよびCID低分子を含有する組成物を投与された患者からT細胞エンゲージャーをクリアランスさせる方法であって、T細胞エンゲージャーが最早HSAと会合せず、患者の血液からクリアランスされるように、患者への低分子の投与を停止することを含む、方法を提供する。
【0051】
別の態様では、本発明は、患者におけるがんを処置する方法であって、a)前記患者に、本明細書に記載の組成物のいずれか1つによる前記T細胞エンゲージャーを含む前記組成物または前記医薬組成物を投与すること;b)前記患者に、本明細書に記載の組成物のいずれかによる前記低分子を投与することを含み、前記第1および第2のCIDドメインが、前記患者において前記低分子と複合体を形成して、がんを処置する、方法を提供する。
【0052】
本発明はまた、T細胞エンゲージャーの血清半減期のための調節可能な制御システムも提供する。一態様では、本発明は、第1の単量体と第2の単量体とを含み、第1の単量体が第1のCIDドメイン、必要に応じたドメインリンカー、およびヒト血清アルブミン(HSA)結合ドメインを含み、第2の単量体が第2のCIDドメイン、必要に応じたドメインリンカーおよびT細胞エンゲージャーを含み、第1のドメインと第2のドメインとが、CID低分子の存在下で会合して、第1のドメイン-CID低分子-第2のドメイン複合体を形成する、組成物を提供する。低分子の非存在下では、第1のドメインと第2のドメインとは、互いに会合しない。T細胞エンゲージャーは、CD3抗原結合ドメイン(ABD)、必要に応じたドメインリンカーおよび腫瘍関連抗原(TAA)結合ドメインを含む。
【0053】
一部の実施形態では、低分子は、FK1012、リミドゥシド、FK506、FKCsA、ラパマイシン、ラパマイシンアナログ、クーママイシン、ジベレリン、HaXS、TMPタグ、ABT-737からなる群から選択される。
【0054】
一部の実施形態では、第1のドメイン-CID低分子-第2のドメインの複合体は、FKBP-FK1012-FKBP、変異体FKBP-リミドゥシド-変異体FKBP、FKBP-FK506-カルシニューリン、FKBP-FKCsA-CyP-Fas、FKBP-ラパマイシン-FRB、変異体FKBP-ラパマイシンアナログ-変異体FRB、GyrB-クーママイシン-GyrB、GAI-ジベレリン-GID1、SNAPタグ-HaXS-HaloTag、eDHFR-TMPタグ-HaloTag、AZ1-ABT-737-BCL-xL、カルシニューリン-FK506-FKBP、CyP-Fas-FKCsA-FKBP、FRB-ラパマイシン-FKBP、変異体FRB-ラパマイシンアナログ-変異体FKBP、GID1-ジベレリン-GAI、HaloTag-HaXS-SNAPタグ、HaloTag-TMPタグ-eDHFR、BCL-xL-ABT-737-AZ1からなる群から選択される。
【0055】
一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、重鎖可変ドメインと、軽鎖可変ドメインとを含む。
【0056】
一部の実施形態では、第1のドメインは、第1のリンカーを介してHSA結合ドメインに連結され、第2のドメインは、第2のリンカーを介してT細胞エンゲージャーに連結される。
【0057】
別の態様では、本発明は、上記の組成物のいずれか1つを含む医薬組成物を提供する。
【0058】
別の態様では、本発明は、患者におけるT細胞エンゲージャーの血清半減期を延長させる方法であって、患者に、本明細書に記載の組成物または医薬組成物のいずれか1つを投与すること、および患者に、本明細書に記載の第1のCIDドメインと第2のCIDドメインとの会合を誘導するCID低分子を投与すること、それによって、T細胞エンゲージャーの血清半減期を延長させることを含む、方法を提供する。
【0059】
別の態様では、本発明は、患者におけるがんを処置する方法であって、患者に、本明細書に記載の組成物または医薬組成物のいずれか1つを投与すること、および患者に、本明細書に記載の第1のCIDドメインと第2のCIDドメインとの会合を誘導するCID低分子を投与すること、それによって、がんを処置することを含む、方法を提供する。
【0060】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のT細胞エンゲージャーおよびCID低分子を含有する組成物を投与された患者からT細胞エンゲージャーをクリアランスさせる方法であって、T細胞エンゲージャーが最早HSAと会合せず、患者の血液からクリアランスされるように、患者への低分子の投与を停止することを含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
図1図1A~1Bは本発明の一態様を示す。概して、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(101)と融合タンパク質部分(102)とは患者に同時投与される。ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(101)は、ドメインリンカー(104)を使用して第1のFcドメイン(105)(例えば、ヒトIgG1 Fc)に連結された本明細書に定義される第1のCIDドメイン(103)を含有する第1の単量体と、第1のFcドメインとヘテロ二量体形成する第2のFcドメイン(106)を含有する第2の単量体とを含む。融合タンパク質(102)(本質的には第3の単量体である)は、ドメインリンカー(108)を使用して治療部分(109)に連結された本明細書に定義される第2のCIDドメイン(107)を含む。CID低分子(110)への曝露時(例えば、CID低分子が患者に投与される場合)、第1のCIDドメイン(103)と第2のCIDドメイン(107)とはそれぞれCID低分子(110)と会合し、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(101)と融合タンパク質部分(102)との複合体が形成される。したがって、ここで治療部分はFcドメインと非共有的に会合し、複合体全体は患者の血流からの急速なクリアランスから保護され、治療部分(109)の血清半減期は延長される。概して、CID低分子は非常に短い血清中半減期を有するため、CID低分子の投与は経時的に継続されることになる。治療部分の活性がもはや必要とされないかまたは有害な副作用を引き起こしているある時点では、CID低分子の投与は中止され、このことは、複合体解離とそれに続く融合タンパク質部分(102)の患者からのクリアランスとをもたらす。図1Bに示す一部の実施形態では、治療部分(109)は、scFvの形態の抗CD3抗原結合ドメイン(ABD)(111)に連結された抗原結合ドメイン(112)(例えばscFvの形態の抗CD19 ABD)を含むT細胞エンゲージャーである。
図2図2A~2Bは本発明の別の態様を示す。概して、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(101)と融合タンパク質部分(102)とは患者に同時投与される。ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(101)は、ドメインリンカー(103)を使用して第1のFcドメイン(105)(例えば、ヒトIgG1 Fc)に連結された本明細書に定義される第1のCInDドメイン(104)を含有する第1の単量体と、第1のFcドメインとヘテロ二量体形成する第2のFcドメイン(106)を含有する第2の単量体とを含む。融合タンパク質部分は、ドメインリンカー(108)を使用して治療部分(109)に連結された本明細書に定義される第2のCInDドメイン(107)を含む。同時投与時、第1のCIDドメイン(105)と第2のCInDドメイン(106)とは会合して複合体を形成する。したがって、ここで治療部分(109)はFcドメインと非共有的に会合し、複合体全体は患者の血流からの急速なクリアランスから保護され、治療部分(109)の血清半減期は延長される。治療部分(109)の活性がもはや必要とされないかまたは有害な副作用を引き起こしているある時点では、CInD低分子(110)が患者に投与され、第1のCIDドメイン(105)と第2のCInDドメイン(106)とにより形成された複合体を中断する。結果として、治療部分(109)は、Fc融合タンパク質から解離し、その短い血清半減期のために血清から急速にクリアランスされる。図1Bに示す一部の実施形態では、治療部分は、scFvの形態の抗原結合ドメイン(ABD)(例えば、抗CD19抗原結合ドメイン112)に連結された抗CD3抗原結合ドメイン(111)を含むT細胞エンゲージャーである。
図3図3は本発明の別の態様を示す。概して、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(101)と融合タンパク質部分(102)とは患者に同時投与される。ヘテロ二量体Fc融合タンパク質(101)は、ドメインリンカー(103)を使用して第1のFcドメイン(例えば、ヒトIgG1 Fc)(105)に連結された本明細書に定義される第1のCInDドメイン(104)を含有する第1の単量体と、第1の治療部分(111)に共有的に連結し、第1のFcドメイン(105)とヘテロ二量体形成する第2のFcドメイン(106)を含有する第2の単量体とを含む。融合タンパク質部分(102)は、ドメインリンカー(108)を使用して第2の治療部分(109)に連結された本明細書に定義される第2のCInDドメイン(107)を含む。同時投与時、第1のCIDドメイン(107)と第2のCInDドメイン(107)とは会合して複合体を形成し、したがって、2つの治療部分(111)および(109)を一緒にする(例えば、抗CD3抗原結合ドメイン、および抗CD19抗原結合ドメイン等の腫瘍関連抗原結合ドメイン)。ここで第2の治療部分(109)はFcドメインと非共有的に会合し、患者の血流からの急速なクリアランスから保護される。第2の治療部分(109)の血清半減期は延長される。第2の治療部分(109)の活性がもはや必要とされないかまたは有害な副作用を引き起こしているある時点では、CInD低分子(110)が患者に投与され、第1のCIDドメイン(104)と第2のCInDドメイン(107)とにより形成された複合体を中断する。結果として、第2の治療部分109は、Fc融合タンパク質から解離し、血清から急速にクリアランスされる。
図4図4は本発明の別の態様を示す。概して、ホモ二量体Fc融合タンパク質(101)と融合タンパク質部分(102)とは患者に同時投与される。ホモ二量体Fc融合タンパク質(101)は、それぞれがドメインリンカー(103)を使用して第1のFcドメイン(105)(例えば、ヒトIgG1 Fc)に連結された本明細書に定義される第1のCInDドメイン(104)を含有する2つの同一の単量体を含む。融合タンパク質部分(102)は、ドメインリンカー(107)を使用して治療部分(108)に連結された本明細書に定義される第2のCInDドメイン(106)を含む。同時投与時、第1のCIDドメイン(104)と第2のCInDドメイン(106)とは会合して複合体を形成し、したがって、2つの治療部分を一緒にする。ここで治療部分(108)はFcドメインと非共有的に会合し、患者の血流からの急速なクリアランスから保護される。治療部分(108)の血清半減期は延長される。治療部分(108)の活性がもはや必要とされないかまたは有害な副作用を引き起こしているある時点では、CInD低分子(109)が患者に投与され、第1のCIDドメイン(104)と第2のCInDドメイン(106)とにより形成された複合体を中断する。結果として、治療部分(108)は、Fc融合タンパク質から解離し、血清から急速にクリアランスされる。
図5図5は、ドメインリンカーを使用して第1のFcドメイン(ヒトIgG1 Fc)に連結された第1のCIDドメイン(BCl-2 C158A)を含有する第1の単量体と、第1のFcドメインとヘテロ二量体形成する第2のFcドメイン(ヒトIgG1 Fc)を含有する第2の単量体とを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質Ab59の一例を例示する。
図6図6は、例示的な融合タンパク質部分を例示し、それぞれは、第2のCIDドメイン(AZ-21)と、scFvの形態の抗CD3抗原結合ドメインに連結された抗CD19抗原結合ドメインを含有するT細胞エンゲージャーとを含む。AZ-21はT細胞エンゲージャーのNまたはC末端に連結することができる。AZ-21はFabまたは一本鎖Fabフォーマットにおいて作製することができる。抗CD3抗原結合ドメインはクローンL2KまたはUCHT1.v9に由来し得る。Hisタグは融合タンパク質部分の精製を容易にするために使用される。
図7A図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図7B図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図7C図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図7D図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図7F図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図7G図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図7H図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図7I図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図7J図7A~7Jは、図5および6に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図8図8Aは、例示的な融合タンパク質部分を例示し、それぞれは、ドメインリンカーを介してヒトIL-2(hIL-2)に連結された第2のCIDドメイン(AZ-21)を含む。AZ-21はscFvのフォーマットであり、hIL-2のNまたはC末端に連結することができる。Hisタグは融合タンパク質部分の精製を容易にするために使用される。図8Bは、IL-2、IL-12、およびIL-15、ならびにそれらの変異体のアミノ酸配列を提供する。
図9図9は、図8に示した例示的な融合タンパク質部分のアミノ酸配列を示す。
図10図10は、AZ-21、BCL-2、およびBCL-2(C158A)のアミノ酸配列を示す。AZ-21とBCL-2またはBCL-2(C158A)とはCID低分子ABT-199の存在下でCIDを形成する。
図11図11は、CID低分子ABT-737の存在下で第1のCIDドメインBcl-xLと複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図12A図12Aおよび12Bは、CID低分子ABT-199(ベネトクラクス)の存在下で第1のCIDドメインBCL-2またはBCL-2(C158A)と複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図12B図12Aおよび12Bは、CID低分子ABT-199(ベネトクラクス)の存在下で第1のCIDドメインBCL-2またはBCL-2(C158A)と複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図13図13は、CID低分子ABT-263の存在下で第1のCIDドメインBCL-2と複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図14図14は、CID低分子LCL161の存在下で第1のCIDドメインcIAPlと複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図15図15は、CID低分子GDC-0152の存在下で第1のCIDドメインcIAPlと複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図16図16は、CID低分子AT406の存在下で第1のCIDドメインcIAPlと複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図17図17は、CID低分子CUDC-427の存在下で第1のCIDドメインcIAPlと複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図18図18は、CID低分子ラパマイシンの存在下で第1のCIDドメインFKBPと複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。各クローンは第2のCIDドメインを表す。
図19図19は、CID低分子メトトレキサートの存在下で第1のCIDドメイン、すなわちメトトレキサート結合ドメインと複合体を形成することができる第2のCIDドメインのvh-CDRおよびvl-CDRのアミノ酸配列を示す。
図20図20A~20Bは、Ab52、Ab53、Ab54、Ab55、Ab57、およびAb63と共にインキュベートしたJurkat T細胞の活性化の用量反応曲線を示す。
図21図21は、Ab59とABT-199または媒体対照との存在下でAb52、Ab53、Ab54、Ab55、およびAb57と共にインキュベートしたJurkat T細胞の活性化の用量反応曲線を示す。
図22図22Aは、初代ヒトT細胞とAb53またはAb57との共培養後のRaji細胞の細胞傷害性の用量反応曲線を示す。図22Bは、Ab59とABT-199または媒体対照との存在下における初代ヒトT細胞とAb53との共培養後のRaji細胞の細胞傷害性の用量反応曲線を示す。
図23図23は、ヒトT細胞であって、hIL-2またはhIL-2を含む融合タンパク質部分を用いて処理された、ヒトT細胞において検出されたSTAT5のリン酸化を示す。
図24図24は、融合タンパク質部分のサイズ排除クロマトグラムを示す。
図25A図25Aは、Ab53およびAb57の固定化BCL-2への結合のバイオレイヤー干渉測定を示す。図25Bは、Ab59の固定化AZ21への結合のバイオレイヤー干渉測定を示す。
図25B図25Aは、Ab53およびAb57の固定化BCL-2への結合のバイオレイヤー干渉測定を示す。図25Bは、Ab59の固定化AZ21への結合のバイオレイヤー干渉測定を示す。
図26図26は、ABT-199の存在下または非存在下におけるAb93およびAb94の固定化BCL-2への結合のバイオレイヤー干渉測定を示す。結合のKD値を示す。
図27図27は、例示的な抗CD3 ABDのアミノ酸配列を示す。
図28図28は、例示的なIgG1 Fcドメインのアミノ酸配列を示す。
図29図29は本発明の別の態様を示す。概して、患者に同時投与される2つの単量体が存在する:ドメインリンカーを使用してヒト血清アルブミン(HSA)結合ドメインに連結された本明細書に定義される第1のCIDドメインを含む第1の単量体。患者への投与時、第1の単量体は患者の血流中でHSAと会合する。第2の単量体は、ドメインリンカーを使用して本明細書に定義されるT細胞エンゲージャードメインに連結された第2のCIDドメインを含む。CID低分子への曝露時(例えば、CID低分子が患者に投与される場合)、第1および第2のCIDドメインはそれぞれCID低分子と会合し、2つの単量体からなる二量体が形成される。したがって、ここでT細胞エンゲージャードメインはHSAと非共有的に会合し、複合体全体は、患者の血流からの急速なクリアランスから保護され、循環してT細胞の腫瘍細胞との結合をもたらし、癌の処置をもたらすことができる。したがって、第1および第2の単量体とCID低分子との同時投与は癌の処置をもたらす。概して、CID低分子は非常に短い血清中半減期を有するため、CID低分子の投与は継続されることになる。T細胞誘導活性がもはや必要とされないかまたは有害な副作用を引き起こしているある時点では、CID低分子の投与は中止され、このことは、二量体解離とそれに続くT細胞エンゲージャードメインを有する第2の単量体の患者からのクリアランスとをもたらす。
図30A図30Aは、HSA ABDに連結された第1のCIDドメイン[単一ドメイン抗HSA抗体に連結されたBcl-2(C1158A)]で構成される単量体のアミノ酸配列を示す。図30Bは、CID低分子ABT-199の存在下における上記単量体の第2のCIDドメインAZ21に対する結合曲線を示す。
図30B図30Aは、HSA ABDに連結された第1のCIDドメイン[単一ドメイン抗HSA抗体に連結されたBcl-2(C1158A)]で構成される単量体のアミノ酸配列を示す。図30Bは、CID低分子ABT-199の存在下における上記単量体の第2のCIDドメインAZ21に対する結合曲線を示す。
図31A図31Aおよび31Bは、例示的なHSA結合ドメインのアミノ酸配列を示す。
図31B図31Aおよび31Bは、例示的なHSA結合ドメインのアミノ酸配列を示す。
図32図32は、化学誘導二量体形成が低分子による二特異性T細胞エンゲージャーの半減期の制御を可能にしたことを示す。(A)CIDに基づく二特異性T細胞エンゲージャーの半減期延長の概略図。(B)この研究において使用した治療モジュールおよび半減期延長モジュール。(C)マウスにおける二特異性Ab57の血漿消失半減期は、マウスにベネトクラクスを投薬した場合、5倍延長された。****:P≦0.0001、両側t検定。
図33図33は、化学誘導二量体形成が低分子によるIL-2の半減期の制御を可能にしたことを示す。(A)CIDに基づくIL-2の半減期延長の概略図。(B)この研究において使用した治療モジュールおよび半減期延長モジュール。(C)マウスにおけるサイトカインIL-2の血漿消失半減期は、マウスにベネトクラクスを投薬した場合、17倍延長された。****:P≦0.0001、両側t検定。
【発明を実施するための形態】
【0062】
A.概要
