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特表2023-508689PHF20を阻害する製剤を含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-03
(54)【発明の名称】PHF20を阻害する製剤を含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20230224BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20230224BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20230224BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20230224BHJP
   A23L 33/13 20160101ALI20230224BHJP
   C12N 15/11 20060101ALN20230224BHJP
【FI】
A61K48/00
A61P21/04 ZNA
A61P21/00
A61P43/00 105
A61K39/395 N
A61K39/395 D
A61K31/713
A61K31/711
A61K31/7105
A61K38/02
A61K31/7088
A23L33/13
C12N15/11 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022539268
(86)(22)【出願日】2021-04-01
(85)【翻訳文提出日】2022-06-23
(86)【国際出願番号】 KR2021004056
(87)【国際公開番号】W WO2021251602
(87)【国際公開日】2021-12-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0070987
(32)【優先日】2020-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Witepsol
2.TWEEN
3.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】522252626
【氏名又は名称】ミトス セラピューティクス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】特許業務法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】パーク、ジョンソン
(72)【発明者】
【氏名】パーク、ジス
(72)【発明者】
【氏名】イ、ヒョンジ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD44
4B018ME14
4C084AA13
4C084AA17
4C084BA03
4C084MA02
4C084MA43
4C084MA52
4C084MA66
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C084ZB211
4C084ZB212
4C085AA13
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C085GG08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA52
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA94
4C086ZB21
(57)【要約】
本発明は、筋肉分化メカニズムにおけるPHF20(PHD finger protein 20)の機能に関するものであって、より具体的にはPHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤の用途に関する。本発明によるPHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤は、in vitroおよびin vivoにおいて筋分化を促進させるところ、筋肉減少による疾患の予防、改善または治療分野において多様に活用されることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PHF20(PHD finger protein 20)遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項2】
前記筋肉減少による疾患は、サルコペニア(sarcopenia)、緊張減退症(atony)、筋萎縮症(muscular atrophy)、筋ジストロフィー(muscular dystrophy)、筋肉の退化、筋強直性ジストロフィー (muscular dystrophy)、 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、筋無力症(myasthenia)および悪液質(cachexia)からなる群から選択されるものである、請求項1に記載の筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項3】
前記PHF20遺伝子発現阻害剤は、PHF20遺伝子に相補的に結合するshRNA、siRNA、リボザイム、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群から選択された1種以上である、請求項1に記載の筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項4】
前記shRNAは、配列番号1の塩基配列で表されるものである、請求項3に記載の筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項5】
前記PHF20遺伝子発現阻害剤は、YY1(Yin Yang 1)プロモーター活性阻害剤である、請求項1に記載の筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項6】
前記PHF20遺伝子発現阻害剤は、MyoD(MyoDenic differentiation marker)の発現を増加させ、筋分化を促進させるものである、請求項1に記載の筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項7】
前記PHF20タンパク質活性阻害剤は、PHF20タンパク質に特異的に結合する化合物、ペプチドおよび抗体からなる群から選択される1種以上である、請求項1に記載の筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項8】
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤;またはYY1プロモーター活性阻害剤;を含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物。
【請求項9】
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉増強用または筋肉量減少阻害用健康機能食品組成物。
【請求項10】
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉増強用または筋肉量減少阻害用飼料添加剤組成物。
【請求項11】
PHF20(PHD finger protein 20)遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を、これを必要とする個体に処理する段階;を含む、筋肉減少による疾患の治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋分化のメカニズムにおけるPHF20(PHD finger protein 20)の機能に関するものであって、より詳細にはPHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤の用途に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋の質量は、体重の40~50%であり、身体において質量が最も大きな組織である。骨格筋の発達は、MyoDenic lineage commitment、筋芽細胞の増殖、および末端分化を含むメカニズムが要求される。筋形成(MyoDenesis)の過程は、シグナルカ伝達スケードのターミナルエフェクターの役割を果たし、適切な発達段階-特異的転写物により制御される。分化段階は、MyoD(MyoDenic differentiation marker)ファミリー、MEF2(myocyte enhancer factor-2)ファミリー、および他の転写因子を含む筋肉-特異的転写因子の複雑なネットワークによって制御される。
筋肉の減少により引き起こされるサルコペニア(sarcopenia)は、主に加齢による筋肉の減少により発病する。現在、韓国のみならず全世界的に 高齢化が重要な問題として台頭しているため、サルコペニアに対する社会的関心がますます大きくなっている。これを反映するかのように、米国では2016年10月に、世界保健機関(WHO)の国際疾病分類で高齢者のサルコペニアにコード(M62.84)を付与した。しかし、今まで承認された治療剤は皆無であり、開発中の薬物も他の疾患に比べて極めて少ない。特に、ミオスタチン-アクチビン-フォリスタチン(myostatin-activin-follistatin)システムおよびアンドロゲン受容体(androgen receptor)を標的とするほとんどの薬剤は、治療効果が大きくないか、または致命的な副作用が存在するなどの限界があるところ、サルコペニアの治療薬剤に対する研究が必要であるのが実情である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明者等は、筋分化においてPHF20のメカニズムを明らかにすることによって本発明を完成した。
本発明の目的は、PHF20(PHD finger protein 20)遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
本発明の他の目的は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤;またはYY1プロモーター活性阻害剤;を含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
本発明のまた他の目的は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉強化用又は筋肉量減少阻害用組成物を提供する。
本発明の他の目的は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を、これを必要とする個体に処理する段階;を含む、筋肉減少による疾患の治療方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、本発明は、PHF20(PHD finger protein 20)遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
また、本発明は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤;またはYY1プロモーター活性阻害剤;を含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
また、本発明は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉増強用または筋肉量減少阻害用健康機能食品組成物を提供する。
また、本発明は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉増強用または筋肉量減少阻害用飼料添加剤組成物を提供する。
また、本発明は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を、これを必要とする個体に処理する段階;を含む、筋肉減少による疾患の治療方法を提供する。
【発明の効果】
【0005】
本発明によるPHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤は、in vitroおよびin vivoで筋分化を促進させるところ、筋肉の減少による疾患の予防、改善または治療分野において多様に活用されることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】qRT-PCRによりC12細胞の筋分化中におけるPHF20の発現を確認した結果を示す図である(Pre、プレマイオサイト(premyocyte);D1~D5、分化された日数による細胞)。
図2】ウエスタンブロッティングによりC12細胞の筋分化中におけるPHF20およびMyoDの発現を確認した結果を示す図である。
図3】qRT-PCRによりC12細胞の筋分化中におけるYY1の発現を確認した結果を示す図である。
図4】ウエスタンブロッティングによりC12細胞の筋分化中におけるYY1およびMyoDの発現を確認した結果を示す図である。
図5】PHF20の発現がC12細胞の分化に及ぼす影響を確認した結果を示す図である(-Doxy、ドキシサイクリン未処理細胞;+Doxy、ドキシサイクリン処理細胞)。より詳しくは、図5Aは、C12細胞において、ドキシサイクリン処理の有無によるPHF20、YY1およびMyoDのタンパク質発現を解析した結果である。また、図5Bは、C12細胞において、ドキシサイクリン処理の有無によるPHF20、YY1およびMyoDのmRNA発現を解析した結果である。
図6】免疫組織化学染色解析を通じてPHF20の発現が筋管形成に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。
図7】ウエスタンブロッティングによりPHF20の発現抑制がYY1およびMyoDの発現に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。より詳しくは、図7Aは、分化前のC12細胞(Pre)の結果であり、図7Bは、1日分化された筋線維の結果である。
図8A】ウエスタンブロッティングによりドキシサイクリンの処理濃度によるPHF20の発現を確認した結果(上部パネル)およびルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイにいより、前記PHF20の発現によるYY1プロモーターの活性を確認した結果(下部パネル)を示す図である。図8Bは、ウエスタンブロッティングにより、shRNAのトランスフェクトによるPHF20の発現を確認した結果(上部パネル)およびルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイにより、前記PHF20の発現によるYY1プロモーターの活性を確認した結果(下部パネル)を示す図である。
図9図9Aは、ドキシサイクリン未処理のC12細胞における分化期間によるYY1プロモーターの活性(上部パネル)およびPHF2、YY1およびMyoDの発現(下部パネル)を確認した結果を示す図である。図9Bは、ドキシサイクリン処理したC12細胞における分化期間によるYY1プロモーターの活性(上部パネル)およびPHF2、YY1およびMyoDの発現(下部パネル)を確認した結果を示す図である。
