(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】内燃機関用のピストン
(51)【国際特許分類】
F02F 3/00 20060101AFI20230222BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20230222BHJP
F16J 1/09 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
F02F3/00 S
F02F3/00 M
F01M1/06 C
F16J1/09
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539739
(86)(22)【出願日】2020-12-16
(85)【翻訳文提出日】2022-06-27
(86)【国際出願番号】 EP2020025585
(87)【国際公開番号】W WO2021129952
(87)【国際公開日】2021-07-01
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522256934
【氏名又は名称】キャタピラー モトーレン ゲーエムベーハー ウント カンパニー カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アブラハム、フォルカー
【テーマコード(参考)】
3G313
3J044
【Fターム(参考)】
3G313AA09
3G313AB05
3G313AB13
3G313AB16
3G313BD32
3J044AA12
3J044BA01
3J044CA18
3J044CA25
3J044CA40
(57)【要約】
本発明は、内燃機関(10)、特にV型エンジン用のピストン(16)に関する。ピストンは、ピストン(16)のリングベルト(26)とピストンスカート(24)との間のピストン(16)の外周面に設けられた油排出溝(54)を備え、ピストンスカート(24)は、ピストン(16)の互いに対向する側に2つの凹状ピンボス部分(42)を備えており、ピストンスカート(24)は、ピストンスカート(24)の外表面において2つの凹状ピンボス部分(42)の間に配置され、且つ油排出溝(54)を凹状ピンボス部分(42)と流体連通的に接続するように構成された少なくとも1つの油排出ダクト(56)をさらに備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関(10)、特にV型エンジン用のピストン(16)であって、前記ピストン(16)のリングベルト(26)とピストンスカート(24)との間の前記ピストン(16)の外周面に設けられた油排出溝(54)を備え、前記ピストンスカート(24)は、前記ピストン(16)の互いに対向する側に2つの凹状ピンボス部分(42)を備えており、
前記ピストンスカート(24)は、前記ピストンスカート(24)の外表面において前記2つの凹状ピンボス部分(42)の間に配置され、且つ前記油排出溝(54)を前記凹状ピンボス部分(42)と流体連通的に接続するように構成された少なくとも1つの油排出ダクト(56)をさらに備える、ピストン(16)。
【請求項2】
ピストンヘッド(22)及び前記ピストンスカート(24)が別個の部分を構成するマルチパート設計を有する、請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記凹状ピンボス部分(42)は、前記ピストン(16)の外表面を形成する平面状外面(52)を有する、請求項1又は2に記載のピストン。
【請求項4】
前記油排出ダクト(56)は、前記ピストン(16)がエンジン(10)内で動作する場合、前記油排出ダクト(56)を通って、そして続いて前記凹状ピンボス部分(42)の外面(52)に沿ってオイルを案内するとき、オイルを前記油排出溝(54)から前記エンジン(10)のクランクケースの中に排出するように構成される、請求項1~3のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項5】
前記ピストンは、前記ピストン(16)の互いに対向する側にある前記2つの凹状ピンボス部分(42)の間に配置された少なくとも2つの油排出ダクト(56)を備える、請求項1~4のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項6】
前記油排出ダクト(56)は、前記ピストンスカート(24)の前記外表面に設けられた凹部によって形成されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項7】
前記油排出ダクト(56)は、前記ピストン(16)が前記エンジン(10)に搭載されて動作する場合、前記油排出ダクト(56)の流れ断面が前記油排出ダクト(56)内のオイルの流れ方向(A)に沿って先細りになるように設計されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項8】
