(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】GDNFを分泌する哺乳動物細胞およびそれらの治療的使用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/10 20060101AFI20230222BHJP
A61K 35/13 20150101ALI20230222BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20230222BHJP
A61K 35/55 20150101ALI20230222BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20230222BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20230222BHJP
A61K 35/22 20150101ALI20230222BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20230222BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20230222BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20230222BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20230222BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20230222BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
A61K35/13
A61K35/30
A61K35/55
A61K35/15
A61K35/17
A61K35/22
A61K48/00
A61P25/16
A61P25/00
C12P21/00 C
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539693
(86)(22)【出願日】2020-12-29
(85)【翻訳文提出日】2022-08-23
(86)【国際出願番号】 US2020067351
(87)【国際公開番号】W WO2021138350
(87)【国際公開日】2021-07-08
(32)【優先日】2019-12-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522138663
【氏名又は名称】グロリアーナ・セラピューティクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Gloriana Therapeutics, Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】ワールバーグ,ラース ユー
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA19
4B064CC24
4B064CC30
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC41
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084MA67
4C084NA14
4C084ZA021
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB63
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA16
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZA02
(57)【要約】
本発明は、遺伝子治療、特に、パーキンソン病の処置のための生物活性のあるグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)のデリバリーのためのインビボ遺伝子治療のための方法および組成物に関する。本発明はまた、GDNFを増加した量で産生する能力がある哺乳動物細胞、加えて、生物活性GDNFの組換え産生のための、および治療的使用のためのこれらの細胞の使用に関する。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)またはその機能的等価物を20μg GDNF/10
5細胞/24時間を超える量で分泌する能力がある哺乳動物細胞。
【請求項2】
前記哺乳動物細胞が、ARPE-19細胞、CHO細胞、BHK細胞、R1.1細胞、COS細胞、HEK293細胞、PC12細胞、HiB5細胞、RN33b、神経細胞、胎児細胞、MDX12細胞、C2C12細胞、HeLa細胞、HepG2細胞、線条体細胞、ニューロン、アストロサイト、介在ニューロン、キラー細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性Tリンパ球、およびマクロファージからなる群から選択される、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
前記哺乳動物細胞が、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、サル、およびヒトからなる哺乳動物の群から選択される、請求項1に記載の細胞。
【請求項4】
前記哺乳動物細胞がヒト細胞である、請求項3に記載の細胞。
【請求項5】
前記哺乳動物細胞が、支持体マトリックスに付着する能力がある、請求項1~4のいずれか一項に記載の哺乳動物細胞。
【請求項6】
グリア細胞由来神経栄養因子またはその機能的等価物を産生する方法であって、
i.請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞を、前記細胞がグリア細胞由来神経栄養因子を分泌した培地において培養すること;および
ii.分泌されたグリア細胞由来神経栄養因子を培養培地から回収すること
を含む、方法。
【請求項7】
i.請求項1~4のいずれか一項に定義されている単離宿主細胞;および
ii.前記デバイス内に位置した前記単離細胞株から分泌された成長因子の前記膜を通っての拡散を可能にする半透膜を含む、植え込み型細胞培養デバイス。
【請求項8】
半透膜が免疫隔離性である、請求項7に記載のデバイス。
【請求項9】
半透膜内に配置されたマトリックスをさらに含む、請求項7に記載のデバイス。
【請求項10】
24時間あたり生物学的活性グリア細胞由来神経栄養因子の10ngを超えて、好ましくは生物学的活性グリア細胞由来神経栄養因子の20ngを超えて、より好ましくは40ng/24時間を超えて、より好ましくは60ng/24時間を超えて、グリア細胞由来神経栄養因子を分泌する能力がある、請求項7に記載のデバイス。
【請求項11】
テザーアンカーをさらに含む、請求項7に記載のデバイス。
【請求項12】
神経系疾患を処置する方法における使用のための請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞であって、前記方法が、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞の治療的有効量を、それを必要とする個体に移植することを含む、細胞。
【請求項13】
神経系疾患の前記疾患がパーキンソン病である、請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
前記デバイスが、処置を必要とする患者の蝸牛へ植え込まれる、請求項7に記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
配列表に関する言明
本出願に関連した配列表は、紙の複写物の代わりにテキストフォーマットで提供され、本明細書へ参照により組み入れられている。配列表を含有するテキストファイルの名称は、P8881US00_Gloriana_ARPE-19_Cell_line_ST25.txtである。そのテキストファイルは28KBであり、2019年11月19日に作成され、EFS-Webを介して電子的に提出されている。
【0002】
本発明は、遺伝子治療、特に、パーキンソン病の処置のための生物活性のあるグリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)のデリバリーのためのインビボ(in vivo)遺伝子治療のための方法および組成物に関する。別の態様において、本発明は、完全長ヒトGDNF配列のコドン最適化バージョンを含む発現コンストラクトに関する。本発明はまた、GDNFを増加した量で産生する能力がある哺乳動物細胞、加えて、生物活性GDNFの組換え産生のための、および治療的使用のためのこれらの細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
パーキンソン病(PD)は、100万人から150万人の米国人を苦しめている壊滅的な神経変性障害である。毎年、35,000件を超える新しい症例が診断されている。パーキンソン病の発生率は、50歳より上の年齢群において最も高いが、より若い患者において驚くほどの数の新しい症例が報告されている。
【0004】
パーキンソン病の主要な特徴は、動きが遅いこと(動作緩慢)、手、腕、脚、顎および顔における振戦もしくはふるえ、肢および体幹の硬直、ならびに姿勢の不安定である。これらの症状が進行するにつれて、患者は、歩行、会話、または他の単純な日常生活の作業の遂行の困難を経験し得る。これらの行動の欠陥は、円滑で意図的な動きを生み出すことを担う、脳における黒質線条体系の変性に関連づけられている。具体的には、黒質に位置する神経細胞が変性し、これらの細胞により生成されるドーパミンの減少を伴う。黒質神経細胞は、軸索または突起を線条体まで伸ばし、そこでドーパミンが分泌されかつ利用される。PDの症状が出現する前に、線条体内でのドーパミンの80%減少が起こる必要があると推定されている。
【0005】
現在、レボドパ(商品名Sinemet)は、パーキンソン病の処置の主力である。脳において、レボドパはドーパミンへ変換され、それがパーキンソン病を有する患者の脳におけるドーパミン欠乏を補う。レボドパが末梢デカルボキシラーゼ阻害剤カルビドパと組み合わせて投与された場合、PD患者は劇的な利益を享受する。しかしながら、問題は、レボドパ治療がPDの症状を減少させるが、喪失した神経細胞に取って代わるのではなく、疾患の進行を止めないことである。PDが進行するにつれて、患者は、レボドパの用量の増加を必要とし、副作用、最も顕著には、生活に支障を来すほどの不随意運動および硬直が出現し得る。実際、運動障害の専門医は、患者がレボドパを最も多く必要とする疾患経過において後々までレボドパの使用を取っておくために、レボドパの使用を遅らせ、最初に他のドーパミン系薬物を用いる場合が多い。
【0006】
したがって、レボドパは、限界があり、パーキンソン病についての追加の治療戦略が確立される必要がある。この点において、PDについての外科的処置への関心が再燃している。最近、脳深部刺激療法と呼ばれる手順がかなりの注目を集めている。この手順において、PDで過活動性の脳領域に電極が配置され、それによって、これらの脳領域の電気刺激が過活動性を是正する。いくらかの患者において、劇的な利益を達成することができる。他の外科的治療介入は、黒質線条体系の機能を改善することを目的としている。ドーパミン作動性細胞の移植は、パーキンソン病の動物モデルにおいて運動欠陥を寛解させることに成功している。ヒトにおけるドーパミン作動性細胞移植の最初の臨床試験は成功しており、単一の二重盲検臨床試験により、より若い患者において利益が明らかにされたが、より高齢の患者においては明らかにされなかった。しかしながら、移植片を受けた患者の一部は、生活に支障を来すほどの不随意運動を発症した。したがって、現在のところ、細胞移植は、まだ実験的アプローチと考えられるべきである。
【0007】
別のアプローチは、黒質ニューロンの変性および付随した神経伝達物質ドーパミンの減少を防止する試みにおいて成長因子を黒質線条体系へデリバリーすることを目的とする。
【0008】
世界中の多くの研究所は、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)が、ラットおよび霊長類で行われた研究において、黒質線条体系の変性の構造的および機能的結果を防止できることを実証している。GDNFのCNSへのデリバリーは、タンパク質注射、ポンプによるデリバリーを用いて、およびインビボ遺伝子治療により、前臨床試験において達成されている。多数の研究は、GDNFを発現するAAVまたはレンチウイルスを用いるCNS細胞の形質導入を記載している[Kordower, (2003), Ann Neurol, 53 (suppl 3):s120-s34;WO03/018821、Ozawaら;US2002/187951、Aebischerら;Georgievska et al., (2002), Exp Nerol 117(2):461-74;Georgievska et al., (2002), NeuroReport 13(1):75-82;Wang et al., (2002), Gene Thera, 9(6):381-9;US2002/031493、Rhone(Rohne)-Poulenc Rorer SA;米国特許第6,180,613号、Roeckefeller University;Kozlowski et al., (2000), Exp Neurol, 166(1):1-15;Bensadoun, (2000), Exp Neurol, 164(1):15-24;Connor et al., (1999), Gene Therapy, 6(12):1936-51;Mandel et al., (1997), PNAS, 94(25):14083-8;Lapchak et al., (1997), Brain Res, 777(1,2):153-60;Bilang-Bleuel et al., (1997), PNAS 94(16):8818-23]。
【0009】
パーキンソン病の処置への他のインビボ遺伝子治療アプローチには、芳香族L-アミノ酸デカルボキシラーゼ(AADC)、視床下部の(suthalamic)グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)を発現するウイルスでの形質導入が挙げられる[Marutso, (2003), Nippon Naika Gakkai Zasshi, 92(8):1461-6;Howard, (2003), Nat Biotechnol, 21(10):117-8]。
【0010】
GDNFは、ヒトにおけるパーキンソン病の処置のための有望な候補であると思われるが、GDNF処置は、ある特定の副作用、主に体重減少および異痛を生じると報告されている[Hoane et al., (1999), 160(1):235-43]。したがって、パーキンソン病の処置のための代替戦略、特に黒質ニューロンの変性を防止することを目的とする戦略を開発する必要性が当技術分野にある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、6-OHDA病変モデルにおいて高レベルのGDNFを分泌するヒトARPE-19細胞由来クローンを用いた、GDNFファミリー成長因子の線条体へのデリバリーに基づいた一連の前臨床動物試験を実施した。6-OHDA病変モデルは、パーキンソン病の周知の動物モデルである。これらの実験は、驚くべきことに、高レベルのGDNFを分泌する細胞の植え込み(implantation)が神経保護的利益を示し、かつ前記細胞が、長期間、GDNFを分泌し続けたことを示している。分泌されたGDNFは、周囲の脳組織により正しく処理された。
【0012】
