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特表2023-508725細胞及び組織へのZSCAN4核酸及びタンパク質の温度ベースの一過性送達
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-03-03
(54)【発明の名称】細胞及び組織へのZSCAN4核酸及びタンパク質の温度ベースの一過性送達
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20230224BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230224BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230224BHJP
   C12N 5/078 20100101ALI20230224BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20230224BHJP
   A61P 7/06 20060101ALI20230224BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20230224BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20230224BHJP
【FI】
A61K35/28
C12N15/86 Z ZNA
C12N5/10
C12N5/078
A61P7/00
A61P7/06
A61K35/76
A61P7/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2022540570
(86)(22)【出願日】2020-12-30
(85)【翻訳文提出日】2022-08-29
(86)【国際出願番号】 US2020067507
(87)【国際公開番号】W WO2021138448
(87)【国際公開日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】62/955,820
(32)【優先日】2019-12-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/992,745
(32)【優先日】2020-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521469128
【氏名又は名称】エリクサージェン セラピューティクス,インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100170852
【弁理士】
【氏名又は名称】白樫 依子
(72)【発明者】
【氏名】ミノル エス.エイチ.コー
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB44
4C087BC83
4C087CA05
4C087CA12
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA51
4C087ZA53
4C087ZA55
(57)【要約】
本開示は、1若しくは複数の細胞において温度感受性作用物質を一過性に活性化する方法であって、例えば、1若しくは複数の細胞を温度感受性作用物質と接触させ、そして、その細胞を、該細胞においてその温度感受性作用物質の活性を誘発するための許容温度にて一過性にインキュベートすることによる、方法に関する。さらに、本開示は、対象の1若しくは複数の細胞を、温度感受性作用物質と接触させ、次に、その細胞において温度感受性作用物質の活性を誘発するために、対象の体温を許容温度まで下げる方法に関する。本開示はまた、温度感受性治療用作用物質を用いて対象を治療する方法にも関する。特に、本開示は、細胞にZSCAN4核酸及びタンパク質の温度感受性送達のためのツールを提供する。
【選択図】図25
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液又は造血器官の疾患を治療する方法であって、以下:
i) 該疾患に罹患しているヒト対象の末梢血に骨髄から造血幹細胞を動員し;
ii) その対象から得られた末梢血単核細胞のサンプルからCD34+細胞を単離し;
iii) 単離したCD34+細胞を33℃±0.5℃の温度にてインキュベートし;
iv) インキュベートしたCD34+細胞を、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性センダイウイルスベクターと接触させ;
v) 接触させたCD34+細胞を、33℃±0.5℃の許容温度にて少なくとも約12~72時間の期間にわたり維持し、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写が、許容温度にて起こり、ヒトZSCAN4の発現増加につながり;及び
vi) 細胞を移植するのに好適な条件下で、接触させたCD34+細胞を対象に注入して、疾患を治療すること、
を含む方法。
【請求項2】
血液又は造血器官の疾患を治療する方法であって、以下:
i) 該疾患に罹患しているヒト対象の末梢血に骨髄細胞から造血幹細胞を動員し;
ii) その対象から得られた末梢血単核細胞のサンプルからCD34+細胞を単離し;
iii) 単離したCD34+細胞を、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性センダイウイルスベクターと接触させ;
iv) 接触させたCD34+細胞を、33℃±0.5℃の許容温度にて少なくとも約12~72時間の期間にわたりインキュベートし、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写が、許容温度にて起こり、ヒトZSCAN4の発現増加につながり;及び
v) 細胞を移植するのに好適な条件下で、接触させたCD34+細胞を対象に注入して、疾患を治療すること、
を含む方法。
【請求項3】
接触させたCD34+細胞を対象に注入する前に、接触させたCD34+細胞を37℃±0.5℃の非許容温度にてインキュベートすること、ここで、前記温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写及びヒトZSCAN4の発現が、非許容温度にて停止する、
をステップv)の後にさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
接触させたCD34+細胞を対象に注入する前に、接触させたCD34+細胞を37℃±0.5℃の非許容温度にてインキュベートすること、ここで、前記温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写及びヒトZSCAN4の発現が、非許容温度にて停止する、
をステップiv)の後にさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記接触させたCD34+細胞が、37℃±0.5℃の非許容温度にて約30分間~約10日間にわたり、任意選択で約30~180分間にわたりインキュベートされる、請求項3又は請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記造血幹細胞が、対象への顆粒球コロニー刺激因子とプレリキサホルの一方又は両方の投与によって動員される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記末梢血単核細胞が、アフェレーシスによって対象から得られる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記CD34+細胞が、抗CD34抗体と磁性ビーズを使用したポジティブセレクションによって末梢血単核細胞から単離される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記接触させたCD34+細胞が、注入前に、洗浄され、そして、無菌の等張水性溶液中に再懸濁される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記接触させたCD34+細胞が、約1.0×10^5細胞/kg~約1.0×10^7細胞/kg、任意選択で約2.0~8.0×10^6細胞/kgの用量で静脈内に注入される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
血液又は造血器官の疾患を治療する方法であって、以下:
i) 該疾患に罹患しているヒト対象に、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性センダイウイルスベクターを投与し;
ii) 対象の中核体温を、33℃±0.5℃の許容温度まで下げ;
iii) 約12時間~約7日間、又は約12~72時間の期間にわたり、許容温度にて対象の中核体温を維持し、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写が許容温度にて起こり、ヒトZSCAN4の発現増加につながり;及び
iv) 対象の中核体温を、正常な、37℃±0.5℃の非許容温度に戻すこと、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写及びヒトZSCAN4の発現が、非許容温度にて停止する、
を含む方法。
【請求項12】
血液又は造血器官の疾患を治療する方法であって、以下:
i) 該疾患に罹患している対象の中核体温を、33℃±0.5℃の許容温度まで下げ;
ii) 対象に、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性センダイウイルスベクターを投与し;
iii) 約12時間~約7日間、又は約12~72時間の期間にわたり、許容温度にて対象の中核体温を維持し、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写が許容温度にて起こり、ヒトZSCAN4の発現増加につながり;及び
iv) 対象の中核体温を、正常な、37℃±0.5℃の非許容温度に戻すこと、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写及びヒトZSCAN4の発現が、非許容温度にて停止する、
を含む方法。
【請求項13】
前記対象の中核体温が、目標温度管理(TTM)手順を使用して下げられ、ここで、該TTM手順が、冷却カテーテル、冷却ブランケット、及び氷から成る群のうちの1つを、対象に適用することを含む、請求項11又は請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ヒト対象が、治療前に骨髄不全症と診断され、任意選択でここで、該骨髄不全症が、好中球減少症、血小板減少症、及び貧血のうちの1若しくは複数を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記対象が、癌を患っていない、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記疾患が、テロメア生物学的障害である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記テロメア生物学的障害が、先天性角化不全症、ホイエラール・レイダーソン症候群、レーヴェース症候群、コーツプラス症候群、特発性肺線維症、及び肝臓硬変症から成る群から選択される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記テロメア生物学的障害が、以下:
i) 末梢血液リンパ球、B細胞、及び未感作T細胞のうちの1若しくは複数における1パーセンタイル未満の年齢調整平均テロメア長;及び
ii) DKC1、TERC、TERT、NOP10、NHP2、TINF2、CTC1、PARN、RTEL1、ACD、USB1、及びWRAP53から成る群から選択される遺伝子における病原性突然変異、
のうちの一方又は両方によって定義される、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記疾患が、骨髄不全症候群である、請求項13に記載の方法。
【請求項20】
前記骨髄不全症候群が、ファンコーニ貧血、無巨核球性血小板減少症、再生不良性貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血、発作性夜間ヘモグロビン尿症、ピアソン症候群、シュバッハマン・ダイアモンド症候群、及び骨髄異形成症候群から成る群から選択される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記疾患が、核型異常に関連する、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
温度感受性作用物質であって、該作用物質が、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸、及び12~18ヌクレオチドの挿入を伴った非構造タンパク質コード領域を含む温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNAであり、ここで、該挿入が、非構造タンパク質2(nsP2=ヘリカーゼプロテイナーゼ)のβシート5とβシート6との間に4~6個の追加アミノ酸を含むnsP2の発現をもたらし、任意選択でここで、該追加アミノ酸が、ウイルスベクター又は自己複製RNAの温度感受性をもたらす、温度感受性作用物質。
【請求項23】
前記追加アミノ酸が、配列番号43(GCGRT)、配列番号44(TGAAA)、及び配列番号45(LRPHP)から成る群から選択される1つの配列を含む、請求項22に記載の温度感受性作用物質。
【請求項24】
前記追加アミノ酸が、配列番号44(TGAAA)の配列を含む、請求項22に記載の温度感受性作用物質。
【請求項25】
前記NsP2のアミノ酸配列が、配列番号29~36から成る群から選択される1つの配列を含む、請求項24に記載の温度感受性作用物質。
【請求項26】
前記作用物質が、温度感受性アルファウイルスベクターである、請求項22に記載の温度感受性作用物質。
【請求項27】
前記作用物質が、ウイルス構造タンパク質コード領域を欠いているアルファウイルスレプリコンを含む温度感受性自己複製RNAである、請求項22に記載の温度感受性作用物質。
【請求項28】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、請求項26又は請求項27に記載の温度感受性作用物質。
【請求項29】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルスである、請求項26又は請求項27に記載の温度感受性作用物質。
【請求項30】
対象において温度感受性作用物質(ts作用物質)の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、ここで、該ts作用物質が、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNAであり、ここで、対象の体の表面又は表面付近の1若しくは複数の細胞が、ts作用物質を含み、ここで、ts作用物質の温度感受性活性が、許容温度におけるヒトZSCAN4の発現を含み、かつ、ここで、許容温度が対象の表面体温であり、以下:
i) 対象の表面体温を、温度感受性活性が対象において効果を誘発するのに十分な期間にわたり許容温度で維持し;及び
ii) 対象の表面体温を、温度感受性活性が対象において停止するのに十分な期間にわたり非許容温度まで上げること、
を含む方法。
【請求項31】
対象において温度感受性作用物質(ts作用物質)の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、ここで、該ts作用物質が、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNAであり、ここで、ts作用物質の温度感受性活性が、許容温度におけるヒトZSCAN4の発現を含み、かつ、ここで、許容温度が対象の表面体温であり、以下:
i) ts作用物質を、対象の体の表面又は表面付近の1若しくは複数の細胞に投与し;及び
ii) 対象の表面体温を、温度感受性活性が対象において効果を誘発するのに十分な期間にわたり許容温度で維持すること、
を含む方法。
【請求項32】
iii) 対象の表面体温を、温度感受性活性が対象において停止するのに十分な期間にわたり非許容温度まで上げること、
をさらにを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記温度感受性作用物質が、皮内又は皮下に投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記温度感受性作用物質が、筋肉内に投与される、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記許容温度が、30℃~36℃、31℃~35℃、32℃~34℃、又は33℃±0.5℃であり、かつ、前記非許容温度が37℃±0.5℃である、請求項30~34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記のヒトZSCAN4発現の効果が、予防効果又は治療効果である、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記ts作用物質が、温度感受性ウイルスベクターであり、かつ、前記温度感受性活性が、温度感受性ウイルスベクターの複製と転写をさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記温度感受性ウイルスベクターが、センダイウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、及びアルファウイルスから成る群から選択される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記温度感受性ウイルスベクターがアルファウイルスであり、任意選択でここで、該アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、請求項37の方法。
【請求項40】
前記温度感受性ウイルスベクターが、センダイウイルスである、請求項37に記載の方法。
【請求項41】
前記ts作用物質が温度感受性自己複製RNAであり、かつ、前記温度感受性活性が、温度感受性自己複製RNAの複製と転写のうちの一方又は両方をさらに含む、請求項35に記載の方法。
【請求項42】
前記自己複製RNAが、アルファウイルスのウイルス構造タンパク質コード領域を欠いているアルファウイルスレプリコンを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルスである、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記温度感受性活性が効果を生じさせるのに十分な期間が、約12時間~約12週間の範囲にあり、任意選択で、該期間が1~7日間である、請求項36に記載の方法。
【請求項46】
前記対象において効果を誘発するのに十分な期間が、約12時間~約7日間であり、任意選択でここで、該期間が約12時間~約72時間である、請求項36に記載の方法。
【請求項47】
前記対象が哺乳類の対象であり、任意選択でここで、該対象がヒトである、請求項36に記載の方法。
【請求項48】
前記のヒトZSCAN4のアミノ酸配列が、配列番号38を含むか、又は配列番号38に対して少なくとも95%同一である、請求項1~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記のヒトZSCAN4のアミノ酸配列が、配列番号39、配列番号40、配列番号41、及び配列番号42から成る群のうちの1つを含むか、又は配列番号39、配列番号40、配列番号41、及び配列番号42から成る群のうちの1つに対して少なくとも95%同一である、請求項1~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
温度感受性作用物質の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、以下:
i) 温度感受性活性が1若しくは複数の細胞において効果を生じさせるのに十分な期間にわたり温度感受性活性を誘発するための許容温度にて、温度感受性作用物質を含む1若しくは複数の細胞をインキュベートし;そして
ii) 非許容温度にて1若しくは複数の細胞をインキュベートすること、ここで、該非許容温度は、温度感受性作用物質の温度感受性活性を低減する、
を含み、
ここで、該温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4タンパク質、又はヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む治療用作用物質を含み、かつ、該効果が治療効果を含む、方法。
【請求項51】
ステップi)の前に、以下:
1若しくは複数の細胞を、温度感受性作用物質と接触させること、
をさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記1若しくは複数の細胞は、温度感受性作用物質と接触させるときに、許容温度である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
1若しくは複数の細胞を、治療効果を必要とする対象に投与することをさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記の1若しくは複数の細胞を非許容温度にてインキュベートすることが、治療効果を必要とする対象に1若しくは複数の細胞を投与することを含む、ここで、該対象の体温が非許容温度である、請求項50に記載の方法。
【請求項55】
前記1若しくは複数の細胞が、該1若しくは複数の細胞を対象に投与する前に、非許容温度にてさらにインキュベートされる、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記1若しくは複数の細胞が、温度感受性作用物質と該1若しくは複数の細胞を接触させる前に、対象から単離される、請求項50に記載の方法。
【請求項57】
前記治療効果が、1若しくは複数の細胞のテロメア長を増加させること含む、請求項50に記載の方法。
【請求項58】
前記1若しくは複数の細胞が、哺乳動物細胞である、請求項50に記載の方法。
【請求項59】
前記対象がヒト対象である、請求項54に記載の方法。
【請求項60】
ヒト対象において温度感受性作用物質の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、ここで、対象の1若しくは複数の細胞が温度感受性作用物質を含み、ここで、該温度感受性作用物質の温度感受性活性が許容温度にて誘発され、かつ、ここで、該許容温度が対象の体温より低く、以下:
i) 対象の体温を許容温度まで下げ;
ii) 前記下げた体温を、温度感受性活性が対象において効果を誘発するのに十分な期間にわたり維持し;及び
iii) 対象の体温を正常体温まで上げること、
を含み、
ここで、該温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4タンパク質、又はヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む治療用作用物質を含み、かつ、該効果が治療効果である、方法。
【請求項61】
ヒト対象において温度感受性作用物質の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、ここで、該温度感受性作用物質の温度感受性活性が許容温度にて誘発され、かつ、ここで、該許容温度が対象の体温より低く、以下:
i) 対象の体温を許容温度まで下げ;
ii) 対象の1若しくは複数の細胞に、温度感受性作用物質を投与し;
iii) 前記下げた体温を、温度感受性活性が対象において効果を誘発するのに十分な期間にわたり維持し;及び
iv) 対象の体温を上げて、正常体温まで戻すこと、
を含み、
ここで、ステップ(i)が、ステップ(ii)の前、後、又はそれと同時に行われ、ここで、該温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4タンパク質、又はヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む治療用作用物質を含み、かつ、該効果が治療効果である、方法。
【請求項62】
前記温度感受性作用物質が、全身的に投与される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記温度感受性作用物質が、静脈内に投与される、請求項62に記載の方法。
【請求項64】
前記温度感受性作用物質が、対象の特定の組織又は器官に投与される、請求項61に記載の方法。
【請求項65】
前記温度感受性作用物質が、硬膜外注射によって脳や脊髄に投与される、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記温度感受性作用物質が、皮内注射によって標的器官に投与される、請求項64に記載の方法。
【請求項67】
前記温度感受性作用物質が、注射針カテーテルを用いた内視鏡によって標的器官に投与される、請求項64に記載の方法。
【請求項68】
前記温度感受性作用物質が、血管カテーテルによって標的器官に投与される、請求項64に記載の方法。
【請求項69】
前記標的器官が、肝臓、腎臓、骨格筋、心筋、膵臓、脾臓、心臓、脳、脊髄、皮膚、眼、肺、腸、胸腺、骨髄、骨、及び軟骨から成る群から選択される、請求項66に記載の方法。
【請求項70】
前記温度感受性作用物質が、吸入法によって投与される、請求項61に記載の方法。
【請求項71】
前記対象の体温を下げることが、目標温度管理(TTM)手順を用いることを含み、ここで、該TTM手順が、冷却カテーテル、冷却ブランケット、及び氷から成る群のうちの1つを、対象に適用することを含む、請求項61に記載の方法。
【請求項72】
前記の対象の正常体温が、温度感受性作用物質にとっての非許容温度である、請求項61に記載の方法。
【請求項73】
前記温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4タンパク質を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項74】
前記温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む、請求項61に記載の方法。
【請求項75】
前記温度感受性ウイルスベクターが、ヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記温度感受性ウイルスベクターが、センダイウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、及びアルファウイルスから成る群から選択される、請求項75に記載の方法。
【請求項77】
前記温度感受性ウイルスベクターが、アルファウイルスである、請求項75に記載の方法。
【請求項78】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、請求項77に記載の方法。
【請求項79】
前記温度感受性ウイルスベクターが、センダイウイルスである、請求項75に記載の方法。
【請求項80】
前記センダイウイルスが、SeV18+/TS15ΔFである、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記温度感受性活性が、温度感受性ウイルスベクターの複製と転写を含む、請求項75に記載の方法。
【請求項82】
温度感受性自己複製RNAが、ヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む、請求項74に記載の方法。
【請求項83】
前記自己複製RNAが、ウイルス構造タンパク質コード領域を欠いているアルファウイルスレプリコンを含む、請求項82に記載の方法。
【請求項84】
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記温度感受性活性が、温度感受性自己複製RNAの複製と転写のうちの一方又は両方を含む、請求項82に記載の方法。
【請求項86】
前記コード領域が、プロモーターに動作可能に連結されている、請求項74に記載の方法。
【請求項87】
前記温度感受性活性が治療効果を生じさせるのに十分な期間が、約12時間~約12週間の範囲にあり、任意選択でここで、該期間が1~7日間である、請求項50に記載の方法。
【請求項88】
前記対象において治療効果が誘発されるのに十分な期間が、約12時間~約7日間であり、任意選択でここで、該期間が約12時間~約72時間である、請求項61に記載の方法。
【請求項89】
前記許容温度が、30℃~36℃、31℃~35℃、又は32℃~34℃の範囲にある、請求項50~88のいずれか一項に記載の方法。
【請求項90】
前記許容温度が、33℃±0.5℃である、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記非許容温度が、37℃±0.5℃である、請求項90に記載の方法。
【請求項92】
前記1若しくは複数の細胞が、ヒト細胞である、請求項50に記載の方法。
【請求項93】
前記1若しくは複数のヒト細胞が、成体幹細胞、組織幹細胞、始原細胞、胚性幹細胞、又は誘導多能性幹細胞である、請求項92に記載の方法。
【請求項94】
前記1若しくは複数のヒト細胞が、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞、脂肪幹細胞、神経幹細胞、及び生殖幹細胞から成る群から選択される、請求項92に記載の方法。
【請求項95】
前記1若しくは複数のヒト細胞が、体細胞、成熟細胞、又は分化細胞である、請求項92に記載の方法。
【請求項96】
前記1若しくは複数のヒト細胞が、表皮細胞、線維芽細胞、リンパ球、肝細胞、上皮細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨細胞、脂肪細胞、心筋細胞、膵臓細胞、膵臓β細胞、角化細胞、赤血球、末梢血単核細胞(PBMC)、ニューロン、グリア細胞、神経細胞、星状細胞、生殖細胞、精細胞、及び卵母細胞から成る群から選択される、請求項95に記載の方法。
【請求項97】
前記1若しくは複数のヒト細胞が、ヒト骨髄細胞である、請求項92に記載の方法。
【請求項98】
前記ヒト骨髄細胞が、CD34+造血幹細胞である、請求項97に記載の方法。
【請求項99】
前記ヒト対象がテロメア生物学的障害に罹患しており、任意選択でここで、該対象が骨髄不全症に罹患している、請求項98に記載の方法。
【請求項100】
前記温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNAが、12~18ヌクレオチドの挿入を伴った非構造タンパク質コード領域を含み、ここで、該挿入が、非構造タンパク質2(nsP2=ヘリカーゼプロテイナーゼ)のβシート5とβシート6との間に4~6個の追加アミノ酸を含むnsP2の発現をもたらし、任意選択でここで、該追加アミノ酸が、ウイルスベクター又は自己複製RNAの温度感受性をもたらす、請求項89に記載の方法。
【請求項101】
前記追加アミノ酸が、配列番号43(GCGRT)、配列番号44(TGAAA)、及び配列番号45(LRPHP)から成る群から選択される1つの配列を含む、請求項100に記載の方法。
【請求項102】
前記追加アミノ酸が、配列番号44(TGAAA)の配列を含む、請求項100に記載の方法。
