(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】hMPVに対する呼吸器合胞体ウイルスタンパク質を発現するBCG免疫原性製剤の新たな使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/04 20060101AFI20230222BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230222BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20230222BHJP
A61K 39/155 20060101ALI20230222BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
A61K39/04
A61P31/14
A61P37/04
A61K39/155
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2022539694
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 CL2020050193
(87)【国際公開番号】W WO2021127797
(87)【国際公開日】2021-07-01
(32)【優先日】2019-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CL
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】513200265
【氏名又は名称】ポンティフィシア・ウニベルシダッド・カトリカ・デ・チレ
【氏名又は名称原語表記】Pontificia Universidad Catolica de Chile
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アレクシス・カレルギス
(72)【発明者】
【氏名】スーザン・ブエノ
(72)【発明者】
【氏名】パブロ・ゴンザレス
【テーマコード(参考)】
4C085
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085AA04
4C085BA57
4C085BB11
4C085CC07
4C085CC21
4C085DD11
4C085DD62
4C085DD84
4C085EE01
4C085EE03
4C085GG04
(57)【要約】
本発明は、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染を防止、処置又は軽減するために有用なワクチンを調製するのに役立つので、薬学的に許容可能な生理食塩緩衝液中に、呼吸器合胞体ウイルス(RSVヒトオルトニューモウイルス)の少なくとも1つのタンパク質又は免疫原性断片を発現するカルメットゲラン桿菌(BCG)株を細菌104~109個の濃度で含有する免疫原性製剤の新規の使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的に許容可能な生理食塩緩衝液中に呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の少なくとも1つのタンパク質又は免疫原性断片を発現するカルメットゲラン桿菌(BCG)株を細菌10
4~10
9個の量で含み、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、免疫原性製剤の使用。
【請求項2】
前記RSVタンパク質又は断片が、RSV A若しくはRSV Bサブタイプ又は両方のサブタイプに対応し、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
RSV免疫原性タンパク質又は断片が、NS2、N、P、M、SH、M2(ORF1)、M2(ORF2)、L、F又はGタンパク質からなる群に属しており、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記RSV免疫原性タンパク質又は断片をコードしている遺伝子が、マイコバクテリウムゲノム、好ましくはBCG又は染色体外プラスミドに1つ若しくは複数コピーで挿入され、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
タンパク質遺伝子の発現が、内因性又は外因性の、構成的又は誘導可能なマイコバクテリウムBCGプロモーターで制御され、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
RSV免疫原性タンパク質又は断片が、可溶性細胞質形態、細胞外分泌又は細胞膜結合型タンパク質としてBCGによって発現され得、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記製剤が、他の免疫原性製剤と一緒に使用され得、前記他の免疫原性製剤が、RSVタンパク質又はタンパク質NS2、N、P、M、SH、M2(ORF1)、M2(ORF2)、L、F若しくはGの異なる免疫原性断片を発現し、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記製剤が、他の免疫原性製剤と一緒に使用され得、前記他の免疫原性製剤が、タンパク質若しくは免疫原性断片を発現する方法、可溶性、可溶性細胞質、細胞外分泌又は細胞膜に結合しているタンパク質の点で異なり、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記製剤が、他の免疫原性製剤、すなわち前記RSVタンパク質若しくは免疫原性断片の遺伝子のコピー数及び前記RSVタンパク質若しくは免疫原性の構成的若しくは誘導可能な断片の発現が制御される方法の点で異なり、更に前記RSVタンパク質若しくは免疫原性断片の行く先の点で異なる製剤と一緒に使用され得、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記製剤が、使用の前に保存のために凍結、凍結乾燥、又は緩衝生理食塩溶液によって安定化され得、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項11】
前記製剤が、許容可能な生理学的食塩水中で皮下、経皮又は真皮下に投与され得、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置、又は軽減するためのワクチンを調製するために使用されることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV、ヒトオルトニューモウイルス(Human orthopneumovirus))及び/又はヒトメタニューモウイルス(hMPV)等の呼吸器系ウイルスに対するワクチンを調製するのに有用な免疫原性製剤が開示され、本製剤は、RSVの1つ又は複数のタンパク質又は免疫原性断片を組換えにより発現する、少なくとも1つのマイコバクテリウム(Mycobacterium)の弱毒化株、好ましくはバチルスカルメットゲラン(BCG)株を含む。
【背景技術】
【0002】