図10】クロマチン免疫沈降アッセイによりPHF20がYY1プロモーターを調節する方式を確認した結果を示す図である。
図11】ウエスタンブロッティングによりC12細胞(Pre)および3日間分化させた細胞において、YY1の発現がMyoDの発現に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。
図12】免疫組織化学染色解析により1日分化されたC12細胞において、YY1の発現が筋管形成に及ぼす影響を確認した結果を示す図である。
図13】PHF20トランスジェニックマウスにおいて、PHF20、YY1およびMHCの発現をウエスタンブロッティングにより確認した結果を示す図である(WT、対照群;PHF20-TG、PHF20トランスジェニックマウス)。
図14図14Aは、PHF20トランスジェニックマウスの体重を測定した結果である。図14Bは、PHF20トランスジェニックマウスの大腿筋を観察した結果を示す図である。
図15】組織学的解析によりPHF20トランスジェニックマウスの腓腹筋組織を観察した結果を示す図である。より詳しくは、図15Aは、前記腓腹筋組織の横断面を観察したものであり、図15Bは、縦断面を観察した結果である。
図16】組織学的解析によりトランスジェニックマウスの腓腹筋組織の横断面を観察した結果を示す図である。
図17】免疫組織化学染色解析によりPHF20トランスジェニックマウスの腓腹筋組織を観察した結果を示す図である。より詳しくは、図17Aは、前記腓腹筋組織の縦断面を観察したものであり、図17Bは、横断面を観察した結果である。
図18】PHF20の発現が筋肉分化に及ぼすメカニズムを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の態様によれば、本発明は、PHF20(PHD finger protein 20)遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
また、本発明は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を、これを必要とする個体に処理する段階;を含む、筋肉減少による疾患の治療方法を提供する。
【0008】
本発明において、PHF20(plant homeodomain finger protein 20,PHD finger protein 20)は、ヒストンH4をアセチル化したリジンアセチルトランスフェラーゼ複合体(lysine acetyltransferase complex)のマルチドメインタンパク質およびサブユニットである。PHF20は、転写因子であって、神経膠腫患者から初めて確認された。PHF20ノックアウトマウスは、出生後まもなく死亡し、骨格系および造血系内において様々な表現型がみられる。しかし、PHF20ノックアウトマウスから、これら表現型の詳細なメカニズムは報告されなかった。
本発明の実施形態において、前記PFH20は筋分化において、図18のようなメカニズムを通じて筋分化に影響を及ぼすことが確認された。より詳しくは、PHF20の発現阻害は、in vitroおよびin vivoでYY1プロモーターに結合されたPHF20を分離させ、MyoDの発現を増加させ、前記MyoD(MyoDenic differentiation marker)の発現の増加は、筋分化を促進する。
本発明の具体例において、前記PHF20遺伝子発現阻害剤は、YY1プロモータ活性阻害剤であることが好ましい。
本発明の実施形態において、前記PHF20遺伝子発現阻害剤は、MyoDの発現を増加させ、筋分化を促進させるものであってもよい。
本発明において、YY1(Yin Yang 1)は、4個のC-末端ジンクフィンガードメインを介してDNAに結合する転写抑制タンパク質を意味する。骨格筋において、mTOR(mammalian target of rapamycin)阻害薬のラパマイシン治療は、ミトコンドリア転写調節因子(mitochondrial transcriptional regulator)の遺伝子発現を増加させ、ミトコンドリア遺伝子発現および酸素消費を低減させる。mTORリン酸化およびその下流の標的であるYY1およびPGC-1α(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha)C12筋芽細胞において、FGF21(fibroblast growth factor 21)の処理によって増加される。筋芽細胞において、FGF21によるmTOR-YY1-PGC1α経路の活性化は、細胞内ATP合成、酸素消費率、クエン酸合成酵素(citrate synthase)の活性、解糖、ミトコンドリアDNAコピー数および主要エネルギー発現の有意な増加によって現れるエネルギー恒常性を調節する。
本発明の実施形態において、前記筋肉減少による疾患は、サルコペニア(sarcopenia)、緊張減退症(atony)、筋萎縮症(muscular atrophy)、筋ジストロフィー(muscular dystrophy)、筋肉の退化、筋強直性ジストロフィー (muscular dystrophy)、 筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、筋無力症(myasthenia)および悪液質(cachexia)からなる群から選択されることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0009】
本発明において、「予防」とは、本発明による薬学的組成物の投与により、筋肉減少による疾患の発症を抑制または遅延させるあらゆる行為を意味する。また、本発明において、「治療」とは、本発明による薬学的組成物の投与により、筋肉減少による疾患の症状が好転したり有利に変更するすべての行為を意味する。
本発明の具体例において、前記PHF20遺伝子発現阻害剤は、PHF20遺伝子に相補的に結合するshRNA、siRNA、リボザイム、およびアンチセンスオリゴヌクレオチドからなる群から選択された1種以上であってもよい。
本発明の好ましい具体例において、前記PHF20遺伝子発現阻害剤は、配列番号1の塩基配列で表されるshRNAであってもよく、配列番号1で表される塩基配列の変異体もまた本発明の範囲内に含まれる。本発明の配列番号1で表されるshRNAの官能性同等物、例えば、配列番号1で表される配列の一部が欠失(deletion)、置換(substitution)または挿入(insertion)により改変されたが、これにより配列番号1の塩基配列からなるshRNAと機能的に同一の作用をすることができる変異体(variants)を含む概念である。
具体的には、shRNAは、配列番号1の塩基配列とそれぞれ70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列相同性を有する配列を含むことができる。ポリヌクレオチドまたはアミノ酸に対する「配列相同性の%」は、2個の最適に配列された配列と比較領域を比較することによって確認される。
前記siRNAは、PHF20遺伝子のmRNAの塩基配列中から選択される15~30マー(mer)のセンス配列および該センス配列に相補的に結合するアンチセンス配列からなり、このとき、前記センス配列は、特にこれに制限されるものではない。
本発明の実施形態において、前記PHF20タンパク質活性阻害剤は、PHF20タンパク質に特異的に結合する化合物、ペプチド、および抗体からなる群より選択された1種以上であってもよい。
前記化合物は、PHF20タンパク質に特異的に結合し、その活性を阻害することができる任意の化合物を全て含む。
前記抗体は、PHF20タンパク質に特異的かつ直接的に結合し、PHF20タンパク質の活性を効果的に抑制することができる。前記PHF20タンパク質に特異的に結合する抗体としては、ポリクローナル(polyclonal)抗体またはモノクローナル(monoclonal)抗体を用いることが好ましく、前記抗体は、当業者に知られている公知の方法で作製することができ、市販の抗体を購入して用いることもできる。
【0010】
本発明の薬学的組成物は、薬学的に許容される添加剤をさらに含むことができ、このとき、薬剤学的に許容される添加剤としては、デンプン、ゼラチン化デンプン、微結晶セルロース、乳糖、ポビドン、コロイド状二酸化ケイ素、リン酸水素カルシウム、乳糖、マンニトール、飴、アラビアゴム、アルファ化デンプン、トウモロコシデンプン、粉末セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、オパドライ、デンプングリコール酸ナトリウム、カルナバワックス、合成珪酸アルミニウム、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、白糖などを用いることができる。本発明による薬剤学的に許容される添加剤は、前記組成物に対して0.1~90重量部含まれることが好ましいが、これに限定されるものではない。
また、本発明の薬学的組成物は、実際の臨床投与時に経口または非経口の種々の剤形で投与されることができるが、製剤化する場合には通常使用する充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調製することができ、当該技術分野に知られた適合した製剤を用いることが好ましい。前記組成物に含まれ得る担体、賦形剤および希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、オリゴ糖、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、鉱物油などがある。
前記経口投与のための固形製剤としては、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は、少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、デンプン、炭酸カルシウム(Calcium carbonate)、スクロース(Sucrose)またはラクトース(Lactose)、ゼラチンなどを混ぜて調剤される。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も使用される。また、前記経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内用液剤、乳剤、シロップ剤などが相当するが、よく用いられる単純な希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に種々の賦形剤、例えば、湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などを含むことができる。
前記非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁剤、乳剤、凍結乾燥製剤、座薬が含まれる。非水性溶剤、懸濁溶剤としては、プロピレングリコール(Propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルなどの植物性油、エチルオレートのような注射可能なエステルなどを用いることができる。座薬の基剤としては、ウィテプソル(witepsol)、マクロゴール、トゥイーン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどを用いることができる。前記非経口投与は、皮膚外用または腹腔内注射、直腸内注射、皮下注射、静脈注射、筋肉内注射または胸部内注射などの注入方式を用いてなることができる。
本発明の薬学的組成物の投与量は、患者の体重、年齢、性別、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率および疾患の重症度によってその範囲が多様であり、1日1回投与することもでき、数回に分けて投与することもできる。
本発明の薬学的組成物は、個体に多様な経路で投与することができる。
本発明の薬学的組成物は、筋肉減少による疾患の予防または治療のために単独で、または手術、放射線治療、ホルモン療法、化学療法および生物学的反応調節剤を用いる方法と併用して使用することができる。
【0011】
本発明の他の態様によれば、本発明は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤;またはYY1プロモーター活性阻害剤;を含む、筋肉減少による疾患の予防または治療用薬学的組成物を提供する。
本発明の具体例において、前記YY1プロモーター活性阻害剤は、siRNAであってもよく、配列番号2の塩基配列で表されることが好ましい。
【0012】
本発明のまた他の態様によれば、本発明は、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤を有効成分として含む、筋肉増強用または筋肉量減少阻害用組成物を提供する。
前記組成物は、健康機能食品組成物または飼料添加剤組成物であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
本発明において、飼料添加剤は、栄養的または特定の目的のために飼料に微量添加される物質を意味する。
前記筋肉増強用または筋肉量減少阻害用組成物が健康機能食品組成物である場合、PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤をそのまま添加したり、他の食品または食品成分とともに使用することができ、通常の方法により適宜使用することができる。有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康または治療的処置)によって適切に決定することができる。一般に、食品または飲料を製造する際に、本発明のPHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤は、全組成物に対して15重量%以下、好ましくは10重量%以下の量で添加される。しかし、健康および衛生を目的とする、または健康調節を目的とする長期間摂取の場合は、前記範囲以下であってもよく、安全性の面で何ら問題がないので、有効成分は前記範囲以上の量でも使用することができる。
前記健康機能食品の種類には特別な制限はない。前記健康機能食品としては、キャンデー類、スナック類、ガム類、飲料、お茶、ドリンク剤、アルコール飲料およびビタミン複合剤などがあり、通常の意味での健康食品を全て含む。
前記筋肉増強または筋肉量減少阻害用組成物が飼料添加剤組成物である場合、本発明の飼料添加剤組成物は、飼料原料に適宜配合して飼料として提供されるが、前記飼料原料として、穀物類、糟糠類、植物油糧、動物性飼料原料、その他の飼料原料、精製品などが用いられるが、これに限定されるものではない。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施形態を通じて本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施形態は単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施形態によって限定されるものと解釈されないことは、当業界において通常の知識を有する者にとって自明である。