したがって、第1の態様において、本発明は、パーキンソン病の処置のための方法であって、それを必要とする個体の中枢神経系へ、発現ベクターを含有する細胞の治療的有効量を投与することを含み、前記ベクターが、作動可能に連結されたポリペプチドの発現を指揮する能力があるプロモーター配列を含み、前記ポリペプチドが哺乳動物細胞において機能する能力があるシグナルペプチド、ならびにプロGDNF、成熟GDNF、N末端トランケート型成熟GDNF、および任意のそのようなGDNFの配列変異型からなる群から選択されるヒト、マウス、またはラットGDNFを含む、方法に関する。
【0013】
好ましい実施形態において、本発明の細胞株は、ARPE-19細胞のプラスミドpT2.CAn.hoG(配列番号7)およびpCMV-SB-100x(配列番号8)での同時トランスフェクションにより作製された。後者のプラスミドは、スリーピングビューティトランスポサーゼの機能亢進バージョンを発現する。そのプラスミドは、真核生物選択マーカーカセットを含有せず、したがって、意図的に、一過性のみ発現する。その後、トランスフェクト細胞は、成熟GDNF発現の高く安定したレベルについてスクリーニングされた。
【0014】
本発明に記載された高効率発現コンストラクトを用いることの1つの重要な利点は、GDNFの治療的利益が、より少ない細胞および患者へのより少ない挿入を用いて受け取られ得ることである。
【0015】
別の態様において、本発明は、パーキンソン病の処置のための薬物の調製のための細胞発現ベクターの使用であって、前記ベクターが、作動可能に連結されたポリペプチドの発現を指揮する能力があるプロモーター配列を含み、前記ポリペプチドが哺乳動物細胞において機能する能力があるシグナルペプチド、ならびにプロGDNF、成熟GDNF、N末端トランケート型成熟GDNF、および任意のそのようなGDNFの配列変異型からなる群から選択されるヒト、マウス、またはラットGDNFを含む、使用に関する。
【0016】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるベクター、ならびに1つまたは複数の薬学的に許容されるアジュバント、賦形剤、担体、および/または希釈剤を含む医薬組成物に関する。医薬組成物は、インビボおよびエクスビボ(ex vivo)遺伝子治療のために用いることができる。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるベクターを形質導入された、単離宿主細胞に関する。
【0018】
そのような形質導入宿主細胞は、既知のGDNF産生細胞と比較して、およびGDNFをコードするウイルスベクターを形質導入された細胞と比較して、予想外に高い量のGDNFを産生することがわかった。したがって、本発明の形質導入宿主細胞は、GDNFの工業規模の製造のための有望な細胞の供給源となる。
【0019】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるベクターを形質導入されている少なくとも1個の細胞を含むキメラ非ヒト哺乳動物に関する。GDNFを過剰発現するそのような動物は、遺伝子プロファイリングのために、ならびに薬剤のスクリーニングおよび開発において用いることができる。
【0020】
好ましくは、形質導入細胞は、個々の動物の遺伝子型を有し、すなわち、同種異系でも異種でもない移植片(transplant)である。
【0021】
さらなる態様において、本発明は、以下を含む、植え込み型(implantable)細胞培養デバイスに関する:
GDNFの拡散を可能にする半透膜;および
本発明による少なくとも1個の単離宿主細胞。
【0022】
これらのカプセルは、中枢神経系への移植によるGDNFの局所的デリバリーのために用いることができる。成長因子の局在的かつ長期デリバリーは、いくつかのCNS障害の処置のための好ましい投与方法であり、そのCNS障害には、パーキンソン病、アルツハイマー病、ハンチントン病、脳卒中、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0023】
さらなる態様において、本発明は、以下を含む生体適合性カプセルに関する:標的細胞の感染のためのウイルスベクターを分泌する生きているパッケージング細胞を含むコアであって、ウイルスベクターが本発明によるベクターである、コア;および
前記コアを囲む外側のジャケットであって、前記ジャケットが透過性生体適合性材料を含み、前記材料が、およそ100nm直径のレトロウイルスベクターの通過を可能にして、前記カプセルからの前記ウイルスベクターの放出を可能にするように選択された多孔度を有する、ジャケット。
【0024】
本発明のカプセルは、カプセルのアプローチを用いる、患者における所望の部位へのウイルス粒子のデリバリーを提供する。ベクター産生細胞株のカプセル化は、単回注入とは対照的に、ウイルス粒子の標的部位への連続的デリバリーを可能にする。加えて、免疫攻撃の見込みが低下した、反復治療が可能である。カプセルは、パッケージング細胞から放出されるウイルス粒子の通過を可能にするが、それでもなおカプセル中への宿主細胞の通過を阻止するのに十分大きいポアを有する。
【0025】
このカプセルのアプローチは、そのデバイスを容易に回収し(処置を終了する)、または外植しかつ再植え込みする(処置を改変する)ことができるため、治療の安全性および管理を増加させる。さらに、カプセルデバイスはオープンでも外面化もされていないため、感染の機会が低下している。
【0026】
最後に、カプセル化は、パッケージング細胞が患者内を遊走するのを防ぎ、植え込み片におけるパッケージング細胞の生存能を延ばすため、この治療にあまり細胞を必要とされない可能性が高い。これは、患者において免疫反応をさらに減少させることに有利であり得る。
【0027】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるベクターの薬物としての使用に関する。
【0028】
なおさらなる態様において、本発明は、神経系障害の処置のための薬物の調製のための本発明によるベクターの使用に関する。
【0029】
別の態様において、本発明は、CNS障害の処置のための薬物の調製のための本発明によるベクターの使用に関する。
【0030】
さらに、本発明は、神経系疾患を処置する方法であって、それを必要とする個体に、本発明のベクターの治療的有効量、または本発明の医薬組成物の治療的有効量、または本発明によるパッケージング細胞株を含む生体適合性デバイスを投与することを含む、方法に関する。
【0031】
本発明のこの態様によれば、神経系疾患の処置のための改善されたインビボ遺伝子治療方法が提供される。添付された実施例により証明されているように、本発明のベクターでのインビボ形質導入は、コードされた治療的因子、例えばGDNFのこれまで見られなかった分泌および組織分布、ならびに結果として、治療効果の向上を生じる。
【0032】
なおさらなる態様において、本発明は、神経系疾患を処置する方法であって、それを必要とする個体に以下を移植することを含む、方法に関する:
i.本発明の形質導入細胞の治療的有効量;または
ii.本発明による植え込み型デバイス。
【0033】
この態様は、エクスビボ遺伝子治療およびGDNFの増加した量を分泌する能力がある治療用細胞の植え込みに基づいた神経系障害を処置する別の方法を提供する。
【0034】
さらなる態様において、本発明は、GDNFまたはその機能的等価物を20μg GDNF/105細胞/24時間を超える量で6ヶ月間より長い間、分泌する能力がある哺乳動物細胞に関する。
【0035】
本発明に記載されたGDNF産生細胞は、先行技術の哺乳動物細胞において見られる量を少なくとも1桁、上回る量でGDNFを産生する。本発明のGDNF産生細胞は、哺乳動物細胞を用いる発酵槽においてそのタンパク質を産生することを実行可能にし、そのタンパク質が、正しくプロセシングされ、グリコシル化され、フォールディングされ、かつ培地から容易に回収され得るという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、GDNF分泌細胞クローン:pT2.CAn.hoG(A)およびpT2.CAn.hoIgSP.GDNF(B)を作製するために用いられたGDNF発現ベクターのプラスミドマップを記載する。
【0037】
【
図2】
図2は、2Dコンフルエント培養における最良のGDNFクローンの選択のためのGDNF ELISA結果を記載する。
【0038】
【
図3】
図3は、GDNFの正しいプロセシングを示すクローンCA-9、ARPE-19/pT2.CAn.ho.IgSP.GDNF #2(IgSP #2)、およびARPE-19/pT2.CAn.hoG #3(ppG #3)からの条件培地試料のGDNFウェスタンブロットを記載する。試料は、15%SDSゲル上で電気泳動され、その後、PVDF膜へ転写された。ブロッキングされた膜は、抗GDNF抗体(R&D Systems、AF-212-NA)、続いて、HRP連結抗ヤギ抗体とインキュベートされ、ECLで検出された。R&D Systems製の精製組換えGDNFは参照として含まれている。このタンパク質は、推定配列のアミノ末端から31個のアミノ酸残基を欠損し、わずかに小さいMW(非グリコシル化単量体として予想される11.6kDa)となる。
【0039】
【
図4】
図4は、示されているような細胞クローンを充填されたデバイスからのGDNF放出を記載する。デバイス充填後1週間目から4週間目までのGDNF放出が各細胞クローンについて示されている。
【0040】
【
図5】
図5は、植え込み前(充填から2.5週間後)および外植後に測定された、異なるクローンを充填されたデバイスからのGDNF放出を記載する。データは平均±SEMとして示されている。
【0041】
【
図6】
図6は、ラット脳における2週間後の良い細胞生存を示す、クローンppG-120を含むデバイス#73および#74のヘマトキシリン染色切片を記載する。
【0042】
【
図7】
図7は、ラット脳における2週間後の良い細胞生存を示す、クローンppG-125を含むデバイス#69および#70のヘマトキシリン染色切片を記載する。
【0043】
【
図8】
図8は、左側にクローンppG-2および右側にppG-20を有するラット#1~3についての線条体における植え込み片部位を網羅する脳切片上のGDNF免疫組織化学的検査を記載する。
【0044】
【
図9】
図9は、示されているように配置されたクローンppG-120およびIgSP-2gを有するラット#19~21についての線条体における植え込み片部位を網羅する脳切片上のGDNF免疫組織化学的検査を記載する。
【0045】
【
図10】
図10は、GDNF産生クローンを含む植え込まれたデバイスの周りで測定されたGDNF組織レベルを記載する。特に、クローンppG-2、ppG-20、ppG-120、およびppG-125は、高いGDNF組織レベルを示した。未処置ラットにおける線条体から採取されたパンチは、陰性対照として含まれた。ppG-48デバイスの1つおよびppG-125デバイスの全部からの試料について測定された光学密度は、標準曲線外であり、したがって、示された値は、低く見積もられている。
【0046】
【
図11】
図11は、選択された植え込み片部位からのホモジナイズされた組織試料のGDNFウェスタンブロットを記載する。デバイス番号およびクローンIDが示されている。陰性対照(第1のレーン)は、未処置ラットの線条体由来である。R&D Systems製の精製組換えGDNFは参照として含まれている。このタンパク質は、推定配列のアミノ末端から31個のアミノ酸残基を欠損し、わずかに小さいMW(非グリコシル化単量体として予想される11.6kDa)となる。グリコシル化および非グリコシル化GDNFの単量体および二量体が見られ(矢印で示されている)、プロGDNFは検出されなかった。
【0047】
【
図12】
図12は、線条体におけるデバイス(緑色)および6-OHDA注射(黄色)の配置を示す、ラット脳の水平図を記載する。
【0048】
【
図13】
図13は、植え込み前および外植後に収集された培地試料におけるデバイスからのGDNF放出を記載する。データは平均±SEMとして示されている。
【0049】
【
図14】
図14は、6-OHDA実験の終了時点(デバイスのラット脳における7週間)での外植後に良い細胞生存を示すクローンppG-120を含むデバイス#33および#34のヘマトキシリン染色切片を記載する。外植後に、示されたデバイスから測定されたGDNF放出は青色で示されている。
【0050】
【
図15】
図15は、6-OHDA実験の終了時点(デバイスのラット脳における7週間)での外植後に良い細胞生存を示すクローンppG-125を含むデバイス#53および#55のヘマトキシリン染色切片を記載する。外植後に、示されたデバイスから測定されたGDNF放出は青色で示されている。
【0051】
【
図16】
図16は、ラット28および29におけるデバイス#53および#55(クローンppG-125)についての植え込み片部位(i)での切片上のGDNF免疫組織化学的検査を記載する。GDNF免疫反応性(茶色)は、植え込まれたデバイスから分泌されたGDNFタンパク質がよく拡散し、線条体(Str)の全体を覆っていることを示している。
【0052】
【
図17】
図17は、線条体6-OHDA病変の評価のために選択された切片を示す、Paxinosラット脳地図(1997)からの図を記載する。
【0053】
【
図18】
図18は、空のデバイスを用いた対照群における個々のラットの画像分析を記載する。(A)線条体からの4つの切片(ブレグマ1.0、0.2、-0.4、および-1.0)における対照側に対する%としての病変側におけるチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の定量化。点線は、それぞれ、対照側の50%および100%を示す。50%未満の線条体チロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の平均値を有する動物は青色矢印で示されている、(B)黒質からの3つの切片(ブレグマ-4.8、-5.2、-5.6)における対照側に対する%としての病変側におけるチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の定量化。点線は、対照側の100%を示す。動物は、最終分析において含まれているように十分な線条体6-OHDA病変(対照側と比較して50%未満のチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性)を有するべきである(緑色矢印)。
【0054】
【
図19】
図19は、ppG-120デバイスを用いた群における個々のラットの画像分析を記載する。(A)線条体からの4つの切片(ブレグマ1.0、0.2、-0.4、および-1.0)における対照側に対する%としての病変側におけるチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の定量化。点線は、それぞれ、対照側の50%および100%を示す。50%未満の線条体チロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の平均値を有する動物は青色矢印で示されている、(B)黒質からの3つの切片(ブレグマ-4.8、-5.2、-5.6)における対照側に対する%としての病変側におけるチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の定量化。点線は、対照側の100%を示す。動物は、最終分析において含まれているように十分な線条体6-OHDA病変(対照側と比較して50%未満のチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性)を有するべきである(緑色矢印)。
【0055】
【
図20】
