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特表2023-508454多発性硬化症の治療のための組成物および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】多発性硬化症の治療のための組成物および方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/242 20190101AFI20230222BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20230222BHJP
   A61K 47/54 20170101ALI20230222BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20230222BHJP
【FI】
A61K33/242
A61P25/00
A61K47/54
A61K47/62
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539309
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 CN2019129264
(87)【国際公開番号】W WO2021128292
(87)【国際公開日】2021-07-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521313935
【氏名又は名称】武漢広行科学研究有限公司
【氏名又は名称原語表記】WUHAN VAST CONDUCT SCIENCE FOUNDATION CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room 506, Building 1, Optics Valley International Biomedical Enterprise Accelerator, No. 388 Gaoxin 2nd Road, Donghu New Technology Development Zone Wuhan, Hubei 430070 (CN)
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】スゥン、タオレイ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA16
4C076BB11
4C076CC01
4C076CC41
4C076DD56
4C076EE41
4C076EE59
4C076FF43
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA01
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA66
4C086NA14
4C086ZA02
(57)【要約】
本開示は、対象の多発性硬化症を治療するための金クラスターの医薬使用である。前記金クラスターが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含む。
【選択図】図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性硬化症を有する対象を治療する方法であって、
多発性硬化症を有する対象に有効量で医薬組成物を投与することを含み、
前記医薬組成物は、金クラスター(AuC)を含み、前記AuCが、
金コアと、
前記金コアに結合したリガンドと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記金コアの直径が3nm未満である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして、前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチドまたはシステイン含有テトラペプチドである、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記システイン含有ジペプチドは、L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、およびL-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-リシン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、およびL-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、およびドデシルメルカプタンからなる群より選ばれる、請求項4記載の方法。
【請求項11】
対象の多発性硬化症を治療するための医薬の製造における金クラスター(AuC)の使用であって、前記AuCが、
金コアと、
前記金コアに結合したリガンドと、
を含む、使用。
【請求項12】
前記金コアの直径が3nm未満である、請求項11記載の使用。
【請求項13】
前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある、請求項11記載の使用。
【請求項14】
前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである、請求項11記載の使用。
【請求項15】
前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして、前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる、請求項14記載の使用。
【請求項16】
前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチドまたはシステイン含有テトラペプチドである、請求項14記載の使用。
【請求項17】
前記システイン含有ジペプチドは、L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、およびL-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、請求項16記載の使用。
【請求項18】
前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-リシン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、およびL-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、請求項16記載の使用。
【請求項19】
前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、請求項16記載の使用。
【請求項20】
前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、およびドデシルメルカプタンからなる群より選ばれる、請求項14記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症の技術分野に関し、特に多発性硬化症の治療のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、「複数の領域での瘢痕組織」を意味し、免疫系が中枢神経系(CNS)の神経線維の周囲を取り囲んで保護する髄鞘を攻撃し、炎症を引き起こす自己免疫疾患である。髄鞘または神経線維がMSにより損傷または破壊されると、CNSの領域への損傷は、MS患者にタイプと重症度が異なるさまざまな神経症状を引き起こす可能性がある。MSには、最初のエピソードからなる症候群(clinically isolated syndrome、CIS)、再発寛解型MS(relapse-remitting MS、RRMS)、一次性進行型MS(primary progressive MS、PPMS)、二次性進行型MS(secondary progressive MS、SPMS)の4種類がある。一般的な症状には、筋力低下、しびれとうずき、レルミット徴候、膀胱の問題、腸の問題、倦怠感、めまいと回転性めまい、性機能障害、痙性と筋肉のけいれん、震え、視力の問題、歩きぶりと可動性の変化、感情的変化と憂鬱、学習と記憶の問題、ならびに痛みが含まれる。
【0003】
多発性硬化症の原因はまだ不明であるが、遺伝的感受性、免疫系の異常、および環境要因が組み合わさってこの病気を引き起こすと考えられている。
【0004】
従来の薬は、免疫系の働きを変えることによって進行を遅らせたり、症状が悪化するフレア中に症状を和らげたりするのに有効であるが、MSの治療のための新しい薬物と方法が依然として必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、対象の多発性硬化症の治療のための医薬組成物および方法を提供することにある。
【0006】
特定の実施形態では、多発性硬化症を有する対象を治療する方法は、多発性硬化症を有する対象に有効量で医薬組成物を投与することを含み、前記医薬組成物は、金クラスター(AuC)を含み、前記AuCが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含む。
【0007】
前記方法の特定の実施形態では、前記金コアの直径が3nm未満である。特定の実施形態では、前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある。