本発明は、図面において全体の概要を示したように化学誘導二量体形成(CID)ドメインと結合する低分子の添加(例えば患者への投与)または低分子の除去(例えば投与の停止とそれに続く患者による低分子のクリアランス)によって、治療部分の血清中半減期の調整可能な制御を可能にする。これらの低分子は、図1に示すような二量体の形成を誘導する化学誘導二量体形成化合物(CID、chemically induced dimerizer)低分子(CIDSM)、または図2に示すような二量体を中断する化学阻害二量体形成化合物(CInD)低分子(CInDSM)のいずれかである。
【0063】
全般的に、本発明は、治療分子をFcドメインまたはヒト血清アルブミン(HSA)等の半減期延長部分と会合させることによって治療分子の血清半減期を延長することを対象とする。当技術分野において公知であるように、一般に身体から急速にクリアランスされる生物学的製剤(biologic drug)とFcドメインまたはHSAのいずれかとの会合は、製剤の血清中での半減期の延長をもたらす。
【0064】
したがって、図1Aに概略的に示されるFcドメインの半減期延長分子としての使用に関して、本発明の一態様は、適宜ドメインリンカーを介して、Fcドメインを、本明細書では「第1のCIDドメイン」と称される化学誘導二量体形成化合物(CID)の一方に連結させることを伴う。治療部分は、適宜ドメインリンカーを介して、本明細書では「第2のCIDドメイン」と称されるCIDの他方に連結される。したがって、図1の組成物は全体として3つのタンパク質鎖または単量体、すなわち、第1のFcドメイン、ドメインリンカー、および第1のCIDドメインを含む第1の単量体;第2のFcドメインを含む第2の単量体、ならびに本明細書では融合タンパク質部分とも称される第3の単量体を有する。CIDSMの添加は、CIDの2つの部分の会合を誘導し、それによって治療部分とFcドメインとの会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長する。治療部分が血液から迅速にクリアランスされなければならない場合、CID低分子の投与は停止され、このことは、CIDの2つの部分の解離、および治療部分のFcドメインからの解離を引き起こす。
【0065】
例えば、患者は、本明細書に記載されるFc融合タンパク質と融合タンパク質部分とを含む組成物を投薬され得る。患者はまた、CIDの2つの部分の二量体形成を誘導する、したがってFc融合タンパク質と融合タンパク質部分とを一緒にして二量体を形成するCID低分子を投与され得る。結果として、治療部分はFcドメインと直ちに会合し、その血清半減期は延長される。治療部分とFcドメインとの会合を維持するために、患者はCIDSMを定期的に投薬されてもよく、投薬の頻度は、CIDSMの血清半減期と、CIDSMの第1および第2のCIDドメインに対する結合親和性と、CID複合体(例えばCID二量体)の寿命との組合せに依存する。患者が、例えば安全性に対する懸念のために、治療部分を迅速にクリアランスさせなければならない場合、患者はCIDSMの投薬を中止し、このことは、患者におけるCIDSMのクリアランス、治療部分のFcドメインからの解離、および患者における治療部分のクリアランスを引き起こす。治療部分のクリアランスの速度は、CIDSMの血清半減期と、CID複合体の寿命と、もはやFcドメインと会合していない治療部分のクリアランス速度との組合せに依存する。
【0066】
図2A図3、および図4に概略的に示されるように、本発明の別の態様は、適宜ドメインリンカーを介して、第1のFcドメインを、本明細書では「第1のCInDドメイン」と称される化学阻害二量体形成化合物(CInD)の一方に連結させることを伴う。第2の単量体は、第1のFcドメインと一緒にヘテロ二量体Fcドメインを形成する第2のFcドメインである。第3の単量体(本明細書では融合タンパク質部分とも称される)は、適宜ドメインリンカーを介して、本明細書では「第2のCInDドメイン」と称されるCInDの他方に連結された治療部分を含む。CInDドメインの2つの部分は互いと会合し、二量体を形成して、治療部分とヘテロ二量体Fcドメインとの会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長する。治療部分が血液から迅速にクリアランスされなければならない場合、CInD低分子が投与され、このことは、CInDの2つの部分の解離を誘導し、それによって治療部分のヘテロ二量体Fcドメインからの解離と患者における治療部分のクリアランスとを可能にする。
【0067】
当業者は、本明細書では「二量体」という用語が2つの文脈において使用されることを理解するだろう。1つの文脈は、一緒になって二量体を形成する第1および第2のFcドメイン(例えば、図1、2、および3の場合におけるヘテロ二量体Fcドメイン、ならびに例えば図4の場合におけるホモ二量体Fcドメイン)を指す。第2の文脈は、本発明の第1および第2のCIDドメインを一緒にする本発明のCIDSMを使用することによって形成される二量体、ならびに本発明の第1のCInDドメインと第2のCInDドメインとにより形成される二量体を指す。
【0068】
図2Aに概略的に示される一部の実施形態では、Fc融合タンパク質は、第1のFcドメインに連結された第1のCInDドメインを含有する一方の単量体と、第2のFcドメイン単独(例えば「空のFcドメイン」)を含有する他方の単量体とを有するヘテロ二量体である。第1のFcドメインと第2のFcドメインとは、例えば本明細書に記載されるヘテロ二量体形成突然変異を組み込むことによってヘテロ二量体形成する。第3の単量体である融合タンパク質部分は、ドメインリンカーを介して本明細書に記載される治療部分に連結された第2のCInDドメインを含む。
【0069】
図3に概略的に示される一部の実施形態では、Fc融合タンパク質は、第1のFcドメインに連結された第1のCInDドメインを含有する一方の単量体を有するヘテロ二量体である。他方のFc単量体は、第1の治療部分に連結された第2のFcドメインを含有する。第3の単量体は、ドメインリンカーを用いて第2の治療部分に連結された第2のCInDドメインを含む。第1のFcドメインと第2のFcドメインとは、例えば本明細書に記載されるヘテロ二量体形成突然変異を組み込むことによってヘテロ二量体形成する。第2のCInDドメインに連結された第2の治療部分を含む融合タンパク質部分の投与は、CInDドメインの2つの部分の会合を誘導し、第2の治療部分とFcドメインとの会合を可能にし、その血清半減期を延長する。加えて、このフォーマットは、二特異性の性質を治療部分および第2の治療部分に付与する一方で、同時にそれらの半減期を増加する。
【0070】
図4に示される一部の他の実施形態では、Fc融合タンパク質は、それぞれが適宜ドメインリンカーを介してFcドメインに連結された第1のCInDドメインを含有する2つの同一の単量体を有するホモ二量体である。第2のCInDドメインに連結された治療部分を含む融合タンパク質部分の投与は、CInDドメインの2つの部分の会合を誘導し、2つの治療部分と単一のFc二量体との会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長する。このフォーマットは、治療部分の化学量論および結合価(valancing)を増加する一方で、同時にその半減期を延長する。
【0071】
一部の実施形態では、本明細書に記載される本発明の組成物の投与は、治療部分の血清半減期を少なくとも約2日、少なくとも約4、少なくとも約6、少なくとも約8日、少なくとも約10日、少なくとも約12日、または少なくとも約14日に延長する。これは、相対的にはるかに短い血清消失半減期を有する治療部分単独の投与と対照的である。治療部分がもはや必要ではない場合、治療部分は、短寿命CID低分子の除去(例えば、投与の停止とそれに続く患者によるCID低分子のクリアランス)またはCInD低分子の添加(例えば患者への投与)によって急速に除去することができる。
【0072】
ヒト血清アルブミン(HSA)の半減期延長部分としての使用に関して、これは図29に概略的に示される。図29に概略的に示されるように、T細胞エンゲージャードメインは、適宜ドメインリンカーを介して、本明細書では「第1のCIDドメイン」と称される化学誘導二量体形成化合物(CID)の一方に連結される。ヒト血清アルブミン(HSA)結合ドメインは、適宜ドメインリンカーを介して、本明細書では「第2のCIDドメイン」と称されるCIDの他方に連結される。HSA結合ドメインはHSAに恒常的に結合することができる。低分子の添加は、CIDの2つの部分の会合を誘導し、それによって2つの単量体を一緒にし、T細胞エンゲージャードメインとHSAとの会合、およびT細胞エンゲージャードメインの血清半減期の延長を可能にする。T細胞エンゲージャードメインが血液から迅速にクリアランスされなければならない場合、CID低分子の投与は停止され、このことは、CIDの2つの部分の解離、およびT細胞エンゲージャードメインのHSAからの解離を引き起こす。
【0073】
例えば、患者は、本明細書に記載される第1および第2の単量体を含む組成物を投薬され得る。患者はまた、CIDの2つの部分の二量体形成を誘導する、したがって2つの単量体を一緒にして二量体を形成するCID低分子を投与され得る。結果として、T細胞エンゲージャードメインはHSAと直ちに会合し、その血清半減期は延長される。T細胞エンゲージャードメインとHSAとの会合を維持するために、患者はCID低分子を定期的に投薬されてもよく、投薬の頻度は、CID低分子の血清半減期と、CID低分子の第1および第2のCIDドメインに対する結合親和性と、CID複合体(例えばCID二量体)の寿命との組合せに依存する。患者が、例えば安全性に対する懸念のために、T細胞エンゲージャーを迅速にクリアランスさせなければならない場合、患者は低分子の投薬を中止し、このことは、患者における低分子のクリアランス、T細胞エンゲージャーのHSAからの解離、および患者におけるT細胞エンゲージャーのクリアランスを引き起こす。T細胞エンゲージャーのクリアランスの速度は、低分子薬の血清半減期と、CID複合体の寿命と、もはやHSAと会合していないT細胞エンゲージャーのクリアランス速度との組合せに依存する。
【0074】
一部の実施形態では、本明細書に記載される組成物の投与は、T細胞エンゲージャーの血清消失半減期を少なくとも約2日、少なくとも約4、少なくとも約6、少なくとも約8日、少なくとも約10日、少なくとも約12日、または少なくとも約14日に延長する。これは、相対的にはるかに短い血清消失半減期を有するT細胞エンゲージャー単独の投与と対照的である。例えば、CD19×CD3二特異性scFv-scFv融合分子であるBlincyto(登録商標)は、短い消失血清半減期のために連続的な静脈内注入を必要とする。
【0075】
本明細書に記載される組成物の投与は、T細胞エンゲージャーの血清半減期を延長することができるだけでなく、T細胞エンゲージャーが必要ではない場合に、低分子の投薬を中止することによってT細胞エンゲージャーの急速な除去を可能にすることもできる。
【0076】
B.定義
本出願がより完全に理解されるようにするため、いくつかの定義が以下に記載される。そのような定義は文法上の同義語を包含することが意図される。
【0077】
別段の説明がない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者に一般的に理解されるものと同じ意味を有する。
【0078】
受託番号:米国立衛生研究所によって維持されているNCBIデータベース(米国立生物工学情報センター)における様々な核酸およびアミノ酸配列に割り当てられた参照番号。本明細書において列挙される受託番号は、本出願の出願日時点でデータベースに提供されている通りに参照により本明細書に組み込まれる。
【0079】
「抗原結合ドメイン」または「ABD」という用語は、本明細書では、ポリペプチド配列の一部として存在する場合、本明細書において論じられる標的抗原と特異的に結合する1組の6つの相補性決定領域(CDR)を意味する。したがって、「HSA抗原結合ドメイン」は本明細書において概説されるヒト血清アルブミンと結合する。当技術分野において公知であるように、これらのCDRは一般に、第1の組の可変重CDR(vhCDRまたはVHCDR)および第2の組の可変軽CDR(vlCDRまたはVLCDR)として存在し、それぞれは3つのCDR、すなわち、重鎖はvhCDR1、vhCDR2、vhCDR3、軽鎖はvlCDR1、vlCDR2、およびvlCDR3を含む。CDRは可変重および可変軽ドメインにそれぞれ存在し、一緒になってFv領域を形成する。したがって、一部の場合では、抗原結合ドメインの6つのCDRは可変重および可変軽鎖によって与えられる。例えば、scFvフォーマットでは、vhおよびvlドメインは、一般に本明細書において概説されるリンカーの使用により共有結合して単一ポリペプチド配列となり、これは(N末端から)vh-リンカー-vlまたはvl-リンカー-vhのいずれかの可能性があり、一般に前者が好ましい(使用されるフォーマットに応じて、各側に必要に応じたドメインリンカーを含む)。一部の場合では、リンカーは本明細書に記載されるドメインリンカーである。
【0080】
加えて、一部の場合では、本発明において使用されるABDは単一ドメインABD(「sdABD」)であり得る。「単一ドメインFv」、「sdFv」、または「sdABD」とは、本明細書では、一般にラクダ科抗体技術に基づく3つのCDRのみを有する抗原結合ドメインを意味する。Protein Engineering 9(7):1129-35 (1994)、Rev Mol Biotech 74:277-302 (2001)、Ann Rev Biochem 82:775-97 (2013)を参照されたい。これらは当技術分野において「VHH」ドメインと称されることがある。
【0081】
当業者によって理解されるように、CDRの正確な番号付けおよび配置は種々の番号付けシステムの間で異なり得る。しかしながら、可変重および/または可変軽配列の開示には関連する(固有の)CDRの開示が含まれることが理解されるべきである。したがって、各可変重領域の開示はvhCDR(例えばvhCDR1、vhCDR2、およびvhCDR3)の開示であり、各可変軽領域の開示はvlCDR(例えばvlCDR1、vlCDR2、およびvlCDR3)の開示である。
【0082】
CDR番号付けの有用な比較は以下の通りであり、Lafranc et al., Dev. Comp. Immunol. 27(1):55-77 (2003)を参照されたい。本明細書全体にわたって、可変ドメインの残基に言及する場合はKabat番号付けシステムが全般に使用され(およそ、軽鎖可変領域の残基1~107および重鎖可変領域の残基1~113)、Fc領域についてはEU番号付けシステムが使用される[例えば、Kabat et al., SEQUENCES OF PROTEINS OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991)]。
【0083】
【表1】
【0084】
「ドメインリンカー」または文法上の同義語は、本明細書では、タンパク質の異なるドメインを連結することにおいて使用されるリンカー等の、2つのタンパク質ドメインを接続して一つにするリンカーを意味する。一般に、各ドメインが生物学的機能を保持することを可能にするのに十分な長さと柔軟性とを有する2つのドメインの組換え結合を可能にする組換え技法によって生成される、従来のペプチド結合を含むいくつかの好適なリンカーが使用可能である。
【0085】
「エピトープ」とは、パラトープとして公知の抗体分子の可変領域における特定の抗原結合部位と相互作用する決定基を指す。エピトープはアミノ酸または糖側鎖等の分子の分類であり、通例、特異的な構造特徴および特異的な電荷特徴を有する。単一の抗原は2つ以上のエピトープを有し得る。エピトープは、結合に直接関与するアミノ酸残基(エピトープの免疫優性成分とも呼ばれる)、および結合に直接は関与しない他のアミノ酸残基、例えば、特異的に抗原結合するペプチドによって効果的にブロックされる、換言すれば、アミノ酸残基が特異的に抗原結合するペプチドのフットプリント内に存在するアミノ酸残基を含み得る。エピトープは構造的であっても線状であってもよい。構造的エピトープは、直鎖状ポリペプチド鎖の異なるセグメントからの空間的に並置されたアミノ酸によって作製される。線状エピトープは、ポリペプチド鎖における隣接アミノ酸残基によって作製されるエピトープである。構造的エピトープと非構造的エピトープとは、変性溶媒の存在下では後者ではなく前者への結合が喪失するという点において識別することができる。
【0086】
「修飾」とは、本明細書では、ポリペプチド配列におけるアミノ酸置換、挿入、および/もしくは欠失、またはタンパク質に化学的に連結する部分に対する変更を意味する。例えば、修飾は、タンパク質に結合する炭水化物またはPEG構造の変更であってもよい。「アミノ酸修飾」とは、本明細書では、ポリペプチド配列におけるアミノ酸置換、挿入、および/または欠失を意味する。説明を明確にするために、別段の指摘がない限り、アミノ酸修飾は常に、DNAによってコードされるアミノ酸、例えばDNAおよびRNAにおけるコドンを有する20種類のアミノ酸に対するものとする。
【0087】
「アミノ酸置換」または「置換」とは、本明細書では、親ポリペプチド配列における特定の位置のアミノ酸の異なるアミノ酸との置換えを意味する。説明を明確にするために、核酸コード配列を変化させるが開始アミノ酸を変化させない[例えばCGG(アルギニンをコードする)をCGA(依然としてアルギニンをコードする)に入れ替えて宿主生物発現レベルを増加させる]ように操作されたタンパク質は「アミノ酸置換」ではない、すなわち、同じタンパク質をコードする新たな遺伝子の作出にもかかわらず、タンパク質が開始した特定の位置において同じアミノ酸を有する場合、それはアミノ酸置換ではない。
【0088】
「アミノ酸挿入」または「挿入」とは、本明細書で使用される場合、親ポリペプチド配列における特定の位置でのアミノ酸配列の付加を意味する。例えば、-233Eまたは233Eは、233位の後ろかつ234位の前でのグルタミン酸の挿入を示す。加えて、-233ADEまたはA233ADEは、233位の後ろかつ234位の前でのAlaAspGluの挿入を示す。
【0089】
「アミノ酸欠失」または「欠失」とは、本明細書で使用される場合、親ポリペプチド配列における特定の位置のアミノ酸配列の除去を意味する。例えば、E233-またはE233#、E233()またはE233delは、233位におけるグルタミン酸の欠失を示す。加えて、EDA233-またはEDA233#は、233位から開始する配列GluAspAlaの欠失を示す。
【0090】
「変異体タンパク質」もしくは「タンパク質変異体」、または「変異体」とは、本明細書で使用される場合、少なくとも1つのアミノ酸修飾のために親タンパク質のものと異なるタンパク質を意味する。タンパク質変異体は、タンパク質それ自体、タンパク質を含む組成物、またはそれをコードするアミノ配列を指すことができる。
【0091】
本明細書で使用される場合、本明細書における「タンパク質」とは、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびペプチドを含む少なくとも2つの共有結合したアミノ酸を意味する。ペプチジル基は天然に存在するアミノ酸およびペプチド結合を含む。加えて、ポリペプチドは、1つまたは複数の側鎖または末端の合成誘導体化、グリコシル化、PEG化、循環置換、環化、他の分子に対するリンカー、タンパク質またはタンパク質ドメインとの融合、およびペプチドタグまたは標識の付加を含み得る。
【0092】
本明細書で使用される場合、「ドメイン」とは、機能することができ、残りのタンパク質鎖から独立して存在することができる、タンパク質ドメイン、所与のタンパク質配列の一部、および三次構造を意味する。各ドメインは、緻密な三次元構造を形成し、多くの場合独立して安定で、フォールディングされ得る。ドメインは長さが可変であり、少なくとも10アミノ酸長である。独立して安定であるため、ドメインは、遺伝子操作によってあるタンパク質と別のタンパク質との間で「交換」されてキメラタンパク質を作製することができる。
【0093】
「残基」とは、本明細書で使用される場合、タンパク質およびその関連するアミノ酸同一性における位置を意味する。
【0094】
「Fab」または「Fab領域」とは、本明細書で使用される場合、VH、CH1、VL、およびCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドを意味する。Fabは、単離されているこの領域、または全長抗体もしくは抗体断片の文脈におけるこの領域を指すことができる。
【0095】
「Fv」または「Fv断片」または「Fv領域」とは、本明細書で使用される場合、単一抗体のVLおよびVHドメインを含むポリペプチドを意味する。当業者によって理解されるように、これらは2つのドメイン、すなわち可変重ドメインおよび可変軽ドメインによって構成される。
【0096】
「アミノ酸」および「アミノ酸同一性」とは、本明細書で使用される場合、DNAおよびRNAによってコードされる20種類の天然に存在するアミノ酸のうちの1つを意味する。
【0097】
「親ポリペプチド」とは、本明細書で使用される場合、その後変異体を生成するために修飾される出発ポリペプチドを意味する。親ポリペプチドは、天然に存在するポリペプチドであっても、天然に存在するポリペプチドの変異体または操作体であってもよい。親ポリペプチドは、ポリペプチドそれ自体、親ポリペプチドを含む組成物、またはそれをコードするアミノ酸配列を指すことができる。したがって、「親免疫グロブリン」とは、本明細書で使用される場合、変異体を生成するために修飾される未修飾免疫グロブリンポリペプチドを意味し、「親抗体」とは、本明細書で使用される場合、変異体抗体を生成するために修飾される未修飾抗体を意味する。「親抗体」には、以下に概説される商業的な組換え産生抗体が含まれることが注意されるべきである。
【0098】
「位置」とは、本明細書で使用される場合、タンパク質の配列における場所を意味する。位置は、逐次に、または確立したフォーマット、例えば抗体番号付けのためのEUインデックスに従って番号付けを行うことができる。
【0099】
