(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-02
(54)【発明の名称】表面が個別の構造を有する歯科装具
(51)【国際特許分類】
A61C 7/08 20060101AFI20230222BHJP
【FI】
A61C7/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540424
(86)(22)【出願日】2020-12-29
(85)【翻訳文提出日】2022-06-29
(86)【国際出願番号】 IB2020062522
(87)【国際公開番号】W WO2021137159
(87)【国際公開日】2021-07-08
(32)【優先日】2019-12-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】ヴェラマカンニ,バスカー ヴィー.
(72)【発明者】
【氏名】レディー,ケビン ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ステイ,マシュー エス.
(72)【発明者】
【氏名】スミス,マシュー アール.ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ゴトリック,ケビン ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】ペクロフスキー,ミハイル エル.
(72)【発明者】
【氏名】ジョーンズ,スコット ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】ユ,タ-ファ
(72)【発明者】
【氏名】メッツラー,トーマス ジェイ.
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA20
4C052JJ01
(57)【要約】
患者の少なくとも1本の歯を位置決めするように構成された歯科装具を作製するための方法は、硬化性液体樹脂組成物をポリマー材料の主表面上に印刷して、ポリマー材料の上に個別の未硬化液体領域のパターンを形成することと、未硬化液体領域を少なくとも部分的に硬化させて、対応する構造のアレイをポリマー材料の主表面上に形成することであって、構造は、約25ミクロン~約1mmの特徴的断面寸法、及び約100ミクロン~約2000ミクロンの特徴部間隔を有する、ことと、ポリマー材料内に複数のキャビティを形成して、1本以上の歯を受け入れるように構成されたキャビティの配列を含む歯科装具を形成することと、を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の少なくとも1本の歯を位置決めするように構成された歯科装具を作製するための方法であって、
硬化性液体樹脂組成物をポリマー材料の主表面上に印刷して、前記ポリマー材料の上に個別の未硬化液体領域のパターンを形成することと、
前記未硬化液体領域を少なくとも部分的に硬化させて、対応する構造のアレイを前記ポリマー材料の前記主表面上に形成することであって、前記構造は、約25ミクロン~約1mmの特徴的断面寸法、及び約100ミクロン~約2000ミクロンの特徴部間隔を有する、ことと、
前記ポリマー材料内に複数のキャビティを形成して、1本以上の歯を受け入れるように構成されたキャビティの配列を含む前記歯科装具を形成することと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記歯科装具の前記表面の約20%~約98%が、前記構造を含まない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記歯科装具が、約75%~約99%の可視光透過率、約20%未満のヘイズ、及び約75%~約100%の透明度のうちの少なくとも1つを有する、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アレイが、審美的パターンを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記構造のアレイが、フレキソ印刷又はスクリーン印刷で印刷される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記形成ステップの前又は最中に、前記ポリマー材料上の前記構造を硬化させることを更に含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記硬化性液体組成物が、硬化性樹脂、液体担体、並びに、抗菌剤、抗バイオフィルム剤、摩擦低減剤、抗う蝕剤、並びにそれらの混合物及び組み合わせから選択される治療剤を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物が、24時間接触後に黄色ブドウ球菌(S.aureus)及びストレプトコッカス・ミュータンス菌に対して少なくとも2の微生物の対数減少を示す抗菌治療剤を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記抗菌治療剤が、Ag、モノラウリン、金属酸化物(MO
x)、機能性糖カルボキシレート、並びにそれらの混合物及び組み合わせを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記抗菌治療剤が、AgOx、ZnOx、CuOx、TiOx、AlOx、並びにそれらの混合物及び合金から選択される金属酸化物MOxである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記金属酸化物が、AgCuZnOx、AgドープZnOx、AgドープAZO、AgドープTiO
2、AlドープZnO、及びTiOxから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマー材料の実質的に平坦なシート上の前記構造が、熱成形ステップ後に、任意の寸法において約50%未満歪む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記熱可塑性ポリマーが、PETg、PCTg、並びにそれらの混合物及び組み合わせから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
患者の少なくとも1本の歯を位置決めするように構成された歯科装具を作製するための方法であって、
硬化性液体組成物を剥離基材の主表面上に印刷して、前記剥離基材の上に未硬化液体領域の不連続パターンを形成することと、
前記未硬化液体領域を少なくとも部分的に硬化させて、対応する構造のアレイを形成することであって、前記構造は、約25ミクロン~約1mmの特徴的断面寸法、及び約100ミクロン~約2000ミクロンの特徴部間隔を有する、ことと、
前記剥離基材とポリマー材料の主表面とを、前記構造が前記ポリマー材料の前記主表面と接触するように接触させることと、
前記構造が前記剥離基材から前記ポリマー材料の前記主表面に転写されるように、前記剥離基材と前記ポリマー材料とを分離することと、
前記ポリマー材料内に複数のキャビティを形成して、前記キャビティが1本以上の歯を受け入れるように構成されているポリマーシェルを含む前記歯科装具を形成することと、
を含む、方法。
【請求項15】
前記歯科装具が、約75%~約99%の可視光透過率、約20%未満のヘイズ、及び約75%~約100%の透明度のうちの少なくとも1つを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記印刷が、フレキソ印刷、ステンシル印刷、スクリーン印刷、及びそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
前記形成ステップの前又は最中に、前記ポリマー材料上の前記構造を硬化させることを更に含む、請求項14~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、硬化性樹脂、液体担体、並びに、抗菌剤、抗バイオフィルム剤、摩擦低減剤、抗う蝕剤、並びにそれらの混合物及び組み合わせから選択される治療剤を含む、請求項14~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、24時間接触後に黄色ブドウ球菌及びストレプトコッカス・ミュータンス菌に対して少なくとも2の微生物の対数減少を示す抗菌治療剤を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記ポリマー材料の実質的に平坦なシート上に載せた時点の前記構造が、熱成形ステップ後に、任意の寸法において約50%未満歪む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
歯科装具であって、
1本以上の歯を受け入れるための複数のキャビティを含むポリマー基材と、
前記基材上に印刷された構造のアレイと、を含み、前記印刷された構造は治療剤を含み、前記構造は、約25μm~約1000μmの平均特徴部サイズ及び約100μm~約2000μmの平均特徴部間隔を有し、前記歯科装具は約75%~約99%の可視光透過率を有する、歯科装具。
【請求項22】
ポリマーシェルの表面の約20%~約98%が、構造を含まない、請求項21に記載の歯科装具。
【請求項23】
前記アレイが、審美的パターン、画像、ロゴ、バーコード、又はQRコードを形成する、請求項21又は22に記載の歯科装具。
【請求項24】
前記治療剤が、抗菌剤、抗バイオフィルム剤、摩擦低減剤、抗う蝕剤、並びにそれらの混合物及び組み合わせから選択される、請求項21~23のいずれか一項に記載の歯科装具。
【請求項25】
前記抗菌剤が、Ag、モノラウリン、金属酸化物(MOx)、機能性糖カルボキシレート、及びそれらの組み合わせを含む、請求項21~24のいずれか一項に記載の歯科装具。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
歯科矯正治療は、改善された美容的外観及び歯科機能のために、位置ずれしている歯を整復し、咬合配置を改善する。歯は、制御された力を長期間にわたって歯に加えることによって整復される。一例では、歯は、一般に歯科矯正アライナ又は歯科矯正アライナトレイと呼ばれる歯科装具を、歯科矯正治療の各治療段階で、患者の歯を覆って配置することによって整復され得る。歯科矯正用アライメントトレイは、1本以上の歯を受け入れるための複数のキャビティを画定するポリマーシェルを含む。ポリマーシェル内の個々のキャビティは、1本以上の歯に力を加えて、上顎又は下顎の選択された歯又は歯のグループを弾性的かつ漸増的に整復するような形状とされる。
【0002】
一連の歯科矯正アライナトレイは、歯科矯正治療の各段階中に順次かつ交互に患者が装着するために提供され、歯を1つの歯配列から次に続く歯配列に徐々に整復して、所望の歯のアライメント状態を達成する。所望のアライメント状態が達成されると、アライナトレイ、又は一連のアライナトレイを、患者の口腔内で定期的又は連続して使用して、歯のアライメントを維持し得る。加えて、歯科矯正リテーナトレイを長期間使用して、初期歯科矯正治療後に歯のアライメントを維持し得る。
【0003】