【0008】
前記方法の特定の実施形態では、前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0009】
前記方法の特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0010】
前記方法の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチドまたはシステイン含有テトラペプチドである。
【0011】
前記方法の特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドは、L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、およびL-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる。
【0012】
前記方法の特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-リシン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、およびL-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0013】
前記方法の特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0014】
前記方法の特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、およびドデシルメルカプタンからなる群より選ばれる。
【0015】
本発明の特定の実施形態は、対象の多発性硬化症を治療するための医薬の製造における金クラスター(AuC)の使用であって、前記AuCが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含む、使用である。
【0016】
前記使用の特定の実施形態では、前記金コアの直径が3nm未満である。特定の実施形態では、前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある。
【0017】
前記使用の特定の実施形態では、前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0018】
前記使用の特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0019】
前記使用の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチドまたはシステイン含有テトラペプチドである。
【0020】
前記使用の特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドは、L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、およびL-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる。
【0021】
前記使用の特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-リシン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、およびL-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0022】
前記使用の特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0023】
前記使用の特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン(D-3-trolovol)、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、およびドデシルメルカプタンからなる群より選ばれる。
【0024】
本発明の目的および利点は、添付の図面に関連する好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
次に、本発明による好ましい実施形態を、同様の参照番号が同様の要素を示す図を参照して説明する。
【0026】
図1】様々な粒子サイズを有するリガンドのL-NIBCで修飾された金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)の紫外線可視(UV)スペクトル、透過型電子顕微鏡(TEM)画像および粒子サイズ分布図を示す。
【0027】
図2】様々な粒子サイズを有するリガンドのL-NIBCが結合した金クラスター(L-NIBC-AuCs)の紫外線可視(UV)スペクトル、TEM画像および粒子サイズ分布図を示す。
【0028】
図3】様々な粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsの赤外線スペクトルを示す。
【0029】
図4】リガンドのCRが結合した金クラスター(CR-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0030】
図5】リガンドのRCが結合した金クラスター(RC-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0031】
図6】リガンド1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(即ち、Cap)結合金クラスター(Cap-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0032】
図7】リガンドのGSHが結合した金クラスター(GSH-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0033】
図8】リガンドのD-NIBCが結合した金クラスター(D-NIBC-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0034】
図9】リガンドのL-システインが結合した金クラスター(L-Cys-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0035】
図10】EAEの臨床的評点を示すグラフである。
【0036】
図11】脊髄における(a)TNF-α、(b)IL-17および(c)IFN-γのレベルを示し、ここで、1がナイーブ(naive)群であり、2が食塩水治療群であり、3がプレドニゾン(prednisone)治療群であり、4が50mg/kg L-Cys-AuCs治療群であり、5が20mg/kg L-Cys-AuCs治療群であり、および6が5mg/kg L-Cys-AuCs治療群である。
【0037】
図12】(a)は脊髄への免疫細胞の浸潤を示す脊髄のHE染色の写真であり、(b)は炎症の組織学的スケールを示す棒グラフであり、ここで、1がナイーブ群であり、2が食塩水治療群であり、3がプレドニゾン治療群であり、4が50mg/kg L-Cys-AuCs治療群であり、5が20mg/kg L-Cys-AuCs治療群であり、および6が5mg/kg L-Cys-AuCs治療群である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明は、以下の本発明の特定の実施形態に対する詳細な説明を参照することによって、より容易に理解することができる。
【0039】
本出願全体において、刊行物が参照される。これらの刊行物の開示は、本発明が属する技術の現状をより十分に説明するために、参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0040】
金クラスター(AuCs)は、金原子と金ナノ粒子の間にある特殊な形態の金である。AuCsは、サイズが3nm未満であり、数個から数百個の金原子で構成されているため、金ナノ粒子の面心立方積層構造が崩壊する。その結果、AuCsは、金ナノ粒子の連続又は準連続エネルギー準位とは異なり、違うHOMO-LUMOギャップを持つ分子のような離散化した電子構造を示す。これにより、従来の金ナノ粒子が持つ表面プラズモン共鳴効果と、uv-visスペクトルでの対応するプラズモン共鳴吸収帯(520±20nm)が消失する。
【0041】
本発明は、リガンド結合AuCを提供する。
【0042】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCは、リガンドと、金コアとを含み、前記リガンドが前記金コアに結合している。特定の実施形態では、前記金コアの直径は、0.5~3nmの範囲にある。特定の実施形態では、前記金コアの直径は、0.5~2.6nmの範囲にある。
【0043】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCの前記リガンドは、チオール含有化合物またはオリゴペプチドである。特定の実施形態では、前記リガンドは、Au-S結合を介して金コアに結合してリガンド結合AuCを形成する。
【0044】
特定の実施形態では、前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、またはシステイン誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン誘導体は、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、またはN-アセチル-D-システイン(D-NAC)である。