実験材料
抗-PHF20抗体は、Cell Signaling Technology(Beverly,MA)から購入した。抗-β-アクチン抗体は、Sigma Aldrich(St.Louis,USA)から得た。抗-YY1、抗-MyoDおよび抗ミオシン重鎖抗体は、Santa Cruz Biotechnology(Santa Cruz,CA)から購入した。抗-ミオシン(MF20)抗体は、アイオワ大学のDSHBから得た。HRPが結合した抗-マウス、抗-ウサギ抗体および抗-ヤギIgG抗体は、Koma biotech(Seoul,Korea)から入手した。pYY-ルシフェラーゼは、Panomics(California,USA)から購入した。Luciferase assay system kitは、Promega(Madison,USA)から購入した。Tet-on advanced inducible gene expression system kitは、Clontech(Takara Bio Company,USA)から入手した。
【0014】
実験例1.細胞培養
1-1.C12細胞培養および分化
プレマイオサイト(premyocyte)であるC12細胞は、DMEM培地を使用して37℃および5%COの条件で培養した。前記DMEM(WELGENE,Gyeongsan,Korea)培地は、10% FBS(fetal bovine serum)(HyClone,Logan,USA)および1% Antibiotic-Antimycotic(Gibco,Detroit,USA)を含む。
細胞分化のために、培地を分化培地(differentiation medium,DM)に交換した後、培養し、培地を2日毎に交換した。前記分化培地は、2%ウマ血清(horse serum)および1% Antibiotic-Antimycotic(Gibco,Detroit,USA)を含む。前記細胞分化は、培地を交換してから24時間後に始まった。

