(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】塩素化フルオロ芳香族及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
C07C 43/225 20060101AFI20230222BHJP
C09K 5/04 20060101ALI20230222BHJP
【FI】
C07C43/225 C CSP
C09K5/04 F
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540420
(86)(22)【出願日】2020-12-28
(85)【翻訳文提出日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 IB2020062493
(87)【国際公開番号】W WO2021137137
(87)【国際公開日】2021-07-08
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ハリソン,ダニエル ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AB93
4H006AB99
4H006GN03
4H006GP03
(57)【要約】
構造式(I)を有する塩素化フルオロ芳香族化合物:[式中、Gは、酸素又は硫黄原子であり;各R
1は、独立して、2個~10個の炭素原子を有するフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み;各R
2は、独立して、(i)水素原子若しくはフッ素原子であるか、又は(ii)1個~9個の炭素原子を有するフルオロアルキル基若しくはフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み;R
3は水素原子又はフッ素原子であり;aは、1~3であり;xは1又は2であり;yは1~4であり;z=6-a-x-yである]。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式(I)を有する塩素化フルオロ芳香族化合物:
【化1】
[式中、Gは、酸素又は硫黄原子であり、
各R
1は、独立して、2個~10個、3個~9個又は4個~9個の炭素原子を有するフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み、
各R
2は、独立して、(i)水素原子若しくはフッ素原子であるか、又は(ii)1個~9個の炭素原子を有するフルオロアルキル基若しくはフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み、
R
3は、水素原子又はフッ素原子であり、
aは、1~3、1~2、又は1であり、
xは、1若しくは2であるか、又は1であり、
yは、1~4、1~3、又は1~2であり、
z=6-a-x-yである]。
【請求項2】
各R
1が、全フッ素化されている、請求項1に記載の塩素化フルオロ芳香族化合物。
【請求項3】
各R
2が、全フッ素化されている、請求項1又は2に記載の塩素化フルオロ芳香族化合物。
【請求項4】
aが1である、請求項1~3のいずれか一項に記載の塩素化フルオロ芳香族化合物。
【請求項5】
熱伝達のための装置であって、
デバイスと、
前記デバイスに又は前記デバイスから熱を伝達するための機構とを含み、前記機構が、請求項1~4のいずれか一項に記載の塩素化フルオロ芳香族化合物を含む作動流体を含む、装置。
【請求項6】
前記デバイスが、マイクロプロセッサ、半導体デバイスを製造するために使用される半導体ウエハ、電力制御半導体、電気化学セル、電池パック、配電スイッチギヤ、電力変圧器、回路基板、マルチチップモジュール、パッケージ化された又はパッケージ化されていない半導体デバイス、燃料電池、及びレーザーから選択される、請求項5に記載の熱伝達のための装置。
【請求項7】
前記熱を伝達するための機構が、前記デバイスの温度又は温度範囲を維持するためのシステム内の構成要素である、請求項5又は6に記載の熱伝達のための装置。
【請求項8】
熱を伝達する方法であって、
デバイスを提供することと、請求項1~4のいずれか一項に記載の塩素化フルオロ芳香族化合物を含む熱伝達流体を使用して、前記デバイスに又は前記デバイスから熱を伝達することと、を含む、方法。
【請求項9】
浸漬冷却システムであって、
内部空間を有するハウジングと、
前記内部空間内に配置された、熱を産生する構成要素と、
前記熱を産生する構成要素が接触するように前記内部空間内に配置された作動流体液と、を含み、
前記作動流体が、請求項1~4のいずれか一項に記載の塩素化フルオロ芳香族化合物を含む、浸漬冷却システム。
【請求項10】
前記塩素化フルオロ芳香族化合物が、前記作動流体の総重量に基づいて、少なくとも25重量%の量で前記作動流体中に存在する、請求項9に記載の浸漬冷却システム。
【請求項11】
前記熱を産生する構成要素が、電子デバイスを含む、請求項9又は10に記載のシステム。
【請求項12】
前記電子デバイスが、コンピュータサーバを含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
リチウムイオン電池パックのための熱管理システムであって、
リチウムイオン電池パックと、
前記リチウムイオン電池パックと熱連通している作動流体と、を含み、
前記作動流体が、請求項1~4のいずれか一項に記載の塩素化フルオロ芳香族化合物を含む、熱管理システム。
【請求項14】
構造式(II)を有する塩素化フルオロ芳香族化合物:
【化2】
[式中、G’は、酸素又は硫黄原子であり、
R
1’は、2個~10個の炭素原子を有するフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み、
各R
2’は、独立して、(i)水素原子若しくはフッ素原子であるか、又は(ii)1個~9個の炭素原子を有するフルオロアルキル基若しくはフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み、
x’は、2~4であり、
a’、b’、及びc’は、独立して、0又は1である]。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、塩素化フルオロ芳香族化合物並びにその製造及び使用方法、並びにそれを含む作動流体に関する。
【背景技術】
【0002】