いくつかの例では、歯科矯正治療の一つの段階では、歯科矯正アライナトレイが、数日間、数週間、又は更には数ヶ月もの長期間にわたって、1日に数時間、患者の口腔内に留まることを必要とし得る。歯科矯正アライナトレイが患者の口腔内で使用される間に、食品又は他の物質が、装具を着色するか、さもなければ損傷し得る。加えて、微生物は、装具の表面を汚染する可能性があり、これはまた場合によっては、表面上にバイオフィルムの形成も引き起こし得る。装具が定期的に洗浄された場合であっても、バイオフィルムを除去することは困難となり得る。アライナトレイの表面上の微生物又はバイオフィルムの蓄積により、アライナトレイが着色するか、さもなければ変色する可能性があり、望ましくない味及び臭気を生じる可能性があり、更には潜在的に様々な歯周病を引き起こす。
【0004】
従来の印刷技術又は高精細加工(microreplication)によって、アライナトレイの選択された面に構造を適用することができる。従来の印刷は安価であり、広いフォーマットが高速で可能であり、別個且つ互いに異なる、個別の構造(discrete structures)の細かいスケール印刷パターンを提供することができる。しかし、インクのレオロジー、表面張力、及び基材の湿潤性の選択を除いて、従来の印刷技術は、印刷された構造の表面トポグラフィを制御することを意図するものではない。高精細加工は、はっきり区別されず、間にランド領域を有する構造のパターンを提供する。高精細加工は、パターン化された特徴部のトポグラフィに対してより正確な制御を可能にするが、高精細加工プロセスは、個々の構造間にランド領域を有する連続的に構造化された層を提供する。
【発明の概要】
【0005】
概して、本開示は、直接的又は間接印刷プロセスを使用して個別の構造のパターンが適用されたポリマーフィルム基材を含む、歯科装具に関する。いくつかの実施形態では、個別の構造の露出面上に微細構造が形成され得る。個別の構造を有する印刷された基材は、1つ以上の歯保持キャビティを含む歯科装具に形成され得、個別の構造は、患者の歯に隣接する歯科装具の内側面上、若しくは歯から離れた方向に面する歯科装具の外向き面上、又はその両方に存在し得る。
【0006】
様々な実施形態では、個別の構造は、審美的パターンで適用され得、いくつかの場合では、個別の構造は、形成された歯科装具が最終的に患者の口内で利用されるときに、有益な効果をもたらす任意選択的な治療剤を含む。例えば、そこから放出された治療剤又は化合物は、歯を脱灰に対して保護し、う蝕を低減し、歯科装具の露出面上でバイオフィルム形成などを防止し得る。別の態様では、歯科装具上の個別の構造を使用して、例えば、患者の歯に加えられる力を修正し、例えば、粘弾性クリープ/伸張に対抗するなどし、これにより特定の治療プロトコルの有効性を向上させ、患者の快適さを改善し得る。
【0007】
一態様では、本開示は、患者の少なくとも1本の歯を位置決めするように構成された歯科装具を作製するための方法に関する。この方法は、硬化性液体樹脂組成物をポリマー材料の主表面上に印刷して、ポリマー材料の上に個別の未硬化液体領域パターンを形成することと、未硬化液体領域を少なくとも部分的に硬化させて、対応する構造のアレイをポリマー材料の主表面上に形成することであって、構造は、約25ミクロン~約1mmの特徴的断面寸法、及び約100ミクロン~約2000ミクロンの特徴部間隔を有する、ことと、ポリマー材料中に複数のキャビティを形成して、1本以上の歯を受け入れるように構成されたキャビティの配列を含む歯科装具を形成することと、を含む。
【0008】
別の態様では、本開示は、患者の少なくとも1本の歯を位置決めするように構成された歯科装具を作製するための方法に関する。この方法は、硬化性液体組成物を剥離基材の主表面上に印刷して、剥離基材の上に未硬化液体領域の不連続パターンを形成することと、未硬化液体領域を少なくとも部分的に硬化させて、対応する構造のアレイを形成することであって、構造は、約25ミクロン~約1mmの特徴的断面寸法、及び約100ミクロン~約2000ミクロンの特徴部間隔を有する、ことと、剥離基材とポリマー材料の主表面とを、構造がポリマー材料の主表面と接触するように接触させることと、構造が剥離基材からポリマー材料の主表面に転写されるように、剥離基材とポリマー材料とを分離することと、ポリマー材料内に複数のキャビティを形成して、キャビティが1本以上の歯を受け入れるように構成されているポリマーシェルを有する歯科装具を形成することと、を含む。
【0009】
別の態様では、本開示は、患者の少なくとも1本の歯を位置決めするように構成された歯科装具を作製するための方法であって、硬化性液体樹脂組成物を第1のポリマーフィルムの主表面上に印刷して、第1のポリマーフィルムの上に個別の未硬化液体領域のパターンを形成することと、対応する構造のアレイを第1のポリマーフィルムの主表面上に形成することであって、構造は、約25ミクロン~約1mmの特徴的断面寸法、及び約100ミクロン~約2000ミクロンの特徴部間隔を有する、ことと、第1のポリマーフィルムの主表面を第2のポリマーフィルムの主表面と接触させることであって、第2のポリマーフィルムの主表面は、微細構造のパターンを含み、微細構造は、第1のポリマーフィルムの主表面上の構造の少なくとも一部分の露出面と接触する、ことと、構造を硬化させて、構造の露出面に微細構造の逆パターンを形成することと、ポリマー材料内に複数のキャビティを形成して、1本以上の歯を受け入れるように構成されたキャビティの配列を含む歯科装具を形成することと、を含む、方法に関する。
【0010】
別の態様では、本開示は、患者の少なくとも1本の歯を位置決めするように構成された歯科装具を作製するための方法に関する。この方法は、第1のポリマーフィルム基材の主表面上に転写層を適用することであって、転写層は、ポリマー樹脂マトリックス及び少なくとも1つの治療用化合物を含む、ことと、転写層上に剥離組成物を印刷して、転写層の上に個別の剥離構造のパターンを形成することと、剥離構造を少なくとも部分的に硬化させることと、第1のポリマーフィルム基材と第2のポリマーフィルム基材の主表面とを、剥離構造が第2のポリマーフィルム基材の主表面と接触するように接触させることと、剥離構造によって覆われていない転写層の部分が、第1のポリマーフィルム基材の主表面から第2のポリマーフィルム基材の主表面に転写されるように、第1のポリマーフィルム基材を第2のポリマーフィルム基材から除去することと、第2のポリマーフィルム基材内に複数のキャビティを形成して、1本以上の歯を受け入れるように構成されたキャビティの配列を含む歯科装具を形成することと、を含む。
【0011】
別の態様では、本開示は、歯科装具であって、1本以上の歯を受け入れるための複数のキャビティを有するポリマー基材と、基材上に印刷された構造のアレイと、を含み、印刷された構造は治療剤を含み、構造は、約25μm~約1000μmの平均特徴部サイズ及び約100μm~約2000μmの平均特徴部間隔を有し、歯科装具は約75%~約99%の可視光透過率を有する、歯科装具に関する。
【0012】
別の態様では、本開示は、歯科装具であって、1本以上の歯を受け入れるための複数のキャビティを有するポリマー基材と、基材上に印刷された構造のアレイと、を含み、印刷された構造は治療剤を含み、構造は、約25μm~約1000μmの平均特徴部サイズ及び約100μm~約2000μmの平均特徴部間隔を有し、歯科装具は約75%~約99%の可視光透過率を有する、歯科装具に関する。
【0013】
別の態様では、本開示は、歯科治療の方法であって、ポリマーフィルム基材の主表面上に、治療剤を含む硬化性樹脂組成物の個別の液体領域のアレイをフレキソ印刷又はスクリーン印刷することと、個別の液体領域を少なくとも部分的に硬化させて、基材の前主表面上に構造の画素化アレイを形成することであって、構造は、約25μm~約1000μmの平均特徴部サイズ及び約100μm~約2000μmの平均特徴部間隔を有する、ことと、基材を熱成形して、1本以上の歯を受け入れるための複数のキャビティを含み、可視光に対して透明である歯科装具を形成することと、治療剤を患者の口内に放出することと、を含む、方法に関する。
【0014】
別の態様では、本開示は、患者の少なくとも1本の歯を位置決めするように構成された歯科装具を作製するための方法であって、硬化性液体樹脂組成物をポリマー材料の主表面上に印刷して、ポリマー材料の上に個別の未硬化液体領域のパターンを形成することと、未硬化液体領域を少なくとも部分的に硬化させて、ポリマー材料の主表面上に構造の対応する第1のパターンを形成することであって、構造は、約25ミクロン~約1mmの特徴的断面寸法、及び約100ミクロン~約2000ミクロンの特徴部間隔を有する、ことと、ポリマー材料に複数のキャビティを形成して、歯科装具を形成することであって、歯科装具は、1本以上の歯を受け入れるように構成されているキャビティの配列を含み、歯科装具は、第1のパターンとは異なる構造の第2のパターンを含む、ことと、を含む、方法に関する。
【0015】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付図面及び以下の説明に示す。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、明細書及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】歯科装具上に構造を作製するための直接印刷プロセスの概略断面図である。
【
図2】歯科装具上に構造を作製するための間接印刷プロセスの概略断面図である。
【
図3】歯科装具上に構造を作製するための間接印刷プロセスの概略断面図である。
【
図4】歯科装具上の構造を作製するための直接印刷プロセスの概略断面図であり、構造は微細構造化された面を有する。
【
図5】患者の歯に適用された歯科装具の概略斜視図である。
【
図6】
図6A-A及びB-Aは、フレキソ印刷及びインクジェット印刷により生成された、タイポドントアーチ上の連続高面積カバレージのカラープリントでの比較例の歯科装具の写真である(低倍率)。
図6A-B及びB-Bは、熱成形中のプラスチックの不均衡な延伸による印刷の歪みを示す同じ歯科装具の高倍率画像である。
【
図7】実施例1の歯科装具上の構造についての光学及びプロファイル測定データの写真を含む。
【
図8A】実施例2のPETGフィルム上のフレキソで作成された画素化(ドット)パターンの写真である。
【
図8B】画像品質に目に見える歪みがないことを示す、タイポドントアーチ上の歯科装具に形成されたドットパターンを有する同じPETGフィルムの写真である。
【
図9A】実施例3のPETGフィルム上に抗菌モノラウリンでフレキソ印刷された3Mロゴの写真である。
【
図9B】タイポドント上に抗菌印刷がある歯科装具の写真である。
【
図10A】実施例4の間接的に印刷された赤色ドットの写真である。
【
図10B】タイポドント上の歯科装具の写真であり、赤色ドットを含む。
【