1-2.C12/Tet-On誘導性PHF20細胞
12細胞を用いてC12/Tet-On誘導性PHF20細胞を調製した。具体的には、C12-TET3G筋芽細胞を調製するために、C12細胞にレンチウイルス-TET3Gを施し、G418(1.2mg/ml)を選択し、C12-TET3G筋芽細胞を得た。前記C12-TET3G細胞をpLVX-TRE3G-PHF20で一時的にトランスフェクトした。ピューロマイシン(3μg/ml)を用いて一時的にトランスフェクトした細胞中、Tet-On誘導性PHF20細胞を選択した。選択された細胞(C12/Tet-On誘導性PHF20細胞)は、ドキシサイクリン(doxycycline,Doxy)が含まれた培地で培養すると、PHF20の発現が誘導される。
後述する実験において、C12細胞からPHF20の発現を誘導するためにドキシサイクリンを100ng/mlの濃度で含む培地で培養した。
【0015】
実験例2.ウェスタンブロッティング
調製された細胞を氷上に置き、前記細胞に溶解緩衝液で処理し、細胞溶解物を製造した。前記溶解緩衝液は、50mMのTris-HCl(pH7.5)、1%v/vのNonidet P-40、120mMのNaCl、25mMのフッ化ナトリウム、40mMのβ-リン酸、0.1mMのオルトバナジン酸ナトリウム、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド、1mMのベンザミジンおよび2μMのミクロシスチン-LRを含む。細胞溶解物を13000rpmで30分間遠心分離し、タンパク質を得た。該タンパク質を10.0~7.5%ゲルを用いたSDS-PAGEで展開した。展開されたタンパク質をImmobilon-Pメンブレン(Millipore)に移した。それから、メンブレンを5%のスキムミルクおよび0.2%のTween-20を含有する1X TBS(tri-buffered saline buffer;140mMのNaCl、2.7mMのKCl、250mMのTris HCl、pH7.4)を施し、1時間ブロッキングした。その後、1000倍希釈された各タンパク質に対する1次抗体を処理した後、4℃で一晩培養した。反応後、TBSでメンブレンを洗浄した。洗浄したメンブレンに2000倍希釈した2次抗体(horseradish peroxidase-conjugated anti-mouse IgGまたはanti-rabbit IgG(Komabiotech,Seoul,Korea))を処理した後、培養した。培養後、メンブレンをTBSで洗浄し、メーカーのマニュアルに従ってタンパク質を検出した。
【0016】
実験例3.リアルタイム定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(Real-time quantitative reverse transcription-polymerase chain reaction,qRTPCR)
12/Tet-On誘導性PHF20細胞を6ウェルプレートに播種し、24時間培養した。PHF-20の発現を誘導するために、前記C12/Tet-On誘導性PHF20細胞にドキシサイクリンを処理した。ドキシサイクリンを処理した翌日、QuickGene RNA kit(Fujifilm’s Life Science System,Tokyo,Japan)を用いて、細胞から全RNAを抽出した。また、SuPrimeScript RT Premix(GeNet Bio,Cheonan,Korea)を用いて、抽出した全RNAからcDNAを合成した。cDNA増幅は、Prime Q-Mastermix(GeNet Bio,Cheonan,Korea)およびCFX96T Real-time System(Bio-Rad,Hercules,CA,USA)で行った。各cDNAのqRT-PCRアッセイは、SYBR緑色染料およびStepOne PlusリアルタイムPCRシステム(Invitrogen,Carlsbad,CA)を用いて、DNA二本鎖(duplex DNA)の形成を測定した。
本実験にて用いたプライマーを表1に示す。
【表1】
【0017】
実験例4.免疫組織化学染色解析を通じたミオシン重鎖(myosin heavy chain,MHC)の検出
12/Tet-On誘導性PHF20細胞を1x10cells/wellの濃度で滅菌したカバースリップを含む12ウェルプレートに播種し、37℃および5%COの条件で培養した。ドキシサイクリン未処理群(-Doxy)は、細胞にドキシサイクリンを処理せずに24時間培養し、ドキシサイクリン処理群(+Doxy)は、培地をドキシサイクリンを含む培地に交換した後、24時間培養した。培養された各細胞の培地を分化培地に交換した後、1日(D1)または3日(D3)間培養して分化させた。それから、細胞を37℃のPBSで洗浄した。洗浄した細胞を4%のパラホルムアルデヒドで15分間培養し、カバースリップに固定し、PBSで2回洗浄した。ブロッキングのために、カバースリップに1%のBSA(bovine serum albumin)を処理した後、室温で1時間振とう培養した。また、anti-myosin(MF-20)抗体を1:200の割合で希釈し、細胞に添加し、4℃で一晩振とう培養した。振とう培養後、カバースリップをPBSで3回洗浄した。FITC2次抗体(1:1000)(in 5% skim milk)を添加した後、暗所において室温で6時間振とう培養した。振とう培養後、カバースリップをPBSで3回洗浄した。洗浄したカバースリップの培地をDAPI VECTASHIELD(St.Louis,USA)を含むマウンティング培地に交換した後、スライドに結合させて蛍光を解析した。
【0018】
実験例5.ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイ
12/Tet-On誘導性PHF20細胞を3x10cells/mlの濃度で6ウェルプレートに播種した。播種された細胞にYY1-ルシフェラーゼを含むプラスミド1μgを、メーカーのマニュアルに従ってトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞は、24時間後、実験のために使用した。
トランスフェクトされた細胞にレポーター溶解緩衝液を施し、細胞を溶解させた。前記レポーター溶解緩衝液は、25mMのリン酸トリス、2mMのDTT、2mMのtrans-1,2-シクロヘキサンジアミン四酢酸、10%(v/v)のグリセロールおよび1%(v/v)のTriton x-100を含む。ルシフェラーゼの活性は、細胞溶解物20μgにluciferase assay substrate(Promega)を添加して培養し、10秒間の発光をルミノメーター(Duo Lumat LB 9507)を用いて測定した。
【0019】
実験例6.クロマチン免疫沈降(Chromatin-immunoprecipitation,ChiP)アッセイ
クロマチン免疫沈降アッセイは、メーカーのマニュアル(Upstate Biotechnology,Lake Placid,NY,USA)に従って行った。具体的には、C12細胞を3日間分化させ、ホルムアルデヒドを7.5分間処理した。その後、プロテアーゼ阻害剤を含むPBSで細胞を2回洗浄した後、氷上に移した。氷上の細胞にSDS-溶解緩衝液を処理した後、10分間培養し、溶解物を得た。前記溶解緩衝液は、50mMのTris-HCl(pH8.0)、1%のSDS、10mMのEDTA、1mMのPMSF、1μg/mlのアプロチニンおよび2μg/mlのぺプスタチンを含む。前記得られた溶解物は、1次抗体または対照群IgGを処理した後、4℃で一晩培養した。その後、培養物にプロテインAビーズ(500μg/mlのBSAおよび200μg/mlのサケ精子DNAを含む)30μlを共に4℃で3時間培養した。培養後、DNA試料は、QIA quick PCR purification kit(Qiagen,Hilden,Germany)を用いて精製し、qRT-PCRを用いて定量した。qRT-PCRの結果は、入力された値の百分率で表示する。本実験にて使用したプロモーター特異的プライマーであるmouse YY1(-200/-55)の配列は、以下の通りである。
-mouse YY1(-200/-55):5’ -CGCTGCCTTCCTCCCTCT-3’(順方向、配列番号12)、5’ -CGTCCGTGGCGATGTAGA-3’(逆方向、配列番号13)
【0020】
実験例7.PHF20トランスジェニックマウスの作製
PHF20トランスジェニックマウスを作製するために、pcDNA3ベクターのCMVプロモータの下流に、ヒトPHF20をコードするcDNAをサブクローニング(subcloning)し、WT C57BL/6マウスを前記ベクターでトランスフェクトした。対照群は、WT C57BL/6マウスを用いており、WTで表わした。マウスPHF20-TGおよびWTは、12h/12h長日周期、湿度50~60%、および周辺温度22℃の環境で飼育した。また、全ての動物実験は機関におけるガイドラインに従って動物施設にて行われた。実験プロトコルは、忠南大学(CNU-00890)の検討委員会から承認を得た。
【0021】
実験例8.組織学的解析および免疫組織化学染色解析
マウスから採取した筋肉は、10%のホルマリンで処理した上、4℃で一晩培養して固定した。固定された筋肉試料は、パラフィンブロックに包埋した。パラフィンブロックを切り取り、5μm厚の切片を用意した。隣接部位の薄片をさらに用意し、順にスライドを作製した。
一般的な形態学的解析を行うために、作製したスライドをヘマトキシリンおよびエオシン(hematoxylinおよびeosin,H&E)で染色した。
また、免疫組織化学解析を行うために、スライド上の切片をキシレンで脱パラフィン化させ、エタノールを用いて再水和させた。次いで、スライドをペルオキシダーゼ反応停止液(peroxidase quenching solution)に浸して10分間反応させた。反応後、スライドをPBSで5分間ずつ2回洗浄し、ブロッキングのためにスライドに試薬Aを2滴加えた後、30分間培養した。培養後、スライドをPBSで2回洗浄した。洗浄したスライドに1次抗体(anti-MHC)を処理した後、4℃で一晩培養した。培養されたスライドをPBSで洗浄した後、ビオチン化された(biotinylated)2次抗体試薬Bを処理し、室温で1時間培養した。培養されたスライドをPBSで洗浄した後、酵素が結合された試薬Cをスライドに滴下し、PBSで洗浄した。PBSで洗浄した後、DAB発色体;および試薬、D1、D2およびD3の混合物;をスライドに滴下させ、蛍光顕微鏡でシグナルを観察した。そして、蒸留水で反応を止めてから蛍光顕微鏡でスライドの写真を撮った。
【0022】
実験例9.統計解析
データは平均±S.E.で表した。少なくとも3回の実験におけるグループ間の差は、Student’s t-testを用いて解析し、P<0.05は、統計的に有意であるとみなした。また、結果の定量解析にはImage Jソフトウェア(バージョン1.47)を使用した。
【0023】
実施形態1.筋分化中におけるYY1およびPHF20の発現の解析
筋分化におけるPHF20(PHD finger protein 20)の変化を評価するために、筋分化におけるYY1(Yin Yang 1)およびPHF20 mRNAおよびタンパク質発現をqRT-PCRおよびウェスタンブロッティングにより解析した。