【0045】
特定の実施形態では、前記リガンドは、システイン含有オリゴペプチドとその誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドは、システイン含有ジペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドは、L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、またはL-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドは、システイン含有トリペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、またはL-グルタチオン(GSH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドは、システイン含有テトラペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)またはグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)である。
【0046】
特定の実施形態では、前記リガンドは、チオール含有化合物である。特定の実施形態では、チオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、またはドデシルメルカプタンである。
【0047】
本発明は、対象の多発性硬化症の治療のための医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、前記対象は、人である。特定の実施形態では、前記対象は、犬のようなペット動物である。
【0048】
特定の実施形態では、前記医薬組成物は、上文で開示されたリガンド結合AuCと、薬理学的に許容される賦形剤とを含む。特定の実施形態では、前記賦形剤は、リン酸緩衝液、または生理食塩水である。
【0049】
本発明は、対象の多発性硬化症の治療のための医薬の製造における上文で開示されたリガンド結合AuCsの使用を提供する。
【0050】
本発明は、対象の多発性硬化症の治療のための上文で開示されたリガンド結合AuCsの使用、または上文で開示されたリガンド結合AuCsを使用して対象の多発性硬化症を治療する方法を提供する。特定の実施形態では、前記治療方法は、前記対象に薬学的に有効な量のリガンド結合AuCsを投与することを含む。前記薬学的に有効な量は、通常の体内研究によって確認することができる。
【0051】
以下の実施例は、単に本発明の原理を説明することを目的として提供されたものである。それらは、決して本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0052】
実施例
【0053】
1. リガンド結合AuCsの製造
【0054】
1.1 HAuClをメタノール、水、エタノール、n-プロパノール、又は酢酸エチルに溶解して、HAuCl濃度0.01~0.03Mの溶液Aが得られた。
【0055】
1.2 リガンドを溶媒に溶解して、リガンド濃度0.01~0.18Mの溶液Bが得られた。前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、及び、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、及びN-アセチル-D-システイン(D-NAC)等のその他のシステイン誘導体;システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体(L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-システイン-L-ヒスチジン(CH)、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-グルタチオン(GSH)、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)及びグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)等の、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド及びその他のシステイン含有ペプチドを含むが、これらに限定されない);及び1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン及びドデシルメルカプタンのうちの一つ又は複数等のその他のチオール含有化合物を含むが、これらに限定されない。前記溶媒は、メタノール、酢酸エチル、水、エタノール、n-プロパノール、ペンタン、ギ酸、酢酸、ジエチルエーテル、アセトン、アニソール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、酢酸ブチル、t-ブチルメチルエーテル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、ギ酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸メチル、2-メチル-1-プロパノール及び酢酸プロピルのうちの一つ又は複数であった。
【0056】
1.3 HAuClとリガンドとのモル比が1:(0.01~100)となるように、溶液Aと溶液Bを混合して、氷浴において0.1~48時間撹拌し、0.025~0.8M NaBHの水、エタノール又はメタノール溶液を加えて、氷水浴において引き続き撹拌し、0.1~12時間反応させた。NaBHとリガンドとのモル比は、1:(0.01~100)であった。
【0057】
1.4 反応終了した後、MWCOが3K~30Kの限外ろ過チューブを使用して、8000~17500r/分の勾配で反応溶液を10~100分間遠心することにより、異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を得た。異なるMWCOの限外ろ過チューブのろ過メンブレンの孔は、直接的に、前記メンブレンを通過できるリガンド結合AuCsのサイズを決定した。当該ステップは、任意に省略されてもよい。
【0058】
1.5 ステップ(1.4)で得られた異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を水に溶解し、透析バッグに投入し、そして水において室温で1~7日間透析した。
【0059】
1.6 透析後、リガンド結合AuCsを12~24時間凍結乾燥して、粉末状又は凝集状物質であるリガンド結合AuCsを得た。
【0060】
測定からわかるように、前記方法により得られた粉末状又は凝集状物質の粒子サイズは、3nm未満であった(全体的に、0.5~2.6nmにわたって分布した)。520nmで明らかな吸収ピークはなかった。得られた粉末又は凝集体がリガンド結合AuCsであったことがわかった。
【0061】
2. 異なるリガンドが結合されたAuCsの調製及び同定
【0062】
2.1 L-NIBC結合AuCs、即ち、L-NIBC-AuCsの調製
【0063】
リガンドであるL-NIBCを例とし、L-NIBCが結合したAuCsの調製及び確認について以下で詳細に説明する。
【0064】
2.1.1 1.00gのHAuClを量り、100mLのメタノールに溶解して、0.03Mの溶液Aを得た。
【0065】
2.1.2 0.57gのL-NIBCを量り、100mLの氷酢酸(酢酸)に溶解して、0.03Mの溶液Bを得た。
【0066】
2.1.3 1mLの溶液Aを量り、0.5mL、1mL、2mL、3mL、4mL、又は5mLの溶液Bとそれぞれ混合し(すなわち、HAuClとL-NIBCとのモル比が、それぞれ、1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5であった。)、氷浴において撹拌しながら2時間反応させ、溶液が明るい黄色から無色になると、速やかに1mLの新たに調製された0.03M(11.3mgのNaBHを量り、10mLのエタノールに溶解することにより調製された。)のNaBHエタノール溶液を加えて、溶液が濃褐色になった後、引き続き30分間反応し、そして10mLのアセトンを加えて反応を停止した。
【0067】
2.1.4 反応後、反応溶液に対して勾配遠心を行い、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs粉末を得た。具体的な方法は以下のとおりである。即ち、反応完了後、反応溶液を30KのMWCO及び50mLの体積を有する限外ろ過チューブに転移し、10000r/分で20分間を遠心し、そして内チューブ中の保持液(retentate)を超純水に溶解して、約2.6nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び10KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、13,000r/分で30分間を遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.8nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び3KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、17,500r/分で40分間を遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.1nmの粒子サイズを有する粉末を得た。