【請求項103】
前記NsP2のアミノ酸配列が、配列番号29~36から成る群から選択される1つの配列を含む、請求項102に記載の方法。
【請求項104】
前記のヒトZSCAN4のアミノ酸配列が、配列番号38を含むか、又は配列番号38に対して少なくとも95%同一である、請求項50~103のいずれか一項に記載の方法。
【請求項105】
前記のヒトZSCAN4のアミノ酸配列が、配列番号39、配列番号40、配列番号41、及び配列番号42から成る群のうちの1つを含むか、又は配列番号39、配列番号40、配列番号41、及び配列番号42から成る群のうちの1つに対して少なくとも95%同一である、請求項50~103のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年3月20日に出願された米国特許仮出願第62/992,745号及び2019年12月31日に出願された米国特許仮出願第62/955,820号の利益を請求するものであり、その開示全体を参照により本明細書に援用する。
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【0002】
ASCIIテキストファイルによる次の提出物の内容の全体を参照により本明細書に援用する:コンピューター読み込み可能形式(CRF)の配列表(ファイル名:699442001340SEQLIST.TXT、記録日:2020年12月23日、サイズ:25KB)。
分野
【0003】
本開示は、例えば、1若しくは複数の細胞をts作用物質と接触させ、及びその細胞内のts作用物質の活性を誘発する許容温度にてその細胞を一過性にインキュベートすることによって、1若しくは複数の細胞内で温度感受性作用物質(ts作用物質)を一過性に活性化する方法に関する。エクスビボ治療戦略に関して、1若しくは複数の細胞は、許容温度にてエクスビボにおいて治療用ts作用物質を用いて処理され、そしてそれに続いて、その細胞は、非許容温度(例えば、対象の正常な中核体温)にて対象に移植される。インビボ治療戦略に関して、治療用ts作用物質は、対象に送達される、すなわち、許容温度にて維持され、そして、対象の中核体温が正常に戻るか、又は対象の表面体温が上がった(例えば、非許容温度)ときに、その治療用ts作用物質は、ts作用物質が永久に機能停止する前に、限られた期間にわたりインビボで機能することが可能になる。或いは、治療用ts作用物質は、対象に送達され、そしてそれに続いて、対象の細胞内において治療用ts作用物質の活性を誘発する許容温度まで対象の中核体温が下がることによって、そのts作用物質が一過性に活性化する。特に、本開示は、細胞へのZSCAN4核酸とタンパク質の温度感受性送達のためのツールを提供する。
【背景技術】
【0004】
背景
ヒト細胞、組織、及び器官への治療用遺伝子産物の送達は、大きな課題となる。(患者の遺伝子の欠陥を補うために遺伝子の連続的な発現を必要とする)従来の遺伝子治療に関して、これは、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、又はアデノ随伴ウイルスなどのウイルスベクターを使用することによって達成された。しかしながら、同じく重要な戦略遺伝子治療は、一過性の、短期的な遺伝子発現を伴う。斯かる適用に関して、遺伝子の持続的な発現は必要ではなく、実際には細胞にとって有害にもなり得る。
【0005】
例えば、CAS9は、DNAを切断する細菌酵素である。それはCRISPR/CAS9ベースの遺伝子編集複合体の重要な成分であり、そしてそれは、遺伝子治療について検討されていた。ガイドRNAとCAS9の両方が一つのセンダイウイルスベクター(Park et al., 2016)上の遺伝子によってコードされ得る。治療的に遺伝子編集システム使用するために、CRISPR-CAS9を含有するベクターが、ヒト細胞又は人体に導入されなければならない。しかしながら、CAS9の連続的な発現はDNA破壊と突然変異の導入を誘発する可能性がある。よって、短期間、例えば、1週間超よりむしろ、数時間又は数日のオーダー、にわたりCAS9が発現されることが望ましい。
【0006】
遺伝子の短時間発現に関する別の適用は、細胞リプログラミングのためのものである。最近、1組の転写因子の異所性発現が治療的に有効な細胞型へと細胞を変換することが示された。例えば、3種類の転写因子のセットが、膵管細胞をインスリン分泌膵臓β細胞に変換できる(Zhou et al., 2008)。もう1セットの転写因子は、線維芽細胞を心筋細胞に変換できる(Ieda et al., 2010)。人体内へのこれらの転写因子のインビボ送達が、再生医療の一タイプとして使用できると思われる。しかしながら、これらの強力な転写因子の連続的な発現が害を引き起こす可能性があるため、これらの強力な細胞同一性変更転写因子を一過性にだけ発現させることが望ましい。
【0007】
上記の例が注目されるので、遺伝子の連続的な発現をもたらすウイルスベクターを使用する従来の遺伝子治療は望まれなくなる可能性がある。遺伝子産物の期間限定発現のために、細胞内への合成又はビトロ転写mRNAの送達が使用され始めた(Warren et al., 2010)。しかしながら、これらの方法論に関するいくつかの問題が存在する。例えば、細胞、組織、及び器官に送達されるmRNAの量は限られているので、これにより、タンパク質産物の量は、インビボにおいて生物学的に重要な効果に十分でない可能性がある。
【0008】
また、通常、最長12時間しか存続しないRNAの速い代謝回転のため(Warren et al., 2010; Goparaju et al., 2017)、合成RNAは細胞内に複数回トランスフェクトされなければならない。胚性幹細胞や誘導多能性幹(iPS)細胞などのヒト多能性幹細胞の強制分化のために、数日の間にわたって一日二回のトランスフェクションが必要である(Akiyama et al., 2016; Goparaju et al. 2017)。ヒト線維芽細胞からiPS細胞を作出するために、合成RNAカクテルの毎日のトランスフェクションが2週間超にわたり継続されなければならない(Warren et al., 2010)。これは面倒なだけではなく、効率が悪い。
【0009】
iPS細胞の作出のために、この問題は、(たった1回の送達後にも長期間の発現を可能にする)自己複製RNAを使用することによって対処された(Yoshioka et al., 2013)。自己複製RNAは、ウイルス粒子形成に必要とされる構造タンパク質をコードするDNAを取り除くことによって(Petrakova et al., 2005)、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、シンドビスウイルス(SINV)、及びセムリキフォレストウイルス(SFV)などのアルファウイルス通常製造される(Jose et al., 2009)一本鎖RNAである。自己複製RNAは、非構造タンパク質(nsPs)をコードし、そしてそれは、自己複製RNA自体を複製するように、及び翻訳のための転写産物を産生するように、RNA依存性RNAポリメラーゼとして機能する。自己複製RNAはまた、着目のタンパク質をコードする着目の遺伝子(GOI)、及びその他の遺伝要素も含み得る。RNAのその正のフィードバック産生のため、自己複製RNAは高レベルにてGOIを発現し得る。自己複製RNAは、裸のRNA(すなわち、合成RNA)として、又はウイルス粒子として、哺乳動物細胞に送達され得、そしてそれは、ヘルパー細胞をパッケージングすることによってウイルス構造タンパク質を補うことによって製造され得る。
【0010】
自己複製RNAベクターの利点は、それらの自己複製特徴であり、そしてそれは、GOIの発現レベルの向上をもたらす。しかしながら、哺乳動物細胞にRNA/タンパク質を送達するための自己複製RNAベクターの欠点の1つは、それらの持続発現である。通常、RNA依存性RNAポリメラーゼとGOIの正のフィードバック産生が続き、そしてそれは、自己複製RNAの裸のRNA形態でトランスフェクトされるか、又は自己複製RNAのウイルス形態で感染した細胞の死滅をもたらし得る。
【0011】
よって、遺伝子治療の当該技術分野で必要とされるものは、治療作用物質(例えば、ヒトZSCAN4)などの着目のタンパク質をコードするGOIの一過性発現のためのツールである。特に、RNAベクターと自己複製RNAの転写と翻訳の制御が望ましい。
【発明の概要】
【0012】
概要
着目の遺伝子(GOI)の時間制限のある発現を有することの必要性に基づいて、核酸又はタンパク質が、インビトロ若しくはインビボにおいて、特定の細胞に送達され得るか若しくは特定の細胞で発現され得る、核酸/タンパク質の量が、生物学的に重要な効果を有するのに十分である、及び一過性の発現が、生物学的に重要な効果を達成した後に永久に停止し得る、一過性遺伝子産物送達系が必要である。これら及び他のニーズを満たすために、本開示は、対象(インビボ)又は培養中の細胞(エクスビボ)において、治療用ts作用物質などの温度感受性作用物質(ts作用物質)の活性を一過性に誘発するツールに関する。いくつかの実施形態において、治療用ts作用物質は、軽度の治療用低体温療法と組み合わせて使用される。他の実施形態において、治療用ts作用物質は、軽度の治療用高体温又は加熱の局所的な適用と組み合わせて使用される。いくつかの実施形態において、ts作用物質は、ts-RNA分子又はts-タンパク質分子である。いくつかの実施形態において、ts作用物質は、温度感受性ウイルスベクターに挿入された異種の核酸又は自己複製RNAによってコードされる。いくつかの実施形態において、ウイルスベクターは、これだけに限定されるものではないが、センダイウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びアルファウイルスベクターから選択される。いくつかの実施形態において、自己複製RNAは、ウイルス構造タンパク質コード領域を欠いているアルファウイルスのレプリコンを含む。いくつかの実施形態において、アルファウイルスは、これだけに限定されるものではないが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから選択される。特定の着目の遺伝子産物は、ZSCAN4、特にヒトのZSCAN4である。
【0013】
本開示の上記及び他の課題及び特徴は、添付の図面に関連して続く次の詳細な説明からさあに明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A-1D】図1A~1Dは、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)ゲノムの構造と変異領域の位置を示す。図1Aは、野性型VEEVゲノム(TC-83菌株:完全ゲノム11,446bpの直鎖RNA:NCBI登録:L01443.1 GI:323714)の略図を示す。非構造タンパク質(nsP1、nsP2、nsP3、nsP4)の遺伝子は、RNA依存性RNAポリメラーゼをコードし、及び構造タンパク質の遺伝子は、ウイルスエンベロープタンパク質(C、E1、E2)、5’-UTR(5’-非翻訳領域)及び3’-UTR(3’-非翻訳領域)をコードする。ボールド体のボックスとして表されるnsP2タンパク質の遺伝子は、温度感受性を生じさせるように変異させた。図1Bは、突然変異1(温度感受性突然変異体1:ts1)を伴うnsP2の略図を示す。5つのアミノ酸がアミノ酸439と440の間に挿入された。図1Cは、突然変異2(ts2)を伴うnsP2の略図を示す。5つのアミノ酸がアミノ酸586と587の間に挿入された。図1Dは、突然変異3(ts3)を伴うnsP2の略図を示す。5つのアミノ酸がアミノ酸594と595の間に挿入された。
【0015】
図2A-2C】図2A~2Cは、ts1、ts2、及びts3に変異した領域に対応するVEEV nsP2の部分配列を示す。図2Aは、5つのアミノ酸挿入をもたらす15ヌクレオチド挿入を含む、変異体1(ts1)と比較した野性型配列を示す。図2Bは、5つのアミノ酸挿入をもたらす15ヌクレオチド挿入を含む、変異体2(ts2)と比較した野性型配列を示す。図2Cは、5つのアミノ酸挿入をもたらす15ヌクレオチド挿入を含む、変異体3(ts3)と比較した野性型配列を示す。
【0016】
図3図3はそれぞれ、配列番号19及び配列番号20と記載される、野性型のVEEV nsP1(TC-83菌株)及び変異体4(ts4)の部分ヌクレオチド配列を示す。5’-UTRと51-nt CSE(保存配列要素)がボールド体で示されている。ts4の変異ヌクレオチドには下線が引かれている。
【0017】
図4A-4B】図4A及び4Bは、30℃、32℃、及び37℃におけるsrRNA1ts2とsrRNA1ts3の温度感受性の試験を示す。野性型(srRNA1wt-GFP)と変異(srRNA1ts2-GFP、srRNA1ts3-GFP)自己複製RNA(srRNA)ベクターが作出された。インビトロ転写によって製造されたRNAは、ヒト誘導多能性幹細胞内にトランスフェクトされた(ADSC-iPSC株)。細胞はそれぞれ、30℃、32℃、及び37℃に維持されたCO2インキュベーター内で培養された。細胞の画像をそれぞれ、20時間及び48時間に得た。上側のパネルは、位相差画像を示し、及び下側のパネルは、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を検出する蛍光画像を示す。図4Aは、srRNA1wt-GFP、srRNA1ts2-GFP、及びsrRNA1ts3-GFP RNAを用いた細胞のトランスフェクションの結果を示す。図4Bは、GFPをコードする合成mRNA(synRNA-GFP)を用いた細胞のトランスフェクションの結果を示す。
【0018】
図5図5は、32℃におけるsrRNA1ts1とsrRNA1ts2の温度感受性の試験を示す。野性型(srRNA1wt-GFP)と変異(srRNA1ts2-GFPとsrRNA1ts1-GFP)自己複製RNA(srRNA)ベクターが作出された。インビトロ転写によって製造されたRNAは、ヒト誘導多能性幹細胞内にトランスフェクトされた(ADSC-iPSC株)。細胞は32℃に維持されたCO2インキュベーター内で培養された。細胞の画像をそれぞれ、24、48、72、96、120、144、168、192、240、288時間に得た。srRNA1ts1-GFPに関して、24時間及び168時間の画像のみが撮影された。上側のパネルは、位相差画像を示し、及び下側のパネルは、GFPの発現を検出する蛍光画像を示す。
【0019】
図6図6は、32℃、33℃、及び37℃におけるsrRNA1ts2及びsrRNA1ts4の温度感受性の試験を示す。変異体(srRNA1ts2-GFPとsrRNA1ts4-GFP)自己複製RNA(srRNA)ベクターが作出された。インビトロ転写によって製造されたRNAは、ヒト誘導多能性幹細胞内にトランスフェクトされた(ADSC-iPSC株)。細胞はそれぞれ、32℃、33℃、及び37℃に維持されたCO2インキュベーター内で培養された。細胞の画像をそれぞれ、20、48、96時間に得た。上側のパネルは、位相差画像を示し、及び下側のパネルは、緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現を検出する蛍光画像を示す。
【0020】
図7図7は、32℃における変異体srRNA1ts2-GFPの温度感受性の試験を示す。変異体ベクター(srRNA1ts2-GFP)のインビトロ転写によって製造されたRNAは、ヒト誘導多能性幹細胞内にトランスフェクトされた(ADSC-iPSC株)。細胞は32℃に維持されたCO2インキュベーター内で培養された。srRNA1ts2-GFPベクターは、「IRES」配列直後に挿入されたピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(pac)選択遺伝子を含有し、そして、これにより、トランスフェクト細胞がピューロマイシンを使用して選択できる。実験を、1μg/mlのピューロマイシンの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)でおこなった。細胞の画像をそれぞれ、24、48、72、96、144、168、192時間に得た。srRNA1ts1-GFPに関して、24時間及び168時間の画像のみが撮影された。上側のパネルは、位相差画像を示し、及び下側のパネルは、GFPの発現を検出する蛍光画像を示す。
【0021】
図8図8は、24時間における32℃から37℃への温度切り替えを用いた変異体srRNA1ts2-GFPの温度感受性の試験を示す。変異体ベクター(srRNA1ts2-GFP)のインビトロ転写によって製造されたRNAは、ヒト誘導多能性幹細胞内にトランスフェクトされた(ADSC-iPSC株)。細胞は32℃に維持されたCO2インキュベーター内で培養された。24時間に、細胞を37℃に維持されたCO2インキュベーター内に移した。srRNA1ts2-GFPベクターは、「IRES」配列直後に挿入されたピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(pac)選択遺伝子を含有し、そして、これにより、トランスフェクト細胞がピューロマイシンを使用して選択できる。実験を、1μg/mlのピューロマイシンの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)でおこなった。細胞の画像をそれぞれ、24、48、72、96、144、168、192時間に得た。srRNA1ts1-GFPに関して、24時間及び168時間の画像のみが撮影された。上側のパネルは、位相差画像を示し、及び下側のパネルは、GFPの発現を検出する蛍光画像を示す。
【0022】
図9図9は、48時間における32℃から37℃への温度切り替えを用いた変異体srRNA1ts2-GFPの温度感受性の試験を示す。変異体ベクター(srRNA1ts2-GFP)のインビトロ転写によって製造されたRNAは、ヒト誘導多能性幹細胞内にトランスフェクトされた(ADSC-iPSC株)。細胞は32℃に維持されたCO2インキュベーター内で培養された。48時間に、細胞を37℃に維持されたCO2インキュベーター内に移した。srRNA1ts2-GFPベクターは、「IRES」配列直後に挿入されたピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(pac)選択遺伝子を含有し、そして、これにより、トランスフェクト細胞がピューロマイシンを使用して選択できる。実験を、1μg/mlのピューロマイシンの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)でおこなった。細胞の画像をそれぞれ、24、48、72、96、144、168、192時間に得た。srRNA1ts1-GFPに関して、24時間及び168時間の画像のみが撮影された。上側のパネルは、位相差画像を示し、及び下側のパネルは、GFPの発現を検出する蛍光画像を示す。
【0023】
図10図10は、72時間における32℃から37℃への温度切り替えを用いた変異体srRNA1ts2-GFPの温度感受性の試験を示す。変異体ベクター(srRNA1ts2-GFP)のインビトロ転写によって製造されたRNAは、ヒト誘導多能性幹細胞内にトランスフェクトされた(ADSC-iPSC株)。細胞は32℃に維持されたCO2インキュベーター内で培養された。72時間に、細胞を37℃に維持されたCO2インキュベーター内に移した。srRNA1ts2-GFPベクターは、「IRES」配列直後に挿入されたピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(pac)選択遺伝子を含有し、そして、これにより、ピューロマイシンを使用して選択できる。実験を、1μg/mlのピューロマイシンの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)でおこなった。細胞の画像をそれぞれ、24、48、72、96、144、168、192時間に得た。srRNA1ts1-GFPに関して、24時間及び168時間の画像のみが撮影された。上側のパネルは、位相差画像を示し、及び下側のパネルは、GFPの発現を検出する蛍光画像を示す。
【0024】
図11A-11D】図11A~11Dは、線維芽細胞において変異体srRNA1ts2-GFPの温度感受性の試験を示す。変異体ベクター(srRNA1ts2-GFP)のインビトロ転写によって製造されたRNAは、ヒト新生児皮膚線維芽細胞内にトランスフェクトされた(HDFn株)。細胞は32℃に維持されたCO2インキュベーター内で培養された。細胞の画像を24、48、及び96時間に得た。上側のパネルは、位相差画像を示し、及び下側のパネルは、GFPの発現を検出する蛍光画像を示す。図11A及び11Bは、JetMessenger(Polyplus)を使用して実施されるトランスフェクションを示す。細胞は、標準培地のみ(図11A)又は200ng/mlのB18Rを補った標準培地(図11B)で培養された。図11C及び11Dは、MessengerMax(ThermoFisher)を使用して実施されるトランスフェクションを示す。細胞は、標準培地のみ(図11C)又は200ng/mlのB18Rを補った標準培地(図11D)で培養された。
【0025】
図12図12は、様々なアルファウイルスファミリーメンバーのnsP2変異体2(ts2)に対応するアミノ酸配列のアラインメントを示す。左側のパネルは、配列番号21~28と記載される野性型配列のアラインメント(Russo et al., 2006の図1から一部複製)を示すが、右側のパネルは、nsP2の二次構造の「β5」と「β6」(5番目と6番目のβ鎖)の間の5つのアミノ酸の挿入を含む、配列番号29~36と記載される変異体のアラインメントを示す。VEEV(ベネズエラウマ脳炎ウイルス)、Aura(アウラウイルス)、WEEV(西部ウマ脳炎ウイルス)、BFV(バーマーフォレストウイルス)、ONNV(オニョン-ニョンウイルス)、RRV(ロスリバーウイルス)、SFV(セムリキフォレストウイルス)、及びSINV(シンドビスウイルス)。
【0026】
図13図13は、温度感受性作用物質(ts作用物質)を用いた細胞の典型的なエクスビボ処理を示す概略図を図示する。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどのts作用物質は、許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、37℃)で機能しない。ts作用物質で処理された標的細胞は、特定の持続期間(例えば、3日間)にわたり許容温度にて培養され、次に、特定の持続期間(例えば、10日間)にわたり非許容温度にて培養され続ける。着目の遺伝子(GOI)のRNA(又はRNAから翻訳されたタンパク質)の予想レベルは許容温度にて増大し、そして、高いレベルに達する。非許容温度に切り替わった後に、転写と翻訳が止まるので、RNA(又はタンパク質)の予想レベルは漸減する。
【0027】
図14図14は、例示的なエクスビボ治療手段を示す概略図を図示する。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどの温度感受性作用物質(ts作用物質)は、許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、37℃)で機能しない。標的細胞は、患者の体から採取され(自然移植)、特定の持続期間、例えば24時間、にわたり、許容温度、例えば33℃、にてエクスビボにおいてts作用物質とインキュベートされる。次に、ts作用物質を伴った標的細胞が患者に移植される。37℃の非許容温度にて、ts作用物質は、患者の体内で機能しない。
【0028】
図15図15は、別の例示的なエクスビボ治療手段を示す概略図を図示する。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどの温度感受性作用物質(ts作用物質)は、許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、37℃)で機能しない。標的細胞は、ドナーの体から採取され(同種移植)、特定の持続期間、例えば24時間、にわたり、許容温度、例えば33℃、にてエクスビボにおいてts作用物質とインキュベートされる。次に、ts作用物質を伴った標的細胞が患者に移植される。37℃の非許容温度にて、ts作用物質は、患者の体内で機能しない。
【0029】
図16図16は、例示的なセミインビボ治療手段を示す概略図を図示する。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどの温度感受性作用物質(ts作用物質)は、許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、37℃)で機能しない。患者は治療用低体温療法の施術を受け、そして、患者の中核体温は、(正常体温(例えば、37℃)より低い)低温(例えば、33℃)で維持される。標的細胞(自己又は同種のいずれか)は、エクスビボにおいてts作用物質で処理され、そして、即時に患者の循環内に注入されるか、又は患者の器官内に注射される。患者がしばらく(例えば、24時間)、低温(例えば、33℃)で維持されている間、ts作用物質は機能的である。それに続いて、患者の中核体温が正常体温(37℃)に戻ると、そのときには、ts作用物質はもう機能しない。
【0030】
図17図17は、例示的なセミインビボ治療手段を示す概略図を図示する。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどの温度感受性作用物質(ts作用物質)は、許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、37℃)で機能しない。患者は治療用低体温療法の施術を受け、そして、患者の中核体温は、(正常体温(例えば、37℃)より低い)低温(例えば、33℃)で維持される。ts作用物質は、全身的に、又は特定の器官、組織、若しくは細胞型に送達される。患者がしばらく(例えば、24時間)、低温(例えば、33℃)で維持されている間、ts作用物質は機能的である。それに続いて、患者の中核体温が正常体温(37℃)に戻ると、そのときには、ts作用物質はもう機能しない。
【0031】
図18図18は、ヒトZSCAN4(SeV18+hZscan4/TS15ΔF;別名「SeVts-ZSCAN4」)のコード領域(オープンリーディングフレーム)を含む例示的な温度感受性センダイウイルスベクターの略図を示す。(TS15(Ban et al., 2011)として記述されている)ベクター骨格は、感染性子孫ウイルスの再産生に必要であるF(融合)遺伝子を欠く。よって、このベクターは、感染細胞から非感染細胞にウイルスを伝染させない。このベクターは、2つのRNAポリメラーゼ遺伝子(P及びL)、及び3つの構造タンパク質遺伝子(NP、M及びHN)をコードし、かつ、M、HN、P及びL遺伝子内に点突然変異を含んでおり、そしてそれが、ベクターの温度感受性:33℃における許容;37℃超での非許容、をもたらす。SeVts-ZSCAN4を構築するために、ヒトZSCAN4遺伝子のコード領域を、TS15ベクター骨格内のNP遺伝子の上流に挿入したが、その位置はセンダイウイルスゲノムの遺伝子の中でも最も高い発現を提供する。
【0032】
図19図19は、SeVts-ZSCAN4と接触させ、そして、許容温度(例えば、33℃)にて16時間又は24時間インキュベートしたヒトCD34+細胞の大部分が、ZSCAN4タンパク質を発現することを示す。
【0033】
図20A-20B】図20A及び20Bは、SeVts-ZSCAN4と接触させ、そして、許容温度(例えば、33℃)にてインキュベートしたヒトCD34+細胞が、ZSCAN4タンパク質を発現するが、続いて非許容温度(例えば、37℃)にてインキュベートしたときに、ZSCAN4タンパク質発現を失い始めることを示す。
【0034】
図21図21は、SeVts-ZSCAN4と接触させ、そして、許容温度(例えば、33℃)にて最短24時間インキュベートしたヒトCD34+細胞のテロメアが伸長されることを示す。
【0035】
図22図22は、CD34+細胞移植の安全性と有効性を評価するために、ヒトCD34+細胞を、許容温度(例えば、33℃)にてZSCAN4治療用ts作用物質と接触させ、それに続いて、非許容正常体温(例えば、37℃)を有する免疫不全マウスに注入する、実施例14のエクスビボ手順を示す概略図を図示する。
【0036】
図23図23は、許容温度(例えば、33℃)にて24時間にわたるSeVts-ZSCAN4治療が、インビトロにおいてヒトCD34+細胞のテロメアを伸長するのに有効であったことを示す。
【0037】
図24図24は、免疫不全マウスに移植されるヒト細胞のテロメアが、インビトロにおいてそのマウスに注射されたヒトCD34+細胞を最初にSeVts-ZSCAN4と接触させ、そして、許容温度(例えば、33℃)にてインキュベートした場合、より長かったことを示す。マウス492及びマウス493にはSeVts-ZSCAN4接触CD34+細胞を与え、その一方では、マウス496にはSeVts-ZSCAN4と接触させなかったCD34+細胞を与えた。
【0038】
図25図25は、自家CD34+細胞を、許容温度(例えば、33℃)にてZSCAN4治療用ts作用物質と接触させ、それに続いて、非許容正常体温(例えば、37℃)を有する患者に注入する、実施例15のエクスビボ治療手順を示す概略図を図示する。
【0039】
図26図26は、テロメア生物学的障害や骨髄不全症を患っているヒト患者において、SeVts-ZSCAN4と接触させた自家CD34+細胞の評価のための、実施例15の臨床診断法のフローチャートを示す。
【0040】
図27図27は、テロメア生物学的障害や骨髄不全症を患っているヒト患者において、SeVts-ZSCAN4と接触させた自家CD34+細胞の評価のための、実施例15のエクスビボ治療手順を示す別の概略図を図示する。
【0041】
図28図28は、例示的なインビボ治療手段を示す概略図を図示する。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどの温度感受性作用物質(ts作用物質)は、許容温度(例えば、31~34℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、>37℃)で機能しない。(約31~34℃である)患者の体表面又はそのすぐ下の温度(表面体温)は、(約37℃である)患者の中核体温より低い。患者の表面体温にて機能的であるts作用物質は、患者への皮内、皮下、又は筋肉内投与によって直接送達される。さらなる活性がないことが必要である。或いは、ts作用物質の機能がもう必要でないとき、ts作用物質は、患者の表面体温を上げることによって、一過性に機能しないようにされる。
【0042】
図29図29は、例示的なインビボ治療手段を示す概略図を図示する。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどの温度感受性作用物質(ts作用物質)は、許容温度(例えば、31~35℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、>37℃)で機能しない。(鼻腔と上部気管に関して約32℃及び亜区域気管支に関して35℃(McFadden et al., 1985)である)患者の体の気道の温度(気道温度)は、(約37℃である)患者の中核体温より低い。患者の気道温度にて機能的であるts作用物質は、患者への鼻腔内投与(例えば、吹送、吸入又は点滴)によって直接送達される。さらなる活性がないことが必要である。ts作用物質の機能がもう必要でないとき、ts作用物質は、患者の気道温度を上げることによって、一過性に機能しないようにされる。
【発明を実施するための形態】
【0043】
詳細な説明
総説