様々なフルオロ芳香族化合物は、例えば、「The Reactions of the Dimers of Hexafluoropropene with O-Nucleophiles」,Nobuo,I.;Nagashima,A.Bulletin of the Chemical Society of Japan1976,49,502-505;「Mode of the nucleophilic reaction of F-2,4-dimethyl-3-heptene and phenol」,Maruta,M.;Ishikawa,N.Journal of Fluorine Chemistry1979,13,421-429に記載されている。様々な塩素含有フルオロ芳香族化合物は、例えば、「Synthesis of partially fluorinated organic compounds from perfluoro-2-methyl-2-pentene and phenol derivatives」,Furin,G.G.;Zhuzhgov,E.L.;Chi,K.-V.,Kim,N.-A.Russian Journal of General Chemistry2005,75,394-401;及びTakeshi,M.;Kazuyuki,O.;Yasunori,O.;Toshiya,I.Perfluoroalkenyl Derivative、特開第2006335677号、2006年12月14日に記載されている。
【発明の概要】
【0003】
いくつかの実施形態では、構造式(I)を有する塩素化フルオロ芳香族化合物が提供される。
【化1】
式中、Gは、酸素又は硫黄原子であり;
各R
1は、独立して、2個~10個の炭素原子を有するフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み;
各R
2は、独立して、(i)水素原子若しくはフッ素原子であるか、又は(ii)1個~9個の炭素原子を有するフルオロアルキル基若しくはフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み、
R
3は水素原子又はフッ素原子であり;
aは、1~3であり;
xは、1又は2であり;
yは、1~4であり;
z=6-a-x-yである。
【0004】
上記の本開示の概要は、本開示の各実施形態を説明することを意図したものではない。本開示の1つ以上の実施形態の詳細も、以下の説明に記載される。本開示の他の特徴、目的及び利点は、本明細書及び特許請求の範囲から明らかになろう。
【発明を実施するための形態】
【0005】
(環境への懸念並びに業界規制のために)環境に優しい化学化合物に対する需要が高まっていることを考慮すると、環境への影響の削減を提供する(例えば、低い地球温暖化係数(global warming potentials、GWP)を示す)新しい作動流体に対する継続的な必要性が存在することが認識されている。環境への懸念に加えて、そのような化合物は、様々な用途(例えば、熱伝達、浸漬冷却、溶媒洗浄、及び付着コーティング溶媒)の性能要件(例えば、不燃性、溶解力、安定性、低毒性、低誘電率、及び広い動作温度範囲)を満たし、かつ費用対効果の高い方法で製造される必要がある。より具体的には、広い液体範囲(例えば、760Torrで<-50℃~>180℃)、低い誘電率(例えば、1kHzで<3)、及び非常に低い地球温暖化係数(GWP)(例えば、以下に定義されるように<100)を有する高温用途(例えば、以下で定義されるようなもの)のための不燃性で高沸点の作動流体が必要である。
【0006】
一般に、本開示は、高沸点熱伝達流体、誘電流体、浸漬冷却流体、又は熱エネルギーを機械的エネルギーに変換するための流体として特に有用である特定の塩素化フルオロ芳香族化合物に関する。特に、本開示の化合物は、業界で使用される関連する作動流体(例えば、ペルフルオロカーボン(PFC)、ペルフルオロポリエーテル(PFPE)及びハイドロフルオロカーボン(HFC))と比較して、著しく低いGWPを有する。更に、ある特定の化合物は、不燃性、低オゾン破壊係数(ODP)、及び低毒性を示す。
【0007】
なお更に、本開示の化合物は、驚くほど好ましい誘電特性(すなわち、低誘電率及び高誘電強度)並びに高沸点を示す。誘電特性に関して、好ましい実施形態は、3未満の誘電率及び40kV超の誘電強度(2.5mmのギャップ)を示し、この化合物を、電子構成要素が作動流体と直接接触している液浸冷却用途にふさわしいものにさせることが発見された。
【0008】
本開示の化合物によって示される低いGWPと好ましい誘電特性との組み合わせは、業界で使用されている高沸点フッ素化流体にとっては驚くべきことであることが強調されるべきである。例えば、約130℃~200℃の範囲の沸点を有するペルフルオロポリエーテル(PFPE)は、一般に、優れた誘電特性(誘電率≒1.9、誘電強度≒40kV)を有し、また非常に高いGWP(約10,000)も有する。逆に、約130℃~170℃の範囲の沸点を有するハイドロフルオロエーテル(HFE)は、一般に、PFPEよりも低いGWPを有する(<500)が、より高い誘電率、及びより低い誘電強度(それぞれ、≧5.8及び<30kV)を有する。したがって、本明細書に記載の塩素化芳香族は、PFPEよりも非常に低いGWP、及びわずかに高い誘電強度を提供する。同様に、塩素化芳香族は、HFEよりも低いGWP、より低い誘電率、及びより高い誘電強度を有する。
【0009】
動作温度範囲に関して、ある特定の塩素化フルオロ芳香族化合物が、それらの非塩素化類似体よりも著しく高い沸点を有し(>20℃)、いくつかの実施形態では、190℃超の沸点及び優れた熱安定性を有することが発見された。したがって、これらの化合物は、高温作動流体用途において特に有用である。最後に、本開示のある特定の化合物は、原料/出発材料の比較的低い費用に部分的に起因して、費用効果的に製造することができる。
【0010】
本明細書で使用する場合、「鎖状に連結されたヘテロ原子」は、炭素-ヘテロ原子-炭素結合を形成するように、炭素鎖(直鎖又は分岐又は環内)の少なくとも2つの炭素原子に結合している炭素以外の原子(例えば、酸素、窒素、又は硫黄)を意味する。
【0011】
本明細書で使用する場合、「フルオロ-」(例えば、「フルオロアルケン」又は「フルオロアルケニル」又は「フルオロアルカン」又は「フルオロアルキル」若しくは「フルオロカーボン」の場合などの、基又は部分に関して)又は「フッ素化」は、(i)炭素-フッ素結合に加えて少なくとも1つの炭素結合水素原子が存在するように、部分的にフッ素化されていること、若しくは(ii)全フッ素化されていることを意味する。
【0012】
本明細書で使用する場合、「ペルフルオロ-」(例えば、「フルオロアルケン」又は「フルオロアルケニル」又は「フルオロアルカン」又は「フルオロアルキル」若しくは「フルオロカーボン」の場合などの基又は部分に関して)又は「全フッ素化」は、別段規定されている場合を除いて、フッ素で置き換え可能な炭素結合水素原子がないように、完全にフッ素化されていることを意味する。