前記油排出ダクト(56)は、前記ピストンスカート(24)の前記外表面に配置され、且つ前記油排出ダクト(56)が前記2つの凹状ピンボス部分(42)のうちの少なくとも1つに開口するように前記2つの凹状ピンボス部分(42)の間に延びる下縁(58)を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項9】
前記油排出ダクト(56)は、前記ピストン(16)の長手方向軸(L)に沿った前記ピストン(16)の下方の移動方向において、前記下縁(58)の中間セクション(60)が前記下縁(58)の2つの対向する端部セクション(62)の前又はそれと同じレベルに配置されるように設計される、請求項1~8のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項10】
前記エンジン(10)内の前記ピストン(16)の搭載状態において、前記油排出ダクト(56)は、前記エンジン(10)の垂直軸(Z)に沿って下方方向において、前記下縁(58)の前記中間セクション(60)が前記下縁(58)の前記2つの対向する端部セクション(62)の前又はそれと同じレベルに配置されるように設計される、請求項8又は9に記載のピストン。
【請求項11】
前記エンジン(10)内の前記ピストン(16)の前記搭載状態において、前記油排出ダクト(56)は、その下縁(58)が下方に湾曲するように、又は前記下縁(58)の前記中間セクション(60)を通って延びる水平面(H)に対して平行に延びるように設計されている、請求項7~10のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項12】
前記油排出ダクト(56)は、前記ピストンスカート(24)の前記外表面に配置された2つの対向する横縁(64)をさらに備え、その各々が前記油排出溝(54)と前記凹状ピンボス部分(42)のうちの1つとの間の前記ピストン(16)の前記長手方向軸(L)に沿って延びる、請求項7~11のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項13】
前記油排出ダクト(56)の前記下縁(58)は、放物線形状又はスプリント(splint)形状を有する、請求項7~12のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項14】
前記油排出ダクト(56)の前記下縁(58)の形状は、少なくとも部分的に、
【数1】
によってパラメータ化され、ここで、xは前記ピストン(16)のピンボス軸(P)に沿った位置を表し;yは前記ピンボックス軸(P)を横切る横軸に沿った位置を表し;zは前記ピストン(16)の中心長手方向軸(L)に沿った位置を表し;rは前記ピストンの前記中心長手方向軸(L)の周りの前記ピストンスカート(24)の前記外周面の半径を表し;bは前記ピンボス軸(P)に対する前記下縁(58)の前記中間セクション(60)の高さ位置を示すパラメータであり;cは係数を表し;iは自然数として提供されるインデックスを表す、請求項7~13のいずれか一項に記載のピストン。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の少なくとも1つのピストン(16)を備える内燃機関(10)、特にV型エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に使用するためのピストン、及び少なくとも1つのそのようなピストンを備えた内燃機関、特にV型エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンなどの内燃機関では、ピストンヘッド及びピストンスカートを備える構造構成のピストンを採用することが知られている。ピストンヘッドは、外側リングベルトをその円周方向外表面に含み、これは、ピストンが動作中に往復移動するエンジンのシリンダの内壁に当接する対応するピストンリングを収容するための、複数の円周方向に連続するリング溝を形成する。
【0003】
ピストンリングは、エンジンのクランクケースから燃焼室を密封する機能を有している。さらに、ピストンリングは、ピストンとシリンダ壁との間に適切な量のオイルを維持し、シリンダ壁からクランクケースに収容されたオイルサンプにオイルを掻き落して戻すことによってエンジンオイルの消費量を調整するように意図及び構成されている。
【0004】
そのようにするために、リング溝の最下部分、すなわちピストンスカートに最も近く配置されているものは、通常、いわゆるオイルスクレーパリング(oil scraper ring)を収容する。オイルスクレーパリングは、さらなるピストンリングを通過するオイルの量を制限及び調整するようにシリンダ壁からオイルを掻き落すように構成されている。このように、スクレーパリングは、オイルがピストンリングを通過して燃焼室に滑り込む、いわゆる「ブローバイ」効果を最小限に抑えることを目的としている。燃焼室内へのこの意図しないオイルの放出は、一般に「オイルスライド」とも呼ばれ、エンジン性能の低下、エンジン構成要素の寿命の低下、及びエンジンの望ましくない炭化水素排出につながる可能性がある。