出願人は、細胞が、温度感受性治療用作用物質の活性を誘発するために許容温度にて培養され得ること、及び活性が細胞内の治療効果につながり得ることを実証した。そのうえ、温度感受性治療用作用物質の活性は、続いて非許容温度にて細胞をインキュベートすることによって、低減されるか、又は阻害され得る。出願人はまた、最初に、インビボにおける温度感受性作用物質(ts作用物質)の使用方法も提供した。インビボで使用される同じタイプのts作用物質は、インビトロにおいて使用され得る。例えば、対象の体幹へのts作用物質の投与後、対象の中核体温は、ts作用物質の活性を誘発するための許容温度に下げられ得る。或いは、対象の表面(表皮、真皮、皮下組織、又は骨格筋)へのts作用物質の投与後、対象の表面体温は、ts作用物質の活性を誘発するための許容温度にて維持される。対象の表面体温は、自然に又は人為的に維持されてもよい。これらの方法は、核酸やポリペプチドなどの治療用作用物質を送達し、そして、一過性に活性化する新しい方法を提供する。特に、本開示は、細胞へのZSCAN4核酸とタンパク質の温度感受性送達のためのツールを提供する。
【0044】
従って、本開示は概して、インビトロにおいて温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の活性を一過性に誘発する方法に関する。いくつかの実施形態において、温度感受性治療用作用物質を含む1若しくは複数の細胞は、該温度感受性治療用作用物質の活性を誘発するための許容温度にて培養される。細胞は、該細胞において治療効果を誘発するために、温度感受性治療用作用物質にとって十分な期間にわたって許容温度にて培養される。次に、細胞は、非許容温度に戻され、ここで、該非許容温度は、温度感受性治療用作用物質の活性を低減するか、又は阻害する。別の実施形態において、1若しくは複数の細胞は、あらかじめ温度感受性治療用作用物質を含んでおらず、かつ、温度感受性治療用作用物質と初めて接触する。いくつかの実施形態において、1若しくは複数の細胞における治療効果を誘発した後に、該細胞がそれを必要としている対象に投与される。いくつかの実施形態において、1若しくは複数の細胞は、治療を必要としている対象から単離され、そして、温度感受性治療用作用物質で処理した後に、その細胞を前記対象に返す。
【0045】
別の態様において、本開示は、インビボにおいて温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の活性を一過性に誘発する方法に関する。いくつかの実施形態において、対象の1若しくは複数の細胞は、温度感受性治療用作用物質を含み、その対象の体温は、該細胞において治療効果を誘発するために、温度感受性治療用作用物質にとって十分な期間にわたり許容温度まで下げられ、次に、対象の体温は正常体温に戻される。別の実施形態において、温度感受性治療用作用物質は、該対象の体温が許容温度まで下げられる前又は後のいずれかで対象に投与される。
【0046】
本開示の他の態様は、疾患又は状態に罹患している対象(それを必要としている対象)の骨髄からCD34+細胞を動員することによって疾患又は状態を治療することに関し、対象から動員細胞を単離し、約33℃±0.5℃の温度にて単離細胞をインキュベートし、その細胞を、センダイウイルスベクターなどの温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNA(srRNA)と接触させ、ここで、該ウイルスベクター又はsrRNAは着目のタンパク質をコードする異種核酸分子を含む、十分な期間にわたり約33℃±0.5℃にて接触細胞を維持し、ここで、該ウイルスベクター又はsrRNAは33℃±0.5℃にて複製されることができ、かつ、該ウイルスベクター又はsrRNAの複製は異種核酸分子の発現増加につながる、そして、該接触細胞を対象に注入し、その結果、接触細胞を移植し、そして、疾患又は状態を治療すること、を含む。或いは、対象から動員細胞を単離した後に、その単離細胞を、センダイウイルスベクターなどの温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性がsrRNAと接触させ、その後、その細胞を、約33℃±0.5℃の温度にてインキュベートする。いくつかの実施形態において、疾患又は状態とはテロメア生物学的障害であり、かつ、着目のタンパク質とはヒトZSCAN4などのZSCAN4である。
【0047】
別の態様において、本開示は、センダイウイルスベクターなどの温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNA(srRNA)を、(それを必要としている)疾患又は状態に罹患している対象に投与し、ここで、該ウイルスベクター又はsrRNAは、着目のタンパク質をコードする異種核酸を含む、対象の中核体温を約33℃±0.5℃に下げ、十分な期間にわたり対象の中核体温を約33℃±0.5℃に維持し、ここで、該ウイルスベクター又はsrRNAは33℃±0.5℃にて複製されることができ、かつ、ウイルスベクター又はsrRNAの複製は異種核酸の発現増加につながる、そして、該対象の中核体温を正常に戻すことによって疾患又は状態を治療することに関する。或いは、対象の中核体温を約33℃±0.5℃に下げることは、センダイウイルスベクターなどの温度感受性ウイルスベクター、又は温度感受性srRNAを投与する前に行われる。いくつかの実施形態において、疾患又は状態とはテロメア生物学的障害であり、かつ、着目のタンパク質とはヒトZSCAN4などのZSCAN4である。
【0048】
対象に、それらの一般的な及び特定の形態で、ts作用物質、又はts作用物質を含む細胞を投与することによって疾患又は状態を治療する方法に対する参照文献及び請求項は同様に、以下:
a) 疾患又は状態の治療用作用物質の製造のためのts作用物質又はts作用物質を含む細胞の使用;及び
b) 疾患又は状態の治療のための、ts作用物質又はts作用物質を含む細胞を含む医薬組成物、
に関する。
【0049】
手続き方法の段落のいくつかの実施形態において、異種核酸は、着目(GOI)の遺伝子を含むか、又はそうでなければ、着目のタンパク質をコードする。前記の別の方法では、異種核酸は、着目のタンパク質のコード領域を含む。好ましい実施形態において、着目のタンパク質は、ヒトZSCAN4又はその変異体などのZSCAN4である。
定義
【0050】
本明細書及び付属の特許請求の範囲で使用される場合、単数形の「ある(a)」、「ある(an)」、及び「該(the)」は、別段の指示がない限り、複数形を含む。例えば、「ある(a)ポリヌクレオチド」は、1若しくは複数のポリヌクレオチドを含む。
【0051】
本明細書で使用される「~を含むこと」という語句は、オープンエンドであり、このような実施形態が、さらなる要素を含みうることを指し示す。これに対し、「~から成る」という語句は、クローズドであり、このような実施形態が、さらなる要素を含まない(微量の不純物を除き)ことを指し示す。「~から本質的になる」という語句は、部分的にクローズドであり、このような実施形態が、このような実施形態の基本的な特徴を実質的に変化させない要素をさらに含みうることを指し示す。本明細書で「~を含むこと」として記載される態様及び実施形態は、「~から成る」実施形態及び「本質的に~から成る」実施形態を含むことが理解される。
【0052】
温度を除いて、値に言及して本明細書で使用される「約」という用語は、別段指示されない限り、その値の90%~110%を包含する(例えば、約30分とは、27分~33分を指す)。摂氏単位の温度に関して使用するとき、約とは、別段指示されない限り、その値の-1℃~+1℃を包含する(例えば、約37℃とは、36℃~38℃を指す)。対照的に、それ以外の記載を伴わないプラス及びマイナスの使用は、表示した範囲を線引きする(例えば、33℃±0.5℃とは32.5℃~33.5℃を指す)。
【0053】
本明細書中に使用される場合、数値範囲は、範囲を定義する数字を含んでいる(例えば、12~18ヌクレオチドとは、12、13、14、15、16、17及び18ヌクレオチドを包含する)。
【0054】
「単離された」及び「精製された」という用語は、本明細書中で使用される場合、その環境(例えば、細胞培養、生物学的サンプルなど)から取り除かれた(例えば、分離された)目的物(例えば、細胞)を指す。「単離された」目的物は、それらが関連している他の成分を少なくとも50%含まず、好ましくは75%含まず、より好ましくは少なくとも90%含まず、最も好ましくは少なくとも95%(例えば、95%、96%、97%、98%、又は99%)含まない。
【0055】
「個体」及び「対象」という用語は、哺乳動物を指す。「哺乳動物」としては、これだけに限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長動物(例えば、サル)、家畜、競技動物、齧歯動物(例えば、マウス及びラット)、及び愛玩動物(例えば、イヌ及びネコ)が挙げられる。
【0056】
医薬組成物に関する「用量」という用語は、本明細書中で使用される場合、どの時点においても、対象(に投与された又は与えられた)によって摂取された組成物の計量部分を指す。
【0057】
疾患又は状態を「治療する」という用語は、疾患の徴候又は症状を軽減しようとする試みにおいて、1若しくは複数の医薬組成物を個体(ヒト又は他の動物)へと投与することを含み得るプロトコールを実施することを指す。したがって、「治療すること」又は「治療」は、徴候又は症状の完全な軽減を必要とせず、治癒を必要とせず、個体に対して、緩和効果だけを及ぼすプロトコールを具体的に含む。本明細書で使用される場合、及び当技術分野で十分に理解されているように、「治療」とは、臨床結果を含む、有益な又は所望の結果を得るための手法である。有益又は所望の臨床結果は、これだけに限定されるものではないが、1若しくは複数の症状の軽減又は改善、疾患の程度の縮小、疾患の安定化(すなわち、非増悪)状態、疾患の拡散の防止、疾患の進行の遅延又は緩徐化、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解(部分的であれ、完全であれ)を含む。
温度感受性作用物質
【0058】
本開示の特定の態様は、1若しくは複数の細胞における温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の活性を一過性に誘発することに関する。温度感受性作用物質の活性は、作用物質の任意の所望の活性化、複製、又は発現増加を指す。本明細書中に使用される場合、「温度感受性作用物質」という用語は、異なる温度にて異なるレベルの機能性を有する任意の核酸又はポリペプチドを指す。例示的な温度感受性作用物質としては、これだけに限定されるものではないが、温度感受性ウイルスベクター、温度感受性自己複製RNA、及び温度感受性ポリペプチドが挙げられる。
【0059】
本明細書中に使用される場合、「許容温度」という用語は、本開示の温度感受性作用物質の活性が誘発される任意の温度を指す。典型的には、許容温度は、対象の正常体温ではない。ヒト対象の正常体温は、約37℃±0.5℃である。温度感受性作用物質により、許容温度は、対象の正常体温より高い温度であっても、又は低い温度であってもよい。いくつかの態様において、温度感受性作用物質の許容温度は、30℃~36℃の範囲にある。いくつかの実施形態において、許容温度は、約31℃~約35℃、又は32℃~34℃(33℃±1.0℃)である。いくつかの好ましい実施形態において、許容温度は、33℃±0.5℃である。その結果として、いくつかの実施形態において、本開示の温度感受性自己複製RNAの非許容温度は、36℃超である。いくつかの好ましい実施形態において、非許容温度は37℃±0.5℃である。
【0060】
いくつかの実施形態において、許容温度にて誘発される温度感受性作用物質の活性は、非許容温度にて低減又は阻害される。「非許容温度」という用語は、本明細書中に使用される場合、本開示の温度感受性作用物質の活性が誘発されない任意の温度を指す。温度感受性作用物質の活性が、最適の許容温度における活性レベル低いとも95%低い、少なくとも90%低い、少なくとも85%低い、少なくとも80%低い、少なくとも75%低い、又は少なくとも50%低いときに、温度感受性作用物質は誘発されていない。典型的には、非許容温度は、対象の正常体温である。温度感受性作用物質により、非許容温度はまた、対象の正常体温より高い温度であっても、又は低い温度であってもよい。
温度感受性ウイルスベクター
【0061】
特定の実施形態において、本開示の温度感受性治療用作用物質は、温度感受性ウイルスベクターを含んでもよい。いくつかの実施形態において、許容温度にて誘発される温度感受性ウイルスベクターの活性としては、ベクターの複製が挙げられ得る。本明細書中に使用される場合、「温度感受性ウイルスベクター」という用語は、異なる温度にて異なるレベルの機能性を有する任意のウイルスベクターを指す。例示的な温度感受性ウイルスベクターとしては、これだけに限定されるものではないが、センダイウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、又はアルファウイルスベクターが挙げられる。例示的な温度感受性アルファウイルスベクターとしては、これだけに限定されるものではないが、ベネズエラウマ脳炎ウイルスベクター、シンドビスウイルスベクター、及びセムリキフォレストウイルスベクターが挙げられる。
【0062】
本開示のいくつかの実施形態において、温度感受性ウイルスベクターは、異種核酸(例えば、ウイルスベクターと関連した外来核酸)を含む。異種核酸は、コード領域と動作可能に組み合わせられたプロモーターなどの1若しくは複数の追加遺伝要素を含んでもよい。好ましい実施形態において、着目のタンパク質とは、ヒトZSCAN4又はその変異体などのZSCAN4である。
【0063】
本開示の温度感受性ウイルスベクターの許容温度は、典型的には、30℃~36℃又は38℃~50℃の範囲にある。いくつかの実施形態において、許容温度は、約31℃~約35℃、又は32℃~34℃(33℃±1.0℃)でがある。いくつかの好ましい実施形態において、許容温度は、33℃±0.5℃である。その結果として、いくつかの実施形態において、本開示の温度感受性ウイルスベクターの非許容温度は、36℃超かつ38℃未満である。いくつかの好ましい実施形態において、非許容温度は37℃±0.5℃である。
【0064】
本明細書中に開示されるように、細胞は、温度感受性作用物質が効果を誘発するのに十分な期間にわたり許容温度にて維持されてもよい。いくつかの実施形態において、温度感受性ウイルスベクターは、遺伝要素を含み、かつ、効果としては、該遺伝要素の発現増加を含み、ここで、該遺伝要素の発現は、細胞で生物学的効果を生じるRNA又はポリペプチドの産生をもたらす。いくつかの好ましい実施形態において、効果とは、治療効果である。
温度感受性自己複製RNA
【0065】
特定の実施形態において、本開示の温度感受性治療用作用物質は、温度感受性自己複製RNAを含んでもよい。本明細書中に使用される場合、「温度感受性自己複製RNA」という用語は、異なる温度にて異なるレベルの機能性を有する任意の自己複製RNAを指す。
【0066】
いくつかの実施形態において、温度感受性自己複製RNAは通常、ウイルス粒子形成に必要である構造タンパク質をコードするDNAを取り除くことによって、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)、シンドビスウイルス(SINV)、及びセムリキフォレストウイルス(SFV)などのアルファウイルスから作製される一本鎖RNAである自己複製RNAを操作することによって作製される(Petrakova et al., 2005)。いくつかの実施形態において、自己複製RNAは非構造タンパク質(nsPs)をコードし、そしてそれは、自己複製RNA自体を複製し、及び翻訳のための転写産物を産生するRNA依存性RNAポリメラーゼとして機能する。いくつかの実施形態において、自己複製RNAはまた、着目のタンパク質のコード領域を含む着目の遺伝子(GOI)も含み得る。着目の遺伝子は、コード領域と動作可能に組み合わせられたプロモーターなどの1若しくは複数の追加遺伝要素を含んでもよい。好ましい実施形態において、着目のタンパク質とは、ヒトZSCAN4又はその変異体などのZSCAN4である。いかなる理論にも縛られることを望むものではないが、いくつかの実施形態において、そのRNAの正のフィードバック産生のため、自己複製RNAは高レベルでGOIを発現し得る。いくつかの実施形態において、温度感受性自己複製RNAは、nsPsをコードする遺伝子を変異させることによって作製されてもよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、温度感受性自己複製RNAは、裸のRNA(すなわち、合成RNA)として哺乳動物細胞に送達され得る。いくつかの実施形態において、温度感受性自己複製RNAは、ナノ粒子でカプセル化された裸のRNA(すなわち、合成のRNA)として哺乳動物細胞に送達され得る。いくつかの実施形態において、ナノ粒子は、特定の細胞型、組織、器官、癌、腫瘍、又は異常細胞を標的化するように操作される。いくつかの実施形態において、温度感受性自己複製RNAは、ウイルス粒子として哺乳動物細胞に送達され得、そしてそれは、ヘルパー細胞をパッキングすることによって欠けたウイルス構造タンパク質を補うことによって作出される。いくつかの実施形態において、ウイルス粒子は、特定の細胞型、組織、器官、癌、腫瘍、又は異常細胞を標的化するように操作される。
【0068】
温度感受性作用物質が温度感受性自己複製RNAであるときに、許容温度にて誘発される温度感受性自己複製RNAの活性は、RNAの複製を含んでもよい。
【0069】
いくつかの態様において、本開示の温度感受性自己複製RNAの許容温度は典型的には、30℃~36℃の範囲にある。いくつかの実施形態において、許容温度は、約31℃~約35℃、又は32℃~34℃(33℃±1.0℃)である。いくつかの好ましい実施形態において、許容温度は、33℃±0.5℃である。その結果として、いくつかの実施形態において、本開示の温度感受性自己複製RNAの非許容温度は、36℃超である。いくつかの好ましい実施形態において、非許容温度は37℃±0.5℃である。
【0070】
他の態様において、本開示の温度感受性自己複製RNAの許容温度は典型的に、38℃~50℃の範囲にある。その結果として、いくつかの実施形態において、本開示の温度感受性自己複製RNAの非許容温度は、36℃超かつ38℃未満である。いくつかの好ましい実施形態において、非許容温度は、37℃±0.5℃である。
温度感受性ポリペプチド
【0071】
特定の実施形態において、本開示の温度感受性治療用作用物質は、温度感受性ポリペプチドを含んでもよい。本明細書中に使用される場合、「温度感受性ポリペプチド」という用語は、異なる温度にて異なるレベルの機能性を有する任意の温度感受性ポリペプチドを指す。いくつかの実施形態において、温度感受性ポリペプチドは、温度感受性ZSCAN4であってもよい。他の実施形態において、温度感受性ポリペプチドは、これだけに限定されるものではないが、ZSCAN4遺伝子のための転写因子から選択される。
【0072】
温度感受性作用物質が温度感受性ポリペプチドであるときに、許容温度にて誘発される温度感受性タンパク質の活性は、タンパク質の立体配座変化(例えば、構造又は形状に対する変更)を含んでもよい。
【0073】
本開示の温度感受性ポリペプチドの許容温度は、典型的には、30℃~36℃又は38℃~50℃の範囲にある。いくつかの実施形態において、許容温度は、約31℃~約35℃、又は32℃~34℃(33℃±1.0℃)でがある。いくつかの好ましい実施形態において、許容温度は、33℃±0.5℃である。その結果として、いくつかの実施形態において、本開示の温度感受性自己複製ポリペプチドの非許容温度は、36℃超かつ38℃未満である。いくつかの好ましい実施形態において、非許容温度は37℃±0.5℃である。
【0074】
本開示の種々の態様は、実質的に精製されたポリペプチドに関する。実質的に精製されたポリペプチドは、それが自然に関連している他のポリペプチド、脂質、炭水化物又はその他の物質を実質的に含まないポリペプチドを指してもよい。一実施形態において、ポリペプチドは、それが自然に関連している他のポリペプチド、脂質、炭水化物又はその他の物質の少なくとも50%、例えば少なくとも80%を含まない。別の実施形態において、ポリペプチドは、それが自然に関連している他のポリペプチド、脂質、炭水化物又はその他の物質の少なくとも90%を含まない。さらに別の実施形態において、ポリペプチドは、それが自然に関連している他のポリペプチド、脂質、炭水化物又はその他の物質の少なくとも95%を含まない。
核酸とポリペプチド
【0075】
本開示の特定の態様は、1若しくは複数の細胞において温度感受性治療用作用物質の活性を一過性に誘発することに関し、ここで、該活性は核酸分子の発現増加につながる。いくつかの実施形態において、核酸はポリヌクレオチドである。ポリヌクレオチドはあらゆる長さの核酸配列(例えば、直鎖状配列)を指すことができる。したがって、ポリヌクレオチドはオリゴヌクレオチドを含み、かつ、染色体中に見出される遺伝子配列も含む。オリゴヌクレオチドは本来のホスホジエステル結合によって結合した複数の連結ヌクレオチドである。オリゴヌクレオチドは6ヌクレオチドと300ヌクレオチドの間の長さのポリヌクレオチドである。オリゴヌクレオチド類似体はオリゴヌクレオチドと同様に機能するが、非天然部分を有する部分を指す。例えば、オリゴヌクレオチド類似体は非天然部分、変化した糖部分又は糖間結合、例えば、ホスホロチオエートオリゴデオキシヌクレオチドを含み得る。天然ポリヌクレオチドの機能類似体はRNA又はDNAに結合することができ、かつ、ペプチド核酸分子を含む。
【0076】
特定の実施形態において、核酸分子又はポリヌクレオチドは、遺伝要素をコードする。これらのポリヌクレオチドとしては、(着目の遺伝子をコードする)DNA、cDNA、及びmRNA配列などのRNA配列が挙げられる。コード配列を異種性プロモーターに動作可能に連結してその遺伝要素の直接的な転写をおこなわせることができる。プロモーターは核酸の転写をおこなわせる核酸制御配列を指すことができる。プロモーターは転写開始部位の近傍に必須核酸配列を含む。プロモーターは遠位エンハンサー配列又は遠位リプレッサー配列を含んでもよい。構成的プロモーターは、絶えず活性型であり、かつ、外部シグナル又は外部分子による調節の対象ではないプロモーターである。対照的に、誘導プロモーターの活性は外部シグナル又は外部分子(例えば、転写因子)によって調節される。第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係状態で配置されているときにその第1の核酸配列はその第2の核酸配列に動作可能に連結している。例えば、プロモーターがコード配列の転写又は発現に影響を与える場合にそのプロモーターはそのコード配列に動作可能に連結している。通常、動作可能に連結している核酸配列は連続的であり、2つのタンパク質コード領域を結合することが必要な場合には同じリーディングフレームにある。異種性ポリペプチド又は異種性ポリヌクレオチドは異なる起源又は種に由来するポリペプチド又はポリヌクレオチドを指す。プロモーターは転写開始部位の近傍にある必須核酸配列を含み、例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合はTATA配列を含む。プロモーターは転写開始部位から数千塩基対もの位置にあり得る遠位エンハンサー配列又は遠位リプレッサー配列を含んでもよい。一例では、前記プロモーターは構成的プロモーター、例えば、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108(2):193-9, 1991)又はホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーターである。いくつかの実施形態において、前記プロモーターはテトラサイクリン誘導プロモーター(Masui et al., Nucleic Acids Res. 33:e43, 2005)などの誘導プロモーターである。遺伝要素の発現をおこなわせるために使用され得る他の例示的なプロモーターにはlacシステム、trpシステム、tacシステム、trcシステム、ラムダファージの主要オペレーター領域及びプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、SV40の初期プロモーター及び後期プロモーター;ポリオーマウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルス及びシミアンウイルス由来のプロモーター;3-ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター、酵母酸ホスファターゼのプロモーター、及び酵母α交配因子のプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。本開示の遺伝要素は、構成的プロモーター、誘導プロモーター、若しくは本明細書中に記載したその他の好適なプロモーター又は当業者によって容易に認識される他の好適なプロモーターの制御下にあり得る。
【0077】
いくつかの実施形態において、温度感受性作用物質の活性を誘発ことは、核酸又はポリペプチドの発現増加につながり、そしてそれは、例えば、作用物質と接触させていないヒト細胞におけるポリヌクレオチド又はポリペプチド発現に対して、少なくとも1.5倍、少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、少なくとも1.8倍、少なくとも1.9倍、少なくとも2.0倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.1倍、少なくとも2.2倍、少なくとも2.3倍、少なくとも2.4倍、少なくとも2.5倍、少なくとも2.6倍、少なくとも2.7倍、少なくとも2.8倍、少なくとも2.9倍、少なくとも3.0倍、少なくとも3.5倍、少なくとも4.0倍、少なくとも4.5倍、少なくとも5.0倍、少なくとも5.5倍、少なくとも6.0倍、少なくとも6.5倍、少なくとも7.0倍、少なくとも7.5倍、少なくとも8.0倍、少なくとも8.5倍、少なくとも9.0倍、少なくとも9.5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、少なくとも100倍、少なくとも200倍、少なくとも300倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、少なくとも600倍、少なくとも700倍、少なくとも800倍、少なくとも900倍、少なくとも1,000倍、少なくとも2,000倍、少なくとも3,000倍、少なくとも4,000倍、少なくとも5,000倍、少なくとも6,000倍、少なくとも7,000倍、少なくとも8,000倍、少なくとも9,000倍、少なくとも10,000倍、少なくとも25,000倍、少なくとも50,000倍、少なくとも75,000倍、少なくとも100,000倍、少なくとも125,000倍、少なくとも150,000倍、少なくとも175,000倍に、少なくとも200,000倍、少なくとも225,000倍、少なくとも250,000倍、少なくとも275,000倍、少なくとも300,000倍、少なくとも325,000倍、少なくとも350,000倍、少なくとも375,000倍、少なくとも400,000倍、少なくとも425,000倍、少なくとも450,000倍、少なくとも475,000倍、少なくとも500,000倍、少なくとも750,000倍、又は少なくとも1,000,000倍の発現増加を含み得る。
【0078】
本開示の種々の態様は、単離された核酸又は合成mRNA分子などの単離された実体に関する。単離された核酸は、
他の核酸配列やその核酸、すなわち、他の染色体性及び染色体外DNA及びRNA、がそこで自然に生じている生物体の細胞から実質的に分離されたか又は精製された。これにより、「単離」という用語は、標準的な核酸精製方法によって精製された核酸を包含する。その用語はまた、宿主細胞における組換発現によって調製された核酸、並びに化学的に合成した核酸も包含する。同様に、単離されたポリペプチドは、タンパク質がそこで自然に生じている、並びに宿主細胞における組換発現によって調製されたポリペプチド及び化学的に合成されたポリペプチドを包含する生物体の細胞の他のポリペプチドから実質的に分離されるか又は精製された。同様に、単離細胞は、他の細胞型から実質的に分離されている。
細胞内に温度感受性作用物質を導入する方法
【0079】
いくつかの実施形態において、1若しくは複数の細胞を、温度感受性作用物質と接触させる。接触とは、固体及び液体の両方を含めた、直接的な物理的な関連性にある配置を指す。「接触」は、「曝露」と互換的に使用されてもよい。場合によっては、「接触」は、細胞内への核酸分子のトランスフェクトなどの、トランスフェクトを含む。場合によっては、「接触」は、1若しくは複数の細胞内への温度感受性作用物質の導入を含む。
【0080】
いくつかの実施形態において、温度感受性作用物質はポリヌクレオチド(例えば、自己複製RNA)であり、そして、ポリヌクレオチドは細胞内に導入される。細胞内への核酸分子又はタンパク質の導入は、細胞内への核酸分子又はタンパク質のあらゆる送達手段を包含する。例えば、核酸分子は、細胞内にトランスフェクトされるか、形質導入されるか、又はエレクトポレーション処理され得る。いくつかの実施形態において、温度感受性作用物質は、ポリペプチド(例えば、温度感受性ポリペプチド)であり、そして、ポリペプチドは細胞内に導入される。細胞内へのポリペプチドの送達は、例えば、タンパク質形質導入ドメイン(例えば、HIV-1 Tat)又はポリ-アルギニンペプチドタグ(Fuchs and Raines, Protein Science 14:1538-1544, 2005)、を有するペプチドなどの細胞ペプチドとタンパク質を融合することによって、達成され得る。タンパク質形質導入ドメインは、古典的なエンドサイトーシスから独立した機構によって細胞内へのより大きな分子(タンパク質、核酸分子など)の侵入を容易にする、小さいカチオン性ペプチドを指してもよい。ポリ-アルギニンペプチドタグは、細胞内へのより大きい分子(タンパク質や核酸分子など)の送達を容易にする、アルギニン残基から成る短ペプチド(一般に7~11残基)を指してもよい(例えば、Fuchs and Raines, Protein Science 14:1538-1544, 2005を参照のこと)。
【0081】
温度感受性作用物質を用いた細胞内への核酸の導入は、温度感受性ウイルスベクター(統合型又は非統合型ウイルスベクターなど)又は温度感受性プラスミドベクターの使用を伴ってもよい。これらの方法のそれぞれは、当該技術分野で記載されており、そのため、当業者の能力の範疇にある。1若しくは複数の宿主細胞(例えば、ヒト宿主細胞などの好ましい哺乳類の宿主細胞)に核酸分子を送達するのに使用できるそれぞれの方法に関する簡単な概要が、本明細書中に提供される。宿主細胞内に導入され、その結果、形質転換宿主細胞を生じる場合、ベクターは核酸分子を指してもよい。ベクターは、複製開始点(DNA合成の開始に関与するDNA配列)など、宿主細胞におけるその複製を可能する核酸配列を含んでもよい。例えば、発現ベクターは、挿入された(単数若しくは複数の)遺伝子の転写及び翻訳を可能にするのに必要な調節配列を含んでいる。ベクターはまた、1若しくは複数の選択マーカー遺伝子及び当該技術分野で知られている他の遺伝要素を含んでもよい。ベクターは、例えばウイルスベクターやプラスミドベクターを含んでもよい。
許容温度
許容温度における1若しくは複数の細胞のインキュベート
【0082】