【0068】
2.1.5 勾配遠心により得られた3つの異なる粒子サイズでの粉末を沈殿させ、それぞれ溶媒を除去し、粗生成物をNでブロー乾燥させ、5mLの超純水に溶解し、透析バッグ(MWCOが3KDa)に置き、透析バッグを2Lの超純水に置き、一日おきに水を交換し、7日間透析し、凍結乾燥し、そして将来の使用のために保持した。
【0069】
2.2 L-NIBC-AuCsの同定
【0070】
上記で得られた粉末(L-NIBC-AuC)に対して同定実験が行われた。同時に、リガンドであるL-NIBCにより修飾した金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)は、対照として使用された。前記リガンドがL-NIBCである金ナノ粒子の製造方法は、参考文献(W.Yan、L.Xu、C.Xu、W.Ma、H.Kuang、L.Wang及びN.A.Kotov、Journal of American Chemical Society 2012、134、15114;X.Yuan、B.Zhang、Z.Luo、Q.Yao、D.T.Leong、N.Yan及びJ.Xie、Angewandte Chemie International Edition 2014、53、4623)に参照する。
【0071】
2.2.1 透過型電子顕微鏡(TEM)によるモルフォロジーの観察
【0072】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に2mg/Lになるまで溶解してサンプルとし、そして懸滴法により試験サンプルを製造した。より具体的に、5μLのサンプルを超薄型カーボンフィルムに滴下し、水滴がなくなるまで自然蒸発させ、そしてJEM-2100F STEM/EDS電界放出形高分解能TEMによりサンプルのモルフォロジーを観察した。
【0073】
L-NIBC-AuNPs の4つのTEM画像は、図1のB、E、H、及びKに示され、L-NIBC-AuCsの3つのTEM画像は、図2のB、E、及びHに示される。
【0074】
図2中の画像で示されるように、各L-NIBC-AuCsサンプルは、均一な粒子サイズ及び良好な分散性を有し、かつ、L-NIBC-AuCsの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ1.1nm、1.8nm及び2.6nmであり、図2のC、F及びI中の結果とよく一致した。これに対して、L-NIBC-AuNPsサンプルは、より大きい粒子サイズを有した。これらの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ3.6nm、6.0nm、10.1nm及び18.2nmであり、図1のC、F、I及びL中の結果とよく一致した。
【0075】
2.2.2 紫外線(UV)-可視光(vis)吸収スペクトル
【0076】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に濃度が10mg・L-1になるまで溶解し、室温でUV-vis吸収スペクトルが測定された。走査範囲が190~1100nmであり、サンプルセルが光路長1cmの標準石英キュベットであり、参照セルが超純水により充填された。
【0077】
異なるサイズを有する4つのL-NIBC-AuNPsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図1のA、D、G及びJに示され、粒子サイズの統計学的分布は、図1のC、F、I及びLに示され、異なるサイズを有する3つのL-NIBC-AuCsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図2のA、D及びGに示され、粒子サイズの統計学的分布は、図2のC、F及びIに示される。
【0078】
図1で示されるように、表面プラズモン作用により、L-NIBC-AuNPsは、約520nmで吸収ピークを有した。吸収ピークの位置は、粒子サイズに関連した。粒子サイズが3.6nmである場合、UV吸収ピークが516nmで現れ、粒子サイズが6.0nmである場合、UV吸収ピークが517nmで現れ、粒子サイズが10.1nmである場合、UV吸収ピークが520nmで現れ、そして、粒子サイズが18.2nmである場合、吸収ピークが523nmで現れた。4つのサンプルは、いずれも560nm以上で吸収ピークを有しなかった。
【0079】
図2で示されるように、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsサンプルのUV吸収スペクトルでは、520nmでの表面プラズモン作用による吸収ピークがなくなり、560nm以上で2つの明らかな吸収ピークが現れ、吸収ピークの位置がAuCsの粒子径によって僅かな相違があった。これは、AuCsが面心立方構造の崩壊により分子のような特性を示し、その結果、AuCsの状態密度の不連続性、エネルギー準位の分裂、プラズモン共鳴効果の消失、及び長波方向の新しい吸収ピークの現れを引き起こすためである。上記で得られた異なる粒子サイズの3つの粉末サンプルは、いずれもリガンド結合AuCsであったと結論付けることができる。
【0080】
2.2.3 フーリエ変換赤外線分光法
【0081】
赤外線スペクトルは、Bruker製のVERTEX80Vフーリエ変換赤外線分光計を利用して固体粉末高真空全反射モードで測定された。走査範囲は、4000~400 cm-1であり、走査回数が64であった。L-NIBC-AuCsサンプルを例とし、試験サンプルは、3つの異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs乾燥粉末であり、対照サンプルは、純粋なL-NIBC粉末であった。結果は、図3に示した。
【0082】
図3は、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsの赤外線スペクトルを示す。純粋なL-NIBC(下部の曲線)と比較すると、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsのSH伸縮振動は、全て、2500~2600cm-1で完全に消失したが、L-NIBCの他の特徴的なピークは、依然として残っていて、L-NIBC分子がAu-S結合を介してAuCsの表面に成功に結合されたことが証明された。この図は、リガンド結合AuCsの赤外スペクトルがそのサイズとは無関係であることも示した。
【0083】
溶液Bの溶媒、HAuClとリガンドとの仕込み比、反応時間及び添加されたNaBHの量をわずかに調整した以外、上記方法と同じように、その他のリガンドが結合したAuCsを製造した。例えば、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)又はN-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)がリガンドとして使用された場合、溶媒として酢酸が選択され、ジペプチドCR、ジペプチドRC又は1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンがリガンドとして使用された場合、溶媒として水が選択されることなど、その他のステップについても同じようにするため、更なる詳細はここで省略する。
【0084】
本発明は、前述の方法により、一連のリガンド結合AuCsを製造した。リガンドと製造プロセスのパラメーターを表1に示す。
【0085】
表1.本発明において異なるリガンドが結合したAuCsの製造パラメーター
【0086】
表1に挙げられたサンプルは、前記方法により確認された。5つの異なるリガンド結合AuCsの特性を図4(CR-AuCs)、図5(RC-AuCs)、図6(Cap-AuCs)(Capは1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンである)、図7(GSH-AuCs)、及び図8(D-NIBC-AuCs)に示す。図4図8は、UVスペクトル(A)、赤外線スペクトル(B)、TEM画像(C)、及び粒子サイズ分布(D)を示す。
【0087】
その結果、表1から得られた異なるリガンドが結合したAuCsの直径は、いずれも、3nm未満であることがわかった。紫外線スペクトルは、520±20nmでのピークの消失、及び他の位置での吸収ピークの出現も示した。この吸収ピークの位置は、リガンド、粒子サイズ、及び構造によって異なった。特定の状況で、特殊な吸収ピークが形成されないが、主な原因は、粒子径や構造の異なるAuCsの混合物の形成、または、ある特殊なAuCsにより吸収ピークの位置が紫外線可視スペクトルの範囲外に移動されたことである。一方、フーリエ変換赤外スペクトルでは、リガンドのチオールの赤外吸収ピーク(図4~8のBの点線の間)が消失したが、他の赤外特性ピークはいずれも保持されていることから、全てのリガンド分子がAuCsの表面に成功に固定されていて、本発明が表1に記載されるリガンドの結合したAuCsを取得することに成功したことを示した。
【0088】
3. 動物試験
【0089】
3.1 材料および動物
【0090】
3.1.1 試験サンプル
【0091】
金コアの直径が0.5~1.5nm(1.0±0.5nm)の範囲にあるL-Cys-AuCsを試験サンプルとして使用し、製造方法は、上記の方法にわずかな変更を加えたものに従った。図9は、リガンドであるL-システインが結合した金クラスター(L-Cys-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0092】