【0005】
具体的には、オイルスクレーパリングは、ピストンのダウンストローク中に、シリンダ壁から掻き落されたオイルがその前方に蓄積されるように設計されている。したがって、オイルスクレーパリングの適切な機能を確保するには、リングの前方に蓄積されたオイルを適切に排出して、シリンダ壁から十分な量のオイルを掻き落すことができるようにする必要がある。したがって、既知のピストン構成は、ピストンのダウンストローク移動中にリングベルトの前方に蓄積されたオイルをクランクケースに案内するように、それによって戻すように設計された油排出経路が備えている。
【0006】
1つの既知のピストン構成では、オイルスクレーパリングを収容する最下リング溝は、ピストンスカートに設けられた限られた数の油排出孔に接続され、最下リング溝に蓄積されたオイルをピストンスカートの内側に案内するように構成される。次に、ピストンスカートの内側から、オイルは、ピストンスカートの開いた底部を介してクランクケースに逆に流れる。
【0007】
さらに、ピストン構成は、例えば米国特許第6,557,514B1号によって知られている。それによると、ピストンのダウンストローク移動中にリングベルトの前方に蓄積されたオイルは、最下ピストンリング溝に隣接して配置された円周方向の油排出溝に受容され、その後、クランクケースに排出されるようにピストンスカートの外表面を横切って案内される。具体的には、互いに対向する側において、ピストンスカートは、油排出溝に開口する凹状ピンボスを備えている。このような構成により、油排出溝に受容されたオイルは、凹状ピンボスの外表面を横切って案内されて、クランクケース内に下方に戻り、排出される。
【0008】
ただし、V型エンジンに既知のピストン構成を適用する場合、ピストンのアンギュレーションは、ピストンスカートを横切ったりピストンスカートを通過したりするオイルの流れに影響を与える可能性がある。このようにして、排出されるオイルは、ピストンによって形成されたオイルの戻り経路を通って流れるとき、増加した流動抵抗を受ける可能性がある。例えば、これは、オイルが飛散することにより又は重力に逆らってオイルを上方にそらすことによって引き起こされる可能性がある。その結果、リングベルトからピストンスカート内への十分に高いオイルの戻り流量が確保されない可能性があり、これにより、動作中に燃焼室内へのオイルスライドが起こり得る。
【発明の概要】
【0009】
先行技術から始めて、特にV型エンジンに適用される場合、エンジンの燃焼室内へのオイルスライドを効果的に防止する、内燃機関用の改良されたピストンを提供することが目的である。そのため、少なくとも1つのそのようなピストンを備えた内燃機関、特にV型エンジンを提供することが目的である。
【0010】
これらの目的は、独立請求項の主題によって解決される。好ましい実施形態は、本明細書、図面、ならびに従属請求項に記載されている。
【0011】
したがって、ピストンのリングベルトとピストンスカートとの間のピストンの外周面に設けられた油排出溝を備える内燃機関、特にV型エンジン用のピストンが提供される。ピストンスカートは、ピストンの互いに対向する側に2つの凹状のピンボス部分と、ピストンスカートの外表面において2つの凹状ピンボス部分の間に配置された少なくとも1つの油排出ダクトと、を備えている。油排出ダクトは、油排出溝を凹状ピンボス部分と流体連通的に接続するように構成されている。
【0012】
さらに、少なくとも1つの上記ピストンを備えた内燃機関、特にV型エンジンが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本開示は、添付の図面に関連して検討される場合、以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解されるであろう。
【
図3】
図1及び
図2に示したエンジンに採用されているピストンの概略正面図を示す。
【
図5】別の構成によるピストンの概略斜視図を示す。
【
図6】
図5に示したピストンのさらなる概略斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下では、添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。図面では、同様の要素は同一の参照番号で示され、冗長性を回避するために、その繰り返しの説明は省略することができる。
【0015】