本開示の特定の態様は、温度感受性作用物質の活性を誘発するための許容温度にて細胞をインキュベートすることによって1若しくは複数の細胞において温度感受性作用物質の活性を一過性に誘発することに関する。いくつかの実施形態において、許容温度は、標準的な細胞培養温度よりさらに高くても又は低くてもよい。例えば、ヒト及び齧歯動物細胞は典型的に、約37℃の温度にて培養される。従って、いくつかの実施形態において、許容温度は、約36.5℃より低くてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、細胞は、36℃、35.5℃、35℃、34.5℃、34℃、33.5℃、33℃、32.5℃、32℃、31.5℃、31℃、30.5℃、又は30℃の許容温度にて培養される。いくつかの好ましい実施形態において、許容温度は、30℃~36℃、31℃~35℃、又は32℃~34℃、又は32.5℃~33.5℃である。いくつかの実施形態において、許容温度は、(下限)30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、又は35℃以上、かつ、(上限)36℃、35℃、34℃、33℃、32℃又は31℃以下である。
【0083】
他の実施形態において、許容温度は、約37.5℃より高い場合がある。例えば、いくつかの実施形態において、細胞は、38℃、38.5℃、39℃、39.5℃、40℃、40.5℃、41℃、41.5℃、42℃、42.5℃、43℃、43.5℃、44℃、44.5℃、45℃、45.5℃、46℃、46.5℃、47℃、47.5℃、48℃、48.5℃、49℃、49.5℃、又は50℃の許容温度にて培養される。
【0084】
いくつかの実施形態において、許容温度にてインキュベートした後に、1若しくは複数の細胞は、非許容温度にて培養され、ここで、温度感受性作用物質の活性は低減されるか、又は阻害される。例えば、温度感受性ウイルスベクターの複製が阻害され得、温度感受性自己複製RNAの複製が阻害され得、そして、温度感受性ポリペプチドへの立体配座変化が阻害され得る。この温度シフトは、温度感受性作用物質の活性が一過性に誘発され、その後、阻害されることを可能にする。他の実施形態において、1若しくは複数の細胞は、許容温度にて培養された後に、対象に投与される。1若しくは複数の細胞は、許容温度での培養から直接対象に投与され得るか、又は培養中、最初に、許容温度から非許容温度に移し、その後、対象に投与され得る。特定の実施形態において、温度感受性作用物質はそれに続いて、分解される。例えば、非統合型温度感受性ウイルスベクター、RNA、及びポリペプチドは分解される。
対象の中核体温を許容温度に下げる
【0085】
本開示の特定の態様は、温度感受性作用物質の活性を誘発するために対象の中核体温を許容温度に下げることによって、対象の細胞における温度感受性治療用作用物質の活性を一過性に誘発することに関する。いくつかの実施形態において、対象の中核体温は、目標温度管理(TTM)手順を用いて下げられる。TTM手順は、持続期間にわたり対象の特定の体温を達成し、そして維持するように設計される。斯かる手順は、あらかじめ、心発作や脳卒中などの様々な急性の健康問題から生じるネガティブ効果を低減するために治療的に使用された。それらを使用する装置と一般的方法は、当該技術分野で知られており、本明細書中に記載した方法で使用できる。その手順は、冷却カテーテル、冷却ブランケット、及び体の周りへの氷の適用を含めた多くの方法を使用して実施できる。
【0086】
対象の中核体温を許容温度に下げた後に、対象の中核体温は、温度感受性作用物質の活性を誘発するのに十分な時間にわたり許容温度で維持される。対象の中核体温は、それに続いて(非許容温度である)正常な中核体温に戻され、ここで、該温度感受性作用物質の活性は低減されるか又は阻害される。特定の実施形態において、温度感受性作用物質は、それに続いて分解される。例えば、非統合型温度感受性ウイルスベクター、RNA、及びポリペプチドは、非許容温度にて分解される。本明細書中に使用される場合、「体温」という用語は、別段関係が明確に示されない限り、「中核体温」を指す。
対象の表面体温を許容温度で維持する
【0087】
本開示の特定の態様は、対象の体の領域における正常温度差を利用することに関する。例えば、ヒト対象の体の表面又は表面付近の温度(表面体温)は、約31~34℃であり、そしてそれは、(約37℃である)ヒト対象の中核体温より低い。本明細書中に使用される場合、対象の体の「表面」とは、表皮、真皮、皮下組織、又は筋のうちの1若しくは複数を指す。対象の体の「皮膚」とは、表皮及び真皮の一方又は両方を指す。よって、対象の体の表皮、真皮、又は皮下組織への投与の好適な経路としては、皮内及び皮下投与が挙げられる。対象の体の表面付近の筋肉への好適な投与経路は、筋肉内投与である。
【0088】
例えば、ts作用物質は、対象の皮膚の特定の領域(ワクチン接種の場合)、又は対象の皮膚のより広い領域(皮膚病の治療の場合)に直接送達する。皮膚温度(約31~34℃)は、ts作用物質の許容温度であり、ts作用物質が機能することを許可する。さらなる活性はGOIの長期間発現に必要とされない。ts作用物質の機能の停止が必要とされるか又は所望されるので、治療した皮膚の温度は、加熱の局所的な適用(例えば、加熱パッチ若しくは加熱ブランケット)によって又は軽度の治療用温熱療法(例えば、温浴又は熱サウナ)によって、非許容温度(>37℃)に高められ、そして、一過性に維持される。中核体温は非許容温度(約37℃)なので、この治療手段は、安全である、すなわち、ts作用物質は体の意図した領域でのみ機能する。いくつかの実施形態において、対象の表面体温が正常より高くなければならないなら、表面体温は、ts作用物質の許容温度に合致するように下げられる。
対象の上気道温度を許容温度にて維持する
【0089】
ヒト対象の表面体温のように、ヒト対象の上気道及び上部気管の温度は、ts作用物質の許容温度であり、そして、ts作用物質が機能することを許可する。すなわち、ヒト対象の鼻腔及び上部気管の温度は約32℃であり、及びヒト対象の亜区域気管支の温度は約35℃である(McFadden et al., 1985)。このように、ヒト患者の上気道(鼻腔、咽頭、及び/又は喉頭)及び/又は上部気管の細胞に鼻腔内投与されたts作用物質は、ヒト患者の中核体温を下げずに、機能的である。鼻腔内投与は、吹送、吸入又は点滴によって行われてもよい。
非許容温度
1若しくは複数の細胞を非許容温度にてインキュベートする
【0090】
通常、細胞のインビトロ培養は、その細胞を得た対象の正常体温にて実施される。例えば、ヒト細胞やマウス細胞などの哺乳動物細胞は、通常、約37℃にて培養される。本開示の特定の態様は、対象の正常体温にて機能しない(例えば、遺伝子を複製しないか又は発現しない)温度感受性作用物質に関する。よって、対象の正常体温とは、温度感受性作用物質の非許容温度である。いくつかの好ましい実施形態において、非許容温度は37℃±0.5℃である。
対象の正常中核体温
【0091】
いくつかの実施形態において、温度感受性作用物質、温度感受性作用物質と接触させた細胞、又は温度感受性作用物質を担持する細胞は、正常中核体温に維持されている対象の体内に導入される。本開示の特定の態様は、その生物体のこの正常体温(非許容温度)にて、機能、例えば、遺伝子の複製又は発現、をしない温度感受性作用物質に関する。この特徴は、対象の生涯を通じて温度感受性作用物質の望ましくない作用又は再活性化を予防する安全機構を提供する。
ヒト細胞
【0092】
本開示の特定の態様は、これだけに限定されるものではないが、成体ヒト細胞を含めた1若しくは複数のヒト細胞において温度感受性治療用作用物質の活性を一過性に誘発することに関する。特定の実施形態において、1若しくは複数のヒト細胞は、対象における治療用作用物質を用いた治療を必要としている。
【0093】
様々なヒト細胞が本明細書に記載される方法において有用である。本明細書において開示されるように、「ヒト細胞」という用語は胚発生中及び胚発生後にヒトの身体に見出されるあらゆる細胞、例えば、ヒト胚細胞、幹細胞、多能性細胞、分化細胞、成体細胞、体細胞、及び成体細胞を指す。幾つかの実施形態では本開示のヒト細胞はヒト成体細胞である。本明細書において開示されるように、「ヒト成体細胞」という用語は胚発生後にヒトの身体に見出されるあらゆる細胞(すなわち、非胚細胞)を指す。本開示のヒト細胞には、これだけに限定されるものではないが、精細胞、卵母細胞、受精卵母細胞(すなわち、接合子)、胚細胞、成体細胞、分化細胞、体細胞、始原細胞、胚性幹(ES)細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、成体幹細胞、体性幹細胞、及び組織幹細胞が含まれる。成体幹細胞は体性幹細胞又は組織幹細胞としても知られており、胚発生後の身体に見出される未分化細胞を指すことができ、細胞分裂によって増殖して死細胞を補充し、かつ、損傷組織を再生する。始原細胞は特定の種類の細胞又は細胞系譜に分化する少能性細胞又は単能性細胞を指すことができる。始原細胞は幹細胞に類似しているがさらに分化しており、かつ、限られた自己複製を示す。例示的な成体幹細胞、組織幹細胞、及び/又は始原細胞には、これだけに限定されるものではないが、造血幹細胞、間充織幹細胞、脂肪幹細胞、神経幹細胞、腸管幹細胞、皮膚幹細胞、及び生殖細胞(例えば、精細胞及び卵母細胞)が含まれ得る。
【0094】
ヒト細胞は、これだけに限定されるものではないが、体細胞、成熟細胞、及び分化細胞を含んでもよい。体細胞は、これだけに限定されるものではないが、生殖細胞、組織幹細胞、始原細胞、人工多能性幹(iPS)細胞、及び分化細胞をはじめとする身体のあらゆる細胞を指すことができる。例示的な体細胞、成熟細胞、及び/又は分化細胞には、これだけに限定されるものではないが、表皮細胞、線維芽細胞、リンパ球、肝細胞、上皮細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨細胞、脂肪細胞、心筋細胞、膵臓β細胞、角化細胞、赤血球、末梢血液細胞、骨髄細胞、神経細胞、星状細胞、及び生殖細胞が含まれ得る。生殖細胞は有性生殖を行う生物の配偶子(すなわち、卵と精子)を生じる細胞を指すことができる。ある特定の実施形態では生殖細胞には、これだけに限定されるものではないが、卵母細胞及び精細胞が含まれる。幾つかの実施形態では本開示の体細胞、成熟細胞、及び/又は分化細胞は、これだけに限定されるものではないが、着床前胚も含む。
【0095】
ヒト細胞としてはまた、これだけに限定されるものではないが、臍帯血から得られた細胞、造血幹細胞、CD34+細胞、間充織幹細胞、血管内皮幹細胞、組織幹細胞、顆粒球、リンパ球、T細胞、B細胞、単球、マクロファージ、樹状細胞、赤血球、網状赤血球、及び巨核細胞も挙げられ得る。ヒト細胞としてはまた、これだけに限定されるものではないが、癌細胞、腫瘍細胞、悪性細胞、良性細胞、増生細胞、形成不全細胞、異型細胞などのヒト起源の異常細胞も挙げられ得る。ヒト細胞はまた、これだけに限定されるものではないが、二倍体細胞、一倍体細胞、四倍体細胞、倍数細胞、核型異常を伴う細胞、染色体異常を伴う細胞、突然変異遺伝子を有する細胞、異常なテロメア長を有する細胞、短いテロメアを有する細胞、及び長いテロメアを有する細胞も挙げられ得る。ヒト細胞としてはまた、これだけに限定されるものではないが、低メチル化ゲノム領域を有する細胞、高メチル化ゲノム領域を有する細胞、アセチル化やメチル化などの異常なヒストン修飾を有する細胞などのエピジェネティックな異常を有する細胞も挙げられ得る。
【0096】
いくつかの実施形態において、本開示の対象は、非ヒト動物である。非ヒト動物は、ヒト以外のすべての動物に言及してもよい。非ヒト動物としては、これだけに限定されるものではないが、非ヒト霊長目動物、ブタ、ウシ、及び家禽などの家畜、競技用動物又はイヌ、ネコ、ウマ、ハムスターなどのペット、マウスなどの齧歯動物、或いはライオン、トラ若しくはクマなどの動物園動物が挙げられる。一実施形態において、非ヒト動物はマウスである。
温度感受性作用物質の治療的使用
【0097】
本開示の温度感受性作用物質は、これだけに限定されるものではないが、経口投与、舌下投与、口腔内投与、局所投与、直腸投与、吸入法を介して、経皮投与、皮下注射、静脈内注射、動脈内注射、筋肉内注射、心臓内注射、骨内注射、皮内注射、腹腔内注射、経粘膜投与、膣内投与、硝子体投与、関節内投与、関節周囲投与、局所的投与、皮膚表面投与、又はそのいずれかの組み合わせ、を含めた当該技術分野で知られている任意の適切な方法によって投与され得る。いくつかの実施形態において、組成物は、皮下注射及び/又は静脈内注射によって投与される。
【0098】
いくつかの態様において、本開示の方法は、温度感受性作用物質の治療的有効量の使用を伴う。作用物質の治療的有効量は意図した目的を達成するのに充分な治療薬の量を指すことができる。例えば、疾患又は状態を治療するための温度感受性作用物質の治療的有効量はその疾患又は状態、又はその疾患若しくは状態の1つ以上の症状の軽減に充分な量である。いくつかの例では治療的有効量はその疾患又は状態、又はその疾患若しくは状態の症状を100%治療できなくてもよい。しかしながら、その疾患又は状態のあらゆる公知の特徴又は症状の減少、例えば、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%の減少は治療的であり得る。
【0099】
所定の治療用作用物質の治療的有効量は、作用物質の性質、投与経路、治療用作用物質を受ける対象の体格及び/又は年齢、並びに投与の目的などの要因より変化する。それぞれの個々の症例における治療的有効量は、当該技術分野において確立された方法に従って、当業者によって必要以上の実験なしに実験的に決定される。
【0100】
対象とは、生きた多細胞脊椎生物体、ヒト及び非ヒト哺乳類を含むカテゴリを指してもよい。いくつかの実施形態において、対象はヒトである。本明細書に提供される方法を用いて治療され得る対象としては、哺乳動物の対象、例えば、獣医学的対象又はヒト対象、を挙げられ得る。対象には、受精卵、接合体、着床前胚、胚、胎児、新生児、乳児、小児及び/又は成体が含まれ得る。いくつかの実施形態において、治療される対象は、例えば、治療、特に、本開示の温度感受性作用物質の投与を含む治療の恩恵を受けるであろう対象を選択することなどで選択される。
【0101】
本開示の医薬組成物は、治療用ts作用物質などのts作用物質、及び1若しくは複数の追加化合物を含む。本明細書中に使用される場合、「医薬的に許容される担体」及び「医薬的に許容されるビヒクル」という用語は、1若しくは複数の追加化合物(すなわち、ts作用物質以外の化合物)を指す。本開示における使用に好適な医薬的に許容される担体は、従来品である。特に、温度感受性作用物質を含む組成物の医薬的な送達に好適な組成物や製剤は、先に記載したとおりのものである(例えば、Gennaro, A.R. (editor) Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co., Easton, PA, 18th edition (1990);及びFelton, L.A. (editor) Remington Essentials of Pharmaceutics, Pharmaceutical Press, London, United Kingdom, 1st edition, (2013)を参照のこと)。
【0102】
一般に、担体の性質は使用されている特定の投与モードに依存する。例えば、非経口製剤は通常は、例えば、水、生理食塩水、平衡塩溶液、ブドウ糖水溶液、グリセロール又は同種のものなどの薬学的及び生理学的に許容可能な液体などの担体を内包する注射可能液体を含む。固形組成物(例えば、粉末形態、丸薬形態、錠剤形態、又はカプセル形態)について、従来の非毒性固形担体は例えば薬品等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、又はステアリン酸マグネシウムを含み得る。生物学的に中性の担体に加えて、投与される医薬組成物は湿潤剤又は乳化剤、保存料、及びpH緩衝剤などのような少量の非毒性補助剤、例えば、酢酸ナトリウム又はソルビタンモノラウレートを含み得る。いくつかの実施形態において、本開示の医薬組成物は、治療用ts作用物質などのts作用物質、及び(細胞内へのts作用物質の取り込みを容易にする)1若しくは複数の追加化合物を含む。RNAベースのts作用物質の場合では、ts作用物質はナノ粒子内にカプセル化される。場合によっては、ナノ粒子は脂質ベースである(例えば、リポフェクトアミン)。
【0103】
患者の治療に最も適切な治療用量と治療計画は、治療される疾患又は状態によって、及び患者の体重と他のパラメーターに従って変化する。有効な投与量と治療プロトコールを従来法によって決定することができ、その方法は実験動物において低用量から始まって、後に効果をモニターしながら投与量を増加し、かつ、計画的に投与計画を変更する。所与の対象にとって最適な投与量を決定するとき、医師は多数の要因を考慮に入れることができる。要因には患者の体格、患者の年齢、患者の一般状態、治療中の特定の疾患、疾患の重症度、患者内の他の薬品の存在などが含まれる。試験投与量は動物試験の結果と臨床文献を考慮した後に選択される。
骨髄細胞の動員
【0104】
いくつかの実施形態において、方法は、(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞を対象の脾臓及び末梢血に動員することを含む。いくつかの実施形態において、方法は、本開示の温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の治療的有効量を、脾臓において温度感受性作用物質が(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)1若しくは複数の骨髄細胞に核酸を送達するのに好適な条件下で投与すること、を含む。
【0105】
本明細書中に開示された方法のいくつかの実施形態において、脾臓及び末梢血への(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞の動員は、治療的有効量のサイトカイン及び/又は化学療法剤を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、脾臓及び末梢血への(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞の動員は、治療的有効量のサイトカインを対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、脾臓への(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞の動員は、治療的有効量の化学療法剤を対象に投与することを含む。いくつかの実施形態において、脾臓への(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞の動員は、治療的有効量のサイトカインと化学療法剤を対象に投与することを含む。サイトカイン及び/又は化学療法剤は、これだけに限定されるものではないが、経口投与、舌下投与、口腔内投与、局所投与、直腸投与、吸入法を介して、経皮投与、皮下注射、静脈内注射、動脈内注射、筋肉内注射、心臓内注射、骨内注射、皮内注射、腹腔内注射、経粘膜投与、膣内投与、硝子体投与、関節内投与、関節周囲投与、局所的投与、皮膚表面投与、又はそのいずれかの組み合わせ、を含めた当該技術分野で知られている任意の適切な方法によって投与され得る。いくつかの実施形態において、サイトカイン及び/又はケモカインは、皮下注射及び/又は静脈内注射によって投与される。
【0106】
いくつかの実施形態において、対象の(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞は、組成物(例えば、本明細書中に記載した任意のナノ粒子組成物)の投与の、少なくとも4週間前、少なくとも3週間前、少なくとも2週間前、少なくとも1週間前、少なくとも6日前、少なくとも5日前、少なくとも4日前、少なくとも3日前、少なくとも2日前、少なくとも1日前、1日未満前、少なくとも18時間前、少なくとも16時間前、少なくとも12時間前、少なくとも8時間前、少なくとも6時間前、又は少なくとも1時間前に動員される。いくつかの実施形態において、対象の(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞は、組成物の投与前、連続した7日間、連続した5日間、連続した4日間、連続した3日間、連続した2日間又は1日にわたって動員される。いくつかの実施形態において、対象の(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞は、組成物の投与と並行して動員される。
【0107】
当該技術分野で知られている(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞を動員できる、これだけに限定されるものではないが、顆粒球コロニー刺激因子が(G-CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、エリスロポイエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)、幹細胞因子(SCF)、副甲状腺ホルモン(PTH)、及びそのいずれかの組み合わせを含めた任意のサイトカインが使用され得る。いくつかの実施形態において、サイトカインはG-CSFである。
【0108】
いくつかの実施形態において、G-CSFは、約0.1μg/kg~約100μg/kg又は約1.0μg/kg~約10g/kgの濃度にて対象に投与される。いくつかの実施形態において、G-CSFは、約2.5μg/kgの濃度にて対象に投与される。いくつかの実施形態において、G-CSFは、約10μg/kgの濃度にて対象に投与される。
【0109】
当該技術分野で知られている、(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞を動員できる、これだけに限定されるものではないが、プレリキサホル、シクロホスファミド(CY)、パクリタキセル、エトポシド、POL6326、BKT-140、TG-0054、NOX-A12、SEW2871、BIO5192、ボルテゾミブ、SB-251353、FG-4497、及びそのいずれかの組み合わせを含めた任意の化学療法剤が使用され得る。いくつかの実施形態において、化学療法剤はプレリキサホルである。
【0110】
いくつかの実施形態において、プレリキサホルは、約1μg/kg~約1000μg/kg又は約75μg/kg~約500μg/kgの濃度にて対象に投与される。いくつかの実施形態において、プレリキサホルは、約150μg/kgの濃度にて対象に投与される。いくつかの実施形態において、プレリキサホルは、約240μg/kgの濃度にて対象に投与される。
【0111】
いくつかの実施形態において、(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞の脾臓及び末梢血への動員は、治療的有効量のG-CSFと治療的有効量のプレリキサホルを投与することを含む。いくつかの実施形態において、G-CSFとプレリキサホルは、対象に同時投与される。いくつかの実施形態において、G-CSFとプレリキサホルは、1日間、2日間、3日間、4日間又はそれ以上にわたり対象に同時投与される。いくつかの実施形態において、G-CSFは、プレリキサホルの前に対象に投与される。いくつかの実施形態において、G-CSFは、プレリキサホルの前に、1日間、2日間、3日間、4日間又はそれ以上にわたり対象に投与される。いくつかの実施形態において、G-CSFは、プレリキサホルの1日、2日、3日、4日又はそれ以上前に対象に投与され、次に、G-CSFとプレリキサホルは、1日間、2日間、3日間、4日間又はそれ以上にわたり対象に同時投与される。いくつかの実施形態において、プレリキサホルは、G-CSFの前に対象に投与される。いくつかの実施形態において、プレリキサホルは、G-CSFの1日、2日、3日、4日又はそれ以上前に対象に投与される。いくつかの実施形態において、プレリキサホルは、G-CSFの1日、2日、3日、4日又はそれ以上前に対象に投与され、次に、G-CSFとプレリキサホルは、1日間、2日間、3日間、4日間又はそれ以上にわたり対象に同時投与される。
【0112】
いくつかの実施形態において、1若しくは複数のヒト細胞を、1若しくは複数のヒト細胞に核酸を送達する温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)と接触させる。いくつかの実施形態において、核酸は、着目の遺伝子を含むか、又は着目のタンパク質をコードする。
【0113】
いくつかの態様において、本開示の方法は、インビトロにおいて又はインビボにおいて対象の細胞に核酸を送達する温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の治療的量の使用を伴う。作用物質の治療的有効量は意図した目的を達成するのに充分な治療薬の量を指すことができる。例えば、疾患又は状態を治療するためのヒト細胞に核酸を送達する温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の治療的有効量はその疾患又は状態、又はその疾患若しくは状態の1つ以上の症状の軽減に充分な量である。いくつかの例では治療的有効量はその疾患又は状態、又はその疾患若しくは状態の症状を100%治療できなくてもよい。しかしながら、その疾患又は状態のあらゆる公知の特徴又は症状の減少、例えば、少なくとも25%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%の減少は治療的であり得る。
【0114】
別の例では、対象において(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)骨髄細胞を動員できるサイトカイン及び/又はケモカインの治療的有効量は、骨髄から(これだけに限定されるものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含めた)1若しくは複数の骨髄細胞の動員を末梢血に誘発するのに十分な量である。
【0115】
所定の温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の治療的有効量は、作用物質の性質、投与経路、治療用作用物質を受ける対象の体格及び/又は年齢、並びに投与の目的などの要因より変化する。それぞれの個々の症例における治療的有効量は、当該技術分野において確立された方法に従って、当業者によって必要以上の実験なしに実験的に決定される。
【0116】
対象とは、生きた多細胞脊椎生物体、ヒト及び非ヒト哺乳類を含むカテゴリを指してもよい。いくつかの実施形態において、対象はヒトである。本明細書に提供される方法を用いて治療され得る対象としては、哺乳動物の対象、例えば、獣医学的対象又はヒト対象、を挙げられ得る。対象には、胎児、新生児、乳児、小児及び/又は成体が含まれ得る。いくつかの実施形態において、治療される対象は、治療の恩恵を受けるであろう対象を選択することなどで選択される。
【0117】
温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の投与の利益を得ることができる障害又は疾患の例としては、(単数若しくは複数の)遺伝子突然変異、異常なテロメア長、又は(単数若しくは複数の)異常なエピジェネティック修飾に関連する障害又は疾患が挙げられる。いくつかの態様において、疾患又は障害とは、テロメア生物学的障害である。温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)の投与の利益を得ることができる障害又は疾患に関する更なる例としては、これだけに限定されるものではないが、癌、自己免疫疾患、並びに神経学的傷害又は神経変性障害、並びに失明や聴覚障害などの細胞再生が有益である疾患を含む。いくつかの態様において、疾患又は障害とは、血液又は造血器官の疾患である。
【0118】
癌は異常な細胞増殖又は制御されていない細胞増殖を特徴とする悪性腫瘍を含む。癌は、遺伝子突然変異、及び異常テロメア制御と関連することが多い。ts作用物質を用いた治療から利益を得ることができる例示的な癌としては、これだけに限定されるものではないが、心臓の癌(例えば、肉腫(血管肉腫、繊維肉腫、横紋筋肉腫、脂肪肉腫)、粘液腫、横紋筋腫、繊維腫、脂肪腫及び奇形腫);肺癌(例えば、気管支原性癌(鱗状細胞、未分化小細胞、未分化大細胞、腺癌)、肺胞上皮(細気管支)癌、気管支腺腫、肉腫、リンパ腫、軟骨性過誤腫、中皮腫);胃腸管癌(例えば、食道(扁平上皮癌、腺癌、平滑筋肉腫、リンパ腫);胃癌(上皮癌、リンパ腫、平滑筋肉腫);膵臓癌(膵管腺癌、インスリノーマ、グルカゴノーマ、ガストリノーマ、カルチノイド腫瘍、ビポーマ);小腸癌(腺癌、リンパ腫、カルチノイド腫瘍、カポジ肉腫、平滑筋腫、血管腫、脂肪腫、神経繊維腫、繊維腫);大腸癌(腺癌、管状腺腫、絨毛腺腫、過誤腫、平滑筋腫);泌尿生殖路癌(例えば、腎臓(腺癌、ウィルムス腫瘍、腎芽腫、リンパ腫、白血病);膀胱癌及び尿道癌(扁平上皮癌、移行上皮癌、腺癌);前立腺癌(腺癌、肉腫);精巣癌(精上皮腫、奇形腫、胎生期癌、奇形癌腫、絨毛癌、肉腫、間質細胞癌、繊維腫、繊維腺腫、類腺腫瘍、脂肪腫);肝臓癌(例えば、肝癌(肝細胞癌)、胆管癌、肝芽腫、血管肉腫、肝細胞腺腫、血管腫);骨癌(例えば、骨原性肉腫(骨肉腫)、繊維肉腫、悪性線維性組織球腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、悪性リンパ腫(細網肉腫)、多発性骨髄腫、悪性巨細胞腫、脊索腫、骨軟骨腫(骨軟骨性外骨症)、良性軟骨腫、軟骨芽細胞腫、軟骨粘液繊維腫、類骨骨腫及び巨細胞腫);神経系癌(例えば、頭骨(骨腫、血管腫、肉芽腫、黄色腫、変形性骨炎)、髄膜(髄膜腫、髄膜肉腫、神経膠腫症)、脳(星状細胞腫、髄芽腫、神経膠腫、上衣腫、胚細胞腫>松果体腫!、多形神経膠芽腫、希突起神経膠腫、シュワン細胞腫、網膜芽細胞腫、先天性腫瘍)、脊髄(神経繊維腫、髄膜腫、神経膠腫、肉腫));婦人科癌(例えば、子宮(子宮内膜癌)、子宮頸部(子宮頸癌、腫瘍前子宮頸部異形成症)、卵巣(卵巣癌、漿液性嚢胞腺癌、粘液性嚢胞腺癌、類内膜性腫瘍、ブレナー腫瘍、明細胞癌、非分類癌、顆粒膜/莢膜細胞腫、セルトリ・ライディッヒ細胞腫、未分化胚細胞腫、悪性奇形腫)、陰門(扁平上皮癌、上皮内癌、腺癌、繊維肉腫、黒色腫)、膣(明細胞癌、扁平上皮癌、ブドウ状肉腫、胎児型横紋筋肉腫、卵管(癌));血液癌(例えば、血液(骨髄性白血病(急性及び慢性)、急性リンパ芽球性白血病、慢性リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群)、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(悪性リンパ腫));皮膚癌(例えば、悪性黒色腫、基底細胞癌、扁平上皮癌、カポジ肉腫、黒子、異型性母斑、脂肪腫、血管腫、皮膚繊維腫、ケロイド、乾癬);及び副腎癌(例えば、神経芽細胞腫)が挙げられる。
【0119】
自己免疫疾患は、異常免疫応答、例えば、自己抗原又は対象自身の細胞若しくは組織に対して特異的である抗体又は細胞傷害性T細胞の産生を結果としてもたらす。いくつかの例では自己免疫疾患は(例えば、甲状腺炎では)ある特定の器官に限定され、又は様々な場所の特定の組織に影響を及ぼし得る(例えば、グッドパスチャー病)。ts作用物質を用いた治療から利益を得ることができる例示的な自己免疫疾患としては、これだけに限定されるものではないが、リウマチ性関節炎、若年性少関節炎、コラーゲン誘発関節炎、アジュバント誘発関節炎、シェーグレン症候群、多発性硬化症、実験的自己免疫性脳脊髄炎、炎症性腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎)、自己免疫性胃萎縮、尋常性天疱瘡、乾癬、尋常性白斑、1型糖尿病、非肥満糖尿病、重症筋無力症、グレーブス病、橋本甲状腺炎、硬化性胆管炎、硬化性唾液腺炎、全身性エリテマトーデス、自己免疫性血小板減少性紫斑症、グッドパスチャー症候群、アジソン病、全身性硬化症、多発性筋炎、皮膚筋炎、自己免疫性溶血性貧血、及び悪性貧血が挙げられる。
【0120】