図11】実施例5の微細構造化構造の写真である。 図中の同様の符号は、同様の要素を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本明細書では歯科矯正アライナトレイ又はリテーナトレイとも呼ばれる歯科装具を形成するために使用され得る、直接パターン化プロセス10の概略図である。第1のステップでは、硬化性液体組成物の個別の未硬化液体領域14を含む画素化パターン12が、ポリマーフィルム基材16の少なくとも1つの主表面15、17上に印刷される。任意の好適な印刷技術を使用することができ、例としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、パッド印刷、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本出願では、「個別の」という用語は、自立型であり、別個であり、互いに異なり、縁部間の境界を共有しない、個々の液体領域を指す。以下でより詳細に記載するように、液体領域14は、その後硬化され、基材26の主表面25、27のいずれか又は両方にある個別の構造24のパターン22を形成する。個別の構造24のパターン22は、個別の液体領域14のパターン12に実質的に対応する。基材16が、患者の1本以上の歯を保持するように構成されている複数のキャビティ(
図1には示されていない)を含む歯科装具20に成形される前、その最中、又はその後に、液体領域14は硬化されて構造24を形成し得る。
【0018】
基材16は、歯科装具を形成するように成形可能である任意の好適な弾性ポリマー材料から選択され得、成形されると、概して患者の歯に適合可能である。基材16は、透明であっても、半透明であっても、不透明であってもよい。いくつかの実施形態では、基材16は、例えば、ポリカーボネート、熱可塑性ポリウレタン、アクリル、ポリスルホン、ポリプロリレン、ポリプロピレン/エチレンコポリマー、環状オレフィンポリマー/コポリマー、ポリ-4-メチル-1-ペンテン又はポリエステル/ポリカーボネートコポリマー、スチレンポリマー材料、ポリアミド、ポリメチルペンテン、ポリエーテルエーテルケトン、及びこれらの組み合わせから選択される、非晶質熱可塑性ポリマー、半結晶性熱可塑性ポリマー、及び透明な熱可塑性ポリマーのうちの1つ以上を含み得る、透明又は実質的に透明なポリマー材料である。別の実施形態では、基材16は、透明又は実質的に透過性の半結晶性熱可塑性樹脂、結晶性熱可塑性樹脂、及び複合材、例えば、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル/ポリカーボネートコポリマー、ポリオレフィン、環状オレフィンポリマー、スチレン系コポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリトリメチレンテレフタレート、並びにそれらの混合物及び組み合わせから選択され得る。いくつかの実施形態では、基材16は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートグリコール、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートグリコール、並びにそれらの混合物及び組み合わせから選択されるポリマー材料である。基材16の弾性ポリマー材料として好適な市販材料の一例は、限定することを意図するものではないが、ポリエチレンテレフタレート(グリコール添加剤を有するポリエステル(PETg))である。好適なPETg樹脂は、例えば、Eastman Chemical(Kingsport,TN);SK Chemicals(Irvine,CA);DowDuPont(Midland,MI);Pacur(Oshkosh,WI);及びScheu Dental Tech(Iserlohn,Germany)などの様々な商業的供給業者から入手することができる。
【0019】
基材16は、単一のポリマー材料で作製されてもよく、又は同じ若しくは異なるポリマー材料の複数の層を含んでもよい。
【0020】
様々な実施形態では、基材16は、1mm未満の厚さを有するが、歯科矯正装具100の用途に応じて様々な厚さを使用してもよい。様々な実施形態では、基材16は、約50μm~約3,000μm、又は約300μm~約2,000μm、又は約500μm~約1,000μm、又は約600μm~約700μmの厚さを有する。
【0021】
一実施形態では、基材16は、実質的に透明なポリマー材料であり、これは、本出願において、電磁スペクトルのうち、ヒトの眼が感じる波長領域(約0.4マイクロメートル(μm)~約0.75μm)の光を通すが、他の領域の光を拒絶する材料を指す。いくつかの実施形態では、基材16は、約50μm~約1000μmの厚さで、約400nm~約750nmの可視光に対して実質的に透明である。様々な実施形態では、基材の合わせた厚さを通した可視光透過率は、少なくとも約75%、又は約85%、又は約90%、又は約95%、又は約99%である。様々な実施形態では、基材16は、約0%~約20%、又は約1%~約10%、又は約3%~約8%のヘイズを有する。様々な実施形態では、基材16は、約75%~約100%、又は約85%~約99%、又は約90%~約95%の透明度を有する。基材の光学特性は、例えば、BYK Gardner,Columbia,MDから商品名Haze Guardで入手可能なものなどの多種多様な光学機器により、ASTM D1003などの規格を使用して測定することができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、液体領域14が適用されるポリマーシートの主表面は、任意選択的に、例えば面15、17と液体領域14との間の付着性を強化するために、硬化性液体組成物を適用する前に、化学的又は機械的に処理されてもよい。好適な処理の例としては、コロナ処理、オゾン処理、シランカップリング剤の適用、プライマーの適用、接着剤の適用、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
様々な実施形態では、個別の液体領域14は、面15若しくは17又はその両方の上に、連続的又は不連続的なアレイを形成することができる。例えば、面15、17のいくつかの領域は、液体領域14を含まなくてもよく、他の領域は、液体領域14の高密度配列を有する。別の例示的な実施形態では、面15、17の様々な領域は、様々な形状及び特徴部間隔を有する液体領域14を有し得る。液体領域14のサイズ及び形状は、大きく異なり得、液体領域14は、面15、17の特定の領域内で、又は面15、17全体にわたって、同じサイズ又は形状である必要がない。例えば、いくつかの実施形態では、液体領域14は、審美的パターン、画像、ロゴ、バーコード、QRコードなどを形成することができる。他の実施形態では、液体領域14は、面15、17のいずれか又は両方の、全て又は一部分の上に、単にドットのアレイを形成する。いくつかの実施形態では、液体領域14は、基材と液体領域との厚さ分を通る可視光透過率が少なくとも約75%、又は約85%、又は約90%、又は約95%であるようなサイズ及び特徴部間隔を有するアレイとして、基材16上に適用され得る。非限定的な例として示される様々な実施形態では、液体領域は、十分な基材透明度を維持するように適用され、面15の少なくとも約20%、又は約50%、約75%、約90%、又は約98%は、液体領域を含まない。
【0024】
様々な実施形態では、面15、17の領域は、異なるサイズ、形状、又は組成の液体領域14を含み得、いくつかの実施形態では、液体領域14の2つ以上の異なる構成が、表面15、17の少なくとも一部分に堆積され得る。例えば、第1の形状又はサイズを有する液体領域14が、面15の第1の領域上に配置され得、第1の形状又はサイズとは異なる第2の形状又はサイズを有する液体領域14が、面15の第2の領域に配置され得る。
【0025】
様々な実施形態では、液体領域14は、様々な断面形状を有することができ、それは、面15、17上の他の領域内の液体領域の断面形状と同じであっても異なっていてもよい。いくつかの実施形態では、液体領域14は、実質的に半球状の断面形状を有し、面15、17上のドットのアレイとして現れ、他の実施形態では、正方形、三角形、長方形などの任意の断面形状を有することができる。他の実施形態では、液体領域14は、断面形状とは異なる平面視における外観を有することができる。例えば、以下でより詳細に論じられるいくつかの実施形態では、液体領域は、平面視での形状が断面形状とは異なるように、液体領域が形成された後に更に構造化され得る。限定することを意図するものではない一例では、液体領域14は、平面視では円形に現れ得るが、三角形の断面形状を有し得る。
【0026】
液体領域14は、面15、17上のいくつかの領域に均一に配列又はランダムに分布することができ、面15、17の他の領域にランダムに分布することができる。例えば、液体領域14は、第1の面15上に均一に配置され、第2の主表面17上にランダムに分布し得る。様々な実施形態では、面15、17からの液体領域14の高さ、面15、17、又はその両方の上での幅及び長さは、面15、17の領域間で変化し得、更に、選択された領域内でも変化し得る。
【0027】
限定することを意図するものではないいくつかの実施形態では、液体領域14は、少なくとも1つの微小規模断面寸法を有する基部を含む。様々な例示的な実施形態では、液体領域14は、約25μm~約1000μm、又は約100μm~約300μm、又は約150μm~約250μmの断面寸法を有する面15、17上の基部を含むことができる。
【0028】
一例として示されるいくつかの実施形態では、液体領域14は、約100μm~約2000μm、又は約750μm~約1500μm、又は約800μm~約1300μmの特徴部間隔(すなわち、隣接する液体領域間の中心距離)を有する。限定することを意図するものではないいくつかの実施形態では、液体領域14は、約10~約5000ドット/インチ(dpi)、又は約25dpi~約1000dpi、又は約100dpi~約300dpiで面15、17上に存在する。
【0029】
いくつかの例示的な実施形態では、液体領域14は、約250μm~約2500μm、又は約500μm~約1500μm、又は約750μm~約1400μmの特徴的な長さを有する。いくつかの例示的な実施形態では、液体領域14は、約0.0005~約0.01、又は約0.005~約0.05、又は約0.10~約0.20のアスペクト比を有する。本出願において、アスペクト比という用語は、個別の特徴部の、高さの幅に対する比を意味する。
【0030】
液体領域14は、硬化性液体樹脂組成物から形成され、これは、いくつかの実施形態では、樹脂マトリックス中に少なくとも1つの治療剤を更に含み得る。本出願において、治療剤という用語は、患者の口内で有益な効果を有し得る化合物を指す。硬化性樹脂組成物に好適な治療剤の例としては、歯科用組成物に使用されることが多い種類の、フッ化物源、増白剤、抗う蝕剤(例えば、キシリトール)、再石灰化剤(例えば、リン酸カルシウム化合物)、酵素、息清涼剤、麻酔剤、凝固剤、酸中和剤及びpH調整剤、イオンリチャージ剤、化学療法剤、免疫応答調節剤、チキソトロープ剤、ポリオール、抗炎症剤、抗菌剤、抗真菌剤、口腔乾燥症治療剤、減感剤などが挙げられるが、これらに限定されない。上記の治療剤のいずれかの組み合わせを使用してもよい。
【0031】
いくつかの実施形態では、好適な治療剤としては、カルシウム、リン、及びフッ化物化合物などの再石灰化剤が挙げられる。
【0032】