図1は、以降において「エンジン」とも称する内燃機関10を概略的に示している。エンジンは、主又は補助エンジンとして、船舶又は建設車両などの車両に実装することができる。示される構成では、エンジン10は、V型エンジンの形態で提供され、複数のシリンダ12、例えば、8、12、又は18個のシリンダを備え、V字型に配置される。具体的には、
図1から推測できるように、シリンダ12は、エンジン10のクランクシャフト14に平行に2列に配置されている。シリンダ12の各ラインは、シリンダバンクとも呼ばれる。「バンク角」とも呼ばれる、シリンダバンクの間の角度は、示されている構成では40°であるが、これに限定されない。むしろ、エンジン10は、任意の適切なバンク角、例えば、20°~120°の範囲、具体的には50°のバンク角を備えていてもよい。
【0016】
各シリンダ12は、シリンダ12内の燃焼室18を区切るヘッド部分を有するピストン16を収容する。具体的には、ピストン16は、シリンダ12内で往復移動及び軸方向移動するように構成され、コネクティングロッド20を介してエンジン10のクランクシャフト14に接続される。
【0017】
エンジン10は、空気燃料混合物を燃焼室18に選択的に供給するための吸気システム(図示せず)の作動を制御する制御装置(図示せず)と、燃焼室18内に受容された空気燃料混合物を選択的に点火するための点火システム(図示せず)と、燃焼室18から燃焼ガスを選択的に排出するための排出システム(図示せず)と、をさらに備える。
【0018】
そのような構成によって、すなわち、燃焼室18内で空気燃料混合物に点火すると、高温高圧ガスが燃焼室18内で生成され、ピストン16に力を加えてそれを軸方向に動かし、それによってクランクシャフト18を回転させる。このようにして、化学エネルギーは機械エネルギーに変換される。
【0019】
エンジン10及びその構成要素の基本的な構造及び動作モードは、当業者に周知されていて、したがって、さらに特定されていない。むしろ、本発明と相互に関連するエンジン10で採用されるピストン16の特性は、以下で扱われる。
【0020】
図2は、搭載状態、すなわち、エンジン10のシリンダ12に搭載された状態のピストン16の拡大図を示している。そのため、
図3及び
図4は、
図1及び
図2に示されたピストン16の非搭載状態、すなわちエンジン10から該ピストンが分解された状態を示している。
【0021】
ピストン16は、好ましくは、マルチパート設計、例えば、ピストンヘッド22及びピストンスカート24がピストン16の別個の部分を構成する2パート設計を有する。代替的に、ピストン16は、一体型設計を備えていてもよく、モノブロック構成体又はモノブロックピストンとも呼ばれ、ここで、ピストン16は、単一の部品からなる鋳造品である。
【0022】
ピストンヘッド22は、その円周方向外表面において、シリンダ12の燃焼室18を区切るピストンヘッド22の前面から離間して配置された円筒状リングベルト26を備えている。リングベルト26は、リングベルト26の外表面に設けられた複数のピストンリング溝28、30、32で形成されており、その各々は、
図2から推測できるように、オイルコントロールリングとも呼ばれる、ピストンリング34、36、及び38を収容するように設計されている。具体的には、ピストンリング34~38は、燃焼室18をエンジン10のクランクケースから密封し、同時に、エンジン10の動作中にピストン16とシリンダ壁40との間に適切な量のオイルを維持するように構成される。そのため、ピストンリング34~88は、以下に記載するように、シリンダ壁40からオイルを掻き落すことにより、クランクケースに収容されたオイルサンプに戻すようにエンジンオイルの消費量を制限及び調整する。
【0023】
具体的には、そうするために、最下ピストンリング38、すなわち最下リング溝32に収容されたものが、いわゆるオイルスクレーパリングの形態で提供される。そのような構成により、最下リング溝32に収容されたピストンリング38は、シリンダ12内のピストン16のダウンストローク移動時にシリンダ壁40からオイルを掻き落すように構成される。
【0024】
本開示の文脈において、「最下ピストンリング」38という用語は、ピストンスカート24に最も近く配置された複数のピストンリング34~38のうちの1つを指す。
【0025】
ピストンヘッド22は、動作中にピストン16、すなわちそのヘッド部分を冷却するために冷却オイルが循環する内部冷却ギャレー(図示せず)をさらに備えている。そのような内部冷却ギャレーの基本的な構造及び動作は当業者によく知られており、したがってさらに特定されていない。
【0026】
ピストンスカート24は、ピストンスカート24の互いに対向する側に配置された2つの凹状ピンボス部分42を備える。言換すれば、ピンボス部分42は、ピストン16の長手方向軸Lに対して互いに対向して配置されている。
【0027】
本開示の文脈において、「長手方向軸」Lという用語は、シリンダ12内のピストンの往復移動の方向に平行であるピストン16の軸を指す。
【0028】