1-1.PHF20
12細胞を播種してから24時間後、2%ウマ血清を含有する分化培地(DM)に交換し、筋分化を誘導した。細胞のPHF20 mRNA発現は、qRT-PCRを通じて筋分化期間中、毎日測定した。また、前記筋分化期間中、PHF20およびMyoDのタンパク質発現は、ウエスタンブロッティングにより毎日確認した。PHF20 mRNAおよびタンパク質発現を解析した結果は、それぞれ図1および2に示す。
図1および2に示すように、筋分化が進むほどPHF20は、mRNAおよびタンパク質の発現が減少することが確認された。その反面、MyoDは、筋分化が進むほどタンパク質の発現が増加することが確認された。上記の結果は、C12細胞において転写因子のPHF20が筋分化に関与しうることを示唆する。

1-2.YY1
YY1は、先行研究を通じてPHF20が過剰発現される細胞において、発現が増加されることが確認されている。そこで、YY1のmRNAおよびタンパク質発現を、前記実施形態1-1と同様の方法で解析した。YY1のmRNAおよびタンパク質発現を解析した結果は、それぞれ図3および4に示す。
図3および4に示すように、YY1は、筋分化が進むほどmRNAの発現が減少することが確認された。また、筋分化が進むほどMyoDのタンパク質発現は、増加したが、YY1のタンパク質発現は、減少したことが確認された。
【0024】
実施形態2.PHF20の発現がC12細胞の分化に及ぼす影響の調査
PHF-20の発現が筋分化に及ぼす影響を追加で評価した。