呼吸器系ウイルスの中でも、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)及びヒトメタニューモウイルス(hMPV)は、乳児及び幼児において非常に重篤な感染症を引き起こしうるので、その臨床的重要性が傑出している。両方のウイルスの臨床症状は、互いに区別がつかず、広範囲にわたる臨床的事例を引き起こし、その事例は、鼻炎等軽度、又は肺炎若しくは細気管支炎等よりいっそう重篤でありえ、最も重篤な症状は、乳児、早産児、先天性心疾患のある子供、及び免疫抑制された患者に観察される。RSVは、世界的に乳児における急性気道感染症の主要な原因物質である。WHOによれば、毎年64,000,000人がこのウイルスに感染し、160,000人が死亡する。RSVは、2歳未満の子供における感染症及び入院の主原因である(www.who.int)。一方、ヒトメタニューモウイルスは、5歳未満の子供における急性呼吸器感染症による入院の第2の主原因である。
【0003】
3歳より年上の子供の事実上100%が、5歳でRSV及び/又はhMPV感染症の少なくとも1つの症状の発現を示しているので、これらウイルスに起因する感染症は、非常に頻繁に起こり、再発性である。これら感染症は、完全な免疫記憶を残さないので、再感染が頻繁に起こり、患者の年齢が高くなるにつれて重症度は低下する。これらの呼吸器感染症により生成される健康状態は、罹患国にとって大きな経済的影響が有る。先進諸国において実施された研究では、RSV感染症の個人費用は、3,000ユーロ(およそ$2,250,000チリペソ)以上であり、上限は最高8,400ユーロ(およそ$6,800,000チリペソ)と推定している。
【0004】
RSV及びhMPVは、ニューモウイルス科の2つの属、メタニューモウイルス(Metapneumovirus)及びオルトニューモウイルス(Orthopneumovirus)属を有する科に分類される。hMPVは、メタニューモウイルス属に属するが、RSVは、オルトニューモウイルス属に属している。
【0005】
両方のウイルスは、非分節マイナス一本鎖RNA、脂質エンベロープを含有し、類似しているが、同一でない構成である。RSVは、およそ15kbのゲノム、及び合計11個のタンパク質をコードする10個の遺伝子を有する。これらタンパク質のうち5つは、膜貫通糖タンパク質F、G及びSH、ヌクレオカプシドNタンパク質、並びにマトリックスMタンパク質に対応する構造的な機能を有する。他の4つのタンパク質、M2-1、M2-2、P及びLは、ウイルスの複製及び転写に関係する。NS1及びNS2と称される残りの2つのタンパク質は、非構造的であり、毒性(virulence)に関係する。他方、hMPVは、およそ13kbのゲノムを有し、9個のタンパク質: N、P、M1、F、M2-1、M2-2、SH、G及びLをコードする8個の遺伝子を含む。hMPVは、NS1及びNS2タンパク質を含有しない。Nタンパク質は、両方のウイルス、RSV及びhMPVの間で最も保存されている。
【0006】
ヒトを感染させるRSVは、異なる株又はサブタイプを有し、サブグループA及びBは、集団において優勢なものである。サブグループ同士の間の主な抗原性の差異は、Gタンパク質に対応し、そのタンパク質は、異なるサブグループ同士の間で40~44%のアミノ酸しか保存していない。
【0007】
2つのウイルス同士の間に存在する差異のため、単一のワクチンが、RSV及びhMPVに対して同時保護を提供できることは、明らかでなく、予測できない。後で詳しく説明することになるように、本発明のワクチンは、用量当たり1×104~1×109コロニー形成単位の濃度でカルメットゲラン桿菌(BCG)株を含有する製剤であり、その株は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)のタンパク質又は免疫原性断片の少なくとも1つを発現する。驚くべきことに、本発明者らは、この免疫原性製剤がRSV及びhMPV感染症の両方に対する保護を付与することを見いだした。
【0008】
現状、RSVに対するワクチンを獲得する試みのいくつかが不成功であることが分かる。1960年代に行われた試みは、ホルマリン不活性化全ウイルス(RSV-FI)からなり、アジュバントミョウバンの存在下でボランティアに筋肉内投与された。予想に反して、この免疫化は、ワクチン接種された子供において天然のRSV感染症後によりいっそう重篤な呼吸状態を生じ、ワクチン接種した子供の80%が入院し、そのうち2名が死に至った。ワクチン接種した子供によって示された呼吸肺画像は、好酸球及び好中球の異常な浸潤並びに補体結合抗体の高力価により特徴付けられた。RSV感染症のために死亡したRSV-FIでワクチン接種した子供の肺組織の分析は、補体、免疫複合体の沈着及び気管支周囲領域における好酸球の存在を示す。これとともに、動物モデルにおける研究は、RSV-FIによるワクチン接種が、CD4+Tリンパ球に基づいて、Th2型免疫応答を生じることを示す。これらの同じ特徴が、Gタンパク質で免疫された、又はRSVによる感染の前にこの糖タンパク質に特異的なCD4+Tリンパ球を受けた動物において観察された。
【0009】
この同じ意味で、Th2応答は、長期にわたる持続的なウイルス感染に対する保護を付与することができず、IL-5の分泌によって、アレルギー反応及び炎症性過敏症に関与する好酸球を刺激し、それはウイルス感染症よりいっそう危険になりうる。この型のTh2応答において、T細胞は、IL-4も分泌し、それは、IgG1及びIgEアイソタイプ抗体の生成を誘導し、IgM、IgG3、IgG2a及びIgG2bアイソタイプを阻害するサイトカインである。
【0010】
これらの理由から、RSV及びhMPV呼吸器系ウイルスに対する有効で安全なワクチンは、CD4+ヘルパーTリンパ球及びインターフェロンγ(IFN-γ)分泌細胞障害性T細胞に基づいて、Th1型免疫応答を生成するべきである。この応答は、これらウイルス感染に対する長期の持続的な保護を付与することができ、また、IgG2aアイソタイプの抗体を分泌し、IgG3、IgE、IgG2b及びIgG1アイソタイプの免疫グロブリンの産生を阻害するB細胞の増殖並びに分化を誘導する。
【0011】
RSVワクチンに関する進行中の研究は、Fタンパク質、M2等のウイルスサブユニット、更にはGタンパク質のいくつかの保存されている区分の分析及び開発に重点が置かれている。他方、いくつかの遺伝子の欠失がある温度感受性株等のRSVの変異体株又はGM-CSF等のサイトカインに対する組換え型に基づくワクチンの生成も研究されてきた。これらワクチンのいくつかは、フェーズI及びII臨床試験において試験され、様々な結果となった。RSVに対する別の型の暫定的なワクチンは、タンパク質F及びGに基づくワクチンの事例であり、ISCOM等のアジュバントとともに投与される。この型のワクチンによる免疫化は、新たなウイルス感染に対して肺組織における好酸球の浸潤の増大を生じ、それは肺組織において損傷を増大させる。
【0012】
乳児の免疫系は、おそらく生後6カ月間の免疫系の未熟さゆえ、Th2型免疫応答を優先的に発達させることによって特徴付けられる。しかしながら、適切に刺激された場合、それは、Th1型応答を開始させうる。
【0013】