「標的抗原」とは、本明細書で使用される場合、所与の抗体の可変領域によって特異的に結合される分子を意味する。本例では、例えば、本明細書における目的の標的抗原はCD19タンパク質を含む腫瘍関連抗原(TAA)であり得る。したがって、「抗CD19結合ドメイン」は抗原がCD19である抗原結合ドメイン(ABD)である。さらなる標的は以下に概説される。
【0100】
「標的細胞」とは、本明細書で使用される場合、標的抗原を発現する細胞を意味する。
【0101】
「可変ドメイン」とは、本明細書で使用される場合、カッパ、ラムダ、および重鎖免疫グロブリン遺伝子座をそれぞれ構成するVκ(V.カッパ)、Vλ(V.ラムダ)、および/またはVH遺伝子のいずれかによって実質的にコードされる1つまたは複数のIgドメインを含む免疫グロブリンの領域を意味する。したがって、「可変重ドメイン」は(VH)FR1-vhCDR1-(VH)FR2-vhCDR2-(VH)FR3-vhCDR3-(VH)FR4を含み、「可変軽ドメイン」は(VL)FR1-vlCDR1-(VL)FR2-vlCDR2-(VL)FR3-vlCDR3-(VL)FR4を含む。
【0102】
「野生型またはWT」とは、本明細書では、アレル変異を含む天然に見出されるアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を意味する。WTタンパク質は意図的には修飾されていないアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を有する。
【0103】
本発明の抗体は全般に組換えである。「組換え」とは、抗体が外来宿主細胞において組換え核酸技法を使用して生成されることを意味する。
【0104】
「特異的結合」、または特定の抗原もしくはエピトープ「に特異的に結合する」もしくは「に特異的」であるとは、非特異的相互作用と測定可能なほど異なる結合を意味する。特異的結合は例えば、分子の結合を、一般には結合活性を有しない類似した構造の分子である対照分子の結合と比較して決定することによって測定することができる。例えば、特異的結合は、標的に類似する対照分子との競合によって決定することができる。
【0105】
「Kassoc」または「Ka」という用語は、本明細書で使用される場合、特定の抗体-抗原相互作用の会合速度を指すことが意図され、「Kdis」または「Kd」という用語は、本明細書で使用される場合、特定の抗体-抗原相互作用の解離速度を指すことが意図される。「KD」という用語は、本明細書で使用される場合、KdのKaに対する比(すなわち、Kd/Ka)から取得され、モル濃度(M)として表される解離定数を指すことが意図される。抗体に対するKD値は、当技術分野において十分に確立されている方法を使用して決定することができる。一部の実施形態では、抗体のKDを決定するための方法は、表面プラズモン共鳴を使用すること、例えばBIACORE(登録商標)システム等のバイオセンサーシステムを使用することによって行われる。一部の実施形態では、抗体のKDは、バイオレイヤー干渉法によって決定される。一部の実施形態では、KDは、抗原発現細胞を用いるフローサイトメトリーを使用して測定される。一部の実施形態では、KD値は、抗原を固定化して測定される。他の実施形態では、KD値は、抗体(例えば、親マウス抗体、キメラ抗体、またはヒト化抗体変異体)を固定化して測定される。ある特定の実施形態では、KD値は、二価結合様式において測定される。他の実施形態では、KD値は、一価結合様式において測定される。特定の抗原またはエピトープに対する特異的結合は、例えば抗原またはエピトープに対して少なくとも約10-7M、少なくとも約10-8M、少なくとも約10-9M、少なくとも約10-10M、少なくとも約10-11M、少なくとも約10-12M、少なくとも約10-13M、または少なくとも約10-14MのKDを有する抗体によって呈され得る。典型的には、抗原と特異的に結合する抗体は、対照分子に対して抗原またはエピトープを基準として20、50、100、500、1000、5,000、10,000倍、またはそれよりも大きいKDを有し得る。
【0106】
タンパク質配列に関する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、配列をアラインメントし、必要な場合はギャップを導入して最大の配列同一性パーセントを達成した後の、いかなる保存的置換も配列同一性の一部として見なさない、特定の(親)配列におけるアミノ酸残基と同一の候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定することを目的としたアラインメントは、当技術分野の技術の範囲内にある様々な方法において、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、またはMegalign(DNASTAR)ソフトウェア等の公的に利用可能なコンピュータソフトウェアを使用して達成することができる。当業者は、比較される配列の全長にわたる最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するのに適切なパラメーターを決定することができる。1つの特定のプログラムは、これにより参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第20160244525号明細書の[0279]~[0280]段落において概説されているALIGN-2プログラムである。核酸配列に対する別の近似アラインメントは、Smith and Waterman, Advances in Applied Mathematics, 2:482-489 (1981)の局所相同性アルゴリズムによって提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff, Atlas of Protein Sequences and Structure, M.O. Dayhoff ed., 5 suppl. 3:353-358, National Biomedical Research Foundation, Washington, D.C., USAによって開発され、Gribskov, Nucl. Acids Res. 14(6):6745-6763 (1986)によって正規化されたスコア行列を使用することによってアミノ酸配列に適用することができる。
【0107】
配列の同一性パーセントを決定するアルゴリズムのインプリメンテーションの一例は、Genetics Computer Group(Madison、WI)によって「BestFit」ユーティリティーアプリケーションにおいて提供されている。この方法の初期パラメーターは、Wisconsin Sequence Analysis Package Program Manual, Version 8 (1995)(Genetics Computer Group、Madison、WIから入手可能)に記載されている。本発明の文脈において同一性パーセントを確立する別の方法は、John F.Collins and Shane S.Sturrokによって開発され、IntelliGenetics,Inc.(Mountain View、CA)によって配布されている、University of Edinburghが著作権を有するプログラムのMPSRCHパッケージを使用することである。この一式のパッケージから、スコア表に関して初期パラメーターが使用される(例えば、ギャップオープンペナルティが12、ギャップ伸長ペナルティが1、およびギャップが6)、Smith-Watermanアルゴリズムが用いられ得る。生成されたデータから、「一致」値は「配列同一性」を反映する。配列間の同一性または類似性パーセントを算出するのに好適な他のプログラムは一般に当技術分野において公知であり、例えば、別のアラインメントプログラムは初期パラメーターを用いて使用されるBLASTである。例えば、BLASTNおよびBLASTPは以下の初期パラメーターを使用して使用することができる:遺伝暗号=標準;フィルター=なし;鎖=両方;カットオフ=60;期待値=10;マトリックス=BLOSUM62;記載=50配列;並べ替え=HIGH SCORE;データベース=non-redundant,GenBank+EMBL+DDBJ+PDB+GenBank CDS translations+Swiss protein+Spupdate+PIR。これらのプログラムの詳細は、http:// in front of blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgiを入力することによって特定されるインターネットアドレスにおいて見出すことができる。
【0108】
本発明のアミノ酸配列(「発明配列」)と親アミノ酸配列との間の同一性の程度は、2つの配列のアラインメントにおける正確な一致の数を「発明配列」の長さまたは親配列の長さのいずれか短い方で割ることによって算出される。結果は同一性パーセントにおいて表される。
【0109】
「処置」、「処置すること」、「処置する」等の用語は、所望の薬理学的および/または生理学的効果を取得することを指す。効果は、疾患もしくはその症状を完全にもしくは部分的に防止するという点、または疾患もしくはその症状の可能性を低下させるという点において予防的であり得る、ならびに/あるいは疾患および/または疾患に起因する有害作用の部分的または完全な治癒という点において治療的であり得る。「処置」は、本明細書で使用される場合、哺乳動物、特にヒトにおける疾患の任意の処置を包含し、(a)疾患に罹りやすくなっていると考えられるがそれを有すると未だ診断されていない対象において疾患が生じることを防止すること、(b)疾患を阻害すること、すなわち、その発生または進行を停止すること、ならびに(c)疾患を軽減すること、すなわち疾患の退縮を引き起こすこと、および/または1つもしくは複数の疾患症状を軽減することを含む。「処置」はまた、疾患または状態の非存在下でも薬理学的効果を実現するための薬剤のデリバリーを包含することも意図される。例えば、「処置」は、例えばワクチンの場合、疾患状態の非存在下で免疫応答を誘発するかまたは免疫を付与することができる組成物のデリバリーを包含する。
【0110】
組成物の「有効量」または「治療有効量」には、組成物が投与される対象に有益な効果をもたらすのに十分な組成物の量が含まれる。デリバリー媒体の「有効量」には、組成物と効果的に結合するかまたは組成物を効果的に送達するのに十分な量が含まれる。
【0111】
「核酸」という用語には、一本鎖、二本鎖、オリゴヌクレオチド、またはポリヌクレオチドを含む任意の形態の2つ以上のヌクレオチドを有するRNAまたはDNA分子が含まれる。「ヌクレオチド配列」という用語には、一本鎖形態の核酸中のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドにおけるヌクレオチドの順序が含まれる。
【0112】
「ベクター」は、遺伝子配列を標的細胞に移入することができる。典型的には、「ベクターコンストラクト」、「発現ベクター」、および「遺伝子移入ベクター」とは、目的の遺伝子の発現を導くことができ、遺伝子配列を標的細胞に移入することができる任意の核酸コンストラクトを意味し、移入は、ベクターの全部もしくは一部のゲノム組入れ、または染色体外エレメントとしてのベクターの一過性もしくは遺伝性の維持によって遂行することができる。したがって、この用語には、クローニングおよび発現媒体、ならびに組入れベクターが含まれる。
【0113】
「腫瘍関連抗原」または「TAA」という用語には、腫瘍細胞上で産生される任意の抗原性物質が含まれる。腫瘍関連抗原としては、腫瘍細胞上にのみ存在し、非腫瘍細胞上には存在しない抗原、および一部の腫瘍細胞上に存在し、一部の正常細胞上にも存在する抗原が挙げられる。
【0114】
本明細書で使用される場合、「一本鎖可変断片」または「scFv」とは、可変重ドメインと可変軽ドメインとを含む抗体断片を指し、ここで、可変重ドメインと可変軽ドメインとは短い柔軟性ポリペプチドリンカーを介して連続して連結され、単一ポリペプチド鎖として発現することができ、scFvは、それが由来する無傷抗体の特異性を保持する。scFvの可変重ドメインおよび可変軽ドメインは、例えば以下の配向のいずれかであり得る:可変軽ドメイン-scFvリンカー-可変重ドメイン、または可変重ドメイン-scFvリンカー-可変軽ドメイン。
【0115】
「IgGサブクラス修飾」または「アイソタイプ修飾」とは、本明細書で使用される場合、1つのIgGアイソタイプの1つのアミノ酸を、アラインメントされた異なるIgGアイソタイプにおける対応するアミノ酸に変換するアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgG1はEU296位にチロシンを含み、IgG2はフェニルアラニンを含むため、IgG2におけるF296Y置換はIgGサブクラス修飾と見なされる。同様に、IgG1は241位にプロリンを有し、IgG4はそこにセリンを有するため、S241Pを有するIgG4分子はIgGサブクラス修飾と見なされる。本明細書においてサブクラス修飾はアミノ酸置換と見なされることに留意されたい。
【0116】
「天然に存在しない修飾」とは、本明細書でIgGドメインに関して使用される場合、アイソタイプではないアミノ酸修飾を意味する。例えば、IgGはいずれも434位にセリンを含まないため、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4(またはそれらのハイブリッド)における置換434Sは天然に存在しない修飾と見なされる。
【0117】
「エフェクター機能」とは、本明細書で使用される場合、抗体Fc領域とFc受容体またはリガンドとの相互作用から生じる生化学的事象を意味する。エフェクター機能としては、これらに限定されないが、ADCC、ADCP、およびCDCが挙げられる。
【0118】
「Fc」または「Fc領域」または「Fcドメイン」とは、本明細書で使用される場合、一部の事例では第1の定常領域免疫グロブリンドメイン(例えば、CH1)の全てまたはその一部を除外し、一部の場合ではヒンジの全てまたは一部を含んでもよい、抗体の定常領域を含むポリペプチドを意味する。IgGの場合、Fcドメインは、免疫グロブリンドメインCH2およびCH3(Cγ2およびCγ3)、ならびに適宜、CH1(Cγ1)とCH2(Cγ2)との間のヒンジ領域の全てまたは一部を含む。したがって、一部の場合では、Fcドメインは、N末端からC末端に向かって、CH2-CH3、またはヒンジ-CH2-CH3を含む。一部の実施形態では、Fcドメインは、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4由来のFcドメインであり、IgG1ヒンジ-CH2-CH3は多くの実施形態における特定の用途を提供する。加えて、FcドメインがヒトIgG1 Fcドメインである、ある特定の実施形態では、ヒンジはC220Sアミノ酸置換を含む。さらに、FcドメインがヒトIgG4 Fcドメインである一部の実施形態では、ヒンジはS228Pアミノ酸置換を含む。Fc領域の境界は可変であり得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通例、番号付けがKabatのEUインデックスに従っている残基E216、C226、またはA231をカルボキシル末端に含むように定義される。したがって、IgGの文脈では、「CH」ドメインは以下の通りである:「CH1」は、KabatのEUインデックスに従って118~215位を指す。「ヒンジ」は、KabatのEUインデックスに従って216~230位を指す。「CH2」は、KabatのEUインデックスに従って231~340位を指し、「CH3」は、KabatのEUインデックスに従って341~447位を指す。一部の実施形態では、以下により完全に記載されるように、アミノ酸修飾は、Fc領域に対して、例えば1つもしくは複数のFcγRまたはFcRnへの結合を変更するために行われる。
【0119】
「Fcガンマ受容体」、「FcγR」、または「FcガンマR」とは、本明細書で使用される場合、IgG抗体Fc領域と結合し、FcγR遺伝子によってコードされるタンパク質のファミリーの任意のメンバーを意味する。ヒトでは、このファミリーとしては、これらに限定されないが、アイソフォームFcγRIa、FcγRIb、およびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)、およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);ならびにアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIb-NA1およびFcγRIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)(全体が参照により組み込まれるJefferis et al., 2002, Immunol Lett 82:57-65)、ならびに任意の未知のヒトFcγRまたはFcγRアイソフォームもしくはアロタイプが挙げられる。一部の場合では、本明細書において概説されるように、1つまたは複数のFcγR受容体への結合は減少または切断される。例えば、FcγRIIIaへの結合の減少はADCCを低減し、一部の場合では、FcγRIIIaおよびFcγRIIbへの結合の減少は所望される。
【0120】
「FcRn」または「胎児性Fc受容体」とは、本明細書で使用される場合、IgG抗体Fc領域と結合し、少なくとも部分的にはFcRn遺伝子によってコードされるタンパク質を意味する。FcRnは、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、およびサルを含むがこれらに限定されない任意の生物由来であり得る。当技術分野において公知であるように、機能性FcRnタンパク質は、多くの場合重鎖および軽鎖と称される2つのポリペプチドを含む。軽鎖はベータ-2-ミクログロブリンであり、重鎖はFcRn遺伝子によってコードされる。本明細書において別段の指摘がない限り、FcRnまたはFcRnタンパク質は、FcRn重鎖とベータ-2-ミクログロブリンとの複合体を指す。本明細書において論じられるように、FcRn受容体への結合は望ましく、一部の場合では、Fc変異体はFcRn受容体への結合を増加するために導入することができる。
【0121】
「Fc変異体」または「変異体Fc」とは、本明細書で使用される場合、Fcドメインにアミノ酸修飾を含むタンパク質を意味する。修飾は、付加、欠失、または置換であり得る。本発明のFc変異体は、それらを構成するアミノ酸修飾によって定義される。したがって、例えば、N434Sまたは434Sは、番号付けがEUインデックスに従っている、親Fcポリペプチドと比べて434位にセリンに代わる置換を有するFc変異体である。同様に、M428L/N434Sは、親Fcポリペプチドと比べて置換M428LおよびN434Sを有するFc変異体を定義する。野生型アミノ酸の正体は明記されなくてもよく、その場合、前述の変異体は428L/434Sと称される。置換が提供される順番は任意である、すなわち、例えば428L/434Sは434S/428Lと同じFc変異体であり、他も同様であることに留意されたい。抗体または誘導体およびそれらの断片(例えば、Fcドメイン)に関する、本明細書において論じられる全ての位置に関して、別段の指摘がない限り、アミノ酸位番号付けはEUインデックスに従っている。「EUインデックス」または「KabatのEUインデックス」または「EU番号付け」スキームとは、EU抗体の番号付けを指す(全体がこれにより参照により本明細書に組み込まれるEdelman et al., 1969, Proc Natl Acad Sci USA 63:78-85)。修飾は、付加、欠失、または置換であり得る。
【0122】
「融合タンパク質」とは、本明細書で使用される場合、少なくとも2つのタンパク質またはタンパク質ドメインの共有的接続を意味する。融合タンパク質は人工配列、例えば、本明細書に記載されるドメインリンカー、Fcドメイン(例えば、変異体Fcドメイン)、CIDまたはCInDドメインを含み得る。「Fc融合タンパク質」とは、本明細書では、全般に1つまたは複数の異なるタンパク質ドメインに連結された(本明細書に記載されるドメインリンカーを介してもよい)Fc領域を含むタンパク質を意味する。一部の事例では、2つのFc融合単量体は、ホモ二量体Fc融合タンパク質またはヘテロ二量体Fc融合タンパク質を形成することができる。一部の実施形態では、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の一方の単量体はFcドメイン単独(例えば、「空のFcドメイン」)を含み、他方の単量体は、本明細書において概説されるCIDドメインまたはCInDドメインを含むFc融合タンパク質である。一部の実施形態では、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質の一方の単量体はCIDドメインまたはCInDドメインに連結されたFcドメインを含み、他方の単量体は治療部分に連結されたFcドメインを含む。一部の他の実施形態では、第1の単量体と第2の単量体の両方は、FcドメインおよびCInDドメインを含むFc融合タンパク質である。
【0123】
「融合した」または「共有的に連結された」とは、本明細書では、成分(例えば、CIDドメインとFcドメインと)が、本明細書において概説されるように、ドメインリンカーを介して直接または間接的にペプチド結合によって連結していることを意味する。
【0124】
「重定常領域」とは、本明細書では、IgG抗体のCH1-ヒンジ-CH2-CH3部分を意味する。
【0125】
「軽定常領域」とは、カッパまたはラムダ由来のCLドメインを意味する。
【0126】
発明の詳細な説明