【0013】
本明細書で使用する場合、「アルキル」は、直鎖、分岐鎖、又は環状であり得る原子価飽和炭素ベースの骨格(すなわち、アルカンに由来する)から構成される分子フラグメントを意味する。
【0014】
本明細書で使用する場合、「アルケニル」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含有する(すなわち、アルケン、ジエンなどに由来する)、炭素ベースの骨格からなる分子フラグメントを意味し、アルケニルフラグメントは、直鎖、分岐鎖、又は環状であり得る。
【0015】
本明細書で使用する場合、「フルオロ芳香族」又は「フルオロ芳香族化合物」は、芳香族部分(すなわち、ヒュッケルの4n+2則を満たす平面環構造、例えば、ベンゼン及びピリジン誘導体)を有する化合物を指し、これはまた炭素-フッ素結合を含有する。芳香族環は、炭素-フッ素結合も含有する芳香族環に結合した基(例えば、フルオロアルキル、フルオロアルケニル、及び鎖状に連結されたヘテロ原子を含有するそれらの誘導体)で直接フッ素化されてもよい(すなわち、アリール炭素-フッ素結合を有する、例えば、ペンタフルオロフェノール誘導体)。あるいは、炭素-フッ素結合を含有する芳香族環に結合した基(例えば、フルオロアルキル、フルオロアルケニル、及び鎖状に連結されたヘテロ原子を含有するそれらの誘導体)でフッ素化されなくてもよい(すなわち、アリール炭素-フッ素結合を含まない、例えば、フェノール誘導体)。
【0016】
本明細書で使用する場合、「塩素化フルオロ芳香族」は、「フルオロ芳香族」についての上記の定義を満たし、更に、芳香族環に結合した1つ以上の塩素原子を有する化合物を指す。
【0017】
本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、その内容が明確に別段の規定をしない限り、複数の指示対象を含む。本明細書及び添付の実施形態で使用する場合、用語「又は」は、その内容が明確に別段の規定をしない限り、一般に「及び/又は」を含めた意味で用いる。
【0018】
本明細書で使用する場合、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に含まれる全ての数値が含まれる(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.8、4、及び5を含む)。
【0019】
別段の指示がない限り、本明細書及び実施形態で使用される量又は成分、特性の測定値などを表す全ての数は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されていると理解されるものとする。したがって、反対の指示がない限り、前述の明細書及び添付の実施形態のリストにおいて述べる数値パラメータは、本開示の教示を利用して当業者が得ようとする所望の特性に応じて変化し得る。最低でも、各数値パラメータは、報告される有効桁の数に照らして通常の丸め技法を適用することにより解釈されるべきであるが、このことは請求項記載の実施形態の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではない。
【0020】
いくつかの実施形態では、本開示は、以下の構造式(I)によって表される塩素化フルオロ芳香族化合物:
【化2】
[式中、Gは、酸素又は硫黄原子であり;
各R
1は、独立して、2個~10個、3個~9個、又は4個~9個の炭素原子を有するフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み;
各R
2は、独立して、(i)水素原子若しくはフッ素原子であるか、又は(ii)1個~9個の炭素原子を有するフルオロアルキル基若しくはフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み;
各R
3は、水素原子又はフッ素原子であり;
aは、1~3、1~2、又は1であり;
xは、1若しくは2であるか、又は1であり;
yは、1~4、1~3、又は1~2であり;
z=6-a-x-yである]に関する。
【0021】
いくつかの実施形態では、R1及びR2のいずれか又は両方(R2がフルオロアルキル又はフルオロアルケニル基であるとき)は、全フッ素化されていてもよい。
【0022】
いくつかの実施形態では、本開示は、以下の構造式(II)によって表される塩素化フルオロ芳香族化合物:
【化3】
[式中、G’は、酸素又は硫黄原子であり;
R
1’は、2個~10個、3個~9個、又は4個~9個の炭素原子を有するフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み;
各R
2’は、独立して、(i)水素原子若しくはフッ素原子であるか、又は(ii)1個~9個の炭素原子を有するフルオロアルキル基若しくはフルオロアルケニル基であり、かつ任意に1つ以上の鎖状に連結されたヘテロ原子を含み;
x’は、2~4又は2~3であり;
a’、b’、及びc’は、独立して、0又は1である]に関する。
【0023】
いくつかの実施形態では、R1’及びR2’のいずれか又は両方(R2’がフルオロアルキル又はフルオロアルケニル基であるとき)は、全フッ素化されていてもよい。
【0024】
いくつかの実施形態では、本開示の塩素化フルオロ芳香族化合物中のフッ素含有量は、ASTM D-3278-96 e-1試験法(「Flash Point of Liquids by Small Scale Closed Cup Apparatus」)に従って、化合物を不燃性にするために十分であり得る。
【0025】
様々な実施形態では、一般式I又はIIの化合物の代表的な例には、以下が挙げられる:
【化4】
【化5】
【0026】
本開示の目的のために、塩素化フルオロ芳香族化合物のいずれも、一般式又は化学構造のいずれかに示されているものに関係なく、E異性体、Z異性体、又はE異性体とZ異性体との混合物を含み得ることを理解されたい。
【0027】
いくつかの実施形態では、本開示の塩素化フルオロ芳香族化合物は、広い動作温度範囲にわたって有用であり得る。これに関して、いくつかの実施形態では、本開示の塩素化フルオロ芳香族化合物は、220、210、200、190、又は180℃以上の沸点を有し得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、本開示の塩素化フルオロ芳香族化合物は、疎水性であり、比較的化学的に非反応性であり、かつ熱的に安定であり得る。塩素化フルオロ芳香族化合物は、低い環境への影響を有し得る。これに関して、本開示の塩素化フルオロ芳香族化合物は、300、200、100、50、10未満、又は1未満の地球温暖化係数(GWP)を有し得る。本明細書で使用する場合、GWPは、化合物の構造に基づく化合物の地球温暖化係数の相対的尺度である。化合物のGWPは、1990年に気候変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change、IPCC)によって規定され、2007年に改訂されており、特定の積分期間(integration time horizon、ITH)にわたる、1キログラムのCO