RSV及び/又はhMPVに対する有効で安全なワクチンを処方するために、本発明者らは、異なるRSVタンパク質に対して生成される免疫応答の完全な研究を実施して、細胞傷害性Tリンパ球に基づくTh1型免疫応答の生成を可能にするタンパク質を同定した。ウイルス抗原を異種発現させるための細菌ベクターの使用は、そのベクターの侵入能力が完全であり非病原性と認識されるので、そのベクターが生弱毒化ベクターとして使用されうるという優位性が有る。異種抗原を発現させるために使用される特定の細菌ベクターの更なる優位性は、Th1型免疫を誘導するその認識されている能力であり、それはワクチン開発の場合に非常に魅力的である。カルメットゲラン桿菌(BCG)は、新生児においてヒト結核菌(Mycobacterium tuberculosis)に対するワクチンとして使用されるマイコバクテリウム・ボービス(Mycobacterium bovis)の弱毒化株である。BCGは、結核ワクチンとして承認されているので、世界中で33億人以上に与えられてきた。その大量の使用は、凍結乾燥形態での強い耐熱性等この細菌のいくつかの有利な特徴により促進されてきた。更に、本細菌による新生児の免疫には危険性がなく、極めて小さい副作用しか生じない。BCGの安全性及び安定性に関しては、使用された年の全てで病原性への復帰は全く観察されなかった。BCGは非常に免疫原性であり、1用量だけで長期間維持される免疫応答を生成することが可能である。重要なことに、BCGは、成人と子供の両方で強力なTh1型免疫応答を誘導する。新生児におけるこの現象は、結核菌抗原(PPD)に対して生成される細胞型免疫応答、長期間何とか維持される応答、によって証明される。
【0014】
現在まで、いくつかの細菌、寄生虫及びウイルス抗原が、この細菌系において成功裏に発現され、動物モデルにおいて評価した場合に、これら抗原に対する液性及び細胞性免疫を生成できることが示されてきた。加えて、BCGは、母乳中に存在する抗体により中和されないという特殊性を有し、そのため、子供を看護する際に免疫誘導物質として使用されうる。本発明は、RSVタンパク質のための、マイコバクテリウムの1つ又は複数の弱毒化組換え株、細菌、好ましくはBCG株を含有する免疫学的製剤に対応し、呼吸器系ウイルス、特にRSV及びhMPVに対するワクチンの調製に使用されうる。
【0015】
本発明の製剤は、ウイルスを除去するための効果的で好ましい免疫応答を生成する結果、呼吸器系ウイルスRSV及びhMPVによる感染に起因する肺損傷を回避又は軽減することを可能にする。BCG等のマイコバクテリウムの弱毒化株は、Th1型免疫応答の強力な誘導物質であるので、RSVに対する、組換えBCG株により誘導される免疫応答は、両方のウイルスに引き起こされる感染に対する防御を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、呼吸器系ウイルスに起因する感染症、特に呼吸器合胞体ウイルス(RSV)及び/若しくはヒトメタニューモウイルス(hMPV)に起因する感染症に対する保護を誘導する、又は哺乳動物においてこれらウイルスに起因する病変を少なくとも軽減する免疫原性製剤からなる。本発明の免疫原性製剤は、ワクチンを調製するために使用されえ、呼吸器合胞体ウイルスの1つ若しくは複数のタンパク質若しくは免疫原性断片を組換えにより又は異種性に発現する、生弱毒化組換え株のマイコバクテリウム、好ましくはカルメットゲラン桿菌(BCG)株のコロニー形成単位(CFU)を含有する。
【0017】
RSVのこれらタンパク質又は免疫原性断片は、RSV A又はRSV BサブタイプのRSV NS1、NS2、N、P、M、SH、M2(ORF1)、M2(ORF2)、L、F又はGタンパク質に対応しており、1つ若しくは複数コピーでマイコバクテリウムの弱毒化株の細菌ゲノム又は染色体外プラスミドのいずれかの中に挿入されて見られ、その発現は、内因性又は外因性の、構成的又は誘導可能なBCGプロモーターにより統制される。RSVのこれらのタンパク質又は免疫原性断片は、可溶性細胞質形態で、細胞外分泌される又は細胞膜に結合しているタンパク質としてBCG若しくはマイコバクテリウムの他の弱毒化株によって発現されうる。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に開示する免疫原性製剤は、マイコバクテリウムの他の弱毒化株若しくはBCGを含有し、発現する免疫原性RSVタンパク質、並びに遺伝子の場所(ゲノム又は染色体外に挿入される)、遺伝子タンパク質のコピー数、タンパク質の発現を誘導するプロモーター、又はRSV免疫原性タンパク質若しくは断片の行く先(可溶性細胞質、細胞外分泌又は細胞膜結合型タンパク質)の点で異なる免疫原性製剤と一緒に使用されうる。
【0019】
上記の免疫原性製剤は、緩衝された又は生理学的食塩水と一緒に、個人に皮下、経皮又は真皮下に適用されうるワクチンを調製するのに有用である。
【0020】
本発明の免疫原性製剤を使用して、呼吸器合胞体ウイルス又はヒトメタニューモウイルスと以前に接触が有る若しくは無い個人にワクチン接種し、それによりRSV及び/若しくはhMPV等の呼吸器系ウイルスに対する保護を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】生理食塩水(PBS: 137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、Tween 80 0.02% pH7.4、4℃)中の、Nタンパク質を発現するBCGで免疫したBALB/cマウスの脾臓からのCD8+/CD69+細胞のパーセンテージ(A)及び細胞のIFN-γ分泌(B)を示す図である。免疫されていない動物、1×10
7PFUのRSVで免疫された、BCG(PBS: 137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、Tween 80 0.02% pH7.4、4℃中に1×10
8CFU/マウス)で免疫された又はRSV Nタンパク質に対する組換えBCG(PBS: 137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、Tween 80 0.02% pH7.4、4℃中に1×10
8CFU/マウス)で免疫された動物の脾臓由来の細胞5×10
5個が、0.5μM RSV Nタンパク質で72時間刺激された。その後、CD8及びCD69(A)マーカー陽性細胞のパーセンテージが、フローサイトメトリーにより決定された。細胞上清が、ELISAに供されて、分泌されたIFN-γの存在が検出された(B) **、p値0.002、スチューデントt検定。RSV Nタンパク質に対する組換えBCG株が、この免疫原性製剤で免疫されたマウスにおいて、Tリンパ球による好ましい応答を生じることが結論付けられうる。 これらの結果は、CD8+ Tリンパ球は、表面に活性化マーカー(CD69+)を発現し、細胞外培地にIFN-γを分泌するので、RSV Nタンパク質に対する組換えBCGによる免疫化に応答して、これらCD8+ Tリンパ球が活性化されることを示しており、本発明のワクチンがTh1型免疫応答を生成する証明になる。
【
図2】RSV Nタンパク質を発現する組換えBCG株(PBS: 137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、Tween 80 0.02% pH7.4、4℃中に1×10
8CFU/マウス)又はRSV M2タンパク質に対する組換えBCG株(PBS: 137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、Tween 80 0.02% pH7.4、4℃中に1×10
8CFU/マウス)で免疫されたBALB/cマウスの体重変動の曲線を示す図である。ワクチン非接種(■)、20分間UV不活性化した(UV電球、312nm、出力8ワット)RSV 1×10
7プラーク形成単位(PFU)で免疫した(RSV-UV)(▲)、RSVを発現しない野生型のBCG(WT)株(PBS: 137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、Tween 80 0.02% pH7.4、4℃中に1×10