当業界で理解されるように、本発明の組成物は、種々のコンフォメーションで本発明の成分を連結する、様々な構成を採ってもよい。一般に、本明細書で概略されるように、本発明の組成物は、2つのメカニズムのうちの1つに依拠する:いずれかの単量体成分が、機能のために低分子と一緒に保持されると共に、低分子の除去が、単量体成分の解離およびその後の患者からのクリアランスを引き起こす。これらの実施形態は、CID低分子に依拠し、図1に一般的に描写される。あるいは、本発明の組成物は、低分子の存在下では自己会合するが、低分子の添加によって解離する;これらの実施形態は、CInD低分子に依拠し、図2図3および図4に一般的に描写される。
【0127】
これらのシステムは、FcドメインまたはHSAのいずれかを使用することによって治療部分の半減期を増加させるために使用され、両方とも、それらが結合する分子の血清半減期を増加させることが当業界で周知である。CIDドメインおよび低分子(CIDSM)を使用することによって、FcドメインまたはHSAドメインと、治療部分との会合が制御される:低分子の存在下では、CIDドメインは会合し、かくして、半減期延長部分を、治療部分を含有する組成物中に組み込む。CIDSMが除去される(または最早患者に投与されない)場合、2つの「半分」の会合は停止し、治療部分は迅速にクリアランスされる。
【0128】
A.CIDを含む組成物
本発明は、患者の血清中のT細胞エンゲージャードメインの半減期の時間的制御のための組成物および方法を提供する。本明細書で概略されるように、組成物は、本明細書に記載のように、特定の方法で会合した、様々な異なる成分を含む。一般に、本発明の組成物は、一般的には、CID低分子の存在下で非共有的に一緒になる、第1および第2の単量体を含む。組成物の種々の実施形態は、本明細書に記載される。
【0129】
したがって、本発明の一態様は、図1Aに一般的に描写されるように、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質および融合タンパク質部分を含む組成物を含む。ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、第1および第2の単量体によって融合される。第1の単量体は、適宜、ドメインリンカーによって、第1のFcドメインに共有的に連結されたCIDドメインの一方の半分(本明細書では「第1のCIDドメイン」と称される)を含む。一部の実施形態では、第1の単量体は、NからC末端に向かって、第1のCIDドメイン-ドメインリンカー-Fcドメインを含み、さらなる実施形態では、NからC末端の順序は、Fcドメイン-ドメインリンカー-第1のCIDドメインである。第2の単量体は、空のFcドメインを含む。融合タンパク質部分は、適宜、ドメインリンカーによって、本明細書では「第2のCIDドメイン」と称される、CIDの他方の半分に共有的に連結された治療部分を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質部分は、NからC末端に向かって、第2のCIDドメイン-ドメインリンカー-治療部分を含み、さらなる実施形態では、NからC末端の順序は、治療部分-ドメインリンカー-第2のCIDドメインである。CID低分子の添加は、CIDの2つの半分の会合を誘導し、それによって、治療部分と、Fcドメインとの会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長させる。治療部分が血液から迅速にクリアランスされる必要がある事象では、CID低分子の投与が停止されると、CIDの2つの半分の解離およびFcドメインからの治療部分の解離をもたらす。組成物の種々の実施形態は、本明細書に記載される。
【0130】
1.第1の単量体
当業者であれば理解できるように、本発明の組成物は、異なる機能を有するいくつかの異なる融合タンパク質を含む。
【0131】
一部の実施形態では、本発明は、半減期延長部分としてHSAを利用し、図29に一般的に描写されるように、第1のCIDドメイン、ドメインリンカーおよびHSA結合ドメインを含む第1の単量体を含む組成物を提供する。一部の実施形態では、第1の単量体は、NからC末端に向かって、第1のCIDドメイン-ドメインリンカー-HSA結合ドメインを含み、さらなる実施形態では、NからC末端の順序は、HSA結合ドメイン-ドメインリンカー-CIDドメインである。
【0132】
一部の実施形態では、本発明の第1の単量体は、半減期延長部分としてFcドメインを利用し、本明細書に概略されるような様々な構成の、3つの成分、CIDドメイン、ドメインリンカー、およびFcドメインを含む。
【0133】
a.CIDドメイン
化学誘導性二量体化は、2つのタンパク質が、非共有的に会合するか、または二量体化剤の存在下でのみ結合する生物学的メカニズムである。本発明では、二量体化剤は、「化学誘導性二量体化低分子」または「CID低分子」または「CIDSM」と称される。
【0134】
本発明では、CIDドメインは、CIDSMの存在下で会合する対を形成する。当業者であれば理解できるように、一部のCID対は同一であり、例えば、CIDドメインは両方とも同じであり、CIDSMによって一緒になる。他の実施形態では、CID対は、CIDSMによって一緒になる2つの異なるCIDドメインから構成される。
【0135】
本発明の一部の実施形態では、CID対は、CIDSMの天然に存在する結合パートナーに由来する。例えば、CIDは、2つのFKBPの半分から構成され、FK1012の存在下で二量体化する[Fegan, A et al., Chemical Reviews. 110 (6): 3315-36を参照されたい];CIDは、2つの変異体FKBPの半分から構成され、リミドゥシドの存在下で二量体化する[Clackson T et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 95(18):10437-42を参照されたい];CIDの一方の半分はFKBPであり、CIDの他方の半分はカルシニューリンであり、FK506の存在下で二量体化する[Ho, SN et al., Nature. 382 (6594): 822-6];CIDの一方の半分はFKBPであり、CIDの他方の半分はCyP-Fasであり、FKCsAの存在下で二量体化する[Belshaw, PJ et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 93(10): 4604-7];CIDの一方の半分はFKBPであり、CIDの他方の半分はFRBであり、ラパマイシンの存在下で二量体化する[Rivera, VM et al., Nature Medicine. 2 (9): 1028-32];CIDの一方の半分は変異体FKBPであり、CIDの他方の半分は変異体FRBであり、ラパマイシンアナログの存在下で二量体化する(J. Henri Bayle et al., Chemistry and Biology Vol 13, Issue 1, page 99-107);CIDの一方の半分はGyrBであり、CIDの他方の半分はGyrBであり、クーママイシンの存在下で二量体化する[Farrar, MA et al., Nature. 383 (6596): 178-81];CIDの一方の半分はGAIであり、CIDの他方の半分はGID1であり、ジベレリンの存在下で二量体化する[Miyamoto, T et al., Nature Chemical Biology. 8 (5): 465-70];CIDの一方の半分はSNAPタグであり、CIDの他方の半分はHaloTagであり、HaXSの存在下で二量体化する[Erhart, D et al., Chemistry and Biology. 20 (4): 549-57];およびCIDの一方の半分はeDHFRであり、CIDの他方の半分はHaloTagであり、TMPタグの存在下で二量体化する[Ballister, E et al., Nature Communications. 5 (5475)]。
【0136】
本発明の一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、CID低分子の天然に存在する結合パートナーであり、第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインと、CIDSMとの間で形成される複合体に特異的に結合するが、CID低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離低分子に結合しない、抗原結合ドメイン(ABD)である。例は、参照により本明細書に組み込まれる、WO2018/213848に見出すことができる。この文脈におけるこの第2のCIDドメインはまた、「CID-ABD」;すなわち、第1のCIDドメインおよびCIDSMに結合する抗原結合ドメインと称される。
【0137】
例えば、一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、Bcl-xLのABT-737結合ドメインであり、CID低分子は、ABT-737である。第2のCIDドメインは、図11に示されるvhCDRおよびvlCDRのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む。第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、CID低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離CID低分子に結合しない。一部の実施形態では、Bcl-xLのABT-737結合ドメインは、配列番号314のアミノ酸配列を含む。
【0138】
さらなる実施形態では、第1のCIDドメインは、BCl-2またはBCl-2(C158A)のABT-199結合ドメインであり、CID低分子は、ABT-199(ベネトクラクス)である。第2のCIDドメインは、図12A図12Bに示されるvhCDRおよびvlCDRのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む。第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離低分子に結合しない。一部の実施形態では、BCl-2またはBCl-2(C158A)のABT-199結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列を含む。
【0139】
一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、BCL-2のABT-263結合ドメインであり、CID低分子は、ABT-263である。第2のCIDドメインは、図13に示されるvhCDRおよびvlCDRのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む。第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、CID低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離CID低分子に結合しない。一部の実施形態では、BCl-2のABT-263結合ドメインは、配列番号315のアミノ酸配列を含む。
【0140】
さらなる実施形態では、第1のCIDドメインは、cIAPlのLCL161結合ドメインであり、CID低分子は、LCL161である。第2のCIDドメインは、図14に示されるvhCDRおよびvlCDRのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む。第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、CID低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離CID低分子に結合しない。一部の実施形態では、cIAPlのLCL161結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列を含む。
【0141】
さらなる実施形態では、第1のCIDドメインは、cIAPlのGDC-0152結合ドメインであり、CID低分子は、GDC-0152である。第2のCIDドメインは、図15に示されるvhCDRおよびvlCDRのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む。第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、CID低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離CID低分子に結合しない。一部の実施形態では、cIAPlのGDC-0152結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列を含む。
【0142】
さらなる実施形態では、第1のCIDドメインは、cIAPlのAT406結合ドメインであり、CID低分子は、AT406である。第2のCIDドメインは、図16に示されるvhCDRおよびvlCDRのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む。第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、CID低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離CID低分子に結合しない。一部の実施形態では、cIAPlのAT406結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列を含む。
【0143】
さらなる実施形態では、第1のCIDドメインは、cIAPlのCUDC-427結合ドメインであり、CID低分子は、CUDC-427である。第2のCIDドメインは、図17に示されるvhCDRおよびvlCDRのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む。第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、CID低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離CID低分子に結合しない。一部の実施形態では、cIAPlのCUDC-427結合ドメインは、配列番号317のアミノ酸配列を含む。
【0144】
さらなる実施形態では、第1のCIDドメインは、FKBPのラパマイシン(SLF)結合ドメインの合成リガンドであり、CID低分子は、SLFである。第2のCIDドメインは、図18に示されるvhCDRおよびvlCDRのアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含む。第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、CID低分子なしでは第1のCIDドメインに結合せず、遊離CID低分子に結合しない。一部の実施形態では、FKBPのSLF結合ドメインは、配列番号316のアミノ酸配列を含む。
【0145】
本発明の一部の他の実施形態では、CIDドメインは両方とも、抗原結合ドメイン(ABD)である。第1のCIDドメインは、抗原として作用するCID低分子に特異的に結合し、第2のCIDドメインは、第1のCIDドメインとCID低分子との間で形成される複合体に特異的に結合するが、第1のCIDドメインまたは遊離CID低分子には結合しない。
【0146】
一部の実施形態では、CID低分子は、メトトレキサートであり、第1のCIDドメインは、それぞれ、配列番号319、320、321、322、323および324としてのvh-CDR1、vh-CDR2、vh-CDR3、vl-CDR1、vl-CDR2およびvl-CDR3のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインおよび軽鎖可変ドメインを含むメトトレキサートABDである。第2のCIDドメインは、メトトレキサートと第1のCIDドメインとの複合体に特異的に結合することができるABDを含み、第2のCIDドメインは、図19に示されるvhCDRおよびvlCDRを含む。一部の実施形態では、メトトレキサートABDは、Gayda et al. Biochemistry 2014 53 (23), 3719-3726に記載されたメトトレキサート結合Fabである。
【0147】
一部の実施形態では、CIDの第2の半分は、ABDを含み、低分子の少なくとも一部およびCIDの第1の半分の一部を含む複合体の部位に結合する。一部の実施形態では、CIDの第2の半分は、ABDを含み、低分子とCIDの第1の半分との複合体の部位に結合し、CIDの第2の半分は、低分子の少なくとも1個の原子と、CIDの第1の半分の1個の原子とを含む部位に結合する。
【0148】
一部の実施形態では、CIDの第2の半分は、それぞれの遊離低分子およびCIDの遊離第1の半分への結合に関するその解離定数(KD)の約1/250を超えない(約1/300、1/350、1/400、1/450、1/500、1/600、1/700、1/800、1/900、1/1000、1/1100、1/1200、1/1300、1/1400、または1/5000、またはそれ未満などを超えない)KDで、CIDの第1の半分と、低分子との複合体に結合する。
【0149】
低分子と、同族結合部分との複合体に特異的に結合する結合部分を、当業界で公知の方法に従って生産することができる。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれ、具体的には、CIDドメインを生産するための方法に関する、WO2018/213848を参照されたい。簡単に述べると、抗体ライブラリー、DARPinライブラリー、ナノボディライブラリー、またはアプタマーライブラリーまたはファージディスプレイFabライブラリーからスクリーニングを実施する。例えば、工程1として、低分子の非存在下では同族結合部分に結合しない結合部分を選択し、それによって、対抗選択された結合部分のセットを生成することができる;次いで、工程2として、対抗選択された結合部分を、低分子と、同族結合部分との複合体に結合する結合部分についてスクリーニングし、それによって、陽性選択された結合部分のセットを生成することができる。低分子と、同族結合部分との複合体に特異的に結合する結合部分のセットが生成されるように、スクリーニングのそれぞれのラウンドが、工程1のスクリーニングおよび工程2のスクリーニングを含む、1または複数のラウンドで、スクリーニングの工程1および2を行うことができる。一部の実施形態では、第1ラウンドのスクリーニングに関する工程1の結合部分の入力セットが、結合分子ライブラリーである;それぞれのラウンドのスクリーニングに関する工程2の結合部分の入力セットが、所与のラウンドのスクリーニングに関する工程1の対抗選択された結合部分のセットである;第1ラウンドのスクリーニング後のそれぞれのラウンドのスクリーニングに関する工程1の結合部分の入力セットが、前のラウンドのスクリーニングからの工程2の陽性選択された結合部分のセットである;および低分子と、同族結合部分との複合体に特異的に結合する結合部分のセットが、最後のラウンドのスクリーニングに関する工程2の陽性選択された結合部分のセットである、2ラウンド以上のスクリーニングを実施する。
【0150】
ファージディスプレイスクリーニングを、以前に確立されたプロトコール[Seiler, et al, Nucleic Acids Res., 42:D12531260 (2014)を参照されたい]に従って行うことができる。例えば、BCL-xLとABT-737との複合体のための抗体結合部分を選択するために、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズ(Promega)を用いて捕捉されたビオチン化されたBCL-xLに対して、抗体ファージライブラリーをスクリーニングすることができる。それぞれの選択の前に、ファージプールを、ABT-737の非存在下でストレプトアビジンビーズ上の固定された1mMのBCL-xLと共にインキュベートして、アポ型のBCL-xLに対する任意の結合剤のライブラリーを枯渇させることができる。続いて、ビーズを除去し、ABT-737を1mMの濃度でファージプールに添加することができる。減少する量のBCL-xL抗原(100nM、50nM、10nMおよび10nM)を用いて、合計で4ラウンドの選択を実施することができる。非特異的に結合するファージの有害な効果を低減するために、特異的なBCL-xL結合Fab-ファージを、2g/mLのTEVプロテアーゼの添加によって磁気ビーズから選択的に溶出させることができる。次いで、第4ラウンドの選択からの個々のファージクローンを、配列決定のために分析することができる。
【0151】
b.HSA結合ドメイン
第1のCIDドメインに加えて、一部の実施形態は、半減期延長部分としてHSA結合ドメインも含む本発明の第1の単量体に依拠する。一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、またはヒト化抗体に由来する抗原結合ドメインを含む。抗HSA抗原結合ドメインは、限定されるものではないが、完全抗体、Fab、Fv、単鎖可変断片(scFv)、重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)およびラクダ科由来単一ドメイン抗体の可変ドメイン(VHH)などの単一ドメイン抗体を含む、任意の形式を採ってもよい。
【0152】
HSA結合ドメインの結合親和性を、T細胞エンゲージャーの特定の血清半減期を標的とするために選択することができる。かくして、一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、HSAに対する高い結合親和性を有する。他の実施形態では、HSA結合ドメインは、HSAに対する中程度の結合親和性を有する。さらに他の実施形態では、HSA結合ドメインは、HSAに対する低いか、またはわずかな結合親和性を有する。例示的な結合親和性としては、10nM以下(高い)、10nM~100nM(中程度)、および100nMより大きい(低い)KD濃度が挙げられる。上記の通り、HSAに対する結合親和性は、表面プラズモン共鳴(SPR)などの公知の方法によって決定される。