いくつかの実施形態において、対象は神経損傷を経験したことがある者、又は神経変性障害を患っている者である。神経損傷は神経系に対する(例えば、脳又は脊髄又は特定の神経細胞に対する)外傷であって、損傷を受けた患者の運動及び/又は記憶に悪影響を及ぼす外傷を指すことができる。例えば、そのような患者は構音障害(発話障害)、片側不全麻痺又は片麻痺を患う場合があり得る。神経損傷は、神経系に対する(例えば、脳又は脊髄又は特定の神経細胞に対する)外傷であって、損傷を受けた患者の運動及び/又は記憶に悪影響を及ぼす外傷から生じ得る。そのような外傷は感染性因子(例えば、最近又はウイルス)、毒物、落下又は他の種類の事故に起因する傷害、又は遺伝的障害によって、又は他の不明の理由のために引き起こされ得る。よって、いくつかの実施形態において、神経損傷を患ったことがある患者の神経系の組織幹細胞を修飾し、その神経系の中の組織幹細胞の修飾により神経細胞とグリア細胞を産生し、その結果として神経系の欠陥を修復することによって対象の神経損傷を治療するため、温度感受性である本開示の温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)を使用することができる。いくつかの実施形態において、患者は自動車事故又は飛び込み事故などの事故の結果生じた、又は脳卒中の結果生じた脳又は脊髄の傷害などの神経損傷を患ったことがあってよい。
【0121】
神経変性疾患は脳及び/又は脊髄の細胞が失われる状態である。神経変性疾患は時を経て機能不全及び能力低下を引き起こす神経細胞の劣化又は神経細胞のミエリン鞘の劣化から生じる。結果として生じる状態は運動に関する問題(運動失調症など)及び記憶に関する問題(認知症など)を引き起こし得る。よって、いくつかの実施形態において、神経変性疾患を患う患者の神経系の中の組織幹細胞を修飾し、その神経系の中の組織幹細胞の修飾により神経細胞とグリア細胞を産生し、その結果として神経系の欠陥を修復することによって対象の神経変性疾患を治療するため、本開示の温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)を使用することができる。いくつかの実施形態において、前記作用物質が、前記対象の神経系を修飾し、かつ、前記疾患の変性状態を元に戻す。例示的な神経変性疾患としては、これだけに限定されるものではないが、副腎白質ジストロフィー(ALD)、アルコール中毒症、アレキサンダー病、アルパーズ病、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症(ルー・ゲーリッグ病)、毛細管拡張性運動失調症、バッテン病(シュピールマイヤー・フォクト・シェーグレン・バッテン病としても知られる)、牛海綿状脳症(BSE)、カナバン病、脳性麻痺、コケイン症候群、大脳皮質基底核変性症、クロイツフェルト・ヤコブ病、致死性家族性不眠症、前頭側頭葉変性症、ハンチントン病、HIV関連認知症、ケネディ病、クラッベ病、レビー小体型認知症、神経ボレリア症、マシャド・ジョセフ病(脊髄小脳失調症3型)、多系統委縮症、多発性硬化症、ナルコレプシー、ニーマンピック病、パーキンソン病、ペリツェウス・メルツバッハー病、ピック病、原発性側索硬化症、プリオン病、進行性核上性麻痺、レフサム病、サンドホフ病、シルダー病、亜急性連合性脊髄変性症併発性悪性貧血、シュピールマイヤー・フォクト・シェーグレン・バッテン病(バッテン病としても知られる)、脊髄小脳失調症、脊髄性筋委縮症、スティール・リチャードソン・オルゼウスキー病、脊髄癆、中毒性脳症が挙げられる。
【0122】
以上より、特定の障害に関連する症状を軽減又は改善するために、温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)を対象に投与する。癌治療の治療エンドポイントは腫瘍のサイズ又は体積の減少、腫瘍に対する血管形成の減少、又は腫瘍転移の減少を含み得る。腫瘍が除去されている場合、別の治療エンドポイントは除去された組織又は器官の再生であり得る。当技術分野における方法、例えば、腫瘍の画像撮影又は腫瘍マーカー若しくは癌の存在についての他の指標の検出を用いて癌治療の有効性を測定することができる。自己免疫疾患治療の治療エンドポイントは自己免疫応答の減少を含み得る。当技術分野における方法、例えば、自己免疫抗体の測定を用いて自己免疫疾患治療の有効性を測定することができ、治療対象におけるそのような抗体の減少はその治療が成功したことを示している。神経変性障害治療の治療エンドポイントは神経変性関連欠陥の減少、例えば、運動欠陥、記憶欠陥、又は行動欠陥が増加することの減少を含み得る。当技術分野における方法を用いて、例えば、認知障害を測定することにより神経変性障害治療の有効性を測定することができ、治療対象におけるそのような障害の減少はその治療が成功したことを示している。神経損傷治療の治療エンドポイントは損傷関連欠陥の減少、例えば、運動欠陥、記憶欠陥、又は行動欠陥が増加することの減少を含み得る。当技術分野における方法を用いて、例えば、運動性及び柔軟性を測定することにより神経損傷治療の有効性を測定することができ、治療対象におけるそのようなものの上昇はその治療が成功したことを示している。治療は100%の有効性を必要としない。例えば作用物質を用いる治療が無いときと比べた前記疾患(又はその症状)の少なくとも約10%、約15%、約25%、約40%、約50%、又はそれより高い割合での軽減が有効と見なされる。
【0123】
血管内皮細胞に導入/接触し、血管内皮細胞の性質を向上し、それによって対象のアテローム性硬化症及び/又は冠動脈疾患を治療するように、例えば、対象の血流に本開示の温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)を投与することによって、本開示の温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)を使用して、アテローム性硬化症及び/又は冠動脈疾患の治療を必要とする前記対象においてアテローム性硬化症及び/又は冠動脈疾患を治療することもできる。
【0124】
本開示の温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)はまた、それを必要としている1若しくは複数のヒト細胞及び/又は対象の1若しくは複数の遺伝毒性物質に対する抵抗性を提供するのに使用されてもよい。
増強されたZSCAN4発現による疾患及び障害の治療
【0125】
本明細書中に開示したように、ZSCAN4の発現によってテロメア長が増加し、ゲノム安定性が向上し、ゲノム異常及び/又は染色体異常が修正され、DNA損傷から細胞が保護され、及び/又はDNA修復が増強される。DNA修復は、細胞がその細胞のゲノムのDNA分子に対する損傷を特定し、修正する一群の過程を指すことができる。よって、例えば、ヒト細胞において、テロメア長が増加し、ゲノム安定性が向上し、ゲノム以上及び/又は染色体異常が修正され、DNA損傷から細胞が保護され、及び/又は斯かる細胞においてDNA修復が増強されるように、ZSCAN4の発現を一過性に増強すること関連する方法が本明細書中に提供される。いくつかの態様において、本開示は、血液又は造血器官の疾患を治療するために、テロメア長が増加するように、例えば、ヒト細胞においてZSCAN4の発現を一過性に増強することに関連する方法を提供する。いくつかの実施形態において、疾患とは骨髄不全症を含む。
【0126】
ZSCAN4の発現を増強するts作用物質が導入された哺乳動物細胞(例えば、ヒト骨髄細胞)は、本明細書中で「ZSCAN4*細胞」と呼ばれる。「ZSCAN4*細胞」としては、これだけに限定されるものではないが、ZSCAN4を一過性に発現する細胞が挙げられる。すなわち、ZSCAN4*細胞は、計測可能なZSCAN4を継続的に有するか、又はZSCAN4 mRNA若しくはタンパク質を継続的に発現することを必要としない。いくつかの実施形態において、ZSCAN4の作用は、急速であり、かつ、ZSCAN4の一過性の(例えば、数時間~数日間程度の)発現だけを必要とする。テロメアの場合では、ZSCAN4作用によってテロメアが伸長された時点で、テロメアは徐々に短くなるだけなので、更なるZSCAN4発現が長い期間必要とさるわけではない。従って、「ZSCAN4*細胞」としては、ZSCAN4の発現を増強するts作用物質を含有する細胞、及びts作用物質が導入されたが、すでに存在しない細胞の両方が挙げられる。
【0127】
テロメア異常を患っている対象などのそれを必要としている対象を治療するための方法及び組成物が提供される。テロメア異常は1つ以上のテロメア機能を混乱させるテロメアのあらゆる変化、例えば、テロメア短縮、テロメアDNAリピートの中断、又はテロメアDNAの突然変異を指す。高いZSCAN4発現が利益となり得るテロメア異常に関連する疾患又は障害としては、これだけに限定されるものではないが、テロメア短縮疾患、骨髄機能不全症候群、加齢性テロメア短縮疾患、及び早期老化障害が挙げられる。
【0128】
ヒト細胞においてZSCAN4発現を増強する温度感受性作用物質の利益を得ることができる(「テロメア生物学的障害」という用語によって包含される)テロメア短縮障害としては、これだけに限定されるものではないが、先天性角化不全症、ホイエラール・レイダーソン症候群、レーヴェース症候群、コーツプラス症候群、及び特発性肺線維症が挙げられる。いくつかの実施形態において、テロメア短縮障害は先天性角化不全症である。
【0129】
ヒト細胞においてZSCAN4発現を増強する温度感受性作用物質の利益を得ることができる骨髄不全症候群としては、これだけに限定されるものではないが、ファンコーニ貧血、無巨核球性血小板減少症、再生不良性貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血、発作性夜間ヘモグロビン尿症、ピアソン症候群、シュバッハマン・ダイアモンド症候群、及び骨髄異形成症候群が挙げられる。いくつかの実施形態において、骨髄不全症候群はファンコーニ貧血である。いくつかの実施形態において、治療を必要としている対象は、テロメア生物学的障害と骨髄不全症(例えば、先天性角化不全症)の両方に罹患している。
【0130】
ヒト細胞においてZSCAN4発現を増強する温度感受性作用物質の利益を得ることができる加齢性テロメア短縮疾患又は早期老化疾患としては、これだけに限定されるものではないが、ウェルナー症候群、ブルーム症候群、ハッチソン・ギルフォード早老症候群、コケイン症候群、色素性乾皮症、毛細管拡張性運動失調症、ロスモンド・トムソン症候群、硫黄欠乏性毛髪発育異常症、ジュバーグ・マルシジ症候群、及びダウン症が挙げられる。
【0131】
染色体異常を患っている対象などのそれを必要としている対象を治療するための方法及び組成物が提供される。染色体異常は染色体DNAの失われた部分、余分な部分、又は不規則な部分を生じる染色体中のあらゆる変則、変化、又は突然変異を指す。ある特定の実施形態において、染色体異常は異常な数の染色体又は1本以上の染色体における構造異常を生じる。本明細書において使用される場合、異数性は異常な数の染色体全体又は染色体部分を指すことができる。ヒト細胞においてZSCAN4発現を増強する温度感受性作用物質の利益を得ることができる異数性としては、これだけに限定されるものではないが、染色体ヌリソミー、染色体モノソミー、染色体トリソミー、染色体テトラソミー、及び染色体ペンタソミーを含む。ヒトの異数性の例には、これだけに限定されるものではないが、21番染色体トリソミー、16番染色体トリソミー、18番染色体トリソミー(エドワーズ症候群)、13番染色体トリソミー(パトー症候群)、X染色体モノソミー(ターナー症候群)、XXX異数性、XXY異数性、及びXYY異数性が挙げられる。ヒト部分異数性の例には、これだけに限定されるものではないが、1p36領域重複、17番染色体(p11.2p11.2)領域重複症候群、ペリツェウス・メルツバッハー病、22番染色体(q11.2q11.2)領域重複症候群、及びネコ眼症候群が挙げられる。いくつかの実施形態において、異数性は性染色体又は常染色体のうちの1つ以上の欠失を含み、それらの欠失によってネコなき症候群、ウォルフ・ヒルシュホーン、ウィリアムス・ボイレン症候群、シャルコー・マリー・トゥース病、遺伝性圧脆弱性ニューロパチー、スミス・マゲニス症候群、神経線維腫症、アラジール症候群、口蓋心臓顔面症候群、ディジョージ症候群、ステロイドスルファターゼ欠損、カルマン症候群、線型皮膚欠陥症の小眼症、副腎低形成、グリセロールキナーゼ欠損、ペリツェウス・メルツバッハー病、Y染色体上の精巣決定因子、無精子症(a因子)、無精子症(b因子)、無精子症(c因子)、又は1p36領域欠失などの状態が生じ得る。
ZSCAN4ポリヌクレオチド
【0132】
いくつかの実施形態において、ZSCAN4の発現を増強する本開示の治療用温度感受性作用物質は、ZSCAN4タンパク質をコードする核酸配列(コード領域)を含む核酸分子である。核酸分子としては、ZSCAN4タンパク質をコードするDNA、cDNA、及びRNA(mRNA)分子が挙げられる。ZSCAN4タンパク質をコードする全てのポリヌクレオチドは、ゲノム安定性又はテロメア長を調節する能力などのZSCAN4活性を有するZSCAN4タンパク質、変異体又はその断片をコードする限り本明細書に含まれることが理解される。ゲノム安定性は、DNAを忠実に複製し、かつ、DNA複製機構の完全性を維持する細胞の能力を指す。長いテロメアは細胞老化に対する緩衝を提供し、かつ、ゲノム安定性と全体的な細胞健常性を概ね示すと考えられる。染色体安定性(例えば、突然変異がほとんど無いこと、染色体再構成が無いこと、又は染色体数の変化が無いこと)もゲノム安定性と関連する。ゲノム安定性の喪失は癌、神経障害及び早期老化と関連する。ゲノム不安定性の兆候は突然変異率の上昇、大規模染色体再構成、染色体数の変化、及びテロメア短縮を含む。
【0133】
ZSCAN4核酸分子の配列は、当該技術分野で知られている。ZSCAN4核酸配列としては、これだけに限定されるものではないが、2細胞胚期特異的発現又はES細胞特異的発現を示すマウスZSCAN4遺伝子(ZSCAN4a、ZSCAN4b、ZSCAN4c、ZSCAN4d、ZSCAN4e及びZSCAN4fを含む)のいずれか1つ又はそのオルソログが挙げられる。いくつかの実施形態において、そのオルソログは、ヒトZSCAN4である。ヒトZSCAN4及びそのオーソログをコードする核酸配列は、Koに対する米国特許第10,335,456B1号(参照により本明細書に援用する)の配列表に開示されている。
【0134】
ZSCAN4ポリヌクレオチドの断片及び変異体を、標準的な分子技術を使用して当業者によって調製できる。いくつかの実施形態において、ZSCAN4ポリヌクレオチドは、天然で生じたZSCAN4タンパク質の1若しくは複数の亜鉛フィンガードメインを欠いているZSCAN4タンパク質の切断型をコードする。いくつかの実施形態において、ZSCAN4ポリヌクレオチドは、ZSCAN4タンパク質の変異体をコードする。それらのヌクレオチドはリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、又はどちらかのヌクレオチドの修飾型であり得る。その用語は一本鎖型及び二本鎖型のDNAを含む。組換え核酸は天然で生じたものではない配列を有するもの、又は他の場合であれば分かれている2つの配列断片の人工的な結合によって作成される配列を有するものである。
【0135】
ZSCAN4コード領域は、コード領域の転写を指示するようにプロモーターに動作可能に連結され得る。プロモーターとは、動作可能に連結されたコード領域の転写を指示する核酸制御配列を指す。プロモーターは、転写の開始部位の近くで必要な核酸配列を含む。プロモーターはまた、任意選択で、遠位エンハンサー又はリプレッサー因子も含む。構成的プロモーターは、継続的に活性であり、かつ、外部シグナル又は分子の調整を受けることがないプロモーターである。対照的に、誘導プロモーターの活性は外部シグナル又は外部分子(例えば、転写因子)によって調節される。第1の核酸配列が第2の核酸配列と機能的関係状態で配置されているときにその第1の核酸配列はその第2の核酸配列に動作可能に連結している。例えば、プロモーターがコード配列の転写又は発現に影響を与える場合にそのプロモーターはそのコード配列に動作可能に連結している。通常、動作可能に連結している核酸配列は連続的であり、2つのタンパク質コード領域を結合することが必要な場合には同じリーディングフレームにある。異種性ポリペプチド又は異種性ポリヌクレオチドは異なる起源又は種に由来するポリペプチド又はポリヌクレオチドを指す。プロモーターは転写開始部位の近傍にある必須核酸配列を含み、例えば、ポリメラーゼII型プロモーターの場合はTATA配列を含む。プロモーターは転写開始部位から数千塩基対もの位置にあり得る遠位エンハンサー配列又は遠位リプレッサー配列を含んでもよい。一例では、前記プロモーターは構成的プロモーター、例えば、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108(2):193-9, 1991)である。いくつかの実施形態において、前記プロモーターはテトラサイクリン誘導プロモーター(Masui et al., Nucleic Acids Res. 33:e43, 2005)などの誘導プロモーターである。Zscan4の発現をおこなわせるために使用され得る他の例示的なプロモーターとしては、これだけに限定されるものではないが:lacシステム、trpシステム、tacシステム、trcシステム、ラムダファージの主要オペレーター領域及びプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、SV40の初期プロモーター及び後期プロモーター;ポリオーマウイルス、アデノウイルス、レトロウイルス、バキュロウイルス及びシミアンウイルス由来のプロモーター;3-ホスホグリセリン酸キナーゼのプロモーター、酵母酸ホスファターゼのプロモーター、及び酵母α交配因子のプロモーターが挙げられる。いくつかの実施形態において、天然のZSCAN4プロモーターが使用される。
ZSCAN4ポリペプチド
【0136】
すべてのZSCAN4ポリペプチドは、ゲノム安定性又はテロメア長を調節する能力などのZSCAN4活性を有する限り本明細書中に含まれることが理解される。「ポリペプチド」と「タンパク質」という用語は、本明細書中で互換的に使用され、かつ、自然に生じるZSCAN4タンパク質、変異体、又はZSCAN4活性を有するその断片を含む。
【0137】
ZSCAN4タンパク質のアミノ酸配列は、当該技術分野で知られている。ZSCAN4アミノ酸配列としては、これだけに限定されるものではないが、2細胞胚期特異的発現又はES細胞特異的発現を示すマウスZSCAN4遺伝子(ZSCAN4a、ZSCAN4b、ZSCAN4c、ZSCAN4d、ZSCAN4e及びZSCAN4fを含む)のいずれか1つ又はそのオルソログが挙げられる。いくつかの実施形態において、そのオルソログは、ヒトZSCAN4である。ヒトZSCAN4及びそのオーソログをコードするアミノ酸配列は、Koに対する米国特許第10,335,456B1号(参照により本明細書に援用する)の配列表に開示されている。
【0138】
ZSCAN4タンパク質の断片及び変異体を、標準的な分子技術を使用して当業者によって調製できる。いくつかの実施形態において、ZSCAN4タンパク質は、天然で生じたZSCAN4タンパク質の1若しくは複数の亜鉛フィンガードメインを欠いているZSCAN4の切断型である。いくつかの実施形態において、ZSCAN4タンパク質は、天然で生じたZSCAN4タンパク質の変異体である。
【0139】
いくつかの好ましい実施形態において、ヒトZSCAN4タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号38、又は配列番号39~42から成る群のうちの1つを含む。
【0140】
hZSCAN4、(aa1-433:):
【化1】
【0141】
hZSCAN4(aa1-311):
【化2】
【0142】
hZSCAN4(aa1-339):
【化3】
【0143】
hZSCAN4(aa1-367):
【化4】
【0144】
hZSCAN4(aa1-395):
【化5】
【0145】
いくつかの実施形態において、ヒトZSCAN4タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号38~42から成る群のうちの1つに対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一である。
【0146】
2つ以上の核酸配列、又は2つ以上のアミノ酸配列の間の同一性/類似性はそれらの配列の間の同一性又は類似性の見地から表される。配列同一性をパーセンテージ同一性の見地から測定することができ、そのパーセンテージが高いほどそれらの配列が同一である。配列類似性を(保存的アミノ酸置換を考慮する)パーセンテージ類似性の見地から測定することができ、そのパーセンテージが高いほどそれらの配列が類似している。核酸配列又はアミノ酸配列のホモログ又はオルソログは標準的方法を用いて整列させられると比較的に高い程度の配列同一性/類似性を有する。それらのオルソロガスなタンパク質又はcDNAがより遠い類縁関係の種(例えば、ヒト配列やマウス配列)と比較してより近い類縁関係の種(例えば、ヒト配列やサル配列)に由来する場合にこの相同性はより有意である。
【0147】
2つ以上の配列(例えば、核酸配列又はアミノ酸配列)という文脈の中の「同一である」又はパーセント「同一性」という用語は同一である2つ以上の配列又は亜配列を指すことができる。2つの配列が後続の配列比較アルゴリズムのうちの1つを使用して、又は手作業のアラインメントと目視検査によって評価される場合に比較ウィンドウ又は指定領域にわたる最大の対応性を求めてそれらの配列が比較及び整列させられるとき、それらの2つの配列が同一であるアミノ酸残基又はヌクレオチドの指定されたパーセンテージ(すなわち、指定領域にわたる、又は、指定されていないときは配列全体にわたる95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性)を有する場合にそれらの2つの配列は実質的に同一である。
【0148】
配列比較のために典型的には1つの配列が基準配列の役を務め、その基準配列に対して試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用するときは試験配列と基準配列をコンピューターに入力し、亜配列座標を指定し、必要であれば配列アルゴリズムプログラムパラメーターを指定する。初期プログラムパラメーターを使用することができ、又は代替パラメーターを指定することができる。その後に配列比較アルゴリズムがプログラムパラメーターに基づいて基準配列と比べた試験配列のパーセント配列同一性を計算する。同一性について2つの配列を比較するときにはそれらの配列が連続的である必要はないが、全体のパーセント同一性を低下させることになるペナルティーがあらゆるギャップに付随する。blastpについて、初期パラメーターはギャップ・オープニングペナルティー=11とギャップ・エクステンションペナルティー=1である。blastnについて、初期パラメーターはギャップ・オープニングペナルティー=5とギャップ・エクステンションペナルティー=2である。
【0149】
比較ウィンドウは、これだけに限定されるものではないが、20から600まで、一般的には約50から約200まで、より一般的には約100から約150までをはじめとする連続的位置数のいずれか1つのセグメントに対する照合を含んでよく、その比較ウィンドウ内で配列と基準配列の2つの配列を最適な状態に整列させた後に同じ連続的位置数のその基準配列に対してその配列を比較することができる。比較のための配列アラインメント方法が周知である。比較のための最適な配列アラインメントは、例えば、Smith and Waterman (1981)の局所的相同性アルゴリズムによって、Needleman and Wunsch (1970) J Mol Biol 48(3):443-453の相同性整列アルゴリズムによって、Pearson and Lipman (1988) Proc Natl Acad Sci USA 85(8):2444-2448の類似性検索方法によって、これらのアルゴリズム(ウィスコンシン・ジェネティクス・ソフトウェア・パッケージ(Genetics Computer Group, 575 Science Dr., Madison, WI)中のGAP、BESTFIT、FASTA、及びTFASTA)のコンピューター化実行によって、又は手作業のアラインメントと目視検査[例えば、Brent et al., (2003) Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, Inc. (Ringbou Ed)を参照のこと]によって実施され得る。
【0150】
パーセント配列同一性と配列類似性の決定に適切なアルゴリズムの2つの例はBLASTアルゴリズムとBLAST2.0アルゴリズムであり、それらのアルゴリズムはそれぞれAltschul et al. (1997) Nucleic Acids Res 25(17):3389-3402及びAltschul et al. (1990) J. Mol Biol 215(3)-403-410に記載されている。BLAST分析を実施するためのソフトウェアは米国国立バイオテクノロジー情報センターによって公開されている。このアルゴリズムは、クエリ配列内の短いワード長Wであって、データベース配列内の同じ長さのワードと整列させるとある正の値の閾値スコアTと一致するか、又はTを満たすワード長Wを特定することによって高スコア配列ペア(HSP)を最初に特定することを含む。Tは隣接ワードスコア閾値と呼ばれる(Altschul et al., 上掲)。これらの初期隣接ワードヒットはそれらの初期隣接ワードヒットを含むより長いHSPを見つけるための検索を開始するための種としての役を務める。それらのワードヒットは累積アラインメント・スコアが増加し得る限りそれぞれの配列に沿って両方向に延ばされる。累積スコアはヌクレオチド配列についてパラメーターM(一致残基対に対するリワード・スコア;常に0より上である)とパラメーターN(ミスマッチ残基に対するペナルティー・スコア;常に0より下である)を使用して計算される。アミノ酸配列については累積スコアを計算するためにスコアリング・マトリックスを使用する。各方向でのワードヒットの延伸は累積アラインメント・スコアが累積アラインメント・スコアの最大達成値から量Xだけ下落するときに、1つ以上の負のスコア形成残基アラインメントの蓄積のために累積スコアが0又はそれより下になるときに、又はどちらかの配列の末端に達したときに停止する。BLASTアルゴリズムパラメーターW、T、及びXはアラインメントの感度と速度を決定する。アミノ酸配列について、BLASTPプログラムは3のワード長と10の期待値(E)、及び50のBLOSUM62スコアリング・マトリックス[Henikoff and Henikoff, (1992) Proc Natl Acad Sci USA 89(22):10915-10919を参照のこと]アラインメント(B)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、及び両鎖の比較を初期設定として使用する。ヌクレオチド配列について、BLASTNプログラムは11のワード長(W)、10の期待値(E)、M=5、N=-4、及び両鎖の比較を初期設定として使用する。
【0151】
BLASTアルゴリズムは2つの配列の間の類似性の統計分析も実施する(例えば、Karlin and Altschul, (1993) Proc Natl Acad Sci USA 90(12):5873-5877を参照のこと)。BLASTアルゴリズムによって提供される類似性の1つの尺度は最小合計確度(P(N))であり、それは2つのヌクレオチド配列又はアミノ酸配列の間での一致が偶然に発生する確率の指標を提供する。例えば、基準核酸に対する試験核酸の比較における最小合計確度が約0.2未満、より好ましくは約0.01未満、最も好ましくは約0.001未満である場合にその核酸はその基準配列に類似していると見なされる。
【0152】
特定の実施形態において、Zscan4ポリペプチドをコードするZscan4ポリヌクレオチドは、ヒトZSCAN4ポリヌクレオチド又はその相同体である。いくつかの実施形態において、Zscan4ポリヌクレオチドは、配列番号38~42から成る群のうちの1つに対して少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、又は100%同一であるアミノ酸配列を含むヒトZSCAN4タンパク質をコードする。
【0153】
別段説明されない限り、本明細書において使用される全ての技術用語及び科学用語は本開示が属する技術分野の当業者が共通して理解するものと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」、及び「the」は文脈が別段明確に指示しない限り複数形の指示物を含む。同様に、「又は」という単語は文脈が別段明確に指示しない限り「及び」を含むものとする。したがって、「A又はBを含む」はA又はBを含むこと、又はA及びBを含むことを意味する。核酸又はポリペプチドについて与えられている全ての塩基サイズ又はアミノ酸サイズ、及び全ての分子量値又は分子質量値は近似値であり、かつ、説明のために提供されていることがさらに理解されるべきである。本明細書に記載される方法及び材料と類似又は同等の方法及び材料を本開示の実施又は試験に使用することができるが、適切な方法と材料を以下に記載する。本明細書において言及された全ての特許出願公開、特許出願、特許、及び他の参照文献は全体が参照により援用される。矛盾がある場合は用語の説明を含み本明細書が優先する。加えて、材料、方法、及び実施例はただの例示であり、それらが限定的なものであることは意図されていない。
例示的な実施形態
1.
温度感受性作用物質の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、以下:
i) 温度感受性活性が1若しくは複数の細胞において効果を生じさせるのに十分な期間にわたり温度感受性活性を誘発するための許容温度にて、温度感受性作用物質を含む1若しくは複数の細胞をインキュベートし;そして
ii) 非許容温度にて1若しくは複数の細胞をインキュベートすること、ここで、該非許容温度は、温度感受性作用物質の温度感受性活性を低減する、
を含み、
ここで、該温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4タンパク質、又はヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む治療用作用物質を含み、かつ、該効果が治療効果を含む、方法。
2.
ステップi)の前に、以下:
1若しくは複数の細胞を、温度感受性作用物質と接触させること、
をさらに含む、実施形態1に記載の方法。
3.
前記1若しくは複数の細胞は、温度感受性作用物質と接触させるときに、許容温度である、実施形態2に記載の方法。
4.
1若しくは複数の細胞を、治療効果を必要とする対象に投与することをさらに含む、実施形態1~3のいずれか一項に記載の方法。
5.
前記の1若しくは複数の細胞を非許容温度にてインキュベートすることが、治療効果を必要とする対象に1若しくは複数の細胞を投与することを含む、ここで、該対象の体温が非許容温度である、実施形態1~3のいずれか一項に記載の方法。
6.
前記1若しくは複数の細胞が、該1若しくは複数の細胞を対象に投与する前に、非許容温度にてさらにインキュベートされる、実施形態4又は5に記載の方法。
7.
前記1若しくは複数の細胞が、温度感受性作用物質と該1若しくは複数の細胞を接触させる前に、対象から単離される、実施形態2~6のいずれか一項に記載の方法。
8.
前記治療効果が、1若しくは複数の細胞のテロメア長を増加させること含む、実施形態1~7のいずれか一項に記載の方法。
9.