2-1.PHF20の発現がMyoDタンパク質発現に及ぼす影響
12細胞(Pre)を準備した後、ドキシサイクリン未処理群(-Doxy)および処置群(+Doxy)に分けた。それから、ドキシサイクリン未処理群(-Doxy)は、調製された細胞にドキシサイクリンを処理せずに24時間培養し、ドキシサイクリン処理群(+Doxy)は、ドキシサイクリンを含む培地に交換した後、調製された細胞を24時間培養した。ドキシサイクリンが未処理または処理されたC12細胞を実験に使用し、Preとして表した。
分化した筋線維(D1、D3およびD5)を作製するために、前記ドキシサイクリンが未処理または処理されたC12細胞の培地を分化培地と交換した後、培養した。培養された細胞は、分化日数毎にD1、D3およびD5としてそれぞれ表した。
調製された細胞に溶解緩衝液を処理し、各細胞溶解物を製造し、PHF20、YY1、およびMyoDタンパク質発現をウエスタンブロッティングにより解析した。PHF20、YY1、およびMyoDのタンパク質発現を解析した結果は、図5Aに示した。
図5Aに示すように、対照群であるドキシサイクリン未処理群(左パネル)は、筋分化中におけるPHF20およびYY1のタンパク質発現が減少し、MyoDの発現が増加する傾向を示す。その反面、ドキシサイクリン処理群(右パネル)は、PHF20の発現が誘導されたものであって、MyoDの発現が対照群に比べて低いことが確認された。

2-2.PHF20の発現がMyoD mRNA発現に及ぼす影響
前記実施形態2-1のドキシサイクリン処理(+Doxy)または未処理(-Doxy)されたC12細胞(Pre)および分化した筋線維(D5)の全RNAを抽出した後、qRT-PCRを介してPHF20、YY1、およびMyoDのmRNA発現を解析した。前記mRNA発現を解析した結果は、図5Bに示した。
図5Bに示すように、筋分化中におけるPHF20、YY1、およびMyoDの発現は、タンパク質発現のような傾向性、すなわち、PHF20の発現が誘導された細胞は、MyoDの発現が減少したことが確認された。

2-3.PHF20の発現が筋管形成に及ぼす影響
PHF20が筋管(myotube)形成に及ぼす影響を確認するために、免疫組織化学染色解析によりミオシン重鎖の発現を調べた。具体的には、ドキシサイクリン処理(+Doxy)または未処理(-Doxy)されたC12細胞(Pre)および分化した筋線維(D1およびD3)を調製した。調製した細胞を用いて、抗-MF抗体(緑色)を用いた免疫組織化学染色解析を行った。ミオシン重鎖は、抗-MF抗体で染色され緑色で表され、細胞核は4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で染色され、青色で表される。免疫組織化学染色解析の結果は、図6に示した。

図6に示すように、ドキシサイクリンによってPHF20の発現が誘導された細胞(+Doxy、D1およびD3)は、筋分化中に筋管形成が抑制されたことが確認された。その反面、対照群であるドキシサイクリン未処理群(-Doxy、D1およびD3)においては、C12細胞が筋管に分化されたことが確認された。

2-4.PHF20の発現抑制がMyoDの発現に及ぼす影響
PHF20の発現抑制がMyoDの発現に及ぼす影響を確認した。これのために、C12細胞(Pre)および分化した筋線維(D1)を調製した。調製した細胞に、配列番号1の塩基配列で表されるPHF20配列に対するshRNA(shPHF20)を発現するレンチウイルスをトランスフェクトさせた。対照群は、配列番号3の塩基配列で表されるスクランブル配列に対するshRNAを使用した。トランスフェクトされた細胞は24時間培養した。培養後、細胞を溶解させ、細胞溶解物を用いてウエスタンブロッティングを行った。分化前のC12細胞(Pre)の結果を図7Aに示し、分化した筋線維(D1)の結果は図7Bに示した。
図7に示すように、分化前のC12細胞(Pre)において、shRNAによるPHF20の発現の抑制は、YY1の発現抑制を誘導し、MyoDの発現増加を引き起こした。前記のような現象は、分化1日目である筋線維(D1)においてより際立つことが確認された。
【0025】
実施形態3.PHF-20の発現がYY1プロモーターの発現に及ぼす影響
前記実施形態1および2を通じて筋分化中におけるPHF20の発現増加は、YY1の発現を増加させ、MyoDの発現を減少させることが確認された。そこで、さらにPHF20の発現が筋分化に及ぼす影響をYY1プロモーター解析を通じて評価した。

3-1.ドキシサイクリン処理濃度によるPHF20およびYY1プロモーターの発現の調査
ドキシサイクリンの処理濃度によるPHF20およびYY1プロモーターの発現を調べた。C12細胞(Pre)にYY1-ルシフェラーゼ遺伝子をトランスフェクトした。トランスフェクトされた細胞にドキシサイクリンを濃度別(0,50,100および500ng/ml)に処理した後、24時間培養した。培養後、C12細胞を、ウエスタンブロッティングおよびルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイを行った。前記ウェスタンブロッティングは、PHF20の発現を確認するためのものであり、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイは、YY1プロモーターの活性を確認するためのものである。ウェスタンブロッティングの結果およびルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイの結果は、図8Aに示した。
図8Aに示すように、ドキシサイクリンは、PHF20の発現を誘導するが、前記PHF20の発現は、ドキシサイクリンの濃度に依存的であることが確認された。また、YY1プロモーターの活性は、PHF20の発現量に依存することが確認された。

3-2.shRNAのトランスフェクトによるPHF20およびYY1プロモーターの発現の調査
shRNAのトランスフェクトによるPHF20およびYY1プロモーターの発現を調べた。具体的に、C12細胞(Pre)を調製し、調製された細胞にスクランブル配列(shRNA)またはPHF20配列(shPHF20)に対するshRNAを発現するレンチウイルスをトランスフェクトさせた。トランスフェクトされた細胞を24時間培養した後、YY1-ルシフェラーゼ遺伝子を追加でトランスフェクトさせた。それから、細胞を溶解させ、細胞溶解物を用いてウエスタンブロッティングおよびルシフェラーゼレポーター遺伝子解析を実施し、その結果は図8Bに示した。
図8Bに示すとおり、shRNAによるPHF20の発現の減少は、YY1プロモーターの活性を抑制することが確認された。このことはPHF20がプレマイオサイトにおけるYY1の発現を、転写レベルで陽性的に調節することを意味する。