2放出による温暖化に対する、1キログラムの化合物放出による温暖化として計算される。
【数1】
【0029】
この式中、aiは大気中の化合物の単位質量増加当たりの放射強制力(その化合物のIR吸光度に起因する大気を通る放射束の変化)であり、Cは化合物の大気濃度であり、τは化合物の大気寿命であり、tは時間であり、iは対象化合物である。通例許容されるITHは、短期間の効果(20年間)と長期間の効果(500年間以上)との間の折衷点を表す100年間である。大気中の有機化合物iの濃度は、擬一次速度論(すなわち、指数関数的減衰)に従うと仮定される。同じ時間間隔のCO2の濃度は、大気からのCO2の交換及び除去に関する、より複雑なモデルを組み込む(Bern炭素循環モデル)。
【0030】
いくつかの実施形態では、本開示の塩素化フルオロ芳香族は、先行技術から適合された手順を使用して、クロロフェノレートイオン(例えば、4-クロロフェノレート又は3,5-ジクロロフェノレート)によるフルオロアルケンからのフッ化物イオンの求核置換によって調製され得る。クロロフェノレート種は、予め形成されたアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム又はカリウムクロロフェノレート)であり得る。あるいは、ブレンステッド塩基の存在下で、親クロロフェノールから反応媒体中でクロロフェノレートが形成されてもよく、好適な塩基としては、アミン(例えば、トリエチルアミン)、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウム)、若しくはアルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム)が挙げられる。これらの反応のために好適な媒体としては、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、及びテトラヒドロフランなどの有機溶媒が挙げられる。
【0031】
いくつかの実施形態では、本開示は更に、主成分として上記の塩素化フルオロ芳香族化合物の1つ以上を含む作動流体に関する。例えば、作動流体は、作動流体の総重量に基づいて、少なくとも25重量%、少なくとも50重量%、少なくとも70重量%、少なくとも80重量%、少なくとも90重量%、少なくとも95重量%、又は少なくとも99重量%の上記の塩素化フルオロ芳香族化合物を含み得る。作動流体は、塩素化フルオロ芳香族化合物に加えて、次の構成成分:アルコール、エーテル、アルカン、アルケン、ハロアルケン、ペルフルオロカーボン、ペルフルオロ第三級アミン、ペルフルオロエーテル、シクロアルカン、エステル、ケトン、オキシラン、芳香族、シロキサン、ハイドロクロロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン、ハイドロフルオロカーボン、ハイドロクロロオレフィン、ハイドロクロロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロエーテル、スルホン、又はこれらの混合物のうちの1種以上を、作動流体の総重量に基づいて合計で最大75重量%、最大50重量%、最大30重量%、最大20重量%、最大10重量%、又は最大5重量%を含み得る。そのような追加構成成分は、組成物の特性を、特定の用途向けに改変又は強化するために選択できる。
【0032】
いくつかの実施形態では、本開示の塩素化フルオロ芳香族化合物(又はそれを含む作動熱伝達流体)は、様々な用途において、熱伝達剤として使用することができる(例えば、ドライエッチャー、集積回路試験器、フォトリソグラフィ露光ツール(ステッパー)、アッシャー、化学蒸着装置、自動試験装置(プローバー)、物理蒸着装置(例えば、スパッター)、並びに気相はんだ付け流体及び熱衝撃流体などを含めた、半導体産業における集積回路用ツールの冷却又は加熱のため)。
【0033】
いくつかの実施形態では、本開示は更に、デバイスと、デバイスに又はデバイスから熱を伝達するための機構と、を備える、熱伝達のための装置を対象とする。熱を伝達するための機構は、本開示の1つ以上の塩素化フルオロ芳香族化合物を含む熱伝達剤又は作動流体を含み得る。
【0034】
提供される熱伝達のための装置はデバイスを含んでもよい。デバイスは、冷却、加熱又は所定の温度若しくは温度範囲に維持される構成要素、被加工物、アセンブリ等であってもよい。このようなデバイスには、電気構成要素、機械構成要素及び光学構成要素が含まれる。本開示のデバイスの例としては、マイクロプロセッサ、半導体デバイスを製造するために使用されるウエハ、電力制御半導体、配電スイッチギヤ、電力変圧器、回路基板、マルチチップモジュール、パッケージ化された及びパッケージ化されていない半導体デバイス、レーザー、化学反応器、燃料電池、熱交換器、並びに電気化学セルが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、デバイスは、冷却器、加熱器、又はそれらの組み合わせを含み得る。
【0035】
更に他の実施形態において、デバイスは、マイクロプロセッサを含めたプロセッサのような、電子デバイスを含み得る。これらの電子デバイスはより強力になるにつれて、単位時間当たりに産生される熱量が増加する。したがって、熱伝達の機構は、プロセッサの性能において重要な役割を果たす。熱伝達流体は、典型的には、良好な熱伝達性能、良好な電気的適合性(冷却板を採用するものなどの「間接接触」用途で使用する場合であっても)、並びに低い毒性、低い燃焼性(又は不燃性)、及び小さい環境影響を有する。良好な電気的適合性には、熱伝達流体候補が、高誘電強度、高体積抵抗率、及び極性物質に対する乏しい溶解性を示すことを要する。加えて、熱伝達流体は、良好な機械的適合性を示すべきであり、すなわち、典型的な構成材料に悪影響を及ぼすべきではなく、低温動作中の流動性を維持するために低い流動点及び低い粘度を有するべきである。
【0036】