例えば、いくつかの実施形態では、硬化性液体樹脂組成物において好適なカルシウム化合物としては、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、カゼイン酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルビオン酸カルシウム、グルセプト酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、カルシウムヒドロキシアパタイト、乳酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、酸化カルシウム、パントテン酸カルシウム、リン酸カルシウム、ポリカルボフィルカルシウム、プロピオン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、硫酸カルシウム、並びにそれらの混合物及び組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。これらの化合物により、患者の歯の表面におけるカルシウムヒドロキシアパタイトの脱灰は最小限に留まることが見出された。
【0033】
いくつかの実施形態では、硬化性液体樹脂組成物における歯再石灰化化合物としては、リン酸塩化合物が挙げられる。好適なリン酸塩化合物としては、リン酸アルミニウム、骨質リン酸塩、リン酸カルシウム、オルトリン酸カルシウム、二塩基性無水リン酸カルシウム、リン酸カルシウム-骨灰、二塩基性リン酸カルシウム二水和物、二塩基性無水リン酸カルシウム、二塩基性リン酸カルシウム二水和物、三塩基性リン酸カルシウム、二塩基性リン酸カルシウム二水和物、リン酸二カルシウム、中性リン酸カルシウム、沈降リン酸カルシウム、三級リン酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ウイトロカイト、リン酸マグネシウム、リン酸カリウム、二塩基性リン酸カリウム、オルトリン酸水素二カリウム、一リン酸二カリウム、リン酸二カリウム、一塩基性リン酸カリウム、リン酸カリウム、重リン酸カリウム、オルトリン酸二水素カリウム、リン酸水素カリウム、リン酸ナトリウム、無水リン酸ナトリウム、二塩基性リン酸ナトリウム、オルトリン酸水素二ナトリウム、オルトリン酸水素二ナトリウム十二水和物、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二ナトリウム、及びオルトリン酸ナトリウムが挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
歯のミネラル表面に組み込まれたフッ化物化合物は、エナメル質の脱灰を阻害し、歯を保護するのに役立つ。歯のミネラル表面に吸収されたフッ化物化合物は、唾液又は他の供給源からのカルシウムイオン及びリン酸イオンを誘引し、これはフルオロアパタイトの形成をもたらし、脱灰に対して歯を保護する。いかなる理論にも束縛されるものではないが、現在利用可能な証拠は、フルオロアパタイトが、天然のヒドロキシアパタイトよりも低い溶解度を呈することを示し、これは、歯が毎日直面する不可避の酸曝露に抵抗するのに役立ち得ることを示している。
【0035】
歯列矯正患者は、治療の過程にわたってう蝕のリスクが高いと考えられる。市販のフッ化物ワニスは、設計によって非常に粘着性であり、典型的には、適用されるとエナメル質上に数時間残る。アライナトレイなどの歯科装具を装着している歯科矯正患者にとってこれは望ましくなく、それは、ワニスは、患者の歯列弓上のアライナのフィット性を妨げ、更にはアライナの素材であるプラスチックに接着してアライナを永久的に反らせる又は変形させる可能性があるからである。一実施形態では、例えば、構造化面16上の液体領域は、後から硬化すると、患者へのアライメントトレイのフィット性を損なうことなく、又はアライメントトレイの素材であるポリマー材料を破壊することなく、アライメントトレイセットの典型的な装着時間(例えば、7日)にわたって有益なフッ化物を送達するように構成することができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、カルシウム化合物、リン酸塩化合物、フッ化物化合物、又はこれらの組み合わせは、カルシウム、リン酸塩又はフッ化物のうちの少なくとも1つが、所定の装着時間又はそれを超える期間に、患者の歯の表面上の脱灰を実質的に低減又は防止できるように十分な量で、液体領域内に存在する。
【0037】
別の実施形態では、硬化性液体樹脂組成物中の治療剤は、歯科装具20の面25、27のうちの少なくとも一方の上の細菌を低減するように選択された化合物を含む。好適な抗菌化合物又はバイオフィルム低減化合物としては、銀、酸化銀、酸化銅、酸化金、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化クロム、並びにこれらの混合物、合金、及び組み合わせなどの生体適合性の金属及び金属酸化物MOxが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
液体領域14及び対応する構造24は、任意の抗菌有効量の金属又は金属酸化物MOxを含むことができる。様々な実施形態では、限定することを意図するものではないが、液体領域14は、100cm2当たり100mg未満、40mg未満、20mg未満、又は5mg未満のMOxを含むことができる。金属酸化物としては、酸化銀、酸化銅、酸化金、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化クロム、並びにこれらの混合物、合金、及び組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態では、限定することを意図するものではないが、金属酸化物は、AgCuZnOx、AgドープZnOx、AgドープAZO、AgドープTiO2、AlドープZnO、及びTiOxから選択できる。
【0039】
いくつかの実施形態では、液体領域14及び対応する構造24は、1つ以上の抗菌剤を含むことができる。好適な抗菌剤の例としては、アルデヒド(グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド)、フェノール又は酸の塩、クロルヘキシジン又はその誘導体(アセテート、グルコネート、クロリド、ニトレート、サルフェート又はカーボネートなどの酸付加物を含む)、及びこれらの組み合わせを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0040】
硬化性液体樹脂組成物に好適な抗菌剤の非限定的な例としては、亜鉛塩、酸化亜鉛、スズ塩、酸化スズ、塩化ベンザルコニウム、ヘキシチジン、長鎖アルキルアンモニウム又はピリジニウム塩(例えば、塩化セチルピリジニウム(cetypyridinium chloride)、塩化テトラデシルピリジニウム)、精油(例えば、チモール)、フラノン、クロルヘキシジン及びその塩形態(例えば、クロルヘキシジングルコネート)、サンギナリン、トリクロサン、塩化第一スズ、フッ化第一スズ、オクテニジン、非イオン性又はイオン性界面活性剤(例えば、四級アンモニウム化合物)、アルコール(モノマー、ポリマー、モノアルコール、ポリアルコール)、芳香族アルコール(例えば、フェノール)、抗菌ペプチド(例えば、ヒスタチン)、バクテリオシン(bactericins)(例えば、ナイシン)、抗生物質(例えば、テトラサイクリン)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、無機及び有機酸(例えば、安息香酸、サリチル酸、脂肪酸など)又はそれらの塩、エステルなどのこのような酸の誘導体(例えば、p-ヒドロキシベンゾエート又はその他のパラベン、ラウリシジンなどの脂肪酸のグリセロールエステル)、銀化合物、銀塩、銀ナノ粒子、過酸化物(例えば、過酸化水素)、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。
【0041】
様々な実施形態では、構造24から放出される治療剤は、歯科装具20の主表面上の領域間で、及び更には単一領域内で、変動し得る。例えば、歯科装具20の面25、27の第1の領域内の構造24によって放出される治療剤は、面25、27の第2の領域内の構造24から放出される治療剤とは異なってよく、例えば、第1の領域ではフッ化物、第2の領域ではリン酸塩であってよい。他の例では、第1の領域内の構造24から放出される治療剤は、互いに異なっていてもよく、例えば、フッ化物及びリン酸塩が、第1の領域内の異なる構造24から放出され得る。別の実施形態では、構造24内の治療剤は、領域間で及び選択された領域内で、異なる濃度で放出され得る。
【0042】
別の実施形態では、液体領域14及び対応する構造24から放出される治療剤は、歯科装具20の所定の患者装着時間にわたって放出され得る。いくつかの例では、治療剤は、数秒間、数分間、数時間、数日間、数週間、又は数ヶ月間にわたって放出され得る。加えて、歯科矯正装具の異なる領域は、様々な所定の放出期間の治療剤を有することができる。例えば、1つの領域は、数秒のオーダーの放出期間を有してもよく、別の異なる領域は、数ヶ月のオーダーの放出期間を有してもよい。
【0043】
別の実施形態では、液体領域14及び対応する構造24は、治療剤を吸収及び放出するように構成され得る。例えば、カルシウム及び/又はリンが、唾液から吸収され、経時的に放出され得る。別の例では、フッ化物、カルシウム、スズ、及び/又はリンが、口腔ケア製品(例えば、練り歯磨き及びすすぎ剤)から吸収され、経時的に放出され得る。
【0044】
別の実施形態では、硬化した構造24は、例えば、患者の口腔内における歯科装具の設置及び取り出しを容易にすること、患者の口腔内の歯又は組織に対する快適性を改善すること、又はトレイ-歯列の接触面積を高めて、歯の整復のための歯科用物品20からの応力低下及び/又は効果的な力伝達をもたらすこと、のために選択されたエラストマーポリマー材料を含み得る。いくつかの例では、エラストマーとしては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、クロロプレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フルオロポリマー、ニトリル、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、シリコーンゴム、ポリアクリルゴム、フルオロシリコーン、フルオロエラストマー、ポリエーテルブロックアミド、クロロスルホン化ポリエチレン(cholorsulfinated polyethylene)、及びエチレンビニルアセテートを挙げることができる。
【0045】
別の実施形態では、液体領域14又は対応する構造24は、唾液流体及び他の流体が妨げなく流れるのを容易にして、硬組織の健康を増強及び/又は維持するよう構成することができる。例えば、歯表面が、口腔細菌、食事選択、口腔乾燥症などによって引き起こされる脱灰を受けるとき、構造24は、歯表面を再石灰化及び水和するための唾液の開放チャネルを提供することができる。
【0046】
再び
図1を参照すると、液体領域14は、好適な樹脂マトリックス及びその樹脂マトリックスに組み込まれた任意選択的な治療用化合物を含む、硬化性樹脂組成物から印刷される。いくつかの実施形態では、樹脂マトリックスのために選択された樹脂材料は、液体領域が適用される基材16のガラス転移温度(T