3.1.2 陽性対照サンプル
【0093】
プレドニゾン(prednisone)(Shanghai Yuanye Biotechnology Co.,Ltd)。
【0094】
3.1.3 投与製剤
【0095】
必要量のプレドニゾンを量り、適切な量の生理食塩水を加え、製剤を穏やかに撹拌して適切な混合を保証した。L-Cys-AuCsを秤量し、適切な量の生理食塩水を加え、攪拌して懸濁液を完全に混合した。すべての化合物は、毎日作りたてであった。
【0096】
3.1.4 実験用の動物
【0097】
7~9週齢のC57BL/6N雌マウスを使用した。動物は、規則に従って飼育され、維持された。
【0098】
【0099】
3.1.6 流れ
【0100】
0日目に、マウスを体重によってランダムに群分けし、次に、完全フロイントアジュバント(complete Freund's adjuvant、CFA)中の200μgのミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(myelin oligodendrocyte glycoprotein、MOG)ペプチドを、部位あたり100μlで、左右の側面に皮下注射した。MOG免疫の0時間後と48時間後に腹腔内投与によって百日咳毒素(pertussis toxin、PTX)を注射した。表2により、化合物を1日目から28日目まで与えた。動物(n=10)を、EAEの臨床的徴候について毎日採点した。実験の最後、脊髄をHE染色(n=5)し、ELISAキットによるTNF-α、IL-17、IFN-γの分析を行った。
【0101】
3.2 結果
【0102】
動物は、EAEの臨床採点基準に従ってEAEの臨床的徴候について毎日採点した(表3)。図10に示すように、50mg/kg(50mpK)、20mg/kg(20mpK)および5mg/kg(5mpK)のL-Cys-AuCsは、17日目からEAEマウスの麻痺を予防した。プレドニゾンは陽性対照であり、13日目からEAEの臨床的徴候を有意に減少させた。
【0103】
【0104】
ELISAキットによる脊髄のTNF-α、IL-17およびIFN-γ分析。TNF-α、IL-17およびIFN-γは、炎症の指標である。50mg/kg、20mg/kg、および5mg/kgのL-Cys-AuCsは、EAEマウスにおけるこれらの炎症性因子の産生を有意に減少させた(図11)。
【0105】
脊髄のHE染色は、脊髄への免疫細胞の浸潤を研究するために使用された。EAEの誘導中、単核炎症細胞が脊髄に浸潤し、EAEマウスの麻痺に寄与し、HE染色により、EAEマウスの炎症細胞の有意な増加を示し、50mg/kg、20mg/kg、5mg/kgのL-Cys-AuCsは免疫細胞浸潤を減少させ(図12(a))、炎症の組織学的スケールを有意に低減した(図12(b))。
【0106】
その他のサイズのL-Cys-AuCsおよび異なるサイズの他のリガンド結合AuCsも、EAEの抑制に効果があり、その効果はある程度異なる。ここでは詳しく説明しない。
【0107】
【産業上の利用可能性】
【0108】
リガンド結合AuCsは、多発性硬化症の治療に使用できる。それらは、産業上の利用に適する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2022-08-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多発性硬化症を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、金クラスター(AuC)を含み、前記AuCが、
金コアと、
前記金コアに結合したリガンドと、
を含む、医薬組成物
【請求項2】
前記金コアの直径が3nm未満である、請求項記載の医薬組成物
【請求項3】
前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある、請求項記載の医薬組成物
【請求項4】
前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである、請求項記載の医薬組成物
【請求項5】
前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして、前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる、請求項記載の医薬組成物
【請求項6】
前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチドまたはシステイン含有テトラペプチドである、請求項記載の医薬組成物
【請求項7】
前記システイン含有ジペプチドは、L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、およびL-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる、請求項記載の医薬組成物
【請求項8】
前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-リシン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、およびL-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる、請求項記載の医薬組成物
【請求項9】
前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる、請求項記載の医薬組成物
【請求項10】
前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、およびドデシルメルカプタンからなる群より選ばれる、請求項記載の医薬組成物
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多発性硬化症の技術分野に関し、特に多発性硬化症の治療のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多発性硬化症(MS)は、「複数の領域での瘢痕組織」を意味し、免疫系が中枢神経系(CNS)の神経線維の周囲を取り囲んで保護する髄鞘を攻撃し、炎症を引き起こす自己免疫疾患である。髄鞘または神経線維がMSにより損傷または破壊されると、CNSの領域への損傷は、MS患者にタイプと重症度が異なるさまざまな神経症状を引き起こす可能性がある。MSには、最初のエピソードからなる症候群(clinically isolated syndrome、CIS)、再発寛解型MS(relapse-remitting MS、RRMS)、一次性進行型MS(primary progressive MS、PPMS)、二次性進行型MS(secondary progressive MS、SPMS)の4種類がある。一般的な症状には、筋力低下、しびれとうずき、レルミット徴候、膀胱の問題、腸の問題、倦怠感、めまいと回転性めまい、性機能障害、痙性と筋肉のけいれん、震え、視力の問題、歩きぶりと可動性の変化、感情的変化と憂鬱、学習と記憶の問題、ならびに痛みが含まれる。
【0003】
多発性硬化症の原因はまだ不明であるが、遺伝的感受性、免疫系の異常、および環境要因が組み合わさってこの病気を引き起こすと考えられている。
【0004】
従来の薬は、免疫系の働きを変えることによって進行を遅らせたり、症状が悪化するフレア中に症状を和らげたりするのに有効であるが、MSの治療のための新しい薬物と方法が依然として必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、対象の多発性硬化症の治療のための医薬組成物を提供することにある。
【0006】
本発明の特定の実施形態は、多発性硬化症を治療するための医薬組成物であって、前記医薬組成物は、金クラスター(AuC)を含み、前記AuCが、金コアと、前記金コアに結合したリガンドとを含む、医薬組成物である。
【0007】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記金コアの直径が3nm未満である。特定の実施形態では、前記金コアの直径が0.5~2.6nmの範囲にある。
【0008】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記リガンドは、L-システインとその誘導体、D-システインとその誘導体、システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体、およびその他のチオール含有化合物からなる群より選ばれる一つである。
【0009】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記L-システインとその誘導体は、L-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、およびN-アセチル-L-システイン(L-NAC)からなる群より選ばれ、そして前記D-システインとその誘導体は、D-システイン、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、およびN-アセチル-D-システイン(D-NAC)からなる群より選ばれる。
【0010】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体は、システイン含有ジペプチド、システイン含有トリペプチドまたはシステイン含有テトラペプチドである。