図20は、ppG-125デバイスを用いた群における個々のラットの画像分析を記載する。(A)線条体からの4つの切片(ブレグマ1.0、0.2、-0.4、および-1.0)における対照側に対する%としての病変側におけるチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の定量化。点線は、それぞれ、対照側の50%および100%を示す。50%未満の線条体チロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の平均値を有する動物は青色矢印で示されている、(B)黒質からの3つの切片(ブレグマ-4.8、-5.2、-5.6)における対照側に対する%としての病変側におけるチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性の定量化。点線は、対照側の100%を示す。動物は、最終分析において含まれているように十分な線条体6-OHDA病変(対照側と比較して50%未満のチロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性)を有するべきである(緑色矢印)。
【0056】
【
図21】
図21は、黒質(SN)におけるppG-120およびppG-125を含むデバイスのDAニューロンへの神経保護効果を示す画像分析の結果を記載する。棒におけるデータは、黒質の病変側における生存しているチロシンヒドロキシラーゼ陽性ニューロン(チロシンヒドロキシラーゼ免疫反応性エリアに対応する)の平均パーセンテージ±SEMを示す。加えて、個々のラットについての平均値は、垂直方向の点プロットによって示されている。空のデバイスを用いた群(n=4)、ppG-120を用いた群(n=8)、およびppG-125を用いた群(n=7)。
【0057】
【
図22】
図22は、ppG-120およびppG-125を含むデバイスのDAニューロンへの神経保護効果を示す黒質(SN)における手作業での細胞カウンティングの結果を記載する。棒におけるデータは、黒質の病変側における生存しているチロシンヒドロキシラーゼ陽性ニューロンの平均パーセンテージ±SEMを示す。加えて、個々のラットについての平均値は、垂直方向の点プロットによって示されている。(A)小さい病変を有する動物が除外されている結果。空のデバイスを用いた群(n=4)、ppG-120を用いた群(n=8)、およびppG-125を用いた群(n=7)。(B)全ての動物が含まれている結果。
【0058】
【
図23】
図23は、ppG-125群からのラット(#29)における黒質対照側および病変側のチロシンヒドロキシラーゼ免疫染色を記載する。病変側において、生存しているニューロンの多くは、正常な発現レベル(赤色矢印)と比較して、チロシンヒドロキシラーゼ発現の下方制御(青色矢印によって示されている)を示している。
【0059】
【
図24】
図24は、試験対象(12週間、左側、レベル10)の中耳および内耳にわたる切片の全景図である。矢印は、デバイス(切片作製前に除去された)ならびに周囲の局在化された線維化および炎症のエリアを示す。
【0060】
【
図25】
図25は、試験対象(12週間、左側、レベル8)についての血液で満たされている植え込み片区域の周りの外筒(矢印によって示されている)のより高い倍率の図である。移植部位を囲む、線維性結合組織の外周リングおよび偏心性慢性炎症を見ることができる。
【0061】
【
図26】
図26Aおよび26Bは、微小の神経傷害を示す神経における髄鞘の腫大(矢印によって示されている)(H&E、20×)(
図26A)および微小の神経傷害を示す神経における限局的アポトーシスデブリ(矢印によって示されている)(H&E、20×)(
図26B)を証明する、試験対象(12週間、左側)の高倍率画像である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
定義
本明細書で用いられる場合、シグナルペプチドまたは真核生物シグナルペプチドは、分泌されるかまたは膜コンポーネントであるかのいずれかを運命づけるタンパク質に存在するペプチドである。それは、通常、タンパク質に対しN末端である。本関連において、SignalP(バージョン2.0、または好ましくはバージョン3.0)においてシグナルペプチドとして同定された全てのシグナルペプチドがシグナルペプチドと考えられる。
【0063】
本明細書で用いられる場合、哺乳動物シグナルペプチドは、小胞体を通して分泌される哺乳動物タンパク質に由来したシグナルペプチドである。
【0064】
本明細書で用いられる場合、異種性シグナルペプチドは、天然ではGDNFポリペプチドと作動可能に連結されていないシグナルペプチドである。
【0065】
本明細書で用いられる場合、成熟ヒトGDNFポリペプチドは、天然ヒトGDNFの134個のアミノ酸、すなわち、配列番号1のアミノ酸1~134を意味し、二量体へとプロセシングされる。ある特定の関連においては、「分泌型GDNFポリペプチド」は、すでに分泌されているポリペプチドとは対照的に、分泌されることになっているポリペプチドを意味すると理解される。
【0066】
本明細書で用いられる場合、配列同一性は、Clustal W(1.82)のデフォルト設定を用いて配列をアラインメントすることにより実施される、参照アミノ酸配列と変異型アミノ酸配列との間の同一性を指す。完全に保存された残基の数がカウントされ、参照配列における残基の数で割り算される。
【0067】
I.シグナル配列
分泌型タンパク質の分泌経路へのターゲティングは、シグナルペプチドまたはシグナル配列として知られている、短いアミノ末端配列の付着により達成される[von Heijne, (1985), J Mol Biol, 184:99-105;Kaiser and Botstein, (1986), Mol Cell Biol, 6:2382-91]。シグナルペプチド自体は、最適な機能に必要ないくつかのエレメントを含有し、それらの最も重要なものは、疎水性コンポーネントである。疎水性配列の直前に、1つまたは複数の塩基性アミノ酸がある場合が多いが、シグナルペプチドのカルボキシル末端には、シグナルペプチダーゼ切断部位を定義する単一の介在アミノ酸により分離された1対の小さい非荷電アミノ酸がある。
【0068】
好ましい哺乳動物シグナルペプチドは15~30アミノ酸長である(真核生物についての平均は23アミノ酸である)。様々なタンパク質由来のシグナルペプチドの共通の構造は、正荷電のn領域、続いて疎水性h領域、および中性だが極性のc領域として一般的に記載される。(-3,-1)ルールは、位置-3および-1(切断部位に対して)における残基が、切断が正しく起こるために小さくかつ中性でなければならないことを述べている。
【0069】
真核生物シグナル配列のn領域はほんの少しアルギニンリッチである。h領域は短くかつ非常に疎水性が高い。c領域は短く、目立ったパターンをもたない。記載されているように、-3および-1の位置は、小さくかつ中性の残基からなる。切断部位のC末端側のアミノ酸残基は真核生物においてあまり重要ではない。
【0070】
C領域において、位置-1および-3における残基が最も重要である。これらは、小さい、非荷電のアミノ酸である。位置-1において、残基が、好ましくは、A、G、S、I、T、またはCである。より好ましくは、-1の位置はA、G、またはSである。位置-3において、残基は、好ましくは、A、V、S、T、G、C、I、またはDである。より好ましくは、-3の位置は、A、V、S、またはTである。
【0071】
疎水性領域は、広範囲にわたって疎水性残基からなる。これらには、A、I、L、F、V、およびMが挙げられる。好ましくは、位置-6~-13である。この領域を構成する8個のアミノ酸のうち、少なくとも4個の残基、より好ましくは少なくとも5個、より好ましくは、7個または8個などの少なくとも6個が疎水性であるべきである。
【0072】
様々な異なるシグナルペプチドを、本発明によるGDNFコンストラクトに用いることができる。シグナルペプチドは、任意の機能性シグナルペプチド、例えば、免疫グロブリンシグナルペプチド(IgSP)などの異種性シグナルペプチドであり得る。シグナルペプチドは、ヒト、マウス、ラット、サル、ブタなどの任意の適切な種由来であり得る。好ましくは、それはヒト由来である。
【0073】
添付された実施例により証明されているように、GDNFプロペプチドなしでのIgSPの使用は、一般的に、インビトロ(in vitro)とインビボの両方で生物活性GDNFの分泌の向上を生じる。その結果は、プラスミドをトランスフェクトされた細胞を用いて再現できた。IgSPコード配列が、GDNFの天然のプレプロ部分(配列番号2)を排除する成熟タンパク質をコードする遺伝子と直接的に融合された場合、細胞は、成熟タンパク質を生物学的活性タンパク質として分泌する。ある実施形態において、コードされるシグナルペプチドは、マウスIgG重鎖遺伝子V領域である。
【0074】
添付された実施例により証明されているように、このシグナルペプチドの使用は、一般的に、コードされたGDNFの分泌の向上を生じる。その結果は、プラスミドをトランスフェクトされた細胞を用いて再現できた。IgSP遺伝子が、成熟タンパク質(すなわち、プレプロ部分を排除する)をコードする遺伝子と直接的に融合された場合でさえも、細胞は、成熟タンパク質を正しいサイズで産生する。
【0075】
好ましくは、IgSPは、マウスまたはヒト起源であり、マウスIgSPが、マウス、ラット、およびヒトにおいて機能することが知られているからである。ヒトにおける使用について、IgSPは、好ましくは、いかなる異種間副作用のリスクも低下させるためにヒト起源である。
【0076】
ヒトGDNFプレプロペプチドをコードするヌクレオチド配列は、本出願の配列番号3に示されている。そのコードされたタンパク質は、211アミノ酸長であり、配列番号4に示されている。好ましくは、本発明の関連において用いられるGDNFはヒト成熟GDNFであるが、対応するマウスおよびラット配列が用いられ得ることも同様に企図される。
【0077】
本発明の配列変異型は、コードされた生物学的活性GDNFを参照して、適切に定義される。GDNFの配列を、その成長因子の生物学的活性を変化させることなく変化させ得ることが企図される。本発明の一実施形態において、GDNFの配列変異型は、ヒトまたはマウスまたはラットGDNFのアミノ酸(配列番号1、5、および6)と少なくとも70%配列同一性を共有する、成長因子をコードする配列である。より好ましくは、配列変異型は、前記GDNFと少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも97%、より好ましくは少なくとも99%配列同一性を共有する。
【0078】
突然変異は、部位特異的突然変異誘発およびPCR媒介性突然変異誘発などの標準技術によりGDNFへ導入することができる。好ましくは、保存的アミノ酸置換が、1個または複数の推定の非必須アミノ酸残基においてなされる。「保存的アミノ酸置換」は、アミノ酸残基が、類似した側鎖を有するアミノ酸残基と置き換えられる置換である。類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当技術分野内で定義されている。これらのファミリーには、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電の極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、無極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、ベータ分岐型側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸が挙げられる。したがって、GDNFタンパク質における推定の非必須アミノ酸残基は、同じ側鎖ファミリーからの別のアミノ酸残基と置き換えられる。
【0079】
アミノ酸ファミリーの関連性はまた、側鎖相互作用に基づいて決定され得る。置換アミノ酸は、完全に保存された「強い」残基または完全に保存された「弱い」残基であり得る。保存されたアミノ酸残基の「強い」群は、以下の群の任意の1つであり得る:STA、NEQK、NHQK、NDEQ、QHRK、MILV、MILF、HY、FYW、ただし、一文字アミノ酸コードは、お互いに置換され得るアミノ酸によってグループ化されている。同様に、保存された残基の「弱い」群は、以下のいずれか1つであり得る:CSA、ATV、SAG、STNK、STPA、SGND、SNDEQK、NDEQHK、NEQHRK、VLIM、HFY、ただし、各群内の文字は一文字アミノ酸コードを表す。
【0080】
II.神経変性障害の処置のための標的組織
インビボ遺伝子治療についての1つの重要なパラメーターは、適切な標的組織の選択である。脳の領域は、神経栄養因子、特にGDNFに対するそれの保持された応答性について選択される。ヒトにおいて、神経栄養因子に対する応答を成人期へと保持するCNSニューロンには、コリン作動性前脳基底核ニューロン、嗅内皮質ニューロン、視床ニューロン、青斑核ニューロン、脊髄感覚ニューロン、および脊髄運動ニューロンが挙げられる。GDNFに対する保持された応答性を有する細胞のさらなる特性は、Ret、ならびに2つの共受容体GFRα1およびGFRα2のうちの1つの発現である。
【0081】
この複雑なニューロンのネットワークのコリン作動性コンパートメント内の異常は、AD、パーキンソン病、および筋萎縮性側索硬化症(ALS、別名ルー・ゲーリック病)を含むいくつかの神経変性障害に関連づけられている。コリン作動性前脳基底核(特に、前脳基底核のCh4領域)は特に適切な標的組織である。
【0082】
霊長類前脳内では、巨大細胞ニューロンCh1~Ch4が、大脳皮質、視床、および扁桃体の基底外側核へのコリン作動性神経支配を与える。ADなどの神経変性疾患を有する対象において、神経成長因子(NGF)受容体を有するCh4領域におけるニューロン(マイネルト基底核)は、正常対照と比較して著しい萎縮を起こす[例えば、Kobayashi et al., (1991), Mol Chem Neuropathol, 15:193-206参照]。正常な対象において、ニューロトロフィンが、発生中、交感および感覚神経細胞死を防止し、かつ成体ラットおよび霊長類においてコリン作動性ニューロン変性を防止する[Tuszynski et al., (1996), Gene Thera, 3:305314]。前脳基底核のこの領域における機能するニューロンの、結果として生じる喪失は、ADなどの神経変性状態を患っている対象により経験される認知機能低下に原因として結びつけられると考えられている[Tuszynski et al., 上記、およびLehericy et al., (1993), J Comp Neurol, 330:15-31]。
【0083】
III.投薬必要条件およびデリバリープロトコール
パーキンソン病の処置におけるGDNFの投薬に関するガイダンスは、インビボ遺伝子治療を用いるGDNFのデリバリーに関する多数の引用文献に見出すことができる。
【0084】
好ましい実施形態において、参照により本明細書に組み入れられている米国特許第9,364,427号および米国特許第9,669,154号に記載されているように、GDNFを排出する細胞は、植え込み型カプセルにより標的エリアへ導入される。
【0085】
好ましい実施形態において、投与部位は、脳の線条体、特に尾状核および/または被殻である。本発明の細胞の被殻への挿入は、脳の様々な遠位領域、例えば、淡蒼球、扁桃体、視床下核、または黒質に位置する標的部位を標識することができる。淡蒼球における細胞の形質導入は、一般的に、視床において細胞の逆行性標識を引き起こす。好ましい実施形態において、その標的部位(またはその複数のうちの1つの標的部位)は黒質である。挿入はまた、線条体と黒質の両方であり得る。
【0086】
IV.発現ベクター
本発明に用いられるGDNFの組換え発現のためのベクターの構築は、当業者へ詳細な説明を必要としない通常の技術を用いて達成され得る。しかしながら、概説として、当業者は、Maniatis et al., in Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, (NY 1982)を参考にすることができる。
【0087】
本発明に用いられるキメラ発現コンストラクトは、実施例に記載されているように、例えば、所望の断片(シグナル配列およびGDNFコード配列)をPCRにより増幅し、これらをオーバーラッピングPCRにおいて融合することにより、作製され得る。好ましいシグナル配列のいくつかは相対的に短いため、GDNFコード配列を増幅するために用いられる5’PCRプライマーは、シグナル配列をコードする配列、加えてTATAボックスおよび他の制御エレメントを含み得る。