【0153】
一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、HSAに結合するscFvを含む抗原結合ドメインである。一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、sdABDである。一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、連鎖球菌のプロテインGのHSA結合ドメインである。一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、ヒト化scFvまたはsdABDなどの、ヒト化抗HSA結合断片である。一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、配列番号339の重鎖可変ドメインと、配列番号340の軽鎖可変ドメインとを含む。一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、sdABDであり、配列番号341、342、343、344、345、346および347から選択される単一の単量体可変ドメインを含む。一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、例えば、Ralph et al., MABS. 2016, VOL. 8, NO. 7, 1336-1346に示された方法を使用して、HSAに対するその親和性を増加または減少させるように改変される。一部の実施形態では、HSA結合ドメインは、配列番号348の重鎖と、配列番号349の軽鎖とを含む。例示的なアミノ酸配列は、図31Aおよび図31Bに示される。
【0154】
c.ドメインリンカー
本明細書の多くの実施形態では、ドメインリンカーは、成分の生物学的機能が保持されるように、本発明の種々の成分を一緒に連結するために使用される。
【0155】
ドメインリンカーは、例えば、2つの実体を空間的に分離するための手段として、単に、2つの実体を連結する都合の良い方法として役立ち得る。ドメインリンカーは、2つの分子が所望の活性を保持するように互いに対して正確なコンフォメーションを取るように、それらを連結するのに十分な長さを有してもよい。一般に、2つのドメインを結合するリンカーは、(1)2つのドメインを、フォールディングさせ、互いに独立に作用させるように、(2)2つのドメインの機能的ドメインを阻害し得る規則的な二次構造を生じる傾向を有しないように、(3)機能的タンパク質ドメインと相互作用し得る最小限の疎水性もしくは電荷特性を有するように、および/または(4)2つのドメインの立体的分離を提供するように設計することができる。また、ドメインリンカーを使用して、例えば、2つのドメイン間の接続に対する不安定性、酵素切断部位(例えば、プロテアーゼのための切断部位)、安定性配列、分子タグ、検出可能な標識、またはその様々な組合せを提供することもできる。
【0156】
ドメインリンカーが分子架橋としてのその目的を満たすことができるという条件で、ドメインリンカーの長さおよび組成をかなり変化させてもよい。リンカーの長さおよび組成は、一般的には、リンカーの意図される機能、および必要に応じて、合成の容易性、安定性、ある特定の化学物質および/または温度パラメーターに対する耐性、ならびに生体適合性などの他の因子を考慮に入れて選択される。例えば、ドメインリンカーは、以下のアミノ酸残基:Gly、Ser、Ala、またはThrを含むペプチドであってもよい。一部の実施形態では、リンカーペプチドは、約1~50アミノ酸の長さ、約1~30アミノ酸の長さ、約1~20アミノ酸の長さ、または約5~約10アミノ酸の長さである。例示的なペプチドリンカーとしては、(GS)n、(GGS)n、(GGGS)n、(GGSG)n、(GGSGG)n、(GSGGS)n、および(GGGGS)n(ここで、nは、少なくとも1の整数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10)である)などのグリシン-セリンポリマー;グリシン-アラニンポリマー;アラニン-セリンポリマー;ならびに他の可撓性リンカーが挙げられる。
【0157】
あるいは、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアルキレン、またはポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとのコポリマーを含む、種々の非タンパク質性ポリマーをドメインリンカーとして使用することができる。
【0158】
ドメインリンカーはまた、免疫グロブリン軽鎖、例えば、CκまたはCλに由来してもよい。リンカーはまた、例えば、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4、Cα1、Cα2、Cδ、Cε、およびCμを含む、任意のアイソタイプの免疫グロブリン重鎖に由来してもよい。例えば、ドメインリンカーは、CL/CH1ドメインの全ての残基ではないが、任意の長さのCL/CH1ドメインの任意の配列;例えば、CL/CH1ドメインの最初の5~12個のアミノ酸残基を含んでもよい。
【0159】
ドメインリンカーはまた、Ig様タンパク質(例えば、TCR、FcR、KIR)、ヒンジ領域由来配列、および他のタンパク質に由来する他の天然配列などの、他のタンパク質に由来してもよい。
【0160】
本発明の一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、第1のドメインリンカーを介してFcドメインに連結される。一部の実施形態では、第2のCIDドメインは、第2のドメインリンカーを介して治療部分に連結される。第1および第2のドメインリンカーは、同じであっても、同じでなくてもよい。
【0161】
本発明の一部の実施形態では、第1のCIDドメインは、第1のドメインリンカーを介してHSA結合ドメインに連結される。一部の実施形態では、第2のCIDドメインは、第2のドメインリンカーを介して治療部分に連結される。第1および第2のドメインリンカーは、同じであっても、同じでなくてもよい。
【0162】
一部の実施形態では、ドメインリンカーは、FvのVHおよびVLドメインを一緒に連結するように働き、scFvを形成し、「scFvリンカー」と称することができる。これらの実施形態では、scFvリンカーは、VHおよびVLドメインを適切に会合させるのに十分な長さである。一部の実施形態では、scFvリンカーは、10~25アミノ酸の長さである。
【0163】
d.Fcドメイン
特に、半減期延長部分としてFcドメインを使用する、一部の実施形態では、本発明は、第1のFcドメインと第1のCIDドメインとを含む第1の単量体、および第2のFcドメイン(例えば、「空のFcドメイン」)を含む第2の単量体を含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質を提供する。Fc融合タンパク質は、それぞれの単量体上での2個のFcドメインの自己集合性質に基づく。ヘテロ二量体Fcドメインは、以下により完全に考察されるように、それぞれの単量体中のFcドメインのアミノ酸配列を変更して、ヘテロ二量体Fcドメインの形成を「歪める」ことによって作製される。
【0164】
Fcドメインは、IgG Fcドメイン、例えば、IgG1、IgG2、IgG3またはIgG4 Fcドメインに由来してもよく、IgG1 Fcドメインが、本発明において特に有用である。本明細書に記載されるように、常にではないが、しばしば、エフェクター機能を除去するためのアブレーション変異体と共に、IgG1 Fcドメインを使用してもよい。同様に、低いエフェクター機能が望まれる場合、IgG4 Fcドメインを使用してもよい。
【0165】
本明細書に記載の二量体Fc融合タンパク質のいずれかについて、それぞれの鎖のカルボキシ末端部分は、エフェクター機能を主に担う定常領域を規定する。Kabatらは、重鎖および軽鎖の可変領域のいくつかの一次配列を収集した。配列の保存度に基づいて、彼らは、個々の一次配列を、CDRおよびフレームワークに分類し、その一覧を作製した(全体が参照により組み込まれる、SEQUENCES OF IMMUNOLOGICAL INTEREST, 5th edition, NIH publication, No. 91-3242, E.A. Kabat et al.を参照されたい)。本明細書を通して、可変ドメイン中の残基(おおよそ、軽鎖可変領域の残基1~107および重鎖可変領域の残基1~113)を言う場合、一般的にはKabatの番号付けシステムが使用され、Fc領域[例えば、Kabat et al., supra (1991)]についてはEUの番号付けシステムが使用される。
【0166】
本明細書に記載の二量体Fc融合タンパク質の一部の実施形態では、第1および第2の単量体はそれぞれ、式:ヒンジ-CH2-CH3(式中、ヒンジは完全または部分的ヒンジ配列のいずれかである)を有するFcドメインを含む。本明細書に記載の二量体Fc融合タンパク質の一部の実施形態では、第1および第2の単量体はそれぞれ、式:CH2-CH3を有するFcドメインを含む。
【0167】
(i)ヘテロ二量体Fc変異体
半減期延長部分としてFcドメインを使用する実施形態では、Fc融合タンパク質は、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質である。そのようなヘテロ二量体タンパク質は、本明細書では集合的に「ヘテロ二量体化変異体」と称される、第1および第2の単量体のヘテロ二量体化を容易にする、ならびに/またはホモ二量体よりもヘテロ二量体の精製を容易にする改変を含む2つの異なるFcドメイン(1つは第1および第2の単量体のそれぞれの上にある)を含む。当業者であれば理解できるように、一般的には、これらのヘテロ二量体単量体は、それぞれの単量体のための遺伝子を宿主細胞中に含ませることによって作製される。これは一般に、所望のヘテロ二量体(A-B)、ならびに2つのホモ二量体(A-AおよびB-B)の形成をもたらす。当業界で公知のように、本発明のFcヘテロ二量体を生成するために使用することができるいくつかのメカニズムが存在する。かくして、ヘテロ二量体の産生をもたらすアミノ酸変異体は、「ヘテロ二量体化変異体」と称される。以下で考察されるように、ヘテロ二量体化変異体は、A-AおよびB-Bホモ二量体よりもA-Bヘテロ二量体の形成を「歪める」立体変異体(例えば、以下に記載される「ノブアンドホール」変異体および以下に記載される「電荷対」変異体を含んでもよい。
【0168】
1つのメカニズムは、一般に、「ノブアンドホール」と当業界で称されるか、または立体的影響を創出して、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を抑制するアミノ酸工学を指すKIHである。すなわち、一方の単量体は、嵩高いアミノ酸を有するように操作され(「ノブ」)、他方はアミノ酸側鎖のサイズを減少させるように操作され(「ホール」)、ホモ二量体よりもヘテロ二量体の形成を歪める。これらの技術および配列は、Ridgway et al.,Protein Engineering 9(7):617 (1996);Atwell et al., J. Mol. Biol. 1997 270:26;米国特許第8,216,805号、US2012/0149876に記載されており、これらは全てその全体が参照により本明細書に組み込まれる。これらの参考文献の図面(また、アミノ酸変異体について参照により本明細書に具体的に組み込まれる)は、「ノブアンドホール」に依拠する、いくつかの「単量体A-単量体B」対を同定する。さらに、Merchant et al., Nature Biotech. 16:677 (1998)に記載されるように、これらの「ノブアンドホール」突然変異を、ジスルフィド結合と組み合わせて、ヘテロ二量体化への形成を歪めることができる。
【0169】
ヘテロ二量体の生成において有用であるさらなるメカニズムは、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Gunasekaran et al., J. Biol. Chem. 285(25):19637 (2010)に記載された「静電気ステアリング」または「電荷対」と称されることもある。これは、本明細書では「電荷対」と称されることもある。この実施形態では、ヘテロ二量体化に向かう形成を歪めるために、静電気が使用される。当業者であれば理解できるように、これらのものはまた、pI、かくして、精製に対する効果も有し、かくして、場合によっては、pI変異体と考えることもできる。しかしながら、これらのものを生成してヘテロ二量体化を強制し、精製手段として使用しなかったため、それらは「立体変異体」として分類される。これらのものとしては、限定されるものではないが、D221R/P228R/K409R(例えば、これらのものは、「単量体対応セット」である)と対になったD221E/P228E/L368EおよびC220R/E224R/P228R/K409Rと対になったC220E/P228E/368Eが挙げられる。
【0170】
ヘテロ二量体化変異体は、スキュー変異体(例えば、以下に記載される「ノブアンドホール」および「電荷対」変異体)を含んでもよい。例示的な方法としては、表2にまとめられるような、例えば、KiH、HA-TF、およびZW1突然変異を導入する、対称-非対称立体相補性設計[全てその全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる、Atwell et al., J Mol Biol (1997) 270(1):26-35;Moore et al., MAbs (2011) 3(6):546-57;Von Kreudenstein et al., MAbs (2013) 5(5):646-54を参照されたい];電荷間交換(例えば、DD-KK突然変異を導入する)(その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Gunasekaran et al., J Biol Chem 2010; 285:19637-46を参照されたい);電荷-立体相補性交換+さらなる長距離静電気相互作用(例えば、EW-RVT突然変異を導入する)[その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Choi et al., Mol Cancer Ther (2013) 12(12):2748-59];ならびに例えば、鎖交換操作ドメイン(SEED)を導入する、アイソタイプ鎖交換[全てその全体が参照により本明細書に明示的に組み込まれる、Klein et al, MAbs (2012) 4(6):653-63;Von Kreudenstein et al., MAbs (2013) 5(5):646-54]が挙げられる。
【0171】
【表2】
【0172】
ヘテロ二量体化変異体に加えて、本明細書で提供される二量体Fc融合タンパク質(ホモ二量体とヘテロ二量体の両方)は、限定されるものではないが、1つまたは複数のFc受容体(例えば、FcγRおよびFcRn)への結合の変更などの、機能に影響するFc改変を独立に含んでもよい。
【0173】
(ii)FcγR変異体
一部の実施形態では、Fc融合タンパク質は、1つまたは複数のFcγR受容体への結合に影響する1つまたは複数のアミノ酸改変(例えば、「FcγR変異体」)を含む。結合の増加ならびに結合の減少をもたらすFcγR変異体(例えば、アミノ酸置換)が有用であり得る。例えば、FcγRIIIaへの結合の増加は、ADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害;FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞上の結合抗体を認識し、続いて、標的細胞の溶解を引き起こす、細胞媒介性反応)の増加をもたらすことが知られている。同様に、FcγRIIb(阻害的受容体)への結合の減少は、同様に一部の環境では有益であり得る。FcγR活性化およびP329G、L234A、L235AなどのFc媒介性毒性を低減させるFcγR変異体は、本発明におけるFc融合タンパク質において有用であり得る[その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Schlothauer et al. Protein Eng Des Sel. 2016;29(10):457-466を参照されたい]。例えば、P329G、L234A、L235Aを含むIgG1 Fcドメインを本発明において使用することができ、ヘテロ二量体化を容易にするためにさらに改変することができる。例示的なアミノ酸配列は、図28に示される。
【0174】
さらなるFcγR変異体は、米国特許第8,188,321号(特に、図41)および第8,084,582号、ならびに米国特許出願公開第20060235208号および第20070148170号に列挙されたものを含んでもよく、これらは全て、その全体が、特に、Fcγ受容体結合に影響するその中に開示された変異体について、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。有用である特定の変異体としては、限定されるものではないが、236A、239D、239E、332E、332D、239D/332E、267D、267E、328F、267E/328F、236A/332E、239D/332E/330Y、239D、332E/330L、243A、243L、264A、264Vおよび299Tが挙げられる。
【0175】
(iii)FcRn変異体
さらに、本明細書に記載のFc融合タンパク質は、FcRnへの結合の増加および血清半減期の増大を提供するFc置換を独立に含んでもよい。そのような改変は、例えば、その全体が、特に、FcRnへの結合を増加させ、半減期を増大させるFc置換について、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,367,805号に開示されている。そのような改変としては、限定されるものではないが、434S、434A、428L、308F、259I、428L/434S、259I/308F、436I/428L、436IまたはV/434S、436V/428Lおよび259I/308F/428Lが挙げられる。
【0176】
(iv)アブレーション変異体
一部の実施形態では、本明細書に記載のFc融合タンパク質は、さらなる作用メカニズムを避けるために、1つもしくは複数または全部のFcγ受容体(例えば、FcγR1、FcγRIIa、FcγRIIb、FcγRIIIaなど)へのFcドメインの正常な結合を低減する、または除去する1つまたは複数の改変を含む。そのような改変は、「FcγRアブレーション変異体」または「Fcノックアウト(FcKOもしくはKO)」変異体と称される。一部の実施形態では、特に、免疫調節タンパク質の使用において、Fcドメインの1つが1つまたは複数のFcγ受容体アブレーション変異体を含むように、FcγRIIIa結合を除去して、ADCC活性を除去するか、または有意に低減させることが望ましい。これらのアブレーション変異体は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第10,259,887号の図31に描写されており、それぞれ、独立に、かつ適宜、含有または排除してもよく、好ましい態様では、EUインデックスによる、G236R/L328R、E233P/L234V/L235A/G236del/S239K、E233P/L234V/L235A/G236del/S267K、E233P/L234V/L235A/G236del/S239K/A327G、E233P/L234V/L235A/G236del/S267K/A327GおよびE233P/L234V/L235A/G236delからなる群から選択されるアブレーション変異体を使用する。本明細書で参照されるアブレーション変異体は、FcγR結合を除去するが、一般的には、FcRn結合は除去しない。
【0177】
2.第2の単量体
一部の実施形態では、第1のFcドメインと第1のCIDドメインとを含む第1の単量体、および第2のFcドメインを含む第2の単量体を含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質が本明細書で提供される。一部の場合、第2の単量体は、Fcドメインのみ(例えば、「空のFcドメイン」)を含む。第2の単量体のためのヘテロ二量体化変異体および他のFc変異体は、本明細書に記載される。
【0178】
一部の他の実施形態では、図29に一般的に描写されるように、本発明は、CIDSMの存在下で会合して、T細胞エンゲージャードメインへの半減期延長ドメインの会合をもたらし、かくして、T細胞エンゲージャードメインの半減期の時間的制御を可能にする、第1および第2の単量体を提供する。かくして、上で考察された第1の単量体に加えて、本発明は、図29に一般的に描写されるような、第2のCIDドメイン、ドメインリンカーおよびT細胞エンゲージャードメインを含む第2の単量体を含む組成物を提供する。一部の実施形態では、第2の単量体は、NからC末端に向かって、第2のCIDドメイン-ドメインリンカー-T細胞エンゲージャードメインを含み、さらなる実施形態では、NからC末端の順序は、T細胞エンゲージャードメイン-ドメインリンカー-CIDドメインである。
【0179】
第2のCIDドメインおよびドメインリンカーは、本明細書に概略される。
【0180】
a.T細胞エンゲージャードメイン