凹状ピンボス部分42のそれぞれは、ピストン16をコネクティングロッド20に枢動可能に結合するためにリストピン(wrist pin)46を受容するピンボス44を備えている。そのような構成により、リストピン46は、ピストンスカート24の内部を通って延び、ピンボス44に形成されたピンボア48に結合されている。したがって、ピンボア48は、ピストンのピンボア軸Pに沿って整列されている。
【0029】
本開示の文脈において、「ピンボア軸」Pという用語は、ピストン16の長手方向軸Lに垂直であり、リストピン46の長手方向軸に平行であるピストン16の軸を指す。
【0030】
示されている構成では、凹状ピンボス部分42は、ピストンスカート24の円筒状部分50に隣接して配置されている。凹状ピンボス部分42は、円筒状部分50とともに、ピストンスカート24のシェル表面、すなわち外表面を構成する。
【0031】
より具体的には、ピストンスカート24は、ピストン16の搭載状態において、ピストンスカート24の円筒状部分50の外面が、シリンダ壁40隣接して実質的にその形状に追従するように配置されているように提供され、ここで、凹状ピンボス部分42の外面52は、シリンダ壁40から離間している。言換すれば、ピンボス部分42の領域では、ピストンスカート24のシェル表面の一部が、円筒状のシェル表面と比較して意図的に凹んでいる一方、円筒状部分50によって形成されるピストンスカートのシェル表面の他の部分は、円筒状のシェル表面に実質的に追従するように設計されている。このようにして、シリンダ12内に受容される場合、ギャップは、すなわち半径方向において、凹状ピンボス部分42とシリンダ壁40との間に形成される。このギャップは、ピストンスカート24の円筒状部50とシリンダ壁40との間に形成されるギャップと比較して実質的に大きい。
【0032】
図1~
図4に示されるピストン16の構成において、ピストン16の外表面を形成する、凹状ピンボス部分42の外面52は平面形状である。代替的に、外面52は、特にピンボア48の周りの領域において、
図5及び
図6に示されるピストン16のさらなる構成に示されるように、半径方向内向き方向に延びる複数の凹部を備えてもよい。
【0033】
さらに、ピストン16は、リングベルト26とピストン16のピストンスカート24との間のピストンの外周面に設けられた油排出溝54を備える。示の構成では、油排出溝54は、ピストン24の外表面、すなわちシェル表面において円周方向連続リング溝を構成する。油排出溝54は、ピストンヘッド22及びピストンスカート24を互いから分離させる。換言すれば、ピストン26の下方に又はダウンストローク移動方向に、すなわち長手方向軸Lに沿って、リングベルト26、油排出溝54及びピストンスカート24が連続して、すなわち次から次へと配置される。
【0034】
本開示の文脈において、ピストン16の「下方に又はダウンストローク移動方向」という用語は、その長手方向軸Lに沿ったピストン16の移動方向を指し、これは、ピストン16の搭載状態において、エンジン10のクランクシャフト14又はクランクケースに面する。
【0035】
油排出溝54は、ピストン16の動作中にリングベルト26の前方又は正面に蓄積されたオイルを受容し、収集するように構成される。要するに、上記のように、最下リング溝32に収容された最下ピストンリング38は、シリンダ12内のピストン16のダウンストローク移動時にシリンダ壁40からオイルを掻き落すように構成される。換言すれば、シリンダ12内で下方にピストン16を軸方向に、すなわちダウンストローク移動方向に移動させるとき、最下リング溝32は、次いで油排出溝54に受容されるオイルをシリンダ壁40から掻き落す。
【0036】
さらに、ピストン16は、油排出溝54に収集されたオイルをクランクケースに排出するように設計及び構成された2つの油排出ダクト56を備える。具体的には、ピストンスカート24は、油排出ダクト56をその外表面に備え、それにより油排出ダクト56のそれぞれが、凹状ピンボス部分42の間に配置される。換言すれば、ピストン16の円周方向において、すなわちその長手方向軸Lの周りで、油排出ダクト56のそれぞれは、凹状ピンボス部分42の間に配置される。油排出ダクト56は、油排出溝54を凹状ピンボス部分42と流体連通的に接続するように構成されている。より具体的には、油排出ダクト56は、ピストン16の作動時に、油排出溝54に受容されたオイルを、凹状ピンボス部分42、すなわち、凹状ピンボス部分42とシリンダ壁40との間に形成されたギャップに向かって案内するように設計及び構成されている。言換すれば、油排出ダクト56は、油排出ダクト56を通って、続いて、クランクケースに排出される前に、凹状ピンボス部分42の外面52に沿って、油排出溝54に収集されたオイルを案内するとき、オイルを油排出溝54からエンジン10のクランクケースに排出するように構成及び設計される。
【0037】