【0088】
簡単に述べれば、組換え発現ベクターの構築は、標準ライゲーション技術を用いる。構築されたベクターにおいて正しい配列を確認するための分析について、遺伝子は、例えば、Messing et al., [(1981), Nucleic Acids Res, 9(2):309-21]の方法、Maxam and Gilbert, (1980), Methods Enzymol, 65(1):499-560)の方法、または当業者に知られているだろう他の適切な方法を用いてシーケンシングされる。
【0089】
切断された断片のサイズ分離は、例えば、Maniatis et al., [(1982), Molecular Cloning, pp. 133-4]により記載されているように、通常のゲル電気泳動を用いて実施される。
【0090】
遺伝子の発現は、転写、翻訳、または翻訳後のレベルにおいて調節される。転写開始は、遺伝子発現における初期の重要な事象である。これは、プロモーターおよびエンハンサー配列に依存し、これらの配列と相互作用する特異的な細胞因子によって影響される。多くの遺伝子の転写単位は、プロモーター、および場合によっては、エンハンサーまたは制御エレメントからなる[Banerji et al., (1981), Cell 27:299);Corden et al., (1980), Science, 209:1406);およびBreathnach and Chambon, (1981), Ann Rev Biochem,, 50:349]。レトロウイルスについて、レトロウイルスゲノムの複製に関与する調節エレメントは、末端反復配列(LTR)に存在する[Weiss et al., eds., The Molecular Biology of Tumor Viruses: RNA Tumor Viruses, Cold Spring Harbor Laboratory, (NY 1982)]。モロニーマウス白血病ウイルス(MLV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV)LTRは、プロモーターおよびエンハンサー配列を含有する[Jolly et al., (1983), Nucleic Acids Res, 11:1855;Capecchi et al., In : Enhancer and Eukaryotic Gene Expression, Gulzman and Shenk, eds., pp. 101-2, Cold Spring Harbor Laboratories (NY 1991)]。他の強力なプロモーターには、サイトメガロウイルス(CMV)に由来したプロモーターおよび他の野生型ウイルスプロモーターが挙げられる。
【0091】
いくつかの非ウイルスプロモーターのプロモーターおよびエンハンサー領域もまた記載されている[Schmidt et al., (1985), Nature, 314:285;Rossi and deCrombrugghe, (1987), Proc Natl Acad Sci USA, 84:5590-4]。静止細胞において導入遺伝子の発現を維持および増加させるための方法は、コラーゲンI型(1および2)[Prockop and Kivirikko, (1984), N Eng J Med, 311:376);Smith and Niles, (1980), Biochemistry, 19:1820; de Wet et al., (1983), J Biol Chem, 258:14385]、SV40、およびLTRプロモーターを含むプロモーターの使用を含む。
【0092】
本発明の一実施形態によれば、プロモーターは、ユビキチンプロモーター、CMVプロモーター、JeTプロモーター(米国特許第6,555,674号)、SV40プロモーター、および伸長因子1アルファプロモーター(EF1-アルファ)からなる群から選択される構成的プロモーターである。
【0093】
誘導性/抑制性プロモーターの例には、Tet-On、Tet-Off、ラパマイシン誘導性プロモーター、Mx1が挙げられる。
【0094】
導入遺伝子発現を駆動させるためにウイルスおよび非ウイルスプロモーターを用いることに加えて、エンハンサー配列が、導入遺伝子発現のレベルを増加させるために用いられ得る。エンハンサーは、それらの天然の遺伝子だけでなく、いくつかの外来遺伝子の転写活性も増加させることができる[Armelor, (1973), Proc Natl Acad Sci USA, 70:2702]。例えば、本発明において、コラーゲンエンハンサー配列が、導入遺伝子発現を増加させるために、コラーゲンプロモーター2(I)と共に用いられ得る。加えて、SV40ウイルスに見出されるエンハンサーエレメントが、導入遺伝子発現を増加させるために用いられ得る。このエンハンサー配列は、Gruss et al., (1981), Proc Natl Acad Sci USA, 78:943;Benoist and Chambon, (1981), Nature. 290:304、およびFromm and Berg, (1982), J Mol Appl Genetics, 1:457(それらの全ては参照により本明細書に組み入れられている)に記載されているように、72塩基対リピートからなる。このリピート配列は、それが様々なプロモーターと直列に存在する場合、多くの異なるウイルスおよび細胞の遺伝子の転写を増加させることができる[Moreau et al., (1981), Nucl Acids Res, 9:6047]。
【0095】
さらなる発現増強配列には、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後制御エレメント、WPRE、SP163、ラットインスリンII(Insulinll)イントロンまたは他のイントロン、CMVエンハンサー、およびニワトリβ-グロビンインスレーターまたは他のインスレーターが挙げられるが、それらに限定されない。
【0096】
導入遺伝子発現は、長期安定発現のために、プロモーター活性を調節するサイトカインを用いて、増加され得る。いくつかのサイトカインが、コラーゲン2(I)およびLTRプロモーターからの導入遺伝子の発現を調節することが報告されている[Chua et al., (1990), Connective Tiss Res., 25:161-170;Elias et al., (1990), Annals NY Acad Sci, 580:233-44;Seliger et al., (1988), J Immunol, 141: 2138-44、およびSeliger et al., (1988), J Virol. 62:619-21]。例えば、トランスフォーミング成長因子(TGF)、インターロイキン(IL)-I、およびインターフェロン(INF)は、LTRなどの様々なプロモーターにより駆動される導入遺伝子の発現を下方制御する。腫瘍壊死因子(TNF)およびTGF1は、プロモーターにより駆動される導入遺伝子の発現を上方制御し、かつ調節するために用いられる場合がある。有用であると判明し得る他のサイトカインには、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)および上皮成長因子(EGF)が挙げられる。
【0097】
コラーゲンエンハンサー配列を含むコラーゲンプロモーター(Coll(E))はまた、処置された脳において生成され得るベクターに対する任意の免疫応答を、それの免疫防御状態に関わらず、さらに抑制することにより導入遺伝子発現を増加させるために用いられ得る。加えて、ステロイド、例えばデキサメタゾンを含む抗炎症剤が、処置された宿主へ、ベクター組成物デリバリー後すぐに、および好ましくは、いかなるサイトカイン媒介性炎症応答も鎮静するまで継続して、投与され得る。サイクロスポリンなどの免疫抑制剤もまた、LTRプロモーターおよびColl(E)プロモーター-エンハンサーを下方制御し、かつ導入遺伝子発現を低下させるインターフェロンの産生を低下させるために、投与され得る。
【0098】
ベクターは、Creリコンビナーゼタンパク質をコードする配列およびLoxP配列などの配列をさらに含み得る。ニューブラスチンの一過性発現を保証するさらなる方法は、Creリコンビナーゼの細胞への投与(Daewoong et. Al., Nat Biotechnol, 19:929-33)によるかまたはそのリコンビナーゼをコードする遺伝子をウイルスコンストラクトへ組み入れることによるかのいずれかで、挿入されたDNA配列の一部の切除を生じるCre-LoxP系の使用を通してである[Plueck, (1996), Int J Exp Path, 77:269-78]。LoxP部位および構造遺伝子(この場合、ニューブラスチン)と共にウイルスコンストラクトにおいてリコンビナーゼの遺伝子を組み入れることは、およそ5日間の期間、その構造遺伝子の発現を生じる場合が多い。
【0099】
V.医薬調製物
本発明に用いられるGDNF組成物を形成するために、GDNFコード発現ベクターが、薬学的に許容される懸濁液、溶液、または乳濁液へと配置され得る。適切な媒体には、食塩水およびリポソーム調製物が挙げられる。
【0100】
より具体的には、薬学的に許容される担体には、無菌の水性または非水性の溶液、懸濁液、および乳濁液が挙げられ得る。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体には、水、アルコール性/水性溶液、乳濁液、または懸濁液、例えば、食塩水および緩衝媒体が挙げられる。非経口ビヒクルには、塩化ナトリウム溶液、デキストロース加リンゲル液(Ringer’s dextrose)、デキストロースと塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または固定油が挙げられる。
【0101】
静脈内ビヒクルには、水分と栄養の補給剤、電解質補給剤(例えば、デキストロース加リンゲル液に基づいたもの)、およびその他同種類のものが挙げられる。
【0102】
保存剤および他の添加剤もまた存在してもよく、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガス、ならびにその他同種類のものである。さらに、GDNF導入遺伝子の組成物は、その後の再構成および本発明による使用のために、当技術分野において周知されている手段を用いて凍結乾燥され得る。
【0103】
コロイド分散系もまた、標的遺伝子デリバリーのために用いられ得る。
【0104】
コロイド分散系には、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、ならびに水中油型乳剤、ミセル、混合ミセル、およびリポソームを含む脂質ベース系が挙げられる。リポソームは、インビトロおよびインビボでのデリバリービヒクルとして有用である人工膜ベシクルである。サイズが0.2~4.0μmの範囲である大型単層ベシクル(LUV)は大きな高分子を含有する水性バッファーの相当なパーセンテージをカプセル化し得ることが示されている。RNA、DNA、および無傷ビリオンが、水性内部内にカプセル化され、生物学的活性のある形で細胞へデリバリーされ得る[Fraley et al., (1981), Trends Biochem Sci, 6:77]。哺乳動物細胞に加えて、リポソームは、植物、酵母、および細菌細胞において作動可能にコードする導入遺伝子のデリバリーに用いられている。リポソームが効率的な遺伝子移入ビヒクルであるために、以下の特性が存在するべきである:(1)GDNFをコードする遺伝子の、それらの生物学的活性を損なうことなしでの高効率でのカプセル化;(2)非標的細胞と比較しての標的細胞との優先的かつ実質的結合;(3)ベシクルの水性内容物の標的細胞原形質への高効率でのデリバリー;および(4)遺伝子情報の正確かつ効果的な発現[Mannino et al., (1988), Biotechniques, 6:682]。
【0105】
リポソームの組成物は、通常、リン脂質、特に高い相転移温度のリン脂質の、通常、ステロイド、特にコレステロールと組み合わせた、組合せである。他のリン脂質または他の脂質もまた用いられ得る。リポソームの物理的特性は、pH、イオン強度、および二価カチオンの存在に依存する。
【0106】
リポソーム作製において有用な脂質の例には、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミンなどのホスファチジル化合物、スフィンゴ脂質、セレブロシド、およびガングリオシドが挙げられる。脂質部分が14~18個の炭素原子、特に16~18個の炭素原子を含有しかつ飽和している、ジアシルホスファチジルグリセロールが、特に有用である。実例となるリン脂質には、卵ホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、およびジステアロイルホスファチジルコリンが挙げられる。
【0107】
リポソームのターゲティングは、解剖学的および機構的な因子に基づいて分類することができる。解剖学的分類は、選択性のレベル、例えば、器官特異的、細胞特異的、およびオルガネラ特異的に基づいている。機構的ターゲティングは、それが受動的か能動的かに基づいて区別することができる。受動的ターゲティングは、リポソームの、洞様毛細血管を含有する器官における細網内皮系(RES)の細胞に分配する、天然の傾向を利用する。
【0108】
他方、能動的ターゲティングは、天然に存在する局在化部位以外の器官および細胞型へのターゲティングを達成するために、リポソームをモノクローナル抗体、糖、糖脂質、もしくはタンパク質などの特定のリガンドと共役させることによる、またはリポソームの組成もしくはサイズを変化させることによる、リポソームの変化を含む。
【0109】
ターゲティング化遺伝子デリバリーシステムの表面は、様々な方法で改変され得る。リポソームターゲティング化デリバリーシステムの場合、ターゲティングリガンドをリポソーム二重層と安定的に会合させて維持するために、リポソームの脂質二重層の中へ脂質基を組み入れることができる。脂質鎖をターゲティングリガンドと結合させるために様々な連結基を用いることができる。
【0110】
デリバリーシステムのさらなる例には、本発明に記載されているようなベクター粒子を産生する能力があるパッケージング細胞の組成物の治療エリアへの移植が挙げられる。そのような細胞のカプセル化および移植の方法は、当技術分野において、特にWO97/44065(Cytotherapeutics)から、知られている。レンチウイルス粒子を産生する能力があるパッケージング細胞株を選択することにより、治療エリアにおける非分裂細胞の形質導入が得られる。分裂細胞のみを形質導入する能力があるレトロウイルス粒子を用いることにより、形質導入は、治療エリアにおいて新規の分化細胞へ制限される。
【0111】
VI.細胞のカプセル化
カプセル化細胞治療は、宿主内の植え込み前に半透性生体適合性材料で細胞を包囲することによりレシピエント宿主の免疫系から細胞を隔離するという概念に基づいている。本発明は、GDNF分泌細胞が免疫隔離(immunoisolatory)カプセル内にカプセル化されているデバイスを含む。「免疫隔離カプセル」とは、カプセルが、レシピエント宿主への植え込みの際、宿主の免疫系の、デバイスのコアにおける細胞への有害効果を最小限にすることを意味する。細胞は、微小孔性(microporous)膜により形成される植え込み型ポリマーカプセル内にそれらを封入することにより宿主から免疫隔離される。このアプローチは、宿主と植え込まれた組織との間の細胞間接触を防止して、直接的提示による抗原認識を排除する。用いられる膜もまた、抗体および補体などの分子の拡散をそれらの分子量に基づいて調節するように調整して作製することができる[Lysaght et al., (1994), J Cell Biochem, 56:196-204、Colton, (1996), Trends Biotechnol, 14:158-62]。カプセル化技術を用いて、細胞は、免疫抑制薬の使用の有無に関わらず、免疫拒絶なしに宿主へ移植することができる。有用な生体適合性ポリマーカプセルは、通常、液体媒体中に懸濁しているかまたは固定化マトリックス内に固定化されているかのいずれかで細胞を含有するコア、および単離細胞を含有せず、生体適合性であり、かつ有害な免疫学的攻撃からコア内の細胞を保護するのに十分である、選択透過性マトリックスまたは膜(「ジャケット」)という周囲または末梢領域を含有する。カプセル化は、免疫系のエレメントがカプセルに進入するのを邪魔し、それにより、カプセル化細胞を免疫破壊から保護する。カプセル膜の半透性の性質はまた、目的の生物学的活性分子がカプセルから周囲の宿主組織へ容易に拡散することを可能にする。