g)よりも高いT
gを有する。いくつかの場合では、硬化性液体組成物を、基材よりもより高いT
gを有する樹脂を用いて利用することにより、基材が歯科装具に熱成形されるときに、歪みを低減又は実質的に排除することができる。いくつかの実施形態では、より高いT
gを有する樹脂により、より高い面15、17からの高さ、より大きな粒子量(particle loading)、及びそれらの組み合わせ、を有する液体領域14を提供することができる。
【0047】
硬化性液体組成物に好適な樹脂としては、エポキシ樹脂(カチオン活性エポキシ基を含有する)、ビニルエーテル樹脂(カチオン活性ビニルエーテル基を含有する)、エチレン性不飽和化合物(フリーラジカル活性不飽和基、例えばアクリレート及びメタクリレートを含有する)、及びこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。カチオン活性官能基及びフリーラジカル活性官能基の両方を単一化合物中に含有する重合性材料も好適である。例としては、エポキシ官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0048】
本明細書において使用される場合、酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物は、エチレン性不飽和と、酸及び/又は酸前駆体官能性とを有するモノマー、オリゴマー、及びポリマーを包含する。酸前駆体官能性としては、例えば、無水物、酸ハロゲン化物、及びピロホスフェートが挙げられる。酸官能性を有するエチレン性不飽和化合物としては、例えば、α,β-不飽和酸性化合物、例えば、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート(MDPモノマー)、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ-又はトリ-メタクリレート、ポリ(メタ)アクリレート化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリカルボキシル-ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリレート化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリレート化ポリホウ酸などが挙げられ、これらは、硬化性樹脂系の成分として使用してもよい。また、不飽和炭酸、例えば、(メタ)アクリル酸、芳香族(メタ)アクリレート化酸(例えば、メタクリレート化トリメリット酸)、及びそれらの無水物などのモノマー、オリゴマー、及びポリマーを使用することも可能である。一部の組成物は、少なくとも1個のP-OH部分を有する酸官能性を有する、エチレン性不飽和化合物を含み得る。
【0049】
いくつかの実施形態では、硬化性液体樹脂組成物は、光重合性であり得る。光重合性組成物は、フリーラジカル活性官能基を有する化合物を含んでもよく、これは、1つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマー、オリゴマー、及びポリマーを含み得る。好適な化合物は、少なくとも1個のエチレン性不飽和結合を含有し、付加重合を受けることが可能である。このようなフリーラジカル重合性化合物としては、モノ-、ジ-又はポリ-(メタ)アクリレート(すなわち、アクリレート及びメタクリレート)、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、アリルアクリレート、グリセロールトリアクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、1,2,4-ブタントリオールトリメタクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ソルビトールヘキサアクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ビス[1-(2-アクリルオキシ)]-p-エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1-(3-アクリルオキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシフェニルジメチルメタン、エトキシル化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、及びトリスヒドロキシエチル-イソシアヌレートトリメタクリレート;(メタ)アクリルアミド(すなわち、アクリルアミド及びメタクリルアミド)、例えば、(メタ)アクリルアミド、メチレンビス-(メタ)アクリルアミド、及びジアセトン(メタ)アクリルアミド;ウレタン(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコール(例えば、分子量200~500)のビス-(メタ)アクリレート、米国特許第4,652,274号(Boettcherら)に記載されているようなアクリレート化モノマーの共重合性混合物、米国特許第4,642,126号(Zadorら)に記載されているようなアクリレート化オリゴマー、及び米国特許第4,648,843号(Mitra)に記載されているようなポリ(エチレン性不飽和)カルバモイルイソシアヌレート;並びにビニル化合物、例えば、スチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペート、及びジビニルフタレートが挙げられる。他の好適なフリーラジカル重合性化合物としては、例えば、国際公開第00/38619号(Guggenbergerら)、国際公開第01/92271号(Weinmannら)、国際公開第01/07444号(Guggenbergerら)、国際公開第00/42092号(Guggenbergerら)に開示されているようなシロキサン官能性(メタ)アクリレート、並びに、例えば米国特許第5,076,844号(Fockら)、米国特許第4,356,296号(Griffithら)、欧州特許第0373384号(Wagenknechtら)、欧州特許第0201031号(Reinersら)、及び欧州特許第0201778号(Reinersら)に開示されているようなフルオロポリマー官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。所望される場合、2つ以上のフリーラジカル重合性化合物の混合物を使用することが可能である。
【0050】
硬化性液体樹脂組成物における重合性成分はまた、単一分子中にヒドロキシル基及びフリーラジカル活性官能基を含有してもよい。このような物質の例としては、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート(例えば2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート);グリセロールモノ-又はジ-(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパンモノ-又はジ-(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールモノ-、ジ-、及びトリ-(メタ)アクリレート;ソルビトールモノ-、ジ-、トリ-、テトラ-、又はペンタ-(メタ)アクリレート;並びに2,2-ビス[4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル]プロパン(bisGMA)が挙げられる。好適なエチレン性不飽和化合物はまた、様々な供給元、例えばSigma-Aldrich,St.Louisから市販されている。必要に応じて、エチレン性不飽和化合物の混合物を使用してもよい。
【0051】
硬化性液体樹脂組成物に使用するのに特に有用な光重合性成分としては、PEGDMA(分子量が約400のポリエチレングリコールジメタクリレート)、bisGMA、UDMA(ウレタンジメタクリレート)、GDMA(グリセロールジメタクリレート)、TEGDMA(トリエチレングリコールジメタクリレート)、米国特許第6,030,606号(Holmes)に記載のようなbisEMA6、及びNPGDMA(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)が挙げられる。所望の場合、重合性成分の様々な組み合わせを用いることができる。
【0052】
例えば、樹脂組成物のいくつかの実施形態は、組成物の総重量に基づいて、おおよそ少なくとも10、20、30、40、50、60、70、80、85、90、92、95、96、98又は99重量%の光重合性成分を含むことができる。いくつかの実施形態では、樹脂組成物は、組成物の総重量に基づいて、約10、20、30、40、50、60、70、80、85、90、92、95、96、98又は99重量%未満の光重合性成分を含むことができる。いくつかの実施形態では、樹脂組成物は、ある範囲、例えば、組成物の総重量に基づいて、約10重量%~約99重量%、約10重量%~約50重量%、約50重量%~約99重量%、又は約40重量%~約70重量%の光重合性成分を含むことができる。
【0053】
一実施形態では、硬化性樹脂組成物、例えば、1つ以上のエチレン性不飽和化合物の光重合性成分は、樹脂組成物の総重量に基づいて、おおよそ少なくとも10、15、20、25、30、又は40重量%を含む。いくつかの実施形態では、樹脂組成物、例えば、1つ以上のエチレン性不飽和化合物の光重合性成分は、樹脂組成物の総重量に基づいて、約60、70、75、80、85、又は90重量%未満を含む。他の実施形態では、樹脂組成物、例えば、1つ以上のエチレン性不飽和化合物の光重合性成分は、ある範囲、例えば、樹脂組成物の総重量に基づいて、約10重量%~約90重量%、約10重量%~約40重量%、約60重量%~約90重量%、又は約40重量%~約70重量%を含む。
【0054】
一実施形態では、硬化性樹脂組成物、例えば、酸官能性を有する1つ以上のエチレン性不飽和化合物及び開始剤系の光重合性成分は、樹脂組成物の総重量に基づいて、おおよそ少なくとも10、15、20、25、30、又は40重量%を含む。いくつかの実施形態では、樹脂組成物、例えば、酸官能性を有する1つ以上のエチレン性不飽和化合物及び開始剤系の光重合性成分は、樹脂組成物の総重量に基づいて、約60、70、75、80、85、又は90重量%未満を含む。他の実施形態では、樹脂組成物、例えば、酸官能性を有する1つ以上のエチレン性不飽和化合物及び開始剤系の光重合性成分は、ある範囲、例えば、樹脂組成物の総重量に基づいて、約10重量%~約90重量%、約10重量%~約40重量%、約60重量%~約90重量%、又は約40重量%~約70重量%を含む。
【0055】