3-3.筋分化期間によるPHF20およびYY1プロモーターの発現の調査
筋分化期間によるPHF20の発現抑制がYY1プロモーターの発現に及ぼす影響を解析した。これのためのYY1プロモーター解析は、プレマイオサイトであるC12細胞を用いて行った。具体的に、ドキシサイクリン処理していないC12細胞(Pre)を分化培地で培養して分化させ、各分化時点(D1およびD3)においてYY1-ルシフェラーゼ遺伝子をトランスフェクトさせた。ウエスタンブロッティングによりトランスフェクトされた細胞のPHF2、YY1およびMyoDの発現を解析した。また、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイを通じてYY1プロモーターの活性を確認した。ドキシサイクリン処理したC12細胞(Pre)を使用して前記と同様の方法で実験した。前記ドキシサイクリン処理していないC12細胞を用いた実験の結果は、図9Aに示しており、ドキシサイクリン処理したC12細胞を用いた実験の結果は、図9Bに示した。
図9Aに示すように、C12細胞の筋分化が進むほどYY1プロモーター活性が減少するにつれてPHF20およびYY1の発現は減少し、MyoDの発現は増加した。
図9Bに示すように、ドキシサイクリンによって誘導されたPHF20の発現は、筋分化中におけるYY1プロモーター活性を誘導し、これによってMyoDの発現は減少したことが確認された。
上記の結果は、PHF20の発現量がYY1およびYY1プロモーターによる筋分化の調節において重要であることを意味する。

3-4.PHF20によるYY1プロモーター調節手法の確認
クロマチン免疫沈降(Chromatin-immunoprecipitation,ChiP)解析によりPHF20がYY1プロモーターをどのような手法で調節するかを確認した。前記クロマチン免疫沈降アッセイは、C12細胞(Pre)および分化した筋線維(D1およびD3)を利用し、プライマーmouse YY1(-200/-55)を使用した。対照群としてはIgGを使用した。クロマチン免疫沈降アッセイの結果は、図10に示した。
図10に示すように、C12細胞におけるPHF20は、筋分化中、YY1プロモーター(-200/-55)に結合することが減少した。上記の結果は、PHF20が筋分化を制御するための転写因子であって、YY1プロモーターに直接結合することを示唆する。
【0026】
実施形態4.YY1の発現がMyoDの発現に及ぼす影響
前記実施形態3を通じてPHF20がYY1を直接調節することを確認した。そこで、本実施形態において、YY1プロモーターの発現が下流遺伝子であるMyoDに及ぼす影響を調べた。

4.ウエスタンブロッティング
YY1プロモーターの発現が下流遺伝子であるMyoDに及ぼす影響を調べるために、ドキシサイクリン(100ng/ml)処理(+Doxy)または未処理(-Doxy)されたC12細胞(Pre)を調製した。前記C12細胞を、分化培地で培養して筋肉に分化させた。分化3日目(D3)にsiRNAまたはsiYY1(配列番号2)をトランスフェクトさせた後、24時間培養した。培養後、細胞溶解物を調製し、ウエスタンブロッティングによりPHF20、YY1およびMyoDの発現を解析した。対照群はドキシサイクリン(100ng/ml)処理(+Doxy)または未処理(-Doxy)されたC12細胞(Pre)を用いた。ウエスタンブロッティングの結果は、図11に示した。
図11に示すように、PHF20の過剰発現は、C12細胞(Pre)においてMyoDの発現の低下を誘導し、分化3日目(D3)には筋分化のみならず、プレマイオサイトにおいてYY1の発現を誘導した(各条件における最初の2個のレーン)。また、shRNAによるYY1の発現抑制は、MyoDの発現を増加させた(各条件における最後の2個のレーン)。

4-2.免疫組織化学染色解析
YY1が筋管(myotube)形成に及ぼす影響を確認するために、免疫組織化学染色解析によりミオシン重鎖の発現を調べた。具体的には、ドキシサイクリン処理(+Doxy)または未処理(-Doxy)分化した筋線維(D1)を調製した。調製した細胞にsiRNAまたはsiYY1をトランスフェクトさせた後、24時間培養した。培養された細胞を用いて、抗―ミオシン(MF20)抗体を用いた免疫組織化学染色解析を行った。ミオシン重鎖は、抗-ミオシン(MF20)抗体で染色されて緑色で表され、細胞核は4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)で染色され、青色で表される。免疫組織化学染色解析の結果は、図12に示した。
図12に示すように、shRNAによるYY1の発現の減少は、筋管形成を促進することを確認した(+siYY1、-Doxy)。その反面、ドキシサイクリンによってPHF20の発現が誘導される場合、筋管形成が抑制されることを確認した(-siYY1、+Doxy)。特に、PHF20の過剰発現にもかかわらず、YY1の発現が抑制される際、分化が回復したことを確認した(+siYY1、+Doxy)。上記の結果は、PHF20がYY1を通じてMyoDのような分化制御因子を調節することを意味する。
【0027】
実施形態5.PHF20トランスジェニックマウスにおけるPHF20の発現が筋分化に及ぼす影響の調査
5-1.PHF20トランスジェニックマウスにおけるPHF20、YY1およびMHCの発現の解析および表現型の確認
PHF20トランスジェニックマウスから骨格筋組織を分離した。分離された筋組織を溶解し、細胞溶解物を調製した。前記細胞溶解物を調製し、ウエスタンブロッティングによりPHF20、YY1およびミオシン重鎖(myosin heavy chain,MHC)発現を解析した。前記ミオシン重鎖は、筋分化マーカーであって、分化が進むにつれて発現が増加する。対照群は、5ヶ月齢の雄のWTマウスを使用した。ウエスタンブロッティングの結果は、図13に示した。
図13に示すように、PHF20トランスジェニックマウスは、PHF20およびYY1の発現が対照群(WT)に比べて有意に増加した。しかし、前記PHF20トランスジェニックマウスは、筋分化マーカーであるミオシン重鎖(MHC)の発現が対照群に比べて減少したことを確認した。

PHF20トランスジェニックマウスを、次の実験のために犠牲にする前に体重を測定した。その後、PHFトランスジェニックマウスを解剖した後、大腿および筋肉を観察した。PHF20トランスジェニックマウスの体重測定の結果は、図14Aに示し、大腿筋を観察した結果は図14Bに示した。
図14Aに示すように、PHF20トランスジェニックマウスは、対照群(WT)に比べて体重が有意に増加したことが確認できた。
図14Bに示すように、解剖されたPHF20トランスジェニックマウスの筋肉は、筋肉の色が対象群(WT)に比べて薄いことが確認されたが、これは、対照群よりも筋肉は少なく、脂肪蓄積量が多いことを意味する。
前記の結果からPHF20のトランスジェニックマウスは、脂肪蓄積による体重が増加したことが分かる。