【0112】
カプセルは、生体適合性材料から作ることができる。「生体適合性材料」は、宿主における植え込み後、カプセルの拒絶を生じまたはそれを、例えば分解を通して、動作不能にするのに十分な有害宿主応答を誘発しない材料である。生体適合性材料は、宿主の免疫系のコンポーネントなどの大分子に対して相対的に不透過性であるが、インスリン、成長因子、および栄養素などの小分子に対して透過性であり、同時に代謝廃棄物が除去されるのを可能にする。様々な生体適合性材料が、本発明の組成物による成長因子のデリバリーに適している。様々な外表面形態ならびに他の機構的および構造的特性を有する、多数の生体適合性材料が知られている。好ましくは、本発明のカプセルは、米国特許第9,364,427号および第9,669,154号(どちらも参照により本明細書に組み入れられている)により記載されたものと類似している。そのようなカプセルは、宿主細胞系の有害効果を最小限にしながら、代謝産物、栄養素、および治療用物質の通過を可能にする。生体適合性材料のコンポーネントは、周囲の半透膜および内部の細胞支持足場を含み得る。好ましくは、形質転換細胞が足場に播種され、それが選択透過性膜によりカプセル化される。繊維状細胞支持足場は、アクリル、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセトニトリル、ポリエチレンテレフタレート(teraphthalate)、ナイロン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリブトエステル、絹、綿、キチン、カーボン、または生体適合性金属からなる群から選択される任意の生体適合性材料から作られ得る。また、接着加工繊維構造(bonded fiber structures)を細胞植え込みに用いることができる(参照により本明細書に組み入れられている米国特許第5,512,600号)。生体適合性ポリマーには、ポリ(乳酸) PLA、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)(poly(lactic-coglycolic acid)) PLGA、およびポリ(グリコール酸) PGA、ならびにそれらの等価物を含むものが挙げられる。移植された細胞が接着し得る表面を提供するために泡状足場が用いられている(参照により本明細書に組み入れられているWO98/05304)。織りメッシュチューブは、血管移植片として用いられている(参照により本明細書に組み入れられているWO99/52573)。追加として、コアは、ハイドロゲルから形成された固定化マトリックスで構成することができ、それは、細胞の位置を安定化させる。ハイドロゲルは、水で実質的に構成された、ゲルの形をとる架橋型親水性ポリマーの3次元ネットワークである。
【0113】
周囲の半透膜を製造するために様々なポリマーおよびポリマーブレンドを用いることができ、それには、ポリアクリレート(例えば、アクリル共重合体)、ポリビニリデン、塩化ビニル共重合体、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリスルホン(例えば、ポリエーテルスルホン)、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル、ポリ(アクリロニトリル-co-塩化ビニル)[poly(acrylonitrile/covinyl chloride)]、加えて、それらの誘導体、共重合体、および混合物が挙げられる。好ましくは、周囲の半透膜は、生体適合性半透性中空繊維膜である。そのような膜、およびそれらを作製する方法は、米国特許第5,284,761号および米国特許第5,158,881号(どちらも参照により本明細書に組み入れられている)により開示されている。周囲の半透膜は、米国特許第4,976,859号または米国特許第4,968,733号(どちらも参照により本明細書に組み入れられている)により記載されたものなどのポリエーテルスルホン中空繊維から形成される。代替の周囲の半透膜材料は、ポリ(アクリロニトリル-co-塩化ビニル)である。
【0114】
カプセルは、生物学的活性を維持しかつ産物または機能のデリバリーのためのアクセスを提供するのに適切な任意の立体配置であり得、それには、例えば、円柱状、四角形、円盤状、パッチ型、卵形、星状、または球状が挙げられる。さらに、カプセルは、らせん状に巻かれ、またはメッシュ様もしくは入れ子構造へと巻かれ得る。カプセルが、植え込まれた後回収されることになっている場合には、カプセルの植え込みの部位からの遊走をもたらす傾向にある立体配置、例えば、レシピエント宿主の血管中を移動するのに十分小さい球状カプセルなどは好ましくない。四角形、パッチ、円盤、円柱、および平らなシートなどのある特定の形が、より高い構造的完全性を与え、回収が望まれる場合には好ましい。
【0115】
マクロカプセル(macrocapsule)が用いられる場合、各デバイスにおいて、好ましくは103個から108個の間の細胞がカプセル化され、最も好ましくは、105~107個の細胞がカプセル化される。投薬量は、より少ないまたはより多い数のカプセルを植え込むことにより調節され得、好ましくは患者あたり1個から10個の間のカプセルである。
【0116】
足場は、細胞外マトリックス(ECM)分子でコーティングされ得る。細胞外マトリックス分子の適切な例には、例えば、コラーゲン、ラミニン、およびフィブロネクチンが挙げられる。足場の表面はまた、細胞の接着を増強するために電荷を与えるようにプラズマ照射で処理することにより改変され得る。
【0117】
カプセルをシールする任意の適切な方法が用いられ得、それには、ポリマー接着剤の使用、または圧着、節止め、およびヒートシールが挙げられる。加えて、例えば、参照により本明細書に組み入れられている米国特許第5,653,687号に記載されているように、任意の適切な「ドライ」シール方法もまた用いることができる。
【0118】
カプセル化細胞デバイスは、公知の技術により植え込まれる。本発明のデバイスおよび方法について多くの植え込み部位が企図される。これらの植え込み部位には、脳、脊髄を含む中枢神経系[米国特許第5,106,627号、米国特許第5,156,844号、および第5,554,148号(それらの全ては参照により本明細書に組み入れられている)参照]、ならびに眼の房水および硝子体液(参照により本明細書に組み入れられているWO97/34586)が挙げられるが、それらに限定されない。
【0119】
ARPE-19細胞株は、カプセル化細胞に基づいたデリバリー技術について優れたプラットフォーム細胞株であり、カプセル化されていない細胞に基づいたデリバリー技術についても有用である。ARPE-19細胞株は頑丈である(すなわち、その細胞株は、中枢神経系または眼内環境における植え込みなどのストリンジェントな条件下で生存可能である)。ARPE-19細胞は、治療目的の物質を分泌するように遺伝子改変することができる。ARPE-19細胞は、相対的に長い寿命を有する。ARPE-19細胞はヒト起源である。さらに、カプセル化ARPE-19細胞は、良いインビボでのデバイス生存能を有する。ARPE-19細胞は、効果的な量の成長因子をデリバリーすることができる。ARPE-19細胞が誘発する宿主免疫反応は無視できる程度である。さらに、ARPE-19細胞は非腫瘍形成性である。
【0120】
カプセルのCNSへの植え込みのための方法および装置は、参照により本明細書に組み入れられている米国特許第5,487,739号に記載されている。
【0121】
一態様において、本発明は、以下を含む生体適合性カプセルに関する:標的細胞の感染のためのウイルスベクターを分泌する生きているパッケージング細胞を含むコアであって、ウイルスベクターが本発明によるベクターである、コア;および前記コアを囲む外側のジャケットであって、前記ジャケットが透過性生体適合性材料を含み、前記材料が、およそ100nm直径のレトロウイルスベクターの通過を可能にして、前記カプセルからの前記ウイルスベクターの放出を可能にするように選択された多孔度を有する、ジャケット。
【0122】
好ましくは、コアは追加として、マトリックス、マトリックスによって固定化されることになっているパッケージング細胞を含む。一実施形態によれば、ジャケットは、ハイドロゲルまたは熱可塑性材料を含む。
【0123】
パッケージング細胞のカプセル化のための方法およびデバイスは、参照により本明細書に組み入れられている米国特許第6,027,721号に開示されている。
【0124】
VII.医学的使用および処置の方法
一態様において、本発明は、神経系障害の処置のための薬物の調製のための本発明によるベクターの使用に関する。神経系障害は、末梢神経系または中枢神経系の障害であり得る。
【0125】
処置とは、意図された治癒的処置だけでなく、防止的(絶対的防止ではない)または予防的処置も意味する。処置はまた寛解性または対症的であり得る。
【0126】
好ましくは、CNS障害は、神経変性または神経性疾患である。神経変性または神経性疾患は、末梢神経、髄質、脊髄の外傷性病変、脳虚血性ニューロン損傷、ニューロパチー、末梢性ニューロパチー、神経因性疼痛、アルツハイマー病、ハンチントン病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、認知症と関係した記憶障害などの病変性および外傷性ニューロンを含む疾患であり得る。多発性硬化症の神経変性コンポーネントもまた本発明に従って処置可能である。
【0127】
本発明の1つの好ましい実施形態によれば、神経変性疾患はパーキンソン病である(実施例参照)。
【0128】
別の好ましい実施形態において、疾患は、筋萎縮性側索硬化症または脊髄損傷である。
【0129】
本発明のベクターはまた、網膜色素変性、黄斑変性、緑内障、糖尿病性網膜症などの眼疾患の処置に用いることができる。
【0130】
神経系疾患は、それを必要とする個体へ本発明の治療的有効量または本発明の医薬組成物の治療的有効量を投与することにより処置され得る。
【0131】
パーキンソン病について、カプセルおよびベクターのデリバリーは、上記の「投薬必要条件およびデリバリープロトコール」に記載されている。ALSおよび脊髄損傷について、GDNF分泌細胞またはウイルスベクターを含むカプセルは、髄腔内へ、脳室内に、または腰椎内にデリバリーされ得る。脊髄損傷について、デリバリーはまた、病変性および/外傷性ニューロンを有するエリアに向けてであり得る。カプセルまたはベクターのデリバリーは、下位運動ニューロンに近い頚/腰椎膨大に向けられ得る。特にALSについて、本発明の発現コンストラクトをコードする改変型狂犬病ウイルスが罹患筋肉組織へ注射され得、それにより罹患運動ニューロンへの逆行性輸送が達成される。
【0132】
本発明は、インビボ遺伝子治療に焦点を合わせているが、神経系疾患が、それを必要とする個体へ以下を移植することにより処置され得ることもまた企図される:
i.本発明による形質導入細胞の治療的有効量;
ii.形質導入細胞を含む植え込み型デバイス;または
iii.パッケージング細胞株を含む生体適合性デバイス。
【0133】
前記移植は、自家移植片、同種移植片、または異種移植片を含み得る。
【0134】
全部ではないが、たいてい、眼疾患および障害は、以下の3つの型の徴候のうちの1つまたは複数を伴う:(1)血管新生、(2)炎症、および(3)変性。これらの障害を処置するために、本発明のウイルスベクター、治療用細胞、およびカプセル化細胞がGDNFの眼へのデリバリーを可能にする。
【0135】
本発明によるベクターのデリバリーは、網膜下注射、硝子体内注射、または経強膜的(transcleral)注射を用いて行われ得る。
【0136】
例えば、糖尿病性網膜症は血管新生および網膜変性により特徴づけられる。本発明は、眼内に、好ましくは硝子体内にか、または眼窩周囲に、好ましくはテノン嚢下領域にかのいずれかに、GDNFをデリバリーするデバイスを植え込むことにより、糖尿病性網膜症を処置することを企図する。この適応症について、カプセル、裸の細胞、またはウイルスベクターの硝子体へのデリバリーが最も好ましい。網膜症には、糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症、および毒性網膜症が挙げられるが、それらに限定されない。
【0137】
ぶどう膜炎は、炎症および二次性変性を含む。本発明は、GDNFを分泌するカプセルもしくは裸の細胞の眼内、好ましくは硝子体もしくは前眼房内の植え込みにより、または本発明によるベクターを硝子体へ投与することにより、ぶどう膜炎を処置することを企図する。
【0138】
網膜色素変性は、比較上、一次性網膜変性により特徴づけられる。本発明は、GDNFを分泌するデバイスもしくは裸の細胞の眼内、好ましくは硝子体内の留置により、または本発明によるベクターを硝子体へ投与することにより、網膜色素変性を処置することを企図する。
【0139】
加齢黄斑変性は、血管新生と網膜変性の両方を含む。本発明は、本発明のカプセルもしくは裸の細胞を用いて、GDNFを眼内に、好ましくは硝子体にデリバリーすることにより、または本発明のベクターを用いて、GDNFを眼内に、好ましくは硝子体へデリバリーすることにより、この障害を処置することを企図する。加齢黄斑変性には、ドライ型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性、および近視性変性が挙げられるが、それらに限定されない。
【0140】
緑内障は、眼圧の増加および網膜神経節細胞の喪失により特徴づけられる。本発明において企図される緑内障についての処置は、カプセルか、ベクターか、または裸の細胞かのいずれかにより眼内に、好ましくは硝子体内にデリバリーされる、緑内障関連損傷から網膜細胞を保護するGDNFのデリバリーを含む。
【0141】
本発明は、多くの眼の疾患および障害に関連しかつ重度の視力低下の大部分の原因となる状態である、眼新血管新生(neovascularization)の処置に有用であり得る。例えば、本発明者らは、糖尿病および多くの他の疾患における失明の主な原因である、網膜虚血関連眼新血管新生;患者に角膜移植の失敗を生じやすくする、角膜新血管新生、ならびに糖尿病性網膜症、網膜中心静脈閉塞症、およびおそらく、加齢黄斑変性に関連した新血管新生の処置を企図する。
【0142】
本発明の一実施形態において、生物活性GDNFを分泌する生細胞は、カプセル化され、眼の硝子体へ外科的に挿入される(球後麻酔下で)。硝子体留置について、デバイスは、強膜を通って植え込まれ得、デバイスまたはテザーの一部分が強膜から突出している。最も好ましくは、デバイスの全体が硝子体内に植え込まれ、デバイスのどの部分も強膜の中へまたはそれを通って突出していることはない。好ましくは、デバイスは、強膜(または他の適切な眼構造)に繋留されている。テザーは、縫合糸穴、または任意の他の適切なアンカリング手段を含む(例えば、米国特許第6,436,427号参照)。デバイスは、所望の予防または治療を達成するのに必要である限り、硝子体内に留まり続け得る。例えば、そのような治療には、ニューロンもしくは光受容器生存もしくは修復の促進、または網膜もしくは脈絡膜新血管新生の阻害および/もしくは逆転、加えて、ぶどう膜、網膜、および視神経炎症の阻害が挙げられる。この実施形態はGDNFを網膜へデリバリーするために好ましい。
【0143】
硝子体留置に関して、GDNFは網膜またはRPEへデリバリーされ得る。
【0144】
別の実施形態において、細胞負荷デバイスは、眼窩周囲に、テノン嚢として知られている空間の内または下へ植え込まれる。この実施形態は、硝子体への植え込みより侵襲性が低く、したがって、一般的に好まれる。この投与経路はまた、GDNFのRPEまたは網膜へのデリバリーを可能にする。この実施形態は、脈絡膜新血管新生ならびに視神経およびぶどう膜の炎症を処置するのに特に好ましい。一般的に、この植え込み部位からのデリバリーは、脈絡膜脈管構造、網膜脈管構造、および視神経へのGDNFの循環を可能にする。