フリーラジカル光重合性樹脂組成物を重合させるのに好適な光開始剤(すなわち、1種以上の化合物を含む光開始剤系)としては、二成分系及び三成分系が挙げられる。典型的な三成分光開始剤は、米国特許第5,545,676号(Palazzottoら)に記載されているように、ヨードニウム塩、光増感剤、及び電子供与体化合物を含む。ヨードニウム塩としては、ジアリールヨードニウム塩、例えば、ジフェニルヨードニウムクロリド、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート、及びトリルクミルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートを挙げることができる。光増感剤としては、400nm~520nm、又は450nm~500nmの範囲内のいくらかの光を吸収するモノケトン及びジケトンを挙げることができる。化合物としては、400nm~520nm又は450nm~500nmの範囲内のいくらかの光を吸収するαジケトンを挙げることができる。化合物としては、カンファーキノン、ベンジル、フリル、3,3,6,6-テトラメチルシクロヘキサンジオン、フェナントラキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン及び他の1-アリール-2-アルキル-1,2-エタンジオン、並びに環状αジケトンを挙げることができる。電子供与体化合物としては、置換アミン、例えば、エチルジメチルアミノベンゾエートを挙げることができる。カチオン重合性樹脂を光重合させるのに有用な他の好適な三成分光開始剤系は、例えば米国特許第6,765,036号(Dedeら)に記載されている。
【0056】
フリーラジカル光重合性組成物を重合するのに好適な他の光開始剤としては、典型的には有効波長範囲(functional wavelength range)が380nm~1200nmであるホスフィンオキシドの部類が挙げられる。有効波長範囲が380nm~450nmである好ましいホスフィンオキシドフリーラジカル開始剤としては、アシル及びビスアシルホスフィンオキシド、例えば、米国特許第4,298,738号(Lechtkenら)、米国特許第4,324,744号(Lechtkenら)、米国特許第4,385,109号(Lechtkenら)、米国特許第4,710,523号(Lechtkenら)、及び米国特許第4,737,593号(Ellrichら)、米国特許第6,251,963号(Kohlerら)、並びに欧州特許出願第0173567(A2)号(Ying)に記載されているものを挙げることができる。
【0057】
一実施形態では、硬化性樹脂組成物は、樹脂組成物の総重量に基づいて約0.1重量%~約5.0重量%の有効量の1つ以上の光開始剤を含む。
【0058】
硬化性樹脂組成物は、充填剤も含有し得る。充填剤は、例えば、歯科修復組成物、顔料などにおいて現在使用される充填剤などの、歯科用途に使用される組成物への組み込みに好適な広範な材料のうちの1種以上から選択することができる。
【0059】
充填剤は、細かい粒子状であり得る。充填剤は、単峰性又は複峰性(例えば、二峰性)の粒径分布を有することができる。いくつかの例では、充填剤の最大粒径(粒子の最大寸法、通常は直径)は、20マイクロメートル未満、10マイクロメートル未満、又は5マイクロメートル未満であり得る。いくつかの例では、充填剤の平均粒径は、0.1マイクロメートル未満又は0.075マイクロメートル未満であり得る。
【0060】
充填剤は、無機材料であり得る。また、充填剤は、樹脂系に不溶性である架橋済み有機材料であってもよく、任意選択的に無機充填剤と一緒に充填される。充填剤は、いかなる場合においても、非毒性で、口腔内で使用するのに好適でなければならない。充填剤は、放射線不透過性であっても放射線透過性であってもよく、いくつかの実施形態では、実質的に水に不溶性である。
【0061】
好適な無機充填剤の例は、天然又は合成の材料であり、例としては、石英、窒化物(例えば、窒化ケイ素)、例えばZr、Sr、Ce、Sb、Sn、Ba、Zn、及びAl由来のガラス、長石質、ホウケイ酸塩ガラス、カオリン、タルク、チタニア、顔料、米国特許第4,695,251号(Randklev)に記載のものなどの低モース硬度充填剤、及びサブミクロンシリカ粒子(例えば商標名AEROSILで入手可能なものなどの焼成シリカで、Degussa Corp.(Akron,Ohio)の「OX50」、「130」、「150」及び「200」シリカ、並びにCabot Corp.(Tuscola,Ill.)のCAB-O-SIL M5シリカなど)が挙げられるがこれらに限定されない。好適な有機充填剤粒子の例としては、充填又は非充填粉砕ポリカーボネート、ポリエポキシドなどが挙げられる。
【0062】
非酸反応性充填剤粒子としては、石英、サブミクロンシリカ、及び米国特許第4,503,169号(Randklev)に記載されている種類の非ガラス質微小粒子を挙げることができる。これらの非酸反応性充填剤粒子の混合物、並びに有機及び無機材料から作製された充填剤の組み合わせもまた、企図される。いくつかの実施形態では、充填剤は、シラン処理したジルコニア-シリカ(Zr-Si)であり得る。
【0063】
充填剤を含むいくつかの実施形態では、組成物は、組成物の総重量に基づいて、少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、及び少なくとも5重量%の充填剤を含むことができる。
【0064】
硬化性液体樹脂組成物はまた、溶媒又は液体担体を含むことができ、これは大きく変化し得る。いくつかの実施形態では、溶媒及び液体担体は、水性である、又は水からなる。
【0065】
いくつかの実施形態では、硬化性樹脂組成物は、樹脂組成物の総重量に基づいて約1重量%未満の任意選択的な添加剤、例えば、防腐剤(例えば、BHT)、香味剤、指示薬、染料、顔料、阻害剤、促進剤、粘度調整剤、湿潤剤、緩衝剤、ラジカル及びカチオン性安定剤(例えば、BHT)などを含み得る。
【0066】
液体領域14は、任意の好適な印刷技術によって面15、17上に適用することができる。いくつかの非限定的な例では、スクリーン印刷は、メッシュを使用して、インクと称される液体組成物を、遮断ステンシルによってインクに対して不透過性にした領域を除いて、基材上に転写する印刷技術である。ブレード又はスキージを、スクリーンを横切って移動させて、開いたメッシュ開口部をインクで充填し、次いで逆の動きにより、スクリーンを接触線に沿って一時的に基材と接触させる。これにより、インクは、基材を湿潤させ、ブレードが通過した後にスクリーンが跳ね返るときに、メッシュ開口部から引き抜かれる。1回につき1つの色が印刷されるため、いくつかのスクリーンを使用して、多色画像又は意匠を生成することができる。スクリーン印刷は、面15、17上に様々な高さ又は間隔を有する液体領域14を形成するのに特に有用である。例えば、いくつかの実施形態では、スクリーン内の開口部の間隔、若しくはスクリーンの厚さ、又はその両方を変化させて、面15、17上に対応する間隔又は高さを有する液体領域のアレイを形成することができる。
【0067】
別の非限定的な例では、フレキソ印刷は、フレキソ印刷プレートと呼ばれるゴム又はポリマー材料に3Dレリーフとして必要な画像の正の反転したマスターを作製することによって行われる。フレキソ印刷プレート上の画像領域は、プレート上の非画像領域よりも上に隆起している。印刷インクは、アニロックスロール(通常はインクをアニロックスロールセルにブレーディングすることによって、インクで充填されたセルで構成されている)を介してフレキソプレートの画像領域に転写され、次いで、インクは、「インク付けされた」フレキソプレートを基材に接触させることによって基材に転写される。インクは、フレキソプレートのレリーフ特徴部から基材に転写されるのみである。
【0068】
再び
図1を参照すると、上記のように、印刷した後、続いて、液体領域14は少なくとも部分的に硬化され、基材26の主表面25、27のいずれか又は両方にある個別の構造24のパターン22を形成する。個別の構造24のパターン22は、個別の液体領域14のパターン12に実質的に対応する。
【0069】
図1に概略的に示されるように、次いで、複数のキャビティが基材16に形成されて歯科矯正装具を20形成してもよく、キャビティは、1本以上の歯を受け入れるように構成される。キャビティは、熱成形、レーザー加工、化学的又は物理的エッチング、及びこれらの組み合わせを含む、任意の好適な技法によって形成され得る。液体領域14は、基材16が歯科装具20に成形される前、その最中、又はその後に、硬化され構造24を形成し得る。
【0070】
いくつかの実施形態では、キャビティは、パターン22及び構造24が実質的に歪まないような加工条件下でポリマー材料16のシートに形成される。例えば、いくつかの実施形態では、基材16は、構造24を任意の寸法(例えば、直径、高さなど)において約100%未満、又は約50%未満歪ませる温度及び圧力で熱成形され得る。いくつかの実施形態では、基材16は、構造22のアレイによって形成された画像が実質的に歪まないような温度及び圧力で熱成形され得、これは、画像が正常な視野距離で依然として認識可能であることを意味する。いくつかの実施形態では、熱成形ステップにおける条件を利用して、構造24の第1のパターンを、第1のパターンとは異なる構造24の第2のパターンに変更することができる。
【0071】
代替の実施形態では、
図2に概略的に示される間接印刷プロセス100を使用して、基材上に液体領域のパターンを形成することができる。ステップ102では、硬化性液体組成物の個別の液体領域114を含む画素化パターン132は、上で詳細に述べたように、例えば、スクリーン印刷、フレキソ印刷、及びそれらの組み合わせなどの好適な印刷プロセスによって、基材136の少なくとも1つの主要な剥離面135、137上に印刷される。
【0072】
剥離面135は、液体領域114が面135から離れて別の基材にきれいに転写することができる任意の材料から選択され得る。いくつかの実施形態では、剥離面135は、例えば、シリコーンなどの低表面エネルギー材料の面である。シリコーンアクリレートは特に好適であることが見出された。別の実施形態では、剥離面135は、例えば、紙支持体の上にあるシリコーン層など、支持体(
図2には示されていない)上の低表面エネルギー材料の剥離層を含み得る。別の実施形態では、剥離面135は、ポリマーフィルムの面であり得る。いくつかの実施形態では、ポリマーフィルムの面の剥離特性は、任意選択的に、特定の用途に対する必要に応じて、オゾン処理、コロナ放電、シランカップリング剤の適用、プライマーの適用、及びそれらの組み合わせによって化学的に処理又は改変され得る。
【0073】
ここで
図2のステップ104を参照すると、液体領域114は、少なくとも部分的に硬化され又は完全に硬化されて構造114Aを形成し、剥離基材136は、構造114Aが基材116の面115と接触するように、基材116に適用される。様々な実施形態では、剥離基材136は、ポリマーフィルム基材116に積層されてもよく、又はポリマーフィルム基材は、剥離基材136上にコーティングされてもよい。
【0074】
次いで、剥離基材136は、構造114Aが剥離面135から面115にきれいに転写してその上に実質的にパターン132に対応する構造114Aの画素化パターン112を形成するように、剥がされ、除去される。積層ステップ104は、任意選択的に、少なくとも部分的に硬化した液体領域114Aの、剥離面135から面115への移動を容易にするために、加熱又は圧力のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0075】