前記1若しくは複数の細胞が、哺乳動物細胞である、実施形態1~8のいずれか一項に記載の方法。
10.
前記対象がヒト対象である、実施形態3~8のいずれか一項に記載の方法。
11.
ヒト対象において温度感受性作用物質の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、ここで、対象の1若しくは複数の細胞が温度感受性作用物質を含み、ここで、該温度感受性作用物質の温度感受性活性が許容温度にて誘発され、かつ、ここで、該許容温度が対象の体温より低く、以下:
i) 対象の体温を許容温度まで下げ;
ii) 前記下げた体温を、温度感受性活性が対象において効果を誘発するのに十分な期間にわたり維持し;及び
iii) 対象の体温を正常体温まで上げること、
を含み、
ここで、該温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4タンパク質、又はヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む治療用作用物質を含み、かつ、該効果が治療効果である、方法。
12.
ヒト対象において温度感受性作用物質の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、ここで、該温度感受性作用物質の温度感受性活性が許容温度にて誘発され、かつ、ここで、該許容温度が対象の体温より低く、以下:
i) 対象の体温を許容温度まで下げ;
ii) 対象の1若しくは複数の細胞に、温度感受性作用物質を投与し;
iii) 前記下げた体温を、温度感受性活性が対象において効果を誘発するのに十分な期間にわたり維持し;及び
iv) 対象の体温を上げて、正常体温まで戻すこと、
を含み、
ここで、ステップ(i)が、ステップ(ii)の前、後、又はそれと同時に行われ、ここで、該温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4タンパク質、又はヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む治療用作用物質を含み、かつ、該効果が治療効果である、方法。
13.
前記温度感受性作用物質が、全身的に投与される、実施形態12に記載の方法。
14.
前記温度感受性作用物質が、静脈内に投与される、実施形態13に記載の方法。
15.
前記温度感受性作用物質が、対象の特定の組織又は器官に投与される、実施形態12に記載の方法。
16.
前記温度感受性作用物質が、硬膜外注射によって脳や脊髄に投与される、実施形態15に記載の方法。
17.
前記温度感受性作用物質が、皮内注射によって標的器官に投与される、実施形態15に記載の方法。
18.
前記温度感受性作用物質が、注射針カテーテルを用いた内視鏡によって標的器官に投与される、実施形態15に記載の方法。
19.
前記温度感受性作用物質が、血管カテーテルによって標的器官に投与される、実施形態15に記載の方法。
20.
前記標的器官が、肝臓、腎臓、骨格筋、心筋、膵臓、脾臓、心臓、脳、脊髄、皮膚、眼、肺、腸、胸腺、骨髄、骨、及び軟骨から成る群から選択される、実施形態17~19のいずれか一項に記載の方法。
21.
前記温度感受性作用物質が、吸入法によって投与される、実施形態12に記載の方法。
22.
前記対象の体温を下げることが、目標温度管理(TTM)手順を用いることを含み、ここで、該TTM手順が、冷却カテーテル、冷却ブランケット、及び氷から成る群のうちの1つを、対象に適用することを含む、実施形態11~21のいずれか一項に記載の方法。
23.
前記対象が、哺乳類の対象であり、任意選択でここで、対象がヒトである、実施形態11~22のいずれか一項に記載の方法。
24.
前記温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4タンパク質を含む、実施形態1~23のいずれか一項に記載の方法。
25.
前記温度感受性作用物質が、ヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む、実施形態1~23のいずれか一項に記載の方法。
26.
前記温度感受性ウイルスベクターが、ヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む、実施形態25に記載の方法。
27.
前記温度感受性ウイルスベクターが、センダイウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、及びアルファウイルスから成る群から選択される、実施形態26に記載の方法。
28.
前記温度感受性ウイルスベクターが、アルファウイルスである、実施形態26に記載の方法。
29.
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、実施形態28に記載の方法。
30.
前記温度感受性ウイルスベクターが、センダイウイルスである、実施形態26に記載の方法。
31.
前記センダイウイルスが、SeV18+/TS15ΔFである、実施形態30に記載の方法。
32.
前記温度感受性活性が、温度感受性ウイルスベクターの複製と転写を含む、実施形態26~31のいずれか一項に記載の方法。
33.
前記温度感受性自己複製RNAが、ヒトZSCAN4のコード領域を含む核酸を含む、実施形態25に記載の方法。
34.
前記自己複製RNAが、ウイルス構造タンパク質コード領域を欠いているアルファウイルスレプリコンを含む、実施形態33に記載の方法。
35.
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、実施形態34に記載の方法。
36.
前記温度感受性活性が、温度感受性自己複製RNAの複製と転写のうちの一方又は両方を含む、実施形態33~35のいずれか一項に記載の方法。
37.
前記コード領域が、プロモーターに動作可能に連結されている、実施形態25~36のいずれか一項に記載の方法。
38.
前記温度感受性活性が治療効果を生じさせるのに十分な期間が、約12時間~約12週間の範囲にあり、任意選択でここで、該期間が1~7日間である、実施形態1~10のいずれか一項に記載の方法。
39.
前記対象において治療効果が誘発されるのに十分な期間が、約12時間~約7日間であり、任意選択でここで、該期間が約12時間~約72時間である、実施形態11~37のいずれか一項に記載の方法。
40.
前記許容温度が、30℃~36℃又は38℃~50℃の範囲にある、実施形態1~39のいずれか一項に記載の方法。
41.
前記許容温度が、33℃±0.5℃である、実施形態40に記載の方法。
42.
前記非許容温度が、37℃±0.5℃である、実施形態40又は実施形態41に記載の方法。
43.
前記1若しくは複数の細胞が、ヒト細胞である、実施形態1~42のいずれか一項に記載の方法。
44.
前記1若しくは複数のヒト細胞が、成体幹細胞、組織幹細胞、始原細胞、胚性幹細胞、又は誘導多能性幹細胞である、実施形態43に記載の方法。
45.
前記1若しくは複数のヒト細胞が、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞、脂肪幹細胞、神経幹細胞、及び生殖幹細胞から成る群から選択される、実施形態43に記載の方法。
46.
前記1若しくは複数のヒト細胞が、体細胞、成熟細胞、又は分化細胞である、実施形態43に記載の方法。
47.
前記1若しくは複数のヒト細胞が、表皮細胞、線維芽細胞、リンパ球、肝細胞、上皮細胞、筋細胞、軟骨細胞、骨細胞、脂肪細胞、心筋細胞、膵臓細胞、膵臓β細胞、角化細胞、赤血球、末梢血単核細胞(PBMC)、ニューロン、グリア細胞、神経細胞、星状細胞、生殖細胞、精細胞、及び卵母細胞から成る群から選択される、実施形態46に記載の方法。
48.
前記1若しくは複数のヒト細胞が、ヒト骨髄細胞である、実施形態43に記載の方法。
49.
前記ヒト骨髄細胞が、CD34+造血幹細胞である、実施形態48に記載の方法。
50.
前記ヒト対象がテロメア生物学的障害に罹患しており、任意選択でここで、該対象が骨髄不全症に罹患している、実施形態48又は実施形態49に記載の方法。
51.
血液又は造血器官の疾患を治療する方法であって、以下:
i) 該疾患に罹患しているヒト対象の末梢血に骨髄から造血幹細胞を動員し;
ii) その対象から得られた末梢血単核細胞のサンプルからCD34+細胞を単離し;
iii) 単離したCD34+細胞を33℃±0.5℃の温度にてインキュベートし;
iv) インキュベートしたCD34+細胞を、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性センダイウイルスベクターと接触させ;
v) 接触させたCD34+細胞を、33℃±0.5℃の許容温度にて少なくとも約12~72時間の期間にわたり維持し、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写が、許容温度にて起こり、ヒトZSCAN4の発現増加につながり;及び
vi) 細胞を移植するのに好適な条件下で、接触させたCD34+細胞を対象に注入して、疾患を治療すること、
を含む方法。
52.
血液又は造血器官の疾患を治療する方法であって、以下:
i) 該疾患に罹患しているヒト対象の末梢血に骨髄細胞から造血幹細胞を動員し;
ii) その対象から得られた末梢血単核細胞のサンプルからCD34+細胞を単離し;
iii) 単離したCD34+細胞を、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性センダイウイルスベクターと接触させ;
iv) 接触させたCD34+細胞を、33℃±0.5℃の許容温度にて少なくとも約12~72時間の期間にわたりインキュベートし、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写が、許容温度にて起こり、ZSCAN4の発現増加につながり;及び
v) 細胞を移植するのに好適な条件下で、接触させたCD34+細胞を対象に注入して、疾患を治療すること、
を含む方法。
53.
接触させたCD34+細胞を対象に注入する前に、接触させたCD34+細胞を37℃±0.5℃の非許容温度にてインキュベートすること、ここで、前記温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写及びヒトZSCAN4の発現が、非許容温度にて停止する、
をステップv)の後にさらに含む、実施形態51に記載の方法。
54.
接触させたCD34+細胞を対象に注入する前に、接触させたCD34+細胞を37℃±0.5℃の非許容温度にてインキュベートすること、ここで、前記温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写及びヒトZSCAN4の発現が、非許容温度にて停止する、
をステップiv)の後にさらに含む、実施形態52に記載の方法。
55.
前記接触させたCD34+細胞が、37℃±0.5℃の非許容温度にて約30分間~約10日間にわたり、任意選択で約30~180分間にわたりインキュベートされる、実施形態53又は実施形態54に記載の方法。
56.
前記造血幹細胞が、対象への顆粒球コロニー刺激因子とプレリキサホルの一方又は両方の投与によって動員される、実施形態51~55のいずれか一項に記載の方法。
57.
前記末梢血単核細胞が、アフェレーシスによって対象から得られる、実施形態51~56のいずれか一項に記載の方法。
58.
前記CD34+細胞が、抗CD34抗体と磁性ビーズを使用したポジティブセレクションによって末梢血単核細胞から単離される、実施形態51~57のいずれか一項に記載の方法。
59.
前記接触させたCD34+細胞が、注入前に、洗浄され、そして、無菌の等張水性溶液中に再懸濁される、実施形態51~58のいずれか一項に記載の方法。
60.
前記接触させたCD34+細胞が、約1.0×10^5細胞/kg~約1.0×10^7細胞/kg、任意選択で約2.0~8.0×10^6細胞/kgの用量で静脈内に注入される、実施形態59に記載の方法。
61.
血液又は造血器官の疾患を治療する方法であって、以下:
i) 該疾患に罹患しているヒト対象に、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性センダイウイルスベクターを投与し;
ii) 対象の中核体温を、33℃±0.5℃の許容温度まで下げ;
iii) 約12時間~約7日間、又は約12~72時間の期間にわたり、許容温度にて対象の中核体温を維持し、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写が許容温度にて起こり、ヒトZSCAN4の発現増加につながり;及び
iv) 対象の中核体温を、正常な、37℃±0.5℃の非許容温度に戻すこと、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写及びヒトZSCAN4の発現が、非許容温度にて停止する、
を含む方法。
62.
血液又は造血器官の疾患を治療する方法であって、以下:
i) 該疾患に罹患している対象の中核体温を、33℃±0.5℃の許容温度まで下げ;
ii) 対象に、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性センダイウイルスベクターを投与し;
iii) 約12時間~約7日間、又は約12~72時間の期間にわたり、許容温度にて対象の中核体温を維持し、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写が許容温度にて起こり、ヒトZSCAN4の発現増加につながり;及び
iv) 対象の中核体温を、正常な、37℃±0.5℃の非許容温度に戻すこと、ここで、該温度感受性センダイウイルスベクターの複製と転写及びヒトZSCAN4の発現が、非許容温度にて停止する、
を含む方法。
63.
前記対象の中核体温が、目標温度管理(TTM)手順を使用して下げられ、ここで、該TTM手順が、冷却カテーテル、冷却ブランケット、及び氷から成る群のうちの1つを、対象に適用することを含む、実施形態61又は実施形態62に記載の方法。
64.
前記ヒト対象が、治療前に骨髄不全症と診断され、任意選択でここで、該骨髄不全症が、好中球減少症、血小板減少症、及び貧血のうちの1若しくは複数を含む、実施形態51~63のいずれか一項に記載の方法。
65.
前記対象が、癌を患っていない、実施形態51~64のいずれか一項に記載の方法。
66.
前記疾患が、テロメア生物学的障害である、実施形態51~65のいずれか一項に記載の方法。
67.
前記テロメア生物学的障害が、先天性角化不全症、ホイエラール・レイダーソン症候群、レーヴェース症候群、コーツプラス症候群、特発性肺線維症、及び肝臓硬変症から成る群から選択される、実施形態66に記載の方法。
68.
前記テロメア生物学的障害が、以下:
i) 末梢血液リンパ球、B細胞、及び未感作T細胞のうちの1若しくは複数における1パーセンタイル未満の年齢調整平均テロメア長;及び
ii) DKC1、TERC、TERT、NOP10、NHP2、TINF2、CTC1、PARN、RTEL1、ACD、USB1、及びWRAP53から成る群から選択される遺伝子における病原性突然変異、
のうちの一方又は両方によって定義される、実施形態66に記載の方法。
69.
前記疾患が、骨髄不全症候群である、実施形態51~63のいずれか一項に記載の方法。
70.
前記骨髄不全症候群が、ファンコーニ貧血、無巨核球性血小板減少症、再生不良性貧血、ダイアモンド・ブラックファン貧血、発作性夜間ヘモグロビン尿症、ピアソン症候群、シュバッハマン・ダイアモンド症候群、及び骨髄異形成症候群から成る群から選択される、実施形態69に記載の方法。
71.
前記疾患が、核型異常に関連する、実施形態64に記載の方法。
72.
前記のヒトZSCAN4のアミノ酸配列が、配列番号38を含むか、又は配列番号38に対して少なくとも95%同一である、実施形態1~71のいずれか一項に記載の方法。
73.
前記のヒトZSCAN4のアミノ酸配列が、配列番号39、配列番号40、配列番号41、及び配列番号42から成る群のうちの1つを含むか、又は配列番号39、配列番号40、配列番号41、及び配列番号42から成る群のうちの1つに対して少なくとも95%同一である、実施形態1~71のいずれか一項に記載の方法。
74.
前記温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNAが、12~18ヌクレオチドの挿入を伴った非構造タンパク質コード領域を含み、ここで、該挿入が、非構造タンパク質2(nsP2=ヘリカーゼプロテイナーゼ)のβシート5とβシート6との間に4~6個の追加アミノ酸を含むnsP2の発現をもたらし、任意選択でここで、該追加アミノ酸が、ウイルスベクター又は自己複製RNAの温度感受性をもたらす、実施形態26~50のいずれか一項に記載の方法。
75.
前記追加アミノ酸が、配列番号43(GCGRT)、配列番号44(TGAAA)、及び配列番号45(LRPHP)から成る群から選択される1つの配列を含む、実施形態74に記載の方法。
76.
前記追加アミノ酸が、配列番号44(TGAAA)の配列を含む、実施形態74に記載の方法。
77.
前記NsP2のアミノ酸配列が、配列番号29~36から成る群から選択される1つの配列を含む、実施形態76に記載の方法。
78.
温度感受性作用物質であって、ここで、該作用物質が、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸、及び12~18ヌクレオチドの挿入を伴った非構造タンパク質コード領域を含む温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNAであり、ここで、該挿入が、非構造タンパク質2(nsP2=ヘリカーゼプロテイナーゼ)のβシート5とβシート6との間に4~6個の追加アミノ酸を含むnsP2の発現をもたらし、任意選択でここで、該追加アミノ酸が、ウイルスベクター又は自己複製RNAの温度感受性をもたらす、温度感受性作用物質。
79.
前記追加アミノ酸が、配列番号43(GCGRT)、配列番号44(TGAAA)、及び配列番号45(LRPHP)から成る群から選択される1つの配列を含む、実施形態78に記載の温度感受性作用物質。
80.
前記追加アミノ酸が、配列番号44(TGAAA)の配列を含む、実施形態78に記載の温度感受性作用物質。
81.
前記NsP2のアミノ酸配列が、配列番号29~36から成る群から選択される1つの配列を含む、実施形態81に記載の温度感受性作用物質。
82.
前記作用物質が、温度感受性アルファウイルスベクターである、実施形態78~81のいずれか一項に記載の温度感受性作用物質。
83.
前記作用物質が、ウイルス構造タンパク質コード領域を欠いているアルファウイルスレプリコンを含む温度感受性自己複製RNAである、実施形態78~81のいずれか一項に記載の温度感受性作用物質。
84.
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、実施形態82又は実施形態83に記載の温度感受性作用物質。
85.
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルスである、実施形態82又は実施形態83に記載の温度感受性作用物質。
86.
対象において温度感受性作用物質(ts作用物質)の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、ここで、該ts作用物質が、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNAであり、ここで、1若しくは複数の細胞が、対象の体の表面又は表面付近にて、ts作用物質を含み、ここで、ts作用物質の温度感受性活性が、許容温度におけるヒトZSCAN4の発現を含み、かつ、ここで、許容温度が対象の表面体温であり、以下:
i) 対象の表面体温を、温度感受性活性が対象において効果を誘発するのに十分な期間にわたり許容温度で維持し;及び
ii) 対象の表面体温を、温度感受性活性が対象において停止するのに十分な期間にわたり非許容温度まで上げること、
を含む方法。
87.
対象において温度感受性作用物質(ts作用物質)の温度感受性活性を一過性に誘発する方法であって、ここで、該ts作用物質が、ヒトZSCAN4のコード領域を含む異種核酸を含む温度感受性ウイルスベクター又は温度感受性自己複製RNAであり、ここで、ts作用物質の温度感受性活性が、許容温度におけるヒトZSCAN4の発現を含み、かつ、ここで、許容温度が対象の表面体温であり、以下:
i) ts作用物質を、対象の体の表面又は表面付近の1若しくは複数の細胞に投与し;及び
ii) 対象の表面体温を、温度感受性活性が対象において効果を誘発するのに十分な期間にわたり許容温度で維持すること、
を含む方法。
88.
iii) 対象の表面体温を、温度感受性活性が対象において停止するのに十分な期間にわたり非許容温度まで上げること、
をさらにを含む、実施形態87に記載の方法。
89.
前記温度感受性作用物質が、i) 皮内又は皮下;或いはii) 筋肉内、に投与される、実施形態86又は実施形態87に記載の方法。
90.
前記温度感受性作用物質が、鼻腔内に投与される、実施形態86又は実施形態87に記載の方法。
91.
前記非許容温度が36℃超であり、かつ、前記許容温度が36℃未満であり、任意選択でここで、該許容温度が約31℃~約34℃、又は約33℃±0.5℃であり、かつ、該非許容温度が37℃±0.5℃である、実施形態86~90のいずれか一項に記載の方法。
92.
前記のヒトZSCAN4発現の効果が、予防効果又は治療効果である、実施形態86~91のいずれか一項に記載の方法。
93.
前記ts作用物質が、温度感受性ウイルスベクターであり、かつ、前記温度感受性活性が、温度感受性ウイルスベクターの複製と転写をさらに含む、実施形態86~92のいずれか一項に記載の方法。
94.
前記温度感受性ウイルスベクターが、センダイウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、及びアルファウイルスから成る群から選択される、実施形態93に記載の方法。
95.
前記温度感受性ウイルスベクターがアルファウイルスであり、任意選択でここで、該アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、実施形態93の方法。
96.
前記温度感受性ウイルスベクターが、センダイウイルスである、実施形態93に記載の方法。
97.
前記ts作用物質が温度感受性自己複製RNAであり、かつ、前記温度感受性活性が、温度感受性自己複製RNAの複製と転写のうちの一方又は両方をさらに含む、実施形態86~92のいずれか一項に記載の方法。
98.
前記自己複製RNAが、アルファウイルスのウイルス構造タンパク質コード領域を欠いているアルファウイルスレプリコンを含む、実施形態97に記載の方法。
99.
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、シンドビスウイルス、及びセムリキフォレストウイルスから成る群から選択される、実施形態98に記載の方法。
100.
前記アルファウイルスが、ベネズエラウマ脳炎ウイルスである、実施形態98に記載の方法。
101.
前記温度感受性活性が効果を生じさせるのに十分な期間が、約12時間~約12週間の範囲にある、任意選択で、該期間が1~7日間である、実施形態86~100のいずれか一項に記載の方法。
102.
前記対象において効果を誘発するのに十分な期間が、約12時間~約7日間であり、任意選択でここで、該期間が約12時間~約72時間である、実施形態86~100のいずれか一項に記載の方法。
103.