提供される装置は、熱を伝達するための機構を含んでもよい。その機構は、熱伝達流体を含んでもよい。熱伝達流体は、本開示の1つ以上の塩素化フルオロ芳香族を含み得る。熱伝達機構を、デバイスと熱接触するように配置することによって、熱が伝達され得る。熱伝達機構は、デバイスと熱接触するように配置されるとき、デバイスから熱を除去するか、若しくはデバイスに熱を供給するか、又は選択された温度若しくは温度範囲にデバイスを維持する。熱流の方向(デバイスから又はデバイスに)は、デバイスと熱伝達機構との間の相対的温度差によって決定される。
【0037】
熱伝達機構としては、これらに限定されるものではないが、ポンプ、弁、流体収納システム、圧力制御システム、凝縮器、熱交換器、熱源、ヒートシンク、冷却システム、能動型温度制御システム及び受動型温度制御システムを含む、熱伝達流体を管理するための設備を挙げることができる。好適な熱伝達機構の例としては、プラズマ化学蒸着(PECVD)ツールの温度制御ウエハチャック、ダイ性能試験のための温度制御試験ヘッド、半導体プロセス装置内の温度制御作動領域、熱衝撃試験槽液体収容容器及び恒温槽が挙げられるが、これらに限定されない。エッチャー、アッシャー、PECVDチャンバ、気相はんだ付けデバイス、及び熱衝撃試験器等のいくつかのシステムでは、所望の動作温度の上限は、170℃、200℃、又は更には220℃の高温であり得る。
【0038】
デバイスと熱連通するように熱伝達機構を配置することによって、熱を伝達し得る。熱伝達機構は、デバイスと熱連通するように配置されるとき、デバイスから熱を除去するか、若しくはデバイスに熱を供給するか、又は選択された温度若しくは温度範囲にデバイスを維持する。熱流の方向(デバイスから又はデバイスに)は、デバイスと熱伝達機構との間の相対的温度差によって決定される。提供される装置として、冷蔵システム、冷却システム、試験装置及び機械加工装置も挙げることができる。いくつかの実施形態において、提供される装置は、恒温槽又は熱衝撃試験槽であり得る。
【0039】
いくつかの実施形態では、本開示は、電気化学セルパック(例えば、リチウムイオン電池パック)の熱管理システムに関する。システムは、電気化学セルパックと、電池パックと熱連通している作動流体とを含み得る。作動流体は、本開示の1つ以上の塩素化フルオロ芳香族を含み得る。
【0040】
電気化学セル(例えば、リチウムイオン電池)は、ハイブリッド及び電動ビークル(electric vehicles)から、電動工具、ポータブルコンピュータ、及びモバイルデバイスにわたる膨大な電子デバイス及び電気デバイスにおいて、世界的に広く使用されている。リチウムイオン電池は、一般に安全かつ信頼のおけるエネルギー貯蔵デバイスであるが、一定の条件下では、熱暴走として知られる破局的故障を受ける。熱暴走は、熱によって引き起こされる一連の内部発熱反応である。過剰な熱の生成は、過充電、過熱、又は内部電気短絡が原因となり得る。内部短絡は、典型的には、製造欠陥又は不純物、樹枝状リチウム形成、及び機械的損傷によって引き起こされる。典型的には、充電デバイス及び電池パック中には、過充電又は過熱の事象において電池を無効にする保護回路があるが、これは内部欠陥又は機械的損傷によって引き起こされる内部短絡から電池を保護することができない。
【0041】
リチウムイオン電池パックのための熱管理システムは、リチウムイオン電池のサイクル寿命を最大化するために必要とされることが多い。この種類のシステムは、電池パック内の各セルを均一な温度に維持する。高温によって、リチウムイオン電池の容量低下速度及びインピーダンスが増加し得る一方で、それらの耐用年数が減少し得る。理想的には、電池パック内の個々のセルはそれぞれ、同じ周囲温度にある。
【0042】
電池の直接接触流体浸漬は、突発的な熱暴走事象を低確率に軽減することができるが、リチウムイオン電池パックの効率的な通常動作のために必要とされる継続的な熱管理も実現する。このタイプの用途は、熱交換システムと共に流体を使用して所望の動作温度範囲を維持するとき、熱管理を提供する。しかしながら、任意のリチウムイオン電池の機械的損傷又は内部短絡の事象において、流体は、蒸発冷却を介した、熱暴走事象の、パック内の隣接する電池への伝播又はカスケージングも防止し、それによって複数の電池が関わる突発的熱暴走事象のリスクが大幅に軽減されると考えられる。上述の電子機器の浸漬冷却と同様に、電池の浸漬冷却及び熱管理は、単相又は二相浸漬冷却用に設計されたシステムを使用して実現することができ、電池を冷却するための流体の必要条件は、電子機器に関して上述したものと類似している。いずれのシナリオにおいても、流体は、電池の温度の増減を維持するために電池と熱連通して配置される(すなわち、流体を介して熱が電池へ又は電池から伝達され得る)。
【0043】
直接接触流体浸漬技術は、電池の熱管理及び熱暴走保護の提供に有用であることが示されているが、高いGWPなどの環境への懸念に対処しながら、より良好な化学的安定性及びシステム寿命を提供することができる改善された流体が依然として必要である。ハイドロフルオロエーテル及びペルフルオロケトンは、電池の熱管理及び熱暴走保護のための直接接触流体浸漬熱伝達の用途において有用性を示した化学物質の2つの例であり、許容可能な地球温暖化係数も提供する。これらの用途は、長期間にわたって高い体積抵抗率を維持するために、不燃性、許容可能な毒性、小さな環境フットプリント、高誘電強度、低誘電率、高体積抵抗率、安定性、材料適合性、及び優れた熱特性などの使用される流体に対して厳しい性能要件が課せられる。いくつかの実施形態では、本開示は、電気化学セルパックのための直接接触流体浸漬熱管理システムに適用される。このシステムは、電気化学セルパックとパックと熱連通している作動流体とを含み得る。作動流体は、本開示の塩素化フルオロ芳香族のうちの1つ以上を含み得る。
【0044】
いくつかの実施形態では、本開示は、電子デバイス(例えば、コンピュータサーバー)用の単相浸漬冷却流体としての塩素化フルオロ芳香族(又は塩素化フルオロ芳香族含有作動流体)のうちの1つ以上の使用に関する。単相浸漬において相転移はない。代わりに、典型的には、流体は、電子デバイス及び熱交換器をそれぞれ通して流れるか、又はポンプ圧送されるときに、温められ、冷却され、それによって電子デバイスから熱を伝達させる。
【0045】
いくつかの実施形態では、本開示は、単相浸漬冷却によって稼働する浸漬冷却システムを対象とし得る。一般的に、単相浸漬冷却システムは、作動流体の液相に少なくとも部分的に浸漬される(及び完全に浸漬されるまで)ようにハウジングの内部空間内に配置された、熱を産生する構成要素(例えば、コンピュータサーバー)を含み得る。単相システムは、ポンプ及び熱交換器を更に含んでもよく、ポンプは、作動流体を、熱を産生する電子デバイス及び熱交換器に又は熱を産生する電子デバイス及び熱交換器から移動させるように動作し、熱交換器は、作動流体を冷却するように動作する。熱交換器は、ハウジング内又はハウジングの外部に配置されてもよい。
【実施例】