【0011】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドは、L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-ヒスチジン-L-システインジペプチド(HC)、およびL-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)からなる群より選ばれる。
【0012】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-リシン-L-システイン-L-プロリントリペプチド(KCP)、およびL-グルタチオン(GSH)からなる群より選ばれる。
【0013】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドは、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)、およびグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)からなる群より選ばれる。
【0014】
前記医薬組成物の特定の実施形態では、前記その他のチオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン(D-3-trolovol)、N-(2-メルカプトプロピオニル)-グリシン、およびドデシルメルカプタンからなる群より選ばれる。
【0015】
本発明の目的および利点は、添付の図面に関連する好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
次に、本発明による好ましい実施形態を、同様の参照番号が同様の要素を示す図を参照して説明する。
【0017】
図1】様々な粒子サイズを有するリガンドのL-NIBCで修飾された金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)の紫外線可視(UV)スペクトル、透過型電子顕微鏡(TEM)画像および粒子サイズ分布図を示す。
【0018】
図2】様々な粒子サイズを有するリガンドのL-NIBCが結合した金クラスター(L-NIBC-AuCs)の紫外線可視(UV)スペクトル、TEM画像および粒子サイズ分布図を示す。
【0019】
図3】様々な粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsの赤外線スペクトルを示す。
【0020】
図4】リガンドのCRが結合した金クラスター(CR-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0021】
図5】リガンドのRCが結合した金クラスター(RC-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0022】
図6】リガンド1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン(即ち、Cap)結合金クラスター(Cap-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0023】
図7】リガンドのGSHが結合した金クラスター(GSH-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0024】
図8】リガンドのD-NIBCが結合した金クラスター(D-NIBC-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0025】
図9】リガンドのL-システインが結合した金クラスター(L-Cys-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0026】
図10】EAEの臨床的評点を示すグラフである。
【0027】
図11】脊髄における(a)TNF-α、(b)IL-17および(c)IFN-γのレベルを示し、ここで、1がナイーブ(naive)群であり、2が食塩水治療群であり、3がプレドニゾン(prednisone)治療群であり、4が50mg/kg L-Cys-AuCs治療群であり、5が20mg/kg L-Cys-AuCs治療群であり、および6が5mg/kg L-Cys-AuCs治療群である。
【0028】
図12】(a)は脊髄への免疫細胞の浸潤を示す脊髄のHE染色の写真であり、(b)は炎症の組織学的スケールを示す棒グラフであり、ここで、1がナイーブ群であり、2が食塩水治療群であり、3がプレドニゾン治療群であり、4が50mg/kg L-Cys-AuCs治療群であり、5が20mg/kg L-Cys-AuCs治療群であり、および6が5mg/kg L-Cys-AuCs治療群である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、以下の本発明の特定の実施形態に対する詳細な説明を参照することによって、より容易に理解することができる。
【0030】
本出願全体において、刊行物が参照される。これらの刊行物の開示は、本発明が属する技術の現状をより十分に説明するために、参照によりその全体が本出願に組み込まれる。
【0031】
金クラスター(AuCs)は、金原子と金ナノ粒子の間にある特殊な形態の金である。AuCsは、サイズが3nm未満であり、数個から数百個の金原子で構成されているため、金ナノ粒子の面心立方積層構造が崩壊する。その結果、AuCsは、金ナノ粒子の連続又は準連続エネルギー準位とは異なり、違うHOMO-LUMOギャップを持つ分子のような離散化した電子構造を示す。これにより、従来の金ナノ粒子が持つ表面プラズモン共鳴効果と、uv-visスペクトルでの対応するプラズモン共鳴吸収帯(520±20nm)が消失する。
【0032】
本発明は、リガンド結合AuCを提供する。
【0033】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCは、リガンドと、金コアとを含み、前記リガンドが前記金コアに結合している。特定の実施形態では、前記金コアの直径は、0.5~3nmの範囲にある。特定の実施形態では、前記金コアの直径は、0.5~2.6nmの範囲にある。
【0034】
特定の実施形態では、前記リガンド結合AuCの前記リガンドは、チオール含有化合物またはオリゴペプチドである。特定の実施形態では、前記リガンドは、Au-S結合を介して金コアに結合してリガンド結合AuCを形成する。
【0035】
特定の実施形態では、前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、またはシステイン誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン誘導体は、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、またはN-アセチル-D-システイン(D-NAC)である。
【0036】
特定の実施形態では、前記リガンドは、システイン含有オリゴペプチドとその誘導体であるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドは、システイン含有ジペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有ジペプチドは、L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、またはL-システイン-L-ヒスチジンジペプチド(CH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドは、システイン含有トリペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有トリペプチドは、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、またはL-グルタチオン(GSH)である。特定の実施形態では、前記システイン含有オリゴペプチドは、システイン含有テトラペプチドである。特定の実施形態では、前記システイン含有テトラペプチドが、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)またはグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)である。
【0037】
特定の実施形態では、前記リガンドは、チオール含有化合物である。特定の実施形態では、チオール含有化合物は、1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン、またはドデシルメルカプタンである。
【0038】
本発明は、対象の多発性硬化症の治療のための医薬組成物を提供する。特定の実施形態では、前記対象は、人である。特定の実施形態では、前記対象は、犬のようなペット動物である。
【0039】
特定の実施形態では、前記医薬組成物は、上文で開示されたリガンド結合AuCと、薬理学的に許容される賦形剤とを含む。特定の実施形態では、前記賦形剤は、リン酸緩衝液、または生理食塩水である。
【0040】
本発明は、対象の多発性硬化症の治療のための医薬の製造における上文で開示されたリガンド結合AuCsの使用を提供する。
【0041】
本発明は、対象の多発性硬化症の治療のための上文で開示されたリガンド結合AuCsの使用、または上文で開示されたリガンド結合AuCsを使用して対象の多発性硬化症を治療する方法を提供する。特定の実施形態では、前記治療方法は、前記対象に薬学的に有効な量のリガンド結合AuCsを投与することを含む。前記薬学的に有効な量は、通常の体内研究によって確認することができる。