油排出ダクト56を備えることにより、提案されたピストン16は、ベルトリング26の前方に収集されたオイルをクランクケースに排出するための流路の流れ断面が流路全体に沿って十分に高いことを確実にし、これによりリングベルト24からのオイルの適切な除去を確実にする。このようにして、リングベルト26の前方に収集されたオイルは、高い流動抵抗にさらされるのを防ぎ、したがって、燃焼室18内へのオイルスライドを起こし得る過度の圧力にさらされるのを防ぐ。
【0038】
図1~
図6に示されるピストン16の2つの構成において、ピストン16は、2つの凹状ピンボス部分42の間に配置された2つの油排出ダクト56を備える。代替的に、ピストン16は、2つより多い又は少ない油排出ダクト56を備えることができる。代替的に又は付加的に、示された油排出ダクト56は、各油排出ダクト56がピストン16の円周方向に沿って互いから離間し得る2つの別個の油排出ダクトに分割されるように分離され得る。
【0039】
図2から推測できるように、2つの油排出ダクト56は、ピストン16の互いに対向する側に配置されている。具体的には、2つの油排出ダクト56は、長手方向軸L及びピストン16のピンボア軸Pの両方に関して、互いに対向して配置されている。
【0040】
油排出ダクト56のそれぞれは、ピストンスカート24の外表面に設けられた凹部によって形成されている。言換すれば、油排出ダクト56は、ピストンスカート24の外表面に、特にピストンスカート24の凹状ピンボス部分42に隣接して配置された円筒状部分50に機械加工され、特に切り込まれる。
【0041】
油排出ダクト56は、その流れ断面が油排出ダクト56内のオイルの流れ方向に沿って先細りになるように設計されている。
図2~
図6では、油排出ダクト56を通って案内されるオイルの流れ方向は、矢印Aで示されている。示された流れ方向から推測できるように、油排出ダクト56を通って案内されるオイルの流路は下方に、すなわち下方の移動方向の方向にスムーズにそらすことができる。
【0042】
要するに、ピストン16の提案された構成において、ピストンスカートの外表面に沿って排出されるオイルの流れ方向は、油排出ダクト56を通って流れるとき、スムーズに下方にそらされる。具体的には、油排出ダクト56を凹状ピンボス部分42の間に配置することによって、油排出ダクト56は、油排出ダクト56を通過する場合にオイルの流れをスムーズにそらすことに寄与することができる或る特定の長さを備え、それによって、特にV型エンジンにピストン16を採用する場合にオイルの戻り流れを改善する。
【0043】
具体的には、油排出ダクト56の適切な長さを確保するために、油排出ダクト56は、ピストンスカート24の円筒状部分50の全円周長さに沿って延びる。
【0044】
以下では、油排出ダクト56の構造的配置及び特性をさらに規定する。
【0045】
図2~
図4に示すように、油排出ダクト56のそれぞれは、ピストンスカート24の外表面に配置された下縁58を備える。下縁58は、2つの凹状ピンボス部分42の間に延び、それによって、その関連付けられた油排出ダクト56は、凹状ピンボス部分42に開口する。
図2から推測できるように、下縁58は、油排出ダクト56を通って案内されるオイルの流れ方向において、下縁58が、下方に、すなわち下方の移動方向に、湾曲しているように、すなわちスムーズに湾曲しているように設計されている。
【0046】
具体的には、
図3及び
図4から推測できるように、油排出ダクト56は、下方の移動方向に、すなわちピストン16の長手方向軸Lに平行に、クランクシャフト14に向かって誘導されて、下縁58の中間セクション60が、下縁58の2つの対向する端部セクション62の前に配置されるように設計されている。言換すれば、下方の移動方向から見た場合、中間セクション60は、2つの対向する端部セクションの前に配置される。
【0047】
より具体的には、
図2から推測できるように、油排出ダクト56のそれぞれは、エンジン10におけるピストン16の搭載状態において、下縁58の中間セクション60がエンジン10の垂直軸Zに沿って下方方向から見た場合に下縁58の2つの対向する端部セクション62の前に配置されるように設計されている。言換すれば、排出ダクト56は、エンジン10内のピストン16の搭載状態において、下縁58の端部セクション62は、下縁58の中間セクション60の下に配置されるように設計されている。この構造的配置の例示の目的のために、水平面Hは、
図2に破線で示されている。
【0048】
代替的に、油排出ダクト56は、エンジン10の垂直軸Zに沿って下方方向から見たとき、下縁58の中間セクション60が下縁58の2つの対向する端部セクション62と同じレベルに配置されるように設計され得る。さらに、搭載状態においては、油排出ダクト56のそれぞれは、下縁58が水平面Hに対して下方に湾曲するように設計されている。代替的に、油排出ダクト56は、下縁58が水平面Hに平行に配置され、且つ延びるように設計され得る。
【0049】