【0046】
本開示の目的及び利点を、以下の比較例及び実施例によって更に説明する。別途断りのない限り、実施例及び本明細書の残りの部分における、全ての部、百分率、比率などは重量によるものであり、実施例で使用される全ての試薬は、例えば、Sigma-Aldrich Corp.(Saint Louis,MO,US)又はOakwood Chemicals(Estill,SC,US)などの一般的な化学薬品供給業者から入手したもの、又は入手可能なものである。本明細書では、以下の略語が使用される:mL=ミリリットル、L=リットル、mm=ミリメートル、min=分、h=時間、g=グラム、mmol=ミリモル、mol=モル、℃=セルシウス度、bp=沸点、GC=ガスクロマトグラフィ、FID=水素炎イオン化検出器、MS=質量分析、i=イソ及びn=ノルマル(イソ-又はノルマル-プロピルにおけるように、炭素ベースの基の構造配置を指す)、Ph=フェニル(C6H5)、NMR=核磁気共鳴、cSt=センチストークス、KHz=キロヘルツ、kV=キロボルト。
【0047】
サンプル調製手順
実施例1及び3、並びに比較例CE1及びCE3についての以下の手順は、複数の異性体をもたらしたことに留意されたい。示される構造は、主要な異性体(>90重量%)である。
【0048】
実施例1 4-Cl(C
6H
4)O(C
9F
17):(E)-1-クロロ-4-((1,1,1,2,2,3,5,6,7,7,7-ウンデカフルオロ-4,6-ビス(トリフルオロメチル)ヘプタ-4-エン-3-イル)オキシ)ベンゼン+異性体
【化6】
(E)-ペルフルオロ-2,4-ジメチルヘプタ-3-エン[(E)-CF(i-C
3F
7)=C(CF
3)(n-C
3F
7)]を、K.N.Makarov,et al.,Journal of Fluorine Chemistry1977,10,323-327に記載される手順に従って調製した。4-クロロフェノール(84.7g、659mmol)、(E)-ペルフルオロ-2,4-ジメチルヘプタ-3-エン(308g、684mmol)及びN,N-ジメチルホルムアミド(300mL)を、添加漏斗、温度プローブ、及び磁気撹拌棒を備えた1Lの3つ口フラスコ中で合わせた。わずかに黄色の二相混合物を氷浴中で約12℃まで冷却した。激しく撹拌しながら、トリエチルアミン(66.7g、659mmol)を、10℃~15℃の温度で、添加漏斗によって1時間かけて滴加した。二相混合物(黄色の上層、かすかに黄色の下層)を周囲温度(21℃~23℃)で1時間30分間撹拌した。層を分離した。下(フルオロカーボン)層を水(200mL×3)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させて、濾過した(透明で、わずかに黄色の液体)。この物質を真空下で蒸留(5Torrでbp≒80℃)によって精製し、続いてシリカ(20g)を通して濾過した。合わせた4-Cl(C
6H
4)O(C
9F
17)異性体について、収率は238g(65%)であり、GC-MS及びNMRによって確立されるように、>99%の純度であった。
【0049】
実施例2 4-Cl(C
6H
4)O(C
6F
11):1-クロロ-4-((1,1,1,4,4,5,5,5-オクタフルオロ-2-(トリフルオロメチル)ペンタ-2-エン-3-イル)オキシ)ベンゼン
【化7】
アセトン(250mL)、粉末状炭酸カリウム(約325メッシュ、150.2g、1087mmol)及びペルフルオロ-2-(メチル)ペンタ-2-エン[CF(C
2F
5)=C(CF
3)
2](250.4g、834.7mmol)を、添加漏斗、温度プローブ、及び磁気撹拌棒を備えた1Lの3つ口フラスコ中で合わせた(わずかに黄色の懸濁液)。混合物を氷浴中で約2℃まで冷却した。激しく撹拌しながら、アセトン(50mL)中の4-クロロフェノール(107.2g、833.6mmol)の溶液を、0℃~5℃の温度で45分かけて滴加した。黄色の懸濁液を周囲温度(21℃~23℃)で1時間40分間撹拌した。混合物を濾過し、固形物をアセトン(50mL×3)で洗浄し、これらの洗浄液を残りの黄色の濾液と共に採取した。濾液を12℃~20℃に保った水浴中で真空下(約0.5~1.0Torr)に濃縮した(約350mLのアセトンを除去した)。濃縮物質を水(200mL×3)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させて、濾過した(透明な黄色の液体)。この物質を真空下で蒸留することによって精製し(6.4Torrでbp≒61℃)、続いてシリカ(10g)を通して濾過した。4-Cl(C
6H
4)O(C
6F
11)の収率は、195g(57%)であり、GC-FID及びGC-MSによって確立されるように、>99%の純度であった。
【0050】
実施例3 3,5-Cl
2(C
6H
3)O(C
9F
17):(E)-1,3-ジクロロ-5-((1,1,1,2,2,3,5,6,7,7,7-ウンデカフルオロ-4,6-ビス(トリフルオロメチル)ヘプタ-4-エン-3-イル)オキシ)ベンゼン+異性体
【化8】
3,5-ジクロロフェノール(52.5g、322mmol、100質量%)、N,N-ジメチルホルムアミド(170mL)、及び実施例1で参照した手順を使用して調製した(E)-ペルフルオロ-2,4-ジメチルヘプタ-3-エン[(E)-CF(i-C
3F
7)=C(CF
3)(n-C
3F
7)(146g、324mmol)を、添加漏斗、温度プローブ、及び磁気撹拌棒を備えた500mLの3つ口フラスコ中で窒素雰囲気下で合わせた。二相性の黄褐色の混合物を氷浴中で5℃に冷却した。激しく撹拌しながら、トリエチルアミン(33.0g、326mmol)を、5℃~7℃の温度で0.5時間かけて滴加した。5℃~7℃で10分後、撹拌を停止し、層を分離した。下層(わずかに黄色)を、塩酸(5重量%、135mL×2)及び水(135mL×2)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過した。この物質を真空下での蒸留により精製した(5.2Torrでbp≒88℃)。合わせた3,5-Cl
2(C
6H
3)O(C
9F
17)異性体について、収率は109g(57%)であり、GC-FID及びGC-MSによって確立されるように、>99%の純度であった。
【0051】
比較例CE1 PhO(C
9F
17):(E)-((1,1,1,2,2,3,5,6,7,7,7-ウンデカフルオロ-4,6-ビス(トリフルオロメチル)ヘプタ-4-エン-3-イル)オキシ)ベンゼン+異性体
【化9】