前記対象が哺乳類の対象であり、任意選択でここで、該対象がヒトである、実施形態86~102のいずれか一項に記載の方法。
【実施例
【0154】
略語:Aura(アウラウイルス);BFV(バーマーフォレストウイルス);GFP(緑色蛍光タンパク質);GOI(着目の遺伝子);IRES(内部リボソーム侵入部位);LUC(ルシフェラーゼ);ONNV(オニョン-ニョンウイルス);RRV(ロスリバーウイルス);SeV(センダイウイルス);SeVt(温度感受性センダイウイルス);SFV(セムリキフォレストウイルス);shRNA(短いヘアピンRNA);SINV(シンドビスウイルス);srRNA(自己複製RNA);ts(温度感受性);ts作用物質(温度感受性作用物質);VEEV(ベネズエラウマ脳炎ウイルス);及びWEEV(西部ウマ脳炎ウイルス)。
【0155】
以下の実施例は、ある特定の特徴及び/又は実施形態を例示するために提供される。これらの実施例は、請求される開示を限定することを意図するものではない。
実施例1:温度感受性作用物質
【0156】
この実施例は、正常体温より低い又は高い温度にて機能するが、正常体温にて機能しないか又は機能性の低下を示す温度感受性作用物質(ts作用物質)を説明する。ts作用物質は、エクスビボ、セミインビボ、及びインビボ療法における使用に好適である。温度感受性ウイルスベクターと自己複製RNAは、着目の遺伝子(GOI)、短いヘアピンRNA(shRNA)、長いノンコーディングRNA、及び/又は他の遺伝要素を発現するように操作される。例えば、温度感受性変異を伴うタンパク質は、より低い温度にて(例えば、30℃にて)機能的であるが、正常体温にて(例えば、37℃にて)機能的でない。別段の定めがない限り、正常体温は、37℃±0.5℃の正常なヒトの体温である。
【0157】
特定のGOIはZSCAN4遺伝子であり、そしてそれはまた、本明細書中でZSCAN4遺伝子のコード領域又はZSCAN4タンパク質をコードする核酸とも呼ばれる。ヒトZSCAN4タンパク質のアミノ酸配列は、(配列番号38)と規定される。
実施例2:温度感受性センダイウイルスベクター(SeVt)
【0158】
この実施例は、温度感受性センダイウイルスベクター(SeVt)を説明し、そしてそれは、温度特異的遺伝子発現に使用できる。センダイウイルスベクターは、パラミクソウイルスサブファミリーの一本鎖RNAウイルスであるセンダイウイルスに基づいている。SeV18/TS15ΔFは、温度感受性センダイウイルスベクターであり、そしてそれは、32~35℃に保持されると、ウイルス複製と遺伝子発現が可能である。しかしながら、ウイルス複製は、37℃以上の非許容温度にて停止する(Ban et al., PNAS 2011)。
実施例3:温度感受性自己複製RNA(srRNAs)
【0159】
この実施例は、ベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)ベクターでコードされたnsP2タンパク質における突然変異が温度感受性を示すという知見を説明する。温度感受性システムは、30℃~33℃にて着目の遺伝子(GOI)の発現を可能にするが、37℃以上で発現を不可能にする。srRNAベクターは、GOIをコードする合成RNAより高いGOIの発現を可能にする。温度が37℃(例えば、非許容温度)に移行するとき、GOIの発現は止まる。この試験で同定した特定の温度感受性変異(突然変異2)は、アルファウイルス内のよく保存された領域内にある。センダイウイルスベクター(SeVt)と比較して、srRNAtsが非ウイルスRNA発現系で利用され得るので、srRNAtsは、いくつかの適用にとってより魅力的であり得る。
材料と方法
細胞培養
【0160】
ヒト脂肪幹細胞由来iPS細胞株(ADSC-iPS細胞)を、System Biosciences(Palo Alto, CA)から購入した。細胞を、標準的なhPSC培養法に従って未分化ヒト多能性細胞(hPSC)として規定どおりに維持した。簡単に言えば、細胞を、100ng/mlのFGF2を補ったStemFit basic02(Ajinomoto, Japan)で培養した。さらに、細胞を、ラミニン-511基質(iMatrix-511, Nippi, Japan)でコートした細胞培養ディッシュ上で培養した。
VEEVベクター
【0161】
VEEVベクタープラスミドを、公的に利用可能な配列情報(T7-VEE-IRES-Puro、本明細書中では以降「srRNA1wt」)に基づく合成DNA断片を使用して組み立てた。Yoshioka et al., 2013によれば、VEEVベクター骨格は、本来、Petrakova et al., 2005のとおり誘導された。挿入突然変異誘発及び大規模並列シークエンシングによって同定された7480の候補配列(Beitzel et al., 2010)を、潜在的な温度感受性突然変異体を誘導するのに使用した。本来の大規模なスクリーンを、VEEVゲノム内への15bpのトランスポゾン媒介挿入によって実施した(図1A)。それに続いて、30℃又は40℃にて増殖できる多くの15bp挿入VEEV変異体を単離した。これらのデータは、更なる調査のための初期変異体を提供したが、これらの配列が、32℃又は33℃における許容性及び37℃における非許容性などの、温度感受性を示すことは知られていなかった。3種類の変異配列-変異体1(ts1、図1B)、変異体2(ts2、図1C)、及び変異体3(ts3、図1D)は、合計7480の候補変異配列から選択される(Data Set S1 from Beitzel et al., 2010)。これらの突然変異DNA断片(図2)を、合成し、及びVEEVベクター内にクローン化し、そして、srRNA1ts1(変異体1)、srRNA1ts2(変異体2)、srRNA1ts3(変異体3)と命名した。変異体4を設計し、そしてそれは、ウイルス配列の5’-領域 (51-nt保存配列エレメント(CSE)を含むことが知られているRNA依存性RNAポリメラーゼの5’-UTR及びN末端タンパク質配列の一部)を含む。この場合、ヌクレオチドを、より少ない熱安定性変異体に系統的に変更し(例えば、G->A)、それと同時に、アミノ酸配列を維持した(図3)。srRNA1ts2内のこの領域の配列を、(すなわち、変異体4と変異体2の両方を含む)srRNA1ts4を作出するために置換した。合成RNAを、Yoshioka et al., 2013に従って、これらのベクターから製造した。
結果
30℃、32℃、及び37℃におけるsrRNA1ts2-GFPとsrRNA1ts3-GFPの温度感受性の評価
【0162】
ADSC-iPSC細胞を、80,000細胞/ウェルの密度にて24ウェルプレート上で平板培養した。24時間後に、細胞を、srRNA1wt-GFP、srRNA1ts2-GFP、又はsrRNA1ts3-GFPを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションのために、24ウェルプレートの各ウェルを、50μlの終量にて1μlのJetMessenger(Polyplus)トランスフェクション試薬と混合した0.5μgの合成RNA(srRNA)を用いて処理した。細胞にトランスフェクション複合体を追加した後に、450μlの培地を加えた。細胞を、30℃、32℃又は37℃のいずれかにてインキュベートした。トランスフェクションの6時間後に、培地を交換して、トランスフェクション複合体を取り除いた。位相差と蛍光画像を20時間と48時間に撮影した。野性型(srRNA1wt-GFP)が37℃にてGFPを強く発現したが、しかし、30℃と32℃の両方で、GFPを弱くしか発現しないことを、図4Aは示す。対照的に、変異体2(srRNA1ts2-GFP)は、30℃と32℃にてGFPを発現したが、しかし、37℃にて発現しなかった。変異体3(srRNA1ts3-GFP)は、30℃と32℃にてGFPを発現したが、しかし、37℃においてもGFPを発現した。これらの結果に基づいて、変異体2がさらなる開発のために選択された。予想されるように、srRNAは、GFPをコードする合成mRNAの単独トランスフェクションによって達成されたGFP発現レベルと比較して、はるかに高いGFP発現を示した(図4B)。
32℃におけるsrRNA1ts1-GFPとsrRNA1ts2-GFPの温度感受性の評価
【0163】
ADSC-iPSC細胞を、50,000細胞/ウェルの密度にて24ウェルプレート上で平板培養した。24時間後に、細胞を、srRNA1wt-GFP、srRNA1ts2-GFP、又はsrRNA1ts3-GFPを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションのために、24ウェルプレートの各ウェルを、50μlの終量にて1μlのJetMessenger(Polyplus)トランスフェクション試薬と混合した0.5μgの合成RNA(srRNA)を用いて処理した。細胞にトランスフェクション複合体を追加した後に、450μlの培地を加えた。細胞を32℃にてインキュベートした。トランスフェクションの6時間後に、培地を交換して、トランスフェクション複合体を取り除いた。位相差と蛍光画像を、24、48、72、96、120、144、168、192、240、及び288時間に撮影した。
【0164】
図5は結果を示す。野性型(srRNA1wt-GFP)からのGFP発現は、24時間に開始し、(288時間における)観察期間の最後まで続いたが、時間的経過を通じて非常に弱かった。対照的に、変異体2(srRNA1ts2-GFP)からのGFP発現は、時間的経過を通じて非常に強かった。変異体1(srRNA1ts1-GFP)は(24時間及び168時間における観察に基づいて)GFPを全く発現しなかった。これらの結果に基づいて、変異体2がさらなる開発のために選択される。
32℃、33℃、及び37℃におけるsrRNA1ts2-GFPとsrRNA1ts4-GFPの温度感受性の評価
【0165】
ADSC-iPSC細胞を、50,000細胞/ウェルの密度にて24ウェルプレート上で平板培養した。24時間後に、細胞を、srRNA1ts2-GFP、又はsrRNA1ts4-GFPを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションのために、24ウェルプレートの各ウェルを、50μlの終量にて1μlのJetMessenger(Polyplus)トランスフェクション試薬と混合した0.5μgの合成RNA(srRNA)を用いて処理した。細胞にトランスフェクション複合体を追加した後に、450μlの培地を加えた。細胞を32℃、33℃又は37℃のいずれかにてインキュベートした。トランスフェクションの6時間後に、培地を交換して、トランスフェクション複合体を取り除いた。位相差と蛍光画像を、20、48、及び96時間に撮影した。
【0166】
図6は結果を示す。32℃及び33℃にて、変異体2(srRNA1ts2-GFP)からのGFP発現は、早ければ20時間に開始したが、48時間において有意に増強され、そして、96時間にさらに増強された。GFPの発現は、32℃より33℃において強かった。先の実験と一致して、GFPは、37℃にて全く発現されなかった。srRNA1ts4-GFP(変異体2と変異体4の両方を含む)は、srRNA1ts2-GFPと類似の温度プロファイルを示したが、GFP発現は全体的にはるかに弱かった。これらの結果に基づいて、変異体2がさらなる開発のために選択された。
32℃におけるsrRNA1ts2-GFPの温度感受性の評価
【0167】
ADSC-iPSC細胞を、80,000細胞/ウェルの密度にて24ウェルプレート上で平板培養した。24時間後に、細胞を、srRNA1ts2-GFPを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションのために、24ウェルプレートの各ウェルを、50μlの終量にて1μlのJetMessenger(Polyplus)トランスフェクション試薬と混合した0.5μgの合成RNA(srRNA)を用いて処理した。細胞にトランスフェクション複合体を追加した後に、450μlの培地を加えた。細胞を32℃にてインキュベートした。トランスフェクションの6時間後に、培地を交換して、トランスフェクション複合体を取り除いた。培地を毎日交換した。srRNA1ts2-GFPベクターは、「IRES」配列後に挿入されたピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(pac)選択遺伝子を含み、これにより、ピューロマイシンを使用して選択できる。実験を、1μg/mlのピューロマイシンの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)下でおこなった。ピューロマイシンを用いた細胞選択のために、ピューロマイシンを48時間と72時間に加えた。位相差と蛍光画像を、24、48、72、96、144、168、192時間に撮影した。
【0168】
図7は結果を示す。32℃にて、srRNA1ts2-GFPからのGFP発現は、早ければ24時間に開始したが、48時間に有意に増強され、そして、72時間と96時間にピークに達した。GFPの発現は、(192時間の)観察の期間の最後まで続いた。GFPの発現様式は、ピューロマイシンの添加によって変化したように見えなかった。
24時間後に32℃から37℃に切り換えたsrRNA1ts2-GFPの温度感受性の評価
【0169】
ADSC-iPSC細胞を、80,000細胞/ウェルの密度にて24ウェルプレート上で平板培養した。24時間後に、細胞を、srRNA1ts2-GFPを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションのために、24ウェルプレートの各ウェルを、50μlの終量にて1μlのJetMessenger(Polyplus)トランスフェクション試薬と混合した0.5μgの合成RNA(srRNA)を用いて処理した。細胞にトランスフェクション複合体を追加した後に、450μlの培地を加えた。細胞を32℃にてインキュベートした。トランスフェクションの6時間後に、培地を交換して、トランスフェクション複合体を取り除いた。培地を毎日交換した。srRNA1ts2-GFPベクターは、「IRES」配列後に挿入されたピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(pac)選択遺伝子を含み、これにより、ピューロマイシンを使用して選択できる。実験を、1μg/mlのピューロマイシンの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)下でおこなった。ピューロマイシンを用いた細胞選択のために、ピューロマイシンを48時間と72時間に加えた。温度シフトの効果を試験するために、細胞培養物を、(トランスフェクションの24時間後)24時間に37℃に維持したCO2インキュベーターに移した。位相差と蛍光画像を、24、48、72、96、144、168、192時間に撮影した。
【0170】
図8は結果を示す。32℃にて、srRNA1ts2-GFPからのGFP発現は、早ければ24時間に開始したが、24時間における37℃への温度の切り換え後でさえ増加し続けた。GFPの発現は、48時間にピークに達し、そしてその後、減少し始めた。96時間までに、GFP発現は非常に弱くなり、そして、144時間までに、GFP発現はもう検出できなくなった。それに続いて、GFP発現は、192時間の観察期間の最後まで存在しなかった。よって、GOI(ここではGFPと表される)の発現は、温度が33℃(許容温度)から37℃(非許容温度)に移行したとき、急速に停止した。GFPの発現様式は、ピューロマイシンの添加によって変化したように見えなかった。
48時間後に32℃から37℃に切り換えたsrRNA1ts2-GFPの温度感受性の評価
【0171】
ADSC-iPSC細胞を、80,000細胞/ウェルの密度にて24ウェルプレート上で平板培養した。24時間後に、細胞を、srRNA1ts2-GFPを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションのために、24ウェルプレートの各ウェルを、50μlの終量にて1μlのJetMessenger(Polyplus)トランスフェクション試薬と混合した0.5μgの合成RNA(srRNA)を用いて処理した。細胞にトランスフェクション複合体を追加した後に、450μlの培地を加えた。細胞を32℃にてインキュベートした。トランスフェクションの6時間後に、培地を交換して、トランスフェクション複合体を取り除いた。培地を毎日交換した。srRNA1ts2-GFPベクターは、「IRES」配列後に挿入されたピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(pac)選択遺伝子を含み、これにより、ピューロマイシンを使用して選択できる。実験を、1μg/mlのピューロマイシンの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)下でおこなった。ピューロマイシンを用いた細胞選択のために、ピューロマイシンを48時間と72時間に加えた。温度シフトの効果を試験するために、細胞培養物を、(トランスフェクションの48時間後)48時間に37℃に維持したCO2インキュベーターに移した。位相差と蛍光画像を、24、48、72、96、144、168、192時間に撮影した。
【0172】
図9は結果を示す。32℃にて、srRNA1ts2-GFPからのGFP発現は、早ければ24時間に開始し、48時間にてさらに増加した。GFPの発現は、48時間における37℃への温度の切り換え後でさえ96時間まで続いた。しかし、GFP発現は72時間から減少し始め、そして、96時間までに、GFP発現は非常に弱くなった。144時間までに、GFP発現は、ほとんど検出されず、192時間までに完全に機能が停止した。よって、GOI(ここではGFPと表される)の発現は、温度が33℃(許容温度)から37℃(非許容温度)に移行したとき、急速に停止した。GFPの発現様式は、ピューロマイシンの添加によって変化したように見えなかった。
72時間後に32℃から37℃に切り換えたsrRNA1ts2-GFPの温度感受性の評価
【0173】
ADSC-iPSC細胞を、80,000細胞/ウェルの密度にて24ウェルプレート上で平板培養した。24時間後に、細胞を、srRNA1ts2-GFPを用いてトランスフェクトした。トランスフェクションのために、24ウェルプレートの各ウェルを、50μlの終量にて1μlのJetMessenger(Polyplus)トランスフェクション試薬と混合した0.5μgの合成RNA(srRNA)を用いて処理した。細胞にトランスフェクション複合体を追加した後に、450μlの培地を加えた。細胞を32℃にてインキュベートした。トランスフェクションの6時間後に、培地を交換して、トランスフェクション複合体を取り除いた。培地を毎日交換した。srRNA1ts2-GFPベクターは、「IRES」配列後に挿入されたピューロマイシンN-アセチルトランスフェラーゼ(pac)選択遺伝子を含み、これにより、ピューロマイシンを使用して選択できる。実験を、1μg/mlのピューロマイシンの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)下でおこなった。ピューロマイシンを用いた細胞選択のために、ピューロマイシンを48時間と72時間に加えた。温度シフトの効果を試験するために、細胞培養物を、(トランスフェクションの72時間後)72時間に37℃に維持したCO2インキュベーターに移した。位相差と蛍光画像を、24、48、72、96、144、168、192時間に撮影した。
【0174】
図10は結果を示す。32℃にて、srRNA1ts2-GFPからのGFP発現は、早ければ24時間に開始し、48時間にてさらに増加した。GFPの発現は、48時間における37℃への温度の切り換え後でさえ96時間まで続いた。しかし、GFP発現は72時間から減少し始め、そして、144時間までに、GFP発現は非常に弱くなった。168時間までに、GFP発現は、ほとんど検出されず、192時間までに完全に機能が停止した。よって、GOI(ここではGFPと表される)の発現は、温度が33℃(許容温度)から37℃(非許容温度)に移行したとき、急速に停止した。GFPの発現様式は、ピューロマイシンの添加によって変化したように見えなかった。
線維芽細胞におけるsrRNA1ts2-GFPの温度感受性の評価
【0175】
ヒト新生児皮膚線維芽細胞(20代継代のHDFn)を、10,000細胞/ウェルの密度にて24ウェルプレート上で平板培養した。24時間後に、細胞をsrRNA1wt-GFPを用いてトランスフェクトした。srRNA1wt-GFP(0.5μgの合成RNA)のトランスフェクションを、JetMessenger(Polyplus)トランスフェクション試薬又はLipofectamine MessengerMax(Thermo-Fisher)のいずれかを使用することによって実施した。細胞を37℃にてインキュベートした。インターフェロン応答を抑制することが知られているB18Rの効果を見るために、トランスフェクション及び細胞培養を、200ng/mlのB18Rの不存在(上側のパネル)又は存在(下側のパネル)下で実施した。培地を毎日交換した。位相差及び蛍光画像を、0、24、48、及び96時間に撮影した。
【0176】
図11は結果を示す。B18Rの不存在下、GFPの発現はほとんど検出されなかった。対照的に、B18Rの存在下、srRNA1wt-GFPからのGFP発現は、早ければ24時間に開始し、48時間及び72時間まで続いた。GFPの発現は、GFP+細胞において強かったが、しかし、GFP+細胞の頻度は高くなかった。これはたぶん、ヒト初代線維芽細胞に対するsrRNA1wt-GFPの低いトランスフェクション効率のためであった。
変異体2(ts2)に対応するアルファウイルスファミリーのアミノ酸配列のアライン
【0177】
図12に示すとおり、アミノ酸レベルにおいてでさえ、アルファウイルスのnsP2タンパク質の構造は、ファミリーメンバー内でよく保存されている。3D構造モデルに基づいて(Russo et al., 2006)、5つのアミノ酸の配列番号44(TGAAA)が変異体2に挿入されているタンパク質領域は、2つのβシート構造の間の分かれ目であり、そしてそれはまた、アルファウイルスファミリーメンバー内でよく保存されている。そのため、変異体2の温度感受性は、Aura(アウラウイルス)、WEEV(西部ウマ脳炎ウイルス)、BFV(バーマーフォレストウイルス)、ONNV(オニョン-ニョンウイルス)、RRV(ロスリバーウイルス)、SFV(セムリキフォレストウイルス)、及びSINV(シンドビスウイルス)を含めた他のアルファウイルスファミリーメンバーに移転可能であるということは、可能性が高い。温度感受性を付与するための様々なアルファウイルスのnsP2内への挿入に好適な位置を、表3-1で列挙する。
【表1】
【0178】
実施例4:温度感受性抗体
この実施例は、温度感受性抗体を説明する。許容温度(例えば、32℃)にて機能し、かつ、非許容温度(例えば、37℃)にて機能しないか又は低い機能を示す抗体を、アミノ酸配列の挿入又は置換によって設計する。温度感受性抗体は、記載のとおり(Kamihara and Iijima, 2000; Merutka and Stellwagen, 1990)、温度感受性ヘリックス-コイル転移ペプチド(-Glu-Ala-Ala-Ala-Lys-、配列番号37と記載)をコードするリンカーオリゴヌクレオチドを挿入することによって製造できた。このやり方で、許容温度(例えば、32℃)で機能するが、非許容温度(例えば、37℃)では機能しない操作抗体が製造できる。或いは、低温環境の中で自然に生きている動物(例えば、アトランティックサーモンやシュリンプ)の抗体DNA配列が使用できる、なぜなら、これらの抗体が許容温度で(低温で)最適に機能するが、非許容温度(例えば、37℃)で低い機能性を示すからである。
実施例5:温度感受性タンパク質
【0179】
この実施例は、温度感受性タンパク質を説明する。斯かるタンパク質は、許容温度(例えば、32℃)で機能するが、非許容温度(例えば、37℃)で機能しないか又は低い機能を示す。温度感受性タンパク質は、アミノ酸配列を置換することによって操作される。或いは、低温環境の中で自然に生きている動物(例えば、アトランティックサーモンやシュリンプ)由来の温度感受性タンパク質が使用できる、なぜなら、これらのタンパク質が許容温度で(低温で)最適に機能するが、非許容温度(例えば、37℃)で低い機能性を示すからである。
実施例6:温度感受性RNA
【0180】
この実施例は、温度感受性RNA分子を説明する。RNA分子としては、これだけに限定されるものではないが、mRNA、mRNAの前駆体、ノンコーディングRNA、siRNA、及びshRNAが挙げられる。温度感受性RNAは、許容温度(例えば、32℃)で機能し、かつ、非許容温度(例えば、37℃)で機能しないか又は低い機能を示す。温度感受性RNAを、変異体の熱安定性をより低くするようにRNA分子のヌクレオチドを系統的に変更し(例えば、G->A)、それと同時に、RNAの機能的特性を維持することを確実にするように操作した。さらに、温度のシフトによって誘発されるヌクレオチド対の熱安定性の差は、RNAの二次構造を変化させる。
実施例7:温度感受性作用物質を用いた細胞のエクスビボ処理
【0181】
この実施例は、エクスビボにおいて細胞にRNA又はタンパク質を一過性に送達する方法を実証する(図13)。温度感受性治療用作用物質は、本明細書中に開示した温度感受性治療用作用物質のいずれかであり得る。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどのts作用物質は、許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、非許容温度(例えば、37℃)において機能しない。ts作用物質で治療した標的細胞を、特定の持続期間(例えば、3日間)にわたり許容温度にてエクスビボにおいて培養し、次に、特定の持続期間(例えば、10日間)にわたり、非許容温度にて培養する。GOIのRNA(RNAから翻訳されたタンパク質)のレベルは、許容温度にて増大し、そして、高値に達する。非許容温度への切り替え後に、RNAの予想レベルは漸減し、そしてその後、非発現レベルに達した(図13)。
実施例8:温度感受性作用物質のエクスビボにおける治療的使用
【0182】
この実施例は、エクスビボにおいて細胞にRNA又はタンパク質を一過性に送達する方法を実証する(図14及び図15)。srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどのts作用物質は、許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、非許容温度(例えば、37℃:人体温度)にて機能しない。典型的に、標的細胞を、患者(自己細胞移植;図14)から採取するが、ドナー(同種異系細胞移植;図15)から単離した標的細胞を使用することもまた可能である。例えば、標的細胞を、抗体コンジュゲート磁性ビーズを使用することによって単離してもよい。標的細胞を、例えば、特定の持続期間、例えば、24時間、にわたり許容温度にて、例えば、33℃にて、エクスビボにおいてts作用物質と共にインキュベートする。GOIのRNA(又はRNAから翻訳されたタンパク質)のレベルは、許容温度にて増大して、高いレベルに達する。治療効果が誘発された後に、患者を治療するために、細胞を患者に移植し戻す。温度感受性治療用作用物質の活性は、対象の正常体温にて誘発されない(すなわち、正常体温は非許容温度である)。温度感受性治療用作用物質の分解は、治療効果が誘発された後に始まり、そして最終的に、温度感受性治療用作用物質は完全に分解される。体温は、患者の生涯を通じて37℃以上に維持され、そしてこれにより、ts作用物質は再活性化されず、そして、標的細胞以外の細胞はts作用物質を用いて治療されない。
ヒト末梢血液細胞の動員
【0183】
患者から単離したヒト血球、或いはドナーの骨髄又は末梢血を、許容温度にてエクスビボにおいてts作用物質を用いて処理する。G-CSF又は他の動員作用物質の注射後に、ヒト白血球を、アフェレーシス機器(例えば、COBE Spectra)によって末梢血から回収する。動員後に骨髄から回収した白血球は、顆粒球、単球、リンパ球、樹状細胞、間充織幹細胞(MSC)、血管内皮細胞(VEC)、及びCD34+造血/始原細胞を含む。ts作用物質を用いたこれらの細胞の処理を、特定の持続期間(数時間~数週間)にわたり機能的な温度(例えば、33℃)にて、理想的には、Miltenyi製のCliniMacs Prodigyなどの機能的閉鎖型の系を使用して、エクスビボにおいて実施する。それに続いて、処理細胞を、非許容温度(37℃)にて患者に注入する。ts作用物質、ts作用物質を含む細胞、又はts作用物質の生成物は患者の体内で機能しない。
ヒトCD34+造血幹/始原細胞
【0184】
ヒトCD34+造血幹/始原細胞を、(CD34に対する)抗体コンジュゲート磁性ビーズを使用して動員されたヒト末梢血液細胞又は骨髄細胞から単離し、そして、許容温度にてエクスビボにおいてts作用物質を用いて処理する標的細胞として使用する。ts作用物質で処理した後に、ヒトCD34+細胞を、患者の体内に注入し、及び患者の骨髄内に移植する。これらの細胞は、最終的に、患者の体内ですべての血球細胞を産生するので、これにより、さまざまな疾患の好適な標的である。
組織幹細胞を含めたあらゆるヒト細胞
【0185】
患者又はドナーから単離され、かつ、標的細胞として使用される、あらゆるヒト細胞を、エクスビボにおいて許容温度にてts作用物質で処理する。斯かる細胞としては、これだけに限定されるものではないが、皮膚線維芽細胞、濾胞細胞、骨格筋細胞、肝細胞、及び神経組織が挙げられる。また、斯かる細胞としては、間充織幹細胞、神経幹細胞、筋幹細胞、皮膚幹細胞、及び腸幹細胞などのさまざまな組織の幹細胞も挙げられる。
実施例9:温度感受性作用物質のセミインビボにおける治療的使用
【0186】
この実施例は、細胞にRNA又はタンパク質を一過性に送達するための、セミインビボにおける方法を説明する(図16)。温度感受性治療用作用物質とは、本明細書中に開示したあらゆる温度感受性治療用作用物質である。ts作用物質は許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、37℃)において機能しない。
【0187】
患者は治療用低体温療法の施術を受ける:患者の中核体温を正常体温より低温度(例えば、33℃)に維持する。標的細胞(任意の細胞-自己又は同種)を、エクスビボにおいてts作用物質で処理し、即座に患者の循環内に注入するか、又は患者の器官内に注射する。
【0188】
患者を、しばらく、例えば、24時間、にわたり目標温度、例えば、33℃、にて維持している間、ts作用物質はそれらの期待される機能を発揮する。GOIのRNA(該RNAから翻訳されたタンパク質)のレベルは、許容温度にて増大して、高いレベルに達する。それに続いて、患者の体温を、37℃の正常体温に戻す。ts作用物質は、患者の体内の非許容条件である37℃ではもう機能しない。体温は、患者の生涯を通じて37℃以上に維持され、そしてこれにより、ts作用物質は再活性化されず、そして、標的細胞以外の細胞はts作用物質を用いて治療されない。特に、この治療手段は、先に記載したものを含めたあらゆる細胞型に適用できる。
実施例10:温度感受性作用物質のインビボにおける治療的使用
【0189】
この実施例は、どのように温度感受性ウイルスベクターが対象に投与され、そして、軽度の低体温療法が対象で誘発されたときに、一過性に活性化されるかを実証する(図17)。温度感受性治療用作用物質は、本明細書中に開示した温度感受性治療用作用物質のいずれかであり得る。温度感受性治療用作用物質は、許容温度(例えば、33℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、37℃:人体温度)において機能しない。
【0190】
対象の中核体温は、目標温度管理(TTM)手順を用いて下げられ、そしてそれは、心臓及び脳損傷を患っている患者のために外来診療所で使用された。TTM手順は、持続期間にわたり対象の特定の体温を達成し、そして維持するように設計される。斯かる手順は、あらかじめ、心発作や脳卒中などの様々な急性の健康問題から生じるネガティブ効果を低減するために治療的に使用された。TTM手順を使用する装置と一般的方法は、当該技術分野で知られており、本明細書中に記載した方法と共に使用できる。TTM手順は、冷却カテーテル、冷却ブランケット、及び体の周りへの氷の適用を含めた多くの方法を使用して実施できる。さまざまな器具を斯かる目的のために使用した。例えば、ArcticSun(商標)は、患者の体温を32℃~38.5℃に下げる又は上げるのに使用できる器具である(Pittl et al., 2013)。その手順は、安全におこなうことができ、そして、この器具によって引き起こされた主要な副作用がないことも報告されている。