油排出ダクト56を備えることにより、V型エンジン内のピストン16の構造的配置及び搭載条件が、提案されたピストン構成によって考慮に入れられる。具体的には、ピストン16がエンジン10の垂直軸Zに対して傾斜して配置されていても、すなわちV型エンジンのバンク角に起因して、提案された油排出ダクト56は、油排出溝54からクランクケースの中に排出されるオイルが、ピストンスカート24の外表面を横切って案内される場合、下縁58によって、上方に、すなわち重力に逆らって上方にそらされるのを回避し得る。
【0050】
上記のように、代替構成では、油排出ダクト56のそれぞれは、2つの別個の油排出ダクトに分離又は分割され得る。そのような構成では、排出ダクトは、凹状ピンボス部分42に開口するように第1の端部セクションと、油排出溝54に開口するように第2の端部セクションと、を有する下縁を有し得る。この構成において、中間セクション60に関連して本開示に記載されている、技術的特徴は、特に構造的配置に関して、内外側端部にも適用され得、それ故に開示されている。それに応じて、端部セクション62に関連して上記した技術的特徴は、第2の端部セクションにも適用され得、それ故に開示される。
【0051】
さらに、油排出ダクト56のそれぞれは、2つの対向する横縁64を備え、これらは、下縁58と共に、油排出ダクト56を通るオイルの流路を区切っている。横縁64は、ピストンスカート24の外表面に配置される。具体的には、横縁64のそれぞれは、油排出溝54と凹状ピンボス部分42のうちの1つとの間のピストン16の長手方向軸Lに沿って延びる。このようにして、油排出ダクト56の流れ断面は、油排出ダクト56を通るオイルの流れ方向Aに先細りになる。
【0052】
示されている構成において、下縁58は、放物線形状をしている。代替的に、下縁58は、スプリント(splint)形状を有することができる。そのため、下縁58は、全体的に平面に配置され得る。
【0053】
具体的には、油排出ダクト64の下縁58の形状は、以下の等式によってパラメータ化される:
【数1】
ここで、xはピンボス軸Pに沿った位置を表し;yはピンボックス軸Pを横切る横軸に沿った位置を表し;zはピンボックス軸P及び横軸を横切るピストン16の中心長手方向軸Lに沿った位置を表し;rはピストン16の中心長手方向軸Lの周りのピストンスカートの外周面、すなわち円筒状部分50の半径を表し;bはピンボス軸Pに対する下縁58の中間セクション60の高さ位置を示すパラメータであり;cは係数を表す。
【0054】
これらの実施形態及びアイテムは、複数の可能性を描写している単なる例であることが、当業者にとって明らかであろう。したがって、本明細書に示されている実施形態は、これらの特徴及び構成の制限を形成すると理解されるべきではない。記載された特徴の任意の可能な組み合わせ及び構成は、本発明の範囲に従って選択することができる。
【0055】
これは特に、技術的に実現可能な任意の組み合わせで前述した実施形態、アイテム、及び/又は特徴の一部又は全部を組み合わせることができる以下の任意選択の特徴に関して当てはまる。
【0056】
ピストンのリングベルトとピストンスカートとの間のピストンの外周面に設けられた油排出溝を備える、内燃機関、特にV型エンジン用のピストンが提供され得、ピストンスカートは、ピストンの互いに対向する側に2つの凹状ピンボス部分を備えており、ピストンスカートは、ピストンスカートの外表面において2つの凹状ピンボス部分の間に配置され、且つ油排出溝を凹状ピンボス部分と流体連通的に接続するように構成された少なくとも1つの油排出ダクトをさらに備える。
【0057】
換言すると、そのような構成によれば、提案される油排出ダクトは、好ましくは、ピストンがエンジン内で動作する場合、油排出ダクトを通って、そして続いて凹状ピンボス部分の外面に沿ってオイルを案内するとき、オイルを油排出溝からエンジンのクランクケースの中に排出するように構成される。
【0058】
提案された油排出ダクトを備えることにより、リングベルトからクランクケース内へのオイルの適切な戻りが確実にされ得る。具体的には、提案された構成により、油排出ダクトに、オイルの流路を画定するための適切な長さを提供することが可能になり、そのオイルは、流路を通って流れるとき、例えば、オイルの飛散を低減することによって、又は重力に逆らってオイルを上方にそらすことを回避することによって、比較的低い流動抵抗を受ける可能性がある。
【0059】
提案されたピストンは、車両、船舶、又は発電所の主又は補助エンジンとして機能する、任意の適切な内燃機関、特に往復動エンジンで使用することを目的として構成されている。具体的には、提案されたピストンは、V型エンジンで使用することができるが、この用途に限定されない。そのようなエンジンは、ディーゼルやガソリンなどの液体燃料、又はガス燃料で動作し得る。
【0060】
提案されたピストンは、マルチパート設計、例えばリングベルトを収容するピストンヘッド及びピストンスカートが別個の部分を構成する2パート設計を備えていてもよい。代替的に、ピストンは、一体型設計を備えていてもよく。ここで、ピストンは、単一の部品からなる鋳造品である。