【0042】
以下の実施例は、単に本発明の原理を説明することを目的として提供されたものである。それらは、決して本発明の範囲を制限することを意図するものではない。
【0043】
実施例
【0044】
1. リガンド結合AuCsの製造
【0045】
1.1 HAuClをメタノール、水、エタノール、n-プロパノール、又は酢酸エチルに溶解して、HAuCl濃度0.01~0.03Mの溶液Aが得られた。
【0046】
1.2 リガンドを溶媒に溶解して、リガンド濃度0.01~0.18Mの溶液Bが得られた。前記リガンドは、L-システイン、D-システイン、及び、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)、N-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)、N-アセチル-L-システイン(L-NAC)、及びN-アセチル-D-システイン(D-NAC)等のその他のシステイン誘導体;システイン含有オリゴペプチドとそれらの誘導体(L-システイン-L-アルギニンジペプチド(CR)、L-アルギニン-L-システインジペプチド(RC)、L-システイン-L-ヒスチジン(CH)、グリシン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(GCR)、L-プロリン-L-システイン-L-アルギニントリペプチド(PCR)、L-グルタチオン(GSH)、グリシン-L-セリン-L-システイン-L-アルギニンテトラペプチド(GSCR)及びグリシン-L-システイン-L-セリン-L-アルギニンテトラペプチド(GCSR)等の、ジペプチド、トリペプチド、テトラペプチド及びその他のシステイン含有ペプチドを含むが、これらに限定されない);及び1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリン、チオグリコール酸、メルカプトエタノール、チオフェノール、D-ペニシラミン及びドデシルメルカプタンのうちの一つ又は複数等のその他のチオール含有化合物を含むが、これらに限定されない。前記溶媒は、メタノール、酢酸エチル、水、エタノール、n-プロパノール、ペンタン、ギ酸、酢酸、ジエチルエーテル、アセトン、アニソール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、ペンタノール、酢酸ブチル、t-ブチルメチルエーテル、酢酸イソプロピル、ジメチルスルホキシド、ギ酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸メチル、2-メチル-1-プロパノール及び酢酸プロピルのうちの一つ又は複数であった。
【0047】
1.3 HAuClとリガンドとのモル比が1:(0.01~100)となるように、溶液Aと溶液Bを混合して、氷浴において0.1~48時間撹拌し、0.025~0.8M NaBHの水、エタノール又はメタノール溶液を加えて、氷水浴において引き続き撹拌し、0.1~12時間反応させた。NaBHとリガンドとのモル比は、1:(0.01~100)であった。
【0048】
1.4 反応終了した後、MWCOが3K~30Kの限外ろ過チューブを使用して、8000~17500r/分の勾配で反応溶液を10~100分間遠心することにより、異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を得た。異なるMWCOの限外ろ過チューブのろ過メンブレンの孔は、直接的に、前記メンブレンを通過できるリガンド結合AuCsのサイズを決定した。当該ステップは、任意に省略されてもよい。
【0049】
1.5 ステップ(1.4)で得られた異なる平均粒子サイズを有するリガンド結合AuCs沈殿を水に溶解し、透析バッグに投入し、そして水において室温で1~7日間透析した。
【0050】
1.6 透析後、リガンド結合AuCsを12~24時間凍結乾燥して、粉末状又は凝集状物質であるリガンド結合AuCsを得た。
【0051】
測定からわかるように、前記方法により得られた粉末状又は凝集状物質の粒子サイズは、3nm未満であった(全体的に、0.5~2.6nmにわたって分布した)。520nmで明らかな吸収ピークはなかった。得られた粉末又は凝集体がリガンド結合AuCsであったことがわかった。
【0052】
2. 異なるリガンドが結合されたAuCsの調製及び同定
【0053】
2.1 L-NIBC結合AuCs、即ち、L-NIBC-AuCsの調製
【0054】
リガンドであるL-NIBCを例とし、L-NIBCが結合したAuCsの調製及び確認について以下で詳細に説明する。
【0055】
2.1.1 1.00gのHAuClを量り、100mLのメタノールに溶解して、0.03Mの溶液Aを得た。
【0056】
2.1.2 0.57gのL-NIBCを量り、100mLの氷酢酸(酢酸)に溶解して、0.03Mの溶液Bを得た。
【0057】
2.1.3 1mLの溶液Aを量り、0.5mL、1mL、2mL、3mL、4mL、又は5mLの溶液Bとそれぞれ混合し(すなわち、HAuClとL-NIBCとのモル比が、それぞれ、1:0.5、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5であった。)、氷浴において撹拌しながら2時間反応させ、溶液が明るい黄色から無色になると、速やかに1mLの新たに調製された0.03M(11.3mgのNaBHを量り、10mLのエタノールに溶解することにより調製された。)のNaBHエタノール溶液を加えて、溶液が濃褐色になった後、引き続き30分間反応し、そして10mLのアセトンを加えて反応を停止した。
【0058】
2.1.4 反応後、反応溶液に対して勾配遠心を行い、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs粉末を得た。具体的な方法は以下のとおりである。即ち、反応完了後、反応溶液を30KのMWCO及び50mLの体積を有する限外ろ過チューブに転移し、10000r/分で20分間を遠心し、そして内チューブ中の保持液(retentate)を超純水に溶解して、約2.6nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び10KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、13,000r/分で30分間を遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.8nmの粒子サイズを有する粉末を得た。その後、外チューブ中の混合液を50mLの体積及び3KのMWCOを有する限外ろ過チューブに転移し、17,500r/分で40分間を遠心した。内チューブ中の保持液を超純水に溶解して、約1.1nmの粒子サイズを有する粉末を得た。
【0059】
2.1.5 勾配遠心により得られた3つの異なる粒子サイズでの粉末を沈殿させ、それぞれ溶媒を除去し、粗生成物をNでブロー乾燥させ、5mLの超純水に溶解し、透析バッグ(MWCOが3KDa)に置き、透析バッグを2Lの超純水に置き、一日おきに水を交換し、7日間透析し、凍結乾燥し、そして将来の使用のために保持した。
【0060】
2.2 L-NIBC-AuCsの同定
【0061】
上記で得られた粉末(L-NIBC-AuC)に対して同定実験が行われた。同時に、リガンドであるL-NIBCにより修飾した金ナノ粒子(L-NIBC-AuNPs)は、対照として使用された。前記リガンドがL-NIBCである金ナノ粒子の製造方法は、参考文献(W.Yan、L.Xu、C.Xu、W.Ma、H.Kuang、L.Wang及びN.A.Kotov、Journal of American Chemical Society 2012、134、15114;X.Yuan、B.Zhang、Z.Luo、Q.Yao、D.T.Leong、N.Yan及びJ.Xie、Angewandte Chemie International Edition 2014、53、4623)に参照する。
【0062】
2.2.1 透過型電子顕微鏡(TEM)によるモルフォロジーの観察
【0063】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に2mg/Lになるまで溶解してサンプルとし、そして懸滴法により試験サンプルを製造した。より具体的に、5μLのサンプルを超薄型カーボンフィルムに滴下し、水滴がなくなるまで自然蒸発させ、そしてJEM-2100F STEM/EDS電界放出形高分解能TEMによりサンプルのモルフォロジーを観察した。
【0064】
L-NIBC-AuNPs の4つのTEM画像は、図1のB、E、H、及びKに示され、L-NIBC-AuCsの3つのTEM画像は、図2のB、E、及びHに示される。
【0065】
図2中の画像で示されるように、各L-NIBC-AuCsサンプルは、均一な粒子サイズ及び良好な分散性を有し、かつ、L-NIBC-AuCsの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ1.1nm、1.8nm及び2.6nmであり、図2のC、F及びI中の結果とよく一致した。これに対して、L-NIBC-AuNPsサンプルは、より大きい粒子サイズを有した。これらの平均直径(金コアの直径と指す)がそれぞれ3.6nm、6.0nm、10.1nm及び18.2nmであり、図1のC、F、I及びL中の結果とよく一致した。
【0066】