8CFU/マウス)で免疫した(▼)、pMV361-Nで形質転換したBCG株(PBS: 137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、Tween 80 0.02% pH7.4、4℃中に1×10
8CFU/マウス)で免疫した(□)、又はpMV361-M2で形質転換したBCG株(PBS: 137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、Tween 80 0.02% pH7.4、4℃中に1×10
8CFU/マウス)で免疫した(△)BALB/cマウスを、RSV、株13018-8 1x10
7PFUで鼻腔内感染させた。対照として、ワクチン非接種且つ感染させていないマウス(●)の群を含めた。0日目に対する体重の変動を、4日間毎日記録した。**、p値0.002、スチューデントt検定。RSV N又はM2タンパク質に対する組換えBCG株によるマウスの免疫化は、感染後に体重の低下が観察されるワクチン非接種のマウスと比較した場合に感染後にこれらマウスの体重が有意に変動しないので、RSV感染に対して好ましい応答を生じると結論付けることができる。
【
図3-A】4つの実験群のBALB/cマウス:免疫化なし且つ感染なし、免疫化なし且つhMPV株cz0107 1×10
7個で鼻腔内感染させた、RSV Nタンパク質に対するBCG組換え型で免疫したマウス(1×10
8CFU/マウス)及びhMPV Pタンパク質に対する組換えBCGで免疫したマウス(1×10
8CFU/マウス)の気管支肺胞洗浄液中のCD11c
-/CD11b
+/Gr1
+細胞のパーセンテージを示す図である。 hMPVのPタンパク質及びRSVのNタンパク質に対する組換えBCG株で免疫した群が、免疫化なしで感染させた群より有意に少ない多形核白血球浸潤を示すことが観察される。
【
図3-B】研究した4群の肺中のCD11c
-/CD11b
+/Gr1
+細胞のパーセンテージを示す図である。以前の場合と同様に、hMPVのPタンパク質及びRSVのNタンパク質に対する組換えBCG株で免疫した群が、免疫化していない感染群より有意に少ない炎症細胞の浸潤を示すことが観察される。hMPV Pに対する組換えBCGで免疫した群が、感染させていない対照群と類似の結果を更に示すことを見ることができる。
【
図4】4つの研究群についてqPCRによって評価した肺組織中のウイルス量を示す図であり、βアクチン5000コピー当たりのhMPV Nタンパク質のコピー数として表される。hMPV Pタンパク質に対する組換えBCG株とRSV Nに対する組換えBCGの両方で免疫した群が、免疫していない感染群より有意に低いウイルス量を有することが観察される。
【
図5】異なる3つの時点:0日目(免疫前)、21日目(ウイルス負荷前)及び感染14日後に、組換えBCG-Nワクチンで免疫した動物の血清中のELISAにより評価したRSVに対する特異的抗体のレベル(O.D. 450nmで表される)を示す図である。 結果は、BCG-Nで免疫した動物が、ウイルス負荷の前でも抗RSV抗体を産生することを示す。RSVによる負荷後、ウイルスに対する特異的IgG免疫グロブリンのレベルは、対照群に対して、BCG-Nで免疫した動物群において有意により高い。
【
図6】ELISAによって評価された免疫した及び免疫していない動物からの血清中の組換えBCG-Nワクチンに誘導されたRSVに対する特異的抗体のアイソタイプ特徴付けをO.D. 450nmで表して示す図である。免疫グロブリンのアイソタイプを、3つの異なる時間でIgG2a(
図6A)又はIgG1(
図6B)に対する特異的二次抗体によって分析した。
図6Cは、感染14日後にELISAによって入手したデータからIgG1に対するIgG2aのO.D. 450nmの比を示す。感染後の抗RSV免疫グロブリンのアイソタイプIgG2a/IgG1の比は、本発明のワクチンBCG Nで免疫された動物においてより高いことが示される。
【
図7】HEp-2細胞におけるRSV-GFP血清中和アッセイを示す図である。
図7A、HEp-2細胞を、37℃で1時間予めインキュベートした血清及びRSV-GFPの混合物で処置し、48時間後、落射蛍光顕微鏡において可視化した。
図7B、顕微鏡観察により可視化したプラーク形成単位(PFU)の定量化。
図7C、フローサイトメトリーによるHEp-2細胞におけるGFP発現の定量化。B及びCにおいて棒が無いのは、処置した細胞においてウイルスGFPが検出されなかったことを示す。 本発明のワクチンによる免疫化によって産生される抗体は、in vitroでRSV感染を減少させることができ、従ってこれら免疫グロブリンが呼吸器合胞体ウイルスに対する中和機能を保有することは明白である。
【
図8】異なる2つの時間:21日目(ウイルス負荷前)及び感染7日後に、組換えワクチンBCG-N、BCG-Pで免疫した並びに免疫していない及び感染させていない対照(模擬(Mock))動物の血清中のhMPVに対する特異的抗体レベル(O.D. 450nmで表される)を示す図である。 結果は、RSV Nタンパク質に対する組換えBCGによる免疫化が、hMPVのPに対する組換えBCGによる免疫化と同じ割合で、ウイルス負荷の前後にhMPVに対する特異的IgGレベルの増大を誘導することを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、呼吸器系ウイルス、特に呼吸器合胞体ウイルス及び/若しくはヒトメタニューモウイルスに起因する感染症に対する保護を誘導する、又は哺乳動物においてこれらウイルスに起因する病変を軽減するワクチンの調製に使用されうる免疫原性製剤からなる。本発明のワクチンは、RSVの1つ若しくは複数のタンパク質若しくは免疫原性断片を組換えにより又は異種性に発現するマイコバクテリウムの生弱毒化組換え株、好ましくはカルメットゲラン桿菌(BCG)、例えば、BCGデンマーク若しくはパスツール株を含有する。本発明のワクチンは、記載される株を用量当たり1×104~1×109 CFU(コロニー形成単位)含み、投与前に、凍結乾燥形態又は低温の安定化食塩水中で保存されうる。
【0023】
本発明の免疫原性製剤又はワクチンに適当な安定化剤溶液の例は:
- 4℃のSauton SSI希釈溶液(H2O 1mL中にMgSO4 125μg、K2HPO4 125μg、L-アスパラギン1mg、クエン酸鉄アンモニウム12.5μg、85%グリセロール18.4mg、クエン酸0.5mg)、
- -80℃のTween 80 0.02%及びグリセロール20%で補充したPBS(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)又は
- 容積溶液: 25%ラクトース及びグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)の容積であり、凍結乾燥され、4℃~25℃の温度範囲で貯蔵される。
【0024】
本発明の免疫原性製剤の弱毒化組換えマイコバクテリウム細菌は、少なくとも1つのRSVタンパク質、或いはRSV A若しくはRSV Bサブタイプ又はその両方の免疫原性断片をコードする遺伝子を含有する。呼吸器合胞体ウイルスゲノムは、寄託番号NC-001803及びNC-001781でGeneBankデータベースにこれまでに記載されている。
【0025】
本発明の少なくとも1つのRSVタンパク質或いはRSV A若しくはRSV Bサブタイプ又はその両方の免疫原性断片をコードしている遺伝子は、前記GeneBankに開示されている配列、寄託番号NC-001803及びNC-001781に記載される遺伝子と少なくとも80%の同一性を有する。