窒素雰囲気下で、トリエチルアミン(210g、2080mmol)を、添加漏斗によって、フェノール(193g、2050mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(1100mL)、及び(E)-ペルフルオロ-2,4-ジメチルヘプタ-3-エン[実施例1で参照される手順を使用して調製した(E)-CF(i-C
3F
7)=C(CF
3)(n-C
3F
7)](923g、2050mmol)の激しく撹拌した二相混合物に25分かけて滴加した。添加中に内部温度を、15℃~22℃に維持した。混合物を周囲温度で3時間撹拌した。層を分離し、フルオロ有機層(下部)を5重量%の塩酸(1L×2)及び水(0.5L×2)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した。粗物質を真空蒸留(5.0Torrでbpが約61℃)によって精製した。合わせたPhO(C
9F
17)異性体について、収率は924g(86%)であり、GC-MS及びNMRによって確立されるように、>99%の純度であった。
【0052】
比較例CE2 PhO(C
6F
11):3,3,3-トリフルオロ-1-(1,1,2,2,2-ペンタフルオロエチル)-2-(トリフルオロメチル)プロパ-1-エノキシ]ベンゼン
【化10】
窒素雰囲気下で、トリエチルアミン(120mL、861mmol)を、添加漏斗によって、フェノール(80g、850mol)、N,N-ジメチルホルムアミド(254mL)、ペルフルオロ-2-(メチル)ペンタ-2-エン[CF(C
2F
5)=C(CF
3)
2](280.6g、935.2mmol)の激しく撹拌した二相混合物に滴加した。添加中に内部温度を、20℃~40℃に維持した。混合物を周囲温度(21℃~23℃)で1時間15分間撹拌した。フルオロ有機相(下部)を分離し、水(300mL×3)で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した。粗物質を真空蒸留(6.5Torrでbp≒55℃)によって精製した。PhO[C(C
2F
5)=C(CF
3)
2]の収率は、655g(83%)であり、GC-MS及びNMRによって確立されるように、98%の純度であった。
【0053】
比較例CE3 4-F(C
6H
4)O(C
9F
17):(E)-1-フルオロ-4-((1,1,1,2,2,3,5,6,7,7,7-ウンデカフルオロ-4,6-ビス(トリフルオロメチル)ヘプタ-4-エン-3-イル)オキシ)ベンゼン+異性体
【化11】
4-フルオロフェノール(71.2g、635mmol)、(E)-ペルフルオロ-2,4-ジメチルヘプタ-3-エン[実施例1で参照される手順を使用して調製した(E)-CF(i-C
3F
7)=C(CF
3)(n-C
3F
7)](300.7g、668.1mmol)、及びN,N-ジメチルホルムアミド(300mL)を、添加漏斗、温度プローブ、及び磁気撹拌棒を備えた1Lの3つ口フラスコ中で合わせた。わずかに黄色の二相混合物を氷浴中で約12℃まで冷却した。激しく撹拌しながら、トリエチルアミン(64.4g、636mmol)を、10℃~15℃の温度で、添加漏斗によって45分間かけて滴加した。二相混合物(黄色の上層、かすかに黄色の下層)を周囲温度(21℃~23℃)で1時間30分間撹拌した。層を分離した。下(フルオロカーボン)層を塩酸(5重量%)(200mL×2)及び水(100mL×2で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、濾過した(透明な無色液体)。この物質を真空下で蒸留することによって精製し(5.1Torrでbp≒66℃)、続いてシリカ(15g)を通して濾過した。合わせた4-F(C
6H
4)O(C
9F
17)異性体について、収率は262g(76%)であり、GC-FID及びGC-MSによって確立されるように、>99%の純度であった。
【0054】
試験方法
表1に報告される沸点は、ASTM E1719-97「Standard Test Method for Vapor Pressure of Liquids by Ebulliometry」で概説されている手順を使用して決定した。まず、蒸気圧を測定し、次いで、ASTM法E1719-97のセクション10に記載されているように沸点を計算した。
【0055】
誘電率は、ASTM D150-11、「Standard Test Methods for AC Loss Characteristics and Permittivity(Dielectric Constant)of Solid Electrical Insulation」に従って、Alpha-A High Temperature Broadband Dielectric Spectrometer(Novocontrol Technologies,Montabaur,Germany)を使用して測定した。この測定については、平行板電極構成を選択した。サンプルセルの平行板、直径38mmの平行板からなるAgilent 16452A液体試験固定具(Keysight Technologies,Santa Rosa,CA,US)を、ZG2誘電性/インピーダンス多目的接続装置(Novocontrol Technologiesから入手可能)を利用して、Alpha-Aメインフレームに接続した。各サンプルを、間隔d(典型的にはd=1mm)を有する平行板電極同士の間に調製し、複素誘電率(誘電率及び誘電損失)を、電極の電圧差(Vs)及び電流(Is)の位相感応測定から評価した。周波数領域測定を、0.00001Hz~1MHzの離散周波数で行った。10ミリオームから最大1×1014オームのインピーダンスを、最大4.2ボルトACまで測定した。しかしながら、この実験について、一定のAC電圧1.0ボルトを使用した。DC伝導率(体積抵抗率の逆数)は、少なくとも1項の低周波数Havrrilak Negami誘電緩和関数と、1つの別個の周波数依存性導電項とを含む、最適化された広帯域誘電緩和適合関数からも抽出することができる。
【0056】
液体の絶縁破壊強度測定は、ASTM D877-87(1995)、「Standard Test Method for Dielectric Breakdown Voltage of Insulating Liquids」に従って行った。直径が25mmであり、2.5mm(0.10インチ)の電極間の間隔を有するディスク電極を、7~60kV、60Hz(高電圧)破壊範囲における試験のために特別に設計されたPhenix TechnologiesモデルLD60と共に利用した。この実験については、典型的な、60Hzの周波数及び毎秒500ボルトの上昇速度を利用した。
【0057】