多くの実施形態では、治療部分は、T細胞エンゲージャードメインである。一般に、当業界で公知のように、T細胞エンゲージャードメインは、少なくとも、T細胞に、一般的には、がん細胞上の腫瘍関連抗原(TAA)に結合するABDに連結された、T細胞の表面上に発現されるCD3タンパク質に結合するABDを含む。これらのT細胞エンゲージャードメインは、細胞傷害性T細胞を動員することによって標的抗原を発現する細胞の特異的ターゲティングを可能にするように設計される。したがって、本明細書に記載のT細胞エンゲージャードメインは、T細胞受容体(TCR)の一部を形成する、表面に発現されたCD3タンパク質への結合を介して、細胞傷害性T細胞と係合することができる。T細胞エンゲージャーの、CD3および特定の腫瘍細胞の表面上に発現される標的抗原への同時的結合は、T細胞活性化を引き起こし、特定の標的抗原を発現する細胞のその後の溶解を媒介する。かくして、T細胞エンゲージャードメインは、強力、特異的かつ効率的な標的細胞死滅を誘導することができる(Ellerman, Methods, 2019; 54:102-107)。
【0181】
一部の実施形態では、T細胞ABDのC末端は、ドメインリンカーを介して、TAA-ABDのN末端に連結される。他の実施形態では、T細胞結合ドメインのN末端は、ドメインリンカーを介して、T細胞エンゲージャーの標的抗原結合ドメインのC末端に連結される。
【0182】
(i)T細胞ABD
T細胞エンゲージャーのT細胞に対する結合特異性は、TCRの認識によって媒介される。TCRの一部として、CD3は、細胞表面上に存在する、CD3λ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖、および2つのCD3ε(イプシロン)鎖を含むタンパク質複合体である。CD3は、TCRのα(アルファ)およびβ(ベータ)鎖ならびにCD3(ゼータ)と会合して、全体として完全なTCRを形成する。固定された抗CD3抗体などによる、T細胞上でのCD3のクラスタリングは、T細胞受容体の係合と類似するが、そのクローンに典型的な特異性とは無関係に、T細胞活性化をもたらす。
【0183】
本明細書に記載のT細胞エンゲージャードメインは、TCRに特異的に結合するドメインを含む。一部の実施形態では、本明細書に記載のT細胞エンゲージャードメインは、ヒトCD3に特異的に結合するドメインを含む。
【0184】
一部の実施形態では、T細胞エンゲージャードメインのT細胞ABDは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、またはヒト化抗体に由来する抗原結合ドメインを含む。T細胞ABDは、限定されるものではないが、Fv、単鎖可変断片(scFv)、重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)およびラクダ科由来単一ドメイン抗体の可変ドメイン(VHH)などの単一ドメイン抗体を含む、任意の形式を採ってもよい。
【0185】
一部の実施形態では、T細胞エンゲージャー部分のT細胞ABDは、抗CD3抗体の3つの軽鎖CDR(vlCDR1、vlCDR2およびvlCDR3)と、3つの重鎖CDR(vhCDR1、vhCDR2およびvhCDR3)とのセットを含む、抗CD3 ABDである。CDRセットに寄与する例示的な抗CD3抗体としては、限定されるものではないが、L2K、UCHT1、UCHT1.v9を含むUCHT1の変異体、ムロモナブ-CD3(OKT3)、オテリキシズマブ(TRX4)、テプリズマブ(MGA031)、ビシリズマブ(Nuvion)、SP34[Yang SJ, The Journal of Immunology (1986) 137; 1097-1100を参照されたい]、TR-66またはX35-3、VIT3、BMA030(BW264/56)、CLB-T3/3、CRIS7、YTH12.5、F111-409、CLBT3.4.2、TR-66、WT32、SPv-T3b、11D8、XIII-141、XIII-46、XIII-87、12F6、T3/RW2-8C8、T3/RW2-4B6、OKT3D、M-T301、SMC2、F101.01、およびWT-31が挙げられる。抗CD3 ABDの例示的なアミノ酸配列は、図27に提供される。
【0186】
一部の実施形態では、抗CD3 ABDは、0、1、2、3、4、5または6個のアミノ酸改変(アミノ酸置換が特に有用である)を有する。すなわち、6個のCDRのセットにおける変化の総数が、6個未満のアミノ酸改変である限り、CDRを改変してもよく、任意の組合せのCDRが変化する;例えば、vlCDR1中には1個のアミノ酸変化、vhCDR2中には2個のアミノ酸変化、vhCDR3中には変化なし、などがあってもよい。
【0187】
一部の実施形態では、抗CD3 ABDは、ヒト化またはヒト由来である。例えば、抗CD3 ABDは、ヒト軽鎖フレームワーク領域中のヒトCDRまたは非ヒト軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域と、ヒト重鎖フレームワーク領域中のヒトまたは非ヒト重鎖CDRを含む重鎖可変領域を含んでもよい。一部の実施形態では、軽鎖フレームワーク領域は、ラムダ軽鎖フレームワークである。他の実施形態では、軽鎖フレームワーク領域は、カッパ軽鎖フレームワークである。
【0188】
一部の実施形態では、抗CD3 ABDは、本明細書に提供される抗CD3抗体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含む単鎖可変断片(scFv)である。本明細書で使用される場合、「単鎖可変断片」または「scFv」とは、軽鎖および重鎖可変領域が、短い可撓性ポリペプチドリンカーを介して連続的に連結され、単一のポリペプチド鎖として発現させることができ、scFvが、それが由来する無傷抗体の特異性を保持する、軽鎖の可変領域と、重鎖の可変領域とを含む抗体断片を指す。scFvの軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、例えば、以下の方向:軽鎖可変領域-scFvリンカー-重鎖可変領域または重鎖可変領域-scFvリンカー-軽鎖可変領域のいずれかにあってもよい。
【0189】
したがって、一部の実施形態では、抗CD3 ABDは、本明細書に提供される抗CD3抗体配列の軽鎖可変領域と重鎖可変領域とを含む単鎖可変断片(scFv)である。CD3に結合するscFvを、公知の方法に従って調製することができる。例えば、scFv分子を、可撓性ポリペプチドリンカーを使用してVHおよびVL領域を一緒に連結することによって生産することができる。scFv分子は、最適化された長さおよび/またはアミノ酸組成を有するscFvリンカーを含む。したがって、一部の実施形態では、scFvリンカーの長さは、10~約25アミノ酸である。scFvリンカーのアミノ酸組成に関して、可撓性を提供し、可変ドメインを阻害せず、ならびに鎖間フォールディングを可能にして、2つの可変ドメインを一緒にして、機能的なCD3結合部位を形成させるペプチドが選択される。一部の実施形態では、scFvリンカーは、グリシンおよびセリン残基を含む。scFvリンカーのアミノ酸配列を、例えば、ファージディスプレイ法によって最適化して、CD3結合およびscFvの生産収率を改善することができる。scFv中の可変軽鎖領域と可変重鎖領域とを連結するのに好適なペプチドscFvリンカーの例としては、限定されるものではないが、(GS)n(配列番号325)、(GGS)n(配列番号326)、(GGGS)n(配列番号327)、(GGSG)n(配列番号328)、(GGSGG)n(配列番号329)、または(GGGGS)n(配列番号330)(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である)が挙げられる。一部の実施形態では、ペプチドscFvリンカーは、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号312)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号313)、GGSGGSGGSGGSGG(配列番号318)から選択される。
【0190】
一部の実施形態では、T細胞エンゲージャードメインの抗CD3抗原結合ドメインは、1000nM以下、500nM以下、200nM以下、100nM以下、80nM以下、50nM以下、20nM以下、10nM以下、5nM以下、1nM以下、または0.5nM以下のKDの、CD3発現細胞上のCD3に対する親和性を有する。CD3に結合する親和性を、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定することができる。
【0191】
(ii)腫瘍関連抗原抗原結合ドメイン(「TAA-ABD」)
一部の実施形態では、T細胞エンゲージャーの標的抗原ABDは、疾患、障害または状態、例えば、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症疾患、免疫障害、自己免疫疾患、感染症、ウイルス疾患、アレルギー反応、寄生虫反応、移植片対宿主疾患または宿主対移植片疾患に関与する、および/またはそれと関連する標的抗原に結合する。一部の実施形態では、標的抗原は、腫瘍細胞上で発現される腫瘍関連抗原である。
【0192】
一部の実施形態では、標的抗原は、タンパク質、脂質または多糖などの細胞表面分子である。一部の実施形態では、標的抗原は、腫瘍細胞上にある。
【0193】
本発明における標的抗原結合ドメインは、限定されるものではないが、完全抗体、Fab、Fv、単鎖可変断片(scFv)、重鎖可変ドメイン(VH)、軽鎖可変ドメイン(VL)およびラクダ科由来単一ドメイン抗体の可変ドメイン(VHH)などの単一ドメイン抗体を含む、任意の形式を採ってもよい。
【0194】
一部の実施形態では、標的抗原は、がん細胞上に発現される腫瘍関連抗原である。例えば、腫瘍関連抗原は、CD19であり、T細胞エンゲージャードメインは、限定されるものではないが、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)およびB細胞リンパ腫を含む多くのB細胞悪性腫瘍などの、CD19を発現するがんを標的とする。例示的なCD19結合ドメインは、ブリナツモマブ、SAR3419、MEDI-551、またはコンボトックスの抗CD19結合ドメインの1つまたは複数のCDRに由来する抗体部分を含んでもよい。
【0195】
3.融合タンパク質部分
一部の実施形態では、融合タンパク質部分(本明細書では「第3の単量体」とも称される)は、NからC末端に向かって、第2のCIDドメイン-ドメインリンカー-治療部分を含み、さらなる実施形態では、NからC末端の順序は、治療部分-ドメインリンカー-第2のCIDドメインである。CIDの2つの半分は、上記の通りであり、2つの半分のうちのいずれか一方を使用して、治療部分と連結して、本発明における融合タンパク質部分を形成させることができる。
【0196】
a.治療部分
本明細書で考察されるように、本発明は、一般的には、患者の血流中の治療部分の半減期を制御する能力に関する。かくして、一般的には、任意の治療部分を本発明において使用することができるが、T細胞エンゲージャー薬などの特定の有害な副作用を有するものは、本発明において特に有用である。
【0197】
任意の治療部分を使用して、第2のCIDドメインと連結して、本明細書に記載の融合タンパク質部分を創出することができる。例えば、治療部分としては、限定されるものではないが、T細胞エンゲージャー部分;限定されるものではないが、Fv、scFv、および単一ドメイン抗体(sdAb;ラクダ科由来sdAbのVHHドメインなどの断片を含む)などの種々の形式を採る抗体断片を含む抗体;サイトカイン;ホルモン;ペプチド;抗体薬物コンジュゲート;またはペプチド薬物コンジュゲートが挙げられる。
【0198】
一部の実施形態では、治療部分は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症疾患、免疫障害、自己免疫疾患、感染症、ウイルス疾患、アレルギー反応、寄生虫反応、移植片対宿主疾患または宿主対移植片疾患と関連する抗原を標的とする抗体または抗体断片である。一部の実施形態では、治療部分は、本明細書に記載の腫瘍細胞上に発現される1つまたは複数の腫瘍関連抗原に結合する抗体または抗体断片である。
【0199】
一部の実施形態では、治療部分は、限定されるものではないが、IL-2、IL-12、IL-15、およびその変異体などの、図8に一般的に示されるようなインターロイキン分子である。
【0200】
(i)T細胞エンゲージャードメイン
特に有用な実施形態では、治療部分は、T細胞エンゲージャー部分である。当業界で公知のように、これらのものは一般に、非常に有効ながん治療剤であるが、それらはまた、毒性副作用を示すことがあり、かくして、患者の血流からそれらを迅速に除去する能力は、極めて有益である。
【0201】
一般に、当業界で公知のように、T細胞エンゲージャー部分は、T細胞抗原結合ドメイン(TC-ABD)および腫瘍標的関連抗原結合ドメイン(TTA-ABD)を含み、細胞傷害性T細胞を動員することによって標的抗原を発現する細胞の特異的ターゲティングを可能にするように設計される。例えば、本明細書に記載のT細胞エンゲージャー部分は、T細胞受容体(TCR)の一部を形成する、表面に発現されたCD3タンパク質への結合を介して、細胞傷害性T細胞と係合することができる。T細胞エンゲージャー部分の、CD3および特定の腫瘍細胞の表面上に発現される標的抗原への同時的結合は、T細胞活性化を引き起こし、特定の標的抗原を発現する細胞のその後の溶解を媒介する。かくして、T細胞エンゲージャーは、強力、特異的かつ効率的な標的細胞死滅を誘導することができる。
【0202】
一部の実施形態では、本明細書に記載のT細胞エンゲージャー部分は、T細胞ABDおよび標的抗原結合ドメインを含み、ここで、標的抗原は、病原性細胞(例えば、腫瘍細胞、ウイルスまたは細菌に感染した細胞、自己反応性T細胞など)上で発現される。結果として、T細胞エンゲージャーは、細胞傷害性T細胞による標的細胞死滅を刺激して、病原性細胞を除去する。例示的なT細胞エンゲージャーは、Dreier, T. et al., Int. J. Cancer, 100: 690-697 (2002);およびBrischwein K et al., Molecular Immunology Vol 43, Issue 8, 1129-1243 (2006)に記載されており、それらは両方とも、その全体が参照により組み込まれる。
【0203】
一部の実施形態では、T細胞ABDのC末端は、ドメインリンカーを介して、標的ABDのN末端に連結される。他の実施形態では、T細胞結合ドメインのN末端は、ドメインリンカーを介して、T細胞エンゲージャーの標的抗原結合ドメインのC末端に連結される。
【0204】
図3に描写されるものを含む、一部の実施形態では、T細胞エンゲージャー部分である治療部分は、2つの単量体の間、異なる鎖上のT細胞ABDおよび腫瘍抗原ABDに実質的に分割される。これは、以下で一般的に考察される。
【0205】
(a)T細胞ABD
T細胞エンゲージャー部分のT細胞に対する結合特異性は、TCRの認識によって媒介される。TCRの一部として、CD3は、細胞表面上に存在する、CD3λ(ガンマ)鎖、CD3δ(デルタ)鎖、および2つのCD3ε(イプシロン)鎖を含むタンパク質複合体である。CD3は、TCRのα(アルファ)およびβ(ベータ)鎖ならびにCD3(ゼータ)と会合して、全体として完全なTCRを形成する。固定された抗CD3抗体などによる、T細胞上でのCD3のクラスタリングは、T細胞受容体の係合と類似するが、そのクローンに典型的な特異性とは無関係に、T細胞活性化をもたらす。
【0206】
本明細書に記載のT細胞エンゲージャー部分は、TCRに特異的に結合するドメインを含む。一部の実施形態では、本明細書に記載のT細胞エンゲージャー部分は、ヒトCD3εに特異的に結合するドメインを含む。
【0207】
一部の実施形態では、T細胞エンゲージャー部分のT細胞ABDは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、組換え抗体、ヒト抗体、またはヒト化抗体に由来する抗原結合ドメインを含む。T細胞ABDは、限定されるものではないが、Fv、scFv、およびラクダ科由来sdAbのVHHドメインなどのsdAbを含む、任意の形式を採ってもよい。
【0208】
一部の実施形態では、T細胞エンゲージャー部分のT細胞ABDは、抗CD3抗体の3つの軽鎖CDR(vlCDR1、vlCDR2およびvlCDR3)と、3つの重鎖CDR(vhCDR1、vhCDR2およびvhCDR3)とのセットを含む、抗CD3 ABDである。CDRセットに寄与する例示的な抗CD3抗体としては、限定されるものではないが、L2K、UCHT1、UCHT1.v9を含むUCHT1の変異体、ムロモナブ-CD3(OKT3)、オテリキシズマブ(TRX4)、テプリズマブ(MGA031)、ビシリズマブ(Nuvion)、SP34、TR-66またはX35-3、VIT3、BMA030 (BW264/56)、CLB-T3/3、CRIS7、YTH12.5、F111-409、CLBT3.4.2、TR-66、WT32、SPV-T3b、11D8、XIII-141、XIII-46、XIII-87、12F6、T3/RW2-8C8、T3/RW2-4B6、OKT3D、M-T301、SMC2、F101.01、およびWT-31が挙げられる。抗CD3 ABDの例示的なアミノ酸配列は、図27に提供される。
【0209】
一部の実施形態では、抗CD3 ABDは、0、1、2、3、4、5または6個のアミノ酸改変(アミノ酸置換が特に有用である)を有する。すなわち、6個のCDRのセットにおける変化の総数が、6個未満のアミノ酸改変である限り、CDRを改変してもよく、任意の組合せのCDRが変化する;例えば、vlCDR1中には1個のアミノ酸変化、vhCDR2中には2個のアミノ酸変化、vhCDR3中には変化なし、などがあってもよい。
【0210】
一部の実施形態では、抗CD3 ABDは、ヒト化またはヒト由来である。例えば、抗CD3 ABDは、ヒト軽鎖フレームワーク領域中のヒトCDRまたは非ヒト軽鎖CDRを含む軽鎖可変領域と、ヒト重鎖フレームワーク領域中のヒトまたは非ヒト重鎖CDRを含む重鎖可変領域を含んでもよい。一部の実施形態では、軽鎖フレームワーク領域は、ラムダ軽鎖フレームワークである。他の実施形態では、軽鎖フレームワーク領域は、カッパ軽鎖フレームワークである。
【0211】
一部の実施形態では、抗CD3 ABDは、本明細書に提供される抗CD3抗体の軽鎖可変領域および重鎖可変領域を含む単鎖可変断片(scFv)である。CD3に結合するscFvを、公知の方法に従って調製することができる。例えば、scFv分子を、可撓性ポリペプチドリンカーを使用してVHおよびVL領域を一緒に連結することによって生産することができる。scFv分子は、最適化された長さおよび/またはアミノ酸組成を有するscFvリンカーを含む。したがって、一部の実施形態では、scFvリンカーの長さは、10~約25アミノ酸である。scFvリンカーのアミノ酸組成に関して、可撓性を提供し、可変ドメインを阻害せず、ならびに鎖間フォールディングを可能にして、2つの可変ドメインを一緒にして、機能的なCD3結合部位を形成させるペプチドが選択される。一部の実施形態では、scFvリンカーは、グリシンおよびセリン残基を含む。scFvリンカーのアミノ酸配列を、例えば、ファージディスプレイ法によって最適化して、CD3結合およびscFvの生産収率を改善することができる。scFv中の可変軽鎖領域と可変重鎖領域とを連結するのに好適なペプチドscFvリンカーの例としては、限定されるものではないが、(GS)n(配列番号325)、(GGS)n(配列番号326)、(GGGS)n(配列番号327)、(GGSG)n(配列番号328)、(GGSGG)n(配列番号329)、または(GGGGS)n(配列番号330)(式中、nは、1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10である)が挙げられる。一部の実施形態では、ペプチドscFvリンカーは、GGGGSGGGGSGGGGS(配列番号312)、GGGGSGGGGSGGGGSGGGGS(配列番号313)、GGSGGSGGSGGSGG(配列番号318)から選択される。
【0212】
一部の実施形態では、T細胞エンゲージャー部分の抗CD3抗原結合ドメインは、1000nM以下、500nM以下、200nM以下、100nM以下、80nM以下、50nM以下、20nM以下、10nM以下、5nM以下、1nM以下、または0.5nM以下のKDの、CD3発現細胞上のCD3に対する親和性を有する。CD3に結合する親和性を、例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)によって決定することができる。
【0213】
(b)標的ABD
T細胞に結合する成分、例えば、抗CD3 ABD(CD3-ABD)に加えて、T細胞エンゲージャー部分は、上記のドメインリンカーを介して連結された、標的抗原、一般的には、標的腫瘍関連抗原(TTA)に結合するABDも含む。かくして、一部の実施形態では、T細胞エンゲージャー部分の標的抗原ABDは、疾患、障害または状態、例えば、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症疾患、免疫障害、自己免疫疾患、感染症、ウイルス疾患、アレルギー反応、寄生虫反応、移植片対宿主疾患または宿主対移植片疾患に関与する、および/またはそれと関連する標的抗原に結合する。一部の実施形態では、標的抗原は、タンパク質、脂質または多糖などの細胞表面分子である。一部の実施形態では、標的抗原は、腫瘍細胞上で発現される腫瘍関連抗原である。
【0214】
本発明における標的抗原ABDは、限定されるものではないが、完全抗体、Fab、Fv、単鎖可変断片(scFv)、ラクダ科由来単一ドメイン抗体のVHHなどの単一ドメイン抗体を含む、任意の形式を採ってもよい。多くの実施形態では、標的抗原ABDは、scFvである。
【0215】