【0026】
RSV免疫原性タンパク質又は断片は、RSV NS1、NS2、N、P、M、SH、M2(ORF1)、M2(ORF2)、L、F又はGタンパク質に対応する。好ましい実施形態において、免疫原性タンパク質又は断片は、RSVのN、P、M、SH、M2(ORF1)、M2(ORF2)、L、F又はGに対応する。
【0027】
本発明の組換え株を得るためにこれらタンパク質又はその免疫原性断片をコードする遺伝子がプラスミドに挿入され、そのプラスミドは、任意の利用可能な技術により細菌に組み込まれる。一実施形態において、プラスミドpMV361が使用され、それは電気形質転換によって細菌に組み込まれ、マイコバクテリオファージインテグラーゼの作用によって細菌ゲノムに統合される。これら遺伝子はまた、pMV261等の染色体外のプラスミドに挿入されえ、そのプラスミドは電気形質転換によってマイコバクテリウムに組み込まれ、細菌内の染色体外に残る。これら遺伝子は、1つ又は複数コピーでありえ、その発現は、内因性の構成的又は誘導可能なBCGプロモーター、例えば、それぞれhsp60遺伝子のプロモーター及びacr遺伝子のプロモーターによって制御される。呼吸器合胞体ウイルスの遺伝子又は免疫原性断片を、異なる細菌区画へのタンパク質の標的シグナルとして機能するペプチドをコードするDNA配列、例えば、細胞外分泌のためのアルファ抗原の遺伝子のN末端配列及び膜結合型タンパク質のための19kDタンパク質の遺伝子のN末端配列と融合する結果、RSVのこれらタンパク質又は免疫原性断片は、BCG若しくはマイコバクテリウムの他の弱毒化株によって可溶性の細胞質様式、細胞外分泌又は細胞膜に結合しているタンパク質として発現されうる。
【0028】
本発明に開示される免疫原性製剤は、マイコバクテリウムの1つ若しくは複数の弱毒化株又はBCGを含有し、その株が発現する免疫原性RSVタンパク質、及び遺伝子の位置(ゲノム又は染色体外に挿入される)、タンパク質遺伝子のコピー数、タンパク質の発現を誘導するプロモーター、又はRSV免疫原性タンパク質若しくは断片の標的(可溶性細胞質、細胞外分泌又は細胞膜に結合しているタンパク質)の点で異なる免疫原性製剤と一緒に使用されうる。
【0029】
本発明者らは、本発明のワクチンがTh1型免疫応答を誘導することを示し、その応答は、IgG2aアイソタイプ抗体産生Bリンパ球と効果的なIFN-γ産生Tリンパ球応答の両方を含む。このことは、これら呼吸器系ウイルスに対する液性保護、及び本発明の免疫原性製剤の有効性と適用性の両方を増強させる効果的な細胞性応答を保証する。
【0030】
本発明のワクチンは、緩衝された又は生理学的食塩水と一緒に、個人に皮下、経皮又は真皮下に投与されうる。
【0031】
示した通り、本発明の免疫原性製剤を使用して、呼吸器合胞体ウイルス又はヒトメタニューモウイルス等の呼吸器系ウイルスと以前に接触が有る若しくは無い個人にワクチン接種し、それによりこれら呼吸器系ウイルスに対する保護を付与する又は将来にこれらに起因する病変を軽減することができる。
【0032】
以下の例は、RSVのNS2、N、P、M、SH、M2(ORF1)、M2(ORF2)、L、F又はGタンパク質を発現するマイコバクテリウムの弱毒化組換え株を含有する免疫学的製剤、更にはこれら製剤の全ての組合せに適用できる。同様に、例は、マイコバクテリウムの弱毒化組換え株の1つ又は複数を含有する免疫学的製剤に適用でき;前記組換え細菌は、1つ若しくは複数コピーで細菌ゲノム又は染色体外プラスミド中に挿入されているRSVのタンパク質遺伝子若しくは免疫原性断片を含有し、その発現は、可溶性細胞質形態、細胞外分泌又は細胞膜結合タンパク質として内因性又は外因性の、構成的又は誘導可能に発現されるプロモーターによって統制される。
【実施例】
【0033】
これらの例は単なる例示であり、本発明の製品又は適用の範囲を限定することを意図するものではない。特定の用語が、以下の説明において使用されるが、その使用は、単なる説明であり、限定するものではない。
【0034】
(実施例1)
RSVサブタイプAのN遺伝子に対する組換えデンマークBCG株の細菌108個からなる免疫原性製剤。
遺伝子は、BCGの構成的内因性プロモーターhsp60の調節下で細菌のゲノムの1コピーに挿入され、タンパク質の発現は、細胞質性である。免疫原性製剤は、希釈したSauton SSI溶液(H2O 1mL中にMgSO4 125μg、K2HPO4 125μg、L-アスパラギン 1mg、クエン酸鉄アンモニウム12.5μg、85%グリセロール18.4mg、クエン酸0.5mg)中で、-80℃で見ることができる。製剤は、20%グリセロール及び0.02% Tween 80で補充したPBS溶液(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌108個の終濃度で見られ、-80℃で貯蔵することもできる。同様に、株を、容積溶液:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)の容積に再懸濁し、その後凍結乾燥し、25℃で貯蔵することができる。
【0035】
デンマークBCG株を、プラスミドpMV361から得られたプラスミドpMV361/Nで電気形質転換によって形質転換し、それは細菌のゲノムに一度だけ挿入される。このプラスミドは、RSV Nタンパク質サブタイプAをコードしている遺伝子を含有し、その遺伝子は、BCG hsp60遺伝子の内因性及び構成的プロモーター下で発現される。得られた組換えコロニーを、OD
600nm=1まで成長させ(補充したミドルブルック7H9培養培地中37℃で)、4000rpmで20分間遠心分離(エッペンドルフローターモデル5702/R A-4-38)し、溶液に再懸濁した。20%グリセロール及び0.02% Tween 80で補充したPBS(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na
2HPO
4; 1.47mM KH
2PO
4、pH7.4)、100μL当たり細菌10
8個の終濃度で、-80℃で貯蔵される。同様に、株を、容積溶液:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)の容積中に再懸濁し、その後凍結乾燥し、25℃で貯蔵することができる。RSV Nタンパク質に対する抗体を使用するウェスタンブロットによって、本発明者らは、このBCG株が細胞質においてRSV Nタンパク質サブタイプAを組換えにより発現することを観察した。ワクチンとして、記載される製剤によるBALB/cマウスの免疫化は、10
7プラーク形成単位のRSVサブタイプAによる鼻腔内感染に対してこれら動物の保護を付与する(
図1及び
図2)。この免疫原性製剤は、RSV Nタンパク質サブタイプA及びBに対する免疫を付与することができる。
【0036】
(実施例2)
RSVサブタイプAのN遺伝子に対する組換えデンマークBCG株の細菌5×107個及びRSVサブタイプAのM2遺伝子に対する組換えデンマークBCG株の細菌5×107個からなる免疫原性製剤。
免疫原性製剤を構成する細菌のそれぞれにおいて、RSV遺伝子は、BCGの構成的内因性プロモーターhsp60の調節下で細菌のゲノムのコピーに挿入され、タンパク質の発現は、細胞質性である。免疫原性製剤を、グリセロール20%及びTween 80 0.02%で補充したPBS(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌108個の終濃度で保存し、それを-20℃で貯蔵した。同様に、株を、容積溶液:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)中に再懸濁し、その後凍結乾燥し、4℃で貯蔵することができる。