ステップ106及び108において、構造114Aのパターンを含む基材116は、熱成形型170と接触し、患者の1本以上の歯を保持するように構成された複数のキャビティ(
図2には示されていない)を含む歯科装具120に成形される。成形型170から放出されると、歯科装具120は、基材126の面125上に個別の構造124のパターン122を含む。個別の構造124のパターン122は、個別の液体領域114及び構造114Aのパターン112に対応する。熱成形型170と接触すると、構造114Aは、好ましくは、液体領域114Aが成形型170と基材126の面125との間に分割されないように、十分に硬化される。
【0076】
別の実施形態では、
図3に概略的に示される間接印刷プロセス200を使用して、基材上に液体領域のパターンを形成することができる。ステップ202において、剥離材料の個別の液体領域250を含む画素化パターン232が、上で詳細に述べたように、少なくとも1つの好適な印刷プロセスによって、転写基材236上の転写層240の主表面245に適用される。転写層240は、上で詳細に述べたように、ポリマー樹脂マトリックス及び少なくとも1つの任意選択的な治療用化合物を含む。
【0077】
図3のステップ204に示されるように、液体領域250が少なくとも部分的に硬化して剥離構造250Aを形成した後、転写基材236とポリマーフィルム基材216とを、剥離構造250Aがポリマーフィルム基材の主表面215に接触して転写されるように、接触させる。積層ステップ204は、任意選択的に、転写層240の一部分の、面245から面215への転写を容易にするために、加熱又は圧力のうちの少なくとも1つを含み得る。別の実施形態(
図3には示されていない)では、ポリマーフィルム基材216は、転写基材236上にコーティングされ得、それによって、剥離構造250Aを基材216の面215に転写することができる。
【0078】
次いで、転写基材236は剥離され、その結果、剥離構造250Aが重なっていない転写層240の部分が、基材216の面215に転写されて、個別の構造260の画素化パターン212を形成する。剥離構造250Aによって占められる領域では、実質的にいずれの転写層240も面215に転写されない。基材216の面215上の画素化パターン212は、剥離構造250Aのパターン232の逆に実質的に対応する。ステップ206及び208において、構造260のパターン212を含む基材216は、加熱された成形型270と接触し、患者の1本以上の歯を保持するように構成された複数のキャビティ(
図3には示されていない)を含む歯科装具220に成形される。成形型270から放出されると、歯科装具220は、基材226の面225上の個別の構造264のパターン212を含む。個別の構造264のパターン212は、構造260のパターン212に対応する。画素化構造260は、基材216が歯科装具220に成形される前、その最中、又はその後に、硬化され構造264を形成し得る。
【0079】
図4は、歯科装具を形成するために使用され得る直接パターン化プロセス300の別の実施形態の概略図である。第1のステップ302では、上記の硬化性液体樹脂組成物の個別の液体領域314を含む画素化パターン312が、少なくとも1つの好適な印刷プロセスによって基材316の少なくとも1つの主表面315、317に適用される。上記のように、好適な例としては、スクリーン印刷、フレキソ印刷、インクジェット印刷、グラビア印刷、パッド印刷、及びそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0080】
第2のステップ304では、微細構造382のパターン390を含むキャストフィルム380を、構造382が硬化性樹脂組成物の液体領域314と接触するように基材316と接触させる。キャストフィルム380内の微細構造382は、ダイヤモンド切削技術を使用して形成された金属高精細加工マスターツールとフィルムを接触させることを含む、多種多様な技術によって形成することができる。複製は、例えば、プレポリマー樹脂のエンボス加工、キャスト及び硬化(熱又は光化学開始を使用)、又はホットメルト押出を含む、高精細加工の当業者に既知の任意の高精細加工技術を使用して、マスターに対して行うことができる。いくつかの場合では、高精細加工は、テンプレートに対する光硬化性プレポリマー溶液のキャストと、それに続くプレポリマー溶液の光重合と、を伴う。
【0081】
本開示では、「微細構造」は、1000μm未満、100μm未満、50μm未満、又は5μm未満、又は1μm未満の特徴部を有する構造を指す。微細構造は、V字形領域又は台形領域によって分離された溝、ドット、凹部、角柱、マット面、ホログラフィック面などを含むがこれらに限定されない、多種多様な形状を有することができる。三次元構造の高精細加工に関する追加情報については、例えば、米国特許第5,183,597号及び国際公開第00/48037号を参照されたく、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0082】
微細構造382は、液体領域314と接触し、いくつかの場合では、液体領域314によって占められていない面315の領域において、基材316の面315と接触する。
【0083】
ステップ306では、液体領域は少なくとも部分的に硬化して、パターン312に対応するパターンで構造314Aを形成する。構造314Aは、例えば、加熱、キャストフィルム380を通しての紫外線の適用、圧力、及びそれらの組み合わせを含む任意の好適な技術により、液体領域314を少なくとも部分的に硬化させることによって形成される。
【0084】
ステップ308では、キャストフィルム380が剥がされ、構造324のパターン322を残す。構造324の少なくとも一部分は、微細構造382のパターン390の逆に対応する微細構造327を有する、微細構造化面325を含む。
【0085】
次いで、微細構造化構造324を含む基材316は、加熱された成形型(
図4には示されていない)と接触し、患者の1本以上の歯を保持するように構成された複数のキャビティを含む歯科装具に成形することができる。成形型から放出されると、歯科装具は、微細構造化構造324のパターン322に対応する個別の微細構造のパターンを含む。
【0086】
ここで
図5を参照すると、歯科矯正装具400のシェル402は、患者の歯500に概ね適合するが、患者の最初の歯の配置とのアライメントからわずかに外れる弾性ポリマー材料である。いくつかの実施形態では、シェル402は、実質的に同じ形状又は型を有する一群又は一連のシェルのうちの1つであってもよいが、異なる材料から形成されて、患者の歯を動かす必要に応じて異なる剛性又は弾力性を提供する。このようにして、一実施形態では、患者又はユーザーは、各治療段階中、患者の所望の使用時間又は各治療段階の治療期間に応じて、歯科矯正装具のうちの1つを交互に使用してもよい。
【0087】
シェル402を歯500の上に保持するためのワイヤ又は他の手段は、設けられなくてもよいが、いくつかの実施形態では、歯に個々のアンカーをシェル402内の対応する受容部又は開口部と共に設け、シェル402がそのようなアンカーが存在しない場合には不可能な維持力又は他の方向の歯科矯正力を歯に適用できるようにすることが望ましい又は必要であり得る。
【0088】
シェル402は、例えば、日中及び夜間使用、機能中又は非機能中(咀嚼中対非咀嚼中)、社会的場面(外観がより重要となり得る)及び非社会的場面(審美的外観が重要要因ではない場合がある)に合わせて、又は、歯の移動を加速したいという患者の要望に基づいて(任意選択的に、各治療段階で、剛直性の低い装具ではなく、より剛直な装具をより長時間使用することによって)、カスタマイズされてもよい。
【0089】
例えば、一態様では、患者には、歯の位置を保持するために主に使用され得る透明な歯科矯正装具400、及び各治療段階で歯を移動させるために主に使用され得る不透明な歯科矯正装具を提供してもよい。したがって、日中、社会的場面で、さもなければ患者が身体的外観をより切実に意識する環境で、患者は透明な装具を使用し得る。更に、夕方又は夜間、非社会的場面で、さもなければ身体的外観があまり重要でない環境で、患者は、異なる量の力を提供するように構成された、さもなければ、より剛直な構成を有して各治療段階での歯の移動を加速する、不透明な装具を使用し得る。このアプローチは繰り返されて、各治療段階中に装具の対の各々が交互に使用されてもよい。
【0090】
再び
図5を参照すると、様々な実施形態によるシステム及び方法は、歯科矯正治療の各治療段階に対して、各々同じ材料又は異なる材料から形成された、複数の漸増的位置調整装具を含む。歯科矯正装具は、患者の上顎又は下顎502において個々の歯500を漸増的に整復するように構成されてもよい。いくつかの実施形態では、キャビティ504は、選択された歯が整復されるように構成され、一方でその他の歯は、整復しようとする1本又は複数の歯に対して弾力的な整復力を加えたときに、整復装具を所定の位置に保持するための基部又はアンカー領域として表される。
【0091】
歯500の上に弾性ポジショナーシェル402を配置することにより、制御された力が特定の場所に加えられ、歯を新たな配置に徐々に移動させる。異なる構成を有する逐次的な装具を用いたこのプロセスの繰り返しにより、最終的に患者の歯を、一連の中間配置を経て最終的な所望の配置に移動させる。移動プロセス中、シェル402上の構造410は、上記のように治療機能又は審美的機能を提供する。
【0092】
例示的な一実施形態では、歯科矯正アライメント装具は、透明なエラストマーポリマー材料から作製されたシェル402を含み得、クリアトレイアライナ(CTA)と呼ばれる。使用中、治療の段階1(N)でのCTAは、段階ゼロ(N-1)において位置ずれしている又は不正咬合の歯列を有する歯列弓の上に挿入される。ポリマートレイを延伸して、歯列を次の段階1(N)に再配置することができる。言い換えれば、各アライナトレイは、故意に「フィット性不良」で開始する。ポリマートレイは、歯列に対してかみ合い、力を伝達することで、指定された位置、ベクトル、及び時間で適切な歯又は歯のセットを効果的に再配置することができるように輪郭形成された面を有し得る。「フィット性不良」で開始しながら、ポリマートレイが歯列に対してかみ合い、力を伝達する能力のために、CTAは、例えば、クラスIIの不正咬合を補正するための、患者にとってより快適であり、配置/取り出しが容易であり、予測可能な治療転帰をもたらす、効果的及び/又は効率的な装具であり得る。したがって、少なくとも部分的にその平坦面のために、いくらかの可撓性を有するポリマーアライナトレイは、歯列に対してかみ合い、力を伝達して、指定された位置、ベクトル、及び時間で適切な歯又は歯のセットを効果的に再配置することが可能であり得る。歯又は歯のセットとのフィット性のために、CTAは、クラスIIの不正咬合を補正するための、患者にとって快適であり、配置/取り出し容易であり、予測可能な治療転帰をもたらすなどの、効果的及び/又は効率的な装具であり得る。
【0093】
実施形態を、以下の非限定的な実施例を参照して、以下に記載する。
【実施例】
【0094】
比較例-直接パターン化