【0145】
この実施形態によれば、黄斑変性(脈絡膜新血管新生)を処置するために、GDNFの脈絡膜脈管構造への眼窩周囲デリバリー(テノン嚢下へ植え込むこと)が好ましい。
【0146】
本発明のデバイスおよび方法を用いて、GDNFを直接的に脈絡膜脈管構造へ(眼窩周囲へ)または硝子体へ(眼内へ)デリバリーすることは、はっきりと限定されていないまたは潜在性の脈絡膜新血管新生の処置を可能にし得る。それはまた、再発性脈絡膜新血管新生を補助的または維持療法によって低下させまたは防止する方法を提供し得る。
【0147】
投薬量は、当技術分野において知られている任意の適切な方法により変わり得る。これは、(1)デバイスあたりの細胞の数、(2)眼あたりのデバイスの数、または(3)細胞あたりのNTN産生のレベルを変化させることを含む。デバイスあたり103~108個の細胞、より好ましくは、デバイスあたり5×104~5×106個の細胞の使用が好ましい。
【0148】
VIII.宿主細胞
一態様において、本発明は、本発明によるベクターを形質導入された単離宿主細胞に関する。これらの細胞は、好ましくは、哺乳動物宿主細胞であり、これらが、コードされたGDNFを正しく分泌しかつプロセシングする能力があるからである。
【0149】
好ましい種には、げっ歯類(マウス、ラット)、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、サル、ヒトからなる群が挙げられる。
【0150】
本発明のベクターでの形質導入のための良い候補である初代培養物および細胞株の例には、CHO、HEK293、COS、PC12、HiB5、RN33b、神経細胞、胎児細胞、ARPE-19、MDX12、C2C12、HeLa、HepG2、線条体細胞、ニューロン、アストロサイト、介在ニューロンからなる群が挙げられる。
【0151】
本発明はまた、GDNFを過剰発現するように遺伝子改変され、および患者に移植されて、生物活性GDNFポリペプチドを局所的にデリバリーすることができる、裸のまたはカプセル化された細胞によるGDNFのバイオデリバリーに適した細胞に関する。そのような細胞は、広く治療用細胞と呼ばれ得る。
【0152】
本発明の好ましい実施形態において、治療用細胞株は、異種性不死化遺伝子の挿入で不死化されていない。本発明が、裸の細胞としてかまたは好ましくはカプセル化細胞としてかに関わらず、細胞移植に特に適している細胞に関する場合、そのような不死化細胞株はあまり好ましくなく、それらが、ヒト体内において無制御様式で増殖し始めて、潜在的に腫瘍を形成する内在的リスクがあるためである。
【0153】
好ましくは、治療用細胞株は、接触阻止性細胞株である。接触阻止性細胞株とは、ペトリディッシュにおいて培養された場合、コンフルエンス(confluency)まで成長し、その後、分裂を実質的に停止する細胞株を意味する。これは、限られた数の細胞が単層を抜け出す可能性を排除しない。接触阻止性細胞はまた、例えばカプセル内において、3Dで成長し得る。また、カプセル内で、細胞は、コンフルエンスまで成長し、その後、増殖速度をかなり落とし、または完全に分裂を停止する。特に好ましい細胞型には、本質的に接触阻止性であり、および培養中安定な単層を形成する上皮細胞が挙げられる。
【0154】
さらにより好ましいのは、網膜色素上皮細胞(RPE細胞)である。RPE細胞の供給源は、哺乳動物網膜からの初代細胞単離による。RPE細胞を収集するためのプロトコールは十分定義されており[Li and Turner, (1988), Exp Eye Res, 47:911-7;Lopez et al., (1989), Invest Ophthalmol Vis Sci, 30:586-8]、日常的方法論と考えられている。RPE細胞同時移植の発表された報告の大部分において、細胞はラットに由来している[Li and Turner, (1988);Lopez et al., (1989)]。本発明によれば、RPE細胞株はヒトに由来している。単離された初代RPE細胞に加えて、培養されたヒトRPE細胞株が本発明の実践に用いられ得る。
【0155】
別の実施形態において、治療用細胞株は、好ましくはTERT、SV40T、またはvmycで不死化された、ヒト線維芽細胞株、ヒトアストロサイト細胞株、ヒト中脳細胞、およびヒト上皮細胞株からなる群から選択される。
【0156】
不死化ヒトアストロサイト細胞株を作製するための方法は、以前に記載されている[Price et al., (1999), In Vitro Cell Dev Biol Anim, 35(5):279-88]。このプロトコールは、アストロサイト細胞株を作製するために用いられ得る。
【0157】
追加のヒトアストロサイト細胞株を作製するために、好ましくは、そのプロトコールの以下の3つの改変がなされる:
・5~12週齢胎児から解剖されたヒト胎児脳組織が、12~16週齢の組織の代わりに用いられ得る。
・不死化遺伝子v-mycまたはTERT(テロメラーゼ)が、SV40 T抗原の代わりに用いられ得る。
・レトロウイルス遺伝子移入が、リン酸カルシウム沈澱技術によるプラスミドでのトランスフェクションの代わりに用いられ得る。
【0158】
IX.GDNF産生細胞のための支持マトリックス
本発明は、哺乳動物の神経系または眼への植え込み前に、インビトロでGDNF産生細胞を支持マトリックス上で培養することをさらに含む。植え込み前の細胞のマイクロキャリアへの事前接着は、移植細胞の長期生存能を増強し、かつ長期の機能的利益を提供するために設計される。
【0159】
移植細胞、すなわち、移植GDNF分泌細胞の長期生存能を増加させるために、移植される細胞を、移植前にインビトロで支持マトリックスへ付着させることができる。支持マトリックスを構成し得る材料には、インビトロインキュベーション後、細胞が接着する材料であって、その上で細胞が成長することができ、かつ植え込まれた細胞を破壊しまたは別の方法でそれらの生物学的もしくは治療的活性に干渉するだろう毒性反応も炎症反応も生じることなく哺乳動物身体へ植え込むことができる、材料が挙げられる。そのような材料は、合成もしくは天然の化学物質または生物学的起源をもつ物質であり得る。
【0160】
マトリックス材料には、ガラスおよび他の酸化ケイ素、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリアルギン酸、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、アクリルニトリルポリマー、ポリアクリルアミド、ポリカーボネート、ポリペンテン(polypentent)、ナイロン、アミラーゼ、天然および修飾ゼラチンならびに天然および修飾(codified)コラーゲン、天然および修飾ポリサッカライド、例えば、デキストランおよびセルロース(例えば、ニトロセルロース)、寒天、ならびに磁鉄鉱が挙げられるが、それらに限定されない。吸収性または非吸収性のいずれの材料も用いられ得る。細胞外マトリックス材料も意図され、それは、当技術分野において周知されている。細胞外マトリックス材料は、商業的に入手され得、またはそのようなマトリックスを分泌する細胞を成長させ、その分泌細胞を取り出し、移植されることになっている細胞が、そのマトリックスと相互作用しかつ接着することを可能にすることにより、調製され得る。移植される細胞がその上で成長しまたはその細胞が混合されるマトリックス材料は、RPE細胞の常在性産物であり得る。したがって、例えば、マトリックス材料は、植え込まれるRPE細胞によって産生しかつ分泌される、細胞外マトリックスまたは基底膜材料であり得る。
【0161】
細胞接着、生存、および機能を向上させるために、固体マトリックスは、細胞接着、成長、または生存を促進することが当技術分野において知られている因子でそれの外側表面上をコーティングされてもよい。そのような因子には、細胞接着分子、細胞外マトリックス、例えば、フィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、エラスチン、グリコサミノグリカン、もしくはプロテオグリカン、または成長因子が挙げられる。
【0162】
あるいは、植え込まれる細胞が付着する固体マトリックスが多孔性材料で構築されている場合には、1つまたは複数の成長因子または生存促進因子がマトリックス材料へ組み入れられ得、インビボで植え込み後、そのマトリックス材料からそれらがゆっくり放出される。
【0163】
本発明による支持体に付着している場合、移植に用いられる細胞は、一般的に、支持体の「外表面」上にある。支持体は固体または多孔性であり得る。しかしながら、多孔性支持体においてさえも、細胞は、介在する膜または他のバリアなしに外部環境と直接的に接触している。したがって、本発明によれば、細胞は、細胞が接着する表面が、粒子またはビーズ自体の外側にあるのではない多孔性支持体材料の内側のフォールディングまたは畳み込みの形をとる場合でさえも、支持体の「外表面」上にあると考えられる。
【0164】
支持体の立体配置は、好ましくは、ビーズにおいてのように、球状であるが、円柱状、楕円形、平らなシートまたはストリップ、針またはピンの形、およびその他同種類のものであり得る。支持体マトリックスの好ましい型は、ガラスビーズである。別の好ましいビーズはポリスチレンビーズである。
【0165】
ビーズサイズは、直径が約10μmから1mmまで、好ましくは約90μmから約150μmまでの範囲であり得る。様々なマイクロキャリアビーズの記載について、例えば、Fisher Biotech Source 87-88, Fisher Scientific Co., (1987), pp. 72-75;Sigma Cell Culture Catalog, Sigma Chemical Co., St, Louis, (1991), pp. 162-163;Ventrex Product Catalog, Ventrex Laboratories, (1989)参照;これらの参考文献は、参照により本明細書に組み入れられている。ビーズサイズの上限は、望ましくない宿主反応(移植された細胞の機能に干渉しまたは周囲組織へ損傷を引き起こし得る)のビーズの刺激によって決定づけられ得る。ビーズサイズの上限はまた、投与の方法により決定づけられ得る。そのような限界は、当業者により容易に決定可能である。
【0166】
X.GDNFのインビトロ産生
別の態様において、本発明は、6ヶ月間より長い間、20μg GDNF/10
5細胞/24時間を超える量で、GDNFまたはその機能性等価物を分泌する能力がある哺乳動物細胞に関する。
図2に示されているように、最良のプラスミドをトランスフェクトされたARPE-19細胞は、20μg GDNF/10
5細胞/24時間を超えて、産生する。発現は、WPREなどのエンハンサーエレメントの包含によりさらにもっと増加し得る(米国特許第6,136,597号)。先行技術のBHK細胞[Hoane et al., (2000), Exp Neurol. 162:189-93]と比較して、これらの量は非常に高い。
【0167】
そのような高産生細胞は、ARPE-19細胞、CHO細胞、BHK細胞、R1.1細胞、COS細胞、キラー細胞、ヘルパーT細胞、細胞傷害性Tリンパ球およびマクロファージからなる群から選択され得る。HEK293細胞およびHiB5細胞もまた適切な産生細胞である。
【0168】
したがって、GDNFまたはそのトランケート型もしくは突然変異型または生物活性配列変異型は、これらの細胞を培養し、培地からGDNFを回収することによりかなりの量を産生することができる。哺乳動物の産生されたGDNFは、生物活性であるためにリフォールディングされる必要がない。さらなる利点は、GDNFが、成熟ペプチドとして分泌され、プロペプチドを含まないことである(
図3参照)。
【0169】
これらのGDNF産生細胞は、同様に、治療を目的として用いることができ、生物活性GDNFの局在化デリバリーのために、裸の細胞として(支持され、または支持されずに)かまたはカプセル化細胞としてかのいずれかで植え込むことができる。
【実施例】
【0170】
1.目的
本研究の目的は、パーキンソン病の処置のための植え込みを目指すカプセル化細胞(EC)バイオデリバリーデバイスのための、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)分泌が増加した新しい細胞株を開発することであった。
【0171】
2.概要
新しい発現技術を用いて、高レベルのGDNF分泌を有するヒトARPE-19細胞由来のクローンを開発した。クローンを、GDNF分泌および生存の性質のインビトロおよびインビボ試験によって選択した。GDNFの正しいプロセシングを、インビトロで、加えて、GDNF産生クローンを含むデバイスを囲む組織において、確認した。
【0172】
インビトロおよびインビボ分析の結果から、2つのクローン、ppG-120およびppG-125を、パーキンソン病のラットモデル、6-ヒドロキシ-ドーパミン(6-OHDA)病変モデルにおける神経保護効果の試験[Lund University(Lund、Sweden)におけるAnders Bjoerklundのグループとの共同研究]のために選択した。
【0173】
その2つのクローンは、ラットモデルにおいて有意かつ同等の神経保護効果を示した。クローンppG-125は、植え込み前、外植後、および組織中において、最も高いレベルのGDNFを放出したため、さらなる開発のための第一の臨床細胞候補として選択される。
【0174】
3.GDNF発現細胞クローンの確立
接触阻止性網膜色素上皮細胞株ARPE-19[Dunn et al., (1996), Exp Eye Res, 62:155-69]によるGDNFの発現を増強するために以下の2つの技術を用いた:
1)GeneArt AG(Regensburg、Germany)により開発されたアルゴリズムを用いたGDNF ORFのコドン最適化;および
2)スリーピングビューティトランスポゾンシステムを用いた標的配列組込みの増強[Ivics et al., (1997), Cell, 91:501-10]。
【0175】
3.1.ベクター開発
完全長ヒトGDNF(プレプロ配列を含む)およびIgSP-GDNFキメラバージョン(プレプロ領域が、マウスIg重鎖遺伝子V領域のシグナルペプチドをコードする配列によって置換されている)を、GeneArt AG(Regensburg、Germany)によりコドン最適化し、pCAn発現ベクターへCAプロモーター調節下にクローニングした。GDNFまたはIgSP-GDNFおよびネオマイシン抵抗性発現カセットからなる大きい断片を、pCAnコンストラクトから切除し、ベクターpT2BH[スリーピングビューティトランスポサーゼに対する基質ベクターとしての役割も果たす発現ベクター(Ivics et al., (1997), Cell, 91:501-10)]へ挿入して、プラスミドpT2.CAn.hoGおよびpT2.CAn.hoIgSP.GDNFを作製した(
図1参照)。
【0176】
3.2.トランスフェクションおよび選択
ARPE-19[自然に不死化したヒトRPE細胞株(Dunn et al., (1996), Exp Eye Res, 62:155-69)]に、プラスミドpT2.CAn.hoGおよびpCMV-SB-100xを同時トランスフェクトした。後者のプラスミドは、機能亢進バージョンのスリーピングビューティトランスポサーゼを発現する。そのプラスミドは、真核生物選択マーカーカセットを含有せず、したがって、意図的に一過性のみ発現する。一過性発現ウィンドウは、スリーピングビューティトランスポゾン、すなわち、逆方向反復スリーピングビューティ基質配列およびこれらの反復内に含有される配列、の活発なトランスポザーゼ媒介性組込みを可能にする。その後、トランスフェクトされた細胞を、G418選択に供し、単一コロニーを単離し、増殖させた。
【0177】
4.インビトロ特徴づけ