動粘度は、ViscoSystem AVS350粘度タイマー(Schott Instruments GmbH,Hattenbergstraβe10 55122 Mainz Germany)及びHagenbach補正545-03、545-13、若しくは545-20 Ubbelohde粘度計(Cannon Instruments Company,Box812,State College,PA)を使用して、浴温度を±0.1℃に制御した以外は、ASTM D445-94e1「Standard Test Method for Kinematic Viscosity of Transparent and Opaque Liquids(the Calculation of Dynamic Viscosity)」に従って決定した。0℃未満の温度では、Lawler温度制御浴を使用した。
【0058】
密度は、自動密度メータを備えたDDM 2911を使用して測定した。測定前に、シリンジの先端に栓をし、プランジャーを引張って気泡を放出させることにより、シリンジ内の液体を簡単に脱気した。
【0059】
引火点は、ASTM D-3278-96e-1「Standard Test Methods for Flash Point of Liquids by Small Scale Closed-Cup Apparatus」で概説されている手順に従って測定した。引火点を示さない材料は、ASTM試験法に従って不燃性であると見なした。
【0060】
Log KOWの値(オクタノール/水分配係数)は、経済協力開発機構(OECD)の試験方法117「Partition Coefficient(n-octanol/water),HPLC Method」に記載されている方法を使用してHPLCで測定した。
【0061】
各試験物質の大気寿命は、参照化合物としてクロロメタン(CH
3Cl)を利用した、相対速度研究から決定した。基準化合物及び試験化合物のヒドロキシルラジカル(・OH)との擬一次反応速度を、実験室のチャンバ系において決定した。基準化合物の大気寿命は、文献に記載されている。この値及びチャンバ実験で測定された擬似一次速度に基づいて、各試料の大気寿命を、基準化合物に対する試験化合物の反応速度及び以下に示す基準化合物の報告された寿命から計算した:
【数2】
[式中、τ
xは、試験物質の大気寿命であり、τ
rは、基準化合物の大気寿命であり、k
x及びk
rはそれぞれ、ヒドロキシルラジカルと、試験物質及び基準化合物との反応の速度定数である]。試験チャンバ内のガスの濃度は、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって定量した。測定された各流体の大気寿命値を、その後、GWP計算に使用した。
【0062】
地球温暖化係数(GWP)の値は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(AR5)に記載されている方法を使用して計算した。既知であり、文書化された濃度を有する、評価する物質のガス標準を調製し、この化合物の定量的なFTIRスペクトルを得るために使用した。質量流量計を使用して、サンプル標準を窒素で希釈することによって、2つの異なる濃度レベルにおける、定量的な気相の単一成分FTIRライブラリ参照スペクトルを発生させた。流量は、FTIRセル排気において、認証されたBIOS DRYCAL流量計(Mesa Labs(Butler,NJ,US))を使用して測定した。希釈手順はまた、認証されたエチレン較正ガスシリンダーを使用して検証した。AR5で記載されている方法を使用して、FTIRデータを使用して放射効率を計算し、それを大気寿命と組み合わせてGWP値を計算した。
【0063】
結果
実施例1~3及び比較例CE1~CE3の特性を表1に要約する。芳香族環に結合した単一の塩素原子を有する実施例1及び2は、それらの非塩素化類似体(CE1及びCE2)よりも少なくとも22℃高い沸点を有する。芳香族環に結合した2つの塩素原子を有する実施例3は、その非塩素化類似体(CE1)より35℃高い沸点を有する。比較のために、4-フルオロ類似体CE3は、その非塩素化類似体(CE1)よりも5℃高い沸点を有する。したがって、芳香族環の部分的な塩素化は、非塩素化化合物と比較して沸点を著しく増加させ、これがより高温の用途を可能にする。
【0064】
芳香族の水素原子を塩素原子で置き換えることも、誘電特性に影響を与える。芳香族環の4位に塩素原子を有する化合物(実施例1及び2)又は3、5位に2つの塩素原子を有する化合物(実施例3)は、非塩素化の場合(CE1及びCE2)と比較して大幅に低い誘電率を示す。更に、実施例1の誘電強度(46.6kV)は、その非塩素化類似体、CE1、その4-フルオロ類似体、CE3(両方とも38.1kV)、及び、ハイドロフルオロエーテル(<30kV)、ペルフルオロポリエーテル(約40kV)、及びペルフルオロトリアルキルアミン(≦42kV)などの、同等の沸点(例えば、170℃~270℃)を有する大部分の市販のフッ素化流体よりもかなり大きい。したがって、表1のデータに示されているように、芳香族環に塩素原子を1つでも含むことは、誘電特性に対して驚くほど顕著な影響を有する。興味深いことに、これらの効果は、実施例1とその4-フルオロ類似体、CE3との比較に基づいて、フッ素よりも塩素について、より顕著である。
【0065】
表1に示されるように、実施例1はまた、非常に低い地球温暖化係数(<10)を有していた。
【表1】
【0066】
熱安定性を評価するために、実施例1[1.0g、4-Cl(C6H4)O(C9F17)の異性体混合物]を含有する火炎密封ホウケイ酸ガラス管(外径50mm、壁厚0.4mm)を200±2℃の温度制御油浴中に31.5日間完全に浸漬させた。加熱後には、管内に圧力が上昇しておらず、著しいガス状分解生成物が存在しなかったことを示した。加熱後にGC-FIDデータを収集し、それは、分解又は異性体分布における変化の証拠を示さなかった[加熱前後のGC-FIDによる、99.9±0.1%の4-Cl(C6H4)O(C9F17)異性体]。
【0067】
したがって、本発明の塩素化フルオロ芳香族物質は、それらの高沸点、優れた熱安定性、低誘電率、高誘電強度、及び環境フットプリントの低減により、浸漬冷却用途に非常に適している。
【0068】
当業者には、本開示の範囲及び趣旨から逸脱することのない、本開示に対する様々な改変及び変更が明らかとなるであろう。本開示は、本明細書に記載した例示的な実施形態及び実施例によって不当に制限されることは意図していないこと、並びにそのような実施例及び実施形態は、以下のような本明細書に記載の特許請求の範囲によってのみ限定されることを意図した本開示の範囲内の例示としてのみ提示されることを理解されたい。本開示に引用される参照文献は全て、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【国際調査報告】