フレキソ印刷及びインクジェット印刷を使用して、透明な熱可塑性フィルム(Scheu Dental Tech Iserlohn,GermanyからDuran PETGの商品名(直径12.5cm×厚さ0.75mm)で入手可能)上に連続的な大きな面積カバレージ図形を作成した。フレキソ印刷及びインクジェット印刷では、不透明なUV硬化性白色インク(Nazdar Ink Technologies、Shawnee、KSから商品名Nazdar9301で入手可能)及びBrownwoodから商品名INKJET Cyan Inkで入手可能な青色UV硬化性インクをそれぞれ使用した。
【0095】
フレキソ印刷については、Flexiproofer100(RK Print Coat Instruments,Litlington,Royston,Herts,UK)を10m/分の速度で用い、6.0BCM400LPIアニロックスロール、及びDowDupontから商品名Cyrel DPR0.067で入手可能な印刷プレートを、ウェブ流れ方向34mm及びウェブ横方向14mmのピッチで約2.5mm×5mmの反転「3M」ロゴの繰り返しアレイにより画像化して(SGS,Brooklyn Park,MN)、3M E1060H Cushion-Mount(3M,St.Paul,MN)フレキソ印刷テープで取り付けて使用することで行った。
【0096】
次いで、印刷されたPETGディスクを、HバルブUV硬化ランプ(Haraeus Group,Hanau,Germany)を備えたFusion UVコンベヤベルトを通して運び、印刷されたインクを十分に硬化及び固化させた(すなわち、触ると硬く感じられ、PETG表面から擦ることができないようにした)。インクジェットプリンタは、圧電式3M組み立て卓上ユニットであった。
【0097】
印刷されたPETGディスクを、Biostar VI圧力成形/熱成形機(Scheu Dental,Great Lakes,Tonawanda,NY)で熱成形して、UTK-RDTP-11-300071に従うアライナトレイの形状とした。
【0098】
図6に示すように、A-A及びB-Aは、大面積カバレージ印刷による熱成形アライナトレイの低倍率画像であり、A-B及びB-Bは、アライナトレイの後方部分の高倍率画像であった。
図6のA-B及びB-Bから分かるように、大きな面積をカバーした図形を有するアライナトレイは、基材が熱成形中に大きな歪みを受けたときに色及び画像歪みを受けた。
【0099】
実施例1-直接パターン化
個別のパターンを直接パターン化する第1のアプローチを例示するために、卓上ステンシルプリンタを使用して、異なる直径、アスペクト比、及びパターン密度のパターンドットを、3M,St.Paul,MNから商品名Scotch-Weld Epoxy Adhesive DP100 Plus Clearで入手可能なエポキシ接着剤により堆積させた。異なる開口部及び厚さのステンシルは、Sefar Inc,Buffalo,NYから入手した。
【0100】
DP100エポキシドットを、Scheu Dental Tech,Iserlohn,GE製の透明PETGディスク(直径125mm×厚さ0.75mm)の片側で、ディスクと接触させてディスクの上に印刷し、次いでブレードを使用して、ステンシル上にエポキシを分注した。印刷されたエポキシパターンを、換気フード内にて周囲条件下で硬化させた。
【0101】
図7は、PETG上でステンシル印刷されたパターンの例を示しており、表1は、この試験で印刷されたドットサイズ及びアスペクト比の範囲を詳細に示している。
【0102】
印刷されたPETGディスクを、Biostar VI圧力成形/熱成形機(Scheu Dental,Great Lakes,Tonawanda,NY)で熱成形して、UTK-RDTP-11-300071に従うアライナトレイの形状とした。
【表1】
【0103】
実施例2-直接パターン化
個別の審美的パターンを直接パターン化する第2のアプローチを例示するために、UV白色繰り返しドットパターン(Nazdar9301,Nazdar Ink Technologies,Shawnee,KS)を、パイロット規模のロールツーロール印刷ラインを使用してPETGフィルムの片側(厚さ0.75mm)にフレキソ印刷した。
図7Aに示すように、印刷されたドットは、六角形パターン(直径600μm、対角線間隔1200μm、及びウェブ横方向間隔1050μm)を有した。印刷されたパターンを、Xeric Web UV硬化ステーション(XDS Holding Inc,Neenah,WI)を通して硬化させることにより、印刷パターンを防汚性(smudge-proof)にした。
【0104】
次いで、印刷されたPETGを、Biostar VI圧力成形/熱成形機(Scheu Dental,Great Lakes,Tonawanda,NY)で熱成形して、直径125mmの熱可塑性ディスクを、UTK-RDTP-11-300071に従う歯科矯正アライナトレイの形状とした。
【0105】
図8Aは、PETG基材上に印刷された白色ドットの顕微鏡写真であり、
図8Bは、比較例に見られるような目に見える画像歪みを有していない、ドットでパターン化された審美性を有する最終熱成形歯科用物品の写真である。
【0106】
実施例3
この実施例では、直接パターン化アプローチを利用したが、印刷されたインクは、モノラウリン、抗菌及び/又は抗バイオフィルム剤を含んだ。モノラウリンをNazdar9301白色インクに溶解して、Flexiproofer100(RK Print Coat Instruments,Litlington,Royston,Herts UK)でPETGディスク上に印刷した。印刷された画像は、ウェブ流れ方向20mm及びウェブ横方向10mmのピッチで約5mm×9mmの「3M」ロゴの繰り返しアレイであった(SGS,Brooklyn Park,MN)。
【0107】
次いで、印刷されたPETGを、HバルブUV硬化ランプ(Haraeus Group,Hanau,Germany)を備えたFusion UVコンベヤベルトを通して運び、印刷されたインクを十分に硬化及び固化させた(すなわち、触ると硬く感じられ、PETG表面から擦ることができないようにした)。
【0108】
2%モノラウリンからなるインクは、24時間後、ストレプトコッカス・ミュータンス(s.mutans)菌について4の対数減少を示した。
【0109】
次いで、印刷されたPETGを、Biostar VI圧力成形/熱成形機(Scheu Dental,Great Lakes,Tonawanda,NY)で熱成形して、直径125mmの熱可塑性ディスクを、UTK-RDTP-11-300071に従う歯科矯正アライナトレイの形状とした。
【0110】
図9Aは、PETG上に印刷された3Mロゴ(抗菌モノラウリンを含む)の写真を示し、
図9Bは、タイポドント上に抗菌3Mロゴがある歯科装具の写真である。
【0111】
実施例4-間接パターン化
個別の審美的パターンの「間接パターン化」を例示するために、繰り返し赤色ドットパターンを、パイロット印刷ラインの剥離ライナー上にフレキソ印刷し、その後、厚さ0.75mmの透明PETGに転写した。剥離ライナー基材は、シリコーンコーティング紙ライナー(Loparex,Willowbrook,IL)であった。
【0112】
DowDupont Cyrel DPR 0.067インチ(1.50mm)フレキソ印刷プレートを、630μmのピッチでの直径330μmのドットの繰り返しアレイで画像化し(Southern Graphics Systems Inc.,Brooklyn Park,MN)、3M E1060H Cushion-Mount(3M,St.Paul,MN)フレキソ印刷テープで取り付け、4%のCab-O-Sil TS610ヒュームドシリカ(Cabot,Boston,MA)と混合したNazdar 9385 Fluorescent Red(Nazdar Ink Technologies,Shawnee,KS)で印刷した。
【0113】
次いで、剥離ライナー基材上の赤色インクパターンを、Xeric Web UV硬化ステーション(XDS Holding Inc,Neenah,WI)を通して運び、印刷インクを十分に硬化させた(すなわち、触ると硬く感じられ、PETG表面から擦ることができないようにした)。
【0114】
次いで、ライナー基材上の印刷画像を、PETGディスク(直径125mm×厚さ0.75mm)上に、Carverプレスにて5000psiで、1分間(60秒)かけて225°F(107℃)で転写した。
【0115】
その後、剥離ライナーをPETGから剥がして、画像をPETGに転写した。
【0116】
次いで、間接的に印刷された赤色ドットを有するPETGディスクを、Biostar VI圧力成形/熱成形機(Scheu Dental,Great Lakes,Tonawanda,NY)で熱成形して、UTK-RDTP-11-300071に従う歯科用物品を製造した。
【0117】
図10Aは、ライナー基材上に印刷された赤色ドットの顕微鏡写真を示し、
図10Bは、タイポドント上の赤色ドットでパターン化された歯科用物品の写真である。
【0118】
実施例5-微細構造化特徴部を有する構造
この実施例では、上記の実施例3のように直接パターン化アプローチを利用したが、プリント後に、上記の
図4に概略的に示されるように、それらをキャストフィルムの微細構造化表面と接触させることによって構造化した。UV透明繰り返しパターン(Nazdar1028,Nazdar Ink Technologies,Shawnee,KS)を、Flexiproofer100(RK Print Coat Instruments,Litlington,Royston,Herts,UK)を使用してPETGフィルム(厚さ0.75mm)の片側にフレキソ印刷した。印刷された画像は、ウェブ流れ方向20mm及びウェブ横方向10mmのピッチで約5mm×9mmの「3M」ロゴの繰り返しアレイを有した(SGS,Brooklyn Park,MN)。
【0119】
次いで、印刷されたパターンを、Breit Technologies LLC製の拡散構造を有する微細構造化キャストフィルムに積層した。キャストフィルムに積層された印刷されたパターンを、H-バルブUV硬化ランプ(Haraeus Group,Hanau,Germany)を備えたFusion UVコンベヤベルトを使用して、キャストフィルムを通して硬化させて、印刷インクを十分に硬化及び固化させた(すなわち、触ると硬く感じられ、PETG表面から擦ることができないようにした)。
【0120】
次いで、印刷されたPETGを、Biostar VI圧力成形/熱成形機(Scheu Dental,Great Lakes,Tonawanda,NY)で熱成形して、直径125mmの熱可塑性ディスクを、UTK-RDTP-11-300071に従う歯科矯正アライナトレイの形状とした。
【0121】
図11は、PETG上に印刷され構造化された3Mの写真を示している。
【0122】
上記の特許出願において引用された全ての参考文献、特許文献及び特許出願は、一貫した形でその全文が参照により本明細書に組み込まれる。組み込まれている参照文献の部分と本出願との間に不一致又は矛盾がある場合、前述の記述における情報が優先される。本発明の様々な実施形態を記載してきた。これらの実施形態及び他の実施形態は、以下の特許請求の範囲内にある。
【国際調査報告】