高レベルのGDNFを産生するクローンは、通常の細胞培養およびインビトロでのカプセル化中において長期GDNF発現をデリバリーするそれらの能力によりさらに特徴づけられた。2つの異なるベクターコンストラクトにより得られた細胞株からのGDNFのプロセシングを、GDNFウェスタンブロッティングにより分析した。
【0178】
4.1.コンフルエント2D培養物におけるGDNF放出
8週間のコンフルエント培養中の形態およびGDNF放出を評価する長期2D培養試験のために47個のGDNFクローンを選択した。最良のクローンの選択からのGDNF ELISA結果は
図2に示されている。最良のクローンは、コンフルエント培養において、最大25μg/ml/24時間を産生する。細胞が毎週継代される培養において、最良のクローン(SBhoGDNF-125)は、6ヶ月間より長い間、20μg GDNF/10
5細胞/24時間を産生した(結果未呈示)。これは、非最適化GDNFおよび標準トランスフェクション技術を用いて以前作製されたGDNFクローンと比較して、およそ10倍の分泌レベルである。
【0179】
4.2.異なるベクターコンストラクトからのGDNFのプロセシング
ヒトGDNF cDNAは、211個のアミノ酸残基のプレプロペプチドをコードし、それは、プロセシングされて、ジスルフィド結合型二量体糖タンパク質を生じる。成熟GDNFは、2つの134個のアミノ酸残基のサブユニットを含有すると予想される。GDNF配列は、2つの潜在的グリコシル化部位を含有する。非グリコシル化単量体の推定分子量(MW)はおよそ15.1kDaである。
【0180】
2つの異なるベクターコンストラクトにより得られたクローンから分泌されたGDNFのプロセシングを評価するために、それぞれの1つを、GDNFウェスタンブロット(WB)分析のために選択した。クローンARPE-19/pT2.CAn.ho.IgSP.GDNF #2およびARPE-19/pT2.CAn.hoG #3からの条件培地を、コンフルエント2D培養において1週間後、採取した。CA-9クローンからの試料およびR&D system製(カタログ番号212GD)の組換えGDNFを参照として含めた。
【0181】
GDNF WB結果は、クローンの両方から産生されたGDNFが、R&D system製の精製組換えGDNFと類似してプロセシングされたことを示した。クローンから分泌されたGDNFタンパク質は、主に、プロセシングされた成熟GDNFのグリコシル化単量体および二量体として存在した(
図3)。非グリコシル化GDNF(単量体および二量体)のより小さい画分もまた存在した。プロGDNF(非グリコシル化単量体の推定MW:21.6kDa)は検出されなかった。
【0182】
4.3.デバイスからのGDNF放出
4.3.1.ECバイオデリバリーデバイスにおける細胞のカプセル化
デバイス製造能力、充填、生存能、および再現性を向上させるために、新しいカスタムのポリスルホン(PS)膜(Medivators、Plymouth、MN)およびポリエチレンテレフタレート(PET)糸の足場(Gloriana、Providence、RI)が実装されている。長さ7mmの膜が糸足場に取り付けられているデバイスを、構築した。充填前に、細胞または親RPE細胞を成長培地において培養した。細胞を解離させ、HE-SFM(Invitrogen、Odense、DK)中12,500個の細胞/μlの密度で懸濁した。4μlの細胞溶液(合計5×104個の細胞)を各デバイスへ注入した。デバイスを、HE-SFM中、37℃および5%CO2で保持した。
【0183】
4.3.2.インビトロでのカプセル化細胞クローンからのGDNF分泌
合計16個のクローンを、3D培養(デバイスをインビトロで保持する)において4週間にわたって分析した。毎週、培地試料(4時間のインキュベーション後、収集する)を、各デバイスから採取した。その試料を-80℃で凍結し、全ての試料を、GDNF ELISAにより、4週間の終了後、同時に分析した。結果は
図4に示されている。いくつかのクローンは、等しく良い性能を示している(2、20、25、48、68、および25b)。ppGDNFクローンは、前駆体分子の細胞内プロセシングにおける差によって、IgSP-GDNFクローンより有意に多いGDNFを分泌している。
図4におけるCA-9細胞株は、非最適化GDNFおよび標準トランスフェクション技術を用いて、以前、作製された。最良のコドン最適化されたスリーピングビューティクローンは、CA-9の最高およそ25倍まで産生し、2つの発現最適化技術を組み合わせて用いたクローンの優れた性能を示している。
【0184】
5.選択されたクローンのインビボ試験 - 2週間
3D試験から9個のクローンを選択した。7個のクローンは、pT2.CAn.hoGベクター(ppG #2、20、25、48、68、120、および125)に由来し、2個のクローンは、pT2.CAn.ho.IgSP.GDNFベクター(IgSP 2gおよび39gb)に由来した。IgSP-GDNFクローンを除く全てのクローンは、3D培養において4週間後、>700μ(ji)g/mlを産生した。IgSP-GDNFクローン(2gおよび39gb)は、このキメラ分子が、インビトロ3D試験とは対照的に、インビボでppGDNFより良い性能を示すかどうかを試験するために、含まれた。選択基準はまたデバイスにおける細胞形態でもあった。したがって、異なる細胞の形および成長パターンを有する高産生株クローンを、インビボ研究のために選択した。
【0185】
5.1.実験手順
9個の新しいクローンおよび参照としてのCA-9で充填されたデバイスを、定位固定フレームに備え付けられた植え込みカニューレにより、ラット線条体(n=30 ラット)に両側性に植え込んだ(n=6 各クローンを含むデバイス)。ブレグマに対する植え込み座標は以下であった:AP:0.0、ML:±3.2、DV:-7.5、TB:-3.3。
【0186】
2週間後、ラットに、深い麻酔をかけ、断頭し、脳を取り出した。デバイスを外植し、HE-SFM中37℃でインキュベートした。次の日、GDNF放出の決定のための培地試料(4時間のインキュベーション)を収集した。培地試料中のGDNF濃度をGDNF ELISAにより決定した。デバイスを、ホルマリン中で固定し、Historesin中に包埋し、切片化した。細胞形態を、エオシンおよびヘマトキシリン(HE)染色されたデバイス切片上で評価した。
【0187】
各群における3匹のラットからの新鮮凍結脳においてデバイスの周りで組織パンチを採取した。ホモジナイズされた組織試料を、GDNF ELISAおよびGDNFウェスタンブロットにより分析した。
【0188】
各群における残りの3匹のラットからの脳を、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝食塩水(PBS)中30%(W/V)スクロース溶液における凍結保護前に48時間、ホルマリン溶液中に浸漬固定した。脳を、凍結ミクロトームにおいて冠状レベルで切片化し、切片を、GDNF免疫組織化学的検査のために処理した。
【0189】
5.2.植え込み前および外植後のGDNF放出
図5は、植え込み前(充填から2.5週間後)、およびラット脳における2週間後の外植の翌日に採取された試料において測定された、異なるクローンで充填されたデバイスからのGDNF放出を示す。試験された新しいクローンのうちの4つ、ppG-2、ppG-20、ppG-120、およびppG-125は、CA-9と比較して著しく増加したGDNF分泌(最高7倍の増加)を示した。
【0190】
5.3.デバイス切片のHE染色
GDNF産生クローンの全ては、ラット脳における2週間後、デバイスにおいて良い細胞生存を示した。細胞は、デバイスにわたる糸足場に均等に分布し、非常に高密度には満たされてなかった。クローンppG-120(
図6)およびppG-125(
図7)についての代表的なHE染色切片が示されている。
【0191】
5.4.GDNF組織レベル、GDNF免疫組織化学的検査
GDNF免疫組織化学的検査を、各GDNF産生クローンの3つのデバイスについての植え込み部位に関する切片に実施した。結果は、全ての線条体を網羅する、デバイスからのGDNFの顕著な分泌を示した。クローンppG-2、ppG-20、ppG-120、およびppG-125は、特に高いGDNF組織レベルを示した。クローンppG-2およびppG-20についてのラット脳切片は
図8に示されている。
【0192】
図9は、クローンppG-120およびIgSP-2gについてのGDNF免疫染色を示す。非処置ラットからの対照切片において、線条体にGDNF免疫反応性は見られなかった(データ未呈示)。
【0193】
5.5.GDNF組織レベル、GDNF ELISA
各クローンからの3つのデバイスの周りで組織パンチを採取し、ホモジナイズされた組織試料を、GDNF ELISAにより分析した。
図10における結果は、CA-9より著しく高い組織レベル(少なくとも6倍の増加)を有する新しいクローンを示し、特に、クローンppG-2、ppG-20、ppG-120、およびppG-125は高いGDNF組織レベルを示した。加えて、CA-9は、Akzoポリエーテルスルホン膜のポリスルホン膜(Medivators、Plymouth、MN)での置き換えにより、以前見られたものより明らかに向上した性能を示し、組織におけるGDNF放出の増加をもたらした。全体的に見て、GDNF組織レベルは、CA-9について以前見られた約20pg/mg組織の範囲から最良のクローンについての2000pg/mgより高くへ増加している。
【0194】
5.6.組織におけるGDNFの正しいプロセシング
選択されたホモジナイズ化組織試料を、GDNF WBにより分析して、脳における放出されたGDNFタンパク質のプロセシングを調べた。未処置ラットの線条体由来のホモジナイズ化組織および精製組換えGDNF(R&D Systems、Minneapolis、MN)が参照として含まれた。グリコシル化および非グリコシル化GDNFの単量体および二量体が観察された(
図11)。プロGDNFは検出されず、デバイスから分泌されたGDNFが、インビボ状況でも正しくプロセシングされることを示している。
【0195】
6.ラット6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)病変モデルにおける試験
新しいクローンを含むECバイオデリバリーデバイスが、関連した生物学的効果を誘発するのに十分なGDNF量を放出するかどうかを決定するために、6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)ラット線条体病変モデル(パーキンソン病において観察されるドーパミン作動性(DA)細胞死の側面の一部を模倣する)における試験のために2つのクローンを選択した。クローンppG-2、ppG-20、ppG120、およびppG-125は全て、試験についての有力候補であった。クローンppG-120およびppG-125は、それらがインビボでの2週間後、わずかに良い生存を有するように思われたため、選択された。
【0196】
6.1.実験手順
クローンppG-120、ppG-125で充填されたデバイスまたは細胞を含まないデバイス(それぞれについてn=10)を、右線条体において以下のブレグマに対する座標に植え込んだ:AP:0.5、ML:3.0、DV:-7.5、TB:-2.3。デバイス植え込みから1週間後、6-OHDA病変試験を実施した。手術前、ラットを再び、イソフルラン(Sigma-Aldrich、St.Louis、MO)で麻酔し、定位固定フレームに置いた。10μg 6-OHDA/部位を、定位固定フレームに備え付けられた28ゲージHamiltonシリンジを用いて、以下のブレグマに対する座標における2つの部位に注射した:(1)AP:1.2;ML:2.5、DV:-5.0、TB、-2.3、および(2)AP:0.2;ML:3.8、DV:-5.0、TB、-2.3。6-OHDAを、総量2μlで2分間にわたって注射した。6-OHDAが注射部位から自由に拡散するのを可能にするために追加の2分間、注射カニューレを留置した。その後、カニューレを除去し、皮膚を縫合閉鎖した。
図12は、デバイスおよび6-OHDA注射の配置を示す。
【0197】
6週間後、ラットに、深い麻酔をかけ、断頭し、脳を取り出した。デバイスを外植し、HE-SFM中、37℃でインキュベートした。次の日、GDNF放出の決定のための培地試料(4時間のインキュベーション)を収集した。培地試料中のGDNFレベルをGDNF ELISAにより決定した。デバイスを、ホルマリン中で固定し、Historesin中に包埋し、切片化した。細胞形態を、HE染色されたデバイス切片上で評価した。脳を、0.1M リン酸ナトリウム緩衝食塩水(PBS)中30%(W/V)スクロース溶液における凍結保護前に48時間、ホルマリン溶液中で浸漬固定した。脳を、凍結ミクロトームにおいて冠状レベルで切片化し、GDNFおよびチロシンヒドロキシラーゼ(TH)免疫組織化学的検査のために処理した。
【0198】
6.2.植え込み前および外植後のGDNF放出
図13は、植え込み前(充填から4週間後)および6-OHDA病変モデルにおける試験(ラット脳における7週間)後の外植の翌日に採取された試料において測定された、クローンppG-120を含むデバイスおよびppG-125を含むデバイスからのGDNF放出を示す。クローンppG125を含むデバイスは、植え込み前(703±53ng GDNF/日)、加えて外植後(623±119ng GDNF/日)に最も高いGDNF放出を示した。
【0199】
6.3.HE染色、デバイス切片
全般的に、6-OHDA実験の終了後に外植されたデバイスにおける細胞は、良い生存を示した。細胞は、デバイスにわたる糸足場において均等に分布し、デバイスを非常に高い密度で埋め尽くすことはなかった。クローンppG-120に関するHE染色切片の代表的な例が
図14に示され、クローンppG-125に関しては
図15に示されている。
【0200】
6.4.GDNF組織レベル、GDNF免疫組織化学的検査
全ての3つの実験群からの線条体を網羅する切片にGDNF免疫組織化学的検査を実施した。細胞を含まない空の対照デバイスについての植え込み部位は、GDNF免疫反応性を生じなかった(データ未呈示)。ppG-120またはppG-125細胞で充填されたデバイスを植え込まれたラットは、植え込み部位の周りの線条体を網羅する、デバイスからのGDNFの顕著な分泌を示した。GDNF免疫反応性は、全般的に、クローンppG-120よりクローンppG-125に関して、植え込み部位の周りにおいてより著しいように思われた。
図16は、クローンppG-125を含むデバイスからのGDNF拡散の代表的な例を示す。
【0201】
6.5.GDNFクローンの神経保護効果の定量化
6.5.1.TH免疫反応性エリアの画像分析
DAニューロンへの6-OHDAの毒性効果およびGDNFの保護効果を評価するために、DAニューロンについてのマーカー、チロシンヒドロキシラーゼ(TH)に対する抗体を用いる免疫組織化学的検査を、全ての3つの実験群からの線条体および黒質(SN)を網羅する脳切片に実施した。
【0202】
線条体6-OHDA病変のサイズを評価するために、各ラットにおける4つの選択された切片に画像分析を実施した(
図17)。デジタル化画像をOlympus(登録商標)BX61顕微鏡(Olympus Corporation of the Americas、Center Valley、PA)を用いて取得し、その後、TH免疫反応性を有するエリアのサイズへの分析を、VisioMorphソフトウェア(Visiopham、Copenhagen、DK)を用いて実施した。同様に、線条体に投射するDA細胞体を有するSNにおいて、TH免疫反応性エリアの分析のために3つの限定された切片を選択した。GDNFの保護効果は、SNにおける生存しているDAニューロンの数の増加として現れるはずであるが、線条体における損傷したDA投射線維の再生(出芽)の効果は、病変から6週間後の評価時点では期待できそうになかった。これに一致して、TH免疫反応性線維の出芽は、いずれの群においても線条体の病変エリアで観察されなかった。したがって、本研究における線条体6-OHDA病変のサイズは、処置とは無関係であると見込まれる。
【0203】