【0037】
デンマークBCG株を、プラスミドpMV361から得られたプラスミドpMV361/N又はpMV361/M2で電気形質転換によって形質転換し、それは細菌のゲノムに一度だけ挿入される。これらのプラスミドは、BCG hsp60遺伝子の構成的プロモーター下でRSVサブタイプAタンパク質N及びM2の遺伝子をそれぞれ含有する。得られた組換えコロニーを、OD600nm=1まで成長させ(補充したミドルブルック7H9培養培地中37℃で)、4000rpmで20分間遠心分離(エッペンドルフローターモデル5702/R A-4-38)し、20%グリセロール及び0.02% Tween 80で補充した溶液PBS(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌107個の終濃度で再懸濁し、-20℃で貯蔵した。同様に、株を、容積溶液:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)中に再懸濁し、その後凍結乾燥し、4℃で貯蔵することができる。RSVタンパク質N及びM2に対する抗体を使用するウェスタンブロットによって、本発明者らは、これらBCGデンマーク株が、RSVサブタイプAタンパク質N及びM2を組換えにより発現することを観察した。この免疫原性製剤は、RSVサブタイプA並びにBのM2及びNタンパク質に対する同時免疫を付与することができる。
【0038】
(実施例3)
RSVサブタイプBのFタンパク質のセグメントに対する組換えパスツールBCG株の細菌106個からなる免疫原性製剤。
遺伝子は、細菌中で、複数コピー(細菌当たり2~4コピー)で染色体外に見られ、RSVサブタイプBタンパク質Fの断片(アミノ酸5~200の範囲のセグメント)をコードする。この遺伝子の発現は、BCGのアルファ抗原タンパク質(85kD)をコードしている遺伝子の構成的内因性プロモーターの制御下にある。更に、この遺伝子にコードされるタンパク質は、そのN末端に、BCGの19kDaタンパク質のペプチドシグナル
HMKKRGLTVAVAGAAILVAGLSGCSSNKSTTGSGETTTTAAGTTASPGGを有し、そのシグナルは、細菌膜における発現を誘導する。免疫原性製剤を、Tween 80 0.02%及びグリセロール20%で補充したPBS(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に-80℃で保存する。同様に、株を、容積溶液:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)中に再懸濁し、その後凍結乾燥し、4℃で貯蔵することができる。
【0039】
パスツールBCG株を、電気形質転換によりプラスミドpMV261から得られたプラスミドpMV261/F5-200で形質転換し、そのプラスミドは、細菌内で、複数コピーで染色体外に存在する。このプラスミドは、そのN末端で、細菌膜における発現を誘導するBCGの19kDタンパク質のペプチドシグナル:
HMKKRGLTVAVAGAAILVAGLSGCSSNKSTTGSGETTTTAAGTTASPGG
と融合されたRSVサブタイプBのF遺伝子の断片(アミノ酸5~200に至るセグメント)をコードする。この遺伝子の発現は、BCGのアルファ抗原タンパク質(85kD)をコードしている遺伝子の構成的内因性プロモーターの制御下にある。得られた組換えコロニーを、補充したミドルブルック7H9培養培地中で、37℃でOD600nm=1まで成長させ、4000rpmで20分間遠心分離(エッペンドルフローターモデル5702/R A-4-38)し、Tween 80 0.02%及びグリセロール20%で補充したPBS(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌106個の終濃度で再懸濁した。同様に、株を、容積溶液:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)の容積中に再懸濁し、その後細菌106個のアリコートでそれぞれ凍結乾燥し、4℃で貯蔵することができる。この免疫原性製剤は、RSVサブタイプA及びBのFタンパク質に対する免疫を付与することができる。
【0040】
(実施例4)
RSVサブタイプAのN及びM2遺伝子に対する同時組換えデンマークBCG株の細菌105個からなる免疫原性製剤。
N遺伝子は、BCGの構成的内因性プロモーターhsp60の調節下で細菌のゲノムの1コピーで挿入され、タンパク質の発現は、細胞質性である。M2遺伝子は、BCGのアルファ抗原タンパク質(85kD)をコードしている遺伝子の構成的内因性プロモーターの制御下に複数コピー(細菌当たり2~4コピー)で細菌中の染色体外に見られる。M2遺伝子にコードされるタンパク質は、そのN末端に、細菌膜における発現を誘導するBCGの19kDaタンパク質のペプチドシグナル
HMKKRGLTVAVAGAAILVAGLSGCSSNKSTTGSGETTTTAAGTTASPGG
を有する。免疫原性製剤は、溶液容積:4℃で貯蔵した25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:凍結乾燥した蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)中に再懸濁した細菌から凍結乾燥し、4℃で保存される。同様に、その株は、Tween 80 0.02%及びグリセロール20%で補充したPBS溶液(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌105個の終濃度で保存されうる。
【0041】
デンマークBCG株を、プラスミドpMV361から得られたプラスミドpMV361/Nで電気形質転換によって形質転換し、それは細菌のゲノムに一度だけ挿入される。このプラスミドは、RSV Nタンパク質サブタイプAをコードしている遺伝子を含有し、その遺伝子は、BCG hsp60遺伝子の内因性及び構成的プロモーター下で発現される。得られたBCG株がRSV Nタンパク質に対する組換え体であることを確かめた後、それを、電気形質転換によりプラスミドpMV206から得られたプラスミドpMV206/M2で形質転換し、そのプラスミドは、細菌内で、複数コピーで染色体外に存在する。M2遺伝子にコードされるタンパク質は、そのN末端に、細菌膜における発現を誘導するBCGの19kDaタンパク質のペプチドシグナル
HMKKRGLTVAVAGAAILVAGLSGCSSNKSTTGSGETTTTAAGTTASPGG
を有する。
得られた組換えコロニーを、OD600nm=1まで成長させ(補充したミドルブルック7H9培養培地中37℃で)、4000rpmで20分間遠心分離(エッペンドルフローターモデル5702/R A-4-38)し、溶液容積:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)中に1mL当たり細菌105個の終濃度で再懸濁した。最終的に、アリコート1mLを105個細菌で凍結乾燥し、アリコートを4℃で貯蔵した。同様に、その株は、Tween 80 0.02%及びグリセロール20%で補充したPBS溶液(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌105個の終濃度で保存されうる。この免疫原性製剤は、RSVサブタイプA並びにBのN及びM2タンパク質に対する免疫を付与することができる。