【0061】
上記のように、ピストンスカートは、ピストンスカートの互いに対向する側に配置された凹状ピンボス部分を備える。したがって、凹状ピンボス部分は、ピストンスカートのシェル表面を形成する。さらに、ピストンスカートは、2つの対向する円筒状部分を備え、それらの各々は、凹状ピンボス部分に隣接して、それらの間に配置されている。ピストンスカートの凹状ピンボス部分と円筒状部分とを比較する場合、ピストンの直径、すなわち、その長手方向軸を横切り、凹状ピンボス部分の間に延びる直径は、円筒状部分の間に延びる直径と比較して小さい。このようにして、エンジンのシリンダに受容される場合、ピンボス部分とシリンダ壁との間にギャップが形成され、その中に油排出ダクトが開口し、それを介して油排出ダクトを通って流れるオイルが、エンジンのクランクケースの中に案内される。
【0062】
具体的には、ピストンスカートの外表面を形成する、ピンボス部分の外面は、プレーナ形状であってもよい。代替的又は追加的に、ピンボス部分の外面は、ピストンの半径方向に、すなわち、その長手方向軸を横切って、平面を超えて延びないように提供され得る。平面は、すなわち、長手方向軸に平行に配置され得、且つ架空の平面であり得る。そのような構成において、外面は、ピストンの半径方向とは反対の方向に延びる1つ以上の凹部を備えていてもよい。
【0063】
ピストンスカートには、少なくとも1つの油排出ダクトを備えていてもよい。さらなる発展において、ピストンスカートは、ピストンの互いに対向する側に2つの凹状ピンボス部分の間に配置された少なくとも2つの油排出ダクトを備えてもよい。
【0064】
具体的には、少なくとも1つの油排出ダクトは、ピストンスカートの外表面に設けられた凹部によって形成され得る。換言すれば、少なくとも1つの油排出ダクトがピストンスカートの外表面に切り込まれ得る。
【0065】
さらなる発展において、油排出ダクトは、ピストンがエンジンに搭載されて動作する場合、油排出ダクトの流れ断面が、油排出ダクト内のオイルの流れ方向に沿って先細りになるように設計され得る。
【0066】
さらに、油排出ダクトは、ピストンスカートの外表面に配置され、且つ油排出ダクトが2つの凹状ピンボス部分のうちの少なくとも1つに開口するように2つの凹状ピンボス部分の間に延びる下縁を備え得る。
【0067】
例えば、油排出ダクトは、ピストンの長手方向軸に沿ったピストンの下方の移動方向において、下縁の中間セクションが下縁の2つの対向する端部セクションの前又はそれと同じレベルに配置されるように設計され得る。
【0068】
さらなる発展では、エンジン、特にV型エンジン内のピストンの搭載状態において、油排出ダクトは、エンジンの垂直軸に沿って下方方向において、下縁の中間セクションが下縁の2つの対向する端部セクションの前又はそれと同じレベルに配置されるように設計され得る。
【0069】
追加的又は代替的に、エンジン、特にV型エンジン内のピストンの搭載状態において、油排出ダクトは、その下縁が下方に湾曲するように、又は下縁の中間セクションを通って延びる水平面に対して平行に延びるように設計され得る。
【0070】
さらなる発展において、油排出ダクトは、ピストンスカートの外表面に配置された2つの対向する横縁をさらに備え得、その各々が油排出溝と凹状ピンボス部分のうちの1つとの間のピストンの長手方向軸に沿って延びる。
【0071】
追加的又は代替的に、油排出ダクトの下縁は、放物線形状又はスプリント形状を有し得る。
【0072】
具体的には、油排出ダクトの下縁の形状は、少なくとも部分的に、
【数2】
によってパラメータ化され得、ここで、xはピンボス軸に沿った位置を表し;yはピンボックス軸を横切る横軸に沿った位置を表し;zはピストンの中心長手方向軸に沿った位置を表し;rはピストンの中心長手方向軸の周りのピストンスカートの外周面の半径を表し;bはピンボス軸に対する下縁の中間セクションの高さ位置を示すパラメータであり;cは係数を表し;iは自然数として提供されるインデックスを表す。具体的には、インデックスiは2、又は任意の他の適切な値、例えば1~8、例えば3又は4などであり得る。
【0073】
さらに、上記のように少なくとも1つのピストンを備える内燃機関、特にV型エンジンを提供することができる。
【0074】
提案された内燃機関は、上記のようにピストンを備えているので、上記のピストンに関連して説明された技術的特徴はまた、提案された内燃機関に関連し、且つ適用され得、逆もまた同様である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
図面及び図面に付随する説明を参照して、内燃機関用のピストン、及びそのようなピストンを備えた内燃機関、特にV型エンジンが提案される。提案されたピストンは、従来のピストンを置き換える可能性があり、交換部品又はオフライン取付け部品として機能する可能性がある。
【国際調査報告】