図18は、線条体(A)およびSN(B)についての、空のデバイスを用いた対照群における個々のラットの画像分析の結果を示す。動物の一部は、線条体のTH免疫反応性の著しい減少を示さず、6-OHDA誘導性病変がこれらの動物において相対的に小さいことを示している。これと一致して、SNにおけるTH免疫反応性エリアもまた相対的に高かった。GDNFの保護効果を検出するために十分なウィンドウを有するために、動物は、最終分析において含まれるように十分な線条体6-OHDA病変(対照側と比較して50%未満のTH免疫反応性)を有するべきである。対照群における4匹の動物は、この基準を満たした(
図18において矢印により示されている)。
【0204】
ppG-120細胞を含有するデバイスを植え込まれた群において、そのラット(n=8)の大部分は、対照側TH免疫反応性の50%未満に対応する線条体6-OHDA病変を有した(
図19)。ラット15番および19番は、不十分な線条体病変を有し、したがって、最終評価から除外された。
【0205】
ppG-125細胞を含有するデバイスを植え込まれた群において、10匹のラットのうち7匹は、対照側TH免疫反応性の50%未満に対応する線条体6-OHDA病変を有した(
図20)。
【0206】
GDNF分泌細胞を有するデバイスに関する2つの群において、その病変は、一般的に、より効率的であり、それゆえに、植え込まれたデバイスの存在それ自体が原因である可能性は低い。空のデバイスの保護効果はありそうになく、前に言及されているように、TH免疫反応性線維の出芽は、いずれの群においても線条体の病変エリアで観察されなかった。相対的に不安定な6-OHDAの取扱いおよび注射における小さい偏向が、その変動を引き起こしている可能性がある。
【0207】
6.5.2.結果、TH免疫反応性エリアの画像分析
図21は、病変SNにおける生存しているTH陽性ニューロン(TH免疫反応性エリアに対応する)の平均パーセンテージを示す。両方のGDNF分泌クローンの有意な保護効果が見出された(一元配置ANOVA、続いて対照群に対する多重比較(ダネット法)、p<0.05)。
【0208】
6.5.3.SNにおけるTH陽性細胞のカウンティング
画像分析に加えて、TH陽性ニューロンにおける手作業での細胞カウンティングを、Sauer et al. (1995), Proc Natl Acad Sci USA, 92(19):8935-9により以前、記載されているように、黒質からの3つの選択された切片に実施した。
【0209】
6.5.4.結果、SNにおけるTH陽性細胞のカウンティング
図22は、SNにおける手作業での細胞カウンティングの結果を示す。セクション6.5.1に記載されているように、小さい線条体6-OHDA病変(病変側におけるTH免疫反応性エリアが対照側におけるそれの>50%である)を有する動物を、最終評価から除外した(
図22A)。結果は、ppG-120を含むデバイスおよびppG-125を含むデバイスのDAニューロンへの有意な神経保護効果を確認した(空のデバイスを用いた対照群からの有意差、一元配置ANOVA、続いて多重全対比較手順(all Pairwise Multiple Comparison Procedures)、チューキー検定、P<0.05)。ppG-120とppG-125の効果に有意差はなかった。
【0210】
全ての動物からの細胞カウンティングを含む場合、それでもなお、対照群と2つのGDNF産生クローンとの間に有意差(一元配置ANOVA、続いてチューキー検定、P<0.05)があった(
図22B)。
【0211】
手作業での細胞カウンティングは、画像分析と同じ写真が示されたが、クローン、ppG120(59±7%に対して78±7%)およびppG125(63±9%に対して71±5%)のわずかに高い保護効果が示された。対照群において、2つの評価方法間での差はより少なかった(12±4%に対して17±6%)。GDNFは、TH発現を下方制御することが以前、示されており[Georgievska et al., (2002), Exp Neurol, 177(2):461-74およびGeorgievska et al., (2004), J Neurosci, 24(29):6437-45]、この効果は、本研究においても明らかであった(
図23)。したがって、TH免疫反応性細胞の手作業でのカウンティングは、エリア上での画像分析より正確である可能性がある。
【0212】
加えて、DAニューロンによっても発現し、かつGDNFにより下方制御されない小胞モノアミン輸送体(VMAT)に対する抗体を用いる免疫染色を実施することができる。それは、クローンのさらにより良い効果を示す写真をもたらす可能性がある。
【0213】
6.5.5.結論
2つのGDNF産生クローン、ppG-120およびppG-125は、同等の神経保護効果を示した。クローンppG-125は、植え込み前、外植後、および組織において、最も高いレベルのGDNFを放出したため、それが、さらなる開発のための臨床細胞第一候補として選択される。
【0214】
7.モルモット蝸牛における長期(6ヶ月間)GDNFデリバリー
モルモット蝸牛への植え込み後のGDNFを分泌するデバイスの機能および安全性を確認するためのインビボ研究を行った。合計18匹のモルモットを用いた。各動物は、GDNF分泌細胞を負荷されたデバイスの一側性植え込み片を受けた。対照の植え込まれていない蝸牛を対照として用いた。全体のインビボ研究期間は6ヶ月間だった。カプセル化細胞からのGDNF放出を、植え込み前、ならびに外植から1ヶ月後、3ヶ月後、4ヶ月後、5ヶ月後、および6ヶ月後、全てのデバイスから定量化した。外植後、選択された動物由来の蝸牛(3~6ヶ月目時点)を、病理組織学的分析のために処理した。
【0215】
7.1.デバイス製造:細胞を、成長培地;10%ウシ胎仔血清を補充したDMEM+glutamax(l×)を含むT-175フラスコにプレーティングし、37℃、90%湿度、および5%CO2で維持した。日常的培養は、細胞に2~3日ごとに栄養を与えること、およびそれらを70~75%コンフルエンスで継代することからなる。ポリエチレンテレフタレート糸足場を内部に取り付けられた社内製造ポリスルホン膜から製造された3mm長の中空繊維膜へ細胞をカプセル化した。デバイスを、HE-SFM中、37℃、5%CO2で、外科的植え込み前のおよそ2週間、維持した。
【0216】
7.2.外科的植え込み:手術前、全ての動物を、IMにケラチナミン(40mg/kg)およびキシラジン(5mg/kg)を用いて麻酔した。左側において頭から耳に沿って毛を刈り取り、手術部位をbetadineおよびアルコールで無菌的に洗浄した。動物を、手術部位のみ露出させて、無菌タオルで覆った。動物は、適切な止血および呼吸のために、外科医およびACF獣医学スタッフによりモニターされた。
【0217】
側頭骨を露出させるために左耳の後ろの近位を切開(およそ1.0cm)した。覆っている帽状腱膜および筋膜を側面へめくり、#11刃を用いて、蝸牛を覆う側頭骨に2mmの穴を作った。外科用顕微鏡を用いて、0.5mm直径の先の細いハンドヘルドドリルを用いて、正円窓からおよそ1mm蝸牛側に、小さい(1mm)蝸牛開窓手術(cochleostomy)を施した。単一のデバイス(0.4mm直径×3.0mm長さ)を、その後の回収を可能にするために近位先端のみが蝸牛への入口に残るように、蝸牛へ配置した。1片のゲルフォームを、外面乳様突起切除術(mastoidotomy)の上に置き、皮膚を、Vicryl縫合糸を用いて閉じた。
【0218】
7.3.病理組織診断:デバイス除去についてそれぞれ特定された時点において、動物を、上記のように麻酔し、手術のために調製し、前の植え込み片を可視化した。回収後、動物を、過剰摂取ペントバルビタール安楽死を用いて屠殺し、その後、断頭した。頭部を、CBSET Laboratories(Lexington、MA)における組織学的処理前に、10%ホルマリン中に浸漬固定した。各頭部からの両方の蝸牛を外植し、脱灰し、処理し、パラフィン中に包埋して、合計30個の組織ブロックを作製した。ブロックをステップカットして、蝸牛あたりおよそ10個の切片を生じた(合計n=300のスライド)。切片をスライド上に載せ、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)(Celnovte Biotechnology、Rockville、MD)で染色した。
【0219】
各蝸牛からの3枚のスライド(蝸牛の近位、中央、および遠位エリア、それぞれから1枚)が、下記の表1に従って、委員会認定の獣医学病理学者により評価された。評価されたパラメーターは、炎症、傷害、および神経喪失を含んだ。本研究病理学者は、病理学者読み取りの時点において処置マトリックスを知らされなかった。
【0220】
【0221】
7.4.観察:動物は、行動および健康状態について日常的に観察された。全ての動物は、手術後、急速に回復し、回復後数時間以内に正常な活動および摂食行動を示した。継続的GDNF分泌の行動への肉眼での有害効果はなかった。
【0222】
全てのデバイスは、無傷でかつ膜への組織接着なしに容易に回収された。植え込み前、デバイスは、およそ32.4ng GDNF/24時間を分泌した。外植後に調べた場合、GDNFの一日の平均分泌量は増加しており、全てのデバイスは、高くかつ定量可能なレベルのGDNFを有し続けた。デバイス分泌は相対的に安定し、ピーク排出量が4~5ヶ月間の間にあった。個々のデバイス排出量は下記の表2に示されている。
【0223】
7.5.病理組織診断:3~6ヶ月目の時点の合計15匹の動物を、病理組織学的分析に用いた。蝸牛植え込み片のこのモルモットモデルにおいて、炎症、線維化、および傷害の組織学的パラメーターは微小~中等度であり、5ヶ月目まで時間と共にわずかに増加し、6ヶ月目時点において、わずかに減少し、植え込み片を直接囲むエリアに制限された。神経への傷害は、まれであり、存在する場合はほとんど感知できず、3ヶ月目および4ヶ月目においてのみ観察された;その後の時点までには、神経傷害は観察されなかった。壊死は、処置された蝸牛のいずれの特徴でもなかった。
【0224】
【0225】
【0226】
7.6.結論:1)GDNFは、モルモット蝸牛へ植え込まれた場合、全てのデバイスから連続的に分泌された(1~6ヶ月間の範囲);2)全てのデバイスは、無傷でかつ膜への組織接着なしに容易に回収された;および3)病理組織学的分析により、デバイス植え込みおよび長期GDNF分泌が微小~中等度の炎症および線維化のみを生じたことが確認された。観察すると、これらのパラメーターは、植え込み片部位に局在しており、一般的に蝸牛における医療デバイス挿入に関して観察される変化と一致している。
【0227】
8.モルモットにおける蝸牛植え込み片の病理組織学的評価
【0228】
8.1.手順:15個のホルマリン固定モルモット頭部を、蝸牛デバイスの一側性植え込みを受けた動物から収集した。頭部は、植え込み後の以下の時点に収集された:3ヶ月目(n=6)、4ヶ月目(n=3)、5ヶ月目(n=3)、および6ヶ月目(n=3)。各頭部からの両方の蝸牛を外植し、脱灰し、処理し、パラフィン中に包埋して、合計30個の組織ブロックを作製した。ブロックをステップカットして、蝸牛あたりおよそ10個の切片を生じた(合計n=300のスライド)。切片をスライド上に載せ、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。各蝸牛からの3枚のスライド(蝸牛の近位、中央、および遠位エリア、それぞれから1枚)が、表1に従って、委員会認定の獣医学病理学者により評価された。評価されたパラメーターは、炎症、傷害、および神経喪失を含んだ。
【0229】
【0230】
8.2.データ獲得および解析:組織形態学的分析から得られた値および/または観察を、Microsoft Excelスプレッドシートへ入力した。順序組織学的データ(スコア)は、群の中央値および平均+SDとして報告された。追加のデータ解析は、必要と判断された場合(例えば、比較または明確化のために)、実施された。計算、データ編成、およびグラフは、Microsoft(登録商標) Excel(登録商標)ソフトウェア(バージョン14)を用いて作成された。
【0231】
8.3.組織形態学:処置された左蝸牛を通しての連続切片は、微小~軽度/中等度の局在化炎症および線維化の形をとる、植え込み片存在に対する応答、および予想された、周囲の骨梁の外科的破壊を一貫して示した。15個の処置された蝸牛のうちの3個(20%)からの切片は、蝸牛神経が、3~4ヶ月目において、これらの変化によってわずかに影響されたことを示した。未処置の右側の蝸牛には、一様に目立つものはなかった(図示されていない)。
【0232】
8.3.1.関係のある組織形態学的観察:処置された左蝸牛は、炎症、傷害、および宿主組織線維性修復応答を含む、植え込み片存在に関連した微小~軽度/中等度の組織学的変化を示した。処置されたエリアは、リンパ球により優位に占められた慢性局在化炎症性細胞浸潤物により囲まれた、植え込み片区域(implant tract)の周りのコラーゲン線維性結合組織のゾーン、および周囲骨の微小な破壊を示した。3ヶ月目時点における2つの処置された蝸牛(動物3および8;33%発生率)および4ヶ月目時点における1つ(動物11;33%発生率)は、軸索喪失、かすかな髄鞘腫脹、またはまれな消化チャンバー形成の形をとる微小な神経傷害を示した。この傷害は、ほとんど感知できず、それらの動物由来の蝸牛の3つのスコアリングされた切片のうちの1つまたは2つにおいて存在した。炎症、傷害、および線維化は、時間と共にわずかな増加を示し、5ヶ月目にピークに達し、その後、6ヶ月目においてわずかに減少した。検出可能な神経傷害は、3ヶ月目および4ヶ月目においてのみ存在した。壊死という特徴は、いかなる時点においても存在しなかった。左蝸牛についての関係のある組織形態学的観察スコアは、表2~4に要約されている。
【0233】
【0234】
【0235】
【0236】
8.3.2.観察:GDNF分泌性ヒト細胞を含有する蝸牛内デバイスの外科的配置および長期留置は、有害効果なしで、全体的な生体適合性プロファイルと一致した。炎症、線維化、および傷害の組織学的証拠は、処置された耳においてのみ存在し、植え込み片を直接囲むエリアに制限され、生体適合性植え込み片の長期存在に関して一般的に予測されるレベルであった。3ヶ月目時点における応答は、2/6の動物において欠如~微小、および4/6の動物において微小~中等度であった。4ヶ月目における応答は、2/3の動物において欠如~中等度、および1/3の動物において微小~中等度であった。応答は、5ヶ月目では、2/3の動物において微小~中等度、および1/3の動物において中等度であり、ならびに6ヶ月目では、1/3の動物において欠如~中等度、1/3の動物において微小~中等度、および1/3の動物において中等度であった。神経への傷害は、まれであり、存在する場合ではほとんど感知できず、3ヶ月目および4ヶ月目においてのみ観察された;その後の時点までには、神経傷害という特徴は存在しなかった。壊死という特徴は、処置された蝸牛のいずれにおいても存在しなかった。
【0237】
等価物
本発明の特定の実施形態が論じられているが、上記の明細書は、実例となるものであり、制限的なものではない。この明細書を鑑みれば、本発明の多くのバリエーションが当業者に明らかとなるだろう。本発明の全範囲は、特許請求の範囲、加えてそれらの等価物の全範囲、および本明細書、加えてそのようなバリエーションを参照することにより、決定されるべきである。
【0238】
他に指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲で用いられる、成分、反応条件などの量を表現する全ての数は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されるものと理解されるものとする。したがって、それとは反対の指示がない限り、この明細書および添付の特許請求の範囲に示された数値パラメーターは、本発明により獲得されるように求められる所望の性質に依存して変動し得る近似値である。
【0239】
上記の議論は、本発明の原理および様々な実施形態を例証するものと意図される。多数のバリエーション、組合せ、および改変は、上記の開示が完全に理解されたならば、当業者に明らかとなるだろう。以下の特許請求の範囲は、全てのそのようなバリエーションおよび改変を包含すると解釈されることが意図される。
【配列表】
【国際調査報告】