一部の実施形態では、標的抗原は、がん細胞上に発現される腫瘍関連抗原である。例えば、腫瘍関連抗原は、CD19であり、T細胞エンゲージャー部分は、限定されるものではないが、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)およびB細胞リンパ腫を含む多くのB細胞悪性腫瘍などの、CD19を発現するがんを標的とする。例示的なCD19結合ドメインは、ブリナツモマブ、SAR3419、MEDI-551、またはコンボトックスの抗CD19結合ドメインの1つまたは複数のCDRに由来する抗体部分を含んでもよい。
【0216】
CD19に加えて、Her2などの、任意の他の腫瘍関連抗原が想定される。
【0217】
B.ClnDを含む組成物
本明細書において論じられるように、本発明の組成物は2つの機構のうちの1つに依存する、すなわち、単量体成分が機能するために低分子と一緒に保持される(上に記載した「CID実施形態」)か、または会合した単量体が低分子の添加によって分離される(「CInD実施形態」)。
【0218】
したがって、本発明の別の態様は、二量体Fc融合タンパク質と融合タンパク質部分とを含む組成物を伴う。二量体Fc融合タンパク質は、適宜ドメインリンカーを介して、本明細書では「第1のCInDドメイン」と称される化学阻害二量体形成化合物(CInD)の一方に連結された第1のFcドメインを含有する第1の単量体と、第1のFcドメインと二量体形成する第2のFcドメインを含有する第2の単量体とを含む。融合タンパク質部分は、適宜ドメインリンカーを介して、本明細書では「第2のCInDドメイン」と称されるCInDドメインの他方に連結された治療部分を含む。投与後、CInDドメインの2つの部分は二量体を形成して、治療部分とFcドメインとの会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長する。治療部分が血液から迅速にクリアランスされなければならない場合、CInD低分子が投与され、このことは、CInDの2つの部分の解離を誘導し、それによって治療部分のFcドメインからの解離と患者における治療部分のクリアランスとを可能にする。
【0219】
一部の実施形態では、Fc融合タンパク質は、図2Aに例示されるように、第1のFcドメインに連結された第1のCInDドメインを含有する一方の単量体と、Fcドメイン単独(例えば、「空のFcドメイン」)を含有する他方の単量体とのヘテロ二量体である。第1のFcドメインと第2のFcドメインとは、例えば本明細書に記載されるヘテロ二量体形成突然変異を組み込むことによってヘテロ二量体形成する。
【0220】
一部の実施形態では、Fc融合タンパク質は、図3に例示されるように、第1のFcドメインに連結された第1のCInDドメインを含有する一方の単量体と、適宜リンカーを介して第2の治療部分に連結された第2のFcドメインを含有する他方の単量体とのヘテロ二量体である。ヘテロ二量体Fc融合タンパク質と、上に記載した第2のCInDドメインに連結された治療部分を含む融合タンパク質部分との投与は、CInDドメインの2つの部分の会合を誘導し、治療部分とFcドメインとの会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長する。加えて、このフォーマットは、二特異性の性質を治療部分に付与し、治療部分の効力を高めることができる一方で、同時にその血清半減期を増加する。第1のFcドメインと第2のFcドメインとは、例えば本明細書に記載されるヘテロ二量体形成突然変異を組み込むことによってヘテロ二量体形成する。
【0221】
一部の他の実施形態では、図4に例示されるように、Fc融合タンパク質は、それぞれが適宜リンカーを介してFcドメインに連結された第1のCInDドメインを含有する2つの同一の単量体を有するホモ二量体である。ホモ二量体Fc融合タンパク質と、上に記載した第2のCInDドメインに連結された治療部分を含む融合タンパク質部分との投与は、CInDドメインの2つの部分の会合を誘導し、治療部分とFcドメインとの会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長する。このフォーマットは、治療部分の化学量論および結合価を増加する一方で、同時にその半減期を延長する。
【0222】
1.ヘテロ二量体Fc融合タンパク質
第1のCInDドメインを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質に関して、互いとヘテロ二量体形成するFcドメインが本明細書に概略的に記載される。Fc切断変異体、FcRn変異体、FcγR変異体、および/または半減期延長変異体を含むがこれらに限定されない追加のFc変異体もまた、本明細書において全体の概要が示されるヘテロ二量体形成突然変異と組み合わせて導入することができる。
【0223】
一部の実施形態では、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、適宜リンカーを介して第2の単量体に連結された第1の治療部分を含む。第1の治療部分は、抗体;これらに限定されないが、Fab、Fv、scFv、単一ドメイン抗体、例えばラクダ科由来単一ドメイン抗体のVHH等の様々なフォーマットを取る抗体断片;サイトカイン;ホルモン;ペプチド;抗体薬物コンジュゲート;またはペプチド薬物コンジュゲートであり得る。一部の実施形態では、第1の治療部分は、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫学的障害、自己免疫疾患、感染性疾患、ウイルス疾患、アレルギー反応、寄生反応、移植片対宿主病、または宿主対移植片病と関連する抗原を標的とする抗体または抗体断片である。
【0224】
一部の実施形態では、第1の治療部分は、本明細書に記載される腫瘍細胞に発現する1つまたは複数の腫瘍関連抗原と結合する抗体または抗体断片である。
【0225】
一部の実施形態では、第1の治療部分は、これらに限定されないが、IL-2、IL-12、およびIL-15等のインターロイキン分子である。
【0226】
一部の実施形態では、第1の治療部分は、融合タンパク質部分の第2の治療部分と協働して、2つの標的に結合する二特異性分子として作用する。一部の実施形態では、2つの標的は同じ細胞に存在する。一部の実施形態では、2つの標的は異なる細胞に存在する。一部の実施形態では、一方の標的は細胞に存在し、他方の標的は細胞が存在する微小環境に存在する。
【0227】
例えば、第1の治療部分は、融合タンパク質部分内の第2の治療部分と協働して、T細胞エンゲージャーとして作用することができ、ここで、第1の治療部分は、CD3 ABD等のT細胞抗原を認識するABDであり、第2の治療部分は、疾患、障害、または状態、例えば、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫学的障害、自己免疫疾患、感染性疾患、ウイルス疾患、アレルギー反応、寄生反応、移植片対宿主病、または宿主対移植片病に関与および/または関連する標的抗原を認識するABDである。あるいは、第2の治療部分が、CD3 ABD等のT細胞抗原を認識するABDであり、第1の治療部分が、疾患、障害、または状態、例えば、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫学的障害、自己免疫疾患、感染性疾患、ウイルス疾患、アレルギー反応、寄生反応、移植片対宿主病、または宿主対移植片病に関与および/または関連する標的抗原を認識するABDであってもよい。一部の実施形態では、標的抗原は、タンパク質、脂質、または多糖等の細胞表面分子である。一部の実施形態では、標的抗原は、CD19等の本明細書に記載される腫瘍細胞に発現する腫瘍関連抗原である。
【0228】
a.ClnD
化学阻害二量体形成は、2つのタンパク質が非共有的に会合するかまたは非共有結合し、会合が低分子によって中断される生物学的機構である。本発明では、中断性低分子は「化学阻害二量体形成化合物(CInD)低分子」または「CInD低分子」または「CInDSM」と称される。
【0229】
本発明では、2つのCInDドメインは、CInDSMの存在下で解離する対として生じる。当業者によって理解されるように、一部のCInD対は同一である、例えば、両方のCInDドメインは同一である。他の実施形態では、CInD対は2つの異なるCInDドメインによって構成される。
【0230】
いかなるCInD対も本発明において使用することができる。本発明の一部の実施形態では、CInD対は天然に存在する結合パートナーに由来する。一部の実施形態では、CInD対は、タンパク質と、タンパク質に特異的に結合する抗原結合ドメイン(ABD)とを含む。一部の実施形態では、CInD対は2つの抗体部分を含み、一方は抗原として作用し、他方は抗体として作用する。
【0231】
CInD低分子は天然に存在し、CInD対の会合を中断することができる。CInD低分子はまた、CInD対の対形成を中断することができる低分子ライブラリーからスクリーニングすることもできる。一部の実施形態では、CInD低分子は、CInD対の2つのドメインの結合親和性の少なくとも2倍、例えば、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍の親和性においてCInD対の一方のドメインに結合することによって、CInD対を中断する。一部の実施形態では、CInD低分子は、CInD対の2つのドメインの間の結合面を遮蔽するかまたは変化させることによってCInD対を中断する。
【0232】
CInDドメイン対およびCInDSMは、抗体ライブラリー、DARPinライブラリー、ナノボディライブラリー、またはアプタマーライブラリーもしくはファージディスプレイFabライブラリーから実施されるスクリーニングを使用して作製することができる。例えば、ステップ1として、低分子の非存在下で同族結合部分に結合する結合部分が選択され、それによって1組の選択結合部分を生成することができ、次いで、ステップ2として、選択結合部分が、低分子の存在下で同族結合部分と結合しない結合部分に関してスクリーニングされ、それによって1組の反選択結合部分(counter selected binding moiety)を生成することができる。スクリーニングのステップ1および2は1ラウンドまたは複数ラウンド行うことができ、スクリーニングの各ラウンドは、低分子の存在下で同族結合部分から特異的に解離する1組の結合部分が生成されるように、ステップ1のスクリーニングとステップ2のスクリーニングとを含む。
【0233】
2.ホモ二量体Fc融合タンパク質
a.Fcドメイン
一態様では、二量体Fc融合タンパク質はホモ二量体Fc融合タンパク質である。そのようなホモ二量体Fc融合タンパク質は、それぞれがFcドメインと同じアミノ酸配列の第1のCInDドメインとを有する第1の単量体と第2の単量体とを含む。一部の実施形態では、Fcドメインはドメインリンカーを介して第1のCInDドメインに連結し、これは本明細書に概略的に記載される。一部の実施形態では、Fcドメインはドメインリンカーを伴わずに第1のCInDドメインに連結する。これらのFcドメインは上に概略的に記載されるが、ヘテロ二量体形成変異体を欠く。
【0234】
3.融合タンパク質部分
融合タンパク質部分は、第2のCInDドメインと治療部分とを含む。第2のCInDドメインと治療部分とは本明細書に概略的に記載される。
【0235】
C.例示的な組成物
一部の実施形態では、本発明は、図1Bに例示される、第1のCIDドメインを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質と、第2のCIDドメインおよび治療ドメインを含む融合タンパク質部分とを含む組成物を伴う。ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は第1の単量体および第2の単量体によって融合される。第1の単量体は、ドメインリンカーを介してヒトIgG1 Fcドメインに共有的に連結された第1のCIDドメインBCL-2またはBCL-2(C158A)を含む。第1の単量体は、N末端からC末端に向かって、BCL-2もしくはBCL-2(C158A)-ドメインリンカー-ヒトIgG1 Fcドメイン、またはN末端からC末端に向かって、ヒトIgG1 Fcドメイン-ドメインリンカー-BCL-2もしくはBCL-2(C158A)を含む。第2の単量体は、第1の単量体のFcドメインと二量体形成する空のヒトIgG1 Fcを含む。融合タンパク質部分は、ドメインリンカーを介して、CD3 scFvとCD19 scFvとを含むT細胞エンゲージャーに連結された第2のCIDドメインAZ21を含む。一部の実施形態では、融合タンパク質部分は、N末端からC末端に向かって、AZ21-ドメインリンカー-CD19 scFv-CD3 scFvを含む。一部の実施形態では、融合タンパク質部分は、N末端からC末端に向かって、CD19 scFv-CD3 scFv-ドメインリンカー-AZ21を含む。AZ21はFabまたは一本鎖Fabのフォーマットにすることができる。組成物の種々の形状は、図5および図6にAb59、Ab51、Ab52、Ab53、Ab54、Ab55、Ab63、Ab57、およびAb58として示される。CID低分子ABT199の添加は、BCl-2またはBCL-2(C158A)とAZ21との会合を誘導し、それによってT細胞エンゲージャーとFcドメインとの会合を可能にし、T細胞エンゲージャーの血清半減期を延長する。
【0236】
一部の実施形態では、本発明は、図2Bに例示される、第1のCInDドメインを含むヘテロ二量体Fc融合タンパク質と、第2のCInDドメインおよび治療ドメインを含む融合タンパク質部分とを含む組成物を伴う。ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は第1の単量体および第2の単量体によって融合される。第1の単量体は、ドメインリンカーを介してヒトIgG1 Fcドメインに共有的に連結された第1のCInDドメインを含む。第1の単量体は、N末端からC末端に向かって、第1のCInDドメイン-ドメインリンカー-ヒトIgG1 Fcドメイン、またはN末端からC末端に向かって、ヒトIgG1 Fcドメイン-ドメインリンカー-第1のCInDドメインを含む。第2の単量体は、第1の単量体のFcドメインと二量体形成する空のヒトIgG1 Fcを含む。融合タンパク質部分は、ドメインリンカーを介して、CD3 scFvとCD19 scFvとを含むT細胞エンゲージャーに連結された第2のCInDドメインを含む。一部の実施形態では、融合タンパク質部分は、N末端からC末端に向かって、第2のCInDドメイン-ドメインリンカー-CD19 scFv-CD3 scFvを含む。一部の実施形態では、融合タンパク質部分は、N末端からC末端に向かって、CD19 scFv-CD3 scFv-ドメインリンカー-第2のCInDドメインを含む。第1のCInDドメインと第2のCInDドメインとは会合して二量体を形成し、T細胞エンゲージャーをFcドメインと会合させ、それによってT細胞エンゲージャーの血清半減期を延長する。患者が、例えば安全性に対する懸念のために、治療部分を迅速にクリアランスさせなければならない場合、患者は、CInD対を中断するCInD低分子を投薬される。このことは、T細胞エンゲージャーのFcドメインからの解離、および患者におけるT細胞エンゲージャーの急速なクリアランスを引き起こす。
【0237】
一部の実施形態では、本発明は、図3に例示されるように、ヘテロ二量体Fc融合タンパク質と融合タンパク質部分とを含む組成物を伴う。ヘテロ二量体Fc融合タンパク質は、リンカーを介して第1のヒトIgG1 Fcドメインに連結された第1のCInDドメインを含有する第1の単量体と、リンカーを介してCD19 scFv等の第2の治療部分に連結された第2のヒトIgG1 Fcドメインを含有する第2の単量体とを含む。第1のIgG1 Fcドメインは第2のFcドメインと二量体形成する。融合タンパク質部分は、CD3 scFv等の治療部分に連結された第2のCInDドメインを含む。2つのCInDドメインの会合は、治療部分とFcドメインとの会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長する。加えて、このフォーマットは、治療部分を一緒にし、二特異性の性質を治療部分に付与し(例えば、CD3 ABDとCD19 ABDとをT細胞エンゲージャーとして一緒にし)、効力を高める一方で、同時にその血清半減期を増加する。CD3 scFvとCD19 scFvとは、組成物内で位置を交換することができ、それらのNまたはC末端のいずれかにおいて隣接しているドメインに連結することができる。患者が、例えば安全性に対する懸念のために、治療部分を迅速にクリアランスさせなければならない場合、患者は、CInD対を中断するCInD低分子を投薬される。このことは、一方の治療部分のFcドメインからの解離、および患者における該治療部分の急速なクリアランスを引き起こす。
【0238】
一部の実施形態では、本発明は、図4に例示されるように、ホモ二量体Fc融合タンパク質と融合タンパク質部分とを含む組成物を伴う。Fc融合タンパク質は、それぞれがリンカーを介してヒトIgG1 Fcドメインに連結された第1のCInDドメインを含有する2つの同一の単量体を含む。融合タンパク質部分は、ドメインリンカーを介して治療部分に連結された第2のCInDドメインを含む。例えば、治療部分は、CD19 scFvおよびCD3 scFvを含むT細胞エンゲージャーであり得る。2つのCInDドメインの会合は、治療部分とFcドメインとの会合を可能にし、治療部分の血清半減期を延長する。このフォーマットは、2つの治療部分と単一のFc二量体との会合を可能にし、このことは、化学量論の増加を引き起こし、治療部分の効力を高めることができる一方で、その血清半減期を延長する。患者が、例えば安全性に対する懸念のために、治療部分を迅速にクリアランスさせなければならない場合、患者は、CInD対を中断するCInD低分子を投薬される。このことは、治療部分のFcドメインからの解離、および患者における治療部分の急速なクリアランスを引き起こす。
【0239】
D.組成物をコードする核酸
本発明の単量体成分をコードするポリヌクレオチド分子を含む、本明細書に記載される組成物をコードする核酸組成物が提供される。すなわち、全般に、本発明の組成物は、それぞれが核酸によってコードされる3つの単量体(2つのFc融合タンパク質単量体と1つの融合タンパク質部分と)を含む。
【0240】
核酸を含有する発現ベクター、ならびに核酸および/または発現ベクターを用いて形質転換した宿主細胞もまた提供される。当業者によって理解されるように、本明細書に示されるタンパク質配列は、遺伝暗号の縮重のために、多くの可能な核酸配列によってコードされ得る。
【0241】
一部の実施形態では、ポリヌクレオチド分子はDNAコンストラクトとして提供される。
【0242】
一部の実施形態では、二量体Fc融合タンパク質の各単量体および融合タンパク質部分をコードするポリヌクレオチド分子は、単一の発現ベクターに入れられる。一部の実施形態では、二量体Fc融合タンパク質の各単量体および融合タンパク質部分をコードするポリヌクレオチド分子は、異なる発現ベクターに入れられる。当技術分野において公知であるように、発現ベクターは、シグナルおよび分泌配列、調節配列、プロモーター、複製起点、選択遺伝子等を含むがこれらに限定されない適切な転写および翻訳制御配列を含有することができる。
【0243】
発現ベクターは、宿主細胞に形質転換され、宿主細胞において本明細書に記載される組成物を形成するように発現することができる。適切な宿主細胞発現系としては、これらに限定されないが、細菌、昆虫細胞、および哺乳動物細胞が挙げられる。本発明の少なくとも一部の実施形態の組換え抗体を発現するのに好ましい哺乳動物宿主細胞としては、当技術分野において公知であるチャイニーズハムスター卵巣(CHO細胞)、PER.C6、HEK293等が挙げられる。
【0244】
一部の実施形態では、本明細書に記載される組成物は、組成物を発現する1つまたは複数の発現ベクターを宿主細胞に導入し、前記宿主細胞を、タンパク質が発現し、場合により単離され、さらに精製されてもよい条件下において培養することによって産生される。
【0245】
E.製剤
前述の方法の実施において使用される組成物は、所望のデリバリー法に好適な担体を含む医薬組成物に製剤化することができる。好適な担体としては、治療組成物と組み合わせた場合に、治療組成物の治療機能を保持し、患者の免疫系と全般に非反応性である任意の材料が挙げられる。例としては、これらに限定されないが、いくつかの標準的な薬学的担体のいずれか、例えば、滅菌リン酸緩衝食塩水溶液、静菌水等が挙げられる(一般には、Remington's Pharmaceutical Sciences 16th Edition, A. Osal., Ed., 1980を参照されたい)。許容される担体、賦形剤、または安定剤は、用いられる投薬量および濃度ではレシピエントに対して非毒性であり、緩衝剤を含んでもよい。
【0246】
好ましくは滅菌水溶液の形態での、本発明に記載される医薬組成物の投与は、静脈内または局所を含むがこれらに限定されない多様な方法において行うことができる。
【0247】
F.組成物を使用する方法
1.Fc融合タンパク質
本明細書に記載される組成物は、いくつかの治療応用における用途を提供することができる。通例、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物もまた処置され得る。
【0248】
第1のCIDドメインを含有するヘテロ二量体Fc融合タンパク質と、第2のCIDドメインおよび治療部分を含有する融合タンパク質部分とを含む組成物が患者に投与され得る。CID低分子の同じ患者への投与は、2つのCIDドメインの会合を誘導し、治療部分をFcドメインと会合させ、それによって治療部分の血清半減期を延長する。CID低分子は、組成物の投与の前、それと同時、またはその後に投与することができる。
【0249】