2.2.2 紫外線(UV)-可視光(vis)吸収スペクトル
【0067】
試験粉末(L-NIBC-AuCsサンプル及びL-NIBC-AuNPsサンプル)を超純水に濃度が10mg・L-1になるまで溶解し、室温でUV-vis吸収スペクトルが測定された。走査範囲が190~1100nmであり、サンプルセルが光路長1cmの標準石英キュベットであり、参照セルが超純水により充填された。
【0068】
異なるサイズを有する4つのL-NIBC-AuNPsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図1のA、D、G及びJに示され、粒子サイズの統計学的分布は、図1のC、F、I及びLに示され、異なるサイズを有する3つのL-NIBC-AuCsサンプルのUV-vis吸収スペクトルは、図2のA、D及びGに示され、粒子サイズの統計学的分布は、図2のC、F及びIに示される。
【0069】
図1で示されるように、表面プラズモン作用により、L-NIBC-AuNPsは、約520nmで吸収ピークを有した。吸収ピークの位置は、粒子サイズに関連した。粒子サイズが3.6nmである場合、UV吸収ピークが516nmで現れ、粒子サイズが6.0nmである場合、UV吸収ピークが517nmで現れ、粒子サイズが10.1nmである場合、UV吸収ピークが520nmで現れ、そして、粒子サイズが18.2nmである場合、吸収ピークが523nmで現れた。4つのサンプルは、いずれも560nm以上で吸収ピークを有しなかった。
【0070】
図2で示されるように、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsサンプルのUV吸収スペクトルでは、520nmでの表面プラズモン作用による吸収ピークがなくなり、560nm以上で2つの明らかな吸収ピークが現れ、吸収ピークの位置がAuCsの粒子径によって僅かな相違があった。これは、AuCsが面心立方構造の崩壊により分子のような特性を示し、その結果、AuCsの状態密度の不連続性、エネルギー準位の分裂、プラズモン共鳴効果の消失、及び長波方向の新しい吸収ピークの現れを引き起こすためである。上記で得られた異なる粒子サイズの3つの粉末サンプルは、いずれもリガンド結合AuCsであったと結論付けることができる。
【0071】
2.2.3 フーリエ変換赤外線分光法
【0072】
赤外線スペクトルは、Bruker製のVERTEX80Vフーリエ変換赤外線分光計を利用して固体粉末高真空全反射モードで測定された。走査範囲は、4000~400 cm-1であり、走査回数が64であった。L-NIBC-AuCsサンプルを例とし、試験サンプルは、3つの異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCs乾燥粉末であり、対照サンプルは、純粋なL-NIBC粉末であった。結果は、図3に示した。
【0073】
図3は、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsの赤外線スペクトルを示す。純粋なL-NIBC(下部の曲線)と比較すると、異なる粒子サイズを有するL-NIBC-AuCsのSH伸縮振動は、全て、2500~2600cm-1で完全に消失したが、L-NIBCの他の特徴的なピークは、依然として残っていて、L-NIBC分子がAu-S結合を介してAuCsの表面に成功に結合されたことが証明された。この図は、リガンド結合AuCsの赤外スペクトルがそのサイズとは無関係であることも示した。
【0074】
溶液Bの溶媒、HAuClとリガンドとの仕込み比、反応時間及び添加されたNaBHの量をわずかに調整した以外、上記方法と同じように、その他のリガンドが結合したAuCsを製造した。例えば、L-システイン、D-システイン、N-イソブチリル-L-システイン(L-NIBC)又はN-イソブチリル-D-システイン(D-NIBC)がリガンドとして使用された場合、溶媒として酢酸が選択され、ジペプチドCR、ジペプチドRC又は1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンがリガンドとして使用された場合、溶媒として水が選択されることなど、その他のステップについても同じようにするため、更なる詳細はここで省略する。
【0075】
本発明は、前述の方法により、一連のリガンド結合AuCsを製造した。リガンドと製造プロセスのパラメーターを表1に示す。
【0076】
表1.本発明において異なるリガンドが結合したAuCsの製造パラメーター
【0077】
表1に挙げられたサンプルは、前記方法により確認された。5つの異なるリガンド結合AuCsの特性を図4(CR-AuCs)、図5(RC-AuCs)、図6(Cap-AuCs)(Capは1-[(2S)-2-メチル-3-チオール-1-オキソプロピル]-L-プロリンである)、図7(GSH-AuCs)、及び図8(D-NIBC-AuCs)に示す。図4図8は、UVスペクトル(A)、赤外線スペクトル(B)、TEM画像(C)、及び粒子サイズ分布(D)を示す。
【0078】
その結果、表1から得られた異なるリガンドが結合したAuCsの直径は、いずれも、3nm未満であることがわかった。紫外線スペクトルは、520±20nmでのピークの消失、及び他の位置での吸収ピークの出現も示した。この吸収ピークの位置は、リガンド、粒子サイズ、及び構造によって異なった。特定の状況で、特殊な吸収ピークが形成されないが、主な原因は、粒子径や構造の異なるAuCsの混合物の形成、または、ある特殊なAuCsにより吸収ピークの位置が紫外線可視スペクトルの範囲外に移動されたことである。一方、フーリエ変換赤外スペクトルでは、リガンドのチオールの赤外吸収ピーク(図4~8のBの点線の間)が消失したが、他の赤外特性ピークはいずれも保持されていることから、全てのリガンド分子がAuCsの表面に成功に固定されていて、本発明が表1に記載されるリガンドの結合したAuCsを取得することに成功したことを示した。
【0079】
3. 動物試験
【0080】
3.1 材料および動物
【0081】
3.1.1 試験サンプル
【0082】
金コアの直径が0.5~1.5nm(1.0±0.5nm)の範囲にあるL-Cys-AuCsを試験サンプルとして使用し、製造方法は、上記の方法にわずかな変更を加えたものに従った。図9は、リガンドであるL-システインが結合した金クラスター(L-Cys-AuCs)のUVスペクトル、赤外線スペクトル、TEM画像、および粒子サイズ分布図を示す。
【0083】
3.1.2 陽性対照サンプル
【0084】
プレドニゾン(prednisone)(Shanghai Yuanye Biotechnology Co.,Ltd)。
【0085】
3.1.3 投与製剤
【0086】
必要量のプレドニゾンを量り、適切な量の生理食塩水を加え、製剤を穏やかに撹拌して適切な混合を保証した。L-Cys-AuCsを秤量し、適切な量の生理食塩水を加え、攪拌して懸濁液を完全に混合した。すべての化合物は、毎日作りたてであった。
【0087】
3.1.4 実験用の動物
【0088】
7~9週齢のC57BL/6N雌マウスを使用した。動物は、規則に従って飼育され、維持された。
【0089】
【0090】
3.1.6 流れ
【0091】
0日目に、マウスを体重によってランダムに群分けし、次に、完全フロイントアジュバント(complete Freund's adjuvant、CFA)中の200μgのミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(myelin oligodendrocyte glycoprotein、MOG)ペプチドを、部位あたり100μlで、左右の側面に皮下注射した。MOG免疫の0時間後と48時間後に腹腔内投与によって百日咳毒素(pertussis toxin、PTX)を注射した。表2により、化合物を1日目から28日目まで与えた。動物(n=10)を、EAEの臨床的徴候について毎日採点した。実験の最後、脊髄をHE染色(n=5)し、ELISAキットによるTNF-α、IL-17、IFN-γの分析を行った。
【0092】
3.2 結果
【0093】
動物は、EAEの臨床採点基準に従ってEAEの臨床的徴候について毎日採点した(表3)。図10に示すように、50mg/kg(50mpK)、20mg/kg(20mpK)および5mg/kg(5mpK)のL-Cys-AuCsは、17日目からEAEマウスの麻痺を予防した。プレドニゾンは陽性対照であり、13日目からEAEの臨床的徴候を有意に減少させた。
【0094】
【0095】
ELISAキットによる脊髄のTNF-α、IL-17およびIFN-γ分析。TNF-α、IL-17およびIFN-γは、炎症の指標である。50mg/kg、20mg/kg、および5mg/kgのL-Cys-AuCsは、EAEマウスにおけるこれらの炎症性因子の産生を有意に減少させた(図11)。
【0096】
脊髄のHE染色は、脊髄への免疫細胞の浸潤を研究するために使用された。EAEの誘導中、単核炎症細胞が脊髄に浸潤し、EAEマウスの麻痺に寄与し、HE染色により、EAEマウスの炎症細胞の有意な増加を示し、50mg/kg、20mg/kg、5mg/kgのL-Cys-AuCsは免疫細胞浸潤を減少させ(図12(a))、炎症の組織学的スケールを有意に低減した(図12(b))。
【0097】
その他のサイズのL-Cys-AuCsおよび異なるサイズの他のリガンド結合AuCsも、EAEの抑制に効果があり、その効果はある程度異なる。ここでは詳しく説明しない。
【0098】
【産業上の利用可能性】
【0099】
リガンド結合AuCsは、多発性硬化症の治療に使用できる。それらは、産業上の利用に適する。



【国際調査報告】