【0042】
(実施例5)
RSVサブタイプAのN遺伝子に対する組換えデンマークBCG株の細菌104個からなる免疫原性製剤。
遺伝子は、BCGの内因性の誘導可能なacrプロモーターの調節下で細菌ゲノム内に1コピー挿入され、そのプロモーターは、一酸化窒素、低酸素濃度、及び成長の定常期に応答して活性を示す。タンパク質の発現は、細胞質性である。免疫原性製剤は、容積:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)の容積溶液から凍結乾燥され、希釈したSauton SSI溶液(H2O 1mL中にMgSO4 125μg、K2HPO4 125μg、L-アスパラギン1mg、クエン酸鉄アンモニウム12.5μg、85%グリセロール18.4mg、クエン酸0.5mg)中に25℃で貯蔵される。同様に、その株は、Tween 80 0.02%及びグリセロール20%で補充したPBS溶液(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌104個の終濃度で保存されうる。
【0043】
デンマークBCG株を、プラスミドpMV361から得られたプラスミドpMV361Pacr/Nで電気形質転換によって形質転換し、それは細菌のゲノムに一度だけ挿入される。このプラスミドは、RSV Nタンパク質サブタイプAをコードする遺伝子を含有し、その遺伝子は、BCG acr遺伝子の内因性で誘導可能なプロモーター下で発現される。得られた組換えコロニーを、OD600nm=1まで成長させ(補充したミドルブルック7H9培養培地中37℃で)、4000rpmで20分間遠心分離(エッペンドルフローターモデル5702/R A-4-38)し、溶液容積:25%ラクトース並びにグルコース及びTween 80で補充したプロスカウアーベック培地(PBGT:蒸留水1リットル当たりアスパラギン0.5g;一カリウムリン酸塩5.0g;クエン酸マグネシウム1.5g;硫酸カリウム0.5g;Tween 80 0.5mL及びグルコース10.0g)中に再懸濁した。最終的に、アリコート1mLを細菌104個で凍結乾燥し、25℃で貯蔵した。同様に、その株は、Tween 80 0.02%及びグリセロール20%で補充したPBS溶液(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌108個の終濃度で保存されうる。この免疫原性製剤は、RSV Nタンパク質サブタイプA及びBに対する免疫を付与することができる。
【0044】
(実施例6)
RSVサブタイプAのN遺伝子に対する組換えデンマークBCG株の細菌109個からなる免疫原性製剤。
遺伝子は、ファージT7のポリメラーゼを共発現するBCG株において構成的発現のファージT7の外因性プロモーターの調節下で細菌のゲノムに1コピーで挿入される。タンパク質の発現は、細胞質性である。免疫原性製剤は、希釈したSauton SSI溶液(H2O 1mL中にMgSO4 125μg、K2HPO4 125μg、L-アスパラギン1mg、クエン酸鉄アンモニウム12.5μg、85%グリセロール18.4mg、クエン酸0.5mg)中にあり、-20℃で貯蔵する、又は凍結乾燥し、4℃で貯蔵すことができる。同様に、その株は、Tween 80 0.02%及びグリセロール20%で補充したPBS溶液(137mM NaCl; 2.7mM KCl; 4.3mM Na2HPO4; 1.47mM KH2PO4、pH7.4)中に100μL当たり細菌109個の終濃度で保存されうる。
【0045】
デンマークBCG株を、プラスミドpMV361に由来するプラスミドpMV361PT7/Nで電気形質転換によって形質転換し、それは細菌のゲノムに一度だけ挿入される。このプラスミドは、RSV Nタンパク質サブタイプAをコードしている遺伝子を含有し、その遺伝子は、ファージT7ポリメラーゼの発現によって活性化されるT7プロモーター下で発現される。
【0046】
得られたBCG株を、電気形質転換によりプラスミドpMV261に由来するプラスミドpMV261Amp/PolT7で形質転換し、そのプラスミドは、複数コピーで、細菌内で染色体外に存在する。このプラスミドにおいて、抗生物質カナマイシンに対する抵抗性を、抗生物質ハイグロマイシン(Higr)に対する抵抗性で置きかえた。ファージT7のT7ポリメラーゼは、BCG hsp60遺伝子の構成的プロモーターの制御下にある。得られた組換えコロニーを、OD600nm=1まで成長させ(補充したミドルブルック7H9培養培地中37℃で)、4000rpmで20分間遠心分離(エッペンドルフローターモデル5702/R A-4-38)し、希釈したSauton SSI(H2O 1mL中にMgSO4 125μg、K2HPO4 125μg、L-アスパラギン1mg、クエン酸鉄アンモニウム12.5μg、85%グリセロール18.4mg、クエン酸0.5mg)溶液に再懸濁し、-80℃で貯蔵した。この免疫原性製剤は、RSV Nタンパク質サブタイプA及びBに対する免疫を付与することができる。
【0047】
(実施例7)
hMPV感染に対する、RSV BCG-Nの保護。
本発明のワクチンが、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)に対する保護を提供することを決定するために、マウスを、hMPVによる感染に対して有効な本発明のワクチンのうち1つ又はhMPVのPタンパク質に対する組換えBCGワクチンで事前に免疫した。これらの結果を、事前の免疫化なしにhMPVで感染させたマウス及び感染なしのマウスと比較した。
【0048】
それぞれマウス3匹の実験群は、以下の通りである:
1)無感染、非免疫対照
2)免疫化なしにhMPVで感染させた
3) hPMV BCG-Pで免疫し、hMPVで感染させた
4) RSV BCG-Nで免疫し、hMPVで感染させた。
【0049】
最初に、肺及び気管支肺胞洗浄液(BAL)における多核白血球の浸潤を、4群に対するフローサイトメトリーによって分析し、CD11c
-/CD11b
+/Gr1
+多核白血球のパーセンテージを決定した。これら細胞の存在は、ウイルス感染症に対する炎症応答と直接相関する。
図3-Aは、研究した4群に対するBAL中のCD11c
-/CD11b
+/Gr1
+細胞のパーセンテージを示す。BCG-P及びBCG-Nで免疫した群が、免疫化なしの感染群より有意に少ない炎症反応を示すことが観察される。
【0050】
図3-Bは、研究した4群の肺中のCD11c
-/CD11b
+/Gr1
+細胞のパーセンテージを示す。前の事例と同様に、BCG-P及びBCG-Nで免疫した群が、免疫化なしの感染群より有意に少ない炎症細胞の浸潤を示すことが観察される。BCG-Pで免疫した群3が、非感染群と類似の結果を示すことを見ることができる。
【0051】
第2に、4群の肺組織中のウイルス量を、定量的PCR(qPCR)によって決定し(
図4)、βアクチン5000コピー当たりのhMPV Nタンパク質のコピー数として表した。免疫群が、非ワクチン接種感染群より有意に低いウイルス量を有することが観察される。
【0052】
認識できるように、本発明のワクチンは、同じhMPVウイルスのタンパク質、この場合Pタンパク質、に対する組換えBCGワクチンによって取得される保護と類似のhMPV感染に対する保護を提供する。
【0053】
(実施例8)
BCG RSV-Nワクチンによる体液性応答の誘導
本発明のワクチンがTh1型応答を誘導することを決定するために、6~8週齢のBALB/cJマウスは、背部に用量当たりの最終容量100μLでBCG WT又はRSV-Nタンパク質を発現する組換えBCG 1×10