5-2.組織学的解析および免疫組織化学染色解析
PHF20トランスジェニックマウス(PHF20-TG)および対照群(WT)の腓腹筋(gastrocnemius)組織を横方向(Cross section)又は縦方向(Longitudinal section)にスライスしてスライドを作製した。
前記作製された横方向または縦方向スライドの組織をヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)で染色した。腓腹筋組織の横断面を観察した結果は、図15Aに示し、縦断面を観察した結果は図15Bに示した。
図15Aに示すように、PHF20トランスジェニックマウスは、対照群よりも筋線維が少ないことを確認した。また、PHF20トランスジェニックマウスは、対照群よりも筋繊維が丸く、筋線維間に複数の空隙(白色)があることを確認した。
図15Bに示すように、筋肉の縦断面を観察したところ、PHF20トランスジェニックマウスは、対照群に比べて筋線維が完全に圧縮されていないことが確認されており、このことは筋肉の完全性が低いことを意味する。

また、前記ヘマトキシリンおよびエオシンで染色された横断面スライドをさらに観察し、その結果は図16に示した。
図16に示すように、対照群(WT)は、筋肉間に脂肪組織がほとんどないのに対し、PHF20トランスジェニックマウスは、筋肉間において脂肪組織が観察された。

免疫組織化学解析により作製された横方向または縦方向スライドの腓腹筋組織を観察した。腓腹筋組織の縦断面を観察した結果は図17Aに示し、横断面を観察した結果は図17Bに示した。
図17Aに示すように、PHF20トランスジェニックマウスは、対照群(WT)に比べて筋線維が少なく、長さが短いことを確認した。また、PHF20トランスジェニックマウスは、MHCの発現が対照群(WT)に比べて減少したことを確認した。
図17Bに示すように、PHF20トランスジェニックマウスは、対照群(WT)に比べて筋線維間に空隙が発見されており、このことは筋線維の圧縮程度が低いことを意味する。
前記の結果から、PHF20が生体内で筋肉発達に否定的な影響を及ぼすことが確認された。

総体として、前記の実験結果を通じてPHF20の発現は、図18のようなメカニズムを介して筋分化に影響を及ぼすことが確認できた。より詳細には、PHF20遺伝子ノックアウト、すなわちPHF20の発現阻害は、in vitroおよびin vivoにおいてYY1プロモーターに結合されたPHF20を分離させ、MyoDの発現を増加させ、前記MyoDの発現増加は、筋分化が促進されることを確認した。これはPHF20阻害剤が筋肉減少による疾患の予防又は治療の分野において多様に活用されることができる。
以下、製剤例を挙げて本発明をより詳しく説明する。製剤例は単に本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲が実施形態によって限定されるものと解釈されるものではない。
【0028】
製剤例1.薬学的組成物の製造
1.散剤の製造
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤20μg
乳糖 100mg
タルク 10mg
前記の成分を混合し、気密布に充填して散剤を製造する。

1-2.錠剤の製造
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤20μg
トウモロコシデンプン 100mg
乳糖 100mg
ステアリン酸マグネシウム 2mg
前記の成分を混合した後、通常の錠剤の製造方法により打錠して錠剤を調製する。

1-3.カプセル剤の製造
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤20μg
結晶性セルロース 3mg
ラクトース 14.8mg
ステアリン酸マグネシウム 0.2mg
通常のカプセル剤の製造方法により前記の成分を混合し、ゼラチンカプセルに充填してカプセル剤を製造する。

1-4.注射剤の製造
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤10μg
マンニトール 180mg
注射用滅菌蒸留水 2974mg
リン酸二ナトリウム二水和物 26mg
通常の注射剤製造方法に従って1アンプル当たり(2ml)前記成分の含有量で調製する。

1-5.液剤の製造
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤10μg
異性化糖 10g
マンニトール 5g
精製水 適量
通常の液剤の製造方法に従って精製水にそれぞれの成分を加えて溶解させ、レモン香を適量加えた後、前記の成分を混合した上、精製水を加えて全体を精製水を加え、全体100mLに調節した後、茶色瓶に充填して滅菌させて液剤を調製する。
【0029】
製剤例2 食品製剤の製造
2-1.健康食品の製造
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤10μg
ビタミン混合物 適量
ビタミンAアセテート 70g
ビタミンE 1.0mg
ビタミンB1 0.13mg
ビタミンB2 0.15mg
ビタミンB6 0.5mg
ビタミンB12 0.2g
ビタミンC 10mg
ビオチン 10g
ニコチン酸アミド 1.7mg
葉酸 50g
パントテン酸カルシウム 0.5mg
無機質混合物 適量
硫酸第1鉄 1.75mg
酸化亜鉛 0.82mg
炭酸マグネシウム 25.3mg
第1リン酸カリウム 15mg
第2リン酸カルシウム 55mg
クエン酸カリウム 90mg
炭酸カルシウム 100mg
塩化マグネシウム 24.8mg

前記のビタミンおよびミネラル混合物の組成比は、比較的健康食品に適した成分を好ましい実施形態で混合組成したが、その配合比を任意に変形実施してもよく、通常の健康食品製造方法に従って前記の成分を混合した後、顆粒を製造し、通常の方法に従って健康食品組成物の製造に使用することができる。

2-2.健康飲料の製造
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤10μg
ビタミンC 15g
ビタミンE(粉末)100g
乳酸鉄 19.75g
酸化亜鉛 3.5g
ニコチン酸アミド 3.5g
ビタミンA 0.2g
ビタミンB1 0.25g
ビタミンB2 0.3g
水 適量

通常の健康飲料の製造方法に従って前記の成分を混合した上、約1時間の間85℃で攪拌加熱した後、得られた溶液を濾過して滅菌した2Lの容器に取得し、密封滅菌して冷蔵保管した後、本発明の健康飲料組成物の製造に使用する。
前記組成比は、比較的嗜好飲料に相応しい成分を好ましい実施形態で混合組成したが、需要階層や、需要国、使用用途など地域的、民族的嗜好度によってその配合比を任意に変形実施してもよい。
【0030】
製剤例3.飼料添加剤の製造
PHF20遺伝子発現阻害剤またはPHF20タンパク質活性阻害剤2.0%
グルコース 2.0%
ペプトン 1.0%
酵母抽出物 1.0%
第二リン酸 0.2%
硫酸マグネシウム 0.05%
システイン 0.05%
精製水 100% まで
賦形剤 脱脂糠適量

以上、本発明内容の特定部分を詳細に説明したところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的な技術は単に好ましい実施形態に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されるものではないことは自明である。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付の特許請求の範囲とそれらの等価物によって定義されるものといえる。
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【配列表】
2023508689000001.app
【国際調査報告】