【0191】
患者は、TTM手順を使用した低体温条件下に置かれ、そして、目標体温は、温度感受性治療用作用物質の活性を誘発するために十分な温度である。温度感受性治療用作用物質を、全身経路(例えば、静脈内)又は器官/組織内への直接注入(例えば、カテーテル又は経皮的な針での注射)によって患者に直接送達する(図17)。
【0192】
患者の温度を、温度感受性治療用作用物質の所望の活性の誘発を可能にするのに十分な時間にわたり許容温度に保つ。温度感受性作用物質の所望の活性は、温度感受性治療用作用物質を含有するか又はそれに晒されている細胞における治療効果につながる。
【0193】
所望の治療効果が達成された後、次に、患者の体温を正常体温(すなわち、非許容温度)に戻して、温度感受性治療用作用物質の活性が停止させる。このあとに温度感受性治療用作用物質の分解が続く。
循環による全身送達
【0194】
患者を、低体温条件下に(例えば、33℃に)置く。患者の中核体温を目標温度にて安定に維持した時点で、ts作用物質を、患者の静脈内に直接送達する。そのts作用物質は、この全身経路によって多くの器官や組織に送達される。患者の中核体温を、所望の期間(例えば、24時間)にわたり、機能する温度にて維持する。患者の体温が作用物質の許容温度に(例えば、33℃に)に維持されている間、その作用物質は機能している。患者の体温が作用物質の非許容温度である37℃の正常に戻るとき、その作用物質は働きを停止する。
【0195】
ts-作用物質は、裸のRNA(すなわち、合成RNA)であってもよい。循環による全身送達は、標的器官特異性の有無にかかわらず、裸のRNAを多くの器官に送達する。或いは、ts作用物質は、ナノ粒子によってカプセル化されたRNA(すなわち、合成RNA)であり、そしてそれを、特定の細胞型、組織、器官、癌、腫瘍、又は異常細胞を標的化するように操作する。よって、循環による全身送達は、ナノ粒子カプセル封入RNAを特定の細胞型、組織、器官、癌、腫瘍、又は異常細胞に送達する。或いは、ts作用物質は、ウイルス粒子内にパッケージされたRNAである。エンベロープタイプと他の特徴に依存して、ウイルス粒子は、特定の細胞型、組織、器官、癌、腫瘍、又は異常細胞を標的化する。よって、循環による全身送達は、ウイルス粒子内にパッケージされたRNAを特定の細胞型、組織、器官、癌、腫瘍、又は異常細胞に送達する。或いは、ts作用物質は、温度感受性ウイルスベクターである。エンベロープタイプと他の特徴に依存して、ウイルス粒子は、特定の細胞型、組織、器官、癌、腫瘍、又は異常細胞を標的化する。よって、循環による全身送達は、温度感受性ウイルスベクターを特定の細胞型、組織、器官、癌、腫瘍、又は異常細胞に送達する。
脳脊髄液を経由した脳及び脊髄への標的送達
【0196】
患者を、低体温条件下に(例えば、33℃に)置く。患者の中核体温を目標温度にて安定に維持した時点で、ts作用物質を、硬膜外注射によって患者の脳脊髄液に直接送達する。そのts作用物質は、脳及び脊髄に送達される。患者の中核体温を、所望の期間(例えば、24時間)にわたり、許容温度にて維持し続ける。患者の体温が作用物質の許容温度に(例えば、33℃に)に維持されている間、その作用物質は機能している。患者の体温が作用物質の非許容温度である37℃の正常に戻るとき、その作用物質は働きを停止する。
皮内注射による肝臓、腎臓、骨格筋、心筋、膵臓、骨髄、及び他の器官への標的送達
【0197】
患者を、低体温条件下に(例えば、33℃に)置く。患者の中核体温を目標温度にて安定に維持した時点で、ts作用物質を、超音波又はCTの視覚的誘導を用いた極細針を使用して、肝臓、腎臓、骨格筋、心筋、膵臓、又は他の器官などの器官内に皮膚を経由して(経皮的に)注射する。患者の中核体温を、所望の期間(例えば、24時間)にわたり、許容温度にて維持する。患者の体温が作用物質の許容温度に(例えば、33℃に)に維持されている間、その作用物質は機能している。患者の体温が作用物質の非許容温度である37℃の正常に戻るとき、その作用物質は働きを停止する。
注射針カテーテルを備えた内視鏡による肝臓、腎臓、骨格筋、心筋、膵臓、骨髄、及び他の器官への標的送達
【0198】
患者を、低体温条件下に(例えば、33℃に)置く。患者の中核体温を目標温度にて安定に維持した時点で、次に、ts作用物質を、内視鏡注射針カテーテルによって特定の器官及び組織に直接送達する。患者の中核体温を、所望の期間(例えば、24時間)にわたり、許容温度にて維持する。患者の体温が作用物質の許容温度に(例えば、33℃に)に維持されている間、その作用物質は機能している。患者の体温が作用物質の非許容温度である37℃の正常に戻るとき、その作用物質は働きを停止する。
血管カテーテルによる肝臓、腎臓、骨格筋、心筋、膵臓、及び他の器官への標的送達
【0199】
患者を、低体温条件下に(例えば、33℃に)置く。患者の中核体温を目標温度にて安定に維持した時点で、次に、ts作用物質を、血管カテーテルによって特定の器官及び組織に直接送達する。患者の中核体温を、所望の期間(例えば、24時間)にわたり、許容温度にて維持する。患者の体温が作用物質の許容温度に(例えば、33℃に)に維持されている間、その作用物質は機能している。患者の体温が作用物質の非機能温度である37℃の正常に戻るとき、その作用物質は働きを停止する。
吸入法による肺及び他の器官への標的送達
【0200】
患者を、低体温条件下に(例えば、33℃に)置く。患者の中核体温を目標温度にて安定に維持した時点で、次に、ts作用物質を、吸入法によって患者に直接送達する。ts作用物質を、肺を経由した吸入法を介して肺及び他の器官に送達する。患者の中核体温を、所望の期間(例えば、24時間)にわたり、許容温度にて維持する。患者の体温が作用物質の許容温度に(例えば、33℃に)に維持されている間、その作用物質は機能している。患者の体温が作用物質の非許容温度である37℃の正常に戻るとき、その作用物質は働きを停止する。
脾臓に動員された骨髄細胞への標的送達
【0201】
患者は、対象の脾臓に骨髄細胞(これだけに限定するものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、及び内皮幹細胞を含む)を動員するためにG-CSF、プレリキサホル又は他のサイトカインの注射を受ける。患者を、低体温条件下に(例えば、33℃に)置く。患者の中核体温を目標温度にて安定に維持した時点で、次に、ts作用物質を、先に記載した方法を介して脾臓に送達する。それに続いて、ts作用物質を、脾臓に動員された骨髄細胞に送達する。患者の中核体温を、所望の期間(例えば、24時間)にわたり、許容温度にて維持する。患者の体温が作用物質の許容温度に(例えば、33℃に)に維持されている間、その作用物質は機能している。患者の体温が作用物質の非許容温度である37℃の正常に戻るとき、その作用物質は働きを停止する。例えば、その方法は、脾臓において治療的有効量の温度感受性作用物質(例えば、温度感受性治療用作用物質)を1若しくは複数の骨髄細胞(これだけに限定するものではないが、CD34+細胞、造血幹細胞、間充織幹細胞、内皮幹細胞を含む)に投与することを含み得る。
実施例11:ヒト動員末梢血CD34+細胞のSeVts-ZSCAN4のための最適なエクスビボ接触条件
【0202】
この実施例では、エクスビボにおける33℃にて16時間のインキュベーションが、温度感受性センダイウイルスベクターがヒトCD34+細胞に対して効果を有するのに十分であるという知見を説明する。この例は、1~25の感染多重度(MOI)が、そのベクターがエクスビボにおいてヒトCD34+細胞の大部分に感染するのに十分であることを実証する。
材料と方法
細胞培養
【0203】
CD34+磁性ビーズによって精製した、ヒト末梢血CD34+細胞の凍結サンプルを、解凍し、(遺伝子組み換えヒト幹細胞因子(SCF)、Flt3-リガンド、及びトロンボポエチン(TPO)の組み合わせ物を含む)StemMACS HSC増殖カクテルを補った培地中で培養した。これらの培養条件では、細胞を10日間培養したときでさえ、最大2回の細胞分裂しか起こらなかったので、ほとんどのCD34+細胞は最初の数日間で分裂しなかった。
ヒトZSCAN4遺伝子をコードするセンダイウイルスベクター
【0204】
SeV18+TS15ΔFは、TS15骨格(Ban et al., PNAS 2011)を有するセンダイウイルスベクターの温度感受性バージョンであり、そしてそれは、ID Pharma(Tsukuba, Japan)によって特注された。このベクター骨格は、(感染性の子孫ウイルスを再生するのに必要とされる)F(usion)遺伝子を欠いている。よって、このベクターは、感染細胞から非感染細胞にウイルスを伝染させない。このベクターは、2つのRNAポリメラーゼ遺伝子(PとL)、及び3つの構造タンパク質遺伝子(NP、M、及びHN)をコードし、かつ、M、HN、P及びL遺伝子内に点突然変異を含んでおり、そしてそれは、ベクター温度感受性を生じる:33℃(35℃未満)で複製するが、37℃にて複製を停止する。SeV18+hZSCAN4/TS15ΔF(本明細書中で「SeVts-ZSCAN4」とも呼ばれる)は、ヒトZSCAN4遺伝子をコードするSeV18+TS15ΔFセンダイウイルスベクターであり、そしてそれは、ID Pharma(Tsukuba, Japan)によって特注された。SeV18+hZSCAN4/TS15ΔFのゲノム(すなわち、SeVts-ZSCAN4)の図解を図18に示す。
感染多重度(MOI)
【0205】
最適な感染多重度(MOI)は、異なる実験条件の間で変動する。例えば、MOIだけではなく、培養液の全容積もセンダイウイルスベクターの感染効率に影響を及ぼすことがわかった。我々の標準的なMOI=25を、以下の方法で決定した。まず、以前に、CD34+細胞に関して、MOI=20では100%の効率をもたらすが、それに対して、MOI=2では43%をもたらすことが示された(Ban et al., 2011)。マウス胚性幹細胞に関して、MOI=10、MOI=30、MOI=100を比較し、そして、MOI=30が最も高い効率を示した(Amano et al., 2015)。ヒト線維芽細胞に関して、MOI=25では55.6%が効率であるが、その一方で、MOI=5では14%、及びMOI=10では25.4%を示した(Amano et al., 2015)。我々のCD34+データは、MOI=25では53%の効率をもたらすが、その一方で、MOI=10では33%の効率をもたらすことを示した。さらなる研究は、MOI=25では一貫してCD34+細胞の75.6±14.2%(平均±SD、n=16)の効率をもたらすことを示した。後の試験では、MOI=1.1ではヒトCD34+細胞における89.8%の効率を示した。よって、実験条件に依存して、SeVts-ZSCAN4感染に関して、MOI=1~25が選択される。
結果
【0206】
CD34+細胞のSeVts-ZSCAN4とのエクスビボ接触に関する最適な期間と条件を決定するために、機能的温度(33℃)における一連のインキュベーション時間を、意図した臨床CD34+インキュベーションプロトコールを利用したCD34+細胞を評価した。CD34+細胞を12ウェルプレート上に平板培養し(1×105又は5×104細胞/ウェル)、そして、5%のCO2中、33℃にて0、3、6、16、24、48又は72時間にわたりSeVts-ZSCAN4(MOI=25)と共にインキュベートした。次に、細胞を、5%のCO2中、37℃にて最長10日間インキュベートした。33℃でのインキュベーションは、センダイウイルスの感染、複製、及び導入遺伝子の発現を可能にするが、その一方で、37℃への温度の上昇は、ウイルスを不活化し、導入遺伝子発現を止めた。細胞を、所定の33℃インキュベーション後に、抗hZSCAN4抗体を用いてZSCAN4タンパク質発現に関して免疫染色した。ヒトZSCAN4発現性細胞の数を、DAPI蛍光染色法によって同定した細胞の総数と比較した。
【0207】
3及び6時間のインキュベーションは、検出可能なレベルにてZSCAN4タンパク質を発現するには短かすぎた。しかしながら、33℃にて16及び24時間のインキュベーションは、それぞれ82%及び95%のCD34+細胞のZSCAN4タンパク質発現をもたらした(図19)。33℃にて48及び72時間のインキュベーション後に、トランスフェクション効率とタンパク質発現の更なる増大がなかった。
実施例12:ヒトCD34+細胞におけるZSCAN4タンパク質の動態
【0208】
この実施例では、33℃から37℃への温度シフトがZSCAN4タンパク質の発現を停止し、そしてそれが急激に消失する、という知見を説明する。
材料と方法
ヒトZSCAN4遺伝子をコードするセンダイウイルスベクター
【0209】
SeVts-ZSCAN4(SeV18+hZSCAN4/TS15ΔFとも呼ばれる)は、ヒトZSCAN4を温度感受性様式で発現する(図18)。
結果
【0210】
ZSCAN4タンパク質への暴露時間を決定するために、CD34+細胞におけるZSCAN4タンパク質発現動態を調べた。提案された臨床試験条件を正確に模倣するために、末梢HSCsの動員によって単離した、CD34+細胞をHemacare, Inc.から入手した。
【0211】
CD34+細胞を、未処理のままにするか、又は33℃にて24時間SeVts-ZSCAN4と接触させ、そして、37℃にて9日間さらにインキュベートした。細胞を、1、3、7及び10日目にサンプリングし、そして、CD34及びZSCAN4に対する抗体を用いて免疫染色した。
【0212】
10日間のインキュベーション期間中に、ほぼ100%の細胞がそれらのCD34マーカーを保持し、そしてそれは、SeVts-ZSCAN4との接触が、CD34+細胞の画分とCD34マーカー発現に関してCD34+細胞の性質を変更させなかったことを示した(図20A、B)。1日目のZSCAN4を用いた免疫染色に基づいて、SeVts-ZSCAN4(MOI=25)との接触は77%のCD34+細胞をZSCAN4タンパク質に晒した(図20A)。予想されるように、温度が37℃に移行した時点で、ZSCAN4タンパク質を有する細胞は非常に急激に減少した:7日目には7%のZSCAN4-陽性細胞しか、及び10日目には2%しか存在しなかった。対照的に、対照実験は、SeVts-ZSCAN4接触なしでは、ZSCAN4-陽性細胞は存在しなかったが、ほぼ100%の細胞が、CD34+を維持したことをを示す。非許容温度37℃に切り替わった後のZSCAN4タンパク質の急速な減少は、細胞分裂によって単純に引き起こされたものではない、なぜなら、細胞数は、10日間にわたって3.5倍(平均で2回未満の細胞分裂)までしか増加しなかった。同時間中、(SeVts-ZSCAN4接触がない)対照細胞の数は6.1倍まで増加した。
実施例13:ヒトCD34+細胞のテロメア長に対するSeVts-ZSCAN4の効果
【0213】
この実施例では、温度感受性ウイルスベクターを使用するヒトZSCAN4の一過性発現がヒトCD34+細胞のテロメアの長さを増強したという知見を説明する。
材料と方法
ヒトZSCAN4遺伝子をコードするセンダイウイルスのベクター
【0214】
SeVts-ZSCAN4(SeV18+hZSCAN4/TS15ΔFとも呼ばれる)は、ヒトZSCAN4を温度感受性様式で発現する(図18)。
結果
【0215】
ZSCAN4は、テロメアに局在化し、減数分裂期特有の相同組換遺伝子を上方制御し、かつ、マウス胚幹(ES)細胞において(テロメラーゼ活性にかかわらず)テロメア組換えによってテロメアを伸長することが示された(Zalzman et al., 2010; Amano et al., 2013)。ヒト造血幹細胞におけるこの可能性を評価するために、ヒト末梢血CD34+細胞を、エクスビボにおいてSeVts-ZSCAN4と接触させ、そして、33℃にてインキュベートした。CD34+細胞を、33℃にて16、24、48及び72時間SeVts-ZSCAN4で処理し、次に、テロメアアッセイに使用するために37℃にて10日間培養した。テロメアの長さを、(Cawthon2002)に記載のテロメア特異的プライマー(T)と単一コピー遺伝子特異的プライマーセット(S)とを使用した定量的リアルタイムPCR法によって計測した。相対テロメア長を、T/S比として計算し、そしてさらに、対照サンプル(無処理対照)のT/S比によって正規化した。
【0216】
無処理細胞と比較して、33℃にて24時間のインキュベーションは、約1.5倍テロメアを伸長した(図21)。インキュベーション≧24時間はテロメアをさらに伸長することはなかった;これにより、許容温度(すなわち、33℃)における24時間のインキュベーションは、ヒトCD34+細胞のテロメアを伸長するのに十分であった。
実施例14:免疫不全マウスに移植したヒト血球細胞テロメア長に対するSeVts-ZSCAN4の効果
【0217】
この実施例は、ヒトZSCAN4遺伝子を発現する温度感受性センダイウイルスベクターで処理したCD34+細胞を対象に投与することの安全性、及びその細胞の移植の有効性を評価する手順を説明する。
【0218】
SeVts-ZSCAN4(SeV18+hZSCAN4/TS15ΔFとも呼ばれる)は、ヒトZSCAN4を温度感受性様式で発現する(図18)。ヒトCD34+細胞を、意図した臨床用途に好適な様式で、33℃の許容温度にて24時間にわたり、培養状態でSeVts-ZSCAN4(MOI=25)と接触させた。次に、その細胞を、洗浄してSeVts-ZSCAN4を取り除き、そして、生理的食塩水(試験物質)で再懸濁した(図22)。試験物質のアリコートを、10日間にわたりインビトロで培養し、そして、qPCRによるテロメア長アッセイに供した(図22)。MNCは、テロメア長に使用した単核細胞基準である。MNCのテロメア長に対するサンプルのテロメア長の比(T/S比)を、相対テロメア長と表した。24時間にわたりSeVts-ZSCAN4で処理したCD34+のテロメアは、CD34+未処理細胞のものより統計的に有意に長かった(図23)。そのため、許容温度(すなわち、33℃)にて24時間にわたるSeVts-ZSCAN4処理は、インビトロにおいてヒトCD34+細胞のテロメアを伸長することができた。
【0219】
意図した臨床試験を厳密にモデル化するために、重度の免疫不全NOG-EXLマウス(Taconic)をG-CSFとプレリキサホルで処理した(図22)。試験では、照射法を用いない(すなわち、骨髄切除術)NOG-EXLマウスを使用した。同様に、より強力な臍帯血CD34+細胞を使用する典型的な移植試験と異なって、試験では健常ドナーからのG-CSF動員末梢血CD34+細胞を使用した。NOG-EXLマウスには、1日目に2×107細胞/kgの用量にて、CD34+未処理細胞又はSeVts-ZSCAN4(試験物質)で処理したCD34+のいずれかを静脈内に投与した(図22)。用量は、ヒトのために意図された用量より約10倍多い。SeVts-ZSCAN4関連の有害事象は、SeVts-ZSCAN4で処理したCD34+細胞を受けたNOG-EXLマウスの中では観察されなかった。さらに、CD34+細胞注射の38週間後に、SeVts-ZSCAN4で処理したCD34+を受けた2匹のマウス(#492及び#493)、並びに未処理(対照)CD34+細胞を受けた1匹のマウス(#496)を屠殺して、ヒトCD34+細胞由来の移植細胞を調べた。これらのマウスから単離した脾細胞を、ヒトCD45+汎造血マーカーによってFACS選別し、そして、qPCRベースのテロメアアッセイをおこなうのに使用した。図24に示したように、SeVts-ZSCAN4で処理したCD34+細胞を受けたマウスに移植したヒト細胞のテロメアは、CD34+細胞のみ(対照)を受けたマウスよりも長かった。これらのデータは、SeVts-ZSCAN4処理ヒトCD34+細胞が、マウス骨髄に移植でき、そして、正常な造血作用に参加したことを示唆している。また、テロメアがSeVts-ZSCAN4の処理によってひとたび伸長されると、移植や細胞分化後であっても、これらの細胞のテロメアは長かった。その試験はまた、SeVts-ZSCAN4処理の安全も示す。
実施例15:テロメア生物学的障害と骨髄不全症を患っているヒト患者におけるSeVts-ZSCAN4の評価
【0220】
先天性角化不全症を含めた骨髄不全症を伴ったテロメア生物学的障害は、予後不良と高い死亡率を有する。現在、造血幹細胞移植が唯一の治療的処置であり、そしてそれは、病状の血液学的状態の発現を緩和し得る。しかしながら、その使用は、十分に合致したドナーの発見、並びに骨髄除去(化学療法と放射線)と免疫合併症に関連した毒性における困難を伴った挑戦であり得る。この実施例では、それを必要としているヒト患者に、ヒトZSCAN4をコードする温度感受性センダイウイルスベクターとエクスビボにおいて接触させたCD34+細胞を投与することの安全性と耐容性の評価、並びにその細胞の移植の有効性を説明する。
【0221】
治療用温度感受性作用物質。SeVts-ZSCAN4(SeV18+hZSCAN4/TS15ΔFとも呼ばれる)は、ヒトZSCAN4を温度感受性様式で発現する(図18)。この実施例で使用されるように、治験薬生成物は、SeVts-ZSCAN4とエクスビボにおいて接触させた自家CD34+細胞をその中に懸濁させた、無菌の、電解質を含む等張水性溶液を含む医薬組成物である。Baxter International Inc. (Deerfield, IL)によって市販されたPLASMA-LYTE多電解質注射液は、ウイルス接触CD34+細胞の再懸濁に好適な溶液である。
【0222】
理論的根拠。SeVts-ZSCAN4とエクスビボにおいて接触させた自家CD34+細胞は、ヒトCD34+細胞のインビトロ及びインビボ非臨床試験においてテロメアを伸長することを示した。この処理は、患者自身の細胞が使用され得るとき、十分に合致したドナーを必要としない。SeVts-ZSCAN4との接触は、患者自身(自家)CD34+細胞におけるヒトZSCAN4タンパク質の一過性の産生をもたらし、そしてそれは、エクスビボにおいてそれらの異常に短いテロメアを伸長することによってそれらの機能を復元する。投薬後に、接触CD34+細胞を移植し、それに続いて、患者の骨髄で増殖し、そして、血球細胞の産生をもたらす。このように、患者の骨髄不全症は効果的に治療される(図25)。
【0223】
患者。調査対象集団としては、最初に成体男女が挙げられるが、小児科患者にまで拡大される。組み入れ基準としては、軽度又は中程度の骨髄不全症及びテロメア生物学的障害の診断が挙げられる。軽度又は中程度の骨髄不全症は、以下:1) 0.5~1.5×10^9/Lの末梢血中の絶対好中球数(ANC);又は血小板20~100×10^9/L;又はヘモグロビン<10g/dL;並びに2) 年齢に対する低骨髄細胞、のうちの一方又は両方によって定義される。テロメア生物学的障害の診断は、以下:i) 末梢血液リンパ球(PBL)、B細胞、若しくは未感作T細胞のうちの1若しくは複数における<1パーセンタイルの年齢調整平均テロメア長;及びii) DKC1、TERC、TERT、NOP10、NHP2、TINF2、CTC1、PARN、RTEL1、ACD、USB1、又はWRAP53の病原性突然変異、のうちの1つによって定義される。除外基準としては、以下:癌のための化学療法を受けている;骨髄検査における骨髄異形成症候群又は急性骨髄性白血病に関連するクローン性細胞遺伝学的異常;制御されていない細菌、ウイルス又は真菌感染;前同種間髄又は幹細胞移植;G-CSF及びプレリキサホルに関して適格でない対象;アフェレーシスに関して適格でない対象;ダナゾール及びアンドロゲンを現在摂取しているか又は本試験開始前60日以内に摂取した対象、のうちの1若しくは複数が挙げられる。
【0224】
手順。要するに、本試験は、以下:1) 血流内への造血幹細胞の動員とアフェレーシスによる単核細胞(MNC)の回収;2) エクスビボ細胞処理;及び3) 処理細胞の注入、を伴う。本研究のフローチャートを図26に示すように設計し、そして図解を図27に示す。
【0225】
動員とアフェレーシス
1~3日目:すべての適任対象に、毎日、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)注射(10μg/kgのSC)を与えた。
4日目:G-CSF注射(10μg/kgのSC)後に、血液サンプルを回収し、そして、CD34+細胞数を決定する。<5細胞/μLのCD34+細胞を有する対象を試験から引き揚げた。≧5細胞/μLのCD34+細胞を有する対象を入院させ、そして、アフェレーシスの約11時間前にプレリキサホル(20mgの固定用量又は0.24mg/kgのSC)を投与する。Genzyme Corporation(Cambridge, MA)によって市販されているMOZOBILなどのプレリキサホル1,4-Bis((1,4,8,11テトラアザシクロテトラデカン-1-イル)メチル)ベンゼン、CAS No. 155148-31-5)は、造血幹細胞モビライザーである。
5日目:G-CSF(10μg/kgのSC)を投与し、そして、第一のアフェレーシスを開始して、MNCを回収する。アフェレーシス後に、対象を、第二のアフェレーシスを許容する能力に関して評価する。プレリキサホル(20mgの固定用量又は0.24mg/kgのSC)を、第二のアフェレーシスを許容できると考えられた対象に、第二のアフェレーシスの約11時間前に投与する。第二のアフェレーシスを許容できない対象と、<2.0×10^6/kg CD34+細胞を有する対象を、試験から引き揚げ、そして、すべての回収細胞を対象に注入して戻す。第二のアフェレーシスを許容できない対象と、>2.0×10^6/kg CD34+細胞を有する対象は試験を継続する。
6日目:第二のアフェレーシスを許容できる対象に、第二のアフェレーシス開始前に、G-CSF(10μg/kgのSC)を与えて、追加のMNCを回収する。アフェレーシス後に、全血球算定(CBC)を得、そして、必要であれば、対象に赤血球又は血小板輸血を与えて、ヘモグロビンレベル>10.5g/dl及び血小板>100Kを維持する。第二のアフェレーシスを受けた対象及び<2.0×10^6/kg CD34+細胞(第一と第二のアフェレーシスの合計)を有する対象を試験から引き揚げ、そして、すべての回収細胞を対象に注入して戻す。第二のアフェレーシスを受けた対象と、≧2.0×10^6/kg CD34+細胞を有する対象は試験を継続する。
【0226】
エクスビボ細胞処理。CD34+細胞を、医薬品の製造管理及び品質管理基準下、Miltenyi Biotec(Germany)によって市販されているCLINIMACS PRODIGY自動化細胞処理システムを使用して、アフェレーシスによって回収したMNCから単離する。CD34+細胞を、GMPグレードHSC Brew GMP Medium及びサイトカイン(StemMacs培地と同等)中に懸濁し、(回収したCD34+細胞数に依存して)MOI=1~MOI=25にてSeVts-ZSCAN4と接触させ、そして、33℃の許容温度にて1時間培養した。追加のHSC Brew GMP Mediumを、ウイルス接触CD34+細胞に加え、そしてそれを、33℃の許容温度にてさらに23時間培養する。インキュベーション後に、ウイルス接触CD34+細胞を、HSC Brew GMP Mediumで3回洗浄して、SeVts-ZSCAN4を取り除き、そして、100mLの、無菌の、PLASMA-LYTE中に再懸濁して、治験薬生成物を製造する。
【0227】
注入(Infusion)。Baxter Healthcare Corporation(Deerfield, IL)によって市販された注射用の100mLのPLASMA-LYTE多電解質又は他の無菌の電解質含有、等張水性溶液中に懸濁した2.0~8.0×10^6/kg CD34+細胞の用量の治験薬生成物の単回静脈内注入を、対象に与えた。細胞を、3.3mL/分の注入速度にて30分間にわたって送達する。治験薬生成物注入を、第一のアフェレーシスの約32時間後におこなう。
【0228】
安全性評価を注入後24時間、36時間又は48時間まで行ったが、それには、これだけに限定されるものではないが、バイタルサイン(体温、脈拍、呼吸数、及び血圧)の評価、体重、心電図、臨床検査(血液学、血液化学、及び尿分析)、有害事象、血漿サイトカインレベル、及び治験薬生成物の免疫原性が挙げられる。計測した(単数若しくは複数の)血漿サイトカインとしては、GM-CSF、IFN-ガンマ、IL-1ベータ、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-8及びTNF-アルファの1若しくは複数が挙げられる。治験薬の免疫原性を、対象から入手した血液サンプル中のセンダイウイルスベクター反応性抗体及びヒトSCAN4反応性抗体を計測することによって評価する。
【0229】
試験の終点。以下:リンパ球、顆粒球、B細胞、未感作T細胞、記憶T細胞、及び末梢血中のNK細胞、のうちのいずれかのテロメア長の増加、並びに血球数(好中球、血小板、又はヘモグロビン)の改善。テロメア長をFlow FISHによって計測する。
実施例16:インビボにおけるヒトZSCAN4タンパク質の発現
【0230】
srRNAs又はセンダイウイルスベクターなどの温度感受性作用物質(ts作用物質)は、許容温度(例えば、31~34℃)で機能的であるが、しかし、非許容温度(例えば、>37℃)で機能しない。ヒト対象の中核体温が約37℃であるのに対して、ヒト対象の表面体温は約31~34℃である。よって、ヒト患者の体表面又はその付近の細胞に(例えば、皮内、皮下、又は筋肉内に)投与されたts作用物質は、ヒト患者の中核体温を下げることなく機能的である(図28)。更なる行動を必要としない。
【0231】
同様に、ヒト対象の鼻腔及び上部気管の温度は約32℃であり、及びヒト対象の亜区域気管支の温度は約35℃である(McFadden et al., 1985)。このように、ヒト患者の上気道(鼻腔、咽頭、及び/又は喉頭)及び/又は上部気管の細胞に鼻腔内投与されたts作用物質は、ヒト患者の中核体温を下げずに、機能的である(図29)。鼻腔内投与は、吹送、吸入又は点滴によって行われてもよい。更なる行動を必要としない。
【0232】
或いは、ヒト患者の体表面又はその付近の細胞に(例えば、皮内、皮下、又は筋肉内に)投与されたts作用物質は、それに続いて、例えば、患者の皮膚の治療領域に熱パッチ若しくは熱パッドを適用すること、温浴中に浸ること、又は熱いサウナに座ることによって、ヒト患者の表面体温を上げることによって機能しない状態にすることができる。ts作用物質は、意図された領域でのみ機能的であり、かつ、患者の体内の他の領域で機能しないという点で、この治療手段は非常に安全である。同様に、ヒト患者の上気道(鼻腔、咽頭、及び/又は喉頭)及び/又は上部気管の細胞に鼻腔内的に投与されたts-作用物質は、非許容温度(例えば、≧37℃)を有する環境にヒト患者を置くことによって機能しない状態になり得る。
【0233】
例えば、ヒトZSCAN4のコード領域を、ヒト患者の体表面又は表面付近におけるヒトZSCAN4の発現について先に記載したように、srRNA1ts2又はSeV18/TS15ΔFに導入する。srRNA1ts2の構造を、実施例3で先に説明している。要するに、srRNA1ts2は、VEEV構造タンパク質コード領域を欠いているベネズエラウマ脳炎ウイルス(VEEV)レプリコンを含む。そのVEEVレプリコンは、非構造タンパク質2(nsP2=ヘリカーゼプロテイナーゼ)のβシート5とβシート6との間に5又は6個の追加アミノ酸(配列番号44=TGAAA)を含むnsP2の発現をもたらす、15~18ヌクレオチドの挿入を有するVEEV非構造タンパク質コード領域を含む。追加アミノ酸は、sr RNAの温度感受性をもたらす。
【0234】
srRNA1ts2ベクターのRNAは、動物又はヒト起源の材料を使用することなくT7 RNAポリメラーゼを使用してインビトロにおいて転写できる。このように、srRNA1ts2ベクターを用いたts作用物質を、現在の医薬品の製造及び品質管理に関する基準を使用した製造に容易に適合させることができる。RNAを、対象の真皮組織の細胞内にトランスフェクトする。トランスフェクションのための適切な方法は、裸のRNAのパッチエレクトロポレーションによるものである。或いは、マイクロニードルを、皮内的にRNAがトランスフェクトするのに使用する。例えば、ヒアルロン酸又はキトサン-ヒアルロン酸複合体で作製される溶解可能なマイクロニードルを、皮内的にRNAをトランスフェクトするのに使用する。
図1A-1D】
図2A
図2B
図2C
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A-11D】
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20A-20B】
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
【配列表】
2023508725000001.app
【国際調査報告】