8CFUの皮下注射を受けた。14日後、それらに同じ開始量で追加免疫を与えた。BCG WT又はBCG-Nの最初の注射の21日後に動物に抗原投与し、それには臨床分離株から入手したRSV A2株13018-8を使用した。免疫前(0日目)、ウイルス負荷前(21日目)、及び感染14日後に血清試料を入手した。これら試料を、1/500希釈でELISAにより分析した。結果は、BCG-Nで免疫した動物が、ウイルス負荷前の段階においても抗RSV抗体を産生し、この産生が、非免疫対照及びBCG WTで免疫した動物より有意に高いことを示す。RSVによる負荷後、ウイルスに対する特異的IgG免疫グロブリンのレベルは、感染14日後にも維持されるよりいっそう強い増大を示す(
図5)。
【0054】
免疫化により産生される免疫グロブリンのアイソタイプを確定するために、RSV特異的IgG1及びIgG2aアイソタイプ抗体のレベルを、試験動物の血清においてELISAにより分析した。感染7日後から、野生型BCGでワクチン接種した動物及び免疫していない動物を含む対照動物と比較して、IgG2aアイソタイプ抗体の産生における有意により強い増大が、本発明のBCG RSV-Nワクチンで免疫した動物に観察される。一方、IgG1アイソタイプ抗RSV免疫グロブリンは、感染前にBCG-Nでワクチン接種した動物において増大を示すが、RSV対照群及びBCG WTでワクチン接種した動物は、ウイルス負荷14日後頃にその産生がすでに一致する(
図6-A、
図6-B)。後者は、
図6-Cにおいてよりよく証明され、抗RSV免疫グロブリンのアイソタイプIgG2a/IgG1の比が、RSVで感染させただけの対照群より本発明のBCG RSV-Nワクチンで免疫した動物において高いことが示される。すでに指摘した通り、この関係は、Th1表現型の方へ分極した免疫応答の指標となる。ワクチン接種によって誘導される液性応答が、補体を不活性化した後に、RSV感染に対して保護する能力があるかどうか決定するために、RSV-GFPウイルスを、感染14日後及びウイルス負荷の前に全ての実験群の動物由来の血清とインキュベートし、次いで、HEp-2細胞をこれら混合物で感染させた。
図7において、落射蛍光顕微鏡検査画像において、他の処置に対してBCG-Nで免疫した動物由来の血清で事前に処置した細胞においてRSV-GFPの発現の低下が観察される。プラーク形成単位を定量化する場合、このパラメータの有意な低下は、BCG-Nで免疫した動物の感染14日後の血清による処置においてのみ証明され(
図7-B)、フローサイトメトリーによってRSV-GFPの発現を分析した場合、同じ傾向が証明される(
図7-Bと
図7-Cの比較)。
【0055】
(実施例9)
RSV BCG-Nで免疫した動物における抗hMPV IgG抗体の産生。
hMPVに対する特異的免疫グロブリンの産生を評価するために、このウイルスで抗原投与し、本発明のワクチンであるRSV Nタンパク質に対する組換えBCG(BCG-N)又はhMPV Pタンパク質に対する組換えBCGワクチン(BCG-P)で事前に免疫したBALB/cJ動物から血清サンプルを入手した。これらの結果を、事前免疫化なしにhMPVで感染させた、及び感染させていない対照(模擬(Mock))動物と比較した。血清を、異なる2つの時間で比較する:ウイルス負荷前及び感染7日後。試料を、1/1000希釈でELISAによって分析した。結果は
図8に見られ、総抗hMPV IgG免疫グロブリンが、対照群と比較してワクチン接種した動物において有意に増大したことが示される。
【0056】
RSV BCG-N及びhMPV BCG-Pで免疫した両方の動物が、ウイルス負荷前後に、同レベルのヒトメタニューモウイルスに対する特異的抗体を達成することは非常に重要である。
このことは、RSVタンパク質を含む本発明のワクチンが、hMPVのPタンパク質に対する組換えBCGに基づくそのウイルスに対する特異的ワクチンによって得られた保護と類似して、ヒトメタニューモウイルスに対する保護を提供することを意味する。
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【手続補正書】
【提出日】2021-10-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RSV免疫原性タンパク質又は断片が、RSVヌクレオカプシドタンパク質(Nタンパク質)に対応し、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、薬学的に許容可能な生理食塩緩衝液中に呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の少なくとも1つのタンパク質又は免疫原性断片を発現するカルメットゲランのバチルス株(BCG)を細菌10
4~10
9個の濃度で含有する免疫原性製剤の使用。
【請求項2】
前記RSV免疫原性タンパク質又は断片が、RSV A若しくはRSV Bサブタイプ又は両方のサブタイプのNタンパク質に対応し、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
RSV Nタンパク質のタンパク質又は免疫原性断片をコードしている遺伝子が、マイコバクテリウム、好ましくはBCGのゲノム若しくは染色体外プラスミドに1つ若しくは複数コピーで挿入され、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
タンパク質遺伝子の発現が、マイコバクテリウムBCGの内因性又は外因性プロモーターによって、構成的又は誘導可能に統制され、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
RSV Nタンパク質に対応する免疫原性RSVタンパク質又は断片が、可溶性細胞質形態、細胞外分泌又は細胞膜結合型タンパク質としてBCGによって発現され得、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項6】
前記製剤が、RSV Nと異なるタンパク質又は免疫原性断片を発現する他の免疫原性製剤と一緒に使用され得、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記製剤が、他の免疫原性製剤と一緒に使用され得、前記他の免疫原性製剤が、免疫原性タンパク質又は断片によって発現される形態、可溶性、可溶性細胞質、細胞外分泌又は細胞膜結合タンパク質の点で異なり、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記製剤が、他の免疫原性製剤と一緒に使用され得、前記他の免疫原性製剤が、RSVタンパク質若しくは免疫原性断片の遺伝子のコピー数及びRSVタンパク質若しくは免疫原性断片の発現が構成的若しくは誘導可能に制御される様式の点で異なり、更にRSVタンパク質若しくは免疫原性断片の行く先が異なり、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項9】
前記製剤が、使用の前の保存のために凍結、凍結乾燥又は生理食塩緩衝液によって安定化され得、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項10】
前記製剤が、許容可能な生理学的食塩水中で皮下、経皮又は真皮下に投与され得、ヒトメタニューモウイルス感染を防止、処置又は軽減するのに有用なワクチンを調製するのに用いることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【国際調査報告】