当業者によって理解されるように、治療部分の最初の血清半減期は大きく異なる可能性があり、IL-2のように半減期が時間単位で測定される部分もあれば、抗体のように半減期が日単位で測定される部分もある。したがって、治療部分の血清半減期は、少なくとも約12時間、少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約4日、少なくとも約6日、少なくとも約8日、少なくとも約10日、少なくとも約12日、または少なくとも約14日に延長され得る。あるいは、血清半減期は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10倍、または一部の場合では1~100倍延長され得る。治療部分とFcドメインとの会合を維持するために、患者はCID低分子を定期的に投薬されてもよく、投薬の頻度は、CID低分子の血清半減期とCID複合体の寿命との組合せに依存する。
【0250】
患者が、例えば安全性に対する懸念のために、治療部分を迅速にクリアランスさせなければならない場合、患者はCID低分子の投薬を中止し、このことは、CID低分子のクリアランス、治療部分のFcドメインからの解離、および患者における治療部分の急速なクリアランスを引き起こす。治療部分のクリアランスの速度は、CID低分子の血清半減期と、CID低分子の第1および第2のCIDドメインに対する結合親和性と、CID複合体の寿命と、もはやFcドメインと会合していない場合の治療部分のクリアランス速度との組合せに依存する。
【0251】
第1のCInDドメインを含有するヘテロ二量体またはホモ二量体Fc融合タンパク質と、第2のCInDドメインおよび治療部分を含有する融合タンパク質部分とを含む組成物が患者に投与され得る。第1のCInDドメインと第2のCInDドメインとは会合して二量体を形成し、治療部分をFcドメインと会合させ、それによって治療部分の血清半減期を延長する。
【0252】
上で論じられたように、治療部分の血清半減期は、少なくとも約12時間、少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約4日、少なくとも約6日、少なくとも約8日、少なくとも約10日、少なくとも約12日、または少なくとも約14日に延長され得る。あるいは、血清半減期は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10倍、または一部の場合では1~100倍延長され得る。
【0253】
患者が、例えば安全性に対する懸念のために、治療部分を迅速にクリアランスさせなければならない場合、患者は、CInD対を中断するCInD低分子を投薬される。このことは、治療部分のFcドメインからの解離、および患者における治療部分の急速なクリアランスを引き起こす。治療部分のクリアランスの速度は、CInD低分子の第1および第2のCInDドメインに対する結合親和性と、もはやFcドメインと会合していない場合の治療部分のクリアランス速度とに依存する。
【0254】
上に記載した方法は、患者における治療部分の血清半減期の正確な時間制御を可能にし、多様な疾患または状態、例えば、増殖性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患、免疫学的障害、自己免疫疾患、感染性疾患、ウイルス疾患、アレルギー反応、寄生反応、移植片対宿主病、または宿主対移植片病に罹患している患者に適用可能である。患者の疾患に応じて、適した治療部分が、本明細書に記載される組成物に組み込まれるように設計可能である。例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、およびB細胞リンパ腫を含むがこれらに限定されない大半のB細胞悪性腫瘍に罹患している患者における治療部分の血清半減期を扱うおよび制御するために、治療部分は、CD19 ABDとCD3 ABDとを含むT細胞エンゲージャーを本明細書に記載される組成物に組み込むことができる。
【0255】
本明細書に記載される組成物の投与は、静脈内または局所を含むがこれらに限定されない多様な方法において行うことができる。
【0256】
投薬の量および投与の頻度は、好適な実施形態では、治療上または予防上効果的となるように選択される。当技術分野において公知であるように、任意の1名の患者に対する投薬量は、必要となる場合がある多くの因子、例えば、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与の時間および経路、薬物相互作用、ならびに状態の重症度に依存し、当業者であれば慣例的な実験によって確認可能であり得る。
【0257】
2.HSA
本明細書に記載される第1および第2の単量体を含む組成物は、いくつかの治療応用における用途を提供することができる。通例、患者はヒトであるが、トランスジェニック哺乳動物を含む非ヒト哺乳動物もまた処置され得る。
【0258】
一部の実施形態では、組成物は、患者におけるT細胞エンゲージャードメインの血清半減期を延長するために患者に投与され、ここで、T細胞エンゲージャーは、細胞傷害性T細胞による標的細胞死滅を刺激するために患者に使用される。標的細胞は、疾患、障害、または状態、例えば、増殖性疾患および腫瘍性疾患に関与および/または関連する。CID低分子の同じ患者への投与は、第1の単量体と第2の単量体との会合を誘導し、T細胞エンゲージャードメインをHSAと会合させ、それによってT細胞エンゲージャードメインの血清半減期を延長する。低分子は、組成物の投与の前、それと同時、またはその後に投与することができる。
【0259】
T細胞エンゲージャードメインの血清半減期は、少なくとも約12時間、少なくとも約1日、少なくとも約2日、少なくとも約4日、少なくとも約6日、少なくとも約8日、少なくとも約10日、少なくとも約12日、または少なくとも約14日に延長され得る。あるいは、血清半減期は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10倍、または一部の場合では1~100倍延長され得る。T細胞エンゲージャーとHSAとの会合を維持するために、患者はCID低分子を定期的に投薬されてもよく、投薬の頻度は、CID低分子の血清半減期とCID複合体の寿命との組合せに依存する。
【0260】
患者が、例えば安全性に対する懸念のために、T細胞エンゲージャーを迅速にクリアランスさせなければならない場合、患者は低分子の投薬を中止し、このことは、低分子のクリアランス、T細胞エンゲージャーのHSAからの解離、および患者におけるT細胞エンゲージャーの急速なクリアランスを引き起こす。T細胞エンゲージャーのクリアランスの速度は、低分子の血清半減期と、CID低分子の第1および第2のCIDドメインに対する結合親和性と、CID複合体の寿命と、もはやHSAと会合していない場合のT細胞エンゲージャーのクリアランス速度との組合せに依存する。
【0261】
上に記載した方法は、患者におけるT細胞エンゲージャードメインの血清半減期の正確な時間制御を可能にし、多様な疾患または状態、例えば、増殖性疾患および腫瘍性疾患に罹患している患者に適用可能である。患者の疾患、および細胞傷害性T細胞によって標的とされると考えられる細胞に応じて、適切なT細胞エンゲージャードメインが、本明細書に記載される組成物に組み込まれるように設計可能である。例えば、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、およびB細胞リンパ腫を含むがこれらに限定されない大半のB細胞悪性腫瘍に罹患している患者におけるT細胞エンゲージャードメインの血清半減期を扱うおよび制御するために、CD19 ABDとCD3 ABDとを含むT細胞エンゲージャードメインが本明細書に記載される組成物に組み込まれ得る。
【0262】
本明細書に記載される組成物の投与は、静脈内または局所を含むがこれらに限定されない多様な方法において行うことができる。
【0263】
投薬の量および投与の頻度は、好適な実施形態では、治療上または予防上効果的となるように選択される。当技術分野において公知であるように、任意の1名の患者に対する投薬量は、必要となる場合がある多くの因子、例えば、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与の時間および経路、薬物相互作用、ならびに状態の重症度に依存し、当業者であれば慣例的な実験によって確認可能であり得る。
【実施例
【0264】
ここで概略的に記載された本発明は、単に本発明のある特定の態様および実施形態の例示の目的のためにのみ含まれ、本発明を限定することを意図していない以下の実施例を参照することによって、より容易に理解されるだろう。
[実施例1]
【0265】
第2のCIDドメイン(AZ21)と治療ドメイン(抗CD3抗原結合ドメインと抗CD19抗原結合ドメインとを含むT細胞エンゲージャードメイン)とを含む融合タンパク質部分を構築した。種々のフォーマットを図6に示す。これらの融合タンパク質部分のT細胞を活性化させる能力を試験した。
【0266】
Raji Bリンパ腫細胞を、DPBS中でCFSE-DA(Tonbo、750nMの最終濃度)を用いて10分間標識し、次いでRPMI+10%FBS培地を用いて洗浄した。次いで、Raji B細胞をJurkat T細胞と10:1のエフェクター:標的比において混合し、U底96ウェルプレートに、ウェル1つ当たり合計1.1e5個播種した。段階希釈した融合タンパク質部分を細胞に添加し、37℃、5%CO2において16時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を、膜不透過性タンパク質反応性色素(Biotium CF405S-SE、1.5μMの最終濃度)を添加することによって、37℃において10分間、生存に関して染色した。次いで直ちに、細胞を、パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences、1.6%の最終濃度)を添加することによって10分間固定した。細胞を遠心分離し、上清を吸引し、次いで、ペレットを50μLのPEコンジュゲート抗ヒトCD69(BioLegend、クローンFN50)に再懸濁し、室温において30分染色した後、フローサイトメトリーによる測定を行った。生存Jurkat細胞(CF405S陰性、CFSE陰性)をCD69発現に関して、フローサイトメトリーおよび手動ゲーティングによって評価した。CD69+細胞の頻度を生存Jurkat細胞のパーセントとして表す。非線形(ロジスティック)近似曲線およびEC50値を、GraphPad Prism8ソフトウェアにおいて算出した。図20A~20Bに示すように、Ab52、Ab53、Ab54、Ab55、Ab57、およびAb63はT細胞を活性化した。
[実施例2]
【0267】
Jurkat/Raji共培養アッセイを実施し、Jurkat CD69発現を、実施例1に記載したようにフローサイトメトリーによって、以下の変更を加えて測定した:Ab59(抗HSA BCL2融合タンパク質)を、滴定されている融合タンパク質部分と等モル濃度において全てのウェルに添加した。次いで、細胞を37℃において10分間インキュベートした後、10nMのABT-199(ベネトクラクス、黒丸)または媒体対照(DMSO、白丸)のいずれかを添加した。EC50を各条件下において測定した。
【0268】
図21に示すように、融合タンパク質部分のT細胞を活性化させる能力は、抗HSA BCL2融合タンパク質との複合体形成後、有意には影響を受けなかった。
[実施例3]
【0269】
融合タンパク質部分の、T細胞のRaji Bリンパ腫細胞に対する細胞傷害性を誘導する能力を検討した。Raji Bリンパ腫細胞を、DPBS中でCFSE-DA(Tonbo、750nMの最終濃度)を用いて10分間標識し、次いでRPMI+10%FBS培地を用いて洗浄した。次いで、Raji B細胞を磁気分離初代ヒトT細胞(EasySepヒトT細胞単離キット、ネガティブセレクション;StemCell Technologies Cat17951を用いて磁気分離した)と10:1のエフェクター:標的比において混合し、U底96ウェルプレートに、ウェル1つ当たり合計1.1e5個播種した。段階希釈した融合タンパク質部分を添加し、細胞を37℃、5%CO2において42時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を、膜不透過性タンパク質反応性色素(Biotium CF405S-SE、1.5μMの最終濃度)を添加することによって、37℃において10分間、生存に関して染色した。次いで直ちに、細胞を、パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences、1.6%の最終濃度)を添加することによって10分間固定した。細胞を遠心分離し、上清を吸引し、次いで、ペレットを75μLのAutoMACS泳動用緩衝剤(Miltenyi)に再懸濁した後、フローサイトメトリーによる測定を行った。Raji細胞(CF405S陽性、CFSE陽性)を手動ゲーティングによって同定した。死(CF405S+)Raji細胞の頻度を全てのRaji細胞のパーセントとして表す。非線形(ロジスティック)近似曲線およびEC50値を、R:A Language and Environment for Statistical Computingにおいてdr4plパッケージを使用して算出した。
【0270】
図22Aに示すように、融合タンパク質部分Ab53およびAb57はT細胞のRaji Bリンパ腫細胞に対する細胞傷害性を誘導した。
【0271】
初代T細胞/Raji共培養アッセイを実施し、細胞傷害性を、上に記載したようにフローサイトメトリーによって、以下の変更を加えて測定した:Ab59(ヒトIgG1 FC BCL2融合タンパク質)を、滴定されている抗体と等モル濃度において一部のウェルに添加した(図22Bに示す丸)。Ab59を添加した後、細胞を37℃において10分間インキュベートし、次いで、ABT-199(ベネトクラクス、図22Bにおける黒い記号)または媒体対照(DMSO、図22Bにおける白い記号)のいずれかを10nMの最終濃度において添加した。この実験に関して、共培養インキュベーション時間は40時間であった。図22Bに示すように、融合タンパク質部分のT細胞の細胞傷害性を誘導する能力は、抗HSA BCL2融合タンパク質との複合体形成後、有意には影響を受けなかった。
[実施例4]
【0272】
ヒトIL-2を含有する融合タンパク質部分の、T細胞におけるSTAT5転写因子を活性化させる能力をアッセイし、ヒトIL-2と比較した。
【0273】
初代ヒトT細胞(EasySepヒトT細胞単離キット、ネガティブセレクション;StemCell Technologies Cat17951を用いて磁気分離した)を、1e6個/mLにおいてRPMI+10%FCS培地に再懸濁し、示された濃度のヒトインターロイキン-2(IL-2)またはヒトIL-2を含有する融合タンパク質部分を用いて、37℃において15分間処理した。Ab93は、AZ21の一本鎖Fv抗体断片のC末端と融合したヒトIL-2である。Ab94は、AZ21の一本鎖Fv抗体断片のN末端と融合したヒトIL-2である。インキュベーション後直ちに、細胞を、パラホルムアルデヒド(Electron Microscopy Sciences、1.6%の最終濃度)を添加することによって10分間固定した。細胞を遠心分離し、上清を吸引し、次いで、ペレットを氷冷100%メタノールに4℃において10分間再懸濁した。メタノールを、等容量のAutoMACS泳動用緩衝剤(Miltenyi)を用いて希釈し、細胞を再び遠心分離した。細胞を、AutoMACS泳動用緩衝剤を用いて再び洗浄し、次いで、AlexaFluor647コンジュゲート抗ヒトホスホ-STAT5(pY694)(BD Biosciences、クローン47)を用いて、室温において30分間染色した。細胞を再び2回洗浄した後、フローサイトメトリーによる測定を行った。リン酸化STAT5の存在量を、一重項ゲーティング細胞(singlet-gated cell)間の蛍光強度中央値として表す。中央値の値はCytobankソフトウェア(cytobank.org)において算出した。
【0274】
図23に示すように、ヒトIL-2を含有する融合タンパク質部分は、T細胞におけるSTAT5転写因子をヒトIL-2と同程度活性化することができる。
[実施例5]
【0275】
hisタグを付されている融合タンパク質部分をNi-NTA樹脂によって精製した。精製後、融合タンパク質部分を、280nmのUV下においてモニタリングしたSuperdex(登録商標)200 Increase 10/300GLカラムにおいて行ったサイズ排除クロマトグラフィーによってさらに分離した。各融合タンパク質部分のサイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを図24に示した。
[実施例6]
【0276】
融合タンパク質部分とBCL-2との間の結合動態をバイオレイヤー干渉法によってアッセイした。図25Aに示すように、Ab53およびAb57は、ABT-199の存在下ではBCL-2への強力かつ可逆的な結合を示し(灰色の線)、ABT-199の非存在下では有意な結合は観察されなかった(黒色の線)。図26に示すように、Ab93およびAb94は、ABT-199の存在下ではBCL-2への強力かつ可逆的な結合を示し(右)、ABT-199の非存在下では有意な結合は観察されなかった(左)。曲線は、Octet RED384において測定したデータ点を表す。KDもまた算出した。
【0277】
BCl-2融合タンパク質Ab59とAZ-21との間の結合動態をバイオレイヤー干渉法によってアッセイした。図25Bに示すように、Ab59は、ABT-199の存在下ではAZ21への強力かつ可逆的な結合を示し(灰色)、ABT-199の非存在下では有意な結合は観察されなかった(黒色)。曲線は、Octet RED384において測定したデータ点を表す。
[実施例7]
【0278】
Bcl-2 CIDドメインはAZ21 CIDドメインと二量体形成する
CIDドメインBcl-2(C158A)とその同族CIDドメインAZ21との結合をCID低分子ABT-199の存在下または非存在下で試験した。単一ドメイン抗HSA抗体と連結されたBCL-2(C158A)から構成される単量体(配列は図30Aを参照されたい)をCHO細胞において産生および精製した。同族CIDドメインAZ21は、Fabフォーマットにおいて産生され、vh-CDR1(配列番号1)、vh-CDR2(配列番号72)、vh-CDR3(配列番号129)、vl-CDR1(配列番号310)、vl-CDR2(配列番号311)、およびvl-CDR3(配列番号223)を含む。AZ21を固定化し、単量体とAZ21との結合ダイナミクスを1μMのABT-199の存在下または非存在下でOctet RED384によって測定した。図30Bは、ABT-199がBcl-2(C158A)とその同族CIDドメインAZ21との結合を媒介し、ABT-199の非存在下では有意な結合が観察されなかったことを示す。
[実施例8]
【0279】
Ab57+Ab59 PK研究
10匹の6週齢C57BL/6J雄マウスを、それぞれ5匹の2つの群に無作為化した。抗体投与の6日前に、25μLの血液試料を、前処置対照試料として全てのマウスから採取し、血漿に処理し、PBS中50%グリセロールに1/10に希釈し、特殊96ウェル保存プレート中で凍結させ、-20℃において保存した。抗体投与の2時間前に、第1群のマウスに5mg/kg、すなわち5ml/kgのベネトクラクスを投薬(強制経口投与)し、第2群のマウスに5ml/kgの媒体を投薬(強制経口投与)した。抗体投与の22、46、70、94、142、および166時間後に、マウスにこれらの化合物を反復投薬した。0日目の0時間の時点において、Ab93およびAb59をそれぞれ0.15mg/kgおよび5mg/kg、合計5ml/kgに組み合わせ、IV注射した。25μLの血液試料を、3分、30分、1時間、2時間、6時間、1日、3日、および7日時点において全てのマウスから採取した。血液試料を上に記載したように処理した。血漿試料をELISAによって評価した。ヒトIgG ELISA(Mabtech)を使用してAb59濃度を測定した。特注のヒトFab ELISA(マウス抗ヒトIgGカッパ捕捉抗体、BioLegend、およびヤギ抗ヒトFab検出抗体、Jackson ImmunoResearch)を使用してAb57濃度を測定した。PK解析を、PK Solutionsソフトウェアを使用して、Ab93およびAb59のELISAから生成した血漿濃度に対して行った。
[実施例9]
【0280】
Ab93+Ab59 PK研究
10匹の6週齢C57BL/6J雄マウスを、それぞれ5匹の2つの群に無作為化した。抗体投与の6日前に、25μLの血液試料を、前処置対照試料として全てのマウスから採取し、血漿に処理し、PBS中50%グリセロールに1/10に希釈し、特殊96ウェル保存プレート中で凍結させ、-20℃において保存した。抗体投与の2時間前に、第1群のマウスに5mg/kg、すなわち5ml/kgのベネトクラクスを投薬(強制経口投与)し、第2群のマウスに5ml/kgの媒体を投薬(強制経口投与)した。抗体投与の22、46、70、94、142、および166時間後に、マウスにこれらの化合物を反復投薬した。0日目の0時間の時点において、Ab93およびAb59をそれぞれ0.15mg/kgおよび5mg/kg、合計5ml/kgに組み合わせ、IV注射した。25μLの血液試料を、3分、30分、1時間、2時間、6時間、1日、3日、および7日時点において全てのマウスから採取した。血液試料を上に記載したように処理した。血漿試料をELISAによって評価した。ヒトIgG ELISA(Mabtech)を使用してAb59濃度を測定し、ヒトIL-2 ELISA(R&D Systems)を使用してAb93濃度を測定した。PK解析を、PK Solutionsソフトウェアを使用して、Ab93およびAb59のELISAから生成した血漿濃度に対して行った。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7F
図7G
図7H
図7I
図7J
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25A
図25B
図26
図27
図28
図29
図30A
図30B
図31A
図31B
図32
図33
【配列表】
2023508439000001.app
【国際調査報告】